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ドクオの背骨
1
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/01(金) 21:53:32 ID:iWpo9g3E0
〇 愛の存在――NOWHERE――
己が信念を杖に、魂を賭けて立ち向かう。
自分よりも二回りは大きな身体を持ち、自分よりも巧みに身体を操作する相手に、
ドクオは歯を食いしばって食らいついていた。右拳をかわし、左足をかわし、白刃をかわし、弾丸をかわす。
しかし、ふと気がついたその時にはもう、目の前に爆弾が迫っていた。そして、爆発。ドクオの両足が四散した。
('A`)「アバーッ!」
/#,' 3「これでどうだッ!? こんの、わからず屋がッ!」
前のめりに倒れこんだドクオの頭部めがけて、
巨大な五指を――肉体の体積を集中させて変態させ、更に鋼鉄が如き硬度にまで高めて――を振り下ろした。
ドクオがとっさに横へ転がったため、手のひらこそ地面を叩きつけたが、スカルチノフの指には確かな感触が残っている。
('A`)
頭部を損傷し、脳が一部飛び出していった。ドクオの記憶の一部が吹き飛ぶ。五感が消失する。
視界すべてが白に染まり、それから一瞬の後に、生存本能が脳と肉体の再生を開始する……。
29
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:04:58 ID:LBDXupdA0
( #゚ω゚)「まだ言うのか」
(;A;)「う、うううう、うう、ううう」
ブーンの前足に力が込められた。ドクオの身体がより小さく千切られ、圧殺されていく。
ブーンの、これまでの陽気さが信じられないほど殺気の込められた声と、
<マンドクセ>一の御曹司を殺しかねない行動を前にしても、何も反応しなかったショボンが、ドクオの声に言葉を返した。
(´・ω・`)「この状況でも変わらずに駄々をこねられるのは、正直感服致しました。
どうやらドクオ殿。あなたの傲慢度合いは尋常ではないようですね。私も敬意を払わざるを得ませんな」
(´・ω・`)「そこで問いましょう。
先程、どんなに低能な種族でも理解できるよう、懇切丁寧に教えてさし上げた理由……
そのすべてを解決できる万能の解答を思いついたのですよね?」
(;A;)「うう……うううううう……金だ。金を払うよ」
(´・ω・`)「ほう」
(;A;)「あなた達は、ううう、商人なんだろう? 俺から、仕事の依頼をしたいんだ。
積み荷は俺で、行き先はどこか別の惑星。うううう、ううう、料金は、俺が払えるだけの金」
(´・ω・`)「子供のお小遣い程度では、私共の【天翔ける生の証】号は動かせません」
(;A;)「うあああああああ、頼むよッ! お願いします! あ゛あ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!
もうこれしかないんだよ! この方法しか! やっと来たチャンスなんだ! 僕を連れて行ってくれよおおお!!」
(;A;)「船外作業でも船内掃除でも雑用でも……俺の肉片が必要ならいくらでもあげるからさあ!
あなたのとこで仕事をさせてくださいッ! あんな家には帰りたくない! もうこの惑星にはいたくないんだッ!!」
(;A;)「俺を船に乗せてください! 何でもしますから!」
30
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 21:06:32 ID:jc0j5BF20
ん?
31
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:15:26 ID:LBDXupdA0
(´・ω・`)「お話になりません。船外作業の危険度を甘く見過ぎではありませんか?
EVA――宇宙遊泳――訓練は行いましたか? ゼロG――無重力――の経験はお有りですか?
【天翔ける生の証】号には搬入用・補修用等、補助的なマニピュレーターは搭載されておりませんよ?」
(;A;)「もう嫌なんだよ……飽き飽きしているんだ……誰もいないんだ……」
(;A;)「<マンドクセ>人はどんどんと数を減らしていって、同世代なんてまったく居なくて……。
惑星で一番大きな家に住んでいるのは、俺とヒューマノイドだけなんだ。
母様は俺を産むと同時に死んでしまって、親父はずっと帰ってこなくて、来客なんて記憶に無い」
(;A;)「悪趣味な銀色の宮殿が、俺とヒューマノイド以外を映したことはないんだ……」
ブーンとショボンは、何も言わない。
(;A;)「ねえ! 最近の俺はヒューマノイドを傷つけることを覚えたんだぜ! 殴ったり切ったりさ!
そうすればさあ! 自分の異常を察知したヒューマノイドは親父に伝えるはずだからさあ!」
(;A;)「それなのに……それなのに……」
(;A;)「いつまで経っても剥がれた皮膚や、おかしな形に歪んだ骨格が直らねえんだ。
そのくせ、いつまで経っても変わらない親父からの伝言を、毎朝、再生しやがる……」
(;A;)「……どんな伝言だと思う?」
(´・ω・`)「私の知能程度では、見当もつきません」
(;A;)「『ドクオ。お前を愛している』」
(;A;)「だってよ! マジで笑えるぜ! 毎日毎日言うんだ。
昔から、ヒューマノイドが俺に従うようになってから、ずっとずっとずうううううっと、言い続けてる。
きっと、この先もずっといつまでも変わらないままなんだろうな!」
32
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:20:16 ID:LBDXupdA0
(;A;)「なあ! 頼むよ! ショボンさん! ブーンさん!
物語に登場するような劇的な冒険だったり、倒すべき宿命の敵を求めているんじゃなねえんだ!
“普通ならあるはず“の、尊敬できる教師とか! 対等な友達とか! 恋する異性とか! ……親の愛情とか」
(;A;)「そういうものの代わりに、俺が持っているもの……
手に入れているものは、たったひとつしかないんだ! 金だよ! カネしかねえんだ! 」
(;A;)「ショボンさんは金が欲しいんだろう!? いくらだ? 輸送には何チャンネルかかるんだ?
あなた達に連れて行って貰うには、何チャンネル支払えば良いんだ!?」
(´・ω・`)「“普通”という言葉ほど、意味を失った言葉も無いでしょうな。
ワームホール航路に飛び込み恒星間を移動し、遥か彼方の外宇宙にまで開拓の手を伸ばそうとしているこの時代に、
“普通”なんて言葉は何の意味も持ちません。そんなワードが出てくる時点で、あなたには“常識”が欠けている」
( ^ω^)「おっおっおっ」
ショボンの皮肉にブーンが笑った。
ドクオの凄絶な懇願で間が空いたこともあって、ブーンの殺気は随分と収まり、かつての陽気さが戻っていた。
殺意を感じれば即座に行動不能に出来るよう警戒してはいたが、しかし、ドクオの情状を斟酌したい気持ちも膨らんできていた。
(;A;)「俺が支払えるありったけで足りないのならば、親父の財産を使ったっていい!
だって親父は俺を『愛している』と言ってくれているんだ! だったら、勝手に金を使っても許される……
そのはずだろ!? なあ!? そうだろ!? 息子である俺が使うんだから!!」
(´・ω・`)「そのような“一方的な”親子の絆は到底信用できません。
ドクオ殿のお父上であるスカルチノフ殿は確かに、<マンドクセ>で一番の大富豪です。
しかしどうして、ご子息であるとはいえ、財産を自由に使えましょうや?」
(;A;)「それなら……そうだ! それじゃあ俺をどこかの星で売ってくれても良い!
モディフィカ・スライムは莫大な価値があるんだろ!? だから乱獲されて保護指定されたんだろ!?
見知らぬ種族に虐げられて、一生を奴隷で終えてもいいから、連れて行ってください!!」
(´・ω・`)「おや、ご自身の価値を知っておられたのですか。
それなのによくもまあ、そんな台詞が吐けたものですな。これは大変な勉強家だ」
(´・ω・`)「自身の種族の境遇をご存知なら、<マンドクセ>宇宙港がどれだけ厳重な警備か想像がつきませんか?
