(見渡せば真っ赤な林檎が転がっているのが目に入る。当然と言えば当然だろう、自分が木から落ちてぶちまけたのだから。発作は治まらなくて苦しいし、風や雪は冷たいし…このまま凍死するか発作が酷くなって死ぬか…そんな事ばかり考えてしまう…自分はこの国を…大好きな人達を守らなきゃいけないのに…。はぁ、と溜め息を吐くとそれは白い煙となり空に溶けた。ー自分に両親はいない…いや、“もう“いないと言うべきだろう。ぼんやりと昔の事を思い出していればふと遠くから此方に近付いてくる足音が聞こえた。誰だろう…と朦朧とする意識の中で考える。誰かが自分の目の前で止まった。チラリと上目で相手を確認するとまず目がいったのは毒々しい、けど綺麗なバイオレッドに所々ショッキングピンクのメッシュが入っている凄く目立つ髪。次に顔全体、綺麗な顔立ちは一見女の人にも見えるけど自分も時々間違えられる時があるので分かる、相手が男だと。それから全身、と順に目を動かして。やはり、ここの住民では無さそうだ…だとしたら敵か、と冷静に判断していると相手が突然話し掛けてきた。チェシャと名乗る相手…それで思い出した、国の誰かがQueen of Heartsに凄い情報屋がいると。だから知らないかと言う相手に対して小さく首を振り、名前と仕事の事は知ってると答えた。大丈夫?なんて言う相手に大丈夫、と答えようとしたが相手の次に放った言葉によってそれは途切れた。平和主義者の事ならまだしも、どうして誰にも言っていない病弱と言う事が初対面の相手に知られているんだ。驚きに目を見開くと咳き込みながらも尋ねて。…他国に持ち帰れば、と楽しそうに話す相手にほんの一瞬だけ恐怖した。だけど、自分はそんなに柔じゃない、キッと少しだけ相手を睨むようにして見ると言葉を紡いだ。しかし、助けて欲しい?なんて言われれば睨むように見ていた表情から一変、キョトンとした表情に変わる。助ける?他国の自分を?自分なんか助けても相手にメリットは無いだろうにとか助けるにしてもどうやって助けるのだろうなんて疑問を持ちながらも今の自分じゃ城に戻る事も出来そうに無い、一瞬考える様にうつ向くも相手の方を見れば助けて欲しいと小さく呟いて…。)
…?チェシャ、さん…?…名前は知ってます、後凄い情報屋さんって事は…。…!…ど、どうして病弱って事を…?…っ!?…こんな私なんて売っても使い物になりませんよ…それに、良いように利用されて国の皆に迷惑をかける位なら…私は自らこの命を絶ちますよ…。…ぇ?で、でも………え、と…た、助けて欲しい、です…。
>>150強欲な切り札(Joker)
(しゃがみ込んでいた姿が気になってしまいランプの光を翳してよく見ようとした瞬間勢いよく立ち上がった相手は開口一番に縋る様に、それでいて捲くし立てる様に状況説明を成した。その勢いのよさに思わず瞳を丸く見開いて呆気に取られたが、直ぐに先程に比べ劣りはしつつも変わらず拒否の言葉を放つ。声や口調から女性だとは把握していたものの思いの外目線が合わない事に気付き、白と赤のペイントが施された派手な顔を半分とオレンジ色の髪を確認すると直ぐに視線を逸らして太腿に収まりランプの光を反射しながら存在感を知らせる拳銃を捉えた。肩には散弾銃も窺える。本人の口からも出たが顔のペイントからしてQueen of Heartsの、そしてその装いからして備兵等々の軍事関係者に違いない。迷子であるという話自体作り物、または確認しきれぬ場所に所持した武器で攻撃を仕掛けてくる等の可能性も否めない。眉を顰めながら整った拒否の理由を固め改めて城内への出入りを禁じたが、最後の一押しと言わんばかりに頼み込まれてしまうと頼み事を断れない身としては無情にもその場から去るなんて事は出来ず、思えば合わせられた手の奥に潜む顔はひどく情けなく歪められており疑った様に作り話や演技ではない事がひしひしと伝わって来る。悩んだ末に少し待っているよう命じれば急ぎ足で城へ、そして部屋へ戻り、毛布一枚に小さなパンが二つ入った紙袋、それから飲料水を両手に抱え僅かに息を弾ませながら再び姿を現した。紙袋と飲料水、ランプを一旦地面に置き門の錠を外して表に出れば毛布を差し出しながら申し訳無さそうに告げた)
