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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

5019-439 ぴしゃりと叱りつけた:2010/08/16(月) 00:28:20 ID:H5QHjZek
確かに抱かれるより抱くほうが妥当だろうなと店主も思ったらしい。幸い、この遊郭では女役に限らず、珍しいことに"そっち"の部門にも手を入れている。紅葉はそちら専門にしようかという話が持ち上がる。
だが生憎紅葉は男も、女すら抱いたことが無い。
そこでまた指南役の藤吉にお鉢が回ってきたという訳だ。今度は藤吉が女役で。
しかしこの紅葉と来たら、少しも手を動かせない。男としての才能がからっきしなんではと疑うほどに駄目。
遊郭に売られなかったらどう暮らすつもりだったのか。
「もしかしたら、相手が僕だから駄目なのかねえ」
とカマをかけてみる。
しかし元から紅葉は表情の変化に乏しい。首をふるふる振るばかり。
「なかなか出来ないなら、同じ部屋の子呼んでこようか?気心も知れているだろう」
更に首を振る。
はてさて、どうしたものか。
と悩んでいると、紅葉はおもむろに服を脱ぎ出した。
(……おや?)
もしかしたらやっとヤる気になったのか。
仕掛けを下半身にだけ残し、そのまま腕を藤吉の首に絡めて、押し倒す。口づけをしながら手を胸の尖りに持って行き、撫で擦ったり爪を立てたらするものだから、思わず腰が跳ねた。
(そう。それでいいんだよ)
藤吉自身を紅葉の膝でぐりぐりと圧迫される。
「あ、く、……ん。いいよ」
歴戦の藤吉から喘ぎが漏れるほどに充分な固さとなった。
紅葉は藤吉を促すと、ズボンを脱がせ、褌を履かせたまま男根を外に出す。
「ん?」
何故脱がせない――と思っていると、藤吉に膝立ちで股がる紅葉が見えた。
仕掛けをずらすと、仕掛けの下は何も履いていなかったのか、丸見えだ。
 いやそうじゃなくて待てこの体勢は正しいように見えて正しくなくて……――!?
紅葉は位置を確認すると、花魁らしい笑みで藤吉に笑むと、藤吉の男根に腰を落とした。

5119-439 ぴしゃりと叱りつけた:2010/08/16(月) 00:43:40 ID:H5QHjZek
「んん!」
紅葉が啼いた。
彼は慣らしなどしていなかった筈なのに、藤吉は紅葉にすんなりと飲み込まれた。
「ちょ、何してんの!」
「はあ……やっぱり……すっごくいい……」
「腰を動かすんじゃありません、くっ」
やばい気持ち良い。
気力を振り絞って正気を保つ。
「……私、藤吉様が初めての人だったのですけれど……」
紅葉がふいに腰の動きを止めた。挿れてるだけで気持ちいいが、まだ動かないだけマシだ。
「あの時も、すごく良かったです」
「そりゃあどうも」
「私はあれから色々お客を貰って来たけれど、貴方を超える方に会ったことがございません」
「ああそう、ちょ、動かない!動かないの!」
「あん……だからもう一回貴方と、寝るには、と一生懸命考えました、」
「はあ?」
「……藤吉様はうちのお客には成らないと聞いて、これしかないと」
「これ?――まさかお前、僕の指導受けたいからってわざわざ男役になるよう鍛えたとか……」
「鍛えた甲斐がありました」
「うおぉ!?」
鍛えられた両腕で身体を起こされ、今度は藤吉が紅葉を押し倒す格好となった。
「もう心残りは御座いません。ここに男を受け入れる最後の機会と覚悟します」
儚く笑う紅葉は、散ってからこそ美しい紅葉そのもののように見えた。
「だからどうぞ最後に、陰間としての最後に、貴方様を味あわせて下さりませ」
腰を揺すっても、先ほどの体位より紅葉の好きにはならないだろう。藤吉が身体を離せば、直ぐに行為を中断できる。
だが、藤吉は抗えなかった。
ズン! と腰を抉る。
「ハァッ」
また紅葉が啼く。
「あ、あ、あ、良いです……!もっと、奥に……!」
「まったく……どいしようも無い子だね」
散々忘れられぬと煽っておいて、これが最後と言い切られちゃあ。
「あはぁ、ヒッ!」
「ねえ、君が僕を好きなのって身体だけ?」
「――い、いえ、ぜんぶ、全部……お慕いしております、あぁ」
「そう」
藤吉は自分を叱りつけた。
色子の甘言にほだされて、うっかり身請けの算段をはじめていることに。
「藤吉さま……っ、もうっ」
「これ終わったら、男の方の練習するからね〜」
「……は、はい」
絶頂を前に言葉一つで切ない顔をする紅葉に胸が熱くなる。
やはり、何がなんでも男役にしてやらねば。
(――この子を抱くのは僕だけでいい)
「アッ……!」
「くっ」
二人は同時に絶頂に達した。

5219-479 元カレの葬式で元カレの今カレと初対面:2010/08/25(水) 03:46:34 ID:0aHaSYCA
その子は冷めかけたコンビニのスパゲティーを困ったようにつついていた。
フォークに巻きつけるのがとてもへたくそで、それを自分に見せまいとしているようだった。
しかし見れば見るほど、自分とは正反対の容姿だ。
少しだらしのない格好をしていたが、気の強そうな黒目がちの目に健康に焼けた肌をして、活発で利発そうだった。
「俺、この人が中嶋さんなんだなって見てすぐ分かりましたよ」
急に話しかけられて、中嶋は皿から目を上げた。
けれどその子の方は俯いたまま、相変わらず皿の中のスパゲティーをかき回していた。
「だって、色白で、目が垂れてて、口が小さくて、とってもきれいな人だったって……」
会ったばかりのその子の口から、ふいに自分のことが話され始めたのを、中嶋は驚いて聞いていた。
そんな中嶋の態度に気付かないまま、その子――達也が死ぬ前まで付き合っていた青年は話し続けた。
「散々聞いてたんです、俺。ひどいんですよ達也さん。ずーっと中嶋さんの話ばっかり俺にするんですよ。
中嶋さんはどういう風にきれいで、優しくて、色っぽかったかって話しかしないんですよ。ホントに。
だから達也さんきっと、絶対まだ中嶋さんのこと好きだったんすよ。
俺ずーっと会ったこともない中嶋さんに嫉妬してて、恨んでて……会ったこともないのに。
中嶋さんなんて、この世にいなければ良かったのにって思ってて」
そこまで言って、青年はようやく中嶋の困惑した顔に気付いて、慌てて謝った。
「ごめんなさい」
「あ、そうじゃないんだ」
謝られてはっと我に返って、中嶋は呟いた。
「そうだったんだと思って……」
青年の話を聞いて初めて腑に落ちたことがあって、中嶋は呆然としていたのだった。
何年も付き合って分からなかったことが、こんな会ったばかりの青年と話したことで分かるとは思ってもみないことだった。
「俺と付き合ってるときは、そのとき浮気してた女の子が可愛いって話しかしなかったんだよ」
今度は青年の方が驚いた顔をする番だった。
「達也は、すごくひねくれてただろ?」
それを聞いて、その子はぱっと目を輝かせた。けれどすぐに中嶋を見て、申し訳なさそうに、悲しそうに眉を寄せた。
きっと達也はこの子のことをとても好きだったに違いないと、それを見て中嶋は静かな気持ちで思った。
そのことが中嶋には、多分この世で一番よく分かるのだった。

53一夜だけ:2010/08/28(土) 23:56:13 ID:XE1cDVPA
『真夏に一夜だけ咲くサボテンの花があるんだけど、うちに見に来ない?』

そういわれて、そいつの家で食われて男に目覚めたのが三年前。
結局、そのサボテンはその為だけに購入されたもので、
そいつにとっては俺を食えたら用なしになっていた。
花に魅入られた俺は、ゴミ箱に捨てられていたサボテンが自分のように思えて、
不憫になったのか、拾って家にもって帰ってきた。
決していい思い出ではないので、ろくに世話もしなかったけれど、さすが砂漠の植物で、
今年もちゃんと蕾をつけた。

「月下美人?」
携帯の待ち受けにしていたサボテンの蕾をみていたら、
隣の席の男が声をかけてきた。ここは相手がいない同性愛者が集まるバーで、
男がほしくなった時に来ては、俺は適当な相手を持ち帰り、
一夜だけの関係を持つのが習慣になっていた。
遊ばれてヤケになったことがきっかけだったけど、逆にわずらわしいこともなくて、
気楽でいいと思ってた。
「似てるけど、これは南米のサボテンの一種だって聞いた。もらいものだから詳しくはしらない。
知ってるのは一年に一度、夜に花を咲かせるってこと」
「へえ」
「白い花が咲くんだ。白なら夜に映えるだろ。虫がすぐに来るからさ」
「ああ、なるほどねえ」
「花が虫を誘うんだよね」
さびしそうにバーで飲んでる俺みたいにね。
「うちにあるのも、もうすぐ咲きそうなんだ」
「本当に? いつ?」
「今夜」
「え? 本当に?」
「見に来る?」
「いいの?」
「いいよ」
ああ、本当にいい口実になるんだな。そんなことを思いながら、俺はそいつを部屋に呼んだ。
部屋に通すとそいつはすぐに花に飛びついた。
「うわ、本当に咲いてる!」
「全開になるのは十二時くらいかな。終電ないだろ。泊まっていって」
「本当にいいの? 悪いな、ありがとう」
「いや、別に」
何言ってんだ、お前だってそれが目当てなくせにと心の中でつぶやいた。
いつからだろう。何をしても心が冷めてる感じが抜けない。
体を熱くしたいのに、逆に冷えていくような感覚があった。
それなのに、目の前の男といると何か調子が狂う。
「キレイだね。感動した。呼んでくれてありがとう」
「いや…別に…」
間が持たなくて、俺は目の前の缶ビールを飲み干した。

十二時を過ぎて、花は全開になったけれど、
写メでやたらと写真を撮る男とは一向にそんな雰囲気にならない。
しびれをきらして俺がシャワーを浴びると言ったら、やっと自分も貸してほしいと言った。
それでもベッドルームにはくる気配がない。
「……何してんの?」
「何って?」
「いや、だからさあ」
「ああ、ごめん。俺は本当に花を見に来ただけ」
「はあ?」
「期待させてごめんね」
「き……」
なんだ、その上から目線は。あまりの一言に呆然とし、まず確認しようと思い聞いた。
「あのバーがゲイ専用だって知らなかったとか?」
「いや、しってるよ。よく行く店だし」
「だったら……」
「よく知らない人と寝るとかできないたちなんだ」
「何それ」
「君の事が気にならなかったわけじゃないよ。
まず、話をしようよ。ああ、そうだ。名前を聞いてなかった」
「気になってた?」
「うん、そう。気になってた」
それから遅い自己紹介をし、たわいもない話をした。昔の話もした。
ゲイを意識した頃の話とか、家族の話とか。
誰にも言えなかった話がなぜかこいつにはできた。
どうして出来たのか、自分でもわからないけれど。

朝になって、目が覚めると、サボテンの花はしぼんでいた。
大量に飲み干したビールの缶もなかった。
そして、あいつもいなかった。
もしかしたら俺の願望が見せた夢だったのかもしれないと疑ったそのとき、
テーブルの上の名刺に気がついた。

そこにはこう書いてあった。

『楽しかったから、また会いたい。よろしく』

なぜか俺の目から涙が出た。俺は声をあげて泣き続けた。

54夏休みの宿題が終わらない:2010/09/02(木) 06:41:11 ID:Q5zTapK6
「やべえ、提出出来ねー」
「は?宿題は僕が教えてあげたでしょ。何が残ってるの」
「一行日記」
「…はあ?書くネタならあるだろ」
「んなあからさまに見下した目すんな」
「夏祭りも植物観察も図書館も海も、そう不足しなかった筈だけど」
「いやネタ不足って言うか…そもそも完成してない訳じゃねえよ、毎日つけてたし」
「余計意味分かんない。」
「いや、あのな。夏祭りも海も森も図書館も全部、お前と一緒に行ったろ」
「だから?」
「だから、今見直したら俺の日記は、お前と〜した、ばっかなわけ。」
「ふぅん。…で?」
「え、『で?』って」
「提出出来ない理由」
「だって彼女とかいないのまるわかりだろー?カッコ悪いじゃん」
「…君は不満なの」
「へ」
「君は不満なの、夏休みの大半を僕と過ごしたのが」
「まあそりゃ、俺もお年頃だか…ん?」
「何」
「いや、俺…不満じゃ、ない…っぽいかも。寧ろかなり満足してる、気がする?」
「ならいいでしょ」
「え、あ、そうか?うん、ならいいや」

5519-529 夏休みの宿題が終わらない:2010/09/03(金) 12:22:35 ID:Fu4WrSP6
どうしてこんな事になったんだっけ
テーブルの上にはほぼ手付かずの課題
毎年早めにやっとけばよかったって思うんだけど
いつもギリギリなっちゃうんだよな
「こころ」の感想文、数学のプリント、日本史のレポート、あとなんだっけ?
セミの声がうっとおしい
クーラーで冷えた畳の表、うつぶせるとわずかにイグサの匂いがする

そうだ今年の猛暑がいけない
暑くてだるくてやる気しないのに
追い討ちのようにクーラーがぶっ壊れた
「しばらくこの暑さを楽しもう」とか気が気が狂ってんのかうちの親は
熱中症で死んだらどうする気だ
「じゃあうち来る?」ってこいつが言ったんだよな

熱い息が背中にかかる、
クーラーは24度、ぬるついた汗を乾かして体の表面は冷えてきたのに
触れ合った部分は生あったかい
体の内部は熱いのに、なんだか鳥肌が止まらない

どうしてこんな事になったんだっけ?
考えがちっともまとまらない
猛暑が悪い、親が悪い、宿題いっぱい出すからいけない、
セミの声が、不意に落ちた沈黙が、こいつの目が、指が、

「あつい」つぶやくと
観測史上最高らしいよ、と返される
ああ宿題終わらない 
もう何も考えられない

5619-549 貴方が優しいから僕は寂しい 1/2:2010/09/03(金) 20:40:49 ID:/88XiO4o
書き上がって投下しようとしたら規制中でした。
くやしいのでこちらに投下させてください。

-----

あの人はいつもめちゃくちゃ優しい。
俺だけに、じゃなくて、誰にでもみんなに。
でもそれってどう考えても長所だし、「俺だけに優しくしてくれなきゃやだ」とか言うのはサムすぎるし、第一俺あいつにそんなこと言え

る立場にいないし。

なんてったって先生と生徒ですからね。
担任の生徒ですらない俺のことなんか、そりゃ優しくあしらっちゃいますよね。
わかるよわかるよー、うん。……うん。

「先生」

小さく深呼吸してからガラリと社会科資料室のドアを開ける。
中を覗き込むと、先生が机についていた。
チラっともこっちを見てくれないのは、来訪者がどうせ今回も俺であることなんかお見通しだからだ。
さらに言うなら、そんな俺に全然まったく興味がないからだ。

「いますかー?」
「ハイハイいませんよ」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」

先生が本気でちょっとわずらわしそうなことには気づかないふりをして資料室に足を踏み入れる。
気づかないふり。それだけでいい。そうするだけで、先生は俺にもう何も言わないのだ。
パイプ椅子を引きずってきて同じ机に肘をつく。先生はぴくりとも動じない。

「なにしてんの? 俺手伝ってあげるよ」
「授業で使うプリント作ってる。タカギシがもっと賢かったら手伝ってもらったけど」
「はっはっは!」
「笑いごとじゃないからね」
「はっはっはっは!」
「ほんとにね」
「……はい。すんません」

5719-549 貴方が優しいから僕は寂しい 2/2:2010/09/03(金) 20:41:38 ID:/88XiO4o
どうせ世界史のテストいっつも10点台ですよ。
好きな人から教わって成績急上昇! なんてドラマチックな奇跡は起こらないし、いくら好きな人のためでも自分の壊滅的な暗記力に打ち

勝てるほどのハイパー努力家でもございませんよ。

夕日がとろりと資料室に差し込んでくる。放課後に特別棟で好きな人とふたりきり。
言うまでもなく絶好のシチュエーション。おいしいったらない。
もう、しちゃおっかな。告白。
どう転んでも報われないだろうし、絶対後からどうしようもなく後悔するだろうけど。

「せんせ」
「んー?」
「あのさ、先生、俺さ……俺ね。俺先生のことさ」

先生が初めて俺の顔を見た。ドキリと心臓が跳ねる。
好きが溢れて、胸がぎゅーっと締めつけられる。

「タカギシ」
「……はい」
「プリント、もうできたから、一旦職員室に寄ってから帰るよ。ここも閉めちゃいたいんだけど」
「……あ、うん」
「よし」

……話、逸らされた。もしかして。もしかしなくても。
黙々と帰り仕度を進める姿をじっと見つめていると、間もなくして先生が立ち上がる。
「いいかな」と問われて、俺も「うん」と立ち上がった。
正直言って泣きそうだった。多分すごく情けない顔をしていたんだろう。
先生がふっとため息をついて、そして、至極やわらかい声で言った。

「またいつでも来てくれていいから。馬鹿な子ほど可愛いって言葉もあるように、センセイ、タカギシのこと結構気に入ってるよ」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
悲しくて、けれど同時に嬉しかった。そんな自分がひどく寂しかった。

5819-570,571 攻め視点:2010/09/09(木) 01:32:19 ID:6y4hLuec
やけに半身が冷える。
夢うつつの中、隣で眠っている彼が布団を蹴飛ばしでもしたのだろうかと思いながら布団を引き寄せ、随分軽いことに気が付いた。
彼がいない。
はっと体を起こし、隣で眠っていた筈のあの子の姿を探す。
トイレだろうかと考えて、ふと彼が眠っていたところを撫でると既に冷え始めていた。
寝起きの頭が一気に覚める。
慌ててベッドを降りようとして、枕元に彼の物であった筈の携帯電話と鍵がきちんと並べて置かれているのを見つけた。
行為の前、そこには私が外してやったあの子の眼鏡を置いてあった筈だ。
(…………ああ、)
ゆるやかに事態を理解する。とうとうこの日が来たのだ。
私は彼に、飽きられてしまった。
いつかこんな日が来るという事は告白されたあの日から分かっていたし、彼の様子がここのところおかしい事にも薄々気付いていた。
必死に目をそらし、見ない振りをしていたのだ。
十も年下の、まだ若い彼が、私のようなつまらない男の傍にいつまでも居てくれる訳がない。分かっていた。
「だから言ったんだ……」
置いて行かれた鍵と携帯電話を取り上げ、小さく呟く。
知らず、眉間の皺が深くなっていることに気がついた。
「あの、もしかして、怒っているんですか」と尋ねられたのは出会ってからまもなくの頃だった。
別に何も怒っていないと答えると、「だけど顔が……」とおずおずと言われて初めて自分の眉間には常に深い皺が刻まれているということに気付かされた。
教授として今の大学へ招かれたものの、愛想の悪さから学生たちから疎まれている事は知っている。つまらない授業をしている自覚もあった。
元々人に物を教える事は苦手で、子供はもっと苦手だった。
そのせいかいつの間にか顔を顰めていることが多くなり、やがてそれが癖になってしまったらしい。
眉間を押さえて「癖なだけだ」と答えた私に、彼はほっとしたように笑った。
「嫌われているんじゃなくて、良かったです」と言いながら。

5919-570,571 攻め視点2/2:2010/09/09(木) 01:36:34 ID:6y4hLuec
彼の笑顔を見るたびほっとする。
居場所がないと感じていた大学内でも、彼が傍にやってくると何故か居心地がいいと感じるようになった。
そんな彼が私を好きだと言ったのはつい半年前の事だ。俯いたまま、か細く震えた声で告げられた。
酷く驚き、嬉しく思った。私も彼に対して、密かに好意を寄せていたからだ。
私は彼に対する気持ちを告げる気はなかった。
年の差もあって同性である私など、思いを告げたところで気味悪がられるだけだろう。
そんな風に思っていたところへの、彼の告白だ。嬉しく思わない筈がない。
けれど彼は若い。自分の専門分野にしか興味のない私のような人間と付き合ったところで長く保つ訳がないと思った。
だから思わず、「お前みたいな子供、半年で飽きるだろうな」と呟いたのだ。
その通りになってしまった。

今時携帯電話一つ持っていないと言う彼の為に、自分のものとは別にもう一つ契約して渡した。わざわざ不審に思われないよう、元々二台持っていたのだという振りをして。
いちいち家に伺ってもいいですか、などと言っていつまでも遠慮がちでなかなか来ようとしない彼に、合い鍵も作った。
どちらも彼の為と言うよりは、自分の不安を少しでも軽減させる為のものだった。
これを置いて行かれた今、私とあの子を繋げる物はない。
まだ夜の明けきらない薄暗い部屋で、携帯電話と鍵とを握りしめたまま項垂れる。
あの子が腕の中からすり抜けても気付かぬほど熟睡していた自分を恨んだ。
別れの言葉すら置いて行ってはくれなかった。これでは諦めも付かない。
のろのろと顔を上げ、少し前に彼が出て行ったであろうドアを見つめる。

(……もう一度だけ)
こちらから会いに行ってみようか。
この年になって、誰かを追い縋る事になるとは思わなかった。
追いかければきっと醜態を晒すだろう。ますます幻滅されるかもしれない。
(それでも構わない)
落ちていたシャツを拾い上げ、昨日までは彼のものだった携帯電話と鍵とを持って寝室を出る。
外はまだ暗い。
彼は今頃どこにいるのだろうかと考えながら、玄関へ向かった。

-------
本スレの誤爆本当に申し訳ありません……埋まりたいorz

60半人半獣:2010/09/26(日) 22:10:45 ID:01yX/KoI
我輩はケンタウロスである。名前は佐藤。
都立高校に通うごく普通の男子高校生だ。

太古の昔は神と呼ばれ信仰や畏怖の対象であったが
現代日本においては「絡みづらい」と見て見ぬフリをされる。そんな存在だ。

そんな我輩にも心を許した友がいる。同級生の鈴木君。
我輩は毎朝、朝寝坊の鈴木君を家まで迎えに行き、背中に乗せて登校する。
「佐藤君、おまたせー」
「鈴木君、急がないと遅刻だよ」
「ごめん昨日遅くまでゲームしてて、あ、今度一緒にやろうよ」
「うん、とにかく急ごう」

遅刻ギリギリでものんびりとしてる彼を乗せて走り始める。
数分もしない内に背中に彼の体温と寝息を感じながら、
我輩は彼との出会いを思い出していた。
入学式から数日、クラスメイトが目を合わそうとしない中、我輩に話しかけてきたのは彼一人だった。

「佐藤君チンコ丸出しだよ?」
「うん、まあ俺ケンタウロスだし」
「やっぱり馬並みなんだねーご立派だー」
「あんまりジロジロ見ないでよ……」
「ごめんごめん」
「やっぱりパンツ履いたほうがいいかなぁ」
「それはそれで変だろうw」
「でもやっぱり恥ずかしいし」

「ね、ケンタウロスってどうやってオナニーすんの?」
「えーと床オナ」
「うわすげえw今度見せてよw」
「嫌だよw」

……実に下らない出会いだ。
だが我輩にとっては生まれて初めて体験した友人との会話だった。

想い出に浸っている間に学校に着いた。
授業開始のチャイムはとっくに鳴り終えている。
完全な遅刻だ。
我輩の力をもってすれば数十秒で着く距離のはずなのに。

遅刻したのは寝ている彼を振り落とさないように走ったからか、
それとも彼の体温が心地よかったからなのか……。

こうして我輩は毎朝のように途方に暮れる。
チンコ丸出しで。

6119-750 「もういいでしょ」模範解答:2010/10/08(金) 23:57:36 ID:fMnQBw/2
20××年度
【攻め力検定予想問題解答例】より抜粋


パターン1:悲しみ型

解答:「おいおい、あんまり飲みすぎるなよ。悪酔いするぞ。それにお前、そんなに泣くな。笑顔のが、お前には似合ってんだから。な?」

※ポイント:受けの体を気づかいつつ、彼の長所をさり気なくフォローすると、高評価。
ただし、あまり相手をこき下ろしたり、酷評する形で慰めると、逆にアナタの評価が落ちる場合があるため、減点対象になりやすいので注意。
尚、この状況をアナタが計画した場合、最後の最後、受けが振り向くまでその態度を貫けなければ、減点。


パターン2:怒り型

解答:あえて放置。

※ポイント:受けのパターンにより、取るべき態度は様々で可。
ただし、腕力に任せねじ伏せる場合、DVと取れる行動をした時点で減点。
尚、鬼畜傾向の強い方は、行き過ぎた愛情表現に、心が病み気味の方は、刃物の扱いに注意。


パターン3:当て馬型

解答:ぼろぼろの受けを庇い、「どうして、こんな事したんだ」と、当て馬たちに詰め寄る。

※ポイント:この場合、受けの無事具合で状況が変わりやすいですが、まずは受けの安全確保。
当て馬の側に居る状態では、人質にされかねません。この点を抑えた上で、当て馬と交渉に持ち込めると高評価。
尚、企みあって当て馬を受けに差し向けた方は、受けの居ない所で所定の取引を。見つかってしまうと、失格となります。

(なお、この解答例以外にも良い回答がでた場合は、受けの多数決により、配点される事があります)



 ※ ※ ※

回答いただいた皆様、ありがとうございました。

6219−789 えっ ほ、ほんとにいいの?(へたれ攻め):2010/10/14(木) 12:10:04 ID:7i3y33VU
「えっ ほ、ほんとにいいの?」
「だーかーらー!良いっって言ってるだろ!何回言わせるんだよ」
「だって、縛ったりしたら痛くない?目隠しとか怖くない?」
「怖くねーよ!いいから!」
「だって…関節とか外れたら…」
「ちょっと手首縛るくらいで外れるか!」
「うう…痛かったら言ってね?」
「あのな…俺は痛くしてくれって言ってるの。
 お前が蝋燭もギャグボールも鼻フックも吊るすのも鞭も怖い嫌だって言うから、玩具の手錠で我慢してやってるんだろが」
「受さんって…優しい顔してるのに凄いドSだよね」
「アホ。俺は生まれてこのかた変わらぬ純粋なドMだ」
「でも、そんな意地悪する受けさんが好き」
「好きなら俺の要望に応えてくれよ」


「…受さん、きもちいい?痛くない?」
「…っうるさ…っいいから、早く…」
「だって、受けさんが気持ちよくないと意味無いよ…?ね、どこが気持ちいい?」
「そーゆー言葉攻め…は、嫌いだって 言ってる、だろ…!どうせなら罵、てくれ…」
「そ、そんなんじゃないよ!ただ、受けさんを痛い目に合わせたくないから…」
「おれは、痛いのが良いって…言って…のに…っ」
「だって痛いのは怖いよー… ね、入れてもいい?」
「いちいち…断るな!」
「受けさーん…」
「い、いやらしいこの豚に貴方の…」
「もー!なんで受けさんはそんな風に言っちゃうの!?」

+++++++
攻めが受けに気を遣いすぎて、逆に言葉攻めとか焦らしプレイになってしまう展開が大好物です

63名無しさん:2010/10/14(木) 13:30:20 ID:BUwQILGg
0以外62に来てたー。

いやぁ、寝ずに待ったかいがあったw
でも本スレ誤爆の人かなぁ?
そこらへんの一言欲しかったな。
何はともあれGJ

後は本スレが元に戻りますように!
さて、仕事すっか!

