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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】
1
:
名無しさん
:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」
など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。
・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。
552
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:04:22
千原せいじ
石:ブロンザイト(偏見の無い公正な洞察力)
能力:持ち主が今様子を見たい物(人・動物・物)の様子を鏡に映す。
その物が居る(ある)場所までは分からないが、近くだと鮮明に、遠くだと
ぼやけて映る。
条件:持ち主が鏡の近くにいて、「○○の様子を見たい」と念じなければならず、
念じる力が大きければ広範囲が見れるが、疲労も大きくなる。
千原ジュニア
石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)
2人の石の能力は、能力スレの323と333から持ってきました。
553
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/07(土) 13:07:18
以上です。後半は会話だらけになってしまいました。
一応靖史を黒ということにしましたが、問題無いでしょうか。
ご指導、宜しくお願いします。
554
:
名無しさん
:2007/07/07(土) 13:08:18
あれ、トリップおかしいですね…orz
一応、553=554です。
555
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/07(土) 13:19:15
552=553でした…何度もすみませんorz
今度からは、このトリップにします。
556
:
名無しさん
:2007/07/07(土) 20:06:34
乙!
面白かったし本スレ投下していいと思う
557
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/08(日) 11:35:56
>>556
ありがとうございます。
近いうちに、本スレに投下しに行きます。
558
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/07/28(土) 05:20:52
【序曲】
右手を掲げ、ふと手首にぶら下がっている石を見つめる。
ライラック色の美しい石には陽の光が差し込み、高佐は思わず目を細めた。
美しくも、どこかに魔力を感じる、そんな石。
『常時身に着けてなくてはいけない』そんな気持ちにさせる力が、この石にはある。
最初は気味が悪かったし、何度も捨てた。だが、気がついたら鞄に入っていたりと、自分のもとへ戻ってくるのだ。
それが彼にはこれから起こる不幸の予兆のような気がしてならなかったのだが、
折角こんな綺麗な石がタダで手に入ったのだからと思い直し、業者に頼んでブレスレットにしてもらったのだ。
その業者によるとこの石はクリーダイトと言い、ライラック色はその中でも人気が高いものなのだそうだ。
高佐はそれを聞いて尚更手放す気はなくなった。
「(…そういえば、オジェは?)」
尾関は、石を持っていないのだろうか?そんな疑問が高佐の頭に浮かぶ。
気がついたら高佐は枕元に置いてあった携帯電話を開いていた。
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
『んーどしたー?』
「あのさ、オジェ。ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
『ネタのこと?』
「いや、違う。最近、誰かから石貰ったりしなかった?」
『石ぃ?何でまたそんなこと』
「いいから!」
『あぁ、貰ったよ。石…つーかブレスレット。ファンの人から貰ったんだけどさー、超綺麗なの。』
「…そう、そうか。うん。わかった。有り難う。明日、ネタ合わせ遅れないでね。」
『こっちのセリフだっつの。じゃあな〜』
プツッ
―−偶、然?いやそれにしちゃ出来すぎてないか?
誰かが仕組んだ?いや、そんなの、無理だろ。そこまでして単なる石を持たせる必要性って?
「…単なる、石じゃなかったら?」
ボソリと呟く。石になんか不思議な力でも、あるっていうのか。
「(そういえば)」
そんな話、聞いたことある気がする。
不思議な石の力を使って先輩の芸人さん達が、戦っているとかいないとか。
御伽噺や嘘話の類かと思い聞き流していたが…。
「(いよいよ、信じなきゃいけない感じかな)」
薄暗い部屋で、数人の男が話していた。
一人は知的な雰囲気を漂わせ、ノートにペンを奔らせている。
「調子はどう?『シナリオライター』。」
「…」
「あぁ、そうだ、力を使っている間は話しかけても夢中だったんだっけ。」
クスクスといやらしい笑い声をあげる男。
それを無愛想な顔で見つめるガタイの良い男性。
先程までペンを奔らせていた男は、ピタリと書くのをやめ、ペンを置いた。
「おっ、終わった?」
「えぇ。まぁ、とりあえず、は。」
「どうよ?出来のほうは。」
そう問われ、男はふっと笑う。
ノートをパタンと閉じ、
「なかなかの出来じゃないでしょうかね。」
それを聞いて安心したように男は良かったと呟く。
「…ちゃんと彼らを引き込めるんだろうね、『こちら側』に。」
「えぇ。…設楽さん、土田さん。」
559
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/02(木) 13:39:57
申し訳ないですがこれで一応ひと段落です
スマソ 名無しに戻ります
560
:
ふしぎなくみあわせ
:2007/08/04(土) 21:32:52
思いついて書いてみました。
なんだか不思議な組み合わせです。
561
:
ふしぎなくみあわせ
:2007/08/04(土) 21:33:09
東京の片隅、いわゆる「隠れ家」的なバー。
深夜と呼ぶにはもはや遅すぎる時間帯だ。高い位置にぽっかりと空いた窓から見える空はもう白み始めている。
閉店時間が迫っているせいもあり、カウンター座っている二人の男以外に、客はいない。
二人の男は、何も話さなかった。黒いシャツを着た男は青い色のカクテルを呷り、眼鏡をかけた男はウーロン茶を飲んでいた。
カクテルを飲み干した男は、空になったグラスを脇にどけた。店員は何も言わずにグラスを取り、店の奥へと消える。
それを見送り、黒シャツの男は傍らの男に話しかけた。
「あのね、是非こちら側に欲しい子がいるんだよね。」
眼鏡の男は何も言わない。俯いたままウーロン茶をまた一口飲む。
話を聞いているのかどうかわからない。ずっと、美味しくなさそうにちびちびとグラスに口をつけるだけだ。
「結構頭いいからね、きっと役に立つと思うんだ。力もね、こっち向きなんだよ。今は向こう寄りではあるんだけどさ、まだ完全にくっついたわけじゃあないみたいだし。」
お構いなしに、黒シャツの男は続ける。どこか芝居かかった口調は、酒のせいもあるのだろうか。
「それにね、そいつの相方、詳しく言えばその相方の力がね、こちらとしては手に入れたらだいぶ有益だと思うんだよね」
そこで初めて、眼鏡の男は顔を上げた。青白い顔を照明が照らす。
やっと興味しめしてくれたね、と黒シャツの男は笑う。
「それは、誰だ?」
探るような言い方で、眼鏡の男は問う。
「協力してくれんなら教えてもいいよ。『シナリオライター』さん。」
「…いいだろう。」
ついでにその呼び名はやめてくれ、と眼鏡の男…小林は引き攣ったような苦笑いをする。
鞄からシャーペンとスケッチブックが取り出し、スケッチブックのページをめくる。
しかし黒シャツの男、設楽の口から出た名前に、その動きは止まることになった。
「麒麟。麒麟だ。」
562
:
黒猫
:2007/08/06(月) 15:48:53
医者に日本語力が無いと言われましたが、頑張って書いてみた。
なんかアドバイスください!
