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アラブ・中東の映画

1さーひぶ:2002/07/18(木) 00:45
最近のアラブ・中東の映画について語りましょう。

77さーひぶ。:2007/03/19(月) 22:08:43
>>76の続き) ↑訂正:Land of Fear

『長い旅』(Le Grand Voyage;الرحلة الكبرى)モロッコ=フランス
在仏モロッコ人の父親とフランスで生まれ育った息子が価値観のちがいに
いがみあいながらも、マッカ(メッカ)巡礼を遂げるまでを描いた秀作です。
フランスで生まれ育って現代フランス青年であるレダ(Réda)は、モロッコ
出身の父が車でマッカ巡礼をするという難事に運転手として駆り出され、
ときには決裂寸前になりながらも7カ国を横断してマッカにたどり着く。
そして結末は・・・。
フランスからイタリア、旧ユーゴ、トルコ、シリア、ヨルダン、サウジと
車での旅は見応えがあり、イスラームの聖地巡礼の様子は壮観の一語に尽きます。
ぜひ日本でも劇場上映・DVD化してほしい作品です。
Le Grand Voyage(2004) http://en.wikipedia.org/wiki/Le_Grand_Voyage

>>78へ続く)

78さーひぶ。:2007/03/19(月) 22:53:25
>>77の続き)

『ヤコービエン・ビルディング』(The Yacoubian Building ;عمارة يعقوبيان‎)エジプト
 『テロリズムとケバブ』のアーデル・イマーム(عادل إمام)、
『炎のアンダルシア』の名優ヌールッシェリーフ(نور الشريف)
というエジプトの二人の大物俳優を中心に、実在するビルの住人たちが織りなす
人間模様を描いた2時間45分の大作・問題作。
エジプト大都会の暗部をえぐり出して風刺した作品ですが、とにかくハリウッド
並みに性や暴力の描写がドギツイ。売春、秘密の重婚、同性愛、暴力による堕胎、
警察の取り調べでは同性(男性)の陵辱による拷問、麻薬、金権政治、過激派にかぶれる青年・・・。
これでもかこれでもかという激しい表現が続くので、子供には見せられません。

そんな問題作ですが、二つのポイントにふれます。
「パシャ」(Pasha;باشا)…オスマン帝国統治以来の高官の称号。劇中では、
 二人の大物がそれぞれ「パシャの家柄」だということを吹聴しようとします。
 本作にはイスラーム過激派組織も出てきますが、王政時代の名残である「パシャ」
 という称号はまったく正反対のイメージを書き立てます。
「フランス」…アーデル・イマームの主人公ザキはかつてフランスへ留学し、
 愛人もフランス女性。その愛人クリスティーヌが映画の中で2度にわたって
 エディット・ピアフのシャンソン「ばら色の人生」(La vie en rose)を
 熱唱し、ザキはピアフのレコードをかけて若い恋人とダンスを踊る。
 仏語紙Le Caireの編集長ラシードは、母親が浮気っぽいフランス女性で、
 母親の浮気などがトラウマになって、倒錯した同性愛に走る。

この二つのポイントが、エジプトが単純な「アラブ」「イスラーム」の社会
ではないことを暗示している、という印象を持ちました。
それにしても、エジプト映画には、ハリウッドのような激辛な表現に走らないでほしいです。

The Yacoubian Building(原作小説) http://en.wikipedia.org/wiki/The_Yacoubian_Building
The Yacoubian Building(映画) http://en.wikipedia.org/wiki/The_Yacoubian_Building_%28film%29

今回観られなかった作品が来年も上映されるといいなあ (^_^)

79さーひぶ。:2007/03/25(日) 00:56:16
【イスラエル映画祭 2007】
3月22日(木)〜24日(土):アテネ・フランセ文化センター(東京・お茶の水)
http://www.athenee.net/culturalcenter/schedule/2007_03/israel.html

日本では上映される機会が少ないイスラエルの映画祭。国際交流基金が1992年
から始めて数えて6回目。私は第1回(?)を浜離宮朝日ホールで観た記憶があり
ますが、それから15年は経つわけですね。

今月は中東関係のイベントが目白押しでしたが、話題の『シリアの花嫁』を
見逃したほかは、3作品を観ることができました。

シンポジウムでのイスラエル映画基金のカトリエル・シホリ氏の話によると、
イスラエルは人口が少ないので、映画製作は常に国内と海外を想定しており、
海外からの出資による製作も少なくないそうです。ちなみに今回の『甘い泥』
には日本のNHKも出資しているようです。女性監督も増えてきています。
アラブ人との共同製作も増えてきている模様。
以下、『クロース・トゥ・ホーム』『ジェイムズ聖地へ行く』を紹介します。
>>80へ続く)

80さーひぶ。:2007/03/25(日) 01:32:26
>>79の続き)

『クロース・トゥ・ホーム』(Close to Home, 2005)
イスラエル国民は18歳になると男女とも兵役に就かなければならないが、
その実体験を元に、二人の女性監督が二人の女性兵士の生態で魅せる作品。
ヘブライ語の台詞には英語の字幕が、英語の台詞にはヘブライ語の字幕付き。

徴兵制度により、エルサレムのパトロール隊に配属された二人の若いギャル。
スマダルはただのギャルで、兵士としては怠け者で落ちこぼれ。ミリトは
勤務地が自宅に近すぎる(close to home)ので、転属を願っている女の子。
テロ事件が頻発するエルサレムでは、街を移動するアラブ人に職務質問をして
ID(身分証)を確認し、個人情報を書類に「登録」するのが欠かせない任務。
二人はユダヤ人とアラブ人をうまく見分けられず、さぼってばかりいるので
登録の成績はすっかり落ちこぼれ。上官(女性)から叱られてばかりいる。(以下略)

街を歩いていてアラブ人と見られるだけで、その都度、兵士から取り調べられ
るのではたまったものではないだろうと、その監視社会ぶりには驚かされます。

「食物持込禁止」と英語・ヘブライ語・アラビア語で書かれている所にアラブ女性
が食べ物を持ち込み、スマダルが口語アラビア語で注意するのですが、
肝心の「食物持込禁止」(ممنوع من الدخول مع أكل)という文語アラビア語表示
がそのアラブ女性には読めない、という体たらく(文盲率の高さのため)。
スマダルが女性から食物を奪い取って、ゴミ箱に捨てます。おそらく実体験でしょう。

イスラエルにおけるユダヤとアラブのコミュニケーション不全を浮き彫りにしていて、
その意味でも興味深い作品といえそうです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Close_to_Home_%28film%29

>>81に続く)

81さーひぶ。:2007/03/25(日) 02:12:06
>>80の続き)

『ジェイムズ聖地へ行く』(James' Journey to Jerusalem)
聖地巡礼にアフリカから来た牧師志望の黒人青年が、出稼ぎ労働者扱いされて
こき使われ、物欲の腐臭にまみれた「聖地」の現実を思い知るという、快作。

アフリカのある村から、村一番の優秀で純真な若者ジェイムズが次期司祭としての
期待を一身に担って、イスラエルに巡礼に来た。ところが入国審査の女性係官は、
ジェイムズをてっきり不法就労の外国人労働者だと決めつけてかかる。
「アメリカかドイツ、フランスへ行って働きなさい。ここは神に見離されているわ。」
と聖地らしからぬ秀逸(?)な一言(!)。
パスポートを押収されて留置所送りになったジェイムズ。同様の黒人が多数いる。
ある日、ジェイムズは釈放されて、トラックで仕事場に送られる。外国人労働者
の手配師シミが保釈金を払って、派遣労働者として雇ったのだ。
聖書の教えと「聖地」の資本主義的現実とのギャップに戸惑いながらも、ジェイムズ
は次第に都会の資本主義に慣れ、物欲と小賢しさを身に付け、巡礼を忘れてゆく。
(↓ネタバレです)
いつのまにか手配師シミに内緒で、黒人労働者たちの「内職」の裏ボスとなり、
驕り高ぶっているジェイムズ。物欲と良心がせめぎ合った末に、彼はついに
憤って物欲を捨てる。エルサレムの留置所へ。ついにエルサレムへ巡礼だ!

