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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ
1
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0
―― ― ―― ― ―――
恐らく私は。狂ってしまったのだ。
穴ぐらから飛び出て。
あの夜に浴びた。青い青い月の光で。
透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ
だから私は。私では無い。
私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
同じ形をしただけの。
私ではない。誰かだ。
斜視のこの目に。乱視のこの目に。
映るこの景色は。当然に狂っていて。
焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。
正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。
寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。
唇に優しさが欲しかったのはきっと。
今宵の月も青かったからなのだ。
―― ― ―― ― ――
353
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:35:40 ID:CtMjQLN60
更新きてる!
支援
354
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:36:08 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「待て、早まるな『親猫』」
〈 十〉 「会話の内容は聞いている。『蠍』を庇おうというような発言は問題だが、
それもあくまでこの街の異変を憂いてのことと理解している。同じく、貴様の微妙な立場も、な」
( ‐=ll=-) 「まだ、我々は貴様を敵とは認識していない。故に貴様に手を出すようなマネはしない」
〈 十〉 「我々の狙いは『蠍』の志納ドクオ。直接的に庇う真似さえしなければ、われわれの盟約は保たれる」
つまりは、今からドクオを殺すが邪魔するな、ということだろう。
既に何らかの連絡をされている可能性もある。
この二人を屠ったとして、仲間の安全を保てるとは限らない。
いざとなれば策はある。ここは一応杭持ちに従う態度を見せておいた方がいいだろう。
ギコはちらりとドクオを見た。
彼は草臥れた顔で唾を吐く。
('A`) 「勝手に変な名前付けて、勝手に話進めやがって」
ドクオは自分の首の後ろをおもむろに親指の爪で刺す。
杭持ち二人が構えた。
後頭部付近から流れ出た血はそのままヒモのように伸び、2m弱の長さで空中に留まる。
先端は爪状の刃になっており、これを鞭や触手のように操って戦うのだろう。
丁度いい。
この短期間に最高脅威度に認められたその力、一度見て見たいとは思っていた。
355
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:38:35 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「ギヤン、血刑には気をつけろよ
〈 十〉 「分かり切ったことを」
一人が構えるのは短機関銃。拳銃よりも連射性に優れ、近接戦闘に置いては驚異的な優位性を誇る。
吸血鬼が人間よりも頑丈とはいえ、あれを格闘戦に盛り込まれると非常に辛い。
もう一方、ギヤンと呼ばれた方が背中から引き抜いたのは、剣のような長杭。
通常の杭と異なり、肉厚の両刃。鍔が椀状の西洋のサーベルを思わせる拵えだ。
逆の手には、丸いブリキ張りの盾を備えている。吸血鬼狩りと言うよりも剣闘士のようだ。
どちらの装備も杭持ちの標準とは異なる。
こういった装備が許されるということはつまり、この二人がそれだけ実力を認められているということ。
〈 十〉 「行くぞ、『蠍』!!」
水から飛び出すギヤン。
抵抗の大きい中から飛んだとは思えぬ大きな跳躍でドクオに飛び掛かる。
腕を畳んだ構えから、鋭い突きを放つ。
ドクオは大きく後退して回避。
しかし、その体を銃弾の群れが襲う。
二発がドクオの腹を穿った。腹筋で止め出血は微小。
衝撃で体がよろける。
着地したギヤンは、水で残像が出来るほどの速さで前へ。
盾を前に出し、反撃を封じながらの突進だ。
ドクオは倒れるように横へ逃れる。
地面に手を付き、覗き込むような形から、血の触手をギヤンの脇腹へ。
356
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:39:33 ID:JUgNWWnY0
飛び掛かる蛇の如くであったが、追ってきた盾に弾かれる。
追撃の暇も無く、ドクオは転がってその場を逃れた。
激しい銃声と共に舗装のコンクリートが爆ぜる。
(,,゚Д゚) 「……」
ギコは手を出さずに離れた。
ドクオの協力は確かに欲しいが、杭持ちとの無用な対立は避けなければならない。
申し訳なく思うが、自分の撒いた種だ。自身で何とかしてもらうほかあるまい。
短機関銃の銃口がドクオを追う。
数で圧倒するのがミソの火器であろうが、無駄玉は使っていない。
外れた弾も回避されているだけでなく、誘導の意志をもって使われている。
ギコであればいくらでも対応できるが、元々戦闘技術など持たないドクオがどれだけ出来るのか。
味方の銃弾が飛ぶ中を、再び突進するギヤン。
流れ弾を恐れる様子は無く、銃手信頼度の高さが見える。
ドクオは後退で距離を保ちながら、触手を上方から回り込ませた。
盾が引きつけられれば、空いた胴を狙うつもりだったのだろう。
しかしそれはギヤンも読んでいた。前傾姿勢で体を捩じり、杭で触手を弾く。
そのまま螺旋を描いて回転。
うつ伏せる状態に戻ると同時に地面を蹴って、自らの体をミサイルのようにしてドクオに飛び掛かる。
回避が間に合っていない。
盾による突進で体を突き飛ばされ、尻を付くドクオ。
ギヤンは膝立ちで耐え、完全に体勢を崩すことは避けている。l
弾かれた位置から、咄嗟の判断でギヤンを狙う触手。
しかし、それも半ばから斬り飛ばされた。ドクオは唯一の武器を手放すことになる。
357
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:41:32 ID:JUgNWWnY0
無防備なドクオ。
片足をギヤンの下半身の下敷きにされ、逃れることも難しい。
盾を作るような量の血を急に流すほどの余裕も無い。
ギヤンが小さく剣を振り上げる。
頭か心臓か、一旦首か。
瞬殺は出来なくとも、自由を奪うだけでも十分だ。
〈 十〉 (貰った!!!)
突き出される剣。
激しい音と共に、その切っ先が。
(,,゚Д゚) 「!」
〈 十〉 「?!」
コンクリートの地面に弾かれる。
ドクオが躱したのではない。ギヤンの攻撃が外れたのだ。
戸惑うギヤンを、ドクオは封じられていない足で蹴り飛ばした。
後ろに転がされすぐさま立ち上がろうとするギヤン。
しかし、膝から下を失ったかのように地に伏せた。
神経系の毒が回っているのだ。こうなっては真面に戦闘の継続は出来ない。
〈 十〉 「なッ、呼吸は止めていた!どうやって毒を……!」
確かに、血の触手は当たってはいないし、ドクオは血の毒を揮発させていたわけでもない。
358
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:42:31 ID:JUgNWWnY0
〈 十〉 「くッ……アザム!なにをしている!!」
( ‐=ll=-) 「……済まない、ギヤン……」
〈 十〉 「何ィ?!」
川の中から銃撃による後方支援をしていたもう一人、アザムが銃を落とす。
どこか不安定な視線と、川の流れの中立つのが精一杯の下半身。
ギヤンと同じ毒のようだが、症状はより進んでいる。
〈 十〉 「いつの、間に……!」
('A`) 「……」
立ち上がり、服に付いた汚れを払うドクオ。
勝負はついたのだ。解毒剤を持たなければ、この状態からの回復は不可能。
偶然見かけて追跡していたのならば、そんな物は持ち合わせていないだろう。
('A`) 「……御大層に『蠍』なんてあだ名をつけてくれたんだ。使わねえ理由はねえだろ」
そう言いながら、ドクオは自分の指を舐めた。
爪で浅く切り裂いた跡がある。唾液が触れたことですぐに塞がったが、周囲には血が残っていた。
('A`) 「杭持ちに対策を練られてるのは、自覚していた。だから、ちょっとブラフを立てさせてもらった」
〈 十〉 「……そう言う、ことか」
ギヤンが歯ぎしりを立てた。
理解したのだろう。自分たちがそもそも勘違いさせられたことに。
359
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:43:55 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「お前らはきっと、ここ数回俺が逃した杭持ちの話から、あれが俺のスタイルだと思ったんだろ?」
('A`) 「だから、『蠍』。毒の尻尾っぽいしな。お役所派生にしちゃセンスあるよ」
ドクオは、いかにも目立つ触手を囮に、僅かな隙を狙って毒針を撃っていたのだ。
針は極小。致死性とは縁遠いものだが、戦闘不能にするには十分な量だった。
見ればギヤンは剣を持つ親指の付け根に、アザムは顎のすぐ下に、虫刺されのような跡がある。
('A`) 「過去に針で殺した奴はいないしな。触手で戦う吸血鬼と勘違いしてもらえてうれしいよ」
ドクオは切り落とされ、地面にこべりついた血に人差し指をつける。
渇いておらず、酸化もしていない一部の血だけを集め、指先に長い爪を作り出す。
('A`) 「……ここまで話したし、ま、話すまでもなく気づいただろうけど、もうしばらく俺に楽をさせてくれ」
〈 十〉 「くッ……」
もはや剣を持つことすらできなくなったギヤンにドクオが近づく。
撒いた餌の効果を維持するには、針に気付いた者は殺さねばならない。
(,,゚Д゚) 「待て、志納」
('A`) 「……さっきの話、乗ってやる。がお前の傘下に入るわけじゃない。命令は聞かん」
(,,゚Д゚) 「分かっている。だから礼代わりにここは俺に任せてくれ」
360
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:44:56 ID:JUgNWWnY0
ドクオに歩み寄っていたギコの姿が唐突に消えた。
風が吹き抜け、小さな打撃音と共にギヤンが白目を剥く。
アザムが驚きの顔を見せたが、数秒遅れて彼も意識を失った。
水面を水切石の如く走ったギコが、鞭のごとき手刀で首筋を打ったのだ。
崩れ水に沈みそうなアザムの体を担ぎ上げて、ギコが川原へ戻る。
(,,゚Д゚) 「解毒剤は作れるのか?」
('A`) 「……どうするつもりだ」
(,,゚Д゚) 「介抱して、回復したならばしいに記憶を改竄させる。杭持ちはしいがそこまでの暗示を使えることは知らん」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「俺とお前の関わりも誤魔化せるし、お前と戦った内容もいくらでも改竄できる」
('A`) 「……なら、いい」
ドクオはパーカーのポケットから栄養ドリンクのビンを取りだした。
茶色いピンの中には半ほどまで粘度の高い液体が入っている。
('A`) 「俺の血で作った中和剤だ。そもそも死ぬようなもんでは無いが、回復を早めることは出来るだろう」
(,,゚Д゚) 「恩に着る」
361
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:45:39 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「代りと言っては何だが、俺からもアンタに頼みがある」
(,,゚Д゚) 「内容によっては引き受けよう」
('A`) 「コイツのことを調べてほしい」
ドクオが差し出した写真に映っているのは、彼と同居している青年だった。
男らしいはっきりとした顔立ちで、体型もしっかりしている。
日陰者の代表格のようなドクオとはあまり接点が無さそうに見えたが。
('A`) 「名は長岡ジョルジュ。俺の昔の友人なんだが、最近になって接触してきた
そいつの周辺を出来る限り洗ってもらいたい 」
(,,゚Д゚) 「……無礼なことを承知で答えるが、その男の身辺は一通り洗った。杭持ちや裏の討伐屋の類では無いぞ」
('A`) 「それはわかってる」
ドクオはギコに詳しい事情を話す。
写真の青年、ジョルジュが吸血鬼にしてくれと頼み込んできていること。
その理由をまったくと言っていいほど話そうとしないこと。
('A`) 「何か事情があるようなのは確かなんだが。このまま放っておくと、他の吸血鬼に体よく利用されかねん」
(,,゚Д゚) 「分かった。早急にとはいかんが手を回してみよう」
362
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:46:22 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「何かわかった時には、ここに連絡をくれ」
ドクオは番号のかかれたメモを渡すと、パーカーのフードを目深に被り直し橋の下を出ていった。
念のため、近隣にいる仲間に連絡し彼が街を去るサポートに当てた。
(,,゚Д゚) 「……さて」
とにかく志納ドクオを味方につけることには成功した。
重要な戦力だ。危うい男ではあるが、十分に役に立つ。
(,,゚Д゚) 「早く、原因を見つけ無ければ」
二人の人間を軽々担ぎ、ギコはアジトへと足を向けた。
やるべきことは山ほど多い。
彼らの願う人と吸血鬼が殺しあわずに済む世界は、まだ遠いのだから。
363
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:48:21 ID:JUgNWWnY0
三行
三 OOてゝ
三 O カサカサカサカサ
三 ヾハハ'A`)へ
364
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:16:54 ID:b7zmQcHs0
乙!
