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( ^ω^)冒険者たちのようです

1名無しさん:2024/08/19(月) 00:43:58 ID:28mrGroE0

何物にも縛られることなく、自由の風に吹かれて生きる。
”冒険者”という生業に、そんな理想像を抱く者たちは多い。

だが実のところ、命と日銭を天秤にかける日々を送る、難儀な稼業だ。

英雄の冒険譚を聞いて育った腕自慢の中には、胸を躍らせて出立しては、
たった一人で名を上げようと、鼻息を荒くするものも後を絶たない。

この大陸では今、空前の<大冒険者時代>の世と謳われていた。

あらゆる病を打ち消すと噂される、奈落に一度だけ咲く花。
希代の彫刻家が残した、魔力さえも宿すと言われる天球儀。
その血によって不老不死を得るとも言われる、伝説の龍伝承。

そのどれもが、胡散臭い眉唾もののおとぎ話とも思われるだろう。
だが事実として、大陸各地で未曽有の大発見を齎したものたちは、
莫大な富を築いたり、人々の間に語り継がれるだけの栄誉を手にしてきた。
そんな果報者たちも、数える程度にはいるのが現実だ。

しかし、この大陸の未踏区域の厳しさたるや、そう甘いものではない。

自然発生的に現れては、村を襲う妖鬼。
人を食い物として、亡骸をも弄ぶ巨躯の人鬼。
血の通う肉体を求めて夜毎さまよう、屍鬼の類。
商隊を付け狙い、金品を奪うような野党の輩も絶えない。

冒険者とは、そのようなものたちと時に相対することもある。

289名無しさん:2024/10/10(木) 02:59:33 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「フォックスっていう人が言ってたお、ここじゃデルタって人が良くしてくれるって。
       せめてその人に、ブーンがお礼を言っていた事を伝えて欲しいお」

( "ゞ)「……確かに伝えとくよ」

(;`ハ´)「――あっ、あんた! 注文もせずに帰るアルかーッ!」

”烏合の酒徒亭”のマスターの怒号をその背中に受けながら、必要なだけの
情報を受け取ったブーンは、来た時と同じように、颯爽と酒場を後にした。


───【フランクリン宅 前】───

あの男に教えられた通りの道順を辿ると、言っていた通りの場所に
外壁の表面が少しだけ剥がれ落ちた、寂しげな邸宅があった。

盗賊などもなかなか話せる人種ではないか、とブーンはその場で一度頷く。

早速、話を伺うべくドアをノックしてみた。

見ず知らずの他人の家に上がりこむのだ、仕事を請け負う以上、
最低限の礼儀は欠かしてはならないだろう。

( '_/') 「はい?」

身だしなみを確認している内に扉を開けて出てきたのは、真面目そうな一人の男性だった。
こちらと目が合うと、それだけでブーンが訪問してきた意図を察したらしい。

290名無しさん:2024/10/10(木) 03:00:22 ID:Si4yTBmk0

( '_/')「もしかして、失われた楽園亭の冒険者の方ですか……?」

( ^ω^)「はいですお。その件で、お話を聞かせて聞かせてもらえますかお?」

( '_/')「そうでしたか……! さぁ、中へお入り下さい」

家の中は、外からも想像できる通り殺風景な作り。
無駄な物は置かれておらず、切り詰めた生活をしているのか、生活臭は希薄だ。

依頼人のフランクリンの案内に従うまま、応接用の小さなソファに腰掛ける。

( '_/')「ご挨拶がまだでした、私は依頼人のフランクリン。そして……」

ノ|| '_') 「妻のマディです」

( ^ω^)「冒険者の、ブーンですお」

依頼前にしっかりと依頼内容、また報酬の内容などを確認しておくのは重要な事だ。
一言一句聞き漏らさず、依頼が終了した際にトラブルなどを起こさぬためにも。

そう思ってか、ブーンは座り直してしっかり話を聞く体勢に入った。

( '_/')「依頼内容というのは、ゴブリン退治なのです」

( ^ω^)「あの……下級妖魔のですおね」

ゴブリンというのは、大陸全土の至るところに出没する妖魔だ。
基本的には非力で、体格も人間の子供ほどのものだが、武器を用いる頭脳はある。
また繁殖力が強く、常に群れを成して行動している事から、時に人間が襲われる事もある。

もっとも、ゴブリンがらみで一番多いのは、家畜や農作物への被害だが。

291名無しさん:2024/10/10(木) 03:01:48 ID:Si4yTBmk0

( '_/')「……えぇ、このリュメの北側にある森の奥。
     そこに、ぽっかりと穴を開けた洞窟があるのです」

( ^ω^)「その洞窟の中のゴブリンを一掃する、それが、依頼内容ですかお?」

( '_/')「その、生息しているゴブリンの数までは把握出来ていないのです」

ノ|| '_') 「十匹くらい……いいえ、もしかしたらそれ以上いるかも知れません」

( ^ω^)「………」

そこまで話を聞いてから、一度考えを整理する。

村で生活していた頃は、ゴブリンに襲われて命を落としたという話はあまり聞いた事がなかった。
クワや棒切れなどを持った農民などでも、十分に対抗できる程度の相手だからだ。

まして、冒険者として行動する上で自分の身を守る手段の一つに、剣を帯びる。
ブーンには、ゴブリン程度ならば容易な相手だろうという考えがあった。

いかに武器を用いる知能があるところで、人間の子供程度の体格しかない妖魔だ。

しかし、いち早く解決してもらいたい依頼人の立場になって考えてみる。
もしもその場所に依頼そのものを断られてしまいかねない危険が潜んでいるとしても、
それをわざわざ冒険者へ伝えるような事は、良心のある人間でなければしないだろう。

依頼前の受け答えで、依頼における依頼人の本意を見抜く。

したたかさを持った熟練の冒険者は、危険の潜む依頼を避けるためにそうあるべきだ。
もちろん、使命感や誇りを持って、逆にそういった依頼を拒まない者も一部には居るが。


( ^ω^)「それをこの街の治安隊には、訴え出たりはしなかったんですかお?」

( '_/')「以前から、私達は何度も訴え出ました。ですが、領主に直訴することなど、とても……」

ノ|| '_')「何度行っても門前払いで……領主は、このリュメなどどうなってもいいのだと思います」

( '_/')「そうです。一部の金持ちにだけいい顔をして、貧しいばかりの私達の生活など……」

292名無しさん:2024/10/10(木) 03:02:34 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「………」

事情を聞いているうち、フランクリンの話に熱が入りかけたところで、
一歩引いて冷静に話を伺っていたブーンの視線に気づき、彼は一度平静を取り戻す。

( '_/')「失礼しました……無関係のあなたに、お聞き苦しい事を」

( ^ω^)「気にしてないですお。事情は大体理解できましたお───で、確か報酬は」

ノ|| '_') 「無事依頼を終えて戻られた際には200spを。私達の今持てる蓄えの、全てです」


依頼の内容に不満は無かった、一人とは言え、たかだか下級妖魔のゴブリン。
5〜6匹までなら、よほどの事が無ければ命を落とすほどの危険はないはずだ。
だが、話を聞いてる内にふと生まれた一つの疑問が、どうしても気になって止まない。

それは、領主に談判してまで、北の森のゴブリンを退治する"理由"だ。
冒険者としてのあるべき本分よりも、好奇心の方がやや勝り、それを尋ねてみた。

ノ|| '_')「それは、あなたから……」

( '_/')「……お聞かせします、なぜ私達がゴブリン退治に拘っているのかを」


─────

──────────

───────────────


───【リュメ 北の森】───


結局、あのフランクリン夫妻の依頼は引き受けた。

これまで安らぎながら旅歩いてきた時と違い、今はこれから達成しなければならない
依頼に向けて、身体中をほどよい緊張感が支配している。

旅の疲れはもちろんあるが、まだ日の出ている今日の内に依頼を終えてしまいたかった。

293名無しさん:2024/10/10(木) 03:03:12 ID:Si4yTBmk0

森の中ほどまで歩き続けたところだろうか、鬱蒼と生い茂る木々を掻き分けた先に、
少し開けた岩場が見えた。どうやら、これが夫妻の言っていた洞窟のようだ。

ブーンのすでに歩調は慎重になっている。
木々に背を持たれ、身を隠しながらゆっくりと洞窟へと近づいてゆく。

( ^ω^)(外側からじゃ……中の深さはうかがい知れないおね)

遠巻きにぽっかりと口を開けたその洞窟の入り口を覗き込んでいると、
そこから緩慢な動作で姿を表した存在を視認して、すぐさま頭を低くかがめる。

( ^ω^)(………!)

