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('A`)は異世界で戦うようです
1
:
名も無きAAのようです
:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。
過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。
テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。
そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。
大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。
よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。
*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。
291
:
1
:2014/06/18(水) 22:52:35 ID:pMo3TmyQ0
◇◇◇◇
(´・ω・`)「やぁドクオ、昨夜はお楽しみだったね」
起き抜けにショボンからそんなことを言われて、ドクオはたまらず飛び起きた。
辺りを見渡せば自分の部屋。どういう経緯でそうなったかは知らないが服が脱ぎ散らかされている。
('A`)「……どうしてこうなった」
自分の体を見ればいつの間にやらパンツすら身に付けておらず、全裸。そこにショボンがニコニコと笑って立っているということは━━
('A`;)「あんたそういう趣味だったのかよ!?」
(;´・ω・`)「何を勘違いしているかは予想がつくが、それは誤解だ。君は昨夜のことを覚えていないのか?」
('A`)「は?」
ショボンにそう言われて、ドクオは思い返してみる。確か昨日は訓練所で知り合った何人かの騎士と飲みに繰り出し、途中からショボンや非番だった他の騎士も混じって大きな飲み会になった気がする。
そのあとも何軒か店をはしごして朝まで飲もうぜ! と意気込んだところまでは覚えているが、その先はどうも思い出せない。
(´・ω・`)「君はそのあと酔い潰れてね、僕が君をここまで送り届けたのだが、部屋に着いたとたんに君は吐き始めたんだ。おかげで僕は眠ることなく君の粗相の始末をするはめになったのさ」
(゚A゚)「」
なんということであろうか。まさか騎士団のナンバーツーに送り届けてもらったどころか不始末の処理までさせてしまうとは。いくらドクオと言えど全裸で土下座は当然に思えた。
(;´・ω・`)「いや、僕は今日も非番だから構わないが、君は少し酒の飲み方というものを考えた方がいいぞ。あまり強くないようだしな」
('A`)「オッシャルトオリデスハイ」
(´・ω・`)「僕も久々に楽しく飲めた。君が来てから心休まる日が少なかったしな」
('A`)「あれ? 俺遠回しに責められてる?」
292
:
1
:2014/06/18(水) 22:53:41 ID:pMo3TmyQ0
(´・ω・`)「それに、今の君とはもう一度話してみたかったしな」
全裸で土下座をしていたドクオは頭をあげた。話がしたい、とはどういう了見だろうか。
服を着なさい、とのお達しだったのでとりあえず寝間着に使っている元の世界からの相棒スウェットを着用し、ドクオはベッドに腰かけた。ショボンはいつの間にか用意していたコーヒー(名前は違うがドクオから見ればコーヒーそのもの)を口に含み、煙草に火をつける。
(´・ω・`)y━・~~「何、大した話じゃない。これは騎士団のショボンとしてではなく、あくまでショボン個人としての話さ」
('A`)「はぁ」
気のない返事をすると、ショボンが君もどうだい? と煙草を勧めてきたのでドクオもご同伴に預かる。
(´・ω・`)y━・~~「君はこれまで三つの戦いに身を投じて来たわけだが、その戦闘力ははっきり言って並の騎士では歯が立たないレベルだ」
('A`)y━・~~「モララーにはまだまだ弱い、怒られますが」
(´・ω・`)y━・~~「確かに我々からすればまだまださ。だが、君は元々魔物や魔法なんかとは無縁の世界の住人だろう」
('A`)y━・~~「……気付いてたんですか」
(´・ω・`)y━・~~「まあね。もちろんこの答えに至るまで紆余曲折あった。間違いないと確信を持ったのはやはり先日の戦いだったよ」
ショボンはその場で見聞きしたわけではないが、渡辺やツンが貞子から聞いたことを報告として受けたこと、他にも様々な推測をドクオに語ってくれたが、決め手は貞子が言っていた魔剣のことだと言った。
(´・ω・`)y━・~~「魔剣アポカリプス、これは僕達の世界の伝承に出てくる神器だ。全てを破壊し、食らい尽くす絶望の権化。伝承によれば魔剣はこの世界ではないどこかに封印されているはずだったんだが、何故か君が持っている」
その事実はやはり看過できないものだった、とショボンは続ける。
293
:
1
:2014/06/18(水) 22:54:36 ID:pMo3TmyQ0
(´・ω・`)y━・~~「魔法の中には召喚魔法というものがあってね、通常はこの世界のどこかにある物や人物を呼び出す魔法なんだが、特定の条件下と特別な術式があれば異世界に干渉できるかもしれないという研究結果も出ている。仮説の段階ではあるが、できないことではないんだ」
('A`)y━・~~「だからこそ俺が異世界からやって来たのではないか、という説が有力だったわけですか。てことは最初から記憶喪失だなんて言わなくてもよかったんですか?」
ショボンは灰皿に煙草を押し付けて火を消し、少し考えてから、
(´・ω・`)「それはどうだろうな。あの状況下で君が違う世界から来たとなれば余計な混乱を招いたかもしれない。ただでさえ結界が消えるなんてことは滅多に起こることではないんだ」
('A`)y━・~~「そんな中異世界から来ましたーなんて言えばそれこそ俺が疑われるのは当然の結果、ですよね」
そう考えると記憶喪失という設定は最善の策だったように思えた。もちろんドクオもこの設定がいつまでも通るとは思ってはいなかったし、折りを見て打ち明けるつもりではいたのだから、それが早いか遅いかの違いでしかなかったのだろう。
(´・ω・`)「話が逸れたが、君がそういうものとは無縁であった以上、本来ならば被る必要のない戦いばかりだった。にも関わらず、君は剣を取り、体を張っている。僕は、その理由が知りたい」
('A`)y━・~~「……理由?」
何故今になってそんなことを聞くのだろうか。ドクオからすればこれまでの戦いは全て巻き込まれた、といっても過言ではない。確かに逃げることはできたし、他人の命など関係ないと切り捨てればそれで済んだことではあった。最初の戦いにしても、ドクオはこの世界というものを理解してはいなかったし、ましてや命をかけるに値するような感情など持ち合わせてはいなかった。
どこまでいっても他人。ここに来た当初はそんな思いが確かにあっただろう。
だが、ドクオは渡辺に出会った。優しく、可憐で強い少女に。彼女の姿はドクオにとって今でも憧れの対象だ。
('A`)y━・~~「俺は、救われたんですよ」
煙草を消して、ドクオは大切な思い出を語るようにゆっくりと口を開いた。
294
:
1
:2014/06/18(水) 22:55:26 ID:pMo3TmyQ0
('A`)「俺は元の世界じゃ負け犬でした。他人なんて関係ない、自分さえよければそれでいい。その時その時を乗りきれればあとは知ったこっちゃないって、現実から目を背けてました」
勉強も運動も人より劣り、努力からも逃げていた少し前までの自分。この世界に来なければ未だに同じことを繰り返していただろう。
('A`)「けど、こっちに来て、渡辺に出会って、騎士団の連中に出会って、それじゃだめなんだなって感じたんです。逃げてたって変わらない。変わらなきゃならなかったのは自分なんだって、渡辺や他のみんなを見て、気付いたんですよ」
渡辺は誰よりも辛い状況の中で、笑顔を忘れず、他人のために動いていた。騎士団のメンバーは己の信念に基づき剣を取っていた。
その中でドクオは、自分という存在がとても矮小で醜いものにしか思えなかったのだ。
誰もが手にしているはずのものを、ドクオだけは持っていなかった。
('A`)「それを気付かせてくれた人に、追い付きたいし、恩を返したい。世の中儘ならないことも多いけど、俺が救われたようにまだまだ捨てたもんじゃないって胸を張って言ってやりたいんですよ」
本当に辛いときに、ドクオは何も言ってあげられなかった。言わなきゃならなかったのに、言えなかったのだ。
ドクオはその事を一生後悔し続けるだろう。もっとまともな人生を歩んでいれば簡単に伝えられたはずの言葉は、あの時のドクオでは、いや今だって口にする資格なんてありはしない。ドクオはまだ全てをやりきってはいないから。全てが終わったときに、ドクオは彼女に言ってやるのだ。
君の存在は、歩いてきた道は無意味なものなんかじゃない。
('A`)「だから俺は戦うんじゃないですかね。それが、無力だった男が力を手にして出来ることなんじゃないかと俺は思ってます」
他人からしてみれば下らない理由だろう。笑われるかもしれない。命をかけるなんて馬鹿げていると指を差されるかもしれない。
それでもドクオが掲げたものは彼にとって何よりも重い。絶対に曲げてはいけない信念であると自信を持って言える。
ドクオが語り終えた時、ショボンは小さく笑っていた。
295
:
1
:2014/06/18(水) 23:24:19 ID:cfE26c6g0
(´・ω・`)「なるほど。やはり君は僕が思った通りの男だよ。いや、信じていたとも言えるな」
('A`)「何がですか?」
(´・ω・`)「騎士団というのは、信念がなければ機能しないんだ。自分以外に守るべきものがなければ戦う理由もないからな。だからこそ我々は自分自身に厳しいルールを設けている」
例えば弱きものを傷つけない、誰かを見殺しにしない、仲間を疑わない、小さなものなら食べ物を粗末にしない。
ショボンがあげていくルールは生きていればどれも当たり前に守られるものだった。もっと言えば常識、人として最低限のマナー。
(´・ω・`)「こんなものは守られて当然のものだ。けれど、人というのはどうして、簡単なものであってもちょっとくらいならという軽い気持ちであっさりと越えてはいけないラインを越えてしまう。だからこそ我々はどんなに小さなことであっても決めたことは絶対に守ってきた」
(´・ω・`)「騎士団とは秩序であると同時に人を守るための盾であり剣。それを根幹の部分で理解していなければ立ち上がることさえできない。新人にはまだ分からない者も多い。その点君はその辺りをしっかりと持っている」
('A`)「……よくわかりません」
(´・ω・`)「君は君の信じる道を行くべきだ、ということさ。周りがどうあろうと、上から下までしっかりと通った芯はそう簡単に折れやしない」
ショボンはそう言って腰をあげた。
(´・ω・`)「僕は君と知り合えてよかったと、心から思う。これからもよろしく頼むよ」
扉が閉まる音だけが部屋に残る。ドクオはしばし呆然としていたが、自分の腹の音を聞いて朝食がまだだったことを思い出した。
('A`)「住む世界が違うと意識も違うもんだな」
それ以上考えることは止めて、ドクオは腹の虫を収めるために冷蔵庫を漁るのであった。
296
:
1
:2014/06/18(水) 23:25:37 ID:cfE26c6g0
◇◇◇◇
本日は学校がなく、久々の休日である渡辺は朝早くからツンのお見舞いに向かっていた。ここしばらくドクオと顔を合わせてはいないが、何だか今は会いに行けるような心境ではなかった。
それよりも今は大切な友人を見舞いたい、と心のなかで言い訳のように唱えてみるが、どうしてか罪悪感が募るばかりで渡辺は早々に気を落としてしまう。
(*゚ー゚)「随分と元気がありませんね」
その矢先、病院の前でしぃと出くわしてしまった。もちろん渡辺の心に彼女のことなどちっともなかったのだが、思わず渡辺は全身をびくりと強張らせてしまう。何もやましいことなどありはしないのに。
(*゚ー゚)?「どうかしましたか?」
从;'ー'从「あ、ううん、なんでもないよぉ! まさかこんなところで会うとは思ってなかったから」
(*゚ー゚)「はぁ」
怪訝そうに眉を潜めるしぃに、渡辺はどうしてか申し訳ない気持ちになった。彼女は悪くないのに、自分の気持ちも分からないのに勝手に嫉妬している。それが渡辺の心を大きく揺さぶっているからだ。
(*゚ー゚)「今日もツンさんのお見舞いですか?」
从'ー'从「うん。しぃちゃんも?」
(*゚ー゚)「いえ、私はツンさんの入学資料を届けに。退院次第即入学ですからね」
从'ー'从「そっかぁ。えへへ、ツンちゃんと一緒に学校通えるんだ」
とても喜ばしいことだ。と、そこで疑問が浮かぶ。
从'ー'从「そういえば、ツンちゃんとは学校で会ったけど、入学はしてなかったのー?」
(*゚ー゚)「ええ。籍はありませんでした。元々ツンさんの戸籍自体が抹消されていましたから。新たに騎士団側で用意させていただきました」
黒の魔術団に所属していたツンのこれまではどのようなものだったのだろう、と渡辺は考える。ツンは道具として扱われていた、と言っていた。
人ではなく道具。渡辺の持つ箒や、物を食べるときに使うスプーンやフォークのような扱い。壊れても代えがきくただの物。