イスラエルで深刻になっている外国人労働者の問題をえぐりながら、この作品
は徹底した明るさとノリの良さで貫かれ、実にさわやかな秀作となっています。

物語のキーパーソンとなるシミの老父サラーをベテラン俳優アリー・エリアスが、
手配師のシミをアラブ人俳優サリーム・ダウ(سليم ضوء)が演じています。
http://en.wikipedia.org/wiki/James'_Journey_to_Jerusalem

82さーひぶ。:2007/03/25(日) 02:29:03
【クロッシング・ザ・ブリッジ〜サウンド・オブ・イスタンブール】
Crossing the Bridge: The Sound of Istanbul
2005年、トルコ=ドイツ(トルコ語・ドイツ語)

アラブ・アフガン・イスラエルと中東映画祭・劇場公開が目白押しの3月。
トルコの音楽映画が劇場公開となりました。

「西洋」と「東洋」が交差(クロッシング)するといわれる街イスタンブール。
現代西洋音楽、ロック・ラップ・ヒップポップなどの影響を受けながら、また
伝統的なトルコ音楽を守り伝えようという人たちもいるなかで、現代トルコの
音楽人たちがいかにトルコ独自の自分たちの音楽を創っていこうとしているか
を伝える音楽満載インタビュー作品です。アラブ音楽やクルド音楽についても
ふれられています。
とにかく、現代トルコ音楽の洪水に浸ってみてください。一聴の価値あり。
3月24日(土)から、東京・渋谷のシアターN渋谷にて。
http://en.wikipedia.org/wiki/Crossing_the_Bridge:_The_Sound_of_Istanbul
http://www.theater-n.com/movie_cross.html

83さーひぶ。:2007/07/17(火) 23:43:46
【イラク −狼の谷−】
2006年、トルコ映画/日本語公式サイト http://www.at-e.co.jp/ookami/

 話題の超問題作を紹介しようと思っているうちに、東京での上映は終わってしまいました。
トルコでは国民の15人に1人が観たほどの大ヒット作でしたが。
「アメリカ敗北」というおどろおどろしい宣伝文句に、ひいた人もいたかも知れません。
ハリウッドの『ランボー』は観ても、トルコ版の『ランボー』を観る日本人は
それほど多くないということでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF_-%E7%8B%BC%E3%81%AE%E8%B0%B7-
詳細は↑のウィキペディアの記事に書きましたが、アメリカのイラク侵攻後の
米イラク占領を、トルコ人ヒーローの報復アクションものに仕立てて描いた作品です。
アメリカ人がほとんどみな悪役なので、当然アメリカ人は怒って観ませんが、
アラブやヨーロッパでは多くの人にイラク情勢を訴える内容となっているようです。
クルド人も「アメリカの手下」として準悪役に近い微妙な位置づけをされていて、
米司令官と「トルコは片付けた。次はアラブだ」などと扇情的な会話を交わす
ほどで、トルコとクルド人の微妙な関係を浮き立たせています。
 とくに、アブグレイブ捕虜虐待事件の再現シーンは必見。捕虜虐待の中心人物
リンディ・イングランド上等兵そっくりに扮装した女優が迫真の「虐待」を見せます。
このアブグレイブ捕虜虐待事件だけで、一つの劇映画でできるじゃないかぁ。
日本も出資して製作したらどうでしょう。「同盟国」として批判の義務がありますよ。
 「目(暴力)には目(暴力)を」という筋立てには、当然批判も強いでしょう。
しかし、横暴な米国にどの国も手綱を付けられない現状で、ムスリムの民衆に
暴力ではなく映画で溜飲を下げさせる「ガス抜き」としては格好な作品ではない
でしょうか。
 東京の「銀座シネパトス」では上映終了ですが、
 名古屋の「名古屋シネマテーク」(http://cineaste.jp/)にて
 8月16日〜8月24日にレイトショー公開予定です。

84雷奴:2008/01/03(木) 07:09:04
さーひぶ。さま、ご無沙汰で〜ス。
約2年前のあの忌まわしきアンマンでの「事件」で無念に落命された
故ムスタファー・アッカード監督(神がその墓土を潤されんことを!)
へのトリビュート・ドキュメンタリーを作ったそうだということで、
宣伝もかねてご紹介させて頂きます。

http://japanese.qatarinfo.net/topics/index.asp?cu_no=1&operation_type=6&item_no=3984&version=1&template_id=342&parent_id=330

85>>84:2008/01/03(木) 21:41:52
عفوا、
肝心のドキュメンタリーを作ったفاعل のことを
書き忘れておりました(リンクに飛んで頂ければ明らかですが、、、)。
あのカタルのアルジャズィーラの姉妹チャンネル
「アルジャズィーラ・ドキュメンタリー」です。
皆さんご覧になったことありますか?

86さーひぶ。:2008/01/06(日) 22:57:43
雷奴さま、あけおめ、ご無沙汰です。

アルジャズィーラ・ドキュメンタリー(الجزيرة الوثائقية)ですか。
ご活躍なによりです。オンラインで観られるようになるといいですね。
ウィキペディアに加えておきました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%A9_%28%E6%9B%96%E6%98%A7%E3%81%95%E5%9B%9E%E9%81%BF%29

それにしても、ムスタファー・アッカード(مصطفى العقاد)監督は無念な事でした。
かの『アッリサーラ』(الرسالة)は日本では『ザ・メッセージ』という題でDVDが出ています。
(VHSも持っていましたが、DVDも発売後まもなく購入しました。)
http://ar.wikipedia.org/wiki/%D9%81%D9%8A%D9%84%D9%85_%D8%A7%D9%84%D8%B1%D8%B3%D8%A7%D9%84%D8%A9

今年も雷奴さまのさらなるご活躍を期待しています。

87雷奴:2008/01/08(火) 03:51:29
さーひぶ。さま、كل عام وأنتم بخير
そして色々と有難うございました。
今後とも何卒宜しゅうお願い申し上げます。

と、書いて思ったのですが、
「宜しくお願いします」という表現の
巧いアラビア語訳ってあるのでしょうか?

88さーひぶ。:2008/01/08(火) 22:00:51
雷奴さま、كل عام وأنتم طيبون

って、いま新年の挨拶ということは、そろそろヒジュラ暦の新年が明ける頃ですか?

『新和英中辞典 第4版』(研究社)によると、
 「本年もどうぞよろしくお願いいたします」
 「(これは私の息子です.)どうぞよろしく」という表現は日本独特のあいさつで英語にはない。
そうです。
アラビア語なら أطيب تحياتي とかで通じるでしょうかね?

