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フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜

503散った花、実る果実50:2004/05/13(木) 23:27
「本国は久しぶりだろう、イザーク。家族に顔を見せて、安心させてやるといい」
「は!ありがとうございます。・・・・・早く座れよ!」
クルーゼ隊長への誇らしげな応対とは対象的に、私に侮蔑するような視線と言葉をなげかけるイザーク。
私は彼のことが怖かった。彼のナチュラルへの蔑視は終始変わらぬものとしてそこにあるように思えたから。
ザフトのナチュラルに対する反感を、彼は代表しているように思えたのだ。
「ふんっ」
怯えた様子でクルーゼ隊長の横に座った私をみて、彼は軽蔑するように息を吐いた。
ここにはもう、リアはいない・・・・・・敵意に囲まれたこの状態でどうやってすごしていけばいいのだろう。
宇宙には・・・・これから戻る、この広い宇宙(そら)には、何が待っているのだろう。
「怖がることはない、私のそばにいれば安全だよ。私がちゃんと君を守る。だから安心したまえ、フレイ」
その声に、パパの優しい声が重なった。
「大丈夫だよ、フレイ」
パパ・・・・・
いつでも私を守ってくれていたパパ。
この人に従っていれば、本当に大丈夫かもしれない・・・・・
パパの声で、パパの言葉で私を包んでくれる人。
目をつぶればほら、パパの香り・・・・パパの声しか聞こえない・・・・・
パパといれば、大丈夫。昔からそうだったじゃない・・・・・
民間機とは違い、ひどく揺れる機体に恐れをなして目をつぶってしがみついている私の腕を、彼の手が優しく押さえた。

504散った花、実る果実/作者:2004/05/13(木) 23:48
とりあえずミリアリア・リスティアとはここでお別れ。
フレイ様にミリィを思い出させるために引っ張り出してきた彼女ですが、彼女自身は思ったより生き生きと動いてくれました。
ミリィとの関連性はあまり使えませんでしたけどね・・・ちょっと反省。

>>過去の傷
逆上フレイ様、実は結構好きだったりします。
ちょっとすっきり・・・・なーんて。

>>流離う
うーん、だんだん情報が拡散してきましたね・・・
あの状態のあの面子に納得させなきゃならないなんて、キースさんも可哀想に・・・・

>>赤毛の虜囚
そうだったのですね。すいません、最初、メルデル、ジェシカ、ミーシャ?と、ちょっと迷ってしまいました。
にしても、ヴィア格好いいですね!メルデルが惚れるのもわかります。
しかし、親しい友人の旦那さんを好きになってしまうというのは・・・そしてこの後は・・・って事を考えると中々つらいですね・・・・

>>キラ♀フレイ♂
なんとなくフレイ様動じはしないかなー、とは思ってたのですが、予想より状態やばめな感じがします。
しかし、アスランvsフレイ様って・・・・・アスラン勝ち目ないような・・・・・
予告素直に笑いました。

>>SEED if
ここは辛いところなんですよね・・・・
フレイ一人称、情報量が少ないのが大変なんですよね。私も苦労しました。

505散った花、実る果実/作者:2004/05/14(金) 01:31
>>明日と終わりの間に
面白かったです!パロディもお上手ですね。
きっとアスランはカガリの料理をこれからも食べつづけていくことでしょう。
そしてキラも赤いカレーを食べてくれる・・・・・かな?

506私の想いが名無しを守るわ:2004/05/14(金) 03:31
>>過去の傷
フレイ様コワッ。<フレイ、機体を傷つけないで!>
<傷ついたのは私の心よ!>←間の抜けた会話ですが笑えました。
会話中心の展開は、イマイチキャラの心情が分らなくて、他の職人さん
みたいにキャラに自分の心情を語らせるとか、作者がキャラのとりまく状況を説明
するといった作業の比重を増やさないと、あるいは台詞が過激なもの多いだけに
色々誤解を招くかもしれませんね。とりわけ本編の過激なフレイ様の台詞を他キャラ
が言う場合特に、強く感じました。しかし、こればかりは職人さんのスタイルもある
でしょうし、えらそうに書きましたが私自身SSを書いたことないので、なんともいえ
ないところですが。読み手の側からの一意見として聞き流してください。
昨日は言い忘れましたが私も作品完結まで応援してます。

>> 散った花、実る果実
リア篇、面白かったです。個人的には交換留学で整形云々の話が面白かった
です。ザフトの4人組ではなく、平凡な感じのコーディの女の子との出会い
というのは良かったと思います。しかしこれから宇宙に上がるのかあ…
かなりブルー入りますね。

507ザフト・赤毛の虜囚 作者:2004/05/14(金) 07:48
SS調整遅れてますが、一区切りついた話もありますので、感想だけ上げさせてもらいます。

>>過去の傷
フリーダム対プロヴィデンス、キラは完全にフレイ様に陥落ですか。
アスランは、こちらはこちらで修羅場のようで……
今度は、エザリアさんが…… いや、TV本編も、そうだったかな?

>>散った花、実る果実
ついに 50話まで行きましたね。リアとフレイ様の語らい、互いにコーディネータとナチュラルの
意識の変化が見えて心が癒されました。こんな二人なら、もっと、身近な女の子らしい趣味の会話とかが
あっても良かったとさえ思います。
クルーゼには心を許しているフレイ様ですが、イザークとは、あまり絡んでいないようですね。
次の舞台は宇宙、プラント。どういう話が補完されるか楽しみです。

>>506
私のSSは一人称で心情語りがありますが、これはこれで状況説明が一面的になるので、
逆に会話を増やさないと話が進展しないです。少なくとも、私のスタイルはそうですね。
三人称で各キャラの心情を客観的に説明するのはいいんですが、作者の立場で説明しすぎる
小説スタイルは、個人的には、あまり歓迎しません。作者自身が読み手の感じ方を制限するみたいで。
まあ、うまく話が構成できなかった場合は、私もやってしまいますけど。

他キャラの台詞やシチュエーションの流用はSSの醍醐味で、書く方からすると知らずに
使っていることがあります。ですが、私、以前のスレで読み手としては拒否反応起こしたことが
ありました。あの時のことは反省してます。それで、流用は本当に難しいことだと実感しています。
やはり、書いた後、できるだけ時間を置いて、読み手の立場でチェックを入れることが必要なんでしょうね。

508過去の傷・140:2004/05/14(金) 11:54
私だって興味津々だった、アスランさんとミリアリアにあの夜、一体何があったのか・・・。
まずアスランさんの顔を伺った、いつも冷静そうに見えたアスランさんがオドオドとしているのが私には分かる。
ラクスというと落ち着いている、いつものラクス・・・私と同じくらいの年にしてはこの子いつも大人びて見える。
「とりあえずコ−ヒ−でもお飲みください」
そう言うと沸騰していたお湯をコ−ヒ−カップに注ぎアスランさんと自分の席に・・・そして私とキラにも注いでくれた。
「ありがたくいただきます」
ため息をついたラクスが席に座ると口を開いた。
「アスラン・・・ではお願いします」
「・・・・・・」
アスランが戸惑っているのに気づいたラクスは微笑んだ。
「アスラン・・・正直に全てをお話ください、私は怒ったりしません、ですから・・・クライン邸でも言ったことがありましたが、私達に隠し事は無しですわ」
きりっとした口調で言うラクス、やっぱりこの女は強いわ。
アスランさんがゆっくりと話しはじめた。
ラクスの顔が少しずつ引きつってきた、珍しいことよね、この子が。
「ラクス・・・落ち着いて」
私はラクスの肩に手をかけて優しく言った。
「は、はい・・・分かってます」
そして・・・全て・・・一部始終を全て話した。
「ほ、本当なのですか!?そ、その話は全て・・・」
「は・・・はい、申し訳ありませんでした!」
ラクスはもはや放心状態だ。
「そ、そんな・・・アスラン・・・貴方は浮気を・・・」
「も、申し訳ありません、私もどうかしてて・・・」
ラクスはほんとに信じられないという顔をしていた。
私だって信じられなかった、アスランさんがミリアリアと・・・。
「アスラン、君がミリィと・・・君がラクスさんを裏切るなんて・・・」
キラも戸惑う。

その頃プラントでは。
イザ−クさんに留守番を頼まれ残っていた私は・・・。
なんで?なんでイザ−クさんは私をここに置いてくれているのだろうか、怖そうな人だけどほんとは優しい人なのかもしれない。
そしてイザ−クさんの部屋を整理していた私はある写真に目が行く。
ディアッカにアスランさんにイザ−クさんに・・・ええと・・・名前が書いてるので読んでみるけど・・・ミゲルって人とニコルって人が一緒に写っている。
この人達皆仲間なのね・・・。
それから引き出しに手紙が置いてある、ええと・・・ラクス嬢への手紙?読んでみると・・・。

509私の想いが名無しを守るわ:2004/05/14(金) 13:52
>>過去の傷。
一人称の変化にとまどいます。
誰のモノローグか時々ついていけない自分は修行がたりないようですねw

510流離う翼たち・476:2004/05/15(土) 00:35
 キースはナタルが運んできた紅茶を一口啜りながら、内心ではどうしたものかと必死に悩んでいた。話すとは言ったものの、実は2人を満足させられるような答えなどキースには無かったのだ。かといって今更誤魔化しも効くとは思えない。何より既にこの状況が自分の退路を断っている。
何しろ自分の前には不機嫌さと困惑を同時に浮かべるカガリと、黙ってじっと自分を見続けているナタルがいるのだ。

「ああ、その、なんだ、怒らない?」

 表面冷静に、内心では混乱気味だったキースは、ポロリと不味い事を口走ってしまった。古今東西、こういう事を聞かれて怒らない奴はいないのだ。

「何だ、何か都合の悪い事でも隠してるのか!?」
「事と次第によりますね」

 いきり立って飛び掛ってきそうなカガリと、もうその辺のマフィアが逃げ出しそうな目で睨んでいるナタル。どっちかというとナタルの方が怖い。

「い、いや、そういう訳じゃなくて、多分期待には答えられないと言ってるんだ」
「どういう事だよ!?」
「つまりだな、俺はお前がどうやってアスハ家に渡ったのかは知らないんだよ。何しろヘリオポリス崩壊後にアークエンジェルでキラを見るまで、2人とも死んだと考えていたんだからな」

 キースの言い訳じみた答えにカガリは顔を赤くしたが、すぐにガクリと肩を落としてその場に崩れ落ちるように膝を付いてしまった。その表情は衝撃に打ちのめされているようにも見えるが、不安も見て取れる。
 キースはそんなカガリの姿に罪悪感さえ抱いてしまった。本当はこのまま墓場まで持って行く気だった事実であり、知らせれば平静ではいられない事くらいは想像が付いていたのだから。自分も真実を知った時には暫く塞ぎこんだのだ。
 だから、キースにはカガリにただ謝る事しか出来なかった。

「すまん、カガリ」
「・・・・・・なんで、あんたが謝るんだよ。別にあんたのせいじゃないだろ」

 カガリはキースに謝って欲しくなどは無かった。いや、同情などされたくないだけかもしれない。子供っぽい意地と言われるかもしれないが、これは子供だろうと大人だろうと変わらないだろう。
 そして、それが分かるだけにキースもそれ以上は何も言わず、ただ頷くだけでカガリに答えた。カガリも立ち上がり、自分の席に戻って紅茶を手に取り、音を立ててそれを飲み干してしまう。
 そしてそれをソーサーに戻したのを見計らって、キースは自分の知っている事を話し出した。

「・・・・・・カガリ、お前の過去の経緯だが、知っていそうな人間を俺は知っている」
「本当か!?」
「ああ、一人はお前の育ての親、ウズミ氏だ。そしてもう1人はカリダ・ヤマト。キラの育ての母親だ」
「お父様とキラの母さんか。でも、何でキラの母さんが知ってるんだ?」
「カリダ・ヤマトはキラの叔母、つまりお前達の母、ヴィアの妹だからだ。どういう経緯かは知らないが、カリダ・ヤマトがお前たちを何とか脱出させたんだろうな」

 キースも全てを知っているわけではない。全てを知っているであろう者達は多くがメンデル研究所と共に死んでいるし、僅かに断片を知る者たちは世界中に散ってしまっている。その知っている者がキースの育ての親やアズラエル、サザーランド、パトリック、ウズミ、マルキオたちであり、キースの知識は研究所での教育と育ての両親から聞かされた話でしかない。
 そして、彼らでさえメンデルの全てを知っている訳ではない。それぞれが断片を知っているだけで、実際にメンデルで何が行われていたのかは謎に包まれている。その中でカガリとキラのことを知るのは3人に限られてしまうのだ。そうでなければ2人どころかヤマト夫妻は生きてはいないだろう。特にキラはブルーコスモスの最優先抹殺対象だったのだから。

511流離う翼たち・作者:2004/05/15(土) 01:04
忙しい間に随分進んでいる。頑張らねば
ちなみにキースは今回で引き出しの中身を大体出してしまいました。

>> ザフト・赤毛の虜囚
メルデルさんも大変ですねえ。ヴィアさんとの出会いはまるで熱血青春物ですな
しかし、兄貴もこれから大変でしょうなあ

>> 過去の傷
ラクスとフレイ様も大変そうだけど、キラとアスランも大変そう。男は自由を求める生き物です!
ミリィはちゃんとディアッカの所に行けるんですかね。なんか迷子になりそうな気が

>> 『明日』と『終わり』の間
ダイビングメッセージって、発見されたらカガリは逮捕w?
帰ってきたキラの運命や如何に

>> キラ(♀)×フレイ(♂)
アークエンジェル隊強い。でもカガリ、なんだか道無き道を突っ切ってゴールに行っちゃった様な
でも、この2人とアスラン、出会ったら常識人なアスランはついていけない気がw

512過去の傷・141:2004/05/15(土) 10:10
その昼。
プラントの歌姫、ラクス・クラインが低気圧を頭の上に漂わせながら、通路を歩いていた。足取りは荒く、目つきもあまりよろしくない。
明らかに「私は今、とても機嫌が悪いです」といった様子だ、こんな彼女は見たことがない、いつもプラントでは笑顔を絶やさず誰にも微笑んでいた彼女が・・・。
アスラン・ザラはその後ろを、こそこそと歩いていた。
ラクスはアスランの方を見ようともしない、アスランは仕方なくついていった。
誰もいなくなったところでアスランは思いきって声をかけた。
「あ、あのーラクス」
「・・・・・・」
返事はない。
「ラクス・・・その・・・」
歩みがぴたりと止まった、ぐるんとこちらを向く。
「なんでしょうか?」
恐ろしげな視線と共に彼女は返事をした、それも敬語だはあるが明らかに冷たい言い方で怒った口調だ。
「その・・・なにかあったのですか・・・?」
「・・・・・・」
「い、いえその、ずっと口を聞いていただけませんし、話かけようとして無視されますし、そのわりには私を刺すように睨みますし、なにか嫌なことでもあったのかなと・・・思いまして」
アスランはつっかえながら話した、対するラクスは冷たく冷え切った口調で。
「・・・・・・ご自分の胸に手を当てて考えてみたらいかがですか・・・?」
アスランは言う通りにした。
「あの・・・覚えがないんですが・・・」
「覚えがないとはなにごとですか!!!」
突然ラクスに大声を出されアスランは仰天した。
「先程のことです!私の部屋!アスランはあのときなんとおっしゃったかお分かりですか!?貴方は婚約者がいながらミリアリアさんと・・・」
「で、ですからあれはですね・・・」
「よくもぬけぬけと・・・この浮気者!!!」

その頃フレイとキラは。
「なんだかいまごろ修羅場になってるんじゃないかな・・・」
「そうね・・・」
そい言いながら歩いていた二人は腕を組んだサイとジュリに会う。
「サイ・・・」
フレイが寂しそうに呟いた。

513私の想いが名無しを守るわ:2004/05/15(土) 23:54
>>過去の傷
色々粘着レスしてすみませんでした。つい上の議論が色々
考えさせられる内容だったので、自分も意見を書いてみた
のですが、どうも他人様の尻馬に乗って追い討ちかけてしまっ
た気がします。また何か書くかもしれませんが、批判なり意見を
書くにしてももそっと気をつけたいと思います。
>>ザフト・赤毛の虜囚
色々教えていただきありがとうございました。どうも会話中心の
SSは音声や画像の無いTVや映画の脚本をそのまま見せられている
ような気分がして、文字媒体のメリットを全然生かしていないよう
に思っておりました。これではキャラの心情が伝わらんなどと思い、
先日書いて見たのですが、ご意見を読んでみると、どうも、そう
単純な話ではないようで、いろいろ学ぶこと多かったです。あと
他キャラ台詞流用の件はちょっと読み手オンリーの側からでは分
らない心理で面白かったです。

全ての職人の皆様、これからも投下期待しております。

514私の想いが名無しを守るわ:2004/05/18(火) 22:51
職人の皆様、避難所で問題が起きていますが気にしないでSS続けて結構です、応援する人達だっているんですから。

515私の想いが名無しを守るわ:2004/05/19(水) 07:22
問題自体は避難所で起きたのではなくここが発火点だと思います。

ですので概要をご存じない職人さんたちも、今後のために一応目を通してみてください。
作品発表をされていらっしゃる方々なら、読後の感想(辛口のものもありますが)
知っておかれるほうが良いかと思います。
もちろん、今のところは何か方針が決定しているわけではありません。
とりあえず何も無かった事では議論した意味が無いと思います。
批判だとの声もありますが、あくまで議論だと私は思います。

516私の想いが名無しを守るわ:2004/05/19(水) 08:39
過去の傷の作者様と他の作者様、もし議論や批判のせいで投下が進んでないなら、すいません、住人の一人として謝ります。

517私の想いが名無しを守るわ:2004/05/19(水) 09:45
投下する、しないは厳しいようだがもう本人の裁量だろうね。
とりあえずはこっちに持ってくるのをやめようって事で
あちらに移動したんだからこの話はあちらで。

518注意書き:2004/05/20(木) 00:46
他のキャラへの配慮を忘れずにお願いします。キャラへイト・他キャラへの配慮が足りない、と思われるSSはこちらではなく個人サイトでどうぞ。SS職人さん、投下をどうぞ再開してください。

519キラ(♀)×フレイ(♂)・44−1:2004/05/20(木) 02:47
「カガリが行方不明!?」
「らしいぜ。俺も最後のディンをあいつが撃墜した所までは確認したんだが、
あの後、何があったのやら…」
モラシム隊長からの熱烈なラブコール(無理心中宣言)を跳ね除けて、命辛々AA
に帰還したキラは、パイロットルームへ着替えに行く途中で合流したフラガから、
二号機がロストしたという情報を聞かされ息を呑んだ。
「それと、これはまだ未確認情報なんだが…」
そこでフラガは言い難そうに口篭もる。カガリ失踪事件にはさらなるオマケがついていた。
「フ…フレイが、カガリと一緒に!?ど…どうして!?」
「俺にもさっぱり判らねえよ。マードック軍曹が、フレイが二号機に乗り込んだのを
目撃したらしいんだけど、どうすりゃ、そういう事態になるのやら見当もつかねえよ。
まあ、ガセネタの可能性…というか、こんな支離滅裂な話しは多分デマだと思うけどな」
キラだけでなく、フラガも困惑している。正規軍人である彼には、シスコン的な動機から、
非戦闘員のクルーを拉致したカガリの思惑など永遠に解けない謎だろう。
カガリにフレイという、彼女の両翼を担う男性を立て続けに失ったキラは唖然とする。
しばらく茫然自失状態だったキラだったが、意を決したように頷くと、突然駆け出した。
「おっ…おい、キラ!?」
「私、確認してくる」
キラは着替えを後回しにして、フレイの不在を確かめるつもりみたいだ。
フラガも、事の仔細が気になったので、キラの後を追うことにした。


「おい、何の騒ぎだ?」
前方の居住区域に人だかりの山を発見したフラガは不審そうな表情を啓かす。
良く見ると、フレイの部屋の前で、SF映画に出てきそうな白い防護服を着たクルーが、
シュー、シューと派手な音を立てながら、消毒液を撒布している。
「何でも、ここら付近一帯で毒物が検出されて、今、衛生兵が掃除している所みたいです。
少し前に異臭が発生して、調べてみたら、どうやらフレイの部屋が震源地みたいで…」
野次馬の一人として見物に来ていたカズイが、フラガ達に気付いて簡単に状況を説明した。
「はぁっ!?一体、何がどうなっているんだよ!?」
フレイがカガリと一緒に行方不明になったと思ったら、そのフレイの部屋から毒物が
発生したという。せっかく、無傷に近い状態で敵を撃破したというのに、次から次へと、
彼の常識からは想定不可能なトラブルが続出し、フラガの頭はパニックになりそうだ。

「けど、これでフレイが本当にカガリと一緒に消えたのは確かみたいだな」
事態の真相究明にはしばらく時間がかかりそうだが、未確認情報の一つは確定したらしい。
ふと、不安そうに俯いているキラの様子に気付いたフラガは、軽く彼女の肩を叩いた。
「心配すんな、キラ。カガリもフレイもそう簡単にくたばるような柔な玉じゃないだろ?
超過勤務手当てはつかないだろうけど、一緒に探しにいくか?」
「は…はい!」
フラガの暖かさに絆されたキラは、太陽のように表情を輝かせて大声で返事をする。
普段はおちゃらけているが、彼は緊急時には極めて頼りになる兄貴分だった。

「フレイが行方不明か…」
ミリアリアと一緒に野次馬の中に紛れ込んでいたトールはボソッと呟いた。
ほんの一瞬だが、「あいつを、このままMIA扱いして先に進めないだろうか」
などという考えが頭を掠めてしまい、その発想の卑しさに軽く自己嫌悪する。
ふと、隣にいるミリアリアと目が合った。トールの視線に気付いたミリィは何故か
後ろめたそうに顔を背ける。トールは多分、彼女が自分と似たような邪な考えを
巡らせて、同じように良心を咎めさせているんだろうなと思った。

520キラ(♀)×フレイ(♂)・44−2:2004/05/20(木) 02:47
「まさか、こんな所でザフトと遭遇するとはな…」
フレイと一緒に匍匐前進の姿勢で、崖下に仰向け状態で安置されているザフトのMS
を発見したカガリは瞳に好戦的な色を浮かべる。ザフトの輸送機との予期せぬ邂逅で
無人島に不時着した二人は、無線が一切通じないのを確認すると、島内探索へと出掛け、
そこで運よくザフト側よりも早く敵(エネミー)の存在を把握した。
MSの胸元のコックピット部分が開く。すると中から赤いパイロットスーツを着込んだ
男性のパイロットが出現した。
「あれは、イージス。とすると、今のがアスラン君か?」
赤服のザフト兵(アスラン)に対して強い敵意を発散するカガリとは逆に、彼を見つめる
フレイの視線には、新しい玩具を見つけた幼児のような無邪気な好奇心に溢れている。
フレイが騒ぎ一つ起こさず、カガリに拉致されるに任せて素直に同行したのは、
何となく面白そうなイベントに遭遇しそうな予感がしていたからだ。どうやら危険覚悟で、
わざわざカガリ君についてきた甲斐があったみたいだ。フレイは密かにほそく笑む。

「おい、やるぞ。フレイ」
カガリはフレイの心中の思惑を無視すると、ガサゴソと懐の脇のリュックを漁って、
中から取り出した拳銃をフレイの掌に差し出した。
「やるって、何をだい?」
「決まってるだろ、アイツをやっつけるんだよ。あの敵兵を殺すか拿捕するかして、
ザフトに奪われたMSを再び奪い返せれば、大手柄だろ?」
カガリは何を今更当たり前の事を…と言いたげな表情で逆に問い返してきた。
狭い無人島内で、敵同士で仲良くするのも叶わない以上は、まあ妥当な判断ではある。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。君は僕に何を期待しているんだい?」
有り難くもド素人のフレイを戦力の頭数に加えた上で、アタックを仕掛けようとする
カガリの暴挙に、フレイは待ったを掛ける。彼は至近距離から四発ぶっ放しても、
一発当てられるかどうかという腕前なのだ。ましてや、あのザフト兵が本当にアスラン君
だとしたら、彼がサドニス島で手玉に取った間抜けなコーディの兵士とは訳が違うだろう。
二対一(フレイは戦力とは換算できないので、実質一対一だが)でも到底勝ち目はない。

それでも、あの時のように、敵の不意をつければ、話しは別か…。
フレイは、自分には役に立たないであろう拳銃をカガリに返すと、小声で囁いた。
「良く聞けよ、カガリ君。僕が今から囮になって、彼の注意を惹きつけるから、
その隙に、君は彼の後方に回りこんで、後ろから敵を撃つんだ。いいね?」
「お…お前、何、勝手な事を言って……」
「それじゃ、任せたよ」
「お…おい!?」
フレイはカガリの抗議を無視すると、派手に土煙を上げながら、崖下へ滑り降りていった。


「何だ?」
コックピットのハッチを閉めようとしていたアスランの眼前で、地球軍の軍服を着た
少年が、崖の上から滑り落ちてきた。彼は崖下まで辿り着くと、軽く両腕を挙げたまま、
堂々とこちらに向かって歩いてくる。
「動くな!それ以上近づくと撃つぞ!」
あまりに無防備な敵兵の大胆さに幾分戸惑いながらも、アスランはMSから飛び降りると、
ホルスターから銃を取り出して、解剖学的な正確さで、銃口をフレイの心臓に定めた。
その威嚇命令に従い、フレイはその場に足を止めたが、臆した様子は見られない。
「君がアスラン君かい?」
ピクリとアスランの眉が動く。己の姓名をピタリと言い当てた初対面の敵兵の存在に、
アスランの瞳に強い警戒心が浮かんだ。
「何者だ、お前は?」
「キラが君を敵に回してでも守ろうとしていたお友達の一人かな?」
フレイは薄い笑いを浮かべて、口元を皮肉に歪めながら、自身の正体を明かした。

521キラ(♀)×フレイ(♂)・44−3:2004/05/20(木) 02:48
「な…何?」
キラの名前を聞いたアスランの心に動揺が走る。しばらくの間、迂闊にもアスランの
意識は目の前にいるキラの知人を名乗る男(フレイ)一人に集中された。

「動くな!銃を捨てろ!」
フレイが生命賭けで作った隙を逃さずに、崖を大きく迂回して、アスラン達の後方に
回り込んだカガリは、数メートルの至近距離から銃を突きつけた。予期せぬ事態の連続に、
一瞬、呆然としたアスランだが、直ぐに意識を回復すると、冷静に状況判断に努める。
どうやら、自分は地球軍兵士の連携プレイに見事に嵌められたらしい。背中にヒシヒシと
突き刺さってくる殺気は確かな敵兵の存在を感じさせる。いくらアスランが銃の名手でも、
流石にこの状態だと、振り返るよりも早く、敵の弾丸が彼の背中を貫くだろう。
「もう一度だけ言う。その姿勢のまま銃をこちらに向かって放り投げろ!でないと撃つ!」
カガリが威嚇するかのように撃鉄を鳴らす。敵を可能な限り生かしたまま捕虜にしようと
するカガリの人道的な処置(騎士道精神)に、フレイは内心で舌打ちした。
何をやっている!?警告なんかしている暇があったら、何故さっさと撃たない!?
フレイはコーディネイターを嫌っていたが、その能力を過小評価してはいなかった。

アスランは最後通告に従い、カガリに背を向けたまま、銃をカガリの目の前に放り捨てた。
カガリの意識が、一瞬、銃に集中した刹那を見逃さずに、アスランは行動を開始する。
電光石火。アスランはまるでワープしたかのようにフレイの後方に一瞬で回り込むと、
後ろから彼を羽交い絞めにしながら、フレイの頚動脈に軍用ナイフを押し当てた。
「形勢逆転だな。仲間の命が惜しければ、お前の方こそ銃を捨てるんだな」
フレイの悪い予感は物の見事に的中した。オセロの白黒セルのように優劣は引っ繰り返り、
彼はアスランを守る為の盾にされてしまった。アスランは鋼のような強力(ごうりき)で、
フレイの身体を押さえつけて、フレイを金縛りにする。どうやら、MS戦ならともかく、
生身の白兵戦では、アスラン君の戦闘能力はキラをはるかに凌駕するらしい。

フレイを人質に取られて投降を迫られたカガリは、最初、軽く舌打ちし、次に、頭の上に
ピカリと豆電球を灯らせると、最後は、凶悪な肉食獣の笑顔でニヤリと微笑んだ。
微速度撮影の画面のような速さで、カガリの一連の顔面の筋肉の変化をリアルタイムに
見せつけられたフレイの頬から、流石に冷や汗を滲み出てきた。
「だ…駄目だ、アスラン君。彼は僕ごと君を撃つつもりだ」
「ふん、何を馬鹿な事を…」
アスランはフレイの世迷言を無視したが、次の瞬間、カガリは何の躊躇いもなく、
本当に発砲した。島内に銃声が連続して木霊し、森の中にいた鳥達は銃声に驚いて、
悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように、彼方此方に飛び去った。

「何い!?」
コーディ特有の驚異的な動体視力で、カガリの指先が動くのを視認出来たアスランは、
反射的に地面に仰け反って銃弾を回避する。弾丸は、少し前まで彼らがいた空間を
貫いて、そのまま崖に減り込んだ後に、ポロリと地面に落ちた。

「ふ〜う。危なかった」
アスランの拘束が解除されたと同時に、彼と同じく地面に寝転がって、銃弾を回避した
フレイは安堵の溜息を吐く。そのフレイと低い位置で目が合ったアスランは、地面に両手
を着くと、忌々しそうにフレイを睨んだ。
「一体何なんだ、お前らは!?」
アスランは自分の精神がどんどん失調していくのを感じた。ザフトのエリート部隊
(クルーゼ隊)の一員として、数多の戦場を駆け抜けてきたアスランだが、こんな
ふざけた敵に出会った体験はない。もしかして、自分はドッキリカメラにでも出演
させられているのではないか…などという現実逃避的な考えが頭の中を過ぎった。

522キラ(♀)×フレイ(♂)・44−4:2004/05/20(木) 02:48
「ちぃっ!!」
フレイとアスランの位置が大きくばらけてしまい、敵ごと撃ち殺すという大義名分(口実)
を失ったカガリは、大きく舌打ちすると、仕方なくアスランの方に銃火を集中させる。
こいつ等の本当の正体は、軍人ではなくコメディアンではないかと疑ったアスランだが、
使われている銃器が本物である以上は、不本意だが真面目に戦わざるを得ない。
アスランは、再びカガリの銃撃を避けると、山猿のような身軽さで、崖から崖へと跳躍を
繰り返し、10m近くはある崖の上を飛び越えて姿を消した。

「全く、世話が焼ける…」
奇襲に失敗した地点で、フレイはこの戦闘そのものを見限った。カガリも一廉の戦士
ではあるが、アスランの今の忍者染みた身体能力といい、敵の力量はそれをはるかに
上回ると思われ、こうして一から仕切り直されてしまった以上、勝敗の帰趨は明らかだ。
だとすれば、この場はフレイが何とか収めるしかないだろう。現場(戦場)の軍人の
失態を上手く取り繕うのが、外交家の本来の責務なのだろうから。そう思い込んだフレイ
はMSの上に攀じ登ると、何故か、イージスのコックピット内部に潜り込んでいった。



フレイの推測通り、アスランとカガリのバトルは瞬く間に勝敗が決した。襲撃を警戒する
カガリを尻目に、逆側の崖に回りこんだアスランは大きく跳躍して、カガリの懐に一気に
潜り込むと、銃を構えたカガリの利き腕を掴んで、そのまま柔道の一本背負いの要領で
カガリを投げ飛ばした。
「女を殺すのは気が引けるが、売られた喧嘩だしな…」
背中を強く打った呼吸困難を堪えて、必死に銃に手を伸ばそうとしたカガリを嘲笑うかの
ように、銃を遠くに蹴飛ばしたアスランは、そのままカガリに馬乗りになる。
「ふざけんな、俺は男だ!いい加減にしろよな、お前ら!!」
カガリの告白に、軽く瞬きしたアスランだが、すぐに眼を細めると殺意を漲らせる。
「そうか…。それなら、何の気兼ねもなく殺せるな」
アスランは大きく軍用ナイフを振り被る。いっそ、芸風を広げて、女の振りをして悲鳴
の一つでもあげて見せれば、アスランも躊躇したかも知れないのだが、生命よりも
男のプライドの方が大事そうな彼に、そういう類の副芸を期待するのは無理だろう。
カガリは死を覚悟して歯を食い縛ったが、意外な人物がカガリの窮地を救った。


「おっと、そこまでだ、アスラン君」
その声にナイフを振り下ろそうとしていたアスランの動きがピタリと止まった。
反射的に二人が振り返った声の先には、アスランもカガリも一時的にその存在を失念
していたフレイが、イージスのコックピットから丸腰のまま這い出しきた。
「イージスの内部にプラスチック爆弾を仕掛けた。この時計の数値がゼロになる
前に特定の解除コードを打ち込まない限り、君の愛機は木っ端微塵だよ」
フレイはそのままMSの上から飛び降りると、これ見よがしに、彼の左腕に巻かれた
腕時計を模した起爆装置の存在をアピールする。デジタル数値は刻一刻と値を
減らしており、爆発まで既に二分(120秒)を切っている。
「フェイズシフト装甲とやらも、内側から爆発されたら一溜まりもないだろ?
尤も、今はPSは展開されていないみたいだけどね。さて、どうする、アスラン君?」
「き…貴様!?」
アスランは慎重にカガリの首元にナイフを押し当てて威嚇したまま、フレイを睨んだ。
とんでもない失態だ。彼が任された大事な機体の命運を敵の手に委ねてしまうとは…。

523キラ(♀)×フレイ(♂)・44−5:2004/05/20(木) 02:49
一見、形勢は最逆転したかのように見えたが、このままイージスを爆発させても、
二人ともアスランに殺されるだけだ。ここからが、フレイ(交渉人)の真骨頂だ。
「取引といかないか、アスラン君?こちらから仕掛けておいて何だけど、この無人島に
いる間は、お互いに一時休戦としないか?そうすれば、こちらも起爆を解除するよ」
フレイからの予期せぬ停戦案にアスランは眉を顰める。この不愉快な長舌族(フレイ)
は今度は一体、何を企んでいるのか。だが、迷っている時間はあまり無い。この間にも、
爆破時刻はどんどん迫っており、フレイの腕時計の数値は既に三桁を下回っている。

「やれ!、いいから爆発させろ、フレイ!」
アスランが答えるよりも先に、真下にいるカガリが、自分の立場も弁えずに大声で喚いた。
「このまま放っておけば、あのMSはまた地球の人間を大勢殺すんだろ!?
それに起爆コードを解除したら、どのみち俺達は殺されるぞ。ビクトリアのナチュラルの
捕虜は全員虐殺されたって聞いた。ザフトがナチュラルとの約束なんて守る筈がない!」
平和的な解決手段(?)を模索するフレイと異なり、カガリは玉砕の道を選んだようだ。

おいおい、命乞いをしないのは立派だけど、何、いきなり仲間意識で訴えているんだよ。
君はついさっき、僕に何をしようとしたか、すっかり忘れたのかい?
都合の悪い記憶(現実)は、直ぐに脳内から消去されるのが、性格が天と地ほど離れた
この兄妹(カガリ&キラ)に共通する数少ない特徴の一つであるらしい。
フレイは内心でそう呆れながらも、交渉成功の為に、敢えて私心を抑える事にする。
「心配いらないよ、カガリ君。キラの話によると、アスラン君は一度交わした約束を
破るような卑劣漢ではないらしい。キラが恥知らずの嘘吐きなのか、それとも、
長年、キラがアスラン君に騙されていたのでない限りは、僕らは助かるよ」
フレイは巧みに、キラの存在を盾に取り、アスランのキラへの想いそのものを
人質にすることによって、交渉をリードしようと試みた。
「どうする、アスラン君?もう、ほとんど時間はないよ。ストライクのパイロット(キラ)
ならともかく、どこの馬の骨とも判らないナチュラルの雑魚二人の首を持ち帰った所で、
イージスを失った君を、君の仲間や上官は暖かく迎えてくれるとは思えないけどね」
フレイは敢えて自分達の存在を卑下し、そう謙遜してみせる。フレイ自身は、連邦の亡き
外務次官の子息で、カガリはオーブの王子様(これはフレイもまだ知らないことだが)だ。
彼ら本人の価値はともかく、彼ら二人に付随する政治的価値はそれほど見下したもので
はないが、そんな事は、彼らと初対面のアスランに判るはずは無く、彼の脳内では、
勝ち誇った表情で、自分の失態を弾劾するイザークの様子が映し出された。
時間は既に残り一分を切っている。確かに、フレイの言う通り、このお笑い芸人達の
生命と、虎の子のイージスを引き換えにする価値はないようにアスランには思えた。


「良いだろう、取引に応じよう」
こいつら二人を取り逃がした所で、戦線には何の影響も無い筈だ。アスランはそう
自分に言い聞かせながら、忌々しさを押し殺して、敢えてフレイの手に乗ることにする。
「ザフト兵士の名誉に賭けて誓う。この島にいる間は、お前たちには、手は出さない。
だから、早く解除コードを打ち込んで、起爆を解除しろ!」
キラの名誉に賭けて誓う…と宣誓してくれた方が、僕としては安心できるんだけどな…
とフレイは思ったが、あまり図に乗って要求を上乗せし、相手の気分を害するのは得策
ではない。彼の気が変わらない内に、さっさと交渉を終結させてしまおう。
そう考えたフレイは、「了解した」と呟いてから、腕時計のパネル部分を開いて、
解除コードを入力しようとしたが、その瞬間、とんでもない邪魔が入った。
「止めろ、フレイ!」
フレイに気を取られて、隙だらけのアスランの拘束を跳ね除けたカガリが、そう叫び
ながら、フレイに体当たりを敢行してきた。どうやら彼は敵のお情けに縋る不確実な
未来よりも、確実に敵の主力MSを道連れにする現在(いま)を選んだらしい。
「き…貴様ら!?」
契約を不履行されたアスランは怒りと共に、拾った銃をフレイ達に突きつけた。
その間にも、二桁を切った起爆時間は刻一刻と減少(カウントダウン)を続け、
とうとう時計の数値はゼロ(タイムリミット)に達してしまった。

524キラ(♀)×フレイ(♂)・44−6:2004/05/20(木) 02:49
アスランは爆発に備えて反射的に身構えたが、衝撃は来なかった。

「起きなさい、私の可愛い、フレイ。早く起きないとお目覚めのキスをしちゃうわよ」

………………………………………………………………………………………………
………その代わりというわけではないだろうが、フレイの腕時計から、甘ったるい
女性の声が聞こえてきた。あまりに常軌を逸した現象にアスランもカガリも、
敵と交戦中であるという現実を忘れて暫し呆然としている。
「いやいや、こいつは恥ずかしい物を聞かれてしまったな」
傍若無人なフレイも流石に赤面して、照れ隠しに軽く頭を掻いた。
どうやら、あのカウントダウンは爆弾の起爆時間ではなく、音声入力式の目覚まし時計
のアラームらしい。この声の持ち主の女性が誰であるかは、今更、言うまでもない。

「お…お前…」
フレイに覆いかぶさったカガリは、信じられないという表情でフレイを見下ろしている。
「ハッタリだよ。君に拉致同然でここまで連れてこられた僕が、プラスチック爆弾なんて、
便利な代物を携帯しているわけはないだろ?
まあ、良く考えれば、ブラフだって簡単に判りそうなもんだけど、思考する時間を
与えなければ、ああいう荒唐無稽な脅迫もけっこう有効だったりするんだ。
君が余計な真似をしなければ、交渉(詐欺)は上手くいったんだけどね」
フレイは大きく溜息を吐き出しながら、カガリの後方を見上げている。
カガリが振り返ると、アスランがワナワナと肩を震わせながら、彼らを見下ろしていた。



「酷いな、アスラン君。何も縛ることはないだろ?武器さえ取り上げておけば、
僕たちは二人掛かりでも、君に敵わないのは実証済みじゃないか?」
「煩い!この、ペテン師が!殺されなかっただけでも、有り難く思え!」
アスランは殺意の篭もった視線で、フレイの主張を一蹴した。
フレイとカガリの二人は後ろ手に縛られて上で、仲良く彼の前に並べられている。
アスランはフレイを詐欺師扱いしたが、実際、性質(タチ)の悪い悪質な詐欺に
騙されて、不渡りの手形を掴まされたような嫌な気分だ。
こういう時、イザークだったら、衝動のままに、さっさとこの不愉快な奴らを
撃ち殺して、それで何もかも終わりにしているんだろうな。
そう考えたアスランは、一度誓約してしまった事だと…律儀に契約内容を履行しようと
する自身の御目出度さに呆れ、産まれてはじめて、自分の生真面目な性格を恨んだ。

イライラした表情で、フレイ達を見下ろしているアスラン。
不貞腐れたような表情で、ソッポを向いているカガリ。
アスランに生殺与奪の全てを握られているのに、そんな事はまるで意に介さずに、
今度はどう攻めようかと内心で密かに思案中のフレイ。

この男三人の潤いのない無人島での長い一日は、まだ始まったばかりである。

525私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 05:07
おおお投下されてる。ちょっと感動した。ボリュームあるから
じっくり読ませてもらいます。

526私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 08:20
久しぶりの投下ですね♪
でも・・・他はまだか・・・過去の傷の職人さんなんてひどいくらい叩かれてたからな・・・。
少し可哀相なくらい・・・。

527私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 09:14
>>526
いい加減あんたもしつこい。
テンプレも出来たんだからそれに沿ったSSにしているのかもしれないだろ?

つーか、
>>524 名前: キラ(♀)×フレイ(♂)
実はすごく続きが読みたかったのは貴殿のSSです!
これからもがんばってください。

528私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 09:26
>>526
投下すれば?
待ってるよ。

529過去の傷・作者:2004/05/20(木) 10:10
・・・私のSSがこれほどまでに皆様にご迷惑をかけてしまって誠に申し訳ありませんで
した・・・。
それからミリィをわざと痛めつけたいだけなのではという意見を見ましたがそんな考えは絶対にありませんので。
ただそういうふうに見られるということはそれだけ私に力がないということかもしれません。
SSの方はもう少し休ませていただきたいと思います。

530私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 12:14
>>529
今回の事はきつかったかもしれないけど、
へこまずに創作活動頑張ってください。
>>526さんのように、貴方の作品を愛してくれている人もいますし。
落ち着かれたら又投下なさってください。

531私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 18:16
>>529
考えがあろうが無かろうが、そう思われた時点で貴方の落ち度ですから。
言われる通り力が無かったのでしょう。出直して下さい。

532私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 18:32
>>531
反省している職人さんに対してその言い方はないよ・・・。
大人げない発言よそう!!

533私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 18:45
>>532
>>531の出直して来いは確かに無いと思うな。
が、意図したにせよしないにせよ、不特定多数が読無場所に投下した以上、
賛辞と批判は覚悟しないと。
>>526や貴方のように過去の傷が大好きな人もいれば、そうでない人もいる。
職人冥利に尽きると思いますよ。
批判意見と絶大な賛辞を両方聞けたんだから。
>>524 男フレイ待ってました!
フレイイラストが描きたくなるような内容でいつも楽しみにしています。
新規投下してくださって本当にありがとうございました。
続きも期待しております。

534私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 22:27
>>531
その言い方はないだろ、荒らしか?それにしてもやけに偉そうだな。
反省している職人さんに追い討ちをかける君こそ出直してこいと言いたい!

535私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 22:45
両者ともよそでやれ。邪魔。

536私の想いが名無しを守るわ:2004/05/20(木) 23:04
>>535
同意。
いい加減にしろ。

537ミリアリア・あの子許せない 96:2004/05/21(金) 03:56
第2部 8. 平和の国を見守って 1/14
[このオーブの町で]

オノゴロから連絡機で、海浜空港へ着いて、そこから鉄道で、さらに数十分。私は、オーブ首都の
駅に降り立った。私は駅を出て、オーブの首都の町を見つめた。私は放心したように
景色を眺めるだけだった。私の故郷に帰ってきたと言うのに。

本当に久しぶりのオーブ。以前、アークエンジェルがオーブへ寄港した時は、オーブ政府の
施設に入っただけで、外に出ることはできなかった。今は、自分の足でオーブの地に立っている。
カレッジ入学でマスドライバーからの連絡機で旅立って以来のことが、私の中に思い出される。
楽しい日々、悲しいこと。やがて、私は、それを振り払うように歩きはじめた。

久しぶりに見るオーブの町は、私の知っているものよりも静かに見えた。本来なら、ここは繁華街。
もっとにぎやかなはずだ。商店が営業していない訳では無いけど、なにか人手が少ないように思える。
やはり、戦争が近づいていることで、人が減っているのだろうか。

私は大きなカバンを持って、引きずるように歩みを進めている。中には、トールの遺品。
そして、キラの遺品。キラは生きている。これは、『私のキラ』の遺品。
昔の明るく優しかったキラはもういない。あの、MIAの時、いや、地球に降りて、あの子が
キラに接近した、あの時に、もう死んでいたのだ。

今のキラは別人。あの子に変えられた存在。
冷たく残酷な戦士。その存在は、キラの顔で、私に命令した。

── 降りるんだミリィ。そして、忘れるんだ僕のこと。忘れてしまえばいい。
── 忘れるんだミリィ!!

私は、従わねばならない。たとえ、心はキラで無くても、キラの口から発せられた言葉に、
私は逆らえない。キラを忘れなければならない。忘れる。忘れるのよ。
空港から首都に向かう列車の中で常に私の中で、何度も何度も渦巻いていた言葉。

連絡機で空港に着く直前、私の中に昔の楽しい思い出が蘇った。キラ、トール、サイ、カズイ、みんな……
私は、それを振り払うように、私の携帯電話を海へ投げた。忘れる。忘れるのよ。
繰り返し、唱えていた言葉、それは、既に私の中で一杯になっている。

── こんな僕のこと忘れてしまえばいい。ヘリオポリスの思い出だけを残して。
── 僕は、いなかったと思うんだ

「ハイ、忘れましたキラ。忘れました」

私の口元には笑みが浮かんでいる。キラの命令に従う。それが、私の幸福だ。それは、いつか
私の体にも至福をもたらしている。幸福だわ。幸福よ。

(いいの、本当にこれで? こんなので、いい訳無い)

ただひとつ抵抗する心が、キラの遺品を無断で持ち出させた。悪いことだという実感は無い。
どうするかなど考えていない。矛盾する心のまま、私はひたすら歩みを進めている。

連絡駅にたどりついた。これからトールの両親に会いに行く。トールの遺品を渡すために。
これも、キラの命令。そして、艦長の願い。私の贖罪。

列車に乗る。ここも人は少なくかなり席は空いている。椅子に座り、大きなカバンを隣に置く。
発車時間まで、窓から駅をぼんやりと見つめる。アークエンジェルのブリッジから、宇宙を、
そして、地球の青い空を眺めていたことを思い出す。一緒に見つめていたトールのことを。

トール、私、これでいいのよね。私、トールをお父さん・お母さんに返す。これで許してくれるよね。
これで、また、私、歩きだせばいいんだよね。

これから、私は、どこへ行こう。誰と歩けばいいんだろう。キラは忘れなければならない。
サイ。サイならいいよね。トールも、そう思うでしょ。私、自分の両親捜して、戦争から逃げて、
ひたすらサイを待てばいいんだよね。

列車のベルが鳴った。私の新しい日々が始まる。その第一歩が。
発車ベルとともに、列車に走り込んでくる人がいた。列車は動きだした。
走り込んだ人は、私のいる車両に入ってきている。興味の無い私は、窓の外の流れる景色を
ずっと見つめている。と、その入ってきたらしい人が、私に話しかける声がした。

「ここ、席空いてんのか」

私の正面の席なら空いている。

「ええ、どうぞ」
そう言った私は、それが聞き覚えのある声だということに気づいて、車内に目を向けた。

「ディアッカ!」
「ミリアリア! こりゃどういうことだ」

私がアークエンジェルを降りる前日、捕虜から釈放されたディアッカ。艦からオーブに移されて、
そこで自由の身になった。多分、ザフトへ帰るだろうから、もう会うことは無いと思っていた。

でも、私とディアッカは、また再会した。このオーブの町で。

538ミリアリア・あの子許せない 作者:2004/05/21(金) 04:04
「ミリアリア・あの子許せない」ならびに「ザフト・赤毛の虜囚」の作者です。
今回のがSSでは最後の投下になります。ミリィとディアッカの再会だけは、小説として
公開したかったので、投下させていただきました。

避難所及び継続スレで続けられていた議論静観しておりました。方向的には他キャラへの
配慮ということでしたが、その前のフレイ以外のキャラを改変して扱うのは、個人サイト向きで、
この板では好ましく無いという意見もあり、私のミリィSSは、これに該当します。
実際、過去に投下したものも、あまりいい扱いをしていたとはいいがたいですし、
基本設定の変更で、ミリィ以外のトールやサイと言ったキャラへも、あまりいい扱いでは
無かったと反省しています。従って、私のSSはここで中断させていただきます。

フレイSSだけというのは、以前も書いたことがある通り、私の腕だと、描写が一面的に
なりますし、こちらも妊娠などの微妙な話題を扱っていますので、こちらも合わせて中断いたします。

私が現在持っているサイトは、自分で著作権を侵害しない創作デザインの模型を謳っている関係上、
二次創作小説を置く訳にはいきませんので、置くならば新たにサイトを借りることになります。
しかし、これから忙しくなる関係上、いつになったらできるか疑わしいものがあります。

また、議論では個人サイトの方が自由にできて合理的だということですが、個人サイトであっても
制限が無い訳では無いと思います。ただ、その風当たりが板全体から個人になるだけの話で、
自分で、それを、こなせないと判断するならば諦めざるをえません。

それと、ここで連載していたものを、個人サイトへ移ったからと言って制限を外して書けば、
やはり、フレイ板に風当たりが返るでしょう。おそらく、制限がかからなくなってしまう
自分を危惧する私は、このまま、消えた方がいいと思います。

何も無しに中断するのは、読んでいただいていた方にも失礼なので、以下、決まっていた範囲の
プロットを公開します。全ては、小説になっておらず、また、展開を迷っていた部分も
少し残っています。

539ミリアリア・あの子許せない 作者:2004/05/21(金) 04:07
「ミリアリア・あの子許せない」ならびに「ザフト・赤毛の虜囚」の作者です。
今回のがSSでは最後の投下になります。ミリィとディアッカの再会だけは、小説として
公開したかったので、投下させていただきました。

避難所及び継続スレで続けられていた議論静観しておりました。方向的には他キャラへの
配慮ということでしたが、その前のフレイ以外のキャラを改変して扱うのは、個人サイト向きで、
この板では好ましく無いという意見もあり、私のミリィSSは、これに該当します。
実際、過去に投下したものも、あまりいい扱いをしていたとはいいがたいですし、
基本設定の変更で、ミリィ以外のトールやサイと言ったキャラへも、あまりいい扱いでは
無かったと反省しています。従って、私のSSはここで中断させていただきます。

フレイSSだけというのは、以前も書いたことがある通り、私の腕だと、描写が一面的に
なりますし、こちらも妊娠などの微妙な話題を扱っていますので、こちらも合わせて中断いたします。

私が現在持っているサイトは、自分で著作権を侵害しない創作デザインの模型を謳っている関係上、
二次創作小説を置く訳にはいきませんので、置くならば新たにサイトを借りることになります。
しかし、これから忙しくなる関係上、いつになったらできるか疑わしいものがあります。

また、議論では個人サイトの方が自由にできて合理的だということですが、個人サイトであっても
制限が無い訳では無いと思います。ただ、その風当たりが板全体から個人になるだけの話で、
自分で、それを、こなせないと判断するならば諦めざるをえません。

それと、ここで連載していたものを、個人サイトへ移ったからと言って制限を外して書けば、
やはり、フレイ板に風当たりが返るでしょう。おそらく、制限がかからなくなってしまう
自分を危惧する私は、このまま、消えた方がいいと思います。

何も無しに中断するのは、読んでいただいていた方にも失礼なので、以下、決まっていた範囲の
プロットを公開します。全ては、小説になっておらず、また、展開を迷っていた部分も
少し残っています。

540ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 1/7:2004/05/21(金) 04:10
●ミリアリア「平和の国を見守って」

ディアッカと再会したミリアリアは、二人連れ立ってトールの両親の家を訪れ、遺品を返す。
その時、自分のせいでトールを死なせたという罪の意識と、ザフトへの憎しみが再燃してしまう。
ディアッカから、具体的な憎しみの対象であるアスランの名を知り、その憎しみを胸の内にしまい込んだ
墓前に祈り、トールの家に一泊したミリアリアは、さらにキラに惹かれていることを
隠してトールと付き合っていた罪悪感への贖罪に、トールの家に娘として置いてくれるよう懇願。
キラの「トールを弔い」「自分を忘れろ」という二つの命令を守っていくことを決意する。
しかし、ミリアリアにとっては、キラを忘れることは、同時に三人でいたトールの思い出も
忘れるという矛盾した命令だった。ほとんどの思い出を失い追い詰められたミリアリアを
救ったのはディアッカの、なにげない言葉だった。
「忘れちまえよ、そんなこと。キラってやつとの約束の方さ」
トールの母の暖かい言葉で、再び立ち直ったミリアリアは、トールの家を後にする。だが、
アスランへの暗い想いは胸に秘めたままだった。

●フレイ「暗雲」

フレイはミコトを部屋に入れて話をするうちに、ミコトの目の前で、メルデルへ意識を遷移
してしまう。一時的に放心状態になったフレイを心配するミコトは、そのことで、パナマ戦後の
惨殺に立ち会っていたことをフレイに伝える。フレイは人を殺すのはいけないことだとミコトに教え、
部屋を送り出す。

ミコトを見送った後、フレイは通路でのザフト兵の雑談を聞き、クルーゼの書類整理を
手伝っている自分は、既にザフトから釈放される望みが無いことを知る。さらに、ザフト兵に
見つかりそうになるのを、通りかかったイザークに救われたものの自分の今の境遇を知り、
フレイはベッドに潜り込んで震え続ける。

●メルデル「暗雲」

カリダはユーレンに手術を受け、念願のウズミとの初体験を果たした。
メルデルとカリダは妊娠・出産・育児について語り合うが、その時、ブルーコスモスの
パトロンであるサトゥルノ・アズラエルに会い不快感を抱く。その後、ウズミはユーレン、
メルデル、カリダを呼び、アズラエルと袂を分かつことを伝える。大西洋連邦のユーレンの
故郷の田舎町へ逃亡を決めたユーレン、メルデル、ムウの親子。別れを惜しむカリダに、
ウズミはこの親子を守り、安全を見届けるよう命じた。

事情を理解できないメルデルは、ベッドでユーレンを問い詰める。「ムウの前で黙ってるの」
メルデルはユーレンの研究がクローンであり、その一環として人工子宮を手がけていたことを知る。
アズラエルは人工子宮を、代理母、卵子売買の生殖産業ビジネスに利用しようとしていた。

※ サトゥルノ・アズラエル (オリキャラ、ムルタの父)

541ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 2/7:2004/05/21(金) 04:13
●ミリアリア「どうしてキラが好きなのか」

ミリアリアは黙って持ってきたキラの遺品を両親に返すことにした。ディアッカと話し合ううちに、
ミリアリアは、なぜキラを好きになったのかをディアッカに話す。
「キラはね、お兄さんに似ているの」
それは、幼い頃両親が不在がちなミリアリアの面倒を見てくれた近所のコーディネータの青年だった。

お兄さんに恋心を抱くミリアリアは、やがてプラントへ行き、婚姻統制で結婚して去って行った
お兄さんへの辛い失恋を経験する。ネット世界に逃避する荒れたハイスクール時代を過ごした
ミリアリアは、カレッジでトール、キラと出会い、お兄さんにそっくりの容姿のキラに惹かれる。
コーディネータでありながらナチュラルのミリアリアに暖かく接するキラに、ミリアリアは恋心を
募らせるとともに、自分の荒れた趣向をキラに知られまいと隠し続けていた。だが、結局、
お兄さんと同じく失恋を味会うことになった自分を悲しむ。
このことは、ディアッカには話さなかったものの、封印していた記憶を思い出したことで、キラの
命令の呪縛が、また薄まることになった。

● メルデル「奈落」

逃亡したメルデルらはオーブの空港で、アズラエルの手下に追われ、ユーレンは二人から離れる。
残されたメルデルとカリダに、ヒイラギ所長から情報を得たヴィアが迫る。男言葉は、なりを潜め、
女言葉のままメルデルとカリダを激しく罵倒するヴィアは、ユーレンを侮辱されて興奮したカリダを
突き飛ばした時の事故で、カリダの手術跡を悪化させてしまう。怒りのヴィアに加え、苦しむカリダと
泣き出すムウ。追い詰められたメルデルに、不思議な力で、ユーレンの手の感覚が繋がった。
手に伝わるユーレンの心臓の鼓動に勇気づけられたメルデルはムウを泣きやませ、カリダに
救急車を呼び、ヴィアを妻の資格は無いと言い負かす。だが、その後、ヴィアの後を付けた
アル・ダ・フラガに、メルデルとムウは捕らえられ、連れ去られてしまう。

● フレイ「奈落」「背徳」

フレイはクルーゼにプラントに秘書として同行することを告げられる。連合服からザフトの制服に
着替えるように言われ、フレイは抵抗するが、寝ている間に遷移したメルデルの辛い記憶のために
汗ビッショリになった体をシャワーで洗う間に、連合服をクルーゼに奪われてしまう。
フレイはクルーゼの前に肌を晒し、連合服を返すよう約束を迫る。クルーゼは、フレイの胸に、
まるで赤子のように縋った。(これは、実は子供のころのラウにメルデルがしていたことだった)
その時、クルーゼに発作が起こり、連合服を返す約束は守られることは無かった。

ザフト制服を着るのを拒否するフレイは、下着姿のままベッドに臥せっていた。
フレイは、キラのメモリチップによる癒しを得ようとするが、ビデオメールの最初の
「裸になったろ……」の言葉がクルーゼとの背徳感を思い出させ、メモリチップの癒しさえ、
一時的に封印されてしまう。

542ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 3/7:2004/05/21(金) 04:17
●フレイ「弱虫」

ベッドに失意のままのフレイは、こんな想いをするのなら、キラはミリアリアを選べば良かったと
思うようになる。砂漠から太平洋に出る直前のキラとの逢瀬で、ミリアリアとトールの馴れ初めを
聞いた時、ミリアリアとキラに告白を思わせる出来事があったと聞いたこと思い出す。だが、
実際には告白は無く、その後、ミリアリアはトールが好きとキラに告げ、トールからの告白を
受け入れたことをキラに聞いていた。だが、フレイはミリアリアが今だキラに想いを残して
いることから、ミリアリアに対するキラの想いまで疑い始めていた。

悩むフレイを尋ねたミコトは、どうしてもザフト制服を着ないフレイに弱虫と言い放つ。
それをフレイは、キラに対して弱気になっていることへの叱咤とも受け取っていた。

●ミリアリア「風が私を押してくれたら」

ミリアリアは、オーブ開戦直前の避難状況の中、キラの両親を捜し出す。キラの遺品を見た
キラの母カリダは、ミリアリアにキラへの想いを聞く。既にキラに好きな人がいると伝える
ミリアリアに、カリダは、かつて自分が運命で結ばれた二人のために、ついに相手に
伝えることができなかった想いをダブらせ、「運命になんか負けちゃダメよ」と声援を送る。
キラの命令の呪縛が完全に消えたミリアリアはキラの遺品箱を抱きしめ「キラを忘れられる訳無い」
と再確認する。

オーブの平原で風の舞う中、ミリアリアはヘリオポリスのゼミ旅行のキャンプで、キラに
告白できなかったことを思い出していた。風が私を押してくれたら……

●メルデル「背徳」

アル・ダ・フラガは、捕らえたメルデルとムウを人質にユーレンを脅迫し、メルデルの卵子を
用いて、自身のクローンを創らせる。妊娠を煙たがる代理母がクローンのラウを育てる一方、
フラガは用済みとなったメルデルに手術を施し子供を産めなくしてしまう。

3年後、フラガはアズラエルらと組み、生殖産業を立ち上げる秘密の会合に、メルデルを
連れてきていた。そこでメルデルは偶然にも3歳になったムウと短い再会を果たす。
会合中にブルーコスモスのアズラエルに与しない残党による暴動が起こった。
それに加わっていたユーレンとカリダにメルデルは救われる。だが、ムウも救い出そうとする
メルデルらの前に立ちふさがったのは、アズラエルの秘密工作員ブーステッドマンの三人だった。
その三人に、カリダの先輩だったブルーコスモスの残党達は惨殺される。ムウも巻き込まれ
死んだものと思い込むことになる。かろうじて脱出したユーレン、メルデル、カリダ。
ムウを失ったことと、再び虜囚生活を送っていた背徳感からメルデルはユーレンを拒否する。
カリダはメルデルを励まそうとするが、カリダ自身もヴィアとの事故で、再び、子を持てない体に
なっていた。

543ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 4/7:2004/05/21(金) 04:20
●ミリアリア「体ごと胸に預けて」

再びキラの遺品を手にしたミリアリアは、それが入ったバッグをバイクの男にひったくられる。
ディアッカのバイクに乗って追いかけるミリアリアは、いつしかミナシロの市街地に来ていた。
ミナシロPARKSの屋上でバイクの男を追い詰めたディアッカとミリアリアは、ついに
キラの遺品を取り戻す。だが、そこでオーブへの大西洋連合の攻撃が開始された。
無人の町を逃げ惑う中、レイダーとフォビドゥンのミナシロ攻撃に巻き込まれたミリアリアは、
炎の中にキラの遺品を失う。呆然とするミリアリアを、ディアッカはミナシロの震災避難所に置いて、
故障して放置されたM1アストレイに乗り、カラミティを加えた3Gに一人立ち向かう。
その様子に意識を取り戻したミリアリアは、通信社のビルから救援の通信を飛ばす。
それは、なんとオノゴロのアークエンジェルまで繋がった。そのことで、Nジャマー
キャンセラーが働いていることに気づいたミリアリアは、通信社のビルからキラのフリーダムが
近くにいることを見つけ、キラに通信で叫ぶ。しかし、フリーダムは、Nジャマーキャンセラーを
稼働したことで、ザフト特務隊のジャスティスに発見され、交戦中だった。
そして、通信で居場所が見つかったミリアリアはフォビドゥンの攻撃で通信社のビルの破壊に
巻き込まれる。

死んだと思っていたミリアリアは、強烈な振動で目を覚ます。そこはフリーダムのコクピットの
キラの胸の中だった。キラはディアッカの乗るM1を助け出すが、3Gとジャスティスの攻撃の中、
ミリアリアをディアッカに託すことはできなかった。戦い中の荒々しいキラの様子に戸惑いながらも、
ミリアリアは体ごと胸に預けてキラとともに戦い続けることになる。

●フレイ「奇縁」

フレイが捕らえられている潜水艦クストーはオーブ戦の偵察のため、領海付近の海底に潜んでいた。
フレイは、クルーゼがオーブ偵察に飛ばしたピーピングアイでミナシロが戦果に巻き込まれて
いく様子を見る。ミナシロの町での出来事を思い出していたフレイは、そこで、知らないうちに
トリィと出会っていたこと、キラに初めて会って言葉をかわしたこと。そして、ミナシロPARKS
屋上で親しそうに話をし、入り込めない絆を感じたアベックが、キラとミリアリアであったことに
気がつく。さらに、ピーピングアイの映像は、ミリアリアがキラの遺品を失う様まで捉え、自分の
持ち去られた連合服とともに、キラの連合服まで炎に包まれて消えて行くのを見てショックを受ける。

ミリアリアがザフトのパイロットスーツを着た人物に救い出される様子を映像で見ていた
クルーゼは、友達に一言だけ通信してみろと、フレイの名をNGワードにした電文を一つ
送信することを許可し、フレイを部屋に一人残して、司令室へ戻った。

544ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 5/7:2004/05/21(金) 04:25
●ミリアリア「キラの胸で拭った」

激しい戦いの中、ジャスティスが破壊して崩れるビルの爆煙に紛れ、フリーダムとジャスティスは
ワイヤーで結ばれた状態で、崩れたアーケード街に隠れた。そして、ジャスティスに乗るアスランは
ワイヤーでの有線通信でキラに話しかけた。映像に切り替えたアスランは、キラに抱きつくミリアリアを見て、
ミリアリアがキラの恋人であり、このためにキラが連合に味方していたと思い込む。ミリアリアは、
アスランを前にしてトールを殺された憎しみを思い出し、呪詛の叫びをアスランに投げかける。
だが、キラはトールとニコルを失い復讐に狂った二人を、すでに戦争では無い私闘だったと、
アスランに告げる。そして、憎しみの連鎖を断ち切らない限り、戦いは終わらないと諭す。
ミリアリアは、それにトールの母の言葉を思い出し、キラの胸でトール追悼の涙を拭う。

Nジャマーキャンセラーの意見、戦犯となったラクス、これからの戦争に対する意見、結局、
アスランとキラは相容れることなく、再び二人は別れ、戦いに戻る。

3Gの無茶苦茶な攻撃で、既に廃墟と化そうとしているミナシロ市。
ミナシロを脱出しようとするキラ。故郷が破壊されるのを見捨てるのと迫るミリアリア。
その二人にカラミティが立ちふさがる。カラミティはスキュラの弾幕でフリーダムの攻撃を
無効化し、さらにバックアップ電源車の供給でエネルギー切れを知らずに攻撃し、フリーダムは
押され始める。苦戦するキラはミナシロの町に潜むザフト特務隊のラゴウを発見し、カラミティと
やり合わせる隙に、原子炉を落とし、Nジャマーキャンセラーを停止させて、特殊装備の
ミラージュコロイドを発動させる。ストライクの武装であったアーマーシュナイダーと
ソードストライカーのパンツァーアイゼンを携行していたフリーダムは、姿を消した状態で、
バックアップ電源車に近づき、アーマーシュナイダーで、これを破壊。カラミティを敗退させる。

襲い来るレイダーとフォビドゥン。町を破壊しながら高速で追撃するレイダーに
パンツァーアイゼンを打ち込んだフリーダムは、これでフォビドゥンまでも搦め取って、
動きを封じ、この二機を敗退させた。

だが、残るアスランのジャスティスに加えて、隠れていたザフト特務隊のラゴウ、ディン、
そして、グーン爆撃飛行型の攻撃にフリーダムは原子炉を再起動するチャンスも無いまま、
オーブ領海線近くまで追われ、ようやく海中に逃れる。

深海に隠れたフリーダムは、そこで、オーブ領海線付近に潜んでいたザフトの潜水艦クストーに接触する。
クストーからのグーン、ゾノの応戦に、フリーダムはクスィフィアス・グレイブしか使用できる
武器が無く、原子炉の再起動も、ままならない中、バッテリのみのエネルギーで対峙することになる。

※ クスィフィアス・グレイブ
オリジナル武器。クスィフィアス・レールガンの砲身にシュベルトゲベールの実体刃と高周波振動子を
接続したナギナタ状格闘兵器。アークエンジェルのデッキでキラがフリーダムに篭っている時に製作した。

●フレイ

潜水艦クストーにフリーダムが接近し、スクランブルが発令される中、ミコトはフレイに、
「パパがいるよ」と告げ、今だ失意の中にいるフレイに「パパを連れて来る。元気出してママ」と
言い残して出撃する。

●ミリアリア

ロングレンジ攻撃主体のグーンに、ショートレンジの武器しか持たないフリーダムは苦戦する。
さらに、フリーダムの攻撃を巧みにかわす強敵のグーンに懐に入られ、潜水艦まで引きずられて行く。
その中、接触通信でのグーン・パイロットの声。
「パパ、パパでしょ。ママが泣いてるの、一緒に来て」
戸惑うキラとミリアリア。
グーン・パイロットはミコトだった。ミコトは、パパが別の女性と一緒にいることにショックを受ける。

