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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

166名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:51:42
「食事ねえ・・・まあ、半分正解かな?しっかりその子もエネルギーを取ったんだよ

『人間を喰う』ことでね」

マルシェの答えに一瞬場の空気は凍りつく
「た、食べたと?人を?人間が?」
「まあ、獣化しているんだから内なる獣が出てきて人くらい食べるでしょ
ニュースでもあるじゃない、熊が人を襲ったって。それに現場に落ちてたでしょ、人の手首が」
マルシェの指摘通り新垣達は現場で人の手首が落ちているのを確認していた
「人を食って辺りが血まみれ。喰われた人は腹の中へと消える。
これで犯人消失の方法が判明したってわけだな」
吉澤がマルシェの説明に飽きながらあくびを噛み殺してまとめる

「じゃあ、なんでサユはここにいると?れいな達みたとよ、まだ無事なところを」
その答えにもマルシェはすでに答えを用意していた
「それはあとで食べるため。常に獣化しているわけだから食事は動物の『肉』だけになる
 正直、まだサユが生きていてラッキーって思った方がいいよ、よかったね、マメ」
マルシェの推理には不合理な点がないため悔しいながらも受け止めざるを得ない

「違う、熊井ちゃんじゃない!」
必死に否定する雅に対してもマルシェは冷静に「状況証拠は十分なんです」といって聴く耳を持たない
「ん?ちょっと待つと、ミヤは熊井ちゃんが能力者ってことを知らんちゃろ?
それなのに熊がその子やと気付いたと?」
れいなの鋭い指摘にリンリンもその通りだと言った表情で雅に顔を向けた
友達が人間を喰ったかもしれないということを伝えられ若干顔色は悪いが答えた
「ああ、それはですね・・・私が放り出されたところに熊井ちゃんの置手紙があったんですよ
 メッセージの下には下に『友理奈』って名前も書いてあったん」
そこまで雅が言った時に建物全体がぐらりと大きく揺れた

167名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:52:22
「な、なに?地震?」
新垣達に問われる前に吉澤が「俺ら、何もしてねえからな」と釘を刺しておいた
「新垣サン、脚元ガ!」
リンリンが新垣に声をかけた瞬間、床が崩れおち、雅と友里奈を除いた6人が一階へと落下した
思わずれいなはキャーキャー声をあげてしまい、思いっきり背中をうってしまった
「イタタ・・・もう、なにが起きたと?」
「吉澤さん、何が起きたんでしょうね?地震ではないですよ、だって緊急地震速報がなかっ」
「おい、マルシェ、地味に現実的なことを言うなよ。しかし、何だ?」
吉澤は他の5人が背中から落ちたのに対してしっかりと両足で華麗に着地を決めた
「若干時事ネタ絡めても時が経ったらわからなくなるぞ」

「しかしどうしたンデスカネ?電気もつかないようデスネ」
リンリンがそこら辺に落ちていた瓦礫を拾い上げた。
手にした椅子の脚に緑炎がともされ周囲は少し明るくなった
マルシェも白衣の内ポケットから懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた

「な、なんよ!これは!!」
れいなが驚きの声をあげたので二階から雅が「何があったんですか?」と問いかけてきた
「ミヤ、こっちに来るんじゃなかと!」
れいなが声を荒げて一階に下りてこないように警告したので雅は驚く
「なにか、おかしいと!一階がさっきと違ってぼろぼろになっていると!」

そう「ぼろぼろ」という表現は少々滑稽かもしれないが、ある意味適切だった
壁という壁には穴が開き、部屋と部屋という境界線は失われていた
新垣達がいたあの部屋のようにあちらこちらの天井が抜けおち、あちらこちらには瓦礫が積まれている
さきほどあれほど綺麗であった建物内と同じ建物だとは思えないくらいに荒れているのだ

168名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:53:09
「なにかまだいるね。れいな、リンリン、ジュンジュン、離れないで。愛ちゃん達と合流しよう」
三人が頷くのを見て、吉澤は「仲良しだね〜」と呑気に感想を述べた
「ま、こういうときはなるべく大勢で居るのがいいからな」
「・・・オマエラはドウスルダ」
ジュンジュンが威嚇の目つきで睨みつけると「おっかねえ〜」と吉澤はおちゃらける

「ま、とりあえず、熊井ちゃんをいただいて帰るとするかな」
「!! そんなことさせん!」
れいなが吉澤に向かって飛び出した

そこにれいな達のよく知っている声が飛び込んできた
「田中さん!伏せて!!」
(愛佳!?)
咄嗟に言われたがそれは光井の忠告、れいなは飛びかかるのを止め、その場に伏せた
光井の声が聴こえない吉澤は「おいおい、れいな転ぶなよ」と呆れかえる

その数秒後、伏せたれいなの上を何かが通り抜け・・・吉澤の寄り掛かっている壁に大きな穴が空いた
「な、なんだ?何が起きた?」
さすがの吉澤も突然のことに戸惑いを隠せず辺りを見渡す
れいなと同じく光井の声が新垣達にも聴こえたので光井の姿を見つけようと辺りを見渡す
「光井サン?どこですカ?」
「こ、こっちや…リンリンη×▽◎!!」
声のする方向を見れば脇腹を押さえて光井がこちらに向かって駆けてきた
「あ〜光井サン〜無事でヨカッタデス〜」
笑いかけながら光井を迎えるリンリンに光井は強い口調で言い放つ
「アホ!!リンリン、炎早く消すんや!!狙われるやろ!!」
慌ててリンリンは炎を消した

「落ち着くと、愛佳、一体何があったと?」
れいなが光井に問いかけ、光井はゆっくりと語り始めた

169名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:58:03
以上『VanishⅡ〜Ⅱ〜independent Girl〜(8)』の最終章スタートです
出来れば前回までを読んでいただくと面白いと自負しております(汗)
さて、今日から前回同様毎日投下していきます。したらば使いますが…
だいたい5〜9レスくらい使って少しずつ投下していくのでよろしくお願いします
前回よりも多い一週間超えますが、そこだけはこだわらせてください
皆様の期待に添えるか自信はありませんが(汗)

170名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:38:16
イーモバが規制中なんだけどなw
まあ行ってみますか

171名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:46:53
>>170さん
ありがとうございました
自分の努力不足で迷惑かけてしまいました
少しでも興味のわくお話しを書けるように努力します

172名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:47:16
行ってきますた
1回線契約残しておいてよかった

173名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:22
(2)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

―熊に連れ去られた雅を救いに4人が熊を追い掛けるまで時間は戻る

「高橋さん、愛佳も一緒に行った方がよかったんでしょうか?愛佳ならどこに逃げるか視えたでしょうし…」
「そうかもしれないね、でも、まあガキさんもおるし、れいなもいるし大丈夫やろ」
「そんなことよりもまずは道重さんですよ!あ、亀井さん!」
気付けばゆっくりと亀井がベッドの上で寝かされている道重に近づいていた
亀井は嬉しそうな表情で目にはうっすらと涙を浮かべていた
「さゆぅ、良かった・・・無事だったんだね」

「エリ、待って!まだ安全ってわけじゃないんだから!!」
高橋は先程の熊がいるようにまだ何かが起こるのではないかと気が気でなかった
部屋の中には特に変わったものは置いていない
道重の寝かされたベッドの横には食事の残りなのだろうか?トマトが残っている
良く見ればトマトにはなぜか桃のキャラのシールが貼られており一瞬疑問が浮かんで消えた
天井を見上げたところで何もトラップがあることもなく、床も落とし穴…なんてあるはずもない

「久住さん、あの熊が道重さんをさらった犯人と関係あるんでしょうか?
あの『黒い女が襲ってきた』『闇』というワード…やはりダークネスの!?」
「どうだろうね…道重さんが起きてくれれば何かわかるんだろうけど簡単に起きないよね?」
しかしそんな久住の予想とはうらはらに亀井に何度か肩をゆすられただけで道重は目を覚ましそうであった

「ん〜ふわぁ・・・もう少しだけ・・・」
道重の二度寝を欲するような甘い声を聴いただけで亀井は唇を噛みしめて泣くのをこらえようと必死になる
「さゆ、起きてよ!帰るよ!みんなで!」
より強く肩をゆすったので道重は両目をこすりベッドからゆっくりと起き上がった
「ふわぁ〜」と小さくあくびをして道重は周りの状況をぼんやりと眺める

174名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:59
「サユ!」「さゆぅ!」「亀井さん」
亀井が思わず道重に熱い抱擁を交わす
その嬉しそうな亀井の表情を見て思わず久住の目にも涙が浮かんでくる

ただ―光井は小さい違和感を感じていた
「どうした愛佳?嬉しくないんか?」
「…愛佳の視た未来の像と違うんです。何かが微妙に」
光井の言う視た姿は道重が連れ去られたあの日にリゾナントで視た『抱擁する道重、亀井の姿』である
しかし実際に目の前の抱き合っている二人の姿は何かが『違って』感じられた

暫くして何も言わずにゆっくりと道重が優しく亀井を離して高橋を見た
道重から離れた亀井は何も言わずにゆっくりと高橋の傍へと戻る

「サユ、無事でよかったやよ!!帰ろう、リゾナントへ」
高橋はそう言って道重に手を差し出した

その手を見て道重は手を握ろうともせず首を振った
ゆっくりとベッドに腰掛け直して艶のあるその黒髪を上から下までさっと手串をかけた

道重は亀井、久住、光井の位置を確認して最後にその大きな瞳で高橋を捉え、にやりと笑った

「帰りませんよ。それに、申し訳ありませんけど、私、


 さゆみではありませんから」


「え?さ、さえみさん?」
「そうですよ、高橋さん、私、さえみですよ」

175名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:23:14
道重『さえみ』はそう言ってベッドから立ち上がり、小さく背伸びをした
「う〜ん、少し寝すぎましたかね?あちらこちら少し痛いですね」
「そ、そんなことよりさえみさん『帰らない』ってどういうことなんですか!?」
高橋の後ろから久住が甲高い声で尋ねた

「あら、小春ちゃん、何言っているの?そのままの意味よ」
丁寧な言葉使いがますますさえみを不気味に感じさせる
「もう、私はさゆみをあなた達と一緒の場所に帰す気はありませんので」

「それはあかんと思いますよ!愛佳達が良くても道重さゆみさんの家族とかは」
「私はさゆみの姉ですから、大丈夫です、それに私がいればさゆみは寂しくないんですよ
 ね、そうよね、さゆみ」
さえみは微笑んだ

「・・・さえみさん、落ちついて話を聴いてくれます?なんでですか?」
高橋が少しずつさえみに近づきながら問いかける
「そうですね、以前、私が皆さんに頼んだこと覚えていますか?」
「それは『私のさゆみを危険な目にあわせないようにしっかりと見ていてください』のことかな?」
高橋がまた一歩さえみに近づいた
「その通りです。さえみはそこにいる子達ほどではないかもしれませんがか弱いんです
 運動も苦手ですし、体力もあるほうではありません
 にもかかわらずあなた方ときたら・・・」
さえみの肩が少し震えている
「新垣さんを救いに孤島へ行き、ダークネスと何度も戦って、戦って…何度も私を呼びだして
 今回だって高橋さん、あなたに頼んだ翌日にさゆみは拉致された!!」
さえみの口調が少しずつ荒荒しくなってきた

「私はね・・・皆さんとさゆみが出会うまではずっと長い間眠っていた存在です
 それが出てきたということは、どういうことを意味するか?
 さゆみが危ない目に会うことが増えた、実際に命の危険にさらされた、そういうことです。
 ああ、可愛そうなさゆみ、お姉ちゃんしかあなたを守れないのね、結局は」

176名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:24:14
「それは」と久住が口を挟もうとしたが、さえみに睨まれ委縮し光井の手をおもわず握り締めた
「あなたのこともいつもさゆみの影からみていたわ、小春ちゃん
 あなたは御存じないでしょうけど、夜な夜なさゆみは泣いていたんですからね
 それを私がどれだけなぐさめていたことか、あなたにも知って欲しいものですよ
 おっと、高橋さん、それ以上近づかないでくださいますか?」
何気なくさえみへと近づいて行った高橋に近づかないように手を突き出した

「あなたの戦法、何十回、何百回とさゆみの目を通してみているのであなたの十八番は効きませんよ」
そういうさえみには隙が見当たらず、思わず高橋も息をのんでしまう
「あっしらの能力も動きの癖も熟知しとるってわけやね・・・これほど戦いにくい相手はいないね」
高橋が苦笑いを浮かべて、すぐに口を真一文字に結び直した

「・・・なあ、さえみさん、やっぱり、あっしらと帰ってくれんかのう?」
高橋が、亀井が、久住が、光井がさえみの次に発する言葉を待った
「無理ね、どうしてもというなら、私を力でねじ伏せるくらいのことをみせてくれますかね?
 ただし、高橋さん、そこから一歩でも前に出ればあなた方を『敵』とみなします
 怪我をしたくなければ、すぐにここからお帰り下さ」
さえみが最期を言いきる前に高橋が足を大きく踏み出した
「悪いけど、さえみさん、帰るなんて選択肢はない
あなたがサユを大事に思っているように、サユもかけがえのない仲間なんよ
別に力があるとか、か弱いとかそんなん関係なくて、あっし達はサユと友達なんよ
 多少手荒な子とするかもしれんけど、サユと帰らせてもらう」

