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艦娘がいない鎮守府のようです

1 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:31:48 ID:62pQqJ3.0



―――貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい―――



.

42 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:28:42 ID:62pQqJ3.0
('A`)「さて、俺はひび割れた壁の修繕だ」


練ったコンクリートをひびに沿って塗り、金ごてで綺麗に整える
多少不恰好だが、そのままにしておくよりマシだろう

もしも、この場所に艦娘が来るようなことがあれば
オバケ屋敷でお出迎えなんて、不恰好だし不気味に思うだろう。実際俺は思ったし
例えこの場所が、問題児達の流刑地だったとしても、暖かく迎え入れられるようにしておきたい


('A`)「Run run runaway, runaway baby♪Before I put my spell on you♪」


内地にいた頃にはダリィと思うだろう作業も、ここでは楽しくて仕方が無い
ウミネコと、波と、木々のざわめきに加えて、金づちに鋏を動かす音
なんでもない作業音が、変化のもたらす音楽に聞こえてくる


( ^ω^)「うーん……老朽化は進んでるけど、所々修理もされてるお」トンテンカントンテンカン


(´・ω・`)oVo「……」チョキチョキ

(´・ω・`)oVo「ふむ……」

(´・ω・`)つ8<「……」

(´・ω・`)つ8<「なんだ……しっくり来るな……」


日が暮れるまで作業して、風呂入って飯食って寝て
起きて飯食って、作業して、たまに遊び、休んで、作業する
その合間に、全く変化の無い海を監視、レーダーで確認、一日の最後に報告
そんな日常が、しばらく続いた

43 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:29:34 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「カーテンやシーツの洗濯は大変だな……」

( ^ω^)「ドクオ!!世界を、塗り替えなイカ?」

('A`)「は?何その水鉄砲……?」

( ^ω^)「薄めたペンキを発射できるように改造したお」

( ^ω^)「死ね」ドピュッ

(;'A`)そ「うおお声色がマジだ!?」サッ


(´・ω・`)「おーい、おやつ……」ビチャッ


( ^ω^)「あ」

('A`)「あ」


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「オーケー、宣戦布告と見なした。殺す」

(;'A`)そ「ちょっと待て俺は何もしてなうおお!?」

( ^ω^)「またこの鎮守府に新たな猟奇殺人が追加されると言うのか……人とは哀しい生き物よな……」

('A`;)「お前の所為だろうが!!ちょっ、オッサン!!鎌はやめろ鎌は!!」


たまに、こういったハプニングが有りながらも、改築は順調に進む

44名無しさん:2016/04/03(日) 16:30:08 ID:uNO.6MOw0
おもしろいぞ

45 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:30:22 ID:62pQqJ3.0
寝床のマットを干し、シーツやカーテンを洗濯し、軋みを上げる家具の修理をして
窓を磨き上げ、床に転がってるショットガンを片付け、真っ赤なクレヨンで『たすけて』と壁一面に書かれている部屋をピカピカにして


('A`)「ふーい……」

( ^ω^)「終わった、かお」

(´・ω・`)「おつかれさん。さぁ、乾杯だ」


およそ一ヶ月の大改築は終了した


(´・ω・`)「音頭取れ、ドクオ」

('A`)「俺が?」

( ^ω^)「ドクオが言い出したことだお。しっかり締めるお」

(;'A`)「えーと、そんじゃあ……」


手渡された缶ビールの栓を開け、掲げる


('A`)「生まれ変わった、俺達の家に!!」

( ^ω^)「家に!!」

(´・ω・`)「家に!!」




「「「乾杯!!!!!」」」




.

46 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:31:12 ID:62pQqJ3.0
(*´^ω^`)「ぎゃはははははははwwwwwwwww」

(* ^ω^)「大麦乳大福もぐもぐwwwwwwwww」

(*´゚ω゚`)「ひーひひひっひひひwwwwwwwww」


そして、一時間でこの有様である


(;'A`)「うわぁ……」

(* ^ω^)(*´^ω^`)「「麦茶だこれ!!!!」」


いいえ、ビールです。それをお前らは麦茶並のペースでガブガブやってるんです
それに加えて、お前らタバコも吸うから酔いが回るのはええんです
いくら備蓄に余裕があるとは言え、流石に呑みすぎだ


('A`)「そろそろお開きにしようぜ」

(*´^ω^`)「堅ぇこと言うなよ提督よぉ〜?俺ァなぁ、俺ァなぁ……」

(*´;ω;`)「ひぐっ、嬉しいんだよォ〜……オオウオウオウ……」

(;'A`)「ええ〜……」


さっきまでゲラゲラ笑ってたオッサンが、急におうおうと泣き出した
笑い上戸な上に泣き上戸かよ……純粋にめんどくせえ……」


(*´;ω;`)「お前、お前……新人なのにさぁ……こんな場所連れてこられてさぁ……散々な目に遭ってんのによぉ……」

(*´;ω;`)「この一ヶ月、ふて腐らねえで鎮守府の改善を成し遂げたじゃあねえかぁ〜……」

(;'A`)「え?お、おう。ありがとう」

47 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:32:27 ID:62pQqJ3.0
(*´;ω;`)「最初は、他の連中と同じような、ゲスいだけのクソ野郎だと思ってたけどよぉ……」


聞き捨てならねえが、その通りだから何も言い返せないのが悔しい


(*´;ω;`)「それでもおま、お前……やって来るかもどうかわかんねえ艦娘の為に、ヒクッ、汗水垂らして働いたじゃあねえかぁ……」

(* ;ω;)「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

(;'A`)そ「うおっ!?お前もかブーン!?」


ニコニコ笑っていたブーンも、突然大声を上げて泣き出す
何だこれ俺はどうすればいいのこいつらを


(* ;ω;)「愛だお……愛の為せる技なんだおおおおおおおお!!!!」

(;'A`)「愛ってお前……大げさだろ……」


艦娘の環境改善の為に改築に取り組んだのは嘘じゃないが、退屈しのぎで始めたのも事実だ
これほど感動されるほど、俺は大義を持って行動したわけじゃない

照れ隠しも兼ねて、それを伝えようとした矢先に


(*´-ω-`)「ぐごーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

(* ‐ω‐)「すやーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


叫んでんじゃねえかと思うほどの、大いびきを掻いて二人は眠ってしまった


(;'A`)「おいおい……」


揺さぶっても起きやしない。今日は総仕上げとして大分働いたから、疲れていたんだろう
それは俺も同じだったが、起きている以上、放っておくわけにも行かなかった

48 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:33:44 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(;'A`)「つっかれたー……」


自室のベッドに体を投げ出し、伸びをする
男二人をそれぞれの部屋に運ぶのは、やはり重労働だ
しかも一人はデブだったから、最終的には転がした
なんどか壁に顔をぶつけてしまったが、酔ってた所為にすりゃいいだろ


('A`)「ハァー……」


疲れと酔いが、まどろみの中へと引きずりこんでいく
ぼんやりとした頭で、明日から何をしようかなんて考えながら、俺も眠りに就いた


(-A-)「スゥ……」


(-A-)


(-A-)





(-A-)







.

49 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:34:35 ID:62pQqJ3.0






『りん』






.

50 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:35:33 ID:62pQqJ3.0
聞き覚えのある、鈴の音だった


(-A-)「……」


部屋の中に、人の気配がする
ブーンか、オッサンか。尋ねようとしたが
声は出ない、体も動かない。俗に言う、金縛りに掛かっている

きっと、夢だろう。気にするまでも無い。もうここは、オバケ屋敷ではないのだ


「さて、新しい提督さん」


この場所で始めて聞いた、女の子の声だ
結局この一ヶ月、声の正体は分からずじまいだったな。白昼夢でも見てたのだろうか


「貴方はこれから、『前』より余程厳しい状況で、深海棲艦に挑まなければならない」


待てよ、ここは既に解放された海域じゃあないのか?
一ヶ月間、静かで穏やかなもんだったぞ?


「解放された海域?ハハ、可笑しな事を仰る」

「海が一つに繋がっている限り、『彼女達』はどこにだって赴き、どこにだって現れる」

「勝利条件はただ一つ、『深海棲艦の全滅』。それは、向こうにも言える事」

「降伏など無意味、和解など持っての他。殺すか殺されるかの『戦争』。それを『彼』はちゃんと理解していた」


彼、とは?


「軽巡洋艦、『龍田』」

51 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:36:11 ID:62pQqJ3.0
(;-A-)「……」


龍田だと?艦娘を、『彼』と?
アンタは、一体何を言っているんだ?


「艦娘でありながら、人間であり、そして深海棲艦でもあった、奇妙な男性で……」

「この場所の、前任提督だった」


支離滅裂が過ぎる。艦娘なのに、人間で、それに深海棲艦だと?
もしそんな奴がいたとして、それが何故こんな場所で提督をしていた?


「さて。艦娘に拒絶され、忌まわしき鎮守府へと流れ着いた『丸腰の提督』さん」


『りん』と、また鈴の音が響くと
動かない俺の手に、柔らかな毛の……『猫』のような感触が広がった




「貴方は果たして、『彼』の意思を継ぐ者となれるでしょうか?」



.

52 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:37:54 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


('A`)「あ、ああ……朝か……」


カーテンの隙間から差し込む光で、目を覚ます
起き上がると、僅かに頭痛がした。二日酔い気味だろう


('A`)「なんか……変な夢見た気がする……」


内容を覚えてはいないが、とにかく不可思議な夢だった筈だ
思い出せないもどかしさで、頭を掻こうと手を上げた時


('A`)「ん?」


俺は、何かを握っていることに気がついた


('A`)「……USB?」


8GBの、USBメモリーだ
こんな私物を持ち込んだ覚えは無い。この一ヶ月の改装及び大掃除で、記憶媒体を見つけた覚えも無い
ブーンかショボンの物だろうか?だとしても、あいつらの物を、俺が握りこんで寝ているのは可笑しくないか?


('A`)「……ま、いいだろ」


司令室にはパソコンがあった。後で確かめてみよう
スウェットのポケットに仕舞いこみ、食堂へと向った

53 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:38:41 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「おあよう……」

(; ω )「おうぇっ……顔痛……」


(;'A`)「……」


コーヒーを一杯淹れる間に、昨夜ベロンベロンに酔っ払った二人がのそのそとやって来た
どちらも頭を抱えながら、青白い顔をしている。麦茶みたいにビール飲んでるからだろ


(;'A`)「コーヒーか?それとも水か?」

(; ω )「水くれお……」

(;´ ω `)「悪ぃ……今日は仕事できそうにねえや……」

(;'A`)「お、おう……良いよ今日は休んでろ」


入れてきた水を飲み干した二人は、またふらふらと寝床へ向った
今日は俺一人で仕事か……まぁ、次の方針を考えるいい時間になるだろう


('A`) ズズッ
つ日


('A`)「さてと……始めるかね」


まだ半分ほど中身が残っているマグカップを持ちながら、作戦指令室へと向った

54 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:40:09 ID:62pQqJ3.0
('A`)「アラート、異常なし。レーダー、異常なし。その他計器……オーケー、異常なし」


レーダーは最重要機器だ。艦影を捉えると、鎮守府全域に警報を鳴らす
これが動いていないと、近づいてくる深海棲艦を見つけるのが難しくなる
朝と夕方、二回のチェックは欠かせない。まぁ、いつもブーンがメンテしてくれているから、今の所問題は無いが


('A`)「今日も平和でござんすねっと……」
つ日


軽くぼやいて、コーヒーを啜ろうとした時


('A`)「……?」


俺は自分のぼやきに、違和感を覚えた
平和……なのか?本当に?


(;'A`)「はは、何を……」


ここは大本営が、艦娘を配備する必要が無いと結論を出した海域だ
一ヶ月間、何の異常も無かったじゃないか……


(;'A`)「……クソッ」


嫌な想像ってのは、考えないようにすればするほど広がるもんだ
温くなったコーヒーを一気に飲み干して、不安を苦味でむりやり洗い流し、今度は見張り台へと赴く

55 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:40:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「今日のご機嫌は悪いようだな……」


今日の天気は曇り空、風も吹き波が高い
空も海も灰色に染まり、巨大なバケモノが、大口開けているかに見えた
広げた折りたたみ椅子に深く座り、イヤホンを耳に突っ込み、ウォークマンの再生ボタンを押す


♪Zebrahead - Rescue Me
https://www.youtube.com/watch?v=w0rkj_GHO2g


('A`)「……」


風が波を押し上げ、時折港湾に水しぶきを立たせる
こんな時化た海でも、艦娘は出撃しているのだと言う
その姿を目に掛けたことは無いが、もしもその背中を見送ることがあるのなら

俺は、どう声を掛けたらいいのだろうか?


('A`)「戦争、か……」


提督は、艦娘の司令官という立場だ
言うならば、机上の駒を進めて、戦いを勝利に導く存在だ
だから……『戦場の空気』を、読み取ることが出来ない。砲の音も、魚雷発射音も

圧倒的火力で迫る戦艦級深海棲艦の圧力も、音も無く足下に現れる潜水艦の恐ろしさも

それを知らない立場で、『頑張ってこい』『必ず勝て』など、言っても良いものだろうか?
近頃、そんなことを考えるようになった。多分、もっと早くに
それこそ、提督の道に進む前に考えるべきことだろう

56 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:41:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


幸か不幸か、俺にはその考える時間が与えられた
もしも艦娘が手元にいて、順調に海域を開放し、次々と彼女達を増やしていたら
俺は色に目が眩んで、ブーンが最初に言った『ゲス野郎』になっていたかもしれない


('A`)「……」


ここの前任のように、艦娘を悪戯に……


('A`)「……?」


悪戯に、扱ったのか?


('A`)「……なんだ、この、感じ」


ショボンのオッサンから聞いた噂話に、昨日までの俺は疑いも無く嫌悪を抱いたはずだ
だが今は、それが疑問に変わっている。またもや、『本当に?』と


('A`)「ッ……」


ポケットから、USBを取り出す
寝てる間に握っていたこれに、その『答え』が載っているとしたら……?


