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Key Of The Twilight

1イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2014/07/01(火) 19:01:24
移動してきました。

現在、参加者の募集はしておりません。

755リマ:2017/04/03(月) 02:38:04
おお・・・!ヤツキの案でさらに壮大な設定が・・・!!

うんとね、ジルは四神側の血縁ではないんだけど、黄昏の花嫁の血縁ではあるよー。
もともと黄昏の花嫁はレイシーだったってイスラさんの話聞いて思いついたんだけど、歴代の黄昏の花嫁をね、レイシー→ミレリア(リト母)→フェミルにしようかなって。
黄昏の花嫁は純潔な少女である。神の花嫁とされることから、人間の男と婚姻することは許されない→レイシーは爺と関係を持ったことで資格がなくなった→レイシーの血筋であるミレリアが次の器に。しかしミレリアに恋をしたトーマ(ジル父)が彼女を手に入れたいが為に何らかの方法でミレリアから花嫁の資格を奪った(方法は未定)。その際に黄昏の花嫁を生み出す血筋がトーマ側へ移る→フェミル誕生。素質申し分なく、黄昏の花嫁へ。

黄昏の花嫁も世界構築の因子だから、ジルも因子であることに代わりはないのかな?

取り敢えず二人の設定は大賛成です!自分全然思いつかないんで本当すごいなって尊敬しちゃいました(/ω\*)
またまたイメージが膨らみそうです(๑•̀ω•́ฅ)

756ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/03(月) 21:23:45
ジルさんリトナディアの異母(異父)兄弟かはとこ従兄弟辺りだと思ってた、申し訳ないorz
ジルも因子持ち(レミリアが持っていた花嫁の力と一緒に因子も移動した)で良いかな?
因子云々okでたらだけど……

後A”を作った人物=シンは間違いで←
A”を作った人物はa”にてシンライジと名乗った(由来は件の人物のライバル、雷使いのシンと言う人物から)

本編アブセルvsジルが熱かった、是非ともリト+アブセルコンビvsジルも見たいっす←

あ、取り敢えず前下書きした分一応完成したんで投下!
デジタルむずすぎぃ!
imepic.jp/uploaded/20170403/763520/8Frv

757イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/04(火) 01:25:43
二人ともありがとうございます!(^ω^)お二人のおかげでイメージが固まってきました!

なるなる、了解です。
どのみちシステムエラー発生するんなら、バロンが手を出す必要もないかなぁ

ちょっと仮定の話として聞くんですが…
もしバロンが悪役になった場合(この世界を自分の都合の良いように作り替えたいが為、邪魔な黄龍を始末しようと四神組を誘導)、何か不都合とかあります?

いや別段、悪役にしたい。って訳でもないんですが。こういう流れも有りかなーって思い付いたので確認程度に…。

あと黄龍自身は、この世界がコピーの欠陥品であることとか、欠陥部分を埋める為の因子のこととか…は知ってて動いてる感じですかね?


リマ>
そうなのん?そんなこと言われたら、その歌ちょっと聞きたくなるじゃないですか(笑)

まぁ他が成人してる中一人だけ若い子いたら、可愛がりたくなる気持ちも何となく分かりますね
最高に変態ww何を言っているんだ君はww

あれ?リマさんライブ行かなかったの?⬅
え、あの人お笑い担当なんだ?(笑)

(оωо;)マジか、自分の父親と同い年の人を好きになるなんて……、いい!ですね!歳の離れた恋愛好きですよ!⬅

だって、プライド高い子が残念な扱い受けてて、結果としてアホの子みたいに見えるんですよ?ノワール最高じゃないですか⬅
ああ、何か納得(笑)

あれ?そう捉えちゃうの?(笑)
ギャルゲとか乙女ゲーって普通、主人公を自分の分身として見て、疑似恋愛を楽しむものじゃないっけ?(笑)

良かった、賛成してもらえて安心しました^^
バロンは場合によっては悪い人になるかも…
乳に関しては妥協しない男、バロン⬅


ヤツキ>おおぉ!すごい!流石の勢いです、格好いい!
てか今回はデジタルなんですね、次回もお待ちしてますよ^^⬅

758ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/04(火) 13:58:29
イスラ》黄龍は気付いて無いパターンで、死に際とかに「そうか、元より壊れていたのだな…」と言った風な最後を考えてました。
が、闇落ち(?)バロンに真実を突き付けられて絶望とかも面白そうです←

今の所欠陥品云々を知るのはイオリのみで、シデンさんも戦闘中に会話して知るかも?(寧ろもう話した気もする)

悪役バロンの件は俺は良いと思います、終盤でのドンデン返しとか面白そうかと!

いやー、アナログ最強っすわ、タブレットじゃ絵描いてる感覚になれないorz

759ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/04(火) 14:07:53
あ、欠陥品云々因子云々はジーナとルイも知ってる(設定的に)ので、ルイ経由でリトやナディア辺りも知るかも……?で!
この辺はリマさんに任せます。

欠陥品云々の尤もたる所は、四神(本来ならば青龍朱雀白虎玄武)がトールフレイヤポセイドンアマテラス……となっている、で。
この辺も上手く話に使えたらなーとかとか!

760リマ:2017/04/04(火) 21:10:26
ヤツキ>>
いやいや、関係者が身近にいすぎてこんがらがるのも仕方ない(笑)むしろややこしくてごめん(;・∀・)


おお!やっぱヤツキの絵は勢いがあってカッコイイ(*゚∀゚)
デジタルデビューしたんですね!
自分最近書いてないなぁ(;´д`)

おお、ルイは知ってるんだね(*゚∀゚)
じゃあうまいことリトにチクっちゃお←


イスラ>>
凄く綺麗な歌ではありますよ。ただ、「僕は君の中で生き続ける」とかもう泣くしかない←

でしょでしょ?他のメンバーも何だかんだ藍ちゃんのこと可愛がってると信じてます←
いや、変態じゃないですか?いたいけな可愛い美少年に跪きなよって、罵られたい下心の現れじゃないですか?あわよくばそのまま踏まれたいとか←
しかもそれまで楽曲はネット配信のみで顔も公表していなかった謎の天使もとい純情派アイドルを公式の場に初お披露目していきなり跪きなよって←もう跪くしかないじゃないですかや←

行かなかったですよ!wwwチケット当てなきゃいかないし。
ただ、DVDは買おうかなぁって思ってます。

だってあの人初登場でステッキから氷出して地面凍らせたかと思ったらそのままそこをスケートしだしたんですよ←

いいんだ(笑)
なのでナディアは始めから実らない恋なので一生独身なんです←

あーなるほど、たしかにそう言われると可愛そうで可愛いかもしれない(笑)

納得しちゃうんだ(笑)
ただなんでそんなにリマが好かなのか生みの親である自分が分からないんですよね←

さすがバロン、エロ男の鑑←
自分バロンはあのぬいぐるみのイメージしかないんで、例え敵になっても一蹴りで勝てる気がしてならない(笑)←

てか核はユニの体にあってもとの記憶はフェミルにあると考えると、もとはその二人は一つってのことで、そうなると最終的にユニの意思はフェミルに還るの?ってふと思って、つーことはユニであったころのリトへの想いはフェミルに引き継がれるわけだけど、あくまで心はフェミルであってユニでないし、だけど人格はユニになってるからフェミルでもないし・・・って訳わからないこと考えて頭パンクさせました。←
あくまでフェミルとユニは別人という事にします。
ただ実際黄龍だかバロンだかがフェミルとユニを一つにしようとして一悶着あっても面白いかも←

761イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/05(水) 10:50:52
ヤツキ>
そのパティーンか…、了解です。黄龍さんめっちゃ可哀想ですね…

そういえば会話したような…、後で確認してきます(笑)あ、シデンのレスはヤツキ達の戦闘が終わった後にでもしますので、すみません;
あと、次のイスラのレスは恒星の女神をボコる感じのレスで良いんですかね?⬅

ありがとうございます^^バロンついてはまた考えてみます

そうかぁ(笑)まぁ人それぞれですよね、自分はもうデジタルじゃないとイラスト描ける気がしません(笑)


リマ>
自分も頭こんがらがってきた(笑)まぁ記憶云々の話はただ、こうしたら面白いかも。位のノリで考えただけなので、リマさんのお好きなようにしちゃって下さい^^

てかリマさんの「黄昏の花嫁は純潔を失えば力も失う」って話で思い付いたのですが…

爺はレイシーの花嫁の資格を無くす為に、レイシーの純潔を奪った、ってことにすれば良いんじゃね、とか思いました(笑)

取り合えず過去話の魔物騒ぎは、シデンが花嫁の資格ある者を探して起こした感じで。それに勘づいたポセイドンや政府やらも資格を持った人間を捜し始める。

このままじゃいつレイシーの素性がバレて、連れていかれるのも時間の問題と思ったレイシー父は、爺に彼女との共寝を頼む。

レイシーは爺と父親以外の誰に知られることもなく資格を喪失。
ただレイシーの歌の力は彼女が花嫁である所以の力だったので、資格を失うと同時に声も失うことに。

割とむりやり純潔を奪われた上に、大好きな歌も歌えなくなって傷心のレイシー。
この出来事の一切を口外しないという約束の元、爺は罪悪感を抱えたまま本家に戻って以前と同じ生活に戻る。
(多くの人を欺く為にも、爺とレイシーが親しい間柄であったことは隠したかった。
あとこの時代やっぱり身分の違う結婚は難しかったらしい。父親は二人の間に子供が出来ても下ろすつもりだった)

……みたいな。
今自分が考えてる別の案、長いし分かりずらいしで、こっちの方がよっぽど分かりやすいし、しっくりくるんですよね(笑)

762ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/05(水) 11:29:30
リマ》言うて中々絵描く暇ないんだけどね、俺も(笑)
それはもう盛大にチクって下さい、チクる所かネタバレしてやって下さいww←

イスラ》そして最後の最後に自我が芽生えるも死ぬパターン……一期のラスボスは迷いなくラスボスとして散ったから、二期は逆で行こうと思って。
シデンvsイオリ了解す、ステラはフルボッコでお願いします!

763リマ:2017/04/06(木) 22:49:06
ヤツキ>>
どんな感じにチクろうかなぁ(笑)ルイは色々話してくれるタイプじゃないからなぁ(;´д`)

だよねー、前は色々描いてたのになぁ(٭°̧̧̧꒳°̧̧̧٭)


イスラ>>
おぉ!イスラさんの案面白そう!是非そんな感じでお願いします(*゚∀゚)

最初の案も気になるけど(笑)

しかし爺、そんなことしておいて他の女と結婚したのか( ・᷄ὢ・᷅ )ドクシンツラヌケヨ
そしてヨハンは如何にして生き延びたのか←

トーマはどうやってミレリアから力奪ったことにしましょうかね(๑•́ω•̀๑)爺と同じ方法をとる性格でもないし:(´◦ω◦`):多分トーマとミレリアってリマセナの次に清い関係なんですよね(笑)めちゃくちゃ余談ですがリトユニの方が一線超えるの早いと思います(笑)あー悩む←

764イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:16:41
【黄昏の塔】

月下に舞い散るは、闇の花と紅き剣閃。

相対するは暗夜を掻き抱く、恒星の女神…スピカ。

無尽に沸き上がる闇は脈打つかの如く。繰り広げられる破壊行為は息をするかの如く。
上下左右、間断なく放たれる闇の猛襲、その一つ一つが壮絶な破壊の奔流となってイスラの命を脅かす。

吹き荒ぶ闇の刃が。
炸裂する闇の砲弾が。
蹂躙する闇の波濤が。
死を孕む黒き魔手が。

殺意も敵愾心もない。ただただ純粋に目の前の命を壊すことだけを求めるそれに、イスラは灼熱を以て迎え討つ。
流し、受け、斬り返す度に、傷が増え、鮮血が飛ぶ。だがそれでも走る刃に迷いが生じることはない。

空気も、色も、重みも、全てが冷たく暗い漆黒に沈み、息苦しいほどの圧迫感が周囲を満たす中。イスラが刃に乗せるもの、それは剣士としての誇りと…願いだ。

………

剣を握る度に思う。今の自分の生き様はあの時の誓いに添えているのだろうか、と。

全てを救う。何と無謀で欲深い願いだと、聞く者は笑うだろう。だが、その想いを軽々しい気持ちで口にしたことなどなければ、ただ向こう見ずに刃を振るってきた訳でもない。
胸に刻んだ誓い、それこそがイスラの永遠の願いであり、永遠の理想なのだから。

例えその道が、どれほど険しく果てしないものだとしても、自分はそれを果たした先の、向こう側の景色が見たいのだ。

…だから、戦う。

「願わくば」

…だから、前へ進む。

「汝に安らかなる眠りが訪れんことを」

――……

ひとたび上空へ飛翔すれば、燃ゆる暁の出現を祝福せんばかりに、イスラの手の内の二振りが歓喜に打ち震える。

鮮やかな炎が爆ぜ、月明かりの下、天を割るように曇りなき白い刀身が真に顕現する。
天叢雲剣…、まさしくその姿だ。

そして同刻、イスラの背後に並び立つ八つの宝鏡が、ひとえにそれを映し出し…、

「出でよ―…、八岐の大蛇 」

鏡面に映る神刀に、宝鏡が姿を写せば、八つの天叢雲剣が圧倒的な存在感を放ってそこに佇む。
その姿、八つの首を持つ巨大な蛇の如し。

今も尚その勢いや激しく、大挙する闇の猛襲を斬り裂いて、八つの鎌首が女神に振り下ろされる。

そしてその数瞬後、イスラの持つオリジナルが一刀両断に振り抜かれ…、
炎と風が逆巻いて、無音の元に天叢雲剣が宵闇に軌跡を描いた。

765アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:22:24
【ポセイドン邸】

苦しい。息が上手く出来ない。
頭は熱に浮かされたように働かず、視界は狭まり、聴覚は水の中に潜っているが如く濁っている。

だが、それでも目の前で何が起こっているのか位は理解できる。

二人の間に割り込んで自分を庇うヨノ。そんな彼女にアブセルは、こっちに来ては駄目だ、逃げてくれ、と回らない舌で必死に訴えようとする。

しかしそれを言葉とする前に、彼の思考は空白に染まった。
耳朶を突いたもの。ヨノが口にした名に、意識が奪われる。

ジル、と。

途端、怒りで燻っていた感情が、一瞬にして霧散した。頭から血の気が抜け、呆然と目を見開くアブセルの脳裏に懐かしい色の記憶の断片が集められる。

蘇るのは、もう顔も定かではない、しかし名前だけは忘れたことのない、記憶の中の少年の姿。
幼い頃に一度だけ出逢った、少し意地悪で優しい、そんな少年と交わした過去の出来事。

…誰が知るだろうか。幼き日、倒れたリトの傍らで恐怖と罪悪感に震えていたあの瞬間、手を差し伸べて腕を引いてくれた彼の存在にアブセルがどれだけ救われたか。その手がどれだけ心強ったか。

誰が知るだろうか。その少年の言葉が、誰かを信じることを恐れ、たたらを踏んでばかりいた小さな背中を押して、一歩前に歩ませてくれたことを。その言葉が今も心の根幹を支えていることを。

誰が知るだろうか。リトを助けてくれた少年に、そして友を作るきっかけを与えてくれた少年に、アブセルがどれだけ感謝しているか。どれほど感謝の想いを伝えたかったか。

不明瞭な視界に映る青年の姿が引き歪み、幼き日の少年の姿と重なる。その優し気な髪の色も、アメジストの瞳も、纏う雰囲気も、かつて感じたものと同じだ。

「嘘…だ……」

アブセルは混迷に瞳を揺らして、青年を見上げていた。震える唇が空虚な音を生む。

何故。何で。彼が目の前にいて、自分を殺そうとしているのか。ユニを、ヨノを、そしてリトを、大切な人を傷つけようとするのか。

信じられない想いと、信じたくない想い。
目の前の青年と、かつての記憶の中の少年との差違に、アブセルの心は千々に乱れ、

「恩人の兄ちゃ―…」

刹那、視界の外から放たれた光弾がアブセルの側頭部を打った。

その衝撃に、彼の身体が大きく傾く。
何か固いもの同士がぶつかるような音がして、根本から折れた角が血を飛ばしながら、カラカラと床を転がる。
アブセルは地面に崩れたまま、動かない。そして、

「…邪魔者は排除しましたよ」

直後、上がる声。
アブセルを倒した張本人…フロンが廊下に佇み、その顔にたおやかな笑顔を浮かべていた。

一度はジルの元を離れた彼女が、何故また戻ってきたのか。
答えは言わず、フロンは壁に縫い付けられた状態のヨノの側へゆっくりと歩み寄る。

「珍しいですね、ジルさんが任務に手こずるなんて。いつもはもっと無情に残酷に、上手にやってらっしゃるのに。…何か理由があるのでしょうか?」

何が言いたいのか、彼女は意味あり気な笑みをジルと、そしてヨノに見せる。かと思えば、その相好をくしゃりと砕けたものへと変えた。

「なんて、調子が悪い日もありますよね。私も手伝いますから早く済ませちゃいましょう?あまり時間をかけると人が集まって来てしまいますよ」

フロンはその言葉の通り、邪魔者であるヨノを始末しようとする。
手に握る短剣をヨノ胸元に這わせ、それを大きく振り上げた。

766アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:56:29
ヤツキ>黄龍さんがラスボスなんです?自分的にはコピーの世界が破壊された理由が気になって…、てっきり別に黒幕がいるのかと想像してた⬅

てか黄龍さん死んだらバッドエンドくない?(世界再生できなくない?(笑)


リマ>
それなら良かった^^
でももう口頭で説明したから、文章化はしません(笑)何か生々しくなりそうだし⬅

本当にね(笑)まあ後継ぎやらの問題で、母親が決めた女性と強引に結婚させられた感じです。
因みに割りと早い段階で離婚してます⬅
一人娘もいて後継ぎにしようと躾てましたが、反発されて家出同然に出ていかれました⬅
そして娘はアブセルをつくって爺に押しつけました⬅

ヨハンは…レイシーが下ろすの拒否ったんじゃない?


それなー、自分も良いアイディアが思いつきません(--;)ちょっと考えてみます
リトは何だかんだで、ちゃんと男の子してますもんね(笑)


最初の案は、もう既にレイシーと爺はヤっちゃってるのが前提です⬅(だからもうレイシーは資格を失いかけてる状態)んで…、

そうとも知らず、レイシーの故郷に魔物+シデンが襲来する。

シデンはレイシーの中に眠っているユニを目覚めさせようとしますが、それをレイシー父が阻みます(ユニが目覚めたらレイシーの意識が消滅する為)
レイシーを爺に託して二人を町から逃がす。

爺は追いかけてきた魔物からレイシーを庇い奮闘するも、魔物に囲まれてボロボロになる。
レイシー、寄り代になる決意をし、力を解放する。

が、既に花嫁の資格を失ってるので、解放される力の負荷に堪えきれず、力が暴発する。
このままではレイシー自身を含め、周囲一帯が消し飛んでしまい兼ねない、と思った爺はレイシーの暴走を止める為、声帯に呪いを刻む(ユニとレイシーの意識を繋いでいるのが歌の力なので)

取り合えず沈静化。二人が気を失ってる間にバロンがレイシーの中からユニを回収。

後日談。
レイシーは無事でしたが、爺の呪いのせいで声を失う。しかもその呪い、徐々にレイシーの身体を蝕んでいくタイプです。術者が近くにいるほど進行速度も早くなるので爺はレイシーの元から離れざるをえない。
(因みに爺にもレイシー父にも呪いの解除は出来なかった。よくてレイシー父が進行を留めておくことができる程度)
二人はお別れします→【完】


…色々割愛しましたが、大体こんな感じです;
そしてこっちの方がまだ爺が綺麗です…よね?(笑)
どっちのパターンが良いですか?⬅

767ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/09(日) 10:55:56
リマ》現世に戻る際に土産話を聞かせてやろう、的なのはどうかな?
元々はパレワから続く世界、パレワのコピー世界を再構築した世界だし、パレワの最終戦が世界が産まれる大元となったと言えない事もないしね。

いやはや描こう描こう思っても中々手が動かんよね、仕事もあるし(笑)

イスラ》今の所黄龍がラスボスで、それ以上は考えてなくて、exでオリジン編もあるし……後単にネタがもう無いww

黄龍死亡で陰の核消滅しても、誰かが新しい陰の核に成れば……その為のゼロの姿はジルを模倣した設定です←
もしくは魔玉持ちのリトとか?リトユニで新たな陰陽の核とか?
もしくはジルフェミル?この辺は俺の一存で決めれる部分では無いんで、お二人と相談しつつ……

もしくは世界再生不可→一回消滅させて一から作り直す(ベースはゼロが目指した新世界)
因子が足りないから世界は不安定だったけど、四神組+αが因子持ってるので新しい世界は安定する(その代わり全員生まれ変わる感じで)
自分としてはこっちの終わりが良いかな〜とは思ってます。

コピー世界辺りの説明は……。

まず元々前の板組のオリナリスレでやってた話があって、その舞台が所謂世界A。
話の終盤で、ラスボスが世界を滅ぼす為に世界そのもののコピー(A”)を作って、AとA”をぶつけ合って対消滅させようとしたんです。

それを防ぐ為に主人公達は世界Aを救う為に世界A”を壊した。
壊した世界A”は流星群となってAに降り注いだけれど、大半は行方不明に。

その行方不明となった部分が集まって出来たのがこの世界aと言う訳で。
因みに件の主人公達は吸血鬼編頭で出たMr.Kと長老のジーナ、リトの居る冥界の主ルイで、彼等と戦った件のラスボスの直系の血筋がシンライジです。

……長くなるけどこんな感じです。

あ、そう言えばジーナがラディックにお願いした依頼の内容、もう決まってますか?

768ジル:2017/04/09(日) 23:15:30
【ポセイドン邸】

予想だにしない事態にジルは目を見開く。
それは一瞬の出来事だった。自分がヨノに気を取られているうちに、アブセルが吹き飛んだ。
正直、突然の事で何が起きたのかをすぐには理解出来なかった。アブセルを始末するつもりではあったものの、あまりの事に言葉を失う。

何故この女が此処にいるのか。それすらも考えることを許さずに事が進んでいく。

「・・・やめろ・・・」

フロンの標的がヨノヘ変わった。刃を向けられたヨノは恐怖で言葉が出ないよう。
彼女は関係ない。巻き込みたくない。

短剣がヨノヘ振り下ろされた。

「っ!」

ジルは鎌鼬をフロンに向かって放つ。彼女を貫くギリギリのところで、幸いにして命中したそれが刃を弾いた。

拘束していた風が解け、ヨノは地面へ膝ついた。

「早く行って。」

ジルが退避を促すがヨノはその場を動かない。驚きと恐怖で力が抜けてしまったようだ。

「アブセルちゃん・・・」

そしてアブセルの姿に震えだした。

「ヨノ!」

呼びかけても反応がない。もはや自力で逃げることは無理だろう。

ジルは柄にもなく舌打ち、再び風を起こしヨノを包む。
そして彼女の身を包みこむと、自分の背後へ運び、下ろす。

「ジル・・・アブセルちゃんが・・・」

「死んでないから黙っててくれない?君のせいで面倒なことになった。」

決して彼女に当たりたいわけではないが、彼女が邪魔さえしなければ任務は完結し、おそらくフロンが出てくることも無かったと思うと無性に腹が立つ。
何より、彼女に他人を平気で傷つける汚い自分の姿を見せたくはなかったのだ。

「お願いだからそこで大人しくしてて。・・・どうせ動けないと思うけど。」

自分の背後にいればヨノの安全は保証できるだろう。ジルはヨノにこれ以上邪魔をするなと釘をさし、その鋭い視線をフロンへ向けた。
そこにあるのは完全な嫌悪感。先日の一件からフロンには悪い感情しか浮かばない。
それでも気持ちを抑えながら、なるべく優しげな声色で彼女に語りかけた。

「僕には関係のない人を巻き込む趣味はないんだよ。僕のことを見てたなら分かるはずだけど?君のおかげでその子(アブセル)はもう動けない。任務完了。だから引いてくれない?」

769リマ:2017/04/10(月) 01:02:40
ヤツキ>>
なるほどなるほど。ありがとう、そんな感じにしてみるよ!

新しい核候補にうちのキャラ使ってもらうんは全然いいよ!
ユニがホムンクルスなら、また核持ちのホムンクルス作るのもいいかも?核は魔玉で代行出来る気がする!