蠍ドクオAAワロタ
365
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:40:25 ID:JUgNWWnY0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
366
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:41:56 ID:JUgNWWnY0
ζ(゚、 ゚*ζ (お父様、どこへ行かれたのかしら)
ζ(‐、 ‐*ζ (また戦ってらっしゃるのかしら……血を失っても、中々飲んでくださらないのに)
デレは憂いの漏れ出した表情で、ベッドに寝そべっていた。
お父様がいない時はいつもそう。
することが思いつかなくて、ベッドの上でただただ待っていることしかできない。
前のお父様の時は、待っているのも平気だったのに。
今はなんだか寂しくてたまらない。
何もしないでいると、頭の中が暗くなる。
自分でも知らない何かが、虫のように蠢いて、とても苦しくなる。
< でれちゃーん、でれちゃーん、ご飯出来たぜー―!」
ζ(‐、 ‐*ζ (お父様、早く帰ってらっしゃらないかしら)
< でれちゃーん、寝てるー―?」 ドタドタドタッ
ζ(‐、 ‐*ζ
_
( ゚∀゚) 「でーれーっちゃんっ!」 ヒョコッ
ζ(‐、 ‐#ζ (……五月蠅い)
367
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:44:16 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚∀゚) 「つーかさ、ドクオのやつ遅いよな。日焼けするくせにこんな昼間から何やってんだか」
この無礼で不躾で無遠慮で無神経で不愉快な男が屋敷に住まうようになって一週間が経った。
お父様が連れてきた友人であるし、吸血鬼の敵では無いらしいので大目に見ていたが、そろそろ堪忍袋の限界だ。
初めて会って一時間で緒は三度ほど切れていたのだけれど、このままだと堪忍袋ごと炸裂してしまう。
デレは元々、こういう男が嫌いだ。
大嫌いだ。
同じ空間で呼吸をしているのすら不愉快だ。
何より腹が立つのは、デレですら呼んだことの無いお父様の名前を呼び捨てにしていること。
自然に尖る唇が戻らない。
こんなのは、前のお父様が教えてくれた淑女の立ち振る舞いではないのに。
だから余計に頭に来る。全部この畜生が悪い。死ね。
いっそ、護身用に隠し持っているデリンジャーで眉間をぶち抜いてやろうか。
向かいの席で食事を勧める男の顔を睨みつける。
こんなやつ。
お父様の言葉が無ければとっくに追い出していたのに
368
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:45:48 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚〜゚) 「どうしたの?我ながら結構美味いと思うぜ?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………」
目の前に置かれた深めの皿に目を落とす。
山に盛られた白米と、とろりと覆うひき肉のあんかけ。
茄子やトマト、ピーマンなどの刻まれた夏野菜が入っており、甘くも酸味のある香りが食欲をくすぐってくる。
さらに真ん中には目玉焼き。
黄身は半熟で今にも崩れ出しそうで、白身の端はきつね色にこんがりと焼けている。
すぐさまスプーンで割ってしまいたい衝動に駆られる。
否、やはりまずは卵無しの味を楽しんでから……。
_
( ゚∀゚) 「熱いから、火傷しちゃダメだぞ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……匂いだけは、美味しそうですけれど」
スプーンで縁のごはんと餡を掬い取る。
立ち上る湯気。香りがさらに濃くなって、自然に口の中が濡れる。
呼気で湯気を飛ばして、口の中へ。
369
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:46:54 ID:JUgNWWnY0
ζ(゚、 ゚*ζ 「……」
口の中に広がるトマトの酸味。
噛むほどに絡んで、白米の甘さが合わさり、たった一口で味が次々に変わってゆく。
たまらず次を、今度は具もしっかり掬って口へ。
実を含むことでより濃くなったトマトの味わい。
噛むほどに茄子から旨みがしみ出してくる。餡とは違う瑞々しいスープだ。
飲み下した後に残る、ピーマンの苦み。これが妙に爽やかで嫌味が無くむしろ心地よい。
_
( ゚∀゚) 「少し豆板醤入ってるけど、辛くない?」
三口目で、その言葉の意味を理解した。
舌先がほんの少しだけピリピリとする。子供のデレでも痛いと感じない程度の辛さ。
野菜の甘みが強くて気にならなかったが、これのせいで余計に食欲が促されているのだ。
時々話しかけてくる男を完全に無視して、デレはあんかけご飯を食べ進めた。
半分に差し掛かるころに目玉焼きの黄身を割る。
トロリと流れ落ちる黄色の幸せを、零れ落ちないように掬い取って絡めて、食べる。
少ししつこく感じ始めていた肉餡の角が瞬く間にまろやかになり、食欲が復活する。
白身のカリッと、プリッとした触感も相まってさらに美味だ。
370
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:48:25 ID:JUgNWWnY0
気づけば、少しも休むことなく、食べ終えてしまっていた。
体が熱くなって、額には汗がにじむ。
ふぅ、と胸から息を抜いたデレを見て、男が笑った。
彼はまだ皿に2割ほどの残している。
なんという敗北感。
途中からこの無神経男が作った料理ということを忘れて食べてしまった。
しかもデレは元々辛い物やピーマンが苦手だったのに。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……あまりじろじろと見ないでくださいまし。失礼ですわ」
_
( ^∀^) 「いや、ごめんよ。でもよかったぜ、気に入ってもらえたみたいで」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ま、まあ。あなたのような人が作ったものにしては、ええ」
食べきっておいて不味いとは言えない。食材にも無礼になる。
現にもう少し食べたいと思うくらいには美味であった。
悔しいし不愉快だが認めないわけにもいかない。
_
( ゚∀゚) 「デレちゃん、パンとかインスタントばっかりだろ?だからたまにはこういうのも食べさせないとさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ちゃんとサプリメントも飲んでいますし、問題ありません」
_
( ゚∀゚) 「でもさ、良くないと思うぜ。伸び盛りの子供が、そう言う食事しかしないってさ」
371
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:49:51 ID:JUgNWWnY0
確かにデレの食事は今も昔も、インスタント食品や缶詰、惣菜のパンのような物ばかりだった。
最優先すべきはお父様のお食事、つまり血液だ。
サプリメントやドリンクでバランスを保ち、良質な血を作ればそれで良い。
デレ自身の満足など不要だ。
せめて空腹が紛れればそれで充分であった。
でも。
_
( ゚∀゚) 「ネタバレすっとさ、ドクオに頼まれたんだよね。デレちゃんに美味い物食わせてやってくれってさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「お父様が……」
_
( ゚∀゚) 「んで俺も、デレちゃんの食事はどうかと思ってたのもあって、一肌脱いだってわけ」
_
( ^∀^) 「だから、これは俺からじゃなくてドクオから、だからさ、俺が作ったとかは気にせず食いなよ」
そんなことを言われては、もったいなくて逆に食べられない。
お父様は、優しすぎる。
ぶっきらぼうで、触れることすら滅多に赦してくれなくて、面と向かって手を差し伸べてくれることなどほとんどないのだけど。
デレが何もしてあげられずにいる中で、いろんなことをデレにしてくれている。
最近、やっとそれに気付けた気がする。なぜ気付けなかったのか分からないけれど、最近はちゃんと分かる。
だから、怖いのだ。
自分の存在価値がまったく無いような。
お父様に対して何もできていないこの現状が、手足がしびれるほど恐ろしい。
幸福なのに恐ろしい。この体の中で起きる矛盾の軋轢が、デレの憂鬱を強く大きなものとしている。
372
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:51:06 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚∀゚) 「どした、デレちゃん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……なんでもありません。寝所に戻りますので、滅多なことが無ければ来ないでください」
_
( ゚∀゚) 「あいよ。あ、でも寝るんだったら歯磨きはしておきなよ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「言われるまでも、ありません」
食器をキッチンの流しに置いて、デレは洗面所へ向かう。
長岡の料理は幸福であったが、だからこそ、早く洗い流してしまいたかった。
_
( ゚∀゚) 「あ、そうだ。買い出しも頼まれてるんだけど、追加で必要なものとかある?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「特にありませんわ」
食事を終えた長岡も流しへ食器を持ってゆく。
そのまま洗うようで、蛇口をひねって水を出した。
デレは、入口で立ち止まり、振り返る。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……長岡さん」
_
( ゚∀゚) 「ん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………。…………ごちそうさまでした。お食事、…………美味しかったですわ」
_
( ^∀^) 「おう、そう言ってもらえると、俺もうれしいよ」
373
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:51:49 ID:JUgNWWnY0
三行
餌
付
け
374
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 23:59:54 ID:qLxwpwV6C
デレ人間味でてきたな
375
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 00:19:51 ID:8GTfCoNU0
乙
飯テロ
376
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 01:12:42 ID:zRfOhjf6O
確かに、読んでるコッチも腹が減った
377
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 03:17:58 ID:apgD84y.0
乙
378
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 12:36:08 ID:MUoPrkJM0
乙
379
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 14:24:59 ID:3aejSDtI0
乙 デレがツンデレだった
380
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:30:47 ID:vmDd.ruE0
Place: 草咲市 空木町安芸 字 小間下103 城宮大学内 講義館正面玄関
○
Cast: 都村トソン 伊藤ペニサス
─────────────────────────────────────
381
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:33:16 ID:vmDd.ruE0
ミー――……ン ミー―ン ミンミン ミー―――…………ン
('、`*川 ……あっつ
(゚、゚トソン 市内の最高気温、35℃だそうです
('、`*川 なにそれ、ほぼ体温じゃん
(゚、゚トソン はい。
ミー――……ン ミー―ン ミンミン ミー―――…………ン
('、`*川 どうする?帰る?