('A`)「俺は、一体……?」


変だ、今朝から、夢を見てから
椅子を折りたたみ、もう一度海を注意深く眺めて異常が無い事を確認し
俺はパソコンがある司令室へと急いだ

57 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:42:46 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「テキストファイルか……」


三つのテキストファイルと、ピクチャファイル
タイトルはシンプルに数字で記されていて、中身が何なのか検討もつかない


('A`)「……」


差しあたって、最上部にある『1』のファイルをクリックしてみた
ワードが開かれ、その内容が表示される

その書き出しは、まるで


『貴方がこの手記を読んでいる時、私は既にこの世にはいないだろう』
『自己紹介をしよう。私は「流刑地」と呼ばれた鎮守府に四年間着任していた提督だ』
『噂には聞いているだろう。着任した提督や艦娘が悉く不審死を遂げる、呪われた鎮守府』
『そこで私は、「家族」と共に周辺海域を深海棲艦の支配から解放した』


三流脚本家が書いた、映画やドラマのような物だった


(;'A`)「これ、前任の……」


ごくりと、溜飲を下す。残酷な噂話を思い出し、鳥肌が立った
だが、俺はついさっきその考えに疑いを持った身だ。それを晴らすためには、これを読まなければならない
意を決し、マウスホイールを回していく


『最初に、このメモリーの内容を説明しておく。この1番目のファイルは「艦娘の現状」について』
『2番のファイルは、私が「提督」として勤めた四年間の日記だ。別に読んでも読まなくてもいい。長いから途中で切ってくれても構わない』
『最後に、私の願いについて』


('A`)「ふむ……」


深海棲艦と艦娘に関する書籍はいくつか読んだが、殆どが考察に近いものだった
両者とも謎が多い。艦娘自身も、その出生を語ることが出来ない
どこから来て、何が目的なのかがハッキリとしていないのだ

58 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:44:09 ID:62pQqJ3.0
俺は、この文章を書いた人物の研究結果をまとめているものだと思っていた
しかし、スクロールして読み進めていくうちに、それは全く見当違いだと知ることになる


(;'A`)「……」


そこに書いてあったのは、海軍の『闇の部分』
艦娘が受けた、非道だった


『最初に出会った叢雲は、前の鎮守府で自爆特攻を命じられ、決行直前に戦場から逃げ出した』
『命じた理由が、「口答えをしたから」だ。初期艦としてアドバイスをしたつもりだったのだが、当時の司令官はそれが気に食わなかったのだろう』
『時雨は、提督が圧力支配をする鎮守府でのストレスに耐え切れず、傷害事件を起こした』
『大本営の独房で彼女を最初に見たとき、彼女の目は人間に対する殺意しか映ってなかった』
『性的案件は数え切れない。艦娘は無条件に提督に好意を寄せると言うが、それは間違いだ』
『愛好の感情の裏には、必ず嫌悪の感情がある。どちらか一方だけに偏るなど、ありえないのだ』

『ここに集まる艦娘は、こういった提督の身勝手によって追い出された者ばかりだった』


(;'A`)「……」


つまりは、自分の欲望を満たすために提督となった奴らに刃向かい、逃げ出した艦娘がここに送られたのだ


『提督が全員、色欲に流れる下衆の類とは言わない。私が海軍所属になってから幾つかの鎮守府を見てきたが』
『真剣に戦争の終結を望み、日々戦いに挑んでいる者達も確かに存在する。だが』
『目先の勝利に囚われ、艦娘の命を粗末に扱う人物も現れてしまう』
『しかもその行為は、人が人を扱うよりも安易に行われてしまうのだ』

『人。「人間」という生物が誕生するまで、母親の胎内で十ヶ月ほどの時間が掛かる』
『そこから更に「青年」と呼べるようになるまで十数年の月日を要する。人には、『人生』という重みがある』
『その重みがあるからこそ、兵士の命を預かる「指揮官」は、容易く自爆覚悟の突撃を命じられない』
『しかし、艦娘はその成長過程を僅か20分、長くても八時間で済ませてしまう。それも、母とも呼べない箱の中でだ』
『産みのリスク、育てのリスクが余りにも軽い。加えて、彼女達は「資材」から作られる』
『死亡責任を追及する父や母、『家族』も存在しない。無謀な命令で彼女達を死なせ、責められることが無い』
『「提督」の双肩に掛かる責任を、余りにも軽く考えているのだ』

59 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:46:11 ID:62pQqJ3.0
『それが顕著に表されているのが、「艦娘三原則」だ』


・第一条 艦娘は人間に危害を加えてはならない。
・第二条 艦娘は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条 前掲第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない。


『アイザック・アシモフが自身のSF作品にて示した「ロボット工学三原則」を元に考案されたこの原則は』
『人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする三つから成る』
『人類共通の敵、「深海棲艦」に唯一対抗しいれる彼女達の、決して破ってはいけない掟』
『とどのつまり、「兵器」が人間に刃向かうなと、暗に言っているようなものなのだ』
『この「兵器」という認識が改められない限り、彼女達が置かれている環境が改善されることは無いだろう』


(;'A`)「……」


俺は、無意識の内に自分の胸倉を掴んでいた
マウスを握る手は汗でぐっしょりと濡れていた


(;'A`)「俺もだ……」


この文にある、艦娘を軽く扱った『提督』達と、俺はなんら変わらないではないか
大義を掲げるフリをして、結局の所、俺は自分のことしか考えていなかった

『艦娘に対する世間の認識や、風潮がそうさせた。お前は悪くない』

一瞬そう考えては、頭からかき消した

60 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:46:59 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「バカ野郎……分かるだろうが……」


映像で見た彼女達は、人の形をして話し、笑い、そして戦っていた
そこに傷つく『心』が無いはずがない。それを、蔑ろにして良いはずがない
これを読むまで、そんな単純なことに気がつかなかった


(;'A`)「っ……ふー……」


天を仰いで、ため息を吐いた
幸いなことに、俺の身勝手で無意味に傷つく艦娘が、ここにはいない
だが、例えこの場所に艦娘が来ても、俺は提督を続けるべきなのだろうか
命を預かる『責任』を感じて、逃げ出さずにいられるのだろうか


(;'A`)「……」


しばらく、自分の両拳を見つめながら考えていたら
いつの間にか、窓の外が薄暗くなっていた


(;'A`)「嘘だろもうこんな時間……」


立ち上がって、今日の報告へ向おうとした
そしてふと


('A`)「……」


俺は、他の鎮守府を見てきた二人にもこれを見せようと思い
手早くプリントアウトをし、クリアファイルに仕舞った

61 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:48:14 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「お……?」


本部への報告を終え、適当に夕食を済ませようと食堂に向っている最中
ふわっと、出汁の良い香りが鼻を擽った


('A`)「オッサン、具合はもういいのか?」


厨房では、二日酔いでダウンしていたショボンのオッサンが料理をしている


(´・ω・`)「おう、迷惑かけたな」

('A`)「全くだぜ。次は海に叩き込むからな」

(´・ω・`)「死ぬわ」


顔色も良く、体調は元通りになっているようだ


(´・ω・`)「簡単なもので悪いが、晩飯だ」


根菜と牛肉が入ったうどんを二つ、テーブルへ運ぶ


('A`)「ブーンはまだダウンしてんのか?」


食い意地の張ったあいつが、飯時にいないのは珍しい


(´・ω・`)「まだグースカ寝てたぜ。明日まで起きねえだろうな」

('A`)「相当だな」

62 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:49:20 ID:62pQqJ3.0
透き通るような関西風の出汁を啜る。摩り下ろした生姜の風味が爽やかだ
具は甘辛く煮込んであり、ゴボウの歯ごたえが良いアクセントになっている


('A`)「ああ、うめえ……」


自然と零れる、食事への感想。どっかの美味しnクソグルメ漫画のように、薀蓄垂れ流さなくとも
『美味い』の一言は、料理人に対する最高の賛美だと思う


(´^ω^`)「知ってる」


でももうちょい謙虚になれよムカつくなその顔


('A`)「ごっそさん」


五分足らずで食い終え、パンと手を合わせ食事への感謝をする
オッサンは灰皿を引き寄せ、食後の一服を始めていた


(´・ω・`)y-~「フーッ……そういや、こうやって二人だけでゆっくりするのは始めてだな」

('A`)「せやな……」


この一ヶ月はバタバタとしていたし、何か食うときは絶対ブーンいたしで
こうして向き合って話す機会は、無かったかもしれない

しかし、ちょうど良い。前の鎮守府の話を聞くには、おあつらえ向きだろう
テーブルに置いてあるクリアファイルを、オッサンに差し向けた


(´・ω・`)y-~「これは?」

('A`)「目を通せば分かる」


タバコの灰をトンと落としたオッサンは、コピー紙を取り出し、左右に目を流す
そして、『信じられない』といった表情で、俺の方へと向き直った

63 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:51:49 ID:62pQqJ3.0
(;´・ω・`)y-~「前任の……どこでこれを?」

('A`)「さぁな……今朝起きたらメモリーを握ってた」

(;´・ω・`)y-~「どうして俺に?」

('A`)「鎮守府勤務経験者の観点からの話を聞きてえ。俺は、ここ以外を知らない新米だからな」

('A`)「前任が残した手記が、本当かどうかを確かめたい」


俺の目を見て、オッサンの顔つきが真剣になる
まだ何も話してはいないが、俺の想いを察してくれたのだろう


(´・ω・`)y-~「……」ペラ


黙々と、文章を読み進める
時折、タバコの煙を吐くこと以外、口を開かなかった


(´・ω・`)y-~「フーッ……」


読み終えたオッサンは、机で紙をトントンと整え、クリアファイルに仕舞う
そして、短くなったタバコを揉み消し、すぐさま二本目に火をつけた


(´・ω・`)y-~「結論から言おう。事実だ」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「だがまぁ、人間社会がそうであるように、ピンキリだがな」

('A`)「……オッサンが、前にいた場所は」

(´・ω・`)y-~「良い所だったよ」

64 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:52:30 ID:62pQqJ3.0
過去を懐かしむように遠い目をして、煙を吐く


(´・ω・`)y-~「イジメもねえ、設備は整ってる、福祉も充実……提督も若く、やり手だった」

(´・ω・`)y-~「問題があるとすれば、『俺』自身だ」

('A`)「オッサン自身……?」

(´・ω・`)y-~「『戦闘ストレス反応』って、分かるか?」


頷き、肯定した。戦場に出る兵士に起きるトラウマだ
戦争後遺症とも呼ばれる


(´・ω・`)y-~「まぁ、正確じゃあねーとは思うが、俺はそれを患った」

('A`)「え、でも……」


『そうは見えない』と言おうとしたが、手で制される
俺は口を噤み、次の言葉を待つことにした


(´・ω・`)y-~「一言で言っても、色々あるだろ。銃弾の音、死んで行く兵士、仲間の命を守る重圧感……」

(´・ω・`)y-~「心の病だ。薬や手術でそう簡単には治らねえ、難解なものだ……フーッ」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「肝心の、トラウマ内容だがな……」


注意しなければ分からないほど、僅かにタバコが折れ曲がった


(´・ω・`)y-~「艦娘の轟沈だ」

65 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:54:12 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……提督に、多いと思っていたが」

(´・ω・`)y-~「どうだろうな……少なくとも、前の提督はそれを『割り切っていた』

(´・ω・`)y-~「当然だ。戦争なんて殺し殺されの地獄絵図。そこに犠牲が伴わないワケがねえ」

(´・ω・`)y-~「短時間で『造られる』艦娘なら、尚更軽く扱われるだろう……この手記の通りにな」


オッサンはファイルを指で叩いた
そりゃ、そうだ。とどのつまり戦争は『殺したモン勝ち』
『犠牲を出したくない』など、平和的で優しく、能天気な願いが通る筈が無い


(´・ω・`)y-~「奴は優秀だったが、それは『勝つ』事だけに限られた。勝つためなら、犠牲を厭わないタイプのな」

(´・ω・`)y-~「だから……俺の顔見知りも、沈んでいくことが多かった」


タバコが、また折り曲がる
今度は、さっきよりも強い力を込めて


(´・ω・`)y-~「最初は卯月っつー駆逐艦娘だった。悪戯っ子でな、変わった語尾を付けてた」

(´・ω・`)y-~「俺が気まぐれで作ったお菓子をあげたら、飛び上がりそうなほど喜んでな……それから、二人三人と、厨房に顔出す連中が増えていった」

(´・ω・`)y-~「それから、俺のお菓子作りは日課となった。どいつもこいつも、良い表情で食いやがるんだ。美味しい美味しいってよ」

(´・ω・`)y-~「俺には家族が居なかったからな。自分のガキみてーに可愛がった……」


('A`)「……」


オッサンは、今まで見せたこと無いような優しい表情をしていた
きっと、彼女達に向けていたのは『性欲』ではなく、『親愛』だろう
だが、それも少しずつ悲しみの色へと変わっていく

66 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:57:20 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「ある日、卯月がパッタリ来なくなった。気になったが、一介の調理師如きがウロチョロしていい場所じゃあ無かった」

(´・ω・`)y-~「仲の良かった駆逐艦に聞いてみたら、『一週間ほど前に沈んだ』と、泣きそうな顔で答えてくれた」

(´ ω `)y-~「信じられなかったね。最後に会った日も、ふざけて笑っていたあの子が『死んだ』だなんてよ」


('A`)「オッサン、もう……」


余りにも辛そうな表情を見て、話を中断させようとしたが
それでもオッサンは、『最後まで聞いてくれ』と、呻くように呟いた


(;´ ω `)y-~「もっと恐ろしいのはここからだ……悲しみの傷も癒えてきた時、ひょこっと『卯月』が厨房に現れた」

(;´ ω `)y-~「最初は夢でも見てんのかと思った。だが、手の甲を抓ってみると確かに痛かった。現実に、死んだはずの卯月が現れた」

(;´ ω `)y-~「『生き返った』『帰ってきた』。俺はそう期待した。だが、あの子は俺の顔を見てこう言ったんだ」


タバコが、グシャリと完全に握りつぶされた


(;´ ω `)「『初めまして』とな……」


(;'A`)「……」


艦娘を知っている者なら、この謎は難なく解ける
『建造』もしくは『ドロップ』によってやってきた、新しい『艦娘』だ
姿形、人格も瓜二つ。だが、記憶や思い出は、まっさらな『別人』