みんな生れかわるのはちょっと悲しいなぁ・・・:(´◦ω◦`):二人がそっちが良いって言うなら構わないけども(*º∀º*)


だよねー、学生ん時は授業の時に描いたりしてたけど、さすがに仕事中は描けない(笑)


イスラ>>
生々しいwwwたしかにwww

あー、なるほど!爺も辛かったのね(;´д`)
娘wwwアブセルの母親の方が血筋だったんですね、てっきり父親の方かと思ってた(笑)
てかジュノスの家系ろくなモンいないな(笑)

半ば無理やりでも爺の事は好きだったからヨハンも大事なのか(笑)
そう言えばヨハンって爺が父親って知ってたっけ?

トーマには一体どんな力があったんだ←
でも仮に黄昏の花嫁を無効化させる能力があったとしたらジルにもその力があるはずだからまた物語が進んでいくような気がします(。 ー`ωー´) キラン☆

リトはほんと、何気男の子してますよね(笑)セナとは大違い←

あー!それも面白そうっっ
でも自分はゲス爺が好みなので、新しい案の方で←

770イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/10(月) 02:18:09
二人>そういえばすっかり忘れてた(笑)
セナとノワールの子供にメルフィって子がいたけど、その子も因子に含まれるんですかね?


ヤツキ>そういう話なら核キャラ持ちのリマさんの希望に添おうかな。まぁまだ先のことなので、ストーリー進めながらゆっくり決めてきましょう^^

皆生まれ変わるエンドは綺麗な終り方だけど、自分も何か寂しいです(´・д・`)笑

あー、なるほど。別のスレの話だったのか。二人の会話でちょいちょい、もしかして…って思うことはあったけど(笑)
それはもう完結してる感じなんですよね?

別の舞台の話から繋がるストーリーとか熱いですね!
とりま理解しました!
そして依頼の件はまだ全く考えてないです(笑)


リマ>なんか藍ちゃん消滅でもしそうな曲ですね⬅
踏まれたいとかww
うーん、藍ちゃんが女子だったらなぁ、膝まづいてたかもなのに⬅

ガチ勢はライブ行った上でDVDも購入するんでしょうね(笑)

スケートwwそれは笑うわww

マジか
ナディアって意外と一途なんですね…

そうでしょう?毒吐いてもセナリマには気づいて貰えてない感好き(笑)

えw何か壮大な理由があるのかと思った(笑)

バロンは次登場する時には多分、人形になってますから(笑)

爺も片親ですしね、ジュノスの一族は幸せな家庭を築く能力がないのかもしれない(笑)
ヨハンは爺が父親なの知らないんじゃないかな?
取り合えず爺の口からは教えてません

良いですねぇ、妄想が広がります^^

リトは女の子に抱きつかれたらちゃんと照れるしね(笑)

自分もゲス爺のが好みです(笑)じゃ、それでいきましょう


…余談ですが、ポセイドン家は何故リトを政府に引き渡さなければならなかったか、を考えてみました。

レイシー父が今回の件(魔物騒ぎや、私情でレイシーを花嫁として覚醒させなかったこと)に責任を感じて、何とか衰退する世界を救う方法がないものかと、政府直属の研究機関に相談、協力を要請する。

世界の核を正常に起動させる方法を研究したり、闇の王子の継承者として、自ら人体実験に志願したりする。(レイシー父は公では事故死として片付けられたが、実際は人体実験の末に命を落とした)

レイシー父の死後も研究は続けられる。
ただ途中でワヅキの介入などがあって、当初進めていた研究から、どんどん方向性が違うものになる。

当時レイシー父が政府と交わしていた「闇の管理者は政府の研究に全面協力する」という契約があった為、後任(リト)が産まれたら政府に引き渡すようにと、ポセイドン家に指示が入る。

一応は世界と人類を救うという大義名分の元、行われていた研究ですので、ヨハンも逆らえなかった…ってことで、どうですかね?(--;)

771ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/10(月) 16:08:12
メルフィすっかり抜けてた……リトノワの子だから因子持ちであるけどどうしよう、exオリジン編に回します?

とりま許可頂けたんで、代替もしくは新規の核が必要になった時はリマさんの持ちキャラ達でお願いしまっす!

言うてお話は終盤入った(よね?)位でまだまだ続くし、終わり方も含め案出しつつ進めて行きましょ〜

リマ》パレワで思い出しけど、そろそろ知り合って10年位じゃね…?ww

いやホントにね、次どうレスするか位しか考えられないし、仕事終わって帰っても大変よな(笑)
でも久々にリマのカラーイラスト見たい←

イスラ》正直根幹設定まで出張るつもりもなかったし、イスラだけが知らない話とか申し訳ないな……と思ってたけど、ここまでくればもうやり切るしかねぇ、と(笑)

件の物語は無事完結しとります、三年掛けて9スレ使っての大円満エンドっす!
過去ログ残せてないのがめちゃんこ辛いけど。

ラディックへのお願い、丁度良い具合の思い着いたんで、お願いして良いですか?
黄昏の塔頂上へどうやってナディアリト組に来てもらおうかと思ってたんだけど、空間跳躍出来る吸血鬼、特に長老やその側近なら大人数でも余裕やん!?と……

772フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/16(日) 22:30:26
【ポセイドン邸】

ジルの行動に驚くでもなく、また弾かれた短剣を一瞥することもなければ、フロンはゆるりと首を動かし、真っ直ぐにジルを見据える。

「…ええ、もちろん分かってますよ。私、ジルさんのことずぅっと見てましたから…」

ジルの言う「分かる」とは、どこかニュアンスの違う響きを感じさせて、フロンはその顔に暗い笑みを浮かべている。そして…

「だから、その人(ヨノ)はジルさんには似合いません」

はっきりと言い放った。

ずっと彼のことを見ていたから分かる。
確かにジルは無関係の人間を巻き込むような人ではない。しかしだからといって、その人達を積極的に庇うかと言えば、それも違う。
彼が自身の労力を惜しみなく発揮する時、それは決まって妹のフェミルが関わる時だけだ。

なのに今、ジルはフロンの知らない一面を見せている。上部だけ取り繕ってはいても、焦って、苛立っているのは明らかで、本来ならばその感情の起伏を可能にする人物こそフェミルである筈なのだ。そうでなければおかしいのだ。

しかし今目の前にいるのは彼女ではない。ジルの背に庇われる、あの娘をおいて他にいない。
…あの女は一体なんなのだろう。

フロンは静かにその場から足を踏み出した。

「以前…ジルさんとお話しましたよね?その時に気がついたんです。…やっぱりジルさんは私にとって特別なんだって。今まで好きになった人の中でも一番だって」

一歩一歩、揺るぎない足取りでジルの側へと歩みよる彼女に、引く気など更々ないようで。
フロンは熱の籠った瞳でジルを見つめて、

「ねえ、ジルさん。フェミル様にもその人にも、ご自分のこと、何も話してないんでしょう?
私だけですよ。ジルさんの汚い部分を知っているのは。知った上でそれを含めたあなたの全てを愛しているのは」

息のかかる距離。そこまで来ると、何気なく手を伸ばす。何か繊細なものにでも触れるかのように、ジルの頬にそっと掌を添えた。

「だってそうでしょう?他の誰があなたの汚らわしい本性を愛せると言うんですか?まして自分の父親を殺した男のことなんて…」

そうして狂気染みた笑顔を見せる、それこそが彼女の本性か。フロンは小首を傾げると、二人の反応を楽しむかのように、態とらしい口調で追い討ちをかける。

「うふふ、そうですよねぇジルさん?その女の人のお父様、あなたが殺したんですものねぇ?」

773フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/16(日) 23:08:28
ヤツキ>自分はオリジン編に回しても良いかと思います

今ジュノスとルドラが一応メルフィを捜索すべく動いてる感じなので、隙を見て虚空城からメルフィを救出。…するも何かごたごたがあって三人とも十字界に転移するはめに(不慮の事故的な)

世界に起こる異変のせいで、十字界と元の世界の行き来が不可能になる

そのため世界の問題が解決するまでジュノス、メルフィは十字界で待機〜…みたいな感じで、黄龍編とオリジン編、ごちゃごちゃにならないように線引きでもしときます?
ノワールとメルフィの再会もオリジン編でー、みたいな?

てかジュノスなんですが、今ヤツキとイスラがいる場に参上させようか、どうしようか迷ってるんですが、どうしましょう?三人で軽くお話しでもする?(笑)


9スレとかマジか(笑)そのスレ見たかったかも
過去ログはなぁ…(--;)残念ですよね;

おー、良いですね。了解です^^

774ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/17(月) 11:07:56
んだらば、ラディックルドラの力で一旦塔頂上に全員集合→
虚空城へ転移→
力場的な影響で虚空城の各地に皆散る→
各自フラグ回収なりバトル(ルドララディックジュノスはメルフィ救出の流れで)
後はイスラさんの言った具合に黄龍編とオリジン編の組で分ける、
で行きましょ!

先代組と今代組と全員顔合わせはしたかったんですよね、特に黒十字組とか。

イスラ》正直もうお話忘れてる部分合ったりで辛いっすorz
此処もどこかに過去ログとして置いときたい所……!!後欲言えば併設wikiも(笑)

775イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/18(火) 03:01:44
りょ(^ω^)
シデンの次のレスで世界中に魔物をバラまくつもりなので、手隙の人はそっちを抑えても良いですし


確かに世界観とか各キャラの設定まとめたものとか見たい(笑)
キャラも増えたし、ちょっと忘れてる部分もあるしw

776ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:12:12
【黄昏の塔】

停まることない恒久の破壊衝動。
闇とは本来、この世界の防衛プログラムである。

言わば闇の巣とはその中枢である。
かつての黒十字を背負う者達は世界の防衛プログラムに殉じたとも言えるだろう。

無尽蔵に溢れ出る闇を使役する恒星の女王と、それに従う黒き獅子。
今やその片割れは神刀により斬り伏せられ、闇を持ってしても蘇る事は無い。

恒星の女王……ステラは目を見開き、迫る光刃の軌跡がその瞳を照らす。
逆巻く疾風と火炎、鎌首をもたげ、姿を現す大蛇の数は八つ。

その全てが牙を向き、ステラの身体を斬り刻むのは僅か一瞬。
障壁も、闇の鎧もまるで無かったかの様に。

僅かに聞こえた風切り音と共に、四肢を、下半身を、首と胸元だけとなったステラは地に落ちた。
生々しい音を立て落ちた身体からは漆黒が溢れ、傷の断面からは触手が這いずり回る。

半開きとなった口腔からは呪詛が漏れだし、闇が呪印を象っていく。

「まだ、死ねない……約束を、あの時交わした約束を……」

しかし、その呪印は叢雲の剣とは別の神刀により切り捨てられ、闇霧となって霧散した。
霧散しても尚、再び形を成そうとする闇は結晶となりその動きを停め、黒水晶が月明かりに輝く。

もがき、呪いにも聞こえる言葉を紡ぐステラの眼前には、神刀を手にしたヤツキの姿。

「大丈夫だ、独りで逝かせはしない。
第二候補、スペアプラン……闇の王女。

流星の双子、スピカとレグルス。
二人の魂は我ら黒十字と共に。

恒星となって輝いた命の意味は、しっかりと此処にある。
だから、安心しろ。」

所謂達磨となったステラを片腕で抱き上げ、ヤツキは言葉を紡いだ。
その声は静かで、優しい。

「俺達が100年の時を越え、この世界に蘇った意味。
それは、今この時の為。」

見れば破壊衝動の塊と化していた周囲に満ちる闇はその動きを弱々しいものへと変え、段々と黒水晶へ姿を変えている。

「俺は彼女の魂を連れて行く。
だから、“お前達”はそれぞれの役目全うしろ。」

777ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:13:33
振り返った視線の先。
イスラの後方には、塔を昇ってきた二つの影。

赤髪の少女と、自分と同じ濡れ羽色の髪を持つ青年。
二人の持つ雰囲気は、イスラと自分と似通っている。

「話は聞いている、今代の天照と……シンライジ家の者。」

世代的に曾孫に当たるだろう二人が並び立つ様に、ヤツキはどこか満足そうな笑みを浮かべた。
決して交わる事なく、刃を交えるしかなかった自分達とは違い、共に並ぶその姿は感慨深い。

太陽と月。
天を照らすその光は闇を裂き、必ずや未来を指し示すだろう。

ヤツキは神刀凄王をメイヤへと投げ渡し、彼へと頷く。
言葉は要らない、刀に込められた想いが伝われば良いのだ。

頷き返すメイヤの視線を受けた後、ヤツキは自分の足元へ瞳を移した。
ステラを抱き抱え、立つその足元はゆっくりと、しかし確実に光の粒子となって消えていくのが見て取れた。

もう、時間は無い。
時を越え蘇った身体を動かしていた現世に存在しようとする力、ソレが枯渇したのだ。

視線を足元からイスラへ、イスラからサンディとメイヤへ。
そして、その更に後方へ。

空間を跳び越え、この黄昏の地へ降り立った一団の顔触れに、ヤツキは再び頷いた。
闇の王子と黒十字の幹部、ポセイドンと彼等の血縁者達。

懐かしい顔触れと、見知らぬ面々。
イスラと自分、サンディとメイヤの様に彼等も“そう”なのだろう。

778ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:16:39
「久し振りだな。
だが、思い出話に花を咲かせる時間は無いらしい。」

既にヤツキの身体は膝下が光となって消え、肩先や末端部分も粒子となりつつあった。
言葉通り、時間はない。

「聴いていただろうが、俺は役目を全うした。」

100年前は敵対した者達が、今はこうやって同じ地を、仲間として踏み締めている。
時を越え、世代を越えた力と想いがあれば。

ーー必ずや、上手くいく。

「世界の免疫力とも言える闇が集まり、溢れるこの闇の巣と黄昏の塔。
闇を管理し、使役していたステラが逝くとならば、誰かがその任を継がなければならない。

今はまだ抑え込まれているが、ステラと言う制御系を失えば、この無尽蔵の闇は世界を食い尽くすだろう。
だが、適性を持った誰かが、闇を使役し、この塔諸共地中深くに沈めてしまえば……」

ーージュノス、後は任せる。

「一時的にだが闇は活動を停止する筈だ。
強度と高さは問題無い、沈み込めば地殻を超えて核へ届く。」


ーーセナよ、今こそその力を発揮する時だ。

「幸い、今この場に闇の素養を持つ者は数多く居るようだ。
話し合って、決めるといい。

……素養が無い俺は剣を振るうしか出来なかった。」

闇の素養を持つ者、闇の王子であるセナとリト。
二人に仕えて来たジュノスとアブセル。

吸血鬼であるノワールと、異界の闇を宿していたメイヤ。
人柱になれ、と言うしか無いのは辛いが、今はそうするしかないのだ。

「そろそろ、時間か。」

視界に映る面々を見、ヤツキは静かに目を閉じた。
そして、抱き抱えるステラと共に、その身体は光に包まれる。

その様は淡雪が舞い、溶ける様に夜空へ散り、月明かりがそれらを照らして輝いた。

ーーイスラ、悪いが先にいく。
ーーお前と共に戦えて……




ーーステラ、いや、スピカ。
お前は一人じゃない、大丈夫だ。
俺が居る、だから、安心して眠ろうーー

779ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:22:32
てな訳で、リト達アブセル達一段落着いたら塔頂上に集合でお願いします、行き方はラディックルドラの空間転移で。

かなーり強引な集合の仕方かつ確定ロルになって申し訳ないorz

780イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/21(金) 02:32:23
ヤツキさん、レスありがとうございます^^

ちょっとこのスレのまとめWikiみたいなものを作ろうかと割りと本気で考えているんですが…、作ったら二人とも参加してくれます…?

取り合えずここの三人しか閲覧、編集できないようにしてー…
世界観とか用語とかキャラクター紹介とか、ストーリー上では説明しきれなかった部分も多分あると思うので(自分はあるw)
まぁそうゆうのも含めて、自由にまとめちゃってください的なページ(笑)…いかがです?

781ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/21(金) 11:31:07
>>780
自分は賛成っす、ログもそこに残せたら完璧じゃないすか!
勿論参加しますよー、裏話的な沢山あるし…(笑)

782ジル:2017/04/22(土) 00:19:49
【ポセイドン邸】

フロンはわざとヨノに聞こえるよう、彼女の父親を殺した事実を告げる。
それはヨノを傷つけようとしてるのか、はたまた、彼女を傷付けたくないと願うジルへの当て付けか。

背後で息を飲む気配がした。事実を知ったヨノが衝撃を受けているのだろう。
・・・あぁ、また失った。

「そうだよ。」

フロンはジルの、どんな表情を願っているのだろう。どのような反応を求めているのだろう。
相手の呼吸を感じとれる距離。ジルは取り乱した様子もなく、ニコリと微笑んだ。そして不意にフロンを抱き込んだ。

「君が初めてだよ。こんなにも僕の事を理解してくれているのは。君は僕がどんな人間か知っている。」

そしてその背に鋭い刃を這わせる。

「だから、分かるよね?」

かと思えば、そのままフロンへ押し付けた。鈍い感触がジルの手に伝わった。

「僕は簡単に人を殺せるって。いい加減目障りなんだ。」

愛してる?今まで何度もその言葉を聞いた。寒気がする。

「僕を怒らせないでよ、ほんと疲れるんだ。」

783ジル:2017/04/22(土) 00:20:20
はーい、参加します( • ̀ω•́ )✧

784イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/22(土) 18:53:03
二人ともありがとうございます^^

まだ基本操作とか把握していませんが、取り合えず作るだけ作ってみました
seesaawiki.jp/key-twilight/

このサイトのアカウントを作って、ページ右上の、メンバー募集ってとこをクリックすれば参加申請できるみたいですので
まぁ気の向いた時にでもぼちぼち編集してください^^

あ、多分PC版じゃないと編集できないと思います

785リト、ルイ:2017/04/24(月) 12:23:35
【冥界】

「いつまでそうしているつもりだ?」

痺れを切らし、ルイはリトへと声をかける。
ヨハンが扉の奥へ消えてからずっと、彼は閉ざされた扉の前に座り動かない。ただじっと扉を見つめていた。

「父親が消えて哀しいか?」

「・・・いや・・・」

正直よく分からない。ただポッカリと胸に穴が空いてしまった、そんな物足りなさはある。

「混乱はしてる・・・かも。散々痛めつけてきたくせに、本当は大事だったとか意味わかんない。」

「人間の考えなど予測出来るはずもない。この世の生き物で一番不可解な存在だ。」

ルイは頬杖をつき溜息を漏らす。自分にも思い当たる者がいた。愛するが故に苦しめたい、殺したいと言ってのけた者が。

「・・・なぁ。」

扉を見つめたまま、リトはふと気付きルイへ声をかけた。

「一応父親とは和解した・・・と思う。実際あの人は逝っちゃったし。だから、俺も帰れると思うんだけど・・・」

思い残すことがなくなればあるべき場所へ還るはずだ。何故自分はまだこの場所にいるのだろうか。

「戻りたいか?」

「勿論」

このまま黄泉へ行けとでも言うのか。ルイの問いに若干不審感を抱きながらリトは応える。

「アンヘルに俺はまだ生きてるって聞いた。」

「間違いない」

「なら、戻れるはずじゃないの?」

「お前を思い留める枷が父親の存在では無かったということだろう。」

「は?」

それはどうゆう・・・

訳が分からない、リトは眉を潜め、そして漸くルイへ向き直った。
ルイは再び溜息をつくと、今度は真剣な表情でリトを見据える。

「どちらにせよお前は思い違いをしている。お前の担う役目は世を滅ぼす為の道具でも、闇を管理することでもない。以前教えたはずだ、世界は元来複数存在し、今その均衡が乱れていると。」

言われてリトは思い返す。たしかに聞いた。ルイは手を出せない為、リトに役目を託すと。

「あんたが手を下すと歪みが酷くなるって言う・・・?」

「いい機会だ、特別に全て話してやる。・・・お前にとっては酷な話になるやもしれんが。」

言ってたルイは立ち上がる。

「お前には荷が重いと言うのであれば、このまま生を終わらせるとの選択もある。全て知った上で選べ。」

786フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/25(火) 00:26:34
【ポセイドン邸】

ふいに身を抱き竦められ、フロンは息を呑んだ。
しかしその直後、背に突き刺さる鈍い痛みに彼の行動の意味する所を知る。

「くふッ…」

口から漏れるのは、苦悶とも愉悦とも取れる声。
フロンは唇の端から血の零れる顔を上げ、ジルの瞳をじっと見つめて言った。

「…あなたのこんな姿を、その女の人は見たかったでしょうか…?」

でも。

「私にとっては期待通りです」

あの日ジルと話して確信した。何をしても、どんなに言葉を尽くしても、自分が彼の心の中に入り込むことなど不可能なのだと。

そもそもフロンにとって恋とは、その相手を食べることで成就するものである。食べるとはまさに本当の意味で、肉を貪り、骨を舐り、血をすすって臓物まで自らの体内に取り入れること。
愛しい余りに手にかけるのではない。
愛する者の血肉を喰らい、彼らと一つになることで、彼らの存在はフロンの中で永遠に生き続けるのである。
そしてそれこそがフロンの究極の愛の体現であった。

もちろん、ジルにも同じことをするつもりだった。
しかし、彼は今まで好きになった男達とは違った。
フロンの正体を明かした時も驚かなかったし、彼を咀嚼しようとした時も、悲鳴も上げなければ命乞いをすることもなかった。
元より彼はフロンのことなど眼中になければ、関心を抱いてさえいなかったのだ。言ってしまえば、どうでも良かったのだ。

男の恐怖する反応を期待していた部分もあった為、彼女はその時ほど肩透かしを食ったこともない。
そしてどういう訳か、それがフロンの琴線に触れた。

次第にただ食べるだけでは満足できなくなった。
彼にも自分の存在を覚えていて欲しいと思うようになった。
彼の存在をフロンの中で永遠にするのではなく、彼の中でフロンの存在を永遠にして欲しかった。

だからフロンは彼の記憶に残る為にここにきた。

「…あなたは自分で思っているほど悪人になりきれている訳じゃありません。人を殺めれば少なからず罪の意識を覚えるし、大切な人を失えば傷つきもします」

言ってフロンはジルの胸に頭を、体重を預ける。

「あなたはこの刃の感触を忘れない。その胸の痛みを忘れない。
…私のことを忘れない。この先、あの女の人のことを思い返す度に、私への憎しみを思い出してください」

フロンの目的はジルの心に傷をつけること。そして彼の手で最期を迎え、その傷に自分の存在を刻み付けること。ヨノはその出しに利用したに過ぎない。
まるで呪いか何かのように…それしかジルの記憶に残る術を、フロンは思いつかなかった。

「ねえ、ジルさん…」

そしてフロンは新たな呪言をジルに与える。

「フェミル様を殺した…って言ったら、…どうします?」

嫌って欲しい。憎んで欲しい。愛して貰えなくたって、無関心でいられるよりは、そっちの方がずっとマシだと思える。
どんな形であれ、少しでも彼の心に残ることが出来たのなら、それ以上のことはない。

「ジルさん…、大好きです…」

そしてフロンは偏執的なまでの愛を囁いて、自らの血で赤く染まった唇を、ジルのそれと重ねた。



【リマ>フロンはもう殺してしまって構いませんよー。首とか落とせば流石に死ぬので(笑)
因みにフェミルを殺したってのは嘘です。最後の揺さぶりです。


二人>Wikiの方に相談用の掲示板つくりました!】

787ジル:2017/04/26(水) 14:17:00
【ポセイドン邸】

(・・・は?)