特にモディフィカ・スライムについては“輸出”を絶対に阻止できるよう検知センサーを設置し、
正義と天秤を信条とするフッサール人が四六時中監視の目を光らせています」
33
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:23:50 ID:LBDXupdA0
(;A;)「じゃあ、俺はどうすればいいんだ!? ここにいたって、何もない……
もう、嫌なんだよ。たったひとりで本を読んで……劇的な冒険や、綺麗な建物を知って……頭の中だけで遊ぶのは……」
(´・ω・`)「駄々もそろそろ尽きたようですな。感情の発露、ありがとうございました。いやはや、大変な事情で」
(´・ω・`)「それではこちらも真摯に答えなければなりませんね。
ブーン。ドクオ殿を解放して差し上げなさい」
( ^ω^)「了解」
(´・ω・`)「ドクオ殿。結論を出しますが、よろしいでしょうか?」
ドクオは答えない。
自由の身になったにも関わらず、ブーンに踏みつけられていた体勢から動こうともしなかった。
(´・ω・`)「チャンネルを支払うというお言葉。もしも私共の希望する金額を満たすのであれば、
愚かな私が並べ立てた問題の、ほとんどすべてを解決する即妙の答えでした」
(´・ω・`)「しかしながら私は、残酷な答えをドクオ殿に返さなければなりません。
おお、心が痛みますが、これもまた商人の性、引いては私が良心の呵責に耐えられないが故の答えでございます。
どうか、“親”という存在を今一度考えてみてください。絶滅危惧種の、血を分けた、たったひとりの、息子。その意味を」
ずるりと多量の粘液が床を移動する音。
ショボンの言葉が続けられる前に解答を理解してしまったショックで、ドクオが動いたのだ。
(´・ω・`)「スカルチノフ殿の許可がなければ、いくら莫大な金銭を提示されようとも、
例え何百万チャンネルを積まれようとも、残されたスカルチノフ殿の気持ちを考えれば、
ドクオ殿を至難の旅路――僅かな報酬。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し――に連れ出すなど、とてもとても」
目を伏せて首を横に振り、両手を目一杯広げてから、悲しげな声でショボンは言った。
大仰な動作は嘲りの意味を含んでいる。ドクオの吐露を聞いて同情心がより強まったブーンは、船長の行動が愉快ではない。
(;A;)「誰も……誰も僕を愛していないッ! だったら、それじゃあもう……!!」
刹那の後、ドクオが発光し、曳光弾のように変化して客室の扉を潜り抜けていった。
飛び散った自身の肉片を回収せずに飛び去ったので、彼の身体は今、小動物ほどの大きさしかない。
そのため中空に残った光の軌跡はとても細く……やがて、大気に飲み込まれるように消えた。
まるで、ドクオの未来の展望を暗示しているかのように。
34
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:26:24 ID:LBDXupdA0
( ^ω^)
(´・ω・`)
しばらくの間、ショボンもブーンも口を開かなかった。
水色のモディフィカ・スライムの肉片が飛び散った客室――磨かれた壁、調度品、異星のタペストリーなどに付着している――を、
掃除しようととする動きさえ見せなかった。各人、思うところがあり考え込んでいた。
( ^ω^)「ショボン」
(´・ω・`)「気持ちはわかりますよ。ブーンに命を握られ、私に拒絶されながらもあれだけの言葉が吐ける……
嘘っぱちの現実逃避や、中途半端な家での気持ちでは絶対にないですね。あれが今のドクオ殿の“背骨”なのでしょう」
(´・ω・`)「しかし、どうしても連れていけませんな。
チャンネルを支払って貰ったとしても、私達が脅した、手引したと言われるに違いないのですから」
( ^ω^)「……そうかお」
(´・ω・`)「“ここではない、どこかへ”」
(´・ω・`)「私達も、そうでしたからね。気持ちはわかります。
ですが、感情で重量を増やすわけにはいきません」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「それよりも……」
ショボンが部屋の隅に取り付けられたスピーカーに目線を送る。ノイズが聞こえた。
続いてソファー正面にあるスクリーン――ドクオの肉片がまだらに飛び散っている――の電源を入れると、乱れた映像が映った。
やがて周波数を合致させ終えたらしく、相手の姿がクリアに表示された。
軍服に身を包んだフッサール人――頭のてっぺんから足の爪先まで毛むくじゃらの、鋭い眼光を持つ種族だ。
余談であるが、余程親しい相手でないとほとんど彼らは見分けがつかない――が、スクリーンいっぱいに映しだされた。
すでに、ショボンとブーンを排除すべき対象とみなしているようで、
今にも画面から抜けだしてきて噛みつかんばかりに睨みつけている。
ミ,,゚Д゚彡『こちらは宇宙港管制塔。【天翔ける生の証】号よ。
貴船から我々が守護するモディフィカ・スライムが半狂乱になって逃げ出してくるのを確認した』
(´・ω・`)「貴殿は誤解をしておられます。話を聞いて頂ければ円満に終わることを約束いたします」
ミ,,゚Д゚彡『言い訳は無用! いますぐに我々フッサールの精鋭が貴船に乗り込む。
手荒い真似をされたくなければ無駄な抵抗はしないことだ。例えホライゾンだろうと食いちぎるぞ』
( ;^ω^)「ヒエッ」
35
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:31:33 ID:LBDXupdA0
(´・ω・`)「もちろん抵抗などいたしません。
船内に設置した映像データを拝見して頂ければ、穏便に済むのはわかっておりますので」
宇宙船の入り口からどたどたと騒がしい足音が押し寄せてくる。
さすが宇宙に名の知れた警備種族だけあり、連携の取れた動きで油断せず危険に備えている。
客室内に彼らがたどり着いた際、粘り気ある水色の欠片が四方八方に飛び散っているにも関わらず冷静そのものだった。
ミ,,゚Д゚彡「隊長。我々の見立てによると、このスライムはドクオ様のもので間違いありません」
ミ,,゚Д゚彡「ショボン船長。両手を上に、うつ伏せになってください。ブーンさんは足を畳んで床に座って手のひらを見せて」
ミ,,゚Д゚彡「今から質問をします。余計なことは言わずに返事だけをお願いします」
ミ,,゚Д゚彡「入港時の資料と照らしあわせますので、嘘偽りのないように」
ミ,,゚Д゚彡「そうだそうだ!」
フッサール人は精神を共有しているため、“一人称を持たない”。
同調の深浅や上下の関係は互いの調整により可能で、現在の彼らは取り調べにおいて完璧に同調していた。
やがで強固な自我を獲得し、精神同一体から完全に抜けだした存在が産まれ、
フッサール人全体の集合精神を乱すことになり彼らの存亡をかけた戦いが始まるが……
けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう。
正義と天秤を信条とする彼らは完璧に平等に判断を下すため、
ショボンは争いごとになる心配はしていなかった。映像データを見せさえすれば正当防衛が認められるのだ。
容姿がまったく同じ彼らが、何度も何度も訓練された見世物のように動き回っていた。
【天翔ける生の証】号を手際よく調査――危険・毒性物質が撒き散らされないか。刃物や爆発物がないか――し、
