今回の露軍機撃墜に対し、米政府は「露トルコ間の問題であり、わが国には関係ない」と表明している。だが、実は米国も関係がある。撃墜された露軍機のパイロットを捜索するため、露軍はヘリコプターを現地に派遣したが、地上にはアルカイダ系のテロ組織(形式上、穏健派とされるFSA[とは註:シリア自由軍]の傘下)がおり、やってきたヘリに向かって小型ミサイルを撃ち、ヘリは何とかテロ巣窟の外側のシリア軍の管轄地まで飛んで不時着した。この時、テロ組織が撃ったミサイルは、米国のCIAが「穏健派」の反アサド勢力を支援する策の一環として贈与した米国製の対戦車砲(TOWミサイル)だった。テロ組織自身が、露軍ヘリに向かってTOWを撃つ場面の動画を自慢げに発表している。この動画は、米国が「テロ支援国家」であることを雄弁に物語っている。 (FSA video claims Russian-made helicopter hit with US-made TOW missile near Su-24 crash site) (U.S.-Backed Syrian Rebels Destroy Russian Helicopter with CIA-Provided TOW Anti-Tank Missile) (露呈するISISのインチキさ)
トルコはNATO加盟国だ。NATOは、加盟国の一つが敵と戦争になった場合、すべての同盟国がその敵と戦うことを規約の5条で義務づけている。そもそもNATOはロシア(ソ連)を敵として作られた組織だ。戦闘機を撃墜されたロシアがトルコに反撃して露土戦争が再発したら、米国を筆頭とするNATO諸国は、トルコに味方してロシアと戦わねばならない。これこそ第3次世界大戦であり、露軍機の撃墜が大戦の開始を意味すると重大視する分析も出ている。ロシアとNATO加盟国の交戦は60年ぶりだ。 (Russia shooting highlights Ankara defiance) (World War 3 risk as Turkey threatens Russia with 'serious consequences')
ここ数年、米欧日などのマスコミや政府は、ロシア敵視のプロパガンダを強めている。NATO加盟国のトルコの当局は、ロシアと対決したら世界が自国の味方をしてくれると考えているだろう。だが、私の見立てでは、世界はトルコに味方しにくくなっている。今回の露土対立は、世界大戦に発展しにくい。 (No, Turkey shooting down a Russian warplane will not spark World War III) (Turkey-Russia Confrontation Risks World War Or Impotent NATO)
ISISやアルカイダの創設・強化は米軍の功績が大きい。米国は、ISISやアルカイダを敵視するふりをして支援してきた。ロシアとISISとの戦いで、米国主導の世界の世論(プロパガンダ)は「ISISは悪いけどロシアも悪い」という感じだった。だが、先日のパリのテロ以降、それまで米国のマッチポンプ的なテロ対策に同調していたフランスが本気でISISを退治する方に傾き、国際社会の全体が、ロシア主導のISIS退治に同調する傾向になっている。ISISへの加勢を強めているトルコと裏腹に、世界はISISへの敵視を強めている。 (Turkey-Russia tensions muddy anti-Isis alliance in Syria) (France Wants Grand Coalition Against ISIS, But US Still Seeks to Exclude Russia)
その中で、今回の露軍機の撃墜は、露土戦争に発展すれば、ISISやトルコよりロシアの方が悪いという、善悪観の逆転を生むかもしれない。トルコはそれを狙っているのだろう。だが、ロシアがうまく自制し、国際社会を「やっぱり悪いのはISISだ」と思わせる方向に進ませれば、むしろISISやアルカイダを支援してロシアに楯突くトルコの方が「テロ支援国家」で悪いということになる。 (Assad only winner after Russian jet downed)
フランスなどEU諸国はすでに今秋、トルコが国内にいた大勢のシリア難民をEUに流入させ、難民危機を誘発した時点で、トルコへの不信感を強め、シリア内戦を終わらせようとアサドの依頼を受けて合法的にシリアに軍事進出したロシアへの好感を強めている。今後、トルコがNATO規約5条を振りかざして「ロシアと戦争するからEUもつきあえ」と迫ってくると、EUの方は「騒動を起こしているのはトルコの方だ」と、ロシアの肩を持つ姿勢を強めかねない。露軍機が17秒しか領空侵犯していないのにトルコが撃墜したことや、トルコがISISを支援し続けていることなど、トルコの悪だくみにEUが反論できるネタがすでにいくつもある。難民危機も、騒動を扇動しているのはトルコの方で、ロシアはテロ組織を一掃してシリアを安定化し、難民が祖国に戻れるようにしようとしている。これらの状況を、EUはよく見ている。 (Turkey's attack provocation to split int'l anti-terrorist coalition - French politician)
>>1292-1205
米国の外交政策立案の奥の院であるシンクタンクCFRの会長は「ロシアを敵視するトルコの策はISISをのさばらせるだけだ」「トルコはかつて(世俗派政権だったので)真の意味で欧米の盟友だったが、今は違う(エルドアンの与党AKPはイスラム主義だ)。形式だけのNATO加盟国でしかない」と、やんわりトルコを批判し「ロシアのシリア政策には良いところがけっこうある」とも書いている。 (Opponents of Isis must influence not isolate Russia)
トルコは、国内で使用する天然ガスの6割近くをロシアから輸入している。エネルギー総需要の2割がロシアからの輸入だ。こんな状態で、トルコはロシアと戦争に踏み切れない。ロシアは、軍事でトルコを攻撃する前に、契約の不備などを持ち出してガスの供給を止めると脅すことをやるだろう。 (Russia Declares Warplane Downing A "Hostile Act" But Will It Cut Turkish Gas Supplies?)
それよりもっと簡単な報復策を、すでにロシアは採り始めている。それは、これまで控えていた、トルコの仇敵であるシリアのクルド人への接近だ。露政府は最近、シリアのクルド組織(PYD、クルド民主統一党。クルド自治政府)に対し、モスクワに大使館的な連絡事務所を開設することを許した。シリアのクルド組織に対しては最近、米国も接近している。米軍は50人の特殊部隊を、PYDの軍事部門であるYPDに顧問団として派遣し、ISISとの戦いに助言(もしくはスパイ?)している。シリアのクルド人自治政府に発展していきそうなPYDに、すでに米国が接近しているのだから、ロシアが接近してもまったく問題ない。困るのはトルコだけだ。 (Syrian Kurdish PYD to open representative office in Moscow)
市街地テロ 銃撃戦はジャカルタの中心部で繰り広げられた Darren Whiteside-REUTERS
インドネシアの首都ジャカルタで14日に発生した銃撃事件では、実行犯とみられる5人と民間人2人の計7人が死亡した。複数の爆発と警察との銃撃戦があったのは、買い物客で賑わうジャカルタ中心部のショッピングモール「サリナ」周辺。ジョコ・ウィドド大統領は、今回の事件を「テロ行為」と非難した。
ウィーンを訪問していたジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官も米国と同盟国の制裁を解除を発表し、「核兵器の脅威が低下したため、全世界は安全になった」と語った。また、国連(UN)の潘基文(バン・キムン、Ban Ki-Moon)事務総長も「合意履行に向けた全当事者の誠実な取り組みを反映している重要な通過点」とコメントしている。(c)AFP/Simon Sturdee with Arthur MacMillan in Tehran