563
:
黒猫
:2007/08/06(月) 15:49:11
ますだおかだ短編
「増田ぁ。」
「なんや。」
「週明けって特に用事ないよな。」
突然の岡田からの質問。
2人は前の仕事を終え、次の仕事に向かっていた。
岡田は車から見える外の景色を眺め、俺は新聞を読んでいた。
Piririririri
突然岡田の携帯がなった。
どうやらメールらしく、しばらく画面と向き合い俺に尋ねたのだ。
「特に無いはずやけど・・・なんで?」
「いやな、俺さ、この間のイベントであのロザンの宇治原呼んだやん。」
「あぁ、呼んどったなぁ。」
「でな、その宇治原からな、今度お互いの相方も連れて4人で会いませんか?って来たから。」
「ふ〜ん・・・まぁ、用事もないしええけど。」
「ん、分かった〜。」
そう言ってまた画面と向き合い返事を打ち始める。
「・・・大丈夫なんか?」
「んっ、何が?」
「何がって・・・・【石】の事や。」
「・・・・・・あぁ〜。」
そう言って岡田は自分の首につけてるネックレスの無彩色と暗い青の石を、俺も携帯につけてるストラップの淡い青の石に手をやった。
今芸人の間で流れている【石】の話。
持ってると不思議な力が使える、それを巡って芸人同士が白と黒とに別れ争っている等・・・。
もちろん、俺らも例外ではなく・・・
「疑ってるんか?」
「いや・・・まぁな。」
「大丈夫やろ。あの子頭エェし、それくらいの事は分かるやろ。」
「そうか・・・。」
「ま、いざって時は増田さん頑張って。」
「俺頼りかい!」
「やって、俺の石2つとも攻撃に向いてへんもん。」
「お前なぁ・・・。」
「だってホントの事やん。」
「そりゃそうやけど・・・。」
そう、俺の石『ブルーレースメノウ』は攻撃系、一方岡田の石『コランダム』と『ピーターサイト』は防御・補助系の能力を持つ。
「ええやん、お前の事頼りにしてるって事なんやから。」
「ふ〜ん・・・・、まぁそれなら岡田さんも補助やらいろいろ頼むよ。」
「お〜。」
まぁ、岡田さんがそういうなら信じますか。
「ますおかさ〜ん、もうそろそろつきますよ〜。」
「「は〜い。」」
564
:
黒猫
:2007/08/08(水) 14:40:59
岡田圭右(ますだおかだ)
石:1・ピーターサイト(理想の石・目標に近づくための方法を持ち主に感づかせ、実現させる力を与える)
2・コランダム(鋼玉。多結晶の塊は加工して研磨材などに使われる)
能力:1・岡田が向いている方向にシャッターを作りだし、石の能力を無効化する。
シャッターの有効時間は5秒程度。
一定時間経つと、がらがらと開く。
2・触れた物の表面の摩擦係数を少なくする。(スベリまくるようにする)
力の調整しだいで、スベりやすさは変わる。(床に使えば「うまく立っていられない程」にも「走ろうとすると転ぶ程度」にも出来る)
対象は無生物に限り、複数の物に使うことも可能。
条件:1・真っ直ぐ立った状態から「閉店がらがら」をする事。
ポーズを取った時岡田が向いている方向にシャッターが出るため
ポーズ前に方向転換し、シャッターの場所は変えられるが、ポーズ中・ポーズ終了時に方向転換をしてもシャッターの場所は変わらない。
また、連発は出来ず最低20秒程の間隔が必要。
2・「パァ!」のフレーズで発動。「閉店ガラガラ」で効果を消す。
岡田の意思で取り消さない限り効果は持続するが、意識が無くなるか体から石が離れるとすると、その時点で消える。
一日に合計20㎡程度が限界。
代償:1・発動後しばらく石で受ける影響が大きくなる。(説得を受けやすい、治療されやすい等)
一度だけ面白いギャグを言ってしまうオプション付き。
増田英彦(ますだおかだ)
石:ブルーレースメノウ(どこかの国で、神の石と崇められてる)
能力:投げる力を増幅する。
とにかく、持ったモノを投げる力が上がる。
野球で言うと、160km/分位の早さ。
条件:片手で持てる大きさのモノに限る。
また、使用しすぎると腕に大きな負担がかかる。
投げたモノが投げた瞬間の力を持続できるのは、3秒。
【提案】新しい石の能力を考えよう【添削】に書かれていた物で考えました。
565
:
名無しさん
:2007/08/08(水) 23:26:03
皆さん乙。だれもいないようなので添削。
>>558
表現がすごくいい。ただ構成があっさりしてるからもっと細かく書いてくれると読み応えがでると思う。
あと、気になったんだが2人の口調ってそんな感じだった?あまり聞く機会ないけど。
>>561
まとまった文章で光景が目に浮かぶようだった。続きあるのかな?
