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【15周年記念】ジョジョの奇妙な問題集【自由参加企画】
57
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/12(火) 21:10:09 ID:0.3HTb3E0
【課題名】
ちょっと持っててください!
【使用オリスタ】
No.8851ジ・オールマイティ
【解答】
「ちょっと持っててください!」
「は?」
昼下がりの公園、突然挙動不審な男に段ボール箱を押し付けれるように手渡された少年は分けも分からず、しかめ面になりながらぼやいた。
「何だあのチー牛?人様に断りも無しに荷物を押し付けやがって!まぁ……ウンコならしゃーないか。最強故に寛大な俺様に感謝する事だな」
口の悪そうないかにもなクソガキだが、公衆トイレに爆走していった男が今何をしてるのか察したのか、少年は仕方なく男の帰りを待つことにしてやった。折角だからのこのこ帰ってきた暁には、「や〜い!ウンコマ〜ン!汚い手で触るんじゃねーぜッ!」みたいな感じで、きっちりといじり倒してやろうかと考えていたが……肝心要の男は中々戻ってこない。
「便秘かな?」
何となく理由を察するが、少年は次第にむかっ腹が立ってきた。なんで糞ったれのチー牛のために、自分はこんなにも待たされなければならないのか?
あまりにも遅いので少年は段ボールを抱えたまま、
男の様子を確認するため公衆トイレに入るが。
「お〜い、ウンコマ〜ン!トイレットペーパーがなくて困ってんのか〜?」
なけなしの気づかいの言葉をかけるが、男からの返答はなく。そもそもトイレの中には誰もおらず、何やら人1人が通り抜けられる抜け穴が出来ている。
トイレの中にいないという事は、つまりこの抜け穴から逃げ出した事になるが、大事な荷物を人に押し付けたまま何故?
悪戯好きのクソガキはすぐに答えに辿り着く。とっさに段ボールを開けてみると、そこにはアニメやドラマに出てくるようなあからさまに分かりやすい時限爆弾があった。残り時間を見てみれば13秒―――
最強を自称するクソガキはまず、ありのままの現実を受け止める。走馬灯のようなものが脳内から溢れだす。それは彼の力をちゃちでしょーもないくだらない能力だと馬鹿にされた事、しかし少年は知っている。「くだる」「くだらねー」は頭の使い方ひとつで変わることを。
「ジ・オールマイティ!!!」
めちゃくちゃ強そうな(少年談)装飾に溢れた人型のスタンド、その背面は装飾がほとんどなく貧相な格好でプリケツも惜しげもなく晒しているが……見方1つで強そうにも弱そうにも見える見た目をしている。
その能力は『なんでもできる』能力。炎も風も氷も雷も出せるし瞬間移動も時間停止それ以外にも色々できるが、炎を出してもライターの火程度、風はそよ風レベル、氷は手のひらサイズ、雷はイタズラグッズのビリビリおもちゃくらいの電気しか起こせない。瞬間移動は10cmくらいしか飛べないし、時間停止は停止時間が0.001秒とかそういうレベルで……ぶっちゃけ本当にショボくてどーしようもない頭を抱えてしまうレベルの酷さであるが―――少年は高らかに己の能力の真価を吠える。
「能力解放!不可説不可説転!!!!」
1発1発がしょーもない力しか発揮できないが、『何でもできる』なら出来る事を何百何千何万何億と同時発動してしまえば?些細な極小の影響力でも何百何千何万何億でも組み合わせてしまえば?塵も積もれば山となるが如く、しょーもない微小の力故に燃費はさほど悪くない―――能力の裏をかいたこじつけかもしれないが、少年がたどり着いた〈ジ・オールマイティ〉の本質は無限に等しい手数であったッ!
「セレクションッ!!!【ディフェンス】【バリア】【ディレイ】【シール】【ストップ】【フリーズ】【ブレイクダウン】【エラー】【アクシデント】【エネルギードレイン】【ラッキー】ついでにおまけの【アンラッキー】これで何とかなりやがれーッ!!!!!!!」
先ほどから中二病的なキーワードを繰り返し喚いているが、これこそ彼の努力の結晶。予め自分が出来る能力を把握した上で、キーワードという大枠で複数の類似した能力を1括り捉える事で、無数の類似能力を同時に発動するスイッチとしているのである。
自身の能力を把握しきれていない頃は、他のスタンド使いに圧倒されて数えきれない程の辛酸を舐め続けてきたが、それでも自分は最強だと意地っ張りに信じ続けたガッツの賜物であろう。
時限爆弾のカウントは3秒のところで止まると、そのまま完全に動かなくなってしまう。3秒経過しても爆発する事はない。自身の能力が時限爆弾を上回った事を悟った少年は、勝利の雄叫びを恥ずかしげもなくあげる。
「しゃぁぁぁぁぁぁおらぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!どんなもんじゃぁぁぁぁぁぁああああああいッ!!!!!!!!あのチー牛許すまじィッ!!!!!!!!」
自称・最強のクソガキは血相を変えて自分を陥れようとした爆弾魔を追跡する。いつだって全力全開必死になりながら。
58
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/13(水) 02:08:02 ID:Bljozic20
>>54
短めあっさりを想定してたのですが思ったよりコッテリたっぷりで良かったです。
相手側に細かな設定、良いです良いです。
>>56
続きものに嬉しい驚き。
ただやっぱり能力なしでは数多くてもあっさりになりそうなので、もう少し捻りを入れねばと出す側として反省です。
>>57
急なアドリブはジョジョの花、ハイテンションなキャラと合わせて説明会として綺麗に回答できてると思います。
59
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/13(水) 22:55:25 ID:/ankj.Us0
>>58
感想有り難うございます!
>>56
は前振りの説明込みで1レスで纏めたので、薄味の解答となりましたが、至れり尽くせり様々な問題をお膳立てしてもらってる身としては、どんな問題でも大歓迎でありますm(_ _)m
60
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/14(木) 12:00:14 ID:msbAkqMU0
【課題名】凶弾
【あらすじ】
あなたは日本海を航海する客船の食堂で食事を取っています。
するとナタとライフルで武装した男が現れて男はとある過激派テロ組織の一員を名乗って「この船をイギリスまで向かわせろ、さもなければこのケースの中にある神経ガスでここにいる奴らを皆殺しにする」と宣言します。
すでに一部の乗員乗客が切りつけられており、下手に刺激すれば殺されるかもしれません。
【クリア条件】
生き延びてください
乗員乗客を生かすか殺すかは任意です
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
男は精神に異常をきたしており実際はただ理由もわからずそう話してるだけです、所持しているケースの中に入っているのも実際は作り物かもしれません。
話しかけてもおそらくナタで斬り殺されるでしょう。
【課題名】迫るノック
【あらすじ】
あなたは急な便意を催し急いでトイレに入りました。用を足し終え外へ出ようとするとトイレには洋式トイレしかないことに気づきあなたはここは女性用トイレであると察します。
しかし外へ出ようとした途端更にトイレに人が入ってきたのであなたは急いでトイレに隠れます。しかし、他のトイレは故障中だったのであなたが入った個室をノックする音が聞こえます。
【クリア条件】
バレずに脱出してください。
【使用オリスタ】
本体が男性のスタンドならば基本自由です。
【補足情報】
バレれば通報されます。
【課題名】私人処刑
【あらすじ】
あなたは車で法定速度を超えるスピードで夜の山道を走っています。すると突然道路上に人が現れます、慌ててブレーキをして停車しますが眼の前にいる人物は顔を白い目出し帽で隠し手にスタンガンを所持した板前姿の屈強な男性です。
あなたは巷で有名な法を破る人間を拉致しては拷問をかけつつ処刑する「処刑板前」であることを知ります。
男は運転席の窓ガラスを拳で叩き割るとあなたを引きずり出します、どうにか抵抗して山中へ逃げることができましたが男の足音がどんどん近づいてきます。
【クリア条件】
生き延びてください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
見つかればスタンガンで打たれ気絶させられた後、本人の持つプレハブ小屋に監禁され拷問をかけられて殺されます。
61
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/14(木) 20:07:16 ID:SHGrIzxE0
【課題名】
お魚屋さん初日
【あらすじ】
あなたは今どき珍しい一軒家の魚屋にバイトに来ています。
なんでも店主が腰を悪くしたらしく、専門知識技術はいらないから力仕事を手伝ってほしいとのこと、なので言われるがまま、魚を並べたり片付けたりしています。
と、店の前に軽トラが停車します。
荷台にはカバーが、それが取り払われると中には捕鯨砲が備え付けられています。
「クジラの食事を奪うな!」との一声と共に店に向かって銛が発射されます。
【クリア条件】
止めて下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
発射後、軽トラはすぐに逃げていきます。
【課題名】
万博準備初日
【あらすじ】
あなたは工事現場へバイトに来ています。
某有名な国際的イベントの会場を作るための工事なのですが、ニュースで騒がれている通り絶対に間に合わないとされています。
そこに資格も何もなく、スタンド能力を有していることすら知らないであなたを雇っている段階でかなり怪しいです。
そんな感じの素人集団、貸し切りバスで現場に下ろされ、指示されるまま移動させられたのは地面を掘り起こした大きな穴の中です。
人数は四十人ほど、ぎっちりと詰め込められて身動きできないでいると、穴に入るため坂を作っていた金属板がクレーンで引き抜かれます。
代わりに、コンクリートが流し込まれます。
【クリア条件】
脱出してください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
表向きは人身事故を起こして工事の遅れの理由を作ろうとして、との供述になりますが、実際は人身御供で、各建物ごとに同じぐらいの生贄が、すでに埋められていたりします。
【課題名】
地方総合量販店地下二階初日
【あらすじ】
あなたは地方にある、広大な駐車場に囲まれたスーパーにバイトに来ています。
周りに民家もない畑が広がる中で不釣り合いなほど巨大な建物、土地は余っているのにも関わらずある地下の二階、専門お惣菜コーナーで何か売る内容です。
値段も高級指向で、端にはワインセラーなんかもあって、帰りにちょっと買い物をとはとても思えないお値段です。そのくせギャラは普通です。
お客の入りはそこそこ、けれどもみなブランドで固めたセレブばかりで、まだ店員になる前であっても、あなたの格好を見てディスって来るぐらいに感じ悪いです。
それで説明なんかを受けていると何か粉が落ちてきます。スタンド能力などで詳しく調べれば剥がれ落ちたコンクリート片だとわかります。
約三分後、この建物は崩壊します。
【クリア条件】
生き残ってください。
【使用オリスタ】
なし
ただ崩壊の理由に連れてくるのはありです。
【補足情報】
周囲の客はむかつくセレブばかりなので、助けても追加点はありません。
62
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/14(木) 20:35:00 ID:y97ZazR60
【課題名】
Takashi verurteilt Tiefschwarz(漆黒を断罪するもの、タカシ)
【あらすじ】
あなたは夜の住宅街を歩いていると高いところから声をかけられます。
見上げれば黒マントに全身を包み、頭には角のある黒のフルフェイスヘルメットの男が立っています。
そいつが何かよくわからない、いわゆる中二病発言してきます。要約するとあなたを悪魔が化けた何かだと言っているようです。
事実はどうであれ、襲って来ます。武双は投げナイフにボーガン、コスプレ剣です。
【クリア条件】
現実を教えてあげてください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
相手は頭の可哀そうな無能力者ですが、あなたがスタンド使いだと知っており、その能力や弱点を彼なりに分析、攻めてきます。
【課題名】
お試し最新プラズマドライヤー
【あらすじ】
あなたが町を歩いていると電気屋の前で呼び止められます。
見れば実演販売をやっているようで、最新機種のドライヤーを進められます。
周囲の目線に店員の言葉巧み、それに協力してくれたらアメちゃんをくれるというので試すことになります。
言われるまま試してみることにします。
数秒後、ドライヤーから噴出されるのはプラズマビームみたいな炎です。
【クリア条件】
毛根を守ってください。
例え炎を回避しきれたとしても、ドライヤーからは強力な電磁波が出ていてほっとくとハゲます。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
なお元からハゲは無条件でクリアです。
【課題名】
急行カレー飯テロ事件
【あらすじ】
あなたはそこそこ混雑している急行列車に乗っています。
何とか座ることができたあなたでしたが、隣に座った客がいきなりカレーを取り出すとバクバクと食べ始めます。
初めは非常識な、と思っていたあなたでしたが、その美味しそうな臭いに引き寄せられます。ただその中の知らない臭いに本能的な疑問を感じさせられます。
気が付けば周囲の乗客はそれ以上に惹かれているようでした。
この視線に怯えたのか、カレーを食べてた客はいきなり立ち上がり、閉まりかけのドアから外へと逃げ出します。その際、あなたの足にカレーがかかります。
惹かれる先は、あなたに切り替わりました。
【クリア条件】
食べられないでください。
相手の狙いはカレーなので最悪ズボンを脱ぎ捨てれば助かります。スカートや全裸だったら諦めて下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
カレーの隠し味は大麻です。
63
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/14(木) 21:53:09 ID:zAFE7ulE0
【課題名】
盗撮魔を探せ!
【あらすじ】
No.4943「スザン・レノックス」の本体は、ダンススタジオで一人でチアダンスの練習をしていました。
多汗症の気のある彼女は下着姿でやっていましたが、彼女は「誰かに見られている」気配を感じた。
【クリア条件】
盗撮している奴を探して倒してください。
尚、盗撮している奴は1人だけとは限らず、スタジオの中に「何か」が仕掛けられています。
【使用オリスタ】
No.4943「スザン・レノックス」
【補足情報】
盗撮している奴はスタンド使いでも非スタンド使いでも構いません。
64
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/18(月) 20:53:27 ID:lG4V8Uyk0
何となく燃やしたい気分
【課題名】
最後に燃える場所
【あらすじ】
真夏の深夜、あなたはとあるビルの最上階に呼び出されます。理由は自由ですが、思いつかない場合はスタンド能力を有していることへの匿名の脅迫です。
ビルは三十階建ての全てが一つの予備校というもので、一階受付以外は全部同じ間取りです。周囲はだだっ広い駐車場です。
指定されたルートを辿れば警報機もならずにエレベーターで上がれます。当然夜なので誰もいません。
約束の時間、誰も来ないと思っていたら煙が、見下ろせば一階より炎が上がっています。
【クリア条件】
脱出して下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
このビル欠陥建設で、鉄骨の代わりに竹が入っていて全部よく燃えます。
【課題名】
バーニングやきそばマン
【あらすじ】
夏の夜の花火大会にあなたはいます。
多くの人で賑わう中、迎え入れる屋台も沢山並んでいてなかなか繁盛しているようです。
と、その内の一つ、焼きそば屋の電灯が突如消えます。どうやら発電機の燃料が切れたみたいで、店主は慣れた感じで補充に向かいます。
その様子に違和感、何となく見ていたあなたは、店主が持っているのが石油タンクではなく一斗缶だとわかります。そしてラベルはシンナーとあります。
当然、爆発します。
周囲に被害、燃え盛る炎、目まぐるしく悪化する火事の中、爆発させた張本人がどういうわけだかあなためがけて一直線に追いかけてきます。
【クリア条件】
何とかして下さい。
別に店主を助けなくても、他に甚大な影響が出ても大丈夫です。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
なお店主はシンナーでラリってたものとします。
【課題名】
人類最後の極楽浄土
【あらすじ】
あなたは車かバスか自転車か、とにかく乗り物で遠出に出てたのですが、タイヤが破壊されて立ち往生させられます。
周囲は山、それでも続いてる道を言ってみるとなんか寂れた村があります。
携帯電話の電波も届かない中、入っていくといきなり警戒の鐘が打ち鳴らされます。
そしてゾロゾロ村人たち、全身を農薬散布用の防護服で固め、手には先が燃えてる槍、奥には猟銃を構えているものもいます。
どうやら彼らは外の世界がコロナでゾンビが蔓延、全滅し、ここが最後の安全地帯だと信じているようです。
そして生き残るためにあなたを殺そうとしてきます。
【クリア条件】
生き延びてください。
逃げても仲間を呼ばれるとどこまでも追いかけてきます。
攻撃手段は鈍器か炎、血液は感染するからと恐れています。
説得は不可、話を聞いて信じてもらえたように見えて毒とか飲ませてきます。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
なおこの村の主要産業は大麻(非合法)で、地産地消もやってます。
65
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/21(木) 20:21:59 ID:WibEiWi20
【課題名】
怒れる女子高生〜前略、人の家族を馬鹿にするもんじゃあない〜
【あらすじ】
あなたは、ある誤解からNo.8815「メルティ・ブラッド」の本体である女子高生を怒らせてしまいました。
何とかある建物に逃げ込むも、そこは不良のたまり場。
今は隠れていますが、このままでは不良数十名に見つかって袋たたきに遭い再起不能に。
さらにそこへ、怒り心頭のメルティ・ブラッドの本体の女子高生が突撃。
怒りは依然変わりなく「ボクの兄さんをバカにしやがって!再起不能にしてやるッ!」と不良たちを薙ぎ払いながら憤っています。
このままではいつかは見つかり、その能力により崩壊されます。
【クリア条件】
まだ生き残っている不良に見つからないように、或いは不良たちを戦闘不能にしてかつメルティ・ブラッドの本体を鎮圧してください。
鎮圧と言っても相手は女子高生。殺さずに生存させてください。
勿論会話による和解は「できるわけがないッ!」ものとして考えてください。
【使用オリスタ】
No.8815「メルティ・ブラッド」
【補足情報】
チンピラは放っておいても全員メルティ・ブラッドによって再起不能になります。
【課題名】
あのアイドルがそんなに嫌いかッ!
【あらすじ】
あなたはあるアイドルグループの追っかけをしています。
そんなあなたは、ある日アイドルのライブに行くことになりました。
しかし不運にも、アイドルのセンターにいた女性がある男に「お前のせいであの子がセンター落ち、引退したんだ!!責任取ってくれよぉおおおおおおッ!!」とナイフと銃を持ってステージに上がって脅迫してきました。
【クリア条件】
センターの女性を生き延びらせてください。
脅迫してきた男は再起不能にしてもいいですが、衆人環視の下なので死なさないでください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
男は単独犯です。
他の観客は巻き込んでも構いません。必要な犠牲です。
【課題名】
崩れるトンネルからの脱出
【あらすじ】
あなたはバスに乗っています。
トンネルの中間部分にバスが差し掛かったころ、土砂崩れによりトンネルの天井が突如崩れてしまいます。
更に、不運にもバスがエンスト。動かなくなってしまいます。
今はまだ無事ですが、恐らく5分以内には完全に崩落します。
外には救助用のヘリが待っていますが、そこまでの距離は前方後方、それぞれ1キロほどあり走っても間に合いません。
【クリア条件】
自分含めて、乗客全員を生存させてください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
乗客の人数は10人ほどです。
66
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/24(日) 19:46:33 ID:LCdgydN.0
【課題名】
鉄とゴムと人の濁流
【あらすじ】
あなたは山で遭難しました。
方向もわからず森の中を彷徨っているとようやく道らしき道を見つけます。
辿って行けばいずれは人のいるところに、と思っていると音と振動、近づいていきます。
マウンテンバイクです。それもロードレース中でスピードの乗ってる、大量の選手たちです。
向こうもまさかこんなところに人が入り込んでるとは思っていなかったのでノーブレーキで突っ込んんできます。
【クリア条件】
生き延びてください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
大体参加選手は千人前後を予想してます。
【課題名】
世紀の大脱出イリュージョン初日
【あらすじ】
あなたは手品師にスカウトされました。
瞬間脱出のトリックのため、本物の代わりに閉じ込められる役としてです。
化粧と衣装で思ったよりソックリになれたあなたは手筈通り舞台の上で演技をし、指定された箱の中に入ります。
あとはこのまま待機すればお終い、のはずなのですがどういうわけか剣が次々にブッ刺さってきます。
何とか回避していると箱の角に引っ掻き傷、前任者のダイイングメッセージがあります。
どうやら毎回偽物を閉じ込め、殺しておいて自分は無事脱出できたよトリックらしいです。
次はチェーンソーで縦ぎり真っ二つと外から聞こえます。
【クリア条件】
可能な限り手品っぽく脱出してください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
箱を破壊する等、派手な脱出をすると手品失敗な上、ちゃんと待機してなかったとして損害賠償まで請求されます。
逆に上手く脱出できれば、ボーナスとして堂々とラッシュを叩き込めます。
【課題名】
万博パビリオン裏方スタッフ募集説明会帰り
【あらすじ】
あなたはとある国際的イベントのバイトの説明会を受けました。内容としてはただのガードマンや清掃、着ぐるみ着ておどけると言った普通の内容です。
そこでは採用面接も行なっており、人の集まりも少ないせいかその場で採用となります。
そして帰る段階になって何やらビニール袋を渡されます。
お土産ではなく、処分に金のかかる粗大ゴミを砕いたもので、家庭ゴミとして処分することが最初の仕事と言われます。
なんだか胡散臭いものを感じるあなたですが、周りが受け取ってるのを見て受け取ってしまいます。
帰り道、この日に限って警察官に職務質問を受けます。
話題はその袋へ、ゴミだと説明しながら開けると誰がどう見てもシャレコウベでした。
【クリア条件】
切り抜けてください。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
オチとしてはパビリオン建築の際に出土した古墳で、報告すると発掘まで工事が止まるためなかったことにしようとの魂胆でした。なので雇ってる方が庇ってくれることはありません。
また雑に扱った場合、あなたただ一人がピンポイントで呪われます。
67
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:17:01 ID:csw6xMM.0
>>60
>>61
>>62
>>63
>>64
>>65
>>66
問題の投稿有り難うございます!
処刑板前やタカシ・焼きそばマンがツボです。
オリスタを組み込んだ問題もちらほら出てきて挑戦しがいがありそうで有難い限りです。皆様から頂いた問題は1レスにつき必ず1問は回答話を投稿しようと思いますので今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m
それではつぎに解答話を投稿したいと思います。
68
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:17:55 ID:csw6xMM.0
【課題名】
あやふやな刃
【使用オリスタ】
No.7403プリティ・ヘイト・マシーン(可憐憎悪平気)
【解答】
ジリリリリリリ♪
雑居ビルが立ち並ぶ薄汚れた路地裏、古い電話に有りがちな着信音がどこからか鳴り響く。
鳴り止まないコールをブツ切るように、建物の裏口を蹴破りながら出てきた男は、何故か全身血塗れで一心不乱に疾走する。その目は酷く血走り、血塗れで分からないが恐怖で青ざめているだろう。
男から少し遅れるように、女子高生と思わしき、頭にバンダナを巻きつけた少女が出てくるが……それに合わさるように旧式の着信音の音量は増長する。どうやら彼女が音源らしい。
少女は電話に応対する様子はなく、血の跡を頼りに逃げ出した標的を追跡するが……鳴り止まなかった着信音が不意に止まる。
少女は一瞬眉を潜めるが、立ち止まる事も迷う素振りも一切見せず路地裏を駆け抜ける。その甲斐あり、すぐに逃走者を発見するが……男は頸と胴体が切断された凄惨な死体となり、地面に大きな血溜まりを作りながら倒れていた。少女は足を止め、辺りを警戒しながら死体の元に歩み寄ろうとするが……
ジリリリリリリ♪
少女の前進を止めるように、あの着信音が再び鳴り出す。その意味を理解する少女は額に汗を滴しながら……古風な杖を抱いて道脇でへたり込んだ老人を睨み付ける。
老人も彼女の気配に反応したのかおもむろに立ち上がり近寄ろうとするが……これ以上の接近を許してはいけない。
彼女のスタンド能力〈プリティ・ヘイト・マシーン(可憐憎悪兵器)〉は「殺意」を受信する。範囲内にいる人物が恨まれている程、スタンドに沢山のコールがかかってくるのだ。
老人は一目でホームレスだと分かるような小汚ない風体で、白内障を患っているのか両目は白濁とし、覚束ない足取りで杖を頼りに歩いているが……それがどうして、皺だらけの年老いた顔に不安や恐怖の色は一切なく、凶人めいた破顔を曝け出し――杖に仕込まれた凶刃を居合抜刀、少女の頸を一刀両断する。
襲いかかる真一文字の死線、少女は玩具の電話のような自身のスタンド〈プリティ・ヘイト・マシーン〉を咄嗟に発動、手に握り絞めた受話器から鎌状の刃を形成して弾き返すが……押し返された勢いをそのままに、老人は仕込み刀を背中に回したかと思えば、逆の手に持ち変え即座に刺突に転じる。
しかし、刃を交える前から自身の能力で老人の危険性を見抜いていた少女は既に後退しており、凶刃は虚空を穿つのみだが、太刀筋は止まる事なく凪払いながら弧を描き、その遠心力を利用した老人の渾身の蹴撃は、地面に転がる死体の首を蹴り飛ばし、少女の足元を強引に掬う。
度重なる強襲に少女も対応仕切れず、後方に転倒してしまうが、同業者相手にただでは転ばない。老人は袈裟斬りで追撃するが、少女は〈プリティ・ヘイト・マシーン〉を投げつけて襲いかかる刃を無理矢理退けると、後ろ受け身を取り、そのままの勢いで伸膝後転で体勢を立て直し……その場から撤退する。
老人は敵前逃亡する情けない強者の気配を感じ取り怒りを露にする。
「死合え!小生と貴様!全人格をかけた殺し合いではなかったのか!森乃心ッ!」
「ちょっと……森乃心って誰だよボケジジィィィイイイッ!」
少女は魂の雄叫びを上げ、涙目になりながら路地裏を駆け抜ける。自分を圧倒する謎の剣客、殺人剣という純粋な技術を極めた歴戦の暗殺者と思いきや……まさかその正体が人違いをしている殺人ボケ老人で、現在進行形でそいつに追われているのなら無理もない。
逃走しながら道端のごみ箱を倒して老人の進行を遅らせる。それがいま少女のできるベストな選択だ。自身のスタンドは老人の凶刃を防ぐ為、投げ捨てて一度能力解除してしまい、再び着信音を鳴らすだけ。
しかし、そのコールは本体の強烈な殺意も受信するようになり、一定量の殺意で満たされた〈プリティ・ヘイト・マシーン〉はついに真価を発揮する。
少女は立ち止まると〈プリティ・ヘイト・マシーン〉を具現化する。先程とは比べ物にならない量の殺意を受信した受話器は大鎌の刃を形成し、振り向き様に憎悪の刃を老人に向けて凪払う。
少女の妙な挙動に反応した老人は、即座に身を屈めて対応しようとするが……殺意で満たされた〈プリティ・ヘイト・マシーン〉の刃は、恨まれている対象を一撃で屠る威力を誇り、その太刀筋もスタンド故に変幻自在。
大鎌の刃から開眼する無数の眼が老人を凝視すると、刃の中心が裂けるように大きな口を曝け出し……老人の上半身に食らいつきそのまま引きちぎる。
殺意に応答した〈プリティ・ヘイト・マシーン〉は受話器に吸い込まれるように消えてしまう。生き残った少女はその場にへたり込み、深い溜め息吐く事しかできなかった。
69
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:18:36 ID:csw6xMM.0
【課題名】
バナナ以下
【使用オリスタ】
No.8690 ヴァーチャル・インサニティ
【解答】
絶え間なく降り注ぐ雨、渇水した地方では今でも恵みの雨と評される事もあるかもしれないが、物で溢れ替える飽食の現代においては、雨の日は濡れるだけの面倒臭い憂鬱な日でしかないのだろう。
かのレゲエの神様ボブ・マーリーも似たような言葉を残していたかもしれない……そんな事を考えながら靴紐を結んでいないスニーカーを履いている少年は目の前の惨状に嘆いている。
「ビッチ……なんてビッチな状況なんだ」
とある地下鉄駅、電車に乗ろうと階段を下った先にはビチャビチャに濡れたビニールの傘袋がところ構わず散乱していた。雨水で濡れた床が滑りやすい事は然ることながら、濡れた床に散乱する使い捨ての傘袋も曲者である。
滑るというモノボケ界のレジェンド〈バナナ〉はゲレンデを滑走するスキー板と同程度の摩擦係数を誇り、その滑りやすさはイグ・ノーベル賞でも証明されているが……それに比べて傘袋単体ならさほど恐くない。
だが、しかし、水で濡れた床に散乱する傘袋はバチクソやばいシチュエーションだ。そもそも濡れた床が滑る原因は、靴底と床との間に水が入ってしまい、靴底と床との密着を妨げてしまう事にあるが、
濡れた傘袋も同様、濡れた状態の床と靴底にサンドイッチにされてしまえば滑りやすさに拍車がかかることは言うまでもない。何よりも昨今の床は大抵の場合、転倒対策で防滑効果が施工されているが、市販のビニール袋や使い捨ての傘袋にそんな気の効いた効果がついてるハズもなく……濡れた傘袋はバナナの皮よりも滑る可能性は十二分にあるだろう。
少年自身も実際に濡れた傘袋で足を滑り、勢い良く頭を打ってしまい病院に担ぎ込まれたトラウマがあり、心臓の鼓動が加速する。
過去の痛い思い出が甦り、咄嗟に引き返そうとするが……何気なく通りすぎたサラリーマンが傘袋を当たり前のように投げ捨てており、少年の行く手を真っ正面から阻んできた。
よく観察すればサラリーマン一人だけではなく、使い捨ての傘袋をその場に捨て去って立ち去る不届き者がちらほらいるではないか。
割れ窓理論よろしく、放置された風紀の乱れは、人々の感覚を容易に麻痺させる。自分は防滑加工を施した靴を履いているから、自分だけは絶対に滑って転ばないとでも無意識に思っているのか……否、そもそもそんな事すら考えていない。他人の事なんてすこぶるどうでも良く、とことん無関心なだけなのかもしれない。
そんな周囲の異常さに呆れるが……散々濡れた傘袋の転倒リスクを考察した癖に、何故か自身のスニーカーの靴紐だけは頑なに結ぼうとしない少年は、やれやれとため息を吐き捨てながら己のスタンドを発動する。
「ヴァーチャル・インサニティ」
少年の掛け声と共に散乱していた傘袋は、まるでベルトコンベアに乗っているかのように動き出す。床自体が謎の現象で動いているらしく、その場を歩いていた歩行者は何事かと戸惑い思わず立ち止まるが、何が起こっているのか理解できない。
シルクハットを被り、出血してるような布状の飾りがついているヒト型スタンド〈ヴァーチャル・インサニティ〉は少年の隣に並び立ちながら、平面をベルトコンベアのように「流す」能力を発動し、濡れた傘袋を少年の通り道からずらしたのだ。
謎の怪奇現象を前にして困惑する人々を余所に、少年は颯爽と危険なエリアを通り抜ける事に成功した。人々も何が起こったのか分からなかったが、非日常的な怪奇現象も自分の身に火の粉として降りかからない限りは心底どうでも良く、せいぜい動画を撮影してSNSで発信した後は、すぐに何事もなかったかのように自分達の日常へと回帰していく。
勿論、当然のように駅から出る人々の中には、懲りずに使い捨ての傘袋を捨て続ける者もいる。辺りを見渡せばすぐ近くにゴミ箱があるハズだが、そこに傘袋を捨てるのが余程に億劫らしい。
それに対して少年は多少なりとも嫌悪感を覚えるが、何かしようだなんて気の迷いは起こさない。他人相手に赤の他人様がわざわざ自分の貴重な時間を割いてまで説教する気もない。言ったところで周囲に流されるがまま罪悪感を感じない連中は、往々にして自分自身が痛い目に遇わなければ理解できないだろう。自分の行く手を阻むトラブルを払いのけた厭世的な少年は、何事もなかったかのように歩みだす。
人々は雨に濡れるだけ、いつの間にか雨を感じる事を忘れている。
70
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:19:21 ID:csw6xMM.0
【課題名】
ゾンビではないパニック
【使用オリスタ】
No.8649 スティル・バーニン
【解答】
昼下がりの閑静な住宅街、学校の授業を終えた学童たちがちらほら下校し始めており、少しだけ賑やかな雰囲気になりかけたところに凄まじい轟音がとどろく。
T字路交差点で右折しようとした乗用車と、直進する法定速度をガン無視したスピード違反の暴走車が接触し、弾みで乗用車が対向車線にはみ出し、信号待ちをしていた軽自動車にぶつかる車三台を巻き込んだ悲惨な事故が発生したのだ。
暴走車は大破して派手に横転しており、追突された乗用車もフロントがぐしゃぐしゃに潰され、巻き込まれた軽自動車も電柱に激突して半壊状態である。
暴走車を追跡していたパトカーは目前で発生した大事故を目の当たりにして急停止する他ない。中から現れた警官は……のっぺりとした無表情な顔つきのまま、何よりも先に横転して大破した暴走車の元に駆け寄る。その手には日本の警察用拳銃ニューナンブM60が握り締められている。大破した車の中で血塗れで意識不明な重体の男を発見すると……警官は真っ先に拳銃を乱射して男の息の根を断つ。
世は世紀末……などでは当然ないハズなのだが、奇妙な出来事は悲劇的に度重なり、よりにもよって化物と化物は引かれあってしまった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