洞窟の入り口からその姿を現したのは、緑色の肌に、窪んだ眼窩の奥で赤く濁った瞳。

────1匹のゴブリンだ。


歩哨としての役目を担っているのだろうか、洞窟の周辺へと目を配っているようだ。
集団で生活する習性を持つゴブリン達は、同じ種同士でこういった連携を取る習性がある。

(#℃_°#)「キキッ」

雑木林に囲われた場所だが、入り口までの距離には木々が少なく、洞窟側からは開けた視界。
それにより、洞窟内に篭って外敵から身を守る側としては有利だろう。

( ^ω^)(まだこちらには気づいてないようだお……)

茂みに身を隠しているブーンの姿は、今はまだ歩哨の一匹には視認されていない。
だが、気弱なゴブリン達の事だ。もしその姿が見つかれば、すぐに仲間達へ報せるだろう。

そうなれば、洞窟内で多数のゴブリンに迎え撃たれる可能性がある。

( ^ω^)(最善なのは、仲間の誰にも気づかせずに排除する事……だおね?)

背の鞘から抜きかけていた剣を一度しまうと、手近な石ころを掴み取った。
歩哨の動きに注視し、機を見計らいながらそれを手元で弄ぶ。

そして、洞窟側へと歩哨が背を向けた瞬間に、その石を少し離れた茂みの奥へと投げ込んだ。

294名無しさん:2024/10/10(木) 03:03:52 ID:Si4yTBmk0

(#℃_°#)「キキッ……!」

がさがさと枝の何本かを揺らしながら、石ころはブーンの目論見どおり、
ゴブリンの注意を引く事に成功したようだ。

( ^ω^)(………よし)

音がした方の様子を見ようと、歩哨が洞窟の入り口から離れ、ブーンに背を向ける。
その隙を突いて、出来る限り音を立てずにその場から駆け出した。

(#℃_°#)「………キキィ?」

先ほど石ころが投げ込まれた茂みの方を眺めながら、ゴブリンは首を傾げている。
───その背後に立ち、鞘からゆっくりと長剣を抜き出すブーンの存在に気づくことも無く。

(# C_ ;#)「キ────グゲゴッ!」

そして、胴と首が分かたれる瞬間に一寸呻き、すぐにその身は倒れ伏した。

(;^ω^)「………まず、一匹」


妖魔とは言え、剣で何かの生き物の命を奪うのは、やはり良心が咎める。
降りかかる危険から身を守る為に今までも幾度かあった事だが、今は依頼の達成だけを考えなければならない。

刃に付着した血を、剣を振るう事で地面へと払い落とした。
ここからは中に入ればすぐに戦闘が控えているかも知れない。

心に迫る鈍い感情を押し殺しながら、剣を片手に携えたまま、ブーンは洞窟内へと足を踏み入れた。

295名無しさん:2024/10/10(木) 03:04:30 ID:Si4yTBmk0

───【ゴブリン洞窟 内部】───


壁面沿いに身を隠しながら、ゆっくりと深部へと進んでゆく。
まだ外は日が出ている為、わずかながら日の光が洞窟内にも届き、差し込んでいる。

だが松明などの明かりを持って来ていない為、日が沈むまでにはカタをつけなければならない。

( ^ω^)(思った以上に、暗いお)

壁を手で伝いながら、逆の手で握る長剣の柄には力が入る。
いかに最下級の妖魔とは言えど、その巣の中にいるのだ。

数が不確定な以上、決して安全な依頼ではない。

『ゴブリンといえど、油断はできんぞ』
ヴィップを発つ前に、そう忠告してくれた楽園亭のマスターの言葉が不意に頭をよぎた。

しかし、ここまでは順調。

誰にも気づかれずに住処の中へと侵入できたのなら、後は隙あらば一網打尽にする機会もある。
ゴブリンたちがこの暗さの中どうやって過ごしているのか気になっていたが、壁面を伝うように
群生している光苔の類が、どうやらうっすらと発光して、わずかに道先が見えるようになっている。
ゴブリンの知恵ではなく、たまたまこの環境を利用しているのだろう。

だが、洞窟深部への注意をし過ぎるあまり、足元への注意が散漫になっていた。
ぱきっと音を立てて、靴底でかすかに枯れ枝がへしゃげた感覚が伝わる。

気を取られる事なく進もうとするブーンのすぐそばで、反応があった。

296名無しさん:2024/10/10(木) 03:05:09 ID:Si4yTBmk0

「キキッ」

もう一度聞こえたその声は、自分の胸のすぐ下あたりからだ。

(;^ω^)「………!?」

(#℃_°#)「──キッ!」

出会い頭、一匹のゴブリンに姿を見られてしまった。

なまじ体格が小さなものだから、すぐには気づく事ができなかった。
向こうもかなり驚いていたのか、ブーンの姿を見上げながら目を剥いている。

すぐに振り返ったゴブリンは、もう仲間を呼びに行こうと走り出している。

(; ω )(させ………ないおッ!!)

ここで逃げられれば、後々大きな不利に働くかも知れない。
どうあっても、ここで逃がす訳にはいかない。

大きく踏み込んで、がむしゃらな体勢から右腕一本で突きを繰り出した。

(# C_ ;#)「ぐぶっ!」

辛うじて刃が届くか届かないか、ぎりぎりの所だった。
首の後ろから差し込まれた長剣の刃は、そのままゴブリンの喉元を刺し貫いた。

倒れ込んでなお手足を暴れさせていたものの、ややあって絶命した。

(; ω )「ふぅ………これで、2匹」

夫妻の話ではあと3〜4匹かも知れないが、ここは多く見積もっておくべきだろう。
中に入ってみて初めて分かったが、外から見るよりも、かなり広々とした洞窟だ。

297名無しさん:2024/10/10(木) 03:05:45 ID:Si4yTBmk0

これまでは一本道だったが、どうやらこの先は道が枝分かれしている。
その先が部屋のようになっているとしたら、どこかで複数のゴブリンに遭遇してもおかしくない。

一匹一匹の固体は弱いといえど、武器を扱う知能もあるだけに、やはり油断は出来ない。

( ^ω^)(………東の、方からかお?)

次にどう動くべきかを思案している内に、ごそごそと聞こえる何かの物音に気づいた。
どうやら、複数のゴブリンが一部屋にまとまっていると考えて、相違なさそうだった。

( ^ω^)(上手く不意を突いてやれば……一網打尽に出来るかも知れないお)

ゆっくりと、音の聞こえた方へと歩を進めてゆく。
その先にあったのは、大人一人が通るのがやっとのような、一つの縦穴だ。

当然ながら、中の様子は伺えない。ここまでくれば日の光もほとんど届かず、
あとは暗くおぼろげな視界の中で剣を振るうしかない。

( ^ω^)(………初っ端から、打って出るかお?)

身を屈めながら、その縦穴へと身を潜り込ませてゆく。
ここにたどり着くまでに、自分という侵入者の存在には気づいていないはずだ。

事態を把握されるより前に、派手に暴れるもよし。
出来るだけ気づかれないように、一匹ずつ仕留めるのもよし。

そう考えている内に、縦穴の出口にたどり着いたようだ。

──そこは、思った以上の静けさだった。

中のゴブリンは寝てでもいるのだろうか、そうであればありがたいが。
一瞬気後れはしたが、思い切って部屋の中へと躍り出た。

ようやく動きやすい体勢になり、しっかりと両手で剣を握り締める。
まだ完全に洞窟の暗さに慣れていない眼を皿にして、辺りを見渡す。

298名無しさん:2024/10/10(木) 03:06:18 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)(………いない?)

おかしい、先ほどは確かに物音が聞こえたはずだ。
──ーなのに、一匹のゴブリンの姿も見えない。

とんっ

しばし呆然としていたブーン。
その足元へ、何か小さなものが当たった音が聞こえる。

(;^ω^)「………矢?」

地面に突き刺さっていたそれを見た時───すぐに頭の中で警鐘が鳴らされる。

(#℃_°#)「キキッ! キキーッ!」


視線を再び上げた瞬間、ようやく今自分が置かれた状況に気づく。
あまりにも自分の対処が遅れていたことを、省みるほどの余裕もなかった。

暗闇の中自分を見下ろす、幾つもの赤い瞳。

それに紛れて煌めいて見えたのは、自分を目掛けて引き絞られる弓矢にあてがわれた、矢じりだった。

(;`ω´)「ッ───おおぉ!」

すぐさまその場を横っ飛びに飛びのいて、狙いを逸らす。
どうにか避ける事が出来た。

ほぼ同時に、先ほどまで自分が立っていた位置を次々と穿つ矢を見て、背中からは冷や汗が噴き出す。
弓矢までも扱う知能があるとは、思ってもいなかった。

だが、それよりも───

299名無しさん:2024/10/10(木) 03:06:56 ID:Si4yTBmk0

(;  ω )(こっちの侵入が、感づかれていたのかお――!)