>>563
台詞がリアルだから文章に入っていけた。状況とかはわかるんだけど、増田の語りなのに文章が簡単すぎる。もっと心情とかが欲しいと思った。
えらそうに書いたが皆さんに期待。
566
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/09(木) 22:20:10
>>565
さん
添削ありがたいっす。
一応何回か御話させていたのとライブで軽く話しているのを
聞いて、自分なりのものを作っていったつもりです。
やはりまだ露出の少ない人はむずいですねorz
567
:
名無しさん
:2007/08/10(金) 06:57:09
>>566
自分があまりフリートーク聞いたことがないから違和感があるだけかもしれない。
>>566
がそういう口調だと思ったのならおそらくそちらの方が正しい。すまんが添削の口調についてはスルーしてください。
ギース好きなんで話読めて嬉しかったよ。
568
:
561
:2007/08/10(金) 10:31:07
>565
添削ありがとうございます。
一応続きは考えているのですが、麒麟は他の書き手さんがまだ使っている(とは言ってももう一年前くらいになりますが…)のと、
麒麟が黒の上層部と出会うという大きな局面であるので続きを投下していいものか…。
というか、悩むんだったら廃棄スレに行けばよかったんですよねorzすみません
569
:
黒猫
:2007/08/11(土) 12:27:45
>>565
添削ありがとうございます。
そうですよね、自分でも増田さんならもっと・・・って感じがします。
もうちょっと頑張ってみます。
はぁ・・・考える力が欲しい。
570
:
名無しさん
:2007/08/15(水) 21:37:03
>>568
よければ続きが読みたい。確かに本編ってことにすると不都合が起きそうだが、
>>568
の言うとおり短篇って形で添削スレか廃棄スレに投下すれば問題ないと思う。この過疎りっぷりだし、本編の進行の話し合いもできないだろう。
期待して待ってるよ。
>>569
えらそうかもしれないけど、何回か客観的に読み返してみてわかりにくいかなーとか増田だったらこんなこと考えるんじゃないかなーとか思う所を書き足してみるといいかなと。あと、どんな状況かも書いてくれると読みやすい。
571
:
561
:2007/08/22(水) 02:37:06
>570
どうもありがとうございます。
とりあえず番外編(パラレル?)として、廃棄スレに投下することにしました。
早く前みたいにたくさん人が戻ってきてくれると嬉しいんですけどね…orz
572
:
名無しさん
:2007/08/27(月) 00:05:28
>>571
期待。
過疎ってるけど人はいるようだし、あくまでネタスレだからヒッソリマッタリやるのもいいとおも。
573
:
1/2
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:15:46
ギースの短編です。
書いたくせにお二人の性格と口調がよくわかりません。
それも含めて添削おながいします。
*****
石を、拾った。
道端に落ちているはずのない石を。
装飾品をあまり付けない男の部屋にあるはずのない石を。
ジーンズのポケットに気付かないうちに入っているはずのない石を。
幾度となく捨てても気が付けば自分の元へ戻ってくる『宝石』を。
奇妙な事だと左手首のブレスレットを蛍光灯へかざす。
銀の冷たい輝きのなか、穏やかな色彩は芯のある強さを訴えているような気がした。
例えるならば
砂塵が丁寧に洗い流された雨上がりの空を、蜘蛛の糸で絡めとった欠片。
無機物でありながら、意志を持つかのごとく俺の生活に入り込み、その青に俺は瞳を奪われたのだ。
574
:
2/2
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:18:48
『クモの巣ターコイズ』というものだと教えてられたのはつい最近の事だった。
どちらも調べてみたんだけど俺はクリーダイトっていう石だったんた、と装飾品のライラック色の石を俺に見せた男は、茶色の頭を傾げていた。
「やっぱり、あの話は本当だったんだ。」
目を伏せため息を吐く相方は、不健康な痩せ方のせいか不安と困惑を隠し切れないように見えた。
「芸人の間で出回っている不思議な力を持つ石なんて、誰かの冗談だと思ってた。」
俺はその時、噂に聞いた芸人の原因不明の負傷を思い出しながら、そうだねと言ったと思う。
特異な力は時に不幸を呼ぶからだ。
俺たちもいずれ何かしら人間の力を超えた能力に目覚める事になるんだろう。
それは修羅場に堕ちた能力者たちを、空へ引き上げる蜘蛛の糸なのだろうか。
石はその糸を俺の目の前に垂らしたということか。
もし、私欲のため切れてしまったら。
「尾関、そろそろネタ合わせ始めよう。」
「・・・あぁ、うん。」
まだ石は沈黙を続ける。
******
以上です。切れてないといいな。
575
:
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:22:34
誤字ハケーン
×→教えてられた
○→教えられた
576
:
①高佐編/ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 13:55:21
追いかけてくる
何かが
恐ろしいほどに禍々しい
何かが
俺は必死に逃げていた。何かからかは分からない。
ただ恐ろしい"何か"。必死に、必死に、逃げていた。
それに手首を掴まれ、俺は振りほどこうとする。だが、手首を掴む恐ろしい力は離れない。
せめてそれの正体を見てやろうと俺は振り返る。そこにいたのは―−
『何で逃げるんだよ、俺?』
間違いなく、そこにいたのは自分だった。
そこでプツリと何かが途切れた。
高佐は夢から醒めた。シャツは汗でぐっしょりと濡れ、先程の夢を思い出させた。
起き上がり、自分の頭をくしゃりと撫ぜた。
「(今の、は)」
こんな恐ろしく奇妙な夢を見たのは初めてだった。
二度とあんな夢はみたくない。そう思いながら今は何時かと携帯電話を開いた。
「…はぁ。」
早朝五時十五分。眠りについてからおよそ三時間であった。
ふと右手首にぶら下がる美しいそれを見る。ぴん、と左手で弾く。
「…お前のせいか?」
もう一つ溜息を吐き、高佐は初めて無機物を恨めしく思った。
今日は尾関とネタ合わせ。自分が遅れるな、と言ったので遅れるわけにはいかない。
高佐はしかたなくそのまま起きていることにした。とりあえずぐっしょりと濡れた寝巻きを何とかしよう。
「(汗かいてるし風呂はいろ)」
妹を起こさぬように息を潜め、こっそりと風呂に向かったのは余談である。
風呂に入りながら、高佐は考えていた。
ネタの事、妹のこと、アルバイトのこと。そして、石のこと。
あの美しい色の石にはどんな力があって、自分達にどんな運命をもたらすのか―−。
少し前に聞いた御伽噺としか思えない話を思い出した。
石は持ち主を選び、その石を手にした人間は必然的に戦いに巻き込まれていく
持ち主は芸人が殆どで、芸人達は各々の信念で『白』になるか『黒』になるか、『灰』になるかを決める
なかには無理やり引き込まれる人間もいる
もし、自分がどこかに入らなくちゃいけなくなったら?
