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マト ー)メ M・Mのようです

267名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:07:05 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


 家族の思い出というのは、あまりない。

 それなりに裕福な家庭に生まれ、それなりに大きな家に住み。
 それなりに友達はいて、それなりに勉強やスポーツも頑張って、それなりに優秀な学校へ通い。
 このまま順調に行けばそれなりに立派な会社に勤めることになるだろう。

 そんな僕の、さして特筆すべき点のなかった人生の中で特徴的なこと。
 僕には家族の思い出というものがほとんどないのだ。


 母親は物心付く前に死んだらしい。
 父は仕事でほとんど帰って来ることもなかった。

 敷地内には専属の家事使用人達が住んでいるので大体のことは彼等がやってくれた。
 だから一人ということはなかったし、言わば家族のようなものなのかもしれない。
 けれど、やはり違う。
 あの人達にはあの人達の家庭があって家族がいるのだから。

 シングルマザーやシングルファザー、あるいは両親がいない人なんて珍しくもないから、別に自分は不幸だと言うつもりはない。
 だけど事実として。
 僕には家族の思い出というものがない。

268名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:08:06 ID:UPb.tg9Q0

 だけど、それでも心に残っていることもある。

 僕が小学校低学年くらいのことだったか。
 半年ぶりに帰ってきた父と外出をした日のことだ。


 その日は二人で食事をし、ショッピングモール内の小さな遊戯施設で遊び、最後に買い物をすることになった。
 とは言っても昔からお金だけはあったので、僕としては親にねだってまで欲しい物はなく。
 結局、季節に合わせた流行りの服などを買うと決まった。

 二三の店を巡り、何着かの服を買い。
 最後に父は何故か帽子屋に車を停めた。


『「大人」っていうものがどういうものか、分かるか?』 


 帽子を物色しながら、父はふと、僕に話し掛けた。
 僕が首を振ると続ける。


『俺は「大人」ってものは、自分で選択し、その選択の責任を取れる人間のことだと思っている』

269名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:09:05 ID:UPb.tg9Q0

 自分で選択し。
 その選択の責任を取れること。
 当たり前のことなのに、難しいこと。

 父は言った。


『父親としての責任を果たせているか怪しい俺が言うのも何なんだが……お前には、そういう大人になって欲しいと思っている』


 店を出た父は、帽子屋で買ったスポーティーソフト帽を僕に被せてから続けた。


『俺の国では「元服」と言って、大人になった男は帽子を被る風習があったらしい』


 大人用の帽子。
 まだ僕には大きなその帽子。


『だから、その帽子がちゃんと似合うようになった頃には、ちゃんとそういう大人になっていろよ』


 それは僕の中に残った、数少ない家族との思い出話―――。

270名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:10:05 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


 降り続いていた雨が急に弱まった。

 いや、そういうわけではない。
 僕の身体に落ちてくる雨粒が減ったのは誰かが傘を差してくれたからだった。


('、`*川「……何やってるのよ」


 目の前に立っていたのは、あの情報屋の女性だった。
 彼女と会話したのはつい数時間前のことなのに、もう何年も昔のことのように思える。
 考えてみれば僕は彼女との商談を放り出してミィの元へ行ったのだった。
 この人にも悪いことをした。

 彼女は事情を知ってか知らずか、路地裏で倒れるように座り込んでいる僕に対しなんとも言えない表情をしている。
 一本しかない傘を僕に差し出している為にその横顔は降り続く雨に濡れていて。


('、`*川「こんなところで何してるのよ、あなた」


 そうして僕は思うのだ。

271名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:11:09 ID:UPb.tg9Q0

 こんな美人を雨に打たれたままにしておくだなんて、男としてどうなのだろう?――と。


(  ω)『Quiet, please. I can hear.(静かにしてくれ、聞こえてるから)』


 だから僕はそう言って立ち上がる。
 差し出されたコンビニで買ったらしいビニール傘を冷たくなった手で押し返しつつ。
 溜息を一つ吐いて続ける。


( ^ω^)「……聞こえてるよ。分かってるんだ」


 そう。
 分かっている。

 誰かに言われるまでもなく。
 改めて思うまでもなく。
 ずっと前から知っていること。
 ずっと昔から分かっていること。

 子どもじゃないのだから――そんなことは、言われるまでもなく分かっている。

272名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:12:05 ID:UPb.tg9Q0

 自分の行動の責任は自分で取らなくてはならないこと。
 自分の選択が自分の未来を決めるということ。
 そして、いつだって後悔してばかりの自分でも、今動き出さなければきっとまた後悔するのだということ。

 ああ、だから。
 もう一度立ち上がって。

 僕は歩き始める。


( ^ω^)「傘は自分で差していればいい。こんな雨に打たれたんじゃ素敵な服装や化粧が台無しだお」

('ー`*川「あら、そう?」

( ^ω^)「ああ。傘を買うお金くらい持ってる」


 そうだ、と僕は続けた。


( ^ω^)「情報屋のお姉さん。まさか、あのパソコンがなければ仕事が全くできないってわけじゃないだろう?」

('、`*川「それは勿論そうだけど……」

273名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:13:06 ID:UPb.tg9Q0

( ^ω^)「なら、また取引をしないか?」


 路地裏を出て、すぐ近くのコンビニの自動ドアを潜りながら僕は話を持ち掛ける。
 びしょ濡れの状態で店員には申し訳ない限りだが仕方ない。
 カウンターの脇に陳列してあったビニール傘を買って、店を出る。

 そうして隣を歩く彼女に話し掛けた。


( ^ω^)「とりあえず雨宿りにホテルでもどうかな?」

('、`*川「随分と古典的な誘い方をするのね」

( ^ω^)「残念ながら、経験不足でそういうことには疎いんだお。洒落た誘い方なんてできない」

('ー`*川「へえ。モテそうなのに意外だわ」

( ^ω^)「お金持ちだからモテるのはモテるけどね」


 それはつまりお金目当てということで、その場合、こちらから声を掛ける必要はない。
 ただ一応断っておくと、僕だって意中の女性を誘う際はもう少し気取った言い回しをする。

274名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:14:07 ID:UPb.tg9Q0

 手近なラブホテルに入り、部屋を適当に選ぶ。
 エレベーターの中で僕はこれまでの経緯を話した。
 父のこと、手掛かりを探しに来たこと、そしてミィと出会い、別れたこと。 
 詳しく事情を語れば協力してくれるのではないかという甘い考えだ。

 部屋に着く頃には粗方説明も終わっていた。
 だから、これまでのことではなく、これからのことを僕は話す。


( ^ω^)「これから、パソコンとUSBを取り返しに行こうと思う」

('、`*川「……それはまた、どうして?」


 ベッドに腰掛けた彼女は脚を組み訊ねる。
 まるで僕を品定めするかのような視線で。


( ^ω^)「必要だからだお」

('、`*川「少し待ってくれれば私の方で取り返す努力はしてみるけど?」

( ^ω^)「それじゃ遅い」

275名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:15:10 ID:UPb.tg9Q0

 僕は続ける。


( ^ω^)「できれば今日中。パソコンとUSBを取り返して、ミィの過去についての情報を集めて……彼女に謝りに行くつもりだ」


 許してくれるかは、分からない。
 だけど、僕のせめてもの誠意を見せたいと思う。


('、`*川「一応聞いておくけど、本気で言ってるの?」

( ^ω^)「当たり前だお」

(-、-*川「先に謝って二人で取り返しに行くって手もあるし、さっき言ったように、私の不手際なんだから待ってくれればどうにかしてみせるわよ」

( ^ω^)「……いや。これは僕がやらないといけないことだから」


 あるいは。
 僕がやりたいと思うことだから――だろうか。
 合理的でないとしても、情に流された結果なのだとしても、僕がやりたいと思ったことだから。

 だから、やる。
 それだけのことだ。

276名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:16:07 ID:UPb.tg9Q0

 脚を組み換えて、彼女は言う。


('、`*川「威勢が良いのは結構なことだけどね、現実問題として、考えはあるのかしら?」

( ^ω^)「あると言えばある。協力してくれれば、の話だが」

('、`*川「……私が、ってこと?」


 頷き、僕は続ける。
 いつまでも濡れっぱなしも馬鹿らしいので断りを入れてから暖房をつけた。


( ^ω^)「あのスーツの男の現在地。それを調べて欲しい。金はいくらでも払う。できるか?」

('、`;川「あのパソコンを取り返してくれるならお代は遠慮するし、調べられるかどうかと言えば、多分できるとは思うけど……いえ、そもそもね」

( ^ω^)「そもそも?」

('、`*川「あの男が誰かくらいは分かっているのよ」

( ^ω^)「本当か?」

277名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:17:08 ID:UPb.tg9Q0

 突如として。
 そう、何の誇張もなく「突如として」現れた、あのスーツの男。


('、`*川「通称『ウォーリー』。フリーランスの何でも屋で超能力者よ。そして能力は……『知覚阻害』」

 
 情報によれば、その能力の発動中はどのような生物からも知覚されることがないという。
 光学迷彩のように「見えない」「分からない」という甘い異能ではなく、確かにそこにいて、見えているはずなのに「認識ができない」。
 知覚ができず認知ができないのである。

 たとえ、肩がぶつかったとしても「気のせい」としか考えられない。
 そういう能力者らしい。


('、`*川「だからパソコンにしろUSBにしろ、あの男は普通に取り出しただけ。私達がそれに気付かなかっただけなのよ」

( ^ω^)「絶対に見つからない、なのに名前が『ウォーリー』ね……。『見つけてみろ』ってことか。大した皮肉だ」

('、`*川「その能力の性質上、赤と白の縞模様の服を着ていたとしても絶対に見つからないんだけどね」


 それはそうだろう。
 「見えない」のではなく「見えていても認識ができない」のであれば見つけようがない。

278名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:18:07 ID:UPb.tg9Q0

 でもね、と情報屋の女は言う。


('、`*川「彼の能力も無敵というわけじゃないの。だから多分、現在地も見つけられる」

( ^ω^)「何か弱点があるのか? ほら、制限時間があるとか……」

(-、-*川「ないわ。無制限よ。彼が解除しようと思わないと、誰も、絶対に『ウォーリー』を見つけることはできない」


 深夜、通りの向こうのコンビニに行こうとして横断歩道を渡っていたところ、信号無視したトラックに牽かれかけた。
 能力をオフにし忘れていて運転手には自分のことが見えなかったらしい。

