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(  ω )千年の夢のようです

1 ◆3sLRFBYImM:2016/01/19(火) 20:21:37 ID:gSZtJVr60
投下日程が決まり次第、ご報告します


前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです(1スレ目)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/

( ^ω^)千年の夢のようです(2スレ目)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1411483057/



まとめサイト様(以下敬称略)
> ブンツンドー
> グレーゾーン
※URLはNGワードが含まれているようなので省略しました
 いつもありがとうございます

2名も無きAAのようです:2016/01/19(火) 20:32:08 ID:XGPwEc9w0
立て乙
web.fc2がNG引っかかるのはhttp://抜けばなんとかなるはずよ

3 ◆3sLRFBYImM:2016/01/19(火) 20:41:03 ID:gSZtJVr60
前スレ誤字脱字のご指摘について


>>915の最初の弟者の台詞に」がない→脱字
>>918の遮えられぬ→遮られぬ
>>919の代わり海底→代わりに海底
>>928のTtips→Tips
>>936のシュー許可→シューの許可
>>自分に化した→自分に課した
>>953のれーす→レース
>>954のガナー眼差し→ガナーの眼差し
>>970のいなくっても→いなくなっても
>>975の時間も事例が→時間も事例も
>>986の声主→声の主
>>988のそこんな→こんな

>>過去話の方でも
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた>>562
確かかなのお→確かなのかお
ミ,,゚Д゚彡:時の放浪者>>474
データムロム→データムログ
( ^ω^):白い壁 黒い隔たり>>332
二度と国に足を運びいれることは必ず→二度と国に足を運びいれることは叶わず
>>342
飛び出していきく→飛び出していく


上記を
(指摘)→(正しい言葉)
として記載します
遡り教えていただき本当にありがとうございます
なんとかこのスレでは誤字を減らすべく頑張ります

4 ◆3sLRFBYImM:2016/01/19(火) 20:42:57 ID:gSZtJVr60
>>2
おお、そうなのですか
これだとマップを載せるときにどうしようか悩みましたが、症状が出た際はそのようにやってみます、ありがとうございます!

5名も無きAAのようです:2016/01/19(火) 20:44:21 ID:XGPwEc9w0
> ブンツンドー
buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
> グレーゾーン
boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm

分かってんならお前が貼れよってツッコミが聞こえてきそうなので

6名も無きAAのようです:2016/01/19(火) 22:13:15 ID:do5697pEO
千年の夢待ってたー
楽しみにしてる!

7名も無きAAのようです:2016/01/19(火) 23:02:31 ID:Gp6OFqHY0
また大喜利スレ?

8名も無きAAのようです:2016/01/20(水) 00:46:07 ID:vqRkkonc0
新スレたったか!待ってるぜ
>>7
酉もついてるし今度は本物だろう

9名も無きAAのようです:2016/01/20(水) 11:51:48 ID:6OSHSUBI0
http://ssks.jp/url/?id=348

10名も無きAAのようです:2016/01/31(日) 16:40:10 ID:CpdrRl2s0
わくわくすっぞ

11名も無きAAのようです:2016/01/31(日) 20:35:29 ID:D4s.bZ9s0
大喜利スレは酷かったな

12名も無きAAのようです:2016/01/31(日) 20:58:10 ID:HeDv0XAw0
キタワァ

13名も無きAAのようです:2016/02/09(火) 23:27:47 ID:Bz4T4Pig0
まだか

14 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 08:12:56 ID:kplcTHvk0
本日の夜か週末に、少し投下していきます
よろしくお願いします

15名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 15:10:23 ID:uXiijq9A0
やったぜ!

16名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 15:16:14 ID:4avyquJEO
よっしゃきたか!

17名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 17:03:53 ID:N96v9.gI0
よし来た

18 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:15:29 ID:WEBAMmVw0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

          只今ディスクを入れ換えています。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

19 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:16:40 ID:WEBAMmVw0


蒼い海の上を羽ばたく生き物はいつもどこへいくのか。

同属ですら、すれ違う一瞬、挨拶もなく、
ただ元気な姿をみることで想像するしかない。


今日をつつがなく遊回し飽きた頃、
彼らは巨大な夕日に身を焼き尽くされるがごとく姿を消しはじめる。
おそらくは存在意義…その酷使した翼を休めるべく、彼らは彼らの住まう世界へと戻るのだろう。


去りゆく眼下に広がった、いつもと同じ日常を過ごす地上の者たちにも同じことがいえた。

一時を共有し、夜の帳と共に眠りについたとしても…
陽が昇れば多くを忘れ、一握りの思い出を胸に今日という一日をまた生きる。

そんな一週間前に食べたものすら曖昧な記憶力に、人間はすべてを頼ろうとする。


誰がどうした? 彼がそうなった?
好奇心がなければ言葉も交わさず、興味がなければ瞬く間に忘却してしまうくせに、
人間はやたら多くを知りたがる。


……どこへ辿り着くかもわからぬ、虚しく残酷な好奇心。

20 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:18:08 ID:WEBAMmVw0
愚かしいことに。
知ろうとすれば知るほど今度は、
指をくわえて結末を待つだけの無謀さを嫌でも思い知らされる。


あらゆる想定に行動を備える者もいれば、
本能のまま、来るものを拒まぬ姿勢で過ごす者もいる。
����だがそれすら。
等しく自分の世界でしか物事を見ない証拠に他ならぬことを、いつか気付ける日がくるのだろうか…?


川 ゚ -゚)
     《コツ…コツ…》

たったいまブーツを鳴らして歩くクーは、ずっと考えている。
少なくとも…記憶のあらん限り。


人間のもつ、他の動物とは恐らく決定的に異なる部分。

ヒトという種のためでなく、自分のためでもない…。
昨日まで何も知らなかった隣人のために、
今日を共に生きるための感情を分け与えるという性質。


川 ゚ -゚) 「少し遅くなってしまったな」


自己を犠牲にしてでも誰かに寄り添う心。
誰もが大なり小なり抱えていて、ある日、不意に湧き上がる "情" だ。
はみだし者のチンピラも、性を自覚する前の幼子も、
死を控えた老人にも、それはいつか芽生えるものだ。


だからこそ悩み、病み、時に自ら命を投げ出してしまうこともあるかもしれない。
幸い生き永らえたとしても知らず知らずのうちに歪み、
その気もないのに周囲を傷付ける刃を研いでしまう者もいるかもしれない。


誰かと時間を共にするからには、そういったリスクもある。
喜びと哀しみは表裏一体だ。

21 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:23:43 ID:WEBAMmVw0
しかして天道様の明るみに晒されてすらそんな有り様なのだ。
陰に残る、止まないざわつきも居場所を変えるだけで本質は何も変わらない。


いくら声高らかに正義を唱えても、
見失った到着点には永遠辿り着くことはない。


ならばせめて、自分のために堂々と生きられるだろうか?
どういうわけか、月下であれば赦されることも、
なぜか陽の下では憚られるような錯覚に陥るのも人間の性だった。


(゚- ゚ 川 「…」

川 ゚ -゚) 「……」


だからこそ、というべきか。
人は新しいものなどありはしない、言い尽くされた日常を求める。
飽き飽きしつつも不満のない生活を望む。


クーが歩いているこの西の都も、それを反映するかの如し同じ風景を映し出す。

宵に紛れて往来する人は徐々に少なくなっていく。
幸せの総数が限られているのか、
都に入ったときよりも表情に微笑をたたえる者が増えている気がした。


それはまるで…この場にいない者の分まで笑っているかのように見えた。

22 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:25:22 ID:WEBAMmVw0

《コツ…コツ…》と、低めのヒールを取り付けたブーツ底が鳴らす鐘。
無限の夜空に点在する星のように、空白とリズムを刻む。


((  川 ゚ -゚)


クーとすれ違う、通りすがりの見知らぬ男が振り向いた。
道端で毛繕いする野良猫すらチラリと彼女の機嫌を窺い、
しかし警戒に値しないと判断したのか野生の習性へと身を戻す。


両端に建ち並ぶ商店のシャッターはすでに閉じていた。

裏路地からは食材を煮込んだ残り香が漂っている。
勝手口からまばらに出てくるのは…
例外なくあくびを噛み締め、帰路につく直前の店主たちだろうか。

…そんな彼らも思わず口を塞ぐことを忘れ、クーに視線を注ぐ。


歓楽区の灯りに佇む美女――いやそれどころか、
娼婦には持ち得ない美しさと高貴さが滲むその雰囲気に、思わず唾を飲み込んだ。

23 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:28:10 ID:WEBAMmVw0
そんな住人たちの反応など意に介さず、なおも踵を鳴らして彼女は歩く。

すでに刻は日を跨いでいた。
辺りから人の影が見えなくなっても、ひたすらに商業区内を奥へ…奥へと。
 《コツコツコツコツ…
        コツコツコツコツ…》
何度も路地を曲がり、目的地となる行き止まりに辿り着く頃には
彼女の歩調は大きく、そして速くなっていた。
いつの間にか手には錫杖が握られ、シャラリと尖った音をたてる。


川 ゚ -゚) 「…」


足を止めて仁王立つ。
上下に揺れる肩が、荒くなった息を整えようと空に訴える。


ゆったりなびく黒髪の毛先と裏腹に、忙しなく巡らせる視線に飛び込むのは
[closed factory]の文字を掲げるモナー工房…。

しかし掛けられたその札の意味も虚しく、
扉は薄く開かれ、中からは暖かな空気と灯りが漏れる。

      コンコンッ  
川 ゚ -゚)つ|´


一見して風景は周囲に溶け込んでいる…、ノックの音だけを空回らせて。
待ってみても、工房内からは一切の物音もしない。
…時刻はもう真夜中になるのだから当たり前なのだが。


川 ゚ -゚)

24 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:28:59 ID:WEBAMmVw0
――不安。
だけでなく、違和、異物、焦燥と…。
ぞくぞくと胸中が騒ぎだしていることを知るのは主たる彼女だけだ。


川 ゚ -゚) 「【シールド】、【バリア】」


表情を引き締め、物理防御壁と魔法防御壁を同時に張る。
幾何学模様のプリズムが亀の甲羅を象り、その上からオーロラを纏った。

別々の魔導力を行使したことで錫杖に付けられた二つのリングが発光し、
溜め込んでいた魔導力が一時的に失われる。


川 ゚ -゚) 「モナー、入るぞ?」

25 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:31:19 ID:WEBAMmVw0
モナー工房に静寂は滅多に訪れない。

