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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ
1
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0
―― ― ―― ― ―――
恐らく私は。狂ってしまったのだ。
穴ぐらから飛び出て。
あの夜に浴びた。青い青い月の光で。
透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ
だから私は。私では無い。
私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
同じ形をしただけの。
私ではない。誰かだ。
斜視のこの目に。乱視のこの目に。
映るこの景色は。当然に狂っていて。
焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。
正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。
寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。
唇に優しさが欲しかったのはきっと。
今宵の月も青かったからなのだ。
―― ― ―― ― ――
196
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:31:04 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「どうしたんですか」
ミセ* , )リ
答えはない。
強引に持ち込んで誤魔化すつもりだ。
残念だけれど、この程度で流されてしまう私では無い。
(゚、゚トソン 「……」
ミセ* д )リ そ 「痛い?!」
拳骨を握り、ミセリの頭を叩く。
こちらの手が痛い程度には、力を込めた。
ミセリが私から離れる。頭を押さえているのが薄暗闇の中に見えた。
ミセ;*゚д゚)リ 「何すんのさ!」
(゚、゚トソン 「だからエッチする気無いって言ってるじゃないですか」
ミセ;*゚ ,゚)リ 「そこは何かあったと察して受け入れてくれるところじゃないの?」
(゚、゚トソン 「知りません。そうそう都合よく押し切られてたまるもんですか」
ミセ;*゚ ,゚)リ 「ちぇー……厳しいなトソンは」
流石に諦めたのか、ミセリが完全に身を起こした。
私はベッドの枕元に置いてあった照明のリモコンを手に取る。
ボタンを押す。人工的な白い光が部屋を照らす。
ミセリは眩しそうに顔をしかめた。
197
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:32:25 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「で、何があったんです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「別に、大したことじゃないんだけど」
(゚、゚トソン 「ならさっさと吐きなさい」
ミセ*゚ ,゚)リ 「ちょっと昔のこと思い出しただけだってば」
ミセリがだるそうに、私の腹に抱き着いた。
再び発情する様子はないので、放っておく。
私は下着のホックを止めなおし、捲れた服を元に戻す。
ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、なんも心配されるようなことないよ」
彼女の過去を私は知らない。
吸血鬼になった経緯を含め、ミセリは話したがらないのだ。
だから、昔のことがなぜ涙に繋がるのか分からない。
ただ単に懐かしんだのか、それとも、何か悲しい記憶が眠っていたのか。
心配するなと言われても無理なのだ。
普段は余裕綽綽で腹が立つにやけ顔をしている彼女が、拗ねたような寂しい顔をして涙を流しているなんて。
雷が落ちてくる方がまだ平静を保っていられる。
(゚、゚トソン 「じゃあ、心配されないような振る舞いをしてください」
ミセ;*゚ー゚)リ 「それは横暴だぜトソンちゃん」
198
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:33:37 ID:MIBYgXtM0
ミセ*゚ー゚)リ 「それより、お腹空かない?晩御飯どうすんのさ」
そして、やっぱり昔のことは話してくれないのだ。
無理に聞き出しはしない。ミセリが嫌がって逃げるのが目に見えているから。
だから自然に彼女の口から零れるのを待っているのに、そんな機会は一生来そうにない。
(゚、゚トソン 「コンビニで済ませようかと。ミセリの せ い で 何もできてないので」
ミセ;*゚ー゚)リ 「トソンさん、ご機嫌ななめ?」
(゚、゚トソン 「別に」
ミセリが「ななめ?」に合わせて体を斜めにした。
困ったような笑顔も合わさる。
負けてはならない。今の私は不機嫌だ。
ミセ;*゚ー゚)リ 「……」
(゚、゚トソン 「……」
ミセ;*゚ー゚)リ 「……」
ε=(゚、‐トソン
ミセ;*゚ー゚)リ 「?」
負けた。そもそも、ずっと腹を立てているのは性に合わない。
不満が消えたわけでは無いけれど、今のところは勘弁してあげることにする。
199
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:35:50 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「ミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ 「ん?」
ミセリに凭れかかる。
何とも言えない表情。
(゚、゚トソン 「……晩御飯、買いに行きますけど一緒に行きますか?」
ミセ*゚ー゚)リ 「行く行く!」
(゚、゚トソン 「じゃ、早く準備してください」
ミセ*゚ー゚)リ 「そこの川沿いさ、ちょっとお散歩したり?」
(゚、゚トソン 「……どうせなら、外で食べますか。今日は風がありますし」
ミセ*゚ー゚)リ 「いいねぇ、こんな月夜だ」
(゚、゚トソン 「あなたの食事は帰ってきてからですが」
ミセ*゚Д゚)リ 「えー!たまにはお外でしたりしたいー」
(゚、゚トソン 「……一度杭持ちに殺されてしまえばいいのに」
ミセ*゚Д゚)リ 「冗談でもそう言うこと言うなよー!」
200
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:38:19 ID:MIBYgXtM0
サンダルをつっかけて、家を出た。
歩いて10分もかからないコンビニ。
ミセリを雑誌のコーナーに待たせ、適当な夕飯を選ぶ。
いざ楽をするといっても、沁み込んだ貧乏性は抜けきらないもので、何とも地味な品々になった。
ミセ*゚ー゚)リ 「何買ったの?」
(゚、゚トソン 「サンドイッチと、野菜ジュースです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「もっと栄養あるもの食えばいいのに。お金の心配なんかしないでさ」
(゚、゚トソン 「人のお金で贅沢するほど私は図々しくありません」
ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、私がもらってる血やらなんやらの対価なんだから、堂々と受け取れっての。頑固だな」
解せない、と表情でぼやきながら、ミセリが先を行く。
ミセリにはわからない、私の小さな意地だ。
彼女との関係を飼い主と家畜然としたものから、少しでも遠ざけるための最低限の抵抗。
少しだけ離れたミセリとの距離を、小走りで詰める。
見た目こそ、私と同じくらいの小柄な少女だけれど、仮にも吸血鬼だ。
力では筋骨隆々の男を簡単に組み伏せるし、走力では、原動機付自転車くらいならたぶん勝てる。
彼女自身は普通に歩いているつもりでも、私にはかなり速いペースなのだ。
ミセ*゚ー゚)リ 「ん、ごめん、速かった?」
(゚、゚トソン 「少しだけ」
息が切れ、体に汗が滲むのがわかった。
風が心地よい。それ以上に、空気が温い。
201
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:39:23 ID:MIBYgXtM0
コンビニからさらに10分弱歩いて、川沿いの道に出た。
朝夕、ランニングに励む人を良く見かける土手の上の道。
車道とは完全に隔てられていて、煩わしいライトの光に目を潜める必要が無い。
街燈の類がほとんど無くこの時間はどうしても暗いが、今日は月があるので幾分視野がある。
(゚、゚トソン 「そこのベンチにしましょうか」
土手から川の方へ下ると、もう一段舗装された川原になっている。
ベンチがいくつかあり、昼間に生きているのか死んでいるのか分からないお爺さんが良く座っているところだ。
その内の一つに、私とミセリは腰をかけた。
川の潺が、耳に優しい。この音の中でなら、遠くから聞こえる車の音も、気にならなかった。
水の傍のお蔭か空気もひんやりとしている。ここで食べることにして正解だった。
ミセリにくっついていても、部屋にこもって過ごす初夏の夜は、暑い。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン」
私が食事を初めて数分経った頃、ミセリが呟く。
独りごとのようで、自分が話しかけられたのだと気づくのに時間がかかった。
ちらりと横を見る。体ごと仰け反って、月を見上げていた。
半開きの口から、続きの言葉が出てくる様子は無い。
(゚、゚トソン 「なんですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「……あー、いや、ごめん。なんとなく呼んだだけ」
(゚、゚トソン 「……?」
ミセ*゚ー゚)リ 「月ってのはさー―……いいよな。こう、頭が、静かに、冷たく狂っていく感じがする」
202
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:41:39 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「はぁ」
つられて、私も空を仰ぎ見る。
雲の無い空に、藍の天幕をくり抜いて穴をあけたような、明るい月。
惜しくも満月では無いけれど、十分すぎる光を持っていた。
たしかに。
言葉や動作には出さず同意する。
月の持つ不思議な魅力は、太陽とはまた違ったエネルギーを持っているように思えた。
ミセ*゚ー゚)リ 「これで、もう少し青いと、たまんないんだけどな」
(゚、゚トソン 「十分綺麗ですよ」
ミセ*゚ー゚)リ 「……」
ミセリの体が、近づいた。
月を見上げていたので、反応が遅れる。
気づいた時には、ミセリの舌が、私の首筋を舐め上げていた。
(゚、゚トソン 「ちょっ」
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、汗かいたな。さっきから、すげえ、良い匂いする」
(゚、゚;トソン 「もう、人に見られますって。夜でも人は結構通るんですから」
203
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:52:50 ID:MIBYgXtM0
ミセ*゚ー゚)リ 「良いじゃん、私は気にしないし」
押し倒される形。
抵抗する間に少し唾液を打たれた。
夕方とは違う。本気だ。完全に食べるつもりで来ている。
(゚、゚;トソン 「杭持ち通報されたら、不味いから言ってるんです。こんな家の近くで……!」
ミセ*゚ー゚)リ 「じゃあいっそ、することしちゃう?そうすれば、少なくとも杭持ちは呼ばれないよ?」
(゚、゚;トソン 「ああ、もう、アホ」
抵抗するのをやめた。
どうせ体に力が入らなくなってきている。
下手に長引かせるよりも、さっさと吸わせて済ませた方がいい。
ミセ* ー )リ 「じゃ、いただきます」
鋭い歯の感触と痛み。血の抜けていく脱力感。
時折漏れるちゅう、という空気の漏れる音。
やけに少量ずつを、時間をかけて飲む。
たぶん、お腹が空いていた、というわけじゃなかったんだろう。
(゚、゚トソン 「もう、さっさと済ませてくださいよ」
反応は無し。私はため息を吐きながら、空をまた見上げた。
月が、少しだけ眠そうに、空に居座っている。
縋りついてきたミセリに腕を回す。もう一度ため息。
服の下に伸びてきた冷たい手を払い退けられ無かったのはきっと、あの光り輝く穴のせいなんだ。
204
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:55:25 ID:MIBYgXtM0
おわり
とくに
しんてんは
ない
205
:
名も無きAAのようです
:2014/03/16(日) 01:11:46 ID:Mb.jlXhQ0
おつ
206
:
名も無きAAのようです
:2014/03/16(日) 18:33:53 ID:3boErWk60
乙
207
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 18:22:19 ID:fqS3T7Es0
( ・∀・)< エロいな
208
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:36:11 ID:WoQAy0kw0
Place: 草咲市 須赤二丁目 18 黴の臭い漂う路地裏
○
Cast: 天主堂モララー 大天福ショボン 喜瀬キナコ 小豆オグラ 磯部ノリ
