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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

17上珠:2004/04/09(金) 03:01
では、本題の方へ……。

お題:『狐火』『小春日和』『初日の出』
追加:『喜劇』

 私が朝刊に目を通していると、不意にこんな声が耳に飛び込んできた。
「取れた!」
 それはまだ六歳になったばかりの息子の声で、とっとっとっ、とリズミカルな音が洗面所へ続く廊下から聞こえてきた。私が新聞から目を離して音がした方を向くと、息子が全力疾走で真っ直ぐこちらに向かっている。
「どうした? そんなに慌てて……」と私が言いきる前に、息子は満面の笑みで右手を私の鼻先に突き出した。驚いて顔を引き、息子の右手――息子が指で摘んでいる物をジッと目を凝らして見てみる。何やら小さく白いものが、窓から射し込む小春日和の朝日に照らされて輝いていた。
「お父さん! 歯が取れた!」
 息子がニッと歯を見せる。ああ、成る程。たしかに上段に前歯一本分の隙間ができていた。
「あらあら、歯、取れちゃったの?」
 突然、妻が背後から顔を覗かせて残念そうに言った。だが、その横顔はホッと一安心といった様子である。
「歯医者さんに行って、おっきなペンチで引っこ抜いてもらおうと思ってたのに」
 それを聞いた息子は勝ち誇ったような顔をして、
「『きつねび』見て、びっくりして取れちゃった!」
「は?」「は?」
 私と妻は声を揃えて息子の顔を見た。息子の言う『きつねび』とはおそらくあの『狐火』のことなのだろうが……。
「あのね、鏡見てコレを抜こうとしてたらね、突然『きつねび』が出たんだよ。ほら」
 息子は左前方を指差した。まさか『狐火』がいるのか? しかもこんな朝っぱらから? 恐怖よりも不信感が勝る心境で、私と妻は息子が指差す先に目を向けた。
 ……特に妖しいものは何もない。ただ、火の消えたコンロの上にフライパンがあるだけである。
「火が点いてるとね、『きつねび』みたいでびっくりしちゃった!」
 私と妻は唖然としたまま何も言えなかった。台所のコンロから洗面所の鏡までは一直線上にあり、その間に視界を遮るものは何も無い。……つまり、息子は妻が点けたコンロの火を『狐火』と見間違えた、というのだ。
 抜いたばかりの歯をかざして色々と観察している息子を見て、ある出来事を思い出した。テレビで初日の出の映像が流れていたのだが、それを見た息子がこんなことを言ったのだ。
「のっぺらぼうみたいだね」
 その時、息子が手にしていたのは『日本の妖怪大図鑑』という分厚い本。私の父が、面白いから読んでごらん、と息子に渡したものである。

 あと二十年もしたら、息子はあの水木茂を凌ぐ妖怪マニアになるのでは?
 「お母さん、コレ、屋根の上に投げるんだっけ?」と妻に尋ねる息子を見ながら、そんなことを危惧すると同時に楽しみにする日曜日の朝だった。


では、次のお題です。
お題:『熊』『鮭』『木彫り』
追加:『おとぎ話風に』
でお願いします。


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