さえみはふぅと小さく息をつき、小さく背伸びをしてから高橋に手を向けた
「よけてくださいね」
静かに言ったさえみの掌から淡いピンク色の光が高橋に向かって飛んでいく
高橋は落ち着いて瞬間移動、いや『跳んだ』
一方でさえみが放った光はちょうど高橋がいた位置の後ろの壁に大きな穴を開けた
「まあ、始まりですし、これくらいなんてことないですわよね
 でも、これでおわかりかしら?私も本気だということを」

177名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:25:20
「高橋さん、さえみさんが相手ってヤバイっすよ」
久住が声をかけても高橋は答えず、どうするべきか悩んでいるように見えた
「みっつぃ、どうしよう?小春、道重さんと戦いたくないよ」
「そら愛佳もや…本当は戦いたくないけど、こうしなきゃあかん雰囲気やろ…」
戸惑いを隠せない後輩二人はさえみと対峙している高橋の背中に視線を注いだ

「道重さんを小春が困らせていたなんて気付かなかったけど、笑ってくれたあの笑顔忘れられないんだよ
 迷惑そうにしていたけど、それも含めて芸能人『月島きらり』じゃない小春を観てくれた数少ない人
 それを失いたくないよ」
「愛佳も亀井さんとか新垣さんとかリンリンと笑っていた道重さんをもう一度、いやずっと観ていたい」

「・・・じゃあ、戦うしかないんじゃない」
そう言ったのは意外な人物であった

「「亀井さん?」」
亀井は覚悟を決めた表情で高橋の横に並び、久住と光井へと顔を向けずに声をかけた
「二人とも、さゆとまた話したいんだよね?ばかみたいに笑いたいんだよね?
 だったら、選択肢は一つしかないよ、さえみさん!!」
亀井は人差し指をさえみに向けた
「あなたからさゆを取り返す、いや奪ってみせます」
亀井の宣言に対してさえみは意外に笑って見せた
「えりちゃん、本当に強くなったわね。あなたのことを私は多分、さゆみの次くらい知っているわ
 本当ならあなたを傷つけることはしたくはないの。さゆみが一番笑っていられたのはあなたの横だったから
 でも、それとこれとは別、いや、むしろあなたがいたから私は自分の居場所を失った
 えりちゃん、私も宣言させていただくわ。さゆみの一番大切な存在、その場所頂きます」

178名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:30:03
今日はここまで。
昨日のタイトルは…ミスですw普通に『Vanish! Ⅱ』ですからw
今回のボス登場です。二日目にして出るなんて、早いかもしれないですがw
ある意味今日が裏切り②といってもいいと思います

代理よろしくお願いします

179名無しリゾナント:2011/07/22(金) 23:38:04
行ってきまふ

180名無しリゾナント:2011/07/22(金) 23:46:45
投稿官僚

181名無しリゾナント:2011/07/23(土) 10:23:13
確認しました。ありがとうございます♪

182名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:57:12
(3)
「カメ、小春、光井、覚悟は出来てるね」
高橋の問いかけに対して三人はそれぞれ答えを出していた
「愛ちゃん、愛ちゃんは絵里達のことを気にしないでください。絵里もサポートします」
「小春もがんばりますよ。道重さんを取り返しましょう」
「愛佳も後ろからですがサポートします!!」
「それじゃあ行くよ」

次の瞬間、高橋はさえみの後ろの空間に現れた
目標はさえみの後頭部。さえみの隙を狙い、思いを込めた蹴りを放つ
「そこですね」
さえみは振り向きもせず自身の背後、高橋のいる辺りへと手を伸ばす
「なんやと!?」
危険を感じた高橋は攻撃を中断し、再び亀井の横へと戻った

「言いましたよね、十八番は通用しないと」
「みたいやね」
表情は笑っている高橋だが内心はかなり動揺していた
というのもさえみの手をむけられた先の壁が綺麗に崩れていたからだ
「愛ちゃん、あの手は危険だね」
「うん、『物質崩壊(イクサシブ・ヒーリング)』、やはり敵にしたくない力だね」

「近づかなければいいんですよ!!高橋さん、小春に任せて!!」
高橋と亀井のほうに目を向けているさえみに向かって小春が雷を放った
赤い色の輝かしい雷はさえみにまっすぐ伸びていく
さえみはゆっくりと手を伸ばす
「・・・」
何も言わないが、雷はさえみに届く寸前で消えていった。
「遠距離攻撃も効果なし?」

183名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:58:32
「フフフ…皆さん、勘違いしていますよ。私の力を」
さえみが少し低い笑い声を響かせながら天井にあるシャンデリアを指差した
さえみの目が金色に光ると同時にシャンデリアに亀裂が入り、砕け散った
「こうやって見えるもの、もちろん触れるもの、全てを消せるんですよ」

「近づくのが危険、というわけではないんですね、高橋さん」
「でも近づかなくては何もできないし…」
「小春の雷が効かないみたいだし、どうしようか…」
何も言わずに亀井がカマイタチを突然放った
しかし、何も起こらずさえみは「無駄よ」と言って笑っている
「見えない風だとしても空気の震えでどこにくるかくらい予測できるわ
 『見えないから効くかも』、えりちゃんそんな浅はかな考えくらい想定の範囲内です」

「諦めんよ」
高橋が再び跳び、さえみの後ろに現れた
「無駄だっていっているのおわかりですか?」
さえみが手を伸ばし、現れた瞬間の高橋に0距離で光を放った
桃色の光が高橋を包みこみ、ゆっくりと高橋の姿が消えていく
「愛ちゃん!」「高橋さん!」
亀井、光井の悲痛な叫びが響く
「リゾナントリーダー高橋、大したことなかったですね」
「それはどうや?」
声がすると同時に高橋がさえみの真正面に現れ、さえみの顎に強烈なアッパーを入れた
そしてすぐに跳び、仲間の元へと戻り、久住にウインクを投げた

顎を押さえながらもさえみは無表情のまま高橋を睨みつける
「チッ、あれは小春ちゃんの幻覚でしたか…」
「そういうことですよ〜愛ちゃんがあんな簡単にやられるわけないですよ☆」
「視界に入る前に攻撃すればええんやろ?それだけのことや」
高橋が簡単なことだ、とでもいうように微笑みかける
「いけます、これならさえみさんでも防ぎきれません!!」

184名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:59:24
「いや・・・それがそういうわけにはいかんみたいやね」
高橋が困り顔を浮かべているのに亀井が気付いた
先程から高橋は手を後ろに組んだままだ
「さえみさん、あなた…」
「愛ちゃん、何かされたんですか?」
亀井が高橋の腕を握り、さえみを殴った右手を自分に見えるように持ち上げた
「!!」

「あら、言っていませんでしたっけ?私に触れたものが壊れるように力を解放してますのよ」
さえみが近くにあった皿に触れた。すると皿は粉々に砕け散った
「ということは・・・」
光井が高橋の右手に視線を向けると・・・高橋の右手首から上が消えていた
「久住さんの雷も亀井さんの風も消される・・・でも触れたら否応なしに触れた部分が消される
 ただですら愛佳には何も攻撃の方法あらへん・・・どうすればいいんや?」

「愛ちゃん・・・」
亀井はすぐ横の高橋の顔を見つめるが、高橋の顔は暗い
「どうします?まだ続けますか?」
さえみが時折さゆみがみせる気だるそうな声で尋ねる
「無駄なんですよ、私に攻撃を与えようとすることは。全て無に消えるだけ
 それからついでに絶望的なことを教えて差し上げましょう」
さえみは右手に淡い桃色の光をともした
「私はさゆみのもう一つの存在、もちろん『崩壊』させるだけではなく『治す』こともできます
 なので先程高橋さんから頂いた、顎の傷、もう『消させて』いただきましたよ」
「じゃ、じゃあ、さえみさんを倒すには一撃で決めるしかないってこと?」
久住が光井に尋ねると光井は何も言わずに首を縦に振って答えた
「そんな…勝てないよ、勝てっこないよ、あんなのに・・・」

185名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:59:59
「そんなに悩んでいるなら、今度はこちらから行きますよ!」
さえみが4人に向けて光を放った
「みんな、あっしにつかまって!」
高橋の声に従い3人は高橋に触れ、跳んだ
「逃がしませんよ!かくれんぼみたいですね♪」
高橋といえども3人を連れての瞬間移動には限界がある
(どこか遠くに行くべき?それともこのまま逃げ続ける?どうする私)
心の中で自分自身との対話を始めた

「高橋さん、愛佳たちを気にしているなら大丈夫です!
ただ少しだけ遠いところに跳んでからにしてください」
「み、みっつぃ?」
久住は光井が自分を逃がしてほしい、そんなことを言ったので驚きの声を上げた
「道重さんを置いて逃げるって何考えているの!」
「違うわ!!新垣さん達にさえみさんが敵だって伝えんといけないやろ!
何も知らずに道重さんの元へと行ったら危険や!それを阻止させんと」
「あ、そっか、みっつぃ、冷静だね、こんなときでも」

「愛佳の言う通りですよ、愛ちゃん、エリ達だって自分の身くらい守ってみせます」
「…わかった、なるべくこの建物の端に逃げるから」
高橋はまた跳んだ―その数秒後には亀井、久住、光井の三人は古城の端の部屋に残された
「頑張るんやよ!!」
そう言い残し高橋はさえみの元へと戻っていった

「愛ちゃん、大丈夫かな?」
何度も仲間を連れて跳んだ高橋の身を心配する久住
「高橋さんならなんとかなる、無策で行く人やない。リーダーを信じましょう
 しかしさえみさんも派手なことしてくれはったわ」
三人の目の前にはすでに部屋と部屋の境目が無いくらいにぼろぼろになった光景が広がっていた
天井が抜け落ち、天井のかけらが家具を押しつぶしていたり、ソファの一部が見事に削られていたりする

186名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:00:51
「でもまさかさえみさんがあんなことを思っているなんて想像もしなかったな
 さえみさんがあんなに小春達のことを恨んでいたなんて」
「いや、あれは恨んでいるンとは違うと思いますわ、なんていうか妬みに近い気がします」
「妬み?」
「さえみさんは元々道重さんの孤独を生めるための存在だったわけや。そこに亀井さんが現れた
 自分の寂しさを埋めるために作りだされたさえみさんは焦ったはずや、自分の居場所を奪われて
 さらに愛佳達も道重さゆみさんの友達となっていく。ますます自分の価値を失って行った
 さえみさんはさゆみさんを守る存在として出現した。しかし、その守ることも必要なくなってきた」

そうして会話をしているうちにもさえみの放つ光は部屋を壊していく
みるみる内に壁に穴が空いて行き、建物内が一つの大きな部屋へと近づいていく
そして、ドシャーンという大きな音とともにれいなのキャーキャー言う声が聴こえて来た
「田中さんの声が聴こえた!!さえみさんがおるって忠告してきましょう!」
そういい光井、亀井、久住は新垣達の元へと駆けて行った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

光井からの話を聴き終えた新垣達は言葉を失った
「さ、さゆやなくてさえみさんがおったと?しかも、帰りたいなら実力行使やないとあかん?」
「これはメンドクサイことになってしまったのだ。ただでさえこちらも問題が起きているのに」
「問題ってなんですか?」
光井が困り顔の新垣に尋ねた

「うん、それはね・・・」
新垣が雅を連れ去った熊が『熊井』という女の子であったことを伝えると光井は驚きの表情を受けべた
「熊井ちゃん?愛佳の後輩の?それが熊になっていた?」
「うん、そうなの。しかもその子をあいつらが狙っているの」

187名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:01:33
「おいおいあいつらとはひどい紹介の仕方だな」
吉澤が不満げな声を出して見せた
「仕方ないですって、一応敵なんですから」
マルシェも懐中電灯をしまっていた

「それで熊井ちゃんは今どこにおるんですか?」
「ミヤが上でみとる。あ、そういや、ミヤ!置手紙にはなんて書いてあったと?」
れいなが上の階に待機している雅に尋ねた
「あ、はい、熊井ちゃんはですね『逃げてください、今すぐに』って書いてあるんです」
「『逃げて』?自分から捕まえておいて何言っているんや?」

そこに高橋が音もなく現れた
「みんな、無事か?」
「愛ちゃん」「高橋サン」「高橋」とそれぞれ思い思いの呼び名で呼ぶ
マルシェと吉澤がいるのを見て高橋は一瞬戸惑いの色を浮かべた
「うおっ、なんであんたらがいるんや?」
「やっほー愛ちゃん、まだ元気なようだね」
マイペースなマルシェが挨拶を交わした

「ちょっとそんなことしている場合じゃないでしょ、愛ちゃんもマルシェも!
 今、さえみさんはどこにいるのよ!」
新垣が慌てて声を出した
「ここにおりますわ」
不気味な声が聴こえ、声のする方に顔を向けるとさえみが崩れ落ちたがれきに腰掛けていた
「道重」という吉澤に対し「さえみ」ですと答える

「役者は勢揃いの様ですね。意外な方もおられますけど」
さえみはゆっくりと、しかし全員の顔を眺めながら呟いた
「俺と会うのは初めてかもな、さえみさん」
吉澤が興味深々な様子で近づいた

188名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:02:22
「こいつがSSSランクの能力者か…あのお方と並ぶ数少ない能力者」
「何をおっしゃっているのか判りませんがそれ以上近づいたら、いや、ダークネスだから消しましょう」
言うや否やさえみは吉澤に向けて視線を合わせようと顔を向けた
吉澤はさえみの死角に逃げ込み、視線から逃げた
「おいおい、すこしくらい話させてくれてもいいんじゃねえの?」
軽い口調の吉澤に対してマルシェは半分あきれ顔だ
「あの人、楽しんでいます…」