89さーひぶ。:2008/03/18(火) 23:13:57
【第4回 アラブ映画祭2008】

3月17日(月)〜25日(火)東京・赤坂で今年も開幕した「アラブ映画祭2008」。
いまや恒例となりつつありますが、今年の変則的な会期・会場設定や作品のラインナップ
などを見ると、毎年運営を続けるのは大変なんだろうなと感じます。

毎年、アラブのいろんな国から新作を豊富に取り揃えるのは難しいでしょう。
また首都圏在住の人でも、普通に社会生活をしていたら、スケジュール・予算的に
全作品を鑑賞するのは厳しいことでしょう。
その意味で、過去に上映されている人気作のアンコール上映が多くを占めるのは
仕方ありませんね。

私は、今年はあまり観られないかも知れませんが、初日の特別上映『BOSTA』は
観ておきました。すでに日本での劇場公開が決まっているようです。
>>90に続く)

90さーひぶ。:2008/03/18(火) 23:24:54
>>89の続き)

『BOSTA』は、内戦後の現代のレバノンで大ヒットした話題作です。
NHK教育テレビ「アラビア語会話」でも紹介された新進の女性監督
ナディーン・ラバキーがヒロイン役で女優としても売っています。
レバノンの伝統舞踊と現代西洋的なダンスをフュージョン(融合)させた
前衛的なダンス一座がバスでレバノン国内を巡回しながら、レバノンの
社会の現在を浮き彫りにしていく「レバノン賛歌」という趣きの作品。
主人公はフランス帰りという設定で、ラバキーがその恋人役。
フランスなどヨーロッパの影響を強く受けた現代世俗的な作風で、
性的描写などもかなりあけすけになっています。
世俗的で性的描写が多いという点はエジプト映画にも共通しますが、
ハリウッドの影響が強いエジプト映画ほどはギラギラしておらず、
いろんな意味でさばけているのがレバノン映画という印象です。


ところで、今の時期、アラブ映画祭に限らず、イラン・パレスチナ・
イスラエル・フランスなど中東関連の劇場映画公開が目白押しです。
いろいろ上映されていて、迷っているうちに終わってしまうと思いきや、
各地の劇場を巡回してロングランの作品も少なくありません。
スケジュール・予算的にうれしい悲鳴をあげる今日このごろです。

91さーひぶ。:2008/03/28(金) 23:29:11
『第4回 アラブ映画祭2008』 26日(水)で閉幕しました。

いろいろ重なっていたために、同時期にあった「アフガニスタン映画祭」や
「フランス映画際」には行けず。
今回のアラブ映画祭は、過去の人気作のアンコールが幅を利かせました。
佐藤真監督の追悼上映として遺作の『エドワード・サイード/OUT OF PLACE』
も上映されたようですが、すでにDVDを買っているので割愛。
エジプトでの大ヒット作『テロリズムとケバブ』や貴重なドキュメンタリー
『忘却のバグダッド』はそろそろDVDが出てほしいところです(内容は紹介済)。
新作では、上述『BOSTA』の他に、『デイズ・オブ・グローリー』と
『ヘリオポリスのアパートで』を観てきました。

>>92へ続く)

92さーひぶ。:2008/03/28(金) 23:30:19
>>91の続き)

『デイズ・オブ・グローリー』2006年 アルジェリア・仏・モロッコ・ベルギー
日本でのDVD発売を記念しての上映です。仏語の原題は「アンディジェヌ」
(Indigènes)で「現地人」の意味。アラビア語題もその音訳(إنديجان)ですが、
なぜか邦題は、フランス語でもアラビア語でもなく英訳題をカタカナにしたもの。
なお、監督はアルジェリア系フランス人で、台詞の大半は仏語。
 1943年、第二次大戦のフランス戦線を描いた戦争映画。フランスのアフリカ
植民地から徴兵されたアラブ・ベルベル・黒人の兵士たちが対独戦で遭遇した
体験に基づいています。「祖国フランスのために」と徴用されたアラブ人など
が慣れない軍事教練を経て、仏国歌をフランス語で歌いながら船で仏本土へ。
「祖国フランス」のために戦いながら、一方で「フランスから独立したい」
とも願う植民地の人間たちが、フランス女性と恋愛したり、差別されたりしな
がら戦いの果てに行き着く運命は?
現代の後日談として、アルザスの戦没者墓地が出てきますが、キリスト教徒の
墓はみな十字架なのに対して、ムスリム(イスラム教徒)の墓はモスクのドーム
を象った物でした。キリスト教徒もムスリムも協力してナチスと戦ったんだ。
これは単なる過去の戦争の映画ではなくて、キリスト教徒白人とムスリムの
アラブ・ベルベル・黒人らの協力の歴史を描いたと言えるでしょう。

ひるがえって、日本はどうか。アジア太平洋戦争で日本は多くの朝鮮人や
台湾人、そのほか多くの植民地・被占領地の人々を動員しました。
その中の多くの人が、日本の侵略戦争で死傷し、またB・C級戦犯として
日本の戦争犯罪を背負わされて処刑された人も少なくありません。
日本と近隣アジア諸国で「アンディジェヌ」のような作品をつくろう物なら、
先般の『靖国 YASUKUNI』のように、右翼議員が騒いで検閲しようとするでしょう。
いろんな意味で「後進国」の日本。フランスとアラブ・ベルベル・黒人との
関係から学ぶことは多いはずです。

>>93へ続く)

93さーひぶ。:2008/03/29(土) 00:19:04
>>92の続き)

『ヘリオポリスのアパートで』(In the Heliopolis Flat)2007年、エジプト
米アカデミー賞外国語作品部門のエジプト代表出品作。
田舎の20代女性音楽教師が、旅行のついでにカイロの高級住宅街ヘリオポリス
に住んでいるらしいかつての恩師を訪ね、その行方を探す間に起こる珍騒動の物語。
〔ネタバレ〕
恩師探しというのは物語のきっかけですが、本筋はひょんなことから遭遇した
男女が紆余曲折を経て近づいていくという一種のラブロマンス。
主人公の男女がお互いを探し訪ねるたびに行き違ってしまう「すれ違いメロドラマ」。
これは日本で言えば、昔流行った『愛染かつら』をぐっと縮めて現代風にした感じ。

前に述べたように、ハリウッドの影響を強く受けているエジプト映画では
暴力や性の描写がふんだんに出てくる作品が少なくなく、本作もそうなのですが、
ヒロインが田舎から来た生真面目な若い女性教師ということで、ちょっと抑えた
ロマンスの佳作になっている印象です。
〔アラビア語ミニ知識〕
アラビア語の原題は、エジプト方言では『Fi shaket Masr El Gedeeda』、
文語的には『フィー・シャッカ・ミスル=ル=ジャディーダ』(في شقة مصر الجديدة)。
ギリシア語名の「ヘリオポリス(Heliopolis)」は「太陽の町」の意味ですが、
アラビア語エジプト方言では「マスル=エル=ゲディーダ」、文語アラビア語では
「ミスル=ル=ジャディーダ」(مصر الجديدة)で、「新しいマスル(ミスル)」
すなわち「新しいカイロ」の意味になります。
マスルまたはミスル(مصر)とは、アラブ人が築いた軍営都市のことで、エジプト
の首都「フスタート」そしてカイロが「マスル」と呼ばれ、転じてエジプトの
国名を「マスル(ミスル)」と呼びます。

では、来年も「アラブ映画祭」がありますように、期待しましょう。

94さーひぶ。:2008/04/14(月) 00:06:14
↑少し訂正

〔アラビア語ミニ知識〕

文語的には『フィー・シャッカ(ティ)・ミスラ=ル=ジャディーダ』(في شقة مصر الجديدة)。

95さーひぶ。:2009/02/23(月) 18:45:11
【アラブ映画祭、2009年は開催せず】

今年は、2005年以来、毎年恒例のように続いてきた国際交流基金主催の
「アラブ映画祭」が開催されないようです。

ちょっと残念ですが、その代わりアラブに関連した映画作品の劇場公開が
何本かありますので、おいおい紹介してゆきたいと思います。

96さーひぶ。:2009/02/23(月) 19:10:02
【ナディーン・ラバキー監督・主演映画『キャラメル』】

>>90で紹介した『BOSTA』(2005年公開)に続く、レバノンの女性新鋭監督
ナディーン・ラバキー(نادين لبكي)の長編映画『キャラメル』(2007年)
が日本で劇場公開中(1月31日〜 )なので観て来ました。
 公式サイト:http://www.cetera.co.jp/caramel/