最下級妖魔と侮り甘く見ていた驕り、それが自分の中にあった。
だがその事への反省は、この場をどうにか切り抜けてからだ。

また次なる矢が降り注がれるかと思い身構えたが、それはなかった。
今度は、目の前から2〜3匹のゴブリンが一度に駆け出して来ていた。

(#'℃_°'#)「グオオォッ!」

木製の棍棒を持つ一匹は、傍目からもわかる程に明らかに巨躯。
恐らくは、これがリーダー格のような存在だろう。

狙う相手は、既に決まった。

(#^ω^)「ふおおぉッ!!」

巨躯のゴブリンは、一直線に自分の元まで来るとすぐさま棍棒を振り下ろした。
だが、避けるともせず、その腕ごと両断するつもりで、ブーンもまた剣を振り上げる。

(#'℃_°'#)「グ……ゥッ!」

だが、ブーンの一刀は棍棒の中ほどまで刃が食い込み、止められた。

並みのゴブリンの打ち込み程度であれば棍棒ごと叩き斬る自信はあったが、
他の倍はあろうかという体格のこのゴブリンは、ブーンの膂力を耐え凌いでみせた。

(;^ω^)「………っ!」

人並み以上の腕っ節の他に誇れるものはない、自分の打ち込み。
それが低級の妖魔、ゴブリン程度に防がれてしまったという事実。

つい先ほどまでのブーンの余裕は、もはや完全に打ち砕かれていた。

このまま剣が封じられてしまう事を恐れ、すぐに力を込めて剣を引く。
捻りを加えながら乱暴に引っ張ったが、棍棒を手放させる事は出来なかったようだ。

300名無しさん:2024/10/10(木) 03:07:35 ID:Si4yTBmk0

(#'℃_°'#)「……グワゥ……!」

ゴブリンの群れに紛れ、怯んだリーダー格が後退していくのが見えた。

ゴブリンというのは極めて気弱な種族だ、拠り所となる存在がいなくなれば、
その下っ端たちは士気が下がり、混乱を与える事が出来たかも知れない。

だが、今の好機を仕損じてしまったのは、いかにも痛い。

舌打ちしていたブーンの両側面からは、すでに手斧をもったゴブリンどもが迫っていた。

(#^ω^)「――来いお!」

弓矢による攻撃は怖かったが、味方がこれだけ近くに居れば撃てないかも知れない。
気迫を込めた言葉とは裏腹に、頭の中は意外と冷静に全体を見て動けている。

この土壇場に、集中力が最大限に高まっているのかも知れないな、と思った。

(#℃_°#)「キキッ!キーッ!」

もっとも近くの左方の一匹に向き直り、剣を構えてじりじりと距離を詰める。
数では勝っているものの、ブーンの気迫に気圧されてか、後退している。

小さな石斧と自分の持つ長剣では、一対一では端から勝負にならない。

それゆえ後退を余儀なくされる一匹へと距離を詰めるが、背後から迫っている
もう一匹の気配を、背中越しに肌で感じ取っていた。

二匹のゴブリンに前後を挟まれているのだ。一匹に隙を見せれば、もう一匹に付け込まれる。

だが、それに対抗する策はあった。
ゴブリンの身の丈ほどの長さを有する、長剣だからこそ成せる業が。

挟撃を真っ向から受け入れ、機を伺っていたのはブーンの方だ。

( ^ω^)(前後────)

(#℃_°#)「ゥ……ギキキィッ!!」

前方の一匹へと踏み込む素振りを見せた瞬間、背中に浴びせられるもう一匹の声。
一匹に気を取られたブーンの背後へ向けて、石斧を振りかざさんと飛び出している。

だが、まるで気にもくれず、ブーンはただ目の前の一匹に向き合い、深く腰を落とした。

( ^ω^)(────同時にッ!)

301名無しさん:2024/10/10(木) 03:08:13 ID:Si4yTBmk0

思い切ったように、そのまま眼前のゴブリン目掛け大振りの横薙ぎを繰り出す。
ぶん、と耳にまで聞こえる風切り音が、刃から唸りを上げた。

あまりに間合いが遠すぎたのか、あご先すれすれという所で────それは空を切る。

しかし、振るわれた剣の軌道は、半月を描いてもまだ止められる事がなかった。
半月はそのまま満月へと軌道を描き、ブーンの体の真後ろまで、全力で振り切られる。

当然、背後まで迫っていたゴブリンは、背中に石斧を振るおうとしたばかりに
ブーンの剣の届く位置にまで近づいていた。

予想もつかない方向から襲い掛かった刃は、抵抗も出来ないままのゴブリンの上半身を吹き飛ばした。

(#^ω^)「───ふぅッ!」

その短い断末魔を聞き捨てながら、剣を振り回した反動を利用して、
身ごと大きく駒のように回転すると、そのままもう一度前方のゴブリンへと大振りを見舞った。

(# C_ ;#)「アバッ」

どうやら顎から上を吹き飛ばしたようだが、その確認は柄から手元へと
伝わった感触だけで十分。それよりも、すぐに残りへと対処しなければならなかった。

二度満月の剣閃を描いたあと、こんどは勢いよく背後へと振り返る。

(#'℃_°'#)「ギィィッ!ギィッ!」

広場の中央に立っていたのは、先ほどのリーダー格。
剣の打ち込みによって欠けた棍棒を掲げて、叫びを上げていた。

302名無しさん:2024/10/10(木) 03:09:03 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「………?」

”弓を射て”という合図か───そう思ったが、違う。
先ほどまで弓を引き絞っていたゴブリン達が、広場の上層に位置する高所から続々と降りて来る。


 「ギキキィッ!」 (#℃_°#)

   (#℃_°#)  「ギキッ」  (#℃_°#)

   「キャキィッ!」 (#℃_°#)


その数、4〜5匹は居るだろうか。
リーダー格の一匹が、不利な今の状況を考えて、自分の身を守らせるつもりなのだろう。


暗闇の中ではおぼろげにしか見えないそれらの影の内のひとつ。
その中に、これまで倒したゴブリン達と比べて、違和感を覚える一匹の姿があった。

 /__\  
〈 (℃_) 〉「ギャッギッ!」

腰みのを身に着けているだけの他のゴブリンとは違う。
僧侶などがよく着るローブのような布を羽織った、一匹の亜種が紛れていた。

頭部が妙に肥大しており、頭に被っているフードからも他との違いが見て取れる。

(;^ω^)「何だお、お前……!」

そして、獣のように低く吼え声を上げる、他のゴブリンよりも細身なもう一匹の亜種の姿があった。


( ζ )「うがううぅぅぅ……っ」

303名無しさん:2024/10/10(木) 03:09:44 ID:Si4yTBmk0

───広場の中心、ブーンの目の前には、総勢五匹のゴブリンが集結している。

(;^ω^)(帰ったら……報酬の値上げ交渉、やってみるかお)

ため息をつく間も無く、それを生唾とともに飲み下した。
高台から降りて来たゴブリン達が、ブーンの前に散開してゆく。

(#'℃_°'#)「ギィィィィィィッ………」

中央には、巨体の一匹。

 /___\  
〈 (℃_) 〉「………」

その後方には、ローブを纏った一匹。

やがて最後尾に控えたローブのゴブリンが、ブーンの方に指で指し示す。
すると傍らに付き添っていた小型のゴブリン同様、リーダー格のゴブリンも動き始めた。

(#'℃_°'#)「ギィユァッ!!」

まず、リーダー格が襲いかかってきた。
大声で喚きたてながら、ただ闇雲に棍棒を自分の頭の上に振るい落とそうとしている。
仮にまともにもらってしまえば昏倒して、総出で袋叩きの肉塊にされるだろう。

だが、自分の剣のリーチの方が、遥か勝る。

(# ^ω^)「ふッ――!」

今ばかりは、先ほどのように力比べをする余裕はない。
遠い間合いから浅い手傷を負わせるよりも、より確実に仕留めるための一撃が必要だ。

腰を落とした状態で、ゴブリンの棍棒が届くぎりぎりの所まで、引き付ける。
寸前にまで迫ったその時を見計らって、後ろに引いていた剣を、横一文字に薙いだ

304名無しさん:2024/10/10(木) 03:10:18 ID:Si4yTBmk0

(#'℃_°';#)「―――ギャッ、ブゥッ!」

ゴブリンの振るった棍棒は僅か届かず、耳元で唸りを上げるだけに留まった。
確認するまでも無いが、リーダー格のゴブリンの胴体には一本の赤い線が走っている。

傷口からぼたぼたと零れる血で地面を汚しながら、斬られた痛みに苦痛の呻きを漏らす。
その場でたたらを踏んではいる瀕死の状態ではあるが、手の中の棍棒はまだ離そうとしない。

(#'℃_°';#)「……ウ、ウゴォォォッ!」

(;^ω^)「!」

最後の力を振り絞ってか、もう一度棍棒を振りかざそうとしている。
剣を向けたまま、後方へ飛び跳ねて素早く距離を取る。

もう一度見舞うべきか。
そう逡巡しているわずかな間に、低い断末魔を一度上げた。
自分の血溜まりの中へ膝から崩れ落ちて、それきりだった。

(;^ω^)(よしッ、これで………!)