クーの知る彼は、灯りをつけっぱなしで眠りこける癖など無いし、
まして依頼人を待たず、更に迂闊に工房を留守にするような意識の低い者ではない。

舞い込み続ける依頼の陰で、
余暇があれば職人としての技量を研ぎ澄ませるような…良くも悪くも堅物だ。


クーは扉をゆっくり押し、その身体ごと進入すると中の様子を窺う。


(゚- ゚ 川 「…」


そうやってエントランス、客間を順番に開け放ち、工房奥の扉に手を伸ばした直後のことだった。
    《ガダ
         ダッ!!》
強い衝撃が建物全体を襲う。
異物を排除するかのような人為的振動。


::川 ゚ -゚)つ:: 「…【フォース】!」
             《ギィン!》

崩れ落ちようとする脚に力を入れ、
クーは伸ばしていた手のひらをそのままに魔導力を解き放った。
もう一方に握る錫杖のリングからは耳障りな金属音が鳴り響くも、
先の衝撃で既にひび割れていた壁の倒壊に紛れた。

しかし、クーの身を離れた魔導力はそれだけに止まらない。
収まりつかぬ暴力へと変換され、残る内部の物質を砕く。


川 ゚ -゚)つ 「何者かは知らないが表に出ろ。 ここはモナーだけの聖域だ」


声に呼応するかのようにひらけていく風塵…。

ぶら下がる鎖や竈に傷はなく、
しかし横殴りに吹き飛ばされた工具が反対側の壁へと散らばっていた。


見れば部屋の隅でうつ伏せに倒れたモナーの姿。
����同時、その傍らに佇む男の姿があった。

26 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:32:03 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「……お前」


モナー以外の…向こう側にいた存在もろとも破壊しようと先制に放った魔法だったが、
その目論みは果たされなかった。

それどころか。


川 ゚ -゚) 「いつ以来か…久し振りだな。 だがこんなところで何をしている?」




           (^ω^ )


半壊した部屋の中心に佇む不死の仲間。
無傷のブーンは平然とそこに立ち、クーを見つめていた。
大剣デュランダルを無造作に握って。


川 ゚ -゚) 「モナーに何をした」

(^ω^ )「僕じゃないお…来たときには、もう」

川 ゚ -゚) 「だったら尚更だ、どうしてここに――」

(;メメ ∀ )「…ぅ」

川 ゚ -゚) 「モナー!」


ブーンの脇を抜け、クーは駆け寄った。
抱き抱えたモナーの身体には赤黒い痣が浮き、細かな切り傷が無数に浮かぶ。
間違ってもそれは【フォース】のダメージ痕ではない。


            (^ω^ )

27 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:34:46 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「大丈夫か、なにがあった?」

(;メメ´∀`)「……ぁ、ぁ…クー?」

川 ゚ -゚) 「良かった…事故か、それとも…?」

(;メメ´∀`)「ゃ………槍」

川 ゚ -゚) 「槍?」


クーは辺りを見回す。

短めにぶら下がる照明はまだ少し揺れている。
指向性の強い光が当てられた両壁にはこれまでモナーの拵えてきた、
種類豊富な武器やアクセサリーがところ狭しと並べられ、
そのすべてがスライド式のクリアケースに収められている。

そのなかには槍も置いてある。
いずれも定期的に手入れされているのか、刃の部分は鞘に被せられ、しかし埃汚れなどは見受けられない。

隙間なく、綺麗に陳列されている。


川 ゚ -゚) 「すべてあると思うが…」


モナーは首を振ってそれを否定した。
代わりに震える手で指したのは……作業場の中央に鎮座する竈。

上部から挿し容れられるよう、
天井の四方から繋ぐための鎖が設置されているものの、いまは所在なさげに宙を泳いでいた。


(;メメ´∀`)「…うぅ……」

川; ゚ -゚) 「…」

28 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:37:26 ID:WEBAMmVw0
項垂れるモナーの瞳を覗くも、彼から窺えるのは驚愕の表情だけ。


次に思い浮かべたのはブーンだが、
彼がそれらしいものを気にしたり、持っていた様子はなかった。

槍は携帯性の悪さからひどく目立つ。
たとえば持ち出すにしても、隠し持てるような得物ではない。


そこでやっとクーは気が付いた。

ブーンの姿が見当たらないのだ。
目を離したほんのわずかな間に、工房はクーとモナーの二人だけが息している。


川; ゚ -゚) 「なんだというんだ」


ともかく錫杖を脇に【ヒール】を詠唱。
淡い光がモナーを包み、傷を癒やそうと魔導粒子が収束していく。

しかし、痣を避けるその流動はクーの不安を煽った。


川 ゚ -゚) ( これは呪術の傷…だがモナーは )

(;メメ´∀`)「…ご…ごめん、指輪はまだ…」

川 ゚ -゚) 「そっちはいいよ、それよりもまずは状況を話してくれないか。
痛みがひいてからゆっくりでいい」

(;メメ´∀`)「槍が……生きてたモナよ」

(;メメ´∀`)「不死者を出せ……そう言ってた」


川 ゚ -゚)


川; ゚ -゚) 「…なんだと?」


 

29 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:42:17 ID:WEBAMmVw0

工房を出たクーは夜の【ロータウン】を走る。
数分前に比べれば強く叩かれるブーツの底が、整備されていない路地のタイルをガツ、ガツと削る。


『化け物モナ…。(´∀`メメ;)
 気を失う前にみえたのは、黄色い瞳と����』


( 化け物… )    三   川 ゚ -゚) 


慣れない疾走に長い黒髪がなびく。
手入れ済みの艶やかさが宵の寒気を吸い込み、張り詰めた緊張を演出した。
はためく外套は防寒具の役目を忘れ、口元からは白い息が流れた。

槍が化け物なのか…。


( アサウルス……? )   三 川 ゚ -゚) 


自然とその単語を思い浮かべ、クーは首をかしげた。
……どこで知ったのだろう?
名前は知っているのに、記憶からは何も引き出せない。


こんな時、クーは思考をさっさと切り替える。
自分の記憶ほどあてにならないものはない。
現状を把握するならば、客観的に見直してみるのだ、と。


…モナーの赤黒い痣は呪術の跳ね返り。
…魔導力そのものによるダメージ。


それはまるで "偽りの湖" における穢れのような����


           「!!」 (゚- ゚ 川


����今まさに街のどこかで膨張し続けている、
赤黒い魔導力…【ウラミド】の波動と同じものだ。



(推奨BGM:Fire Above the Battle)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo

30 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:43:28 ID:WEBAMmVw0
----------


( <●><●>) 「……不完全な魔法で貴方をきちんと始末できなかった "私達" の責任ということはわかってます。
……申し訳ありません」


いまは昔、赤い森の惨劇から続く怨念。

かつてナナシはショボンを庇い、
闇のブリザード…【リベンジフロスト】をその身に受けてしまった。
生粋の呪術師にも制御できない【ウラミド】の暴走によって。


( <●><●>) 「今の私であれば、もっと完璧に仕上げてみせます。
……この、未完成だった身体に託された先祖達すべての魔導力で」


ナナシという青年の人生も、ずいぶんと永く停められていた。
それなのに…やっと目覚めて間もなく。
この日、悲劇と報復が再開しようとしている。

かつては土塊だったワカッテマスの怨念が、赤い森の一族を騙る。



ワカッテマス。
生まれもった使命に奔走し…
����見せかけの自意識に踊らされて����
定められた呪いを遂行するだけの "哲学ゾンビ" と成り果てつつある泥人形。



ミ,,゚Д゚彡 「でやあああっ!」


時を加速させたように、ワカッテマスの眼前まで全身を運ぶ。



ナナシ。
生まれ堕ちた境遇ゆえか…
����運命に翻弄されては未だ幸を掴めぬ����
定められた不可視の呪いに抗いながらも、今を必死に生きるひとりの人間。



それは獣よりも速く、
それは獣よりも力強く、
ツヴァイヘンダーを突きだした。

31 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:46:09 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「!」


クーの瞳が彼らを捉えたのはまさにその時。
塀の下…視程に収まっているのはどちらも人間の形をしていたが、洩れる波動は偽れない。


川; ゚ -゚) 「…ちっ」


本来ならば詠唱すら惜しみ、すぐにでもリングに溜め込んだ魔導力を放ちたかった。
だが手前にいる青年が邪魔をして、強力な魔法は躊躇われる。

時間はない。



( <●><●>) 「……【リベンジフロスト】」

川 ゚ -゚)つ 「封じろ…っ、【サイレス】!!」



&nbsp;

32 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:47:06 ID:WEBAMmVw0




&nbsp;

33 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:48:12 ID:/giCWiAc0

( <●><●>) 「……まさか、」

ミ,,゚Д゚彡


ワカッテマスは、フラりと身体を後ろによろめかせ……一歩下がっただけでまた立ち尽くす。
ナナシのツヴァイヘンダーの切っ先は、届かなかった。


( <●><●>) 「まさか私が冷や汗というものをかけるとは知りませんでした」

( <●><●>) 「……詠唱を途中で止めなければ、倒れていたのはこちらの方でしたね」

ミ,,゚Д゚彡


前傾姿勢でツヴァイヘンダーを長く前に突き出したナナシは動かない。
…………その全身は、蝋で塗り固めたように凍っていた。


( <●><●>) 「……中途半端な詠唱と魔法ゆえに、いずれまた目覚めてしまうことはわかってます。
……ですから」


この時、ワカッテマスは思い違いをしていた。


彼の詠唱と魔法が中途半端だったのではない。
クーによって魔導力の噴出を留められた結果なのだ。


【サイレス】は対象となる者の魔導力の出入り口を塞ぐ。
指先、手のひら、身体全体に至るまで。
真逆のベクトルをぶつけることで、一時的に波動を相殺することができる。


( <●><●>) 「【フォース】」

34 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:49:35 ID:/giCWiAc0
魔導力の波は確かにワカッテマスの身を巡った。
だが発動には至らない。


( <●><●>)