 あの『ウォーリー』に纏わるそんな笑い話が伝わってるほどだという。


('、`*川「……この話から『人間に認識できないだけで存在はしている』ということは分かるわよね?」

( ^ω^)「まあ、そうだな」


 本当に透明になっているというか、例えば物体を擦り抜けられるとしたら、トラックとぶつかることなど気にする必要はない。
 だから認識ができないだけで、その場所には存在している。

279名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:19:05 ID:UPb.tg9Q0

('、`*川「あくまで『ウォーリー』ができるのは『知覚を阻害すること』。だから、監視カメラとかには普通に映ってたりするのよ」


 なるほど。
 弱点とも言えない特徴だが、確かに無敵ではないらしい。
 思えば、奴がサラリーマン風の格好をしていたのは監視カメラに捉えられても怪しまれないようにする為だったのかもしれない。


('、`*川「だから大体の居場所は掴めると思う。だけど、それだけよ?」

( ^ω^)「何がそれだけなんだ?」

('、`*川「居場所を掴んで、上手くして相手がいる部屋の中に入ったとする。でも私達には相手の姿が見えないのよ?」


 少し考えて僕は言う。


( ^ω^)「ビデオカメラ越しなら見えるんじゃないかな。僕が見るのは相手じゃなくて、カメラの画面」

('、`;川「……え? あ、でも、それなら――って片手でカメラや携帯構えたままで戦えるわけないじゃない!!」


 そりゃそうだ。

280名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:20:05 ID:UPb.tg9Q0

 そんなことは分かっている。
 だから、それは冗談。
 他に手はある。


( ^ω^)「その辺りは心配しなくていいお。雨に打たれながら色々と考えた。……それで、協力してくれるのか?」

('、`*川「……するわよ。私が『協力しない』って言ったところで止まらないんでしょ? だったら協力するわ。そっちの方がパソコンが戻ってくる分、得だもの」

( ^ω^)「ありがとう」

(-、-*川「いいわよ、別に。あなたみたいな人は嫌いじゃないから」


 ありがとうと僕はもう一度口にした。
 僕が嫌いになりかけた自分をそう言ってくれる人がいると嬉しい。 


( ^ω^)「できれば今すぐに仕事を始めてくれ。奴の居場所を突き止めるという重要な仕事を。僕は一旦、シャワーでも浴びてくるお」


 いい加減、濡れたままじゃ風邪を引く。

281名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:21:06 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


 それからしばらくは僕にとって辛い時間が続いた。

 情報屋の彼女がスーツの男の居場所を掴むまでの間、僕にはすることがない。
 何がしたいのか、どうすればいいのかが分かっているのに、それでも今は待つしかない。
 そういう時間は辛いものだ。


( ^ω^)「(ミィも、こんな気持ちだったんだろうか)」


 僕がいつ話してくれるのかを待つ間。
 彼女もこんな気持ちを味わっていたのだろうか。

 と。


('、`*川「あまり思い詰めない方がいいわよ。あなたが今できることは身体を休めることなんだから」


 スマートフォンやタブレットを慣れた風に扱いながら、情報屋の女が声をかけてきた。
 視線は画面から外さないままだが僕の表情を見て心配してくれたらしい。

282名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:22:06 ID:UPb.tg9Q0

 そんな彼女に、僕は気になっていたことを訊ねてみることにした。


( ^ω^)「そう言えば、あの路地裏の時の話なんだが。僕を探してくれていたのか?」

('、`*川「そうよ? そりゃあね、パソコンを奪われて、これからどうしようかって時に依頼人が血相変えて何処かに走り去って行っちゃったら探しもするわよ」

(;^ω^)「それは……申し訳ないお」


 言い訳をするわけじゃないがあの時はミィのことで頭が一杯だったのだ。
 何故、どうしてと。
 とても冷静に考えられる状態じゃなかった。

 彼女は続ける。


('、`*川「でもそれだけじゃないわ。なんとなくね、分かったのよ」

( ^ω^)「分かった?」

('、`*川「仕事柄、色んな人を見るからなんとなく分かるのよね。この人はああいう人だなとか、こんなことで悩んでるんじゃないかとか」

( ^ω^)「へぇ……」

283名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:23:08 ID:UPb.tg9Q0

('、`*川「だから、あの時も『あ、この人は彼女とトラブったんだな』って分かった」

(;^ω^)「かのっ……いや、ミィはそういうのじゃないお」


 口篭りながらの僕の言葉に対し、彼女は意外そうに返した。


('、`*川「違ったの? じゃあ『大事な人』とでも言い換えましょうか」


 大事な人、か。
 確かにそれはそうだ。


('、`*川「それで、大事な人と揉めちゃったりした時って、どうすればいいか分からなかったりするじゃない?」


 誰かに話を聞いて欲しかったり。
 勇気付けて欲しかったり、背中を押して欲しかったり。
 そういう風に思うじゃない?と彼女は言う。

 きっとそれは一般的な話だけではなくて。
 彼女もかつてそういうことがあったのだろうと思わせるような口調で。

284名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:24:05 ID:UPb.tg9Q0

('ー`*川「そういう風に思ったから……何か声かけてあげようかなって思って。平たく言えば、慰めてあげようかなってね」

( ^ω^)「気持ちは非常にありがたいし、あなたみたいな美人に慰められるなんて心が踊るが遠慮しておくお」

(-、-*川「ええ。あまり必要なかったみたいね」


 全く必要なかったわけではないが、やらなければならないことは分かっていた。
 答えは持っているのだから少し頭を冷やせば動き出せる。

 それに、と皮肉っぽく続ける。


( ^ω^)「僕はもう子どもじゃないんだ。少年マンガの主人公みたいに、立ち上がるのに常に誰かの助けが必要ってことはない」

('、`*川「ふぅん、そう。少なくとも、あなたのそういう言い回しは子ども故のものだと思うけどね」

( ^ω^)「……なんだって?」


 僕の何処が子どもっぽいって?


('、`*川「だって、そうじゃない。真面目な人は『真面目にしなくちゃ』なんて言わないし、『真面目なことは大事』だなんてわざわざ口に出さないわよ」

285名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:25:10 ID:UPb.tg9Q0

 だって、それはその人にとっては当然のことなのだから。
 改めて言葉にするまでもなく。

 彼女は言った。


('、`*川「これは私見だけど、あなたは『大人にならなくちゃ』って気持ちが強いのよ。きっとお父さんが亡くなってしまったからよね」

( ^ω^)「……随分と知ったような口振りだ」


 僕のシニカルな、あるいは子どもっぽい言葉にも、さらりと「私もそうだったから」と彼女は答えた。


('、`*川「私も早くに両親を失くしたから分かるわよ。親がいなくなっちゃえば、子どもは大人にならざるを得ない。望もうと望むまいとね」

( ^ω^)「でも大人ってのはいつかはならなくちゃいけないものだお」

('、`*川「それもそうだと思うわ。ネバーランドにはいられないの。たとえ親とはぐれちゃっても、ね……」


 親とはぐれ、年を取らなくなった子どもが暮らす国。
 ネバーランド。
 お伽話の中の世界。

286名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:26:06 ID:UPb.tg9Q0

 だけど、現実には親からはぐれてしまえば、子どもは大人になるしかない。


('、`*川「……でもね。違うのよ」

( ^ω^)「何が違うって言うんだお」

('、`*川「『大人』って、子どもが思ってるほど凄くないの。完全じゃないのよ。人間だから、不完全なの」


 彼女は言う。

 自立していることは、誰も頼らないということではなく。
 選択ができることは、何も悩まないということではない。
 責任が取れることと弱音を吐かないことはイコールではないし、年を経るということは全く間違わなくなるということを意味しない。

 彼女は言う。
 大人はいつかはならないといけないが、人間はそもそも不完全な存在なのだと。


('、`*川「大人だって悩むし泣くの。当たり前じゃない」

( ^ω^)「当たり前、なのか」

287名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:27:05 ID:UPb.tg9Q0

 笑って、目の前の大人は続けた。


('ー`*川「私は一人で抱え込まずに弱音を吐けることだって、大人の条件だと思うわよ?」


 ああ、それか。
 そうなのかもしれない。

 ミィも言っていたじゃないか。
 悩んでいることがあるのなら悩んでいることがあると、隠していることがあるのなら隠していることがあると、言って欲しかったと。
 僕が一言でも彼女に何か言えていたならこうはならなかった。

 ……僕はずっと、勘違いしていたのかもしれない。


( ^ω^)「なら一つ、悩みを聞いてもらってもいいかな」

(-、-*川「いいわよ。私で答えられることならね」


 一つ深呼吸をして。
 僕は素直に訊ねる。

288名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:28:08 ID:UPb.tg9Q0

( ^ω^)「……上手く、謝れる気がしないんだ。あまり女の子に謝ったことがないものだから」

('、`*川「……そうね。男と女が揉める時っていうのは認識の違いが多いものよ。片方が大事にしてることを、もう片方は気にしてなかったり」

( ^ω^)「記念日を忘れたりかお」

(-、-*川「そういうのね。多分、そのミィって子は隠し事が嫌だったんじゃなく、あなたに隠し事をされるのが嫌だったの」


 他ならぬ、僕に隠し事をされたのが嫌だった。


('、`*川「あなたにとっての彼女は家族や親友と同じような『大事な人』だろうけど――彼女にとってのあなたは、言わば『全て』なの」

( ^ω^)「僕が、全て……」

('、`*川「そうよ。記憶を失ってる彼女にとっては、あなたという存在は、人生の全てと言っていいほどに大きいはずだから」


 そのことは僕だって分かっていたはずだった。
 生きるか死ぬかの戦闘の最中でさえ、買ってもらった服や鞄を大事にしていた彼女。
 彼女にとっては僕との些細な会話だって紛れもなく一つの【記憶(じぶん)】だと。

 分かっていたはずだったのに。

289名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:29:08 ID:UPb.tg9Q0

(  ω)「…………僕は、馬鹿だな」


 自分ではそれなりに上手くやっているつもりだったのに。
 実際は、勘違いして失敗してばかりで。

 慕ってくれている女の子も泣かせてしまって―――。


('、`*川「あまり思い詰めない方がいいってさっき言ったばかりじゃない。まだ生きてるんだから、これからどうにでもできるわよ」

( ^ω^)「……そうだな」


 ずっと昔から知っていること。
 僕達の現在が未来を決めるということ。
 今動き出さなければ、きっともっと後悔するのだということ。

 ありがとう、と僕は彼女に言い、彼女は「どういたしまして」と微笑み答えた。

 そうして少し落ち着きを取り戻した僕は、それからしばらくの間、彼女と雑談をしつつ過ごした。
 街に降り続いていた雨も弱まってきたようだった。

290名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:30:05 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