一瞬をついて、フリーダムはミコトのグーンから脱出。カズイのホームページにあったミナシロ旅行時の
海洋プラントの写真をフリーダムの記録メモリから引き出したキラは、それにあった放棄された
海洋プラントの居住ブロックに入り込む。追う、グーン、ゾノ。フリーダムは、居住ブロックの入り口に
引きつけた敵に対し、内部からバラエーナ・ビーム砲を放ち全滅させる。だが、それで、バッテリの残りを、
ほとんど使い果たしてしまった。

ミコトは間一髪、イザークの乗るゾノに救われて無事だった。パイロットの命までも奪ったパパに、
ミコトはフレイの人を殺してはいけないという言葉への矛盾に心を悩ませる。

545ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 6/7:2004/05/21(金) 04:31
●フレイ「電文」

フレイは、部屋のモニタから苦しいフリーダムの戦いを見ていた。それは、砂漠のころ、泣きそうに
なりながら必死で戦っていたキラを思い起こさせた。そして、キラにミリアリアのことを聞いた
記憶は、自分がキラの部屋から離れられなくなり同棲していく過程でもあったことを思い出す。
フレイは、自分はミリアリアに負けていない、キラとの絆は大きかったことを自覚する。

もしも、あのモビルスーツ・パイロットが実は生きていたキラだったら。そう思ったフレイは、
クルーゼが許した電文に、あるメッセージを込めて送り出す。
「Kizashi kiZashi 私はプラントに行く」

「Kizashi kiZashi」= 「キザシ(兆)とキザシ(萌)」
それは、アークエンジェルで同棲状態になったキラとフレイ二人の部屋のドアのパスコードだった。

●ミリアリア

キラは電文を受け、フレイが潜水艦に居ることに気がついた。だが、時既に遅く、フリーダムの
バッテリは稼働限界に来ていた。深海に沈んで行くフリーダム。キラはミリアリアに、
「キザシ(兆)とキザシ(萌)」の意味を語った。ミリアリアも、キラの好きだった、
この二つの漢字に特別な思い入れを抱くことになる。

●フレイ「希望」

電文の返事は来なかった。だけど、フレイは、その電文を受けたことで、微かな反応を見せた
フリーダムに、キラが生きているかもしれないという希望を託した。
「私は、くじけずにキラの想いを継いで生きていく。キラ、もし、生きているのなら、追ってきて……」

ミコトはフレイのいる部屋に失意のまま帰ってきた。パパを連れて来れなかったと寂しそうに
話すミコトをフレイは励ます。そして、ミコトの前で、ザフトの制服を身につけた。

フレイは、ミコトにパパのことを話してあげると言い、少しずつキラのことを話しだした。
ミコトは、その話を聞き、パパが人を殺したことの矛盾をフレイに問いかけるが、フレイも
明確には答えられない。ただ、迷っていたキラの想いのみ伝えた。ミコトは、戦闘で人命を
奪う矛盾への葛藤から、子供の心を脱し、徐々に大人の心へと成長して行く。

●ミリアリア「もう、迷わない……」

深海の底で、無言のキラとミリアリア。やがて、ポツリポツリと互いの想いを話しだす中、
ミリアリアは、変わったキラの奥底に、以前と変わらないキラが隠れていたことに気がつく。
自由の翼に乗りながら、心を縛られるキラは、周りには人当たりの良い態度を見せていたが、
実はミリアリアに見せていた辛い態度こそが、本来の優しいキラの裏返しだった。

キラへの想いを高めていったミリアリアは、今までキラに隠していた自分をさらけ出す。
キラも、フレイを激しく求めていた。キラはフレイを想い、ミリアリアは、そのキラの
イメージのフレイを自分に置き換え、触れ合うことなく、ただ赤裸々な言葉だけを交わし合う。
ミリアリアは自分がキラに隠していたことは、既に意味が無かったことを悟る。

一晩休ませたバッテリの、わずかの電力を使って、キラはNジャマーキャンセラーを作動させ、
原子炉を再起動した。再び翼を広げたフリーダム。キラとミリアリアは、通信で、オーブが
大西洋連合を退け、つかの間の勝利を得たことを知る。しかし、ミナシロに戻った二人が、
そこで見たものは、一面廃墟の町だった。その中で、ミリアリアはキラに言う。

「ねえ、キラ。町も世界も変わって行くのね」
「ああ、そうだ。これからも、どんどん変わって行く。心さえも。でも、心が求めるものは変わらない」

「そうね、私も変わる。変わって行く。私は変わっていくことが恐かった。
 でも、もう恐れない。いくら変わっても、私にも変わらないものがあるから」

キラは、再びミリアリアに命令する。

「ミリィ、君は逃げてくれ。戦争の無い世界へ。そして、今度こそ僕を忘れてくれ。
 こんな酷い僕なんか覚えている必要はない」
「イヤ」

「聞くんだミリィ、僕を忘れろ!」
「イヤ!」

「ミリィ、ハイは?」
「イ! ヤ! 絶対イヤ!!」

いくら命令しても無駄。私は、もうキラの命令になんか従わない。

「キラ、私も行く。アークエンジェルのCICで戦う。変わらないもののため戦う。キラと一緒に」

ミリアリアは、キラの胸に体ごと預けて思った。もう、迷わない……

546ミリアリア・あの子許せない ザフト・赤毛の虜囚 プロット 7/7:2004/05/21(金) 04:32
●フレイ「希望」

ザフトの制服を身につけたフレイは幽閉されていたクルーゼの部屋から、外へ歩みだした。
クルーゼに誘われ、クルーゼ隊のメンバーに紹介される。
キラを継ぐ資格。フレイは、それを密かに「キザシ」と名づけた。キラが生きているかもしれない。
単に思い込みかもしれないが、フレイは、それを希望として、キラを継いで生きていこうと思った。
そんな、フレイを、無関心そうに振る舞うイザークと、笑顔を取り戻したミコトが出迎えた。

●メルデル「希望」

ユーレンは、ムウを失ったメルデルを励ますため、新たな子をもうけようとする。
既に子を持てなくなったメルデル、カリダも含む同様の境遇の女性、そして不妊治療も含めた
目的で、ユーレンは人工子宮を完成させることを決意し、そのために、コロニーの研究所に
戻ることを告げる。
「ユーレン、信じていいのね」
メルデルはユーレンと再び体を合わせた。そこで、メルデルはユーレンの体にできた無数の傷に
気がつく。ユーレンは、アズラエルのブーステッドマンに襲われ、傷だらけになりながらも
命を拾ってきていた。

寝室を出たメルデルは、カリダが寂しそうに部屋の戸の前にいたことに気がつく。
カリダにも、なぜ仲直りしたメルデルとユーレンに心がざわめくのか分からなかった。

547ミリアリア・あの子許せない 作者:2004/05/21(金) 04:40
ここまでが、「ミリアリア・あの子許せない」第2部、「ザフト・赤毛の虜囚」前半の
プロットです。プロットだと省略してしまいましたが、ミリアリアがキラと再会するまでの間、
ディアッカとミリアリアの会話は、配慮抜きでも、かなり多かったと思います。

ただ、他には、結構、キャラの扱いが悪かったり、陰惨、破廉恥なところは、かなりあります。
なんとか押さえようと模索していましたが、すべて配慮しきれるものでは無かったと思います。

この後の展開は、明確に決まっていた訳ではありません。

メルデルの今後のストーリーは、構想はありましたが、かなり錯綜したものとなっていて、
プロットが膨大になりますし、やはり、この板には、そぐわないものだと思うので、公開は
見合わさせていただきます。

途中、提示したフレイの親友のテーマは、この先のミリアリアが担うことなっていました。
以下が、そのために構想していた台詞です。Nジャマーキャンセラーに絡めたものになっています。
正確には、Nジャマーキャンセラーの設定変更が先にあって、この展開に辿りつきました。

* * *

最終戦直前、ジェネシス攻略のため、アークエンジェルとドミニオンは一時的に同盟を結ぶ。
ナタルとフレイは連絡艇でアークエンジェルに赴き、マリューらと再会する。キラ達は、
すでに前線に向かった後だった。サイに自分のことを謝るフレイ。フレイはキラの部屋で、
トリィとも再会し、自分が降りた時そのままの部屋の様子に感激する。そして、その部屋を尋ねた
ミリアリアと話し合う。

「私が運んだNジャマーキャンセラーの情報から、こんな悲惨な戦いになったんだもの。
 自分が許されないことは分かってる。だから、戦いにも出たし、それで、もし、キラが
 私を許さないなら、それで仕方ないと思ってる」

「キラは許すと思う。キラもNジャマーキャンセラーの十字架を背負っているもの。
 キラが今乗っているモビルスーツ・フリーダム。あれはNジャマーキャンセラーが搭載された
 ザフトのもの。キラは、そのために、たくさん人を死なせてきた。自分でも手に掛けた。
 キラの手は血塗られていると、いつも嘆いていた。フレイのこと、いつも悲しんでた。
 フレイは怒るだろうけど、本当のことを言えないって」

「キラ…… 私、そんな訳無いじゃない」

「フレイ、そんなに悲しいことばかりじゃない。知ってる? Nジャマーキャンセラーって、
 人と人を繋ぐものでもあることを」
「え! どういうこと?」

「Nジャマーキャンセラーはね、Nジャマーの通信妨害も消すの。今まで、話もできなかった
 遠くの人とも話ができるようになるの。いつもキラと話ができるの」
「そんなの知らなかった。核を使えるようにするものだとばかり思ってた」

「使い方なの。どんなものも使う人によって変わるの。私は、早くからキラとNジャマー
 キャンセラーを使ってきたから、それが分かる。キラが飛んだ場所はしばらく通信ができるし、
 Nジャマーキャンセラー同士だと、無線が使えなくても、お互いの居場所が分かる。
 私とキラとを、いつも繋げていたの。多分、あなたでもできる」

「本当なの?」

「キラの使っている通信の暗号パターンを教えるわ。これで、キラと話できるはず」
「いいの、ミリアリア」

「うん、じゃないとフェアじゃ無いような気がするから」

フレイとミリアリアは、戦後、キラを、どちらがものにできるか張り合うことを約束し、
フレイはドミニオンに戻る。

その後、一向に攻略できないジェネシスに痺れを切らしたムルタ・アズラエルの命令で、
ドミニオンはプラントへの核攻撃のため、再び、アークエンジェルと袂を分かつことになる。

* * *

以上の箇所は、やりたいという意思はありましたが、それまでに大量のエピソードを、
こなさないいけなかったため、実際に人目にだせたかどうかは分かりません。

548ミリアリア・あの子許せない 作者:2004/05/21(金) 04:46
・「オーブ・フレイの心」「ザフト・赤毛の虜囚」
・「ミリアリア・あの子許せない」
・「コスプレ」(短編)

これらは、いずれも、私がTV本編最終回放映直後に投下した「クローン・フレイ」に繋がる
補完となり、全体として「真クローン・フレイ」というべきものを構成していました。

結果的に、この「真クローン・フレイ」でのヒロインは、フレイとミリアリアの二人となりました。
さらに、フレイのオリジナルであるメルデルのストーリーでは、メルデルは途中で亡くなりますが、
カリダに加えてヴィアも、フレイらと同じ時点まで生き残り、二つの時代のストーリーを繋げて
いくつもりでした。フレイだけでは話が進まなくなってしまっていました。

一人称小説でありながら、複数を並行させることで、全体をカバーしようとして、結果的に
群像劇となってしまったのが、私のSSが、この板にふさわしくなくなった原因でしょう。
他の方は、真似しない方が良いと思います。制作面でも、執筆の分量、関連する箇所の調整、
投下順序の決定など、いろいろと大変でした。でも、一つの事象を複数の視点で見ることで、
書いていて、本当に楽しかったのも事実です。

しばらくは、この板として、ふさわしい作品が、どんなものなのか静観させてもらいます。
私も、また、ふさわしい作品ができたと思ったら、寄らせていただきます。

私の拙い文章を読んでいただいてくれた方、ありがとうございました。

最後に、この「真クローン・フレイ」の終章として考えていたもののプロットを以下に掲載して
終わります。

● 真クローン・フレイ終章 「キザシとキザシ」

戦争が完全に終結してから、さらに数年が経ったある日。
一人の少女が停留所でバスを待っていた。その時、近くで待ち合わせをしていた少年に、
車で乗りつけた若い女性が声をかけた。その声に、振り向いた少女は、その少年が自分と
同じ名前であったことを知る。それをきっかけに話をし、二人とも空港に親を迎えに行くことを
知った少年は、同じ名前を持つ少女を車に同乗させた。
運転する女性を少年は、「ミコト姉さん」と呼んだ。

空港に着いた二人は、ゲートから、自分達の親が仲良く話しながら、連れ立って出て来るのに
目を丸くする。

「母さん?」
「お母さん、これ、どういうこと?」

「嘘、キザシが……」
「キザシ? えー、信じられない」

少年の名はキザシ。少女の名もキザシ。

キザシとキザシ。 キザシ(兆)とキザシ(萌)。
それは、かつての二人の物語の扉を開くパスコード。
二人のキザシが出会う時、新たな物語の扉が開くのか。それは、また別のお話。

549流離う翼たち・作者:2004/05/21(金) 21:59
とりあえず避難所の議論は目を通しました
他キャラへの配慮、という点では私もSSもファウルな気がしています
何しろ、ここから先でもキャラが死にますし、本編とは運命が変わる人も多いですし

そういうわけで、ここでの連載は諦め、個人サイトで続きを書くことにします
これまでどうもありがとうございました。

550私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 22:19
>>549
SSいつも楽しみに読んでたのですが、撤退本当に残念です。
あなたのSSのフレイ様や、キラ、カガリ、ラクス、アスラン
そしてオリキャラのキースなどなど、どのキャラも好感持てて
好きでした。(今も好きです)個人サイトでの連載は続けられる
とのことなので、そちらで拝見させてもらいます。お疲れ様でした。

551過去の傷・作者:2004/05/21(金) 22:26
皆様申し訳ありません、私の連載も打ち切らせていただきます。
皆様に迷惑をかけた時点で考えていたことでもあります、これまで私のような作者に付き合っていただきありがとうございました。
私のサイトはSEED関連ではありませんので、もしかしたら、大幅に内容を変えて連載の続きを投下するかもしれませんが。
最後に・・・ばれてしまいましたね、女ということ・・・実は私・・・ただのSEED好きな女子高生でした、すいません。

552私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 22:34
>>549
私もいつも楽しみにしていました。
個人サイトまで追っかけさせていただきます。

553私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 22:38
>>549
そうですか残念です、個人サイトまで見に行かせていただきます。
>>551
やはり続けるのには無理があるよね・・・でも本当に女だったとはね・・・女子高生だったのには驚きました、連載の続きいつでも投下してください、もう来ないかもしれませんが。

554散った花、実る果実51:2004/05/21(金) 22:41
「ラクス・クラインは利用されているだけなのです。その平和を願う心を。その事を、私たちは知っています。だから私たちは、彼女を、救いたい。彼女までを騙し、利用しようとするナチュラルどもの手から。そのためにも、情報を、どうか彼女を愛する人たちよ・・・・・・」
エザリア・ジュールの演説によって、ザフト兵の心理状況はいくらか安定しているようだった。最も、それは私にとってはありがたくはない、『反ナチュラル』という一言にまとめられるものではあったけれども・・・・・
「やっぱりなあ。あの優しいラクス様が、反乱なんておかしいとおもってたんだ。」
「ナチュラルどもめ・・・どこまで卑怯な手を使えば気が済むんだ!」
世評はここまで偏ったものではなかったようだけれども、「ナチュラルと戦う」という一つの目的をもったこの艦の中ではうまく統制がとれてきたようだ。

いつものようにクルーゼ隊長にお茶を入れていると、彼は何かのディスクを起動しているようだった。
「ほう・・・・」
彼は満足げに息をついた。
「あの・・・・・」
何か重要なものなのだろうか。
気になって問い掛ける私に彼は謎めいた笑みを浮かべた。
「フレイ・・・私はどうやら、今度こそ鍵を見つけたようだよ。」

彼が部屋を去ってから、私はデスクの引出しを開ける。
やはりディスクは持ち去ったらしく、引出しの中には入っていない。
その中には、見慣れた薬が無造作にしまわれていた。

「クライン派がさほどの規模とは思えんが・・・・・」
何故私はここにいるのだろう。何故私が作戦会議に参加しているのだろう。
意図の読めない会話が多い中、薄霞の向こうで会話が交わされているような錯覚を覚えた。
「奇跡の生還のヒーローだしな」
ふと私の耳に入った言葉に顔をあげる。
奇跡の生還のヒーロー・・・・砂漠の虎、私が直接知っているわけではないけれど、キラが一時期落ち込んでいた頃、それが砂漠の虎を討った時からだった、と後から知った。奇跡の生還・・・・キラが帰ってきてくれるのだったらよかったのに。
ありえないことだとわかりながら、私は願わずにはいられなかった。
砂漠の虎に対する一連の愚痴を封じ込めるかのようにクルーゼ隊長に口にされた一言が、物思いにふける私の意識を再度引きずりあげた。
「ましてや人が胸のうちに秘めた思惑など・・・・容易にわかるものではない」
胸のうちに秘めた思惑・・・・・その仮面の下に、彼はどんな思惑を秘めているというのだろう。
鍵って、何・・・?
呆然としている私にかまわず会議は進んでいく。
当たり前だ。私はここでは部外者なのだから。
しかし、なら何故彼は・・・・クルーゼ隊長は、私をこんな場所にまで連れてくるのだろう・・・・・
「イザーク!今度出会えばアスランは敵だぞ。・・・撃てるかな?」
アスラン・・・キラの友達だった・・・・・?イザークにとっても、そうだった・・・・?
「無論です!裏切り者など!!」
言い切る彼の瞳には悲壮な決意が満ちてはいたが・・・私はそれがいかに難しいことかを知っていた。
キラが、それでどれだけ苦しんだのか、それを一番近くで見ていたのは私だったのだから。
苦しみの連鎖は止まらない・・・どうしたらこの連鎖を断ち切ることができるのだろう。
どうしたら、戦争は終わるというのだろうか・・・・・

555散った花、実る果実52:2004/05/21(金) 22:43
部屋に戻るとクルーゼ隊長は深い息を付き、シートに沈み込んだところだった。
「疲れてるんですね」
声をかけると彼は微かに笑みを浮かべながら答えた。
「私とて生身の人間さ。戦場から戦場へ・・・ずっとそんな暮らしだ。軍人なのだから・・・といわれてしまえばそれまでだが・・・我等とて、何も初めから軍人だったわけではない」
その言葉にヘリオポリスの平和だった日々が思い起こされ、思わず私は目をそらした。
誰も初めから軍人だったわけではない・・・つまらない授業をきいて、放課後はジェシカ達と買い物に行ったりお茶をしたり・・・そんな何気ない日々がいかに愛しい日々だったことか。キラだって・・・・私が巻き込まなければ、あんなことには・・・・・・
「早く終わらせたいと思うのだがね。こんなことは。・・・君もそう思うだろう?」
思わず私は彼の顔を見た。
この人も、私と同じ気持ちなのだろうか。戦争を、早く終わらせたいと。そう、願っているのだろうか。
「そのための最後の鍵は手にしたが・・・・・ここにあったのでは扉はひらかん。早くあけてやりたいものだがね。」
彼の手のひらの上で、一枚のディスクがくるくると踊っていた──

戦況は、ますます複雑な状況になっているようだった。
アークエンジェル、エターナル(ラクスの乗っている艦らしい)、そして地球軍の艦が戦闘をしている、という事で、私はまた一人取り残され、鍵だと言って仕舞われたままになっていたディスクを見つめていた。
戦闘が始まれば、私にできる事は何も無い。
お茶を入れる、などと呑気なことをしている場合ではないし、非常時に掃除や洗濯をしてもいざという時邪魔になるだけだ。
だから、戦闘中は私にとって、一人でのんびりと出来る時間、とも言えた。
本当はそんな呑気なことは言っていられないはずなのだけれど・・・ザフトの戦艦はやはり機能が高いらしく、よほどのことがなければ、私のいる居住区まで戦闘の余波が及ぶことはないようだった。
戦争を終わらせる、最後の鍵・・・・・・・このディスクで何が終わらせることが出来るというのだろう。
このディスクの中には何が入っているのだろう。
見てみたかったが、もちろん私にその権限があるはずもなく、また、それを見るだけの・・・つまりロックをはずしたりするための技能を私は持ってはいなかった。
アークエンジェル・・・・・この宇宙のどこかに・・・・それも遠くない場所に、アークエンジェルがいる。
私はそこに帰りたかった。しかしまだ戦争を終わらせるだけの何かは足りず・・・私が帰れるだけの術も、何もなかった。
私はアークエンジェルにいる間、本当に何もできなかった。
もっとできる事があったはずなのに、今できる事があるって、そう気がついたことをアークエンジェルにいる間に気がつけばよかったのに・・・・
何も出来ず、何もせず、ただ人を傷つけてばかり。
キラのことも・・・・サイのことも・・・・・ミリアリアのことも・・・・・・・
私が何もわからず口にしたコーディネイターへの蔑視。そのおかげでヘリオポリスの皆がどれだけ傷ついただろう。
そんなことを考えていると、扉が開き、クルーゼ隊長が帰ってきた。

556散った花、実る果実53:2004/05/21(金) 22:43
「・・・・ぐ・・・・ぁ・・・うああ・・・・・う・・・ううう・・・・・・は・・・・・・ぜえっ・・・・ぜえっぇ・・・・・・」
彼は獣のようなうめき声をあげ、引出しをかき回すとむさぼるように薬を飲み、いつもの仮面を身につけた。
その様子は尋常ではなく、一瞬固まってしまったがやはり心配になって彼の傍に駆け寄った。
「アデス!ヴェサリウス発進する!モビルスーツ隊出撃用意!ホイジンガーとヘルダーリンにも打電しろ!」
「しかし!」
いつも冷静なクルーゼ隊長の人が変ったかのような物言いに驚いてか、それとも指示そのものに疑問をもったか、反論をする通信にクルーゼ隊長は言葉を荒らげる。
「このまま見物しているわけにもいかんだろう!あの機体、飛球軍の手に渡すわけにもいかんのだからな!」
「ですが!」
「私も出る!シグーを用意させろ!すぐブリッジに上がる!」
そこまで言うと、彼は強引に自らの息を整え、こちらを向いて不敵に笑った。
「ふっ、さて・・・・・君にも手伝ってもらおう・・・・最後の賭けだ・・・・・・扉が開くかどうかのね」
私は初めて彼に本気で恐れを抱いていた・・・何か・・・・・私はとてつもなく恐ろしいものと対峙しているのではないだろうか・・・


「ほら、乗れって」
促されて脱出ポットに乗せられたが、カメラもマイクも生きているらしく、機体の外で話すザフト兵の言葉が聞こえる。
「しかし、どうするんですか。この女。」
「さあな、また何かの作戦だろうよ。隊長の」
私はディスクを渡されたときのクルーゼ隊長の言葉を思い出していた。

「私も疲れた・・・・だから届けておくれ、最後の扉の鍵を」
先ほどの狂態がまるでなかったかのように、いつもの笑みを浮かべるクルーゼ隊長。
「それが地球軍の手に渡れば戦争は終わる」
「えっ・・・」
私はクルーゼ隊長への恐れを忘れ、思わず彼の顔を見返していた。
しかしその瞳は仮面に隠れて見えず、彼の心を伝えることはなかった。
・・・でもこれで、戦争は終わる。
早く終わらせたい、彼は以前にもそう言っていた。
信じよう、彼の言葉を。戦争を終わらせたい、と言った彼の思いを。
そして、戦争を終わらせるためにできる事、初めて私はそのために働くことができる。
一つでも、私にできることを。その決意を胸に、私はこのディスクを地球軍に届ける事を心に決めたのだった。

「地球連合軍軍艦アークエンジェル級に告げる」
戦場に、静かに私の運命を決める声が流れる。
「戦闘を始める前に、本艦で拘留中の捕虜を返還したい。」
これで戦争が終わる・・・・パパを、キラを奪った戦争が・・・・・・・皆を悲しみに沈めた戦争が、これでやっと終わるのだ・・・・・
リア・・・見ていて・・・・私にもできる事があったの・・・・・このディスクを地球軍に届ければ戦争が終わる・・・・・・
私は、そっと、目を閉じた。

557散った花、実る果実/作者:2004/05/21(金) 22:50
私は一応投下を続けさせていただきます。物語の終盤も近いことですし。
ただ、今までは感想も一緒にUPしていたのですが、作者同士の感想が多いという事もとっつきにくい原因になっていたようですので、以降は感想は無名であげさせていただきます。

今回、楽しみにしていた作品がいくつも連載中止になってしまって悲しいですが、これもしょうがないことなのかもしれませんね。
流離う翼作者様、ザフト・赤毛の虜囚者様、過去の傷作者様、今までお疲れ様でした。
最後まで続けるかわかりませんが、私はもうしばらくここに残らせてもらおうと思っています。
お互いに気がつかないでしょうけど、どこかでまたお会いできるといいですね。

558私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:04
>> 散った花、実る果実
メンデルコロニーの1コマですね。フレイ様はポッドで射出されて、さて原作通りにドミニオンへ渡るのでしょうか?
ドミニオンに移ったら今度はリスティアの居るプラントを核で狙うわけで、心中穏やかではないでしょうな

すいませんです、流離う翼を出来ればこっちで完結させたかったのですが、やはり死亡するキャラのファンには不快感を与えてしまうでしょうし、一部キャラもギャグ化してますから、テンプレ違反と判断したんです
勿論投げ出す気は無いので、サイトでは完結させるつもりです。こちらにはまた短編などを出す気です
暫くは一読者として読ませて頂こうと思っていますので、どうか頑張って完結させてやってください

559私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:09
>>549
それは残念です・・・。
>>551
続けてください!私はいい作品だと思ってますから、お願いします!また明日から来て!!!

560私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:15
>>549
貴方の作品が新テンプレにファウルになるとは思えなかったんですが、
サイトで発表されるということでしたら、
そちらにお伺いさせていただきます。
力強い作風で、情景、人物などの描写が素晴らしいと憧れていましたので。
続きを楽しみにしています。
これからも頑張ってください。

561The Last War・作者・お詫び:2004/05/21(金) 23:15
 避難所にて皆さんの議論を生還させて頂き、あれからじっくり考えました結果、まことに勝手ではありますが、自分のSSも連載を休止させて頂くことにしました。正直にお話しますと、これから先本編のキャラがオリキャラの噛ませ犬になりかねないような状況もありましたので。
 今まで自分のSSを呼んでくださっていた方々、本当に有難うございました。これからもこのスレで素晴らしい作品が生まれることを願っております。失礼致しました。

562私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:25
>>561
残念。お疲れ様でした。
自分のサイトで続きを書いたりはしないんですか?
もしするなら是非読みたいんですが。

563過去の傷・作者:2004/05/21(金) 23:27
>>559
あ・・・ありがとうございます・・・でも時間をください、まだいろんな心の準備とかありますので。
それに今はそういうこと考えたくないんです、とにかく打ち切りにした以上はそのままです、期待にそえなくてすみませんが・・・。

564私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:34
>>563
そう言わずに・・・出来ればまた作品が読みたいんですよ・・・。
それに中途半端な終わりでしたから。

565私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:35
まあ当人が時間をと言ってるんだから汲んであげなよ。
お疲れさまでした。

566私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:43
お疲れ様。

567私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:49
>>561
ええっ、あなた様も休止ですか!!戦闘シーンが多めで
中々読みごたえあって私的にヒットだったのですが。
えっと、個人サイトは持ってなかったですよね?(違って
いたらごめんなさい)一読者として続き読みたいです。
うーん、こういうとき匿名掲示板は連絡が取れなくて不便だ・・・。

568私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:53
>>564
作者さんの罪悪感を煽る発言はやめれ。

569私の想いが名無しを守るわ:2004/05/21(金) 23:55
>>561
失礼かもしれませんが、半分オリジナルとして楽しませてもらってました。
ひそかに本編でこんなキャラいたら面白かっただろうなと思いつつ。
>>567
じゃありませんが、こちらでなく違う場所での発表をお考えでしたら
ぜひお知らせくださいませ。
とりあえずはお疲れ様でした。

570567:2004/05/22(土) 00:05
肝心なことを言い忘れていました。

今までいっぱい楽しませてもらいました。
いつかどこかで作品発表されることがあった
時には、お知らせ下さったら嬉しいです。
本当にお疲れ様でした。

571私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 00:56
こちらで連載を打ち切った方でHP等で続きを掲載されるかたはせめてそのURLとか
どこぞに残してもらえませんか?
無理なお願いかもしれませんが、完全打ち切りで無い以上、続きを楽しみにしている
読者への配慮も少しだけしていただければと思います。
ここで晒すのがまずければ、フリーメールアドレスでも一つ作って頂いてそこに
メールよこせでも良いので何か対応していただけると助かります。

572私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 01:13
ググれば分かるだろ。
あんまり手間取らせるようなことするなよ。

573私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 01:34
>>572
検索すればいいの意見には同意だけど、もう少しやんわりと
言ったほうがいいのではないでしょうか?

574私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 01:44
二次創作をぐぐればわかるようなところに置かれても正直困るわけだが・・・
というか職人さんだってしないだろ。

575私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 01:46
>>572
ググッて出てくるという保証は100%ですか?貴方が保証してくれるのですか?
まともそうな事を書いていてその裏に見え隠れする貴方の悪意には呆れます。

576私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 02:25
あ〜、喧嘩を売るような書き込みはよそうよ。

>>574
タイトルで検索したら引っかかることはある。

>>575
100パーセントとはいえないけど。>>572の吐き捨てる
ような言い方も問題だけど、あなたの言い方も穿ちすぎな
ように取れるので気をつけたほうが良いと思います。

577私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 02:27
>>575
私は572ではありませんが一言。
続編を明言された方のものは少なくともMSNサーチだったら確実に検索できますよ。
ご自分で一回検索してみましたか?
やってみてできなかったのであれば上記の書き込みもやむを得ないと思いますが、試さずにそういう発言をするのはあなたも感心しませんよ。
572の言い方もよくなかったかもしれませんが、あなたの書き込みも場を荒らす嫌な雰囲気を作るものです。
同じ事を言うのでも言い方を変えるだけで印象は随分違います。
お互いに気をつけるようにしたいですね。

578私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 02:37
>>576
いやその、だから引っ掛かったら困るから引っ掛からないようにして欲しいなと・・・日登だし
まあその辺は職人さんの良識に期待するっきゃ無いけど。

579私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 03:50
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
フレイ(♂)様大活躍。一応、二人を捕まえたものの、振り回されたアスランは可哀想に……
私は断念しましたけど、ぜひ、これからも投下を続けてください。

>>散った花、実る果実
投下続けられるということでなによりです。作戦会議での部外者的な描写良かったです。
他の部分も本編のストレートな雰囲気が伝わりました。やはり、私のは改変しすぎなんでしょうね。
この作品は、私と近い本編の時点を扱っていたこともあり、ずいぶんと私の製作意欲の助けになりました。
最後まで続けられること期待しています。

>>流離う翼たち
こちらでの投下中止残念です。キースがスーパーマンでは無くなったこれから、やっと親しみが持てるかも
しれないと思っていました。感想では、いろいろ失礼なことを言ったこともあり、お詫び申し上げます。
続きは、個人サイトの方で拝見させていただきます。

>>The Last War
連載中止残念ですが、決められたことですから仕方ありませんね。また、いつか作品を拝見できること
期待しています。

>>過去の傷
連載中止本当に残念です。私は楽しませてもらいました。最後に貴殿のミリィに、以前感想に書いたと同じ
声援を送らせてもらいます。「金髪さんに負けるな」

>>578
件(くだん)のは、私も題名で見つけましたが、やはり難しいことですね。うちのような模型のサイトに
関することでも、あのアナウンスは、結構、騒ぎになりましたし。

580私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 09:46
>>流離う
あなたの作品に文句を言っている人を見たことが無いが
個人サイトはブクマしてるので、そちらに伺いますよ。

>>キラフレ
アスランに笑った。さすがフレイ様。
一体いつ録音したんだろう…?

>>散った〜
とうとう46話か、期待しています

581私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 10:03
>>551
女子高生職人さん〜♪また来てね!

582私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 10:48
>>581
そういう茶化かしたような言い方しちゃダメだって。ワザとですか?

583私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 11:31
>>581 お前最低だな

584私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 17:41
>>576
物言いに対して指摘するのも結構だけどさ、喧嘩を売る真似しているのは572ではないかと。

それから検索に関してはどうかとも思われるMSNの検索で出てくるレベルだと
実際他の方も書いてるけど、検索で引っかかるレベルで公開しているとチェックを食って
結局と言う部分もあるから、ある程度地下に潜る必要性あるかもしれない。
となると職人さんの判断とは言え、上手く検索できない人の為に読みたい人への道
しるべ位残してと言うのも間違ってないですな。

最近の傾向として検索しろで片付ける人が多いけどそういう人って結局、その裏に
ある部分まで考えてない思慮の浅い人も居るのではないかと思ってしまうね。
これ以上はスレ違いなので

585私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 23:27
>>584
>物言いに対して指摘するのも結構だけどさ、喧嘩を売る真似しているのは572ではないかと。

相手が喧嘩売ってるからって買ってたら板が荒れますよ。そういうことを容認する発言もあまりよろしくはないのでは。
なるべくスルー、または、喧嘩を買うような書き方ではなく、別の書き方をしたほうがいいと思います。

HPの公開に関しては難しい面があると思うのですよ。
職人さんのHPが荒れる可能性を高めることになるのですから。
なので検索できる状況なら検索を勧める事は間違っていないのではないかと。(検索できる状況がいいかどうかはまた別の話ですが)
もちろん検索が難しい状況なら話は別ですが。

586私の想いが名無しを守るわ:2004/05/22(土) 23:46
ここはSSスレですよ、と。

587私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 03:23
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
再開していただけて嬉しいです!
無人島エピソードは本編でも気に入っていた所ですので。
フレイ様無敵かも。
次投下を楽しみにお待ちしております。
>>散った花、実る果実
同様に再投下ありがとうございました。
こちらも続きが気になっていたので、最後まで拝見したいです。
個人的には、空白の数ヶ月のフレイ様が読めると嬉しいです。
>>流離う翼たち
こっそり追っかけさせてくださいませ。
最後が気になるSSですので、付いていきます!

他の職人さまも、今までお疲れ様でございました。
今後のご活躍をお祈りいたしております。

588SSスレpart5 中間目次:2004/05/23(日) 15:38
500 越えているので、中間目次作成しました。今回、終了状況も追記しています。

新テンプレ >>518
>他のキャラへの配慮を忘れずにお願いします。キャラへイト・他キャラへの配慮が足りない、
>と思われるSSはこちらではなく個人サイトでどうぞ。

ミリアリア・あの子許せない >>3-4>>105-106>>115>>121>>127>>131>>139>>143>>148
                 >>155>>161>>254-255>>264>>271>>283>>288>>298>>310
                 >>317>>322>>326>>331>>537 終了

流離う翼たち >>6>>14>>27>>41>>48-49>>56>>65>>75>>79>>94-95>>109>>117>>123
         >>133>>145>>151>>157>>163>>194>>200>>205>>214>>225>>231>>236
         >>246>>252>>261-262>>275>>281>>286>>295>>302>>308>>315>>320
         >>329>>334>>343>>361>>370>>378>>385-386>>392>>408>>424>>437
         >>444>>472>>510 個人サイト移転

過去の傷 >>8>>19>>28>>36>>43>>51>>58>>68>>77>>84>>97>>111>>119>>125>>129
       >>135>>141>>147>>153>>158>>165>>169>>189>>198>>204>>212>>220
       >>227>>234>>238>>241>>250>>258>>266>>273>>277>>285>>291>>300
       >>304>>312-313>>319>>324>>328>>333>>338>>342>>347>>358>>360
       >>365>>368>>377>>383>>389>>391>>396>>402>>416>>419>>431>>439
       >>452>>476>>480>>493-494>>500>>508>>512 終了

リヴァオタと八アスのためでなく >>10>>21>>25-26>>251>>257>>267-268>>274>>293

刻還り >>11-12>>99>>101-102>>113

散った花 実る果実 >>16-17>>60>>100>>186-187>>397-398>>404-406>>420-421
             >>463-464>>502-503>>554-556

The Last War >>23>>35>>67>>137>>210>>233>>269 終了
※ The Last War・Inside は The Last War に含めました。

ザフト・赤毛の虜囚 >>31-33>>38-39>>45>>53-54>>62-63>>71-73>>79>>167>>172-173
             >>184>>196>>202>>207>>217>>222>>228-229>>239>>243-244
             >>248>>336>>340>>345>>356>>363>>366>>375>>381>>400
             >>414>>417>>428>>446>>474>>491>>496 終了

白い羽 >>81 完結

キラ(♀)×フレイ(♂) >>85-92>>175-183>>348-355>>483-490>>519-524

ヘリオポリス・1.24〜 >>190-192>>259

『明日』と『終わり』の間に >>314>>339>>371>>380>>411-412>>477 完結

SEED if 〜Fllay Selection〜 >>441-442>>481

589私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 22:35
>>赤毛の虜囚/ミリアリア
一人称語りについては過去の傷の作者さんへの批判をした時
過去の傷さんへのアドバイスとして想定していたのは(SS書い
たこともないのにエラそうですが)こちらのSSでした。会話
中心のSSへの物足りなさは少なくとも貴殿の書かれた「赤毛〜」
「ミリアリア」の両作品からは感じることなく、とても楽しく
読ませてもらいました。プロットを見るといろいろ面白い展開が
あるようで残念です。
「故障して放置されたM1アストレイに乗り、カラミティを加えた
3Gに一人立ち向かう」←個人的にはこれは激しく見たかった。
>>流離う翼たち
スレ史上最長の連載で他の方が投下されていない間投下されたり
してスゴイ筆量に毎度驚いておりました。私自身は押しの強い
オリキャラにどうも馴染めなかった部分もあったというのが正直な
ところでしたが、どなたかも書いていたようにキースの動きはちょ
っとこれから面白くなりそうだったし、他のSSよりもポジティブなフ
レイ様が見れなくなり投下中止は本当に残念でした。しかしこれか
らもサイトで投下していくとのことなので楽しみに読ませていただきます。
>>過去の傷
以前に何度か批判を含めて感想を書きましたので、特に書くことはありま
せんが、せっかくあれだけコンスタントに投下していたのですから、これ
からも良いアイデアができ、かつこのスレが存続していたらぜひ投下して
ください。楽しみにしています。
>>The Last War 
オリキャラの運用で色々差し支えがあるとのことで、なんともこればかり
は見てみなくてはわかりませんが、こればかりは職人さんの決めること
でしょうから…といいつつも残念です。個人的にはちょっとキンケドゥっぽ
いお兄さんなアスランの描写が気に入っておりました。

投下終了の職人様方、お疲れ様でした。

590私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 23:02
いや過去の傷さんはあれだけ言われたからにはもう戻ってこられないだろ、589も含めて可哀相なくらい批判の嵐が凄かったからな。
あ、勘違いするなよ俺は過去の傷さんを掩護してるわけじゃないからな、思った意見を言っただけだ。
それから職人の皆さんお疲れ様でした、また投下お待ちしてます。

591私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 23:07
>>590
589は批判ではないと思うが・・・。

592私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 23:09
>>591
いつもの人だよ。
スルーしとけ。

593私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 23:12
>>591
いや589も批判していた一人だったと言うことさ。
ていうかもう掩護に近いレスは俺で終わりね。
これで最後です、だから過去の傷さんに言い足りない奴は勝手に言えばいいさ・・・589もね。

594591:2004/05/23(日) 23:14
>>592
了解、ここのスレの意味理解してないのが何人かいるんですね、一人じゃないと思うけど・・・どうでもいいか。

595私の想いが名無しを守るわ:2004/05/23(日) 23:30
SSの投下・感想以外の意見・要望は議論スレでお願いします。
SS職人さんに対する妨害行為になりかねませんので。

596帰還:2004/05/26(水) 00:46
「ほらアルスター、自己紹介をするんだ」
「あ、ハイ」

ナタルに肩を押され、フレイはおずおずと
士官らの訝しげな目の前へ歩み出た。

「フレイ・アルスター…二等兵、です」

白い士官服の並ぶ中で、赤い髪と緑のザフト服はひときわ鮮やかで…
それは美術品のような、現実離れした姿であった。
戦艦という殺風景な特殊を敢えて現実と呼ぶならば、であるが。

「…アルスター、って…」
「彼女は」

政治にある程度通じた者がいたのだろう、かすかな呟きがもれたのを察して
ナタルはすかさず口を挟んだ。

「故アルスター事務次官の娘だ」

故、という言葉にフレイは僅かに肩を震わせる。
それを知ってか、励ますようにナタルは一段と声をはりあげた。

「やむをえぬ事態を除き、礼を失する事のないように。よいな」
「は」

乗務員は歯切れよくそれに応えた。

「彼女について、詳しい処遇などは追って知らせる。散開!」

揃った敬礼の後、乗務員らは各自の持ち場につくべく散ってゆく。
それを見届けて、ナタルはフレイへと振り向いた。

「アルスター」
「…はい」
「ご苦労だったな。…疲れただろう」
「は…あ、いえ」

フレイは少し縮こまる様にして返事を返す。
ナタルはそれを見、小さく口元を綻ばせた。

「私の部屋へ来い。まずは休むといい。着替えも必要だろうしな」
「…」

先に立って進もうとしたナタルだったが、フレイがついて来ない事に気付き
不思議そうに振り返る。

「どうかしたか」
「いえ。…そのう」

フレイはうつむいた。

「さっきは、すみませんでした」

ナタルは暫し記憶を巡らし、ああ、と思い当たる。
この少女は、先ほど何の挨拶もなく泣きついた事を、詫びているのだろうか?
ひどく殊勝なその口調に軽く驚きながら、ナタルは口を開いた。

「…気にすることはない」

いささかぶっきらぼうな言葉が出る。
このような時どう言えばいいか、ナタルはよくわからないのだった。
だがそれが、フレイには嬉しかったのだ。
彼女の顔がようやく緩み、微かに赤みがさした。

「…」

ああ、バジルール中尉だ。なぜだかそんな実感がやっとわいたのだ。
昔から、遠目にも、厳しくて、怖かった中尉。
この突き放すような、ぎこちない語調は、アラスカで手を引いてくれた時と同じ。
本物の、中尉。
私の知ってる…アークエンジェルの、副長。
キラがいて、サイがいて、ミリィがいて。
艦長。ノイマンさん。マードックさん。整備士のみんな。…
そんなあの頃の欠片が、ここにある。

少し違うけれども、よく似たこの通路。この手すり。この照明。
ここは、私の知っている世界だ。それはとても、僅かでしかないけれども。
私は。
帰ってきた。

「…アルスター?」

フレイはまた、我知らず泣いていた。

597596:2004/05/26(水) 01:20
突発ですが、フレイ様に会いたくなったため書いてしまいました。
特にメッセージやプロットはないので、続くかもしれないし続かないかもしれません。
お目汚し失礼いたしまするる。

598私の想いが名無しを守るわ:2004/05/26(水) 01:27
ガンバレー(・∀・)
桑島姉妹ハァハァ

599散った花、実る果実54:2004/05/26(水) 22:40
既に外では戦闘が始まっているようだった。
「私が出たら、ポットを射出しろ」
そう言い放ちすぐクルーゼ隊長は出撃したらしく、私はまもなく宇宙へと放り出された。
宇宙服を着てはいるものの、姿勢の安定せずくるくる回る脱出ポットに私は怯えていた。
窓の外にはきらめく何色もの光。
あの一つ一つが命を消すための恐ろしい力を持った光なのだ。
私は・・・私は今まで何もわからず戦場にいたのだと知った。
何度となく考えた思いが再び私を襲う。
私は、なんてひどいことをキラに強いてきたのだろう。
戦って、戦って、戦って死ねばいい、なんて・・・・こんな恐ろしい場所でキラは戦い、ずっと私たちを守ってくれたのだ。
でも、今はそんなことを考えている余裕もなかった。
私の乗っているポットを回収しよう、という動きは今のところ全く無い。
私はさっきまでの決意すら忘れてただ助けを求めた。
「アークエンジェル!アークエンジェル!!」
私はとにかく必死で呼びかけた。
「お願い。アークエンジェル!!」
どのボタンがなんだかわからないまま、私は必死であらゆるボタンを押した。
「アークエンジェル!私!私ここ!!」
めちゃくちゃにいじったボタンのどれかが通信ボタンだったらしく、通信のランプが点灯した。
「フレイです!フレイ・アルスター!!」
私がわからないのか、戦闘中でそんな余裕がないのか、返答はない。
「サイ!マリューさん!誰か!!」
思いつく限りの名前に呼びかけ、必死で助けを求める。
「やめて、もうやめて!!」
窓の外に映る恐ろしい戦闘に耐え切れず私は叫んだ。
怖かった、耐え切れなかった。
「か・・・鍵を持ってるわ、私。戦争を終わらせるための鍵・・・・・だから、だからお願い!!」
私は必死だった。初めて自分が命の危険にさらされた戦場にいるという実感を持ち、それゆえの恐怖で他のことは何も考えられなかった。
しばらくしてせわしなく回転していたポットの姿勢が固定され、見慣れぬMSによって私は回収されたのだと気がついた。
とりあえずの身の安全を確保されたのだと思い、私は安堵のあまりこらえていた涙を流した。
と、その時、信じられない声が私の耳に届いた。
「フレイ・・・・・フレェイー!!!」

「キラ・・・・・」
信じられないまま、私はつぶやいていた。
「フレイ!!」
呼びかけてくる声は、間違いない、キラのものだった。
モビルスーツは、ストライクに酷似していたけれど、破損したらしく首がなかった。
「キラ・・・・嘘・・・・・・」
MIAだって・・・・キラは死んだって、そう言ってたのに・・・・
「下がれ、キラ!その状態で、一人で敵艦に突っ込む気か!」
そう言って紅いモビルスーツがキラの機体を捕獲する。
「僕が傷つけた・・・・僕が守ってあげなくちゃいけない人なんだ!」
さっきまでとは違う種類の涙が私のほおを濡らした。生きていてくれた・・・・キラ・・・・
しかしキラの叫びもむなしく、キラが乗っていると思われたモビルスーツは紅いモビルスーツに連れられ、遠ざかっていく。
「キラ・・・・・キラぁ・・・・・っ・・・・・」
いくら叫んでもキラは戻ってこなかった。・・・・でも戻ってきたとしてもあのぼろぼろのモビルスーツではキラに危険を及ぼすだけだ。
でも・・・・・呼ばずには、いられなかったのだ・・・・・

600散った花、実る果実55:2004/05/26(水) 22:40
「へえー、君がぁ」
スーツを着た、戦艦には似つかわしくないような、男の人が私を覗き込むように言った。
この人・・・ムルタ・アズラエル?
「で、鍵って何。本当に持ってんの?」
恐る恐るディスクを差し出すと、当然のようにそれを受け取り、検分した。
「なんだか本当ぽいじゃない?で、誰に渡されたの?」
「クルーゼって隊長・・・・仮面をつけた・・・・・・・」
「ふーん」
そのまま彼は鍵を持ってその場を去っていった。
すると、シートからこちらに向かって知っている人がふわり、と向かってきた。
「バ・・・バジルール中尉!」
「久しぶりだな・・・・フレイ・アルスター・・・・大丈夫か」
久しぶりにかけられた優しい言葉に、私はしらず抱きついて泣き出していた。
「うっ・・・・・うぅー・・・・バジルール中尉・・・・・・・・」

落ち着いた私は、バジルール中尉に連れられて、個室へと案内されていった。
「まずは少し休め。これからのことは・・・・一晩休んでから考えよう。・・・・つらかっただろう」
不器用なバジルール中尉の優しさに、私は再び涙を流した。
「着替えも置いておく。この部屋にはシャワーもついているから良かったら使うといい。まずはゆっくり休むことだ。」
「バジルール中尉っ・・・・私・・・・」
「少しでいい、眠った方がいい。ザフトでは、心の休まる暇はなかっただろう?」
私はバジルール中尉の心遣いに甘えて、一晩休んでから私の決意を彼女に伝えることにした。

601散った花、実る果実56:2004/05/26(水) 22:41
「私を、ブリッジで使ってもらえませんか」

バジルール中尉は・・・いや、少佐は(昇進したのだそうだ)まさか私がそんなことを言い出すとは思っていなかったらしく、目をみはった。
「フレイ・アルスター・・・・・」
「私・・・・考えたんです。何をしたらいいかって。バジルール少佐は、私が軍に志願したときの事をおぼえていらっしゃいますか?」
「覚えている・・・しかし・・・・・」
アークエンジェルにいた頃の私は、ただの雑用係でしかなかった。
しかもそれもしぶしぶやっていたに過ぎなかったし、おそらく態度にも出ていたのだろう。
真面目なバジルール少佐がそれを快く思うはずも無い。
「私・・・・・、アークエンジェルにいた頃は何もできなかった。いいえ、しようともしなかった。私、あの頃、ただ父を殺したコーディネイターに復讐がしたかったんです。パパを殺したザフトと・・・・見殺しにしたキラに。・・・いえ、今ではちゃんとわかってます、・・・本当はあの時も分かっていて考えないようにしていたのかもしれない。・・・キラのせいじゃない。少なくともキラを責めるのは間違ってるって」
バジルール少佐はただ真剣な表情で聞いていた。
「でも私・・・知ってますよね?私が自分の体を、偽りの恋をキラに与えて戦わせていたのだっていう事を。・・・バジルール少佐は軽蔑なさるかもしれませんが・・・・・」
「知っていた」
そう語るバジルール少佐の声は苦いものだった。
「だが、それでいいとも思っていた。ヤマト少尉の戦力なくしてあの時のアークエンジェルが無事に済むとも思えなかったし・・・卑怯な手段を講じようとしたのは私も同じだ」
「バジルール少佐?」
「私は、『両親の身柄を確保してでも・・・』そう艦長に提案した。尤も、そのような提案が通すような人ではなかったがな」
苦笑するバジルール少佐の表情に、どこか懐かしげな影が宿る。
「私は、戦争を終わらせたい。あの時は・・・・あの時、バジルール少佐に話した言葉は嘘じゃないです。でも、甘えもあったし、本当に何も分かってなかった。今も何もわかってないのかもしれないけど・・・・」
「そうだろう。・・・やめた方がいい。戦場は、甘えの通る場所ではない。月基地に戻りなさい。どうせこの艦は補給のために一度月基地に戻る。その時にお前も降りればいい」
「いいえ」
私はもう、決めていた。
「私が持ってきた、戦争を終わらせる鍵って、なんですか?私はまだ教えてもらってない。」
「あれは・・・・まだ、公表されていない。・・・アズラエル理事が、何かなさっているのだろうが・・・・」
もう、自分のおこした行動を投げ出したままなんてことはしない。
「私が持ってきた鍵です。・・・最後まで見届けます。これで月基地に帰ってしまったら私、アークエンジェルにいた頃と同じ事になってしまう。口先だけ立派なことを言って、あの時は結局皆を巻き込んでしまっただけだった。私、もうそんな無責任なことしたくないんです。」
「・・・・いいのか?ここにいたら、アークエンジェルと敵対することになるんだぞ?」
それは私も考えた。でも、ここを離れたら2度と会うこともできない。
「でもここを離れたら2度と会えない。・・・軽蔑しますか?それでも、一瞬だけでも・・・・・キラに会いたい。会って、ごめんねって・・・・・」
思わず一筋だけ零れ落ちた涙を、バジルール少佐がポケットから取り出したハンカチで押さえてくれた。
「では、・・・・通信席に、座るか?通信士の研修なら・・・おそらく次の作戦行動までに間に合うだろう。それに・・・・一言でも、言葉の交わせるチャンスがあるかもしれない。」
「バジルール少佐・・・・・」
「私とて、できればアークエンジェルを沈めずにすませたい。・・・だがこれが任務だ。しかし、もし誰かの呼びかけでアークエンジェルが投降に同意するなら・・・・命だけでも助けることができるかもしれない。ヤマト少尉も、お前の呼びかけになら応じるかもしれん。」
正当な理由をつけるふりをして、バジルール少佐が大目に見てくれているのがわかった。
アークエンジェルにいた頃は、こんなに融通の利く人だっただろうか。でも、とにかく今は彼女の優しさが嬉しかった。
「ありがとうございます・・・・・」
「しかし、最悪演じることになるのは殺し合いだ。その時は・・・・・覚悟を決めなさい。」

602私の想いが名無しを守るわ:2004/05/27(木) 08:27
期せずして、同じ時点の競作ですね。

>>帰還
ナタルらしい軍人としてのやりとりと、ドミニオンの通路の様子にアークエンジェルを感じる
フレイ様の心情が良かったです。

>>散った花、実る果実
救命ポッドで、キラが生きていたことに気づくシーン。これだけは初めて見た映像の衝撃を
中々凌駕できない気がします。同じ書き手としては歯痒いですけど。

鍵を見届けたい…… その言葉に強くなったフレイ様を感じました。
通信士の設定。本編では、あまり活かせなかったと思うのですが、うまく使えるといいな
と思うのはワガママでしょうか。

603さよならトリィ 1/8:2004/05/30(日) 09:23
[ほらね……]

トリィは、なぜか私になついていた。私の心をなごませた。寂しい時、勇気づけてくれた。

トリィのことを初めて意識したのは、ヘリオポリスからの脱出ポッドがアークエンジェルに
拾われた時。ポッドから助け出された時、私の目の前に飛び込んできた。
そして、それが飛んできた方向には、その時はサイの友達という意識しかなかったキラがいた。
私はザフトに捕まったと思っていて、不安が一杯だった時、知っている人を見つけて思わず
胸に飛び込んだ。私の周りを飛び回るトリィは、私の心を安心させるために導いてくれたような気がした。

それから、サイに再会して、しばらくはトリィのことは忘れていた。そして、パパが死んで……
私は暗い想いに囚われて……

次にトリィに会ったのはキラの部屋。折り紙の花を手に声を上げて泣き続けるキラ。それに、
暗い笑みを浮かべながら、偽りの言葉をかける私。

「私の想いが、あなたを守るから」

その時の二人をトリィは静かに見ていた。

* * *

「もう誰も死なせない」
まるで、私のことなど気にかけないように自分に呟いて飛び出して行くキラ。でも、それで良かった。
あなたは、戦って戦って死ぬのよ。じゃないと許さない。目に涙を浮かべながら笑った。
体の痛みと、心の痛みが私を苦しめた。もうどうにでもなれと思っていた。

<トリィ……>

私の目の前に、いつの間にかトリィがいた。涙を浮かべる私を、薄暗がりの中でジッと見つめていた。
まるで、私を心配している。そんな素振りで……

「私、馬鹿ね、馬鹿よ……」
<トリィ……>

「惨めだわ…… 嘲笑(わら)ってよ……」
<トリ……ィ>

私は身を起こした。乱れた髪と匂う体が急に気になってきた。

「シャワー浴びて来る……」
<トリィ>

私は、トリィ話しかけるようにシャワー室へ立った。熱いシャワーで洗われて、さっきの
痛みと嫌悪感も少し薄れて、放心したようにベッドに腰かける。

<トリィ、トリィ>
トリィは少しさっきより、はしゃいでいるようだった。部屋を飛び回っている。
その時、部屋がズンと揺れた。ザフトの攻撃?

<トリィ! トリィ!>
トリィは慌てたように羽ばたいて、ベッドの私の近くにとまる。それに、私は独り言のように呟く。

「大丈夫…… あの子が守るから…… 私を守るから……」
さっきとは違い、まるで熱に浮かされるような恍惚感に支配されてベッドに体を倒す。

トリィは身を寄せてきた。震えるように動くトリィに手をかけて、その動きを感じながら、
私は、なぜか優しい気持ちになる。

やがて、部屋の振動は止まった。

「ほらね……」

私は安堵に包まれて、トリィの動きを掌に感じながら眠りに落ちた。さっきの、惨めな気持ちが
嘘のように安らかに……

604さよならトリィ 作者:2004/05/30(日) 09:26
どうも、元「ザフト・赤毛の虜囚」「ミリアリア・あの子許せない」の作者です。
とりあえず何か書かなければと思って、出来上がったのがこれです。
本当は、もっと明るい話が良かったのでしょうけど、私、こんなのが好きですので。

まだ、仕切り直したスレに、ふさわしい作品が掴めていないこともあり、創作部分はできるだけ
押さえています。基本的には史実に従っていて、トリィの設定もTV本編通りとしています。
その上で、他の登場人物はキラを始めとして、台詞を極力少なくしています。

ただし、本題となるフレイとトリィの会話事体は、TV本編には、ほとんど存在しないのと、
短編内での整合性を取るためにフレイの心情の流れは、若干、創作しています。

全8話の短編で、一度に投下しても構わないのですが、1話ごとにシーンが変わりますし、
スレの活性化を願って、1日1話ずつ投下します。以降、最終話投下まで、コメントは付けません。
SSのみ、1話ずつ投下しますのでよろしくお願いします。

605私の想いが名無しを守るわ:2004/05/30(日) 23:59
がんがれ。
期待してるぞ。

606さよならトリィ 2/8:2004/05/31(月) 06:26
[トリィ、お留守番ね]

夜、キラの部屋へ通うようになった。同室のミリアリアの目が徐々に厳しくなる。
でも、私のやってること、誰にも文句なんか言わせない。

キラの部屋。キラは仕事から帰っていなかった。キラと二人で決めた勝手知ったパスコードでドアを開ける。
ドアを開けた途端、トリィが私に飛びついて来る。

<トリィ…… トリィ>
「トリィ、お留守番ね。先にシャワー浴びちゃおうか」

頭に乗って来るトリィを手に乗り移らせて、ベッド端にとまらせながら、私は服を脱いで
シャワーを浴び、体に高級石鹸の匂いをまとわせた。髪をバスタオルで拭きながら、ベッドに
座りトリィに話しかける。

「キラのやつ、遅いわね。せっかく、私が来てやってるっていうのに……」
<トリィ、トリィ>

「でもキラって、いやらしい。あんなヤツとは思わなかった。いやらしい、いやらしい」
<トリィ?…… トリィ! トリィ!>

私はキラへの想いを口にする。トリィは、首を傾げ不思議そうな顔をしながらも、私の
意見を肯定するかのように返事をして聞き耳を立てている。トリィが私のことを
他に喋ることは無いから、私は、ここに一人だと思い切り自分の心を打ち明けられる。
私は、この部屋だと心が解放される。

やがて、キラが帰ってきた。

<トリィ!> トリィが喜ぶようにキラに飛びつき、キラの指の上に乗る。
「キラ、お帰り」 私は、意識的に優しい声を作りながらキラに話しかける。
「フレイ! ただいま…… 来てたの」

「ええ、キラ疲れてる? 迷惑じゃなかった?」

その少し前、サイが懲罰房に入れられた時、私がサイを心配そうに覗いていたことで、
サイのことを想っていること、キラを騙していることをキラに感づかれたかもしれなかった。
でも、砂漠の敵を倒して脱出した後、私とキラは、どちらともなく寄り添い、自らを誤魔化す
ように関係を続けていた。多分、私の復讐に気づいたと思ったのは気のせいだったのだろう。
そのころ、私はキラに拒否されるのが恐くて、いつも下出に出ていた。

「いや、大丈夫、構わないよ」

キラの言葉に、私は近づいてキスをする。キラの脱ぐ上着をハンガーにかける。
キラがシャワーを浴びる。その音を聞きながら、私は下着姿になり香水を付ける。照明を
暗くして、ベッドでキラを待つ。

この時、トリィはなぜか察したように、もうひとつのベッドのカーテンレールにとまり、
まるで見張るように、視線を他の方向へ向けている。おかげで、私は見られているという
意識が和らぎ、その代わりに外敵から守られているように安心できる。

シャワーから出てきたキラがベッドに入る。私は、それに体を委ねる。いつの間にか、
そのことにまで安心感を感じている自分に気づかずに……

* * *

朝、目を覚ますと隣に寝ていたはずのキラはいない。トリィだけが部屋を舞っている。

<トリィ! トリィ!>

元気なトリィの声に、私は、少しむくれたように声をかける。

「キラ行っちゃったのね。キラって冷たいヤツ。あんなヤツ…… 私、眠い…… もう少し寝る」

まだ、やることが決まっていない私は、そのまま、昼過ぎまでキラの部屋で寝てしまう。
やっとのこさで起き出して遅い昼食を取る。話し相手は誰もいない。デッキで働くキラの様子を
遠巻きに見て、自分の部屋へ戻る。でも、やることが無くて、しばらくして、またキラの部屋へ戻る。

<トリィ トリィ>
「トリィ、一緒に留守番しようか」

<トリィ!>

こんなことを繰り返して、私はいつの間にかキラの部屋に居付いていた。

607過去の傷・142:2004/05/31(月) 11:39
「ではこれより法廷を開かせていただきます」
フレイの声がかかった。
「なんでこんなことを・・・」
アスランが呟くがフレイとラクスは無視した。
実はラクスの怒りが収まらず勝手にラクスの部屋で仮想裁判をすることになった。
フレイがテレビで見ていたので提案したのだ。
裁判官にフレイ、検事にカガリ、弁護士にキラ、そして被告人がアスランとなりラクスは見守る形となった。
「では、アスラン・・・いや被告人は婚約者ラクス・クライン嬢がいながらミリアリア・ハウ二等兵と関係を持ったことを認めるな?」
「だから彼女とはなんでもないって言ってるだろ!」
カガリの質問にアスランが叫ぶ。
「よくもまあ・・・ぬけぬけと嘘をおっしゃいますわね・・・」
ラクスが冷たく言った。
「いえ、ラクスですから!」
「ラクスさん、そんな一方的に・・・」
「あらキラ様もアスランの肩を持つのですか!?」
「静粛にしなさいよね!!!」
フレイが叫んだ。
「被告人は質問に答えてください」
アスランはやつれたように座るとため息をついた・・・。
「ぐ・・・分かった、認めるよ・・・」
「な・・・アスランやはり・・・」
ラクスが涙声になる。

一時間後。
ラクスの部屋では、アスラン一人だけ残った。
なぜかステ−ジ衣装に着替えているラクス。
「アスラン、クライン邸で一度言ったはずですが?私は浮気は許さないと」
「は・・・はい・・・返す言葉もありません・・・」
「ピンクちゃん、ハロの皆も外に出てください、これからは起こることは見るものではありません」
ハロを全て外に出すとラクスは微笑んだ。
「アスラン、許しませんからね・・・」
そしてラクスが微笑むと近づく。
アスランは震え上がった。
そしてその五分後、アスランの悲鳴がエタ−ナル艦内にこだました。

608過去の傷・作者:2004/05/31(月) 11:45
皆様ご迷惑おかけして大変申し訳ありませんでした。
とりあえず一作だけ投下してみました。
ですがまだこれからも作品を続けるかは未定です、またしばらく静観させていただきます。

609私の想いが名無しを守るわ:2004/05/31(月) 15:27
>>606さよならトリィ 2/8
フレイ一人称もの好きなので続きがたのしみです。
新作という事で期待しています!
>>帰還
フレイ&ナタルの話ってあまり無いのでどきどき。
>>散った花、実る果実
いきなり通信士だった本編描写の素敵な補完を期待しています。

男フレイ様の続きも投下待ってます!!

>>

610私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 00:01
>過去の傷
アスランの悲鳴……(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

611私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 08:12
>>さよならトリィ

あえて以前の作品を中止して、さらに新作を投下してくださる姿勢に頭が下がります。
トランプ絵のトリフレを思い出させられて、切なくなってきます。
キラのいやらしい…って所が個人的に気になったりしてw

612私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 08:19
>>さよならトリィ
お帰りなさいませ、でも相変わらずいい文章がよく表現されてますね、フレイ様の心情を見てると・・・。
>>過去の傷
法廷とは面白いことしますね、フレイ様が裁判官・・・ところで・・・ラクス、アスランにどんなお仕置きを!?

とにかく女子高生職人さんお帰りなさい、貴女のことレス見れば分かる通り嫌いな人もいるけど私みたいに好きな人もいるので。

613私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 09:53
>>さよならトリィ
新作キタ━━━━━━━━━━━━!!!
フレイ様、トリィの前でだけでしか本音を言えないんですね…
気持ちの移り変わりなど、どうなっていくのか楽しみ!
前作も最後まで見たかったですが、
潔さに職人としてのプライドを見た気がします!
超がんがれ!

>>散った花、実る果実
>>帰還
フレナタ!
無能(失礼)ながらも自分と向き合う事を始めたフレイ様。
本編描写が無かった分、フレイ様の真実が見えてくるようです。
やっぱり人間、進歩がなくっちゃ。

614私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 12:35
新作来たね!!!超美少女女子高生も来たね!!!

615私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 12:38
>>614
やめとけ。
テンプレ違反以外はSSと感想のみだろ。
違反の無い限りは、だが。

616私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 14:12
超美少女は余計だな

617私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 15:05
女子高生ってばらさなきゃよかったのにな。

618私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 15:09
>>617
そうそう、こういうふうにいきがる奴が多くなってきたからな。
職人さん後悔してるだろうな、ネタにされてるよ。

619私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 15:32
つか、テンプレ守った内容?

620私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 16:33
ラストがギャグでオチるならテンプレ範囲内
なし崩しにシリアスならなんだかなって感想

621私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 17:22
ラクスがあのままだと…

622私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 17:36
あれはあきらかに大丈夫だろ、ギャグだと思うけどね。
あれで駄目だと言われたらたぶん投下やめるだろうな。
ラクスがアスランになにしたかは分からないが・・・。
でも細かいとこつくよね、あれでラクスが汚れキャラかよ・・・。
まぶらほの夕菜ちゃんはあんな感じだけどね・・・。

623私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 17:42
>>あれでラクスが汚れキャラかよ・・・。

この板のフレイファンが言っても説得力皆無だよ。
自分もギャグオチならアリ、シリアス展開なら微妙。

624私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 17:56
フレイ様以外にスポット当てるのやめた方が無難だな。

625私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:02
まあ、あれだ。
ギャグに見えない雰囲気を作ってきてるってのが、ちょっとまずいと。

626私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:05
そろそろ避難所使った方が。

627私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:20
君達そんなに批判したいのかね?女の子が頑張ってるのに・・・。
そもそもこのSSはフレイ様が主役では?ラクスとか他キャラにスポット当てるのやめようよ・・・。

628私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:24
女の子とかオヤジとかそんな事全然関係ない

629私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:30
女の子だからって優しくしたり甘くしたらつけあがるよ。
こういうふうに批判ばかりするのも彼女のためでもあるんだよ。

630私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:33
2ちゃんじゃなくてよかったね、と。
つーか避難所使おうよ。

631私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 18:35
>>627
なんつか、女の子だから、って理由はまずいと思われ。

632私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 22:40
>>過去の傷の作者さん
もう投下やめなよ、それが君のためだから。
これ以上傷つきたくないよね?

633私の想いが名無しを守るわ:2004/06/01(火) 23:04
>>トリィ
おお!楽しみにしてるよー。

キャラ萌えスレ以外に投下すればいいんじゃない?
タイトルが過去の傷っていうのも皮肉な・・・

634私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 01:11
というより、あからさまにラクスとかを叩くことのみを目的として書いてる
腐女子はスルースルー。どうせ女子高生とかいってもキモいんだろうし。

635私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 01:56
あれでラクス叩き?
むしろアスラン叩きじゃ。

どっちでも同じか。

636私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 04:16
キラ至上主義じゃね?
あいつだけいい目をみているのにモテモテだ。
アスランを糾弾するラクスだけど、キラと付き合ってたんだろ…
辻褄を合わせる気があるのかわからないな。まぁこれはただの叩きになってしまうがな。

637私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 07:48
ここには複数の方が投稿されますので、感想については、対象を明確に入れる
ようにした方が良いかと思います。

>>過去の傷
自分の作品を大事にされているのは分かりますが、やはり、今の時期、
この内容は、キャラへの配慮と言うよりも、場全体への配慮が
足りなかったのでは無いかと思います。
私だと、フレイの、テレビドラマかぶれの部分を落とし所にしたでしょうね。

切り口を変えることで印象を良くすることもできるでしょうけど、
やはり、今は新しい道を探された方がよいかと思います。
辛いのは、あなただけではありません。
書く人も読む人も、みんなそうなのですから。

638さよならトリィ 3/8:2004/06/02(水) 07:55
[トリィ…… こんなものっ!!]

