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SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部

671名無し募集中。。。:2017/06/07(水) 06:53:20
あれ?針といえばちゃんさん…

672名無し募集中。。。:2017/06/07(水) 09:23:27
針治療…なるほど反撃のチャンスはまだあるわけだね

673 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/07(水) 13:01:34
医学の力が凄いからか、それともチナミが単純だからか、
チナミは筋繊維の損傷した腕をブンブンと振り回せるくらいには回復していた。
どうやら針で刺すという行為には確かに治療効果が有るらしい。
千切れた繊維が元どおりに復元されると言ったようなことは勿論無いが、
疲労や気怠さを取り除く分には効果的なのかもしれない。

(そう言えば……!)

針を顔面に刺すことで美容効果が見られることについてはカリンも知識として知っていた。
幼少時代に訓練に明け暮れていた時や、KASTの汚れ役担当だった時はそのような行為を試すことはなかったが、
ジュースを捨ててからのカリンは、「これからは女子力も鍛えなきゃ!」と考えを改めたため、
専門書を片手に自らの顔に針を刺したことも何度かあったと言う。
愛用している武器の名の由来もきっとここから来ているのだろう。

(私も針を身体に刺せば、元気いっぱいに動けるのかな?……
 必殺技を使ったせいで傷んだこの身体を、また動かすことが出来ると言うの?……)

絶体絶命のピンチを打開するために、カリンはすぐにでも針治療を試みたいと思ったが、
今のカリンには知識も道具もなかった。
彼女が知るのは美容に関することだけ。訓練なしのぶっつけ本番で医療行為など出来るわけがない。
それに、針として代用し得る"釵"も先ほどチナミに折られてしまっている。
ゆえにカリンに出来ることは何も無かった。
なすすべも無く、元気百倍になったチナミの蹴りを腹で受け止めていく。

「それーーっ!!」
「うっ……」

いくらカリンが痛みを感じにくい体質でも、強烈な攻撃をまともに受ければ沈む。
折るつもりで叩きまくった脚で蹴り飛ばされてしまったのだから、
両者間の実力差は想像を大きく超えていたようだった。

「ふぅ、流石にこれでもう終わりかな?」

サユキ、アーリー、カリンを連続で倒したチナミはここらで一息つきたかった。
しかし、後輩の若き戦士は僅かな休息さえも与えてくれない。
少しでも休もうものなら、日光を送り込んで目を焼くつもりなのだ。

「うげっ!眩しい!!!」

674名無し募集中。。。:2017/06/08(木) 08:15:52
出たな帝国一の曲者が

675 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/08(木) 13:12:17
チナミの目に光を送り込んだのはオダ・プロジドリだ。
ブロードソードは折られてしまったが、その折られた刀身を持つことで、
鏡のように太陽光を反射させていた。
刃を直接握る形になるので手からの出血は回避できないが
KASの3名が果敢に挑んだ様を見て、オダ自身も何かしなくてはならないと強く思ったのである。
そして、そのように思ったのはオダだけでは無かった。
二人で示し合わせたかのように、アユミンが既に動き出していた。

(リカコちゃん、君の武器をちょっと利用させてもらうよ!!)

チナミの周囲には、リカコと戦う時に飛び散ったシャボン液が撒かれていた。
それを踏めば転倒する恐れがあるため、KASの3人は意識的に避けていたが、
「スベり」を味方につけるアユミならわざわざ回避する必要はない。
むしろ逆に勢いを付けて、フクダッシュをも超える高速スライディングを実現させているくらいだ。
スライディングキックが狙う先はカリンが散々痛めつけたチナミの細足。
オダに目を潰されたチナミがこの攻撃を避けられるはずもなく、
スネにまともに喰らって大転倒してしまう。

「イっ……!!!」
「やったぁ!決まったぁ!」

大打撃を与えることに成功したアユミンは無意識のうちにガッツポーズをしていた。
それだけの手応えを感じていたのだ。
しかし相手は食卓の騎士。決して油断してはならない。
だからこそアユミンとオダはすぐに次の攻撃の体勢をとっているし、
エリポン、サヤシ、ハルだってそこに続こうとしている。
アンジュの番長らとKASの3人の戦いが無駄では無かったことを証明するためにも
ここでビシッと気を引き締めないといけないのだ。

「もっと色々やりたかったけど、流石に潮時かぁ……そろそろ、ケリをつけようか」
「!」

チナミの呟きに、一同は嫌でもピリリとした。いや、むしろ焦燥感でジリリキテいる。
チナミの右手には例によっていつの間にか作られた武器が握られており、
その武器でこの戦いを終わらせようとしていることが分かる。

「剣……?」
「そうだよ。君たち5人をこの一本の剣で相手するから。」

剣術のプロを前にしてよく言ったものだが、
チナミには対等以上に相手できる確信があった。
剣技の面で言えば帝国剣士らに分があるのは確かだが、
エリポンは、サヤシは、アユミンは、ハルは、そしてオダはこの「技術」を知らないのだ。

「見せてあげる……だから、よーく見ててね。」

676名無し募集中。。。:2017/06/08(木) 20:17:29
『ピリリ』に『ジジリキテル』か!やっぱ上手いなぁw剣を得意とする帝国剣士にどんな"剣"を見せるのか…

677 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/09(金) 13:14:57
「身」を「断」つ「刀剣」。
その技術はそのように表現することが出来る。
現にチナミが剣を持ち、斬るべき対象を一瞥しただけで
帝国剣士たちは自身が一刀両断されるイメージを思い浮かべてしまった。

(こ、これはまるで……!)

サヤシはベリーズ戦士団のミヤビが発したオーラを連想した。
ミヤビのオーラは周囲のものを全て輪切りに切断し、普段見れない裏側まで見られたような気にさせてしまう、
超が付くほどの殺人的なオーラだった。
規模こそ違うが、チナミが構えることで感じた映像はそれにとても似ている。
それもそのはず。
ベリーズやキュート、そしてサユらが見せている可視化可能なオーラは
元を辿ればこの「技術」から来ているのだ。

「言っておくけど、これは私の必殺技なんかじゃないよ。
 訓練次第で誰でも使える。ベリーズのみんなも、キュートだって使えるんだ。
 でも……鍛錬を怠るとすぐに使えなくなっちゃう。」

人間の脳は無意識のうちに身体能力を抑制している。
人体への負担を抑えるため普段は10%程度しか使わないようになっているのだ。
そこを、キャパシティいっぱいの100%まで使えるようになれば便利だと思ったことはないだろうか?
歴戦の戦士たちもそれは思った。
でも、それでは留まらなかった。
キャパシティいっぱいに埋まったとして、そこから更に強くなるにはどうすれば良いのか?
100%では満足できず、110%、120%を目指したのである。
その解として、身体能力に加えて殺気を強化することに至った。
相手を斬るイメージを極限にまで高めれば、その強すぎる思いは他者へと伝播する。
そうすれば相手を萎縮させたり、行動を制限することが出来るので
相対的に己のキャパシティを越えた力を持つことが可能になるのである。

しかしチナミが言ったように、この技術は鍛錬を怠ることで使えなくなってしまう。
常に上昇志向を持たないと維持することは困難なのだ。
もっとも、遥かなる高みに届きつつあるベリーズやキュートは無条件で使えるし、
サユが現役復帰した時も容易に実現可能だろう。

「それじゃあ斬るね。イメージ出来たと思うけど、一撃で終わるから。」

チナミがスパッと剣を一振りするだけで、帝国剣士らは倒れてしまった。
殺人的オーラの基礎技術でも、これだけの圧を持っているのだ。
これぞ強者が強者であり続けるための技術、
「断身刀剣(たちみとうけん)」の真の威力なのである。

678名無し募集中。。。:2017/06/09(金) 23:37:37
カントリー解散って…マーサー王第二部始まってからのハロプロ変化が激しすぎる。。。

679名無し募集中。。。:2017/06/10(土) 04:29:31
まるで後輩たちに培った技術を見せてやっているかのようですなぁ

680 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/10(土) 15:24:35
帝国剣士のエリポン、サヤシ、カノン、アユミン、ハル、オダ
番長のカナナン、リナプー、メイ、リカコ
KASTのサユキ、カリン、アーリー
機械兵との戦いに疲労していたとは言え、たった1人に計13人の戦士が倒されてしまった。
要所要所で「勝てるかもしれない」と感じることも有ったが
結局はこれだけの実力差があったということだ。

「ほんとに疲れた。ほんとに。 早くみんなのところに戻ろっと」

一仕事終えたチナミはベリーズとキュートが交戦している辺りに移動しようとしたが、
ここで、忘れてはならない人物の声が聞こえてくる

「マーチャンね……全部覚えたよ……」

マーチャン・エコーチームはこれまでの戦いをすべて見ていた。
途中、頭が割れそうなくらいの頭痛に襲われることも何度かあったが、
それでもずっとずっと見続けていたのだ。
涙と鼻血が止まらず流れ続けているし、目も霞む。吐き気だってひどいもんだ。
脚にいたっては立っているのが不思議なくらいにガクガクと震えているが、
マーチャンはこの重労働を最後までやり遂げたのだ。

「全部って、どこからどこまでのことを言ってるの?」
「全部。」
「はは、そっか」

噂に聞いていた以上に興味深い子だなと感じたチナミは、
ニッコリとした顔をしながらマーチャンに近づいていった。
まだまだ面白いことが出来そうだと考えたのだろう。
しかし、それはすぐに叶わなくなる。
脳と体の限界を迎えたマーチャンは、糸の切れた操り人形のように倒れてしまったのだ。

「あ……やっぱもう無理か」

当然か、とチナミは考えた。
むしろ極限状態で最後まで意識を保ち続けたことの方を誉めてあげるべきだろう。

「これで本当の本当におしまいかな。
 じゃあみんな、また明日ね。」

チナミはベリーズらの待っている方へと歩いて行った。
その際の足取りは、先ほどのマーチャン以上にガクガクと震えているようだった。

681 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/10(土) 15:27:43
カントリーガールズの件についてはまだ頭が追い付いていません……
メンバーもファンも混乱しているように見えるので、
実際にどうなるのか詳細が決まってから様子を見たいですね。

682名無し募集中。。。:2017/06/11(日) 11:23:59
針治療を覚えたマーチャンがみんなを復活させて大逆転!とはならないか…

てか「明日ね」って…キューティーサーキット以上の地獄が待ってるのかw

カントリーの件だけじゃなくて20周年に向けてハロプロ全体が大きく変わるらしいし見守るしかないね。。。

683 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/11(日) 14:39:46

チナミが一仕事終えた一方で、
キュート(+トモ)とベリーズの戦いも最終局面を迎えつつあった。
ここではマイミVSシミハム・クマイチャンと、ナカサキ・オカールVSモモコの2戦が同時に進行されており、
頭数が不利なマイミは苦戦を強いられていた。

(まただ!また忘れてしまった……)

背に襲い掛かるクマイチャンの刃をギリギリのところで避けながら、マイミは心の中で嘆いた。
1対2の戦いだということは十分理解しているはずなのに、
時にはシミハムの存在を、そして時にはクマイチャンの存在を忘却してしまっているのだ。
これはベリーズが事件を起こした日にシミハム・ミヤビの2人を相手にした時と同様の現象。
つまりはシミハムが自身、あるいは相方の存在感を完全に消滅させることで
マイミに1対1で戦っていると錯覚させているのである。

(集中しないとシミハムとは戦えない、しかし、集中しすぎるとクマイチャンを忘れる……
 相変わらず戦い難い相手だ……)

しかし、シミハムの放つ「無」はその程度では済まない。
意識をもっと強めれば、こんなことだって出来るのだ。

「あれ?……私はいったい誰と戦っていたんだ?……」

シミハムは自分自身とクマイチャンの両方の存在感を消し去ってしまった。
こうなってしまえばマイミは直前までに誰と、何人と戦っていたのかすら忘れてしまう。

「ハッ!ナカサキとオカールがモモコと戦っている!助太刀しなくては!!」

あろうことかマイミは倒すべき敵を誤認して、
存在しないことになっているシミハムとクマイチャンに背を向けて走り出してしまった。
凶悪な三節棍と長刀がすぐに襲い掛かかってくるとも知らずに……



そのマイミが向かおうとしている方では、
ナカサキがオカールを背負った状態でモモコと戦おうとしていた。
脚を壊されたオカールが戦うには確かにこの方法しか無いのだろうが
決しては軽くはない重量を抱えながら戦うため、ナカサキのパフォーマンスが低下することが予想される。

「ねぇナカサキ、その状態で戦えるの?確かオカールの体重は……」
「おい!言うなよ!!」
「安心して。私の確変で下半身を強化したら最大60kgは耐えられるから」
「お前本当に怒るからな」

684 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/12(月) 12:57:41
(重石込みでも普段通り動けることは分かった。
 でも、この辺りは私の支配下なのよ?それを分かってる?)

モモコは周囲に見えない糸をビッシリと張り巡らせている。
この糸は単純な足止めとしても有効だし、
ちょいと引っ張るだけで、糸の括り付けられた石を飛ばすことだって出来る。
そして極め付けは優秀なボディーガードであるミヤビ(気絶)の存在だ。
オカールに突破出来なかったこの障害をどのように乗り越えるのかは見ものである。

(ん?……あれ?……ナカサキ、なんかおかしくない?)

さっきまでは余裕しゃくしゃくなモモコだったが、
相手側に起きた異変に気づいてからは余裕が少し無くなってくる。
ポーカーフェイスゆえにそれを外部に知らせてなどはいないが、
頭の中は、現状を把握するためのモノローグでいっぱいだった。

(えっと、ナカサキは下半身の確変って言ってたよね?
 実際にナカサキの太ももの筋肉はいつもより太くなっている。それは間違いない。
 じゃあ、腕まで太くなっているのはなに?……
 あの子、私に嘘をついていたってこと?
 いや……私だけじゃない、オカールにも嘘をついているんだ。)

モモコが結論を出すのが早いか、
ナカサキはあの重量のオカールを片手で持ち上げていた。
これには味方のオカールも黙っていられない。

「お、おい、お前何してんだ?……脚になってくれるんじゃなかったのかよ?」
「ごめんねオカール。モモコに勝つには多分この方法しか無いんだ。
 挟み撃ちって古典的だけどやっぱり有効だよね。」
「え?意味がわからない、だから俺はもう歩けないんだってば……」
「前後や、左右からの挟み撃ちだったら確かに無理。でもね……」
「ああそうか……そういうことか……本気?」
「本気だよっ!!上から下からの挟み撃ちを見せてあげよう!!」
「うおおおおおい!!や、やめろ!!」

そう言ってナカサキは確変後の筋力でオカールを遥か上空へと投げ飛ばした。
足を壊されたオカールでも、目標に向かって落下することなら出来る。
モモコはそれをなんとか防ぎたいところだが、
挟み撃ちと言うのだからナカサキは下方向からの攻撃を仕掛けてくるのだろう。
両方を完全に防ぐのは流石のモモコでも厳しい。

(まったく馬鹿な作戦を…でも、それで本当に倒せる気でいるの?
 どうやって私のところまで接近してくるのか、見せてもらおうじゃない。)

685 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/12(月) 22:31:05
ナカサキを寄せ付けずにオカールを対処すればミッションクリアー。
モモコはそのように考えているし、それを実現する自信だって持ち合わせていたが
今のナカサキの状態を唯一の懸念材料だとみなしていた。

(あの姿のナカサキが一番厄介なのよね……
 派生でもなんでもない、ただの"確変"がどれだけ恐ろしいか。)

モモコの言う通り、ナカサキは必殺技「確変」を使用していた。
ただし、それは泳力特化の「派生・海岸清掃」や白兵戦に優れた「派生・ガーディアン」、
脚力強化する「派生・秩父鉄道」などではない。
ただの「確変」をしているのである。
それは即ち、全身のパフォーマンスをバランスよく向上させているとうこと。
その分、体を巡る血液量はべらぼうに増えて疲弊しやすくなってしまうが
どんな状況にも対処できるという意味ではこの形態が原点にして頂点なのである。

(ナカサキは確変の力で私の罠を掻いくぐるつもりに違いない。
 だったら、その行動に合わせてカウンターを決めてあげる。
 さぁ、どう出る!?)

モモコはナカサキの一挙手一投足を見逃すまいと、相手を凝視した。
1秒経過……ナカサキは動かない
2秒経過……ナカサキは動かない
3秒経過……ナカサキは

(って動かんのかーーーい!!)

モモコは心の中でツッコミを入れていた。
オカールをどれだけ高くぶん投げたのかは知らないが、すぐには落ちてくるはず。
ならば挟み撃ちをするためにはナカサキは急いでモモコに接近せねばならない。
なのに彼女は一歩も移動しようとしないのだ。

(もう!じゃあナカサキは無視!オカールをなんとかしなきゃ!)

シビレを切らしたモモコが顔を上にあげようとしたその瞬間、
さっきまで静止していたナカサキが途端に走り出した。
これにはモモコも面食らう。

(はぁ!?今動くの?……)

意識が上に向いた瞬間を突かれたものだから、モモコは慌てざるを得なかった。
急いで対応しようと一歩前に出るが、実はそれすらも過ち。
ナカサキは持ち前のキレで、すぐさま前進を取りやめたのだ。
急停止するナカサキに対して、モモコは急に止まれない。
前に出ようとした時の勢いのままスッ転んでしまう。

(しまった!……やられた!!)

ここでモモコはナカサキの強みが確変だけでなく、ダンサブルな動きも含まれていたことを思い出した。
今、ナカサキが見せたように華麗な足技で相手を転倒させる「アンクルブレイカー」は、
数年前に狂犬の如き強敵にも浴びせた高等技術なのである。
しかし、モモコだってただで転んだりはしない。
この失敗をバネにして、自身の立ち位置を優位に持って行こうとしている。

(前に転ばされた? 分かった、転ばされてあげる。
 その代わり、もっともっと転んでやるんだから!!)

