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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

25のりのり子:2004/04/09(金) 15:23
【滑車・重複・倦怠】【軽いタッチで】

 男はテーブルの上の茶漬けに視線を落として、吐き出すように小さく言った。
「倦怠期になったのは一年ほど前からかな。そのころから妻とはよく喧嘩するようになった」
 沈んだ様子に心配になって顔を覗きこんでみれば、興奮状態にあるのか目が血走っている。私は男を落ち着かせるために漬物の入った小皿を差し出して、召し上がれ、と微笑んでみせた。
 ありがとう、と頭を下げてから、男は箸を手に取った。角張った指の関節が小さな茶碗を抱え込むその姿はどこか寂しげだ。数年ほど前から会社の滑車、いや、滑車を作るための部品のひとつとして働いてきた疲れが暗い表情には滲み出ていた。元来、男はまっとうに働くことに向いていない性質をしていた。長いことパチンコで生計を立てていたチンピラ上がりが、キャバクラで知り合った若い女と結婚するために就職したところで、肌になじんだだらしのない生活習慣が抜けるわけがないのだ。
 茶漬けをすすりこんだ男は、水分に濡れた唇をゆっくりと舌で舐めた。
「今の妻ははっきり言ってバカなんだ。電球ひとつまともに取りかえられない。ビデオの録画の仕方を教えたって、すぐにまた同じ質問を重複してくるんだから」
 曖昧に相槌を打つ私に、男は茶碗をぐいと突きつけてきた。おかわりのサイン。
 言われるままに茶碗を受け取ろうとする私を、横にいた夫が腕を伸ばして止めた。どうやら妻が他所の男にあれこれするのが嫌になったようである。眉間にしわを寄せた夫は、向かいに座る男に皮肉いっぱいに口許を歪めた。
「あのですね、ここは僕の家なわけです。いくら今の奥さんと喧嘩して家を追い出されたからって、何も前の妻のもとに来なくてもいいじゃないですか。彼女は今はもう僕の妻なんですよ」
 さりげなく私を自分の後ろへ隠そうとする夫を見て、あなたステキ愛してる、と私は心の中で叫んだ。パチンコ代を私にせびるだけせびってキャバクラの女に走った元夫と、離婚後にエリートサラリーマンとして働く夫と結婚して広い一軒家で暮らす私とでは、どちらが勝ち組なのかは一目瞭然だろう。君と離婚なんかしなけりゃ良かったんだ、と消え入るような声で呟いた元夫に、私は腹を抱えて笑い転げてしまいそうな気持ちを抑えながら、あら私は離婚して良かったと思っているわよ、と静かに返した。

か、軽いタッチじゃないかも……妻の心情の軽さを書きたかったのですが。
お題はにゃんこさんに出してくれたもので続けてください。


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