キラの部屋に同棲して、少しキラと、いろいろな話をするようになった。

トリィのこと、キラから聞いた。友達から、もらった大事な贈り物。
友達…… 多分、ザフトの…… パパが死んだ時にいた……

キラの居ない部屋。私はドア脇のデスク上を歩き回るトリィを暗い目で睨みつける。
トリィが立ち止まり、私と目を合わせるのを感じ、私は呟くように語りかける。

「トリィ、あなたは……」
<トリィ?>

パパを殺したザフト、コーディネーター。それが作ったもの。

「トリィ、あなたって…… 許さない…… こんなもの……」
<トリィ? トリィ?>

ベッド横にある棚。そこには、私がキラに言って入手してもらった化粧品が、いくつも並んでいる。
私は棚にある化粧品の瓶を手に取った。ガラス製の一番大きいもの。そして、トリィを目の前に、
それを振り上げる。

壊してやる! こんなもの……

キラには、事故だったって言えばいい。キラは、私を怒ったりしない。私は責められることは無い。
これはロボット。生きてはいない物なんだから。

「トリィ…… こんなものっ!!」

私は叫んで、ガラスの瓶を振り降ろそうとした。

<トリィ…… トリ? トリィ>

トリィの声と仕草が変わって、私の手は止まった。

少し小首を傾げるような仕草。まるで、本当に生きているよう。
違うわよ。これはロボットよ。生きてなんかいない。この動きも、この声も、みんなプログラム
されたもの。そういう風に作られているのよ。最初から、そういう風に。
騙してるのよ。私を騙しているの。私は騙されない。こんなもの、こんなもの……

<トリィ…… トリィ…… トリィ……>

トリィの声を聞いているうちに、瓶を振り降ろせなくなった。瓶を床に放り出し、ベッドに戻って座り込む。

「うっ、うっ、ううう」

涙がこぼれる。なんで、こんなことで泣かなくちゃならないの。

<トリィ…… トリ、トリィ! トリィ!>

トリィがベッドの私の近くまで来て、さえずりながら、私に語りかけるように、頭をときどき、
突き出している。なんで、トリィの鳴き声が、私を元気づけるように聞こえるの?
ロボットなのに…… 物なのに…… 私は、おかしくなったの?

「トリィ、私、あなたのこと……」

私は、トリィに手を伸ばした。さっきとは打って変わって、私自身をトリィに委ねるように、ゆっくりと……
その手を、トリィは優しくクチバシでついばむようにつつく。それを快く感じながら、私は、
トリィを本気で憎むことはできないことに、心を迷わせる。

自分の想いを隠し、一人孤立する私の中で、トリィの存在は既に大きくなっていた。
自分の想いを、ただ一人話せる相手。ロボットでは無い。本物の鳥でも無い。
なにかひとつの人格のある存在。キラの部屋の、私とキラ二人以外の三人目の住人。

トリィ。憎いコーディネーターが作ったロボット。キラと友達の友情の印。私にとっては、
パパを奪った許せない絆のはず。だけど、そのトリィは、私の心に深く入り込んでいる。
作られた目的とは裏腹に……

ドアが開いてキラが戻ってきた。涙を流している私を見て、心配そうな顔になる。

「フレイ、どうしたんだ」
「なんでも無い…… なんでも無いの」

「フレイ……」

キラは、ベッドの私の隣に座る。だけど、私にかける言葉も無く、ただ辛そうな表情で、
顔を背けている。私もキラから目を逸らしてうつむく。

<トリィ! トリィ!>
そんな二人の前で、トリィは相変わらず愛敬を振りまくように羽ばたき続けている。

「トリィ、お前は元気だね」

キラが、トリィの仕草に、少し表情をなごませた。私は、その横顔を見て、少し心が落ち着くのを感じた。
私は、キラの肩に頭を預けた。キラが何も言わず、それを受け入れたのを感じ、私は、体全体を
キラにもたれかける。キラは私の肩を抱こうとさえしない。それでも、私は、一時の安らぎに
縋るかのように体を預けている。

コーディネーター。それぞれの目的のために、遺伝子をいじって作った特別な存在。そう思っていた。

だけど、今、私の隣にいるキラは、特別でもなんでもない、不器用とさえ思えるくらいの、ごく普通の人間。
なんのために作られたのかなんて、思いもつかない。

639私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 10:05
言うまでも無いけどトリィだって立派なキャラだ。
>>638
そいつはトリィ叩きでありすぎるから自粛推奨だぞ。

640私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 10:11
少し作者さん休むって言ってただろうが、それなのになんで複数で過去の傷の作者さんいじめてるんだ?
634なんて作品じゃなく職人自体を批判して侮辱してるだろ、最低だな。

641私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 10:57
>>640
感想以外は避難所で。
テンプレ推奨作品でお願いしますって事なので。

642夢と希望・1:2004/06/02(水) 21:48
「フ、フレイ・アルスタ−!?こんなところに!」

赤い髪がたなびいた。救難ボ−トから出てきた避難民の中から、一人飛び出した少女はフレイ・アルスタ−だった。
長くつややかな赤、肌はミルクのようになめらかで、高貴さを感じさせる整った顔立ち、いつ見ても大輪の薔薇のような華やかさを感じさせる、彼女を見るとキラはいつもどきどきとしてしまう、いつもろくに話すらできずに遠くから見ていることしかできないのだが・・・。
その彼女に抱きつかれた、夢じゃないかと思ってしまう・・・。

「たしか、サイの友達よね?よかった・・・怖かったの!」
「だ、大丈夫だよ、僕もサイもいるから・・・」

つい顔を赤くしてしまった。
間近で憧れている子がいるので無理もないが・・・。
なぜフレイ・アルスタ−が救難ボ−トに乗っていたのかというと・・・。
ヘリオポリス・・・地球の衛星軌道上、L3に位置していた宇宙コロニ−であった。
キラ達も住んでいた、もちろんフレイ・アルスタ−も・・・。
しかし、あるときプラント・・・いやザフトの艦が降り接近してきたのだ、そんなとき近くにいたキラ達は戦闘に巻き込まれてしまった。
その後幼なじみ今はザフト兵となっていたアスラン・ザラと衝撃の再会をして、さらにストライクというモビルス−ツに乗り戦場に出てしまった。
その後も戦闘が続きヘリオポリスは・・・。

643夢と希望・作者:2004/06/02(水) 21:51
初めての投下です、これからできるだけ投下していきますのでよろしくお願いします。
最初ということもあり少なくしましたが次からは容量を多くしていきます。

644私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 22:37
>>640
今まで散々荒らし紛いですらない荒らし作品を投入し、
フレイファン全体の評価を著しく貶めたから。

虐めではなく、その落とし前つけさせてるだけ。
奴に限れば職人自体を非難する事自体が当たり前の事だ。

645私の想いが名無しを守るわ:2004/06/02(水) 22:39
>>644
もちつけ。
せめて避難所でやれ。

646私の想いが名無しを守るわ:2004/06/03(木) 00:29
644じゃないが、この板がずっと避難所だと思ってたよ。
避難所の避難所があるのか?
放送中から住人だったのに…○| ̄|_ゴメンヨ フレイタマ

647私の想いが名無しを守るわ:2004/06/03(木) 00:31
>>646
ィ㌔

っつーかよく板を観察しろw

648夢と希望・2:2004/06/04(金) 22:33
「サイ!」
フレイはサイの姿を見つけるとキラから離れ真っ先にサイの胸に飛び込んだ。
「あ、ああ・・・」
しかしサイ自身は戸惑ってる様子だ、しかしキラはそんなサイの態度などよりも抱き合っている二人を見て目を少し曇らせた。
そんな時、キラにムウ・ラ・フラガが歩み寄った。
そして・・・。

「へえ、驚いたな」
「な、なんですか?」
突然歩み寄ってきた、背の高い軍人にキラは思わず身を引く、しかしムウはそんなキラの様子を気にせずさらっと言った。

「君さあ・・・コ−ディネイタ−だろ?」

ムウの言葉にその場が凍りつきざわめきが起こる。
マリュ−がムウを睨んだ。
キラは戸惑いながらも小さな声で答えた。

「はい・・・」

その言葉を言った瞬間マリュ−とナタルの背後に控えていた兵士達が銃を構えキラに向ける。
普通ならなぜ?だと言いたくなるかも知れないが仕方ないことでもあるのだ。
コ−ディネイタ−・・・それは遺伝子を人為的に操作されて生まれた人間である、人の持つ潜在能力を最大限に引き出された彼らは知力、体力ともに優れている。
あらゆる病気にもかかることない体でもある。
だがコ−ディネイタ−とナチュラル・・・遺伝子改変を変えずに生まれた普通の人間との能力の差があからさまになりそれを排斥する勢力が生まれた、流血の歴史や時代を繰り返し、ナチュラルに比べ、宇宙での生活が適していたコ−ディネイタ−達は地球外に移り住むようなった。そして最終的に彼らの住処となったのが、L5に建造された宇宙コロニ−群・・・プラントである。
そして今、プラントの擁する軍隊ザフトと地球、コ−ディネイタ−とナチュラルは敵対しており戦っているのだ。
戦争中ということもあり軍人はぴりぴりしている者も多い、そんななか突然コ−ディネイタ−と名乗られ兵士達が反射的に銃を向けるのも悲しいことだが、無理のない状況ではあった。

「ま、待てよ!なんなんだよ一体!」
ト−ルが叫び庇うようにキラの前に出た、ト−ル・ケ−二ヒ・・・キラと同じくヘリオポリスに住んでいたキラの友人で同じ工業カレッジに通っていたがキラと共に戦争に巻き込まれ事情もあり艦に乗ることになってしまった、ちなみに同じキラの友人である女の子、ミリアリア・ハウとは恋人同士だ。
「コ−ディネイタ−でもキラは敵じゃない!ザフトと戦って俺達も守ってくれただろ!?あんたら見てなかったのかよ!?」
自然とミリアリア、サイもキラの前に出た・・・そして・・・。
「そうよ!キラは敵なんかじゃないわよ!」
「え・・・?」
キラの前にもう一人歩み出た少女がいた・・・。
フレイ・アルスタ−だ・・・。

649私の想いが名無しを守るわ:2004/06/04(金) 23:08
>>さよならトリィ
せつなすぎ…
すごい心理描写ですね。
つ、続きをお願いします〜

650キラ(♀)×フレイ(♂)・45−1:2004/06/05(土) 17:27
「ふうっ。やっぱり、繋がらないか…」
あらゆる通信チャンネルを試してみたが、一向に音沙汰がない。とりあえず、仲間との
コンタクトを一時的に諦めたアスランは、通信機の電源を落とした。
それから、軽く島内探索に出掛けたアスランは、海岸線に漂流したスカイグラスパー
を発見する。どうやら、あの不愉快な連中は、彼の乗った輸送機を落とした敵のようだ。
他にも連合の伏兵がいないか、島全体を慎重に捜索したが、どうやらこの狭い無人島内
に滞留しているのは、自分達三人だけらしい。念の為に、グラスパー内部の通信機器
も動かしてみたが、聞こえてくるのはノイズばかりだ。サドニス島の近辺はNJの
密集地帯だと聞いてはいたが、この通信状況の悪さは想像以上だ。
「そろそろ、帰るか。あのチンドン屋達を野放しにしておくのは危険だ」
一応、拘束してはいるが、例の捕虜二人を長時間、自分の目の届かない所に放置
することに嫌な予感を覚えたアスランは、大急ぎで戻ることにした。


「おい、ザフト兵。いつまで俺達をこのままでいさせるつもりだ!?」
不安に反して、彼らはその場所にいた。フレイは、借りてきた猫のように背中を丸めて
大人しくしていたが、カガリは、アスランの姿を見つけるや否や、番犬のような勢いで
元気に吠え立ててきた。閉口したアスランの鼓膜に、カガリの悪口雑言が響いてくる。
心身共にエネルギーが有り余っているらしいカガリは、無為に耐えられない性質らしく、
一箇所でじっとしているのが苦手のようだ。もし、二人が座禅を組んで、精神修行中の
身だったら、カガリは、精神注入棒でビシバシと折檻されていただろう。
「煩いぞ。お前たちは戦いに敗れて、お情けで生かしてもらっている捕虜なんだぞ。
身の程を弁えろ。ましてや…」
そこでアスランは忌々しそうにフレイを睨んだ。当然ではあるが、どうやら空手形の件を
深く根に持っているようだ。フレイは禅でいう無我の境地に達したかのように、アスラン
の殺気を軽く受け流し、カガリはガルル…と、獰猛犬のような唸り声を上げている。
こいつら、本当に自分達の立場が判っているのか?
露骨に強者に媚いる輩よりはマシかも知れないが、生殺与奪の全てを握られている
この緊迫化で、こうまで尊大に構えられると、自分に軍人としての貫禄が足りないから
舐められているのではないか…という深刻な疑惑がアスランの脳裏から離れない。

「そろそろ、本題に入ったらどうだい、アスラン君?」
今までずっと押し黙っていたフレイがはじめて口を開き、アスランは軽く眉を顰める。
「不渡り手形を掴まされたのに、契約を不履行せずに、わざわざ僕たちを生かして
おいてくれたのは、不戦同盟を誓約してしまったからだけじゃないだろう?
僕らの口から、キラの近況について聞きたかったからじゃないのかい?」
フレイの推測は、彼の深層心理の核(コア)の近くを掠ったが、アスランは心中の
好奇心を押し殺して沈黙を守った。フレイのペースに乗せられるのも癪だったし、
このペテン師の口から出た言葉など、あまり信用ならないような気がしたからだ。
フレイの方は、今の状況を上手く利用し、アスラン君のキラへの想いを見極めるつもりだ。
ジュリエット(キラ)が、敵であるロミオ(アスラン)に恋心を抱いていたのは、
ほぼ間違いないとフレイは確信しているが、果たしてロミオの側はどうなのだろう。

「おい、フレイ。こいつはキラの一体何なんだよ!?」
フレイやアスランの思惑を完璧に無視して、横からカガリが、前々からキラへの
浅からぬ縁を匂わせている敵兵の正体について尋ねてきた。
「アスラン・ザラ君。プラントの急進派・ザラ国防委員長の子息で、現最高評議会議長
のご令嬢でプラントの歌姫として有名なラクス・クラインの婚約者らしい。
肝心のキラとは、月の幼年学校時代に特に仲の良かった級友みたいだよ」
「キラの友人!?この悪逆非道のザフト兵が!?マジかよ!?」
「マジらしいよ。キラの話じゃ、アスラン君は、誰よりも優しくて、とても人殺しを
出来る人間じゃなかったそうだけど、どこでどう捻くれ曲がって、道を誤ったのやら」
フレイはわざとらしく溜息を吐いてみせる。捕虜の分際で、本人を目の前にして好き勝手
な論評を繰り広げる命知らずの二人組にアスランは軽い眩暈がする。何故、このフレイと
いう男は、キラも知らないような彼のプライベート情報をここまで熟知しているのだろう。
一時期、アークエンジェルに捕虜として滞在していたラクスが、アスランの個人情報を
漏らし捲っていたなど、守秘義務感覚の強い軍人のアスランには想像もつかなかった。

651キラ(♀)×フレイ(♂)・45−2:2004/06/05(土) 17:28
「一応、こちらも自己紹介しておこうか。僕はフレイ・アルスター二等兵。
アークエンジェルでは調理主任として厨房を任されている。
こちらはカガリ・ユラ君。明けの砂漠というゲリラから、助っ人として、
スカイグラスパー二号のパイロットに抜擢された凄腕の傭兵君さ」
頼まれもしないのに、フレイも自分たちの側の姓名と身分を明らかにする。
フレイから「傭兵」という単語を聞かされたアスランは、ようやく彼らの行動を得心した。
「やはりそうか。連合の軍服も着てないし、地球軍の兵士とは思えなかったが、金で
雇われた戦闘屋か。理念も愛国心もない奴らなら、仲間を平気で見捨てるのも無理はない」
軽蔑した瞳で見下すアスランに、カガリはグッと口を結んで、怒りで顔を赤くする。
戦争を終結させたいと願うカガリの崇高な参戦動機を思えば、あんまりなアスランの
言い草ではあるが、カガリもカガリで、停戦を受け入れてくれた寛大なアスランを、
不義理にも貶していたので、このぐらい言い返してもバチは当らないだろう。

「それは、ちょっとばかり違うよ。アスラン君。
彼が僕を撃とうとしたのは、冷徹なる打算からではなく、下らない私情だよ」
カガリが口を開くよりも早く、フレイが彼の弁護(んな訳ない)を買って出た。
「どうやらカガリ君は、不埒にも僕のキラに横恋慕しているみたいでね。
僕が死ねば、キラを自分のモノに出来るとでも錯覚していたんだろ?
自分の魅力で女の子を振り向かせるのではなく、戦時のドサクサに紛れて競争相手を
消し去ろうなんて負け犬の発想だよね。まったく狡っからいたらありゃしない」
さっきまでカガリの尻馬に乗ってアスランを口撃していたフレイだが、今度はあっさりと
その対象をカガリへと切り替えた。元々、この二人の間に協調性などあろう筈はないが、
タッグは早くも内部崩壊し、リングは混沌のバトル・ロイヤルへ移行しようとしている。

「ち…違う、俺はキラが嫌いだ。俺にあいつの力があれば、俺は迷わなかった」
幾分の誤差はあるものの、物の見事にフレイ暗殺動機を見当てられたカガリは、羞恥と
多少の後ろめたさの入り混じった怒りで、傷のない側の頬も含めて顔全体を真っ赤にする。
さらには、照れ隠しに心にも無い弁明をする間際に、迂闊にも、自分達兄妹の出生の秘密
の一端に触れる情報まで洩らしてしまう。

「僕のキラだと?どういう意味だ!?」
フレイの発言の一部を聞き咎めたアスランは、意図せず、強い敵意の視線でフレイを睨む。
既に彼の意識のステージから、さっきまで弾劾していたカガリの存在は消去されている。
やっと獲物が撒き餌に喰らい付いてくれたらしい。フレイは内心でそうほそく笑むと、
自分がキラと交際している旨について、簡単に説明した。


「付き合っているって、キラとお前がか?」
フレイはコクリと頷いた。チラリとアスランはカガリの方を見たが、カガリは不貞腐れた
ようにソッポを向いている。この一件に限り、どうやら奴の戯言は事実らしい。
「で…でも、お前はナチュラルだろう?コーディネイターのキラと…」
「おやおや、アスラン君。君もナチュラル侮蔑主義者なのかい?
僕らを猿扱いして小馬鹿にしていた、君の同僚のタカツキ君のように?」
もはや体裁を取り繕う余裕もなく、それでも執拗に食い下がるアスランに、
フレイは澄まし顔で、彼が知る「最低のコーディネイター」の名前を口にする。
「タカツキ?……誰だ、それは?」
「知らない筈はないだろう。一応、君と同じザフトの軍人だし、月の幼年学校時代の
同級生だとも聞いた。尤も、キラとは苛められていた間柄だったらしいけどね」
「ああ、あのマイケル・タカツキの事か…。そういえば、そんな奴もいたな」
アスランはジブラルタルのイザークとの確執の時にも思い浮かべた、彼とはあまり仲の
良くなかった級友の名前を確定させたが、喜びの感情が湧き上がる事はなかった。

652キラ(♀)×フレイ(♂)・45−3:2004/06/05(土) 17:28
「持つ者は、持たざる者の気持ちは判らないか…」
フレイは内心でそう呟いた。キラを苛めていたという悪友に好意を持ち得ないのは判るが、
それ以前に、彼の存在など眼中にないという無意識の驕りが、アスラン君から感じられた。
「虎は生まれつき強いから虎」だと言うが、彼には、タカツキ君が何故、これほどキラや
アスラン君にコンプレックスを剥き出しにするのかなど、恐らく理解できないだろう。
彼のような、あまり悪意を感じさせない誠実そうなタイプですら、コレなのだ。
一般のコーディネイターがナチュラルに持つ優越・侮蔑感と、逆にナチュラルの側から
コーディの側へと抱かれる反感・憎悪などの、連鎖の悪循環は並大抵ではあるまい。
苛めや差別という問題が、虐待する側が悪であること事体には議論・反論の余地はないが、
それを受ける側にも、常に何らかの要因を抱えているというのもまた無視出来ない真理だ。
そういう、ナチュラル−コーディ間で、多々発生したであろう問題が、同じコーディ同士
の間でも頻繁に起こっていたらしいという事実は、フレイには意外であり新鮮でもあった。


「んっ、待てよ。どうして、お前はタカツキの事など知っているんだ!?」
フレイが自分の思考の淵に嵌っている間に、アスランは、彼の情報の豊富さに疑念を抱く。
A級選抜試験に漏れたマイケルは、アスラン達とはクラスが異なっていたので、
プラントのアカデミー時代は、アスランでさえも彼の存在そのものを失念していた。
それに、キラが幼年学校時代の嫌な思い出を、わざわざ第三者に話すとも思えない。
「実は僕とキラは、二日ほど前に彼と遭遇していてね」
思考を慌てて現実世界へと引き戻したフレイは、アスランの疑惑を氷解させる為に、
サドニス島でのマイケルとの馴れ初めについて、得々と語ってみせた。



「コ…コーディネイターの面汚しめ…」
フレイからキラ拉致未遂事件の仔細を聞かされたアスランは頭を抱えた。
キラを赤服に換えようと姑息の限りを遣り尽くした上で、レイプ未遂まで引き起こし、
挙句の果てには、目の前の非力なペテン師如きにしてやられたなどという漫画の小悪党役
そのものの末路を迎えた同胞を好意的に解釈するなど、アスランでなくとも不可能な難事だ。
済まない、イザーク。お前はやっぱりエリートだったんだな。
思い遣りや協調性には欠けるが、基本的には追従や卑劣な行いとは無縁だった同僚を、
最近、少し見損なっていたことに思い当たったアスランは、心の中でそう謝罪した。

カガリは複雑そうな瞳でフレイを睨んだ。彼の与り知らぬ間に、キラはとんでもない
窮地に陥っていたようだ。以前、カガリは、最高のコーディのキラにとって、本当に危険
な場所は戦場(MS戦闘)ではないと予感していたが、どうやらそれは真実だったらしい。
本来なら、キラの息災に安堵すべきなのだろうが、その愛妹のピンチを救った勇者が、
彼が危険視しているフレイだという現実が気に入らず、カガリの気分は晴れなかった。


「君にとっては余計な真似をしてしまったよね、アスラン君?
キラがアークエンジェルにいなければ、君達の仕事も随分と遣り易くなっただろうにね」
アスランのキラへの葛藤を知った上で、敢えてフレイは、彼の神経を逆撫でするような
言葉をわざわざ投げ掛けているようだ。キラが不在ならAA攻略が楽勝なのは事実だし、
キラの退艦を望んではいたが、彼女が咎人とされる未来など彼の本意ではない。
「そ…そんな事は無い。その一点に限っては、俺はキラを救出したお前に感謝する。
軍人としてという以前に、人として恥じ入るような行為を、俺は絶対に認めない」
「そう見捨てたものじゃないさ。タカツキ君に会って、僕ははじめてコーディネイター
という存在を見直したんだからね」
アスランはマイケルの行為を絶対悪として切り捨てたが、フレイの見解は異なるようだ。
これには、アスランだけでなく、彼に密かに同調していたカガリも驚きを隠せない。

653キラ(♀)×フレイ(♂)・45−4:2004/06/05(土) 17:29
「連合の一部の兵士が、君らを何と呼んでいるか知っているかい?『空の化け物』だよ。
まあ、僕の君たちに対する認識も似たようなものだった。一切の喜怒哀楽の感情を持たぬ、
青き地球を侵略するSF映画に出てくるエイリアン。それが君らへの率直なイメージさ」
フレイの言い草はあまりにコーディネイターを侮辱していたが、今のは単なる前置き
だと判っていたので、アスランはここでは口を挟まなかった。むしろ、マイケルの行動
に美点を感じたという、この先の続きが気になった。
「ところがだ、実際にコーディの実物を見てみると、キラのような泣き虫はいるし、
タカツキ君のような、世間で僕が腐るほど見てきたステレオタイプな俗物もいる。
君らも案外、能力以外はさして僕らと変わらない不完全な存在である事に気付いたんだ」
アスランはポカンと、だらしなく口を開けている。このフレイという男は、人間性悪説
の信奉者なのか、自己犠牲精神のような美徳(ピュア)よりも、他者を踏み躙ってでも
生き残ろうとする悪徳(エゴイズム)の方にこそ、人間味を感じる性質みたいだ。
結局、何だかコーディネイターを馬鹿にされたままのような気もするが、自分たちを
擬人化(或いは神聖化)せずに、等身大に見てくれるというのは、貴重な視点ではないか?
アスランには判らなかったが、プラント内の一部のコーディ絶対主義者が思い上がって
いる程には、自分達が完璧な存在などでは有り得ないことは、アスランも悟っていた。


「ただ、タカツキ君が君達に根強いコンプレックスを抱いて、手段を選ばず這い上が
ろうとしていたように、コーディネイターの間にも、他者との出世競争や、それに伴う
妬み・嫉妬の感情もあるみたいだね。
元々、君達は、この厳しい競争社会を勝ち抜く為に産まれてきたらしいけど、ナチュラル
全員がコーディネイターに生まれ変わったとしたら、その優勢(アドバンテージ)は
消滅し、結局、依然と変わらぬ競争社会が続くだけの話しだね。そもそも……」

「だああぁああ〜!!!!いい加減にしろよな、お前ら!!」
コーディネイター論を叩き台にした妙に哲学的なフレイの演説がさらに続き掛けたので、
小難しい話しが苦手なカガリの左脳がオーバーヒートを起こし、カガリは発狂した。
「んなこたぁどうでも良いんだよ!戦争は会議室で起こっているんじゃあない。
戦場で起こっているんだ。綺麗な背広を着たインテリ共が、安全な密室に篭って、
小賢しい屁理屈を振り翳した所で、戦はなくなりゃしねえんだ。判っているのかよ!?」
ノンキャリアのキャリア批判染みた口上を口にしたが、それがカガリの信念だ。
だからこそ、カガリ自身はどちらかといえば特権階級に連なる身でありながらも、
口先だけの親父みたいな人間になるのが嫌で、銃を取り戦う道を選択したのだ。
そのカガリが口先だけと信じる彼の父親は、局地的な視点に固執するのではなく、
大局的な視野の広さを身に付けて欲しいと願って、息子を平和の国の外の世界(戦場)
へと送り出したのだが、今のカガリを見るにつけ、道はまだ果てしなく遠そうである。


鼻息を荒くしながら持論を捲くし立てるカガリに閉口したフレイは、縛られた状態で器用
に両肩を竦めると、そのまま沈黙する。すると今度は、矛先はアスランに移し替えられた。
「おい、アスランとか言ったな?お前、ヘリオポリスを襲った奴らの仲間だな!?」
聡いアスランは、カガリが何を主張したいのかを悟って、後ろめたそうに顔を背ける。
「俺たちだって、あんな事になるとは思わなかったんだ」
それは、アスランの正直な本音だ。ストライクと足付きを仕留めるための戦闘継続で、
どれほど夥しい数の民間人が犠牲になったのかと思えば、とても空虚ではいられない。
「何を今更、白々しい事を…」
「だが、中立だと謳っておきながら、あんな代物(戦闘用MS)を密かに造り上げて
いたのは事実だ。俺たちザフトがそれを見過ごせるわけはないだろう!?」
「そ…それは…」
アスランが軽く反撃し、逆にカガリが言葉を詰まらせる。オーブと大西洋連邦の密約に
何の責任も持たぬ身だが、自分の父親が仕出かした不祥事だと思うと、親の因果が子に
祟り…というわけでもないが、性格的に、無関係を決め込むことは出来なかった。

654キラ(♀)×フレイ(♂)・45−5:2004/06/05(土) 17:29
「くっくっく…」
彼ら二人の真摯な討論の場を茶化すような、フレイのくぐもった笑い声が聞こえた。
「何が可笑しい?」
「いやねえ、君達の会話があまりにもピント呆けしていて笑えたからさ。
中立もへったくれもない。ヘリオポリスが崩壊したのはキラの責任だろ?」
「なっ…何だと!?」
フレイの暴言に、意図せずカガリとアスランの行動が完全にシンクロした。
二人の強い敵意の視線も意に介さずに、フレイはアスランに身体ごと向き直る。
「アスラン君に聞こうか?君達は例のMSを奪う際に、ユニウス7の意趣返しに、
ヘリオポリスの住民をジェノサイド(大量殺戮)する命令でも受けていたのかい?」
そのフレイの大胆すぎる質問に、一瞬、アスランは息を呑む。
次の瞬間、怒りで顔を真っ赤に震わせたアスランは、大声で抗弁した。
「ば…馬鹿な!そんな筈はあるか。連合のMSさえ奪えればそれで良かったんだ!」
「そう。つまり素直に五機のMSをザフトに差し出してさえいれば、君達は大人しく
ヘリオポリスから出て行ってくれたわけだ。ところが、運が良いのか悪いのか、
あのコロニーには、ずば抜けた才能を持つ一人のコーディネイターの少女が住んでいた」
フレイは、敢えてそこで一端論を切る。アスランとカガリの貌に不愉快さを含んだ理解
の色が広がっていく。この先に展開されるであろう、フレイの仮説を読み取ったからだ。
フレイは、キラの強固な抵抗こそが、ザフトに危機感を与え、敵の再攻勢を呼び寄せたと
主張しているのだ。感情論さえ差し引ければ、確かにそれほど的外れの論拠ではない。
「ここから先は、言わなくても判るだろう?とにかく、キラが余計な奮戦をしなければ、
ヘリオポリスの被害は最小で済んだと思うよ。まあ、その際には、多分キラとその仲間達
(トール達ヘリオポリス組)も、浮沈艦(AA)と共にお陀仏だったと思うけどね」
「お前なあ、ヘリオポリスは壊れなくても、その時には、お前も一緒に死んだんだぞ!?」
クルーの一員でありながら、アークエンジェルの撃沈を他人事のように捉えているフレイ
に、カガリはそう呆れたが、彼はフレイ入隊に纏わる前後の事情を知らな過ぎた。
「残念ながら、そうはならなかったよ。僕は当初は避難用のシェルターにいて、
アークエンジェルに拾われたタイミングは、ヘリオポリスが崩壊した後だったからね。
仮に、命運を共にしていたとしても、この件に母さんが巻き込まれない方がマシだったさ」

「母さん?」
まるでB型人間同士の会話のように、議論中に目まぐるしく題材が入れ替わり、
アスランはつい反射的に、己にも所縁の強い単語に反応した。
「僕の母は、連合では外務次官という結構なお偉いさんでね。アークエンジェルを
迎えにきた第八艦隊の先遣隊のモントゴメリという戦艦の中にいたんだ。
アスラン君も知っての通り、モントゴメリは宇宙の塵と化してしまったけどね」
フレイの態度は、さほど恨みがましくなく、むしろ淡々と供述していたが、その内面に
渦巻く怨念の質量はアスラン達の想像を大きく絶していた。フレイは、母の死の責任者と
彼が信じた、キラとその想い人を同士討ちさせようと、色々と画策し続けてきたのだから。

「そ…そうだったのか」
アスランは何とも言えずに言葉を濁した。彼自身も血のヴァレンタインで母を失った
身だったので、戦争だからの一言で全てを済ませるには、暗澹たる想いがあった。
「同情はいらないよ。母さんを守れなかったのは、僕に力と知恵が足りなかったからさ。
もっと早く君の婚約者を人質にする案を具申していれば、運命も変えられたのにね」
「人質って……!?あの時、ラクスを人質にさせたのは、お前の入れ知恵だったのか!?」
フレイを見下ろすアスランの瞳に、露骨な嫌悪の色が浮かんだ。
と同時に、いかにもこのペテン師が考え付きそうな所業だと奇妙な納得もした。
ただ、フレイと知り合う以前とは異なり、フレイの醜悪な行為を絶対悪として
切り捨てるには、彼と同じく母親を失った身分としては、些か複雑な心境だ。
肉親の生命が賭かれば、誰だって悪魔に魂を売ってでも救いたいと願うのが心情だろう。

655キラ(♀)×フレイ(♂)・45−6:2004/06/05(土) 17:30
「少し脱線してしまったね。話しを元に戻そうか。とりあえず、ヘリオポリス崩壊の責任
の是非は置いておくにしても、キラはあの時、死んでいた方が本人の為だったと思うよ。
彼女が慕っていたアスラン君は敵として襲い掛かってくるし、遣りたくもない人殺しに
何度も手を血で染めている。これじゃ、生きていても幸せなんて言えないだろう?」
何よりも、僕のような悪党に付け狙われて、人生を狂わされることもなかった筈さ。
フレイは心の中だけで、多少の自嘲の感情と共に、さらに業の一つを追加した。

「何を偉そうに!キラに人殺しを強要させているのは、お前たちナチュラルだろうが!
それに、お前は本当にキラの彼氏なのか!?」
母の件では同情して、フレイにそれなりのシンパシーを示したアスランだが、相手が
キラとなれば話しは別だ。盗人猛々しい理論を振り翳した上に、キラの恋人を詐称しな
がらも、彼女の未来を全面否定する薄情極まりないフレイに、当然の如く切れ掛かる。
「彼氏だからこそ、尚更僕は、今のキラをこれ以上見てはいられないんだよ」
フレイはアスランの激発をやり過ごすと、今度はカガリに万感たる想いを訴えた。
「カガリ君。君はさっき自分がキラなら、力の行使を躊躇わなかったと主張していたよね?
けど、何の迷いも葛藤もなく人を殺せるキラなんて、そんな怪物はもうキラじゃないだろ?
悪鬼のような巨大な力を持ち、その己の力に脅えながらも、仲間を守る為に、健気にも
戦い続ける、泣き虫でお人好しの優しい娘。それが、キラという女の子じゃないか?」
カガリは唖然として言葉が出てこない。キラに悪意を抱いていると思われたフレイが、
意外にも、キラという人間の本質を理解してあげていたという事実に、驚かされたからだ。

「もしこの先、キラが冷酷な戦場に適応して、彼女の中から、泣き虫のキラが消失する
としたら、それは、単純な肉体的な死よりも、はるかに辛いことだと僕は思うけどね」
『キラを、キラのままでいさせること』
それは、フレイの今回の一連の計画の中でも、最も留意した点の一つである。
痛みも悲しみも感じない機械人形(オートマタ)に復讐した所で、何の意義がある?
故にフレイは、キラを慰める際、得意の口八丁手八丁で、キラの行為を自己正当化させて、
彼女の罪悪感を消し去る事も可能だったのだが、敢えてそうせずに、借金生活者のような
「生かさず、殺さず」に近い状態をキープして、血の色で真っ赤に侵食されつつあった
キラの心のキャンパスを、原色(純白)そのままに留めておくように腐心してきたのだ。
フレイの真の目的を別とすれば、今現在、キラがキラ自身のままでいられたのは、
皮肉にもキラの破滅を願っているフレイの功績だった。今更ながらに、その事実を
思い知らされたカガリは、己を害しようとするフレイを必要とせざるを得ないという
矛盾を抱え込んだ妹の不幸を思い煩って、身を焼かれるような想いを味わった。


「フレイ、確かにお前はキラの事を、誰よりも本当に良く理解している」
今のカガリには、さっきまでのような誰彼構わず見境なく噛み付いてきた狂犬のような
雰囲気は欠片もない。彼に似合わぬ憂いを帯びた表情で、大きな溜息を吐き出した。
「それでも、お前はキラを大切に想っていない。お前はキラを抱いたというのに…」


何だって、今、コイツは何て言った!?
…た。 …いた。 …抱いた。 …を抱いた。 …ラを抱いた。 キラを抱いた!?
アスランは、自分の身体全体からスーッと血の気が引いていくのを感じた。
皮肉にも、今の放心したアスランの貌は、キラが、ラクスがアスランの婚約者だと
知った時の姿と瓜二つだ。お互いを想い合っていながらも、双方共にその事実に気付かず、
何度もすれ違いを繰り返すのは、古今東西のあらゆる恋愛活劇で愛用された黄金の不文律
ではあるが、アスランは今まさしく、その洗礼を最悪に近い形で浴びようとしていた。

656キラ(♀)×フレイ(♂)・45−7:2004/06/05(土) 17:30
おやおや、こいつは手間が省けたみたいだな。フレイは軽く苦笑する。
さて、これからどうやって、キラとの本来の仲について切り出そうかと、フレイが思案
していたところに、わざわざカガリ君の方から勝手に爆弾を投下してくれるとは。
カガリ自身は、愚痴に近い形で放たれた自分の言葉の重みを全く理解していないようだ。
プレイボーイのフレイは処女貞操願望など持ち合わせてはいないが、恋愛に手馴れてない
童貞男子の中には、意外と女性に対して潔癖な幻想を抱く者も存在することを、経験上
悟っていた。果たしてアスラン君はどうだろう。試してみる価値はありそうだ。

「そういえば、アスラン君。君の方はどうだったか知らないけど、
キラはどうも、本当は君の事が好きだったみたいなんだよね」
フレイは敢えて「過去系」で、キラの気持ちを代弁し、虚ろだったアスランの
瞳に強い動揺が走る。

「はじめて、キラとベッドを共にした晩だったかな?
行為の後に、「アスラン、アスラン」て、キラにシクシク泣かれちゃってね。
あの時は本当に参ったよ。もしかしてメロドラマに出てくる間抜けな間男の役を
演じてしまったのかと思ってさ」
フレイは、実際に在った事実を少しばかり脚色して、効果的な寝取り物語を演出する。
一瞬、フレイの頭の中に強い警告信号が灯ったが、アスラン君の真意を確かめる絶好
の好機は今をおいて他にない。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の諺通り、多少の危険
に目を瞑って、フレイは、彼の心の洞窟のさらなる奥へと、無造作に足を踏み入れた。

「けど、最近、ようやくキラの心が僕の方に振り向いてくれたみたいで良かったよ。
やっぱり、身体の結び付き何度も重ねて、お互いの心の絆を強めることによって、
かつての少女時代の憧憬を単なる過去の存在へと押し遣って…」
フレイの舌はそれ以上回転することは出来なかった。フレイよりも小柄なアスランが、
フレイの襟首を掴むと、片腕だけの力で、中背のフレイをそのまま宙吊りにした。


「ア…アスラン君?」
バイオハザード警報が、大きなサイレンの音を打ち鳴らして、頭の中を駆け巡っている。
洞窟の中には、確かに、危険に見合うだけの価値を持った虎の赤子が大量に眠っていた。
ただ、お宝の虎児を発見する際に、フレイは親虎の尻尾を加減抜きで踏み潰してしまった。

「僕がここでアスラン君に殺されたら、キラは僕の仇を討ってくれるのだろうか?」
フレイがそんな埒も無い考えを巡らせた刹那、彼の顔面を鈍い衝撃が縦に貫いた。

657私の想いが名無しを守るわ:2004/06/05(土) 17:59
男フレイキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
一番好きなシリーズです!
男3人の痴話げんかはどこまで行くのか、目が離せません。
フレイ様、小気味いいくらい憎たらしいですね。
種2でこういうキャラが出てくれれば最高ですのに。

658夢と希望・3:2004/06/05(土) 22:11
「え・・・?フレイ?」
と、キラは呟いた。
この場面で不謹慎だがなんだか嬉しかった、一目惚れしている少女に守られている気がした。
「銃を下ろしなさい」
マリュ−が命じた。
「そう驚くことでもないでしょう・・・へリオポリスは中立国のコロ二−だった、戦火に巻き込まれるのが嫌で逃げてきたコ−ディネイタ−が不思議ではないわ」
その言葉に渋々ながらも兵士達は銃を下ろした。
「悪かった、とんだ騒ぎになっちまって」
と、騒ぎを起こしたムウが悪気がない口調で言った。
「だってさ、初めてにしてはあの機体の操縦凄すぎから気になったんだよ」

「おいおい無茶言うなよ!」
ムウが大きく手を振った。
「ですが・・・ストライクの力は必要かもしれません、ですから・・・」
「冗談だろ?無茶言わないでくれ!あの坊主のOSのデ−タ見てないのか?あんなもんが俺にというより・・・普通の人間に扱えるかよ!」
困ったようにマリュ−とナタルは下を向いた。
「あのな、もし戦闘になったら、あの坊主がめいっぱいまで上げた機体の性能、そしてそれを完全に使いこなせるパイロット、その両方がなきゃ、ザフトにはとても対抗できないで」
それは必然的に悲しい一つの結論を出していた。
ア−クエンジェル内に設けられた居住区の一室で、少年達は不安に肩を寄せ合っていた。

「私達・・・どうなるのかしら・・・」

抑えようのない不安から、ミリアリアからこぼれた。
ヘリオポリスが崩壊しているところを彼女らも船内のスクリ−ンから目撃していたのだ。
これまでその存在を意識したことさえない確固たる現実が、目の前であまりにも脆くに崩れ去るさまを。
住み慣れた場所を失い、親の安否も知れない、こうして地球連合軍の軍艦に乗っているからには、いつまた戦闘が始まるとは限らない。
「キラか・・・」
カズイが呟いた、そして寝棚で眠っているキラを見る。
「この状況で寝られちゃうなんて凄いよな・・・」
「疲れてるのよキラは、ほんとに大変だったんだから」
ミリアリアがそう言うと、カズイは小さく笑った。

659夢と希望・4:2004/06/05(土) 22:44
「大変だったか・・・キラにはあんなことも「大変だった」ですんじゃうんだもんな」
「なにが言いたいの?カズイ」
と、とがめるような視線を向けてミリアリアは言った。
「別に・・・たださ、キラ、OS置き換えたって言ってたじゃん、アレの・・・それっていつだと思う?」
「いつって・・・」
ミリアリアは考えた。
キラだって、ストライク・・・あのモビルス−ツのことは知らなかった、OSを置き換えたのはあれに乗り込み、戦闘が始まってすぐにということになる。
戦闘の様子がフレイを除く全員が見ていた。
その状況を見れば説明する必要はないだろう。
「コ−ディネイタ−・・・つまりザフトにはそんなばかりなんだぜ・・・そんな奴らに地球軍は勝てるのかよ」

<敵艦影発見!第一戦闘配置!軍籍にあるものはただちに持ち場につくように!>
切迫した艦内アナウンスに、ミリアリア達ははっと顔を上げる。

「戦闘になるの・・・?この艦」
<キラ・ヤマトは艦橋へ、キラ・ヤマトは・・・>
それを聞いて、ミリアリアはそっとト−ルに話しかけた。
「キラ・・・どうするのかな」
サイが小さく呟いた。
「あいつが戦ってくれないと・・・困ったことになるんだろうな・・・」
そんな中、ト−ルは何かを考えていた・・・。
そしてミリアリアがその腕を揺すった。
「ねえト−ル・・・キラはこれから戦場に行くのよ?それなのに私達だけ・・・」
「できることをやれか・・・」
フラガがキラに先程言ったのだ。
ミリアリアは皆の顔を見回り、皆がうなずくとブリッジに向かった。

660私の想いが名無しを守るわ:2004/06/05(土) 23:34
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
おかえりなさいまし
アスランを本気で怒らせたフレイ様(♂)どうなってしまうんでしょう。
誰かフレイ(♂)イラ描いてほすぃ

661私の想いが名無しを守るわ:2004/06/05(土) 23:51
キラ(♀)×フレイ(♂)キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
自分も一番好きなシリーズです。
種とは別のもうひとつの種として楽しませて頂いてます。
ぜひ完結してくだせぇ!

662さよならトリィ 4/8:2004/06/06(日) 07:00
[フレイ、トリィを部屋に連れて行っておいてくれ]

オーブでキラと別れた。

修理のためオーブに寄港したアークエンジェル。そこでのヘリオポリスの学生の両親との面会。
だけど、私には誰も会いに来てくれる人はいない。ママは小さいころ死んだし、もう、パパも……
当日、両親面会に行かずに、私のいる部屋に来たキラ。それに、私は同情されたと思って
激情を爆発させた。

「辛いのはアンタの方でしょ! 可哀想なのはアンタの方でしょ!
 可哀想なキラ…… 独りぼっちのキラ……
 戦って辛くて…… 守れなくて辛くて…… すぐ泣いて……
 なのにっ!! なんで私がアンタに同情されなきゃならないのよ!」

感情のまま、言葉を投げかけて、そのままキラの胸で涙を流していた私の耳元で呟くキラの言葉。
二人の関係は……間違った……

…… そう、そうよ!…… 間違いよ!!
…… そんなの最初っから分かってるわよ!…… だけど …… だけどっ!!!

私はキラを突き放し部屋を飛び出そうとする。痛い、心が痛い。なんでよ、なんで、私まで
心が痛いの? キラ一人傷つけばいいんじゃない。キラ一人可哀想ぶってればいいんじゃない。
なのになぜ?

開けたドアの前で振り返った時、トリィは辛そうに俯くキラの肩で、キラに話しかけていた。
トリィはキラを選んだ。キラを慰めている。当たり前だ。私が辛い言葉でキラを傷つけたのだから。
可哀想なのはキラ。悪いのは私。キラを復讐に利用していた私。トリィが慰めるべきなのはキラ。
トリィはキラのものなんだから。

部屋を飛び出した私は、涙を流しながら、目的もなく、ただ通路を走っていく。
自分でも、どうして、こうなったのかさえ分からずに……

グルグルと通路を歩き回って、行くところが無くて。また、私はキラの部屋の前に立っていた。
躊躇いながら、パスコードを入力し、ドアを開ける。部屋は真っ暗だった。キラはいなかった。
トリィもいなかった。キラはトリィまで連れて行った。私は、もう顧みられることは無い。
終わりなんだ。もう何もかも。

* * *

アークエンジェルはオーブを出発した。
私は行くところが無い。今さら、ミリアリアと同室の部屋なんて顔を出せない。
ただ、夜中じゅう、通路を彷徨い続ける。空いている仮眠室で、つかの間の眠りに落ちる。

トリィもいない。私に話しかける人も、私の話を聞いてくれる人も誰もいない。ただ、一人
彷徨い続ける。食堂では、みんなが談笑している声が聞こえる。私は、その輪の中に入ることもできず、
一人寂しく立ち去るしかない。

私は何をしているの? なんで、こんな想いをしなくちゃいけないの? 誰が悪いの?
誰か答えてよ。

深夜、歩き回って行き当たった通路の先、モビルスーツデッキ。見下ろすと、そこに、
キラとトリィは居た。キラも、暗い表情をしている。何かに悩んでいる。私と同じように?
何かの答えを求めて? 何を求めて?

敵襲を告げるアラートの響く中、私はキラとトリィを追った。

「キラ、私……」
「ごめん、後で…… 帰ってから」

そう言ってキラは走り出した。トリィも付いて行く。二人とも行ってしまう。やはり、私には誰も……

「トリィ、お前は帰ってろ。フレイ、トリィを部屋に連れて行っておいてくれ」

それに、私は許されたような気がした。飛んできたトリィを手で受け止めると、軽くキラに頷いた。
それを見て、また、キラは駆け出した。

私は揺れ始めた艦の通路を、壁に寄りかかりながら歩いて、トリィと一緒にキラの部屋へ戻った。
パスコードも変わっていない。キラの部屋は何も変わっていない。

私はベッドに飛びこんで毛布をかぶった。トリィも毛布に潜り込んできた。
恐い戦闘。でも、これが過ぎれば、何かが変わると思っていた。

戦闘が終わった。キラが帰って来る。足音が部屋に近づく。私は弾かれたようにベッドから飛び起きた。
ドアの前で期待を胸に踊らせる。トリィも、私の肩に乗って、ドアを見つめる。

でも、足音は通り過ぎた。

私はドア脇の机に座り込み、頭を組んだ腕の間にうずめて、ドアの向こうの足音に聞き耳を立てながら、
目の前のトリィを見つめ続ける。

足音は通り過ぎ続ける。次の足音も、その次も、その次も……

「キラ、遅いわね。何してんるんだろう……」
<トリィ……>

私はトリィに呟きながら待ち続ける。
キラが帰ってくれば、何かが分かる。私の答えが見つかるはず。そう思って、ひたすら待ち続ける。

でも、その答えは得られなかった。キラは帰って来なかったから……

663私の想いが名無しを守るわ:2004/06/06(日) 10:45
さよならトリィも再開ですね。
人の痛みを知るフレイたま。
本編の補完SSとして萌えさせていただいております。
こういう形でキャラの気持ちを最初からなぞり直してもらえると
ファンとしては嬉しい限りです。
半分まで読ませていただきましたが最後まで頑張ってくださいね。
(あ、もう書き終えられているんでしたっけ)

664夢と希望・5:2004/06/06(日) 21:42
ストライクのコクピットで、敵機接近の警告音が鳴り響いた。ビ−ムライフルを構える。
真紅の機体が接近してきた、イ−ジス(アスラン)だ。

「アスラン!?」
<キラ!キラだな・・・>

あの声が頭の中に響いた。
<やめろ!やめるんだキラ!俺達は敵じゃない、味方だ、仲間なんだ、そうだろ!?>
スピ−カ−からの声にキラははっとする、そうだ・・・なぜ?なぜ僕達は友達なのに戦ってるんだろうか。
<同じコ−ディネイタ−のお前がなぜ地球軍にいる!?なぜナチュラルの味方をするんだ!?>
<僕は地球軍じゃない!でも・・・あの艦には友達が・・・大切な人達が乗ってるんだ!>
そんななか別の二機がア−クエンジェルに攻撃していることにキラは気づき掩護に向かおうとした。
しかしイ−ジスが割り込んでくる。

<やめろ!お前は俺達の味方だ!>
<アスラン・・・!君こそなんでザフトになんか!戦争なんか嫌だって、君だって言ってたじゃないか!>
<状況も分からぬナチュラルどもがこんな物を作るから・・・>

そんなとき、一機の機体が割り込んできた。
二人は我に返りかわす。

<なにをモタモタやっている!?アスラン!>
聞き覚えのない声が割り込んできた。
「これは・・・デュエル!?じゃこれも!」

バスタ−とブリッツに取り付かれたア−クエンジェルは、回避行動を取りながら必死の防戦につとめていた。
爆雷が撃ち出され、それがさらに炸裂して細かな粒子をまき散らす。
新型艦ア−クエンジェル、大天使の火力にバスタ−、ブリッツも攻めあぐねている様子だ。

その頃、ストライクのコクピットでは、息を切らし、必死で機体をコントロ−ルしているキラがいた。
しかし・・・。
「しまった!エネルギ−切れ!?」
フェイズシフトが落ちた・・・。
その隙を見てデュエルが突っ込んでくる。
やられた!しかし次の瞬間キラのストライクはイ−ジスに捕らえられていた。

665夢と希望・6:2004/06/06(日) 22:33
<なにをするんだ!?アスラン!>
<ストライク、捕獲する!>
<なにを馬鹿なことを言っている!?命令は撃破だぞ!>
<捕獲できるなら捕獲したほうがいい!撤退する!>
イ−ジスはストライクを捕獲したまま離脱している。

<アスラン!どういうつもりだ!?>
キラが叫んだ。
<このまま連行する、お前も一緒に来るんだ>
<ふざけるな!僕はザフトになんか行かない!>
<いいかげんにしろ!>

アスランの一声にキラは黙った。
<このまま帰るんだ!でないと・・・僕はお前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!そんなことはしたくな!俺はもう大切な人には誰にも死んでほしくないんだ!>
<アスラン・・・なら、君が来るんだ・・・>
<な・・・?なんだと!?>
<君が地球軍に来るんだ・・・アスラン、君もおいでよ>
<な!?馬鹿なことを言うな!>

その頃。
「あのキラって子・・・大丈夫なのかしら・・・?」
居住区に一人取り残されていたフレイはベッドの中で心配そうに呟いていた。

ムウのネビウス・ゼロが二機に近づいてくる。
<離脱しろ!ア−クエンジェルがランチャ−ストライカ−を射出する!>
<キラ・・・く!>
ストライクはイ−ジスを一目見るとそのまま宙域を離脱した。
そんな中メビウス・ゼロを迎撃していたイ−ジスのアスランは先程のキラの言葉が頭をよぎっていた。

無事帰還したキラ、その後のア−クエンジェルはアルテミスへ入港した。
しかし・・・ユ−ラシアの軍には面白く思われていなかったのか、いろんないざこざがあった。
そんなときに限っていいことは起こらないもので、ザフトが攻めてきたのだ。
そして結局アルテミスは壊滅したがア−クエンジェルは無事で済んだのである。
戦闘ばかりで心が疲れていたキラ、この後の謎の少女の出現によりまた・・・。

666私の想いが名無しを守るわ:2004/06/06(日) 23:04
>>さよならトリィ

フレイ様せつな杉…
折角スレ違っていた二人が少し近づいたと思ったら…
凄くいい作品ですね。
うわ〜〜〜ん

667さよならトリィ 5/8:2004/06/07(月) 06:42
[一緒に来るんだフレイ。約束の地へ]

「キラはMIAさ。多分、死んだんだよ」
カズイの言葉が、いつまでも耳に残っている。

頭の中はキラのことばかり考えていた。何で、そうなの?
キラは、私の思惑通り、戦って死んだんじゃない。何でそうなるの。何で、こんなに心が苦しいの。

<トリィ……>

トリィが慰めるような声を出す。
そうよ、私は復讐を終えたのよ。これで終わったの。戻らなきゃ。元のところに。

私はキラの部屋を出た。肩にトリィがとまった。それを私は追い払おうともしなかった。
ごく自然に。既に、私の一部であるかのように。

通路を歩き回って捜した。医務室の前で、やっと見つけた。サイを……
この前の戦闘で、同じようにトールを亡くして、悲しみに震えるミリアリア。
サイは彼女を癒すように付き添っていた。

「サイ…… あの……」サイに声をかけた。

サイが振り向く。その時、トリィが急に私の肩を飛び立ってサイの肩にとまった。身じろぎするサイ。

いや、違う! 私にはキラが見えていた。幻想のキラが……
私に明るい微笑みを返すキラ。現実に無かった光景。そのキラに私は吸いこまれそうになる。

── おいで、フレイ

キラが、そう囁いたような気がした。トリィが私のところへ飛んできた。

── 一緒に来るんだフレイ。約束の地へ。

「イヤッ! イヤ!!」
手を振り回してトリィを叩き落としそうになった。トリィは、私の手をかいくぐって、
通路を飛び去って行った。私は激しく動揺して、息を乱していた。

「やめなよ」サイは憮然とした表情で私に声をかけ、「後で」と言い残してミリアリアを
連れて医務室に入った。

私は、まだ呆然として立っていた。キラの亡霊? キラは私を呼んでいるの? 私を恨んで?
トリィが、また戻ってきて天井近くを滑るように飛び回っている。トリィ、あなたは一体何を言いたいの?

ほどなく、サイは医務室から出てきた。

「俺に、何?」
「何って……」私は言葉に詰まる。

サイは、私によそよそしい。私を慰められないと言う。他の人と話せって? サイ以外に
話せる人がいる訳ないじゃない。どうして? 私は帰ってきたのに、なんでサイはこんなことを言うの?

「サイ! けど、私、ほんとは…… あなたも分かってたじゃない。私ほんとはキラのことなんか」

「いいかげんにしろよ! 君はキラのことが好きだったろ」サイは、はっきり言った。

「違うわ」
「違わないさ!!!」
思ってもみなかったサイの怒鳴るような声。厳しい表情。それに、私は気圧された。

「ちがうぅぅ! 違う、違う」
私は叫んだ。首を振りながら自分に言い聞かせるように叫んだ。そんなはずが無い。そんなはずが……
私がキラのことを、そんな風に思っているなんて、そんなはずが無い!

私はキラが憎いのよ。キラに復讐したのよ。復讐を果たしたのよ。だから……
違うのよ、違うって言ってよ。そうじゃないと私、私……

トリィが、またサイの肩に舞い降りた。そして、私に視線を向ける。真実を見通すような
まっすぐな目で。トリィ、あなたは……

その時、医務室で大きな音がした。悲痛な叫び声。トリィは、また飛び立ち、サイは、急いで
医務室に戻った。後を追った私が見たものは、手にナイフを持ってサイに取り押さえられている
ミリアリア。医務室の奥には、頭から血を流している捕虜のコーディネーター。
ミリアリアは、私が見たことも無いような形相で叫んでいる。トールを失った悲しみ、憎しみ。
それが、私の心を痛ませる。それは、私にも、やがて……

ふと、机の半開きの引き出しに、銃が入っているのが見えた。私は、感情に突き動かされるまま、
それを手に取った。

「コーディネーターなんて、みんな死んじゃえばいいのよ!」

私は銃を、その捕虜に向けて叫んだ。復讐のために。

…… キラを失った復讐のために ……

さっきのキラの亡霊。あれは、キラが恨んでいるのでは無い。私が呼んだのだ。
キラを呼んだのは私なのだ。私がキラを求めているのだ。

トリィは、そんな私を通路でジッと見ていた。トリィの言いたかったことって、そういうことだったの?

668夢と希望・7:2004/06/07(月) 22:29
「あそこの水を・・・!?本気なんですか?」
ア−クエンジェルのブリッジに戻ったキラは、驚愕の声に上げた。
「あそこには一億トン近い水が凍りついているんだ」
なんの理由も説明しない事実を、ナタルが口にする、彼らはユ二ウス・セブンの残骸から水を運ぶことを決定したのだ。
「でも・・・あのプラントは何十万人もの人が亡くなった場所で・・・!」
キラは懸命に抗議した、あの場所は彼にとっても特別な意味を持っているのだ。
マリュ−は言った。
「気持ちは分かるけど・・・水はあれしか見つかってないの・・・」
キラは仕方なく黙る。
「俺達だってできればあそこには踏み込みたくないさ」
勢いづくようにムウは言った。
「けど、しょうがねえだろ!俺達は生きてるんだ!ってことは生きなきゃなんねえってことなんだよ!分かるか!?」

地球軍に壊された大地、虐殺されたコ−ディネイタ−の記念碑に、キラは祈りを捧げた。
だが、僕に祈る資格なんてあるのか?事情があるとはいえ虐殺を行った地球軍と共に戦っている僕に・・・。
殺したくなんかない、ただ守りたいだけなのに、頭の中に赤い髪の少女が浮かぶ。
その時・・・電子音が鳴り始めた、敵か!?
だがモニタ−に写っていたのは敵の機影ではなかった。

ア−クエンジェルの格納庫には、キラが見つけた救命ポットが横たわっていた。
ハッチはかすかな音を立てて開いた。
兵士達が一斉に銃を構える。
<ハロ・ハロ・・・!>
間抜けな声を発しながら出てきたのはピンク色の丸い物体だった。
ぱたぱたと耳が羽ばたくように動き、球の真ん中には目が二つ光っていた。

「ありがとう・・・ご苦労様です・・・」

柔らかなピンクの髪と、長いスカ−トの裾をなびかせて、ハッチから出てきたのは、天使のような可愛い少女だった。ほんわりと白い肌、ほっそりした腕、優しく愛らしい顔は見るものを幸せにしそうだ。
「あら・・・あらあら?」
彼女をキラは抱きとめた。
「ありがとう」
間近で彼女がにっこりする。キラはつい顔が赤くなった。
「あら?」
彼女はあたりを見回した。
「まあ・・・これはザフトの艦ではありませんのね?」
全員が大きなため息をついた。

669夢と希望・8:2004/06/07(月) 23:04
士官室の中にいたピンクの髪の少女はキラの姿を見つけると手を振った。
顔を赤くしたキラは手を少し振るとそのまま去って行った。

「私はラクス・クラインですわ、これは友達のハロです」
少女はマリュ−達の前にピンク色のロボット、ハロを差し出して紹介する。
ムウがため息をつく、どうもこの少女の前では調子がでない・・・。
「クラインねえ・・・そういやプラント最高評議会議長もシ−ゲル・クラインといっていたような」
ムウが思い出したように呟いた。
それを聞いたラクスは嬉しそうに。
「あら、シ−ゲル・クラインは私の父ですわ」
無邪気というか、天然というか・・・自分の置かれた状況を分かっているのないないのか・・・こんなに認めるとは・・・三人はまたため息をついた。
「・・・そんな方が、どうしてこんなところに?」
「ええ、私、ユニウス・セブンの追悼慰霊のために事前調査に来ておりましたの」
黙って聞く、やっと本題に入ったようだ。
「そうしましたら、地球軍の艦と出会ってしまいました、臨検するとおっしゃいましたので、お受けしましたのですが、地球の方々には、私どもの目的がお気に障ったようで・・・ささいないさかいから、船内はひどいもめごとになってしまいましたの・・・」
少女の表情が悲しく曇った。
「私はポットで脱出させられたのですが・・・あのあと、どうなったのでしょう、地球軍の方々が、お気をしずめめてくださってい下さっていればよろしいのですが・・・心配ですわ」
この宙域に、ごく最近破壊されたような民間船があったなどと、言う必要はない、その船に砲撃の痕があったなどと・・・言う必要はない・・・。

仕官達が立ち去るとラクスは壁のモニタ−に近づいた。船内の様子が写し出されている。砕かれ・・・荒れ果てた大地が真空の闇にさらされているのが見える。
ラクスはハロを膝の上に抱き上げると、手を合わせ目を閉じるとささやきかけた。
「祈りましょうね、ハロ・・・どの人の魂も安らぐようにと・・・」

その一時間後である。
部屋に連れられたラクスは・・・。
「お腹がすきましたわ・・・食事はくるんでしょうか・・・?」
プシュ−とドアが開いた。
「あらあら?貴女が?食事をお持ちしてくださいましたのね、ありがとうございます、はしたないことを言うようですけど、私ずいぶんお腹がすいてましたの、よかったですわ」
「どうぞ・・・」
入ってきたのは赤い髪の少女だった。
「私はラクス・クラインですわ、貴女は?」
「フレイ・・・フレイ・アルスタ−よ・・・よろしくねラクスさん」
フレイは優しくラクスに微笑んだ。

670さよならトリィ 6/8:2004/06/08(火) 08:19
[トリィ、ずっと一緒に居て。約束して、絶対離れないって]

私は復讐の心に突き動かされるまま、コーディネーターに向けて銃を撃った。

だけど、ミリアリアに突き飛ばされて、弾は外れて、天井の照明を壊しただけだった。
蛍光灯の破片が散乱する中、私に覆いかぶさるように涙を流しているミリアリア。
どういうことなの? ミリアリアの考えが分からない。

私はミリアリアに問いかける。
「なんで邪魔するのよ…… アンタだって私と同じじゃない」

「違う、私…… 違う……」
ミリアリアは涙を流しながら、ただ、それを呟くだけだった。

いつの間にか、自分も涙を流しているのに気がついた。復讐の高揚感も消えていた。
手に残る銃の衝撃が、急に恐ろしく感じられた。

騒ぎを聞いて医務室にクルーが集まる中、バジルール中尉が仕切って、私とミリアリアは
守られるように、それぞれの部屋へ戻された。私はキラの部屋へ…… トリィも一緒だった。

キラの部屋で、電気も付けず暗いまま、私は、まだ銃の衝撃が残り震える手を、トリィに、
啄ばませながら、さっきのことを思っていた。

…… 私がキラを呼んでいる。私がキラを求めている ……
それは、もう隠すことはできない。何で、今になって……

グルグルと思考だけが空回りする。うわ言のようにトリィに話しかける。

「ねえ、トリィ、何で今ごろ気がつかなきゃいけないの? なぜ、気づかせたの?」
<トリィ!>

「もう居ないのに。キラは居ないのに。何で今ごろなの」
<トリィ!>

「キラ、なぜ居なくなってしまったの。あんなに強いのに。あんなに一緒だったのに」
<トリィ?>

「キラの馬鹿…… 馬鹿、馬鹿!! もうちょっと居てくれたら。私……」
<トリィ! トリィ!>

私は記憶の中のキラの姿を追っていた。

ヘリオポリスにいる頃のキラは、友達と優しい目で笑い、時々、私に向かって遠巻きに熱い目を向ける。
だけど、私は、その頃のキラのことを、ほとんど知らない。

アークエンジェルに乗ってからのキラは、私の手の中にあった。いつの間にか、キラの仕草の癖や、
食べ物の好みも、みんな分かっていた。キラが心のうちに持つ痛みさえも……
…… ただひとつ知らなかった。本当に明るく笑っているキラ……

「トリィ、キラに会いたい。キラのこと、もっと知りたい。みんな知りたい」
<トリィ>

「教えて、教えてよ、トリィ! あなたが、気づかせたんだから。教えてよ!」
<トリィ! トリィ!>

トリィに答えられる訳が無い。それが分かっていて、私は問いかけずにいられない。

さっきのミリアリアの行動。自分もコーディネーターに復讐しようとしながら、なぜ、私の復讐を
止めたのかは、今でも分からない。でも、ミリアリアに止められてから、私には、もう復讐の心は無かった。
パパの復讐にキラを利用しようとして、キラが死んで、また、その復讐を……
そんなことが、すべて虚しく感じられた。心に、ぽっかり空いた空洞。それを埋めるかのように、
私はトリィに話しかけ続ける。

「私、キラのこと…… キラのことが…… もう、ずっと前から……」
<トリィ!>

「ここにキラと居たことが…… キラと…… トリィ、あなたと一緒に居たことが、私……」
<トリィ……!>

「大切だった。それが…… とても、大切だった……」
<トリィ!!>

私はトリィを手の平に乗せ、そっと頬に当てた。

今の私にはトリィが必要だった。砕けてしまいそうな心を繋ぎ止めるにはトリィが必要だった。
あの時、折り紙の花を手にキラが泣きじゃくった時、私を必要としてくれたように。

「トリィ、ずっと一緒に居て。約束して、絶対離れないって」
<トリィ!! トリィ!!>

トリィの強い声に、私は一時の安らぎを覚えた。

* * *

だけど、私には、その約束さえ守られなかった。転属で、私はアークエンジェルを降りることになった。

「イヤよ! イヤです私! はなしてっ!」

バジルール中尉に手を引かれて、私はサイやミリアリア、マリューさんの見守る中、アークエンジェルを
降ろされた。

トリィは、私に付いて来なかった。サイのところへ行ったまま、私の手には戻って来なかった。
なぜ? どうして? 約束したじゃない。嘘つき! なんで、私と来ないのよトリィ。

嘘つき! 絶対離れないって言ったのに。嘘つき! トリィの嘘つき!!