後方から痛ましい断末魔の叫び声が聞こえてくる。警官は咄嗟に銃を構えながら振り向くと、そこにはぐしゃぐしゃの車内からボロボロの怪我人が這い出てきていたが……どこからともなく湧いて出てきた不審者が電動式のチェーンソーで生存者の頸を切断したのである。ペットボトルで作ったプロテクターとホッケーマスクで武装しているつもりなのか、その風体は場違い感が否めないが……おびただしい返り血を浴びた事により、その格好をジョークと思われる事はなくなっただろう。
目の前で発生した殺人事件に対し、警官は被疑者を拘束するよりもまず先に、無言のまま拳銃の引き金を連打するが……弾は出ない。どうやら先程の乱射で全ての銃弾を打ち尽くしたらしい。
一方のチェーンソーで武装した殺人鬼は、警官が自分に向けて銃を撃とうとした事実を目の当たりにして、声を裏返させながら怒鳴り声を上げる。
「どうしてッ!?どうして俺を撃とうとしたの!味方じゃなかったのか!?」
殺人鬼は何か思い違いをしているらしい。警官は「お前は何を言ってるんだ?」と冷やかに返すのみ。見当違いな答えが帰ってきた事に殺人鬼は当惑した様子で「質問を質問で返すんじゃねぇーッ!俺はアンタがゾンビに襲われないように助けてやっただけだぞ!アンタだってゾンビにトドメを刺したんだろう?」と非現実的で状況的に本当に訳の分からない戯言をのたまう。
呆れたように警官は「ゾンビなんてどこにいる?」と短く返すが……決して噛み合う事のない不毛な言い争いに両者は次第にヒートアップしていく。
「この有り様を見てみろよ!世界は滅亡したんだろう?ゾンビが発生して大パニックでも起きなきゃこんな事故起こらないし、警察官のアンタが銃を乱射するハズがないだろう?」
「まったく……気が遠くなりそうだ。どんな生活をしていれば、世界の終末やゾンビの出現で殺人が許容されてしまう?」
「ゾンビウィルスの強烈な感染力をご存じではない?あぁ、これだからズブの素人は困るね。ゾンビに噛まれた人間はいずれゾンビになるから野放しは持っての他、だからアンタも感染者を射殺したんだろう?もしそうじゃないなら……お前は本当に警察官なのか?」
「本官が偽物の警察官だとでも?」
「そりゃ銃を乱射する警察官なんて……それこそ本官さんだろ。ほらあれだよあれ、天才バカボンの眼が繋がっていて鼻の穴が一つしかないあの人」
「御託は終わりか?私は正義を執行するだけだ。抗いたいなら抗うが――」
噛み合わない会話に痺れを切らした警官は、自身のスタンドを発動し、並び歩くようにチェーンソー男の元ににじり寄ろうとするが、突然後方で横転していた事故車が爆発を巻き起こし炎上する。
事故の衝撃でバッテリーから引火したのか、或いは運転手の息の根を断つ為、警官が必要以上に銃を乱射した事も引き金に繋がったのかもしれない。どちらにせよチェーンソー男に気を取られて、その場からすぐに離れようとしなかった警官自身の不手際だろう。
爆発により警官はチェーンソー男の手前側まで吹き飛ばされてしまい、その背中は無数の金属片が散弾のようにめり込んでおり、見るからに重傷である。思いもよらぬ棚ボタチャンスにチェーンソー男は下品な笑い声を上げながら警官を蹴り飛ばし、勝ち誇ったように御託を捲し立てる。
71
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:19:54 ID:csw6xMM.0
「ギャハハハハハハハハハハッ!本官さん!本官さぁん!!いくらなんでも爆発オチは卑怯すぎるぜぇ〜!おい?こんなの絶対な笑うに決まってるじゃねぇーかよ!マヌケな偽警官だって事は分かったけどさ……もしかして吉本新喜劇に出てる芸人さん?だとしかもう思えね〜よ俺は!それだけ傑作だったよイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
「……ッ」
「ホラホラどーしたの?どーしたのよ?ねぇねぇどんな気分?どんな気分?正義執行?正義執行しちゃうの?俺ってば執行されちゃうわけ?でもワンパンマンが車の爆発でワンパンされちゃ話にならないだろう!さぁほらガンバレガンバレ!ガンバレガンバレ!」
「……スティル・バーニンは既に発動した」
「は?ステイル=マグヌス?ゾンビの事は馬鹿にしやがって魔法信じてる口か?奇跡も魔法もあるかもしれねーが、お前に救いはないぜッ!このスカポンタンがよ〜ぉ!それに、お前がゾンビじゃなくても世界が滅亡してるんだから警察も糞も関係ねーや!……マヌケなタマ無しニセポリ野郎は俺が今から正義執行してやんよッ!!!」
負傷してうずくまる事しか出来ない相手を好き放題煽り散らかす事で精神的優位に立ち、この上ない満足感を得たチェーンソー男は、いよいよ血塗れの凶器を大きく振り上げて警官にトドメを刺そうとした瞬間、側頭部に強い衝撃が走り立ち眩む。何事かと思えばガラスの花瓶がアスファルトに落下して粉々にくだけ散っている。
「アンタ!いい加減にしなさい!」
声のした方に顔をやるとそこには近所のおばちゃんが鬼の形相で立ち尽くしていた。……昼下がりの閑静な住宅街で勃発した交通事故に殺人・事故車の爆発炎上、いつの間にやら近隣の住民たちは野次馬根性丸出しで遠目から様子を伺っていたようだ。
家から様子を見ていたおばちゃん専業主婦・ペットの犬と散歩中の婆さん・庭の手入れをしていた爺さん・ママ友トリオ・ランニング中のオッサン・郵便配達の兄ちゃん・学校帰りの学童・野良犬・顔を両手で覆い隠しながら泣きじゃくる老婦人の側で怒るに震える老紳士、四方八方からチェーンソー男を見つめる眼差しは、文字通り様々な視点から彼を観察していたが……その瞳の奥で漆黒の炎を灯す者が一人、また一人と増え始める。
顔見知りに花瓶を投げつけられたチェーンソー男は、何よりも先に自分の正体がバレていないか思案するが、その隙に悲痛な叫びを上げる老紳士が捨て身の特攻を仕掛けてきた。
「和真が何をしたと言うんだ……一体貴様に何をしたと言うだあああああああッ!!」
「うおっ!なんだこのジジイ!ブッ殺すぞ!」
怒髪天を衝きながら拳骨を握り締めて襲いかかってくる老紳士の強襲に対し、チェーンソー男も何の躊躇いもなく電動式チェーンソーを稼働させると、回転する刃を老紳士の土手っ腹に突き立てた。
言葉にならない壮絶な絶叫が響き渡るが、老紳士の拳も同様に止まらずチェーンソー男の素顔を覆い隠すホッケーマスクの覗き穴に親指を突っ込むと、そのまま殴り抜き……仮面を強引に引き剥がしてみせた。
老紳士はさらに殴り続けようとするが、老体はとっくに限界を迎えており、糸が切れたように両膝をアスファルトにつけながら絶命した。
チェーンソー男は慌てて顔を隠そうとするが、飼い犬と散歩中だった目ざとい婆さんは噂好きで評判で、特大のネタを見逃すハズがない。
72
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:20:35 ID:csw6xMM.0
「ありゃ……左東田さんちの獅子鳴堂(レオナルド)君じゃあないかい!わたしゃいつかやると思っていたよッ!!」
「テメェ……ババア黙れ!!」
大衆の面前で正体を看破されたチェーンソー男は激しく狼狽する。そこに顔見知りのおばちゃんと噂好きのママ友トリオが無意識の口撃を繰り広げる。
「そんな嘘でしょ獅子鳴堂君!あんなに……お母さんが貴方の事を心配していたのに!」
「だ、黙れ!黙れ!!黙りやがれクソババァ!俺は世界が滅亡したからゾンビを倒しただけだ!ただ、それだけなんだよお!!!」
「ゾンビって……何言ってるのあの子?」
「やっぱり引きこもって精神を病んでいたのね」
「左東田さんはこんな時に何をしてるのよ!一人息子が人殺しをしてるのに!」
「そう言えば朝から顔を見ていなかったわ」
「それ以上はやめろ……!」
あれほど威勢の良かったチェーンソー男は震えた声で叫ぶが、お節介焼きの郵便配達員が決定的なトドメを刺してしまう。
「た、大変だ!こいつやりやがったぞッ!!家のドアが開きっぱなしだから入ってみたら左東田さんと奥さんが血を流して倒れてた!!!」
「コイツ……マジで何やってんだ」
「こんな化物を今までワシ等は野放しにしていたのか……!」
「許せない!誰か孫と爺さんの仇を取ってちょうだい!!」
「あ、ぁ……違うんだ……俺は、ただ……」
「ワンワンワン!!!」
「何かよく分からないけど、みんなでこらしめよう!こんなわるいヤツ!!」
ドミノ倒しのように次々と明るみになるチェーンソー男の人物像と隠されていた凶行、最早周囲の人々が彼に同情する余地は一切なく、彼等は壮絶な最期を遂げた老紳士と同様に、瞳の奥で漆黒の炎が煌々と燃え盛り始めた。
そんな周囲の様子を見てチェーンソー男も世界の滅亡やらゾンビという都合のいい幻想に、正義を掲げられないことを心の奥底で誰よりも悟ってしまい……居たたまれない気持ちで逃げるように自殺を図ろうとするが、老紳士の血肉がチェーンソーの内部に詰まってしまい故障してしまったらしい。
その好機をこの場にいる者たちが見逃すハズもなく……各々、手頃な凶器を手に取る。
その瞳には『人殺しの犯罪者をこのまま野放しにしてはいけない』という漆黒の意志が煌々と灯る。ご近所という希薄な関係性しかなかった人々は、その瞳を一様に真っ黒で染め上げて、弱々しい孤独な緑色の飛蝗ではなく、群集相の黒い飛蝗のように……正義を掲げた集団の総意がチェーンソー男を囲い混むようににじり寄る。
「あっ…うわ、ぁ……お、俺の側に近寄るな…ぁ」
チェーンソー男の自業自得ではあるが、端からみれば凄惨で異様な私刑がこれから幕を開けようとしているが……遠巻きでその様子を見つめる事しか出来ずにいた警官は、まるで神様に救われたかのような、場違い過ぎる安らかな表情を浮かべている。
〈スティル・バーニン〉
追跡していた暴走車の運転手を射殺した本体……苛烈極まる異常な正義感を振りかざす重度の「ダーティハリー症候群」を患う警官のスタンド能力は、本体の狂気「ダーティハリー症候群」を感染症に変化させて、周囲にパンデミックを引き起こしてしまう危険極まる凶悪なスタンド能力だ。
同じ「ダーティハリー症候群」感染者が増えれば増えるほど、過剰な正義を行使するモンスターが増え続けるが……本体はこの能力を「周囲に正義心を伝播させる能力」であると信じて疑わない。
73
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:21:36 ID:csw6xMM.0
【課題名】
ブチ切れタクシー
【使用オリスタ】
No.3918 ホーリー・ジョリー・クリスマス
【解答】
日本某所、とあるスタンド使いが集う組織の構成員たちは12月25日クリスマス当日だと言うのに、組織のお偉いさんからクリスマス特別厳戒令を出されて指定地域を巡回していた。
「本当に現れるですかねー?」
「遭遇する事を願わなきゃやってられねぇよ畜生が」
「そーですよねー」
若い男と壮年男性のむさ苦しいツーマンセルは、粉雪が舞うホワイトクリスマスの夜を見回りに費やす羽目になってしまった。
その目的はクリスマスに暴走するスタンド使いの捕縛である。何を書いているか分からないかもしれないが、クリスマスはスタンド使いを狂わせる事があるらしい。
業界で有名な事例を上げるとすれば、カップルをトナカイに見立てて破局するまでソリを引かせる暴走スタンド使いや、ラブホテルのBGMを「こんにちは赤ちゃん」に変えて聖夜に交わるカップルに漏洩事故を発生させる悲しきモンスターが過去に確認されているそうだ。
彼等は過去にとっちめられて、こってりお灸を据えたみたいだが、またいつどこかでクリスマスの憎しみを再燃するかは予測不能な為、こうしてこの時期の巡回業務は定例化されてしまっているらしい。
もっとも上記のような事例はまだマシな部類なようで、現在彼等はクリスマスの夜に殺人を犯す危険性を秘めたスタンド使いを血眼になって探している。
★
一方その頃、噂のスタンド使いはタクシーに乗車していた。彼は豊かな白ひげを蓄えて、赤い衣装を身に纏う恰幅の良くて、いかにもサンタクロース然とした見た目の老人だが、そんな珍妙極まる客に対してタクシー運転手は一切の興味がなく、車内に持ち込んだラジオのアイドル特集を真剣に拝聴している様子だ。
サンタクロースも最初こそはハイテンションで「ほっほ〜うメリークリスマス!!!」と運転手に陽気な声かけをしていたが、必要最低限の会話をする以外は居ない者として扱われているような感じで、現在は後部座席でしょんぼりとしながら座っていたが……
「ここで皆さん!ビッグニュースです!なんと我らがアイドル・あしゅりーちゃんが電撃授かり婚!お相手はあの韓流ビッグスターキム・ジョナさんです!そしてなんとアイドル引退も発表してしまいましたーッ!クソッタレがぁぁぁあああッ!幸せになりやがれよ畜生めッ!!」
ラジオから飛び出てきた晴天の霹靂、サンタクロースもあしゅりーちゃんと呼ばれるアイドルの事は知っていたようで目を丸くして驚くが……すぐに運転席でただならぬ雰囲気を噴出するタクシー運転者の気配を察知する。彼はプルプルと小刻みな震えながらつぅぅぅぅぅぅっ……と一筋の涙をこぼしたかと思えば、突然言葉にならない獣じみた呻き声を上げながらタクシーを暴走運転し始めた。
スピードメーターは徐々に加速していき100キロを余裕で越えてしまい、その状態でカーブを曲がろうとしてくる。サンタクロースは堪らず止めにはいる。
「ちょい待ち若いの!悲しい気持ちは察するが、こんなにスピードを出したら死んじゃうよワシら?」
「死ねばいいんだよ畜生めえええええええッ!」
「待て待て待て待て!ワシこの通りのサンタクロースだからね!まだプレゼントを届ける使命が残ってるわけ!ワシを待ってるよい子がまだいるからどうにか堪忍してください!」
「うるせー糞サンタクロースがよ!俺はな!昔からクリスマスが大嫌いだってーのに、またこうやってクリスマスに大切なものを奪われた!こうなりゃサンタクロースと心中するしかねぇぇぇだろぉぉぉおおお!!あぁん?」
「何があったの?クリスマスに何があったのさ?せめてをそれを知らなきゃ心中しても成仏できないからね!この通りだから何があったのか教えてちょうだいよ!」
サンタクロースは涙目になりながら必死に運転者の言葉を引き出して、冷静さを取り戻そうと企てるが、彼の口から飛び出てくる過去のできごとはどれも奇妙で悲劇的な珍事だった。
「初恋の彼女と始めてデートしたクリスマスの夜!謎の女子高生にしばき倒されて彼女と一緒にソリを引っ張りながら暗い夜道を爆走してたら何故か愛想尽かされてフラれてさぁ!何とか復縁しようと頑張ったけど魔がさして好きでもない女と遊んでたらクリスマスに授かっちゃってさぁ!ブスのATMと化しながらも必死に生き抜いてあしゅりーちゃんを心の支えにしていたら……俺はクリスマスに全てを奪われたんだあああああああッ!!」
74
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/26(火) 21:22:17 ID:csw6xMM.0
……途中のデキ婚は絶対に自業自得じゃね?と言うかこいつクズじゃね?というツッコミをしたら絶対に無理心中されそうなので、サンタクロースはぐっと堪えつつ……語り合いではどうする事も出来ないと悟ると、あと数刻で今年は使用できなくなる使い勝手の悪すぎる自身のスタンド能力に全てを賭けることにした。
「えぇいこうなりゃ!ホーリー・ジョリー・クリスマス!」
後部座席でサンタクロースの隣の座席に出現したスタンドは、トナカイの頭を無理矢理くっつけたような感じの不恰好な人型スタンドである。彼はクリスマスにしか発動できない自身の特別な能力を認知して以来、クリスマスの夜にサンタクロースの真似事をするようになった……限りになく一般人に近しい人殺しである。
「今まで大変だったようじゃのう若いのや……そんなユーにプレゼント・フォー・ユー」
「あぁ?……ってなんだこりゃ!?」
サンタクロースのふざけた態度に運転者はシンプルな殺意を懐くが、助手席に突然出現した等身大の人が包み込まれているかのような特大ラッピング袋が出現した事に驚き、咄嗟に急ブレーキをかけてタクシーを急停止させた。
その瞬間にサンタクロースはそそくさとタクシーから脱出するが、そのままおお慌てで逃げるような真似はせず、傷心の運転者に神妙な顔つきで自身の能力で産み出したプレゼントの取り扱い方を律儀に説明し始める。
「これは普通のクリスマスプレゼントとは少し事情が違ってな。クリスマス当日にプレゼントの中身を見ることは絶対にしてはいけない。開けるなら26日の午前0時以降、それだけの簡単なお約束を守れば、欲しいものは何で手に入るんじゃ」
「欲しいものだって?」
サンタクロースは自身の能力を簡潔に説明したつもりでいたが、欲しい者が決して自分の手の届かないところにある事を嫌というほど自覚している運転手の地雷を踏み抜いてしまった事に気がつかなかった。
「あしゅりーちゃんが手に入るだと……出鱈目言うんじゃねー嘘つき野郎がぁぁぁあああッ!!」
「あぁ!早まらないで!止めなさい!いやぁぁぁあああ!?」
運転者は怒りに任せてラッピング吹路を引き裂こうとして、サンタクロースは甲高い悲鳴を上げる。現在12月25日午後21時過ぎで……どう足掻いても破るなというお約束は絶対に破られるのが運命のお約束らしい。運転者の無鉄砲な振るまいにサンタクロースは顔を青ざめる。
〈ホーリー・ジョリー・クリスマス〉はクリスマスの期間中に無作為に『プレゼント』を渡す。『プレゼント』の中身は対象の『ほしいもの』であり、
『矢』だろうが『聖なる遺体の部位』だろうが手に入る。だが、12月26日の午前0時になるまでに開ければ、対象の肉体は、『金』がほしいなら大量の札束に、『矢』がほしいなら数本の矢に変異して死亡してしまう奇跡と悲劇が表裏一体の能力だ。
ラッピング袋を破り開けた運転手は瞬く間に白い煙りに全身を包み込まれて激しく咳き込み、悶絶するかのような悲鳴を上げる。
またやらかしてしまったとサンタクロースは頭をかかえながら項垂れる。白い煙が徐々に薄れるとタクシーの車内には……運転席にいたハズの運転手は消えてしまい、何故かそこには巷で話題のあしゅりーちゃんその人がいたッ!
「げほ!げほ!とんでもねぇことしやがる!いっそのこと轢き殺してやろうか!」
「あぁ!違う!?違うよ貴方!?鏡!ルームミラーを見てルームミラー!」
「はぁ?……って、何じゃこりゃああああああ!?」
ルームミラーを見たあしゅりーちゃんは自身の姿に驚愕のあまり失神してしまった。 サンタクロースは自身の能力の過去の失敗事例を振り返り合点がいった様子で、まじまじとあしゅりーちゃんに変異してしまった運転手を恐ろしそうに見つめる。
「人はセーフ!人体はセーフってこと!?……でもこれってどーなっちゃうのこれから!?」
殺人よりもヤバい事をしでかしてしまった事を薄々実感し始めたサンタクロースは、大慌てで闇夜の中に消え去ってしまう。
※自分自身があしゅりーちゃんになった運転手さんは、このあと周囲を巡回していたアンカーの構成員さんたちに、無事保護されましたとさ。
75
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/27(水) 12:30:28 ID:7uL5jHPw0
>>67
お疲れ様です。
こいらは思いついたのを雑に書き捨ててるだけなのでそこまでぎっちりしなくても大丈夫ですよ。
それと、とりあえず年越したらいったん消えます。
JOJOとは無関係なので具体的な内容は伏せますが、こことは別のところでうどん書いてみようかと思いまして。
そんな感じなので気楽に楽しんでもらえると助かります。
76
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/27(水) 22:38:38 ID:Sf1ShVbk0
>>75
ご一報いただき有り難うございます。
趣味活動としてもこの状況をエンジョイしておりますのでお気遣いは無用ですよ。
貴重な協力者が減ってしまうのは非常に残念ですが、別方面で何か新しい事に挑戦するのであれば心より応援しております!残していただいた遺産は大切に使わせていただきます。
本企画は誰でもいつでも大歓迎なスタンスですので、気が向いたらまた遊びに来てください!
77
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/30(土) 00:23:52 ID:IY5IF0KQ0
【課題名】
新作弁当モニタリング初日
【あらすじ】
あなたは某有名コンビニに単発バイトに来ています。
バイトと言っても新作の弁当を食べてアンケートに答えるだけ、ギャラは安いですが一食は浮くと言う内容です。
同じような人が集められた会議室のような大きな部屋で弁当とアンケート用紙をもらい、指定通り食べ進めます。
内容としてはブランドイメージ通り、味は良いけど値段が高くて量少なめです。
全部が終わり帰る段階で体に違和感、全身の筋肉が弱まり、普通に着ていた衣服さえも鉛のように感じられ、ついには立てなくなります。
他に弁当を食べてた人も同様、次々に倒れていくのですが、無事なコンビニ側は助けるどころか倒れた上に未開封の弁当を次々に乗せてきます。
その中で「弁当が重すぎる」に該当する発言をした人のみ、救助されていくのがわかるます。
【クリア条件】
ここから脱出できればクリアです。
ただし発言して救助された場合、精神に大きな敗北を刻むことになります。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
知識があれば筋弛緩剤の影響で、一時間も経たずに自然回復できるとわかるます。
【課題名】
あの鐘をどかすのはあなた
【あらすじ】
あなたはとあるヨーロッパの国に観光に来ています。
そこでなんか由緒正しいらしい教会の見学に、高い塔があるんだなと中に入ると突然の爆発音、それと振動になんやかんや混乱が起こります。
これに躊躇していると突然の暗黒、そして轟音、全身に高気圧が襲いかかります。
静寂、落ち着いたので闇に手を伸ばすと錆びついた金属の手触り、どうやら塔の上に吊るされてた金色の鐘が落下し、その中に閉じ込められているとわかります。
下に隙間はなく、それどころか床にめり込んでいて這い出るのは無理そうです。
耳を当てると外ではまだ騒動が、叩いて鳴らしても助けが来る気配はありません。
【クリア条件】
生きて脱出してください。
自力でも耐久でも手段は問いません。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
中の空気は一時間が限界です。
【課題名】
タレント特権
【あらすじ】
あなたが都会の大通りを歩いていると人だかりがあります。
通り道なのもあって割って入っていくとその中心に某有名お笑い芸能人の姿が見えます。
普段テレビやネットを見ない人でも顔と名前、それとやたらと暴力的なツッコミが持ち味なのは知っています。
その芸能人、金属バットで女性をボコボコにしています。
あたり血塗れで殺人行っている現場なのですが、芸能人のキャラを考えるとこれは至極当然のことだとあなた以外は笑っていて、止めようとする人は誰もいません。
疑問に思うのはあなただけで、警察官も「ネタだから」と言って取り合おうとはしません。それどころか暴行を止めようとすると周囲どころか殴られてる女性からも「空気が読めないおもんないやつ」判定され、ネットで晒し者にされます。
【クリア条件】
後悔の残らない道を選んでください。
【使用オリスタ】
なし。
ただしこの芸能人がここまでやってもお笑いの範疇、ネタとして許されるほどの人気、カリスマがあるのは波紋方や鉄球のように技術がスタンドに追いついた結果、と考察できます。またあなたが影響を受けていないのもあなたがスタンド使いだからです。
【補足情報】
この芸能人はフィクションです。現実に存在する芸人とは一切関係がありません。
78
:
名無しのスタンド使い
:2023/12/31(日) 17:13:09 ID:iGgf3hdo0
【課題名】
危険性証明問題 その①
【あらすじ】
あなたはいつもの通り道を歩いています。
特にイベントのない日、何もないはずが正面より、明らかにジャンキーな奴が現れます。
そしてあなたを見つけると変に高価そうなサバイバルナイフで襲いかかってきます。
【クリア条件】
撃退してください。
スタンド能力を用いた場合がその②に続きます。
【使用オリスタ】
なし
ただし相手は改造人間です。
具体的には片目がカメラに、片耳がマイクになっていて、どこかへリアルタイムでデータを飛ばしています。
【補足情報】
To be continued...
【課題名】
危険性証明問題 その②
【あらすじ】
ジャンキー襲撃直後からです。
今度は季節関係なしにロングコートにサングラス姿の男が三人、向かってきます。
そして射程に入ると示し合わせたかのようにそれぞれコートを跳ね除け、内よりショットガンを取り出し、乱射してきます。
それとほぼ同時に、ここから離れた位置に控えていたもう一人が狙撃してきます。
【クリア条件】
生き延びてください。
スナイパーを撃退した場合はその③に続きます。
【使用オリスタ】
なし。
ショットガン三人ははした金で雇われたチンピラです。
スナイパーだけは、雇い主が『スタンドを知っていながらスタンド使いを一人も確保できていない留置半端な秘密組織』であり、これが『非スタンド使いによるスタンド使い抹殺のテストケース』だと知っています。
【補足情報】
To be continued...
【課題名】
危険性証明問題 その③
【あらすじ】
その②の直後、すぐ近く、見える道路か駐車場に一台の軽トラック、そのホロが吹っ飛ぶと中からロボットアームに取り付けられたガチリングガンが現れます。
弾は徹甲弾、マッハを超える弾速で毎分60発、正確に狙い撃ちしてきます。
当然非合法です。
能力か知識があれば空にドローン、通常の監視カメラに、望遠レンズなどで監視されてるとわかります。
因みに全部遠隔操作で無人です。
【クリア条件】
生き延びて下さい。一定範囲外に出るか、弾切れを起こせばクリアです。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
この襲撃に失敗した場合、組織は当分の間闇に潜ります。
ただし諦めた訳ではなく、今回のデータの解析と、ここから導き出される危険性を理由に予算を獲得できたからです。
良いお年を
79
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/07(日) 20:22:35 ID:R7/y2qTA0
【課題名】
野菜を収穫に行こう!
【使用オリスタ】
No.5771 CPX (展開の都合上「視界内の光源にしか能力を使えない」という解釈で書いております)
【解答】
陰鬱な曇り空が広がる町外れのレンタル家庭菜園を、複数人の若者達が進んでいく。輪から少し外れて歩く青年は、至極退屈そうにタバコを吸っていた。
彼らがこの菜園にやってきたのは、共通の友人(仮に田中とする)の依頼のためである。田中の育てているトマトを、旅行中の彼の代わりに収穫しておいてほしいと頼まれたのだ。しかし青年にとって田中は大した仲ではなかったし、リア充アピールの激しい奴だったためあまり好ましい相手ではなかった。その上、今回集まったメンバーで青年以外の若者達は皆知り合い同士。必然的に会話の輪から外れてしまい、虚無の時間を過ごす羽目になっているわけである。ただクラスメイトだったことがあるくらいで碌に会話もしたことない相手の為になぜここまでやらなくてはならないのか、青年のテンションは地に落ちていた。
そんなことを考えているうちに、目当ての畑エリアに着いたらしい。田中と書かれた名札のついた畑を見つけた青年が他のメンバーを呼ぼうと振り向くと、全く違う名前の畑にずかずかと入り込んで勝手に野菜を収穫しているではないか。
「おいおいおいおい、アンタらはオトモダチの名前も忘れちまったのか?そいつは違う奴の畑だぞ?」
「んだよ、正義の味方気取りかおっさん?どーせ持ち主も忘れてんだし、もったいないから俺たちが食べてやってんの!エコだよ、エコエコ」
頭にくる台詞を吐く野郎である。実際青年は少々くたびれた格好をしており、実年齢より老けて見えるかもしれないが同じ奴の同級生同士ということは同い年だろうが。ちっとは考えろや。
いや、そこに腹を立てている場合ではない。彼らのしていることは普通に窃盗だ。いくら寂れていても一応これらの野菜にも持ち主がいるし、そもそも許可なく他人の畑に入る時点でアウトである。
止めなければならないのだろうが、正直こんなDQNどもに話が通じるとは思えない。他メンバーも全員堂々と窃盗行為に及んでいるし、下手に注意すれば数の暴力でフルボッコにされるかもしれない。どう動いたものかと考えていると……
パン、と乾いた音が聞こえる。
鮮やかな赤色が見える。
火薬のような臭いが鼻をつき、頬に粘り気をもつ”ソレ“が付着する。
目の前で会話していた若者の肩が、弾けていた。
「………………は?」
「うわあ”あ”あ”あ”ああああああああ!?!?!?!!!」
青年は思わぬ事態に呆然としており、撃ち抜かれた本人はずいぶん軽くなったであろう肩を抑えながら、混乱と苦悶の混じり合った声で絶叫していた。
グループの他メンバー達も何が起こったかわからない様子で、ただ自分たちの身に危険が及んでいるということだけ理解したらしい。それぞれが悲鳴をあげ、逃げ惑い、そしてまた撃ち抜かれていく。
3人目の脇腹が撃ち抜かれたあたりで、青年は我に返る。頬についた血をぬぐい、今の状況を冷静に分析し始めた。訳あってこういったイカれ事象に巻き込まれることは多々あったため、状況判断には慣れているのだ。
開けた畑のど真ん中、こちらは丸腰、相手の位置はぱっと見では確認できず、銃火器を持っていることは確実。ここから導かれる結論はひとつ。
「よし、逃げよう」
こういう時は逃げるに限る。思い立ってからの青年の行動は早かった。あまりちんたらしていると自分も彼らの仲間と判断され、ターゲットにされるだろう。知らない奴らの犯罪行為の巻き添えで死ぬなんてごめんである。パニックに陥り逃げ惑っている知らない知り合い同士を置き去りに、青年は元来た道を全力ダッシュで引き返した。
しかし、そうやすやすと逃がしてくれる相手ではなかったらしい。銃声とともに、青年の足元の土が抉れる。1人だけ輪から外れたために、狙われやすくなるのは当然のことだった。
「ま、そうなるよなァ………なら」
青年は一瞬立ち止まり、「もう1人の自分」の名を呼んだ。
「CPX!」
刹那、青年の姿が蜃気楼のごとく揺らぐ。青年の隣に現れたのは、どこか蛾にも似た人型のビジョンだった。青年の素朴な格好とは不釣あいな、白く美しい姿をしている。
これが、青年に秘められたスタンド能力「CPX」だ。
80
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/07(日) 20:23:12 ID:R7/y2qTA0
青年はタバコを五本ほど取り出し、まとめて火をつける。そして慣れた手つきでタバコの炎を消すと、そのうち一本を進行方向へ向けて放り投げた。タバコは小さく弧を描き、静かに地面へ落ちた。
それと同時に、相手の銃のリロードが終わったらしい。また大きな銃声が響き、放たれた弾は青年の側頭部に真っ直ぐと飛んでいき………
「………!?」
空を切った。
驚いた狙撃手が辺りをもう一度見渡すと、青年は弾丸の放たれた位置の数歩手前にいる。歩く動作も見せていなかったはずなのに。
これが青年のスタンド「CPX」の能力。光源のある場所に一瞬で移動する能力で、青年はタバコの燃えるわずかな光を光源として瞬間移動。弾丸を避けたのだ。
「さァ〜てハンターさんよォ、ついてこれっかな?」
一定間隔でタバコを投げ、弾丸を避けながら進む。本当はタバコを遠くに投げて一気に移動したいのだが、CPXは視界に入っている光源にしか移動できないのだ。だからといってタバコが落下しきらないうちに能力を使えば、高所からの落下で負傷して格好の的となりTHE.エンドである。一歩一歩確実に、スタンド使い故トラブルに巻き込まれやすい青年は、これまでこうして危機を乗り越えてきた。
しかし、何度も同じ動作をされて学ばない相手ではない。段々と瞬間移動の種に気付き始めたらしく、青年の移動を先読みして撃ってくるようになった。少しずつ弾丸の当たる位置が近づいてゆき、移動と同時に撃ち抜かれるのも時間の問題だろう。
「互いに時間との勝負ってワケだ……やってやろうじゃあねぇか!」
狙撃手が瞬間移動のカラクリを読んだのと同じように、青年もまた、狙撃手のリロードのタイミングを読みきっていた。リロードから発射までにかかる時間は約20秒。20秒あれば、きっと十分。青年はワープと同時に、全力で畦道を駆け出していた。
(10、9、8、7……)
青年は頭の中で残り時間を数えながら、ひたすらに脚を動かす。そろそろ手持ちのタバコが尽きる頃だ。移動手段が無くなる前に「あそこ」まで行ければ。
残り5秒、4秒、3秒、2秒………
と、ここで。
青年の乗ってきたレンタカーが見えた。その距離、約30メートル。
青年がズボンのポケットから「それ」を取り出して高く掲げたのと、猟銃のリロードが終わったのはほぼ同時だった。
ピピッ!
パァン!!!
二つの音が重なる。
銃声よりわずかに早かった機械音とともに青年の姿は消え、弾丸もそのまま地面へめり込んだ。
青年のいた場所、そしてその周辺を見渡しても、青年はいない。今までのタバコを使った移動とは何かが違った。
彼のスタンド「CPX」は、彼の見える範囲の位置にしか瞬間移動できない。しかし、裏を返せば……
「“見えた”のなら、割とどこまでも飛べるんだよなァ〜〜〜!!!」
青年は30メートル先のレンタカーの前に立っていた。青年の手に握られているのは、車のロックを遠隔で外すことのできるスマートキー。青年は走りながら車のロックを外し、その際車のライトが一瞬光るのを利用して、車にまで瞬間移動したのだ。
CPX自体の射程距離はかなり短く、本体の青年からあまり離れることができない。しかし、能力で移動できる範囲はそこそこに長く、数十メートル程度の距離ならば余裕で飛ぶことができるのだ。
(スマートキーが車に反応してくれるかどうか賭けだったが……最近のやつはすげぇな〜!!)
青年はそのまま車内に転がり込み、エンジンをかけた。
「あばよとっつぁん!つっても、泥棒はあいつらだけどな〜!!」
エンジン全開でその場から走り去る。途中で一度銃声が聞こえたが、流石に届かず諦めたのだろう。もう発砲音は聞こえなくなった。
ふと、あの知らない知り合い達のいた方を見る。計らずしも囮役となっていたらしく、知り合い達はうまく逃げていた。あんな奴らを助けてしまったのは少し癪だが、流石に今回の件で懲りただろう。社会貢献したと考えればヨシ。
季節外れの冷房をつけた帰り道、青年はポケットからひとつのトマトを取り出した。依頼主の畑から一応回収しておいたものだ。それを一口だけかじり、咀嚼する。
「……へへ、まっず」
タバコ14本と引き換えのトマトは、ろくに手入れもされておらず酸っぱかった。
81
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/08(月) 23:02:39 ID:AVIV7eIs0
敵の正体とか解明されないまま話終わってく感じは本編よりも動かないに近い感じで好きです。
82
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:47:47 ID:Hl4Tpbhw0
明けましておめでとうございます!
今年も一年、マイペースに楽しみながら目標に向けてチャレンジしたいと思います。
>>77
>>78
問題投稿有り難うございます。
何か解答話のネタ元に絡んできそうな問題が投稿されていそうでニヤニヤしてます。連作問題も書き答えがありそうで楽しみです!
>>79
解答話の投稿有り難うございます!
能力の使い方と青年の軽妙さがスマートに書かれててカッコ良いです。すごく丁寧な解答だと思いました!
