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ドクオの背骨

37 ◆hmIR/WZ3dM:2016/04/03(日) 21:34:10 ID:LBDXupdA0
          八  帰宅


  ドクオは【天翔ける生の証】号から宇宙港を飛び出し、人気のない街中を駆け出し、何もない平原を通り過ぎ……
地面を蹴りつけ、大声で喚き散らし、全力で飛び跳ねたりして、無闇矢鱈に腹が立つ気持ちが収まるまで、
延々とエネルギーを発散し続けた。やがて縮小された身体の違和感が気持ち悪く、空腹も覚えたので自宅へと足を向けた。
 
  畢竟するに、ドクオの帰る場所はただひとつしか無かった。
遠目からでも必要以上に存在を誇示する輝きを放つ、銀色の宮殿。それが、今の彼の居場所であり、檻であった。

(//‰ ゚)「お帰りなさいませ、ドクオ様」

  渋々帰宅したドクオを待っていたのは、料理中のヨコホリだった。
玄関先で待ち受けていたヒューマノイドは、扉を開けたドクオに挨拶だけすると、
ぱたぱたと忙しげに調理場へと戻っていった。切り裂かれた人工皮膚が垂れ幕のように揺れている。

('A`)(メシの時間か。調度良いぜ)

  ドクオが家を出て行くとどの程度の時間で戻って来るのか? また、どのような心境か?
ヨコホリは内部メモリーに蓄積された統計結果から、主人は空腹で帰宅すると導き出し、料理の準備を始めた。
そして、“いつも通りの時間”が過ぎた頃に姿を表した彼の反応を外部に認めると、手を止めて出迎えたのだ。

  食堂に入ったドクオは椅子に座り、手持ち無沙汰にテーブルクロスをいじり始めた。
ナイフを作り、端に切れ込みなど入れている。ショボンが見れば唖然とする行動であったが、
光沢ある木目調のテーブルや、その上に敷かれたテーブルクロスの価値をドクオが知る由もない。

  多数に腕木を伸ばす極めて装飾的なシャンデリアがいくつも吊り下げられた天井。
壁に飾られた宇宙有数の名画。大きくはめられたステンドグラス。宮殿が襲撃される事態に備えた生命維持装置。
そんな贅の限りを尽くされた食堂の壁や床には、過去のドクオの癇癪によって無数の穴や傷がついている。

(//‰ ゚)「お待たせしました」

  豪奢な装飾が縁取る皿に載せられて、次々と料理が運ばれて来る。
彩り豊かな茹でた新鮮野菜。肉汁滴る分厚い肉。絹のように艷やかな茸。煌めく白身魚。締めには爽やかな柑橘類。
体積が何十分の一にも減ってしまったため、いつも以上に食欲が湧いていた。生存本能が肉体の増強を求めていた。

('A`) ゴクリ

  料理はドクオ好物――ショボンやブーンが一生口にすることができなさそうな品々――ばかりだった。
それがまた彼の怒りをやや刺激した――「些細な原因で喧嘩をしたから、あなたの好きな料理をごちそうするわ」
というような母親を気取った心遣い――が、漂う香りには勝てなかった。空腹はその他すべてを塗りつぶす。

('A`) クソッ

  とうとうドクオは食器を手に取り、好きな順番で好きなだけ食べ始めた。
食事の様子をヨコホリが横目で眺めつつ、次の料理の準備にかかっている。
顔面の皮膚がほとんどドクオに切り裂かれてしまっていたためわかり辛かったが、ヒューマノイドは笑顔を浮かべていた。


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