「…だとしたら、迷わず」
灰を選ぶだろう。正義でもなく、悪でもない『中立』。
だがそれはあくまで誰にも干渉されなかった場合の意見。もし、尾関や妹を人質にとられたら
「(でもそこまでするのか?)」
いや、するのか、という疑問は大したことじゃない。する可能性はなくはないのだ。
(尾関がいなくなったら俺は、多分、コントを出来なくなる。)
(俺は書けないわけじゃない)
(でも、アイツの台本で演じたい)
(どこまでのしあがれるのか、そう考えただけでワクワクする)
(――この厳しい世界で)
右手をグッと握る。先程までとは違う。もう、迷いはない。
「(アイツがどうしたいのかちゃんと聞こう)」
「(それで俺の意見も言って、それから二人で考えればいい)」
――俺達はコンビなのだから
577
:
①尾関編/ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 13:59:14
昨日、彼の様子がおかしかった。
俺が言うのも何なのだが、本当におかしかったのだ。
声は微かに震えていて、ネタに関する質問なのかと思えば最近石をもらったか、だとさ。
正直言って彼がおかしくなると困るのだ。ストッパーがいなくなる。
「…(まぁ、いいや、そんなこと。)」
しっかりとした、アイツのことだ。すぐにペースを戻すだろう。
尾関はそう考える。話題にあがった石を見つめた。光が綺麗に透き通る石。
ふとこの石はなんと言う名前なんだろう。そんなことを考えた。
「高佐に調べてもらお」
携帯電話で写真をとり、メールを作成。
「(ちょ っと な ま え し ら べて お い て !)」
送信ボタンを押して携帯電話を閉じる。
やや乱雑に携帯電話を放って、尾関は布団に倒れこんだ。
「(そういえば)」
何であんなに必死だったんだ?
疑問が一つ浮かび上がる。見たところただの綺麗な石。何か変な噂でもあるのか。
…まぁいい、気に留めるほどのことでもないだろう。
今日はネタ合わせだ。あんなに必死になった理由と、石の名前を教えてもらおう。
待ち合わせの時間まであと四時間。尾関はアラームをセットして、眠りについた。
578
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 14:00:17
ここでひと段落的な感じで。
>>573
いい感じだと思いますよー。
ギースさんは仲良しなんでそんな感じかと
579
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 14:00:51
とりあえず本スレのほうに序曲投下したいのですがおkでしょうか?
580
:
名無しさん
:2007/09/01(土) 20:53:11
ぜひ!本スレもしばらく停滞中なんで、盛り上げてほしいねえ
581
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 01:39:43
はじめまして。アンジャの話書いてみました。
多分アホみたいに長くなりそうですが、投稿してみてもよろしいでしょうか?
582
:
581
:2007/09/04(火) 01:41:42
↑すみませんさげ忘れ…最悪だ…!!
583
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 04:25:07
いいですよー
584
:
581
:2007/09/04(火) 14:26:55
ありがとうございます
ではとりあえず書けた分だけ投下します…
585
:
581
:2007/09/04(火) 14:27:22
しまった、と思う時には、すでに遅すぎる。
何でもっと早くに気付けないんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれないけれど。
とある日。児嶋は、楽屋の椅子に腰掛けて一人紫煙を燻らせていた。
タバコを咥えたまま、ジーパンのポケットから銀色のゴツいブレスレットを取り出す。
トップに埋め込まれているのは、綺麗な宝石。名前は知らない。
「…怪しいよな、やっぱ」
ぼそりと独りごちる。右手でチャラチャラ弄んでみるも、意味は無かった。
先日、差出人不明の小包が届いた。中身は、この高そうなブレスレット。
熱狂的なファンからのプレゼント?なんだか悪いなあ。
送り返そうにも宛先は謎だけど。
母親からのプレゼント?宛名ぐらい書けっての。
電話で確認してみたが、違った。謎かよ。
じゃあ悪徳商法か、何かか?クーリングオフとか効くのかな。
いや会社の住所は謎なんだけどさ。
586
:
581
:2007/09/04(火) 14:31:00
(…渡部、遅いな)
とりあえず思考を逸らした。考え続けたところで、どうせ答えは出ないだろうから。
壁時計を見上げ、自分が早く来すぎていることにやっと気付く。
手元の灰皿にねじ込まれた吸殻が多すぎることにも気付き、目を見開く。それ程の量だった。
児嶋は一旦タバコを置き、再びブレスレットを摘み上げた。
トップの石が白い輝きを放ちながら揺れている。
角度を変えると、何色もの色が輝いた。虹色。やっぱ高そうだな、と思う。
じいっとそれを見つめていると、児嶋は、なんだか自身が透けていくような錯覚に襲われた。
途端、すうっと雑音が消えていく。静寂。
背景に溶け込んだ自分を、かき消すように紫煙が通り抜けて――
そこまでイメージした所で、思い出したように瞬きをした。
石は、相変わらず澄ました顔でぶら下がっている。無視されている気分になり、少し苛立つ。
(…渡部なら訪問販売のバイトとかやってたらしいから、何か分かるかもしれないな)
しっかり者の相方が、しかし時間にはルーズであったことを思い出す。
早く来てしまった分、待ち時間は相当長くなりそうだ。大げさに肩を落として。
ともあれ気を紛らわそうと、さっきのタバコを咥えた。
不安混じりの溜め息は長くて、白かった。
587
:
581
:2007/09/04(火) 14:40:44
楽屋へと向かう渡部の足取りは、軽やかだった。
Tシャツの中に隠しているが、細身のシルバーペンダントはそこに存在している。
トップには水晶。透明な光は、すべてを浄化してくれるような気さえした。
不思議な「石」については、聞いたことがあった。
芸人たちの滾る情熱が結晶として具現化されたものだ、といっても過言ではない、それ。
最近若手芸人の間で出回り始めたらしいが、まさか自分の元にも来ようとは。
「どんな能力なんだろう…」
わくわくして独りごちる。服の上から胸をなでると、石の存在が実感できた。
渡部はその性格上、こんなに夢のある話を黙っていたくなかった。
(言いふらしたい。先輩、後輩、同期。いや、素人の友達でも、いっそ犬でもいいや)
だがもちろん、それが利口な行動でないことは知っている。