83
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:48:25 ID:Hl4Tpbhw0
【課題名】
毒針七本
【使用オリスタ】
No.8790 フィーバー・ビリーバー・フィードバック
【解答】
「さて……どうしたものか」
夜風が身に染みる冬の夜、年末の入ったアパートの一室を自宅件事務にする探偵は、一仕事終えて帰宅すると、玄関先で身に覚えのない置き配が出迎えてくれている事に気がつく。
そのままにもしておけないので、ひとまず家内まで持ってきたはいいが……万年金欠の貧乏探偵はつい魔が差してしまい、良からぬ事を思い付いてしまう。1LDKの事務所用の一室、事務デスクに荷物を置くと、探偵は射幸心を宿らせた瞳をキラキラ輝かせながらそれを見下ろす。
「どーしよっかなぁ……ここのオーナーが設置している防犯カメラはみ〜んなダミーなんだよなぁ。クリスマスに寝過ごした慌てん坊のサンタクロースが来てくれたという事には…………さすがに出来ないかぁ。でも間違って開けちゃうのは仕方ないよなぁ〜うん。これは出来心じゃあない!うっかり間違って開けっちゃっただけだぜっ!」
貧しさと好奇心に勝てず、自分に言い聞かせるように適当な言い訳を思い付いた探偵は、ニヒヒっと悪戯な笑みを浮かべながら宅急便の封を切るが、中身はまた段ボール、さらに開けて段ボール、段ボールのマトリョーシカが続く。
どうやら普通の荷物ではないようだと、さすがに探偵も察するが、ここまで開けてしまったのならば荷物の正体を暴きたい。マトリョーシカの終着点と思わしき厳重に密閉されてた小包のテープを剥がしにかかるが、何重も執拗に巻き付けられたテープに手間取り、手を滑らせて小包を床にひっくり返してしまう。
探偵はそれを慌てて拾おうとするが……封印から解き放たれて床にぶちまけられたそいつ等は、自分たちを閉じ込めていた箱を持ち上げられ、室内の光と人目に晒されるや否や、蜘蛛の子を散らすように一斉にカサカサと蠢きだす。
「な、なにイィィィィィィィィッーッ!こいつは!!まさか!!」
探偵はそれを見た瞬間、顔を青冷めさせながらデスクに飛び乗り身を守る。ここは探偵事務所でもあるが自宅兼用であり土足厳禁たが、それはこの状況に置いては非常にマズイ。
既に奴等は素早い身のこなしで物陰に隠れてしまったが、その特徴的で強烈な外見は一瞬見ただけでも記憶に焼き付いてしまう。探偵はスマホで検索してそいつの正体を正確に看破する。
「オブトサソリ……デスストーカー!?こりゃまた随分とけったいな奴等が送られてきたな!」
小ぶりながら黄緑っぽい特徴的な外見、乾燥した砂漠地帯に適応した本種は、昼間は岩の下や住みかに身を潜めているが、夜になると活発に動き回り、俊敏な動きと猛毒を駆使して獲物を仕留める。その小さな体に秘められた猛毒は人体にアナフィラキシーショック症状を引き起こす事があるらしく、世界各地で死亡例もあるようだ。
そんな危険生物が自宅兼探偵事務所内に潜伏されてはたまったものではない。次々と飛び出てくる厄介な情報に探偵は冷や汗をかきはじめるが……とあるネット記事を目にした瞬間、探偵の双眸は黄金色に煌めく。
「3.8リットルで約40億円以上!?世界一高価な液体と言われるオブトサソリの毒!!おいおいおいおい、とんでもねー厄ネタかと思ったけど……こんなの見たらワクワクしちゃうじゃねーか!」
実際に毒液を3.8リットルも集めるのは途方もない作業であり現実的ではないが……輸入禁止の厄介者も裏社会の錬金術を駆使すればそれなりの金になるかもしれないと、探偵は金の匂いを嗅ぎ付けて徐々にやる気を出し始める。
しかし、相手はどんなに小さくても危険すぎる猛毒性物。闇雲に捕まえようとすれば毒針を刺されてしまい一巻の終わりだろう。だが……既にオブトサソリの生態を調査し尽くした探偵は不敵にほくそ笑む。
84
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:48:57 ID:Hl4Tpbhw0
「逃げ出したのは6匹……いや7匹だったかな。正直よく覚えていないなぁ〜。けど、このトラブルには必勝法がある!行くぜッ!フィーバー・ビリーバー・フィードバック!!」
探偵が発動したスタンド能力〈フィーバー・ビリーバー・フィードバック〉は、輪状の装飾を無数につけた細身の人型のような見た目で、探偵と並び立つと同時に『バックドア』を作成した。
スタンドが考案した『バックドア』の詳細は、本体に脳内に情報として自動共有される。スタンドの意図を把握した探偵は、ニヒヒッ!と悪戯な笑みを浮かべると「さすがに私のスタンド、上出来じゃん」と、自身のスタンドを拳で軽く小突きながら労いの言葉をかける。
探偵は今一度小包を拾い上げて『バックドア』を解放する。刹那、室内のフローリングに無数の小さなドアが不規則に発生したかと思えば、一斉にドアが開かれ、その先から強烈な光と微細な振動・喧しい電子音の騒音が解き放たれる。
物陰に潜んでいたサソリたちは突如発生した謎の光と振動・騒音に大混乱、身を潜められる安全な場所を求めて、光源の『バックドア』とは別に設置された暗がりの『バックドア』に侵入する。
すると探偵が抱える小包の中に発生している『バックドア』から次々と逃げ出したサソリが自分から戻ってきてくれた。
相手は光を嫌う夜行性の生物、光への感度は抜群だが視力自体は悪く、体中にはきわめて敏感な感覚毛があり、これで臭いや振動を感じることができるらしい。それならば、危険を省みず強引に捕獲するよりも、サソリたちには自ら安全な元いた場所に移動してもらった方が手っ取り早いだろう。
〈フィーバー・ビリーバー・フィードバック〉は『バックドア』を仕掛ける能力。それは本体しか知らない、裏口であり抜け道。文字通り、建物や部屋に裏口を作ることもできるが、それに留まらず、何らかの攻撃や能力に対して、勝手な『攻略方法』を作ってしまうこともできる。
だが、どんな物になるかは作るまで不明なため、到底使えない『バックドア』ができるかもしれないが……本体は身辺調査を生業にするプロの探偵。未知なるスタンド使いならまだしも、習性が知れ渡っている危険性物くらいなら情報をすぐさま洗いだし、スタンドと情報共有する事で、有用な『バックドア』を作成する事は容易に可能である。
「1、2、3、4、5、6、7……これ以上は増えないって事はこれで全部かな?……一応バルサンも焚いとこうか。さて、これからどうしてくれようかなぁ〜」
一時はどうなるかと冷や冷やしていたが、喉元過ぎればなんとやら。思いがけぬ僥倖に、探偵は宅急便に記された住所を一瞥して悪戯な笑みを浮かべる。
85
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:49:47 ID:Hl4Tpbhw0
【課題名】
凍える初日
【使用オリスタ】
No.8722 ハイジャック・マイ・ハート
【解答】
「マイ、寒いんですけど」
「大丈夫だって動いてたらそのうち身体も温かくなるからさ!平気平気!平気だよ!」
「あなた平気でもマイは平気じゃないんですよ」
「実際に動いてみなきゃ分からないさ。さぁ入って入って!」
あどけなさこそどこかに残しているが、絶世の美女と言っても差し支えない容姿の若い女性。
どういう事情かは定かではないが、配達荷物の仕分けバイトにやってきた彼女は、初めての場所で、よくわからないまま言われた場所へ向かうと、配置場所はクール便を取り扱う冷凍室であった。
身体を動かすからと言われたので、その言葉を鵜呑みにしてしまったのか、比較的薄着できた彼女はさすがにヤバいと思い直し、こうして指導役の職員に抗議をしていた。根負けした職員の男は「それじゃ防寒着持ってくるからここで待っててね」と言い残すと、慌てた様子で冷凍室から出ていってしまった。
男は去り際に含みのある笑みを浮かべてるが、彼女はその悪意に気がついていないのか、言われるがまま待つことしかしない。男は女性一人しかいない冷凍室から抜け出すと出入り口を施錠し、ひた隠していた醜悪で邪な笑みを晒け出す。
「どうして馬鹿は簡単に騙されんだろうなァ?」と嘲るように呟くと、スマホを取り出して誰かに連絡を取り始める。
「もしもし、どーもこんちゃーす。頭の緩そうな馬鹿女を確保をしたんでご連絡しました。えぇ、はい勿論勿論。顔と身体しか取り柄がなさそうな典型的なメスガキですから大丈夫大丈夫、安心してくださいよぉ〜!」
下衆な笑みを浮かべる男は、人身売買を生業にする誘拐業者であった。巷で溢れ帰る行き場がなくて頭の緩い若者たちをターゲットに、高額の報酬を釣り餌にしておびき寄せて冷凍室に監禁するのが手口らしい。因みに、なぜ監禁場所が冷凍室かと言うと……どんなケダモノの気色悪い抱擁だろうと、凍えた商品は一肌の暖かさを求めて誰でも思わず受け入れてしまうらしく、それが売りである。
商品を隠し撮りした写真を会員に呈示して競売にかけた後、購入者はその日のうちにVIP送迎で冷凍倉庫内に設置された隠し部屋のプレイルームに案内されるようで……こうしているうちに早速買い手が見つかったらしい。
「あぁ〜またあのドスケベ変体社長きちゃうの?あのヒト金払いはいーけど、スゲー汚い遊び方するから後処理が大変なんだよなぁ〜。せっかく仕入れた商品も一発で使い捨てられたら勿体ねーのに」
電話の応対を続ける男は、これからやって来る常連客の愚痴を疎ましそうに続ける。
★
「どうして馬鹿は簡単に騙されるんだろうね?」
一方、冷凍室に監禁されてしまった馬鹿な女……の振りをしていた女性は、職員が一向に帰ってこない様子を確認すると、どこか自虐的な乾いた笑みを浮かべながら小さく呟く。その声に艶やかな長髪の内側、耳元に取り付けられた超小型トランシーバーから反応が帰ってくる。
『潜入ご苦労マイ君、早速だが冷凍室の中に積まれた荷物の中身を確認してくれないか』
「いいけど、何を探すの?」
『密輸品と言ったところだ。ここは誘拐業者の監禁場所でもあるが、それ以外にも非合法な品々を保管する拠点でもある。適当に荷物を確認して中身を教えて欲しい』
「はいはい、分かりました」
『はいは一回だけにした方がいい。相手に子どもっぽく思われて舐められてしまう』
「あんた何様……学校の先生?」
『一応、君の上司だろう……マイ君。私は君の有用性を組織に証明したいだけなんだ。だが、まぁしかし……仕事に関係ない事を口走った私が悪かった。その点は謝罪しよう。すまなかった。思うところはあるかもしれないが今は私に協力して欲しい。君の実力を我々に見せ欲しいんだ』
「……はい、分かりましたよ」
『協力感謝する』
耳元から与えられた指令をこなす為、彼女は冷凍室内部を物色し始める。彼女は普通の女性ではなく……10代の頃から学校にも行かずに仕事を転々としているうちに、裏社会で暗躍する組織の構成員となり、現在は敵対組織が管理する冷凍倉庫の秘密を暴き、警察にリークする危険な綱渡りをするハメになっているようだ。
トランシーバーから指示を出す上司は落ち着いた雰囲気で彼女を信頼しているが、彼女自身は20代の成人女性であるにも関わらず、どこか反抗期を迎えた少女のような精神的な幼さが目立つ。
最も精神的に未熟でも、彼女は10代の頃から生きるためなら何でもしてきた逞しい毒婦である。裏社会を渡り歩く処世術は、自分の言葉で言語化こそできないかもしれないが、行動でそれを理解しており、土壇場でヘマをやらかすならとっくに死んでいるだろう。
86
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:50:42 ID:Hl4Tpbhw0
寒さに耐えながら冷凍室を物色し続けた女性は、ヤバそうなネタを発見次第その場ですぐに報告する。冷凍食品が敷き詰められた段ボール隠された白い粉のパック詰めや金塊が潜んであったり、遺体袋に入れられた死体……袋を開けてみれば、煙草を押し付けて出来た火傷の痕を不規則に残し、全身の穴という穴が陵辱の限りを尽くされたような惨たらしい遺体が複数あった。
女性は死体を見ても特に慌てる様子もなく、その甲斐あり犯罪証拠を早急に掴む事ができた。ここにこれ以上残り続ける理由はないと上司は新たな指示を出す。
『よし……これくらいにしよう。マイ君、あとは速やかに脱出してくれ』
「はい、りょーかい」
『間延びした言葉は使わない方がいい』
「さっきから何なの?」
『……私は君が一流になれる可能性を秘めた原石だと確信している。女性なら尚更、裏社会で生きる道を自分で選んだのなら、まずは相手に舐められない言葉遣いを身につけた方がいい。誰の為でもなく君自身の為に……あぁ、また仕事に関係ない話をして悪かった。私の言葉は頭の片隅でもいいから覚えていてくれたら嬉しいが』
「どうでもいいけど、マイは寒いから早くここから出たいの」
『仕事を遮って悪かった。現場の動きを優先してくれ』
「…了解」
上司との会話を終えた女性は冷凍室から出ようとするが、扉は硬く施錠されておりビクとも動かない。自分が監禁された事実に初めて気がついた女性は……特に慌てる様子もなければ、上司に報告するまでもなく己のスタンドを発動してみせる。
「ハイジャック・マイ・ハート」
右頬に青黒く濁ったハートの模様、左頬に♀マークの穴を貫いている♂マークが描かれている毒々しいピンク色の仮面が彼女の手元に出現する。女性はそれを被り素顔を覆い隠すと……人差し指で施錠されたドアを淫靡な手付きで艶かしくなぞりながら、女性らしい豊かな胸を押し当てる。そして、レバーハンドルをソフトタッチで撫でるような素振りを魅せたかと思えば、ぎゅっと握りしめながら「開けてくれたらもっと良いことしてあげる」と、妖艶なウィスパーボイスで囁いてみせた。
端からみれば、この痴女はドア相手に何をしているのかとツッコミを入れたくなるかもしれないが……これこそ彼女のスタンド能力〈ハイジャック・マイ・ハート〉の真髄。
このスタンドを被っている間、本体の行う「色仕掛け」は、「施錠」に対して通用するようになるらしい。何を言ってるか分からないなもしれないが、論より証拠……硬く閉ざされていた施錠は、彼女な色仕掛けに靡いてしまいガチャと軽快な音を立てながら解除されてしまった。
「ありがと」
スタンドの仮面越しではあるがドアにお礼の口づけを交わし、女性は難なく冷凍室から脱出する事に成功した。その後も誰かに遭遇する事なく冷凍倉庫入り口まで辿り着くが、そこで待ち構えていたのは、彼女を倉庫内に置き去りにした男だった。
煙草をふかしながら来客を待っていた男は、しっかり施錠したハズのドアから馬鹿女が出てきたことに目を丸くして驚いている……その隙を彼女は見逃さず「助けて!」と叫びながら男に駆け寄り凍てついた身体を震わせながら抱きついてみせる。
女性の豊満な胸の感触にマヌケ面を晒しながら惚気た男は、彼女に釣られて抱き返そうとするが……股間に襲いかかる猛烈な激痛に言葉にならない悲鳴をあげながら悶絶、その隙にナイフで喉元をかっ切られ赤黒い血液を撒き散らしながら倒れ伏した。
邪魔者を排除した女性を現状を上司に報告する。
「脱出に成功、入り口で目撃者と鉢合わせになったから始末したよ」
『構わない、怪我はないか?』
「寒いこと以外マイは平気」
『よくやった。それでは指定した合流地点に向かってくれ。迎えの車は既に配置してある』
「了解」
上司との会話を終えた女性は何事もなかったかのように、この場を足早に去るのみ。
色仕掛けであらゆる施錠を開錠してしまう可能性を秘めた毒婦の暗殺者……そのスタンド能力は彼女自身の圧倒的な美貌と色仕掛けの才覚がスタンドに昇華した賜物だろう。並の男なら彼女の色気に少しでも当てられた日には容易に手玉に取られてしまう。
精神的に未熟であるのが欠点だが、それ故にまだ伸び代があり……自分が見いだしたダイヤの原石に、上司はかつてアメリカで活躍していた伝説の女暗殺者ゴージャス・アイリンの姿を重ね合わせた。
「……」
『……』
「そう言えばタイムカード押し忘れた」
『……それはひょっとして冗談か?』
「うん」
『君、意外と面白いな』
「そう?」
87
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:52:16 ID:Hl4Tpbhw0
【課題名】
空手家の敗北
【使用オリスタ】
No.7208 バラッド
【解答】
「すうたんどう使いとお見受けする!お手合わせを頼もう!」
眠らない夜の繁華街、闇夜を照らすネオンの輝きから少し離れた路地裏の一角。黒い道着姿の空手家は、路地裏の暗がりを往く男を威勢良く呼び止めた。呼び掛けに反応した男は、堀深い顔立ちの外国人で、奇妙なものを観察するかのように声の主を見つめるのみ……それでも空手家は勝手に話を進める。
「時を置き去りにする光速の拳、火炎を操る火拳、静寂の衝撃波を放つ隠密の破壊拳、見えざる斬撃を操る刃拳……実に興味深い!さぁ貴様の拳をみせてくれ!」
「…………?」
「情報屋に大金を叩いて本物の崇鍛道(すうたんどう)使いを見つけてもらったんだ。楽しませてくれよ」
「…………??!?」
空手家は言葉が通じている呈で勝手に話を進めているが……トルコ出身の外国人は、勝手な事を捲し立てられても理解が追いつかず、ジェスチャーを交えてどうにか意志疎通を図ろうしたが……
「もう始まっている」
相手の事などお構い無しな空手家は、外国人が秘匿する崇鍛道を暴いてやろうと先制攻撃を仕掛けてくる。前のめりに気味に踏み込んで一気に間合いを詰めつつ、身構えようとする外国人の腕も払い落としながら、挨拶代わりの正拳上段突きを放つ。外国人は自身のスタンドでそれを払いつつ、懐から拳銃を取り出し空手家に突きつけた。
情報屋にタレ込まれる外国人もただの素人ではなく……彼は仕事の依頼を受けて来日した殺し屋だ。
仕事中に謎の空手家に邪魔をされては堪ったものではないが、それでも穏便に終わらせようと拳銃を突きつけて脅そうとするが……
殺し屋の予想に反して空手家は本格派だった。銃を見るや否や鋭い上段蹴りを放ち、殺し屋の手から拳銃を蹴飛ばすと、そのまま脳天めがけて、容赦なくかかとを振り下ろす。
殺し屋のスタンドは辛うじてそれを受け止めるが、先程のように払い除ける事は叶わず、直撃を受ける羽目になってしまう。
非スタンド使いはスタンドに直接干渉する事は不可能で、スタンドのみが一方的に干渉できるが……その一瞬の干渉とタイミングが合えば非スタンド使いもスタンドに触れる事ができる。
殺し屋のスタンドが受け止めた空手家の一撃は、本体の利き手にも鈍痛となって襲いかかり腕全体を痺れさせた。スタンドが銃弾を弾き返す時はそれに意識を割いており、銃弾の威力をが本体にフィードバックされる事はないが、今回に限っては空手家の技量が殺し屋の予想を上回ったのか、或いは彼もスタンド使いの素質がある原石なのかもしれない。
アレを脳天に受けていれば脳震盪は必至、確実に殺されていた……と、技の威力を肌身で感じ取った殺し屋は、目の前の空手家を敵として認識を改める。
一方の空手家は、全ての攻撃を手応えなく防がれた事を理解し、目前の外国人が崇鍛道使いである事を勝手に確信すると――息つく間もなく攻める。
力強く前足を踏み込み、腰を深く落とした正拳中段突きは、鋭い動作で殺し屋の視界から空手家が消失する。
殺し屋は身を引いて避けるが、空手家はさらに踏み込み、人体の正中線を狙った三段突きを狙う。殺し屋は自身の腕でいなしつつ、スタンドで空手家の腕を掴みとるが……空手家は直ぐ様、下段蹴りに切り替えて殺し屋の軸を崩し、強引にスタンドの手をすり抜けると、蛇を彷彿させるうねり返すような動作で、頬を凪払う内回し蹴りを決めにかかる。
「バラッド」
刹那の攻防を経て、殺し屋もこれ以上、自分の身が持たない事を悟り、自身のこげ茶色の亜人型スタンド〈バラッド〉の能力を解放し、なりふり構わず空手家の内回し蹴りを受け止める。
認識を改めれば素人の攻撃も銃弾同様無効化可能。一方〈バラッド〉の魔手に直触りされた空手家は――
「な――――」
痛みを感じる間もなく、空手家の屈強な肉体を極薄に何度も繰り返し削り剥がされ、瞬く間に赤黒い血肉の山に変わってしまった。
〈バラッド〉の能力は至ってシンプル……触れた生物を、かつおぶしの削りカスの山のように変えてしまう。
静止を省みず闘争を望んだ以上、触れた者を鏖殺する死神の魔拳を操る殺し屋は……仕事に無関係な素人相手にこうする他なかった。
しかし、下手に情けをかけて生きながらえさせるのは、相手を侮辱する行為である。殺し屋は自分に肉薄した空手家の死を背負い込み、本来の仕事をこなすべく闇夜に溶け込む。
「師匠……!!」
一方、遠巻きで激戦を見守っていた空手家の弟子は、殺し屋がかけた情けなど知るよしもない。
No.7208 バラッド
空手家を殺害した事により弟子が師の意志を継ぐ。追試確定→To Be Continued
88
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:53:32 ID:Hl4Tpbhw0
【課題名】
空手家の敗北(追試)
【使用オリスタ】
No.7208 バラッド
No.8153ハッピー・ファレル
【解答】
「嫌だ!死にたくない!死にたくない!イヤイヤイヤイヤイヤ!ヒィィィィィィ!ヒィィィィィィイイイイイイッ!!」
寂れた倉庫群が立ち並ぶ港の一角、断末魔の叫び声が無情に響く。逃れられぬ死に酷く怯える男は、焦げ茶色の魔手に頭を掴み上げられた途端、その身を極薄に何度も何度も何度も何度も――――瞬く間に削り剥がれ、赤黒い血肉の山に変わり果てて絶命してしまった。
日本に来日してはや数年……文字通り死体の山を積み重ねるうちに、トルコ出身の殺し屋は裏社会でも名の知れた暗殺者として、その凄惨極まる手口から悪名を轟かせていた。最もその名と言うのは、殺し屋の仲介業者や同業者の中で広まった勝手な異名であり、彼の本名を知る者は誰もいない。
しかし、あまりにも血と死臭で穢れ過ぎた男にとって、自分の素性など今さら何の役にも立たない無価値な塵屑でしかない。どうしてこうなってしまったかなんて、ありふれたつまらない話など今更回想する気にもなれない。
彼に残されたものは自身のスタンド能力〈バラッド〉と……これまで積み上げてきた死屍累々の血肉の山のみ。
『清算しろ』
時々、こうして血肉の山が殺し屋に語りかけてくる。勿論、本当に喋っているのではなく、殺し屋自身の精神が語りかける幻聴だ。若い頃はこれに悩んだ時期もあったが……罪を重ね、酒を浴びるように飲み、また死体の山を積み重ねて、脳が縮んで感情も鈍くなり、幻聴とも彼なりに巧く折り合いをつけられるようになっていた。
『まだ俺の"順番"じゃない』
『……』
いつものように返答すると、血肉の山はそれ以上喋らなくなったが……後方から何者かが殺し屋に対して話しかけてきた。
「やっと見つけた…!やっとこさ見つけたぞ!」
聞き覚えのない声がしたので、殺し屋が振り替えるとそこには、目付きの悪い威圧的な雰囲気の若い女がいた。まるで親の敵にでも相対したかのような激しい剣幕で怒鳴り込む。
「3年前の11月29日!……お前がその日、殺した空手家の男は私の師匠だった!あの時、私は恐怖に屈服し、惨めなけ負け犬のように尻尾を巻いて逃げ出してしまった。でも今は違う――――師匠の意思を継ぎ、未熟な私自身の過去に打ち勝つ為にお前と対決する!だからちょっとそのツラ貸せ!」
3年前の頃とは異なり、日本語にも慣れてきた殺し屋は女の言葉に耳を傾けるうちに……スタンド使いでもない素人の癖に戦いを挑んできた空手家の事を思い出した。
「空手家……もしや黒い胴着を着ていた男のことか?」
「ご名答、これ以上自分語りと辛気臭い話はしねーから心置きなく戦え」
「師が師なら弟子も弟子か」
「あぁ、なんだ手前?」
「ただの喧嘩ではない……殺し屋と殺し合う事がどういう事なのか分かっているのか?」
当時は言葉が通じず、空手家も一方的に攻めてきた為、止む終えず殺害する羽目になったが……殺し屋は異常な快楽殺人鬼ではない。仕事以外で無益な殺生をする気は更々ないらしく、彼女との戦闘を回避しようと言葉を紡ごうとするが……突如既視感に襲われる。
「御託は無用、もう始まっている」
女は勢い良く駆け出し、間合いを詰にきたかと思えば、軸足を回しながら腰を入れて放つ、首をはね飛ばしそうな勢いの上段後ろ回し蹴りを繰り出してきた。
その尖鋭な蹴撃は殺し屋の顔面を容赦なく狙い当てようとするが……女自身の発言であの空手家との肉薄した戦いを思い返し、殺し屋は即座に後退しながら間合いを取りつつ、懐から拳銃を抜くと、女に向けて躊躇いなく発砲する。
「お弾きは効かねーぜッ!」
女の発言通り、殺し屋の放った凶弾は着弾するよりも先に、彼女のスタンドが顕現する。
口はないが口元付近に牙模様が刻まれている人型スタンドは、目にも止まらぬ早業で銃弾を拳で弾き返しつつ、前のめり気味に足を踏み込み、犀利な上段蹴りで拳銃を弾き飛ばしにかかる。
相手がスタンドを出した以上、殺し屋も自身のスタンド〈バラッド〉を発現、触れれば即死の魔手を伸ばす。女とスタンドは拳銃から目線を外さないまま、足は跳ね上げるのではなく、真横に凪払う中段回し蹴りに切り替えると、〈バラッド〉のがら空きな脇腹にクリーンヒットする。
強烈な蹴撃を受けた〈バラッド〉は、そのまま吹き飛ばされてしまうが、殺し屋は激痛に堪えながら拳銃を撃ち込み、女のスタンドが銃弾を弾き返す状況を作り出す事で、無理やり詰められた間合いを再び引き剥がす事に成功する。
89
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:54:32 ID:Hl4Tpbhw0
女のスタンドは銃撃を容易に弾き返すパワーとスピードを備えた典型的な近距離パワー型。それに加えて本体自身が習得している全身を効率良く動かす空手の技術や身のこなしが合わさり、破壊力と一撃必殺の能力に振り切った〈バラッド〉では、相手の速さに対応しきれず、やや分が悪い。何よりも相手はまだ切り札を温存している。
冷静に相手の力量を分析する殺し屋は、脂汗をかきながら時間を稼ぐ為に言葉を紡ぐ。
「……師匠と違ってお前はスタンド使いか」
「お陰様だよ。アンタが師匠との戦いでスタンド能力を披露してくれたお陰で…………崇鍛道使いがいるって確信を持つ事が出来て、『矢』とも巡り合う事ができた」
「スタンド使いなら尚更……俺が手加減できない事を分かってくれないか?お前の師匠は強すぎた。半端な格闘家ならどうにか出来たかもしれないが、アイツを止めるには、あの一瞬で殺す他なかった。今一度問うがお前も師匠みたいに、俺に殺されたいのか?」
「ハッ!殺し屋が殺しを脅し文句に使うなよ。口先だけで私を殺せるつもりならさっさと殺してみな!」
女は妙な自信があり、戦闘を避ける様子は一切みられない。正論を指摘された以上、殺し屋もいよいよ切り替えなければならなくなった。
「そうか……ならば次の"順番"を決めよう」
殺し屋の前に立つ〈バラッド〉は左手を高く天に掲げ、右手を地に低く向けるような構えをとりながら、すり足で女の方へとにじり寄り、その間にも左右の手の位置を円を描くように妖しく入れ替える。
「天地上下の構えか……洒落臭ぇ」
空手の知識を有する女は〈バラッド〉の独特な動きのネタを看破してみせる。アレは本来、左右の手を上下に広げる事で頭部と胴体を守りつつ、反撃に転じる誘いの構えだが……触れたら即死の魔手を持つスタンドが使うとなれば、攻めの構えにも通じてしまうだろう。さらに魔手でカバー仕切れない範囲を殺し屋が拳銃で補ってくるのは間違いない。近距離パワー型のスタンド相手には手堅い戦法かもしれないが……女は不敵な笑みを浮かべると、殺し屋の目論見を一蹴するかのようにスタンド共に突撃を開始する。
殺し屋は銃撃を繰り返し牽制するが、女のスタンドが先行しながらそれを弾き返すと、不意に身体を沈み込ませ、地を這うように回転しながら殺し屋たちの軸足を刈り取る足払いの奇襲を仕掛ける。スタンドの攻撃は銃弾では対処不可能、殺し屋と〈バラッド〉は咄嗟に跳躍してそれを避ける。
しかし、飛躍と共に天地上下の構えも拳銃の射線も全て崩れ去り、その一瞬の隙を狙い澄ましたかのように女自身はスタンドを踏み台にして跳躍すると同時に、全身を捻り、殺し屋の側頭部目掛けて必殺の飛び後ろ回し蹴りをお見舞いする。
だが、殺し屋も山勘頼りに空中で唯一動かせる頭部を動かす。軸をズラしたのが幸いし、鈍い衝撃が脳髄を駆け巡る中、辛うじて意識を繋ぎ止めて〈バラッド〉を維持する事ができ―――
ヒタッ
〈バラッド〉は女の足を握り締めると……その身を極薄に、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、繰り返し執拗に瞬く間に削り剥がしにかかる。
「〜〜〜〜〜〜ッ!〈ハッピー・ファレル〉ッ!」
本体に踏み台にされた彼女のスタンド〈ハッピー・ファレル〉は、彼女が〈バラッド〉に捕まるやや否や飛び起きて跳躍する。下半身を失いつつある女を殴り飛ばすと、両脚を失いうなだれていた血染めのズボンから瞬く間に新しい素足が伸び生え、肉体の再生と同時に〈バラッド〉の死の呪縛からも逃れられたのか、それ以上身体を血肉の山に変わる様子はない。
自身スタンドに吹き飛ばされた女は、力なく無防備に倒れ伏せるが、回復が完了すると何事もなかったかのように平然と起き上がる。
同じように殺し屋も、頭を抱えながら覚束ない足取りで立ち上がる。両者再び向かい合うと、女はどこかバツの悪そうな顔をしながら、おもむろに話し始める。
「やってくれたな……正直言ってしこたまビビったぜ。でも、これで分かっただろう?ネタばらしをするつもりはなかったけど……アンタのスタンドじゃ私には絶対に勝てない。私のスタンド〈ハッピー・ファレル〉の能力は過回復……どんなダメージを受けても、ご覧の通り元の状態に治せちまう」
女の言っている事は紛れもない事実かもしれないが……妙に余計な御託を並べるようになった。本当の事を言っているのかもしれないが、それならば開幕同様、軽快な蹴り技で特攻しても問題はないハズだ。わざわざ余計な事を自分から勝手に喋ってくるのは、暗に何かを隠したい気持ちの表れかもしれない。
90
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:55:20 ID:Hl4Tpbhw0
殺し屋はこれまでの女の口振りや振る舞いを冷静に振り返り、〈バラッド〉がまだ彼女に有効打を与える余地がある事を確信すると……誰かに語りかける訳でもなく、この世に生まれ落ちてきて以来、ずっと慣れ親しんできたトルコ語で己の本懐を〈バラッド〉に向けて吐露する。
『……"順番"がすぐそこまで近づいてきている。だが、ほんの少しだけ、まだ俺の番にはしたくなくなった――――』
殺し屋と対峙し続けていた女は、目の前の男の雰囲気が変わりつつある事に気がついた。戦いの合間に紡がれた言葉は理性のある素振りをしていたのかもしれないが……剥き出しになった殺し屋の本懐は、は中々どうして背筋を凍らせてくる。
あれだけ口では仕事以外の殺しを避けたがっていた殺し屋は、顔色一つ変えないまま〈バラッド〉と共に女の元に駆け出し、拳銃をありったけ乱射する。
女は〈ハッピー・ファレル〉を前に出すと迫りくる凶弾を難なく払い除けるが、突如前方から真っ赤な鮮血と人肉の破片が降り注ぐ。
銃弾に意識を割いていた事もあり、血肉の雨は〈ハッピー・ファレル〉をすり抜けて、女の顔面にぶちまけられて、視界を封じられてしまった。
女は即座に〈ハッピー・ファレル〉と視界を共有するが、目前には自分の腕を〈バラッド〉に触れさせて、自分自身の削りカスを放出する、正気の沙汰とは到底思えない捨て身の殺し屋がいた。
予想外の奇襲に度肝を抜かれた女は〈ハッピー・ファレル〉になりふり構わず拳撃のラッシュを繰り出させるが、殺し屋は沈むように滑り込むスライディングで、拳打の猛攻を掻い潜り、女の膝元まで肉薄、そこからさらに片腕を失った〈バラッド〉を操り、間髪を容れずに鋭い貫手を女の口腔内に無理矢理差し込むと、人体の内部から能力を発動する。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、咽頭内部から肉体を薄く削ぎ落とし、行き場を失い積もり積もった血肉は食道と気管に逃げ込み、瞬く間に閉塞して呼吸困難に陥る。
どんなに肉体を回復できようとも、肉体を元の状態に回帰させる過回復に、肉体内部に存在する異物まで排除する便利なオプションは恐らく存在しないだろう。自分たちの目論見を達成した〈バラッド〉は……当然、死に物狂いの〈ハッピー・ファレル〉によって背後から胴体を貫かれてしまう。
決定的な何かを木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった〈バラッド〉は全身にヒビが入り始める。殺し屋もダメージフィードバックが伝播し、胸部に大穴を空けた状態になり、身動き一つ取れなくなってしまった。
しかし、殺し屋は何とも思う事はない。ただ、自分の"順番"が来ただけに過ぎない。自分の背後に積もり積もった血肉の山は祝福してくれるだろう。〈ハッピー・ファレル〉は拳打の猛攻を本体に浴びせているが、最早どうでもよい。
違う。
本当は〈ハッピー・ファレル〉に勝ちたかった。殺し屋に残された己の存在証明〈バラッド〉が、一瞬だっていいから最強である事を証明したかった。そんな子どもじみた自尊心が、死で塗り潰された殺し屋の精神に唯一残された本懐だったのかもしれない。
全てをやりきった殺し屋の意識は闇の中に落ちてしまうが……本体に取り残された〈バラッド〉の全身に駆けめぐっていたひび割れは、いつの間にか消失する。一方の女はひび割れて消えかかる〈ハッピー・ファレル〉によってグチャグチャに粉微塵に粉砕される。
91
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/09(火) 22:56:28 ID:Hl4Tpbhw0
★
「……ここは地獄か?」
「悪ぃ、残念ながらこの世だ」
殺し合いの末、死を迎えたハズの殺し屋は、どういう分けか息を吹き替えしていた。仰向けになって寝そべっていたので、上体を起こして辺りを見渡すと……窒息死させたハズの女が血塗れでボロボロの服を着たまま、片膝を立てながらアスファルトに座っている。先ほどまでの鋭い剣幕もすっかり鳴りを潜め、心底くたびれた顔をしていた。
殺し屋は状況が理解できず戸惑う他ない。女が生き残っているのはまだ分かるが……なぜ彼女の師匠を殺害した憎き仇まで、過回復の効果を受けて、胸部に出来た風穴が元通りに塞がっているのだ。
「どういうつもりだ?」
「何が?」
「なぜ俺が生きている?」
「偶然だよ。〈ハッピー・ファレル〉の過回復は徹底的に破壊尽くしたものを再生するくらいが丁度いいピーキーな性能でよ。気張りすぎると回復し過ぎて肉体を逆に腐らせてしまう事もある。すべて根こそぎ木っ端微塵にしてくれた方が〈ハッピー・ファレル〉も本領を発揮しやすいんだ。例えばアンタのスタンド能力みたいに全身を削り節にでもされた方がマジで調度いい。だから……アンタの置き土産を摘出するのに〈ハッピー・ファレル〉に私の全てを破壊してもらった。全てを〈ハッピー・ファレル〉に委ねた一か八かの賭みたいな状況だったから、不本意ながら偶然が起こったのかもしれない。もしかしたら……アンタは〈ハッピー・ファレル〉に気に入られたのかもな」
彼女の説明を聞いて殺し屋は何となく腑に落ちるが、煙草の吸殻のように燃え尽きてしまった死に損ないは、動くことすらままならない徒労感に襲われていたが、唯一動かせる頭と口で死を手繰り寄せようとする。
「ならば今こそ復讐を果たす時だ。俺にトドメを刺せ」
「嫌だね。死にたがりと戦ってたら興まで削がれた。そもそも私は復讐の為に戦っていた訳じゃない……師匠から受け継いだ空手の技でアンタに勝ちたかっただけさ。まぁ結果は〈ハッピー・ファレル〉の独り勝ちってところだろーけど」
「………………」
話の通じない戦闘狂だとばかり思っていたが、女の口から打ち明けられた真意は、どこか殺し屋の本懐に通じるものがあった。殺し合った後でようやく人間味を感じる事になるとは思いもしない。そんな殺し屋を余所に女は勝手に話を進める。
「ところで……シャープナーだっけ?グラインダーだったか?殺し屋の通り名や名義は知らんけど……アンタ、私に雇われる気はないか?」
寝耳に冷水をぶちまけるような予想打にしない発言に殺し屋は困惑するが……仕事の話となれば私情は挟まない主義故に「条件による」と返答してしまう。駄目元で口走っただけったのか、女もまた予想外の反応に目を丸くして驚いた様子だ。
「ビジネスライクで助かるぜ。この名前を聞いた事があるか?■■■■■■■■■■■――アメリカの裏社会で暗躍する不死身の狂人を討伐する為に、アンタみたいな手練れのスタンド使いを探している真っ最中なんだ。別にアンタの強さを試してたわけじゃないが、アンタの強さを身をもって味わった者としては是非とも協力して欲しい。私は千田 杏奈 (チダ アンナ)……もし、その気があるならアンタの名前を教えてくれ」
くたびれていたハズの女の顔は、話を進めるうちに徐々に真剣な面持ちになっていた。彼女の口から語られた名は噂話程度の認識だったが、本当に実在するのであれば、間違いなく関わってはいけない最大級の厄災ネタだろう。しかし、死に場所を求める殺し屋にしてみれば、おあつらえ向きの仕事である。
「人様に名乗れるような名前はない。ただ唯一俺の存在を照明できる名は……〈バラッド〉だ」
92
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/12(金) 02:28:25 ID:SnZJHkDc0
そっかー
こーゆー形ならオリスタ投入ありかー
そっかー
93
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/12(金) 21:13:16 ID:AGs5Gfms0
>>92
>>87
から投稿した【空手家の敗北】は、空手家を殺害したら弟子が意思を受け継いで襲ってくる追試システム(減点要素?)に、敢えて乗っかる形で構想した解答です。
問題で提示された追試の内容自体は明言されていなかったので、空手に関連するオリスタキャラを採用して、最初に対戦した空手家の敗北に通じるオチを用意しましたが、それ以外は結構好き放題遊んでしまっています。
ただ、問題の内容・流れを根本的に覆すような形でオリスタをねじ込むのは、企画の趣旨やルールから離れてしまいますので、匙加減を間違わないように気を付けたいと思います。
私自身も「これぐらいなら大丈夫やろ」の精神で、気がつかないうちにルールを抵触しているパターンもあると思いますので、疑問に思った事や確認したい点があれば今後とも気兼ねなくレスしてくださいm(_ _)m
94
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/17(水) 02:21:06 ID:rLqpNlak0
>>93
いえいえ
ただ別にスタンド出さなきゃほらーもSFもやれたな。と思っただけです
95
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/17(水) 22:21:28 ID:pm.xfuhU0
>>94
企画の性質上、私が投稿した回答は1例に過ぎません。どうアレンジするかは書き手によって変わってきますが、問題の解釈の仕方とオリスタを上手い具合に絡めれば、ホラーやSF 話に仕立てる事も十分可能ですね。
私自身も違った回答パターンは見てみたいので、何か温めているネタがあるなら気が向いた時にでも遊んでください。
折角なんで私も投稿されている問題を一通りつまんだ後にでも、違ったパターンの回答を考えて遊んでみます。
96
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:32:45 ID:MMSVrbOs0
【課題名】
お散歩お散歩お散歩お散歩
【使用オリスタ】
No.8616 ホット・ブラッド
No.8649 スティル・バーニン
No.415 ライオンキング「百獣王」
【解答】
盛夏の日差しが照りつける昼下がりの公園、無邪気で元気いっぱいな幼児たちは、水風船を投げつけ合ったり、水鉄砲を撃ち合いながら自ずと暑さを凌いでいるようだ。
しかし、遊びに夢中になり過ぎた1人の男の子は、公園内を通行していたスーツ姿の男に気がつかずにぶつかると、両手の水風船を盛大にぶちまけながら尻餅をついてしまった。
男の子はやってしまったと我に返り、水浸しにしてしまったスーツ姿の男を見上げるが、彼はそんな男の子と視線を合わせるようにしゃがみこむと、まるで絵本でも読み聞かせるような穏やかな語り口で話しかける。
「大丈夫?怪我はないかい坊や?」
男の子は言葉を返す事ができなかった。水浸しにした後ろめたさもあるが、何より……男の眼に宿るヤギを彷彿させる横長の瞳孔があまりにも不気味で気圧されていた。もっとも男はこういった反応には慣れているようで気にも止めず会話を続ける。
「坊や、君はいくつ?」
男の問いかけに男の子は恐る恐る握りしめていた手を開いてみせる。
「ふーん5歳か、君のお母さんは今何してるの?」
「……あっち」
怒る素振りを見せない相手に次第に緊張が解れてきた男の子は、自分の母親がいる方を指を指して教えてくれたが……母親の方も異変に気がついたようで、リードで繋いだペットの小型犬・ポメラニアンと共にこちらに駆け寄ってきた。
「どうも、すみません!うちの康介が……」
母親は事態を察し、挨拶代わりに謝罪の言葉を男に向けるが、彼と目と目があった瞬間、思わず言葉を詰まらせてしまった。
そんな母親の様子を見た男は、朗らかな笑みを浮かべながら手を振り、「いいんですいいんです。子どもがやったことですから」と、愛想良く事を荒立てないようにする。
そんな大人たちのやり取りを見つめていた男の子は、徐に母親の前に立ち「おじさん、ごめんなさい」と自ら頭を下げてきた。
男の子の健気な様子を見た男は、満面の笑顔を作りながら、「しっかり謝れるなんて偉いネェ〜、お母さんとお父さんもきっと褒めてくれるよ」と、労いの言葉をかけて男の子の頭を優しく撫でてみせた。
目と目があった瞬間、不審者と遭遇したとばかり思い込んでいた母親は、我が子と男の一連のやり取りを居たたまれない気持ちで見ていたのか、懐から財布を取り出し、「あぁ、本当にすみません……少ないですがクリーニング代です」と、申し訳なさそうに五千円札を男に手渡そうとするが、男は両手を軽く振りながらそれをやんわりと拒否する。
「お気持ちだけで十分ですよ。うちにも一人娘がいましてね。その子と同じぐらいの年頃の時は、ワイフと一緒にてんやわんやになりながら子育てをしていました。だから本当に……貴方のそのお気持ちだけで十分です」
言いたいことだけ言いきった男は足早にこの場を去ろうとするが、母子のペットであるポメラニアンは何を思ったのか男の足元にすり寄ろとしてきた。
その瞬間、男は――――「止めろ……汚ねぇ毛むくじゃらの身体を擦りつけてくんじゃねええええええッ!!犬ッコロの分際で馴れ馴れしく人間様に近寄るなああああああッ!!!」
発狂したかのように喧しく捲し立てながら、悪魔を思わせる邪眼で小型犬を威威圧するように睨み付けた。
威嚇されたポメラニアンも自分に向けられた純粋な敵意を敏感に感じ取り、くぅーん…と悲しそうな鳴き声を上げて母子の背後に逃げ隠れてしまう。母子たちも男がひた隠していたもう一つの顔を目の当たりにして……それはもう天地がひっくり返るほど驚き、おののき、ドン引きである。
突如態度を急変させた男は、はっと我に返ると悪びれた様子で「嗚呼、すみません。私その……なんというか人間以外の凡ての生物が苦手でして。何も悪い事をしていないのは重々承知していますが、それでも腸が煮え繰り返るほど憎んでしまう質なのです。所謂精神的な発作みたいなヤツです。パニック障害みたいな」と、自分が情緒不安定である事を言い訳にして、今度こそこの場から逃げるように離れるが……目前から迫り来る脅威に、男の両足はすぐに凍りついたかのように動かなくなってしまう。
何事かと思えば、四頭の大型犬を散歩させている男が近づいてきているのだ。セント・バーナードにクレート・デーン、マスティフ、ドーベルマン……犬たちはどれも毛色が良く筋肉質でとても立派に見えるが、どういう分けか飼い主と思わしき男の方は、ホームレスみたいに酷くボロボロな身なりをしており、よく観察すれば犬のリードを持つ両手が血まみれになっているのだ。
97
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:33:30 ID:MMSVrbOs0
そんな異変にスーツ姿の男が気がついた途端、飼い主らしき男は事切れたかのように力なく倒れ付ししてしまう。犬たちはリードを持つ男の元に駆け寄ると、吠えたり噛みついたりするが……反応がない事を確認するや否や、犬たちは飼い主が握っていたリードの持ち手部分を口で加えると強引に引き剥がした。
刹那、周囲に血潮がほとばしる。リードの持ち手部分は返しのついた針が密集しているような形状なのか、飼い主の男はアレを無理やり握らされていたのかもしれない……一体誰に?