(゚、゚トソン 教授いないんじゃ、いる意味も無いですし。
('、`*川 失敗したわ。今日ならいると思ったのに。
(゚、゚トソン 明日来るらしいですから、明日また来ましょう。
('、`*川 はー……めんど。
(゚、゚トソン 前期中にレポートを出さなかったあなたが悪いのでは。
('、`*川 はー、真面目ちゃんは連れないわ〜
382
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:34:19 ID:vmDd.ruE0
(゚、゚トソン せっかく来ましたし、会館でちょっと休んでいきますか? テトテト......
('、`*川 開いてんの? コッコッ......
(゚、゚トソン 教授とか、実験で泊まり込みしてる人のために開けてるらしいですよ。品物は少ないみたいですけど。 テトテト
('、`*川 じゃ、ちょっと涼んでこか。 コッコッ
( ‘∀‘) ……いらっしゃいませー―……
('、`*川 何飲むの?
(゚、゚トソン アイスオレで
('、`*川 食べ物は?
(゚、゚トソン なにありますかね
('、`*川 ……わかんない
(゚、゚トソン じゃ、とりあえずロールケーキで
('、`*川 なかったら?
(゚、゚トソン なしで
383
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:35:12 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 お待たせ、はい。
(゚、゚トソン ありがとうございます
('、`*川 今日は食べ物置いてないんだって
(゚、゚トソン やっぱり
('、`*川 ま、これしか人いないのに真面な営業なんてしないわね
あゆみちょっとおそくなーい?>
ライン既読になってないし、寝てんじゃないの?>
('、`*川 ……ああいう頭も股も緩そうなかっこ、無理だわ……
(゚、゚トソン 似合いそうですけど
('、`*川 他人から見てどうってより、自分が想像してダメ
(゚、゚トソン はあ
('、`*川 あんたこそ、その野暮い恰好何とかなんないの
(゚、゚トソン あいでんててーなので
384
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:36:07 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 つか、アンタ実家帰らないの?
(゚、゚トソン はい?
('、`*川 最近家出たんでしょ。実家に帰ってんの?
(゚、゚トソン ……んー―――…………
('、`*川 ……あえて聞かなかったけど
(゚、゚トソン はい
('、`*川 喧嘩でもしたの
(゚、゚トソン はい。
('、`*川 それで家出?
(゚、゚トソン はい。
('、`*川 子供かよ
(゚、゚トソン 残念ながら。
385
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:36:58 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 ……何処に住んでんの
(゚、゚トソン 従姉の部屋です。家事を手伝う条件で住まわせてもらっています。
('、`*川 ふーん……
(゚、゚トソン チュー
白
('、`*川 ……
(゚、゚トソン ……冷房、強いですね。
('、`*川 そう?これくらいでいいわ
(゚、゚トソン 私、脂肪少ないので。
('、`*川 ケンカ売ってんのか。
(゚、゚トソン いえ、羨ましい肉付きだな、と。
('、`*川 ……
(゚、゚トソン すみません。不快だったら謝ります。
('、`*川 ……いや、悪意が無いのはわかるし、いいわ
386
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:38:05 ID:vmDd.ruE0
<あ〜っごめ〜〜〜〜ん!
ちょっとあゆみおそ〜い>
どしたの?心配したんだよ>
なんか〜、吸血鬼が出たとかいってさ〜>
(゚、゚トソン
えっ、マジ?大丈夫だったの?>
よくわかんないけど〜、もう死んじゃってたみたい。マジビビった〜>
(゚、゚トソン
やだね〜、昼間にもいるのかよって感じ>
どんな吸血鬼だったの?>
よくわかんなかったけど、女だったみたいだよ>
(゚、゚トソン ガタッ
387
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:38:58 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 どした?
(゚、゚;トソン ……いえ……
('、`*川 ?
(‐、‐;トソン スッスッ......ペタ......ペタ......
日と
('、`*川 ……
(゚、゚;トソン ソワソワ
ε=('、`*川
(゚、゚;トソン すいません、ペニサス
('、`*川 帰るんでしょ?
(゚、゚;トソン えっ、あ、はい。ちょっと急用を思い出しまして。
('、`*川 私も午後から用あるし、気にしなさんな。
(゚、゚;トソン では、すいません。 タタッ
388
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:39:52 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 ……
ε=('、`*川
pirrrrrrrrrrrrr.......
('、`*川 ´
('、`*川 …………
日c
pirrrrrrrrrrrrr.......