裏社会で生きていく上で何が最も大事なのかと問われれば、男は多分「第六感だ」と答えるだろう。

臆病なほどに慎重であること、計算高く狡猾なこと、時には常識では考えられないほどに大胆であること。
大切なことはいくらでもあるし何が重要なのかは人によって違う。
だが、それでも彼は「大事なのは第六感だ」とある程度の確信を持って答える。

嫌な感じがする。
そういった根拠のない直感を無碍にせず、万が一のことを念頭に置いて警戒することが長生きの秘訣だ。


( ^ν^)「……?」


そして今日も彼は研ぎ澄まされた感覚で何かを掴み取る。
ソファーから身を起こし辺りを見回す。
視界に映るのは何の変哲もない雑居ビルの一室。
不自然な点など一つもない。

しかし、万が一ということもある。
男――その筋では『ウォーリー』と呼ばれている何でも屋は立ち上がり、身構えた。

291名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:31:06 ID:UPb.tg9Q0

もしかしたら彼が第六感を重要視するのは彼自身が『知覚阻害』という異能の力を持つという事情も関係しているのかもしれない。
自分が姿を隠す類の能力を持っているものだから、同じように見えないだけで今も誰かが自分を狙っているんじゃないかと思えてしまうのだろう。

無論、彼の『知覚阻害』は基本的に身構えたところでどうしようもない類の能力だが。


( ^ν^)「(とは言っても、以前、第六感で居場所を突き止められたことがありましたかねー……)」


正確には「居場所を突き止められた」どころか「殺されかけた」のだ。
鞄や奪った物品や諸々を確認しながら彼は思い出す。

『知覚阻害』という能力は文字通り「相手の知覚を阻害する」という異能。
この能力が発動している間は彼を五感で捉えることは不可能で、仮に目の前に立っていたとしても相手には認識することができない。
青いネコ型ロボットが主役の有名なアニメ作品に似た効果をもたらす道具があるので説明する時はそれを引用している。

けれど、ごく稀になのだが、第六感で彼の場所を当てられる人間も存在する。
認識できないだけで彼はそこにいるので、もっと言えば視界には映っているわけなので、微かな気配を元に居場所を割り出してくる敵も過去にはいた。

それを教訓に以降、彼は自らの気配さえも消すようになった。
異能の力などなくとも普通の人間相手ならば、背後から忍び寄り喉元を切り裂き絶命させるまで気付かせないことだって可能だ。
一応は何でも屋ということになっているが彼に向いているのはまず間違いなく暗殺と窃盗だった。

292名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:32:05 ID:UPb.tg9Q0

さて。
そんな彼は奪ったパソコンとUSBが無事だということを確認すると、ビルの屋上へと向かうことにした。

理由の一つは煙草で一服するため。
もう一つは、この部屋に居続けるのは何か良くない気がすると思ったからだった。
つまりは第六感である。

敵に第六感で居場所を突き止められ殺されかけた際、彼自身も第六感で危機を察知し致命傷を回避した経験から、彼はそういう感覚を重要視するようになった。


( ^ν^)「(あの時は洒落になりませんでしたねー……。再会する前にこの仕事を引退した方が良いでしょう)」


背広の上から上着を羽織り、奪った物品を収めたアタッシュケースを手に屋上へと向かう。
能力の特性上、大事な物は肌身離さず持っている方が都合が良いのだ。

階段を静かに上り、塔屋の扉を開けて外に出る。
昼前に降り出した雨はかなりマシになっていた。
パソコンとUSBを引き渡す予定の明日の朝には空も澄み渡っていることだろう。

小雨に濡れることも構わず、鉄柵まで歩いていき、そこにもたれかかると煙草を取り出し火を付けた。
真夜中の空に煙が上っていく。

今日もこうして、誰にも見つけられることなく『ウォーリー』の一日は終わるはずだった。

293名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:33:05 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


 僕が開け放たれたままの屋上の扉をくぐろうとした時、その男と目が合った。
 思わず戦慄する僕に対して、彼は何本目かの煙草を足元に落とし「遅かったですね」と実に気さくに声を掛ける。
 夜風に流されていく煙。
 その源を彼、『ウォーリー』と呼ばれる何でも屋は踏み消した。


( ^ν^)「そんな所で立っていないで、もう少し近付いてきたらどうですかー? あまり距離があると話しにくいでしょう」

( ^ω^)「……僕と話すことがあるのかお?」


 意を決して僕は一歩、二歩と屋上を進んだ。
 そうしてある程度の間合いを保った状態で立ち止まる。


( ^ν^)「とりあえず聞いておきましょうかー。どうやって私の居場所を突き止めたんですかー?」

( ^ω^)「お前の『知覚阻害』の能力は機械には効果がないんだろう?」

( ^ν^)「ええ、その通りですー。ですが、弱点というものは知っていればどうとでも補えるものですよ」

294名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:34:06 ID:UPb.tg9Q0

 男の言う通りだった。

 監視カメラには映ってしまうという弱点は彼自身も百も承知。
 だから、この男の行動は途中まではコンビニやショップの防犯システムに記録されていたが、突如として街から消え失せ、足取りを追えなくなった。
 「死角に入ったのだろう」と情報屋は語っていた。


( ^ν^)「カメラに記録されてしまうというのなら、映らなければいい。それだけの話ですー」

( ^ω^)「確かにその通りだお。この街の膨大な量の防犯システムにハッキングし目撃情報を募ったっていうのに無駄金になるところだった」

( ^ν^)「警察や軍部ならまだしも、個人の力で行えることではないと思いますがねー」 

( ^ω^)「一定以上の財力と人脈があれば人一人くらい探すことはわけないんだお」


 とは言っても、僕は資金を提供しただけなのだが。
 あの情報屋の女性がどれだけ有能なのか見せ付けられた形だ。


( ^ν^)「しかし、答えが出ていませんねー。カメラ等の映像には映っていない、人には認識されない。なら、私をどうやって見つけたんですかー?」

( ^ω^)「答えなら出ているお」

295名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:35:05 ID:UPb.tg9Q0

 機械の記録には残さない。
 人間には認識されない。
 このスーツの男は足取りを辿らせないようにこの場所まで戻ってきた。

 だから、それが答えだった。


( ^ω^)「お前が最後に記録された地点から、どのカメラにも映らずに行ける範囲で、隠れ家として使える地点。それが答えだお」


 それがこの場所だった。
 この情報化社会で、どんな媒体にも記録されることなく何処かに行くなど、そうできることではないのだ。


( ^ν^)「……そうですかー」


 男は小さく頷く。
 多分、僕に居場所を突き止められる可能性は考慮していたのだろう。
 「遅かったですね」。
 僕を目にした際に最初に口にしたその言葉が示していた。

 仮に待っていたとして、だが、どうしてだ?
 それが分からない。

296名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:36:06 ID:UPb.tg9Q0

 スーツの男は煙草を取り出し火を付ける。
 空に上っていく煙をしばし眺め、そうして一服しつつ話し始める。


( ^ν^)y━・「この世界の裏側には様々な陰謀が渦巻いています。語るのが面倒なほど様々にです。流石に私も宇宙人に出会ったことはありませんがねー」

( ^ω^)「でも超能力者が実在するのなら、宇宙人だっているかもしれない」


 かもしれません、と男は同意し言った。


( ^ν^)「超能力に限らず、ずば抜けた才能の多くは犯罪に活用されます。ハッキング技術等は分かりやすいでしょう?」

( ^ω^)「……まあ、そうかもしれないお」

( ^ν^)y━・~「どんな天才児でも、生まれた場所がスラム街ならその才能は金庫破りに使われますー。そういうものですー」

( ^ω^)「それも、そうかもしれない。それがどうかしたかお?」

( ^ν^)y━・~「そういう風に世界はできているという話です。当たり前のお話ですー」

( ^ω^)「…………」

297名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:37:06 ID:UPb.tg9Q0

 彼は続ける。


( ^ν^)「例えばの話なんですがねー。あなたが企業の社長で、その会社の情報が凄腕のハッカーに狙われると知ったら、どうします?」

( ^ω^)「……セキュリティを強化するだろ」

( ^ν^)y━・~「そうですねー。それも、当たり前の話です」


 では、セキュリティを強化する方法にはどんなものがあるでしょうか?
 そんな問いに僕は彼が伝えたいことをなんとなく理解した。

 つまりは、「目には目を」という話だ。


( ^ω^)「お前はこう言いたいわけか? 『超能力は犯罪に使われていて、その犯罪を防ぐ為には超能力者を雇うのが一番いい』と」

( ^ν^)「察しが良くて助かりますねー。その通りです」


 現実の話として、一定以上のハッカーやクラッカーといった人種は警察や企業から雇われることがある。
 蛇の道は蛇とでも言えばいいのか。
 その手の犯罪者にはセキュリティの脆弱性が一目で分かり、対策を立てることができるらしい。

298名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:38:05 ID:UPb.tg9Q0

 もっと簡単な例ならばボディーガードだ。
 屈強な殺し屋に狙われてると知ったならば同じように屈強な護衛をつけるだろう。
 

( ^ν^)「私は今、二つの依頼を請け負っていますー。一つは情報屋のパソコンを奪うというもの。そしてもう一つは、」


 と、僕を指差して彼は言う。


( ^ν^)「あの『殺戮機械』を退けたというあなたの護衛。彼女をスカウトするというものです」

( ^ω^)「……なるほど」


 色々と合点がいった。
 要するにこの男はミィの能力がどの程度のものなのかを把握する為に、わざと僕達との交渉中にあの情報屋を襲った。
 そしてまるで力を試すようにこうして待ち構えていたのだ。
 大胆にも、また不敵にも。

 彼の、いや、彼の雇い主の目の付け所は素晴らしい。
 ミィの持つ反則じみた超能力は護衛にはうってつけだ。
 彼女がどれほど有能なのかは僕は身をもって知っている。

299名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:39:06 ID:UPb.tg9Q0

 男は吸っていた煙草を落としてから話を再開する。


( ^ν^)「この世界の裏側には陰謀が渦巻いています。それも、割とロクでもないものが」


 そう、それは例えば超能力者を集めた特殊部隊を編成しようという計画であったり。
 人工的に異能の力を作り出しそれを他の組織に売りつけようというプロジェクトであったり。
 実にロクでもない陰謀が多々存在すると彼は語った。