そんな中で生きてきた彼女が今、長いときを得てようやく普通の女の子として生きることができるのだ。これほど喜ばしいことはない。
从'ー'从「……」
ないはずなのに、どうしてこんなにも嫌な気分になるのだろう。
297
:
1
:2014/06/18(水) 23:29:44 ID:Crg8TgR60
それはきっとツンを取り戻すために戦ったのは自分ではない他の人間だったから。普通の女の子としての道を用意したのが自分ではない他の人間だったから。
どこまでいっても自分は役に立たない人間なんだと、気付いてしまったから。
ニダーは言っていた。自分は人間じゃない、悪魔だと。不幸を撒き散らすだけの存在なのだと。
渡辺にはその言葉が間違いではないように思えた。こんなにも嫌らしく醜い感情を抱く自分は果たして人間と言えるのだろうか。
(*゚ー゚)「どうかしましたか? 顔色が悪いようですけど」
随分と長く考え込んでしまったようだ。しぃが不安げに顔をのぞきこんでいる。
从'ー'从「ううん! 何でもないよ! あ、私用事を思い出したから、今日は帰るね。それじゃまたねー」
渡辺は逃げるようにその場を去る。しぃが呼び止めていたが、彼女のそばにこれ以上いるのは不可能だ。
从;ー;从(だって、涙が止まらないんだもん)
渡辺は自分が分からない。分からないけれど、この気持ちがどんなものかは知っている。
それは彼女が生まれて初めて、はっきりとした形を持った醜い醜い嫉妬だったから。
298
:
1
:2014/06/18(水) 23:30:32 ID:Crg8TgR60
◇◇◇◇
('A`)「まさか食い物がないとは」
ショボンが帰ったあと、空腹を満たすために冷蔵庫を見てみると物の見事に空っぽだった。唯一ストックがあったはずの保存食もいつの間にか食べてしまったらしく、部屋にいては以前のようなみすぼらしい生活を思い出してしまうため、なくなく買い出しに出ることにしたのだ。
一応ドクオは料理ができる方である。長い一人暮らしで身に付けた家事スキルは物価の安いこちらの世界でも役にはたっているのだが、元来の性格ゆえなのかはあまり活かされてはいない。もちろん気が向けば台所に立つのだが、それも一週間の内に一回あればいい方である。
('A`)「まぁ、なにもしなくても金が入ってくるってのは人を堕落させるんだな。いい勉強になるよ、ったく」
適当な所で食事を済ますか、それとも買い出しをして部屋で食べるか迷うところだが、出不精な上に元々コミュ力のないドクオにとって知らない人と長い時間顔を合わせるのはできる限り避けたいところだった。
('A`)「いつもの店でいっか。この時間だと顔馴染みもあんまいないだろうし」
ダメ人間はどこまでいってもダメ人間なのである。ショボンと先程交わした熱い語り合いも、喉元過ぎればなんとやら、今大事なのは腹を満たすことなのだ。
ヴィップラ地区を歩くこと数分、いつもの店に入ろうとしたとき、ドクオは見知った顔を見つけた。
('A`)「あれ? 渡辺じゃん。なにやってんだあいつ」
299
:
1
:2014/06/18(水) 23:31:41 ID:Crg8TgR60
渡辺はこちらに気付くことなくドクオの横を走り去っていく。どうやら周りに目を配る余裕もないようだった。心なしか泣いているようにも見える。
追いかけるべきか否か。
さすがのドクオと言えど、渡辺ほどの交友度があればそれくらいは考える。
しかし時とは考える間にも過ぎていくもので、渡辺の背中はあっという間に遠ざかっていく。
見えなくなる間際、ドクオは、
('A`)「おーい、渡辺ー」
思いきって声をかけることにした。
从うー;从?
从'ー'从……
从'ー'从そ
が、渡辺はドクオを確認すると逃げるかのように駆け出した。いつもの彼女からは想像もつかない俊敏さである。
('A`)そ「ちょ、何で逃げるし」
わけも分からずドクオはその背中を追うことになる。いくらドクオの顔が見るに耐えないグロ面だとしても、逃げることはないのてはないか。そもそもことあるごとに顔を合わせているのだから今さら気持ち悪いなどとはあんまりである。
心の中で滝のような涙を流しつつ、ドクオは渡辺を追いかけた。普段の訓練の賜物かは知らないが、意外にあっさりと渡辺は捕まった。
('A`)「なんで逃げるんだよ」
从;'ー'从ゼハーゼハー
あまりに疲れすぎて喋ることができないらしい。しばし息を整える。
('A`)「……まぁいいや。飯食ってないなら一緒にどうだ? そろそろ昼になるし、今日は奢るよ」
渡辺は少しだけ迷う素振りを見せると、やがてこくりと頷いた。小さな声でアイス、とのおまけも添えて。
300
:
1
:2014/06/18(水) 23:32:32 ID:Crg8TgR60
しぃが病室に入ると、珍しい客が来たものだと驚いた様子のツンが出迎えてくれた。確かにあまり出入りはしないが、少しばかりしぃは不機嫌な顔を作る。
ξ゚⊿゚)ξ「そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しじゃない」
(*゚ー゚)「お世辞はいりませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「相変わらずの無愛想っぷりね。子供は子供らしく、素直が一番よ」
(*゚ー゚)「子供のままでいられるほど騎士団は甘くありませんから」
ξ゚⊿゚)ξ「大人ぶっちゃって。それで、今日はどうしたの? あんたが来るくらいだから、顔を見に来たってわけじゃないでしょ?」
ツンに促されて、しぃは持っていた鞄からいくつかの資料を取り出した。
(*゚ー゚)「入学案内を届けに来ました。退院次第すぐにでも入学可能ですよ」
そう言うと、ツンは満面の笑みを浮かべてそれらを受けとる。彼女にも人並みの憧れというものがあったのだろう、ペラペラとページを捲りながら時折フフフと怪しい笑い声が漏れていた。
(*゚ー゚)「一応渡辺さんと同じ担当にしていただけるよう口を利いておきましたが、あまり期待はしないでください」
ξ゚⊿゚)ξ「そこまでは望んでないわ。一緒に学校いけるってだけで夢のようだもの。それで十分」
301
:
1
:2014/06/18(水) 23:41:08 ID:Crg8TgR60
(*゚ー゚)「以前より顔色も大分よくなりましたし、もうすぐですね」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、ね。けど、私の体にある魔法陣のせいで長くは生きられないだろうけど」
(*゚ー゚)「まだまだ先の話ではないですか」
ツンの体に刻まれた幾多の魔法陣は彼女に力をもたらすと共に、大きく寿命を削るものだとはしぃも聞いていた。
いくつか魔法陣を見せてもらったが、どれもこれもまともな神経で生身の体に描くなんて到底考えられないものだった。黒の魔術団という組織がどれだけカルトじみているのかがうかがい知れるいい見本だ。
ξ゚⊿゚)ξ「でもね、私はあいつらにも少しだけ感謝してる」
(*゚ー゚)「どういうことですか?」
あんなものを付けられて、感謝なんて言葉が出てくることにしぃは驚いた。自分だったら間違いなく怒り狂い、修羅の道をゆくことは想像に固くない。にもかかわらず、ツンがそんなことを言う意図が掴めずしぃは言葉を濁した。
ξ゚⊿゚)ξ「あいつらに利用されて使われなければ、私は二度と渡辺には出会えなかったと思うのよ」
(*゚ー゚)「浚われなければ渡辺さんと今も仲良く暮らしていたかもしれませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「それは無理。だって、あの子の境遇や価値観は普通に生きてたら絶対に理解できるものじゃないもの。辛い思いをして、それでも誰かのためにだなんて正気の沙汰じゃないわ」
それにはしぃも同意せざるを得ない。人に疎んじられ、見下され、それでもなお世のため人のためと他人に尽くすことのできる人間など聖人君子でもなければ不可能だろう。通常の神経をしていたら人を憎み世を恨み、血を血で洗うような残虐非道な犯罪者になっていてもおかしくはない。
ましてや渡辺という人間は育ての親こそいたようだが、両親の存在が見当たらないのだ。戸籍には載っているが、ツンと出会う以前から両親と係わった記録は一切ない。
そんな人と違う人間があそこまでまっすぐに育ったのはまさに奇跡としか思えなかった。
見る人が見れば忌み子としてではなく、彼女の存在そのものを気味悪がるものは大勢いるだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなあいつの隣にいられる人間は、やっぱり同じような人間か、もしくはもっと酷い境遇の人間か、それくらいのもんよ。私だったらその異常さに気が狂ってたんじゃない?」
(;*゚ー゚)「仮にも親友と呼ぶ人をそこまで言いますか」
302
:
1
:2014/06/18(水) 23:41:57 ID:Crg8TgR60
ξ゚⊿゚)ξ「親友だからこそ言えるの。あいつの生き方は到底理解されるものではないから。ま、そういう意味ではドクオの存在は大きいんじゃない? あれもあれで十分変人だし」
(*゚ー゚)「それは言えてますね」
ツンの評価はしぃから見ても正当なものだと思う。以前の生活がどんなものかは知らないが、身に余る強大な力を手にしてなおそれを正しく使おうとする様は渡辺とどこか似ている。
騎士団のように大層なものを掲げているわけでもなく、あくまで個人として戦っているのだから、偽善者と言われても否定はできないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「似た者同士、なんだろうけどね。ちょっと妬いちゃうわ」
(*゚ー゚)「ツンさんにはツンさんにしかできない立ち位置があるように思えますけれど」
ξ゚⊿゚)ξ「なんていうのかな、根っこの部分で私と渡辺は違うから理解をしてあげられないのよ。例えばの話、渡辺を殺そうとしたやつがいるとする。そいつが命の危機に晒された時、渡辺は迷いなくそいつを助けようとするわ」
(*゚ー゚)「なるほど」
恐らく、ツンはそれを認めることができない。助ける必要があるのかと疑問を持ってしまうと言いたいのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオはそんな渡辺の生き方を肯定するんじゃない? 少し話をしたけど、あいつはそういうやつだなって思った」
ツンという人間は意外にも洞察力に優れているらしい。こんな短時間でここまで分析できる人間はそうそういない。しぃだってドクオという人間をはかりかねている。
ショボンやモララーはドクオを一定の位置で評価しているようだが、しぃにとってはただの馬鹿な大人くらいにしか思っていなかった。
かと思えば人のために危険を省みずに死地へ赴く度量を持っていたりするので、やはり分からない人間だ。
ξ゚⊿゚)ξ「だから私はここまで堕ちて、あいつの気持ちや考え方を少しでも理解できるんじゃないかって思う。お手本のような馬鹿もいるし、ようやくイーブンよ」
(*゚ー゚)「私には難しい話です」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたもその内分かるんじゃない? 何事も経験よ経験」
それからしばらくツンと渡辺やドクオの話をしたが、しぃには彼女の言いたいことを真に理解することができなかった。
自分がもう少し大人になったとき、彼女の言葉を理解するのだろうか?
そうすれば、しぃも騎士団として立派に胸を張れるんだろうか?
彼女の疑問に答えるものは、ここにはいなかった。
303
:
1
:2014/06/18(水) 23:42:47 ID:Crg8TgR60
第六話 終
304
:
1
:2014/06/18(水) 23:48:11 ID:Crg8TgR60
すごいぶつ切りな終わり方ですが、切りどころがなかったので場面転換で終わらせていただきました
今回みんながみんな好き勝手に喋ってるだけなんでそんなに分量多くならないはずだったんですが……
またも技量のなさが浮き彫りになる結果ですね、すいません
ちなみに今回の話でドクオが渡辺を呼ぶところはかなり好きなシーンになりました
渡辺可愛いよ渡辺
では次回投下は金曜日か土曜日になりますので、その時お会いしましょう
今回も読んでいただきありがとうございました
305
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 23:49:36 ID:HLEYq1WQ0
乙乙
306
:
名も無きAAのようです
:2014/06/19(木) 00:01:38 ID:nITpBi820
ドクオの評価は変人かよwwww
男と女の差がでかいな
307
:
1
:2014/06/20(金) 17:56:37 ID:sGdf9Tao0
どうも1です
今日の投下は無理そうなんで明日の夕方くらいに投下したいと思います
ではでは
308
:
1
:2014/06/21(土) 14:23:14 ID:rYvQKNY60
本日16時から投下致します
軽い話がどうしてこうなったのか……
なんか伏線ばらまいただけな気がしてなりません
309
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 16:22:45 ID:xggAIUxs0
>>308
待ってたщ(゜▽゜щ)バッチこいこい
310
:
1
:2014/06/21(土) 16:31:44 ID:YKMrFccY0
第七話「束の間の平穏」
.