吉澤はマルシェから距離をとり、椅子に座りこんだ
「あのさ、この事件、オマエ関わっているんだろ?」
「何のことでしょうか?」
「おいおいとぼけんなよ、熊井だっけ、あの子を連れてきたのも、あの現場から消えたのもお前の仕業だろ」
「さて、どうでしょうか?」
吉澤は脚をぶらぶらさせながら自論を進めようとするが、光井が割って入った
「どういうことや?さえみさんが関わっているって」

「落ちつけよ、光井愛佳、落ち着かねえとそこにいる不良娘と同じになるぞ」
「だれのことや?言うてみると!」
吉澤は何も言わずにれいなにむけて光弾を放つ

「まあ、道重がさらわれたのは本当なんだろうな
 ただ、あの現場で起きた消失事件、全て、さえみ、オマエがしたんだろ?」

「お前ならどんなに監禁されていたとしても逃げられるし、何人相手でも倒せる
 遺体が見つからないのも全て消すことができるお前の能力になら可能だ
 現場の景色もお前の綺麗な崩壊で再現可能」
「でも現場には血が流れていたんや、さえみさんなら血も残らない」

189名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:03:00
「あのなあ、『可愛い』道重さゆみを連れ去ったものを簡単にこいつが殺すと思うか?
 俺らの手下のどれだけが死ぬ前に地獄を見たと思う?死なない程度にいたぶるんだよ、こいつは
 もしくは『治し』ながら『壊す』ことが可能なんだ
 手首から先を消して、血が止まらないようにして失血死させる
 頸動脈を露出させて勢いよく、ショック死させる
 いくらでも血みどろにすることはできるだろ」

「それに熊井とか云う女の子を残してのも説明がつく
 熊井は人質として使えるからな。まさか獣化能力者とは思わなかったかもしれないがな」
「ミヤに向けた『逃げて』というメッセージ・・・」
その意味を理解し、黙り込む一同
「あいつはなるべく被害者を増やしたくないから、帰れなかったんだろうな」
「熊井ちゃん・・・」
「でも確かに吉澤の説明で納得いく部分はありますね」
光井が思い出したように言った
「唯一の生き残りのキーワード『黒い女』『闇』、どちらもさえみさんに当てはまる」

「そろそろおしゃべりはやめていただいてもよろしいですか?」
暇になったのだろうさえみはあくびをしている
「その前にさえみさん、今の推理が正しいか答えてくれないかな?」
高橋の問いに対してさえみは
「だって、さゆみを連れ去ったものを生かす必要なんてありませんもんね」
と推理が正しいことを認めた
「なんでや、なんでそこまでするんや!」と高橋が大声を上げたが、さえみは表情も変えずに
「邪魔な者は消すのみですよ。私は正義とかどうでもいいと思っていますので
 さて、そろそろ結論、出してくださいね、私と戦いさゆみを連れて帰る
 もしくはこのまま帰るか、もちろんダークネスのお二方は帰しませんけどね」

190名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:03:52
「そんなの」
高橋がゆっくりと立ち上がる
「決まっているよね」
新垣が安全装置を解除する
「何をするかなんて」
亀井が髪止めをはずす
「愚問やね」
れいながグローブをはめ直す
「小春達に出来ること」
小春がちいさく跳ねる
「それは、ただ一つや」
光井が背伸びをする
「道重さゆみサンを」
ジュンジュンが栄養剤を口に放り込む
「取り戻ス!」
リンリンがポケットから飴を取り出す

「それじゃあ、最後の戦いと行きましょう
 ルールは私を倒す、もしくはあなた達がさゆみに必要だと認めさせればさゆみを返します
 もう手加減はしませんよ。もし死んでもさゆみには忘れてもらいます
 そのためにあの子をここに残したんですから、熊井ちゃんをね」

「そうか、あの子をここに残せば、仲間が来る…
 記憶を消す能力『消失点』を持つ雅ちゃんが…そこまで考えていたのか?」
マルシェがさえみの頭の良さに驚きつつ、ポケットから銃を取り出す
「流れにのまれるんじゃねえぞ。道重さえみ、面白い、敵として申し分ねえな
おい、マルシェ、死ぬんじゃねえぞ、帰って上手い酒飲む約束忘れんなよ」
吉澤も靴ひもを結び直し、前髪を留め、戦闘態勢に入る

「さゆを」「「「「「「「取り返す」」」」」」」」
「さあ、楽しもうぜ」「まったく、メンドクサイですね」
「・・・」

191名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:06:29
夜ネット環境ないところに行くので、今のうちに投下しておきます
夜になったら代理投稿しておいてください
しばらくは『狂犬〜』の感想読みたいですw

『狂犬〜』の闇の王の威厳のなさいいっすねwダメすぎていいw

192名無しリゾナント:2011/07/23(土) 19:04:09
8時頃を目途に投下してきますね

193名無しリゾナント:2011/07/23(土) 20:22:31
天災完了

194名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:44:46
(4)
「れいな、さえみさんの体に触れたら消されるから肉弾戦は避けて!」
さえみへと一直線にかけよろうするれいなに高橋が呼びかける
「そんなことわかっていると!」
れいなはさえみの周囲をぐるぐると回り始めた

「??れいな、一体何のつもり?言っておくけど、私のどこに触れても消えるわ
そういえば、さゆみも言っていたわ、れいなは単純だって」
「なに?サユ、そんなこと言ってると?許せないっちゃ、サユ!!」
れいなは怒り顔のままで人間とは思えない速度でさえみのまわりを回り続ける
自然とさえみの注意はれいなへと向けられる

(今や!)

いつの間にかさえみをリンリン、久住、ジュンジュンが取り囲んでいた
久住は赤色の雷、リンリンは緑色の炎、ジュンジュンは近くの瓦礫をさえみ向かって投げつける
「さすがに三か所同時やったらふせぎきれんやろ!」
雷が、炎が、瓦礫がさえみ向かって飛んでいく

「いける!」
新垣がそう思い拳を握りしめた
しかし、というかやはりさえみに当たる直前でそれらは崩壊する
「ええ?あれも届かないの?絶対的防御じゃない」
「それはどうかいな」
れいながニヤリと笑って見せた
ふとみればさえみの右腕に切り傷が出来ていた

「え、どうやって?」
「簡単や、三人の攻撃に集中させて、エリに攻撃させたとよ」
亀井を見ればカマイタチを放ったようで親指を上げて、こちら側に合図を送っていた
「意識の外の攻撃には防御できんくて、風は見えないから消せないはずやと思ったけど大当たりやね」

195名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:45:32
自分の腕に手を当てながらさえみは嬉しそうに笑う
「ふうん、やりますわね、れいなちゃん。でもね、これくらいなんてことないわね」
手を外したさえみの腕には傷は完璧に消えていた
「さゆの治癒能力、メンドクサイ能力っちゃね」

「それを相手に俺らはいつも戦っているんだって。どきなれいな、俺が行ってやるよ」
れいなを押しのけて吉澤がマルシェの前に出た

「マルシェ、作っておけ」
「え?本当ですか?幅は?」
「まかせる・・・2本、いや1本ずつだな」

「行くぜ、さえみ」
(速い!)
新垣はそう思った。ただ先程のれいなと違い吉澤はまっすぐ吉澤はさえみにむかっていく
(でも、あれじゃ、さえみさんの真正面では?何を考えているんだ?)

さえみはゆっくりと掌を吉澤へと向け、光を放つ
吉澤はその光を左腕で受け止め、体に当たらないようにしながらさえみに近づいて行く
当然ながら吉澤の左腕は淡雪のように空気中へと消えていく
「何をお考えでしょうか?」
さえみの呟きに対して吉澤はこう言った
「こうでもしないとお前に近づけねえだろ?腕一本くらいで済むならNo Problemだ」
吉澤はさえみの腹に渾身の蹴りを入れた

さすがに直接攻撃するとは思わなったのだろう、さえみは小さくうっ、と声を出した
吉澤の蹴りの威力はすさまじく、さえみは壁に強く叩きつけられた
もちろんさえみを蹴った左脚は消えかけてきた

「あの人、無茶するデス。スゴすぎてバカみたいデス」
リンリンがあっけに取られた表情で吉澤を眺めている

196名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:46:43
吉澤の元へと近づいたマルシェは手に何かを持っていた
「おう、マルシェ、さすが仕事速いな」
「相変わらず無茶しますね・・・これでいいですか?」
吉澤はマルシェからそれを受け取った
「・・・なんか少しサイズ太くねえか?俺、こんなんだっけ?いやがらせか?」
「いいから早くつけてくださいよ」

マルシェから受け取ったそれを吉澤は消え去った左腕と右足にくっつけた
そう、マルシェが作ったのは吉澤の『スペアの脚と腕』だった
『原子合成』で急遽作ったとはいえ、その大きさは吉澤にちょうどのサイズであった
感覚を確かめるように吉澤は手を握ったり広げたりしている
「うん、悪くねえ」

そんな二人の様子をみて久住は近くにいた光井の服を引っ張った
「あの戦い方、小春にはまねできないよ…ヘタしたら体全部持ってかれるよ」
「そやろうな…あれがダークネス幹部の戦い方」
知将光井ですら考えなかった戦い方であった

「ふぅ、さすがに今のは効きましたよ、さすがダークネスですね」
さえみがゆっくりと立ち上がり、口からペッと血を吐いた
「ふふふ、面白い戦い方をなさいますね、自分の命を命とも思っていない
 嫌いではありませんよ、その戦い方」
「気にいってもらって光栄だな」
再び吉澤がさえみと向かい合った

「でも、もう効きませんよ。今は、さきほど以上に触れたら崩壊する領域を広げました
 そうですね、私から半径50cmってところですかね?」
さえみが平然と言ってのけたが、その場にいた他の人々は戸惑いの色を隠せない
「愛ちゃん、どうしよう、これじゃあ、もうさえみさんにふれることすら」
「そんなにかよ、俺の腕の半分以上か・・・さすがにそこ飛び込む勇気はないな」

197名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:47:31
新垣の問いかけにも高橋は先ほどからずっと黙ったままだ
「愛ちゃん?」
「・・・なあ、ガキさん、あっしは自分の力を正直きらっとるの知っとるやろ
 ただな、今はその力を使うときかもしれん、『光』の力を
 それをずっと考えていたんよ」
「愛ちゃん、確かにあの『光』を良く思っていないことは知っている
 でも、そんなことよりも今はさゆみんを取り返すことが大事なんだから」
「・・・だよね、でも、ガキさん」
「なあに?愛ちゃん」
高橋は半ば困り顔の表情を新垣に向けた
「手加減できんから、さゆを全て消すことになる・・・かもしれん」

・・・と新垣が高橋に抱きついた
「ガキさん?」
新垣は高橋の頭を優しくなでながら言った
「愛ちゃんならできるよ、私、信じているから。それまで時間かせいであげるよ」
「うん、ありがとう、30秒あれば十分、やと思う」
その言葉を聴いた新垣は6人の仲間に「30秒、愛ちゃんをサポート」と指示を出す
仲間達は注意が高橋に行かないように必死に動きまわり、さえみの攻撃を避け続ける

「あぶないっ」
久住のすぐそばをさえみの光が通り抜ける
「ファイヤー」
リンリンの炎がさえみ周囲の見えない壁に当たり消えていく
「がんばるっちゃ、みんな」
れいなの励ましの言葉が飛ぶ

「へえ、れいなも気づかう優しさ出せるようになったんだ、成長したんだ」
「なに、ぼうっとしているんだ、マルシェ、何とかしてこの場面を打開する方法考えるぞ」
吉澤もさきほどから光弾を放ち続けている

198名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:49:05
新垣も何とかしてさえみの心の内を読もうとするが、こんな状況では当然読むことなんてできない
(どうにかしてさえみさんが止まってくれればいいんだけど…それより、愛ちゃんまだ?)
新垣は高橋のすぐ横で走り回り注意をそらしてくれている仲間たちへと指示を飛ばしている
もちろん、指示を出すのは新垣だけではなく、未来を視える光井もしている
しかし新垣の指示の方がより的確で、逃げるための指示ではなく生き残るための指示であった

そんな新垣達に守られながら高橋は自身の心と対話を静かに迎えていた
(本当はあの力なんて使いたくない)
化け物扱いされ、特に理由もなく避けられる日々が浮かぶ
(自分では制御できんで、大切な人を失ったりもした)
目の前で輪郭を失っていく茶髪のショートカットの女の子
(何よりも強力なはずのこの力、使い方によって世界を変えられると教えられた)
光によって友を失った時に励ましてくれた仲間達の姿
(今はこの力が必要な時なのかもしれん)
リゾナントで一緒になって笑いあう自分を含めた9人の姿
(お願い、今だけでいいから、光よ、私の一部に)

<ちょっとそれは虫がよすぎるんじゃない?>
(誰?)
<私はi914って呼ばれている。あなたの中のあなた。あれだけあの力を嫌っていてこう言うときだけ使わせて?>
(それはそうだけど今は、あの力で救いたいの)
<あなたは救われるかもしれないけど、それで私は救われるの?光の持ち主のi914は>
(確かに今はあなたのことを救えないかもしれん…でも、今は光の力が必要なんよ
 あの時の違って今は心から信頼できる仲間がいる。それを取り戻したい)
<本当に光の力で救えると信じているの?敵は仲間の一人なんでしょ?また失うことに>
(私はあの頃と違うんだ!!もうi914なんて簡単な番号では呼ぶ人はいないし、居場所もある
 あなたもいつまでもその番号にこだわっていないで自分を受け入れるべきよ)
<それはそのままあなたにお返しすることになるわ。まあ、いいわ、今だけ光を使わせるわ>

