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108名無しさん:2021/04/08(木) 20:13:16 ID:L5sUrxV.0

(;'A`) ...そんな

(*゚ー゚) ...姉さんは、凄いよ

(*゚ー゚) でも...背負い込み過ぎてる

ミセ ー )リ

(*゚ー゚) 非記さんだって...きっとあなたにそんなこと、願ってない

ミセ ー )リ 四威は黙っててよ。一緒に暮らしたこともないのに

(*゚ー゚) ....っ

(*゚ー゚) なんで、姉さんは私に何も教えてくれないの

ミセ ー )リ

(*゚ー゚) なんで、いつも黙るの

ノパ⊿゚) 四威ちゃん

ミセ ー )リ ...ごめん。分からない

ミセ ー )リ 頭が、まとまらない...本当にごめん

109名無しさん:2021/04/08(木) 20:14:27 ID:L5sUrxV.0

ミセ ー )リ ....。


('A`) ...わかった。非記のとこに案内するよ

ミセ ー )リ ...ありがとう

ノパ⊿゚) あたしも行っていい

('A`) もちろんだ。四威も、付いてやってくれ

(*゚ー゚) ...うん














.

110名無しさん:2021/04/08(木) 20:15:30 ID:L5sUrxV.0






















.

111名無しさん:2021/04/08(木) 20:16:20 ID:L5sUrxV.0



非記と出会ったのは、7年前になる。
焼けつくように暑い日。VIPの路上。
彼はあたしより5つ上だった。幼くして既に売人だった。

彼の瞳には何の光もなかった。

...あたしは彼と出会う前の記憶を、何一つ思い出せない。





(-_-) ...どうしたの。こんなとこで




ノパ⊿゚)

(-_-) ...歳は?

ノパ⊿゚) ...13

(-_-) ...他に誰か、いるのかい

ノパ⊿゚) わからない

(-_-) 思い出せないのか

112名無しさん:2021/04/08(木) 20:17:19 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) あなたは、誰?

(-_-) 僕は非記。君は

ノパ⊿゚) あたしは....

ノパ⊿゚) ...脾都

(-_-) 脾都か。よろしくね


(-_-) ついてくるかい?

ノパ⊿゚) ...うん



そのまま、彼がVIPに持っていた「家」に招待された。
記憶もなく、あてもないあたしはそこに住み着くようになった。


荒れ果てた小屋だった。
酷く暑くて、一日中視界が白くぼやけてた。

あたしと同い年にして、薬物中毒でガリガリの子、幻覚を見てうわごとを言ってる子、
虚空を見つめながら一日中床に寝っ転がってる子...色んな子と出会った。




あぁ、あたしは、終着駅に来たんだ。

そう思った。

113名無しさん:2021/04/08(木) 20:18:11 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) 非記は、どうしてこんなことを

(-_-) ...生きるため。って言ったら簡単だけど

(-_-) それだと、耐えられないから

(-_-) 生きがいだと、思うようにした

ノパ⊿゚) 生きがい...

(-_-) うん。僕と同じ境遇の子に...偽りでもいい。幸せを与えるのが、僕の生きがいだ

ノパ⊿゚)


(-_-) ああ、そうだ。新しい薬があるんだ

(-_-) ...君も使うかい?

ノパ⊿゚)

114名無しさん:2021/04/08(木) 20:19:37 ID:L5sUrxV.0



あたしの初めては、彼に見守られてだった。
どうしてかな...あたしは誰でもない。と思ってたのに、
行ってる時だけはそのことが愛おしかった。





ノパ⊿゚) はっ.....


(-_-) おかえり

ノパ⊿゚) なんだ、これ...

(-_-) 君の世界だよ

ノパ⊿゚) あたしの...世界

(-_-) この薬には禁断症状がない。…君にはこれが必要だと、思ったんだ


ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) ...ありがとう

115名無しさん:2021/04/08(木) 20:20:27 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) 非記は使わないの

(-_-) ...僕はいいんだ


ノパ⊿゚) あたし、非記が何を見るのか、興味あるよ

(-_-) ...。

ノパ⊿゚) いやなの?

(-_-) 僕は...薬は使わない。そう決めてるんだ


ノパ⊿゚) ....どうして



(-_-) ねえ

(-_-) この世界に生まれた僕らは、いつまで生きると思う?

ノパ⊿゚) ...わかんない

(-_-) 明日には死んでるかもしれない。ひょっとしたら何十年も生きるかも

(-_-) ...だけど、それに何の違いがある?


ノパ⊿゚)




(-_-) 僕は何もいらない。どうせ全部、無になるから






-

116名無しさん:2021/04/08(木) 20:21:42 ID:L5sUrxV.0





1年後、診競と四威がやってきた。四威は「家」に住むことはなかった。彼女は、いつも診競と距離があった。

あたしたち3人は、ご飯を食べるのも、寝る時も常に一緒だった。
ただ取引する時、あたしたちは隠れるように言われていた。
彼なりの優しさだと思う。

あたしたちはしばしば、死んだ子たちを「家」の裏庭に埋めた。
最初は悲しかった。目の前が暗くなって、心臓がバクバクした。
だけど途中から何も思わなくなった。それから、何人埋めたか数えるのをやめた。







.

117名無しさん:2021/04/08(木) 20:22:37 ID:L5sUrxV.0


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)(-_-) .....。

ミセ*゚ー゚)リ ...ねぇ。非記は、あの子たちを何故放っておくの

(-_-) ...彼らが望んだものを与えたんだ


(-_-) ...それに、生きながらえたって



ミセ*゚ー゚)リ ...そんなことないよ

ミセ*゚ー゚)リ 何もなくても、私たちには美がある

(-_-) 死んだら全部おしまいだよ


ミセ*゚ー゚)リ ...ううん。美は消えない。絶対に


(-_-) ....。

118名無しさん:2021/04/08(木) 20:23:19 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) ねえ

ノパ⊿゚) どうして、非記はあたしたちの面倒を見てくれるの

(-_-) ...他の子と同じように

(-_-) 皆が求めるものを、僕は与えてるだけだ


ノパ⊿゚) あたしが何を求めてるのか、わかるのね


(-_-) ...ああ

(-_-) 全部、わかるよ



ミセ*゚ー゚)リ ...あの子たちを、地獄から救い出すことはできないのかな

ノパ⊿゚) みっちゃん

(-_-) ....救い出すって、何だい?

ミセ*゚ー゚)リ それは...

(-_-) 救いって、何?

ミセ*゚ー゚)リ ....

ミセ*゚ー゚)リ 答えは私の中にも、きっと、誰の心の中にもある


ミセ*゚ー゚)リ 私は非記にそれを教えてもらったんだよ。だから、私が今度は救う番だと、思う

(-_-)

(-_-) ...それが、君が求めることなんだね

119名無しさん:2021/04/08(木) 20:24:10 ID:L5sUrxV.0



ある嵐の夜。非記はあたしたちを起こして、奏柵に移ると告げた。
彼の友人が手配したトラックの荷台で、あたし、診競、四威、他の子は一週間近く、過ごした。

途中で、子どもたちは一人、二人と死んでいった。
ある子は薬物の打ち過ぎで、ある子は川に飛び込んで、ある子は衰弱して死んだ。

その度、診競と四威は涙を流した。
あたしは、泣けなかった。

奏柵に着く頃には、4人だけが残った。



.

120名無しさん:2021/04/08(木) 20:26:02 ID:L5sUrxV.0



奏柵に着いた日の夜のことだった。
四人で荷台に仰向けに寝っ転がり、星を見ていた。


(*-ー-) スースー

四威は疲れてしまったのか、もう既に眠っていた。

非記が珍しく、あたしたちに話しかけてきた。

(-_-) ...ねえ

ノパ⊿゚) 何?非記

(-_-) 不思議なんだけど...


(-_-) さっきから、ずっと音がするんだ

ミセ*゚ー゚)リ ...音?

(-_-) 聴こえないかい?


ノパ⊿゚)ミセ*゚ー゚)リ ...うん


(-_-) これは...なんだろう


(-_-) あ、これは....賛美歌か....

(-_-) 遠くから、賛美歌が聴こえてくるよ、はは....


あたしたちにとって、彼が初めて笑う瞬間だった。
喜びでも、悲しみでもない。どこまでも皮肉めいた笑い。
だけどその笑顔を、あたしは忘れることができなかった。

その夜は、都会とは思えないほど星が綺麗だった。
彼は両手を大きく広げて、そのまま眠った。

.

121名無しさん:2021/04/08(木) 20:26:53 ID:L5sUrxV.0
-










                (-_-)











.

122名無しさん:2021/04/08(木) 20:27:46 ID:L5sUrxV.0

ミセ ;ー; )リ うぅっ....えっぐ...

ミセ ;ー; )リ ひき...ごめん...ぅ...っ


(* ー ) ……非記さん




黒い地下室。
診競の嗚咽だけが静かに響き渡る。

棺に収められた非記。
もう生の色を僅かとも残していない状態。


しずかだ

しずかだ


ノハ ⊿ ) ...ねえ

ノハ ⊿ ) 非記は、あの夜、何を聴いたの?

('A`) ....。

ノハ ⊿ ) 聴かせてよ。皆に

ノハ ⊿ ) なんとかいってよ....非記....

123名無しさん:2021/04/08(木) 20:29:06 ID:L5sUrxV.0

ミセ つー)リ

ミセ ー )リ









ミセ ー )リ 遠くで、歌が....聴こえる


(*゚ー゚) ...ほんとだ

('A`) これは...


ノハ ⊿ )

124名無しさん:2021/04/08(木) 20:29:57 ID:L5sUrxV.0
-





.....ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ




     ....ィィィ
                   ....ァァァァァァァ




        ...ェェェェェェェェ






.

125名無しさん:2021/04/08(木) 20:30:37 ID:L5sUrxV.0
-







それは、どこまでも静謐な歌声だった。
どこからともなく、果てしない遠方から聴こえてくる
もう何を言ってるのかも分からない、ぼんやりとした賛美歌。






.

126名無しさん:2021/04/08(木) 20:31:21 ID:L5sUrxV.0
-







.....ロァァァァァァァ




     ....ィィィィィス
                   ....ゥゥゥゥゥ




        ...ェェェェェ







.

127名無しさん:2021/04/08(木) 20:32:14 ID:L5sUrxV.0


その時、あたしにはわかった。

歌声に溶かされた時間が、澄んだ流れになって

地下室から流れ落ちていく。

ずっと下、光のない場所をずっとずっと、降っていき...

はじまりもなく、おわりもない場所に合流した。



大きな時間。
この世界を世界たらしめている存在。
幾千年もの間、あたしたちに子供を残させ、この世界に生き続けさせている存在。



非記の時間が、そこに辿り着いたんだ。



.

128名無しさん:2021/04/08(木) 20:33:05 ID:L5sUrxV.0






(-_-)


ノハ;⊿;)





.

129名無しさん:2021/04/08(木) 20:33:44 ID:L5sUrxV.0










これが、あの夜あなたが聴いた声なんだね。
非記....。








.

130名無しさん:2021/04/08(木) 20:34:18 ID:L5sUrxV.0













.

131名無しさん:2021/04/08(木) 20:34:58 ID:L5sUrxV.0

…その夜、あたしたちは独生の住処で夜を明かした。


ノパ⊿゚) ...みっちゃん

ミセ*゚ー゚)リ ...なに?ひーと

ノパ⊿゚) ...辺尼って子と、会おうと思う

ミセ*゚ー゚)リ 誰...?


ノパ⊿゚) ...あたしを助けて、非記を殺した子

ミセ*゚ー゚)リ ...!


ミセ*゚ー゚)リ 皆には...言ったの

ノパ⊿゚) ...ううん。まだ

ノパ⊿゚) 昨日、道端で彼女に会ってさ。その時は断ったんだ

ノパ⊿゚) だけど、「私は待ってる。いつでもおいで」って...

ミセ*゚ー゚)リ

ノパ⊿゚) でも、彼女の心は、なんにもない

ノパ⊿゚) かわいそうだ..

132名無しさん:2021/04/08(木) 20:35:41 ID:L5sUrxV.0


ノパ⊿゚) 辺尼は敵だし...皆に危険が及ぶことも、わかってる

ノパ⊿゚) だけど...それ以上に、彼女は救いを求めてるんだと思う

ノパ⊿゚) 自覚すらない苦しみから、ね

ミセ*゚ー゚)リ 救い

ノパ⊿゚) うん


ミセ*゚ー゚)リ ...私も、行っていい?

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) ...今のみっちゃんには、辛い時間になるよ

ミセ*゚ー゚)リ ...わかってる。けど

ミセ*゚ー゚)リ このままじゃ全部壊れる。もうそれは変えられない。きっと


ミセ*゚ー゚)リ 私は、それをただ待ちたくはないの

133名無しさん:2021/04/08(木) 20:38:08 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) ねぇ...

ノパ⊿゚) 少し前に、あたしが言ったこと覚えてる?

ノパ⊿゚) 全てが終わってから、それからがあたしの仕事だ。って

ミセ*゚ー゚)リ ...うん

ノパ⊿゚) 今のみっちゃんには受け入れられないかも、しれないけど...

ノパ⊿゚) やっぱり、美はひとつじゃないよ

ミセ ー )リ ...そうかもしれない

ノパ⊿゚)


ミセ ー )リ でも、そこに私がいる資格はない

ミセ ー )リ 全部が壊れた時...美がなくなった時...私は誰でもなくなる。国籍も、性別も、
顔も、全部わからなくなる

ミセ ー )リ 誰でもない放浪者になって、どこに居着く権利もなくなるの

ノパ⊿゚) ...どうして


ノパ⊿゚) あたしを見てよ

134名無しさん:2021/04/08(木) 20:39:01 ID:L5sUrxV.0
ノパ⊿゚) みっちゃんは、一人じゃないよ

ノパ⊿゚) あたしここに居るよ...見てよ

ミセ*゚ー゚)リ ...ごめん

ミセ*゚ー゚)リ 脾都

ノパ⊿゚)

ミセ*゚ー゚)リ いつか...脾都の中に行きたい

ノパ⊿゚) ...うん

ノパ⊿゚) いつか、ね

ノパ⊿゚) 全部終わったら、行こう

ミセ*゚ー゚)リ …約束だよ






.

135名無しさん:2021/04/08(木) 20:40:59 ID:L5sUrxV.0



翌朝。

あたしたちは、奏柵の中央公園の広場に来た。
辺尼に会うために。


日が少し高くなってきていた。
朝の光で青く澄んだ広場には、壮麗な噴水が鎮座している。
人は少なく、無数の鳩が広場に集っていた。



辺尼は噴水の前にあるベンチに1人、座ってあたしたちを待っていた。
あの時と同じ黒いコート。

あたしたちが近付くと、鳩が一斉に飛んでいった。


('、`*川 …来たのね


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)


('、`*川 そこにいるのは...診競ね

('、`*川 必ず来ると思ってた





ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 辺尼


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 非記は死んだ。もういないよ








.

136名無しさん:2021/04/08(木) 20:41:28 ID:L5sUrxV.0
五,了

137名無しさん:2021/04/08(木) 20:42:40 ID:L5sUrxV.0
今後は辺尼、播院に関わるエピソードを中心に進めていきます

138名無しさん:2021/04/08(木) 20:46:50 ID:QHexV.s60
乙です

139名無しさん:2021/04/09(金) 09:44:42 ID:vUUCfGD60
乙!

140名無しさん:2021/04/10(土) 22:07:42 ID:GNcSB1hE0
相変わらず独特だな....乙

141名無しさん:2021/04/11(日) 23:22:36 ID:SSUxwDII0
数分後に投下します

142名無しさん:2021/04/11(日) 23:37:13 ID:SSUxwDII0




その日の朝。ベッドの上で、辺尼は己の過ちを悔いていた。

手視からの命令は、「脾都と接触し非記の情報を引き出すこと」
「可能であれば脾都と関わりのある人間を全員調べ上げること」。

しかし、これには当然の前提が存在する。
辺尼が「翠」であること。正体が向こうに知られていないこと。

自ら素性を明かした彼女は、生身の「辺尼」として、脾都にぶつかる他なかった。

これが...手視が忠告していたことだったのだ、と
彼女は痛感していた。


( 、 *川


しかし事態はそれだけには収まらなかった。
一週間前に彼女が見た不審な男もそうだ。以降、彼女の家のポストに悪質な悪戯が始まった。
部屋を荒らされた形跡もあった。警察に相談もした。取り合ってはもらえなかった。

頼れる者はいなかった。
思えば、生来彼女は孤独だった。

手視に相談しようとした。しかし、
あの夜...「送っていくよ」と言った彼の顔が脳裏に過った。

辺尼はあの表情に、何か気味の悪いものを感じていた。
彼を信用できなかった。
捻野や、ほかの同僚たちにも相談することができなかった。
あの不審な男が、手視か、同僚のうちの誰かかもしれないと思ったからだ。

143名無しさん:2021/04/11(日) 23:46:20 ID:SSUxwDII0


そもそも、彼女は何かを根本的に見失ってしまったように感じていた。
いつから見失ったのか。それすら定かではない。
この仕事に就いてからのような気もするし、もっと遥か昔、子供の時からのような気もする。




( 、 *川 …どうして

数週間前までは何ともなかったはずだろう。そう考えるたび不安で胸が一杯になる。
理由も分からない、己ではどうすることもできない、不穏な感情がじわじわと自身を包んでいくのを感じていた。


もし。あの日持ち帰ったインジェクターを使えば。打てば。
何かが分かるだろうか。見失った物を見つけられるだろうか。

...と、ここまでの思考を、彼女はここ数日、数百数千と繰り返していた。




アラームが再び鳴った。
辺尼は重たい頭を持ち上げる。

144名無しさん:2021/04/11(日) 23:49:26 ID:SSUxwDII0



('、`*川 (この状態じゃ...仕事を遂行するのも厳しい...なのに)

('、`*川 (私は脾都と直接ぶつからなきゃ、いけない...)

('、`*川 (それに、私がしたこと、インジェクターを持ち帰ったことは言い訳できない....)



彼女は瀬戸際に立たされていた。
私情を優先し、職責を踏みにじるか。償いを以って社会生活へと復帰するべきか。
しかしこの時を逃せば、見失ったものは永遠に見つからないと、半ば恐怖を伴い確信していた。

彼女は脾都の言った言葉を思い返す。

「あなたは何のために生きているの」。


('、`*川 (...家も金も、未来も...なんにもないあなたが)

( 、 *川 (どうしてあんなこと、言えるの.....)



( 、 *川 (なぜ、私の方が答えが出ないのよ....)

145名無しさん:2021/04/11(日) 23:50:03 ID:SSUxwDII0


正義。
彼女がこの仕事に就いた時に抱いていた想いだ。今では、全く色を失い、ガラクタ同然と化していた。

食欲が全く湧かなかったため、辺尼はコップ一杯の水を飲み干した。
多肉にも水をやり、支度を進める。

部屋を覆い尽くす植物は、もはや彼女を慰めはしない。
例えれば、それらは不気味な触手を伸ばし、どこか恐ろしい場所へ手招いているような――また彼女の心の暗部で芽を出した邪悪のような――存在だった。

辺尼は最後に窓を閉め切った。
あの男が怖かった。





.

146名無しさん:2021/04/11(日) 23:50:35 ID:SSUxwDII0







                美







.

147名無しさん:2021/04/11(日) 23:51:45 ID:SSUxwDII0




辺尼は、脾都を待っていた。
一度中央公園で声をかけたことがある。脾都は辺尼の顔を見ると、恋人らしき女の方へ走り去っていった。
調査を続けるうちに、女の名を診競ということが分かった。


辺尼はその日以来、午前中は公園で脾都を待つことにした。
そう遠くない日に彼女達はやって来る。そう直感していたからだ。

合理的な理由などない。ただどういうわけか、辺尼が一心に脾都を求め、
脾都が彼女に引き寄せられているのだ。


('、`*川 (...脾都)

148名無しさん:2021/04/11(日) 23:52:15 ID:SSUxwDII0


1時間半ほど過ぎた頃、脾都と診競が広場に現れた。



('、`*川 …来たのね


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)


('、`*川 そこにいるのは...診競ね

('、`*川 必ず来ると思ってた


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 辺尼


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 非記は死んだ。もういないよ

149名無しさん:2021/04/11(日) 23:53:42 ID:SSUxwDII0


('、`*川 …そう

ノパ⊿゚) あなたが聞きたかったのはそれでしょ?

('、`*川 ...。


ノパ⊿゚) そうでしょ

('、`*川 そうよ

('、`*川 誰に殺された?

ノパ⊿゚) ...非記と取引してた組織、ってのに

('、`*川 分かったわ

('、`*川 教えてくれてありがとう


ノパ⊿゚) はい。これでおしまい、かな?


('、`*川


ノパ⊿゚) ...あなたの仕事はこれで終わり。でも、本当は話したいことがあるんじゃないの

150名無しさん:2021/04/11(日) 23:54:11 ID:SSUxwDII0
('、`*川 私のこと、恨んでる?

ノパ⊿゚) あたしは恨んでないよ。でも、仲間は恨んでる

ノパ⊿゚) あなたは知らないだろうけど、彼は凄く大切な人だったから

ノパ⊿゚) ...正直、非記にあなたと話したの、言わなきゃよかったって後悔してるよ

('、`*川 ...そう

('、`*川 ...皆に、ごめんなさい。って伝えてくれるかしら

ノパ⊿゚) わかった

ミセ*゚ー゚)リ ...辺尼は、どうして謝るの?

ミセ*゚ー゚)リ 私達を捕まえるのが、あなたの仕事なのに


('、`*川 ...っ


('、`*川 ...分からないの

151名無しさん:2021/04/11(日) 23:56:09 ID:SSUxwDII0
('、`*川 分からない。あなた達がしていることが


ノパ⊿゚) ...あたし達は、美に誠実でいようとしてるだけ

ノパ⊿゚) あなた達は、それが違法だから追いかける


('、`*川 美なんて...

( 、 *川 美なんて信じない。それはただの...


ミセ*゚ー゚)リ ...美は、あなたの中にあるものだよ

ミセ*゚ー゚)リ あなただけが持っていて、他に何か持っていても、持ってなくても、変わらずあるもの




ノパ⊿゚) ねえ

ノパ⊿゚) ...あたしには分かるよ

ノパ⊿゚) 辺尼。あなたは助けて欲しいんでしょ



( 、 *川 


( 、 *川 ...助けてほしい?

( 、 *川 笑わせないでよ...

152名無しさん:2021/04/11(日) 23:57:01 ID:SSUxwDII0
( 、 *川 あなたみたいに、何もない、かわいそうな子を助けるのが私の仕事なの

( ∀ *川 助けてほしいのはそっちでしょ?薬に逃げてるのがその証拠...


ノパ⊿゚)


( ∀ ;川



( 、 ;川



( 、 ;川 ...何、その目は


ノパ⊿゚) 辺尼、


( 、 ;川 やめて

( 、 ;川 そんな、憐れむような目で見ないで

153名無しさん:2021/04/11(日) 23:57:49 ID:SSUxwDII0



ノパ⊿゚) あなた達がしてくれたことなんて、あった?

ノパ⊿゚) 捕まえて、クソみたいな部屋に閉じ込めて、刑期が終わったら解放して、また捕まえて....