トリィは私に付いて来なかった……
…… でも、その方が良かったのかもしれない。

なぜなら……
アークエンジェルを降りた私は、ラウ・ル・クルーゼに捕らえられて、ザフトへさらわれたのだから。

671私の想いが名無しを守るわ:2004/06/08(火) 09:32
>>トリィ
フレイ様視線でありながら、フレイ様に都合の良い解釈だけでない
冷静な文体に本当に(フレイ様)がお好きなんだと感じさせられます。
独白も真に迫り、心打たれるものがあります。
書き終えられている作品の分割投下という事で、
とても読みやすく、エンディングが楽しみです。
文章力のある方のSSは読んでいてとても安心いたします。

672夢と希望・9:2004/06/08(火) 21:29
「私ね・・・ほんとはコ−ディネイタ−って本当は好きじゃないのよ」
そう呟いたフレイの表情をラクスは伺った。
「でもね・・・貴女は安心出来るの」

<ハロ!ハロ!>
「ふふ・・・可愛いわね、どうしたのそれは?」
ハロを見ながらフレイは言った。
「ハロですか?これは大切な人に貰ったものですわ」
「大切な人?」
「はい・・・とっても大切な人です・・・愛してるんですの」

「しかしまあ・・・補給の問題が解決したかと思ったら、今度はピンクのお嬢様か・・・」
ムウがマリュ−を見やり、からかうように敬礼する。
「悩みの種がつきませんな、艦長さん」
よくもまあ他人事のように言ってるれるものだ、と思うマリュ−だが、ただ、この頃は彼女もムウのスタイルになれてきた、普段はいいかげんに見えても、いざというとき非常に頼りになる男だ、補給のことだけでなく、これまでだって、もの飄々とした態度も・・・いややめとこう。
「あの子もこのまま、連れて行くしかないでしょうね」
マリュ−はため息をつきながら呟いた。

「じゃあまたねラクスさん!話せてよかったわ!」
「ええ、こちらこそ楽しかったですわ」
部屋から出て行くフレイをキラは目撃した。

673夢と希望・10:2004/06/08(火) 22:05
「あ、駄目ですよ部屋から出たら!」
部屋から出ようとしたラクスをキラは士官室に入れる。
「またここに居なくてはいけませんの?」
フレイを追おうとしていたラクスは寂しそうに呟く。
「ええ・・・そうですよ」
キラは沈んだ気持ちを押し隠し、無理に笑いかけた。
「私もあちらで皆さんとお話ししたいですわ」
そんな顔もまたなんとも愛らしい、キラはまぶしいものを見たように目をそらした。
「これは地球軍の艦ですから、コ−ディネイタ−のこと・・・その・・・あまり好きじゃないって人もいるし・・・」
(たぶん、僕のことも・・・)
口にした瞬間走った胸の痛みをまぎらすように、彼は言葉をついだ。
「ってか、今は敵同士だし・・・だから仕方ないと思います・・・」
なぜ僕は・・・僕はこうやって、ナチュラルの肩を持つようなことを言ってるのだろう、それで彼等に溶け込めるわけでもないのに。
そう思うとますます悲しくなってキラは目を落とした。
「残念ですわね・・・」
ラクスはそんな彼の顔を見上げ、切なげな表情になる、だがそれはたちまち消え去り、すぐに包み込むような笑顔になった.
「でもフレイさんという方は私に優しくしてくれましたわ、励ましてくださいました、食事も持ってきていただいて・・・」
ラクスは嬉しそうに微笑んだ。
「フレイが?そうですか・・・そうなんですか!フレイが・・・」
キラはつい嬉しくなった、フレイが彼女に優しくしてくれたのはなんだか嬉しかった・・・なんで・・・おかしい、そんなこと考えても仕方ないか。
「貴方もとても優しくしてくださいますのね、ありがとう」
「僕は・・・」
キラははっとした、なぜか後ろめたい気分になり、彼は思い切って言った。
「僕も、コ−ディネイタ−ですから」
ラクスは目を丸くし、きょとんと首をかしげた、驚いているのだろう、とキラは思った、そして次にはきっと、「コ−ディネイタ−がなぜ地球軍にいるのか」尋ねるだろう。
だが、キラの予想は裏切られた、ラクスは、不思議そうに訊いた。

「・・・貴方が優しいのは・・・貴方だからでしょう?」
どきん、と、キラの心臓が大きく打った。
・・・この子は、誰なんだろう・・・?
「お名前を、教えていただけます?」
ラクスはほわりと笑う、その笑顔に見入っていたキラは、一泊おいてあわてて答えた。
「あ・・・キラです・・・キラ・ヤマト・・・」
「そう・・・ありがとう、キラ様」
そう呼ばれたとたん、キラは自分が大昔の騎士または伝説の勇者、もとい錬金術師になったような気がした。

674さよならトリィ 7/8:2004/06/09(水) 07:58
[トリィは、こうなることまで知っていたの?]

私はラウ・ル・クルーゼによってザフトにさらわれた。

ラウ・ル・クルーゼ。仮面を付けたコーディネーターの軍人。そして、パパの声のする人。
その人物に、私は、まるで籠に囚われた鳥のように飼われた。私を脅し、部屋に閉じ込め、
自由を奪い、それでいて、自分を頼れば安全だと、私にパパの声で話す。
クルーゼ…… あの人は、一体、何を考えていたの?

周りはザフトの軍人ばかり、少しでも逆らえば、私の命は無い。ただ、クルーゼの言葉を信じて
従い続けるしかない。その状況の中で、私は心を押し殺し、脅えながら生きてきた。

「早く終わらせたいものだな。こんな戦争は…… 君も、そう思うだろ。
 そのための最後の鍵は手にしているが、ここにあったのでは、まだ扉は開かぬ。
 早く開けてやりたいものだがな」

だから、戦争終結を語るクルーゼの想いも、私は信じた。偵察に行くクルーゼから手渡された
鍵と呼ばれるディスク。私は、それを手に平和な頃に想いを馳せた。

そして、作戦室で聞いていた。同じ空域にアークエンジェルが居ることも……
トリィのこと、キラの思い出は忘れなかった。アークエンジェルに帰りたかった。

偵察から帰ってきた時のクルーゼ。仮面が外れている?
激しく苦しみながら、引き出しから、いつも私の前で飲んでいた薬を捜し出して噛み砕くように
飲み込み、獣のような、うめき声を上げる。長髪に隠れた素顔は、私のところからは覗くことは
できない。やがて、クルーゼは慌てて新しい仮面を付け直した。

偵察で何があったのかは分からない。だけど、私は、恐ろしくて逆らえなかった。
次のクルーゼの命令に……

「さて、君も手伝ってもらおうか。最後の賭けだ。扉が開くかどうかのね」

私は、救命ポッドでドミニオンへ…… 戦闘の光の、ただ中へ……
成す術も無い私は通信で、ただ叫ぶ。

「アークエンジェル! 私、私ここ! フレイです。フレイ・アルスター!
 鍵、鍵を持ってるわ私。戦争を終わらせるための鍵…… だからお願い……」

その時……

「フレイ…… フレイっ……」
嘘…… キラの声がする。嘘…… 嘘……

「フレイ!!」
間違い無いキラの声。生きてた?…… キラ、生きてた…… 生きてた!!

「キラ……、嘘……」
私は涙を流して呟く。私の心は、それだけで解放される。それまでの辛い想いも、悲しみも、
すべて打ち消すように。

「フレイィーーー!!」
「キラーーーーー!!」

キラと私の叫びは、暗闇の宇宙を越えて、互いの想いを伝えた。

トリィは、キラが死んだと思って自分を誤魔化そうとする私に、キラへの想いを気づかせた。
それから私は自分自身も死んだも同然の辛さを味わった。

だけど、悲しくても、辛くても、それを乗り越えれば、より強い繋がりが生まれる。
今、キラの声を耳にした私は、それが実感できる。
ひょっとして、トリィは、こうなることまで知っていたの?

「キラ、キラーーーー!」 私は、想いをこめて、いつまでも叫びつづけた。

生きていたキラの声を聞けた…… だけど、ドミニオンに回収された私は、キラの顔さえ
見ることができなかった……

* * *

私がクルーゼからドミニオンへ運んだ鍵のディスク。戦争を終わらせる鍵。そう思っていた。
だけど、それは、核を解放するディスク。さらに悲惨な戦争。あのクルーゼが望んでいたものは……
許されない罪の意識。それを感じながらも、私には、すでに強い意思が生まれていた。

── 会いたい。キラに会いたい!

私はドミニオンへの乗艦を志願した。アークエンジェルを追いかけるために。
昇進し、ドミニオンの艦長になっていたバジルール少佐は、私のことを理解して、
通信士としてブリッジに置いてくれた。

私は、激しい戦争を目の当たりにしながらも、歯を食い縛って、ブリッジからアークエンジェルの
行方を追い続けた。

…… キラに会いたくて。謝りたくて。
私と一緒に居た、みんなに謝りたくて。何も知らなかった私を……

そして、キラに、せめて一言でも、私の想いを伝えたくて。
もしも…… もしも、許してくれるのなら、キラのいる、トリィのいる、あの部屋へ戻りたくて。

そして……
戦争は、そんな私の想いさえ飲み込んだ……

届かなかった。後、一歩のところで…… キラにも…… トリィにも……

675私の想いが名無しを守るわ:2004/06/09(水) 10:27
さよならトリィ作者さま
フレイ様が…!!!
ラスト一回、腹をくくって読ませていただきます
でも涙で前が見えないかも知れない…

676私の想いが名無しを守るわ:2004/06/09(水) 13:42
本編のフレイ様が本当に考えていた事のようなお話ですね>さよならトリィ
短期間でこんなお話が作れる職人さんすごい!
毎日更新を心待ちにしています

677さよならトリィ 8/8:2004/06/10(木) 06:18
[さよならトリィ]

トリィが飛んで来る。私に向かって飛んで来る。

── トリィ……
<トリィ! トリィ!>

── トリィ、やっと会えた
<トリィ!!>

トリィは再会を喜ぶように、私の目の前で翼を盛んに羽ばたいている。トリィの瞳が、私を
ジッと覗きこむ。そんな、トリィに、私は今までに無い笑顔を向ける。解放された私の心は、
とても素直に私を振る舞わせる。

やがて、トリィは私の胸に飛び込んできた。それを私の手は受け止めようとする。
だけど、トリィは私の手をすり抜け、私の胸の中を突き抜けて通り過ぎる。

<トリィ……?>

トリィは不思議そうな顔をする。悲しそうな顔をする。私もトリィの、そんな顔を見て、
少し表情を曇らせる。

── トリィごめんね、私、届かなくて…… あなたにも…… キラにも……
<ト……リ……ィ……>

── ごめんね。トリィごめんね……
<トリィ…… トリィ……>

宇宙。周りは一面の星。既に、そこで繰り広げられていた暴力的な強い光の興亡は影を潜め、
見回す限り、まるで夢のように幻想的な淡い光で彩られている。その中、トリィは、私の周りを
舞うように飛び続ける。

── トリィ、ありがとう。元気づけてくれてありがとう。トリィ、私、あなたに会えて良かった。
<トリィ! トリィ! トリィ! トリィ! トリィ! ……>

トリィは精一杯叫びながら、私の周りを回り続ける。私を逃さないかのように。

だけど、私は別れの時が近づいていることを知っている。
私はトリィに指差した。

── トリィ、キラがいる。私はいいから、あそこまで飛びなさい
<トリィ?>

── カガリとキラの友達が、あっちにいる。その二人をキラのところまで連れて行きなさい
<トリ? トリィ……>

── ここで、お別れよトリィ
<トリィ……>

── 今まで、ありがとうトリィ。私を助けてくれて。私に本当のことを気づかせてくれて。勇気づけてくれて。
<トリ……ィ……>

── トリィごめんね、そんなに、私を助けてくれたのに。私、お返しできなくて……
<ト……リ……>

── 悲しまないでトリィ。私はキラと一緒にいるから。
<トリ……?>

── キラには、さっき伝えたから。私の本当の想いは、ずっとキラの中にあるから。
<トリィ…………>

── さよなら。キラを、お願いトリィ。
<トリィ!>

トリィは、キラの方向に体を向けた。そして、私を、もう一度振り向いた。私はトリィに無言で頷いた。
トリィは飛び去って行った。

── さよならトリィ

それが最後の言葉だった。トリィ、キラ、本当に今までありがとう。
さよならトリィ。

さよならキラ……

678さよならトリィ 作者:2004/06/10(木) 06:32
「さよならトリィ」これで終わります。

最初に、すべて書き上げてから投下を始めたんですが、途中、議論の行方を見守ったり、
それを元に、再度、見直したりして投下が遅くなってしまいました。むしろ、加筆しているうちに、
描写がエスカレートしていった感もあります

テンプレはあるとしても、まだ、仕切り直したスレの雰囲気が定まっていないため、
フレイの心情描写以外の実際に起こった出来事は、本編に忠実であることを心がけました。
そのため、フレイの最後は変えられませんでした。ただ、今までの私の作品では、それから
逃げていただけに、今回、自分なりに、きちんと描けて良かったと思っています。

SEEDのSSを書き始めてから読んだ某小説の書き方の本で、「猫を猫として書く」
という主張がありました。動物を作中の人物の比喩として使うものでは無いと言うことなのですが、
それでも、私の中では、やはり、トリィは、ロボットでも鳥でも無く、『トリィ』という、
ひとつのキャラクターとなっています。そのつもりでトリィの意思が見えるように描いてきました。

これは、前作の長編で、量産のオモチャの改造品という設定改変を加えたトリィでも同じでした。
設定改変は、ミリアリアとも絡めやすくなるという意味合いもありました。

まとめてのコメントになりますが、感想つけてくれた方々、ありがとうございました。
投下の励みになりました。

SSスレも少し落ち着いてきたようですし、また、いろいろな方の作品が集まることを祈っています。
私も、また、なにか思い付きましたら、投下します。

679夢と希望・11:2004/06/10(木) 23:16
「パパが?」
フレイが可愛い笑顔になった。
「ええ、先遣隊と一緒に来てるらしいわよ、フレイのことは知らないでしょうけど、こっちの乗員名簿を送ったわ」
ミリアリアはそう言うとフレイの楽しそうな笑顔に自然と自分も微笑んだ。
ミリアリアとフレイは同室になっている、寝ているフレイをミリアリアが起こしたのだ。

<大西洋連邦事務次官、ジョ−ジ・アルスタ−だ、まずは民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい>
マリュ−は思いあたる、フレイの父のことは、ミリアリアから聞いていた、こうして、あとから考えてみると、政府の重要人物の令嬢を保護できたことは、今後の評価に役にたつだろう、キラのおかげだ。
<あ・・・その・・・乗員名簿の中に、私の娘、フレイ・アルスタ−の名があったのだが・・・できれば顔を見せてくれるとありがたい・・・>
ア−クエンジェルクル−達はきょとんとした顔だ、ここは軍艦ということが分かっているのだろうか・・・気持ちは分かるが・・・。
「こういう人なのよね・・・フレイのお父さんって、ね、サイ?」
戻ったミリアリアが告げるとサイは困ったように・・・。
「俺はよく知らないよ・・・」
と告げた。

「これは・・・」
「どうしたの?」
「ジャマ−です!エリア一帯、干渉を受けています!」
それが何を意味するか、誰もがはっきりと分かっていた。
先遣隊は、敵に見つかったのだ。

ア−クエンジェル艦内に、警報が鳴り響いた、自室を飛び出したキラはパイロットロッカ−へと向かう、ちょうどラクスの部屋の前を通り過ぎようとしていたとき、ドアが開いた。
「また!」
どうなってるんだここの鍵は?ここは軍艦だぞ?
ラクスは部屋から完全に出てくると大きな目できょとんとキラを見つめた。
「なんですの?急ににぎやかに・・・」
「戦闘配備なんです、さ、中に入ってください」
「まあ・・・戦いになるんですの?」
「そうです、てか・・・もうなってます」
「キラ様もフレイさんも戦われるのですか?」
どうしてフレイも・・・と思ったが・・・曇りのない淡い瞳で見つめられ、一瞬キラは言葉につまった。
「とにかく、部屋から出ないでください、今度こそ、いいですね?」
せめて優しい口調で言い、ラクスを部屋に押し込み、また鍵をかけ直した。

680私の想いが名無しを守るわ:2004/06/11(金) 11:33
>>さよならトリィ
お疲れ様でした!
フレイ様が死んじゃうという現実は、
彼女のファンの全員が向き合わねばならないつらい現実なんですが…
こういう形のSSにしてくださった事で
彼女も浮かばれるんじゃないのかな、と思いました。
放映最後でトリイがキラの元へアスランとカガリを案内したシーンと
今回のSSが合わさって、何ともいえない気分になりました。
投下終了時のみのコメントでも、凄く真剣に作品に取り組んでいらっしゃるんだなあ、
と感動いたしました。
自分もSSを書くのですが、一作一作にチャレンジ精神を持ち込んで
自分を甘やかさない作者様の姿勢は見習いたいです。
そして、こういう連載形式で話数が決まっている作品は
内容が吟味されているのが感じられ、読者の立場からは大歓迎です!
素敵な作品をありがとうございました。
次の作品投下を心からお待ちいたしております。

681夢と希望・12:2004/06/11(金) 21:47
「キラ!」

ラクスの部屋を通り過ぎたキラは途中でフレイと会う。
不安げな顔のフレイはキラの腕を強くつかむと揺さぶった。
「戦闘配備ってどういうこと?パパの船は?」
パパの船?どういうことなんだろう?事情を聞かされてないキラは内心戸惑いつつ、憧れている少女の前に心臓が高鳴った。
「だ、大丈夫よね?パパの船やられたりしないわよね?ね?キラ!」
よく分からないが、とにかく行かなければ、キラはフレイの欲しがっている言葉で安心させるためにあせったように言った。

「・・・だ、大丈夫だよフレイ、僕達も行くから」
無理に微笑むと、きつく腕をつかんでいる指を外す、フレイはなおも不安げだったが、走り出すキラを見送りながら手を合わせると目を閉じた。

着替えて格納庫へ飛び込むと、ムウの乗ったゼロはすでに発進していた。
ストライクのシ−トに着くと、ミリアリアが状況を教えてくれた。
<敵はナスカ級にジンが三機、それとイ−ジスがいるわ!気をつけて!>
イ−ジス・・・その単語に・・・キラの顔は曇った、そしてミリアリアからの通信が再び入った。
<キラ!先遣隊にはフレイのお父さんがいるの!頼むわ!>
そういうことだったのか・・・。
「分かった・・・」

その頃フレイは・・・ラクスの部屋にいた。
「ラクスさん・・・私・・・パパ、大丈夫かな・・・」
「フレイさん・・・大丈夫ですわ、キラ様が助けてくれます・・・」

682私の想いが名無しを守るわ:2004/06/11(金) 23:51
>>さよならトリィ
連載お疲れ様でした!
フレイたま一人称SSは大好きなので
フレイたまやトリィと一緒になって読ませていただきました。
他の登場人物が動かないので余計に感情移入しやすかったです。
なんていうのか、職人さんの腕なのかな、読みやすくてよかったです。
やっぱり本編の悲劇のヒロインであるフレイたまが大好きだって再確認しました。

683私の想いが名無しを守るわ:2004/06/12(土) 03:22
>さよならトリィ
連載終了お疲れ様でした。
短編でとても心に残るラストでした。
個人的には最後にフレイ様の思いがトリィに乗り移って
アスランとカガリにキラの場所を教えてくれたんじゃないかな、なんて思ったりして。
次の作品も楽しみにしてます!

684私の想いが名無しを守るわ:2004/06/12(土) 16:29
>>さよならトリィ
今日まとめて全部読みました。
フレイ様せつな杉…
素敵なお話をありがとうございました!

685私の想いが名無しを守るわ:2004/06/13(日) 13:26
>>さよならトリィ、
良かったです
光フレイたま、やすらかだったんですね
こういうお話大好きなので、またよろしくお願いいたします

686私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 19:41
>>さよならトリィ
いいですね、本当に切なげでした、感動しました、また新投下をお待ちしてます。
>>夢と希望
新投下どうもです、頑張ってください。
本編とまず違うところはフレイ様がラクスを怖がらず親しく接しているところなどですね、これからもうどう変わっていくかなどなど楽しみです。

それにしても・・・感想書いてる人達って少し冷たいですね。
私はどんなSSでも感想書きますけどね。

687私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 20:24
>さよならトリィ
自分はしがない絵描きなんですが、
ラストのトリィとフレイ様にすごくインスパイアされました。
イラストを描いて見たいと思わせるシーンでした…
字の持つ力って読んだ人に絵のように直接的ではないけれど
その分幅広い影響があると思われます。
すばらしいSSをありがとうございました。

>男フレイシリーズ
次投下、すごくすごく待っています!
大好きなシリーズですのでどうなるか超楽しみです!
誰かも書いてらっしゃいましたが、
男フレイ様も絵にして見たいキャラですね。
頑張ってください!

688私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:32
トリィ>> 短いけどすごく胸に迫りました。
個人的にはトリィに当たるフレイ様の回が切なかったです。
暁の車が聞こえてきそうでした。
次回作も楽しみにしていますね。

689私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:43
>>トリィ  
フレイ様がトリィに苛立ちをぶつけるあたり、本当に胸が痛くなりました
なんだか暁の車が聞こえてきそうで、死にネタですが無茶苦茶好みなお話で、良かったです。

690私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:45
すみません。
投下ミスしたと思ったので同じ内容のものを投下しました。
>>688>>689は自分が書いてます。

691私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 05:45
>>さよならトリィ
ウワァァァン・゚・(ノД`)・゚・。
えらく感想がついているので纏めて読ませてもらい
住人ツボにガツンと入れられた気分です!
フレイ様好きよ、初心に帰れ的ないい作品でした。
短期連載、お疲れ様でした。

692私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 07:51
>>さよならトリィ
お疲れ様でした!次もまたお待ちしてます

>>686
たしかに無視は酷いですね、いつからここの感想者って冷たい人達ばがりになったんだ!?あ、私もその一人か^^

693私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 10:52
>>帰還
>> 散った花、実る果実
こっそりとこの2作の続きを待ち続けてます。
ナタル&フレイのドミでのお話読みたいので。

694私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 11:35
>>686>>692

あえて感想を書かないんじゃなくて、単にみんなその作品を読んでないだけじゃないかな?
どの作品を読み、どの作品に感想を寄せるかは読者の自由だからね。
冷たいと思うなら個人サイトでやったほうがいいですよ。

695私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:30
自作自演につられすぎだ。お前ら。
>>686は夢と希望の作者。あんなのを誉める人間なんて
全世界探しても片手で数えるほどしかいない。

696私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:42
>>695
あんた言い過ぎだよ、そこまで言うか?普通、最近相手の気持ちなどを考えずにはっきり言う住人が多い。

697私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:47
>>あんなのを誉める人間なんて。
この発言は暴言だな、どんな気持ちでこういう発言したんだろうか、心無い人もいるんだね、ていうか作者の自作自演ってなんで決め付けてるんだよ!

698私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:49
>>696
漏れと荒らしはスル−して。

699私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:56
感想とSS以外の書き込みはご遠慮願います。

700私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:59
自分は素直に
>>さよならトリィ
に感動したのでスレ活性化の願いを込めて感想を書きました。
本当にいい作品だと思いました。

701私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:59
【夢と希望作者】=【過去の傷作者】

702私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:04
>>701
いいかげんにしろ!しつこすぎだよ。

703私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:04
>>701
いいかげんにしろ!しつこすぎだよ。

704私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:17
>>701
あえて言うことはない。
みんな知ってても生暖かく見守っていたんだから。

705私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:31
とりあえずこれでまた連載止まるだろうな、いやもう来ないかもな・・・。
くだらない話し合いと695のような人を侮辱したような暴言によってだ。

706私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:39
>>705
又擁護&貶め作戦で荒らすつもり?

707私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 16:45
以後この件については避難所でどうぞ。
発端はどうやら>>686のようだが、感想以外の意見は避難所でやってくれ。
このレスに対するレスも、もしあるなら避難所で書いてくれ。

では以後SS感想で。
職人さんたち、ほんとにお騒がせしました。

708私の想いが名無しを守るわ:2004/06/16(水) 10:34
えっと…
とりあえず雰囲気を変えるために感想書かせていただきます。
>>さよならトリィ、
短いお話なので読みやすく、フレイ様の感情がストレートに伝わってくる
余韻が残る素敵なストーリーでした。
自分が今まで読んだフレイ様死のストーリーは、
キラ視点や残された人視点が多かったのですが、
フレイ様視点だからこそ、読んだ後に妙に共感を覚えたのかなあと思います。
すごく良かったです。
どうもありがとうございました。
こんな状態ですが、ぜひ次の作品も読ませて頂きたいです。

709リヴァオタと八アスのためでなく:2004/06/16(水) 12:13
ラスボスとの決闘のとき,カガリがやってきた。
「キラ、打ち上げ花火もって来たぞ」
「なにほんとか!」
「いまから飛ばすからちゃんと見ろよ!」
ポチ
ドガァァァァァァァァァァンンンンンン
コロニーだけでなく地球,月,火星なども地球破壊爆弾で消滅した。
全宇宙は粉々に砕け散り,生き物はすべて絶滅した。
この物語はあの小説のラストのようなものだった。

終わり

710私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 06:55
>>リヴァオタ
連載終了お疲れさん。
独特の世界観と語り口で、なかなか感想を付けられなかったが、
巨人の星ネタや、藤子不二雄作品ランキングなど、古いネタでは楽しませてもろた。
また、どこかで新しい作品が見られること期待してる。

711私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 10:51
某小説が何故感想がなかったか

・腐女子臭がする
・犯罪行為を堂々とする
・過去の荒らしの作品、又は過去の荒らしの作品と似た文体である
・パクり部分以外の文章が稚拙極まりない。
・初めての投下。と嘘の疑惑を盛り立てる発言をした事。
・擁護、良感想は殆ど自作自演を疑わせる、特徴ある物であること。
・サイなどの良行動を全てフレイ様に分担させる事で、
ファンですら引く位に原作との剥離が甚だしいこと。
・上記の行動をさせるために行動に無理が生じ、余計に作品の質を下げている事
・誤字、脱字、文法ミスの多さ

712私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 10:52
誤爆スマソ。

713私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 11:26
>>711
そんなことはどうでもいい、他の職人さんに迷惑だからやめろ。

714私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 12:02
過去の放置による評判悪化の憂き目を繰り返す気はない。

続きは避難所で。

715キラ(♀)×フレイ(♂)・46−1:2004/06/18(金) 00:56
「こちらキラよ。ねぇ、カガリ。どこにいるの?いたら返事をして」
これで何度目だろうか。キラは、凶悪犯の母親が自首を訴えかけるかのような必死さで、
通信機に呼びかけたが、全く応答は無い。キラがブルーになり掛けた瞬間、通信機の
応答ランプが赤く点滅した。
「はい、こちらキラです!カガリ!?それとも、フレ……」
「キラ、俺だ。そろそろ日が暮れてきたから、俺達も一端引き上げるぞ」
少女漫画のヒロインのようにパッと瞳を輝かせたキラは、大慌てで通信機のチャンネルを
合わせたが、ノイズ混じりにフラガの声が聞こえてきたので、軽く意気消沈する。
「ま…待ってください、フラガさん。もう少しだけ…」
「駄目だ。艦長からも、二時間したら戻るように言われただろうに。
夜になれば、NJの影響が一層濃くなる上に、視界まで効かなくなる。
これじゃ、どうにも探しようがないだろ?」
「で…でも……」
意志薄弱で、今まで易々と命令を受託してきたキラにしては珍しく執拗に食い下がる。
この付近は、未だに敵の勢力圏内だし、この機会に、カガリ達を探し出せなかったら、
このまま彼らをMIA扱いして、先に進まれてしまうのでは…と危惧しているようだ。
そのことに思い当たったフラガは、優しい声色で、キラを諭しはじめた。

「心配するな、キラ。絶対にカガリ達を置き去りにはしないよ。
探索効率が悪いから、あくまで一度出直すだけだ。夜が明けたら、再び捜索開始だ」
「えっ!?ほ…本当ですか!?」
「俺達は軍人だ。緊急時となれば、左手か右手か辛い選択をしなければならない時もある。
でも、そうでない場合は、最後まで仲間を見捨てるような真似はしないさ」
「フラガさん…」
キラは神妙な顔つきでフラガの話しに聞き入っている。ここ最近、色々と不祥事
が相次いでいたので、キラの中で軍人の株は値崩れを続けていたのだが、
フラガの仲間想いの力説に、少しだけ再び株価が高騰しだしたみたいだ。
「まっ、そういう訳だ。お前の今の仕事は、明日の捜索に備えて、じっくり休むことだ。
もっとも、最近キラお嬢様は、あまり独り寝に慣れていないみたいだから、人恋しくて
なかなか寝付けないかもしれないけどな。ウッシシシ…」
「もうっ、フラガさんのエッチ!」
せっかくシリアスに決めた場面でさえも、ついつい要らぬボケをかましてしまうのが、
フラガ兄貴の病んだ性癖のようだ。キラは、モニター上のフラガのニヤケ面に軽く
デコピンを放つと、プゥーと頬を膨らませながら、乱雑に通信を切断した。
それから、海中をエール推進で泳いでいたストライクは、水泳のターンの要領で、
クルリと一回転して方向転換すると、アークエンジェルの方角へ帰投していく。
フラガのセクラハ発言に幾らか気分を害したようだが、キラは彼の忠言を受け入れ、
英気を養うことにしたらしい。


「ふうっ。大人って狡いよな」
キラの脹れっ面が消えた途端、光を反射した漆黒のモニターは鏡の役割を果たす。
鏡の中のフラガは、例の人好きのする笑顔で、フラガを嘘吐きと罵っている。
アークエンジェルの幹部達が、敵に捕捉される危険を承知の上で、彼らの探索に
拘るのは、人道的な見地故ではなく、カガリの政略的な価値に起因していた。
それなのにフラガは、この件を最近、上層部への信頼度が低下していると思われた
キラの信用回復のダシに利用したのだ。ここの所、大人達の不誠実な態度ばかりが
目に付くが、何時かは子供達と心を分かちあえる時が来るのだろうか。
「副長の事をあまり悪く言えないよな。むしろ、体裁を取り繕おうとする分だけ、
悪役に徹しようとするナタルより、俺の方がよっぽど性質が悪いかもな。でも…」
代謝行為という訳でもないが、フラガはマリューの人が良さそうな笑顔を思い浮かべた。
甘いかもしれないが、彼女なら、たとえカガリ達に何の利用価値がなかったとしても、
それでも損得勘定抜きで、子供たちの捜索を指示していただろう。
フラガが知っているマリュー・ラミアスとは、そういう女だった。

716キラ(♀)×フレイ(♂)・46−2:2004/06/18(金) 00:57
時刻は既に夕暮れ時。この時間帯のサドニス海近辺の島々は、夕日に照らされた
美しい紅海を堪能できるのだが、島全体がどんよりとした雲に覆われ、日の恩恵を
受けられない海は灰を溶かしたかのように濁り、島本来の美観を大きく損ねている。
その灰色の海と同じ色をしたフェイズシフト・ダウン中のイージスガンダムは、
ボディの彼方此方から水滴を滴らせて、抜かるんだ大地の上に寝そべっている。
イージスの近辺には、黒と金色の髪をした二人の少年が、崖に背も垂れるような
体勢で座っている。アスランとカガリだ。フレイは、何故かこの場にはいない。
今現在、雨は止んでいるが、突然の夕立にでも降られたのか、二人とも、軍服と
色の異なる髪の毛をビショビショに濡らしている。
カガリはチラリと、自分の真横にいるアスランの横顔を覗く。アスランは体育座り
の姿勢のまま、呆けた瞳で目の前の空間を見つめている。
突然、崖上の草木に貯まっていた水滴が、その重さに耐えられずに、一塊の水の弾丸を
レールガンのように崖下に弾き出した。水の塊は真下にいたアスランの頭に直撃したが、
アスランはピクリとも動かない。黒髪からポタポタと水滴を滴らせながら、まるで雨中
で乱暴され掛けた女性のような放心した表情で、心ここにあらずといった状態だ。

あいつ…。
カガリは、見えない鎖で拘束されているかのようなアスランの無気力な姿を、
彼にしては珍しく、同情した瞳で見つめている。
アスランとか言ったっけ?あいつ、本当にキラのことが好きなんだな。



「ア…アスラン君?」
フレイの問い掛けに無言のまま、アスランは彼の襟首を掴むと、左腕一本で軽々と
フレイを宙吊りにする。彼ら三人のモヤモヤとした内面とシンクロしたかのように、
突如、黒雲が、東の海岸から急速に流れてきて、島内を隈なく覆った。
フレイが右頬に冷たい水滴の存在を感じた刹那、鋭い灼熱感がフレイの逆側の頬を襲った。
予想外の事態に唖然とするカガリの目前で、アスランに渾身の力でぶん殴られたフレイは、
派手に吹っ飛ばされて、崖岩に背中をぶつけると、そのままズルズルと沈み込んだ。

「うぉおぉおおぉ…………!!!!」
アスランは獣のように咆哮すると、そのまま瀕死のフレイに馬乗りになり、再び利き腕
を大きく振りかぶった。フレイの後頭部は、硬い岩石の上に置かれており、このまま
コーディネイターの腕力で殴られたら、パンチの威力よりも、岩石との衝突でフレイの
頭蓋骨が砕かれるだろう。
「お…おい、待てよ、アスラン!?止めろぉ〜!!」
理性の箍が外れているとしか思えないアスランが、本気でフレイを殺そうとしていると
悟ったカガリは、縛られた体勢のまま、アスランに体当たりを敢行する。
側面からの予期せぬ奇襲に、アスランはカガリ共々もつれ合うように、崖側に転がった。
アスランが昏睡中のフレイから引き離されたと同時に、物凄い勢いでスコールが降り始める。
ミサイルのような大粒の雨は、水捌けの悪いここら一帯の大地を水浸しにし、ものの数秒
と経たない内に、地面に転がり込んだ三人の髪は雨で濡れ、軍服は泥塗れになる。

「き…貴様!?なぜ、庇う!?」
「落ち着け、アスラン!お前、自分が何をしているか判っているのか!?」
血走った目付きで、今度はカガリの襟首を締め上げるアスランに臆することなく、
カガリは堂々とアスランを睨み返しながら、彼の暴挙を訴える。
カガリ自身も、一度は本気でフレイを射殺そうとした身なのだ。
ならば、余計なチョッカイを掛けずに諦観し、黙ってアスランに、
フレイを殴り殺させるに任せておけば良かった筈である。
ただ、身動きの取れない捕虜に、理不尽な理由で一方的な加虐を加えようとする構図
がカガリの潔癖な倫理観に引っ掛かり、ほとんど反射的に危地に飛び込んでしまった。
何よりも、今のアスランを支配している殺意が、極めて衝動に近い感情である事実を
カガリは知っていたので、アスラン自身の為にも、彼の軽挙を止める必要性があった。

717キラ(♀)×フレイ(♂)・46−3:2004/06/18(金) 00:57
捕虜の分際でのカガリの叱咤に、アスランは忌々しそうにカガリを睨んだが、流石に
カガリにまで手を挙げようとはしなかった。こうしている間にも、雨足はさらに加速
し続け、フレイに挑発され熱し上がったアスランの激情を、少しずつ醒ましはじめる。
その時、縛られた状態のまま、仰向けに寝そべっていたフレイが蘇生し、彼の唇が動いた。

「………何を………怒っているんだい……………アスラン君?」
フレイはノロノロとした緩慢な動作で、座したままの体勢で上半身だけを起き上がらせる。
彼の顔は泥水で汚れ、切れた唇の中から真っ赤な血が滴り落ちている。
「……君にはラクスという、れっきとした許婚がいるのだろう?
もしや、ラクスを正妻とし、キラを愛人として囲む邪な計画でも巡らせていたのかい?」
危うく殺害されかけたフレイだが、淡々とアスランの非を打ち鳴らすフレイの態度からは、
微塵も怒りも恐怖心も感じられない。能面のような無表情に、妙に危機感の欠落した
冷めた瞳でじっとアスランを見つめ、逆にその静けさが、スコールのシャワーを浴びて、
正気に返りつつあるアスランを怯ませた。

「…以前、君はキラに、民間人を人質にするのは卑劣だとか、偉そうに説教したらしいね?
なら、拘束中の捕虜に私怨で暴行を加えるのが、君とザフトの信じる正義なわけかい?」
フレイは最後まで、強者に媚いることなく、強者が犯した不条理を訴えた。
その結果、ここで屍を晒すことになったとしても、アスランが筋の通らぬ逆恨みで、
フレイを害しようした事実だけは、彼の胸の内に永久に刻み込ませるつもりだ。


フレイから命懸けの告訴を受けたアスランは、無言のままガックリと肩を落とした。
今日までザフトの軍人として、数え切れない程の敵兵を殺してきたが、全ては祖国と正義
の為と信じた信念に支えられての行動であり、後ろ暗さを感じたことは一度もない。
だが、アスランが目の前で行った虐待は、明らかに正義ではなく、戦争ですらない。
彼は私怨で、目の前のナチュラルの兵士を、死刑(リンチ)にしようとしたのだ。
正規の軍人でありながら、仲間の死を冒涜されたとかの高次な話しではなく、痴話喧嘩
レベルの低次な挑発に惑わされて、理性を喪失してしまったという己の馬鹿さ加減が
信じられなくて、アスランは大幅に精神を失調させた。

「僕を殺す気がないのなら、縄を解いてくれないか?この傷の治療がしたい」
フレイがさり気無く、傷口をアピールし、アスランはまるでフレイの言いなりなった
かのように、彼の縄を解いた。こうしてフレイは、久方振りに自由を確保した。



フレイは手鏡を覗き込みながら、救急用バックから取り出したオキシドールを
染み込ませた綿を傷口に当てて、治癒に努める。
妙に口の奥がズキズキ痛むと思ったら、奥歯が一本叩き折れている。
「痛ぅ!!あの馬鹿力め!」
彼にしては凡百な悪口でアスランを罵りながら、フレイは折れた歯を吐き出したが、
コーディネイターの男子に本気で殴られて、生命があったどころか、自慢の高い鼻
も潰されずに、歯一本程度の被害で済んだのは、むしろ僥倖だろう。

一通りの応急治療を済ませ、錠剤の痛み止めを飲んだら、少し痛みが和らいできた。
痛みが引いてくるのと同時に、フレイの中から、今まで抑えこんできた怒りの感情
がフツフツと噴出してきた。
「こいつもか…」
フレイは項垂れたアスランを、醒めた瞳で見下ろしながら、心の中でそう独白する。
ジュリエットだけではない。ロミオの側も無意識に結託し、茶番を演じてきたのだ。
ヘリオポリスを脱した当時のアークエンジェルと、未熟な素人パイロットだったキラ。
過酷な環境下で、ザフトの精鋭部隊たるクルーゼ隊に度々襲われながらも、
キラが今日まで生き延びてこれた裏面のカラクリを、フレイを垣間見た気分だ。

718キラ(♀)×フレイ(♂)・46−4:2004/06/18(金) 00:58
「こいつら、ふざけやがって!戦争を愚弄するにも程がある!」
互いに愛し合っている者同士が、敵と味方に別れて、殺しあうのは確かに悲劇だろう。
だが、その悲劇に無理やり巻き込まれた者がいたとすれば、それは、むしろ喜劇でないか?
戦場では、人の生命ほど儚い存在は他にない。
己の全知全能を出し尽くした所で、報われるとは限らず、戦いを支配する何者か(神?)
の些細な気紛れにより、理不尽な死を賜るケースもしばし見受けられるが、
それでも戦争に携わった者達は、大切な何かの為に必死に戦っているのだ。
なのに、中には、そういう弱者の生命賭けの足掻きを嘲笑するかのように、敵味方の
枠組みを無視し、殺しても良い味方と殺したくない敵とを分類した上で、あまつさえ、
その絶大なる能力故に、自分の身さえも余裕で守れる強者が存在していたりする。
キラやアスラン君という闘神の申し子達が、まさしくそれだ。

「お前たちは神の身遣いか!?全ての人間が、自分と仲間を守ろうと戦っている戦場で、
殺す相手を選り分ける権利が、貴様らには与えられているとでも言うのか!?」
フレイがキラ個人を目の敵にしている本当の理由は、彼女の戦争そのものを冒涜する
許されざる背信行為に、自分の母親も巻き込まれたと信じ込んだからだ。
意外かも知れないが、フレイは直接、母を殺したザフトをそれほど憎んでもいないし、
コーディネイターを宇宙から抹殺しようという馬鹿げた妄執に囚われている訳でもない。
殺し合いの場には、無辜の被害者などという奇特な人種は、例外なく存在しないのだから。

「『ペンは剣よりも強し』だ。神様も法律も、奴らを罰しないというのなら、僕が裁く。
力で、全ての暴挙が罷り通ると信じている奴らに、言葉の恐ろしさを思い知らせてやる!」
個人として見れば、キラが自分などよりはるかに善良な人間で、母を見殺した一件も、
彼女自身には何らの悪意も持ち合わせていなかったことなどは、フレイも承知している。
フレイが問題としているのは、人柄の善悪ではなく、行為の善悪なのだ。
戦場での力ある者の『手抜き行為』を立証するのは、至難というよりも不可能だ。
これは、ある種の超越者だけに許された合法的犯罪に等しいからだ。
ならば、こちらも同等の手段によって、報復を実行する以外に道はない。
フレイならば、それが可能な筈である。
何故なら、彼は口先一つで他者の運命を自在に操れる、言霊(※)の魔術師だからだ。
※(言葉に内在する霊力。昔は言語が発せられると、その内容が具現化すると信じていた)

フレイは意趣返しとしての合法的犯罪性に拘っているが、毒殺の準備を別にすれば、
実際、今回の復讐劇の中で、法に接触する行為は何一つ犯さなかった。
キラに戦いを強要した覚えはないし、日常生活で誰もが使用しうる範囲の嘘方便なら
巧みに用いたが、詐欺罪に問われるレベルの深刻な虚言は慎重に避けてきた。
(だから、フレイはキラに「愛している」とさえ、囁いたことは一度もない)
全てはキラが、自分の責任において、勝手に仕出かした事だ。
フレイに在ったのは、「自分がこう言えば、きっと彼女はこう動くだろう」と予測し、
それを躊躇なく実行してのけた、明確な悪意の感情だけである。
そして、「手抜き行為」同様に、「悪意」を裁ける法律は、世界中のどこにも存在しない。

シェークスピアの戯曲通りに、ジュリエットにはロミオと心中してもらう。
そこから先のシナリオは白紙だが、軍属として過酷な最前線で戦っている以上、
キラという盾を失ったフレイの命数が尽きるのも、そう遠い先の話ではないだろう。
いかにフレイが、自分のインナースペースに高貴な悪魔を飼い馴らしていたとしても、
その魔族の魂を覆う彼の肉体そのものは、通常の人間のそれと何ら変わらない。
タカツキ君や、非武装のシャトルを撃ち落したというデュエルのパイロットのような、
脊髄反射で引き金を引ける類の人間の放った銃弾の一発でも、簡単に死ねるのだ。
フレイは自分の無謬性を過信してはいなかったし、何よりも、母のいないこの世紀末
の世界には、もはや、何の未練も無かった。

フレイ独特の復讐動機は、世間一般の感性に照らし合わせれば、到底、理解や共感が
得られるような代物ではなく、狂人の逆恨みの烙印を押された事は間違いないだろう。
またフレイは、キラへの憎悪が無尽蔵に溢れ出ていた初期の頃に比べて、
最近は己が怒りを定期的に確認し鼓舞し続けない事には、キラへの悪意を維持
できなくなりつつある、自身の心情変化には全く気がついていなかった。

719キラ(♀)×フレイ(♂)・46−5:2004/06/18(金) 00:58
フレイは心中から湧き上がる強い軽蔑感を押し隠して、自分の殻の中に閉じこもって
いるアスランを眺める。昂ぶる感情に反応するかのように歯欠けの歯茎がズキリと痛む。
高い代償を支払わされはしたが、お陰で、今まで風聞でしか知りえなかったアスラン君
の実像を、フレイは凡そ把握することが出来た。
「軍人として有能で、個人としても善良だが、軍隊という枠組みから一歩でも外に出たら、
まだまだ人間としての完成度には程遠く、良家のお坊ちゃまの域は出ていない」
それが、フレイがアスランに下した評価の全てだ。
世の中には、他人の善意や純粋(ピュア)な想いを正確に理解した上で、それを悪意を
以って踏み躙れる、フレイのような確信犯的な小悪党が結構存在しているのだ。
アスラン君は、そういう輩に踊らされて犬死するか、または人間に絶望し、今度は彼自身
が世界を滅ぼす魔王へと転身を果たしてしまうようなタイプだとフレイには思われた。

「プラントが世襲制度じゃなくて残念だな。アスラン君が将来、父親の後を引き継ぐ
ことにでもなれば、プラントとの外交交渉も随分と遣り易くなりそうなんだけどな」
一瞬、フレイはそう考えたが、そのアスランの婚約者で、現最高評議会議長の令嬢
であるピンク頭のお姫様の笑顔を思い浮かべた瞬間、慌ててその思考を打ち消した。
「危ない、危ない。そうなると、あの歌姫がプラントの指導者となるわけか」
酢を一気飲みしたような渋い表情を浮かべ、フレイは胃の辺りを撫で始めた。

フレイは、コーディネイター云々を抜きにして、ラクスが嫌いだった。
あの天然を装ったお姫様に、どことなく自分と似たペテンの匂いを嗅ぎ取ったからだ。
他人を騙せる詐欺師は世間にたくさん溢れているし、フレイもまた、その中の一人である。
けど、自分を騙せる詐欺師となると、どうだろう?
それは稀有というより奇跡に属する領域だ。何故なら、ヒトは他人を騙す事は出来ても、
基本的には自分自身にだけは、嘘を吐けない生き物だからだ。
「アレは、己自身も含めた総ての生命体を欺ける希代のペテン師だ」
フレイはラクス・クラインの正体をそう睨んでいる。
そういう意味では、普段、彼女が見せている天然お嬢様の仮面も、ラクスにしてみれば、
演技をしている自覚はないのだろう。ラクス自身、今はまだ卵の殻の中身を知らないのだ。

「あの女、今はアイドルの真似事をして満足しているみたいだが、そのうち自分の本性に
気づいたら、宇宙をあっと震撼させるような、とんでもない真似をやらかすのではないか?」
フレイは何らの根拠も無しに、頑なにラクスの性根をそう決め付けていた。
尚、このフレイの妄想染みた予言ないし言霊は、後日、完璧に現実の世界の出来事となる。



雨は既に止んでいる。
先のドサクサに紛れて、そのまま要領良く身柄の自由を確保したフレイは、
「食事の準備をしてくる」と宣言して、この場所から姿を消し、後には
カガリとフレイの二人だけが、取り残された。
未だ拘束中のカガリの存在を無視し、ひたすら自分独りの世界に閉じこもって
いるアスランの姿に、カガリは憐憫に近い感情を抱いた。
「あいつ、本当にキラのことが好きなんだな」
先のアスランの無様な醜態を見るにつけ、フレイほどの洞察力を必要としなくても、
アスランの本当の想いが誰に向けられているのか、カガリにも痛いほど良く分かった。
彼にはプラントに許婚がいるみたいだが、カガリ自身も親族から顔も知らない婚約者を
押し付けられそうになった口なので、身分の高い家柄の者には、昔の封建社会さながらに、
自由恋愛など許されてはいない現実をカガリは良く知っていた。

「キラの隣にいるのが、あいつだったらな…」
カガリ自身の恋愛感にマッチしたからかも知れないが、フレイの手馴れたスマートな
恋愛感覚よりも、アスランの不器用な誠実さの方にカガリは好感を抱いた。
少なくとも、キラを支えていたのが、不誠実の塊のフレイではなく、精神の骨格の半分は
優しさで構成されているアスランだったら、カガリも今ほどヤキモキしなかった筈である。
だが、現実にはアスランこそが、AAと今のキラの生命を脅かしている敵なのだ。
信用ならぬ危険な味方と、敬意に値する敵。キラを巡るその矛盾した構図が、いつかは
逆転する時は、来るのか?来ぬのか? 予言者ではないカガリには分からなかった。

720キラ(♀)×フレイ(♂)・46−6:2004/06/18(金) 00:59
日が完全に落ち、真っ暗闇になった頃、ようやく、フレイは二人の前に戻ってきた。
茸、果実、草花、木の実などが大量に詰まったらしいリュックを左腰に抱え、
どこかで捕らえてきたらしい野兎を、細長い耳を右手で掴んで、ぶら提げている。
「おっ?、ちゃんと火を炊いといてくれたみたいだね」
あれから、少しだけ精神の失調を回復させたアスランが、濡れた服を乾かす為に
仕込んだ焚き火の存在に気づいたフレイは、感心したように呟き、今までフレイの
手の内で大人しくしていた兎が、本能的に危険を感じ取ったのか、突如暴れだした。
「こらっ、暴れるんじゃない。味が落ちるだろう。美味しく調理してやるからさ」
フレイは笑顔で兎を諭しながら、一気に兎の頚骨を捻ろうとしたが、その手首を
アスランが強い力で掴んだ。アスランの異常な握力に耐え切れずに、フレイは
兎の耳を掴んでいた掌を離し、自由を得た兎は、慌てて森の中に逃げていった。

「食料なら俺の手持ちの携帯食を分けてやる。だから、逃がしてやれ」
フレイが何か言うよりも先に、アスランが口を開いた。キラは、アスラン君のことを
優しい人と表現していたが、彼は無益な殺生を好まない性格らしい。
「ふ〜ん。面白いんだね、君って。人は平気で殺せても、動物は駄目なんだ?」
スタスタとアスランの横を通り過ぎる間際に、フレイはボソッと彼の耳元に囁き、
その皮肉の痛烈さにアスランはビクッとする。

「私、アスランがそんな人だなんて、思わなかった」
「えっ!?キ…キラ!?」
有り得ない事態にアスランは呆然とする。彼が振り返った先には、焦茶色の髪をした
キラがキョトンとした表情で、彼の偽善を追求するかのように、じっと見つめている。
「て…テメエ、何しやがる!?」
突然、キラが、隣にいるフレイに、彼女らしからぬ乱暴な言葉遣いで難癖をつけ始めた。
いや、良く見ると、キラではない。そのキラに似た物体は縄で縛られた上に、緑を基調
としたコンバットスーツを着込んでいる。確か、カガリ・ユラとか名乗っていたっけ?
「似ているだろう?カガリ君はキラの変身の達人でね。案外、キラの血族だったりしてね」
開いた口が塞がらない状態のアスランに対して、カガリに焦茶色の鬘を被せた挙句、
キラの声帯模写までやってのけたフレイは、軽くウィンクしながら悪戯っぽく説明する。
この茶目っ気の為だけに、わざわざグラスパーまで戻って、鬘を回収してきたらしい。

「外せ〜!」と喚きたてるカガリの姿を尻目に、フレイはアスランから受け取った食料
を加えた上で、調理の仕込みに入る。フレイの目の前には、彼が採取してきた怪しげな
食材が並べられていたが、毒物の目利きに関しては、フレイはエキスパートなので、
食中毒の心配をする必要性は………………ひょっとすると、大いにあるかも知れない。
淡々と調理を続けるフレイの傍らで、カガリは、頭から鬘を外そうと暴れ狂ったが、
鬘はゴムで、両耳の耳元にキッチリと固定されているので、その努力は徒労に終わる。
「うがぁ〜!!」と発狂したかのように、のたうち回るカガリの姿は、自分の尻尾を
餌と勘違いし、必死に喰らいつこうとグルグル回転する間抜けな犬の姿にソックリで、
思わずアスランの顔からも笑みが零れた。
「この野郎、何が可笑しい!?」
涙目で睨むカガリに、アスランは慌てて目を逸らしたが、鬘を取ってやろうとはしない。
別に意地悪してではなく、単に自分にその選択肢があるのを忘れていただけの話しだが。

「ほら、出来たぞ」
特性のスープを煮込んだフレイは、料理を皿に盛ると、カガリの目の前に置いた。
「…って、お前、この状態で、どうやって食えっていうんだよ!?」
「そのまま食べればいいだろう。とにかく、君の縄は解けないよ。
自由の身を確保したら、君はまた身の程知らずにも、アスラン君に戦いを挑みそうだからね。
君が返り討ちにあって、くたばるのは勝手だけど、僕まで巻き込まれるのはゴメンだよ」
「何だと!?テメエ、ふざけるな!!」
カガリは当然の抗議をしたが、フレイはカガリを無視すると自分の食事に入った。
フレイは美味そうにスプーンでスープを掬い、目の前に置かれたスープの皿からは、
野生の食材で構成されているとは思えない、食欲中枢を擽る香ばしい匂いが漂ってくる。
カガリのお腹がグーっと鳴り、今朝から何も食べていない事に気付いたカガリは、
背に腹は変えられぬ…とばかりに、目の前の御椀に喰らいついた。

721キラ(♀)×フレイ(♂)・46−7:2004/06/18(金) 00:59
くっそぉ!!フレイの野郎、アスランから助けてやった恩を忘れやがって!!
殺す、殺す。絶対に殺してやるぅ!!
内心でフレイを呪怨しながら、オーブの王子様とは思えない、情けない格好で、
カガリはスープを啜った。猫舌のカガリが、舌を火傷しかけた刹那、フッと軽い音
がすると、カガリを拘束していたロープが切断された。アスランである。
彼は、キラの顔そのままで、泣きながら犬食いするカガリのあられもない姿を
見てられなくなったのだ。カガリは大慌てで、頭の鬘を外し、地面に叩き付けた。

「考えてみれば、こいつだけ動けるのじゃ不公平だからな。
ただし、銃を奪おうとするなら、その時は、躊躇い無く殺すから覚悟しておけよ」
手持ちのナイフで、カガリを戒めていたロープを切断したアスランは、照れ隠しに、
そう警告すると、無防備にもフレイから手渡されていた、敵の作ったスープを啜る。
重ね重ねのアスランのお人よし度にカガリは呆れたが、今の敵はアスランではない。
実力行使でフレイへの報復を敢行しようとしたが、既にフレイは忽然と姿を消している。
相変わらず要領の良いフレイは、カガリのほとぼりが醒めるまで、怒りをやり過ごす
所存のようだ。仕方無しに復讐のレベルを二段階ほどダウンさせたカガリは、
奴の分は残すまいと、鍋の中の美味のスープを、全部、自分の胃の中に押し込んだ。



あれから、カガリの怒りが静まった頃合いを見計らってフレイは戻ってきた。
洞窟の中で、三人は焚き木を囲んだが、元々彼ら三人は互いを潜在的な敵と見做し
合っていたので、キャンプファイアのような友好的な雰囲気とは無縁だ。
「そういえば、アスラン君。君にはお礼を言わなければならないよね?」
ピリピリとした緊張状態が長く続いたが、まずはフレイが口火を切る。
アスランは煩わしそうに、フレイの方角に振り向いただけで、頷きもしなかった。
あれから三人の間で、様々な貸借関係が発生したので、今更、不必要なオベッカだと
アスランは切り捨てたが、フレイの謝意は、無人島に来る以前の過去に向けられていた。

「今まで、キラが死なないように、それとなく手心を加えていてくれたんだろう?
お陰で、僕らもキラのお零れに与って、今日まで生き延びる事が出来たわけで…」
「ば…馬鹿を言うな。俺はザフトの軍人だ!戦場で私情を織り交ぜるなど有り得ん!」
アスランは内心でキグリとしながらも、大声でフレイの仮説を打ち消した。
今まで、フレイの口車に乗せられ、何枚化けの皮を剥がされたか判らないが、
アスランの立場上、確かにそれだけは認める訳にはいかなかっただろう。
「ふ〜ん。じゃあ、まあ、そういう事にしておこうか」
内心を見透かしたかのようにフレイの視線に、アスランは後ろめたそうに目を逸らす。

「君には色々とお世話になったから、最後に一つだけ忠告しておこうか。
君がこの先も、戦いの中でキラに温情を掛け続けるのは、それは君の勝手だけど、
もうキラの方では、そういう君の想い(馴れ合い)には頓着してくれないと思うよ?」
「な…何!?」
もう、これ以上、このペテン師の言葉に惑わされるのは止そう…と決意した傍から、
ついアスランは反射的にフレイの言葉に反応してしまう。
キラが絡む限り、彼はフレイの言葉の魔力から、自由にはなれないらしい。
「キラは僕と約束してくれたんだ。僕がもう戦わないでも済むように、僕の敵…つまり、
アークエンジェルに襲い掛かってくる君たちを、キラが一人残らず始末してくれるって。
こんな健気な恋人を持って、僕は本当に幸せ者だよ」
フレイはポタポタと涙を流しながら、サドニス島でマイケル君を殺害しかけた際の
キラの宣誓を、故意に拡大解釈した上で、アスランに最後通告として突きつけた。
自然と涙が出てしまう泣き虫のキラと異なり、泣きたい時に自由に嘘涙を流せるのが、
極上の詐欺師たるフレイお得意の御家芸の一つだ。

722キラ(♀)×フレイ(♂)・46−8:2004/06/18(金) 01:00
「フ…フレイ、お…お前、まさかその為に、キラに近づいたのか!?」
フレイは、ザフトに母親を殺されたと自己申告していた。
その上で、恋人であり、最高クラスのコーディの戦士であったキラの心の支えとなり
ながらも、同時にキラに対して、何故か不可解な憎悪をも抱き続けてきた。
この二つの符号が意味するものは何なのか?カガリの中で、その情報が一本の線で
繋がり、フレイの謎めいた行動がはじめて明確な指針を帯びた。
フレイは、単にキラを、母親の復讐の道具として利用していただけなのでは!?
かつてフレイを良く知るサイが、辿り着いたその仮説に、ようやくカガリも到着した。
さらには、そのカガリの疑惑が伝染したかのように、アスランも強い疑惑の眼差しでフレイ
を睨んだが、四面楚歌に晒され、守勢にまわされても、フレイは一向に動じた様子はない。


「心の貧しい奴らだな。一々、利害打算を絡めない事には、恋愛の一つも出来ないのか?
ただ、好きな人の役に立ちたいと願う、キラの切ない想いがどうして判らないんだ?」
キラに便乗した、ここまで図々しい反論は、想像の遥か彼方だったので、二人は絶句する。
将棋の対局中に、王手の掛かった将棋版を180度反転させたかのように、フレイは
口先一つで、あっさりと弾劾する側とされる側の立場を入れ替えた。
「まあ、一切の見返りを求めない無償の愛など、君達には一生掛かっても辿り着けない
領域だから、無理もない話しか。けど、そういう不器用な愛情に殉じる人間を愚かと
嘲笑していたら、いつかきっと手痛いしっぺ返しを食らうから気をつけた方が良いよ」
フレイはアスラン達を憐憫するような瞳で見下ろしながら、わざとらしく両肩を竦めた。

コ…コイツは!?
アスランの中で、再びフレイへの明確な殺意の感情が芽生え始めた。
何故、こんな不真面目そうな奴に、キラへの想いをここまで侮辱されねばならないのか?
アスランは、今日まで生きてきて、これほど憎たらしい人間に出会った事はない。
このまま衝動の命じるままに、コイツの首を捻じ切ってやれたら、どれほど爽快だろう
との誘惑に駆られたが、似たような挑発に惑わされて醜態を晒した先の件を思い出し、
その殺意の波動をアスランは辛うじて抑制した。

「僕にもサイという親が定めた許婚がいたよ。幼馴染の気立ての良い子で、
僕の軍属への志願に一緒に身柄を預けてくれた、僕想いの本当に優しい娘だった」
そんなアスランの内心の葛藤などお構いなしに、フレイは話を先へと進める。
サイの名前を出した時、ほんの僅かだが、フレイの瞳に、芝居でない後ろめたい光が宿る。
「でも、キラと付き合うために、彼女とはキッチリと別れたよ。ただ、許婚というだけで、
愛してもいない女性と付き合うのは、その相手の娘にとっても失礼な話しだからね」
フレイはアスランの殺気に臆することなく、自分が彼と似た境遇にありながらも、
アスランが超えられなかった壁を、超越してのけていたという現実を誇示してみせる。
ラクスというアキレス腱を巧みに斬りつけられたアスランは、心中で密かに呻いた。

「僕は、キラの為なら、許婚も、アルスター家も、生命さえも全て捨ててみせるよ。
アスラン君、君はどうだい?キラの為に、婚約者(ラクス)や、ザラ家の名誉や、
軍人としての責務などの、全てを投げ出せるだけの覚悟が君にはあるのかい?」
フレイは敢えて、純朴というよりは、むしろステレオタイプな恋愛観でアスランに挑んだ。
その方が、恋愛方面では極めて稚拙なアスラン君に、一番効果があると踏んだからだ。

フレイの宣誓布告を聞かされたアスランは、幼年学校時代のキラとのデートで、彼女と
一緒に見た映画の内容を思い浮かべた。題名は覚えていないが、主人公は、世界を救う
よりも一人の女を愛する事を選んだ物語で、キラも感涙に泣き咽ていた記憶がある。
彼の身体に執拗に絡み付く現実の柵を、何一つ振り解く事も叶わずに、キラの敵と化した
自分と、映画の主人公さながらに、キラの為に、全てをかなぐり捨てたというフレイ。
映画同様に、キラがフレイを選んだのは、むしろ、当然のフィナーレではないか?
フレイの魔術めいたペテンに惑わされて、自分の想いに迷いを抱いたアスランは、
深刻な疑心暗鬼に陥った。

723キラ(♀)×フレイ(♂)・46−9:2004/06/18(金) 01:00
「もう、止めとけ、アスラン。そいつに何を言っても無駄だ」
実に意外な人物が、精神的な呼吸困難に喘いでいたアスランを救った。
本来、仰ぐ旗の色から、アスランよりもフレイに組する立場であるはずのカガリが、
まるでアスランを庇うかのように、嫌悪の感情を隠さずにフレイを睨んだ。
アスランは驚いた表情で、フレイは興味深そうな瞳で、カガリを見つめている。

「さっき、コイツの母親は、連合の外務次官とか言っていただろ?
お前が戦闘のプロであるように、多分、フレイは言葉のスペシャリストだ。
会話を正論と理論武装で塗り固めた上で、己の主張の矛盾を排して言質を取らせず、
逆に敵側の言質を抑えた上で、相手の主張の矛盾には鋭く突っ込みを入れてくる。
そういう、口先一つで、黒いカラスを白と言いくるめる事も可能な厄介な連中さ。
だから、アスラン。あんまり、コイツの言うことを真に受けない方が良いぞ」
アスランを慰めながら、カガリは、フレイに感じていた潜在的な反発心の源が何なのか、
ようやく、把握する事が出来た。ようするに、フレイは、カガリが世界で一番嫌いな人物
と良く似ていたのだ。そう、口先一つで、世界を欺き続けてきた、オーブの獅子とかいう
偉そうな呼称で呼ばれている、彼の実…ではなくて、最近、仮と知らされた父親に。


「僕は、単に老婆心から、アスラン君に忠告しただけなんだけどね。
アスラン君はキラに討たれても本望かも知れないけど、彼のキラへの葛藤なんて、
彼の仲間達にとっては、どうでも良い話しだろ?」
かつて、トールがフレイの正体を見破ったように、カガリも数多の失敗から、
フレイの本性を突き止め、最良の対処の仕方を学んだようだ。
一瞬、今度はカガリを論破しようかとフレイは思ったが、そろそろ眠くなってきたので、
止めることにした。結局、彼は、カガリに拉致られたまま、一睡もしていなかったのだ。
「君とキラの愛憎劇に巻き込まれて、君の仲間が死んだりしなければ良いけどね」
睡魔の誘惑に身を委ねながら、最後にそれだけをアスランに告げると、フレイはゴロン
と寝転がって、会話を打ち切った。眠気がフレイの理性に皹を入れたのか、今まで、
完璧な理論武装を施していたフレイの論述の中に、僅かに本音が入り混じっていたが、
自分一人の思考に囚われていたカガリもアスランも、その傷の存在に気がつかなかった。

フレイは毛布に包まって、軽い寝息の音を立て始めた。もはや、目の前の二人の敵兵
に対して、物理的な危険度は感じていなかったアスランは、フレイの言葉の刃に、
心をズタズタに切り刻まれて精神的に参っていたので、自分もそろそろ寝ようかと
考えた刹那、テレパシーのような小さな音声が、彼の耳元に届いてきた。

「心配するな、アスラン。フレイが何と言おうと、キラはお前が知っているキラのままだ。
泣き虫でお人好しで……、まあ、ちょっと…いや、かなり気が多いのが少し困り者だけどな」

一瞬、頭の中を妖精が囁いたのかとアスランは己の理性を疑ったが、どうやら声の発生源
はカガリのようだ。彼は照れているのか、例の傷のない頬だけを赤く染めて、ソッポを
向いている。どうやらカガリは、フレイには聞かれないように、コーディの聴力なら
聞き取れるであろう可聴域すれすれの小声で、態々アスランに囁きかけてくれたようだ。

「ありがとう」
アスランは心からの謝意と笑顔でそう呟き、カガリは傷のある側の頬も含めて、真っ赤に
なると、ぶっきらぼうに、そのまま毛布を被って、アスランから顔を背けた。


今回の無人島での長い一日で、アスランは最大の敵と同時に、一人の知己を得た。
アスランはカガリとの間に、無意識化での奇妙な友情を成立させ、キラを挟んだ
二人の間に、アンチフレイ同盟が結成される運びとなる。

724キラ(♀)×フレイ(♂)・46−10:2004/06/18(金) 01:01
翌日の早朝、アスラン達が目を覚ますと、無人島の周辺は雲一つ無い澄み切った青空が
広がっている。こういう天気の時は、NJの影響率が低い事を知っていたアスランは、
イージスのコックピットに乗り込んで、無線を試してみると、ノイズ混じりに仲間から
の通信が聞こえてきた。
「こちらは、アスラン。アスラン・ザラだ。その声はニコルか?」
「そうだよ、良かった。生きていたんだね、アスラン。心配したんだから…」
ニコルの涙ぐんだ声に、アスランは顔を綻ばす。無人島の座標マップを送信して、
救助に関する打ち合わせを終えたアスランがコックピットから降りると、
カガリとフレイの二人が、アスランを出迎えてくれた。

「それじゃ、ここでお別れだね、アスラン君。こちらも、迎えが来ているかも知れない
から、グラスパーの方に戻ってみる事にするよ」
フレイはわざとらしく握手を求めたりはしなかったので、アスランは無言のまま、
彼らを見送る事にした。殺すという選択権を行使しなかった以上、彼ら二人を捕虜
として、ザフトへ連行する意思などない。フレイなど、イザーク達にキラの件で、
何を吹き込むやら分かったものじゃないからだ。

こうして、男三人の無人島での共同生活は、たったの一日で終わりを告げた。


「カガリ!?フレイ!?私よ。良かった。二人とも無事だったのね」
アスランと同じく、フレイとカガリの二人にも、極上のお出迎えがすぐ側まで来ていた。
グラスパーの通信機に、キラの嗚咽の声が聞こえてきて、フレイとカガリの行動は、
ほんの一瞬の半秒ほどだけシンクロし、二人は苦笑未満の表情を浮かべた。

二人が海岸線で待機していると、突如、モーゼの奇跡のように海が割れ、中から海坊主
のような巨大なMSが出現し、のっしのっしとこちらに向かって歩いてきた。
「フレイっ〜!!、カガリぃ〜!!」
コックピットから転がり落ちるように、飛び降りたキラは、ヘルメットを投げ捨てると、
泣きながら二人に駆け寄ろうとしたが、彼らの手前2mの砂浜でピタリと足を止める。
相変わらずの愛玩犬さながらの優柔不断な仕草で、キョロキョロと二人を見渡すキラ。
どちらの胸元に先に飛び込むか、彼女にとって、結構デリケートな問題だったりするのだ。

どちらを選んでも角が立つと判断したキラは、折半案(二股)を選択したらしい。
無駄にコーディネイターの身体能力を発揮して、二人の手前で大きくジャンプし、彼ら
の頭上を飛び越えると、そのまま後方に回り込んで、二人の片腕に自分の両腕を絡めた。

「えへへ…。二人とも、生きていてくれて、本当に良かったよ〜」
キラは、CIAの職員に連行される宇宙人さながらに、二人にぶら下がりながらも、
軽い涙を含んだ上目遣いで、フレイとカガリを笑顔で見上げた。
キラの本心は見え透いていたので、フレイもカガリも呆れていたが、
このキラの泣き笑いの表情を見せられたら、何も言えなくなってしまう。
緊急事態でもあったことだし、一時的に停戦同盟を結んだ二人は、
敢えてキラのミエミエの誤魔化しに、騙されてやる事にした。


結局、キラはアスランと同じ無人島の大地に足を踏み入れながらも、
アスランとの邂逅を果たすことなく、この島を去る事になる。
この先、キラとアスランの二人に、さらなる過酷な運命が待ち構えていた事を、
当人達は勿論、二人の未来の鍵を握る、言霊の魔術師たるフレイでさえも、
この地点では全く予期していなかった。

725私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 02:58
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
いつも楽しみにしてます!
ここしばらくはフレイの魔術師ぶりが全開でとても面白かったです。
自分は男フレイ様は黒い方が好きですね。

726私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:28
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
待ってましたよぉ〜〜〜!
もう読めないのかと心配していましたので本当にうれしいです!
個人的にはあの、暁の車のシーンを男三人でやっちゃうのかと想像し、
はらはらしていたんですが、
何事もなく(?)救出されて良かったです。
カガリ少年も大好きなので、今後の活躍を期待しています。

727私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:35
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
キラ(♀)の抱きつきシーン期待してましたが、その優柔不断ぶりが素敵でした。
かなりの筆量に圧倒されつつ、これだけ費やしてもアスランの考えが心に響いて来ない。
逆に、不可解と言われるフレイ(♂)様の方の考えが理解できるのは、既に毒され過ぎでしょうか。

キラ(♀)とアスランの映画ネタ。映画の結果じゃなく、そこに至るプロセスが気になるな。
比喩として使うのなら…… もし、イメージする作品があるなら、それ匂わすだけでも。

728私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 09:50
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

729散った花、実る果実57:2004/06/18(金) 09:55
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

730散った花、実る果実/作者:2004/06/18(金) 09:57
すみません、728はタイトル入れるの忘れました。
わかりにくいので729にタイトルつけてもう一度同じ物をUPしました。

731私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 10:48
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます。
フレイたまの一生懸命な姿がいじらしいです。
新キャラ登場ですが、どうなっちゃうんでしょう?
ひそかに連合のアイドルになっていたなんてちょっと嬉しいかも。
続きもお待ちしています。

732私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 01:43
ここってアスラクだのアスキラだの、フレイ様の小説なのに
わざわざ他カプの設定まで変えてアスカガは書きません…という
職人さんが多いのでしょうか?前から不思議だったのですが。
書かないのは勝手なんですが他ヒロインの事とはいえ、何か設定の
変更が気になったので失礼します。

733私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 02:08
アスカガを【書かない】じゃなくて、アスラクとかアスキラを【書きたい】なんじゃ?
二次創作ってそういうもんでしょ。>設定変更
ぬっちゃけキラフレラブラブってのも設定変更っちゃ変更なんだし、
そういう突っ込みは野暮ってもんだ。

と思うわけだが、さらに議論になるようなら次は議論スレでよろ。

734私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 07:33
>>散った花、実る果実
フレイ様、研修に一生懸命な様子。いじらしいです。
>>次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
この台詞が、心に染みました。

それにしても、フレイ様の軍志願の台詞が、ここで使われるとは。
確かに、サザーランドは志望理由と共にプロパガンダに利用すると
マリューに公言していましたが……
私の場合、この後の鍵のディスクの真実と共に、フレイ様に試練の予感がします。
どちらに話が転ぶのかは、この先次第ですが……

それにしても、この空白期間の通信士研修は、フレイ様SS書きにとっては、
挑戦しがいのある素材ですね。私は、残念ながら、そこまでできませんでしたが。

735私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 08:44
>>732
私も、ここで書いていましたが、カガリは、キラとの関係が、オーブでの「友人」から、
オーブ戦の「依存」に変わるところまでで、アスランを出す前に話が終わってしまったので、
そこまで進みませんでした。
もっとも、フレイ様に対する、もう一人のヒロインの設定変更が、とてつもなく人を選ぶのですが……

バトルの得意な書き手さんのは、アスランが可哀想なくらい(?)カガリに慕われていましたし、
毎日連載の人は、確かに設定変更して、アスランとカガリは出会いませんでしたが、カガリは
今後、結構重要な役目を持っていたようです。カガリとフレイ様は友人関係築いていましたし、
フレイ様とアスランは出会っていましたので、そのうち、三人が出会うのじゃないかと期待してます。
フレイ(♂)様の人は、まあ……

それ以外の人はフレイ様関係の設定変更が中心で、カガリが出ないものも多かったです。
ううむ、思い返すと、カガリとアスランに関して変えた人は、このスレでは少なかったんじゃ
ないでしょうか。

736私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 11:37
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます
フレイ様が謙虚になってがんばってる姿がうれしいです
どちらかというと、前半DQNよりもドミ後のフレイ様が好きなので
次も楽しみにしています

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
フレイ様の黒さがどんどん増してきて…
大好きなお話ですので、大量投下本当にうれしいです
アスランを言い負かしてしまうほど頭の良いフレイ様、カコイイ
こちらも続きを楽しみにしています

>>さよならトリィ
短編完結ものはここでは珍しいので、集中して読めました
フレイ様の気持ちの変化が、すごく身近に感じられて
ラストがすごく切なかったです
先にも書きましたが、後半フレイ様好きにとってはとても印象的な作品です
新作の投下もぜひぜひお待ちしています

737私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 17:06
>>さよならトリィ
トリィに対する感情、キラに対する感情がリンクして切なかったです。
ラストはあんな書き方もあるんだ、と感心しました。
フレイ様の想いをトリィが運んで・・・・・・
とてもいい作品でした。次の作品の予定がありましたら楽しみにしてます。

738あぼーん:あぼーん
あぼーん

739私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 20:58
此処は私、フレイ・アルスターのためのスレ。アツくなり過ぎちゃダメよ!
■気に入らない書きこみは全て放置しましょう。

740私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 21:26
>>散った花、実る果実
フレイ様空白の2ヶ月間!
フレイファンならどうしても補完したいところです。
今回出てきた少年兵の行く末が気になります
続きを待ってます。
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
毎回毎回すごく楽しみにしているんですが、
今回も期待を裏切らない面白さでした!
アスランとカガリの共同戦線もこれからどうなるのか気になります。
>>さよならトリィ
切ないという感想が多かったので読みました。
……本当に切なかった。
葛藤しながら生きて、光になったフレイ様に
読んだ後しばらく最終回後と同じ脱力感が来てしまいました。
次作も期待しています。
余談ですが、ここでは未完だった前作も楽しませていただいていました。

741散った花、実る果実58:2004/06/20(日) 22:30
私は私の疑問をそのまま放っておく訳にはいかない、と思った。
「バジルール少佐・・・・・」
ブリッジにはいない、バジルール少佐の自室にも。さっき食堂は見たし、あとは・・・・・・
次の作業時間までにバジルール少佐に会わなければ、というあせりと共に私は彼女を探した。
「バジルール少佐!!」
休憩時間だったのか、バジルール少佐は宇宙を眺めることの出来る後部デッキにいた。
「アルスター軍曹・・・・・うわっ・・・・・」
勢いあまって飛び込んでしまった私を、バジルール少佐はなんとか受け止めた。
「どうした。そんなに慌てて。何かあったのか?」
姉のよう私を覗き込む彼女の瞳は優しい。アークエンジェルにいた頃怖い人だと思っていたのが嘘のようだ。
「あの・・・っ・・・私の、軍に志願したときの・・!」
「志願?」
バジルール少佐は何のことだか分からない、と言ったように首をかしげた。
「ええと・・・・・私が、軍に志願したとき・・・・・・あのっ・・・」
焦っていてうまく言葉がつながらない。ああもう、こんなことしてる場合じゃないのに。
「どうした。少し落ち着きなさい。軍に志願した時の事で何かあったのか?」
「そうなんです。あの・・・私が軍に志願したときの映像って・・・・・!」
バジルール少佐の助けを得て私はせき止められていた流れが決壊するように話し始めた。
「私の言葉が志願を促すために使われているってどういうことですか?私、あれが映像として残されているなんて知らなかった。あの時バジルール少佐は傍にいましたよね、少佐もご存知だったんですか?何故そんなものが使われているんですか?私がザフトの艦に乗っていた間ずっとあれが使われていたの?私は死んだと思われていたのではなかったのですか?どうして、どうしてあんなものが使われなきゃいけないの・・・・?私、私そんなつもりじゃ・・・・」
「ちょっ・・・・・アルスターぐんそ・・・ちょ、ちょっと落ち着きなさい」
「だって・・・・・!」
なおも勢いの止まらない私を、バジルール少佐はなだめるように両肩をおさえ、座らせた。
「落ち着きなさい、フレイ・アルスター。お前はそもそも、何のために軍に志願したのだ?」
そもそもの理由。パパの復讐。キラへの謀略・・・・・?
顔が熱くなるのがわかった。
「パパが死んで・・・・このままにできない、と思って・・・・・・」
「父上の復讐のためか?」
こくん、と頷く。
「それに、キラに・・・・・・・」
「ヤマト少尉に?」
「キラは、コーディネイターだから、ちゃんと戦ってないんだって・・・だからパパは死んだんだって・・・・あの時は、そう、思ったんです。」
それは、今となっては違う、とわかる。ちょっとだけ本当かもしれないけど、それはキラのせいじゃない。
「でも、お前自身が軍に志願しよう、と思った理由がちゃんとあるだろう。・・・平和のために何かしたい、と思ったのだろう?」
とても優しいバジルール少佐の言葉が、今の私にはつらかった。

742私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 03:46
>>散った花、実る果実
ナタルさんを捜して、焦って一生懸命なフレイ様可愛い……
月じゃないと、転げまくっているところでしょうね。
しかし、いきなり、復讐の真実を打ち明けても動じないナタルさんは、
艦長になって成長したのでしょうか。それとも、隠しごとだと思っていたのは
フレイ様だけで、大人組はみんな知っていた?