これで、残りのゴブリンの士気はガタ落ち───思惑では、そのはずだった。

(#℃_°#)「ギキィーィッ!」

2匹のゴブリンに既に接近されていたにも関わらず、一瞬剣を下ろしたのがまずかった。

右翼から回り込んで来た一匹が振るった、石斧。
それを自分の右肩へ叩き込む程の隙を、許してしまっていた。

(;  ω )「ッ……うぐッ!?」

305名無しさん:2024/10/10(木) 03:11:10 ID:Si4yTBmk0

鈍い痛みが電撃のように右肩より下へと迸り、たちどころに機能を麻痺させる。
剣の柄を力強く握り締めていたはずの右手が、思うように上がってくれないのだ。

肉を断ち切るような鋭利さは無いにせよ、肉と骨の調度継ぎ目──当たり所が、悪かった。
骨を震わした衝撃は、もはや力を込めて両手で剣を振るう事をさせてはくれない。

(; °ω°)「!……うぐッ、おぉぉぉッ!」

それでも、左手一本で剣を振り回した。
自分の右肩に石斧を穿ったゴブリンの肩口から、胸元までを切り裂く。

目の前に残るのは、あとたったの4匹─────

右腕を使えなくなる前と後で、随分と冴えない太刀筋になってしまったと、また舌打ちした。
鈍重なゴブリンであっても数匹同時に襲って来られたら、今のように反撃できるかは分からない。

左手一本で持つには、この長剣は重過ぎるのだ。

(;^ω^)(リーダーを倒したはず……なのになんで、逃げないんだお?)

重い感覚しかもたらさない右腕を宙にだらりと投げ出しながら、長剣の切っ先を突きつける。
その相手──ローブのフードを深く頭に被るゴブリンが、言葉を発した。

 /___\  
〈 (℃_) 〉【──سيل من القوة السحرية يجري 】

共通の言語も無いかに思えていた妖魔の口が発しているのは、しかし確かに何かの言葉だ。

(;^ω^)「じ……人語、なのかお!?」

306名無しさん:2024/10/10(木) 03:12:02 ID:Si4yTBmk0

あまりの驚きに思わず大声を上げたその時に、気づいた。
取り巻きのゴブリンがまだ威勢を失っていないのも、群れの長の存在からか。

先ほどの巨躯のゴブリンが助けを求めていたのは、このゴブリンに対してだったのだ。

(;^ω^)(完全に……さっきの奴がリーダーだと、思い込んでいたお)

見れば木のステッキのようなものしか持っていないが。
先ほどの巨体が力で群れを守る個体だとするならば、このゴブリンは知恵を持ち合わせ、
群れの頭脳として機能している特殊な個体なのであろうか。

だとすれば、まだ完全に集団の戦意を削げてはいない。

先ほどの巨体のゴブリンほどの脅威はないかに思えるが、何か策でもあるのかと勘繰った。
肥大化した後頭部以外はさほど他のゴブリンと体格差はないもの、警戒を強める。

石斧の攻撃を受けた右腕の痺れは、まだすぐには取れそうに無い。
窮地と言える状況を、今は左手一本で看破するしかなかった。

(;^ω^)(……あと4匹。落ち着くお……)

ブーンを負傷させて調子付いたか、ゴブリンらはブーンの周囲をぐるりと巡る。
少しずつその包囲を狭めつつあり、さながら集団で狩りをするかのような様相だ。
完全に四方を囲まれた状況にあって、左腕一本では満足な力が入らない。

さっきのような回転斬りを繰り出しても、掻い潜られれば反撃を受ける。

(;^ω^)(なら……本当のリーダー格がこいつと分かった以上、狙うは──)


(#℃_°;#)「キィッ!?」

完全に包囲の距離を詰められて袋叩きにされる前に、一直線に駆け出した。

307名無しさん:2024/10/10(木) 03:13:28 ID:Si4yTBmk0

進路を塞ぐゴブリンはそれに身構えたが、走りこみながら、横腹を思い切り蹴飛ばして脇に転がす。
後ろから慌ててブーンを追いかけるいくつもの足音が聞こえたが、構っている暇などない。

狙いはただ一匹、ローブの一匹だけだ。
だが、ブーンがその目の前にまで迫った時、その場に異変が起きた。

(;^ω^)「な………!?」

何が起こっているのか───分かるはずも無い。
動揺し、思わず剣を振り上げる事に躊躇してしまった。

光もほとんど差し込まないこの暗い洞窟の空間を、白く染め上げる光。
それがローブのゴブリンの手から放たれているものだという事を理解するのに、しばしの時間を要した。

その口からはまるで呪詛のように、人のものではない奇妙な声で、言葉が紡がれる。

 /___\  
〈 (℃_) 〉「【في جسدي، يشكل قوتك】」

刹那、ゴブリンの手の中で収束してゆく光は、瞬く間に凝縮し、形を為した。
それがやがて一本の矢のような姿を形作ると、その先端は、ブーンへと向けられていた。

(;`ω´)「まッ………」

一瞬、時の流れが遅く感じられた気がしていた。
その間を、様々な疑問が頭を駆け巡る。

――光、言葉――魔法?

群れのリーダーがこのゴブリンである事に合点がいった。

308名無しさん:2024/10/10(木) 03:14:18 ID:Si4yTBmk0

実際に見たことはなかったが、魔術師といえば、悪の代名詞のようなもの。
育った村では幼馴染達と、そんな風に役柄を決めてごっこ遊びをしていた。
無から有を生み出し、武器を持った人間であろうとも、いとも簡単に倒せてしまう術師。

その術を───まさか、ゴブリンのような下級妖魔が使いこなすというのか。

故郷での憧憬が一瞬思い浮かぶと、これが魔法である事として認識した。
暗所にあって唐突に眩い光を浴びせられ、前後不覚の状態で左に全身を投げ出す。

飛んだ先は岩場だったが、光の軌跡を逃れるために、一も二も無く飛び込んだ。

(; ω )「────だおぉぉっ!」

ほぼ、同時だった。

飛び出す瞬間、自分の立っていた位置を通り過ぎた光から、背中越しに強い熱を感じた。
光弾は影を引き連れながら、洞窟内部の闇を突き抜けてゆく。

一瞬の後、ブーンはしたたかに身体を岩場へと打ちつけ、全身の痛みに顔を歪めていた。
ほぼ無意識に素早く身を起こすと、追撃に備えて再び剣を手に取り、立ち上がる。

(# C_ ;#)「……ゴブッ…ギ……」

ブーンが身をかわした事で、その背後に居たであろうゴブリンの一匹が、光の矢に穿たれたようだ。
抑えている胸板には手指ほどの大きさの穴が開いて、一寸の間を置いて大量に血を噴き出した。

傷口を押さえながら力なく倒れるその姿を見ながら、背筋には冷たい汗が伝った。
もしあれを食らっていたら、自分もああなっていたのだ。

これほどの攻撃手段を持つ敵を前に、二の足を踏んでいる場合ではなかった。
魔法を唱えるためには、前もって何かしらの手順が必要なはずだと踏んだ。

(;^ω^)(さっきぶつぶつ唱えていたのが、必要な前準備なのかお?)

もしそうだとするならば、少しの時間も与えてはならない。

309名無しさん:2024/10/10(木) 03:15:08 ID:Si4yTBmk0

 /____\  
〈 (℃_;) 〉「グ………!」

ローブのゴブリンもまた、自分が放った光の矢が避けられた事に動揺を見せていた。
運良く同士討ちとなってくれた事もあり、残るゴブリンは雑魚を含めても3匹。

再びあの魔法が来るよりも早く攻め込めば、勝利は目の前だ。

(#^ω^)「させるかお!」

全身の痛みを庇うより先に、再びローブのゴブリンの元へ駆ける。
ごつごつとした岩場で挫いてしまいそうな足を、気にも留めず前へと走らせた。

(#℃_°#)「ギキッ!ギキッ!」

そのブーンの進路へ、また一匹が立ち塞がる。

(#^ω^)「……邪魔だおッ!」

重心が損なわれ、剣ごと左腕に全身が振り回されながらも、一息にその首を刎ねる。
大きく体勢が崩れたが、まだそこに立ち尽くす首から下だけのゴブリンを肘で押しのけた。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【سيل من القوة السحرية يجري ――】」

また、先ほどと同じようにあの言葉を紡いでいる。

既にゴブリンは眼前───剣の届く距離にある。
際どい状況に、会心の一撃を繰り出すには左腕の力だけで振るうのでは、足りない。

やがて至近距離で相対し、互いに目と目があった。
ゴブリンの手からは再びあの光が、発現し始めていた。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【في جسدي، يشكل قوتك】」