フロンの言葉にジルの思考が止まる。
何を言っているのかと、理解を拒んだ。

この女は今、何と言った?
聞き返す間も与えず、フロンはジルの同意もなく言葉を阻む。
鉄の味が口内に伝ってくるが、そんなものジルにはどうでもよかった。

そして、そんなフロンの行動を遮ったのはジルではなく。
彼の背後で終始を目の当たりにしていたヨノが、気付けば二人に割って入りフロンを突き飛ばしていた。

「あ・・・私・・・」

ジルの背が死界となりフロンがどんな状態であるのかまでは把握していなかったのだろう。
仰向けに倒れたフロンの体から絶え間なく滲み出る赤に思わず口を覆う。

「・・・殺してやる・・・」

思わず意識が遠のきそうになったが、耳についたジルの低い声に正気に戻る。
恐る恐る振り返ると、表情が「無」とかしたジルが血に染まったナイフを握りしめブツブツと呟いていた。
しかしその声はやがて大きくなっていき・・・

「殺してやる!!」

ナイフを振り翳しフロンに襲いかかろうとしたところを、ヨノは必死で押さえた。

「ジル!駄目!!」

「放せ!フェミルを殺した!殺してやる!」

「落ち着いて!お願いだから!!」

「フェミルが!フェミル!死・・・僕のフェミル・・・っ」

気が動転し、感情が昂り、このまま行けば最後には、

「フェミ・・・ゲボっ・・・うっ」

案の定、過呼吸を起こした。
ヨノは自分の服が汚れるのも構わずジルを抱き寄せる。

「落ち着いて、いい子だから」

自分の体にしがみつくジルの手の力が強く痛みを感じる。
彼の背を擦りながらヨノは胸を締め付けられるような気持ちになった。
この子は今までどんな暮らしをしてきたのだろう。きっと、想像を絶するに違いない。

「ジル、ごめんね」

貴方のことを早く見つけてやれなくて。

ジルの体は抑えの限界に来たようで、やがて糸が切れるかの如く意識を手放した。
その体をそっとその場に寝かせ、ヨノはフロンの元へ歩み寄る。
傍らに膝をつき、静かに口を開いた。

「傷が深い・・・ごめんなさい、私の癒しの力は姉より強くはないから、貴女を助けてあげることは出来ない。」

とても冷静で、聞きようによっては冷たく感じるかもしれない。
ヨノは咎めるような、しかしどこか哀れむような目で見据えてそう伝えた。

「最期に教えてくれないかな?フェミルを本当に殺したの?」

死を目の前にした人の前で何の手も施さず、また、その人の身を案じることもなく別の事を気にかける。
自分の知らない汚い面を見た気がした。自分は今、目の前にいる少女を見殺しにしようとしている。

・・・けど、彼の横に並ぶには、ここまで汚れた方が良いのかもしれない。

「ジルの事好き・・・よね?あんなことまでしたのだから。なら傷つけないで。このままだと貴女も楽になれないと思う。本当のことを教えて。」

788リマ:2017/04/26(水) 17:37:09
ヤツキ>>771

10年・・・もうそんなになるのか|ू・ω・` )
そう言えば初めて会ったとき自分はまだいたいけな高校生だった気が(遠い目)
あぁ懐かしき制服・・・てかあの頃勉強そっちのけで話の内容考えてたわwww

うーむ・・・カラーイラスト久しぶりに描きたい気もする。
でもネタが思いつかぬ(๑•́ω•̀๑)


イスラ>>770
実際藍ちゃん消滅仕掛けたんです(٭°̧̧̧꒳°̧̧̧٭)
なんか藍ちゃんと藍ちゃんの元になった人物は実は繋がっていて、藍ちゃんが観るもの感じるもの全てソイツに伝わるようにしてあったんです。ソイツ植物人間ナウで、藍ちゃん作った博士はソイツの叔父なのでソイツを目覚めさせたいがために藍ちゃんを利用してた的な。で、その頃藍ちゃんはレイジが自分とソイツを重ねて見てたことに気付いて傷心中だったので、「皆は本当は僕自身を見てくれてない」「僕は利用されてるだけ」「どいつもこいつも!」ってな感じでブチキレてソイツと繋がっていたプラグ的なのぶち抜いちゃって。そしたら藍ちゃんの命になるマザーコンピュータ的なのが壊れちゃって、一ヶ月後には機能停止するとのまさかの余命宣告。一ヶ月後はライブ?あり。僕死んじゃう。でもハルカの歌歌いたい。→藍ちゃん涙。
で、最期の力を振り絞って当日に歌ったのがその歌なんです。なので遺言書。
その歌、藍ちゃん主演映画「人魚の涙」(だっけ?)の主題歌で、人魚の王子様たる藍ちゃんはその日以来消息不明になりました。

藍ちゃんに踏まれるなら本望・・・いや、藍ちゃんロボットだから見た目に反して激重だった。踏まれたら死んじゃう。←
えー、女子を所望ですか。ではカマテットナイト・・・じゃなかった、是非とも藍ちゃんの女装を検索してみてください。公式で女装した事あるんで。生意気な女子高生姿でカワユイです(笑)

生意気といえば昨日読んだcomicoのマンガ「ロヂウラぐらし」でイスラさん好みのロリ娘ましろちゃんのおめかしした姿に、リマ好みの主人公"にーたん"が照れながら「似合ってますよお嬢様・・・なまいき。」って言ったのが最高にツボで心臓ぶち抜かれました。なまいきって何ぞ?なまいきって何ぞ!?

どこからそんな金が湧き出るのか・・・←

伯爵様はキャラ濃すぎです。コーヒーの中に角砂糖山盛り入れるし。

他にイイ男がいないのも理由の一つですけどね(笑)
幼いながらにトーマに「愛人でもいい」と言ってのけた恐ろしい子です←

ノワール不憫だ・・・(笑)

特に全く理由はないです←

良かった、ぬいぐるみのままだったらどうしようかと(笑)

ある意味呪われた一族ですね(笑)

喜怒哀楽の激しいアブセルが近くにいたお陰でリトはちゃんと情緒を身につけることが出来たんですね・・・(ホロり)
リトの誕生日にエロ本をプレゼントしてたナディアの苦労も報われます←

余談了解しました( • ̀ω•́ )✧
結局爺の業が最後まで響いてるんですね・・・(笑)


あ、フロンどうトドメ刺そうか悩んだんだ結果、上手く表現出来なくてあんな感じにしちゃいました(>人<;
何かフロンの思惑通りになるのも癪だったので← チューされたし←←そのせいでヨノさん激おこですよ←

789フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/29(土) 12:35:38
【ポセイドン邸】

血溜まりに沈むフロンは怒りに息を荒げ、傍らに膝をつくヨノに鋭い視線を向ける。

「どうして…邪魔をしたのですか…?あともう少しでジルさんの手で…ッ」

しかし言葉の途中で喀血し、大きく咳き込んでしまう。
どうやら思ったよりも傷が深いらしい。
血を失い過ぎたことで身体も動かせず、最後に憎き女を手にかけることも出来ない自分に情けない気分になる。

…彼女を侮っていた。
父親がジルに殺された事実を伝えれば、彼を拒絶するだろうと思っていた。
これはヨノのことを軽視していたフロン自身が招いた結果でもある。

だが、ジル自ら止めを刺して貰うことこそ叶わなかったものの、彼の憎しみは十分に植え付け、その思惑の半分は達成したと言える。

どうせ自分が死ぬことに変わりはなく、ジルが虚空城に帰還すれば分かることだと、フロンは天井を見上げたまま息も絶え絶えにヨノの望む答えを提示する。

「フェミル様は…生きています。殺そうかと思いましたが…今、あそこには入れない、から…」

フェミルが居る虚空城には強固な結界が張られ、フロンでも浸入することが不可能になっていた。

「でも…遅かれ早かれ、あの子の存在が消えることに変わりはありません…。そう言う…運命、ですから…」

彼女の言う運命とは、フェミルの黄昏の花嫁としての役目のことを指しているのだろう。
そうして兄妹の悲惨な末路を想像し嘲笑うフロンは、口元に笑みを携えたまま、静かに息を引き取った。

790ナディア他:2017/05/09(火) 00:02:39
【ポセイドン邸】

「爺・・・」

どんなに最低な相手で理不尽な態度を取られようと、従者として身分を弁え決して無礼な行動をとらない爺。その彼が、暴動を起こしそうになった一族を次々と力で押さえつけている。
彼らより位が上であるナディアやセナを優先しての行動か、それにしても・・・

「爺、大丈夫か・・・?」

父を静かに見送ってくれと頭を下げる爺の肩は震えていた。実の子ですら彼の死に対し感傷に浸ってやることは出来ないのに、爺は悲しんでいる。父親としては最低な人だったが、上に立つ者としては信頼における相手だったのだろう。貧しい家庭に生活の援助をしていたし、身分に関係なく能力のある相手を迎え入れ仕事を与えていた。リトへの態度ばかりに目がいってしまっていたが、思い返せば他の面では尊敬出来ることが沢山あった。

(ごめん、父さん・・・)

相手に目を向けていなかったのはナディアも同じだったのだ。

「・・・」

子を先に失くす気持ちとはどのようなものだろう。
棺桶にいる人物に僅かに残っていた氣の残滓と、自分を庇い目の前で頭を垂れる男の氣から同じものを感じ取り、セナはこの二人が親子であることを悟る。恐らく公にはされていない事柄だ。
自分も巷では死んだものとして扱われた。唯一の肉親であったらしい父は自分を亡くし、どのような思いでいたのだろうとふと考えを巡らす。リマはとても悲しんでいたと言っていたが、正直良く分からない。父は亡骸が息子の背丈と同じだからと我が子であると信じて疑わず、子の死を受け入れたのだ。本当は生きていたのに。簡単に自分を諦めた父に、果たして悲しむ資格はあったのだろうか。

「セィちゃん・・・?」

どこかぼんやりしているセナに気付き、リマは気遣わしげに声をかける。
リマの声を聞いて同じくその様子に気付いたナディア。具合が悪いのか。休息を促そうと彼の肩に手を伸ばす。

その時だった。

ベルッチオの行動に一時は静まりかけた斎場が再びどよめきだした。
皆入口の方へ顔を向けている。

「え・・・」

何事かとナディアも視線の先に目を向けた。そしてその目に驚愕の色を見せる。

「・・・リト?」

開け放たれた扉の前に立つ人物、それは現在眠り続けているはずの弟の姿で。

(目覚めたのか?いや、と言うか今来られたら・・・)

案の定、周りはセナとリトを交互に見て混乱の色を見せている。
斎場がどよめく中、しかしリトは真っ直ぐに奥へと足を進める。そして、その後ろを白百合を咥えた黒猫が続く。

その様子を見計らったかのようにセナは何も言わず、リトとは逆に出口へ。
すれ違い様にリトはセナを見るも、対するセナは何の反応も示すことなく斎場を出ていった。リマが慌ててその跡を追った。

「リト、あんた・・・」

爺の側を過ぎナディアの横に立つ。無言で棺桶の中を見つめるリトに、ナディアは何か言わなければと考えるも、言葉が思いつかない。

「ホントに死んでたんだな」

そんな中、リトが先に口を開いた。
彼は何処か嘲るように言葉を紡ぐと、連れた黒猫から白百合を受け取り、ヨハンの亡骸に沿える。

「間に合ってよかった。あんたにまだ言い忘れてたことがあったんだ。」

許すことは出来ないけど、理解は出来ると言った。
いつか必ず生まれ変わって、もう一度自分に謝罪し、許す機会を作るよう伝えた。

「約束、守ってよね」

ヨハンの亡骸はなぜだかとても穏やかだ。今まで彼が抱えていた闇から解放された安堵感が伺える。彼も苦しんでいたのだ。

「生まれたことは後悔してない。安心して逝って。さよなら、父さん」

791リマ他:2017/05/12(金) 07:47:31
【ポセイドン邸】

「セィちゃん待ってっ」

斎場を後にするセナを追い呼びかけるが、彼はリマの声に振り返ることなく歩みを進める。

「待っ・・・ひゃっ」

彼が足を止める気はないのだと悟り、ならばと駆け出すも自分の足に躓き転びそうになる。態勢を崩したリマの体をそれまで反応のなかったセナがすかさず受け止める。

「ありがとう」

笑いかけるリマにセナは困惑の色を浮かべた。

「・・・何故、お前はいつも追ってくる?」

「傍にいないと不安なの。セィちゃん、消えちゃいそうで・・・」

幼い頃、セナがいるのが当たり前の日常で、突然彼はいなくなってしまった。
今のセナは何となく、あの頃のセナよりもとても脆く儚く感じるのだ。目を離したら消えてしまう、そんな不安に駆られる。

何を言っているんだ、と思ったが、リマの表情を見ると本気なのだと分かる。
縋るように掴む彼女の手に自分の手を重ね、セナは彼女を見つめた。

「いかない、何処にも。お前が望む限り。ただ・・・」

言いかけ、止まる。

なんだ・・・?

それまで何もなかったはずが、突如、プツンと糸が切れるように、異様な空気が流れ込む。

血なまぐささと、死臭と、異能の気配・・・

(結界が張られていた・・・?)

なんと高度な。セナですら気付かなかった。
しかし驚いている場合ではない。
この異様な気配の渦の中に、見知った氣をいくつか感じるのだ。

「セィちゃん・・・?」

「・・・お前には・・・」

衝撃が強すぎるかも知れない。しかし彼女の力が必要な場合も・・・

セナは苦渋の決断とばかりにリマの手を取ると、そのまま気配の方へ向かった。

-----

予想通り・・・いや、予想以上か。

「・・・っ」

あたり一面に飛び散った血。そして血溜りの中に倒れる少女に、その傍らでドレスを赤く染め呆然と座り込むヨノの姿。
傍には見知らぬ青年が倒れており、その更に奥には・・・

「アブくん・・・!」

同じく血溜まりを作り倒れるアブセルと、嗚咽を漏らすユニの姿を見つけ、リマは駆け寄った。

「アブくんしっかり・・・!」

「ユニのせいです・・・っユニのせいでっアブセルさんがっ」

「大丈夫、まだ息がある」

虫の息だが、辛うじて感じる生命の灯火にリマは安堵する。
生きていれば、助けられる。

リマが手を翳すとあたり一面に光の粒子が現れ、アブセルの体を包み込む。
そしてその光が消えた其処には傷が見る影もなく消えているアブセルの姿があった。
そしてリマはアブセルの口を少しあけ、手で皿を作る。彼女の手皿の中に泉のごとく水が湧きあがり、それをアブセルの口に流し込んだ。ポセイドンの生み出す癒しの力、命の水だ。

「アブくん、起きて。私が分かる?」

792ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/12(金) 12:26:45
【ポセイドン邸】

出過ぎた真似をしてしまったばかりか、よもや当主にいらぬ気遣いまでかけさせてしまうとは。
ベルッチオは下げていた頭を上げると、申し訳が立たないとばかりにナディアに目礼で応じ、今だ震えの止まらぬ手を背後に回し、脇へ下がろうとする。
…丁度その時だ。
突如として広間の扉が押し開かれ、直後、斎場にどよめきが走る。

「…リト…坊っちゃん……?」

扉を潜って現れた人物に、ベルッチオは信じられない想いを抱いた。
他の参列者と同様に、リトとセナを交互に見比べては、その顔に動揺の色を浮かべている。
ただ平静を取り戻すのも早かった。それは彼がこの屋敷に長年仕え、そこに住まう人物の性分を少なからず把握していたからこそだろう。

屋敷に戻ってからというもの、アブセルが何やらこそこそとしていたことは気づいていた。
どのような術を用い、そこにどんな真意があるのかは定かではないが、恐らくはナディア達と一緒になって悪巧みでも企てたのだろう。
そしてこうして見比べてみれば、たった今現れた彼がリトだと、そう確信が持てる程には思うものもあり、
むしろなぜ気づけなかったのかと、恥じ入るばかりだ。

そんなベルッチオの脇をリトが通り過ぎる。

棺の中の父親と向き合うリトに、その口から発せられた言葉に意識を奪われる。
彼がヨハンを父と呼ぶのを初めて聞いた。いや、そもそもリトが一度だってヨハンと言葉を交わしたことがあっただろうか。
父親の死を静かに受け止めるリトの横顔は、湖の水を湛えているかのように澄みきっていて、何故だか全く知らない人のようで…。

不意にベルッチオはその顔を見ていて、思わず泣きそうになった。
今までに抱いたこともない感情が込み上げてきて、堪えきれず瞼の奥に熱いものが集まってくる。
何故そんな風に感じたのかは分からない。何故こんなにも胸が熱くなるのかも。
ただ強く目を閉じて、その波が過ぎるの必死に待った。

…この子はこんなにも堂々としていただろうか、こんなにも吹っ切れたような表情をしていただろうか。

ベルッチオの眼にはいつだって、部屋の片隅で一人、積み木を弄っていた幼子の姿が残っている。
死を待つばかりの儚い存在。もちろん可愛く思わない訳がない。
だがそんな子に下手に情でも抱いてしまえば、"その時"が来たとき、居ても立ってもいられなくなる。

故にずっと目を逸らし続けてきたのだ。
見ないようにして、見ないようして、真実からも現実からも背を向けて。
その間に彼はこんなにも美しく、立派に成長していたというのに。

その母親によく似た顔立ちの中に、確かに宿るヨハンの面影を垣間見て再び心が揺さぶられるのを感じた。

「…最期に、旦那様とお話されたのですね」

彼は努めて平静を装うと、静かな声でリトに語りかけた。
まさかそれが死後の世界でなど、想像にもしないが。

ただヨハンは最後に自身の想いをリトに伝えたのだろう。
だから、リトは今ここに、こうして立っているのだ。

「………」

何を思ったのか、ベルッチオはリトに向けて粛々と頭を垂れた。

言うべきことは沢山あったと思う。謝るべき言葉も、伝えるべき言葉も。
果たしてそれをする資格が自分にあるのかどうかも分からない。だがそうせずにはいられなかったのだ。

道具として生まれ、その存在を隠匿され続けた幼少期。そしてその存在が明るみになるや、今度は悪しきものとして害されることとなった彼の生を、17年という時を経て、ようやく表だって歓迎できることに…

「…お帰りなさいませ、坊っちゃん」

老人は溢れんばかりの感謝の想いを胸に、最大の敬意を込めてリトを迎え入れたのだ。

793アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/13(土) 06:49:41
【ポセイドン邸】

誰かに名前を呼ばれているのが分かった。
どこかで聞いた覚えはあるのだが、上手く思い出せない。
ただ、ひどく心地の良い響きのする、優しい声だった。

その声に呼応するように温かい光が差し込めて、そっと意識を掬い上げられる。
それが現実への帰還を意味することは本能で理解していた。

ふと少しだけ、名残惜しいような想いに駆られる。
このまま眠っていれば、ずっとその声を聞いていられるのに。…ずっと名前を呼んで貰えるのに――。


ぼんやりと瞼を開ければ、まず初めにこちらの顔を覗きこむ何者かの姿が目に映った。

(誰…?お嬢?ヨノ姉?)

ピントが乱れて曖昧なシルエットを探るように、その輪郭を捉えるべく目を凝らす。
ぼやけていた線は次第に明確な形となり、そして一つの姿を導きだした。

「………」

そこに居たのは亜麻色の髪を長く伸ばした少女であった。

「リマね…!?うぇっ…ッゴホ…‼」

それがリマだと分かるや、アブセルは咄嗟に上半身を持ち上げる。
距離を取るべく行動に移すが、動揺と喉の奥に残っていた水分とが相まって噎せかえってしまう。
しかも…。

「うわっ、何だこれ!?」

床に手を置いた途端、ぬめりとした異質な感触を拾い、反射的に手を引っ込める。
見れば両手が真っ赤に濡れていた。

これは一体…。
混乱する頭を必死に回し、アブセルは辺りに目を走らせる。

ユニに、ヨノに…その顔触れを見た途端、ぴしゃりと水をかけられたかのような感覚に陥る。一気に目が覚めた。

「ユニ!ヨノ姉!無事!?」

思わず身を乗り出して、声を荒げていた。
ヨノのドレスは真っ赤に染まってはいるものの、見た限り彼女に傷のようなものはなく、どうやらそれは別人の者の血であることが分かる。

アブセルは二人が無事であることに胸を撫で下ろすも、しかし次にはこの異様な状況に意識が移る。

廊下には血の水溜まりが出来上がっており、周囲は夥しいほどの濃い血の臭いで満ちている。
そして傍らに倒れる二人の人物…。

「これ、何…?どう…なってんの?」

心の内の困惑を隠すことなく、アブセルは疑問を口にした。

794アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/13(土) 06:52:51
リマ>ソイツって言い方に何か敵意を感じる…ww
てか想像以上に重い話でびっくりしました
消息不明イコール消滅したって訳ではないんですか?

重いんだ(笑)そんな藍ちゃんを抱えられるレイジは一体…w
カマテットナイトって何www
いや可愛いけど、そうじゃないんですよ!
女装した男の娘に膝まずくとか、それ何かに目覚めてるだけだから!←

ましろちゃん可愛い(´ω`*)←

角砂糖ww甘党なのか(笑)

ナディアってその頃中学生ぐらいですよね…?
すごい子だ…!
てかエロ本は絶対面白がってやってるだけでしょ(笑)

ヨノさん激おこでしたかwwスマソw←

795リマ他:2017/05/15(月) 13:09:49
【ポセイドン邸】

呆然と座り込みフロンの亡骸を見つめるヨノであったが、近づく者の気配を感じふと顔を上げる。
それがセナだと分かるや、途端張り詰めていたものが解けたかのように震えだした。

「セナくん、どうしよう・・・。お姉ちゃん、人を見殺しに・・・」

あの時点で手の施しようはなかった。しかし、ナディアであったなら助けられたかもしれなかったのだ。すぐに引き返し彼女を呼んでくることも出来た。しかし、自分はそれをしなかったのだ。

セナは彼女の言葉には答えずにフロンへ目を向け、そしてジルへ目を向けた。
先程の結界を張ったのはこの者か。そして、この惨劇を引き起こした張本人・・・

セナがジルを見ていることに気付いたヨノは、震えたままで慌ててセナを止める。

「ダメ!この子は悪い子じゃないの・・・。だから何もしないで、お願いっ」

この状況下で何を言っているんだと感じたが、彼女は必死だった。
ふとリマへ目を向ければ、彼女はヨノの言葉を聞いてやれと目で伝えてきた。

「アブくん、よかった・・・」

リマはセナから視線を戻すと、目覚めたアブセルへ安堵の表情を浮かべる。
その横ですかさずユニがアブセルに抱きつく。

「アブセルさん、ゴメンなさいですぅ!!」

生きててよかった、助かってよかった、ユニは泣きべそをかき続ける。

状況を読み込めない様子のアブセル。しかしそれ以上に今此処へきたリマも状況を把握できない。ユニに聞いても泣くばかりで・・・

「その血はアブくんのだよ。死に掛けてたの。大丈夫?何があったの?」

796アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/19(金) 00:37:35
【ポセイドン邸】

「ユニ。お前…、元に戻ったのか…」

泣きべそをかくユニの姿からは洗脳の形跡は見受けられない。
アブセルは彼女が正気に戻ったことと無事であったことに素直に喜ぶも…しかし謝るにしても何もそんなに泣くこともないだろうにと疑問符を浮かべるばかりだ。

その答えはリマの言葉で明らかとなる。
あっさりと死に瀕していたという事実を聞き、アブセルは驚愕の声を上げた。

そんなに危ない状況だったとは。不意をつかれた為によく覚えていないのだが。
どうやら助けてくれたのはリマであるようだ。以前のお礼もまだ返していないというのに、彼女には本当に迷惑をかけっぱなしだ。

「ありがとう。その…リマ姉には度々面倒をかけて申し訳ないと言うか何と言うか…」

そこでふとアブセルは夢の中で聞いた声がリマのものであったことに気づいた。
途端、その時に抱いた感情なんかも一緒に思い出してしまい…
込み上げてくる気恥ずかしい想いに、人知れず身悶えするアブセル。
しかしリマから状況の説明を求められるとその表情も一変。曇ったものへと変わる。

「あー…、えっと、それは…」

口から漏れるのは歯切れの悪い返事だ。
頭を強く打った為に記憶に支障をきたしている…という訳でもなさそうだ。
どうやらそれは問題を起こした人物を庇っているようでもあり…

ふとアブセルはジルを見る。

「ヨノ姉…、その人のこと知ってんの?」

この青年は本当に自分の知る彼なのだろうか。
未だに確信を持てないでいるアブセルは、ヨノに聞けば自身の求める何かが分かる気がして口を開いた。

797リト他:2017/05/28(日) 20:59:04
【ポセイドン邸】

リトの傍らに控えていた黒猫がふと彼の傍を離れる。鈴の音を鳴らし向かう先にはリトを扮したセナに怯えながらも何とかその場に留まり耐えていたミレリアの姿があった。
彼女はずっと震えて目を閉じていたために本物のリトが現れたことも、セナとリトが入れ替わったことにも気づいていなかった。
ふと気配を感じ目を開けると、紫色の瞳に見据えられていた。

「猫ちゃん・・・?」

惹き込まれるような色。綺麗だなと思って見ていると、不意に猫が鳴く。途端、目眩を覚え視界が歪む。
倒れかけたところを慌てて支えてきた侍女がぼんやりとしている彼女に必死に呼びかけて来る。しかしミレリアの耳には、何故か違う者の声が聞こえてきた。

「ミレリア」

それは今はいない、もうこの先聞くことのない愛しい人の声。

(ヨハン様・・・?)