 裏の世界で生きる人間として。
 他ならぬ超能力者の一人として。


( ^ν^)「国家や企業がそういった陰謀を企て実行しますと、私達個人にはどうしようもありませんー」


 あの『殺戮機械』のような埒外の存在は例外としても。


( ^ν^)「そういう大きな力に目を付けられた能力者の末路は、脅されて都合良く使われるか、始末されるか、それかモルモットにされるかです」

( ^ω^)「…………」

300名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:40:07 ID:UPb.tg9Q0

( ^ν^)「私の雇い主は『レジスタンス』とか『正義の味方』とかいう名称の組織ですが、まあ、そういうことを防ぐ為の組織ですねー」


 国家や企業のような大きな力に対抗する為の組織。
 裏稼業の人間達の互助組合という、巨大な陰謀に対抗する為の一つの陰謀。 


( ^ν^)「私の事情はこんな感じですー。さて、どうされますか?」

( ^ω^)「……話は分かった。だけど、無理な相談だな」


 僕は言う。


( ^ω^)「まず、ここにお前の目当ての彼女はいない。ついでに彼女にはやらなければならないことがある。その後のことは、彼女に訊いてみるが」


 そして。
 何よりも。


( ^ω^)「ついでに僕にもお前からパソコンとUSB取り返して、彼女に謝りに行く予定がある」

301名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:41:06 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*


 スーツの男がニヤリと笑う。
 それと同時に僕は懐に隠していた四つの物体を辺りに放る。

 次の瞬間、鼓膜どころか身体を震わせる大きさの音と視界を白く染め切る閃光が僕達を襲った。
 炸裂したのはフラッシュバン。
 スタングレネードとも呼ばれる音と光で対象を鎮圧する手榴弾の一種だ。
 事前に衝撃に備え目を瞑り耳を塞いでいた僕でもふらついたほどだ、男はどうしようもなかっただろう。

 精々、『知覚阻害』の能力を発動し僕の認識から逃れた程度か。


(; ω)「(だが、残りの三つは隠れたお前を見つける為の物だ……!)」


 頭を振って目と耳に残る違和感を振り払い、前を見る。
 雑居ビルの屋上は先ほどとは異なる白に染められていた。

 僕が放った残りの三つの物体は発煙筒。
 視界を晦ます為に使用される手榴弾。
 一面はいつだったか学校で行った避難訓練のように真っ白な煙に包まれていた。

302名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:42:05 ID:UPb.tg9Q0

 通常ならば辺りが煙に包まれれば視覚は当てにならなくなる。
 だが、今この状況においては、僕達を覆う多量の白煙は『知覚阻害』という条理の外の力を無効化する意味を持っていた。


(;^ω^)「(『知覚阻害』が発動中、僕はアイツを認識できない。でも認識できないだけでアイツは屋上の何処かにいる)」


 何処かにはいるはずだ。
 ならば奴自身を知覚できずとも、奴がいるその場所が認識できればいい。
 奴の場所が分かればいいのだ。

 そう例えば――身体に纏わりつく煙の形なんかで。


(; ω)「(落ち着け。僕が見つけるのはアイツじゃない、煙だ)」


 夜風に流され、煙が消え去ってしまうまで数秒もないだろう。
 まったく屋内ならば焦る必要も逃げられる心配もなかったというのに。

 その瞬間だった。


(; ω)「(―――見つけた!)」

303名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:43:07 ID:UPb.tg9Q0

 西に流れていく煙が人の形を浮かび上がらせる。
 僕はポケットからスタンガンを取り出して、その人影に低い姿勢から襲い掛かる。
 狙うは脇腹。
 三十万ボルトを軽く超える電圧の前には服など何の役にも立たない。

 僕はそこにスタンガンを握る右手を突き出し―――。



「―――惜しかったですねー」



 瞬間。
 右手首に激しい衝撃が走り、僕は唯一の武器を落としてしまう。 

 そうして次の刹那には、雨に濡れたコンクリートの上に投げ飛ばされていた。


(; ω)「がっ……!」


 背中から叩きつけられ激痛が走る。
 衝撃で肺が潰れ、空気が押し出された。

304名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:44:06 ID:UPb.tg9Q0

 そんな僕を見下ろすのは、あのスーツの男。


( ^ν^)「惜しかったですねー。着眼点は良かったと思うのですが」

(; ω)「なに、を……」

( ^ν^)「スモークが風に流されることがなければ。たとえばここが室内だったならば、私が怯んでいる間に見つけることができたでしょうが」


 僕は『ウォーリー』を見つけた。
 だが、遅過ぎた。

 見つける見つけないという次元以前の問題。
 ただの一般人である僕が裏稼業の人間とまともにやり合って勝てるはずがない。
 だから、相手が音と光に怯んでいる間に決めなければならなかったのに。


( ^ν^)「惜しかったですねー。ここが外でなければ勝っていたのはあなただったのかもしれない」

(  ω)「…………ああ。そうだな……」


 本当にそう思う。

305名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:45:05 ID:UPb.tg9Q0

 だけど、一つだけ同意できないことがある。
 僕はお前が外に出てくれて良かったと思っているんだ。

 何故ならば。


(  ω)「本当に……僕は、馬鹿だ。一人じゃ何もできないな……」


 僕は屋上に転がったまま自嘲し笑った。
 真夜中の空。
 そんな一面の黒の世界にもほんの微かな星の光が見えた。

 雨雲の切れ間から覗く星を見ながら、僕は言う。
 だから、だからさ。



「…………だから、僕を助けてくれ――ミィ」



 そして彼女の声が聞こえた。

306名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:46:06 ID:UPb.tg9Q0

 *――*――*――*――*

 
 隣のビルから乗り移るようにして屋上に降り立ったのは、僕が探していた彼女だった。



マト゚ー゚)メ「―――ブーンさん」



 あの特徴的な、ふわふわとした笑み。
 彼女の姿は前に会った時とまるで変わらない。
 なのにその声は、もう何年も聞いていなかったように無性に懐かしかった。

 ああ、そうか。
 来てくれたのか。


(  ω)「……ありがとう」


 本当に、ありがとう。

307名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:47:05 ID:UPb.tg9Q0

( ^ν^)「……なるほど」


 僕と彼女の事情を知らないのであろうスーツの彼は、どうしてミィが遅れてやって来たのかを考えているのか、目を細めつつ僕から離れる。
 そうして狭い屋上で間合いを取ってミィと向き合った。


( ^ν^)「実物は写真で見るよりも可愛らしいですねー」

マト゚ー゚)メ「あなたは、私を知っていますか?」

( ^ν^)「噂では知っていますねー。それ以外に見覚えがある気もしますが、多分気のせいでしょうー」

マト^ー^)メ「そうですか」


 これまで幾度となく繰り返してきた彼女の問い。
 お馴染みのふわふわとした笑み。
 だが続けられたのは、微笑みながらもこれまでにはなかった強い意思を含んだ言葉だった。


マト゚ー゚)メ「私は、怒っています。あなたが私の大切な人を傷付けたからです」

( ^ν^)「正当防衛なんですがねー。傷付けたことに関しては、否定はできませんー」

308名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:48:05 ID:UPb.tg9Q0

 ミィの非難をスーツの男は軽く受け流す。


( ^ν^)「謝罪ならいくらでもしますが、どうですかー?」

マト-ー-)メ「気が済みません」

( ^ν^)「そうですかー。つまり、私と戦うということですねー」


 平然とした口調だった。
 思えば、彼はミィを護衛としてスカウトに来たのだから、戦闘はミィの実力を計る格好の機会だ。
 自分程度を退けられないのでは誘い甲斐がないとでも考えているのだろう。

 そうして、次の瞬間。
 『ウォーリー』は屋上から消え失せた。


(;^ω^)「ミィっ! アイツの能力は……」

マト-ー-)メ「分かっています、ブーンさん」


 知覚から逃れる相手の存在を伝えようとした僕の言葉を彼女は遮る。

309名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:49:06 ID:UPb.tg9Q0

 次いで、彼女は言った。
 その両目を洗練されたアカイロへと変化させながら。


マト^ー^)メ「ああ、あなたは全然私のことを知らないんですね。よく知っていないのであればそんな能力で挑んでくることも理解できます」


 淡く微かな光が宿った目を細め、彼女は笑う。



マト ー)メ「あなたが目に見えずとも、私にはあなた以外の全てが、目に見えている―――」



 それまで微笑んでいただけだったミィが動いた。
 不可視の攻撃を捌き、更には見えない何かを掴み、合気道のように投げ飛ばした。
 まるで屋上に叩きつけられた僕の意趣返しだと言わんばかりに。

 僕には何も見えないが、分かった。 
 倒されたのはスーツの男。
 ミィは『ウォーリー』をいとも簡単に見つけてみせたのだ。
 あるいは見つけたのではなく、最初から彼女には『目に見えて』いたのだろうか。

310名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:50:05 ID:UPb.tg9Q0

 彼女は掴みどころのない笑みを浮かべたまま言った。


マト^ー^)メ「何故? あなたは私の能力を勘違いしています。私の能力は未来を知るのではなく、現在の状況を分析し予測するものです」


 僕には何も見えず聞こえない。
 だが彼女が相手の疑問に答えているのだろうということは分かった。


マト-ー-)メ「あなたの『知覚阻害』は非常に優秀です。私の能力でもあなたを捉え切ることはできない。現に今も、あなたの声は微かにしか聞こえません」


 けれど。


マト゚ー゚)メ「ですがあなた自体が見えずとも、あなた以外の全てが見えている私には、『知覚阻害』なんて意味がないんです」


 そう。
 全てを知覚する彼女の視界。
 その中で自分の存在を隠したとしても、それは「見えない部分」「認識できない場所」に自分がいると白状しているのと同じことだった。

 彼女は未来を予め知る『未来予知』ではなく――知覚し演算し予測する、『未来予測』なのだ。

311名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:51:06 ID:UPb.tg9Q0

 そして彼女は言うのだ。
 恐らくは今、この屋上から逃げていく最中であろう男に向けて。


マト-ー-)メ「ゆーあーれありー、うぉーりー」


 たどたどしい発音の言葉。
 それはもしかしたらあの男ではなく僕に向けたものなのかもしれなかった。
 被害妄想だろうか?