もし俺の家族や、親しい友人が、全く別の存在として現れたとしたら
オッサンのように、恐怖を覚えただろう

67 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:59:36 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「卯月だけじゃねえ……弥生も、皐月も、文月も……みんな沈んでは建造され、何事も無かったかのように現れる……」

(;´ ω `)「そっ、それが、余りにも恐ろしかった……悪い夢を、延々と見せ付けられるような……」

(;´ ω `)「そんな日々が続いて、俺ァ馬鹿になっちまったんだろうな……提督の秘書艦と、提督を犯した……」


最初に出会ったときのような軽口では無く、重々しい、後悔が乗った口調だった
涙こそ流してはいないが、喉の奥から、時折しゃくりあげるような音が聞こえた


(;´ ω `)「精神疾患と診断された俺は、軍の病院で半年ほど入院した。上層部から退院時に突きつけられた二択が……」

(;´ ω `)「犯した罪に見合う年月を、牢屋で過ごすか。その倍以上の時間、『ここ』で勤務をするか……だった」


('A`)「……」


『何故』とは、聞かなかった。何となく、理解出来るからだ
オッサンは料理人だ。『美味しい』の一言が、オッサンにとっての最高の報酬なんだろう


('A`)「鎮守府に、戻ってきたのは」

('A`)「また……艦娘に料理を出す為だった、のか?」


(´ ω `)「……」カチッ シュボッ

(´ ω `)y-~「料理の腕以外に、取り得が無かったからな……せめて、美味い飯振るうくらいの償いをしたかったのさ」

68 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:00:51 ID:62pQqJ3.0
オッサンは自虐的に乾いた笑い声を上げ、目頭を指で揉み解す
顔を上げた時には、いつもの表情へと戻っていた


(´・ω・`)y-~「まさか艦娘が一人もいねえ場所に送られるなんざ、思ってなかったがな」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「ああ、別に不満ってワケじゃねえ。ここの生活は楽しいし、お前も良くやってると思うよ」

('A`)「良く……やってるの、かな」

(´・ω・`)y-~「あん?」


また一つ、鎮守府の現実を知った
轟沈による心の傷。戦争という抗えない現実
軽い気持ちで踏み込むべき世界ではなかった


('A`)「今でもオッサンの話を聞いて、ここに送られたことを安心している。前線では、艦娘が命を落としているのに」

( A )「嫌でも自覚するよ……俺は能天気で、覚悟のない人間だったってことを……」

(´・ω・`)y-~「……」


自分の、胸中を打ち明けた。幻滅されても、構わないと思った
辛い過去を持ちながら、のうのうと提督面していた俺に、オッサンは心中で我慢してたのかもしれない
だから、その鬱憤を晴らして貰いたかった。だが


(´・ω・`)y-~「なら、今から変わればいいじゃねえか」


叱責でも、怒号でもない、優しい声でオッサンは返事をした

69 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:02:05 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最初から何もかも知り尽くして生きている人間なんていねーよ。神じゃあねーんだから」

(´・ω・`)y-~「お前は今日、戦争と艦娘の現実を一つ知った。じゃあどうするか」


オッサンは米神を指で叩く


(´・ω・`)y-~「オツムで考え」


その後、今度は胸を拳で叩いた


(´・ω・`)y-~「心に示すのさ。自分の生き方、生き様をな」

('A`)「生き方、生き様……」

(´・ω・`)y-~「ま、心のビョーキしでかした奴が言っても、説得力ねーと思うがな」


そんな事は、無かった
オッサンは多分、凄く優しかったんだ。だから、人一倍傷ついた
そんなオッサンも、事件や病気を経て、生き様を見つけていったのだろう


('A`)「……考えて、みるよ」

(´・ω・`)y-~「おう、頑張れよ」


オッサンが突き出した拳に、自分の拳をぶつけ合わせた
話が聞けて良かった。俺が目指す『提督』としての在り方に、新しい一歩を踏み出せたから

70 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:03:05 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



( ^ω^)「ドクオ、午後に時間取れるかお?」


翌日、ブーンは開口一番こう言った
不意を突かれた俺は、若干うろたえながらも『ある』と返した

ここじゃ時間だけはたっぷりとあるからな


( ^ω^)「ショボンのオッサンから頼まれたんだお。前にいた鎮守府の話を聞かせてやって欲しいって」

( ^ω^)「僕も見せたいものがあるお。ご飯食べたら、工廠まで一緒に行くお」

('A`)「オチンコかな?」

( ^ω^)「馬鹿じゃねーのかお前」


冗談とツッコミを交し合い、午前はそれぞれの仕事をした
俺はいつも通り海の監視と、一ヶ月の大改装で出た大量の不燃ごみを捨て場に運ぶ作業
ブーンは焼却炉で可燃ごみの処理をしていた


(´・ω・`)「なんかオーブンの調子悪いんだけど」

( ^ω^)「叩いたら直るお」

(´・ω・`)「テレビじゃねーんだから。潰れたら今日のおやつのガトーショコラ無しだぜ?」

( ^ω^)「おk、全力でファックしてやる」

('A`)「新ジャンル、『オーブン姦』」

(´・ω・`)「外はこんがり、中に旨みと肉棒汁を閉じ込めたローストチンコが出来上がるな」

('A`)「ヤバイ、ここに来て一番頭悪い話してる今」

( ^ω^)「今更だお」

71 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:04:11 ID:62pQqJ3.0
昼飯を終えた後、ガタが来ていたオーブンの修理をした為、予定より大分遅れて工廠へと向った
ちょくちょく顔を出してはいるが、ブーンがここで何をしているのかは知らされていない

本人に聞いても、『おもちゃ作ってるだけ』と返されるだけだ。多分、大人のおもちゃだろう
なんかこう、メタリックTENGAみたいなのを作ってるのかもしれない。メタリックTENGAって何だよ


('A`)「やっぱ、すげー謎だよなぁ」

( ^ω^)「何がだお?」


ブーンはパチン、パチンと電灯のスイッチを付けていく
体育館を改装した工廠は、元はそこそこの広さがあったのだろう
しかし今は、『建造』を行うブラックボックスが幅を利かせている


('A`)「これから艦娘が出来上がるなんてよ」

( ^ω^)「ほんとだおね」


このブラックボックスも、様々な方法で調査が行われたが、二十年経った今でもほぼ謎のままだ
わかっているのは、この箱を設置するには『キー』が必要で、そのキーを用意できるのが『明石』という艦娘だけだということ

その出所も、ハッキリとしていない


('A`)「で、見せたいものって何だよ?」

( ^ω^)「フフフ、見て驚くなお!!」

(;'A`)そ「な、なんだってぇーーーーー!!!!????」


( ^ω^) ('A` )


( ^ω^)「満足かお?」

('A`)「ツッコんでくれたって良いじゃん」

72 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:05:25 ID:62pQqJ3.0
ブーンは、作業台の隣にある布で隠された物の前に立つ
大きさ的に電の艤装だと思うんだが、それにしちゃ縦に大きい。俺の身長ほどあるんじゃないか?


( ^ω^)「本邦初公開だお」


ブーンが布を取っ払うと、その正体が明らかになる


(;'A`)「な……?」


|::━◎┥


それは、『鉄の鎧』だった
とは言っても、中世の甲冑のようにゴテゴテとした者では無く
『アイアンマン』のパワードスーツのような、スタイリッシュなデザインだ
顔面には『ザク』のようなモノアイ。左手には1.5メートルほどのシンプルかつ太めの短槍
右手の甲から手首に掛けて、電の初期装備『12.7センチ連装砲』が装着されている
両肩から肘辺りまでは、艤装の『盾』に覆われていた

腰のベルト部分は、羅針盤をモチーフにしたエンブレムが付いていて、『錨』の形をした凹みがあった
右腰部分には、南京錠のようなアクセサリーが
そして、背中には水上推進動力部が背負わされていた
足には、艦娘と同じく踵に『舵』が付いている


それを見て、最初の一言は


(;'A`)「何これ……」


だった

73 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:06:17 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「男性用艤装アーマー。通称、『アンカーシステム』だお」

(;'A`)「だ、男性用……?に、人間の、男性だよな?」

( ^ω^)「艦娘に男がいたら、話は別だお」


いるわけが無い。その全てが女性だから、『娘』と明記されているのだ


(;'A`)「こ、これ……どうやって?」

( ^ω^)「この鎮守府に残っていた鋼材とボーキを使ったお。250ずつ位」


250。駆逐〜重巡洋艦が建造できる平均値だ
ここに残されていた資材は、それぞれ300ほど。新米提督に最初に支給される量だ


(;'A`)「魔改造って、これのことだったのか……」

( ^ω^)「ま、『おもちゃ』だお。実用させるにはもっともっと充実した資材と、環境が必要だお」

( ^ω^)「それと、『実験台』が」


『実験台』、その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立つ
まさかこいつ、俺のエネルギッシュ溢れる身体目当てにここへ……?」


(;'A`)「エ……エロいことするつもりなんでしょ!!クリムゾンみたいに!!」

( ^ω^)「待って今の話のどの辺からエロいことする流れになったの?」

74 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:07:47 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ドクオって、僕をマッドサイエンティストか何かかと思ってる節あるおね」

('A`)「え?違うの?」

( ^ω^)「ちげーよ誰が鳳凰院凶真だお」

('A`)「どっちかっつーとスーパーハカーだろ。体型とか喋り方とか鑑みるに」

( ^ω^)「ハカーじゃなくてハッカーな」


このままだと会話が大きく脱線してしまうので、話を戻す


('A`)「で、実験ってのは何のだよ?」

( ^ω^)「……艦娘が登場した当初、艤装研究が盛んに行われたお」

( ^ω^)「その目的は、『艤装を人間が使用する』事。当時は、海上の防衛網を抜けて陸に上がってきた深海棲艦を白兵戦で撃退する部隊もあって、生身の人間でも微力ながら戦えることが証明されているお

( ^ω^)「そして何より、『女子供より、男が戦うべきだ』という意見もあって、取り組まれたんだお」

('A`)「……へぇ」


軽視されている艦娘も、気遣われる時代があったのかと感心する
今じゃ世間一般の艦娘への認識は、『女子供』ではなく『兵器』
守るべき対象では無く、場合によっては民衆からヘイトやバッシングを受ける存在なのだ


( ^ω^)「だけど、問題は山積みだったお。その最たるものが『艤装の試練』と呼ばれるものだったお」

('A`)「試練?試すのか?艤装が、人を」

( ^ω^)「言葉の綾ってやつだお。艦娘の調査を続ける内に、艤装は艦娘と神経を繋ぎあわせ動かすことの出来る『身体の一部』であることがわかったお」

( ^ω^)「で、研究機関もそれと似たような装備を開発できた。艤装と人間の脳をリンクさせる追加アタッチメントを」

75 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:10:38 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「だけど、問題が生じたお。いざリンクを行うと、被験者は叫び出し、何かに怯え、そして最後に……」

( ^ω^)「『炎上』して死亡したお」

(;'A`)「炎上……艤装が、燃えたってことか?」

( ^ω^)「違う、『人間そのもの』が発火したんだお」


人体発火現象とやらだろうか。どこかのオカルト誌か、どこかの某鬼の手使いの零脳教師漫画かで読んだ覚えがある


( ^ω^)「この結果に研究者は一つの仮説を出したお。『艤装は、その艦が経験した戦争を被験者に追体験させ』……」

( ^ω^)「『その記憶に耐え切れなかった結果、何らかのバーストを起こし死亡した』と」

(;'A`)「別世界の、戦争ってやつをか?」

( ^ω^)「人と人が艦に乗って殺しあった、別世界では史上最も大規模で、苛烈で、悲惨な戦争……らしいお」

(;'A`)「艦娘本人だけでなく、艤装にもその記憶があるのか……じゃあこの『アンカーシステム』も、危ないんじゃないのか?」

( ^ω^)「多分。だけど、わからないお」


『わからない』。その言葉に、期待が込められているように思えた


( ^ω^)「神経伝達では無く、こめかみから脳波を読み取ってリンクさせる方式にしたんだお」

('A`)「何か違うのか?」

( ^ω^)「簡単に言えば、直接繋ぐか間接的に操作するかの違いだお。でも、この方法が正解なのかはわからないお」

( ^ω^)「そもそもが、無謀なんだお。血液型の違う人体のパーツを繋げる様なもんだから」

76 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:11:56 ID:62pQqJ3.0
('A`)「じゃあ、どうして……」

( ^ω^)「……悔しいんだお」

('A`)「悔しい?」


ブーンは一度頷くと、机の上に置いてあった艤装用弾丸を手に取った
12.7センチ連装砲用の弾丸は、戦艦のそれに比べて小さくはあるが、それでも対物ライフル用の弾丸ほどの大きさがあった


( ^ω^)「僕のとーちゃんは、陸上迎撃部隊に配属されていた軍人だったお」


深海棲艦は、その名前から海の上でしか活動できない存在だと認識されているが
太古の生物が、棲みかを海から陸へと移していったように姿を変え、陸上を侵攻してくる
それを迎撃したのが、先ほどもブーンがチラリと話した『陸上迎撃部隊』
護衛艦の包囲網を抜け、内地へと侵略してきた深海棲艦から、人々を守るために編成された部隊である


( ^ω^)「物心ついた頃には、とーちゃんは既に戦場で戦っていたお。立派な軍人さんだったって、かーちゃんから聞いたお」

( ^ω^)「深海棲艦を少しでも内地に近づかせない為に、身体を張って抵抗した、勇気のある男だったって……」

( ^ω^)「でも……人間が怪獣に立ち向かうようなもので、とーちゃんもそこで命を落としてしまったんだお」

('A`)「……」


陸上迎撃部隊は、そのほとんどが生身の人間で構成された部隊だ
にも関わらず、彼らの献身があったお陰で、内陸への侵攻を留めることができた
しかしその代償は大きく、艦娘登場時には既に約八割の命が失われたと聞く