( <●><●>) 「……?」


…その結果、彼はナナシに止めを刺せない。
文字通り静寂が場を支配する。
いうことを利かぬ我が手を不思議そうにまじまじ眺めていた。


( <●><●>) 「……なぜ?」


辺りから聴こえる硬い足音。
彼がそれに意識を向けた時にはもう遅い。


【サイレス】は魔法の出入口を塞ぐだけだ。
種類を選ばない代わりに、
身体に内包される魔導力の流れそのものをコントロールすることは出来ない。


真の意味で魔法の仕組みを理解できるのは、好奇心あふれる研究熱心な魔導師に限られた。
だから����経験値のない、土塊だったワカッテマスは自身の異変にすら気付けない。


"哲学ゾンビ" に、未知の体験は突破することができない。


川 ゚ -゚) 「間に合って良かった。
あんな特殊な魔導力ならどこにいても見付けられるさ」

(<●><●> ) 「!」


ワカッテマスの頭上、不死の女王が錫杖を振るう。
その姿は愚か者に天罰を与える女神の如く。


川 ゚ -゚) 「アイツに頼んだ依頼が後回しにされてると思えば…
どうりでキナ臭くてたまらないわけだよ」

35 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:50:39 ID:RR8t2NkE0
整備されていないロータウンの地形は入り組んでいる。
最短距離を駆けたクーだったが近接叶わず、そのまま少し離れた塀の上からワカッテマスを威圧した。


( <●><●>) 「……」

       《ズキッ����》
妖しく光る闇色の眼。
モナーの言葉を思い出しながら、
吸い込まれそうなほどに大きな瞳孔を見たとき、クーの後頭部に走る痛み。


川 ゚ -゚) ( モナーのいう槍…とは違うだろうが )


向かい合う瞳には見覚えがある。
ワカッテマスから放たれる赤黒い魔導力…【ウラミド】の残滓が如実に物語る。


( <●><●>) 「……これはこれは女王様」
      《ズキッ����》
川 ゚ -゚) 「…」

( <●><●>) 「……まだ貴方の出番ではありませんよ。
引っ込んでいてください、まだ一人足りていないのですから」


あれは三十年前だったろうか…。
大陸中を苦しめた流行り病があったのは。
   《ズキ ンッ》
そして同時に思い出す。 七十年前の大陸戦争を。

  _,   《 ズ キ ン ����》
川 ∩ -゚) 「…っ」


眼球より奥から打ち響く頭痛が激しさを増していく。
ハンマーのような鈍器で、鉄の扉を叩きつけるような…。
ロックされた鍵穴に、見当違いの針をぐりぐり刺し込まれるような…。

36 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:52:05 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ∩ -゚) 「…不思議なものだ、こうも真逆に感じるとは」

( <●><▲>) 「……はあ?」
  _,
川 ゚ -゚) 「以前お前に見せてもらった呪術とは全然違うな」

( <●><●>) 「そうですか、お会いした憶えは私にはありませんが……
かつての "私" がお世話になったのかもしれませんね」


口許を弧月に歪ませるワカッテマス。
…そんな彼を見ている間は激痛も受け入れられた。
この程度を痛がる権利は無いのだと、どこかで誰かの声がする。

        ・・・・・・・・
…だからクーに、今のワカッテマスと会話するつもりは更々ない。


( <●><●>) 「ああ、それとも【ウィルス】をばら蒔いた頃ですかね」
  _,
川 ゚ -゚)


流行り病の蔓延した当時…確かに人命が多く失われた。
そのなかに含まれる賢者達……彼らの死を思い出して、頭痛はさらに悪化していく。

37 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:53:18 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ゚ -゚) 「モナーには最低限の治療をしておいた。
こいつが片付いたらお前にも手伝ってもらうぞ」


クーは思う。
ブーンはどうしてなにも告げず姿を消したのか。
動機が判らない。
ブーンがクーを避ける理由に見当がつかない。


( <●><●>) 「モナー…? はて、存じませんが」
  _,
川 ゚ -゚) 「それにしてもなんだ、その薄汚れた格好は」

( <●><●>) 「……??」


さすがに悦に入っていたワカッテマスが怪訝な顔をし始める。


彼女の目的はモナーに依頼した指輪の回収。
ブーンのことも、ワカッテマスのことも、気にならないといえば嘘になる。

だがそれは同時に、解決するに適した人物が自分以外にいることを知っている。

  _,
川 ゚ -゚) 「…そろそろなにか喋ってくれないか? 手元の材料だけではなかなか判別がつかないんだ」

( <●><●>) 「……なんなのですか、一体」

「…んー悪い、ちと考え事してたもんで」



   そう、たとえばこの男のように。


  _
( ゚∀゚)∩ 「…よう」

38 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:55:12 ID:RR8t2NkE0
再会����と形容するかは分からないが����、
ただでさえ大きな瞳を見開き、驚きを隠せない様子のワカッテマス。

ジョルジュも同じ気持ちなのだろう。
歯切れ悪く、彼の名を呼んだ。
本来、二人が現実に対面することなどあり得なかったのだから当然かもしれない。

  _,
川 ゚ -゚) 「久しぶりだな。 しかし、お前までどうしてこんなところに」
  _
( ゚∀゚) 「いやぁちょいと野暮用で…って、どうした、大丈夫?」


今の今まで、ジョルジュは自身で破壊したダットログの設備修復に追われていた。
…いつもならばビシッと着こなすはずのブランドスーツは袖が綻び、裾も黒ずんでいる。

ワカッテマスが二人を交互に睨み付けた。

  _
( ゚∀゚) 「…二人してそう睨むなよ…」
  _,
川 ゚ -゚) 「ふむ、やはりコイツがお前の言っていた片割れか」


クーの錫杖がシャラリと鳴った。 彼女の警戒は解かれない。


ワカッテマスにとって…前門の虎、後門の狼。
ナナシという餌に釣られた結果、喜ばしくない状況を生み出してしまった。


( <●><●>) ))
  _
( ゚∀゚) 「おーっとあまり動くなよ…【ドッジ】!」
  _,
川 ∩ -゚)
《ズキン…ッ》

39 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:58:17 ID:RR8t2NkE0
頭痛に気をとられるクーに代わってジョルジュの制止は早かった。
さらには呪術で身体能力を高め、即座に動けるよう備えている。

大人しく従うワカッテマスだが、その傍らには氷付けのナナシ。
ジョルジュにとっては人質になり得る知人だからこそだ。


( <●><●>) 「……大事ですか、彼が?」
  _
( ゚∀゚) 「まんざら知らない仲じゃあないんでな」

( <●><●>) 「私よりも?」
  _
( ゚∀゚) 「…」


ワカッテマスは時間を稼ぐ必要がある。
このままでは魔法が使えない。
ジョルジュに挑むどころか、クーから自身の身を守る術も限られている。

  _,
川 ゚ -゚) 「槍はどこだ」

( <●><●>) 「……? 存じません」
  _,
川 ゚ -゚) 「しらばっくれるなら期待通りの結末を迎えさせてやるが」

(<●><●> ) 「本当に存じませんよ。
……私にしてみれば、彼を見付けてここに居るだけですから」


そういったワカッテマスの腕が少しナナシに向けられただけで、クーの錫杖のリングに輝きが灯る。
圧力をかけるように、ジョルジュも一歩近づいた。


二人同時を相手に、魔法の封じられた呪術師が敵う道理はない。
それでも、ワカッテマスから怯えや狼狽は見られない。

40 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 21:59:43 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ゚ -゚) 「…」

( <●><●>) 「仇ですから、私の一族の」

  _     《ズキンッ����》
( ゚∀゚) 「違う、ナナシはお前の仇なんかじゃない」


怨念の肯定は即座に否定される。
ワカッテマスが眼光鋭く睨み付けるが、ジョルジュは一歩も引かなかった。


本物の和香は彼の中にある。
ジョルジュにとって、
目の前のワカッテマスを…過ちを…このまま見過ごすことは出来なかった。



     隔たれた真実は繋がり、
     すでにその大半を紐解かれている。

     …しかしそれを知るのは観測者のみ。



( <●><●>) 「恐縮ですがね女王様…しらばっくれているのは貴女のほうでは?」
  _,
川 ゚ -゚) 「…なに?」

(<●><●> ) 「……もう一人の私も。
仇でないなら、私に遺されたこの感情はなんだというのです?」
  _
( ゚∀゚) 「それは…」


&nbsp;

41 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:00:41 ID:RR8t2NkE0
誤解��������。
呆気なく突き詰めてしまえば、ただその一言につきる。
しかしこの時ジョルジュは一瞬、答えに窮した。


当時こそ彼の記憶には残らない…一族に呪われし深い闇と常に向き合っていたのは、
他でもないワカッテマスのほうだ。

不本意に生まれ、
   他人の記憶に苦しみ、
      味方すら誰一人いない…、
鮮血の世界で孤独に生きた和香。

  _
( ゚∀゚) 「����…遺された記憶をどう思うかはお前次第のはずだろ」


人格を統合して以来。
いや、正しくはそれよりも前からずっと、ジョルジュは考えて続けていた。


和香には延々に託され、ジョルジュには継がれなかった一族としての記憶…。
その差は一体なんだったのか?

苦しみ続けて歪んだ怨念の象徴を尻目に、
自分だけが悠長に眠っては気まぐれに目を覚まし、正義感を振りかざしていた。
和香だけに負の遺産を押し付け、己は遊び呆けていたようなものだ。


だが、夢の中で交わした和香との約束を忘れた日は一日たりともない。
想っては奮い立ち、同時に苛まれる年月を彼なりに過ごしてきた。

  _
( ゚∀゚) 「本物のお前ですら、薄々気付いていたんだぞ…」

42 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:02:34 ID:RR8t2NkE0
( <●><●>) 「だから消えて、私がここにいます」
  _
( ゚∀゚)o 「だったら…」
  _
(  ∀ )o 「だったらそれこそが、お前の選んだ責任ってもんじゃないのか?」


一人ひとりの観る景色はとても狭く、歪だ。

慈夜と和香を含め、赤い森の一族が殺されたのは事実。
発端となる大陸戦争が起きたのも史実。
   ……ならば、起因と全貌は?