カンヌ映画祭の助成金を得たとかで、レバノン・フランスの合作ということで、
フランス人のアンヌ=ドミニク・ドゥーサン(Anne-Dominique Toussaint)が
プロデューサー。ラバキー監督の作品は元々フランスの影響が強い感じですが、
映像だけを見ればフランス映画とそう変わりませんし、今回の配給協力には
エールフランス航空やユニフランスが名を連ねています。

舞台は「中東のパリ」と称されるレバノンの首都ベイルート。とある美容院
をめぐって、性や加齢の悩みを抱える女性たちの人間模様の物語。

タイトルの『キャラメル』(Caramel)はアラビア語で『スッカル・バナート』
(سكر بنات)。砂糖(سكر)をレモン汁と水で熱してカラメル(キャラメル)
状のペーストにして、肌に押し付けて、むだ毛の脱毛をするアラブ女性の習慣
があるそうです。キャラメルの甘さと脱毛の痛さに、女性たちの人生模様を
たとえているようです。
>>97に続く)

97さーひぶ。:2009/02/23(月) 19:40:27
>>96の続き)
[あらすじ]
ラバキー演じる美容院オーナー・ラヤール(ليال)は30歳のキリスト教徒で、
妻のいる男との不倫の恋に悩んでいる。準ヒロインのニスリン(نسرين)は、
その美容院で働く結婚間近の美容師で、イスラム教徒なのに既に処女でない
ことを婚約者に隠しているために、処女膜再生手術をしようかとまで悩む。
シャンプー係のボーイッシュなリマ(ريما)は、女性に同性愛を感じ始めた
自分に気づく。etc.

パンフレットによれば、ラバキーを含む主要な女性キャスト7人のうち、
半分くらいはキリスト教徒、残りはイスラム教徒と宗教不詳。しかも、
ラバキー以外は映画初出演の素人。レバノン映画にありがちな特徴ですね。

言語は、アラビア語レバノン方言に、一部がフランス語、とチャンポン。
あいさつはアラビア語で「マルハバン」「アハラン」「サバーフ=ン=ヌール」。
フランス語で「ボンジュール」「サヴァ」、アラブなまりの「ボンジューレーン」など。
「ありがとう」も、アラビア語の「シュクラン」やフランス語の「メルシー」
が混在していました。
フランス語圏映画としての売りの部分もあるだろうけど、レバノン社会自体が
フランス語とアラビア語口語のチャンポンになっている感じがよく出ていました。

『BOSTA』と同様に、性的描写がかなりあけすけですが、フランス風にさばけて
いて、どぎつくはありません。女性映画としても、かなり洗練された作品に
仕上がっていると思いました。世界130カ国で上映され、評価が高いようです。

「キャラメル」映画公式サイト http://www.cetera.co.jp/caramel/
ウィキペディア記事
「キャラメル」アラビア語 http://ar.wikipedia.org/wiki/%D8%B3%D9%83%D8%B1_%D8%A8%D9%86%D8%A7%D8%AA
「ナディーン・ラバキー」アラビア語 http://ar.wikipedia.org/wiki/%D9%86%D8%A7%D8%AF%D9%8A%D9%86_%D9%84%D8%A8%D9%83%D9%8A

98さーひぶ。:2009/03/19(木) 22:34:05
【エラン・リクリス監督映画『シリアの花嫁』】

2月21日から公開されているイスラエル=仏=独の合作映画を観て来ました。
イスラエルのエラン・リクリス監督、アラブ女性スハ・アラフとリクリスの共同脚本。
英題 The Syrian Bride、アラビア語題 アルース・スーリーヤ(عَرُوس سورية)。

>>48で紹介した『ラミアの白い凧』(2003年、レバノン=仏)の翌2004年の作品で、
この両作品は、状況設定が非常によく似ています。
両作品の共通点は、イスラエル支配地とアラブ支配地の軍事境界線によって、
一族が分断されたドゥルーズ教徒(イスラームの分派)の村で、境界線を越え
て花嫁が輿入れする物語という点です。有刺鉄線を張り巡らされた緩衝地帯を
はさんで、親族どうしが拡声器で会話をする習慣があるのも同じ。

『ラミアの白い凧』はレバノン・イスラエル国境の話ですが、『シリアの花嫁』
の舞台は、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領してから実効支配して
いる、「占領地ゴラン高原(هضبة الجولان المحتلة)」の北部に位置している
マジュダル・シャムス村(قرية مجدل شمس)。標高約1200mの高原に住む村人
の多くは特異な宗派であるドゥルーズ教徒(字幕ではイスラム教ドゥルーズ派)。
とはいっても、とくに若い世代になるほど、欧米化の影響で世俗化しています。
イスラエルに併合されながらイスラエル国籍の取得を拒む村人たちは無国籍者。
本作は、占領地ゴラン高原の村からシリア本土へ嫁入りする当日の物語です。

『ラミア〜』では、イスラエル側での結婚に失敗してレバノン側へ戻るわけです
が、本作では一度シリア本土へ入ると「シリア国籍」が確定し、占領地の家族の
元へは二度と戻れないかも知れないわけです。

公式サイト(ヘブライ語) http://www.syrianbride.com/
     (英語) http://www.syrianbride.com/english.html
     (日本語;ビターズエンド) http://www.bitters.co.jp/hanayome/
>>99へ続く)

99さーひぶ。:2009/03/19(木) 23:27:41
>>98の続き)

〔あらすじ(ネタバレ)〕
時は西暦2000年、シリアのハーフェズ・アル=アサド大統領が他界し、息子の
バッシャール・アル=アサドが新大統領に就任した頃のマジュダル・シャムス村。
主人公アマル(آمال)の妹モナ(منى)が軍事境界線を越えてシリア本土の
親族へ嫁入りする一日の話。父のハメッド(حميد)は親シリア活動家のため、
かつてイスラエル当局によって拘留されていて、今も当局の保護観察中。
モナの婚礼の日だからと諌めても、新大統領を祝うデモに参加し、警察と
にらみ合う父。アマルは警察で、父が境界線での婚礼に参加することを懇願。
長男のハテム(حاتم)は弁護士で、ロシア人医師イヴリーナ(ايفيلين)と
結婚したため教徒の村から追放されていたが、妹の婚礼のために帰国する。
ドゥルーズの扮装をした村の長老たちは、ハテムを受け入れたら一家とは
絶縁だと父ハメッドに通告。ハメッドも帰国したハテム夫妻と息子を無視。
次男のマルワーン(مروان)はイタリアで商売をし、ゴランの国連事務所に
勤める国際赤十字委員会(ICRC)職員の仏人女性ジャンヌを愛人としていて、
やはり妹の婚礼のために帰国する。アマルの夫アミン(أمين)は封建的で、
イスラエルへの「内通者」よばわりされる男と娘が交際するのを抑圧する。
一方、テレビスターでドラマ収録中の花婿タレル(طلال)は、写真でしか
見たことがないゴラン高原の娘と今日、結婚するとスタッフに苦笑する。
テレビでしか見たことがない花婿の姿に強い不安を感じている花嫁モナ。

劇中ではこのように、イスラエル・シリア両国間の問題だけでなく、狭い村の
中における人間関係に押されて頑なになる封建的な男たちや、男たちの抑圧に
抵抗する女たち、愛人、イスラエル当局などの間の葛藤が描写されてゆきます。
>>100へ続く)

100さーひぶ。:2009/03/20(金) 00:15:34
>>99の続き)
午後3時、境界線の両側でそれぞれ祝宴を済ませた親族たちが検問所のたもとに
集まる。イスラエルの係官がモナのパスポートにイスラエル出国印を押印する。
件の国連職員ジャンヌがシリア側へそのパスポートを持参するが、シリア側の
係官は、ゴラン高原はシリア領なのでイスラエルの出国印は受け付けられない
と拒絶する。婚礼の承認まではもう何か月も待たされた。次はいつになるのか
わからない。絶対に今日じゃなくてはだめだ、とアマルらはジャンヌに頼む。
だが、イスラエル官庁にも、シリア政府側にも連絡が取れない。
窮余の策として、イスラエル係官が修正液で出国印を消すが………。
ついに意を決したモナは、検問所の扉から決然とシリアへ歩みだす。(了)