ノパ⊿゚) ...おまけに、あたしの親友を殺した

ミセ*゚ー゚)リ ...ひーと

ノハ ⊿ ) みっちゃんは黙ってて。別に怒ってない

ノハ ⊿ ) フー



ノパ⊿゚) ...それに、どうしてあの時あたしを逃したの?

( 、 ;川 ...それは、

ノパ⊿゚) 助けてほしかったんでしょ?

( 、 ;川 ....

154名無しさん:2021/04/11(日) 23:58:36 ID:SSUxwDII0
( 、 ;川 あなたたちに...何ができるっていうの

ノパ⊿゚) あたしは

ノパ⊿゚) あなたがして欲しいことなら、なんでもする

( 、 ;川 っ....

ノパ⊿゚) あの日、インジェクターを持ち帰ったよね

ノパ⊿゚) 鞄じゃなくて、懐に入れたの見た

ノパ⊿゚) それで、どうするつもりだったの?


( 、 ;川 


ノパ⊿゚) ...無理にとは言わないよ。「犯罪」だもんね

ノパ⊿゚) でも...美は。薬とは別物だよ

155名無しさん:2021/04/11(日) 23:59:08 ID:SSUxwDII0

...暫し、沈黙が流れた。
辺尼の肌を、冷たい汗が流れていく。


信じようか?


とうに一線など越えていた。
辺尼は考えないようにしていた。脾都と話してどうなる?
およそ、行き着く先など分かるはずだった。つまり、彼女と共に薬を打ち、「行く」ということ。

常識的に考えれば、このような馬鹿げた話はあり得なかった。
美など...ただの幻想だ。心身を蝕む毒だ。破滅への案内人だ。

しかし、彼女は脾都の話に強く引き寄せられていた。
脾都なら、この理由の分からない苦しみの手がかりを教えてくれる。そうとしか思えなくなっていた。

今、彼女は選択を強いられていた。

彼女らを警察に引き渡し、良識ある生活に戻るのか。
自身の全てを投げ打ってでも、彼女についていくのか。

156名無しさん:2021/04/12(月) 00:00:20 ID:hxc6LL6o0


( 、 *川



('、`*川

('、`*川 私が、持ち帰った?冗談でしょ

('、`*川 ...あなたの助けなんて必要ない

ノパ⊿゚)


('、`*川 あの時は、私がどうかしてたのよ

('、`*川 今、はっきり分かったわ。私は美なんていらない、助けなんて求めてない

ノパ⊿゚) ...そう



ノパ⊿゚) ...これ。あたしの携帯番号。いつでも電話かけて

ミセ*゚ー゚)リ いいの、脾都

ノパ⊿゚) うん。大丈夫

157名無しさん:2021/04/12(月) 00:01:05 ID:hxc6LL6o0
('、`;川 どうして


ノパ⊿゚) 分かるよ。あなたが嘘ついてることくらい


('、`;川 ....!

('、`;川 後悔するわよ

ノパ⊿゚) ...しないよ

ノパ⊿゚) きっとまた会う




不意に、辺尼の後方で噴水が高く水を打ち上げた。
2時間おきに10分ほど続く水のオブジェクトであった。

太陽の光を浴び、銀色の礫が一面に降り注ぐ。
広場の拡声器から幽玄なる弦楽が流れ出し、それが空気をゆっくりと旋回させ、
情緒は青く沈澱した。

158名無しさん:2021/04/12(月) 00:01:50 ID:hxc6LL6o0





(´・_ゝ・`) それで、どうだった

('、`*川 はい

('、`*川 非記は死んだようです

('、`*川 組織の犯行説が濃厚かと


(´・_ゝ・`) やはりか。特に驚きもないな

('、`*川 そうですね

(´・_ゝ・`) 脾都の繋がりは分かったか?

('、`*川 ええ。大体のところは

('、`*川 彼女は診競という女といつも行動を共にしています。非記の家がなくなった後は、独生という男の所に行き来しているようです

(´・_ゝ・`) 独生か。取調で聞いたな、その名は

(´・_ゝ・`) ということは、売人の捻余、臥名も居るのかい

('、`*川 はい

159名無しさん:2021/04/12(月) 00:04:37 ID:hxc6LL6o0

('、`*川 独生達の住処も突き止めました

(´・_ゝ・`) そうか...


(´・_ゝ・`) 辺尼

(´・_ゝ・`) 顔色が悪いが

('、`*川 ...何でもありません。私は大丈夫です


(´・_ゝ・`)


(´^_ゝ^`) そう


('、`;川






(´・_ゝ・`) 入れ込むなと言ったよな

('、`;川 は...?

(´・_ゝ・`) ...なんでお前の名前が向こうに知れてるんだ?

('、`;川 ッ!

(´・_ゝ・`) さっき、取調でお前の名前が出たんで驚いたよ

(´・_ゝ・`) うっかり実名を喋ってしまった、なんて言い訳をするつもりか?

160名無しさん:2021/04/12(月) 00:05:26 ID:hxc6LL6o0

( 、 ;川 そ、それは...

(´・_ゝ・`) 何を話した?


( 、 ;川 潜入捜査の時、同室になった脾都に私の名前と、捜査が入ることを、伝えました

( 、 ;川 全ては、私の個人的な理由によるものです

( 、 ;川 ...申し訳、ございませんッ!


(´・_ゝ・`) それだけか?

( 、 ;川

( 、 ;川 はい。それ以外は、何も



(´・_ゝ・`)

( 、 ;川

161名無しさん:2021/04/12(月) 00:05:55 ID:hxc6LL6o0

(´・_ゝ・`) 辺尼


(´・_ゝ・`) お前がしたことは、重大な職務規律違反だ

(´・_ゝ・`) ...潜入に行かせたのは、女のお前なら、勘付かれる可能性が低くなると、思ってだ

(´・_ゝ・`) 結果、非記を逃し、手がかりを潰した。当然僕にも責任はある。

( 、 ;川 ...如何なる処罰もお受けします

(´・_ゝ・`)


(´-_ゝ-`)

162名無しさん:2021/04/12(月) 00:06:27 ID:hxc6LL6o0


(´・_ゝ・`) 次はない。次、何かしたらお前はクビだ


( 、 ;川 ...はい

(´・_ゝ・`) 分かってるな、辺尼。僕らには守るべき家族と社会がある。あんな退廃的な反社連中とつるむなど

(´・_ゝ・`) 言語道断だよ

( 、 ;川 はい



(´・_ゝ・`) 今日はもう帰っていい。頭を冷やせ

( 、 ;川 ...失礼いたします

163名無しさん:2021/04/12(月) 00:07:31 ID:hxc6LL6o0

ガチャ




( 、 ;川 スーー


( 、 *川 ハーーー



( 、 *川 (また、嘘をついた)

( 、 *川 (...手視への恐怖が遠のくと、不思議と何の罪悪感も湧いてこない)

( 、 *川 (最低。私は最低な人間だ..)





( `ー´)よう

('、`*川 !

( `ー´)話聞いたぜ。辺尼

164名無しさん:2021/04/12(月) 00:08:22 ID:hxc6LL6o0

('、`*川 ...申し訳ありません

( `ー´)もうどうにもならんだろ。出視が責任を取ってくれるそうだ

('、`*川 ...はい

( `ー´)何か、悩みがあるんじゃねーの

('、`*川 ...。

( `ー´)


('、`*川 彼女らのことが、知りたかったんです...ただ、それだけです

( `ー´)...あそう

( `ー´)手視も言ってたと思うけど、深入りするなよ

('、`*川 はい

( `ー´)あいつらは犯罪者。俺らは取締官。割り切らねえと、やってけないって

('、`*川 はい

165名無しさん:2021/04/12(月) 00:09:35 ID:hxc6LL6o0



( `ー´)まぁ、いいや。辺尼、これから食事でも行かないか?

('、`*川

('、`*川 食事...ですか

( `ー´)最近お前、色々溜め込んでるんだろ。出してけって



そう言って捻野は携帯を取り出し、レストランを検索し始める。
その時、画面上から通知が表示された。それを一瞥した捻野は電源を切り、辺尼に向き直った。

( `ー´)...スマン、別件が入っちまった。また今度な

('、`*川 はい




送信主の名前に「性奴2号」とあったことを、辺尼は見逃さなかった。





.

166名無しさん:2021/04/12(月) 00:10:28 ID:hxc6LL6o0





彼女は極めて平静を装い、廊下で彼と別れた。


( 、 ;川 フルフル

庁舎を出て、夜の道を歩き始めた瞬間、彼女は全身の震えを抑えられなかった。
叫び出しそうになるのを、必死で堪えた。





.

167名無しさん:2021/04/12(月) 00:11:09 ID:hxc6LL6o0
カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....


カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ.....

168名無しさん:2021/04/12(月) 00:11:55 ID:hxc6LL6o0




それから、時間の感覚が飛んだ。
気付けば、辺尼はいつもの高架下に立っていた。

( 、 ;川


振り向く。電柱の影に、男の姿はない。
半ば走るようにして、家へと急いだ。




.

169名無しさん:2021/04/12(月) 00:13:00 ID:hxc6LL6o0





街灯は少なく、道は真っ暗だ。
彼女は全身を何かに見つめられているような気がして、夢中で走った。

角。ひとつ、ふたつ、曲がって行く。
遠くに彼女のアパートが見えてくる。
がらんとしたコインパーキングの横を過ぎる。
アパートに辿り着く。
2階への階段を登る。



-

170名無しさん:2021/04/12(月) 00:14:05 ID:hxc6LL6o0




玄関を開く。
息を殺す。電気を点ける。
何者かの気配がしないか、確認する。

彼女は恐る恐る、自室の扉を開いた。





部屋は、いつも通り夥しい数の、禍々しい多肉に囲まれていた。
彼女は、非常に何か、嫌なものが己の肉の中を駆け巡るのを感じた。
内側から何か壊れていく感覚がした。

彼女に帰る場所など、どこにもなかった。



.

171名無しさん:2021/04/12(月) 00:15:09 ID:hxc6LL6o0
-






彼女はベッドに身を投げ、目を瞑る。
高鳴る鼓動は、未だ落ち着く様子がない。


恐ろしい予感が、どうしても晴れない。








ベ ラ ン ダ。




.

172名無しさん:2021/04/12(月) 00:16:06 ID:hxc6LL6o0





( 、 ;川



彼女は、跳ね起きて、恐る恐る、目を開けた。
何もないことを祈りながら。




.

173名無しさん:2021/04/12(月) 00:16:57 ID:hxc6LL6o0










                (・∀ ・)







見知らぬ男が、ベランダの扉を開けて、こちらを見ていた。
その手に包丁を握りながら。









-

174名無しさん:2021/04/12(月) 00:19:27 ID:hxc6LL6o0



ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ...........................




.

175名無しさん:2021/04/12(月) 00:19:52 ID:hxc6LL6o0
六,了

176名無しさん:2021/04/12(月) 00:21:39 ID:lv13lLzY0
(((( ;゚Д゚)))

177名無しさん:2021/04/12(月) 20:11:30 ID:UvsrQjKs0
おぉ……唯一無二感がすごい
おもしろいです

178名無しさん:2021/04/13(火) 15:39:21 ID:V9pbAlDE0







ク̶̧̡̡̧̢̛̛̺͎̙̭̯̳͍̦͍͉͇̺͚͈̥̼̭͚͕̥̤̖̰͙͚͔̭̘̯̲͉̦̬̺̪͈̦̺̠͖̼͇̬̲̖̪̦̰̣̤̮̮͍̗̣́͂̏͛̈́̇̈́͂̽͂̏̓̉͌̀̇͊́͗͂̇̈̈͋̈́́̇͊̀̍̈́̔̈́̒̅͛́͂̋̈̈́͋͆̐́̿̃͆̃̂̎͋̚̚̚͝͠͝͝͠͠ソ̸̧̧̡̹̜̟̪͎̖̮̱̺̪̤̲͉̩͙̟͔̯͚̻͒̒̍̐̎̌̈́͌͒̇͒́͐͆͒̓̐̌͊͒̾̿̌̎̈́̀̿̍̅͘͜͜͝͝͠女̶̨̨̛̟͙͙̤̠̦͉͔̞͕̼̲̬̝̹͚͇̖͙̠͚͈̣̆̆͌̍̅̇͐̿͑̽̒̑̃̄͆͋͋̏̋̋̈́̇͆̊͐̍͌̽̽̊́͗̈͊̓͗͑͒́̀̽́͑́̆̚͘͝͠

179名無しさん:2021/04/14(水) 20:56:32 ID:KZ3vL1s60
今夜投下します

180名無しさん:2021/04/14(水) 22:09:02 ID:KZ3vL1s60





( Д ;川 ァ....ぁ...



(・∀ ・)



辺尼は、ベッドの上、上半身を起こしたまま
恐怖に固ま

、動けなくなった。
助けを求める声すら、上げられなかった。



男は、ゆっくりと、彼女との距離を詰めていく。

181名無しさん:2021/04/14(水) 22:09:33 ID:KZ3vL1s60

( Д ;川 ァ....ヒュッ...カハッ!


男はベッドの上に膝立ちになり、辺尼に顔を近付ける。
そして、その手に持つ包丁を、彼女の首筋に、
ゆっくりとあてた。


( Д ;川 ヒュッ....ェ...ハッ...!


(・∀ ・)


( Д ;川 たす

(・∀ ・) 黙れ

182名無しさん:2021/04/14(水) 22:10:28 ID:KZ3vL1s60
男はゆっくりと、柔らかく、辺尼の肩を掴み押し倒した。
男の大きな身体の影に、彼女は全身を包み込まれる。

彼女の視界から、光が消えた。
代わりに、真っ黒な男の巨体とその不気味な、人形のような顔が一面に広がった。


( Д ;川 まっ.....ね、たすけ...



彼女がそう言うと、じぐっ。と顎の右下辺りで水の濡れた音がした。
続く、鋭い痛み。触れていた冷たい刃が、なまぬるくなっていく感覚。
血が、首筋を垂れてシーツに流れていく感覚。

( Д ;川 .....ッ!!!!!!!!!!


(・∀ ・)

( Д ;川 は、はいっ....!

( Д ;川 ...はい、だじま...せん、こえ、


(・∀ ・) ...は?黙れって言ったんだが?


( Д ;川 ッッッ‼‼‼!?!


包丁を握る手の、親指が傷口に差し込まれた。

そのまま掻き回される。
鋭い痛みに声をあげそうになるが、必死で堪えた。


男は彼女の目を一度たりとも逸らさず、空いた片方の手で彼女の衣服を破り、 
 脱がしてい

 。



.

183名無しさん:2021/04/14(水) 22:11:44 ID:KZ3vL1s60
(・∀ ・)


(・∀ ・) ...ンだよ



ガブッ


( Д ;川 ッーーーーーーー!?



( 皿 ) ガブガブ....


( Д ;川 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


( O ) プホーーー


(・∀ ・)


(・∀ ・) お前さ

184名無しさん:2021/04/14(水) 22:13:15 ID:KZ3vL1s60

( Д ;川 


(・∀ ・) 性格悪いだろ

( Д ;川 ...はい?


(・∀ ・)


ジグッ

( Д ;川 ッ⁉⁉


( Д ;川 フルフル...


(・∀ ・) ...いつも

(・∀ ・) いつもいつも、

185名無しさん:2021/04/14(水) 22:14:13 ID:KZ3vL1s60

(・∀ ・) 能力がどうとか、デキるがなんとか

(・∀ ・) オレ無視しやがってよ。



( Д ;川

(・∀ ・) でもお前ら、結局ただの色仕掛けじゃん?

( Д ;川


(・∀ ・) お前らのさぁ、さぁ、大事な人なんて、大事な人じゃないのに

(・∀ ・) 大事なものなんてないだろ


(・∀ ・) 俺大事にされてないッ!


(・∀ ・) お前ら見てると足冷えるんだよ!頭痛くなるし

(・∀ ・) なんかうっさい音、ザラザラザラザラずっと聞こえんの!!!頭ん中で!!




( Д ;川 (な、何、言ってるの.....!?)

186名無しさん:2021/04/14(水) 22:14:55 ID:KZ3vL1s60





(・∀ ・) 俺どこにもいないの!俺どこにもいないの!わかる!?

(・∀ ・) ...でも、本当は全員どこにもいないだろ



(#・∀ ・) なのに、「いる」みたいなツラしやがって、ムカつくんだよ!

               
(#・∀ ・) ....おいなんか答えろよォ!







.

187名無しさん:2021/04/14(水) 22:15:50 ID:KZ3vL1s60

( Д ;川 ま、待ってッ...!

(#・∀ ・)

( Д ;川 ...悪かったから、私が悪かったから...!


(#・∀ ・)


( Д ;川

(#・∀ ・) なんだよ!続きねえのかよ!!!

(#・∀ ・) 黙って聞けよ!俺の話!!!!!


ジグッ

( Д ;川 ヒッ....!

188名無しさん:2021/04/14(水) 22:16:32 ID:KZ3vL1s60



男は「力いっぱい」、天井を見上げた。
鼻息は荒く、胸は激しく上下している。



(# ∀ ) ハァっ....ハァっ....

(・∀ ・) スッ



( Д ;川 (包丁が、離れた....)



(・∀ ・)


( Д ;川 フルフル



(・∀ ・)


( 、 ;川

189名無しさん:2021/04/14(水) 22:17:15 ID:KZ3vL1s60


しばし、嘘のような空白が挿入されていた。

男に馬乗りにされた状態の辺尼は、パニックを起こした頭で状況を整理していた。
当然、取るべき行動は一つ。
隙を見て男から凶器を奪い取り、無力化すること。
訓練で培った護身術を用いれば、可能な筈だった。

しかし、彼女の精神状態は、それを許してはくれなかった。
ならば、対話を試みるしかない。
この部屋は壁が薄い。先程の並々ならぬやり取りは、当然周囲に気付かれているだろう。誰かが警察を呼んだに違いない。

時間を、稼ぐのだ。
下手に出ようか。理由はわからないが、謝罪を続けようか。
思えば、その場を慮ること、取り繕うのは得意になっていた。

しかし、この狂人を相手にどうやって...?


.

190名無しさん:2021/04/14(水) 22:17:44 ID:KZ3vL1s60

その時。
奇妙なことに、彼女の本能が、理性に押し戻された。
猛スピードで稼働し過熱していた反射的な思考、この場を切り抜き命を守る、という思考は

急激に何かによって冷却されていった。
彼女が近頃考えてきたことの蓄積によるものか。

(・∀ ・) はぁ....


(・∀ ・) 目、見せて


( 、 ;川


男は、人差し指と親指で辺尼の左瞼をこじ開けた。
辺尼は、何もせず、沈黙を貫いた。

男の顔が、彼女の目の数センチ上まで近付く。







.

191名無しさん:2021/04/14(水) 22:18:11 ID:KZ3vL1s60

← →


192名無しさん:2021/04/14(水) 22:18:52 ID:KZ3vL1s60



               目。

白魚のような膜に、か細い血管が走り回っている。
恐怖で潤い、青白く湿った光沢を放つ膜。

その中心にある、色素の薄い、薄茶色をした瞳。
辺尼の精神状態を反映し、小刻みに動き回っている。

銀河のような虹彩が、中心の深く深く、終わりの見えない瞳孔に絶えず吸い込まれている。


彼女の外装は言葉になるけれど、その底知れない内面を言語は形容し得ない。
しかし、だ。
目は饒舌に「目の言葉」を用いて彼女を語る。もっと深く潜り、「彼女」を貫いた向こう側をも語る。




必然的に、辺尼も男の目を見た。言葉を聞いた。

193名無しさん:2021/04/14(水) 22:19:41 ID:KZ3vL1s60



そして、気づいた。



男を狂人と片付け、警察が来るまで時間を稼ぐ。
これは、ありふれた手続だ。
辺尼が直接手を下さなくとも、全てが自動的に行われていく。
自動で、彼は居なくなる。
彼女は助けられる。

そう思えば、彼女が経験してきた事柄の殆どは、自動だった。
ただそれに気付いていなかっただけ。
辺尼には、何故自身が男に馬乗りにされているか、皆目検討もついていなかった。
理由を考えることすらしなかった。

なんという残酷。
これが自動操縦の結果だ。
己の為すこと全て、当然己が把握しているつもりだった。

それは間違いだ。
多くのことを見落としてしまった。だからこうして男に襲われ、男の目を覗いている。
襲われるのは彼女でなくてもよかったのだろう。しかしこれが偶然だとしても、畢竟、偶然ではないのだ。


つまり水路は、やはりとうに絶たれていた。
男の目の奥には、何もなかった。
残っていたのは、色もなく、光もない、ただ無限に広がる砂漠だった。
同じく、彼女の中にも何も残されていなかった。





.

194名無しさん:2021/04/14(水) 22:21:22 ID:KZ3vL1s60

そのことを直感すると、意図するより先に、言葉が漏れた。


( 、 ;川 ...ねえ


( 、 ;川 私、ここにいないの


(・∀ ・)


( 、 ;川 いないのッ!

( 、 ;川 私、どこにもいないって


( Д ;川 いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない......ッ!!



( ;∀ ; )


( ;∀ ; ) そうだよ


( 、 川

( ;∀ ; ) あーあ。


(つ∀ ) ゴシゴシ


( ∀ ) ハハ


( ∀ ) なんか、寒くね?

( ∀ ) ちょーー寒いんだけど....


(  川



.

195名無しさん:2021/04/14(水) 22:22:06 ID:KZ3vL1s60























.

196名無しさん:2021/04/14(水) 22:22:40 ID:KZ3vL1s60








<゚Д゚=> 警察だッ!その女性を離しなさい!


(・∀ ・) ...?


(・∀ ・)


(  川 ブツブツ.....


(#・∀ ・)



(#゜∀ ゜) ...オラァァァァァァァァァァァァ!?

        
(#゜∀ ゜) 近づくなよ!?ぶち殺すぞ!

197名無しさん:2021/04/14(水) 22:23:40 ID:KZ3vL1s60



男の飛ばした怒号で、辺尼は我に帰った。
先程の奇妙な静寂は去り、再び恐怖が彼女を支配した。
男は彼女を盾にすると、既に血で赤く染まった首元に包丁を突きつけ、警察を威嚇する。

( Д ;川



( Д ;川 ...た、助けてッ!




.

198名無しさん:2021/04/14(水) 22:24:32 ID:KZ3vL1s60


(#゜∀ ゜)


(#゜皿゜) .....なんなんだよォォォォォォォォォォォォ!どいつもこいつもよォォォォォォォ!


辺尼の声に反応した男は、怒り、悲しみ、失望...この世の全ての「負」をごった煮にした表情を浮かべた。


<゚Д゚=> 凶器を捨て、女性を解放しなさい!


(#゜皿゜) うるせえうるせえうるせえうるせえ!うっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

                 アマ
(#゜皿゜) もういい死ねよ!このクソ女!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



男は彼女を押し倒し、その腹に目掛けて包丁を振りかざす。



乾いた銃声が響いた。
男の肩に穴が空いた。
彼はそのままベッドの上へと倒れた。



<゚Д゚=> 確保しろ!



瞬く間もなく、彼女は警察に保護され、男は手錠をかけさせられていた。


<゚Д゚=> 大丈夫ですか

199名無しさん:2021/04/14(水) 22:25:40 ID:KZ3vL1s60
( Д ;川 ....はい、私は....


<゚Д゚=> 被害者首に裂傷あり、応急処置!


( Д ;川 痛っ.....!




(#゜皿゜) クソ!クソ!クソぉぉぉぉぉ!
      