686 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/12(月) 22:35:23
モモコはでんぐり返しをするように、グルングルンと回転しだした。
その目的は今いるポジションから離れることにある。
ナカサキは先ほど、オカールを上空へと強くぶん投げていたが、
その目的地はさっきまでモモコが立っていた位置に違いないし、
実際にナカサキはそのように投げていた。
ならば大袈裟に前方へと転がりまくれば落ちゆくオカールから逃れることが出来るのだ。
そうなれば着地もままならないオカールは勝手に潰れて、
モモコvsナカサキの一騎討ちの状況に持ってくことが出来るだろう。
ところが、その策は上手くいかなかった。
それにいち早く気づいたのは、これから起こりうる悲劇を身を以て経験したことのあるチサキ・ココロコ・レッドミミーだった。

「モモち先輩だめです!も、戻って!!」
「え!?…………ぐえっ!!!!」

突然重い物体が落下してきたので、モモコは心身ともに強い衝撃を受けた。
もはや何が落ちてきたのかを疑うまでもない。
オカールだ、オカールがモモコの元に落下してきたのである。
ここでモモコはハッとした。
そう、この状況はゲートブリッジでアーリーがオカールを投げた時の再現なのだ。

(オカールが重すぎて……落下予測地点より手前で落ちたってこと!?)

あの時、オカールは船に乗り込むつもりで飛ばされたが、
それより手前の海に落ちたところを、海にいるチサキの頭を踏んづけることで生還していた。
今回も同じ。
ナカサキはモモコに当てるつもりで投げたのだが、
重さのあまり、モモコが前進したところに落下していた。
お笑いみたいな結末だが、(ナイショ)Kgの重りを予想外かつマトモに受け止めるのはかなりのダメージだ。
身体能力で他の食卓の騎士に劣るモモコは、もう立てなかった。

「くっ……まさかナカサキがここまで計算していたなんて……」
「(えっ!?)…そ、そうよ!ぜんぶ計算どーり計算どーり!」
「一杯喰わされたわ……まるで女優のような演技力ね。」

最後のくだりは置いといても、あのモモコを騙そうとする姿勢をとったナカサキはたしかに女優の資質があるのかもしれない。

それならば、不恰好に落下しておかしな形でモモコへのトドメを差し、
決して笑ってはいけない状況にもかかわらずカントリーの面々を吹き出しそうにさせてるオカールは、
世が世ならばお笑いの世界でやっていけただろう。

ファンであるトモの心を震わせ、
素晴らしい感動と共感を生んだアイリのスキルは、
歌手として生きていくのにピッタリと言ったところだろうか。

今は戦いの場に身を置いていないあの戦士も、
決して歩き続けることを諦めてはいない。
きっと視野を大きく広げて舞い戻ってくるに違いない。

そして、キュートで忘れてはならないのは団長マイミだ。
彼女の資質はナカサキ同様に女優だと言える。
だが、種類がちょっとだけ違う。
女優は女優でも、殺陣を得意とするアクション女優なのだ。
その才能の全てを、今この瞬間から惜しみなく見せつける。

687名無し募集中。。。:2017/06/13(火) 01:46:10
℃-uteの解散に合わせてそれぞれの進路うまく取り込んでるなぁ…そして今ここにはいない"彼女"はこのまま出ないで終わるなんて事は。。。

688 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/13(火) 18:16:54
「あれっ!?……なんだ、私たちは勝利していたのか?」

モモコとミヤビが倒れているのを目撃したマイミは、
倒すべき敵を全て倒したのだと判断してしまった。
もちろん、それは事実ではない。
存在感の消え去ったシミハムとクマイチャンがすぐそこまで迫ってきているのだ。

(後ろガラ空きだよ……このチャンス、絶対に逃さない。)

クマイチャンは刃渡り300センチという非現実的なオバケ長刀をブンと振り下ろし、
マイミの首をはねようとした。
好敵手と何千回も死闘を繰り広げてきた経験からか
相手を殺める行為であったとしても、クマイチャンが躊躇をすることはなかった。
恐ろしい殺し屋の目をしながら刃をマイミの首へとぶつけていき、
一瞬にして硬い骨まで到達させる。
刀を握る手の感触からそれを感じ取ったクマイチャンは、あとちょびっとだけ力を入れれば完全に切断できるはずだと考えた。
ところが、斬撃はそこで強制的に止められてしまう。

(!?……刀が動かない!)

食卓の騎士は全員が全員バケモノのようだが、
その中でもマイミは群を抜いてバケモノじみていた。
首の筋肉に力を入れることでクマイチャンの刀をギュウっと挟んでしまったことからもそれが分かるだろう。

「思い出したぞ……お前が残っていたな。クマイチャン。」
「くっ……」

斬撃をもらう前までは、マイミは確かにクマイチャンの存在を認識できていなかった。
だが、そんな状態でも痛みは等しく襲ってくる。
マイミは首の痛みを感じた瞬間に、条件反射的に刃を首で掴み取ったという訳だ。
このような芸当は特別な訓練を受けた者だとしても不可能で有るため、
決して真似しようなどとは考えないでほしい。

「なるほど……この状態だとよく分かるな。」
「……何が?」
「クマイチャンが本当に殺す気で斬りかかってきたということが、だよ。
 どういうことかは分からないが、武器から伝わる殺気だけは消えないみたいだな。」
「!!!」

シミハムの「無」のオーラは存在感だけでなく、殺気までも完全に消し去るはず。
だからマイミは大雨を起こせないし、クマイチャンだって重圧で相手を押しつぶすことも出来ないのだが、
マイミは確かに殺気を感じると口にしている。
それがハッタリではないことは、刀を握るクマイチャンがよく知っていた。

(私の刀から、マイミの嵐のような殺気が伝わってくる!!
 そうか、マイミも本気で私を殺す気なんだ……)

チナミが帝国剣士に存在を教えた「断身刀剣(たちみとうけん)」は殺気を相手に伝播することで、強さのキャパシティを100%以上にする技術だ。
その殺気やそれをさらに発展させたオーラは、通常は空気を伝わるものだが、
相手を直接傷つける「武器」にはより濃厚な殺意が色濃く残っていた。
シミハムは空気中の殺気やオーラを消すことは出来ても
直接武器を伝わる殺意までに影響を及ぼすことは出来なかったという訳だ。

「だったら、こうすれば辿れる。」

マイミは手を伸ばして、クマイチャンの刀をガッシリと掴んだ。
手が切れて流血するが、そんなのは大した問題ではない。
クマイチャンを見失いために刃を握り続けようとしている。

689名無し募集中。。。:2017/06/14(水) 12:37:10
『食卓の騎士』勢揃い(一人不在)

色々な思いがこみ上げてきて久しぶりにマーサー王第一部読み返えしたくなるな…

http://stat.ameba.jp/user_images/20170613/22/c-ute-official/3e/7e/j/o0480040613960110020.jpg

http://scontent-nrt1-1.cdninstagram.com/t51.2885-15/e35/19052068_629144050612054_7941626613156806656_n.jpg

690 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/14(水) 16:11:40
マイミはまるで登り棒を昇っていくかのように、
両手で刀を掴みながらクマイチャンの方へと接近していった。
刃を躊躇なく握るだけでも恐ろしいのに、しかも速い速度で迫ってくるのだから
もはや恐怖というほか無いだろう。
しかし、追われる側に立つクマイチャンの顔は依然変わらず凛々しいままだった。

「叩き落としてあげる!」

左手を刀から放したかと思えば、クマイチャンはマイミの顔面へと掌をぶつけていった。
ただの掌底でもクマイチャンのそれはダテじゃない。
人類ではまず到達し得ない高さからなる位置エネルギーの全てが破壊力に変換されたので
マイミは大砲でも喰らったかのような思いだった。
そしてクマイチャンは長い手をさらに振り切ることによって、
マイミの後頭部を硬い地面に叩きつけることにも成功する。

「どうだぁっ!!」

もっとも、クマイチャンもこの程度でマイミが気絶するとは思っていない。
ここではマイミが刀を手放してくれることだけを期待していたのだ。
これだけのインパクトなのだから普通は刀を持つどころでは無いはずなのだが、
それでもマイミは、強く握っていた。

「クマイチャン良いのか?」
「な、なにが!?」
「片手を放しても良かったのか?」
「!」

クマイチャンが気づいた時にはもう遅かった。
これまでクマイチャンは両手で刀をしっかり握ることで、マイミが刃の側から加える力にも耐えていたのだが、
一時的に掌底を放ったせいで、今は片手でしか握っていない。
それでは、抑えきれなくなったマイミの力はどこに作用するのか?
答えは刀そのものだ。
鉄扉をも捻り切るマイミの怪力に耐えきれず、クマイチャンの長刀が真っ二つに折れてしまう。

「ああっ!!」

チナミも先ほど若手戦士らの武器を壊していたが、
エリポンの打刀「一瞬」だけは破壊することが出来ていなかった。
その打刀はエリポンがかつての剣士団長から受け継いだものであり、
戦士の強さ同様に刀の質も高かったため、他の武器のように壊せなかったのである。
クマイチャンの長刀だってそれに匹敵するくらいに優良な品だし、
チナミによるメンテナンスも行き届いていたはずだった。
だというのに壊されたのだから、マイミの力は恐ろしい。
しかし、(かなりショックではあるが)クマイチャンは刀を折られたとしても、心までは折れていないようだった。

「本当に凄い力だ……でも、これで刀を放したね。」

691 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/14(水) 16:12:45
>>689
おお、噂には聞いてましたが本当に舞波がいますね。
それだけに一人いないのが惜しい……

692名無し募集中。。。:2017/06/14(水) 18:38:12
>>689
ちなみに今の舞波…現役に混じっても全然違和感ない
つんく♂さんの見る目流石だわ

http://i.imgur.com/mzcf6hG.jpg

693名無し募集中。。。:2017/06/14(水) 19:02:48
>>689
ちなみに今の舞波…現役に混じっても全然違和感ない
つんく♂さんの見る目流石だわ

http://i.imgur.com/mzcf6hG.jpg

694 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/15(木) 13:03:29
刀を折ったということは、即ち、握るべき武器が無くなったということ。
これまでマイミは刃を伝う殺気を頼りにクマイチャンの存在を捉えてきたので、
結果的に自ら道しるべを手放す形となってしまった。
このまま敵の存在を見失い、ジリ貧になるかと思われたが……

「クマイチャンの殺気がこもってるのは、なにも刀だけじゃないだろう?」
「へ?」

敵の掌が自身の顔から離れるよりも速く、
マイミはクマイチャンの腕に対して右手と左手の計10本の指を突き刺していった。
どの指も5cmは肉に食い込んでおり、クマイチャンが絶句するには十分なほどの激痛を与えていた。

「〜〜〜っ!!!」
「思った通りだ。 刀を握るよりも、クマイチャンの肉体に触れる方が強い殺気を感じられる。」

マイミの狙いは殺気そのものの発信源であるクマイチャン自身に触れ続けることにあった。
この要領で攻撃していけば近いうちに勝利することが出来るだろう。
しかし、それをクマイチャンが黙って見ているはずもなかった。

「だったら!そう来るんだったら!こうしてやる!!!」

クマイチャンは大きく立ち上がり、マイミの指が食い込んだ腕を天高くへと上げていった。
腕の深くまで入っているため指は簡単には抜けず、マイミの身体ごと天に持ち上げられてしまう。
この次にクマイチャンがとる行動は想像に難くないだろう。

「まさか……この高さから私を地面に叩きつけるつもりか!?」
「そうだよ!それが嫌なら指を抜けばいいんだ!」
「絶対に抜くものか……ここで抜けるはずがない。」
「じゃあ落としてやるっ!!今すぐにだっ!!」

天高いところにあった腕が、一気に地面へと振り降ろされた。
自称176cmの落下距離は数字以上に大きく感じられ、
マイミが地面にぶつかる衝撃も、それに比例して、十分に大きかった。

「ぐあぁっ!!」
「まだ放さないか…じゃあもう一発!!」

クマイチャンは先ほどの再現をするために、また腕を高い上げていく。
この地獄のフリーフォールはマイミとクマイチャンのどちらかが音をあげるまで続くのだろう。
マイミは、そう思っていた。
だが、クマイチャンはそう思っていない。

(シミハム!!もうそろそろ良いんじゃない!?)

クマイチャンは、そう離れていない位置に立つシミハムにアイコンタクトを送った。
連続フリーフォールでは異常な生命力のマイミを倒しきれないと思っていたので
ベリーズ戦士団の団長であるシミハムに協力を仰いだと言うわけだ。

シミハムはマイミとクマイチャンの戦いから少しばかり離れていたが
それは決してさぼり等ではない。
ただひたすらに力を蓄えていたのだ。
あのマイミでも、ひとたび喰らえば立てなくなるほどの強烈な攻撃を実行するために、
時間をかけて準備していたのである。

695 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/15(木) 13:04:21
もう何年も経つのに舞波は全然変わってませんねw
安心しました。

696名無し募集中。。。:2017/06/16(金) 10:17:02
こっちのマイハは出てくるのかな?℃-ute解散・キッズ集合で当初の予定と変更になる可能性も?

697 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/17(土) 12:20:51
ただのジャブよりは大きく振りかぶって繰り出すパンチの方が高威力であるように、
強い攻撃というものはどうしても予備動作が大きくなる。
ヒットさえすればその後の展開を優位に運ぶことが可能だが、
モーションが読みやすいせいで大抵は避けられてしまうだろう。
そのため多くの戦士は小さく確実に当てていくか、あるいはフェイントを織り交ぜるのだが、
自分の存在を消し去ることで、予備動作すらも相手に感じさせないシミハムにはそんなことを気にする必要が無かった。

シミハムの必殺技「きよみず、"派生・鶴の構え"」からの、180°(ワンエイティー)×180°(ワンエイティー)
彼女はこれまでの時間、
ダンス技術のターンを連続して自ら回転し続けることと、
手に持つ三節棍を勢い付けてブンブンと回し続けることの二点に専念していた。
マイミに気づかれることなく己と武器の回転を延々と繰り返すことで、
棍の先端にかかる遠心力を膨大なものにしていったのだ。
後は、クマイチャンがマイミを天から地に叩きつけるタイミングで、
カウンターを喰らわすように、力が最大限までに蓄積された棍を下方向からぶつけてやれば、
流石の耐久力を誇るマイミであろうと壊すことが出来るだろう。

(シミハム!今からマイミを持ち上げるから、そこに合わせてねっ!!)

はたから見ればもうボロ雑巾のようになっているマイミを、クマイチャンはまたも持ちあげた。
腕に食い込む指の力が相変わらず強いので、やはりトドメを刺さねばならないと判断したのだろう。
最高到達点に達したところで恐怖のフリーフォールが再開されると思ったが、
ここでとんだ邪魔が入ってしまう。

「団長を放せっ!!!」

この戦いに割って入ったのはキュート戦士団の一人、ナカサキだ。
モモコ戦で見せた確変状態を維持したまま、
両手に持った2本の曲刀でクマイチャンの横っ腹を滅多斬りにする。

「ぐっ!ナ、ナカサキ!!」

不意打ちを喰らったクマイチャンは思わず片膝を地につけてしまった。
「私がマイミを放さないんじゃなくて、マイミが放してくれないんだぞ!」と訂正したいところだが、
クマイチャンにはそれよりも気になることが有った。

「ナカサキ……どうして私がいる事に気付けたの?」

シミハムは自分とクマイチャンの存在感を消していた。
それを認識することが出来るのは味方であるベリーズ同士と、
クマイチャンの腕に指を刺したマイミだけのはず。
部外者のナカサキには感知できないようにシミハムは調整していたのだが、
今の相方がクマイチャンだというところに誤算があった。

「えっ?だってそりゃ分かるでしょ。」
「どういうこと!?」
「団長があんな高いところまで上がったり下がったりしてるんだもん。
 クマイチャン以外の誰がそんなことを出来るっていうの?」
「……!!!」

698 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/17(土) 12:23:07
マイハ再登場は私にも謎ですが
当初の予定と変わるということは、大いにありそうですね。

699名無し募集中。。。:2017/06/17(土) 19:26:16
シミハムもクマイチャンもうっかりしすぎw
タッグマッチになるのかそれとも分かれるのか…今後も楽しみ
作者さんいつも乙です

700名無し募集中。。。:2017/06/17(土) 20:26:19
180°って何かと思ったら「よろせん」の焼き肉だねw
流石クマイチャンのライバルナカサキ!と思ったのにまさかの身長でバレたとはw

701 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/20(火) 13:21:02
まずい。
シミハムはそう感じていた。
クマイチャンを助けるべくナカサキを叩く案もあるが、
そのためにはせっかく棍に蓄えた力を解放しなくてはならないので
マイミを倒すにはまた一から力を貯める必要がある。
手負いのクマイチャンがこれからそれだけの時間を稼げるかは微妙なところだ。
ではナカサキを無視して、今まで蓄えた力をいきなりマイミにぶつけてしまうのはどうか?
いや、それもダメだ。
マイミの生命力を考えると、クマイチャンのフリーフォールにシミハムの攻撃を合わせて、やっと倒せると言ったところだろう。
クマイチャンがナカサキにちょっかいを出されている現状では
当初の予定通りにマイミを地面に叩きつけることが難しいので、
失敗に終わる可能性が高いのだ。
いろんな可能性を考慮してモタついているうちに、マイミが次の行動を取り始めてしまった。

「隙有り!!」

マイミは敵の腕を鉄棒に見立てて懸垂をしたかと思えば、
その上昇する勢いを利用して金属製の右脚でクマイチャンの顎を蹴っ飛ばしたのだ。
何回も地に落とされたとは思えぬ鋭い蹴りにクマイチャンの意識が飛びそうになったが、
長い脚で地面をしっかりと踏み締めることで、なんとか踏みとどまる。
しかし、それも長くは続かなかった。
ナカサキによる斬撃の雨あられが襲って来たのである。

