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アラブ・中東の映画

1さーひぶ:2002/07/18(木) 00:45
最近のアラブ・中東の映画について語りましょう。

98さーひぶ。:2009/03/19(木) 22:34:05
【エラン・リクリス監督映画『シリアの花嫁』】

2月21日から公開されているイスラエル=仏=独の合作映画を観て来ました。
イスラエルのエラン・リクリス監督、アラブ女性スハ・アラフとリクリスの共同脚本。
英題 The Syrian Bride、アラビア語題 アルース・スーリーヤ(عَرُوس سورية)。

>>48で紹介した『ラミアの白い凧』(2003年、レバノン=仏)の翌2004年の作品で、
この両作品は、状況設定が非常によく似ています。
両作品の共通点は、イスラエル支配地とアラブ支配地の軍事境界線によって、
一族が分断されたドゥルーズ教徒(イスラームの分派)の村で、境界線を越え
て花嫁が輿入れする物語という点です。有刺鉄線を張り巡らされた緩衝地帯を
はさんで、親族どうしが拡声器で会話をする習慣があるのも同じ。

『ラミアの白い凧』はレバノン・イスラエル国境の話ですが、『シリアの花嫁』
の舞台は、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領してから実効支配して
いる、「占領地ゴラン高原(هضبة الجولان المحتلة)」の北部に位置している
マジュダル・シャムス村(قرية مجدل شمس)。標高約1200mの高原に住む村人
の多くは特異な宗派であるドゥルーズ教徒(字幕ではイスラム教ドゥルーズ派)。
とはいっても、とくに若い世代になるほど、欧米化の影響で世俗化しています。
イスラエルに併合されながらイスラエル国籍の取得を拒む村人たちは無国籍者。
本作は、占領地ゴラン高原の村からシリア本土へ嫁入りする当日の物語です。

『ラミア〜』では、イスラエル側での結婚に失敗してレバノン側へ戻るわけです
が、本作では一度シリア本土へ入ると「シリア国籍」が確定し、占領地の家族の
元へは二度と戻れないかも知れないわけです。

公式サイト(ヘブライ語) http://www.syrianbride.com/
     (英語) http://www.syrianbride.com/english.html
     (日本語;ビターズエンド) http://www.bitters.co.jp/hanayome/
>>99へ続く)

99さーひぶ。:2009/03/19(木) 23:27:41
>>98の続き)

〔あらすじ(ネタバレ)〕
時は西暦2000年、シリアのハーフェズ・アル=アサド大統領が他界し、息子の
バッシャール・アル=アサドが新大統領に就任した頃のマジュダル・シャムス村。
主人公アマル(آمال)の妹モナ(منى)が軍事境界線を越えてシリア本土の
親族へ嫁入りする一日の話。父のハメッド(حميد)は親シリア活動家のため、
かつてイスラエル当局によって拘留されていて、今も当局の保護観察中。
モナの婚礼の日だからと諌めても、新大統領を祝うデモに参加し、警察と
にらみ合う父。アマルは警察で、父が境界線での婚礼に参加することを懇願。
長男のハテム(حاتم)は弁護士で、ロシア人医師イヴリーナ(ايفيلين)と
結婚したため教徒の村から追放されていたが、妹の婚礼のために帰国する。
ドゥルーズの扮装をした村の長老たちは、ハテムを受け入れたら一家とは
絶縁だと父ハメッドに通告。ハメッドも帰国したハテム夫妻と息子を無視。
次男のマルワーン(مروان)はイタリアで商売をし、ゴランの国連事務所に
勤める国際赤十字委員会(ICRC)職員の仏人女性ジャンヌを愛人としていて、
やはり妹の婚礼のために帰国する。アマルの夫アミン(أمين)は封建的で、
イスラエルへの「内通者」よばわりされる男と娘が交際するのを抑圧する。
一方、テレビスターでドラマ収録中の花婿タレル(طلال)は、写真でしか
見たことがないゴラン高原の娘と今日、結婚するとスタッフに苦笑する。
テレビでしか見たことがない花婿の姿に強い不安を感じている花嫁モナ。

劇中ではこのように、イスラエル・シリア両国間の問題だけでなく、狭い村の
中における人間関係に押されて頑なになる封建的な男たちや、男たちの抑圧に
抵抗する女たち、愛人、イスラエル当局などの間の葛藤が描写されてゆきます。
>>100へ続く)

100さーひぶ。:2009/03/20(金) 00:15:34
>>99の続き)
午後3時、境界線の両側でそれぞれ祝宴を済ませた親族たちが検問所のたもとに
集まる。イスラエルの係官がモナのパスポートにイスラエル出国印を押印する。
件の国連職員ジャンヌがシリア側へそのパスポートを持参するが、シリア側の
係官は、ゴラン高原はシリア領なのでイスラエルの出国印は受け付けられない
と拒絶する。婚礼の承認まではもう何か月も待たされた。次はいつになるのか
わからない。絶対に今日じゃなくてはだめだ、とアマルらはジャンヌに頼む。
だが、イスラエル官庁にも、シリア政府側にも連絡が取れない。
窮余の策として、イスラエル係官が修正液で出国印を消すが………。
ついに意を決したモナは、検問所の扉から決然とシリアへ歩みだす。(了)

モナは無事にシリア本土へ嫁入りできたのか、不明瞭な結末です。
ひょっとしたら兵士に銃殺されるかも? 結婚できてもうまくゆかないかも?
そうした不安を越えて、希望(أمل)を意味する名前の主人公は笑みをたたえます。
あたかも、これは単なる一人の娘の嫁入りにとどまらず、ゴラン高原の将来、
果てはイスラエルとアラブの将来への希望を込めた笑みのようにも感じられました。

この物語の背景には実にシリアスなテーマが横たわっていますが、要所要所に
コミカルなやり取りが挿入されていて、全体としては辛さと甘さが混じったような
ほど良く味わい深い作品となっています。

登場人物の大半は、ゴラン高原のドゥルーズ教徒という設定ですが、彼らを
実際に演じているのは、主人公アマル役のヒアム・アッバス(هيام عباس)、
父役のマクラム・J・フーリ(مكرم خوري)とモナ役クララ・フーリ(كلارا خوري)
の父娘など、イスラエル国籍のアラブ人(عرب إسرائيل)が多いようです。
ロシア人の妻やフランス人の愛人が登場することに意味があるのかと疑問が
湧きそうですが、もともとイスラエルは国内映画市場が小さいために、常に
海外での上映を考慮せざるを得ない事情のためと思われます。
初公開から5年も経っての日本での上映ですが、文部科学省選定作品の割りに、
あまり宣伝されていないためか、客足はそれほどではありませんでした。
東京・神保町の岩波ホールで4月17日まで上映し、全国を巡回する予定です。

ウィキペディア英語版 http://en.wikipedia.org/wiki/The_Syrian_Bride

101さーひぶ。:2009/03/28(土) 21:29:28
↑4月17日まで上映中の『シリアの花嫁』について追記。

シリア政府は、ゴラン高原はシリア領だと強硬な態度を取っているわけですが、
軍事境界線のシリア側には
「シリアへようこそ」(Welcome to Syria اهلا بك في سورية)
という看板が立っていたので、ちょっと気になりました。
イスラエル側にも「イスラエルへようこそ」(Welcome to Israel)という
看板が立っていたので、対抗したものでしょうが。


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