743私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 05:50
 >さよならトリィ
全話一気に読みました。
台詞回しも放映中のフレイ様を思い起こさせ、AA時代のあたりなどは圧巻でした!
キラが出てこない分、お話としてフレイ様に集中できたような気がします。
 >キラ(♀)×フレイ(♂)
実は、このスレになってからの分しか拝見していないんですが
(近々過去ログから纏めて読ませていただきます)
フレイ様を男の子にしちゃったのに、すごく面白いです!
きちんとキャラ立ちしていてすごく魅力的な悪役ぶりにはまりました。
 >散った花、実る果実
こちらもこのスレからなんですが
自分的にはナタルフレイのコンビが好きなので、これからが楽しみです。
二人の会話をもっと聞きたいです。

744あぼーん:あぼーん
あぼーん

745私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 09:15
>>散った花、実る果実
再開ありがとうございます!
自分もナタルフレイの桑島姉妹萌えですので
最新作の二人の会話に口元がゆるみっぱなしでした〜
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
こんなフレイ君なのに、なぜかキラとうまくいってほしいと願う自分がいます。
優柔不断なキラは最終的にどこに落ち着くんだろ?
>>さよならトリィ
すごく良かったです!
フレイSSではフレイ様の死を他キャラが語るってほうが多いと思ってたんですが
こういう感じはあまり目にしなかったので
キラフレ的にはアンハッピーエンドですが
フレイ様自身的にはある意味幸せエンドだったのかなって。
又の投下、お待ちしております〜

746あぼーん:あぼーん
あぼーん

747私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 10:46
一応修正テンプレ
こちらに添った書き込みをお願いします。
↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   

愛しのフレイ・アルスター先生のSSが読めるのはこのスレだけ!
|**** センセイ、         ・創作、予想等多種多様なジャンルをカバー。
|台@) シメキリガ・・・         真似では無い、あなたの本当の創作(おもい)を読みたいわ。
| 編 )    ヘヘ           自分では似ていないと思っても、今一度、読み直して確かめてみてね。
|_)__)   /〃⌒⌒ヽオリャー  ・エロ、グロ、801等の「他人を不快にするSS」は発禁処分。
|       .〈〈.ノノ^ リ))       ライトH位なら許してあげる。
        |ヽ|| `∀´||.        キャラヘイトは駄目よ。私以外のファンのためにも配慮をお願いね。
     _φ___⊂)__     ・フレイ先生に信(中国では手紙をこう書く)を書こう。
   /旦/三/ /|        感想だけよ。議論したいなら議論スレでね。
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|. |        感想が無くっても私負けない! 次は絶対がんばるから。
   |オーブみかん|/     ・ここで950を踏んだ人は次スレ立てお願いね。

             前スレ:フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜
             http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/anime/154/1078235844/

748あぼーん:あぼーん
あぼーん

749あぼーん:あぼーん
あぼーん

750私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 13:38
>>749
>>747

751私の想いが名無しを守るわ:2004/06/22(火) 09:10
>>散った花、実る果実
フレイファンなら誰もが知りたいドミでの空白の2ヶ月
新米軍人さんのフレイ様が愛らしいです

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
筋と関係ないのですが
ウサギ狩中のフレイ様を想像してしまいました
絞めるのも、毛をむしるのも平気なんでしょうか?
ワイルドな一面も良いです!

>>さよならトリィ
トリィに感情があるかのようで…
フレイ様死にエンドですが、感動的でした
余韻の残るお話で大好きです

752散った花、実る果実59:2004/06/28(月) 00:04
「平和のために、なんて・・・・私、本当はそんな立派な理由で軍に志願したわけじゃなかった。」
私は握り締めた自分の拳を見つめながらつぶやいた。
「違うんです。本当は、私。・・・・本当に、パパの復讐のことばかり考えていた。」
「それがおまえの戦う理由というわけか・・・・」
淡々と囁くバジルール少佐の声。しかし私は少佐の顔を見ることができなかった。
「平和のために、なんて、嘘。・・・・ちょっとは本当だったけど・・・・・でも、パパを殺したコーディネイターなんて皆死んじゃえばいいって。そう思ってた。戦争なんて、嫌だったけど・・・・・早く終わって欲しかったけど・・・・・・」
自分がわからなくなった。
本当に戦争を終わらせたくてあんな事を言ったのか。
本当に復讐のことだけを考えてあんな事を言ったのか。
「結局私はあそこにいる時なんにもしなかった。・・・・私はただキラを、皆を戦争にかりたてただけ。それなのに自分は安全なところで怯えて丸くなっていた、ただそれだけだった。」
バジルール少佐は知っているはずだ。あの頃の私の情けない行動を。
「そうだな。正直、軍に志願した時の毅然とした様子とかけ離れた勤務態度に呆れなかった、と言えば嘘になるが・・・」
私は唇をかみ締めた。
「しかし、そんなものだろうとも思っていた。ヘリオポリスで最初お前達を見かけた時は『同じ年頃でもう戦場に立っている者もいるのに』と腹立たしく思ったものだったが・・・・・」
「ヘリオポリスで?」
気がつかなかった。私は、この人とヘリオポリスで出会っていたのだろうか。
「お前は気がつかなかったろう。いや、恐らく皆忘れているだろうと思うが・・・・お前と、ヤマト少尉と・・・・ミリアリア・ハウ二等兵もいたか?あまりはっきり記憶しているわけではないが・・・・ラブレターがどうの、とか騒いでいたような・・・・話題の中心はお前だったな?フレイ・アルスター」
バジルール少佐は悪戯っぽく微笑んだ。
「え?いや、あの・・・・・」
ラブレター?え?もしかして、サイの?
「ヘリオポリスでは随分もてていた様子じゃないか?アークエンジェルではヤマト少尉とアーガイル二等兵と一悶着あったようだし・・・・ここは女性兵士も少ないから、変な男にからまれないように気をつけるんだぞ?」
「あ、ああああの、ええええぇ!?」
バジルール少佐はこんなにお茶目な人だっただろうか。もっと厳格な人だったような気がするんだけど・・・・
「いや、あのですね、そうじゃなくて。」
そう、そうじゃなくて。私はもっと大事な話をしにきたはず。
「私はそんな立派な信念があって軍に志願したわけじゃなかったんです。だから、だから私・・・・私の志願理由を軍の広報に使うなんて間違ってる。」
流石にバジルール少佐は真顔に戻り、しかしこう言った。
「いいや、間違ってはいないよ、フレイ・アルスター。軍と言うのはこういうものだ。」
「でも・・・・!」
「まあ聞け。・・・軍としては、できるだけ兵士の士気を高めたいわけだ。それもできるだけ自然な方法の方が好ましい。ここまでは納得できるか?」
「はい。」
それはそうだろうけど、でも・・・
「軍にとって重要なのは、お前の言葉が真実であるかどうか、ではない。聞く人間にとって真実に聞こえるか。それを聞いて軍の士気があがるかどうか、だ。」
「・・・私の言葉が嘘でもいいって事ですか?」
理屈はわかる。わかるけど感情は納得できない。
「ああ。いいんだ、嘘でも。それが本当かどうかは本人にしかわからないだろう?・・・お前がやっていたのも、そうではないのか?」
私の、やっていたこと?
「ヤマト少尉を戦わせていた時。・・・・全て真実によって、お前は彼を動かしていたか?」
・・・キツイ一言だった。
今までの言葉が優しかっただけに尚更効いた。
「・・・私は・・・・・・・」
「いいんだ、フレイ・アルスター。お前を責めているわけじゃない。しかし、人と言うのは、多かれ少なかれそういう側面を持っている物ではないのか?私もそれを利用した。お前とヤマト少尉が寝食を共にしても何も言わなかったその理由がこれだ。」
バジルール少佐もキラを利用した?キラを利用するために私を利用したの?
「・・・私がそばにいればキラが戦う、ってそう思っていたから?」
「そうだ。あまつさえ私はヤマト少尉の両親を人質にとろうか、とも考えたことのある人間だ。しかしそれはしょうがないことだ、とその頃は思っていた。」

753私の想いが名無しを守るわ:2004/06/28(月) 06:31
>>散った花、実る果実
コンスタントに連載続けられていて、頭が下がります。
まだまだ、ナタルさんとの話は続きそうですね。
とりあえず、第一話のことまで正確に記憶しているナタルさん、スゴイです。

>>あ、ああああの、ええええぇ!?
フレイ様の言動も、お茶目になってる? ナタルさんに会って、今までの張り詰めた
気分が解き放されているせいでしょうか。

754散った花、実る果実60:2004/07/03(土) 00:30
キラの両親を人質に・・・・それはとてもひどい考えだ、と思った。
でもすぐ気づいた。私はザフトに対してラクスを人質にしようとしたじゃないか。
「そんな顔をするな。今はそれが正しいとは私も思っていない。」
複雑な表情の私を見て、バジルール少佐は苦笑しながら言った。
「ただ・・・・やはり他人の人生に立ち入るのには覚悟のいることだ。・・・・もうわかっているだろうと思うが。」
「はい。・・・私は・・・・・キラの人生を狂わせたのですから。キラには謝っても謝り切れない。でも、謝らなくてはいけないと思っています。それに・・・キラには伝えたい事があります。」
「伝えたいこと?」
「はい。キラに会ったら・・・会えたら、そうしたら言います。それまで内緒です。」
不安だった。とても。
この広い宇宙の中、もう一度キラに会えるという保証はどこにもない。
けれど、賭けてみようと思った。
キラの乗っているアークエンジェルを追いかけているこの艦に乗るのが一番可能性が高い。
ここにいて会えないのならもうきっと、キラには会えないだろう。
だから、可能性にかけてみよう、と思ったのだ。

「でも、だからこそ。もう、私のせいで誰かの人生が狂わされるのは嫌なんです。」
そう、そのためにバジルール少佐を探していたのだ。
「しかし、あの放送によって決意を固めたものがいるとして、それはある意味自身の選択であるとも言える。それを覆すのは、難しいのではないか?それに、今更覆すというのも彼らのためになるのかどうか・・・・」
「そうかもしれないけど・・・・でも、もう何もしないで後悔するのは嫌なんです。それがなんであれ・・・私にできることはやりたい、と思っています。」
アークエンジェルにいたときのような後悔はしない。もう二度と。

755散った花、実る果実61:2004/07/03(土) 00:36
「ケ・・・・・エヴィンス二等兵!」
「ああ、アルスター軍曹」
私を見る彼は本当に嬉しそうだ。
「どうかされましたか?」
子犬のような彼の瞳にかすかに罪悪感がうずく。
いいの?どのみち彼は軍を抜けることなんてできないんじゃないの?
だったら、夢を見せてあげたままの方がいいんじゃないの?
「何か?」
だめ、できることはしなくちゃって、そう決めたじゃないの。
「エヴィンス二等兵・・・私は、あなたが思っているほど立派な人間じゃないんです。」
「・・・どうしたんです?急に」
私は気持ちを落ち着けるために一つ大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「私の映像を見て軍に志願したって言ってたでしょ?あの時の私の言葉・・・半分は、嘘なの。」
彼は黙って私の言葉を聞いている。
「私・・・・ヘリオポリスの出身なの。あそこで、友達と買い物をしている時に戦争に巻き込まれたの。それまでは私、とても幸せな人生を送っていたわ。ママは死んじゃっていなかったけど・・・・でもね、パパはとっても私を愛してくれたわ。私、片親の家庭だから不幸だなんて思ったこと一度も無い。でも、ヘリオポリスが崩壊して・・・・聞いたでしょ?ザフトとの戦闘に巻き込まれて跡形もなく消えてしまったわ。そして、私の乗っている避難シェルターが壊れて、それをアークエンジェルに拾われたわ。」
「アークエンジェルに行くまではあなたは軍人ではなかったんですね。」
「そうよ。・・・アークエンジェルに乗ってからも、私、軍の仕事なんてしようとも思わなかったわ。・・・皆は自分にできる事をしようって頑張っていたのにね。」
泣きながら戦っていたキラ、苦悩しながらもキラを受け入れたサイ、トールを失ったミリアリア、始終怯えていたカズイ・・・・・
「私、アークエンジェルさえ降りれば、自分はもう平和だって思ってたの。戦争なんて関係ないって。」
緊張に、私ののどが鳴る。
「パパが・・・死んだの。殺されたの、ザフトに。その時、アークエンジェルにはろくな戦力はいなかった。二人を除いて。エンデュミオンの鷹、フラガ少佐と・・・キラ・ヤマト。ヘリオポリスの学生だった、コーディネイター。」
何度も脳裏を掠めた、キラのあの時の言葉。
「出撃する前、パパを心配する私にキラは言ったわ、『僕たちも行くから大丈夫だ』・・・って。でもパパは死んだ。私は思ったの。パパが死んだのはキラが真面目に戦わなかったからだって。・・・コーディネイターだから手を抜いてたんだろうって。」
「あの戦闘での悲劇は俺も聞いています。・・・・ひどい損害だった、と。」
ひどい損害。そう、戦争においては大切な人の死が、そんな簡単な言葉で切り捨てられてしまう。
当事者が、親近者がどんな悲しみを覚えたかなどそこに入る隙間など無い。
あの時までは私もそれに気がつかなかった。
「パパは私のすべてだった。パパを失って、私は帰る場所を無くしてしまった。そして・・・パパを殺したコーディネイターを許せない、と思ったの。」
「そしてあなたは軍に志願なさったのですね。」
そう語る彼の瞳にはいまだ憧憬の影が色濃くその姿をあらわしている。
「『かつて父の愛情だけを受けて育った少女。父を奪われた少女は復讐を誓う。少女は健気にもその身を戦いの最中に置き、偽りの平和ではなく真の平和をつかむために戦う事を決意したのだ』・・・・あなたが考えていることは、こんな感じ?」
「・・・何故、それを・・・?」
「見たのよ、あれを、私も。例の私の志願した時の言葉を使った映像を。まさかあんな言葉で装飾されてるとは思わなかったけど。」
ため息と共に私は言葉を吐き出した。
「・・・・今のって、あの時の言葉でしたっけ?忘れてました。」
ケロっとして彼は言う。
それはそうだろう。大体、人は自分が重要だと思ったことしか記憶に残さないものだ。
「その言葉だけ聞けば感動的な話よね。でも違うのよ。実際はそんな感動的な話じゃないの。」
「ご謙遜なさらなくても。」
にこにこして彼は言う。・・・・思わず脱力しそうになる自分を励まして私は続ける。
「そうじゃないのよ。話を聞いて頂戴。・・・私はね、自分で戦うつもりなんて、全然なかったの。・・・私が軍に残ればキラも残ると思ったの。私がキラに身を委ねれば、キラは私のためにコーディネイターを殺してくれるって、そう思ったのよ。」

756散った花、実る果実62:2004/07/03(土) 00:40
「身をゆだね・・・・・って、その・・・・・」
「いいわよ、遠慮しなくても。・・・寝たのよ、キラと。思い通り、彼は私のために、アークエンジェルのために戦ってくれたわ。・・・殺したいわけじゃない、守りきれなかった、そう言って、泣きながら、ぼろぼろになるまで。・・・・あげくMIAになって。」
眉をひそめて彼は言った、
「それって・・・・なんだかとても貴女が悪女のように聞こえます。」
私は苦笑する。
「そうよ。悪女よ。ひどいでしょ?あなたの思っている私と本当の私は違ったでしょう?目がさめた?もう、虚像を追いかけて戦争をするのはやめなさい。でないと後悔するわ。戦争なんて、何かをなくすためにあるようなものよ。」
「でも貴女はここにいるじゃないですか・・・・なら何故まだ戦争から離れようとしないんです・・・・」
焦点を失った目で彼は呆然とつぶやく。もはや無意識なのかもしれない。
「戦争を終わらせたいからよ。そしてどうしても会いたい人がいる。謝らなきゃいけない人がたくさんいる。・・・だから私はここから逃げ出すわけにはいかないの。」
「俺は・・・・・・」
「さあ、あなたがそもそも軍に志願した理由は消えたわ。・・・あなたは、なんの為に、戦っていくの?」
「俺は・・・・・・・・」
言い過ぎたかもしれない。そう思った次の瞬間。
「何故、だったら何故、放っておいてくれないだ!」
彼は突然叫び始めた。
「あんたがどんな理由でここにいようとそれはいいよ。そりゃ個人の自由だ。だけどだからって俺の理想をわざわざ崩さなきゃいけない理由はないだろう?せめて放って置いてくれればよかったんだ。だったら俺はあのまま迷わずに戦いつづけることができたのに。何故わざわざそんな事を言うんだよ?」
やっぱり間違っていたんだろうか。そんな迷いがありつつも私は反論した。
「ではあなたはやはり私の言葉だけで軍に入ったという事?だったら今のうちにやめればいい。戦争って、そんなに甘いもんじゃない。知らずに済めばどんなに幸せなことか。そんなスクリーンを、マイクを通した脆い虚像が壊れただけで迷うような決心なんて持たなければいい。」
私は彼を睨みつける。
「あなたは何のために戦っているのよ。」
言葉を失った彼に、それ以上かけてあげる言葉を見つけることは、できなかった。

757私の想いが名無しを守るわ:2004/07/03(土) 06:33
>>散った花、実る果実
知らなければ、ごまかせば、それで何事も無く済むことだけど、それをしなかったフレイ様。
案の定、エヴィンスを怒らせてしまったけど、それは、以前のような考えの無い発言じゃなく、
自分のように後悔しないため、後悔させないための覚悟を持った重い言葉です。
狂い始めている戦争を止めるためキラ達が、どこかで戦っているように、フレイ様も戦っているんですね。
こんなフレイ様を見せていただいて感謝です。

758人為の人・プロローグ:2004/07/21(水) 18:08
戦争は終わった。
けれど僕の心にはまだ熱い、そして苦しい痛みが残っていた。
たとえどれほど時が流れようとも、それは僕の中ではじけ、
飛び散り、悲しみの破片をあちこちにばらまくことだろう。
色んな事があった。そして今も色んな事が起こっている。
もう取り戻せない過去と、進むべき未来が今、僕の中に生きている。
僕はキラ・ヤマト。最高のコーディネーター。

759人為の人・PHASE−1・1:2004/07/21(水) 18:10
戦争が起こって何ヶ月もが過ぎた頃。
その時僕は、コロニー「ヘリオポリス」の中にいた。
連合とザフト、どちらにも所属しない中立コロニーの中で、
僕はいつもと変わらない平和な日々を送っていた。
柔らかな日の光―偽りとは思えない―そんな光が辺りを照らす中、
僕は外のベンチに座ってキーボードを叩いていた。
そしてふいに幼い時別れた、無二の親友の顔を思い出した。

彼の名はアスラン・ザラ。きりっとした瞳と責任感あふれる顔立ちが
印象的だった。僕達は別れの日、桜舞う空の下で言葉を交わした。
彼の可愛らしく―そういうと失礼なのかもしれないが―着飾った恰好が
いつもとは違う雰囲気をどこか起こさせ、僕は不思議な気分だった。
彼は別れ際一羽の機械仕掛けの小鳥をくれた。
「トリィ」と鳴きながらまるで本物のような仕草をみせるその小鳥を
指先に留め、僕は鳴き声そのままに「トリィ」と名付けた。
その思い出は何故か、その日に限ってひどく鮮明に思い出された。

僕ははっと気づいた。見るとミリアリアとトールが立っている。
過去の記憶は水晶の砕け散るように消えて、現実が戻ってきた。
トールがいつものように僕に悪ふざけをしてくる。ミリアリアは
それを見て少し呆れつつも、自分のボーイフレンドの事を
楽しそうに見ている。僕も一緒になって楽しんでいた。
何の変わりもない、いつもの出来事だった。

道に3人、女の子が立っていた。どうも恋の話題で盛り上がっている
らしく、賑やかで明るい喧騒が僕の耳をなでた。
話題の中心になっているのは紅い髪の女の子で、友人の話に
困り果てたような口調で、それでも楽しそうな顔で言い返していた。
その子はミリアリアに話しかけてくる。話の内容はその子が
ラブレターをもらったというものだった。
その相手は、僕の親友でもありその子の婚約者でもあった少年、
サイ・アーガイル。僕はそれを聞いて、少し悔しかった。
僕は確かにその時、その子に淡い恋心を抱いていたのだ。

760人為の人・PHASE−1・2:2004/07/21(水) 18:11
ディスプレイで見ていた遠い地球での戦争。爆発が起こり、人が死に、
巨大なMSが大地を蹂躙する映像を僕はずっとこの目で見てきた。
それは酷い事だと思ったし、とても悲しい事だとも思った。
けれど僕はその時、まだ「思っていた」にすぎなかったのだ。
恐ろしい光景が繰り広げられていたのはまさに僕の生きている世界で、
僕がトールとふざけあっていた頃、地球では何人もの人が一瞬で
死に追いやられていたのだった。それはやはり現実だった。
突如、大きな震動が部屋にいた僕達を襲った。僕は初め何の事か
分からず、ただ他の人にあわせて避難を始めた。戦争が僕達のもとに
現れたのは明らかだったが、信じる事はできなかった。
ここは中立だから、絶対安全だから、僕はそこにいたのだ。
駆けぬけていく途中、一人の男の子に出くわした。正確には女の子で、
ずっと少年だと思っていた僕はびっくりした。彼女は部屋の中で
人待ち顔を続けていたのだが、平和が破られるとただ走り続け、
後を追った僕はとんでもないものを目にする事となった。
それはMSだった。
お父様の裏切り者、と彼女は地の底から絞り出すような叫び声で
その場にへたり込み、階下にいた敵の銃声が僕の耳に轟いた。
僕のすぐ側に戦場があり、赤い兵士が人を殺していた。
少年と見間違えた少女を連れ、僕は彼女をシェルターに押しこめた。
大きな瞳と、手入れのない真っ直ぐな金髪が僕の目に焼きついた。

そして僕は作業員姿の女性、マリュー・ラミアス大尉の指示に従って
彼女のもとへ向かった。何度も爆発が起こり、縛めを解かれたMSが
次々に動き出していた。ザフトが地球軍の極秘MSを奪いに来たのだ。
僕は熱い空気とすぐ近くで聞く銃声に心臓をこわばらせ、生きた気が
しなかった。喉はカラカラで、指先まで震えが止まらなかった。
恐怖の中、ラミアス大尉が撃たれた。僕の前に敵が迫ってくる。
僕はあまりに理不尽な死の可能性を限りなく100%に近づけられ、
その赤いザフト兵の持つナイフの切っ先に混乱寸前だった。
死ぬ。僕は死ぬ。本当に死ぬのかという思いが何度も頭に浮かんだ。
ふいにそのナイフが止まった。敵は驚いた顔をしていた。その顔は
はっきりと見えた。僕は目を見開き、懐かしい名前をつぶやいた。
そこには返り血にまみれたアスラン・ザラが、桜舞う昔の思い出から
成長した姿で呆然と手を止めていた。僕の頭は空白になった。

ラミアス大尉が隙を突いて僕をMSのコックピットの中に
突き落とした。僕達はMS、X−105ストライクの上にいたのだ。
そして僕と中に入ったラミアス大尉はMSを起動させた。
アスラン・ザラはその場から身を退き、別のMSのもとへと
向かっていった。僕にとっての真の戦争は、その時始まった。

761人為の人・作者:2004/07/21(水) 18:16
初めまして。放送中からかれこれ一年以上ROMらせてもらっていた結果、
ついに一念発起して書き込んでみることにしました。
内容はキラの軌跡を彼の自身の視点でたどるというものです。暗いです。
ちなみにフレイ様が「あの子」という表現になっているのは
こちらで読ませていただいた某作品に由来するものなのですが、
よろしいでしょうか?作者さんがいらっしゃったらご了承いただきたいのですが……

762私の想いが名無しを守るわ:2004/07/21(水) 20:01
おお、新作!!
最近投下が無くて自然消滅してしまうんじゃないかと危惧していただけに感激。
そういえば今までキラ視点てあんまりありませんでしたね。
楽しみにしています!

763私の想いが名無しを守るわ:2004/07/21(水) 20:39
>>人為の人
その某作品の作者ですが、別に私の専売特許でも無いので、全然構いませんです。
二話のうちに、本編一話を過不足無くまとめて、かつ、キラの心情も追加しておられてますね。
題名が純文学みたいな感じで、これから、どんな話になっていくのか期待しています。

764人為の人・PHASE−2:2004/07/22(木) 18:58
それから後の戦闘では、もうずっと生きた気がしなかった。
僕はただただ死に物狂いで、自分の生きる道を探っていた。
住み馴れた居住区に出たところで敵のMS、ジンに遭遇した。
そしてそんな戦場にトールが、ミリアリアが、カズイが、
サイがいた。僕の友人があんな所で、死ぬかもしれない。
死ぬ。その一言の恐怖に支配され、僕はおぼつかない足取りの
ストライクを操縦するラミアス大尉からMSの支配権を奪った。
ほとんどが初めて見る機器だというのに僕の頭はそこから流れ出る
滝のような情報を一つ一つ手に取るように理解し、行動につなげた。
敵がこちらの駆動の異常な変化に戸惑う中、僕は戦うための怒りを
全身にこめて、唯一の武器をジンの肩口に突き刺した。
敵の兵士が死ぬことなく脱出したのを確かめると、僕は自分が死から
逃げ切ったことにほっとする気持ちでいっぱいだった。

でもその安心は長く続かなかった。傷を負ったラミアス大尉を
友人達と介抱してから、今度はその彼女に銃を突きつけられたのだ。
僕達は一列に並ばされ、一人ずつ名前を言った。
トール・ケーニヒ。いつも明るさをたやさない、楽しい友達。
ミリアリア・ハウ。トールの恋人で、つんと外に跳ねた髪が印象的。
サイ・アーガイル。みんなのまとめ役で、僕にとって頼もしい存在。
そして、彼はあの子と婚約の話が進んでいた。
カズイ・バスカーク。目立たないけど、根は優しい少年。
そして僕、キラ・ヤマト。
僕達は地球軍に拘束される形でMSの傍に留まる事になった。

僕はストライクの設定を確認しながらあちこちの操作系統を確認し、
またいつ来るとも分からないザフトの攻撃に備えていた。
町はあちこちがひどく破壊され、動いている人影も見えない。
僕はモニターに表示される「GUNDAM」の文字を見つめながら、
日常から離れすぎた現在の状況をどこか恐れていた。
そして心の影には、あの子の事も含めてついさっきまでの平和な
暮らしが過去の思い出のようにぼやけて浮かんでいた。
あの時、透明なバイザー越しに見たアスランの顔。彼は確かに
僕の事をキラと呼んだ。たくさんの人を殺して、その血を纏って。
ザフトが再び攻めてきた。真っ白なMSがこちらに向かってくる。
続いてオレンジ色の戦闘機のようなものが現れた。メビウスだ。
僕は必死に気持ちを奮い立たせてストライクを起動し、頑丈な
フェイズシフト装甲を展開させて敵の攻撃を防いだ。
僕が戦わなければ、みんなが死ぬ。その気持ちでいっぱいだった。
そしてその後に、僕にとって忘れる事のできない思い出をいくつも
作り出した戦艦、アークエンジェルが姿を現した。

765人為の人・作者:2004/07/22(木) 19:05
続編が迫ってきたのも投稿を決心したきっかけの一つでした。続編での
キラの性格が、この小説と結構似ているんじゃないかと考え始めたもので。

>名前の件
何だかそのまま使うのはためらわれたので、お伺いした次第です。
丁寧な心情描写や台詞回しが私的にとてもツボだったもので。

766人為の人・PHASE−3:2004/07/23(金) 21:29
現れた純白の巨大戦艦を警戒し、敵MSは去っていった。
あとには撃墜を辛くも免れたメビウスと、ストライク、
アークエンジェルが残され、僕達は町の片隅で一堂に会した。
戦艦を指揮していたのはナタル・バジルール少尉。誰かと思えば、
ゼミに行く途中に見たサングラス姿の女性だった。その時は
軍服姿で、軍帽を真っ直ぐにかぶって鋭い視線を投げかけていた。
メビウスに乗っていたのはムウ・ラ・フラガ大尉。少し変わった
名前だと僕は思ったものだが、彼は名前だけでなく行動にも
一風変わったユニークさがあった。飄々としていて言葉は軽く、
僕には初めあまり物事を深刻に考えないような人に見えた。
そんな彼が、僕を一目でコーディネーターだと見抜いたのだ。
周りの人の僕を見る目が変わった。
その言葉に反応してトールが僕の前に立った。キラは友達だから、
彼はそう言って僕のことをかばってくれた。他のみんなも、
しっかりとした眼差しで地球軍の人達を見つめていたように思う。
僕はその時、本当に救われる思いがしたものだった。
フラガ大尉はそんな僕達の姿を見て微笑むと、別にそんな事は
どうでもいいという感じでそれ以上の追求をやめた。
それだからか、彼が悪い人だという気持ちは起こらなかった。

ラミアス大尉は技術士官で戦艦操作の経験もほとんどなかったが、
バジルール少尉はそんな彼女に階級上一番適した場所を勧めた。
ラミアス大尉は、アークエンジェルの艦長になった。
そしてバジルール少尉はその副官をしばらく務める事となった。
この二人が次第に対立し、悲劇的な結末を迎える事など
当時の僕には知る由もない。ただ一つ言えるのは、死の悲しみを
背負って今を生きている人が僕だけではないという事だ。
戦艦のクルーには他に、アーノルド・ノイマン曹長を初めとして
みな経験の浅い、襲撃で生き残る事のできた人達が就いた。
そしてその中には、後に僕の友達も含まれることになる。

ザフトはまた襲ってきた。
僕はストライクに搭乗して、みんなを守るために戦った。
けれど戦うたびに、今までの平和な暮らしは確実に遠のいていく。
コロニーの外壁を突き破って侵入してくる敵はバズーカを撃った。
僕は使った事があるはずもないランチャーストライクのアグニで
応戦し、アークエンジェルは豊富なビーム兵器を駆使した。
その時の僕は戦うことに手一杯で、コロニーがどうなろうと
知った事ではなかったし、敵が僕に考える余裕を与えてくれる
はずもなかった。中立という名の揺りかごにいくつも穴が空いた。
僕はさらにソードストライクに切り替えてジンと相対し、
相手の気迫を全面に受け止めて跳ね返そうと試みた。
敵が人ではなく機械だとか、急所を外せば助かるとか、そんな事は
考えていられない。ただ自分が死ぬという事に脅え、そこから
抜け出すために必死で戦い、結果僕は人を殺した。
上下真っ二つになったジンを爆破して、僕は一瞬ほっとした。

アスランは僕の戦闘をずっと見ていたのだろうか。彼は奪取した
MS、イージスでコロニーの中にいた。人殺しでアスランの仲間に
なった僕は、通信から聞こえてくる彼の変わらない声を聞いた。
お互いの名前を確認しあう。僕達はMSで向かいあっていた。
頭の中を信じられないという単語が幾度も駆け巡り、操縦桿を
握る手に力がこもった。動けない体の真ん中に痛みが集まって、
脳天へと突き抜けていった。何故という言葉をひどく軽く感じた。
そして軸を失ったコロニー「ヘリオポリス」は大きな音を立てて
分解を始め、僕は漆黒の宇宙へと投げ出されていった。

767私の想いが名無しを守るわ:2004/07/24(土) 09:59
>>人為の人
キラが緒戦で、躊躇い無くミゲルを撃墜した部分の感情が補完されてますね。
人が乗っていると実感しだしたのは、確かデブリ帯のころなんでしたか。
しかし、今のところ台詞が、まったく無いんですね。作者さんのスタイルなの
かもしれませんが。

この次は、多分、フレイたま登場。キラの感情の変化の表現に期待します。

768人為の人・PHASE−4:2004/07/24(土) 23:39
寂しさに死んでしまうのではないかと思うほどの孤独な宇宙。
次第に冷静さを取り戻し始めていた僕の目が捉え続けていたのは、
今やただの瓦礫の塊となってそこら中に飛び散っているだけの
元・コロニーだった。僕は手の震えが止まらなかった。
ヘリオポリスが、僕達の家が、こんなにあっさり崩れてしまった。
その事実に圧倒され、僕は通信機から響くバジルール少尉の声を
無視すらしていなかった。当然だ、聞こえていなかったのだから。
そして僕はわずかな生命の輝きを見つけ出そうとするかのように、
あの子の乗った脱出ポッドを半ば運命的に拾い上げたのだった。

彼女がポッドから出てきた時はびっくりした。
僕の胸に跳び込んで本当に嬉しそうだった彼女は、サイの姿を見ると
再び僕の手を離れて彼に喜びの表情を見せていた。今思えば、
それは彼女の一種の特技と呼べるものだったのかもしれない。
どんな人に対しても同じ中身のない笑顔を振りまくような、そう、
短絡的に言えば八方美人のような所があった。でもそれも少し違う。
彼女は本当に美人だったのだ。見る者を惹きつけるようなオーラが
体中からあふれていて、その輝きに僕は何かを見失っていた。
けれどその時の僕に何ができただろう。僕は幸せそうな二人を複雑に
見守る、一人の取巻きでしかなかった。そして、変わっていく彼女を
僕が誤った方向へ導いた結果、誰もが傷つく事になった。
過去は何もしゃべってはくれない。あるのはただ、一つの現実だけ。

僕はストライクに搭乗するのを嫌がった。だんだん思考が冷静になる
につれ、なんで自分がはっきりとした理由も無いままMSに乗り、
地球軍に従い、ザフトと戦わなければならないのか分からなくなって
きたからだ。「大人の都合で」という、子供に都合のいい理屈を
振り回して僕は抵抗した。でも戦争はそんな事を許してはくれない。
トール、ミリアリア、カズイ、そしてサイ。友人達が少年兵の服装で
僕の前に現れた時、僕は自分一人だけが駄々をこねる子供のように
思えた。みんなの顔は決意と自信に満ちていて、当たり前ながら
ゼミにいた時よりも幾分引き締まって見えた。僕は取り残されるのを
恐れ、次に臆病な自分とそれなりに格闘した。そして答えが出た。
自分には戦うための力がある。そして、今がそれを使う時なのだと。
僕はそうして、今まで隠してきた自分の異常性を人々に知らしめた。

補給を得るため、月基地ではなくより近いアルテミスへの航路を
とったアークエンジェル。ダミーを見抜いて追撃するザフト艦。
僕はフラガ大尉に及びもつかない決心から、ストライクに搭乗した。
ノーマルスーツを着こみ、ヘルメットのバイザーを下ろした心に
迷いはもうないと思いこんでいた。だが動揺は確実に存在していた。
みんなを守る事ができれば、それでいいんだ。
僕は笑顔で話しかけるミリアリアの声にわずかな安心を得て、
再び広い広い宇宙へと自ら飛び出していった。

769人為の人・作者:2004/07/24(土) 23:43
なんかだんだん投稿する時間が遅くなっている……大丈夫かいな?

>セリフの件
この小説を書くにあたって、自分なりにいろんな制限を課してみました。
その一つに「カギカッコなしでどれだけうまく感情を表現できるか」
というのを入れてみたのですが、今更ながらに後悔w
最終的にどんな形になるのか自分でも楽しみな反面不安というか。

770私の想いが名無しを守るわ:2004/07/25(日) 03:07
>>人為の人
一人称語りだから、キラの感情は表現できますよね。挑戦してるのは、キラ以外の
キャラの感情表現かな。軍を手伝うことになったヘリオ組に対するキラの隠れた劣等感が、
彼らの純粋な思いを伝えているように思います。
でも、難しいよね…… がんばって。

771人為の人・PHASE−5:2004/07/25(日) 13:37
敵は奪った新型機を全て投入してきていた。
基礎的で格闘重視のデュエル、遠距離支援型のバスター、
偵察能力を高度に有したブリッツ、そして一撃離脱攻撃の可能な
高速可変MS、イージス。僕はほぼ他の三機をアークエンジェルに
任せる形で、アスランの駆るその赤い機体と交戦した。
アスランはなぜ僕が地球軍にいるのかと詰問した。彼は軍人だった。
そして民間人でずっと平和を貪ってきた僕に、その問いかけは
果てしなく理不尽で答えようのないものだった。僕は思い出の中の
アスランを探し求めようとした。けれどそこにはもう誰もいない。
戦争なんか嫌いだと言っていた「あの」アスランはどこかに消え、
一人のザフトの軍人が戦闘慣れしない僕を追い詰めていった。
そうして焦るばかりの僕に、宇宙はあまりにも無表情だった。

しばらくすると、無駄撃ちのせいでPS装甲が切れた。
それは自分がいつ爆死してもおかしくないという事を意味したが、
僕にそれを理解する余裕があるはずもなかった。僕は、いや
ストライクは変形したイージスの脚に捕らえられて運ばれていた。
アスランは僕をザフトヘ連れていくのだと言った。
僕は何のためにこんな宇宙にいるのかすら分からなくなった。
分からない事だらけで、ザフトに行くのか、ああそうなんだと
訳もなく納得し、直後そんな事は嫌だという思いが現れた。
脳裏にアスランが、続いてトール達が次々に現れては消えた。
僕の思考は混乱の極みを迎えてあちこちに錯綜していた。
もしあの時ザフト艦に一撃与えて戻ってきたフラガ大尉の声が
無かったら、僕はまた成り行きでザフト兵になっていたのだろうか。
ともかく、ストライクは決死の換装を行って装甲を取り戻し、
僕達は奇跡ともいう形でザフト軍を一旦は撤退させる事に成功した。

アークエンジェルに帰艦した僕は、依然としてまとまらない頭の中を
整理しようと一人で勝手にもがき苦しんでいた。
宇宙。それは想像していたよりずっと暗くて、寂しい所だった。
でも僕は戦わなければならない。そう決めた以上、後戻りができない
事は自覚していたし、楽じゃない事も分かっているつもりだった。
そんな僕に、フラガ大尉はストライクの操縦系統をロックしておく
ように言った。なぜそんな事をしなければならないのか。
その答えはこれから入港しようとしていた友軍基地、アルテミスの
中で初めて分かる事だった。僕はそこで、あまりに無知だった。
結局、何も分かってはいなかったのだ。そう、何も。

772人為の人・作者:2004/07/25(日) 13:38
>感情表現
度々の感想ありがとうございます。「まだ誰もやってないかな?」と考えたのが
会話無しでの描写をしようと思ったきっかけなのですが、誰もやらないのは
それが面倒だからなわけで……ともかくがんばってみます。

基本的にキラのいない場での出来事はスルーされてしまいますが、
それでもさりげなく出てくるかもしれません。さてどうなることか……

773人為の人・PHASE−6:2004/07/26(月) 19:16
食堂に集まっていた僕達の前に突如、銃を構えた軍人が入ってきた。
やっと一息ついて、快適な時間を過ごせると思っていた僕はやはり
甘すぎたのだ。物々しく張り詰めた緊張の中で、階級の高そうな
軍人がストライクのパイロットは誰かと尋ねた。立ちあがろうとする
僕を整備のマードック軍曹が止めた。代わりにノイマン曹長が
なぜそんな事を尋ねるのかと聞き返した。相手側の返事にはどこか
僕達を蔑むような口調が含まれていた。ミリアリアが腕を捕まれた。
彼女がパイロットのはずはない。軍人の目つきに僕は怒りを覚えた。
心が体を突き動かし、僕は立った。軍人は相変わらず不愉快な顔で、
なぜ子供がというような事を言った。するとあの子が口を開いた。
彼女の正直な一言は、僕がコーディネーターだという事を驚くほど
あっさり、そして確実に伝える事となった。

アークエンジェルには確かに「識別コード」がなかった。
でもそれはただの口実で、実際はもっと問題はこじれていた。
大西洋連邦とユーラシア連邦は仲が悪くて、僕達は大西洋、
アルテミスはユーラシアに所属していた。我々はMSの開発も
知らされていない。だから見せろというのが相手の要求だった。
戦争って何なんだろうと僕は思った。そんなこと今更考えるとは
思ってもみなかったのに、気がつけば僕はそこに囚われていた。
戦争の大義を一兵卒が知ったところでどうにもならない。
けれど僕はついさっきまで民間人だったのだ。それは嘘ではないし、
何の誇張もなかった。そこに甘えるつもりもなかった。
だが結局僕は自分が当然だと思っていた事を次々に否定され、
あげく「裏切り者」の「コーディネーター」の名を冠された。
僕は二重の意味で、軍人たるべき枠からはみ出ていた。

ブリッツは体を透明にする事ができた。
もちろん存在を消してしまうわけではなく、ミラージュコロイドと
呼ばれる特殊な粒子を撒いて姿を悟られないようにするものだった。
そしてそのたった一機のMSが、そんな「姿を消す」能力を使って
アルテミスの防御システムを破壊した。そう考えると皮肉なものだ。
ユーラシアが大西洋の開発したMSを知らなかったから、
それにやられた。そう言ってしまう事だってできる。
戦争とはつまりそんなものなんだろうと僕は思った。そんな事ばかり
繰り返して、その度にたくさんの人が死んで、ようやく気づく。
僕は基地内に鳴り響いた警報に反応してストライクを起動させ、
ブリッツと一瞬交戦し、そしてアルテミスの人間を完全に無視した。
拘束されていた艦長、副長、フラガ大尉も無事帰還し、
アークエンジェルは爆発し崩壊していくアルテミスを残して
第8艦隊への孤独な旅を続ける事となった。そう、孤独な旅だ。
もちろん僕は、ヘリオポリスの最期を見届けた時の喪失感など
微塵も感じてはいなかった。つまりはそれが戦争なのだ。

774人為の人・PHASE−7:2004/07/27(火) 19:36
フラガ大尉が一つの提案をした。
それは補給を受けられなかったアークエンジェルのため、
近くにあったデブリ帯で必要物資を探すというものだった。
僕は反対した。それは墓場を荒らす事に等しいと思ったからだ。
人が死んで、それを悲しんで、弔って、お墓に埋めたその亡骸を
蹂躙する「悪人」の姿が僕の目に浮かんだ。そんなのひどすぎる。
でも僕の考えはまたしても浅はかなものだった。

デブリ帯には戦争で傷ついたものが何でも「捨てられて」いた。
それは墓場というより、死んだ人を邪魔物のように遠ざけた
死体置き場の印象を強く与えた。僕はあまりの凄惨にただ驚愕した。
俺達は生きているんだ、だから生きなければならない。
フラガ大尉の言葉が痛いほど胸に染みた。僕達は生きているのに、
ここにいる死者達を弔う事さえせずただ放り出していたのだ。
そして漂う残骸の中でも一際目を引いたのが、ユニウス7。
地球軍のたった一発の核ミサイルによってバラバラに砕け散った、
ザフトのコロニーだった。その冷えきった中心部を僕は見た。

僕達は作業を始めた。トール達が物資を集め、僕がストライクで
哨戒活動にあたるというものだった。でも僕は少し油断していた。
こんな所に好き好んでやってくる「軍人」なんているわけがない、
もっと他にする事があるだろうから、と。少なくとも僕にとっては、
アークエンジェルの人達はそれとは何か違うもののように思えた。
その時、残骸の陰に一機のジンが見えた。僕はにわかに緊張した。
そして相手が気づいてくれない事をただただ願った。
でもその願いは届かなかった。ジンがこちらに目を向けた。
視線の先には友達の乗った作業用機械があった。攻撃される。
僕は精一杯の葛藤を抱えながらそれでも銃の引き金を引いた。
ヘリオポリスでジンを斬った時よりも遥かにあっさり、ジンは
爆発した。そうして僕はまた一人、人を殺した。
友達を守るために戦ったはずなのに、ひどく心が苦しかった。
アークエンジェルから放たれていく折り鶴の群れを眺めながら、
僕は弔いと懺悔に満ちた思いをそこに委ねようとしていた。

君はつくづく拾い物をするのが好きなようだな。
そう副長に言われた。実際そうなのだろう。僕はこの廃墟の中で、
やはり「捨てられる」ようにしてたたずむ一つの脱出ポッドを
見つけたのだ。そして僕は二度目の運命的な出会いをした。
相手は桃色の髪を持つザフトの歌姫、ラクス・クラインだった。

775人為の人・PHASE−8:2004/07/28(水) 16:07
ポッドの中からまず現れたのはピンク色の丸い変な機械だった。
自分からボールのようにあちこち跳び回ったり、随分とクセのある
言葉を甲高い音声で発したりして、なかなか愛らしいものだった。
そしてすぐ後から現れた一人の少女。戦争とはおよそ無関係の
ような幻想的な衣装、凍てついた心を溶かすような歌声、いつも
純粋な笑みを浮かべている完璧なまでの顔立ちがそこにはあった。
彼女は自分がどんな状況に置かれているのか全くわからない、
というような空気を振りまきながら僕達に挨拶をした。
やれやれ、おいおい、困ったな。そんな声が聞こえてきそうだった。

ラクスは戦場追悼慰霊団の代表としてやってきた所を地球軍に
見つかり、攻撃を受けて避難させられたらしい。そんな大変な事が
あったのに、彼女はまるでそんな素振りを見せなかった。
もちろん彼女の目にだって戦争は映っていたはずだ。人が人を憎み、
殺し合い、多くの犠牲を撒き散らしてなお続く無意味な争いの姿を。
でも当時の僕にそんな事を考えている余裕はなかった。僕は彼女の
非の打ち所のない外面に見とれ、浮わついた心に思考を寸断された。
天使のような微笑みの奥に潜む無限の苦悩を分かる事ができず、
ただ導かれるだけの存在に甘んじて無邪気に照れていたのだった。

あの子はラクスの手を振り払って、馴れ馴れしくしないでと言った。
そこには明確に拒否の形が現れていたし、それ以上のものがあった。
あの子はコーディネーターのくせに、とその時言ったのだ。
僕は二度目の衝撃を受けた。初めはアルテミスでの一言だった。
そしてこの時の態度が、僕にある一つの結論を導き出させた。
僕はあの子の考えの中にはっきりとした差別感情がある事を知った。
でもそんな感情は誰にでも備わっているものだと、僕は思っていた。
サイの何気ない一言が悪意から出たものでない事は明らかだったし、
僕の友達がナチュラルである以上仕方がないんだと考えていた。
だから衝撃は長続きしないものと思っていた。今は苦しいけど、
いつも通りに我慢すればいい。そうすれば大丈夫だと。
だがやはりそんな甘い考えは通用しなかった。

ラクスの歌声は美しい。そう僕は思った。戦争と全く無関係のように
紡ぎ出される響きには、それでも作り変えられた遺伝子を嫌悪する
人にしか感じ取れないような排他的な刺が含まれていたのだろうか。
少なくともコーディネーターの僕には全く気にならない事だった。
そんな彼女を乗せて、戦艦アークエンジェルは第8艦隊先遣隊との
接触の時を迎えつつあった。再び穏やかな空気が艦内に漂い始めた。
けれど悲劇の足音は確実に、僕と、そしてあの子に迫ってきていた。

776人為の人・PHASE−9:2004/07/29(木) 22:53
先遣隊の構成は、バーナード、ロウ、そしてモントゴメリ。
モントゴメリにはあの子の父親、ジョージ・アルスター事務次官が
乗っていた。僕は彼がどんな人だったかをよくは知らない。
サイなら知っていただろうが、それも今となっては尋ねようもない。
どこかで一度聞いた事があるのは、あの子は早く母親に死なれて
すごく大事に育てられたというものだった。でもその事で
苦労しているという様子は無かったし、彼女のお父さんは
とてもよくできた人なんだと何気なく思っていた。
僕の父さんと母さん―――ヤマト夫妻も僕の事を本当の息子のように
育ててくれたし、その時は僕も本当の息子だと信じて疑わなかった。
親子の仲は、その親密さが第一に重きをなすのではないかと思う。

接触間近になって、先遣隊がザフトの攻撃を受けた。
アークエンジェルは宙域から離脱するよう打電を受けたが退かず、
先遣隊の救援に向かう事となった。艦長と副長が少し対立した。
第一戦闘配備の放送で艦内がにわかに騒然とする中、ストライクの
もとへ急ごうとしていた僕はあの子に出会った。彼女はとても
動揺していて、怯えた声で僕にパパは大丈夫なのと尋ねた。
僕は彼女の気持ちを理解したつもりになった。僕が彼女の立場に
もし置かれていたなら同じ気持ちになっていただろう、と。
僕は彼女を安心させようとして、大丈夫だよと言った。
だってみんなを守りたくて、戦い始めた戦争だから。
守るべき命を守るために戦おう。僕はそう安易に決意して、
MS格納庫へと走っていった。不安げなあの子の顔が焼きついた。

ザフト艦からはアスランの駆るイージスと、数機のジンが
出撃していた。僕はジンをフラガ大尉に一手に任せる形で、
再びアスランとの辛い戦いを余儀なくされた。
彼の動きに以前のようなためらいは無いように思えた。何より速さが
前回とは段違いで、僕は彼の攻撃を受け止めるのに必死だった。
アスランは僕と違って、ずっと前から軍人としてMSに触れている。
だから何とか応戦できるだけでも充分だと思っていた。しかし彼は
いまだに本気を出してはいなかったし、その時僕は彼との戦いに夢中に
なりすぎて、先遣隊の事など考えにも及ばなくなってしまっていた。
彼と過ごした日々を振り切って前へ進む事に固執した僕の罪だ。
バーナード被弾、ロウ撃沈。フラガ大尉の専用機、メビウス零式も
損傷して帰艦し、戦局は悪化の一途をたどっていた。
僕はずっと、本気でもないアスランと一人よがりの「戦争」を
していたのだ。今となっては仕方がない事だけれど、胸が痛む。

ザフト艦の主砲がモントゴメリを貫き、爆発するのを僕は見た。
僕はそこで初めて守るべきものの存在を大きく直視した。
そこでアスランのイージスが動きを一瞬止めた事にも気づかなかった。
敵はさらにアークエンジェル目がけて攻撃を仕掛けてくる。万事休す、
その時副長の声がコクピットに響いた。ラクスを人質に取った、と。
続けてアスランの苦しげな叫び声が聞こえた。こんなもののために
お前は戦っているのか。ラクスは返してもらう。それは僕の心に
どうにもならないやりきれなさを残し、彼は引き揚げていった。
穏やかなラクスの微笑みと、あの子の不安げな表情が同時に浮かんだ。

777リヴァアス・作者:2004/07/30(金) 19:48
リヴァアスの作者の最新作。ついに登場!