「そりゃーーーーっ!!」
「うぐっ……く、苦しい……」

クマイチャンとナカサキの実力が拮抗しているとは言え、
武器の長刀を失い、しかもマイミに腕を掴まれたままの状態では満足に戦うことは出来なかった。
ほんの短い時間でクマイチャンは踏みとどまれなくなり、
力無く地面にぶっ倒れてしまった。
ミヤビ、モモコに続いてクマイチャンまでも倒れたのだから、ベリーズ側にとっては大打撃。
普通に考えればこのまま押し切られてしまうのだろうが、
シミハムはこの状況に勝機を見出していた。
クマイチャンが倒れるということは、マイミも高い位置から落下するということ。
そこに対して力がMAXにまで溜まった棍をぶつけてやれば、
一番の強敵であるマイミを撃破することが出来る。
そうすればこの場に残るのはほぼ無傷のシミハムと、確変を長時間使いすぎて身体に負担をかけているナカサキのみ。
どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだろう。

702名無し募集中。。。:2017/06/21(水) 00:09:54
ワクワク

703 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/21(水) 21:35:22
絶対に避けられない攻撃であり
それでいて当たれば必ず勝利できる攻撃をシミハムは解き放とうとした……のだが、
このタイミングでとある人物がやって来たので動作を瞬時に取り止めた。

「ただいまーー!あーキツかったーーー!」

戻って来たのは先ほどまで若手戦士らの相手をしていたチナミだった。
全身ボロボロ、足取りはフラフラ、いかにも疲労困憊といった様子だ。

「この仕事さぁ、ほんっとに割に合わないよ……あれ?モモコが倒れてる。 やられちゃったの?」
「あのねチナミ、状況を見なさいよ。」
「うわっ、みんな倒れまくってる。」

ミヤビ、クマイチャン、アイリ、オカール、トモの5名が意識を失っており
モモコも喋れはするものの立てないでいる。
実力が拮抗した勢力のぶつかり合いなのだから、こうなるのも無理ないだろう。

「うーん、戦う気力があるのは2人ってとこかー」
「2人って、マイミとナカサキのこと?チナミはどうなの?」
「いやいやいやいや、もう身体が限界だよ!当分は肉弾戦は無理だからね!」

チナミとモモコはベリーズの一員なのでシミハムの姿が薄ぼんやりと見えているのだが、
自軍の団長を「戦う気力がある」とはみなさなかったようだ。
それもそのはず。シミハムは「勝つための攻撃」から、「行動を制限するための攻撃」に切り替えていたのだ。
その攻撃によって、マイミの脚が瞬時に破壊される。
義足部分ではなく生身の腿に三節棍をぶつけたのである。

「なにっ!!?」

シミハムは蓄積された力の全てを、マイミの機動力を潰すことに費やした。
この程度ではマイミはダウンしないのは折り込み済み。
事情が変わったので、今は移動手段を制限することを最優先に行動しているのである。
そしてマイミの脚を破壊した勢いのまま、
ナカサキの二の腕に鋭い蹴りを喰らわせることにも成功する。
その結果としてナカサキは腕から噴水のように血を吹き出してしまった。
血の巡りが良すぎるあまり、ひとたび傷つけば即大量出血になるのが確変の弱点。
ナカサキは数秒も経たずにフラつきだす。

「ううっ……クラクラする……」
「大丈夫かナカサキ!……くそっ!またしてもシミハムにやられたのか!」

もう存在感を消す必要がないと判断したシミハムは、己の姿をマイミの前に現した。
容易に動けぬマイミとナカサキに対して、ほとんど無傷のシミハムはまだまだ元気いっぱい。
圧倒的優位なままマイミ達にトドメを刺すかと思われたが、
ここでモモコが意外な発言を口にする。

「さて、それじゃあ逃げよっか。シミハム。」

モモコの提案に、ベリーズの団長シミハムはコクリと頷く。

704名無し募集中。。。:2017/06/21(水) 23:03:17
やっぱり退却するのか…ベリーズの真の目的はやはり・・・

ところで今週中か来週…もしくはハロコン初日で判明するカントリー移籍組はどういう扱いになるんだろ?娘。に入ったら帝国剣士になるんだろうか?

705 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/22(木) 22:29:57
「なんだと?……」

マイミには、ベリーズ達が「逃亡」を選んだことが理解出来なかった。
「卑怯だぞ」だとか、「最後まで戦え」だとか言いたいのではなく、
今の戦況はどう考えてもベリーズ優勢なはずなので
それを放っぽり出して逃げる理由が全くもって分からないのだ。
そうして混乱しているところに、モモコが余計に混乱しそうなことを喋りだす。

「言っておくけどこっちには貸しがあるんだからね。 認めないなんて言わせないよ。」
「か、貸し?」
「はぁ、忘れたの? おとといアリアケで戦った時にリターンマッチを受け入れてあげたじゃない。
 だから今日もこうしてプリンスホテルそばのシバ公園で戦ってるんでしょ。」
「あぁ……そうだったな……」
「そう、そして次はこっちがリターンマッチを申し込む番。
 時刻は明日3月3日の18時、場所は"武道館"。 そこで待ってる。」
「!?」

武道館という施設の名にマイミは覚えがあった。
いや、若手戦士を含めてもその名を知らぬ者は居ないと言ってよいだろう。
この施設はかなり古くに作られた円形の大型闘技場であり、
当時はこの舞台で闘えるということが最上級の名誉だったらしい。
今はもう闘技場としては使われていないが、現在でも多くの現役戦士達がこの大舞台に憧れを抱いているのである。
(特に果実の国のKASTが顕著だ。)

「本気で言っているのか!? あの武道館だぞ!」
「本気も本気よ。だってそこが今の私たちの本拠地なんだから。」
「本拠……地……」
「そう。だからね、明日にはマーサー王とサユが武道館の一室に軟禁されるの。
 これは嘘なんかじゃない。ホント。」

連合軍の最大の目的はマーサー王とマイミの救出だ。
その2人が武道館に居るとなれば、嫌でもノコノコとやってくるはず。
モモコは相手がそう考えると思って情報を漏らしたのだが、
どうやら逆効果のようだった。

「軟禁なんかさせない……今すぐお前達を倒して阻止してみせる!!
 いくぞナカサキ!2人でシミハムを倒すんだ!!」

脚の壊れたマイミは二本の腕で体を持ち上げて、手押し車の要領でシミハムの元へと向かっていった。
いくら不利な状況とは言え、敬愛する王が危険に晒されるとなれば動かずにはいられないのだ。
シミハムは仕方ないと言った顔で棍を構えるが、
存在感を消そうとするよりも早くモモコが叫びだす。

「あなたたち、今よ!」
「「「「はい!」」」」

モモコの呼びかけにカントリーのリサ、マナカ、チサキ、マイが応えたかと思えば、
無数のカエルとカラスがマイミへと跳び(飛び)かかった。
リサ・ロードリソースの操る両生類と、マナカ・ビッグハッピーの操る鳥類が
主人の命令に従い、マイミの行動を妨害し始めたのである。

「邪魔をするなぁっ!!!」

以前にやって見せたように大嵐のオーラで動物らを吹き飛ばそうとしたが、
シミハムの無のせいで、それは発動しなかった。
前に行きたくても進めずにもどかしい思いをマイミがしているうちに
チサキ・ココロコ・レッドミミーとマイ・セロリサラサ・オゼキングは倒れたベリーズを次々と馬に乗せていく。
カントリー達はこの時のために予め人数分の馬を用意していたのだ。

「ねぇマイちゃん、クマイチャン様はどうやって運ぼっか……」
「大きすぎて馬に乗せられないね……あっ!」

二人が困っていると、普段モモコが乗り倒している駿馬サトタの方からクマイチャンのところに駆け寄ってきた。
そして騎手の巨体もなんのそのと言った感じで自分の背に乗せていく。

「す、すごい……なんでか分からないけどモモち先輩が乗るよりシックリくる気がする。」
「チサキちゃん何か言った!? ほら、準備出来たなら早く逃げるよ!」
「は、は〜い!」

馬に乗った、あるいは乗せられたベリーズとカントリー達は、
負傷したマイミでは追いつけないスピードで遠い先へと逃げて行ってしまった。
例え腕がちぎれる勢いで走ったとしても何にもならないだろう。

「また……救うことが出来なかった……」

身体よりも先に心が限界を迎えたマイミは、
深い絶望に耐えきれずその場に倒れこんでしまった。

706 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/22(木) 22:36:42
カントリー3人の振り分けと研修生3人のデビューは
なかなか無視できない大きな転機になるような予感がしてます。

もともと考えている話の本筋に影響しないか、
あるいは多少影響してでも書きたいと強く感じたのであれば
三部の流れが変わるかもしれないですね。

707名無し募集中。。。:2017/06/23(金) 23:44:33
それは楽しみ!でも三部が始まる頃にはまた加入や卒業…新ユニットが出来ていたりして?w

708 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/26(月) 20:26:38
「んっ……」

チナミとの戦いで意識を失っていたカリンが目を覚ました。
起きてからしばらくの間は寝ぼけていたが、
自分が寝ていた場所がいちごのベッドでは無いことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

(お外だ……時間は夕方?……それに、みんなもいる。)

辺りには帝国剣士がいた、番長がいた、そしてキュート戦士団もいた。
みんながみんな、うなだれているように見える。 幸せそうには全く見えない。
カリンが最悪の事態を理解しかけたところで仲間であるアーリー、トモ、サユキが声をかけてきた。

「あ!起きたぁ!」
「よく寝てたね。起きたのはカリンが一番最後だよ。」
「必殺技で無理をしすぎたから疲れちゃったのかな。」

"起きたのはカリンが一番最後"。
つまりはここにいる全員が寝てたか、気を失っていたということ。
カリンは信じたくない現実に確信を持ってしまった。

「私たち……負けちゃったんだ……」

カリンの言葉を聞いた仲間たちは黙ってしまった。
なんとか無理して明るく振舞おうとしたが、
敗北という事実が少しでも頭をよぎるだけで現実に戻されてしまう。
以前、チナミが2つのものを折ったと言ったのを覚えているだろうか。
1つは文字通り、若手戦士たちの武器を折っている。
そしてもう1つは「心」だ。
圧倒的なまでの力をみせつけられて、しかも対抗しうるための武器まで破壊されたので
もういくら頑張っても敵わないと、痛感させられている。

「あ、そうだ!キュート様はどうなったの!?マイミ様!マイミ様はどこですか!」

こんな時は、強大な存在であるキュートに頼りたいとカリンは考えた。
そうすれば次に進む指針を示してくれるだろうと思ったのである。
しかし、それも叶わない。

「…………」
「マイミ……様?」

一人で座り、虚空を見つめているだけのマイミを見て、カリンは衝撃を受けた。
いつも連合軍の先を行くマイミの姿はどこにも見当たらない。
敗北のSHOCK!で廃人のように呆けているその様からは
リーダーシップを少しも感じ取ることができなかった。
キュートの他のメンバーであるナカサキ、アイリ、オカールも黙って下を見ている。
団員である彼女達から団長に喝を入れてもらうことは期待できないだろう。
キュートがこの有様なのだから、若手戦士が何くそと奮い立てるわけもない。
完全に士気が落ちてしまっているのだ。

「マイミ様!ベリーズはどっちに行ったんですか!?追いかけなくて、いいんですか!?」
「カリンか。 ベリーズは……」
「知ってるなら、教えてください!!」
「いや、もういいんだ……どうせ、勝てないと。」
「えっ!?」

マイミの口からこんなにも弱気な発言が飛び出すなんて、
カリンだけではなく他の若手らも想像だにしていなかった。
こんな状況でどうやってベリーズに勝てると言うのだろうか。
いや、そもそもどうやってベリーズと戦えば良いのか?
マイミが、キュートがこのままでは、何も始まらない。

(タケちゃん……フクちゃん……こんな時、私はどうすればいいの?
 2人に側にいて欲しいよ……カリンだけじゃなんにも出来ないよ……
 みんなを動かす方法を、私に教えてよ!!!)

これからカリンかすべきことはただ1つだけ。
連合軍の士気は完全に下がっているように見えるが、
中には闘志の炎を消していない者だって何人かは存在する。
その者たちを見つけ出して、マイミに挑むしかないのだ。
自分たちが力を合わせれば食卓の騎士マイミをも凌駕することを、ここで示すしか無いのだ。

709 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/26(月) 20:28:24
あとちょっとでハロステの号外が始まりますね。
良い結果になることを祈ります。

710 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/26(月) 21:45:28
おっ、こぶしには入らないんですね。
話作りの観点だとちょっと杞憂でした

711 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/26(月) 22:55:52
太刀魚、という結論に至りました。
なんのことかはいずれ

712 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/28(水) 13:00:05
(あれ?……この音は……)

正体不明の金属音が鳴っていることにカリンは気づいた。
大多数が何もせずじっとしている中で、その人は次に向かって動き出していたのだ。

「マーチャン!なにやってるの?」
「武器作ってるの。」

マーチャン・エコーチームは諦めていなかった。
ここら一帯にはチナミの作った機械兵の残骸があちこちに転がっていて、
それらの部品を利用して新たな武器を作ろうとしているようである。
どこから拾ったのかは知らないが工具も一式揃えられているようで、
製作に必要な環境は整っているみたいだ。
周りが闘志を失っているにもかかわらず、黙々と作業を進めるマーチャンを見てカリンは感動する。
そして、マーチャン以外にも熱を失っていない戦士はまだいるのではないかとも思い始めてきた。
だったら、カリンは動くしかない。

「ねぇマーチャン。」
「なに?」
「すごーく細い針とかって作れるかな? 刺しても痛くないくらいに細いやつ。」
「たぶん。」
「今作ってる武器の後でいいから、細い針を20本作って欲しいな。頼める?」
「う〜〜〜〜ん、いいよ。」
「さすがマーチャン!」

これでカリンは戦う力を取り戻すことが出来る。
次にすべきは仲間探しだ。
みんなが落ちている中、1人だけ喜びを隠しきれていない人物がいることにカリンは気づいている。
モチベーションの低下もなく、武器も破壊されていない人なら、
強力な味方になってくれるはずだとカリンは考える。

「トモ!一緒に戦って!」
「カリン?……突然なに言ってんだ?……」
「私にはお見通しだよ。 トモ、全然落ち込んでないでしょ!」
「ちょっ!……バカ、なにを言って……」

確かにトモは他の若手戦士と違って、対ベリーズ戦で屈辱的な思いをしていなかった。
それどころかミヤビにトドメを刺すことが出来たので有頂天にもなっている。
周りが暗くなっているのでウキウキを表に出さないようにしていたが、
カリンにはバレバレだったようだ。

「トモ、自信に満ち溢れているよ。 誇らしいなら胸を張りなよ!」
「だから大声で言うなって……」
「違う!大声で言わなきゃダメなんだよ!
 みんな聞いて!私たちはこれからマイミ様に決闘を挑むんだ!
 力を貸してくれる人がいるなら、一緒に来て!!」
「はぁ!?」

713名無し募集中。。。:2017/06/28(水) 21:31:57
>>711
こぶしもつばきも新メンなかったのはちょっと以外だった…耳赤の帝国剣士とちっちゃい番長と困り眉の果実の戦士は出番はあるのかな?

714 ◆V9ncA8v9YI:2017/06/30(金) 23:59:16
オマケ更新「武道館への道中で」

「はいカントリーのみんな集合〜」

馬にまたがったままの状態で、モモコはカントリーガールズの4人を呼び寄せた。
オカール・ナカサキ戦での負傷が痛むが、決してそれを顔に出したりしない。
明日の最終決戦で重要なピースになりえる4人に指示を与え終わるまでは、
苦しい顔なんてしていられないのだ。
モモち先生は教え子一期生たちに向かって話を始める。

「まずは残念なお知らせ。私たち5人は武道館の中では戦えないの。」
「えっ!?そうなんですか?……楽しみだったのに」
「そうよマイちゃん。ガッカリした? でも野外もいいものよ。」
「私たちカントリーガールズは動物を味方につけるから、野外で戦う方が戦力になるということですよね?」
「リサちゃんの言う通り。 明日は出し惜しみ無しでよろしく。」
「私の武器は鳥さん達なので雨が降るのだけが怖いですね……」
「マナカちゃん安心して。 雨は絶対に降らない。」
「えっ?でも雲が出て来てますけど……」
「雨は降らないの。」
「そ、そうですか……分かりました……」
「チサキちゃんはどう?さっきから黙ってるけど」
「えっと、武道館の近くって海とか川とかありますか?……魚が居ないと私は戦えないから……」
「んー、周りに池?かなんかあったでしょ? 魚も多分いるんじゃない?」
「そうですか、安心しましたぁ。」
「ま、3月で寒いし、池に氷がはってたらチサキちゃんは無能になっちゃうけどね!」
「もう〜!モモち先輩!」

715 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/01(土) 00:08:14
>>713
三部をお待ちくださいw

716 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/04(火) 13:06:02
マイミに決闘を挑むというカリンの発言に一同は騒然とした。
さっきまで下を向いていたナカサキ、アイリ、オカールまで顔を上げる程だ。
しかし、肝心のマイミには響かなかったらしく、
カリンの言葉をただ繰り返すだけだった。

「そうか……私と決闘か……」

相手にされないことは覚悟していたので、カリンは次々と準備を進めていく。
まだ困惑中のトモの手を無理やり引っ張っては、
アンジュの帰宅番長リナプーの前へと歩いていったのだ。

「うわ……」

厄介者がやってきたのでリナプーは露骨に嫌な表情をしたが、
それにも構わずカリンは勧誘していく。

「リナプーも戦えるよね!」
「いやいや、どこをどう見たらそう思えるの……」

たいへん失礼な話だが、トモにもリナプーからはやる気を感じ取ることが出来なかった。
いつものように元気なく地べたに座っているようにしか見えないのだ。

「そう、リナプーはいつもと同じなの!」
「え?」
「普通の人が元気なかったら心配するけど、リナプーはいつも元気ないよね!
 ということはそんなに落ち込んでないんじゃない?」
「うわうわうわ、めんどくさ……」
「それに、リナプーの武器は"壊れていない"。」
「!」

カリンは急にしゃがみだし、リナプーの武器兼愛犬であるププとクランの頭を撫で始めた。
他の戦士の武器が物理的に破壊されているのに対し、この犬二匹は怪我の1つも負っていない。

「この子たちはまだやれるよね?……まぁ、飼い主のリナプー次第だけど。」
「はぁ……しょうがないな、やるよ。やれるに決まってるでしょ」
「やったー! これで仲間が4人になったね!」

カリンがピョンピョン飛んで喜んでいるところに、
もう1人の戦士が声をかけてきた。
今まではカリンが誘う形だったが、今回はその人の方から志願してきたのだ。

「私もその仲間に入れてもらえませんか?」
「オダちゃん!」

志願兵の名はオダ・プロジドリ。
強力な助っ人の登場に驚きつつもカリンは喜ぶ。

「もちろんだよ!でもどうして?」
「もう負けたくないんです。 相手が伝説の存在だろうと、私は勝たないといけないんです!!」

オダはこれまでサユやチナミと戦い、どちらも敗北していた。
プラチナ剣士やベリーズ戦士団が相手なので負けて当然だとみなは思っているが、
それではオダ・プロジドリのプライドが許さないのである。
その気迫にたじろぎながらも、トモ・フェアリークォーツが疑問点を投げかける。

「えっと……戦うのは止めないけどさ、いったいどうやって挑むつもりなの?
 だって、剣は折られちゃってるのに……」
「剣が無いからと言って戦わないのは、剣士として二流では?」
「お、おう……」
「それに私は信じてるんですよ。」
「信じてる?何を?」
「いざ挑むその時になれば、私の手に剣が握られていることを……です。」

717名無し募集中。。。:2017/07/04(火) 14:36:38
マーチャン・カリン・オダ・カナトモ・リナプー。。。なる程そうきたか!