6419-809 戦闘狂:2010/10/16(土) 01:09:46 ID:bSzpJDpU
うん、本スレ810氏の投下内容とモロかぶりなんだ。すまない。戦闘狂キャラがかなり萌えツボなのもので

<バーサーカータイプ>
・まさに戦闘狂。戦いしか頭になく、戦闘中はまともな会話すら出来ない。血塗れで狂ったように笑ったり。
・相手の攻撃が自分に当たっても怯まない。傷から血が吹き出てても武器を振るう狂気
・常にこんな状態の壊れたタイプもいいけど、普段は大人しいのに戦闘になるとスイッチ入るタイプも捨てがたい
 殺し合い中の「あははははははははははははははははは」みたいな厨二的台詞どんと来い

●相手役候補
(1)狂気からなんとか救おうとするタイプ
  戦闘狂のほんの僅かな心の優しさを知っており、血に溺れる相手をどうにかしようと足掻く人。
  例えば暗殺組織から連れ出して逃げるとか。で、第三者から偽善だとか幻想だとか言われたりする。
  戦闘中この人の必死な「もうやめてくれ!」の叫びで戦闘狂のスイッチがOFFになったりする。

(2)真っ向から対立する正統派主人公
  この人が主人公で戦闘狂が敵。もしも戦闘狂が主人公ならこの人が最後まで残る敵。そんなポジション。
  「お前は狂っている!」と糾弾しながらも頭から切り捨てられない展開でもいいし
  なぜか戦闘狂に気に入られて(狂った意味で)、なにかと絡まれてしまう展開でもおいしい。
  一方的な殺し愛というか、戦い愛みたいな関係でも
 
<傭兵タイプ>
・「俺は戦場でしか生きられねえんだよ」な渋い傭兵さん。平和が一番だと頭ではわかっているのに戦いを求めるタイプ。
・普段は面倒見もよくて冗談も通じるが、戦いの中ではソロプレイ。分の悪い賭けが好き。タイマンも好き
・ニヒルな笑みが似合う。戦闘中は声をあげて笑う感じじゃなくて、ニヤリくらいで。

●相手役候補
(1)若造傭兵
  向こう見ず。短気。すぐ頭に血が上る。傭兵さんに対して素直じゃない。ツンデレ希望
  傭兵さんを「オッサン」呼ばわりだとなおよし。説教されて「うるせー!」と噛み付くが、
  正論だとわかってはいる素直さも欲しい。自分のヘマで傭兵さんが怪我をしたりすると動揺する

(2)腐れ縁の相棒・ライバル
  同業者。金で雇われてるので、傭兵さんとはあるときは共同戦線を張り、あるときは敵対する
  軽口を叩き合うくらい気心が知れているのに、敵対したときは本気で戦う仲だと良い
  冗談ぽく「愛してるぜ」と言ったり、煙草の火をつけてやったりしてほしい

<飄々タイプ>
・態度がへらへらしている。言動のらりくらい。パッと見あまり強そうじゃない。武器がトリッキーだと良い
・会話のキャッチボールは普通に出来るが、頭の線が一本か二本くらい切れている。初見で露見しづらい狂気。
・虐殺を繰り広げる前も最中も後も、普段と様子が変わらない。殺し方を悩むのと今日の晩御飯悩むのが同レベル的な。
・なお、本気でキレたりすると逆に本人の死亡フラグなので注意が必要

●相手役候補
(1)組織の上司
 飄々君が属している何かの組織の偉い人。組織内で持て余されてる彼の扱いが唯一上手い。
 「好きにしろ」「派手に暴れろ」「程ほどにしておけ」と命令が適当ぽい。でもそれも計算の上。
 本人もそんな上司をそこそこ信頼していて、そこそこ言うこと聞く。上司を「さん」付け呼び希望

(2)巻き込まれ型一般人
 戦闘とは関係ない場所で偶然出会い、最初は彼のへらっとした言動だけしか知らず、好感を持っていた一般市民。
 飄々君の事は風の噂レベルで耳にしたことはあったが、まさか実在してそれが目の前の彼だとは思いもよらず。
 「どうして手を血に染めるんだ?」「どうして、こんなこと……」など戸惑いつつも問いかける。
 さて、この後、彼を恐れて忌み嫌うか、それとも

6519-899 高校を卒業したら1:2010/10/30(土) 02:22:50 ID:owTGIxsY
From 和也
Sub (non title)
――――――――――
秋さん、久しぶり
母さんから聞きました
十年近く付き合っていた女の人と別れたそうですね
大丈夫ですか
ひとりで家事できてるんですか

To 和也
Sub (non title)
――――――――――
うるさいよ。
お前こそ、まるで女の気配がないって
姉さんが嘆いてたぞ。
早く彼女のひとりやふたりぐらい
家に連れていってあげなさい。

From 和也
Sub Re:
――――――――――
俺、昨日卒業式だった

To 和也
Sub (non title)
――――――――――
おめでとう。

From 和也
Sub Re:
――――――――――
約束だろ

To 和也
Sub (non title)
――――――――――
かわいい女の子紹介してや



そこまで文字を打ち込んだところで、携帯が震え出した。
通話ボタンを押して温かくなったそれを耳に押し当てる。

6619-899 高校を卒業したら2:2010/10/30(土) 02:25:11 ID:owTGIxsY
「もしもし」
『はぐらかそうとしてましたよね』
「何が?」
『今、秋さんちの前』
「……若いうちから視野を狭めることはないだろ。
大学に行けばいろんな人がいていろんな世界がある」
『そんなの分かってます。
でもあんた以上に俺が好きになる奴なんてどこにもいないんです』
「和也」
『俺だっていつまでもガキじゃない。
なのにあんたはいつもいつも』

電話越しに聞いた甥の声は、機械を通したせいか無機質だった。
彼がまだまっさらな制服に腕を通していた頃交わした約束は、
彼の道を正すために交わした約束で、
俺にとっては守るためのものなんかじゃなかった。
彼が今どんな表情でいるのか、どんなことを思っているのか、
それを受け止めるのは俺の役目じゃない。

『秋さん、好きです』
「……もう遅いから、早く家に帰りなさい」

こうやって俺は、この子を中途半端に突き放すずるい大人のままでいるのだろう。

67二人がかりで:2010/11/05(金) 00:54:03 ID:GY8Ab6sI
リロミスしました。0さん申し訳ない。
尻切れトンボなんでこちらお借りして投下します。

見た瞬間に「押さえ付けられて」以外思い浮かばなかったことをお許しください。
で、二人がかりで押さえ付けられるシチュエーションなんかもう一つしか思い浮かばないよね。

二人ということで双子設定を受信。
でもってほとんど見分けがつかないほど瓜二つで、しかも小悪魔系の美少年な双子とか。金髪とかもグー。
あとなにか特殊な能力故に他の人たちから、親からも疎んじられてて、
お互いだけが心の拠り所だったみたいな感じ。

そんな中現れる青年。彼は例えば仕事だったり命令だったり
双子の側にいなきゃいけない関係で、彼らの面倒をみる羽目になる。
でも互いしか自分の世界にいらないと思ってる双子は、青年に反発して
むちゃくちゃ嫌がらせしてみたりして。
で、青年は「くそガキども!……ったく何で俺が。勘弁してくれよ」とか
ブチブチ言いつつ面倒見のいい苦労性タイプで、だもんだから双子も
青年の内に秘めた優しさに心を開きはじめちゃったり。

だけども自分が変わっていく事に戸惑いがあったり、青年に心を許してまた
他人に裏切られる事が恐ろしかったりで二人は自分たちの方から青年を排除しようと画策する。

青年を騙して人気のない部屋に連れ込み、二人がかりでガッチュンガッチュン。

押さえ付けられながら「何でこんな事を……」みたいな青年に
「お前が目障りだったんだ!思い知らせてやろうと思ったんだ!」
みたいな事を泣きながら言う双子。

ガッチュンはさておき双子が青年を襲撃したことが周囲にバレ、
青年は双子のそばから(彼自身の安全のために)離される。
肉体の痛みと精神の戸惑いはあるものの、青年はなぜか双子を憎めなかった。

彼らが自分に「何か」をずっと求めていた事を分かっていたからだ。
青年は彼なりに双子の事を調べ、彼らが親にも見捨てられずっと顧みられてこなかった事を知った。
そして青年はこれまでの双子の言動を思い返し、彼らが自分に求めたものに思いをはせていた。

だが青年はため息をつく。彼らには見えなかったのであろうか。それは確かに自分の中にあったのに、と

68二人がかりで:2010/11/05(金) 00:56:14 ID:GY8Ab6sI
一方青年がいなくなり、また元通り二人だけの生活だ、となる双子だが
その前になぜかまた青年が現れ彼らはひどく動揺する。
双子に青年は言った。「一生そうやって生きていくつもりか」と。
自分の片割れ以外を認めず、それ以外は排除する、という生き方だ。
せっかく二人で生まれてきたのに、自分は相手で相手は自分、一人でしかない
みたいな生き方してそれでいいのか?と。それを聞いて激昂する双子。
そしてまた青年を拒絶する言葉を吐く。

「お前なんかどっか行っちゃえよ!」
「お前だって僕たちの顔なんか見たくもないだろ!?」
「「僕たちが怖いだろ?憎いだろ!?」」

だが青年は言った。
「お前たちごときくそガキ、怖くもねーし憎くもねーよ!
だけどやっちゃいけない事だったと分かってんならちゃんと謝れ。
……そうしたら許してやるからさ」
双子は衝撃を受ける。彼らは自分たちのした事が謝るくらいで
許してもらえる事ではない事を理解していたからだ。
「馬鹿じゃないの!?なんであそこまでされて許せるわけ?」
「普通無理だろ、許せないだろ!」と叫ぶが青年は強い瞳で双子を射ぬいた。
「本当に分からないのか?なんで俺がお前らを許せるのか。
なんで俺がまたお前たちに会いにきたのか−−!」
それを聞きうなだれる双子だったが、しばらくの逡巡の後彼らは呟いた。

「「……ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……っ」」

そして青年は双子の元に戻ってきた。
相変わらず双子はイタズラ好きで青年は「くそガキ!」と怒っているが
少しずつ何かが変わっていた。双子には少しずつ好みの違いが現れて
区別がつかないと思われていた見た目にもわずかな変化が現れ始めていた。

それを青年に指摘され、嬉しがりながらも照れる双子だが
同時に彼らは今まで「同じ人間」として振る舞ってきたが故になかった
片割れへの嫉妬を感じはじめていた。それが一番大きな違いだった。
彼らはようやく本当の意味で「二人」になったのだった。

双子は魅惑的な笑顔で顔を見合わせる。新たな人生も、勝負もまだ始まったばかりだ。

どちらが青年の心を独占するか。それが問題なのだ。
そして今日も双子は青年の気持ちを自分に向けようとイタズラに精を出すのであった。
(終)

69そら涙 1/2:2010/11/10(水) 02:09:27 ID:836V3wVo
正座させてからおよそ十五分。両手で顔を覆い、ぐしぐし鼻を啜るのを目の前にしても、胡坐をかい
た俺は沈黙を守っていた。まだ、まだだ。なぜなら、いまの、こいつの、これは、

瞬間、「うぅぅ」と呻いて肩を窄め、身体を前に倒した。丸くなった背が震えるのを見て、ぎょっと
した。あ、やばい。まずい、これは、
「おい、亮。あのな、」
思わず「もういい」などと口走りそうになって、慌てて思い留まる。危ない。またうっかり許しちま
うところだった。こいつのいつもの手じゃないか。なんでこう同じ手に引っかかるんだ俺は。こいつ
は、風呂上りに着替え一式(パンツ含む)を隠して、タオル一丁で部屋をうろうろする俺をニヤニヤ
眺めてたんだぞ。上下とも見つけても、肝心のパンツがこいつの尻の下にあったもんだから、上は着
てるのに下は相変わらずタオルだけという間抜けな格好の俺を笑いやがったのはこいつだ。おまけに
「風邪引くよー?」だと? …季節はいつだと訊いてやりたいのはこっちだ。真冬だぞ、真冬。
それでちょっと説教してやろうと思ったら泣き出しやがって。しかもその涙だって嘘なのだ。経験上
わかる。でも、いまのは、

70そら涙 2/2:2010/11/10(水) 02:10:42 ID:836V3wVo
「兄ちゃんが、」
耳聡いこいつは聞き逃さない。
ゆっくりと身体を起こす。顔は手で覆い隠されたまま。でもなぁ…
「兄ちゃんが、キスしてくれたら、泣き止むよ」
……見えてんだよ。手で覆いきれなかった口元が、にんまり笑ってるのがな!
「それより先に言うことがあるだろ」
謝罪の言葉を聞き出すまでは、何が何でも許してやんねーという決意のこもったぶすくれた声にも、
こいつは軽く応じる。
「じゃあキスしてよ」
「そういうことは、まず俺に謝ってから言え」
「謝ったらキスしてくれるんだ?」
「それとこれとは話は別」
「兄ちゃんは俺が泣きっぱなしでもいいわけ。ふーん」
どうしてこいつは、この泣きの技術を劇団か何かで生かしてくれないのだろう…俺がげんなりしてい
ると、
「……ひどいや」
手の覆いを外し、ぽつり、と。
横を向いた顔は目元が赤く、それに胸がちくりと痛まないではないが。
「……亮、ごめんなさいは?」
再度問うと、今度は素直に「…ごめんなさい」と返ってきた。
これで気が済んだ。今度こそ「もういい」と許しを出し、立ち上がろうとすると、
「……ひどいや、兄ちゃん」
またぽつり、と。しかも、一粒の涙つき。
俺は何も言わずにその場を後にした。…ひどいのはどっちだよ。俺はあいつの涙が嘘か本物か見分け
られるってのに、あいつは俺の配慮なんて少しもわかりゃしないのだ。「キスして」だの「一緒に寝
ようよ」だのの誘いを、戯言として流そうとする俺の意図なんか。
……何年兄弟やってんだ、あのバカ弟。

71名無しさん:2010/12/15(水) 00:22:05 ID:kSjc2N9I
もうどーでもいい、と大の字に寝っころがった。
竹下は困った顔をして、「お、おい……俺は、そんなつもり、じゃ」とモゴモゴ言った。
「そんなつもりなんでしょ? もうわかったからさー、1回だけいいって言ってんの」
俺は意地悪くせせら笑った。
竹下のことは嫌いじゃないが、ウジウジとまわりくどいのにたまにイライラさせられる。
もともと竹下が言い出したんじゃないか、俺のことが好きだって。
でも見てるだけでいいから、このまま友達でいさせてって。
わかった、と俺は答えた。正直すごく驚いていたし思いも寄らなかったし、
なにより恋愛感情とか隠しそうなキャラだと思っていたから、男らしいじゃんとちょっと見直しさえした。
ところがだ、その日からジットリ熱視線攻撃がすごい。
講義もそうでない時間もまとわりつくって感じで、そんで話すことが
「藤井は女の子とつきあったことある?」「初恋ってさ、どんなだった?」
「歌手の○○ってさー、ゲイらしいよ」「友情と愛情って何が違うんだろうね?」
……わかりやすい。わかりやすすぎ。
ほんで他の友達交えて飲みに行こうものなら、隣ずっとキープ。
尻寄せられーの、肩当たりーの。
「なんか俺酔っちゃったぁ、ははははは、藤井大好きー!」なんてしなだれかかりーの。
うそだ、お前そんなに弱くないだろうがっ。ときおり鋭く俺と他の奴を窺う視線が痛いっつーの!
好かれて悪い気はしない、が、いい加減嫌になってきた。
俺が竹下のこと好きだって言うの、待ってるんだよな、これって。
正直言うと、俺は竹下のことかなり好きだった、ただし友人として。
話もノリも合う、気のおけない一番の親友。それじゃ駄目だったのかな。
「俺達……友達じゃん」
何度そうつぶやいたかわからない。どうしてこんなことになったんだろう。
何か打開策はないか、と思っているうちに今日も竹下はうちに来て、晩飯食って飲んで、
風呂まで入っていそいそと布団を敷いて、何かを期待している。
期待に応えることはできない。お前と同じ気持ちにはなれそうもない。
でも友達がしたいって言うなら……親友が望むことなんだから、いいのかな、もう。
だってもう疲れたんだ。前みたいに竹下と馬鹿話ばっかりしたい。
ガンダムとか実家の猫とか、そんなどうでもいい普通の話。
「藤井……本当に……?」馬鹿が、前言をひるがえしてにじり寄ってくる。
目をつぶった頬に、暖かい体温が感じられる。
はー、はー、と聞いたことのない荒い息が、すぐ側に聞こえる。
……馬鹿は俺だ。もう戻れない。

72名無しさん:2010/12/15(水) 00:25:01 ID:kSjc2N9I
>>71は「20-151 もうどーでもいい」です。

7320-189 神を信じる人と無神論者:2010/12/22(水) 01:44:04 ID:PgTvr0gc
 街からちょっと離れたところにあるこの教会はなぜか日曜礼拝にくる人も滅多にいなくて、
最初のうちは俺に聖書を読み聞かせていた牧師も
毎度のように俺が「ここにきているのは散歩のついででキリストを信仰するつもりはない」
とつっぱねてきたせいで、ほとんど世間話しかしないようになっていた。

「今日はよいお天気ですね。北田さんは今日のご予定はあるのですか?」
 穏やかな笑みを浮かべて、初老の牧師は俺に尋ねる。
「午後からバイト。」
「働き者なんですね。」
「学生だから土日くらいしかがっつり働けないんだよ。」
 宗教には興味ないし知識もほとんどない俺だが、キリスト教徒は日曜には働かないということは
さすがに知っていた。彼が何か講釈をたれるのではないかと危惧したが、静かにほほ笑んだままだった。

「んで、牧師サンはこのあと何すんの?」
 彼が俺に何か聞いてくることはあっても、俺から何か聞くってことは今まで多分なかったと思う。
そのせいか一瞬驚いた顔をしてから彼は答えた。
「夕方の礼拝までは時間がありますから、外の花壇にでも水やりでもしますかね。」

 教会のステンドグラスからもれてくる光は彼の笑顔と同様にあたたかい。
こじんまりとしていて、ヨーロッパの聖堂とかと違ってきらびやかでも壮大でもない。
でもこの空間が心地よいと思えるようになったのはいつからだろうか。

「俺もバイトまで時間あるんでここにいていいすか?」
 無意識のうちに、そんな言葉を口にしていた。
 彼は先ほど以上に驚いた顔をする。
 相変わらずキリストもブッダもどうでもいい俺だが
聖職者である彼に多少近づいたところで罰は当たらないだろう。そう思った。

7420-199 胡蝶蘭:2010/12/26(日) 01:33:43 ID:1uRsibUc
その噂を聞いたのは、偶然だった。

『ある娼館に、絶世の美を誇る女性が居る』
『彼女見たさに様々な者が金を積むが、なかなか会うことを許されない』
『彼女の名は、胡蝶蘭』

ありきたりではあるが、私はとても、興味をそそられた。
何せ、正体不明ではあるが、『絶世の美人』だ。
しかも、ほぼ誰も彼女の顔を知らないとなれば、好奇心の湧かない男は居ない。
私が窓越しに町並みを眺め、ほくそ笑むと、ノックの音と共に、一人の青年が入ってきた。
黒い髪を後ろに撫でつけ、銀縁の眼鏡の似合う端正な面立ちの彼は、最近雇ったばかりの秘書だ。
名を、青嶋と言う。
「旦那様、にやけ面していかがなさいました?」「ん?今日こそは、あの胡蝶蘭に会わせて貰おうと思ってな。ようやく、それらしい娼館を見つけたんだ。他の奴に取られぬうちに、顔くらい拝みたいじゃないか」
「それは結構なことですが、これで何度目ですか?」
青嶋の整った顔に詰め寄られ、私は言葉に詰まった。
「二十……二、回位かな?」
「二十五回です。つぎ込まれた金額は、約五千万にのぼっています」
「なんで詳しく知っているんだ」
「帳簿管理をしているのは、誰ですか?」
「君、だな」
青嶋の眼鏡に光が反射し、どんな表情かは分からない。
だが、溜め息をついた所を見ると、どうやら呆れられたらしい。
「どのような者に熱を上げようと、それは旦那様の勝手です。ですが、一言言わせていただきますと、高価な菓子や着物、帯、その他様々な小物を矢継ぎ早に贈られても、相手は困惑するのではないですか?」
普段よりも、やや熱の籠もった訴えに、私のほうが困惑した。
だが、彼の言葉にも一理ある。
「じゃあ、何を贈ると良いんだろうか。絶世の美人だ、さぞ目が肥えて居るだろう」
私が溜め息を吐くと、少し考える素振りを見せた青嶋が、柔らかな声色で呟いた。
「蘭を」
「え?」
「胡蝶蘭を、贈ってみてはいかがですか?」
言われて、はたと気がついた。
確かに失念していた。
通り名にするくらいだ、きっとその花は、彼女の好きな花に違いない。
自身の浅慮さを恥入り、私は改めて青嶋に礼を告げた。
「ありがとう、早速手配するよ。そうだ、よければ君も一緒に来ないか?」
「申し訳御座いません、今日の夜は先約がありまして」
「そうか」
少し残念に思いつつ、私は直ぐに電話を引き寄せ、花屋に蘭を手配させた。
同時に、青嶋の口元が小さく動いた気がしたが、すぐにその事は忘れてしまった。
それ程、夜が来る事が待ち遠しくて、仕方がなかった。


「お待ちしてます、旦那様」



**********
流されてしまったので、こっちへ

7520-229 年越した瞬間に殴らた:2011/01/01(土) 14:59:19 ID:pTf7uSLU
燗はぬるい。
徳利は品の良い小さなもので、間をもたせるには足りない。
差し向かいの義兄にはこの徳利で足りるのだろう。音量をしぼった紅白に見入るでもなく、ただこたつに座っている男は、俺が考えていることなど知るはずもない。
よくおめおめとこの日を迎えられたものだ,俺も。
質の悪い借金をしては全部呑み捨てるような生活。
そのままほって置いてくれれば、今頃は義兄にとっても良いようになってたはずだった。
入り婿が、邪魔な義弟をわざわざ探し出して身ぎれいにさせて連れ帰った、とは大した美談だ。
酒を遠ざけ、目の届く配達仕事なんかさせて、姉に義理立てたのか。
もはや親父も母さんもなく、また姉も去年死んだとなれば、黙って家を独り占めできただろうに。
仕事を覚えなかった俺の代わりに親父の跡を継いだのだから、誰はばかることもないのだ。
「雪だよ、積もるだろう……」
半年ぶりの酒を飲ましてやろう、そう誘ったのは義兄だった。
おせちの切れ端をもらってきたものの、広い家には男二人、にぎやかに過ごせるはずもない。
「年賀状が遅れるかもしれないね、ここは山の上だから」
よれたどてらに度の強い眼鏡をかけたこの貧相な男と、こうしてふたりきりになるのがずっと怖かった。
「除夜の鐘か……年が明ける」
今さら俺なんか呼び戻してどうするつもりだろう。世間体なんか気にするような人じゃなかったのに。
「……これで、泰子の喪が明ける。喪が明けたらね、俺はね」
向き合うのがつらいなんて、この人には思いもつかないんだろう。
一緒になんていられない、だって俺は。
『あけましておめでとうございます、新しい年の……』
義兄は、つけっぱなしのテレビに「ああ、明けたね」と、スイッチを切った。
「宗一」
呼ばれて上げた頬を、義兄の手が打つ。
「何す……!」
呆気にとられた俺に、義兄は静かに
「もう終わりにしようじゃないか
 泰子の喪中は良い兄でいようと思っていたんだよ、それはもうやめる」
と言い放った。
義兄の顔は強張り、知る限り慣れているはずもないことをした手は、行きどころに迷ったままだ。
ああ、と納得しかけた。俺は放り出されるんだな。
と、義兄は慌てていつもの顔に戻って
「違う、違うそうじゃない」と座り直し、長い間のあとようやく振り絞るように言った。
「……おまえのことがもう見ていられなくてなあ……お前の人生を変えてしまったのは、俺なんだろう?」
猪口をまさぐると一息で干して
「俺がこのうちに来た7年前に戻れるわけじゃないけど、逃げ回るのは終わりにしよう、
 喪が明けたら覚悟をしよう、そう思っていた」
置いた猪口がカタカタと派手な音をたてた。
――では何だったというのだ、俺のこれまでは?
世界が一回転する。
まるで全て知っているような言い草をするじゃないか?
……知られていたのか。
胸にあふれたのは絶望。
それでも、俺は最後の抵抗をせずにはいられない。
「敏さんはわかってないんだ、俺はここにいちゃ駄目になるし、あんただって……!」
カタカタ、カタカタとまた猪口が音をたて、俺をとどめた。
見れば指の節が白くなるほど猪口を握りしめ、去年まではただの義兄だった男が、俺を見つめている。
「いいよ」
と言った。
「覚悟したって言っただろう?……だからお前も覚悟しろって言ってるんだ」
打たれた左頬が途端にジンジンと、熱いように、冷たいように、脈打ち出した。
俺は浮かされるように男の手を握った。

7620-279 宇宙人×地球人:2011/01/11(火) 22:51:49 ID:wkX6AaIU
「やだー!連れて帰るー!」
「いけません!」


信じられない光景が広がっていた。

広さだけは無駄にある(寧ろ、ただ広い以外は何もない)ひいじいちゃん家の裏山、そのススキ畑の上を、同心円状の風がごうごうと撫でていた。
その中心にあるのはマンガのような円盤型UFO、銀色の服を身につけたいかにもアレな青年に、……地べたに座り込んで駄々をこねる、見知った顔の少年・リコだった。


「ちゃんと世話するからあー!」
「あのね、世話したって、すぐ死んじゃうの。地球人は。そしたら今日よりもっと悲しい思いをすることになるから。な?」
「な?じゃないもん!いやなものはいやなのー!ばかばかばか兄ちゃんの分からず屋ー!」


兄らしき人物に掴みかかり、今時おもちゃ売り場でも見ないようなひどい容態で泣き叫んでいる少年は、確かにさっきまで俺と遊んでいたリコその人だった。
周りが余りにも慌ただしいとその中心はかえって冷静になるものなのか、俺はその時、リコと初めて会った時のことを思い出していた。



透き通るように白いひょろひょろの体を見て、すぐに都会モノだと分かった。
はじめ、リコは川原で水切りをする俺をじっと見ていたが、そのうち自分も平らな石を探しだしてきて、隣で投げ始めた。
それがあまりにも下手くそだったので、見かねた俺は教えてやることにした。
二人が友達になるのに、それ以上の理由はいらなかった。