311
:
1
:2014/06/21(土) 16:33:02 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
( ΦωΦ)「先日の件、ご苦労であったなショボンよ」
謁見の間にてヴィップを治める王、ロマネスクより労いの言葉を受け、ショボンは仰々しく頭を下げた。
( ΦωΦ)「ジョルジュからも例の物を手にいれたとの報告も来ているし、吾が輩は有能な部下を持って鼻が高いのである」
(´・ω・`)「もったいなきお言葉」
( ΦωΦ)「だが、あのドクオという異世界人、気に食わぬな。魔剣があるとは言え調子に乗りすぎているのである」
ロマネスクは忌々しそうに肩をいからせながら、不満をぶちまけた。
また、だ。この男は自分の気に入らないことがあるとすぐに感情を剥き出しにする。ましてや臣下の前でそんなことを口にすれば自分の首を絞めると何故分からないのか。
(´・ω・`)「……陛下の心中お察しいたします。しかし、彼が王都のために尽力していることもまた事実。ここは穏便に」
( ΦωΦ)「……そうであるな。すまぬ、取り乱した」
平静を取り戻し、ロマネスクは要らぬ事情をぺらぺらと喋り始めた。我が儘な王妃が高価な調度品を購入しただの、庭園に大きく手を入れただの、ショボンにはどうでもいい話だ。
その金を出しているのが国中の血税だということも理解していない愚図な王の自慢話など聞くに値しない。
愛想笑いと適度な相槌をうちながら、ショボンはこの王の首を取るための方法を考え出していた。
もちろん、そんなこと出来るわけがない。尊敬はなくとも、彼は一国の王。首を跳ねれば国が傾いてしまう。
そして自分は王を守るための盾であり剣。全てを投げ出すにはあまりに多くを背負い込みすぎた。
(´・ω・`)「……陛下、そろそろ本題を」
( ΦωΦ)「おお、前置きが長くなった。今回貴公を呼んだのは少しばかり問題があるのである」
312
:
1
:2014/06/21(土) 16:33:47 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「と、申されますと?」
( ΦωΦ)「異世界人にやってもらうことができた」
(´・ω・`)「ドクオに? 計画に彼は必要ではないはずですが」
( ΦωΦ)「もちろんあの男は必要ではない。が、あの魔剣に用ができた」
どういうことだろうか? あれだけ嫌悪するドクオと魔剣を今さらどう使うというのか、ロマネスクの意図が掴めず、ショボンはさらに聞き返す。
(´・ω・`)「用とは、どのような?」
( ΦωΦ)「最近になって様々な事件が王都周辺で頻発しているのは知っているな? その中に混じって一つ不可解な件があるのである」
ショボンはここ最近で起こった事件を片っ端から掘り起こしていく。どれも妙ではあるが、特に計画の妨げになるようなものは見当たらなかった。
( ΦωΦ)「悪魔の目撃である」
(´・ω・`)そ
ショボンはあまりの衝撃に思わず立ち上がりかけた。
313
:
1
:2014/06/21(土) 16:34:39 ID:YKMrFccY0
あり得ない、悪魔など存在するわけがない。そんなものはお伽噺にしか出てこない架空の存在だ。
( ΦωΦ)「仮にこれが本当だとすれば、吾が輩の計画に支障を来す可能性がある。そして、あれは神器でしか滅することができないのである」
(´・ω・`)「……ドクオを当て馬にするということですか?」
思ったよりも醒めた声でショボンは尋ねた。自分の声に驚きながらも表情は崩さない。いつの間にか張り付けていた仮面は、この男の前では絶対に外すわけにはいかなかった。
( ΦωΦ)「魔剣があるのなら苦戦はしまい。もっとも、本当の悪魔なのであれば甚大な被害が出ることになるのであろう」
そんなところにドクオを行かせるというのかこの男は。騎士でもない、巻き込まれたに過ぎない人間を、悪びれもせずに。
ショボンはいつの間に固く固く拳を握っていることに気付いて、すぐに力を抜いた。大丈夫、気付かれてはいない。この男に他人の感情を目敏く指摘するような気概はない。
( ΦωΦ)「……ショボンよ、貴公は少々あの男に感化され過ぎてはいないか? 貴公の役目を忘れるな」
(´ ω `)「……分かっております。私は陛下の剣であり盾、陛下の覇道を邪魔するものは全て斬るのみ」
( ΦωΦ)「分かっておるのならよい。何が大切で、何を守るべきかを履き違えるな。吾が輩は貴公を信頼している」
信頼している、などと簡単に言ってくれる。その黒い腹の内では自分など、いやこの国や世界ですら便利な道具にしか思っていないくせに。
( ΦωΦ)「吾が輩のために、やってくれるな?」
(´・ω・`)「……仰せのままに」
( ΦωΦ)「この計画はもはや止めることはできないのである。いや、止めたとしても止まらない」
(´・ω・`)「……では、私は作戦の準備に入ります」
ロマネスクに背を向け、ショボンは逃げるようにその場を去った。ここは自分のような弱者が留まっていい場所ではない。早く帰って夢に浸ろう。
願わくば永遠に醒めぬ夢を見れるように。
314
:
1
:2014/06/21(土) 16:35:28 ID:YKMrFccY0
城を後にして、ショボンは大きく息を吐いた。あの王を前にすると気分が悪くなる。体調ではなく、心の底から滲み出る嫌悪感が体を這いずり回るのだ。
ロマネスクは信頼などという方便を巧みに操って人を束縛する。使命感や倫理観を根本的な部分で掌握するのだ。あんなことはそこらの詐欺師でも滅多にすることではない。少しでも良心があるのなら一歩を踏み出すことにすら躊躇うはずなのに、奴はその分水嶺をいとも簡単に越えてくる。
近くのベンチに腰かけて煙草をくわえた。ここ最近本数が増えている。元々そんなに吸うような人間ではなかったのに。
(´・ω・`)y━・~~(僕は、なんのために戦っているんだろうな)
今朝方ドクオと話したことが甦る。彼のように自分の道をしっかりと見定めて、胸を張って歩くことはどこまでも難しい。もしかしたらショボンでは一生かかっても無理なのかもしれない。
(´・ω・`)y━・~~(騎士として、か)
まるで免罪符のように扱っている言葉だが、許されることではない。騎士だから何をしてもいいわけではなく、最低限の誇りや矜持があって初めて意味を持つ。王という立場も同様のはずなのに、何故ここまで違ってしまったのだろう。
(´・ω・`)y━・~~(あの方が変わられたのは、やはり十五年前だろうな)
あの戦争では多くのものを失った。人がゴミのように宙を舞い、どこまでも続く鮮血と臓物の海。あそこはまさしく地獄、それも人の手によって作られた人工的な墓場だ。
(´・ω・`)y━・~~(いっそあそこで死んでいた方が楽だったのかもな)
315
:
1
:2014/06/21(土) 16:36:14 ID:YKMrFccY0
風が吹いて灰がショボンの前をさらさらと流れていく。人の命も吹けば飛ぶように儚いものだと知ったのは、まさにあの時、あの瞬間だった。そこには大切なものが確かにあったはずなのに、ショボンの手をすり抜けて消えてしまった。
もう二度と戻らない。未だに夢の中で助けを求めてくるのは、きっとショボンが十五年前から歩くのを止めてしまったから。こんな世界のために自分は戦っただなんて、信じたくはなかった。
( ・∀・)「辛気くさい顔してますね、らしくもない」
と、後ろを振り返ればモララーが立っていた。そう言えば彼は見回りの当直だったか。
自分が今どんな顔をしているのか、普段はどんな顔をしているのかが分からなくて、ショボンは困って苦笑を浮かべる。モララーは何も言わずに隣に座った。
(´・ω・`)「僕にも色々と考えることがあるのさ」
( ・∀・)「ドクオに感化されすぎてんじゃないですか? 以前のあなたならそんな顔しなかった」
(´・ω・`)「どうだろう。やるべきことは何も変わってはいない」
( ・∀・)「そりゃそうでしょう。変わったのは心ですから」
(´・ω・`)「……」
自分は変わったのだろうか? 以前の自分はどんなだった?
( ・∀・)「ま、変わったのは俺もですけどね」
316
:
1
:2014/06/21(土) 16:37:12 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「良くも悪くも、ドクオの近くにいる人間は変わるのかもしれないな」
( ・∀・)「そりゃあいつが戦う理由をはっきりと持っているからでしょう。迷いがある剣は鈍る。あなたが教えてくれたことですよ」
(´・ω・`)「……モララー、君は何のために剣を取る」
( ・∀・)「決まってます。自分のために」
(´・ω・`)「……僕も同じように思っている」
モララーは何も言わずに立ち上がる。代わりにショボンに背を向けた。
( ・∀・)「俺はもう帰って寝ますよ。今のあなたと話してても何の得もない」
手をひらひらと振るモララーの姿は、他の騎士達が見たら大激怒だろう。それほどに礼節のない不躾なものだった。
しかし、ショボンはその背中に何も言えなかった。
モララーに指摘されるまでもなく、分かっていたから。迷いがあることくらい、不満があることくらい、とっくに知っていた。
けれどもその不満をどこにぶつければいいのか、この迷いをどうすればいいのかが分からない。自分の立場や周りの人間は、ショボンにたくさんのものを求め、ショボンはその期待通りにことを成してきた。それは誰かのためになると分かっていたからで、誰かを傷付けるものではないと知っていたから。
ショボンも子供ではない。必要とあらば命を奪ったし、傷付けもした。そこにあったのは戦いの不文律であって、嬉々として剣を振るったわけではない。
(´・ω・`)(分かっている。分かっているんだ)
ぎゅっと拳を握りしめて、ショボンは腰をあげる。もう何も考えたくない。
そう言えば、今日は徹夜だったことを、ショボンは今さら思い出した。
317
:
1
:2014/06/21(土) 16:37:56 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
('A`;)(俺は何かしたんだかろうか)
隣にいる渡辺は先程から一向に口を開こうとせず、何かを期待するような目でこちらを見ながらアイスを食べている。たまに目が合うとすぐに逸らしてしまうのだが、彼女の目の奥には確かな葛藤のようなものがある……気がする。
そう言えば渡辺を見かけた時もドクオから逃げようとしていたし、本当に気付かないうちに何かしてしまったのかもしれない。
だが、ドクオは元の世界にいたときに読んだことがあった。こういう場合、自分が何をしたかも把握せずに謝ると女性は火に油を注いだが如くさらに不機嫌になるそうだ。ここは慎重に何があったかを聞き出し、問題があったなら速やかに消化すべきだ。
ドクオはそう判断すると、渡辺がアイスを食べ終えたのを見計らって口を開いた。
('A`;)「ええええええっttttttと、そそそそそそそそののののののの、わ、わた、渡辺しゃん!!」
こんな状況に慣れていないドクオは盛大に噛んだ。しかも自分ですら何を言っているのか分からないほどに。
从;'ー'从「……え、どうしたの?」
('A`)(めっちゃ引いてますやん)
困惑した顔でこちらを覗きこむ渡辺は、やはり可愛い。元の世界でこんな噛み方をすれば即警察にしょっぴかれるところだった。いや、もちろん渡辺もかなり驚いている、もとい引いているのでドクオの心に絶大なダメージを与えたことには変わりはないのだが。
318
:
1
:2014/06/21(土) 16:38:46 ID:YKMrFccY0
('A`)「あー、いや、その、なんか落ち込んでいるというか、さっき俺のこと見て逃げ出したから、どうしたのかなって」
噛まずに言えた。ボッチで年齢イコール彼女いない歴日々更新中の自分が。
ドクオの中で今日はある意味記念日になった。異世界の暦がどうなっているのか分からないが、とにかく今日は記念日である。
从'ー'从「えっと……それは……」
言いにくいことなのか、はたまたそれほど酷いことをしてしまったのか。ドクオは一瞬にして気が気でなくなる。脇汗がドバドバ出ているし、体中の穴という穴から冷や汗が噴き出している。
正直、貞子と相対したときよりも緊張していた。命の危機はないのかもしれないが、社会的に死ぬ可能性もゼロではない。
周囲の喧騒がやけに耳障りで、ドクオはコップに口をつける。渡辺は俯いて何も言わず、かと思えばドクオをしっかりと見つめて、何かを言いかけてまた俯く、の繰り返しだった。
このままでは先に進まない。そう判断したドクオはさらに口を開く。
('A`)「俺はさ、渡辺が困った顔してたり、泣いてるのを見るの嫌なんだ。初めて会ったとき助けてくれたし、それからもずっとそばで支えてくれてたから。だから、出来れば俺も渡辺の力になりたい。助けてもらってばっかりじゃなくて」
途切れ途切れだし、大きい声ではっきりとは言えなかったが、言いたいことは伝えられた。あとは渡辺がどう出るか、もしこれでも話してくれないのならツン辺りに相談するしかない。ドクオの話術ではどうしようもないのだ。
やがて、渡辺がおずおずと語り出した。
从'ー'从「あの、ね。私、最近変なんだ。どっくんがツンちゃんを助けてくれて、しぃちゃん達騎士団の人がツンちゃんに学校に入れてくれて。嬉しいはずなのに、嫌な気持ちになるの」
('A`)「……え?」
从'ー'从「それで、さっきしぃちゃんに会ったんだけれど、嫉妬しちゃって逃げちゃったんだ」
ドクオは渡辺の告白に頭をフル回転させる。彼女が言っていることの意味も、リユウモ分かった。単純に嫉妬しているのだろう。確かに貞子と戦った際、渡辺は魔法を使えないという制約の中で何もできなかったのかもしれない。だが、それはあくまで戦うということについてであって、渡辺がいなければ目も当てられない状況になっていただろう。
彼女が身を呈してツンを庇っていなければドクオだって間に合わなかったし、ツンが貞子と戦う理由はなかった。もしかしたら貞子と共にドクオと戦っていた可能性も十分にあった。
そんな絶望的な場面で、渡辺のした功績は多大なものだとドクオは思う。
319
:
1