「まだ眠いのか?まったく・・・こいつも母親を見習えば良いものを、まったく寝付かんのだ」

(え?)

ぼんやりとした視界にヨハンが写る。そして彼が苦笑しながら、自らの手に抱く何かを見下ろしていた。お包みの中から小さな白い手が見える。

「その子は・・・?」

「なんだ、寝惚けているのか?」

言ってヨハンはお包みをミレリアに渡す。恐る恐る見ると、真ん丸とした赤子が笑いかけてきた。

「私の赤ちゃん・・・」

「・・・本当は、こうなるはずだった。私が道を踏み外さなければ。悪かった、ミレリア。この子をお前に返すよ。」

赤子を見つめ涙するミレリアの頭をヨハンが優しく撫でる。これは夢。分かってる、しかし何故こんなに鮮明なのか。

「俺は手遅れだが、お前は間に合う。
騙して悪かった、この子は死んでいない。立派に成長したよ。探してやってくれ。」

その言葉を残し、ヨハンは消えていく。
そして、ミレリアの意識は現実へ。

ぼんやりと色を失っていた瞳に輝きが戻る。
ミレリアは慌てて自分の手元を見る。
お包みも赤子もいない。
あれは夢・・・でも・・・

黒猫が素知らぬ顔で欠伸をしている。

ヨハンが伝えたかったこと、それは・・・

「私の赤ちゃん・・・」

必死で辺りを見渡す。ヨハンが今教えてくれた、死産だと聞かされたあの子が生きていると。闇に殺されたはずよあの子は生きている。

「どこ・・・私の・・・」

そして一つの答えに辿り着く。
我が子を奪った憎き闇、恨んで恨んで虐げてきた・・・

ミレリアは一つの人物を視界に捉え、涙を流す。
ヨハンが渡してきた赤子と同じ髪の色、自分と同じ瞳をした少年が棺の中に花を添え話りかけている。

あの子は我が子を殺した張本人、敵、・・・違った。

798リト他:2017/05/28(日) 20:59:37
----

「・・・そうだな。」

何をもって父と会話したのか、おそらく爺は見当もつかないだろう。
しかし何故か確信めいて発せられたその言葉にリトは素っ気なくも肯定を示す。
顔を上げれば自分に恭しく頭を下げる爺の姿が目に入り、その奥で呆気に取られた様子のナディアを捉える。

柄にもなく派手な事をしてしまった。あの時はヨハンの死に目に会うことに頭がいっぱいで、今になって急に小っ恥ずかしさがこみ上げてきた。

「えっと・・・」

何か言わなければ、そう思ったのも束の間、急に何かがぶつかってきた。
そして、それがぶつかったのではなく抱き竦めらたのだと気づくのに時間がかかってしまった。

「は?何・・・」

何故ミレリアが自分を抱き締めているのか。

「ぼうや・・・私の、赤ちゃん・・・」

「え・・・」

困惑の中、次いだミレリアの言葉に耳を疑う。
今、何て・・・?

「奥様・・・今、」

「ごめんね、ごめんなさい・・・見つけてあげられなくて。ずっと目の前にいたのに・・・」

まさか。
そんなはずはないと思いながらも、少なからず期待してしまう自分がいた。

彼女は混乱しているだけ。期待した分、それが間違いであった場合の落胆は大きいだろう。
でも・・・思わず聞きたくなる。

「ねぇ、俺は・・・誰?」

ミレリアの体がピクリと動く。
あぁ、やはり違ったのか・・・聞かなければ良かった。
心の中が一気に重くなる。
突き放される前に離れよう。彼女の腕を離そうと肩に手を伸ばす。

「・・・顔を見せて?リト。」

しかし、その手を止めることになった。
ミレリアが名前を呼んできたから。
「リト」---彼女の子の名前。彼女がその名を口にして優しい笑顔を向けていたのは、自分ではなく古びた人形だった。古びた人形が赤子に見えて、彼女の息子で、自分はその息子を喰らおうとする悪魔。
しかし今、彼女は間違いなくその名を自分に向けていた。
彼女の体が離れたと思えば今度は頬に温もりを感じる。彼女が涙を溜めた目で自分を見つめている。

「母さんそっくりね・・・」

言って彼女は笑った。

「母、さ・・・」

再び彼女に抱きしめられた。胸が締め付けられた。なんとも言えぬ感情がこみ上げてくる。

「母・・・さん」

「うん。」

「俺の母さん・・・?」

「そうよ。」

夢じゃない。呼んでいいの?本当に?
恐る恐る彼女の背に手を伸ばす。彼女は逃げなかった。

「母様・・・っ」

やっと気づいてくれた。見つけてくれた。
リトはミレリアを強く抱き締め返した。

799ナディア:2017/05/28(日) 21:48:32
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色んな事が1度に起こりすぎて若干混乱が拭えない。

突然のリトの行動にも、ミレリアが正気に戻ったのも驚いたが、何より驚いたのは今のリトの姿かもしれない。

「リト・・・」

先程までの凛とした態度とは打って変わって、柄にもなく母親にしがみついて泣いている。
しかしそこでナディアは思い出したのだ。

強く見えても、どんなに大人びていても、リトはまだ子供なのだ。
耐えて耐え抜いて、耐える事に疲れて自分の殻に閉じ篭ってしまうほどには。外界に嫌気が指して世を拒絶し眠り続けてしまうほどには。

リトを守ると言いながら、リトに子供であることを諦めさせてしまっていた。

「適わないな・・・」

結局自分は姉でしかなくて、彼を甘やかしてやれるのは母親なのだと思い知らされた。
ナディアは苦笑しながら不意に辺りを見る。
おそらく、いや間違いなく、リトはあとで我に返って今の自分の行動に頭を抱えるだろうが、ある意味この姿を公に晒すのは良かったのかもしれない。

リトはまだ庇護すべき子供なのだと言うことを思い出したのはナディアだけではなかったのだ。
リトを忌み子として痛め付けた一族達は動揺を隠せないようで、か弱い子供を大人げなく悠々と虐め抜いていた事に気付かされて気まずそうにしている。

リトはもう大丈夫。長年培ってきた溝を修繕するのは時間はかかるかもしれないが、これからは一族もリトを受け入れるだろう。
そして元は落ち着いた主人格のある性格だ。いずれリトを敬い、彼に付いていくようになるだろう。

ナディアは安堵の意味を込め息を吐いた。
そしてベルッチオの背を軽く叩く。

「良かったな。」

ミレリアをおかしくしたのは他ならぬこの老人で、今更術を解くことも出来ないと嘆いていた。
しかし何があったかミレリアは正気を取り戻し、自らの手でリトを取り返した。

「あんたを許すよ。あとでちゃんと、リトにも謝れよ?」

リトがどう決着をつけるかは分からないが、最後には同じ選択をするだろう。

「いいか?いつかはあの子がポセイドンを率いるんだ。あんたはアブセルがちゃんとリトのフォローが出来るように育てる必要がある。引退なんて野暮なことは考えるなよ?」

800ヨノ:2017/05/28(日) 22:59:51
【ポセイドン邸】

ジルを庇いセナを止めるがセナが警戒心を解く気配はなく、少しでも隙を見せれば彼に手を下しそうで油断が出来ない。

セナと冷戦を繰り広げていたところ、アブセルから声を掛けられた。

「アブセルちゃん、良かった、目が覚めたのね!」

そう笑みを零したのも束の間、続く彼の言葉に表情を曇らせる。

「えぇ、よく知っているわ・・・」

最悪な再会をしてしまったけど、ずっと会いたかった人。

「この子はジルって言うの。アブセルちゃんは会ったことはなかったわね。お父様のご友人のご子息で、私たちが小さい頃はよく一緒に遊んだのよ。」

どうしてこんな事態になってしまったのか・・・でも、きっと何か理由があるはず。

「あなたはどうしてこの子を知っているの?どうしてこんなことになっているの?」

こんなこと、とはおそらく何故敵対しているのか、という事だろう。

ヨノはジルが異能者であったことすら知らなくて、事態を飲み込めていないのは彼女も同じなのだ。

801リマ:2017/05/28(日) 23:19:15
イスラ>>
だってソイツ敵だから←
自分だけ傷ついてますぅって態度で結果的にレイジ苦しめて藍ちゃん苦しめて最悪なんですもん。藍ちゃんと同じ顔してても許せない←
一度は消滅したんですけど、博士がその後藍ちゃんのマザーコンピュータを頑張って復活させてくれて、藍ちゃんは再起動する事が出来ましたヽ(•̀ω•́ )ゝ
藍ちゃんの映画が大成功を収めて幕を閉じた日に、最後の公演で映画館をジャックして、「君はどこにいるの?」って映画の名セリフと共にスクリーンにハルカとの思い出の地の風景を映すんです。それで、藍ちゃんが生きてるって気づいたハルカが慌ててその思い出の地に行くと、藍ちゃんがそこで待っていてめでたく再会、って流れです。
相手がハルカでなければなぁ・・・( ˘•ω•˘ )

ロボットなのでwww
きっとレイジはマッチョッチョなんです。お腹はプヨプヨだけど←
良いネーミングでしょ?←
えー( ˘•ω•˘ )

てか藍ちゃん最近あざとさを増して、一週間前に発売した曲が可愛すぎて吐血して未だに瀕死状態なんですけどどうしたら良いですか←

あれ、ましろの方に目がいってるwww

かなりの甘党です(笑)
藍ちゃんに「それ砂糖入れたコーヒーじゃなくて、コーヒー漬けの砂糖だから。」って言われてますwww

ナディアはマセてますからねぇ(笑)
やべ、バレた←

ヨノはきっと恨んでますね(笑)

802ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/03(土) 13:03:02
まさかこの様なことが起こるなど誰が想像しただろう。
ミレリアに仕掛けた術は強いもので、例えナディアであっても解けぬようにと幾重ものプロテクトを複雑に組み合わせたものであった。
にも関わらず、ミレリアはそれを自力で解いてみせたのだ。

目の前の信じ難い状況に唖然とするベルッチオは、ふいに背中を小突かれ我に返る。
見ればナディアが薄い笑みを浮かべて立っていた。

「…お嬢様は相変わらずお優しい方でいらっしゃる」

罪深い自分に償いの機会をくれると言うのだから。
ベルッチオはナディアの言葉に胸のすく想いで居住まいを正すと、

「この老いぼれで宜しければ、喜んで微力を尽くさせて戴きます」

その恩情に感謝の意を述べる。
…その時にふと昔のことを思い出した。

"死んだ筈"のリトを、ナディアが別邸で見つけ出して騒ぎになった事があった。
死産したと告げられた子が、別の処で幽閉されていたのだ。当然それについて、ミレリアも説明を求めた。

対し、一族の幹部連…先のリトの処遇を決めたメンバーは、ミレリア達をどう納得させるか急ぎ議論の席を設けさせる。
もちろん一族の長であるヨハンも同席するが、その間彼は一度たりとも口を開くことはなかった。

失った筈の我が子を取り戻したミレリアは、もう何を聞かされてもリトを手放すことはないだろう。
記憶操作という案が提議されたのも、自然な成り行きと言えばそうなのかもしれない。
そうして議論の最後、長に決議が委ねられる。
一同の視線が集まる中、ヨハンは瞑目し、静かにただ一言。「そのようにしよう」と口にした。

あの時の彼は一体何を考えていたのだろう。
何にせよ、苦渋の決断だったことに違いはあるまい。
最終的に、ナディアやヨノに洗脳の手が及ぶことは取り下げているのだから。

(…旦那様、見ておいでですか…)

お互いを抱き締め合い涙を流す母と子を見て、ベルッチオは思う。
本当は誰よりもこの光景を見たいと願っていたのは、ヨハンなのではないだろうか、と。

今は亡き主…そしてその母親、レイシーに想いを馳せ、ベルッチオは目の前の光景を生涯忘れぬように、瞳の奥に焼き付けるのであった。

803アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/03(土) 13:05:08
【ポセイドン邸】

「そうなんだ…」

ヨノの話を聞き、アブセルの疑念はいよいよ確信に変わる。
やはり彼は昔、この街に住んでいたのだ。
そしてヨノの語る少年と、あの時に出会った少年はきっと同一人物であると結論する。

「俺がまだ此処に来て間もない頃、皆には内緒でリトを屋敷の外に連れ出したことがあっただろ?
そん時リト、途中で発作を起こして倒れちゃったんだけど…、この人とこの人の家族が助けてくれたんだ」

それが何故こんなことになったのか、正直自分でも分からない。
引っ越したとばかり思っていた少年。いつか再開できればと思ってはいたが…、それがよりによって敵としてだなんて。

彼はリトのことを覚えていないのだろうか。
それとも知った上で襲撃を重ねてきたのか…。

アブセルはジルが自身の命を刈り取ろうとした瞬間を思いだし、戦慄する。

が、その時…。
ふと風の流れを感じた。

見れば倒れ伏す少女の身体に開いた傷口…穿穴から風が吹き込んでいる。
…いや、違う。風なんかじゃない。

声を上げる間もなかった。
それは直ぐに少女の身体を呑み込む程に大きく脹れ上がったかと思えば、空間を歪ませ、強力な重力を発生させる。

「―ッ!」

引きずり込まれる――。

アブセルは剣をアンカー代わりに床に刺し、空いた方の腕で咄嗟に一番近くにいたユニを捕まえる。
同時に阿形と吽形もそれぞれヨノと意識のないジルを保護し、その場から跳び退いた。

だが…、

「リマ姉!!セイちゃんさんっ!!」

それ以上の人数を救出するには手が足りない。
アブセルは漆黒の虚空の中へと吸い込まれる二人を目に映し、己の無力さに慟哭を上げた。

804セナ他:2017/06/11(日) 21:15:15
【ポセイドン邸】

「リト。」

どこで控えていたのか、漆黒のパラソルを風に乗せてノワールがフワリとその場に降り立った。

「やっと戻ったか。感慨に耽っている余裕はないぞ。何やら不穏な空気を感じる。同時に、ポセイドンの娘と闇の王子の氣が消えた。」

「ポセイドンの娘・・・リマのことか?」

ノワールは頷く。彼女の表情から状況がかなり思わしくないと察する。
リトがナディアを見ると、彼女も状況を把握したようでミレリアをリトから離す。ミレリアが名残惜しそうにしているのを宥めた。

「ここは私が締めるよ。終わったら私も行く。申し訳ないけど、先に行っててくれる?」

「・・・分かった。」

黒猫がリトの肩に飛び乗る。リトはノワールを引き連れてその場を後にした。

----

フロンの遺体の周囲を纏う空気が変わる。
それは一瞬の出来事で、膨れ上がった空気が空間を歪ませ、近くにいたリマを捕まえた。

「リマ・・・!」

セナは咄嗟に手を伸ばすもリマを掴むことは叶わず。それどころか、生じた重力の塊は自身への対処も遅れたセナの身体をも飲み込んだ。

その光景を目の当たりにしたヨノが叫びに似た悲鳴を上げる。

「アブセルちゃん!二人が・・・どうしよう、早く助けてあげて!!」

805ジル他:2017/06/26(月) 11:53:55
【ポセイドン邸】

-----

父の書斎で何気なく開いた引き出しに小さな小箱を見つけ取り出した。
中には紫の宝石が付いた金の指輪が入っていた。
窓に向ければ宝石がキラリと光る。

「キレー・・・」

「こら」

指輪に見惚れていると背後から声がかかり、身体を抱き上げられる。

「また父さんの部屋に勝手に入って」

「おとーさま、これ何?おかーさまにあげるの?」

装飾は女性が身につけるもの、そんな認識をしていた幼い我が子はニコニコしながら問いかけてくる。
トーマは苦笑いして見せると、そのままジルを膝に乗せ腰掛けた。

「それは父さんのものだよ。恋人から貰ったんだ。」

「こいびと?」

「うん、お母さんに出会う前に好きだった人。父さんが初めて手に入れたいと願った女性。・・・結局、最後は怒らせてしまって別れたけどね。」

「おとーさま、その人に悪いことしたの?」

「んー・・・。父さんに勇気がなかった事が原因かな?」

ジルは良く分からないと言いたげに首を傾げながら、指輪を元の場所に戻そうとする。
しかしその手をトーマが止め、ジルにそのまま握らせた。

「お前にあげるよ。」

「おとーさまの大事なものでしょ?」

「だからこそあげるんだよ。父さんが恋した人は女神様なんだ。これには魔法がかかっているんだよ。お守りとして持っておいで。」

「おまもり・・・」

「きっとお前を守ってくれる。」

ジルの指にはまだ大きいからと、指輪に鎖をつけて首から掛けてやる。

「ありがとう!」

ジルは嬉しそうに笑った。

-----

「何・・・あれ。」

ヨノの悲鳴が耳につき目を覚ませば目の前にはあまりにも異常な光景が広がっていた。
重力を一点に合わせたような黒い塊にジルは目を見開く。
傍らでヨノが震えていた。

「ジル・・・どうしよう、セナくんとリマちゃんが・・・」

二人がどうしたのか、始めこそ疑問に思うがその答えはすぐに分かった。
彼女が口にした二人の姿はここにない。おそらく、あの塊に引き込まれたのだろう。

「どうしよう・・・死んじゃ・・・」

「僕の前で簡単に死ぬとか言わないでくれる?」

言ってジルは立ち上がる。

「普通に考えなよ。あの二人は御先祖でしょ?あの二人が死んだら君たち消えちゃうから。二人は生きてるよ。」

しかしあそこから自力で出るのは至難の技だろう。
外部からの刺激があればあるいは・・・

「ヨノ!」

そこへ騒ぎを聞きつけ駆けつけたリトが合流する。

「うそ、リトくん・・・?」

「ヨノ、何があった?これ・・・」

「混乱してる子にこれ以上聞いてあげないの。」

ヨノに詰め寄るリトへ、肩に乗っていた黒猫がふいに声を出す。
そしてふわりと肩から飛び降りたかと思えば、突如として少女の姿になった。冥界で出会った少女、アネスだ。

「あんたには分かるの?」

「まぁね。ま、何でこんな所に出ちゃってるのかは分かんないけど。」

「対処出来るか?」

「んー・・・」

806ジル他:2017/06/26(月) 11:54:26

「ちょっと。」

話を進めていく新参者へ、ジルが勝手に割り込むなとばかりに不機嫌な声を出す。

「まさか君たちが解決しようとか思ってないよね?不本意だけどこれは僕が原因だから片付けも僕がやる。放っておいて。」

仕方ないから飲み込まれた二人も助けてあげる。それで文句はないよねと言うジルへ、何かを察したヨノがその腕を掴む。

「まってジル。あなたも危ないわ。」

「僕の心配なんてしないで。あの二人を助けたいんでしょ?」

正直、この引力に逆らえるのは空気や風を操ることの出来る自分しかいないだろう。この中の誰よりも適任なのだ。
自分の身から出た錆にケリをつけたいのもあるが、たとえばこの場でリトに対処させて、仮に何かあればヨノが悲しむ。それは避けたかった。

「戻ってくるよね?貴方がいなくなるのは嫌よ。」

「・・・」

「返事をして。」

「・・・分かったよ」

フェミルがいない世界に未練などない。最悪2人を助けて自分は相打ちになっても良いと考えたが・・・ヨノの願いは頑だった。ジルは諦めたように頷く。

「ジル、フェミルは・・・」

フェミルが本当は生きている、フロンの戯言だったと言わなければ。
しかし口を開いたヨノに、ジルは何も言うなとばかりに悲しげな笑みを浮かべた。

「じゃあね」

そしてジルはヨノの手を解きそのまま塊の中へ飛び込んでいった。

807アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/30(金) 21:49:40
【ポセイドン邸】

為す術もなく、目の前でリマとセナが渦に呑み込まれてしまう。
二人を救うことが出来なかった…。あまりの出来事にアブセルは力が脱け、膝から崩れ落ちる。ヨノの声も耳に届いていないのか、脱け殻のように呆けているばかりであった。
しかし直後、新たな人物が場に駆けつける。
目を疑った。

「……リト…?」

そこにいたのは紛れもなく、あのリトであった。

「え、嘘だ…、ほん…もの…?」

驚きを隠せず目を見開くアブセルの瞳にみるみる光が宿っていく。
しかしそんな彼をよそに、話は意外な方向へ向かいつつあった。
ジルがあの渦を処理するというのだ。しかも飲み込まれた二人を救出するとも。
アブセルが諦めていたその時に、彼は解決の手段を講じていたのだ。

「……」

…呆けている場合なんかじゃなかった。リマとセナはまだ生きてる。何もしない内から望みを捨てるなんて馬鹿だった。

アブセルは立ち上がる。リトに歩み寄り、そして両手で彼の身体をしかと抱き締めた。

「リト…ごめん。…戻って来てくれてありがとう」

腕の中に感じる慣れ親しんだ感触。
アブセルはリトの温もりと匂いを思う存分堪能し、ここ最近ご無沙汰となっていたリト成分を充電。ようやく本調子を取り戻す。
リトを離すと、今度はアネスの方へ目を向けた。

「何でお前が居るのか知らないけど…、あの変なのをどうにかする方法があるなら教えてくれないか?
リマ姉とセイちゃんさんを助けたいのは勿論だけど、俺はあの人(ジル)にも聞きたいことが沢山あるんだ」

ジルは放っておいてくれと言ったが、そうはいかない。
彼がこの街から姿を消したのは十年も前。その時にした、リトと一緒に会いに行くという約束も果たしていない。
襲撃するだけしといて、何の説明もなしにまた勝手にいなくなるなんて許さない。

「頼む…」

ジルが漆黒の渦に飛び込んでから、その入り口は急速に縮まりつつあった。
穴が完全に閉じてしまえば、三人とも戻って来れなくなる。
アブセルは真剣な態度でアネスに頭を下げた。

808リト他:2017/07/03(月) 23:51:21
【ポセイドン邸】

いきなり抱き竦められ何かと驚くが、それがアブセルであると分かるや途端抵抗を試みる。
しかし普段なら軽く暴れればすぐ手を緩める彼が、なぜだか一向に放そうとしない。腕力はアブセルがはるかに上だ。結局リトは今回ばかりは抵抗虚しくアブセルの気の済むまで堪能される羽目になった。

「うわぁ・・・」

目の前で男二人の抱擁・・・までは許せたが、同性の少年の髪や首筋など余すことなく匂いを嗅ぎ至福の表情を浮かべるアブセルを目の当たりにしたアネスは顔を引き攣らせる。キモイ。
かと思えばその変態はリトを離すと同時に数秒前の自分が無かったとでも言うように真面目な表情をつくり、自分に話を振ってくる。何だコイツは。

「・・・あれは咎落ちした者の末路。本来死した者はどんな極悪非道な奴だろうと最後には転生の機会を与えられる。けど、世の理を乱した者・・・禁忌を犯した者に待つのは消滅のみ。魂ごと消えるのよ。自らの身から生じたあの渦に呑まれてね。」

で、厄介なのがここから、とアネスは眉を潜める。

「渦は放っておけば消滅するの。だから本来は何もしないのが特策・・・だけど、今回は関係無いのが巻き込まれてる。中はそうね、宇宙空間みたいに終わりのない闇が続いてて・・・餓死とかない限り死ぬことはないけど、自力で戻るのは難しい。」

アネスが話を続けている間にも渦は小さくなっていく。
急がなければ、渦が消えてしまえば救出は困難になる。
しかしアネスは更に難しい表情を浮かべた。

「あのね、多分・・・最初の二人は助けることが出来るの。咎落ちとは無関係だから。だけど・・・」

今入っていった青年は・・・

「ねぇ、あの子・・・何かしてない?人喰い、死者蘇生、神殺し・・・」

ジルに感じた違和感。正でありながら負を思わせるような・・・

「・・・闇堕ち?」

神に通じる存在でありながら闇に身を投じその半分以上を黒く染めている。いつか完全に闇に全てを喰わせ神の力を闇の養分にせんとする・・・

「やばいよあの子、一番のご法度犯してる・・・」

突如として渦の中から竜巻が飛び出してくる。竜巻が消えると、その場にセナとリマの姿が。そこにジルの姿はない。

ジルは戻れない。アネスは呟いた。

そして、その言葉を裏付けるかのように渦が消滅した。

809アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/07/07(金) 20:57:06
【ポセイドン邸】