順序よく矢継ぎ早に質問――船体識別番号。名前、種族。<マンドクセ>への寄港理由。ドクオの逃走の理由――した。
ミ,,゚Д゚彡『貴様らがいくらモディフィカ・スライムを連れだそうとしたところで、絶対に不可能である。
現存する全モディフィカ・スライムの細胞を採取し、通過時に検知する完璧なるセンサーに加え、
恐怖や不安などの感情を察知して反応するセンサーも、この宇宙港には設置されているのだからな』
画面に映ったフッサール人が鼻息荒く犬歯をむき出しにすると、取調中のフッサール人も同じ表情をしていた。
その様子を見てブーンが怯えていた。個人主義の種族・文化で育ってきた彼に充分な恐怖を与える光景だった。
:: ( ;゚ω゚) ::
ショボンはうつ伏せになっているのをいいことに、腕を枕にして目を閉じていた。
(´-ω-`)(商品が予想以上に捌けませんが、ドクオ殿の件は……うまくいきそうですね。
これから先は少しの失敗も許されません。今のうちにゆっくりと休息をとっておきましょう)
少々の眠気を感じる。安らかな顔で意識を沈めていく。そのうちに、誰かが起こしてくれるだろう……。
36
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 21:32:01 ID:as0tilDw0
ショボン様と天駆けるとか出されるとどこ駆けがちらついて困る
37
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:34:10 ID:LBDXupdA0
八 帰宅
ドクオは【天翔ける生の証】号から宇宙港を飛び出し、人気のない街中を駆け出し、何もない平原を通り過ぎ……
地面を蹴りつけ、大声で喚き散らし、全力で飛び跳ねたりして、無闇矢鱈に腹が立つ気持ちが収まるまで、
延々とエネルギーを発散し続けた。やがて縮小された身体の違和感が気持ち悪く、空腹も覚えたので自宅へと足を向けた。
畢竟するに、ドクオの帰る場所はただひとつしか無かった。
遠目からでも必要以上に存在を誇示する輝きを放つ、銀色の宮殿。それが、今の彼の居場所であり、檻であった。
(//‰ ゚)「お帰りなさいませ、ドクオ様」
渋々帰宅したドクオを待っていたのは、料理中のヨコホリだった。
玄関先で待ち受けていたヒューマノイドは、扉を開けたドクオに挨拶だけすると、
ぱたぱたと忙しげに調理場へと戻っていった。切り裂かれた人工皮膚が垂れ幕のように揺れている。
('A`)(メシの時間か。調度良いぜ)
ドクオが家を出て行くとどの程度の時間で戻って来るのか? また、どのような心境か?
ヨコホリは内部メモリーに蓄積された統計結果から、主人は空腹で帰宅すると導き出し、料理の準備を始めた。
そして、“いつも通りの時間”が過ぎた頃に姿を表した彼の反応を外部に認めると、手を止めて出迎えたのだ。
食堂に入ったドクオは椅子に座り、手持ち無沙汰にテーブルクロスをいじり始めた。
ナイフを作り、端に切れ込みなど入れている。ショボンが見れば唖然とする行動であったが、
光沢ある木目調のテーブルや、その上に敷かれたテーブルクロスの価値をドクオが知る由もない。
多数に腕木を伸ばす極めて装飾的なシャンデリアがいくつも吊り下げられた天井。
壁に飾られた宇宙有数の名画。大きくはめられたステンドグラス。宮殿が襲撃される事態に備えた生命維持装置。
そんな贅の限りを尽くされた食堂の壁や床には、過去のドクオの癇癪によって無数の穴や傷がついている。
(//‰ ゚)「お待たせしました」
豪奢な装飾が縁取る皿に載せられて、次々と料理が運ばれて来る。
彩り豊かな茹でた新鮮野菜。肉汁滴る分厚い肉。絹のように艷やかな茸。煌めく白身魚。締めには爽やかな柑橘類。
体積が何十分の一にも減ってしまったため、いつも以上に食欲が湧いていた。生存本能が肉体の増強を求めていた。
('A`) ゴクリ
料理はドクオ好物――ショボンやブーンが一生口にすることができなさそうな品々――ばかりだった。
それがまた彼の怒りをやや刺激した――「些細な原因で喧嘩をしたから、あなたの好きな料理をごちそうするわ」
というような母親を気取った心遣い――が、漂う香りには勝てなかった。空腹はその他すべてを塗りつぶす。
('A`) クソッ
とうとうドクオは食器を手に取り、好きな順番で好きなだけ食べ始めた。
食事の様子をヨコホリが横目で眺めつつ、次の料理の準備にかかっている。
顔面の皮膚がほとんどドクオに切り裂かれてしまっていたためわかり辛かったが、ヒューマノイドは笑顔を浮かべていた。
38
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:37:37 ID:LBDXupdA0
(//‰ ゚)「お体が減量しているようですね……マンドクセ・タブレットを三つ持って参ります」
ドクオの種族モディフィカ・スライムが絶滅の危機に貧し、宇宙法で保護されているのは、
肉体を意思によって変質させあらゆるものを作ることが可能な能力のためであったが、
それぞれ文化・倫理観が違う宇宙中の種族がこぞって<マンドクセ>人を狙った一番の理由は、成長の速度にあった。
エネルギーを摂取した分だけ――蓄えておくことも可能で――身体が大きくなり、
その完璧に近い万能性を持つ肉片を、毎日、かなりの量数剥ぎ取れる。それも、寿命を迎えるまで。
モディフィカ・スライムをひとり捕まえれば、大勢に人間が一生生活に困らないのだ。
かつてひとりのモディフィカ・スライムを求めて、複数の宇宙海賊同士が争いを始めたのが発端となり、
無法惑星<ジョルジュ・ザ・デュエリスト>が作り上げられたのは有名な話であるが……
けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう。
('A`)
ドクオが並べられた料理を平らげる頃を見計らい、ヨコホリはタブレットと水を差し出した。
食後に摂取することによりエネルギー効率を爆発的に高められるこの錠剤は、
誘拐犯が、彼らの身体をより効率的に削り取るために発明されたものであったが、
皮肉にも現在の<マンドクセ>で最も流通していた。
タブレットを飲み下したドクオは無言で席を立ち、自室へ向かった。
柔らかな赤い絨毯の上を歩くドクオが、不意に振り帰った。ヨコホリは何も言わず食器の後片付けを始めている。
ドクオの視線は、動きに合わせてひらめく皮膚と剥き出しの骨組みに向いていた。ヒューマノイドは今日も直っていない。
('A`)(別に、期待はしていなかっただろ)
踵を返し、食堂を出る。柔らかな赤い絨毯から、硬いタイル張りの上へ。
部屋に入ったドクオは一目散に本棚に手を伸ばし、分厚い本を手にとった。
黒い装丁は何度も何度も読み込んだために擦り切れている。ページを開き、読み込んでいく……。
('A`)(恒星を再び活力を得るまで体内で育て、やがて銀河のどこかに吐き出すという恒星を食らって宇宙を渡る鳥。
惑星<ヘブンズ・アルバム>には多くの智慧を持つ住民が建造した、触れるだけで劇的な進化を促してくれるオベリスク。
惑星すべての生命の源であり、今なお新種を産み続ける<地球>に存在する、惑星を覆う途方も無く巨大な水たまり)
いつものように、日常の延長。本を片手に空想の果てまで旅をする。
このままずっといつまでも変わらないままで、ただ過ぎていく月日の上……。
そんなものはもう、ごめんだった。
ドクオの胸中で欲望が今にもはち切れそうなほどに膨れ上がっている。
少し手を伸ばせば届く場所に目当てのものがあるとわかってしまったその時こそ、