モナは無事にシリア本土へ嫁入りできたのか、不明瞭な結末です。
ひょっとしたら兵士に銃殺されるかも? 結婚できてもうまくゆかないかも?
そうした不安を越えて、希望(أمل)を意味する名前の主人公は笑みをたたえます。
あたかも、これは単なる一人の娘の嫁入りにとどまらず、ゴラン高原の将来、
果てはイスラエルとアラブの将来への希望を込めた笑みのようにも感じられました。

この物語の背景には実にシリアスなテーマが横たわっていますが、要所要所に
コミカルなやり取りが挿入されていて、全体としては辛さと甘さが混じったような
ほど良く味わい深い作品となっています。

登場人物の大半は、ゴラン高原のドゥルーズ教徒という設定ですが、彼らを
実際に演じているのは、主人公アマル役のヒアム・アッバス(هيام عباس)、
父役のマクラム・J・フーリ(مكرم خوري)とモナ役クララ・フーリ(كلارا خوري)
の父娘など、イスラエル国籍のアラブ人(عرب إسرائيل)が多いようです。
ロシア人の妻やフランス人の愛人が登場することに意味があるのかと疑問が
湧きそうですが、もともとイスラエルは国内映画市場が小さいために、常に
海外での上映を考慮せざるを得ない事情のためと思われます。
初公開から5年も経っての日本での上映ですが、文部科学省選定作品の割りに、
あまり宣伝されていないためか、客足はそれほどではありませんでした。
東京・神保町の岩波ホールで4月17日まで上映し、全国を巡回する予定です。

ウィキペディア英語版 http://en.wikipedia.org/wiki/The_Syrian_Bride

101さーひぶ。:2009/03/28(土) 21:29:28
↑4月17日まで上映中の『シリアの花嫁』について追記。

シリア政府は、ゴラン高原はシリア領だと強硬な態度を取っているわけですが、
軍事境界線のシリア側には
「シリアへようこそ」(Welcome to Syria اهلا بك في سورية)
という看板が立っていたので、ちょっと気になりました。
イスラエル側にも「イスラエルへようこそ」(Welcome to Israel)という
看板が立っていたので、対抗したものでしょうが。

102さーひぶ。:2009/10/19(月) 18:38:04
【第22回 東京国際映画祭 「エジプト映画パノラマ」ほか】

毎年10月頃に開催されている恒例「東京国際映画祭」も今年で22回目。
「アジアの風」という部門では「アジア中東パノラマ」として、
中国・韓国から中東まで幅広い作品が紹介されています。

毎年、観に行こうかな?とは思っていたのですが、会場が六本木ヒルズという
不慣れな人には取っ付きにくい場所だったり、来場者の混雑が予想されるため、
なかなか足が向きませんでした。

今年は【2009日本におけるエジプト観光振興年】記念事業として、
「エジプト映画パノラマ - シャヒーン自伝4部作と新しい波」
という特集上映が催されているので、観て来ました。

昨年7月に亡くなったエジプトのユーセフ・シャヒーン監督の自伝的な
アレクサンドリア4部作やエジプトの新作などを上映しているようです。
すでに上映済みだったり、平日昼間に上映される予定の作品もあったり、
多くの作品は観られませんが、
なんとか、『エジプトの物語』という作品だけ見て来ました。

エジプト以外にも、パレスチナもの、イラン、トルコ・クルド、イスラエル
など幅広い国・地域の作品があるようです。
>>103へ続く)

103さーひぶ。:2009/10/19(月) 19:28:46
>>102の続き)
第22回 東京国際映画祭 アジアの風【シャヒーン監督『エジプトの物語』】

ユーセフ・シャヒーン(يوسف شاهين)の自伝的アレクサンドリア4部作から
『エジプトの物語』(英題:An Egyptian Story)、アラビア語の原題は
『ハッドゥータ・ミスリーヤ』(حدوتة مصرية)を観て来ました。
シャヒーン自身の投影である主演ヤヒヤー役は、エジプトを代表する名優の
ヌール=ッ=シャリーフ(نور الشريف)。シャヒーン監督とのコンビで
いくつもの名作を生んでいます。

あらすじ:エジプトを代表する俳優・脚本家・映画監督のヤヒヤー(يحيى)は
新作を撮影中に心臓発作で倒れ、医師の勧めにより、ロンドンの病院へ飛ぶこ
とになった。家族たちは冷淡で、誰も同行しない。ロンドンの病院で、心臓の
バイパス手術をすることになった。家族の冷淡さを嘆き、死を覚悟するヤヒヤー。

手術中に、血管の中に不思議な少年が現われ、ヤヒヤーの手術を失敗させよう
とする。ヤヒヤーの体内で裁判が始まった。少年はヤヒヤーと名乗り、家族たち
同席のもとで、ヤヒヤーの生い立ちが回顧される。
エジプト王政下で駐留イギリス軍に抵抗する少年ヤヒヤー、映画監督として
カンヌ映画祭に出席するヤヒヤー、アルジェリア独立戦争に遭遇するヤヒヤー。
当時の実写映像と交えて、ヤヒヤーの半生と家族が辿った物語がつづられる。

内臓を縫合した糸を切ろうとする小さなヤヒヤーを、執刀医のメスが血栓とと
もに除去する。手術は成功。病室のベッドに横たわる老いたヤヒヤーの前に、
あの小さな少年ヤヒヤーが等身大になって現われて孤独を訴える。こうして、
老いたヤヒヤーから分裂した幼いヤヒヤーの自我は、老いた自分と合体する(了)。

老いたシャヒーン監督が、心臓手術をきっかけに、自らの半生を顧みながら、
自らの葛藤と孤独により分裂した心を取り戻してゆく物語、というところでしょうか。

104さーひぶ。:2009/11/25(水) 22:50:00
【イランのバフマン・ゴバディ監督『ペルシャ猫を誰も知らない』】

映画祭「第10回 東京フィルメックス」で公開されたイランのクルド人である
バフマン・ゴバディ(بهمن قبادی ;Bahman Ghobadi)監督の2009年の最新作
『ペルシャ猫を誰も知らない』(کسی از گربه‌های ایرانی خبر نداره ;
No One Knows About Persian Cats)を観て来ました。
 ゴバディ監督はこの映画祭の常連で、これまでも『亀も空を飛ぶ』や
>>69で紹介した『半月』など、クルド社会を描いた秀作を演出してきました。
今回の『ペルシャ猫〜』は首都テヘランで撮影した異色作です。

イランの現体制下では、欧米的なポピュラー音楽を公然と演奏したり聴いたり
する事は固く禁じられており、コンサートの参加者は厳しく処罰される。
だから、ポピュラー・ミュージシャンは非合法な地下活動を強いられている。
本作は、バンド活動を夢見るイランの若者たちの理想と苦悩を活写しています。

アシュカーン(اشکان)とネガール(نگار)は男女二人のミュージシャンで、
自国でロックバンドを結成するために、コンサートを聴く目的で海外へ密出国
しようと計画している。パスポートとビザを偽造する闇業者にも何とか依頼。
出国前にコンサートを催そうとあちこちのミュージシャンを訪ねて歩く。
あるヘビメタ・バンドは、近所から追い出され、牛小屋の中で演奏をしている。
牛は通報しないからだという。牛小屋で感染症に罹り、病院へ行く。
ある男は、映画の海賊版ビデオを大量に所持していたため、当局の取調べを
受け、高額の罰金と鞭打ち刑に処せられるところを何とか言い逃れる。
出発間際の日、パスポートとビザを偽造していた老人が検挙された。
コンサートの当夜、アシュカーンは連絡の取れなかったある仲間を探しに
別のコンサート会場に辿り着くが、仲間は泣きじゃくっている。彼は当局に
密告していて、参加者は次々に捕らえらる。アシュカーンは窓から飛び降りる…。
>>105へ続く)