  _,
川 ∩ -゚) 「…」


クーはなにも言わない。
いや、言えなかった。

ただ収まる気配のない頭痛を堪えつつ、
その視線は【ウラミド】に染まるワカッテマスの瞳孔に向けられている。

             ∧ 
( <●><▲>) 「私の目標は、ザ赤い森で一族の命を奪った者……。
女王の問うたものが、私の探シものと同じかどうかは保証しませんがね」
             ュ 
(´・ω・`)          ッ
   ∪彡         !! 
             ∨ 
  _
(;゚∀゚) 「!!」
  _,
川;∩ -゚) 「!!」


( <●><▲>)

     グラッ
(( (; < ><▲>)

43 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:03:56 ID:RR8t2NkE0
歪めたその表情に加わるのは苛立ちか…。
生々しい音に引き摺られ、ワカッテマスの身体が崩れ落ちる。


(´・ω・`) 「求めるものも定まらない…なら、
君の存在価値もそろそろ終わるべきじゃないかな」


背後からワカッテマスを深々裂いた神速。
辺りにビチビチとばら蒔かれる泥の血が、やがて変色。
ショボンの肩にかかった反り血も、土気色から紅色へと変わる。


(´・ω・`) 「…!!」


����直後、先制したはずのショボンは飛び退いた。

さっきまでいた場所へと突き出された腕。
袖から覗く鋭利な爪。
曲線が弧月を思わせる。

研ぎ澄まされたその刃は、不死者の肉体すら容易に貫くだろう。


(; < ><▲>)⊃ 「……」

「…意外そうな顔してるね」 (・ω・` )

(; < ><▲>) 「……いえいえ。
判ってはいたのですがね。
……随分頼りなくなったものだと思っただけです」

44 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:06:15 ID:RR8t2NkE0

ワカッテマスはかつて、人間の臓物を媒体とした土塊を製造していたことがある。


これまで行ってきたその実験は、
村人だろうと賢者だろうと����そして不死者であろうと、問題なく奏功した。
一時は彼の復讐心を癒し、かつ従順な手駒を都度に増やしたものだ。


人物のすり替えによって周囲を騙すことはもちろん、
仕込んだ【ウィルス】を土塊の消滅と共に爆発させる…。
時間差で発動する魔導力が、流行り病として蔓延し、抵抗力のない者から命を奪った。


さらに優秀なのは、作り物の忠誠心であろうと発現するGC(ガードコンディション)。

"誰かを守る" という感情が引き起こす魔導力の奇跡は、
数が多ければ多いほど…近くにいればいるほどに効力を発揮する。

ここまで誰に語られることのない戦いにおいても、ワカッテマスは幾度となく恩恵を得てきた。


(; < ><▲>) ( ……こちらはね )


だが、不死者に手を出したのは早計だったと彼は悔いている。

土塊が不死を継承しなかった上、
本体の不死者はいくら殺してもこの世から居なくならなかった。


"奴" もまた、ワカッテマスを追い続けていたのだから。

45 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:08:02 ID:RR8t2NkE0

(; < ><▲>) 「それもまたしばらくの辛抱としましょう」


恐らく今のワカッテマス自身…、魂こそあれど、土塊の特性を持ったままだ。
一度は消滅しかけ、しかし【ウラミド】によって生き永らえた半死の生命……。

今度こそ死ねば終わりではないかという危機感くらいはある。


永きに渡る不死者との攻防によって、壁となる土塊の数も減っていた。
GCすら先のショボンの不意打ちも防げないほどの、
今や運頼みと言わざるを得ない奇跡となってしまっている。


(´・ω・`) 「辛抱だなんて悠長な時間は与え����…?!」

(; < ><▲>) 「……くく」


それでも、彼は嘲笑う。

  _
(;゚∀゚) 「!! おいショボン、肩…!」

(;´・ω・`) 「っ!」


ジョルジュに言われるまでもなく、いやがおうにも気付く。
眩暈をこらえて頭を抱えるショボンは乱暴に肩口を破った。


( < ><▲>) 「くく……くくっくっく」

46 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:09:42 ID:RR8t2NkE0
ワカッテマスから浴びた反り血がブスブスと焼け、臭気を放つ。

毒魔法の【ポイズン】…それよりもはるかに猛毒。
地に捨てた外套と留め金が液状化し、やがて蒸発していく。


深々と抉れたアスファルトから露になる、どこかの建物へと続く配水管に幸いとして傷はない。
乱雑で老朽化の激しい【ロータウン】も、
行き交う人々が踏みしめるための路面は無駄に厚みがあったらしい。

  _
(;゚∀゚) 「……!! 【ドッジ】!」


ぽっかりと空いた穴と、溶けていく路面を埋めるようにたちこめる蒸気と魔導力。
睨み合うワカッテマスとショボンを差し置いて、ジョルジュはいち早く気が付いた。


…だがその反応すら間に合うかどうか。

47 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:11:58 ID:RR8t2NkE0
(;< ><▲>)「……」


さっきの笑みはどこへやら…ワカッテマスも言葉を失っていた。
闇に影射す彼の顔が、呆けるように空を見上げている。

  _,
川;゚ -゚)つ 「その傷で逃げられるなら逃げてみるか?」


高く、高く……。
彼らを中心に囲み据えながら激しく唸り、猛る灰色の群れ。

天を衝くそれらの正体は、ワカッテマスの毒の穴����その地中から出ずる八岐大蛇を模した複数の頭骨だった。

【ロータウン】のあらゆるビルを頭上遥かに越える位置で、
ただでさえ広くない空を埋めつくしては十六の瞳を光らせ号令を待つ。

  _,
川;∩ -゚)つ 「悪いが…長々と付き合うつもりはない。
この機会に賢者たちの仇をとらせてもらうとしよう」


クーの魔導力によって出現した大地の怪物。
三人…いや、四人を取り囲みながら長い首を蛇のようにくねらせ、
八頭が定めるのは一つの狙い。

噴き出す泥血を堪え、やっとワカッテマスも跳んだ。


(; < ><●>) 「……私にはわかってますよ。
そうやって貴女は苦しみから逃げて、逃げて…」


(; < ><○>) 「逃げるためだけに目の前のものをことごとく破壊してきたことをね!!」
  _,   .%
川; - )つ/ 「逃がさん、【グランデス】!」

         _
  三    ̄;゚∀゚) 「ばッ、かやろう…!」


&nbsp;

48 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:13:29 ID:RR8t2NkE0

    《ギ イ ィ ン!》



振るわれた錫杖の音色と、眩き輝くリングが導となりて……。

その日、クーの魔導力が【ロータウン】の一部を貫いた。




"苛立ち" という感情を【魔導力】に替えて。


&nbsp;

49 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:14:11 ID:RR8t2NkE0
------------


〜now roading〜


川 ゚ -゚)

HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C


------------

50 ◆3sLRFBYImM:2016/02/19(金) 22:16:48 ID:RR8t2NkE0
本日はここまで。


おそらくいくつも文字化けしているかもしれません
携帯の代替機で書いていたのですが、途中いろいろ変えてみてもどうしても避けられませんでした
いわゆる横棒が二本ずつ挿入されていると脳内変換をどうかお願いします

次回は携帯本体が戻ってきてからの投下にさせていただきます
何卒よろしくお願いします

51名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 23:17:08 ID:tEdxq6Ag0
乙です

52名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 23:35:10 ID:/TFa3ps60
>ザ赤い森
スレて見えたから一瞬仕組みに気づかなくてワロタ


53名も無きAAのようです:2016/02/19(金) 23:37:22 ID:vxfdKWyg0
乙 なにやら不穏な

54名も無きAAのようです:2016/02/20(土) 01:19:19 ID:9fOT7uzI0
話忘れたから読み返してきますね……

55名も無きAAのようです:2016/02/20(土) 08:31:20 ID:oKaY7TcM0
ぶっちゃけ内容分かんなくても良いんじゃね?オサレ感で何とかなる。

56名も無きAAのようです:2016/02/20(土) 10:59:09 ID:FqB5RS7U0
読み返すと何かしら新しい発見があったりするからオススメよ

57名も無きAAのようです:2016/02/20(土) 21:08:05 ID:S633LBQs0
なん……だと……?

58名も無きAAのようです:2016/02/21(日) 00:14:16 ID:SAeZRLdM0
これを読むために前の2つ読んできたぜ
やっと追いついてよかった

59名も無きAAのようです:2016/02/21(日) 11:19:33 ID:GRsieEjw0
乙。これはクーが戦犯か
でも予想つくとことつかないとこがあって先がわからないんだよな

60名も無きAAのようです:2016/02/22(月) 19:42:09 ID:eTjnTZ9k0
なんかよく分からんくなってきた
読み直すかね

61名も無きAAのようです:2016/02/22(月) 20:50:47 ID:C4.V2S8Y0
記憶喪失前のクーが何を思って赤い森の件を起こすことになったのか気になるね。
裏切りが絡んでるんだろうけど

62名も無きAAのようです:2016/02/22(月) 22:27:06 ID:artJOW9I0
おつ
気になるから続きはよ
もう少し投下間隔短ければわかりやすいんだが我儘かw
読み返す面白さも味わってるから良いんだが

63名も無きAAのようです:2016/03/16(水) 11:29:18 ID:6WffkrTU0

鳥肌がすごい

64名も無きAAのようです:2016/03/16(水) 16:21:35 ID:lX7SCqpQ0
http://urx.red/rNMm

65 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:18:45 ID:uoQSJDlE0
----------
(推奨BGM:Numara Palace)
https://www.youtube.com/watch?v=bd8a07PC0ts



晴れ渡る大空はまだどこか湿り気を漂わせる。 草木の乾く匂いが、雨の残り香と混ざり合う。
太陽の光がさんさんと降り注ぎ、昨日まで降り続いた憂鬱を浄化していた。


[かがみ]を通じて、はじめてこの地に降り立った日。


ジー、ジー…と。
鬱憤を晴らすかのように、さざめく虫の群れも次第にその声を大きくする。


川 - ) 「────── ……」


このとき瞼の向こうから照らされる橙色を、クーは不快なものと感じなかった。
味わうように息を吸い込むと、いくつもの嗅ぎ慣れない感覚が鼻腔を襲う。
むしろ、それすら心地よい。


耳を擦るわずかな草の音も、遠くで見守る小動物も、突如現れた彼女の存在を迎え入れる。
さっきまで居たはずの闇の世界とはまるで違う、生きている実感が徐々にわいてくる。


「おおぃ、こんなところで寝てたらぁ、猪と一緒に食べられてしまうよぉ」


……その野太い声さえなければ、もう少しだけ、この初々しい微睡みに身を委ねていただろう。


川 ゚ -゚)


だが彼女は目を覚ます。
仲間の誰よりも早く、この世界で。


&nbsp;

66 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:20:40 ID:uoQSJDlE0
( ^ω^)千年の夢のようです


              |
              先
              駆
              者
              の
              踏
              む
              骸
              |




( "ゞ) 「行き倒れなんて珍しいぃ〜と思ったんだぁよお」

川 ゚ -゚)

( "ゞ) 「どっから来たんだ? この辺りの人間じゃなかろうよぉ」

川 ゚ -゚) 「……ここは、いったいどこだ?」

( "ゞ) 「おかしな話だあ。 訊いたのはこっちだろうに」


男は困惑した様子を隠すことなく、しかし問いに答えてくれた。


どこに向かっても海に行き着いてしまう……そんな土地に彼女は居た。

大陸下部の、名もなき山腹の塊村。
   ……遠い未来の、水の都の在処。

67名も無きAAのようです:2016/06/07(火) 23:21:11 ID:L.hN8P8Q0
っっしゃオラァ!!待ってた!!
支援!!!