自分の石の情報を知る者が増えると、それだけ危険も高まる。
知られた自分も、場合によっては、知った相手にも害が及ぶかもしれない。
本能、というより、冷静な”もう一人の自分”が、そう理解していた。
故になんとか気を紛らわせるべく、親指の爪を、噛んだ。
588
:
581
:2007/09/04(火) 15:58:00
とりあえず一旦ここまで…また書けたら投下します
愛あるツッコミやアドバイス、よろしくお願いします
589
:
581
:2007/09/05(水) 11:38:31
おっす。後ろから声を掛けられ、渡部は振り向いた。設楽だ。
そういえば、今日はバナナマンと同じ番組に出るんだった。そう思い出す。
渡部も挨拶を返し、二人は並んで歩き出した。
「あれ、なんか嬉しそうじゃない?」と設楽。
何だ、ばればれなのか?ともあれ口から爪を離して。
「そうでもねえよ。あ、統は…、」思わず石のことを尋ねそうになり、しかし口をつぐんだ。
「ん、何?」
いや、こいつなら仲良いから別にいいかな。いいよな。
「その…聞いたことあるか、『石』のこと」
とはいえ当たり障りのない質問にした。自分が石を持っていることは漏らすべきではない。
…と思う。多分。
「あー、芸人の間に出回ってるってやつね」
都市伝説じゃねえの、と軽く笑われる。当然かもしれない。
渡部は、ところがどっこい、という台詞を必死に飲み込んで、続けた。
「いやさ、もし本当だったらカッコイイなーと思って」
「ああ確かにね。めちゃくちゃ欲しいもん、俺」
「お、マジで?」
「そりゃーそうでしょ。こう…”選ばれし者”みたいな?」
「ははは、漫画読みすぎだって!」
「そっちがフッたんじゃなかった?」
他愛無いやり取り。こいつは持ってないんだな、と何故か安心する。
くだらないことで笑い合ううちに、目的地の目の前まで来ていた。
番組は同じでも、それぞれ楽屋は違った。渡部は左、設楽は右の部屋へ。
ありふれた日常の、ほんの1ページ。
…と思う。多分。
590
:
581
:2007/09/05(水) 11:43:33
楽屋のドアが開き、児嶋は、待ってましたとばかりに顔を上げた。
目線の先には、はたして渡部の姿があった。親指の爪を噛んでいる。
相方のいつもの癖だったが、今日は、なんだかいい事でもあったかのように見えた。
尋ねてみると、渡部はすぐに口から爪を離した。
…まあともかく、相談するには良いタイミングだろう。
「あのさ、ちょっといいか」児嶋は、思い切って話を切り出した。
渡部は、何だ改まって、と荷物を降ろしている。やっぱり機嫌は良さそうだ。ラッキー。
そうして児嶋の向かいの椅子に座ったところに、例のブレスレットを見せてやった。
「…要らねえよ、気持ちわりいな」
「お前にじゃねえよ」
あからさまに嫌悪を示されたので、ツッコミを入れる。
「で、何よそれ」渡部はまだ眉をひそめたままだ。
「送られてきたんだよ、こないだ」
「マザコンめ」
「いや、差出人不明なんだって」
そう言うと、渡部の顔つきが急に真剣みを帯びた。
「ちょっと貸して」
言われたとおりそれを手渡す。ああ、やはり心当たりがあるのか。
まさか、その筋では有名な詐欺だったりするのだろうか。
児嶋は緊張しながら、いまや鑑定士となった相方を不安げに見つめた。
591
:
581
:2007/09/05(水) 11:47:59
ブレスレットのトップにある綺麗な宝石を見て、渡部は確信した。
これは「石」だ。都市伝説なんかじゃない、あの「石」だ。違いない。
「…オパールだな」
渡部は、それだけ呟いてブレスレットを返した。
「やっぱ高そう?」おそるおそる、児嶋。
「ああ、本物っぽいからなあ。大事にしろよ」
「って、大丈夫なのか、そのなんていうか、法的に…」
「心配ねーよ、…っていうか、お前も芸人だったんだな。忘れてた」
「はああ!?」
さっぱり分からない、という様子で聞き返される。
(フツーに何にも知らなさそうだな、こいつ)
溜め息をつくと、渡部は説明を始めた。
「『石』って聞いたことあるか?」
簡単な説明を受けた児嶋は、怪訝そうな表情を浮かべ腕組みしていた。
「つまり…俺とお前は”選ばれし者”ってことか?」
そう言って自身のオパールと渡部の手元に置かれた水晶を交互に指差している。
「うーん…じゃ、そういうことでもいいか」
適当に頷く。こいつも漫画の読みすぎだな、と苦笑が漏れる。
「どんな能力なんだろう…」
心配そうに独りごちて石を覗き込む児嶋。渡部と正反対のリアクションだった。
592
:
名無しさん
:2007/09/05(水) 20:26:58
なんか反応がアンジャッシュらしくて、考え方とかもリアルでいいなあ
続き期待
593
:
581
:2007/09/06(木) 00:28:31
うおお、ありがたき幸せ!
これからもちょっとずつ投下していきますのでご指導よろしくです
594
:
581
:2007/09/06(木) 00:42:11
渡部が自分の能力に気づいたのは、その日の収録終わりだった。
自販機前の長椅子に座り、右手の缶コーヒーを一口。熱くて苦い。
そこに「お疲れさん」と呼びかけてきたのは、上田だった。
その右手には缶ジュース。見たことのない派手な柄だった。何味なんだろう。
「お疲れ様です…最近忙しそうっすねえ」
苦笑混じりに、渡部。皮肉ではなく、心からの労いだった。
おかげさんでな、と笑んで、上田は缶の封を切った。シパッ、と清々しい音。
「あの、上田さん」
隣に腰掛けた先輩に再び口を開く。何か話さなくては。ええと。
「何だ」
「…あー、どうです最近」
「アバウトだな」
円周率か、と呟きジュースに口を付けている。それにしてもカラフルな缶だ、と思った。
「もうちょい具体的に聞いてくれよ」
「そうっすね、じゃあ…味とか?」
「うは、何じゃそりゃ!中身吹き出すとこだったぞ、はは」
「何だちょろいな…」
冗談めかして呟くと、くしゃくしゃの笑顔に額をはたかれた。
595
:
581
:2007/09/06(木) 00:56:44
「…で、どうなんです?味」
再び問う。適当に質問したことだったが、一応答えは得ておきたかった。
「おう、果物だってのは分かんだけどなあ」
そう呟き、上田は首をひねりながらもう一口含んだ。しかしますます眉を寄せて。
「…あれー?何の味だっけこれ!分かりそうで分かんねえぞ」
「缶には書いてないんすか?」
「『トロピカル』…って広いな!結局何味だよ!」缶にまでツッコむ先輩に感心。
じゃなくて。うわ、気になる。どんな味なんだろう。当ててやりたい。
俺も、飲んで味わってみたい。
そう考え、渡部は冗談半分に目を閉じ、念じてみた。気分は超能力者。
すると。
途端、口いっぱいに甘酸っぱい感覚が広がる。
閉じたはずの目の前には、カラフルな缶。「トロピカル味」と書かれている。
その缶を握る右手には、確かに冷たい感触。缶コーヒーはどこへ消えた?