…っだ、めだ!他国の者を招き入れる事は出来ない。…――少しそこで待っていろ。――――――これしかないけど我慢してくれ、…空腹ならパンも持って来た、から。
>>171異世界のアリス(A-Zwolf)
…少しでも私に関する情報を掌握されているのは意外でしたが、まあ…話は早い。私は貴方様の国、――恐らく貴方様自身にとっても、充分に利用価値のある人間だという情報も付随して覚えておいて下さい。
(言った矢先、風に乗って鼻腔を擽る様に香る薔薇の匂いに眉を顰める事で、彼が己の存在をある程度認識してるらしい事実への驚きを隠そうとした。その驚きも一人の人物、己とも関係性がある名の知れた情報屋のいつもの笑みが脳裏に過ぎり直ぐに萎んで行って、眉を顰め嫌悪を表していた顔を僅かな呆れへと変化させる。その間にもぽつりぽつりと言葉は唇から零れ落ち相手に抱いた一つの意志を告げるべく跪いた体制から再び立ち上がって、背後に広がるQueen of Heartsの景色へと顔だけを向けて横目で見遣った。たかが下っ端の世話役であろうと城内に仕え三役の傍に身を寄せる立場、国の情勢や心髄を把握するには事足りる上にその立場は二つの国に渡って担っているのだ。必要があれば自国を象徴とする薔薇の香りを嫌いになれるという言葉は愛国心の無さは勿論の事、それと同時に今現在その必要は無いと捉える事も可能。相手が王冠の奪い合いに関してどう考えているかまでは不明だが、いずれにせよ他国の情報を握るに損は無い。BlueMermaidは兎も角SnowWhiteの情報まで伝えるのは気が引けるがこの際背に腹は変えられない、ある程度なら虚偽を交えたって良いだろう。早く母国へ、SnowWhiteへ戻りたい。その糸口になれば。そんな焦燥感から情けなくなってしまった表情を見られまいと顔は背けたまま、しかし凛とした声色は保って彼へと告げた。細かい説明は追々でも構わないだろうし、極端な言い方をすれば彼は馬鹿じゃない。ある程度自主的に把握してくれるだろうと期待を孕ませて。)
(──助けが来ない。その恐怖からチラリと過去の自分が脳裏に過ったのは、彼にしか分からない事。強く目を閉じて歯を食いしばると、彼に掛かっていた力が緩む。驚いて目を見開くと、そこには無様に転がる男の姿。そしてもう一人。Queen of Heartsの傭兵、ジョーカー本人の姿がそこには在った。まさかこんな所で出会う事になろうとは。驚きを隠せない表情ではあったが、頭は冷静に対処し、状況を把握。一言で纏めれば女に助けられた──と言う事になる。仮にも男である彼にとって、それは些か癪に触った。とは言え、あくまでも助けられた身。躊躇いながらも差し出されたポンチョを素直に受け取って羽織る。男女の差が感じられない程服のサイズはピッタリ。妙な対抗心を抱いてしまうのは、彼が男であり、精神が幼い故だろう。服の汚れを払って立ち上がり、お礼の前に彼はベルトに付けられたホルスターから拳銃を抜き、相手の額に突き付けた。そう簡単にやられはしない、と子供っぽい意地を張っているのだろう。そして引き金に手を掛け、銃口から飛び出るのは色取り取りの紙吹雪。あくまでもホルスターに入っているものは見せ掛けだ。満足したところで笑みを浮かべて拳銃を納め、彼はお礼と共に冗談混じりの言葉を掛ける。)
チェシャはこれでいーの。それに、全く抵抗出来ない訳でもないからね。──なーんて。助けてくれたのは感謝してるよ、ジョーカー。噂通り、強くて格好良いねぇ?チェシャも惚れちゃうかも。