105さーひぶ。:2009/11/25(水) 23:39:19
>>104の続き)

『ペルシャ猫を誰も知らない』という題名は、このように音楽の地下活動を
追求する現代イランのミュージシャンたちを指すのでしょう。
本作の撮影も、わずか17日間で当局に知られないように行われたそうです。
本作は、実際の出来事に基づいた内容だそうで、ドキュメンタリードラマの
ようですが、ドラマの筋を縫うように、ロック風のBGMと前衛的な映像表現が
盛り込まれ、まるで彼らのプロモーション・ビデオ(PV)を観ているかのよう
な印象を受けました。

マルジャン・サトラピ監督のアニメ映画『ペルセポリス』(2007年、フランス)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/558/1114010077/37-39
でも、当局に隠れて欧米のロックなどを聴く若者たちが描かれていましたから、
こういった若者がアングラで音楽を聴くのは一般的なのでしょうか。

この『ペルシャ猫を誰も知らない』は、カンヌ映画祭で特別賞を受賞しました
が、本作を発表したことによりゴバディ監督はイラン現政権から国外追放処分
の憂き目に合わされたとのことです。

欧米や日本のマスメディアが報道するイランのイメージとはまったく異なる
生き生きとしたイランの若者像には感嘆させられます。

11月27日(金)の10:40からもう一度だけ上映予定。ぜひ劇場公開もして欲しい。

ペルシャ猫を誰も知らない http://en.wikipedia.org/wiki/No_One_Knows_About_Persian_Cats
バフマン・ゴバディ監督    http://en.wikipedia.org/wiki/Bahman_Ghobadi
東京フィルメックス公式サイト http://www.filmex.net/

106さーひぶ。:2009/12/02(水) 21:22:43
東京フィルメックスのコンペティション部門で『ペルシャ猫を誰も知らない』
が、最優秀作品賞に次ぐ「審査員特別賞」に輝いたとのこと、おめでとうございます。
http://www.filmex.net/2009/compe.htm

イラン大統領選の混乱を描いたハナ・マフマルバフ監督の『グリーン・デイズ』、
テロの後遺症を描いたイスラエルのオムリ・ギヴォン監督の『天国の七分間』は
残念ながら観に行けませんでした。

107さーひぶ。:2009/12/17(木) 22:00:31
【『キャラメル』と『シリアの花嫁』が再上映】

今年2月に日本で劇場公開されたレバノン映画とイスラエル映画が再上映されるようです。

>>96-97で紹介したナディーン・ラバキー監督・主演映画『キャラメル』(2007年、レバノン)

>>98-101で紹介したエラン・リクリス監督映画『シリアの花嫁』(2004年、イスラエル・仏・独)

の2本です。

12月28日(月)、東京・池袋の新文芸坐で、交互に上映される予定。

キャラメル(2007/レバノン=仏/セテラ)         11:35/15:20/19:00
シリアの花嫁(2004/イスラエル=仏=独/ビターズ・エンド)9:45/13:30/17:10/20:55(終映22:30)

http://www.shin-bungeiza.com/schedule.html

109イサム:2010/05/26(水) 21:33:45
最近アラビア語、中近東の社会に興味を持ち始めたものです。
ファーディ・ヒンダッシュ監督の『ノット・クワイト・ザ・タリバン』(Not Quite the Taliban)というドキュメンタリー映画を、この前オランダ旅行中にたまたまやっていた映画祭で見に行ったら興味深かったので紹介しようと思いました。ドバイ社会の薄っぺらい西洋ぶりの若者は実は昔風のアラブ人より視野が狭いという話なのですが、ストーリーの進め方がなかなか面白く、映画中に映画自体の制作工程も記録している感じです。もっと言いますと、リベラルに見えるドバイで、社会の真相を暴く映画を制作、公開をしようとしたらどんな反応を招くのかという流れに変わります。近東と欧米の接触や女性の権利やら現代のアラブ社会やら、色々と勉強になる映画でした。
公式サイトは多少けち臭くて情報が少ないしトレーラーも短いですが、個人的に見れてよかったと思える映画です。日本でも上映されればと思います。
http://notquitethetaliban.netai.net

110さーひぶ。:2010/06/02(水) 20:55:11
イサムさん、興味深い映画を紹介していただき、ありがとうございます。

>ドバイ社会の薄っぺらい西洋ぶりの若者は実は昔風のアラブ人より視野が狭いという話なのですが、
西洋近代化された若者が昔気質の人より視野が狭い、というのは日本などにも当てはまりそうですね。

ぜひ観てみたいとは思いますが、日本では9・11や米イラク侵攻直後のアラブ系作品上映の潮が引いた感じで、
商業上映はなかなか難しいかも知れません。
東京フィルメックス映画祭とかで上映してくれるといいのですが。

111さーひぶ。:2010/09/15(水) 22:00:38
【バフマン・ゴバディ監督『ペルシャ猫を誰も知らない』が劇場公開中!】

>>104-106で紹介した第10回東京フィルメックス「審査員特別賞」受賞作の
『ペルシャ猫を誰も知らない』が8月7日から東京・渋谷のユーロスペースで
劇場公開され、日本各地の映画館で順次上映される予定です。

バフマン・ゴバディ監督は、昨年の映画祭での公開時にはビザ取得が間にあ
わずに来日をキャンセルしましたが、今回の公開前の6月のプロモーション
来日でもパスポートの更新が許可されずに来日を断念したことが報道されて
いました。ゴバディ監督はもともと故郷クルディスタンとクルド人の社会を
描いた秀作をいくつも世に出して来ましたが、台詞がペルシア語ではなく、
クルド語で映画を制作しているので(イランからの)クルド分離主義者だな
どとイラン当局からにらまれていて、映画撮影許可が下りなくなってしまっ
たようです。
投げやりになっていたところに今回のアングラ・ミュージシャンたちと出会
って、当局の目を逃れてゲリラ的に撮影を刊行。カンヌ映画祭で評価された
後で一度はイランに帰国しましたが、拘束されたりして身の危険を感じて、
現在はイラクのクルド自治区に在住。イラクのイラン大使館に何度も頼んで
みましたが、パスポートの更新はイラン国内でと言われて、断念したようです。

主演のアシュカンとネガルもアングラ・ミュージシャンで、ロックを演奏して
いただけで投獄され、釈放されて、出国しようとしているところを監督が依頼
して彼らのセミ・ドキュメンタリーのようにして制作したとのこと。
現在はロンドンを拠点として「テイク・イット・イージー・ホスピタル」
(Take it easy hospital)として活躍、ネット上で彼らが演奏している動画
などを視聴できます。他の出演ミュージシャンたちの多くも海外で演奏している
ようです。いずれは、体制が変化して、自国で演奏できると良いですね。
 公式サイト http://persian-neko.com/
 テイク・イット・イージー・ホスピタル http://en.wikipedia.org/wiki/Take_It_Easy_Hospital
 ペルシャ猫を誰も知らない http://en.wikipedia.org/wiki/No_One_Knows_About_Persian_Cats

112さーひぶ。:2010/10/31(日) 20:15:32
【パレスチナ映画・マシャラーウィ監督『ハイファ』】

第23回 東京国際映画祭(TIFF)が10月23日(土)〜31日(日)と、本日まで開催
されています。トルコ、イラン、イスラエル、ウズベキスタンと、中近東周辺
の映画だけでも観たい作品はいくつも上映されましたが、わずか9日間で平日
昼間の上映が多いこの映画祭は、よほどの有閑な人でもない限り、数多く観る
のはたやすくはないと思います。