(#゜皿゜) 次会ったらただじゃおかねえからな、オイ!!八つ裂きにしてやるからよ!


( Д ;川 ッ!

<゚Д゚=> 早く連れてけ




裏切りやがって!チクショオオオオオオ!









.

200名無しさん:2021/04/14(水) 22:26:54 ID:KZ3vL1s60
数時間後。
辺尼の傷は幸い軽傷であったため、病院で手当を受けた後署で事情聴取を受けた。
小一時間ほど、家族構成、生活状況、勤務状況などをつぶさに尋問されたあと、彼女は待合室に解放された。

待合室には、彼女を待つ人は居なかった。
一人、手視を除いて。


('、` 川


(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) 大丈夫か


('、` 川 はい

('、` 川 ご心配おかけして、すみません

(´・_ゝ・`) 警察は何やってんだ...届け出は出したのかい?


('、` 川 はい。...その時は取り合ってもらえませんでしたが

(´・_ゝ・`) そうか

201名無しさん:2021/04/14(水) 22:27:26 ID:KZ3vL1s60
(´・_ゝ・`) 男の名は窓単木というらしい。検査で興奮剤の陽性反応が出た

(´・_ゝ・`) そのうち診断が下りるだろうが、統合失調症の疑いもありだそうだ

('、` 川 そうですか


(´・_ゝ・`) ...あの辺りに一人で住むのは危険じゃないか。家族とか、いないのかい

('、` 川 疎遠でして

('、` 川 近々引っ越します

(´・_ゝ・`) それがいい

202名無しさん:2021/04/14(水) 22:28:47 ID:KZ3vL1s60
(´-_ゝ-`) ...災難だったね。全く

('、` 川

('、` 川 ええ。ほんとうに。災難でした



(´-_ゝ-`) 世の中、狂ってきてるよなぁ。やっぱり

(´・_ゝ・`) 訳わからない薬に続いてストーカー....まさか僕の部下が襲われるとは


(´・_ゝ・`) 君は少し、休んだほうがいいな


('、` 川 そうですか?


(´・_ゝ・`) ああ。この仕事は切り替えが大事なんだ。現実を正しく見据えるためにも...ね


('、` 川 現実ですか

203名無しさん:2021/04/14(水) 22:29:46 ID:KZ3vL1s60
(´・_ゝ・`) ああ。君は思い詰め過ぎてる。今日の事件もあることだし...ゆっくり休め

('、` 川 現実

('、` 川 ...現実って何です?

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) ...社会に生きる者として、確かな判断力を持つ。何が悪かどうか、
      はっきり分かること


(´・_ゝ・`) それで現実が始めて認識できる


(´・_ゝ・`) 近頃、君は混乱してるようだ。連中の影響を受けてね


('、` 川


('、` 川 いいえ


(´・_ゝ・`)

204名無しさん:2021/04/14(水) 22:31:58 ID:KZ3vL1s60

('、` 川 何をしたらどうなるか、全部わかってます

(´・_ゝ・`) どういう意味だ?



('、` 川 ...私のしたことで、結果どうなるのか、何を意味するのか

('、` 川 私はわかります。混乱なんてしてません



(´・_ゝ・`) ...あっそ


(´-_ゝ-`) ....じゃあ率直に言うけど

(´・_ゝ・`) 捜査の足手まといなんだよ

('、`川

(´・_ゝ・`) わかるよな?

(´・_ゝ・`) 御託とかはどうでもいい...明日から休んでくれ



('、` 川 ...はい

('、`川 本当に、申し訳ございませんでした

205名無しさん:2021/04/14(水) 22:32:50 ID:KZ3vL1s60





その日から、彼女は休職扱いとなった。
産業医からは、抗不安剤を処方された。

効きはしなかった。





.

206名無しさん:2021/04/14(水) 22:35:09 ID:KZ3vL1s60


辺尼はベッドの上、膝を抱えて座り込んでいる。

窓単木に襲われた日から、彼の目を見た時から、ー彼女の見えている世界は大きく変わった。
本当のことが見えてしまうようになった。

部屋を覆い尽くしていた多肉は、全て捨てた。
今は薄暗く殺風景な景色が広がるばかりだ。

窓は、ただの貼り付いた四角になった。
カーテンが不気味に揺れた。

207名無しさん:2021/04/14(水) 22:36:01 ID:KZ3vL1s60

彼女の頭の中で常に不協和音が鳴っていた。
それが一過性のものではないことを知っていた。
もう、元には戻れまい。これが真実なのだから。

彼女を囲む全てが不穏になった。
部屋の角、暗くなって奥の見えない廊下。空っぽのグラス。床にのたうちまわるコード。
全てが彼女を破壊していく。


手視は休んで現実を見極めろと言った。
しかし彼女の現実は、これまで少しも歪むことはなかった。

( 、 川




人間とは彼女の恐怖そのものだった。


昔からそうだった。ただ考えないように、無害であるように振る舞ってきた。
手視、捻野...誰にも彼女は心を開かなかった。

208名無しさん:2021/04/14(水) 22:37:14 ID:KZ3vL1s60


「最初から何もなかった」心の中に、黒いタールのような狂気が満ちていく。
朝食も抜き、昼食も抜き、気付けば日が落ち夜になった。
夜は不協和音が大きくなる。


( 、 川 ....。



ガタッ


( Д ;川 ッ!!!!!

( Д ;川 (まただ、また来た!!)


ゴソゴソ


( Д ∩ ;川 (嫌だ!聞きたくない!来ないで!)




ギシッ


(・∀ ・) ユラァ......


( Д ;川 ーーーーーーーッ!

209名無しさん:2021/04/14(水) 22:38:02 ID:KZ3vL1s60

(・∀ ・) 俺ら、どこにもいない


( Д ;川 ァ....ァ...


(・∀ ・) ねえ

(・∀ ・) 俺ら、どこにもいないよな??


( Д ;川 知らない...!あなたなんか...知らない!


(・∀ ・) 俺のこと無視しやがってよ。お前もどこにもいないって、俺知ってるんだぜ

( Д ;川 うるさい!うるさいッ!

( Д ;川 この世界は...私は空っぽなんかじゃない!

(・∀ ・)

(・∀ ・) おいおい...現実を見ろよ

( Д ;川 ッ....!


(:\)\;∀〜;-) ブブブッ

210名無しさん:2021/04/14(水) 22:39:45 ID:KZ3vL1s60

(´・_ゝ\:0) ブブッ


(´・_ゝ・`)


(´・_ゝ・`) 現実を見ろ、辺尼。足手まといなんだよ


( Д ;川 ガタガタガタガタ

( Д ;川 違う...こんなの、現実じゃない!


(´・_ゝ・`)


(´・_ゝ#):#= ブブブッ


( `ー@)3 ブッ

( `ー´)

( `ー´)大丈夫か?お前最近溜め込みすぎなんだよ

( `ー´)俺と一緒に来い。忘れさせてやっから


( Д ;川 



( `ー´)だいじょーぶだいじょーぶだって

( Д ;川 やめて、さわらないで

211名無しさん:2021/04/14(水) 22:42:29 ID:KZ3vL1s60

( `ー´)は?

( `ー´)

(@:\;0ー´)どうしようもねえな...マジで... ブブブッ

2「2@;:@) ブブッ




\;3、`*川 ブブブッ

:;'、`*川 ブッ


('、`*川



( Д ;川





('、`*川 はぁ....。失望したわ


('、`*川 じゃあね。バイバイ

212名無しさん:2021/04/14(水) 22:43:52 ID:KZ3vL1s60

( Д ;川 ま...待ってよ!


( Д ;川 ....まって、よ...



( 、 ;川



( 、 川 (...そうか)


( ∀ 川


( ∀ 川 はは

( ∀ 川 あなたはこんな、地獄の中に居たのね

( ∀ 川 脾都...

( ∀ 川 (今、分かった。何もないってことが)

( ∀ 川 (何もなくても、人は何かに縋らなきゃ、生きていけない...)

( ∀ 川 (現実逃避、なんかじゃないのね。これは...自分の形をなんとか保つために、必要な、こと)

213名無しさん:2021/04/14(水) 22:45:04 ID:KZ3vL1s60



( 、 川


( 、 川 (私には、もうこれしかない)





プルルルルルルルル.....



( 、 川

214名無しさん:2021/04/14(水) 22:46:21 ID:KZ3vL1s60


ノパ⊿゚) 「もしもし」

( 、 川 脾都

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) 「噴水の前で待ってる」


( 、 川 ...

( 、 川 ...たすけて





ノパ⊿゚) 「うん。助けるよ、絶対」

215名無しさん:2021/04/14(水) 22:46:52 ID:KZ3vL1s60







                美







.

216名無しさん:2021/04/14(水) 22:47:15 ID:KZ3vL1s60
七,了

217名無しさん:2021/04/14(水) 23:24:18 ID:VBrvvisw0


218名無しさん:2021/04/17(土) 22:22:31 ID:PtnXe.cg0
唐突ですが今作はストーリーに直接関わりませんが
从*゚- ゚∀从 ジャスミンと死ぬようですの続編になっています。
宜しければご覧ください。BBHさんまとめありがとうございます :D
https://reiwaboonnovels.fc2.net/blog-entry-34.html

219名無しさん:2021/04/17(土) 22:30:24 ID:PtnXe.cg0
ジャスミンと死ぬは今作のスピンオフ的なお話です

220名無しさん:2021/04/19(月) 00:19:01 ID:UbGGOkaA0
乙乙
ペニ、完全に向こう側へ行っちゃったな

221名無しさん:2021/04/20(火) 22:53:15 ID:8lVb0cJU0
投下します

222名無しさん:2021/04/20(火) 22:54:30 ID:8lVb0cJU0


窓単木に対する生理的な恐怖は勿論あった。あの夜のことを思い出すたび、過呼吸に陥るほどに。

しかし、今辺尼がどっぷりと浸かっている絶望に比べれば、それは小さな問題だ。
絶望とは、あらゆる事柄を彼女らが蔑ろにしてきたという確信。それに気付いた人間が彼女の他に居ないという孤独。
絶望は窓単木の目からやって来た。しかし彼女の中にいつでもあったのだ。
そしてそれは手視、捻野、母親、関わってきた全ての人間の顔に変形して彼女の脳内に蘇ってくる。

辺尼にとっては脾都だけが、絶望の世界の外側に居た。彼女ただ一人が、自動化の摂理から逸脱していた。
他の道があったか?そんなことは考えても無意味だった。
彼女がいなければ、とうに死んでいただろうから。




.

223名無しさん:2021/04/20(火) 22:55:01 ID:8lVb0cJU0





廃墟


光の届かぬ深海のよう
独生に用意させた浴槽に浸かる、二人。

辺尼は脾都に頭を預ける。
脾都の腕の中
辺尼はそこだけが、安らぎの場所なのだと思う。世界のどこに行っても恐怖からは逃れられまい、と。

224名無しさん:2021/04/20(火) 22:55:38 ID:8lVb0cJU0

チャプチャプ




ノパ⊿゚) ...ねえ、辺尼


( 、 川 ...?


ノハ-⊿-) こんなこと言うのはおかしいんだけど...


ノパ⊿゚) 辺尼は、あたしよりずっと...不幸だよ


チャプチャプ

( 、 川

( 、 川 でも、あなたたちには何もない。未来も、過去も


ノハ ⊿ ) それは、

ノハ ⊿ ) ...そうだけど

ノハ ⊿ ) でも、辺尼はここにすら居ない....

225名無しさん:2021/04/20(火) 22:56:26 ID:8lVb0cJU0


( 、 川 ...ッ


ノパ⊿゚) ...だから、ここに来たんでしょ


ノパ⊿゚) あたしもそうだった。わかるよ


( 、 川 ...そう、ね


ノハ ⊿ ) あたしなんかでごめんよ


( 、 川


( ー 川 ...ふふ

( ∀ 川 皆、不幸だよ

ノパ⊿゚)

( ー 川 全部...全部

( 、 川 目を覆いたくなるくらい....醜くて、哀れ...

226名無しさん:2021/04/20(火) 22:56:54 ID:8lVb0cJU0



( 、 川 ねえ、脾都


ノパ⊿゚)


( 、 川 美は、存在するの?


ノパ⊿゚) あるよ


( 、 川 ...美を持つのは、悪いこと?


ノパ⊿゚) ...そんなことない


ノパ⊿゚) 美は幻想なんかじゃなくて

ノパ⊿゚) あたしたちが一度、無くしたモノなの

( 、 川


ノパ⊿゚) ...じゃあ

( 、 川 コクッ

ノパ⊿゚) ....一緒に行こっか

227名無しさん:2021/04/20(火) 22:58:19 ID:8lVb0cJU0

チャプチャプ


ノパ⊿゚) 大丈夫?緊張、してる

( 、 川


( 、 川 ...もう大丈夫

( 、 川 はい

辺尼は脾都から頭を離し、左腕を見せる。
脾都はその腕に布を巻きつける。布が彼女の白い肌に触れた所から、じわりと濡れていく。

彼女は手際良く辺尼の腕を縛ると、インジェクターを取り出し彼女の静脈に刺し込んだ。


ノパ⊿゚) ...いくよ

( 、 川 ...うん



薬が辺尼の中へ押し出されていく。鈍い痛みが、皮膚の下に散る。
瞬間、意識がみるみる遠くなっていくのが分かった。落ちていく感覚を覚えているのに、
対して視点は上昇していき、己の身体が、浴槽が、脾都が、小さくなっていく。
部屋に置かれたドラム缶、廃墟、奏柵の街並...と全てが猛スピードで縮小し、世界が一面のくすんだ色に変わっていく。


その時、漠然と脾都が「入ってきた」のを感じた。
そこで辺尼の意識は途切れ、視界が暗転した。









.

228名無しさん:2021/04/20(火) 22:59:12 ID:8lVb0cJU0













.

229名無しさん:2021/04/20(火) 22:59:50 ID:8lVb0cJU0







ぽた
     ぽた   
   

 ぽた        ぽた   

       ぽた
 ぽた            ぽた

    ぱら ぱらぱら  ぱらぱらぱら

 ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら ぱらぱらぱらぱら




 
               ざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






-

230名無しさん:2021/04/20(火) 23:00:46 ID:8lVb0cJU0


辺尼は闇の中、暖かな雨を浴びていた。
しばし、雨を感じる。
そうしているうちに、この闇が、瞼の裏であることに気付いた。




( 、 *川



静かに瞼を開く。周囲が俄に明るくなっていく。裸足に、砂の感覚がする。



   開闢。



一筋の地平が生まれていく。
それは嫋やかに膨らんでいき、世界として彼女の前に顕現する。





辺りは、一面の砂漠だった。
天からは黒い雨が降りしきっていた。


雨は絶えず彼女を濡らす。
 一方
それは擦り抜ける様にして、砂に染み渡ることを知らない。

231名無しさん:2021/04/20(火) 23:01:54 ID:8lVb0cJU0


('、`*川 ここは...


辺尼は周囲を見渡す。
何もない。延々と続く、砂の丘。

風すらない。



彼女は、彼方、丘の向こうに人影を見た。駱駝を駆り砂漠を往く。
隊商だと分かった。

瞬間、彼女の身体を電撃が走った。






.

232名無しさん:2021/04/20(火) 23:02:37 ID:8lVb0cJU0






( Д *川 あ




( Д *川 あーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!




電撃は、彼女の身体をどこまでも軽くした。

軽くした、と感じると同時に彼女は、人ならざる速さで駆け出した。





.

233名無しさん:2021/04/20(火) 23:03:19 ID:8lVb0cJU0




( ー ;)なんだ、あれは!

( 0 ;) 女...?女なのか!?



ザワザワ...


彼女の存在に気付いた商人たちは歩みを止めた。
護衛の剣士達は、駱駝から降りると剣を抜いて構えた。



( Д *川 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!


( ー ;)襲ってくるぞ!殺せぇぇぇぇぇ!


彼女が隊商の目の前に辿り着くなり、顔を布で覆った男が斬りかかる。
俊敏である。頭2つ程低い彼女へ向かって、剣が振り下ろされた。

( Д *川 っ!


彼女はそれを片方の掌で受け止める。
刃は彼女の掌で止まる。無傷だ。

234名無しさん:2021/04/20(火) 23:04:23 ID:8lVb0cJU0

( ー  ;)....なんだと!?


そのまま彼女は刃を握りへし折ると、男の腹へ蹴りを入れた。
蹴りは男の腑を貫通し、背中から踵が飛び出した。


崩れ落ちる男の肩を踏み台に、もう一人の男へ飛びかかる。


( 0 ;) う、うああああああああっ!


遮るように構えていた刃は、彼女が「通過」するなり砕け散った。
彼女は男をそのまま押し倒し、首を掴んでへし折った。
刹那、叫びとともに、四方から振り下ろされる剣。一つは、彼女の右腕に、一つは、彼女の首に、
ひとつは、彼女の背に。

235名無しさん:2021/04/20(火) 23:05:20 ID:8lVb0cJU0


そのいずれも彼女に傷一つ付けることなく、静止した。
辺尼は一つの剣を奪い取ると、瞬く間もなく、彼らの首を跳ね飛ばした。

駱駝を捨て、散り散りに逃げ出していく商人たち。
逃しはしまい。一人一人、殺していく。




彼女を動かしていたのは、底のない殺意。
そしてそれと同じ程の、悦びだった。


.

236名無しさん:2021/04/20(火) 23:06:26 ID:8lVb0cJU0



(; _ ) あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!


( Д *川 (逃がすか)


辺りは血で一面赤に染まっていた。
彼女に背を向けて逃げていく。最後の一人。

彼女は男の肩を掴み、引き倒す。
馬乗りになり、顔に巻かれた布を剥がした。

237名無しさん:2021/04/20(火) 23:07:16 ID:8lVb0cJU0



バサッ

(;´・_ゝ・`) ...お、お願いだ、助けてくれ!!


( Д *川



( ∀ *川




グシャッ












.

238名無しさん:2021/04/20(火) 23:08:13 ID:8lVb0cJU0














.

239名無しさん:2021/04/20(火) 23:08:50 ID:8lVb0cJU0


                 (_∀……)



( 。Д )      (_____:::)



    ( 0 。_)
                         (  ___)



             (´。_ゝ__)

 
 ( 。ー。)               
                       (__∀ 。)





.

240名無しさん:2021/04/20(火) 23:09:27 ID:8lVb0cJU0


瞬間、辺りに静寂が訪れた。
己に打ち続ける雨の音だけが、世界の音になった。

対象を失った辺尼の殺意と悦びは、急速に消え去っていった。





代わりに湧き上がってきたのは、途方もない、食欲。

241名無しさん:2021/04/20(火) 23:10:40 ID:8lVb0cJU0


( Д *川 ジュル


抗える筈が無かった。
辺尼は、彼女の下で死骸となった手視の首に齧り付く。


美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。


無我夢中で、手視の肉体を貪る。
極度の高揚感で、四肢が痙攣した。


美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

美味。美味。美味。美味。美味。
美味。美味。美味。美味。美味。

242名無しさん:2021/04/20(火) 23:11:39 ID:8lVb0cJU0


数時間後。辺尼が我に帰ると、辺りには骸骨のみが転がっていた。




それから。
気が遠くなるほどの間、彼女は砂漠を放浪し、人を襲い、食らった。

砂漠に夜は来なかった。



.

243名無しさん:2021/04/20(火) 23:12:37 ID:8lVb0cJU0



















.

244名無しさん:2021/04/20(火) 23:13:45 ID:8lVb0cJU0

数え切れないほどの人間を襲った。
手視、捻野、窓単木、非記、診競、脾都、これまで知り合った全ての人、見覚えのない人、
これから会うであろう人....

朧げにだが父や、母をも手にかけたことを、憶えていた。
それでも殺したいという衝動と、飢えは収まらなかった。




どれ程の時が経っただろうか。
ある時、遂に絶え間なく降り続いていた雨が止んだ。

重く垂れ込めた雲が真っ二つに切れ、離れていく。
光が砂漠に差し込んでいく。



辺尼を、溢れんばかりの陽光が包んでいく。


( 、 *川 !

('、`*川

('、`*川 雨が...









.

245名無しさん:2021/04/20(火) 23:14:40 ID:8lVb0cJU0


重厚な弦楽の響きが、砂漠に木霊した。
空気が震えている。

まだ丘の向こうには雲がかかっているが、
一人の子供が、こちらへ向かってくるのを、見た。


丘陵を下る途中で、子供は日陰と日向の境界線を踏み越えた。
そのまま平地に差し掛かり、辺尼の方へゆっくりと歩いてくる。
その輪郭は朧げに揺れている。



(#゚;;-゚)

246名無しさん:2021/04/20(火) 23:16:12 ID:8lVb0cJU0



スタスタスタスタ


(#゚;;-゚)


('、`*川 あなたは...


(#゚;;-゚) 辺尼、


顔に火傷の跡が残る、少年。
彼は辺尼に飛びつくと、彼女の懐に頭を埋めた。



(# ;;- )



('、`*川 ...泥


意図せず、辺尼の口から彼の名前が漏れた。
彼のことは、何一つ知らなかった。

何をするべきかは、知っていた。

247名無しさん:2021/04/20(火) 23:16:57 ID:8lVb0cJU0




辺尼は左腕を陽光に晒す。彼女の手首がひとりでに裂けていく。
そうして生まれた十字の傷口から、絶えず真っ赤な血が流れ始めた。

泥と呼ばれた少年は、その傷に口をつけ、辺尼の血を飲み干していく。


彼が口を離すと、傷は癒えていた。





.

248名無しさん:2021/04/20(火) 23:17:28 ID:8lVb0cJU0






(#゚;;-゚) ('、`*川



見つめ合う、二人。



辺尼が先にまばたきをした。
次の瞬間には、泥は一艘の小舟になっていた。



('、`*川

249名無しさん:2021/04/20(火) 23:18:13 ID:8lVb0cJU0




...それから、辺尼は小舟を引いて砂漠を歩いた。
世界を照らし続ける正午の太陽は、どれほど時が経とうとも動くことはなかった。

海を探すのだ。
彼女は一度も立ち止まることなく、幾千の丘を越えた。
途中で人に会っても、殺意が湧くことはなかった。

時の感覚が彼女から消え去っていった。



幾千が、幾万に変わった。
幾万が、幾億に変わった。

250名無しさん:2021/04/20(火) 23:19:09 ID:8lVb0cJU0


































.

251名無しさん:2021/04/20(火) 23:19:55 ID:8lVb0cJU0











('、`*川 あっ



('ー`*川 ...海だ












.

252名無しさん:2021/04/20(火) 23:20:53 ID:8lVb0cJU0

一面に広がる、水。
陽光を受け銀色に光り輝く、大海。
彼女の足は水に浸かっていた。

からからに乾き切った小舟が、初めて水に濡れた。


辺尼は小舟に乗り、洋へ漕ぎ出していく。


('、`*川 ...さよなら


砂漠が離れていく。
もう二度とその地を踏むことはあるまい。彼女はそれから、振り向くことはしなかった。

253名無しさん:2021/04/20(火) 23:21:41 ID:8lVb0cJU0


それから数時間、辺尼はあることに気付いた。
太陽が、傾き始めている。

それまでずっと彼女の真上にあった太陽が、水平線の向こうに移動していた。
彼女は、太陽を追うことに決めた。




はじめての夜は、満点の星空に心を打たれた。
漕ぐことを止め、長い間、星を眺めていた。
眠ることはなかった。

朝になると、彼女は再び漕ぎ始めた。

254名無しさん:2021/04/20(火) 23:22:19 ID:8lVb0cJU0


太陽は巡り巡り、辺尼を乗せた小舟は何もない大海原を進み続けた。
はじめの夜から数日経って、彼女は月はどこにあるのかと思った。
結局、月はどこにも見当たらなかった。

しかしここは黒い雨が降り、太陽が沈まなかった世界だ。不思議には思わなかった。



そうして海の上で時間が過ぎていったある日。
辺尼は彼方に島を見つける。


('、`*川 ...!