高橋は静かに息をし、目の前の光景を静かに眺めた

199名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:54:03
光から必死に逃げ惑う久住やれいなの姿
必死に指示を送り続ける新垣と亀井と光井
隙あらば攻撃に転じようと諦めの色の見せないジュンジュンとリンリン

「みんな、待たせたね・・・私の中の私、力を貸して」
高橋はさえみに標準を合わせた
「さえみさん、私の思いを感じて、この光を通して」



ここまで「Vanish! Ⅱ(8)」のパート4です
ちなみに高橋さんの手首から上は失われても光は放てるっていう設定にしてください(汗
そうじゃないと矛盾生じるので(汗
読む方も大変ですが頑張ってください(汗

遅れましたが昨日の投下代理の方ありがとうございました。
今日の方よろしくお願いします

200今日の方:2011/07/24(日) 22:09:30
行ってくるがし

201名無しリゾナント:2011/07/24(日) 22:17:18
転載完了

202名無しリゾナント:2011/07/24(日) 22:29:27
確認しました。ありがとうございます

203名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:28:55
(5)
高橋の澄んだ声が部屋中に響き渡る
「さえみさん、これが私からのあなたへの思いよ」
その声に全員が思わず高橋の方を向いてしまう

高橋の傍に真っ白な光の球が浮かんでいる
「愛ちゃん、それって」
高橋はニヤッと笑って見せた
「私の中の秘めた力、光の力!さえみさん!」
光はさえみに向けて放たれた

高橋の光は真っすぐさえみに向かって行く
その放たれた光は驚くほど輝き、仄暗い部屋を明るく照らし出す
全てを消しさるはずの光の力なのに、なぜかその光に新垣達は見惚れてしまう
「これが愛ちゃんの光…」

さえみは近づいてくる光にも動ずることもなくゆっくりと掌を向けた
(これが噂の光の力なのですね)
さえみはそう心に思いながら、迫ってくる光をその暗く大きな瞳でみつめていた

さえみから放たれた『崩壊』の光と高橋から放たれた『純粋』な光
どちらも相手を消す力を持つ能力
しかし同じ光だとしてもそれを見つめる者たちには全く違う輝きを纏っていた
とはいえ、目的は同じ人物を守るため、一人の仲間のためにぶつかりあう光と光

「さすが、高橋愛の光。ものすごいパワーを感じますわ」
さえみの頬に額から汗がつたわって流れた

「さえみさんの崩壊の光…さゆを救うためにも負けるわけにはいかない」
高橋も不慣れながら精いっぱい思いを込めて光を放ち続ける

204名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:29:28
二つの光は激しくぶつかり合った
ぶつかりあうことで生じる衝撃波と眩しい光が辺りを包む

光に包まれた新垣達は思った
(あれ?光に包まれたってことは私達消えちゃうの?これで終わり?)




そんなこたあないw

「新垣さん、大丈夫ですか?ほら、ミヤの手握ってください」
れいなの忠告を無視して、二階から飛び降りてきた雅の手を伝って新垣は立ち上がる
目をあけると部屋は先程以上に荒れているが、欠けている人影は見当たらない
もちろん光を放った高橋もさえみもそのままの姿勢で立っている
二人とも一見したところ傷を負っている様子はない。
高橋が右手首より上を失っている以外には消えた部位はないようで、血が流れている様子もない

時間にしてほんの一瞬のことながら、高橋は額に大きな脂汗をかいていた
「さすがに慣れていないことはしちゃだ・め・だね・・・」
高橋は背中から半ば崩れおちるようにして倒れた
「愛ちゃん!」
近くにいたれいなが急いで高橋の元に駆け寄り、助け起こした
「アハハ、少しやりすぎたがし…動けんや、もう一歩も」
れいなは高橋を壁に背をもたらせて座らせた
「さえみさん、やっぱ強いよ、光でもかなわなかった。傷一つつけられなかった」

一方のさえみは先程から黙ったままだ
「・・・もしかしてさえみさん、立ったまま亡くなったんとちゃいます?弁慶の仁王立ちみたいな」
光井が黙ったままのさえみを見て隣の久住に声をかけた
「弁慶って何?膝怪我していないよ、さえみさん、ほら見てよ」
さえみの膝を指差す久住

205名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:30:27
「…やめてよ…」
さえみの口からそんな声がこぼれた

「さえみさん何か今言いませんでしたか?」
「そうか?俺には何も聴こえなかったぜ。おい、そんなことより今、チャンスじゃねえか?」
吉澤はポケットから携帯用のトンファーを取り出した
「今、あいつ無防備だろ、今のうちに攻めとかねえと」
両手にトンファーを手にして吉澤はさえみ目がけて飛び出した

そんな吉澤に気付く様子はなくさえみはやはり小さく口を動かしている
「…あなたの…」
「もう…よ」
「…誰より…守って…」
「…一人で…」

「何を一人でごちゃごちゃ言ってやがるんだ!!」
吉澤はトンファーをさえみの頭目がけて振り落とした

「さえみさん、危ない!!」
今は敵のさえみだが、思わず新垣は危険だと声を上げてしまった
新垣の声ではっとした様子で吉澤に気がついたさえみは吉澤の姿を見て、全身から光を放った
「な、なんだと?」
突然の攻撃によける暇もなく吉澤は全身を光に包まれた
「吉澤さ〜ん!!」
マルシェの悲痛な叫びが響いた

吉澤が消されたことでショックを受けたのはマルシェだけではなかった
「あの吉澤があっという間に消された?ありえないと…」
「さえみサン、強すぎマス、勝てる気がしないデス」
何度も何度も戦ったからこそ、あの吉澤が簡単に消されたことは衝撃だった

206名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:31:10
その吉澤を消したさえみの様子は明らかにおかしくなっていた
また先程と同じように小さい声で呟き続けているのだ
「さ…み…寝ていて…」「…もう…てよ」
時折聴こえる声から新垣はある推測をたてた

「もしかしてさっきの愛ちゃんの光でさえみさんの心の中でさゆみんが起きたのかも」
「それは十分にありえる考えですね」
マルシェが新垣の横で並んでさえみを観察し始めた
「しかし、あの状態だとしても近づくのは危険です。先程の吉澤さんの二の舞になる恐れが非常に高いです
 ねえ、マメ、今ならあの心を見れるんじゃない?」
「出来ないわけではないけど、危険すぎて、したくないっていうのが本音だね
 ただ・・・今しかないよね、さえみさんの心を変えるために
 ジュンジュン、もしさえみさんが動き出したら私を抱えて逃げてね、頼むわ」
「わかったダ」
そうして新垣はすぅっと呼吸を整え、さえみに意識を集中させた

「新垣さん、気を付けてくださいね。さあ、小春達は今度は新垣さんを守らないといけないですね」
小春が掌から雷をバチバチいわせながら指を曲げ伸ばししている
光井は何かを考えているようで黙ったままだ
「どうしたの、みっつぃ?新垣さんがなにかを持ってきてくれること期待しようよ」
「う〜ん、そうなんですけど…何か嫌な予感するんですわ。予知ではないんですけど」

すると突然、さえみが獣のような叫びをあげた
「マメ、何が起きたの?」
マルシェはジュンジュンに背負われている新垣に問いかけた
「…中には二人の心があった。さゆみとさえみ、それが戦っている」
いつでも逃げられるようにと新垣はジュンジュンの背中に乗せられている
「道重さゆみの体に宿った二つの精神、今はさえみさんが前に出ているけど
 元々の主人格はさゆみんだけど、何かのきっかけでさえみさんが強くなっている」

207名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:31:57
「おそらくはあの誘拐事件がきっかけだと思うけど、そのときさえみさんの強い自我が出た、と思うんだ
 『私が守らなきゃいけない』その思いだけでさえみさんは動いていた
 だからさゆみという精神はきっとあの体の中で眠っていたと思うの」
「本で読んだことがあります、一つの人間の中に多くの人格があるっていう報告を
 そういう人は一つの人格が表に出ている時はその人格を後ろから見ている感覚があるって」
マルシェがおそらくわかっていないであろうジュンジュンに教えるように知識を披露した

「それが私達と戦うことで変化が起きた」
「どういうコトですカ?新垣サン」
リンリンが大声で尋ねてきた
「田中っちや吉澤、それから愛ちゃんの光の攻撃で肉体のダメージはなかった
 でも、あたしたちの必死な姿を見ているうちにさゆみんが目覚めた
 さえみさんは必死にさゆみんを引き離そうとしたけど、さゆみんの気持ちは違う
 あたしたちを敵対視しているさえみさんはさゆみん自身に『戻りたい』と言われて動揺していた
 全てをさゆみんのために動いていたのにそれを全て否定される
 それはさえみさんにとっては存在を否定されるにほぼ同じこと…なのだと思う」
未だに新垣達の耳にはさえみの雄叫びが届いている

「ここからは私の想像になるけどさゆみんは何かさえみさんを傷つけることを言ってしまったんだと思う
それは『お姉ちゃんなんて大嫌い』それくらいの言葉だけなのかもしれない
でも、自身の優しさを拒否されてしまったさえみさんはどうしていいのかわからなくなってしまっていた」
「そこに吉澤さんの不意打ちが入ったってわけね」

マルシェが腕の転送装置のスイッチを押しながら話に加わる
「混乱していた時に、自分を倒そうとする吉澤さんの存在
咄嗟の判断で力を解放したが、そのことがさゆとの距離を生んだのでしょう
それが決定打になってさえみさんの心が崩壊して、力が暴走しつつある、ってところですかね
 …ああ、もう、転送装置動かないです」
先程から稼働スイッチを押しているが機械はうんともすんとも反応しない

208名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:32:36
「ねえ、マルシェ、その機械って何人まで移動できるの?」
「100人くらいは楽勝なんだけど、壊れちゃってさ、使えないよ」
「新垣さん、道重さん置いて逃げるんですか?」
いざというときはジュンジュンの背中に飛び乗るつもりで久住と光井も近づいてきていた
「新垣さん、見損ないましたよ!」
甲高い声で新垣を非難する久住
「でも、しょうがないじゃない!!今の私達では何もできないし、何より危険なの!
 そりゃ私だってさゆみんを置いて行くのはいやだけど、本当の敵はさえみさんじゃないのよ
 今はなぜか一緒に逃げているけど本当の敵はダークネスなの
 もしこの戦いで全員が死んだら、誰がダークネスを止められるっていうの?」
「・・・」
光井は新垣の言っていることが正しいとは思いつつ納得できるはずがなかった
そういう新垣も自身の判断が正しいとは思っていない様子だった

「そういえば愛ちゃんは?」
「大丈夫、れいながしっかり見ているっちゃ!!」
れいなのそばには大きなクマの背に乗せられた高橋の姿
「正確には熊井ちゃんが助けてくれてるやけどね」
「危ないと思った時に熊井ちゃんが起きていてくれて助かりました、ね?田中さん」
「さすがミヤの友達っちゃね、助かったと、れいなじゃ愛ちゃんを背負って走れんけん」
熊井はそれほどとでもいうようにガオっと小さく吠えた

「ガキさん、ここは一旦撤退するべきやと思う」
「愛ちゃん、私もそうしたいんだけど、ジュンジュン、どれだけこのまま逃げられる?」
「…あと十分も走れないかもしれんな。ジュンジュンですらそうなんだから熊井ちゃんはもっとキツイやろ」
そうしている間にも道重さえみのモノと思われる淡い光が周囲に突き刺さる
光に照らされたものはすべて消され、見事にまっさらになっていく

209名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:33:08
崩壊の光はもうさえみの意思に関係なく関係なく放たれはじめたようにみえた
壁という壁には穴が開き、外からの冷たい空気が流れ込んでいる
息も少しばかり白くなり、さえみの長い髪は風に揺れている

「さゆみを守る・・・それが私の生きる意味、さゆみを守る・・・」

「やばいって愛ちゃん、さえみさん、可哀そうすぎて見ていられないのだ!」
「というか愛ちゃん、早く逃げんとれーな達の身も危ないとよ!!」
新垣とれいなの意見に高橋もほぼ同じく考えていた
―確かにこのままではみんな消されるかもしれない・・・だけど

―もしこのままさえみさんを放っておいたら何をするかわからない
 むしろダークネス以上の脅威になることすらある

それを考えると高橋は『撤退』ということを決められずにいた

そんな迷いを知ってか知らずかさえみが高橋達を睨んだ―ような気がした
「やばい、高橋さん、さえみさん、小春達に気付きましたよ!!」
小春の高い声が一段と高くなって、そのまま悲鳴を上げた

さえみの崩壊の光が高橋達の元へと放たれた

そして、そのまま光が彼女達を包んだ
光が過ぎ去った跡には高橋達の姿はなかった

210名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:39:56
『Vanish! Ⅱ(8)』のパート5でした。
今回は特に文章長いし、説明っぽいので読みにくいと思います(汗
レスにありましたが、全ての人に読みやすいものをかくのは難しいです。
あとどれだけで終わるかはあえて言いませんw

代理よろしくお願いします

211名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:46:54
承って候

212名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:55:21
無事終わり候

213名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:21:05
(6)
さえみの淡い光が近づいて来た時、れいなは後悔した
(これで死ぬんやったら、もっとお腹一杯アイス食べればよかった)と
ただ光に包まれても不思議と痛みは感じなかった
(消えるって意外と感覚残っとるとね・・・パパ、ママ、一度でいいから逢ってみたかったと)
そしてれいなは瞳を閉じた

(・・・)

「起きろよ」

(あ、こういう時にありがちな声っちゃね、その割に口が悪い天使っちゃね)

「起きろって」

(れいな、昼間の仕事と正義のお仕事で頑張ったとよ、少しくらい休ませて欲しいと)

「いつまで寝てんだよ」

(頑張ってガレットくらい覚えたし、さっきまで戦っていたとよ。うるさい天使やね)

「ふざけんな、いつまでそういているつもりだっつうの!!」

バチーン!