これじゃあまるで、
俺が上田さんになってしまったみたいじゃ、ないか?
596
:
581
:2007/09/06(木) 01:07:46
「この状況で寝たフリってあるかいっ」
豪快な笑い声と共に頭をはたかれ、渡部はハッと目を開けた。
自分の感覚が戻ってくる。コーヒーの苦い後味。右手に握っている硬い熱。
瞬きを繰り返す。辺りを見回す。視力は正常だった。
どうした、と不思議そうに自分を見つめる上田に向き直って。
「パインと、…マンゴーあたりっすかね」
自信はあった。
上田は少し考えて、「それだ!」と顔を輝かせた。「お前すげえな」、と。
結局それから少し会話を楽しんだ後、上田は次の仕事のため立ち上がった。
「じゃ体に気をつけろよ」と言って去ろうとする先輩に、
「むしろそちらが」、と笑った。
仕事の量は、圧倒的に上田のほうが多いに決まっているので。
残された渡部は、缶コーヒーを一気に飲み干した。ぬるくて苦い。
甘酸っぱい後味は、もう無かった。
597
:
581
:2007/09/06(木) 01:21:12
その日を境に、渡部は石の能力を小出しに使用し、実験するようになった。
そうして分かったのが、自分は目を閉じて念じることで他人と「同調」できるらしいこと。
対象人物一人の見るもの、聞くもの、味わうものなどを共有できるらしいこと。
つまり、相手の五感を探る事ができる、ということ。しかも、本人に気付かれずに、だ。
あと、どうやらそれは自分の目の前にいない人物でも可能だということ。
また、同調している最中は自分の体が全くの無防備状態になってしまうという、こと。
「…なあって!」
不意の大声に驚き、「同調」を解く。
目を開けると、児嶋がバックミラー越しに自分を睨んでいた。
今は、児嶋が運転する車で仕事に向かう最中だった。
一人後部座席に揺られる退屈を紛らわすべく、さっきまで山崎に「同調」していたのだ。
居酒屋らしきところで仲間と飲んでいた後輩は、相変わらず大声で喋り散らしていた。
店の熱気と喧騒から帰ってきた今も、耳に違和感。相方のせいではない。
「寝るなよ、人が話してる時に」苛立った様子で、児嶋。
「寝かせろよ、退屈なんだから」
「退屈ってあるかい、相方が喋ってんだよ!」
「わりいわりい」魂を込めずに謝ると、渡部は窓から遠くを眺めた。
何でさっさと焼き鳥食わねえんだよ、と山崎のおしゃべりな性格を、恨んだ。
598
:
581
:2007/09/06(木) 10:42:32
ありがたいことに氏ねって言われてないし、
なんかアイディアも湧いてきたので一気に書いちゃいます!
599
:
581
:2007/09/06(木) 10:58:52
児嶋は、局内の喫煙コーナーに足を踏み入れた。
濁った独特の空気の中、タバコを咥え、一人思考する。
(渡部の様子が、おかしい)
最近相方が頻繁に居眠りをすることには、とっくに気付いていた。
ほぼ毎日。しかも、時にはこちらが話している最中にさえも、目を閉じている。
おかしい。一体どうしたのだろう。極度の疲労なのか?
そういえば、顔色も悪くなった気がする。気のせいだと思いたいけれど。
…いや、実は、心当たりがあった。
「石」だ。
俺は馬鹿だけど、頭が悪いわけじゃあない。
あいつは何も言わないけど、もしかして何か能力が目覚めたんじゃないか?
その能力を使った反動で、疲れが出ているんじゃないか?
……。
「…って、漫画の読みすぎかなあ」
ぼそりと呟く。もちろん独り言だ。
左手を掲げると、チャラ、とチェーンの擦れる音がした。白と虹色が揺れている。
本当に選ばれたのか、俺は。
そう石に問う。
返事が無いのは、もちろん独り言だ。
溜め息が白くないことで、ようやく火をつけ忘れていたことに、気付いた。
600
:
581
:2007/09/06(木) 11:07:06
局の外に出ると、渡部は深呼吸した。禁煙中なので、タバコは見たくもなかった。
都会独特の空気の中、空を見上げ、一人思考する。曇り空。
(近頃、体がだるい)
首に下げていた石を手に取った。相変わらず透明だな、と思う。
疲労の原因は分かっていた。能力の多用だ。タダで使える力なんてこの世には無い。
程度こそあれ、物事はいつだって何かと引き換えなんだ。知ってんだ、俺。
渡部が毎日のように石を試すのには、目的があった。
一つは、自分の能力をよく知るため。
使い慣れていないと、いざというときに困るだろうから。
すっと自然に「同調」できるようにしておくことは、今後役立つだろうから。
一つは、能力を磨くため。
何度も力を使ううちに、精度が上がるかもしれないから。
今は五感だけだが、いつか精神さえも共有できるようになるかもしれないから。
(…できるようになって、どうするんだ?)
自分の不安な心が干渉してくる。うるさいな、なっといた方がいいんだよ。
(何に使うんだ、その力を)
悪いことには使わない。他人の心まで覗かなきゃいけない日が、いつか来る。
(「いつか」って、いつのことだ?)