('、`*川 …………
日c
ε=('、`*川
r('、`*川 …………もしもし……
389
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:40:56 ID:vmDd.ruE0
おわり
三行
夏
休
み
390
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:01:31 ID:vmDd.ruE0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
391
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:02:28 ID:vmDd.ruE0
慌てて帰った部屋に、ミセリの姿は無かった。
靴が一組と、彼女が好んで着るブラウスとそれに似合うウィッグも無くなっている。
テーブルの上には、メモを破った置手紙があった。
『トソンへ。日用品の買い出しに行ってくる。昼までには帰る。』
間違いなくミセリの字で、走り書きされていた。
彼女のことだ、一度家を出ようとしてから思い出し、慌てて書いたのだろう。
電話をかけてみる。
無機質な電子音が、ベッドの枕元から鳴り響いた。
(゚、゚;トソン 「……携帯電話を、携帯しなくてどうするんですか……!」
電話を切って、一旦ベッドに座る。
落ち着こう。
ミセリがいつの間にか部屋を空けるなんていつものことだ。
置手紙をしていっただけいつもよりもマシとすら思える。
いや。
(゚、゚;トソン (……普段しないことを、なんでこういう時に限ってするんです)
余計に不安が煽られる。
大学のカフェで聞いた、殺された女の吸血鬼の話。
それがミセリである可能性は低いと思う。ミセリは、そう簡単に殺されるような吸血鬼では無い。
でも、頭をよぎるのはいくらか前の、血を失い、仮死寸前まで消耗した彼女の姿。
392
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:03:12 ID:vmDd.ruE0
最近のミセリは、常に何かをしていた。
そしてそれは、少なくとも今のミセリの手には余ることなのだ。
だから、もしかしたら。
あの時のような消耗状態で、杭持ちに出会ったとしたら。
(‐、‐;トソン (……物事を悪く考えすぎるのは、私の悪い癖ですね)
大丈夫だ。
自分に言い聞かせる。
彼女のことだから、こっちが心配でどうしようも無くなっていても、ひょっこりと帰ってくるのだ。
(‐、‐;トソン (………………)
無理だった。
もとより、不安症の妄想癖だ。
悪い想像ばかりが頭を過って仕方がない。
だんだん苛立ちが混じって来た。
部屋にこもった熱が体を汗ばませて、頭の中がとにかく知っちゃかめっちゃかだ。
393
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:04:41 ID:vmDd.ruE0
するべきことが分からなくなって、とりあえずテレビをつけた。
興味の湧かない情報番組を三十秒だけ見て、もしかしたらと思いチャンネルを回した。
名の売れた吸血鬼ならば、討伐された際に報道されてもおかしくは無い。
十秒程度ずつ見て、チャンネルを切り替える。
どの局も、ゴシップまがいの番組ばかりだ。
時間も時間なので地方局の放送などなく、私が知りたい情報は得られなかった。
(゚、゚;トソン 「……」
テレビを消し、意味も無く部屋を見回す。
いつも通り。特に変哲は無い。
もう一度見渡す。自分でも何を探そうとしているのか分からない。
部屋の中にミセリが居ないのはわかり切っている。
(゚、゚;トソン 「…………暑い」
冷房のスイッチを入れる。
小さい唸りと共に口が開いて、風が出始める。
(゚、゚;トソン 「……」
汗が滲む。
胸の内に、何ともしがたい不安がじわじわと染みて広がる。
少しでも体から追い出したくて、ため息を吐いてみるけれど、憂鬱はむしろ濃く重くなる。
394
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:05:37 ID:vmDd.ruE0
頭の中を何度も、学校で聴いた見知らぬ誰か達の言葉が回った。
女性の吸血鬼と言うのは、この街にどれくらいいるのだろう。
ミセリは一体、何分の一の存在なのだろう。
(‐、‐;トソン
もし、ミセリが居なくなったら、私はどうするのだろう。
あり得ない話じゃなかったのだ。元々。
ミセリがふらりといなくなってしまうことも、杭持ちに殺されてしまうことも。
私が考えなかっただけだ。
考えたくなかっただけだ。
緩やかに、生ぬるく流れ日常に、甘えきっていただけだ。
きっと、この部屋には残られないだろう。
もしかしたら、私も吸血鬼の関係者として摘発され、今までのようには生活できないかもしれない。
なんにしても、両親は今度こそ私を見捨てるだろう。
でも。
そんなことよりも、それももちろん嫌で不安で怖いけれど。
(‐、‐;トソン
ミセリが居なくなってしまったことを想像するだけで、頭と胸の奥が冷たくなる。
目が暗くなって、思考が鈍って、どうしようも無くなってしまう。
私は、いつの間に、こんなにも、彼女に傾倒していたのだろうか。
395
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:06:57 ID:vmDd.ruE0
いてもたってもいられず、立ち上がった。
探しに行こう。
日用品と言うのだから、ミセリが買いに行く範囲はたかが知れている。
携帯電話を置いて行ったことも含めてそう遠出するつもりはないはずだ。
気まぐれで奔放で後先を考えない彼女のことなので、思い付きで意味不明なところへ向かった可能性もあるけれど。
このまま部屋の中で、暑さに蒸され不安に息苦しくなっているよりはマシなはずだ。
ミセリの携帯電話を、テーブルの上に置きなおす。
帰るかどうか迷った時に電話すれば、ミセリが家にいるかどうかの確認が取れる。
(゚、゚;トソン (……あり得るのは、すぐそこのコンビニ……)
帽子を鞄に突っ込み、玄関へ。
鍵を閉め忘れていたことを思い出しながら、ドアノブに手を伸ばす。
その瞬間に、ドアノブから金属音が響く。
鍵を差し込む音。
ガチャガチャと、一度回して錠を掛け、もう一度回転して扉が開く。
小さく、本当に小さく「あれ、閉め忘れてたっけ」という呟きが聞こえた。
ミセ*゚ー゚)リ 「お、トソン帰ってたんだ。お帰り。言ってたより随分早いじゃんか」
開いたドアの向こうにいたのは、長い黒髪のウィッグをつけたミセリ。
何の変哲も無く、買い物袋をブラさげて、部屋に上がる。
ミセ*゚ー゚)リ 「あんた心配しそうだから、先に戻ってくるつもりだったんだけどな。なんかあった?」
(゚、゚トソン
396
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:07:45 ID:vmDd.ruE0
「あちー」とウィッグを外しながら、ミセリが奥へ。
私は咄嗟にその腕を掴む。
腰が抜けそうだった。自分でも驚くくらい安堵していた。
ミセ*゚ー゚)リ 「どした?」
ミセリの顔を見た瞬間に、泣き出しそうだった。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン?」
( 、 トソン 「なんでも、ありません」
しばしの沈黙。
ミセリを掴んでいる手が震えていることに気づく。
なにがなんだか分からない。
自分がこんなにも怯えて、安心していることが、ただただ戸惑いだった。
ミセ*゚ー゚)リ 「なんか、あったのか?」
がさりと音がして買い物袋が床に。
振り返りながら、ミセリに抱き寄せられる。
事情を答えようとして、まともに息が吸えなくて。
ミセリの着るワンピースの脇を握って胸に顔を押し付ける。
ミセ* ー )リ 「なんだよ、そんなに心配だったのか」
子供を落ち着かせるような手つきだった。
ミセリの手が、私の背中を撫でる。
情けなくなって、余計に息が乱れた。
みっともなくて、脆弱すぎる自分に、嫌気がさす。
397
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:10:30 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「ごめんな、置手紙したから平気かと思ったんだけど」
静かな声。
少しかすれた響きが、体の中の巡り廻る。
ミセ* ー )リ 「そらそうだよな、私の言葉なんか、信用できるわけないか」
首を振る。
ミセリが悪いのではない。
( 、 トソン 「……学校で」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「学校で、女性の吸血鬼が殺されていた、という噂を聞いたんです」
ミセ* ー )リ 「……それが、私だと思った?」
( 、 トソン 「…………だって、ミセリ、最近なんだか、様子が変でしたし」
ミセ* ー )リ 「……そうだな。ごめん」
( 、 トソン 「……いえ。帰ってきだけで、良いです」
ミセ* ー )リ 「…………」
ミセリが腕の力を緩め、体を離す。
くっついたままでいようとしたけれど、体を撫で這ったミセリの手に肩を抑えられる。
意図が読めずに顔を上げると、唇が重なった。
398
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:12:33 ID:vmDd.ruE0
優しく触れあうだけの口づけ。
僅かに戸惑って、でもすぐに目を閉じた。
ミセリの舌が、私の唇の隙間を撫ぜる。
背筋が痺れた。
口の力が緩む。
滑り込んできた冷たい舌に、自分の舌を合わせる。
口の中をくすぐり合う。
ミセリの唾液で、舌が敏感になってゆく。
絡み合う。
唾液の水音が直接頭に響いて、体の芯がピリピリと疼く。
口蓋を撫で上げられて声が漏れた。
抜けかかっていた腰にさらに力が入らない。
ミセリに縋りついて堪える。
ミセリが体を引く。
舌が離れて、名残惜しかった私は、口を開いて舌を伸ばす。
唾液の糸が引いた。ミセリは、自分の唇をぺろりと舐める。
ミセ* ー )リ 「トソン、いいよね?」
耳元でささやかれ、体が震える。
女性の割に低く出された声が、神経を通じて全身を侵す。
触れるか触れないかの距離で、唇が首筋を下ってゆく。
胸元の汗を舐めとられた。喉の奥で、きゅっと、声が出る。
399
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:16:16 ID:vmDd.ruE0
キャミソールに手が潜り込んできた。
指の先が、羽毛のようにもどかしく背中を撫でてゆく。
喉の奥から息が漏れる。
いつもよりも、頭が痺れるのが早い
理性が効かなくなってきて、縋りついたまま、ミセリの耳を食む。
ミセ* ー )リ 「ベッド、行く?」
( 、 トソン 「……ここで、してください」
少しも我慢したくなかった。
ミセリが熱っぽいため息を漏らして、私の首筋に歯を立てた。
突き破られる皮膚。
沁み込む唾液が痛みをぼかして、血が流れ出る感触を心地よさに変える。
甘い触れ方で、背中を焦らしていた指先に、余裕がなくなってきていた。
呼吸が荒い。
まだ、ミセリには何もしていないのに、興奮している。
ミセ* , )リ 「トソン」
( 、 トソン 「?」
ミセ* , )リ 「お前、今日妙に可愛いぞ」
右手で私の履くショートパンツのホックを外しながら、左手の中指を舐るミセリ。
粘度の高い唾液が指に絡んで、糸を引いた。
そのまま指は下着に潜り込み、私の中へ。
400
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:17:45 ID:vmDd.ruE0
少し苦しい。でも痛みは無い。
まだ硬い肉をよけて、指がより深いところへ。
内から沁み込む唾液の感覚が、もう何度も味わっているからこそ、下半身の理性を奪ってゆく。
無理に動かすことなく、指が引き抜かれた。
唾液に変わって私の中に居た指を、ミセリが見せつけるように舐める。
何度も舌を絡め、吸い、長し目で私を見た。
脳まで裸にされるようで、顔を背ける。
ふふ、と艶のある息が、見えないところで嗤った。
下着ごと、ショートパンツを下げられる。
抵抗しない。たぶんもう、待ち望んでいた。
邪魔になって、途中から自分で脱ぐ。
足を開いた時に、内腿に感じたのは、汗では無くて。
視線が絡むまま、再び唇を重ねる。
唾液で溶けて、舌が混ざり合う。
ミセリの手が腰へ。尾てい骨を撫でてさらに下へ。
( 、 トソン 「っ?!」
唾液の付いた指が、後ろの穴へ触れた。
反射的に身を捩ったのを、抱きしめられて拘束される。
逃れられない。
唾液を塗り付け、解すように指が入口を刺激する。
401
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:19:37 ID:vmDd.ruE0
( 、 ;トソン 「そこは、きたな……」
ミセ* ー )リ 「力抜いて。痛いの嫌だろ?」
口を離して拒否するも、ミセリは有無を言わせない。
一度戻した指先に、たっぷりと唾液を滴らせ、再び背後へ。
もう一度拒否することもできたかもしれない。
でも、私の体も頭も既に、唾液に、感情の高ぶりに狂わされていた。
( 、 トソン 「っ……ぅ」
初めての感触だった。
柔らかい指なのに硬く感じる。