都会モノはみんなそうなのか、リコは目にするものを何でもめずらしがった。
鯉、ビー玉、段ボール、草笛、一輪車……そんなありふれたものにもいちいち驚嘆の声を漏らすそいつが妙に面白く、時間を見つけてはあちらこちらに連れていった。
お互いのことを話すうちに、リコが「夏休みを使って遠いところから遊びにきた」ことまでは分かったが、学のない俺は聞いてもどうせ分からないと思って特に深くは触れなかった。
名前や振る舞いから、何となく外国のどこかから来たような気はしていたが、……まさか地球ですらなかったなんて、誰が想像しただろうか。

7720-269 僕(受け)には君(攻め)が眩しすぎる1/2:2011/01/11(火) 22:53:15 ID:zmC5WCOs
光には、人間の可視できる種類として二つ挙げることができる。
太陽光のように全ての波長(色)の要素を均質的かつ強く反射し、白に見える光を白色光。
レーザー光のように一つの波長(色)のみからなる光を単色光。

周りの人間は彼のことを太陽のような人、と喩える事をよく好む。

温厚篤実かつ怜悧、そこに美形とくれば正に八面玲瓏、全てを照らし出す光だ。
しかしそれは私によって創りだされた幻影でしか無い。
私が、どれだけ彼の為に尽くしたか、周りの人間は知る由もないだろう。
いや知ってはならない。これは私と彼との秘め事でなければならない。
彼は豊かすぎるあまり世界に対して唖でつんぼの振りをしていた。
そして穏やかに気力は衰え、持った才能を使う事無くそろそろこの世界から去ろうとしていた。
だが私は、彼の生来の高尚さに酷く感動したので期限が来るまでずっと見ていたく思い、
門戸を私の人生で暫く閉ざすことによってなんとか引き止めた。
美しくて脆弱で、無垢な彼を存在させる機関を作るべく私は一旦人間であることをやめた。
金を集める為には権力が必要だ。権力を握る為には名誉が必要だ。名誉を得る為には頭脳が必要だ。
自分の命などただの電池に過ぎない。働け!働け!働け!
身体の感覚と精神がバラバラになり始めたあたりで漸く何とかなった。
まず場所を与えた。彼は見るようになった。
次は仲間を与えた。彼は聞くようになった。
その後女を与えた。彼は才能を使うようになった。
そして最後に、私を疎むようになった。

7820-269 僕(受け)には君(攻め)が眩しすぎる2/2:2011/01/11(火) 22:54:11 ID:zmC5WCOs
私は歓喜に打ち震えた。
侮蔑されることに歓びを見いだしているのではない。
真の貴族にとって、世界は、自分の出自でさえ自身の選択した結果でなければならない。
しかし、現在の境涯は悉皆私によって形成されたものであり、
彼が事態に勘づいた時にはもう抜けだせないよう周到な箱庭としておいた。
箱庭というプリズムから私にのみ分光する感情。
清廉な魂に宿る娼嫉。娼嫉することに厭忌する高潔な性。相反する性質と精神。
彼は静かに狂っていった。私に対する感情のみに。

周りの人間は彼のことを太陽のような人、と喩える事をよく好む。

お前たちは、彼の憎悪に燃え上がった瞳を、赤色に染まった光線を、見たこともないくせに。

生きること、自己実現することに目覚めた彼にとって私は脚にまとわりついた大きな肉瘤であり、
だが切り離そうにも歩く為には切り離すことができない。
多分自分は、美術館に展示された華奢で精巧な白磁の壺に小さく宿る黒点となりたいのだろう。
所有したいわけでも、壊したいわけでも、汚したいわけでもない。
歪な様を作り出し、ただ傍観していたいのだ。
だからユダになど絶対になってやらぬ。
自身の手で、私は一生彼の肉瘤であり、黒点であり、傍観者であり続ける。

僕は君を愛す。

7920-279 宇宙人×地球人 2/3:2011/01/11(火) 22:54:58 ID:wkX6AaIU
「やだやだやだー!一緒に帰るー!」
「地球なら、また来年の夏休みに会いに来られるじゃないか」
「来年!?学校で習ったよ!地球人の時間単位って僕らの1/20なんでしょ!来年じゃもう遅いじゃない!その頃にはきっとずっと大人になっちゃってて、僕を見ても誰だか分からなくなってるよ!」
「その時には、また別の子どもと遊べばいいだろ」
「そんなの楽しくない!他の子どもじゃ嫌なんだ!だって、だって僕は」
「聞きわけのない奴だな!地球人のこの子にも家があるし、家族もいる。それをこっちの勝手で連れていく訳にはいかないだろ!……大丈夫だよ、今は辛いだろうけど、少ししたら平気になる。そういうもんだ」


その言葉を聞くと、リコは観念したのか、ぐずぐずと鼻をすすりながら静かになった。
正直、聞いてるこちらには話の半分も理解できていなかったが、とにかく、さっきまで仲良く遊んでいた弟分は、あと少しでひどく遠いところに帰らなければならないらしかった。

……仕方ないな。俺は短く息を吐いた。
それから、相変わらず不思議な風を撒き起こしているUFOに勇気を出して近づくと、まだ鼻を赤くして泣いているリコに、大切にしていたラメ入りの野球カードを差し出して言った。

「パスポートだ。やるよ」

リコは手を伸ばすと、恐る恐る野球カードに触れた。
赤く潤んだ瞳で怪訝そうに俺を映すリコに、俺は続けた。

「次にお前が来るのが何年も後で、俺がすっかり大人になってたとしても。このパスポートを俺に見せたら、また友達になってやるよ。」

リコの目に、収まっていたはずの涙が一気に溢れた。
俺が手を離すと、代わりにリコの指がカードをぎゅうと握りしめた。

「……お前よりずっとずっと大きくなった体で、今度は肩車してやる。覚えてろよ」

リコは何かを言おうとしたが、それはすぐに嗚咽に飲み込まれた。
言葉もなく、ただぶんぶんと首を縦に振るだけのリコを、俺は落ち着くまでしばらく撫でていてやることに決めた。その時だった。

8020-279 宇宙人×地球人 3/3:2011/01/11(火) 22:55:54 ID:wkX6AaIU

「遅かったな」

後ろで不意に聞こえたのは、ひいじいちゃんの声だった。
その声に、リコが、俺が、……誰よりリコの兄ちゃんが、驚き振り向いた。

「……君は……」
「分からんか?お前がすぐに会いにこないから、こんな皺だらけになっちまったよ」

ひいじいちゃんがかっかと笑うと、対照的にリコの兄ちゃんは今にも泣き出しそうに、くしゃりと顔を歪めた。

「……分からない、はずが、ないだろ……!…………なんで……君が……」
「なんでも何も、俺はずっとここにいたさ。約束通りな」

ひいじいちゃんが拳を前に突き出すと、リコの兄ちゃんは震える手で拳を作り、小さくぶつけた。

「おかえり、兄弟」



傾きはじめた日が、銀色だったUFOを眩ゆい橙色に染めあげていた。

8120-279 宇宙人×地球人:2011/01/11(火) 23:00:35 ID:wkX6AaIU
ごめんなさい、一つ目に「1/3」と書くのを忘れてしまったばっかりに、同時刻の「20-269 僕(受け)には君(攻め)が眩しすぎる」さんと混ざってしまったようです。
また、こちらがリロードでの細かい確認を怠ったのも原因だと思います。
本当にすみませんでした。

8220-269 僕(受け)には君(攻め)が眩しすぎる:2011/01/11(火) 23:11:06 ID:zmC5WCOs
こちらがきちんと投稿直前にリロードしていなかった事が原因です。
20-279 宇宙人×地球人さんには一切過失はありません。
一度ならず二度までも人様にご迷惑をお掛けしてしまい、恥ずかしい限りです。
申し訳有りませんでした。

83名無しさん:2011/01/12(水) 01:40:13 ID:MCEM.SW.
どちらも萌えたし、GJだったよ〜!
良い萌えをありがとう、ありがとう。

宇宙人の話は、ひいじいちゃんのオチが好きだ。良いなぁ、こういう話。

眩しすぎるの話は、表現が多彩なのに文体がすっきりしてて好き。

8420-319 敵兵をお持ち帰り:2011/01/21(金) 00:25:56 ID:IIdQqRpM
燃えるような瞳が男を睨みつけている。
激情に揺れる、その両の目は、見慣れない色をしていた。男の故国で見かけることはほとんどない。異国の目だ。
黒曜石のような、漆黒の瞳を、男は美しいと思った。
美しい目が、憤怒と憎悪に激しく燃え盛っている。
「俺を殺したいか?それとも、死にたいか?」
視線の先の青年が、男の問いに答えることはない。青年の口には猿轡が回されている。手足を拘束された彼は舌を噛み切ろうとした。
言葉の代わりに、情念の灯った眼差しを向けられる。青年の瞳が何よりも雄弁に彼の心情を語っていた。
己が一方的に話し掛けるだけのやりとりに、いい加減飽きた男は、青年の口を塞ぐ轡に手を遣った。
「馬鹿なことはしないな?」
青年は返事のつもりか、ゆっくりと一度瞬きをする。
そのまま戒めを解いてやれば、猿轡の外れた口で、大きく息を吸い込んだ。
「殺せ」
烈火のごとき感情を孕む瞳とは裏腹に、小さく洩らされた声音は酷く静かなものだった。
青年の言葉に、男は芝居がかった仕草で片眉を跳ね上げる。
「敵に捕らえられることほど屈辱的なことはない。今すぐ殺してくれ」
振り絞るように吐き出した青年を、男は鼻を鳴らして一笑に付した。
男は酷薄な笑みを浮かべて、青年に顔を近づける。
「状況を理解していないようだな。捕虜の願いを聞き入れるヤツがどこに居る?」
「私は何も話さないし、交渉の切り札に使えるほどの価値もない。生かしておく必要などないだろう」
「浅薄だな。捕虜の役割は何もそれだけじゃない」
男は、青年の背後に敷設されたベッドに視線を移した。
男の意図を理解したらしく、青年が顔色を変える。
「戦地に女は居ないからな。いくさばでの高揚は性欲に似てると思わないか?」
激情に満ちた瞳に、絶望の色が滲む。
漸く己の置かれた状況を把握したらしい青年の顔からは、血の気が失せている。
男は口角を持ち上げて、青年の口に指をねじ込んだ。
「馬鹿な真似はするなと言ったはずだが」
青年が、また舌を噛み切ろうとしているのに男は気づいていた。
ザラついた触感の肉厚を指で挟んで、咥内から引き摺り出す。
赤く熟れた舌を、男は唇で食んだ。逃げようとする舌に、己のそれを絡ませる。
治り切っていない傷口を、尖らせた舌先で抉れば、咥内で鉄臭さが膨らんで弾けた。
口付けとは呼び難い、戯れを交わしながら、視線を絡み合わせる。
男は小さく笑んだ。
絶望と怒りが綯い交ぜになりながらも、射殺さんばかりに見つめてくる青年の瞳が、どうしようもなく美しい。

8520-329:2011/01/21(金) 14:56:39 ID:Xz24CClQ
誰もいらっしゃらないようなので、僕がプレゼンを務めさせていただきます。
それではスクリーンもしくはお手元の資料をご覧ください。
わが社の童顔の上司は次の通りです。

①たぬきタイプ
 相性の良い部下:苦労人タイプ
 何を隠そう我が社の社長もこのタイプです。
 普段はとにかく何も出来ません。てゆうかしません。でも可愛いので許されます。
 一体なぜそんな人が社長なのかって?【社外秘】です、申し訳ありません。
 第一秘書の佐伯くんも、社長が見た目子供のようなので、
 初めは遠慮していたようですがね・・・今ではすっかり慣れてしまって。
 毎日のように社長に辛辣な苦言もしくは体罰を浴びせています。
 我が社ではこれを児童虐待もどきと呼んでいます。
 でも彼、夜は優しいんですよ。子供体系も時には役に立つんですね。

②頭脳は大人タイプ
 相性の良い部下:ヘタレ熱血漢タイプ
 我が社の営業本部長、星野さんです。その可愛らしいティーンエイジャーのような
 お顔に似合わぬ、シニカルな笑みを湛えていらっしゃいます。
 課長である上島さんと同い年とはとても思えません。
 一見してお二人は犬猿の仲ですが、学生時代からの知人だそうです。
 有事の際には、素晴らしいコンビネーションを発揮なさいます。
 腐れ縁なのに相手がヘタレなので関係が進展しない、と酔った星野さんが
 珍しくぼやいていました。未成年に見えるから手が出しづらいのでは?

③ツンデレタイプ
 相性の良い部下:大型犬タイプ
 研究開発部のチーフ、神崎くんがこちらに当てはまります。*0代だとは思えぬ
 美貌の持ち主で、プライドが高く理知的でいらっしゃいます。
 配属3年目の大輔くんが、配属当初、自分と同じ新人だと勘違いして
 ブリザードの洗礼を浴びていたのはまだ記憶に新しいですね。
 そんな彼らも今ではすっかり良いコンビ!まるでトップブリーダーと
 猟犬のように・・・ってあれ?
 力で押さえ込まれたチーフの羞恥に歪む顔がたまらない、と大輔くんから
 聞いたことがあります。神崎くん小柄だし、大輔くん大きいからなぁ。


「あっ社長!こんなところにいたんですか!
 仕事してください!本当役立たずですねあんた!」
い、いやちょっと社内見学の案内をね。
「君たち、うちに入るつもりなら、この人の面倒を見る覚悟は
 できているんでしょうね?ほら、行きますよ社長」
いたた、痛いよう佐伯くん〜

8620-359 愛情不足:2011/01/26(水) 17:03:31 ID:pLi7AWSM
愛情が足りない、と言われたときは思わず、そのお綺麗な顔を殴りそうになった。余りの嫌悪感に。
足りないも何も、元からそんなもの、お前には持ち合わせていないとはなんとなく言えなくて、結局、ただ押し黙った。
愛情が足りないところで、どうだと言うのか。
愛情が足りない、と喚くアイツ自身、なるほど確かに自己愛は強いが、他人に対しては愛情どころか思いやりさえ微塵も無い。
自分のことを省みず、人をどうこう言うヤツに、俺の顔は自然と歪んだ。
「京ちゃんはさぁ、俺への愛情が足りてない。俺が何しても笑顔で許してくれるとか、俺が何も言わなくても肩揉んでくれるとかするくらい、俺を愛してよ」
「お前、人のこと言えた義理じゃねぇだろ。それ以前に、そんなん愛情じゃねぇ」
うんざりと呆れた口調で言ってやれば、かっこいいとか可愛いとか散々モテ囃される顔をヤツはムッと顰めた。
「俺はいいんだよ。愛される側の人間だから。俺の役割はみんなの愛を受け止めることだもん。でも京ちゃんは違うじゃん。京ちゃんの役割は俺を愛することだろ?なのに、愛情が足りないとかダメなんじゃない?」
俺に口を挟む余地も与えず、一息で言い切ったヤツのご自慢の顔面を、気づけば殴っていた。
殴った、と言ってもそんなに大袈裟なものではない。血も出ていなければ腫れてもいなくて、少しだけ赤くなっているくらいだ。
ヤツがギャアギャアと騒ぐほどのことではない。
「痛ェ!」
「お前、頭腐ってんじゃねぇの?ちょっと顔が良いからって、性格とオツムがそんなんじゃあ終わってんぞ」
「いいんだよ、京ちゃんよりモテるから」
図星には違いないが、否、図星だからこそ、ヤツの整った顔で言われると、これ以上になく苛立った。
拳を強く握り締め、先程とは反対の頬を、今度は倍の力で殴ってやる。
「いってェ!!京ちゃんこそ、すぐ手が出る癖直しなよ」
「うるせぇ、お前しか殴らねぇからいいんだよ!」
「ほら!俺にだけ!愛が無い!」
「これが俺の愛情表現だ!」
文句あるか、と息巻いて言えば、片頬だけを赤く腫らしたヤツが、ニンマリと嫌な笑みを浮かべた。
「そうかぁ、殴るのは京ちゃんの愛情表現で、京ちゃんは俺しか殴らないのかぁ、そうかそうか」
「…おいテメェ、何か勘違いしてねぇか」
「京ちゃんが俺を愛してくれてることもわかったことだし、愛を確かめ合いますか」
どういう意味だ、と問う間もなく、視界がグルリと回転したかと思うと、ヤツの笑顔と天井以外、何も映らなくなった。
フローリングの、ひんやりとした感触が、背中越しに伝わってくる。
「でも、DVは良くないと思うなぁ〜」
「どの辺がドメスティックなんだよ!つぅか退け!」
ヤツを殴って退かそうにも、両手首を床に縫い止められているせいで、それは叶わない。
「俺の愛もたくさん示してあげるね」
ヤツに惚れている女が見たら、悲鳴を上げるであろう、蕩けるような笑みは、悔しくも見惚れるほど綺麗だったが、やっぱり殴ってやりたかった。

8720-359 愛情不足:2011/01/26(水) 18:16:19 ID:VAGS7.H6
「たった3万円? おかしいだろ、それ」
「……いいよ、別に」
「馬鹿、良いわけあるか! 事務所行くぞ。社長いるか」
無理矢理腕をとって歩き出すと、「いいよ、ほんと」と重い足取り。
こめかみのあたりにカーッと血がのぼるのがわかった。
就労時間に対して少なすぎる給料は何かの間違い、もしくは会社のごまかしか。
悪いのは社長か。事務か。誰かが抜いたのか。
あってはならん、こんなことは。訴えるべきか。警察。弁護士。労働基準監督署。
……いやいやいや。
それ以上に、引っ張られながら今も人ごとのようなこいつに、腹が立つ。
ようやくまともになったのに。やっと働けるって笑ってたのに。
可哀想な奴はどこまでいっても可哀想なままなのか!? 馬鹿な!
「お前、職場うまくいってないのか、ひょっとして」
腕を放すことなく聞けば、目を伏せながら「大丈夫……」と答える。
「……そうか」
こんなときは無力な自分が恨めしい。俺が雇えるものなら。せめていい口を紹介できれば。
実際にはただの社会人一年生で、まともな会社とはいえ雀の涙の給料であっぷあっぷしている身だ。
「毅さん」
やっと口を開けたと思えば、言いにくそうに「やっぱりいいよ、ほんとに」と足まで止まる。
「俺みたいなの雇ってくれてるんだし……辞めさせられたら行くとこないし」
笑った。泣くみたいに。
「みんな優しいし。俺に仕事教えてくれるし。まだ見習いみたいなもんだし……ほんとに、いいんだ、俺」
とうてい信じられない。小さな体に重すぎる材を毎日抱えて、足も肩も痣だらけのはずだ。
返事できないでいると、さらに小さな声でつぶやくように言った。
「それに、毅さんに迷惑かけられないし」
「馬鹿!」
大声は駄目だ、優樹には駄目なんだ。わかってたのに思わず出してしまった。
案の定、優樹はびくっと身を縮ませる。
その肩をつかんで、顔をそらすのもかまわず怒鳴りつけてしまう。
「俺は迷惑なんかじゃない! こんな仕事やめてしまえ!
 住むところがないなら俺のとこに来ればいいじゃないか! お前……お前……!」
もっと自分を大事にしろ、とはあまりに陳腐すぎて言えなかった。
愛されなかった子供。俺の力では足りないのか。
どこかの女が優樹とくっつけばいい。だれか優樹を愛してやってほしい。
こんなにも愛しく思っていると、優樹に告げれば優樹は救われるのか。
それじゃ駄目な気がする。俺じゃ無理だ。俺の気持ちは優樹を不幸にする。
「……駄目だ。うやむやにしちゃだめなんだよ、こういうことは」
深い疲労を覚え、また歩き出した。きっと優樹は俺の表情を誤解してるだろうと歯噛みしながら。

8820-389 そっと手を繋いでみた:2011/01/30(日) 23:03:04 ID:cDhXJ4RA
暖房のきいた居酒屋から一歩外に出ると、ひんやりとした夜風に身が竦んだ。
とりあえず駅まで歩くぞー、と幹事の号令がかかり、俺達はドヤドヤと移動を開始する。
宴の余韻そのままの周囲のテンションとは逆に、俺の足取りは重かった。
元々酒を飲むと沈み込む性質な上に、大勢でわいわい盛り上がるのは不得手なのだ。
それでもゼミのメンバーと親睦を深めようと思って今日の飲み会に参加したのだが、
結局深まったのは孤独感だけという笑えないオチだ。
独りを貫いておけばいいようなものを、なんであがいてしまうんだろう。
なんでもっと幸せになりたがってしまうんだろう。俺はなんでいつも――
「かとーくん元気ー?」
「えっ?」
脇からいきなり話しかけられて、落ち込み続けていた意識が引き戻される。
「……や、酔ってテンション下がってるだけだから、平気」
話しかけてきたのは、小谷という男だ。
今まで他の講義でも何度か顔を合わせてきたが、なんとも掴みどころのない変な奴だ。
俺に言われたくはないだろうが。
「ヘー。奇遇だねえー俺は酔ってテンション上がってるんだー今」
あまりハイテンションとは思えない間延びした口調で、小谷は笑った。
別に奇遇でもなんでもないだろうと思っていると、
「ほい」
夜の外気に晒されていた俺の右手が、温かいものに触れた。
「ああ温かいな」と思ってから、それが小谷の左手だと理解するまで数瞬かかった。
「……なにこれ」
他のゼミ生たちが前方で騒いでいるのを見ながら、とりあえず俺は尋ねた。
「んー、手と手のシワを合わせてシアワセー、って。幸せになろーぜー」
トロンとした口調のまま小谷は答えた。
こいつ相当飲んだんじゃないか、いつも以上に訳がわからない。
「いや、あれ合掌だろ。やるなら一人で手合わせとけよ、一人で幸せになっとけよ」
普段ならスルーしているところだろうが、痛いところを突かれた気分になって、
思わず絡むような言い方になってしまった。
すると、
「そんな事言うなよ!!」
小谷がいきなり怒鳴った。
突然の変貌にぎょっとした俺は思わず隣を見やる。
彼はこちらを向いていなかった。ただ、繋がれた手に、ぎゅうっと力が込められた。
「なんで『一人で幸せになれー』とか言うんだよー。
 俺は、かとーくんにも幸せになって欲しいんだよー。
 というかぁ、かとーくんと一緒にじゃないと、俺幸せになれねーよー。
 二人で幸せになんなきゃ意味ねーだろーがーバカヤロー」
さっきの怒号から一転して、今度は駄々っ子のように言い募る。
その間、俺の手を握る力は強くなる一方だ。
なんだこれ。ただの酔っぱらいの戯言だろうが、それにしたって言ってることが無茶苦茶すぎる。
けれど、なんで俺はこんな酔っぱらいの戯言ごときに、必死になって涙をこらえているんだろう。
「小谷君」
数回ひっそりと深呼吸をして、ようやくまともな声が出せた。
「んー?」
「手が痛い」
「え、あ、ごめん」
まだ不満げだった小谷だが、俺の言葉で我に返ったようにあわてて手を離した。
とたんに、右手から温もりが逃げていく。
名残り惜しい、と思った。そして、そう思ったことに自分で驚くよりも早く、
「あ……」
俺は小谷の手をそっと繋ぎ直していた。
「かとーくん……?」
こんなもの、酔った上でのじゃれあいに過ぎない。
夜が明ければ、きっとなかったことになる。それでも、
「離したら、寒かったから」
この手の温もりが、今の俺にはこの上ない幸せのように感じられた。

89 20-409 プラシーボ効果:2011/02/02(水) 18:57:22 ID:NlrjpUIA
どういう会話の流れだったのかは忘れた。
俺はクラスメートの和哉に対し
偽薬の効果について、浅い知識を披露していた。

「睡眠剤だって信じてれば、ただのビタミン剤でも効いたりすんだって。」

ラムネ菓子のタブレットをかじりながら、のんびりと和哉が答える。

「思い込みは怖いって事かー」
「信じるものは救われるとか言おうぜそこは」

川原沿いの長い道をくだらない話を続けながら歩いていると
ふと思いついたように和哉が言う

「なあ、惚れ薬もそういうのあるのかな」
「ん?何?」
「信じるものは救われるって薬の話だよ」
「お前は惚れ薬なんざいらんだろーがモテ男」

惚れ薬なんて単語が和哉から出るのを、少し意外に思った。
和哉はなかなかに整った、それでいて優しげな顔立ちをしている。
実際温厚で親切でもあったので女子からすこぶる評判が良かった。
派手に騒がれはしないものの
毎年バレンタインには本命チョコを2,3個渡される、
そういうモテ方をしていた。
それなのに彼は彼女達を丁寧に振ってしまうのだ。
恋愛自体に興味がないのか、とも思ってたけど
そんな訳でもないようだ。

その時の一瞬の沈黙に、気づいたのは後になってからだ。

「だといいんだけど」

少し寂しげな微笑に、好きな奴でもいるのかなと思ったが黙っていた。
未だに彼女を作らないのも、それなら納得というものだ。

「ハイレモン俺にもくれよ」

和哉に声をかけると、ポケットからシートを取り出し
ぱちん、とシートから一錠手のひらに落とされる。
クリーム色の錠剤を口に放り込んだ瞬間、
和哉が一瞬真面目くさった顔をして言う。

「これ惚れ薬なんだ」

突飛な冗談に吹き出して、なんて言ってやろうかと和哉の顔を見た瞬間
笑いが喉で固まってしまった。
どこか切羽詰ったような、おびえと、熱のこもった視線
ああ、和哉に告白した女の子が、こんな表情をしていた気がする。

「信じてよ」

暮れかけた夕陽が、和哉の整った輪郭を陰影濃く彩っている。
視線は俺から外さないまま
和哉はいつもよりぎこちなく、それでも優しげに笑ってみせた。

噛み砕いた媚薬のかけらが、舌の上で甘酸っぱく溶けた。

9020-519 ごめんなさい。空気読めなくて:2011/02/14(月) 00:47:58 ID:VCu3.GEo
「お前ほっんと空気よめねーなー」
ベッドの上から、ケイ君が僕を蹴り飛ばす。
「ごめんね、本当ごめんね、邪魔しちゃって」
怒声とまではいかずとも、イラつきが充分伝わるような声に、
弱弱しくお腹を押さえながら応える。
「ごめんねじゃねーよ、毎度毎度ヘラヘラしやがって!」
ベッドの上にはケイ君の服と一緒に、女物の靴下が忘れられている。
多分取りに来ないとは思うけれど。
「勝手に入ってくるとかザケんなよ、それもこういう時に…それとも何か、
お前みたいな未だに女も居ないキモ男には何してたか判りませんってか!?」
胸倉を掴まれてすごまれる。僕の目の前には今ケイ君の怒った顔がある。
「ごめんね、だって、お客様ならもてなさなくっちゃって…」
床にひっくり返されたお盆を指差そうとした直後、後頭部を蹴られ顔面を打ち付けた。
「お客様じゃねえよボケ!弟が彼女連れて部屋篭ってんだ、何してるか位察しろよ!」
「う、うん、ごめんね…ごめんなさい」
「もういいからさっさと出てけよ、畜生やっと新しい彼女ができたばっかなのに…」
ふいに気付いたようにしたケイ君が、凄い形相で睨んでくる。
「お前、まさか彼女できないのに嫉妬してわざとやってんじゃないだろうな!?」
「ち、違うよ…」
ぶちまけられた茶菓子を集めてから、もう一度謝って部屋を出る。
「ごめんなさい、空気読めなくて…ごめんなさい…」