('、`*川 ...泥、もうすぐだよ

255名無しさん:2021/04/20(火) 23:23:35 ID:8lVb0cJU0


彼女は昼も夜も休まず舟を漕ぎ続けた。
ただの微細な点だった島が、少しずつ大きくなる。


しかし、夜が明ける度、彼女の身体は動かなくなっていった。
石のように全身が固まり、かつての力は失われていった。


彼女は気力を振り絞り、全速力で舟を進めた。



('、`;川 (間に合え...間に合え...!)

256名無しさん:2021/04/20(火) 23:25:01 ID:8lVb0cJU0







それから、数日が経った。
小舟は島に到着した。



舟は朝日を浴びながら、浅瀬で浮き沈みしている。


< ゚ _・゚> おい!

< ゚ _・゚> 舟だ!舟があるぞ!


[ Д`] 何だと!?まさか伝説は本当だったのか....!?


< ゚ _・゚> 俄には信じ難いが、そのようだ...!


[ Д`]待て、誰か乗っているぞ!



< ゚ _・゚>


< ゚ _・゚> ...石像、か?




( 、 *川

257名無しさん:2021/04/20(火) 23:26:07 ID:8lVb0cJU0


[ Д`]...それは、

[; Д`]小舟に乗った「動かない女」....!何もかも、言い伝え通りだ...


<; ゚ _・゚> とんでもない発見をしてしまったみたいだな...

< ゚ _・゚> こうしてはいられない、他の者を呼ぼう!






石のように硬くなった辺尼の肉体は、島の民によって神殿に運ばれた。
小舟は、人々の言い伝えに従い森の中に安置された。



神殿は最も高い丘の頂にあった。30の石柱に支えられ、広場を見下ろしている。
   
     日没。赤く染まった空は、青く黒ずんでいく。

千の人が、そこにいた。二千の目が、辺尼を見上げていた。

司祭が両手を高く振り上げ、祝詞を叫ぶ。

258名無しさん:2021/04/20(火) 23:27:35 ID:8lVb0cJU0



                (゜W゜) <€0 {}$ >< : )Q!!!!!!!


ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ
                「<€0 {}$ >< : )Q!!!!!!!!!!!!」
ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ


.

259名無しさん:2021/04/20(火) 23:28:24 ID:8lVb0cJU0

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

<; ゚ _・゚> あれを見ろ!あれは...なんだ!?   オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ[ Д゜]あれは....月だッ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

[ Д゜]伝説の通り、月が現れたんだッ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!





                    / ̄ ̄\
                    /   ⊂二二⊃
                   |    |⊂二⊃
                   ⊂二⊃   /
                    \__/

.

260名無しさん:2021/04/20(火) 23:29:01 ID:8lVb0cJU0


その月は、真っ白な、満月だった。
神殿の背後から月は昇り、姿を民衆の前に現した。
月は天蓋の中心を通って、夜の世界を一周し、水平線の向こうへと消えた。

その日から、月が現れるようになった。
その日から、辺尼は神殿に祀られる13柱の神に加えられた。
そして、彼女こそが最後の神だった。



月と太陽とが、凄まじいスピードで世界を回転し始めた。

261名無しさん:2021/04/20(火) 23:30:14 ID:8lVb0cJU0





ウッ... オジイチャン....        ウゥ... ニイサン....

 ウゥ...  < - _・-> ウゥ.... ウッ... [ Д-] サヨナラ....
 
  アナタ.... トウサン..... アナタ.... オジサン....



辺尼を見つけた青年たちは、彼女が瞬く間に年老い、消えていった。

262名無しさん:2021/04/20(火) 23:31:15 ID:8lVb0cJU0



人は死に、産まれ、時には争い、笑い、怒り、泣き、絶望し.....
同じことを繰り返し続けるように辺尼には感じられた。
星は流線型を描くかの如きスピードで空を駆け回った。

全てが加速し、夜と昼がストロボの発光のように繰り返され、その白黒の瞬きが極限に至ると、
全てが透明になった。


それから、透明な世界が長い間続いた。

263名無しさん:2021/04/20(火) 23:32:59 ID:8lVb0cJU0


そして、とある日の夜、時は唐突に進むことを止めた。
人間は最早いなくなった。月明かりだけが、神殿を照らしていた。


天井は剥がれ落ち、床は海水に満たされていた。
島は、長い歳月を経るうちに、神殿を除いて海の底へ消えてしまった。


( 、 *川


辺尼は、遥か昔、この島にやってきたことを思い出した。
泥は、どこにいるのだろう。
あの小舟は、どこに行ってしまったのだろう。


闇に飲み込まれた彼方から、火の灯りが近付いてくるのが見えた。


それは、小舟だった。
先端に洋燈を灯した小舟が、ひとりでにこちらに進んでくる。


('、`*川

264名無しさん:2021/04/20(火) 23:33:45 ID:8lVb0cJU0






小舟は辺尼の足元にやってくると、彼女の脚を洋燈で小突いた。
彼女には心なしか、嬉しそうに思えた。



('ー`*川










チャプチャプ


チャプチャプ



チャプチャプ


チャプチャプ

265名無しさん:2021/04/20(火) 23:34:39 ID:8lVb0cJU0



チャプチャプ


チャプチャプ




ノハ ⊿ ) ....。


( ;、; 川 なんだ、これ...


ノハ ⊿ ) 本当に、すごい

ノハ ⊿ ) 本当に、本当に...すごい


( ;、; 川 まって....

( ;、; 川 こんな気持ち、初めてで


ノハ ⊿ )


ギュッ


( ;、; 川 あ....




.

266名無しさん:2021/04/20(火) 23:35:40 ID:8lVb0cJU0















.

267名無しさん:2021/04/20(火) 23:36:23 ID:8lVb0cJU0



ミセ*゚ー゚)リ 大丈夫?風邪引かないでね


ノパ⊿゚) ありがと


ミセ*゚ー゚)リ はい。辺尼もこれ

('、`*川 ...ありがとう


ノパ⊿゚) どうだった?行ってみて


('、`*川


('、`*川 言葉になんか、できる自信ないけど...

('、`*川 ....私だと思った

ノパ⊿゚)

268名無しさん:2021/04/20(火) 23:37:33 ID:8lVb0cJU0

('、`*川 凄い内容だったけど...全部、私だよ

('、`*川 認める


ノパ⊿゚) ...よかった!

ノパ⊿゚) なんかね...もしこれが何でもなかったらどうしよって...思ってた



('、`*川 ...今の感じはね

('、`*川 ...嘘みたいに、世界が軽いの


('、`*川 脾都、診競...ありがとう


ノパ⊿゚)ミセ*゚ー゚)リ ポー

ノハ* ⊿ ) ...うん。まあでも、褒められるようなことじゃないよ


ノパ⊿゚) ここにいる皆、もう犯罪者な訳だし。さ

('、`*川

('、`*川 ...そうね

269名無しさん:2021/04/20(火) 23:37:59 ID:8lVb0cJU0


('、`*川 でもこれで満足

('、`*川 二度目はない、かな


ノパ⊿゚) ...それもありだね




( ー *川 はは、取締官失格だな...

('、`*川 退職ね、これは...


ミセ*゚ー゚)リ もう、会えなくなっちゃうかな?

('、`*川 ...どうかしら

ノパ⊿゚) 五日後、あたしたちは奏柵を出るよ


('、`*川 ...そう

270名無しさん:2021/04/20(火) 23:38:37 ID:8lVb0cJU0

ノパ⊿゚) あ、これ言ったらヤバかったかな...


('、`*川 安心して。誰にも言わないから

('、`*川 あ

('、`*川 一つ質問、いい?

ノパ⊿゚) ?

('、`*川 あなたたちは、どうして何度も行くの


ノパ⊿゚)

271名無しさん:2021/04/20(火) 23:39:01 ID:8lVb0cJU0

ミセ*゚ー゚)リ ...私は、自分の美が壊れるのが怖くて

ミセ ー )リ 何度も、何度も確認しないと、自分が保てないと思ったから


('、`*川 ...そう

('、`*川 美も、永遠じゃないのね


ミセ ー )リ ううん

ミセ ー )リ 美はきっと、永遠なの

ミセ*゚ー゚)リ 私が、弱いだけ

('、`*川

272名無しさん:2021/04/20(火) 23:39:40 ID:8lVb0cJU0

ミセ*゚ー゚)リ ごめんね。変な話して

('、`*川 ...いいよ。やっと色々わかった


('、`*川 脾都

('、`*川 今日、あなたと行って分かったことが一つある

ノパ⊿゚) ?

('、`*川 ...助けを求めてるのは、あなたも同じね


ノハ ⊿ )


('、`*川

('、`*川 ...多分、一番空っぽなのはあなた


ミセ*゚ー゚)リ っ...


ノハ ⊿ )


('、`*川 ...酷いこと言ったと、思う。傷付けたら、ごめんなさい


ノハ ⊿ ) ...いや

ノパ⊿゚)いいよ。ありがとう

273名無しさん:2021/04/20(火) 23:40:20 ID:8lVb0cJU0

ノパ⊿゚) ...正直、あなたに声かけたのも

ノパ⊿゚) 助けたい、とか以前に辺尼の美に興味あったからだと思う


ノパ⊿゚) あたしは空っぽかもしれない。何も覚えてないんだ

ミセ*゚ー゚)リ ...。


('、`*川

('、`;川 あ〜...やっぱごめんね。前言撤回する

('、`*川 脾都は凄いよ。私を救ってくれた


('、`*川 私にも恩返しさせて欲しい

('ー`*川 だからまた、会いましょう


ノパ⊿゚) そうだね

ミセ*゚ー゚)リ いつか、ね

ミセ*゚ー゚)リ 今日はありがとう。私は見てただけだけど、すごい励みになったよ

('、`*川 そう


ミセ*゚ー゚)リ 私、頑張るよ。いつか...美に負けないようになる

274名無しさん:2021/04/20(火) 23:40:47 ID:8lVb0cJU0

('、`*川 ...そんな凄いの


ノパ⊿゚) うん。みっちゃんは凄いよ

ノパ⊿゚) あたしたち全員を救ってくれたんだ

('、`*川 ...へぇ


ミセ*゚ー゚)リ ...うん

ノパ⊿゚) じゃあね。ここに居ても危ないだろうし、また電話してよ


('、`*川 ええ、また



ノパ⊿゚)ノシ ミセ*゚ー゚)リ ノシ

275名無しさん:2021/04/20(火) 23:41:46 ID:8lVb0cJU0






...余談。
あたしが非記とあの夜見た星空は、辺尼が見ていた夜空とおんなじだった。
月のない、満天の星空。凄いよ。
あたしはあの夜のことを、決して忘れないだろう。


全てが流れのまま動いている。
水が、いつどうなるか、あたしの手に負えるものではない。
だけど、従えなければならない。

遠くない未来、きっとその日が来る。
診競は絶対に、死なせない。死なせないよ。




.

276名無しさん:2021/04/20(火) 23:42:12 ID:8lVb0cJU0
八,了

277名無しさん:2021/04/21(水) 21:04:06 ID:cUd.NbXI0
otsu

278名無しさん:2021/04/22(木) 18:56:17 ID:r4MTxk4g0
これが美なのか....乙です

279名無しさん:2021/04/29(木) 23:26:36 ID:rhqoT9OI0
更新遅くなっており申し訳ないです...次回は約束していた播院の話になります

280名無しさん:2021/04/30(金) 21:10:37 ID:L4uSg5iE0
投下します

281名無しさん:2021/04/30(金) 21:11:10 ID:L4uSg5iE0


「...あれは、何だお?」


「どれだ?」


「あの、窓の外でキラキラ光ってるやつ。UFOかお?」


「...あれはビルの反射光だよ、文」


「...言われてみれば、確かにそうだお」


「ほら、壁。光が届いてる」


「綺麗だお」



「...ああ」

282名無しさん:2021/04/30(金) 21:15:28 ID:L4uSg5iE0


「...今、何日だお?」


「5月17日だな」


「...あれから、どのくらい経ったのかお」

「...4年」

「そんなにかお。てっきり一週間くらいかと思ってたお」

「...あぁ、1時間前に何考えてたかも思い出せないお。何か大切なことがごっそり抜け落ちてるような....」



「...ごめん」

「おっ、どうして播院が謝るんだお?」


「...文に、酷いことしたから」

「...? 僕に何したってんだお」


「ごめん...本当にごめんなさい...」


「や、やめるお、播院!君は何も悪くないお!」




「...私は、もう播院じゃ、ない」


「....全部、私のせいだ」






.

283名無しさん:2021/04/30(金) 21:17:00 ID:L4uSg5iE0







                美







.

284名無しさん:2021/04/30(金) 21:17:34 ID:L4uSg5iE0




今は...奏柵を発つ2日前の朝だ。あたしはみっちゃんと集会場で寝ていて、丁度起きたところだ。一面に布団の海。まだ時間は早いが、皆この時間から一様に活動を始めるのだ。

ミセ -ー-)リ スースー


あたしは朝強い方だけど、みっちゃんはそうではない。朝は同じ布団の中、いつも彼女の寝顔を眺める。人って何故か見られてると目を覚ますじゃない?
彼女はそうではないらしい。あたしが満足するまで、ずっとこうしていられる。


ノパ⊿゚) ジー


出会った頃の彼女は...すごかった。
あたしは芸術はわからない。美術館に行けるお金もないし。でも考えないで感じるものだと何となく理解していて、すると彼女がそういう存在なのだろうかと思ったりもしていた。
理屈なんてないんだ。人は理屈で、世界を地獄に変えたり天国に変えたりする。でも彼女はこちらの状態を無視して本当に「やばい」ものを感じさせてくれたのだ。拒みようがなかった。彼女の声を聞くだけでも。こうして寝顔を覗くだけでも。

それが幸せだった。

285名無しさん:2021/04/30(金) 21:18:27 ID:L4uSg5iE0


でも、今の彼女にはそれが無い。
勿論、彼女がすごいのは分かってるし、そう思うようにしてる。だけど時々頭で考えてるという感じがする。
「無条件さ」がない。
それは、彼女の「美」が変質し始めたのと無関係じゃないんだろう。
不思議で、残酷なこと。彼女の内面は、彼女の肉体の全てに顕現しているのだ。きっとあたしも、皆もそうなんだろう。

昨日、辺尼が言ってたことを思い出す。
あたしは空っぽだ。だからきっと、あたしの肉体に、声に、空虚が滲み出てるんだ。
みっちゃんにも、非記にも、それが分かってるんだろう。

そう考えるたび不安で押し潰されそうになるけど、それすら実際は空っぽなんだろうとか
思うと、入子構造の不安が無限に続いていくような気がして、あたしは考えるのをやめる。

286名無しさん:2021/04/30(金) 21:19:00 ID:L4uSg5iE0


ノハ ⊿ )

トントン


( ´_ゝ`)よっ


ノパ⊿゚) あ

ノパ⊿゚) 亜丹

(; ´_ゝ`)なんか今にも死にそうな顔してたぞ...

ノパ⊿゚) ほんとに?


(; ´_ゝ`)俺が言えたことじゃないけどな。なんか、死ぬ前の弟が頭によぎって...大丈夫か?

ノパ⊿゚) ...うん。まあ

287名無しさん:2021/04/30(金) 21:19:46 ID:L4uSg5iE0

( ´_ゝ`)ならいいんだが...久しぶりだな

ノパ⊿゚) ね


( ´_ゝ`)隣にいるのが、あんたの彼女かい?


ノパ⊿゚) そう


(; ´_ゝ`)まだ寝てたんだな...失礼した


ノパ⊿゚) いや、気にしなくていいよ。そろそろ起こすところだったし


ミセ -〜-)リ う、うーん...


ミセ*゚ー゚)リ パチ


( ´_ゝ`)

288名無しさん:2021/04/30(金) 21:21:51 ID:L4uSg5iE0

ミセ*゚ー゚)リ

ミセ*゚ー゚)リ ひーとの、友達?

ノパ⊿゚) うん

ミセ*゚ー゚)リ ...はじめまして。とりあえず、起きるね




ゴソゴソ...


ミセ*゚ー゚)リ 私は診競。よろしくね

( ´_ゝ`)ああ。俺は亜丹だ

( ´_ゝ`)死ぬつもりで土砂降りの中「行ってた」んだが、脾都に命を助けてもらってな


ミセ*゚ー゚)リ ...そうなんだ

289名無しさん:2021/04/30(金) 21:22:27 ID:L4uSg5iE0

( ´_ゝ`)この前、連絡先交換するの忘れてて

ノパ⊿゚) あ、そーだね

( ´_ゝ`)俺は携帯持ってないんだが...公衆からかけるから、番号教えてもらえるか?

ノパ⊿゚) いいよ。...実は仲間のなんだけどね

ミセ*゚ー゚)リ 辺尼にも教えちゃったね


ノパ⊿゚;) それな...独生に絶対怒られるわ...


カキカキ....

ビリッ


ノパ⊿゚) はいこれ

( ´_ゝ`)感謝する


ノパ⊿゚) あ

( ´_ゝ`)

ノパ⊿゚) あたしら、あと2日で奏柵から出るわ


( ´_ゝ`)...マジで?

290名無しさん:2021/04/30(金) 21:22:50 ID:L4uSg5iE0

ノパ⊿゚) この携帯、あたしが持ってるか分からないね


( ´_ゝ`)...残念だな

ノパ⊿゚) 一応独生に聞いとくよ

ノパ⊿゚) 警察が動き始めててさ。亜丹も危ないかもよ

( ´_ゝ`)...そうなのか

ノパ⊿゚) 一緒に、来る?

( ´_ゝ`)いいのか?

ミセ*゚ー゚)リ 独生に聞いてみないと、わからないよね

ノパ⊿゚) ...そーだなぁ

291名無しさん:2021/04/30(金) 21:23:20 ID:L4uSg5iE0

ノパ⊿゚) とりあえず、独生んとこ来ない?紹介するよ

ミセ*゚ー゚)リ きっと、独生なら歓迎してくれると思うよ


( ´_ゝ`)おぉ....

( ´_ゝ`)なんか、夢みたいだ


ミセ*゚ー゚)リ え?


( ´_ゝ`)ずっと、兄弟だけで生きてきて...弟が死んでからはずっと一人で....でも急にこんな仲間に出会えるなんて

ミセ*゚ー゚)リ ....。

ミセ*゚ー゚)リ 私たちは何もないんだから、助け合ってなんぼじゃない?


( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)やべえな...あんたの彼女、天使か?

ノパ⊿゚) 天使だよ

292名無しさん:2021/04/30(金) 21:23:43 ID:L4uSg5iE0

ノパ⊿゚) 独生には、なんて紹介したらいいかな?

( ´_ゝ`)俺はどこにも属してなかったから、名前だけで十分だぜ

( ´_ゝ`)奏柵に来たのも一年前だしな

ノパ⊿゚) え、そうなんだ...どうりで見ない顔だと思った

( ´_ゝ`)あんたらは奏柵出身なのか?

ノパ⊿゚) いや。ちょっと前にVIP市から移り住んできたんだ


(; ´_ゝ`)本当か!?俺もVIP市からだ


ノパ⊿゚) そうなん!...意外だ

ミセ*゚ー゚)リ VIPは広いもんね


( ´_ゝ`)なんか縁を感じるな

293名無しさん:2021/04/30(金) 21:24:10 ID:L4uSg5iE0
プルルルルルル

ノパ⊿゚) あ

ミセ*゚ー゚)リ ...独生からだ




ピッ




ノパ⊿゚) もしもし?


('A`)「朝早くにすまん。起こしたか?」

ノパ⊿゚) いや、大丈夫

('A`)「播院の件なんだが...」

('A`)「今から、話したい。もう時間がなくて」

ノパ⊿゚) いいよ。全然

('A`)「すまない。四威も呼んだぞ。診競も一緒か?」

ノパ⊿゚) うん。あ、

ノパ⊿゚) あと一人、知り合いがいるんだけど

ノパ⊿゚) 一緒に連れてっていいかな?

('A`)「...いいけど、誰だ?」

ノパ⊿゚) 亜丹っていう、奏柵に来たばっかの

('A`)「...聞いたことない名前だな。まあいいだろ」

ノパ⊿゚) ありがと。じゃ、向かうね〜


ピッ

ノパ⊿゚) ...ということで、行こっか

294名無しさん:2021/04/30(金) 21:26:16 ID:L4uSg5iE0


朝の光が、廃墟の一室を柔らかく照らしている。
ガラスのない窓、その向かいの壁には朧げなサインが浮かび上がっている。
サインは形をゆっくりと変え続けていた。



('A`) 皆、朝早く集まってもらってすまない...助かる


ノパ⊿゚)ミセ*゚ー゚)リ( ´_ゝ`)    (*゚ー゚)


('A`) ...俺は独生。あんたが亜丹か


( ´_ゝ`)ああ...会いたかったぜ

('A`) ん?知り合いだったか俺ら

( ´_ゝ`)いやノリだが

('A`)

('A`) すまないんだが...少し外しててもらえるか?

( ´_ゝ`)

('A`) あ、いや身内の話でな...聞かれるとまずいっつーか


( ´_ゝ`)おk

295名無しさん:2021/04/30(金) 21:27:26 ID:L4uSg5iE0

(*゚ー゚) 独生、なんで私を呼んだの?

('A`) 何ってそりゃ...あの時全部収めたのお前だからさ

('A`) まだ脾都と診競に説明してなかったし、一緒に過ごすことになるから

('A`) 一度全部説明しなくちゃいけないと思ってな

(*゚ー゚) ...そういうことね


(*゚ー゚) 播院は、嫌がってなかった?

('A`) 彼女が、話したいって言ってた。特に診競に

ミセ*゚ー゚)リ え、私?

('A`) ああ。この話は「美」に関わってるから

('A`) だけど...もし嫌だったら外してもらっていい

ミセ*゚ー゚)リ いや、聞くよ

296名無しさん:2021/04/30(金) 21:28:42 ID:L4uSg5iE0


('A`) ...わかった

('A`) 播院、文






从 ∀从(  ω )

297名無しさん:2021/04/30(金) 21:29:05 ID:L4uSg5iE0


从 ゚∀从 ...播院だ。よろしくな


从 ゚∀从 それで、こっちが文


(  ω )...。


ノパ⊿゚) ...?


从 ∀从 事情があって、な

298名無しさん:2021/04/30(金) 21:29:35 ID:L4uSg5iE0

('A`) さて...どこから話すべきか...

从 ゚∀从 私と文、独生は奏柵で生まれて、ずっと一緒だったんだ


从 ∀从 でも皆、私のせいで変わってしまった


('A`) ...俺は、後悔してないよ

从 ∀从 そう。だけど、私は大き過ぎる罪を背負ってしまったんだ

从 ∀从 以前の私も、どこにもいない



从 ∀从 ...私はもう播院じゃない。私は、ジャスミンだ

299名無しさん:2021/04/30(金) 21:30:08 ID:L4uSg5iE0

ミセ*゚ー゚)リ ...ジャスミン?