(; °ω°)「────ふぅ……ッ!」

310名無しさん:2024/10/10(木) 03:17:06 ID:Si4yTBmk0

ブーンもまた、左腕に握った剣を肩越しに背中へと回していた。
上体を弓のようにしならせて、左腕一本で背中に剣を預けた。
そこから一気に振りかぶった勢いを、そのまま振り下ろす力に換える。

魔法が発動するのと、自分が斬りかかるのとは、ほぼ同時だった。


 /___\  
〈 (℃_;) 〉
       「────ッ!」
(;`ω´)

身体を貫かれる恐怖に抗うようにして、何かを叫んだような気がした。
そして────白い閃光は視界を奪い、目の前全てを塗りつぶしていく。

数舜、呼吸を忘れていたように思う。


──────



────────────


──────────────────

311名無しさん:2024/10/10(木) 03:17:35 ID:Si4yTBmk0

(;^ω^)「はは、は………生きてるお」

やがて光が晴れた後、その場にへなへなと尻からへたり込んだ。
まだ周囲に残っていた雑魚のゴブリンは、リーダーが崩れ落ちるのを目にして逃げ去ったようだ。

打ち漏らしたとはいえ、今回の依頼の達成には、全てを倒す必要はないだろう。
これほど群れを叩き潰されれば、人間への恐怖もしっかりと刻み込んだはずだ。
あとはせいぜい大人しく生きていけばいい。

傍らで、天を仰ぐローブのゴブリンの表情を、じっと覗き込む。
まだ息はあるが、自分に切り落とされた右腕の肩口から大量に出血しており、瞳は空ろ。
死ぬのも、時間の問題だろう。

(;^ω^)(たかが、ゴブリン……その認識を改める必要があるおね)

あの魔法が自分を貫くであろう一瞬、剣を振り下ろしながら半身になって、身をよじったのだ。

迸った閃光の矢が革鎧の腹を掠めて焦がしながらも、すんでの所で腕を両断した。
一撃で絶命させるには至らなかったが、それにより狙いも逸れた事が大きかった。

一人で洞窟に侵入し、待ち受けるゴブリンの殆どを撃破して、勝利を収める事が出来た。
最後に控えていた、この魔法を使う一匹には心底驚かされたものの。

 / ___\  
〈( C_;) 〉「アァァ……ウヴグゥ」

( ^ω^)「………」

魔術を使うほどの妖魔の頭の出来ならば、自分の死が迫っているという事も理解できるはずだ。
苦痛の声を漏らしながら、時折もぞもぞと身体をよじって立ち上がろうとする姿に、複雑な感情を抱く。

312名無しさん:2024/10/10(木) 03:18:08 ID:Si4yTBmk0

絶対的な悪として、いつからか大陸各地で確認されてきた妖魔たちの存在。
決して相容れる事なく、共生の道を歩むことなど無い、人と妖魔。

だが、この大陸が人の統べる地として決めたのは、一体誰が最初なのか。

もしかすると、妖魔こそがこの大陸の先住民であり、その彼らの住まう土地を荒らし、
辺境へと追いやって繁栄を続けてゆく人間こそが────

( ^ω^)(───僕もまた人間。同じ人間の悪口を言う資格は、ないおね)

そこまで考えて、思考を中断した。

死に逝こうとしているゴブリンの姿を目にし、安っぽい感傷に浸りかけたのを、拭い去る。
誰の事であろうとも、つい深く首を突っ込んでしまいたくなってしまうのは、悪い癖だ。

彼らの境遇には同情を禁じえないが、妖魔とて人を襲うという事実を思い浮かべ、重い腰を上げる。
石斧で叩かれた右腕を軽く回してみると、どうやら感覚も戻りつつあるようだ。

( ^ω^)「……せめて、もう苦しまないようにしてやるお」

つかつかと目の前にまで歩み寄ると、両手でゆっくりと長剣を振りかぶる。

 / ___\  
〈( C_;) 〉「………」

もはや、抵抗する気力も無いらしい。
このゴブリンにとってはブーンは憎悪の対象でしかないだろうが、止めを刺してやるのは、
たとえ種が違えど、自分にとってのせめてもの情けだった。

(  ω )「………」

”どすっ”

313名無しさん:2024/10/10(木) 03:18:45 ID:Si4yTBmk0

鈍い音を立てて、長剣はゴブリンの心臓を確実に貫いた。
最期には目を見開き、驚愕しきったような表情のまま、瞳は光を失い、完全に濁ってゆく。

これにて、ゴブリン退治の依頼は達成─────
仲間達も、もうこの洞窟へと帰ってくる事はないだろう。

死んだゴブリンに、そっと踵を返した。
剣先に塗れた血を地面にふるい落とすと、肩へと担ぐ。

だが、どうやら最後にもう一つだけ、片付けなければならない仕事が残っているようだ。

( ^ω^)「さて………」

さっきも、一度だけちらりとその姿を目にした、最後の一匹。
それがブーンの目の前に立ち、獣のように唸っていた。

ζ°ゝ) 「うがううぅぅぅッ……!」

( ^ω^)「────君が、"ロベルト"君だおね?」

ゴブリン達とブーンがやりあうのを、先ほどからずっと遠巻きに眺めていた、彼。
だが、金色がかった髪の生えたゴブリンなど、この大陸全土を探してもいる訳がない。

なぜなら彼は、人間なのだから。

( ^ω^)(まさか……)


────話は、フランクリン宅で依頼の理由を確認していた時にまで遡る。



──────



────────────


──────────────────

314名無しさん:2024/10/10(木) 03:19:33 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「なぜ、あなたがたはそれほどゴブリン退治にこだわるんだお?」

聞けば、今現在近隣でこのリュメに対してゴブリンたちが被害をもたらしている訳ではないという。
しかし、フランクリン夫妻の意思は巣穴の駆除が必要だと、確固たる意志で語る。

それには、何か理由があるはずだとブーンは感じていた。

ノ|| '_')「……あなた」

( '_/')「それは、私の口から……」

( ^ω^)「聞かせてもらえるかお?」

どうやら、フランクリンは良識のある方の依頼人らしい。
話半分には聞いておいて、それが自分にとって納得のいく理由であるかどうかが問題だ。


( '_/')「……私達には、息子がいます。
     やっとの思いで授かった、太陽のような存在です。

     いや──居た、と言うべきなのか……」

妻のマディはフランクリンが話し始めると少し伏目がちになり、どこか遠くを見ていた。
フランクリンの話に頷きながら、少しだけその様子が気にかかった。

( ^ω^)「その、息子さんは?」

( '_/')「二年前の……ある日の事です。妻と息子は、北の森を散歩していました」

( '_/')「まだ三つだったあの子は、久しぶりの散歩にはしゃいでしまっていたのでしょうね……」

ノ||;_;)「……ロベルト」

( ^ω^)「………」

妻、マディが目に涙を浮かべて顔を手で覆う。
その様子からある程度の察しはつくが、またフランクリンの目を見据えて、話に耳を傾ける。

315名無しさん:2024/10/10(木) 03:20:32 ID:Si4yTBmk0

( '_/')「突然横手の茂みから現れたゴブリンに、妻は襲われました。
     必死の抵抗をして、なんとか命の危機は彼女に訪れなかった……でも」

ノ||;_;)「ですが! その私の代わりに、あの子が……ロベルトが攫われた!」

( ^ω^)「───それから、2年も……?」

依頼に関して、大体の理由は分かった。
そこから黙り込んで、手を膝の腕硬く握り締めながら視線を落とす夫妻の様子から、
彼らの心情は、痛いほどに伝わってくる。

どうして、それを誰にも助けを求める事が出来なかったのか。

( '_/')「恥ずかしながら、私の仕事は人様の靴磨き……それしか出来ません。
     ──この通り、生まれつきに足が不自由で、どうにか歩く事がやっとです」

そう言って椅子から立ち上がって見せたフランクリンは、確かに傾いて姿勢を保ち、
先ほど案内してくれた時にも歩き方が普通でなかったのにはすぐに解った。

貧しい街にあって、仕事が無い事は死活問題だ。
靴磨きなどは、それこそこの街で見かけた子供でも出来る仕事だ。
体の不自由さや貧しさから、食うにもやっとの始末なのであろう。

( ^ω^)「その間、誰にも助けは求められなかったのかお?」

( '_/')「他所の街からわざわざこの街へ遊びに来る酔狂な冒険者など、そうはいない。
     稼ぎも少ない中、この街の荒くれもの達に頼む事も考えはしました。
     ですが──私も、マディも、信頼に足る集団とは思えなかったのです」

316名無しさん:2024/10/10(木) 03:21:17 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「──彼らは、意外に話せる奴らだお」

ノ|| ;_;)「そうなのでしょうね……けど、人づてに聞く話からは、良い噂ばかりじゃなかった。
    私たちの生きていく糧を守るためにも、公権を持った方々にばかり助けを求めていました」