( ^ω^)「とーちゃんが死んで二日後に、艦娘は現れた。この弾丸と、燃料と、鋼鉄と、ボーキサイトを携えて」

( ^ω^)「彼女達は瞬く間に、戦線を押し戻したお。それこそ、人間が怪獣と戦う必要などなくなるほどに」


現在、陸上打撃部隊は編成されていない。『必要がない』からだ
それは、人類にとっては喜ばしいことだろう。だが、ブーンの表情はそこから険しくなった

77 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:13:01 ID:62pQqJ3.0
(  ω )「艦娘は人の命を救う存在だお。とーちゃんのような犠牲を無くす、奇跡だお」

(  ω )「だけど、僕はこうも思えるんだお……『微力な人間など、この戦争には必要ない。引っ込んでいろ』と」

(;'A`)「……」


指揮は人間が執るとはいえ、実際に戦っているのは人ならざる『艦娘』だ
現場判断で動く場面も多いだろう。そこに、鎮守府で指示を出す提督は介入できない
結局は、『艦娘』と『深海棲艦』の戦争を、人間がいる世界で行っているだけなのかもしれない


(  ω )「もし……もし艦娘の技術が、二十数年前にあれば……それこそ、とーちゃんは痛ましい犠牲者じゃなくて、戦争を終わらせた『英雄』に成り得たかもしれないんだお」

(  ω )「今更言ってもとーちゃんはもう戻って来ない、後の祭りだと分かっているお。でも、僕は……」


(#^ω^)「遺したいんだお!!とーちゃんが、人間が戦ったという証を!!」

(#^ω^)「見てみたいんだお!!どこから来たのか分からない敵と味方の戦争を、人類の力で終わらせる瞬間を!!」


('A`)「……」


この鎧は
ブーンの、『抵抗』を体現した物なのだ
蚊帳の外にある人類でも、理不尽な侵略を跳ね除ける力があると、証明したいのだ

78 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:14:19 ID:62pQqJ3.0
(#^ω^)「エゴと言われようとも、狂ってると言われようとも、僕はとーちゃんのような漢がいたことを知らしめたいんだお!!」

(#^ω^)「艦娘に全てを任せるんじゃなく、人類自らが平和な海を……」


ブーンの昂ぶった感情は、俺の顔を見て冷めていった


(;^ω^)「ご、ごめんお……一人で熱くなっちゃって……」

('A`)「いや……」


艦娘が登場して、『悔しい』と言う人物に出会ったのは初めてだった
だけど、それは間違っていない感情だろう。艦娘に頼りきりの今の現状は
彼女達がいないと人間は何も出来ないと、証明しているようなものなのだから


('A`)「だから、人間でも戦える兵器を作ろうって考えたんだな」

(;^ω^)「ま、そうだお。でも、行き着く先々でバレてクビになったり、工廠吹っ飛ばしたりしたけど……」

( ^ω^)「それも全て、ここに来られたから結果オーライだと思ってるお。で……」


( ^ω^)「これを、僕の行動を、ドクオはどう思うお?」


真剣な表情で尋ねてきた
この事を話すのにも、多くの葛藤があったに違いない
開発を差し止められたり、造り上げてきたこの装備を廃棄されたりする可能性も考えただろう
それでも、ブーンは俺を信頼し、話してくれた。なら、俺はその信頼に応えるべきだ

79 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:15:20 ID:62pQqJ3.0
('A`)「これ……読んでくれ」


ショボンのオッサンにも読ませた、メモリー内容のプリントを差し出す
ブーンはそれを受け取って、手早く読み進めた


( ^ω^)「……」

('A`)「もし……もしよ。お前のお父さんが生きていて、提督になったとしたら、艦娘を使い捨てるような真似は絶対にしねーと思う」

('A`)「戦場を見てるから、敵の恐ろしさを知ってるから、戦う人間の尊さをわかっているから」

('A`)「ブーン。お前が造ったこの鎧は、この戦争と、指揮官のあり方を変えてくれる筈だ」


ブーンの両肩に手を置き、俺は笑った


('∀`)「俺は応援するぜ。上官として、友達として。そんで……」

('∀`)「この鎮守府で一緒に暮らす、家族としてな」


( ^ω^)「ドクオ……」


( ^ω^)「笑顔が気持ち悪い」


やっぱぶっ潰そうかなこの鎧

80 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:16:01 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「冗談だおwwwwwww怒るなおwwwwwwほんとちょっと待って肩痛いお前握力凄い」


ブーンは俺の両手を引き剥がす。だが、そのまま手放さず、包み込むように握りしめた


( ^ω^)「ありがとう。提督」

('A`)「おう」


ため息のように吐き出された感謝には、安堵の色が見えた
理解者のいない、孤独な戦いだったのだろうと察する


('A`)「……」

( ^ω^)「……」

('A`)「いやいつまで握ってんだよ流石に気持ち悪いよ」

( ^ω^)「腐女子大歓喜」

('A`)「いいよそんなサービスしないで」


今度は俺が手を振り払う。どの層が得するんだよマジで


('A`)「聞かせてくれよ。この鎧の事をよ」

( ^ω^)「おっお、存分に語ってやるお!!」


それから、俺たちはオッサンが飯が出来たと呼びに来るまで
工廠で飽きることなく語り合った

81 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:50:37 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



あれから、数日が経った


('A`)「……」


堤防で釣り糸を垂らしながら、俺はメモリーの『2』のファイルをプリントアウトして読んでいた
読む必要の無い日記と書かれていたが、いらない情報なら、ナンバリングまでして入れとく必要は無い
読んで欲しいから、入れたんだろう


('A`)「……」


『彼』の提督生活は、俺のように『訓練生』という段階を踏んでいない特殊なものだった
ブーンの父親と同じく陸上迎撃部隊だった彼は、退役後、兵士向けのボランティアセラピーをしながら各地を転々としていたらしい
しかしある日突然、海軍関係者に拉致され、この鎮守府へと送り込まれた

その経緯の中で、一際目を引いた文章があった


('A`)「『顔面に大火傷を負っていた』……」


鎮守府の医務室にあるベッドで目を覚ました彼は、元の表情がわからなくなるくらいの大火傷をしていたらしい
その重傷を負った記憶も無く、戸惑ったそうだ


('A`)「火傷……」


ブーンの話を思い返す

『艦娘の艤装を人間が装着したら、身体が燃えて死亡した』

無関係とは思えない。彼が数少ない陸上迎撃部隊の生き残りであるなら尚更だ

82 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:51:37 ID:62pQqJ3.0
('A`)「でも、突拍子もねえ話っつーことにも変わりねえよなぁ……」


リールを巻いて糸を戻す
釣針に引っ掛けてあった餌は綺麗に無くなっていた。随分器用にお食事するじゃねえか魚の野郎


('A`)「よっと!!」


餌を付け直し、竿を振って釣針を遠くに投げる
オッサンからは『マグロ釣ってこい。釣ってこなかったら殺す』と脅されているので、なんとしても釣り上げないといけない
って釣れるわけねーだろ頭にウンコ詰まってんのか


('A`)「ハァーァ……」


とまぁ、火傷のこともあり海軍及び艦娘には不信感を抱いていた彼ではあるが
初期艦娘として同時に配属されていた『叢雲』と生活していくうちに、艦娘に対する評価は変わったそうだ
『兵器』と分類されている彼女達も、人間と同じように感情があり、人格があり、『死』に対する恐怖がある
ファイルの『1』に記述されていたような、人間の横暴な振る舞いに、憤りを感じていることも

戦いに参戦した彼は、艦娘……兵士ついてこう語っている


『戦場に立つ兵士は、他者に与えられた大義の為に戦ってはいけない。他人の願いの為に命を懸ける必要は無い』
『全て自己の為に戦うべきである。自己の富、名誉、快楽……どれだけ薄汚れたものでも構わない。他人の御綺麗ごとの為に死ぬよりはよほどマシだ』


と。つまりは、命令されて戦いに赴くのでは無く、自己の目的を達成する為に戦えとの事だ
理に適っていると思った。人間だって、労働の為に労働する奴はいな……少ないだろう
生活や趣味に必要な金を稼ぐ為に、自主的に働いているのだ。『社会の為』だなんて、思っている奴はいな……少ない
だからこそ、早い時間に起床して遅くに帰る、大変な生活を四十年間も続けられるのだ

83 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:52:38 ID:62pQqJ3.0
艦娘はどうだろうか
『人間を守る』という大きな目的を持ってはいるが、それは他者の為の働きだ
そこに自己の願いは含まれていないように思える。人間と同じなら、欲もあって然るべきだ

だが、その『欲』はどう発散する?例えばだが、彼女達が『提督』に振り向いてもらう為に戦うとする
当然、一つの鎮守府に提督は一人しかいない。余程のクズ野郎では無い限り、付き合う艦娘も一人に限られる
では、提督に振り向いてもらえなかった艦娘は?その後、何を目的に戦えばいい?

人間であるならば、失恋してもまた次の異性を探せば良い。出会いの場はそこら中にある
しかし、艦娘が動けるゾーンは人間と比べて少ない。鎮守府にはブーンやオッサンのような異性もいるが、艦娘の数と比例しない
許可さえあれば外出も出来るが、それほど多くの時間を費やせない。ましてや、一般人から『兵器』と認識されている
拒否感を覚える奴もいるだろうし、それを良いことにゲスい行為をする奴もいるだろう
勿論、否定的な感情は人間同士でも発生する。それでもやはり、『人ならざるもの』である艦娘にはそれが顕著に現れるのだ


('A`)「難しい問題だよなぁ」


必要なのは、艦娘に対する『法』だろう
人権を与え、人間と変わらぬ扱いにすることで、人と艦娘の間にある隔たりを無くさないといけない
俺が『難しい』と思ったのは、その法を作ることでもあるが、作った後の事もある

それは『差別』という、根深い問題だ

人間でも、人種や宗教から始まり、考え方や性格、見た目に至る様々な要因でそれは発生している
しかもそれは、遥か昔から今に到るまで、一向に解決しない問題だ
人間同士ですらこの体たらくだ。そこに艦娘が加わってしまっても、おいそれと受け入れられないだろう
戦争経験者なら尚更だ。第二、第三の『ランボー』が現れるに違いない
ランボーつっても一作目な?あれが一番兵士に対する差別が描写されてるから

84 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:54:14 ID:62pQqJ3.0
('A`)「釣れねーなぁ……」


法云々はさて置き、日記の中の『彼』は、艦娘に目的を与えることに重点を置いた
それは物では無く、『生きる楽しさ』だ

遊びの楽しさ、学びの充実感、眠りの気持ちよさ、食事の満足感、勝利の高揚、帰還後の安心感

その全てを味わう為に戦い、生き残る。そういう方針で鎮守府を運用していた
また、自身を恋愛の対象とさせるのはご法度としていたらしい
指揮官が部下の誰か一人と付き合うと、部隊間で擦れが生じてしまうからだ
この辺りは読んでて自分を恥じた。そりゃそうだわ嫉妬とかあるもんそれくらい分かれよ俺

彼は、艦娘を妹や娘のように、分け隔てなく平等に扱っていた
そして、戦争が終わって、海軍とは関係の無い良い男と結婚し、幸せになって貰いたいと
父親のような、願いも持っていた


('A`)「……」


ファイル2の内容には、ショボンのオッサンが言っていたような提督の悪事は何一つ書かれていなかった
そりゃあまぁ、実際はやっててここには書いていないだけかもしれない。けど
艦娘に生きる楽しさを教え、幸せになって欲しいと願う人間が、そんな事しでかすとは俺は思えない
悪事も結局は噂話でしかない。どちら信じるかと問われたら、俺はこの日記を書いた提督を選ぶ

だが、『曰く』についてはどうやら本物だったそうで、彼がここに着任するまで、歴代提督と艦娘は不審死を遂げていたらしい
日記にも、鎮守府で起きた様々な怪奇現象について書かれていた。中には、『乳首相撲』だの『ウンコマン』だの、アホみてーなワードも含まれていたが


('A`)「……」


釣竿の先は、微動だにしない
いつもならもっと食いついてくるのだが、今日の魚は賢いらしい

85 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:54:52 ID:62pQqJ3.0
('A`)「戻ろうかな……」


プリントを捲りながら、釣りを切り上げようか考えた
オッサンにはめっちゃからかわれるだろうけど、今日はこのまま待っても結果は一緒だろう


('A`)「ん?」


立ち上がろうとした時、とある文章が目に留まり
腰を浮かしたまま固まった


それは、『エラーさん』と呼ばれる少女であった


(;'A`)「……」


艦娘でもなく、かといって人間でもない
どこからともなく現れて、ふらりとどこかへ去っていく
両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女


(;'A`)「白猫……少女……?」


俺が最初にこの鎮守府へ来て、最初に聞いた女の子の声、最初に見た尻尾
俺だけの夢や幻と思っていた存在が、数年前の日記にも書かれていた

上げた腰を、もう一度下ろす
釣りの事など、既に頭の中から消えていた


(;'A`)「『エラーさんはこの世界に艦娘を連れて来た管理人であり、二つの世界を隔て行き来する』……」

(;'A`)「『艦娘だけに認識される存在で、人間はその姿も声も認知することが出来ない事から、通称「妖精」と呼ばれていた』……」

86 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:56:22 ID:62pQqJ3.0
待て、待てよ。つまりは、人間には見えないってことだろ?
じゃあどうして、彼はその『妖精』とやらの姿形を知っていて


(;'A`)「どうして俺に語りかけたんだ……?」


『エラーさん』の話は続く。世界に艦娘を連れて来た彼女の目的は、『戦争の継続』
彼女の言う『あちらの世界』では、艦娘と深海棲艦の戦争を『ゲーム』として楽しんでいるという


(#'A`)「なんだよそれ……!!」


そんな、『ゲーム』なんかのために
俺達の世界の人間が割を食っているのかよ!!


