Sがヤジディー教徒への「ジェノサイド」展開、現地調査報告 写真拡大 ×イラク北西部のクルド人自治区フィシュカブルで、自宅を追われイラク・シリア国境を越えるイラクのヤジディー教徒たち(2014年8月13日撮影)。(c)AFP/AHMAD AL-RUBAYE 【メディア・報道関係・法人の方】写真購入のお問合せはこちら
【11月13日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がイラクの少数派ヤジディー(Yazidi)教徒たちに対する「ジェノサイド(集団虐殺)」を展開しているとの報告書を、米ホロコースト記念博物館(Holocaust Memorial Museum)が12日、発表した。レイプや拷問、殺人などに関する詳細な証言はイラクで行った聞き取り調査に基づいている。
「ヤジディーの人々に対するジェノサイドは現在も続いており、拉致された大量の女性や子どもたちがIS戦闘員らの奴隷にされている」と、報告書をまとめた同博物館サイモン・スキョート虐殺防止センター(Simon-Skjodt Center for the Prevention of Genocide)のキャメロン・ハドソン(Cameron Hudson)所長は説明した。
報告書は、「強制退去や改宗の強要、レイプ、拷問、拉致や殺人といった数多くの恐ろしい証言を聞いた」と指摘。「男性も女性も子どもたちも、拉致された大勢のヤジディー教徒たちは今もISにとらわれ、残虐な犯罪行為の犠牲になっている」「彼らの解放を最優先事項としなければならない」と訴えている。(c)AFP/Fanny ANDRE
11月17日、ロシア大統領府は、10月31日にエジプト・シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落について、爆発物が原因で墜落したと発表した。1日撮影(2015年 ロイター/Mohamed Abd El Ghany)
[モスクワ 17日 ロイター] - ロシア政府は17日、10月末にエジプトで発生したロシア旅客機墜落について、爆発物が原因によるテロと断定する分析結果を公表した。ロシアが墜落原因を爆発物と認定したのは初めて。
*筆者は、米国務省に24年間勤務。著書にイラク再建の失策を取り上げた「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People(原題)」などがある。最新刊は「Ghosts of Tom Joad: A Story of the #99 Percent(原題)」。
ロシア軍、アサド政権のシリア政府軍、イラン系のシーア派の軍隊(イラン系民兵団とレバノンのヒズボラ)が、合同してシリア第2の都市アレッポを攻略し、ISIS(イスラム国)やアルカイダ(ヌスラ戦線)といったテロリストから奪還しようとしている。シリア政府軍とシーア派が地上軍としてアレッポに進軍し、それをロシア軍が空爆で支援する。アレッポ周辺は、東側をISIS、西側をヌスラなどアルカイダ系の諸勢力が支配している。アレッポの南隣の県であるイドリブでも、攻防戦が起きようとしている。 (Syria Launches Offensive Against Rebel Areas Around Aleppo) (Military Expert: New Victories Underway in Syria)
アレッポを取り戻すことは、アサド政権にとって非常に重要だ。アレッポを奪還すれば、シリア西部の人口密集地(ダマスカス、ホムス、ハマ、アレッポ、ラタキアをつなぐ地域)の統治を回復できる。トルコ国境に近いアレッポ周辺を占領するISISやヌスラは、以前からトルコ当局の支援を受けている。トルコの諜報機関は、ISISなどを攻撃するふりをして強化してアサド政権打倒の道具に使おうとしてきた米国の戦略に協力し、ISISなどに武器や食料、資金を供給してきた。 (The Humiliation Is Complete: ISIS Fighters Cut Off Beards And Run Away As Russia, Iran Close In)
トルコ当局は、欧州や中央アジアなど外国からISISに参加するイスラム過激派がトルコ国内を通ってシリアのISIS本拠地に行くことも容認・支援してきた。トルコからISISやヌスラへの支援は、アレッポ周辺のトルコ・シリア国境を通じて行われてきた。シリア露イランの連合軍がアレッポを奪還すると、トルコ・シリア国境を占領していたISISやヌスラが追い払われ、トルコのテロ支援の補給路が切断される。ISISやヌスラは、トルコからの補給なしにやっていけない。その意味でも、アレッポ攻略はアサド政権にとって重要だ。 (地図:Syria - Russian and U.S. Air Strikes)