 僕は笑って立ち上がり、口にする。


( ^ω^)「『You are really wally.(お前は本当に馬鹿な奴だ)』……だ」

マト゚−゚)メ「そう言いました」

( ^ω^)「言えてなかったお」


 不満そうな顔をしていたが、彼女はもう何も言わなかった。
 馬鹿な僕の言葉を待つかのように、ただ黙って僕を見つめ続ける。

312名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:52:12 ID:UPb.tg9Q0

( ^ω^)「(……ああ、そうか。そういうことだったのか)」

 
 今やっと分かった。
 この一週間と数日の間、ミィと妙に目が合うことが多かったのは。
 僕が彼女を見た際に彼女も僕を見ていたのは。 

 きっと――僕がいつ秘密を明かしてくれるのかと、期待して、待っていたのだ。

 そう、ちょうど。
 今、彼女が僕の言葉を待っているように。


( ^ω^)「……ミィ。ごめん、ずっと隠してて」

マト-ー-)メ「…………」

( ^ω^)「言い訳をするわけじゃないんだ。だけど、僕は怖かったんだ」


 もしかしたら僕の父親が君の過去に関わっているのかもしれない。
 どころか、君の記憶を奪ったのは父かもしれなくて。

 そしたら君に嫌われてしまうんじゃないかと、思って。

313名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:53:09 ID:UPb.tg9Q0

 怖かった。
 なんて言えばいいか分からなかった。
 ごめん。

 一つ一つ心の奥から選んでいくように途切れ途切れの僕の言葉。
 彼女は黙って耳を傾けていた。


(  ω)「こういう時って、マンガとかなら『許してもらおうなんて思ってない』とか言うじゃないか。いや、言うもんだけど……」


 僕は自嘲するように笑い、続ける。


( ^ω^)「僕は馬鹿だからさ、許してもらおうと思ってるんだ。できることならまた、君と一緒に行きたいと思ってる。都合が良過ぎるけど本当にそう思ってるんだ」

 
 だから。
 ヘーゼルに戻った彼女の大きな瞳。
 真っ直ぐに彼女の目を見つめ、僕は言うのだ。


( ^ω^)「ごめんな、ミィ」

314名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:54:06 ID:UPb.tg9Q0

 隠し事をしてて。
 期待を裏切って。
 呼び止められなくて。
 追いかけられなくて。
 言い訳すらできなくて。
 その手を取ることができなくて。
 
 何よりも僕を選んでくれた君を傷付けて一人にして。
 でも僕を助けに来てくれて。

 ごめん――でもどうか、許して欲しい。


マト ー)メ「…………ブーンさん。間違ってますよ」

( ^ω^)「謝って済むことじゃないのは分かってるお」

マト-ー-)メ「そうではありません」


 そして、彼女は言うのだ。
 あのふわふわとした懐かしい笑みを携えて。

315名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:55:13 ID:UPb.tg9Q0

マト^ー^)メ「最後の一つは謝るのではなく――『ありがとう』と、そう言うところじゃないですか」


 そうか。
 そうだな、言われてみればその通りだ。
 僕は助けてもらったのだから。

 だったら僕が言うべき言葉は『ごめん』ではなく。


( ^ω^)「……ありがとう、ミィ」

マト-ー-)メ「どういたしまして。私も自分勝手なことばかりしてしまいました。ごめんなさい」

(;^ω^)「そんな、僕が……」

マト-ー-)メ「私にとっては【記憶(じぶん)】が何よりも……いえ、とても大切なので、あの時はブーンさんの気持ちを考える余裕がなかったんです」


 でもそれって同じですよね?とミィは言った。

 そう。
 彼女も同じだった。
 不安に押し潰されそうで、自分のことしか考えられず、隠し事をした僕と同じ気持ちだった。

316名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:56:06 ID:UPb.tg9Q0

 だから許しますと彼女は続けて、「私を見捨てないでくれてありがとう」と小さな声で呟いた。
 聞き間違えたかと思い、問い返そうと思ったところでミィが口を開いた。


マト^ー^)メ「ところで、本当に裏稼業の人間に勝てると考えていたんですか?」

( ^ω^)「ん、ああ。まあ運が良ければ……とは思ってたお」

マト゚ー゚)メ「そんな曖昧な勝算を信じるなんて現実主義者とは思えません。お金持ちは現実主義者じゃなかったんですか?」

( ^ω^)「まあ『信じる』という言い方を使うなら、もっと確実なものを信じていた。……僕は、お前が来てくれると信じてたんだお」


 ミィの能力ならば屋上であんな風に煙や音や光を出せば間違いなく気付く。
 まだ僕に愛想を尽かしてこの街を出て行っていないのならきっと気付いて来てくれる、なんて。
 そう信じていた。

 だから、あの男が外に出ていてくれて、本当に幸運だった。


マト-ー-)メ「……馬鹿ですね、ブーンさんは。私が来なければ死んでましたよ」

(;^ω^)「お前が言うとリアルで怖いな……。でも、来てくれたじゃないかお」

317名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:57:06 ID:UPb.tg9Q0

 ただの結果論。
 でも、それでいいじゃないか。

 僕の掴んだ未来は――この現在は、僕の予測以上に素敵なものだったのだから。

 降り続いていた雨がようやく止んだ街にサイレンの音が響く。
 グレネードの音や光に気付いた誰かが通報したのだろう。
 この屋上に警察やら消防隊やらが踏み込んでくる前にさっさと逃げなければならない。
 僕はともかく、ミィは捕まれば困るだろうし。

 男が残していった鞄を回収し、その中身を確認してから僕は彼女に問い掛ける。


( ^ω^)「まずいな、もう結構近くまで来てるみたいだ……。逃げられるかお?」

マト-ー-)メ「言うまでもありません。警察から逃げるくらいは訳ないです。信用できませんか?」

( ^ω^)「まさか!」


 信用してるとも。
 きっと、記憶を失くした後に君が出逢った人間の中では、誰よりも。

 信じていたいと思っているとも。

318名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:58:05 ID:UPb.tg9Q0

 そうして僕達は夜の街を駆けていく。

 出逢ったあの時とは異なり手は繋がっていない。
 けれど、だからと言ってはぐれることもありはしないはずだ。

 僕達は二人で走っていく。

 もう少しだけ相手のことを思いやれるように。
 もう少しだけ正直にいられるように。
 もう今度は間違うことのないように。
 そんなことを思いながら。


「……なあ、ミィ」

「なんですかブーンさん」


 だから今日くらいは素直に思ったことを口にしようと、僕は言う。


「ずっと前から思ってて、でも、別段今言う必要はないようなことなんだけど……」

「だから、なんですか?」

319名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:59:08 ID:UPb.tg9Q0




「―――お前、可愛いな」





 そしてもう一度、僕は思うのだ。

 僕と過ごす日々が今の彼女の全てであり、こんな些細で気恥ずかしい出来事さえも彼女の【記憶(じぶん)】になるのなら。
 また、他ならぬ僕自身の過去となっていくのなら。
 それはきっと素敵なことで。

 願わくば、僅かに頬を染めそっぽを向いた彼女もそう考えていてくれれば嬉しいと、僕は思った。
 過去がどうであろうとも、未来がどうなろうとも、だからと言ってこの現在が無価値になることは決してないのだから。

320名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 02:00:09 ID:UPb.tg9Q0


  その時の僕達は確かに幸せだった。
  自らで掴み取った掛け替えのない今を生きていた。
  モラトリアムな日々に、僕達は少しだけ過去も未来も忘れて……。

  だがそんな御伽話のような一時は終わる。
  真実を知る時が来た。
  過去と未来と全ての因果と向き合い、その代償を支払う時間が迫っていた。
  ただ、静かに……。

  其は久遠の闇の底より出でし者。
  旅の終わりを告げ、僕達を過去へと誘うそのシ者は――彼女と同じ、名もなき怪物。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第六話:動き始めたこの今を」





.

321名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 02:00:52 ID:UPb.tg9Q0

余談ですが、「存在を認識されないために車に轢かれかける」という話は石ころぼうしの話で出てくるネタです。
ドラえもんに詳しい人なら分かるかな?


というわけで年内最後の投下でした。
クリスマスを一人で過ごした方や恋人と会えなかった方、若しくは年末に暇してる方等に気晴らしに読んで頂けると幸いです。
来年もよろしくお願いします。

322名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 02:17:29 ID:A6A0yNSM0

おもしろい。
来年も待ってる。

323名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 03:47:37 ID:EVkbI6es0
おつ!

324名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 08:21:43 ID:dgdaGRgUO

よかったよかった

325名も無きAAのようです:2014/01/03(金) 16:39:21 ID:RzJoTTxkC
乙、来年(今年かな?)になってから読んだ

326名も無きAAのようです:2014/01/04(土) 00:55:56 ID:gyxCuI4M0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 ディの話によれば「目元が誰かに似ている」らしい。また裏稼業の人間から「見覚えがある」と言われたことも。
 彼女によく似た女性が映った写真があるが、写真の女性は黒髪で癖毛ではない。

327名も無きAAのようです:2014/01/04(土) 00:57:14 ID:gyxCuI4M0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 12,388,720円
・ラブホテル料金 約8,000円
・依頼料 約2,500,000円
・武装費他 約23,000円 
・雑費 約1,800円
______

・合計 14,921,520円


【手に入れた物品諸々】

・ノートパソコン
・USB

328名も無きAAのようです:2014/01/04(土) 00:58:10 ID:gyxCuI4M0

九話か十話で終わるつもりなので、もう後少しです。
次の七話から終わりに向けての話ですが、よろしくお願いします。

330名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 13:21:30 ID:HMXzi70w0
もう終盤に入ってしまうのか…
まだ分からないことばかりだし続きが気になあああ

331【幕間:Merciless Messiah】:2014/01/06(月) 21:02:28 ID:/4PMM.o60

雨上がりの道を男は歩いていた。
昼と夜との境界、白み始めた空は遠からず朝が訪れることを知らせている。
しかし街はまだ目覚めてはいないようで周囲に人は見当たらない。

そんな早朝に、男は時折笑みを漏らしつつ歩みを進めている。

早朝故に、街頭を一人で笑いながら歩くという彼の不気味な様を目撃する人間も存在しないのは幸運だっただろうか。
尤も誰かに見られたところでそのスーツ姿から朝まで飲み続け泥酔した会社員だと思われただろうが。


( ^ν^)「くくく……。いやはや、想像以上でしたねー」


スクエア型の眼鏡を押し上げ、『ウォーリー』と呼ばれる何でも屋は笑った。
身に纏っている黒のスーツは派手に転んだように濡れているが、それも今は気にならない。
どころか、抱えていた二つの仕事が失敗に終わったことすら気にならなかった。
彼の力ならば激怒する依頼人から逃げ果せることなど容易い。