れいなは頬を思いっきりぶたれて目が覚めた
「なにすると!!天使なんやから少しは優しくしてくれてもええっちゃ・・ろ!?」
「んあ?誰が天使だ?」
目の前にいたのは吉澤であった
「あ〜れいな、地獄行きかいな・・・そんな悪いことしとらんのに・・・」
「あ?誰が地獄行ったって?」

214名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:21:41
「ちょっと吉澤さん、戦うの止めてくださいよ」
マルシェが割って入ってきた
「マルシェ?やっぱお前も地獄行きかいな…仲間は多い方がいいっちゃね」
そんなれいなの肩を誰かが叩いた
「いや、田中っち、冗談きついから。まだ私達死んでいないから」
新垣だった
「え?れーなまだ生きとると?でも確か、さえみさんの光に包まれてしまったはずやけん」
というものの周りを見渡すとリゾナンター全員、マルシェ、吉澤、雅、熊井が全員揃っていた
「それにここ何処と?観たことある気もするけん…」

「ここはあんた達が戦っていた城の前に広がっていた森よ」
「誰や?」
れいなには聴き覚えのない声だった
「こっちよ、こっち」
声のする方を振り向くと手に琥珀色の瓶を手にした女が木にもたれかかってこちらを眺めていた
「誰や、オマエ?」
いつでも戦えるようにとれいなは構えた

「ちょっとれいな、この人に一応お礼を言ったほうがいいよ、助けてもらったんだから…敵とはいえさ」
「いらないわ。別にあんた達を助けに来たわけじゃないし、『偶然』マルシェの近くにあんた達がいただけよ」
そういい女は瓶に口をつけて、中身の液体をぐびっと飲んだ
「…愛ちゃん、誰?この人?」
「ダークネスの保田さん」
「な?ダークネスやと?何しに来たと!?」

「だからあせんなって、れいな」
ポカッと吉澤がれいなの頭を強く叩いた
「人の話は最後まで聞け」

215名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:22:24
そんな落ち着きのないれいなを尻目にマルシェは礼儀正しく保田の元へとお礼を言いに行った
「保田さん、本当にありがとうございます。危ない所でした、助かりました」
「いいって、酒交わす約束でしょ?死なれたら困るのよ、私としても、組織としても」
「それでもよく間に合いましたね、ぎりぎりでしたよ」
「助かったんだから文句いわないでほしいけどね」

マルシェと言葉を交わす保田の姿を見ながら新垣は彼女のことを思い出した
(保田圭―ダークネスの幹部の一人だけど何の仕事をしているか不明な人
マルシェのような科学者でも、吉澤のようなスパイでもなくて結局何をしているのかわからなかった
確か能力は『時間停止』―某大なエネルギーと引き換えに一定時間時間を止められるハズ)
ダークネスに所属していた新垣ですらそれしかわかっていない、それが保田圭であった

「しかし、まさか吉澤さんも助けているとは思ってもいなかったですよ」
「フフフ、優秀な幹部を失うわけにはいかないでしょ?あら?」
マルシェと保田が話している時に空に淡い光が登っていった
「さえみさん、まだ荒れている様ね」

「そうやった!愛ちゃん、さえみさんどうしようかいな?」
空にはまた淡い光が登り、数羽の烏が空へと飛んで行った
「なんとかしてさえみさんの暴走を止めんと危険っちゃ!
 れいな達でなんとかせんと、本当に今のさえみさんやったら全てを破壊するかもしれんっちゃ」
「それはそうだけど私達にできることって何かあるの?」
「田中さんの逆共鳴はどうなんですか?道重さんと共鳴する間柄なんですから」
「小春、それはもうとっくに試していると!でも出来んかった
れーなはサユと共鳴していて、さえみさんと共鳴しているわけじゃないけん、効果なかったとよ」
そうしている間にも何か大きなものが倒れた音が聴こえて来た

「光井サンの予知でも何も見えないんデスカ?」
「あ〜リンリン、何も視えないんや…本当に何のいいアイデア浮かばへんわ、これほど悔しいことないわ」
「おい、お前らはイイノカ?何もシナイデ?」
ジュンジュンがマルシェ達に問いかけた

216名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:23:12
「え〜だって私達の目的は世界を手中に収めることですから
邪魔な存在は消してもらえればそれに越したことはないわけですし、ねえ?吉澤さん」
「ん?おう、まあ、力を持たない弱い奴が消されたところで別に俺らには関係ないし」
もう吉澤はさえみのことなどどうでもいいというように保田から瓶を受け取り、中の液体を口にしている
「それに俺達にはさえみを『止める方法』があるしな」

「お願いマルシェ!教えてよ、敵味方関係なくて、友達として教えてよ」
新垣がマルシェに頭を下げた
「え〜それは無理だって。マメ、友達だったけど、今は敵・・・あ、だけど、熊井ちゃんをくれたら」
「それはダメっちゃ!!世界を救うために一人を犠牲にする、そんなことれいなにはできん!
 なあ、そうっちゃろ、ガキさん?」
「も、もちろんだよ、そんなことできるはずないでしょ」
新垣の返答にマルシェは唇を尖がらせた

なにかいい方法は無いか…考えていくだけでも非常に時間は過ぎていく
「あ〜もう、とりあえずみんな戻るよ!」
高橋は仲間達にさえみの元へと行く指示を出す
「ちょっと愛ちゃん、保田さんに助けてもらって、また向かうの?」
さすがにマルシェが驚きの声を上げる

「確かに死ぬことになるかもしれんな。だけど、ここで何もしないよりは最大限のことをしたい
 さゆのためとかもう関係ない、今はさえみさんから世界を救う
 不器用だけど目の前にあることから向き合わないといけないんだよ、本当は
 手に余るくらいの敵だとしても自分自身の力を信じていかないとできることもできないしさ
 それに、あっしらが死んだらあんたらラッキーでいいんじゃない?」
そういい高橋は走り出し、7人の仲間が後を追った

217名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:25:08
「それじゃあ、帰るわよ」
保田が二人に声をかけた
「うっす、帰って飲み直しましょう」と帰ろうとする吉澤にマルシェはついつい声をかけてしまった
「待ってください。いいんですか?このまま帰って?」
「んあ?何言ってんだマルシェ?ああ、そうか、熊井ちゃんを連れて帰るんだったな」

唐突に自分の名前が出たので熊井は不器用ながらも構え、雅も熊井の前に立ち吉澤を睨みつけた
「熊井ちゃんは渡しませんよ」
「おいおい、おまえだけでなんとかなると思ってんのか?」
威嚇する吉澤であったが・・・
「こら、よし子やめなさい。それから、マルシェも帰るよ」
保田が吉澤をたしなめた
「え?俺はいいですけど、マルシェが文句言いますよ」
「いいから帰ります。マルシェ、先輩からの命令と思いなさい」
「は、はい、わかりました」
保田の前に空間が裂け、保田、吉澤、マルシェの三名は去っていった

残された二人は肩の力がどっと抜け、熊井は膝から崩れ落ちた
無理もないのだろう、ずっとさえみの傍にいたのだから
「疲れた…さえみさんから人を遠ざけるのにずっと獣化していたから…
野菜を取りに行った時も人に見つからないようにしなきゃいけないし…ああ、本当に疲れた」
「そうだったの、熊井ちゃんお疲れ様。だけど、どうしようさえみさん暴走しているよ
 田中さんとか高橋さんが向かっているけど、何とかなるっていう保障もないし」
「どちらにしても私はもう動けないから休んでいいよね?」
熊井は地面に大の字になって寝転び、雅はれいな達のことを思い、無事であるようにと祈った

218名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:27:58
「Vanish!Ⅱ(8)」です。今日の分はここまでにします。
切れ目が難しい部分なので…迷っています。もう少し投下すべきなのかって…
まあ夜の小さい楽しみになっていればこれ幸いな感じです

219名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:21:27
行ってきます

220名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:29:17
行って来ました

221名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:32:04
ありがとうございました!夏風邪引きました

222名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:02
(7)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

さえみの元へと戻る足取りは重かった
何をすればいいのかわからなかったのだから
(決して愛ちゃんに打開策が浮かんでいるわけではない。ただ、あの場にいられなかっただけなんだ)

初めは「さゆみを取り戻す」ことから始まった戦いがいつの間にか「さえみの暴走を止める」ことに移っている
優しいさゆみの影でさえみがここまで思いつめていたことに気がつかなかったのは―ある意味仕方ないのだろう
『共鳴』という絆を運命的なものとして捉えてしまい盲目的になってしまったのだから
共鳴の絆に誰よりも近くいたのに、絆に入れなかったその存在を見落としていたのだから

体力もある程度回復し、自分の足でさえみのもとへと向かって先頭で走る高橋に光井が声をかける
「高橋さん、どないします?さえみさんを止めなあかんわけですけど」
「・・・止めるにはさゆを起こすしかない、と思う。
ただ、今のさえみさんはさゆに拒否されているからなんとも言えない。光ですら…」
「希望があるなられーな達は愛ちゃんに付いて行くとよ!
またれーな達が時間を稼ぐけん、さゆへの思いを込めた光を撃つとよ!」
れいながこんな状況でもほほ笑んでくれたので高橋は少し心が軽くなった

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していくようだった
あちらこちらの壁や木々に穴があいていたり、瓦礫が積み重なっている
しかしリゾナンターは光井の予知の指示で各自は光を回避していき、さえみの姿を目視できる距離まで近づいた
高橋の作戦―光の攻撃を知ったメンバーはそれぞれの位置に着く

れいな、亀井、久住、リンリンはさえみの注意をひく
光井は光に当たらないように指示を出し、新垣が光井を守る
そしてジュンジュンは高橋を背負い逃げる

遠距離からカマイタチ、雷、炎が放たれて、さえみは自身の身を守ろうとそれらを消しさる
れいながちょこまか動きさえみの視線に当たらないように気をつけながら走り続ける

223名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:48
「リンリン、2秒後に左から来ます。亀井さん、かがんでください!」
光井の指示は止むことなく、新垣も光井を守ろうと必死だ

ジュンジュンはなるべく高橋の集中を邪魔しないように動かず、光井の指示が入った時だけ動く
「…高橋サン、道重サンを頼みマス」
上から崩れ落ちてきた瓦礫をパンダの筋肉質な腕が払いのける

時間にしてほんの一分なのだろう
高橋の声が7人の心に届いた
(ありがとう、みんな、準備できたよ)

(愛ちゃんよろしく!)(愛ちゃん、さゆをよろしくね)(愛ちゃん、頼むと)
(お願い、光よ道重さんを取り戻させて)(高橋さん、愛佳の思いも込めさせていただきます)
(道重さん、戻って来てクダサイ)(高橋サン、任せマシタ)

7人の仲間を思う気持ちも高橋の心に届き、それらは力となって高橋の体にしみわたる
築きあげてきた信頼、かけがえのない時間、忘れられない思い出、そして世界を守りたい願い
全てを詰め込んだ光は眩しい輝きを放ち、高橋の掌の上で浮かんでいる

「さえみさん、あっし達の思い受け取って!!」
光がさえみに向けて放たれた

光は何者に遮られることなくさえみに向かって伸びていく
さえみが光の存在に気付き、消そうと睨みつける
漆黒の瞳で睨まれた存在は何でも消してきた

しかし、この光だけは消せなかった
さえみの瞳に映ったのはただの光ではなかったのだから

224名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:20:27
さえみは光の中に見た
―笑いながらココアを差し出す高橋の姿を
―目を三日月にしながら亀井をしかる新垣の姿を
―自信満々にこげたホットケーキを出すれいなの姿を
―馬鹿みたいに笑って自分にケーキを食べさせようとする亀井の姿を
―興味深々な目で自分に近づいてくる久住の姿を
―カウンターで勉強しているのを邪魔して怒っている光井の姿を
―一緒にバナナを食べているジュンジュンの姿を
―奇妙な動きでみんなを笑わせているリンリンの姿を

消せなかった、消してはいけないような気がした

だってそれは

さゆみにとって大切な記憶だったのだから

225名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:23:18
以上、パート(7)でした。
極端に短いっすw昨日のコメントの意味分かりました?
あまりにも短いんで別日に落とすかどうかで迷ってたんですwすみません
緊張感が薄いのは作者の力量だと思っています
さて、終わりも近づいてきています

代理投稿お願いしますm(_ _)m

226名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:45:32
承って候

227名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:49:48
終了

228名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:11:10
(8)
高橋の光をさえみは真正面から受け止めたのだろう、さえみの周囲は煌びやかな光に包まれ、動かなくなった
「やったの?」
先程からさえみの放つ光の兆候は何も感じられないのでそう感じるのは当然であろう
「・・・かもしれナイデス」
そうは言うもののリンリンは気を抜かずにいつでも炎を放てるようにと手には飴を構えている

さえみの姿がようやく確認できるくらいに光が弱まってきた
光を受けたさえみは地面に片膝をついて座っていた
何も反応が無く、思わず「死んでるの?」なんて久住は声に出してしまう

「ククククク・・・」
さえみが笑い始めた
生きていて良かったという思いとなぜ笑っているのかという思いが全員に浮かんだ
「あなたに必要なのは…あくまでも『さゆみ』なのであって、私じゃないのね・・・」
確かに8人が思い浮かべたのはさゆみであって、さえみではなかった