718名無し募集中。。。:2017/07/04(火) 23:30:30
マーサー王関係ないが…よこやんが仮面ライダーフォーゼ好きらしい

http://ameblo.jp/morningm-13ki/entry-12289692613.html

もしマーサー王完結後仮面ライダーイクタ復活する際には参戦確定かな?

719名無し募集中。。。:2017/07/05(水) 00:51:57
あと5年はかかるから生田も横山もいないかもなw

720 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/05(水) 12:45:29
おお。新たなライダー好きメンバー!
仮面ライダーイクタは本当にいつになるのかわからないので、オマケだけ書きますw


横山「宇宙キターーー!」
生田「おお!横山はフォーゼになるっちゃね。」
真野「ウチュウキターーー!」
生田「真野さんはやっぱりなでしこやね。」
佳林「お前の運命(さだめ)は俺が決める。」
生田「!?」

721名無し募集中。。。:2017/07/05(水) 17:50:48
>>720
植村「さぁて、稼ぎますか」

生田「・・・(それ、後藤さんじゃなくて伊達さんやけん!)」

722 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/07(金) 12:55:03
>>721
碧の彼氏役ネタですねw


昨日、藤井が予定より早く引退することが発表されましたね。
とても驚きましたが、いくら考えても真相に辿り着くのは不可能そうなので
あまり詮索しないようにします。


次回更新は今日の夜遅くになります。

723 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/08(土) 05:47:06
やっぱりまだかかりそうです。。。

724名無し募集中。。。:2017/07/08(土) 11:47:47
良かったバースネタ伝わったw

藤井の件は永遠の謎のままなんだろうな…

更新楽しみにお待ちしてます

725 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/10(月) 13:05:35
着々と仲間を増やしつつあるカリンを見て、ハルとサユキは戸惑っていた。
戦士としてここで立ち上がるべきだということは十分に理解しているが、
マイミと同等の存在であるチナミに植え付けられた恐怖のせいで動けずにいる。
食卓の騎士を相手にするという思考自体を拒否してしまっているのだ。

「どうしてアイツらは戦えるんだ?……言っちゃ悪いけど、どこかおかしくなってるんじゃ……」

確かに、カリンやマーチャンは恐怖心を感じる機能がマヒしているのかもしれない。
リナプーやオダだって同様だ。
彼女らは普段から何を考えているのかよく分からないので、
常識離れした思考回路の持ち主だと思えば、今の選択も納得いく。
だが、トモ・フェアリークォーツは比較的正常な判断を下せる人間だったはず。
だと言うのにカリン達の側についている。
その事実がサユキを困惑させていた。

「ハル……私は自分が情けないよ……」
「サユキ?」
「カリンはともかく、トモまで前に進んでるって言うのに……私は立てもしないんだ……」
「情けなくなんかないだろ! 周りを見ろよ! 座ってるやつの方がずっと多いくらいだ!
 だからさ、泣きそうな顔をやめてくれよ……こっちだって泣けてきちゃうじゃないか……」
「 ハル……」

激しく揺らいでいたサユキの精神は、ハルの慰めのおかげで安定に向かいつつあった。
しかし、その安定も長くは続かない。
むしろ急転直下。失意のどん底に突き落とされていく。

「一緒に……戦わせて……」

ここにこて、KASTのアーリー・ザマシランが目に涙を浮かべながらカリンに訴えたのだ。
全身がプルプルと小刻みに震えていることから、彼女はひどく恐怖していることが分かる。
それでも、味方の力になりたい一心で身体に鞭打って立ち上がったのである。
あからさまに恐れている者の参戦にハルは驚愕したし、
サユキは今いるこの空間に耐えきれず、地に顔を伏せてしまった。

726名無し募集中。。。:2017/07/10(月) 13:29:13
これで3…次は彼女次第か…

一人p…はするのかな?w

727 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/11(火) 13:09:27
「アーリー!嬉しい!」

同門の仲間が勇気を振り絞ってくれたことがカリンには何よりも心強かった。
アーリーが参加表明をしたので、同士の数はこれで6人になる。
残念ながらそこから手を挙げる者は現れなかったが、
勝ちたいという意志を持ったこのメンバーならやれる。カリンはそう信じていた。

「よしっ!早速みんなで飛びかかろう!」
「ちょっと待ってよ、カリン。」
「え?……トモ、どうしたの?」
「いくらなんでもね、作戦も組まずに挑んで勝てるはずがないでしょうが。」
「あっ……そっか、そうだよね。」
「今のマイミ様はやる気がない。それが幸いかどうかは置いといて、少なくとも攻め込むタイミングはこっちが決められるはずだよ。」
「うん、うん。」
「それに……多少は時間を稼いだ方が好都合だしね。」

そう言いながらトモは工具を持ちながらせっせと働くマーチャンの方をチラリと見た。
マーチャンの同僚オダ・プロジドリもコクリと頷いている。
そうして彼女ら勇気ある戦士たちは攻め方について小一時間ほど議論し、
納得いく結論が出たところでマイミの方を向きだした。

「マイミ様!準備が出来ました!今から挑戦させて貰いますね!」
「あぁ……好きにしてくれ……」

マイミの返事は相変わらず虚ろなものだった。
これから攻撃を受けるというのに、まるで危機感を感じていないように見える。
ベリーズとの戦いで義足が潰れて立つことが出来ないとはいえ、
少しも構えようとしないのは流石にプライドが傷つく。
そんなマイミに向かって、トモが矢尻を突きつける。

「すぐに慌てさせてあげますよ……アイリ様から受け取ったこの力で!!」
「!?」

トモが矢を放った瞬間、閃光がマイミの脚を目掛けて光速で迸った。
この現象は、いや、このイメージはアイリの得意とする「雷」のオーラに類似している。
本家に比べたら微かな光ではあるが、可視化可能なオーラを若手が発現出来るということが既に規格外。
今まで無気力だったマイミも、流石に驚愕することとなった。

(アイリの能力を継承したのか!?……いや、そんな馬鹿な!
 あるいは……トモは、物凄い勢いで成長している!?)

728 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/12(水) 13:08:46
「ふふっ、そういう事なのね。」

さっきまで下を向いていたアイリが、何かを理解したような表情でクスリと笑っていた。
おそらくはトモの考えていることを察したのだろう。
そんなアイリとは対照的にマイミはまだ混乱している。
ベリーズやキュートのような天変地異の如き威圧感を発するには
気が遠くなるほどの量の鍛錬をこなしたり、実践経験を豊富に積む必要がある。
少なくともオーラの原型である「断見刀剣」くらいはマスターしていないと話にならない。
では何故、トモはアイリのように雷光を飛ばすことが出来たのか?
年齢こそアイリに近いが、戦士としての経験の差は明白だったはず。
そんな彼女の成長を何が押し上げたのか?

(ベリーズとの戦い……か?)

マイミは、トモがキュート4人に加わってベリーズらと戦った時のことを思い出していた。
あの時のトモは決して足手まといになどならず、
頼れるアイリのサポートを受けて強敵ミヤビの硬い胸を突き破っていた。
その密度濃い時間が人間一人を遥かなる高みに連れていってくれたのかもしれない。

(そういうことだったのか!……若手全員が成長してくれればベリーズにもきっと対抗出来る!!)

自分の中で答えを出したマイミは、希望で胸が踊っていた。
若手戦士らの可能性を信じ、また戦ってみたいと強く思ったのだ。
この調子なら以前のようなリーダーシップを取り戻して連合軍を率いてくれたことだろう。
しかし、ここでマイミは気づいてしまった。
トモの発したように見えた光が、オーラと呼ぶにはあまりに微弱であることを。
そして、その光からはごく僅かな殺気さえも感じられなかったことを。

「……真似事か?」

マイミは真相に辿り着いた。
オーラのように見えた雷光は、実はオーラでもなんでもない。
ただの光だったのだ。
大方、光を操るのが得意なオダが、トモの射撃のタイミングに合わせて日光を反射させたのだろう。

(ガッガリだな、トモ・フェアリークォーツ。 君にはアイリのような能力は無かったワケだ。)

光はマイミの太ももを示していて、トモの矢もそれを追いかけるように同じ目的地へと向かっている。
これがアイリの電撃オーラであれば、弱点を知る眼で見破った箇所に対して攻撃を仕掛けたのだろうが、
トモにはそんな眼は存在しない。
つまり、この飛んでくる矢は弱点狙いでもなんでもない……マイミはそう考えた。

(はぁ……撃ち落とすのも面倒だ。 好きに攻撃させてやろう。)

729 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/13(木) 13:09:52
厳しい鍛錬を積んできたマイミの肉体は、極限までに鍛え抜かれている。
ゆえに防御力も常人離れしており、
ベリーズならともかく、若手の攻撃くらいはノーガードで耐えることが出来るだろう。
自身の膝に向かいつつあるトモの放った矢だって、大したことないと思っていた。
だが、その予測は見事にハズれたようだ。

(!!?……なんだこの痛みは!)

矢で太ももを貫かれたマイミは、耐え難き激痛を感じてしまっていた。
当たり前と言えば当たり前なのだが、マイミにとってはこれが一大事。
このレベルの攻撃であれば多少の痛みを感じることはあっても、悶絶するほどではなかったはず。
では何故こんなにも苦しいのか?
何らかの技術のせいか? それとも矢に毒でも塗られていたか?
その答え合せは、射撃を行なった張本人であるトモがしてくれた。

「弱点に当たったんですから、痛いに決まってるじゃないですか。」
「弱点だと?……いや、そんなはずは……」

トモの発したオーラのように見えたものは、矮小なまがい物だった。
アイリのような弱点を見抜く眼だって備わっていない。
では何故、トモはマイミの太ももが弱点だと知ることが出来たのか?
混乱し、戸惑うマイミに対してアイリが声をかける。

「相手の弱点を把握するには、なにも特別な眼を持つ必要なんてありませんよ。」
「えっ?……」
「トモは自分の頭で考えて、そして見抜いたんです。
 団長……あなたを倒すためにはどこを狙えば良いのかを。」

730名無し募集中。。。:2017/07/14(金) 00:01:31
後に『ローズクォーツの眼』と呼ばれるトモの必殺技の誕生であった…(嘘

ODATOMOのコンビネーションにはまだ何か秘密がありそう

731 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/14(金) 13:14:24
今回戦いを挑んだ勇気ある戦士たちは、挑戦前に作戦会議を開いていた。
その場でトモはこのように語っている。

「マイミ様の今の弱点は太ももだと思ってる。
 普段から義足使いだから負荷が集まりがちって理由もあるけど、
 それ以前に、あの腿の痛々しい傷を見れば分かるでしょ?
 さっきナカサキ様に聞いたんだけどさ、シミハムの強い一撃をまともに貰ったらしいよ。」
「じゃあ、狙うならそこね!」

興奮して前のめりになるカリンを宥めて、トモが言葉を続けていく。

「まぁ最終的には弱点狙いで行くけどさ、無計画に突っ込んでも通用しないと思うんだよね。
 どうにかして不意を突きたい……そこでオダ・プロジドリ、貴女に頼みがあるんだけど。」
「私ですか?」
「例えば……私が弓で射った先に光を当てることは出来る?
 それも私が自分の意思で光線を出したような感じに。」
「出来るに決まってるじゃないですか。 私はモーニング帝国で二番目に鏡を扱うのが上手いんですよ?」
「そ、そっか、じゃあヨロシク。(……二番目?)」

この時に話した通りにトモはマイミを騙すことが出来た。
ここまで二転三転して驚きを与え続けたので、ただの射撃が有効打となったのである。
しかし、ご存知の通りマイミの身体は頑丈だ。
矢が腿を貫いた程度では決して倒れたりしない。

「確かに驚いたが……この程度で私を倒せると思ったか?」
「そうは思ってませんよ。 私に出来るのはマイミ様の意識をちょびっとだけ逸らすだけ。」
「意識?いったい何を言って…………まさか!!」

この瞬間までマイミはある戦士の接近に気づいていなかった。
その戦士の名はオダ・プロジドリ。
光を相手に当てることばかりが注目されがちだが、
彼女は周囲の光の屈折を理解した上で、あたかも透明化したかのように振る舞うことが出来る。
トモのオーラを具現化するために手鏡で光を反射した後は、
すぐさま攻撃に移るべく、木立を抜ける風のように、ここまでやって来ていたのである。
しかし今のオダには戦闘に必要な要素が1つ足りていない。
そう、武器を持っていなかったのだ。

(手ぶらでここまで?……また驚かされてしまったが、剣が無いなら何も怖くはないな。
 スネを蹴っ飛ばして転んでもらおう。)

マイミの考える通り、武器が無ければオダは大した攻撃を行うことが出来ない。
エリポンのような筋力があれば肉弾戦も行けたかもしれないが、
生憎にもオダにはそんなパワーは備わっていなかった。
ではオダは何をしにここまで来たのか?
無論、剣士として相手を斬るためだ。

「オダんごーーーーーーーーーーー!!」
「ふふっ、マーチャンさん、信じてましたよ。」

オダがマイミへの攻撃を開始する直前、マーチャンが一振りの剣をぶん投げた。
その剣はオダのブロードソード「レフ」を修理したもの。
完成したてホヤホヤの剣がオダの手に収まっていく。

「行きます!!」

732 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/19(水) 13:51:57
"剣なしで戦えなければただの二流剣士"とオダは言っていたが、
それでもやっぱり剣はあるに越したことはない。
マーチャンの技術力や集中力を信頼して、
この瞬間までに武器の修理を間に合わせるだろうと踏んでいたのだ。
トモの示してくれた弱点に対して更に追い打ちをかけるために、
たった今届いたばかりの剣を振り下ろそうとする。

(剣が飛んで来ただと!?……いや、必要以上に驚くこともない。
 攻撃手段が打撃から斬撃に変わったところでやることに変わりは無いんだ。)

マイミは少し身体を起こして、右脚による蹴りを繰り出そうとした。
腿から先の義足はベリーズ戦でボロボロになってはいるが、
迫り来るオダを転ばずには十分な強度だ。
実際、マイミの鋭い蹴りならそれが可能だろう。
だがここで信じられない光景が目に入ってくる。

(……えっ?)

蹴ろうとして前に出した脚は、既に腿から切断されていたのだ。
痛みはない。出血もない。視覚以外の四感は傷つけられたことすら認識していない。
それでも確かにマイミの脚はスパッと斬り落とされている。
いったいいつ斬られたのか?それも分からない。
マイミの動体視力はかなりのものなのだが、
オダの斬撃は知覚できないほど速いということか?

(いや違う!しっかりしろ!どこも斬られていないじゃないか!!)