( ^ν^)「なるほど、なるほど……。戦闘狂のケはないと思っていたのですが、笑ってしまいますねー」


まさか本当に、自分を見つけられる相手がいるとは。
想像以上だというのが正直な感想だ。

332【幕間:Merciless Messiah】:2014/01/06(月) 21:03:10 ID:/4PMM.o60

男の持つ『知覚阻害』という能力は地味ながらも相当に厄介な代物だ。
これまでも何度か索敵系の能力者と戦うことがあったが、誰も彼を見つけることはできなかった。
同じ異能の力すら無力化するほどに強烈な力なのだ。

『ウォーリー』を見つけられた者など、片手の指にも満たない。


( ^ν^)「(なのに、あんな中学生くらいの小娘があっさりと見つけるなんて……。笑ってしまいますねー)」


一体あの少女は何者なのか。
あれほどまでに強力な能力を持っているのならば何処かの組織に属しているのが普通だ。
無所属の一匹狼でも噂くらいは流れる。
だが彼女は、まるで降って湧いたように突如として出現した。

先日まで普通の人間で前触れもなく能力が覚醒した新参の能力者ということも考えられるが、それにしては態度が妙だった。
宛ら手足のように、そこに存在し使用できることが当然と言った風に『未来予測』を行っていた様から察するに、昨日今日手に入れたわけではないはずだ。

一体あの少女は何者なのか。


( ^ν^)「はてさて、あのミィという少女は何者なのでしょうねー……」

333【幕間:Merciless Messiah】:2014/01/06(月) 21:04:06 ID:/4PMM.o60

と。



「―――お教えしましょうか?」



背筋が凍った。

彼の耳にそんな言葉が届いたのはその時だった。
早朝の空気よりも涼やかな、いっそ戦慄さえも覚えさせるようなその声音を、男は知っている。

いや。
この『ウォーリー』に限らず、少しでも裏の世界に詳しい人間ならば“彼女”のことを知らないはずがないのだ。
そんな史上最高と名高い能力者が男の後ろに立っている。


(;^ν^)「……参りましたねー。あなたに出遭ってしまうだなんて、本当に不幸ですー」

「ご愁傷様です。尤も私はこんな非番の日に『ウォーリー』という大犯罪者を見つけることができ幸運だと思っていますが」


“彼女”はそう言って、男は振り向かない。

334【幕間:Merciless Messiah】:2014/01/06(月) 21:05:06 ID:/4PMM.o60

響く声はまだ遠い。
だが“彼女”を相手にして距離の概念がどれほどの意味を持つのか。
逃げられない。
その選択肢すらロクに浮かばない。

だから男は黙って両手を挙げて、ゆっくりと振り返る。
数メートル先に立つ“彼女”と向き合った。


( ^ν^)「ああ、そうか。そういうこと、でしたかー……」


“彼女”はそこに立っていた。

黒を基調としたスタイリッシュな服装。
纏うのは同じく黒のロングコート。
短いポニーテールようなアップスタイル。
その髪も濡れたように黒く、その瞳も夜のように黒い。

全く無駄のない、作り物のように洗練された完璧な顔立ち。
それらとよく合う切れ長の両目。

335【幕間:Merciless Messiah】:2014/01/06(月) 21:06:05 ID:/4PMM.o60

“彼女”の姿を目にし。
そして、男は理解する。

こんなにも似ているというのに、どうして気が付かなかったのか。


(  ν)「(つまり、あのミィという少女は―――)」


ええ、その通りですと“彼女”が肯定する。



( ^ν^)「『ファーストナンバー』……。そうか。あの少女は、お前の……」

(-、-トソン「ええ。ですが、最早あなたには関係のないことです」



次の瞬間。
男の意識は根幹から断ち切られた。

『ウォーリー』と呼ばれた超能力者の行方は、杳として知れない。

336名も無きAAのようです:2014/01/06(月) 21:07:07 ID:/4PMM.o60

オマケで終盤の重要人物が先立って登場しました。

今年も頑張っていきましょう。
ではまた。

337名も無きAAのようです:2014/01/06(月) 22:04:44 ID:HvIXZKNk0
おつ!
今年もよろしく!

338名も無きAAのようです:2014/01/06(月) 23:00:31 ID:LTNXZkYwC
序章のときから目をつけて読んでるが先生にしては読みやすいの書いてるな 
序章のときは先生と知らず、わかったときはちょっと吃驚したよ 
まあ面白いし文章も読みやすいし、次回のひきも十分今後も楽しみにしてる

339名も無きAAのようです:2014/01/06(月) 23:32:23 ID:sNp8XXFU0
おつ!
続き気になるわ

340名も無きAAのようです:2014/01/09(木) 18:11:33 ID:zKNk6dA20
先生とは?

341【第六話予告】:2014/01/15(水) 08:52:06 ID:/zV5Zwg60

「ところでブーンさんは大学でどんなことを学ばれているのですか?」

「哲学だお。『人間はサイコロと同じように、自らを人生へと投げ込む』『人間は自由であるように呪われている』という風に語った変わり者の勉強だ」

「……よく分かりません」

「人間は自由だが、自由には選択と責任が付き纏う。だがその一方で人間は状況に拘束された不自由な存在だって話だお」

「分からないことが分かりました」

「お前、聞く気ないだろ……。まあつまり、人間に定められた本質はなく、個人が思い描き創り上げていくしかないって思想だお」

「ですが、本質を定められて生まれた方も沢山いるはずだと思います。例えばそう、家を継がせる為に生まれてきた子どものように」

「それでも家を継ぐか、継がないかの選択はできる……いや違うな。自分で選択しなくちゃならないんだお。それが自由であり、人間であるということだから」

「…………やっぱりよく分からないです」

「僕はやっと分かった気がするお。僕は選んだんだ。目を閉じて平穏に浸るんじゃなく、命を賭けてでも真実を見つけることを」



 ―――次回、「第七話:Mechanical Member」

342名も無きAAのようです:2014/01/15(水) 17:26:09 ID:eflg/RGc0
乙、待ってる。

343名も無きAAのようです:2014/01/15(水) 20:35:31 ID:lT4Sv7/UC
期待してる

344名も無きAAのようです:2014/01/15(水) 21:19:54 ID:cHz3AHW6O
おつおつ
幕間のトソンはコールと同一なのかね、続き期待

345名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:40:44 ID:un0.uF.U0


  その時、僕は思っていた。

  もしかしたら、と。
  もしかしたらこのまま僕の父のことも彼女の記憶のことも何もかも、ずっと見つからないままなんじゃないかと。
  もしかしたら見つからないままの方が良いんじゃないか、なんて。 

  はっきりと自覚していたわけではなかったし、また当時の僕は決して認めようとはしなかったが、そんな思いを抱いていた。
  思ってしまっていた。


  かつて変わり者の哲学者はこう言った。
  「地獄とは他人である」と。
  本来的に自由であるはずの人間は、けれども常に他人に拘束され続け、自分で選択したわけでもないのに何か大きな世界や状況に組み込まれている。

  だから僕の、あるいは僕と彼女の思いなど素知らぬ風に因果の歯車は回り続ける。
  終わりへと近付いていく。

  思えばいつだってそうだ。
  どんな時だって、僕達には心の準備をする時間とかゆっくり検討する余裕なんて与えられない。
  生きているのだから当たり前のことだ。
  物語は進み続けているのだから。
  それが生きるということなのだから。

346名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:42:06 ID:un0.uF.U0

  そして、名もなき怪物が僕と彼女の前に現れる。
  待ちくたびれたよ。
  そう言わんばかりの笑みを浮かべ、終末を告げにやって来る。

  これから始まるのは終わり。
  物語の終わりが、始まる。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第七話:Mechanical Member」




.

347名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:43:06 ID:un0.uF.U0

 心地良さに一瞬意識が飛びかけたのを自覚し、首を振った。 
 昔から入浴はシャワーが主で湯船に浸かることは多くなかった。
 こんな風にゆっくり風呂を堪能したのは初めてかもしれない。
 同時に露天風呂も初体験ということになる。

 加えて言えば、僕の隣には簡素な水着姿のミィがいる。
 当然ながら混浴もこれが初。


( ^ω^)「(ホテルに引き続き、混浴までコイツと体験することになるとは思わなかった)」

マト゚ー゚)メ「?」


 恋人でもない異性と同じ部屋に泊まったり、同じ湯船に浸かったり。
 僕の人生はどうなってしまったのだろう。

 ……しかし、まあ。
 こうした時間が嫌ではないというのも事実だった。
 露天故の開放感や温泉の気持ち良さが多分に影響しているのかもしれない。


( ^ω^)「(そもそもなんで一緒に入ることになったんだったか……)」

348名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:44:04 ID:un0.uF.U0

 今日はなんだかんだで温泉付きの部屋に泊まることになり、なんだかんだで同じ湯船に浸かることになった。 
 それだけのこと。
 細かい話は別にいいだろう。

 それよりも、細かくない話をしよう。
 そう考えて僕は口を開く。


( ^ω^)「……なあ、ミィ」

マト゚ー゚)メ「なんですか?」

( ^ω^)「…………いい湯だな」

マト-ー-)メ「そうですね」


 思わず正直な感想を呟いてしまい(更に同意されてしまい)、違う違うと気を取り直して僕は言う。


( ^ω^)「僕の父親と、お前の記憶の件……結構手掛かり集まった気がするお」

マト-ー-)メ「それも、そうですね」

349名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:45:16 ID:un0.uF.U0

 美肌の効用のある温泉に浸かっているからか、あるいはのぼせて意識が朦朧としているのか、いつもよりもミィは綺麗に見える。
 表情が違うというのもあるかもしれない。
 瑞々しく傷一つない彼女の素肌に目を奪われかけながらも僕は続ける。


( ^ω^)「結局、核心的な部分は分からないままだが、あの情報屋の人から手掛かりを手に入れることはできた」


 父の写真に映っていたミィと似た女性。
 いつものような笑みを浮かべていない今の彼女はその相手に余計に似ているように感じる。


マト-ー-)メ「ただ一度に入手した情報が多過ぎ、かえって分かりにくくなったという気もします」

( ^ω^)「そうだな。だから一度、整理してみたいんだお」

マト゚ー゚)メ「それがいいかもしれませんね」


 ミィは同意し、僕に向けてあのふわふわとした特徴的な笑みを向ける。
 その表情でクールな魅力は雲散霧消し、あの写真の女性と同じ切れ長の目の印象は一気に薄れてしまう。
 けれどもこんな彼女の方は僕は好きだった。