68 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:21:35 ID:uoQSJDlE0

( "ゞ) 「しかし自分がどこから来たのか判らないなんてえ、まさか空から降ってきたぁわけもあるまいに」

( "ゞ) 「まあ安心しなぁよ、ウチで少し休んでから船着き場まで送ってやるさぁ。
なあんにもないけど、茶ぁくらいなら出してやれるからよお」


野趣に満ちた山の道。
右も左も分からないクーのために案内を買ってでた、デルタという青年。
彼はそののんびりした口調のわりに、よく口を動かすような男だった。


がに股で歩くその姿はいかにも男らしさを感じさせるものの、どちらかといえば華奢な体格に分類される。
細身のクーと同じか、もう少しだけ大きく見える程度に似通っていた。


彼は道行くところどころに生えた小さな木の枝から、天蚕の繭を選んでは葉ごと摘む。
そして満足げに頷きながら、背に担いだ籠へと無造作に放っていく。


( "ゞ) 「これはいい糸にぃなってくれそうだ。 …ところでアンタぁ、運が良かったなぁあ?」


なんのことか、クーは言葉の意味を尋ねた。


前者は "繊維の女王" とも呼ばれ、織物にとても重宝されること。
そして後者は────昔から、この辺りには人喰い獣が出るらしい。

69 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:22:54 ID:uoQSJDlE0
近くは二年前にも首元を抉られたのだと、彼は言った。
自らを指さし、しかしぴったりとボタンで留められたその襟首は露出を避けている。

デルタは言葉を続けた。


( "ゞ) 「やられた方は死に物狂いだったさぁ。 必死になればなるほど、生き物ってえのは本能に抗えないもんだぁよ」

川 ゚ -゚) 「ほかの生物が、人を食べる…のか??」

( "ゞ) 「……餌が見つからなくて、出てくるんだろうなぁ。
生き物なんて、どれも生きていくのに精一杯よお」

川 ゚ -゚) 「…」


          『弱肉強食って言葉が、昔あった』


川 ゚ -゚) ( シャキン…… )


いつかの仲間の言葉が記憶に浮かび上がり、すぐに消える。


クーが知る由もない、この山の自然は大陸内においても些少たるものだった。

土地面積に対して樹木の育ちも悪く、人の手入れがなくなれば緑は消失し、禿げてしまう。
自然が、自然を拒む島。
草食動物は数を減らし、そんな獣を餌としていた肉食獣もだんだん居なくなっていく……そんな場所だ。


徐々に日射しが強くなる。
遮る葉が少ないために直射する陽が、目覚めたての網膜を刺激した。

  _,
川 ´ -゚) ( ……眩しい )


浴びたことのない太陽光と、大地を彩る緑黄。
肺を満たす酸素に染み付く匂いを、慣れることはあるのだろうか。

70 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:23:56 ID:uoQSJDlE0
そんなクーのしかめ面も獣への畏れと勘違いしたのか、デルタは「今日はたぶん大丈夫さあ」と気遣った。

彼は耳をすまし、周囲を用心するのは自分の役目だといわんばかりに薄っぺらな胸を張る。
そんな姿が良くも悪くも滑稽に映った。


( "ゞ) 「なあ、クーは何をやってる人なんだあ?」


デルタは荷を降ろすとあぐらをかき、仰々しく腕を伸ばす。


( "ゞ) 「ッぁあ〜〜。 それにしても、いぃい天気だなあ」

川 ゚ -゚) 「…そうだな」


違いない。 心からそう思う。


故郷たる灰蒼の世界…グランドスタッフにおいて、光というものは人工的にしか与えられていない。
この世界でこうして得られるものとそれは、完全な別物であることをクーは受け入れることから始めた。




しかし、

    ──"何をやっている人" ?

…その質問に答えることが出来ない。


川 ゚ -゚) 「…私は、」

( "ゞ) 「んん?」

71 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:25:25 ID:uoQSJDlE0
今までの自分は、ただ生きていただけに過ぎない。

解り合える友と語り過ごし、解り難き周囲の大人によって生かされる。
アーカイブと呼ばれる知識の海を管理され、想像力を培う材料すら乏しい環境。

それはクーにとって、決して居心地の悪いものではなかった。


川 ゚ -゚) 「………私は…、」

( "ゞ) 「ああ、答えにくいなら無理に答えなくてもいいんだぁ」

川 ゚ -゚) 「…」

( "ゞ) 「あんなところで倒れてるなんて、変だと思ったぁんだ。 訳ありなんだろぅ?」


彼のその言葉は、他人への無関心からとは違う、温もりを感じさせる。
それはかえってクーに、自らに課した決意を思い出させた。


『私は、自分で求めて、自分で何者かになりたい』
……そういって此処にたどり着いたことを。

72 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:27:01 ID:uoQSJDlE0
ハインやツンと遊んでいた頃のように、残された役割を果たすだけの自分。
ハインやツンにとって先生やブーンのような、愛する者のいない自分。

都合の良い解釈をして、自分に言い聞かせて、周りに一歩甘んじてきた。


結果としてとりとめたこの魂もそうだ。
グランドスタッフを喰らい尽くしたあの怪物のように、命は突如失われる日が必ず訪れる。
一度失われれば、もう……取り返せない。
後戻りもできない。

先陣きって行動しなければ、不本意な結末も納得して飲み込むことすら出来はしないのだ。


川 ゚ -゚) 「…………私は」


繰り返される自問と、脱け出せない自答。


役割は重要だ。
人は生活の過程で自然と立場を得て、在るべき場所で生きる。

…だからといって。
凡てを許容できるほど、人間は無感情ではいられない。

73 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:28:00 ID:uoQSJDlE0
(;"ゞ) 「そんな恐い顔するなぁよ」

川 ゚ -゚) 「…あ…」


違う、とクーは慌てて手を振り否定する。
デルタは分かっているようで分かっていないような、曖昧な表情でクーを諌めた。


( "ゞ) 「いいんだいぃんだぁ、一休みするかい? のんびり行こぉうぜ」

川 ゚ -゚) 「…なにか手伝えることなら私もやるよ」


デルタは籠に手を突っ込むと、奥の木箱からいくつかの道具を取り出しはじめる。
当然だが、いずれも見たことのない…未知のアイテム。
皆目見当のつかないそれらをクーも手に取り、どう使うものかとまじまじ眺めた。


( "ゞ) 「…ははは、なぁにやってるんだ。
ほらこの飯盒に、そう、これだ。 水を注いでくれるかなあ。
…それとぉ――」


文化の違う異邦人はこうして交流を深める。
クーは言われるがまま、即席の火鉢の上に飯盒をセットしていく。
支度を終えるとデルタは指を動かし、火打ち音が鳴ったかと思えば間もなく炎が熱を生み出した。


( "ゞ) 「湯がぁ沸くまで少しある。 話せるところだけでいいから、おたくの世間話でも訊かせてもらうとするかあ」

( "ゞ) 「名前、なんていうんだぁ?」

川 ゚ -゚) 「……





            私の名前は――――」




&nbsp;

74 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:29:33 ID:uoQSJDlE0


クーが果たしてどれほどの時間、気を失なっていたのかは分からない。


( "ゞ) 「記憶喪失……ってぇやつかい」


デルタに元の世界の話はしなかった。
クーが覚えているのは自分の名前と、漠然とした知識のみであることを伝えた。

そして、それ以上のことはデルタも追求しなかった。


( "ゞ) 「だったらぁ放り出すことも出来ないな。 クーさえ良ければしばらくは村にいていいさあ」

川 ゚ -゚) 「ありがとう」

( "ゞ) 「けどな、ここはよそ者を嫌う。 はじめは気にさわることもあるかもぉしれん」


デルタも元は旅人だったという。
村に身を寄せ、長く居着くに至るまでに様々なトラブルがあったことを匂わせた。

…それでも彼はここにいる。
今では立派な村人として、此処で骨を埋めるのだろう。


( "ゞ) 「この村に居着くか、離れるかは、その時になったらクーが決めてくれぇな」

川 ゚ -゚) 「わかった」


長居するつもりはない。
やるべきことがある。

いつかは仲間のもとへと旅立たなくてはならない。

75 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:30:15 ID:uoQSJDlE0
----------


デルタと過ごし始めて一週間。
他の村人は通りすがるたび、奇異なものをみる目でクーを睨み付ける。
戸惑いを隠せずにいると、そんな時はデルタが前に出て視界を塞いだ。


時間という概念は、ここでは太陽と月の循環に守られている。
グランドスタッフとは違い、デジタル化されたタイムテーブルに朝夜を照らし合わせる習慣がない。

そして──もし出歩くならば明るいうちが適切であることを学ぶ。


(゚- ゚ 川 「…」

( "ゞ) 「物珍しそうになぁにを眺めてる?」

川 ゚ -゚) 「ああ、いや…」


外出時、デルタは必ずクーを連れた。 クー自身もそれを望んだからだ。

獣と出くわす危険もあるが、無為に留守番させれば村人からあらぬ目を向けられる可能性もある。
それならば旅人としてのノウハウを覚えるほうが有意義だろう。


クーが担ぐ薪の擦れる音は不器用で、しかしそれが足を踏み出す単調なリズムの打破に一役買う。
担いでいる量だけを見れば、デルタの半分も無いはずなのに、彼はそれほど大きな音をたてたりはしない。