本当にごめんね、空気読めなくて。
世間一般の流れならそちらなんだろうけど、僕は空気が読めないものだから。
本来は愛しい弟の幸せの為、世間の常識の為身を引くものだろうけど、僕は空気が読めないから。
ごめなさいケイ君、空気を読む気がない、ホモの兄を持った時点で、貴方の運は尽きました

9120-534,535続き 生徒視点1/3:2011/02/15(火) 04:07:26 ID:.g1TcCO.
先生の第一印象は覚えてない。多分気にも留めていなかった。
あの頃の俺は、とにかく自活するだけの金を稼ぐので精一杯だったから。
高校に入学した当初はまだ勉強とバイトの両立ができていた。
でも授業の内容が難しくなりだすと、元々出来のよくない俺の頭は早々に音を上げた。
学校でダウンする時間が大幅に増えたのは二年に上がった頃だ。
元来チャラい見た目に加えて、英語は一番苦手だったから睡眠時間に当てられやすいこともあり、先生の俺への心証は最悪だったと思う。
俺を見る目はすごく不機嫌そうだったし、俺もそんな先生が苦手で避けるようにしていた。

それが変わったのがいつかははっきり覚えている。
夏になる少し前、ドジをして怪我をしたせいで予想外の出費をしてしまい、いつも以上にバイトに追われていた頃だ。
一応学校には来ていたけど、もうヘロヘロで、授業を聞くどころかしゃんと椅子に座ることすら出来ていなかった。
昼休み、いつも一緒にバカばっかやってるクラスメイトが心配するくらい俺の様子はひどかったらしい。
「お前顔色悪くね? さっきの英語もずっと寝てたじゃん」
「しゃあねえだろーバイトよバイト。もー今バイトが一番大事だもん」
言いながら廊下に出たらパンを抱えた先生と鉢合わせした。
聞かれた。やべえ。
真面目そうだし俺のこと嫌ってるだろうし、バイトなんかやる暇あるなら勉強しろとか言われる。
俺は身構えた。
でも先生はふっと笑ったんだ。
「あんまり無理するな」
すげえ優しい声だった。一瞬幻聴かと思った。
「明日の俺の授業、今日みたいに青白い顔するなら来るなよ。来たら強制的に保健室行きだからな」
そう言って俺に向かって缶ジュースを投げてきた。
受け取ったらあったかいおしるこだった。
「甘いものは頭の働きをよくするんだ。間違って買ったからやる」
その瞬間、俺はトスッという音を聞いた。
キューピッドが俺の心臓めがけて矢を放った音だ。
もう暑いのにおしるこ? とか間違って買うとか意外とドジ? とか色々思うところはあったけど。
何より先生が本当に俺を心配してくれてるんだって感じたら、俺は先生が堪らなく好きになっていた。

9220-534,535続き 生徒視点2/3:2011/02/15(火) 04:08:47 ID:.g1TcCO.
その日から俺は先生に猛烈なアタックを開始した。
英語の授業はなるべく寝ない。
休み時間は先生の準備室に押しかける。
愛の言葉は惜しまない。
彼女がいない、三人兄弟の次男など周辺へのリサーチもばっちりした。
当然隠す気は微塵もなかったから俺の気持ちはバレバレだ。
だけど先生は、最初こそ戸惑っていたみたいだけど、すぐに慣れて右から左に受け流すようになった。
「先生おはよう今日も可愛いね!」
「おはよう上村、お前の頭は今日も残念だな」
「先生聞いてよ俺今月リッチだよ、遊園地デートしようよ奢れるよ!」
「あーありがとよ。代わりにその金で参考書買って自習ノート提出してくれ」
「先生マジ好き愛してる! 先生は俺のことどう思ってる?」
「若干頭が残念な可愛い生徒。以上」
こんな感じ。
俺がボールを投げまくっても先生は素知らぬ顔でカンカン明後日の方向に打ちまくる。
当然俺は焦れまくったけど、先生は全然態度を変えなかった。
俺がアホなこと言えば張っ倒して、授業のわからない部分があればそれが担当外でも真面目に丁寧に教えてくれた。
でもそうやって半年ぐらい過ぎた頃、俺は先生が時々すごく優しい目で俺を見ているのに気がついた。
問題がわかんねーと呻いてるとき。
好きだって言っても相手にしてくれなくてへこんでるとき。
疲れ果てて教科準備室のソファで寝ちゃったとき。
先生は静かに目元だけ柔らかくして俺を見るんだ。
それが他の人の前ではそうそう出ないってことは知ってる。
俺、四六時中先生のこと見ていたから。
そのとき、俺は先生が俺のことをどう思っているかわかった。
でも喜ぶより恥ずかしくなった。
先生は言葉にするだけが方法じゃないって知ってるんだ。
俺のこと、本気で考えてくれてるから。
先生は大人だ。先生はカッコイイ。
それに比べて俺はどうだ。
先生に見合う男になりたい。
先生が胸張って隣にいてくれるような、カッコイイ男になりたい。
本気でそう思った。

9320-534,535続き 生徒視点3/3:2011/02/15(火) 04:11:10 ID:.g1TcCO.
英語以外の授業でも寝なくなった。
バイトをやめることはできなかったから、遊びをばっさり切り捨てた。
予習復習をできる限りやって、わからないところがあれば先生以外にもクラスメイトや他の先生に教えてもらいに行った。
試験順位が二桁前半に食い込んだとき、皆驚いたけど先生だけは「頑張ったもんな」と笑ってくれて、マジ嬉しかった。
一校だけ受けた滑り止めの私立に受かって、前の俺なら逆立ちしても無理だった本命の国立もA判定が取れて、先生は自分のことみたいに喜んでくれた。
全部昨日のことみたいに思い出せる。
先生、先生、好きだよ。俺、先生の隣に並べる男になれたかな。
着古した学ランを今日ばかりはキッチリ第一ボタンまで閉めて、卒業証書を肩に俺は歩きだした。
目指すのはもちろん英語準備室。
ドアを開けたら先生が眩しそうに俺を見る。
その顔を見てたら堪え切れなくて気がついたら叫んでた。
「隆文さんマジ好き愛してる!」
「いきなり名前かよ!」
いつもどおりの色気のないツッコミを入れられたけどいいんだ。
抱きしめたら耳を真っ赤にして俺もだよって返してくれたから、俺、それだけでいいんだ。

9420-599 まるで妖精のような君:2011/02/22(火) 01:26:30 ID:GfgekUjw
君と初めて出会った日のことを今でもはっきりと覚えている
母親に無理やり連れて行かれた、あの春の日の体操教室
同い年なのに俺よりずっと小柄で華奢な君を女の子と間違えて怒らせたよな
でも、動き出すと小さな体が俺よりずっと大きく見えた
マットの上を軽やかに飛び跳ねる君は、まるでアニメで見た妖精のようだった
君みたいに飛んでみたくて、俺も体操教室に通い始めた

だけど、君みたいに飛ぶのは簡単じゃなかった
6歳にしてすでに体操歴2年半の君との差はそう簡単に縮まらなくて
何度もくじけそうになって、それでもあきらめきれなくて
いつも必死に君の背中を追いかけてた


あれから、15年
俺はもうすぐ世界選手権に出場する
でも、君はここにはいない
高校生の時まではいつもいっしょだったのに
何度もいっしょにジュニアの日本代表に選ばれたよな
だけど、君は、ある日突然体操をやめた

難しい病気だったんだって後で聞いた
すぐに治療をしないと、競技を続けるどころか命すら危なかったって
それから2年半、君の入院生活は続いた

退院した後、リハビリを続けていたと聞いた
ようやく競技に復帰したらしいことも
俺は見に行けなかったけど、君らしい演技だったって


オリンピックまでは、まだ少し時間がある
君ならきっとやれるよ
俺はその2年半を埋めるのに倍以上かかったけど
君ならもっと早くたどりつけるだろ?

俺も頑張るから
誰かにこの位置を奪われたりしないように

本当は君が立っていたかもしれないこの場所で
まるで妖精のように飛び跳ねる君とまた逢える日をずっと待ってる

9520-619 慣らす:2011/02/23(水) 22:33:43 ID:KM8FELxI
ぎりぎりに投下しようとしたら板がおかしい(´・ω・`)
その上時間も過ぎちゃった(´・ω・`)
なのでこっちで。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ここが今日からお前の部屋だ」
背負ったままのリュックをぽんと軽く叩くと、細い身体が大袈裟に跳ね上がった。
直接触れたわけでもないのにこれほど大きな反応を示すのは、親戚中をことごとくたらい回しに
されたその過程で何度か虐待を受けたからだろう。目で確認したわけではないが、季節外れの
長袖の下にはいくつも痣が隠れていると聞いている。
俺は気づかれないようにため息をついて、小さな部屋を見回した。
簡素なベッド、勉強机、押し入れにすっぽりはまっている小さな箪笥。それがこの部屋の家具の
全てだ。
「悪ぃな、テレビも本棚もなくて。必要なら揃えてやるから、しばらくはこれで我慢してくれ。
 押し入れに箪笥が入ってるから、好きなように自分で収納しな。荷物はそれで全部か?」
リュックを指し示すと、ゆらりと頭が前後する。頷いたのか揺れただけなのか、判別が難しい。
無言で半歩身を引く。カケルはこくんと唾を飲み込み、恐る恐る部屋に一歩踏み込んだ。
俺とカケルの縁戚関係ははてしなく遠い。俺の名が出る前に施設が選択肢に挙がっても不思議で
ないほどだ。事実、今日が二度目の対面だったりする。
カケルはリュックを背中から下ろし、お腹のところで抱えなおした。
「……カケル」
名を呼ぶと小さな肩が震え、吊りぎみの目が伺うようにこちらを見上げた。警戒心で眉間の皺が
深い。
近づくと後ずさろうとするのも構わず、俺はカケルの痩躯を抱き寄せた。
「っ……!」
肩のところで息を飲む音がする。早鐘を打っているだろう鼓動は、リュックに遮られて届かない。
心の中でゆっくりみっつ数えて、俺はそっとカケルから離れた。
カケルはリュックをちぎれそうなほど抱きしめ、荒い息をなかなか整えられずにいる。
「カケル。これからうちでは、これが挨拶だ」
ぱっと上げられた顔には、様々な感情がないまぜに浮かんでいる。
「朝起きた時。夜寝る前。出掛ける時。帰った時。できないなら、無理にお前からはしなくても
 いい。俺から一方的に抱きしめるから、拒まずに慣れろ」
カケルは唇をふるわせ、なにか言いかけてやめ、潤んだ瞳を隠すようにうつむいて背中を向けた。
俺はその後ろ頭を撫でようと手を上げかけて、結局触れることなく下ろした。

96探偵と○○:2011/03/01(火) 21:46:49 ID:f7n0mcz.
探偵というものは、概ね殺人事件に巻き込まれたりはしない。
旦那の浮気調査が一番多い。探偵にとっても金をよどみなく出してくれる美味しい仕事だ。
今日も俺は男の後をつけ、写真を撮り、報告書を作成する。奥さんが沢山慰謝料をとれるように。

「浮気しているかどうかはわかりません。でも怪しいんです」
その女性はやつれた顔で事務所に来た。おとなしそうな控えめな人だった。
短い爪の少し荒れた手だった。微かに見えたカバンの中身は整理され無駄なものはなかった。家事をきちんとしているタイプだ。
女性としての魅力もないようには思えない。こういう女性でも幸せになれないというのは残酷だなと思った。
「お恥ずかしい話ですが夫婦生活も全然なくて…。このまま私の人生が終わっていくのかと思うと悔しくて…」
「わかりました。全力をつくします。それでご主人の行動で怪しいというのは」
「外でシャワーを浴びていて…ホテルの領収証もありますし…」
「ああ、なるほど」
「でも、おかしいんです。いけないとは思いつつも携帯をみてしまったんですが、形跡がないんです。
事務的なメールばかりで…。女の匂いがしないんです」
「上手な人はいますから」
「主人はそんなに完璧な人間ではないんです。でも何かがチグハグで」
話をひとつひとつ確認しながらメモをとった。
取りながら俺は自分の体温が背中から下がっていくのがわかった。

「これが主人の写真です。よろしくお願いします」
差し出された写真には俺のよく知っている男が写っていた。ただ妻帯者だとは知らなかったが。
「では、また追ってご報告しますので」
彼女を送り出してからため息をついた。
そりゃあ女の匂いはしないだろう。浮気相手は男なんだから。

さあ、どうする。何も言わずに証拠を揃えて破滅に追い込もうか。それとも救い舟を出して続けるか。
タバコを吸いながら思案した。携帯に何も知らない男からの電話が来るのはもうすぐだ。

9720-709(716の補完):2011/03/07(月) 21:16:16 ID:vHC0dALY
ある日、801板にこんなスレが立つ。


『腐女子助けてwwww』
1 :風と木の名無しさん:2010/11/13(土) 16:21:09.11 ID:motonoNke0
男を好きになりました\(^o^)/
しかもヒトメボレwwwwおれヤバスwwwwwwwww

2 :風と木の名無しさん:2010/11/13(土) 16:21:11.59 ID:motonoNke0
あ、俺も男な\(^o^)/


スレが立った当初は、出張VIPPERの釣りだと疑う者、3次元お断り、
他版への誘導などで大混乱したが、次第にスレ主の真剣さが伝わり、
親身にアドバイスを書き込み始める腐女子達。

『腐女子助けてwwwwPART2』
304 :風と木の名無しさん:2010/11/17(水) 23:50:10.05 ID:YaOISaIK0
一緒のゼミかサークル入ってみなよ

『腐女子助けてwwwwPART8』
716 :風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 19:09:54.33 ID:xFUjoSHix0
ケツは洗ったか?

『腐女子助けてwwwwPART11』
801 :風と木の名無しさん:2011/03/20(日) 11:55:16.49 ID:or2blKfjn0
報告はまだか!スレが終わってしまうぞ


その後、腐女子直伝の801ファンタジー知識を駆使したスレ主の決死の頑張りや、
貴腐人達の暗躍などなんやかんやてんやわんやで 、やおいスレの本気により、カップル成立。

『腐女子助けてwwww最終章』
1000 :風と木の名無しさん:2011/03/20(日) 02:32:46.12 ID:fuDANshiX0
栄光に向かってやおれ!


電●男ならぬ、やおい男の誕生である。めでたしめでたし。

9820-699 3対3:2011/03/09(水) 12:34:40 ID:OSOXsxOE
「推進派の意見は甚だ単純、理性ある人間として耳を傾けることはできません。
 そのような本能に基づくだけの拙劣にして愚昧な行動を私は許さない。
 そもそも社会的、道徳的にどうなんだ。
 友人、それも同性にこのような気持ちを抱くだけでも異常なのに、みだらな行為まで欲するというのは?
 社会人として、まともな大人として、軽挙は厳に慎むべきだ」
「なんちゅー頭の固さ! 本能上等じゃねーか。
 欲望、イズ、パワー! だ! ゴチャゴチャ言っても結局はこれだよ!
 どんなにすましててもちんちんついてるだろ? 男だろ?
 やりたいやりたいやりたいやりたい! そう思う何が悪いんだ?
 あいつとやれたら死んでもいい! あー舐めたいしゃぶりたい入れたい!
 あいつと気持ちよくなりたい! あーもう考えるだけで」
「まあまあ、そうは言ってもさー。
 ……まあ、わかるよ? 情熱とかってさ、この、熱ーい気持ち? 燃える衝動、まあ、わかるよ。
 正直好きすぎるっていうか、俺、もうあいつがいないと無理。大好き。
 けどさ、あいつは中学からの長いつきあいなんだ、ちょっと照れるけど、親友なんだよ。
 今でも、自転車で一緒に帰ったなぁ、とか、部活を地味にに頑張ったなぁ、とか、
 悩み聞いてもらったな、あんときは好きな女の子の話だったけど……なんか嘘みたいだね。
 いまでもこんなことになって、一番戸惑ってるのは僕なんだ。
 あいつのことが好きだ。親友なんだ。
 だからこそ大事にしたい、そう思うのは別におかしくないだろ?」
「でも、だからこそ、見たい知りたいってのあるよね? どうよ正直? おりゃおりゃ。
 未知の世界、知らないあいつ、その全てを手に入れたい!
 そう思っちゃうよね?健康な男の子だもん、なんて。
 そもそもー ぶっちゃけー、声を大にしてー……『目指せ! 童貞卒業!』ぱふぱふぱふー!
 うじうじ考えるのはお互い深く知り合ってからでもいーじゃん!
 あー、あいつどんな顔するだろう、って考えるともうたまらん感じー」
「いやいやいやいや……それ、怖いだろ?
 だって嫌われるかも知れないよ、っていうか、嫌われるよ普通。
 親友だと思ってた奴が好きだとかやっちゃうとか……
 このままだと無理矢理、なんてことになりそうじゃん、やりたがってるお前ら、すでに暴走気味だし。
 あいつも怖いだろうし、俺だって自分が怖すぎる。
 嫌われたらもう二度と友達に戻れないよなぁ……そうなったら俺……」
「怖い、とか言ってるうちにあいつに彼女でもできたらどーするの?
 なんでそんなのんびりやってられるかな、俺はもう気が気じゃないのに。
 心配だなー、最近格好良くなってきてないか、あいつ、とか考えるだけで走り出しそう。
 メール待っちゃったり! 速攻返事したり! でもキモイから10分待ったり!
 あーもう早く! 俺だけのものに! そもそも童貞も捨てたいし!
 というのは置いといても、でもそこも重要だし! 毎日なんも手につかない感じ!」

意見は、今日も3対3にきっかり分かれてしまう。
皆が俺をふりかえり、声をそろえて言った。
「お前はどう思う? お前が決めろ。お前はどうしたいんだ?」
この幾度となく重ねられた未だ結論のでない議論。
意見を戦わせるのは、良識、性欲、友情、好奇心、恐れ、焦り。
3対3に分かれて、延々と平行線な論争を繰り広げた末、皆が最後に俺に尋ねる。
俺はどうしたいのか? と。
結局、自分がキーなのだ。わかってる。わかってるが決められない。
理性が止め、性欲に悶え、友情に泣き、好奇心を秘め、恐れ、焦る。
そのすべてが俺のせいだ。わかってる。俺がきめなければいけないんだ。
俺の名は、あいつへの愛情。
きっと許されない存在。でも、ひょっとしたら受け入れられるんじゃないか。
葛藤につぐ葛藤。眠れない夜。もうそろそろ限界だ。
決着はそう遠くない。

9920-729友人だからこその気持ち:2011/03/10(木) 01:17:06 ID:8ClD9ipk
好きだ。
お前のことが、好きだ。
何より大切で、側にいたい。
お前の事を考えると苦しくなって、でも、考えると幸せになって。





「…なんて、言えれば楽になれるだろうになぁ…」
「何が?」
「んー…別に。何でもない」
ふと呟いた言葉を聞かれてしまったらしく、隣で本を読んでいた昌也が顔をあげる。

「何でも無い事あるか 今何を言ったんだよ」
「聞こえてなかったなら気にすんなよ」
「気になる」
「気になるな」
特に目も合わさず、声も荒げる訳でもなく、ただ淡々と言葉を交わす。
アイツだって別に聞きたい訳ではなく、単なる言葉遊び。

好きと言葉を伝えれば、この苦しい思いは楽になれるだろうけれど、その代わり、失う物もあるかもしれない。
もしも、この想いを拒否されれば、今のこの時間すら失う。
それは怖い。
今の友人という立場を失うのは、怖い。

何気なく君がいるこの空間がなくなるのは、耐えきれない。

「言えないな」
「悪口か」
「さあね」
悪口だったら、どんなに楽だろうか。

10020-749 当て馬同士の恋:2011/03/11(金) 19:57:47 ID:9b0KrQDU
俺は祐樹に告白しようと決断した。

その恋は一目ぼれだった。
7歳のとき、転校してきた祐樹を見て何かの病気じゃないかと心配になるほど心臓が動いたことを思い出す。
おでこを出して笑う祐樹の顔を見るたびに息ができなくなった。
「僕、転校したばかりで不安だったけどまこちゃんがいてよかった。まこちゃんの傍って安心する」と言われてなんと返したのか覚えていない。
ただ、その後歳の離れた姉に泣きじゃくりながら病気で死んでしまうかもしれないと言った日のことを昨日のことのように思い出せる。
この気持ちが恋だと気づくのに結構な時間がかかった。

小学生高学年になってから祐樹がスポーツの中で1番バスケが好きだということを知った。
そう知った俺は、興味のもてなかったバスケを始めた。
祐樹が好きだといったり興味を持った選手はビデオを何度も見直して真似た。
対校試合で負けたとき、顔に悔しさをにじませ体育館の床をたたいていた姿。勝ったときの満面の笑み。全てが俺の気持ちを高揚させた。
喜ぶあまりに抱きつかれた時も頭の中が真っ白になって何の対応もできずにいた。
監督が笑いながらガシガシと音を立てながら俺と祐樹2人の頭を撫でてようやく現実に戻ってきたくらいだ。
その日の夜抱きつかれた記憶が、感触が甦って眠れなくなった。そのときは、こんな時間になっても勝ったことに興奮していて眠れないんだ! なんて思っていた。
まだこの気持ちが恋だってことに気がついていなかった。

自覚しかけたのは中学のフォークダンスの時だった。
学校の女子の数が足らなかったから、身長が低かった祐樹が女子側に行って「やってらんねー。信じらんねーよな、真」とぼやきながらも俺と手を繋いで踊ってくれた。
「だよな」なんて返しながらほかの女の子に感じない気持ちがこみ上げてくるのを不思議に思った記憶がある。
ほかの子に変わったときも俺の意識は祐樹に向いていた。
当たり前だけど前と後に踊った女の子に比べて、握った手は意外と大きくてゴツゴツしていた。
ダンスが終わった後、キャンプファイアーが灯す薄暗い中、見慣れた自分の手をジッと見つめた。

完全に自覚したのは祐樹と聡が付き合い始めてからだった。
それまでは自分の気持ちが本当に恋なのかまだ疑っていた。頭の中でまさか、でも……と繰り返して考えているうちに出遅れてしまった。
聡の隣で幸せそうに笑う姿に胸が痛くなったけど、まだ諦めきれなかったけど、恋人の隣で「俺、変かな?」と聞く祐樹に「別にいいんじゃない? 男同士でも」とだけ返しておいた。
「お前が誰と付き合っていたとしてもさ。俺、お前の友達だし」と付け足しもした。
コレでいいんだと自分の気持ちを取り繕うたびに、どうしようもなくなるくらい、自分が情けなくなった。

聡と祐樹は高校で初めて会ったわけじゃないらしい。
小学1年までずっと一緒に過ごしていたらしく、引っ越す前日には結婚の約束もしていたらしい。
自慢そうに言ってくる聡に相槌を打ち、「結婚なんてできるわけないのになー」と笑う祐樹に聡がちゃちゃをいれ、いちゃつく姿を見て早く昼休みが終わればいいのになんて考えていた。
3人で過ごしているうちに、聡のきな臭い噂や中学時代の同級生の嫉み混じりの「遊び人」と言う声が耳につくようになった。
本当かどうか走らないが噂の内容に対して胸騒ぎがした。祐樹が聞いていないか不安だ。

祐樹に告白しようと思ったのは聡が浮気をしていると知ったときだ。
聡の浮気相手は和弘というらしい。そしてそいつに聡と別れるように要求されたらしい。
泣きながら「もう、俺……どうすればいいのかわかんねー」と相談してくる祐樹の姿を見て、隠していた思いが胸の内に広がる。
俺は祐樹に告白しようと決断した。
「あんな奴やめろよ」と言ったら泣くのをやめてこっちを見た。涙の跡が頬に残っていた。
ハンカチで涙をふき取りながら「好きだ」と言った。

「ごめん……俺。あいつは浮気するし性格は俺様だし最低な奴だけど、それでも……好きなんだ」
ごめん、ごめんと繰り返した後へたり込む俺から目を離しその場を発った。
なんでそんな奴がいいんだろう。……なんで俺じゃだめなんだろう?
偏頭痛と震える足に悩まされながら家に帰った。晩御飯を食べずに眠った。夢で祐樹と笑っていた。
どうしようもなかった。

そして11年の恋が終わった。
結局祐樹は聡の隣に居て今も交際を続けている。それでも諦められない俺が居る。
そしてなぜか聡と浮気をしていた男を慰めている。
「俺は本気だったんだ……本当に好きで、ぐずっ……ううっ」
なんでこいつ慰めてるんだろう。俺だって泣きたいのに。
ただ、失恋して泣く姿を見て放っておけないと思った。

10120-809 同情でもいいから:2011/03/30(水) 16:35:44 ID:SNbrrI72
キッチンというほど広くもないけど、それでも部屋とはガラス戸で区切られている。
けどもちろん鍵なんかかかってないから、結局のところ言い訳でしかない。
その証拠に、戸を開け、薄い布団に潜り込んで取り出したものは、さわる前から立ち上がっている。
「甲野君、駄目。来ないで」
固い声が俺をたしなめるけど、構わず握る。
本気で駄目だと思ってるんなら、蹴り飛ばせばいい。

戸川がいたから俺は駄目になった。
失恋というには客観的にだってひどい仕打ちだったから、だから立ち直れないという甘えに身をまかせた。
半ば当てつけだった。ひとりだったらちゃんと何とかしたんだ。
こいつが俺を病院に連れて行ったり、飯を食わせたり、無くした金をくれたりしなければ。
部屋にひとりにならないよう、と布団を持ち込んでこなければ。
馬鹿じゃねぇの、と罵倒すれば、もう何かを無くすのはいやなんだ、と言った。
それはお前の彼女でしょ? 俺はお前の彼女じゃない。
むしろ憎しみしかない、お前の彼女にも、一緒に消えた俺の彼氏にも。
そう怒鳴りつけたら、戸川は小さな声で「誰かと一緒にいたい」と言った。
何か騙されてるんじゃないか、俺。
この世に、いいひとってのがいるんだろうか。

戸川なんか信じてないから、わざと嫌がることをする。
戸川だって本当は嫌じゃないから、黙って俺にこんなことされてるんだろう。
目を閉じる顔が誰を思い浮かべてるかなんて、簡単に想像がつく。
彼女の腹は俺の彼氏のタネだという。だってこいつら、やってなかったらしいから。
「俺、戸川さんに同情してるの。可哀想な童貞ちゃんだもんね」
わざと強くしごきたてた。確かに経験豊富ではないらしい戸川はあっさりいく。
気持ちよくいったくせに「こんなことは、もう……」と俺の手から逃げる。
「……甲野君は、好きでこんなことしてるんじゃないでしょう?」
ずっと年上のくせに、いつまでも崩さない丁寧な話し方がカンにさわる。
「そんな同情とか僕はもういいから。もう、しないでほしい。お願いだ」
さんざんさせておいた後で、素に戻って説教かよ。
「俺、好きでしてるの。こうしてると彼氏のこと思い出すんだ」
わざと哀れっぽくうつむいてみせると、戸川の顔はこわばった。
俺が同情といい、戸川もまた、俺を憐れむ。
戸川は俺を恐れてしたいようにさせているに過ぎず、俺はただ、彼を追い詰めて逃げ道を塞いでるだけだ。
「……いいじゃん、気持ちいいでしょ?」
冷えた背中を合わせ、苛々と目を閉じる。
最初からあきらめはついてる。