オッサンのように苦しむ人間がいるのに!!
ブーンの父親のように、殺されてしまう人だっているのに!!


(#'A`)「ふざけんなよ……!!」


ふつふつと怒りがこみ上げてくる。思わずプリントを握りつぶしてしまいそうだった
だが、文章はそれで完結してはいない。怒りの衝動を押さえ込み、読み進めた


(#'A`)「……」


当然、彼も怒りを露わにしたらしい。しかし、エラーさんは悪びれる様子を見せなかった
『情』そのものが欠落している、冷徹なロボットのような存在だったそうだ

だが、そんな彼女が何故、『彼』と接触したのだろうか
それは、この戦争、この世界において彼は異質な立場だったからだ

87 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:57:06 ID:62pQqJ3.0
('A`)「『激昂した私を尻目に、「また来ます」と言って彼女は去った。最後に、「龍田殿」と言い残して』」

(;'A`)「『彼女が錯乱していない場合に限り、これは私のことを差した言葉だろう。しかしこの人生において、私は一度もそんな名で呼ばれた覚えは無い』……」

(;'A`)「『軽巡洋艦娘の名前で、呼ばれた事など無いのだ』……」


俺は今、一つの結論に辿り着こうとしていた


(;'A`)「艤装を装着した人間の死に方、顔に負った大火傷、艦娘にしか認識できない妖精、龍田……」


彼の異質。それは


(;'A`)「艦娘の艤装に適応した……?」


ブーンが追い求めていた、人間の戦争への介入
それを為せる人物が、この鎮守府にいた

彼を拉致し、実験を行い、成功
その貴重な試験者を、この場所で艦娘と共に幽閉した。逃がさない為に
合点がいく、いってしまう。だが、混乱は深まっていくばかりだ

成功したなら、どうしてその研究を続けなかったのか
どうして、提督の立場に置いたのか
そして何故、彼はデータを遺して死んだのか
わからない。だが答えはこの日記の中にあるはずだ


(;'A`)「こうしちゃ居られねえ……!!」


俺はすぐさま立ち上がり、二人と相談すべく鎮守府の方へ足を向けた

88 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:57:47 ID:62pQqJ3.0
その時、これまで聞いたことの無い、けたたましい音が鳴り響いた



(;'A゚)「」




風雲急を告げる、『警報』




(;'A゚)「まさか……」



それは、海軍が既に『安全だ』と判断した海で
深海棲艦が現れたことを意味していた―――――

89 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:58:34 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(;'A`)「状況は!?」


駆け込んだ作戦司令室には、既に二人が待機していた
ブーンはレーダーを見つめ、距離を割り出している
通信機に怒鳴り込んでいたオッサンは、俺の姿を見るとマイクを勢いよく差し出した


(#´・ω・`)「おう来たか!!本部のクソ野郎共、提督じゃねえと取り扱わねえっつーんだよ!!」

(;'A`)「よ、よし!!」


マイクを受け取り、『もしもし』と話しかける
スピーカーから、返事はすぐに返って来た


「やっと会話が通じそうな相手が出たか。それで?」


オッサン何言ったんだ?と気になりつつも、状況を伝えることにする


(;'A`)「先ほど、レーダーに反応がありました。深海棲艦が近海海域に侵入したものと思われます」


「そうか、では撃退したまえ」


(;'A`)「はっ……?」


困惑した。ウチに艦娘が配属されていないのは分かっているはずだ
それを分かっていて尚、そんな指示を出すのか?

90 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:59:10 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「い、いえ、ですが当鎮守府には艦娘は配属されていません」


「ああ、そうだったな」


まるで今気付いたかのような口ぶりだ。それでいてワザとらしい


「しかし、そちらの海域は既に奴らの支配から解放されているはずではないか。何かの間違いではないのかね?」


その可能性もある。しかし


(;'A`)「本部からの食料品等の補給は先日受けました。当鎮守府に寄る予定の船はありますか?」


「あー……今の所は予定されていない。別鎮守府の艦娘では無いかね?」


(;'A`)「だとしても、一度連絡を入れるのは筋でしょう!!」


「民間船の可能性も」


(;'A`)「バケモノがいる海を呑気に民間船が渡ると本気でお思いですか!?」


「小僧、口が過ぎるぞ」


頭に一気に血が昇る。俺の口調にいちゃもん付けてる場合じゃねえだろうが
思わず罵倒してしまいそうなのを抑え一度謝罪をし、冷静な口調に戻した

91 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:00:06 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「とにかく、確認の為にも艦娘部隊の派遣を要求します」


「却下だ。そもそも、間に合うとは思えない」


(;'A`)「ではどうしろと!?生身の人間である俺達三人で、戦えと仰るのですか!?」


「君も誇りある我が国の海軍軍人だろう?なら、平和の為の礎となりたまえ」


(#'A゚)「ッ……!!」


「当然、敵前逃亡は重罪だ。逃げ出した兵士がどのような処罰を受けるか、知らないわけではあるまい」


戦争において敵前逃亡は、処刑される可能性もある罪だ
現在俺達は、立ち向かっても絶望、逃げ出しても絶望の窮地に立たされている


(#'A゚)「……ってやるよ」


だったら


(#'A゚)「やってやるよクソボケが。俺達だけで、深海棲艦をぶち殺す」


少しでも前に進んでやろうじゃねえか

92 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:00:58 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「いいか良く聞けクソッタレのタマナシ野郎。事が済んだら、テメーの鼻っ面をぶん殴りに行く」


「貴様、上官に向って……!!」


(#'A゚)「黙れ、艦娘の股座舐めることしか頭に無いブタ野郎が。クンニもロクに出来ねえその口から二度と『平和』だなんて言葉が吐けねえようにしてやる」


オッサンが『ヒュウ』と口笛を吹いた。吹いとる場合か
スピーカーからは、歯軋りをする音が聞こえ、その後に


「健闘を祈る」


と、忌々しそうに吐き捨て、通信は切断された


(#'A゚)「クソがッ!!」


マイクを投げ捨て、怒りをぶつける
テメーで勝手に『平和』だと慢心し、艦娘も配置せず管理を俺達にぶん投げた張本人達が
その尻拭いをも俺達に押し付けたことに腹が立ったのだ


(;^ω^)「ど、どうすんだお……」


ブーンが不安そうな声で訊いてくる。俺が考えもなしに引き受けたと思っているのだろう


確かに、ここには艦娘はいない
しかし、戦える『装備』はあるのだ

93 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:01:45 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ブーン、使わせてくれ」

(;^ω^)そ「ッ!?」


ブーンが開発した『アンカーシステム』。アレで俺が戦う
だがブーンはハッキリと拒否した


(;^ω^)「ダメだお!!アレはテストもしていない、いや『出来ない』代物だお!!戦えるかどうか、そもそも装備できるかどうかさえ怪しいもんだお!!」

(#'A`)「じゃあどうしろってんだよ!!艦娘どころか、通常兵器すらないこの場所で、どう戦えっつーんだよ!!」


怒りに任せて、机を叩こうと拳を振り上げたその時
『パン』と手を叩く音が、俺を正気に戻した


(´・ω・`)「盛り上がってるとこ悪いがね、ちょっと冷静になれよお前ら」


ショボンのオッサンだった


(´・ω・`)「ブーン、深海棲艦の到着までの時間は?」

(;^ω^)「えっと……向ってくる速度だと多分、砲撃有効範囲まで一時間と少しだお」

(´・ω・`)「なら、考える時間はある。ドクオ、お前は指揮官だ。緊急時こそ冷静になれ」


頭に昇った血が、スッと冷めていく
そうだ。今は取り乱している場合じゃない。戦うと決めたんだ


(;'A`)「あ、ああ……悪い」


とにかく、今ある『全て』で、撃退するしかない
一か八かの賭けは、最後の最後まで残しておくべきだろう

94 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:02:29 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ふー……」


深呼吸して、気持ちを整える
考えろ。この状況を打破する戦略を
ここにある全てで、撃退する策を


(;'A`)「必要なのは火力……それを当てるための妨害、デコイ……」


火力の問題。これが一番大きい
『砲』が無ければ、弾丸は撃てない。一朝一夕で用意できる代物でもない

その問題がクリアできても、『当たらなければ』意味が無い。目的は威嚇ではなく撃破だ


(;'A`)「どうする……どうする?」


弾丸はあるのに、撃てない。なんとも歯がゆい気持ちになる
せめて、発破出来れば希望が……うん?


(;'A`)「発破……ブーン、お前工廠吹っ飛ばしたっつってたよな!?」

(;^ω^)「お、おう。え?その話今する?」

(;'A`)「それって、何が原因だった?」

(;^ω^)「何って……艦娘用の燃料に引火して爆発……」

(;'A`)「それだーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


弾丸だけに拘る必要は無かった。『爆発』でも奴らを倒せる筈だ

95 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:03:53 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「船に艦娘用燃料を積んで深海棲艦に突っ込み、海に飛び降りてって……」

(;'A`)そ「先ず船がねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


ダメだ光明が見えた瞬間かき消された。なんなの?イジメ?


(´・ω・`)「船ならあんぞ?」

('A`)「えっ?」

( ^ω^)「えっ?」

(´・ω・`)「えっ?」


と思ったら、オッサンから救いの手が差し伸べられた


(;'A`)「えっ?嘘?聞いて無いよ?」

(´・ω・`)「いや、改築の最終日にガレージに突っ込まれてたのを見つけたんだが、ほら俺その日ベロンベロンになって言うの忘れちゃって」

(´・ω・`)「そのまま今まで忘れてた……ごめんね?」

(;^ω^)「むしろグッジョブだおオッサン!!」

(;'A`)「ちなみに、どんな船だ?」

(´・ω・`)「小型のクルーザー一隻と、水上バイク一隻だ。動くかどうかわかんねーぞ」

(;'A`)「クルーザー……積載量ギリギリまで燃料弾薬を積んで……」

(;'A`)「そうだ!!もう一つ……」


水上バイクまであったのは僥倖だ。使わない手は無い
囮がいるだけで成功率がぐっと上がる

96 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:04:40 ID:62pQqJ3.0
鎮守府周辺海域の海図を引っ張り出し、机の上に広げる


(;'A`)「……よし、ここだ!!」


浅瀬のポイントを指で叩く
ここまで深海棲艦を誘い出し、座礁させ
動きが鈍った所に、燃料を積んだクルーザーで突っ込み爆発させる


(;'A`)「ブーン!!今すぐ船のチェックだ!!オッサン、ありったけの燃料弾薬を運び出すぞ!!」


( ^ω^)「了解!!」

(´・ω・`)「合点だ!!」


二人は毅然とした態度で立ち上がる
どちらも、気合と根性を漲らせていた


(#'A`)「やるぞォ!!」


俺も例外じゃない。生き残る為に戦ってやる
そして絶対、上官の鼻を潰して前歯全部折ってケツに93式酸素魚雷をぶt(ry

97 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:05:29 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



( ^ω^)「エンジンは着く、スクリューは回る。両方ともまだまだ走れるお」

(´・ω・`)「その内の一つは今日吹っ飛ぶんだけどな」

('A`)「寂しいこと言うなよ」


間も無く、深海棲艦の有効射程範囲に入る
なんとか時間内に間に合った。いやほんともう人生で一番俊敏に動いた。こうシュッ!!シュッ!!って感じで


('A`)「もう一度、作戦の確認をするぞ」


囮役である俺が、深海棲艦を浅瀬のポイントまで誘い込む
座礁し動きが鈍った所に、ショボンのオッサンが燃料弾薬を満載したボートで突っ込み、途中で離脱
見張り台にいるブーンが、タイミングを見計らい遠隔操作で起爆させる

ガバガバの作戦だし、運に任せる要素も多々あるが
これが今、俺達と鎮守府にある物資で出来る限界だ


('A`)「……」


一つ、憂いがあるとすれば


('A`)「言い出すタイミングが無かったから今言っちゃうけど、無理して俺の無謀に付き合う必要は……」

(´・ω・`)「いや本当に今言う事かよ。準備全部終わっちまってんぜ?」

(;'A`)「そう……だけどォ!!」


非戦闘員二人を巻き込んでしまうことだ

98名無しさん:2016/04/03(日) 18:05:32 ID:dV76bn4E0
ドクオ頑張れ

99 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:07:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アホなこと言ってないで、サッサと始めるお」

(´・ω・`)「そうだな、ドクオのアホに付き合ってる暇は無い」


さも当然かの如く、行動を再開する
それを見て、俺の憂いは消え去った

別に言葉を交わさなくても、二人は俺と戦ってくれる
海軍の上官ですら見放した戦場で、俺と共に絶望に立ち向かってくれる


('A`)「……」


胸の奥が、熱くなった
俺達なら、世界を敵に回しても戦える。そんな気持ちになった


('A`)「アホは……お前らだ!!このアホ!!」

( ^ω^)「お前が一番アホだお!!」

(´・ω・`)「いやお前ら二人が最高にアホ!!」


アホアホ言いながら、水上バイクに乗り込む
ショボンのオッサンも、クルーザーのエンジンを点火させた


('A`)「サッサと済ませて打ち上げだ!!」

(´・ω・`)「おうよ!!腕によりを掛けて料理こしらえてやるぜ!!」

( ^ω^)「お夕飯までには帰ってくるのよ!!」


それぞれのエンジン音を轟かせ、配置へと向う。艦娘のいない海上戦

『艦娘いないけど俺達の気合と根性、男気で深海のビッチをファックしてやろうぜオーベイベー真夏の日差しサマータイム』

作戦が開始された。因みに、考えたのはショボンのオッサンだ

100 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:09:15 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「おっとと……」


水しぶきを弾きながら、水上バイクは軽快に海の上を走る
俺くらいのスポーツ万能マンになると、別に免許を持って無くても運転できるのだ。実際スゴイ
時折、波に煽られバランスを崩しそうになるのはご愛嬌だ。シコっても、いいのよ……?


