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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

28風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:17
――お題「なごりゆき」「イラク」「歳時記」追加「ビジネスマンを描いてください」――

 定期で間に合わない分の精算を終えて改札を出た。今日は卒業以来五年ぶりの同窓会の下見に、しばらく会っていない友人を呼びだし軽く飲む予定だった。俺に気づかず改札口を見続けている横顔に面影を見つけ、声をかける。「村山? 久しぶりだな」俺が肩を叩くと、その背広の男は「島? あの島か? 嘘だろーっ。なんだお前その腹は」と俺の気にしていることを突いてきた。「おいおい、お前だって似たようなもんじゃないか。運動してるか?」俺は切り返し、お互いの変貌ぶりに苦笑した。「でも顔は変わってないなぁ」と不思議そうな村山をつれて、駅を出る。人混みのなかをロータリーを抜け、桜並木の大通りに面した目当ての店の前に立った。「ここか?」村山が聞いた。その店は一見古そうな和風の門構えをしていた。屋号が太い墨で書かれた木の看板が入口を飾り、門前は打ち水の後でまだ湿っていた。「ああ。さ、入ろう」扉に手をかけようと手を伸ばすと、ウィーンと扉が横へ開いた。「いらっしゃいませー!」やたら威勢のいい声に迎えられる。店の者に宴会の下見というと奥の座敷へ通された。座敷に上がる横に下駄箱があり、簀の子で脱いだ靴を入れるようになっている。革靴をそこへ収めて畳に上がり腰を下ろした。飴色の天板の卓は少し高めで胡座を掻くには楽だった。壁には店主の字か品書きが貼られてあり、旬の味もある。値段もそこそこ手頃だ。これは好い酒が飲めそうだと俺は読んだ。
 が、右斜めに座った村山はのっけからハイペースだった。リストラされるかもしれない――再会の乾杯の後、村山は重い溜息を吐くように告白しビールをあおった。皿をつつく間もなく次々に大ジョッキを干し、荒れた。
「ひっく……だいだいあー、自衛隊派遣すっかららめあんよ。聞いへくへお、島ぁあ!」勢いよく伸びた腕にがっちりいきなり首を引っ張られ、ジョッキと唇の間から零れたビールが膝に零れた。「あーぁ……勘弁しろよ」クリーニング代も馬鹿にならない此のご時世。こんなことなら宴会用の安物を着てくればよかったと後悔する俺の耳に、「ビッグアンスあっあんあよぉぉぉ……おえが浮かうか沈むあのえかい勝負あっあんア、すぉれが……」とわめく声は呂律がひどくなる一方だ。
 どうやらイラクで予定されていたエキスポに会社の代表として出張する予定だったらしい。宥めてもすかしても、なかなか治まってくれない。「まぁまぁ……良かったじゃないか行かなくてすんで」と俺が言うと、
「そーゆーか、ゆーかおまへもゆーのかぁあ! おへは、おへは二年以上まへららアラビア語へんきょうしてあ! コーアンお、歳時記まへ買っへらんら!」
 ……村山が何を言っているのか段々分からなくなってきた俺は、チラッと右手の腕時計を見た。
「あー! かへほーとおもってふ! おへがこんああろに、かへほーと……ちばー、おあえアーほんああふあったのあぁ?」村山の手がヒラヒラと踊るように動き誰もいない壁を指差し、落ちた。
 なにを言っているのか最早わからないが、俺を非難してるのは伝わってきた。耳元で騒ぐ声は、通路に面した障子一枚を通って店中に響き渡っていることだろう。こんなに騒がれたら、もうこの店は使えない。落ち着いた和風の設えも料理の味もよかったのに残念だ。「おい、出るぞ?」俺は村山の重い身体を引き上げ、二人分の鞄を持った。赤ん坊に言い聞かせるように靴をはかせ、千鳥足で崩れそうになる村山を支えながらなんとか支払いを済ませて店を出る。外の大気はひんやりとしていた。


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