欲望は何よりも強い狂乱となって身体を衝き動かす。薄暗い部屋の中、ドクオの目は危険な色に光っていた……。
39
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:42:28 ID:LBDXupdA0
九 来訪
翌朝、ドクオはヒューマノイドがスカルチノフの伝言を再生するよりも早く家を出た。
私物を纏めて――ありったけの金目の物と、自分がかき集められるだけの現金を懐に持ち――宇宙港を訪れる。
宇宙港の管制塔に【天翔ける生の証】号と連絡がとりたいと告げると、
警備員のフッサール人達が諌めるような発言をしてきたが、個人的な商談と告げると呆気無く引き下がった。
犯罪行為が確定していない今、彼らが動くことはない。正義と天秤は融通が利かないのだ。
管制塔から呼び出しをかけると、すぐに反応があった。
スクリーンに椅子に座ったショボンが映る。ドクオには見覚えのない背景だった。
('A`)(コントロールルームか? ……今日しくじれば、俺が一生入れない場所)
早朝だというのに、眠たげな様子ひとつ見せずにショボンは話し始めた。
(´・ω・`)『昨日あれだけ拒絶しましたのに、すぐさまやってくるとは……。
この私、感服致しました。不屈の闘志をお持ちですね、ドクオ殿。たいしたものです」
ショボンの相変わらずの大仰な動作と台詞がしばらく続いたが、割愛する。
昨日、フッサール人に強制的に宇宙船に押し入られた件についても何も言及することはなかった。ドクオは首を捻ったが、
とにかくドクオは面会の資格を得た。何かを言ってくるフッサール人を無視して足早に管制塔を出た。
ドクオが宇宙船の停泊位置にやってくると、ひとりでにハッチが開いた。
商船である【天翔ける生の証】号には他にいくつも、大小様々な――搬入物に応じて使い分ける――ハッチがあったが、
ドクオが通ったのは比較的小さなハッチだった。昨日、ショボンとブーンと通ったものとは別の場所。
(´・ω・`)『殺菌を致します。少々お持ち下さい。簡易的なものですので、ご安心を』
奥にはもう一枚扉があった。二重扉構造だ。
ドクオの背後でハッチが閉じるとスピーカーからショボンの声が流れてきた。次に、壁から清潔な香りの霧が。
ドクオは興奮が高まるのを感じていた。ひとりで、宇宙船に乗り込んでいる。
エアロックは狭かったがそれが余計に鼓動を加速させていた。現実に、非日常の空間に身を置いているのだ。
40
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:45:09 ID:LBDXupdA0
('A`)(……)
宇宙服を装着したショボンが奥の扉から現れる。エアロックを減圧して状態を整える。
ハッチのロックを解錠する。手で押し開けると目に飛び込んでくる幾億もの星々の瞬き……。
その中へ身を投げ出し、船外活動に従事するショボン……そんな幻影が、ドクオには見えるようだった。
簡易的な殺菌とショボンは言っていたが、ドクオにはそうは思えなかった。
船内に夢中になっていたドクオが我に帰るほどの時間がかかり、それからもう少し待たされた。
ようやく殺菌が終わり奥の扉が開く。長く続く通路に出ると、またもやスピーカーから指示が飛んできた。
(´・ω・`)『そこを右でございます。次を左。以降、指示があるまで直進でございます。
……それと、好奇心が疼くのは私も理解できますが、あまり関係のない通路を覗き込まぬよう』
空気の抜ける音と共に扉が横滑りするのにドクオが慣れてきた頃、
不意に、開けた空間に出た。見知った内装の部屋に到着した。磨かれた壁、調度品、異星のタペストリー、
ソファーの正面にあるスクリーン。ドクオの水色の肉片は綺麗さっぱり掃除されていた。
(´^ω^`)「ようこそ、おいでくださいました」
ショボンがドクオを招くよう両腕を広げ、歓迎の意を示していた。
徹底した理屈屋で、鉄面皮で、慇懃無礼な敬語を使い、大仰な動作をとるショボンに対して、
ドクオは理知的な印象を持っていたが、今の表情は一転、ひょうきんな――あるいは、逆撫でする――人物に見える。
('A`)
ショボンの笑顔を見るのは始めてだった。
その裏に何かしらの意図があると気がついたとしても、ドクオは決して考えを覆すことはなかっただろう。
41
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:48:25 ID:LBDXupdA0
十 計画
ショボンが小惑星<マンドクセ>にやって来た理由。
入港資料には商売のためと思わせていたが、それは表向きの理由だった。
最大の理由は、かつての無法者達と同じようにモディフィカ・スライムの誘拐。
だがしかし、超えなければならない難関がいくつも存在していた
フッサール人が誇らしげに宣言した通り、まともに釣れ出してしまうと露見しない筈がない。
細胞検知と、感情察知。屈辱の歴史が難攻不落の防衛システムを作り上げたのだ。
(´・ω・`)(しかしこのシステム。穴があるのです)
付け入る隙はいくつかあった。
小惑星<マンドクセ>は不毛の地だ。あらゆるものを輸入に頼って暮らしている。
痩せた土地、育たない作物、草花果実には毒性があり、草を口にする草食動物は体内に毒を貯めこむ。肉食動物も同様に。
食物連鎖の上に行けば行くほどに増していく毒に対して、モディフィカ・スライムは耐性を持てなかった。
そのため、完璧にモディフィカ・スライムを守るなら取るべき手段……鎖星――全宇宙から交易を断つ――が出来なかった。
誘拐の対象であるモディフィカ・スライムの協力を得た場合、細胞検知と感情察知のどちらも解決できた。
種の特性を最大限に活かして自身の肉体を別のものに変態させた場合、採取したライブラリーに該当せず、
希望や楽天が増すように感情を煽り、恐怖や不安や猜疑心を抱かせなければ、双方とも物言わぬ検知器と化す。
ショボンは夢見がちな年齢のモディフィカ・スライムに目をつけて興味を惹き続けようと考えた。
目当ての人材を探し、白羽の矢が立ったのがドクオだった。
宇宙にも影響力を持つ父親がいたのは意外だったが、宇宙へ出てしまえば何の障害にもならない。
捜索願いが流布したところで、存在が発覚した時点で狙われる種族の“生存証明”をしてしまえば、
宇宙の跳梁跋扈は眼の色を変える。救出したところで誰も親切に<マンドクセ>まで送り届ける訳がなかった。
そういう輩に比べるとショボンはいくらかマシであった。
同じように無限に金を生み出す生物と見なしてはいるが、無闇に売りさばいたり切り刻んだりするつもりはなく、
自らが有用的に使うつもりでいた。労働力、宇宙船の補修、簡単な機械の制作等……。
余程の危機、予測できなかった非常事態に見舞われた際に財産にも成りうる船員として扱う予定だ。
これらすべてを、ショボンはブーンに伝えていない。
計画の全容を知れば情に厚い彼が良く思わないのは火を見るよりも明らかであったため、
あくまでも“ドクオの望みを我々商人が善意で叶えてあげる立場”を演出する必要があった。
(´・ω・`)「ドクオ殿。昨日も言いましたが……」
('A`)「親父は説得してきた。『行っていい』だとよ。ほら、こんなにも金を持たせてくれたんだぜ」
宝石、札束、価値ある異星の調度品。ドクオは持ってきた荷物をテーブルの上に広げる。
あまりにも明瞭なドクオの嘘は、双方の利害の一致を表す。両者合意の元に<マンドクセ>を飛び出すのだ。
42