(;'A`)「ッ!!」


咄嗟にアクセルを戻し、減速、停止する

見えた、見えてしまった
残っていた、民間船や艦娘の可能性は、たった今消えた

深海棲艦の、どす黒い姿が俺の視界に入ったのだ



     _ ィ: '':  ̄: : 二ニ= . _
   /: : /:; : : >――ニ=─- ミヽ,、
  /: : : /:.:.:./:;:;:; _-ニニニ _: : : ` l: :> ._
 〈:.:.ィ// ,/≦ >ミ: : : : : : : : ― l:;:;:;: : : : : > _
 .ヽ\:.i  /: : : : : i\ッ'): : : : : : : : : /: : : : : : :.:.:.:.:.:.: >. _
   \\三≧ーzzzzzz≦三三三>x、: : : : : : : :.:.:.:.:.:.:.:.: ≧., _
     ヽニニ彡"二二\三三ニ三三三>--‐'''⌒ゝ- _: : : : :;:.:.:.:.`ヽ
        | ヘ | l ヽ\>、 `   ー、   〈   _ ヽ:.\: : : :.:.:`ー- , ,_
        l_ゝィzzト,,、メ-彡/‐ヽー‐ミY´    \   \l:_:_:;ミ、\:\:.: : : : : : : |
          ̄   ̄ r-ミ‐lヽ_l: : : lー 二ァ_,_,_,,,,≧、  `i__ `iハ`i: : : \:、:,:-''
               〈 ` トー': : /  \ー‐ " ̄ヽヘ  l:.:.:.:.:.l ̄ヽ___ \
                 ̄ヽニゝ/\   ヽ‐ 、   ̄∨うーテ      ̄`ーニ=
                       `ヽ _  \    ヽ/
                            ` ー'

101 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:10:30 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「フッ、フー……」


鼓動が高鳴る。呼吸も荒くなる
ここは遮蔽物もない海の上だ。砲弾を打たれたらひとたまりも無い
これが戦場のプレッシャー、これがあいつらの放つ恐ろしさ

身体が、震えた


:(;'A`):「ハァー、ハァー……」


落ち着け、落ち着け
勝算はある、あるんだ。テメーがしっかりしないでどうする


:(;'A`):「し、深海棲艦は、知能のある生き物で……イルカなどの哺乳類のように……獲物を玩ぶ習性が確認された……」


自分自身に言い聞かせるように、訓練生時代の座学で学んだ知識を呟く
明らかな脅威では無い限り、奴らは俺達を『舐めてかかる』。すぐには殺さず、右往左往する姿を楽しむ
人間が、アリの巣で遊ぶようなもんだ。そこには大きな『油断と隙』が生じる

102 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:11:08 ID:62pQqJ3.0
:(;'A`):「大丈夫、倒せる、大丈夫……」


奴の姿はドンドン近づく。にも関わらず、俺は動けずにいた
これが、『蛇に睨まれた蛙』って奴か。なるほど、昔の人は上手い事言う


:(; A ):「クソッ……恐ぇ、恐ぇ!!」


後悔がこみ上げる。こんなことなら、提督にならなきゃ良かったと
こんなことなら、下手なやる気なんて出さず、逃げ出せばよかったと


だけど……


:(;'A`):「だけど……!!」


俺一人の問題じゃない。後ろには、俺を信じて待つ二人の友がいる
腹の内を明かし、信頼してくれた親友で、家族だ。裏切るわけにはいかない

それに、やっぱり悔しいじゃねえか

上官に舐められて、よくわからん別世界の為に戦争させられて、意味も無く死ぬってのは
だから、ここで臆病風に吹かれて逃げ出すわけにはいかない。そんなの、『男』じゃねえ


(#'A`)「おおおおおおおおおお……」


奮い立たせろ、勇気を。搾り出せ、叫びを。そして立ててやれ
クソッタレな『世界』に向けて、中指を

103 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:11:42 ID:62pQqJ3.0




(#'A゚)「かかって、来いやぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」




♪Zebrahead - Broadcast to the world
https://www.youtube.com/watch?v=4HFoeUgULGo

104 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:13:10 ID:62pQqJ3.0
アクセルを吹かし、反転する
背後から、深海棲艦のきったねえ鳴き声が聞こえた。奴も俺に気付いたか


(#'A`)「あああああああああああああああああああ!!!!!!!」


出来る限りジグザグに動きながら、奴を誘う
命中しても失敗、外れた砲弾が立てる水柱でひっくり返っても失敗
ここからは、俺の運転技術と多大なる運に掛かっている


(#'A`)「テメッコラーーーーーーーーー!!!!!!ザッケンナオラーーーーーーーー!!!!!!」


喚きながら後ろを確認。着いてきている
まるで大きな鉄の鯨だ。奴の艦種は『駆逐艦イ級』
最も脆弱な深海棲艦と言われてはいるものの、それは艦娘が相手をする場合に限る
アレ一隻で、護衛艦数隻に匹敵する力があるのだ。人間にとっては厄介な存在に変わりない
その姿を映像や写真で目にしたことはあるが、やはり本物の迫力は違う


(#'A`)「ッ!!」


マズい、口を開けた。喉の奥に潜んだ砲塔からの、砲撃が来る
ハンドルを右に傾け、回避行動を取る


(#'A`)「っつああああああああああああああ!!!!!」


腹にまで響く砲撃音、その後間も無く、大きく左にそれた場所に着弾
爆発が海面を吹き飛ばし、白い水柱が立った


(;'A`)「クッソ……!!」


波に煽られ、バイクがひっくり返りそうになる
野郎、間違いなく遊んでやがる


(#'A`)「ボケオラァ!!」


体勢を気合と根性で立て直す。口が汚いのはご愛嬌だ。存分にシコれ
後ろからゲラゲラと笑うような鳴き声がする。笑ってられるのも今のうちだ

105名無しさん:2016/04/03(日) 18:13:23 ID:n8JINXzI0
かっけえ

106 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:15:09 ID:62pQqJ3.0
この作戦のキモは、出来る限り『近づかなければならない』所にある
引きつけて、俺と言う『おもちゃ』に夢中にさせるのだ
近づけば近づくだけ、砲弾の命中、横転の可能性が高くなる


(#'A`)「頼むぜ神様〜〜〜〜〜……」


深海棲艦及び艦娘は、砲撃後に次弾装填に時間が掛かる
ポイント到達まで、後二・三回は撃ってくるだろう
命中精度は、良くは無いと思う。思いたい
加えて、俺という『的』は小さい上にすばしっこい。昔の人は言っていた


(#'A`)「『当たらなければ、どうと言うことは無い』ってなぁ!!」


二度目の砲撃音、今度は俺の頭上を通り越し、前方へ着水


(#'A`)そ「うおッ!!」


視界を多い尽くす水しぶきと、せり上がる波が俺を襲う
頭から派手に海水を被る。水上バイクが持ち上げれられ、宙に浮いた


(;'A゚)「おっ……」


高さも、浮いている時間も大したことは無かったと思う
それでも、突然の軌道に俺の頭は一瞬真っ白になった


(;'A゚)「おおおおおおおおおおお!?」


そして、着水。グラリと傾く水上バイクから、投げ出されないように踏ん張る

107 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:16:14 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ッし、よォし!!」


二発目も乗り越えた。思わず雄叫びが上がる
座礁ポイントまで、あと僅かだ。一発、残り一発さえ耐えられれば、こいつにぶちかませる

今度は、イラつくような金きり声が聞こえた
俺が横転しなかったのを怒っているのだろうか?いいぞ、もっと怒れ


(#'A`)「どうしたノーコン野郎!!俺はまだ生きてんぜェ!!」


聞こえているかどうか、俺の言葉を理解出来るのかどうかもわからないが、挑発をする
流れはこちらにある。大丈夫、きっと上手くいく


(#'A`)「ッ!!」


横目で、オッサンが乗り込んでいる船を確認した
出来るだけエンジン音を抑えながら、ゆっくりと助走を始めている


(#'A`)「オラァ!!こっちだ!!こっち来いよ!!」


ここで標的を変えられるわけにはいかない。奴の執着を、俺に向け続けなければならない
より一層喚き散らし、注意を向けることに尽力する


(#'A`)「来る……ッ!!」


奴が口を開けた。三発目が間も無く発射される
俺は思いきって、アクセルを緩め減速した

砲撃音が、より近くから轟く
『ごう』と風が唸り、バイクと俺の身体を煽る

108 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:17:24 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「ッ……!!」


呼吸が詰まる。心臓まで止まるかと思った
だが、俺の行動は功を奏し、三発目の砲弾はさっきよりも前方へと飛んでいき、着水した


(;'A゚)「ッッッ……ハァッ!!」


息を無理やり吐き出して、再びアクセルを回す
もう少し、もう少しだ。止まるな、進め


(#'A゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


ポイント上を通り過ぎる。ボディが軽い水上バイクなら、浅瀬の通行も問題なかった
だが、巨体である奴らは違う。『ガリリ』と硬い物が擦れ合う音が聞こえた


(#'A゚)「今だあああああああああああああああ!!!!!オッサアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!」


狙い通り、イ級は『座礁』した。作戦の第一段階がクリアされた
次、第二段階。『爆弾』を積んだ船の吶喊

助走をしていた船は、猛烈にエンジンを鳴り響かせスピードを上げる
バイクを旋回させ、その成り行きを見守ることにした。海に飛び込む予定のオッサンも拾わなきゃいけないしな


(;'A`)「なっ……!!」


しかし、予定外の出来事が起こる
座礁したイ級は、突っ込んでくる船の存在に気付き、方向転換を始めたのだ

下顎と、鉄の身体を浅瀬の上で跳ねさせる、なんとも稚拙な方法だったが
着実に、確実に、砲塔の向きはオッサンの方向へと動いていた

109 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:18:36 ID:62pQqJ3.0
(;'A゚)「……さっ……」


ここで船を撃ち落とされたら、作戦は失敗に終わる
それだけじゃない。オッサンの命も失われてしまう
避けなければ、助けなければ――――


(#'A゚)「っっっせるかってんだよォォォオオオオオオ!!!!!!」


アクセルをフルスロットルさせ、猛スピードでイ級に突進を仕掛ける
ダメージを与える必要は無い。ただ、注意を引ければそれでいい

その大きく、黒い身体が近づく。目は人工的な蛍光色の青に染まっている
醜い姿は、いやがおうにも『人類の敵』という認識をさせた

こんな連中に、俺の家族を殺されて-―――――


(#'A゚)「た ま る か ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! ! !」


淡く光るその瞳が、俺の存在に気付く。しかし、もう遅い


(#'A゚)「オアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


アクセルを吹かせたまま、海へと飛び落ちる
無人の水上バイクは、海上を疾走し、イ級の鼻っ面に衝突した

110 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:19:25 ID:62pQqJ3.0
イ級は、よろめきもしなかった
そりゃそうだ。護衛艦の砲撃にも耐える装甲持ってんだ。水上バイクなんて鼻くそ飛ばされたようなモンだろう
だが、『注意』は向けた。まんまと引っかかりやがった


船はもう間近に迫る。オッサンが海へ飛び込み、深く潜った


この一撃は

俺達と、テメーらに殺された人達からの


(#'A`)「悪魔のギフトだ!!受け取りやがれぇぇぇえええええええええ!!!!!!」


船が突っ込むのを確認した俺も、爆風を避けるために海中に潜る
後は、ブーンの仕事だ。一発ぶちかましてやれ


(;'A`)「ッ!!」


音を遮る水の中でも響く爆発音。熱と光
鉄の破片や、爆風によって吹っ飛んだ弾丸が、水を切りながら俺の傍を横切った

俺はその場所から少しでも離れるべく、水を掻いた
『ゴボゴボ』という空気を巻き込む音や、爆破音の名残に混じって
イ級の断末魔が聞こえた気がした。しかし、実際に目の当たりにするまで安心は出来ない

111 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:21:11 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ブホハァッ!!」


海面へ浮上し、振り返ってポイントを確認する
黒煙が立ち昇っていた。燃料を満載していた船は炎々と燃えている
近くにあった水上バイクもまた然りだ
そして、肝心の『イ級』だが―――


(;'A`)「……」


どうやら、思っていた以上の破壊力があったらしく
艦首と艦尾が真っ二つに分かれ、沈み始めていた

最後に、息を引き取るかのように弱々しい声で鳴いた深海棲艦
僅かに残っていた青白い目の光が消え、絶命を伝えた


(;'A`)「か……勝っ……!!」


俺は我に返り、辺りを見回す
オッサンの姿が見えない。まさか……


(;'A`)「オッ……オッサン!!ショボンのオッサン!!」

(´・ω・`)「何?」ザババァ

(;'A゚)そ「うおおおおおおおああああああ!!!!びっくりしたあああああああ!!!!」


急に背後から浮かび上がってきやがった。性質悪いよこのオッサン

112 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:22:16 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「やったな、提督」


グイと肩を組まれる。お前らみたいな貧弱ボーイなら立ち泳ぎ中にこんなことされたら溺れ死ぬのがオチだろうが
生憎俺はスポーツ万能マンだった為、特に問題なかった。丈夫な体に産んでくれた親に感謝マジリスペクト


('A`)「ああ……ああ!!」


ようやく、勝利の実感が湧いてきた
勝ったのだ。艦娘がいない状況下で、人間だけの手で、深海棲艦を倒した


(*'A`)「よっっっ……しゃああああああああああああ!!!!!」

(´゚ω゚`)「フォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


俺達は拳を振り上げ、勝ち鬨を上げた
陸まで泳いで帰らなければいけないが、今はそんな事より、勝利の余韻を味わおう
俺達は全員生き残り、敵を倒した。これ以上無いハッピーエンド。めでたしめでたしだ
これがモンスター・パニック映画なら、この後にENDの文字が浮かび、エンドロールが流れるだろう






しかし、現実は




俺達の大団円を、許しはしなかった

113 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:23:13 ID:62pQqJ3.0
鎮守府から、再び大きな音が鳴り響く