──────────────────────────―――────────
209
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:38:47 ID:WoQAy0kw0
(´†ω・`) 「やはり、おかしい」
いつにない神妙な顔で、大天福はそう呟いた。
手にはいつもの長杭。刀身には今殺したばかりの吸血鬼の血がべっとりとついている。
黴と血の臭いの中、彼の汚れ一つない白いシャツが、むしろ不気味なものに見えた。
(´†ω・`) 「あまりにも、多い。雑魚ばかりではあるが、それでも」
( ・∀・) 「確かに、今日だけでもう三件目ですからね」
僕と大天福が、志納ドクオに敗走してから三日。
休養が開けて初めての仕事は、中々忙しい。
言葉にした通り、三件の吸血鬼討伐。時刻はまだ昼の2時だ。
僕らだけでこれなのだから、他の杭持ちを加えれば相当な数になるだろう。
草咲市はもとより吸血鬼が多い町として知られている。
しかし、それは『子子子ギコ』、『鴨志田フィレンクト』等の、有力な指導者の元に吸血鬼が集っているから、だ。
彼らは無暗に人を襲うことはせず、ひっそりと生きることで杭持ちとの衝突を避けている。
今日僕たちが屠っているのは、そういった組織からあぶれた吸血鬼ばかり。
元々存在しないわけでは無いが、日に何度も殺さねばならないほどでは無かった。
(´†ω・`) 「例の、毒の吸血鬼といい、ここ最近の草咲は、嫌な気配が漂っている」
( ・∀・) 「地雷女の謎の滞在もありますからね」
(´†ω・`) 「……」
210
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:41:24 ID:WoQAy0kw0
一先ず、死骸の片づけをするために、端末を取りだす。
しかし、僕の手は大天福の手に止められる。
その視線は路地の先。
三人の人影。昼の強い日差し、うだるような暑さの中に、黒いレインコートを着込んで立っている。
間違いなく、吸血鬼。
僕はため息を吐いたが、大天福は静かに杭を構えた。
(゚ぺキ ナ 「大天福ショボンと、天主堂モララーだな」
(´†ω゚`) 「いかにも!」
三人が、歩み寄ってくる。
うち一人、僕たちに名を尋ねた女は見たことがある顔だ。
ギコ、フィレンクトのどちらの傘下にも入らず活動している、脅威度Cの吸血鬼。
喜瀬キナコ。凶暴性は低く、自ら杭持ちに接近するようなものでは無かったと記憶していたが。
ノ小ヽ
( `豆´) 「……こいつが、姐さんを」
ノリノ・ _・リ 「オグラ、抑えなさい」
なるほど。ぼんやりとだが事情は読めた。
僕らへの、主に大天福への復讐だろう。
よくあることだ。
僕らの役割上、恨みを買うのは必然ではあるが、少々面倒だ。
211
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:44:23 ID:WoQAy0kw0
吸血鬼は一種の害獣ではあり、人間と同じく意志を持つ動物でもある。
これが厄介だ。害獣は駆除されても人を恨まない。
吸血鬼は恨む。友を仲間を殺されれば、杭持ちに報復に現れる。
元は人間だ。当然ではあるが、害獣には過ぎた感傷であるとも思う。
(゚ぺキ ナ 「臼杵モチコ、は知っているな」
(´†ω・`) 「……」
(#`豆´) 「なぜ、姐さんを殺した。姐さんは……ッ!!」
ノリノ・ _・リ 「オグラ、キナコに任せて」
(#`豆´) 「むぐぐ」
(゚ぺキ ナ 「……モチ姐さんは、群れにあぶれた私たちを、助けてくれた。
血を与えてくれて、寝床も、服も、全てを面倒見てくれた。
あんたたちにむやみやたらと喧嘩を売ったことも無い、善良な吸血鬼だった」
(´†ω・`) 「……」
(゚ぺキ#ナ 「何故、殺した。姐さんは、お前らに殺されるようなことを、何一つしていなかった!」
一歩前に出た、ショートカットの女。
少女と呼んでも差し支えないだろう。
他の二人も、高校生程度の年齢に見えた。
社会的にも経験の浅い彼らが吸血鬼として生き延びるのは難しかったはずだ。
212
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:45:49 ID:WoQAy0kw0
(゚ぺキ#ナ 「答えろ大天福!!」
(´†ω゚`) 「……どれだけ善良であっても吸血鬼は吸血鬼」
(゚ぺキ#ナ
(´†ω゚`) 「大天福は、常に正義でなければならぬ!」
(゚ぺキ#ナ 「それが、答えか……ッ。オグラ!ノリ!」
(#`豆´) 「応!!」
ノリノ・ _・リ 「……」
初めから、大天福の答えなどどうでもよかったのだのだろう。
三人の吸血鬼は自らの腕に爪を立て、大きく切り裂いた。
吹き出す血液。すぐさま意志を持って固まった。
(゚ぺキ#ナ
吉瀬キナコは両手の指を延長するような長く鋭い爪を。
(#`豆´)
オグラは腕に鮫の鰭のような刃を。
ノリノ・ _・リ
ノリは両の手の甲に、四角い板のような盾を。
213
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:48:31 ID:WoQAy0kw0
(´†ω・`) 「モララー、下がっていろ。俺一人で十分だ」
( ・∀・) 「大丈夫ですか?」
(´†ω・`) 「リハビリだ」
仮にも三人全員血刑使い。
子供ではあるが、ちゃんと吸血しているのならば膂力は僕たちを軽く凌駕する。
決して弱い相手では無い。
例え雑魚であっても二対一の状況を維持するのが基本であると考えれば、大天福の言葉に従うわけにはいかない。
ただ。
( ・∀・) 「わかりました。ただし、無様な姿を見せた時点で加勢します」
正義を謳う大天福は決して曲がらない。
なら僕は、彼の弟子として大人しくその背中を眺めるしかない。
(#`豆´) 「舐めやがって!!」
腕を振りかぶり、オグラが大天福に飛び掛かった。
愚かな。人数の理を活かすには、もっと連携を図るべきだ。
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」
大天福が前へ。杭の切っ先を引きずる様に体を先行させる。
速い。目で追うのがやっとだ。
214
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:50:54 ID:WoQAy0kw0
(´†ω゚`) 「スワロォォォウッエェェッッジ!!!」
(゚ぺキ;ナ 「オグラ!」
キナコが援護しようとしたが遅い。
大天福は、振り下ろされるオグラの腕を斬り上げ弾いた。
そのまま脇を抜け、振り返りながら背中に一太刀。
切り裂かれた体が血を吹く。
流水のような、あるいは翻る燕のような無駄のない動き。
余計な心配は不要のようだ。
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッブレェェェェッド!!」
ノリノ・ _・リ 「……」
大天福は一呼吸と置かず、背後にいたキナコへ。
振り向きざま、切り上げの片手居合切り。
間に割って入ったノリが腕の盾で受け止めた。
金属音が鳴り響く。中々の硬度だ。
キナコは仲間が斬られたのに動じ、反応が遅い。
ノリがいなければ、体が二つになっていただろう。
ノリノ・ _・リ 「……」
吸血鬼と力比べは賢い選択では無い。
大天福は後退。ノリは拳闘の構のように、盾で体を守る。
居合の一太刀を受けたところを見るに、硬度はかなりのものだ。
血刑の性能自体は彼女が最も高いかもしれない。
215
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:53:15 ID:WoQAy0kw0
だが、大天福を倒すならば、もっと奇抜な武器を持たねばならなかった。
それこそ、志納ドクオの『毒』や地雷女の『火薬』など。
血を硬化し、武器として扱うだけの血刑は、大天福には通用しない。
(´†ω゚`) 「ぉぉ……ッ」
服の上からでも、背なの筋肉が隆起するのが分かった。
大天福は上段の構。
振り下ろしの一撃は、恐らく大天福が出せる最大の威力だろう。
ノリノ・ _・リ 「キナコ、私が受け止めたら腹を裂きな」
(゚ぺキ ナ 「……わかった」
ノリノ・ _・リ 「オグラもまだ死んでない。ちゃんとしなさい」
(゚ぺキ ナ 「うん」
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」
舗装された地面を抉るほどの、蹴り。
刹那の肉薄。この力を活かした振り下ろしの一撃は、相当の重さを持つ。
大天福は素直に、真上から、ノリに向かって杭を振り下ろした。
が。
216
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:54:32 ID:WoQAy0kw0
ノリノ _ リ 「うぐっ」
( へ キ ナ 「え、ぁ?」
大天福が突如力を失い、ふらりと、キナコとノリの間をすり抜けた。
急激な転換。僕も一瞬思考がついて行かなかった。
誰もが、剛剣と血の盾のぶつかり合いを予測したはずだ。
それが脈絡なく消えた。
客観できる僕ですら、大天福の体が消えたように見えた。
目の前で構えた二人には、未だ何が起きたかわかっていないだろう。
(´†ω・`) 「……大天福ファントム」
ノリの脇腹と、キナコの首が血を吹いた。
脇、肋骨の隙間から心臓を突き破壊。
首は動脈をでは無く、椎骨を大きく削りに行った。
即死せずとも、これだけで戦闘不能だ。
大天福が、杭の血を払う。
それに合わせたかのように、二人が膝から崩れ落ちた。
( へ キ ナ 「そんな、こんなに、つよ、い」
ノリノ _ リ 「……毒で、死にかけたってのは、デマ、か……」
デマでは無い。本当だ。
医者が回復したことを異常と評価したほど、彼は死の淵に追いやられていた。
今も決して万全ではないだろう。
それでも彼女らが負けたのは、力の差があったとか、そんな単純な話ではない。
217
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:55:45 ID:WoQAy0kw0
( ・∀・) 「……大天福は、正義でなければならない」
僕の呟きは、口元に零れたところで、雄叫びにかき消される。
戦闘不能かと思われたオグラが、立ち上がった。
背中と切断された腕から、三日月のような血の刃を生やしている。
もう失血で仮死に陥っても不思議では無い。
良く立ったものだ。それほど深い恨みを持っていることを、哀れに思う。
どれだけ憎み恨んでも、その刃は届かないのだから。
(#`豆´) 「死ねェェ!大天福ゥゥ!!」
(´†ω・`) 「……大天福エンドロウル」
長く、伸びのある片手突きが、オグラの眼窩を穿つ。
切っ先は脳を、頭蓋を貫き後頭部に表れる。
意識を失うオグラ。勢いづいたまま前へ崩れる
大天福の手を離れた杭が地面に当たり、より深く突き刺さってゆく。
( ぺキ ナ 「おぐ、ら……」
大天福は、腰裏に備えている通常の杭を引き抜き、倒れたオグラの背中に突き立てる。
心臓を突いた。刃を少し横へ動かし、確りと破壊。
そこまでする必要はないが、彼なりの礼節なのだ。
218
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:59:11 ID:WoQAy0kw0
( へ キ ナ 「……クソ!なんでだよ!なんでなんだよ!!」
(´†ω・`)
( へ キ ナ 「私たちだって!好きで吸血鬼になったんじゃない!!それなのに!それなのに!!!」
ノリノ・ _ リ 「キナコ……」
( へ キ#ナ 「畜生!畜生!恨んでやる!呪ってやる!!畜生!!畜生!!」
ノリノ・ _ リ 「……」
( へ キ#ナ 「私たちは、悪いことなんてしてない!!姐さんも!オグラも!ただ、普通に!!!」
(´†ω・`)
( へ キ#ナ 「人間だった頃のように、生きたかっただけなのに!!」
( ‐∀‐) 「……それが出来たら、どれだけ良かったろうね」
大天福が、そっと杭を振り上げる。
喜瀬キナコの口からは、止めどない呪詛が吐き出され過ぎている。
頸椎を断たれ、体を動かせない彼女に出来る唯一の攻撃だった。
(´†ω・`) 「大天福は、正義でなければならない」
杭の切っ先が、キナコの後頭部に突き刺さる。
体重をかけて刺しこまれた刃がその脳幹を断つまで、響き渡る呪詛が止まることは無かった。
219
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:00:18 ID:WoQAy0kw0
おわり
大天福
大先生
大復活
220
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:37:42 ID:24ornE7k0
乙
221
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:42:16 ID:8wAonVOY0
おつ
222
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 00:42:14 ID:vgIvtSlg0
乙
先生は病み上がりでもテンションが高いが決めるときは格好いい
223
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 00:52:36 ID:IvRs5xyE0
乙
美味しそうな名前の吸血鬼ですね
224
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 11:20:01 ID:B3ltWjXM0
大天福復ッ活ッ!