というわけで、アラブ圏ではパレスチナの作品が1作だけ上映されたので、
観てきました。今年は、日本を代表する黒澤明監督の生誕100年に当たるので、
「[ディスカバー亜州電影]生誕100周年記念〜KUROSAWA魂 in アジア中東」
と銘打って、黒澤作品に触発されたアジア中東諸国の4本が上映されました。
パレスチナ人ラシード・マシャラーウィ(Rashid Masharawi رشيد مشهراوي)
監督の1996年作品『ハイファ』(Haifa حيفا)(パレスチナ・ドイツ・オランダ製作)。
イスラエル=パレスチナ和平にこぎつけると思われた1993年のオスロ合意を控え、
ガザの難民キャンプの人々が日常の暮らしを送る群像ドラマ。
物語の主役級として、ハイファと呼ばれる心を病んだ中年男が、イスラエルに
占領された地名を「ヤッファ、ハイファ、アッカ!」と叫びながら道化の役回り
を果たし、難民たちの和平への期待と不安の入り混じった葛藤を浮き彫りに
するという話のようです。紛争による難民という「非日常」生活を長く続ける
庶民たちがさまざまな「日常」生活を生きながら、近い将来の平和に希望と
不安を抱くというテーマは、敗戦直後の庶民の生き生きとした姿を描いた
日本の映画作品を想い起こさせてくれました。
パレスチナのアラファトPLO議長とイスラエルのラビン首相がクリントン米
大統領の前で調印する式のテレビ中継を観たガザの人々が街頭に繰り出して
練り歩くシーンは感動的でしたが、この作品が公開された1996年には崩壊して
しまうオスロ合意への想いが反映されていたのでしょうか。
主演のモハメド・バクリ(Mohammad Bakri محمد بكري)は、役作りに当たって
監督と一緒に黒澤の『どですかでん』を繰り返し観たそうです。
(『どですかでん』については、未見なのでコメントを控えます。)

113さーひぶ。:2010/12/31(金) 19:39:15
【イスラエル映画、サミュエル・マオス監督『レバノン』】

ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得して、欧米各国でも絶賛されている
イスラエル・フランス・ドイツ制作の戦争映画『レバノン』(לבנון)が
日本でも12月11日から東京・渋谷のシアターNで上映中。
   http://www.theater-n.com/movie_lebanon.html
1月7日には早くもDVDが発売&レンタル開始のようです。

1982年6月に勃発した、イスラエルのレバノン侵攻における戦場の悲惨さを、
自身も従軍したサミュエル・マオス(שמואל מעוז)監督が独特な手法で描写
した反戦的な作品です。(以下、ネタバレ)

冒頭とラストで印象的なひまわり畑が出てくるのを除いて、ほとんどの映像は
4人のイスラエル青年兵と上官たちが戦車内部で交わすやりとり・通信、または
戦車の大砲の照準器(スコープ)から見える光景に限られる斬新な映像です。

レバノンへ侵攻した青年兵たち戦車や狙撃兵たちは、テロリストと呼んでいる
レバノン兵を射殺し、空爆で壊滅したサン・トロペズ(St. Tropez)の街で
残党狩りを行なう。戦車のスコープには、炎上する市街、射殺された人たち
(手足を吹きとばされたり、首がない遺体)、途方にくれている民間人たち
や腹を裂かれて息も絶え絶えに泣いているロバ、などが映しだされる。
 戦車はいつの間にかシリア軍の占領地域に踏み込んでしまい、シリア兵の
放った対戦車弾の直撃によりエンコしてしまう。シリア兵が捕虜となって
戦車に運び込まれるが、方言訛りの強いアラビア語を話すのみで、アラビア語
を解すイスラエル兵にも理解できない。イスラエルに味方するレバノンの
キリスト教右派政党「ファランヘ党」(アラビア語でカターイブ)の兵士が
やって来るが、捕虜のシリア兵を連れ出そうとするかのようにも見えて、
当てになるのかどうかは分からない。
>>114へ続く)

114さーひぶ。:2010/12/31(金) 20:18:56
>>113の続き)
故障した戦車の中で、苦悶する青年兵たち。ある青年は、あと2週間で除隊の
はずなのに、兵役期間を延長されてしまう。上官との連絡が滞り、友軍である
はずのファランヘ兵も当てにならない中、戦車の青年兵たちは禁断の「冥王」
回線にアクセスして、自分たちが置かれた窮状を認識する。
敵の襲撃を受ける中を突破して、ひまわり畑に帰り着くが、運転士の青年
イーガルは絶命していた(了)。

ほとんど全編が戦車の鋼鉄の内部に閉じ込められた閉塞状態で進行するという
前衛的な反戦劇です。娘を射殺されて泣き叫び、火だるまのあげく裸にされる
レバノン女性を戦車のスコープが大写しになる場面も強烈。

イスラエルでは適齢期の全国民に兵役の義務が課せられており、イスラエルの
青年たちが体験する悲惨な戦争の惨禍が主眼となっています。しかしながら、
戦車に指令を下す上官は、ジャミルというアラブ系の名前。友軍であるはずの
ファランヘ党の兵士もアラビア語と英語を話すアラブ人、捕虜はシリア人と、
敵兵も、被害を受ける民間人も、味方にもアラブ系の人間がいて複雑です。
被害をこうむるのも、アラブ人も多いが、イスラエル人も死傷します。
 イスラエルVSアラブという先入観の枠を越えて、戦争の悲惨さを描かれて
いると思いますが、この作品の描写はアラブ諸国では不評かも知れません。

イスラエル版の「ベトナム戦争映画」というところのようです。むごたらしい
場面が少なくないので、戦争映画や暴力映画が苦手な人にはおすすめしません。
この作品により、イスラエルの若者に厭戦感情が広がるように願います。
 レバノン      http://en.wikipedia.org/wiki/Lebanon_(2009_film)
 サミュエル・マオス http://en.wikipedia.org/wiki/Samuel_Maoz
 1982年レバノン侵攻 http://en.wikipedia.org/wiki/1982_Lebanon_War

では、来年は平和な年でありますように。良いお年をお迎えください。

115さーひぶ。:2010/12/31(金) 21:05:52
>>113-114の追記) 映画『レバノン』について、書き落とし。

劇中では
「国際法違反の白リン弾を使うが、これを“火を吐く煙”と呼ぶように」
と、上官ジャミルが隠蔽しようとする場面があります。

白リン弾(白燐弾、White phosphorus、略称WP)とは、非人道的な兵器と
して近年、批判されている砲弾で、イラクではアメリカ軍が使用したとされ、
昨年のガザ攻撃でもイスラエル軍が使用したとされ、危険な化学兵器であるか
否か、激しい論争になっています。どちらかといえば、反戦主義者は危険な
兵器だとし、軍備肯定派はそれを打ち消そうとしているように見えます。
 白リン弾(قنابل الفسفور الأبيض) 
  http://en.wikipedia.org/wiki/White_phosphorus

では、戦争のない平和で良い年を迎えられますように。

122さーひぶ。:2013/12/15(日) 22:04:51
【サウジ初の女性監督による長編劇映画デビュー作『少女は自転車にのって』】

サウジアラビアが生んだ初めての女性映画監督ハイファ・アル=マンスール
(Haifaa al-Mansour/هيفاء المنصور)による長編映画・劇映画としては
最初の作品である2012年公開の映画作品『ワジダ』(Wadjda/وجدة)、邦題は
『少女は自転車にのって』が、この12月7日から日本での公開が始まりました。

