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SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部

742 ◆V9ncA8v9YI:2017/08/11(金) 15:02:46
番外編5「モーニング帝国研修生の日常」

昨日加入したばかりの新人研修生、ヨコヤンの表情はひどく強張っていた。
モーニング帝国の研修生が日々厳しい訓練を積んでいるのは理解していたし、
新人でも容赦無く実戦形式の組み手に放り込まれることだって覚悟していた。
ただ、初回の相手が研修生最強と知られる存在になることだけは想定外だったのだ。

「よ、よ、よろしくお願いします!」
「ふふふ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。」
「カエディーさん……」

その人、カエディーは小柄なヨコヤンよりずっと背が高いので、実年齢よりも年が離れているように見える。
面構えだって歴戦をくぐり抜けた戦士に匹敵するほどに凛々しい。
先日、帝国剣士に選ばれたマリアと対等に渡り合ったという噂があるのだが、
それも真実に違いないと、ヨコヤンは心で理解していた。

「こ、これからカエディーさんと戦うと思うと緊張しちゃって……」
「良い心構えだね。」
「えっ?……」
「組み手をただの練習ではなく真剣勝負だとみなしている……だから緊張してるんでしょ?
 そういう思いで訓練に臨むヨコヤンは必ず伸びる。 私が保証するよ。」
「そんな大層なものじゃないですよぉ……」

大ベテランのカエディーと新人ヨコヤンの実力差が大きい事は、誰が見ても明らか。
これだけ差があるとちょっとした判断ミスで大怪我を負ってしまうかもしれない。
どちらかと言えば、そういう意味でヨコヤンは緊張していたのだ。
生き死にをかけた真剣勝負をする気で挑む……という点では確かにカエディーの考えた通りであるが、
意識レベルには大きな差があった。

(とにかく全力で挑まなきゃカエディーさんに叩き潰されちゃう!
 いくら模擬刀を使うと言っても当たれば痛いし…………あれ?)

ここでヨコヤンはおかしなことに気づいた。
帝国剣士を目指す者たちの組み手なのだから、片手あるいは両手で模擬刀を握るのが普通なのに、
カエディーの手には刀が握られていなかったのだ。
完全に手ぶらでヨコヤンの前にやってきている。

「あの、カエディーさん、剣は……」
「ん?……あぁ、気にしないでくれ。私はこれで良いんだ。」
「あ、ハンデってことですか?」
「違うよ。決してヨコヤンを低く見ているわけじゃない。
 これが私のスタイル。最も力を発揮できる戦い方なんだよ。」
「???」

剣士を志す者が剣を持たないなんて、ヨコヤンには全く意味が分からなかった。
とは言え、組み手に臨むカエディーの瞳は真剣そのもの。
おそらくは徒手空拳によって剣より速いスピードで攻撃してくるのだろうと予測したヨコヤンは、
剣一本分のリーチを有効に生かそうと、付かず離れずの距離で戦うことに決めた。

「さぁヨコヤン、そろそろ始めようか!」
「先手必勝です!てーーい!」

ジャズダンスという舞踏術を幼少から学んでいたヨコヤンは、
独特のリズムでカエディーとの距離を詰め、相手の拳がこちらに届かないギリギリのところで剣を振った。
この攻撃方法なら、決定打を与える事は出来なくても、リスク無しで一方的に相手を削ることが可能。
そう思っていたところで、不思議なことが起こった。

(私の剣が消えた!?)

一瞬、たったの一瞬でヨコヤンの握っていた模擬刀がどこかに消え去ってしまった。
それだけでも混乱するには十分だと言うのに、
お次は正体不明の重く鋭い攻撃がヨコヤンの背中に打ち込まれていく。
この痛みは模擬刀による斬撃のようにしか思えないのだが、
相対するカエディーは模擬刀どころか武器そのものを持っていなかったはず。
最初から最後まで何が何だか全く分からぬまま、ヨコヤンは痛みに耐えきれずその場に倒れてしまった。

「あうっ……やっなりカエディーさんは強いですね……」
「ヨコヤンも最初の一撃はなかなか良かったよ。力が入ってた。」
「でもカエディーさんには通用しませんでした……」
「ねぇヨコヤン。私たちは年もそんなに離れていないんだから呼び捨てでも構わないんだよ。
 呼び捨てが嫌ならアダ名とかでも良い。」
「無理です! カエディーさんをアダ名で呼ぶとか絶対無理ですからっ!」


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