:2014/06/21(土) 16:39:30 ID:YKMrFccY0
その後の処理は一介の学生である渡辺には難しい話だし、ましてやドクオだって貞子と戦った以外はなにもしていないのだ。
('A`)「渡辺はなんか勘違いしてるぞ、それ」
从'ー'从「ほぇ?」
('A`)「あの時渡辺がいなきゃ俺は間に合わなかった。しかもツンの狙いはおれだだったわけで、渡辺が王都にいなかったらツンは貞子と戦う理由はなかったんだぞ?」
从'ー'从「でも、ツンちゃんに何もしてあげられなかったのは事実だよぉ」
('A`)「そんなことはないだろ。魔法が使えない状況で、渡辺はツンのために盾になってた。文字通り命をかけてたじゃん」
从'ー'从「……」
('A`)「何もしてないなんて言うなよ。ツンは入院しちまったけど、みんな生き残れたんだ。恥じることなんて何もない、渡辺は胸を張っていいんだよ」
ドクオは自分の言える精一杯を口にする。こちらに来て初めて会ったとき、ドクオは彼女に慰めの言葉すら言えなかった。けれど、今は違う。数回の戦いはドクオにとって少しの自信と勇気をくれた。そしてそれをくれるきっかけになったのはいつでも渡辺なのだ。
渡辺がいつも誰かのことを思って動いているのは知っている。そのために何をすべきかも理解しているだろう。ならばあの状況で彼女がしたことは最善で間違いのないものだった。
从'ー'从「……でも」
('A`)「それに、ツンの入学とかそういうのは俺達にはどうしようもないことだと思うぜ。渡辺は学生、俺は一般人、騎士団の連中とは役割が違う」
騎士団の本懐は王都に住む民のために、そして守るべき王族のために動くこと。ならばツンの処遇については自分達にできることなんてたかが知れている。
('A`)「嫉妬するのも分かるけどな。それだけ渡辺にとってツンは大事な友達なんだろうけど、渡辺がいたからツンも学校に通えるんだ。十分だろうよ」
从'ー'从「そうなのかなぁ……」
('A`)「ツンは渡辺に感謝こそすれ、悪態なんて吐いてなかったぞ」
320
:
1
:2014/06/21(土) 16:40:17 ID:YKMrFccY0
きっと、渡辺は人が良すぎるのだ。誰かのために、人のためにと考えるその姿は立派だが結果を求めすぎている。何がベストかなんて、終わってからしか分からないのに、その時点で先々まで考えてしまうのだろう。
それが悪いとは言わないが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。
('A`)「嫉妬なんてみんなするもんだ。けど、それが悪いことかって言われればそうじゃない。俺だってもっと強ければツンは傷つかなかったかもしれないって考えたらモララーやショボンさんに嫉妬する」
('A`)「けど、俺はそんなに強くないからさ、今出来ることしか出来ないんだよ。そこは折り合いをつけるしかないんじゃないか?」
ドクオにとって人生とは妥協の連続だった。努力をしていないからこそすぐに諦めることが出来たが、もし努力をしていれば何かができたかもしれないと今でも後悔している。
だが渡辺はそうじゃない。やるべきこと、すべきことをきちんとした上でも出来ることと出来ないことがあっただけの話。いわば適材適所なのだ。
('A`)「諦めろとは言わないけど、そこまで気に病むことじゃないだろ。一人が出来ることはそう多くはない」
こういう考え方は渡辺の過去、<忌み子>として生きてきた背景もあるのだろうが、それにしたって思い詰めすぎだ。
从'ー'从「……人のためって難しいね」
('A`)「難しいよ。誰かにとってほしい答えはそれぞれなんだから」
从'ー'从「私は、ツンちゃんがしてほしいことしてあげられたのかなぁ」
('A`)「それは間違いなく出来たじゃないか」
从'ー'从「……うん」
渡辺はそう返事したまま遠くを見つめる。彼女の心は、瞳はきっとまだまだ先を捉えているのだろう。
ドクオはそんな彼女に何をしてあげられるのか、未だに分からない。分からないが、やるべきことは決まっている。
('A`)(俺は渡辺を守る。そして、恩を返し続けるだけだ)
それだけが、今のドクオに出来ること。
321
:
1
:2014/06/21(土) 16:41:02 ID:YKMrFccY0
店を出ても渡辺の胸の取っ掛かりは取れず、もう一つの話をドクオにすべきか迷っていた。
从'ー'从(私が、どっくんをどう思っているか)
しぃと仲良く話すドクオを見て、嫉妬していたのは間違いない。だが、その嫉妬はどういう類いの想いなのか、渡辺は判断できずにいる。
ドクオに話を聞いてもらって、答えを聞いて、全てを納得したわけてはないが、話をしてよかったな、とは感じていた。
正直に言えば、ドクオは頼りになる男だと思う。渡辺が困っているときに助けてくれるし、こちらのことを気にかけてくれている。もしかしたら兄という存在が渡辺にもいればこんな人間だったのかもしれない。
もっとドクオのことを知りたいと思うし、自分のことを知ってほしいとも思う。だが、そういった感情は人より経験が少ないからこそ生じてしまう勘違いのようなものではないかとも思うのだ。
他人から見ればそれは恋だと言うのかもしれないが、そう断言するには渡辺の心はぐちゃぐちゃで纏まりがつかない。
ならばいっそ、本人に尋ねてみようか。ドクオならば自分の望む答えを出してくれるかもしれない。
从'ー'从「ねえどっくん」
隣を歩いていたドクオがんあ? と間の抜けた返事をする。
从'ー'从「どっくんは恋とかしたことある?」
(゚A゚)「ぶふぉっ!!」
ドクオが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。変なところに入ったようでげほげほま蒸せ返っている。
('A`;)「い、いきなり何を言い出すんだよ」
322
:
1
:2014/06/21(土) 16:41:47 ID:YKMrFccY0
从'ー'从「私、そういうのよく分からないからどっくんなら知ってるかなって」
('A`;)「いや、まぁ俺も恋ぐらいは……」
言いかけて、ドクオははたと立ち止まる。渡辺も気付かなかったが、そう言えば彼はまだ記憶喪失という設定のままだった。
从'ー'从「あ、あのね、どっくんが違う世界から来たっていうのはツンちゃんに教えてもらったんだ。だからもう記憶喪失だって言わなくても大丈夫だよぉ」
渡辺がそう言うと、ドクオはばつが悪そうな顔をして、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いていた。
('A`)「あー、そっか。ツンは元々黒の魔術団だっけ。騎士団の連中にもばれてるみたいだし、もう隠す必要ないか」
从'ー'从「どっくんが違う世界の人でも、どっくんはどっくんだからあまり気にならないよぉ」
('A`)「そっか。あー、んで、恋をしたことがあるかって話だが、ないことはないよ。成就したことはないし、その人とはまともに話したこともないけど」
从'ー'从「どんな感じなのかなぁ、恋って」
('A`)「んー、その人のことがずっと頭から離れなくて、どうすれば仲良くなれるかとかよく考えてたなぁ。結局挨拶を数回交わしただけで進展しなかったし」
从'ー'从「ふむふむ」
それには当てはまる気がする。気がつけばドクオは何をしているのかと考えることは割りと多い。
('A`)「あとは、そうだなぁ、その人が違う異性と仲良くしてるとやっぱり嫉妬してたかな。俺もそんなに経験ないからこれくらいしか言えないや」
从'ー'从「……」
从'ー'从(やっぱり、私はどっくんに恋してるのかなぁ?)
今のところドクオが言ったことは全て当てはまっている。ということは、そういうことなのだろうか?
ツンにもそう言われたし、これは確定、でいいのかもしれない。
('A`)「けど、これはまぁ受け売りなんだけどさ、恋とか愛だのっていつの間にか気付くものなんじゃないか?」
从'ー'从「いつの間にか?」
('A`)「そうそう。あいつ気になるなぁとか思ってても、実際は違う感情だったりするんじゃないか? 例えばペットを飼っているとする。当然愛情もって育てるよな」
从'ー'从「うんうん」
323
:
1
:2014/06/21(土) 16:44:01 ID:YKMrFccY0
('A`)「けど、人間相手の好きとは違うわけだ。同じ好きでも条件が違えばまた別のものだと俺は思う。やっぱそういうのは少しずつ育っていって、いきなり気付くものなんだよ」
从'ー'从「いきなり、かぁ」
('A`)「最初は気になるなぁ、それからそいつのことしか考えられなくなって、ある日突然やっぱりこの人のこと好きなんだってなる。人の心なんて計算や理論で紐解けるようなもんじゃないよ」
从'ー'从「……」
('A`)「だからこそみんな立ち止まって、振り返って、何度も挫折しながら歩いていくんだ。そんな簡単に何でも分かったら誰も苦労しないだろうし」
何となく、ドクオが言いたいことが分かった気がする。
人を想う気持ちはそう簡単に理解できるものではない。故に考える。考えて考えて、その先に人は気付くのだろう。
もしかしたら考えるのをやめて、少しだけそのことを忘れた頃に答えはやってくるのかもしれない。
だとしたら、今は分からないままでいいのだ。
从'ー'从「そっかぁ、やっぱりどっくんは頼りになるねぇ」
('A`)「褒めてもなんも出ないぞ」
从'ー'从「素直な気持ちだよぉ〜」
渡辺はにっこりと笑ってドクオの前に出る。
从^ー^从「どっくん」
('A`)「あん?」
324
:
1
:2014/06/21(土) 16:44:47 ID:YKMrFccY0
从^ー^从「大好き」
('A`;)そ「ファッ!?」
渡辺はそのまま前を向いて走り出す。今はこれでいい。その内あちらの方からやってくるだろう。そうしたら、きちんとドクオに伝えよう。
呆然と立ち尽くすドクオに、渡辺はもう一度声をかける。
从'ー'从「置いてっちゃうよぉ〜」
('A`;)「いや、今のどういう意味だよ!? え、何新手のジョーク? それともいじめ?」
慌てて追いかけてくるドクオに捕まらないよう渡辺は走り出す。
きっとこれからも渡辺はドクオのことが大好きだ。どんな感情かは分からないけれど、それだけはずっとずっと変わらない。
从^ー^从「えへへ」
('A`;)「待てって! おい渡辺さん?」
二人は王都をどこまでもどこまでも駆けて行く。渡辺が疲れはてて、彼に捕まるのはそう遅くはなかったけれど。
325
:
1
:2014/06/21(土) 16:45:33 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
王都とは遠く離れた小さな集落で、一人の男が目の前に作られた光を見て満足そうに頷いた。
「これは素晴らしい。やはり貞子が残したあの術式、無駄ではなかったな」
魔力を集め、人のマナですら集めたあの術式は大いに利用価値がある。貞子はあくまで予備電源のような使い方をしていたが、あれでは宝の持ち腐れだ。
マナとは人が生きるために最も効率化された魔力である。そして人はその身にマナを生成する機構までも備えているのだ。
ならば、マナを操ればその機構を作ることも可能であるということ。
人の存在とはかくも神秘的で、不可思議なものだが、彼女はその可能性を見出だしてくれた。
「楽しい、これは楽しいな。もっともっとシステムを効率的に回せば魔剣に頼らずとも大陸くらいなら簡単に治められる」
男はさらに術式を稼働させる。すると近くにいた人間は消滅し、きらびやかな光へと変換された。
「ふむ。まだまだ改良の余地があるな。人が持つマナはこんなものではないはず」
幾人もの人がマナに変わり、その場所に男一人だけになった頃、男は口元を歪ませながら集めたマナを術式に入れる。
「もう少し足りない。あと少しだけだ」
先日作り上げた実験体は失敗だった。出力をあげすぎたせいか言うことを利かず、挙げ句の果てには自壊してしまったのだ。
「まぁ材料はいくらでもある。もう少し見直してみよう」
男は術式を消して、誰もいなくなった集落をあとにする。
【+ 】ゞ゚)「これからが楽しいゲームの始まりだ、魔剣の主よ」
彼は棺桶死オサム。人の死を操る者である。
326
:
1
:2014/06/21(土) 16:46:19 ID:YKMrFccY0
第七話 終
327
:
1
:2014/06/21(土) 16:50:28 ID:YKMrFccY0
今回は短いですが終わりとなります
元々一話分の話を二つに分けたので大分短くなりました
今回は軽い話でバトルバトルしてた本編を少しでも和らげたかったのですが、見事に失敗です
けど渡辺の可愛らしさが前面に押し出されたと思うのでそこそこ満足です
次回からまたバトルバトルな話になりますので、お付き合いいただければと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました
次回投下は恐らく水曜日か木曜日になりますのでよろしくお願い致します
328
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 18:01:46 ID:SL0DJFQ20
乙乙
329
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 19:40:47 ID:xggAIUxs0
乙でした
330
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 01:10:56 ID:4Sa1iQMY0
乙 良かった
331
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 09:38:30 ID:GgNBW1HE0
乙
早漏すなあ
332
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 18:37:56 ID:OCDgRO9M0
この渡辺はドクオに押し倒されても文句言えない
333
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 23:20:39 ID:BzfvGRiU0
乙
ところでしぃってロリ枠でいいの?