日本語公式サイト ttp://shoujo-jitensha.com/(予告編の動画があります)

映画館の設置が法律で禁止され(!!)、映画産業と呼べるものも存在しない
サウジからどうやって女性映画監督が誕生したのか? 彼女は、進歩的な母の
もとで育って、海外の映画のビデオを見まくり、エジプトやオーストラリアへ
留学して映画を学び、アメリカ人の外交官と結婚して現在はバーレーン在住。
進歩的な家庭に育って、留学・国際結婚をすれば、こういう女性も出るんですね。

製作国は「サウジアラビア・ドイツ」となっていて、彼女が脚本・監督を担当し、
他のスタッフたちはドイツ人風の名前です。サウジ政府が欧米から民主化を
求められる中で、全撮影をサウジ国内で行なった初めての映画作品となり、
サウジアラビア政府の検閲も無事に通過して、2014米アカデミー賞外国語映画賞
のサウジアラビア代表に選ばれ、各国の映画祭で受賞している優秀作品です。

あらすじ・感想などは、また後ほど

123さーひぶ。:2013/12/17(火) 22:07:01
>>122の続き) 『少女は自転車にのって』のサウジ予備知識

 この作品は、一見すると、少女と自転車のほのぼのとした他愛ない話のよう
にも見えますが、その実、男尊女卑の因習が支配するサウジ部族社会の問題を示唆する描写が細かくちりばめられているようにも思えます。
この作品を観るために必要と思われる予備知識をいくつか挙げてみます。

 サウジの女性は、月経が始まる10歳くらいから、家族以外の男性がいる場
所では、アバーヤ(عباءةまたはعباية)という黒いガウンを羽織って身体
を隠し、ヒジャーブ(حجاب)やブルカ(ブルクウ برقع)というヴェールで
頭部や髪の毛、両眼を除く顔面をすっぽり隠さなくてはなりません。
肌を隠すだけではなく、声を男性に聞かれるのも戒められます。

 公的な場所において、男女が同席することは非常に避けられており、
学校教育が男女別学なのはもちろん、結婚式でも男女は別々に集います。
家族以外の未婚の男女が会うこともご法度で、男女の密会がばれれば、
宗教警察によって逮捕され、罰せられます。
(この作品のサウジ国内の撮影現場では、女性である監督と男性スタッフ
たちとの同席は許されないため、監督は現場から離れた車(バン)の中から
モニターを見ながら無線を使って現場に指示を出していたそうです!!)

 少女婚(児童婚)の習慣があり、10歳くらいの幼い少女が、10歳以上
年上の大人(ときには老齢の)の男性に嫁がされることもあります。
夫婦の事をさせられた幼い少女が出血多量で死亡することもあります。
 男性は、同時に4人まで妻を持つことが許されていますが、女性の重婚
は禁止。夫は妻を一方的に離婚できますが、妻にはできません。

 女性は、車の運転を法律で禁じられています。女性の一人旅も不可。
今回の映画の中では、自転車も女の子に好ましくないと描写されており、
学校の校長が「自転車は危ないわ。信心深い娘にはね。」と言います。
>>124へ続く)

124さーひぶ。:2013/12/17(火) 22:24:02
>>123の続き) 『少女は自転車にのって』のあらすじ
 ワジダ(وجدة)は、首都リヤド郊外に住む10歳の気ままでお転婆な少女。
女子だけの小学校へ通っているが、制服の下はジーンズとスニーカー姿、しかも
ヒジャーブで髪と顔を隠さずに通学するので、戒律に厳しい女校長ヒッサ(حصّة)
からは問題児扱いされている。ワジダは校長から、体を隠すアバーヤで登校しろ
と言われてへこむが、母親は10歳のワジダが「そろそろ嫁がせる時期」(児童婚)
になったと気づいて微笑む。
 ワジダは、自転車を持っている近所の少年アブドゥッラー(عبدالله)と競争して
勝ちたいと思い、ある日見かけた800リヤル(約22,000円相当)の緑色の自転車が
無性に欲しくなる。母親が、女の子が自転車なんてダメと買ってくれないので、
自分でお金を稼いで貯めることにする。手作りのミサンガを売ったり、上級生の
アビールが「兄」(実はボーイフレンド)と密会するのを仲介して報酬をもらった
りして自転車代を稼ぐ。
 上級生アビールが男と密会して宗教警察に逮捕されたというので、手伝った
ワジダは校長から退学させられそうになるが、母が謝罪して助かる。
 足にマニキュアを塗っていたファーティマ(فاطمة)とファーテン(فاتن)
は、校長から「罪深い行為をした」と全校生徒の前で断罪される。
 学校でコーラン暗唱コンクール(مسابقة تحفيظ القرآن الكريم)
が催されることになる。優勝賞金1,000リヤル(約27,000円相当)に目の色が
変わったワジダは、改心して宗教クラブに入部すると校長に言い、コーラン
は苦手だったが、コーラン学習テレビゲームを買って猛勉強を始める。
 ワジダの母は、車で3時間の職場まで通っていたが、女性は車の運転が
禁じられているため、南アジア系の不法滞在労働者とおぼしき乗合自動車
運転手イクバール(إقبال)を雇って通勤や買い物に出かけていた。
ある日、イクバールが辞めたので困り果て、レイラ(ليلى)が勤め始めた病院
職員への転職を思い立つが、顔を隠さずに男性と一緒に働くので、諦める。
 ワジダの父は、たまにしか家に帰って来ない。父の母(ワジダの祖母)
は、ワジダの母が後継ぎの男子を生まないので、第2夫人になる花嫁候補
を探している。家系図は立派だが、女であるワジダは外されている。
>>125へ続く)

125さーひぶ。:2013/12/17(火) 22:33:28
>>124の続き)
 いよいよ、コーラン暗唱コンクール。宗教語彙や啓示の口頭審問の後、
コーランの朗唱(節(ふし)を付けて、歌うように暗唱する)。

(これより、ネタバレ!)
 朗唱の得意な新婚のサルマー(سلمى)らを押さえて、ワジダが優勝。
校長「賞金は何に使うの?」  ワジダ「自転車を買います。」
あきれた校長は「賞金はパレスチナの同胞に寄付しましょう。」
自転車の夢が消えて、落胆するワジダ。
 ワジダの父と第2夫人の結婚式。それを遠くから眺めつつ、ワジダの母
は泣きながら、ワジダと母娘2人だけで暮らす決意を娘に告げる。
 母から贈られた最高の宝物とともに、ワジダは風を切って疾走する。(了)
         *         *
 かつて、子どもを主人公にしたイラン映画作品が日本でもちょっとした
ブームになりました。宗教や政治体制に抑圧された社会の複雑なテーマを
散りばめながらも、子どもの視点を中心軸にすえることによって、検閲を
くぐり抜けつつ、メッセージ性の強い秀作群になりました。
 ワジダを主人公にした本作も同様に、宗教・部族的な男尊女卑の因習に
よって抑圧されている社会を描いた、サウジの秀作といえるでしょう。
現実の厳しいサウジ社会よりは、かなり理想化されているかも知れません。
しかしながら「アラブの春」が完全に潰されてしまったサウジにおいて、
映画という手段が社会をより良い方向へ変えて行く可能性を示したことは
とてつもない意味があると信じています。
         *         *
12月14日(土)から東京・神保町の岩波ホールで新春ロードショー。
国内各地の劇場で順次公開予定。文部科学省特別選定作品。

ウィキペディア記事
ワジダ ttp://en.wikipedia.org/wiki/Wadjda
ハイファ・アル=マンスール ttp://en.wikipedia.org/wiki/Haifaa_al-Mansour

126匿名さん@サラーム:2014/01/04(土) 20:56:23
ここで語ろう
ttp://jbbs.shitaraba.net/study/9419/


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