778燃える戦士:2004/07/30(金) 20:02
キラ・ヤマトはヒッチハイクしていたフレイ・アルスターを車に乗せた。
「ところで、エチオピアにはいつ着くの?」
「ああ、あと2時間くらい」
キラはコロニーから地球に来て、飛行機に乗り、モガディシュに行き
レンタカーの74年型いすゞジェミニを借りて、エチオピアに向かって
いった。そのとき、ヒッチしていたフレイに出会った。
「フレイは何しにエチオピアに行くんだい?」
「観光旅行よ」
「そう、なにもないけどさ」
キラはカーラジオをかけた、曲はジョン・レノンの
「スターティング・オーバー」だった。
「ねぇキラ、どっかで昼食とらない?」
フレイは言った。

779リヴァアス・作者:2004/07/30(金) 20:06
リヴァアスを書いていた作者です、とうぞ最新作「燃える戦士」
をご堪能してください。

780人為の人・PHASE−10:2004/07/30(金) 22:27
帰艦した僕は、まずそこにいたフラガ大尉に不満をぶつけた。
僕は人質に取るためにラクスを助けたんじゃない、そう言いたかった。
けれど大尉の返事は的確だった。そう、確かにあの時彼女を人質に
取らなければアークエンジェルは沈められていたかもしれないのだ。
僕にも大尉にも艦長や副長を責める資格はない。だったらどうすれば
いいのか。僕達が弱いからああせざるを得なかった。僕が弱いから。
「弱い」という言葉が頭の中で何度も僕を殴りつけ、あざ笑った。

僕は、あの子が分かってくれるだろうと思っていたのかもしれない。
戦争で人が死ぬのは異常な事ではないのだから、あの子は僕の事を
悲しみながらも分かってくれるんじゃないか。僕はそう考えていた。
それは辛い環境に置かれていた僕の、一種の防衛本能だったのか。
今となっても僕はそこに答えを見出す事ができない。
僕は友達とあの子がいる部屋の前で立ち止まり、中を見た。
そこには最愛の父を失った少女の、あまりにも痛々しい姿があった。
彼女は床に崩れ落ち、サイに泣きついていた。そして僕に気づいた。
こちらへ向けたその目は圧倒的な悲しみと僕への憎悪に満ちていて、
一瞬ひるんだ僕はようやく想像以上の事の重大さに打ちのめされた。
嘘つき。大丈夫だって言ったのに。彼女の言葉の刃が僕を襲った。
みんなから半分可愛がられるようにして育ってきた甘い僕に、
その切っ先は鋭すぎた。僕は何も言う事ができなかった。
やがて彼女の口から、残酷ながらも核心を突いた一言が飛び出した。
あんたコーディネーターだからって、本気で戦ってないんでしょう。
僕はその場から逃げ出し、自分の中に抑え込まれたあらゆる感情を
一緒くたにして吐き出すように泣いた。泣き続けた。

理性を失って泣き続ける僕の耳に、ラクスの声が聞こえた。
僕は見開かれた瞳に浮かぶ涙を拭って、彼女の整った顔を見つめた。
彼女はまっすぐに僕の目を見つめてくる。僕は切れかかっていた
心の糸が、再び元のしなやかさを取り戻していくのを感じていた。
僕とラクスはその後色々な話をした。とは言っても話題のほとんどは
アスランにまつわるものだった。ハロというボール状のロボットを
作ったのもアスランなら、ラクスの婚約者なのもアスランだった。
彼女と話していると不思議な気持ちになる。さっきまで戦っていた
イージスのパイロットとしての彼の姿が頭からすっかり消えて、
ちょっと無口で頑固だけど頼れる、親友だった少年の面影が
僕の心の中に現れ始めていた。僕は彼女に救われたのだと思った。
アスランがなぜあそこまで苦しげな叫び声を上げたかも分かった。
そして、このままではいけないと強く思うようになっていた。

向かい合ったストライクとイージスのコクピットが開いた。
僕は抱きかかえたラクスをそっと放し、アスランのもとへやった。
彼女はずっと、全てを包みこむような微笑みを絶やさなかった。
アスランが僕に向かって言った。お前も一緒に来い。
それはできなかった。あの艦には守りたい人が、友達がいるから。
ラクスを連れて無許可で発進する計画を立てた時、ミリアリアと
サイが手伝ってくれた。サイは僕に何度も、帰ってこいよと言った。
その時の必死に呼びかける彼の表情を、僕は今でも覚えている。
あの声が、あの気持ちがあったから、僕は地球軍に残ったのだ。
もしそうでなければ、僕は今度こそアスランを選んでいただろう。
彼は僕の返事に体を震わせ、今度会う時にはお前を討つ、
そう言った。僕達はもう戻れない道を別々に歩み始めていた。

真っ白なMSが視界の隅に映った。仮面の男、ラウ・ル・クルーゼの
駆るシグーだ。僕はその時大して気にも留めていなかったが、
やがて彼は僕の心に癒しがたい傷を残す事になるのだった。
本当に、世の中には後になってから気づく事が多すぎるのだ。

781人為の人・作者:2004/07/30(金) 22:28
>リヴァアス作者さん
どうも初めまして、最近ここを半占拠状態にしておりました者です(おい)
新作ということで期待が高まりますね。これから何が起こるのでしょうか。

782人為の人・PHASE−11:2004/07/31(土) 11:36
僕はアークエンジェルの一室で、小さな軍事裁判にかけられた。
フラガ大尉がさりげなく僕の事を擁護してくれたが、結果は銃殺刑。
その時は一瞬全身の血が凍ったかと思った。でも艦長の判断は、
僕を厳重注意に処するだけのとても優しいものだった。僕はほっと
して、僕の事を散々きつく問い詰めていた副長から目を反らした。
艦長と副長の対立は、その時から何となく感じていた。

外に出るとサイとミリアリアがいた。あの時僕を手助けした二人は、
罰としてトイレ掃除1週間を命じられたらしい。僕は自分だけが
何もお咎め無しだった事を申し訳なく思ったが、彼らは笑顔で逆に
僕を励ましてくれた。僕はここに残って本当に良かったと思った。

食堂で友達と食事をとっていると、あの子が現れた。僕はあの時の
彼女から僕に向かって発せられた、ほとんど殺意に近い憎悪を
その身に感じ取ろうとしたが、しかし入り口に立っていた彼女に
そんな気配は微塵も無かった。彼女は辛そうな顔をしていた。
あの子は僕の前に立ち、憎しみではなく謝罪の言葉を口にした。
僕はその一言一言に彼女の悲しみを共有しようとしながら、
彼女が僕を許してくれたのだと信じて疑わなかった。ついに彼女が
分かってくれたのだと、むしろ清々しい感謝の気持ちで一杯だった。
あの子はそんな態度を見せる僕を目にして、前以上の憎悪と嘲りの
感情とを高め続けていたに違いない。僕は全く気づかなかった。

第8艦隊との合流が目前に迫る中、ザフトが襲ってきた。
その中にアスランはいない。やってきたのは別の奪われた3機、
デュエル、バスター、ブリッツ。僕達は食堂を飛び出した。
そこへ艦内でよく見かけていた女の子が走ってきて、カズイに
ぶつかった。倒れた女の子をあの子が立たせた。僕は立ち止まった。
あの子が言った。大丈夫、このお兄ちゃんがみんなやっつけて
くれるからね。とても優しい響きをもって聞こえたその声は、
僕の心のどこかに急速に染みわたっていった。

バスターをフラガ大尉に任せ、僕はデュエルと1対1で切り結んだ。
相手のパイロット―――イザーク・ジュールは機体の特性もあってか
ほとんど射撃攻撃を行わず、ビームサーベルでひたすら押してきた。
僕はその動きからにじみ出る気迫に負けまいと必死に戦った。
でも敵は僕を倒すために襲ってきたのではなかった。残ったもう1機、
ブリッツがアークエンジェルへと向かった。ミラージュコロイドの展開
には対応できても、対空砲火でPS装甲を打ち砕くのは難しい。
たちまち取りつかれ、ブリッツのビーム兵器が直接船体を揺さぶった。
キラ、戻って。ミリアリアの声が聞こえた。
アークエンジェルが敵の攻撃を受けている。
目の前のデュエルは一向に攻撃を止めない。
フラガ大尉は性能ではるかに勝るバスターを相手に互角の戦いを
しているが、戻る事はできない。あの白い戦艦は、やがて沈む。
僕の脳裏に爆発するモントゴメリが映った。同じ事がアークエンジェル
で起こるのか。サイも、トールも、ミリアリアも、カズイも、そして
あの子も。いたいけな女の子に語り聞かせた彼女の声が蘇った。
弱いから守る事ができなかった。力がないから傷つけた。人が死んだ。
そして僕は極限状態の中に、はじけ飛ぶ一つの種子を目撃した。

頭の中で大量の情報が一度に訪れ、一度に処理されていった。
手と足はまるで自分のものではないかのように機能した。
世界が独り歩きを始め、駆け足の僕がそれを追い抜いていった。
視界には最大限の事実が誤りなく表示され、僕の感情を消し飛ばした。
僕はあっという間にブリッツを蹴散らし、続いてやって来たデュエルに
ナイフ型格闘兵器、アーマーシュナイダーを突き立てた。
コクピット近くに入り込んだそれがデュエルの内部を破壊する感覚を
催させたが、僕は何のためらいも感じなかった。これが力なのか。
僕の中の一部が戦いの高揚感に目覚め始めていた。敵は撤退した。
やがて、遠い宇宙の闇の中に第8艦隊の頼もしい明かりが見えてきた。

783燃える戦士:2004/07/31(土) 19:13
キラとフレイはレストランで車を止めて、昼食を
とることにした、二人はカレーを頼んだ。
「キラ、やっぱりカレーは辛いわ」
「うん」
後ろの席ではエチオピア駐屯の傭兵のジーン、スレンダー、デニムが
ニヤニヤ笑ってみていた。キラは無視した、ジーンはニヤリと笑って
コップの水をキラにかける。そして3人はレストランから出た。
キラは近くにいる棺桶屋に
「三つ用意しておけ」
キラは外に出た、ジーンはニヤニヤ笑っている
「おや?まだ居たのか!さっさと戻らねえと殺されちまうぜ」
「話があるんだ。カンカンなんだ」
「誰が?」
「僕さ」
「何に・・・」
「人に水をかけることさ、ここで、おたくが謝るって言うなら
 話は別だが」
「ギャハハハ」
ジーンは笑う
「笑うのもほどほどにしな!笑われるのが一番嫌いなんだ。このままじゃ
 気もすまねェ。どう片をつけるのか、ハッキリしてもらおう!」
ジーン、デニム、スレンダーがトカレフを取り出して乱射する。
しかし、キラが44マグナムと早撃ちで3人を撃ち殺した。
「行こうフレイ」
キラはフレイに言った。

784私の想いが名無しを守るわ:2004/08/01(日) 08:47
「燃える戦士」って、いくらなんでもひどすぎ。

785人為の人・PHASE−12:2004/08/01(日) 08:53
第8艦隊の総司令官、ハルバートン提督はとてもいい人だった。
彼は僕がコーディネーターである事を知っても特に不快感や
差別するような感情を見せたりせず、まっすぐに僕を見てくれた。
おかげであのアルテミスでの体験以来抱いていた、地球軍への恐れ
とでも言うべきものが僕の中でほんの少しばかり小さくなった。
そこに押し潰されてしまうような事になっていたら、僕はやはり
自分の帰る場所を失い心にまた傷を一つ増やしていただろう。
僕の心は弱い。どれほど強さを手に入れても、それは変わらない。

アークエンジェルは地球に降下し、一路アラスカを目指す事となった。
それに伴って、僕達民間人も降下用シャトルに乗り移る事が決まった。
僕は短い間だったけど色んな経験をしたストライクの調整をしつつ、
もうこの機体に乗る事も二度とないだろうという思いを馳せていた。
そこに艦長がやって来た。彼女は、一度あなたに謝りたかった、と
言って、僕の事を真正面から見つめた。わずかの微笑みがあった。
その姿がハルバートン提督に少し似ていたような気がした。
艦長もいい人だ。その意味合いは複雑だけれど、彼女はとても温厚で
母性を感じさせるような人だった。だから僕もむやみに腹を立てたり
する事は無かったし、そもそもそんな気持ちにはなれなかった。
彼女は僕がアークエンジェルに残る必要はない旨を伝えてくれた。
色々あったが、これでこの艦とも別れる事になる。そう考えて僕は
ほっとすると同時に、分不相応な戦力の心配をしてしまうのだった。
アークエンジェルはこのままアラスカまでたどり着けるのだろうか。
現に副長は僕を貴重な戦力として、戦艦に留め置く事を考えていた。

艦内でよく見かけていた女の子が僕に折り紙の花をくれた。
肩紐の片方が外れたオーバーオールをいつも着ていた彼女は、
すっとその小さな手であどけない作品を僕の目の前に差し出した。
守ってくれてありがとう。その無邪気な言葉に僕は励まされた。
こんな僕でも、誰かを守る事ができたんだ。良かった。
そしてあの子の事を思い、先程目覚めた力に無謀な勇気を覚えた。

一緒に艦を降りるとばかり思っていた友達が、まだ軍服を着ていた。
サイ、トール、ミリアリア、カズイ。みんな除隊許可証を破り捨てて、
アークエンジェルに残ってしまったのだ。理由はあの子だった。
あの子は戦争を終わらせるために自分ができる事をと言って、
自ら地球軍に志願したのだった。僕は後ろめたい気持ちに駆られた。
結局僕はみんなの優しさに甘えているだけではないのか?
友達を置いて僕だけが安全な所に避難していていいのか?
みんなの優しさに報いたい思いと、そうすればみんなの優しさに
背く事になるという矛盾した関係が暴き出され、僕は迷った。
そしてそんな中、敵が攻めてきた。
僕は結局、みんなを守る事ができたという直前の事実に満足し、
浮かされていたのかもしれない。ここで僕が出撃すれば大丈夫、と。
もちろんその時の僕はどうしようもないほどの切迫感を感じていて、
一瞬の逡巡の中に数えきれない種類の苦悩を抱えていたに違いない。
しかしいくら悩んでみたところで、僕にはMSを取る選択しか
残されていなかったのだ。僕はあの子の憎しみの内で踊っていた。
僕は踵を返し、ストライクの待つ方角へと駆け出していた。

786人為の人・作者:2004/08/02(月) 23:36
在庫が尽きてきたんで、しばらく投稿をお休みします。
再開まで、今しばしのお待ちを。

787人為の人・PHASE−13:2004/08/18(水) 22:32
信じられない光景が目の前にあった。
あの子はロッカールームで、僕のパイロットスーツを取り出していた。
何をするつもりなのかが一瞬でわかった。彼女は戦おうとしていた。
自分の父親を殺した、無意味な戦争を終わらせたい願いから。
あの時の彼女の表情、言葉、仕草。今でも嘘だったとは思えない。
確かに彼女は僕を待っていた。僕が来るはずだと確信していた。だから
芝居を打つためにそこにいたのだ。全て演技。そう考える事は簡単だ。
しかし僕は今思う。
彼女はあの時、本当に戦おうとしていたのではないか。
僕が来なければ実際にストライクに乗っていたのではないか。
結局、僕はそこへやって来た。やって来て、彼女の夢を叶え始めた。
私の想いが、あなたを守るから。
僕達は生まれて初めての甘く呪わしいキスを交わした。

僕は完全にその興奮に支配され、酔わされていた。
第8艦隊の艦艇が次々と沈黙し爆破されていく中、僕は笑んでいた。
あの子の偽りの愛情を全身に浴びて、新たな力を得た気がしていた。
出撃を止められたフラガ大尉を尻目に、僕はストライクに搭乗した。
ザフトが何だ。MSが何だ。みんな僕が守ってやる。
山のように出てきてはあっという間に壊されていくメビウスを尻目に、
僕は最深部にまで飛びこんできたデュエルと対峙した。
アスランのイージスは見えなかったが、バスターはすぐ近くにいた。

心なしかデュエルの動きは以前よりも大振りで、精密さに欠けていた。
それはこちらへ向かって来ようとする気迫ばかりが余計に増幅されて
いるようで、僕は内心冷や汗をかきつつも力強く対処しようとした。
ストライクがデュエルを蹴り飛ばす。ビームサーベルが火花を散らす。
僕は敵のパイロットが自分より必死である事にどこか気づいていた。
そしてそうこうしているうちに、次第に大気圏が近づいてきた。

信じられない光景が目の前にあった。
デュエルが射出された民間人のシャトルにライフルを向けていた。
なぜ。僕と戦っていたはずの敵が、どうして無関係の人に。
自分の中にわずかに生まれていた余裕が瞬時に消え去るのを感じた。
そして守るべきものが今まさに絶命の危機に瀕していることを悟った。
僕はスラスターを全開にして、シャトルに手を伸ばそうとした。
こんな所で、僕の目の前で、僕のせいで人が死ぬのは嫌だ。
利他的なようで限りなく自己中心的でもあった僕の気持ちが焦った。
結局、あれはどうしようもない事故と捉えるしかなかったのだろうか。
それとも、何か他に彼女達が救われる手立てがあったのだろうか。
いずれにせよ、それは僕に「守る」の限界を嫌というほど見せつけた。
そのシャトルには折り紙をくれた女の子が乗っていた。
デュエルのライフルから放たれたビームは僕より早くそこに到着した。
そして―――爆発が起こった。

僕は地獄のような高熱を全身に感じながらコクピットの中で一人、
その業苦を当然の報いであるように受け入れていた。
大気圏突入。その際にあれほどの熱が生じる事など、知らなかった。
ストライクの他にも、シャトルを「撃墜」したデュエル、そして
バスターが単独で地球へ落ちていこうとしていた。
僕を、と言うよりストライクを失わないようにアークエンジェルが
突入ポイントをずらして機体を拾い上げた。僕の責任だった。
第8艦隊は全滅。ハルバートン提督もザフト艦の特攻に命を散らした。
守れないものは必ずある。その事実が僕の心に消えない爪跡を残した。

788人為の人・作者:2004/08/18(水) 22:33
投稿再開しました。と言っても20日から遠出するのですぐに止まってしまいますが、
1週間後くらいからまた再開したいと思っています。

789私の想いが名無しを守るわ:2004/08/19(木) 12:50
フレイ様!こんなとこに居られましたか!

790人為の人・PHASE−14:2004/08/19(木) 19:54
僕はかぶりを振った。頭にもやもやとした霧が立ち込めている。
辺りを見回すと、がらんとした薄暗い部屋にただ一人。
気分を落ち着けるため少し水を飲む。冷たい感覚が喉を潤おした。
また気を取り直して机に向かう。机上には一枚の紙と、ペン。
僕は何かに取りつかれるように「自伝」のようなものを書いていた。

今どこまで書き進めていただろうか。そう、大気圏突入の所だ。
あの出来事は僕にとって本当に大きな意味を持ったのだと思う。
僕の目の前でよく知っている人が亡くなった、初めての体験だった。
不思議だ。戦争で数え切れないほどの命が奪われたはずなのに、
僕の中では自分に近しい人の死の瞬間ばかりが思い起こされる。
それも僕がストライク、やがてフリーダムに搭乗し、それでもなお
守る事のできなかった戦場の人々の死が特別な存在となっている。
人は自分の知らない他人の死を悲しむ事ができるのだろうか?
それは慈愛なのかもしれないし、あるいは偽善なのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、僕にとってあの子の死ほど強烈な、そして
絶対的なものは他に無いという事だった。それもまた悲しい。

今僕は生者の世界にいる。そこにはアスラン、カガリ、ラクスが
いて、平和を築くために奔走している。みんなが目指すのは、
ナチュラルとコーディネーターが争う事なく暮らしていける世界だ。
僕はみんなの試みについていく事ができなかった。みんなのように
人の上に立つ資質、理解を求める心、強い信念、全てに欠けていた。
代わりに僕は、死者の世界と交わる日々を続けていた。
あの子は死者の世界にいる。あの子の他にもトール、ナタルさん、
ムウさん、クルーゼさん、会えなくなってしまった多くの人達がいる。
時々彼らの声が聞こえてくる。自分達が親しみ、愛し、憎み、
滅ぼそうとした生者の世界がどうなっているのかを尋ねてくる。
僕はこう答える。大丈夫です、みんなしっかり生きていますよ。
その「みんな」の中に、僕が含まれる事はおそらくないのだろう。
キラ・ヤマト、人間の営みから大きく逸脱した僕が取るべき道は、
生死を分かつ境目で本当の平和を迎えた世界に賛辞を送る事。
それが真実なのだと信じたい。

僕は再びペンを手に取り、戦争の記録を綴り始めた。
この行為に何の目的があるのか、それは自分にも分からない。
しかしキーボードを叩いて苦もなく仕上がる印刷物を目にするよりは、
紙に記されていく頼りない字を確認しながら果てしない時間を
過ごす方が自分にとってはずっと居心地がいいような気がした。
次は砂漠。忘れもしない記憶ばかりで彩られた、熱く冷たい大地。

791人為の人・PHASE−15:2004/08/20(金) 07:21
僕は熱く苦しい悪夢の中をさまよい続けていた。
アスランとの別離、血にまみれた再会、MSの戦闘、殺人の経験、
ヘリオポリスの崩壊、あの子との出会い、ラクスとの出会い、
戦艦の撃沈、戦闘能力の覚醒、そしてシャトル爆発。
それらがきちんと順番通りに再現され、そして永遠に繰り返された。
僕は頭の中で作り上げられたイメージの渦に放りこまれ、回され、
血を吐くような悲しみに声を上げる事ができなかった。
あげく自分が今何に苦しんでいるのかさえ分からなくなるほどに
意識は混濁し、それでもなお目が覚める事は無かった。
そんな僕の傍らに、あの子はずっと付き添っていた。

ようやく現実に戻ってきた頃には、様々な出来事が起こっていた。
まず、アークエンジェルの主だったクルーが1階級昇進した。
艦長とフラガ大尉は少佐に、副長は中尉に。その他の人達もみな、
それまでの立場より少しだけ高い所へ上る事になった。
サイにトール、ミリアリア、カズイ、そしてあの子も正式に軍属と
なり、もちろん僕にもMSのパイロットとして「少尉」が与えられた。
これで僕達は「民間人だから」という言い訳を使えなくなった。

少尉になった僕には個室が与えられた。
僕はその部屋で、周りの人の自分を見る目がどこか変化した事について
考えを巡らせていた。そう、並みの人間ではとても生き残れないほどの
高熱の中、コクピットから引きずり出された僕は生きていたのだ。
みんなはコーディネーターが「化け物」である事を改めて認識したに
違いない。そんな事を考えていると、つくづく自分が嫌になった。
なぜ僕はコーディネーターなのだろう。それは僕の意志がそうさせた
のではないし、他人にない力を持っていてもそれは当然と見なされる。
しかしそんな事を考えても何も始まらなかった。僕は依然として
遺伝子を調整された人間であり、その事実は一生ついて回る。それに、
僕には自分の事をよく理解してくれる友達がいる。今は恐れていても、
時が経てばまた分け隔てなく付き合えるだろう。僕はそんな希望を胸に
抱いて、前向きに生きる事に目を向けようとした。
そこにあの子が現れた。

あの子は手に折り紙の花を持っていた。
やや形の崩れたその物体を目にした途端、僕の顔は凍りついた。
夢で何度も再生された女の子の姿と、シャトルを貫く一筋のビーム。
「守ってくれたお礼」として手渡されたささやかな贈り物が、
「守れなかった現実」を僕に突きつける何よりの証拠へと変わった。
僕はそれをコクピットに入れ、そのまま忘れてきたのだった。
大気圏の熱にも消えない鮮烈な悲劇がそこにはあった。
いつしか僕は部屋の床に膝をつき、救いを求めるように泣いていた。
過ちに許しを乞う言葉は涙でほとんど意味を成さなかった。
あの子はそんな僕の前に座りこみ、私がいるわと言った。
優しく甘美な旋律が僕の耳を撫でた。顔を上げた先にはあの子の笑顔。
うるんだ視界は彼女を紅い聖女のごとく見立て、僕から理性を奪った。
二度目の口づけに僕は本能を止める事ができなかった。
僕達は絡まり合いながらベッドへともつれ込み、そして交わった。
あの子の復讐はまもなく頂点を迎えようとしていた。

792キラ(♀)×フレイ(♂)・47−1:2004/08/26(木) 18:36
二百海里水域。
堅苦しい条文を記載するなら、
『海洋法による国際連合条約(以下、「国連海洋法条約」)によって定められた沿岸国の
主権的権利その他を行使する水域として設けられた排他的経済水域』
と条約に明記されており、もっと簡潔に述べるなら、海に囲まれた島国が、主に漁業権や、
多国籍の船や飛行機(軍船含む)の侵入を規制する為の、海上の領土である。


かの条約に挑むかの如く、南太平洋に位置するオーブ首長国連邦の海域(二百海里水域)
に侵攻している一隻の大型の軍船がある。“足付き”のコードネームでザフトから追われ
ている、地球連合軍の強襲機動特装艦アークエンジェルだ。この艦を遠目からシルエット
だけ眺めれば、ショートケーキに四匹の蝿が集っているように映ったかもしれない。
アークエンジェルの周囲には、グゥルと呼ばれる無人輸送機の上に乗った四体の
モビルスーツが、執拗にAAに取り付いて、攻撃を仕掛けているからだ。

イージス、ブリッツ、バスター、デュエル。
ヘリオポリスでザフトが奪った地球連合製のMS隊で、この四者を率いるのは、
足付き討伐チームとして新たに結成されたザラ隊の隊長に就任したイージスのパイロット
であり、数日前、フレイ達と奇妙な無人島での共同生活を強いられたアスラン・ザラだ。
このザラ隊を迎撃する側のアークエンジェルの方は、AAの甲板上に、ランチャーパック
で出陣したストライクが陣取って、アグニ砲を連射し、フラガの乗るスカイグラスパーも
共に出撃してストライクを援護している。
ここ最近の戦闘で、AAの勝利に少なからぬ貢献を果たしてきたスカイグラスパー二号
を駆るカガリは、何故かこの会戦には参加していない。
その訳は、二人がキラに無人島から救助された地点まで遡る。



「二人とも無事に戻ってきてくれて何よりです」
事情徴収の為に艦長室へと呼び出されたカガリとフレイの二人に、艦長のマリューは
まずは労いの言葉を掛ける。AAきっての問題児(トラブルメーカー)二人の生還に
際して、彼らの息災を喜んだ者と密かに落胆した者、どちらが多数派を占めるのかは、
艦内アンケートを採ったわけでもないので、実に微妙な所ではあるが、少なくとも、
この時のマリューの笑顔からは、利害や打算を超えた暖かい思い遣りが滲み出ていた。
フラガが賞したように、子供たちの幸福を願う彼女の真心に嘘偽りはないらしい。
ただし、可愛げのない少年兵二人は、マリューの態度に特に感応した風もなく、
カガリは居心地悪そうにソッポを向き、フレイはそれと判る営業スマイルで、
形だけは恭しく頭を下げてみせる。
「さて、本来なら直ぐに休憩を取らせたいところですが、その前に二人に2、3、
お尋ねしたいことがあります」
マリューは軽く表情を引き締めると、そう前置きしてから、すぐさま本題に入る。
「遭難中の詳細報告は一先ず置いておくとして、何故、非戦闘員のフレイ君が、
カガリ君と一緒にスカイグラスパーで出陣する事態になったのかしら?」
今回の失踪事件における最大の疑問点について、マリューは単刀直入に質問する。
「そいつは僕でなくカガリ君に尋ねて下さい。
僕は彼に銃で脅され、無理矢理グラスパーに拉致された被害者の身分ですので」
多少の嫌味の篭もった口調で、フレイは自身の身の潔白を訴える。それに応じて、
室内に控えていたフラガ、ナタルの幹部二人と、カガリのお目付け役のキサカも、
カガリに好奇の視線を注いだが、カガリは不貞腐れたように俯いて無言のままだ。
今回の一連の事件に対して、事後的に査問会が開かれるであろうことはカガリも予測
していたはずだが、まさか、馬鹿正直に妹絡みの本音を語るわけにもいかないだろう。
とはいえ、フレイなどとは異なり、性格的にあまり嘘方便を吐くことに慣れていない
カガリは適当な言い訳の一つも思い浮かばずに苦悩し、得意の百面相を演じている。
そんなカガリの様子を見かねたフレイが、彼の弁護(んな訳ない)を買って出た。

793キラ(♀)×フレイ(♂)・47−2:2004/08/26(木) 18:37
「僕が愚考するに、カガリ君の動機は、彼の公人としての非戦闘クルーへの偏見と、
私人としての痴情の縺れとが融合した結果だと推測します」
黙秘権を行使する被告人(カガリ)の弁護を担当するかのようにフレイが口を挟む。
この場合、フレイはどちらかといえば原告に近い立場の筈なのだが、まるで弁護人
のように、被告人の情状酌量を求めるが如く、カガリの拉致動機について代弁する。
「華麗なる戦闘パイロットであられるカガリ君は、僕のような非戦闘クルーの、
日常エリアでの地道で下積み的な働きを随分と軽視しているみたいでした。
特に、彼が恋慕を抱いていると思われるキラが、過酷な最前線で戦っているのに対して、
恋人の僕が常に安全な艦内勤務である事実が気に入らなかったらしく、僕を最前線に
引っ張り出して、びびらせてやろうとかいう浅ましい魂胆があったように感じます。
勿論、今の測論は単なる僕の邪推に過ぎず、もしかするとカガリ君には、どうしても
僕を連れ出さねばならない正当な理由があったのかもしれません。
ここは是非とも、彼の意見を慎重に拝聴してみるべきでしょう」

カンニングペーパーも無しに、一息に見解を述べると、そのままフレイは貝のように
口を閉ざして、以後の答弁をカガリに丸投げする。親切にも、カガリが言えなかった
本心を代弁してあげたフレイだが、この行為は一層カガリを追い詰める効果を持っていた。
何しろ、フレイの憶測は、百点満点中、九十点はつけてもいいほどの、全くの事実で、
不備があるとすれば、キラがカガリの妹である点が抜け落ちている点ぐらいである。
完全に言葉に詰まり、蝦蟇蛙のようにダラダラと脂汗を流して沈黙するカガリの態度に、
どうやらフレイの与太話が真実だったらしいと悟らされたAA幹部三人のカガリを見る
視線が白けだした。思考もカガリに対する思い入れも大きく異なる三者だが、この時、
カガリを戦闘機のパイロットの任から解く事に、無意識に見解を一致させた。

90点の解答用紙の残り10点分の真実(シスコン的嫉妬心)を知っているキサカは、
強い失意の感情と共に内心で大きな溜息を吐き出しながらも、それでもフレイに
追い詰められた主君を救う為に、意を決して、強行手段に訴えることにした。


「カガリ様、お許しください」
スタスタとカガリの背後に廻り込んだキサカは、山男のようなゴツイ拳骨を振り上げると、
意味不明な謝罪の言葉と共に、そのまま容赦なく、カガリの後頭部をぶっ叩いた。
「ギャンっ!!?」
蛙が車にひき潰された時のような奇抜な悲鳴と共に、カガリは前のめりにぶっ倒れる。

「フレイ君と言ったね?カガリ様が迷惑をかけたようで申し訳ない。許して欲しい」
突然の下克上劇に唖然とする一同を尻目に、キサカが、ファンネルのビットのように
頭の周りにお星様を展開させて目を回しているカガリの代わりに頭を下げる。
「カガリ様は正規の軍人ではない故、ラミアス殿の側では処罰し辛いでしょう。
私の方から後できつく申し上げておきますので、カガリ様の処遇は私に一任ください」
キサカはそうマリュー達にも宣誓すると、コーディの男性に匹敵する膂力で、気絶した
カガリを軽々と抱き上げて、まるで米袋のようにカガリを左肩に背負と、そのまま
ノッシノッシと大股に歩んで部屋から出て行った。


「いやはや、大した忠臣だね」
キサカという大型台風に匹敵するハリケーンの来襲にいち早く理性を回復したフレイは、
キサカの行動をそう賞賛した。彼はあの力業で主君たるカガリの名誉を救ったのだ。
非ある時は、己が主君にさえ手を上げる覚悟を持つとは真に武士(もののふ)の鏡である。
その昔、有名な武蔵棒弁慶は、敵の目から欺くために、主君である牛若丸をあえて棒で
鞭打ちしたという故事もあるが、彼の忠勤振りはそれに匹敵するかもしれない。
「それじゃ、僕もそろそろ失礼してよいですか?痛めた歯の治療をしたいので」
「待ちなさい、フレイ君。あなたには、彼とは別に聞きたい事があります。
それに今、自分の部屋に戻っても、あなたの部屋は使用出来ないわよ」
退出許可を求めるフレイに、マリューは意味深なニュアンスで、彼を呼び止める。
訝しむフレイに対して、マリューは、フレイの部屋から毒物が検出され、その瘴気が
未だに部屋中を蝕んでいる現状と、何故、そうなったかについての事情説明を求めた。

794キラ(♀)×フレイ(♂)・47−3:2004/08/26(木) 18:37
外見上、鉄面皮を維持していたフレイだが、内心は流石に動揺していた。
どういう了見で、彼の室内での毒物の保持が露見してしまったのだろう?
フレイの脳細胞は、創造性に恵まれていたし思考の柔軟性にも富んでいたが、
バレルロール(180度の宙返り)の結果、上下真っ逆さまになった部屋内に、
引き出しの奥の毒物の瓶が投げ出されたなどという発想は思い浮かばなかった。
それでも、聡い(狡賢い)フレイは、どうして発覚したかという経緯を尋ねるよりも
先に、まずは毒物を所持するに値する尤もらしい理由をでっち上げる方を優先する。

「僕には戦闘は出来ないけど、僕なりの遣り方でAAに貢献したいと思いましてね」
フレイはそう前置きすると、バラディーヤで買い集めた花類から毒物を調合したという
出所について申告し、さらには、それを兵器として応用可能な旨について簡単に説明する。
「具体的には、アルテミス要塞の時のように、AA内部を敵に占拠されたような場合に、
食事に毒物を混入したり、もしくは、敵の密集している区域にガスを流し込んだりする
なりすれば、武器を使わずに敵を無力化する事も十分に可能です」
健気にも、独自の路線でAAに奉仕する道を模索していたらしいフレイの力説に、
マリュー達は、感動したり感涙に泣き咽たりはしなかった。
むしろ、三人は得体の知れない物の怪でも見るような眼つきでフレイを睨む。
「フ…フレイ君、あなた、そのようなケースが発生した場合、本気で毒物の使用に
踏み切るつもりだったの?」
「当然です。味方を守り敵を殲滅する為には、手段など一切選んでいられませんから。
艦長だって、例のアルテミス要塞脱出の際に、「アルテミスと心中するのはゴメンよ!」
とか宣言して、景気よく要塞一つをポンと破壊してきたじゃないですか?」

澄まし顔で、堂々とそう答えたフレイにマリューは絶句する。彼女には、目の前にいる
少年が、つい先日まで、戦争とは無縁の平凡な学生であるという事実が信じられなかった。
まさか、その毒物を機会さえあればマリュー達の食事に混ぜようとフレイが企んでいた事
までは見抜けなかったが、フレイという少年の危険性だけは十二分に認識できた。
フレイがどうやら自分の良識とは異なる世界の住人であり、到底、彼女の手に負える相手
ではないと本能的に悟ったマリューは、「以後、艦内での毒物の生成、使用は禁じます」
という常人には恐らく一生縁がないであろう禁句事項だけを通達すると、そのまま
事情徴収を有耶無耶のまま打ち切って、フレイを退出させる。
毒物の件を上手く誤魔化し、さらには無人島内での、敵兵(アスラン)と遭遇した事実
についてまで隠蔽する事に成功したフレイは満足して艦長室から出て行った。
今現在、彼の寝床は使用不可能みたいだが、ここ最近、フレイはキラの処に入り浸りで、
自分の部屋で寝た記憶はほとんど無かったので、さして問題ではなかった。


カガリ、フレイという問題児共との査問を終了させ、大きな溜息を吐き出したマリュー
の横顔は何時もより五歳ほど老けて見えた。この時ばかりは、フラガだけでなく、
彼女と対立しているナタルの瞳にさえも幾分かの同情の要素が見て取れた。

それから、カガリがスカイグラスパー二号のパイロットから解任される旨の通達が
正式に届けられた。
以後、戦闘中は、カガリはキサカと共に室内での艦内待機を命じられる事になる。
元々、彼らは、AA幹部が密かに中間ポイントとして定めたオーブ首長国連邦に
辿り着くまでの期間限定の臨時戦力であったのだが、万が一の事態が発生した有事の
際には、彼らにしか果たしえない最後の役割を演じてもらう事になるだろう。

795キラ(♀)×フレイ(♂)・47−4:2004/08/26(木) 18:38
このような経緯で、グラスパー二号という貴重な戦力を欠いたまま、アークエンジェルは、
オーブ近海の海域でのザラ隊の挑戦を受ける羽目となる。
今回は水の中に潜る必然性が無いので、ストライクの換装装備の中では、最も使用頻度
が低いと思われているランチャーパックで出陣したキラは、AAの固定砲台として
アグニ砲を連射する。バッテリー部分をAA本体と連結し、エネルギーの供給を母艦
から受けているので、PS切れを起こす心配が無いのは良いが、一撃必殺の大出力砲
も当らなければ意味が無い。戦闘機顔負けの機動性能で空中を自在に駆け巡るグゥルを
駆る四機のMSは、大砲のアグニを避けて、執拗にAA本体に纏わりつき攻撃を敢行する。
ただ、アークエンジェル側が片手落ちの戦力で万全の防御態勢を敷いていないのと同様に、
攻撃側であるザラ隊にも、穴が無いわけではない。ただし、それはAAのような戦力
(能力)的な要因ではなく、むしろ、人為的要因(チームワーク)に起因していた。


「イザーク、出すぎだぞ!それ以上、近づくとストライクの射程圏内に入る。
それに、足付きのラミネート装甲の理論は、学んだ筈だ。
ここはビーム兵器よりも、実体弾で……」
「五月蝿いぞ、アスラン!俺に指図するな!」
イザークの視界には、足付きでは無く因縁深いストライクの姿しか映っていないようだ。
それ故にPSを無効化するビーム兵器の使用に拘っているらしく、エネルギーライフルを
構えると、ストライク目掛けてグゥルを突っ込ませる。それを見た、イザーク派である
ディアッカも、彼を援護するかのように、AA本体ではなく、わざわざストライクに
砲火を集中するが、艦首に背後を守られ、前面からの砲撃にだけ備えれば良いキラは、
対ビームシールドで、易々と二人のビーム攻撃をシャットアウトする。
「あ…あいつら……」
指揮官機(イージス)からの、隊長命令を無視した二人組にアスランは大きく舌打ちする。

ラミネート装甲は、艦体全体を一つの装甲に見立てて、点で受けたビームを面全体に拡散
する事でダメージを防ぐと、クルーゼ隊長がどこからか仕入れてきた情報に記されていた。
その為に、排熱が追いついている限りは無敵に近く、ビームで仕留めるには途方も無い
時間を必要とする。だから、PSとは逆発想で、実体弾中心の攻撃で、まずは足付きを
沈めるように、予め作戦を立てておいたのだが、実弾兵器の豊富なバスターとデュエル
の足並みが揃わないものだから、攻撃が非効率的に成らざるを得ない。
「どうするの、アスラン!?」
「仕方が無い、ニコル。俺達もビーム兵器で攻撃するぞ!」
イザーク達があくまで我が道を突き進む以上は、不本意だがこちらが併せるしかない。
アスランは、心配そうに尋ねる隊で唯一のシンパであるニコルにそう指示すると、
イージスとブリッツの二機は、ジン用のD型装備であるバズカー砲を放り捨てて、
それぞれの手持ちのビームライフルによる攻撃に切り替える。
こうしてザラ隊がモタモタしている間に、足付きは、オーブ領の海域に到着する。
領海の防衛ラインには、オーブ本土を守護する複数のイージス艦が、手薬煉引いて
マリュー達を待ち構えていた。


「何とか無事、ここまで辿り着けたわね」
ザラ隊の拙攻にも助けられ、相応のダメージを負いながらも、目的のポイントに到達
したマリューは軽く安堵の溜息を吐いたが、ノイマンをはじめとした艦橋のクルーは
依然、緊張したままだ。絶対中立国であるオーブ本土に軍船の寄港など簡単に認められる
訳が無く、これ以上侵攻すると、下手をしたらザフトではなく、オーブ艦隊の手に
よって沈められる危険性もあるからだ。
案の定、前方のイージス艦から、「貴官らの艦は、我が国の領海に近づきすぎている。
これ以上近づいたら撃つ」という旨の警告が通信で送られてきた。さらには、ご丁重
にも、威嚇発砲が行われ、アークエンジェルの周りに三つの巨大な水柱が炸裂したが、
後半歩まで足付きを追い詰めているザラ隊は、ここまで来て、引き返す意思は
さらさら無いらしく、オーブ側の存在を無視して執拗にAAへの攻撃を続行する。

前門の虎、後門の狼という絶対絶命のピンチだが、マリューには、この窮地を乗り切れる
秘策がある。その時、艦橋の自動ドアが開き、彼女の切り札となる人物達が登場した。

796キラ(♀)×フレイ(♂)・47−5:2004/08/26(木) 18:39
「だ…誰!?」
突如、艦橋に見知らぬ二人組の男性が乗り込んできて、ミリアリアは軽く息を呑む。
大柄な壮年男性と小柄な少年のコンビで、男性は、髪を七三に分け、見慣れぬ紫色の
軍服を着ている。ヘリオポリス組の少年達には判らなかったが、何人かの正規クルーは、
それがオーブ軍の軍服である事実に気づいた。もう一人の少年は、端正な顔立ちに、
金髪をオールバックに纏め、白を基調とした将帥服を着用し、貴族然とした神々しい
雰囲気を醸し出している。

「お待ちしていたわよ、カガリ君」
「えっ…カ……カガリぃ〜!!?」
唖然とする艦橋のクルーの中で、ナタルと二人、落ち着き払っていたマリューが、
あっさりと爆弾を投下し、艦橋のパニックがさらに拡散する。
ミリアリア達は、金魚のように口をパクパクと泡めかせながら、カガリを指差している。
最初、ミリィ達は本当にカガリだとは気づかなかった。頬の傷跡を消した今のカガリは、
普段の山猿のようなワイルドな姿からは程遠く、皇族の子女と偽っても、十分通じそう
なレベルで、キラの女装までしていた人間と同一人物だとは信じられないぐらいだ。
とすると、隣にいるエリート軍人っぽい将校は、例のランボー似の大男(キサカ)なの
だろうか。こちらも、かなりのシンデレラ(変身)振りであり、トール達は、普段はダサ目の
女の子が眼鏡を外すと美少女に生まれ変わるという、少女漫画のお約束を思い浮かべたが、
今回の笑劇(フォルス)はまだ半分しか消化しておらず、これからが驚きの本番である。


キサカ(と思わしき人物)は、通信を担当していたカズイから、インカムを借り受けると、
自分達を映像の範囲内に位置取らせた上で、さっそく演説を行った。
「前方のオーブ艦隊に告げる。私は、オーブ陸軍第21特殊空挺部隊に所属している
レドニル・キサカ一佐だ。そして、こちらにおられるのは、オーブ首長国連合代表
ウズミ・ナラ・アスハ様の嫡子であられるカガリ・ユラ・アスハ王子である」
自分達の正体を明かしたキサカの爆弾発言に、艦橋のドヨメキは最高潮に達している。
艦橋で私語は禁じられているが、ヘリオポリス組だけでなく、正規クルーの間でさえ、
ザワメキがおさまらず、厳格なナタルも、事態の急転性を考慮してか、それを鎮めよう
とはしなかった。

「おい、アスラン。これは一体どういうことだよ!?」
キサカの発言は、味方だけでなく、敵であるザフト側にも少なからぬ衝撃を与えていた。
困惑した表情で問い掛けるディアッカに、アスランも「お…俺にも判らん」と返すのが
精一杯であったが、彼には、通信スクリーンに映し出された人物に見覚えがあった。
忘れるわけが無い。数日前に、アスランは無人島で、その人物(カガリ)と命の遣り取り
をした上で、最後はキラを巡っての、奇妙なシンパシーを芽生えさせたのだから。
もし、あいつが本当にオーブの王子なら面倒な事態になるやも知れぬと思いながらも、
件のペテン師(フレイ)に対する不信感がMAX値にまで達していたアスランは、
「これも、もしかしたら、あの詐欺師のシナリオか?」との疑惑を拭えなかったが、
舞台はそんなアスランの思惑とは無関係にどんどん進行していった。

「私とカガリ王子は、某国とのとある外交交渉を成功させる為に、本国政府の密命を
帯びて、密かに某国を訪問中であったが、その帰り道、嵐に襲われ遭難していた際に、
こちらの軍艦に救助され、保護を受けている身である。
或いは、我々が身分を詐称していると疑われるかも知れぬが、特務コード「Z5B291-EQ」
で、本国政府に照会されたし。私たちの身の保証となるであろう」

キサカの演説はさらに続き、周りのヘリオポリス組でさえ、絶句するような嘘八百が
並べられたが、どうやら既に、オーブ本国とは話しが通っていたみたいである。
「コードを確認した。貴官らを本物のカガリ王子と護衛のキサカ一佐と認定する。
本国への軍艦の滞留は認められないが、カガリ王子をこちらで引き取る為の、
一時的寄港だけは特例的に許可する」
やがて、艦隊側から、上記の旨のメッセージが通達され、アークエンジェルは悠々と
周りをイージス艦に護衛されながら、オーブ領海の奥へと消えてゆき、後には、
未だに事態を上手く把握出来ていない、茫然自失状態のザラ隊だけが取り残された。

797キラ(♀)×フレイ(♂)・47−6:2004/08/26(木) 18:39
「「大西洋連邦艦(足付き)は、カガリ王子を降ろした後、即座にオーブ領海を離脱した」
だと!?ふざけるな!こんな馬鹿な話しがあるか!?」
「だよねえ。あれだけのダメージを負った足付きが、そう簡単に、すぐに動ける筈がない
じゃない。舐められてるんじゃないの、俺たちは。隊長が若いからさ…」
「ディアッカ。それは関係ないでしょ?すぐにアスランを貶す材料にするんだから」
ボズゴロフ級の作戦司令室に集まったザラ隊の四人は、オーブからの正式回答に対して、
それぞれの憤りをぶつけ合っていたが、なかなか建設的な意見は出てこない。
「大体、あんなどこの馬の骨とも判らない小僧を、いきなり王子ですとか言われても、
「ハイ、そうですか」と納得出来るか。オーブ側との出来レースに決まっている。
邪魔するなら、オーブ艦隊ごと、一緒に沈めてやれば良かったんだ!」
知的生物のコーディネイターの割には、妙に単細胞な意見をイザークは主張するが、
戦力比的に可能かは別にして、外交的な見地から、それは難しい問題だろう。
フレイあたりは、コーディネイターには知識は在っても、知恵は無いと見立ていたが、
彼らの問答を見ていると、それほど的外れの評価では無いのかもしれない。

「いや、案外、あいつがオーブの王子であるというのは、意外と事実なのかもな」
今まで黙っていたアスランがはじめて口を開き、他の三者の視線がアスランに注がれる。
アスランも当初は例の詐欺師(フレイ)の策略かと疑ったが、彼は無人島で出会った時
から、既にカガリ・ユラと名乗っていた。データベースに問い合わせた結果、ウズミ代表
に、カガリという嫡子がいるのは確かで、仮にアイツが偽者だとしても、あの地点で
わざわざ偽名を名乗らせる必要性は無かった筈である。
「まあ、そんな事はどうでも良いけどな。肝心なのは、それらがオーブ首長国連邦の
正式な回答であるという事実だけだ」
そう、それこそが重要な問題なのである。カガリの真偽は別にしても、イザークが主張
した通り、足付きとオーブが裏で繋がっているのは間違いないと思われるが、オーブは
れっきとした主権国家であり、下手をすると重大な外交問題にまで発展しかねない。

「それでは、どうするというのだ、隊長殿?このまま泣き寝入りか!?」
イザークが慇懃無礼な態度で、そう問いかけ、アスランは軽く思案する。
アスランの弱腰な対応にイザーク達が憤る気持ちは判るが、正直に本音を言うなら
アスランにも、彼らに不満がない訳ではない。そもそも、イザーク達が、アスランの
指示通りに足並みを揃えていたら、面倒な事態に陥る前に、そう、オーブ領海に辿り着く
以前の地点で、足付きを沈める事も十分に可能だった筈なのだ。アスランはそう考え、
彼らの造反を苦々しく思ったが、隊長の責務を与えられながらも、イザーク達を御しえ
なかった自分にも責任の一端はあるような気がしたので、それは主張しなかった。
彼が代わりに主張したのは、次のような提案である。

「とにかく、足付きがオーブにいるという確証が必要だ。
ここは単身、生身でオーブに潜入してみるというのはどうだ?」
このアスランの予期せぬ提案に、三人はキョトンとした表情を見合わせた。

798キラ(♀)×フレイ(♂)・47−7:2004/08/26(木) 18:40
「まさか、こんな形で、再びオーブに舞い戻ってくるなんてね」
ドッグに入港したアークエンジェルの甲板上にワラワラと、ヘリオポリス組&カガリの
子供達七人が姿を現した。未だに艦の外に出るのは禁止されているが、ここも一応は
彼らの生まれ故郷の一部なので、少しでも外の空気に触れてみたかったからだ。
キラは居心地悪そうな表情で、隣にいるカガリを見る。今のカガリは先の正装から
普段の軽装に着替えており、せっかくオールバックに纏めた髪もボサボサに崩してラフな
スタイルを取り戻していたが、それで、カガリの正体が有耶無耶になったわけではない。
「何だよ、キラ。俺のオヤジが国王だろうと宇宙人だろうと、俺は俺だ。関係ないだろ?」
キラの視線に気付いたカガリがムッとした表情で、そう主張し、キラも「そ…そうよね」
と愛想笑いを浮かべたが、未だに戸惑いは抜け切っていない。アスラン、フレイ、
そしてカガリまでも、彼女が惚れ込んだ男性は皆、やんごとない家柄の血筋なので、
パンピー(一般人)である自分に、キラは些か引け目を感じてしまったりするのだ。
「俺に言わせれば、俺なんかより、お前の方がよっぽど特別な存在なんだぜ、キラ」
妙に煮え切らないキラの態度に、カガリは内心でそう謙遜したが口にはしなかった。
キラの隣にいるフレイは、互いにコンプレックスを抱いているらしい非公認兄妹の
遣り取りを興味深そうに拝見している。カガリの正体について、実はどこぞのボンボン
ではないかと密かに当りをつけていたフレイだが、オーブの王子様とは想像以上だ。
まだ、彼にはキラを巡った秘密がありそうだが、それらも追々判ってくる事なのだろうか?


その頃、交渉の為に艦外へとキサカに連れられていった幹部三人と入れ違いになるように、
三つのシルエットが、密かにアークエンジェルの中へと忍び込み、探索活動を行っていた。
途中、AAのクルーに見咎められたりもしたが、三つの影は屈託のない笑顔で挨拶して、
堂々と彼らの詰問をやり過ごす。やがて、甲板の出口まで来て、目当てのブツ(者)を発見
した影達は、一斉に甲板に飛び出して、その本性を現した。



「「「カガリさま〜ぁ!!!!」」」
「ゲっ!!?お…お前ら!?」
突如、後方から黄色い声が聞こえてきたので、慌てて振り返ったカガリは表情を
引き攣らせた。お揃いの真っ赤な軍用のチョッキに、グレーのズボンをはいた
三人の少女が、猛牛のような勢いでこちらに突っ込んできたからだ。
直ぐに廻れ右したカガリは、脱兎の如く、その場を駆け出そうとしたが、

「ジュリ!、マユラ!、フォーメーション・デルタよ!!」
「「ラジャー(了解)!!!」」
彼女達の中でリーダー格っぽい、カガリと似た金髪の少女の掛け声の下、少女達は
陣形を定めると、カガリを基点とした三角形(デルタ)の形にカガリを取り囲んだ。
それから、三人は、グルグルと時計回りに回転しながら、ジワジワと包囲網を狭めてゆき、
カガリに離脱する一ミクロンの隙さえも与えずに、見事、カガリを捕獲するのに成功する。
手前勝手な攻撃を繰り返して、結局、足付きを取り逃がしてしまったザラ隊に比べれば、
彼女達の方が八百倍ぐらい統率が取れているみたいである。

「カガリ様、お久しぶりです。マユラ、本当に寂しゅうございました」
「ザフトとの戦闘交渉、見てましたよ。凛々しかったですね、カガリ様」
マユラと名乗ったボーイッシュな娘は自分の頬をカガリの頬に猫のように擦りつけ、
リーダー格の少女は瞳をキラキラと輝かせながら、カガリの手を強く握る。
「キャア!、見て、アサギ。おいたわしや。カガリ様の玉のお肌に傷が!?」
「それ所じゃないわよ、マユラ。御身体の方はもっと酷い惨状よ!」
マユラがカガリの頬の傷にツーっと指を這わせ、アサギはカガリの襟首を掴んで、
赤いシャツの下から見え隠れする夥しい数の傷跡に、目を瞬かせる。
「ま…まさか、下の方も!?」「………………確かめなくては」
「ひいっ!?何をする、お前ら!?や…止めろぉ〜!!」
少女達は二人掛かりでズボンを下ろしにかかり、カガリは悲鳴を上げて、必死に抵抗する。

799キラ(♀)×フレイ(♂)・47−8:2004/08/26(木) 18:41
「アサギ、マユラ。もう、止めてあげなよ。カガリ様、本気で嫌がっているよ。
それに皆さん、呆れてこっちを見ているわよ」
三人娘の中の良心っぽい眼鏡の子が、軽くはにかみながら、そう訴える。
「またジュリは良い娘ぶちゃって…」「そうそう……、ところで、皆さんって!?」
ようやく、少女達は外野(ヘリオポリス組)の存在に気づいたみたいだ。
「い…嫌だわ、私達ったら…」
唖然とした表情で、自分達の痴態を見つめていたヘリオポリス組の面々に、
アサギとマユラは、今更ながらに羞恥で顔を真っ赤に染めながら、カガリから手を離す。
危うく公衆の面前で、逆レイプされ掛けたカガリは、大慌てで三人から距離を取ると、
キラの後方へと逃げ込んだ。

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私達は学園時代のカガリ様ファンクラブの者で、
私は、ファンクラブの会長を務めていた、アサギ・コーデウェルでぇ〜す」
「同じく、副会長のマユラ・ラバッツよ」
「……書記のジュリ・ウー・ニェンです」
先の照れ隠しのつもりなのか、少女達は妙にノリノリで自分達の姓名を明らかにする。
どうやら彼女達は、カガリの学生時代の級友らしい。立場的には、明けの砂漠にいた
アフメと似たカガリの追っかけ(ストーカー)という事になるのだろうか。
ただ、カガリにゾッコンだったアフメと異なり、何となくだが、この三人はカガリを
玩具にして遊んでいる節があるように感じられる。もしかしなくても、カガリの女性不信
の原因には、学園時代の彼女達の存在が大いに寄与していたのかもしれない。


「こ…ここは、軍用基地だぞ。何で、民間人のお前らがいるんだ!?」
情けなくもキラの影に隠れて、慌ててずり落ち掛けたズボンを引き上げながら、カガリは
当然の質問をしたが、「私達、実は軍に志願したの」という突拍子もない返事が戻ってきた。
「ほら、オーブって、ユーラシアや大西洋連邦とかの他の軍事大国と違って徴兵制度を
敷いていないから、軍は慢性的な人手不足じゃない?
だから、エリカさんの口利きで、私達、今、M1のテストパイロットをやっているのよ」
「エリカって、あのシモンズの婆ぁか!?」
「またまた、カガリ様ったら、本当に口が悪いんだから。
とにかく私達が動かせるようになれば、どこへ出しても恥ずかしくない仕上がりになる
から…って、エリカ主任に拝み倒されたら、ちょっと断れないじゃない?」
「そうそう、ここで仕事していれば、いずれカガリ様とも再会出来るって言われたしね」
「それって、お前らでも動かせるようになれば、誰にも操縦可能になるって意味じゃないか?」
とカガリはシニカルに思ったが、意外とフェミニストのカガリは、持ち上げられて
舞い上がっているらしい三人に、敢えて冷や水を浴びせようという気にはなれなかった。


「おやおや、中々、コミカルなお嬢様達みたいだね」
三人娘のハイテンションなノリに順応出来ずに、呆然としていたヘリオポリス本家と
異なり、興味深くカガリとの漫才を見物していたフレイが早速アサギ達に声を掛ける。
「キャッ、美少年!?」
美形なら誰でも良さそうなミーハーっぽいアサギが軽く頬を染め、他の二人も興味深々
という顔つきで、フレイの透明感溢れる笑顔を食い入るように眺めている。
「僕はフレイ・アルスター。君達と同じ少年兵さ。一応、彼女持ちの身分なんで、
あまり深い仲になることは出来ないけど、良きお友達としてお付き合いできるかな?」
「え〜!?やっぱり、もう既に売却済みなんですか?あうっ、残念」
「はっはっは。駄目じゃないか、浮気っ気を出すと、カガリ君が嫉妬するだろう?」
「馬鹿野郎。んな事あるか!……って、おい、お前ら。
コイツにだけは絶対に近づかない方が良いぞ。マジで食われちまうぞ」
「キャア、もしかして、カガリ様。私に嫉妬してくれてるの!?」
「だから違うって言ってるだろう!俺は親切心から……」
「酷いな、カガリ君。僕と君とは無人島で、お互いに肌と肌とを寄せ合って、
共に一夜を過ごした仲じゃないか…」
フレイはセクシィーな流し目でカガリの耳に息を吹きかけながら、芝居掛かった仕草で
カガリの肩を抱き、身体全体に鳥肌を立たせたカガリは、反射的にフレイの手を払いのけた。

800キラ(♀)×フレイ(♂)・47−9:2004/08/26(木) 18:41
「き…気色悪い真似するんじゃねえ!」
「済まないね、カガリ君。君の本命は兄貴と慕っているフラガ少佐なんだよね?」
「だから、さっきから誤解を招くような紛らわしい言い方は止め……」
そこまで言いかけて、ふと、カガリが三人娘の方を振り返る。
フレイの発言に、ショックを受けた者、頭に?マークを浮かべている者、
瞳をキラキラと星のように輝かせている者と、三者三様の反応が見て取れた。
「カ…カガリ様。何度モーション掛けても全然反応がないから、もしや女性に興味が
無いのかと思いきや、まさかそっち側の人だったとは…」
「ねえ、聴いた!?兄貴だって!?キャア、ヤオイよ。ヤオイ!耽美すぎるわ」
「カガリ様、私は決して諦めません。私の愛の力で、カガリ様の男しか愛せない
という病気を癒やして……」
「だから違うって言ってるだろ!お前ら人の話を聞け!!」
再び三人娘はカガリの身体にしな垂れる。四面楚歌でホモ扱いされたカガリがとうとう
発狂したが、自分達の世界に填まり込んでしまったらしい三人には全く効果が無かった。

フレイの正体を知っているヘリオポリス組の面々は、カガリをダシにして、
さっそく三人娘を上手く懐柔しているフレイの手並みに呆気に取られている。
既に三人娘の中では、フレイはかっこ良くて、面白い男性と認識されているみたいだ。
例の悪魔的な本性をひた隠したフレイは実に爽やかで、博識で口当りも良いので、
初対面の女の子が、フレイの上っ面に騙されてしまうのは、無理からぬ事であろう。


「そんなに怒るなよ、カガリ君。この三人は君の物だよ。僕には、キラさえいてくれれば
十分だから、この三人娘に手を出すつもりはないさ。しかしまあ、女に興味が無いような
振りして、影でハーレムを拵えるなんて、やっぱり王子様は凡人とは遣る事が違うね」
ここぞとばかりに、フレイがカガリを畳み掛ける。
実際、フレイは、デート中に恋人(キラ)を連れ去られたり、戦場(無人島)へと
無理やり拉致されたり、危うく敵(アスラン)ごと撃ち殺され掛けたりと、
何だかんだ言っても、カガリへの怨み辛みがけっこう溜まっていたのである。
まあ、カガリの一方的な認識では、妹を悪魔の手から救うためにやった事ではあるが。

今まで、この場のペースに戸惑っていたキラも、呆れたようなジト目でカガリを睨み、
「誤解だ、キラ!」とカガリは大声で叫んだが、三人娘を身体中に侍らせている
今の状況では、説得力が無いこと甚だしかった。


「そう、あなたがキラさんだったね?例のMS(ストライク)のパイロットの」
自分達の世界にトリップしていた三人は、カガリの発した「キラ」というキーワードを、
復活の呪文として、現実世界へと帰参し始めた。
「実は私達、本当なあなたに用があったのよ。カガリ様の姿を見つけたら、
ついつい、そんな事は頭から吹っ飛んでしまったけど」
照れ隠しに軽く頭を掻きながら、三人娘はようやくカガリに絡めていた身体を離すと、
真正面からキラに向き直り、弛み切っていた表情を引き締め直した。
「キラ・ヤマトさん。エリカ・シモンズ主任がお呼びです。
是非とも、あなたにお願いしたい事があるそうです」
三人を代表する形で、アサギがキラにメッセージを伝え、キラは軽く瞬きしながら、
不安そうな目付きで、自分と歳の変わらない三人娘の顔を覗きこんだ。



その頃、断崖絶壁に囲まれた人気の無いオーブ沖に、ダイバーのスーツを着た四人の
少年少女が泳ぎ着いた。足付きの動向を探るために、オーブへの密入国を果たした
ザラ隊のメンバーである。
数日前の無人島でも為しえなかった、キラと生身で邂逅出来る日が近づいている事を、
この時、彼らを率いる隊長のアスランは、未だに気がついていなかった。

801私の想いが名無しを守るわ:2004/08/26(木) 19:35
>>キラ(♀)×フレイ(♂)

久々の投下乙です。もう続きは読めないのかなと思ってた
矢先だったので大変嬉しいです。

802人為の人・PHASE−16:2004/08/26(木) 22:12
目を覚ました僕の耳に、第一戦闘配備の警報音が飛び込んできた。
僕はベッドから起き上がった。「何か」が僕の中で変わっていた。
体のあちこちがガラスの切っ先のような自信に満ち溢れていた。
自分を押さえつけていた膜のようなものが壊れたのを僕は感じていた。
全てはあの子と寝た事がもたらした、羽のように軽い快感だった。
僕は大切なものを絶対に守る事ができる確信を得て、部屋を出た。
それは結局、傷ついた僕の一時的な闇への逃亡だったのかもしれない。
けれど、僕は今でもそれを憎んではいない。そうしなければ、きっと
僕は誰も守る事ができないまま消えてしまっていただろうから。
隣で眠っていたあの子の本当の気持ちを、僕は知らなかった。

すぐに出撃できるとの旨を伝えた僕は、ミリアリアにさえ乱暴な態度を
とった。敵が攻めてきてるのに、戦わないといけないのに、みんな何を
呑気にやっているんだ。さっさとハッチを開けろ。僕は怒鳴った。
僕は少しでも早く敵を滅ぼす事を望んでいた。そうすれば、多くの人が
助かるのだと考えていた。以前にもまして必死な心がそこにはあった。
僕はランチャーストライクで飛び立った。

砂の大地に落ちた僕は予想外の動きの悪さにてこずった。手に感じる
衝撃が宇宙とあまりに違う。そんな僕に敵は攻撃を仕掛けてきた。
地上を縦横無尽に動き回る事を目的として設計されたMS、バクゥ。
犬のような形をしたそれは、鈍いストライクに次々とミサイルを
撃ち込んでくる。PS装甲の頑丈さに守られながら、僕はストライクの
操作系統を自分でも驚くほど瞬時に修正した。生きるためではなく、
倒すための力。戦場で無力な者は失う事しかできない。砂への接地圧を
調整し、初めての環境に適応を開始していた僕はバクゥの軽やかな
動きに翻弄されつつも、確実に反撃を展開していった。
僕にはあの子の「想い」がある。託された気持ちが、僕の力となる。
一見正しいようでいて底知れぬ誤解を含んだ僕の信念が再び弾け、
未知の力が感情を支配し始めた。

僕はいつしか、敵のMSを生意気とさえ思うようになっていた。
砂漠を飛び跳ねるバクゥを僕はストライクの足で押さえつけ、そのまま
ヘリオポリス破壊の引き金ともなったアグニで容易く吹き飛ばした。
遠くから飛んでくる敵艦の主砲にはそれの一匹を投げつけて相殺した。
僕にはそれがただの機械でできた紛い物の犬としか思えなかった。
その気になればアークエンジェルを守るためにいくらでも壊してやる、
だからかかってこい。僕には力がある。そんな残酷な心があった。
しかし僕の黒い一面は長続きしなかった。PS装甲が切れたのだ。
これ以上の戦闘は危険だった。僕は正気に返り、生存の道を探した。
そこに有線通信でコクピットに声を入れてくる者がいた。
レジスタンスの一員らしく、敵に地雷を踏ませる作戦を僕に提案した。
やがて思惑通り、そのポイントを飛び越えた僕を追ってきたバクゥが
残骸となって空に舞った。僕は無責任なまでにそこに残酷さを感じた。
結局、戦闘はザフト側に多大な損害を残して終わった。
三度目の運命的な出会いがすぐそこに迫っていた。

803人為の人・作者:2004/08/26(木) 22:16
投稿再開しました。9月いっぱいの完結を目指して頑張ってみます。

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
最初から拝見しておりました。濃厚な地の文とひねられた会話が
とても面白く、続きを期待していたのでうれしいです。
個人的に、例の夕焼けのシーンがどうアレンジされるのかが楽しみです。

804私の想いが名無しを守るわ:2004/08/26(木) 22:30
がんばって!