「私はさゆみにも求められていないし、あなた方にも求められていない」
ふらふらとさえみは立ちあがる
「私は誰にも必要ない存在…どこにも居場所はない…必要ないんだぁぁぁぁ」
さえみは大声を上げる
「や、やばいって愛ちゃん、れーな達、事態を悪化させたんやなと?」
「愛ちゃん、どうしようか?」
「そんなこと言われても全然予測できなかったわけだし、こうなることを」
光を放った高橋は地面に膝をついたままで動けずにいる

「キャー、小春の、小春の腕が、右腕が!」
「久住さん、しっかりしてください!早くさえみさんから離れましょう」
光井とリンリンが久住の肩を支えて駆けだす
「さえみサンの視線から逃れマショウ!高橋サン達も早くしてクダサイ」
ジュンジュンも光井達の後を追う

229名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:28
「田中っち、愛ちゃんの右肩支えて!私は左肩支えるから」
「愛ちゃん、れーなの肩に腕回すと!」
「ちょっと、待ってよ、二人とも!さえみさんをこのままにしてしまったら、本当にどうなるのかわからないんだよ」
じたばたする高橋に新垣が真剣な表情ながらも目に涙を浮かべながら問いかける
「だからって何が出来るのよ、これ以上私達にさ
 攻撃も効かないし、話も聞いてくれない、しかもさえみさんの心は崩れる寸前なのよ」
「そうや、愛ちゃん、ここは一旦引いて、仕方ないけどダークネスに頼むことにするっちゃ
さっき言っとたやろ?マルシェなら『さえみを止められる』って。ここは頼るしか」
「…あっしはここに残る」
高橋の言葉は静けさに満ちていた

「は?愛ちゃん、何言うとると?」
れいなが思わず高橋の肩から腕を外したので、高橋は地面に倒れ込む
「愛ちゃん、ここに残って何をするつもりっちゃ?もう何も出来んやろ?
 一人で立つことだってままならんのに何する気や?」

「・・・何もすることはできないよ。ここでこうやって座ってさえみさんに消されるのを待とうと思ってる
 たださ、れいな、ガキさん。さえみさんからさゆを奪ったのはあっしらやろ?
 甘い考えだけどさ、もしかしたら、あっしが消えたらさえみさんの怒りが消えるんじゃない?」
高橋はゆっくりと自分の意思で新垣に支えられた左腕をそっとはずす
「あっしが消えることくらいでさえみさんの心に何か変化が起きるかもしれない
 もしかしたらそのことでさゆがまたさえみさんを抑えてくれるかもしれないし、憎しみが薄まるかもしれない
 それに…少なくともあっしは無駄死にする気はないよ」
高橋は足を投げ出して、頭を抱えたままのさえみを眺める
(あと一回くらいなら跳べるからさ)

れいなと新垣を見て高橋は微笑んだ
「ほら、れーな、ガキさん、あっしがいなくなったら誰が他の子を指示すんの?
 あっしがいなくてもみんな自分を誇れるだけ強くなったんだからさ」
そして前を見て「さあ、行って、あっしの分まで生きて」と小さく言った

230名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:59
「アホなこというやないと、愛ちゃん!!誰が愛ちゃんが犠牲になることなんて望むと?
 愛ちゃん、おらんで誰がリゾナンターすると思うと?」
そしてれいなは高橋の頬をぶった
「れいな?」と高橋は思わず目を丸くしてしまった
「愛ちゃんがおったかられーなはここまで来たとよ、みんなと一緒だから来たっちゃ!!」

「そうだよ、愛ちゃん、愛ちゃんだけが消えるなんてそんなこと私もさせないから」
「ガキさん?」
そういい新垣は自分自身の腕と高橋の腕をロープで結び付けた
「・・・愛ちゃんのおかげで私はダークネスの呪縛から解き放たれたの
 でも、まだ私は恩返しをしていない。それなのに先に死ぬ?そんなことさせないわよ」

「愛ちゃん」「死ぬときは」「「一緒」」「だよ」「っちゃ」
二人は高橋を挟むようにして座りこんだ

「こんなことして誰がこれからダークネスと戦うんや!?」
「大丈夫っちゃ、小春や愛佳がおると。みんなに託すと。さあ、れいな達でさえみさんを止めると」
れいなが白い歯を見せて高橋に微笑んだ

「いや、すみまへんが田中さんのお願いといえどもそれはお断りさせていただきますわ」
「そうなのカナ☆」
高橋、新垣、れいなの三人が振り返ると久住、光井、リンリン、ジュンジュンの4人が立っていた
「何しとると?みんな、早く逃げると!!」
「田中サン、さっき高橋サンに言いました、高橋サンのいないリゾナンターはリゾナンターじゃナイト
 それはリンリン達も同ジク思ってイマス。皆サンとリンリンはもっと一緒にイタイ」
「それに三人の犠牲で救われて平和になっても、ジュンジュンの心、全然平和ジャナイ!!」

「だからってみんなくる必要ないじゃない!」
「新垣さん、さっきから頑張っているんですけど、愛佳、もう何も視えないんですわ
 きっとこれって世界が終わりってことか愛佳が消えるってことやと思うんです」

231名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:13:42
尚も光井の言葉は続く
「世界が終わればそれまでです。
 でも愛佳が消えたら世界が終らないかもしれないやないですか?せやったら愛佳も世界を救いたい」
高橋の目を見て光井は微えみ、ピースを向けた
「高橋さん、愛佳でも世界を救えるかもしれない時が来ましたよ」

「小春も死ぬのは怖いけど…みんなと一緒だったら怖くないもん」
そう言って新垣に久住は両手で抱きついてきた
「ガキさ〜ん、小春とガキさんはいつまでも相方ですからね!!」
「うんうん、わかった小春」

とここで高橋があることに気がついた
「ちょっと、ちょっと、小春、右手、右手!!
「え、なに?なに?あれ?小春の腕がある?」
全員の視線が久住の右腕に集まる
確かに消されたはずの右腕が再生していた。更には
「愛ちゃん、右手戻っているよ!」
先程光を放った時には消えていた高橋の右手首も戻っていた
「なんや?何が起きているんや?」

そう光井が呟いた瞬間、7人を強烈な風が包みこんだ
そして彼女が言った
「ごめん、約束守れそうにないや」
その声は風の外から聴こえた

そして彼女―亀井はゆっくりと消えている右腕の代わりに左腕で笑顔のまま7人に手を振った

232名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:18:21
「Vanish! Ⅱ(8)」パート(8)です。
ジュンジュンの台詞は…名セリフをリゾナントせてもらいました。
作者様すみませんm(_ _)m
そして・・・明日、最終回★長かったお話しもついに完結します
お楽しみに?

今日の分です。代理よろしくお願いします。いつもありがとうございます

233名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:42:21
いってきます

234名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:48:29
行ってきたの

235名無しリゾナント:2011/07/29(金) 21:25:22
ありがとうございます。
今日は何かスレ自体がパソコンで開けないので・・・延期にします

236名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:32:50
(9)
亀井の風に囲まれた7人は笑顔で手を振る亀井を見て呆気に取られていた
「あっしの右手も小春の右腕も『傷の移動』で自分の体に傷を移したっていうの?」
高橋は自分の右手が戻ってきたのが信じられないと、掌の感覚を確かめている。
「そんなことよりカメはなにする気なのよ!嫌な予感しかしないんだけど!!」
新垣は亀井の先程の笑顔が今まで見たことのない種類の笑顔であったのを感じていた

「でも、この風から出れませんよ」
久住とリンリンが雷と炎を放っているが、風はカマイタチの性質を持っているようで一向に弱まらない
獣化したジュンジュンが風の中に飛び込んだが、外に出られず弾き飛ばされた
「全然出れナイゾ」
「れいなもさっきからしてるけん、わかってるとよ!」

そんなギャーギャーと騒ぎ戸惑っている高橋達を尻目に亀井はすぅっと呼吸を整え始めた

(愛ちゃん達がずっとさえみさんと戦っている時からエリはずっと愛ちゃん達を守る方法を考えていたの
 風のバリアを張って…あそこから出られないようにすることがまず一つ)

亀井は走り出した―さえみに向かって

(そして、これがもう一つのみんなを、世界を救う確実な方法なんだ)

さえみに向かって走り出す亀井の姿は高橋達にも見えていた
「愛ちゃん、エリが!」
「亀井さん、勝手に何しはる気ですか!!」

仲間達の怒号が飛ぶ中亀井はさえみとの距離を詰めていく

走り出した亀井の右腕は消えている
それは久住がさえみから移したもの

237名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:33:21
(小春ちゃんは初めは鋭い目つきが怖かったし、全然エリを信用してくれなかったよね
 でも時を重ねていくにつれて小春ちゃんの本当の部分が見えてきた
 信じられないくらいに純粋でまっすぐで綺麗な瞳をしていたよね
 思うんだよ、エリ、小春ちゃんみたいな子と出会えてよかった、って
 だって誰よりも人の醜さを見ていたはずの小春ちゃんがあんなに綺麗な瞳をしていたなんて
 いつでもうるさくて、自分勝手で、ワガママで、だけど本当は泣き虫で寂しがりやな小春ちゃん
 いつまでも元気で明るい笑顔を忘れないでね)

そんなことを思われているとも知らずに久住は
「亀井さん、何するんですか?教えてくださいよ」と叫んでいる

さえみに近づいていく亀井の耳に片言の日本語が届いた
「亀井サン、やめてクダサイ!また一緒にご飯食べる約束したじゃナイデスカ」

(リンリン、こんなときまで笑わせようとしないでよ
 生きるか死ぬかって時にご飯なんて、リンリンらしいな
 正直、羨ましかったよ。リンリンのギャグはつまんなくてなんか嬉しかった
 同じ匂いがするなあってさ、でもいつの間にか本当に面白くなって、あなたのまわりには笑顔が咲いていた
 でもね、みんなのために頑張りすぎてこっそりと泣いていることも知ってたの
 ・・・そんなリンリンが大好きだし、生き残ってエリの分まで笑ってほしいの)

亀井がそんなことを思っていると後ろから大声が飛んできた
「亀井さん、二秒後、左から来ます!」

(ふふふ、愛佳、こんなときでも指示してくれるなんて嬉しいな、エリ勝手なことしているのに
 正直初めて出会ったときは自分に自信がない愛佳を、昔の絵里と一緒だなあって重ねてたよ
 友達もいないし、笑顔もなかったし、何よりつまらなさそうだった、生きていることが
 でも時間をかけて自分の弱さを受け入れて、びっくりするくらいに変わったよね
 いつの間にか自然に笑えるようになって、みんなを笑わせてくれることもあってさ
 でもただ笑うだけじゃなくてしっかり周りを見てくれて、本当に大人だよね
 エリと違って頭がいい愛佳なら、きっとみんなを守ってくれるよね)

238名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:34:21
光井の言葉に従って、亀井が体を右に傾け、さえみの光を避けた
後方の壁に綺麗な円形の穴が空く
「亀井サン、何しているデスカ、いつも亀井サンはワガママダ!」
もう一人のカタコトな日本語が耳に飛び込んできた

(ジュンジュン、最初に連れられて来た時は驚いたよ、だって裸だったんだから
 獣化能力って聴いてどんな怖い動物になるかって思ったらパンダだよ、笑いこらえるの大変だったんだから
 エリ達よりも後に仲間になったけどみんなを包み込んでくれるその暖かさってどこから来るのかな?
 寛容な心で気配りができて、それでいて主張するときはしっかり主張する
 それで甘えてきたりする…本当にジュンジュンって変わってるよね
 でも、そんなジュンジュンのことがエリは大好きなんだよ)

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していく
距離にしてほんの10mほどまで近づくと、さすがにさえみも亀井の存在に気がつく
視界に入ってはいけないと思い、必死に避け続ける

ただそれも限界に近づき、一筋の光が亀井の左腕に突き刺さる
光に照らされ、ゆっくりと消えていく亀井の左腕
不思議と消えていく左腕に痛みは感じなかった
消えるってこういうものなんだって思い、亀井は微笑んだ

それを遠目から眺めているしかできない仲間達
「アホカメ!!やめなさいよ!」

(ガキさん、いつもガキさんは『このぽけぽけぷうが!』って突っ込んでくれましたね
 本当はエリと同じくらいにボケなのに、ガキさんったらおかしいですよ
 でもガキさんがいたからエリは好き勝手出来ていたんだと思っています
 エリが適当にしたこともガキさんが一生懸命フォローしてくれてエリは嬉しかったです
 適当な絵里と生真面目なガキさんだから息があったのかもしれないですね
 最後にまた自分勝手なことしちゃったけど、アホだからできるんですよ、可愛いアホですよ
 ガキさん、アホの意地みててくださいよ)

239名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:35:24
さえみは亀井の姿を捉えているのかどうかも分からない
ただもう無茶苦茶に光を放ち、全てを消そうとしている
その適当に放った光がまた一つ亀井に突き刺さる

消されたのは亀井の左足
自分の軸足を失った亀井はバランスを失い、地面に前のめりに倒れ込む
「エリ、何しとると!早く立つっちゃ!!」

倒れ込みながら亀井はおもった

(れいなか・・・こんな出逢いでなくちゃ絶対友達にはならなかっただろうな、怖いもん
 初めて出会ったのはエリが入院していた病院だったね
 あの時にはこんなにれいなに対して心を開けるようになるなんて思っていなかったよ
 ずっと一人だったから誰よりも仲間っていうものを大事にしてくれるれいな
 ただ不器用で意地っ張りだから素直になれないのも知ってるよ…ぶっちゃけるけどね
 でもそうやって真正面から言ってくれるのがれいなのいい所なんだよね
 本当はもっと、ずっと一緒にいたかったけど…)