(;'A゚)「ばっ……?」

(;´・ω・`)「嘘……だろ……」



二度目の、深海棲艦侵入を知らせる、『アラート』だった

114 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:24:12 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



鎮守府まで泳ぎきった俺達は、疲労を訴える身体など構わず、真っ直ぐ指令室へと戻った
ぶっ倒れそうだが、休んでる場合じゃない。確かめなければいけない


(;'A`)「ハァッ、ブーン!!!!」


びしょ濡れのまま部屋に飛び込む。ブーンは、レーダーの前でジッと座っていた


(;'A`)「ブーン、今度は一体……!!」


レーダーには、横一列に並んだ『三つの点』が光っていた


(; ω )「……」


ブーンの顔は青ざめ、冷や汗を流している
『一難さってまた一難』、なんてもんじゃねえ。その三倍の戦力が、押し寄せているのだ
しかも、駆逐イ級を倒すのに船を二隻、大量の燃料弾薬を費やした。残っているのは……


(;´・ω・`)「クソッ!!さっきのはただの斥候だったってのかよ!!」


忌々しげに机を叩く。その乱暴を咎める者は居なかった
俺だって、神に向って『何故このような仕打ちを!!』と嘆きたい気分だった
だけど、その行為に意味は無い。縋りついたって、神は人間を助けてなどくれない

結局は、自分自身で解決しなければならないのだから

115 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:25:06 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


ブーンの肩に手を置くと、ビクリと跳ねた
次に吐く俺の言葉を、聞きたくないのだろう。でも、言わなければいけない


('A`)「ブーン」

(; ω )「ダ……ダメだお……さっきも言ったとおり、テストも済んでいない、代物だお」


『ブーン』。俺は宥めるようにもう一度、名前を呼ぶ


(; ω )「ダメなんだお!!!!僕の、僕のエゴで造った『おもちゃ』で、お前を殺すわけにはいかないんだお!!」


艦娘の艤装を、人間が使うことによる『リスク』。艦の記憶に焼かれて死ぬ『艤装の試練』
『アンカーシステム』は、艤装とのリンク方法を変えているとは言え、リスクが減ったワケではない
なんせ、人体テストを行っていない。どう転ぶか分からない


('A`)「死なねえよ」


だが、今はこの方法しか残っていない
船を失い、燃料も弾薬も心許ない、今の状況下で
使えるかどうか定かではない『鎧』だけが、頼りだった


('A`)「お前が……人間の誇りの為に造った鎧だろ?深海棲艦の脅威を、人間の力で退ける為の装備だろ?」

('A`)「だったら……艤装も、俺達に、お前に応えてくれる筈だ。理不尽に抗う力を、与えてくれるはずだ」

116 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:26:05 ID:62pQqJ3.0
ブーンの両肩を掴み、顔を向かい合わせる。ブーンは咄嗟に視線を落とした
今にも泣き出しそうな顔をしていた。だけど、ここで言葉を止めるわけにはいかない


('A`)「お前、こう言ったよな。『艦娘は人の命を救う存在、犠牲を無くす奇跡』だと」

('A`)「だったら……俺達と艦娘の利害は一致している。そこに拒否を突きつける理由は無い。だろう!!」

(;'A`)「頼むよ、ブーン……!!アンカーシステムは、俺達の家に残された、最後の希望だ!!」

(;'A`)「艦娘を率いることも出来ず、戦争の現実も知らなかった俺に……」


(;'A`)「『戦わせてくれ』……っ!!」


(; ω )「……」

(´-ω-`)「……」


(´・ω・`)「男が、覚悟決めたんだ。叶えてやれよ、ブーン」


(; ω )「……」


ブーンが、顔を上げた
目が据わり、瞳の中に覚悟が見えた


( ^ω^)「わかったお。ただし、一つ約束しろお」

('A`)「あっ、ああ!!なんだ!!」

117 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:26:43 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「これが終わったら、豪勢な夕飯を奢れお」

(;'A`)「っ……」


俺は一瞬面くらい、そして


(*'∀`)「アハハハハ!!ハハッ!!ああ、イギーにもな!!」


腹を抱えて笑った


(´・ω・`)「犬ポジかよ俺」


三人の決意は固まった。時間は刻一刻と迫っている
急ぎ、工廠へ向った。目当ては、男性用艤装『アンカーシステム』
俺の人生最大の、大博打を打つ為に―――――

118 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:27:44 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



まぁー、なんだ。緊迫した場面ではあるんだが


(*'A`)「めっちゃカッコ良いなこれ……」


電の艤装を改造して造られた『アンカーシステム』を装着した俺は、異様な高揚感に満たされていた
いやだってお前!!こんなん男の子のロマンの塊だよ!?テンション上がんない方が可笑しいって!!


(;´・ω・`)「さっきまでの必死なお前どこいったんだよ……」

('A`)「え?何の話?ブーンは快諾してくれたじゃない」

( ^ω^)「やっぱやめるお」

(;'A`)「ウソウソゴメン外さないで恥ずかったんですごめんなさい」


アンカーシステムは、ピッチピチのアンダーウェアを着て、その体型に合わせ鎧のサイズが変化する
黒インナーは武器だ。俺のガッチガチの筋肉がセクシーに浮き出てるし、股間もモッコリちゃんだ


( ^ω^)「窮屈じゃないかお?」

('A`)「いいや、万全だ。ちょいと重いがな」


試しに正拳突きをし、そこから流れるように上段蹴りを放ってみる
関節も問題なく動く。良い腕してるぜブーン


(;^ω^)「ええ〜……今の状態でそんなアクティブに動けるような重さじゃないんだけど……」

(;´・ω・`)「何お前……キモ……」

('A`)「えっ嘘?ここで引く普通?」


こんないつものやり取りが、心の重圧を軽くさせた
これが最後になるかもだなんて、思いたくは無い

119 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:30:24 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「艦娘にも言えることだけど、艤装とのリンクが始まったら、装備は『身体の一部』として機能するお」

( ^ω^)「その重さも、自分の体重のように感じられるはずだお」


つまりは、『何かを持ち上げる重さ』ではなく、『自分自身に掛かる重力』となるワケか
自分でも何言ってるのかわかんねーから、その辺は察してくれ頼む


( ^ω^)「じゃあ……最後にこれを」


ブーンの手から、ヘッドギアが装着された


|::━◎┥「暗い」

( ^ω^)「ちょっと待ておせっかちだなお前ホモかよ」

|::━◎┥「そこまで言われる謂れはねえんだけど」


実際真っ暗だから何しているかわかんねーが、ブーンの私物であるノートパソコンのキーボードを叩く音は聞こえた
最後に、エンターキーを押したであろう音が聞こえると、ギア内のスクリーンに目の前の光景が映し出される
左上には緑色のバーと、その横に『耐久値』と記されている。言わば艤装の『HP』か
右下には現在の装備、『12.7センチ連装砲』と、残弾数。そして、燃料ケージ
後、南京錠のマークが付いている。何これ


『アンカーシステム 起動』


そして、中央に電子文字が浮かび、うっすらと消えていった


|::━◎┥「おお〜……」

120 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:31:35 ID:62pQqJ3.0
感心していると、耳元で機械音声のアナウンスが流れる


『使用者情報を登録します』


|::━◎┥「アッハイ、どうぞ」

(´・ω・`)「お前今何聞こえてんの?」


いや関係ないんだから茶々入れんなオッサン


『網膜、皮膚組織、細胞、血液、DNA……』


俺の個人情報が赤裸々に明かされ登録されていく
細胞レベルで俺が解き明かされてる……やだ、恥ずかしい……


『音声認識を行います。発声してください』


|::━◎┥「えっ、何?」


『完了しました』


コントかよ


『艤装とのリンクを開始します。キーを挿入してください』


|::━◎┥「キー……『鍵』か」

( ^ω^)「ドクオ、これ……」


ブーンから、『錨』のエンブレムが手渡される
これをベルト部分にある『凹み』に入れたら、いよいよ


|::━◎┥「『艤装の試練』が、始まるのか」

121 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:32:37 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アンカーシステムは、他者の使用を制限する為に二つの『ロック』が掛かってるお」

( ^ω^)「一つは『音声ロック』。もう一つは、エンブレムをはめ込む物理的なロックだお」

( ^ω^)「その錨に、『抜錨』と話しかけて装着すれば、リンクが始まるお」


なんだなんだ、かっこいいなオイ。仮面ライダーみてーじゃねーか
いやまぁ、俺はもうアーマー着ちゃってるから、言わば『変身済み』なんだけど


|::━◎┥「よし、そんじゃあ……」

( ^ω^)「待つお」


『抜錨』と言い掛けた俺を、ブーンが呼び止める


( ^ω^)「これは……本当に機能するかどうかわからないお。もしかしたら、ドクオの『棺』にもなりかねないお」

(;´・ω・`)「おいブーン……」


嗜めようとしたオッサンを、俺は手で制した


( ^ω^)「だから……これが引き返す最後のチャンスだお。もし、考えが変わったなら……」

|::━◎┥「変わらねえよ」


ブーンの提案を、キッパリと断った
元より、引き返すつもりなんてねえ。当然、死ぬ気なんて持っての他だ

122 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:33:34 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「ここで引いちまったら、俺は死ぬまで一生後悔する。最初に言っただろ?」

|::━◎┥「俺は、立ち直りの早さと前向きさだけが取り柄だってよ」


後悔のまま生き長らえるくらいなら、精一杯抵抗した末に早死にする方がマシだ


|::━◎┥「俺が死んでしまっても、気にする必要はねえ。馬鹿な男が一人いなくなるだけだ」

|::━◎┥「その失敗を糧にして、もっと性能を上げた『アンカーシステム』を……」


俺の言葉は、胸元に走る衝撃によって遮られた


(# ω )「気にする必要は、無い……?」


ブーンが、俺の胸板をぶん殴ったのだ


(#^ω^)「ふざけんなお!!お前は、僕にとってお前は……初めての理解者だったんだお!!」

(#^ω^)「それを失うことが、どれだけ大きな損失かわかってんのかお!!」


|::━◎┥「……」


そうだ……俺が逆の立場だとしても、きっと怒っただろう
『気にしない』なんて、出来るはずねえだろ

123 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:35:03 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「悪、かった……そんなつもりじゃ、無かった……」


(#^ω^)「……」


ブーンは拳を引くと、今度は俺の目の前に差し出した


(#^ω^)「わかったら、絶対に生きろお。死んだら、あの世までぶん殴りにいってやる」


それは勘弁願いてえな


|::━◎┥「ああ……」


俺は顔をショボンのオッサンへと向ける
言いたいことがあるなら、今の内に話して欲しかったが


(´・ω・`)「どうした?早くやれよ」


オッサンは肩を竦めて、こう言っただけだった
投げやりというよりは、『成功して当然』といった態度に見える。オッサンらしいや


|::━◎┥「よっし!!」


エンブレムを口元に近づける


|::━◎┥「『抜錨』」


錨が中央から薄く割れ、割れ目からは赤い光が漏れる
深海棲艦の冷たい目の色とは違う、熱い色だ

124 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:36:10 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「……」


|::━◎┥「フンッ!!」


気合と共に、錨をベルトへと叩き込む
瞬間、俺の視界は暗転した


|::━◎┥「ぐおっ……!!」


意識はある。だが脳内へと強引に『情報』がねじ込まれていく

モノクロの映像に浮かぶ、一隻の艦
これが、『別世界の電』か


|::━◎┥「ああああああああああああああ!!!!!」


自分が、書き換えられていく感覚
『電』の記憶が、次から次へと俺の中へと送り込まれていく

第六駆逐隊の姉妹艦達、演習で沈めてしまった『深雪』への後悔と自責
スラバヤ沖海戦で救った、多くの命。沈んだ仲間が乗せていた乗員の救助
第三次ソロモン海戦で沈んだ、一番艦『暁』。『比叡』『夕立』
サイパン島に向う道すがら、沈没した『雷』

そして、記憶は『電』の最後へと移っていく


|::━◎┥「おあああああああああああああああああ!!!!!!


身体に響く魚雷の衝撃。上半身と下半身が真っ二つにヘシ曲がるような激痛
そして全身へ広がる、燃えるような『熱さ』

俺は今、『轟沈』を体感している

125 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:36:43 ID:62pQqJ3.0
「ドクオ!!」

「やべえぞブーン!!止めろ!!」


|::━◎┥「止めるんじゃねええええええええええええええ!!!!!!」


待ってくれ、もう少し、もう少しなんだ
俺が電の記憶を引き継ぎ、受け入れなければ、戦いのスタートラインにすら立てない


|::━◎┥「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


艦上で死んで行く乗組員一人一人の『痛み』が、『恐怖』が
俺の中へと刻み込まれていく


|::━◎┥「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


わかっている。俺は、死んでいった『彼ら』の想いも背負わなければいけない
それは別世界の人間だけの問題じゃない。今、俺達の世界で苦しんでいる人々の想いも


|::━◎┥「                        !!!!!!!!」



もう、自分の叫び声さえ聞こえない。喉の奥、腹の底から火を吹いちまいそうなほど『熱い』
電、頼む。お前の痛みは背負ってやる。だから、俺に力を貸せ


誇り高き駆逐艦であった、お前の力を!!

126 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:37:18 ID:62pQqJ3.0
































.

127 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:38:21 ID:62pQqJ3.0










「ようこそ、『艦隊これくしょん〜艦これ〜』の世界へ」









.