アネスの告げた言葉は残酷なものであった。
事実、渦より帰還したのはリマとセナの二人だけ。そこにジルの姿はない。
アブセルは二人の無事を確認するも、渦のあった場所…今はもう何の変鉄もない廊下の一角を見つめ、握った拳を戦慄かせた。

「じゃあ…なんだよ。あの人は死ぬまでずっと一人、暗い闇の中をさ迷ってなきゃならないってのかよ…」

リマとセナが助かったことは手放しで喜ぶべきことだ。
しかしアブセルの心は今もなお晴れぬまま、分別もなく縋るようにアネスに詰め寄った。

「なあ、本当にどうにもならないのか?よく分かんねえけど、お前すごい偉い人の娘なんだろ」

アネスに当たるのはお門違いであるのは分かっている。…分かっているのに、この感情の昂りを抑えることが出来ない。
アブセルはやるせなさに強く唇を噛みしめた。

「あの人は宣言通りリマ姉達を救った。なのにその功労者の行く末がそれとか納得できねえよ…」

810リト他 ◆wxoyo3TVQU:2017/07/17(月) 22:45:51
【ポセイドン邸】

「そんなこと言ったって・・・」

無理なものは無理なのだ。たとえばここに、そう、ルイがいたとしても事態は変わらないだろう。

「禁忌を犯した者は管轄外。神様の領域には踏み入れられないの。」

しかし周りの落胆ようは予想以上のもので。
ヨノは泣き出すし、助け出されたリマも複雑な表情をしている。「彼は戻れないことを分かっていた気がする」と。

自分が非情な事を言っている自覚はある。しかし、今の自分には知識も経験も足りない。

「・・・たとえば、そうね。神様の導きがあれば戻れるかも・・・。」

苦し紛れにそんなことを言ってみる。神に頼むなど夢物語も良いところだ。

しかし、アナスの言葉にユニがふと反応する。

「神の・・・導き・・・」

耳の奥で何か聞こえる。これは・・・声?
ふわりと風が舞い、ユニの髪を凪ぐ。
ユニは目を閉じた。

「声が聞こえる・・・」

ユニの様子がおかしい。不審に思ったリトが声をかけるが、彼の声は届いていないようで。
ユニの周りをまとう風が強くなった。そう感じた途端、バサリと彼女の背から大きな翼が広がる。

「祈れ、祈りの先に道拓くだろう」

ユニの体が宙に浮かぶ。開いた瞳は黄金に光り、髪は銀色に輝いていた。
そこにいるのはユニであるはずなのに、普段と纏う雰囲気がまるで違う。

その姿を唖然として見ていたアネスは、ハッと気づいてヨノに詰め寄る。

「ちょっとそこの貴女!さっきの子を取り戻したいならもっと強く願って!早く!」

ヨノはアネスの突然の発言に戸惑いながらも言われたとおりにする。
と、ユニは手を翳す。
瞬間、翳した先に一つの空間が開いた。

「引き上げて!」

アネスが叫ぶ。開かれた空間に人の手が見えた。

一方ユニは糸の切れた人形のようにフッと体の力が抜け、髪も戻り翼も消える。
そのまま落ちてくる彼女をリトが走り受け止めた。

ユニが元の姿に戻ると同時に開かれた空間も閉じかけてくる。消滅は時間の問題だ。

何が起こったかよく分からないが、アネスの様子から一つだけ分かることはある。

「アブセル、その手を引き上げろ!」

おそらく、そこにいるのはジルだ。そして、これが彼を救い出す最後のチャンスなのだろう。

811アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/07/28(金) 22:07:43
【ポセイドン邸】

「!…ああ!」

リトの声に、これが最後に与えられたチャンスであることを察する。
アブセルは飛び付くように渦から伸びる手を掴むや、こちら側へ引きあげようと試みる。

しかし…

「重…っ」

まるでヘドロか何かにでも絡み付かれているみたいだ。
それは禁忌を侵した者を逃すまいとする、何らかの力の働きがけのようにも見える。

(くそっ、世のコトワリが何だっつうんだよ…!)

急がなければ折角開いた穴も塞がってしまうというのに。

思わぬ障害に見舞われたそんな折り、ふと別の者の手がジルの腕へと伸ばされた。
…リマとセナだ。

言葉を交わさずとも彼らの意図は明白であった。
三人は一瞬だけ視線を交わすと、一つの目的の為に力を合わせてジルの救出へと動いた。

「…っせーの!」

812ヨノ他:2017/08/18(金) 07:25:06
【ポセイドン邸】

一人の力ではどうにもならなかったものが新たな手が加わったことで次第にこちらへ引き出されてきた。辛うじて手が見えていただけだったのがその体が抄いだされ、ジルの姿がはっきりと目視出来た。
あと少し、もう一息だと言うのに。彼の体に絡みついた黒いもやのようなものが邪魔をして最後まで引き上げられない。
その間にも開かれた空間は徐々に狭まってきている。時間がない。

「・・・ねぇ。」

暫く考えるようにしながらその様子を見守っていたアナスが驚く程静かな口調で口を開いた。
そして体力を削がれたのか力なく三人へ身を委ねる状態となっていたジルを見据え、問う。

「一つだけ聞くわ。"生きたい"?仮に何かを失ってでも。」

咎落ちの後呑み込まれた者が再び現世に舞い戻るなど奇跡としか言いようがない。どういうわけか、その奇跡をユニが起こした。
そして、この状態になったことで彼を助ける方法が一つだけ見つけ出された。しかし、それは決して善策とは言えないこと。ここで生き延びたとしても更なる地獄が彼を襲うだろう。
それでも彼は命を選ぶか。

「・・・」

ジルは光の宿らぬ目でアネスを見る。そして小さく口を開いた。
彼の選んだ答えは-------

---------

813ヨノ他:2017/08/18(金) 07:25:46
あの目まぐるしく繰り広げられた一件から数時間後。ポセイドン邸は静けさを取り戻していた。
ナディアはヨハンの葬儀を済ませ、後処理があるとかで爺に促されるまま今は書斎に篭っている。
一方、気を失ったまま目覚めないユニを休ませたいと言ったリトはアブセル達を連れ自室へ向かった。あの後リトとアネスが口論となったが、
今は大丈夫だろうか。

「・・・。」

ヨノは器に水を汲みなおしながら思いを馳せる。今となってはあの喧騒が嘘のよう。しかし現実だ。清潔なタオルを持って自室へと向かう。
主は自分であるはずの部屋のドアをノックをするのは、中の人への配慮である。

「ジル、入るね。」

返事はない。ヨノは多少躊躇いを抱きつつも部屋の中へ顔を覗かせる。拒絶の態度は見えない。ヨノは中へ入った。

ジルはベッドから身を起こし窓の外を眺めていた。別に外に興味があるわけではない、気持ちのやり場が無いのだろう。
先程までは呻きを上げていたが今はやけに静かだ。ポセイドンのリマとナディアの尽力の賜物か。痛みが引いたようで良かった。

「他の人じゃ嫌だと思って・・・。私でも心許ないかもだけど、ごめんね。」

言ってヨノは布団を捲ろうと手を伸ばす。しかしその手をジルが掴んだ。

「やめて。」

「でも包帯代えないと・・・」

「放っておいて。」

「やるわ。私がしないで誰がするの?」

ヨノはジルの手を退け布団を引きはがす。そこにある筈の彼の足はない。

「血、止まったね。」

辛うじて残る付け根付近の腿に巻かれた血の滲んだ包帯を解きながらヨノは言う。ジルは黙ったままだった。

「私だったら痛くて卒倒しちゃってたよ。ジルは強いなぁ」

わざと明るく言ってみる。少しでも彼の気が晴れるように。気休めであることは分かっている。けど、そうしたかった。

「醜いでしょ。」

「そんなこと・・・」

「これ・・・」

ジルは自分の指に嵌められた金の指輪をヨノへ見せる。

「父がくれたお守りなんだ。女神様の加護が込められてるって。それで・・・願ってしまった。「生きたい」って。柄にもなく命乞いを・・・。そしたらこの宝石が光って、道が出来た。そこを辿ったら戻ってこれたんだ。」

「お父様が助けてくれたんだね。」

「君のせいだよ。」

「・・・私の?」

「君が戻ってきてなんて言うから・・・。生きなきゃって思ったんだ。君に・・・」

もう一度会いたくて。

「君は残酷だ。どうしてこんな気持ちにさせるの。」

「・・・貴方が楽になるのなら私を恨んでもいい。貴方がどんな姿になってしまっても、私は貴方に生きていてほしい。」

あんな暗い闇の中に独りにさせたくなんてなかった。貴方は本当は、とても寂しがり屋だから・・・

ヨノはジルの包帯を交換し、「休んで」とだけ告げ部屋を出る。

と、部屋の前で佇む人影と目があった。

「アブセル」

てっきり目覚めたリトに歓喜し一緒にいるものだと思っていた。リトの存在を後回しにするなんて珍しい。
アブセルはとても居心地悪そうに、中に入ることを躊躇っているようだった。

「ジルに話があるの?起きてるから入っても大丈夫よ。」

814アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/09/03(日) 00:41:07
【ポセイドン邸】

ジルと話しをする為にここに来たはずだったのに、いざ顔を合わせるとなると、やはりどこか躊躇してしまう自分がいた。
目の前の扉を開けるべきか否か。決めかねていた丁度その時、折りが良いのか悪いのかヨノがその扉を引いて中から出てきた。

「あ…、じゃあ…うん」

もはや退くに退けない状況になってしまった。
アブセルは曖昧な返事を返すと、半ば観念するように部屋の中に足を踏み入れるのだった。

落ちついた雰囲気と女性的な上品さが内包されたような空間の中、彼はいた。
ヨノのベッドに身を沈め、窓から外の景色を眺めている。こちらの存在に気づかない筈はないのだが、彼は現れた来訪者には関心がないのか、一瞥もくれることはなかった。

アブセルは扉の側を離れベッドから遠からず近からずといった一定の距離を置いた場所で立ち止まる。
その視線は自然と彼の足、膨らみの見えない布の上に引き寄せられ…気まずそうに眼を逸らした。

…あの時は無我夢中だった。
「消えて欲しくない」「消させない」その一心で彼に手を伸ばした。
だがジルに対する感情は今もなお複雑で、こうやって面と向かって対峙している間もどういった態度を取るべきなのか分からなかった。
二人の間にある距離は、そのまま心の距離を表しているのだろう。

重苦しい沈黙が無為に時を刻んでいく中、とうとうその空気に堪え兼ねたアブセルがようやくギクシャクと口を開いた。

「えっと……、具合は…大丈夫か?」

……無言。

どうやら出だしから盛大に挫いてしまったようだ。

先の騒ぎでうやむやになってしまったが、そもそも自分と彼は敵対する間柄にあったのだ。私的な感情がどうであれ、その関係は今も変わらない。
ジルにしてもアブセルに気遣われる覚えはないだろうし、捉え方によっては皮肉と受け取られてもおかしくはない。

「…あー…悪い、今のは忘れて。
本当はこんなこと言いに来た訳じゃないんだ」

アブセルは乱暴に髪の毛を掻きむしり溜息を溢す。そして意を決したように顔を上げた。

「あのさぁ、アンタ昔この街に住んでただろ。
…俺のこと、覚えてる?」

ここに来て初めてまともにジルの姿を真っ向から見据える。目を逸らすことなく、記憶の中のかつての少年の面影をなぞるように。

815ジル:2017/10/16(月) 12:33:39
【ポセイドン邸】

アブセルの気配を感じ取るも、ジルが彼の方へ顔を向けることは無い。
本音を言えば今は誰とも顔を合わせたくないのだ。しかしジルが動けない以上、話のある相手には都合が良いのだろう。

「・・・一度会っただけの子を覚えてるわけないでしょ。」

アブセルの問いにジルはそう答えた。
「覚えていない」とは言ったが、彼に「一度会ったことがある」と返したのは、結局のところ「彼を覚えている」と言うことに他ならない。その言葉の矛盾には当然ジルも気づいているだろうが特に取り繕うこともない。単にアブセルの言葉に素直に答えたくなかっただけなのだろう。

「どうして僕が君たちを攻撃するのか、気になる?」

そして、アブセルの胸のうちもお見通しだった。アブセルはジルの正体を知り、確認しに来たのだ。お気楽な彼のことだ、昔自分たちを助けた人物が今では敵対しているという現実が信じられないのだろう。

「僕が四霊の一人であり黄龍の部下だから。君達が僕の邪魔をするから。・・・と言ったところで君は納得しないだろうね。」

実のところ、本当にただそれだけの理由だった。
本音を言えば四神にも、ましてやリトになんて敵意などない。世界の公正など自分にはどうでもいい。
生きていくために黄龍の命に従っているだけ。フェミルの安全を確保しなければ。
更にいえば自分がこの任に就いておけば黄龍が別の刺客を寄越すこともない。あとは適当にやり過ごせば良い。

しかしそんなこと言えるはずもなく。癪だと言うのもあるが、何より自分は彼らの「敵」だから。「悪役」らしくいなければ。

「他に理由があるとすれば・・・・・・」

だから、アブセルが納得しそうな理由を考える。嘘は得意だ。
ジルは漸くアブセルの方へ目を向ける。何処か嘲るような目をして。

「単にリトが嫌いだから。」

リトはどんな絶望的な状況下においても決して光を見失わない。
持ち前の気高さを失うことなく、例えば自分と同じ立場に堕とされたとしても真っ当な道を選び生き延びたことだろう。
そして何より、彼の周りには彼を大切に想い護ろうとしてくれる誰かがいる。
自分にはないものを持っているリトが羨ましい。自分はどんなに望んでも手に入らないから。
自分はリトに八つ当たりをしているのだと、アブセルへ言った。

「興味があるんだ。あの子はどこまでも綺麗で尊い。君たちにとって大切で、宝石のような存在だよね。だから、そんな宝石を踏みにじって、汚して、壊したらどんな気分かなって。君は単なるおまけ。君が必死になってあの子を護るものだから、先に片付けてからじゃないと、リトには手を出せないからね。」

816アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/10/26(木) 02:02:19
【ポセイドン邸】

ジルの返答はアブセルの言葉を認めたものと受け取って良いだろう。
だがそれを告げた当の本人は、『だとすればそれが何だと言うのか』とでも吐き捨ててしまいそうな程に冷たい目の色をしていた。

…一体自分は何を期待していたのだろう。
ジルの口からどんな答えが欲しかったのだろう。

ジルの本意を知らぬアブセルは、次々と叩きつけられる心ない発言に奥歯を噛み締め拳を震わせる。
もはや話し合う余地もないと思わせるほどの一方的な拒絶。
それがアブセルの敵愾心を刺激する為のものなら、リトを卑しめるような発言はこれ以上もないほど効果的だろう。
…だがジルは一つだけ勘違いをしている。

「………じゃねーよ…」

彼はジルが思っている以上に"大馬鹿者"なのである。

「見え透いた嘘ついてんじゃねーよ!!
それが本当なら…何で俺を殺そうとした時"ごめん"って言ったんだよ…っ!
何でセイちゃんさんやリマ姉のこと命懸けで救ってくれたんだよ!」

怪我人であるジルに配慮し、一応は大人しい態度でいようとこの会談に臨んだはずたったのだが、今ではもうその考えも及ばぬほど、アブセルはタガが外れたように憤慨し声を荒げる。

「リトが羨ましくて八つ当たりしてたなんて、そんなのガキの頃の俺まんまじゃんか!
昔ガキだったアンタが俺に諭してたのと同じことを、大人になった今になってやってるなんて幼稚過ぎて笑えもしねーっつの!」

たった一度きり、それも幼い時に出会っただけだ。
ジルのことを語れる程、彼を知っている訳じゃない。
まして誰かを傷つけるような事を言う人でも、する人でもないと断言できるべくもない。

だがそれでも、ジルはアブセルの中で間違いなくヒーローだった。

それほどまで盲目的に彼を信じるのは、アブセルにとって"あの日"が何ものにも代え難い特別な意味を持っているから。
例えそれが時間と共に美化された思い出だったとしても。

認めたくないのだ。
彼を、軽蔑したくないのだ。
敵対行為に及んだのは止むない理由があったのだと言って欲しい。

だって、憧れの人はいつまでも、憧れの対象でいて欲しいから。

「それに…っ、アンタにだって大切に思ってくれる人ぐらいいるんじゃないのかよ!
両親とか妹とか…、ヨノ姉だってアンタのことめちゃくちゃ心配してたんだぞ!」

故にアブセルは否定する。今のジルは真実の彼ではないと、全力で否定する。

817ジル他:2017/12/28(木) 21:49:20
【ポセイドン邸】

アブセルを煽ったつもりが、彼からは予想外の反応が返ってきた。
ジルは一瞬呆気に取られた表情を浮かべるも、やがてクスリと笑い出す。

「ほんと、馬鹿なのか何なのか・・・面白い反応をするね。ここまでされて僕を拒絶しないとは。」

そしてふぅと溜息をつき、何処か、幼子を諭すかのような静かな笑みをアブセルへ向けた。

「僕には両親がいない。殺されたんだ、父が親友として信頼していたはずのここの主人(ヨハン)にね。そして僕はその彼に復讐した。だからヨノに気にかけられる資格がない。
僕達の関係は既に破綻しているんだ。君がどんなに否定しようと、今目にしているものが全てだよ。」

ただ・・・そうだな、とジルは続いてわざとらしく考える素振りを見せた。

「それでもまだ僕を信じるなんて馬鹿なことを言うなら、一つだけ教えてあげる。リトを今後も護り続けたいなら、ユニを引き離した方がいいよ。」

黄龍は今ユニを欲していて、ジルが彼女を連れていこうとしたところでアブセルと対峙したわけだが、その彼の口ぶりは今後ユニを奪いやすくするための常套句ではなさそうだった。
リトとユニが共にいてはならない理由があり、彼はそれが何か知っている。

しかし、その答えを聞き出すことは叶わなかった。断りもなくドアが勢いよく開かれたと同時に、ズカズカとアネスが入り込んでくる。
そして、有無を言わさずジルの襟首を掴んだ。

「ねぇ。」

ジルが怪我人であることなどお構い無し。アネスの声音は怒りの色だった。

「お前、何してくれてんの?」

突然の自体にも関わらずジルは驚く素振りも見せず、そして彼女の言わんとしていることが分かったのか、代わりに不遜な笑みを浮かべる。
先程までアナスは彼女のとった行動のことでリトと揉めていた。その延長なのだろう、一呼吸おいてリトがアネスを追ってくる。彼が制止するも、彼女はやめない。

「お前みたいなのがいるから世界軸が歪むんだ。自分の都合で理を破ったツケが何処に来るか、本当は分かってるんだろ?」

「・・・君、この世界の子じゃないね?これも歪みの原因になるんじゃないの?」

「この・・・!」

「やめな!!」

殴りかからんばかりのアネス。そこへ怒号が飛んだ。見れば扉の前で仁王立ちしたナディアがいた。

「怪我人前にして何してんの!騒がしくすんなら出ていきな!!」

つか出てけ!とナディアは一同を追い出しにかかる。ナディアと共に来たリマも退室を促すと、アネスも歯噛みしながら言葉に従う。

「ユニが起きた。何か話したいことがあるらしい。」

出て行き様にリトがアブセルへそう耳打ちする。
一緒に出ろとの意。アブセルはまだジルへ話がありそうな様子で落ち着かない表情を浮かべていたが、ジルはそれを分かった上でわざとらしい笑顔を浮かべ手を振って見せた。

818アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/01/05(金) 00:48:37
【ポセイドン邸】

ジルと話していた最中、アネス、続けてナディアが乱入とも言って良い形で割り込んでくる。

此方としては聞きたいことも言いたいこともまだ消化しきれておらず、正直言うと水を差された気分だったが、ジルについてはナディア達の方が上手くやってくれるだろうという思いもあった為、仕方がない…と指示に従うことにする。
去り際に手を振るジルを指差し、

「良いか!?話しはまだ終わってないからな!
勝手にいなくなったりしたら後が酷いからな!!」

そう息巻いて部屋を出ていく。

そして…

(…結局、詳しいことは何も分からず仕舞いか…)

リトやアネスと共にユニの待つ部屋へ向かう際も、アブセルは解決する所か新たに浮上した疑問に、密かに頭を悩ませていた。

まず、ジルの両親をヨハンが殺したということ。

そしてもう一つ。
リトを守り続けたいなら、ユニを引き離した方が良い。という意味深なあの台詞。

「……リト」

アブセルは不意に立ち止まり、先を行くリトの背中に声をかける。

先程ジルが言ったことを彼に伝えようか。
そう思い悩んだ末、少し間を置いて首を横に振った。

「…いや、やっぱり何でもない」

ジルのことだ。質の悪い冗談ということも考えられる。
確証のない情報を伝え、リトを悪戯に不安がらせる必要もないだろう。

今はいくら考えてみても答えは出ない。アブセルはそれらの疑問を一先ず頭から振り払うと、再び歩みを始める。そして、ふと思い出したようにリトに向けて疑問を口にした。

「…て言うかさ。さっきも思ったけど、何でこいつが此処に居んの?そしていつ帰んの?」

アブセルは屋敷の中に入り込んだ野良猫を眺めるが如く、ぞんざいな態度でアネスに視線を投げていた。
ジルの救出に手を貸してくれたことには感謝しているが、正直彼女に関してはあまり良い思い出がないのだ。

819リト:2018/02/11(日) 22:31:40
【ポセイドン邸】

「何こいつ、すっごい生意気なんだけど」

不満げにリトへ話しかけるアブセルへ、リトの前を歩いていたアネスがひょっこり顔をだし顔を顰める。

「私はこの子の補佐するように言われて来たの。あんたみたいな使えない従者しかいないみたいだし?『自分以外の子と仲良くしないで!』とか、女子か。知ってるんだからね、色々と。」

相手をあまり快く思っていないのはアネスも同じらしい。ベッと舌を出したかと思えばふんっと顔を背ける。
その姿にリトは肩をすくめる。

「補佐ね・・・今のところマイナスしかないんだけど。それとあんま目立つことするな。」

「あら、さっきの式のこと言ってる?私はただあんたに協力してもらう"見返り"として、あの人にかかってた複雑な呪縛を解いてあげただけ。あれは感極まったあんたが勝手に目立ったのよ。」

ニッコリと悪びれもなく笑う少女にリトはそれ以上何も言えなくなる。かまをかけてみたが、やはりあの時母親が正気に戻ったのは彼女が手を加えていたのか。
感謝はしている・・・が、もう少しタイミングを考えて欲しかったと思うのは贅沢だろうか。

リトは何とも言えぬ気持ちで咳払いを一つ、アブセルの問いへ軌道を戻す。

「端的に言うと、闇の扱い方をこいつから学ぶ為に連れてきた。俺は自分の力を持て余してるって指摘されたんだ。不安定で力みすぎて闇を無駄に放散してるって。考えてみればお前には爺がいるけど、俺にはそう言うの教えてくれるような奴はいなかったし。」

どこで、誰に言われたのか、そもそもリトは眠りの中で別の世界へ言っていたことすらアブセルには話していないが、アネスがいることで何となくでも伝わればいい。

闇の管理者などと豪語する以上、その名に恥じぬようもっと闇を上手く扱えるようになりたい。
ルイに説明された「この世界に訪れようとしてる災厄」に然るべき対処をすべく、リトは彼へ師事を申し出たが、それはもうあっさりと断られた。が、代わりにアネスを寄越したのだ。
小娘に何が・・・とも思うが、彼女の知識や技量はリトよりも上であることは認めざるを得ない。

「俺を人柱にしようとした奴らじゃないけど、このままだと俺の価値は本当にただ闇を秘めた器ってことになる。それじゃ気に食わないから。」

言いながら、ふと先程見かけたセナの姿を思い浮かぶ。あの容姿から疑いようはなく、恐らくあれがかの闇の王子なのだろう。
あれから学んだ方が話が早いのだろうが、未だセナに対する負の感情を拭いきれていないリトには素直に教えを請うことは出来そうにない。