右腕も左腕も左足も消えた亀井は立ちあがることはできない
(神様、ワガママなエリにもう少しだけ力をください)
亀井が眉間にしわをよせて全身に力を込める

建物内に強烈な風が流れ込んできた
風は壁を強く揺らし、瓦礫を宙に舞わせ亀井へと流れていく
埃により流れが見えるようになった風は亀井へと纏わりつき、幾重にも幾重にも重なりあう
失われた右手を握りしめるような感覚で亀井は右手を指揮者のように振るイメージを浮かべた

まとわりついた風が亀井を優しく包み、ゆっくりと、本当にゆっくりとその体を浮かび上がらせる
「!!亀井さんが空を飛んではります!!」

240名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:37:13
亀井はかつて光井から言われたことを思い出していた
『うまく風をとらえられれば空を飛ぶことだってできる』
光井の言っていることは難しかったが、亀井は何となく理解していた
―そう感覚的に

(練習してたわけじゃないけど…今のエリなら出来るような気がしたんだ)
驚いているのは亀井自身も含まれていた、できるなんて思っていわけではないから

風に包まれ亀井はさえみに向かって更に向かって飛んで行く

「止めるんや、エリ!一人で行くんじゃない!あっし達を置いて一人で行く気か!」
亀井の作った風の防御壁の中から聴こえる高橋の声にも亀井は振り向きもしない

(・・・愛ちゃん、エリは本当に愛ちゃんに会えて感謝しています
 こんなにたくさんの仲間、いや友達に恵まれて幸せですよ
 みんな体が弱くて可哀そうとかいうけれど、この体のおかげでみんなに出会えたんだから
 幸せだなあってエリは思うんですよ、そうじゃなきゃこんなに光のある世界に生きている価値がないなって
 エリ思うんです、小さい幸せが多すぎて幸せに気付かなさ過ぎているんですよ。
 幸せって気付かないくらいがちょうどいいんですよ、幸せって気付いたらそれまでは幸せじゃないんですから
 ホントのこと言うと愛ちゃんと出会う前からエリは幸せだったけど、もっともっと幸せになれましたよ
 ねえ、だから、いつも愛ちゃんの背中を見ていたけど、最後くらいエリの背中を見ていてください)

さすがにさえみの周囲には破壊の光が蜘蛛の糸のように張っているようだった
風で舞い上がった塵がさえみの周囲で綺麗に消されているのだから
でもさえみに近づくにはそこを突っ切っていくほか道はない

(それにいつさえみさんの光が愛ちゃん達に向けられるか分からないし・・・)
躊躇っている時間はない、亀井の背を押すように強い風が吹いた

ほんの少し動くだけでもさえみの光が亀井に降り注ぐ
風は光を曲げることなんてできないので容赦なく亀井は光を受けるしかない

241名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:08
光は亀井の顔、上半身、下半身、至る所に突き刺さる
寒さを防ぐために着ていた可愛い洋服はつぎつぎと消え去り、亀井本人の白い肌がむきだしになる
しかしその肌も次の瞬間には淡雪のように溶けていく
ぼろぼろと欠けていく自身の体を亀井はすごく冷静に見ていた
(こうやって消えていったんだ。でもよかった、思ったほど痛みはないよ)

さえみと視線があったとしても、この手の届く距離なら何も怖くない
亀井はさえみの正面に回った

遠目から見る亀井の姿はもう人の形をとどめていなかった
形容するなら小さい頃に遊んで、今は壊れてしまった着せ替え人形
腕も足も欠け、ぼろぼろになって浮かんでいる姿は海月を連想させた
高橋は目をまん丸に見開いて一人で震えるしかない

そんな仲間の様子を知ってか知らずか亀井を纏う風はますます強さを増す
破壊の光の中心にいるさえみの胸へと亀井は飛び込んだ

(さえみさんを確実に倒す方法、これしか思い浮かばなかったんだ)

自身の胸の中に飛び込んだものが何かしっかり見ようとさえみはゆっくりと視線を下ろす
さえみが見たのは顔に何重もの穴を開けた人の亀井
それでも何とか保たれている亀井の口はにこっと笑顔だった

「みんな、さえみさんを見て!」
新垣がさえみを指差す
遠いのではっきりとは分からないが、さえみの体に変化が起きていた

―左脚、両手が欠け、体中に無数の穴が開きはじめていたのだ

「あれは」「亀井サンの」「傷の移動と共有っちゃ」

242名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:48
さえみはどんな傷でも必ず消すことが出来る。だからこそ一気に倒さなくてはいけない
でも、亀井の力なら消すことはできないはずだ、と
自分自身にできた傷を治してしまえば、それは移した『傷』、元の持ち主の傷も消えてしまう
それに一回で大きな傷、治せないほど大きな傷を共有させれば―倒せる、と

だからこそ亀井は光を受け続け、さえみの懐に飛び込んだのだ

しかし、その代償は大きい
さえみに治させないほど深い傷を自分自身が負わなくてはいけないのだから

それにもう一つ、亀井は覚悟を決めていた・・・『さえみさんを助けよう』と
亀井にとって『さゆみ』はたった一人の存在であり、『さゆみ』は『さえみ』で、『さえみ』は『さゆみ』
さえみが亀井を妬んでいるのと違い、亀井は何もさえみに譜の感情は持ち合わせていなかった
むしろさゆみを守ってくれたことに対する感謝の気持ちが強い

そんなさえみが苦しんでいる―それを知った亀井がまず思ったことは他の7人とは違った
「さゆを救わなくては」ではなく「さえみさんを救ってあげたい」だった
それが戦っているうちに少しずつさえみの本心が分かってきた

「居場所が欲しい」

それがさえみの思い、そう亀井は感じた

だからこそ、亀井は決意したのだ
さえみといつまでも一緒にいてあげよう、と

さゆみと時を重ねたように、今度はさえみと時を重ねよう
一緒になって消えたとしても、さえみが生きていけるような意味を持たせてあげようと
それが亀井がさえみにできる最高の恩返しだと思った

そうして今は亀井はさえみの胸の中にいる
歯の欠け、風穴の空いた口からは自身が生みだした風が往来し奇妙な笛の音をならす

243名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:39:58
それでも亀井は笑ってさえみの目をじっと見つめる
もう喉は壊されて声は出ない
筋肉が壊されて動かすことはできない
神経が壊れて感覚なんて失われている
それでもさえみの目をじっと見つめている

幸運なことに脳への損傷は思った以上に少なく、まだ考えられる余裕があった
(ごめんなさい、さえみさん、こんなことまでしてさゆを守りたいなんて思ってもいなかったの
 でも、今後は私がずっと一緒にいますから、安心してください
 さゆには私以外にもたくさんお友達が出来ましたし、ずっと強くなりましたよ
 
 最後にさゆみに一言だけ言わせてください)

そして風がゆっくりと亀井を持ち上げ、道重と亀井の顔が同じ高さになる

(さゆぅ、大好きだよ)

強い風が亀井を押し上げ、満面の笑みを浮かべた亀井の唇が道重の頬にそっと触れた

亀井の唇が触れた瞬間、亀井とさえみの周囲から桃色とオレンジ色の光と強烈な風が放たれた
光と風は建物を突き抜け、森を走り抜ける

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

風が止んだのを確認して高橋はゆっくりと仲間たちの姿を確認し始めた
1、2、3、4、5、6、そして自分を入れて7人
さえみの放つ桃色の破壊の光は消えており、部屋の中はぼんやりと仄暗い
「カメは?さえみさんは?」
新垣がゆっくりと立ち上がる

そこに迫ってくる足音

244名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:40:43
コツン、コツン

ブーツの音を立てて近づいてきたのは、一人の黒髪の女−道重だった
女は何も言わないで、高橋達の姿を眺めた
「さえみさん?それともさゆ?」

「・・・愛ちゃん」
「さゆや!!」
道重の姿をしたものから高橋の名前が出たのでれいなは思わず駈け寄ろうとする
「「道重さん」」「「サン」」
次いで久住、光井、ジュンジュン、リンリンの4人も駈け寄っていく

抱きしめられてもさゆみは嬉しそうな顔一つしない
「?」
道重はれいなを振り払い高橋と新垣の元へと向かって駈け寄り、高橋の腕を思いっきり掴んだ

「愛ちゃん…どうしよう?さゆみ、エリを・・・」
高橋と新垣は何も言えなかった
これまで一度たりともさゆみがさえみだった時の記憶を覚えていたことが無かったのだから
「消しちゃった…一番大事な人を、この手で…どうしよう…
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん」
道重は人目もはばからず大声で泣いた

高橋は何も言わずに、道重をぎゅっと抱きしめ、一緒に泣いた
そして、新垣はそんな道重の姿を見て大声で叫んだ
「アホカメェェェx」
静かにその声は行きつく場所を探すように冬の空へと登っていく

もう風は吹かなかった

(Vanish! Ⅱ(8) 完) エピローグに続く。

245名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:43:43
以上「Vanish! Ⅱ(8)」の最後、本編終了です。
まず謝ります、ごめんなさいと。後味の悪い話です
ただ、エピローグもあるので微妙に続きます。それは…来週にでも書きます
それを書き終わったら、あとがきも書きます。

最後の代理よろしくお願いします。結局あげました(汗

246名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:12:03
あげたんかい

247名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:24:44
完了
負の感情を譜の感情と表現するのはいつものアレなのかもしれないけどちょっと残念w

248代理投稿お願いいたします:2011/08/10(水) 14:43:18
 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■


共鳴セヨ…
少女は声にならぬ声を聞いた気がした
共鳴セヨ…
なにに?
『憎シミ』ニ…
蒼キ『憎シミ』ニ共鳴セヨ!

―――――

249名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:43:54
「あっいちごー!エリ、いちご好きっちゃん」
そう言ったとき生田衣梨奈は
すでにイチゴのパックを掴んでいる。
「えりいちごすきっちゃん」
その小さな暗殺者は生田の手からイチゴを掠め取り
ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。
「すきっちゃんすきっちゃん」
―明らかに嘲笑気味な声音で生田のセリフを繰り返しながら―
イチゴパックを元の位置に。
「あー!里保ちゃん!それエリのいちごやけん!」
「高橋さんに頼まれた買物リストにはイチゴは入ってませーんざんねんでーす」

天敵。

ものを知らない生田に、この単語が思いつくわけもないが、
鞘師里保はまさに生田の天敵だった。

大人の前では礼儀正しくまじめ。絵にかいたような優等生。
だがこの優等生、どういうわけか生田のやること為すことすべてを妨害してのける。
一方、生田衣梨奈は全く正反対、
大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
ヘラヘラと笑いながら大人たちの神経を逆なでする。

優等生と問題児。優良と不良。水と油。
…最悪の関係だった。

最悪な関係?…いや、それは違っていた。
少なくとも生田にとって、これほど心地よいことはなかったのだ。

250名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:44:48
返り血を浴び、貼りついた笑顔の仮面の裏で泣きじゃくっていたあの冬の日。

そこに鞘師里保は現れた。

あの日…―生田が共鳴者となった―あの冬の日…。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

―――――

251名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:45:23
生田は、大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
子供を支配の対象としか考えていない大人たちからすれば、
生田はただ一言「反抗的」と記号化されスポイルされるだけの存在でしかないだろう。
大人だけではない。
同級生にとっても、生田は「ただへらへら笑っているだけの怖くてキモい女」でしかなかった。

事実、彼女は幼いころからそう扱われ、周囲から疎まれてきた。

だが、違うのだ。本当の彼女は違うのだ。
彼女は「反抗」などしていない。

聞かないのではない、「聞けない」のだ。
守らないのではない、「守れない」のだ。
反省しないのではない、反省している人間はどういう態度をとるものなのか「理解できていない」のだ。

そう…彼女は、ただ「出来ない」だけなのだ。

それでも幼い少女は必死に皆と関わろうとしてきた。
だが、彼女の精一杯の親愛の表現は、ことごとく他人を傷つけるものだった。

同級生の持ち物を勝手に盗むなど日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
それは、自分が好きな人のものと自分のものとの違いがわからなかったから。

同級生に暴力を振うことも日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
ただ嬉しくなって跳ねまわっていたら、いつの間にか誰かが動かなくなっていただけ。
彼女にとって不幸だったのは
彼女が女性離れ…いや人間離れした身体能力をもっていたことだろう。
その怪力、敏捷性、天性の勘…

252名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:48:35
だが、誰もその才能を褒めてはくれない。誰にも気づかれない。興味を持ってもらえない。

「なぜこんな非道いことをするの?」

なぜ?皆が生田に説明を求めた。
生田には答えられない。答え方がわからない。
そんな生田を周囲は一方的に責め続けた。

理由を言え。さあ早く!さあ!。説明しろ。
説明できないならば理由など無いとみなす。
説明「出来ない」お前が悪い。

「出来ない」お前が悪い。

無能は罪…

そう、この世界は「無能力者」にとって地獄そのものだった。

それでも、生田はあきらめなかった。
いや己が住む地獄に気づいてすらいなかった。
そして必死に努力した。

笑顔…。
美しい彼女の顔を一遍で台無しにする不自然で、不気味な笑顔の仮面。
彼女に出来る最高のつくりわらい。

彼女の努力は、報われなかった。

253名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:49:26
キモい。
キモい、キモい、キモい、キモい!
周囲は不快を表明する。
生田はまだ気がつかない。
自分が嫌われていることに。
キモい!死ね!死ね!
それでも気がつかない。
キモい!死ね!死ね!死ね!。死ね!!!