334
:
1
:2014/06/25(水) 03:24:40 ID:ha7Lbg220
夜分遅くにこんばんは、1です
本日夕方以降暇を見て投下していきたいと思います
いつもたくさんの乙をありがとうございます
おかげで執筆意欲がもりもり湧いております
>>331
自分でもそう思います
皆さんをあまりお待たせするのもあれなんでできる限り間隔を短くしてお送りしております
>>332
渡辺さんは今までぼっちでしたんで、男がどういう生き物か分かってないだけなんです
許してやってください
>>333
14歳ですよ?リアルだとjcですよ?
BBAとは言わせません!!
それではまた投下の際にお会いしましょう
335
:
1
:2014/06/26(木) 04:21:56 ID:vhAPCg.Q0
てすと
336
:
1
:2014/06/26(木) 16:10:17 ID:AXRm0dFE0
第8話「ゲームの始まり」
.
337
:
1
:2014/06/26(木) 16:11:41 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
('A`)「なぁ、一体どこに連れてくつもりなんだ?」
ドクオは先程購入した魔法紙を手で弄びながら、前を歩くモララーに声をかける。早朝だというのに街はすでに活気に溢れ、朝の特売か何かなのかヴィップラ地区の方から威勢のいい声が飛び交っていた。
( ・∀・)「どこって、そんなの決まってるだろ。仕事だ仕事」
('A`)「仕事って、俺騎士団じゃないよな?」
名目では一応騎士になるのだろうが、ドクオは正式に任命を受けたわけではない。そもそも騎士寮に厄介になっているのもそちらの方が王都や騎士団にとっても都合がいいからである。言ってしまえばドクオはなんちゃって騎士だ。
戦う力はあるものの、それだけの男に仕事とはどういう了見だろうか。確かに部屋の中で暇を持て余すよりは随分と建設的な気もするが、何も分からず魔法が飛び交う戦場に立たされるのは正直いい気持ちではない。
( ・∀・)「んなこと言ったって、陛下からの勅命なんだ。俺に言われてもどうしようもない。反逆罪で打ち首になりたくなきゃ大人しく言うこと聞くしかない」
('A`;)「反逆罪って……」
なんと無茶苦茶な。ヴィップを治める王の話を何度か聞いたことはあったが、皆口々に素晴らしい統治者だと言っていた。民の声を親身になって聞いてくれるとのことだったが、異世界人であるドクオの声には耳を傾けてくれないようだ。
('A`)「で、こんなのまで買わされたってことはもしかして王都を出るのか?」
( ・∀・)「ご名答。今回は遠征とまではいかないが、ちょっと遠い。詳しい話は道中でしてやるよ」
モララーはそう言って移動用魔法陣の前で立っていた二人の騎士に向かって小さく手を振った。
('A`)「今回もこのメンバーか」
その二人の騎士、しぃとショボンを見てドクオは溜め息を吐く。
(´・ω・`)「我々だけでは不満かね?」
その様子を見てショボンがここぞとばかりに発言する。ドクオは慌てて、
('A`;)「いえ、そういう訳じゃなくて、なんていうか……」
このメンバーだとろくなことにならない。と口にしそうになるが、すんでのところでドクオはそれを飲み込む。
ショボンもモララーもしぃも実力は折り紙付きだということは分かるのだが、彼らほどの実力者が出向くということは、それほど危険が伴う仕事だということ。ドクオとしてはもう少し穏便な仕事をさせてほしいと切に願っているのだが、世の中世知辛いものである。
代わりにドクオは気になっていたことを聞いてみることにした。
('A`)「というか、ショボンさんは副団長でしょう。王都を離れていいんですか?」
前回の件でも王都を離れたが、あのときはそんなに距離がなかった。今回の話だと、なんだか相当遠くまで行かされそうな雰囲気である。
338
:
1
:2014/06/26(木) 16:12:49 ID:AXRm0dFE0
(´・ω・`)「これも陛下の勅命でね。今回は私が同行しないとならないくらい大きな問題なのさ」
('A`)「……マジすか」
(´・ω・`)「マジ? どういう意味かね?」
('A`)「いえ、何でもありません」
副団長直々に出なければならないほどの問題。それはつまり貞子と同等、もしくはそれ以上の危険が伴うということ。
ドクオはこの時点で全てを投げ出して逃げたい衝動に刈られた。あんな女がそう何人もいるとは思えないが、ドクオは黒の魔術団とやらに狙われている以上、奴等に襲撃されるとも限らないのだ。
もちろん、それらを考慮しての布陣なのだろうが、どうにも不安を掻き立てるメンバーであることに違いはない。
(*゚ー゚)「毎度思うのですが、ドクオさんは顔のわりに小心者ですね」
ドクオの顔を観察していたのか、しぃは小さくそんなことをのたまった。顔のわりにとはどういうことだ。どこからどう見ても幸薄そうな一般人だろう。豪胆な顔をしているとは思えないのだが。
( ・∀・)「ま、話してても先に進まない。さっさと目的地に行きましょうか」
(´・ω・`)「そうだな。全員魔法紙は持ったか?」
('A`)「そう言えば、前回は歩いて目的地まで行きましたけど、今回はどうやって行くんですか? さすがにこれに乗ったら到着ってわけじゃないでしょう?」
ドクオは王都でも移動魔法陣を利用したことがない。というのも、ドクオの移動範囲が極端に狭いことに起因している。
ドクオが住んでいる騎士寮は商業区であるヴィップラからさほど離れていない場所にあるため、徒歩で十分に行き来できるためだ。この世界での娯楽は何度か耳にしたことがあるものの、基本的にめんどくさがりなドクオは一度王都をくまなく歩いたくらいで、一日のほとんどを部屋で過ごし、あとは訓練所に顔を出すだけだった。
そんなドクオだったから、この移動術式は以前説明を受けたくらいで利用したことがなかったのである。
( ・∀・)「ああ、とりあえずそれ貸してくれ」
モララーに促されて魔法紙を渡すと、彼はその紙に何事かを記すとこちらに返してくる。
ドクオにはこちらの文字は分からないため、この言葉がどんな意味をなすかは神のみぞ知るというやつだ。モララーのことだから悪いようにはならないと思うが、少々不安ではある。
(´・ω・`)「さて、準備は整ったかな? 時間も差し迫っているから行くぞ」
ショボンの号令で一人、また一人と魔法陣に乗っては消えていく。残ったのはドクオとショボンだけだ。
339
:
1
:2014/06/26(木) 16:13:42 ID:AXRm0dFE0
('A`)(うわー、なんか怖いなぁこれ。乗りたくない訳じゃないけど、モララーに貰ったあれも大概だったしなぁ)
黒の魔術団のアジトから王都に戻ったときのことを思い返し、ドクオは思わず胃液が込み上げてくるのを感じた。移動系の魔法は渡辺の魔法と魔法アイテムくらいしか経験したことはないが、あれは酷いものだった。
一瞬にして視界が歪み、三半規管を掻き回すような感覚を得る。それに耐えて視界が正常に戻ると王都に到着していたのだが、ドクオはすぐに嘔吐した。
(lii'A`) (憂鬱だ)
思い出し下呂をしそうになって、ドクオは魔法陣に乗るのを躊躇っていると、いつの間にか後ろに回っていたショボンが背中をさすってくれた。
(;´・ω・`)「大丈夫か? 少し休んでからでも構わないぞ」
(lii'A`)「いえ、大丈夫です」
(´・ω・`)「まぁ、転送系の魔法はなかなか慣れないものだからな。私も始めは何度も吐いたよ」
(lii'A`)「やっぱりですか」
(´・ω・`)「転送魔法陣も開発されたのはここ二十年ほどのことだからね。開発当初はもっと酷かった。本当に死ぬかと思ったほどだ」
これでましになった方だということは、乗り心地(?)はこれが限界ということなのだろう。今後この世界で生活していくのなら避けて通れぬ道だが、仕事と称して連れていかれる度に転送魔法陣を使うとしたら前途多難である。
(lii'A`)「覚悟決めるしかないか……」
ドクオが気合いを入れて魔法陣に乗ろうと構えたときである。
(´・ω・`)「ドクオ」
と、ショボンが呼び止めた。
340
:
1
:2014/06/26(木) 16:16:14 ID:AXRm0dFE0
('A`)「はい?」
せっかく意思を固めたところでいきなり呼ばれたため、ドクオは興ざめしたがショボンの顔は何か大事なことでも言おうとしているのか、こちらを真っ直ぐ見つめている。
(´・ω・`)「すまないな。本当ならば、君をこんなことに巻き込みたくはないんだ。ただでさえ異世界から偶然呼び出されて大変だろうに」
ショボンはそう言って頭を下げる。前回も、そして今回も組織で権力を持つ彼に謝罪をされると、何だか申し訳ない気分になる。
('A`)「……頭をあげてください。ショボンさんは何も悪くないでしょう」
(´・ω・`)「いや、騎士団の副団長なんて肩書きがあっても、一般人が戦いに行かざるを得ない状況を変えることさえ出来ないほど無力な自分を、私は許せないんだ」
('A`)「……確かに、なんで俺が戦わなきゃならないんだって思いますよ。けど、戦わなきゃ守れないものもある。黒の魔術団もどんなことをしでかすか分かったもんじゃないし。それに、今の俺に出来ることはこんなもんしかないから」
ドクオは自分に出来ることを知っている。戦いについては素人かもしれないが、それでもドクオは渡辺を、他の人を守る力がある。それを知りながら指をくわえて見ているだけなど、こちらに来る前と何も変わらない。
それじゃいけないのだ。ドクオだって死にたがりの馬鹿じゃない。けれど立ち向かわなきゃならない現実が目の前にあるというなら、動かなければ後悔するのは目に見えているから。
ドクオがそう言うと、ショボンはようやく頭をあげた。
(´・ω・`)「恩に着る。ただ、君は絶対に死んではいけない。何かあればすぐに逃げるんだ。いいな?」
('A`)「分かりました」
そう約束をして、ドクオはようやく魔法陣へと踏み出した。
前回のように渡辺が狙われることも今後あるのかもしれない。ツンだって黒の魔術団を抜けた身だ。いつ追っ手が来るかも分からない。
その時、貞子よりも強大な敵が立ちはだかるのだろう。ドクオはそんなやつらとも戦わなければならない。
きっと騎士団が用意してくれる実戦はドクオの血肉になる。何事も経験だ。
そこまで考えたところで、ドクオの目の前が歪み始めた。
341
:
1
:2014/06/26(木) 16:16:56 ID:AXRm0dFE0
渡辺は現実に嫌気が差して、逃避と言わんばかりに机に突っ伏す。このまま机と一体化して沢山の人の役に立てるなら本望だ。もうこんな俗物にまみれた世界なんて必要ない。
ξ゚⊿゚)ξ「なに現実逃避してんのよ。そんなんじゃいつまでたっても進級出来ないわよ」
向かいの席に座ったツンがため息混じりにそう告げる。長い入院生活も終わり、ツンが魔法学校に編入という形で入学したのはつい先日のことだ。体調はまだ本調子ではないようだが、日常生活に支障はないということでようやく渡辺と肩を並べて学生生活を謳歌できるようになった。
从'ー'从「だってぇ……今回の課題は難しすぎるよぉ」
渡辺達はつい先程まで学校で講義を受けていたのだが、講義を修了した証として課題の提出を求められたのである。
この学校は一つの講義を修了する度に課題を出されるのだが、その難度はまちまちで魔法術式の構築だったり実技試験だったりと内容もバラエティーに富んでいた。そして、今回の講義は錬金術という魔法使いにとってはもはや珍しくもない使えて当たり前のものだが、出された課題に使う媒体が問題だった。
从'ー'从「魔導鉱石の原石なんて簡単にてに入らないよぉ……」
魔導鉱石とは錬金術においてよく使う基本的な媒体の一つで、その用途は様々である。加工を施して燃料にしたり、数が多ければ形にして商品にしたりとかなり応用が利く便利なものだ。
これだけ世に浸透しているものなのだから手に入れるのはそんなに難しくはない。ヴィップラの出店でも覗けば簡単に手に入る代物なのだが、原石となると話は違う。
342
:
1
:2014/06/26(木) 16:19:42 ID:AXRm0dFE0
元々魔導鉱石は特定の鉱山でしか採掘されず、扱いも国家資格が必要なほどに危険なものなのだ。採掘時には小さな塊で見付かることが少なく、鉱石自体が魔力を多分に含んでいるためちょっとした刺激で簡単に暴発してしまう。
そのため市場に出回っているのは塊を小さく砕き、きちんと魔力が漏れないよう特殊な加工をしてようやく出荷となるため、課題で原石を持ってこいなどとは前代未聞だった。
从'ー'从「でも課題をこなさなきゃ単位取れないよぉ……」
ξ゚⊿゚)ξ「大きさは砕いたものでいいんでしょ? お店では売ってないと思うけど、出荷元に行けば譲ってくれるんじゃない?」
从'ー'从「そんな簡単に貰えるかなぁ……」
魔導鉱石の値は一介の学生でも買えるほどお手頃な価格だ。ならば現地に行けば元値で売ってくれる可能性もないことはない。
だが、その場所に行くまでが大変なのだ。
从'ー'从「箒で行ったらどれくらいかかるかなぁ」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そこは飛行馬車を使いなさいよ」
飛行馬車とはこの世界において最もポピュラーな移動手段だ。移動術式が開発される前まで街中を移動する際は飛行馬車が利用されていた。しかし、短距離での使用はコストパフォーマンスが悪いために現在では街と街を移動する際に使われているのと、大量の物資を運ぶ際に使われているくらいだった。
343
:
1
:2014/06/26(木) 16:20:42 ID:AXRm0dFE0
从'ー'从「う〜、ツンちゃんも一緒に行こうよ〜。一人じゃ心細いよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「とは言ってもねぇ、実際どれくらいかかるか分からないじゃない。私だって課題やらなきゃならないし……」
从'ー'从「お願いします〜。あんな遠いところまで一人旅なんて嫌だよぉ〜」
渡辺が半分泣きながら切実にそう言うと、ツンは黙ってあれこれと考え始めたようだった。
ξ;-⊿-)ξ=3「はぁ、仕方ないわね。分かったわよ、ついてってあげる」
ついに折れたのかツンはため息を吐いて了承した。
从'ー'从「ほんと〜? やったぁ〜、それじゃあ早速準備しなきゃだね」
ξ゚⊿゚)ξ「甘いなぁ、私。甘やかしたりするのはドクオの仕事なのに……」
ツンの言葉に渡辺は、
从'ー'从「酷いよぉツンちゃん。どっくんはそんなに甘やかしたりしないよぉ」
ξ゚⊿゚)ξ「うっさい。ったく、それじゃあ買い出しでもしましょうか。長い旅になりそうだしね」
从^ー^从「えへへぇ〜、ツンちゃんと旅行だなんて、なんだか夢みたいだねぇ」
ξ//⊿//)ξ「な、ば、馬鹿じゃないの!? 私達は課題のために行くんであって、遊びに行く訳じゃないのよ!?」
从'ー'从「えー、折角外に出るんだもん、ちょっとくらい遊ぼうよぉ」
ξ//⊿//)ξ「そ、そこまで言うなら少しくらいなら、つ、付き合ってもいいけどね!」
从'ー'从「よぉーし、それじゃあお買い物にしゅっぱぁーつ!」
腕をあげて渡辺が歩き出し、その後ろを何かをぶつぶつと呟きながらツンがついてくる。遊びじゃないのは分かっているが、それでも胸の高鳴りを抑えることができない。
それはツンが隣にいるから、あの時叶わなかったことを、今度は出来るから。
渡辺は笑って、これからのことを考える。
いい旅になりますように。
344
:
1
:2014/06/26(木) 16:23:30 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
移動術式をくぐったドクオは早速だが吐き気に襲われ、近くの茂みでげろげろと胃のなかを吐き出していた。やはりあの感覚は慣れるものではない。
しぃが魔法で多少吐き気を抑えてくれているものの、根本的にそういう意図の魔法ではないためすぐに回復というわけにもいかないようだ。
(lii'A`)ゲロゲロー
(;*゚ー゚)「す、すごい勢いですね」