102黒い騎士と白い騎士:2011/04/02(土) 21:45:20 ID:gJF1BcF2
忠誠を誓わないかわりに、紋章の入った盾と鎧を黒く塗りつぶす。
俺は黒騎士と呼ばれるただの雇われ傭兵だ。
金がないから金を稼ぐために兵になる。だが決して忠誠は誓わない。
戦うのは名誉のためでもなく主のためでもなく自分のため。
王直属の騎士達は俺達を蔑み、国王も俺達を捨て駒として使う。
俺達も死にたくはないからより一層腕を磨く。そうして力でねじ伏せていく。

ある日、俺達の戦場に若い銀髪の騎士が来た。その美貌は見るものすべての心を奪うほどだった。
代々国王の近くで仕えてきた貴族の跡取りだという。
ただ彼は果てしなく潔癖で、傭兵達の秩序の無さを非常に嫌った。
ただでさえ傭兵は争いで気が立っているというのに、ことあるごとに叱責されてはたまらない。
次第に黒騎士達は彼に反発心を抱くようになった。「白騎士さん」と彼を揶揄して呼ぶものもいた。
しかも女っ気のない所に、そこらの女よりも各段に美しい人間がいるのだ。
怒りと邪が増幅し、ある日、黒騎士たちが彼のテントに押しかける事件が起こった。
悲鳴が聞こえ、俺はすぐに彼のテントに向かったが、そこには予想に反して、黒い鎧を着たものたちが血まみれになって累々と倒れていた。
顔面蒼白になった彼の手には、真っ赤になった剣がぶら下がったままだ。
「落ち着け…。俺は敵じゃない」
「はっ…はぁっ…はぁっ…」
全身で拒否する彼をなだめ、何があったのかを確認した。
初めは心を閉ざしていたが、次第に口をひらき、複数の男たちに抑えつけられ犯された事。
そのうちに興奮が高まり、命も奪われそうになった事を俺に語った。
「私を汚した者は絶対に許さない…」
震える声で怒りを口にする彼は美しかった。
なんて崇高で美しい騎士だろうかと俺は思った。

年月が経ち、俺はまたその国の傭兵として雇われることになった。
最初の仕事として命じられたのが、国王を裏切り敵に重要な情報を流した騎士の処分だった。

今、目の前にいる騎士は、昔の俺に「国王に忠誠を誓わない者は騎士ではない」と言っていた者だ。
「一つ聞きたい。何故、お前はそんなことをしたのだ。この世で最も崇高で潔癖な騎士だったのに」
俺は剣をかまえながら彼に聞いた。
「国王が私を汚したから」
その一言で何があったのかはわかった。
彼は静かに目を閉じた。
本当は彼に会ったら言いたい事があった。
もしお前が一緒に戦いたいと望んでくれるなら、俺は国王に形だけの忠誠を誓ってもいいと。
だが、もうそれは遅かった。
俺はそのまま剣を振り下ろした。

10320-878受けさんはずるい大人です 1/3:2011/04/06(水) 22:49:09 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、こわい人だった。
高校の剣道部で出会った一つ年上の彼は、それはもう他の部活動の生徒の間でも噂になるようなスパルタで、当時からヘタレを体言したような根性なしだった俺はたっぷりとしごかれた。
そのあまりの容赦のなさに、入部当初の俺は密かに彼に“鬼”とあだ名を付けて、決して面と向かっては言えない愚直や悪口を心の中で吐き出したものだった。

だけど、そんな鬼のような彼が実はホラー映画が大の苦手だったり、ストイックな見た目に似合わず風呂上がりの楽しみはよく冷やした牛乳プリンだったり。――ちなみにこの牛乳プリンをこっそり他人が食べてしまうと世にも恐ろしい事態になるのだが、それはまた別の話である――
“先輩と後輩”という枠の中で交わされる他愛ない会話から時折覗く、そういう可愛い一面を見つける度に、俺は彼を好きになっていった。
そうして。俺がただの後輩から一歩踏み出して、いや、踏み外して、男で先輩の、そしてスパルタで有名な彼に告白をするまでにそう時間は掛からなかった。

10420-879受けさんはずるい大人です 2/3:2011/04/06(水) 22:51:17 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、かわいい人だった。
男から、それもヘタレの後輩から愛の告白をされて、彼は怒るでも軽蔑するでもなく、うろたえた。ただただうろたえて、「返事は少し待ってくれ」とか「気持ちはありがたいけど」とかごにょごにょ呟いて、ものすごく気まずそうに背中を丸めて去っていった。
――それからどうしてだか、返事を保留にしたままひたすらにぎくしゃくした気まずい三ヶ月間を経て、俺が諦めかけた頃に彼は俺を受け入れたんだ。
高校二年の春、彼と出会って一年の季節に、俺は晴れて結城さんの恋人になった。

それから四回の春を、俺たちは一緒に過ごした。
三年生の引退を前にした最後の大会、団体戦の準決勝で負けて初めて彼の涙を見た。高校を卒業するなり、イメチェンだとか言って金髪に染めてしまった彼を見て俺は肝を抜かしたっけ。
綺麗な黒髪の方が彼に似合っていたけど、傷んだ髪が汗でしっとりと湿るのを指で撫でるのも好きだった。
彼より一年遅れて俺が高校を卒業して、二人で安いアパートを借りて一緒に住んだ。結城先輩、じゃなくて結城さん、と呼ぶようになったのもこの頃だ。
俺が好きなビートルズの曲を彼が口ずさむようになった。真っ暗じゃ眠れないと言う彼に合わせて、俺は就寝前に部屋の明かりを弱く灯すことを覚えた。――抱き締めると、同じシャンプーの匂いがするようになった。
そうやって、俺たちはお互いのスタイルを少しずつお互いに馴染ませていった。そんな変化が楽しくて、愛しくて、これから何年だってずっとこうして居たかった。

10520-879受けさんはずるい大人です 3/3:2011/04/06(水) 22:53:41 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、ひどい人だった。
終わりは唐突で、説得や懐柔の余地すらなかった。
「もう飽きたんだ、別れよう。」
ありがちなセリフを涼しい顔で突き付けて、彼は荷物をまとめて出て行った。
昨晩までなんにも変わりなかったのに。数時間前ベッドの中で俺が欲しいといやらしくねだったのと同じ唇で、あんな、まるで壊れたテレビを捨てに出そうという風にあっさりと酷い言葉を口にして、彼は居なくなってしまった。
なにかの冗談かと思ったが、結局一日待っても帰ってこなかった。
着替えやこまごました日用品だけが持ち出され、二人分の家具がまるまる残された部屋で俺は途方に暮れた。
そのうち電話もメールも通じなくなって、そうしてようやく、俺は捨てられたのだと思い至り、遅れて押し寄せる怒りと悲しみで荒れに荒れたんだ。
一緒に暮らした日々は夢のようで、俺は彼の居ない日々を暫くバカみたいにぼんやりして過ごした。大学の単位落としたのはあなたのせいですよ、って毒づくくらいは許して欲しい。


――そうして、今日。
彼と別れて二年、出会ってから七年後の今日、手紙が届いた。

『あんな別れ方になって、ごめん』
『病気で、もう長くない』
『会いたいよ』
『まだ好きだ、ごめんな』
『もう、新しい恋人できたか?』

懺悔のように切々と綴られた長い手紙の内容は、飛び飛びにしか頭に入ってこない。
後悔と悲しみと、色んな感情が溢れ出しそうに詰め込まれた彼の言葉。彼が綴った言葉。

結城さんは、ずるい人だ。

――昨日、あなたの葬式でした。
棺桶の中の彼は痩せ細って高校時代のしなやかな身体は見る影もなくて、それでも二年間病魔と闘い切ったんだって、彼の母親は泣きながら気丈に笑ってた。
――ねえ、あなたはそれで満足ですか。俺から隠れて一人で闘って、それで良かったんですか。
友人に頼んで死んだ後なんかに俺に宛てて懺悔を送り付けて、そんだ回りくどいのはあなたらしくない。
どうして、傍に居させてくれなかったんですか。

聞きたいことも言いたいことも幾らでもあって、けれど彼がいってしまってから数日遅れで届いた手紙への文句は行き場がない。

結城さんは、ずるい人だ。

『思い出は、俺が持っていくから』
『俺を忘れて、幸せになれよ』

いっそこんな手紙欲しくなかった。いっそ、彼が死んだことなんて知りたくなかった。
そうすれば、俺はずっと彼を恨んだまま、あの幸せな夢に半分浸かっていられたのに。

彼とあまのじゃくと、俺のしつこさ。もしそこまで計算した上でのこの最後の言葉ならタチが悪すぎる。
――そうしてあなたは、俺の一生をゆるやかに縛り付けるんだ。

「……あなたは、ずるい人だ。」

呟いた言葉は、あの日と似た暖かな春の陽に溶けていった。

10620-899 俺が君を壊しました1/2:2011/04/10(日) 09:36:36 ID:xn461tg2
すえた臭いが鼻について離れない。悪いのは洗うつもりもなくおざなりにシンクに重ねた食器か、30分前にしこたま掻いた俺の汗か、それとも腹に絡んでかぴかぴに乾いた白いアレだろうか。
白昼から不健全に締め切った狭い密室だ。空気が淀むのは無理もない。
 あるいは、この酷い臭いは俺達の内側が腐り落ちている証拠なのかもしれないな。

 俺は汗で湿ったシーツに背をつけて、白い粉を鼻から吸って束の間の天国にトリップする男の白い背中を眺めていた。
 くたびれて色褪せた若草色のカーテンがずれて、昼下がりの陽光が光の柱となって裸の背に降り注ぐ。太陽に暴かれた部屋の埃がキラキラと反射して、むき出しの肩甲骨の輪郭を曖昧に照らしている。
「……天使の羽だ」
 ぼんやり呟いた言葉は、俺のやさぐれた精神状態を反映してか意図せず嫌味っぽい響きになった。
 腕を伸ばして、骨の浮くうなじをくすぐると気だるい瞳が鬱陶しげにこちらに振り向く。
「羽なんてもんが有ったら、とっくに神にもぎとられてるさ」
 ……ああ、ごもっとも。
 お前はジーザスも真っ青な悪事ばかり働いた。浮気にクスリ、盗みにエトセトラ、挙げ句は男と逃避行。そう仕向けたのは俺だ。
 まっとうの更に上を行く、完璧な人生を謳歌していたお前がこうなると誰が予想できただろう。今隣にいるのが生涯を誓い合ったマリアのようなあの女ではなく、ケツの穴にザーメン引っ付けて汚れたベッドに寝転ぶやさぐれた男だなんて。

10720-899 俺が君を壊しました2/2:2011/04/10(日) 09:38:55 ID:xn461tg2

 会話になるだけ今日のこいつはまだマシだ。この間なんて酒と睡眠薬をバカみたいに煽って本当に天に昇りかけて、こっちが冷や汗掻いた。
吐瀉物まみれのキスをして、お前の焦点ブレブレのいっちまった目を見たら、俺は哀れな男のありさまを笑うべきか悲しむべきか分からなくなって、半笑いでベソ掻いたままその痩せこけた身体を抱き締めたよ。

 一つ言わせてくれ。
 あの完璧な男が地位も家族もかなぐり捨てて禁忌の恋に落ちること、ここまでは俺の予想の範疇だった。
 男の瞳の奥で燃える情熱の炎に、気付くなという方が無理な話だ。
 けれど俺は忘れていた。ここはおとぎ話の世界じゃない。永遠に続くハッピーエンドなんてものは存在しなかった。
 ジーザス!お前が燃やしていたそれは愛の炎じゃない、猫をも殺すという何とやらだなんて。

「お前と出会ったのが間違いだった。ここは煉獄ですらない。何もない」
 そうだ、神を裏切って妻を捨てるようお前をそそのかしたのは俺。安い薬で最悪な現実逃避の仕方を教えてやったのも俺。
 ……だけど、ああ、そんなこと言うなよ。俺を選んだのはお前だ。
たとえ俺がどんなに汚い手でお前を誘惑してこの甘い地獄に引きずり込んだからって、最終的な選択権はお前にあった。

 なあ、良家に生まれたサラブレッドのおぼっちゃんよ。ちょっと冒険してみたかったんだろ?道踏み外した気分はどうだよ?
楽しかったのは初めだけ、なんて言わせないさ。
別れを告げて解放なんかしてやるもんかよ。

「お前が、お前が俺を……」
「……なあ、もう一回セックスしようぜ。最ッ高に気持ちいいヤツ」
 俺は、男が最後まで言葉を続けることを許さなかった。
 うつろな目なんか見ない振りで、呑気に嘯くなり力の抜けた男の腕を引き寄せて強引にキスを。
 宗教画か何かのように麗らかな陽光の中で、唇で触れた唇は血の気が抜けて冷たかった。マリファナ臭いキスは長く続かない。
「お前は悪魔だ」
「……愛してるよ」
 ――死が二人を分かつまで――
 抱き寄せた裸の腰をまさぐりながら、薄っぺらい愛の言葉に続けて冗談っぽくささやく。意味を理解しているのかいないのか、男はひどく投げやりな顔で小さく笑った。

10820-949 そんなつもりじゃ無いんだけど:2011/04/18(月) 12:00:02 ID:8qJINpj.
「だから、そんなつもりじゃ無かったんだってば」

さっき二人で歩いている時、不意に女の子を目で追った。追ってしまった。
何も意識は無かった。多分。

「……お前さあ」

つりあがった目をさらにつってギロリと俺を睨む

「お前さあ、俺に無いモノ求めるのやめてくれる。じゃあ、女にすればいいじゃんってさあ」

思うじゃん。
バツが悪いのか、はたまた俺の目もつりあがったのが判ったのか、
うつむいたまま絞るように付け足した

「だから、そんなつもりじゃなかったって言ってるだろ。町中の人間誰も見ちゃいけねーのかよ」
「そんな事……」

大きな声で半ば逆ギレみたいになった自分をひそかに反省する。
判っている。俺は男も女もいけるクチだから、俺もこいつも何か焦ってるんだ。
二人とも黙ってしまう。
何て言えば、ナカヨくできるのか。こんな変な喧嘩、早く終わらせたい。
だって――

「お前が好きなんだよ」

先に言われてしまい、何も言葉が出なくなる。

「女なんてさあ、勝てねーよ。俺おっぱいとか無いしさあ。髪とか……やわこく、ねえしさ」

さっきとは違う意味でうつむいたこいつに両手を伸ばす。
きつく抱き締めて、ぴょんぴょん跳ねる猫っけに頬を寄せた。

「俺も、お前が好きなんだよ」

低い嗚咽が聞こえる。
こんなヤキモチやいて、こんな事で泣くこいつが時々すげえ面倒だけど好きで、俺は、

「お前が好きで、女とか男とかそういう事じゃなくて、すっ……好き、で、
 それから、どうしようもなく好きで、好きで……好きで、俺……どうすればいいのかな。
 俺、頭悪くてさあ」

相手のすすりに合わせて俺の目にも涙がにじんだ。
――しばらくこのままで居ればいいんだよ。このバカ。
そう答えられた時には、ひと粒ふた粒こぼれていたけど。

10921-9 敬語ガチホモ×関西弁ノンケ:2011/04/22(金) 23:51:15 ID:.3YfQWKU
「栖本さん、お願いですよ」
「いやです」
できるだけそっけなく言ったつもりだったが、彼はひるんだ様子もない。
むしろ、どこかうっとりとも見える表情で小さなため息をついて、
「まあ、そういう……ね、そんなところも、また」
と意味のわからぬことを言った。

坂下さんのお願いは何度もされたからわかっている。俺の「大阪弁」が聞きたいというのだ。
「大阪弁じゃないです、兵庫のほうですから。それも、俺のは相当おかしいですよ」
俺の母は、兵庫を離れこの地に嫁いでも関西弁を忘れなかった。
その言葉で育てられた俺は、酔った時だけ関西弁になるらしい。
「忘れられないんですよ、あの夜の栖本さん」
坂下さんが耳元でささやくように声をひそめる。
なんだかやらしい雰囲気に、耳がこそばゆい。

関連会社の坂下さんとは、先般一緒になった企画の懇親会で初めて飲んだ。
それまでも気が合う人だなという気がしていたが、飲む相手としてはまったく申し分なかった。
もう一杯、もう一軒、と飲みすすむうちに人数も減り、気安いカラオケになって。
「ええやん、歌うてよ。俺、坂下さんの美声がもっと聞きたいわぁ」
「もう歌いましたよ、栖本さんこそ何かどうぞ」
「俺もう喉がらがらやもん、さっきの坂下さんの平井堅めっちゃよかったわ、アンコール! アンコール!」
「ネタ切れです、あとは下手ですよ」
「じゃ、おんなし曲で許したるよ。聞きたいなー! 坂下さん、ものすごタラシっぽい歌い方なんやもん」
……思い出せばまさに傍若無人な酔っぱらいっぷりに顔が熱くなる。
でも、そのときは許される雰囲気につい気を許してしまったのだ。
坂下さんは「しょうがないなぁ……」と苦笑いして、
「栖本さんにそんなふうに言われたら断れませんよ」
と2回目の『POP STAR』を入れてくれた。

「栖本さん、お願いがあります」
翌々日、仕事で顔を合わせた彼が切り出したのが「僕には大阪弁で話してほしい」というものだった。
「酔ったときしか出ないんです。それにずいぶんおかしな関西弁ですから恥ずかしいです」
そう断ったのだが、なかなか引き下がらない。
しばらくは仕事で夜が遅いものだから、もう一度飲みに行くことも当面はない。
打ち合わせをしながら、原稿をチェックしながら、仕事の合間にコーヒーを飲みながら。
気づくと、探るような目で見られていて、期待されている。
……なんでそんなに俺に関西弁をしゃべらせたいんだろう。

いつの間に。いったいいつの間にこんなことになったのか。
坂下さんはとても手慣れていて、明らかに初めてではなかった。
もともとこういう嗜好の人だったのだと、俺は今更ながらに気がついた。
「成功です」
距離の近い人だと常々思っていたが、今はもっと近いところで俺の耳に唇をおしあてる。
「なにが?」
身じろぎしようにも、汗にぬれた体は密着してくっついてしまって。
「成功って言われても俺、もう最後のほう、ようわからんようなってたけどあれでよかったんやろか……」
「やっと俺の手に落ちてくれた、ってことですよ」
「なにそれ! そんなんちゃうよ!」
「栖本さん、今可愛い関西弁じゃないですか、それが成功の証です」
「そんなん……俺、変やからいやや。大丈夫、元に戻します」
「ああ、そんなのだめ、だめです、苦労したんですから」
とがめるような小さなキスが降りてきて、俺を黙らせた。
「……ずっとコンプレックスだったから、家族以外には話し慣れてないんだ」
実際、しゃべれと言われてしゃべるのもおかしなものなのだ。どうしても言い訳してしまう。
でも。
「……でも、おかしくてもええよって坂下さんがゆうてくれるのが、俺、ちょっと、ほんま、なんていうか」
「おかしくないですよ、可愛いですよ」
坂下さんは何度もキスをくれながら言った。
「気づいてませんか? あなたの関西弁は、心を許してくれてる証拠です」

11021-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ1/2:2011/04/24(日) 21:50:02 ID:nMXjMxHg
彼女と別れてヤケ酒。二日酔いでガンガンする頭を抱えながら出勤退社。
その後ブラック・アウト。記憶なし。

気付いたらベッドの上で、傍らには短い黒髪にガタイの良い男。
意識が落ちる瞬間、誰かに抱えられた気がしたが、なるほどこの男なら有り得そうだ。
黒いタートルネックセーターとベージュのパンツで実にシンプルな装いだが、派手では無いがそれなりに整った顔立ちと長身とがあいまって、同性から見ても凄く良い男に見えた。―――その時は。
「あれ…俺、ここは…。」
「あ、気が付いたの?覚えてるワケないと思うけど倒れてたんだよ君。ここは俺の家。」
「倒れたって…。」
「インフルエンザで。凄い高熱だったけど自覚なかったの?」
確かにヤケ酒する前もなんだかムカムカしてた気がするけど、まさか出勤停止命令が出るほどの病にかかっているとは思わなかった。聞けば、既に病院に連れて行ってもらった後らしい。有難い。
「すみません…、初対面…なのに、ご迷惑…おかけして。」
「気にしないで〜あ、そうだ。まだダルイだろうけど食後のお薬貰ってきてるし、何かお腹に入れとく?」
お世話になりっぱなしで悪い気がしつつも、確かに腹は減っていたのではい…と答えるとものの5分程度でお手製の卵粥と卵酒が出てきた。病人に酒…と若干及び腰になったが
「ええ〜、いいんだよ〜卵酒!身体あったまるし、ぐっすり眠れるんだよ!」
俺はダウンした時はいつもコレ!と、ストイックな見た目に反して朗らかに笑う彼についつい頷いてしまい、結局どちらも美味しく頂いてしまった。
その後は卵酒のお蔭か薬のお蔭か本当にぐっすり眠りに落ちたようで、朝目覚めると全快とまではいかなくても起きて歩ける程度には回復していた。とりあえずお暇しようと、丁重にお礼を言い是非お名前と連絡先を、とお願いすると
「名前は薫。えーと、連絡先は…あ〜、仕事用の名刺しか無いわ。」
ま、いいかコレで…と渡された名刺を見て俺は仰天した。それもそのはず。名刺右上には可愛らしいピンクの丸ゴシック体でショーパブ・KAMAKAMA姫とあり、そして真ん中には黒の明朝体でドデカく…
「源氏名はカオ☆リンっていうの。君可愛い顔してるし良いカラダだったから、むしろ楽しくお世話させてもらっちゃって、こっちが有難う〜みたいな〜!?本当に今回のことはお礼とか全然気にしなくてもらって良いんだけど、良かったらお店の方に顔出してくれると嬉しいかなぁ〜なんて!」
勿論可愛いお友達もいたら一緒にネ!と朝早くからテンション高く巻くしあげられてあっけにとられた俺は、あいさつもそこそこに茫然としたまま薫さん宅を後にした。

11121-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ2/2:2011/04/24(日) 21:50:52 ID:nMXjMxHg
―――カランカラン♪
「アラ〜〜〜〜!いらっしゃい!キャアアア可愛い子!」
「ホントだわ〜!ハンサムだわ〜ハンサムがきたわ〜!しかもタッパもあるしマッチョよぉ〜!」
キャッキャと薫さんと同じ人種の方々に手厚い洗礼を受ける。肉厚な腕や脚に阻まれて前に進むことすらままならない。いきなりの激しいスキンシップに涙目になり踵を返しかけた矢先
「あら、ヤダ…その子!」
聞き覚えのある朗らかな声色。彼だ、薫さんだ!
俺は期待に胸を膨らませ顔を上げた。
そこに立っていたのは、ブロンドの長い髪にブルーの瞳の背の高い美しい人だった。
「薫…さん…?」
「ここではカオ☆リンって呼んで欲しいな〜。ちょっとそこのオンナども、この子はもう私がツバつけ済みだから散りなさいよ〜!ほらシッシッ!」
俺を取り巻いていた人々はなによぉ〜またカオルの新しい客ゥ?と口ぐちに文句を言いながら離れて行った。そしてすぐに俺の腕にスルリと絡まる新たな腕。
「…一カ月ぶりかぁー。もう忘れられたのかと思っちゃった。来てくれたのね〜嬉しいわ。」
「そんな…ずっと忘れられませんでした…、薫さんを…。」
俺の瞳の奥に映った熱を感じ取ったのか、薫さんは少し目を細め、それからニコッと営業スマイルを浮かべた。その切り返しは玄人のソレだった。
「やぁ〜〜〜だぁ〜〜〜!アタシ口説かれてるゥ〜!?」
その大声に周囲から、「調子にのんな〜一見専門!」「ハンサム君〜!そのオンナ元警官のバリタチだから気を付けなよぉ〜!」とそこらかしこから罵声が飛び交う。
その罵声を背にクスクスと笑いながら、薫さんは俺の腕を引きながら店の奥へと歩を進める。俺より体格が良く、今はヒールも履いているせいで更にリーチの長い薫さんの歩幅になんとか付いて行く。
「薫さん…俺…。」
「フフッ、アタシ人気者だからすぐ嫉妬されるのよネ〜!見苦しいわよね〜オンナの嫉妬って!」
「あの…俺…!」
俺が次の言葉を紡ごうとした瞬間、グイッ!と強い力で腕を引かれ俺の身体は個室のソファに深く沈んでいた。息つく間もなくその上から薫さんが少し大胆な格好で俺に覆い被さってきた。
緊張の汗でソファの背もたれに全身がくっ付くような心地がしてくる。
「薫さ…。」
「和男。俺に惚れたら…抜け出せなくなるよ。」
いいの?と耳元に寄せられた薄い唇からの息遣いを感じて全身の力が抜けて行く気がした。

11221-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ:2011/04/24(日) 22:00:13 ID:nMXjMxHg
コピペミス。2/2の冒頭に
−−−−−−−−
でも、気付いたら。俺は居た。
例のショーパブの前に。
ここ一カ月ほど、俺の中ではあの日のことを悪い夢だと思って忘れるか否かという葛藤があった。でも無駄だった、あの強烈な印象を残した薫さんの魅力の前では。
薫さん、あなたにもう一度会いたいです。そのためなら―…勇気を出して扉を開く。
−−−−−−−−
という文章が入ります。
スレ消費申し訳ありません。

11321-69 本屋の店員×BL本を買う常連 1/2:2011/04/27(水) 14:15:54 ID:PTZorNgw

「……これをお探しですか?」

勇気を振り絞って声をかけると、棚の前にいた男性は驚いた顔をこちらに向けた。

「そう……だけど」
「やっぱり。今、そこの平積みスペース空になってるでしょう。実は午前で完売しちゃったんです。これは、慌てて取り寄せた補充分で」
「なんで分かったの?」
「え?」

男性の目には、戸惑いの表情が浮かんでいた。
その視線に、今更ながら我に返る。
そうだ、確かに、書店のたかがバイト店員が客の買う本をここまで熟知しているのはおかしい。
……この店員が彼の買った本をあとから追いかけて読んでしまうぐらいに、この客に思いを募らせてでもいなければ。

「えーと、それは」

思わず目が泳ぐ。どうしよう、何か納得のいく理由を探さなければいけない。
好かれなくてもいい、せめて不審に思われずに、嫌われずにこの局面を乗り切るアイデアを。
アイデアを……

「……僕も、この人の作品が好きだからです」

言ってしまった。
その言葉に、男性は「えっ」と呟いたまま硬直する。
無理もない。なぜなら、お客さんが探していたこの本は、自分が今堂々と好きだと言ったこの本は、ボーイズラブだからである。