225
:
名も無きAAのようです
:2014/03/19(水) 19:32:24 ID:fPJkzclk0
乙
面白い
226
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:08:02 ID:lSl8DXgg0
Place: 草咲市 十日町 1‐103 マンション『シャンデリゼTOKA'S』屋上
○
Cast: 志納ドクオ 本田蕪太郎 鈴木バーディ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
227
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:10:16 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……明るいな」
路地裏から眺めるよりも空が近い。
近辺で最も高いマンションを選んだのは正解だった
満月に近い月から眩いほどの光が屋上に降り注いでいる。
('A`) 「……来てもらって早速で悪いんだけどよ。地雷女の居場所を知っているか?」
対面する二人の杭持ちは、表情一つ変えなかった。
油断も、驕りも無い。むしろ、ドクオに対し緊張しているようですらあった。
大天福を下した結果は、思っていたよりも大きいらしい。
目撃情報から杭持ちの派遣までの速度を見るに、「脅威度」もかなり高めに設定されているのだろう。
(=゚@゚)
〈+^@^〉
加えて、毒に備えてのガスマスク。
この装備が、全ての杭持ちに配られているとは考えにくい。
恐らく、一定数の対ドクオ要員が配備されているとみていいだろう。
('A`) 「……ダメか、やっぱ、ちゃんと止めを刺せなかったのはまずかったな」
血刑を見せた上で逃がしてしまったために、かなり動きにくい状況になってしまった。
これまでのように、気軽に人探しをすることはできないだろう。
228
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:12:35 ID:lSl8DXgg0
(=゚@゚) 「……神の御名の元に」
〈+^@^〉 「裁きを!」
一人が前へ。杭を構え、身を低くする。
もう一人が持っているのは、散弾銃だ。
相変わらず十字架がついている。あれを見ると胸やけがする。
('A`) 「…………」
人間から吸血鬼への変貌は、多くのエネルギーが必要となる。
大半の者はその消費が生み出す極度の「渇き」に抗えず、人を食らってしまうのだ。
だが、ドクオは鉄の意志でその衝動を抑えた。
代償に体はやせ細り、力を失い、およそ吸血鬼とは思えないほど貧弱な体となっていたのだ。
それはあくまで、大天福と戦うまでの話。
ドクオは賤之女デレと出会い、血を喰らい、体は完全に吸血鬼となってしまっている。
('A`) 「……気に食わねえ」
(=゚@゚) 「なに?!」
生み出される膂力は、以前の比にならない。
229
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:16:51 ID:lSl8DXgg0
身軽な、素早い動きで肉薄した杭持ちを飛び越える。
戸惑う二人の杭持ち。
事前に情報を掴まれているというのは、悪いことばかりでは無いらしい。
恐らく、血刑以外は畏れるに足らないと判断されていたのだろう。
〈+^@^〉 「だからって!!」
銃を構えなおす杭持ち。
躱すも守るも厄介な散弾だ。
だが、少し反応が遅かった
('A`)σ 「……」
親指の爪で、人差し指を切る。
血が零れ、瞬く間に針の形に変化。
形が定まるのも待たず、その針を放つ。
ドクオはこの一連の動作を、跳躍から着地、杭持ちの銃口が自分を向くまでに済ませていた。
〈+^@^〉 「!」
小さく細い血の針が、杭持ちの首筋に刺さった。
ドクオの毒は、何も揮発吸引させるだけでは無い。
マスクをしていようが、傷を与えることさえできれば十分だ。
230
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:18:17 ID:lSl8DXgg0
〈+;^@^〉 「あっぐ……」
杭持ちがふらつく。
銃口がぶれ、膝が下がる。
即効性は中々。ただし、致死性はいまいち。
まだ毒の生成には改良の余地がある。
('A`) 「……」
指先に、長い爪程度の血の刃を作り、毒にあえぐ杭持ちへ。
もう一人の方は、無視する。
〈+;^@^〉 「くそっ!」
震える銃口がドクオを向いた。
まだ撃たない。この期に及んで、否、狙いを定められない今だからこそ、ギリギリまでひきつけようとしている。
〈+;^@^〉 「!!」
銃声。
跳ねる銃身と、眩い火炎。
吐き出された複数の弾丸が、肉を貫き骨を砕く。
(= @ )、´ ∴ 「ぐぶっ」
〈+;^@^〉 「あ」
ただし、当たったのはもう一方の杭持ちに、であるが。
231
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:20:43 ID:lSl8DXgg0
引金にかかった指の動きを見切り、ドクオは素早く身をかわした。
反射的に杭持ちはその動きを、追い、発砲。
それでもドクオの速さには間に合わず、弾丸はドクオを外れ。
銃の射線を避け、曲線を描きながら迫っていたもう一人の杭持ちに命中したのだ。
距離が開いたため弾がちり、胸から足にかけて数か所、血を吹き出している。
戦闘不能は明らか。
狙い通りだ。思いのほか上手くいった。
あとは、味方を撃って動揺する残りの一人を。
('A`) 「……」
〈+; @ 〉 「かっっ」
殺して終りだ。
喉に深々と突き刺さる血の爪。
毒でなくとも、ほぼ即死だろう。
('A`) 「……今日も、収穫は無し」
死んだ二人の杭持ちを見て、ドクオは独り言ちた。
杭持ちを殺すことは目的で無い。
彼らが持つかもしれない地雷女の情報、それが欲しいのだ。
232
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:23:11 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……このやり方、そろそろ辞めるか」
ドクオは、吸血鬼になる前、ごく一般的な家庭にあった。
吸血鬼たちの情報を仕入れる幅広い情報網も無ければ、調査して人を見つけ出すようなノウハウも無い。
杭持ち相手になれない捜査をしているが、争いになるばかりで一向に進展しないままだ。
おかげで悪名ばかりが広まり、窮屈さが増すばかり。
('A`) 「……できれば、避けたかったが……あいつらに頼るしかねえか」
ドクオの脳裏に浮かぶ、二人の吸血鬼。
男と女の、この界隈で吸血鬼を滑る自治組織のリーダーだ。
杭持ちとは別の方面で、情報には鋭い。
だが、気がかりもある。
二人は争いを好まぬ、平和主義者。
目的が報復であるドクオに協力してくれるかどうかがそもそも怪しい。
('A`) 「……ん?」
来ているパーカーのポケットが震えている。
携帯電話に着信があったようだ。
取りだして画面を見ると、発信元の名前は『賤之女デレ』。
数秒迷い、ため息を吐いてから通話のボタンを押す。
233
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:25:45 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……なんだ」
『……ごめんなさい、お父様。本当は、電話なんてしたら嫌かと思ったのだけど』
('A`) 「別にいい。なんだ」
『いえ、特に何かあったわけでは無いの。ただ、お帰りが遅いから、ちょっと心配で』
('A`) 「……」
『ほら、最近は怖い人たちがたくさんいるでしょう?もし、何かあったら大変と思って……』
('A`) 「……用事が長引いただけだ。もうしばらくで帰る」
『……わかりました。お風呂沸かしておきましょう』
('A`) 「要らない気を使うな」
『私がしたいんですもの。それでは、くれぐれも気を付けてくださいねお父様』
('A`) 「……ああ」
通話を終え、画面を眺める。
シンプルな構造、デザインの電話だ。
洋館に数台あったものの一つを、デレに持たされた。
これも前の『お父様』の仕込みだろう。
何とも言えない気持ちにはなるが、あれば便利だ。
ドクオが個人で所有していた物は、吸血鬼になった日に壊して捨てた。
234
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:28:10 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……帰るか」
件の吸血鬼に会いに行くことも考えたが、今日は一先ず帰ることにする。
デレにもうしばらくと言った手前、あまり時間を浪費することもできまい。
携帯電話を入れているのとは逆のポケットから小さな紙の箱を取りだす。
煙草だ。銘柄は「ECHO」。人間だった時分からずっと吸っていたが、金がなくなって以来やめていた。
('A`)o-~~
喉が焼けるように痛む。
煙は肺を蹂躙し。独特の辛みが、鼻の奥をツンとさせた。
不味い。銘柄のせいでは無い。
吸血鬼になり、煙草や酒が苦手になった。
感覚が鋭敏すぎるのだ。
その上含まれる毒性への依存は一切なくなるので、もはや吸う意味は一切ないのだが。
煙草を咥えたままフェンスを飛び越えた。
立ち入り禁止になっているが、関係ない。
人が来ないという意味ではむしろ便利だ。
とはいえ、今回二人殺したので、しばらくは避けた方がいいだろう。
非常階段を降り、マンションの裏手から路地へ。
ショットガンの銃声が人を呼び寄せていないかだけが気がかりだったが、どうやら杞憂のようだ。
よくよく考えれば、この街で銃声が鳴るのは珍しいことでは無い。
そして、銃声が鳴り響くところに野次馬根性で顔を出すのは愚か者のすることだ。
235
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:29:23 ID:lSl8DXgg0
路地をしばらく行くと、遠くからギターの音色が聞こえてきた。
ストリートミュージシャンの類だろうか。
時折見かけるが、繁華街から離れた場所にいるのは珍しい。
姿が見えた。男だ。
黒いジャケットに、金属製のアクセサリ。
耳だけでなく、唇にもピアスをつけている。
パンク、あるいはメタルの趣。
少なくとも抱えているアコースティックギターにはあまり似合わない。
_
( ∀ )´
男がドクオに気づいた。
が、特に何かするわけでも無く、先ほどからの曲を弾き続けている。
聞けば、小声で歌も歌っていた。
高いが男っぽさのあるしゃがれた声。
この歌は、随分昔にいくらか流行ったロックバンドのものだ。
_
( ゚∀゚) 「――― ―― ――――………♪」
ドクオが目の前に差し掛かり、曲が終わった。
男と目が合う。少し伺うような目をした後、少しの驚きを湛えたように見える。
だがすぐに、うれしげに細まった。表情の変化の激しい男だ。
_
( ゚∀゚) 「……俺の歌、どうだった、“お兄さん”」
無視しして通り過ぎようとしていたので、やや面を喰らう。
236
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:30:27 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……少し耳に入っただけだ。何か言えるほど聞いていない」
_
( ゚∀゚) 「なら、もう一曲どうよ」
('A`) 「そう言うのは、他の奴にやってくれ」
_
( ゚∀゚) 「ちぇー、ノリが悪いな」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「あ、ちょっと待ってくれよ」