右手で太ももに触れることでマイミは現実に戻ることが出来た。
脚が切り落とされたというのは錯覚。
ちゃんと腿は有る。 その先の義足だってくっついている。
何故だかマイミは斬られたと勘違いさせられていたのだ。
よくよく見てみれば、そもそもオダは剣を振り切ってもいない。
だったら攻撃を受けているはずが無いだろう。
では、
それでは何故マイミは思い違いをしてしまったのか?
トモがやってみせたようにインチキのトリックでもしてみせたのか?
違う。
そんなものでは無いことをマイミは気づいていた。
だからこそマイミは急いで起き上がり、オダの胸を強く蹴っ飛ばす。

「来るなっ!!」
「うっ!……」

それなりに加減したので骨などに影響が出る事は無いだろうが、
2,3mも跳ね飛ばしてしまうのはいささか大人気なかったかもしれない。
それだけマイミは必死だったのだ。

「今のは確かに"断身刀剣"……いつの間にそんな技術を!?」

マイミが言った通り、オダは以前にチナミから受けた技術「断身刀剣(たちみとうけん)」をこの場で使用していた。
己の実力のキャパシティを超えるために、「相手を斬る」という強い思いを持って斬撃を放ち、
その思いを見事にマイミの脳へと届けたのである。
この技術を習得できたのはオダが天才だから……などと言った言葉で片付けることは出来ない。
サユに負け、チナミに負け、……それでも強者に勝ちたいと思うその執念が昇華したからこそ
実現し得たと言えるだろう。

733 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/20(木) 13:17:34
「オダのやつ、あんなこと出来たのか……」

有効打に繋がらなかったとは言え、見事に「断身刀剣」を決めたオダ・プロジドリを見たハルは歯がゆく感じていた。
後輩が1つ上のステージに上がっているというのに、自分は立ち上がりさえしていない。
何故自分にはあと少しの勇気が無いんだろう、と思うと涙がこぼれてくる。
きっと隣で苦しんでいるサユキ・サルベも同じ思いに違いない。
そんな2人とは対照的に、トモは張り切って指示を出して行く。

「ほらみんな行くよ! 私達ならまだまだマイミ様を驚かせられるはず!
 次に仕掛けるのは誰かな〜!?」

マイミはオダの断身刀剣に気を取られていたが、
気づけばKASTのカリンとアーリーが自身の周りをぐるぐると回り続けていた。
2人ともマイミから一定の距離を保っており、どちらが先に仕掛けてくるのか分からないようになっている。
トモの「驚かせられるはず」という発言から、カリンかアーリーのどちらか、
あるいは両方が派手な攻撃を繰り出してくるのでは無いかとギャラリーは予想したが、
ターゲットであるマイミはその"誘導"に引っかからなかった。

(落ち着け!落ち着け!落ち着くんだ私!
 目に見える光景に騙されるんじゃない。 しっかりと五感を働かせるんだ。
 ほら、耳をすませば聞こえてきたじゃないか。
 私の周りを回っているのはカリンとアーリーだけじゃない。
 ……リナプーだって、そこにいる!)

オダとの一件で学習したマイミは、カリンとアーリーの間に透明化したリナプーが居ることを突き止めた。
リナプーの化粧「道端タイプ」は相手の視覚に直接訴えるかけるので強力だが、
音や匂いまでは消し去ることはできない。
故に、耳の良い者なら居場所を特定できるのである。
マイミはリナプーに向かってストレートパンチをぶつけようとする。

(待てよ……この程度で私を驚かせられると思っているはずが無いよな?
 まだその先があるに違いない。
 そう言えばリナプーは犬を二匹飼っていた……そいつらはどこに行った?)

マイミはリナプーへの攻撃を取りやめて、全神経を鼻へと集中させた。
そして上方向から犬らしき匂いが飛びかかって来ていることに気づく。
何を隠そうマイミだって犬派であり、多くの犬を飼ってきたのだ。
匂いの嗅ぎ間違いなど起こり得ない。

(狙いは犬による攻撃だったという訳だな。
 タネがバレれば単純なものだ。楽に避けさせてもらおう。)

734 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/21(金) 13:13:36
マイミはリナプーの愛犬ププとクランの背格好だって把握している。
どちらも小型犬であり手足も短い。
その小ささはちょこっと離れるだけで攻撃が届かなくなるほどだ。
匂いの発せられる位置と、二匹の身体的特徴を考慮して、
マイミは絶対に攻撃の届かない安全圏へと後退した。
ほんの数歩の移動だが犬のリーチから逃れるには十分。
完全に安心しきっていたところで、
マイミの額から血が吹き出していく。

「な……!?」

リアルな痛みが感じられることから、
オダのやってみせたような断身刀剣によるイメージではないことはすぐに分かった。
マイミは確かに攻撃を受けたのだ。
思考が追いつかずフリーズしているところで、お次は右腕の二の腕から血が流れ出した。
傷跡を見るに、刃物というよりは鉤爪で引っ掛けられたように見える。
爪を武器として扱う若手戦士はこれまで1人もいなかったはず。
そんな武器をこの場で新たに受け取り、マイミに傷を負わすほどに上手く使いこなせる者が居るとは考えにくい。
居るとすれば、普段からツメを身体の一部のように扱っている者……いや、動物くらいだろうか。

(まさか……リナプーの犬は武器を着けているのか?
 リーチが伸びたのもそれが理由かっ!)

マイミの推測通り、ププとクランはマーチャンの製作した鉤爪を両の前脚に装着していた。
これは数時間前の戦いでチナミが作ってみせたものと同一。
マーチャンは製造法を覚えていて、すぐに形にしてみせたのである。
これまでのププとクランはリナプーのサポートを主に行っていたが、
これによって積極的に攻撃を仕掛けることが出来るようになった。
また、今まで以上に飼い主への注意を反らすことも可能になっている。

「そうだ!リナプーはどこに!?」

ププとクランに意識を配りすぎるあまり、マイミはリナプーを見失っていた。
この感覚はシミハムを相手取っている時のそれに似ている。
もっとも、リナプーは大技を決める際にも気配を消すなんてケチな真似はしない。
ここぞという時に大物ですら食ってしまうほどの存在感を発するのだ。

(後ろか!……いや、もう遅い!)

マイミの防衛本能が物凄い勢いで警鐘を鳴らしている。
後方から強烈な一撃が来ることにハッキリと気づいているのに、
この状況からとれる手立てはほとんど無かった。
リナプーはチナミにも決めたことのある必殺技の名称をポツリとつぶやき、マイミの背中に噛み付いていく。

「"Back Warner(後ろの警告者)"」

声こそ小さかったが、その様は狼狽えるマイミを見て爆笑しているかのようだった。

735 ◆V9ncA8v9YI:2017/07/22(土) 12:42:08
背中の筋肉に力を入れて一時的に硬化したので大事には至らなかったが、
それでもリナプーの歯はマイミの背中の肉に突き刺さっていた。
いつもは省エネなリナプーもこの時ばかりはFULL CHARGEで働いているからこそ、牙を通すことが出来たのだろう。
マイミは右腕でリナプーを追っ払おうとするも、何故か腕が動かない。
それどころか万力で締め付けられるような激痛まで感じられる。
その理由は、アーリーが腕に抱きついているからに他ならなかった。

「"Full Squeeze"!!!」

機械兵の束ですらグシャグシャに潰してしまうアーリーの抱擁が炸裂する。
骨太で屈強なマイミの腕を折ることまでは出来なかったが、
抱きしめ続けている間は腕一本の動きを封じることが出来ているようだ。
マーチャンの手が空かなかった都合上、
アーリーはトンファーを修理してもらうことが出来ず、素手での出陣となってしまったが、
このような足止めならぬ腕止めに専念すれば相手が伝説の存在だろうとパフォーマンスを落とせているのである。
しかし、マイミにはまだ左腕が残っている。

(この左でリナプー、そしてアーリーに一発ずつパンチをお見舞いして体勢を整えさせてもらおう。
 ……と、私が思っているとでも考えているのかな?
 そっちにはカリンがまだ残っているはず。 必殺技を二連続で使ってきたのだから、カリンが続かない手はない。
 ならば、この左手はカリンを迎え撃つために使わせてもらおう!!)

ここまで驚かされ続けたマイミは警戒心を強めていた。
次に来るであろうカリンを先に迎撃しようと辺りを見回すが、
不思議なことにその姿は見当たらなかった。
むしろ、カリンが居ると思っていた場所に異なる人物が立っていたのだから
マイミはまたも驚いてしまう。

(何故ここに?……サポート役では無かったのか?……)

その戦士は、両手に燃える木刀を持ちながらマイミに立ち向かってきていた。
その火炎が放つ明るさはとても目映く、
さとのあかりをもたらす、ホタルのようだった。

「マーチャンの必殺技行くよ!!"蹂躙(じゅうりん)"!!!」

736名無し募集中。。。:2017/07/22(土) 20:15:20
さとのあかりコンボきた!

737 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/07(月) 13:05:40
更新出来てなくてごめんなさい。
腰を据えて続きをかけるのは今週末になりそうです。
今日から5日間は本編以下オマケ以上の番外編を書こうと思います。


番外編1「モモち先輩の後輩探し旅〜アンジュ王国編〜」

ベリーズ戦士団でもあり、カントリーガールズでもあるモモコは、
カントリーのメンバーを補強するために各地を歩き回っていた。
特に狙い目なのは近年優秀な若手を多く輩出しているアンジュ王国と果実の国だ。
将来有望なホープを、自国の軍に加入する前に奪い取ってやろうと目論んでいるのである。
そんなモモコは、アンジュ王国のピザ屋で腹ごしらえをしている真っ最中だった。

「さすが趣味大国アンジュ王国……料理の技術も進んでるわね。
 小さなお店が出してるピザがこんなにBuono!だなんて予想外だったわ……
 ただ、店員さんがみんなチンチクリンなのは気になるけど。」

自分のことを棚に上げてモモコは店員批判を始めた。
アンジュ王国の若者はスタイルがとても良い子と、そうでもない子に分かれがちであり、
たまたまモモコの近くにいた店員2名が後者寄りのスタイルだったという訳である。

「あぁん!?なんやと!disってくれるやないか!」

小学生のような見た目をした店員がモモコを睨みつけながらこっちにやって来た。
この店員、可愛らしい顔をしているというのに非常にガラが悪い。
同じ地方の方言でも、カナナンの言葉遣いとは大違いだ。

「あら怒っちゃった?ごめんなさいね。私、嘘がつけなくて」
「カッチーンときた。もうあかんわ、キレたわ。本気見せたる……今すぐこの店から追い出したるわ!!!」
「ふーん、やってみたら?」

はじめのうちは、モモコも余裕を保っていた。
食卓の騎士である自分がこんな小娘に負けるワケが無いと思っていたからだ。
だが、チビ店員が緑色のカゴを取り出してからはモモコの表情が曇り出す。
そして、そのカゴから"武器"を取り出した時にはモモコの顔は恐怖に染まりきっていた。

(まさかこの子の武器は!……ヤバい、この子、リサちゃんのカエルよりタチが悪い!!)
「ハハッ!ビビっとるなぁ!店中ミンミン五月蝿くしておられへんようにしたるわぁ!!」

奴らが解放されたらもうモモコには打つ手がなくなる。
となれば多少大人気ないが全力の武装で阻止するべきか。
そう思っていたところにもう1人の店員が現れ、ガラの悪い店員の頭をポカリと殴り出した。

「痛っ!……なんや、カミコか。」
「フナッキ、今なにしようとしてたの?」
「えっと、その、ムカつく客がおったからな、ちょっと懲らしめようと」
「お客様でしょ」
「はい、お客様です。ムカつくお客様を懲らしめようと……」
「それ、店に開放するつもりだったの?……」
「あ……いや……」
「ふーんそうなんだ。フナッキも"舎弟"にしてもらうように"番長"さん達に口利きするつもりだったけど、
 店をメチャクチャにするんだったらもう知らない。」
「えぇ〜!そんな〜!」

なんだか分からないが、助けられたという事をモモコは理解した。
そして話ぶりから察するに、カミコというチンチクリン店員がアンジュ王国の番長候補である"舎弟"であり、
フナッキというチンチクリン店員は"舎弟"を目指すフリーの戦士だということも分かった。
ならば、スカウトせざるを得ない。

「あなたフナッキって言うのね。 ちょっとだけ話をしない?」
「はぁ!せやからアンタはいったい誰やねん!お前のせいでカミコに怒られたやんか!」
「私?私はね、フナッキちゃんの未来の上司ってとこかな。」
「はぁ〜?」

738名無し募集中。。。:2017/08/08(火) 06:35:25
ピザーラお届けきた!w

739 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/08(火) 13:37:23
番外編2「モモち先輩の後輩探し旅〜果実の国編〜」

まずは3名による目撃情報をお聞きいただこう。

証言者その1、モーニング帝国元帝王サユ
「とても可愛い子が果実の国にいたの!お人形さんとかプレゼントしたらついてきてくれるかな?」

証言者その2、プラチナ剣士レイニャの後輩マリン
「あれは女神?それとも妖精?……失礼、取り乱しました。私が見たのはただの大天使でした。」

証言者その3、果実の国の王ユカニャ
「可愛い!!可愛すぎるっ!!デコ出しも良いけど前髪を作ってあげたいっ!あ〜〜〜KASTに入ってくれないかなぁ」

これらの証言を聞いたモモコは内心穏やかではなかった。
自分はかなり可愛いはずなのに、サユもマリンもユカニャもその子ばかり可愛がる。
そんなのがモモコにとって面白いわけがないのだ。
だからモモコは単身、果実の国へと向かった。
その可愛い子に差を見せつけてやろうと思っている。

「ねぇねぇそこのあなた。この辺で可愛い子を見なかった?」
「可愛い子ですか?……」

聞き込みをするためにモモコはその辺にいたオデコの広い子に声をかけた。
見た目はとても幼く見える。 この前出会ったフナッキと同じくらいだろうか?
その少女は最初はビックリしたような顔をしていたが、すぐに回答をする。

「はい!可愛い人はすぐ近くにいます。」
「へ?どこどこ」
「私の目の前です! モモコ様が一番可愛いですよっ!」
「まぁ〜〜〜〜!よく分かってるじゃないの!」

突然褒められたのでモモコは思いっきり照れてしまった。
だが、同時に違和感も覚えていた。

「って……あなた、私のことを知ってるの?」
「当然です!ずっと尊敬してましたので!」
「なるほど、ということはあなた、戦士なのね?」
「ご名答です! 特定の団体には未所属ですが個人的に研鑽を続けていました。
 モモコ様のことをは数々の文献でお目掛けしていたのです。あこがげ、あこがげ…………憧憬を感じています!!」
「(あこがげ?)うふふ、見る目あるじゃない。」
「そこで大変申し訳なく存じますが、お手合わせをお願い出来ないでしょうか?」
「手合わせ?まぁちょっとくらいなら良いよ。 ファンサービスしなきゃね。」
「感謝いたします!私はこの6つのボーグを武器にして挑みます!」
(ボーグ?防具?……防具のようには見えないけど……)

オデコ少女は手のひらほどの大きさの球体を右手で握っていた。
これはカプセルと言うのが正しいのだろうか。 中に何かが入っているように思える。
腰にも5つのカプセルをセットしており、何をしてくるのか全く読めない。
それに少女は挑むと言ったものの、自分からは攻撃を仕掛けずに静止し続けていた。
そこでモモコは勘付く。

「ふーん……カウンター狙いってとこね。」
「!!」
「私が迂闊に手を出したら正体不明の攻撃で"逆に"やられていた……そうでしょ?」
「はい……返す言葉もございません……」

いくらカウンターに自信があるとは言え、自分からアクションを起こさない相手は恐るるにたらない。
この少女は待ちに特化した戦法を取るあまり、能動的に戦うことが出来ないのだ。
モモコが何もしないだけで困り顔になったのがその証拠だろう。
だが、モモコは負けていないが勝っていないのも事実。
それに6つのカプセルに何が入っているのかも、とても気になる。
少なくともモモコのような大物でさえ喰らう自信があるほどの脅威がそこには詰まっていたはずなのだ。

「……マイちゃんのような直情型ならすぐに返り討ちにあってたんだろうなぁ……」
「マイちゃん?どちら様ですか?」
「ねぇ、貴方さえ良ければカントリーガールズに入らない? もっと強くしてあげられると思うんだけど。」
「か、カントギー?……」
(ふふっ、結局可愛い子は見つからなかったけど、収穫はあったようね。)

740 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/09(水) 13:00:38
番外編3「モモち先輩の後輩探し旅〜モーニング帝国編〜」

スカウト旅から帰ってきたモモコは、早速カントリーのメンバーに成果を話していた。

「というわけで秋頃から果実の国出身のヤナミンちゃんが仲間に入るから。」
「「「「えー!?」」」」
「それとあともう1人」
「ヨォー!まだだー!まだいるー!」
「アンジュ王国出身のフナッキちゃんも来るから仲良くしてあげてね。」

突然のサプライズに現メンバーの4名はびっくり仰天だ。
普段はおとなしいチサキも変なポーズと動きで驚きを表現している。
モモコを除けば最年長のリサだって、まだ事態を把握できていないような表情だ。

「フラッと外出したと思えばそんな事をしてたとは……
 たった数日で二カ国を回って、スカウトを成功させちゃうなんて流石ですね……」
「いや、二カ国じゃなくて三ヶ国。モーニング帝国にも行ったのよ。」
「あれ?そうだったんですか?」
「でもフリーで将来有望な子にはなかなか会えなくてね……」

モモコでも難しいことがあるんだなと一同が思ったところで、
少し冷静さを取り戻したチサキが話に入ってきた。

「それはそうですよ。モーニング帝国の優秀な子はみんな研修生になっちゃいますから。」
「そうなの?チサキちゃん詳しいのね。」
「はい。だからフリーの人は私みたいな役立たずしか残っていないと思ってます……
 いや、それでも私なんかよりは強そうでしたけど……」
「……んん?」

ここでモモコは違和感を覚えた。
何故チサキはこうも知ったような口をきくのか?
それは、つまり。

「チサキちゃん、モーニング帝国の出身だったの?」
「あれ……言ってなかったですか?」

チサキのカミングアウトに、モモコを含めたカントリー全員が驚いた。
これまでずっとマーサー王国出身だと思っていたが、
実はモーニング帝国剣士らと同じ地で生まれ育っていたのだ。

「いやいやいやチサキちゃん、だったらなんで帝国の研修生にならなかったの?」
「モモち先輩ひどい!私の実力でなれるワケないじゃないですか!」
「あー……んー……」

チサキの自信のなさと卑屈さはいつか矯正せねばならないと思いながらも、
モモコは今後のための質問を追加していく。

「ちなみにチサキちゃん、剣とか握った事ある?」
「無いですよぉ……」
「んー……そうよねぇ」
「いったいなんでそんな事聞くんですか?」
「いや、そのね、将来的に面白いことができそうだなって思って。」
「な、なんだか嫌な予感がするんですけど……」

741 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/10(木) 13:04:48
番外編4「舎弟たちの日常」