スーツ姿の男が思案を巡らせる間も無く、四匹の大型犬たちは新たな標的を包囲すると、後方から回り込んできていたドーベルマンが男の脹ら脛に勢いよく噛みつく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!?!」
突然の強襲、男は脚に駆け巡る激痛に耐えきれず絶叫を上げながら、手足を振り回して強引にドーベルマンを引き剥がそうとする。
しかし、その隙に他の大型犬たちは口に加えたリードをカウボーイの投げ縄の要領で器用に振り回すと、次々にそれを投げ飛ばし、男の左右の手に巻き付けてしまう。
そして、リードの持ち手部分には男の予想通り、返しのついた針が密集しており、犬たちはそれを理解した上で左右バラバラに駆け出そうとするので……男の両手は瞬く間に血で染まる。
「アンギャアアアアアアアアアアアア!?!?」
激痛に悶絶する男を他所に、先陣を切ったドーベルマンは他の大型犬たちが男を拘束した事を確認した後、自身もトゲ付きリードを振り回して、男の手に絡み付けるように巻き付けた。
全ての準備が整った大型犬たちは互いの顔を見合わせると、してやったりと言いたげな誇らしさと憎たらしさが同居した絶妙な表情を浮かべると、同じ方向へと一斉に駆け出す。
「ちょっ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
スーツ姿の男は分けも分からないまま、謎の大型犬たちに引っ張られる形で無理やり彼等の散歩に同伴する事となってしまった。母子にみせていた大人の余裕など残っているハズがなく、不条理で奇妙な事態に怒りを露にする。
「テメェェェェェェエエエエエエッ!痛ぇつってんだろーが、このド畜生共がぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!!!」
男は必死に踏ん張りながら、暴走犬たちを止めようとするが、細身の男だけでは四匹の大型犬が一斉に前進する推進力には敵わない。
とっさに街灯にしがみついて抵抗しようとしても、脚を容赦なく噛みつかれて失敗に終わり、無様に倒れ伏す事しか出来ない。それでやり過ごそうともしたが、ドーベルマンにケツを噛みつかれ、痛みにより飛び起きる他ない。男の狸寝入りを見破った犬たちは、「次はないぞ」とでも言いたいのか、捲し立てるように男に詰め寄りながら一斉に吠える。
「グギ、グギギギギ!グギギギギギギ……!!」
大型犬たちに弄ばれる男は自身のプライドを粉々に打ち砕かれて、なお犬たちにされるがまま屈服している事実を突きつけられ、怒りに身を震わせていた。
先程母子に宣言した通り、彼は人間以外の全ての生物を腸が煮え繰り返るほど憎んでいる。過去に何があったかは知らないが……そんな憎悪の対象にやりたい放題、弄ばれ続ける事など断じて良しとしない。例えどんな手段を使おうとも厭わない。
「ホット・ブラッド………!!!」
散歩を強要される男の影から、身体中に複数の口が点在する不気味な亜人型のスタンドが浮上する。それが全身の口からドス黒い雨雲を上空に向けて放出すると、瞬く間に雨雲は盛夏の晴天を覆い尽くし、局所的な雨を発生させた。
もっとも夕立のような激しさはなく、この程度の悪天候で大型犬たちは止まることはない。全身がずぶ濡れになりながらも、お構いなしに散歩を続けるが……突如、大型犬たちの体毛が皮膚色に変わったかと思えば、メリメリと音を立てながら全身を膨張する。
〈ホット・ブラッド〉の能力は、射程内に雨を降らし、その雨に触れた人間を動物の姿に、動物を人間の姿に変化させてしまう。その範囲は半径200メートルにまで及ぶ無差別且つ危険な力である。
雨に数滴触れる程度なら影響も少ないがずぶ濡れになると完全に姿が変化してしまい、ご覧の通り大型犬たちは……ギリシャ彫刻のような美しさと逞しさ・力強さを兼ね備えた筋骨隆々な男たちに早変わりしてしまった。
体格はどいつこいつも2メートル近くはありそうで、元が犬なので当然恥ずかしげもなく素っ裸のまま四足歩行で、互いの身に起こった異変に気がついたのか、ワンワン叫び声を上げながら困惑している様子だ。
98
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:34:01 ID:MMSVrbOs0
外見の変化には当然個人差はあるのだが、大型犬たちの妙に似通った逞し過ぎる変化は……予想外ではある。
まぁしかし、そんなことは最早関係ない。男は〈ホット・ブラッド〉に渾身の力を込めてリードを噛み千切らせると、一目散に逃げ出した。
下僕の逃走に気がついた大型犬だった者たちは一様に追いかけるが、人間の身体で四足歩行のまま走り出す為、犬本来の速さは損なわれていた。
「ブワハハハハハハハハハハッ!どうだ!思い知ったか下等生物共めッ!!ブワハハハハハハハハハハッ!!」
男は勝ち誇ったように高笑いを上げる。〈ホット・ブラッド〉の能力で姿が変わっても、魂はそのまま変わらないため思考や人格、習性等は元のままだが、当然姿が変わってしまうと元の言語で喋ったり思うように動いたりすることが極めて難しくなってしまう。本来ならば男も動物の姿に変身可能だが、逃走を優先するなら普段から慣れ親しんでいる人間の身体がベストである。
もっとも人間以外の生物を嫌悪する者に、変身する選択肢はよっぽどの事がない限り選ばれないだろうが。
全力疾走する男は公園を脱出し、そのまま住宅街を駆け抜けるが、そこら中酷い有り様だ。アスファルトに衣類が散乱し、お馴染みの犬や猫から普段見慣れないチンパンジーや牛・豚・ダチョウにペリカン・ゾウ・キリン・サイ・トラ・カンガルー・パタスモンキー・コアラ……その他諸々の動物の他、全裸の人間も少数紛れ込みながら分けが分からなさそうに戸惑っている。
運悪く電線にとまっていた鳥なんかは、人間に変身してしまった事により電線に触れ過ぎて感電してしまい、とてもじゃないが目も当てられない。
たまたま屋内や車内にいて無事だった人々も外の異変に気がついて、この惨状をSNSに投稿して異常事態を警鐘する者もいるが、中には外に出て雨に濡れすぎてしまい動物に変身してしまう者もいる。
異常な光景を目の当たりにした男は、改めて〈ホット・ブラッド〉は使ってはならない封印すべき能力だと心に決めるが、そんな決心がどうでもよくなるぐらい、あり得ない光景が視界に飛び込む。
走り続ける男を……左右からそれはもう美しいランニングフォームで追い越す筋肉質な全裸男の四人組が颯爽と現れたのである。
彼等は勿論あの大型犬たちだ。元より人間を拘束してお散歩を強要する奇行を実行してしまう高い知能を有していたが……その知能の高さ故に、彼等は二足歩行で行われる人間の走り方を急速に学習してしまったのかもしれない。
「…………!?」
予想外過ぎる事態に男は絶句する他なく、思わず立ち止まってしまう。大型犬だった者たちも急停止すると男の方に向き直り、静かに歩み寄る。
使い勝手の悪い能力故に普段から〈ホット・ブラッド〉を使用を控えていた男は、ここにきて新しく発見してしまった自身の能力の可能性に……激しい恐怖を覚えてしまった。
「く、クソッタレ〜〜〜〜!!」
自棄糞になった男は〈ホット・ブラッド〉を前に出して全力パンチをお見舞いするが……能力主体のスタンドに彫刻のような肉体美を誇るマッチョマンを吹き飛ばす力は当然なく、男は全裸男四人組に四方を囲まれると、左右の男たちに両手を握りしめられ……そのままどこかに歩み始める。
(…………何これ?)
痛みからは多少なり開放されたが、状況と絵面は依然としてシュールで最悪である。相変わらず散歩が目的なのか彼等はそのまま歩き続け、次第に〈ホット・ブラッド〉が発生させた雨の射程外に出ようとしていたが……それはマズイと男は両腕をジタバタさせて必死の抵抗を始める。
「ちょっと待て!止めろ!私は変態じゃあないッ!お父さんなんだぞッ!いたいけな一人娘のお父さんなんだぞッ!!こんな事は絶対に許されな〜〜〜〜〜いッ!!」
このまま進み続ければ、能力射程から外れてしまい〈ホット・ブラッド〉の影響を受けていない人々が行き交う市街地だ。
突如町中に出現する全裸のフルチン変態☆クルセイダーズwithスーツ姿の男なんて、人々の好奇の目に晒されて、それはもうSNSにあられもない写真や映像を上げられてしまうだろう。
また〈ホット・ブラッド〉を使えるほど、男に無謀な胆力も残されていない。ヤギの目という異質な外見は十分コンプレックスになりえるだろうし、他者を無差別に巻き込む規格外な能力は道を踏み外すには十分すぎるトリガーだが……この世界線の彼はあくまでも人間以外の生物を腸が煮え繰り返るほど憎んでいるだけの小市民でしかなく、奇跡的に幸せな家庭も築いているのだ。
99
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:34:39 ID:MMSVrbOs0
雨に濡れた身体が完全に乾いてしまえば、全裸のマッチョマンたちも元の大型犬に戻るハズだが、生憎乾くのはまだ時間がかかりそうで、このまま人混みの中に神風特攻するのは必至。社会的な意味で男が死ぬのは勿論……大型犬だった者たちも自分自身がこの珍妙な状況に終止符を打つ時限爆弾である事に気がついていない。
「クソォォォオオオッ!私はこんな三枚目の役回りを行うようなキャラクターでは断じてな〜〜〜〜〜いッ!誰か助けて!誰でもいいから誰か助けてください!」
雨雲が行き届いていない市街地付近に足を踏み入れ、人混みに突撃するのも秒読みかと思われた時、男の魂の叫び声に応える者たちが現れた。
「よぉーし!見てみなベイビー!この私人逮捕系UTuberのブルース様があの変態共をぶちのめし警察につき出して、UTubeのヒーローになってやるぜ!」
「あ〜ん……頼もしいわ!あたしのブルりん!」
筋肉質で恰幅の良い髭面の自称私人逮捕系UTuberと、スマホで動画撮影する女の二人組が、全裸男四人組の行く手を阻む。
彼等はSNSで拡散された異常事態をいち速く察知してやってきたらしい。変態をとっちめてあわよくば動画サイトでバズる事を狙っているようだが……全裸男たち取り囲まれている男はこの際、もう助けてくれるなら何でもよかった。
〈ホット・ブラッド〉の能力を出し尽くした今、残された勝ち筋は存在そのものが罪と化した全裸の男たちを現行犯で逮捕してくれる警察官か、もの好きな正義漢しか有り得ないのだ。
「……!?う、うわぁぁぁぁぁああああああ!!……ブルりん有り難う!本当に有り難うッ!!頑張れェェェェェェエエエエエエッ!!!」
「何だあのオッサン?」
「知らな〜い」
両者の思惑がすれ違いに交錯する最中、先手を打って出たの全裸の男たちだった。スーツ姿の男を羽交い締めにしながら拘束する一人を除き、三者は散り散りになりながらブルりんを囲い混むと一斉に大口を開いて襲いかかる。彼等はまだ人間の戦い方を学んでいない為、その戦闘方法は自ずと噛みつき(バイティング)に絞られているようだ。
ブルりんも正面から襲いかかってきた全裸男は拳骨一発で殴り倒し、背面から奇襲を仕掛けた全裸男も身体を旋回し、回し蹴りで応戦して何とか退かせるが……痛み分け覚悟で飛びかかってきた三人目までは対応しきれず、首もとに容赦なく噛みつかれてしまった。
「な、なんだコイツ等!畜生まともじゃねぇ!グエッ!?」
全裸男の事情など知るよしもないブルりんにとって、噛みつきという奇策は戦意を喪失させるには十分過ぎるほど猟奇的な手段である。
自分の肉を噛みついて引きちぎられた瞬間、痛みにのたうち回る他ない。さらにそんなブルりんに対して全裸男たちは……学習したばかりの殴打や蹴りで追い討ちを仕掛ける。
あまりにも異常な事態、ブルりんの雄姿を撮影するつもりでいた女は、恐怖の余り甲高い奇声を上げながら逃げ出してしまった。
「ブルりん!畜生!止めろ!ブルりんは何も悪くない!止めるんだッ!誰か助けてくれッ!彼はただ私を助けてくれようとしただけなんだぞッ!!」
多勢に無勢で全裸男たちにリンチにされるブルりん。羽交い締めにされて動けずにいる男は、叫ぶ事しか出来ない情けない自分に涙を流す。〈ホット・ブラッド〉で筋肉の拘束を振りほどこうとするが、やはりパワーではまるで歯がたたず、己の無力さに打ちひしがれる事しか出来なかった。
そして、あまりにもスーツ姿の男が声を荒らげ続けたせいなのか、男を拘束していた全裸男は「ぶ……ぶる、り………りん………ブルりん」と、まだたどたどしいが言語も習得しつつあり、とうとう喋り始めてしまった。
「い、いやぁ……誰か助けてェェェェェェエエエエエエ!」
これ以上知能を高められたら本当に手に負えなくなる。それこそ自分達の人間化を維持する為〈ホット・ブラッド〉の発動を強要された日には、今以上の大惨事が起こり得てしまうだろう。そうなる前に男は我武者羅に恥を忍んで助けを求め続ける。
その甲斐もあってか、凄惨なリンチを静止する声よりも先に……乾いた銃声音と共に銃弾がブルりんを噛みつく全裸男の脹ら脛を貫く。
「現行犯の暴行罪に猥褻物陳列罪……この騒ぎを引き起こした元凶には過失傷害罪も適応されるな。ところで銃で撃たれるのも覚悟があっての犯行だろう?」
SNS上で賑わう異常事態を終息させるべく、警察が思い腰を上げて事態に介入してくれたようだが……彼等はよりにもよって最悪のファンブルを引いてしまった。
100
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:35:14 ID:MMSVrbOs0
「貴様等みたいな恥知らずの無法者は……一度激しい痛みを学ぶべきだ」
現れたのは普通の警官のように見えて普通ではない。犯罪者を言葉で制止するよりも先に拳銃の引き金を引いてしまうダーティー・ハリー症候群を拗らせ過ぎた異常者。のっぺりとした無機質な顔つきに、鮫のような漆黒の眼差しを宿す特別な任務を帯びた警官だった。
銃撃を受けた全裸の男は訳も分からず悶え苦しみながら転げ回る。他の二人はとっさに身を引くと、スーツ姿の男を羽交い締めにする仲間と合流するように、身を寄せあいながら警戒する。
スーツ姿の男も目の前の警官が普通ではない事を察し、自分の運命を呪うかのような言葉にならない悲鳴を上げる。それでも尚、警官の狂気は止まる事なく、躊躇なく銃を乱射しようとするが――――当然、こんな狂人をいつまでも野放しにする程、日本の警察組織はとち狂ってはいない。
「止めなさい!」
雷が轟くが如く力強い制止の言葉。
この場にいる全員が声のした方に目をやると、そこには中学生と見間違えるような体系の若い警官がいた。
彼の背後には恐怖のあまりブルりんを見捨てて逃げ出した女がおり、どうやら彼女がここまで彼を案内してくれたらしい。
毅然とした態度だが、背丈が低いせいか、どうしてもどこか頼りなくも見えてしまう。しかし、スタンド使いであるスーツ姿の男と拳銃を構える警官には……彼の全身からライオンの鬣を彷彿させる金色の力強いオーラが溢れ出ているのをハッキリと見えている。
一方スタンドを見えない全裸の男たちは、彼の一喝を耳にした途端、目に見えぬ圧倒的な威光を前にして、腰が抜けてしまい、全身を小刻みに震わせながら酷く怯える有り様だ。
拳銃を構えていた警官も、彼の一喝により拳銃をホルスターに戻すと、右手をこめかみ辺りにかざしながら挙手注目の敬礼を行う。それに若い警官も敬礼を返して応対するが……彼の言動は人ならざる威厳に満ち溢れており、その言葉は意図せずとも人を説き伏せてしまう説明しがたい魔力が宿っている。
「黒田巡査、我々はあくまでも公僕、人を裁く立場にはないハズだ。なぜ拳銃を発砲した?」
「私は……ただ正義を遂行しようとしただけですよ。そこで倒れている被害者を助ける為には実力行使が必要だったものでして」
「分かった。それなら今はいいが……正義を振りかざすつもりなら自分も正義の模範でありたまえ。無法者が正義を騙れば……きっと君が思い描く正義は誰からも見向きもされずに失墜してしまうぞ。御上や人々はいつだって我々を見ている。そして私だっていつも君をすぐ傍で見ている……なんたって相棒だからな!」
「……ご忠告感謝します円谷巡査部長」
黒田と呼ばれた警官は、過剰な正義を振りかざすあまり、その経歴の大部分は闇の中に包まれている。彼自身が身内に私刑執行されていてもおかしくないハズだが、彼は腐ってもスタンド使い……特異な能力者は国から保護されている。もっとも軽犯罪者すら射殺しかねない狂人には当然首輪が必要だ。その首輪の一つとして、円谷と呼ばれた若い警官のスタンド能力〈ライオンキング「百獣王」〉が抜擢された。
その能力は発動中本体が持つ"威厳"を上げる。それだけ。ただ、それだけでも正義の名の元に犯罪者を躊躇いなく射殺し、自身のダーティー・ハリー症候群を感染させる正義の暴走とも形容できるスタンド能力〈スティール・バーニン〉を操る狂気の黒田巡査と対等に会話を行い、言葉のみならず存在感だけで彼の凶行を実際に制止してみせているのだ。
そんなとんでもない威厳に当てられてしまった元大型犬の全裸男四人組は……最早散歩などどうでもよくなり、地面に伏せて縮こまりながら震え上がっていた。
ようやく不条理な受難を乗り越えたスーツ姿の男は、大粒の涙をこぼしながら「人間っていいな!人間ってやっぱりいいなァー!」と、歓喜の叫びをあげていたが……そんな彼の元に円谷は朗らかな微笑みを浮かべながら歩みよると、優しい語り口で世知辛い現実を突きつける。
「ところで貴方……スタンド使いですよね。僕のスタンドも見えているハズだ。詳しく話を聞きたいので署までご同行願います」
「嗚呼、いや…………うん。もう、なんでもいいですよ本当に。それよりブルりん……あの人を助けてあげてください」
スーツ姿の男は心底疲れきった様子で、地面に倒れて気絶しているブルりんを心配そうに見つめた。自分の身を守る為とはいえ〈ホット・ブラッド〉が周囲に与えた影響を計り知れない。
今更逃げ出す気力などなく、全て洗いざらい打ち明けよう。そんな事を考えると少しだけマシな気分になれた。
101
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:36:33 ID:MMSVrbOs0
【課題名】おすそわけ
【使用オリスタ】
No.7224 パニック・ソング
スペシャルサンクス 『織井橋七星商店街』
No.7623ワンダーガール
No.7643 バタフライ・キャット
No.7656ヴァージン・バビロン
No.7865ベッルム・セルヴィーレ
No.8094 ハンズ・オン・ミー
【解答】
「結婚したのか、俺以外の奴と……」
知人の結婚式に招待された時、大好きだった彼と再会してしまった。彼は女性の左手薬指に嵌められた指輪を見るなり、思わず愛惜の情を吐露してしまった。
その時はそれ以上、会話を続ける事はなく互いに気まずさを誤魔化す為に距離を取っていたが……結婚式が終わり帰宅の途についていると、彼は雨がふっているにも関わらず、傘も差さずに女性の元に駆け出してきた。そして、どうすることの出来ない自分の心情をありのままに打ち明ける。
「お前と結婚するのは、俺だと思ってた。今夜は……帰したくない」
過ちは犯せない。それでも、その場の雰囲気と成り行きで、女性は思わず彼と口づけを交わしてしまうが……
「え…あレ…な…ナなんダコレ」
突然、彼の頭は沸騰したお湯の如く、内部から泡立ちながら、肉体組織を維持する事が出来なくなり破裂してしまった。
★
「いやぁぁぁあああ!ゲンジ〜〜〜〜!?!」
自室のベッドで寝ていた少女は、酷い悪夢に魘されていたのか、叫び声をあげながら飛び起きてしまった。恋愛ゲームの夢を見ていた事に気がつき、少女は大きなため息をつく。その吐息の中には下半身が泡だて器のようになっている小さな亜人型スタンドの群が紛れ込んでいたが、瞬く間に霧散して、泡のように儚く消えてしまう。そんな自身のスタンドに少女はいつものように挨拶を交わす。
「おはよう……パニック・ソング」
最悪の寝覚めだが、少女はアレをまた見る気はなかったので二度寝は止めて起きる支度を始める。といっても今日は学校も休みなので、慌てる理由もない……友達とお出かけにでも行こうかと考えていると、母親が血相を変えて部屋に入ってきた。
「どうしよう奏(かなで)、ちょって来て」
「えー何さ急に?」
奏で呼ばれた少女は、母親に呼ばれるがまま玄関の方に向かうとらそこにはクール便の荷物が文字通り山のように積み上げられていた。
「えっ……何これは?」
「……これを見れば分かるわ」
母親から手渡されたのものは……一応親戚らしいよく知らない叔父さんが、満面の笑みを浮かべながら猟銃を肩で担ぎ、倒れ付した大きなヘラジカと共に記念撮影した写真と……「やぁ元気?調子はどう?かくかくしかじか自慢話が続くため割愛……実は最近山の神様を仕留めちゃったんだ〜。物凄い縁起物だからお裾分けだよ。良かったら皆で食べてね〜粗末に扱ったら祟られるかもしれないから気をつけて(※要約)」と身勝手極まる内容の文面が書かれた手紙だった。
呆れて絶句する奏を余所に、母親はせっせとクール便の蓋を開けて中身を確認し始めており、肉の量はブロックで十六個もあった。
「はぁ……こうなの絶対に食べきれる訳ないじゃない!何を考えてるのかしらあの人は!本当にどうしよう……」
母親は頭を抱えながら愚痴を溢していれが無理もない。こんなに量があると流石に全て冷蔵庫にしまう事は不可能である。母親は面倒臭そうに溜め息を吐きながらも、彼女なりの答えを出す。
「不本意だけど叔父さんは既に私たちに答えを示してくれているわ…!こうなったら皆で食べるしかないわね。お裾分けのお裾分けをしましょう…!」
「それなら、ひとまず料理して味見する?」
母親の提案を聞いた奏は、ラッピングされた肉ブロックを手に取ると自分なりの考えを示す。
「たくさんあるから良かったら召し上がってください……て、叔父さんみたく全部丸投げにするだけじゃあ、みんな快く受け取ってくれないと思うの。私たちみたいにね。鹿さんだって厄介払いするみたくたらい回しにしたらそれこそ本当に祟られそうだし……まずは私たちで美味しい料理の仕方を見つけてみない?」
「あぁ……そうね奏、良いこと言うわ!鹿さんは何も悪くないんだから、皆で美味しく食べれるようにしないとね!」
「ありがと。それじゃ最初は私から……まずはハンバーグを作ってみるね。お母さんはその間に他に作れそうな鹿肉料理を調べてくれる?」
「任せて頂戴!」
母親と互いの考えを一致させ、各々の役割を決めた後、奏は袖をまくり上げて台所に立つ。手始めに冷蔵庫から玉ねぎを取り出すと、微塵切りにして飴色になるまでフライパンで炒め、熱が冷めるまで置いておく。そして、いよいよ主役の登場である。
102
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:37:19 ID:MMSVrbOs0
ラッピングの封を切り、初めて対面するヘラジカの肉塊は、想像していたよりも獣臭さは微塵もなく普通のお肉のようにすら思えた。叔父さんは仕留めた時点で、しっかり血抜きして適切な下処理をしてくれていたのだろう。傍迷惑な人である事に変わりはないが、この一点に限っては感謝する他ない。これならこのままステーキにして焼いてもいいかもしれないが……玉ねぎを焼いた以上まずはハンバーグを作るのが先だ。
包丁で切り分けた肉塊をボールに入れると、奏は自身のスタンド能力〈パニック・ソング〉を発動する。その能力は本体の息の中に発現し、息を吹き込んだモノを泡立てる能力。固体を泡立てることでその部分は脆くなるし、生物に使用すれば組織が破壊されてしまう。
破壊する能力として考えれば有用で、夢で見たような物騒な使い方も出来ない事はないかもしれないが……普通の生活を送る上ではあんな使い方はまずしたくない。日常生活で活用するとなれば、それこそ泡風呂を楽しむか、ゴミを細かく処分したり、生クリームを泡立てたり、このように肉ブロックに息を吹き掛けて結合する組織ごと分解して、自家製の挽き肉を作るなどだろう。
ヘラジカの肉を丁度良い具合にミンチ化したら、後はいつものレシピ通り……炒め玉ねぎの微塵切りとパン粉・牛乳・卵・塩・コショウ・砂糖・下ろしにんにくを適当に加えて練り混ぜて、楕円形の形に整えて……慣れしたんだ要領でタネをつくり、油をひいたフライパンに載せて火を通し、両面に焼き目がついたところで、弱火でじっくり蒸し焼きにする。
ジビエだから生焼けには厳禁。しっかりと慌てずに肉汁が出るくらい10分以上かけて焼き上げたハンバーグを皿によそり、フライパンに残った肉汁をベースにケチャップ・ウスターソース・醤油を混ぜ合わせた特製ソースを煮詰めて、出来上がって皿の上では待ちわびでいるハンバーグにかけてあげればこれで完成。
「できたよー!奏ちゃんお手製……産地直送叔父さんからの想い(?)を込めたヘラジカハンバーグのおあがりよ!」
「きゃ〜〜〜!美味しそうじゃない!ヘラジカなんて食べた事ないから実は少し楽しみだったりしたのよね〜!」
「私も楽しみ。叔父さんも血抜きとか下処理はしっかりしてくれてたみたいだから特別な臭み消しはしてないよ。まずは素材のありのままの風味をご堪能あれ」
「は〜い!それじゃ、いただきま〜す!」
「いただきます」
箸で一口サイズに切り分けて、口の中に放り込むと、表面に滲み出ていた濃厚な肉汁と程好い酸味と甘味がブレンドされたソースが出逢い、軽く咀嚼するだけでハンバーグは口の中いっぱいにほどけてしまい――
美味しさのあまり全身が痙攣して、服が飛び散るような脳内イメージが溢れ出る至高(?)の領域にまでは到達していないが……脂身が少ない為、あっさりしているが、他の肉にはない独特の風味があり豊かな味わいが口の中に広がる。
「うん、美味しい!」
「美味しいね……!」
二人ともレポーターではないので、気の効いた感想なんて言えないが、素人の舌先でも十分満足できるヘラジカの肉の味に素直に感動していた。
あっという間にハンバーグを平らげてしまった二人は、これなら他の人にも後ろめたさを感じることなく、自信を持ってお裾分けできると確信すると、奏は母親が調べた次なる料理に挑戦する。
★
「ちょっと張り切って作りすぎちゃったかな」
「大丈夫、お父さんが食べてくれるわ…!」
「お父さん、肉……というか動物全般が苦手じゃない?こんなに食べてくれる?」
「あの人動物が苦手だけのなんちゃってベジタリアンなだけだから平気よ。私や奏が作った手料理はいつも残さず食べてくれるからね」
時刻は正午を回る。あれからヘラジカシチューやしっかり火を通したローストを作り、ようやく1ブロック使いきったが、まだ15ブロックも肉は残っている。お勧めできるレシピを考案したのだから、次はいよいよ本番……お裾分けの時間だ。
「お母さんは友達に連絡してみるね。奏も手伝ってくれる?」
「勿論、ひとまずバイト先の店長に相談してみるよ」
「助かるわ〜!お願いね!それじゃ1ブロックはうちで食べるのに残しておいて、これでブロックは残り14個だから……私と奏で7ブロックずつお裾分けできるようにしましょう!」
「わかったよ」
母親と今後の方針を定めた奏は、一度自室に戻り知り合いに相談する事にしてみた。まずはバイト先の店長にSNSで呼び掛けてみると、有難い事に興味を持ち「いますぐ持ってきてくれ!」と快諾してくれた。早速クーラーバックに、すぐ使えるように加工したハンバーグのネタと切り分けたヘラジカの肉塊を入れて家を出た。彼女の目的地は自宅からそう遠くはなく、徒歩十数分でたどり着ける。
103
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:37:51 ID:MMSVrbOs0
「ここは織井橋七星商店街です」
「ど〜も〜」
商店街の入口に立つスーツ姿のイケメン、いつものように奏は軽く挨拶を交えすと、彼の肩に乗っかっている金貨を抱いた猫型スタンド〈バタフライキャット〉も愛想良く『にゃ〜』と返してくれる。
ここは普通のどこにでもある商店街のようでいて普通ではない。数年前までは郊外の大型店に客を取られ寂れていく気配もあったが、立ち上がった商店街の振興組合の尽力によって活気を取り戻し、古くからの店舗と新しい店舗が適度に交じり合う、地域再生のお手本のような商店街と表向きには謳われているが……実際の所は裏でスタンド使いがひかれ合い、一致団結してしまった日本一奇妙なショッピングストリート『織井橋七星商店街』である。
老若男女様々な人々が商店街を行き交う中、奏では脇目も振らずに普段からお世話になっているバイト先……広島風お好み焼きの店『あくもん』を訪ねた。
居酒屋風の和風チックな内装で、カウンター席に特注の鉄板が設置されており、客の前で美人店長がお好み焼きを作ってくれるのが売りである。
「お待たせしました。いま大丈夫ですか店長?」
「おう!ランチタイムはとっくに過ぎてるから今は丁度暇してたところだぜ!しっかしよ〜!ヘラジカの肉なんて随分気前がいいんじゃあ〜ないの?早く見せてくれよな!」
手を大袈裟に振りながら出迎えてくれた店長は、入口の看板を「準備中」に翻すと、奏をカウンター内の調理場に案内してくれた。
奏でがクーラーバックからヘラジカの肉塊とハンバーグのネタを取り出すや否や、店長は「ナイス気遣い!早速焼こうぜ!」と両目をキラキラ輝かせながらノリノリで、予め整形されていたハンバーグのネタを鉄板の上で焼き始めた。
両面を焦げ目がつくまで焼いたらステーキカバーを被せて蒸し焼きにし、出来立てホヤホヤのハンバーグを、即興で作った和風仕立ての玉ねぎソースをかけて食べれば……快活な舌鼓が打たれる。
「……ゥンまああ〜いっ!!!」
「うん、美味しい」
「おいおいおいおい、こいつは何だか祭りの臭いがしてきたぜ!」
「え?」
「そー言や、ヘラジカのブロックってあとどれくらい余ってるん?」
「私の割当は7個だけど……全部で15ブロックあります」
「えぇのぉ〜!それだけありゃ祭りができる!」
奏と話しているうちに、店長は瞳の中で花火のような煌めきをバチバチ弾かせており……三度の飯より 祭りと遊びが好きな、お祭り女の血が騒いでしまったらしい。
「奏ちょっと顔かしてくれる?」
「いいですけど、何をするんですか?」
「町おこし実行委員会の緊急会議じゃ!」
「……はい?」
ヘラジカのお肉をお裾分けしたいだけったのだが、何やら話は思わぬ方向に進もうとしており、奏は当然戸惑うが、店長はスマホのSNSで誰かに連絡を既にとっており、指先を忙しなく動かして止まらない。
「よし!善は急げだ、来い奏!上手く話が進めばヘラジカの肉全部お裾分けできるかもしれんからな!」
「ほ、本当ですか!?」
「あたぼうよ!旨いもんは宵のうちに食ってやろう!その方が絶対良い!」
互いの利害が一致した二人は、そのまま『あくもん』を出ると、同じ『織井橋七星商店街』にある老舗の薬屋の戸を叩く。中に入れば若い男……この薬屋の三代目にあたる店主がカウンターの内側で無愛想に待ち構えていた。来訪者を一瞥するなり小さなため息を吐いてみせたが、『あくもん』店長もそんなぶっきらぼうな態度等お構い無しに、自分のペースでのらりくらりと立ち回る。
104
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:38:33 ID:MMSVrbOs0
「お待たせ〜博士!文ちゃんはまだ来てない?」
「誰が博士だ祭りジャンキー」
「今来たよ二人とも。それで面白い話とは何かな?」
奏たちより少し遅れてやって来たのは『織井橋七星商店街』で本屋を経営する若い女店主だった。彼女と薬屋の店主は町おこし実行委員会の主要メンバーであり、商店街に関する企画を通す場合、彼等が一番の窓口になってくれるらしい。面子が揃ったので『あくもん』店主は、二人に奏の事を紹介して自分の企みをプレゼンする。
「この娘、うちの店でバイトしてくれてる奏ちゃん。親戚からヘラジカの肉をお裾分けを大量に貰って困ってるんだ。肉の味は私が食べたから保証できるからさ、折角だからヘラジカの肉を使った祭りしない?いや、しよう!」
『あくもん』店長の物言いに、薬屋店主は信じられないものを見るような白い目を向けてくるが、本屋の店主の方は詳細を知りたい様子で奏にも話をふってくれた。
「奏ちゃん、ヘラジカのお肉ってどれくらい余ってるの?」
「実は自宅に5キロのブロックがクール便で16箱も届いちゃって……とてもじゃないけど、うちだけじゃ食べきれないし、保存も出来なくて困ってて、それで店長に相談したんです」
「うわぁ……それはまた災難だったね」
「このままだったら勿体ないだろう?だ・か・ら・……ハっさんやチョーさん達にも一枚噛んでもらってさ。みんなで料理の腕を競ってお客さん達に絶品の鹿肉料理を振る舞い……ヘラジカ料理フェスを開催したいのさ!」
「うーん……でもね。みんな急には出来ないし準備も必要だと思うの。そのうちにお肉も痛んじゃうと思うし……私はその案ノリ切れないかな」
「そこは大丈夫!……『あしながおじさん』ちのワンダーガールちゃんの力を借りればヘラジカ肉の量産体制は整えられる!ジビエ料理を思う存分研究してから、万全の状態で祭りを開催できると思わないか?」
「あ〜なるほど、それなら長期的なイベント計画としてみんなに相談できる話になれそうかも」
本屋の女店主は喫茶店『あしながおじさん』の看板娘が保有するスタンド〈ワンダーガール〉の能力を思いだし、企画に乗り気になりかけるが……今まで押し黙りながらスマホを弄っていた薬屋店主が重たい口を開いてみせた。
「おいおいおいおい、勘弁してくれ。絶対にあり得ない。断言するヘラジカ料理フェスなんて絶対に無しだ」
「な、なんでじゃ〜!?」
薬屋店主に真っ向から企画を否定された『あくもん』店主は、さすがに戸惑い理由を訪ねると、薬屋店主は面倒臭そうに頭を掻きながら、言葉を一つ一つ噛み砕きながら吐き出す。
「そもそも、ヘラジカは日本に生息していない生物だが……口蹄疫という疫病のリスクが懸念されていて、国が輸入を禁止している。いま君たちはこの国に存在してはいけないものを商店街の出し物にしようと話をしているんだ。僕じゃなくてもみんな事情を知れば言語道断だと却下してくるぞ」
薬屋の店主は正論を突き付けながら自分のスマホ画面も奏たちに見せてくれたが、そこには先ほど語られた内容に関連する文面が記されており……奏は顔を青冷めさせながら震えた声を絞り出す。
「あの……そ、それじゃ……私とお母さんと店長が食べたお肉はいったい何なの?」
場が静まり返る中、薬屋の店主は少しだけ気まずそうにしながらも、彼なりのフォローを入れてくれた。
「さぁ?もしかしたらただの鹿かもしれないし……必要以上に知らなくて良いこともある。昔からよく言うだろう。ただより高いものはない……と、僕から言えることはこれだけだ。そのまま食うのか捨てるかは自分たちで決断してくれ」
※この後、慌てて自宅に帰った奏は母に事情を説明して、有り余っていたヘラジカ(?)肉を全て処分しました。奏とお母さん・『あくもん』の店長は〈パニック・ソング〉で念入りにミンチにしたハンバーグやしっかり加熱した料理を食べただけだった事もあり、健康被害はありませんでした。
105
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:39:18 ID:MMSVrbOs0
【課題名】
屋外プールに行こう
【使用オリスタ】
No.8701 アンリトゥン・ページス
【解答】
夏真っ盛り、晴天の太陽が地表の全てを照らし尽くす真っ昼間の時刻。熱気に包まれたコンクリートジャングルで暮らす都心の人々の中には、清涼さを求めて野外プールに訪れる者も少なくはない。
流水と共にうねりながら滑走するウォータースライダーは子どもだけではなく、大人にも人気なようで童心に帰りながら水遊びを無邪気に楽しんでいるだろう。
勿論プールの楽しみはそれだけにあらず。流れるプールを浮き輪に乗っかりながら、のんびり揺蕩うのもリラックスできて悪くない。公共施設故に多少騒がしいのは致し方ないが、ここは近隣でリニューアルした競合相手に客を取られてしまった事により、隠れた穴場スポットと化していた。
隣り合いながら水流と浮き輪の浮力に身を委ねる少女と女友達も、慌ただしい日常の喧騒を忘れながら、くだらないおしゃべりに花を咲かせているようだ。
「あ〜〜〜良いねこれ。思ったより悪くない」
「だから言ったでしょ。物は試しにってね」
「そうだねー。でも麻奈はクソガキのウンコと接触事故を起してないからそんなこと言えるんだよ」
「アハハハ、それは本当に運がなかったね」
「ウンマルハツキマシタヨー」
「もーちょっと話題が汚すぎるよ」
「ごめんごめん、過去のトラウマが疼いちゃってついね」
少女は幼い頃に訪れた市民プールで勃発した悲しい事件を思い返し、話題として転がしてみたが、当然友達からの反応は芳しくない為、違う話題を振ろうとするが……突如発生した異変に気がついてしまた友達は「何あれ」と、不安を溢しながら指差す。
それにつられて少女も水流が向かう先に目をやると……服を着たまま、お構い無しに入水する無数の人々がいるのだ。プールの中に飛び込んだ人々は、水中に潜り込んだかと思えば、一様に水面をじたばた弾きながら暴れている。
「……ちょっとアレは普通じゃない!逃げよう麻奈!!」
「……もう、逃げられないかも」
クソガキのウンコなんてマシだと思えるくらいの異常事態。少女は狼狽えながらも理性をフル稼働させて、友達の手を引いてこの場から脱出しようとするが、友人の絶え入るような声を耳にして、辺りを見渡せば……服を着たままの老若男女無数の人々が、流れるプールの回りを既に取り囲んでいたのだ。
水に魅入られて取り憑かれたかのように、人々は次々とプールの中に飛び込み、一様に潜水してのたうち回る。しかし、それだけで、まるで彼女たちの事は眼中になく襲ってくるような真似はしてこない。それでも人で溢れ変えるプールに、最早逃げ場など存在せず……集団入水自殺という異常過ぎる事態を特等席で観賞するハメになっている。
「……アンリトゥン・ページスッ!!」
急転過ぎて事態を飲み込みきれていないが……人々の一連の奇行を目の当たりにした少女は、己のスタンド〈アンリトゥン・ページス〉を呼び出した。泡のように多数の透明な玉が飾られた人型スタンドが揺れる水面を殴り付けると、そこから石鹸の泡に類似した無数の泡が溢れ変えるように出現し、一面を泡まみれにしてみせると、水中にいる人々も当然泡まみれになってしまう。
「な、何かわからないけどくらえッ!クリーニングよ!クリーニングぅぅぅぅぅうううううっ!!」
〈アンリトゥン・ページス〉の能力はご覧の通り、殴ったものを「泡まみれ」にするものだが……その本質は「クリーニング」である。
表面に付着した汚れ、細菌、また内部の異物や病原菌など、標的に対し有害・不要なものは泡で包まれ、標的の外部へと流れ落ちる特性を持ち……本人は当然知る良しもないが、この異常事態を解決する最善の特効薬となってしまった。
泡まみれになった人々は体内に潜んでいた「異物」を摘出されて……次々に我に返り水中から飛び出てくると、自分が何でここにいるのか分かっていない様子で、酷く戸惑い混乱していた。
「さ、さすがスタンド使い……原因は何だったの?」
女友達は非スタンド使いだが、少女の特殊能力に自分や周りの人々が助けられた事を悟り、少女に労いの言葉をかけつつ事態の真相を探る。
それに対して少女は苦虫を噛み潰したような顔をしながら〈アンリトゥン・ページス〉の手を操り、泡の中かは異常に細長くて馬鹿でかいハリガネムシのような寄生虫をつまみ上げてみせた。さらに他の泡を掬い上げて、泡を取り除いて見てみれば、何やら小さな粒々とした卵のようなものが沢山見つかってしまった。
これが何かは分からないが、プールに集結した人々は……これに集団で寄生され、水辺に集まってきたのだろう。原因なんて皆目見当もつかない。
「モウ、プールムリ」
「ソ、ソウダネ」
106
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 00:22:22 ID:3vKDtb9E0
ヘラジカが!