ロシアもイランも、アレッポ周辺の攻略を重視している。9月末からシリアでテロ組織の拠点を空爆をしているロシア軍は、戦闘機が発進するラタキアなどの滑走路を増設し、これまで1日30-50回だった出撃回数を200-300回に急増し、ISISやヌスラの拠点空爆を広げている。 (Russia in Syria: Moscow to increase missions in Syria to '300 a day') (Playtime Is Over! Russia to Increase Missions in Syria to 300 a Day)
イランはこれまで、シリアへの軍事支援を目立たないようにやってきた。だが今回は、イランのシリア派兵軍の最高位であるスレイマニ司令官がアレッポ近郊のイラン系軍隊の拠点を訪問し、指令や鼓舞をしている写真をイラン側が公開し、イランがアレッポ攻略に力を入れていることを示した。アレッポ攻略は、イランによるシリアでの過去最大の軍事行動になると予測されている。 (Top Iranian military commander Soleimani seen rallying Iranian officers, Hezbollah in Syria) (Syrian Showdown: Russia, Iran Rally Forces, US Rearms Rebels As "Promised" Battle For Aleppo Begins)
テロリスト退治に力を入れるシリア露イランに対抗し、テロリストを支援している米トルコ側も、アレッポ防戦に力を入れている。米国防総省は、新たに50トンの武器(対戦車砲など)を「シリアの穏健派反政府武装勢力」に支援したと発表した。しかし、国防総省は、具体的にどの組織に武器を支援したか、発表することを拒んだ。これまで何度も書いてきたが、実のところシリアの反政府武装勢力の中に「穏健派」などおらず、穏健派に支援された武器の大半は、ISISやヌスラといった過激派のテロリストの手に渡る(残りはクルド人組織に渡されている)。米国が追加供給した50トンの武器の大半は、ISISやヌスラに渡されている。 (U.S. delivers 50 tons of ammunition to Syria rebel groups) (Russia Destroys 33 Key Targets Forcing Jihadists to Flee) (わざとイスラム国に負ける米軍) (露呈するISISのインチキさ)
米国が支援した武器は、トルコ経由でアレッポ周辺のISISやヌスラの拠点に流入している。米軍が供給した対戦車砲(TOWミサイル)は、シリアの反政府諸勢力が持っている最強の武器だ。アレッポと並んで戦闘が激化しそうなイドリブでは、大勢のテロ組織の義勇軍が到着したとシリアの諜報機関が伝えている。彼らは、欧州やイスラム世界の各地から、トルコ経由で入ってきた勢力であると考えられる。 (Syrian rebels say they receive more weapons for Aleppo battle) (Syrian intelligence reports influx of mercenaries into terrorist ranks)
だが、米トルコから武器や兵力を追加供給されても、ISISやヌスラは、シリア露イラン連合軍に勝てそうもない。露軍の空爆が始まって3週間が経ち、露軍は、米軍の司令官や軍事分析者が「露軍は、思っていていたよりかなり技能が高いことがわかった」と米国のマスコミに漏らすほどの巧妙さで、シリアを空爆している。露軍の強さを知ったISISの前線の兵士が、上官の命令を無視して逃げ出しているとの指摘もある。ISISやヌスラの兵士は、ひげをそり、顔を全部覆う黒いベールをかぶって女性のふりをして越境し、トルコに逃げ出しているという。 (US Army Europe Commander 'Astonished' by Russian Anti-ISIL Syria Campaign) (Russia's Military Prowess Surprises Western Analysts) (Demoralized militants fleeing Daesh ranks en masse: Russia general) (Jihadists Shave Beards, Dress as Women to Flee to West)
ISISとヌスラはこれまでライバルどうしであるということになっていた。だが、露軍の諜報担当によると、シリア露イラン軍の攻撃に対して劣勢であるので、両者は最近、軍事的に協力することを模索している。ISISもヌスラもサウジアラビア系のワッハーブ派の原理主義的なイスラム信仰を信奉しており、両者が敵対するライバルどうしだという話は、もともと米国が流したプロパガンダの疑いがあった。ここにきて両者はプロパガンダ上の有利さをぬぐい捨て、軍事協調することにしたようだ。 (Terrorist groups in Syria hold talks on unification against government forces)