アンジュ王国には番長制度と舎弟制度が存在する。
7人の番長は戦闘能力が高いだけでなく、国を動かすための重要な業務をそれぞれ司っており、
例えば勉強番長カナナンは教育を、運動番長タケはスポーツを、音楽番長ムロタンは興行を盛り上げるために忙しく働いていた。
そんな番長になるべく日夜奮闘しているのが、番長候補である舎弟だ。
素質を認められた彼女らはいつか番長になる日を夢見て訓練に励んでいる。
とは言え研修生扱いなのでお給料の方はやや心もとない。
単身で都にやってきて一人暮らしをしている舎弟カミコは、アルバイト終わりに城の訓練場に通うのが常だった。

「こんばんはー誰かいます?」
「おおっ、カミコさんお疲れ様です。」
「カッサーだけか。お疲れ。」

今現在、舎弟として認められているのは
黒髪長髪の美しい小柄な少女カミコと、
若干12歳とは思えぬ程に(見た目は)大人っぽいカッサーの2名だ。
舎弟認定がちょびっとだけ早かったので、カッサーはカミコを先輩として敬っている。

「カミコさん、あの、その……」
「お土産が欲しいんでしょ?はい、ピザ持ってきてるよ。」
「うおおおおお!よっしゃああああ!」
「ふふ、そんなに嬉しい? じゃあ私も先にご飯にしようかな。」

カミコは少食だが、育ち盛りのカッサーは人よりよく食べる。
少人数ではあるがテーブルにピザを広げて、訓練前の腹ごしらえとすることにした。
食事中の話題は、自分たちの将来についてだ。

「カミコさん、カミコさんは何番長になりたいとおもってますか?」

番長は自身の役割にあった役職名を与えられている。
勉強番長、運動番長、文化番長、帰宅番長、音楽番長、給食番長、理科番長という名は唯一無二のものであり、
その分野に秀でたものしか獲得することはできない。

「カッサーは気が早いよ。私たち、本当に番長になれるか分からないんだよ? それに役職名だって選べるわけじゃないよね。」
「私は自転車番長か深海魚番長のどっちかで悩んでるんですよ!どっちが良いですかね!?」
「って、聞いてないし……」
「で、カミコさんは何か決めてますか?」
「私?私は……別に何もないよ。正直言ってやりたいことも無いし……」

カミコは目の前のカッサーを、そして先輩の番長らを羨ましく思っていた。
時には(というかいつも)騒々しくて面倒な人たちではあるが、
自分の好きなことに向かう時の集中力は凄まじいものがある。
あんな風に何かに一途になれたら……カミコはそう思っていた。

「私はですね!カミコさんは美術番長が似合うなって思ってるんですよ!」
「び、美術?……」
「はい!」
「ちょっと待ってよ、私は絵も上手くないし、芸術にだってそんなに興味がある訳じゃない。
 第一、美術番長になるなんて言ったらアヤチョ王になんて言われるか」
「似合ってると思いますよ。」
「だから何が!」
「カミコさんをモデルにしたら、良い絵が描けると思いましたもん。」
「えっ……」

モデル、という単語にカミコはドキリとした。
まったく興味が無いと言えば嘘になる。

「で、でも、絵画のモデルならリカコさんのほうがずっと美人だし、スラッとしてるし、ていうか既にやってるし」
「そうですねーリカコさん美しいですもんね。」
「もうっ、からかわないで。」
「でもカミコさんの絵を見たい人、たくさん居ると思いますよ。 雑誌の表紙になったら盛り上がりそうですね。」
「もういいってば、」
「雑誌の名前はどうしましょうか。MODEはカッコよくないですか?」
「ほらビザ冷めちゃうよ!」

この時カミコがどのような感情を持っていたかどうかは定かでは無いが、
数ヶ月後、アンジュ王国には「美術番長」という役職が新たに追加されたという。

742 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/11(金) 15:02:46
番外編5「モーニング帝国研修生の日常」

昨日加入したばかりの新人研修生、ヨコヤンの表情はひどく強張っていた。
モーニング帝国の研修生が日々厳しい訓練を積んでいるのは理解していたし、
新人でも容赦無く実戦形式の組み手に放り込まれることだって覚悟していた。
ただ、初回の相手が研修生最強と知られる存在になることだけは想定外だったのだ。

「よ、よ、よろしくお願いします!」
「ふふふ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。」
「カエディーさん……」

その人、カエディーは小柄なヨコヤンよりずっと背が高いので、実年齢よりも年が離れているように見える。
面構えだって歴戦をくぐり抜けた戦士に匹敵するほどに凛々しい。
先日、帝国剣士に選ばれたマリアと対等に渡り合ったという噂があるのだが、
それも真実に違いないと、ヨコヤンは心で理解していた。

「こ、これからカエディーさんと戦うと思うと緊張しちゃって……」
「良い心構えだね。」
「えっ?……」
「組み手をただの練習ではなく真剣勝負だとみなしている……だから緊張してるんでしょ?
 そういう思いで訓練に臨むヨコヤンは必ず伸びる。 私が保証するよ。」
「そんな大層なものじゃないですよぉ……」

大ベテランのカエディーと新人ヨコヤンの実力差が大きい事は、誰が見ても明らか。
これだけ差があるとちょっとした判断ミスで大怪我を負ってしまうかもしれない。
どちらかと言えば、そういう意味でヨコヤンは緊張していたのだ。
生き死にをかけた真剣勝負をする気で挑む……という点では確かにカエディーの考えた通りであるが、
意識レベルには大きな差があった。

(とにかく全力で挑まなきゃカエディーさんに叩き潰されちゃう!
 いくら模擬刀を使うと言っても当たれば痛いし…………あれ?)

ここでヨコヤンはおかしなことに気づいた。
帝国剣士を目指す者たちの組み手なのだから、片手あるいは両手で模擬刀を握るのが普通なのに、
カエディーの手には刀が握られていなかったのだ。
完全に手ぶらでヨコヤンの前にやってきている。

「あの、カエディーさん、剣は……」
「ん?……あぁ、気にしないでくれ。私はこれで良いんだ。」
「あ、ハンデってことですか?」
「違うよ。決してヨコヤンを低く見ているわけじゃない。
 これが私のスタイル。最も力を発揮できる戦い方なんだよ。」
「???」

剣士を志す者が剣を持たないなんて、ヨコヤンには全く意味が分からなかった。
とは言え、組み手に臨むカエディーの瞳は真剣そのもの。
おそらくは徒手空拳によって剣より速いスピードで攻撃してくるのだろうと予測したヨコヤンは、
剣一本分のリーチを有効に生かそうと、付かず離れずの距離で戦うことに決めた。

「さぁヨコヤン、そろそろ始めようか!」
「先手必勝です!てーーい!」

ジャズダンスという舞踏術を幼少から学んでいたヨコヤンは、
独特のリズムでカエディーとの距離を詰め、相手の拳がこちらに届かないギリギリのところで剣を振った。
この攻撃方法なら、決定打を与える事は出来なくても、リスク無しで一方的に相手を削ることが可能。
そう思っていたところで、不思議なことが起こった。

(私の剣が消えた!?)

一瞬、たったの一瞬でヨコヤンの握っていた模擬刀がどこかに消え去ってしまった。
それだけでも混乱するには十分だと言うのに、
お次は正体不明の重く鋭い攻撃がヨコヤンの背中に打ち込まれていく。
この痛みは模擬刀による斬撃のようにしか思えないのだが、
相対するカエディーは模擬刀どころか武器そのものを持っていなかったはず。
最初から最後まで何が何だか全く分からぬまま、ヨコヤンは痛みに耐えきれずその場に倒れてしまった。

「あうっ……やっなりカエディーさんは強いですね……」
「ヨコヤンも最初の一撃はなかなか良かったよ。力が入ってた。」
「でもカエディーさんには通用しませんでした……」
「ねぇヨコヤン。私たちは年もそんなに離れていないんだから呼び捨てでも構わないんだよ。
 呼び捨てが嫌ならアダ名とかでも良い。」
「無理です! カエディーさんをアダ名で呼ぶとか絶対無理ですからっ!」

743 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/12(土) 20:09:09
アリアケでの橋の上の戦いが終わった後、マーチャンは偶然にも尊敬する先輩に出会っていた。
そして、その場で間髪入れずに決闘を申し込んだのだ。
そんな礼儀知らずな提案に乗る人物などそう居るはずがないのだが、
帝国剣士を引退してもなお好戦的な性格の変わらぬ"悪ノ娘"は「ええよ!」の一言で受け入れた。
そして、そのままマーチャンをコテンパンに叩きのめしたのだった、
2人の実力は、以前にオダがサユに挑んだ時と同じくらい離れていると言っても良いので、
この展開は当然なのかもしれない。
それでもマーチャンは何回も何回も挑み続けたのだが、結局一勝もできなかった。
だがその代わり、大きな収穫を得ることが出来たらしい。

「そりゃーーーー!!」

刀身まるごと燃えてる木刀を二振り構えて、マーチャンはマイミの脚に飛びかかった。
狙いはトモの示してくれた弱点である太ももだ。
そこに必殺技である「蹂躙(じゅうりん)」をぶち込もうとしているのだろう。
しかし、マイミだってそれを黙って見過ごすわけにはいかない。
相手がカリンではなくてマーチャンだったというのは想定外だったが、
フリーになっている左手で迎撃するという対処法に変わりはないのだ。
しかし、阻止しようと左手を伸ばした瞬間に、
マイミの腕に無数の小さな穴が空き、そこから多量の血液が流れはじめる。

(何っ……これはいったい!?)

これは必殺技「早送りスタート」で高速移動化したカリンによる仕業だ。
マーチャンのサポートをするために、邪魔になるマイミの腕に針で穴をあけて一時的に無力化したのである。
一撃一撃の威力は大したことないがこうも連続でやられたら腕は痺れるどころでは済まない。
こんな状態になった左手ではマーチャンの必殺技を防げそうにない。
右手は依然変わらずアーリーにがっちりとホールドされている。
こうなってしまえば迫りくるマーチャンを止めるのは無理か?
いや、そんな事はない。

「まだ脚が残っている!!」

シミハムにやられてガタガタになってはいるが、金属製の義足はしっかりとついている。
この脚でさっきオダを退けたようにマーチャンを蹴っ飛ばしてやればいい、マイミはそう考えたのだ。
ところが、そこに落とし穴があった。
オダに対してうまくいったからと言って、その迎撃法をそっくりそのまま繰り返してはいけなかったのである。

「その蹴り、もう覚えてますよ。」
「!」

マーチャン・エコーチームは一度見た攻撃は全て覚えてしまう。
そしてそれは自分自身だけではなく、他者に対しての攻撃も同様に記憶するのだ。
マイミの蹴りを軽々と掻い潜り、マーチャンは太ももへと燃える木刀を下ろしていく。

744 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/13(日) 22:48:30
マーチャンが覚えたのはマイミの蹴りだけじゃない。
彼女はチナミと若手戦士らの戦いをずっとずっと見続けてきた。
あの時チナミが見せつけたのは武器を修理する技術のみではなく
己のキャパシティ限界を超える技術も示していたのだ。
マーチャンがそれをやってのけることを、同期のハルは予感していた。

「マーチャンやるのか……"断身刀剣"を……!!」

まだマーチャンの木刀は敵の脚に届いていないというのに
マイミの瞳には、金属で出来た義足が強く凹まされて、赤く熱を持つイメージが映っていた。
これはマーチャンが自身の殺気を木刀に乗せて、マイミへと一早く届けたということ。
伝説の戦士に対抗しうる術である断身刀剣を、
モーニング帝国剣士はオダ・プロジドリだけでなく、マーチャンも習得していたのだ。
しかし、現段階の彼女らのそれはまだ未熟であるのも事実。
殺気を飛ばして相手の脳に直接伝えるということまでは出来ているが、
伝搬できているのはあくまでイメージのみ。痛くも痒くもない。
ゆえに次の行動を事前告知してやっているのに過ぎないのである。
だが、その後に来る必殺技を絶対に回避できないのであれば話は変わってくる。
マイミの右腕はアーリーに掴まれているし、右足は蹴りを空振ったばかりで自由が利かない。
自身が苦しむことが確定している必殺技「蹂躙(じゅうりん)」を待つのは恐怖でしかなかった。

「うおりゃああああああああああああああ!!」

マーチャンの蹂躙(じゅうりん)は何も特殊なことをするわけではない。
攻撃したい箇所に向かって燃える木刀を叩きつける。それを二刀流でひたすら繰り返す、それだけの技である。
ただ、その間は何があっても非情に徹すること……それだけがポイントだ。

「きぃえええええええええええええ!!!!」
「ぐっ……」

木刀の持つ高熱はマイミの金属製の義足へと伝わっていく。
痛みに強い伝説の戦士も耐えうる熱には限界があるのか、マイミは苦悶の表情を浮かべていた。
だが、マーチャンはそれでも攻めの手を止めたりしない。
愛する後輩マーチャンの背中に強烈な火傷を負わせたレイニャがやったのと同じように、
相手が倒れるまでは、木刀の乱打を決して中断するつもりは無いのである。

745名無し募集中。。。:2017/08/14(月) 14:42:36
マイミはこれからマツーラの二の舞となるのかそれとも…

746 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/16(水) 07:16:40
この苦痛から逃れるために、マイミの身体は勝手に動き出した。
必殺技「Full Squeeze!」によって抱え込まれている右腕をアーリーごと動かして、
木刀の連撃だけに集中しているマーチャンにぶつけてやったのだ。
アーリーはそれなりに身長がある方だし、胸囲だってKASTの中では圧倒的TOPと言われているので
決して軽いという訳ではないのだが、
文字通り火事場の馬鹿力を発揮したマイミにとってはその重さは無いも同然だった。
勢いよく衝突したためアーリーはあまりのショックにマイミの右腕を放してしまうし、
ぶつけられたマーチャンごとそのまま吹っ飛ばされることになる。

(……!!)

思いがけない出来事にリナプーは取り乱し、マイミを噛む顎の力を少しばかり緩めてしまった。
そのほんのちょっとの弱体化が命取り。
マイミは上体を前に倒してリナプーの牙から放れたかと思えば、
頭を素早く後ろに振って、後頭部をリナプーの顔面にバチンとぶつけだした。
勿論これをただの頭突きと思ってはいけない。リナプーからしてみれば岩石が降ってきた程のインパクトのはず。
ゆえにしばらくはうずくまる事しか出来なくなってしまう。

「ひとまずは窮地を脱したか……次はトモ、お前だな。」

マイミにキッと睨まれたトモは全身がビリビリと痺れるのを感じた。
それでも、ここで怯えた顔を見せてはいけないとトモは強く思っていた。
マイミを倒すための策はまだ尽きていないのだ。
その証拠に、闘志を絶やさぬ戦士がマイミの前に立ちはだかっている。

「トモは私たちのリーダーなんです、一兵士の私が立っている限り、リーダーの首は狙わせません。」

何がリーダーだと、トモは心の中でクスッと笑った。
そういうお前の方が自分たちを導いた先導者(リーダー)じゃないかと思っているのだ。
絶望に打ちひしがれていた若手戦士達の真のリーダーであるカリンは、両手に釵を構えてマイミの行く手を阻まんとした。

「なるほど。カリン、君が私を止めると言うんだな。」
「そうです。」
「それは良いが……超スピードの反動か?立っているだけで辛そうじゃないか。
 そんな身体でどうやって私を止めようというんだ。」

マイミの言う通り、カリンは全身小刻みにプルプルと震えていた。
つい先ほどまでマーチャンをサポートするために必殺技「早送りスタート」で高速化していたため、
その反動が一気に返ってきて思うように動けなくなってしまっているのだ。
この現象はチナミと戦う時にも起こっていた。要するに、連続して超スピードの動きを実現することは不可能なのである。
そして、そのことはカリンも十分に理解している。

「私がもう一度"早送りスタート"を使うには、身体をしっかりと休めないといけません。」
「ああ、そこで休んでいればいい。休み時間は10分か?1時間か?1日でもいいぞ。」
「いえ、5秒あれば十分です……マーチャン!お願い!!」
「なんだと……?」

休息に必要な時間が5秒と短いのがまず意外だったし、
急にマーチャンを呼びつけたこともよく分からない。
それに、気絶させるつもりでアーリーをぶつけたマーチャンの意識がある理由だって明確ではない。
マイミがそうして混乱しているうちに、カリンによる反撃のシナリオは進んでいく。

747 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/17(木) 03:51:42

「カリン!」

名前を呼ばれたマーチャンはすぐに起き上がって、カリンの方へと走っていった。
強烈な一撃をもらったマーチャンがどうして元気でいられたのか?
それは、以前にマーチャンはその攻撃を"覚えた"ことがあったからだ。
モーニング帝国の次期帝王を決めるためにQ期と天気組が訓練場で戦った時のことを思い出してほしい。
その時にフク・アパトゥーマは必殺技「Killer N」をハルにぶつけて、
近くにいるマーチャンとアユミンを巻き込み、まるごと一掃していたが、
その時にマーチャンは「味方が横から衝突してくる」という経験をしていたのである。
一度体験したことならマーチャンは覚えることが出来るし、二度目からは対応してしまう。
マイミのパワーからなる攻撃だったので完全な無傷とはいかなかったが、
カリンの要望に応えることくらいならまだまだ十分可能なのだ。

「マーチャン、アレは持ってる?」
「もちろんだよ、ほら。」

マーチャンはポケットから毛のように細い針を20本ほど取り出した。
これはマイミに決闘を挑むずっと前にカリンがマーチャンにオーダーしていた新兵器だ。
マイミにはその用途が全く分からなかったが、
チナミの行動を余すことなく見ていたマーチャンには手に取るように分かる。
この針はカリンを刺すためにあるのだ。
マーチャンはカリンの腕、腰、脚に容赦なくぶっ刺していく。

「そりゃそりゃそりゃ〜〜!!」
「あ〜〜〜っ!!!」

その行為は傍からは仲間割れにしか見えない。
だが、これも立派な治療なのだ。針治療のおかげでカリンの身体はみるみる回復していく。
もちろん針治療はそんな即効性のある治療法では無いのだが、
カリンは現にチナミが針治療ですぐに回復したのを目撃しているため、そういうものだと思い込んでいる。
この思い込みが非常に有効に働き、少なくとももう一度だけ必殺技を発動することを許してくれたのだ。

(私には知識が無い……だから今はマーチャンに頼ってるけど、いずれは自力で治療できるようになってみせるね。
 でも、そのためには目の前のマイミ様を倒さなきゃ……)
「私の必殺技、"早送りスタート"で!!」

さっきまでガチガチに固まっていたカリンは、約束通りの5秒のインタバールで回復してみせた。
時計がチクタク進むようにカリンの動きは超速化していく。
その速さはもはやマイミの目でも追えぬ程となり、一切知覚されることなく背後へと回り込むことを可能にする。

748 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/18(金) 05:32:22
カリンの狙いはマイミの弱点だ。
とは言っても最初にトモが見抜いた弱点である太ももでは無い。
リナプーが噛みついた背中が新たに発生した弱点だと、カリンはみなしたのである。
噛み跡に対してカリンは釵を突き刺していく。

「っ!!!」

傷口に針を押し込まれたため、マイミは当然の如く激痛を感じた。
だがこれでは痛みと共に、カリンが背後にいることまで伝える形となっている。
その情報を頼りに、マイミは反射的に両手で自身の後方をぶん殴ったのだが、
カリンは既にそこには存在せず、二つの拳は空を切るだけだった。
ではどこに行ったのかと言うと
もう一方の弱点の太ももにダメージを与えるために、大胆にもマイミの正面に瞬間移動していたのだ。

(確信した!マイミ様は早送りになった私を追えていない!)