嫌がらせのヘラジカが!
美味しく頂かれてる!
107
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 09:59:46 ID:pPurKow.0
【課題名】
ちょっと持っててください!
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
「………む?」
小室光之助は訝しんだ。何故なら、大企業の社長として日頃から大金を稼ぐ彼のような人間に相応しい緑豊かかつ静かな公園に、場違いな小太りの男が佇んでいたからだ。小汚い段ボール箱を持ち、挙動不審にキョロキョロと辺りを見回すその姿は薄汚なく滑稽だった。
そう多くない休日の時間を散歩という形で消費していた光之助は眉を潜め、薄汚いデブから眼を背けて歩き去ろうとしたが遅かった。
「ちょっと持っててください!」
「……何だと?」
軽い衝撃と共に段ボール箱が光之助へと押し付けられた。ふと見ると先程の小汚ないデブが公衆トイレへと駆け込んでゆく姿が映る。
「全く……仕方あるまい。」
光之助は段ボール箱を抱え、小汚ないデブの後を追ってやや早足で歩き始めた。当然ながら相手に気を使った訳ではない。憩いの時間を邪魔した者に荷物を叩き返して文句の1つでも言ってやろう、という苛立ちから来る物である。
やがて光之助は公衆トイレにたどり着き、中に向かって呼び掛けた。
「おい君。いきなり初対面の人間にこんな物を押し付けるなんて、チョイと無用心と無礼が過ぎるんじゃあないか?」
返事は無い。
静まり返ったトイレの中に、今度はカチカチという小さな秒針の音が響く。どうも段ボールから音がするらしいと気付いた光之助が箱を開け、中身を引きずり出すと典型的な形状の時限爆弾が入っていた。残り時間を見てみればあと13秒で爆発するらしい。
「ふん。実に下らん。」
しかし、小室光之助の表情には焦り一つ浮かばない。
…………大企業の社長である彼には裏の顔が存在する。「究極の生命体」を産み出す事を野望とし、その為ならば如何なる事でも成す───という漆黒の意志を宿した者の顔である。
そんな光之助が命を狙われた事など一度や二度では無く、数多の脅威に晒される度に己の能力で危険を退け、敵を打ち砕いてきた。
───故に、彼は今回の窮地も"容易に切り抜けられるモノ"と判断しており、事実彼の認識は正しかった。
「『グラビティ・オブ・ラヴ』」
時間爆弾を手放すと同時に光之助は能力を発動させる。
黒い鎧を纏い、球状の赤い衛星に囲まれた逞しい人型スタンドが触れると同時に、落下する爆弾は空中にピタリと静止した。
正確には「静止しているように見える程」ゆっくりと落下し続けているのだが、どの道光之助が取る行動に変化は無い。
『グラビティ・オブ・ラヴ』はそのまま静止した爆弾を掴み、破壊力Aの腕力をふるって天高く投げ上げた。
ドォォォォォォン!!!
遥か上空に投げ飛ばされた爆弾は空中で爆発を起こし、破片や内部に仕込まれていたとおぼしき無数の釘が飛び散る───と思いきや、その全てが不自然な挙動を描いて"とある1ヵ所の地点"へと降り注いでいく。
それを見た光之助は口の端を僅かに吊り上げ、破片が落下した地点へと歩を進めた。
目的地に到着した光之助が目にしたのは、事前に予想した通り、先程爆弾を押し付けていった小汚ないデブが血塗れで地面に倒れ付した姿だった。
「痛ェ………くそッ……糞がッ……!何で、何で俺がこんな目にッ……………!!」
「ほう、ここにいたか。見た目の割に速い逃げ足じゃあないか。」
背後から声を掛けた光之助に気付いた男が顔を上げ、驚愕と狼狽の入り交じった表情を浮かべる。
「何で……何でお前がここに……?」
「『何故』か。答えてやってもお前如きには到底理解出来ないだろうが…………私が"こうなる運命"を引き寄せたとでも言っておこう。」
光之助は柔和にさえ見える笑みを浮かべながら答えたにも関わらず、男は激しく怯えた表情を浮かべ、ガタガタと震え始めた。
…………これから自分がどんな目に合わされるか、という事を想像出来る程度の知能は残っていたらしい。
「な、なあ…悪かったよ……俺は金持ちで何不自由無く暮らしてて、偉ーい立場も持ってるアンタにちょっとだけ嫉妬しちまったんだよ……本当に済まなかった、反省してる。だ、だから……」
「私は綺麗好きな人間でね。目の前にゴミが落ちているのが我慢ならない性分なんだ。」
男の身勝手な命乞いを遮り、光之助が言い放つ。
「だから、道に転がるゴミは自分の手で徹底的に破壊する事にしているのさ。尤も、壊したゴミの後始末は部下に任せているがね。
──────さて、そろそろ掃除役が来る頃だ。」
光之助が言い終わるのと同時に一台の車が近くに停車し、中から作業服を着た数人が降り立つ。
彼等が倒れ付した男の身体を手早く車内に放り込み、そのまま去ってゆくのを見届けた光之助は、何事も無かったかのように散歩を再会するのだった。
108
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 21:23:16 ID:jsH5k6tY0
>>106
最初は80キロもあるから料理の話で『商店街』でネタにできるやん!とか考えてたんですが、途中でヘラジカは日本じゃ輸入できない事を知り、苦肉の策で今回はこうなりました。
話が丸々ボツになりそうでしたが、丁度後の問題に寄生虫を取り扱う問題が出てたのでこのような形にしてみました。神様のレシピに感謝!
>>107
違う解答パターン本当に有り難うございます!
小室社長カッコいいです。問題の性質上、荷物を律儀に持っていてくれているのが、何かギャップを感じて、以降の容赦無い対応と合わせていいなぁと思いました。スタンドの描写も説明的ではなく自然な地の文で書かれているが凄く素敵に感じました。私の解答はオリスタの設定原文をそのまま引用しているが殆どなので、こういう文章の書き方を見習いたいです!
109
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 21:33:23 ID:ml2GuE8E0
>>30
【課題名】
感動二十四時フィナーレ!
【使用オリスタ】
No.6304 アクト・ウロンガー
【解答】
夜が更けたにも関わらず多くの人々で賑わう大都市の駅前。
1人の男がフードを目深に被り、卑屈に身体を縮こまらせながら道を歩いていた。
まるでこの世の全てが自身に敵意を向けている─────とでも言いたげに厳しい目付きでキョロキョロと辺りを見回す男だが、周囲の人間達は誰1人その事に気付かない。
彼等は揃って街頭スクリーンを凝視し、滂沱の如く涙を流していたのだ。
「…………………?」
その異様な光景に気付いた男が見やると、スクリーンの大画面には毎年放送されているチャリティー番組が。
司会の芸能人が慈善事業に尽くす企業がどーだ、マラソンで疾走中の芸人がこーだ………と大した事でもない内容を大袈裟な身振り手振りで涙を流しながら喚いている。
「………………………。」
男が興味を無くしたように顔を背け、表情1つ変えずにその場から立ち去ろうとした瞬間。
突如画面が切り替わり、去ろうとする男の姿がアップで映し出された。
男が見上げた空には1台のヘリコプター。どうやら、上空からの中継映像を流しているらしい。
男がその事実を認識するかしないかの刹那、群衆が泣いていない男の方へと顔を向ける。
一様に同じ黄色のTシャツを着込んだ彼等は訝しげに男を見つめ、大勢でゾロゾロと1人の男を取り囲んだ。
「……………?」
男が立ち止まり、困惑している内に時間はどんどんと過ぎてゆき─────
ゴツンッ……
群衆の1人が男に石を投げ付けた。
「この、人でなしッ!」
頭から血を流してしゃがみこんだ男に対し、憎々しげな表情を浮かべた1人の中年女が泣きながら罵声を浴びせかけた。
それを皮切りに群衆は口々に男を罵り始め、徐々に興奮度を高めてゆく。堪らずその場から逃げ出そうとする男だったが、彼等はそれを許さない。
何人かが男の背を突き飛ばし、倒れ込んだ男の身体を蹴りつけながらますます口汚い言葉で罵りだした。
110
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 21:35:03 ID:ml2GuE8E0
地面に蹲った男が僅かに声を発したのは、それから数分ほど経過した頃だろうか。
「………せぇんだよ…………。」
そんな男の態度が気に入らなかったのか、1人の若い男がより強い力で男を踏みつけようとした刹那。
────鈍い音と共に若者の両足が千切れ飛び、間を置いて絶叫が響き渡った。
「えっ……」「何が……?」「……嘘でしょ………?」
「うっ、うぅぅるせぇんだよォォォォ!!!アアアァァ!やっぱりだ!!やっぱりそうだ!!お、お前ら皆、う、う、嘘泣きなんかしやがってェェ!!!は、ははは!あ、相手が悪かったなァ!!」
何が起きたのか理解出来ずに戸惑いの声を漏らす群衆を無視して男は立ち上がり、焦点の定まらない目を真っ赤に充血させ、口から泡を吹きながら支離滅裂な事を喚き始めた。
男の異様さにある程度の冷静さを取り戻した群衆は、それでも困惑の余り足を動かす事もままならずに男を見つめ続ける。
「お、思い出した……思い出したぞ、ははははァ!騙されねぇぞ、偽善者共ォ…………おま、お前らは去年別の奴にやったみたいに、おお、俺の事も殺そうとしてたんだろ、そうなんだろ!!!!」
周囲から向けられる視線に恐怖が混ざった事にも気付かず、尚も喚き続ける男を見て、恐怖に駆られた数名の若者が彼を拘束すべく走り寄り………手足や頭を吹き飛ばされて地面に転がった。
目の前で人が殺された。
その事実を漸く認識した群衆は口々に悲鳴を上げ、この場から逃げ出そうと試みる……………が、その悉くが不可視の「ナニカ」によって身体を抉られ、千切られ、引き裂かれては痛みと恐怖で泣き叫ぶ無様な肉塊───或いは物言わぬ死体へと変えられてゆく。
「は、はは!ざざ、残念だったな偽善者ども!お、俺はこんな時に備えて、ず、ずっとスタンドを鍛え続けて来たんだ……!!
お前らなんか、お前らなんか何人いたって変わんねぇ!ぜぜ、ぜ、全員ブッ殺してやるッッッ!!!!」
血飛沫と肉片が飛び散る地獄絵図の中、タガが外れたかのように狂気の高笑いを上げる男。
もしも見る目のある者が居れば、男が操る『全身に無数の口と眼球を持つ人型の像』が認識出来たに違いない。
男の正体は常人の目に見えない「スタンド」の使い手。
「正義」の名の元に浴びせられた「悪意」を内に蓄積させ、歪みながらも飛躍的な成長を遂げた彼のスタンド『アクト・ウロンガー』は、群衆が男に向けた「悪意」の際限の無さを体現するかのように、たった今獲得したばかりの災害が如き力を奮い続けた。
───ライブ中継の真っ最中に殺人事件現場を映してしまったチャリティー番組の放送が中断され、スクリーンが暗転した事にも気付かないままに。
チャリティー番組が放送された次の日の朝。
静まり返った駅前のスクリーンにて、キャスターが神妙な顔でニュースを読み上げていた。
「──────警察からの情報によりますと、昨晩○○駅周辺にて発生した殺人事件による死者の数は、少なくとも200名を超えているとの事です。
犯人と思われる男は現在も逃走中であり、警察は周辺区域の住民に厳しい警戒を呼び掛けて──────」
111
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 22:15:20 ID:ml2GuE8E0
【課題名】
コンティニュー
【あらすじ】
スタンド使いのあなたは色々あって死に、幽霊となってしまいました。
自分自身の死を悲しむあなたの元に天からの声が。
曰く、「3日間限定で現世に蘇り、期限内に3人の生命相手に『善行』を為せばそのまま生き返らせてやっても良い」という申し出に同意したあなたは自分が降りたい場所を告げ、健康な肉体を持った状態で現世に舞い戻って来ました。
【クリア条件】
72時間以内に3人の人間、或いは他の動物から感謝されるような事をする。
助ける動物の種類は問わない。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
「あなた」の性格が多少悪くても、「あなた」が人間以外の動物でもチャンスは平等に与えられます。
誰かを助ける為に敵を倒す行為は、相手の命を奪わなければギリギリ許容範囲です。
ただし悪人や外道、犯罪者など「明確な前科」や「特別に邪悪な意志」を持つものにチャンスは与えられないです。
大人しく死んどいて下さい。
112
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 23:05:10 ID:EVO5okKQ0
>>109
解答の投稿有り難うございます!
アクト・ウロンガーの本体とこの問題の組み合わせならではの大惨事が起こりましたね。でもこういう解答も全然有りだと思います!本体が吹っ切れて暴走に至る描写が良かったです。
あと問題のレスアンカーいいですね!私は投稿された問題は丸ごとコピペして取り扱っていたので、こういう見やすさへの配慮に欠けていました。是非とも真似させていただきます!
>>111
問題の投稿も有り難うございます!
今までにない感じの問題ですが、企画的には大歓迎なネタです!色々なオリスタキャラを絡めて解答が組み立てれそうで楽しみです。
113
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/29(月) 19:36:08 ID:zwiKgvBA0
【課題名】
パン屋の面接
【あらすじ】
あなたは個人経営のパン屋にアルバイトの面接に訪れました。
優しそうな初老の職人と異様にガタイの良い女性の職人が担当する質疑応答が穏やかに終了した後、「最終確認」との事で近くの公園へと連れ出されます。
そこで手渡されたのは直径およそ80cm、重さ100キロはあろうか……と思われる巨大なアンパン。
初老の職人曰く、「このアンパンを40m先までノーバウンドで投げられたら即採用」との事ですが………。
【クリア条件】
面接合格を目指して下さい。手段は問いません。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
職人2人はどちらもおおらかな性格であり、目の前でスタンドを使われても気に留めません。
あなたが頼めば、筋肉質な女性の職人が投げ方の手本を見せてくれるでしょう。
あなたが彼等を脅迫すれば、筋肉質な女性の職人が即座にあなたを掴んで警察まで投げ飛ばすでしょう。
【課題名】
正義の鉄槌
【あらすじ】
道を歩いていたあなたは、突然やたら威圧的な1人の警官から声を掛けられました。
どうやらあなたを近所で発生した事件の犯人だと思い込んでいるらしく、無実のあなたに粘着質かつ高圧的にアレコレと職質してきます。
結局あなたが無実だと分かった後も警官は謝罪1つせず、「疑われる方が悪いんだ」というような事を吐き捨てて立ち去ってゆきました。
【クリア条件】
この警官を「あなた」の気が済むまでひどい目に逢わせてやりましょう。遠慮はいりません。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
相手は警官なので一般人より強いですが、この時はあなたに背を向けている状態です。
補足情報として、この警官には溺愛するペットの犬が1頭存在します。警官本人が怖ければそっちを狙って下さい。
114
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/29(月) 22:58:13 ID:TBWBAPv20
>>113
問題の投稿有り難うございます!
アンパンマンネタいいですね。仕返しネタも全然ありです!オリスタも皆が皆聖人君子ではないので、こういうジャンルに寄り添ってくれるのは解答のパターンも広がるので助かります!
115
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:54:43 ID:KW40acUc0
【課題名】
>>36
カラオケ初日
【使用オリスタ】
No.8578 サンデー・バイオレット
【解答】
町中のどこかにある個人経営のカラオケ店に、高校生くらいの若い女の子がアルバイトとして新しく入ってきた。
「それじゃ、これ7番にお願いね」
「はーい」
厨房の業務を担当する店員の男性は、客から注文を受けたドリンクをトレイに載せて、フロア担当の新人女性店員に受け渡そうとするが……彼女が着る制服は、たわわに実った豊かな胸部が収まるには少し小さいようで、胸元がぱつんぱつんに張った状態となっていた。
初対面からいきなり胸元をチラチラ見てくるスケベのチラ見野郎だとは思われたくない。思わず視線が下向きになりそうなのを必死に堪えて、彼女の目線に合わせようとするが、彼女が動く度に胸部も揺れ動き、普段見慣れない異性の挙動を目の当たりにする男性店員の視線は、自分でも気がつかないうちに下向きにズレてしまう。
これじゃただのスケベじゃない。何度でも本能(性欲)の強さに抗えずに女体を観賞するド級のスケベ、ドスケベガン見野郎だ………………理性と本能に詰め寄られて板挟みに合う男性店員は勝手に苦悩しているようだが、当の女性店員は馴れた様子で特に気にも留める事もなく、注文を待っている客の元へと足を運ぶ。
厨房から廊下へと出ると、向かい合わせに扉がいくつも並び合い、大抵の扉からは様々な音楽と歌声が微かに漏れ出ているのだが……女性店員が訪れた部屋の扉からは音が一切漏れ出ていなかった。
あの部屋に案内した客は確か、1人カラオケをしていた中年女性だったが……女性店員は不思議そうに首を傾げながらノックをし、扉を少しだけ開けて「失礼しまーす!」と声をかけるが、部屋の中からは返答はない。
不審に思いながら女性店員は扉を開けると、そこには誰もいなかった。中に入りよく確認してみると……テーブルの陰から足が見えた。床に倒れているようでうつ伏せの状態らしい。恐る恐る覗き込むと血溜まりを作りながら倒れている中年女性がそこにいた。
「……ちょっと大丈夫ですか?」
悲鳴をグッと堪えて、女性客に声をかけるが返答はない。身体を起こして安否を確認する度胸までは流石になく、自分のスマホを取り出して119番に連絡を入れようとした矢先、藪から棒に向かいの部屋から珍妙な乱入者がやってきた。
「逃げ場はないぞ殺人犯め!」
現れたのは中学生くらいの男の子だが、遠慮なく他人を指差しながら興奮した調子で自分の言い分を勝手に捲し立てる。
「僕は隣の部屋でずっと1人カラオケをしていた中学生探偵・天地 虎太朗!歌の合間に廊下を行き来する人をずっと観察してたのさ!この部屋に入ったのはそこで倒れている女の人とお前だけ!つまり犯人はお前しかいない!真実はいつも一つ!ザッツ・オールッ!!」
「………………はあ?」
接客業をしていれば、ヤバい客にエンカウントする事は稀によくあるが、よりにもよってこの切羽詰まったタイミングでゲリラ戦を仕掛けてくるのは堪ったものではない。女性店員は場違いな素人探偵に苛立ちを隠さず反論する。
「緊急事態よ。お子様はお家に帰りなさい」
「嫌だね!お前こそ大人しく自首しろ!」
「アンタねぇ……何で私が人殺ししなきゃいけないのよ!」
「僕は状況証拠を踏まえた上で事実を突き付けているんだ。犯人じゃないと言うのならお前こそアリバイを証明してみせろ!」
「監視カメラを見れば分かるでしょ!」
「おいおいおいおい、店員なのにここの防犯カメラがダミーだって知らないのか?中学生の僕だって知ってるのに」
「クッ……」
小生意気だが探偵を自称するだけあり、中学生は筋道を立てて一丁前に詰めようとしてくる。年下のクソガキに論破されかける女性店員は苛立ちがピークに達し、我慢ならずに己の能力を発動する。
116
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:55:31 ID:KW40acUc0
「……どーでもいいけど、さっきから人の胸チラチラみてくるの止めてくれない」
「なっ、急に何を言い出すんだ?今は殺人事件の話をしてるんだ。話をすり替えるのは止めろ!」
「私には分かんだよエロガキ。そんなにこれが珍しいか?」
女性店員は自分の胸をわざと叩いて見せると……バルンッ!!
たわわに実る乙女の果実がご立派に揺れ動き、健全な中学生男児には少し刺激が強すぎたのか、「おっふ」と小声を漏らしたかと思えば、突然前屈みの姿勢になり、赤面した顔ごとそっぽを向いてしまった。
「クッ……こんなの無意味だ!」
「黙れエロガキ。今から本当の推理を見せてやる」
巨乳に物を言わせて中学生探偵から会話の主導権をかっさらった女性店員は、自身の能力が発見してしまった真犯人に向けて拳を叩き込む。
勿論、彼女自身の拳ではない。
中学生探偵は気がついていないが、目から胸のあたりまで、目玉の模様が直線状に描かれている人型のスタンド〈サンデー・バイオレット〉は、本体である女性店員の側に寄り添うように立ちながら、この場にあるあらゆる視線を一切合切見落とす事なく感知していた。
彼女が自身の胸を叩いて見せた瞬間、視線が確かに二つ動いた。一つは思春期真っ盛りな中学生探偵と…………ソファの中で蠢く何か!?
「オラァッ!出てこい出歯亀野郎!」
「ヤッダーバァアァァァァアアアア!?」
〈サンデー・バイオレット〉が拳骨一発で粉々に破壊してみせたソファの中から、騒がしい絶叫が響き、中で何かが悶絶しながらのたうち回っている。〈サンデー・バイオレット〉に壊れかけたソファの座面を引っ剥がさせると、中には人一人入るだけのスペースが存在し、その中にはつい数日前に女性店員と面接を行い、彼女を採用したこのカラオケ店の店主その人が、何故か素っ裸で入り込んでいたのだ。
衝動的すぎる事実に女性店員と中学生探偵は困惑して言葉を失ってしまうが、自分の正体を晒された変態はこの期に及んで何かを言い出す。
「ゴフッ……ち、違うんだ。これは私の趣味であって、その……私が私の店で趣味活動を楽しむのは勝手だろう!?」
「色々突っ込みたいけどさぁ……人を襲うのは駄目だよね」
「!?ちょっと待ちなさい!なぜ私がこの女性をオソッタト言うのかね!?証拠は!?」
女性店員に核心を小突かれた店主は目に見えて分かるくらい焦りだし、見苦しく取り繕うとするが、悍ましい怪物の醜態を目の当たりにして、絶句していた中学生探偵は我に返り、真実を再び紐解こうとする。
「最初に言ったつもりだけど……僕は隣の部屋で1人カラオケをしていた。歌いながら廊下を行き来する人をずっと見ていたけど、この部屋に入ったのは被害者とそこのゴリ……お姉さんだけ。最初はこの部屋に唯一出入りしていたお姉さんが犯人だと決めつけていたけど、お前が最初からこの部屋に忍び込んでいたならば話は変わってくる」
「えぇい!?黙れ黙れこのクソガキ共がぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
威勢の良い口振りだが、素っ裸でソファの隠れスペースに入り込んでいた変態は、壊れたソファの素材が歪んだせいなのか、身体が上手い具合にハマってしまい、一向に飛び起きて目撃者を始末するような素振りは見せなかった。
馬鹿は放っといて女性店員は自身のスマホを取り出して、119番に連絡するが、もう一人の馬鹿が後ろから「すごいや!ゴリ姉ちゃん……いいや、師匠!どうやってこのトリックを見破ったんですか!?どうやったらソファをあんな風にぶっ壊せるんですか!?」と瞳を好奇心と羨望で輝かせながら何か喚いている。
女性店員は髪の毛を掻きながら心底うんざりした様子でため息を吐き捨てる。これから警察に事情聴取もあるだろうし、店長は逮捕されるだろうからバイトは辞めざる終えなく、給料も当然出ない。こんな事なら『大瓜ここのつぼし動物園』のバイトにすれば良かったと物思いに耽る他ない。
まだ募集しているだろうか?
今度こそは絶対『大瓜ここのつぼし動物園』にしよう。
117
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:57:22 ID:KW40acUc0
【課題名】
>>38
手作りドローン『レイブン』
【使用オリスタ】
No.7430 イーヴィル・エンパイア
【解答】
青空に浮かぶ巻雲は風に吹かれながら閑雅に舞い、川の水は遥か遠い海を目指して清閑に流れ往く。晩夏に吹き抜ける涼風に後押しされるように、どこにでもある白昼の河川敷を散歩する男は、ラフな白衣姿で耳にワイヤレスイヤホンをつけて、お気に入りの音楽を観賞しながらご機嫌そうに日光浴を満喫していた。
そこに懐にしまっていたスマートフォンがアラーム音が鳴り響かせながら水を差してくるが、男はその音を待ち望んでいたようでアラームを停止させると、踵を返して帰路につこうとする。
その双眸は稚気に富んだ純粋な輝きを放ちながら、蒼穹に何かを描こうとする浮雲に、見果てぬ世界を投影させているようだが……蒼天のキャンパスに見馴れない異物が入り込んできた事に気がついてしまった。
「あれはドローン?……いや違う」
謎の飛行物体は四方のプロペラで揚力を発生させてホバリングするドローンとは形態が異なる。機体の上に取り付けられた大きなプロペラの動力で上空に浮上・前進し、機体の後方にある小さなプロペラの横向きに働く力で方向変換を可能としている一般的なヘリコプターと同じ機構をしといるが、人が乗れるような大きさではない。
あれは田畑への農薬散布や災害時人が立ち入る事が出来ない場所を観測・物資運搬を目的としている産業用の無人ヘリコプターだ。それが何故こんな河川敷の上空を飛行しているかは分からない。都内の河川敷であれを飛ばすとなれば、河川管理者に許可が必要で色々と面倒な手続きが必要なハズだが……そんな男のロジカルシンキングは一瞬にして瓦解する。
目を細めてよく観察してみればガムテープやら何やらで色々取り付けており、目視で確認できたのは機体正面部にスマートフォン、下方にはネイルガンのようなものがあった。こんな物に管理者の許可とかどうとか無粋な事を考えるのは最早野暮だろう。男は細めていた目を大きく見開き、好奇心を煌々と輝かせながら笑い始める。
「フハハハハハ、実に馬鹿馬鹿しい……でもそーゆーところが面白いんだ。無骨で粗削りだが趣味は悪くない。さぁ……それでどうしてくれる?」
男は改造ヘリに向かって両手を振って見せながら自身のスタンド能力を発動した。ラフな白衣姿は瞬く間に、多数のパイプが生え、各所に髑髏などの様々な『危険』を連想させるマークが付いた全身を包み込む防護服に似たヴィジョンによって覆い尽くされてしまう。
一方、改造ヘリは徐々に高度を下げながら男に迫り、10メートル圏内に入った付近で、機体の下部に取り付けたネイルガンを男に向けて発射しようとするが……男は突如として黒煙に包まれて姿を暗ましてしまう。全身から生えるパイプから物を燃やした時に発生する微粒子の産業廃棄物・煤塵を大量に含む煤煙を一斉に放出してみせたのだ。
辺り一面が大火事でも発生したかのような黒煙に包まれる中、改造ヘリもネイルガンを射出するが手応えはなく、それどころか煤煙に包まれる男は悶え苦しむような咳き込みすらない。
ただ黒煙の中で影響を一切受けていないかのように「レイヴン号と言うのか……意外と可愛いヤツだな。でもネイルガンの機構は実に素晴らしいぞ。連射できるように改造して遠隔操作もしっかりできている……おいキミィ、これはもう立派な銃じゃないか、いけないなぁ〜」と、改造ヘリをどこからともなく観察するねっとりした男の声がしてくる。
人間は得体の知れない狂人と遭遇すれば、大抵の場合は恐怖に感じてその場から立ち去ろうとする反応を示すだろう。改造ヘリは視界不良も相まってその場から急浮上して脱出を図るが、鼬の最後っ屁のように、ありったけの農薬を撒き散らしながら遠方に飛び去ってしまった。
もっとも辺りに煤煙を撒き散らし、自身を纏衣装着型スタンド〈イーヴィル・エンパイア〉で包み込む男には、嫌がらせにすらならない無意味な抵抗であった。
男は自身のスタンド能力を解除すると、今まで周囲を覆い尽くしていた煤煙は、文字通り煙のように瞬く間に消えてしまい、跡には手を振りながらレイヴン号を見送る男の姿があるだけてある。
男は相変わらず純粋な瞳を煌めかせながら、片手でスマートフォンを操作する。地図アプリのような物を開くと、赤く点滅する丸印が画面に写し出された地図表の中でひたすら直進している。黒煙に紛れて取り付けた発信器がしっかり作動している事を確認した男は、静かにくそ笑む。
「そうだな……『隕石の鏃』が人体に及ぼす影響の経過を観察してから会いに行こう」
その瞳は深淵の宇宙を照らす太陽の如く、興味本位で近づけば、全てを燃やし尽くして、それでも平然として揺らぎもしない。
118
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 08:17:25 ID:OpvHeZPs0
>>47
【課題名】
夜回り初日
【使用オリスタ】
No.8849 ブロークン・ニードルス(本体名:刺宮ちゃん)
【解答】
ズドォン………ズドォン………
人っ子1人居ない深夜の公園にて。
矢鱈にガタイの良い1人の女(?)が身の丈ほどもあるスレッジハンマーを振るい、一心不乱に藁人形を木に打ち付けていた。
「怨めしい……怨めしいッ……!」
その口から漏れる声は男と間違うほどに野太く、そして怨嗟にまみれていた。
…………そんな彼女(?)を木の陰から見つめる男女が1組。
「どど、どうしよう刺宮ちゃん…!?アレ、どう見ても不審者だよねぇ………?」
ナヨナヨと頼りない声を発する男に対し、刺宮と呼ばれた女の方は冷静だった。
「どうするも何も……警察に通報しなきゃ仕方無いでしょう。それが私達の仕事なんですから。」
「ちょちょ、ちょっと待ってよぉ!?今携帯なんか鳴らしたらアイツに気付かれちゃうかもじゃん!?」
スマホを取り出した手にすがり付いて来た男に対し、刺宮は明らさまに不機嫌な表情を浮かべて軽蔑の視線を向けた。
一体何なのだろうか、この男は。
先程まではやけに人様の胸をジロジロ見ながら馴れ馴れしく話し掛けて来た癖に、いざ非常事態になるとコレである。先輩だと言うのに頼りがいも何も無く、それでいてスケベ心は未だ失っていないらしい。
「ちょっ………離して下さいよ、今騒いだらそれこそ気付かれ(パキッ!)……え?」
異音が響くのとほぼ同時に女(?)の動きがピタリと止まる。
足元に目をやると、男の足が1本の小枝を踏み折っていた。どうやらその音が原因で気付かれてしまったらしい。
女(?)はゆっくりと振り返り、濃い青ヒゲが目立つ顔に憤怒の表情を浮かべながら木陰を凝視した。
「見ぃぃぃたぁぁぁなぁぁぁ〜?」
「うッギャアァァァ〜!」
女(?)が声を放つのと、木陰に潜んでいた男が悲鳴を上げ、刺宮を突き飛ばして走り出すのはほぼ同時だった。
後輩を、しかも女性を突き転がして逃走する……そんな人としてあるまじき姿に刺宮も女(?)も一瞬呆然とするものの、その隙をついて男は女(?)の横を走り抜け、どんどんと遠ざかってゆく。
「…………あんの野郎〜〜〜ッ!!!」
男への怒りに震え、思わず口汚くなる刺宮。
しかし、女(?)は刺宮の口調など気にも止めず、スレッジハンマーを構えなおした。
「フゥ〜…………ねぇ、アンタ。今そのハンマーを下ろせば見なかった事にするから、そこを退いてくれない?アタシはこれからあのクソ男に仮を返さなきゃならないからさァ!!」
恐怖も吹き飛ぶほどの怒りを瞳に宿し、女(?)に負けず劣らずな形相で吠える刺宮。
しかし、怒りで我を忘れているのは刺宮だけではない。
秘密の儀式を盗み見られ、呪いを妨害された女(?)が構わずにハンマーを振りかぶり、刺宮の頭へと振り下ろした瞬間──────
ズバンッ!!
スレッジハンマーの付け根が"何かに刺し貫かれたように"吹き飛び、急な重心の変化に思わず女(?)はその場でたたらを踏んだ。
「今のは正当防衛だけど、まだ来るって言うなら……………………アタシも手荒に行くわよ?」
「……………??」
全身に鋭いトゲを生やした筋肉質な女性型スタンドを出しながら、刺宮は相手に警告する。
だが、スタンドが見えていない女(?)には余り意味を為さなかったようだ。
へし折れたハンマーをその場に投げ捨てて身を低くし、今度は両手を広げながら突進を仕掛けた。
「仕方ないわね………『ブロークン・ニードルス』!」
ズドドドドドドッ!!!!
眼前に迫る敵に対して、刺宮のスタンド───ブロークン・ニードルスが高速ラッシュを叩き込む。
スタンドが見えない女(?)がそれを防御する事など出来る筈も無く、繰り出される不可視の乱打に堪らず地面へと倒れ伏した。
119
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 08:30:02 ID:OpvHeZPs0
>>118
「フゥ〜………さてと。あのクソ男は何処まで逃げたのかしらねぇ〜?」
女(?)は最早戦闘不能だ。そう判断した刺宮はスタンドを引っ込め、1人で逃げていった男を追って公園出口へと走り出して
──────背後で立ち上がり、追い縋ってくる女(?)を見逃してしまった。
ガシィッ!!