(lii'A`)ゲロゲロー
しばらくしてようやく吐き気が治まったのを見て、しぃが魔法を止める。胃が空っぽになったせいか幾分すっきりした気分だ。
少し離れてドクオを待っていたモララーとショボンは若干呆れ気味に声をかけてくる。
( ;・∀・)「お前ほんと大丈夫かよ」
(lii'A`)「まぁなんとか。もっかい移動術式を使うならもう少し待ってほしい」
こんな状態でもう一回など正気の沙汰ではない。そんなことをすれば二度と目覚めぬ奈落の底へと堕ちていくに決まっている。
ドクオはよろよろと近くに設置されたベンチに腰掛け、しぃが買ってきてくれた飲み物に口をつけた。爽やかな飲み心地の液体が、弱った胃にすーっと溶けていく。生きているって素晴らしい。
345
:
1
:2014/06/26(木) 16:24:14 ID:AXRm0dFE0
(´・ω・`)「もう移動術式を使うことはないから安心してくれ。ここからはあれを使う」
ショボンが指差した先にあったのは馬車のような乗り物だった。ようなというのは馬がなく、代わりに後方から車などについているマフラーがあり、下部にはゴテゴテとした機械が取り付けられている。本来馬が引くはずの部分にはハンドルらしきものがついていた。
('A`)「なんか、馬車のなり損ないっていうか……」
(*゚ー゚)「見てくれはあんなですけれど、乗り心地は割りといいですよ」
( ・∀・)「そうそう。静かだしな」
口々に馬車の乗り心地を褒める二人にドクオはそこはかとない危険を感じる。あの二人が結託して自分を騙しているのではないか、と不安になった。
(´・ω・`)「そう身構えるな。あの二人が言うように、移動術式を使うよりはいいぞ」
('A`)「……まぁ、そこまで言うなら信じますが」
( ・∀・)「俺達の言うことは信じられないってのかよ」
(*゚ー゚)「私はそんなに信用ないですか?」
('A`)「そういう訳じゃないが……あ、モララーは別な」
( ・∀・)「え、何それ酷くない? 俺達親友だろう」
('A`)「いつから親友になったんだよ。初耳だ」
( ・∀・)「この野郎一晩中飲み明かした仲なのに」
おどけるモララーを一瞥して、ドクオはショボンが指を差した場所へと歩き出した。モララーは何事か文句を言っていたようだが、そんなものを相手にしていたら日が暮れてしまう。
346
:
1
:2014/06/26(木) 16:24:57 ID:AXRm0dFE0
ショボンが店の人と短い会話をしたのち、一つの馬車を差してからそれに乗り込んだ。やはり馬車は人が運転するらしい。
ショボンが一つの馬車に乗り込むのを見てから対面にドクオが座り、その隣にしぃ、モララーがその向かい側。最後に乗り込んだモララーは扉を閉めて座った。
(´・ω・`)「いいぞ。出してくれ」
ショボンが言うと奇妙な浮遊感と共に馬車が浮かんでいく。
('A`)「おお」
扉の窓から外を見ると、徐々に地面が離れていくのが見えた。こんな簡素なものが空に浮かぶという事実にドクオは少なからず感嘆する。魔法というのは本当に底が知れない。
発信してからしばらくの間は米粒のようになった地表を眺めて楽しんでいたが、そのほとんどが青々とした森林ばかりで長時間見ているというのはやはり飽きてきた。その頃合いを見計らってショボンが口を開く。
(´・ω・`)「さて、今回の任務を説明しよう」
ショボンの言葉にしぃとモララーが神妙な顔付きで頷いた。釣られてドクオも顔を引き締める。
(´・ω・`)「今回の任務は鉱山都市モ・トコ周辺に出没した悪魔の殲滅だ」
('A`)そ「悪魔!?」
347
:
1
:2014/06/26(木) 16:25:43 ID:AXRm0dFE0
予想外の言葉にドクオは大声をあげた。悪魔と言えば、確か以前しぃが説明してくれた伝承にしか描かれていない破壊と絶望の象徴。十五年前の戦争でも現れたというが、そちらの信憑性は定かではない。
そんな伝説上の存在が、何故今頃になって現れたというのか。しかもそれを殲滅ということは、ドクオ達が戦わなければならないということだ。
あまりの出来事にドクオは開いた口が塞がらない。しかしそれとは対照的に他の二人は落ち着いている。
(´・ω・`)「ドクオも話くらいは聞いていたか。とは言ってもそんなに大袈裟な話じゃない。モ・トコ周辺で悪魔と思しき生命体を見かけたため、その真偽を確認し、もし本当に悪魔だったなら討滅といった具合だ」
('A`;)「なんだ、脅かさないでくださいよ。そんなのと戦わなきゃならないなんてさすがに荷が重すぎる」
( ・∀・)「とは言っても、周辺住民の話によればほぼ間違いないらしいけどな」
モララーがあっけらかんと言う。それならなんでこんなに落ち着いているのだろうか。勝てるかどうか、どころか生きて帰れるかどうかすら怪しい存在と一戦交えなければならないのに。
(*゚ー゚)「モ・トコの周辺の集落ではすでに何人かの住民が襲われているようで、被害はかなり拡がっていますね。自警団や派遣されている騎士も交戦したそうですが歯が立たず、生存者はゼロ。状況は絶望的です」
('A`)「そんなのと戦うの?」
(´・ω・`)「戦闘中に送られてきたとされる音声があるんだが、こちらの攻撃は全て無効化されているようだった。魔法が効かないのか術式を破壊しているのかは分からないが、かなり厳しいな」
聞かされる言葉にドクオは思わず頭を抱える。王都でショボンが頭を下げたのはこれが原因だったのか。
348
:
1
:2014/06/26(木) 16:26:40 ID:AXRm0dFE0
('A`)「そんな相手にどうするんですか? いくらショボンさん達が行ったところで攻撃が効かないんじゃやられるだけじゃ……」
( ・∀・)「ばぁか、何のためにお前を連れてきたとおもってんだよ」
('A`)「……魔剣か」
(´・ω・`)「そうだ。既存の攻撃手段では歯が立たないが、ドクオの持つ魔剣はどうやら魔力やマナを消滅させるようだからな。ましてや伝承にさえ書かれている代物だ。もしかしたら対抗手段になり得る可能性がある」
と、言うことはだ、その化け物を相手にするのは必然的に━━
('A`)「俺がやるのか」
(´・ω・`)「うむ。私達も出来うる限りのサポートはさせてもらうが、最終的に君に頑張ってもらう必要がある」
( ・∀・)「責任重大だな」
(*゚ー゚)「私達の命はドクオさんにかかっていますから」
('A`;)「ちょっとプレッシャーかけないでくれます? もう逃げ出したいくらいなんだけど」
(´・ω・`)「とは言ってもモ・トコに直接行くわけではない。周辺の街の被害状況や出没地域も確認しなければならん。モ・トコには明日の夕方に到着予定だ。今日は近くの街に宿を取ってあるからそこで一泊、のちに二つ三つほど他の街で情報を集め現地入りという形だな」
ショボンが他にも細々とした注意事項などを説明してくれたが、ドクオの耳には入ってこなかった。
とんでもない仕事に連れてこられたものだとドクオは心中で呟く。自分の成否がそのまま他の仲間の命を左右するなど、ドクオの人生で初めてのことだった。
('A`)(いや、そうでもないか。初めてこっちに来たときも俺があの魔物とやりあってなかったら色んな人が死んでた)
349
:
1
:2014/06/26(木) 16:27:24 ID:AXRm0dFE0
ニダーと戦ったときもそうだ。あの時もドクオが最後まで戦わなかったらしぃも、渡辺も怪我じゃすまなかったかもしれない。貞子の時は渡辺も、ツンも下手を打てば死んでいた。そう考えれば状況は変わらないように思う。
いつだってぶっつけ本番で立ち向かったのだ。いつも通り、そういつも通りでいい。ドクオには戦況を正しく判断できる戦術眼などないし、便利な魔法もない。あるのはいつの間にか手に入れた古代の伝承。そして、一月かそこらで身に付けた体力と力。
('A`)(俺だって少しは成長したんだ。やれないことはないはず)
窓の外を見つめながら、ドクオは言い聞かせる。たとえ悪魔がどれほどの力を持っていようが、同等の力がドクオの手にはあるのだ。
ドクオは何も言わずにぎゅっと拳を握り締め、来るべき戦いに想いを馳せる。
350
:
1
:2014/06/26(木) 16:28:08 ID:AXRm0dFE0
从'ー'从「荷物多くなっちゃったねぇ」
ξ#゚⊿゚)ξ「あんたがあれこれ必要のないものを買うからでしょうが。ちょっと貸しなさい、私が選別する」
从;'ー'从「あ、ダメだよぉ、それは私のおやつだってばぁ〜」
ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! 遊びに行く訳じゃないんだから、こんなにいらないでしょ!?」
从'ー'从「あー、それもダメぇ〜」
大きく膨れ上がり必要なものも入らなくなった渡辺の荷物を逆さにしてツンはあれこれと物色すると、大量のお菓子類をひたすらに仕分けていく。よくもまぁこんなにお菓子ばかり入れたものだと呆れを通り越して感心するばかりだが、今回の旅に関しては少しきつく言わねばなふまい。
何しろニューソク大陸の北端まで行くのだ。いくら飛行馬車で一日かからず行けるとはいえ、お遊び感覚では痛い目を見ることは火を見るより明らかだ。
王都周辺は騎士団が守りを固めているおかげか魔物もあまり活発ではないが、王都から離れていくのに比例して魔物は強力になっていく。自分達の天敵である人間の絶対数が少ないため、数を増やすと共に魔物同士の縄張り争いなどかわ頻発し、進化を遂げていったのだ。
飛行馬車は空を走る場所であるため、当然だが陸の魔物と出くわすことはないと断言できるが、北の方は空を飛ぶ魔物の数が比較的多い。黒の魔術団にいた頃、飛行馬車が魔物に襲われていたのを何度か目撃しているツンとしては出来る限り危険を減らしいたいのだ。
351
:
1
:2014/06/26(木) 16:28:58 ID:AXRm0dFE0
ξ゚⊿゚)ξ(まったく、お菓子よりも身を守るものを持ちなさいっての)
鞄から出されるお菓子達を抱き締めながら渡辺は血の涙を流していたが、これも渡辺のためだ。もちろんツンの鞄も多少の空きは確保しているので、お菓子全てを持っていけないわけではないが、今はこれくらいして渡辺にも危機感を持ってもらわなければならない。
あらかた整理の終わった鞄に、課題で使うものを片っ端から入れていく。ツンがどうして渡辺の課題に必要な道具類を知っているのかと言えば、友情の力がなせる技、とでも言っておこうか。ただ単に渡辺が心配だったため、ツンが下調べなどを行っただけなのだが。
ξ゚⊿゚)ξ「ま、こんなもんでしょ。って、あんたはいつまで泣いてるのよ」
从TーT从「だってこんなにも沢山のお菓子が……」
ξ゚⊿゚)ξ「帰ったらいくらでも食べられるわよ。んなことより明日に備えてさっさと寝る!! 何のために私が泊まってると思ってるの!?」
从'ー'从「はぁ〜い」
渡辺が寝床に入り寝息を立てるのを見届けてからツンも布団を被る。とりあえずの準備はこれでいいだろう。あとは明日の朝早くに王都を発てば夕方には現地入りだ。
ξ゚⊿゚)ξ(そういえば、モ・トコ周辺で事件が起こってるって話だったけど、大丈夫なのかしら)
もし何らかの重大な事件が発生してい場合、学生や一般人に検問をしている可能性もある。だとすれば行ったところで街に入れなかったり、飛行馬車の運行自体されていないかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ(その時は、その件が落ち着くまで二人でのんびり旅行ってのも悪くないか)
いつも慎重に動くはずの自分が、渡辺といるだけでこんなにも変わるものなのか、とツンは驚いた。自分も少しずつ変わっているのかもしれない。
だがこの変化は決して悪いものではない。凍り付いた心がゆっくりと溶けていくような、人の温もりや優しさがツンを包んでいる。
それに身を任せてみるのはけして悪いことじゃない。
そんなことを考えている内に、いつの間にかツンの意識は微睡みに落ちていくのだった。
352
:
1
:2014/06/26(木) 16:29:42 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
夜、モ・トコより二つほど離れた街にドクオ達は滞在していた。途中小さな集落に立ち寄ったが、悪魔に関する情報は得ることができなかった。
というのも、その集落にはそもそも人がいなかったのである。人が住んでいた形跡は確かにあるのに、まるで唐突に消えてしまったかのように集落だけが残っていた。つい先程まで日常生活を営んでいたはずなのに、人だけがいないという異常な様相はドクオの胸に不安だけを募らせていく。
('A`)(それに、村の中心に魔法陣を描いたような痕跡があった。まさか、悪魔を召喚でもしたんだろうか)
あんな目立つところに魔法陣を描けば、否が応でも他の人々が気付くはずだか、村のどこにも戦闘が行われた形跡はなかった。
つまり、その集落は突然、なんらかの形で村人全員が死亡、もしくは消失したということだ。しかもその異常を誰にも気付かせず、ごく自然に。
それ以上のことはどれだけ調べても分からなかったが、この街に到着して話を聞いたところによれば同様のことが他の集落でも起こっているようだった。
('A`)(なんか嫌な予感がするな)
353
:
1
:2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0
街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。
悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。
もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。
ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。
('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)
わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。
以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。
354
:
1
:2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0
('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)
腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。
煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。
ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。
腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。
(*゚ー゚)「あ」
ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。
355
:
1
:2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0
('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」
(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」
('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」
剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。
(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」