「ともかく、だ。お前達、喧嘩はするなよ?俺を煩わせるようならアブセル、今度こそ絶交してやるから。」

舟庭の件は許してやる、充分後悔しているようだからな。だけど二度目はないと思え。
言わずとも、アブセルを見るリトの目はそう物語っていた。

そして一同はユニの待つ部屋へ。
リトは部屋の前で足を止めるとアブセルへ中へ入るよう促した。

「お前だけと話がしたいらしい。」

820アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/02/15(木) 03:04:28
【ポセイドン邸】

使えない従者だぁ…?気にしていることを本人の前でそんなにはっきり言うなよ、傷つくだろうが。
て言うか何人様のプライベートまでしっかり探り入れてやがんだ、このアマァ…。

…と、今にもアネスに食ってかからんばかりのアブセルであったが、絶交するとの言葉を耳にすれば、態度を急変。
かつてない程の素早い動きで、リトの足元に額づいた。

「も、もちろん喧嘩なんかしません!二度と煩わせません!浮気だってしません!一生リトについていきますうぅ‼」

涙目になりながら必死に訴えるアブセル。
アネスがまるでゴキブリでも見るような目でこちらを見てくるが、今は気にもしていられない。
そう、これは己のリトへの愛が問われている瞬間なのだ。それを証明する為ならばリトの足を舐めるのだって吝かではない。と言うか寧ろリトの足なら舐めたい。舐め回したい。

「つーか…、何か変わったなリト…」

跪いたままふとリトを見上げ、アブセルは言う。
これはリトとアネスのやり取りを始め、自分に対する応答や振る舞いなどを見ていて感じたことだった。

何が変わったのか、と聞かれれば返答に困るが。何となく角が取れたと言うか、雰囲気が柔らかくなったように思う。
自分の知らないところで何かがあったのは確実だろうが、その辺は追々聞かせて貰うことにしよう。
とにもかくにも、今焦点を向けるべき相手はユニなのだから。

そうして三人は目的の場所に到着する。
てっきり皆に話があるものと思っていたところ、お前だけ、とリトに告げられアブセルは首を傾げた。

そう言えば最近のユニは少し様子がおかしかった。
先程のジルの妙な忠告もあってか、何だか意味もなく緊張してしまう。

「ユニ?入るぞ」

それらの感情を胸の奥に追いやり、アブセルは扉を軽く叩いてドアノブを引く。ユニのいる部屋へと足を踏み入れた。

821ユニ:2018/03/05(月) 00:30:59
【ポセイドン邸】

「アブセルさん!」

目的の人物が来るまで落ち着かない様子で部屋の中を歩き回っていたユニは、アブセルの姿を見るやすかさず駆け寄ってくる。

「あの、さっきは本当にごめんなさいでした・・・」

相手の術にはまったとはいえ自分が彼を拒んだせいで危険な目に遭わせてしまった。ユニは改めて謝罪の意を述べるが、勿論この為だけに呼んだわけではない。

ユニは椅子を持って来るとそこにアブセルへ座るよう促し、自分も対面に腰掛けた。

「アブセルさん。前に、ユニは知らないことがわかる、見えるはずのないものが見えるって言ったですよね?その・・・あの人・・・今度はアブセルさんを攻撃したあの人のことが見えてしまって・・・」

あの人とはジルの事だろう。敵である人物の話をして良いものか、少し言いづらそうに両手の指を動かしながら話を進める。

「女の子がいるです、誰かは分かりませんが・・・あのお兄さんはその子をとても大事そうに抱きしめたりしてます。お兄さんはよく出掛けるですが、いつも女の子は置いてきぼりです。女の子はそこから出られないみたいです。」

とても抽象的だが、ユニは一生懸命自分が見えたものの意味を考えた。そして答えを導き出した。

「ユニは難しいこと分からないですが、お兄さんはその女の子を守ろうとしてるんだと思います。言うこと聞かないとその子を守れないです。」

ユニはジルが悪い人間であるように思えないのだ。自分を連れ出そうとしたが、決して害そうとしたわけではない。何となく、彼の本意ではないと感じた。

「お兄さんはいつも笑ってます。けど、女の子のいないところでは泣いてるです。小さい頃からずっと・・・。このままだとお兄さんの心が壊れちゃうです。どうすれば良いですか・・・?」

彼は敵なのに、苦しむ姿はとても胸が傷んだ。彼を救いたいとと思った。それに、彼の大事にしている女の子・・・彼女がとても気になるのだ。初めて見る姿なのに、自分は彼女を知っているような気がして。

「その、リト様はユニの力知らないですから・・・アブセルさんにお話をと思いまして・・・」

822アブセル:2018/03/17(土) 23:21:34
【ポセイドン邸】

初めは要領を得なかったそれも、言葉を重ねる内ユニの言わんとしていることが分かってくる。

誰のことを指しているのか、何を伝えようとしているのか。
理解して、アブセルは深い溜め息を吐いた。

「…つまりあの人は誰かを人質に取られてる。だから悪い奴の言いなりにならざるを得なかった…ってことか」

ユニの言う女の子は、おそらく彼の妹のことだろう。
幼い時に見たきりだが、仲睦まじいあの兄妹の姿はよく覚えている。

アブセルは髪の間に指を差して頭を乱暴に掻いた。

「だったら…、何で初めからそう言ってくれないんだよ。何でわざと憎まれるようなことばっかり言うんだよ…っ」

…いや、理由は分かってる。
他人に助けを求めた瞬間、人質の安否がどうなるかなんて馬鹿でも想像がつくことだ。
そしてそれは、今この時をおいても同様の筈で。

「……っ」

あの人は一体いつから、その辛い生活を強いられていたのだろう。
あの日、彼の住む屋敷に訪れた時は家族に囲まれてあんなに幸せそうにしていたじゃないか。

アブセルの中に苦々しい気持ちが募っていく。

ジルが苦しんでいる時、自分は何をしていた。

ジルに憧れだけを押し付けて、さながらヒーローのような完璧な想像に仕立て上げ、ジルの苦悩を知ろうとも分かろうともしなかった。
あの人は一人でずっと苦しんでいたのに。

「助けないと…」

ジルが自分から助けを求められないのなら、こちらが勝手に彼らを救えばいいだけの話だ。
アブセルは小さく息をつき、再びユニの方に意識を向けた。

「…ユニ、よく話してくれたな。
後は俺が何とかするから心配すんな。リトにも俺から上手いこと説明しとくし…」

ユニの肩を軽く叩き、安心させるように言う。
そして、

「で、その女の子は今どこにいるんだ?」

珍しく頼りがいになるところを見せたと思ったら、その数秒後にはこの他力本願である。
これがアブセルがいまいち人から信用されない原因の一つであろうことは、多分本人も知らない。

823ナディア他:2018/04/17(火) 00:15:26
【ポセイドン邸】

「で、君たちは出ていかないの?」

先程まで騒ぎ立てていた輩は出ていったものの、代わりにその場に残った人物にジルは面白く無さげに問いかける。

「当然、あんたに話があるからな。」

「怪我人がどうのって言ったのはお姉さんじゃない。」

「固いこと言わないの。」

不平を述べるジルの態度など気にすることなく、ナディアは鏡台の椅子を手繰り寄せベットの傍らに腰を下ろす。

「ジル。」

不意に発せられたその声に思わず体が反応する。ナディアから自分の名前が出るとは思っていなかったのだ。
応龍として彼女の前に立った時、彼女は自分のことを覚えていないようだった。だから自分も敢えて知らない風を装ったのに。

「・・・ヨノから聞いたの?僕の名前。」

「可愛げのないこと言うなよ。あんたはヨノだけの知り合いじゃないだろ。」

言ってナディアは目を細める。

「すぐに思い出せなくて悪かったよ。何年も経ってたから・・・なんて言い訳にはならないよな、今のあんた、おじ様にそっくりだし。」

「失恋した苦い思い出を記憶から消し去ったんじゃないの」

「ほんと可愛くない」

こいつ、一発殴ってやろうか。
いちいち皮肉ばかり述べるジルに物騒な考えが浮かぶも、怪我人だからと抑える。横道に逸れすぎて本題に入れなくなるのはまずい。

「・・・ありがとうな。」

唐突にナディアなら紡がれた言葉に、ジルは怪訝な表情を浮かべた。

「僕はお礼を言われるようなことはしてないけど」

「リトのことだよ。ずっと気にかけてくれてたんだよな。」

確信めいたナディアの言葉。何故そう思うのか。自分は傍目から見ればリトに嫌がらせをしているようにしか見えないはず。そう見えるように振舞ってきた。

「何で・・・て、理由を聞いても教えてくれないんだろうな。」

言ってナディアは笑う。
そんな彼女の様子に誤魔化しても無駄だろうと察し、ジルは小さく溜息をつく。
そして不貞腐れたように再び窓の外へ顔を向けた。

824ナディア他:2018/04/17(火) 00:15:51

(嬉しかったから・・・)

一つ。単純に、リトが生きてることが嬉しかった。父が命懸けで救い出そうとしたその子が無事で、父の死が無駄じゃなかったと思えた。

もう一つ。幼い心を閉ざしていた彼が自ら言葉を紡ぎ、感情を表に出すようになっていた。歳を重ねるにつれ次期にそうなっていたのかもしれないが、あの日自分が彼に伝えた言葉が少なからず影響しているような気がして、こんな自分でも誰かの役に立てたのだと思えて嬉しかった。

そして、

「・・・単なる気まぐれだよ。」

何よりも、リトが綺麗だったから。
苦行に立たされ、生きるために身も心も汚してきた自分とは違う。リトは苦行の中でも気高さを見失わず、真っ当な道を歩んできた。
アブセルにはそれが気に入らないと言った。しかし本当は違う。彼のそんなところが羨ましく、憧れた。おそらくリトを自分と重ねているのだろう。自分自身を護れなかった代わりに彼を護りたい。いつまでも綺麗でいてほしい。穢されたくない。

しかしこんな気持ちなど他人に漏らしたくはない。ジルは窓を見つめたまま、無愛想に適当な答えを紡いだ。

それが本心でないことは丸わかりで、ナディアは呆れたような笑みを浮かべた。

「私の周りは何でこう素直じゃない奴ばかりなのかね。」

なら勝手に解釈させてもらうよ。
ナディアはジルの頭をクシャりと撫で立ち上がる。

「悪いけど、あんたを帰すつもりはないんだ。四霊の一人を野放しにするのは厄介だし、取り返したあんたを手放す気もない。逃げようなんて考えるなよ?そん時は動けないよう縛り付けてやるから。」

言葉は乱暴だがナディアの顔は笑っていた。
そして部屋を出ていく。

825ナディア他:2018/04/17(火) 00:17:58
「・・・。」

ナディアに伴っていたセナは彼女の背を送り、そして続いてジルへ顔を向けた。
ジルは相変わらず窓を見つめこちらに目を向けようとしない。

「・・・痛いか?」

静寂の中、セナが口を開く。

「あるものがないんだから、当たり前。」

「違う。」

足のことではない。ここだ、と言わんばかりに、セナは自身の胸に手を当てた。

「私は、痛かった。いっそ抉り出したくなるほどに。」

この状況に、セナは覚えがあった。
リマを思い出した時、必死に自分を手放すまいと仲間に訴える彼女を突き放した。再び闇の世界へ舞い戻そうと伸ばされたジュノスの手を取った。
今の彼は、あの時の自分だ。

「しかし私には分からなかった。自分の置かれた立場がどのようなものか・・・気付いた時には遅かった。」

黒十字の存在が悪などと思ってはいなかった。否、あの時の自分には善悪の区別などつかなかった。宗主の言葉が全てで、宗主こそが世界。命令に従いあらゆることに手を染め、人を殺め・・・引き返すには罪が重すぎた。

「・・・お前には分かるのだろう?その痛みの意味も。自身の罪も。」

言ってセナはふとジルの手元に目を向ける。彼の指に光る宝石はポセイドンの力が込められたもの。持ち主を幸運に導く願いが秘められている。

「・・・ポセイドンは人を慈しむが、見境なく加護を施す神ではない。罪人には相応の罰を与える。」

その指輪はジルを救った。その意味を考えろとセナは暗に示していた。
ジルは自身の行いとそれがもたらす結果を認識している分、取り返しがつかなくなる一線を超えることはしていないのだろう。神にとって、ジルはまだ庇護すべき存在として認識されている。

「・・・何で・・・僕にそんなことを言うの?」

はじめこそ反論していたものの、次第にジルの言葉は少なくなってきていた。相変わらず視線を合わせようとしないが、セナはじっとジルを見る。
しばしの沈黙のあと、ジルから声が返ってきた。
か細い声だった。

ナディア達にとってすらジルは親身に対応される筋合いはない。所詮他人なのだから。それがセナとなっては尚更・・・知り合いですらない彼にはジルのことなどどうでも良いはず。なのに何故彼は諭そうとしてくるのか。

826ナディア他:2018/04/17(火) 00:18:38
「別に・・・」

ジルの疑問に、特に答えなどなかった。彼にとってはただの気まぐれなのかもしれない。

「何か・・・言葉が欲しい気がした」

本来なら聖であるはずの力を黒く染めた。神を冒涜する行為ではあるが、そうせざるを得なかった事情があるのだろう。神を恨むほど、傷付いている。
それでも神への情を捨てきれずにいる。
底なし沼の中でもがきながら、必死に手を伸ばしている、そんな印象を受けた。

「お人好しばっか・・・」

もう反論する気すら起きない。
せめてもの反抗としてもう聞きたくないと、ベッドに潜りこみ相手を拒否した。
子供地味だ行為だと分かってはいるが、セナの言葉は耳に痛い。これ以上踏み込んで欲しくなかった。

「セナ、何してんだ?行くよ。」

そこへ、先に部屋を出ていたナディアが再び顔を出す。特に居座る気もなかったらしく、セナはナディアの呼びかけにすぐ対応し踵を返した。

「・・・ねぇ。」

部屋を出ていこうとするセナに、今度はジルが声を掛け呼び止める。
布団から少し顔を覗かせた。

(君はどうやって抜け出したの?)

受け継がれたお伽噺の範囲ではあるが、セナの境遇は知っている。引き返せない場所までいたという彼は、どのようにして本来の居場所に戻ったのか。

「いや、やっぱりいい・・・」

苦しみから抜け出す答えがそこにある気が来た。しかし聞く勇気が持てず、その問いは音を持たず飲み込まれる。

ジルは再び顔を隠す。
その姿を一瞥し、セナは部屋から出ていった。

827ユニ:2018/04/17(火) 00:48:59
【ポセイドン邸】

「ありがとうございます!」

俺に任せろ、との頼もしいアブセルの言葉にユニが安堵の表情を浮かべたのもつかの間、続く彼の言葉にすぐにその表情を困惑の色に染める。

「どこに・・・ですか?」

女の子の居場所・・・正直なところ、正確な場所は特定出来ていない。

「えっと・・・ユニにもよく分からないんです。ただ、何となく此処とは少し違う空間なような・・・」

とても曖昧な答え。しかし、ユニにはそれが精一杯だった。

「ふぇえ、アブセルさん。どうしましょう・・・」

828アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 06:53:08
【ポセイドン邸】

大して期待していた訳でもなかったが、およそ予想通りの返答にアブセルは軽く肩を竦める。

「…ま、そんなことじゃないかとは思ってたけどよ」

ユニもアブセル同様、詰めが甘いのだ。

とはいえ早々に出鼻を挫かれたことに違いはなく、どうしたものかと考える。
ユニが当てにならないのなら、あとはジルに直接聞くしかないが…。

「あの人が素直に話してくれるかどうか…」

想像しただけで骨の折れそうな難事業に、知らず吐息を溢すアブセル。と、そこへ…、

「呼ばれて飛び出てごきげんよう〜。悩み多き青少年の味方、ラディックです☆
お困りの貴方に朗報を持ってきましたよぉ」

「うおっ……え、誰…?」

今まで数々の修羅場を体験してきたこともあって、滅多なことでは驚かない自信のあったアブセルも、派手な煙の演出と共に、忽然と目の前に降って沸いた男の出現には流石に肝を潰した。
しかしラディックはそんな相手の困惑も余所に、にまりと笑うやアブセルに顔を近づけ…、

「ノワール姫の僕の一人…ルド坊っちゃんの一の家臣、ですよぉ」

道化風のフェイスペイントに、変人染みた口調と振る舞い。男の言葉に刺激され、アブセルの頭は無意識に過去の記憶を掘り起こす。

「あぁ…、確かノワールの故郷にいた…」

「思い出していただき光栄ですぅ。
ところでこちらにルド坊っちゃんがお邪魔していると聞いたんですけどぉ〜」

「ルド坊っちゃん…?
ちっこいガキならオッサンと一緒に出てったけど…」

「あちゃぁ〜、入れ違いでしたかぁ〜」

ラディックの主らしき少年はジュノスと共に、ノワールの求めるものを探しに何処かに出掛けていってしまった。
それを聞いたラディックは額に手を当てて天を仰ぎ、ややオーバー気味なリアクションを取る。
が、彼の本来の目的はそれとは別にあるのか、直ぐに「まぁ、それはそれで置いときまして〜」と二本の指で作ったVサインを、アブセルの鼻先にずいっと突きつけ…、

「二週間です〜」

「は?」

「あと二週間で世界は滅亡します〜」


――――…

829アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 07:00:12

その後ラディックの希望で、リト達や、ナディアやセナ、リマといったお馴染みのメンバーが集められ話が為された。
初めは何が「朗報をお持ちしました」だ。…と思ったアブセルも、ラディックの言を一通り聞いた後では、なるほど、そう言うことかと納得できる部分もあった訳で…、

「…つまり、その龍穴遺跡…?っつーのが、全部起動すると、黄昏の塔ってのが地上に張り出してきて、更にその上空に黄龍の居城が出現する、と…」

「はい〜」

「んで、その黄龍の側に、ジル……さんの妹もいると」

「はい〜」

…確かに、ジルの妹の行方は判明した。したのだが…。

「いやいやいや、あんたの話し聞く限りじゃ、それもうアウトじゃん。黄龍っつー奴が出張ってきた時点で、もう世界滅亡一歩手前なんだろ?」

ラディックの話が真実なら、全ての龍穴遺跡が起動してしまうと、封印されている闇が解放されて世界の全てが闇に閉ざされてしまうらしい。
それなら遺跡の起動阻止に向かう方が、よほど優先すべき事柄なのでは、とアブセルは言う。
しかし、それに対するラディックの応えは…、

「今から遺跡の方に向かっても恐らく間に合わないかと〜。全くの無駄足になる位なら、貴方がたにはその間、修行なり戦いの準備なりをして貰っていた方が時間の有効活用になるだろう。…とジーナさんは仰っていましたけどぉ」

「…遺跡が起動するのは確定事項なのか?」

今度の問いには、ラディックは、う〜ん、と顎に指を宛てて思案する。

「遺跡の起動を阻止する為に頑張ってらっしゃる方々もいますけどぉ…、少ぉ〜し厳しいとは思いますぅ〜。
まぁそれに、ジーナさんは常に最悪のことを考えて行動する方ですので〜」

だからこそジーナは、遺跡が起動し塔が出現した後のことを考えて、黄龍との戦いに望むべく万全の準備をしろとリト達に先んじて警告するようラディックに命じたのだ。

「それに私も貴方がたを、黄龍の居城に連れていくように言われてはいますが、現段階では無理です〜。
いくら空間跳躍といえど、次元の狭間に介在している、プラス堅固な結界が張り巡らせてある場所へは流石に行けませんので〜」

詰まるところ、黄龍の目論見を阻止するのも、ジルの妹を助けに向かうのも、黄龍の居城がこの世界に出現、干渉する段階まで来ないと文字通り手も足も出せない、ということらしい。

何と言うか…、当初の、ジルの妹を助け出すという問題から、とんだ所にまで話が拡大してしまったものだ。
アブセルの低スペックの脳みそでは、もう許容オーバー寸前である。
…リトなんかは割りと訳知り顔でいるが。

830アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 07:02:03


「…と、まぁここまで長ぁいことお話しましたが、別にこれは強制でも何でもありませんので〜。
貴方がたが世界の崩壊を止める鍵を握っているのは確かですが、ドロップアウトしたい方がいらっしゃれば自己判断でどうぞー、ともジーナさんは仰っていましたぁ。
この先はいつ命を落としてもおかしくはありませんし、過酷な決断を迫られることもあるやもしれません〜。
愛する者と共に世界が滅ぶのを見届ける、と言うのも一つの選択だと思います〜」

他人事のような態度と、のほほんとした口調のせいで、いまいち切迫感が沸かないが、かなりシビアな選択を迫られていることは確かなようだ。
更にラディックは言葉を継ぐ。

「運命を受け入れるのも、最後まで抗うのも、貴方がたの自由です〜。"その時"が来ればまた来ますので、よくよく考えて決断してくださいねぇ」

そしてそう言い残すと、彼は来たときと同じく、忽然とその場から消え失せる。

…世界滅亡まで推定二週間。かくして彼らの下した決断とは…。

831ヤツキ ◆ruQu1a.CGo:2018/05/07(月) 20:06:28
>>778の訂正項です。

「久し振りだが、思い出話に花を咲かせる暇は無いらしい。」

既にヤツキの身体は膝下が光となって消え、肩先や末端部分も粒子となりつつあった。
言葉通り、時間はない。

「聞いていただろうが、俺は役目を全うした。」

100年前は敵対した者達が、今はこうやって同じ地を、仲間として踏み締めている。
時を越え、世代を越えた力と想いがあれば。

ーー必ずや、上手くいく。

「世界の免疫力とも言える闇が集まり、溢れるこの闇の巣と黄昏の塔。
闇を管理し、使役していたステラが逝くとならば、誰かがその任を継がなければならない。

今はまだ抑え込まれているが、ステラと言う制御系を失えば、この無尽蔵の闇は世界を食い尽くすだろう。
だが、適性を持った誰かが、闇を使役し、この塔諸共地中深くに沈めてしまえば……一時的にだが闇は活動を停止する筈だ。
強度と高さは問題無い、沈み込めば地殻を超えて核へ届く。」


ーーセナよ、今こそその力を発揮する時だ。

「幸い、今この場に闇の素養を持つ者は数多く居るようだ。
話し合って、決めるといい。

……素養が無い俺は剣を振るうしか出来なかった。」

闇の素養を持つ者、闇の王子であるセナとリト。
それに仕えてきたアブセル。

吸血鬼であるノワールと、異界の闇を宿していたメイヤ。
人柱になれ、と言うしか無いのは辛いが、今はそうするしかないのだ。

「そろそろ、時間か。」

視界に映る面々を見、ヤツキは静かに目を閉じた。
そして、抱き抱えるステラと共に、その身体は光に包まれる。

その様は淡雪が夜空へ舞い散り、月明かりに融けるようだった。

ーーイスラ、悪いが先にいく。
ーーお前と共に戦えて……良かった。

832シデン:2018/05/11(金) 07:02:26
【虚空城】

恐らく今のイオリが持ち得るであろう、最大最速の刃が抜き放たれる。
鳳凰の"平等"によって、己の能力値をイオリと同等のものへ変じられている今のシデンでは、それに対抗し得る術もなければ時間もない。
反応は出来ても、身体がついていかないのだ。

「―――ッ」

それでも潔く負けを認めるなど以ての外、最後まで精一杯の抵抗の姿勢を見せるところは、流石と言うべきか、恐るべき執念と言うべきか。

だが不十分な重心と体勢、構えるどころか、ただ単に相手の斬撃の軌道上に滑り込ませただけの剣で受け止めるには、その一撃はあまりにも重い。

刹那、室内に快音が響く。

一瞬の停滞もなく、シデンの握る剣が激突する鋼の威力に負けて砕かれる。
もはや、神刀の剣撃を邪魔するものは何もない。

赤熱し、途上の大気すら斬り殺す刃が走り抜け、シデンの胴体を一太刀の元に引き裂いた。

――――…


バルクウェイの街は、不安と困惑の声に満ちていた。

月も星の輝きも存在しない、暗澹とした闇に染まる漆黒の空。いつまで経っても朝は訪れず、昏昏と夜の深みを刻み続ける街。
もはや日常風景の一部となっている鳥の囀ずりも耳にできず、それどころか虫や獣の姿さえ見つけることが出来ない。

…まるで嵐の前の静けさのようであった。
不可解な状況に、住民達は肌でその異常性を感じ取る。

ある者は戸口を締め切って、家屋の中で息を潜め。
ある者は何が起こっているのかを空挺師団の団員に問い質そうとする。

ピリピリとした緊張感を帯びた不穏な空気が、街を…、いや、世界全体を支配していた。

833シデン:2018/05/11(金) 07:04:01

それもこれも、惑星を包み込むようにして形成される外郭によって、世界が閉じられようとしているのが原因であった。
もっとも、その事実を知っているのは、都市の中でも極小数の者に限られていたが。


