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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

36柿美:2004/04/11(日) 14:14
先を越されてしまいました(^^
海猫さんとはどうも前後する宿命にありそうです(笑)
感想は長くなるので私もラウンジスレのほうに。

 エレキ茸を探しに、森に入った。
 なんでもその名の通りぼんぼりのようにボウっと内側から光る茸らしく、天井に吊るしておけば電球代わりになるのではないか、と思ったのだ。辺りはもう真っ暗、茸を探すには頃合である。鬱蒼とした森に分け入りしばらくすると、たしかにそこかしこでボウっと光るものがある。たしかに茸が灯っている。苔むした岩の上、樹木の根元、草むらの中、てんでばらばらに茸たちは灯り、どこかで見た風景だなと思って少し考えてみたら、ああ、そうか、神社のお盆祭りで境内のあちこちに灯篭を灯しているのに似ているのだ。
 茸の灯りは白雪よりも明るく、ホタルよりも暗いくらいであまり裸電球の代わりにはなりそうにない。ちょっと残念に思いながら間近で観察してみた。茸は笠がとても広く、まるで枕元の照明スタンドのようである。内側からボウっと光る、と聞いていたが、間近でよく見てみると広い笠の裏側が光っているのだ。これではほんとうに照明スタンドだ。茸は自分の根元の地面を円形に照らし、照らしだされた円形の舞台でなにか小さなものが踊っている。小さな馬に乗った、小さな人たちだ。お百姓の子供や、髯をたくわえた紳士や、鉄砲をかついだ猟師や、洗濯カゴを小脇に抱えたおばさんや、そんな小さな小さな人たちが小さな小さな馬に乗ってメリーゴーランドのように茸の軸の周りをぐるぐると回り踊っている。掴んでみようとしたが小さな人たちは私の手をすり抜けてしまう。どうも幻灯機に映しだされたものみたいに実体は持たないようだ。
 なかなかに面白いので持って帰ろうと茸の軸に手をかけると、「おやめなさい」と近くで声をかけられた。声のしたのほうの木に回りこんでみると、茶色いフードを被った老婆が木の根元に生えた茸に祈りを捧げている。老婆は祈りを捧げながら、私に言う。
「わたしの息子は猟師でしたが、この森で熊に襲われ死にました」
「はい」
「茸は生き物の養分を吸って育ちます。まれに生き物の記憶を吸って育つ種類もあるようです」
 老婆が祈りを捧げている茸の笠の下には、鉄砲をかついだ小さな青年がいた。光に照らされ、こちらを見上げている。見上げていると言っても、ほんとうにこちらを見ているわけではないようだ。鉄砲をかつぎ、空を見上げている、そういう記憶なんだろう。しかし、青年の頭に生えている蝶の触角とお尻に生えているアライグマの尻尾はなんだろう? また老婆が言う。
「記憶は統合されます。茸は胞子を飛ばすときに、貯めた記憶も胞子に込めます。何世代、何十世代と胞子に記憶は貯め込まれ、記憶は混ざり合います。私は息子の記憶が原型を留めなくなるまで、祈りを捧げます」
 真摯な姿勢で茸に頭をたれる老婆に、「わかりました。やめておきます」と言って私は帰ることにした。ただし、森の入り口あたりに生えていた茸を一つだけ失敬した。茸の笠の下の光は、小さな小さなティラノザウルスを映していた。これならご身内もいないだろうし、まあいいんじゃないかな。

事故作品につき、お題は海猫さんのものでお願いします。


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