从 ゚∀从 これは、私の中にある「美」の話なんだ

从 ゚∀从 だから、診競に話したかった

ミセ*゚ー゚)リ っ...

从 ゚∀从 貴女の「美」が凄いことも知ってる。だからこそ、この話を聞いて欲しい


从 -∀从 私は、3人とずっと一緒だった








.

300名無しさん:2021/04/30(金) 21:37:00 ID:L4uSg5iE0






物心付いた頃から、私たちは路上で暮らしてた。

私は、人間ではなかった。
女の殻を被った何かだった。
その上、自覚がなかった。









(;'A`) おい、播院、どこだ!?


(; ^ω^)出てくるおーー!!



从 ゚∀从 ...。



(;'A`) あ、おいあれ見ろ文!

(; ^ω^)おぉっ!?


(;'A`) 屋上で何してるんだ?危ないだろ!?

301名無しさん:2021/04/30(金) 21:37:24 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 ...独生か


(;'A`) 降りてこいよ!播院!


(; ^ω^)屋上行ってくるお!



从 ゚∀从 なんで、慌ててるんだ?


(;'A`) なんでって、飛び降りるんだろ!?慌てるに決まってるよ!

从 ゚∀从

从 ゚∀从 ...ごめん

从 ゚∀从 よくわかんない


(;'A`) なんか悩みでもあるのか?教えてくれればよかったのに!

302名無しさん:2021/04/30(金) 21:39:12 ID:L4uSg5iE0
从 ゚∀从 悩み?

(;'A`) え、違うの!?思い詰めてるから、人って飛び降りるんじゃないのか!?

从 ゚∀从 そうなんだ

(;'A`) ...っ!

(;'A`) 理由は後で聞くから、そこでじっとしててくれ!


从 ゚∀从

タッ

(;'A`) ちょ、

(゜A゜) まっ、....!?






.

303名無しさん:2021/04/30(金) 21:39:48 ID:L4uSg5iE0




ガシッ




(; ^ω^)っぶねぇぉぉぉぉぉぉ!



从 ゚∀从 あれ

从 ゚∀从 ...落ちて、ない



プラン... プラン...



(; ^ω^)今引き上げるお!

304名無しさん:2021/04/30(金) 21:40:16 ID:L4uSg5iE0


(;'A`) マジどうしたんだよ播院

(; ^ω^)そうだお、流石に怒るお?

从 ゚∀从 ...怒る?

从 ゚∀从 怒ってるのか、ふたりとも


(;'A`)(; ^ω^)...!?


(; ^ω^)まさかここまでとは、呆れたお

(;'A`) 本当に、何の理由もないのか?


从 ゚∀从 いや。なんか、飛んだら何か道が開けるかなって....


从 ゚∀从 下にゴミ袋積んでたから怪我もしないかなって、思ったんだが...

305名無しさん:2021/04/30(金) 21:40:41 ID:L4uSg5iE0


( ^ω^)あ、そうなのかお?

从 ゚∀从 ああ


( ^ω^)

(; ^ω^)...いや納得しかかってたけど、やっぱ意味不だお!?


(;'A`) 播院、理由は百歩譲って、危ないことはやめてくれ...


从 ゚∀从 ...分かったよ

306名無しさん:2021/04/30(金) 21:41:40 ID:L4uSg5iE0




从 ゚∀从 なんで、二人は俺に構うんだ?

( ^ω^)...なんでって、幼馴染だからだお?

从 ゚∀从 ...へえ


从 ゚∀从 俺、この前誰かに言われたよ。人に嫌われる天才って


( ^ω^)...そんなことないお!

从 ゚∀从 そうなの?

( ^ω^)だって、僕らは播院のことが好きだお

( ^ω^)播院は多分、普通の人とは違うんだお...


('A`) 誰か...ってか、いかにも捻余が言いそうなことだな

307名無しさん:2021/04/30(金) 21:42:35 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 捻余?...あぁ、第2区の

从 ゚∀从 確かに、そうだったかも

('A`) ...ま、それはいい

('A`) 播院は、そのままでいいんだよ

从 ゚∀从 ...そうか

(;'A`) あ、でも俺たちがやめてって言ったことは極力守ってほしいかな?

从 ゚∀从 ...分かった

('A`) もし。それがやっていいことなのか、駄目なことなのか分からなかったら、俺たちに聞いてくれよ

从 ゚∀从 うん

('∀`) いい子だ

从 ゚∀从 いい子?

( ^ω^)独生キモいお、播院は同い年だお!

('A`) うるせー!

308名無しさん:2021/04/30(金) 21:43:24 ID:L4uSg5iE0


私たちはそのまま成長した。色々なことが分かってきた。
周囲は親の顔なんて知らない連中ばかりだったからか、心はボロボロに荒んでいった。

独生や文も、不安定な時期が続いてた。貴女達も、きっとそうだったよね。
どっかに盗み入って、殴り合って、捕まって...。

私の周りにも薬物に手を出す奴、先輩に誘われて売人になる奴、いっぱいいたんだ。

けど、
その時の私は、何も感じてなかった。
相変わらず、人間じゃなかった。




(# ^ω^)あーイラつくお!皆僕を蛆虫見るような目で見やがってお!

(# ^ω^)独生!どっか叩きに行くお

('A`) おい文

('A`) 俺たちが蛆虫なのは本当だろ

('A`) ...自ら証明する気か?

309名無しさん:2021/04/30(金) 21:45:02 ID:L4uSg5iE0

(# ^ω^)は...独生...お前...殴っていいかお?

('A`) 俺たちにできんのは、これ以上堕ちないようにすることだ

('A`) それとも、第2区の連中みたいに...蛆虫以下になりたいのかよ


(# ^ω^)う...

(# ^ω^)うるせーお!僕にもプライドはあるんだ、心まで死んでたまるかお!

(#'A`) ...お前な

(#'A`) 頭使えバカ!刑務所行ってどうなるか...ヤバい奴に目付けられて引きずり堕ろされるに決まってるだろ!

310名無しさん:2021/04/30(金) 21:45:43 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 ....。


(# ^ω^)

( ^ω^)播院。起こしてごめんお

从 ゚∀从 いや。大分前に起きてたから平気


('A`) すまん...見苦しかったよな

从 ゚∀从 全然?



('A`) ...そうか

311名無しさん:2021/04/30(金) 21:46:25 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 何の話してたんだ?

('A`) 播院は、知らなくていいよ


从 ゚∀从 えぇ〜聞かせてよ


(#'A`) うるさいな、知らなくていいって言っただろ!?


从 ゚∀从

(;'A`) ハッ

(;'A`) ...ごめん


从 ゚∀从 (あ〜あ...)

从 ゚∀从(俺が喋ると、いつもこうなるんだ...)


从 ゚∀从 ...ごめん

312名無しさん:2021/04/30(金) 21:47:01 ID:L4uSg5iE0

( ^ω^)

( ^ω^)...播院は、ムカついたりしないのかお?

从 ゚∀从 何に?

( ^ω^)僕らは、社会の底辺にいるんだお

( ^ω^)生まれる場所なんて選べないのに、たまたま運が良かった奴らに見下されて、這い上がる機会もくれないんだお...?

( ^ω^)悔しく、ないのかお?

从 ゚∀从 ...悔しい?

从 ゚∀从 ごめん。全然分からないんだ


从 ゚∀从 だから嫌われるのかなって...思うけど

(; ^ω^)...っ

313名無しさん:2021/04/30(金) 21:47:26 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 でも、他人が何言おうと、俺たちはここにいるんじゃないの?

从 ゚∀从 そりゃ、殴られたりしたら俺も痛い。でもそんなことしてないし、飯だって食わせてくれてるじゃん

(; ^ω^)それは、そうだけど....

从 ゚∀从 俺は、悪口言ってくる奴等より、第2区の連中みたいに殴ってくる方が嫌いだ

从 ゚∀从 どっちかっていうとね

从 ゚∀从 ...どうして、文はあいつらとつるむんだ?

(; ^ω^)...。

('A`) 文。播院にはまだ分からないよ

(; ^ω^)不思議と播院の言ってることの方が正しい気も、してくるお...

从 ゚∀从 そうなのか?

314名無しさん:2021/04/30(金) 21:48:09 ID:L4uSg5iE0


从 ゚∀从 俺...やっぱ何も分かってない

从 ゚∀从 いつか、分かるだろうとか思ってたけど

从 -∀从 一生、このままなんだろうなぁ...


( ^ω^)そんな、ネガティブなこと言うなお

从 ゚∀从 いや、俺は思ったこと言っただけで。全然悲しくないよ

('A`) ...俺は、播院に助けられてる

从 ゚∀从 そうなの?

('A`) ...うん。多分

(;'A`) 変な喩えだけど...窓を開かれる感覚っていうか...お陰で、自分を見失わずに済むんだ

从 ゚∀从 んん?

( ^ω^)あ〜....分からないようでめっちゃ分かるお

从 ゚∀从

315名無しさん:2021/04/30(金) 21:48:36 ID:L4uSg5iE0



私は、女の身体の中に居る宇宙人みたいなものだった。
「殻」に無自覚だから「振る舞い」すらままならなかった。
だから、文や独生が私を見る目に気付けなかった。

私には、それを受容する領域も、如何なる恋愛感情も備わっていなかった。



そんなある日、第2区の連中から決別した捻余達が私達の元にやって来た。
インジェクターを3本持ってね。



( ‘∀‘)おー文、お久だな

( ^ω^)お...何でここに?

('A`) どうしたんだ?一体




( ‘∀‘)仲間に入れてくれねえか?

316名無しさん:2021/04/30(金) 21:49:36 ID:L4uSg5iE0


(;'A`) ....え?

( ´ー`) 馬鹿

(; ‘∀‘)馬鹿とは何だ!

( ´ー`) すまん。こいつは礼儀ってもんを知らないよな

( ´ー`) ...嫌気が差したんだよ。あいつら無茶苦茶やるからさ

('A`) ...まあ。そりゃそうだよな

( ´ー`) だが義理は通す。ブツはあるよ

('A`) ...いらない




( ‘∀‘)そう言うと思った。だけどこれはな、普通の薬物とは全然違うぜ

( ‘∀‘)俺も捻余も、これ一筋にすると決めた


( ´ー`) 知らないのか?インジェクターっていうんだが

('A`) 知ってるよ

从 ゚∀从 ...。

317名無しさん:2021/04/30(金) 21:50:23 ID:L4uSg5iE0

( ´ー`) やってみる価値はあるよ


('A`) 俺は、出来るだけまともに生きたいんだ


( ´ー`) 「ビジョン」を見たほうが、何倍もまともに生きれるよ

('A`) ...信じられないな

(; ´ー`) うーん。まあ、そう言うとは思ってたよ

( ‘∀‘)ま、要らないんだったら俺らが使うけど

( ´ー`) 馬鹿

(; ‘∀‘)んだとー!?



从 ゚∀从 俺、興味ある

(;'A`) 播院


从 ゚∀从 ちょっと聞いたことある。何もリスクがないんでしょ?

( ´ー`) ああ

318名無しさん:2021/04/30(金) 21:50:56 ID:L4uSg5iE0

( ´ー`) ...どうするよ

从 ゚∀从 ねえ、独生、文。これは良いこと?ダメなこと?


(;'A`)( ^ω^)


(;'A`) ...ダメだと思う

( ^ω^)僕は、播院が望むならいいと思うお


从 ゚∀从

从 ゚∀从 えぇ〜...どうすればいいんだよ



从 ゚∀从 なあ、捻余

从 ゚∀从 ...俺は、自分のことも、何にも分からないんだ

( ´ー`) ...だろうなと思ってたよ


从 ゚∀从 これ使えば、何か分かるかな?

319名無しさん:2021/04/30(金) 21:51:26 ID:L4uSg5iE0


( ´ー`) ...分かるよ。約束してもいい

从 ゚∀从 そうか。じゃあ使う

(;'A`) 待て。罠の可能性もあるんだぞ


(; ‘∀‘)いやいや。俺らのこと信じろよ。大体ブツを持ってくるのは最大限のリスペクトじゃないのか?

( ´ー`) 独生に限っては話が違うみたいだよ。俺らの失策だよ

('A`)



( ´ー`) ...ま、立場は俺らの方が下だ。断られる覚悟もできてる

从 ゚∀从 もし、俺らの仲間になれなかったら、どうするんだ?

( ´ー`) ...居場所ねーから、奏柵出るよ


从 ゚∀从 ...やっぱ俺がやる

320名無しさん:2021/04/30(金) 21:52:08 ID:L4uSg5iE0

(;'A`) 播院、

从 ゚∀从 安心しろって


( ´ー`) 交渉成立かな?

( ^ω^)...そうおね、独生

('A`)

('A`) ...分かったよ


( ´ー`) オッケー。これから、よろしくお願いするよ

( ‘∀‘)よろしくな!












その晩、私は初めていった。
私の世界は、凄惨を極めていた。

321名無しさん:2021/04/30(金) 21:53:18 ID:L4uSg5iE0




そこでは、私の一切の記憶が無くなった。
一面真っ白の、無限に続く世界で、見知らぬ誰かに殺され続けた。
逃げても逃げても、どこにも安全な場所はなかった。
殺される度、私の記憶は無くなって、誰かに騙され殺される。
仮に逃げ切れても、食べる物がないから、ついには餓死してしまう。

だけどそんな無限に続く「私の殺戮」の中で、私はどこかで親密さを覚えた。
今思えば、性的な親密さに近かったのだと思う。
私は、殺される私にも、私を殺す誰かにもなれた。ここは言葉では説明しきれない感覚。
私が生み出した、私の殺戮。そう思うと、戻ってきても何か腹の中に温かいものを感じた。初めて、ここに居るんだと思えた。


2人は最初心配してくれた。
私の世界を聞いて、捻余に詰め寄ったりもした。
だけど、時を経る毎にそれが心配に値する事柄ではないのだと理解していった。

文や独生も、行くようになった。
2人の「美」が何だったのか、もう知る由もないけれど。

322名無しさん:2021/04/30(金) 21:54:00 ID:L4uSg5iE0


それでも、私は人間にはなれなかった。
「美」は私の様態を微笑みながら眺め、そして私にそれを上映してくれた。
私は「美」の眼差しに嬉しくなって、「美」を愛でた。その愛に嬉しくなった「美」が、私の非人間性を優しく扱った。そういう無限に続くループが生まれた。
だけど私は、文や独生が何を考えてるのか、私が何を考えているのかも、理解することが出来なかった。
...いつしか私は、私の世界を統べる存在になった。
終わりなき殺戮を繰り返すうち、私は世界を意のままにコントロールする能力を手に入れた。
世界の人々は私を殺すことをやめて、私のことを「森のアンコウ」と呼んだ。


ある時、水を通じて一緒に行くことを捻余から教わった。

そして、私は最悪の思考に至った。
他人の美を、取り込んでしまおう、と。

当時の私には、何が罪か、分かりようがなかった。
それが原罪なのだ。罪は罪を呼ぶ。

323名無しさん:2021/04/30(金) 21:54:41 ID:L4uSg5iE0


从 ゚∀从 ね、文。俺の世界に来てくれるか?


(* ^ω^)お...いいのかお?

从 ゚∀从 ああ

(* ^ω^)何で、僕なんだお?独生はいいのかお

从 ゚∀从 文なら、やってくれると思ったんだ

(* ^ω^)...おー



( ^ω^)あ、でも独生には伝えたのかお?

从 ゚∀从 なんで伝える必要があるんだ?俺とお前だけの話だろう?

( ^ω^)独生が可哀想だからだお

从 ゚∀从 ...そう。そうか

从 ゚∀从 分かったよ

324名無しさん:2021/04/30(金) 21:55:12 ID:L4uSg5iE0





そうして、私は文を世界に引き入れた。
私は、彼の想いに全く気付かなかった。






.

325名無しさん:2021/04/30(金) 21:57:13 ID:L4uSg5iE0



私は、彼に殺された。
彼が、私を愛していたから。
私は彼の物になった。

だけどそれは長く続かなかった。
私を手に入れられないことを悟ると、文は私に全てをくれた。彼の想いには気付けなかったけれど、
全てをくれると、最初から分かっていた。全てをくれるまでが、私の世界のなり行きに含まれていた。
罪深かった。

私と文は、長く行きすぎていた。帰ってくる兆しがなかったから、独生は私の世界へ入ってきた。
彼も、私を好いていた。

326名無しさん:2021/04/30(金) 21:58:09 ID:L4uSg5iE0


文の全てを得た私は、極度の混乱に陥った。私はもはや世界を制御することができなくなった。

私はその時、女になった。
播院は殺された。その死骸から生まれた女を、文は「ジャスミン」と名付けた。
何もかも求めていた物とは違う。けれど引き返すには遅いと知った。

再び、「私の殺戮」が始まった。

327名無しさん:2021/04/30(金) 21:59:01 ID:L4uSg5iE0


私は、自分が女であることを独生によって知った。そして独生によってそれを受け入れようとした。
そしてそれは歪な形で成功した。私は、独生をも壊してしまった。
さも偶然のように感じられた。実際初めは何も意図してなかった。
だけどそれも、分かっていたことだった。分かっていて、やったんだ。
その為の世界だったのだから。

罪悪感でいっぱいになって、女になった私、人間になった私なんて、くたばればいいと思った。
だから世界を壊そうとした。だけどそれは、叶わない夢となった。

...四威が現れたから。
彼女は、白翼の天使として私の世界に入ってきた。そうして、混乱しきった私を、この混沌とした現実へと引き上げた。

それすらも、分かっていたことだったんだ。




全ては私の非人間性から始まって、それに人間になった私が気付いた。
だから罪が、私を人間ではいさせてくれない。私は成り損ないのまま、ただ償いのために生きていくしかないんだ。

328名無しさん:2021/04/30(金) 22:00:04 ID:L4uSg5iE0

从 ∀从 ...私は、目覚めて自分の罪をありありと自覚した

从 ∀从 私は、自らの美を使って他人の美を、人間性を奪ってしまった

从 ∀从 大切な仲間を壊してしまった

(  ω )

从 ∀从 独生も、かつての独生じゃなくなった

('A`) ...


从 ∀从 文はもう自分が何者かも、何を考えてるのかも、分からなくなった

从 ∀从 私にできる償いは、文を死ぬまで養うことだけ

从 ∀从 ...これが、私の話

329名無しさん:2021/04/30(金) 22:00:34 ID:L4uSg5iE0


从 ∀从 ねえ、診競

从 ∀从 文を、助けてくれる?


ミセ ー )リ そん、な

ノパ⊿゚) みっちゃん...

ミセ; ー )リ できない、できないよ....!

ミセ; ー )リ 私はもう、ダメなの

从 ∀从 どうして

ミセ; ー )リ 私の「美」はもう、神聖なんかじゃない!誰も助けることなんてできない!

ミセ; ー )リ 本当に、ごめん...!何もできないの


从 ∀从 そう

从 ∀从 こちらこそ、無理言ってごめん

330名無しさん:2021/04/30(金) 22:01:04 ID:L4uSg5iE0

ミセ; ー )リ 失望、したよね


从 ゚∀从 ...大丈夫だよ。私は私の責任を果たさなきゃいけないって、今はっきりわかった

ミセ; ー )リ ...それは違う

从 ゚∀从

ミセ ー )リ きっと、違う道があるよ...今の私では、何も示すことが出来ないけど

ミセ ー )リ 美を失っても、それだけは忘れたくないの。でも忘れそうで、怖い

ミセ ー )リ だから、播院にはそう思ってほしくない

从 ゚∀从

331名無しさん:2021/04/30(金) 22:01:40 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 ...でも私にそんな資格、ないと思う

从 ゚∀从 ...私は自分の美を信じられないんだ。もう

ミセ ー )リ やめて

从 ゚∀从 私の美が皆を狂わせた

ミセ ー )リ 違う

从; ゚∀从 美なんて――


ミセ; Д )リ うるさいッ!




从; ゚∀从

332名無しさん:2021/04/30(金) 22:02:26 ID:L4uSg5iE0

(*゚ー゚) 姉さん

ミセ; ー )リ ...っ!


(;'A`) 播院。そのくらいにしてあげてくれ


ミセ; ー )リ 美はもっと高いところにある。私たちの考えで決めつけられるものじゃないの

ミセ; ー )リ 絶対に、違う...!そんな考え、私は信じない!


从 ∀从 ...私がしたことも

从 ∀从 美の前では、許されるってわけ...?

ミセ; ー )リ

从 ∀从 そうなの?




ミセ ー )リ そうだよ

333名無しさん:2021/04/30(金) 22:03:10 ID:L4uSg5iE0

从 ∀从 じゃあ、文は

ノパ⊿゚) 播院

ノパ⊿゚) ...多分、気付いてるんだと思うけど

ノパ⊿゚) 美はあなたそのものだ

ノパ⊿゚) それを、あなたが歪めたんだ。多分

334名無しさん:2021/04/30(金) 22:03:41 ID:L4uSg5iE0


从; ∀从

ノパ⊿゚) ...あたしも、播院の気持ち、少し分かるよ


从; ∀从 ぁ...

ノパ⊿゚) ...それでも、良いんだよ。美は、あなたを縛り付けるものじゃないから


从; ー从 私は...

335名無しさん:2021/04/30(金) 22:04:12 ID:L4uSg5iE0
从 ∀从 ...ああ

从 ゚∀从 本当に、本当に、全部私のせいか...




(*゚ー゚) 過ぎたことは、しょうがないよ。播院

('A`) ああ。いつまでも後悔したって、先に進めないだろ

('A`) それに、お前は変われたじゃないか

从 ゚∀从

('A`) 何回も言ったけど、俺は後悔してない

('A`) 多分、文もそうだ

('A`) お互い、変わった。だけど俺は今のお前が好きだ。正直な気持ちだ

从 ゚∀从 どく、お...

336名無しさん:2021/04/30(金) 22:05:26 ID:L4uSg5iE0




ミセ*゚ー゚)リ ごめん。また迷惑かけたよね

('A`) 全然気にしてないぞ。本気でお前が心配になってきたが...

ミセ*゚ー゚)リ ...っ

ミセ*゚ー゚)リ そう、だよね

ミセ*゚ー゚)リ 多分、近いうちに全部終わっちゃうの

ミセ*゚ー゚)リ 「美」も無くなって、自分も無くなる...

ノパ⊿゚) ...あたしが、何とかする

ミセ*゚ー゚)リ ひーと

('A`) ...任せたぞ

ミセ*゚ー゚)リ ごめん。迷惑かけっぱなしだね...

ノパ⊿゚) みっちゃんがあたし達にしてくれたことに比べたら、大したことないよ

337名無しさん:2021/04/30(金) 22:05:52 ID:L4uSg5iE0

从 ゚∀从 ...これからも、よろしくな

ノパ⊿゚) うん

从 ゚∀从 ... 文にも、優しくしてやってくれると助かる。たまに自我を少し取り戻すんだ

ノパ⊿゚) もちろんだよ



(*゚ー゚) 姉さん、長い間話してなくてごめんね

ミセ*゚ー゚)リ ...ううん。大丈夫よ

ミセ*゚ー゚)リ いつから、播院と知り合いだったの?

(*゚ー゚) 奏柵に来て...非記が先に捻余を紹介してくれたんだ

从 ゚∀从 それから私らと暮らすようになったってわけ

ミセ*゚ー゚)リ そうだったんだ...