カリンの必殺技「早送りスタート」は速すぎるため、受け手側はガードしようにも間に合わない。
つまりカリンはノーガードの相手に対して好き勝手に攻撃することが出来るのである。
今回もこうしてマイミの太ももを一発、二発、三発と蹴っ飛ばしている。
ただでさえ傷んでいたところにトモの矢とマーチャンの熱を受けて、更に蹴りを入れられるのは辛いだろう。
流石のマイミも絶叫してしまう。

「うああああっ!」
(マイミ様、ごめんなさい……でも時間ギリギリまで攻めの手を緩めるつもりはありません!!)

反撃が来るよりも速く、カリンはまたもマイミの背後に回りこんだ。
ここでまたリナプーの噛み跡を狙う線もあったが、カリンはそうしなかった。
狙いが分かりやすすぎると先読みされて反撃を受ける可能性があるので、
ピョンと跳びあがり、マイミの後頭部に蹴りを入れる選択肢を選んだのだ。
もちろんこの攻撃に対するガードも無く、見事にクリーンヒットする。

(行ける!この調子で繰り返せばマイミ様に勝てる!)

カリンは勝ちを確信した。
そして次の行動にすぐさま移るためにひとまず地面に着地しようとしたのだが、
ここでカリンの身体に異変が起きる。
地に足をつくと同時に、全身の骨が砕けるような激痛が襲ってきたのだ。

(!?……この痛みはなに!?)

カリンは興奮状態になると無痛状態になるということは以前に説明したかもしれない。
脳内でアドレナリンが分泌されることでサイボーグのように痛みを感じにくくなるのである。
しかし、そんなカリンでも痛みを感じる例外のケースが存在する。
身体を無理に酷使した反動が返ってきた時の苦しみは、いくら軽減しようにも和らがないのだ。

「どうやら時間切れのようだな……」
「えっ!?」

マイミに指摘されたカリンはひどく狼狽した。
確かにこの症状は"早送りスタート"による高速化が切れた時と同じだ。
全身が痛いし、それに身体が少しも動かなくなる。
ただし、それは超スピードを数分は維持し続けた場合の話だ。
今は時間にして30秒も高速化していないはず……なのに反動が返ってきたことにカリンは戸惑っている。
だが、考えてみればそれは当然のことなのだ。
カリンは自分の身体のことをちゃんと理解していないので、針治療で回復すれば繰り返しいくらでも速くなれると誤解しているが、
身体は酷使すればするだけ、それにあった休養をしっかりととらねばならないのである。
針治療によって一時的に身体を騙していたがそれも長くは続かなかったというわけだ。

「マーチャン!もう一度私に針を刺して!」
「ダメだよ……だって針はもう、無いんだもん。」
「そんな……!」

749 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/19(土) 05:33:44

もはやカリンには打つ手はない。誰の目にもそのように見えた。
だが若手軍にはこれまで何度も煮え湯を飲まされてきたので、マイミはこの局面で油断することはしなかった。
目にも見えないほどの拳速でカリン、そしてマーチャンの鳩尾を強打したのだ。
いくらカリンが超スピードで動けたとしても至近距離からの速攻は避けられないし、
攻撃自体が見えなければマーチャンも対応することが出来ない。
結果的にカリンとマーチャンは簡単に気を失い、倒れてしまった。

「残るは今度こそあと一人……トモを倒せばすべてお終いだな……」

マイミは遠くで弓を構えるトモの方を向き、フラつきながらもそちらへと歩いていった。
来させまいとトモも矢を二、三発放ったが全て右腕で跳ねのけられてしまう。
予測不能な攻撃には不覚をとることも多かったマイミだが、来ると分かっている攻撃は怖くない。
このまま全弾防ぎきってトモの元へと到達するつもりなのだ。
トモも矢を打ちながら「この攻撃は無駄なんじゃないか?」と思うこともあったが、決して攻撃を止めたりはしなかった。
ここで諦めたらNEXTに繋がらないことをよく分かっているのである。
そんなトモの心拍数がひどく上がっていることに対して、アイリが心配していた。

(とても辛そう……そうだよね、本当は逃げ出したいくらい怖いんだよね。
 だってウチのマイミは化け物にも程が有るんだもん。我が団長ながら本当に呆れるよ。)

アイリも若い頃に強大すぎる存在を相手にしたことがあるので、トモが恐怖する気持ちは十分わかっていた。
そして同時にここで退いては何にもならなくなると強く感じていることも、読み取っていた。
立場上、手助けをしてやれないことに多少歯がゆく感じながらも、
トモが諦めずに矢を放ち続ける限りは大丈夫だと確信している。

(きっと気づいているよね? ウチの団長は数を数えられていないってことに。
 マイミはあと一人、トモだけ倒せば良いって思っている……そんなはずがないのにね。)

マイミは既にトモの襟首を掴んでいた。
嘘みたいな話だが、本当に矢を全部弾いてここまで来てしまったのだ。
そしてカリンやマーチャンにしてみせたように、トモの腹に強烈なパンチをお見舞いする。
ここまでノーダメージでやり過ごしてきたが、マイミの一撃はそんな事もお構いなしにトモの意識を断っていく。
地面にドサッと倒れたことから全てが終わったとマイミは考えていた。
しかし、そうはいかなかった。
アイリの予測通り、そしてトモやカリンら勇気ある戦士達が期待していた通りに、
悔しさをパワーにした者が新たに立ち上がったのだ。

「ハル!!いくよ!!!」
「おう!サユキ!!」

その戦士の名はサユキ・サルベとハル・チェ・ドゥー。
2人ともさっきまで恐怖に押し潰されそうになっていたし、現に涙で顔がグチャグチャになっているのだが、
いつも側で戦ってきた同志たちの勇敢な姿を見て、心を強く揺さぶられて、立ち上がることを決めたのだ。
そして不思議なことに、
チナミ戦で破壊されたはずの武器が、サユキとハルの手には綺麗な状態になって握られていた。

750 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 14:32:55
実は今、こぶしの音霊目的で三浦海岸に来てます。
海でメンバーが遊ぶ姿を見れたので既に満足しちゃってますが、
夜のライブも楽しみにしてます。

携帯の充電が待てば、開演前or終演後に続きを書きたいと思います。

751名無し募集中。。。:2017/08/22(火) 15:04:37
>>750
こぶしが海で遊ぶ姿。。。はまちゃんのはまちゃんやあやぱんのあやぱんが見れたなんて…なんて羨ましい!w

楽しんできて下さい♪

752 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 17:41:03
KASTのトモとカリン、そしてアーリーはサユキが立ち上がってくれることを信じていた。
伝説の存在に恐怖したとしても、最後まで俯いたままでいるヤツでは決してない。
そう確信していたからこそマーチャンにサユキの武器の修理を依頼していたのだ。
おかげでトンファーを治すことが出来ず、アーリーは素手での参戦となってしまったが、
その代わりにこうしてサユキがヌンチャクを力強く握れたのだから、安い代償だ。
そして、KASTから依頼を受けたマーチャンは、ハルの竹刀も直さねばならないとすぐに思った。
帝国剣士にはサヤシやカノンなど他にも仲間は多くいるが、
マーチャンはとにかくハルに戦って欲しかったのである。
幸いにも竹刀の修理には時間がかからなかったため、マイミに挑む前に問題なく2つの武器をピカピカに完成させることが出来た。
そしてその武器をサユキとハルに渡したのは、高速化状態にあったカリンだ。
マーチャンが必殺技「蹂躙(じゅうりん)」でマイミを叩いているうちに武器置き場へとダッシュし、
味方の活躍に心を激しく揺さぶられているサユキとハルの前に置いたのである。
長年連れ添って来た同志が強大な存在に立ち向かう中で、自分だけが何も出来ていない様が辛くない訳がない。
その苦しみから解放される手段はただ1つだけ。
カリンの残した武器を持ち、ヤケクソでもいいから全力でぶつかることだけだ。

「やってやる!やってみせるんだ!!」
「うおおおおおお!!」

しかし、いささかヤケクソ過ぎるように見えた。
いくらマイミがひどく疲労困憊しているとは言え、無策で突っ込めば返り討ちにあうのは必至。
そうすればせっかく奮起したといつのに無駄ゴマにしかならない。
そんな悲しく虚しい結末が有って良いのだろうか。
そうだ。有って良いはずがない。
それをよく知っている2人は、無鉄砲に見えてなかなかクレバーに振舞っていた。
竹刀が当たるくらいの距離までマイミに近づいたところで、
ハルが目をカッと見開く。

(喰らえっ!!必殺、"再殺歌劇"!!)

自暴自棄のフリをするのはここまで。
仲間たちの戦いから、マイミが予想外の攻撃に滅法弱いことは十分確認できている。
ハルは自身の速度を一段階上げて、マイミの弱点である太ももに雷の如き一撃をピシャリとぶつけるのだった。
一瞬遅れてマイミも反応し、ハルの攻撃を覚悟して受け止めようとしたが、
そうすること自体がハルの必殺技の術中にハマっている証拠。
ハルの真の狙いは一撃目とほぼ同じタイミングで叩き込まれる二撃目にある。
その二撃目の狙いは、リナプーが作りカリンがさらに育てた第2の弱点である"背中"。
緊張を全くしておらず緩みきっている背中への再殺はさぞかし痛かろう。

753 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 17:42:44
夕方ごろにまたメンバーが海で遊んでました。
はまちゃんのはまちゃん?不思議なことに見覚えないですね……

754 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/22(火) 19:53:33
音霊見て来ました!
人数こそ少なくなりましたが、最初から最後まで力強い、メンバーもファンも汗だくになる良いライブでした!
この話も早く三部に入りたいものですね、、、

755名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 00:27:38
> 見覚えないですね……
ヒドいw楽しんで来たようで良かった…熱中症で倒れた人いるって聞いて少し心配でしたw

ついにトリプルレットも参戦!まさしく「今だ!ダッシュで向かって行こう」って感じが出てて良いですね〜

756名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 00:28:28
>>755
訂正
×トリプルレット
○トリプレット

757 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/23(水) 18:35:45
ハルの必殺技を背中で受けたマイミは悶絶しそうになった。
非力な子供が振るっても鞭は痛いのと同じ理屈で、
しなる竹刀は実際のダメージ以上に痛みを与えてくれる。
しかもそれが予想外の方向から襲って来たので、あとほんの少し気が緩んでいたら意識が飛ぶところだったが、
マイミはなんとか耐えてみせた。
伝説とも呼ばれる彼女自身も実はまだ成長しており、
シミハムやリナプー、カリンらに立て続けに背後を取られた経験から、後方からの不意打ちに慣れてしまったのだ。
頭で考えるよりも早く背中に手が回るようにもなり、
一瞬にして右手でハルの竹刀を掴んでは、超パワーで握りつぶしてしまう。

「ああっ!竹刀が……」
「この程度なんてことないぞ!!次はサユキか!前からでも後ろからでもかかってこい!!」

この時サユキは心臓の音がドクンと聞こえるのを感じた。
絶体絶命の窮地において、自分がキーパーソンとなったことに緊張し、
鼓動音が大きくなってしまったのだとはじめは思っていた。
だが、そうでは無かったのだ。
サユキは耳が良い。
果実の国では名門コーチを呼び寄せて聴覚を鍛えるトレーニングを重点的に行なっているだが、
サユキの音を聞き分ける力はKASTの誰にも負けないくらい優れていた。
モーニング帝国城での戦いで姿の見えないリナプーの位置を察知できたのだって耳が良かったからだ。
そんなサユキの耳に今はいっている音はサユキ自身の心臓音ではない。
なんとマイミの鼓動を聞き取っていたのである。
それをサユキが自覚した途端に他の音までもドッと聞こえてくる。
次々と大きくなる心臓音だけでなく、ひどく息切れしている呼吸音やガクガクと震える脚の音を、サユキは正確に捉えていた。
サユキにとってはこの世と同等くらいに大きい存在であるマイミから発される音の組み合わせは、
「地球からの三重奏」と形容しても良いくらいだ。
そんな大きい存在が何故こうも異常音を発しているのか、
その理由にサユキは気づいてしまった。

("前からでも後ろからでも"って言った時から音が大きくなっている。
 マイミ様、ハルの技が効いていないように見えて、実は恐れているの?
 そりゃそうだ。みんながあんなに頑張ったんだから身体がボロボロになっていないはずがない。
 そこにハルから前と後ろを同時に攻撃されて、限界に近いんだ。
 だったら私もハルと同じことをしたら良いのか?……)

サユキはすぐに「ダメだ」と感じた。
いくらマイミがその攻撃を恐れているとは言え
自分からその事を口に出したのだから対策を全くしてこない事は有り得ない。
もちろんある程度は有効なのだろうが、マイミを倒しきるにはハルの"再殺歌劇"の上をいく攻撃を当てねばならないだろう。
ではどうすればいいのか?
二撃同時の上をいく攻撃とはいったいどのような攻撃なのか?

(そうか……三重奏だ。)

サユキにはハルほどのスピードは無い。
だが、マーチャンに直してもらったこの武器ならばそれを実現することが出来る。
サユキはそう確信した。

758 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/24(木) 18:18:11
サユキが愛用するヌンチャク「シュガースポット」は木製だったが、
チナミの物作りを学習したマーチャンの修理によって、鉄製に生まれ変わっている。
重量が増したおかげで多少使いにくくなっているものの、破壊力は比べ物にならないくらいに上がっている。
これを上手く当てれば大抵の敵の意識を飛ばすことが出来るだろう。
しかしマイミはそういった「大抵の敵」には当てはまらないことは誰もが分かっている。
ならば当てるには工夫が必要だ。

(私の強みを全部出しきるんだ……これまでの努力が実を結ばないはずがない!!)

サユキは地面をタンと強く蹴り、宙に跳び上がった。
それもただ真上に跳ぶのではなく、マイミの右肩に向き合うように斜め方向にジャンプしている。
サユキの両手にはそれぞれ鉄製ヌンチャクが握られていることから、
マイミは自身のどこが狙われているのか瞬時に判断することが出来た。

(まさか、太ももと背中を同時に叩こうとしているのか!?)

その推測は7割当たっていた。
サユキはマイミの横方向から攻めることが出来るので、
右手のヌンチャクで第1の弱点の太ももを、
左手のヌンチャクで第2の弱点の背中をいっぺんに叩けるのである。
それに気づいたマイミはすぐに弱点である傷口をガードし始めた。
疲弊から、脚を使って回避できないのはとても苦しいが、
弱点を手で抑えればサユキの攻撃から確実に自身を守ることが出来る。
ここさえ乗り切れば、後は地面に着地したサユキを殴るだけで終了する……マイミはそう思っていた。
だが、サユキの真の狙いは第1の弱点や第2の弱点ではなかったのだ。
それに気づいたアイリは背筋がゾッとするのを感じる。

(見えている!?……いや、聞こえているというの?
 サユキちゃんの耳はマイミの"第3の弱点"を確かに捉えているんだ。)

前にも書いた通り、サユキの聴覚は非常に優れている。
そして更に、この緊張の場面においてその能力はもう一段階研ぎ澄まされてる。
彼女には聞こえていたのだ。
ハルの竹刀を掴んだ時も、太ももを手で抑えた時も、
マイミの右腕の骨がギシギシと軋む音を発していたことを。

「これが私の必殺技……"三重奏(トリプレット)"!!」

一本目のヌンチャクはトモが見抜き射抜いた太ももへと向けられた。
二本目のヌンチャクはカリンが拡張した背中の傷穴へと向けられた。
それらの攻撃は当然のようにマイミにガードされてしまったが、
サユキの攻撃は二連同時を超える三連同時攻撃だ。
天高くまで飛翔する超人的な跳躍力は、他でもない強靭な脚力が生んでいる。
ふくらはぎバリ筋肉は努力の証。
そのサユキの努力の賜物とも言えるキックが、アーリーが抱きつくことで作った"第3の弱点"、マイミの右肩に炸裂する。

「なんだと!?そんな……この痛みは!!!」

マイミの肉体および骨格はとても頑丈に出来ている。
しかし、そんなマイミでも万力のように強いアーリーの抱きつきの後では骨太を維持できなかったようだ。
サユキの蹴りによる駄目押しで、右腕の骨が砕け散る。

「これが私たちの力です!!いい加減に倒れてくださいっ!!」

サユキの言葉を聞いたマイミは、自分は孤独な戦いをしていたのだと初めて気付くことが出来た。
"私たち"という言葉はKASTだけでなく、勇気を持って立ち上がった全ての戦士のことを指すのだろう。
みんなで結束すればどんな強者にも勝てると数年前に学んだはずなのに、どうして自分はそれに気づけていなかったのか。
そんな大事なことを忘れていたのだから、このような結末になって当然だろう。
力尽きかけたマイミは後ろに倒れながら、そのような事を思っていた。
ところがここで状況が一転する。
意識が断ち切られる寸前、マイミの視界によく知る人物が入って来たのだ。

(オカール!?)