('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」
(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」
しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。
隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。
356
:
1
:2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0
二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。
しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。
('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」
何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。
ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。
個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。
だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。
言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。
(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」
それから、とつとつとしぃは語る。
魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。
だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。
周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。
そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。
357
:
1
:2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0
(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」
行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。
(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」
けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。
('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」
(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」
しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。
('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」
そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。
だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。
(*゚ー゚)「……はい?」
('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」
(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」
358
:
1
:2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0
('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」
自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。
('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」
(*゚ー゚)「……そう、ですね」
('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」
(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」
('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」
しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。
(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」
('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」
その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。
359
:
1
:2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0
(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」
残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。
('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」
しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。
最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。
(*゚ー゚)「……約束ですよ」
('∀`)「おう」
にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。
(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」
('A`)「はは、悪い悪い」
嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。
どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。
('A`)「……おい」
360
:
1
:2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0
ドクオの声にしぃも顔を険しくする。
(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」
辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。
武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。
('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)
汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━
('A`)(来たっ!)
▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」
犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。
361
:
1
:2014/06/26(木) 16:36:35 ID:AXRm0dFE0
('A`;)「なんだよありゃ! この街の結界はどうなってんだ!?」
(;*゚ー゚)「先程まで正常に動作していました。つまり、敵は中にいるということでしょう」
('A`;)「誰かが手引きしたってことか。とにかく今は」
距離を空けたところで振り返り、もう一太刀。短い悲鳴をあげて魔物は消え去った。
('A`)「ここを切り抜けるとするか!」
ドクオの声と同時に二人を囲むように魔法陣が浮かび上がる。そこから大量の魔物が現れ、次々と牙を向いてくる。
動きそのものは冷静に対処すればそれほど驚異ではない。しかし魔物達はうまく連携をとって前後左右を動き回り、ドクオの隙をついて攻撃を繰り出していた。
('A`)「きりがねえぞ!」
(;*゚ー゚)「ドクオさん、私のことは構わずに!」
('A`)「馬鹿、んなこと言うな!」
362
:
1
:2014/06/26(木) 16:37:19 ID:AXRm0dFE0
一匹、また一匹と増え続ける魔物をドクオはひたすら斬り伏せていく。術者がどこかにいるはずだが、もしかしたらこの空間そのものが敵の魔法という可能性もある。だとすればここを脱出しなければ生き残る術がない。
('A`)(魔法ならこの剣で斬れるはず。なら、そいつを探すしかない)
と、ドクオが意識を魔物から外した時だった。魔物達の動きがぴたりと止まり、ぶるぶると震えだす。
('A`)「なんだ?」
予想もしない展開にドクオは剣を構えたまま呆然とする。が、次の瞬間魔物達の体が発光し、一つの塊となった。
(;*゚ー゚)「……これは、生体合成!?」
('A`)「は?」
塊は徐々に形を成していき、一匹の魔物となる。その姿は先程の可愛らしい外見とはうって変わって禍々しいものへと変化していた。
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
363
:
1
:2014/06/26(木) 16:38:06 ID:AXRm0dFE0
('A`;)「うげっ、ケルベロスかよ」
九つの首を持ち、同じ数の尻尾。体は先程の三倍ほどもある。どの顔も光のない目をしており、口には肉を噛み千切ることに特化した鋭利な牙がびっしりと生え、止めどなく涎を垂らしている。
(;*゚ー゚)「来ます!」
合体した魔物が走り出した。動きも速い。寸でのところで横に飛び、攻撃をかわすが体勢を整える前に魔物の体がこちらを向き、九つの口から炎を吐いた。
('A`;)「くそっ」
剣で火炎を受け止めるも全てを消しきれない。徐々に押し負け、ドクオは上方向に体を崩され火炎をもろに浴びてしまう。
( A )「があっ」
(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」
何かの加護でも働いたのか、剣により威力が弱まったのかは知らないが消し炭にならずに済んだが、火傷が酷く鈍い痛みが体を駆け巡る。
('A+;)「っのやろう!!」
しかし止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打ち、ドクオは正面から駆け出す。
('A+)「はっ!!」
364
:
1
:2014/06/26(木) 16:39:34 ID:AXRm0dFE0
図体が大きくなった分こちらの攻撃は当たりやすくなった。横薙ぎに降った剣は致命傷にはならないが、一つの首を切り落とした。いつものように消滅とはいかないが、魔物からは悲痛な叫びがあがる。
さらに一歩踏み込み、もう一撃。まとめて二つの首を消滅。すぐに横に飛ぶと前足がドクオの頬をかすった。
('A+)(あまり時間はかけられねぇ)
ドクオは地を蹴り懐へと潜る。腹の中心に切っ先を向け、一気に突いて思いきり振り下ろした。
▼・ェ・▼「Wooooooooo!!」
叫びと共に魔物は崩れ落ち、光の球となって周囲に拡散した。すると暗闇が徐々に消えていき、街の景色が元に戻っていく。
(*゚ー゚)「どうやらあの魔物が魔法の元になっていたようですね」
('A+)「……」
しぃの声が安堵を取り戻すと同じくして、ドクオはついに膝を折った。
(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」
薄れ行く意識の中、血相を変えたしぃの瞳に涙が浮かぶのを確認して、ドクオは再び闇の中へと落ちていった。
365
:
1
:2014/06/26(木) 16:40:35 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
( ゚"_ゞ゚)「ふむ。あの程度ではやはり駄目か」
遠くからドクオの戦いぶりを見ていたオサムは手元にあるメモに走り書きをする。
( ゚"_ゞ゚)「所詮は魔物でしかないということか。しかしマナの密度をあげたことで魔剣ですら消しきれないようだな。これは実に興味深い」
魔剣とは全てを喰らい消滅させる破壊の象徴だと思っていたが、使用者の力不足なのかイマイチ驚異とは感じなかった。
対貞子戦では彼女の闇魔法ですら打ち消すことが出来なかったそうだし、少々がっかりである。
できるのならば魔剣の本当の力を知りたい。余すことなく、全てをさらけ出してほしい。伝承の通り、破壊と絶望を撒き散らして欲しいのだ。
( ゚"_ゞ゚)「もっと強いキメラを当ててみるか。だが、残りも少ない。これは参った」
366
:
1
:2014/06/26(木) 16:41:38 ID:AXRm0dFE0
座っていた棺桶の中を物色しながらオサムは次の手を考える。今回のゲームをするにあたり様々な物を用意してきたが、小手調べに使う駒はそう多くない。可能であれば次でゲームを始めたいが、魔剣の力を引き出さねば面白くない。
これでは折角の舞台も盛り上がらないと言うものだ。
( ゚"_ゞ゚)「今さら王都に行って新たな駒を作るのもめんどうだ。どうせならここを実験場にしてしまおう」
幸いこの街は幾つも手をつけていない。モルモットも多く残っていることだし、騎士団が向かうモ・トコからもそう離れてはいない。
オサムが棺桶を空けると一つの黒い球が浮かび上がり、ゆっくりと降下していく。
( ゚"_ゞ゚)「今回は少し大きめにしておくか。あまり時間もない」
黒い球に手を突っ込み、情報を与えると球は複雑な模様と文字を描きながら地面に貼り付いた。一瞬にして魔法陣が出来上がり、オサムは無表情にそれを観察する。
( ゚"_ゞ゚)「こんなものか。さて、次の段階に進むとしよう」
魔法陣が光を失い見えなくなると、オサムは踵を返し街を出る。
魔剣の主と騎士団、楽しいゲームの時間だ。
367
:
1
:2014/06/26(木) 16:42:24 ID:AXRm0dFE0
第八話 終
368
:
1
:2014/06/26(木) 16:46:18 ID:AXRm0dFE0
昨日投下するといっていたにも関わらず一日遅れてしまいまして大変申し訳ありません
なんだかよくわからないんですが、BBHとかなんとかで書き込みができませんでした
とりあえずこんなところで第八話終了です
次回投下は恐らく月曜日か日曜日になると思います
今回も読んでいただきありがとうございます
それではまた次回
369
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 17:57:48 ID:9NtxaA6c0
乙乙
370
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 18:18:58 ID:AzP8GVQ60
乙
ドクオのギャルゲ系イケメン具合に嫉妬
あとケルベロスの表現の仕方に何だか笑ってしまったw てか頭が12頭ないか?