('A`) 「なんだ」
_
( ゚∀゚) 「……煙草、一本貰えねえか。切らしちまってよ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「へへへ……ありがてえ。しかし、吸血鬼もヤニを吸うんだな」
('A`) 「……ッ!」
あまりにも自然に紡がれた言葉に、ドクオの反応は遅れていた。
咄嗟に、親指の爪を人差し指の爪に突き立てる。
当たり前のように、ドクオが吸血鬼であることを見破った。
あるいは、知っていた。敵か味方か、少なくとも杭持ちではなさそうだが油断はできない。
237
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:33:00 ID:lSl8DXgg0
_
( ‐∀‐)o-~~ 「フー―……、そんなに驚くなって」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「志納ドクオ、毒物を扱う要注意吸血鬼……」
滑らかな口調だった。
何かを暗記しているといったところか。
_
( ゚∀゚) 「駅前の掲示板に、手配書が張ってあったんだ。お前、自分で思ってるより顔が広まってるぜ」
手配書。そうか。
大天福を倒し、杭持ちに名が広まったということはつまり、そう言った対応もされているということだ。
ドクオは名前がばれている。虚しいことに名前にも特徴があるので、身元はあっさりとばれただろう。
となれば、手配書にはほぼ間違いなく本人の写真が使われている。
すれ違った人間に、吸血鬼とばれてもおかしくは無い。
_
( ゚∀゚) 「おっと、通報する気も、どうこうする気無いからさ、変な気を起こさないでくれよ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「……つーか、ここまで来てまだ気づかないのか?」
('A`) 「何がだ」
_
( ゚∀゚) 「あれー?それなりに仲良かったつもりなんだけどな……」
238
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:35:48 ID:lSl8DXgg0
_
( ゚∀゚) 「……覚えてない?俺なんだけど」
('A`) 「……………………………???」
_
( ゚∀゚) 「ジョルジュだよ。中学校で一緒だった長岡ジョルジュ」
('A`) 「…………?」
_
( ゚∀゚) 「ほらよ、高速道路下のトンネルで一緒にエロ本をあさって読んだ!」
('A`) 「……あ!」
思い出した。十年以上昔のことなのですっかり忘れていた。
確かに、昔そんな頭の悪いことをしていた時期があった。
一緒に誰かいたが、確かにナガオカとかそんな名前だったと思う。
('A`) 「まさか、十円禿を「組織の奴にやられた」と拙い演技で語っていたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!」
('A`) 「常におっぱいおっぱい騒いで女子にゴミ溜めを見る目で見られていたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!」
('A`) 「女子の着替えを覗いて両親が学校に呼ばれたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!!めっちゃ覚えてるじゃんおまえ!!」
239
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:36:44 ID:lSl8DXgg0
思いのほか懐かしい再会に、気分が少し上がる。
だが、すぐに自制した。
ドクオは、吸血鬼だ。人間では無くなった。
その上今人を殺したばかりだ。
呑気に旧友との出会いを喜べるような状況では無い。
何より、長岡が話しかけてきた理由が分からない。
_
( ゚∀゚) 「いやーしかし、思いのほか早く見つけられたぜ」
('A`) 「……あ?」
_
( ゚∀゚) 「いやさ、手配書見てさ、探してたんだよ、お前のこと」
('A`) 「……懸賞金稼ぎでもする気か?」
_
( ゚∀゚) 「おいおい、ダチ公売ったりしねえよ
長岡が頭を掻く。言葉を選んでいるようだ。
旧友とはいえ、手配されている吸血鬼を探す目的とは何だ。
懸賞金の類なら可能性はある。顔見知りであることを利用して、油断をつこうとしているとか。
_
( ゚∀゚) 「あのさぁドクオ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「俺のこと、吸血鬼にしてくれねえか?」
('A`) 「……………………は?」
240
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:37:45 ID:lSl8DXgg0
おわり
三行
_
(*゚∀゚)∩
⊂彡
241
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:46:34 ID:phSuwnGY0
乙
見事に三行で収まるな
242
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 00:03:09 ID:sMv5T2p.0
乙
243
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 00:44:45 ID:7k6zEjKQ0
乙乙
三行ワロタ
244
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 01:29:05 ID:mbwa.w5Q0
おつ
245
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 15:00:00 ID:ixBuhj6M0
乙
246
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 02:57:13 ID:fAksANss0
次回も気になるな
乙
247
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 08:57:59 ID:R4ayzcoM0
おつぱい!おつぱい!
248
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 14:11:29 ID:qjuLdh2M0
三行ワロス
('A`)カッコいいな
249
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:33:04 ID:gpa8a09A0
Place: 草咲市 東芒二丁目 14 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 流石兄者 素直クール 美麗な少女たち
──────────────────────────────────
250
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:34:40 ID:gpa8a09A0
「これは、吸血鬼が住むのにおあつらえ向きなところですね」
草咲市の市街地の外れ。隣市である井谷市との境にその洋館はあった。
旧国道から少し外れ、最近開発の進んだ住宅地を抜けるとぽつりと突然現れる。
一つだけ明らかに年代が違う。
外観は、ほぼ廃屋同然。
敷地をぐるりと囲む鉄柵には、鉄線で「危険」の看板が括られている。
「行こう、流石くん」
「はい」
鉄格子の扉を封じていた鎖を、銃で断つ。
立派な住居侵入罪だが、やむを得ない。
所有者と連絡が取れないのだ。
そもそも、ちゃんとした管理人が存在するのかも怪しい。
いくらか調べていたが、それらしい人物が見当たらなかった。
相続の過程で漏れてしまったのか、それとも、意図的に所有者を不明な状況にしたのか。
ここが吸血鬼の根城であった、という話が真実味を帯びていく。
「二階のガラスが数枚割れているようだ」
「石ころや何かで割った、という感じでは無いですね」
251
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:37:41 ID:gpa8a09A0
洋館の入口にも、やはり鍵がかかっていた。
南京錠では無く、扉に備え付けの鍵だ。
受け継がれる上で改修を行わなかったのか、趣を重視して変えなかったのか。
洋館同様、鍵もかなりの年代もののようだ。
「流石くん」
「大丈夫です」
俺は専用の工具を、鍵穴に差し込む。
最新の錠は難しいがこれだけ古いものなら俺でも外すことが出来る。
鍵の職人がよほど凝ったことをしていなければ、10分もかからない。
予想通り、数分で閂が重い音を立てた。
ドアノブを慎重に捻ってみる。開いた。
各部の取りつけは、見た目の割にはしっかりしているようだ。
「流石流石くんなだけある。空き巣もお手の物だな」
「身に着けろといったのは素直さんでしょう。付け焼刃ですよ」
「いやいや。真剣に鍵穴を覗き込む姿は、熟練の盗人のそれだったよ」
無機質な、一定のトーンで冗談を言う。
ラジオの未選局ノイズの方がもう少し起伏と面白味に富んでいる。
俺は反論を辞め、工具の代りに取りだした懐中電灯で屋内を照らした。
252
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:39:01 ID:gpa8a09A0
中は、想像よりもいくらか綺麗に保たれている、ように見える。
床に埃が積もってこそいるが、掃除すればすぐにでも住めそうなほどだ。
一歩、踏み込む。
埃が舞い上がり、電燈の光の中で靄に変わった。
これが、『乙鳥ロミス』が生前隠れ家にしていたという屋敷。
「住人がいなくなってから数か月、といったところか」
ゆっくり奥に進む俺の後ろ。
埃を指で掬い取り、クールが呟く。
本当ならば事前に得た情報と合致する。
埃のつもり具合で推測した物なので断定はできないが、大よそ間違ってはいないだろう。
俺も、同じような感想を持った。
今のところ何かが潜んでいる気配は感じない。
埃からして、実際に何かがいるということも無いのだろう。
それでも慎重に歩を進めるのは、ここがあくまで吸血鬼の根城であったとされる場所、だからだ。
吸血鬼が、一国一城の主になるなど、普通は不可能だ。
そう言った手合いは底抜けに運が良いか、狡猾で賢く非常に用心深いかのどちらか。
後者であった場合、杭持ちに侵入された際に備えて罠の一つや二つしかけていてもおかしくは無い。
「こういった場所は、俺より素直さんが前に出た方がいいんじゃないですかね」
俺も人より五感が優れているつもりだが、クールには負ける。
クールは、六感まで含めて獣に近い感度を持っている。
罠の類を見破るなら、彼女の方が確実性が高い。
253
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:41:17 ID:gpa8a09A0
「もし私がうっかり罠にかかった場合、私が辛い思いをする。死ぬことすらあるだろう」
「はい」
「流石くんが罠にかかった場合、私は君に「間抜けが」と飽きれるだけで済む」
「はい」
「そう言うことだ」
成程確かに。言い得ている。
俺も、この場に部下がいれば先に歩かせて安全確認に使うだろう。
鉱山における小鳥のようなものだ。
彼女の意見には、賛同せざるを得ない。
俺のすることは一つ。罠があったら回避。
あわよくば、後ろに続くクールだけがその餌食になれば大変に愉快だ。
「さて、どうします?」
期待に反し、罠らしきものは無かった。
玄関ホールから続く広い空間。
左手にはダイニングらしいテーブルと椅子の置かれたスペースがある。