確かに酒場であった男は話の通じる男だった。
全体がそうであるとは限らないし、頼み事をして、金があると知れば何か行動に走られるかも知れない。
自分たちとは違う毛色の人々の事を、信じる気にはなれなかったのだろう。

( '_/')「私と同様、妻もそれほど体が強い方ではありません。
     息子が居なくなってしまってからは、ふさぎ込むようになってしまって……
     ですがようやく前を向こうと思い、今回この依頼をお願いしたのです」

結果として、領主らからは袖にされ、長く日が経ってしまってから、
こんな駆け出しの冒険者にまで頼らざるを得ない事態になった。
生きていくためを第一と考えるなら、それは苦渋の決断だったろう。

( '_/')「だから日に3枚から、多くても5枚の銀貨を稼ぐのがせいぜいの私達にとって、
      やっとの思いで貯めた、あなたにご依頼する為の200spは、全てなのです」

お世辞にも繁栄を謳歌しているなどといえない、リュメの街。
誰も助けてはくれず、日々を耐え凌ぎながら生活し続けている彼らにとって、
冒険者を雇って依頼を頼むという事がどれほど大変な事なのか、理解する事が出来た。

( '_/')「だから……お願いします、あの子を───」

夫妻は恐らく必死で息子を探し、誰かに頼ろうともしたのだろう。
それでも、体や心の弱さから、それを出来る状態ではなかった。

息子の無事を、どれだけか祈った事だろう。

ノ|| '_')「あの子の、形見になるだけでも……。
    ロベルトを、せめて生まれたこの家に帰してやりたいんです」

冷静さを取り戻した妻の瞳が、しっかりとブーンの瞳を見据えていた。

彼らの頼みごとは、よく分かった。
一介の冒険者などに、よくぞここまで自分達の心情を吐露してくれたものだ。

( ^ω^)「分かったお」

なら────後は、自分がその気持ちに応えてやるだけだ。

317名無しさん:2024/10/10(木) 03:22:05 ID:Si4yTBmk0

( '_/')「それでは……!」

( ^ω^)「えぇ、依頼はお引き受けいたしますお」

ノ|| '_')「どうか、あの子の事をお願いします」

( ^ω^)「だけど……こっちにも言っておかなければならない事があるお」

( '_/')「それは、何でしょう?」

( ^ω^)「僕は、今回が初の依頼。まだ、駆け出しの冒険者……なんだおね」

ノ||;'_')「え……そ、そうなんですか?」

( ^ω^)「だけど、必ずロベルト君の痕跡を取り戻して、ゴブリンを殲滅してきますお」

( '_/')「……」

( ^ω^)「───こんな駆け出しの冒険者を、信じてくれますかお?」

わざわざ自分から、ずぶの素人だという事を露呈するのは愚策かも知れない。

自分の依頼が初めての冒険者などと知れれば、本当に難題を抱えた依頼人ならば、
受注する冒険者に怪訝な眼差しを向け、依頼を取り下げたくなるのが普通だろう。

そんな事をわざわざ明かしたのは、ブーン自身、隠し事が苦手だった事もある。

依頼人から本当の意味での信頼を得ること。
そこで初めて、依頼を達成するために、自分の全力を傾ける事が出来ると思った。


( '_/')「……勿論です。信じて、いますよ」

ノ|| '_')「私も、夫と同じ気持ちです」


─────


──────────



───────────────

318名無しさん:2024/10/10(木) 03:22:56 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)(まさか……生きていたとは驚きだお)

亡骸を見つけて、息子の形見だけでも手に入れるつもりだったフランクリン夫妻。

その夫妻の愛息子は、今自分の前に居る───
2年の空白の歳月を経て、確かに生きながらえていたのだ。

体格から、年の頃は5〜6歳といったところだろうか、失踪した年齢とも重なる。
だが、明らかに飢えて栄養が足りていない貧相な体つきをしていた。

年齢にはおおよそ見合わないほどに、体格が伴わず小柄だ。
血走った眼。そして、獣のように吼え声で唸るその姿に、一目でピンと来た。

育てられたのだ───ゴブリンに。

そうでなければ、今こうして生きていられる訳などない。
ゴブリン達の子育てなど聞いた事もないが、さっきの言葉を話す個体のように
知恵を持ったゴブリンが居る群れでならば、存外あり得る話なのかも知れないと思った。

( ^ω^)「ロベルト! 助けに来たんだお、君を!」

ζ°ゝ) 「ウ、ガウウゥッ!」

( ^ω^)(正気を、失っているのかお?)

名前の呼びかけにも、応じる事はない。
その様子から、こちらに完全な敵意を向けているのが見て取れた。
育ての親を殺された事に、憎悪を燃やしているのだろうか。

だが、並のゴブリンと比べても体格のさほど変わらぬ、人間の子供。
もし襲い掛かってきても、相手にするのはたやすい。

問題は、彼を大人しく連れて帰る事が出来るのだろうかという事だ。

319名無しさん:2024/10/10(木) 03:23:47 ID:Si4yTBmk0

ζ°ゝ)「ふぅぅッ!!」

視界の端から一瞬で消えると、闇の中へと紛れ込んだ。
その気配を目で追うが、大した速さを身に着けているようだ。

闇の中をジグザグに走りながら、手にした石斧で自分の首を狙いに来ている。
ゴブリンなどよりよほど素早い身のこなしだが、かといって彼を斬る訳にもいかない。

ζ°ゝ)「うがぁッ!」

(;^ω^)「くっ!」

飛び掛ってきたその手を、辛うじて払いのける。
そのまま上半身に纏ったぼろな布切れの胸倉を掴むと、多少乱暴に地面へと引き倒した。

ζ; ゝ)「あ……あうっ」

(#^ω^)「大人しく……するおッ!」

剣を傍らに投げ捨て、彼の腕ごと腹の上に乗りかかった。
細い子供の割りには大した腕力、それでもブーンの体格の前には抗うべくもない。

(#^ω^)「君自身がゴブリンにでもなったつもりかお!?」

ζ#°ゝ)「ギヤァアイッ!」

瞳を真っ直ぐに見据えながら、言い聞かせるようにして頬を何度も強く張る。
だが、その顔はますます憎しみに皺を刻んでいくばかりだ。

(;^ω^)(これじゃ……こんな状態で……連れ帰っても)

歯をガチガチと強く噛み合わせ、威嚇しているのか。
獣と寸分違わぬ姿の彼、ロベルトの顔を覗き込みながら、ブーンは肩を落とす。

320名無しさん:2024/10/10(木) 03:25:59 ID:Si4yTBmk0

もう一度人の世界に放り込んだとして、それがこの子の幸せになるのだろうか。

息子はもう帰ってこない、そう覚悟を決めていたフランクリン夫妻。
その彼らに、獣のように変貌してしまった彼を差し出しても、両親にとっては
果たして本当に喜ばしい事なのだろうかと、己に問うた。

募る疑問は、依頼達成への最後の障害となって、降りかかっていた。

(;^ω^)「………」

傍に転がっていた長剣を拾い上げると、その柄に手を伸ばしてみた。
ここで彼は死すべきなのだろうかと、暗い考えがよぎる。

口の周りには赤黒い汚れがいくつもこびり付いている。
それは野生動物のものか、はたまたゴブリン達と共に人間を襲って喰らっていたのか。

まるで人が変わってしまったであろうこの子を、本当に解放してやるべきなのか分からない。
ゴブリンに育てられた彼が、また元の普通の子供に戻れるのだろうか。

もっとも、こんな考えも当の本人にとってはただ身勝手な、周囲による傲慢でしかないのだろう。

ζ#°ゝ)「ぎぃぃぃぃーッ!」

考えても、良い方法は浮かばなかった。
両親の喜ぶ顔を見ようなどという甘い幻想は、一旦この場において置く事にする。

ロベルトの上体を踏みつけながら、剣を手にその姿を見下ろす。
あいも変わらず拘束から逃れようと四肢を暴れさせるが、ブーンの持つ長剣を目にして、
若干その顔色が変わったようだった。

321名無しさん:2024/10/10(木) 03:26:22 ID:Si4yTBmk0

ζ;°ゝ)「………う、うぁあ?」

ゆっくりと振り上げられてゆく剣に、ロベルトの身が強張り、表情が曇ってゆくのが分かる。
やがて後頭部にまで高く剣を掲げると、その剣先をぴたりと止めた。

ブーンの無表情から何かを感じ取ったのか、ロベルトの表情もまた、完全に凍りつく。

(   ω  )「化け物ごっこは、もう終わりだお」

ζ;°ゝ)「あ、あぅ……い……あ」

────────そして、剣は唸りを上げて振り下ろされた。


──────────────────


────────────



──────

322名無しさん:2024/10/10(木) 03:28:41 ID:Si4yTBmk0

一瞬の火花を伴って、轟音が少年の耳を劈いた。
振り下ろされる瞬間に横を向いて目を瞑ったロベルトの、その眼前へとつき立てられた剣。

ζ;ゝ) 「……あ……ひぐっ」

彼の目には、本気の殺意を持って振り下ろされたものに見えただろう。

ブーンの剣は、確かに力強く突き立てられた───だが、それは頭一つ分方向を外れた、地面にだ。
それでも、年端もゆかぬ少年の下半身は、度を超えた恐怖によって湿っていた。