唾液のせいで痛くは無いけれど、変な心地がして、呼吸が止まって。
指先が入っているだけなのに、切ないくらいに苦しい。
ミセ* ー )リ 「どう?」
( 、 トソン 「なんか、変な感じで、気持ち悪いです」
意地悪に笑って、キス。
体ごと押し付けられて、冷蔵庫に凭れかかる。
八畳一間の、細い廊下。
熱と湿気が篭って頭がどんどん正常さを失う。
もう一方の手が、前に触れた。
唾液の催淫効果で歯止めが利いていない。
自分でも驚くほど、先ほどよりも抵抗なく、ミセリの指を受け入れる。
切ない。もっと先の触れあいを、体が、意志よりも強く求めている。
402
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:21:25 ID:vmDd.ruE0
ミセリの歯を舌で撫でる。
犬歯を探り当てて、強く押し付けて横に滑らせた。
痛みと、自ら感じる血の香り。唾液の中だ、すぐに直ってしまう。
ミセリが、すぐに私の舌を強く吸った。
不安や、憂鬱ごと血が吸い出されていくみたいだった。
私の脳は、チーズかバターのようになって、もう溶け出している。
胎の中で蠢く指の愛しさが堪らなくて、ミセリの体を抱きしめた。
私の中身を挟んで、ミセリの両手が触れあおうとする。
痛みに限りなく近い、快感。
反射的に歯を食いしばったせいで、自分の舌を噛んでしまう。
( 、 トソン 「ミセリ、それダメ……っ」
ミセ* ー )リ 「コレ?」
潰される蛙のような声が出た。
味わったことが無い、こんな感触。
抵抗したいのに体が言うことを聞かない。
ずるりと、後ろの指が引き抜かれた。
力が入っていたせいで、内側が引きずられる。
ほんの一瞬だけ、心地よい。
完全に指が抜かれても、穴が元に戻らないようなもどかしさがあって、物足りなくも感じる。
( 、 トソン 「指、汚い」
ミセ* ー )リ 「私にとっちゃ、全然汚くないんだけど」
403
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:24:29 ID:vmDd.ruE0
右手も私の中から出て行って、私を抱え上げる。
流しに座らされた。
右手で抱き留められ、舌を貪り合って。
左手は蛇口を捻って、私で汚れた指先を洗っている。
私は腰掛けた姿勢のまま、落ちないように足でミセリの腰を挟む。
左手が水を払って、背中から服の中へ。
脇の下を撫でて、胸に触れる。
優しい手つきで掴まれる。
自分で分かる、痛いほど硬くなった先端。
周囲を優しく揉まれ、さすられ、声になり切らない息が、合わさった口の隙間から抜ける。
窮屈で、煩わしいと感じたのと同時にミセリが離れる。
どちらのかなんてわからなくなった液体が蜘蛛の糸のように伸びて。
向かい合う。足で抱えたまま、右手を腰に回したまま、互いの顔を見ていた。
ミセリが笑う。
吸血鬼らしくない上気した頬で、少女のようでも少年のようでも、妖艶な女性でもある綺麗な笑顔。
のぼせてしまう。触れあう以外、まじりあう以外、どうでも良くなってしまう。
余りに煩わしくて、キャミソールを脱いだ。
下着もすぐに外して床に落とす。
ミセリもワンピースを脱いだ。
胸は下着をつけていなかったようで、既に露わになっている。
ミセリの両手が、私の胸を挟むように触れた。
掌で捏ねるように、先端だけは避けて刺激される。
もっと触れてほしいけれど、このまま温いふれあいのままで脳を焼かれていたい。
404
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:28:46 ID:vmDd.ruE0
ミセリの指が、胸の先を、同時に摘まんだ。
急に変わった強い刺激に体が跳ねて、バランスを崩してミセリの肩を掴む。
優しい愛撫から、激しく引っ張られ、痛いのに、甘さを込めた息を吐いてしまう。
ミセリの頬が頬に触れた。
擦り付け合う。匂いを移しあうように、愛しさを表すような頬ずり。
少し油断したところで、耳に息を吹きかけられた。
体が強張る。そのまま、ひだから穴まで舐められて、堪える余裕なく声が出た。
執拗に、胸と耳を責められる。
快感で痺れて、足の力が抜けそうだ。
不安定な場所の、ハラハラで、快感に身を委ね切ることが出来ず。
もどかしくて、欲求が焦れて、もっと、もっと欲しくなる。
( 、 トソン 「ミセリ、ミセリ」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「触れて、ください。もう、切なくて」
ミセ* ー )リ 「…………いいよ」
流しから降ろされて、立たされる。
自分で思っていたより足に力が入らなく、尻餅を付きそうになったのを、ミセリが支えてくれた。
ミセリが屈み、私の右足を持ち上げる。
左足は腕で抱え支えられる。
愛液に塗れた足の付け根が露わになった。
見られている。でも、恥じらいよりも、触れてほしい思いが勝った。
405
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:32:48 ID:vmDd.ruE0
ここがアパートの一室であることも、もう関係が無かった。
声が上がる。性器の硬いところにミセリが吸い付く。
電流。皮膚が毛羽立つ。私の体からミセリ以外の感覚が吹き飛ばされた。
両手でミセリの頭を抱える。
さらに強く吸わる。取れてしまうそうなほどだ。
充血して過敏になったそこに舌が触れる。
悲鳴が喉を裂いて出た。脳みその中にある大事な糸が残らず引き千切られていく。
束ねた二本の指が、私の中に入ってくる。
刺激が二重になる。鋭い刺激の隙間を埋めるように粘度の高い快感が頭を埋め尽くす。
欠けていた部分が、丁度良く満たされた、充足感。
涎がだらしなく零れる、
吸血鬼の唾液でこの上なく敏感になった体は、もう私のものでは無くなっている。
体が痙攣するのに伴って、シンクがギシギシと軋みを立てた。
空いている左手の指が、口に変わって肉の芽を摘まむ。
場所を譲った口が、挿入を繰り返す指に合わさって、入口を舐め嬲る。
指がお腹の裏側を撫で上げて、掻きだした愛液を、舌が啜りとる。
指先が、私の弱いところを執拗に捏ねる。引っ掻く。舌を入れて舐めまわす。
やめてほしいけれど、やめてほしくない。
永遠に続けてほしいけれど、死んでしまうかもしれないくらいに頭が白くなる
しばらく、一体どれくらい貪られたか分からない。
何度、脳幹が焼け飛んだかも分からない。
廊下はサウナのように暑く、私とミセリは互いの汗にまみれきっている。
私は立っていることができず、床に倒れ込んで。
ミセリは私の足の付け根を、優しく、しつこく、舐り続けた。
お腹の中の栓が緩んで弛んで、汚い水音と共に、愛液が零れ出る。
体が痙攣する。ミセリの手が止まってゆっくりと引き抜かれた。
ミセリは、死体のような私の体を力強く体を抱き抱える。
406
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:34:16 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「指がふやけちゃった」
( 、 トソン 「そう言う、こと……」
冷たい床にへたり込みながら、舌を絡める。
心地よい気だるさ。
根拠のない安心感に満たされて、瞼が重くなる。
ミセ* ー )リ 「なあ、まだする?していい?」
( 、 トソン 「……好きなだけ、どうぞ」
ミセリが私を抱え上げ、ベッドへ。
押し倒すように乗せられ、ミセリは押入れの方へ。
散々弄ばれた名残で、ぼんやりとミセリを待っていると、さほどせずに戻ってきた。
ミセ* ー )リ 「……じゃ、いくね」
( 、 ;トソン 「…………なんですか、それ」
ミセ* ー )リ 「通販で買った」
ミセリが舌を這わせて居たのは、男性のそれを模した、何かだった。
当然ながら指よりも太く、腕ほどに長く、凶悪さがにじみ出ている。
ベッド膝を付き、ミセリが私の足を開く。抵抗は、したものの無駄だった。
( 、 ;トソン 「ちょ、ちょっと、ミセリ?」
ミセ* ー )リ 「………好きなだけって、言ったもんね」
( 、 ;トソン 「待ってください、そんなの入ら―――」
407
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:35:04 ID:vmDd.ruE0
時間で、二時間弱程度だろうか。
気付かぬ内にカーテンの隙間から覗く陽光がさらに強くなっている。
乱れに乱れたベッドの上で、私とミセリは抱き合っていた。
ミセリが腕を出してそこに私が頭を乗せて、抱えられているようなものなのだけれど。
シーツが湿気ている。替えはあるけれど、好感する気力なんてなかった。
冷房の吐き出す空気の冷たさが心地いい。
熱を持って静まらない体が、少しだけ癒される。
ミセ* ー )リ 「ごめんな、無茶しすぎた……?」
( 、 トソン 「吸血鬼のあなたに、本気出されたら、死んじゃいますよ」
ミセ* ー )リ 「……今日は、ダメだ。がまんが利かなかった」
( 、 トソン 「……」
ミセ* ー )リ 「…………あの時、出会ったのが、トソンで良かったよ」
( 、 トソン 「……」
応えるべき言葉が思い浮かばなくて、とにかく触れていたくて足を絡める。
ダメなのは、私も同じだった。
一線を引いたつもりでミセリと過ごしてきていた。
体を許しても、所詮人と吸血鬼なのだから、心を完全に預けるわけにはいかないと。
けれど。
408
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:36:51 ID:vmDd.ruE0
( 、 トソン 「……今日、本当に貴方が死んでしまったかもしれないと思ったら」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「他の何を失うより怖ろしいことだということに、気付いてしまいました」
ミセ* ー )リ 「……」
( 、 トソン 「おかしいと思いますよね。女同士で、人と吸血鬼で」
ミセ* ー )リ 「ああ、おかしいな。おかしいけど」
( 、 トソン
ミセ* ー )リ 「悪くない」
ミセリが、私の頭を抱きしめる。
胸が顔を圧迫して苦しい。苦しいけど、このままが良い。
ミセ* ー )リ 「正直なことを言うよ。初めてあんたに会った時、私はあんたに催眠術をかけた」
( 、 トソン 「……そうだろうとは思ってました」
ミセ* ー )リ 「血を貰ってあとは解放するつもりだったんだ、でも」
家出して、何も持たず行くあても無く、途方に暮れていた私をミセリは憐れんだ。
憐れんで、連れ帰った。血を代償に私に居場所をくれた。
409
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:37:56 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「だから、あんたが私に好意を持っていても、それは暗示のせいだった、はずだったんだ」
( 、 トソン 「違いますよ」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「絶対に違います」
ミセ* ー )リ 「…………おかげで、あんたを愛しいとしか思えなくなった」
絆されていく。
互いに超えるべきでないと分かっていた線が、気付いたら後ろにあった。
もうだめだ。自覚してしまったら、自認してしまったら、きっともう戻れない。
吸血鬼の時間は悠久で、人の時間はそれに比べれば酷く短い。
交わったところで、いつかずれてすれ違って、終わってしまうと分かっている。
でも、だからと言って触れあったことを無かったことにはできない。
希望の無い沼の深みでも構わないんだ。どうせ、望む未来なんて、そもそもないんだから。
ミセ* ー )リ 「…………後悔するなよ」
( 、 トソン 「さっき散々したので、大丈夫かと」
静寂。夏なのに、蝉の声すらない。
時計の針の音が聞こえた。カチカチと、時間を刻んでいる。
( 、 トソン 「……だから、教えてください。最近躍起になっている、何かについて」
ミセ* , )リ 「…………ああ」
410
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:40:03 ID:vmDd.ruE0
おわり
三行
真
昼
間から
411
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 16:02:38 ID:NPi1OaP.0
乙
話が動いて来たね
412
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 22:17:18 ID:PJBGs4hk0
乙
エロい
413
:
名も無きAAのようです
:2014/08/25(月) 03:05:11 ID:ZvHbLskU0
乙
414
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:01:57 ID:2xGyhTZw0
乙
話も面白いし、ゆりゆりも最高だし
415
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:57:31 ID:jMn5.vQM0
すごく面白い乙
何度も読んでしまう
416
:
名も無きAAのようです
:2014/09/22(月) 04:00:21 ID:fqLLkRjU0
そろそろかな?