( "ゞ) 「見てみろぉよ、ここからは木の種類が違うだろ?」


道すがら、デルタは草木の名前を一つずつ語る。
「手に取って、少しでも見聞きするのは楽しいもんだあ」とクーには言うが、むしろ楽しんでいるのはデルタのほうに思えた。


彼に訊けばあらゆる答えが返ってくる。
花の名前も…、山の成り立ちも…、海の広さも。
果てには村で活用される機械類…そのアイテムの利用価値も。


だが、とりわけデルタは自然を愛する。
毎朝通る崖上の三叉路から山を一望するたび、彼は微笑むのだ。

そんな彼を、クーもだんだんと理解し、同調していった。

76 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:31:19 ID:uoQSJDlE0
この山村から展望する空模様は、一度たりとも同じ様相を見せてはくれない。
ちぎれちぎれに走り去る雨雲が狐日和を演出することもあれば、
天高くに浮かぶ太陽が爛々と大地を照らし、巻層雲と相まって "かさ" を見せる時もある。


川 ゚ -゚) 「今日はずいぶんと陽が近いな」

( "ゞ) 「だなぁ、暑い暑い。 おかげで樹がよく育ちそうだぁ」

川 ゚ -゚) 「太陽は食事。 しかも、そこに光があるから葉が伸びるのではなく……」

( "ゞ) 「そう、光をより多く得るために "自ずと葉を伸ばす" んだあ。 よく覚えてぇるなぁ」

川 ゚ -゚) 「順序が逆なんだな、と不思議に思ったよ」

( "ゞ) 「見つけて欲しくて手をおぉおきくかざすのは、人も自然もおんなじよお」


植物には意思がある。
…それを仲間たちに伝えたらどんな反応をするだろうか。


ブーンとツンは興味を示すかもしれない。
『こちらの愛情も伝わるのか!』とさぞ驚くことだろう。

ドクオ、そしてシャキンはきっと真逆だ。
『くだらない、誰がそれを証明したんだ?』などと言いかねない。

77 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:32:14 ID:uoQSJDlE0
( "ゞ) 「太陽があるから、植物は自分の立場が把握できるんだぁ。
辺りは今どんな世界なのか? 実を作ったらすくすく育ってくれるのか? なんてなあ」

川 ゚ -゚) 「……」

( "ゞ) 「勝手に育ってくれれば気も楽だぁよ。
機嫌を窺ってぇ生きる奥ゆかしさも、植物の良いところであり、悪いところかもしれないなあ」


そして──ハインならばこう言うだろう。
『それはまるで、アタシみたいじゃないか』と。


川 ゚ -゚) 「…デルタはどうなんだ?」

( "ゞ) 「俺は単に眩しいのが苦手なだけさあ」


彼は日中、常に被り物を離さない。
帽子の陰に溶け込んだ彼の睫毛はとても長く、クーの小指程度なら乗せられるほどに瞳を厳重に守っていた。


( "ゞ) 「……草花にとってはぁ好物でも、俺にとっては苦味が強いものもあるぅよ」


ハハハ、とデルタは声をあげて笑う。
その表情は寂しそうに行く先を向いていた。


クーはもう一度、空を見上げる。
しばらくは雨も降りそうにない、いい天気だ。


&nbsp;

78 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:33:08 ID:uoQSJDlE0


一ヶ月も経つと、村人の道理も見えてくるようになる。
クーを見掛けては時々声をかけて、中にはこちらまで近寄ってくる者も現れ始める。

今日もそう。
まだ名も知らぬ、好好爺然とした老人が言った。


「おめぇ意外と働きモンなんだってな、そーんな、ほっそい身体でえ」

川 ゚ -゚) 「残念ながら大人しくしていられる性質じゃないからね。 それに、身が細いのはデルタも同じじゃないか?」

(;"ゞ) 「……えぇ」

「カカカッちげえねえ、よぉく言うたったなあ」


村人はすぐに離れたが、その別れ際には軽く手を振っていった。
ただそれだけの動作が、村人なりの礼を尽くされたものだと受け取れる。


( "ゞ) 「……俺ぇ、そんなに細いかよ?」

川 ゚ -゚) 「女の私とそれほど変わらないじゃないか」

( "ゞ) 「そうかぁ? んじゃ栄養不足かもなあ」


だったら同じ食事を摂っている私まで倒れるじゃないか、と、二人は微笑み合った。


人は沈黙すればするほどに心を探り、探られる。
閉鎖的な空間では尚更だ。
当初はクーも言葉を選ぶことで誠意を見せていたつもりだったが、それは逆効果なのだ。


ある日のデルタはこうも教えてくれた。

79 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:34:56 ID:uoQSJDlE0
( "ゞ) 『黙ってると目が泳ぐだろお? 考えたりぃ、思い出そうとしたりな』

( "ゞ) 『そーすっとぉ聞いてる方は勝手なもんで、相手を好きかどうかで、その間に不信感を抱いたりする』

川 ゚ -゚) 『…咄嗟に話し掛けられても、どうしたらいいのかなんて分からないよ』

( "ゞ) 『なんでもいいから喋ってみれぇよ。 人はそこまで難しくねえ。
それにぃ考えなしで喋るときは、思ったことしかぁ出てこない……だろ?』

( "ゞ) 『この村では特にそうってぇだけだ。
たとえ不器用でも、無礼でも、偽りのない本音のほうが楽な生き方もあるのさぁ』


下手な気を遣うくらいなら、ざっくばらんに応えるほうが相手にとっても都合が良い。
さもなくば、瞳の奥を覗かれる。
見たくもない心を暴き、晒される。


川 ゚ -゚) 『覚えておくよ』


仲間となら容易く出来たことも、時と場所、そして相手が変わるだけで、いつの間にか萎縮してしまうものだ。


そう…、クーがクーとして常に在るならば、村に馴染むまで一ヶ月もかかることはない。
だがしかし、人格と個性は似て非なる。
前者は他者が評価し、後者は持って生まれた性質だ。


( "ゞ) 『困ったときこそ自分に正直に生きなあ。 人の時間は限られてるんだぁからよお』

川 ゚ -゚)


それほどに……。
何も、誰も知らぬ、そんな世界で生きることは難しい。


&nbsp;

80 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:35:52 ID:uoQSJDlE0


半年もすると、クーはようやく村人の一員として歓迎されるようになっていた。
その日は笊を抱えた中年女性が嬉しそうに近寄ってきて、二人に向けて収穫物を自慢する。


「おーいクー! 畑で採れたこの苺、良かったら食わないかね」

川 ゚ -゚) 「いいのか? ありがとう」

( "ゞ) 「そんなもん、そこらに生えてるので充分じゃなぃかあよ」


命あるものには必ず得意とする環境があり、発揮する力もバラバラだ。


「はあ? デルタにあげるだなんて言ってないだろうさ!」

川 ゚ -゚) 「…だ、そうだ。 これは私が一人で食べさせてもらおう」

(;"ゞ) 「……つれないねえ」


大陸には季節というものがあり、絶えず気温が変化する。
それは塔全体に施されていた空調によって常に一定温度を保ったグランドスタッフでは、決して感じることの出来ない現象。

野苺は暑さに弱い。 だから自分という種のために、涼しくなってから実を成す。
これは夏が過ぎ…秋に移り変わったことを意味している。


[かがみ]突入用の法衣でもあれば風も凌げたが、アサウルス襲撃の際に失ってしまっている。
この頃はデルタがこしらえてくれた外套を羽織らなければ、肌寒く感じた。


"( ) "ゞ) 「うん、んまぁいなあ」

川 ゚ -゚) 「結局食べるんじゃないか…」

( "ゞ) 「そら収穫時期が来たらぁ一度は食べる。 せっかく出来たのに、無視するのは失礼野暮だよなぁ」


育つ野菜は季節と共に変わり、樹木はエネルギーを細く長く蓄えるべく枯れていく。
点々と、草紅葉は淋しげに、仲間を探すように頭をたれる。

クーの目に映る風景は、再び知らないものに埋め尽くされていた。


( "ゞ) 「生まれついてのサガは変えられないからよお。 美味いもんは美味い」

( "ゞ) 「……でも俺はやっぱりぃ、人の手入れがされてない苺のほうが好きだあ」

81 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:37:14 ID:uoQSJDlE0
日が暮れると家に戻り、収穫した山菜を食す。

少量ならば生で口に出来るもの…、
火を通してから口に出来るものを見分けられるようになった。


( "ゞ) 「油と調和させることで身体がぁ吸収しやすくなる栄養素もあるよお」

川 ゚ -゚) 「うん、その辺はだいぶ覚えてきた」

( "ゞ) 「だなあ…、後の課題といえば────」


鉄鍋のなか、焦げて縮んでしまったミイラの青菜炒めが二人を睨む。


(;"ゞ) 「……料理の腕だぁ」

川 ゚ -゚) 「精進したいとは思ってるんだが…」


デルタが作れば、少ない品数でも食べやすく健康的なメニューが食卓を彩ることができる。
それでもいつからか自主的に、クーがそれを真似て作るようになっていた。


川 ゚ -゚) 「デルタはいつも簡単そうにやってるのに、自分でやるとなると中々に難しいよ」

( "ゞ) 「上辺だけで判断するのは、なぁんにも知らないってことだからぁな。
そうやってぇ難しいと思うのは想像してたよりも奥深いってぇことよ。」

( "ゞ)  「それさえ分かったなら、いつか誰かのために、覚えておいて損はないぃだろうよ」

川 ゚ -゚) 「…誰かのため…」

( "ゞ) 「ん……さぁてご馳走さんなぁ。 ちと出てくるから、好きに過ごしててくれえ」


&nbsp;