きたるべき天王山的なアレッポの戦闘で、シリア露イラン軍が、テロリスト軍に簡単に勝つとは限らない。露政府は空爆開始当初、空爆は3-4カ月で終わらせられると発表していたが、最近、1年以上かかるだろうと言い出し、期間を大幅に延長した。期間延長の理由について、露政府は何も言っていない。苦戦するとわかったからでないかという見方が、ロシアを強いと思いたくない傾向が強い米国で流れている。米国では「イスラム世界の全域で、ISISやアルカイダを支持する原理主義の若者が大勢いる。露軍は、無限の兵力を持つ軍勢と延々と対峙することになる」という見方も出ている。 (Scope of Russian War in Syria Growing, Officials Admit)
露メディアでプーチン批判が比較的強いリベラルなモスクワタイムスによると、露軍のシリア進出費用は今のところ1日あたり400万ドルだ。1年分で約15億ドルだ。ロシアの防衛予算は年に500億ドルなので、15億ドルは大した額でない。米軍のイラク戦争(03-08年分)は、1日平均4億ドルかかっていた。露軍シリア進出は、その100分の1の費用しかかかっていない。露軍がシリアで使っている爆弾の多くは昔の非誘導型で、ソ連時代に作られた長期在庫品だ。 (The Cost of Russia's War in Syria)
こうした分析を読んで、反露派や反戦派はご立腹かもしれない。だが露軍の進出は、シリア政府の要請を受けて「極悪」のテロリストを退治する合法的な活動だ。シリアやイラクの人々は露軍を歓迎している。国境なき医師団がTPPに反対しているからといって、アフガニスタンの彼らの病院をわざと空爆し、証拠隠滅のために事後に戦車を派遣して追加の破壊までした米国の方が、ロシアよりはるかに「悪」である。そもそも米軍がISISやアルカイダをこっそり支援しなければ、露軍のシリア進出もなかった。 (Doctors Without Borders bombed by the Pentagon opposed the TPP, pharma monopolies) (MSF Hospital Was in US `Restricted' Database Before Attack)
>>1288-1291
・・・ここまで書いたところで、シリアのアサド大統領が10月20日に突然モスクワを訪問してプーチンと会ったという報道に出くわした。アサドが自国を離れるのは2011年の内戦開始以来初めてだという。アサドは露軍の空爆についてプーチンに感謝の意を表明した。これはまるで、すでにシリア露イラン軍がアレッポの戦いで勝ってテロリストから街を奪還したかのような展開だ。アレッポで苦戦しそうなら、アサドはシリア国内にはりついて指揮するはずだ。自国を離れてロシアまでやってくる余裕はないし、プーチンに礼を言うのも早すぎる。すでに露シリアの側がテロリストに勝って内戦を終結させる見通しがついていないと、アサドがモスクワに来てプーチンに謝意を述べることはない。すでにシリア露イランは、この戦いに勝っている。アレッポの戦いは意外と早くけりがつき、ISISやヌスラの敗北が決定的になりそうだ。 (Assad makes surprise visit to Moscow to thank Putin for air strikes) (U.S., Russia to Meet at Syria Conference)
イラクでは議会が、ロシアにISISの拠点を空爆してもらうことを依頼する決議を10月中に可決することをめざしている。米軍司令官はイラクのアバディ首相に会い「露軍に支援を頼むなら、米軍はもうイラクを支援しない」と通告した。アバディは「ロシアに支援を頼むことはしません」と述べたようだが、これは口だけだ。イラク軍の司令官は「役に立たない米軍の支援を受ける必要はもはやない」と断言している。 (Iraqi Parliament to Vote on Request for Russian Airstrikes) (U.S. to Iraq: If Russia helps you fight ISIS, we can't) (Iraq Moves to Exclude US from Anti-ISIL Campaign)
