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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

10520-879受けさんはずるい大人です 3/3:2011/04/06(水) 22:53:41 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、ひどい人だった。
終わりは唐突で、説得や懐柔の余地すらなかった。
「もう飽きたんだ、別れよう。」
ありがちなセリフを涼しい顔で突き付けて、彼は荷物をまとめて出て行った。
昨晩までなんにも変わりなかったのに。数時間前ベッドの中で俺が欲しいといやらしくねだったのと同じ唇で、あんな、まるで壊れたテレビを捨てに出そうという風にあっさりと酷い言葉を口にして、彼は居なくなってしまった。
なにかの冗談かと思ったが、結局一日待っても帰ってこなかった。
着替えやこまごました日用品だけが持ち出され、二人分の家具がまるまる残された部屋で俺は途方に暮れた。
そのうち電話もメールも通じなくなって、そうしてようやく、俺は捨てられたのだと思い至り、遅れて押し寄せる怒りと悲しみで荒れに荒れたんだ。
一緒に暮らした日々は夢のようで、俺は彼の居ない日々を暫くバカみたいにぼんやりして過ごした。大学の単位落としたのはあなたのせいですよ、って毒づくくらいは許して欲しい。


――そうして、今日。
彼と別れて二年、出会ってから七年後の今日、手紙が届いた。

『あんな別れ方になって、ごめん』
『病気で、もう長くない』
『会いたいよ』
『まだ好きだ、ごめんな』
『もう、新しい恋人できたか?』

懺悔のように切々と綴られた長い手紙の内容は、飛び飛びにしか頭に入ってこない。
後悔と悲しみと、色んな感情が溢れ出しそうに詰め込まれた彼の言葉。彼が綴った言葉。

結城さんは、ずるい人だ。

――昨日、あなたの葬式でした。
棺桶の中の彼は痩せ細って高校時代のしなやかな身体は見る影もなくて、それでも二年間病魔と闘い切ったんだって、彼の母親は泣きながら気丈に笑ってた。
――ねえ、あなたはそれで満足ですか。俺から隠れて一人で闘って、それで良かったんですか。
友人に頼んで死んだ後なんかに俺に宛てて懺悔を送り付けて、そんだ回りくどいのはあなたらしくない。
どうして、傍に居させてくれなかったんですか。

聞きたいことも言いたいことも幾らでもあって、けれど彼がいってしまってから数日遅れで届いた手紙への文句は行き場がない。

結城さんは、ずるい人だ。

『思い出は、俺が持っていくから』
『俺を忘れて、幸せになれよ』

いっそこんな手紙欲しくなかった。いっそ、彼が死んだことなんて知りたくなかった。
そうすれば、俺はずっと彼を恨んだまま、あの幸せな夢に半分浸かっていられたのに。

彼とあまのじゃくと、俺のしつこさ。もしそこまで計算した上でのこの最後の言葉ならタチが悪すぎる。
――そうしてあなたは、俺の一生をゆるやかに縛り付けるんだ。

「……あなたは、ずるい人だ。」

呟いた言葉は、あの日と似た暖かな春の陽に溶けていった。


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