「なっ…………!」
丸太のような腕が刺宮の喉に回され、女(?)の左手が後頭部を押し、ギリギリと刺宮を締め上げる。
所謂「裸絞め」という技であった。しかも素人の腕前ではなく、完全にロックされている。
格闘技などやった事も無い刺宮のような女子高生など、数分もあれば命すら落としていただろう。
しかし、彼女のスタンドは接近戦でこそ真価を発揮する能力を持っていた。
「『ブロークン・ニードルス』」
ズシャッ……!
刺宮の身体と重なるように発現したスタンドから伸びたトゲが女(?)の上半身に突き刺さった。
刺宮が命を奪わないように加減したとは言え、先程のラッシュで蓄積したダメージに加えて密着状態で受けた攻撃……………。
流石の女(?)も耐えられずに昏倒し、今度こそ動かなくなった。
「ゲホッ……ハァ………ハァ…………やり過ぎた、かしらね………?」
やっとの思いで脅威を退けた刺宮は荒く息を付き、クソ男へのお礼参りに行く前に取り敢えず救急車を呼ぶ事にしたのだった。
─────────公園で死闘が繰り広げられた数日後、とある病院にて。
顔中をボコボコに腫らした1人の男が担架で運ばれ、ベッドに横たえられた。
「畜生……刺宮の奴めぇ………ちょっと胸がデカいからって調子乗りやがって………!
………たった一回見捨てただけでここまで殴る事無いだろうが………折角俺の女にしてやろうと思ってたのによォ…………!」
自分が見捨てた相手にその分の仕返しをされただけにも関わらず、男が自分の非を棚上げして身勝手な文句を垂れ続けていたその時。
「その声………何処かで聞いた覚えがあるなァ〜〜〜〜〜?」
「…………え?」
カーテン越しに仕切られた隣のベッドから、聞き覚えのある野太い声が響いた。
「まさか………」
ギシィッ……!ズン、ズン…………
隣の患者がベッドから降り、ゆっくりと自らの元に近付いている。
その事実に気付いた男の顔が青ざめるのとほぼ同時に、見覚えのある巨大な影がカーテンに映し出される。
数日前とは違って何処にも逃げられない状況下、恐怖の余り声にならない悲鳴を上げる男に構わず、やはり見覚えのある逞しい腕がカーテンをはね除けた。
120
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 21:10:43 ID:y6QttXTI0
>>119
解答の投稿有り難うございます!
刺宮ちゃん・女(?)・先輩みんなキャラが立っていますが、何よりも女(?)の存在感が終始一貫してオチになっているのが、解答の面白さと構成の美しさが両立しているような感じがして素敵です!
背後を取られた絞め技からの返しもブロークン・ニードルスの能力が文字通り刺さっていて良い解答だと思います。
女(?)と先輩が再び遭遇するラストはroundaboutが脳内で勝手に自動再生されました(笑)
121
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/09(金) 07:56:45 ID:8I346JXQ0
【課題名】
>>21
まだ生きてる寿司
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
大企業の社長という物は基本的に多忙だ。
他の社員を動かすのみならず、時には自ら他社に赴いて商談を成立させねばならない事もある。
例え「究極生命体を産み出す」という突飛な野望を胸に秘めている男とて、それは例外で無かった。
(不味い。……不味いぞッ!)
ある日の正午。とある商談を終えた小室光之助は、寿司屋の中で苦々しい表情を浮かべていた。
不味いというのは取引の事ではない。表沙汰には到底出来ない内容だが、商談自体は光之助が思う通りに進んだのだ。
それに気を良くして入ったのが一軒の高級寿司屋だったのだが、少し「ハイ!」になっていた光之助は店選びに失敗したらしい。
(何なのだこれは!?ネタは生臭くて固い上にシャリもゴワゴワ、おまけに酢の質が悪くてやけに甘ったるい…………こんな物、寿司とは呼べん!)
二、三貫食べた時点で嫌気がさした光之助。
それでも何処ぞの不良とは異なり、ちゃんと金を払うべく会計に向かおうとしたその時。
ズキィッ!!
「ガハッ……!?……オイ………店主!!今すぐ救急車を呼べッ……!早くッ………!!」
突如として激しい痛みが光之助の腹を襲った。
堪らず腹部を押さえて崩れ落ちながらも迅速に状況を判断し、唯一店内に居る店主へ指示を跳ばしつつ出口へ向かう光之助。しかし今回は相手が悪かった。
「えっ!?………ああああ……どうしよぉ……救急車……でも、食中毒なんかバレたら店が……保健所に来られたら………あっ、あのお客さん!!ちょっと待って下さい!!」
余程気が動転しているのか客の前で隠蔽する気満々の独り言を呟きながら光之助に縋り付き、彼の脱出を阻止しようとする店主。
「この、愚図がァァッ!!!!」バキイッ!!
「うぎゃ!?」
渾身の力を込めて店主の顔面を殴り付け、彼を退かせた光之助。しかし、店主はよろめきながら戸口の前に立ち塞がり、意地でも光之助を出さないとばかりに睨み付けて来る。
「………ええい、クソッ!!」
最早脱出は不可能と悟った光之助は踵を返して店内のトイレへと飛び込み、個室の鍵を掛けると同時に己のスタンドを発現させた。
(嘗て、自らの心臓をスタンドに直接掴ませて止めたスタンド使いが居ると聞いた事がある。もしそれが真実ならば、私とて………!『グラビティ・オブ・ラヴ』!!)
黒鎧に身を包んだ人型スタンドがその場に現れ、片手をトイレに、そしてもう片腕を透過させて光之助の腹部へと差し込み、胃の内容物に触れさせた。
(よし………やった………助かったぞ………!)
激しい腹痛と急速に沸き上がる吐き気で朦朧とする意識の中、光之助は己の試みが成功した事を悟った。
─────────かくして腹痛の原因を綺麗さっぱり吐き出して回復した光之助。
降りかかった危機が去ったのならば、後は元凶を叩くだけである。光之助は乱暴にドアを蹴り開けた。
バァン!
「ヒィ!?」
未だに戸口の前で通せんぼをしていた店主だったが、ドス黒いオーラを纏いながらツカツカ歩み寄って来る光之助を見て悲鳴を上げる。
慌てて逃げようとした店主の胸ぐらをひっ掴み、光之助は言い放った。
「そう言えば会計がまだだったなぁ、店主よ?
………今からあの不味い寿司と先程の仕打ちに対する代金を、キッチリと支払ってやろう……!!
…『グラビティ・オブ・ラヴ』!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
漫画にすれば3ページにも及ぶであろう長いラッシュを叩き込まれ、壁にめり込んで動かなくなる店主。
光之助はそんな彼に一瞥も暮れず、保健所と警察に電話をしながらその場を歩き去ったのだった。
122
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/09(金) 21:17:45 ID:24fbwwwk0
>>121
解答の投稿有り難うございます!
小室社長再登場感謝です!どんな相手にも初手は常識人ムーブをしてくれるのが、壮大な野望とは別に人の良さが垣間見れて、やっぱり何か読んでてニッコリしちゃいますね。
自分の体内に入れてしまった毒物の対処法って考えてみると結構限られてきそうですが、グラビティ・オブ・ラブの応用力が光る解答だったと思います(それはそうと社長お労しや)
企画を通して推しのオリスタを動かしながら、設定を掘り下げたり、肉付けしてくれる事を楽しんで貰えたら企画に携わる者として冥利に尽きます!
123
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 22:18:52 ID:uMJlf2Q20
【課題名】
>>62
急行カレー飯テロ事件
【使用オリスタ】
No.4107 スター・キャスケット(本体名:ナナ・シーノ)
【解答】
ナナは激怒した。
必ず、やたら自分を押し退けて隣に座り込み、非常識にも電車の中でカレーを貪り食って咀嚼音やら妙に気になるスパイシーな匂いやらで人に不快な気分を味あわせた挙げ句に靴まで汚していった邪智暴虐な中年男に仕返しせねばならぬと決意した。
怒りに震えるナナには周りの乗客から向けられる異様な視線がわからぬ。ナナはスタンド使いである。能力を使い、暇な時は空を遊覧飛行して暮らして来た。けれども流行やお洒落なカフェに関しては人一倍に敏感であった。
ナナはそれ故、街中に新しくオープンしたカフェでコーヒーや菓子を食べに珍しく急行列車に乗ったのである。
電車に乗っている内、ナナの隣には中年男が座り込んでいきなりカレーを貪り始めた。ごく普通の少女であるナナも、その非常識さに段々とイライラを募らせていった………が、イライラを貯めながらも車内の様子を怪しく思った。
乗客達の誰も、中年男ではなく「男が貪るカレー」のみを見つめている。何人かは口の端から涎を垂らす始末である。車内に充満するスパイシーな匂いのせいだろうか。
ナナが不安になってきた時、男が漸く食事の手を止めて顔を上げた。そして怯えた表情を浮かべる。
男は皿を持ったまま立ち上がり、丁度良く開いていたドア目掛けて走り出し──────
パシャリ、と。
ナナが気に入っていた靴に、カレーのルーをかけていった。
(…………………あの野郎〜〜〜〜〜〜ッ!!!!)
この仕打ちにナナは激怒した。「おい待て、オッサンゴラァ!!」
ナナは真っ直ぐだが、傍若無人な性格であった。閉まりかけたドア目掛けて走り出し、腕を無理矢理挟んで再びドアをこじ開けた。たちまちナナは中年男へと追い付き、どう
124
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 22:30:03 ID:uMJlf2Q20
>>123
途中送信してしまいすみません。出来れば削除お願いします。
【課題名】
>>62
急行カレー飯テロ事件
【使用オリスタ】
No.4107 スター・キャスケット(本体名:ナナ・シーノ)
【解答】
ナナは激怒した。
必ず、やたら自分を押し退けて隣に座り込み、非常識にも電車の中でカレーを貪り食って咀嚼音やら妙に気になるスパイシーな匂いやらで人に不快な気分を味あわせた挙げ句に靴まで汚していった邪智暴虐な中年男に仕返しせねばならぬと決意した。
怒りに震えるナナには周りの乗客から向けられる異様な視線がわからぬ。ナナはスタンド使いである。能力を使い、暇な時は空を遊覧飛行して暮らして来た。けれども流行やお洒落なカフェに関しては人一倍に敏感であった。
ナナはそれ故、街中に新しくオープンしたカフェでコーヒーや菓子を食べに珍しく急行列車に乗ったのである。
電車に乗っている内、ナナの隣には中年男が座り込んでいきなりカレーを貪り始めた。ごく普通の少女であるナナも、その非常識さに段々とイライラを募らせていった………が、イライラを貯めながらも車内の様子を怪しく思った。
乗客達の誰も、中年男ではなく「男が貪るカレー」のみを見つめている。何人かは口の端から涎を垂らす始末である。車内に充満するスパイシーな匂いのせいだろうか。
ナナが不安になってきた時、男が漸く食事の手を止めて顔を上げた。そして怯えた表情を浮かべる。
男は皿を持ったまま立ち上がり、丁度良く開いていたドア目掛けて走り出し──────
パシャリ、と。
ナナが気に入っていた靴に、カレーのルーをかけていった。
(…………………あの野郎〜〜〜〜〜〜ッ!!!!)
この仕打ちにナナは激怒した。「おい待て、オッサンゴラァ!!」
ナナは真っ直ぐだが、傍若無人な性格であった。閉まりかけたドア目掛けて走り出し、腕を無理矢理挟んで再びドアをこじ開けた。たちまちナナは駅のホームに降り立って走り出し、同時に他の乗客達が一斉にナナ………ではなく、カレーを持った中年男目掛けて突進した。
大勢の乗客達が揉み合ってカレーを奪い合い、たちまち騒ぎは大きくなる。理性を失った乗客達に揉みくちゃにされる中年男に、慌てて駆け寄って来る駅員達…………騒ぎは益々大きくなるばかりであった。
「スゥー……………。うん、私知ーらないっ!逃げよ!」
多少の罪悪感を抱きつつ、ナナは(何もかも中年男が悪い!)と開き直ってスタンドを発現させた。
場に居る全員が騒ぎに気を取られる中、誰にも気付かれる事無く大空へと飛び立つ。
当分ここの鉄道は使わないようにしよう。心の中で、そう決意しながら。
125
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 23:27:07 ID:hgrY.lXs0
>>124
解答の投稿有り難うございます!
>>123
の投稿は誤りの投稿だと124で明記されており、解答を読むに当たって支障はないと思います。
どうしても気になる場合は『過去ログ倉庫』の真下にある『掲示板管理者へ連絡』から改めて削除依頼をお願いします(※私自身も削除関係は利用した事がないので当てずっぽうで書いてます)
解答に関してはナナちゃんのキャラクターがしっかり地の文で説明されていてオリスタの人となりが分かりやすく描写されているのが良いですね!
大麻入りカレーの争奪戦とかいう地獄絵図から脱出するにはスター・キャスケットの能力は丁度良いチョイスだと思います。
126
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 17:57:21 ID:9alM9wLA0
【課題名】
>>46
敬老初日
【使用オリスタ】
No.8834 レーパーバーン
【解答】
1人の女子高生をヘルパーに雇った町外れの老人ホームにて。
「あぃ、んじゃ〜詳しい仕事の内容はあのジーサンバーサン達に聞いてね、悪いけど私達これから出掛けなきゃならなくて………」
「ウフフ、分かりました〜。留守の間はママに全部任せて下さいね〜」
(………ママ?)
127
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 18:19:25 ID:9alM9wLA0
>>126
何でこう書き込みボタンが途中で押されてしまうんでしょう……
【課題名】
>>46
敬老初日
【使用オリスタ】
No.8834 レーパーバーン
【解答】
1人の女子高生をヘルパーに雇った町外れの老人ホームにて。
先輩従業員達がアタフタと出掛ける準備をしつつ、新人に大雑把な業務説明をしていた。
「あぃ、んじゃ〜詳しい仕事の内容はあのジーサンバーサン達に聞いてね、悪いけど私達これから出掛けなきゃならなくて………」
「ウフフ、分かりました〜。留守の間はママに全部任せて下さいね〜」
(………ママ?)
一瞬奇妙に思いながらも、急いでいるのかそのまま車に乗り込んで去ってゆく先輩従業員達。後にはバイトの女子高生だけが残された。
「さぁ〜て、可愛い子供達のお世話に行きましょ〜♡」
老人ホームに来たとは思えない台詞を口にしながら入ってきた少女を出迎えたのは、ナイフ状に削られた孫の手や歯ブラシで物々しく武装した老人達であった。
「おう、嬢ちゃんが今日から入ったヘルパーさんかい?」
「はい〜。皆さん、始めまして〜!私の名前は……」
「なあ嬢ちゃん。急で悪いんじゃが、儂らの質問に答えてくれんかのぉ?」
車椅子を器用に操り、少女へと詰め寄る老人達。
口を噤んだ少女に対し、老人達は一つの問いを投げ掛けた。
「オセロで強いのは………先攻じゃよなあ?」「後攻に決まっとるよなぁ?」
中途半端な答えは許さない。
瞳でそう語り、殺気を放ちながら自分を見つめる老人達を、少女は───────
「んもぉ〜。皆さん?メッ、ですよ?」
幼子にするように、優しく嗜めた。
「……………は?」「あの、嬢ちゃん………?」
「皆、喧嘩はダメです!しかもそんな危ない物を手に持って…………ママは貴方達をそんな悪い子に育てた覚えはありませんッ!」
「いや、此方もアンタに育てて貰った覚えは無いぞ?」「儂らの母親はとっくに死んどるんじゃが……」
理解不能な事を宣う少女に対し、思わず突っ込みに走る老人達。しかし、その言葉は少女の逆鱗に触れてしまった。
「ウフッ。ウフフフ。ウフフフフフフ……………♡そんな事はありませんよ〜?私は、貴方達の、『ママ』なんです。イヤイヤ期も程々にしないと、ママ怒っちゃいますよ〜?」
128
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 19:00:43 ID:9alM9wLA0
>>127
一方その頃、用事を終えた先輩従業員達は老人ホームへと車を走らせ、車内で何気ない会話を繰り広げていた。
「そう言えば、今日来た新人ちゃんが配属されたグループって何処だったっけ?」
「あー、それなら確か丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんと泥雄(でぃお)爺さんが仕切ってる所に…………ッ!?」
そう言った職員の顔が一瞬で青ざめる。彼の言葉を聞いた他の職員達も、同様に顔を強張らせていた。
──────丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんと泥雄(でぃお)爺さんは長きに渡る因縁の間柄であり、血で血を洗う争いを日夜繰り広げている。
この事実は、老人ホームの職員達にとって職場の危険度を跳ね上げる悩みの種であった。
良い歳こいて妙に元気なジジイ2人は入居初日から何かといがみ合い、お菓子はキノコかタケノコか、某歌番組では赤組か白組か、某国民的アイドルグループではアツコかユウコか……と意見が別れる度に無駄なカリスマ性でホーム内のジジババを纏めて派閥を作り上げ、職員に隠れて危険物を作っては振り回し、大規模な戦争を引き起こすのだ。
入ったばかりの、それもバイトのJKである少女が録な説明も無しに立ち向かえる相手ではない。
自分達が仕出かした事の重大さに気付いた彼等はアクセルを全力で踏み込んだ。
老人ホーム内の惨状を脳裏に浮かべ、後悔に苛まれながら。
──────「それじゃあ良い子の皆〜!『ママ』とオセロで遊びましょ〜♡」
「「「「「ハ〜〜〜〜〜イ!!!!」」」」」
息せききって老人ホームへと駆け込んだ先輩従業員達は、確かに地獄絵図を見る事となった。
…………尤も、想像していた物とは全く内容が異なっていたが。
「ねぇねぇ『ママ』〜!泥雄(でぃお)爺さんとばっかり遊んでズルいよ〜!儂ともオセロしてよぉ〜!」
「喧しいッ!『ママ』は丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんなんかより儂と遊ぶ方が楽しいんじゃあ〜!」
「んもぉ〜、喧嘩はダメってママは言ったでしょお〜?」
女子高生相手に揃いも揃って幼児の様な甘え方をする老人達の群れと、満面の笑みで彼等を受け入れる女子高生。
何処までも平和で、しかし紛れもなく地獄と呼べる光景を見た先輩従業員達は一様に思った。
((((…………………何だ、コレ………………………………))))
129
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 23:36:47 ID:hSKdnUMc0
>127
解答の投稿有り難うございます!
アドバイスになるかは分かりませんが、私は解答を投稿する時はメモアプリに予め文章を書いて、コピペして投稿しています。
掲示板に直接文章を書いて何かのはずみで誤送信する対策になれば幸いです(見当違いなアドバイスだったらすみませんm(_ _)m)
解答の感想ですがこんなの草の一言に尽きちゃいます。思わず笑ってしまう内容でした!丈酢多亜爺さんと泥雄爺さん彼等はいったい何ものなんだ……
本体と合わせてレパーバーンというスタンド能力のヤバさが垣間見れた解答だと思います!
130
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:01:42 ID:BMcHVbv20
解答投稿前に失礼。
何かスルーしちゃってましたが、解答テンプレへの本体名の記載有り難うございます。
ルールを制定した本人が絶対とは書いてないからええやろと流してましたが、あった方が良さそうだと思いましたので早速真似しちゃいます。
それでは次に解答の投稿を開始します。
131
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:02:26 ID:BMcHVbv20
【課題名】
>>39
サイクリングに行こう!
【使用オリスタ】
No.8034 メルト・イントゥ・ブルー
【解答】
春、満開に咲き誇る桜に誘われるように、人々は桜並木の道を悠々と散策していたが……それは晴天の霹靂の如く、赤黒い血液にまみれた何かが道行く人々の目の前を怒涛の勢いで駆け抜けていった。
あれは一体なんだったんだろう?その瞬間だけ人々は季節の花よりも謎の怪物に目を釘付けにされてしまった。
★
「ばーいしく♪ばーいしく♪ばーいしく♪」
音程が少しズレた調子でもお構い無く、半世紀近く前に発表された古めかしい曲をご機嫌そうに歌う少女は、新品のピカピカな自転車に乗り、春風に吹かれながら桜並木の道を颯爽と疾駆する。
舞い散る桜の花弁はあっという間に駆け抜けてしまった少女を見送る事しか出来ないが、その一つ一つは彼女だけの春の情景として心の奥底に残されるかもしれない……そのハズだった。
うらうらしたうつくしい春の1日は、少女が今だかつて経験した事がない未知との遭遇によりぶち壊されてしまう。
そいつは女性らしい黒いレースのワンピースを着ているが、身長は180cm近くあり、体型はボリューミー。かつて相撲界で活躍したハワイ出身の外国人横綱・曙や武蔵丸程ではないかもしれないが、タレントのマツコ・デラックスやメイプル超合金の安藤なつよりもダイナミックかもしれない……あれは誰だっけ?
少女の脳髄、霞がかった記憶の奥底から彼はのっそりと現れてくれた…………そうだ。あれはよく見ればご存知(?)バタービーンだ。一昔前に活躍した物珍しい肥満体型の格闘家にちょっと似ているかもしれない。
肩まで伸びた脂ぎった茶髪、腹部と共に前に出た胸部が服装と合わさり、辛うじて女性の体を成している。そしてどうやら彼女は信じられない事に三児の母親なのか、小学生低学年くらいと思わしき三つ子の男児を引き連れており、そのうちの一人を「高い高〜い」と声かけしながら宙に放り投げてはキャッチしては、また放り投げるを繰り返している。
あれが……きっとLGBTに配慮した最先端の母親像なのかもしれない。何でこんな桜並木の道端で大道芸紛いの事をしているのかはさっぱり分からないが、関わってはいけない事だけは目に見えてハッキリと分かる。
目に飛び込んできた情報があまりにも奇妙過ぎて、異世界に迷い込んでしまったような言い知れぬ不安感が少女の心の奥底から込み上げてきた。ここは無限に続く地下通路ではないが、いっそのこと引き返した方が良いのだろうかと少女は思案するが……答えを出す前にバタービーンみたいな女が先手を仕掛けてきた。
「高い高〜い!高い高〜い!高い高〜い!…………そぉい!!!」
「えっ!?」
バタービーンみたいな女は上空に繰り返し放り投げていた男児を突如抱え込んだかと思えば……それは意外!あの不自由そうな体型から想像もつかない軽やかな挙動!海老反りになるジャーマン・スープレックスの体制に入ったかと思えば、そのまま男児を剛力任せに自転車に乗る少女目掛けて投げ飛ばしてきたのだ!
男児は自分が投げ飛ばされて他人にぶち当てられる事に何の抵抗感もないのか、真っ直ぐすぎる覚悟でガン極った視線を向けてきて、少女は現状の理解が追いつかず男児と衝突してしまう。
「テンメエエエエエエエエエエ!うちの可愛い可愛い三蔵ちゃんになんて事をしてくれるんだああああああああああい!!!!」
仰向けの状態から背中を浮かし、反り返ったビッグボディを両手両足で支えきってみせるバタービーンみたいな女は、自分が投げ飛ばした男児と少女が激突する瞬間を目視するや否や、鬼気迫る表情且つ迫真の金切り声を張り上げて難癖をつけようとするが……少女に激突しながらも華麗に受身を取り、即座に起き上がってみせた男児の口から突如悲鳴が沸き上がる。
「う、うわあああああああああああ!?母ちゃん大変だ!この人死んじゃったよ!?!」
「は?…………ってガチか」
男児の情けない悲鳴にバタービーンみたいな女は、まゆを潜めながら転倒した自転車と少女の元に近づくと、少女は何故か上半身が弾け飛び、アスファルトに下半身を残して大きな血溜まりをつくっていたのだ。
三つ子の男児たちは、想定していたよりも遥かに虚弱体質だった少女にしこたまビビリ散らし、泣き叫びながらパニック状態に陥るが……プロ(?)の当たり屋にして主犯であるバタービーンみたいな女は、我が子の見苦しい姿を「黙りな馬鹿共が!」と軽く一蹴すると、常人とは到底思えないふてぶてし過ぎる肝っ玉に物を言わせながら作戦を切り替える。
132
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:03:23 ID:BMcHVbv20
「あり得ないッ!そして、これで終わりかい?狸か狐か手品師か何か知らないけど……この程度の虚仮威しで私がびびるとでも?何かしたいのかは分からないが、これで終りならお前のチャリは私のもんだからな!!!あばよッ!!!」
目下に上半身が吹き飛んだ死体があろうとも、バタービーンみたいな女はそれに惑わされる事なく、己の欲望の赴くまま、少女が乗っていた新品の自転車をおもむろに起こしたかと思えば、それに乗ってこの場を後にしようとする厚顔無恥なストロングスタイルを発揮してみせたのだ。
血の繋がった母親(モンスター)の奇行に三つ子たちはさすがに唖然とするが、そんな我が子に対してバタービーンみたいな女は「お前等の帰りは徒歩な!はい解散!」と、暴君の如き身勝手な指示を出して走り去ってしまった。
母親に置いてかれてしまった三つ子は理解が追いつかず呆然としていたが……突如カン高い喧しい悲鳴を一斉に上げたかと思えば、蜘蛛の子を散らすようその場から大慌てで逃げ出していた。
そして、その場に残された少女の下半身も血溜まりと共にいつの間にか消えている。
★
「ふん、ふふん、ふーん、ふふふ、ふんふーん♪」
自分の体重で押し潰しそうな自転車に乗りながら、風を切るように疾駆するバタービーンみたいな女は、気持ち良さそうに鼻唄を唄いながら知り合いの外国人が経営する質屋に直行するが……そんな女が乗る自転車の影をなぞるように、赤黒い血液のような液体が追従していた。
よく見れば自転車のサドルに赤黒い液体が纏わりついており、その後続は金魚のフンのように連なりながら自転車に引きずられていたが、次第に体積は先頭に集約し、バタービーンの女の背後にいつの間にやら赤黒い人型が形成されたかと思えば、彼女の首をぎゅっと握り締めるが……それでも尚、この怪物は怯まない。
「なんだい、ようやくお出ましかい?」
「私の自転車………返してよ」
一般人にも目視可能な赤黒い液状の人型実体……自分の身体を液体化して変幻自在に動くスタンド能力〈メルト・イントゥ・ブルー〉を発動した少女は、液状の身体を血液に擬態したまま、バタービーンみたいな女が強奪した自転車にしがみつきながら追跡し、ようやく彼女の喉元に手をかける事が出来たが……か細い声でバタービーンみたいな女を強迫するだけでは彼女を止められない。
それどころかバタービーンみいな女は正体を表してきた未知なる存在に対してすら、見透かしているのか、或いは単純に恐いもの知らずで増長した態度は一向に崩れない。
「怪物が女々しい寝言を言うもんじゃないよ!せっかく手に入れた銭の種を私がタダで返すワケ無いだろう?いいかい、手前の大事ならものならなぁ!返して欲しけりゃ力ずくで奪い取るもんだよ!出来るもんならやってみなッ!!!」
「そうだね……それしか方法はもうないみたいだね」
「あ…………!?」
背後にいたハズの赤黒い液状の怪物は、突如蒸発したかのように一瞬にして消えてしまう。バタービーンみたいな女もさすがに警戒するが、もう遅かった。少女は再び人型の形態から水の如き不定形に変化すると、自転車の前輪に纏わりつきホイール全体に水膜を形成、路面から浮いた状態『ハイドロプレーニング現象』を意図的に引き起こし、掌握した前輪を渾身の力を込めて揺さぶると、自転車の前輪は制御不能、ブレーキも意味を成さず……バタービーンみたいな女は自転車に乗ったまま、ズガシャーーーーーーン!?と、ド派手な音を立てながら盛大に横転してしまった。
「ひでぶっ!?!」
受け身を取ることすらままならず、その巨体を無防備なままアスファルトに叩きつけられたバタービーンみたいな女は激痛に悶絶、脳内から溢れだす痛覚のアラームは全神経を駆け抜け、転がり踊るかのように、のたうち回る事しか出来ない。
その隙に液状化していた少女は自転車を立て直すが〈メルト・イントゥ・ブルー〉を解除せず、赤黒い血液の怪物のまま一目散にこの場から全力疾走する。
桜並木の道路には当然、彼女たち以外にも一般人や通行人がおり、一目を憚った苦渋の決断だが…………それは後に『桜並木の怪異』『血祭りサイクリスト』『バイシクルトレーサー』なる怪談となり、現代の生きた都市伝説『当たり屋ビッグマム』と双璧を成すようにの語り継がれるのはまた別のお話で……
「ううう、うぐ……新品の、新品の……お父さんに買って貰った私のピッカピカの自転車が……」
周囲の奇異の目を忌々しく感じつつ、赤黒い血液の怪物のままでいる少女は、人知れず涙を浮かべながら、姿をくらますべく自転車ごと近くの河川に飛び込んだ。
133
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:04:07 ID:BMcHVbv20
【課題名】
>>40
グミ初日
【使用オリスタ】
No.5215 バービーボーイズ →本体名『ケン』
【解答】
「こんにちは!新商品『ハイ!&トリッピー↑』食べれば分かる美味しい新感覚グミのサンプルです!良かったら味見してみてください!」
『ケン は みちゆく ひとびと に しんしょうひん の サンプル を わたそうとする▽
・・・・・・▽
しかし だれにも あいてにされない▽』
「ヘイ、バービボーイズ……バイトは始まったばかりだぜ。まだ慌てるような時間じゃあないさ」
雑踏で溢れかえる都会の駅前、買い物カゴいっぱいに入れた試供品を配るサンプリングのバイトをする男『ケン』は、自分の視界に入る範囲で空中浮遊する黒い長方形……コンピュータゲームのウィンドウに酷似したものに表示された文章とそれを朗読する無機質は電子音声に軽口でツッコミを返す。
この現象はケンの身に起こった出来事を実況する彼のスタンド〈バービーボーイズ〉の能力である。当然一般人には見えていないし、電子音声も聞こえていない為、彼は突然謎の独り言を呟くヤバイ人のように映るかもしれないが、他人の奇行にわざわざ興味を示す物好きな人間はそうそうおらず、彼もお構い無く自分のスタンドに時よりぼやいているようだ。
もっとも、そんなことばかりしてサボッていればバイトは終わらないので〈バービーボーイズ〉の実況は無視して、通り過ぎる人々を品定めしながら試供品を真面目に配らなければならない(こっそり捨てたり、ネコババなんてしたら稀にチェックを行う職員にみつかった大目玉をくらうので良い子の皆は気を付けよう!)
バイトアプリでたまたま近場で簡単・楽に金が稼げそうな案件を見かけたので、足を運んできたが、基本的な動きは街頭によくいるティッシュ配りと変わらない。3時間屋外での立ち仕事は暇でキツく感じる事もあるかもしれないが……ゲーマーであるケンにしてみれば、これも一種のゲームとしてむ向き合うことができた。
大抵こういうバイトは在庫を捌ききれば早上がり出来るし、どうすれば相手がサンプルを快く受け取ってくれるのか、通行人の邪魔にならないように立ち振る舞えているか、どういう人が受け取ってくれて、どんな人が受け取ってくれないのか……頭であれこれ考えながら自分なりのコツを組み立てていけば、数撃ちゃ当たるだけの暇な流れ作業で終わらない。
例えば……今回のサンプルは無名のメーカーが売り出すケン自身も知らないグミだが、ただのティッシュやチラシよりかは食いつきは悪くないハズだ。
いかにも強面なヤのつく自由業そうな人や極端に人相が悪い人はまぁ論外、キビキビ動く忙しそうなリーマンや、近づいてはいけないオーラを発する早歩きの歩行者、歩きスマホを止められない依存症患者なんかには空気のようにスルーされてしまうだろう。学生や若者・女性……特に二人以上で行動しているカップルや子連れの親子・友人の集まり何かは狙い目だ。
複数のうち一人でも興味を示してくれれば、あとは未知なるお菓子を、いかに興味を持ってくれるように言葉を並べていけば、好奇心なりネタなり何かしらの理由で受け取り、あとは連鎖的に配給できるチャンスが到来するハズだ。
これまでの経験則に基づいた自分なりの攻略法を
実践に移しているうちに……早速ケンの元にお目当てのターゲットがやって来てくれた。5人でワチャワチャ駄弁りながら歩いてくる男子高校生のグループだ。ケンは愛想良く笑顔を浮かべたまま、彼等の歩みを邪魔しない範囲から話しかける。
「こんにちは!新商品『ハイ!&トリッピー↑』美味しいグミのサンプルです!良かったら味見してください!」
「ハイ&トリッピー?」
「何っすかそれ」
「ハイでトリッピーか……どことなくレッドブルみを感じるな」
「エモいじゃん。美味しいの?」
「これ、ただで貰っていいんすか?」
「勿論サンプルなんでいくらでもどうぞ!良かったら皆で新標品を一足先に味見してみてください」
「フーン、それじゃ折角だから貰っとくかな」
「んじゃ俺も」
「ところでこれって何味?」
ケンの売り文句に興味を示した男子高校生たちはグミのサンプルを次々と受け取ってくれるが……残りの二名のうち一人は何やらスマホを取り出して動画を撮影をしようとしているらしい。この流れは悪くないとケンはニヤリとほくそ笑みながら、学生たちに応対する。
「お兄さん、これ撮影しても大丈夫っすか?」
「俺は別にいいよ」
「やった!これでバズれたら儲けもんだぜ」
「ところで……さっき『いくらでもどうぞ』って言ったよね?本当にいいの?」
「まぁ……いいけど」
「へへっ、男なら二言は無しにしてくださいよ〜、それじゃ全部貰っちゃうぜ!」
134
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:05:06 ID:BMcHVbv20
ケンから言質を取った男子高校生は、ニヤニヤ悪戯そうに笑みを浮かべると、ケンが持つ買い物カゴからグミのサンプルをすべて奪い取り、スマホを構える男子高校生の前に躍り出てゲリラ撮影会おっ始めた。他の仲間たちも呆れつつも笑いながら動画撮影に参加して、駄弁りながらパッケージを開けてグミをバクバク食べはじめ、〈バービーボーイズ〉の実況もいま起ころうとしている事実を告げる。
『ケン は だんしこうこうせいたち に しんしょうひん の サンプル を アピール した▽
だんしこうこうせいたち は きょうみ を もち うけとってくれた が・・・・・・▽
だんしこうこうせいD は スマホ で どうがさつえい を はじめた▽
だんしこうこうせいE は ケン が もっていた サンプル を すべて かっさらって しまった▽
なんと だんしこうこうせいたち サンプル を つかって どうがはいしん しようとしている!▽』
(う、うぉぉぉぉぉおおおおお!?ネ申ッ!!神が降臨なされたぞ!これぞ祝福ゥ!!)