11421-69 本屋の店員×BL本を買う常連 2/2:2011/04/27(水) 14:17:42 ID:PTZorNgw
「……毎月この人の作品が載った雑誌を買って行かれますよね。新作が出たら、それも必ず。僕もこの作家さんが好きだから、ちょっと印象に残っていたんです。ほんとに、それだけです」

ほとんど嘘は言っていない。強いていえば、この客の顔を覚えるのとこの作家にハマるのと、その順番が違うだけである。
実際、「一目惚れの相手が何を読んでいるのか知りたい」という好奇心から読み始めたものだったが、今では自分から新刊を予約するぐらいにはのめり込んでいた。

「だって、なかなか引き込まれるものがありますよ、この人の文章。心理描写が巧みで、設定にもリアリティがあって……」
「そうかな」
「そうですよ。特に、最新刊の書店員と客の話!同じ書店で働いてる身としては、尚更臨場感があってドキドキさせられました」
「それは、うん……よかった」
「他にも……」

と、そこまで話してから、ふと男性の顔が見たこともないぐらい赤くなっているのに気が付いた。
僕は息を呑む。
しまった。またやりすぎた。
元々、レジに人が少ない時を狙ってこっそり本を持ってくるような人だった。
同好の士とはいえ、こんなコーナーの真ん中で長々とこんな話に付き合わされたら相手だってたまったものじゃないだろう。

「ご、ごめんなさい、少し喋り過ぎました。これ、お探しのものはお渡ししておきますので、あの、よろしければ、また……」

単行本をぐいと押し付け、その場を離れようとする。
と、何故かその腕を男性の手が掴んだ。

「ここで」
「え?」
「ここで、こんな話ができるとは、思ってなかった。……あなたとも」

遠慮がちに掴まれた腕に、湿った体温がほんのり伝わる。
男性は耳まで赤くしながら、すがるような視線をこちらに向けた。

「こんなことを言うと、おかしいかもしれないけれど……また、来てもいいだろうか」

僕がこの急転直下の超展開に、どう答えたかは覚えていない。
ただ、嬉しさで頭がパンクして、持っていた伝票の束をばさばさとぶちまけたことだけは確かに記憶している。



それから、彼は前よりも高い頻度でこの店に現れるようになった。
彼と僕が、実はお互いに片思いをしていたことを知るのは、この少し先の話である。
それから、巧みな心理描写とリアリティ溢れる設定で僕をすっかり虜にしたBL作家が、
実際は口べたで照れ屋な書店の常連客だったことを知るのも、また先の話である。

11521-79 某トキ保護センターのトキ(♂)×トキ(♂):2011/04/30(土) 01:41:43 ID:FpaaWojA
「貴方が好きだ」
「やめろ。忘れたのか。我々には一族の復興という指名が」
「では貴方は愛してもいない女との間に無理に子を成すつもりなのか」
「違う。私も君もいつか愛する女性と」
「無理だ」
「何故」
「第一に、僕は一生貴方しか愛せないだろうし、
 第二に、貴方は僕を誰にも渡したくないだろう」
「な、私は」
「交尾なら僕とすればいい。僕は下でじっとしているから、貴方の良いようにしたらいい」
「そんなのは非生産的だ」
「愛が有る」
「使命は」
「種を残すことだけを目的として生を終えるつもりか」
「・・・」
「僕たちにだって誰かを愛する権利があるはずだ」
「・・・」
「僕は貴方が好きだ」
「・・・」
「・・・貴方に、・・・貴方に拒絶されたら、僕は、衰弱して死んでしまうよ、・・・」
「・・・仕方ない。私の負けだ。こっちにおいで」

***

「あの2匹、仲良いッスね、先輩。交尾して卵産んでくれると良いですね」
「あー・・・卵は無理かな」
「?」
「両方、オスなんだ・・・」

本来なら、あの2匹を別のゲージに引き離すべきだろう。
しかし、俺にはあの2匹の気持ちが痛いほど解ってしまうのだ。
鳥が人間のような恋愛感情を持っているのなら、の話だが。
後輩の微妙な表情を眺めながら、俺は途方に暮れた。

116ヤンキー君とメガネ君 1:2011/05/05(木) 19:07:02 ID:bTBpqkNg
屋上に来たのは初めてだった。
「げっ風紀??、何で」
多分彼、沢良(さわら)が壁際の死角にでも座り込んでいて、そういう事をしてるだろうと
今まで殆ど接触も無かった僕にすら想像出来る形で、やっぱり彼はそれをしていた。
「未成年の煙草は厳禁+校則違反レベル10因って」
「消す消す消す!ってか、何で品行方正なお前がこんな所いる訳?」
「今のは見なかった事にする・・・今そんな気分じゃないから」
溜息を吐きながら当初の目的だった彼に近づいた。
彼女のあんな告白を聞きさえしなければ、僕はこうして正反対のタイプの彼に会いに来る事なんて無かっただろう。
初めての屋上で感じる風はかなり冷たく、頭を冷やすには丁度良い場所だった。
「ふうん、じゃあまあ美味い空気でも吸っていけよ」
どこが美味い空気なんだか。沢良の周りは咽返るような煙草の匂いで充満している。
少し息苦しく感じ、手すりに凭れる形で壁際の沢良と少し距離を置いた。
彼は黙ったままで、相変わらず風紀委員の僕の前で煙草を吸い続けている。
沈黙に促される様に僕は、整理出来ないままの気持ちを呟き始めた。
「同性を好きになる気持ちって、分からないんだ全く」
風と一緒に煙が流れていく。一瞬だけ視線をこちらによこし彼はふう、と煙を吐き出した。
「両想いになれるなんて思ってない、クラスには男らしいヤツも多いし、僕には高嶺の花だって
事は分かってた。でも」
「ま、さ、か、女に取られるとは思ってなかったって訳だ」
新しい煙草に火を点けながら沢良が急に口を開いた。
「え?・・・それどうして」
「さっき言ってたじゃん、同性を好きになる云々。因みに相手はミサキでお前の好きなのが都築だっけか」
「ちょ!何でそこまでっ」
「マジ?当たり?さっすが俺!」
「・・・流石、ホモ」
僕が呟いた瞬間沢良が地面で乱暴に煙草の火を消し、立ち上がった。
「あんな、ホモじゃなくてもそれくらい分かる。俺ナリはこんなだけどその分、ガッコの勉強だけして
んな分厚い眼鏡かけてるお前より、酸いもしょっぱいも経験してんの!
・・・後俺ホモじゃなくてバイってか両刀」
ヤニ臭い息がかかる程顔を近づける沢良に、僕は仰け反るような格好になる。
「指指すなよ、後目が悪いのは遺伝、それから・・・え?両刀?!」
「そ、男女問わず気に入ったらカモーン。人呼んで恋愛の達人様だ、何ならお前の」
「茶化すなよ!」
思わず感情を吐露してしまった自分がとんでもなくみっともない。
いくらコイツが自分で周囲にもカミングアウトしてる奴で、気の迷いで会いに来てはみたものの、
やはり僕との共通点なんか無い。立ち去ろうと踵を返し始めた時、
「で、お前は、何に悩んでるんだ?都築に告る事か?それとも、自分が好きな相手が同性愛者(レズ)
だったと言うショッキングな事実か?」
いつの間にか真横に来ていた沢良が、急に声のトーンを低くして僕に視線を合わせそう言った。
「え?・・・そ、それは」
「前者なら俺は迷わず今からお前を都築の元に連れて行く、んで強制的に告らせる」
「こ、後者なら・・・」
相手の剣幕に負けじと、自分を落ち着かせる為に僕は眼鏡のフレームを押し上げた。
その瞬間分厚いレンズのすぐ前に映ったのは初めて見るクラスメイトの姿。
「好きになっちまったんなら仕方ねえじゃん。同性であろうと何であろうと」
僕を真っ直ぐ見てそう言う沢良の表情は少し泣きそうで、それを誤魔化すかのような
悪戯っぽい作り笑いは、反対に僕の疾しい気持ちごと胸をぎゅっと押え付けた。
今の一瞬の顔で、少なくともコイツが今までどれ程自分の性癖で辛さを味わって来たか
それを僕は分かってしまった。

117ヤンキー君とメガネ君 2:2011/05/05(木) 19:08:01 ID:bTBpqkNg
「・・・ごめん」
「何が?お前まさか同情してる?やめやめ、少なくともお前が俺と同じおオホモダチ
にでも目覚めたら、俺の方が同情してやるよ」
「それは、無い」
「だろ、じゃあ悩む事じゃねえ。都築もミサキも良いオン、いや俺と違って立派な人間だ。
お前はその片方に惚れてる。ほら頑張んねえと、この立派なモンで証明してやれって!」
そう言って沢良の片手が俺の然程立派とは思わないモノを、一瞬掴んだ。
「ちょ、このセクハラ変態両刀使い!!」
「だからぁ、恋愛の達人様だっつ」
そう言いながら沢良は満足そうにまた煙草を咥え始めた。
いつの間にか胸のつっかえが取れ、僕には空を見上げる余裕が戻っていた。
だから歩き始める直前足を止める。お前も立派じゃなくはないと言う代わりに。
「おい両刀沢良」
「にゃい(何)?」
「煙草本当に身体に悪いから、控えろよ。それにそんな不味いモノよく口に」
最後まで注意し終われない内に腕を捕まれ、唇越しに煙を吸わされていた。
初めて予期せぬ形で吸わされた煙草は予想以上に肺に苦味と苦痛だけを広げ、
ゲホゴホと何度も咽返り涙と鼻水でレンズが滲んで前が見えない。
「講習料。泣けるくらい良い話だっただろ」
「ば、ゴホっ馬鹿やろっ!は、初めゲホっ初めてだったんだぞ!!それに、風紀がこんなに
煙草臭くて・・・もう色々どうすんだ!」
ハンカチを取り出しレンズを拭く。裸眼では焦点が合わないかも知れないが睨まずにはいられない。
「お前・・・」
「何だよ変態」
「いや・・・・・・・・・やべぇ、かも」
「今度そんな姿見つけたらペナルティ倍だからな!」
そう言い聞かせ僕は屋上を後にした。多分立派に玉砕しに行く為に。

直後、今度は屋上に残り未だ赤面した沢良が悩む番になる。
「初めてって・・・煙草、だよな?でもあの表情は・・・それにキスした事は嫌がってたっけ?
え・・・マジやべ、てか俺既に玉砕??」

11821-139 ヤンキー君とメガネ君 2:2011/05/05(木) 19:10:52 ID:bTBpqkNg
>>116>>117です。
すみません21-139です。番号付け損ねてしまいました。

11921-139 ヤンキー君とメガネ君:2011/05/05(木) 19:46:19 ID:S1xKuA2M
「ァンダマェ! ォンクアンノカゥラァ!」
「え、何? 僕? 僕に向かって言ってるの? うわ、目があっちゃった……参ったなぁ……」
「オゥ! ガンツケトンノカワレァ! ァニミトンジャコラァ!」
「おいおい、僕は何もしてないよ……ほーら、僕は君のことなんか見てません」
「ァニツッタッテンダコラァ! サッサトムコウイケヤッテンダォラァ!」
「はーいはいはい、大丈夫、見てないからね……っしゃ、捕まえた!」
「ウッコラキサッ……ッニシヤガルンダハナセ! ハナセッテイッテンダロガゴラァ! ナメトンノカ!」
「おーよしよし、大丈夫だからね……あー……やっぱり怪我してる、けんかしたのかな」
「タッ、タッ……ッテェーヨサワンナボケェ! テメェニハカンケーネーヨ!」
「泥が入り込んでる洗わなきゃだめだよ、よしよし」
「ッテェー! ツメテッ! ヤメ! コノ!」
「あいた!……もう、手当てしてやってるのに、悪い子だな、仕方ない、無理矢理するよ?」
「アッ、バカ、ハナセッテンダロ……アッ、アッ……テメエ、バカ、イテェ! バカヤメロ!」
「傷をよく見せてね……」
「バカ、ミンナ、ミンナヨ、アッ、サワンナッツッテ……アッ!」
「よし、これで大丈夫、はい、もういいよ」
「アッ……コッコラ、ザ、ザケンナコラナメンナヨコラ! ナグンゾコラ、ナメタマネシテット……」
「真っ赤になっちゃって。怒ってるの。それとも照れてるの?」
「……ッ! オ、オ、オボエテヤガレゴラァ!……」
「……あーあ、逃げちゃった。いじめたわけじゃないんだが。
 弱って怪我してる生き物はほっとけない悪いくせ、いい加減治さなきゃ。もうこれ以上犬も猫も飼えないもんね。
 しかし……荒んじゃって赤い毛並みもボサボサだけど、磨けば光る予感? なんてね……人間まで拾っちゃったら、洒落にならない」

12021-139 ヤンキー君とメガネ君:2011/05/05(木) 20:59:28 ID:U7sl5gLA
「わりぃな。すぐ返すから」
嫌がるメガネ君の懐から無理やり財布を抜き取り、金を抜く。
返した事は一度もなかった。アイツはいつも何も言わずに泣いていた。男のくせに。
***
「またメガネ君から金とったのかよ。悪い奴だね」
ギャハハと笑って煙草の火をつけながら東が言った。
「だってアイツうぜえし。金もってるし」
俺の手にはビール。堂々制服です。はい。
「メガネ君、家に金なんかねーだろ」
「んな訳ねーだろ。現に持ってるぜ」
「いや、その金ってさあ…」
東が何か言いたそうにしていたが、
道路の向こう側に先公が見えたので俺はすぐに立ち上がった。
「こら!お前ら!」
「うわっ、北野だ!やべっ!」
逃げようとしたが、東は悠然と座って俺をひきとめた。
「平気、平気。北野センセエお疲れ様でーす」
ニヤニヤしながら東は手に持った携帯を北野に振りかざした。
北野は苦い顔をして何もいわずにその場を去った。
「ほらな」
「すげえ。なんか弱みでも握ったの?」
「へへ。そりゃあすげえネタよ」
「なんだよ、すげえネタって」
「おまえには見せちゃるか、ホレ」
携帯を差し出された。そこにはゲイバーで痴態をひけらかす北野の姿があった。
「マジ?コレ北野?」
「いとこが新宿二丁目でバーやってんだよ。アイツ、ホモなんだぜ。しかも、かなりの変態」
「ゲーッ」
「サドッ気があるから、他の客が逃げるって、いとこが嫌がっててさぁ」
「…やべ、想像しちった」
「で、さっきのメガネ君。北野によく呼び出されてんじゃん。部屋から出た後、執拗にうがいしてるっしょ」
「あー…」
「内申点目当てだと思ってたんだけど、金持ってるなんておかしくね?
メガネ君体育休むことも多いし。見せたくないもんが体にあるんじゃないのお?」
「ヒョロだからだろ」
「マジ援交の金だったらどーすんの?」
「男だし。お前の妄想につきあってらんねーし」
「メガネ君かわいそー」
ゲラゲラと東は笑っていた。
***
数週間後、俺は目の前の携帯の画像を見ながら、ない頭で考えている。
なんで俺はふたりの後をつけていったんだろう。
なんで、二人の情事を写したんだろう。

メガネ君はいつもの通り校舎裏に来た。
袋に入った金を渡したら驚いて顔をあげた。
借りた金だと言ったら、自分が渡した金より多いと言った。利子付きだと言って押し付けた。
***
「おまえ、最近メガネ君に声かけないねえ」
「かける理由がないし」
「北野は飛ばされちゃったし。
いい気味だけど、水戸黄門の印籠が効果ある奴がいなくなったのは痛いなぁ」
「まーな」
「新しいカモ見つけないんか?」
「いらねえ。北野で最後」
「もったいねー」
「そろそろ堅気になろうかなぁ」
「らしくねぇこと言うなや」
東がまた笑った。
「おまえメガネ君泣かせんのが好きだったんっしょ?」
「妄想好きだな、お前」「本当に泣かせたのは失敗…」
それ以上言わないように、俺は東にヘッドロックをかけていた。

12121-149 *9×*8:2011/05/06(金) 17:33:04 ID:dArqL44A
時間内だけど書き込めないのでこちらで…


「君はどうしていつも僕に尽くしてくれるんだい?何の得もないのに」
「か、勘違いすんなよな!俺は別にお前の為にしてるんじゃない。単にMなだけだ!」
「でも、初めてだったり、ちょっと不安そうにしてたりするじゃないか」
「プレイの一環だ。ちゃんと女王様キャラの時もある」
「僕の為にいつも踏み台になってくれる君を見るたびに、僕は…」
「やめろ!お前は自分の欲望を晒け出しながら、俺を踏めばいいんだ!」
「君はルールの中でしか自分を解放出来ないんだね…わかったよ」
「ふん、わかればいいんだ。さあ、さっさと踏め。いつものように欲望をぶちまけろ」
「*9×*8」
「なっ…」
「これならいいんだろう?」
「お前…何考えて…」
「今度こそ、君は僕のものだ」

12221-239 メントス×コーラ:2011/05/14(土) 01:50:45 ID:eyePq64A
「なあ、メントスロケットやってみねぇ?」
ずいぶん長いこと飲料コーナーを見つめていると思ったら、南条はそんなことを言い出した。
昼休み、このクラス一馬鹿な男に「頼むこのままじゃ赤点一直線なんだわ何とかしてくれ」と泣き付かれ、
学校帰りに塾へ行く代わりに奴の家で勉強を教えてやることになってしまった。
そして奴が「甘いモノ無かったら勉強できない」と主張するので、二人してコンビニに寄ったところである。
「何だよメントスロケットって」
見るからに「いい悪戯を思いつきました」という顔をしているし、どうせ碌なことではないのだろうと思いながらも、俺は一応聞き返した。
「なんか、コーラにメントスいれて振りまくってから地面に叩きつけたらメチャクチャふっ飛ぶんだって。
 これって化学実験じゃね? 勉強にならね? 四宮もやってみたくね?」
やはりというか想像以上にくだらないことだった。
「そんな食べ物で遊ぶようなことをしていいと思うのか」とか「お前はそんな阿呆なことしか考えてないのか」とか
「俺はお前と遊ぶために塾サボったつもりじゃない」とか、言いたいことが一瞬で沸き上がってくる。
だが、やつがあまりにも期待に満ちた眼差しを向けてくるので、
結局「コーラもメントスもお前が買えよ」としか言えなかった。

南条曰く「さすがに住宅街でこれやる度胸はねーわ」とのことで、俺達は南条家近くの河川敷に足を伸ばした。
かなり河口に近い場所で、横を見れば遠くに水平線が見える。キラキラと光る水面、その上を渡る鳥たちの声。ああ、なんか、
「いい場所だろ?」
ハッと振り返ると、南条がニヤニヤしていた。随分呆けた顔をしてしまっていたのだろう。
「うん、まあ……俺んちの近所、川とかないし」
顔が赤くなるのを感じながら答えると、奴は何故か満足そうに頷いた。
「やっぱり! 四宮ぜってー自然見てねぇだろうなーって思ってたし! だからそんなに疲れちゃったんじゃね?」
「え?」
頬の紅潮が一瞬で止まる。俺の変化を見て取ったのか、南条もなにやら気まずげな表情になる。
「わりぃ、何でもねぇわ。――それより早くロケットやろうぜ。お前振る係な、ちょい待ってて」
ことさら明るく言って、南条はレジ袋をあさり始めた。

12321-239 メントス×コーラ 2/2:2011/05/14(土) 01:51:39 ID:eyePq64A
俺が疲れていると南条は言った。
親にも教師にも他の友人にも言われたことがなかったし、自分でもつい最近まで思ってもみなかったことだ。
馬鹿のくせにこういう勘はやたら鋭い奴だ。
勉強だとか優等生キャラでいることだとかは、学校生活の上では必要なこと。不満なんてない、あってはいけない。
そう信じて過ごしてきた。
なのに、南条と同じクラスになって、何かと話すようになって、
いつの間にか不満とか欲とかを抑えるのが、前よりキツくなっていた。
塾をサボったのは、南条のせいじゃない。俺がサボりたかっただけだ。いや、間接的には奴が原因かもしれない。
悪い仲間に誘われて云々ではないが、俺を変えたのは間違い無く南条だから。

「さー振って振って!」
既にシュワシュワと泡が吹き出しかけたペットボトルを渡される。ボトルの内側、コーラの中でメントスが暴れまわる。
このひと粒ひと粒が泡を生み出しているのか。俺の精神状態を無茶苦茶にしている、南条みたいに。
無心になってシェイクしていると、その南条が「さすがにもういいんじゃね?」とボトルを取り上げた。そしてわずかに蓋を緩めると、
「どりゃあっ!!」
思いっきりその場に叩きつけた。
次の瞬間、ペットボトルが宙を舞った。大量の泡とコーラを撒き散らし、一瞬のうちに斜め前方の土手に突っ込んでいった。
「ぎゃははははは!! マジで飛んだよ、見たよな四宮!」
コーラまみれで心底愉快そうに笑う南条を見た途端、胸を締め付けられるような感覚に襲われ、俺は思わず俯いて眼を閉じた。
これ以上、奴を見ちゃいけない。声を聞いちゃいけない。奴に関わっちゃいけない。
これ以上奴を心のなかに入れてしまえば、俺は全て溢れさせてしまう。
無視したかった感情も隠したかった本性も、何もかもを吹き出しながら、あのコーラみたいにどこかへ飛んでいってしまう。
そして何より、そうやって南条に飛ばされてしまうことを何処かで期待している自分が怖い。
「あー、コレ動画撮っときゃよかったな――って、あれ、四宮?」
ひとしきり笑い終えた南条が、こちらを向いた気配がする。けれど顔を上げられない。
今もし奴の顔を見たら、きっと俺は泣いてしまう。
「あ、制服……わりぃ、まさかここまでヒドいことになるとは思ってなくて……」
俺のびしょ濡れのシャツを見たらしい南条は、我に帰って謝ってきた。
この馬鹿とは違って薄々予想はしていたが、俺と南条の全身は噴射されたコーラまみれだった。さっきからベタついてしょうがない。
「マジごめん。俺んちで洗う? あ、その前にペットボトル回収しねぇと、あー結構大変だなコレ」 
こいつに関わっちゃいけない。こいつを受け入れてはいけない。頭ではそう分かっているのに、
「――制服乾くまで、みっちり勉強してもらうから」
奴に背を向けながらもそう言ってしまったのは、俺達にまとわりついたコーラの甘ったるい香りのせいだと、信じたい。

12421-249 何が不満か理解できないよ:2011/05/15(日) 11:39:37 ID:AYLxorG2
わからないんだ。何故君が、そんな顔で首を振るのか。
ずうっと悲しそうな顔をするのか、ぼくには。
「どうして?」
そう訊くと君は後ろめたそうに俯いた。ああ違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。
「責めてるわけじゃないよ…」
単純な話で。ぼくは君に笑っていてほしいんだ。それだけの理由でぼくはここにいる。
「何にもいらない。ぼくはただあげるだけ。捧げるだけ」
ぼくは君にできることすべて、してあげたいと思う。愛したいと思う。
愛されたいとは、思わない。
君には日の光のように愛情を受けていてほしい。世界で一番愛されるものであるべきだ。
君は負担に思うことなど何もない。ぼくがしたいだけなんだから。
「君は、それを受け取るだけでいいんだ」
なんなら打ち捨ててくれて構わない。それで君が笑うなら。
愛させてほしい。君が愛するのがぼくでなくても。
笑ってほしい。それがぼくのためでなくても。
「だから君を愛することをゆるして」
ぼくはぼくの夢を君の足元に広げるから、どうかそれを踏んでくれ。
必要なのはそれだけだ。君は愛されてくれるだけでいい。
「だめだ、いけない」
なのに君はぼくの愛情を拒む。そんなに顔を曇らせて。
…何が不満か理解できないよ。
ただ、君が今苦しそうなのがぼくのせいだってことは痛いほどわかる。
ぼくは君に、笑っていてほしいだけなのに。

12521-269 俺様とおぼっちゃま:2011/05/17(火) 14:29:08 ID:nBtGux6Q
投稿しようとしたら規制で書けなかったのでここに!