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:53:16 ID:LBDXupdA0
ショボンは計画の終わりを感じていた。残る段階は、あと二つ。
一、ドクオに宇宙港のセンサーを突破する方法を伝えて協力の確約を取り付ける。
二、現在、宇宙港にある監視カメラと管制塔には、ドクオが【天翔ける生の証】号に乗り込んだのが記録されている。
そのため、ドクオには一旦宇宙船を出て行って貰い、ショボンかブーンが誰にも知られることなく再び船に持ち込む。
('A`)「だから、俺を積み荷としてどこか別の惑星に運んで欲しい。費用は俺が持つ」
(´・ω・`)「了解しました」
予想し得なかった了承の返事に、ドクオの動きが止まった。
しばしの間……ようやく意味を理解したドクオが顔を輝かせ、歓喜の雄叫びを上げようとしたその直前、ショボンは言葉を続けた。
(´・ω・`)「しかしながら、<マンドクセ>の宇宙港にはセンサーがついております」
(*'A`)「センサー?」
(´・ω・`)「はい。この突破にはドクオ殿の協力が必要不可欠でございます」
(*'A`)「俺に協力できることなら何でもするぜ!」
43
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:54:22 ID:LBDXupdA0
(´・ω・`)「それでは……」
ショボンが説明をしようとした途端、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
呆気にとられている暇もなく、【天翔ける生の証】号のすべてのハッチが強制的に解錠され、
ものすごい数のフッサール人が雪崩れ込んできた。
蟻の巣に水を流しこんだが如くあっという間にフッサール人が全廊下、部屋を埋め尽くした。
ミ,,#゚Д゚彡「いたぞ!」
ミ,,#゚Д゚彡「こっちだ!」
ミ,,#゚Д゚彡「捕まえろ!」
ミ,,#゚Д゚彡「ホライゾンは何処だ!? 拘束しろ! 暴れさせるなよ!」
ミ,,#゚Д゚彡「そうだそうだ!」
ショボンは混乱していたが、すぐに努めて冷静な思考を展開していた。
あまり大きくない【天翔ける生の証】号とはいえ、商用船である。客室にやってきた数だけで十以上。
耳を澄ませば、外からも喧騒が聞こえてきており、百人以上の規模を動員していると推測できた。
昨日の再現のようにソファーの前のスクリーンが点灯する。
しかし、映しだされたのは、フッサール人ではなかった。
/#,' 3「貴様らかッ! ドクオを唆しおるのは!」
小惑星<マンドクセ>の大富豪。最も大きな権力を持つ男。絶滅危惧種のモディフィカ・スライム。
ドクオの父親、スカルチノフ。
スカルチノフの肥大した身体が、激怒のために真っ赤に染まっていた。
44
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:55:14 ID:LBDXupdA0
十一 連行
眠りから叩き起こされたブーンと、悪巧みが頓挫したショボンはフッサール人に連行されていた。
目的地はドクオの自宅である。轡と手枷をはめられた二人はただ黙って従うほかない。
銀色の宮殿を目にした時、ショボンはあまりの美しさに思わず足を止めた。
見慣れぬ異種族の文化が創りだした建築物が、こころの琴線に触れる。
敷地のぐるりを覆う石造りの壁。アーチの楔石には獅子をモチーフとした装飾がされている。
整然と配置された窓枠、緩やかな弧を描く外壁、天を衝く尖塔。すべてが左右対称形だった。
庭園も、緑と白と茶の調和がとれており、意匠の均整を崩さないように丁寧に維持されている。
足を止めたショボンに気がついたフッサール人が、ショボンの背中を乱暴に押した。
ミ,,#゚Д゚彡「さっさと歩け!」
ミ,,#゚Д゚彡「もたもたするな!」
ミ,,#゚Д゚彡「スカルチノフ様がお待ちであられるぞ!」
ミ,,#゚Д゚彡「誘拐行為には然るべき報いを!」
ミ,,#゚Д゚彡「そうだそうだ!」
轡を噛まされたショボンは何も言い返すことができず、ただ眉を顰めて非難した。
_,,_
( ・三・ )
_, ,_
::( #^三^)::
ブーンは必死に自分を抑え込んでいた。恐れと怒りの感情が同居している。
肉体能力に誇りを持つホライゾンであるというのに、まるで家畜のように拘束され、
船長が暴行を受けても何も出来ないでいる。しかし、同じタイミングで同じ表情を作るフッサール人が怖かった。
いっそのこと、拘束具を引きちぎる勢いで暴れてしまおうか……?
だが、衝動に任せて暴れても状況は不利になるばかりだ。ブーンはかぶりを振った。
45
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:55:55 ID:LBDXupdA0
('A`)「……」
ショボンとブーンから遥か先、先頭を歩くドクオに拘束具はつけられていなかった。
願いが叶う直前で希望が潰えたというのに、喚くことも暴れることもしていない。脳が活動を停止している風にも見えた。
ドクオは、絶望していた。
('A`)(ああ、どうして、どうしてうまくいかないんだ……)
巨大な両開きの玄関扉が開かれると、エントランスホールがある。
宮殿内はうってかわって冷たい銀色がなくなり、壁、床、家具と暖色が多く見受けられる。
エントランスホールから生えた階段が、左右対象に二階へと伸び上がっている。
/#,' 3
エントランスホールの中心に、スカルチノフが立っていた。
(*゚ー゚)
その隣に、かつての姿へと修理されたヨコホリを従えて。
46
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:57:30 ID:LBDXupdA0
十二 再会
('A`)「親父……それに、ヨコホリ……か?」
(*゚ー゚)「お帰りなさいませ、ドクオ様」
/#,' 3「馬鹿息子が。まんまと乗せられおって」
/ ,' 3「でも、うむ、間に合って良かったぞ」
('A`)(……)
ドクオは言葉を失っていた。
もうどれほど会っていなかっただろう。正確には思い出せないほど久しぶりに、父親と顔を会わせた。
ヨコホリの全身の皮膚。骨格の歪みがまっさらに修繕されていた。……反応が、届いた証明だった。
ドクオは、自分が満たされていくのを感じていた。
('A`)(ヨコホリって、あんなに表情豊かだったっけ……。
いやそれよりも、親父だ。親父。俺は、見捨てられていなかったんだな。
じゃあどうして今頃? ……忙しかっただけだったんじゃないか? そうだ、そうだよな)
ドクオの憤怒の塊がゆっくりと溶けていく。鬱憤の原因が全部解決したような気持ちが胸に広がる。
_,,_
( ・三・ )
_, ,_
( #^三^)
('A`)
フッサール人達によってドクオとショボンとブーンが並べられた。
スカルチノフが口を開いた。諭すような優しい声色だった。
/ ,' 3「なあドクオや。今まできちんと説明していなかったかもしれんが、ワシらの種族はとても貴重なんだ」
('A`)「そんなこと、知ってるよ」
47
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 21:59:58 ID:LBDXupdA0
/ ,' 3「生きていると知られただけで攫われる可能性があるから、
惑星の座標は宇宙局に極秘情報として扱うよう言いつけているんだがな……。
宇宙政府関連以外の者は決して知り得ないはずなのだが、稀にこやつらのような者が紛れ込む」