そしてあの冬の日、生田は気がついてしまった。
自分がこの世界から拒否されていることに。
あの日気がついてしまった。
そんなこと、
と う に 理 解 し て い た 
ことに。
あの日気がついてしまった。
自分の心に潜む『蒼き魔獣』の存在に。


共鳴セヨ

蒼キ『憎シミ』二、共鳴セヨ!


―――――

254名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:50:23
「愛ちゃん!」
思わず田中れいなが叫ぶ。
「ぐうっ!」
吹き飛ばされ、教室の壁に叩きつけられながらも、高橋が即座に起き上がる。
「愛ちゃん!どうしたんね!?」
「わからないんやよ!」
「わからん?!」
「あの子、『心がわからない』…【読心術】が効かないんよ」
「なんてー!」

「ガキさん!動ける生徒たちは?」
「うん!全員支配出来てる。もうすぐ一階まで誘導終わるっ。」

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!

「笑ろうちょる…こんだけのことしといて!よう笑ろうもん!」
怒りに打ち震える田中が叫ぶ。

割れたガラス、ひしゃげた机、散乱するノート、教科書…
踏み潰された携帯、携帯、携帯。
そして、血の海…。
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】
それが生田を無限の孤独へと押遣っていた力の正体だった。
力の意味を知らず、そのコントロールを知らぬ少女は漏れ出るその力によって
周囲にある種の精神的妨害を無秩序にまき散らし続けていたのである。
他者の心を推し量ろうとする意思そのものを奪い取り続ける生田を、
その発生源たる生田を排除しようとする防衛本能。
それはただ何となくの生田への不快感へと、そして、不快なものを遠ざけんがための無関心へと繋がっていた。
だが生田の力が無関心では防衛しきれないほど増大したとき、
一気にそれは生田への憎悪となって噴出し、
そしてそれはさらなる生田の能力の増大…いや、決壊を促してしまった。

255名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:07
もはやそれは止められない。
際限なく溢れ続ける憎悪の感情は、直接その手に触れた者の心を一瞬で究極の狂気へと突き落とし、
ずたずたに引き裂き、切り刻み、すり潰す。
普通の人間であれば一瞬で発狂してしまう…。

あるものは見境なく暴れ、あるものは窓からその身を投げ、
あるものは自らの耳を引きちぎり、唇を噛み切り、自らの腕をただひたすらにペンで刺し続ける…
自らの指を食いちぎり、泣きながら過去の罪を懺悔しひたすらにその頭を床に叩きつけ続ける者…
…地獄…
そこはまさに地獄だった。

その地獄の中心で少女はただ、ひきつった笑顔で立ちつくしている。

「だめ…完全に自分を見失っている…多分、自分自身も能力に喰われてしまっている…」
助けられない…
先ほどから何度となく高橋は少女に呼び掛け、同時に暴れ続ける少女を取り押さえんと格闘を繰り返していた。
通常ならば相手の攻撃を全て読み、あっという間に取り押さえることが出来るはずが、
心が読めぬその少女はその生来の動体視力と身体能力だけで、格闘戦のエキスパートたる高橋の、しかも
【瞬間移動(テレポート)】によってどこから来るかわからないはずの攻撃を全て跳ね返し続けていたのだ。
迎撃のたび、高橋はその反撃による激痛に耐え続けていた。
一般人ならば一瞬で発狂しかねないその【精神破壊】を幾度となくガードする。
精神系の能力者である高橋であるがゆえに辛うじて単なる「激痛」のレベルに抑えている。
しかも、田中の【共鳴増幅(リゾナントアンプリファイア)】によりその防御力が高まっているにもかかわらず、
徐々にその激痛は大きくなっている。
やがては高橋といえど狂気の侵入を防ぎきれなくなるだろう。
手詰まりだった。

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!
教室に一人、生田の乾いた笑い声が響きわたる。
「ちぃ!もういいっちゃ!愛ちゃん!もう無理っちゃ!やるしかないよ!」

256名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:42
つまりそれは、生田を殺す、ということだった。
「でも!れいなだって感じたやろ!あの子は!…あの子も!」

共鳴者なんやよ!

「仕方ないっちゃ!どの道、こんなこと笑いながらやるようなもん!救いようがないっちゃ!」

仕方が無い…排除されても仕方が無い存在…

「笑ってないです」

え?

「あの人、笑ってないです」

小さな少女だった。
小さな、その小さな少女は音もなく教室に現れた。
音もなく、教科書を踏みしめ、音もなく、血の海を渡って。
この教室で地獄をその目におさめていた。

「鞘師ちゃん!外で待機っていっとったやろ!」

生田が跳躍する。
突然現れたその少女を排除するために。
どうせコレも同じなんだ。みんな憎んでしまえばいいんだ!
全部同じなんだ!

「鞘師ちゃんダメ!その子に触れさせては!」

鞘師の脚元から、深紅の血刀が突き出され鞘師のたなごころへと納まった。
鞘師の体は流れるように、溶ろけるように低く変形し、一瞬の躊躇もなく生田の懐へ飛び込んだ。

257名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:52:30
ガガンッ

血刀は、ひと呼吸のうちに左右に跳ね跳び、生田の両の腕を、
鞘師に掴みかかろうとするその両方の前腕…内碗部を打ち折っていた。
まるで関節が一つづつ増えたかのごとく、生田の腕がありえぬ方向へと折れ曲がる。
血刀は刃引きであった。刃のない血の塊は重い鈍器となって生田の腕を襲ったのだ。
だが、生田は止まらない。
そんなものでは生田の憎悪はとまらない。
止まりはしない。

「ガァァァァァ!!!」

大きく開いたその口が鞘師の首筋へと襲いかかる。
鞘師はなにもせず、立ちつくしている。
生田のあぎとが、あとすこしで鞘師の首に届く、あとすこしで…
ガガッ!
電光石火、血刀が生田の右膝を砕き、ほぼ同時にかち上げられた柄頭が生田の顎をとらえた。
ドサァッ
一瞬浮き上がるように空中に停止したのち、生田は床に倒れ伏した。
手足を砕かれ血反吐を撒き散らす、哀れな姿となって、床をはいずっている。

「鞘師ちゃん!」

無言で鞘師は「待ってください」と高橋をとどめた。

ムクリ…
生田がその場で上体を起こした。
壊れた人形のように尻だけで体を支える。

ハハッ…

ハハハ…

258名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:53:17
ハハハハハハ…

「まだ…笑っちゅう…!」

アハハ…アハ…ハハハハハハ…

「なぜ、泣いてるの?」

唐突に、そう鞘師は尋ねた。

アハ…ハ?

「なぜ、あなたは泣いているの?」

読めぬはずのその心を鞘師は…

水軍流

凡庸なる人類がその身体資源の限界を超えることなく、それでも究極の殺傷力を求め、編み出された、殺法。

それは、まず己れのあらゆる内的感覚を観察し分析し解読する力を育む。
ほんの些細な膝の角度、背骨の変化、重心の位置、呼吸における内臓と横隔膜の変化、
そこからさらに生まれる、全身の重さの配分の変化…
その自己の身体感覚に基づいた観察力は他者を観察する力へと拡張されていく。
その積み重ねが敵「意」という概念に置き換えられ、敵の次の一手を正確に指し示す。
もはやそこには神経伝達速度の限界は無い。いや逆だ。
初めから次の一手がわかっているのだから神経的な伝達速度など一般人と変わらぬ程度で十分なのだ。
やがて敵「意」が単純な五感の情報以外からも察知できるほどになるころ、
その観察力は身体運動から相手の心理状態まで読みとる力へと深化していく…
鞘師は丁度、その途上を歩む者だった。

超能力ではなく、純粋に、ただの「技術」によって鞘師は生田の心を見抜いていた。

259名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:56:12

彼女は泣いている…と。

そこに同情は無い。
鞘師もまた、未熟な心の、「あるべき何か」が欠落した、未完成な子供である。
でてきた言葉は、ただの感想にすぎない。

「泣いているなら…」
ハハ…ハ?
「泣いているなら、普通に泣けば?」

ハハハ…ハハハ…ハ…ハ……
ハ…ァ…ァ…ァァァ…ァア…アアア…
アアアアアアアアア!!!
アアア!!!アアアアアア!!!!

鞘師の言葉は限りなく冷たい。

だが、そんな言葉が限りなく温かいものとして、あれほどの憎悪を…
生田の心を簡単に溶かしてしまった。

涙だ。あたたかい、あたたかい涙がとめどなく頬を流れ落ちる。

どんな形であれ、それは、「生田の心が他人に通じた」瞬間。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

260名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:59:54

------------------------------------------------------------

※未練たらたらの付録(イクちゃんの能力設定、そのボツネタの記録)
いくちゃんに関してはどんな能力がいいか?そもそもどんなキャラなのか全く掴めず、全然筆が進まない状態でした。
そんななか、『――― Erina』が発表され、KYそのものが能力というアイディアが示されました。
当時も「なるほどうまい。実にうまい。これはいいなぁ(でも自分のイメージとは違うな)」
という印象だったのですが、能力的には物理的な能力者がいいと思っていました。
(卒業メンバーが軒並み物理戦闘系でしたし…)
が…なぜか日を追うごとに勝手にその延長線上の能力で自分の中のイクちゃんが暴れ出してしまいまして…
泣く泣くそっちへと引きずられてしまった感があります。

でも未練が残る。あーせっかく設定考えたのに。とまあそういう未練をここに。

■生田衣梨奈:【空気制動(アトモスフィアフリージング:atmosphere freezing)】

現状では「一瞬、その場の空気を凍りつかせる」だけの能力。
一種の空気限定の念動力ともいえる。
生田を中心に半径5m程度の範囲内のうち任意の空間に充満している空気(酸素に限らず、ガスや水蒸気も含め)を自然の摂理に反して「その場に固定する」
扇風機の「強」程度の流れならば完全に停止させる。
但し、人間が全速力で突っ込んでくるなど大きな力が加わった場合、それなりには動いてしまう。
が、逆にこれを応用し衝突や落下の衝撃を弱めるクッションとして使うことが出来るかもしれない。
また使い方によっては範囲内の生物を窒息させることもできるかもしれない。
ただし能力の連続使用は生田本人も相当に消耗するので我慢比べのようなことになるだろう。

能力の発展性について
もしかしたら彼女の能力は「空気を止めること」から拡張されていくかもしれない。
空気の成分を正確により分ける、空気を自在に動かす(風を起こす)、など。

261名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:01:08
■生田衣梨奈:【電磁操作(エレクトロマグネティック;electromagnetic)】

電気を操る力のうち、主に電磁波に関する能力に特化したもの。
能力の強度、どれだけの自由度にするかはいまだ未設定。
どれくらいの誤差かは未設定だが発振する電磁波の周波数はコントロールできる
また周囲の電波や電磁波の存在を感知できる
未熟なうちはただのノイズにすぎない(相当不快だろうからこれを無視する習慣は必須となるかもしれない。KYの原因?)
が熟練によって有益な情報として(例えばその電波がラジオ放送ならちゃんと人の声や音楽として)感知できる日
がくるかもしれない。

具体的な能力使用例
弱めの能力設定であれば、電子機器を狂わせる等。
強めならば、メーザー砲、つまり水のような極性のあるものを共振させ発熱。敵を蒸し焼きにする。
電撃を操る能力を持たせるかは未定。

■生田衣梨奈:【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

悪意、敵意、攻撃の意思を持ってその手で触れたものを発狂させる能力。
現状、強力な発狂作用をもたらすためには接触せねばならないようだが、
非接触であっても軽度の精神妨害を常に撒き散らしているため、
将来的には非接触であっても発狂に至らせる能力者となるのかもしれない。

非接触時の軽度の精神妨害は
「自他の心が読めない」「空気が読めない」と周囲に認識されているようだ。
リゾネイターとしての覚醒以前は完全にダダ漏れ状態であったが、
リゾネイター達との出会いにより、徐々にそのコントロール法を身につけていくことだろう。

262名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:04:01
>>248-261
以上、 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ でした。


以上の代理投稿をお願いいたします

263名無しリゾナント:2011/08/10(水) 20:54:47
長いなw
場合によっては分割投稿で対応しますか

264名無しリゾナント:2011/08/10(水) 21:10:07
完了

265名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:14:47

「なんでよっ!!」

ガチャン、と食器が激しくぶつかる音と共に聞えた絵里の声。
滅多に声を荒げない彼女が怒っている。
さゆみは急いで病室の扉を開けたが、そこに居た絵里が今にも泣きそうな顔をしていた所為で声をかける事を躊躇った。

「二日延びるだけじゃない」
「そんなの嘘でしょ!絵里知ってるもん!そうやってもっと入院延ばすんでしょ!?」

幸い食事は済ませた後らしかった。絵里が感情に任せて強く机を押した所為で
今度こそ食器は白い床に落ちて音を立てた。
その音に驚いて思わず息を呑むと気配に気付いた絵里と目が合った。

「さゆ…」

気まずそうに目を逸らされる。絵里はシーツをぎゅっと握って唇を噛んだ。
こんな姿を見るのは久しぶりだ。
昔―絵里とまだ出会ったばかりの頃―は入院が予定より長引く度に泣きじゃくり、物を投げていたのだが
さすがに年齢を重ねるたびそれは減り、そしてリゾナントの仲間と出会ってからは滅多と起こらなかった。

「どーしたのよ絵里。珍しいね、怒鳴ってるなんて」

努めて明るい声で、いつもの調子で話しかけたがバツが悪かったのか絵里は目を合わせようとしない。


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