11月24日、シリア北部のトルコ国境沿いを飛行していたロシア軍の戦闘機が、トルコ軍の戦闘機から空対空ミサイルで攻撃され、墜落した。露軍機は、その地域を占領する反政府組織(アルカイダ傘下のヌスラ戦線と、昔から地元に住んでいたトルクメン人の民兵の合同軍)を攻撃するために飛行していた。地上ではシリア政府軍が進軍しており、露軍機はそれを支援するため上空にいた。露軍機のパイロット2人は、墜落直前にパラシュートで脱出して降下したが、下から反政府組織に銃撃され、少なくとも一人が死亡した(パラシュートで降下する戦闘機の乗務員を下から射撃するのはジュネーブ条約違反の戦争犯罪)。他の一人は、反政府組織の捕虜になっているはずだとトルコ政府が言っている。 (Nato meets as Russia confirms one of two pilots dead after jet shot down - as it happened) (Turkey's Stab in the Back) (US Backed "Rebels" Execute Russian Pilots While Parachuting, Caught On Tape)
トルコ政府は「露軍機が自国の領空を侵犯したので撃墜した。露軍機が国境から15キロ以内に近づいたので、何度も警告したが無視された。撃墜の5分前には、撃墜するぞと警告した」と言っている。ロシア政府は「露軍機はずっとシリア領内を飛んでおり、トルコの領空を侵犯していない」と言っている。 (Turkey Shoots Down Russian Warplane Near Syrian Border)
トルコとシリアの国境線は西部において蛇行しており、トルコの領土がシリア側に細長く突起状に入り込んでいる場所がある。露軍機はシリア北部を旋回中にこのトルコ領(幅3キロ)を2回突っ切り、合計で17秒の領空侵犯をした、というのがトルコ政府の主張のようだ。 (The Russian Plane Made Two Ten Second Transits of Turkish Territory)
領空侵犯は1秒でも違法行為だが、侵犯機を撃墜して良いのはそれが自国の直接の脅威になる場合だ。露軍機は最近、テロ組織を退治するシリア政府の地上軍を援護するため、毎日トルコ国境の近くを旋回していた。露軍機の飛行は、シリアでのテロ退治が目的であり、トルコを攻撃する意図がなかった。そのことはトルコ政府も熟知していた。それなのに、わずか17秒の領空通過を理由に、トルコ軍は露軍機を撃墜した。11月20日には、トルコ政府がロシア大使を呼び、国境近くを飛ばないでくれと苦情を言っていた。 (Turkey summons Russia envoy over Syria bombing 'very close' to border)
(2012年にトルコ軍の戦闘機が短時間シリアを領空侵犯し、シリア軍に撃墜される事件があったが、その時トルコのエルドアン大統領は、短時間の侵犯は迎撃の理由にならないとシリア政府を非難した。当時のエルドアンは、今回とまったく逆のことを言っていた) (Erdogan in 2012: Brief Airspace Violations Can't Be Pretext for Attack)
トルコが今回、露軍機を撃墜した真の理由は、17秒の領空侵犯を脅威に感じたからでない。真の理由は、シリア領内でトルコ政府(諜報機関)が支援してきたトルクメン人などの反アサド勢力(シリアの反政府勢力)を、露軍機が空爆して潰しかけていたからだった。トルコ側が露軍機に警告したのは「トルコの仲間(傀儡勢力)を爆撃するな」という意味だったので、空爆対象をテロ組織とみなす露軍機は、当然ながら、その警告を無視した。 (Turkish blogger warned Erdogan wanted to shoot down a Russian plane to provoke a conflict with Russia)
9月末の露軍のシリア進出後、露軍機の支援を受け、シリア政府軍やシーア派民兵団(イラン人、イラク人、レバノン人)の地上軍がシリア北部に進軍してきた。シリア北部では、東の方でクルド軍が伸張してISISやヌスラをたたき、西の方でシリア政府軍などがヌスラやトルクメン人をたたく戦闘になり、いずれの戦線でも、トルコが支援するISISやヌスラ、トルクメン人が不利になっている。ISISやヌスラは純然たるテロ組織だが、トルクメン人はもともと住んでいた少数民族でもあるので、トルコはその点を利用して最近、国連安保理で「露軍機が、罪もないトルクメンの村を空爆している」とする非難決議案を提出した。 (Turkey seeks U.N. Security Council meeting on Turkmens in Syria: sources)
実のところ、シリア北部のトルクメン人は、トルコから武器をもらい、テロ組織のアルカイダ(ヌスラ)に合流してシリア政府軍と戦っている。ロシアの認識では、彼らはテロ組織の一味だ。シリア内戦の終結をめざして11月に始まったウィーン会議でも、シリア北部のトルクメン人について、ロシアはテロ組織だと言い、トルコはそうでないと言って対立している。この対立が、今回のトルコによる露軍機撃墜の伏線として存在していた。 (Russia vs.Turkey: Conflicting Stories re: Fighter Shootdown and What Next - Analysis)