417
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:47:43 ID:rlK3C6BQ0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
418
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:50:46 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……体の力を抜け」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
('A`) 「恐れることは無い。俺に全て任せろ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
椅子に座らせたデレが、緊張した面持ちで唇を結ぶ。
ドクオは膝をついて目線を合わせ、真っ向から彼女の瞳をのぞき込む。
綺麗な瞳だ。透き通り、見ているこちらの方がすべてを見透かされている気分になる。
ドクオは、一度大きく息を吸って、目に力を込めた。
じくじくと眼窩が独特の熱を持つ。
暗示の力が働いているのだ。
自分で見たことは無いが、他人にはドクオの瞳が発光して見えるらしい。
おずおずとドクオと見つめ合っていたデレの顔が、惚けたようなものに変わった。
頬が紅潮し、薄い唇が桃色に染まる。
上手くかかったようだ。
ドクオはこの催眠術の真似事がどうにも得意になれないので、今回も失敗するかと内心は心配していた。
('A`) 「お前の名前は?」
ζ( *ζ 「……しずのめ……でれです」
('A`) 「他に名前はあるか?」
ζ( *ζ 「……ありません」
419
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:52:13 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「わかった。一先ず、デレと呼ぼう」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「デレ、お前はどこの生まれだ?」
ζ( *ζ 「そうさくし です」
('A`) 「両親の名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「お父さんと、お母さんの名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……思い出せないか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……質問を変えよう。お前はどこの小学校に通っていた?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………今の年齢は?」
ζ( *ζ 「9さい です」
('A`) 「……性別は?」
ζ( *ζ 「おんな です」
420
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:53:23 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「趣味はあるか?」
ζ( *ζ 「ほんを よむのが すき」
('A`) 「好きな本は?」
ζ( *ζ 「しあわせの あおいとり」
('A`) 「なんでその話が好きなんだ?」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「……好きな人はいるか?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「それは、誰のことだ?」
ζ( *ζ 「…………おとうさま」
('A`) 「……俺はお前にとってのなんだ?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「俺のほかにも、お父様が居たな?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「それは誰だ」
ζ( *ζ 「おとうさま」
421
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:54:30 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……逆に、嫌いな人はいるか」
ζ( *ζ 「くいもち」
('A`) 「なんで嫌いだ?」
ζ( *ζ 「おとうさまを ころそうとする」
('A`) 「……お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「俺は生きているが、お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「おとうさまは あたらしいおとうさま」
('A`) 「おとうさまは杭持ちに殺されたか?」
ζ( *ζ 「わからない」
('A`) 「前のお父様の遺物を持っているか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「……それはどこにある」
ζ( *ζ 「…………どこか」
('A`) 「どこだ」
ζ( *ζ 「……どこか」
422
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:55:25 ID:rlK3C6BQ0
半覚醒状態のデレに、他愛ない質問と、核心を探る質問をまぜこぜにして問う。
他愛ない方には答えが返ってくるが、核心に迫る物はダメだ。
ドクオの術にかかり、本人の意志は全く働いていないはずなのだが、それでも答えようとはしない。
知らない訳ではないのだ。知らないことには知らないとはっきり答えることからも分かる。
その後十数分に渡り、質問を続けて見たが成果は得られなかった。
分かったのは、今のデレの人格を形成している「おとうさま」の暗示の能力は、ドクオより数段上だということだけだ。
('A`) 「……もう一度聞く。おとうさんとおかあさんのことを覚えているか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………わかった。そろそろ終わりにしよう」
('A`) 「最後に、俺に言いたいことはあるか」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「何でもいい。ゆっくりでいい。どんな他愛ないことでも構わない」
ζ( *ζ 「…………なにもありません」
('A`) 「……」
ζ( *ζ 「……なにもありません」
デレの頬を、一筋の涙が伝った。
423
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:56:52 ID:rlK3C6BQ0
術を解く。
完全に気を失い、倒れかけたデレの体を受け止めた。
少女然としていて軽く、小さい。
しかし、年齢を考えれば、もう少し成長していてもおかしくないはずだ。
やはり、吸血鬼に定期的に血を与えるというのは、少女の体には荷が重いのか。
ドクオはぐったりとした彼女の目じりを指で拭ってやる。
('A`) 「ジョルジュ、すまん。デレを寝室に連れていく」
_
( ゚∀゚) 「あいよん」
部屋の隅で大人しく気配を消していたジョルジュが小走りで部屋の扉を開けた。
ここは一回の奥の物置部屋。今はジョルジュに貸し与えている場所だ。
デレは、今も死に失せた「お父様」の呪縛に囚われている。
出来るだけ、その名残の無い場所で術による干渉を行いたかった。
('A`) 「……どう思った」
_
( ゚∀゚) 「どうもこうも、本当にがっつり洗脳されてんだな、って感じ」
('A`) 「ああ」
_
( ゚∀゚) 「上辺だけをキャラ漬けされてるってレベルじゃないもんな。正直やった奴を殴り倒したいわ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「まあでも、希望はあるんじゃねえかな。最後のは、なんか、本人が呪縛と戦おうとしていた感じあるし」
('A`) 「だと、良いんだがな」
424
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:00:04 ID:rlK3C6BQ0
地下の寝室に降り、ベッドにデレを寝かせる。
洗脳されている部分に干渉したせいで消耗したのだろう。
ぐったりと眠って、起きる気配が無い。
('A`) 「最近は、少し人間味を取り戻してきていたようだったから、期待したんだがな」
_
( ^∀^) 「焦りは禁物ってな。状態が改善してる兆しはあるんだしよ、無理しないでいこうぜ」
('A`) 「……ああ」
デレの額を撫で、乱れた髪を調えてやる。
こうして寝ていると、本当にただの少女だ。
起きている時の所作言動の薄気味悪さが嘘のように思える。
_
( ゚∀゚) 「つかさ、なんでそこまでデレちゃんのこと気にかけてんのさ」
('A`) 「……お前も色々してくれてるだろ」
_
( ゚∀゚) 「そりゃ俺も並の善意?みたいなもんあるし。でもさ、ドクオはなんかこう、もっと必死というか、マジというか」
('A`) 「…………コイツは、洗脳されての行動とはいえ、俺の命の恩人だからだ。それ以外に理由は無い」
_
( ゚∀゚) 「ふーん……」
いまいち納得していないという顔ながら、ジョルジュはそれ以上続けなかった。
嫌われているのを自覚して、あまり接近しないようにデレを覗き込む。
_
( ゚∀゚) 「まあ、でも。目をつけたのがドクオだったってのが、この子のなけなしの幸運だったと俺は思うぜ」
('A`) 「……俺がどうかはともかく、他のゴミに同じように懐こうとしたかも知れないと考えると肝が冷える」
425
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:01:02 ID:rlK3C6BQ0
あらかじめ寝間着を着させておいたので、このまま寝付かせて問題ないだろう。
ドクオは布団をデレに被せてやる。
小さな、しかし少し荒い寝息が聞こえる。
以前に一度、暗示をかけた時もこうだった。
その時は、ドクオの暗示で無理やりに元の人格を引き出そうとしたが失敗。
術が解けたと同時にデレは意識を失い、そのまま数時間眠り続けたのだ。
悪夢を見ているかのように魘されている彼女の姿には、簡単に干渉できない何かがあった。
今回は多少気を使ったつもりだが、それでも夢見は悪いらしい。
もう一度額の汗を拭ってやる。
デレが少し反応した。閉じていた瞼が開き、うるんだ目でドクオを見上げる。
ζ( 、 *ζ 「お父様……?」
('A`) 「……負担がかかっているはずだ。もう少し寝ていろ。」
ζ( 、 *ζ 「……?」
術にかかる前後の記憶があいまいなのか、自身の状況が把握できてい無いようだ。
今、あれこれと説明しても無意味だろう。
ドクオは頭を撫で、一先ず寝かしつけようとする。
ζ( 、 *ζ 「お父様……」
('A`) 「なんだ」
ζ( 、 *ζ 「……傍に……いてください」
426
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:02:10 ID:rlK3C6BQ0
小さな手が布団から現れて、ドクオの指を掴む。
デレはそのまま瞼を閉じて、寝息をたてはじめた。
少し引いてみたが、寝ている割にはしっかりと捕まっている。
_
( ゚∀゚) 「よっぽど怖い夢でも見てんのかねえ」
('A`) 「……甘ったれなだけだ」
_
( ゚∀゚) 「ドクオも一緒に寝たら?昨日もロクに寝てないだろ?」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「色々考えてるのはわかるけど、無理は良くないって」
('A`) 「……そうだな。俺も少し寝る。上のことは任せていいか」
_
( ゚∀゚)b 「おうよ。家事もろもろとデレちゃんの夕飯は俺に任せな」
('A`) 「すまん、いつも世話になる」
_
( ^∀^) 「ま、無職の俺の方が世話になってんだけどな」
地下を出てゆくジョルジュを見送って、ドクオも布団に潜る。
ジョルジュの言っていた通り、ここ数日真面に睡眠をとっていなかったので、常に睡魔に襲われ続けている。
ついでに腹も空いているが、こちらはいつものことだ。
二日前にいくらかデレの血を吸ったので、まだまだ耐えられる。
427
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:04:44 ID:rlK3C6BQ0
デレをなるべく中央からどかさぬよう。端に寄って眠る。
仕方ないので、指はデレに捕まれたままだ。
暗示をかけて負担をかけたのはこちらなのだから、この程度のわがままは許してやっても罰は当たるまい。
目を閉じる。
デレの寝息だけが聞こえる。
最近では、すっかり耳に馴染んでしまった。
一度、同じ床に入ることを赦した時点からデレは必ずドクオと共に眠る様になった。
寝付くまでの数分を、会話して過ごすことも増えた。
デレが、少しずつ年相応のらしさを取り戻すのと同時に、ドクオもようやっと彼女に慣れ始めている。
( A ) 「…………」
ζ( 、 *ζ 「ん……」
( A ) 「…………おい、離れろ」
ζ( 、 *ζ スャー......