静寂の中で堰を切ったようにして響き渡るのは、ロベルトの嗚咽。

それは、確かに彼がまだ人間である事。
恐怖を覚える人としての感情がある事を、証明してくれた。

たとえ人里に彼の身がうつされようとも、妖魔に育てられた彼だ。
受け入れられるどころか、周囲の人間達からは迫害されるかも知れない。

しかしそんな心配事も、彼の泣き顔を見た瞬間にどこかへと飛んでいってしまった。
この子供らしい元気な泣き声を聞いている内、きっとすぐに元の生活に溶け込める、そう感じた。

それに、たとえ周囲が白い目で見ようとも関係はないだろう。
この子の帰りを一番に待ち望んでいるのは、両親だけだ。

( ^ω^)「ロベルト……目を覚ますんだお」

泣き止まない少年の傍らにしゃがみ込み、その頭にぽんと手を置いて、言い聞かせる。
先ほどのように怒気を孕んだものとは対照的に、優しく、語りかけるように。

( ^ω^)「君はゴブリンじゃない―ー”人”、なんだお?」

ζ;ゝ)「うぅ……うああぁぁぁぁぁんッ」

ぽんぽんと彼の頭の上で、手のひらを優しく上下させ続ける。
その作業は、やがて彼が泣き止み、大人しくブーンに手を引かれるようになるまで続けられた。

323名無しさん:2024/10/10(木) 03:29:16 ID:Si4yTBmk0

        *  *  *



彼の手を引き、洞窟の入り口を抜ける頃には、すっかり大人しくなっていた。

外はもうとっぷりと日が暮れ始めており、今からリュメに帰れば夜だろう。
今晩は一晩ゆっくりとリュメで休息し、明日の朝ヴィップに発とう。

そう思い、出てきた洞窟の方へと何気なく振り返ってみた。

(#℃_°#)「………」

すると、洞窟の入り口の真上に位置する茂みの奥に、一匹のゴブリンの姿があった。
敵意を向けるつもりはないのか、立ち尽くすブーン達を、ただ黙って見下ろしている。

さっきの戦闘から逃げおおせた、生き残りのゴブリンであろう。
沈みゆく夕日を背に、ゴブリンとブーンはしばし見つめ合っていた

それを傍目に、突如ロベルトが言葉を発する。

ζ・ゝ)「───ば、い」

彼もまた、茂みのゴブリンの視線に気づいていたようだった。
手を振りながら、人間流の別れの挨拶を岩場のゴブリンへと送った事に驚いた。

324名無しさん:2024/10/10(木) 03:29:49 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「お前たちが心配しなくても──この子はきっと、元気に暮らしていけるお!」


ブーンも、見下ろすゴブリンに対してそう叫んだ。

ロベルトに対しての、親や兄弟としての感情。
もしかするとそんな情深さが、彼らの間には宿っていたのかも知れない。

洞窟の攻略は、時間にしてみればものの一刻に満たぬ間だった。

たったそれだけで、そこに暮らしていたゴブリン達の生活を全てぶち壊した。
さっきの獣のようなロベルトは鳴りを潜め、帰途に就く今ではしおらしいものだ。
思えば、親兄弟の仇を目の前にしたのならば、自分もさっきの彼のようになっていたかも知れない。

ロベルトにしてみれば育ての親である彼らを残酷に殺したのは、外ならぬ自分だ。
その事実と向きあうにはロベルトには酷であろうと、ブーンの心はずんと痛んだ。

(#℃_°#)「………っ」

口を動かし、何か呟いたようだが、ここまでは聞こえてこなかった。

ゴブリンが自分達に背を向けて去っていったのを確認すると、自分もまた洞窟へ背を向ける。
依頼達成の報告をフランクリン夫妻へと届けるため、あざ道を帰路へと目指した。

ζ ゝ)「ばい、ばい」



        *  *  *

325名無しさん:2024/10/10(木) 03:30:30 ID:Si4yTBmk0

────【リュメの街 フランクリン宅前】────


街に入り、人の姿が目に入ると、ロベルトは急にブーンの手を振り払って暴れようとする。
だが、この子の両親の元へ連れていくまでは、決してこの手を離すつもりはない。

手甲に噛り付かれたりもしたが、痛そうに口を開けて泣きそうな顔をするのは、まだまだ子供の証だ。

( ^ω^)「さ……着いたお?」

ζ・ゝ)「………?」

どこか、懐かしいと感じているのかも知れない。
ドアの向こうで灯された明かりに、吸い寄せられるようにフラフラと歩いてゆく。

そこを、自分がノックしてやった。

「………はい!」

ブーンだと思ったのだろう、ドアの向こうで慌しく、こちらへと駆けてくるフランクリン。
がちゃ、とドアが開けられた時の彼の表情は、この時のブーンの脳裏に深く刻み込まれた。

( '_/')「待っていました、ブーンさ───」

ζ・ゝ)「………あ」

(°_/°)「────ん」

( ^ω^)「戻ったお、フランクリンさん。
       ─────約束通り、”ロベルト君を連れて”」

326名無しさん:2024/10/10(木) 03:31:20 ID:Si4yTBmk0

その後のフランクリンの歓喜の様子は、凄まじいものだった。
夜分にも関わらず、近隣にも轟くほどの大声で、けたたましく妻を呼びつける。

( ;_/;)「マ……マディーッ! マディッ!」

ノ|| '_')「何ですか、あなたそんなに………って、え!?」

玄関口に立つ、少しばかり背丈の大きくなった愛息子の姿を目の当たりにした瞬間、
彼女もまた口を手で押さえて、溢れ出す言葉をどうにか抑えとめていたようだ。

言葉をかける間も挟ませず走り出すと、ロベルトの前に膝をつき、その身体を力強く抱きしめた。

ζ>_ゝ)「あうっ!」

ノ|| ;_;)「あぁ……ロベルトッ! 私達の、ロベルトなのね!?」

最初、暴れだすかとも思って待機していたが、意外にも母親に抱きとめられ、
その身をだらりと投げ出し、されるがままになっていた。

多少苦しそうではあるが、その表情にも次第に変化が見て取れる。

( ;_/;)「……まさか、まさか生きていてくれただなんてッ!」

目頭を押さえて、そこからも大粒の涙が伝うフランクリン。
その、両親ともが号泣している状況に釣られてか、あるいは───

ζ;_ゝ)「あ”ぁぁぁぁッ」

ついにはロベルトも泣き出し始めた、リュメの夜空。
フランクリン親子の泣き声の、三重奏が響き渡っていった。

生家に戻った事で、様々な記憶が蘇ったのだろう。
ロベルトは両親の事をやはり忘れてはいなかったようだ。

だが彼の涙には、もしかすると共に暮らしたゴブリン達の死を悼むものでもあるかも知れない。

327名無しさん:2024/10/10(木) 03:32:11 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)(良かった……本当に、良かったお)

寄り添う三人に踵を返し、邪魔者は消える事としよう。
今夜は二年越しの親子水入らずを、ゆっくりと楽しんで欲しいものだ。

冷たい夜風が、火照った頬を撫で付ける。
心地よい涼しに、はたと星空を見上げてみる。

( ^ω^)(どこへでも繋がってるんだおね……この、空は)

空で光り輝く星たちに、一抹の思いを馳せる。
柄にもなく詩的な一節が口から出てくるのは、依頼を無事達成した事に対して
熱を帯び、どこか舞い上がっている自分がいるのだろうか。

( ^ω^)(ならブーンも、どこへでも行けるお………どこへでも)

そして彼の足は、今も背後で聞こえる泣き声に振り返る事も無く、再びヴィップへの帰路へと踏み出した。



        *  *  *



────かに思えたが、唐突に何かを思い出して、フランクリン宅へと駆け戻った。


(;  ω )「………ッ!!」

(; °ω°)「いっけね!!」

(; °ω°)「成功報酬!!」

(; °ω°)「もらってねぇおぉぉぉぉぉぉッ!!」


───そして、すぐにばつの悪そうに顔を合わせる事となった───

328名無しさん:2024/10/10(木) 03:33:10 ID:Si4yTBmk0

        *  *  *



それから、宿泊を促すフランクリンから成功報酬だけを受け取ると、泊めてもらう事は遠慮しておいた。
代わりに夫妻から、幾度もの感謝の言葉と、力強い握手を何度も交わし、この胸はそれだけで満足だ。