まさか開始早々に動画配信者の目に止まり、サンプルを全て配給出来るとはさすがにケンも思ってはいなかった。突然の僥倖に心底興奮していたが……この場をフラットな観点で実況を続ける〈バービーボーイズ〉は誰よりも先に異変を察知した。
『やった! これで アルバイト を はやあがり できる!▽
こっそり ようす を みにくる しゃいん が みていない こと を いのろう▽
・・・・・・おや!? だんしこうこうせいたち の ようす が・・・・・・・!▽』
「ん?」
……ポケモン?今まで見たことも聞いたこともない〈バービーボーイズ〉の実況に、ケンは眉わ潜めながら改めて男子高校生たちの方に目をやると………いつの間にやら『ギャハハハハ』と馬鹿みたいにハイテンションな笑い声を上げだしたかと想思えば、何をとち狂ったのか急に仲間内で喉元やら顔面に噛みつき始めたのだ。
「え?……いやいやいやいや、ちょっと何これ!?…………バービーボーイズ・ファーストオプション起動!!何よこれ!?」
明らかに普通ではない異常事態に遭遇したケンは、パニックになりかけるも土壇場で〈バービーボーイズ〉の拡張能力を発動する。
『こんにちは ケン▽
ざんねん ですが わたしにも かいもくけんとう つきません▽
ですが かれらは ケン が くばった グミ を たべてから ああなりました▽』
「だ、だよな〜そうだよな〜!?何入ってたんだあのグミはよ〜!畜生!ヤベーよ!やべーよ!?」
『ケン あなたは このきき を のりこえなければならない プレイヤー なのです▽
どうか おちついてください▽
あなたに くばられた カード の なかには まだ きりふだ が のこされています▽
どうか おちついて かんがえてください それが なにより も じゅうよう なのです▽』
今までケンの身に起こる出来事を実況していた〈バービーボーイズ〉は第二の拡張能力〈ファースト・オプション〉の起動共に、ケンの言葉を認識して、慌てふためく彼を宥めるように話しかけてくれた。その甲斐もありケンも徐々に落ち着きを取り戻すが……周囲はサンプルのグミを食べてしまい、気が触れて食人衝動に駆られた者たちで溢れ返り、ゾンビ映画さながら無差別に街行く人々に襲いかかっていた。
焦点の合わない眼を恍惚そうにギラギラ輝かせながら、何を考えているのか窺い知れない狂笑を浮かべたかと思えば、互いに容赦なく犬歯を突き立て、皮膚を食い破り、肉を引きちぎっては咀嚼し、体内から溢れ出る血を全身に浴びながら喉を潤し、一人が力尽きて倒れ伏せれば、それに群がり貪り食いを始める。
血塗れで突然の凶行を目の当たりにしてパニックを起こした人々は当然逃げ惑い、急に道路に飛び出た者は自動車に轢かれ、躓いて転んでしまった者はなす術なく人々に踏み潰され、それにまた食人鬼が群がる……渦巻く混沌は無軌道な勢いを増すばかり。
十年近く前ぐらいにアメリカのマイアミで薬物中毒者が人の顔面を貪り食う凄惨な事件が起こり、インターネットを中心に話題となっていた事があったが……今回の出来事はそれの比ではない。局所的とは言え町中で食人事件が同時多発的に勃発して集団パニックを引き起こしているのだ。
そうこうしているうちに近くで共食いする男子高校生のうちあぶれた撮影者が、スマホを投げ捨てて、近くにいたケンに襲いかかろうとするが、〈バービーボーイズ〉に諭されたケンは冷静に己の手の内に残された唯一の切り札を張る。
「バービーボーイズ!サードブレイク!」
『だんしこうこうせいD が おそいかかってきた▽
たたかいますか?▽』
135
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:05:53 ID:BMcHVbv20
『→はい いいえ』
ケンのかけ声と共に〈バービーボーイズ〉は実況文を反映させるメインのウィンドとは別に、『はい』か『いいえ』二択の選択肢を選ばせる小さなウィンドが出現、その瞬間……世界は色褪せるように静止する。
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒経過…瞬く間に9秒過ぎ去り、1分が経過しようとしても、食人衝動に駆られた人、逃げ惑う人、道路を走る自動車、空を飛び交う鳥、時計の秒針、時が止まってしまったかのように世界は動けない。この状況を作り出したケン自身も、よだれを撒き散らしながら迫り来る男子学生に相対したまま動けないでいる。しかし、誰もが静止する世界の中で、彼の脳細胞だけが唯一活動していた。
(ま、まにあった〜〜〜!しかし、ここからが本番だぜ。あぁ、どうしたものかなバービーボーイズ……配られたカードで勝負するしかないってのはかねがね同意だがよぉ〜〜リトライ不可のクソゲーを実際にプレイするのはいつだって俺だけだ。こういう時にお前と話し合いたいのによぉ……嗚呼、ソロプレイなんだから愚痴ぐらい好きに言わせてくれよな。お前が気張って足止めしてくれている事はわかっちゃいるさ……スゲーよバービーボーイズ)
〈バービーボーイズ〉第三の拡張能力〈サードブレイク〉は時間を止める第二のウィンドの発生させる。ケンが選択を行う時、『→はい いいえ』などの選択肢ウィンドウが出現するようになり、本体の意識以外の時間が完全に止まり、思考する猶予を与えてくれる。見た目に反して世界規模で影響を及ぼす凄まじいパワーを秘めた能力だが、逆に言うと凄まじい能力に潔く振り切り過ぎており、このようなトラブルに直面した時、本体は知恵と勇気を振り絞り、自力で活路を切り開く他ない。
(クールだ。クールになれケン。いつだってこうやって乗り越えてきただろう俺は!こうなったらもう腹を括るしかねぇ〜〜〜!奴さんの身長は目測170cm、体型は運動不足なのか少し腹が出ており、視力が悪いがコンタクトレンズではなく眼鏡を愛用、色白の肌は体育会系の部活動とは無縁の文化系のように見える。一般的な学生服を着ており、背中には何を詰め込んでいるのか知らないが重たそうな通学用のリュックを背負っているが、俺の方を見るなり顔を突き出しながら単独で突っ走って来ている……ヤベーグミを食べてまともな思考は出来ちゃいない、ただ目の前にいる俺をこのまま押し倒してマウントを取りながら貪り食おうとしている本能で動くモンスターだ。隙を抉じ開けるセクシー・コマンドーは通じないと思った方がいい。しかし、お友達たちはしっぽり互いを食い合ってお楽しみ中……………こいつ一人だけなら何とか切り抜けられるかもしれない。タックルには膝を合わせたくなるところだが、この地獄みたいな状況で悪目立ちしてりゃ他のマンイーターたちに目をつけられちまう!年下のガキにいつまでビビってるんだケン!うぉぉぉぉぉおおおおお!やるしかねぇ!ここはアレをやるしかない!」
目前の静止画の中から情報を必死にかき集め、出きる範囲で相手を洞察、行動を予測した上で攻略方法を組み立てて、必要であれば他のスタンド使いが見向きもしないアビリティすら利用する。そして与えられた思考する猶予の中でケンは覚悟を決める。
どれくらい時間が止まっていたかはケンにしか分からないが、猶予の時を存分に活用して行動に移した彼に、油断や隙・迷いや躊躇いは存在せず、命を懸けた選択に全神経を注ぎ、その集中力は極限まで高まっていた。
『だんしこうこうせいD が おそいかかってきた▽
たたかいますか?▽』
『→いいえ』
迫り来る男子高校生に対して、またケンも真っ正面から向かい合い正面衝突するかのように駆け出そうとするが、激突する間際、大きく前に踏み込んだ右足を軸足に、身体を翻すように回転、男子高校生の突進をいなすように避けつつ、手に持っていた買い物かごを頭に被せて、そのまま抜き去るように駆け抜ける。
『ケンは にげだした!▽』
(やってやた!やってやたぞ!やっててよかった『アイシールド21 フィールド最強の戦士たち』!!)
逃走が失敗した時にアナウンスされる決まり文句を〈バービーボーイズ〉が発する事はなかった。ケンは興味本位で少しだけ遊んだキャラゲーの記憶に感謝しながら人混みを駆け抜けて、今なお食人パニックの収拾がつかない現場から脱出してみせた。
「バイト代……何かもう怖いからどーでもいいや!いのちだいじに!そんでもって交番はどこじゃ〜!」
一先ず目先の危機は乗り越えられたが、これからの事を考えると憂鬱になってくる。そんなケンに〈ファーストオプション〉が起動したままの〈バービーボーイズ〉は静かに語りかける。
『コングラッチュレーションズ▽』
136
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/26(月) 22:46:56 ID:C/G9WmoM0
個人的に好きなキャラ小室社長3度目の出番です
【課題名】
>>64
人類最後の極楽浄土
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
小室光之助は悲しんだ。何故なら、道に置かれていたトラバサミのせいでつい先日納車したベンツのタイヤがパンクし、人気の無い山奥に1人取り残されてしまったからだ。
道に生える苔やよく分からない植物に隠れたトラバサミは新品のように鋭く、しっかり手入れがされている事を物語っていた。
「クソ、携帯も繋がらん……この辺りには我が社の通信衛星を打ち上げたばかりだと言うのに……」
彼の言う通信衛星は確かにこの地域の上空を飛行していたが、鬱蒼と繁る木々と地形が電波を遮っている事は光之助の知る所では無かった。
しかし、彼はこの状況に絶望していた訳ではない。
新品同様のトラバサミが置いてあるならば、近くに手入れを行う人が住んでいる可能性が高いという事だ。幸いにも道はまだ続いている、これに添って歩けば人里に辿り着けるだろう。
そう気持ちを切り替えた光之助は購入して1週間も経っていないベンツに別れを告げ、悲しみを胸に歩き始めた。
道の先が、自分の求める場所に繋がっている事を祈りながら。
◆
「ハァ……ゼェ………何だ、この村は?」
暫く歩き続けた光之助が目にしたのは、やけに暗く寂れた村であった。
周囲には金網がバリケードのように張り巡らされ、畑と思われる場所には大麻らしき植物が青々と繁っている。それでいて往来には人っ子1人見えず、仮に『院就(いんしゅう)村』と書かれた看板が無かったならば村だとは分からなかっただろう。
とはいえ他に行く宛も無い光之助、取り敢えずは近くの民家に声を掛けようと金網の隙間を潜り抜けたその時──────
カーン!カーン!カーン!カーン!
突如として鐘の音が鳴り響き、それに呼応するように防護服を纏った大勢の人間達がゾロゾロと光之助の前に現れる。
「あぁ、突然お邪魔して申し訳ありません。実はこの先で私の車が故障してしまい、皆さんの助けを「死ねぇ、ゾンビ!!」………は?」ズドォン!
返事の代わりに飛んできた1発の銃弾が光之助の頬を掠めた。
見回せば彼等は手に手に槍や棍棒を握っており、幾らかの村人は猟銃を此方に向けている。
彼等が喚き散らす戯言から「連中は外界での出来事を詳しくは知らないらしい」と悟った光之助が踵を返して駆け出すのと、武器を握った村人達が光之助へと飛びかかったのはほぼ同時であった。
間一髪で攻撃を避けた光之助だが、状況は依然として悪いままである。
1人の光之助に対して追跡者は多数、しかも何人かは飛び道具を持っているのだ。
「くっ……『グラビティ・オブ・ラヴ』!!」
ドガガガガガガガガガ…………
何故かスタンドに地面を殴らせつつ、全力で走り続けていた光之助だが、幾ら彼とて地の利と人数の両方で自身を大きく上回る相手から逃げ回る事は不可能であった。
「ハァ、ハァ……追い詰めたぞ、糞ゾンビ!!」
「地の利は俺達の方にあるんだよ、馬鹿ゾンビがぁ!」
地面に倒れ込んで荒い息をつく光之助を取り囲み、狂気の表情を浮かべながら勝ち誇る村人達。
しかし、勝利に酔いしれる彼等は吊り上げられた光之助の口角にも、そして自分達目掛けて真っ直ぐに墜ちて来る人工衛星の姿にも気が付く事が出来なかった。
◆
「ふむ………やはりこれ程『巨大』な物体を『遠距離』から引き寄せるにはかなりの時間とエネルギーを要するな。」
可能ではあったがね……と、死屍累々と横たわる村人達と巨大なクレーターの前に立ちながら1人呟く光之助。
命の危険に晒され、おまけにベンツと通信衛星までオシャカになったにも関わらず、彼は上機嫌であった。
何しろこの『院就(いんしゅう)村』こそ光之助がわざわざベンツを運転してまで探していた土地だったのである。
「情報漏洩の心配も無く、使い捨てられる『材料』共も大勢居る………
私の野望……『究極生命体の作成』……その為に必要な実験場として、これ程うってつけの村が存在したとはな………!」
──────彼が高笑いしながら村を去った数日後、とある大企業が『院就(いんしゅう)村』という辺境の村を土地ごと買い上げ、村内に建設された『小室生命研究所』なる施設に全ての村人が「雇用」された事実が世間に公表された。
このニュースは地域活性化に貢献する取り組みとして話題となり、インタビューの場で代表取締役──────小室光之助氏はこう語ったという。
「私は村に直接赴き、住民達との交流を経て『運命』を感じたのです!
彼等は私が持つ壮大な願いの礎となってくれる事でしょう!」
137
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/27(火) 14:08:35 ID:90vXfTxE0
【課題名】
サルベージ・フォー・リサイクル
【あらすじ】
深夜の遊園地にて、バイトのあなたは1台のクマ型ロボットと1人で向き合っています。
雇用主曰く「出所不明の壊れたロボットを回収したが、部品を再利用するためのメンテナンスをして欲しい」との事。
工具を取る為にあなたがロボットから目を反らした瞬間、突如響き渡る機械の稼働音。
見れば壊れている筈のロボットが立ち上がり、あなたに襲い掛かって来ました。
【クリア条件】
生き残ってバイトを完遂して下さい。
出所不明なのでロボットを破壊してもペナルティはありませんが、ちゃんとパーツを残して分解出来れば高額のボーナスが貰えます。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
ロボットの全長は2m程度、特別な機能は無いものの金属の塊なので相応に重く頑丈です(某ピザ屋のアニマトロニクスを想像して下さい)。
【課題名】
夜中のステーキは色々と危険
【あらすじ】
あなたは「とある遺跡から発掘された石化した原始人」が保管されている研究施設で警備バイトをこなしていました。
時刻は深夜、お腹が空いたあなたがキッチンでステーキを焼いていると、背後から1つの影が迫ります。
振り向いたあなたの目に飛び込んで来たのは、石化していた筈の原始人がこちらを見つめている姿でした。
【クリア条件】
五体満足で切り抜けて下さい。
ただし、学術的に計り知れない価値を持つ原始人を下手に傷付ける事は社会的な死に繋がります。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
原始人は「柱の男」ほどでは無いものの、現代の人間では到底敵わない位には強いです。
生半可なスタンドで殴れば一蹴されてしまうでしょうが、知能は野生動物並みなので光や大きな音に弱く、また頑張れば手懐ける事も出来ます。
138
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/27(火) 22:18:07 ID:e2lZazts0
>>136
解答の投稿有り難うございます!
小室社長シリーズ感謝、今回は社長の野望が進展するお話とまさかの超必殺技がお披露目されて読後に興奮しております。自社の人工衛星を攻撃に転用するという豪快な発想が、大企業の社長とグラビティ・オブ・ラヴの組み合わせでしか出来なさそうな唯一無二感が出てて凄く気に入ってます!
>>137
問題の投稿も有り難うございます!
バイトシリーズ感謝です!バラエティ豊かで助かります。ホラーもコメディーも出来そうな感じで楽しみです!原始人を守る不可視の学術的価値バリアは強い(確信)
139
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:24:06 ID:yditE5Mc0
【課題名】
>>41
ピザ配達初日
【使用オリスタ】
No.7849 カレイドスコープ 本体名→『香山』
No.4172 ジョセフ・ナッシング
【解答】
「それじゃ志望動機を教えてくれないかな」
「えーと…………大好きなピザに関われる仕事がしたくてお」
「オーケー!その心意気が気に入った!採用ォ!それじゃ早速制服に着替えてみようか。うちの制服きっと似合うよ〜香山くん!」
「??!!??」
最近出来たばかりの某ピザ屋の面接にきた少女・香山は、まさかの即時採用に嬉しさ半面、それでいいんだと当惑していた。
原付バイクの免許を持っていなくて、店の電動自転車に乗って配達のバイトはできるから、そこまで採用のハードルは高くないだろう。履歴書に自分のアピールポイントを書き込んだ甲斐があったのなら嬉しいが……彼女の面接を応対した中年男性の店長は妙に陽気な人だった。
用心深い人ならその軽薄さを不審がるかもしれないが、面接にやって来た香山も肝が座っていると言うよりも、いつもぼーっとしているようなマイペースな人柄故に、「そういう人もいるよね」程度に軽く思うだけだった。店長は準備しておいたユニフォームを香山に押し付けるように手渡すと、店内の更衣室に案内してくれた。
一抹の不安を覚えながらも香山は言われるがまま服を着替えて、再びスタッフ専用の控え室に戻ると店長は「あらやだ可愛い!最高に似合ってるよ!うちのユニフォームがグンバツに似合う可愛い女の子が配達してくれる美味しいピザ!お客様は一度に二度お得間違い無しだ!あとはこれを首につくれくれたらパーペキ!さぁつけてみて!」と、香山の事を誉めちぎりながら、リボンをあしらった少し大きめの首輪を押し付けるように手渡し、それを着けるように促してくる。
おだてられて満更でもなくなってきた香山は、警戒することなくそれを自分の首に装着してしまうが……その瞬間、店長は忙しなく動かし続けた二枚舌を厭らしく舐めずり、辛抱堪らず嘲笑う。
「アッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッ!」
「な、何ですか急に?」豹変する店長に香山は当然気味悪そうに驚くが、店長は愉快そうに口角を吊り上げながら、予期せぬ驚愕の事実を打ち明ける。
「君が今つけた首輪には実は爆弾が内蔵されていてねぇ!私のスマホから発信される特別な電波を受信した瞬間、その首輪は君の首ごと爆発四散する仕組みとなっているのだよ!」
「………………はい?」
店長が何を言っているのかさっぱり理解できない香山は、呆けた表情を浮かべながら首を傾げてみせるが、店長はドッキリ大成功と銘打たれた看板を出す素振りは一向に見せようとはせず、現実離れした奇妙な事実を告げるのみ。
「ピザ屋の配達アルバイトなんて最初からなかったのさ!これから君には銀行強盗をしてもらう!命が惜しければ私の命令に従うしかないのだ!」
「えぇと…………えぇ」
突拍子が無さすぎる事態に、いつもぼーとしている香山もさすがに困惑の表情を隠せない。そんな時、控え室のドアが突然開くと、ピザ屋の従業員と思わしき男性が現れた。
「何だか賑やかですね、その子新しいバイトの子…………って、香山じゃん」
「あっ春戸先輩!」
春戸と呼ばれた男は香山と同じ大学に通う1個上の先輩で、サークル活動で知り合い色々とお世話になっている頼もしい人物である。頭の中が年中エイプリルフールみたいなオッサンに銀行強盗をしろと脅迫される最中、彼の登場は香山の心を奮い立たせた。
「先輩、助けてください!このヒト頭おかしいんですよ!私に爆弾つきの首輪をつけさせて銀行強盗しろって――――」
助けを求める香山だったが、ふと春戸の首もとに目をやるとシンプルなデザインの大きめな首輪がついている事に気がついてしまい、思わず言葉を詰まらせてしまう。
春戸は「ちょっと冗談きつくないですか?」と訳が分からず頭を搔きながら店長と香山の間に割って入ろうとするが、この場を支配する卑劣漢はそれを許さない。
「今までご苦労、春戸くん!やっぱり悲劇にはヒーローよりもヒロインが適任だと思わないかい?私はズバリそー思う!だから舞台で踊る役目は香山くんにお願いする事にしたよ!」
「は?――――――」
店長は片手に握りしめていたスマホを操作した瞬間、春戸が身に付けていた首輪が炸裂、乾いた爆発音が周囲に響くと同時に、春戸は血を迸らせながら後方に仰け反るように吹き飛ばされ、力なく床に倒れ落ちてしまった。
一人取り残された香山は店長の戯れ言が妄言でない事を理解しつつ、取り返しのつかない過ちを侵してしまった事を悟ると、頭の中が真っ白に染まり、立つこともままならず床にへたり込んでしまう。
140
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:24:30 ID:yditE5Mc0
しかし、店長はそんな香山の反応も織り込み済みで、他人を舌先三寸で操り支配する話術の駆け引きで、絶望する少女に追い討ちを仕掛ける。
「可哀想だが春戸くんはまだ生きているよ。彼の首輪に仕掛けた爆薬はメインヒロインの君よりも極僅かな量しか用意してなかったんだ。まぁ……首が吹き飛ばなかっただけで十分重傷だがね。君がこのまま私の台本通りに銀行強盗を強制される悲劇のヒロインをしっかり演じてくれる間は、しっかり延命の処置をしてあげよう。春戸くんの命運は君にかかっているんだ香山くん」
「どうして貴方はこんな事をするんですか?」
香山は震えた声を振り絞りながら、目前にいる人の皮を被った怪物に問答を仕掛けるが、店長は大袈裟に両手を広げると、劇場に立つ演者のように長広舌をふるう。
「そりゃあ香山くん、他人に銀行強盗を強制させるヤツの目的なんて金しかないだろう?しかも殺人すら辞さない程なりふり構っちゃいられない。君が私に利用されて都合よく操られるように……私もまた大きな流れに飲み込まれて利用される哀れなピエロという訳さ。ピザ屋のオッサンがこんな危ない玩具を準備できると思うかい?リターンに対して馬鹿デカいリスクを背負い込む銀行強盗なんて誰が喜んですると思う?私は全てを犠牲にしても叶えたい願い事があるから、このイカれた計画に賛同している」
店長はまるで自分も被害者であるかのような口振りだが、その立ち振る舞いに悲壮感といったものは微塵も感じさせない。突然しゃがみ込んだかと思えば床に広がる春戸の血に触れると、指で唇をなぞり口角から頬まで塗りたくり、まるで口が裂けたような笑みを浮かべるメイクを施して、自分がピエロである事を強調すると、虚実の線引きをうやむやにしながら、再び香山の前に向き直ると言葉を紡ぐ。
「君は台本通り舞台で踊るだけでいい。君は私に脅されて利用された哀れな被害者だ。他人を強迫して銀行強盗を強制させた凶悪犯役がいる限り君が罪に問われる事はないだろう。そして、尻拭い役の私が最後にババを引く……これが今回の舞台の筋書きだ」
被害者という立場を免罪符に何をしてもいいと唆し、責任の所在を示しつつも再三自分も被害者である事をアピールして、あわよくば同情を引いて共感を得ようとする。最悪三問芝居を見透かされても首輪の爆弾という切り札を握っている限り、店長は香山を支配し続ける事実は変わらない。
勝ち確定の盤面で自己陶酔した言葉を並べながら、香山の背中を押そうとする店長は最後まで異変に気がつけなかった。
「さて、私は春戸くんの応急処置にとりかかろう。君は机の上に置いてある台本を読み込んだ。一時間後には開え………………」
項垂れる香山に指示を出し、死んでるか生きてるか実はよく分かっていない春戸の安否を確認しようと店長は踵を返すが……今まで床に倒れていた春戸は血溜まりを残し、忽然と姿を消していた。
一瞬まさか生きていたのかと思案するが、すぐにあり得ないと否定して周囲を見渡すが、控え室には自分と香山しかいない。
この場を支配していた自分すら把握しきれない異常事態に店長は全身から冷や汗を噴き出すが、香山の手前狼狽する素振りは見せられない。
「香山くん……春戸くんはどこにいるか知らないかい?君は見ていたんじゃあないか?」
店長は怪奇現象の真相を自分以外の目撃者に訪ねるが、香山は顔を俯かせたまま反応しない。都合の良い奴隷に無視された事が癪に触り、店長は苛立ちを隠さずに彼女に詰め寄ろうとするが……そんな彼の目の前を見なれない蝶々が、色鮮やかな羽を羽ばたかせながら宙を舞っていたのだ。
蝶々はそのまま浮上するので、それに釣られて天井を見上げると……店長は全身から血の気が失せるような感覚に陥り、「うわああぁぁあぁああぁぁああああああッ!!!」と支配者の体裁を保てず情けない悲鳴をあげてしまう。
自分の店の天井に見たこともない極彩色の多種多様な蝶々の大群がびっしりと犇めき合うように密集していたのだが、視線を合わせた瞬間、ソイツ等は爆発するかのように四方八方散り散りに飛び交い始めた。赤、青、黄、緑、紫、ピンク、オレンジ、白、黒、茶色……様々な色をした多用な蝶々がピザ屋の狭い控え室の中を縦横無尽に飛翔する様は、まるで色鮮やかな万華鏡の中に閉じ込められたように錯覚してしまうが、無数の羽ばたきが奏でる騒音はそれ以上に生理的な嫌悪感を掻き立ててくる。
「な、なんだこれは!?止めろ!君の仕業か香山くん!?まさか……君はスタンド使いなのか!?」
141
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:25:09 ID:yditE5Mc0
店長は両腕を振り回し、蝶々を叩き落とそうとしながら、この異常事態の核心に迫ろうとする。しかし、こんな状態で無駄口を叩けば口の中に蝶々が入り込んでしまうのは必至、立ったままでは蝶々の群れに激突し続ける為、いつの間にやら自然とその身を床に這いつくばり、無様に体を丸めながら身を守る事しかできない。
こうなったら一からやり直すしかない……店長は手中にあるスマホを操作して香山に取り付けた首輪の爆弾を作動させようとするが……少女の首が爆ぜる希望の音はいつまで経っても聞こえず、耳障りに羽虫の羽音が鼓膜に延々と纏わりついてくるのみ。
完璧だったハズの計画が不条理に飲み込まれ、一瞬で瓦解した事を理解した店長は惨めな慟哭を上げる事しか出来なかった。
「なぜだあぁああぁあああ!?なんでだよおぉおおおぉおおぉおおお!?うわああぁああああぁぁああ!!!」
蝶々の大群が店長の周りに結界を構成するかのように密集しながら飛び交う最中、混乱に乗じていつの間にか控え室から脱出して、部屋の入り口から店長を見下ろすようにたたずむ香山は、真っ黒い虚ろな瞳でじっと見据え、か細い小さな声で「……嘘つき」と呟いた。
彼女の喉元にあった首輪はいつの間にか消失しており、隣には花を思わせる人型をした彼女のスタンド『カレイドスコープ』が、蝶々の一群を引き連れて彼女たちの周りにはべらかせていた。
『カレイドスコープ』は触れた無生物を、同体積の蝶に変える力を秘めている。蝶は実体化しており、大雑把ながらおよそ本体の意思で操作でき、彼女の首輪も控え室にあったテーブルやイス・デスク・冷蔵庫……様々な物品も一様に姿を変えて操っているようだ。
大群を構成する無数の群の中から基点となる蝶々を天井に向かわせれば、それに続くように他の群も追従する。蝶々の大群で溢れかえっていた控え室は、いつの間にか空き部家のような伽藍堂と化していたが……天井に蝶々の大群が集結した瞬間、姿を変えていた無数の無機物たちは店長の真上で瞬く間に復元され、羽を失い轟音を響かせながら墜落し……他人を支配して操る事に固執したピエロは、断末魔の叫びも肉と骨が潰れた音さえ誰の耳にも届くことなくかき消された。
首輪の爆弾を外し、諸悪の根元も始末してしまった香山は……自分の周りで飛び交う唯一復元させなかった色鮮やかな蝶々の一群を見つめ続ける。蝶々が虚空に想い描く万華鏡のような幻想を延々と、儚い魔法が途切れる最後の瞬間まで、それを見続ける事しかできない。
★
「…………」
誰も浮かばれない悲劇の顛末を人知れず見届けている者がいた。彼は全世界の無法、無政府、無秩序化を理念に掲げる大規模な犯罪組織『ディザスター』に所属する構成員である。
今回は幹部の指令を受けて『ディザスター』に参入しようと画策していた『虚業家』を自称する非スタンド使いの殺し屋の利用価値を見定めるべく監視していたのだが……さほど期待もしていなかった試験の真っ最中、まさか海老で鯛を釣れる事態に遭遇するとは思いもしていなかった。
透明になれるスタンド能力『ジョセフ・ナッシング』を発動して息を潜めながら、香山と呼ばれた女を観察し続けていた男は迷っていた。あのスタンド能力は使えるが、あの状態で本体は使いものになるのか、あの様子じゃ心が折れているか、壊れているかもしれない。
兎に角イレギュラーな事態が発生している以上、こちらの報告を待っている幹部に連絡を入れるべきであるが……部屋の入り口を陣取る香山が邪魔だ。透明化を解除すればあんな小娘、近距離パワー型の『ジョセフ・ナッシング』にかかれば一瞬で屠れるかもしれないが……ディザスターの構成員として場数を踏み、数々の修羅場を掻い潜って生還してきた垂れ目のタフガイは、この場から動けずにいた。
先ほど部屋の中を蝶々の大群が充満していた際、透明化していた男も蝶々との接触は避けられなかった。ここからは憶測だが……もし仮に蝶々に探知能力が備わっているのであれば、透明化している自分の存在も手に取るように分かるハズだ。考えすぎているのかもしれないが……スタンド能力は魂の発露、精神を揺さぶる事態に直面した際、スタンド使いは何かしら成長する事がある。それはシンプルにスタンド能力の破壊力やスピード・射程距離が伸びたり、或いは備わっている特殊能力が拡張したり変質する事も十分あり得る。
目前の少女は床に座り込みながら、生気を失ったように宙を舞う蝶々の群をぼーっと眺め続けているが……スタンドの方はどうだ?
『カレイドスコープ』は透明化して見えないハズの男と『ジョセフ・ナッシング』をじっと見据えているのだ。まるで脱け殻になった本体の怨嗟が乗り移っているかのように……物言わぬ凄みが空気に重くのしかかる。
142
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:26:11 ID:yditE5Mc0
【課題名】
>>43
HIGH SPEED TRAIN
【使用オリスタ】
No.6831 マザーインロー
【解答】
地下鉄のアナウンスが次の停車駅を知らせてくれるが、電車は一向に減速する事なく、目的地の駅を通過してしまった。
真昼の異常事態に乗車していた人々は不安そうにどよめく。先頭車両の運転室に近い座席にいたスーツ姿の男性は、心配そうに運転手の様子を窓から確認するが……驚愕の悲鳴を上げると、その場に尻餅をつくように倒れ込み「だ、誰か!車掌さんを呼んできて!?運転者が倒れてるぅぅうぅううう!?!」と緊急事態を乗客たちに知らせる。何事かと他の乗客たちも様子を窺うが……運転席には血塗りになり、ぐったりと倒れている運転手がおり、運転台も滅茶苦茶に破壊されていたのだ。
「大丈夫ですか!?」
たまたま乗り合わせていた看護士と思わしき中年女性が、運転席に侵入して運転手の安否を確認すると、辛うじてまだ息はあるようだが、とてもじゃないが何か起こったのか確認する事は難しい危険な状態である。
乗客たちは運転手を座席に寝かせて介抱している内に、後方車両から大慌てで若い車掌がやってきた。頭から夥しい量の血液を流し顔面血だらけな運転手を見るなり、一瞬動揺して立ち竦んでしまうが、不安そうな乗客たちの手前、すぐに我に返り運転室に駆け込んだ。
滅茶苦茶に破壊された運転台の惨状を目の当たりにすると、さすがに車掌も何が起こっているのか理解出来ず「なんだこれは!?酷すぎるぞ!!!」と激しくキレ散らかすが、怒りながらもすぐに運転台を冷静に調べる。
常用ブレーキは根本から織れており使い物にならず、藁にも縋る気持ちで非常ブレーキのレバーを引くが……無情には電車は止まらない。
怒りを通り越し、これから起こりうる未曾有の大惨事を想像した若い車掌は、度重なる異常事態でストレスの許容量が超過してしまい嘔気に襲われるが、胃から込み上げてきた内容物を必死に押え込む。顔面蒼白・涙目になりながらも震えた声を絞りだし、辛うじて使用できた無線で運転指令所に現状を報告して指示を仰ごうとしていた。
若い車掌の後ろ姿を不安そうに見守る乗客たちたちも、次第にこれから起こりうる大惨事を予期し、絶望して泣き出す者、理不尽な現実に悪態をつく者、家族に連絡を取る者、奇跡を祈る者……否応なしに迫りくる今際の際に備え始め、そうしている間にも駅で停車する事はなく、鬱屈した沈鬱な雰囲気が場を支配し始めた。
そんな時、先頭車両の遠巻きから事の成り行きを静観していた女性は、重い腰をあげると先頭車両に集まる乗客たちの前に現れた。
愁いを秘めた眼差しと、白く透き通った肌は耽美な雰囲気を漂わせているが……このお通夜ムード全開の状態で彼女はよりにもよって全身真っ黒な喪服を着用しており、彼女を一瞥した高齢の老婆は「死神様……どうか、どうか、堪忍してください」と、呆けたように拝み倒すような素振りをみせて、孫と思わしき少年に窘められていた。
喪服姿は彼女の趣味であり他意はない。当然死神などでもなく、列記とした人間だが……ただの一般人という分けでもない。彼女の歩みと同時に全身が蜃気楼のように揺らめいたかと思えば、仮面をつけている長身の人型のスタンド『マザーインロー』を出現し……近くにいた若者の胸部に手を伸ばし、そのまま肉体を透過したかと思えば、仮面のようなものを引っ張りだしてみせた。
仮面は若者の顔を生き写したようた造形をしているが、どこか祈るような希望に縋る表情を浮かべていた。自分の内側から仮面を引っ張り出された若者は特にダメージを受けている様子もなく、気がついてすらいない様子だ。若者の仮面を手に入れた『マザーインロー』は、それを自身のボディに埋め込むと、別の乗客からも同様の手法で仮面を引っ張り出して拝借する。
143
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:27:02 ID:yditE5Mc0
喪服姿の女は同様の行為を繰り返しながら運転室に近づく。途中で重傷の運転手とそれを介抱する看護士の前に立つと、先程と同様に彼等の身体から仮面を抜き取るが、それを自分の手に埋め込むように吸収させると……苦しそうな呻き声を上げながら座席に寝そべる運転手に『マザーインロー』は改めて手をかざしてみせた。
すると激痛に堪えかねて呼吸を荒げていた運転手は、突然痛みが沈静したかのように落ち着き取り戻す。未だかつて経験した事がない奇跡を目の当たりにした看護士は分けが分からず呆けてしまうが、すぐに落ち着きを取り戻し、運転手に意志疎通を図ろうと声をかける。
その様子を見た喪服姿の女は再び歩みを再開し、運転室までやって来ると……そこにはうずくまりながら絶望する若い車掌がいた。あれから彼は運転指令所に助けを求め、線路の分岐点で電車を意図的に脱線させて緊急停止させる安全側線に侵入する事を提案されたが……すぐに分岐点に通じる回線の故障によりそれも不可能となり、いよいよ手の施しようがなくなってしまったらしい。
そんな若い車掌に喪服姿の女は目線を合わせるように屈みながら「車掌さん、どうか諦めないで……もう1度だけブレーキを引いてみてください」と、穏やかな優しい声色で伝える。
しかし、車掌の心は既に挫けており「お客様、申し訳ありません。何度も引いたんですけどね……全然停まってくれないんですよ。本当に、本当に、こんな事になってしまい面目ありません。どうか最期の時を……せめて大切な人に、貴方の思いを伝えてください」と弱々しい声で呟くだけで、顔を上げる事すら出来ずにいる。
喪服姿の女性はそんな車掌に、何か言うわけでもなく『マザーインロー』の手を伸ばし、車掌に触れながら能力を発動するが……今回は先程から繰り返していた肉体から仮面を引っ張り出す能力ではないらしい。
『マザーインロー』に直触りされた車掌は、突然目を醒ましたかのように顔を上げるが、そこに絶望に屈服した陰鬱な表情はどこにもなく、力強い目差しで喪服姿の女性を見つめ返し「……何か電車を停める手だてがあるというのですか!?」と、彼女の言葉に一筋の希望を見いだしているようだった。
喪服姿の女性はそれに応えるかのように「この思いは貴方にこそ相応しい」と呟くと、『マザーインロー』は乗客たちから集めた仮面を一つに収束、それを車掌の顔に被せるように押し当てた。
―――刹那、車掌の脳内溢れ出す存在しない記憶……違う。乗客たちの『電車を停めたい』『助かりたい』『皆が無事にいられますように』『車掌さん頑張って』……様々な思いが流れ込むと同時に、仮面は車掌の肉体に埋没し、彼の右手から淡い光が放たれる。しかし、車掌は自分の身に起こった怪奇現象に狼狽する様子はなく、どこまでも落ち着き払いながら立ち上がると、運転台に向かい合い、右手を伸ばして非常ブレーキのレバーに握り締め、今一度引いてみる―――その瞬間、無数の手が車掌の手と重なり合う。
『マザーインロー』の能力は二つある。
一つ目は絶望した車掌に直接的触る事で、彼を再起させた『思い』の方向を変える能力。そして二つ目は看護士や運転手自身の『思い』を仮面として引っ張り出し、マザーインローに吸収する形で『思い』を癒しのスタンド能力へと昇華させて、重傷に苦しむ運転手に鎮痛を施した……『思い』から擬似的なスタンド能力を開発する能力だ。
若い車掌の身体と一体化した仮面も、乗客たちから集めた『思い』を一つに纏め……彼に『暴走する電車を停止させる擬似的なスタンド能力』を譲渡したようだ。
ついさっきまで何度も引いても決して作動しなかった非常ブレーキは、同じものとは思えないくらい呆気なく正常に作動し、金属が掠れ合う喧しい音と共に電車はゆっくりと減速してゆき……次の駅の少し手前ぐらいで完全に停止してくれた。
ある者は嬉しさのあまり泣き出し、ある者はどいしようもない緊張状態から解放され呆けたように座り込み、ある者は親しい親族や知人と、気持ちをわかち合うように抱き合い……車内からは乗客たちの歓喜と歓声で溢れ返る。
「やった!やったぞ!!本当に停まってくれた!?!ううぅうぃう、うぐ、ううう……う"ぉ"お"お"ぉ"ぉ"お"お"ん!!本"当"に"良"か"った"〜〜〜!!!」
若い車掌も奇跡を目の当たりにし、苦難の果てに取り戻した日常の有り難さを噛み締めるように、ボロボロと漢泣き(※号泣)していた。
そんな車掌をそっとしておくように、喪服姿の女性はクールに去る。
144
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/10(日) 09:43:44 ID:Ryeva2Jg0
【課題名】
>>40
ビンを立てる工場の初日
【使用オリスタ】
No.6056 レイザーズ・エッジ
【解答】
「暇だ………」
某有名企業の系列に属する調味料工場の中。
列を成して流れてくる無数のビンの前で、1人の青年がボソリと呟いた。
著しく勤労意欲に欠けた発言に対し、周囲の従業員達は何の反応も示さない。
ただひたすらにビンの列を見張り、倒れた物に手を伸ばして立て直す………簡単だが単調、そして退屈極まりない作業は彼等の精神を磨り減らし、派遣社員の不真面目な態度を咎める気力さえも奪っていたのだ。
「ファ〜〜〜…………」
マスク越しにも分かる程の大欠伸を漏らす派遣社員の青年。
しかし、そんな彼の退屈はすぐに破られた。
「そんなに眠いってんなら、永遠に眠らせてやらァ!」
「うっわ、え!?何!?」
派遣社員の隣で作業に従事していた中年男が突如怒りを露にビンを掴み、青年の頭目掛けて振り下ろしたのである。
幸いにも咄嗟に身を退いて攻撃を避けた青年の目に写ったのは、中年男のみならず他の社員達すらもビンを握りしめ、自身を見つめている姿であった。
「イヤイヤイヤ、急に何なんすか先輩方!そりゃ洒落にならんでしょうよ!」
「ウルセェ!目障りなてめえをボコせば俺達はその間退屈しねぇで済むんだ!!上手くいきゃ仕事も休めるしなぁ!」
危機感の無い表情で窘める青年に対し、訳の分からない理屈を喚き散らす中年男。
周囲の従業員達も同調するかのように下卑た笑みを浮かべ、ジリジリと青年の元ににじりよる。
「っつー訳で………死ねや、この野郎!」
中年男の咆哮と同時に従業員達が青年へと飛びかかったその時。
「『レイザーズ・エッジ』」
ブオッ!!