( A ) 「…………チッ」
手を抱くようにすり寄ってきたデレを、少しだけ押し戻し。
ドクオもまた、深い眠りに就いた。
428
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:05:33 ID:rlK3C6BQ0
眠い人用三行
デレの洗脳
解けず
とりあえず添い寝
短いですが明日か明後日また投下します
429
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:09:43 ID:Lr4GRp020
ムジナまってたよ!!しえん!
430
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:10:37 ID:Lr4GRp020
っておわってたwwおつ
次に備えて今日のぶんいまからよんでくる
431
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:11:19 ID:ZOZNalQA0
乙
どう収束していくのか毎回気になるぜ
432
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 23:33:40 ID:scZKMryM0
乙!
本当に文章力があって、キャラの立て方も上手いよ
完結したら現行で見たあと
まとめでもういっぺん一気読みしたいぐらい
433
:
名も無きAAのようです
:2014/10/20(月) 01:45:29 ID:nVrxe7Es0
乙!
434
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 22:38:21 ID:wnH.c6X.0
ζ(゚ー゚*ζ
http://i.imgur.com/lgNMzMZ.png
キャラの掛け合いも面白いし背景の描写も密でわくわくする
続き楽しみです
435
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 23:00:15 ID:rWRoTenY0
>>434
クオリティすgeeee
436
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:38:46 ID:tDoD0cvc0
Place: 草咲市 とあるビルの屋上
○
Cast: 棺桶死オサム 百々クックル 小山内リリ
──────────────────────────────────
437
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:43:01 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「吸血鬼の生涯に、孤独はつきものだ」
その男は、屋上の縁に立ち月を見上げていた。
背に負った棺桶が黒いシルエットを歪にし、一目では人の姿とは分からない。
【+ 】ゞ゚) 「元は人であるから人を愛してしまうが、人にとって吸血鬼は恐れ忌むべき捕食者に過ぎない」
【+ 】ゞ゚) 「稀に受け入れる者が現れても、やはり長くは続かない」
大きく、輪郭のはっきりとした満月。
雲のない夜空にその光を遮るものはなく、街は夜とは思えぬほどに明るい。
いつもは眩しいネオンライトも、今日はどこか控え目だ。
【+ 】ゞ゚) 「故に、吸血鬼は愛されることに飢える。野良の吸血鬼が同族を生み出してしまう大きな理由はここにあるだろうね」
男、棺桶死オサムはくるりと振り返った。
月の逆光で表情は見えないが、恐らくいつも通りの腹立つ笑みを浮かべているのだろう。
【+ 】ゞ゚) 「悲しいことに、同意の下で吸血鬼化させたとしてもそう言った関係は割合すぐに破たんすると相場が決まっていてね」
【+ 】ゞ゚) 「有限の時間だからこそ尊く愛した相手でも、永遠に共にあるとなれば別であるから、必然ともいえるのだが」
棺桶死は、少し高く作られたそこから屋上の側へと降りる。
巨大な箱を背負っているにも関わらず、足音一つない。
黒い影に塗りつぶされたシルエットの中、その双眸だけが紅く怪しく輝いている。
【+ 】ゞ゚) 「これは、吸血鬼に与えられた罰なのだろう。人でありながら、人を喰らう、その業に対する、ね」
438
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:45:36 ID:tDoD0cvc0
棺桶死は屋上の端をなぞる様に横へ。
月明かりのあたりが変わり、体が徐々に闇から現れる。
穏やかな笑み。街ですれ違えば少々身分の高い老紳士にしか見えないだろう。
相対するは、長身の男と少女。
男は黒いスーツで全身を固め、少女は背中にランドセルに似た四角い皮の鞄を背負っている。
【+ 】ゞ゚) 「久しぶりだね百々、小山内。前に英栄で一戦交えて以来かな?」
( ゚∋゚) (……我らの前に進んで姿を見せるとは、何を企んでいる、棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「いやさ、態々草咲まで君らが来てくれたのだ。一戦、相手してやらねば義理が立たんと思ってね」
( ゚∋゚) (その余裕。今日こそ捻りつぶす)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ^) 「受けてたとう。アレが引退してから、どうにも退屈でたまらんからね」
( ゚∋゚) (…………ほざけ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
長身の男、百々(どうどう)クックルは両手に杭を備えた。
巨大なメリケンサックに、短杭の刃を生やした特注品。
便宜上、「拳杭」と名付けてはいるのだが、杭持ちの間では「百々杭」と呼ばれている
扱いが直感的で単純な半面、膂力が物を言うため百々以外に使う者が居ないからだ。
439
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:48:57 ID:tDoD0cvc0
百々の隣に立っていた少女、小山内(おさない)リリはテコテコと屋上の入口付近まで下がる。
それを合図に、百々は前へ。
長く逞しい足を活かし、瞬く間に棺桶死に肉薄。
走る勢いを殺さぬまま拳と杭を叩き付ける。
打撃と、金属を引っ掻くけたたましい音が連続する。
棺桶死は背負っていた棺桶を前に出し、百々の杭を受けたのだ。
百々は続けて逆の拳を、あえて棺桶に打ち込む。
剛力に蓋が軋み、棺桶死の体が僅かに揺らいだ。
この一瞬の隙に百々は横へ体を潜り込ませる。
見えたのは棺桶死の脇腹。
がら空きのそこへ、フックの容量で拳を振るう。
杭の先端が棺桶死の肉を捉えるかと思ったその寸前、棺桶死の身体が霧散した。
黒い霧の塊へと変貌した棺桶死は、百々から距離を取った位置で再び人の姿へ戻る。
【+ 】ゞ゚) 「やれやれ……流石、人間とは思えない」
棺桶死が手放していった棺の蓋は、大きく窪んでいた。
鉄製である。
そう簡単に歪むものでは無い。
【+ 】ゞ゚) 「大天福や素直嬢とは全く違う強さだ。彼らは人間的な部分をより特化しているが、君は」
言葉の途中で銃声が鳴り響き、棺桶死の頭が横に弾かれた。
耳のやや上から血飛沫が吹き出し、夜空に立ち上る煙となる。
440
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:50:39 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「…………余裕を持ちすぎかと思われますが」
血飛沫の原因は、屋上入口の陰から半身だけを露わした小山内リリ。
その腕には小さな体に見合わぬ厳つい小銃。
銃口から登る細い煙が風に吹かれて靡いている。
一発目の命中によって生まれた棺桶死の停止に、さらに引金を引く。
銃口の消炎器が、十字に火を噴いた。
地に伏せ、かなり独特な体制で銃身を抑えながらも狙いは正確。
放たれる弾は悉く棺桶死の体を貫いてゆく。
この射撃の間にも、百々は棺桶死に迫った。
拳の間合いへ到達すると同時にリリの銃が哭き止む。
( ゚∋゚) !