…知らずに済むのなら、それもまた良いのかもしれない。

間もなく世界が終るなどという、受け入れがたい運命を突き付けられて、平常心でいられる人はきっといないだろうから。

少なくとも、この異変も一時的なのものだと、直ぐにいつもの日常が戻ってくると、先の展望を期待している間は、人々が妙な気を起こすこともない。
事実、大規模なパニックや暴動が起こったという報告はまだされていなかった。

だがそれも、危うい均衡の上に成り立っている仮初めの平穏に過ぎないことに違いはない。
何が引き金となって、その均衡を破ることになるかは誰にも分からないのだ。


「ママ…、何だか怖いよ…」

街の中心部。
いつもは溢れかえるほどの賑わいを見せる街の往来も、今は目で数えられるばかりしかいない。
その中に混じって、隣にいる母親の服の裾を握りしめ、不安げに訴える少女がいる。
それに対し困惑する母親は何も言えない。だが安心させるように怯える我が子の頭に優しく手をおいた。

その時であった。

「見ろ!」

同じく街路に佇んでいた男が何かに気づき、叫び声を上げる。
そこにいた決して多くはない数の人々の足が止まり、一斉に彼が指差す先、上空へと視線が向かう。

「空が…!」

そこには、暗い影を落としていた空が、血が広がっていくかのように赤黒く染まる光景があった。
同時に、未完成の外郭の隙間から僅かながらに差し込まれていた外界からの光も、まるで月が欠け落ちていくかのようにゆっくりと、だが確実に、人々の頭上からその姿を消していった。

834シデン:2018/05/11(金) 07:09:53
【虚空城】

重々しい鐘の音が鳴り響いていた。
それは虚空城に付設する鐘楼、そこに吊るされた巨大な鐘から発せられている。

一つ、二つ、音を重ねるごとに、世界は闇の中へ沈んでいく――。

その鐘楼の下。
城の最上階、外に張り出されたテラスに何者かが佇んでいるのが見える。

白い肌に、丸く大きな紅玉の瞳。少女というよりは、童女といった方が相応しいような年齢の娘。
鐘の音をバックに、美しい金髪を風にたなびかせる彼女の名は、メルフィ。吸血鬼の姫…ノワールの実の娘だ。

メルフィはテラスの縁に立って、長い睫毛に縁取られた瞳で眼前の闇をじっと見つめている。
ふいに口から白い吐息が溢れ、その唇が言葉を紡ぐ。

「…――闇の中に響く時の声に、貴方は絶望を聞いた。
燃え盛る炎へと進み行く人々に、貴方は咎人の葬列をみた」

それは酷く空虚な声だった。
もともと感情表現の豊かな子ではなかったが、普段の彼女を鑑みても、それは異常なほどに無機的なものであった。

「穢れは瞬く間に世界を食らい尽くし、黒き災いの鉄槌は彼らの頭を悉く打ち砕くだろう」

無表情。無感情。
その虚ろな瞳の奥に存在している意思は、恐らく彼女のものではない。

「されど、恐れることはない。主は貴方と共にある。
されど、嘆くことはない。貴方は主と共にある」

まるで何者かに操られている人形のように、メルフィはただただ祝辞とも呪詩ともいえない言葉を綴る。

「眠れ、安らかに。全ての魂は星へと還る」

それを最後に、空気が軋むような悲鳴を上げた。
少女の顔を薄く浮かび出していた光が、徐々に消えてなくなっていく。

"蝕"

遥か昔、神界と人界を、そして多くの神々と人間を屠ったあの時と同じ現象が幾千年と時を重ねた今、再び起こる。

空は血を塗ったように赤黒く染まり、黒い雨が地表に降りしきる。

世界は今、闇に閉じられた。
もはや一片の光も地上には届かない。

――――――…

835シデン:2018/05/11(金) 07:19:39

重厚な鐘の音は、その部屋にも届いていた。

胴を斬り落とされ、上半身と下半身、それぞれ別の方向を向いて倒れるシデンの痩身が部屋の中央に転がっている。

その切断面から夥しい量の血を噴出し。
整えられた黒の頭髪も、上等なスーツも見る影もないほどに穢して。

血河の中に沈み、凄惨たる骸を晒すシデン。
ふとその耳に届く筈のない幼子の声が降りる。

――ピクリと、彼の指が動いた。


『……漸くか……』


直後、どこからか発せられた述懐と共に、凄まじい量の闇が溢れ出す。
息苦しいほどの圧迫間を伴って、もはや暴力的な勢いで室内を駆け巡るそれの発信源は、他でもない、床に倒れ伏せるシデンからのもので――。

…否、そうではなかった。
シデンではない。

そこにいたのは、巨大な獣だ。


『……この時を、ずっと待っていた……』

闇を纏い、底冷えするような声で、深淵から覗き込む二つの赤い瞳。

瞬間、巨大な質量がイオリを凪ぎ払い…、その勢いのまま振りきられたそれが壁面を容赦なく粉砕する。

『ゴミが』

そう吐き捨てたのは、馬と竜を掛け合わせたかのような、幻想的な姿をした獣だった。
鋼色のたてがみに、艶やかな毛皮に包まれた漆黒の体躯。
その堂々たる立ち姿を惜し気もなく披露する黒麒麟は、冷々とした瞳でイオリが飛ばされた先…崩れ落ちた瓦礫の山を睥睨する。

…正直、イオリがここまでやるとは思っていなかった。
少々驚かされたことは事実だが…、

『所詮は他のゴミ共(人間)より少しばかり優れていただけのこと。
愚物の価値に何ら変わりはない』

836シデン:2018/05/11(金) 07:22:11

今となっては窮屈な部屋を、麒麟は背中の両翼を広げて天井ごと周りの壁を破壊する。
降り注ぐ瓦礫をものともせず外に出るや、しなやかな首をめぐらせて辺りに目を向けた。

…外郭は完成。
中央棟の最上階には、闇の管理者とも並ぶ因子の持ち主であるメルフィの姿が。
階下では城の節々で闘いが繰り広げられているのか、噴煙が上がっているのが見てとれる。

麒麟は一度瞑目すると、顔を上げ、再び城の最上階に視線を戻す。
その目には、そこにいるであろう黄龍の姿を思い浮かべているようであり…、

『我が主…、ようやく嘗ての姿を取り戻しました。
これで貴方様の本懐に添うべく、十全に力を振るえそうです』

そう感慨深そうに呟いて、麒麟がその大きな身体を身震いさせれば、抜け落ちた羽根の一枚一枚が魔物と変じ、夥しい数のそれが塔を伝って下界へ殺到する。

それは過去、最大の災厄。
山野という山野を焼き払い、大海という大海を穢し、世界を蹂躙し尽くした破壊の権化。

全ての龍穴遺跡が機動し、塔を支配していたスピカが潰えたことで、最後の闇の封印が解かれ、麒麟と謂われる霊獣もまたその真の力を解放するにいたる。

地上では黒き雨によって濡れて変質した大地より魔物が沸き上がり、上空からは塔を伝って麒麟の分身でもある精鋭が下界へ押し寄せる。

惑星を取り巻くように巡り、人々に恩恵を与えていたレイラインのエネルギーもその全てが陰のもの…、つまり闇の性質に変わる。

それによって生じる世界の法則に乱れ。

風は死に、大地は濃密な瘴気に満ち溢れ。
世界は生気を根こそぎ失ってしまったかのような、闇に沈む。

同時に、闇の力を持つ者にとっては、己の力が最も高まる時であり、
しかし闇と相反する聖の力を持つ者にとっては、一番力の弱まる時…。



世界はうち震える。終わり、再び生まれ変わることを歓喜するように。
鳴り響く祝福の鐘の音が、世界の終焉を言祝いでいた――。

837イオリ ◆ruQu1a.CGo:2018/05/14(月) 17:43:16
【虚空城】
 
神と人、文字にすればたったの一文字の違いだが、その違いは天と地以上。
いくら着飾った所でその魂は神へ至る事は無い。
文字通り、痛い程わかっていた。
瓦礫を押しのけ、イオリは満身創痍の姿を現す。
 
全壊と言っても過言では無い程に破壊されたフロア。
満ち溢れる闇は常人なら息を吸う前に即死するであろう濃度で、イオリは咳き込むと同時に血塊を吐き捨てた。
 
「くそったれが……やってくれるじゃねェか……」
 
朱に染まる口元を拭い、見上げる先。
漆黒の闇に染め上げられた神獣の姿にイオリは毒を吐く。
鍛え、磨き上げられた技術と最上級品の武装を持ってしても、倒せたのは“人”の域を出ないシデンただ一人。
眼前の巨大な獣はまさしく“神”であり、今のイオリに神獣を討ち取る程の力は無かった。
 
先の一撃で蒼炎の火炎鳥を宿す妖刀は折れ、魔鎧もその機能の大半を失ってしまっている。
四霊の一角、鳳凰の違いも“今は”もう無い。
万事休す、人の身のままでは勝てないだろう。
それ以前に、神と戦う土俵にすら上がれないのだ。

そう、“人の身”のままでは。
魔装の残骸を剥ぎ取り、血に濡れたシャツを脱ぎ捨てる。
満身創痍を現す傷だらけの半裸を晒し、イオリは笑った。
信義を失わない限り滅される事のない神獣、黒麒麟。
 
麒麟とは鳳凰と同じく雌雄一対であるとも言われ、また、その身を染める色により強さも変わると言う。
黒端、闇に染まるその個体は取り分け強力だ。
身を震わせ、羽ばたき舞い落ちた羽は百鬼となって、闇に染まる地上に更なる悲叫を齎すだろう。

「よそ見してんじゃねーよ、デコメガネ。」

遥か空、虚空城の尖塔へ紅瞳を向ける黒麒麟へ、イオリは声を投げる。
浮かべた笑みが意味するのは、不屈の闘志。
惜しげもなく晒される、鍛え抜かれた身体に刻み込まれた呪印がその色を黒から赤へ、そして闇よりも深い漆黒へと変化し、輝き出した。

「まだ終わりじゃねーだろ、俺とお前の戦いは。
……知ってるか、シデンよ。」
 
闇色に輝く呪印は瞬く間にイオリの身体を包み込み、周囲の闇をも取り込んで爆発的に増加していく。
 
「限界ってのはな、超える為にあるんだ。」
 
新雷寺一族の最も深い闇、闇の子供達計画。
多くの被験者を犠牲に完成したその技術と計画の完成系、成功者はメイヤただ一人であった。
……今、この瞬間までは。
 
(遺伝子レベルで異界の悪神に適応させたなら、近い遺伝子情報を持つ者なら適応する可能性は高い。
血縁者、メイヤの父親であるなら特に期待は出来る……!!)
 
刻み込まれた呪印が示すのは、闇の悪神、チェルノボーグの封印式。
メイヤの内に封じ込められていたのはほんの一部であり、残りはイオリが回収していたのだ。
 
「穢れた翼でも、空は飛べる。」
 
闇を喰らい、闇に染まる。
爆発的に増幅する闇が鱗を、爪牙を。
大翼を、巨尾を形成していく。
鰐よりも凶悪な、凶暴ながらも猛々しく咆哮を上げるのは、天穿つ巨龍。
 
炎狗、氷狼、雷鴉。
その全てを超えし闇の悪神、封印を解かれイオリを媒体に顕現したのは、漆黒の天龍であった。
 
再度の咆哮が虚空城を揺らし、大翼が闇を打ち据える。
爪牙を煌めかせ、堅鱗をひしめき合わせ。
 
ーー心に翼を持つからこそ、飛ぶんだ。
神の高みまで昇ったからよ、今度こそ決着をつけようぜ!!ーー
 
天龍が、吼えた。

838リト他:2018/05/20(日) 23:17:54
【ポセイドン邸】

世界が終わりの時を迎えようとしている。

「......」

光を飲み込み赤く色付く空をセナは黙って見上げていた。
魔玉が闇に反応している。身体のそこから疼くような感覚。放たれた闇と一つにならんと欲しているような...

「...セィちゃん」

背後からか細い声が聞こえ、振り向くとリマが覚束無い足取りで外に出てくる所だった。足がもつれ倒れそうになった所をセナが支える。

「なんか、気持ち悪い...」

「闇が放たれた...瘴気にあてられたのだろう。」

リマのように純粋な聖の力を持つ者にとって、今は空気さえ毒ガスのようなものだろう。そしてこの濃度が濃くなれば、異能を持たぬ者が生き続けることは困難・・・

セナは自身が身につけていた腕飾りをリマの手に通す。

リマには闇に対する免疫がない。
一時凌ぎではあるが、闇の者が長い間身につけていたものを所持させることで擬似的な闇との接触をつくり症状を緩和させる他ない。

「ありがとう」

少し楽になった。リマはセナの腕の中で力なく笑い、続いて空へ視線を移す。

「あの時と同じ...」

いや、それ以上かもしれない。
リマは黒十字との決戦の日を思い出し、無意識にセナの服を掴む手に力が入る。
あの時も世界が滅亡仕掛けたのだ。平穏を取り戻したはずなのに、封印した闇は再び目覚めてしまった。

あの時はセナを失わずに済んだが、また同じ状況になれば今度こそ彼を失ってしまうのではないか、不安が募る。

ラディックから話を聞いた日、セナも、そしてリトさえも驚く様子を見せなかった。まるでこの時を知っていたかのように、加え、その脱却方法さえも知っているような顔。それを見てリマは胸騒ぎがした。最悪の事態が起こりそうで。

「セィちゃん、あのね...」

「セナ、だっけ?あんた、分かってないかもしれないから一応言っておくけど、」

リマが言いかけた時、後から別の声が割って入る。
アネスがどこか不機嫌そうな顔を浮かべながら二人のもとへ歩み寄る。その隣にはリトもいた。

「あんたに何かあったらリト達が存在し得ないこと、忘れちゃダメだからね」

アネスの不機嫌さはどうやらこの状況にあるようで。空を見上げ、苛立ったように眉を潜める。

「ほんと、世界の終焉って感じ?こんな環境に娘を放り込むとか、うちの父親どうかしてるんじゃないの?」

呟きながら大鎌を顕現させる。

「範囲は?」

「限界まで。」

「人使い荒い・・・」

隣のリトへ何やら意見を求めるも、その答えに更に気を悪くする。かと言って断る気もないようで、手にした大鎌をくるりと回し、柄の部分を力強く地面に打ち付けた。
途端、波動が地を伝い勢いよく広がっていった。

「ポセイドンの管轄域は守ってあげる。私の魔力が続く限りこれ以上魔物が増えることはないわ。」

「かなり広範囲だな。リミットは?」

「私が死なない限り問題ない。」

「ふーん、流石。」

「思ってもないくせに、生意気。」

まぁどうでもいいけど、とアネスは続け、

「出来なくはないけど、なるべく魔力は温存しておいた方が良いでしょ?私は戦力外に。まぁこの邸内を守るくらいはしてあげる。」

「そこは問題ない。・・・ノワール。」

リトの呼びかけにノワールがふわりと姿を現す。

「既におる魔物の討伐は引き受けた。所詮は闇より生まれし赤子のようなもの・・・小物を滅するなど造作もないわ。」

「油断はするなよ」

「指図は無用じゃ」

ノワールは小生意気に鼻を鳴らし姿を消す。目的地へ向かったようだ。

この状況に困惑せず的確に指示を下していくリト。その冷静さは見事だった。

839ナディア他:2018/05/20(日) 23:19:11

その様子を、窓の外から見つめるジル。

「流石だろ、うちの弟は。」

ジルのもとを訪れていたらしいナディアが隣で同じように外を見ながら笑う。

「・・・行くの?」

「まぁな。」

"その場所"へはあの変なピエロが案内してくれるらしい。
ジルはリトから目を逸らさずに、そう、とだけ言葉を紡いだ。

リトはこの事態を収束させる鍵を握っている。そして、その方法も知っているようだ。それは、あまりにも残酷な方法であるが。

「お姉さん、僕は世界を救うために犠牲になっていい命なんてないと思う。誰かの犠牲の上でしか成り立てない世界なら、いっそ無くなってしまえばいい。」

だから、止めて欲しい。あの子がその決断を下そうとした時は。

時折黄龍と意識が繋がることがある。これは彼が自分を模した姿をしていることにも関係しているのか、原因は分からないが、いつか自分の意識はなくなり黄龍に呑み込まれてしまうのではないかと恐怖があった。
しかし、そのおかげで知ることが出来たこともあった。

「あのユニって子。あの子さえ目覚めれば・・・」

「え、何?」

ジルの呟きはナディアには聞こえなかった。
聞き返すが、ジルは教える気はないらしい。

「君たちがこの世界に執着する意味は分からないけど、せいぜい頑張るといいよ。・・・死なない程度にね。」

840アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/25(金) 05:35:07
【ポセイドン邸】

当主の風格たり得る、堂々としたリトの勇姿を見ていたのはナディア達だけではなかった。

「…リトが格好よすぎて死ねる…。抱いて!いや、抱かせて!」

敬服と変態的な眼差しでリトを見守るアブセル。
不意にその頭に拳骨が落ちる。
…ベルッチオだ。

殴られた頭を抑えながら不満の音を上げるアブセルを無視し、ベルッチオはリトの傍らに歩み寄る。
そして、

「こちらは私共にお任せを。いかな悪鬼共が襲って来ようと、奥様やヨノお嬢様には指一本触れさせません。
坊っちゃんは何らご心配召されることなく、どうぞご自身のお役目にご専念くださいませ。
…貴方様の、皆様のご帰還を心よりお待ちしております」

主への恭順を示すが如く、恭しい仕草で頭を下げるポセイドン邸の老執事。
一方で、今度はラディックが打って変わって陽気な声を上げる。

「ではでは皆さん、此方に集まってくださ〜い。
そろそろ出発しますよ〜」

観光ガイドよろしく、手を上げて面々に呼び掛ける彼は、ふと何かを思い出したのか手を打ち合わせる。
ぽんっと、どこか気の抜ける音が場に上がった。

「そうそう。実はもう既にあちら側に乗り込んでいる方々がいるみたいで…、もしかしたら貴方達のお知り合いかもしれませんねぇ?」

自分達以外にも協力できる相手がいると報せることで、リト達の戦意向上を狙っているのだろうが…、それにしても白々しい。

いつものにやけ面で集った面々の顔を順に見回すラディックは、それについては深く言及することなく「では行きます〜」と出発の旨を告げて技を発動させた。


―――…

空白は一瞬。突然の浮遊感に見舞われた直後、先程まで見ていた光景が切り取られ、別の光景とさし変わる。

慣れない空間跳躍に思わずその場でたたらを踏むアブセルを含めた一行が飛ばされた先は、空中に浮かぶ虚空城をのぞけば、今この世界において間違いなく一番の高みに存在する場所だ。
視界一面に広がる赤黒い空。若干の息苦しさとそれなりの広さを有する塔の頂きには、先程ラディックが言った通り先客ともいうべき数人の者達の佇む姿があった。


「待ってくれ!それではあの時と…、セナの時と一緒じゃないか…!
それを俺達で決めると言うのはあまりにも…っ」

深刻な面持ちで声を上げているのはイスラだ。
しかし、切羽詰まったその声を聞き受ける相手の姿はもう既にそこにはなく、そしてイスラの方も、彼との別れを惜しむだけの余裕はないようであった。

今の時代から遡って百年も前。イスラ達は世界を闇の脅威から救う為、セナを魔玉の代わりにした。
それは決して望むべくして取った選択ではなかったが、今の状況はあの時と一緒だ。

闇諸とも塔を地中深くに沈める役割を負うということは、闇を封じる楔代わりになるということ。
そしてそれは死ぬことも許されず、牢獄のような場所に永遠に囚われ続けることと同義ではないのか。

「そんなこと…、出来る訳がない。他にも何か方法がある筈だ」

誰が犠牲になることもない別の対処方法が。

だがその思考は突如響いたけたたましい獣声によって遮られる。
何事かと仰ぎ見れば、夥しい数の魔物が上空から降ってくるのが見えた。

即座にイスラとサンディが動く。協同で展開させた多数の炎の槍を魔物に向けて飛ばすが…

「…!これは……」

「嘘っ、なんで…!?」

炎槍は魔物に届く前に、その火力を急速に萎め途中で掻き消えてしまった。

どうやら闇が世界に及ぼす影響は、聖の本性を持つ四神の力を弱体化させるまでに至っているようだ。

841シデン:2018/05/31(木) 05:43:56
【虚空城】

響き渡る咆哮を正面から浴びて、麒麟はもたげていた首を下ろした。

『…大人しく死んでいれば良いものを』

二つの紅い瞳が映すのは、天翔る巨大な天龍だ。

大気を震撼させる咆哮は、それ自体が重みを持っているかの如く圧迫感を伴い、硬質な鱗に覆われた漆黒の体躯は全身に鎧を纏っているに等しい。
獲物の命を毟り取ることのみに特化した爪牙も、広げられた大翼も、見る者を圧倒させて余りある存在感を放っている。

禍々しくも神々しい威光を放つそれを。
その変貌を遂げた巨龍の姿を眺め、麒麟は僅かに目を細めた。

『しかし、醜い…』

驚くでもなく、ただただ、その顔には不快感だけが刻まれている。

『人の欲には底がないと言うが…、俺は貴様ほど強欲で身の程を弁えぬ人間は見たことがない』

鼻を鳴らし、瓦礫の山を踏み締め、麒麟は相対する天龍を鋭い視線で睨み付ける。

『偽り、騙し、死者を蘇らせ、神を手にかけるだけでは飽きたらず、厚かましくもその神列に名を連ねようとは…、思い上がりも甚だしい』

神をも恐れぬ所業とはまさにこのこと。

素性を偽って黄龍の懐に潜り込み、まやかしの忠誠を誓うそれは、他者を嘲笑い、主の尊厳を踏みにじる信義に悖る行為だ。
愛する女を蘇らせたその手で、神であるワヅキの命を奪った蛮行は、天の原理にツバを吐く忌むべき冒涜だ。
あろうことか自ら人の身を捨て、神の領域に到達せんと求める精神は、傲慢で利己的な、シデンが最も嫌悪する人間の浅ましい本性だ。

誰よりも長く近く天意に侍り、忠を尽くしてきた彼だからこそ、イオリの冒した不徳の全てが我慢ならない。

『その汚穢にまみれた手で次は何をする。
黄龍様を殺め、世界を我が物にでもする気か』

ふいに麒麟は己の両翼を大きく広げた。

その翼にある発電器官が脈打ち。瞬間、白光が迸り、指向性を持ったそれが恐るべき速度で射出される。
中れば人の身など一瞬で蒸発させてしまうであろう白い光が、周りの闇を塗り潰しながら途切れることなく天龍に襲いかかった。

842リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/04(月) 23:40:02
【黄昏の塔】

「助けなきゃ・・・!」

ラディックの言う先客とは、確かに見知った顔だった。
しかし今は再会を喜んでいる場合ではない。
襲い来る魔物に放った技が無効化されたのを見るや、リマはすかさず助太刀しようと前へ出る。
しかし駆け出そうとしたリマの腕をすかさずセナが掴みそれを阻むと、彼女を胸に抱きながら自由のきく手を翳す。
途端、その手から放たれた闇がけたたましい音を立てながら渦となり、今まさにイスラ達に襲いかからんとした魔物達、及び周辺のそれらを一気に呑み込み爆ぜた。

その威力たるや。

「やば・・・」

ナディアは思わず声を漏らす。
正直なところ、セナと出会ってから今までどこかぼんやりとした彼の姿しか見ていなかった為完全にナメていた。忘れかけていたが、彼はかの時代の闇の王子なのだ。

「・・・って、こんなんしてる場合じゃねぇや!」

呆気にとられたがすぐに我に返り、ナディアは慌ててイスラ達のもとへ。

「おーい!サンディ!大丈夫か!?」

843メイヤ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/11(月) 20:15:20
【黄昏の塔】
 
 炎を掻き消す闇と赤黒い空。
過去と現在、二人の天照大神が放った炎は萎む様に消えたと言う事は、恐らくポセイドンの力も……いや、聖なる属性、陰陽で言えば陽に属する者はその力を殆ど発揮出来ない状態なのだろう。
 
 (確かに、俺の白焔も出せないな……)
 
 対して、陰に属する闇の力は120パーセント以上増幅されているのがわかる。
 鳳の力により焼失した筈の異界の闇が、セナが巻き起こした闇渦に反応して蠢いたのだ。
完全とは言わすとも、ほぼ焼失した筈の闇が励起し、今この瞬間も増殖している事から、上記の事が考えられる。
 
 「セナ…さんだったか?今の一撃で魔物は一掃出来たけど、長くは保たない。
 第二波、第三波と来たらどうしようもなさそうだ。」
 
 魔物を一掃したセナの力に胸の内がざわめき、蠕動するがソレを無視してメイヤは続ける。
 
 「先々代……先の剣士の言葉通り、誰かがこの塔を沈めないとならないし、迷う時間もない。」
 
 吸血姫のノワールと二人の闇の王子。
素質はあれど開花に至らないアブセルと、闇の残滓がこびり付いた器の自分。
 
 メイヤは闇の素養を保つ者を指差し、その名前を呼ぶ。
そして最後に、自身の胸元を左手の親指で指した。
 
 「……だから、俺が行く。
 月は過去からの脱却、未来への好転を示すとも聞いた。
 この塔では一族の者が2人死んだ、いや、3人か。
墓標にするには丁度良い。」
 
 アグルに敗れたユーリと、メイヤ自身が破ったクウラ。
先々代であるヤツキの死地も、ここと言って間違いではないだろう。
 
 「吸血鬼の姫も、闇の王子もここで死んでいい存在じゃあない。
 
 逆に言えば元より俺は存在しなかった筈の人間だし、三回程死んでるから四度目があってもおかしくはないだろう?」
 
 取捨選択と消去法、主観ではあるが問題はないだろう。
 メイヤは頂上に立つ面々を見渡し、言い切った。
 
 「異界の闇を宿していた器であるこの身体は、魔玉に近い性質を持っている。
 他に適任者は居ても、覚悟は出来てないだろう?
 