82 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:37:55 ID:uoQSJDlE0

いつからか、デルタはよく夕食後に外へ出るようになった。
夜風に当たるだけだと言いはしても、朝昼のようにクーをはべらそうとはしない。


一人になり、手持ち無沙汰に座る。 刻々と時間が流れていく。
何度も自分用の外套を弄んでは、どこかに汚れはついていないかをチェックする。


川 ゚ -゚) 「…」


部屋の隙間を縫い射すのは、雲に見え隠れした月明かり。


デルタの小さな家は周りと比べても古めかしく、老朽していた。
はじめて来た時は廃屋と見間違っても仕方ないほど…まるで眠ることだけを保障されたように。

しかしそれも以前の話。
今では内装も整い、二人で過ごすには差し支えのない清潔さを保っている。
クーもそれを手伝いはしたが、主にデルタによって作り出された環境だ。


川 ゚ -゚) 「ぬいぐるみとか…あった方がいいのかな」


綺麗だが無駄もない…そんな部屋に、いつしか殺風景という感想をもつようになった。
グランドスタッフではあり得なかった感情が芽生えている。


眠気はまだ来ない。
…むしろこうしてデルタと離れている時間、懐うことが増えた。

83 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:40:35 ID:uoQSJDlE0

[かがみ]の力によって、クーは世界を移動した。
他の皆もきっと同じように飛び込んだだろう。
…飛び込んだ、と信じるしかない。


当初こそ、誰かを捜しに行くには知識が足りなすぎた。

この山村が海に囲まれていると知った時、海の渡り方も解らない。
食べ物はゼリー状のソイレント以外に口にしたことがなかったため、食べ物もロクに判別できない。
その他にも耐熱、防寒、火の扱い、湿気対策など……、
グランドスタッフでは考える必要すら無かったものを思い浮かべると枚挙に暇がない。


この世界の "日常" をようやく知った後、自然と考える。
かつての仲間たちも、デルタのような者と出逢えたのだろうか。

デルタは言った。
海の向こうは何倍も、何十倍も、ここの村人には想像できないくらい広大な土地があると。
風習も、見た目も…寿命すら様々な人種が住んでいると。


川 ゚ -゚) 「そうだ、そろそろ水をやれと言われていたっけ」


部屋の角に飾られた植物に語りかけ、身近にある手鍋から水を注いだ。
雫を弾き、ピンっと葉が跳ねる様は、植物なりの健常さを感じさせる。

デルタが世話をするこの観葉植物は、室内でも長く世話をして生かすことが出来る。
一年中緑を保つ、長寿や繁栄のシンボルだ。

84 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:41:17 ID:uoQSJDlE0
川 ゚ -゚)


空を見れば…いつの間にか月は完全にその姿を消してしまっていた。
デルタはまだ帰ってこない。
クーにとっては見慣れていて、しかしどこか違う灰色の雲が胸を騒がせる。

ホロロロ…と、どこかで鳴くのは夜の鳥。
静寂以外のすべてを持っていかれたような錯覚に陥りそうになる。


────果たして本当に、みんな、同じこの世界に来ているのか。


いつか根拠もなく、それを盲信していることに気が付いた時、思わずへたりこんでしまったものだ。
ハインやツン、ドクオやブーンと永遠に再会できない可能性が、クーの好奇心を保身へと走らせる。


すなわち現状維持。 あるいは現実逃避。


そうでなくとも、こうしてデルタと共に暮らす日々も悪くないと考えてしまっている自分がいることを、彼女は自覚している。

85 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:42:11 ID:uoQSJDlE0
外では風が吹きはじめた。
家の出入口がカタカタと音をたててクーを呼ぶ。

或いはデルタの帰宅を期待したが、しばらく注視していても入ってくる様子はない。


川 ゚ -゚) 「…」


重い腰を持ち上げて出迎えてみるも、戸の向こう側は静かに時を刻むだけ。
夜の深い闇に沈む塊村。
この時間に出歩く村人も、外界から用を足しに来る者もいない。


今の生活に馴れてしまったせいだろうか。
でこぼことした地平線という違いを除けば、グランドスタッフから見た景色とそう代わり映えしないものだと…クーは感じるようになった。

──実際は自分自身の "感性の変化" という問題でしかないのだが。


戸を閉め直すと、悪戯するかのように風がとんとんと、今度は家そのものを叩いてまわる。
…また、さっきと同じ鳥の声がする。


川 ゚ -゚)


グランドスタッフを懐かしむつもりはない。
しかし、この世界はあまりにも、感情の蠢きと起伏が多い。


待ち疲れたクーは、自身の背丈と同じサイズに編まれた藁を肩からかぶる。
見た目に反した暖かみが安らかなる睡魔を急速に誘う。

86 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:43:08 ID:uoQSJDlE0




&nbsp;

87 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:43:51 ID:uoQSJDlE0


                            《    ォォォ゙ゥ……》



&nbsp;

88 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:44:35 ID:uoQSJDlE0



川 - -)




川 ゚ -゚)



思わずどんよりとした微睡みに逆らう。
──これまで耳にしたことのない遠吠えが聴こえたせいだ。
野生の獣にしては……どこか感情を押し殺したような含みのある鳴き声。


隣にデルタの姿はまだ無い。
どうしてか嫌な予感を抑えられなくなる。


川 ゚ -゚) ( …念のため、迎えに行こう )


迷いつつもクーは立ち上がり、壁に立てかけてあった鉄の棒を握りしめる。
立て付けの悪い玄関扉を開け放ち、その歩調は胸の鼓動と共に速度を上げていった。



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89 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:45:47 ID:uoQSJDlE0
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(推奨BGM:prologue)
https://www.youtube.com/watch?v=6zfNTThhwag&amp;index=4&amp;list=RDAvl3A--8xYU


眠ろうとしていた身体に、夜の山中は一層冷たく突き刺さる。
家屋も消えたまばらな木々の隙間。

……見つけることはそれほど難しくなかった。
幾度と空を走る雄叫びに吸い寄せられるように走った先で、
膝を立てて踞り、地面に自らの頭を叩きつけるデルタの姿を見つけた。


「……おい、こんなところで一体…」  川;゚ -゚)

(;"ゞ) 「ゥ寄らな、いでくれえ……っ!」

     川;゚ -゚)" 「?!」

(;"ゞ) 「ィまは……ダメ、だぁ……、家に居ろォ…!」


クーの前進を手で制し、もがき苦しそうに彼は叫ぶ。
必死に願うデルタはなおも激しく頭を叩きつける。


(∩"ゝ゚;)) 「ォ゙ォア… アアァア゙ーー、ゥ……ヴゥ…ッ!!」

ii川 ;゚ -゚)i ゾクッ


狂乱の慟哭─。
それはさっき耳にした叫びと同質。 デルタが放つ、苦悶の声。


(∩"ゝ゚;)) 「グゴアァア゙ァァ!!! ヴグルルルゥッ!!」


……そもそも人間がこのような声を出せるのか?
まるで獣が乗り移ったかの如く、本能からくる咆哮を思わせた。
ゴリッ、ゴリッ、…と、額が土を抉ってもまだ足りぬと言わんばかりに腕を振り上げ、彼は自らの後頭部を殴り続けている。


クーの身体が極限まで強張る。 おかげで逃げることも、近寄ることも出来なかった。
グランドスタッフでは見ること叶わぬ、"感情の暴走" 。

彼女のこれまで得た日常を引き裂かんと、喉を枯らす咆哮が夜の帳に木霊する。


(∩"ゝ゚;)) 「ウゥゥがあァ…アア゙ ア゙ ア゙ ア゙ぁ…!!」

90 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:46:44 ID:uoQSJDlE0
このとき…クーは見てしまった。


彼の口許にぬらぬらとまとわりついているものを。
瞳の奥に隠された赤黒い瞳孔を。

まるで生きた血肉を貪り啜って溢れた鮮血を思わせる。

《ぐきゅり》と喉をならすデルタ。
その足元に転がったモノは果たして────


(;"ゞ) 「………ぁアァ、ダメだ、やめぇろお…」


言葉とは裏腹に。
「女みたいだ」と形容した病的な細身が、月を背にして飛び掛かってきた。

──クーの肩を弾く衝撃。
反射的に突き出していた鉄の棒が、クーと、そしてデルタの距離を稼ぐ。


とはいえそれも、デルタの身体を一瞬押し返したに過ぎない。
たいしたダメージを与えることは出来なかった。
ガランゴロンと音をたて、一度きりの護身の役目を果たして落ちる。


 "ゝ゚ 「グガアァァア゙ァォオァ!!」


剥き出しの殺意を優先するデルタは止まらなかった。
恐らくは…いや、確信。
クーを食むるため、再び跳びかかる。


川;> -<) 「……っ!!」


網膜へと焼きついた鬼の形相。
クーの知るデルタとは似ても似つかない声。


その身が押し倒されるまでに自覚できたのは、牙を露にする彼の顔から反射的に目をそらした、己の意気地の無さだけ。
間近で放たれる咆哮は威嚇となり、暴力と化して耳をつんざく。

視界が闇に染まってなお浮き彫りになる牙が、思考を切り裂いた。



&nbsp;

91 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:47:43 ID:uoQSJDlE0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



       『──素直、待て』

川 ゚ -゚)"

       『先ほど我々があえて言わなかった事があるのだが』

川 ゚ -゚) 『貴殿方の作戦のために、これからを相談しに鬱田のところに向かうんだ。
時間も限られている…是非手短にお願いしても?』

       『ならば話が早い、その鬱田のことだよ』


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



死の直前…、人は記憶のネガフィルムを形成し、射影する。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



从#゚∀从 『どうしてだよ! アタシはクーが言った通りにやってるじゃんか!』

川# ゚ -゚) 『足の運びが違うんだ、そんな乱暴に膝を上げたら意味が変わってしまう』

从#゚∀从 『意味ってのは感情をどう表すかで決まるんだって教えたのもクーだよ!』

川# ゚ -゚) 『…………、私が言いたいのはそうじゃなくて』




       (^ω^;)『…なにやってるんだお、二人は』

      ξ゚⊿゚)ξ 『ダンス、ですって。 クーの家系に昔からあるとか何とか』


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



……死を認めたものが創り出す、諦めのエンドロール。

92 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:48:45 ID:uoQSJDlE0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