_,,_
( ・三・ ) フガフガ
_, ,_
( #^三^) フガフガ
/ ,' 3「毎日勉強はしているか? どれくらいのものにまで、身体を変化させられるようになった?」
('A`)「さあ。どうかな。試してないからわかんねえよ」
/ ,' 3「どうして試さないんだ。自分の能力は把握しておくべきだろう」
('A`)「見せる相手がいないだろ。使って役に立つ場所もない。
あってもなくても同じだっての。星から出て行くのに邪魔な特性なら、無かったほうが良かったぜ」
/ ,' 3「お前……」
スカルチノフは押し黙った。ドクオが抱えていた寂しさにようやく気がついたのだ。
息子は自分の置かれている状況を十全に理解してくれており、大量の金を与え、
ヒューマノイドに身の回りの世話をさせていれば、健やかにまっすぐ育ってくれると考えていた。
/ ,' 3「そうか……すまなかった……」
('A`)「親父……」
どちらからともなく徐々に歩み寄る父親と息子が、力強く抱擁する。親子間の確執がなくなった瞬間だった。
(*;ー;)「良かったですねえ、ドクオ様、スカルチノフ様」
ミ,,;Д;彡「うっうっうっ」
ミ,,;Д;彡「ぐすぐすぐす」
ミ,,;Д;彡「美しい親子の形だ」
ミ,,;Д;彡「今日この場に立ち会えたことに感謝します」
ミ,,;Д;彡「そうだそうだ!」
ヨコホリと周囲を囲むフッサール人が涙を流した。
まるで時間が止まったかのように、しばらくこの光景が続いた。
_,,_
( ・三・ ) フガフガ
_, ,_
( #^三^) フガフガ
轡をかまされ、手枷をはめられた二人は場の雰囲気に取り残されていた。
ホモ・サピエンスとホライゾンは小惑星<マンドクセ>において、完全な部外者なのだ。
48
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 22:00:38 ID:rQG0dra60
拘束のAA笑うわ
49
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:02:04 ID:LBDXupdA0
十三 背骨
/ ,' 3「商人達を解放してやりなさい」
ミ,,゚Д゚彡「ハッ!」
ミ,,゚Д゚彡「ただちに!」
ミ,,゚Д゚彡「おまかせを!」
ミ,,゚Д゚彡「かしこまりました!」
ミ,,゚Д゚彡「そうだそうだ!」
心配事がなくなり機嫌が良くなったスカルチノフの指示でフッサール人が動き出し、
手際よくショボンとブーンの拘束具を外した。入港時に取り付けられた背の拘束具も外してもらい、
ブーンは大きく伸びをした。全身の自由を久しぶり――三十標準日以上だ――に味わっている。
/ ,' 3「すまなかったな。商人達よ」
(´・ω・`)「いえいえ。どんなにも聡明なお方と云えど間違いは起こすものです。
ましてやそれが、息子であるドクオ殿の危機に関わることでしたら、
早とちりして荒々しい手段を取るのも当然です。故に、私、気にしておりません」
/ ,' 3「そうかそうか……それは助かるぞい」
(´・ω・`)「しかしスカルチノフ殿。親子の感動のシーンに水を差したくはないのですが、
私達は商人であり、ドクオ殿とはすでに契約を結んだ後なのでございます。
このままでは一方的な契約破棄を被ることになってしまいます。この点について……」
/ ,' 3「もちろん、キャンセルの代金は保証させて貰おう。いくらほどになるのかね?」
ショボンは莫大な金額をふっかけようかと思ったが、すぐに思いとどまった。
この場を支配しているのは間違いなくスカルチノフなのだ。気に入らないことがあれば、約束など反故に出来る。
だからと言って、少額では<マンドクセ>までやってきた意味がなくなってしまう。
結局、中古のSSD――スター・スウィープ・ドライブ――機能が搭載された高速単座艇の宇宙船が買える程度の値段を要求した。
50
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:05:57 ID:LBDXupdA0
ショボンが告げた時、ブーンは冷や汗をかいて驚いていたが、
スカルチノフはすぐに了承し、ヨコホリに現金を用意するよう言いつけた。
ヨコホリがエントランスホールから姿を消す。
(*'A`)「ショボンさん、ブーンさん。その……すいませんでした。
俺のワガママでお手数をお掛けして、へへへ、その、恥ずかしい泣き言も聞いてもらっちゃって……」
ドクオがショボンとブーンに近づき、話しかける。
すべてが丸く解決したと思い、上機嫌な彼に対して反応したのは、ショボンではなくブーンだった。
( ^ω^)「ホライゾンの文化ではね、自分の手で父親を殺さない限り、一人前だと認めてもらえないんだお」
('A`)「?」
( ^ω^)「だから、自我を持ったら喧嘩をするなんてしょっちゅうなんだお。
父親は一人しかいないから、兄弟がいる場合はそこでも取り合いになってしまう。
親もそういう文化で育ってきているから、自分が殺される日を望んでいるんだお」
( ^ω^)「今までのことを話し合って、仲良く抱き合って、はいおしまい。
それ以外の愛の形もあるってことだおね。僕は父親を殺したけれど、父を尊敬しているし愛しているお」
( ^ω^)「自分が父親を超えた能力を持つ証明。一人前の証……。
ねえドクオくん、君は“何にでもなれる、無限の可能性を持つ身体”を持っているんだお。
どうして、“本当にやりたいこと”に使わないんだお? “ここではない、どこかへ”行きたい気持ちは?」
( ^ω^)「これが……これが本当に望んだ結末なのか?」
('A`)「ちょっと待てよ、ブーンさん。あんたとは種族が違うじゃないか。勝手に押し付けないでくれ」
(´・ω・`)「ブーン、やめておきなさい」
ショボンの制止をふりきって、ブーンは言葉を続けた。
( ^ω^)「こんな……こんなにも簡単なことで満足してしまったのか?
父親に再会したからって、抱きしめられたからって、ヒューマノイドの傷が直ったからって……
ちょっと優しくされたくらいで今まで全部の感情を許せるのか? こんなことで丸め込まれるのか?」
('A`)「なんだと?」
( #^ω^)「僕に殺されそうな状況になっても、必死で泣き喚いて懇願したあの気概はどうしたんだ!?」
ブーンの怒気に気がついた、スカルチノフとフッサール人達が何事かと訝しがる。
51
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:09:24 ID:LBDXupdA0
/ ,' 3「おいドクオ、どうした?」
( #^ω^)「今は構ってもらえて嬉しくて満足だろうな! でも、この先……いいか!? 断言してやるお!
お前はきっとまた、この先すぐにイライラするお。またすぐに癇癪を起こして、ヒューマノイドを切り裂くはめになる!
それに飽きたら街に行って別の誰かに当たり散らして迷惑をかけ続けて、部屋にこもって空想に逃げ込むだろう!」
( #^ω^)「そして最後には、父親に宥められてまた溜飲を下げる。
一時の幸福に満足して、癇癪を起こしたことを照れくさそうに笑って思い返すのか!?」
(#'A`)「てめえ!」
( #^ω^)「そうやってずっとずっと過ごしていけばいいさ!
ただ明らかなのは、“もう次の時には僕達はいない”ってことだお!
この銀河の端っこのちっぽけな小惑星で何度も何度も繰り返せばいいさ!」
( #^ω^)「いいか!? そんな程度の気持ちで僕達を巻き込むな!