338名無しさん:2021/04/30(金) 22:06:35 ID:L4uSg5iE0



('A`) あ


('A`) 亜丹

ノパ⊿゚) ...大分放置しちゃったな

(;'A`) 散々だな...謝らねえと!

339名無しさん:2021/04/30(金) 22:07:06 ID:L4uSg5iE0





( ‘∀‘)その小杜ってやつ知ってたぜ...個人的に友達だった


(; ´_ゝ`)マジで!?


( ‘∀‘)ああ。お兄さんが急にどっか行って探してるみたいなこと言っててな

( ‘∀‘)にしても、そっくりだな...そうか。自殺しちまったのか...


( ´_ゝ`)あいつは真面目な性格だったからな...

( ;_ゝ;)俺、弟がいないと何にもできないんだよ。後追い自殺しようと思うくらいにな


(; ‘∀‘)まじかよ、大変だな

340名無しさん:2021/04/30(金) 22:09:15 ID:L4uSg5iE0

( ´_ゝ`)あ

( ´_ゝ`)聞きたい?俺のショボすぎるエピソードの数々

(; ‘∀‘)いやいいわ

(; ´ー`) 身内に天然がまた増えるのかよ....


( ´_ゝ`)天然?


( ´ー`) この馬鹿と脾都。あと昔の播院

(; ‘∀‘)あ、俺は天然じゃねーぞ!言っとくけど!

( ´ー`) それぞれエピソード挙げたら数え切れないよ


(; ´_ゝ`)...脾都、そんなんじゃないだろ?

( ´ー`) いやアホじゃね?不用心過ぎるぞあいつ

( ‘∀‘)あいつはアホかも


(; ´_ゝ`)えぇ...

341名無しさん:2021/04/30(金) 22:09:48 ID:L4uSg5iE0
九,了

342名無しさん:2021/04/30(金) 22:17:56 ID:mJrKRj..0
乙。。。

343名無しさん:2021/05/04(火) 07:19:03 ID:VCTTh.qI0
乙!楽しみにしてる

344名無しさん:2021/05/04(火) 22:18:54 ID:s7z78/Z60

わからない部分を自分で想像してるけど中々追いつけない…!

345名無しさん:2021/05/25(火) 21:26:29 ID:7RGLWbPk0
更新が遅れていてごめんなさい
じわじわ進めて行くのでよろしくお願いします
私の言葉で説明するならば、美は神に近い概念です
また、感覚です なので厳密にはただ「美」としか言い表せないのですが...

346名無しさん:2021/05/30(日) 11:19:32 ID:KXf65te.0
待ってる

347名無しさん:2021/06/02(水) 16:48:16 ID:Qz/v009c0
私の使っていた端末が故障してしまい書きだめとプロットが回収不可能になってしまったので、もう少しかかります (´;ω;`) 申し訳ないです

348名無しさん:2021/06/02(水) 17:13:06 ID:9bfsm8FY0
マジかッッッ

349名無しさん:2021/06/29(火) 16:45:50 ID:/sZluw6Q0
作者氏は大丈夫か?続き待ってる
期待あげ

350名無しさん:2021/07/16(金) 14:34:49 ID:kON9Cn9Q0
生存報告
とりあえず新しい端末で試みてますが、データが回収できるまでしばらくかかります… 
それまで短編など書いてみようと思います

351名無しさん:2021/07/19(月) 20:56:15 ID:C6o8I1Hk0
生存報告ありがとう
ずっと待ってる

352名無しさん:2021/07/20(火) 13:28:36 ID:VIxxh/Gg0
ゆっくりでいいから待ってるぞ

353名無しさん:2021/07/23(金) 12:33:36 ID:3wtcBWBI0
待ってるぞ

354名無しさん:2021/10/17(日) 17:28:21 ID:qGGwqWoI0
長い間お待たせして申し訳ないです!近々最新話を投下したいと思います
ここからは第二部になります

355名無しさん:2021/10/17(日) 17:49:23 ID:ERjMelD.0
!!!

356名無しさん:2021/10/17(日) 22:49:49 ID:qGGwqWoI0
休日ですし今から投下します!

357名無しさん:2021/10/17(日) 22:53:02 ID:qGGwqWoI0





「脾都」


「いま世界がどうなってるか、知ってるかい」


「いいや、知らなくてもいい。ただ…想像したことはある?」


「…それは違うよ。世界は法則に過ぎない。空間に無限の広がりがあるとはいえ、みんな法則に従っている」


「それに、世界の全ては生活の中にある」

「だから…君は想像したことがあるかい?」






.

358名無しさん:2021/10/17(日) 22:53:32 ID:qGGwqWoI0


知らない男の声が聞こえる。


はじめたのは13の時から。
昼過ぎに一回、寝る前に一回
その日は寝付きが悪かった。そんなこと、今までに無かったのに。

診競の青白い手を握っていたが、
気付けば独り、見慣れない闇の中に居た。


光はなく、何も見えないが、大勢があたしを囲んでいる。
彼らは何も言わない。男の声も消えてしまった。

あたしの答えを待ってるの?




.

359名無しさん:2021/10/17(日) 22:54:03 ID:qGGwqWoI0



「…そもそも、あなたは誰?」

訊いても、答えることはない。それは期待されていなかった。
彼らに触れようと数歩歩き出す。
しかし幾度歩いても、彼らの元に辿り着くことはできなかった。奇妙にも気配だけが近く感じられた。

あたしが男の質問に答えるまで、何も起きないのだ。





…世界なんて、

360名無しさん:2021/10/17(日) 22:54:26 ID:qGGwqWoI0


世界なんて、あたしには心底どうでもいい。
診競の他に何も要らない。

あたしは腕組みをして、彼らがどう答えるか待つことにした。


——そのまま、数分が過ぎたように感じられる。



徐に男の声がこう続けた。


「…ああ、そういうことか。君には何も無い」

「君は生活すら持ってないんだったね」

「焦らなくていいよ。僕らはいつも君と一緒にいるし、ひらかれるべき窓もそこにある」



ノパ⊿゚)



「また来なよ」



ノパ⊿゚) あたしがここに来たの?

ノパ⊿゚) 自分の意思で?

361名無しさん:2021/10/17(日) 22:54:56 ID:qGGwqWoI0



目覚め、夢と気付く。
診競が居ない。

あたしは飛び起き、辺りを見渡す。
集会所には人もまばらで、もう朝遅い時間だ。

彼女の姿はない。


ノハ; ⊿ ) ッ….


あたしも、彼女が本当に何を考えているか分かっているわけじゃないのだ。
彼女は繊細で、触れれば消えてしまいそうな、そしてあたしという汚点を照らし出してしまうような光を持った存在だった。

それでも、あたし以外に彼女を救い出すことなんてできない。
見つけ出さねばならない!

362名無しさん:2021/10/17(日) 22:55:25 ID:qGGwqWoI0

ノハ ⊿ ) 亜丹

(; ´_ゝ`)脾都

ノハ ⊿ ) 診競は

(; ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)…そこにいる。危なかったぞ

ノハ ⊿ ) …どういうこと


( ´_ゝ`)俺が外に出てたら、道をふらふら歩いてる彼女を見つけて

( ´_ゝ`)車に轢かれそうだったんで慌てて連れ戻した。今は休ませてるけど、そのなんというか….

ノハ ⊿ )

ノパ⊿゚) …よかった。会わせてほしい

(; ´_ゝ`)もちろん。けど、ダウン中?って感じだが

(; ´_ゝ`)にしても急すぎて…何があったんだ?普段はもっと元気だったよな?

ノパ⊿゚) …そう、ね

363名無しさん:2021/10/17(日) 22:56:01 ID:qGGwqWoI0


ミセ ー )リ


ノパ⊿゚) みっちゃん

ミセ ー )リ …誰?

ノパ⊿゚) しっかりして、あたしだよ

ミセ ー )リ ひーと

ノパ⊿゚) うん

ミセ ー )リ …ごめん。私、何がなんだか

ノパ⊿゚) 言わなくていいよ、大丈夫

ミセ ー )リ …もう、自分でコントロールできないの

ミセ ー )リ …私に、何が起こってるの?

364名無しさん:2021/10/17(日) 22:56:30 ID:qGGwqWoI0
ミセ ー )リ どうして、私の「美」は壊れていくの?

ノパ⊿゚) …大丈夫

ギュッ

ノハ ⊿ ) 大丈夫だよ。あたしがいるから

ノハ ⊿ ) 今日、奏柵を出たら。VIPに帰ったら…みっちゃんの美も戻るかもしれない

ミセ ー )リ 本当に?

ミセ ー )リ 本当に、私は大丈夫なの?

ノハ ⊿ )





ノハ ⊿ ) …うん。本当だよ

365名無しさん:2021/10/17(日) 22:57:11 ID:qGGwqWoI0



———まずひとつ言えるとすれば、世界には渇いた人間と狡猾な人間しかいないということだ。
渇いた人間は狡猾な者を見下す。だから彼は嫉妬される。
両者共に「美」を解そうとしない。だけど本当のところ、彼らの魂は常にそれを求めているのさ。

僕には「美」は水のように思える。
降り、潤し、溜まり、流れていく。
どの土地にも残りはしないけれど、絶望してはいけない。
そこに川があるならば、その先には海があるのだから。





.

366名無しさん:2021/10/17(日) 22:57:47 ID:qGGwqWoI0







Inspired by “The Ape Of Naples” by Coil

https://youtu.be/INMo0sj9AMw






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367名無しさん:2021/10/17(日) 22:58:11 ID:qGGwqWoI0






                美





.

368名無しさん:2021/10/17(日) 22:58:50 ID:qGGwqWoI0

奏柵 第一区 行政庁舎 麻薬取締課


(´・_ゝ・`) よし

(´・_ゝ・`) …礼状が間に合ってよかったよ


(´・_ゝ・`) 諸君。久々に今日はデカく動くぞ

(´・_ゝ・`) もう警官隊は控えてる。僕らは後方から差し押さえるという形だ。各自装備を整えてくれ


(´-_ゝ-`) …辺尼の一件と、彼らがVIP市へ逃れるという情報が入ったのが一昨日の夜だ…色々なことがあった

(´・_ゝ・`) だが、ゆくゆくは組織全体を潰す。このチャンスを逃してはならないぞ



(´・_ゝ・`) 総員取り掛かれ!独生の拠点に急行するぞ!

369名無しさん:2021/10/17(日) 22:59:14 ID:qGGwqWoI0


( `ー´)先輩

(´・_ゝ・`) ん?

( `ー´)辺尼を、このまま放っておいていいんでしょうか

(´・_ゝ・`) …というと

( `ー´)彼女は彼らに接触してる。今日の情報を流さないとはいえないのでは

(´・_ゝ・`) …彼女が独生らに加担してたとすれば、もう手遅れだよ

(; `ー´)…ええ。そうではありますが

(´・_ゝ・`) 彼女が辞めた後どうなったか、君は知ってるかい?

( `ー´)? いいえ

(´・_ゝ・`) …壊れてしまったようだ

( `ー´)

(´-_ゝ-`) 聞いた話だがね。だから、そんな状態の彼女が彼らと協力なんてできる可能性をまず信じてないし、

(´・_ゝ・`) 僕は、一人の人間として彼女を許したいんだ

( `ー´)そうですか

370名無しさん:2021/10/17(日) 22:59:43 ID:qGGwqWoI0


警察車両内

ゴォォォォォ….


(´・_ゝ・`)


( `ー´)


( `ー´)辺尼は、奴らの何を知ったんでしょうかね?

(´・_ゝ・`) …僕にはわからない



( `ー´)「美」でしょうね?

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) …率直に言えば、それについてはもう考えたくない気持ちになってきたよ

( `ー´)…そうですか

371名無しさん:2021/10/17(日) 23:00:18 ID:qGGwqWoI0

(´・_ゝ・`) 君は、「美」を何だと思う?

( `ー´)彼らの行動基準であることは確かですよね?

(´・_ゝ・`) 鋭いな。そうだ、何らかの行動基準ではある

( `ー´)しかしそれは結局、何かの快楽体験とは違うんでしょうか

(´・_ゝ・`) …そうとも取れるが

(´・_ゝ・`) …何か、違うようにも思えるね



(´-_ゝ-`) 個人的に、その話題は僕の過去にダブってくる気がしてならないんだ

( `ー´)先輩の過去ですか?何かあったのですか

(´・_ゝ・`) …あるさ

(´・_ゝ・`) 君は、「美」について客観的な感想以上に何か感じないのか

372名無しさん:2021/10/17(日) 23:01:07 ID:qGGwqWoI0

( `ー´)

(´・_ゝ・`)

( `ー´)いやぁ、全くですね

(´・_ゝ・`) そうか

(´・_ゝ・`) もうこの話はやめにしよう。これ以上は仕事に支障をきたしそうに思える

373名無しさん:2021/10/17(日) 23:01:45 ID:qGGwqWoI0


ファン….
            

             ファン…. ファン….


                   ファン….


ファン….

         ファン….
            

             ファン…. ファン….


                   ファン….


ファン….





.

374名無しさん:2021/10/17(日) 23:02:06 ID:qGGwqWoI0




(´・_ゝ・`) まず先発隊が突入する。中にいる人間を押さえたら、僕らが行くよ


( `ー´)はい


(´・_ゝ・`)

( `ー´)

(´・_ゝ・`)

( `ー´)

(´・_ゝ・`)

( `ー´)












<突入成功。独生含む男3人を確保。一人は逃亡中です。顔は確認できていません!>


(´・_ゝ・`) よし。行くぞ

( `ー´)コクッ

375名無しさん:2021/10/17(日) 23:02:38 ID:qGGwqWoI0


カッカッカッカッ


(´・_ゝ・`) 出視だ。三人の柄は?


< ゚ _・゚> こちらです!案内します


/
あと一人いる!探し出せ!絶対に逃すな!
\


< ゚ _・゚> 逃亡中の男は捻余だと思われます

(´・_ゝ・`) そうか。絶対に逃すわけにはいかない


< ゚ _・゚> この部屋です

(´・_ゝ・`)





ガチャッ





.

376名無しさん:2021/10/17(日) 23:03:00 ID:qGGwqWoI0


(´・_ゝ・`) はじめまして、独生君、臥名君




(;'A`) ちくしょう…チクショウ!

(; ‘∀‘)何でこのタイミングで….ッ!

(; ´_ゝ`)


(´・_ゝ・`) (あと一人居る奴は…見たことないな)

( `ー´)俺は捻余の確保に向かいます

(´・_ゝ・`) 頼む



(´-_ゝ・`) さて….

377名無しさん:2021/10/17(日) 23:03:28 ID:qGGwqWoI0


(; ‘∀‘)て、

(; ‘∀‘)てめえが出視か….

(´・_ゝ・`) ああ。うちの者がお世話になったな


(;'A`)

(;'A`) まさか…辺尼の密告か!?

(´・_ゝ・`) いや

(;'A`)

(´・_ゝ・`) はっきりさせとこう…僕は嘘はつかない


(;'A`) じゃあなんで、

(´・_ゝ・`) まあ焦るなよ。後でじっくりお話しようじゃないか、独生君









.

378名無しさん:2021/10/17(日) 23:03:48 ID:qGGwqWoI0










( `ー´)捻余はどこに!?

[ Д`]この窓から飛び降り逃走中です!

( `ー´)それは何時頃だ?見つかってないのか

[ Д`]3分ほど前です!

( `ー´)…一緒に来てくれ!恐らくあそこから地下通路へ逃げたな

[ Д`]はっ!

379名無しさん:2021/10/17(日) 23:04:18 ID:qGGwqWoI0


奏柵 第一区 地下水道路




( `ー´)灯りはあるか?

[ Д`]はっ!

(; `ー´)気をつけろよ。俺が先に行く、何かあれば俺が撃つ





ザッ…ザッ...

380名無しさん:2021/10/17(日) 23:04:41 ID:qGGwqWoI0


キュッ!!


(; `ー´)ッ!!
  y== スチャッ

[ Д`]動くな!警察だ!



(::::::::::) ダダッ






.

381名無しさん:2021/10/17(日) 23:05:04 ID:qGGwqWoI0


(; `ー´)クソ、追いかけるぞ!







パンッ! パンッ!!



(; `ー´)ッ!!


(; `ー´)(銃まで持っていやがるのか!?)


(; `ー´)応援を呼べ———


(::::::(; `ー´)———なんだ?灯りが



ドッ…..

(; `ー´)


ドサッ

382名無しさん:2021/10/17(日) 23:05:39 ID:qGGwqWoI0



( ´ー`)



(; `ー´)捻余….か! おまえッ…!


( ´ー`) 死にたくなかったら黙ってることだよ

( ´ー`) 俺は捕まるわけにはいかない。そこの警官と一緒に暫く眠ってもらう


ギッ….

(; `ー´)ぐぅっ….

(; `ー´)(こいつ、首を絞め….ッ! だめだ、ていこうできな…)


ギリリリリ…..

(;  ー )


(  ー )




( ´ー`)

( ´ー`) じゃあ、またな

383名無しさん:2021/10/17(日) 23:06:06 ID:qGGwqWoI0



ファン….
            

             ファン…. ファン….


                   ファン….


ファン….

         ファン….
            

             ファン…. ファン….


                   ファン….


ファン….


.

384名無しさん:2021/10/17(日) 23:06:34 ID:qGGwqWoI0




ミセ*゚ー゚)リ ピタッ





ノパ⊿゚) どうしたの?

ミセ*゚ー゚)リ …嫌な予感がする

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) 独生の所へ急ごう


ミセ*゚ー゚)リ …うん

385名無しさん:2021/10/17(日) 23:07:41 ID:qGGwqWoI0




嫌な予感。それはあたしも感じていた。
今朝の夢からずっとだ。とにかく、独生の場所へ急がなければ。その一心だった。

だけど、独生らの住処が近づくにつれて、足がすくんだ。冷や汗が流れる。
空気だ。

嫌な空気が、流れてくる。





独生らの区画へ入るや否やというところで、私は何者かに肩を掴まれた。


ノハ; ⊿ ) ッ!

386名無しさん:2021/10/17(日) 23:08:04 ID:qGGwqWoI0





('、`;川 はぁっ、はぁっ、

ノパ⊿゚) 辺尼…?

ミセ*゚ー゚)リ どうして


('、`;川 今は話してる場合じゃないわ、ついてきて!

387名無しさん:2021/10/17(日) 23:09:22 ID:qGGwqWoI0


('、`;川 私がここに来たのは、あなたたちを助けるためなの

ミセ*゚ー゚)リ それって

ミセ*゚ー゚)リ 独生たちに、何か

('、`;川 ええ。みんな、手視に捕まったわ

ミセ*゚ー゚)リ そんな!?

('、`;川 捻余から公衆電話で連絡があって。彼だけ逃げ切ることができたみたいなの、それであなたたちを匿ってくれって…

ノパ⊿゚) どうして!辺尼が巻き込まれることないよ

('、`;川 あなたたちの携帯が盗聴されてる可能性があるからよ。それに、私も借りがあるし…

ノパ⊿゚) …それじゃあ、これからどうすれば

388名無しさん:2021/10/17(日) 23:09:44 ID:qGGwqWoI0

( 、 *川 私があなたたちを捻余が指定した場所へ連れて行く


('、`*川 第二区に行くわ

ミセ*゚ー゚)リ 危険だよ、第二区なんて!

('、`*川 大丈夫。私は第二区の出身だから土地勘はある

ノパ⊿゚) …っていうことは、このまま捻余の知り合いに匿ってもらうってこと?

('、`*川 そうなるわね…申し訳ないけれど、私はそこまで

ノパ⊿゚) ありがとう

389名無しさん:2021/10/17(日) 23:10:05 ID:qGGwqWoI0





あたしたち三人は、人目を避けるようにして、夜の公園を進んだ。
公園を出た後は、大通りからすぐに路地裏へ入り、表と裏を縫うように、入り組んだ道を第二区へと進んでいく。

黒く聳え立ったビルとビルの隙間から、大きな月が見えていた。

診競の手は今までになく冷たく、震えていた。
あたしは絶望を感じた。





.

390名無しさん:2021/10/17(日) 23:10:28 ID:qGGwqWoI0


数十年前、第一区の一部が現在の官庁街/経済街として再開発された。
その時に大量に動員された労働力は、実際のところその多くが違法在留者や戸籍のない者が闇斡旋を通じて補充されていたという。
そうして開発が済んだあと彼らは暗黙のうちに、大きな運河を挟んだ反対側にある第二区に安値で居住することを許された。そこには元々開発従事者のためのアパートメントが大量に建設されていた。

時を待たずして、区画自体が巨大なスラムとして形成されるようになった。
元の第一区の権利者達は政府から多額の賄賂を受け取り、その活動範囲を第二区へ動かした。表層部こそ商業施設などが立ち並び、比較的安全に思われるが、その深層はあらゆる重犯罪の温床で、一般人が立ち寄ることを許されない。

…これがあたしがかつて捻余や独生から聞いた話だ。
つまり、そこは身を隠すには最適の場所であると同時に、最も危険な場所。

391名無しさん:2021/10/17(日) 23:11:02 ID:qGGwqWoI0


最終的に、危険な空気の漂う、寂れた路上の一角に辿り着いた。
秋の夜は冷え込み、殺気をまとった風が吹いている。
風は塵を巻き上げ、通りを東から西へ駆け抜けていく。

通りは辺一面真っ暗で、ただ一つ、ガラスの割れた公衆電話ボックスだけが黄色い光を放っていた。

そこでは捻余が、見たこともないような気配を発しながらあたしたちを待っていた。
闇を生きる男の殺気だった。
「美」を宿していた普段の彼の姿は、今やどこにもなかった。

392名無しさん:2021/10/17(日) 23:11:24 ID:qGGwqWoI0

( ´ー`) 感謝するよ

('、`*川 二人を、頼むわね

( ´ー`) …すまねえが、帰りは送りかねるよ

ノパ⊿゚) そんな、こんなところに一人残していくなんて!

( ´ー`) 無理だよ。俺らはすぐに隠れないといけない


ミセ*゚ー゚)リ 辺尼はリスクを負ってるんだよ、利用するだけ利用するなんて、間違ってる

('、`*川 いいの。私はそこらの男だったら倒せるわ

ミセ*゚ー゚)リ そんな、

( ´ー`) あんたが捜査官だってことを見込んで頼んだ。覚悟はできてるだろうよ

('、`*川 ええ

393名無しさん:2021/10/17(日) 23:11:55 ID:qGGwqWoI0

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) 気を付けてね。辺尼

('、`*川 大丈夫よ。そちらこそ、無事でいてね

('、`*川 捻余。部外者を第二区に匿うなんて、普通だったらありえないわ


( ´ー`) …百も承知だよ

('、`*川

('、`*川 それじゃあ、ね。行くわ


彼女は懐から銃を取り出すと、それを分厚いコートのうちに隠すようにして、素早く闇の中へ消えていった。

394名無しさん:2021/10/17(日) 23:12:19 ID:qGGwqWoI0


( ´ー`) いいか、これは非常にマズい状況だ

( ´ー`) けどこれしか方法がなかった。俺が第二区に住んでたころの知り合いに廿って男がいる

( ´ー`) 多分、今頃最悪の男になってると思うが、なんとか頼んでみるつもりだ

ノパ⊿゚) …分かった

ミセ ー )リ

( ´ー`) …だから最初に言っておくが、ここの人間は「美」なんて知らねえ

( ´ー`) 甘い考えは捨てろ

ミセ ー )リ ッ….