川 ´ -`) 『なに読んでるの?』

( 'A`) 『…クーか。 別に、単なるひまつぶしだよ』
つ□⊂

('A`) 『シャキンに、アーカイブから写してもってきた』
o□o

川 ´ -`) 『……"ハンナの旅立ち" …童話?』

"('A` ) 『ケホッ ゲホッ──……のぞくなよ』
o□o

川 ´ -`) 『…どんなお話なの?』

('A`) 『…病気の妖精ハンナと、死なない人間の話』
o□o

川 ´ -`) 『妖精と…不死……』

( 'A`) 『ハンナは病弱で、自分の家から出たことがない。
しかも、とおくない未来に死ぬことが決まってる」

( 'A`) 「その代わり目の前にあるものが、誰よりも楽しく感じられる。
だから、旅をしてきた不死の人間に、いろんな話をさせてくれってせがむんだよ』

( 'A`) 『人間は、ずっと人の悪い部分を見てきた。
でも、ハンナといるときだけは心がやすらいで…なるべく善い事だけを話して聞かせる。
……そんな話』

川 ´ -`) 『…よくわかんないけど、死なないって、なんか不思議だね。 人間は、ハンナが好きなの?』

( 'A`) 『……。 なんとなく、たぶんだけど』

( 'A`) 『ハンナのことが、うらやましかったんじゃないかっておもう』



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

93 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:49:35 ID:uoQSJDlE0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



( "ゞ) 『…〜〜♪ 〜〜♪』

川 ゚ -゚) 『この前からいつもいじくってるのは何だ?』

( "ゞ) 『んん〜? 何にぃ見えるかね』

川 ゚ -゚) 『鉄の棒』

( "ゞ) 『おおむね当たってるねぇ』

( "ゞ) 『…といってもココを見てみぃなよ、先端をこういじくっておけば……』

川 ゚ -゚) 『…』

( "ゞ) 『おぅっと、まだお楽しみだあ。 答えはちゃんと出来上がってぇからな』


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



順不同の過去が、クーの脳裏を横切っていく。


正気ではない。
今のデルタも、自分も。

94 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:50:59 ID:uoQSJDlE0
この世界にくるとき心に決めていたこと。
自分で求めて、自分で何者かになりたいと決意した行動。


ここで目を逸らすのが今の役目か?
過去を想い起こすのが今やることか?


川 > -<)


──そんなはずはない。 もしここでデルタが自分を殺せば、元の世界で死んでいたのと同じだ。
死ぬことが自分の求めた役割か?


なぜデルタは狂った?
なぜこんなことになった?


川  - )


それみたことか。 なに一つ、解らないではないか。
結局は理不尽に踊らされている。


そんな死を納得して受け入れることなど、グランドスタッフ倒壊のあの時ですら出来なかったくせに。


川 - )


今の自分はどういうことだ?
デルタのおかげで様々なことを学んだ。
……しかしまた、ただ生きていただけ。 何者にもなっていないじゃないか。


川 ゚ - )



&nbsp;

95 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:52:01 ID:uoQSJDlE0

省みる思考は刹那。
頬をくすぐる布の感触が、まだ生を逃していないことを伝えている。


デルタは道葉で不意に腕を切らぬようにと、いつも緩めの長袖を着用していた。
彼の性格をそのまま表したようなダボダボの振り袖。
…暴れている間にかきむしりでもしたのか、破れ破れの服の隙間までも、返り血によって深紅に染まっている。

鎖骨まで露になった、傷跡ひとつすらない首元…。

からからに干からび、血塗られた腕。
いつかアーカイブで知ったお伽噺の、地獄の亡者が振るうものと遜色ない醜悪さを醸し出していた。


(;"ゝ゚) 「…………」

川 ゚ - )


かち合う瞳は揺れている。
デルタは痙攣し、その腕のなかにいることでクーにも伝わってきた。
……彼も、自らの衝動に必死で抵抗しているのだ。


(;"ゝ゚) 「……逃ゲテクレ」

川 ゚ -゚)

(;"ゝ゚) 「…誰カヲ傷付けルノはァ……モ゙ウ嫌だァよ」


相変わらず、その牙はクーの首筋を狙っている。
先程よりも、その赤黒い瞳はどんよりと濃度を増している。


川 ゚ -゚) 「…………だったら…どうして…」

(;"ゝ゚) 「…俺ぇは、"フゥ" 一族の出、身ダ」

(;"ゝ゚) 「は、ハハはハ、そんなもの分かランよなぁ…、すまなイぃなぁ」

川 ゚ -゚)


フゥとクー。
どこか響きのよく似た単語──印象深いその名は、しかと脳裏に刻まれた。


(;"ゝ゚) 「間違エて、ソレデモ驕り続けル、履き違エタ人間達のコトダヨォ」

96 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:52:50 ID:uoQSJDlE0
なんの変哲もない人間…特殊な力を持たぬ者が大多数を占めるその裏に。
極僅か…人間が持ち得ない力を持つ、フゥ一族と呼ばれる者たちの影がある。

デルタはその末裔。
古より、東方を統べては大陸をも牛耳る長命の種族。


────彼らは永く生きるため、生物の臓物を食す。


(;"ゞ) 「長イ…歴史ダぁよ、……ソの時間が一族の…誇リニ置き変ワッた。
歳ヲ取るホド偉い…知識ぃをモツホど、偉イ…ってナァ」

(;"ゞ) 「俺はァ……そんナノガ、嫌ニナッて逃げテキタんだ」


時の流れは、平等で、残酷だ。


いつからかは分からない。
自然を調律し、"風" の向くままに生きる民。
人の行く末を陰ながら見守り、突出して自然を破壊するような者が現れれば "封" する民。

それが、フゥの一族と呼ばれし者たち。
……呪いという概念がまだ生まれていない、はるか過去の評価、遺産、その骸。


彼ら一族は、ある世代を境にガラリと性質を変える。


(;"ゞ) 「"マスター" はぁ、…次…世代以降の、俺タチ、に……楔ヲ、打ち込んダんだ……グ、

((;"ゝ゚))  …グ……ァアガァ……!」

97 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:53:48 ID:uoQSJDlE0

今にも触れそうな二人の身体を、狂気の風が呑み込んでいく。


 "ゝ゚ 「ゴアァ゙アルゥゥゥゥォォオ!!!」


デルタは数年前に村の犠牲者を出し、その人物に成り済ますことでここまで生きていた。
巧妙に騙しながら、村人と……そしてクーと共に過ごしてきた。


聴く者にとってその叫びは同じく、しかし訊いた者によって内実を大きく変えることだろう。
遠くにある村の者には相も変わらず、聞き慣れぬ獣の声として、小屋の戸締まりを厳重にしているかもしれない。

クーにとって……彼の咆哮は、嘆きを含んでいる。


 ,"ゝ゚ 「グガアァァア゙ァォオァ!!」


彼は泣いていた。
罪悪感に囚われようと、デルタは一族から逃げるために擬態し、生き延びてきた。
第一に守るべき自らを庇い、ようやく他者への余裕と優しさを得ることが出来た。

…それがいかに不完全で未熟な生き方であるかなど、彼にも解っている。
それでも抗えない。


薄氷を踏むほど頼りないデルタの意識が、クーに伝えている。
言葉にならない言葉を形作る。


 ,"ゝ; 「ガォアァァア゙ァォアァ!!」
       『…楽しかったよぉ』


──そう聴こえた次の瞬間。
デルタの牙は、質素な布の服を貫き、クーの肩肉を喰い破った。

98 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:54:38 ID:uoQSJDlE0
    《ゴキ、ゴキ…ッ》
骨を砕く音が響き渡る。
       《ゴキリ》

…それが自分自身から発されている振動なのだと理解するには、心がどこか遠くにあるような気がした。
まるで誰かの咀嚼を俯瞰して眺めている…そんな感覚を覚える。
           《…グギギュッ》


「ずまネェ……、スマねぇなあ、クーよ゙ォォオ」


《ギチギチ──》
朧気な意識の向こう側からはデルタの沈んだ声が、ノイズを避けてよく通る。


「やっぱり、やっぱりぃよ……」

「遅かれ早かれ俺は…、俺たちってのはあ、こうなっちまうのかよォお……」

「好きなのに、…傷付けたくなぃいのに、余計に腹が減るのはナンでだよぉ」

「悔しいよォお。 美味に感ジルのが、悔しいンダ……っ────」


        ────《ズブュッ》

99 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:56:39 ID:uoQSJDlE0
骨を断つ音は肉を裂く音へと変わる。

感覚はない。 どうやら麻痺している。
頭をあげることも出来ない。
たとえ、もがく指先が硬い感触を得ていても、それをそうだと認識するにはもはや足りない。


( ↑ゝ)


クーを傍らに、デルタは深紅の涙を流す。
…謝罪の言葉を口にして。
自らと、忌まわしき一族に怨みを呟いて。


( ↑ゝ) クーよぉ…

川   - )

( ↑ゝ) ……なにか、言いたいことはアルかぃい?

川   - )


川   - )


川   - ) 「……謝るくらいなら、最初からこんなことするな」


( ↑ゝ) ……   はハ、そうだよなあ


声は音波となり、振動によって伝わるように出来ている。

音なき振動。
腕の先から微弱に伝わるのは──断末魔。
クーが手離してしまったはずの鉄の棒が、デルタのこめかみを易々と貫いていた。


苛立ちを抑えられないクーの感情が手伝い、小刻みに震えている。
まるで止めを刺すかの如く、グリグリとそれを押し込んでいく。
……デルタの声が、する。



      それでも、ごめんなあ。

川   - )

100 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:57:34 ID:uoQSJDlE0
…そう言い終わると同時、デルタの身体はクーに覆い被さった。


軽くて重い圧力が、空の高さを錯覚させる。
ジュクジュクと疼き、走る激痛がクーを蝕んでいく。


川   - )


クーの瞳は虚空を仰ぐ。
姿を隠したままの月は浮かぶことなく、いつしか夜の鳥も居なくなった。

代わりに朝焼けが登り始めた頃、その痛みもやがてどこかへと消える。


川   - )


唇を咬む。 血色の良くなった薄白い頬を血が伝う。
それでも歯を喰いしばったのは、一時の痛みよりも堪え難い、所在なき怒りのやり場が無かったからだ。


あの時、デルタと別れていれば……。
あの日、外に出なければ……。

そんな "もしも" を繰り返して、悲劇を避けられたかもしれない今日を想う。


だがもう何も話すことはない。
心の通わない、虚しい抱擁を済ませるとクーは立ち上がる。


川 ゚ -゚) 「…」


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