シリアでは今回の撃墜が起きた北西部のほか、もう少し東のトルコ国境近くの大都市アレッポでも、シリア政府軍がISISやヌスラと戦っている。さらに東では、クルド軍がISISと対峙している。これらのすべてで、露シリア軍が優勢だ。戦況がこのまま進むと、ISISやヌスラはトルコ国境沿いから排除され、トルコから支援を受けられなくなって弱体化し、退治されてしまう。トルコは、何としても国境の向こう側の傀儡地域(テロリストの巣窟)を守りたい。だから17秒間の領空侵犯を口実に露軍機を撃墜し、ロシアに警告した。 (Turkey Raising Black Flag of ISIL by Shooting Down Russian Plane) (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出>>1288)
先日、ISISの石油輸出を阻止するロシア提案の国連決議2199が発効し、露軍や仏軍が精油所やタンクローリー車を空爆し始め、ISISの資金源が急速に失われている。ISISがトルコに密輸出した石油を海外に転売して儲けている勢力の中にエルドアン大統領の息子もおり、これがエルドアンの政治資金源のひとつになっているとトルコの野党が言っている。トルコはシリア内戦で不利になり、かなり焦っている。 (Russian aviation destroys three major oil facilities in Syria) (Russian Media claims Erdogan's son behind downing of Russian Su-24)
9月末の露軍のシリア進出後、トルコは国境地帯をふさがれてISISを支援できなくなりそうなので、急いで世界からISISの戦士になりたい志願者を集めている。9月末以来、イスタンブールの空港や、地中海岸の港からトルコに入国したISIS志願兵の総数は2万人近くにのぼっていると、英国のガーディアン紙が報じている。 (Is Vladimir Putin right to label Turkey `accomplices of terrorists'?)
今回の露軍機撃墜に対し、米政府は「露トルコ間の問題であり、わが国には関係ない」と表明している。だが、実は米国も関係がある。撃墜された露軍機のパイロットを捜索するため、露軍はヘリコプターを現地に派遣したが、地上にはアルカイダ系のテロ組織(形式上、穏健派とされるFSA[とは註:シリア自由軍]の傘下)がおり、やってきたヘリに向かって小型ミサイルを撃ち、ヘリは何とかテロ巣窟の外側のシリア軍の管轄地まで飛んで不時着した。この時、テロ組織が撃ったミサイルは、米国のCIAが「穏健派」の反アサド勢力を支援する策の一環として贈与した米国製の対戦車砲(TOWミサイル)だった。テロ組織自身が、露軍ヘリに向かってTOWを撃つ場面の動画を自慢げに発表している。この動画は、米国が「テロ支援国家」であることを雄弁に物語っている。 (FSA video claims Russian-made helicopter hit with US-made TOW missile near Su-24 crash site) (U.S.-Backed Syrian Rebels Destroy Russian Helicopter with CIA-Provided TOW Anti-Tank Missile) (露呈するISISのインチキさ)
トルコはNATO加盟国だ。NATOは、加盟国の一つが敵と戦争になった場合、すべての同盟国がその敵と戦うことを規約の5条で義務づけている。そもそもNATOはロシア(ソ連)を敵として作られた組織だ。戦闘機を撃墜されたロシアがトルコに反撃して露土戦争が再発したら、米国を筆頭とするNATO諸国は、トルコに味方してロシアと戦わねばならない。これこそ第3次世界大戦であり、露軍機の撃墜が大戦の開始を意味すると重大視する分析も出ている。ロシアとNATO加盟国の交戦は60年ぶりだ。 (Russia shooting highlights Ankara defiance) (World War 3 risk as Turkey threatens Russia with 'serious consequences')