 だから、皆は先に行け。」

844リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/12(火) 00:07:33
【黄昏の塔】

「駄目・・・」

今一番効率的で効果のある方法はまさに"それ"なのだろう。
しかしそんなメイヤの提案に皆が考える間も与えず、リマの異を唱える声が入る。

「簡単に言わないで。誰も死んで良いわけない。」

言いながら、リマはセナの腕をきゅっと掴み、セナが「その役」をかって出ぬよう無意識に予防線を張る。本当は彼女も得策が何かは分かっているのだ。かと言って認めるわけにはいかない。その方法を認めてしまえばセナも候補の一人となり、メイヤに対し「セナでなくて良かった」などと薄汚い思いを抱いてしまいそうで。そんな卑怯な考えなど持ちたくない。

「キリがなくてもその都度対応して行けば・・・。最終的に元凶を叩けば、必然的にこの闇の暴走も止めることが出来ませんか?」

845サンディ:2018/06/15(金) 04:08:17
【黄昏の塔】

「う、うん…。あたしは大丈夫だけど…」

気遣って駆け寄って来てくれたナディアに力なく応じて、サンディは真紅の瞳をさ迷わす。
その心細そうな視線はメイヤの上でピタリと止まり、そして…、

「どぉでしょうかぁ?
私はあまりオススメしませんけどぉ〜」

リマの提示した代案に、意外な人物からの異論が入る。
横から口を挟んだのはラディックだ。

「元凶を叩くと言いますが、誰がそれをするのですかぁ?現状、四神の皆さんは戦力外と言っていい状態ですよねぇ?
それ以外の残った方々で応戦するには、この先あまりにも負担が大きい…と言うか正直な話、無謀過ぎますよぉ」

小首を傾げ、彼は平常通りのおっとりとした口調でとうとうと言葉を続ける。

「一人の犠牲で四人の戦力が戻ってくるのなら、当然勝算の高い方を取るのが合理的です〜。
それに地上では闇の瘴気と魔物の来襲で、今まさに多くの方々の命が危機に瀕しているのですよぉ。
全人類の命と天秤にかけても、たった一名というのは安い代償ではないでしょうかぁ?」

今こうして話している間にも、そしてその話し合いに時間をかければかけるほど、地上にいる多くの人間の命が失われているのだと、ラディックは言外に語っている。

ポセイドン邸のように、戦える人員が残っている場合はまだ良い。だがその他の地が、それと同じとは決して言い切れないのだ。

ラディックのもっともな発言は、一同を押し黙らせるには十分過ぎるものだった。

誰しもが言葉を詰まらせ、場が沈鬱な静寂に沈む中。ふいにサンディが静かな声音で口を開く。

「……メイヤは、本当にそれで良いの…?」

小さく、どこか弱々しい。
その問いは他でもないメイヤ自身に向けられていて…、

「あの時…、メイヤは明日が欲しいって言ってたよね…?
あたしと、もう一度街を歩きたいって、だからそんな明日の為に戦うんだって…」

俯き、前髪の影に隠れた顔はよく表情が読み取れない。
だが彼女は、何らかの感情を必死に抑え込むように強く拳を握りしめていた。

「あたし、言ったでしょ…?
自分を大切にしてって。人の為に、世界の為に簡単に命を投げ出そうとしないでって。
そう…約束してくれたんじゃなかったの…?」

小さく掠れ、次第に涙声に震える声。
堪えきれず、瞳から溢れた熱いものがサンディの頰を伝った。

「…それが、メイヤの出した答え?」

846アブセル:2018/06/15(金) 04:11:07

「リト、馬鹿なこと考えるなよ」

その様子を眺めながら、アブセルは呟くような声で隣にいるリトに先んじて釘を刺した。

何やかんやと言いつつも、リトがお人好しであるのをアブセルは知っている。
目の前に泣いている者や悲しんでいる者がいれば、うんざりしながらも、いつも最後には手を差し出してしまう。
慰める言葉を持たぬかわりに、彼はいつだって自らの行動で誰かを救ってきた。

…呆れるほど不器用だと思う。不器用で、それと同じくらい優しい。
だから今回も、自分を犠牲にして場が丸く収まるのなら、リトはそれをしてしまい兼ねない。
だからこその予防策だ。

リトやセナが名乗り出るなら、まずその前は自分の番なのだと。

「俺らみてーなのの代わりは沢山いても、お前の代わりはいないんだから」

リトもセナも、この先きっと必要な存在となる。

ましてセナにいたっては、この時代の人間ですらないのだ。もし彼を闇の暴走を抑える贄に選んでしまえば、その子孫であるナディアやリトもどうなってしまうか分からない。
最悪、歴史が変わってしまう可能性だってある。

だから、彼らをここで失う訳にはいかない。

847イオリ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/18(月) 00:45:07
【虚空城】
 
 漆黒の闇に染まる二頭の巨獣。
二つの巨影の容姿は意外にも似通っており、互いの両翼が同時に羽ばたいた。
 黒麒麟が放つのは、迸る白光の波濤。
止むことなく放たれ続けるその白き光は恐るべき威力を秘めており、文字通り光の速さで天龍へと迫っていく。
 対する天龍は再度の咆哮を上げる。
咆哮は闇色の波動となって白光と衝突し、互いにその威力を相殺して消滅。

 「俺はただ、壊すだけだ」
 
 その声は、最大出力を示す極太の光条と共に。
波動で波濤を相殺した後に放つは漆黒の光条。
黒麒麟の放つ光とは違い、天龍が放つソレは明確な指向性を持って迸り、黒麒麟へと迫っていくも……その頭部の真横を通り過ぎていく。
 
 「血塗れの手で掴んだ所で、滑り落ちていくだけだった
 時空をねじ曲げてまで嫁を蘇えらせたのも、全ては今この時の、これからの、そして全て壊し尽くす為だ!」
 
 黒麒麟の真横を通り過ぎた漆黒の光条、その向かう先は虚空城の最上部。
世に溢れ出んとする闇を操る吸血鬼の姫、そのモノが立つ尖塔のテラスへ光条が迫り、着弾。
 一拍の間を置いて尖塔は大爆発を起こし、瓦礫と破片が衝撃波と共に周囲に降り注いだ。
 
 その様子を横目にしながら、天龍はその長く巨大な身体をうねらせ、再び羽ばたく。
 両翼に孕む雷光が、頭部から伸びる二本の捻れ曲がった尖角からは業炎が、そして氷槍となった背毛を揺らし、天龍は黒麒麟へと突進していった。

848メイヤ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/20(水) 00:47:17
【黄昏の塔】
 
 セナを庇う様に声を投げるリマと、同じくリトを制止するアブセル。
その様子を見、メイヤの決意は更に固まった。
 ラデイックの言葉通り、選ぶべきは最も勝算が高い方法なのだ。
寧ろ他の選択肢があるのだろうか、在るならば乗り換えたいが、そう上手く行く物事でもない。
 
 「犠牲になっていい人間など居ない、確かにそうだ。
 だけど俺は人間と呼ぶには怪しい存在だよ、自分で言うと悲しくなるけれど」
 
 隣に立つサンディの悲痛な声。
俯く彼女の表情は見えずとも、どんな顔をしているかは簡単に想像出来る。
だからこそ、メイヤは続けた。
 
 「俺は明日が欲しい、だからこそ戦うんだ。
 死にに行く訳じゃあない、明日を得る為に戦いに行くんだ」
 
 前髪の隙間から見える、伏せられた瞳と流れる涙。
メイヤは神刀を床に突き刺し、彼女を抱き締める。
 
 「大丈夫、勝算はある。
 無駄死にするつもりもない、信じてくれ」
 
 そして、彼女だけに聞こえる様に小さく小さく、耳打ちをした。
 
 「サンディ、俺は君の事が好きだ。
 だから、絶対に会いに行く。
 だから……先に行って欲しい」
 
 正直狡いだろうと自分でも思う、だが、この言葉だけは伝えなければならない。
頭一つ背が低い彼女を、一度強く抱き締め、メイヤはサンディから離れる。
 
 遠くに響く轟音、そう遠くない距離に見える虚空城に一筋の黒光が走る。

 「さぁ、皆早く行くんだ。
 塔から城へは外殻を伝って地続きだ、急げ!!」
 
 時間は無い。
ゆっくりだが確実に、闇は濃くなっている。
 一度は失った筈の闇の力。
神刀を手に、メイヤはその姿を闇に染まる巨狗へと変えた。
 
 続く咆哮は別れの言葉か、仲間達への号令か。
物言わぬ黒狗は一度だけ、ゆっくりと目を伏せた。
 
 仲間達の姿を忘れぬ様に、その瞳に焼き付ける様に。

849リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/24(日) 08:07:30
【黄昏の塔】

「リマ・・・」

リマの訴えはあえなくラディックに否定されてしまった。
それでも、とさらに畳み掛けようとした彼女に、セナが声を掛けた。
その声音にリマは息を呑む。
同じだったのだ。幼い頃、我儘を言って駄々をこねて、セナを困らせた時。彼がそれでもリマに言い聞かせる為、泣きじゃくる自分に掛けていた声と。

「駄目!駄目だからね!!」

リマはセナが言わんとしていることを察し、縋るように訴えかける。

「折角戻ってきてくれたのに!もうリマを一人にしないって約束してくれたでしょ!」

駄目だ、今言うべきことじゃないのに我慢出来なかった。リマは自責の念とセナを失いかねない恐怖に堪らなくなり、嗚咽をもらしその場に崩れる。

こんなにも脆い少女が何故四神の責務を負わねばならぬのか、セナは時々分からなくなる。死闘を乗り越え少しは強くなったかと思ったが、根本的には変わらないのだ。いっそ再会などしなければ、彼女は独り立ち出来たのだろうか。

ただでさえ聖の力を持つ者に取って害ある環境で無駄な体力を消耗させたくないのに、セナはリマを慰める言葉が思いつかなかった。彼女の希望を叶えるという言葉だけは言うべきではないのだ。

そこへ、時同じくしてアブセルより制止の言葉を受けていたリトがリマのもとへ歩み寄る。アブセルの言葉に対する返事はないままに。
セナですら差し出すことのなかった手を差し伸べ、リマを支え立たせてやる。

「大丈夫、あんたからこの人(セナ)を取り上げるつもりはないから。」

この時代でセナを失う事は自分たちの存続に関わってしまう。自分はどうでもいいが、姉たちは護りたい。

セナを護ろうとするリマの一方で、これまた大切な人を失いたくないと涙を流す少女が一人。とても残酷な状況だと思う。
少女の傍らに立つ姉と目が合った。何故だか睨まれる。恐らくはアブセルと同じことを言いたいのだろう。誰かが犠牲にならなければ成り立たない状況だと、皆分かっている筈なのに。

リトはふとアブセルへ目を向けた。この世の終わりのような顔をして・・・おそらく自分の言葉を無視して、リトが自ら犠牲になると言い出すと思っているのだろう。
場が丸く収まるのなら自分がやればいいといつも思ってきた。でも、自分の無事を願う者達もいるのだと、今では分かる。

リトはルイの言葉を思い出していた。「鍵を握る者の存在があるが、今はパズルのようにピースが散らかった状態である。ピースがこのまま揃うことのない時、自らを棄てる覚悟を持て」と。だが、「今は"その時"でない」ことも分かっていた。

「俺はまだ死ねない。けど、最後は・・・」

決断せねばならない時が来る。きっと・・・

850サンディ:2018/06/25(月) 03:21:37
【黄昏の塔】

何となく、こうなる気はしていたのだ。
ただの口約束なんかで彼を繋ぎとめて置くことなど出来ない、ということも。

だから、覚悟はしてた。…してたつもりだ。

「………分かった…、信じる」

メイヤに抱かれ、サンディはその腕の中で静かに目を閉じた。

仕方なく贄になるのだと言ったなら、彼女はメイヤを止めていただろう。
だがこれは彼が自ら決断し、己の欲する運命を掴み取る為に選んだ選択だ。
その意志を挫く権利はサンディにはない。

でも…、一つだけ言わせて欲しい。
サンディは顔を上げ、メイヤを見据える。
依然、瞳は濡れたままだが、その声には先ほどまでにはみられなかった力強い響きがあった。

「ただ待っているつもりはないよ。この戦いが終わったら直ぐにメイヤを迎えに行くから」

今の戦いに決着がつきさえすれば、メイヤを塔に縛り付ける理由も消滅し、何か彼を解放する方法も見つかるかもしれない。
…いや、見つからなくても必ず見つけ出してみせる。

「だから、あたしが迎えに行くまで死なないでね。約束破ったら今度こそぶん殴ってやるから!」

サンディはメイヤから離れると、軽く敬礼してみせる。
健闘を祈る、とわざと明るく言って、涙に濡れた顔に下手くそな笑顔を浮かべる。

前に自分の中で密かに誓ったことが二つある。
一つ目は、もう二度と弱音は吐かないこと。
二つ目は、好きな人の前で格好悪い姿は見せない、ということ。

それを最後にサンディは踵を返し、メイヤに背を向けた。
乱暴に涙を拭い、前を見る。

意外にも覚悟を決めた当人達以外の方が、困惑の色が強いようだった。
その胸に占める想いは各々違うのだろうが、どう声をかけるべきか迷っている面々に「大丈夫だよ」と微笑って声をかける。

何が、とは言わない。

自分達のエゴで仲間を見殺しにしたとは思わないで欲しい。
サンディは諦めて彼を送り出したのではないし、メイヤだって自己犠牲の精神で残った訳ではないのだろうから。

彼は此処にいるメンバーに希望を託したのだ。
だから自分達がやるべきことは、それに応えること。
各々の護るべきものの為に、戦うこと。

「行こう!」

自らを奮い立たせるように言って、彼女は階段の如く遥か上へ続く外郭に足を踏み出す。
後ろは振り返らない。
黒狗の咆哮がその背を押すように響いた。

851ナディア ◆wxoyo3TVQU:2018/07/01(日) 02:00:08
【黄昏の塔】

「誰も犠牲にしない」なんて綺麗事だ。
多くの犠牲より一人の犠牲、ごもっとも。不本意ではあるが今自分たちの行動はすべて世界の存続に関わってくる。ここで立ち止まっているわけには行かない。

けれど、

「残酷だな・・・」

ナディアは呟く。
犠牲にならざるを得ない者は限られていて、その誰もを失いたくないと嘆く者がいる。

牽制の意味をリトを睨めつけるも、彼はその視線を逸らす。こちらの意見など聞くつもりは無いようで、何か考えている様子だった。

ナディアは続いて彼の傍らにいる少女・・・ユニへと目を向けた。
大きな瞳が不安そうに動き、遠慮がちながらも確りとリトの衣服を掴んで離れようとしない。

(あの子・・・)

ユニはどう見ても戦力外。当然リトは置いていこうとしたが、それを無理矢理連れてきた。
ジルがユニについて何か仄めかしていたから。彼女がこの件に関係していることは間違いない。それが解決の鍵になるかもしれないと希望を込めて。

「絶対迎えに行こう」

この場はメイヤが引き受けることとなった。
ナディアは先を行くサンディの背を励ますように叩く。

優先すべきは世界の存続、自分も決断する時が来る。
聖の力が弱まっている今、リトの存在を無視することは出来ない。
状況を把握した上で嫌だ、駄目だと意地を張るのは子供の駄々に等しい。
闇の能力者の質としてリトが最後の砦となるのは明白。

ユニの謎が解けぬ限り、リトを手放す覚悟を決めねば。

もう、時間はないのだから。

852レオール ◆ruQu1a.CGo:2018/07/01(日) 07:25:47
【バルクウェイ】
 
一筋の光明さえ差さない、閉ざされた世界。
永遠に続く闇夜の始まり、終焉の幕は下りたままだろう。
元が着くとは言え、バルクウェイは世界政府のお膝元。
世界有数の大都市は生活水準も高く、それを成す程にも都市機能は高い。
 
外殻の完成により世界が闇に閉ざされたと言えども、街の灯りは消える事は無かった。
しかしそれも、永遠に続く事は叶わないだろう。
電力供給に必要な燃料、資源はいずれ底を着く。
日照りを失い、動植物もそう遠くない内にその姿を消し、飢えと渇きの日々と共に世界は終わりを迎えるのだ。
 
「緩やかに滅びを迎える、そう言う訳にもいかないものだな
元より、ソレを受け入れるつもりは更々ないが!」
 
天地の狭間、バルクウェイ上空に浮遊する飛行艇の甲板でレオールは苦い声を出した。
周囲には同じ様に空挺師団の船が舞い、幾千もの魔影と戦いを繰り広げている。 
外殻完成から程なくして降り始めた雨は次第にその勢いを増し、雲無き嵐となって荒れ狂っていた。
風雨と共に魔物の大群を迎撃する空挺師団員の表情は硬いが、悲壮ではない。

地上、街の守護はバッハとビリーの二人の幹部に任せ、レオールは側近のマルトと共に最前線にて指揮を執っていた。
轟雷神と嵐神の魂を持つ二人は今の空挺師団における最大戦力である。
その完成された強さは四神にも勝るだろう。
剣風と共に雷光が、双刃が竜巻を巻き起こす。
文字通り豪雨の様に降り注ぐ魔物の群れを薙払う二人を中心に、師団員達も奮戦していた。

「一匹たりとも地上へ下ろすな!!」

レオールの号令と共に戦士達が剣を掲げ、剣閃が煌めく。
増え続ける魔影を斬り捨てる刃は不屈の光を宿していた。
勿論、号令を飛ばすレオールもまた、剣を振るい続けている。
一閃、二閃、三閃。

剣戟と共に放たれる雷光が、数百の魔物を打ち据え、滅していく。
その背から伸びる雷翼は羽ばたくと同時に轟雷が闇夜を切り裂いた。
無明の闇夜に瞬く雷光は、希望の光か。
雷光を纏い、文字通り光の矢となってレオールは空を駆けた。

その背中を一瞥し、マルトもまた、双刃を握り締める。
派手さはないが堅実な戦いを得意とする彼は、地味と言われながらもその実力はレオールに次ぐ程。
嵐を巻き起こし魔影を一掃したと思えば、真空の刃で取りこぼしを確実に撃ち落としていく。

853 ◆ruQu1a.CGo:2018/07/01(日) 07:26:47
暗天に走る雷光に目を細め、バッハは
その手に握るメイスを振り下ろした。
手に伝わる衝撃と共に魔物の頭部が粉砕され、内容物が飛び散った。
その様子に僅かながらの嫌悪感を現すも、魔物の死骸に目を向ける。

「一段落だな。
第三波以降は殆ど降りてきちゃいない……と言うか降りてこれてない。」
 
しかし、背後から掛けられる声、声の主へバッハは視線を移した。
視線の先、カウボーイハットを被った痩身の男……自身と同じ師団幹部のビリーの言葉に返事を投げる。
 
「あの雷光を見ればわかりますよ、師団長と副団長が揃うあの場を抜けれる者はそうそう居ません。
それこそ、大国の軍勢か黄龍の守護者でなければ。」
 
“個”として最高峰の強さを持つ二人に打ち勝てる者はそうは居ない。
恵まれた異能を存分に振るえる程の技量、それは正に鍛練の賜物だ。

「でもよう、ハナから団長らが乗り込んだら良かったんじゃないのか?
ヴィカルトが裏切ったと言え、数が揃わない四神の連中よりか実力は段違いだと思うんだが。」
 
魔物の死骸に吸いきった煙草を投げ捨て、ビリーが問うた。
ヴィカルトと言う師団の片翼を失ったとは言え、師団の総戦力は小国家程はあるだろう。

「完成されていると言う事は、裏を返せば“それ以上先は望めない”と言う事。
四神の子らはまだまだ成長し、進化する。」
 
確かにレオールは強い。
側近のマルトも総合力で見れば四神に勝るだろう。
しかし、完成された二人に伸びしろはもう無いのだ。

「可能性に掛ける、いや、信じると団長は言っていました。
四神を超え、四霊を超える四聖に成りうる可能性を信じるとね。」
 
アグル達を黄昏の塔へ送り出した後、祈る様に呟いたレオールの言葉をバッハは思い出す。
未来への道を切り開くのは大人の役目だが、未来をつかむのは子供達、若者達なのだ。

「さぁ、休憩が済んだのなら前線に補給部隊を飛ばしましょうか。
戦力の割り振りは七対三ですが、空へと七割を持っていくと言う事はそれ程までの激戦地であると言う事。
補給部隊隊長、任せましたよ。」

再び煙草を吹かすビリーへバッハは声を掛け、自身もまた歩き出す。
戦いはまだ、始まったばかりなのだ。

854??? ◆ruQu1a.CGo:2018/07/05(木) 09:48:53
【黄昏の塔】
 
 「全く、君はこんな所で終わっていい人間ではない事を意識して欲しいですね」
 
 揺れ動く塔の高層階、倒れ長身の青年へ、ぼやく様な呆れる様な、しかし心配している声色で声が掛けられる。
声の主は真白の長外套を羽織り、頭からフードを被っていた。
 
 俯き気味で話すその表情は、梟の面によって見えない。
その声はやや高く、恐らく男性であろうか。
 
 しかし、この場にそれを判別する者は誰一人居なかった。
 
 「君の戦いは終わったとしても、君の役目はまだ終わって居ません。
 まだ暫く、付き合ってもらいますよ」
 
 梟面の人物は、意識の無いアグルへ話し掛け続ける。
返事は無くとも、聴いては居なくとも、ソレは止まらない。
 
 自身より頭一つは背が高いアグルを背負い、梟面の人物がゆっくりと歩き出した。
遠くに聞こえる遠吠えに、梟面が揺れる。
 
 まるで屋敷内にある様な大きな階段を登る途中で、大きな黒犬とすれ違った。
両者は僅かな間、ほんの数秒だが互いに見つめ合い、頷く。
 そこに言葉はなくとも、意思の疎通は可能であった。
 
 「君は、いや君も己の役割を、役目を全うするのですね……」
 
 闇へ消える黒犬へと言葉を投げ、梟面の人物は黄昏の党の最上部、頂上へと歩み出た。
赤黒い空はその濃さを更に増し、グロテスクだ。
 
 「塔が示すのは崩壊、災害、悲劇、悲惨、惨事、惨劇、凄惨、戦意喪失……
 そして、逆さの月が示すのは
失敗にならない過ち、過去からの脱却、未来への希望。」
 
 赤黒い空から視線を遠くに見える虚空の城へ移し、梟面の人物は風を纏った。
 
 「さぁ、行きましょうか。
 遅れた分を取り戻しにね。」
 
 そして、ゆっくりと沈み始めた黄昏の塔を後に、飛んだ。


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