夢が潰えたくせにニヤニヤしやがって。安っぽい感動の寸劇じゃあないんだぞ!?」
( #^ω^)「意思がないなら文句を言うな! 背骨がないなら黙っていろ!」
( #^ω^)「もう二度と僕達に話しかけるなよ!」
(#'A`)「……」
言い終えたブーンは大きく鼻息を吐いた。ドクオは、何も言い返せなかった。
52
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 22:10:45 ID:rQG0dra60
ブーン熱いぜ
53
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:11:54 ID:LBDXupdA0
/#,' 3「そのホライゾンを捕らえろ!」
ミ,,#゚Д゚彡「うおー!」
ミ,,#゚Д゚彡「何をしている!」
ミ,,#゚Д゚彡「スカルチノフ様が拘束を解いてくれたというのに!」
ミ,,#゚Д゚彡「ドクオ様に怒鳴りつけるとは恩知らずの恥知らずめ!」
ミ,,#゚Д゚彡「そうだそうだ!」
スカルチノフの指示でフッサール人の輪がぐっと縮まりブーンを取り囲んだ。
再び拘束具を取り付けようと奮闘する者、足に絡みつく者、上半身に飛びかかる者。
ドクオの心変わりに怒りを募らせたブーンは、どれもこれもを感情に任せて吹き飛ばした。
( #^ω^)「離せ! 気持ち悪いんだおてめえら!」
(;´・ω・`)「あっ、この馬鹿!」
一気に騒がしくなったエントランスホールにショボンは頭を抱えた。
騒ぎになること無く、かなりの利益を上げて惑星を後にする計画――予定の変更こそ生じたが――が、
最後の最後で崩れてしまった。ブーンが感情的になりやすいのは重々承知していたのに、何故もっと強く止めなかったのか……。
(´・ω・`)(私も、ドクオ殿に対して同じ気持ちを持っているからでしょうな。
確かに感じられたと思った“背骨”がこんなにも脆いものだったとは。残念で仕方ありません。
かなりの利益になったとはいえ、やはり、ドクオ殿を秘密裏に連れて行きたかったのは確かですし)
やがてヨコホリが金庫から現金を持ってエントランスホールに戻ってきた。
(*゚ー゚)「ドクオ様……」
怒鳴り散らすスカルチノフの隣についたものの、ヨコホリはじっとドクオを見ていた。
('A`)「……」
たやすく心変わりをしてしまい、それをひけらかしてしまった自分を恥じているドクオ。
ただ立ち尽くしているだけのようだが、心の中で強い決心を固めようとしているドクオ。
目の前の、やがて退屈が訪れるかもしれないがひとまずは満足できる日常か、
かつては魂を賭けて追い求めた宇宙の銀河。夢の冒険の舞台と成り得る非日常か。
('A`)(俺は馬鹿だ)
どうして、こんなことに悩んでいたのだろう。願望、という原点にドクオの考えが急速に纏まっていく。
本当にやりたかったことは、毎夜毎夜夢に見ていたのに……確かに、ここには平穏がある。
でも、そうじゃないだろう? 人に言われてすぐに意見を翻すなんて、本当に俺は馬鹿だ。ドクオは大声を出した。
('A`)「親父! 話がある!」
54
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:13:01 ID:LBDXupdA0
十四 愛の存在――NOW HERE――
己が信念を杖に、魂を賭けて立ち向かう。
自分よりも二回りは大きな身体を持ち、自分よりも巧みに身体を操作する相手に、
ドクオは歯を食いしばって食らいついていた。右拳をかわし、左足をかわし、白刃をかわし、弾丸をかわす。
しかし、ふと気がついたその時にはもう、目の前に爆弾が迫っていた。そして、爆発。ドクオの両足が四散した。
('A`)「アバーッ!」
/#,' 3「これでどうだッ!? こんの、わからず屋がッ!」
前のめりに倒れこんだドクオの頭部めがけて、
巨大な五指を――肉体の体積を集中させて変態させ、更に鋼鉄が如き硬度にまで高めて――を振り下ろした。
ドクオがとっさに横へ転がったため、手のひらこそ地面を叩きつけたが、スカルチノフの指には確かな感触が残っている。
('A`)
頭部を損傷し、脳が一部飛び出していった。ドクオの記憶の一部が吹き飛ぶ。五感が消失する。
視界すべてが白に染まり、それから一瞬の後に、生存本能が脳と肉体の再生を開始する……。
55
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:14:15 ID:LBDXupdA0
仰向けとなったドクオがはじめに認識したのは、青白い空だ。
雲ひとつない快晴に、二つの恒星が浮かんでいる。背中には、ざりざりとした石の感覚。
わけもわからぬまま周囲に目を走らせると、見渡す限りの緑色――刈り込まれた芝や、
多種多様の生物をかたどった樹木――を縫うように敷き詰められた白と茶の石畳。遠くには、銀色に輝く屋敷。
('A`)(ここはどこだ? おれは、今、なにをしてる? は? はああああ?)
千切れ飛んだ断面が泡立ち、盛り上がる。同時にドクオの感覚と記憶が蘇っていく。
形が整い、散り散りになった部分にぴったりと埋まった。そして、現在の状況を完全に思い出した。
スカルチノフはドクオに追い打ちをかけることはせず、怒鳴り声で問いかけた。
/#,' 3「おいドクオ! これでもまだ、出て行くと言うのか!?」
(#'A`)「当たり前だろ!」
ドクオは全霊で叫んだ。今この瞬間こそ、自分がこれまでに生きてきた時間の中でなによりも大事な場面だと。
ずっと求めていた機会がようやく巡ってきたのだ。今回の好機をものに出来なかったら死んだほうがマシとさえ考えていた。
家から出て行きたい息子と、引き止めたい父親。
二人の自宅――惑星<マンドクセ>で一番大きな宮殿だ――の庭で、彼らは対峙している。
ここにいては、決して目にすることはできないものをドクオは求めていた。
このままでは、心を震わせる冒険も夢物語も、決して体験することができない。
そのことがドクオにはどうしても我慢ならなかった。
('A`)(<マンドクセ>には何もねえ。
俺が好きなもの……俺が心を躍らせる、俺が主役となって活躍する物語の舞台には成り得ない場所だ)
ドクオの全身に力が漲る。いつまでもいつまでも、自室で読み耽っていた書籍が勇気を与えてくれた。
56
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:14:39 ID:LBDXupdA0
('A`)(恒星を食らって宇宙を渡る鳥も、劇的な進化を促してくれるオベリスクも、惑星を覆う途方も無く巨大な水たまりも)
特殊な鉱石をめぐって何百年も戦争を続けている惑星<アルフ・アー・ベット>も、
どこまでも可能性を広げ続け、何事も決して終わらせない宗教を持つ惑星<ヴァニ・ロー>も、
小惑星帯にコミュニティを築き、人の心の影を黒い翼として見ると言われている<クーデルカ21g>も。
ドクオは大きく息を吸って、集中した。それらすべてを見に行くために、戦わなくては。
(´・ω・`)
巧みな話術で宇宙の雄大さと文化の多様さを語り、ドクオの胸を踊らせた人間が見ていた。
( ^ω^)
能力や特性を余すこと無く活かして生を謳歌する方法を提案してくれた半人半馬が見ていた。
(//‰ ゚)
偽りの愛情の具現化。所得顔で世話を焼く、束縛の象徴であるヒューマノイドが見ていた。
/#,' 3「やはり、力づくでわからせるしかないようだな」
(#'A`)「やれるモンならやってみろ、クソ親父ィ!!」
<マンドクセ>という小さな惑星に囚われたままの運命を打ち破るために、
自分が憧れた物語に登場する人物のように、空想を現実にするために……父親を打倒する決意をより強く固め、ドクオは駆け出した。
57
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:15:31 ID:LBDXupdA0
/#,' 3「宇宙法で保護され、緘口令も敷かれている!
<マンドクセ>はモディフィカ・スライムにとって、宇宙一安全な場所なんだぞ!?」
(#'A`)「うるせえ! 決めたんだ! 絶対に自分をごまかさない。もう、自分を疑わねえ!」
ドクオが脳裏に思い描くのは、かつてホライゾンから受けた強烈な蹴り。
地を蹴るうちに形が変化していく。胴体が伸び、そこから上半身が生えてきた。
ブーンのサイズをそのまま縮小した姿は、凄まじい速度を得てスカルチノフに肉迫する。
/#,' 3「クッ!」
(#'A`)(チッ! 外した!)