 さて、のぼせない程度に先日の記憶を呼び起こしてみようか。

350名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:46:06 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 端末に映った画像に情報屋の女は少し驚いたようだった。
 だが一瞬で微笑みを作り上げると、見覚えがあるかと訊ねた僕に対し「知っているわ」と告げる。


('、`*川「この黒髪の女のことでしょ? ええ、知っているわよ」

( ^ω^)「本当かお?」


 あのスーツの男との対決から二日ほど経った。
 僕達は飲食店の個室席であの情報屋の女と再会していた。

 彼女とはミィとの和解後、すぐにでも話をする場を設けたかったのだが、騒ぎを起こした街に居続けるのはリスクが高いということで日を改めることになった。
 その日は移動し、次の日は濡れた服の洗濯などの後処理と休息に当て、今に至る。
 何処の街にでもあるような大衆居酒屋の一室だ。
 秘密の会合に使われるのは何も工場跡地や高級料亭ばかりではないのだろう。

 情報屋の彼女は夜分ということもありコートを羽織っているが、落ち着いた大人の女性らしい格好という点は変わらない。
 では僕の隣に座るミィはと言えば、やはり目の前の相手と比べるとボーイッシュな格好ということもあってか子どもっぽさが抜けない。
 いつものようにニット帽を被っている彼女は今は運ばれてきたばかりのピザにお熱のようで、そういう部分は本当に幼い感じがする。

351名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:47:08 ID:un0.uF.U0

('、`*川「それにしても……やっぱり似てるわね。性格は全然違うみたいだけど」


 ピザカッターを器用に使う少女に目をやり、情報屋の女は呟く。
 ミィが写真の女性と似ていると思ったのは僕の気のせいではなかったようだ。

 安物のカクテルを一口飲んでから彼女は続ける。


('、`*川「私達の世界では相当な有名人よ。知らないのは田舎者ってくらいにはね。尤も、あまり記録には残っていない類の人間だけど」

( ^ω^)「アンタ達の世界っていうのは、アレかお。アウトローの社会ではってことか」

(-、-*川「そうね。そうであるとも言えるし違うとも言えるわ。とにかく……」


 そうして一拍置いて、その名前を口にした。


('、`*川「その女の名は都村トソン。十歳にもならない内にハーバードGSASで学位を修め、一人で科学の歴史を百年進めたと言われる、史上最高の頭脳を持つ天才よ」


 『都村トソン』。
 それが僕の父と一緒に映っていた女性の名前。
 ミィと似た女の名。

352名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:48:09 ID:un0.uF.U0

('、`*川「彼女の逸話には枚挙に暇がないわ。代筆した論文がノーベル賞に選ばれたとか、チェスの世界チャンプを打ち負かしたとか……。真偽はともかくとしてね」

( ^ω^)「そりゃあ凄いな」

(-、-*川「その辺りのスパコンよりも演算速度が優れていたなんて噂が流れるくらいよ。そんなの、もう人間じゃないわよね」


 人間ではない、異生物。
 どれほど譲歩してもヒトの突然変異種だろうか。

 だが、と僕は訊く。


( ^ω^)「僕は『都村トソン』なんて名前は寡聞にして知らないお。そんなに優秀な人間なら歴史に残るような偉業を成し遂げてていいはずだが」

('、`*川「記録に残らない類の人間だって言ったでしょ? 彼女はそういった名声には興味はなかった。研究成果も同業者やスポンサーにあげてしまうか、そうでなければ破棄してしまった」

( ^ω^)「かの名探偵みたいな奴だな。自身の知的好奇心さえ満たせれば構わないってことか?」

('、`*川「ええ、まさにそんな感じだったわ。誰かを助けようとか社会に貢献しようとか、そういった考えとは無縁の人だった」


 公式の記録に残った数少ない研究成果はそんな天才の性質を示している。
 原因不明の難病の特効薬も、パンデミックを引き起こす生物兵器も、彼女にとっては同列だった。

353名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:49:07 ID:un0.uF.U0

 故に彼女はこう呼ばれていた。
 『神の頭脳を持つ悪魔』――と。

 いや悪魔というよりはトリックスターという表現が相応しいか。
 埒外の力と愚者にも賢者にも思える性格で物語を引っかき回す天性のトラブルメーカー。
 彼女は天才であり、また天災であり、世界の誤植であり、人類の至宝だった。


('、`*川「彼女がどんな人間であったかは置いておくわ。きっと重要なのは彼女が私達の世界で有名である理由の方よ」


 一瞬間、情報屋の女はミィを見る。
 そうして何かを考えた後、言った。


('、`*川「あの女が裏の世界で有名な理由は――彼女が超能力者を人工的に作り出すことに成功した唯一無二の存在だ、と言われているから」

(;^ω^)「人工の超能力だって……?」

(-、-*川「ええ。歴史上初めて超能力を科学的に立証してみせた。更には実の娘を実験体にし実際に能力者を作り出した。実しやかにそう伝わっているのよ」

(;^ω^)「馬鹿な!」

('、`*川「そうね、馬鹿な話だと思うわ。だけど彼女はそれを信じさせるだけの才能と異常性を持っていた」

354名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:50:04 ID:un0.uF.U0

 加えて。
 その噂が流れ始めてからの数年間で社会の暗部において超能力者と言われる人々の数が目に見えて増加したのだ。
 どれほどの数の本物がいたかは分からないが、不可解な事件は明白に増えていった。

 そう。
 件の天才が検証実験として、無差別に選んだ人間に能力を付与していったかのようにだ。

 
(;^ω^)「まるでキャトルミューティレーションだな……。そいつ、実は宇宙人なんじゃないか?」

('、`*川「しかもタチの悪いことに彼女は結局その研究成果を公表しないまま行方不明になってしまった。だから噂の真偽は分からないまま」


 なるほど、何故裏の世界で有名な存在なのか理解できた。
 その研究成果の手掛かりを見つけることができれば、人工能力者を生み出すことも夢ではない。
 もしそんなことが可能ならどうなる?
 革新的な技術や発見が必ずしも人類の幸福や社会の発展に寄与しないという事実は歴史が証明しているというのに。


( ^ω^)「(あのスーツの男もそんな風なことを言っていたか……)」


 現代の社会では、超能力者など兵器として使われるのが関の山なのだ。
 あるいは僕がミィを護衛として雇っているのと同じように。

355名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:51:07 ID:un0.uF.U0

(-、-*川「研究データは彼女が常に持ち歩いていた懐中時計に入っていた。そんな風に言われているけれどね……」

( ^ω^)「全ては闇の中、ってとこか……。父親の職場を探してただけのはずなのに、とんでもない所まで来ちゃったお」

('、`*川「安心しなさい。あなたのお父様は都村トソンとそんなに親しい仲ではなかったようだから」


 僕の心配を見抜いたかのように彼女は言う。


('、`*川「私の調べた限りでは、あなたのお父様は都村トソンに教えを受けていた時期があったらしいわ。尤もごく短い間みたいだけど」

( ^ω^)「教授と生徒の仲ってことか?」

('、`*川「特別講師として招かれていただけだから長く見積もっても数ヶ月の付き合いだったと思うけどね」


 その『都村トソン』は自らの記録を残すことを好まず自分に関するデータの多くを削除しており、それ故に大半の記録は消失している。
 だが、どうやら一時的に僕の父と同じ大学にいたことだけは間違いないらしい。
 自分と大して年齢の変わらない、あるいは年下の講師に父は何を教わったのだろう。

 この写真は歓迎会……いや、お別れ会のような場面で撮られた物だろうか。
 白衣を着ているわけだから大学内で撮影されたのだと思うが。

356名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:52:04 ID:un0.uF.U0

 そんな元は集合写真であった一枚をわざわざツーショットになるように破り、自分の妻の写真を飾っていた写真立てに隠していたのだから……。
 血の繋がった父親に対してこんな想像をするのも妙な気分だが、父はその『都村トソン』という人に特別な感情を抱いていたのだろう。
 もしかすると初恋の人だったのかもしれない。
 ミィをクールかつ大人っぽくしたようなかなりの美人で惚れてしまうのも男として理解はできるが。

 とにかく、と情報屋の女はピザから鍋へとターゲットを移した少女を見つつ言う。


('、`*川「あなたが心配していたような真相は――この少女の記憶を二人が共謀して奪った、みたいなことはないはずだから」

( ^ω^)「そうか……」

('ー`*川「都村トソンもあなたのお父様も遺体が見つからないままの行方不明だから、実は生きてて隠れて糸を引いてるってことはありえるけれど」

(;^ω^)「嫌な想像だお」


 いや、生きていれば直接真相を問い質し文句を言えるのだからそっちの方がいいのか?
 その場合なら見つけ出すことさえできれば色々と手間は省ける。


('、`*川「写真について、私が調べられたのはこれくらい。どんな推測をするかはあなた達の自由よ」

357名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:53:04 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 風呂から上がり服を着替え、机に並んで座る。
 備え付けてあったインスタントの緑茶を作りながらミィが言った。


マト゚ー゚)メ「私は『都村トソン』という科学者に似ている。その人はブーンさんのお父さんと知り合いだった」

( ^ω^)「でも、その『都村トソン』は何年も前に行方不明になっていて……死んだとされている」
 
 
 だとしたら?
 現時点の情報からはどんな可能性が考えられる?