128 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:39:07 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「ッハァ!!」


(;^ω^)「ドクオ!!」

(;´・ω・`)「ドクオォ!!」


い、今のは、何だ?
『艦隊これくしょん』?『艦これ』?
それに、さっきの声は……


|::━◎┥「エ……エラーさん?」


あの、正体不明の女の子の声だった


(;^ω^)「ドクオ……ドクオ!!」


|::━◎┥「ハッ!!」


ブーンの声で我に返り、俺は自分の身体を確かめた
アンカーシステムは熱を帯びているものの、火傷の痛みは無い
意識はハッキリとしている。それに、身に乗っかっていた『艤装』の重さがスッと引いていた

と言うより、自分の『手足』のように感じる。この感覚

129 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:40:06 ID:62pQqJ3.0
『Weigh Anchor!!』


機械音声が、抜錨を告げる


『Go!! Destroyer Inaduma!!』


間違いない。これは……


(:^ω゚ )「せ……成功、したお……」

(;´・ω・`)「す、すげえ……」


|::━◎┥「……東郷ドクオ。改め、駆逐艦『電』」

|::━◎┥「同期……完了だ」


俺が意識を向けるだけで、動力エンジンが唸りを上げた
12.7センチ連装砲は、自在に砲塔の仰角を上下出来る
そして何より、人間を遥かに上回る『馬力』が、身体中に漲っていた


|::━◎┥「ブーン、オッサン……俺」


その時、工廠が大きく揺れた


(;^ω゚ )そ「うおお!?」

(;´・ω・`)「くっそ、そうこうしている内に近づかれちまったか!!」


深海棲艦の砲撃を受けているらしい
テーブルの上に置いてあった工具は床へ落ち、天井からは埃と、割れた蛍光灯が降り注ぐ

130 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:41:09 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「二人は鎮守府内に批難しろ!!作戦指令室ならまだ割と頑丈だ!!そこに立てこもれ!!」

(;´・ω・`)「お前は!?」

|::━◎┥「決まってんだろ……!!」


戦力は、ここに成し得た
なら後は、戦うのみだ


|::━◎┥「サクッと……ぶっ殺してくらぁ!!!!!!」


短槍を手に取り、海に向って駆け出す
体が軽い……こんな気持ちで戦うの初めて!!もう何も恐くない!!


( ^ω^)「ドクオ!!」

(´・ω・`)「ドクオ!!」


二人同時に名前を呼ばれ、足が止まった
今は一秒でも惜しいってのに、こいつらは


|::━◎┥「何だよ早く批難しろ!!」


( ^ω^)「ぜってー帰って来いお!!」

(´・ω・`)「三人で打ち上げだ!!」


( ^ω^)(´・ω・`)「「提督!!」」

131 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:41:54 ID:62pQqJ3.0
『提督』。そう呼ばれて、そして今の状況を鑑みて、思わず笑った
提督は指揮官だ、前線で戦う立場じゃない。それが今じゃどうだ?変身ヒーローめいて、深海棲艦との戦いに赴く


|::━◎┥「ブーン!!お前、俺に尋ねたよな!!『どんな提督になるのか』ってよ!!」


( ^ω^)「えっ……あっ、うん!!」


あっこれ忘れてたパターンだわ。まぁいいや続けよ


|::━◎┥「これが俺の提督像だ!!悪かねえだろ!!」


最前線で戦う指揮官が、一人くらいいたって良い
艦娘のいない鎮守府なら尚更だ。上官が自ら身体を張り、海を守る
大衆から見れば、荒唐無稽だと笑われるだろう。でも


( ^ω^)「おっお!!かっこいいお!!」

(´・ω・`)「馬鹿丸出しだが、嫌いじゃあねーぜ!!」


一握りでも、それを認めてくれる人がいるなら、自分の道は間違っていないと思える


|::━◎┥「行ってくる!!」


鋼鉄の足音を響かせながら、戦いの海へと出撃する
背中に、二人分の『鋭、鋭、応!!』という、士気を鼓舞する雄叫びを受けながら

132 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:43:45 ID:62pQqJ3.0
工廠の外へ飛び出し、脇目も振らず海へと走る
そういや出撃用レールとかあったけど、もう知らんこのまま突っ込む

日は落ちかけ、夜の時間が始まろうとしている
真っ暗闇になったら、勝ち目は無くなるだろう。短期決戦で終わらせないと


|::━◎┥「あれか!!」


海上から砲撃をする深海棲艦。スクリーンに三つの赤丸がマークされる
艦影から種類を読み取り、名前が映し出された

左から、先ほど沈めた駆逐艦イ級二隻。それを率いる『旗艦』は


|::━◎┥「『軽巡ホ級』……!!」

133 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:44:19 ID:62pQqJ3.0
          r-、        /''、ヽ
          ヽー"ヽ       ∨77l
             \'" \   _∨/,| _ ;‐-;、
        _    \ニ\´  |≧/、l  il,|  i `ヽ
    ,.. _  (;ノ> _  l l、ニl /ミ、 二 ─l、l ' i : : ヘ
  _  〈/ニ> _`<ニ>l、 ≦三l、ヽ'ノヽニr=、ミl  ,i  : ヘ
/´ィミ> _`<ニ> `_<ニ>l  \ ニ .ヽl ヽl / ` ヽ, l
∨シ二二> _` <ニl-ヘ>゙l    i\,,ソ   l i   ` l
  ` <二二二> ー二ニ-" _ -―ニ_   | i    " l
      ` <二二 >∠二 /  ̄`ー=ミ` / `、  ' l
          ヽ,<二二>N   __  `l   l l    li
           〈/二>―‐ヽ、 ̄___ミl   l l    li
            l/    、   \=≠il    l   li
           / ,´   `ヽ    /_ l      l   li
             / /     ィ  //∠三ミil   '  i  li
        /ヽ       ,へヘ\7ァハil     ,:  il
       /   ) ,ィ⌒ v⌒l  |/l  ヽ/ ヘil    ,, '、  l    ,, -、、
     , イ    ´ヽ_ヽ_|_///l    ∨ 'il     /  〉_、 /l//,ヽヽ
    / ヽヽ>―、 l/ト、    |//,l     ∨li    /// ,, // ヽニ'/ノ
  /    ヽヽ\ ハl lハ  l///|ィ     l l   ///  l//    /
 〈  、  / ヽヽ\,l l/l   l //l ':,    l il   /l l  l   ,,ィ
  ヽ ` `ヽ、 xヽヾl l,l     l'//l, ヘ    l il il  l l  l 、-=  ̄,l _
   \    iヘ ヽヽ ∧ハ  ,メヘ/   ヽ   Y ,ハ  l l  l//>イ'//ヽヽ
  〈j>_\  il l ̄`l´ `ー〈    l   l   ,∨ミ、、,,l l  l/   :.ヽ/// ,'
    <二> lヽヽ.  l    l    l  /l    ハ//ミ/l l  l/≧ー―--'"
,r、- ,._  l ‐-ト、Xl  l     l   ハ/ l     ハ/ /ハl  ヽ>‐  ̄/
ヽ<二二ニ‐-ヽl\ヽソ\ _∧_ィ// ィ l     li / /≧、 _ <,ィ
     ̄‐==lヽ  `ー‐テ'__ ィ/// l     l,, ィ∧、≦>、_/
       ヽーlミ、 ̄`ヽ//////ヽ   /    ////∧l ヽ| `´
         lニ ヽ_ヽ/ `ー7   `'    /三<//ニ ‐/
          \≧三三三 メ   __ /一 ̄=ニ 7
            `ヽニ ̄  ` ´ニ´     _,,:; _/
               ̄`ー=ニニニニ====‐'''"

134名無しさん:2016/04/03(日) 18:44:49 ID:n8JINXzI0
ちょいちょいギャグ挟むのやめろwwwwwwwwwww

135 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:45:14 ID:62pQqJ3.0
鋼鉄のモアイ像のような形をした艤装に、真っ白な上半身を乗せた深海棲艦
耐久、火力共に、駆逐イ級を上回る。なるほど、『本隊』がやってきたってワケか

三倍、いやそれよりも大きな戦力差。しかもこっちは、テストも済んでいない処女艦

いや、『童貞艦』と来た。ハハッ、自分で言ってて泣きそう


|::━◎┥「初体験ってか」


4Pたぁ贅沢だ。クソ漏らしちまいそうなほどにな


|::━◎┥「行くぞオラアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


港湾を蹴って、海へと飛び出す。機関部を唸らせ、踵のスクリューを回した

136 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:46:38 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「オアアアアアアアアアアアこええええええええええええええ!!!!!」


ドボンと水しぶきを弾ませ着水。重みによって腰まで海に沈む
スクリューを更に回転させる。すると


|::━◎┥「進めえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


前進しながら身体が浮き上がり、海面に『立ち上がった』
水上スキーのように推進力によるものもあるが、人体では再現できない『艤装の浮力』も手伝っているように思える
普通の人間なら、この段階で横転してしまいそうなほど不安定ではあるが
俺並の運動スペックの持ち主なら難なく奔らせることが出来る
母さんありがとう丈夫な身体と運動神経をくれて


|::━◎┥「ッ!!」


前方から砲火が立て続けに吹く
奴らの狙いは俺では無く、後ろの鎮守府だった
背後で派手な倒壊音が聞こえ、首だけで振り返り確認する


|::━◎┥「野郎……!!」


毎日のように登っていた見張り台が、斜めに倒れていき
工廠の入り口は、今まさに崩れ落ちていく


|::━◎┥「野郎オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


鎮守府に被害は無かったが、それも時間の問題だ
奴らの標的を、『俺』に差し変えなければならない

137 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:47:42 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「オラァッ!!!!」


右手の『主砲』を向け、発砲する
響き渡る衝撃と、目が眩む閃光。腕が引きちぎれそうだ

砲弾は見当違いの場所に着弾。水柱を立てる
イ級の青白い目が、俺を捉えた。そうだ、それでいい


|::━◎┥「いい気になってんじゃあねえッ!!深海魚共がァッ!!」


左手に握る短槍を、奴らへと向ける


|::━◎┥「日本海軍所属ッ!!東郷ドクオ!!又の名を、駆逐艦『電』ァッ!!」


|::━◎┥「人間を代表してッ!!テメェらをぶっ沈めに馳せ参じたァッ!!!!!」


深海棲艦の威嚇の叫声が、大気を震わせた
腰が引き抜けそうな、ゾッとする鳴き声だ。重なり合って不協和音を奏でている
なんの、負けてたまるか。こちとら気迫だけは人一倍ある。さぁ――――

138 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:48:13 ID:62pQqJ3.0
叫べ



|::━◎┥「海のッ!!」




叫べ!!




|::━◎┥「底にィッ!!」




叫べッ!!




|::━◎┥「消えろォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

139 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:48:53 ID:62pQqJ3.0





♪Pacific Rim
https://www.youtube.com/watch?v=tMTr2rbqSBM




.

140 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:49:58 ID:62pQqJ3.0
此方は単騎、向こうは横一列の『単横陣』
右舷へと緩やかに航行しながら、砲撃を放ってきた


|::━◎┥「チィッ!!」


回避行動、『之字運動』を行いながら、出来る限り接近する
一発は右前方に、残り二発は後方へと通り過ぎる

連中の命中精度はそれほど高くない。航行しながらだと尚更だ
しかしそれは、たった今海に出たばかりの俺にも言える
立ち止まって撃ったとしても、知れているだろう
だから、『必中』の距離まで近づく必要がある。短期短距離で仕留めたい

そして、この『短槍』。艦娘を構成する資材の一つである『鋼材』で作られたこの武器なら、俺の力でも装甲を貫ける筈だ
艦隊決戦に白兵戦などちゃんちゃら可笑しいと、誰もが言うだろう
だが、意外にもこれは効果的な戦略なのだ。何故なら、奴らは接近戦を『想定していない』
そもそもが艦である奴らの基本攻撃は、『砲雷撃』。主砲と魚雷だ
つまり、その攻撃を『行い易い』姿形をしている。バケモノに近い形状の駆逐、軽巡級は尚更だ
これが重巡級、戦艦級、正規空母級になっていくと、より人の形に近づいていく

これに対し、艦娘はその全てが『人間』ベース
砲雷撃に加え、人類が戦争の歴史で培ってきた、肉体による『殺す技術』が使える
格闘、剣術など、様々な近接戦闘を行えるのだ
事実、軽巡洋艦の天龍型や、戦艦の伊勢型など一部の艦娘は、艤装に刀や槍が搭載されている


|::━◎┥「オオッ!!」


スピードを上げ、更に近づいていく。反対に、敵艦隊は遠ざかろうとする
航路を妨害する為に、進行方向に砲塔を向け、放つ

大型ライフル弾ほどの砲弾が、質量的にありえない威力で
ホ級の間近で水柱を立て、巨体を煽る。偶然近くに着弾したのだが、効果はあった
慌てた旗艦が急激な方向転換を行い、駆逐イ級がそれに着いていけてない。あいつら、練度はそれほど高くないようだ

141 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:51:41 ID:62pQqJ3.0
ヘッドギアのスクリーンに、『装填中』の文字が浮かぶ
12.7センチ連装砲が連続して発射できる砲弾は二発。再び撃つまでにリロードの時間が必要だ


|::━◎┥「じれってぇな!!」


陣形が崩れかけている今こそ畳み掛けるチャンスだが、そう容易くいかない
人間には人間の、艦娘には艦娘の戦い方がある。それを良く理解しなければならない

目標までの距離は、まだ大きく開いている
敵にも、まだ砲撃のチャンスは残っている

最後尾のイ級が、今度は俺の邪魔をするかのように発砲


|::━◎┥「っぶねッ!!」


立ち上がった海水をおっ被るほど、近くに着弾
直撃は免れたが、嫌な汗が吹き出る
航行は出来た、砲撃も出来た。しかし、耐久性までは自分で確かめることは出来ない
下手すると一発で死ぬ可能性もある。両肩の盾があるとはいえ、それがどこまで役に立つのだろうか


|::━◎┥「お返しだオラァッ!!」


『装填完了』を知らされるや否や、二発連続で発射する
狙いは旗艦、軽巡ホ級だ。指揮系統を執っている奴を先に潰すのは、戦闘の常套手段だ
今度は上手くいかなかったようで、二つとも遥か後方へと飛んでいってしまう

それを見たホ級は、喘ぐ様に吼える
すると、駆逐艦二隻が隊列を離れこちらへ向ってくる
自分が標的だと気付き、手下に始末を命令したか。それとも、二隻を囮にして自分だけ逃げるか
どちらにせよ、好都合だ。俺の目的は至近距離戦闘。近づいてくれるに越したことは無い


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