かわいい
371
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 23:31:49 ID:0neGwT/w0
乙
今回も楽しく読ませてもらった
このドクオ絶対イケメンだろ
372
:
名も無きAAのようです
:2014/06/28(土) 21:02:58 ID:TlDpC.Ps0
お、来てたのか
乙
373
:
1
:2014/06/29(日) 00:31:04 ID:fXDvGWPk0
こんばんは、1です
どうやら日曜日の投下は無理そうなので月曜日の夜にでも投下しようかなと思います
ちょっとリアルで問題がありまして次の話がまだ半分ほどしか出来上がっておりません
ですのであと一日待っていただけたらと思います
では月曜日の夜にでも
>>369
ありがとうございます
>>370
oh...九つなのに三つ多い……
指摘ありがとうございます
ケルベロスはAA作るか悩んだんですがめんどいのでやめました
私もこれ見た瞬間ぶふぉってなりましたね、あまりの手抜きっぷりに
伝わればいいかなって感じなものでしたのでw
>>371
顔はキモいイメージですよ
中身が成長していく感じなんですが、なんかイケメンすぎですね
>>372
はい、更新頻度だけは優秀だと自負してます
文量が最近少ないかなと思ってますが
374
:
1
:2014/06/30(月) 15:52:51 ID:MYtN.GAA0
すいません1です
まだ執筆が終わっていません
もう少しで終わるのですが、投下は延期させていただきます
多分今週中には投下しますのでしばしお待ちください
とは言っても、読んでいる方は片手で数えられるほどでしょうが
では
375
:
名も無きAAのようです
:2014/06/30(月) 18:43:23 ID:bfqCKllU0
作者の都合が一番
待ってますよ
376
:
名も無きAAのようです
:2014/06/30(月) 18:54:39 ID:OOCEsemIC
今日期待してたけど仕方ないな、まあ投下できる日まで待ってるよ
377
:
名も無きAAのようです
:2014/06/30(月) 19:58:38 ID:eVDUd.0YO
報告なく消えるよりずっといいんだぜ
378
:
名も無きAAのようです
:2014/07/01(火) 01:29:26 ID:OvHmMtf60
まじきたいしつる
379
:
1
:2014/07/01(火) 02:04:42 ID:omB3Xylg0
なんだか最近筆がのらないことが多いもので本当にすいません
一応毎日筆を取っているのですが、スランプかもしれません
書いては消して書いては消してを繰り返し、とうとう一話分まるまるかきなおしているところです
遅くとも木曜日までには投下いたしますのでもうしばしお持ちください
380
:
名も無きAAのようです
:2014/07/01(火) 07:17:29 ID:9LaFxnNc0
焦らずマイペースでやってください
もう暖かいので全裸待機も余裕!
381
:
1
:2014/07/02(水) 19:36:15 ID:2LKcBS9g0
どうも1です
ようやく投下できる出来の文章が出来ましたのでそのご報告です
ただいまよりその手直しをいたしますので、明日の夕方から夜には投下できそうです
待っていてくださる方には大変ご迷惑をおかけしました
ではまた明日投下する際にお会いしましょう
382
:
名も無きAAのようです
:2014/07/02(水) 21:26:46 ID:HRidzFlE0
>>381
お待ちしてますーw
383
:
名も無きAAのようです
:2014/07/03(木) 00:11:38 ID:muVde1rI0
待ってますよ
384
:
1
:2014/07/03(木) 14:22:17 ID:nhiZL3QQ0
本日18時から投下します
385
:
1
:2014/07/03(木) 17:59:33 ID:2V.Din8.0
第九話「水面下の戦い」
.
386
:
1
:2014/07/03(木) 18:00:24 ID:2V.Din8.0
◇◇◇◇
元々しぃという子供は主体性がなかったと記憶している。
何をするにも両親がいなければ泣いていたし、友達と遊ぶのも周りの意見に合わせ、けして自分の心の内を他人に明かすことはなかった。
恥ずかしかったのとは少し違うし、自分が何かを言えば周りは少なからずそれを尊重してくれたんだろうとは思う。
けれどしぃがそれをしなかったのは何か考えがあったわけではない。ただ何を言えばいいか、自分が何を考えているのかという根本的な部分を理解していなかったに過ぎなかった。
例えば亡くなった母が好きなものを作ってくれると言ったときも、しぃは何が好きなのかを答えることが出来なかった。だって母が作ってくれるものはどれも美味しくて嫌いなものなんて一つもなかったから。
例えば友達と遊ぶときも、何をしようかと迷った時しぃは何をしても構わないと思っていた。かくれんぼでも鬼ごっこでも、要はみんなで遊べるのであれば何であろうと構わなかったから。
数え上げればきりがないこんな昔話は自分の中ではごくありふれたもので、今日に至るまでしぃはそれでいいと信じてやまなかった。
両親が魔物に殺され、教会に預けられたのは自分の人生の大きな分岐点ではあった。
そこで彼女はがらりと変わってしまった生活に、両親が目の前で残虐に殺されるという場面に恐れを抱いたのはまぎれもない事実であるが、心を閉ざした理由はそれではなかったのである。
しぃの過去の中では自分が困っていた時に必ず、両親であったり友達であったり、果ては見ず知らずの他人であったりが手を差し伸べてくれたのだ。だから、両親が亡くなる間際もそれを信じてやまなかった。もしかしたらしぃが自らの意思で誰かに助けを求めることをすれば助かったかもしれない。
387
:
1
:2014/07/03(木) 18:01:15 ID:2V.Din8.0
その後悔が彼女の中で大きくのしかかり、ついには彼女の感情を凍てつかせたのだ。
だからといってそれを省みて行動に移せるほど彼女の心は成長しきっていなかったし、ましてや自分の立場や境遇はすぐにでもどうにかなるものでもなかったから、結局のところ彼女は自分の殻に閉じ籠るしか方法はなかった。
一人になれば生きるために行動できるかもしれない。
孤独であれば立ち上がることができるかもしれない。
そんな浅薄な考えで、子供ならではの想像が、その時は通用するのだと本気で信じていた。
しかし、その考えはすぐに消し去らざるを得なくなる。
両親を失った彼女を憐れんだのか、それとも単に仕事を全うしようとしたのか、預けられた教会の神父はしぃを気にかけてくれた。
何度もくだらない話をしてくれた。ためになる話もしてくれた。しぃが口を開かなくても彼は毎日のように、暇を見つけてはしぃとコミュニケーションをとってくれたのだ。
388
:
1
:2014/07/03(木) 18:01:56 ID:2V.Din8.0
何度も煩わしいと思ったが、次第に彼女の心は昔のような子供としては正しいであろう本来の形へと戻っていく。
友達ができた。好きな人だってできた。笑うことが増えたし、時に泣くこともあった。
そこに足りないものは、亡くなった両親だけだったが、神父はそんなことを忘れさせてくれるくらいに子供たちを愛してくれたし、しぃも彼を本当の親のように愛してしまったのだ。
故に彼女は大きくなるにつれ、あの日の後悔を忘れていく。自分に足りないものが何かに気づくこともなく、幸せな日々が、昨日と同じ今日、今日と同じ明日がずっと続いていくのだと信じてしまったから。
そんな保証はどこにもないのに。
389
:
1
:2014/07/03(木) 18:02:40 ID:2V.Din8.0
◇◇◇◇
(うA-)「ん……」
ドクオが目を覚ますとベッドの上だった。体中に包帯が巻かれており、自分が何故こんな状態になったのかを思い返してみる。
('A`)(そういや昨日、魔物に襲われたんだっけ)
そして攻撃を受けきれず、怪我を負ったものの倒すことには成功した。あのあとすぐに意識をなくしたはずだから、しぃがここまで運んでくれたのだろうか。
そこまで考え、ふと足の辺りに何かが乗っているような感覚があることに気付いた。
(*-_-)zzz
そこにはしぃが寝ていた。手にステッキを持っているところを見るに、一晩中回復魔法をかけてくれたのだろう。完治こそしていないが、傷は大分塞がっている。
しぃの頭を軽く撫でてやると、心地よさそうな声が聞こえた。布団に丸まって寝ている子猫とはこのような感じなのかもしれない。
390
:
1
:2014/07/03(木) 18:03:24 ID:2V.Din8.0
しばらくしぃを撫でていると、扉を開く音が聞こえた。顔を出したのはショボンだった。手には治療に使う道具なのか箱を抱えている。
(´・ω・`)「目が覚めたようだな」
('A`)「おかげさまで」
(´・ω・`)「あとでしぃにお礼を言うといい。一晩中治癒魔法をかけていた」
('A`)「はい」
ショボンはベッドの端にある簡易椅子に腰かけると、ドクオの包帯をてきぱきと変えていく。騎士ともなればこういったことも日常茶飯事なのだろうか。
(´・ω・`)「話はしぃから聞かせてもらったよ。災難だったな」
手を動かしながらショボンが話を続ける。
(´・ω・`)「一応周辺を調べてみたが痕跡すらなかった。どうにも厄介な敵だ」
('A`)「悪魔と何か関係があるんでしょうか」
(´・ω・`)「無関係ではないだろう。我々がこの街に滞在していたからこそ襲ってきたわけだしな。ましてや魔法を使っている」
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