 ミィが情報屋の話にあった『実の娘』ならば話として分かりやすいのだが、どうもそういうわけではないらしい。
 その子は現在二十ニ、三ほどの年齢になって生存しているとのことで、しかも『都村トソン』にはその娘以外の子どもはいなかったという。
 尤も前述のように彼女に関しては詳しいデータが残っていないので実際のところは分からないが。

 湯呑みを僕に渡しつつミィは静かに続ける。


マト-ー-)メ「もしかしたら私は隠し子の類なのかもしれませんね。行方不明になった後に、邪魔になって捨てた子……のような」

358名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:54:06 ID:un0.uF.U0

 ニット帽を被ってない彼女の頭を僕はぐしゃぐしゃと撫でる。
 「そんな自分にとって好ましくない想像をそんな風に淡々と語るな」。
 そういった思いを込めて。

 彼女は首を振って僕の腕を払いどけ、掴みどころのない笑みのままで話を再開する。
 ……どうやら僕の意見は伝わらなかったらしい。


マト゚ー゚)メ「『都村トソン』は姿をくらましているだけで生きている可能性がある。でも居場所が分かりませんから、その『実の娘』に会うのがいいと思います」

( ^ω^)「……それか、あの『殺戮機械』だろうな。アイツはミィに似た人物を知っていたみたいだが、それは『都村トソン』だったのかもしれない」


 だとしたらディと名乗っていたアイツは『都村トソン』について何か知っているかもしれない。
 できれば二度と会いたくなかったが必要ならば已むを得ない。
 奴が一刻も早く捕まることを祈り続けていた僕だったが、残念なことにその願いが叶ったことを知らせる情報は耳にしていない。


マト^ー^)メ「この予測通りの真相ならばブーンさんのお父さんは私の過去には関係がない。良かったですね」

( ^ω^)「いや、僕の父親も行方不明になってるだけだから、その『都村トソン』と共謀している可能性はありえる」

マト-ー-)メ「ブーンさんはネガティブですね。そんな自分にとって好ましくない想像をそんな風に淡々と語るのは良くないと思います」

(;^ω^)「お前に言われたくねぇお」

359名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:55:25 ID:un0.uF.U0

 その言葉はそっくりそのまま返す。

 けれど、そうであれば膨大な見舞金の説明がつくのだ。
 『都村トソン』という人物は論文や発見で相当な資産を持っていたらしいから、父が僕のことを思い彼女に頼んで百億を用意してもらったのではないかと。
 それに父の部屋が荒らされた理由も分かる。
 彼女の超能力に関する研究データを狙う勢力は山ほどあるそうだから、親しい相手がいると分かったなら家探しをすることもあるだろう。


( ^ω^)「ただ、情報によれば父と『都村トソン』は顔見知りではあっても深い仲ではなかったようだから可能性は低いか……」

マト゚ー゚)メ「ブーンさんのお父さんが計画的に失踪したということは写真のことからありえないと思います」

( ^ω^)「写真?」


 あの父が映っていた写真のことか?


マト-ー-)メ「はい。仮に実は二人に親交があり、何かの計画を実行しようとしたとして、そんな大事な相手との思い出を置いていくとは思えません」

( ^ω^)「なるほど……。確かに事前に失踪することが決まっていたなら写真立ては持って行きそうなものだ」

マト゚ー゚)メ「私ならば持って行きます」

360名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:56:05 ID:un0.uF.U0

 まあ「これからは実物と一緒にいられるのだから写真はいらない」と考えたのかもしれないが……。
 父は僕と同じで、物や思い出を大事にする方だからそれはないだろう。
 母(父にとっては妻)の写真もあるのだし、持って行ける状況ならばそうしたはず――逆にそうでないということは計画的な失踪ではないということになる。

 ただ、とミィは言った。


マト゚ー゚)メ「話に聞いた『都村トソン』という人間のイメージを踏まえると、ブーンさんのお父さんとはそれなりに仲が良かったのだと思います」

( ^ω^)「またなんで……って、写真があるからか」


 『都村トソン』は自分の記録を残すことを好まず、大学のデータベースに残ってしまった際には後からハッキングして消去するほどだった。
 そんな人間が誰かと一緒に写真に写ろうとするだろうか?
 それなりに親しい相手でないとありえないのではないか。


( ^ω^)「……連絡を取り合う間柄ではなくとも、久しぶりに再会すれば話す程度には仲が良かったのかもしれないな」


 かの天才の記録が残っていないのは彼女がデータを残すことを好まなかったこと以外に、そもそも友人がほとんどいなかったことも理由としては大きい。
 そんな相手と一緒に写った写真が今、こうして存在している。
 父が惚れていたのだとしたら救われる話だ。
 特別な関係には至らずとも、少なくとも赤の他人とは思われていなかったのだから。

361名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:57:06 ID:un0.uF.U0

 予め用意されていた茶菓子を物色しながら、ミィはふわふわと笑って「ここまで考えてきましたが」と切り出す。


マト-ー-)メ「どれも可能性の話ですから、ブーンさんのお父さんは『都村トソン』と全く関係がなく、私も他人の空似ということもありえます」

(;^ω^)「それは……そうだな。肩透かしもいいところだが、現実ではフィクションのように上手く伏線が用意され回収されるという保証はない」


 大体、そうだとしたら僕とミィが出逢ったのが奇跡的過ぎるだろう。
 創作でもありえないような偶然が起こり得るのも現実ではあるが。


( ^ω^)「そう言えば、お前の目では何か掴めないのか? 説明を聞いた限りじゃ写真の相手と自分がどういう関係かくらい予測できそうなものだが」

マト゚ー゚)メ「それがよく分からないんです」

( ^ω^)「分からない?」

マト-ー-)メ「はい。最近気付いたんですが、私の『未来予測』は戦闘分野での危機回避を念頭に置いているみたいで」


 なるほど。
 高度な分析こそ行っているが、あくまで『未来予測』の異能なのだろう。
 未来を見る能力ですから過去を見ることは苦手なのかもしれませんと彼女は笑う。

362名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:58:07 ID:un0.uF.U0

 さて。 
 ミィの記憶に関しては――『未来予測』『記憶喪失』『襲撃者』『彼女に似た誰か』『都村トソン』『研究』『実の娘』。
 僕の父に関しては――『失踪』『見舞金』『泥棒』『ミッション・ミストルティン』『製薬会社』『破かれた写真』。
 今のところ出てきたのはこれくらいだろうか。

 しかし改めて情報を整理してみると、手掛かりこそ集まったが真相にはまだまだ遠いという印象だ。
 加えて推理小説とは違ってヒントが全て正しいとは限らず、偶然や無関係、勘違いということもありえる。


( ^ω^)「とりあえず製薬会社については情報を待ちつつ、その『実の娘』というのに会いに行くのがいいだろうな」


 こうなるならば『実の娘』についても情報屋の彼女に詳しく訊いておけば良かった。
 今から連絡してみようか?

 と――その時だった。


マト; ー)メ「!!」


 隣に座り茶菓子を食べていたミィが目を見開き、唐突に立ち上がった。
 僕が驚きに声を掛けられない間にも彼女は辺りを見回し、襲撃に備える獣のように気を引き締める。

363名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 19:59:57 ID:un0.uF.U0

 その両の瞳は紫の段階を飛ばして既に鮮やかなアカイロに染まっている。
 対応から察するに今すぐに危険があるわけではないようだが、ここまでピリピリとした雰囲気のミィを見たのは初めてだった。
 あの『殺戮機械』との戦闘においてさえ、彼女は一瞬笑みを消しただけで命のやり取りの間にも微笑みを絶やさなかった。
 浮き世離れした掴みどころのない、言い換えれば超然とした部分があったミィ。

 そんなミィが――敵の姿すら見えない状況で、これ以上ないほどに警戒している。
 それがどういうことなのかは僕には分からない。


マト -)メ「…………ブーンさん」


 数秒か、あるいは数時間の時が流れた後に、ミィは静かに告げる。


マト; −)メ「誰かが、私を呼んでいます。敵意はありません。危険も恐らくはないでしょう。ですが、これは……」

( ^ω^)「―――大丈夫だ」


 思わずそう口にして、僕は彼女の手を握った。
 僅かに震えていた小さな手を。
 だが幸いなことに僕の呼び掛けが功を奏したのか、ミィは「ありがとうございます」と小さく笑い、一緒について来てくれますか?と訊ねてきた。

 答えなど口にするまでもなかった。
 いつだったか以来のしおらしい彼女を可愛いと思う精神的余裕は既にない。

364名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:01:30 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 学校の音楽室にあるような重厚な扉の前で彼女は立ち止まった。

 地下一階に位置するこの部屋はこの宿泊施設内にいくつかある遊戯室の一つだった。
 けれど平日の昼間ということもあってか、ゲームに興じている宿泊客の楽しげな声は聞こえない。
 誰もいないのか?
 そう思ってしまうような静けさだ。

 だが、目の前の扉の向こうには誰かが待っている。
 そのことは緊張した面持ちのミィから如実に読み取ることができた。


マト-ー-)メ「……行きましょう」


 そう言って、彼女は少し無理した風に笑みを作った。
 ふわふわとした掴みどころのない笑顔。
 最早その表情を見慣れている僕には分かる。

 この向こう側に誰かがいるのだと。
 そう、きっと僕達を真実か――あるいは破滅に導くような誰かが。

365名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:02:10 ID:un0.uF.U0

 僕が頷くと、ミィは遊戯室の重い扉を押し開けた。

 ちょっとした飲食店程度の空間。
 薄暗い室内において最も目立つのは中央に鎮座しているビリヤードテーブル。
 右手の壁際には古めかしいスロットと僕には馴染み深いピンボールマシンが二つずつ並んでいた。
 そして、左手。

 深紅のソファーの前に“彼女”は立っていた。
 チェステーブルを見下ろし、数個の木製の駒を弄んでいた“彼女”はそれらを置くと、出入り口の僕達に対し丁寧に一礼した。



(-、-トソン「―――お待ちしておりました」



 夜の海のように静かで冷たく、けれど美しい声音と瞳。
 簡単に纏められた黒髪に、切れ長の目が調和した全く無駄のない顔立ち。

 一瞬、心臓が――止まるかと思った。

 僕は言葉を失った。
 隣のミィも同じだった。
 だって、それはそうだろう?

366名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:03:04 ID:un0.uF.U0

 そこに立っていた彼女は、服装こそ白衣ではなく黒のロングコートだが、紛れもなくあの写真に写っていた女。 
 僕達が探す、『都村トソン』その人だったのだから。

 こちらの驚愕とは対照的に“彼女”は平然と、チェスの駒をテーブルの引き出しへと仕舞いながら口を開く。


(゚、゚トソン「扉を閉めてもらえますか? あまり人様に聞かれて面白い話をしようとは思っていないので」

(;^ω^)「お前、は……」

(-、-トソン「お初にお目にかかります。都村トソンと申します」


 二人で顔を見合わせ、扉を閉じてから、今度はチェスボードに赤と黒の丸い駒を並べている“彼女”――都村トソンの元へと向かう。
 近くに寄れば余計に理解できる。
 他人の空似だとすれば奇跡的なレベルで彼女はミィに似ている。

 ただ、顔の作りこそ近いが、ミィが常にふわふわとした笑みを浮かべているのとは真逆。
 彼女は写真の中と同じように無表情で無感情だった。


マト゚−゚)メ「あなたは……」

(゚、゚トソン「なんでしょうか」


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