805人為の人・PHASE−17:2004/08/27(金) 12:03
戦闘を終えてMSから下りた僕に、一人の少女が駆け寄ってきた。
乱れるに任せた金髪と、見る者を愛情とはまた違った意味で惹きつける
瞳を持つ彼女の顔がたちまち怒りに満ち、僕を問い詰めた。
何であんなものに乗っているんだ。あまりに直接的な質問だった。
僕の中で過去の記憶が次々と呼び起こされた。それらはみな複雑に
絡み合い、巨大な力となって僕を追いたてているように感じた。
そして長く辛い説明をする事をためらううちに、僕はようやく彼女が
ヘリオポリスにいたあの時の事を思い出したのだった。
色んな出来事がありすぎてどこかへ置き忘れてしまったのだろうか。
そのせいか、彼女との再会はひどく新鮮なものに思えた。
訳も分からないまま結局彼女に殴られてしまったのもその一因だろう。
彼女の名はカガリ・ユラ・アスハ。僕の数少ない血縁者の一人だ。

アークエンジェルは地元のレジスタンス組織「暁の砂漠」に協力する
という形で、アフリカに駐屯するザフト軍を撃破し紅海へ抜ける事に
なった。そのザフト軍を率いていたのは、「砂漠の虎」と名高い
アンドリュー・バルトフェルド。僕はこの人と後々戦う事になる。
もちろんその時の僕はそんな事を知るはずもなく、ただただこれからの
旅路への不安とそれを押し殺すための歪んだ自信を抱え続けていた。

僕は岩場の間にカモフラージュされて横たわるアークエンジェルを
眺めながら、砂漠の熱い空気を苦痛に思うことなく肌身に感じていた。
そこへ金髪の少女、カガリが涼しげな恰好で上ってきた。
僕の横に座り、とても正直な言葉で先程の謝罪と弁明を行う彼女は
どこかおかしくて、自然と笑みがこぼれた。カガリのようにまっすぐで
偽りのない気持ちを持った人を僕は今までに見た事がない。傍にいると
顔の表情一つに注目するだけで退屈しないし、本当に癒されるのだ。
もちろん血の繋がった者の贔屓目もあるかもしれないが、少なくとも
カガリは、僕なんかが決して持ち得ていないような魅力を備えていた。
そんな彼女と話をしている時、僕はあの子の事を一時的に忘れた。

僕はその時、MSの調整を終えて外へ出てきたところだった。
昼とは打って変わって冷えこんだ空気が漂う中で、二人は争っていた。
あの子がまず僕に抱きついてきた。視線の先にサイが見えた。
腕の中であの子は小さく震えていた。サイは苛立っていた。
僕は彼らが何を問題にしているのかを悟った。
二人は深い関係にあったはずなのだ。すっかり忘れてしまっていた。
もし覚えていれば、あの子と寝る事も無かったのだろうか。
僕はあの子を抱いて、サイがどう思うかなんて考えもしなかった。
自分の辛く苦しい状況に溺れ、遠くにいる友人を思い出さなかった。

ゆうべはキラの部屋にいたんだから―――。
あの子の痛切な響きを伴った声が、僕の心を完全に狂わせた。
僕の腕にしがみつくあの子の温もりが、無意味な力を引き寄せた。
やめなよ、サイ。信じられないような冷たい自分の声が耳を打った。
強い衝撃を受けていたサイの顔が次第に怒りへと変わっていく。
しかし僕は全く動揺していなかった。すぐに小さくなって謝るはずの
僕が暗黒の僕に踏みつけられ、蹴飛ばされて泣いていた。
昨日の戦闘で疲れてるんだ。もうやめてくんない。
その言葉にサイは僕の名前を呼び、向かってきた。僕はその動きを
冷酷なまでに予測して、彼の腕をひねり上げた。
やめてよね。本気で喧嘩したらサイが僕に敵うはずないだろ?
彼を砂地に突き飛ばした僕は、圧倒的な優越意識に酔いしれていた。
自分がコーディネーターである事実を喜んで受け入れていた。
それは僕が僕自身を最も醜いと感じた瞬間だった。
僕はその時点で悪魔とも成り得ていたのだ。
やがて臆病な自尊心は切実で身勝手な言い訳へと変わった。
僕がどんな思いで戦ってきたか、知りもしないくせに―――。
首を僕の肩に傾けるあの子の優しさに触れ、僕は力を感じていた。
僕の人生に、逃れようのない罪の一点が築かれた。

806人為の人・PHASE−18:2004/08/28(土) 16:56
町のある方角から火の手が上がっていた。
僕はあの子に優しい言葉をかけ、戦闘に備えるべくその場を去った。
MS格納庫へ向かう僕の頭の中では、先程の出来事が幾度も頭を
かすめていた。僕はサイの手をひねり上げ、地面に突き飛ばしたのだ。
サイはヘリオポリスの工業カレッジで、僕の友人だった。
僕達のリーダー的な存在で、いつも頼もしく思っていた。
困った時にはお互いに助けあい、協力し、手を取りあって喜んだ。
僕達はお互いを理解しあっている。そう思っていた。
それなのに、僕はそれを裏切る酷い行為をしたのだ。
高揚が次第に罪悪感へと変わり、僕の胸を締め付け始めていた。

「砂漠の虎」はレジスタンスの家族の住む町を強襲した。
彼は事前に攻撃する事を予告していたらしく、皆命からがらで
逃げ出したものの死者は皆無だったという。不思議なものだった。
しかし住居、食料、武器弾薬は完膚無きまでに焼き尽くされ、
町の人は明日を生きる手段にも事欠く状態で呆然としていたそうだ。
もちろんそんな状況に「暁の砂漠」のメンバーが黙っている訳もなく、
カガリを含めて多くの男達がジープでザフト軍の跡を追った。
彼らは純粋な怒りのもとに敵に一矢を報いようとしていたのだった。
たとえその結果が何を意味するかを分かってはいても、止められない。

僕はストライクで待機していたが、レジスタンスの人々がそんな行動に
出たという連絡を受けて出撃した。砂塵の向こうでは柔軟に飛び回る
バクゥと、その下でおもちゃのように攻撃を加えるジープが戦闘を
繰り広げていた。その戦力差は一目瞭然で、犬が次々と車を破壊する
奇妙に恐ろしい光景が続いていた。僕はそこに乱入していった。
砂漠での戦闘に慣れ始めていた僕に対し、敵は独特の陣形を組みながら
襲ってくる。僕は心の奥に溜まったどす黒い感情を吐き出すように、
そんな技巧を凝らした相手の攻めをかわして反撃に転じた。
しかし、それでもなお続く戦いは僕を一層深い闇に落とし込んだ。
何物にも代えがたい想いに守られた自分の力をただ信じて、僕はまた
弾け飛ぶ種子の姿を瞳の奥に感じた。そうして敵を殺し、退けた。

戦闘が終わってストライクの眼下にあったものは、「結果」だった。
カガリが泣き叫んでいた。キサカさんが隣にいた。誰かが死んだ。
それはアフメドという名の少年で、カガリと活動を共にしていた
らしい。今度は僕がそんな光景に複雑な憤りを抱く番だった。
死にたいんですか?
僕は精一杯の怒りと軽蔑をこめて、自分の命を顧みようともしない
「勇敢な」人々に対する言葉を紡ぎ出した。拳に力が入った。
MSの前では、人はゴミのように蹴散らされ、踏み潰されてしまう。
その時僕は、自分の守るべき人々が自分から命を投げ出す事に
我慢できなかったのだ。そう、僕はただ庇護の意識に固執していた。
カガリの強い口調にも僕はたじろがなかった。誰かが誰かを
守るために必死になったところで、死んだらどうなる?
この少年は?カガリは?その代償は決して小さくはない。
気持ちだけで、いったい何が守れるって言うんだ―――。
僕はカガリが女の子である事も忘れ、無我夢中で彼女の頬を張った。

807人為の人・PHASE−19:2004/08/29(日) 11:04
あれから僕とカガリの間にはしばらく微妙な空気が流れていた。
険悪なものではないが、それでいて別段仲が良いというわけでもない、
そんな関係だ。それはきっと僕がいつまでも心の隅で気にしていたのに
対して、カガリの方はすっかり忘れてしまったような態度で日々を
過ごしていたからだろう。細かいことを気にしない彼女が羨ましい。
そうだ、僕はいつでも気にしている。そして都合の悪いことはすぐに
忘れる。でも僕は今も悲しい思い出を、忘れることなく気にしている。

そんな中、僕達は物資の調達のために大都市パナディーヤに赴いた。
武器商人との交渉に向かった大人達と別れ、僕とカガリは雑用品の
買出しに四方八方を歩き回る。買い物リストの中にはあの子の依頼品も
あって、カガリは少し顔をしかめた。行く先々で繁栄の陰に潜む戦争の
気配を感じ取りながら、僕は彼女の自由奔放さに振り回されつつ
ひと時の平和な安らぎを覚えていた。

僕とカガリが昼食をとろうとカフェテリアに落ち着いたときのことだ。
まず、注文したドネル・ケバブという料理にかけるソースをめぐって
一悶着あった。妙に派手な服装の、明るい声で話しかけてきた男性が
カガリのチリソースをかける嗜好に異を唱えたのだ。冒涜だ、邪道だ、
彼はそう叫んで僕のケバブにヨーグルトソースを注ごうとし、それを
止めようとしたカガリと激しい競争を繰り広げた結果、僕のケバブは
見事に紅白ミックスへと染め上げられてしまった。僕は軽く驚愕した。
だが、本当の恐怖はここからだった。
蒼き清浄なる世界のために―――そう叫ぶ一団が、先ほど現れた男性を
狙うようにして銃を手に僕達を襲った。刹那にテーブルを倒して防壁を
築いた男性は、さっきとは打って変わって周りにいた部下達に一団の
排除を命令していく。それはまさしく指揮官のものだった。
死角から僕達に銃を向けていた男を蹴り飛ばし、波乱の終結を悟った
僕の前で、男性はサングラスを外して名を名乗った。
「砂漠の虎」、アンドリュー・バルトフェルドその人だった。

襲われた時にチリソースを頭から被ってしまったカガリのため、僕と
彼女はバルトフェルドさんの屋敷へと連れて行かれることになった。
冗舌でコーヒー好きな彼の性格を知って敵とは思えない親近感を
抱き始めていたその時、汚れを洗い落としたカガリが現れた。
若草色のドレスを着た彼女はすっかり容姿を変えてしまったようで、
僕は素直に驚きの感想を述べて彼女を愉快に怒らせてしまった。
続くバルトフェルドさんの言葉は何やら意味深で、こちらはカガリを
普通に苛立たせたようだった。彼のふざけたような数々の言動に彼女は
純粋に怒りを覚え、彼を問い詰める。彼ははぐらかす。彼女は叫ぶ。
そして彼は冷たい銃口を向け、僕達に一つの問いを投げかけた。
どこで戦争を終わりにすればよいのか。全てを滅ぼして、なのか。
やや遅れて僕に衝撃が走った。僕達は今戦争のただ中にいる、それは
分かっているつもりだった。けれど僕は「今」を生きることに必死で、
戦争の終わるべき「未来」を見つめていなかった。ただ単に目の前の
危機を振り払おうとしてストライクを起動し、敵を滅ぼしていた。
「敵」の考えに触れることができたのは、それが初めてのことだった。
やがてバルトフェルドさんはどうでもいいことのように銃を下げ、
僕達に戻るべき場所へ帰るよう促した。僕達は殺されなかった。
その頃アークエンジェルでは、サイがストライクを起動させていた。

808人為の人・PHASE−20:2004/08/30(月) 11:01
それから「砂漠の虎」との決戦の時が訪れるまで、血は流れなかった。
しかしそれを本当に平和な日々と呼ぶことができただろうか?
僕がアークエンジェルに帰ったその時から、僕はあの子を抱くことに
心の底で言い知れない不安を抱き始めていた。表面上は何も変わらず、
外側から見れば何の変哲もない穏やかな日々。だがそこには、戦争を
生々しく感じさせないからこそ漂う甘い不吉な影があった。

僕とカガリのいない間に無断でストライクを起動させたサイは、
罰として営倉に入れられ食料を届けられる生活を余儀なくされていた。
彼はどんな思いで、僕がアークエンジェルを守るために多くの敵を
葬ってきたそのMSを起動させたのだろうか。僕が帰らなかったから、
自分を砂漠に突き落としたかつての親友が戻らなかったから、
僕にできることを自分も成し遂げようとして結局失敗したのだろうか。
いずれにしろ僕が彼を追い詰めたことは明らかで、そのことに対する
僕の苦しみはそのままあの子との関係に跳ね返ってきた。僕はあの子と
出会うことを避け、ストライクのコクピットで寝起きするようにした。
そうでもしなければ、僕自身が耐えられないという身勝手な理由で。

サイに食料を届けに行くところだったカズイと一緒に、僕はサイの
入れられている営倉の前までやってきた。カズイはいつもの力なく
静かな声で僕に扉の前で待つよう指示した後、一人で営倉の中へ入る。
戦争が僕達の前に訪れるまでは頼もしく聞こえていたはずのサイの声。
その声が、カズイとの会話から以前よりもずっと弱々しく響いて
僕の耳に流れ込んでくる。あれほどみんなの尊敬していたサイが、
今は屈辱的な立場に置かれて苦しんでいる。その時、僕はすべてが
自分の責任なのだと思った。僕のためにみんなが傷ついているのだと
思った。しかしそれが安易な思い上がりであることには気づかず、
この鬱々とした日々を何とか生き抜くことしか考えていなかった。
ふと、あの子の姿が瞳の片隅に映った。僕が顔を向けると、彼女は
通路の向こう側に姿を消した。不安は数え切れなかった。

久方ぶりに部屋へと戻った後、しばらくしてあの子が目の前に現れた。
あの子は僕に近づき、ベッドに腰掛けた僕に肩を寄せ、甘い声で僕を
混乱させる。サイの悲惨な状況に目もくれず、人を魅了する笑顔で
彼の行動を暗に非難する。違う。何かが違う。僕達は、僕とあの子は、
こんなことをしていい関係じゃない。突然心の中に明らかな拒絶が
生まれ、僕はベッドの上での空しい抱擁を求めてきた彼女を
振り払った。ほんの一瞬だけあの子を邪悪だと思い、直後にその考えを
打ち消し、そう考えた自分に嫌悪した。心はずっと泣いていた。

やがて「砂漠の虎」との決着を目前に控え、僕の中を新たな思いが
駆け巡った。ザフト軍。親友だったアスランもそこにいる。
彼は今どこで、何をしているのだろうか。急速に彼の姿を思い出す。
僕とは違う誰かにイージスの銃を向け、ただひたすら「戦争」に
徹しているのだろうか。僕はそう考えたくはなかった。

809人為の人・PHASE−21:2004/08/31(火) 09:35
ついにサハラ砂漠を抜ける時が来た。それはつまり、紅海への道を
閉ざしているレセップス、「砂漠の虎」との正面衝突を意味する。
戦争から少しでも遠ざかっていた間に考えていたあまりにも多くの
出来事を断ち切り、僕は戦いに専念することを決意しようとした。
アークエンジェルを、みんなを守れるのは僕しかいない―――。
だがやはりバルトフェルドさんの言葉は重くのしかかってくる。
一度見知って、ただの「敵」とは思えなくなってしまった人を
僕は容赦なく討つことができるのだろうか。自信などあるはずもなく、
必要以上のノルマを自分に与える身勝手さがまたしても僕を責めた。

出撃前、僕はフラガ少佐に問いかけた。あの時、バルトフェルドさんが
僕の戦いぶりを見てたとえた言葉、「バーサーカー」の指し示す意味。
返ってきた答えは、正にストライクに乗った僕そのものを表していた。
狂戦士。普段は大人しいのに、戦いが始まると狂ったように強くなる。
限界を超えたと思った瞬間に脳裏に浮かぶ、弾け飛んだ紫紺の種子の
イメージを想像して、僕はいつもの通り暗い気持ちになった。

「砂漠の虎」との決戦は予想通り非常に激しいものとなった。
敵はレセップス以外の陸上艦も動員して待ち伏せ作戦を行っていた上、
襲撃を避けようと廃墟に逃げ込んだアークエンジェルは瓦礫が艦体に
引っかかって離脱不可能に陥ってしまった。僕はバクゥとの戦いに
全神経に取られて援護することもできなかったし、
少佐のスカイグラスパーも空の戦いに集中せざるをえなかったため
どうすることもできない。もうだめか。そう思いかけたその時だった。
ストライクと同じく地上に降り立っていたバスターが、
アークエンジェルへの砲撃を誤射して何とか危機は回避された。
不思議な気分だった。後で聞いてみればカガリも参戦していた
というし、何だか今になって思うと幻のような戦いにも思える。
そう、まるで真実が砂塵の中へ埋もれるのを拒否したかのように。

バクゥを一通り蹴散らしたところで、ついに見たことのないMSが
現れた。バルトフェルドさん、そして彼の愛人だったアイシャさんの
搭乗するラゴゥ。オレンジ色に塗装された機体が砂漠を猛烈なスピード
で駆け回り、対砂漠用にOSを書き換えたストライクを翻弄する。
ためらいの気持ちを捨てきれないまま僕は戦闘になだれ込んだ。一撃、
また一撃。ビームライフルを巧みに回避し、ラゴゥが迫る。僕は通信を
開いて必死に言葉を伝えてはみるものの、彼の荒々しい返事は僕の
空しい理想を否定して現実を伝えてくる。戦うしかない。どこまで?
どちらかが滅びるまで。ストライクのビームサーベルがラゴゥの足を
切断する。まだ戦いは終わらない。ルールなどない。PS装甲が切れ、
無防備になるストライク。手負いで襲いかかるラゴゥ。これが現実。
覚醒した僕は―――狂戦士となった僕は、アーマーシュナイダーを
ラゴゥの額部分に突き立てた。殺したくなかった人が、爆炎に消えた。

長い長い悲しみの叫びは、こうしてまた僕を少しずつ変えていく。
僕の敵への対し方も、僕のあの子との関係も、何もかも。

810人為の人・PHASE−22:2004/09/01(水) 12:27
紅海へ出たアークエンジェルは、インド洋を経てアラスカへと向かう。
「砂漠の虎」は倒したものの、海洋にはザフト軍が潜水艦で息を潜めて
おり、油断することはできない。僕は戦争に巻き込まれて以来感じた
度重なる悲しみも癒えぬままに、ただ戦い続けなければならなかった。
戦うこと。その言葉が僕にとって、新たな意味を帯び始めていた。

僕はデッキに出た。澄み切った青空の下、カモメ達が楽しそうに空を
飛んでいる。自由な鳥。縛られた自分。僕はなぜ戦っているのだろう。
殺してしまったと思ったバルトフェルドさんの姿が繰り返し脳裏に
浮かび、僕はいつもの通り耐え切れなくなって涙した。自分の運命が
つらかった。コーディネーターだから、戦える。コーディネーター
だから、簡単に死なない。死なない?でも僕はあの人を殺した。
果てしなく自分を絶望に追い込んでいく思考の渦に囚われようとして
いたその時、目の前にカガリが現れた。いつになく優しい顔と声で
僕を抱き寄せ、静かに安心させてくれる。あの子の時とは違う、
何か懐かしくて温かいものが全身を駆け巡った。僕は癒されていた。
直後、急に我に帰ったように弁解をするカガリ。彼女の行動はいつも
短絡的で、それでいて情に厚くて面白い。僕がコーディネーター
だからといって差別しないとはっきり言ってくれた彼女は、どこか
他人ではないような気持ちを与えてくれたのだった。

ふと、あの子の僕を呼ぶ声が聞こえる。見上げるとタンクトップ姿で、
僕のことを甘く誘惑するような視線のあの子。カガリは不機嫌そうに
立ち去ってしまい、アークエンジェルのデッキには僕とあの子の二人が
残された。僕は困惑したものの、結局のところ嫌な気分ではなかった。
今となって思えば、あの頃のそんな思い出でさえ僕の中にしっかりと
息づいている。官能的で、扇情的で、でも心は傷ついていたあの子。
僕は今あの子の手にすら触れることもできない。

初めての水中戦闘。巨大斬艦刀、シュベルトゲーベルを装備して
ザフトのMSと対峙する。グーンがクローを振りかざす。速い。
いや、水中用ではないストライクが遅いのか。冷たい海の底で
緊張を最大限に高めながら、守るべき人のことを思う。思わなければ
戦えずに死ぬ。僕は最初の頃とは違う妙に落ち着いた恐怖心を
心に抱えながら、敵の動きを識別した。そこだ。最も効率的な運動を
はじき出して実行に移す。敵に近づく。やがて攻撃を受けた敵MSは
水圧で紙くずのようになって爆発し、勝負はついた。そう、爆発した。
またバルトフェルドさんの顔が頭をよぎる。なぜ彼は死んだのか?
僕が殺したから。何度でも繰り返してきた結論にまた直面した僕は、
誰にも見られることのないコクピットの中で一人空しく泣いた。
それがどれほど無駄で意味のないことだと分かっていても、
僕には決して止められない。なぜなら、僕は弱い人間だから。

811人為の人・PHASE−23:2004/09/02(木) 15:19
しばらく航海を続けるうち、あの子が船酔いにかかった。
僕の部屋で寝ている彼女は、甘えたような声で僕に様々な催促を
してくる。タオルの取り換え、飲み物の用意、その他色々。僕はそれに
忙しく応じながら、戦うことのつらさから少しでも目を背けようと
していた。少なくともあの子の相手をしていれば、平和でいられるのだ。
そして同じ理由から、僕はあの子との関係にも目をつぶって何も言わない
ことにした。少しでも僕があの子の気持ちに疑いを持っていることを
話したりしたら、今の平和な関係が崩れ去ってしまうかもしれない。
そんなことは考えたくはなかった。僕は純粋にただ怖かったのだ。
しかしそれも結局、あの子との破局を遅らせるだけにすぎなかった。

サイ。昔はいつも頼りにしていて、今でもとてもいい性格のサイ。
その彼が僕に一言、頼むな、と言った。あの子のことだった。僕はもう、
その言葉に対してうつむいたまま無言で返事をすることしかできない。
僕もサイもつらいし、苦しい。サイは何にも悪くない。悪いのは僕だ。
彼の悲痛な表情が、その奥にあるそれ以上の苦悩を表しているように
思えて、僕はそのまま立ち去るしかなかった。

第一戦闘配備の放送が鳴り、僕とフラガ少佐とカガリが出撃した。
空中を舞う無数のMS、ディンの相手を二人が、水中のMSを
僕が引き受ける。僕に襲いかかってきた敵は前回のグーンに加え、
隊長機らしい緑色の機体をしたゾノが新たに増えていた。前にも増して
激しい攻撃にさらされるアークエンジェル。僕が対処しきれなかった敵は
そのまま戦艦の攻撃に回ってしまう。僕はさらに覚悟を決めなければ
ならなかった。もう人を殺す云々を考える余裕もなかった。とにかく
敵を倒すこと、目の前の危険を取り除くこと、みんなを守ることだけを
考えて、僕はグーン、そしてゾノに対決を挑んでいった。もちろんその間
上空でどんな戦闘が行われていたかなど、僕には知る由もない。

バレルロールを行って水中の敵に直接ゴットフリートを照射した
アークエンジェルの戦略もあり、残るMSはゾノ一体。体当たり同然で
攻撃してくる相手に対し、追加武装をほとんど失っていたストライクは
備え付けのナイフ形兵器、アーマーシュナイダーを取り出そうとする。
しかし敵もその瞬間を見逃さない。ストライクがナイフを取り落とす。
僕は焦った。敵パイロットが捨て身なのがよく分かった。このままでは
道連れにされてしまう。僕は素早くもう一方のナイフを取り出し、
間髪いれずにゾノの装甲に深々と突き刺した。素早く離脱し、敵が
爆発するのを見届ける。僕はまた生き延びた。そう、死ななかったのだ。
戦いに勝ち、自分の死が遠い存在に思えてくるにつれて、少なくとも
戦闘中の僕は「戦争」という現実を素直に受け入れ始めていた。
要するに、人殺しに慣れてきたということだった。

この後帰艦した僕は、カガリがMIA、すなわち行方不明になったことを
告げられる。少なからず僕にとっても重要な意味を持つ運命の出会いが、
彼女とアスランを待ち受けていた。

812人為の人・PHASE−24:2004/09/03(金) 12:36
いつだったか、アスランとカガリの両方からお互いに初めて出会った時の
話を聞いたことがある。無人島に不時着した二人。相手がどんな人間か
分かるはずもなく、手持ちの武器で争い、そしてもう少しで悲劇を
生み出す所だったのだと。馬乗りになったアスランがもしカガリの悲鳴を
聞く前にナイフを振り下ろしていたとしたら、少なくとも僕の世界は
今よりもずっと暗いものになっていただろう。いや、ひょっとしたら
もうとっくに終わっていたかもしれない。運命は不思議で、切ない。

副長はカガリを見捨てて離脱するように進言したものの、結局艦長は
僕とフラガ少佐が捜索活動に出ることを認めてくれた。僕はそれが
全く軍人らしからぬ行為であることに薄々気づきながらも、カガリを
捜すことに全力を注げるよう手配してくれた艦長に心の中で感謝した。
マリュー・ラミアスさん。あの人は本当にいい人だ。年下の僕が言うのも
変かもしれないが、彼女は四方八方から吹き付ける風に翻弄されて、
最愛の人さえも目の前で彼女を守るために命を散らして、悲しんで、
それでも最後まで立ち続けることのできた可憐な花のようだった。
今、彼女はどこで何をしているのだろう。しばらく姿を見ていない。

偶然とも言える形で最悪の事態を免れたアスランとカガリが、その後
僕が迎えに来るまで何をしていたかについてはよく分からない。何しろ
当事者である本人たちが少し微笑みながら黙り込んだり、顔を赤くして
怒ったり、ほとんど内容を語ってくれなかったから。でもその方が
いいのだろう。きっとあの二人にとっては初めての出会い以上の意味が
あったのだ。決して殺し合おうとした事実や、今あるような相思相愛の
関係にまつわるものですらない、熱くぶつかりあった鮮烈な記憶。
彼らは無人島で、二人だけの「戦争」を繰り広げていたのかもしれない。

夜が明けて、ストライクのコクピットにカガリの声が飛び込んできた。
刹那に喜びで満たされる僕。ずっと探し回ってあの子には申し訳ないと
思ってはいたが、そんな心配も一気に吹っ飛んでしまった。水上から
その巨体を露わにするストライクに、満面の笑顔で手を振るカガリ。
僕は感動で胸が一杯だった。本当に良かったと心の底から思った。
その彼女のすぐ向こう側でイージスへと乗り込むアスランには気づかず、
僕はカガリを連れてこれ以上になく晴れやかな気持ちで帰艦した。
あの時、僕にとって特別な存在となり始めていた彼女を無事に助け出せた
ことは、間違いなく僕を明るくしてくれたように思う。現に僕は、
何か失ってはならないものを失ってしまいそうな気がしていて
ひどく焦っていたのだ。それはあの子への思いを既に越えていた。
しかし、運命はやはり分不相応な喜びを僕に長く与えてはくれない。
この後僕はアスランと、これ以上にないほど激しい憎しみを戦わせる
ことになるのだった。原因は、悲しい「死」という名の現実。

813人為の人・PHASE−25:2004/09/04(土) 11:55
襲い来る4機のガンダム。迎え撃つ僕、フラガ少佐、アークエンジェル。
かつて宇宙で繰り広げられた戦いは、ついに海上でも始まった。敵は
グゥルと呼ばれる飛行土台に乗り、空中を自在に飛び回りながら攻撃を
仕掛けてくる。逆にそのグゥルを壊してしまえば後は海中に沈むだけ
なので、僕はビームライフルで土台を徹底的に狙っていった。
3種類の装備を換装できるストライクは、エール形態で多少の飛行が
可能であるもののその機動力はどうしても敵に劣ってしまう。しかし
僕と幾多の戦場を駆け抜けてきたストライクは、これ以上にないほど
こちらの細かい操作に応えてくれる。右、上、前方左斜め45度後ろ。
自分でも信じられないほどの機動性が、4機のガンダムを翻弄した。
それでも、アークエンジェルの損傷は次第に大きくなっていった。

オーブの領海が近づいてくる。中立国のオーブには地球連合もザフトも
手を出すことはできない。オーブ側が離脱するよう警告を促す。
無理だ。この状況では先にアークエンジェルが沈んでしまう。もはや
取るべき手段は一つしかなかった。カガリが叫び、自らの身分を明かす。
エンジン部分に被害を受けたアークエンジェルは着水して、オーブの
艦艇群の中に入り込む。自衛と称した敵意のない砲撃が海に沈む。
ザフトは撤退し、僕達は「平和の国」オーブへと入港した。

カガリ・ユラ・アスハ。彼女はオーブの前首長、ウズミ・ナラ・アスハの
一人娘になっていた。かつて「オーブの獅子」と呼ばれ、中立国としての
尊厳を貫いたウズミさん。けれど連合のガンダム開発に協力した責任を
取って、首長の座を退いた人。カガリはそんな「父」の中立精神に疑問を
持ち、国を飛び出した。そして、偶然にも僕と巡り会ったのだった。
オーブは僕の育った国でもある。でもカガリが「オーブのお姫様」だった
なんて全然知らなかったし、まして後々明らかになる事実など、
どうして素直に受け止められただろうか。僕もカガリも、この頃はまだ
何も知らなかった。もちろん、この国がやがてたどる運命さえも。

美しく着飾ったカガリが、僕の前を通り過ぎていく。大半のクルーは
それを見て驚きにも似たため息をついている。僕は前に一度見たことが
あったけれど、僕の隣にいたあの子は嫉妬するような目で強く彼女を
にらんでいた。それを感じた僕は、あの子の僕に対する気持ちが
どうなっているのかますます分からなくなり混乱した。表面上は
困ったように微笑むだけの、複雑な心境が僕を支配していた。
あの子は僕を憎んでいる?それとも本当は―――
僕はその先を考えるのが怖かった。何か絶対に手を出してはいけない、
簡単に壊れてしまいそうなものがあるように思えたから。

オーブがアークエンジェルの入港を認めた理由には、僕たちを助けようと
いう意志も少しはあったのかもしれない。けれど結局、主な目的は
コーディネーターである僕のストライク搭乗経験から来る技術提供の
ようだった。中立を、平和を守るための力。僕は従った。

814人為の人・PHASE−26:2004/09/05(日) 12:43
ふと、ペンを持った手を止めてみる。たくさんの文字がびっしりと
書き込まれた紙。その上に乗っている僕の手は、小さく震えていた。
僕は少し感動した。ああ、僕も人間なんだ、と。神がかりのごとく
キーボードを叩いていた小さな指先が、コントロールスティックをほんの
数ミリ傾けて敵を撃墜していた自分の手が、今はこうして筆記に疲れて
カタカタと震えている。そんな当たり前のような光景が懐かしかった。
机の上にペンを置き、僕は目を閉じて大きく伸びをする。過去の記憶が
容赦なく僕の良心を襲う。それはもう慣れてしまった思い出。あの時
ああしていれば、こうしていれば、彼は傷つかなかった、彼女は
死ななかった。もう後悔で涙にむせぶこともない。慣れてしまったのだ。
そんな自分を悲しいと思いながらも、やはり涙は流れなかった。

世界は確実に平和の方向に向かっている。そう信じようとして、僕は
限りない安寧を享受できる孤島に住み着いた。毎日が穏やかに、優しく、
何事もなく過ぎていく生活。それでいて過去と常に向き合うような、
後ろ向きの暗い心。僕は何か途方もない矛盾を抱えて生きているかの
ようで、このままではいけない、そんな警告を受け取りながらもそれを
無視し続けている気がしてならなかった。なぜ?戦争はもう終わって、
平和が来て、ナチュラルとコーディネーターは仲良く暮らして―――
事実、争いは絶えない。戦争というのはただの入れ物であって、そこで
人々は殺し合いをして、滅ぼし尽くして、やがて離脱して、それでも
終わらない。また別の入れ物で争いあう。そして結局、また戦争になる。
ある時、僕は何のために戦ってきたのだろうと考えたことがある。
戦争を終わらせるため。そう即答した瞬間、僕は自らを軽蔑した。
―――確かに戦争は終わった。でも争いは終わらない。明日がある限り。
それ以来、僕は自分の戦った理由を考えないように努力してきた。

僕が「自伝」を書いている時、一つ一つの瞬間が僕を通り過ぎていく。
それは微笑む人であったり、蹂躙するMSであったり、破滅の光で
あったり、様々な姿を見せながらやがて遠ざかっていく。
時間はそんなごく小さな瞬間が何百、何千、数え切れないほど集まって
流れている。そこで何が起こり、誰がどうなるかは誰にも分からない。
分からないから「自伝」を書くのだろうか。僕は何とかそれを明らかに
しようとして、悪戦苦闘しているのだろうか。だとすれば、僕は今も
「戦争」を続けているのだ。これから始まろうとしている戦争では
ない、もう終わってしまった戦争を無意味な想像の中で繰り返して、
そうやって何かをしようとしているのだ。いや、実際は何もしていない
のかもしれない。「何か」が分からない以上、それは当然のことだと
割り切るしかないのかもしれない。でも、でも。
―――僕は書かないではいられない。

815人為の人・PHASE−27:2004/09/06(月) 12:00
オーブの技術主任であるエリカ・シモンズさんに連れられて、
僕はモルゲンレーテのMS格納庫にやってきた。
そこで見たのは、整然と一列に並ぶたくさんの「ガンダム」だった。
正確にはM1アストレイという名称で、ヘリオポリスで製造された
5機の量産型のようなものらしかった。確かによく見れば、
所々ストライクなんかより軽装という感じがする。
まあ、ストライクはもともと3種の換装が可能な機体なのだから
重装備になるのも無理はないのかもしれないけれど。そんなことを
考えながらMS群を見上げていると、横からカガリの声が聞こえた。
いつもよりやや苛立ったような声で話す彼女の、片方の頬が赤く
腫れ上がっていた。どうもウズミさんとの並々ならぬ意見の対立が
あって、最終的にぶたれたようだった。カガリは言う、こんなものを
作りながらよくオーブが中立だなどと言えたものだ、と。
守るための力とは言っても、それが軍隊であることには変わりがない。
彼女は彼女なりにオーブの外へ出て戦争の空気を肌で感じ取り、
そして確かな口調で強い意見を述べている。それを見て聞いた僕は、
いつまでも優柔不断なままに流されていくだけの自分を情けなく
思っていた。本当に、僕はこのままでいいのだろうか。
周囲の状況に慣らされていくだけの、毎日が殺し合いの日々。
その問いに対する答えの一つは次第に近づきつつあった。

マードック曹長が着ているような整備服に着替え、僕は黙々とOSの
作成に取り組む。自分にそんなことをする義務があるのかという
疑問からは目を背けていた。その答えは「軍務だから」の一言で
済むものであったし、考えたところで逃れることはできない。
せわしなくキーボードを動かしながら大量のデータを処理し、
有用なものだけをピックアップしていく。とんでもない単純作業の
積み重ねだが、集中力は一向に切れる気配がない。自分のことなのに、
自分の意志で行われてもいないような感覚だった。
僕はパソコンに向かうと自然と手が動くようになっている。さながら
ピアノを弾くように、しかし美しい旋律の代わりに無機質な打鍵音だけ
を残して、作業はどこまでもどこまでも続いていく。
不思議なことだが、そうしていると時々残像のようにあの子の姿が
目に浮かぶことがあった。僕はそのたびに頭を振って作業に徹した。
以前は限りなく癒されていたはずの笑顔に、邪魔されてしまうなんて。
そんな気持ちを引きずりながら、僕の目はモニターを追い続けた。
作業中にフラガ少佐がMSに興味を示していたり、時々見かけていた
カガリの友達的な立場にある3人の女の子がM1アストレイの
パイロットだったりしたことを、今となってぼんやりと思い出す。

やがて完成したOSは、地球軍の量産型MS「ダガー」に組み込まれる
ことになる。ザフト軍のMSに対抗しうる存在として後々大きな影響を
及ぼしていくこの機体は、結局のところ僕の手が加わったものだった。
最高のコーディネーター。その言葉は、今も僕を礼賛し罵倒する。

816人為の人・PHASE−28:2004/09/07(火) 12:27
艦長の計らいで、僕達は両親との面会を許されることになった。
サイ、トール、ミリアリア、カズイ。きっとみんな安心と喜びの笑顔に
満ち溢れながら、長く隔てられていた家族と再会したのだろう。
でも僕は決して会いに行こうとはしなかった。父さんと母さんのことは
オーブにたどり着いて以来ずっと気になっていたことだけれど、
それはもうどこか手の届かない遠い世界のことのように思えていた。
日常が崩れて戦争に追われ、闘争本能をむき出しにする狂戦士。
それが僕だ。コーディネーターであるがために大きすぎる力を
何の苦もなく使いこなし、結果妬まれ憎まれて疎外されていく。
他の多くの人が苦しんできたように、僕もまたどうして自分が
コーディネーターとして生まれてきたのかを両親に尋ねたいと、
そんな気持ちばかりが膨らんでいった。しかし、そんな問いかけを
してみた所で何の解決にもならないのだ。僕が依然として「異常」な
存在であることに変わりはなく、両親の苦悩を増すだけにすぎない。
家族に会えないことは涙の出るほどに悲しかったが、すでに僕は
涙に彩られた自分の運命に違和感を感じさえもしていなかった。

その日、久しぶりに作業が早く終わった僕はアークエンジェルの
自分用の個室へと向かっていた。扉を開けてみると、中には誰も
いない。てっきりあの子の名前を呼ぼうとした僕だったが、
どこかへ出かけているのだと考えて帰ってくるまで部屋にいることに
した。最近ずっと彼女には会っていなかったし、心配しているだろう
と思ったからだ。ドアを開けた先にいる、コンピューターに向かう僕を
あの子はどう思うだろう。久しぶりに会えたことを喜ぶだろうか?
それとも長く一人にされたことに怒りをぶつけるだろうか?
僕は二つの選択肢のどちらがあの子の本心を得ているかどうかを
考えながら、背後にスッと自動式の扉が開かれる音を感じた。
笑顔を見せて振り向く。できるだけ優しい声で、彼女に語りかける。
どんな考えを持っているか分からないあの子がどう応じるのか、
僕の中をやや一定した量の緊張が流れた。そして、返答の時間。
―――冗談じゃないわ。やめてよね。
返された答えは全く予想だにしないものだった。

僕があの子にかけた言葉は同情と受け取られ、彼女はなぜあなたに
同情されなければならないのかと強い調子で詰め寄った。そこには
怒りや憎しみだけでなく、愛情や悲しみですら織り込まれている
ように思えて僕はひどく焦った。これほどにまで複雑化した気持ちを
僕はとても理解してあげることができない。あの子の僕への思いは
いつの間にか言いようのないほどに大きく変化していて、その衝撃を
僕はまともに受け入れることさえ不可能だった。可哀想なキラ、
一人ぼっちのキラ。あの子が見ていた「僕」そのものがあふれ出す。
戦ってつらいことも、守れなくてつらいことも、すぐに泣くことも、
みんなみんな嘘なんかじゃない。間違いなく本当のことだった。
そして―――それが本当のことである以上、彼女が僕のそばにいる
ことは僕にとっても彼女にとっても悪い結果しか導かないのでは
ないか、そんな考えが急速に頭をもたげてくる。
悪くない考えだった。そして、第一に卑怯な逃亡手段でもあった。
―――何よ、そんなの。
あの子が悲痛な叫びとともに出ていく。僕はその後を追わない。
とうとう僕は、彼女との関係を「間違ったもの」として拒絶した。

あの子との関係を断ち切った後、僕がOS設定の作業している最中の
ことだった。ずっと肩に止まっていたトリィが動き出し、どこかへ
飛んでいってしまったのだ。まるで新たな主人を見つけたかのように
旅立っていったトリィを捜すべく、僕はモルゲンレーテの工場を出て
敷地内を歩き回った。そしてついに見つけ出したのだ。
フェンスの向こう側で静かにたたずむトリィと、それを肩に乗せた
青い作業服の青年、アスラン・ザラを。他に向こうには何人かいた。
僕は思わず駆け寄った。彼の方でもこちらに気づいたのか、そのまま
ゆっくりと歩いてくる。やがてフェンス越しに僕達は再会した。
君の、というアスランの声。差し出された手にはトリィ。僕にはただ
それを受け取ることしかできない。いや、本当にそれしかできない?
僕は必死の思いで言葉を探し、アスランへの言葉を他ならぬ彼自身に
よそよそしく伝える。昔友達にもらった、大事なものなのだと。
アスランは去っていく。後ろにいた同じ作業服姿の少年たちは
敵のガンダムのパイロットだったのだろう。
沈みかけていた夕日が、すでに遠く隔てられてしまった僕たちを
オレンジ色に染め上げていた。ひどく悪魔的な美しさだった。

817人為の人・PHASE−29:2004/09/08(水) 11:25
アークエンジェルがオーブを去るときがついに来た。艦体の修理も
終わり、再びアラスカを目指す旅が始まろうとしていたのだ。
僕はついに両親に会うことのないまま、出発の準備を始めていた。
「平和の国」で得られたものは結局、自分がコーディネーターで
あることから来る休まらない心がもたらした数々の悲しみだった。
これからどうなるかが全く分からない状態はヘリオポリスが崩壊した
時からずっと続いていたものだったが、その時僕はそれとはまた別の
不安を抱き始めていた。この先待ち構えているのは間違いなく、
かつての親友との何度目かの無意味な争いに他ならないのだ。
別れを悲しむカガリに抱擁されたことが、わずかな慰めになった。

オーブ近海。予想は完全な形で的中し、アスラン達が襲ってきた。
すっかり見慣れた4機のガンダムがグゥルに乗って空を舞う。僕は
自分と一体化したようなストライクを操縦して迎撃に当たった。
血気盛んなパイロットの駆るデュエルは土台を破壊して海の中へ。
むやみに近づいてくるバスターはフラガ少佐の戦闘機が応戦する。
イージスとの連携攻撃で攻めてくるブリッツにも苦戦することは
なかった。うまくいかないことは何もなく、全てが成功していた。
そう、トールも初めての出撃で「うまくやってしまった」のだ。
スカイグラスパーの助けを借りた空中換装、次々に戦闘不能に陥る
敵のガンダム達、残ったイージスもグゥル破壊で島に落とし、数の
差を覆した圧倒的な戦いが展開されていた。過去に何があったかは
今の戦いにはもう何の関係もないんだと、僕は自分に言い聞かせて
ビームサーベルを振り、アスランを追い詰める。俺を討てばいいと
彼は叫ぶ。僕がそう言ったのは自分でもよく分かっていた。でも、
そんなことできるわけがない。いくら実力でアスランを上回り、
彼を凌駕したところで、僕には彼を殺すことなんてできなかった。
月で僕と別れてから核がプラントに打ち込まれ、軍人となって
正義のために戦い続けた結果、ただの民間人だった友達に自分を
殺せと命じるアスラン。彼と自分への、思い上がった同情が一瞬
僕を包み込んだ。それをアスランの「今」の友達は見逃さなかった。

巨大な斬艦刀、シュベルトゲーベル。その刀身がブリッツの
コクピット部分を爆破するのに時間はかからなかった。
ほんのわずかな間の出来事。ミラージュコロイドを解いてイージスの
前に出た黒い機体が片腕で僕に襲いかかる。僕は敵の鈍い動きを
確実に捉えて、そのガンダムを真っ二つに―――できなかった。
思わず飛びすさった僕と、その場から動けないアスランが見たもの、
そして聞いたもの。半分だけ食い込んだ武器、火花を上げる機体、
僕よりも若かった少年の、断末魔の苦しそうな声。それは自分の
死の間際にあっても他の人を心配する優しさに満ちて―――爆発。
僕は彼のニコル・アマルフィという名前すら知らなかった。
もう後戻りできないことを示す楔が、荒々しく打ち込まれた。

818人為の人・PHASE−30:2004/09/09(木) 11:44
眼前で爆炎に消え去ったブリッツの残骸を眺め、しばらくの沈黙。
やがてアークエンジェル、敵の機体がその場に現れ、僕とアスランを
戦闘から切り離していった。アスランの慟哭の声がいつまでも耳に
残り、帰還した僕は敵機破壊を喜ぶ整備兵達の歓迎を嫌った。
痛々しい死を間近で体験した僕はひどく冷静で、それを知らない
人々の歓声は僕をますます罪悪感に駆り立てるだけだった。
俺たちは人殺しじゃない、戦争をしているんだというフラガ少佐の
言葉にも納得できないまま、僕は一人ストライクの前に立つ。
まだ笑っていた頃のアスランを想像しながら、彼の敵が誰なのかを
嫌というほど自分に分からせる。そう、僕だ、僕は敵なんだと。
それでも―――「全てを滅ぼす戦い」にはまだ足りなかった。
まだ、僕には決定的な憎悪が欠けていた。

暁光に照らされて3機のガンダムがアークエンジェルに迫る。
悲しみの癒えないうちに出撃を余儀なくされた僕は、廊下であの子と
すれ違った。何かを言おうと口を動かす彼女。でも僕はその時
彼女の顔を見るのがたまらなくつらかった。成すに任せていた様々な
出来事が今になって全て僕の前に立ちはだかるような感覚の前に、
僕は彼女との「決着」を先延ばしにした。ごめん、帰ってからと
言い残してデッキへ走る僕。不安そうな顔で見ていただろうあの子。
こうして僕は、永遠に彼女への言葉を失った。

怒りに満ちた敵の攻撃が僕達を襲う。まずはデュエル、強引な突撃と
同時にストライクを急襲。今までになく闘志をみなぎらせた機体が
僕に言いようのない焦りを呼び起こさせる。それでも撃墜されること
はなく、グゥルから切り離して海中に蹴落とす。まずは1機。
バスターにはフラガ少佐がスカイグラスパーで応戦している。すると
残っているのは―――アスランの駆るイージスだ。赤いMSに
渾身の憎悪をたぎらせてかつての友が迫る。思わず後ずさりしそう
になるが、逃げることはできない。こうなってしまった運命だから、
ニコルという名の少年が死んだのは仕方のないことなのだから、
僕達が敵なのはもうどうすることもできない事実なのだから。
出撃の前に固めていたはずの決心とともに、僕はストライクを操る。
―――その時だった。トールの声が聞こえたのは。
刹那に僕は恐怖を覚えた。だめだ、僕とアスランの戦いは誰の介入も
許してはくれない。これは僕達の戦いで、誰かがどちらか一方を
助けようとすれば―――今となって思うことはただそればかり。
イージスの放った赤いシールドの刃が、トールの首を跳ね飛ばした。
僕が斬艦刀を失った瞬間から決まっていたかのような、親友の死。
彼の名をひとしきり叫んでから、僕は飢えた野獣へと変化した。

もう何のために二人が戦っているかも分からない。戦争という大きな
枠組みの中で確かに行われているはずの「戦い」は、大義や名誉など
何の関係もない、単なる「殺し合い」に成り下がっていた。
元々戦いたくもなかった僕達をそこまで駆り立てたのは、
結局は「巻き込まれた者の死」という悲痛な惨劇だったのだろうか。
水上にぽつんと落ちた紫紺の種子のイメージはとても美しいのに、
そこから割れてあふれ出る力は僕を狂戦士へと導いていく。
僕とアスランはビームの剣を重ね合わせ、絶え間なく激突した。
友情、離別、再会、喪失。全ての思考が捻じ曲げられ、破壊への
道を突き進む。既にイージスは片腕と頭部を失い、ストライクも
コクピット部分を大きく切り裂かれていた。外気が入り込んでくる。
それでもまだ戦いは終わらない。終わらないのだろうか。
―――やがてついにその刻は訪れた。
変形したイージスがストライクに組み付き、自爆。アスランは直前に
脱出し、巨大な爆発は閃光となって曇天の空を駆け抜けた。
そしてキラ・ヤマトという少年は、確かに一度「死んだ」のだった。

819人為の人・作者:2004/09/09(木) 11:45
この辺りは書いていて何だかつらい……

820私の想いが名無しを守るわ:2004/09/09(木) 15:31
>人為の人
大作毎回楽しませていただいてます。
ニコル好きなので、キラ視点でどうなるのかとちょっと楽しみでした。
最後まで頑張ってくださいませ

821人為の人・PHASE−31:2004/09/10(金) 14:36
僕がMIAとなりアークエンジェルの戦列を一時離れた時、みんなは
一体何を考えたのだろう?同じくMIAとなったトールは本当に
死んでしまった。艦長、副長、フラガ少佐、サイ、ミリアリア、
カズイ、それにあの子、その他たくさんの人はどうしたのだろうか。
涙を流したり、声を押し殺したりして僕を悼んでくれたのだろうか?
それとも僕の死が信じられなくて、ただ放心していたのだろうか?
僕にそれだけたくさんの人から悲しまれる資格なんてないのかも
しれないけれど、何だか不思議な気持ちにとらわれる。
僕は「死んだ」。そしてその後、みんなの前に「蘇った」?
そう考えると、自分が自分でなくなるような気分と同時に
あの頃の自分が「何」だったのかを改めて問い直したくなる。
そう、もう誰も殺さない、泣かないと誓ったあの頃の自分を。

僕達の不毛な戦いが終わってからその場に残ったのは、
ばらばらに砕け散ったイージスと焼け焦げたストライク。バスターの
パイロット、ディアッカ・エルスマンは降伏したらしい。そして
アークエンジェルは敵の追撃をかわすために即座に離脱しなければ
ならず、傷を負ったアスランを発見したのはオーブの部隊だった。
その時カガリとアスランが何を語り合ったかは大体想像がつく。
あの二人のことだから、語り合う以上の激突があったのは確かだと
思うけれど。僕の「死」が二人を争わせ、何かを生み出したのだ。
もしかすると、僕はその為に「死んだ」のかもしれない。今の時代を
動かし、明るい方向に導いていける彼らを思いながら考える。

土砂降りの雨。冷たい水しぶきに打たれながら、その時僕は瀕死で
倒れていたのだと言う。それを見つけた島の住人、マルキオ導師は
僕を介抱し、プラントへと連れていった。僕が「SEEDを持つ者」
であり、それゆえに会わせなければならない人がいたからと。
目が覚めた時にはもう血塗られた戦場からは遠ざかっていた。
小鳥のさえずる声と暖かな日差しと美しい緑、爽やかな風が
僕を取り囲んでいた。それは今までの日常からかけ離れすぎていて、
しばらく僕は何が起こったのかを判断できなかった。
やがて聞こえてくる一人の少女の言葉。ずっと昔にどこかで会った
ような、そんな記憶を必死に手繰り寄せながら、僕は彼女を見た。
それはザフトの歌姫、ラクス・クライン。
あまりにも予想外の、そして定められたかのような再会だった。

822人為の人・作者:2004/09/10(金) 14:37
>キラ視点
彼がニコルの名前を知っているという前提で書いてみました。
あの話は本編のシナリオが大きく動き出すきっかけだったと思うので……。
励ましの言葉ありがとうございます。ようやく半分越えたくらいですが、
ここからが正念場と思って書き進めていきたいです。

823人為の人・PHASE−32:2004/09/11(土) 13:44
僕はクライン邸の庭にあるベッドに寝ていた。傍らには笑顔を
たたえたラクスと、以前と変わらずその回りを動き回るハロ。
ラクスの一挙手一投足はみな優しさに満ちていた。目覚めから
まだ意識がぼんやりしていた僕は、そんな彼女に引き込まれる
ような気持ちで話を聞いていく。彼女は多くを知っていた。
僕とアスランが「敵」と戦い、殺しあったことを平然と語って
静かに僕を見つめてくる。思い出したくなかった出来事が
ついさっきのことのように脳裏を支配し泣き崩れる僕を、
ラクスは神秘的とも言える微笑みで包み込んでくれた。
爆発するMSの記憶は次第に遠くへ追い払われるようになり、
僕は甘えという名の現実逃避への道をひた走った。今僕の
いる場所は信じられないほどに心地よくて、戦争とは無縁で、
何よりラクスという存在は僕にとっての何よりの「癒し」と
なりえたのだった。多くを知りながら多くを語らないラクスが
傍にいるということ。僕はただその優しさにすがろうとした。
それはアークエンジェルであの子を求めた時のように必死で、
切羽詰って、どうしようもないものを心に抱えたままで終わる
ものではなかった。時間と、空間と、そして僕そのものでさえ
ラクス・クラインという一人の少女の手に委ねられたかの
ような、圧倒的な心の平穏と満たされた感覚。
まるで夢を見ているかのようだった。戦いの狭間におかれた
人間が渇望する、現実と正反対の理想を体現した世界。
しかしそれは傷を抱えた僕の、紛れもない事実だった。

ギッという音がして、無我夢中にペンを走らせていた僕は
気づく。インクが切れたのだ。紙は破れずに残っていたが、
そこにはしっかりと筆圧の加えられた跡が見て取れた。
その直前に書かれた文字は人名だった。ラクス・クライン。
偶然のことながら、僕は思わず彼女に思いを馳せる。
目に浮かぶのは桃色の髪、曇りのない瞳、透き通った声。
「美しい」と素直に出てくる言葉は、それでも遺伝子を
改造したからという理由にもとづいていなくてはならない
のだろうか。そして独特の空気を振りまく愛らしい姿と、
凛とした司令官であろうとする姿勢が交錯する。ラクスは
自分が何をしようとしているのかを明確には言わない。
あくまで一人一人に自らの言葉の判断を任せ、行動を促す。
きっと僕はそれに「答える」ことはできたのだろう。
けれど、彼女の気持ちに最後まで「応える」ことは
できなかったのだと、今思う。プラントで再会したラクスの、
僕への期待とでも言うべきものが急速に膨らみ始めたのは
この時だったが、僕はまだ何も知らなかった。
彼女を愛する資格など、結局僕にはなかったのだ。

824人為の人・PHASE−33:2004/09/12(日) 13:49
突然雨が降り出した。既にベッドから起き出せるほどに回復していた
僕はその音につられて外に出る。雨は周りの景色を少しずつ
曇らせながら、シトシトと霧のように地面へ落ちていく。
ああ、ここは地球ではない場所で、降る雨も照らす太陽も美しい緑も
全て人間が作り出したものなんだ。頭の中をよぎった考えは僕の視界を
急速に固定しながら見えるもの全てに広がっていく。自分が今どれほど
奇妙な環境に置かれているのかを理解しているつもりなのに、
それを認めたくないような心の葛藤。僕は立っていることしかできず、
その間にも人工的な雨は淡々と己の役割をこなしていくようだった。
ふと、ラクスが僕の隣に立つ。雨はお好きですか、そう尋ねる彼女。
よく分からなかった。その時僕は彼女が何を求めているのかを
探そうとして、結局まともな返事を返すことができなかった。
―――ただ、不思議だなあと思って。
そんな漠然とした僕の答えにも彼女は微笑みを崩さずに、空を仰ぐ。
雨天は僕の心を見透かすかのような、限りなく白色に近い灰色。
暗黒に侵されてはいないのに、よく分からない大きなもやもやが
立ち込めて何も見えなくなってしまっている内心を象徴している
ようだった。こんな時間が永遠に続くのだろうか、そう考えて
僕は何かひどい焦りのようなものを覚えたが、それがどこから
来るのかは明確にならなかった。全ては見えているはずなのに、
何か「きっかけ」がなければ動けもしない、そんな自分がいた。

僕がいない間に、地球では本当に色んな出来事があった。
アークエンジェルは無事にアラスカへ到着したものの、虎の子の
ストライクを破壊してしまい戦闘データを提出できなかったことから
連合軍本部で査問会にかけられたらしい。それでも表立った処分が
下ったわけではなく、代わりに3人のクルーの転属が言い渡された
のだそうだ。それは僕と一緒にアークエンジェルを守ってきた
フラガ少佐、副長として厳格に任務を実行してきたバジルール中尉、
そしてみずから軍に志願したあの子。フラガ少佐は後々すぐに
アークエンジェルへ戻ってきたけれど、残る2人とはついに
「最期」まで直に対面することはかなわなかった。
以上の話は僕がフリーダムを駆って地球に降下した時にサイから
聞いたものだ。今彼はどうしているだろうか。もう長らく彼とは
会っていない。胸のうちに苦しみを抱えながら、彼も彼なりの
人生を送ることができているのだろうか。だとしたら、僕は
サイの幸せな行く末を願わずにはいられない。
そう言えば、以前ディアッカもこの頃ひどい目にあったと言っていた。
一体何だったのだろうか。聞けずじまいだったのが残念だ。

825人為の人・PHASE−34:2004/09/13(月) 14:32
いつまで自分はここにいていいのだろうか。そんな考えが繰り返し
脳裏をかすめる中、その日僕とラクス、それにシーゲルさんを
加えた面々はクライン邸の庭で「優雅」に紅茶を飲んでいた。
もう戦争は遠いどこかの話なのだと思い始めていた。できることなら
このまま逃げ続けて、楽をしたい。そんなふざけた考えすら頭を
もたげるようになって、僕はティーカップを取る手も進まなかった。
そんな中、目の前のディスプレイに衝撃的な事実が映った。
オペレーション・スピットブレイク。直前までパナマと告げられていた
攻撃の矛先は、その実行にあたって突然アラスカに変更されたのだ。
アラスカ。そこにはアークエンジェルが「いる」。僕のことを死んだと
思い、ザフトが攻撃を加えてくることも知らないたくさんの人達が。
僕は自分を呪った。結局そういう奴なんだ、きっと攻撃対象が
アラスカでなければ見向きもしなかっただろうと。それでもただ
思い出すのは懐かしい人々、そして最後にあの子の不安そうな顔。
ティーカップを取り落とし震え始めた僕を、ラクスが見つめていた。

確かに僕は何もできないのかもしれない。僕一人が戦場に突っ込んで
いった所で、急に戦争が終わるわけでもない。でも、このまま何も
できないからといって何もしなかったらもっと何もできない。
そのまま世界は僕の、平和を願う人達の手の届かないところへと
行ってしまう。だから、僕はまた戦わなければならない。本当に
戦わなければならないのが何かを見極めて、ただそのために。
ラクスは僕の決意に似た言葉を受け止め、僕を案内していく。
まだ心のもやもやは取れていなかった。けれど突き上げるような衝動は
それすら無視させていくようで、僕はとにかく行動することを望んだ。
ザフトのエリートの象徴である赤服を身につけて、僕は新たなる剣への
道を歩む。その先導者であるラクスがクライン邸で僕に言いたかった
のが何であるかを、僕は分かったつもりになっていた。

目の前に置かれたMSは「ガンダム」だった。そして僕の横にいた
女性の名はラクス・クラインだった。そして彼女の頬に口づけを
したのは、キラ・ヤマトという名の僕だった。僕の行く道に必要だと
言ってくれたラクスのためにも、平和を望む全ての人々のためにも、
そして何より僕自身のためにも、僕はすぐさまMSを起動させる。
そう、果てしなく矛盾する可能性を秘めた決心が揺らぐその前に、
僕はこの戦争を何としてでも終わらせたいと願っていたのだった。
そして事実、僕にはそのための力があった。フリーダム。
自由の翼を得た僕は、再び漆黒の宇宙へと飛び出した。
すさまじい機動性を持つ機体が僕の手で、迎え撃つザフトの
パイロットを圧倒する。コクピットを狙わないように、爆発しない
ように。これ以上の犠牲を出さないためにもそれが一番と考えた僕は、
敵の武器や移動手段だけを破壊していくことに集中した。
途中で一機のシャトルとすれ違ったが、その時の僕はそこにアスランが
乗っていたことなど気づきもしなかった。気持ちは前だけを見ていた。
やがて青い地球は次第に大きくなり、僕の目が北米大陸を捉えた。
ごく一部の人だけしか知りえない結末が、すぐそこに迫っていた。

826人為の人・PHASE−35:2004/09/14(火) 12:21
僕を乗せたフリーダムが大気圏を突き抜けていく。
かつて折り紙の花をくれた少女が命を落とし、僕を高熱と罪悪の渦に
飲み込んでいった空間を、今度はただ託されたMSの盾をかざし
通り過ぎていく感覚。しかし悲しみに浸る余裕などなかった。
彼女のような犠牲者をもうこれ以上出すわけにはいかない。
広大なアラスカの大地はもう目前にその荒涼とした姿を現していた。
互いに平和を作るべき人が、あそこで殺し合いをしている―――。
一瞬アスランとの死闘を思い出し、僕は暗い気持ちになった。
けれどそれはすぐに壮大な意義を持った。あれほど激しく争ったから
こそ、今の僕がある。それゆえに、僕は殺戮の空しさを知っている。
そうだ、僕はアークエンジェルだけではなく、全ての人を守りたい。
戦争という巨大な機械の中に放り込まれてしまった、罪もない人たちを。
思い上がった理想が砕け散る瞬間を目撃するのは、まだ先のことだった。

眼前に繰り広げられていたのは数えきれないほどの惨禍だった。
連合軍の基地に大挙して攻め込むザフト軍。迎え撃つ守備隊はその
高性能を誇るMSに蹴散らされ、次々と破壊されていく。
彼らの考えも及ばないほどの高所から状況を読み取った僕は、
改めて辺りをぐるりと見回した。悲しみ、怒り、そんな感情に
もう動かされない自分。この戦争を終わらせないと―――。
その時、僕の視界に敵の集中攻撃を受ける白い戦艦が映った。
アークエンジェルだった。
何かとてつもなく大きな不安に駆られた僕は、スラスターを全開にして
戦いの場へと急ぐ。苦楽をともにした戦艦―――いや、違った。
アークエンジェルと聞いて僕が思い出すのはつらい記憶ばかりだった。
それでも僕は守りたいと思った。あの艦が爆発する瞬間など、
絶対に見たくはないと強く心に願った。
不安は的中した。艦に取りついていたMSのうち、一機のジンが
対空砲火の雨を抜けてブリッジにたどり着いたのだ。
僕の手を一筋の汗が伝った。間に合ってくれ、フリーダム。
ジンが機銃をかまえる。もしこのまま発射されたら、みんな―――。
悲劇の引き金が引かれる瞬間、僕は剣とともに舞い下りた。
はじけ飛ぶ機銃。バランスを失って落ちていくジン。
僕を戦争へと導いた艦を背後に、フリーダムは空に静止した。

退艦を促した僕に対し、返ってきた艦長の言葉は驚くべきものだった。
アラスカ本部の地下に仕掛けられた、サイクロプスシステム。
電子レンジの要領でマイクロ波を発生させ、高熱で人はもちろん、
建物やMSを含めた機械さえも跡形もなく消し飛ばす装置だった。
僕はクライン邸で聞かされた事実を思い出した。攻撃目標を直前になって
変更し裏をかいたはずのザフトが、逆に連合の自爆にも近い罠に
はめられてしまうという皮肉。死ぬのは敵だけではないのに、
なぜこんなことができるのか。ともかく、ここから早く離脱しなければ
ならない。割れた種からあふれ出す力の胎動はもはや自在に操ることの
できるものとなっていた。この力があれば、きっとみんなを助けられる。
ニュートロンジャマーキャンセラーを装備したフリーダムの
全方位通信機能を最大限に生かし、僕は退避を呼びかけていった。
モニターに示される大量の機影にはビームを放ち、機体を破壊することなく
次々と武器だけを奪っていく。そんなことすらあの頃の僕には可能だった。
もちろんこちらに攻撃を加えてくる者もいる。そうなればビームサーベルを
かざし、人を殺す手段を剥ぎ取るだけ。何も問題はないはずだった。
そんな僕の前に、イザークの駆るデュエルの機体が立ちふさがる。激しい
つばぜり合いを行った後、フリーダムのビームサーベルがコクピットを
捉えた。僕に一瞬の逡巡が生まれる。今なら少女の命を奪ったこの男を
殺せるというのか。思い出すのはブリッツの最期。幸せなど訪れないのだ。
僕はポイントをずらしてデュエルの足を切断し、海中に蹴り落とした。

やがてサイクロプスは発動した。
中心部から猛烈な勢いで外へと広がっていく爆風から必死で離脱しようと
しながらも、多くの機体が地獄の熱気に飲み込まれていく。
同じように取り残されそうになっていたザフトのMSを救い上げ、
僕はアークエンジェルとともに脱出を急いだ。
やがて光が去っていった後、アラスカの方角に見えたものは無数の黒煙。
助け出せたはずのザフトの兵士は、僕への言葉とともに砂浜で力尽きた。
手に悔しさがにじむ。叩きつけた拳は、ただ砂を軽く舞い上がらせた。

827人為の人・作者:2004/09/14(火) 12:25
今回は長くなりました。あと、これから本編の内容と少し変わってくるかもしれません。
かなり記憶があやふやで細かい部分が飛んでいたりしますので……

828人為の人・PHASE−36:2004/09/16(木) 12:14
アラスカ近辺の砂浜にたどり着いたフリーダムと、アークエンジェル。
やがてその白い戦艦から、かつての仲間たちが続々と飛び出してきた。
守ることができると思った人の亡骸を残し、僕はそちらへ向かう。
たくさんの人が僕を出迎えてくれる中、中心にマリューさんがいた。
連合軍総本部から敵前逃亡した彼らはもう軍属ではなかった。
少尉、中尉、少佐といった肩書きは脱走兵となった時点で無意味と
なっていたのだ。そう言う僕もMIAとなった時点で連合の兵士では
なくなっていた。もちろん、ザフトのパイロットスーツを着ているからと
いってプラントのため「だけ」に戦うものでもない。僕は連合にも
ザフトにも属さない立場であることを彼らに強調した。そして、
核エネルギーを自由に使用できるニュートロンジャマーキャンセラー、
通称NJCを持つフリーダムは誰の手にも触れさせないことを主張した。
今思えば、僕はあの時の自分が僕そのものであるとはとても信じられない。
自分一人の力で戦争を終わらせられるとは思っていなかった。けれど、
あれほどのフリーダムという機体を駆る自分はそこに限りなく大きな形で
貢献できるのではないか、そんな甘い考えはずっと所持していた。
誰も殺さず、平和を作り出すためだけにフリーダムという兵器を使う。
どこか誤った方向性を持つその思想は、修正されるべき運命にあった。

駆け寄ってきた人々の中には、もちろんヘリオポリス以来の友人もいた。
サイ、ミリアリア、カズイ。けれど、やはりトールはいなかった。
誰よりもこの目ではっきりと彼の死の瞬間を目撃したからこそ、
疑念は生まれなかったのかもしれない。ミリアリアはスカイグラスパーの
爆発する様子を見ていなかった。彼女は大丈夫なのだろうか。
僕はそう思ったが、それにも増して気になる事柄がそこにはあった。
あの子が、いない。

どこにも属さないと言いながら再び連合の少年服に袖を通した僕は、
サイから詳しい話を聞くことができた。サイ・アーガイル、彼には
本当にいくつものつらい思いをさせてしまったと後悔している。そんな
彼からよりにもよってあの子の話を聞くのはためらわれたが、それでも
僕は聞かずにはいられなかった。サイからはすぐに返事が返ってきた。
―――転属したんだ。
連合の上層部は広告塔としての彼女の役割に目をつけたらしかった。
本当はムウさんもカリフォルニアの方へ異動することになっていたらしい。
彼は帰ってきたけれど、あの子の他に副長のナタルさんも転属していった
のだと言う。長く同じ艦でともに戦いをしのいできた二人。ナタルさんとは
ほとんど言葉を交わさなかったけれど、的確な指示はいつも艦の危機を
救った。そして、あの子。僕は彼女を裏切ったのだと思った。帰ってからと
いう言葉を残して僕は姿を消し、再び舞い戻れば彼女はすでにいない。
最悪、アラスカで転属のための艦を待っている間に巻き込まれて―――。
なぜ後回しにしたのかという思いが僕の胸を締め付け始めた、その時。
サイが苦しそうな声で僕に言った。俺はお前とは違う、キラのように
できない自分が悔しいと。その時僕は自分を棚に上げて彼を哀れみ、
ラクスから伝えられた慈愛の精神でもって彼を諭した。
君にできないことを僕はできる。でも、僕にできないことを君はできる。
人の心の痛みに触れては涙を流していた僕の、大きな変化だった。

アラスカを完全に離脱したアークエンジェルは、一路オーブに向かった。
もはや連合軍に帰順したところで、脱走艦は乗組員もろとも処分されるのが
目に見えている。そう考えた僕は、果てない希望を胸にオーブへの進路を
明るい未来へと続く道しるべだと信じて疑わなかった。
仕方なかった。あの時点で他に方法など、とても考えられなかった。

829人為の人・PHASE−37:2004/09/16(木) 12:15
オーブに到着した僕を最初に待っていたのは、カガリの熱烈な歓迎だった。
勢いに任せて飛びついてきた彼女に押され、思わず一緒に床へと倒れこむ
二人。見つめあえば何か大きな絆を感じていた僕たちの数奇な運命を、まだ
この時点ではオーブという国の悲しい結末とともに知ることはなかった。
僕の胸の上で再会に涙を流すカガリ。そうだ、彼女は僕のことをずっと
死んだとばかり思っていたんだ。途端に彼女を愛おしく思う感情が生まれ、
僕はそのまま成すに任せた。全てはラクスの慈愛の精神のもとにあった。
アスランとカガリは僕が死んだと思ったことで随分と激しくぶつかりあった
らしい。彼は僕を殺したと思って泣き、彼女は僕が生きていたと知り泣く。
二人の橋渡しになれたという意味で、僕も少しは人の役に立てたのかも
しれない。今思うことは、それ以外に何ができたのかという悔恨の気持ち。

オーブの前代表にしてカガリの父、ウズミ・ナラ・アスハに僕は会った。
大人たちが居並ぶ中、一人僕は戦争を終わらせるために何が必要なのかを
説いていく。僕の問いかけに返答するウズミさんの言葉は頼もしく、
力強く、ますます僕の決意を固めることとなった。もはや剣を飾っている
時ではなくなった、そう宣言する彼の決意もまた固かったことだろう。
そうやってみんなを「先導」しようとした僕の行動は、結局「扇動」でしか
なかったのだろうか。強く何かを信じていたかつての僕を思い出せば、
何を信じていたのかを問い直し答えの出なくなる自分が今ここにいる。

僕が平和を説く間にも、戦争は次々に人々を滅ぼしていく。
アラスカ攻撃の失敗にもザフトは動じなかった。それどころか、今度は
本来の攻撃目標であったパナマを急襲したのだ。格段に少なくなった
兵力で、それでも士気の高さからだろうか破竹の勢いで進軍していく
ザフト軍。またしても迎え撃つ連合軍の中には見慣れないMSの姿。
ナチュラルにも操作できるようOSに改良を加えた機体、ダガーだった。
統制の取れた動きでジンに襲いかかるダガー。争いは長く続くと思われた、
その時だった。空から降ってきたザフトの機械が恐ろしい威力を発揮した。
グングニールと名付けられたその機械は、極めて強力な電磁パルスを
放射することで防備が万全でなかった連合軍の機体を完全に無力化した。
機能しなくなったダガー、戦車、砲台、全てが無残に破壊されていく。
そしてパナマを攻めた目的である、マスドライバーも自然と瓦解した。
僕の目にその姿はまるで、軸を失い回転崩壊していったヘリオポリスの
ように映った。あの場所に、デュエルはいたのだろうか。もしいたと
すればそのパイロット、イザーク・ジュールは何を思っただろうか。
投降した連合軍兵士が憎悪に殺された瞬間を、目撃したのだろうか。
戦場からはるか離れたオーブで見る光景は、もはや他人事ではなかった。

ストライクに乗ることを決意したムウさんが、僕に模擬戦を申し込んで
きた。まだ早すぎると己の実力を過信しながらも、僕は嬉しかった。
たとえフリーダムは孤独に戦場を駆け抜けても、キラ・ヤマトという
一人の人間は多くの人に囲まれていたい。そう、コーディネーターである
ことなんか関係なく、一人の人間としてともに生きていきたい。
切実な願いを心の奥底に隠したまま、僕は平和な戦いを開始した。
やがてこの地に、禁断の災厄が急襲する。

830人為の人・作者:2004/09/16(木) 12:16
昨日は書き込めなかったので、今日は二話構成で。

831人為の人・PHASE−38:2004/09/17(金) 12:11
サイクロプスのアラスカ、グングニールのパナマ。連合とザフトが互いに
新兵器を持ち出しては人が死に、互いの憎しみは深まるばかりだった。
そしてその連鎖の一方の果てにいたブルーコスモスの盟主、
ムルタ・アズラエル率いる連合軍の大部隊が遂にオーブへと侵攻した。
正確には最後通牒という形で、条件を受け入れたなら攻撃を見送るという
ものだったが、パナマで失ったマスドライバーを欲する大西洋連邦は
到底受諾不可能な要求を突きつけてきたのだ。当然のごとくウズミさんは
これを拒否し、開戦まで一刻の猶予もならない事態が訪れた。
この状況にアークエンジェルはオーブ側として参戦する。艦を去る者、
残ってかつての所属軍に砲火を向ける者。除隊許可証を持ったカズイは
前者となり、サイにミリアリア、その他たくさんのクルーが留まった。
僕は自分の説いた理想が受け入れたのだと、強く信じて戦いに備えた。
その時はもうあの子のことなど、とっくに忘れたものと思っていた。

連合軍はオーブが要求を拒否するのを前々から分かっていたのだろうか。
規定の時間が過ぎると同時に、海上から大量のミサイルがオーブ本土へと
降り注ぐ。一面に並んだ迎撃装置がいくつかを撃ち落して破壊される。
僕はフリーダムに搭乗し、オーブ軍の先陣を切った。後にはムウさんの
ストライク、M1アストレイが続く。上空から降下したダガーの大群に
突っ込み、ビームサーベルの一閃が敵の武器を薙ぎ払った。行ける、
この状況でも。僕は敵機を最小限の損害で戦闘不能にできることを
確信しながら、激戦の続く戦地を点々としていた。しかし、その時。
見たこともないような巨大な鉄球が投げ込まれ、僕は思わず機体を
横にのけぞらせる。振り返った先には、空を飛ぶ黒いガンダム。
それは続けざまに高速で攻撃を仕掛けてくる。まるで僕だけを狙うかの
ように駆け回るその姿を的確に捉え、僕はフリーダムの足で海中に
蹴落とした。そこへさらにやってくるのは、くすんだ緑色のガンダムだ。
手に鎌を携えたその機体はやはり僕を狙ってくる。武器を警戒した僕は
距離をとってビームを放つが、敵機に装備されていた巨大な盾が
ビームそのものを弾いて曲げてしまった。さらに、地上から放たれる
大出力のビーム。とっさに見下ろした先には、暗い青色のガンダムの姿。
レイダー、フォビドゥン、カラミティ。3機は連合軍の新型だった。

戦闘を続けるうちにだんだんと僕の疲弊は増大していく。あまり連携が
取れているとは言えない3機のガンダムは、それでも機体の性能を
生かしてこちらの攻撃を無力化する。僕はだんだん焦り始めた。
アラスカで縦横無尽の活躍を遂げたはずのフリーダムが追い詰められつつ
あった。レイダーとフォビドゥンの手柄を争うような挟撃が、次第に
回避反撃の芽を摘むような隙のなさを生み出していく。このままじゃ、
危ない。地上からのカラミティの砲撃が真横をかすめる。フォビドゥンの
放ったプラズマビームが偏向し、すぐ下方を通り過ぎる。あまりの危険に
バーニアを吹かせようとした瞬間、レイダーの鉄球が命中した。
強い衝撃で機体の自由が利かない。隙の生まれた僕を見逃さず、上空の
2機が迫った。レイダーの口部ビーム砲が目の前に見える。
―――僕は、もう死ぬのか。
最悪の事態を覚悟した瞬間、視界を赤い機体が遮った。
見慣れたその色を持つガンダムから聞こえてきたのは、忘れられない
友の声。アスラン・ザラの駆るジャスティスの登場だった。

832人為の人・PHASE−39:2004/09/18(土) 14:43
何の前触れもなく突然現れたジャスティスに対し、僕は強く問い質した。
―――ザフトが、何のつもりだ。
それはかつて僕と殺し合った相手である彼の真意を確かめるものだった。
―――この介入は、俺個人の意志だ。
返答には一つの迷いも見られない。僕はアスランを信じることにした。
ともかく今はこの危機を乗り越える方が先だ。あっけに取られていた敵に
先んじて僕たちは反撃を開始した。赤と白二つのガンダムが、敵の新型を
圧倒していく。先ほどまであんなに劣勢だった僕の攻撃とアスランの
信念が、ただ暴れ回るだけの敵を確実に捉えていくように感じた。
しばらくすると、3機の新型は損傷が少ないにもかかわらず撤退した。
まるで早く帰艦しなければ命が危ないかのように、隼のごとく。

夕日が沈む頃、オーブに一旦の平穏が訪れた。もちろん、敵を撃退できた
わけではない。連合軍の一時撤退があっただけで、疲れきった兵士たちが
瓦礫の合間に横たわって休む姿があちこちに見られた。
僕のフリーダムはアスランのジャスティスと向き合ったまま降下した。
話がしたいと言った彼の声は落ち着いていて、僕はそれを受諾したのだ。
ワイヤーを伝って降りてくる赤いパイロットスーツの少年は、間違いなく
アスランだった。一方に海、もう一方に駆けつけた多くの人が見守る中、
僕と彼とは少しずつ距離を狭めていく。彼に銃を向けた兵士を牽制し、
2、3歩の距離を隔てて僕はついに彼と向き合った。そうだ、柵越しに
トリィを渡してくれたあの時のアスランと話したのも夕暮れのオーブだ。
そして僕の肩にはトリィが止まり、彼をじっと見つめている。
今、二人の間に遮るものは何もない。アスランが僕の名前を呼び、
拳を固めた。彼に殴られる準備はできていた。何があったのかは知らない
けれど、彼の目は複雑に僕を捉えていた。さあ殴ってくれ、アスラン。
覚悟を決めた瞬間、僕たちのもとに走り寄ってくる一人の少女がいた。
彼女はとても嬉しそうな声で僕たちを抱き寄せ、再会を祝してくれた。
僕は予想外の結果に戸惑いつつも、それはアスランも同じことだろうと
思いながらカガリの祝福にしばらく身を委ねることにした。
何だか、とても気分がよかった。