「…一生来て欲しくない日のことだろ」
声に出す。何故か、全ては”もう一人の自分”が理解していた。知ってんだ、俺。
601
:
581
:2007/09/06(木) 11:18:39
とある日。渡部は楽屋のソファに腰掛け、台本を確認していた。
児嶋は、他の芸人の楽屋に遊びに行っている。暢気なやつだな、と思う。
一通り確認した台本を閉じる。そろそろ、「練習」しなくては。
今日のターゲットは、設楽に決めた。理由なんて無い。なんとなく。いつもの事。
渡部はおもむろに目を閉じた。「同調」の体勢だ。
普段の練習のおかげで、「同調」に至るまでの作業は幾分スムーズかつ精確になっていた。
気分はコンピュータ。遠くの対象に素早くアクセスし、情報を読み取る。
真っ先に得たのは、視覚。漫画を読んでいるようだった。不気味な絵だな、と思う。
続いて、触覚。左手で頬杖を付き、右手はページを掴む。肌と紙の感触。
「で、そっちはどう?」
そして聴覚。設楽の、気の入っていない、緩い声が届く。
いわゆる骨伝導のせいか、普段の声より少しくぐもっている気がした。
「…いえ、全然。設楽さんみたいに大胆には聞き出せませんよ」
穏やかな声。聞き覚えがある。誰だっけ、ええと。
「はは、俺そんな大胆かなあ」
軽く笑い、右手がページを一枚繰る。本当に独特の絵柄だ、と思う。
「大体、聞いたところでそう簡単に教えてくれますかね」
「そりゃーもう。お前誠実そうだし、大丈夫だろ」
「っていうか、話聞いてます?」
相手の一言に、視点がゆるゆると漫画から人物に移る。
ああ、そうだ、こいつの声だったか。
「大事な話なんですよ」諌めるような口調で、ラーメンズ・小林はそう続けた。
602
:
581
:2007/09/06(木) 11:26:44
「わーかってるよ。先公かっての、もう」設楽の右手が、渋々漫画を閉じて。
(大事な話だからこそ、漫画読みながらでも聞けるのにさ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中ではなかった。
ということは。
今一瞬、設楽の精神に同調できたのでは、ないか?
逸る気持ちを抑え、渡部は再び感覚を研ぎ澄ました。
読み取ってやる、もう一度。来い。
「いいか、」とのんびりした声は、設楽。
「人間っていうのはな、誰だって不安なんだよ」
はい、と真剣な声は、小林。
「誰だって、最初っから自分のことペラペラしゃべらねえよ。分かるだろ?」
「…はい」
「でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部」
「いや、だからそこが難しいんですって、」真面目な声が頭を掻いた。
「設楽さんと違って、人を誘うのに向いてないんですよ、”僕の”は。」
”僕の”が修飾しているであろう名詞は、省略されていた。何だろう、顔か?
「それ、『シナリオ』に頼りすぎ。俺だって、毎回『説得』するわけじゃねえもん」
(…それにしても、随分真剣にナンパ論を語るんだなあ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中であった。
603
:
581
:2007/09/06(木) 11:37:20
(やっぱり、変だ)
児嶋は、ソファに座ったまま動かない相方を、ドアの隙間越しに観察していた。
実は、他の芸人の楽屋に遊びに行くフリをして、楽屋の入り口にじっと潜んでいたのだ。
もちろん、渡部の挙動を探るためだった。
一人になれば、「石」を使うかもしれないから。
渡部が台本を閉じたとき、いよいよか、と身構えた。
が、期待に反し、どうやらそのまま眠ってしまったようで。肩を落とす。
…でも。
居眠りなら、普通身じろぎの一つぐらいしていいんじゃあ、ないか?
そうして観察を始めてから5分が経過しようとした時。
渡部の胸の辺りから、微かに透明の光が漏れていることに、やっと気が付いた。
(…いつから光っていた?最初からだったか?一体何が光っている?)
そうだ。「石」の疲労で居眠りが増えたんじゃあない。
多分、「石」の使用が居眠りに見えていたんだ。
そんな頻度で石を使っていたならば、そりゃあ体調だって悪くなる、はずだ。
答えが分かった瞬間、児嶋は勢いよく相方の元へ駆け出していた。
力を使うのを、やめさせるために。
604
:
581
:2007/09/06(木) 11:49:13
渡部は、急に「同調」の精度が落ち始めたのを感じた。
かろうじて視覚は残っているが、いまや触覚と聴覚が完全に奪われつつある。
接続した自分の意識が、設楽の中から徐々に追い出されていくような、感覚。
必死に視覚だけでも保とうとしたが、それも上手くいかない。
(そういえば、設楽の中に入ってから、どれぐらい経った?)
普段は、安全のために3分程度に留めていた。
しかし今日は、とっくに5分ぐらい経っていそうで。
(限界か、くそ)
両肩を掴まれているのを感じた。触覚。
次いで聴覚。何度も名前を呼ばれている。聞こえてるっての。
ゆっくり目を開ける。うろたえまくった表情は、相方だった。視覚。
割と何度も両肩を揺さぶられていたのだろうか、前後の方向に眩暈を感じた。
「…何だ、居たのかよ…」
平静を装うも、内心は焦りに満ちていた。自分の能力については、隠していたので。
やられた。いつから見られていた?ばれただろうな、さすがに。
だがここで、急に瞼が鉛のようになった。とても目を開けていられない。
しまった、と思った時には、すでに遅すぎた。
何でもっと早くに気付けなかったんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれなかったけれど。
児嶋の顔や声が一気に遠のき、渡部の意識は、ついに途切れた。
気分はコンピュータ。強制終了。
605
:
名無しさん
:2007/09/06(木) 14:37:48
面白いです。ストーリーに引き込まれる。
今までの設定もちゃんと生かせているし、ぜひ本スレに投下してください。
ただ一つだけ苦言を呈しておくと
投下の合間の581さんのコメントはもうすこし落ち着いてほしい。
あんまりテンション高いと気になる人もいるから。
606
:
581
:2007/09/06(木) 21:39:56
ありがとうございます、嬉しいです
そしてすみません、まさかそっちで叱られるとは…w
まだ少し続くので、もうしばらくお付き合い願います
607
:
581
:2007/09/07(金) 23:53:05
(――今、何時だろう)
目を覚ました渡部の、最初の思考だった。
重い瞼を無理やりこじ開ける。頭が痛い。
どうやらベッドで眠っていたようだ。自分のベッドでないことは分かった。
布団にくるまれている感覚を再認すると、また意識が遠のきそうになった。まだ眠い。