渾身の力で繰り出した蹴りは間一髪でかわされた。
ドクオ自身も制御できないほどに加速したため、正確な狙いがつけられなかった。
体験したことがない速度だった。“何にでもなれる、無限の可能性を持つ身体”……ブーンの言葉がドクオに勇気を与える。
どれほどの間、二人は戦っていただろう。
ショボンも、ブーンも、ヨコホリも、周りを取り囲むフッサール人も、誰も何も言わなかった。
ドクオとスカルチノフが本心をぶつけあいながら戦っている。この親子の事情には、宇宙の誰一人として介入できないのだ。
やがて、スカルチノフの躯体が攻撃的な変化を止めた。
ゆっくりと、ひとつの粘り気ある塊になっていく。それを見て、ドクオも動きを止めた。
58
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:16:21 ID:LBDXupdA0
/ ,' 3「……恒星間宇宙船なんだぞ」
('A`)「わかってる」
/ ,' 3「……亜光速だ。百光年先の惑星に行くならば、百標準年が経過する。
モディフィカ・スライムの平均寿命を超えるんだぞ?」
('A`)「わかってる」
/ ,' 3「……ワームホール航路やSSDでの事故は想像を絶する苦痛を味わうんだぞ」
('A`)「わかってる」
/ ,' 3「……<マンドクセ>に残される私とはもう、生きて再会することはできなくなるんだぞ」
スカルチノフは今までで一番弱々しい声を出した。
('A`)「わかってる」
/ ,' 3「……そうか」
即答。ドクオは迷うこと無く言い切った。彼はもう、確固たる意思を手にしていた。
/ ,' 3「大きくなったなあ」
/ ,' 3「保護なんてものはもう必要ないのかも知れないな」
/ ,' 3「これまでずっと見てこなかった癖に、いざ居なくなると知ると……こんなにも寂しいとは」
/ ,' 3「たったひとりの息子だものなあ。もっと家に帰って、同じ時間を過ごしておけば良かった」
/ ,' 3「息子の成長にも気が付かないほどの空白が、私達の間にはあったんだな」
('A`)(俺は、本当に愛されていないわけじゃあなかったんだな。
親父も俺のことを考えてくれていたんだ)
スカルチノフが、ショボンとブーンに呼びかけた。
(´・ω・`)「何でしょうか」
( ^ω^)「お?」
/ ,' 3「息子を、どうか、よろしく頼みます」
59
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:18:14 ID:LBDXupdA0
十五 見送り
(´・ω・`)『こちら【天翔ける生の証】号。出港許可を求めます』
ミ,,゚Д゚彡『こちら管制塔。【天翔ける生の証】号の出港を認めます。……ドッキング解除、完了しました』
【天翔ける生の証】号のエンジン音が宇宙港に響く。
スカルチノフとヨコホリにとって、永訣の音。もう二度と、ドクオに出会うことはなくなるのだ。
宇宙港のドームは開け放たれており、暗黒に煌めく星々に続く道筋へと誘導していた。
/ ,' 3「……」
(*゚ー゚)「……」
スカルチノフは今でも次第に前進していく宇宙船を引き止めたくて仕方がなかった。
声を荒らげれば【天翔ける生の証】号の加速シークエンスを中断させることも可能だろう。
宇宙に飛び出して行った後も、種の保身を考えず権力を最大限に使えば顔くらいは拝めるかもしれない。
しかしそれは、息子であるドクオに対する冒涜だと理解していた。どのような形であれ、強い意思を持ったのを喜ぶべきなのだ。
とうとう、【天翔ける生の証】号の黒い船体は見えなくなった。
(*;ー;)「あぁ……」
ヨコホリが膝から崩れ落ちた。そして頭を垂れた。
まるで心が折れてしまった人間のように。大事なものが二度と戻らない現実に耐えられないと言うように。
/ ,' 3「……」
スカルチノフはヨコホリの肩に手を置き、ずっとずっと、【天翔ける生の証】号が出て行ったドームを眺めていた。
60
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:20:15 ID:LBDXupdA0
十六 結末
生とは選択の連続であり、闘争の連続である。それは死の瞬間まで終わることはない。
道の途中で幸福と不幸による浮き沈みこそあれど、最後の結末がどんな形でやってくるのかは、宇宙の誰もわからない。
それでも、物語は続いていく。
やがて次の物語が始まり、その先もまた次の物語が紡がれていく……
けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう。
今回は、ここで一区切り。
背骨を持ち、自分の力で立ち上がる生物の行く先に、幸運あれ。
.
61
:
◆hmIR/WZ3dM
:2016/04/03(日) 22:22:03 ID:LBDXupdA0
これにて終了。
投下報告に急げー!! ワー!! 時間がないぞー!! ワー!!
62
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 22:34:44 ID:rQG0dra60
別の機会多すぎィ!
こういうショボン様好きだなあ
63
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 23:54:21 ID:w.V32hqI0
エンデ好きだからニヤニヤしながら読めたよ
乙
64
:
◆mQ0JrMCe2Y
:2016/04/04(月) 02:09:52 ID:F2jrwWT.0
【連絡事項】
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http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/404-405
65
:
名無しさん
:2016/04/06(水) 13:38:51 ID:4Dgis5C20
>>24
パラノイア?
66
:
名無しさん
:2016/04/08(金) 13:21:04 ID:HSl7jzsc0
プルプルのスライムが一本の背骨を持つという題材が良いね
ドクオの前途は多難そうだけどこの決意が寂しさによる一時の反抗期によるものではないと証明出来たらいいな
まだまだ世界に広がりがあるのがわくわくして仕方ないし別の物語も読みたい
無茶苦茶面白かった乙
67
:
名無しさん
:2016/04/08(金) 21:20:38 ID:FTgEwhMo0
めっちゃ重厚なSFと見せかけてめっちゃ熱い成長物語じゃねえか…
wkwkと感動があったよ、面白かった
68
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 12:18:30 ID:Vb/aE0Dg0
ひぇぇ面白すぎる
69
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 12:03:55 ID:yaFI5apw0
惑星の元ネタ全部わかった人います?
アルファとバローと駆動都市戦争しかわからない
70
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 13:03:55 ID:KV6mwffI0
21gってまんまじゃね? あと歯車(都ではない)
71
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 13:17:15 ID:YanBR.4E0
樹海(?)、キルルイ、デミそこ、シュガーボード、歯車(都じゃないやつ)、決闘、Last Album
72
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 15:02:17 ID:yaFI5apw0
あーなるほど
既読の作品もあるのに気がつかなかった。特にキルルイは大好きなのに
ありがとうございます
73
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 15:03:58 ID:vx04GEBg0
むしろバローネタだけがどこにあるか分からない
それ以外は全部分かったが小ネタと惑星の設定がまた面白いな
74
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 15:23:20 ID:qslwUzDk0
本筋も面白いけど、小ネタも好き
別の機会も気になる
>>73
ヴァニ・ローがヴァニラ+バローなんじゃね?人気だけど逃亡作多数
75
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 17:05:10 ID:D1NpaSuE0
続きが欲しくて狂おしい
76
:
名無しさん
:2016/04/13(水) 10:04:17 ID:IIXCGJCc0
これ良かった
77
:
名無しさん
:2016/06/05(日) 12:51:10 ID:pls6lJ620
読み直したけどやっぱりいい話
これが14位なんだから今回めちゃレベル高かったのね
78
:
k
:2016/06/07(火) 17:21:14 ID:RQDias/I0
xbんgvんっk
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