( ^ω^)「親子水入らずを、楽しんで欲しいお」

それだけ告げ、最後に泣き疲れて眠ったロベルトの寝顔を見て、安心して再び帰路へと発った。

夜分にも関わらず、街を後にするブーンの姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
胸にロベルトを抱いたそんなフランクリン夫妻の姿が─────印象的であった。


そして、二日後。


────【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】────


(’e’)「───言葉を喋るゴブリン、ねぇ」

マスターは知っていたらしい。さすがは、様々な冒険者が集まる宿を切り盛りする店主だ。

ゴブリンの中にも様々な種類が居て、自分が相対したのは、数百匹に一匹の割合で
人間並みの知能を兼ね備えた、”ゴブリンシャーマン”というものらしい。

それならば、ロベルトを育てて仲間へ引き入れようとしていた行動にも、納得がいく。

329名無しさん:2024/10/10(木) 03:34:33 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「いやぁ、もうびっくりしたお! ま、ブーンの敵じゃあなかったけどお、ね」

(’e’)「ま、所詮ゴブリンだしな」

(;^ω^)「いやいや、それが十……数匹? ものゴブリンに囲まれたブーンには、
       聞くも苦労、語るも苦労のドラマがそこにはあったんだお!」

(’e’)「おーおー、そりゃすごい」


────辟易とした表情で、店主は頬杖を突きながら相槌を打った。


(’e’)「ま……俺の店の馴染みにゃあ、オーガ三匹に囲まれたとて、
   涼しい顔して剣一本でブッ倒しちまう奴もいるぐらいだからなぁ」

( ^ω^)「オーガって、あの……人鬼のオーガかお? それは話盛ってないかお?」

(’e’)「こないだ俺の店に来てただろ。あのジョルジュって奴、あいつさ」

(;^ω^)「あの人……そんなに強い冒険者だったのかお?」

(’e’)「ま……勝てない相手に喧嘩を売るのが、あいつの生き方だからな」

ヴィップに戻るなり、世話になった店主に冒険談を聞かせたいがため、いの一番にカウンターへと座り込んだ。
武勇伝を盛って話すブーンに対して、マスターからは淡々とあしらわれるような返し方をされ続けている。

だが時折、少しだけマスターも嬉しそうな笑みを浮かべてくれるのが、ありがたかった。

330名無しさん:2024/10/10(木) 03:35:05 ID:Si4yTBmk0

(’e’)「ま、そんな事よりも」

( ^ω^)「?」

エールグラスを磨く手を止め、じっと顔を覗き込んできたマスター。

(’e’)「お前さん……こないだよりも、いい顔になったな」

(*^ω^)「止すお、マスター」

(’e’)「本心さ。これで一皮向けて、冒険者になったな」

そう言って、背を向けたマスターは樽からエールをグラスへと注ぐ。
注ぎ終わったあと、再びブーンの方へと振り返ると、目の前へと置いた。

(’e’)「オゴリだ。こいつは俺からの、門出の祝いさ」

( ^ω^)「! ………ありがたく、頂きますだお!」

そのやりとりを見ていた一人の酔っ払いが、ブーンの首元へと手を回して、後ろから組み付いてきた。
まだ昼間だというのに赤ら顔で、何献酒を平らげたのか、吐く息は思わず顔を背けたくなるほどだ。

爪*'ー`)「よぉぉぉぉッ! 奇跡の再会だなッ、友よぉぉぉぉッ!」

(;^ω^)「な……なッ」

(’e’)「うるせーぞ、フォックス!」

爪*'ー`)「んぅ、おカタい事言いなさんなよぉ、マスターぁあん」

331名無しさん:2024/10/10(木) 03:35:45 ID:Si4yTBmk0

(;^ω^)「……フォックス。もう楽園亭に、来てたのかお?」

(’e’)「ん?お前さん、こいつと知り合いか?」

(;^ω^)「ん、まぁ……知り合いには違いないけどお」

(’e’)「お前さんが出立してから、入れ違いでヴィップに来たんだとよ、こいつは。
   店の客の迷惑も考えねぇで女は引っ掛けようとするし、酒は底なしだし、全くかなわんよ」

爪*'ー`)「んむむ………デレちゅわ〜ん!」

ζ(゚ー゚*;ζ「あの……フォックスさん……他のお客さんの迷惑になるんで……」

(’e’#)「てめぇッ! ウチの看板娘に手ぇ出しやがったら、叩き出すぞ!」

爪*'ー`)「……ちぇっ、分かったよ」

爪*'ー`)(今度あのハゲ親父に内緒でデートしようぜ、デレちゃん)

ζ(゚ー゚*;ζ「いや……あの……あはは」

(’e’#)「聞こえてんだぞ……」


苦笑いで何を逃れた店娘のデレは、客に呼ばれたのを良いきっかけに、卓へと駆けていった。
その後ろ姿に鼻の下を伸ばしていたフォックスが、またブーンのもとへと歩み寄る。

爪*'ー`)「依頼さ、達成したんだってな。おめでとさん」

( ^ω^)「大変だったけど、何とかこなせたお」

332名無しさん:2024/10/10(木) 03:36:48 ID:Si4yTBmk0

爪*'ー`)「やるねぇ、このこの……実はさ、俺も冒険者になるぜ!
    とは意気込んではみたものの、俺そういうのぜーんぜんわかんねぇんだわ」

( ^ω^)「ブーンもよく読んでた手引き書の内容を、曖昧に覚えている程度だお?」

爪*'ー`)「注意力とか洞察力、あとは手先の器用さには自信があるんだけどさぁ」

爪*'ー`)「どうにも、俺みたいなタイプが一人で一匹狼気取るのは、ちっとキツイんだわ」

( ^ω^)「確かに……ブーンもゴブリン相手とは言え、一人っきりは辛かったお」

爪*'ー`)「そこで、だ……パーティー組まないか? この、俺とだ」

( ^ω^)「パーティー?」

爪*'ー`)「あぁ、損はさせねぇさ。ブーン&フォックス! あいつらがあの伝説の───!」

爪*'ー`)「……なーんつって言われるようになるかも、知んねーだろ?」

フォックスからの突然の申し出、頭に手を置いて、ブーンはじっくりと考えてみた。

危険な旅は、人数が多いほうが良い。それも、信用できる人間ならなおさら有難い。
フォックスの人間性については、ここまでで数度しか会話を交わしていないが、
ある程度自分に近い感じを受け、受け入れやすい人柄だと思っていた。

依頼の報酬は減るが、背中を任せられる相棒が出来るのは、頼もしい事だった。

( ^ω^)(ずっと一人って訳にも行かないし、良い機会……かも知れないお)

爪*'ー`)「……どうだ?」

333名無しさん:2024/10/10(木) 03:37:30 ID:Si4yTBmk0

( ^ω^)「その申し出、喜んで引き受けるお」

爪*'ー`)「……よっしゃ!今日から俺とお前は仲間だ、ブーン!」

(’e’)「おいおい、こんな奴と組んじまっていいのか?」

( ^ω^)「ブーンの目に、狂いはない!……と信じたいお」

爪*'ー`)「まーまー、損はさせねぇってば。
    あ、改めて自己紹介しとくぜ」

爪*'ー`)「”グレイ=フォックス”、生まれはどこだか忘れちまった。
     が、当分はヴィップを根城にする。楽園亭に骨を埋める覚悟だ、よろしくな」

(’e’)「おいおい……勘弁してくれねぇかな」

( ^ω^)「”ブーン=フリオニール”、生まれはサルダの村だお。
       まだまだ駆け出しだけど、こっちこそよろしくだお!」

無事依頼を達成したブーンの元へ現れた、フォックス。
偶然にも再会した二人は、旅を共にする事となった。

酒を酌み交わし始める二人の姿を見ながら、これまでよりも煩い店内になってしまった
失われた楽園亭のマスターは、頬杖をついて厄介そうにため息をついていた。

だがこの翌日、さらにこの店を騒がしくしてしまう来訪者が訪れる事を、マスターはまだ知らない。

334名無しさん:2024/10/10(木) 03:38:04 ID:Si4yTBmk0


        *  *  *




(´・ω・`)「───見えてきたね、ヴィップが」

ξ;゚⊿゚)ξ「や、やっと……柔らかいベッドの上で寝られるんだわ……」



    ( ^ω^)冒険者たちのようです

            第6話

        「名のあるゴブリン」


             ─了─

335名無しさん:2024/10/10(木) 03:41:02 ID:Si4yTBmk0
>>278-334が、ゴブリンをよく狩る人には怒られそうな第6話となります。
 焼き直し作品ですので基本sage進行でかまいません。

336名無しさん:2024/10/11(金) 23:21:30 ID:58yxKtJ20
乙津

337名無しさん:2025/01/26(日) 16:15:09 ID:sTdmUGKk0
飽きるの早すぎんか…

338名無しさん:2025/02/17(月) 15:38:41 ID:GsdDy/eU0
クオリティ高いな。
カードワース題材というのもしぶい。


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