「あーぼっちゃん、待ちくたびれましたよ」
校門の前に黒のリムジンが止まっている。父親の運転手が帽子を扇ぎながら立っていた。
「何で君がいるの?」
「お父様が久しぶりに一緒に食事したいと。乗ってください」
僕の今日の予定は、この後着替えて友達とカラオケに行くつもりだ。
「断ってください」
意味分かんないし、と言う前に彼は僕をはいはいと座席に押し込める。
恥ずかしい。これじゃまるで僕が愚図る子供みたいに見えてしまう。
「せめて校門の前に止めるのやめてくれないかな。皆が見てるよ、みっともない」
「何が? むしろ自慢でしょう。イケメン運転手付きベンツのリムジンに乗れる高校生はそういない」
車は有無を言わさず走り出す。
帰宅中の奴らが狭い路地を滑らかに進むベンツを、目を丸くして見ている。
「あーあつまんねー!」
わざとらしく呻いてみた。少しは申し訳ない気持ちになってくれるかもしれない。
「ガキじゃないんだから、かんしゃく起こすのやめてください」
「うるさい。僕にだってつきあいってものがあるんだよ」
「ないです。というか、どうでもいいです」
何その口の訊き方、と思ったけど、今始まったことじゃない。
どちらにしろ彼の雇い主はあくまで親父だ。
「自由が欲しいなああ! 親父無視して、このまま二人で海でも見に行こうよ」
投げやりな気分。
「お断りします。仕事を失いたくないんで。夏休みにはバハマの海に行くつもりなんで」
無性に腹が立って後ろから運転席を蹴ると、バックミラー越しに睨まれた。

レストランに着くと、慣れた動作でドアを開けられる。僕は動かないぞ。
「今日はフレンチって気分じゃない」
彼は笑顔だったが、胸ぐらを掴まれ車から引っぱり出された。
危うく倒れ込みそうになったじゃないか。
「ここ駐車禁止なんですよ。さっさと出る!」
ヨロヨロと歩いていく僕の後ろで、あっという間にベンツが去っていった。

まあ、いいけど……ね。

12621-269 俺様とおぼっちゃま:2011/05/17(火) 16:08:18 ID:AuWuqrEM
五分間に合わなかったのでこちらに


深窓の、ときたら、普通その後に続くのは「麗しき御令嬢」であるべきだと
誰でも思うだろう。
幼い頃の俺ももちろんその例にもれず、ある夏俺は町外れの大きな屋敷へと
忍び込んだ。誰もが一度はやってみたくなる冒険ごっこだ。
獰猛な魔犬…という設定の、その屋敷で飼われていた愛らしいスピッツをおやつで
従えて、こっそり潜り込んだ、別荘地でも一番上等な家の、一番上等な窓の下。
そこにいるはずのお姫様は、あろうことか、生意気でこまっしゃくれた、
同じ年くらいの餓鬼んちょだった。
あんまり癪に障ったから、つまらなさそうに本を読むそいつを無理やり外に
連れ出して、それから毎日のように、日が暮れるまで野山を引きずりまわしてやった。
そうして遊んだ懐かしい夏休み。

今じゃどこでどうしているんだか、もう会うこともないだろうと思っていた。

そして立派な一社会人になった俺は今、久しぶりに地元の別荘地を訪れている。
時代の流れに沿うように、ここでも古きは取り壊され、どんどん新しい屋敷が
建つ一方だ。
俺が昔忍び込んだあの家も、もうとっくになくなって、妙にこじんまりした
ログハウス仕立ての別荘が建てられていた。
それはどこか昔落書きをした「俺たちが考えたさいこうの秘密基地」の
イメージによく似ているような気がした。
俺らしくもない干渉に浸りながらその別荘の前を通り過ぎたとき、俺は
ふと足を止めた。
白いスピッツが吠えている。窓の向こうから「どうも」と声がかかる。
見覚えのある目つき。
返事ができずにいる俺に、そいつは生意気にも「…また、僕のことを
連れ出しに来たんですか?」と言って笑った。
だから俺もつい笑ってこう言い返す。
「当たり前だ、バカ。早くこっちに来やがれ」

12721-280 時々酷く幼いから:2011/05/18(水) 06:58:31 ID:EBfyOlio
せっかくなのでこっちのも書いてみた。
もし違反だったらごめんなさい。



先生はずるい大人だ。

「おお、来たじゃん」
「いきなり放送で呼び出しといて開口一番それか。走ってきたんだぞ、もっとねぎらえよ」

いつもいつも、自分では行動しないで俺に選ばせる。
いつでも俺がどこかへ行けてしまうように。
あんたを捨てて、他の道を選ぶ日がくるのだとわかっているかのように。

大人の役目だかプライドだか知らないけどさ、俺の行く末勝手に決められんのむかつくんだよね。
むしろあんたが俺を嫌になったって、しがみついて離れてやらないつもり満々なんだ。
みくびってもらっちゃ困るんだよ。
あんただって本当は俺を手放す気なんてさらさらないくせに。
それでもそのスタンスは崩さないんだから大人ってのはずるい。
でも。

「で?急になに、どうしたの」
「さっき、なんか田中くんとみょーに親しげにベッタベタしてたので。……邪魔してやろうと思ったんだよ。悪いかっ」

こうして時々ひどく幼いから、俺もほだされてやろうかな、なんて気にもなっちゃうわけですよ。

「全っ然。悪くない」
ほんとずるいんだから、まったくこの男は。

12821-359 三味線奏者:2011/05/25(水) 02:45:58 ID:xVn8SlRk
割れんばかりの拍手は、銀幕が上がると同時にぴたりと止み、ホールが静まりかえった。
暗い客席は老若男女問わず、ぎっしりと人で埋め尽くされ、満員御礼と書かれた垂れ幕。
それを目に焼き付けて、俺は三味線を抱え直す。

舞台の中心では、客席に背を向けた主役が、目を閉じて俺の演奏を待っている。
この緊張感は、何物にも代えがたい。

ひとたび弦を弾き始めれば、彼は変貌する。
男の影は消え、女へ。

艶やかな着物は細身の体に似合い、真っ白な肌と紅は端正な顔立ちを引き立たせる。
計算し尽くされたしなやかな動きは、女以上に妖艶で
一寸足りとも狂いはなく、完璧なまでに女形を演じる。
そんな彼の舞に、客席からは感嘆の声があがる。

そんな二人三脚での巡業も、今日で最後。




「ちょっと、いい?」

もう使うことはない三味線を丁寧に手入れし、ケースに仕舞う頃。
開けっ放しの楽屋の扉をこんこんとノックし、彼は言った。
振り返って見れば、彼はもうすっかり元の男の姿。

「おお、もう着替えられたんですか」

そう言うと、彼はニコリと笑うだけで、何も言わずに楽屋へ足を踏み入れる。
長期に渡る巡業中に、彼が俺の楽屋へ来る事はなかったから多少驚きつつも、散らかってますがどうぞとソファーを差し招き入れた。

きっと、俺の契約が今日で終了するのを知って、挨拶にでもと出向いたのだろう。
俺より一回り以上年下でありながら、代奏者である俺にも気を使って優しく接してくれた日々を考えると、当然ともいえる。
しかしトップスターの名を欲しいままにする彼と、差し向かいで話をするのは初めてで少し緊張した。

「……」

「……?」

向かいのソファーに座る彼は、何だかうつ向き加減で表情が暗い。
沈黙が重く感じ、言葉を探した。
今日もお疲れ様でした、等の労いの言葉はさっき舞台裏で使い果たしている。

「………今日、寛三さんがご覧になられてましたよね」

本来の奏者である寛三さんは、急病の為入院治療を続け回復し、先週退院したと人づてに聞いた。
次回の舞台からは寛三さんが、奏者として再び舞台へ戻る。

「……もうお元気そうでしたね。早く奏者として」

「ねぇ、宋介さん」

彼の目が、話を遮った。
女のように綺麗な黒い瞳がまっすぐに俺を見る。

12921-359 三味線奏者 2:2011/05/25(水) 02:49:20 ID:xVn8SlRk

「俺ね、宋介さんの三味線、ずっと聴いていたい」

「……」

「ずっと宋介さんの弾く音で、踊っていたい」


―――すごくありがたい、言葉を頂けた。
奏者冥利に尽きるというもので、もう胸に沁みて沁みて仕方がなかった。
そして口下手な俺は、ますます言葉に詰まる。

「…ありがとうございます。本当に嬉しいですが寛三さんが……」

「わかってる。…けど宋介さんに会えなくなるのは嫌だ」

ドクドクと脈が早くなる。
この状況はいかがなものか。
これは願望が作り出した夢なのかとまで思ってしまいそうになる。
それくらいに、彼は悲痛の表情で俺に訴えてかけている。
もじもじと指先を弄りながら顔を赤らめて。

「俺……そのう…宋介さんが……」

ああ、これ以上彼に言わせてはいけない。

「…見に行きます!」

考えるまもなく咄嗟に出てきた俺の言葉に、彼はびくりとして何事かと俺を凝視した。

「これからずっと、地方行ってもどこ行っても、あなたの舞台を見に行きます。奏者としてでなくとも、勝手に付いていくつもりでした」

「……本当?」

「…はい。惚れてるので」

「……」

「あなたに、惚れてるので」

彼は目を丸くして驚き、そして嬉しそうに笑った。
ずっとそばに居る事は今後も、変わる事はない。

13021-389 元正義の味方×現正義の味方:2011/05/29(日) 21:51:19 ID:zSgE0FNA
ツウカイダーこと本城隆二は、ヤンナルナー総帥クーゲル・シュライバーに捕えられた。
「ふははは!にっくきツウカイダーめ。お前の命もあとわずか…」
逆さまに吊られた隆二は、屈辱に顔を歪め目を閉じる。
次の瞬間、派手な爆発音と共に秘密基地の壁が吹き飛んだ。

「時空刑事 ゴウカイダー!」

ポーズと台詞を決めたゴウカイダーの後ろに七色の煙が舞う。
「げえっ、ゴウカイダー!!なぜここに…っ!」
シュタイナーは青い顔で後ずさった。
その言葉に、ゴウカイダーは顔の前で人差し指を振る。
「チッチッチ…神が見逃す悪い奴、ゴウカイダーは見逃さない!お主らの真っ黒な悪事は、俺が真っ白に染めてやるぜ!」
3方向からのカメラワークで片足を高く上げ、ジャンプ一発。ゴウカイダーは華麗に着地した。
流石初代、決まったぜ。液晶テレビの向こうにいるちびっこたちの歓声が聞こえるようである。
血湧き肉踊るその主題歌は、ビートの効いた串田アキ〇だ。
「ふ、ふふふ…飛んで火にいる夏の虫とは貴様の事よ!」
「なにぃ!?」
「ゴウカイダー!俺の事は構わず、今すぐここを逃げるんだ!!」
隆二の胸元には時限爆弾が仕掛けられていたのだった。

軽快な音と共にアイキャッチが入った。

途端にゴウカイダーの口調がくだける。
「まあ……俺もそろそろいい歳だしさー、あんまり無茶はしたくないよね」
苦笑いを含んだその言葉に、シュライバーはちぎれそうな程 首を縦に振った。
なにしろ先代の地球区域担当組織・ナンダカナーは、最終戦においてゴウカイダー1人に対し、残党工作員100名と首領が散っている。
ゴウカイダーの101人斬りと称され、宇宙悪人商工会から最速通信で全会員に通達が廻っていた。
曰く、『お天道様に逆らっても、ゴウカイダーには逆らうな』
幸い二代目と目されるツウカイダーは、行動に甘さが目立つため油断していたのに。
なのになぜお前が来る、ゴウカイダー。
内心を隠しプライドを捨てた総帥は、揉み手をせんばかりに下手に出ることにした。
「ゴウカイダー様、この番組は後10回ほど放映が残っております。どうぞよしなに…」
まるで悪代官に金の菓子箱を差し出す越後屋のごとく、上目使いでにじり寄る。
「判ってるって…テコ入れにオッサン引っ張り出すとは、そっちも大変だな」
顔の熱着を外し手を横に差し出すゴウカイダーに、さっと煙草が差し出され、すぐさま怪人ボンゴファイヤーが触覚から火を付けた。
吸った煙を吹きかけると、隆二は激しくむせた。
「……大丈夫か、ツウカイダー?」
真っ赤な顔でツウカイダーが顔を背ける。ま、元々逆さ吊りだしな。
「ゴウカイダー様に向かって、その態度はなんだツウカイダー!」
電気鞭を振り上げたシュライバーは、振り向いたゴウカイダーの目付きに凍りついた。
「……別に俺は、悪人退治の自己最高レコードを更新したっていいんだが?」
「ととと、とんでもございません!な、何がお望みでらっしゃいますか」
「とりあえず、ツウカイダーを下に降ろせ」
急いで隆二は降ろされ、拘束具を外そうとする工作員にストップがかかった。
「いや、拘束はそのままでいい。Vも止めたままで」
総帥の兜で煙草の火を消すと、ゴウカイダーこと本間健一はそのまま吸殻を手渡し言った。
「もっと主人公たる心得を、こいつに教えてやらなくっちゃならん…お前らは一旦出てけ」
蜘蛛の子を散らすように、その場の悪人共は姿を消した。
「お前なぁ……なんであんな奴らに捕まったんだよ。甘ちゃんでも、弱かねー癖に」
ため息をつくその目元が優しく歪む。もごもごと俯いたままの呟きは、健一に届かない。
「何?」
「……あんたが…………捕まって瀕死だ…って」
その言葉に吹き出した健一は、ひとしきり笑ってから、嬉しそうに拘束されたままの隆二の首筋に顔をうずめた。

危機一髪!時限爆弾は無事、解除に成功した。
その後、怪人ボンゴファイヤーに苦しめられたゴウカイザーは、ツウカイダーに救われる。
今日のツウカイダーの技に、いまいちキレがないのは気のせいだ。
最後は二人の合体技、ツイントルネードブリーディングにボンゴファイヤーは倒され、地球の平和は守られたぞ!
これぞ伝説の神回と呼ばれ、以後のシリーズの礎を築いたと言われた、前ヒーローと現ヒーローのタッグの始まりである。

Go!Go! ツウカイダー!がんばれツウカイダー!
ちびっこ達の曇りなき まなこに、負けるな!ツウカイダー!!

13121-389 元正義の味方×現正義の味方:2011/05/30(月) 02:26:09 ID:AYuV0Gjg
ワロタw
迷ったけど私もお題に萌えたので投下しちゃってもいいかな






どうも僕の住むこの星は、よその星から侵略されやすいようで、定期的に異性人がやってくる。
空から攻撃される事も、地上で異性人が大暴れしても、僕らにはヒーローがいて必ず守ってくれた。
ピンチになった時に、必ず現れて敵を倒していくヒーロー。
僕たちの住む星は、その一人のヒーローによって守られている。
僕は、そんな強くて無敵でかっこいいヒーローに憧れていた。
でもヒーローは、完璧人間なんかじゃなかった。





「起きてーー!遅刻しますよ!」

剥ぎ取った布団を投げ、耳元でそう叫ぶと彼はようやくもそもそと起き上がった。
髪はボサボサ、よれよれのTシャツをめくり腹をポリポリ掻きながら、
顎外れるんじゃないかというくらいの大あくびをかましているこの彼が、
ひと昔前まで、この星を守るヒーローだったなんて誰が想像するだろう。

「もう!遅刻しちゃいますよ!」
「……だって〜昨夜は君が寝かせてくれなかっ」
「わーー!朝から何言ってんすかバカ!」

思わず菜箸を持つ手に力が入る。
大口開けて笑いながら浴室へ向かっていく彼を睨み付けてから、台所へ戻った。
くそう、顔が熱い。

13221-389 元正義の味方×現正義の味方 2p:2011/05/30(月) 02:27:37 ID:AYuV0Gjg

過去に憧れのヒーローに危機一髪のところで助けてもらい、それから色々あって深い仲。
憧れてたヒーローとは言っても、もう良い年したおっさんで。
ヒーロー業はすでに引退、今では町の土木作業員として働くフツーの人。
僕ももう、夢見る年頃でもない。

朝食用のトーストをセットしたところで、早々に身支度を終えた彼が台所へやってきた。

「おっ、今日は海苔弁か」
「はい。コーヒーがいい?それとも…」

次の瞬間。
体に衝撃と耳をつんざく音。
一瞬気を失っていたのかと思うくらいに、あっという間に状況が一変した。
大きく穴のあいた天井からは空が丸見えで、
我が物顔で飛んでいる飛行物体からは、無数のビームがあちこちに放たれている。
今年に入ってから3度目の襲撃。

「く……大丈夫か」

ハッとした。
彼はいつの間にか目の前で、僕をかばい天井の瓦礫を自らの背中に受けていた。
僕は慌てて隙間から這い出ると、彼の背中に乗る瓦礫をどかそうと……したが、
彼は「ふぬおおおっ」とか言いながら自慢のバカ力で自分で起き上がれた。
背中に傷は、古傷は、と僕が確認する間もなく、彼は一目散で走って瓦礫を登り、空を見上げ叫んだ。

「くそっ!あの帝国軍め!また来やがったな!」

ドカンドカンとあらゆる所が爆発したりして人々が逃げ惑っている。
そんな町の様子を、彼は苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。

―――ああ、やっぱり
本当は自分の力で守りたいんだ
自分の無力さに、本当はすごく悔しがっている

13321-389 元正義の味方×現正義の味方 3p:2011/05/30(月) 02:28:22 ID:AYuV0Gjg
僕は彼に近寄り、彼の握り拳にそっと手をやり、優しく握った。
強張った表情は少しだけ弛み、僕を見ると少し悲しげに、でも優しく微笑んだ。

「また、君を危ない目に合わせてしまうね」
「いいえ。あなたが僕を守ってくれるから、僕もみんなを守れるんです」

そうしてキスを交わす。
いつまた攻撃されるかわからない状況で、
バカみたいだと笑われるかもしれないけど。
いつも直前にキスをすると不思議なもので、みるみる内に力がみなぎるのだ。
だって、これが最後だとは思いたくない。

「…さあ行ってくれ。気をつけてくれよ!」

「はい、行ってきます!」

彼から引き継がれた変身ベルトをひっさげ、僕は家を飛び出した。

134名無しさん:2011/05/30(月) 11:39:09 ID:uMqYklnM
0以外130
キレのない動きのツウカイダーw笑い萌えたよGJ!

0以外131
優しくてほんのり切ない・・・このお題でこんな気持ちになるとは。
新鮮でしたGJ!

みんなを守る現ヒーローが元ヒーローに守られるって萌えポイントだよね
タイプの違う二つのSSが読めて楽しかった!ありがとう

135名無しさん:2011/05/30(月) 11:40:29 ID:uMqYklnM
GJスレと間違えました。申し訳ない

13621-409 出来の悪い兄貴:2011/05/30(月) 23:24:46 ID:d9oEiszY
「愛だね」

潤二がはっきりとそう口にした時この酒豪とうとう酔い潰れたかとうとう酔い潰してやったぜハハハ、って具合で
多分俺が相当酔っていた。
俺は自分のこの酒に痺れた脳味噌と口が何を喋っていたかだって結構曖昧なのに。
ああ、そうそう、あの出来があんまりよろしくない兄貴分の話だっけ。

そーほんとヒデ兄どうしようもない。
こないだもクラブで酔い潰れて俺が部屋に運んだし、ちょっとでも目を離すとへらへらと誘いに、
そうあれだよ、こうなんていうの?セックス?そう、セックス!
その誘いにだって乗りかねないし、あーもーほんとどうにかしてくれよ、って。
ごめんユキちゃん、俺もーしないからーなんてあのおっさん、絶対思ってないんだ。
いや、思ってんだろうけど忘れちゃうんだろうな。馬鹿なんだよ多分壊滅的に。酒で記憶なくすし。
いっそアル中になれ。アル中になったら面倒みてやる。どこにも行かせないで俺の部屋で浴びる程酒飲ませてあげるよ。
……っておい。うわ、今一瞬考えて怖かった。無し無し。今の無し。そんなの冗談じゃない。
そうやって否定するように頭を振る。

「行雄病んでるねー」

……お前楽しそうだな、なんか。
じゃあさ、行雄はどこが好きなの。英隆さんの。とか。何だそれ、どこのふざけたインタビューだよ。答えられるかそんな事。
だってヒデ兄は、さっきも言ったけど酒を飲めば絡み酒だし、スキンシップ過剰だからたまにすげーーーうっとーしいし、
最近は軽くいびきなんかもかくし、こないだ寝てる時エルボー喰らわされたし、ユキちゃんユキちゃんってうっさいし、
その癖最近随分忙しそうで、全然……って。おい。

「ほら、愛でしょ」

にっこりと潤二が笑った。あー俺、お前と付き合ったらよかったなーと一瞬言おうか迷ったけどやっぱり止める。

137名無しさん:2011/05/30(月) 23:25:17 ID:d9oEiszY
えーっと、なんだっけ。あーそー、あのおっさんのどこが好きかって。
好き、好き、好き……。ふわふわしてるし、ちょっと考え無しだし、ああ、でも。

「……笑った顔」

俺がもごもごと呟くのを、まあ潤二が聞き逃す筈もない。
お前ほんと怖いよな。いいけど。その笑顔とか特に怖いよな。別にいいけど。
そう、あのくしゃくしゃの顔で、俺の事呼んで、ユキちゃんユキちゃん、俺ユキちゃんの事好きだよーって。
そう言われると一瞬、俺の中に澱んでいる全ての黒いものがどうでもよくなるような気がする。
いや、気がするだけなんだけど。しかも一瞬。
……でも、まあどうしようもない兄貴だけど。
あの笑顔、好きだな。

「潤二、お前ぜってー馬鹿だって思ってるだろ」
「思ってないよ」

まあ、なんていうかほんと、愛だよね、と潤二がにっこり笑いながら俺のグラスに焼酎を継ぎ足した。

13821-419 まわし:2011/05/31(火) 15:10:48 ID:rBYZUisM
「お前の親父、化粧まわし作ってたんだって?」
「そうだよ」
「あの相撲取りの?」
「うん。脳梗塞で入院してからやめたけど」
「え? そうなの? 大変だな」
「今はだいぶ良くなったから大丈夫」
「じゃあ、今はどうしてんの? お前が作ってんの?」
「そんなわけないだろ。俺は不器用だし性にあわなかった」
「お前、頭がいいからなあ。職人じゃもったいないよな」

 それどういう意味?とちょっとだけ反論したかったが、やめておいた。
どうせ他人に言ってもわかるわけがないので。

「なら親父さんの代で終わりなんだ」
「大丈夫。将ちゃんがいるから」
「将ちゃん?」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 規則正しく機を織る音が作業所に響く。
 俺は彼の手が止まる瞬間を見て声をかける。
「将ちゃん」
 将ちゃんがやっと振り向いて俺を見た。
「ああ、真吾さん。飯ですか? ありがとうございます」
「昨日も寝てないんじゃない? 少しは休まないと親父みたいになるよ」
「作業が予定より遅れてて。あとで少し横になりますから大丈夫です」
 将ちゃんはこうなるともう言う事をきかない。俺は嫌みでひとつため息をつき、その場を離れた。
 
 将ちゃんは、いつの間にか親父の弟子になっていて、いつの間にか親父のような職人になっていた。

 将ちゃんが来る前は、俺は跡取り息子としての無言のプレッシャーがあり、
『まわし職人になんかなりたくねーよ』、などとはとても言えるような環境ではなかった。

 だが、将ちゃんが来てからは、親父は将ちゃんにやたらと入れ込むようになり、
そのうち、俺に跡を継がせるということは、親父の頭からはなくなったようだ。
 そんなわけで俺は将ちゃんにとても感謝している。

 『将ちゃんってどこの人? 何をしていた人?』と、
無邪気に聞いた事があったが、大人の事情があるらしく、あまり教えてもらえなかった。
 まあ今時、親父に弟子入りしようなどという若者なので、多少訳ありなのは仕方ないと思う。
 実際、家に来たばかりの将ちゃんはちょっと怖かった。

 親父と言い合いをしていることは四六時中あったし、
親父も職人気質だったので、とっくみあいのケンカになることもしばしばだった。
 だが、そのうちに、将ちゃんは親父を尊敬するようになり、
将ちゃんを慕っていた俺は、将ちゃんを通して親父に対しての認識を改めたのだ。

『相撲取りの見栄の為にそんなに熱くなってバカみたいだと思わないの?』
と聞いたこともある。
 将ちゃんは作業を黙々と続けながら
『絹は蚕が自分の命とひきかえに紡ぐものだから、こちらも命をかけないと』
と言った。その後で『親父さんの受け売りですけどね』と笑った。
 ああ、将ちゃんは、本当にこの仕事にかけているんだなあと思った。

 最近は、スポンサーであるタニマチが自社の宣伝になるような
化粧まわしを作ることや、話題になるようなまわしの制作が多い。
 職人としてはどう思っているんだろうか。
 相撲自体、不祥事ばかりで、人気も低迷しているのに、
このまま続けていて不安はないんだろうか。

「宣伝用のまわしですか? それはそれで作っていて面白いですよ」
「そういうもん?」
「まあ、オリジナルの図案で横綱の化粧まわしを
いつか作れるようになったらいいなと思ってますけど……」
「将ちゃん」
「はい?」
「俺いつか社長になって、横綱のスポンサーになって、
将ちゃんに全部まかせて、思い切り好きな化粧まわしを作らせたげるよ」
「……」
「あ、本気にしてないだろ」
「いえいえ」
「ほら、本気にしてない」
「違いますって」
 機の音が響く。将ちゃんの機の音はいつも優しい。
いつの間にこんなに優しい音になったのか忘れたけれど。
「期待してますよ」
「おう。まかせとけ」

13921‐509 人恋しい夜 1/2:2011/06/11(土) 10:52:27 ID:MmsP4mig
疲れた体でベッドに寝転がる。今すぐ眠りに落ちたいんだけど、一人きりのベッドが酷く寂しかった。
いつもの事なのにたまにあるんだよなあ、こーゆーの。
寂しいっていうのもセックスしたいとかじゃなくてただ単純に寂しい。
ベッドにもぐりこんだ時にシーツが冷たいとか、帰ってきた時に部屋の電気が真っ暗だとか、
そんなのもうずっと前からの事なのになあ。
年食うと涙もろくなるっていうけど、これもその一種類なんかなあー。俺、寂しいなあー。
枕に埋めた顔をのろのろと上げながら、一度だけ迷って携帯を手に取った。
……真夜中だ。まあ、何回か鳴らして、出なければそれで。そしたらまあ諦めもつくってもんでしょ。
寂しい気持ちが、以前だったら耐えられなかったけれどそこに諦めがつくようになったのも年取ったって事なんかなあ。

履歴に残りっぱなしの番号を探し当てて、発信ボタンを押した。
向こう側に繋がるまでの少しの隙間は今俺が寂しいと感じる原因が詰まっているようで少しだけ体が強張る。
もそもそと体をベッドの上で丸めながら携帯を耳に押し当てる。
一回、二回、電話の鳴る音。もう一回で応答が無ければ切ろう、そう考えていた時。

『……今、何時だと思ってんの』

無愛想な声はそれでも多分眠ってはいなかった。それくらい、声だけでわかっちゃうんだよ俺。
なーすごい?って聞きたいけどぐっと我慢する。声と一緒に表情まで浮かんできて思わず声に出さずに笑った俺に、
秀幸はまるでこっち側が見えるみたいに何笑ってんの、と呟いた。

「いやー、秀幸だなあって」
『……当たり前でしょ。どこに電話したつもりだったの』
「ん?お前んとこ……」
『それで俺以外が出たらおかしいじゃん』
「そーだねえ」

耳からじんわりと暖かさが広がっていく。あー俺ほんと寂しかったんだなー。ちょっと涙ぐみそう。どうしよう。

『で、どーしたのこんな時間に』
「え?えー……教えてほしい?」
『……うっぜえ、直哉』
「なんだよお前、酷いな……」

口と裏腹に秀幸の声は優しい。声だけだから余計にそう感じるのかな。俺の希望的観測だったりして。

「ねー秀幸、俺さあ、」
『……ん』
「お前の事、やっぱ好きだなあ」

お前の声とか、お前のそういうちょっと優しいとことか、優しいって見せたがらないとことか、
何だかんだ言ってこーやってつきあってくれるとことか。多分今、ちょっと呆れた顔してでっかい目細めてそうなとことか。

『……酔ってんの?』
「んー、ちょっと飲んだけど、酔ってはないなあ」
『じゃあ、どうしたの』

どうしたんだっけ。そうそう、俺、寂しかったんだよねえ。でも多分まー誰でもいいって事じゃなくて、
真っ先に浮かんだのがお前で、ほんとは会いたいんだけどさすがにちょっと無理だしだから電話してみたっていうか。
そしたらお前が出てくれたっていうか。そういう事なんだけどうまく言えない。
少しだけ頭の端がとろとろと、眠りに落ちそうになってシーツが体温にあったまってきて、あ、やばいなって思った。

「ひでゆきぃ、」

只寂しかったってのはほんとだよ。ちょっと人恋しいなっていうだけだったんだ。
俺がいくら貞操観念があんま無くってもさあ。そういうだけの時だってある訳で。
元々はそうだったんだけどおかしい。眠気が変質していくのがわかる。閉じかけた瞼の裏にゆらゆら、何かが揺れている。
なんで俺今こんなちょとヨクジョーしちゃってんだろ。
……あーそっか。電話の声って耳元だ。セックスに似てるな、とか思わず考えた俺の負け。

14021‐509 人恋しい夜 2/2:2011/06/11(土) 10:55:30 ID:MmsP4mig
『……変な声』

そして俺の、そろそろぐずぐずになりかけた理性を秀幸は敏感に察する。
察せられた事に少しだけ浮かれる俺は結構な能天気で、片手で電話を、もう片手を自分の下半身に滑らせた。

「ひでゆき、俺さあ、」

なるべく平静を装って、何か話を続けようとしたけどもう無理だった。
意識はもうすっかりそっちにすっ飛んでしまっていて
秀幸がはぁ、と吐いた重い溜息すら耳元で呆れて吹きかけられた錯覚を起こして腰が疼く。