大きな踏み込みから、棺桶死の胸部に杭を叩き込む。
三本の杭が肉を断ち、骨を砕いた。
振り抜いた拳の勢いのまま棺桶死の体が宙に浮く。
百々は軸足を入れ替え、体重を移動し、逆の拳で頭部を殴り払った。
深く食い込んだ杭が、硬い音を立てながら棺桶死の顔を四分割する。
血と脳漿が吹き出し百々の体を濡らすが、それでも巨漢は止まらない。
さらに切り返しの拳。
捻りが咥えられた並列する三本の刃が棺桶死の胸を抉り、吹き飛ばす。
軽々と浮いた棺桶死は放物線を描き貯水タンクへ。
仰け反った姿勢で頭部から衝突し、跳ねて地面に伏せる。
441
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:01:44 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「クックルちゃん!」
手りゅう弾のピンを口で外し投げつけるリリ。
貯水タンクに跳ねたそれは、起き上がろうとしていた棺桶死の頭へと落ちる。
そして。
静かな月夜に似合わぬ轟音が鳴り響く。
リリは腕で顔を庇い、百々は彼女の小さな体の前で自らの肉体を盾とした。
ぱらぱらと、舞い上げられた瓦礫の落ちる音。
百々とリリはすぐに離れ、それぞれの得物を構えながら、棺桶死の居た場所を睨みつける。
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。これくらいで奴が死ぬとは思えません」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「一応大天福ちゃんにも連絡はしておきました。彼のことだからすぐに来てくれると思います」
手りゅう弾によって破損した屋上の床。
そこには棺桶死の身体、流れ出た血すらも存在しない。
「やれやれ、やはり君らは容赦がないね」
後ろからの声に、咄嗟に振り返る二人。
が、棺桶死の姿を視認することが出来ず、リリが横に吹き飛ばされた。
コン.ク.リートの床を転がり、縁の段差に背中を打ちつける。
口から唾液が零れ、苦しげに身を丸めた。
442
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:03:19 ID:tDoD0cvc0
リリを心配する余裕も無い。
百々は僅かに見えた棺桶死の攻撃を腕で捌く。
すさまじい衝撃にスーツの内に仕込んだ特殊繊維のプロテクターが軋みを上げた。
次々と襲い来る棺桶死の攻撃。
月明かりの中、百々は硬く握られた白い拳を視認した。
ただし、その数が妙に多く感じる。
棺桶死が早いとか、薄暗い中で残像が見えるとか、そんな甘いものでは無い。
実際、棺桶死の手は左右合わせて六つ存在していた。
棺桶死の身体は、大半が霧に変化したまま。
実体化しているのは胸部と顔、そして複数に増えた腕のみだ。
その状態から、人間には再現不可能な速度と力の連撃を放っている。
【+ 】ゞ゚) 「よく耐える。……だが」
連続する打撃を受け切れず、いくつかの拳が百々の体を捉えた。
内臓が揺さぶられ、骨が痺れる。
絞り固めた筋肉の防御も余り役には立たない。
こじ開けられた腕の防御の隙間を抜けて、百々の顎が打ち上げられた。
巨体が浮き、そのまま受け身も取らず地面に落ちる。
【+ 】ゞ゚) 「速さだけなら大天福だね。アレは私より僅かに速い」
霧を纏い完全な実体へ戻る。
腕は二本に戻り、受けた数々の傷は一つも残っていない。
軽く埃を払い襟を正すさまは銃弾爆薬鋼の剣が煌めく戦闘の後とは思えぬほど穏やかだ。
443
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:04:47 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「おや、死なない程度に意識を飛ばしたつもりだったのだが」
⌒*リ´・-・リ 「…………う、くっ」
【+ 】ゞ゚) 「相変わらず見かけに寄らない頑丈さだ」
⌒*リ´・-・リ 「……棺桶死、あなたはなぜ、この街に来たのです」
【+ 】ゞ゚) 「……特に理由は無い。娘の顔を見ようかと思ってね」
⌒*リ´・-・リ 「……」
リリは小銃を杖代わりに立ち上がった。
やや覚束ないが、気丈に棺桶死を睨みつける。
⌒*リ´・-・リ 「…………ハインリッヒ高岡とは何者なのです」
【+ 】ゞ゚) 「!」
⌒*リ´・-・リ 「先日、私たちの元に、あなたの居場所をリークする電話がありました」
⌒*リ´・-・リ 「それは、あなたが私たちをおびき出すため、素直ちゃんたちの前に姿を現す以前の話です」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「信憑性の無い情報でしたので、一先ずは裏取りをしていたのですが、結果として正しかったということになります」
444
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:39:51 ID:tDoD0cvc0
※私用にて中断します
445
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:08:17 ID:oAXzoo4c0
おま……!乙……!
446
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:13:46 ID:9jQR.3h.0
くぁ……!
乙
447
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:14:42 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「私たちですら正確な居場所のつかめないあなたの、一時の隠れ家までを暴いて見せたその男が名乗った名」
⌒*リ´・-・リ 「それが、ハインリッヒ高岡」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「疑問に思った私たちは、とりあえずその男の名を調べました。
偽名である可能性も考慮し、近しい意味合いを持つ名前までを徹底的に」
【+ 】ゞ゚) 「そして、見つかったかね?」
⌒*リ´・-・リ 「いいえ。少なくともここ十数年の記録からは、それらしい人物を特定できませんでした」
棺桶死はごく小さな声で「そうだろうね」と呟いた。
やはり関係者なのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「と、本来ならばここで「ハインリッヒという名は偽名である」と結論付けて終わりなのですが……」
頭の片隅に置く程度に留めていたその名を、リリたちはこの街に来てもう一度聞くことになる。
ここ、草咲市市街は最近妙に吸血鬼絡みの事件が頻発している。
今までにない規模での吸血鬼の量産。それに伴う数々の凶行。
杭持ちたちは全力で原因の解明に当たっており、僅かずつであるが進展も得られている。
その中に、あったのだ。
ハインリッヒという名が。
⌒*リ´・-・リ 「大天福ちゃんが、一連の事件の要因に関わると思われる吸血鬼を捕らえたのですが、
その吸血鬼が取り調べの中で唯一口にしたのが『ハインリッヒの意志』という一言だったそうです」
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名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:16:05 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「……なにか、繋がってくる気がしませんか?」
⌒*リ´・-・リ 「地雷女。棺桶死オサム。吸血鬼事件の異常な頻発。その他にも、いつになく草咲市は賑やかです」
⌒*リ´・-・リ 「この、きなくさ〜〜〜い感じ、全て偶然でしょうか?」
【+ 】ゞ゚) 「…………そうか。奴はついにそう言う手段に出たか」
⌒*リ´・-・リ 「やはり、御存じなのですね」
【+ 】ゞ゚) 「ああ。だが、語らんよ。奴のことは、出来るだけ私たちだけで片付けたいからね」
⌒*リ´・-・リ 「よく言います。私たちを招くようなマネをしたのは、この件に少しでも戦力を巻き込みたかったからでしょう」
【+ 】ゞ゚) 「……察しが良くて助かるね」
⌒*リ´・-・リ 「貴方の思惑通りに私たちが動くと?」
【+ 】ゞ゚) 「私の思惑では無い。人を救いたい君たちの意志が、私の利と一致するだけさ」
⌒*リ´・-・リ 「腹の立つ言い方だ。……と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「!」
棺桶死の背後、気絶していたはずの百々が立ち上った。
わずかな間もおかず、そのまま熊が爪を振るうように、棺桶死の体を薙ぎ払う。
素早い反応を見せたため深く抉ることはできなかったが、血が地面に跡を残す。
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名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:18:07 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「む?」
( ゚∋゚)
相変わらず冷静さを見せた棺桶死だったが、少しして眉をしかめた。
切り裂かれた傷の修復が遅い。
霧への変化すらもどこか鈍っている。
【+ 】ゞ゚) 「おやおや。これは」
( ゚∋゚) (我々がいつまでも貴様に振り回されるだけだと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「ふむ。確かに油断してもいられないようだ」
棺桶死の血が糸のように伸び傷口を縫合してゆく。
折角の有効打もすぐに回復されてしまったが、止むを得まい。
血刑の糸による縫合は飽くまで応急処置。
これまでのように時間を巻き戻すかの如く復活されるよりはマシになったと思うべきだ。
【+ 】ゞ゚) 「気絶したふりをして、杭に何か仕込んだか」
( ゚∋゚) (抗血刑剤。かねてから研究されていたが、ようやっと実用レベルに達したというところだ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「…………旭の遺産か。死んでもなお仇を成す者とは、どこにでもいるものだね」
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名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:19:20 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「…………さて、頃合いだ。そろそろお暇させてもらうとしようか」
( ゚∋゚) (逃げるつもりか棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「……これ以上は戯れでは済まなくなるだろう。まだ君らを殺すときでは無い」
( ゚∋゚) (我らがこの好機をみすみす逃すと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「好機……?はて……」
棺桶死が顎に手を当て小首を傾げる。
同時に、百々の杭の刃が根元から全て折れた。
咄嗟に構えたリリの小銃も、弾倉が地面に落ち込められていた弾が一つ残らず取り外される。
どちらも、装備して居たそれぞれは何の操作もしていない。
【+ 】ゞ゚) 「いくら君でも、素手で私とやり合うのは無理があるのではないのかな、百々」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「……本当に、忌々しい人」
【+ 】ゞ^) 「止むをえまい。私は人類にとっても、吸血鬼にとっても最大の怨敵でなければならないからね」
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名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:20:25 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「では、また会おう百々、小山内。その日まで、健やかで居ておくれよ」
棺桶死の体が文字通り霧散した。
黒い靄は瞬く間に空気に融け消えて、彼の放っていた強烈なプレッシャーも綺麗に消え去る。
⌒*リ´・-・リ 「……結局、核心事は煙に巻かれてしまいましたね」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「ええ。腹立たしいことですが、今は棺桶死の思惑に乗るしかないでしょう」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。まずは装備を新調しなければ。私の銃は何とかなりますが、クックルちゃんの杭は時間がかかりますし」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「水臭いことを言わないで、クックルちゃんのサポートをするのが、私のお仕事だもの」
( ゚∋゚)
棺桶死が一度去った場所に再び戻ることは滅多にない。
二人は手早く戦闘の痕跡を清掃し、屋上を去った。
人のいなくなった屋上は煌々とした月の明りの中で、時が止まったように、静寂を取り戻した。
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名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:21:21 ID:tDoD0cvc0
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