奥には恐らくキッチンがあるのだろう。
正面には二階へ続く階段。右手には客間らしい扉があった。
純粋な洋館というより、どこか日本建築の匂いを感じる。
元の主の趣味だったのだろうか
254
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:42:44 ID:gpa8a09A0
「二階へ行ってみよう。あのガラスの割れていた部屋が気になる」
「そうですね。」
これだけ調えられた内装で、ガラスだけを放置していたとは考えにくい
昔から割れていたのならば、きちんとした補修していたはずだ。
家主と仮定する、『乙鳥ロミス』が地雷女に殺されたという情報を信じるならば。
その現場はあの割れガラスの部屋である可能性が大いにある。
本人が殺された、あるいはそれなりの手傷を負い、ガラスを直す余裕が無かったのだろう。
もしこの予想があっていれば、他にも何か、手がかりがあるかもしれない。
階段下から二階を照らす。
白い、円形の光に照らされたそこを見て、俺とクールは顔を見合わせた。
登ってすぐの壁に、大きな血の跡がある。
それだけでない。壁のみならず階段の手すり、天井にまで破壊された痕跡があった。
埃を払えばすぐにも使える一階とは、大きな違いだ。
まさに天と地獄。地獄の方が上にあるあたり、なかなか面白い。
「行こう流石くん」
「吸血鬼が潜んでいて襲われるなんてことは」
「何を言っているんだ流石くん。居たら素直に殺せばいいだろう」
「流石ですよ、素直さんは」
255
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:43:38 ID:gpa8a09A0
一段登るたびに軋む階段。
左手で懐中電灯を逆手に持ち、その甲に銃を持った右手を置く。
何かがいるとは考えにくいが、念の為だ。
後ろには同じく銃を構えるクール。
この女のことだ。ついうっかり引金を引きたくなって俺の背中に発砲してくる危険性もある。
急がなければ。
二階も、一階と同じく埃が積もっている。
戦闘を行った形跡がある以外は下と同じだ。
「どう思う、流石くん」
「破損の状態から見て、爆発物ですね。が、焦げた臭いはしない。
それにこの壁や地面に張り付くような独特な発破痕。恐らく地雷女で間違いないかと思います」
「概ね同意見だ」
「ただ、少し疑問が」
「なんだね」
「地雷女がこれだけ血刑を駆使して戦った相手は、本当に乙鳥ロミスだったんでしょうか。
この状況を見るに、地雷女はかなりの苦戦をしています。
ほぼ無名同然の乙鳥ロミスにそこまでの能力があったとは思えません」
通称で「地雷女」と呼ばれる吸血鬼は、非常に高い戦闘能力を有することで知られている。
血刑もさながら、本人の膂力も高い。
過去には、仮死寸前の状態で五人の杭持ちを殺したという記録もある。
最近でこそ大人しいが、まぐれで善戦できる相手では無いのだ。
256
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:44:43 ID:gpa8a09A0
「では、地雷女と戦ったのは別の誰かであると、君は思うのかい」
「地雷女の目的が乙鳥ロミスであったことは、聞き込みの結果からして確実です。
何らかの情報を仕入れ、ここにたどり着き、ロミスと戦闘になった。そこまでは納得がいきます。
しかし、それにしてもこの有様に繋がる物でしょうか。
資料に辛うじて名前が載っていた程度の吸血鬼が、地雷相手にそこまで善戦できたというのがどうにも腑に落ちない」
資料のみならず、吸血鬼たちへの聞き込みでも、ロミスが力自慢の吸血鬼で無かったことはわかっている。
常に杭持ちや人間の迫害を恐れ、人目を避けて歩く。
それが多くの口から語られるロミスのイメージだ。
謎が多く、それらの情報が全てではないだろうが、武闘派であるような印象は一切無かった。
「よほど巧妙に力を隠していたか、別の協力者がいたか、あるいは」
言葉を切る。
クールの目が鈍く光った。
「既に名の知れた吸血鬼が偽名を騙っていた、と」
「可能性は無いことも無いかと。ただ、乙鳥ロミス、という「人間」は実在しました。
回収された死体は、乙鳥ロミスが吸血鬼化したものであると確認されています。
なので、実在する乙鳥を隠れ蓑にしていた別の吸血鬼が居た、と言ったところでしょうか」
「少々突飛な発想の気もするが。乙鳥が隠れた実力を持っていたと考える方が自然じゃないか」
「ええ。ただ乙鳥ロミスは3年前に吸血鬼になったばかりの、新参です」
窓ガラスが割れていた部屋へ。
やはり荒れている。
257
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:46:08 ID:gpa8a09A0
「地雷女と渡り合う力を、噂一つ立てずに隠しきれるものでしょうか」
壁には、爆破による破砕の他に刃物を突き刺したような創がある。
断面に擦れたような血の跡。血刑によるものだろう。
地雷女も血の硬化はできたはずだが、発破に大量の血を利用している。
これは『乙鳥ロミス』の物であると考えるのが妥当だ。
「この屋敷を手に入れた手際からして、異常だとは思っていたんです。
それに加えてこの有様。乙鳥ロミスには何かある気がしてなりません」
「ふむ、流石くんがそこまで気にかけるのならば、洗い直してみようか」
「ええ。基本的に俺一人でやる羽目になるんでしょうが」
「安心したまえ流石くん。コーヒーくらいは淹れようじゃないか」
眉間を揉みながら部屋を出る。
結局、「激しい戦闘があった」以上の情報は得られていない。
他の部屋も巡ってみるが、結果は同じだ。
「また空振りか。どうにもうまく進まんね、地雷の捜索は」
「地雷女と乙鳥が接触していたことを確認できただけでも重畳だと思いましょう」
258
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:47:21 ID:gpa8a09A0
この屋敷を見つけるまでにはそれなりの時間を食った。
正直、それに見合うだけの情報は得られていない。
表で破壊した鎖の事後処理も残っている。
骨折り損のくたびれ儲けとはよく言ったものだ。
得たものと言えば精々乙鳥ロミスの存在に対する不信感程度。
「なんだこれは」
最後に回った、戦闘の形跡が無い一室。
諦めて部屋を出ようとする俺の背後で、クールが呟いた。
振り返ると、部屋の隅にあったクロゼットを開けている。
そう言えばあのクロゼットはまだ見ていなかった。
他の部屋のものは、乙鳥が着ていたらしい紳士服の類ばかりで、特に価値は無かったのだが。
「これは、どういうことですかね」
覗き込んだ俺も少々驚いた。
クロゼットの中には、服がずらりと並んでいる。
ただし、これまでのような紳士服の類とは異なる。
子供服だ。様々な色の、鮮やかなドレス類。
どう見ても乙鳥ロミスが着られるサイズではない。
「どうやら、ただの趣味では無いらしい」
クールが下段の引き出しを開く。そこにも、衣類が詰まっていた。
ただし、ほとんどが下着だ。どれも子供用のサイズ。
ショーツとキャミソールはあるが、ブラジャーが無いところを見るに、10代前半か、未満の女児向け。
259
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:48:47 ID:gpa8a09A0
「どう思う流石くん」
クールの質問に、推測したことを素直に答えた。
「そうか」と答えた後、クールが意味ありげに俺を見る。
「流石は流石くんだ。女児の下着事情をそこまで推測できるとは」
「歳の離れた妹がいるんです。ずっと世話をしていたから、見慣れているんですよ」
「安心した。もし君に怪しい趣味があるとなると、さしもの私も少々戸惑うからね」
別の引き出しを開けるクール。
この女が戸惑うならば、少々異常性癖を騙ってもよかったかも知れない。
「見給え流石くん。ここ二つ分、引き出しに下着が入っていない」
「上のハンガーも、よく見ると一角が不自然に空いています」
「誰かが、服を持って行った」
「恐らくは」
「こんな服を持って行く人間がいるとすれば」
「変態か、使っている本人でしょうね」
「流石くん。ロミスの死に関して、保護された人間はいたか」
「資料には特に記載されていなかったかと」
260
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:49:51 ID:gpa8a09A0
乙鳥ロミスは、路上で死体が発見された。
運び捨てられたのではなく、逃走中に殺害されたとみられている。
故に、ロミスがこんな屋敷に住んでいたことも、今回調査を始めて初めて発覚したのだ。
杜撰に見えるかもしれないが、杭持ちが抱える吸血鬼の事件は多い。
脅威度も設定されていないような無名の死体に時間をかけてはいられないのだ。
「該当する時期に子供が保護されていなかったか、警察にも問い合わせてみましょう。
跡形も無く食い殺されていない限り、何か手がかりを持っている可能性もあります」
「そうだな。大穴で、その少女が君のいう乙鳥に隠れた吸血鬼と言いうこともあり得る」
「まったくもって、絞り込めない情報ばかりが増えますね」
「ぼやくなよ流石くん。一つずつ調べてゆくしかない」
その調べごとをほぼ俺一人で行っているのが問題なのだ。
眉間に寄った皺を伸ばしながら、一階へ。
地雷女の足跡は期待できそうにないが、今は乙鳥ロミスが気にかかる。
既に死んでいるので空振りだった場合非常に無意味なのだが、そうも言っていられない。
吸血鬼が潜んでいる気配は無いため、クールと二手に分かれて部屋を回る。
主な居住は二階で行っていたのだろうか。
まったく使われていないか、物置代わりになっている部屋ばかりだった。
最後に調べたダイニングで、日用品の備蓄を見つけた。
歯ブラシが、二種類ある。
大人向けの硬めのものと、小児向けの柔らかめのもの。
やはり、乙鳥の他に子供がいたことは間違いない。
万が一に人形趣味の可能性もあったが、予備の歯ブラシまで準備するとなると少々異常が過ぎる。
261
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:53:10 ID:gpa8a09A0
「流石くん、来たまえ」
ダイニングの調査を打ち切り、呼ばれたままクールの元へ。
彼女がいたのは、階段裏の廊下。
一見して何かがあるようには見えないが、熱心に壁を探っている。
「ここ、恐らく隠し扉になっている」
「本当だ。床板と壁に妙な隙間がありますね」
「開けられるか」
「こういうのは、見つけるのは難しくても仕掛け自体は簡単にしてあるのが定石なんですが」
壁の下部に、何やら頻繁に擦ったような、すり減った跡がある。
恐らくこれだろう。問答無用で蹴りつける。
閂が外れるような重い音がして、壁にまっすぐな線が入った。
仕掛けが外れたようだ。手をかけて引くと、扉となって地下への入口が現れる。
「流石だな流石くん。君に大泥棒の称号を与えよう」
相変わらず抑揚も感情も存在しない言葉を口から垂らしながら、クールが階段を下り始めた。
黴の匂いがする。肌に触れる空気も冷たく、中々吸血鬼の根城らしい空間だ。
クールの履くヒールが、高質な音を立て、響く。
深さは地下1.5階相当といったところか。階段を降り切ると、もう一枚扉があった。
木の板に、鉄製の輪の付いた古風なものだ。
262
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:56:09 ID:gpa8a09A0
「行くぞ」とクールの唇が動く。
俺は銃と懐中電灯を構え、頷いた。
クールが扉をゆっくりと開け、俺が銃を差し込むように中へ。
まず見えたのは石造りの壁と、壁に飾られた造花。
階段よりもさらに冷たい空気が、頬を撫でる。