『何してんの……』
「……何だとー、思うー?」
『あんま考えたくない事』
「……秀幸、俺の事なんでもお見通しだねえ…」

疲れてるくせに元気な俺のそこは、手で握りこんで少し上下させるとすぐに勃ちあがった。
ぐっと上向いたそれを扱きながら、秀幸の呆れた声に耳を澄ませる。
目閉じて、手が動く度に静かに鳴るシーツの音のやらしさに肌が震えた。

「あ、……なー、ひでゆき、何か喋ってー…」
『あんたの変態プレイに俺巻き込むのやめてよ、ほんと』

秀幸が結構真面目な声で言う。あ、それ、それやばい。なんか罵られてるみたいでぞくっとした。
おかしいな、俺別にMじゃないのになあ……まあ疲れてるから、そういうのも、あんのかなあ……。

「それ、いー、ね、お前の、そーゆーの……」
『ほんと変態』
「んっ、そー、かも、……へへ、」

あーやばい。両手使いたい。っていうか、ほんとは後ろ弄りたくなってるんだけど、丸まった体勢で上手くいかない。
そのくせひくひく動いてて、そのもどかしさも俺を加速させて、
荒くなっていく息にそれでも秀幸が電話を切らないのを愛だなーなんて余計に嬉しくなっていく。

「ひでゆき、さ、」
『………』
「聞ーて、る?」
『………すこしだけ』
「ひでゆきはぁ、俺のこーゆーの、興奮しないの…」

俺は物凄く興奮するんだけどなあ。
先走りに濡れた手でぐちゃぐちゃと扱きながらそう呟くと、秀幸が急に押し黙った。
いや、さっきから黙りがちではあったんだけど。
それでも止まらない俺のどうしようもない手は、どんどんと快感を加速させていく。
あ、あ、と小さく声を漏らして、さすがにやばいかなと枕になるべく口を押し付ける。

『俺は、』
「……ん、…、何?」
『あんたと違って変態じゃないから、目の前にいる方がいいけど』
「……ひでゆきさあ」
『何』
「お前、スケベぇー…」

でも、お前のそれ、俺、ヤバイかも、もう。
体と心は別物だけど、一体になる瞬間みたいのがあって、その瞬間背骨あたりから通り抜ける快感にびくりと震えた。
秀幸の言葉はそれだけの何ていうか、俺の中の起爆剤的な所があって、もうどうしようもなかった。
ひでゆき、ひでゆき、と名前を呼ぶと、秀幸が三回に一回くらい面倒そうに返事をする。
ぐちゃぐちゃと手が濡れて、頭の中もぐちゃぐちゃになって、
耳元の声は遠い筈なのに今すぐここで耳たぶ噛まれたりしてるくらいにまでバーチャルな感覚が襲ってくる。

「あ、あー、ひ、でゆきっ、俺もー…イくっ…」
『……一人でさっさとイくの』
「ちょ、だって…お前の声っ……」
『自分勝手だよねほんと』

俺の気持ちも考えてよ、だって。お前、今言うなよ。ぐっと丸めた体が自然と更に丸くなる。
あ、あ、やばい。もうイきそ。
そういえば後ろ使わないでイくって久しぶりかもしれない、とかごちゃごちゃと考えてなるべく引き伸ばそうとしたのにもう無理。

「あっ、…っ、んんっ……!!!」

強く握ったそれがどくどくと、何かを押し上げていく感触。
詰めた息が肺から勝手に飛び出していって、それと一緒に俺の手にどろりと生温い精液が伝い落ちた。
丸めていた体が自然と伸びていて、ぴく、ぴく、と小さく痙攣するみたいに動く。
はぁ、はぁ、と何度か落ち着かせようとしても荒いままの呼吸にあわせて、ひでゆき、と小さく呟いた。

『……うん、ちゃんと聞いてるから』

思いもしなかった答えに俺は半分閉じて縫い付けられたみたいに動かなかった瞼を開く。

「……んな事言われたら、俺、もっかい勃っちゃいそーなんだけど……」

本当に馬鹿じゃないの、と呟いた秀幸の後ろで、孝之の部屋の重いドアががちゃりと閉められる鍵の音に俺は思わずまた目を瞬く。

『我慢してよ直哉。待て』

犬じゃないんだから、と笑いながら、俺はとりあえずどろりと濡れた手をそこから離して、
待ってるから早くねえ、とのん気に秀幸の耳元に囁いた。

14121-479 おっとり義父×どスケベ息子 1/2:2011/06/12(日) 02:07:54 ID:pgVRec52
義父が、黙ってしまうことがよくあった。
世間では仲の良い婿、舅の間柄もあるらしいが、その頃俺と義父は、「娘の男」と「娘をとられた父」の微妙な雰囲気のまま、あたりさわりのない会話を交わすくらいだったから、ふっと訪れる沈黙は不自然だった。
早くに妻を亡くし、一人娘を嫁がせてしまった義父は、孫を切望していた。
そのことに触れようか、触れまいか、迷う気持ちが沈黙となるらしかった。
うしろめたい気持ちもあって、その沈黙にあえて触れなかったが、一度だけ、言い訳めいた会話にしてしまったことがあった。
半ばやけ、半ばいたずら心だった。
「僕は『好き』なんですけど……仕事も忙しいし時間も合わないけど、僕の方はね」
婿の性癖など聞きたくもなかったろうから、義父は落ち着かない表情になった。
「あちらは……ね。まあ、女性はいろいろデリケートなんでしょう」
「……その、夫婦には、まあ、大切なことだよ」
ふだんおっとり、というよりはぼんやりした風情の義父が、精一杯人生の先輩らしい顔をした。
親しくはない義父だったが、あまり偉そうじゃないその雰囲気は嫌いじゃなかった。
「そうですね、困りますよ、正直僕は、どスケベなんです」
「……そいつは大問題だね」
軽く苦笑したその顔も、嫌いじゃなかった。

妻の死は突然だった。これから子をなし、育て、ふたりともにゆっくり老いていく、そんな平凡な幸せが当たり前に続くと思っていたのに。
仕事、仕事で妻や生活を大切にしなかった報いのように俺には思えた。俺は荒れた。
義父もさぞ無念だったろう。しかし義父は、一度も俺を責めはしなかった。
「私も妻を先に行かせた身だから、君の気持ちはわかると思う」
そう言って、悲しみにのたうちまわるような俺を支えてくれた。
義父のたっての希望で、位牌は義父の家に置かれた。
法事のたびに義父の家に通ううちに、すこしずつ、妻によく似たまなざしにつらさよりも慰めを見るようになって、いつしか義父はとても近しい人となっていった。
妻の死から6年が経っていた。

14221-479 おっとり義父×どスケベ息子 2/2:2011/06/12(日) 02:09:36 ID:pgVRec52
「これで一段落ですね」
七回忌の法要に集まった人々が帰って、また静かになった義父の家で、俺は義父にビールをつぐ。
お疲れ様でした、と互いにグラスを合わせて、残った折りの料理で腹をふさいでいると、
「次は、智聡君はもういいんじゃないか」
と言われた。
「それ、三回忌の時にも言いましたね」
「もう美月のことはいいから、君はさっさと再婚しなさい」
義父はほほえみを浮かべている。
「前も言いましたよ、再婚する気はありません」
「いい若い男が、もったいないじゃないかね」
「もう若くもないですよ、四捨五入したら40才です……ってうわ」
自分で言って軽いダメージを受けると、
「ほらな、自分では若いつもりなんだよ、君は。男盛りだよ、男の四十なんて。若い子がキャアキャア言ってくるだろう」
「今はオジサンのほうが受けますからね、うちの若い子はお義父さんくらいの部長に『かっこいい、お父さんになってほしいー!』なんて言ってますよ」
「君がもったいないんだよ、私なんか枯れたもんだ」
そういえば、とえくぼを作って、
「きみは枯れていそうにないな、何しろどスケベなんだったな」
俺の肩をポンポン叩くものだから、むせた。
「何言い出すんですか、そんな昔の──」
「よく義理立てしてくれたと思うよ、美月も喜んでるだろう。僕もうれしい。何しろどスケベな君が再婚もせずこうして七回忌までも弔ってくれたんだから」
「その、どスケベ、ってのやめ」
「うん、うん、男はスケベくらいでないとな、そうでないと仕事も力が出ないもんだ」
「ちょっ、お義父さ」
「スケベをな、パワーに変えてこそグーッと何につけてもエネルギーになるって昔からな」
「お義父さん! もう!」
「もう、な」
義父は、晴れ晴れと笑った。
「君が美月のためと……私のために、この家に来てくれるのは嬉しい。しかし、本当に、若い君を縛る権限は、もう美月にも、私にもないんだよ」
ずっと避けてきたその時が来てしまったことを俺は知った。
来るなと言われれば、この人にはもう会えない。
俺の親が再婚をせっつくのも、この人の耳には入ってるんだろう。
位牌を引き取ったのも、最後に俺を突き放すためだ。すべて、最初から。
「さあ、もう、新しい人生を生きなさい。美月は僕が見ていくから、安心してくれ」
再婚するなら、元妻の父親とじゃ友人にもなれない。
……妻を失ったときのように、いままたこの人を失うことに耐えられそうもないのに?
「もし、君にいい人が現れたら……できることなら、見たいな、君の子供が」
「……その時は見せに来ます。僕はお義父さんの息子ですから」
そんな時がくるはずもない。
何もかもが遅い。取り返しがつかない。
俺は今更ながらに歯がみした。
──この人の血を引く子を生みたかった。

14321-569 穏やか若隠居受け:2011/06/19(日) 10:52:21 ID:bWD0H00I
「あきれたね、本当に隠居しちまうのかい、喜さん」
「いいじゃないか、清さん、これで心おきなく遊べるってもんだ」
 喜之助……喜さんは文机の前で泰然としたものだ。
「せっかくだからね、寮のひとつも作ってもらおうと思うんだよ。そこで戯作でもしようか。人情物かな。芝居の台本もいい。
 そうだな、寮の名前は喜詩庵、喜文庵、それとも喜雨庵、さて……」
 何をのんきな。ぼんやりした人だとは思っていたが。
 手前のお店には何の未練もないのか。心配したのがだんだんばからしくなってきた。

 喜さんは隠居して、弟にお店を継がせる。
 弟と言っても死んだ先代の後添いの子だ。後妻が、後見の伯父に通じてうまいことやりやがった。
 もっとも、喜さんも逆らわなかったようだ。
 争いは好まない人だし、おもしろく噂にでもなればお店の評判に傷がつくと考えたんだろう。

「だからね、清さん、庵に遊びに来なさいよ、隠居すればみな友達がいもないだろうからね。
 清さんだけは幼なじみのよしみで、後生だよ」
 私に煙草盆を勧めながら、口ほどに切なそうでもないこの男がはがゆい。
「ちっとは伯父さんに逆らっちゃどうだ、何が病弱で素行悪し、だ。
 遊びといえば芝居見物っくらいで、そうそう吉原がよいもしないような人をつかまえて、見え透いてやがる」
「いいんだよ」
 自分でも煙草を詰めながら、喜さんは言った。
「隠居は私から申し出たんだ」
「本当かい?」
 それは初耳だった。てっきりあの性悪女が仕組んだものと思ったが。
「おっかさんもね、そりゃあなんにも言わなかった訳じゃない。でももともと私はお店を継ぐ気がなくなっていた。
 伯父もこんな気概のない私じゃ旦那は無理だと思ったんだろうね」
 熱心に店に立ってるものと見えていたが、胸の中はわからない。
「気がない、って、そりゃあ、どうしたわけだい」
 喜さんはうーんと煙管を吸って、
「……隠居して、気楽な寮住まいで、たまにお前さんが訪ねてくれる。私にとっちゃ極楽だよ。おまけに、そうしてさえいりゃあ……」
 おっかさんも文句はない、か。
 結局のところ、跡目争いなんてのにはなっから加わる気がなかったってことだ。
 長男でなければまだほかの道があったのかね、行き所がなけりゃあやっぱり隠居するしかない。

 どうにもやるせない思いで煙管をふかしていると、喜さんが独り言のように言った。
「それにね、私は嫁をもらう気はもとよりなかったのさ、女はこわい、意気地がねえが、そう思えてね。所帯も持たないんじゃ旦那は無理さ」
「そいつはあのおっかさんのせいかね。……しかしそれじゃ妾も囲えめえよ、せっかくの若隠居が寂しかろう」
 喜さんはため息のように笑うと、障子の方に顔を曲げて
「寂しいのはお前さんが来てくれりゃ平気だ、私がお前さんの囲われものさ」
 急に芝居がかって袂で顔を隠しながら
「旦那さま、必ず来ておくんなましね、お待ち申しておりますよ」
 くれた流し目のすごいこと。

14421-599 充電器×携帯:2011/06/21(火) 02:11:57 ID:U/.nhfUM
「……待ってくれ……頼むから」
 プライドを捨てて懇願した声は、大抵は聞き入れられない。
 それでも、彼の前に連れてこられ秘められた部分を露出させられると、拙い抵抗を試みずにはいられなかった。
「今更純情ぶらないで下さいよ。一日一回は喰ってるって言うのに」
 冷やかにつきつけられるのは見たくもない真実だ。
 体を辱められ、言葉で詰られる瞬間は、何回経験しても慣れることはなかった。
「わかってるだろう? 今日は――」
「ええ。見ればわかりますよ。電池マークがまだ2本残ってますね」
「電源が切れるまでとは言わない! せめて……マークが1本の時にしてくれないか」
「ダメです。明日早いんでしょう? それに――」 
 ――ぎりぎりまで我慢すれば、その分受け入れる時間は長引くことになりますよ?
 ことさらゆっくりと続けられた言葉に、これ以上反抗することは許されなかった。

×    ×    ×

 体をぴたりと密着させられて、いやでも相手の存在を感じさせられる。
「ほら、電気が流れ込んでるの、わかります?」
「あ、あ、あ……」
 繋がっているところから体が満たされていく感覚に、もうまともに思考することができなかった。
 いつもこうなのだ。ひとたび彼自身を埋め込まれると、数時間は抜くことを許されない。
 その間は、一方的に流れ込んでくる快感にひたすら耐え忍ぶことになる。
「ねえ、気づいてますか? だんだんと充電の切れる時間が早くなってること」
「それ、は……っ」 
「そりゃそうですよね。あなたと俺がこういう関係になってから、もう随分と時間がたった。
 充電を繰り返せばあなたの電池は消耗し、より一層、俺を求めるようになる」
 ――わかっていた。
 だから今日も、ぎりぎりまで充電を拒んだのだ。 
「あなたは俺なしではいられない体になるんですよ。あなたの意思とは関係なくね」
 心が壊れることが、体が浅ましくなることが、もう充分過ぎるほどわかっていた。
「ああ、大丈夫ですよ? あなたの電池パック、使いすぎてダメになっちゃっても新しいを入れればいいだけの話ですから。
 そのときは初物に戻ったあなたの体をまた最初から調教してあげますよ。嬉しいでしょ?」
「な、ぜ、」
 ひとり言のように零れ落ちた言葉を、笑う声が聞こえる。
「なぜ、とは?」
「俺は、どのみちあんたなしではいられない体だ。なのに、あんたは、なぜ必要以上に俺を貶めようとする?」
「楽しいからですよ」
 彼から告げられる言葉は、その酷薄さと裏腹に、どこか秘めごとを打ち明けるような親密さを孕んでいて、時折俺を混乱させる。
「誰もに必要とされ、最先端の技術とデザインを与えられ、生活と娯楽の頂点に君臨するあなたは、俺なしでは生きていけない。
 プライドの高いあなたが屈辱に耐えて俺の元へやってくるのを見るのが、たまらなく好きなんです」

14521-599 充電器×携帯:2011/06/21(火) 06:52:44 ID:/gp2ohQQ
「よろしく」
そう言って笑いかけてきたのが初めてだった。
よろしく、なんて人間みたいな挨拶だなと思ったのをよく覚えてる。
なんだか口にした事の無いそのよろしく、という言葉を真似て返すと彼が笑った事まで俺の中には残っている。
彼と俺とはいわゆる多分仲間、というやつなんだろうか。仕事仲間、とか?
まあきっとそういう感じに呼ぶんだろう。人間だったら。
俺は携帯で、彼はその俺を充電してくれる充電器で、俺にとって彼は必要不可欠だった。
ぐったりとしている俺に力をくれるのはいつも彼で、
「お疲れ」
「大変そうだねぇ」
「俺がいるからもう大丈夫」
だなんてそんな事を言う。
俺は充電器って言ったら彼しか知らなかったし、もしかしたら他の充電器もそうなのかもしれないけど。
でも彼のあのゆったりとしたトーンでそうやって声をかけられると熱を持った俺の体からすうっと力が抜けてすごく心地いいんだ。
これは多分、彼でなければ駄目なんだと思う。彼が、あの姿であの声で、あの笑顔で俺をそうやって満たしてくれるからだ。
だから俺もまた頑張ろうって思えるっていうか。

だから俺はもう電池もギリギリの状態で今日も彼の前に来た。
ぺたりと座ると、今にも目を閉じてしまいそうだった。やばい。もうほんとギリギリ。
「おーお帰り」
「ただいま…」
彼とのやり取りはいつもこうで、本当に人間がしてるそれと一緒だ。でもそれがすごく落ち着く。
俺が座り込んだそこに、彼が近寄ってきて俺の方へ手を伸ばしてくるから俺は少しだけ顔を彼の方へ向けて突き出した。
「あー疲れてるねえ」
ゆっくりと彼の手が俺の頬を包み込む。じわりと俺の中が満たされようとしていくのがわかる。
クタクタの体に、温かいものが流れ込んでくる、その熱が俺の体の隅々に染み渡るように俺はゆっくりと力を抜いた。
彼にもたれかかるように。
「でも大丈夫。俺がちゃんとフルに充電してあげるから」
そう言って、彼は俺の額に額をくっつける。さらに温かいものが流れ込んできて、気持ちいい。
多分人間が眠ったり、そうするような安心感ていうのはこれに似てるんだろうな。
「よろしく……」
「寝てていいよ、明日の朝にはちゃーんとフルになってるから」
彼の優しい指先が、俺の頬をゆっくり撫でた。それに一度だけ、俺のどこかがびくりと震えた。え?何だ、これ。
思わず目を見開くと、すぐそこにある彼の目と目があった。
「ん?」
「あ、うん。よろしく」
何だろう、これ。俺もしかして不具合でも出た?
ゆっくりと彼から伝わってくる温かいものに満たされていく、
心地よさに包まれて一瞬感じた不安が何だったかわからなくなっていく。
ああ、もういいや。明日覚えてたら自分でチェックしてみよう。今はもう、彼に任せて眠ろう。
「おやすみ」
彼がそう声をかけてきたけど、俺にはもうそれに返事ができたのかどうか。
ゆっくりと全てのシステムをオフにして、俺は彼にもたれて目を閉じた。

14621-619 愛さないでください:2011/06/22(水) 19:13:13 ID:PkxPXjRA
規制されていて本スレに書けないのでこちらに投稿。


 ひとつだけお願いがあるんです、と青年は静かに言った。
――私を愛さないでください。
 烏色の髪が風に撫ぜられて蒼ざめた頬にかかり、ただでさえ感情を内に秘めがちな青年の表情を一層読み辛くしていた。
 けれども、日頃から禁欲的な彼が、そうして一陣の風の中に無防備に身を置くさまを見るのが、私は存外に気にいっていた。
 だからたびたび夜になると、青年を連れて、この静かな湖畔を訪れた。
 ここに吹く風は無粋な障害物に遮られることはなく、ただ穏やかにさざ波の上をやってきた。
 そして、私と青年に沈黙が訪れると、その間を優しく風が通り過ぎていくのがわかるのだった。
 青年もまた、この時間を好んでいた。
 明るい日差しの中では人目を集める彼の容姿は夜の帳にしっくりと溶け、湖畔に吹く水気を含んだ風は彼の故郷の風にどことなく似ているのだと言う。
――私を愛さないでください、私を愛さないでください。
 彼の言葉をそっと胸の中に反芻する。最初は小さなさざ波だったそれは、終いには思いがけない大波になって私の感情を揺らした。
 私と青年の間に、大きな断絶を感じるのはこんなときだ。青年の生まれた国では、言葉とは大事な時にだけ使うのだと言う。
 けれども、その言葉が聞こえた通りの意味を持つとは限らないのだと。
 今このときも、青年の言葉は重く、危うい。
 こんな使い方を、私は知らない。
「何故、」
 纏まらない感情で発した言葉はひどく稚拙で、そのことに私は苛立つ。
 私と青年が同じ国の人間だったら、私と青年の国がけして争うことがなければ、私がこの国の軍人でなかったら、私達は分かりあうことができたのだろうか。
「どうしてあなたは何も言わないのだ!」
 子供のようになりふり構わず叫ばずにはいられなかった。もともと感情を抑えるのは得意な方ではない。
 青年の顔に一瞬だけ困惑の表情が浮かび、そして消えていった。
 さぞかし呆れているに違いない。そう思ったが、もはや自分の衝動を抑えることができなかった。
「……愛しているんだ」
 呻くように言った言葉は、沈黙の中に落とされた。青年は私に背を向けると、湖を眺めている。
 拒絶されるとわかった愛の味は苦い。それでも、白痴のように次の青年の言葉を待っている。
――月が綺麗ですね、と水面に俯いた青年が消え入りそうに言う。
 繊細に揺れる水の上に、大きな月がその姿を映しているのだ。
 月光が象牙色に青年の肌を輝かせる様を、食い入るように見つめていた。
 失意が胸の内に広がり、表情の見えない青年にじょじょに苛立ちが募る。はぐらかされるにしても、その顔が見たかった。
 たまらずに、立ち尽くす青年の腕を強く引くと、はっと息を呑む音がした。
 無理やり振り向かせた彼の顔は、今にも泣き出しそうな顔をしていて、思いがけないその事実に私は呆然と立ち竦む。
――ああ私達は分かりあえない。

14721-619 愛さないでください:2011/06/22(水) 20:11:14 ID:hMoRTwDE
規制で書き込めなかったのでこっちへ


「……そんなに嫌われることもないのに」
「え?俺?」
「あ、いえ、えっと」
ぼそっと口をついて出た言葉だったが、黒川さんにはしっかりと聞こえてしまったようだった。

黒川さんのスーツにピンマイクを付ける俺をじっと見つめる黒川さん。
テレビ画面の中からでも鋭いとわかる視線が直接俺に向けられているものだから沈黙など十秒ともたず、仕方なく俺は続きを話し始めた。
「いえ、あの、黒川さんてその、番組の中じゃ悪役、っていうかどうしても嫌われる……あ、すみません失礼ですよねすみません!」
「いいよ別に。そういう風に見られてるのは知ってるし、愛されキャラとか似合わないだろ」

「……そんなこともないと思いますけど」
お世辞でなく、そう思う。きつい感じの顔立ちだけれどその辺の俳優に負けないくらい整ってはいるし、こうして俺と普通に喋る分には優しい声をしている。

「うーん、ていうか、俺っていう嫌われ役がいることで番組が盛り上がってんだからさ、俺は全然気にしてないんだよね。むしろ愛されちゃったら失敗だと思ってる。元はプロデューサーに言われて始めたキャラだけどさ」
「でも変な嫌がらせがきてるとか聞いてますけど……」
「いいよいいよ。嫌がらせくらいタレントだったら多かれ少なかれあることだし。愛されたら駄目なの、俺は。そういう仕事なんだからさ。
……あー、喋りすぎたわ。とにかく俺は気にしてないんだから、こんなおじさんの心配する必要ないよ、瀬川君。キャラ崩れちゃうし。むしろ愛さないで?」

一スタッフでしかない俺の名前をしっかりと覚えてくれていた彼は、「あ、キャラって言ったのはオフレコで」と、ひどく魅力的な笑みと共に言った。
……絶対プロデューサーは彼の売り出し方を間違えていると思った。

14821-639 言ってることとやってることが違う:2011/06/25(土) 23:54:52 ID:FozlRjUw
触られるのはあんまり好きじゃなかった。
触りますよいいですかいいですよ、くらいのやり取りを経て触られるのらまだしも、
急に触られるのは本当に好きじゃない。
俺の体は俺の物だから俺の物に触る時は俺の了解を取るべきだし、
実際そんな事言われたらキモいので断るに決まってるけど、
まぁ一応聞いてみてくださいよ触っていいですかって。
……と言うような事を男の胸に頬をべったりくっつけたままブツブツ言っていた。
男は俺の頭の上で、そっかー、と愛想のない相槌を打ちながら俺の伸ばしっぱなしの髪の毛を弄っている。
俺は男の背中に回した手でTシャツの背中を弄りながら、そうなんだよ、と愛想のない返事をした。
それ以上会話も続かないので、俺は男の硬い胸に頬をべったり押し付けたままそっと目を閉じる。
静かな鼓動に耳を澄ませていると、男の指が髪の中にもぐりこんでくるので、俺も男の服の中に指先を滑り込ませた。
なめらかな背中の感触を何の他意もなくただ擦りながら、きっとあんたの優しさが俺を駄目にしているのだろうな、と思った。

14921-649 両片思い:2011/06/27(月) 02:44:00 ID:pFHd31A.
大城と出会ったのは大学の入学式の時。俺は一目惚れだった。
天然というか頼りないというか、大城は都会に慣れていない田舎もの丸出しで、
気になって何かと世話をやいていたら、俺を慕ってくっついてくるようになった。
俺に気がつくと嬉しそうに俺の所にかけよってくる。誇らしかった。
でも、男同士なんて保守的な田舎育ちのコイツにはありえない。一緒にいられればそれでいいと思ってた。
だが、こいつと同郷の女が同じ大学にいて、俺と親しくなるよりも明らかに早く大城と親密になってから、何かが狂った。
俺のわからない方言で早口で話す二人。俺といない時はほとんどその女といる。俺は面白くなかった。
「俺といる時と別人みたいだな」と嫌みを言ってしまったり。
女に取られるなら、酒に酔わせてやっちまおうという気にさせた。
もう親友なんてどうでもいいという自暴自棄になっていた。

翌日、俺の腕の中で抱き枕になっている大城がいた。
状況がわからずパニックになりながらも、酒に酔ってグダグダになった所までは思い出した。
予想外に大城が酒に強くて俺が先につぶれたのも思い出した。でも、それ以上の記憶がない。
「おはよう…」と大城が目を開けた。俺は慌てて手を離した。
傷ついた顔を見せたから、確実に何かやばいことをしたのだろう。
大城を帰した後で、背中に赤い線を見つけた。
キスをしたような感覚も戻ってきた。俺は血の気が引いた。

翌日、即座に謝った。
「酒に酔ったらキス魔でゴメンな」とごまかすしかなかった。
こうなるとどうでもいいと思っていた親友の座がどうにも惜しかった。
「大丈夫」という大城の顔が全然大丈夫じゃないと言っている。だが、まだ俺は側にいたい。
友情の一線は越えるわけにはいかないのだ。


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