空中に無数の拳が表れ、従業員達目掛けて突きが繰り出された。
風を切る音と拳に宿る殺意に従業員達は怯み、思わず足を止めるものの、ただ1人を除いてその身体に傷が付く事は無かった。
バキィ! 「ウグャッ!?」
骨が折れる音と先陣を切った中年男の悲鳴によって我に返る従業員達だったが、今度は別のモノ──────拳を返り血に染め、酷薄な笑みを浮かべる青年への恐怖心によって動きを止めた。
「ア〜ァ……折角俺は真面目に働いてたのに………
趣味も我慢して、人並みに頑張って金を稼ごうとしたのによォ〜〜〜………」
青年は独り言を言いつつ中年男へと近寄り、血塗れのまま呻く彼の頭を掴み………
ガゴォンッ!!ゴパキッ!
手慣れた様子で床へと叩き付け、いとも簡単に首を踏み折った。
「フゥ〜〜………ま〜た失敗しちまったぜ、『禁殺人』。まっ、正当防衛って奴だから仕方ねぇよなァ〜〜〜?」
人を殺したにも関わらず、何て事ないと言いたげな笑みを浮かべる青年の姿に従業員達は己の愚行を後悔し、命乞いを試みようとしたものの──────
「お〜し、久し振りに趣味の時間だ、派手にやってやるぞォ〜〜〜!」
彼等が口を開くより先に「ブッ殺す」と決めていた青年は、その瞬間に行動を始めていた。
◆
「アッレェ?何処にも載ってねぇ!あんなに派手にやったのに!」
調味料工場にて騒動が起こった次の日。
自宅でパソコンの画面を見つめ、すっとんきょうな声を上げる青年の姿があった。
「ハハ〜ン?さては派遣会社の奴等が揉み消しに走ったな?ってかそれは良いとして…………そー言えば給料ってちゃんと振り込まれてたよな?」
家を飛び出して近くのATMへと駆け込んだ青年の嫌な予感は、ものの見事に的中していた。
「チッ………仕方ねぇ、給料取りに行くか!こんな事も有ろうかと、社員共の家を調べといて良かったぜ、全く………」
何て事ないかのように呟き、踵を返して歩きだした青年。
その歩みは、迷いの無いしっかりとした物だった。
145
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/10(日) 22:45:52 ID:Qy8QROuM0
>>144
解答の投稿有り難うございます!
殺意を可視化させる能力と禁殺人が趣味な殺人鬼という個性抜群なオリスタの活躍が見れて面白かったです!事件後に社員の個人情報を調べる用意周到さも、軽い調子の本体に殺人鬼のサイコみを感じられて良かったです。
146
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 17:52:36 ID:XSEJ3Njs0
【課題名】
>>137
サルベージ・フォー・リサイクル
【使用オリスタ】
No.8578 サンデー・バイオレット
【解答】
「しっかし……幾ら給料が良いとは言えホントに気味が悪いわね……」
静まり返った深夜の遊園地にて、タメ息を吐く女子高生が1人。
彼女の眼前には1台の機械人形………だったと思われる金属の塊が禍々しいオーラを放ちながら鎮座していた。
ガワの大部分が融けて黒ずみ、ワイヤーや歪んだ内骨格は剥き出しで左目もグシャグシャに潰れたおぞましい形相をしたかつての子供達の人気者は、それを分解すべく訪れたアルバイトの勤労意欲をゴリゴリと削っていた。
(そうよ……これを解体すれば[検閲済]万円……[検閲済]万円の収入が私の懐に入るんだから……)
しかし、彼女は雇用主から提示された破格の給与額を思い浮かべる事で恐怖心を誤魔化していた。
カラオケ店でのバイトは結局タダ働きで終わり、『大瓜ここのつぼし動物園』でのバイト募集も無い以上、今はこの仕事で金を稼がねばならない。
その上、雇用主は再利用出来るパーツを発見出来れば別途ボーナスを払うとまで言い放った気前の良い輩である。
「そうよね、仕事はキチンとしなきゃだもの。それに、既に壊れた機械が動くワケ(ギギィ……)無い………」
空元気を出しながらスパナを取ろうとした少女だったが、そんな彼女の言葉を嘲笑うかのように機械音が響いた。
振り向いた少女の視線の先には力無く座り込み、首を此方に向けている機械人形の姿が。
………そう言えば、部屋には誰もいない筈なのに妙な視線を感じる気が………
「…まあ?そんな訳無いと思うけど?ね、念の為………『サンデー・バイオレット』……ッ!?」
不安と疑惑を振り払うべくスタンドを出した少女だったが、彼女の思惑とは裏腹に『サンデー・バイオレット』は自分に向けられた真っ直ぐな視線とその出所をハッキリと感知してしまっていた。
(この機械人形!私を見ているッ!……何だか分からないけど……コイツは『ヤバい』ッ!)
嫌な予感が確信に変わった少女の行動は素早かった。
此方を見つめる機械人形から視線を外す事無く出入口のドアを開け、退室すると同時に鍵を掛ける。
「ふぅ……これで少しは安心(ウィイン!)……出来なかったか。……不味い状況ね」
(ギギッ……ガシャァ……ガシャァ……)
一安心する間も無く耳に入る機械の駆動音、そして規則的かつ金属質な足音。発生源はたった今飛び出した部屋の中である。
ボロボロな身体の何処にそんな力が残っていたのかは検討もつかないが、あの機械人形が立ち上がって動きだした事は明白だった。しかも確実に此方へと近付いている。
幾らオンボロとは言え相手は金属の塊、正面からでは勝てないと判断した少女は手近な椅子やテーブルで出入口をふさいだ………のは良かったのだが、相手のパワーは少女の予想を超えていた。
(バァンッ!)
鈍い殴打音が響くと共に積まれたバリケードの一部が崩れ、数脚の椅子が吹き飛ぶ。
幸いにもその場から走って逃げ出した少女に直撃こそしなかったものの、今の一撃でドアその物に大きな凹みが生じてしまった。
歪んだドアの隙間から突き刺さる視線を背に受けながら少女は思考する。
(あれじゃあ大した時間は稼げなさそうね。とは言え移動は遅い方だし、準備さえ整えれは或いは……)
◆
(ズガァンッ………!ガラガラ………)
即席バリケードが完成してから1分も経過しただろうか。
スクラップを寄せ集めた怪物が如き外見の機械人形がその豪腕でドアとバリケードを呆気なく叩き壊し、我が物顔でバックヤード内を徘徊していた。
(ガシャン………ガシャン………ガシャン。)
モーター音を響かせ、周囲を見回しながら獲物を探していた機械人形が足をピタリと止める。
笑みを浮かべるかのように細められた眼には、戸棚の前で立ち尽くす少女の姿が映っていた。
一直線に少女の元へと歩み寄って豪腕を振り上げた機械人形に対し、少女は『戸棚の中から』声を投げ掛けた。
「──────ソレは鏡よ、お人形さん?」
そして『サンデー・バイオレット』は機械人形からの視線を感知するより早く、拳を機械人形の頭目掛けて叩き込んだのだった。
◆
「…………あんなに力が強いなんて、視線に気付くのが遅れてたら危なかったわね………。」
一体何だったのかしら、と完全に破壊された機械人形の前でぼやく少女。
どうも殴る時に力を籠めすぎてしまったらしく、ボーナスなど到底貰えそうに無かった。
「ま、お給料と命は助かったんだから十分か……」
とは言え、たかだかバイト1つでこんな目に合っていたのでは命が幾つあっても足りやしない。
早く『大瓜ここのつぼし動物園』のバイトが募集されない物だろうか?
………『大瓜ここのつぼし動物園』もそれなりに奇妙な場所である事を知らない少女は、静かにそう思ったのだった。
147
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 18:41:57 ID:XSEJ3Njs0
【課題名】
黄金のドライバー精神
【あらすじ】
『非スタンド使いの』とある議員(=あなた)は歩道の側に車を停めています。
すると突然車内に見知らぬ他人が乗り込み、「前の車を追え」と偉そうな態度で命令してきました。
当然ながら断ったあなたですが、相手は『奇妙な力』を見せ付け「スタンド使いの私に逆らうな、空いている歩道を走っていけ」と脅迫してきました。
歩道には何も知らない罪なき民間人達が歩いています。
【クリア条件】
不審者を車から叩き出し、道行く民間人の命を守って下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
オリスタキャラは敵として登場させて下さい。
「あなた」は完全な一般人ですが、議員なので不審者を殺しても揉み消せます。
しかし、人々に慕われて議員になったあなたが歩道の民間人を引き殺す事はあってはいけません。
【課題名】
健康志向
【あらすじ】
スタンド使いのあなたは、昼食を取りにうどん屋を訪れます。
注文したうどんを受け取って七味唐辛子をかけようと容器を取った所、突然蓋が外れて1瓶分の七味唐辛子が汁に入ってしまいました。
【クリア条件】
うどんを残さず食べきって下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
最悪そのまま食べきればOKですが、残すと店を出禁にされます。
148
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 22:20:38 ID:.dVjIcD20
>>146
解答の投稿有り難うございます!
これは嬉しい!if設定ではなく、私が書いたサンデー・バイオレットの物語を地続きに書いてくださり有り難うございます!
一瞬の隙を引き出す鏡を用いたトリックが、サンデー・バイオレットの能力と噛み合っていて良かったと思います。動物園も動物園でそれなりに奇妙な場所なのは間違いないですね。
>>147
問題の投稿も有り難うございます!
非スタンド使いの議員を問題の起点にしているのが、難易度が高そうな問題でワクワクしております!
某議員にもボディーガードみたいな運転手がいたから解釈次第でワンチャン狙えそうな気もします。
勝手に全投下問題一つはつまみ食いするチャレンジをしている身としては、七味唐辛子をバチクソぶちまけたうどんもやぶさかではありません。
丁度良かったので告知も失礼。
次回の解答投下日ですが火曜日の19日ではなく、20日にしようと思いますので宜しくお願いしますm(_ _)m
149
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/20(水) 22:31:49 ID:nCdyXWns0
【課題名】
>>45
バスを待つもの達
【使用オリスタ】
No.3803 ギャランドゥ
【解答】
夏休み到来!
炎天下の7月下旬から始まる長期休暇、1学期の終業式を終えた学生たちは、自由に羽を伸ばしながら夏の暑さもはね除けてしまうだろう。
満面の笑みを浮かべながらキャリーケースを引いて歩く少女は、太平洋のど真ん中に浮かぶ離島『星野古島』に学舎を構える全寮制のマンモス校『降星学園』に在学する生徒で、地元の地方都市に帰省してきたようだ。
世界各国から集まる学生たちの為に様々な施設が存在する星野古島と比べると、彼女の地元はいささか閑静過ぎるかもしれないが、家族や旧友の顔を見れるのはここしかない。彼女にはそれだけでも帰省する理由はあるのだ。
学園や島での奇妙な生活を土産話に携えて、実家に帰る最中……彼女は星野古島でも中々お目にかかれない稀有なトラブルに遭遇してしまった。
最も彼女自身に落ち度はなく、フェリーから飛行機・電車に乗り継いだ長旅で疲れもあったが、馴染み深い故郷に降り立った瞬間、嬉しくなってついテンションが上がってしまい……真夏の炎天下も何のその「たまには日焼けもいいよね」と細かい事は気にしない精神で、町中をブラリと歩きながら帰宅する事にしたのが誤りだった。
少女がたまたまバス停の前を通りかかると、時刻表の柱に寄りかかっている男性がいたかと思えば……違和感が襲いかかる。よく見てみれば口を猿轡にされており針金で全身を拘束されながら柱に縛り付けられているのだ。
・・・・・・そーゆーご趣味の方かしら?
こんな真っ昼間の町中のど真ん中で常軌を逸したSMプレイか何かは知らないが……これはやり過ぎだ。真夏の太陽は容赦なく男性に照りつけており、このまま放っておけば命に関わるかもしれない。
少しズレた発想をした少女だが、即座に男性を助けようと手を伸ばすと……「KAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
後方から獣が威嚇するような奇声が響き渡る。何事かと少女が振り替えると、停留所から少し離れた所にある街路樹……そこに出来た日陰に身を寄せ合う老人たちがいた。彼等は何かの催し物に参加でもするのか、一様に小綺麗な礼服やら着物を身に纏い、黒い日傘を持ち歩いている。
彼等は余程、日光に当たりたくないのか、日陰から一歩も出ることなく、男性を助け出そうとする少女に対して、怒声を浴びせながら抗議する。
「止めろ!そいつがいなくなれば、ここに来るバスの運転手が停留所に人がいないと勘違いして、そのまま走り去ってしまうかもしれん!」
「・・・・・・バスの事が心配なら貴方たちがここで待ってればよくない?」
「WOOOOOOOOH !それが出来たら勝手にやってるわ!このダボが!」
「GRRRRRR ……あまり調子に乗るんじゃあないぞガキが」
少女のシンプルな指摘に対し、胡乱な老人たちは異次元の老害ムーブをぶちかまし、話は一向に噛み合わない。
彼等をよく見れば、顔の皮膚は妙に弛んでいたり、目の焦点があっていなかったり、両目とも白眼を向いている者もおり、そもそも皮膚が部分的に緑色に変色しており、色々と様子がおかしい。体臭も気にしているのか、出鱈目に振りかけたような香水の悪臭が微風と共に流れているが……嗅ぎなれている者が嗅げば、死臭を誤魔化している事を看破出来たかもしれないだろう。
しかし、彼等と相対した少女にそのような知識は持ち合わせておらず、それどころか無邪気そうな笑みを浮かべながら、少しズレたお人好しな提案をしてしまう。
「うーん、分かった!それじゃこの人の代わりに私がここで立ってるよ!それならこの人を助けてもいいでしょう?」
少女からの思いもよらない提案に、老人(?)たちも一瞬だけ面を食らった様子を見せるが、すぐに傲慢で醜悪な表情に戻り、互いの顔を見交わしながら生意気で"美味そうな"生娘を陥れる謀略を巡らせる。
「UUUUUUUUM……どうする?」
「立ってるだけなら案山子でも構わんが……まぁ丁度いいんじゃあないかぁ……親方様への手土産が増えるのは良いことだ」
「バスの乗客次第じゃがのう。ワシ等も少しぐらいつまみ食いするなら、数は余分にあって損はないだろう」
「フヒヒ!久し振りじゃのう!若いのは!」
「おい気を付けろ!そんなに舌を伸ばすでない!」
「デヘヘ、スマンスマン」
150
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/20(水) 22:32:42 ID:nCdyXWns0
「あっ!バスが来たよ〜!」
老人(?)たちの皮下で何かが脈打ち、興奮するあまり、舌を触手のように伸ばして嘗めずるような異常な仕草をみせてしまうが、そういう時に限って少女は決定的な瞬間を余所見してしまう。
そうこうしているうちに、彼女たちの元にバスがやってきた。バスの扉が開く――――――このままだと時刻表の柱に縛り付けられた男性の近くにいる少女が……まるで、この場所で何かしたいみたいに、バスの運転手から誤解されてしまい、老人(?)たちも口裏を合わせて彼女を陥れ、隙を見計らいバスジャックを決行して"お楽しみ"を始めるだろう。
だが、しかし!
異変は既にずっと前から発生していた!
バスが停車して入り口を開ける運転手は、あられもない姿をしている少女や時刻表に縛り付けられている男を見てもノーリアクションのまま。そうとはしらず老人(?)たちは一斉に少女の元に詰め寄ろうとするが、うっかり日傘を置き忘れてしまい、無防備に日下を闊歩しようした瞬間――――――
「「「「ANGYAAAAH!!?!」」」」
老人の姿を騙る吸血鬼の眷属『屍生人』たちは痛ましい不憫な悲鳴を上げたかと思えば、衣類と悪臭を残しながら、瞬く間に塵へと還ってしまった。
彼等は別に脳味噌まで腐り果てたヌケサクという訳ではない。屍生人には二つ名を手に入れた伝説の連続殺人鬼・強い怨念を秘めた中世の騎士たちのような特記すべき異常性や戦闘力を秘めた個体もいるが、自分達を生み出した吸血鬼のように自力で肉体を再生する事はできず、人間の血肉を食らい欠損や腐食を補おうとする者が殆どだが……食人衝動を隠しながら上手く人間社会に溶け込み、某国の空軍司令官まで上り詰めるような個体もかつては存在していた。
老人の屍生人たちも日光を巧みに避けながら昼間でもお構い無く活動し、主である吸血鬼の為、新鮮な食事を調達しようとしていたのだが……そんなやり手の屍生人が、自分達の生命線でもある日傘をうっかり忘れるような凡ミスを普通犯すハズがない。
彼等は少女のスタンド攻撃を既に受けていた。何故なら……少女は帰郷した嬉しさのあまりにテンションが上がってしまい、いつもの癖で全裸になりながら町中を闊歩していた。
何を言ってるのか、分からないと思うが屍生人たちも何をされたのか分からないまま往生した。日光を浴びた今際の際、彼等は催眠術だとか超スピードだとかそんなものではなく、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったかもしれない。
でも安心してください。彼女のすっごいワイルドな人型スタンド〈ギャランドゥ〉は、本体のピュアでイノセントな生まれたままの姿を全身全霊でフルガードしていただけなんです。そのついでに屍生人たちも細かい事を気にする事ができなくなってしまったようです。
「・・・・・・・あの人たち服だけ置いてどこに行っちゃったんだろう?……まさな同好の士というヤツ!?まぁ、今はお兄さんは助けなきゃ!」
こうして少女はボケ倒したまま、屍生人たちの驚異を掻い潜ってしまった。
151
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:35:29 ID:Rl7Cia1c0
【課題名】
>>46
木こり初日
【使用オリスタ】
No.27 ブレーダー・トレード→本体名『市原』
No.233ピーキー・ソルト→本体名『宇佐見』
【解答】
前略オフクロ様
実家から叩き出されて数ヵ月が過ぎました。オヤジ様から頂いた手切れ金も底をついてしまい、いよいよ今日からアルバイトを始めます。念願の社会復帰ですが、正直始める前から妙な胸騒ぎがして夜も眠れていません。
貴女はそんな俺を見たらきっと呆れるでしょう。イケメンなんだから堂々としろ?女の子と遊んで自信をつけろ?……ナチュラル・ボーン・陰キャでちいかわ(なんか小さくてかわかぶりな息子)な俺には、貴女たちが簡単に思える事も物凄く高いハードルに思えてしまうのです。ぶっちゃけ女子も男子もリアルはみんな恐いから、家に引き込もって一日中遊んでいたい!初期の設定が定まっていない世界観でちいかわになれるならガチでなりたい!
でも……このまま引きこもったままだと家賃も払えず、電気や水道も停められる。背に腹は代えられない状況、夏休みの宿題を最終日近くになって必死に片付けようとするように、ギリギリでいつも生きている俺は……木こりになる事を志しました。
冗談だと思っているかもしれませんが今回はガチです。いやまぁ正確には材木加工工場のアルバイトなんだけど……それが、どうしてこんなことになっているんだろう?
せっかくアルバイトの現場まで足をはこんだと言うのに、工場内の作業場には作業服を着たガテン系のオッサンではなく、厳ついスーツを着こなす堅気ではなさそうな人が屯っていた。
これはヤバいと思い、何も言わずに後退りして逃げ出そうとしたが、たまたま近くにいたパンチパーマのオッサンと目と目が合ってしまった。
「よぉ兄ちゃん、何のようだい?」
どんな生き方をしていたらあんな血走った糞恐いメンチを切れるのか分からない。ありゃもう不可視のビームを出してるメンチ切りだ。出なきゃ俺は蛇に睨まれた蛙みたく動けなくなるハズがない。今すぐにでも颯爽とこの場から逃げ出しているのに……!そうこうしているうちに後ろから伏兵が現れて、そいつは2メートルは軽く超えたスキンヘッドの巨漢で、俺を後ろからがっつりハグするようよ捕まえると、そのまま抱き抱えられてしまった。
「目撃者は……面倒臭ぇな。よし連れてくぞ」
「うす」
「イ、イヤ!!イヤ!!イヤ!!」
「キメェ声だすな。このまま背骨を折られたいのか?」
「わァ…ぁ……」
俺はちいかわになる事しか出来ず、むさ苦しい巨漢に抱っこされながら工場の奥に連れていかれた。そこにはパンチパーマとスキンヘッドのお仲間が屯している。俺を雇ってくれたオッサンの工場長は、ロープで縛られており丸鋸が取り付けられた台……テーブルソーの上で転がっており、顔面蒼白になりながら必死に命乞いをしていた。
「堪忍してください!もうこんなことしたくないんです!ここの設備が切断出来るのは木材だけなんでふッ!?」
まな板の鯉が必死に御託を並べていたが、それを辟易そうに聞いていたオールバックの男は、ついに我慢ならず、工場長の顔面を殴り付けて強引に黙らせると大きなため息を吐き捨てる。
「はぁ……それなりに上手い汁は吸わせてやったつもりだったんだのによぉ〜、ちょっと探りを入れられりゃこのザマか………まぁ、いいや。味噌がついた処理場なんて俺たちも必要ね〜んだわ。お前もきれいさっぱり後腐れなく透明になろう」
「ひいいいぃいいいぃぃぃい!!イヤだ!イヤだ!!死にたくない!死にたくない!死にたくない!もう何でもしますから命だけは助けてください!」
「今さら必死に泣きつけばどうにかなるかとでも思っているのかい?イモ引いた途端に堅気に戻ろうだなんて都合が良すぎるだろう?親父もお前さんに面子を潰されてご立腹なんだよ。落とし前、つけようねぇ」
何があったのかは知らないが、俺の雇い主は裏社会のマフィア的な人たちの逆鱗に触れてしまったらしい。人目も憚らず命乞いを続ける工場長を嘲笑いながら、オールバックの男は裏社会の俺ルールを演説して悦に浸っている。
……どうでもいいけど、何で引きこもりのニートが頑張って社会復帰しようとしている真っ最中なのに、こんな人間ぶっ殺しゾーンに拉致されなければならないのか?現実の非情さに吐き気を催しそうになる中、俺はオールバックの男の前まで連行されると雑に床に落とされた。既に俺は人間扱いされておらず、パンチパーマの男とオールバックの男は俺を無視して勝手に話を進める。
152
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:36:47 ID:Rl7Cia1c0
「すみません尾崎の兄貴、こいつに見られてしまいました」
「飛んで火に入る夏の虫ってのはどこにでもいるなぁ……まぁ、丁度いいや」
「エ……オ…オレ、カンケイナイッスヨ」
「関係無いなら証拠見せよっか」
「エ…エ…エ……」
「大丈夫大丈夫、ここの機材はウチで仕入れたヤツだからね。ボタンを押すだけで台の上の死体を勝手にバラしてくれるんだ。さぁ、この馬鹿と関係無いなら証拠見せようねぇ」
酷薄な笑み浮かべながらオールバックの男は堅気に無茶振りをしてくる。まさか人間ぶっ殺しゾーンで、俺自身が人殺しになる事を強いられるなんて思わなんだ。断れば工場長の身内と見なされ仲良くぶっ殺ろされそうだが……殺人を犯す度胸があるならとっくに引きこもりなんて卒業している。
前門の虎、後門の狼の板挟み状態だが……こうなったら腹を括ってやれる事をやるしかない。ちいかわだってこういう追い詰められた状況で本領を発揮して様々な危機を回避している。俺は…人殺しににはならない。こうなったら俺は…俺自身が「ちいかわ」になるしかねぇーーーッ
工場内には俺と工場長以外に……オールバックとパンチパーマ・スキンヘッドに角刈りとツーブロックの男たちがいる。5人で丁度良い……鎮圧するだけなら5人が本当に丁度良い!俺をただの無職童貞引きこもりの粗チン野郎だと油断(※そんなこと筋もんのお兄さんは知りません)して解放したことを後悔させてやる!
「ブレーダー・トレード!」
俺の能力は至ってシンプル、両手にはめている指輪を相手にはめる。ネット友達のスタンド使いみたくカッコいいビジョンは出せないし、物を破壊するパワーはないが……そんなもんがなくたって揉め事は収められる。
指輪を嵌めた手を対象に向けて、どの部位をはめるか決定した瞬間、指輪は手元から消失……刹那、オールバックの男の両手首は淡い光を放ちながら磁石が引かれ合うかのようにくっつくと、瞬く間に両手を拘束する「指輪」が形成される。続けざまに両足も拘束して手足の動きを封じられたオールバックの男は、何が起こっているか理解できず慌ててしまいバランスを崩して転倒してしまう。これで芋虫の出来上がり!
「兄貴!?」
兄貴分の身に起こった異常事態に舎弟たちはどよめく。ありがてぇ!ここにスタンド使いが一人でもいりゃ間違いなく俺に反撃を仕掛けてくるだろうが……何も知らない素人は奇妙な事態に遭遇して、判断が一手遅れる。その隙にパンチパーマ、スキンヘッドの両手両足を拘束していく。
「ぬおおおおおおおおおおおお!?!」
俺の仕業だと察したのか、近くにいたスキンヘッドは雄叫びをあげたかと思えば、巨体を活かして俺に多い被るように倒れてきて……痛ぇ!?そんなの都合良くホイホイ避けれないって馬鹿野郎!?
「よくやった沼田!坂本と豊田!そいつを今すぐ殺せ!そいつはスタンド使いだ!?」
バ、バレてる!?なんでぇ?……いや、引きこもりでニートの俺ですら運命の巡り合わせでスタンド使いになっているんだ。筋もんの皆様の知り合いにだってスタンド使いがいるかもしれない。俺は必死にスキンヘッドのボディプレスから抜けだそうするが、巨体は岩石のようにびくとも動かない………………沼田あああぁああああぁあッ!
そうこうしている内に角刈りとツーブロックがにじり寄ってくる……俺は巨体に押し潰されて脱出不可能、舎弟二人は兄貴たちの仇をとろうと近づいてくるが……………それでいい。面子や体裁を気にするあまり、援軍を呼ばなかったのは致命的な判断ミスだ。
身体の自由は奪われても辛うじて両手は動かせる……ノコノコとスタンド使いの射程圏内に入ってきた間抜けコンビを〈ブレーダー・トレード〉で拘束するのは容易い。
これで俺は手持ちの指輪を使いきり、能力を発動を発動する事はできなくなった。依然として巨漢のボディプレスから抜け出せず、筋もんさんたちも手足を拘束されて動けないまま全員床に転がってる……何この泥試合?想像してたのと違うよ。お互いに手も足も出せなくなった以上、後は自由に動かせる口で勝負するしかない。
「あ、あの……ホント、俺もこれ以上、何もできないんすよ。皆さんもそーだと思うんすけどね。でも、こーでもしないと俺みたいな無職童貞引き込みりのニート、本職の皆様に舐められてまともに話あ合いが出来ないと思ったから、強行手段を取らせていただきました」―――俺が言葉を紡いでいると、パンチパーマの男が「テメェ!こんなことしやがって、ただで済むと思うなよ!」と凄まじい剣幕で脅しをかけてくる。
153
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:38:27 ID:Rl7Cia1c0
相変わらずチビりそうになるくらい滅茶苦茶恐いが、ここで食い下がっちゃいられない。相手は筋もんの皆様……この面子も糞も関係ないカオスな状況下であろうとも、きっと面子や体裁を重んじてくるんだろうが……交渉相手として考えればまだ分かりやすい部類なのかもしれない。相手はメンヘラや殺人鬼・無敵の人みたいなキチガイバーサーカーではなく、損得勘定ができるビジネスサディストだ。
「はい勿論!ただで済むなんて思っちゃいませんよ!だから手打ちにさせてください!堅気の俺が貴方たちをどーこうしようだなんて調子に乗った事はしません!何か揉め事があったら呼んでください!この通り戦闘力は皆無ですが……相手の動きを封じるのは十八番です!あ、あと……知り合いに皆様と同じような人たちと仕事をしているスタンド使いがいるんですよ。そいつの事も紹介します!もしかしたら『ここ』の代わりになるかもしれません!」
助かりたいあまり、勢いでネット仲間のスタンド使いの事を売ってしまったが……こんな材木加工工場で材木以外の何かを処理している筋もんの皆様には売って付けの相手だ。友達をヤクザに売ってしまった罪悪感がひしひしと心にのしかかってくるが……ビジネスライクなヤツだから、金の話に通じればきっと許してくれるハズだ!
そんな、なりふり構わない俺をオールバックの兄貴分は……情けなく床に寝そべりながらも、冷ややかな白い眼差しをこちらに向けるながら「兄ちゃん……お前みたいな堅気は中々いないぜ」と呟いた。
★
「かくかくしかしがこーゆーことがありまして、このとーりです。助けてください」
『ハァ?』
あれから数時間後、俺は筋もんの皆様と一緒に黒のセンチュリーに乗りながらネット仲間のスタンド使いの自宅にやって来た。予め電話して事情を説明していた事もあり、スムーズに出迎えてくれたが、玄関先で出迎えてくれた友人「宇佐見」の視線が刺さるように痛い。
俺と一緒にオールバックの兄貴分とスキンヘッドの巨漢、そして彼等の間に挟まれるように工場長も一緒に二階建ての屋内に入るが……最後列で工場長を監視していたスキンヘッドの男が突如「うわぁああああッ」と裏返った悲鳴をあげる。
何事かと俺とオールバックの兄貴分が振り返ると、先ほどまで死んだ魚のような目をしながらとぼとぼ歩いていた工場長の上半身が……人の形をした虫の怪物に貪り喰われている。スタンド使いの俺には宇佐見のスタンド能力〈ピーキー・ソルト〉のビジョンが見えているので、何が起こっているのか理解できるが……スタンド使いではない未能力者たちは、立ったまま上半身が消失していく死体の姿を見て、酷く狼狽して醜態を晒す事はなかったが、全身から冷や汗を吹き出しながら絶句していた。
そんな筋もんたちの様子を冷静に観察する宇佐見は、瞬く間に工場長の死体を〈ピーキー・ソルト〉にペロリと平らげさせると、間を空けずに交渉を畳み掛ける。
「ひとまず……そいつの処理はタダでいい。その代わりそこのクズ野郎の事は許してやってくれ……こいつはヘタレのマザコンの粗チン野郎で、他人を不幸に巻き込んで道連れにしようとも、無自覚な被害者のままでいられる「真の邪悪」だが……まぁ能力は便利だ。都合の良い駒だがら好きなだけ使い潰した方がいい。それはそうと……今後は代金次第で別の死体を処理してやってもいい。俺とアンタたちならお互いにwin-winな関係を築けれると思うがどうだろう?」
罵詈雑言は甘んじて受け入れよう。ぐうの音もでない正論だ。そもそも、本当にそんな酷いことを思っているなら俺は最初から見棄てられているハズだ。……………そうだよね?いいや、そうだ!宇佐見は同じ引きこもりの若者とは到底思えない、ギラギラした邪悪な立ち振舞いで、ヤクザに臆する様子は一切みせない。オールバックの兄貴分もそんな宇佐見の態度と能力が気に入ったのか「相場はいくらだ?」と尋ねると、懐から名刺を取り出している。
やはりプロの自宅警備員(?)は格が違うな。よし……たぶん何とかなった!お偉いさんたちでビジネストークをしてるなら場違いな無職は足早に去るべし。俺はこっそりこの場から逃げ出そうとするが、それを察したのか、何故かスキンヘッドの巨漢は俺の手を握りしめると離してくれない………………沼田あああぁああああぁあッ!
★
……前略オフクロ様
なんやかんやあって最初の社会復帰には失敗しちゃいましたが、別のアルバイトを見つける事が出来ました。
ですが……思いっきり反社的な裏家業で、見慣れない人たちに囲まれていささか戸惑っています。
『おう、市原!仕事だ!打ち合わせをしたいから事務所に来てくれ!』
「わァ…ぁ……」
154
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 13:17:00 ID:HlisFbGs0
【課題名】
>>25
ATMの彼女
【使用オリスタ】
No.1029 ネバー・ゴーイング・ノーウェア
【解答】
奇妙な事の多い人生を送って来ました。
自分には、非スタンド使いが送る生活というものが見当つかないのです。
自分が物心ついた時にはこの愛しい御方が側に立っていたのですが、それが異常である事に気付いたのは、よほど大きくなってからの事でした。
「スーツ姿のカッコいいお兄さん……?アナタ、何を言っているの?そんな人何処にもいないじゃあない。」
子供の自分はその御方が他者の眼にも見えているだろうと信じ込み、幾度となく逢瀬を重ねていました。
成長するにつれて私に想いを寄せる殿方も多く現れたのですが、私が裏で「幽霊と話す変な子」と呼ばれている事を発見しては勝手に醒めているようでした。
まあ、私には彼が居るのでだからどうという事もありませんでしたが。
しかし、「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」。
何処ぞのサザエさんに似た……もとい個性的なヘアースタイルの青年が言及した法則により、私と彼は様々なスタンド使い、若しくはそれに準ずる奇妙な輩に遭遇する事となりました。
今目の前で床にうずくまり、現金自動預け払い機─────都会風に呼べばATMに顔をベッタリと密着させている女性などはその良い例と言えるでしょう。
「あの〜……お金を下ろしたいので、其処を退いてはくれませんかね?」
私の言葉に女は鬼のような形相で此方に向き直って「私とATMくんは愛し合っている」「お前達も恋人同士の引き剥がそうとするのか」と金切り声で喚き立て──────その姿は、私に戸惑いとある種の同族意識を与えました。
つまり、分からなかったのです。
時に現金を預け、時に現金を引き出す為に作られた機械に向けられた、この女のイマキュレート(汚れの無い)な愛情が。
しかし目を充血させながらも涙を浮かべ、ひしとATMに抱きつく彼女の姿は、何処かかつての私自身を想い起こさせるものでした。
恐らく、彼女は不安に苛まれているのでしょう。
自分が抱いている愛情と、世間一般でそう呼ばれている感情が全く以て違うらしい。
周囲からの不理解や否定、嘲笑………私もかつてはその事で思い悩み、時に気が狂いそうになった事すらあります。
「私達の愛を邪魔するなら、ここで死ねェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
などと考えている内に何時しか女は怒り狂い、カッターナイフを手に此方へと突進して来ました。
それでも私は、彼女を傷付ける事が出来そうにありませんでした。人が見れば「下らない事考えてないでサッサと逃げるか殴るかしろよ」と思う事でしょう。
しかし、自分にとってそれは自分自身を否定する行為だったのです。
彼女を殴れば、私自身もまた同じだけ傷付くのです。
155
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 13:17:26 ID:HlisFbGs0
>>154
そこで考え出したのは、私の「愛の形」を彼女に見せ付ける事でした。
カッターを振り回す女からして見ればたった1人の、しかし私の視点では愛しい彼との接吻でした。
ガギィンッ……!
愛しい彼……『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』と唇を重ねた私の腹に刃が突き立てられ────そのまま音を立ててへし折れました。
「えっ?……えぇっ…………?」
それを見た女の顔に、驚きの表情が浮かび上がりました。
ガギィッ!ガギン!
女が折れたカッターナイフを二度三度と私に突き立て、虚しい音が狭い部屋に響きました。
最後などは根元から刃が砕けてしまい、最早使い物にならなくなったほどです。
世間の目に対していつも恐怖に震いおののき、また人間としての自分の愛情に微塵も自信を持つ事が出来ない。
そんな過去の自分を胸の中に思い起こし、呆然とした彼女の内に隠されたナアヴァスネス(憂鬱)に向けて、私は彼から唇を離してこう言いました。
「分かるかしら?………これが、私の愛なの。」
私ならば彼女の苦しみ、その絶望の理解者となれるだろう。
そして彼女もまた、私の愛の形を肯定してくれるかもしれない。
世間からは理解されぬ愛を貫く者同士、互いに心を交わした隣人と成り得るのではないか──────
そんな事を考えている内に、自然と唇が動いたのです。
しかし、嗚呼、残酷な現実!
「な、何を言ってるの……?意味、わかんないわよ………!」
彼女から向けられた困惑の念は、私の幻想を木っ端微塵に打ち砕きました。
『ATM』と『自分自身のスタンド』………矛先は違えど理解されぬ愛を貫く者同士ならば分かり合える。
それが、私の心に宿った微かな希望でした。
しかしそれも砕け散った今、最早私と彼女が対話を行う事は意味を持ちません。
「『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』……さよなら。」
ドガァッ!
愛しい彼の奮った拳が女の頰を捉え、意識を奪い取りました。
そして彼の手を介して伝わるじんじんとした痛みだけが残り、私の心を苛みました。
そうして私はATMから今月の生活費を引き出し、沈んだ気持ちで帰路についたのです。
◆
「………………俺は一体、何を聞かされたんだ?」
「取り調べお疲れ様です、警部。先日拘留された犯人は容疑を認めたんですか?」
「あぁ。でもまあ今回のは正当防衛だし、容疑者が貴重なスタンド使いだってんで特にお咎めは無いそうだ。
二、三日トラ箱に入って貰った後は『アンカー』の方々が詳しい話を聞くんだとさ。もしかしたら勧誘でもするのかもしれん。」
「結構丸く収まりましたねぇ。でも警部、その割に疲れた顔してません?」
「いやぁ、まあ……ちょっとな。………なぁお前さ、愛って何だと思う?」
「………………どーしたんすか、急に?」
156
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 22:59:13 ID:BRE2f7eY0
>>154
解答の投稿有り難うございます!
『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』本体の心理描写や背景が一人称視点で丁寧に描写されているのと、奇妙な愛と共感という今まであまり見かけなかったテーマがかけ合わさり、シンプルにふつくしいスマートな解答に仕上がっていると思います!
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