背筋が震えた。単純な寒さでない何かを感じる。
現在視認できる範囲には誰もいない。
クールが勢いよく扉を開け、自分も銃を構えた。
二人で銃と懐中電灯を突き出し、部屋をぐるぐると見渡して、同じ一点で動きが止まる。
「流石くん、どう思う」
「まず真っ先に、悪趣味だな、と」
地下室は、壁を飾る造花だけでなく、床には派手な色の絨毯が引かれていた。
所々、真鍮の冷たさを造花で隠した燭台が置かれている。
そうか。ここは。俺は、胸の内で納得する。
同時に、どこかぼやけてはっきりしない乙鳥ロミスという存在の片鱗を見た気がした。
電燈の光の先には、棺を模した、小さなベッドが二つあった。
模した、というのは、この場合不適切になるやもしれない。
そこには、各一つずつ、白骨化した死体が寝かされている。
263
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:58:11 ID:gpa8a09A0
まぎれも無く、人の骨だ。しかも子供。身長は推定で130未満。
幼年期の骨格からは性別の判断が難しいが、恐らくは少女だったのだろう
頭には長い髪の鬘がかぶせられ、体にはドレスを着せられている。
標本と同様の加工を施され、艶のあるアイボリーに輝くそれぞれの骨。
被せられた鬘は人間の髪の毛だ。本人の髪から作ったものと推測される。
死後いくら時間が経ったのかは分からないが、瑞々しさを失わず、電燈の光に輝いている。
「異常性癖にしても少し行き過ぎているな」
「悪意は感じませんが、なおさら悍ましいですね」
「クロゼットの主は、この二人だと思うか」
「仮にそうだとして、クロゼットの中身を持ち去った人間が他にいることになりますが」
少女の首に、ロケットが下がっている。
卵を半分に割った形の、写真を収納できるものだ。
クールに目配せして開く。中にあったのは、少女の写真。
生前の彼女だろうか。美しい。幼いが、人の目を惹く魅力がある。
ロケットの裏側には、「愛しき娘、ここに眠る」と彫られていた。
なるほど、これが墓標代りというわけだ。
「攫ってきた娘を洗脳し飼い殺しにしていたといったところかな」
「被害者は二人以上。少なくとも乙鳥の犯行とはばれていなかった」
「どうやら乙鳥への認識を改めなければならないようだ」
264
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:00:13 ID:yFy/OhgA0
乙鳥は恐らく誘拐した少女を家畜として飼っていた。
成人した女であれば色恋の感情を利用することも出来ただろうが、少女となれば別。
一時的に丸め込むことはできても、そう長くだまし続けることはそう簡単では無い。
ほぼ確実に、暗示の能力で洗脳したのだろう
長期的に暗示にかけるとなると、相当に強い能力だったと予測できる。
乙鳥の付いての情報が少ないもの、強力な暗示の能力で存在をごまかし続けてきたと考えれば辻褄は合うのではないか。
「流石くん、一旦戻ろう。地雷に含めて乙鳥の調査となれば、人手が要る。上に掛け合うぞ」
「動員してもらえますかね」
「そもそも地雷の捜索の人員が足りていない。意地でもさせる」
珍しくやる気だ。クールも、この件の不気味さに気づいている。
資料に記載されていた、脅威度の低い貧弱な「乙鳥ロミス」は偽りの姿だ。
別の個が存在していたのか、真の実力を隠し通してきたのかはまだ確定できないが、後回しに対処して良い存在では無かった。
地雷女が乙鳥ロミスを狙った理由はそこに起因する可能性がある。
さらに言えば、今現在草咲に留まる理由も。
「行くぞ、流石くん」
「ちょっと待ってください」
乙鳥をさらに調べるにあたって、この二人の少女についても調べなければ。
誘拐されたならば、警察に捜索願が出ているはずだ。
胸の墓標のロケット。写真だけで無く裏には名前も彫ってあった。
控えておけば役に立つだろう。そう思い名前をメモする俺の手が、二人目で止まった。
265
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:01:17 ID:yFy/OhgA0
「どうした、流石くん」
「いえ。ロケットに記されていたこの綴り、名前かと思ったんですが」
「違うのか」
「二人とも同じなんです。『Dere Shizunome』。ロケットのメーカーでしょうか」
「それも含めて、戻って調べるしかあるまいね」
足早に階段を上がるクールに続き、俺も地下室を出た。
散々彷徨った屋敷を、まっすぐ玄関へ突っ切る。
不法侵入についてどう言い訳しようか。
屋敷を出て扉を閉めた時に、思い出す。
吸血鬼の一匹でもいれば、始末するために侵入したと言い訳が立つのだがそうはいかない。
結果として収穫は悪くなかったが、むしろだからこそ上司にはねちねちと説教を受けるだろう。
無意識にため息が出る。
「どうした流石くん」
「いえ、有能な上司を持つと大変だなと」
「流石の私も嫌味だと分かるぞ、流石くん」
相変わらず無感情な言葉。
分かっているなら、少しは改めて欲しいものだ。
眉間の皺を揉みほぐしながら、俺はクールと共に件の屋敷を後にした。
266
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:02:00 ID:yFy/OhgA0
おわり
三行
ホーン
デッド
マンション
267
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:10:37 ID:TTI6h67o0
乙
無機質なやり取りがいいね
268
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 01:39:11 ID:dpkZv5eo0
色々繋がってきたな
乙
269
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 10:34:51 ID:tEDCmOiM0
おつ
270
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 13:32:00 ID:mn9bRbd.0
激しく乙
二人のキャラが面白いね
271
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:22:33 ID:lsKCHDgk0
乙
272
:
名も無きAAのようです
:2014/04/02(水) 21:36:59 ID:YtyGnbik0
おつ
273
:
名も無きAAのようです
:2014/04/03(木) 15:46:47 ID:JQARjULAO
乙
ロミスは何者なんだ
274
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:11:39 ID:bz.gAPiE0
Place: 草咲市 戸津釜町 字上弦 122-119
○
Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 南茂ネーノ 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────────────――
275
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:12:30 ID:bz.gAPiE0
ξ,゚⊿゚)ξ あんたもおかしいと思うでしょ、ブーン。
何のことだか、全く分からなかったが、僕はとりあえず「はい」と返事をしておいた。
いつものことだ。分かっても分からなくても間違いでも関係ない。僕はどうせ「はい」としか言わない。
もし仮にここで僕が「でも」なんて口走ったらツンはみるみる不機嫌になって唇を尖らすだろう。
彼女がご機嫌でいる。僕が守るべき正義は、その一つだけだ。
ξ,゚⊿゚)ξ 私らの目的ってさ、密かに殺人を犯してるやつらのおびき出しじゃない?
なんでこんな、巡回の真似事みたいなこと……。
( ^ω^) 仕方有りませんお。緊急事態なんですから。
ああなるほど。合点がいった。
杭持ちと一言で言っても、仕事にはいくつかの種類がある。
僕たちが今応援に出されているのは、街中を警邏し、通報や目撃証言にその場で対応、吸血鬼を撃破する「警邏」。
吸血鬼と対する機会が多く、一般に「杭持ち」というとこれに当たる。
本来僕たちは、密かに吸血鬼の情報を集めあぶり出す「特務」。
直接真っ向から吸血鬼と戦うのには慣れていない。
ツンは、そこに不満があるのだ。「こんなのは私たちのやり方じゃない」と憤慨している。
( ^ω^) 先輩、まだそいつ生きてます
ξ,゚⊿゚)ξ ああ、もう、しつこい。
276
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:13:39 ID:bz.gAPiE0
ツンの足元には、一人の吸血鬼が倒れている。
背中に大きな傷。僕が斧で殴ったものだ。
頭は半分が抉れている。これはツンが散弾で撃った。
運が良かったのか悪かったのか、まだ辛うじて息がある。
ここからの蘇生は無理だろうが噛まれて血を吸われては大変だ。
ツンは面倒くさそうに、弾丸を一発、残った頭部に撃ちこんだ。
ξ,゚⊿゚)ξ ブーン、清掃呼んでおいて。
( ^ω^) もう連絡しておきました。5分くらいかかるそうです。
ξ,゚⊿゚)ξ はー、もう、最悪。
( ^ω^) あ、先輩。
ξ,゚⊿゚)ξ 何よ。
( ^ω^) 顔、血がついてます。
ξ,゚⊿゚)ξ マジ?
( ^ω^) あ、手で擦っちゃダメですお。じっとしててください。
僕はポケットからハンカチを取りだして、ツンの頬に就いた返り血を拭い取る。
大人しく顔を差し出したツンは憮然として、明後日の方向を見ていた。
( ^ω^) ウェットティッシュもありますけど。
ξ゚⊿゚)ξ いらない。帰ったらすぐにシャワー浴びるわ。
277
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:15:18 ID:bz.gAPiE0
吸血鬼の血は、凶器だ。
硬質化して武器にする者から、遠隔操作する者。
最近では、毒を作り出す吸血鬼も現れた。
今回の相手は硬質化すらできない雑魚だったから、特別害は無いだろうけれど
やはり血がついたのをそのままというのは気分がよくない。
( ^ω^) まだ戻れませんし、一応拭いておきましょう。
ξ゚⊿゚)ξ いいって、もう。しつこい。
どうにもご機嫌が斜めなようだ。
これ以上何を言っても無駄だろう。
仕方なく、僕は使った武器類(特にツンが散らかした薬莢)の片づけを始めた。
放っておいても清掃の方々が処分してくれるが、そこまで世話になるのはちょっと申し訳ない。
ξ;゚⊿゚)ξ げえ、シャツにもついてる。買ったばっかなのに。
( ^ω^) 仕事に新しいの着てくるから……。
ξ゚⊿゚)ξ 仕事用に買ったんだもん
( ^ω^) じゃあ別にいいじゃないですかお。
ξ゚⊿゚)ξ 良くないの。それと汚れるのは別なの。
よくわからない。
もしかしたら彼女の言葉に納得できたことの方が少ないかもしれない。
278
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:16:41 ID:bz.gAPiE0
やってきた清掃班にいつものように文句を言われながら、僕らはその場を後にした。
清掃班と一緒に居る姿を見られるのは好ましくない。
子子子ギコ達には存在がばれてしまったけれど、あくまで僕らの仕事は「釣餌」なのだから。
裏路地を抜けて、比較的広い通りに出た。
人はまばら。吸血鬼には慣れているこの街だけれど、やはり日が沈むと皆外出を控えるようになる。
見かける人も、どこか不安げで、足早に目的地を目指しているように見えた。
ξ゚⊿゚)ξ ……どうする?