ここ数年、米欧日などのマスコミや政府は、ロシア敵視のプロパガンダを強めている。NATO加盟国のトルコの当局は、ロシアと対決したら世界が自国の味方をしてくれると考えているだろう。だが、私の見立てでは、世界はトルコに味方しにくくなっている。今回の露土対立は、世界大戦に発展しにくい。 (No, Turkey shooting down a Russian warplane will not spark World War III) (Turkey-Russia Confrontation Risks World War Or Impotent NATO)
ISISやアルカイダの創設・強化は米軍の功績が大きい。米国は、ISISやアルカイダを敵視するふりをして支援してきた。ロシアとISISとの戦いで、米国主導の世界の世論(プロパガンダ)は「ISISは悪いけどロシアも悪い」という感じだった。だが、先日のパリのテロ以降、それまで米国のマッチポンプ的なテロ対策に同調していたフランスが本気でISISを退治する方に傾き、国際社会の全体が、ロシア主導のISIS退治に同調する傾向になっている。ISISへの加勢を強めているトルコと裏腹に、世界はISISへの敵視を強めている。 (Turkey-Russia tensions muddy anti-Isis alliance in Syria) (France Wants Grand Coalition Against ISIS, But US Still Seeks to Exclude Russia)
その中で、今回の露軍機の撃墜は、露土戦争に発展すれば、ISISやトルコよりロシアの方が悪いという、善悪観の逆転を生むかもしれない。トルコはそれを狙っているのだろう。だが、ロシアがうまく自制し、国際社会を「やっぱり悪いのはISISだ」と思わせる方向に進ませれば、むしろISISやアルカイダを支援してロシアに楯突くトルコの方が「テロ支援国家」で悪いということになる。 (Assad only winner after Russian jet downed)
フランスなどEU諸国はすでに今秋、トルコが国内にいた大勢のシリア難民をEUに流入させ、難民危機を誘発した時点で、トルコへの不信感を強め、シリア内戦を終わらせようとアサドの依頼を受けて合法的にシリアに軍事進出したロシアへの好感を強めている。今後、トルコがNATO規約5条を振りかざして「ロシアと戦争するからEUもつきあえ」と迫ってくると、EUの方は「騒動を起こしているのはトルコの方だ」と、ロシアの肩を持つ姿勢を強めかねない。露軍機が17秒しか領空侵犯していないのにトルコが撃墜したことや、トルコがISISを支援し続けていることなど、トルコの悪だくみにEUが反論できるネタがすでにいくつもある。難民危機も、騒動を扇動しているのはトルコの方で、ロシアはテロ組織を一掃してシリアを安定化し、難民が祖国に戻れるようにしようとしている。これらの状況を、EUはよく見ている。 (Turkey's attack provocation to split int'l anti-terrorist coalition - French politician)
>>1292-1205
米国の外交政策立案の奥の院であるシンクタンクCFRの会長は「ロシアを敵視するトルコの策はISISをのさばらせるだけだ」「トルコはかつて(世俗派政権だったので)真の意味で欧米の盟友だったが、今は違う(エルドアンの与党AKPはイスラム主義だ)。形式だけのNATO加盟国でしかない」と、やんわりトルコを批判し「ロシアのシリア政策には良いところがけっこうある」とも書いている。 (Opponents of Isis must influence not isolate Russia)
トルコは、国内で使用する天然ガスの6割近くをロシアから輸入している。エネルギー総需要の2割がロシアからの輸入だ。こんな状態で、トルコはロシアと戦争に踏み切れない。ロシアは、軍事でトルコを攻撃する前に、契約の不備などを持ち出してガスの供給を止めると脅すことをやるだろう。 (Russia Declares Warplane Downing A "Hostile Act" But Will It Cut Turkish Gas Supplies?)
それよりもっと簡単な報復策を、すでにロシアは採り始めている。それは、これまで控えていた、トルコの仇敵であるシリアのクルド人への接近だ。露政府は最近、シリアのクルド組織(PYD、クルド民主統一党。クルド自治政府)に対し、モスクワに大使館的な連絡事務所を開設することを許した。シリアのクルド組織に対しては最近、米国も接近している。米軍は50人の特殊部隊を、PYDの軍事部門であるYPDに顧問団として派遣し、ISISとの戦いに助言(もしくはスパイ?)している。シリアのクルド人自治政府に発展していきそうなPYDに、すでに米国が接近しているのだから、ロシアが接近してもまったく問題ない。困るのはトルコだけだ。 (Syrian Kurdish PYD to open representative office in Moscow)