( ´ー`) …診競には酷だろうが、耐えるしかねえよ。とにかく、絶対に隙を見せるな

395名無しさん:2021/10/17(日) 23:12:40 ID:qGGwqWoI0

ノパ⊿゚) 独生たちは、助かるの

( ´ー`) 俺が動く。予め打ち合わせたことがあるんでな

( ´ー`) 少しでもこんなクソみたいな場所に居ないで済むよう、全力を尽くすよ

ノパ⊿゚) …ありがとう








( ´ー`) …よし。行こうか

396名無しさん:2021/10/17(日) 23:13:03 ID:qGGwqWoI0
十,了

397名無しさん:2021/10/18(月) 13:53:55 ID:JCfwsNfU0
乙です

398名無しさん:2021/10/21(木) 00:19:52 ID:LJ.x8yv20
乙!ずっと待ってた!続きが気になる

399名無しさん:2021/10/23(土) 11:31:20 ID:byzemKpw0
今日か明日にでも十一を投下しようと思います

400名無しさん:2021/10/23(土) 12:02:36 ID:eVLykt6Q0
やったー待ってる!

401名無しさん:2021/10/23(土) 17:13:06 ID:byzemKpw0

通りを離れ、建物の裏手へと回る。
そこには人一人が通れる程の隙間があり、そこからぞっとするような漆黒が覗いていた。
奥からは、何者かが、あたしたちを見ているように感じられた。


捻余は迷わずその中へ入っていった。
あたしたちも同じ闇の中へ身を投げた。


(:::::::::::) …..。


月明かりでにぶく照らされる彼の後ろ姿。
右手は常に壁を撫でていた。
暫く進んだところで、彼は動きを止めた。


(:::::::::::) …ここだ


見てみると、彼の右手は、壁の表面に唐突に現れた郵便受けのようなものに触れていた。
彼はそれを指で軽く小突く。小さく、しかしはっきりとした音が静寂に鳴り響いた。

402名無しさん:2021/10/23(土) 17:13:35 ID:byzemKpw0


息をつくまもなく、郵便受けの蓋が内側から開かれ、両目がその中から覗いた。


「…誰だ?」


(:::::::::::) 捻余だよ。廿と話したい


「とっとと失せろ」


(:::::::::::) イキんじゃねーよガキが

(:::::::::::) いいか?もう一度言うぞ

(:::::::::::) 廿に話を通せよ


「….。」

「…わかった。そこで待ってろ」

403名無しさん:2021/10/23(土) 17:14:19 ID:byzemKpw0

数分して、左側の壁の扉が開かれた。
右側の建物と、左の建物はどこかで連絡しているらしい。

青白い光が漏れ出し、扉には人影。
ゆっくりとした足取りで少年が姿を表した。


(#゚;;-゚) ….廿の部屋まで案内する。入れよ


ノパ⊿゚) (…..!!!)



泥!

火傷を負った無表情。
辺尼と一緒にいった時に見たものと同じ。
間違いなく、同一人物だった。


(#゚;;-゚)

彼はあたしの目線に気付き、目を合わせた。
彼の目は、歳の割には信じられないほど据わっていた。瞳はどこまでも真っ黒で、あたしを睨むようにして決して目を逸らさない。


( ´ー`) 行くぞ

ノパ⊿゚) う、うん….


あたしから目を逸らさずにはいられなかった。
診競があたしの左手を強く握るのを感じた。

404名無しさん:2021/10/23(土) 17:14:43 ID:byzemKpw0


通路は薄暗く、異常に細長かった。
その上、いくつも道が分岐していた。
床には注射針や薬剤の殻が散乱し、青白い照明の光を受けて鈍く輝いている。

恐らく、「すぐに殺せる」ようにこのような構造になっているんだろう。どの曲がり角にも人の気配と、殺気を感じた。


ノパ⊿゚)(監視されてる…)

( ´ー`) 何も見るなよ

ノパ⊿゚) …うん

通り過ぎた部屋のドアが開いていて、夥しい量の血が一面に飛び散っているのを視界の端に捉えた。青白い肌の男が、血の海でしゃがみ込み、いやな水音がしていた。

ミセ; ー )リ

照明のせいではないだろう。診競の顔色はどんどん悪くなっていった。
彼女の脈が遅くなっていくのを、掌で感じた。

先導する少年の後ろ姿は、どこにも隙がなかった。だけれど、どこか今にも潰れてしまいそうにも思えた。

405名無しさん:2021/10/23(土) 17:15:47 ID:byzemKpw0


あたしたちは一言も漏らさず、いくつか角を曲がり、2階へと続く階段に辿り着いた。踊り場には鏡が置いてあり、この場に相応しくないほど綺麗に磨き上げられていた。階段を上り切ると、また細い通路が真っ直ぐあった。

右の壁際には古ぼけた革ソファが置いてあり、そこに痩せこけた女がぐったりとしていた。まるで骸骨が寄りかかっているようだった。
彼女の目は開いてる。けど天井の一点を凝視したまま、あたしたちに気付いていない。彼女の纏っているボロ布の隙間から、彼女の胸から腹にかけて、巨大な刺青があるのを見た。それはゆっくりと動いているように見えた。

少年は彼女に一瞥もくれず、ただ通り過ぎた。


.

406名無しさん:2021/10/23(土) 17:17:20 ID:byzemKpw0


このようにして、何回か階層を上がり曲がりくねった通路を行ったところで、
少年は一つの扉の前に立ち止まった。

扉を叩く。初めに2回。遅れて3回。
少しして扉の鍵が開いた。


(#゚;;-゚) 入れ


( ´ー`) ああ

ノパ⊿゚)セ*゚ー゚)リ ….っ

407名無しさん:2021/10/23(土) 17:17:52 ID:byzemKpw0



ガチャ…


(#゚;;-゚)


( ´ー`) 廿










(; ゜三゜) んんーーーーーーッ!? んんーーーーーーーっ!?


( ^ν^)うるせえな。ぎゃあぎゃあわめくんじゃねえよ



.

408名無しさん:2021/10/23(土) 17:18:52 ID:byzemKpw0

( ^ν^)
つ====> スー

ジューーーーーーーーー….


(; ゜三゜) んんんんんーーーーーーーーッ!!!?!?!?


( ^ν^)あーーうっせ。だめだ耳いてえ

「( ^ν^) ポリポリ


( ^ν^)ねえ仕亡さん。こいつに半田で拷問する必要性あるとおもいますー?


( `ハ´)….。


( ^ν^)

( ^ν^)ないよな。え?

バリバリッ

409名無しさん:2021/10/23(土) 17:20:04 ID:byzemKpw0

(; ゜W゜) ブハッ!!ハァッ!ハァッ!ハァッ!

( ^ν^)なんか言うきになった?


(; ゜W゜) ヒィィィィィ! ほんとに!勘弁して下さい!

( ^ν^)

ゴッ


( ^ν^)ふざけてんのか?口開けろ
つ====>

(; ゜□゜) あ、アァァァァァァァァァァァ!!!!!


ジューーーーーーーーーーーーーーーーー



アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアジェネおsめkdっmdcrjfんっtんtnっtkっよごgんsグッ!
ア゛ッ…… ァ゛…ッ!  カハッ……



(; 。皿。) ヒューーーーー…..ヒューーーーーーー



( ^ν^)仕亡さーん、あとお願いしていいっすかぁ。頭痛いすわ

410名無しさん:2021/10/23(土) 17:20:32 ID:byzemKpw0

( `ハ´)殺すのか

( ^ν^)はいー。パパっとお願いします


(#゚;;-゚) 終わった?


( ^ν^)あ?


(#゚;;-゚) 案内したけど


( ^ν^)….あー

411名無しさん:2021/10/23(土) 17:21:13 ID:byzemKpw0




( ´ー`) ノパ⊿゚)セ ー )リ ガタガタ…..




( ´ー`) …久しぶりだな。廿




( ^ν^)










.

412名無しさん:2021/10/23(土) 17:21:47 ID:byzemKpw0







                美







.

413名無しさん:2021/10/23(土) 17:22:29 ID:byzemKpw0



これはダメだ。
これから待ち受ける生活に、診競はもう耐えられない。
考えるまでもなかった。

あたしに今できることは、彼女を強く抱きしめることだけだった。
捻余にも、余裕なんてないんだろう。



( ^ν^)今更なんのつもりだ?

( ´ー`) 友人として、お願いがあるんだよ


( ^ν^)は


( ´ー`)


( ^ν^)そういうのどうでもいいんだよ。ここで育った人間にはさー

( ^ν^)くだらねえ話するんだったらさっさと失せやがれ

414名無しさん:2021/10/23(土) 17:23:15 ID:byzemKpw0

( ´ー`) …それもそうだよ

( ´ー`) 俺の仲間が今夜捕まった。暫く身内を匿ってほしい。見返りに捜査の情報をお前に教える


( ^ν^)なるほどね


( ´ー`) お前は知ってるだろ?

( ´ー`) 俺は第二区を出た後もお前らを庇い続けてきたよ。うちのシマで捜査を撹乱して


( ^ν^)そうだね

( ´ー`) お前らだって、組織との折り合い付けなきゃ死ぬだけだよ


( ^ν^)…んー


( ^ν^)じゃあ、いいよ。匿ってやる

415名無しさん:2021/10/23(土) 17:23:44 ID:byzemKpw0


( ^ν^)連れはそこのメス二匹か?

( ´ー`) いや。播院と文ってやつもいる


( ^ν^)多いなー

( ^ν^)そしたら、やっぱ条件が釣り合わないんじゃねえか?


( ^ν^)よこせよ。その二人


( ´ー`) それはダメだ


( ^ν^)

( ´ー`)





( `ハ´)….。






.

416名無しさん:2021/10/23(土) 17:24:27 ID:byzemKpw0


( ´ー`) そこにいる奴、組織の人間だな


( ^ν^)仕亡さんね


( ´ー`) …あんま話が面倒臭くなると殺されそうな気がしてきたよ


( ^ν^)


( ´ー`) …いいよ。必要なら俺を警察に売って構わない

( ´ー`) その代わり、連れには手を出すな


「( ^ν^) ポリポリ

( ^ν^)…交渉成立かな。どうすかねー。仕亡さん

( `ハ´)ああ


( ^ν^)…じゃ、よろしくー

417名無しさん:2021/10/23(土) 17:25:06 ID:byzemKpw0




一連の駆け引きは一瞬だった。
だけど、30分以上も長いように思えた。
場全体を、恐ろしい緊張感が包みこんでいて、あの男達の意向や気分を害せばすぐに皆殺しになる。そういう感じだった。

あたしでさえそうなのだから、捻余の緊張は尋常ではなかっただろう。そして、診競は….


( ^ν^)泥。こいつらを3階の部屋に案内してやれ

(#゚;;-゚) わかった

418名無しさん:2021/10/23(土) 17:25:37 ID:byzemKpw0

( ´ー`) なあ

( ^ν^)あ?

( ´ー`) あいつらはどこ行ったんだよ?お前の取り巻きとか、第二区の連中は


( ^ν^)

419名無しさん:2021/10/23(土) 17:26:18 ID:byzemKpw0

( ^ν^)おまえ、ほんとどうでもいいこと聞くのな


( ^ν^)腰抜けのてめーと臥名とは違って、おれらは第二区で生きてきたー


( ^ν^)お互い大人になると、利害関係ってのがはっきりしてくる。生き残るには、成功じゃなくて、誰かの失敗がより重要だ


( ´ー`) つまり?




( ^ν^)殺したよ。俺が全員







.

420名無しさん:2021/10/23(土) 17:26:42 ID:byzemKpw0

( ´ー`)

( ^ν^)なんすかー

( ^ν^)ここに住んでりゃ皆誰かを殺すんだよ


( ´ー`)

( ´ー`) …分かったよ


( ^ν^)うぃーす。じゃあまたな

421名無しさん:2021/10/23(土) 17:27:24 ID:byzemKpw0


三階へ向かう途中、さっきの部屋から銃声が聞こえた。
あたし達は、二段ベッドが二つ並んだ簡素な部屋に通された。
長いこと使われていなかったのか、その部屋は埃臭く、電球は明滅していた。


(#゚;;-゚) 三人はこの部屋ね。残りの二人は隣


( ´ー`) …ああ


(#゚;;-゚) 言っておくけど、食うものも金も、自分で見つけることだね

(#゚;;-゚) 俺たちに面倒みる義理はないから


( ´ー`) わかってるよ


(#゚;;-゚) じゃ


ガチャ….



( ´ー`) …クソが

422名無しさん:2021/10/23(土) 17:27:53 ID:byzemKpw0
ノパ⊿゚) ねえ、もうみっちゃんが限界なの

ミセ ー )リ ガタガタガタガタ….

( ´ー`) …ああ。休ませてやろう



あたしと捻余で、顔面蒼白になり震えの止まらない診競をベッドまで運んだ。
最悪な寝心地だった。捻余が彼の布団を下に敷いてくれた。



ノパ⊿゚) 大丈夫…大丈夫だよ…

( ´ー`) 診競に何が起こってるんだよ

ノハ ⊿ ) …わからない。彼女の美が壊れていくのに合わせて、何かが狂ってしまった

423名無しさん:2021/10/23(土) 17:28:44 ID:byzemKpw0

( ´ー`) …本当に、彼女には辛いと思う。独生たちが解放されるまで耐えてくれ

ノハ ⊿ ) うん

ノハ ⊿ ) 捻余…さっき、自分を売っても構わないって言ってたけど

( ´ー`) ああ。その時は何とかしてお前らを別の場所に匿う

( ´ー`) 俺が罪を全部被るのが誰に取っても一番いい

ノパ⊿゚) …そうならないでね

( ´ー`) …正直、時間の問題だよ。三人を先に解放できるよう頑張るしかない

ノパ⊿゚) …わかった

424名無しさん:2021/10/23(土) 17:29:10 ID:byzemKpw0

ノパ⊿゚) あたしはここに残るよ。みっちゃんを見てなきゃ


( ´ー`) …ああ。何か買ってくる。診競に薬でも

ノパ⊿゚) ありがとう

ノパ⊿゚) あと

( ´ー`) …インジェクターか。分かった

ノパ⊿゚) ごめんね












.

425名無しさん:2021/10/23(土) 17:29:49 ID:byzemKpw0




ガチャ…
バタンッ

















ギュッ














.

426名無しさん:2021/10/23(土) 17:30:29 ID:byzemKpw0




















.

427名無しさん:2021/10/23(土) 17:30:57 ID:byzemKpw0


翌日。


鈍い朝の光がカーテンを抜け、部屋に差し込む。
嘗て、この部屋には絶望が塗り込められていた。
どれだけ飾り立てても、それを隠すことはできなかった。

今ここは絶望と共にある。
故に、暗黒は失せ、静けさだけが残っていた。

静かに、その暗がりは透き通っている。




('、`*川 パチ



.

428名無しさん:2021/10/23(土) 17:31:42 ID:byzemKpw0


脾都を送り届けた後、彼女は幸運にも無事に帰宅することができた。
彼女の家は第一区と第二区を隔てる運河の近くにあった。

「引越した方がいい」、手視の言葉を思い出す。
しかし彼女はそうしなかった。

この部屋で彼女を組み敷いた男。
「美」を知った日から、彼女は彼を許すことにしたのだ。
次会った時には、違う言葉をかけてやろうと思ったのだ。

辺尼は机とベッドを除いて全てを処分してしまった。
そのために、朝の光は円く均等に部屋に染み渡っている。
彼女はゆっくりと起き上がり、枕元に置いてある水のボトルを開く。


心は穏やかだった。

429名無しさん:2021/10/23(土) 17:32:16 ID:byzemKpw0


嵐を避けることはできない。
それは私の中から生まれてくるものだから。
以前に彼女が取り込んだ、名も知らぬ本の言葉であった。

彼女は嵐となった。
けれどいまとなっては、静かな風が彼女の周りに渦巻くのみだった。



朝食を食べながら、彼女は机上に無造作に置かれたインジェクターに目を落とす。
以前の彼女と、今の彼女を繋ぐ記念脾である。



.

430名無しさん:2021/10/23(土) 17:33:08 ID:byzemKpw0


この平穏な暮らしの中で、唯一気掛かりがあるとすれば、
それはあの時彼女が見た「小舟の少年」であった。




(#゚;;-゚)

泥。
彼が彼女自身といかなる接点を持っていたのか。それをどうしても思い出せなかった。

その時、彼女に自覚はなかったかもしれない。
しかし「美」は綿々と連なり広がっていく性質のものであるから、彼女が彼の無事を気にかけるのは自明のことであった。


彼女の過去の全ては第二区に捨て置いてきた。
故に、彼との繋がりは第二区との繋がりと同義だった。
そういったことが、昨晩の出来事と共に湧き上がってきたのだ。

431名無しさん:2021/10/23(土) 17:33:46 ID:byzemKpw0


('、`*川 (…だけど、私にはどうすることもできない)

('、`*川 (第二区に戻るのは危険すぎる。あらゆる意味で)


('、`*川 (第一、私がインジェクターを持ってること、使ったこと、)

('、`*川 (バレた時には、全てがおしまいだわ)



ピンポーーーン


('、`; 川 ハッ

432名無しさん:2021/10/23(土) 17:34:15 ID:byzemKpw0




ガチャ




( 、 ;川


( `ー´)






.

433名無しさん:2021/10/23(土) 17:34:40 ID:byzemKpw0


( `ー´)よう

( 、 ;川 お久しぶりです….先輩…

( `ー´)顔色悪いんじゃねーの。大丈夫か

( 、 ;川 いえ…大丈夫です。先輩こそ、その怪我は

( `ー´)昨晩ちょっとやられちまってな。まあそれはどうでもいい

434名無しさん:2021/10/23(土) 17:35:19 ID:byzemKpw0


( 、 *川

('、`*川 …分かりました

( `ー´)話が早いな。知ってること、洗いざらい教えてもらおう

( `ー´)言うまでもねえかもしれないが、昨夜独生とその仲間2名を確保した。捻余は逃走中

('、`*川

('、`*川 …いえ。そのことについては存じ上げませんでしたが

( `ー´)知らねーの?じゃあ何のために聴取されると思ってんだ?

('、`*川 私を疑っているんですよね?

( `ー´)ああ

('、`*川 私は何も知りませんよ。非記の件以来、彼らとは何の関わりもない

( `ー´)…そうかい。どのみち、詳しい話は向こうで聞かせてもらう

435名無しさん:2021/10/23(土) 17:35:53 ID:byzemKpw0



はじめに言えば、捻余は手視の意向を無視していた。
手視は彼女が心神喪失状態であることを信じていたし、無闇に彼女を傷付けることを避けた。

しかし彼には彼女に対する何か引っ掛かりのようなもの——理解不能という感情に近いが——を抱いていた。それは彼に、話を明確にしておくべきだという義務感を生じさせた。

最初のやり取りで、彼女の心が壊れていないことは直ぐに分かった。
捻余にはむしろ、以前より威勢がいいという印象さえ受けていた。
手視の読みはハズレだ——彼はそう確信した。



.

436名無しさん:2021/10/23(土) 17:36:39 ID:byzemKpw0


奏柵 第一区 警察署内 取調室E




( `ー´)…俺の聞きたいことは二つ


( `ー´)まず、昨晩、捜査の情報をあいつらに漏らしたか


('、`*川 いいえ。どうして私が捜査の情報を知ってるんです?私は退職した身ですよ


( `ー´)…まあ、そうだよな。もしそうであれば、誰一人捕まらなかったはずだ

437名無しさん:2021/10/23(土) 17:37:15 ID:byzemKpw0



( `ー´)じゃあ、次の質問



( `ー´)昨晩、捻余と連絡を取ったか?





.

438名無しさん:2021/10/23(土) 17:37:56 ID:byzemKpw0

('、`*川 いいえ

( `ー´)

( `ー´)本当に?


('、`*川 どうして私が彼と連絡を取る必要があるんです?

( `ー´)脾都も、診競も、播院も、文も

( `ー´)誰一人あの場に来なかったんだよ

439名無しさん:2021/10/23(土) 17:38:30 ID:byzemKpw0
( `ー´)前情報によればあの晩、全員が集まる手筈だった


('、`*川


( `ー´)俺らの捜査の情報が、俺らが到着する直前に向こうに伝わってて、捻余は逃走

( `ー´)あの場に居なかった4人の携帯は盗聴してたが、その後捻余との通話記録なし

( `ー´)…想定外の第三者が動いたとしか思えねえんだよ


('、`*川 それが私だと?

( `ー´)俺にとっちゃ、想定内だがな

( `ー´)手視はお前を信じてたが…俺は違う

('、`*川

( `ー´)今朝の様子を見て、思ったより元気じゃねーか!と思ったよ。余計疑わしいってわけ

440名無しさん:2021/10/23(土) 17:39:05 ID:byzemKpw0

('、`*川 今は薬を飲んでいますから。一時期は大変でしたよ。一日中、ものすごい恐怖と絶望が襲ってくるんです

( `ー´)

('、`*川 あなたも、手視先輩も、全てが怖かった

( 、 *川 分かりますか?あなたが「性奴2号」と名付けた女性と連絡しながら私に夕食を誘ってきた時の私の気持ちを

441名無しさん:2021/10/23(土) 17:39:40 ID:byzemKpw0

(; `ー´)ッ!?

(; `ー´)お、おい。それは違うぞ!

( 、 *川 何が違うんです?私は3号になる予定だったんですよね?

(; `ー´)ふざけたこと言うんじゃねえ。話を逸らすな

( 、 *川 逸れてなんか….

( 、 *川

('、`*川 わかりました。では、続けて下さい

442名無しさん:2021/10/23(土) 17:40:48 ID:byzemKpw0

( `ー´)とにかく、お前の携帯電話の通話記録は取らせてもらう

('、`*川 どうぞ




長年取締を行ってきてわかることだが、嘘をついている者にはそれと分かる特徴が出るものだ。彼女にはそれが全く感じられなかった。
ここにきて、捻余は自分の読みが外れつつあることを自覚していた。


直前の会話の内容については、捻余は彼女に声をかけた夜、彼女を性奴隷3号にしようという明確な意思はなかった、と考えていた。
しかしそれは「未必の故意」だった。彼が彼女の心を自身に隷属させようと試みたことは紛れもない事実であった。

( `ー´)(なんだ、こいつ。クソ生意気な女になったじゃねーの)


彼についてここで軽く説明するならば、彼には残酷な二面性があった、と言えよう。

443名無しさん:2021/10/23(土) 17:41:51 ID:byzemKpw0



彼を特徴付けるものは、システムへの従順さと、その反動としての強い支配欲求だった。
有能さの陰には、共感能力の欠如と暴力性が隠れているのである。

彼は法と職責には忠実であるが、真に道徳心を持った人物とは言えない。
彼は義務との衝突が生じない限り、最大限の快楽を求める。
それは公的な場において「好奇心」という形で表出される。
その好奇心はある意味彼を捜査官として有能たらしめていた。

彼はここ最近、「美」というものに好奇心を抱いていた。
手視も辺尼も、ただの犯罪者の合言葉に過ぎない「美」にどうしてあそこまで囚われるのか?
その疑問は、彼女を支配することができなかったという憤りによって大きく膨らんでいた。


.

444名無しさん:2021/10/23(土) 17:43:26 ID:byzemKpw0


( `ー´)

('、`*川

('、`*川 どうしたんですか


( `ー´)俺には、お前のことがわからねえ。さっぱり

( `ー´)どうして、「美」に拘るんだ?