オーブの工場で彼と言葉を交わした僕は、かつての戦いを振り返った。
僕はニコルという少年を殺した。でも、僕は彼を知らない。
アスランもトールという少年を殺した。でも、彼もトールを知らない。
そう言って納得するなんて無理なのは分かっていた。でも、そう言って
納得するほかに今は仕方がない、どうしようもない、そんな風に
思っている自分がいた。全ては時が解決してくれるのだろうか。
いつかは何もかも受け入れられる気持ちになって、トールの墓に
落ち着いた気持ちで祈りを捧げることができるのだろうか。
自信などあるはずもなかった。僕はアスランと分かり合えたとは
思っていなかった。でも分かり合えたのだと自分に思い込ませることで
戦争を終わらせることができるのなら、それで充分な気がした。
アスランも僕の言葉に納得していないだろう。しかも、彼は僕よりずっと
真面目で信念の強い男だ。到底認められないのは目に見えている。
でも、真面目だからこそ彼は信じてくれる。今を生き抜くためには
そうするしかないということを。僕は笑顔を浮かべながら、止めどない
悲しみの気持ちが胸にたまっていくのを感じていた。
そしてそんな僕たちの気持ちを上回りながら、戦争は加速を続けていく。

833人為の人・PHASE−40:2004/09/19(日) 13:36
再び連合軍のオーブ攻撃が始まった。例の新型3機の姿も見える。
出撃前、アスランはオーブに勝ち目はないと言った。それは僕も
分かっていた。けれど、僕は彼に得意げに言った。大切なのは、
僕たちが何のために戦うのかを自分でしっかりと分かっていることだと。
愚かだった。いまだに頭の中でぼんやりとした像しか作り出せず、
かつて僕たちが何と戦ったのかにすら答えを出すことのできない自分が、
よりによってアスランを導こうとするなんて。認識できていなかったのは
僕も同じだった。そしてザフトの捕虜から僕たちとともに戦うことを
願い出てくれたディアッカも、僕の考えに賛同してしまったようだった。
分からない。オーブが占領されたのは僕たちのせいなのだろうか。
僕たちが理想を胸に宇宙へ旅立たなければ、オーブの人々は幸せで
いられたのだろうか。今、得体の知れない不安が胸をよぎる。

戦闘を中断し、僕たちはマスドライバーの設置されたオノゴロへと
向かった。ウズミさんが僕たちにオーブを離脱し、宇宙へと上がるように
指示を出したのだ。オーブが陥落するのも時間の問題だと言う
ウズミさんの顔は苦渋に満ちてはいたが、それでもその惨禍の先に見える
小さな炎をしっかりと見据える力強い目をしていた。小さくとも、
強い炎は消えない。ウズミさんはマリューさんの言葉に大きくうなずき、
僕たちのオーブ離脱に向けた準備を着々と始めていった。

世界は認めぬ者同士の際限ない争いへと突き進んでしまいかねない。
そう言ったウズミさんは、二人の危険人物の名を挙げていた。
地球の軍需産業理事にしてブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエル。
マスドライバーとモルゲンレーテ取得の目的でオーブ侵攻を後押しした
張本人だった。彼もやがて僕たちを追って宇宙へ上がることとなる。
そしてプラントの最高評議会議長兼国防委員長、パトリック・ザラ。
その名前を聞いた時、アスランの顔に陰りが見えたのは明らかだった。
きっと彼の苦悩は察して余りあるものだったに違いない。
実の父親が、真に倒すべき「敵」のようになってしまっていたのだから。

ローエングリンを放出し、空への道を開くアークエンジェル。
マスドライバーにその白い艦体をあずけ、上へ上へと突き進んでいく。
やがてエンジンを最大に吹かせたアークエンジェルは彼方の空に消えた。
次はクサナギ、多数のオーブ国民とカガリたち軍関係者を乗せた艦が
旅立つ時だ。そしてまさにその時、連合軍の新型3機が襲来した。
このまま艦を行かせるわけにはいかないとばかりに速度を生かし、
クサナギの進路に立ちはだかるカラミティ、レイダー、フォビドゥン。
地上に残っていた僕たちはクサナギを守るため、また宇宙に向かうため、
彼らを迎え撃つ。マスドライバーに攻撃を当てるわけにはいかない敵は
動きが鈍く、僕たちは何とか厳しい状況の中を応戦していく。
やがてフリーダムの手をジャスティスの手がしっかりと握り締め、
僕たちはクサナギの甲板へと無事着地できた。急上昇を続ける艦体から
見えるオーブ本土の姿が、次第に遠くなっていく。
そして―――次の瞬間だった。最初は小規模の爆発、やがて巨大な連鎖。
暁のような炎がマスドライバーを焦がし、オノゴロの施設を次々と
飲み込んでいった。それは美しくもあり、悲しくもある喪失の景色。
たった今飛び去った場所のあまりの光景に、僕は声も出なかった。
その時ほどカガリの泣き叫ぶ姿をはっきりと想像できたことはない。
「オーブの獅子」ウズミ・ナラ・アスハさんは、たとえ死を前にしても
自分の信念を曲げることはなかったのだ。それが一方的に誉められるべき
ものでないことはよく分かっている。でも、彼はカガリに対して
最後まで、本当に最期まで「父親」としての役目を果たしたのだと思う。
僕にそれだけの誇りと理想を抱くことは不可能だけれど、カガリなら
きっと築いていける。生まれ変わった、想いを受け継いだオーブを。
―――「種」を乗せた2隻の艦は、広い暗黒の宇宙へと飛び出した。

834人為の人・PHASE−41:2004/09/20(月) 13:32
世界は揺れる。世界は変わる。そこに生きる全ての人々の運命を
翻弄しながら、世界は少しずつ少しずつその姿を変えていく。
宇宙に上がった僕たちは、退路を断たれた切迫感とこれから何を
すべきかという問いへの不安に駆られながら取るべき道を模索した。
アスランと、ディアッカ。彼らはもともとザフトの人間だったが、
もうとっくにそんなことを気にしていられる状態でないことはみんな
分かっていた。かつて敵だった者たちとの共闘に違和感はなかった。
そして、ウズミさんからカガリに託された写真の存在。実の父と思って
時に反抗しながらも慕い続けてきたであろう人物を亡くして涙に暮れる
カガリを慰めようとした僕はアスランとともに彼女のもとに出向き、
そして真実の一部を知った。写真の中で双子の赤ん坊を抱えながら
優しそうに微笑む茶髪の女性は確かにどことなく自分に似ていた。
でも、だからと言ってそのままその女性が僕の本当の母親であるなんて
とても信じられなかった。最初にその考えが浮かんだ瞬間感じた思いは
単純な驚きと純粋な疑問で、それだけでは僕たち三人が家族として
暮らしてきた平和な生活を怪しむものとは到底なりえなかった。
そう、あの人が僕に嘲りを込めて事実を伝えるその時までは、自分の
存在があれほど禁忌に彩られたものであることなど知るはずもなかった。

フリーダム強奪と地球軍への情報漏洩。二つの大罪を押し付けられた
クライン派はプラント各地で追討の憂き目にあっていた。
その過程でシーゲルさんは死に、ラクスは電波ジャックによる地下演説を
続けながら居場所を転々と変えていたらしい。そんな彼女が僕たちと
合流することなど僕は夢にも思わなかったが、それでも僕たちが実際に
その結果への道を着実に歩み始めていたのは事実だった。アスランが
父ともう一度話がしたいと言い、プラントに向かうことを決意したのだ。
開戦以後、お互いに心から話し合うことができなかったという二人の関係
にあえてメスを入れ、自分の「正義」を示す。その証としてジャスティス
を艦に残し、彼はシャトルでプラントへと赴いた。僕は彼が自分から
危険に飛び込もうとしていることを知り、別れ際に笑顔で彼を励ました。
―――君は、まだ死ねない。君も僕も、まだ死ねないんだ。
「まだ」の部分に自然と力がこもったのを、今でも僕はよく覚えている。
初めてストライクに搭乗した時以来、僕は自分の死を意識したことは
数え切れないほどあった。その度に「ここで死んでたまるか」という
反発、自分の死への恐怖と遺された者たちの悲惨な結末を想像することで
僕は「死ねない自分」という虚像をいつの間にか作り上げていた。
そして戦争が犠牲者を限りなく生み出していく中、その虚像は姿を変え
「まだ死ねない自分」として僕を束縛した。目的を達成するために死力を
尽くして戦い、そしてそれが達成された後は―――悲壮感が全てだった。
そんな恐ろしい虚像をアスランに重ね合わせるほど僕は理想を追い求め、
自分がその実現に貢献できるという過信に酔っていたのかもしれない。
けれど今となっては―――それはただの夢幻にすぎなかったのだ。

対面の時は近づく。宇宙で、プラントで、そしてまた宇宙で。
ラクス・クラインという一人の歌姫が僕たちの指揮官となる時まで、
残された時間はそう多くなかった。そして彼女たちが加わった瞬間、
あてもなくさまよう二隻の戦艦は行くべき道を見出していく。

835人為の人・PHASE−42:2004/09/21(火) 14:15
プラント最高評議会議長兼国防委員長、ザフトの最高権力者、そして
実の父親。パトリック・ザラと話し合うためにプラントへと向かった
アスランだったが、一向に帰ってくる気配はなかった。
僕は最悪の結果が胸をよぎるのを感じ取ったが、そのことに対して妙に
醒めた視点で見つめているもう一人の自分がいることを発見した。
僕は彼の心配をする一方で、そうなっても仕方がないと考えている?
そんなはずはない、「まだ死ねない」はずのアスランは必ず生きて
帰ってくる。僕の親友として、またジャスティスのパイロットとして。
そう考えるようにして自分の中に潜む冷酷な人格を追い払った僕は、
来るべき時に備えてフリーダムのチェックを欠かさなかった。
フリーダム。それは自由の翼、戦場に平和をもたらす剣―――いや、
そんな美しい言葉で飾れるものではない。どれだけコクピットから
外してビームを当てようと、敵の攻撃手段を断つだけのサーベルを
振りかざそうと、それは大きすぎる力を持て余した者の偽善にしか
ならないのではないか。やがて慢心が衝撃とともに僕を脅かし、
悲劇を呼び起こし、真実を直視させるようになるのではないか。
当時の僕がそこまで考えていたかどうかは分からない。けれど、現在
心に傷を抱えたままの自分がそれでも生きていることを考えれば、
そんなはっきりとしない不安が見事に的中したのだと思えてくる。
思考の片隅に消えた彼女が再び眼前に現れる時まで、そう遠くない。

宇宙に飛び出したフリーダムが漆黒の宇宙に熱源反応を捉える。僕は
スラスターを全開にしてその場に直行し、ザフトのMSジンに
襲撃を受けている桃色の戦艦を目撃する。多勢に紛れても明らかに
それと分かるような配色に僕がある人物を思い浮かべた瞬間、
ラクス・クラインの喜びに満ちた声がコクピットに伝えられた。
間髪を入れずに僕は攻撃を開始する。フリーダムに取り付けられた
大量のビーム砲が火を噴き、敵の武器や手足を次々と奪っていく。
それを当然のように感じながら、僕は敵の機体が撤退した空間に
素早く到達して戦艦の無事を確認した。中にはアスランもいた。
ラクスはザフトの新造戦艦、エターナルを手中に収めたのだった。

艦から降りてきたのはラクスやアスランだけではなかった。
「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドさんもそこにはいた。
それでも若干の衝撃を受けただけで、僕は彼の憎しみに囚われない
思考に同意しながら隻腕義足の彼の体を静かに見守った。
間違いなく、この人と戦ったことで僕の何かは変わったのだ。
戦争が互いを滅ぼし尽くすまで終わらない殺戮ともなり得ることを
僕は彼との戦いで知った。そして世界は実際にそうなりつつある。
一時的とはいえ互いの過去を乗り越えることができた僕と彼は、
こうして戦争終結のため共に戦うこととなった。

僕との再会を本当に喜んでいるようだったラクス。僕は彼女の
気持ちを汲み取るように笑顔で接しようとした。ところが。
ラクスが僕を連れ、人目を避けるように場所を移した。
一体どうしたのだろうと不思議に思う僕の前で彼女の目から
流れ落ちたのは、一筋の涙。シーゲルさんが死んでしまったことを
悲しんで僕の胸に身を寄せた彼女の姿は、毅然とした衣装や
言葉からは想像もつかないほどに小さく、そして儚く見えた。
天真爛漫の中にどこか理解の及ばないものを含んでいたラクスが
流した涙、その冷たさに濡れながら、僕は彼女をいたわっていた。
自分にその資格があるのかという問いを、常に心に抱きながら。

836人為の人・PHASE−43:2004/09/22(水) 12:44
合流することのできた三隻の戦艦が当分の潜伏拠点として選んだのは、
廃棄されたコロニー「メンデル」。過去にバイオハザードを起こして
居住困難となり、既に無人となっているコロニーだった。
今思えば、僕があんな所に行くことになったのも何かの運命だった
のかもしれない。あそこへ行かなければ、そしてあの人から真実を
語られなければ。歴史に「もしも」は存在しない。けれどそれが
なかった時のことを空想してみるたび、知らない方が今よりも平和に
生きられたんじゃないかと思うことがある。でもそうやって考え出すと
そもそもヘリオポリスが襲われなければ―――と仮定の連鎖は
とどまることを知らなくなる。だから半分諦めたような気持ちで、
無気力になって、現実に目を背けて、笑いも泣きもしないで、
僕は今も重く暗い過去を引きずっている。

僕たちがメンデルに潜伏して間もなく、連合軍の戦艦が宙域に
現れた。その戦艦の名はドミニオン、アークエンジェルの同型艦で
より黒い艦体が特徴的だった。実質的な艦長として艦の指揮を
執っていたのは、アラスカで転属を言い渡されアークエンジェルを
離れたナタル・バジルール少佐。そしてオブザーバーとして
ブルーコスモスのムルタ・アズラエルも乗り込んでおり、同時に
オーブで戦ったガンダム3機も搭載されていた。
フリーダムとジャスティスのニュートロンジャマーキャンセラーを
手に入れる目的もあってやって来たドミニオンは、一旦こちら側に
通信を入れてきた。スクリーンに映ったのは間違いなくかつての
副官、ナタルさんだった。でももう彼女は僕たちとは違う陣営、
違う思想のもとにいたのだ。かつての同僚に降伏を勧められても
マリューさんは受け入れず、今の連合そのものに疑念があるのだと
言って退けた。そして、その言葉に残念そうな顔をしたナタルさんの
横から、金髪に空色のスーツを着た青年風の男が口を出す。彼こそが
ムルタ・アズラエルだった。挑発的な口調でコーディネーターへの
差別意識を隠そうともしない態度が僕の心を強くえぐったが、
かえって敵への対抗意識は高まった。絶対に、落とされはしない。
やがて話し合いの決裂した両者から、次々とMSが放たれていった。

場所がコロニー跡と言うこともあって、残骸が点々と漂う暗礁宙域が
主な戦場となった。その地形の特性を生かし、時間差でレーダーの
追跡を逃れたミサイルを連続してこちらに命中させてくるドミニオン。
一方こちらはエターナルが整備中で出港できないのに加え、開始早々
クサナギにコロニーのワイヤーが絡まり行動不能となってしまった。
急いでその切断が始まったものの、ナタルさんの統制のとれた指揮が
寄せ集めの僕たちの攻撃を乱し、そこに例の新型3機が思い思いに
襲いかかる。新型3機はとてもナチュラルとは思えない反応速度で
次々と攻撃を仕掛け、応戦するフリーダムとジャスティスを次第に
翻弄していく。そして物理的にも精神的にも全く余裕のない状況の中、
コクピット内に突然警報が鳴り響いた。一体何が起こったのか。
―――目前にドミニオンから放たれた大量のミサイルが迫っていた。

837人為の人・PHASE−44:2004/09/23(木) 11:10
僕は必死の回避を試みたものの、フリーダムに向かって飛んできた
ミサイルの照準は正確で数発が命中した。機体が大きく揺らぎ、
急いで立て直したところに敵の新型が迫る。相次ぐ危機の襲来に
僕は幾度となく繰り返してきた弾ける種のイメージを脳裏に構築し、
無重力の空間を掌握しようと努めた。ここで負けるわけにはいかない。
その意志の根拠にまで考えが回らぬまま、致命傷とはなりえない攻撃を
繰り返して反撃を続ける。切迫感から苛立ちが募り、僕は声を荒げた。
まだ終わらないのか。やがてようやくワイヤーの外れたクサナギが
動き始めると、敵は即座に退却。戦闘は一旦終わりを告げたかに見えた。
しかし戦場からは、ストライクとバスターの反応が消えていた。

消えた2機のMSはおそらくメンデル内部に向かったのだと推測された。
その時、事態は混迷を極めていた。先ほどのドミニオンに加えて
暗礁宙域の外にはエターナルを追ってきたザフト艦も控えており、
うかつな行動はできない。僕は自分がメンデル内部に向かうとラクスに
告げ、彼女はそれを了承した。アスランに外の警戒を任せた僕は、
のしかかる不吉な予感を振り払うようにコロニーへと突入していった。

視界が開け、荒廃した大地が目に飛び込んでくる。生命の存在を何も
感じさせないような冷え切った感覚をコクピットの中で体感しながら、
僕は周囲へと目を凝らした。いる。デュエルと向き合うバスターの姿が
モニターに映った。かつてザフトで同じ隊に所属していた者同士だと言う
ディアッカの言葉を信じ、僕はその場を去る。かつての僕とアスランを
見ているようで一瞬不安がよぎったが、そうならないことを祈りつつ
僕はもう一人の居場所を探した。いた。ムウさんの乗るストライクと、
そのストライクを追い詰める見たこともないザフトらしきMS。
僕はかつてのアラスカのようにその場へ急行し、速度を生かして
敵MS―――ゲイツに斬撃を加えた。行動不能となったゲイツを捨てて、
パイロットが地面に降り立ち走り出す。地表付近はまだ空気と重力が
残っているらしく、その足取りは地球と何ら変わりがない。
それに続いてムウさんがストライクを降り、彼を追い始めた。
思わず銃を手に取ってその後に続く僕を待ちかまえていたのは、
廃棄された地にあってなお負の遺産を保ち続ける巨大な施設だった。

僕はムウさんと二人、物陰に隠れて奥にいる敵の様子をうかがった。
銃のセーフティーを外し、MS同士ではない生身の戦いに緊張が走る。
やがて声とともにムウさんが銃を撃つが外れ、姿は見えないながらも
クルーゼさんは余裕に満ちた態度でこちらに一冊のアルバムを投げた。
その勢いで外に飛び出した写真、そして中に収められていた記録。
間違いなかった。僕たちは来るべくしてこの建物に来たのだ。
クルーゼさんは最初からそれを望み、そして実現させてしまった。
深い因縁に彩られた僕たち3人の真実が、容赦なく明かされる時だった。

838人為の人・PHASE−45:2004/09/24(金) 09:04
まだメンデルが快適な居住区としての立場にあった時代。
15年以上も前、そこではコーディネーターが次々と生み出されていた。
自分の子供が生まれながらに他者より優れていることを望み、大金を
払って思い通りの容姿と能力を子供に身に付けさせようとした親たち。
そして彼らが絶えることなく訪れていた研究施設がここであり、
ここで多くの研究者たちが愚かな見果てぬ夢を見たのだとクルーゼさんは
言った。確かに、見渡せば不思議で不気味な巨大試験管が所狭しと並び、
その中では今なお怪しげな物体がうごめいている様子を確認できた。
さらに彼は続ける。その研究者の中でもリーダー的存在であった男性と
その妻、さらには彼らに資金協力を惜しまなかったある一人の資産家の
話。彼らこそ、今の我々を存在せしめているのだと。彼の雄弁な口から
放たれる数多くの言葉は異常なまでの自信と説得力に満ち、戦闘中にも
関わらず僕とムウさんは彼の言葉に耳を傾け続けた。

「最高のコーディネーター」を作り出すこと。遺伝子技術を研究する人間
にとっての最大の夢とも言えるこの計画に乗り出した研究者がいた。
彼の名はユーレン・ヒビキ。彼は人工子宮の中で、妻ヴィアとの受精卵を
最高の条件の下育成させようとした。そして数多くの「失敗作」を経て、
一人の男の子が生み出される。その時ヴィアのお腹から産まれた女の子と
双子で、たった一つの「成功例」とされたコーディネーター。
名前を「キラ・ヒビキ」と言った。

資産家は自分の跡取りとなるべき実の息子が気に入らなかった。
いや、正確にはその息子の母親を気に入らなかった。そのためメンデルの
ユーレン・ヒビキに話を持ちかけ、自分のクローンを作り出そうとした。
その試みは成功し、全てがうまく行くかに見えた。だがしばらくして
資産家の住む屋敷は火事に見舞われ全焼、彼以下多くの人間が死亡し、
実の息子が数少ない生存者として生き残ることになる。
その資産家の名前は「アル・ダ・フラガ」、そして息子の名前は
「ムウ・ラ・フラガ」。アルのクローンは行方知れずとなった―――。

クルーゼさんは語る。そのクローンは自分自身であると。もちろん
ムウさんは言下に否定するが、それを上回る口調でクルーゼさんは
意見を封殺し、こちらの退路を断ってくる。僕はと言えば、あまりに
信じられない真実の連続に自分の存在意義さえ見失いそうになっていた。
自分が「最高のコーディネーター」?人工子宮で調整され生まれた人間?
いや、人間とさえ呼べるのかも怪しい。僕と双子であることが確定した
カガリとはあまりに異なる出生。彼女が「誕生」なら、僕は「発生」した
とでも言うべき存在だ。頭が奥底から熱くなり、銃を握り締めた手元が
震えだす。周りの風景が歪み、驚きと恐怖に全身から力が抜けていく。
クルーゼさんは得意気に言葉を重ねていった。間もなく最後の扉が開く。
私が開く。そして世界は終わる、この果てしなき憎しみの世界は―――。
また彼は世界で自分こそがただ一人、全人類を裁く権利を持つとも言った。
そこで僕ははっと我に帰った。世界が終わる?憎しみに包まれた世界が
何か強大な「力」に押し潰されていくイメージをその瞬間僕ははっきりと
想像できた。そんなこと、させるものか。自分でも何が起こったのか
分からぬままに体が動き、僕は物陰から飛び出すとクルーゼさんに
襲いかかった。そして―――彼の目を覆っていた仮面が外れた。
それを見た僕、あるいはムウさんの衝撃は計り知れない。なぜならそこに
あった顔は、恐ろしいまでに「あってはならない」ものだったからだ。
僕たちが気を取られた隙にクルーゼさんは素早く逃げ出し、そして静寂が
辺りを包んだ。もうそこには何もなかった。その場に留まる理由を失った
僕たちは、急いでMSのある建物の外へと向かっていった。

コロニーのさらに外では再び激しいMS同士の戦いが始まっていた。
休む間もなく戦線に復帰した僕はムウさんをアークエンジェルに預け、
新型3機との戦闘を開始する。真実を知ったことによる動揺が次第に
重みを増し、双肩にずしりと乗りかかってくるのを僕は感じていた。
それでも、ギリギリの状態ではあったがまだ戦うことはできた。
―――まさか、あの子の声を聞くことになるなんて。

839人為の人・PHASE−46:2004/09/25(土) 11:53
アークエンジェル、クサナギ、エターナルの三隻は連合とザフト両方から
攻撃を受けていた。このままでは次第に距離を詰められ、挟み撃ち状態で
一斉射撃を受けてしまう。ラクスはザフトの戦艦、ヴェサリウスに火線を
集中することでこの突破網を抜けようとしていた。ヴェサリウスは
クルーゼさんの指揮する艦だったが、彼はこの攻撃が成功して
ヴェサリウスが撃沈した後も生きていた。同じくそこにいたアスランや
ディアッカの親友、イザーク・ジュールも無事だったようだ。
その時僕はただひたすらこちらに襲いかかる敵を相手にしていた。心身に
かなりの負荷がかかっていることは分かっていたが、ここで帰艦するわけ
にはいかないという気持ちが辛うじて僕を戦線に留まらせていた。
そんな中、通信がある一つの声を捉えた。

最初は信じられなかった。こんな戦場に、しかもいつ撃墜されるとも
分からない小さなポッドに乗せられて漂っているとは思いもしなかった。
知っている人の名前をほとんど全て挙げて、必死に助けを求める声。
その多くを僕は知っていた。当然、死んだはずの僕の名前はなかった。
間違うはずもない。それは確かにあの子の声だったのだ。
僕はもう、彼女には二度と会うことはないだろうと思っていた。
そう決め付けて、確かにあったはずの心の迷いを断ち切ろうとしたのだ。
アラスカでは無事に脱出できて、今頃はどこか平和な場所にいる―――。
しかし、現実に彼女の声はフリーダムのコクピットに響き渡った。
僕はその声一つに、今まで築き上げてきたものが一瞬崩れ去るのを感じた。
そのわずかな迷いは僕に無謀な行動を起こさせるには充分な衝撃だった。
僕は周りの状況を顧みず、一直線に発信源へと急行していった。
もちろん、何の迎撃も行わずただ直進するだけのフリーダムを敵が見逃す
はずがない。僕は次々に敵の射撃を受けた。ビームが命中するたびに
僕はあの子から引き離され、頑丈を誇るフリーダムの機体にいくつも
傷が入る。だが、それでも僕は諦めなかった。魂を削るようにあの子の
名前を幾度も呼びながら、懐かしい声に向けて手を伸ばす。次の瞬間、
強い衝撃とともにフリーダムの頭部が破壊された。これ以上後を追うことは
命にも関わる危険があることもよく承知していた。それなのに僕は
まだ追いかけようとしていた。フリーダムが動けるのならあの子を、
僕が傷つけた、僕が守ってあげなくちゃならない人を助けないと―――。
けれども無謀な追跡は遂に親友のアスランによって引き止められた。
僕は彼の声すらどこか遠い世界から呼びかけているような気持ちで、
種の弾けた瞳を漆黒の宇宙に向けて何も考えることができなかった。

目が覚めると僕はエターナルのベッドにいた。フリーダムとジャスティスの
専用運用艦として作られたエターナル。最近はそこでずっと生活していた
のだから当然の景色のはずなのに、それはどこかいつもと違って見えた。
視線を上にやると、心配そうにこちらを見つめるラクスの顔があった。
いや、ラクスではなかった。その顔は微笑んでいた。魔性の優しさを
秘めていた。そして僕に覆い被さり、あの子と僕は―――。
心に激痛が走った。昔の記憶は自分の罪悪感を深めるだけだった。
そうする他に道がなかったなどとはとても考えられなかった。僕はあの子と
交わることで救われ、快楽すら覚えていた。事実として互いを傷つけた。
過去は戻らないのか。戻らないから僕はあの子を追い求めようとしたのに。
気がつけば景色は再びエターナルの中、ラクスが僕を見つめていた。

アスランやカガリも見舞いに来てくれたが、ラクスは彼らをそっと表に
出し、慈悲に満ちた優しい声と表情で僕を慰めてくれた。僕はその清さに
癒されながら、一方で後悔の念を抱かないわけにはいかなかった。
泣いていいのですよと彼女は言う。人は泣くことができる生き物だからと。
泣かないようにと張り詰めていた気持ちが途切れ、僕のひどく脆弱な一面が
さらけ出された。また僕は繰り返してしまった。自身で解決するすべを
知らず、自分に優しさを与えてくれる女性にただすがろうとする愚行にも
似た甘え。それが戦争という無慈悲な現実の中で続けられ、根のない草の
ごとく僕はふらふらとさまようことしかできなくなった。これが、こんな
生き物が「最高のコーディネーター」だと言うのだろうか。
安息の場所は見つからない。あの子を抱き、ラクスに癒される僕などには。

840人為の人・作者:2004/09/25(土) 11:54
今日は運命の再会、でした。
次回からはいよいよ最終決戦へ……。

841人為の人・PHASE−47:2004/09/26(日) 11:46
地球軍がニュートロンジャマーキャンセラーを手に入れてしまった。
あの子は「戦争を終わらせるための鍵を持っている」と言っていたけれど、
それが地球軍に核兵器を再び使うことを許すためのものであったとしたら。
僕たちが最悪の結果の回避に向けて動き始めたその時、あの子はドミニオン
の中で何を考えていたのだろうか。かつては行動をともにしていながら、
僕とあの子は手の届かない遠い場所であまりにも一方向な関係だけを
互いに持ち続けていたのだ。それは最後となるべき戦いにあって、
持たないほうがよいはずの「守護」の意識。その結末はじきに明かされる。

地球軍は物量でザフトを圧倒し、プラント防衛要塞の一つボアズへと迫った。
ザフト軍も懸命の抵抗を続けるが、やがてその防衛網をかいくぐった部隊が
彼らに恐るべき破滅の光をもたらすこととなる。
平和を作る者。文字通りピースメーカーと名づけられたメビウスの部隊は、
それぞれに一基ずつ搭載された核弾頭ミサイルを容赦なく発射した。
迎撃も間に合わず、悪夢の弾丸がボアズへと突き刺さる。そして爆発。
かつてユニウス7を解体した核の炎はボアズを無数の残骸へと変えた。
勢いづいた地球軍はさらにその奥の最終防衛拠点ヤキン・ドゥーエ、
そして最深部に位置するプラント群へと侵攻していく。僕たちは彼らの
見境のない行動を止めるためにその後を追う。もうこれ以上の惨禍を
呼び覚ますことはできない。戦争の一刻も早い終結、そして平和への道のり
に希望を見出しながら、僕たちは三隻の戦艦からMSを続々と発進させた。

宇宙に点在する得体の知れない生き物が住む砂時計を破壊すべく、
蒼き清浄なる世界というひどく漠然とした概念を達成させるべく、
核弾頭ミサイルを抱えたメビウスがプラントへ次第に迫る。対するザフトは
ヤキン・ドゥーエのMSを結集させての必死の抵抗。その中にはアスランの
友人でありクルーゼ隊でただ一人ザフトへの忠誠を誓い続けたデュエルの
パイロット、イザーク・ジュールもいた。彼らは生まれ育ったプラントを
死守するため地球軍の大部隊に向かっていった。それでも数に勝る地球軍を
止めることはできず、ピースメーカー隊は核ミサイルを発射。放たれた
一つ一つがプラントを焼き尽くす勢いのもと飛んでいく。もはや彼らに
止めるすべはなく、背後の故郷は失われようとしていた―――。

それはさながら英雄のごとく、現実にありもしない能力者のごとく、
明確な理想に近づこうとしながら最後まで形のないものに拠り続けた
弱い人間の駆るMSによって核ミサイルは撃破される結果となった。
プラントの目前でいくつも無意味な核の炎が宇宙を照らしては消える。
多くの人々が予期しなかった核兵器の末路を僕は踏みしめながら、
ピースメーカー隊の殲滅に向けてミーティア装備のフリーダムで
空間を駆け巡った。もう誰も殺させはしない、その誓いのもとで僕は
核搭載型メビウスに乗るパイロット、そしてそれを発進させる戦艦の
クルーを次々と殺していった。彼らがそんなことをしなければ殺さなかった、
僕は戦争を終わらせるために最小限の犠牲だけを望んでいる、そんな
身勝手な解釈を通用させる力によって核兵器はその数を限りなく
減らしていくこととなった。それは自由という名の驕りだったのか。
ジャスティスを駆るアスランは同じくミーティア装備のもと己の正義を
信じて人の乗る機械を切り裂き貫いていく。だからと言って僕と彼とは
違う、そんな理論は通用しない。やっていることは変わらないのだ。
最後に必要なのはやはり「犠牲」なのだと、今僕はそう思う。

地球軍の核攻撃はザフトの怒りを呼び、かつてない巨大な破壊兵器の使用を
実現させてしまった。その名はジェネシス、核を上回る史上最悪の人造物。
やがてその砲門から、膨大なエネルギーが解き放たれる時が訪れた。

842人為の人・PHASE−48:2004/09/27(月) 07:16
ジェネシスから放出された巨大な光の渦は、その第一射だけで地球軍の
戦力の大半を奪い去った。強力なガンマ線により、核をも上回る
破壊力を見せつけたジェネシス。ミラージュコロイドによって今まで
隠されていたその巨体は、同時にPS装甲を展開することでほぼ無敵と
化していた。僕たちの攻撃目標は核装備のメビウス撃破からジェネシスの
破壊へと次第に移行していく。そしてその激戦の途中、フリーダムや
ジャスティスさえ凌ぐ最強のMSと僕は戦うことになる。そのMSの名は
プロヴィデンス。操縦するのは、全人類に裁きを下すことを望むあの人だ。

ジェネシスの照射によって戦場が混乱したところを見計らい、僕たちは
一旦各々の所属する戦艦へと戻ってきた。初めはジェネシスの威力に
圧倒されていた僕たちも、段々とあれを撃破しなければならないという
使命のようなものへと駆り立てられていく。そしてそんな状況の中で、
ついにカガリがパイロットとして戦場に立つ時がやってきた。彼女の乗る
MS、ストライクルージュの整備が完了したのだ。僕はカガリが何度も
ウズミさんに戦争の危険を説かれていたことを知っている。きっと彼女も
そのことは充分承知しているのだろう。けれど、カガリの性格上安全な所で
いつまでもじっとしていることなどできなかった。彼女はみずから戦場に
出て、行動によって意志を示すナチュラルの少女だった。そして僕は、
その少女と血を分けた兄もしくは弟。僕の性格から推測するに、おそらくは
弟なのだろう。生きることそのものが戦いなんだと言ってのけたカガリを、
僕は心から尊敬したい。そうすることが、僕の生に意味を与えるのだから。

出撃の時が来た。MS格納庫へと歩き始めた僕を、ラクスが引き止める。
今や彼女はエターナルという戦艦を率いる艦長としてではなく、一人の
儚げな少女として僕の前に立っていた。必ず帰ってきて下さいねと、
シンプルな形状をした銀色の指輪を渡すラクス。彼女は僕が死も厭わない
覚悟で戦場へ飛び出し、そのまま二度と帰ってこなくなることを
恐れているのだ。事実僕はそうなってもかまわない、むしろ仕方がないと
さえ考えていた。僕は所詮作られた存在なのであって、人間として生きる
資格などないのではないか。しかしラクスの僕を見る目は心から僕を
心配、いやそれ以上の感情を含んでいるように見えた。彼女が僕のことを
愛しているのは分かっていた。でも、その気持ちに応えられるほど僕は
立派な男だと言えるのだろうか。目を閉じ、僕はそっと彼女の頬に口づけを
する。ラクスが他に望んでいたことがあったかもしれない、そんな思いを
胸の奥に秘めたまま、僕の足は最終決戦へ向けて動き出していた。

三隻の戦艦からMSが出撃する。それは地球軍でもザフト軍でもない、
戦争の少しでも早い終結を願う人々の集団。戦場へと駆ける僕の横には
アスランのジャスティス、そしてカガリのストライクルージュが見えた。
彼らには互いに守るべき者がすぐ傍にいる。僕の守るべき人は今どこに
いるのだろうか。ラクスはエターナルの中、ではあの子は―――。
混沌と破滅をひた走る両軍の中を、僕はただひたすら駆け抜ける。

843人為の人・作者:2004/09/27(月) 07:18
今日がフレイ様の一周忌のようですね。
少し遅れてしまいましたが、最終話まであと少し。

844人為の人・PHASE−49:2004/09/29(水) 19:03
誰も止める術を持たないまま、ジェネシスの第二射は放たれた。
今度の目標は地球軍艦隊ではなく、ヤキン・ドゥーエ宙域に戦力を
送り込み続けていた地球軍月面基地、プトレマイオス・クレーター。
長い年月をかけて築かれた人類の建造物は、一瞬にして崩壊した。
そして次にジェネシスの攻撃目標に設定されていたのは、地球軍の
中でも大西洋連邦首都であったワシントン。もしその膨大なガンマ線が
地球に向けて放たれていたならば、人類にとっての真の滅亡は格段に
近づいていたに違いない。人の住める環境ではなくなった地球と、
その地球に住む人々の恨みからじきに破壊されていただろうプラント。
最悪の結末は間違いなく、限りなく現実のものになろうとしていた。

ミーティアを装備したフリーダム、ジャスティスは戦場を駆け巡った。
もう核を搭載したメビウスはほとんど残っていなかった。しかし、
「少しでも戦争を早く終わらせること」を目的としていた僕たちは
いつしか目的を「人類の滅亡を止めること」にすり替え、そのための
「犠牲」を次々に増やしていった。巨大ビームサーベルは幾度となく
ジン、ゲイツ、ダガーを切り裂き、キャノンから放たれたビームの
奔流は戦艦一隻を簡単に沈めることができた。破壊すべきジェネシスへ
向かう途上にある両軍のMSは全て攻撃対象となった。「愚かな争い」
を続ける彼らは僕たちに協力することなく死すべき運命にあった。
その時僕は僕たちだけに「正義」があるのだと信じて疑わなかった。
カラミティがミーティアの巨大ビームサーベルを避けきれずに両断され、
フォビドゥンもカガリを助けたデュエルの捨て身の攻撃に貫かれて
消え果てる。誰に「正義」があろうと変わりはしない。あるのは延々と
続く殺し合いのみ。目的は違っても、それらの行動には「人類の滅亡」
を速めるか遅くするかの違いしか存在しない。みんな、同じなのだ。

M1アストレイに乗っていたというカガリの友人の少女は3人とも
死んだ。そして、損傷の激しいストライクを何とかアークエンジェルに
近づけていたムウさんも、愛する人を守るため盾となり散った。
彼を消し去ったのは、ナタルさんの指揮していたドミニオンの兵器、
陽電子砲ローエングリン。ドミニオンから脱出艇が放たれ、戦闘意志の
ないものとしてアークエンジェルが接近した矢先の攻撃だったらしい。
ムウさん、ナタルさん、そしておそらくドミニオンに乗っていただろう
ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエル。どれほど優れた能力を
持っていても、それがMSの操縦技術や、戦艦の指揮管制や、
人民の統率指導における才能であっても、人は死ぬ時はあっさり死ぬ。
そう、どれほど常人よりも優れた能力で守ろうとした人であっても、

―――死は彼女を僕の手の届かない所へと運んでいってしまう。

845人為の人・PHASE−50・1:2004/09/30(木) 14:14
ジェネシスへと向かうラクスの艦隊。その中にミーティアを装備して
同行していたフリーダムのモニターが、1機の見慣れないMSを捉えた。
黒を基調とした、全体に不吉な雰囲気を漂わせたその機体の名は
「プロヴィデンス」、神意を司るもの。ラウ・ル・クルーゼさんの駆る
そのMSに言いようのない不安を覚えた僕は、アスランやカガリたちと
離れアークエンジェルの位置する空域へとフリーダムを走らせた。
今ここに、僕とクルーゼさんとの最初で最後の死闘が始まる。

満身創痍のアークエンジェルとバスターに襲いかかるプロヴィデンス。
その機体の背部に取り付けられた無数の小型ビーム射出ポッド、
ドラグーン・システムが僕のよく知る人々に向けて容赦なく放たれていく。
僕はミーティアをフル稼働させて迫り、巨大ビームサーベルをかざすものの
その小型兵器の縦横無尽に張り巡らされたビームの雨を前にして次々と
武装を破壊されていくこととなってしまう。そしてその雨の中、
クルーゼさんは全てを高みから見下ろした口調で僕に絶望を語りかける。
僕の必死の否定の反論は全て打ち消され、その度に彼の攻撃はますます
鋭さを増し僕へと刃を向ける。僕はあってはならない存在で、もし僕が
「最高のコーディネーター」であると知れば、誰もがそうであることを
望むゆえに僕は許されないのだと彼は言う。力だけが僕の全てじゃないと
いう魂の叫びすら、彼はそんなものなど誰も分からないと切り捨てる。
彼の想像を絶する動きの連続でついにミーティアは行動不能となり、
僕はミーティアを切り離してフリーダム単体での戦闘に切り替えた。
かつてないほどの緊張と死に対する恐怖感が僕を支配し始めていた。
だがここで退くわけにはいかない。ここで敗北すれば、世界はこの人の
望んだとおりの結末へと突き進んでしまう。僕が決意を固めた、その時。
僕のあまりにも優秀すぎた視力は、宇宙に漂う脱出艇、その中にいた
あの子を確実に視界へと招き込んだのだった。

守らなければ。僕が傷つけたあの子を、こんな所でその儚い命の危険に
さらされているあの子を、何としてでも守らなければ。ミーティアを
失って速度の落ちたフリーダムに例えようもないもどかしさを
抱きながら、僕はただひたすら彼女のもとに駆けていく。あと少し、
あと少しで彼女を守ることができる。視界の隅ではクルーゼさんが
ビームライフルをこちらに向けている。速く、早くしないと。ついに
引き金が引かれ、光線が一直線に目標を目指し走り抜けてくる。
あと少し、もうほんのあと少し―――僕は間に合うことができた。
フリーダムの盾に弾かれたビームが威力を失い、空しく拡散する。
脱出艇の中に見ることのできたあの子の笑顔。何の偽りもない、真の
微笑みがそこにあった。僕の顔にも安堵の表情があったのだろう。
でもその行為は無意味だった。クルーゼさんは初めから知っていたのだ。
僕たちがたとえ微笑み合うことができたとしても、それは一瞬の出来事に
すぎないのだと言うことを。そしてその後に必ず悲しみが訪れることも。
後ろに回り込んでいた小型兵器が一つ、あっさりと脱出艇を爆破した。
みるみるうちに表情を変えた僕が見たものは、もう爆炎だけだった。

あの子は僕の目の前で、本当にすぐ手の届いたはずの場所で、
命を落とした。もう触れようとしても、その温かさにすがろうとしても、
永遠にそれは叶わない。洪水のようにとめどなくあふれ出る悲しみが、
僕の心の何かをそのまま押し流していった。それは封印された笑顔の記憶、
受け取ることのできた優しさのかけらとでも言うべきものだったのか。
それらは全て、永遠に、もう決して取り戻すことはできないのだ。
僕はどこか遠い世界の中で彼女を守れなかった自分を責めた。責め続けた。
目の前に広がるぼんやりとした光の中には、ひょっとしたらあの子が
いたのかもしれない。僕には見えなくなってしまったあの子が、それでも
僕を許してくれたというのだろうか。僕のような人間は、それでも
本当のあの子の想いで守られていたというのだろうか。彼女を守ることの
できなかった僕を守る、遺されたあの子の気持ちを心に秘めた僕。
僕の今すべきことは、あの子を死へ追いやった、僕に絶望を見せつけた、
そして全人類に破滅をもたらそうとしている人物を「殺す」こと。
それは紛れもなくラウ・ル・クルーゼ、その人に他ならない。
自由の翼が再び力を取り戻し、倒すべき「敵」へと動き出す。
―――種は弾けた。

846人為の人・PHASE−50・2:2004/09/30(木) 14:17
ジェネシス破壊を目指し進むエターナルを攻撃したMS、プロヴィデンス。
機体が限界を訴える中、僕はフリーダムでその前に立ちはだかった。
―――もう誰にも、あなたの手で悲しい思いになどさせはしない。
僕の最後の怒りの矛先が今までにないほどに鋭く、しかし切なく、
世界を滅ぼすことだけを生きる糧としてきた人に向けられようとしていた。
なぜそんなことを。問いかけられた彼の心には夢も希望も、平和を願う
人々の想いも届かないのか。彼は人の業の罪深さを延々と説き、滅ぶべき
「理由」をそこに作り出そうとする。違う、人はそんなものじゃない。
決死の思いで希望を捨てずにいる僕の心をあざ笑うかのように、
彼は僕の言葉をまた否定する。憎しみの目と心、そして引き金を引く指しか
持たぬ者たちの世界で、何を信じ、なぜ信じるのかと。クルーゼさんは
それしか知らない、だからそんなことを言えるのだ。僕はなおも反論する。
それでも、彼の暗黒の思考回路は人の愚かさを如実に示してみせた。
―――知らぬさ。所詮人は己の知ることしか知らぬ。
もう僕は何の言葉も返すことができなかった。そうだ、その通りなのだと
考える他に道はなかった。己の知ることしか知らぬ者同士が互いを認めず、
互いを理解せず、互いを愛せずに凶行へと走り、結果訪れた破滅の危機。
暗い嘆きに満たされた彼の仮面の奥をわずかでものぞき見た僕は、その
どうしようもない感情に彼自身のもどかしさを重ね合わせることさえできた。
この世でただ一人全人類に裁きを下すことができると豪語する、それが彼、
人ならぬ存在。クローン。生まれながらにして短命を余儀なくされた運命。
結局は僕もそんな彼を生み出した罪深い世界に生きる人々の業、その一部に
過ぎないのだ。最高のコーディネーター。全てを調整され完成した一作品。
偽りに覆われ、長く真実を知ることのなかった僕の、本当の存在意義は
何なのだろうか。いつかは分かってもらえる、いつかは信じてもらえる、
いつかはつらい時が終わる。そうやってただ思い続けるという甘い毒こそが
僕を苦しめ、戦場でない場所でさえも僕を戦わせ続けてきた。自分の行動で
傷つき、自分の思いで悩み、自分の境遇に涙する、それが僕の人生だった。

いつしか僕たちの背後では、ジェネシスが最後の時を刻み始めていた。
ヤキン・ドゥーエの自爆と連動して設定されていた、ジェネシスの第三射。
地球へと向けられた想像を絶する砲火が放たれようとする中で、僕たちは
まだ戦っていた。すでに僕はプロヴィデンスの持つドラグーン・システムの
ほとんどを撃破していたが、同様にフリーダムも片足と盾を失っていた。
それでもクルーゼさんは語り続ける。地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる
争いの狼煙となるだろうと。彼は既にジェネシスが照射された後のことを
頭に描いていた。だが、それは早かったのだ。僕はアスランとカガリの
存在を忘れてはいなかった。そんなこと、絶対に起こりはしない。
彼らがいる限り、多くの人の想いがある限り。そして僕も、守りたい世界を
持つ者の一人として、あなたを倒してみせる―――。
両腕を切り落とされたプロヴィデンスを、ビームサーベルを一心に抱えた
隻腕のフリーダムが一直線に貫いた。小爆発を起こし動きを止める
プロヴィデンスに続き、ジェネシスの膨大なエネルギーが僕へと迫る。
それを大きく回避した後、ジャスティスの核爆発でジェネシスは崩壊した。
ラウ・ル・クルーゼ。彼は死に際に何を思っただろうか。もし彼が
微笑んでいたのだとしたら、僕は誰にも勝ってはいないことになるのだろう。
理想を追い求めたはずの僕が結局彼を殺したという事実は変わらないのだ。

パトリック・ザラは死に、地球とプラントの間に停戦協定が結ばれた。
そして死んでいった人々の想いを乗せたかのような幻想的な宇宙を、
フリーダムから投げ出された僕は静かに漂っていた。死の恐怖はもうなく、
ただ目の前の宇宙の神秘的な情景に僕は感動すら覚えていた。
―――僕たちはどうして、こんなところに来てしまったんだろう。
バイザーの前でゆらゆらと揺れるラクスの指輪が輝き、こちらへと
向かってくるストライクルージュの姿を僕は見てとることができた。
涙と微笑みと喜びと、何もかもが入り混じった表情のアスランとカガリが
僕を迎えてくれる。僕も涙にあふれ、しばらく宇宙という名の海に
その身を委ねることにした。目を閉じれば浮かんでくる、たくさんの顔。
―――僕たちの世界は、ここにある。

847人為の人・エピローグ:2004/09/30(木) 14:21
僕はペンを机の上に置き、両手を広げて大きな伸びをした。
終わりだ。これでようやく「戦争」は終わったんだ。そう考えようとする
自分とは裏腹に、こんなことをしても何にもならないという諦めの気持ちが
ふつふつと湧き上がってくるのを僕は感じていた。こんな「自伝もどき」を
書いたところで、失われたものは何も戻らないなどと言われればそれまでだ。
―――自分の行為が何の役に立った?どれだけの大切なものが失われた?
でも僕はどこか満足感を感じずにはいられなかった。それはもしかすると、
今こうして僕が生きている環境に由来するのかもしれない。かつて僕を
助けてくれたマルキオ導師のもとに、ラクスと生活する僕。ここは確かに
平和だけれど、どこか大事なものを失くしてしまったような静けさがある。
その中で自分の系譜とでも言うべきものを書き上げたことは、僕にとって
何か特別な意味を残してくれるのではないかと思えるものだった。

あえて紙には記さなかった名前が一つある。彼女は僕の手からこぼれ落ちた
存在だから、僕の手で記される必要はない。彼女は僕の中で生き続ける。
そしてそれがある限り、僕はラクスの気持ちに応えることはできないのだ。
僕は彼女を愛してもいなかった。いや、愛情を超えた想いで結ばれていた。
それが何なのかを理解するすべは僕にはない。だからこそ、分からないまま
そっとしておいてほしい。それでいいだろう?―――フレイ。

―――世界がこれ以上戦争に巻き込まれないことを祈りながら、
偽らざる人、「人為の人」は生きる。

848人為の人・作者:2004/09/30(木) 14:32
以上で「人為の人」全話終了です。
キラの思いとは裏腹に戦争がまた始まる―――そのまさに直前に
過去の出来事を思い出して筆記していく、という形式をとってみました。
先日最終話を見たせいか、PHASE−50はえらく描写が細かくなっているような……
ともかく最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。

849私の想いが名無しを守るわ:2004/10/01(金) 20:48
連載終了おめでとうございます。
放送終了してから種を見返す機会が無かったので、50話全体の流れを思い出すことが出来て非常にありがたかったです。
2ヶ月にわたる長期連載は大変だったと思いますが、多分このスレ最後になるだろう作品にふさわしい出来だったと思います。本当にお疲れ様でした。

850人為の人・作者:2004/10/02(土) 11:43
>>849
丁寧なレスありがとうございます。
どうも自分が小説を書いた所はやたら閉鎖されていくというジンクスみたいな
ものがあるので心配だったのですが、ともかく最終話まで続けられたことには
ほっとしています。2ヶ月……長いようでいて短かったです。
内容はあくまで自己流の解釈ですが、読んだ人が何かそれなりのものを
感じることができたらいいなと思っています。

851私の想いが名無しを守るわ:2004/10/05(火) 00:20
連載お疲れさまです。
最終回の色々な問題が綺麗に片づけられていて良かったです。
断片的にしか映らないキラの心情もうまくつなげられててなるほどと思いました。

852前作でラクスが死んでフレイが生きてたらスレの4:2005/08/29(月) 00:22:34
お借りします
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1124899669/からの出張です


第09話「驕れる牙」

<ユニウス7落下により、プラント連合の間には不信感が増した。そしてついに連合はプラントに対して宣戦布告。核を発射するも、ジュール隊の奮戦によってプラントは守られたのだった>

アスランは正装に身を包みながら、脇に映っていたテレビを見た
デュランダル議長が会見をしているのが見える
「済みません、ちょっと顔を洗ってきます」
案内の背広の男に断りを入れると、洗面所に足を運んだ
わずか数時間。アスランがここに来るまでのそのわずかな間に情勢は怒涛の展開を見せた
連合によるユニウス7落下の犯人達の公表、デュランダルによる説明と災害支援、連合の宣戦布告、そして……オーブの連合との同盟締結
何故だ!?とまでは言わない。どのみち避けられない事態であっただろう。しかしあまりにも早すぎた
蛇口を捻り、勢いよく放出されていた水を止めると、アスランは鏡に映った自分に自問した
「また戦う場所を失った……」
舌打ちを打つと、アスランは身を翻した。自分の顔を見ていたくなかった


「ええ、大丈夫。ちゃんと解ってますわ。時間はあとどれくらい?」
「ん?」
公式の場にはやけに似つかわしくない、若い女性の声が聞こえたから、アスランは思わず視線を合わせてしまった
「ならもう一回確認できますわね……ぁ…ぁ…あぁ…!?」
「ハロハロ、Are you O.K.?」
「ラ……クス…?」
初めは幻でも見てるのかと自分を疑った。しかし、走りよって手を握ってきたラクスの温もりは本物だった
舞台衣装を着たラクスは、感極まったようにアスランの顔を覗いてまくしたてた
「あぁ…アスラン!うれしい!やっと帰って来て下さいましたのね」
「ぁ…ぇぇ?…ぁ…」
帰った?どこに?ここはプラントで、自分はアレックス……
動転するアスランに、ラクスは畳み掛けるように話続けた
「ずっと待ってたのよ、あたし。貴方が来てくれるのを!!」
「どうして……ラクスは……死んだ筈じゃ……」
そう、死んだ筈だ。アスランは、ジェネシスに向かって散っていったエターナルも、そのエターナルの中で歌っていたラクスの声も聞いていた。忘れようも無い
「死んだ?ふふっ、おかしなアスラン。私はここにおりますのに。貴方の目の前に」
「………」
「ずっと……お待ちしてましたわ。貴方のお帰りを」
俺は帰ってきてなどいない…そう言いかけたアスランより先に、ラクスの付き添いらしい男がラクスを咎めた
「ラクス様」
「ああ、はい解りました。ではまた。でも良かったわ。ほんとに嬉しい。アスラン」
「Hey,hey,hey! Ready go!!」
「まぁ!ハロも喜んでいるのね」
ピョンピョンと跳ねるハロに語りかけるラクスの仕草は、アスランには懐かしいものであった
しかし、アスランはあのような色のハロを作った記憶もなければ、ハロの言語にそのような言語登録をした覚えは無かった
「君は本当に……」
ラクスなのか?という問いは、低い男の声に遮られた
「おや、アレックス君?ああ君とは面会の約束があったね。いや、たいぶお待たせしてしまったようで申し訳ない」
「デュランダル議長……」
カツカツとなる足音が、アスランの前で止まる
「ん?どうしたね?」
「あ…いえ…ぁぁ…」
訊ねながら、デュランダルは返答を許さない空気を持っていた
アスランはまるで父を相手にしたときのような錯覚を感じた。これが政治家というものなのだろうか
「いえ、なんでもありません…」
「そうかね?……あぁ、ラクス、仕事が終わったらまた行政府においで?私とアレックス君の話も終わっている頃だろうから」
「まぁ!はい!わかりましたわ。キングさん、早く行きましょう!私、お仕事頑張りますわ!」
「っ!!?」
戸惑いと、少しの畏怖を含んだ目で、アスランはデュランダルを見つめた
デュランダルは張り付いたような微笑と崩さず、アスランを逆にその黒い瞳で覗き込み、飲み込むようであった

853前作でラクスが死んでフレイが生きてたらスレの4:2005/08/29(月) 00:26:51
第10話「父の呪縛」


大人たちは皆、俯き、気力を失っていた
ただ、子供たちはフレイ達が作るスープの匂いにワクワクし、声を上げながら並んでいた
「……どうしたの?早くいきなさい、後ろ並んでいるんだから」
「もっと注いでよぉ」
「……アンタね、欲張らないの。沢山食べたかったらおかわりすればいいでしょ?」
「やだ。無くなっちゃうもん」
きかん坊な顔をした男の子は、口をへの字に曲げて、フレイに対抗している
「……」
フレイは黙って、お玉で男の子のお椀からスープの具を取り返した
「ああ゛ーーー!!お肉ーーー」
「……冗談よ。ホラ、これでいいでしょ?大盛り」
「……人参ばっかりだよーぼく食べれない!!」
「 リ ク エ ス ト 通 り 大 盛 り で し ょ ? 」
「……はい」
はぁ…とフレイは溜息をつくと、次の子のお椀を受け取った
しかし、流れていたラジオの緊急速報を聞き思わずそのお椀を落してしまった
『大西洋連邦をはじめとする地球連合各国はプラントに対し、宣戦を布告し、戦闘開始から約1時間後、ミサイルによる核攻撃を行いました。
 しかし防衛にあたったザフト軍はデュランダル最高評議会議長指揮の下、最終防衛ラインで此を撃破。現在地球軍は月基地へと撤退し攻撃は停止していますが、
 情勢は未だ緊迫した空気を孕んでいます』
「……どうしたの?」
子供たちは変わりなく、ご飯を求めている
大人たちは沈黙を守ったまま、動こうともせずにいる
ボランティアの仲間たちだけが、この速報にたいして反応を見せた
「核だってよ……」
「信じられない…」
「開戦?」
「ぶっそうなもんバカスカ撃ちやがって……これならニュートロンジャマーで核使えない方がマシだったな」
「それは……でも、そうかもね」
「馬鹿言わないでよ。アレが撃ち込まれて、エネルギー不足で何億人が死んだと思ってるのよ」
フレイは胸を締めつけられるようだった
生きているのが辛かった。こうしてボランティアで各地をめぐるたび、そう思った
ニュートロンジャマーキャンセラーを運んだのは自分なのだと思うたび、アークエンジェルにいたことすら、自分が戦争を長引かせたような気すらして
「キラ……」
昨日、もっと話せばよかった。泣きついて、甘えればよかった……本当は近くに居たいと言ってしまえば良かった
そうすれば、キラは受け入れてくれただろう。言葉じゃなくて、暖かいその両手で私を抱きしめてくれただろう
「でも……許せないもの」
落したお椀を拾って、別のお椀に変えて、女の子にスープを注いであげた
フレイは俯かないことにした

854前作でラクスが死んでフレイが生きてたらスレの4:2005/08/29(月) 00:34:47



同じニュースを、アスランも聞いていた
デュランダル議長と共に
「そんな…まさか…!」
「と言いたいところだがね、私も。だが事実は事実だ」
テレビのニュースキャスターはこの異常な事態を繰り返し、繰り返し報じていた
プラントのテレビだからであろう、キャスターは噴気に耐えれぬ声で、読み上げている
「君もかけたまえ、アレックス君。ひとまずは終わったことだ。落ち着いて」
そういうと、デュランダルはスッとその手をソファに向けて、アスランを促した
この男の、こういった間こそ、若くしてプラント最高評議会議長に上り詰めさせた天性の才能であった
「…んッ…」
「しかし…想定していなかったわけではないが、やはりショックなものだよ。こうまで強引に開戦されいきなり核まで撃たれるとはね」
自分は想定すらしていなかった……アスランは自分の甘さに歯噛みをした
「隠しきれるものではない。プラントには事実を全面的に公表している。当然、市民の感情は……」
「 しかし…それでも、どうか議長!怒りと憎しみだけでただ討ち合ってしまったら駄目なんです!
 これで討ち合ってしまったら世界はまたあんな何も得るもののない戦うばかりのものになってしまう…。どうか…それだけは!」
悲痛な、それは芝居がかったと言っていいくらいの顔をしてみせたデュランダルに、アスランは懇願する
「そうだな。この状況で開戦するということ自体、常軌を逸しているが……我々がこれに報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場となりかねない。
 解っているさ。無論私だってそんなことにはしたくない。だが市民は皆怒りに燃えて叫んでいる。許せない、と」
デュランダルは薄暗い応接室の窓を開いた。窓からはプラント市内を一望出来る
この行政府の下に集まる市民のデモも
「私が只一人のギルバート=デュランダルならば、あそこに混じりたい気分だがね
 既に再び我々は撃たれてしまったんだぞ、核を。ここからでも彼らが何を言っているか充分に聞こえるよ、私には
 「報復を!」 「守る為よ、戦うわ!」 「犠牲が出てからでは遅いんだぞ!」 「もう話し合える余地などない!」
 ………どうかな?君も聞こえるだろう?アレックス君」
振り向いたデュランダルの視線に耐え切れず、アスランは声を荒げ、否定した
「俺は…俺はアスラン・ザラです!」
テーブルに置いていたサングラスを拳で叩き割りながら、アスランは叫ぶ
「二年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です!
 父の言葉が正しいと信じ、戦場を駈け、敵の命を奪い、友と殺し合い、間違いと気付いても何一つ止められず、全てを失って…なのに父の言葉がまたこんなッ!」
「ではアスラン、その血塗られた手で私を殺し、あの民衆に迎えられるといい。そしてザフトの兵を率い、弔いの戦いの先頭をゆくがいい」
感情を込めない声で、デュランダルはアスランを見下ろし、そして自分は代弁者であるかのようにアスランを促して見せる
「違う!絶対に繰り返してはいけないんだ!あんな…!」
アスランはこれでもかと、きかない子供みたいに首を振った

855前作でラクスが死んでフレイが生きてたらスレの4:2005/08/29(月) 00:37:27
「アスラン…ユニウス7の犯人達のことは聞いている。シンの方からね。
 君もまた……辛い目に遭ってしまったな」
デュランダルはゆっくりとしゃがむと、サングラスの破片が突き刺さって、血を流すアスランの手をとって父親のような優しさで包み込んだ
「いえ違います。俺はむしろ知って良かった。でなければ俺はまた、何も知らないまま…」
「いや、そうじゃない、アスラン。君が彼等のことを気に病む必要はない。君が父親であるザラ議長のことをどうしても否定的に考えてしまうのは、
 仕方のないことなのかもしれないが。だが、ザラ議長とてはじめからああいう方だったわけではないだろう?」
「いえそれは…」
否定しようとして、出来なかった。アスランの知ってるパドリックは……あの頃の、父も母もいたザラの家族は……優しかった。大好きだった
それをずっと否定したかった。忘れようとしていた。その自分に、アスランは……気づいた
「彼は確かに少しやり方を間違えてしまったかもしれないが、だがそれもみな、元はといえばプラントを、我々を守り、より良い世界を創ろうとしてのことだろう
 想いがあっても結果として間違ってしまう人は沢山居る。またその発せられた言葉がそれを聞く人にそのまま届くともかぎらない。受け取る側もまた自分なりに勝手に受け取るものだからね」
「議長…」
「ユニウス7の犯人達は行き場のない自分達の想いを正当化するためにザラ議長の言葉を利用しただけだ」
断言したようにデュランダルは言った。それは矛盾を孕んでいた言葉だったが、アスランに気づくだけの余裕は無かった
「だから君までそんなものに振り回されてしまってはいけない。彼等は彼等。ザラ議長はザラ議長。そして君は君だ。
 例え誰の息子であったとしても、そんなことを負い目に思ってはいけない。君自身にそんなものは何もないんだ」
「議長…」
「今こうして、再び起きかねない戦火を止めたいと、ここに来てくれたのが君だ。ならばそれだけでいい。一人で背負い込むのはやめなさい」
アスランが幼い頃、彼の父がしてくれたように、デュランダルは肩に置いた、
「ぁぁ…」
「だが、嬉しいことだよ、アスラン。 こうして君が来てくれた、というのがね
 一人一人のそういう気持ちが必ずや世界を救う。夢想家と思われるかもしれないが私はそう信じているよ」
それは我が子の成長を喜ぶような言い方であったと、アスランは記憶している

856前作でラクスが死んでフレイが生きてたらスレの4:2005/08/29(月) 00:39:45



アスランはデュランダルについていきながら、二年ぶりのザフトの軍事基地内を歩いた
「……」
「どうかしましたの?」
隣を歩くラクス=クラインが話しかける
「何でもない、ミーア」
君には隠しきれるものではないだろうと、デュランダルはこの少女の正体を明かしたが、実を言えば、それほど彼女と深い関わりは無かったとアスランは思った
この少女はラクス=クラインの身代わり。笑ってくれてかまわないとデュランダルは言った。小賢しくプラントに強い影響力をもつ彼女の虚像を使うことを
そして、君の力も必要としているのと言われた時、心が躍ったことを、必要とされたことを、
だが、この前をいく男の背中を、そこまで信用していいのだろうかとも、アスランは思う
「ここだ」
厳重にロックされ、警備されたドアが、デュランダルによって開かれる
おそらく、ザフトの基地が変わっていなければここはMS格納庫であった筈だと、アスランは思い、足を踏み入れた
「ぁぁ…これは…」
「まぁ…」
アスランとミーアは息を呑んだ
冷たい、無機質な格納庫の中で、主を待つ鉄の剣が仁王立ちしていた
「ZGMF-X23Sセイバーだ。性能は異なるが例のカオス、ガイア、アビスとほぼ同時期に開発された機体だよ。この機体を君に託したい、と言ったら君はどうするね?」
切れ長の、自信に溢れた目が、アスランに注がれた。自分に無い、この目にアスランは弱い
「…どういうことですか?また私にザフトに戻れと」
怪訝そうな顔をアスランは向けてみせた
そうでもしなければ、自分はこの状況を何も疑わずに受け入れてしまいそうだったからだ
「ん…。そういうことではないな。ただ言葉の通りだよ。君に託したい。
 まあ手続き上の立場ではそういうことになるのかもしれないが。私の想いは、先ほど私のラクス・クラインが言っていた通りだ。だが様々な人間、組織、そんなものの思惑が複雑に絡み合う中では、願う通りに事を運ぶのも容易ではない。
 だから想いを同じくする人には共に立ってもらいたいのだ。出来ることなら戦争は避けたい。だが、銃も取らずに一方的に滅ぼされるわけにもいかない。
 そんな時のために君にも力のある存在でいてほしいのだよ。私は。ミーアにはその立会い人になって欲しくてね」
「議長…」
「先の戦争を体験し、父上の事で悩み苦しんだ君なら、どんな状況になっても道を誤ることはないと信じてる。我等が誤った道を行こうとしたら君もそれを正してくれ。その為の力だ
 ……急な話だから、直ぐに心を決めてくれとは言わんよ。今日はミーアと一緒に食事でもして、休んでくれたまえ。そして考えてくれ、君に出来ること。君が望むこと」
デュランダルは灰の鉄の巨人に手を触れると、アスランに言った
「それは君自身が一番よく知っているはずだ」

857私の想いが名無しを守るわ:2005/08/29(月) 01:08:34
>>852-856

フレイはキラに依存しない様にしてるみたいだね
その辺りが「成長したんだな」って感じで良い
最初の二人の関係が依存から始まったし

それと、アスランは無意識の内に両親って存在を求めてるのかなと
新シャアスレのカリダとのやり取りや
今回の議長とのやり取りにふっとそう思った
今はいない父親の姿を議長に求めて、認められたい…ってね
その辺り、シンとも似てるのかもしれないが

858私の想いが名無しを守るわ:2005/09/03(土) 22:47:40
乙です。

ラクスが死んでいたらというIFのせいで、
ミーアと会ったときのアスランの動揺ぶりが切実そうでなるほどなぁと。
そうすると議長がやってること(ラクスという偶像が必要)の正当性って強くなりますしね。

まぁそれはそうとフレイのこれからの役割がどうなるか期待。

859私の想いが名無しを守るわ:2005/09/24(土) 10:16:22
フレイ・・・

860私の想いが名無しを守るわ:2005/10/23(日) 14:59:23
他キャラが死んでいたらな過程での話自体が、どうかとオモ。

861私の想いが名無しを守るわ:2005/12/26(月) 22:08:43
人いな杉
過去ログ見て結構良いSSとかあったりしたのになぁ

862私の想いが名無しを守るわ:2006/09/23(土) 03:11:20
フレイ厨って痛杉

863 ◆eOdxQcpQdk:2009/04/24(金) 20:50:11
tesuto

864バーバリー バッグ:2012/11/06(火) 21:08:11
こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま〜す。よろしくお願いします
バーバリー バッグ http://burberry.suppa.jp/

865もしフレイが生きていたら:2015/03/22(日) 21:28:25
18歳にしてオーブ軍准将となったキラヤマト、彼はプラント代表ラクス・クライン
と公認パートナーがいながら2人の関係はプラトニックだった。
彼には16歳の時から囲い人のような関係にあるナチュラルの恋人がいた。
故大西洋連邦事務次官ジョージアルスター令嬢フレイアルスター。

866もしフレイが生きていたら:2015/03/22(日) 21:30:54
というssが書きたいのですが自信がありません。

867私の想いが名無しを守るわ:2015/08/22(土) 02:58:21
読みたいです。ぜひ^-^


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