その人はキュートの仲間オカールだった。
いつの間にかすぐ側にまでやって来ていたのである。
自分にも頼れる味方がいた事を思い出したマイミは心から安堵する。

「来てくれたのか……すまないが私はもう駄目のようだ……
 オカールの手で、若い戦士達を倒してくれないか?……」

759 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/25(金) 16:32:48
「甘ったれてんじゃねぇ!!」
「!!?」

倒れくるマイミの後頭部を思いっきり蹴っ飛ばしながら、オカールはそう叫んだ。
蹴られた勢いのままに直立してしまったマイミは、これ以上ないくらいに混乱している。
いったい何がどうしたと言うのだろうか。

「オカール?……」
「団長さぁ……ホントなんにも分かってないよな。」
「な、なんだと?」
「この勝負はヤツらがアンタに売った喧嘩だ。 バトンタッチなんてもんは存在しねぇんだよ。
 キュート戦士団長マイミが最後まで立っていたら勝ち。ぶっ倒れたら負け。ルールはそんだけだ。
 例え俺たちキュートが助太刀したとしてもな、アンタが寝てたら無意味だろうが。」
「しかし、私はもう心も体も限界で……正直言って戦えそうにない……」
「あーーーもう!まだそんな事言ってんのかよ!!
 いいからさっさと周りを見ろ! 腑抜けてんのは団長ただ1人なんだよ!!」
「!!!」

顔を上げたマイミは、周囲の状況を見て驚愕した。
今現在立ち向かって来ている若手はハルとサユキだけだと思っていたが、
それは大きな勘違いだったのだ。

「おいオダァ!大丈夫か?意識あるのか!?」
「んっ……アユミンさんも立ち上がったんですね。」
「……当然だろ、あんなもん見せられたら、ね。」
「私、安心しました。 ここで奮起しなかったらアユミンさんは二流剣士以下になっちゃいますもんね。」
「なんだとオダァ!!」

「メイ、リカコ、やる気はみなぎってるか?」
「うん!」「はい!\(^o^)/」
「KASTのみんな、知らんうちにカッコよくなっとるなぁ……でも、ウチら番長も負けへんで。
 相手は依然変わらず強敵、カクゴして挑むんや!!」
「「おーーー!!」」

エリポンが、サヤシが、カノンが、アユミンが、
カナナンが、メイが、リカコが立ち上がり、闘志の炎を燃え上がらせている。
先ほどまで戦っていた者たちを「勇気ある戦士」と区分する必要はもはや無いだろう。
全員が全員、例外なく勇気ある者に変貌したからだ。
それを見たマイミは胸を強く打たれる。
そして、これから自分が何をするべきなのか明確に理解したようだ。

「オカール、下がっててくれ。」
「お、なにすんだ?」
「将来有望な戦士たちと拳を交えるに決まっているだろう!それも全力でなっ!!」

マイミが力むと同時に、暴風雨のようなオーラが半径100mに吹き荒れた。
ちょっとばかし乱暴ではあるがこれでこそ本来のマイミだ。
そして若手戦士らも今さら嵐に怯んだりはしない。
天変地異のようなオーラにも決して恐れる事なく、立ち向かおうとしているのだ。
展開が上手く運んで満足気なオカールのもとに、ナカサキとアイリがニヤニヤしながら寄ってくる。

「オカールやるじゃないの。」
「発破をかける天才ね。」
「へへ、よせよ。」

対ベリーズに向けて、マイミと若手の両方を焚きつけることが出来たのでこの3人はとても満足していた。
だが、マイミの次の言葉を聞いてちょっとだけ後悔をし始める。

「本気の本気で行くぞ! 私の必殺!"ビューティフルダンス"で皆殺しだ!!」
「「「えっ」」」

どうやらやる気を引き出し過ぎてしまったようだ。
この後、鬼神の如く暴れまくったマイミを止めるのには苦労したらしい。

760名無し募集中。。。:2017/08/25(金) 17:00:25
やはりトリプレットはオカールも入れて3人だね

…それにしても団長ってば単純w

761名無し募集中。。。:2017/08/25(金) 22:38:55
やる気を出しすぎたマイミは一瞬本来の目的を忘れていそうだなw

762 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/28(月) 15:18:58
「んっ……」

マイミとの戦いで意識を失っていたカリンが目を覚ました。
起きてからしばらくの間は寝ぼけていたが、
自分が寝ていた場所がいちごのベッドでは無いことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

(お外だ……時間は夜?……それに、みんなもいる。)

辺りには帝国剣士がいた、番長がいた、そしてキュート戦士団もいた。
みんながみんな、起きたカリンを朗らかな表情で見ている。
カリンが事態を理解しかけたところで仲間であるアーリー、トモ、サユキが声をかけてきた。

「あ!起きたぁ!」
「よく寝てたね。起きたのはカリンが一番最後だよ。」
「必殺技で無理をしすぎたから疲れちゃったのかな。」

どこかで聞いたことのある言葉をかけられたが、カリンの心境は以前と大きく異なっている。
この世界はスバラしいよね、この世界は捨てたもんじゃない。
そう強く感じてた。

「私たち、ベリーズを倒しにいけるんだね……!」

周りにいるみんながニッコリと微笑んでいることからも、カリンの推測が正しいことが分かるだろう。
もうこの場にはベリーズとの戦いを恐れる者に など存在しない。
奮起した若手戦士らはもちろんのこと、マイミだってやる気を完全に取り戻している。

「本当に見苦しい姿を見せてしまった……心から反省しているよ。カリン、君が頑張りをみせてくれたこらこそ我々は大きな過ちを犯さずに済んだんだ。」
「そんなそんな……」
「ところでカリン、既に他のみんなには聞いていたのだが……」
「はい?」
「私は改めて連合軍のリーダーを務めたいと思っている。 こんな私だが、着いてきてくれるかな?」
「はい!もちろんです!」

カリンだけでなく、全員が全員同じ思いだった。
自分たちの前を突っ走るのはマイミしかいない。そう思っているのである。
あんな事が起きたのだから、もう二度と立ち止まったりはしないと信じている。

「それじゃあ団長。いや、リーダー。 そろそろ目的地を発表した方がいいんじゃない?」
「そうだな、ナカサキ。」

ベリーズとの再戦場所はこれまで若手たちには知らされていなかった。
だがもはや隠しておく必要はないだろう。
その場所の重みに圧倒されることはあっても、怖じ気付くような彼女たちでは無いのだから。

「ベリーズとは明日の夜、武道館で戦う。そこに居る王とサユを我らの手で取り戻すんだ。」
「「「武道館!?」」」

武道館という名を聞いて驚かぬ者はいなかった。
前にも触れたが、この施設は戦士たちの憧れの舞台。
ここで戦えることこそが最上級の名誉なのである。
果実の国のKASTたちは特に強い思い入れを持っており、喜びもひとしおだった。

「武道館で……戦えるんですね……」

トモ・フェアリークォーツが涙を流したのを見て、一同は驚いた。
マイミ戦では冷静に見えたトモが今こうして顔をグシャグシャにしているのを見ると、
改めて特別な場所だということを再認識させられる。
そして、心震えているのはKASTだけじゃない。 帝国剣士も、番長も、キュートだってそうだ。
GRADATION豊かな"たどり着いた女戦士"たちは、MISSION FINALにFULL CHARGEで挑んでくれるに違いない。

763名無し募集中。。。:2017/08/29(火) 21:14:24
詰め込んだなw

764名無し募集中。。。:2017/08/30(水) 00:36:33
リアル『仮面ライダーイクタ』が見れる日も遠くはない?!


@
えりぽんが今後やりたいこと
仮面ライダーか戦隊モノに出たい。アクションも素で頑張る


@
えりぽん名古屋BDイベ
やりたいことありますか?の問いに
えりぽん<仮面ライダーとか戦隊モノやりたい!ああいうの大好き!えりは変身する前からいろいろ(アクロバット)やるから!
変身すると大人の力でなんとかなるじゃんwだから変身する前からやる!
スタントいらずをアピるえりぽんかわいい

765 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/01(金) 09:00:43
恐怖に打ち勝つ心と、戦うためのモチベーションは揃えることが出来た。
しかしやる気だけでは怪物たちに勝つことは出来ない。
作戦が必要なのだ。
そのために彼女らは自軍と敵軍の戦力分析から始めることにした。
武器修理に忙しいマーチャン以外が一箇所に固まり、地べたに座っていく。
ここで進行を務めるのはナカサキだ。
作戦会議をマイミやオカールに任せたらえらいことになるし、アイリの発言はメンバーの耳にうまく入らない可能性があるので、
人見知りだろうがなんだろうがナカサキが頑張らないといけないのだ。

「えっと、それじゃあ私たちがどれだけ戦えるのか整理しようか。
 まずはキュートね。マイミ団長は無傷、私ナカサキは出血が酷かったけど明日の夜まで休めば5割の力は取り戻せそう。」

マイミは無傷、という発言に若手戦士らは引っかかった。
どう考えても大怪我だし、そもそも腕を骨折していただろうと言いたかったが
ふとマイミの方を見てみると何故か傷が殆ど癒えているように見える。
本人もアハハと笑っているし、一同は深く突っ込まないことにした。

「アイリとオカールは?」
「怪我の方はそうでもないけど心身への負担が大きくて……私も出せて5割程度かな。
 でも"眼"の方は大丈夫。
 ここにいる全員の弱点がちゃんと見えてますよ〜」
「ナカサキもアイリも情けねぇな、俺は100%全力で動けるぜ!!」
「嘘でしょう? その脚、ちょっと叩いただけで砕けちゃいそうだけど」
「チッ、アイリの前じゃカッコつけらんねぇか……
 そうだよ。 モモコのヤツにやられて脚が折れちまってる。
 まぁ明日の夜までには走れるように持ってくから心配すんなよ。」

アイリの弱点を見抜く眼の前では、どんなハッタリも無意味だということが示された。
なので若手たちは自分たちの体調を正直に伝えようと決めたが、
ここでおかしなことに気づく。
次のアユミンの言葉と同じことをみなが思っていたのだ。

「あれ?……ひょっとして、私たちってそんなに怪我してなくない?……
 ベリーズと本気でやり合ったのに、変なの……」

帝国剣士のエリポン、サヤシ、カノン、アユミン、ハル、マーチャン、オダ
番長のカナナン、リナプー、メイ、リカコ
KASTのトモ、サユキ、カリン、アーリー
以上15名は打撲こそしていたが、骨や内蔵に影響を与える大怪我はほとんどしていなかった。
伝説の存在であるチナミ(と、場合によってはミヤビとマイミ)と真剣勝負をしたと言うのに、これはおかしい。

「ふふ、上手くやったんだね。」
「えっ?ナカサキ様、上手くってなんですか?」
「あ、いや、違うのアユミンちゃん。 みんなが致命傷を貰わないように上手く回避したって言いたかったの!」
「なるほど!」

思い返せば若手が倒れた要因の大半は、極度に疲労を感じていたり、あるいは心を折られた事にあった。
そのため幸いにも身体への直接的な影響が少なく、明日までにしっかりと体を休めれば100%に近いパフォーマンスを発揮できるのだ。
なんと幸運な事だろうか。
本当に運が良かったと、マイミと大半の若手たちはそう思っていた。

766 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/01(金) 09:08:41
おお、生田が特撮に触れてる!
運動神経もそうですけど、ライダー俳優はグループアイドル(ぱすぽ、夢アド)に所属していたり、元おはスタ出演者(仮面ライダーキバ、チェイサー)の人が多いので
生田がなっても全然おかしくないんですよね。
近いうちになることを期待してます。

767名無し募集中。。。:2017/09/01(金) 13:14:44
やっぱりマイミだけが知らないのかw

是非ともえりぽんには仮面ライダーやって欲しい!でも撮影で長期間拘束されるから娘。やってる間は難しいかなぁ

768 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/02(土) 12:01:50
自分たちの戦力は整理できた。次は敵であるベリーズ達だ。
そして、モモコの部下であるカントリーだって忘れてはならない。
両生類を操るリサ・ロードリソース、
鳥類を操るマナカ・ビッグハッピー、
魚類を操るチサキ・ココロコ・レッドミミー、
そして哺乳類(自分)を操るマイ・セロリサラサ・オゼキング。
彼女らは(1人を除けば)身体能力こそ大したことないが、動物を操る技能はとても厄介だ。
直接的に戦ったことのあるカナナンが4人の負傷の度合いについて話していく。

「マナカとマイの2名は番長とKASTで撃退したことがあります。
 本当ならその時点で再起不能にするべきやったけど、モモコが来たせいで叶いませんでした……
 その日から数えて3日近く休めていることもあって、明日の戦いでは本調子で挑んでくるかもしれません。
 残るリサとチサキについてはほぼ無傷ですね。 コンディションはバッチリやと思います。」

一同はため息をついた。
ベリーズと戦っている最中にあの動物の群れが襲ってくると考えると、とても面倒だ。
そいつらが横槍を入れてこなくてもベリーズは強敵だと言うのに。

「ナカサキ様、ベリーズの様子はどんな感じでしたか?」
「そうねえ……正直なところ、満身創痍に見えたかな。」
「えっ!?」

いくらベリーズが強いとは言っても、キュートと激戦を繰り広げたのだから、無事でいれられるはずがなかったのだ。
途中退散したシミハムは比較的健康だとしても、
クマイチャンの腕はマイミに多数の穴を開けられているし、
ミヤビの胸はトモの知恵と勇気の矢が見事に貫通していた。
モモコはとても重い物体(オカール)に衝突して骨に異常をきたしていて、
チナミは若手戦士との戦いの果てに「もう肉弾戦は無理!」と発言している。
それでも彼女らが強いことには変わりないのだが、シミハム以外は5割の力を発揮することも難しいかもしれない。
となると、一同は案外楽勝かもしれないと思いはじめてきた。
だがそんなことはあり得ないのだ。
キュートが何か言おうとする前に、リナプーがお気楽ムードを諌めだす。

「馬鹿かな、みんなは」
「えっ?リナプーどうしたん?……」
「ベリーズはさ、6人いるんでしょ。」
「!!」

リナプーの言う通り、ベリーズ戦士団は6名で構成されている。
無を司るシミハム、冷気を纏うモモコ、太陽のように明るいチナミ、
刃の如く鋭いミヤビ、重圧で押し潰すクマイチャン
そして、もう1人。
ベリーズきっての天才と呼ばれた"人魚姫(マーメイド)"が存在するのだ。
何人たりとも彼女の前では溺れてしまう。

769名無し募集中。。。:2017/09/02(土) 12:33:44
リサコははたしてSSAに…もとい武道館に現れるのか?

770 ◆V9ncA8v9YI:2017/09/04(月) 13:09:17
倒すべき強敵は6人いる。
それをしかと認識するだけで一同はピリッとした。
これからの戦いに、楽勝など絶対にあり得ないのだ。
恐れることは無いが同時に甘くみてもならない。 気を抜けばすぐに脱落すると考えて良いだろう。
ではその強敵に勝つ確率をどのようにして上げるのか?
"攻め方"は非常に重要になってくる。

「ちょっといいですか?ナカサキ様。」
「なに?カリンちゃん。」
「武道館はとても大きくて広いんですよね?」
「え?……そ、そうだと思うけど……それがどうかしたの?」
「私、昔に調べたことが有るんですけど、
 武道館には北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の全部で8つの入口があるらしいんです。
 ということはベリーズの全員とは戦わなくて良いと思いませんか?」
「???」

ナカサキだけでなく、マイミとオカールの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
キュートの中ではただ1人、アイリだけが理解したようで、
カリンの提案に補足をし始める。

「ナカサキ。 もしも自分たちが武道館の中にいて、マーサー王を外敵から守るとしたらどう守る?」
「えっ、そりゃさっきカリンちゃんが言ってた8カ所の入り口に兵を配置するでしょ。
 それと、突破された時のために王の周りには警備を置く。とびきり強い兵をね。」
「じゃあ、明日ベリーズはどうすると思う?」
「え?……そりゃさっき私が言ったみたいに……あっ!」

ここでナカサキは気づいた。
武道館の全ての入り口をカバーするには、ベリーズとカントリーでは人数的に余裕が無いのである。
6カ所にベリーズを1人ずつ配置したとしても、残る二ヶ所は実力の落ちるカントリーだけで抑えなくてはならない。
現実的にはマーサー王とサユを監視する者も中に残るはずなので、最低3ヶ所の入口が"穴"になるはずだ。

「ひょっとしたら警備の甘い入り口から侵入したことが、他の入り口にいるベリーズにバレるかもしれません。
 でも武道館は偉大で、大きくて、広いんです!!
 追っ手が間に合う前にマーサー王とサユ様を外に連れ出してしまうのはどうでしょうか!?」
「なるほど!カリンちゃんの作戦いいね!」

確かにこの攻め方なら敵の強大な戦力をほとんどスルー出来る。
上手くいくかもしれない。
そう思っていたところに、カリンと同じくらいに武道館のことを調べていたサユキが意見を出した。

「カリン、あなたなら知ってるよね?」
「え?サユキ……なんのこと?」
「近年よく使われる扉は一階席に入るための正面西口と、その近くの階段を昇って二階席に入るための西南口と南口だけ…ってことをだよ。」
「あっ……」
「確かに他の5つの入り口も有るには有るけどさ、長いこと封鎖されてるよね。
 開くかどうかも分からない扉を数に数えるのはあまり良くないんじゃない?」
「うう……確かに……」


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