( ^ω^) 何をですか?
ξ゚⊿゚)ξ 正直、一人狩ったし、もう戻ってもいいでしょ。
( ^ω^) ……そうですね。僕らは、仮にも未成年ですし。
警察官に見つかると、厄介だ。
吸血鬼から街を守っているのは杭持ちだけでは無い。
直接的な実力行使はできないものの、警察各位もまた、各々の仕事の範囲で市民の保護に努めている。
奴らの活動が活発になる夜間にどう見ても未成年の僕たちが歩いていれば、確実に声をかけてくるだろう。
僕らは正式でありつつも、本来表に出る杭持ちでは無い。
身分を証明すれば警察の補導を突っぱねることが出来るが、その分存在が明るみに近づくことになる。
既に一部にばれたとはいえ、開き直るにはまだ早い。
279
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:17:59 ID:bz.gAPiE0
ξ゚⊿゚)ξ ……結構前から、思ってたんだけど。
( ^ω^) はい?
ξ゚⊿゚)ξ なんであんた、私たちが杭持ちってバレるのそんな嫌がるの?
( ^ω^) いや、僕らは正体ばれたら仕事になりませんし。
ξ゚⊿゚)ξ そうだけど。後輩は順調に育ってるし、仮にばれても問題ないじゃん。ぶちょーもそこまで厳しく言ってないしさ。
( ^ω^) ……。
確かに、そうだけれど。
僕たちの代りは、既に数組育成が終わり、試用段階に入っている。
そして餌の任が終われば、僕たちは先人と同じく、堂々と杭持ちを名乗ることになるだろう。
今回、警邏に回されたのは、そう言った先を見据えてのことだと、僕は睨んでいる。
だから、だから問題なのだ。
仮に餌の任を解かれるとして、その最後は正体を明かされる形であってはならない。
( ^ω^) だって、先輩だって警邏の仕事嫌がってるじゃないですか。
ξ゚⊿゚)ξ 畑違いだから嫌なだけ。ちゃんと任命されれば、ちゃんと訓練して、文句言わずにこなすわよ。
「あんた、私のことどんだけ舐めてんのよ」と、ツンは僕の足を優しく蹴りながら付け足した。
あなたがそういう人だから、僕がこんなに気を使ってるんです。
喉まで出かけた言葉を引っ込める。僕の正義は、彼女のご機嫌を保つことだ。
280
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:18:57 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) 部長に連絡して、指示を仰ぎますか。
ξ゚⊿゚)ξ そうして。もう、足がパンパンよ。
( ^ω^) つか、いい機会なんでちゃんと体鍛えてくださいよ。
ξ゚⊿゚)ξ うっせ、ブーンの癖に生意気。
端末を操作して部長への電話番号を探す間、ツンが執拗に僕の脇腹を殴る。
僕は警邏の先輩に混ざって日頃から訓練しているので、ツンに小突かれたところでまったく平気だ。
まあ、ツンも僕が痛がらないのを分かってやっているのだけれど。
( ^ω^) ―――――失礼します。内藤です
呼び出し音が止まり、女性の声が応えた。
部長だ。僕は空いている手でツンを制し、現在の状況と、今後の行動の指示を仰ぐ。
しつこいのでツンに背を向けた。少しして攻撃が止む。
気が済んだらしい。
( ^ω^) ――――――はい。わかりました。ありがとうございます。
部長との通話を終える。
一先ず部屋に戻ってもいいらしい。
( ^ω^) 先輩、部長から許可が出たので帰りましょ……う。
振り返った視線の先に、ツンの姿は無い。
サラ金のチラシが張られた電柱があるだけだ。
僕の背筋を、電流とも冷気とも取れない何かが駆け巡った。
281
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:20:20 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) 先輩!
ツンは、たしかにバカだ。
聞き分けが無いし、我ままだし頑固だし自分勝手だ。
けれど、トイレであろうとなんであろうと、僕に一言も告げず姿を消したことは今まで一度も無い。
そうなれば、可能性は一つ。
( ;^ω^) 糞ッ
端末を取り出し、操作。
地図を起動して、ツンの端末情報を入力する。
( ;^ω^) いた!まだ遠くない!
いかにも杭持ちな仕事をしていたせいで、失念していた。
僕たちは他者から見て「普通の」、「どこにでもいる」、「ちょっと頭の悪そうな」、「高校生」だ。
不審者や、吸血鬼には、絶好の的。
通話に集中する僕と、それにちょっかいを出すツンは、いい獲物に見えたはずだ。
油断していた。愚かだった。
一体吸血鬼を狩り、いつもの癖でつい仕事を終えた感覚になってしまっていた。
( ;^ω^) これだから、僕は!
鞄を開け、すぐにでも斧を取りだせるようにして、ツンを追う。
僕らは常にGPS付きの端末を持ち歩いている。
ツンが攫われたのなら、その反応をたどれば追いつける。
282
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:21:22 ID:bz.gAPiE0
セオリー通りに、裏路地へ入ってゆく。
旧家の間を縫うように道が走り、さらに隙間を埋めるようにビルや新興住宅が立ち並ぶ草咲市街外円。
まさに意図せず作られた都市迷路だ。吸血鬼が好む理由の一つだろう。
相手は、この地形に慣れているようだ。
小柄とはいえ人一人抱えて移動しているのに、全く追いつけない。
ツンも杭持ちの端くれ。むざむざ殺されたりはしないはずだけど、こうも大人しく引っ張られているとは。
何かされているのか?
地面を見る。暗くてはっきりしないが、血痕は無い。
手傷は負っていないと期待しよう。
路地の向こうから、けたたましい音が聞こえた。
自転車が倒れた音、だろうか。
端末を見る。敵方の動きが止まった。
チャンスだ。
車一台通るかどうかの細い路地をまがった先。
自転車と、それに乗っていたと思しきサラリーマンが倒れている。
塀の壁に消えるツンの足を見た。
やっぱり誰かに抱えられている。
斧を引き抜く。
自転車を飛び越える。
角を曲がる。
見えた、ツンを肩に担ぎ、走る男。
283
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:22:38 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) こんっ
斧を横に振りかぶる。
( #゚ω゚) のっ!!
地面すれすれを、這うように投擲する。
回転しながら飛んだ斧は、男のアキレス腱に直撃した。
血が吹き出し、男が倒れる。
ツンの体が投げ出された。地面を転がる。力が無い。意識を失っている。
僕は足を止めず、立ち上がろうとした男の背中に、
( #゚ω゚) どっせ!!
跳び蹴りを叩き込む。
力強い感触。男は倒れたが、僕も蹴り抜くことはできず、反動でやや後退する。
だが、勢いを止めるつもりはない。
空中で後転し着地。屈んだまま、裾から僅かに除く金属に手を伸ばす。
引き抜いたのは、短杭。
通常の杭よりもやや短く、隠し持つのに優れている。
僕は杭を逆手に持ち、再び男に迫った。
狙いは背中。肋の隙間から心臓を突く。
284
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:23:58 ID:bz.gAPiE0
( # ω ) ッ!
完全に決まると油断した僕の腹に、男の左足が突き刺さる。
咄嗟に筋肉を固めたが、余り効果が無い。
喉の奥に酸性の臭いが込み上げた。
その隙に。男は腕で体を支え上げる。
カポエイラ。あるいはストリートダンスのように体を回転。
振り回した足で僕の顎を蹴り抜きに来る。
躱せない。
蹴りを見切り、足の直撃する寸前、頭を自ら横へ流す。
衝撃。ダメージは軽減できたが、それでも直撃には変わらない。
ふらつきながら、下がる。
体の力が、一瞬、眠りに落ちるあの瞬間のように消えた。
すぐに取り戻すが、杭が手から落ちかける。
( `ー´) ……本当に厄介な街じゃネーノ。まさかガキの杭持ちがいるなんてナ。
よろりと、男が立ち上がった。
上下そろいの黒のジャージ。
足の傷は、既に血が止まっている。
( #^ω^) ……ツンを返せ。
( `ー´) つってもガキはガキじゃネーノ。大人しく下がれば見逃してやるんじゃネーノ?
( # ω ) ……聞こえなかったのか。
285
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:25:45 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) ツンを返せ!
( `ー´) んべぇ
ふらつく足を無理やり動かし、踏み込む。
男の顔が、笑顔に歪んだ。
しまった、と思った時には遅い。
僕の突き出した杭は空を切り、すり抜け間を詰めた男の手が、顔面に迫る。
迅い。堅い掌が、鼻を、頬骨を押しつぶす。
男の手は、そのまま僕の頭を鷲掴んだ。
頭蓋を締め付ける、骨ばった長い指。
抗いがたい痛みが意識を支配する。
( `ー´) 俺が逃げたのは、あくまで悪目立ちしねえためよ。お前にビビったわけでもなんでもねえ。
( ω ) が、ぐ……。
( `ー´) あんま舐めんなよ。お前程度の雑魚が俺に食いつくこと自体が間違いなんだぜ?
足が地面から離れた。
頭を締め付ける力がより強くなり、意識が赤と白に明滅する。
口が閉まらない。涎が顎を伝って落ちるが、僕の手は男の腕を掴む以外の動きをできない。
( `ー´) まあ、斧で足を狙ったのは正解だよ。お前が真面に戦って俺に勝てていたならな。
286
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:26:38 ID:bz.gAPiE0
男が、僕を軽々と振り、民家のブロック塀に叩き付けた。
衝撃。体を伝って聞こえた何かの砕ける音は、壁か僕の骨か。
痛みで意識が濁る。堪えることすらできず、はね返るまま地面に倒れた。
( `ー´) つか、お前と一緒に居たってことはこの娘も杭持ちか?随分起伏のねえ旨そうな体してるんだが。
ツンの体に起伏が無いのは狙ったものだ。
過度に筋肉や脂肪をつけた人間を吸血鬼は嫌う。
餌としての使命を全うするため、ツンは少女然とした細くも太くも無い体型を維持している。
なので当然戦闘力は下がる。
故に多少筋肉質でも違和感のない男の僕が、護衛兼戦闘役として付き添っていたというのに。
( `ー´) ま、いいや。とりあえずお前は死ね。
男の爪が伸びる。
コイツ、膂力の高さと良い、血刑よりも身体改造に秀でたタイプ。
格闘戦を挑んだのは失敗だった。未熟な僕が単体で挑んで何とかなる相手じゃない。
( `ー´) 安心しな。お前の相棒は、俺が吸い殺して、ちゃんと吸血鬼に作り替えてやるからよ。
男が腕を振り上げた。
日が沈みきり、点灯した街灯が、その鋭い人外の腕を黒い影に代える。
体に力が入らない。
悔しさに歯を食いしばることすら、できない。
287
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:28:21 ID:bz.gAPiE0
「 大 天 福 ト ル ネ ー ド ! ! 」
.