('、`*川 …あなたたちは


('、`*川 あなたたちは私のことを理解できない

('、`*川 もう、何もかも昔とは違うのよ

( `ー´)は?


( `ー´)おまえ何様なんだよ

('、`*川 …こっちの台詞よ

445名無しさん:2021/10/23(土) 17:44:03 ID:byzemKpw0


('、`*川 …どこに行っても、枯れた人間しかいないのね

( `ー´)あ?


('、`*川 その渇きに気付くことすらない。あなたたちは力を使ってその機会を目の前から消していくから

( `ー´)何を言ってるんだ?


('、`*川 どうして怒るの?


( `ー´)

('、`*川 私が無礼だったから?



('、`*川 私が「美」にこだわったのは、世界の全てが嘘に見えたからよ

('、`*川 …じゃあ、帰ります。昨晩の件については、私は何も知らない。話すこともない

446名無しさん:2021/10/23(土) 17:44:30 ID:byzemKpw0




同時刻

同警察署内 取調室F前





(´-_ゝ-`)



(´・_ゝ・`)




ガチャッ








.

447名無しさん:2021/10/23(土) 17:44:57 ID:byzemKpw0



(´・_ゝ・`)


('A`)


(´・_ゝ・`) おはよう。独生くん


('A`) ああ


(´・_ゝ・`) 麻薬取締課課長の手視だ。改めてよろしく


('A`) よろしく

448名無しさん:2021/10/23(土) 17:45:22 ID:byzemKpw0


(´・_ゝ・`) …単刀直入に言おう

(´・_ゝ・`) 君たち3人が組織と何の関わりもないことは、知ってる


('A`) へえ

('A`) …それで?

449名無しさん:2021/10/23(土) 17:45:52 ID:byzemKpw0










(´・_ゝ・`) 取引しようじゃないか

(´・_ゝ・`) 捻余の行方を教えれば、君たち全員を釈放させてやる










.

450名無しさん:2021/10/23(土) 17:50:51 ID:byzemKpw0
十一,了

451名無しさん:2021/10/23(土) 17:51:15 ID:byzemKpw0
補足
名と読み

脾都 ヒート
診競 ミセリ
非記 ヒキ
独生 ドクオ
四威 シイ
播院 ハイン
文 ブン
捻余 ネヨ
臥名 ガナ
亜丹 アニ
辺尼 ペニ
手視 デミ
捻野 ネノ
廿 ニュウ
仕亡 シナ
泥  デイ

452名無しさん:2021/10/23(土) 21:41:46 ID:O/B47W4I0


453名無しさん:2021/10/27(水) 19:55:34 ID:p5OY3ayg0
どんどん不穏な方向へ…
乙!

454名無しさん:2021/11/02(火) 12:22:36 ID:oLLQshDc0
乙 これまでは比較的平和だったのか…

455名無しさん:2021/11/06(土) 04:06:15 ID:ilscDIJU0
美を読んでから、改めてジャスミン読み直したけど、面白いなぁ

456名無しさん:2021/11/07(日) 20:02:19 ID:DfDDM.560
支援
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/190/美.jpg

ヒッキーのこのシーンがすごく好き

続きが待ち遠しい

457名無しさん:2021/11/08(月) 00:24:56 ID:eAkMqSO60
>>456
ありがとうございます!嬉しいです、大切に保存します
続きも近々投下できたらと思います

458名無しさん:2022/02/17(木) 21:37:04 ID:pN7C4/bk0
お待たせして申し訳ありません!投下します!

459名無しさん:2022/02/17(木) 21:38:34 ID:pN7C4/bk0



(´・_ゝ・`) 捻余の行方を教えれば、君たち全員を釈放させてやる

('A`) 二人にも同じことを?

(´・_ゝ・`) いや、この話は君にするのが初めてだし、最後になるだろうね

('A`) …。

(´・_ゝ・`) こちらは、ゆっくり考えてもらっても構わないけど


('A`) 捻余の場所は教えられない。臥名も亜丹も、知らない

(´-_ゝ-`) …そうか

460名無しさん:2022/02/17(木) 21:39:04 ID:pN7C4/bk0

('A`) けど、

('A`) 捻余の代わりに、ある情報を教えられる

(´・_ゝ・`)

('A`) でも他の二人の安全が先だ。二人を解放してくれ。後悔はさせない



(´・_ゝ・`) ああ

(´・_ゝ・`) わかった。どのみち二人は不起訴になる

('A`) …そうだな


.

461名無しさん:2022/02/17(木) 21:39:32 ID:pN7C4/bk0

('A`) 思ったより話が通じるんだな

('A`) 俺らに同情でもしてるのか?

(´・_ゝ・`) 同情?

(´・_ゝ・`) 口の利き方に気をつけた方がいい。君を刑務所に送る口実なんていくらでもあるんだ

('A`) そうか

('A`) …まぁ、最悪俺はそうなってもいい。ひとまず、取引を済まそうじゃないか

(´・_ゝ・`) ああ


く(´・_ゝ・`) ポリポリ

(´・_ゝ・`) 実はね

(´・_ゝ・`) 今日はそんな話をするために来たんじゃないんだ

('A`) ?



(´-_ゝ-`)

462名無しさん:2022/02/17(木) 21:40:23 ID:pN7C4/bk0







(´-_ゝ-`)

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) 「美」

(´・_ゝ・`) …って何なんだ?


('A`)







.

463名無しさん:2022/02/17(木) 21:41:07 ID:pN7C4/bk0








                美







.

464名無しさん:2022/02/17(木) 21:41:44 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) 我々が分からないのは、何故君達が「美」に固執するのか

(´・_ゝ・`) その薬は、現在の研究では単なる幻覚剤とか、興奮剤のように理解されてるし、

(´・_ゝ・`) トリップの類じゃないのか?

('A`) 違う

(´・_ゝ・`) しかしそれは現に存在しないだろう

(´・_ゝ・`) 君たちの「美」は、幻を美化した逃避願望に過ぎないんじゃないのか

('A`)

('A`) …わかった。詳しく説明するよ

465名無しさん:2022/02/17(木) 21:44:17 ID:pN7C4/bk0

('A`) まず、「美」は「幻覚」じゃない

('A`) もっと、思考力とか想像力に近い


(´・_ゝ・`) 想像力?


('A`) 例えば…そうだな、これは俺が前に体験した出来事だが、「動かないはずのものが動く」っていう感覚

('A`) 壁に書いてある落書きとか、刺青とかが、「動く」時がある。けど、実際に動いているように見えるわけじゃない。もしそう感じてたら幻覚だよな

('A`) 俺たちがそれを「動いてる」と言うときは、それが動いてる様が、極めてビビットにイメージできるってことなんだ

(´・_ゝ・`) …なるほど。だから想像力か

('A`) ああ

466名無しさん:2022/02/17(木) 21:45:08 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) つまり君たちは薬の作用で妄想を——

('A`) いや違う。動くったって全部の刺青が動くわけじゃないんだ


(´・_ゝ・`) ?

('A`) ある刺青が、動くべくして動いてるんだよ

(´・_ゝ・`) なぜだ?

('A`) ハッキリとはわからない。だけどビジョンは俺自身や、その対象の過去に結びついている

('A`) だから、なんだろう…「美」は幻覚じゃなくて、俺たちの頭の中でシミュレーションされた内容なんだ。それを言葉の上では「動く」と言ってる。他に適当な表現がないから

('A`) 美は、俺たちを写す鏡だ。同時に、物事の本質を指し示してもいる

467名無しさん:2022/02/17(木) 21:47:29 ID:pN7C4/bk0

('A`) あるビジョンが見えるのには、何かの必然的な理由があるんだ。妄想とは違う

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) 僕の理解が追いついてるかは分からないけど、つまり——




(´・_ゝ・`) 「美」は、第六感みたいなものだ、と





('A`) …ああ

('A`) サイコメトリーとか…物に接触するとそれにまつわるイメージが見えるものに近い。

('A`) もちろん、現実には存在しないものを見る人もいるが


(´・_ゝ・`) …にわかには信じられないな

468名無しさん:2022/02/17(木) 21:48:25 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) しかし、人間の脳は通常殆ど使われてないとも言うし、薬がそれを覚醒したとすれば、ありえない話ではない、か…

('A`) 思うに

('A`) 「理性」とか「言葉」….てやつは、現実のほんの少ししか表現できない

('A`) むしろ、伝達するために現実を偽ってしまう

(´・_ゝ・`) なるほど?

('A`) あんたの真実はそういうものに頼ってる限り、リアルじゃないんだよ

(´・_ゝ・`)

(´・_ゝ・`) だがそれが社会だ

('A`) …そうだな


(´-_ゝ-`) …ふむ

469名無しさん:2022/02/17(木) 21:48:50 ID:pN7C4/bk0




(´・_ゝ・`) 君達のやってることは、「美」なんかじゃない

(´・_ゝ・`) むしろ、この社会を崩壊させるに十分過ぎる、危険能力だ




('A`) そうか

('A`) あんたは、これが社会を壊すと思ってるんだな

470名無しさん:2022/02/17(木) 21:49:35 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) ああ。だから取り締まるんだ

('A`) でも昔は

('A`) 美と共にあるなんて造作もなかったはずだ。小さい子供にだって

('A`) この世界で、俺たちが鈍感になり過ぎたんじゃないのか?



(´・_ゝ・`) 「美」は人間が、昔に戻ろうとするあがきだと?

('A`) …なんとなくな

('A`) それを失った俺たちは、今どこにもいない


(´・_ゝ・`)



('A`) いずれ俺たちは敵じゃなくなる

471名無しさん:2022/02/17(木) 21:50:43 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) どういう意味だ?

('A`) 薬がなくても、ビジョンが見えるやつが出てきたんだよ


(´・_ゝ・`) な、


('A`) 刺青の話は、俺がシラフの時

('A`) 自然の摂理だと思わないか

('A`) それとも、俺らの頭がおかしいのか?


(´・_ゝ・`)


('A`) 間違ってるのはどっちだ?


(´-_ゝ-`)


(´-_ゝ-`) …待ってくれ。追いつかなくなってきた

472名無しさん:2022/02/17(木) 21:51:22 ID:pN7C4/bk0



(´-_ゝ-`)

(´-_ゝ-`) じゃあ今、なにか見えてるのか


('A`) ああ。見えてるよ


(´-_ゝ-`) …聞かせてくれ

473名無しさん:2022/02/17(木) 21:52:07 ID:pN7C4/bk0





('A`) 重たい鉄みたいな気配、がこの部屋にある

('A`) それはあんたらの唄だ。それに合わせて、遠くで波音もする


コツコツ…

('A`) この、机には花がある

('A`) 裏庭にひっそりと咲いていた白い花だ






.

474名無しさん:2022/02/17(木) 21:53:47 ID:pN7C4/bk0




(´・_ゝ・`) 花?

('A`) …俺にできるのは、感じたことを言葉にするだけ

('A`) そしてこれらは、あんたの中から生まれている

(´・_ゝ・`) そうか








.

475名無しさん:2022/02/17(木) 21:54:16 ID:pN7C4/bk0























.

476名無しさん:2022/02/17(木) 21:54:47 ID:pN7C4/bk0






( `ー´)お疲れ様です

(´・_ゝ・`) ああ、怪我は大丈夫かい


( `ー´)心配無用です。捻余を逃してしまい申し訳ありません

(´・_ゝ・`) 気にするな。二人相手に一瞬で倒すとは、相当闘い慣れてるんだな

( `ー´)ええ…あの動きは素人じゃないですよ

(´・_ゝ・`) もっと大人数を向かわせるべきだった。僕の失策だ

477名無しさん:2022/02/17(木) 21:55:34 ID:pN7C4/bk0

( `ー´)独生の聴取はどうでしたか

(´・_ゝ・`) 捻余の場所は聞き出せなかったが、ある情報を提供するそうだ


(´・_ゝ・`) もっとも、臥名と亜丹の釈放が先、だそうだが

( `ー´)乗るのですか?

(´・_ゝ・`) ああ。あの二人は特に重要じゃないからね

478名無しさん:2022/02/17(木) 21:57:36 ID:pN7C4/bk0


( `ー´)こちらは辺尼の聴取を

(´・_ゝ・`) ああ。どうだった

( `ー´)当然ですが、昨晩の件については関与を否定。携帯の使用履歴も調べさせましたがシロです

( `ー´)ですが…これは俺の勘ですが、無関係とは思えない

( `ー´)特に、脾都とは確実に繋がってると思います


(´・_ゝ・`) …そうか。お前の勘か

( `ー´)ええ。奇妙なことに、彼女が嘘を吐いているようには見えませんでしたがね


(´・_ゝ・`) 他には?

479名無しさん:2022/02/17(木) 21:58:15 ID:pN7C4/bk0


( `ー´)

( `ー´)「美」について…個人的に質問したところ、




( `ー´)「あなたたちは私のことを理解できない」「美にこだわったのは、世界の全てが嘘に見えたから」と





(´・_ゝ・`)

(´-_ゝ-`) ハァ…


( `ー´)先輩?

480名無しさん:2022/02/17(木) 21:58:53 ID:pN7C4/bk0

(´・_ゝ・`) 結局、僕らは逃げられないんだよ

( `ー´)?

(´・_ゝ・`) 辺尼の考えてることがわかるか?

( `ー´)いえ…


(´・_ゝ・`) …僕にはわかるよ


( `ー´)あいつは連中に感化されて、善悪の判断が付かなくなったんですよ

( `ー´)社会に生きるものとして、何が求められているのか忘れたんです。先輩の言葉でしょう


(´・_ゝ・`) …。

481名無しさん:2022/02/17(木) 21:59:32 ID:pN7C4/bk0



(´・_ゝ・`) 社会は僕らのためには出来てない

( `ー´)

(´・_ゝ・`) 誰のためにもね


( `ー´)どうしたんです?いつもの先輩らしくない

(´・_ゝ・`) 僕らは自分に嘘ついてるってことだよ

( `ー´)

482名無しさん:2022/02/17(木) 22:00:04 ID:pN7C4/bk0



(´-_ゝ-`) ——と、昔は考えててさ。この考えを忘れようと思った。でも、無理だ


( `ー´)その考え方は、俺たちの信念に反しますよ

( `ー´)安全な社会には、この仕事は不可欠です


(´・_ゝ・`) ああ。僕らにはこの社会の「秩序」を正す義務がある

(´・_ゝ・`) 彼らは犯罪者だ。「矯正」しなきゃならない。そうだろ?

483名無しさん:2022/02/17(木) 22:02:05 ID:pN7C4/bk0

( `ー´)その通りです


(´-_ゝ-`) …煙草吸っていいかな



( `ー´)ここは禁煙ですが


(´・_ゝ・`) 黙っててくれないか


(; `ー´)しかし、


( `ー´)…分かりました

484名無しさん:2022/02/17(木) 22:02:46 ID:pN7C4/bk0

シュボッ…


(´・_ゝ・`)y=〜


(´・_ゝ・`) …そういえば、辺尼は第二区出身だったな

( `ー´)ええ


(´・_ゝ・`) 捻余もだ。つまり…


( `ー´)彼は第二区に隠れていて、辺尼がそれを手助けしている、と?


(´・_ゝ・`) そう思う

485名無しさん:2022/02/17(木) 22:03:18 ID:pN7C4/bk0


(´-_ゝ-`) しかし、気になる点が一つ

(´・_ゝ・`) 職業柄、第二区の連中は何人も見てきたが

(´・_ゝ・`) 連中は嫉妬深いし、打算的で…なにより自己破滅的だ

(´・_ゝ・`) 独生達は何かが違う。連中と上手く付き合える訳がない

( `ー´)はぁ…

(´・_ゝ・`) 彼らは異例過ぎる。それ自体が、「美」の実在を証明しているような気すらするよ


( `ー´)…先輩?


(´・_ゝ・`) 安心しろ。僕は変わらない…昔からずっとね

486名無しさん:2022/02/17(木) 22:04:12 ID:pN7C4/bk0


( `ー´)!

( `ー´)…すみません、次の予定があるので行きます


(´・_ゝ・`) 頑張ってくれ。引き止めてすまなかったな








(´・_ゝ・`)y=~

(´・_ゝ・`) (おかしな事なんて、数え上げればキリがない)

(´・_ゝ・`) (彼の性的暴行の処分を揉み消したのも僕だ。誰も気付いてない)

(´・_ゝ・`) (それは僕の従順な部下だから…従順?)

(´-_ゝ-`) (彼も世界に抵抗してるんだな…)


ジュッ


(´・_ゝ・`) (さあ、何をしてる。仕事だ)










.

487名無しさん:2022/02/17(木) 22:05:20 ID:pN7C4/bk0


奏柵 第二区 商業地区 大通り沿い




(;;・∀・;;)じゃ。この後俺用事あるから

リ´-´ル なんの用事?

(;;・∀・;;)大学の友達と飲み

リ´-´ル まーくん、今日デートの日だよ?

(;;・∀・;;)デート!

(;;・∀・;;)これデートだったん?

リ´-´ル ちがうの?

(;;・∀・;;)まあお前がそう思ってるんだったらそれでいいんじゃない?

(;;・∀・;;)ほいじゃ〜

488名無しさん:2022/02/17(木) 22:07:03 ID:pN7C4/bk0


リ´-´ル 待ってよ!

(;;・∀・;;)あーーーウッザ。俺に付きまとうなよ

リ´-´ル

リ´-´ル わかった。今夜、死ぬから

(;;・∀・;;)死ねば?

(;;・∀・;;)…お前があることないことつぶやくせいで俺と俺の周囲が迷惑してんだよ

489名無しさん:2022/02/17(木) 22:08:10 ID:pN7C4/bk0

(;;・∀・;;)そのことについて謝るまで、俺に話しかけんじゃねえ

リ´-´ル …ごめん

(;;・∀・;;)…はぁ、これ何度目?思考が浅いんじゃないの?

リ´-´ル

(;;・∀・;;)お前が自分のキモい所を自覚して本当の謝罪するまで、もう関係持たねえからさ。じゃあな






リ´O´ル 絶対に!死んでやるから!






.

490名無しさん:2022/02/17(木) 22:09:32 ID:pN7C4/bk0


( ^ν^)




(;;・∀・;;)その方がたすかるわ…あークソ萎えたなあ


(;;・∀・;;)間に合うか?電車…ゼミの先輩パワハラ酷えからな…



( ^ν^)おい


(;;・∀・;;)


スタスタ…


( ^ν^)無視すんなって


(;;・∀・;;)

491名無しさん:2022/02/17(木) 22:10:20 ID:pN7C4/bk0


ガッ

( ^ν^)おい

(;;・∀・;;)なんですか?いま急いでるんで


( ^ν^)ニコ….


(;;・∀・;;)警察呼びますよ?

492名無しさん:2022/02/17(木) 22:10:56 ID:pN7C4/bk0



( ^ν^)馬等くーん

(;;・∀・;;)は?


( ^ν^)この前、俺の女と寝たでしょ?

(;;・∀・;;)しらねえよバカか

ゴッ

(;; ∀ ;;)ウッ


( ^ν^)君んとこの先輩が教えてくれたんだよね。君が犯人だって

( ^ν^)裏来な








.

493名無しさん:2022/02/17(木) 22:11:40 ID:pN7C4/bk0












(;;。A。;;)










.

494名無しさん:2022/02/17(木) 22:12:41 ID:pN7C4/bk0



( ^ν^)ふ〜

( ^ν^)ピピピッ


( ^ν^)もしもし?俺だけど。馬等君殺っといたから。そっちに行くまでもなかったね

( ^ν^)ははは、泣いてんの?

( ^ν^)ま、今後ともよろしくね。俺から逃げられると思うなよ

ピッ…




リ´-´ル まー…くん?


( ^ν^)

( ^ν^)まだ死んでないかもよ。助けてあげたら?

495名無しさん:2022/02/17(木) 22:13:50 ID:pN7C4/bk0
リ - ル まーくん!まーくん!

リ - ル ねえ、返事してよ、ねえ

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、


( ^ν^)




リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

496名無しさん:2022/02/17(木) 22:14:31 ID:pN7C4/bk0


( ^ν^)名前呼んだって助からないよ?何がしたいの?


ζ(゚ー゚*ζ ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

( ^ν^)真似すんな2倍にうるせえだろ



ζ(゚ー゚*ζ このキチガイ女、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、


リ - ル ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、

ζ(゚ー゚*ζ ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえってば!

リ - ル


ζ(゚ー゚*ζ 黙った!





.

497名無しさん:2022/02/17(木) 22:15:07 ID:pN7C4/bk0


リ - ル まーくんは…どこですか?


ζ(゚ー゚*ζ そこにいるじゃない

リ - ル ちがう…まーくん…かえして

ζ(゚ー゚*ζ 返すも何も、そこにいるっての!



リ - ル これは、まーくんじゃない

498名無しさん:2022/02/17(木) 22:15:37 ID:pN7C4/bk0


ζ(゚ー゚*ζ まーくんだよ?死んでるけどな!

ζ(゚ー゚*ζ 現実を見なさいよ


( ^ν^)お前の尻拭いしてんだぞこっちは

ζ(゚ー゚*ζ この女持ち帰っていい?

( ^ν^)あ?

ζ(゚ー゚*ζ いいでしょ?

ζ(゚ー゚*ζ 契約違反してないよ

( ^ν^)お前それが目的だったか

499名無しさん:2022/02/17(木) 22:16:44 ID:pN7C4/bk0


ζ(゚ー゚*ζ さあ早く、一緒に来て!

リ - ル 嫌だ!まーくんと離れるなんていや!

ζ(゚ー゚*ζ その死体一緒に連れてってあげるからさ!ね!


( ^ν^)うるせえな、見つかる前に早く行くぞ


( ^ν^)泥、まーくん運んで


(#゚;;-゚) わかった

500名無しさん:2022/02/17(木) 22:17:28 ID:pN7C4/bk0





( ^ν^)あー。今日は捻余の残りの連れが来るんだったな

( ^ν^)めんどくせーなマジで…全員殺るか?






.

501名無しさん:2022/02/17(木) 22:18:02 ID:pN7C4/bk0
十二,了

502名無しさん:2022/02/18(金) 01:26:30 ID:DV4kXQAA0
待ってた、乙!

503名無しさん:2022/02/18(金) 01:41:41 ID:mlenhAko0


504名無しさん:2022/02/22(火) 21:55:52 ID:MJ3xzrqY0
面白い乙
捜査官側にも揺らぎが見えてきていい

505名無しさん:2022/03/04(金) 22:35:05 ID:.WmLJPlo0
面白い、どうなってくのかまったく予想がつかない

506名無しさん:2022/03/25(金) 11:02:46 ID:ErMOtUJc0
乙!
新キャラ出て来てどうなるのか楽しみ

507名無しさん:2022/07/05(火) 22:52:37 ID:WMxosoqY0
期待あげ

508名無しさん:2023/04/28(金) 16:26:21 ID:8qlWMx6c0
お久しぶりです。今は凄くゆっくりになっていますが,美は続けて執筆していこうと思っています
終わりのぼやけた曖昧な物語がずっと続いていけばなと思います

509名無しさん:2023/04/28(金) 17:14:21 ID:5Xmuk.bU0


510名無しさん:2023/05/02(火) 15:32:53 ID:qsky..U.0
生存報告聞けて嬉しい
応援してます


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