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フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜

816人為の人・PHASE−28:2004/09/07(火) 12:27
艦長の計らいで、僕達は両親との面会を許されることになった。
サイ、トール、ミリアリア、カズイ。きっとみんな安心と喜びの笑顔に
満ち溢れながら、長く隔てられていた家族と再会したのだろう。
でも僕は決して会いに行こうとはしなかった。父さんと母さんのことは
オーブにたどり着いて以来ずっと気になっていたことだけれど、
それはもうどこか手の届かない遠い世界のことのように思えていた。
日常が崩れて戦争に追われ、闘争本能をむき出しにする狂戦士。
それが僕だ。コーディネーターであるがために大きすぎる力を
何の苦もなく使いこなし、結果妬まれ憎まれて疎外されていく。
他の多くの人が苦しんできたように、僕もまたどうして自分が
コーディネーターとして生まれてきたのかを両親に尋ねたいと、
そんな気持ちばかりが膨らんでいった。しかし、そんな問いかけを
してみた所で何の解決にもならないのだ。僕が依然として「異常」な
存在であることに変わりはなく、両親の苦悩を増すだけにすぎない。
家族に会えないことは涙の出るほどに悲しかったが、すでに僕は
涙に彩られた自分の運命に違和感を感じさえもしていなかった。

その日、久しぶりに作業が早く終わった僕はアークエンジェルの
自分用の個室へと向かっていた。扉を開けてみると、中には誰も
いない。てっきりあの子の名前を呼ぼうとした僕だったが、
どこかへ出かけているのだと考えて帰ってくるまで部屋にいることに
した。最近ずっと彼女には会っていなかったし、心配しているだろう
と思ったからだ。ドアを開けた先にいる、コンピューターに向かう僕を
あの子はどう思うだろう。久しぶりに会えたことを喜ぶだろうか?
それとも長く一人にされたことに怒りをぶつけるだろうか?
僕は二つの選択肢のどちらがあの子の本心を得ているかどうかを
考えながら、背後にスッと自動式の扉が開かれる音を感じた。
笑顔を見せて振り向く。できるだけ優しい声で、彼女に語りかける。
どんな考えを持っているか分からないあの子がどう応じるのか、
僕の中をやや一定した量の緊張が流れた。そして、返答の時間。
―――冗談じゃないわ。やめてよね。
返された答えは全く予想だにしないものだった。

僕があの子にかけた言葉は同情と受け取られ、彼女はなぜあなたに
同情されなければならないのかと強い調子で詰め寄った。そこには
怒りや憎しみだけでなく、愛情や悲しみですら織り込まれている
ように思えて僕はひどく焦った。これほどにまで複雑化した気持ちを
僕はとても理解してあげることができない。あの子の僕への思いは
いつの間にか言いようのないほどに大きく変化していて、その衝撃を
僕はまともに受け入れることさえ不可能だった。可哀想なキラ、
一人ぼっちのキラ。あの子が見ていた「僕」そのものがあふれ出す。
戦ってつらいことも、守れなくてつらいことも、すぐに泣くことも、
みんなみんな嘘なんかじゃない。間違いなく本当のことだった。
そして―――それが本当のことである以上、彼女が僕のそばにいる
ことは僕にとっても彼女にとっても悪い結果しか導かないのでは
ないか、そんな考えが急速に頭をもたげてくる。
悪くない考えだった。そして、第一に卑怯な逃亡手段でもあった。
―――何よ、そんなの。
あの子が悲痛な叫びとともに出ていく。僕はその後を追わない。
とうとう僕は、彼女との関係を「間違ったもの」として拒絶した。

あの子との関係を断ち切った後、僕がOS設定の作業している最中の
ことだった。ずっと肩に止まっていたトリィが動き出し、どこかへ
飛んでいってしまったのだ。まるで新たな主人を見つけたかのように
旅立っていったトリィを捜すべく、僕はモルゲンレーテの工場を出て
敷地内を歩き回った。そしてついに見つけ出したのだ。
フェンスの向こう側で静かにたたずむトリィと、それを肩に乗せた
青い作業服の青年、アスラン・ザラを。他に向こうには何人かいた。
僕は思わず駆け寄った。彼の方でもこちらに気づいたのか、そのまま
ゆっくりと歩いてくる。やがてフェンス越しに僕達は再会した。
君の、というアスランの声。差し出された手にはトリィ。僕にはただ
それを受け取ることしかできない。いや、本当にそれしかできない?
僕は必死の思いで言葉を探し、アスランへの言葉を他ならぬ彼自身に
よそよそしく伝える。昔友達にもらった、大事なものなのだと。
アスランは去っていく。後ろにいた同じ作業服姿の少年たちは
敵のガンダムのパイロットだったのだろう。
沈みかけていた夕日が、すでに遠く隔てられてしまった僕たちを
オレンジ色に染め上げていた。ひどく悪魔的な美しさだった。


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