288
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:29:49 ID:bz.gAPiE0
死を覚悟した僕の目の前、何かに驚き横を向いた男が、慌てて大きく飛びのいた。
長い杭を振り回し入れ替わりに現れた別の人影は、僕に一瞥もくれず男の後を追う。
( ;^ω ) お……?
何が起こったのかを理解したのは、
( ・∀・) 大丈夫かい内藤君
天主堂モララーの優しい笑顔を見た時だった。
彼は腕にツンを抱き、僕の前に屈み込む。
( ・∀・) 間に合ってよかった。怪我は……動けるかい?
( ;^ω ) モララーさん?どうして、ここに?
( ・∀・) 君の叫び声がね、聞こえたんだ。うちの先生はそこらの獣より五感が優れているから。
視線で、もう一人の人影を追う。
見覚えのある背中。最強と名高い杭持ち、大天福ショボン。
吸血鬼と格闘戦を行って圧倒する、数少ない強者の一人だ。
( ・∀・) ここいらの路地は不慣れで、辿り着くのに時間がかかってしまった。申し訳ない。
( ;^ω ) あの、モララーさん
( ・∀・) なんだい?
( ;^ω ) ツンは、僕が預かりますから、大天福さんの援護に……
( ・∀・) 今の君じゃ無理だろう。それに…………
289
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:30:32 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 必要ないよ。援護なんてね
( ;^ω ) で、でも、あの吸血鬼たぶんA級並の……ッ
言いかけた僕の目に映ったのは、いたるところから血を吹いて立ち尽くす吸血鬼の姿と。
杭に付いた血を払いながら既に背を向けている、大天福の姿だった。
(´†ω・`) ……大天福アイアンメイデン。
男は全身に無数の刺し傷があった。ただ乱雑に刺したわけじゃない。
人体の前面にある急所の一つ一つ、そして動作の起点となる腱や筋を的確に断っているのだ。
心臓と脳は避けているが、これではいくら生命力の高い吸血鬼でも身動きが取れない。
男が白目を剥いて崩れ落ちた、。既に意識が無い。血刑を持っていたとして、これでは使えないだろう。
速い。あの男は、確実に強かった。
仕事上B級の武闘派を狩ることもあるからわかる。あいつはそれ以上だったはずだ。
それを一人で。
しかもこの短時間に、こうも正確に。
(´†ω・`) ……無事かホライゾン。
( ;^ω ) あう、はい。
(´†ω・`) よくやった。恐らくあれは最近の吸血鬼頻出のカギを握っている。この段階で捕らえられたのは重畳。
( ;^ω ) ……。
(´†ω・`) お前は元来の囮の役目を果たし、俺をこの場へ呼んだ。それで十分よ。
290
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:31:31 ID:bz.gAPiE0
そんなことは無い。僕は、ツンをみすみす攫われ、役目を見失って単独行動に走り、結果負けた。
大天福さんたちが傍にいたのは運が良かったに過ぎない。
もし彼らが居なければ、僕は殺され、ツンも死に、吸血鬼は意気揚々と逃げ延びていた。
( ; ω ) ……申し訳、ないです
(´†ω゚`) 大天福は正義でなければならない!! ド ン !!
( ;^ω^)そ ビクッ
(´†ω・`) 大天福に救われることを恥じることも感謝することも必要ない。
( ;^ω^) ……
(´†ω・`) お前が自分の正義に反したと自覚するならば、それは俺に謝ることではないだろう。
( ; ω ) ……はい。
(´†ω・`) モララー。回収班に生体捕獲の連絡を。
( ・∀・) しておきました。入り組んでいるので時間はかかるでしょう。
(´†ω・`) 咲名か?
( ・∀・) はい
(´†ω・`) ならすぐに来るだろう。ここは俺に任せて、お前はホライゾンと津雲を病院へ連れて行け。
291
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:32:37 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 動けるかい内藤君。さすがに、君と津雲ちゃんの二人を運ぶのはちょっと難しい。
( ;^ω^) ハイ……なんとか、大丈夫です。
( ・∀・) 近くに僕の車がある。そこまで辛抱してくれ。
モララーさんに手を取られ、何とか立ち上がった。
肋骨の、背中側が痛んだ。恐らく折れているのだろう。
鈍く耐え難い痛みが、深い呼吸を阻害する。
( ・∀・) 無理はするんじゃないよ。救護班を呼んでも構わないんだから。
( ;^ω^) 大丈夫です、動けます。
ツンを軽々と抱えるモララーさんの後ろを、ゆっくりとついて行く。
呼吸を調え、痛みを緩和しようと試みるけれど、むしろ痛みが増す。
モララーさんの車は、僕にとっては酷く長い道のりだったけれど、確かに近くにあった。
杭持ちが借り上げている月極駐車場。
普段警邏の人たちの移動車の駐車や、救護、処理班の待機場としても利用されている。
ツンを助手席に座らせて、モララーさんは僕のために後部のドアを開けてくれた。
292
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:33:35 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 病院までそうかからないだろう。もうしばらくの辛抱だ。
( ;^ω^) あの、モララーさん。
( ・∀・) ん?
( ;^ω^) ツンは、一体、何をされたんでしょう。
( ・∀・) ああ、恐らく、吸血鬼の催眠術で意識を封じられたんだろう。
( ;^ω^) それは……。
( ・∀・) 大丈夫、と迂闊には言い切れないけど、しばらくすれば目を覚ますと思うよ。
( ;^ω^) そう、ですか。
( ・∀・) だから君は、自分の身を案じていたまえ。度合いで言えば君の方が重体だ。
( ;^ω^) ……はい。
車は細い路地を抜け、比較的広い道に出た。
時々路面が荒れたところで車が跳ね、息が詰まるほどの痛みが襲う。
歯を食いしばるが、それすら痛みに繋がる。
多少慣れてきて、痛みの発生元が分かってきたが、左の肋が折れている。
恐らく二本。完全に断裂しているというよりは、罅が入っている感覚だ。
293
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:36:34 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) ……すいません。ご迷惑を、おかけして。
( ・∀・) そうだね。キミがもう少し慎重に行動していれば、同じ結果をいくらか少ない代償で得られただろう。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) 僕は先生と違って、そこは厳しくさせてもらうよ。一応、君に戦闘技術を教えている立場でもあるし。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 足を潰したのは、良い判断だ。お蔭で、敵は先生相手でも逃走という選択肢を選べなかった。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) だけど、それだけだね。キミのことだから、津雲ちゃんを攫われて頭に血が上ったんだろうけど。
( ;^ω^) ……はい。
( ・∀・) 常々言っているように、吸血鬼と相対したら誰よりも冷静でいなければならない。
どれだけ奮起しても、激昂しても、根っこの思考回路は冷たくあらねばならない。
君にとって、津雲ちゃんが特別な存在であることはわかるけれど、だからこそ、それを忘れてはならない。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 津雲ちゃんを、守りたいなら、ね。
294
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:37:45 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) なんて、君は賢いし、素直だから態々こんなことを言わなくても自分で反省できるだろうけど。
( ;^ω^) えっと……
( ・∀・) それに、僕らも人に偉そうな説教言える身分でもないんだよね。こないだは油断して死にかけたし。
モララーさんの口調が、柔和なものに戻る。
そこからは、他愛のない世間話だけになった。
学校はどうか、とか。友達とは上手くやっているのか、とか。
モララーさんは、所属こそ違え、僕とツンに非常に世話を焼いてくれている。
杭持ちとしての訓練はもちろん、私生活の相談にも乗ってもらったことが何度かあった。
僕に斧を使うように指示したのも、ツンに精密な射撃の腕を仕込んだのもモララーさんだ。
病院に着くと、すぐに診察室に通された。
杭持ちが多大な寄付をしている病院で、融通が利くのだと、モララーさんに教えてもらったことがある。
僕はやはり肋骨に罅が入っていた。
幸いにして骨にずれは無く、内臓の損傷も無いため、数日の入院で済むとのこと。
ツンも、モララーさんの予想通り、速ければ今日の内にも目を覚ますだろうとのことだった。
近くに僕がいたこと。そして杭持ちの警戒が高まっていたことから、十分に催眠をかける余裕が無かったのだろう。
今は、僕とは別の棟で眠っていると、後から来た部長に知らされた。
モララーさんは、僕が診察を受けている時点で大天福さんの元へ戻った。
事後処理などもあるのだろう。よく、ぼやいているのを聞いたことがある。
295
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名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:38:49 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) (そう言えば)
深夜の病室。僕は肋骨の痛みで上手く眠ることが出来ず、カーテンを開けて外を見ていた。
月が出ているので、かなり明るい。五階にあるこの病室からは、ある程度街を見下ろすことが出来る。
( ^ω^) (大天福さんは、アイツを最近の吸血鬼頻出事案のカギだと言っていた……)
( ^ω^) (あの、リストにすら載っていない無名のことを……なぜだ?)
自慢では無いけれど、僕は吸血鬼のリストをすべて頭に入れている。
脅威度が低い者たちについてはうる憶えであることは否定しないけれど、B以上となれば絶対に間違いは無い。
どんな敵がいるのかを把握しておくことは、僕たちにとって最上の護身術になるからだ。
でも、今日のあの吸血鬼は、そのリストの中には存在しなかった。
だから僕は下等な吸血鬼と思い込んで、応援を呼ばず自ら追跡した。
言い訳では無いけれど、もし初めからB以上と分かっていれば、その段階で応援を要請している。
そんな、リストに乗らない、把握されていない吸血鬼が「カギ」。
( ^ω^) (いや、むしろ、だからこそアイツが鍵であると予想が立つのか?)
( ^ω^) (突如現れた無名の想定脅威度Aクラス。確かに、異常の原因であると睨むのは間違った解釈じゃない)
( ^ω^) (けど……)
既に把握されている吸血鬼たちへの捜査もまだ4割すら進んでいないと聞く。
その中で大天福さんは「無名でありながら脅威度の高い吸血鬼」が原因であると断定しているようにすら見えた。
彼は、少し抜けているところこそあるけれど、モララーさん込みで考えれば下手な思い込みなどしないはず。
あの人間離れした動物的直感によるものだろうか。なんにせよ、なんだかはっきりとしない。
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