目だけで辺りを見回す。もちろん、自分の部屋でないことも、分かった。
なぜここに居るのかは把握できなかったが、場所には見覚えがあった。確かここは…
「お、いけるか渡部」
ドアから、声が近づいてくる。苦労してそちらに目をやると、眠気が飛んだ。
「…有田さん?」
そうだ、昔よく遊びに来たっけ。
渡部が上半身を起こそうとするのを、しかし有田は冷静に制した。「無理すんな」、と。
言葉に甘え、再び枕に頭を落とす。確かに、まだ体は本調子ではない。
「あの、」と渡部。「何で僕、寝てんすか、有田さん家で」
覚えがなかった。最後の記憶を必死に辿ってみる。台本しか思い出せない。
「そうそう、それね。楽屋で倒れたんだよ、お前」
さらりと言ってのけると、有田はドアの向こうに呼びかけた。
「おーい、やっと起きたぞ」
えっ、という弾んだ声の後、どたどたと騒がしくやってきたのは、山崎だった。
「ああよかった、大丈夫ですか?」渡部を覗き込み、満面の笑みだ。
渡部はというと、与えられた情報を消化しきれずに、呆然と頷くだけだった。
608
:
581
:2007/09/08(土) 01:44:39
山崎から水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
その渇きの具合から、気を失っていた時間が長かったことを、悟った。
「…どれぐらい寝てました、僕」気になっていたことを尋ねてみる。
有田は腕時計を見やり、今は1時前だなあ、と噛み合わない返答。
「1時…ってことは…?」
「ああ、夜中のですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
「冗談冗談。11時間ちょっとだよ。仕事の方は田中がなんとかしてくれたから」
当たり前のような口ぶりで有田。しかし、どうしても意味が飲み込めない。
「…田中…?」
「ああ、アンガールズのですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
改めて有田に問う。「っていうか、田中が何をしてくれたんすか?」
「収録を来月に延期するよう、プロデューサーさんに頼んでくれたんだよ」
「ほら、石ですよ。田中さんの能力、相手を納得させるやつなんです」
山崎の補足。今度はありがたかった。
(…って、石、だって?)目を見開く。
田中が石を持っていること以上に、有田と山崎がその能力を把握していることに驚いた。
「あれ、石、知りません?渡部さんだって持ってるじゃないすかあ」
「っていうか、力の使いすぎでダウンしたんだろ、お前」
「いや、その…」どう答えていいか分からない。
「聞いたぞ、児嶋から。何で隠すんだよ」不機嫌そうに、有田。
「そうですよ、水臭いなあ、」山崎も、軽く笑って便乗する。「仲間でしょ、俺ら」
――『仲間』。
月並みな単語だが、その一言で幾分心が軽くなった気が、した。
609
:
581
:2007/09/08(土) 01:55:55
直後、携帯の電子音が鳴り響く。急な物音に心臓が跳ね上がった。
「あ。わりい、俺だわ」と有田。のそのそと応答して。
何やら親しげに会話を交わしたあと、それを渡部に差し出してきた。
「…え、」
「上田。替われってさ」
よく分からないまま携帯を受け取り、もしもし、と呼びかけてみる。
『おう、どうだ、よく寝られたか?』
「…はは、おかげさまで」受話器越しのジョークに、力なく笑んだ。
『ったくよー、自販機前で忠告しただろ?”体に気をつけろ”ってさ』
叱られた。何だ、そういう意味だったのか、あれは。
「って上田さんも知ってたんですか、石のこと」
『まあな。大体あれだ、お前が寝たフリしてた時、光ってたぞ、石』
「……」
『児嶋からお前が倒れたって聞いたときは、まあピンときたね』
「…すみません」
『病院に担ぎこむのも、ややこしいしな。
それにその症状じゃ周期性傾眠症とか言われるのがオチだろうから、
とりあえず児嶋には、車で有田ん家に運ぶよう指示しといたってわけだ。この俺が』
「あー…」倒れるまでの記憶が蘇ってくる。石。設楽。同調。以降闇のち現在。
『うお、じゃあな、後で柴田にも礼言っとけよ!』
そう言い残すと、上田は慌ただしく電話を切った。
仕事の合間に、わざわざ電話をくれたのだろう。その心遣いが嬉しい。
渡部は、やっぱりこの人のほうが忙しそうだな、と改めて思った。
610
:
581
:2007/09/08(土) 02:24:52
「柴田の石はですね、」と突然口を開いたのは、山崎。
「回復とか手助けに役立つ能力なんです」
渡部と有田は同時に声の主を見つめた。
「…ああ、そうそう。柴田が介抱してくれたおかげなんだぞ、今お前が動けるの。
仕事があったから、もう帰ったんだけどな。心配してたぞ、あいつ」
思い出したように有田が説明する。
それによって渡部は、先刻の上田の台詞を理解した。
山崎が続ける。
「僕の能力は召喚で、有田さんの能力は、ええと…弱点エグリです」
「もっと言い方ってあるだろ」
有田は苦笑し、あとの台詞を引き継いで。
「上田はサイコメトラーだ。いちいち薀蓄言わないと駄目とかで、うっとおしいけど」
「ほんと、なんか偉そうで腹立つんですよねえ」
「な、生理的にきもいよな」
そう言い合って、からからと二人笑っている。
渡部は、終始ぽかんとしていた。
611
:
581
:2007/09/08(土) 02:32:41
「ほら、渡部さんも。教えてくださいって、能力」
「そうそう、秘密はみんなで持った方が、楽だろ。荷物は軽いに限るんだって」
脳が、だんだん巡り始めてくる。
確かに一人よりも、『仲間』同士で助け合った方が、楽だ。
だがその結果、その大切な『仲間』まで危険に巻き込んでしまうと、したら?
また、”自分”の声。そんな事分かってる。
…だけど、その時は。
(――その時は、俺が責任を取れば良いから)
そうして慎重な”自分”を押さえ込んで。
覚悟を決めると、渡部は自分の能力について、ゆっくりと話し出した。
『でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部』
心の中で、”自分”に言い訳。
設楽のナンパ論も的を射ているな、と自嘲気味に笑んだ。
612
:
581
:2007/09/08(土) 02:44:22
それから二日後。児嶋は、自分の楽屋に向かう途中だった。が。
「おざーっす!」と元気の良い挨拶に背中をぴしゃりとぶたれ足を止めた。
びっくりして振り返る。にこにこテンションの高いのは、柴田だ。
「いてえな、もう…」叩かれた箇所をさすりながら苦情を漏らす。
「今日は、ネタ番組ですか?」って先輩殴っといてスルーかい。せめてイジれよ。
頷いてやると、「よかったですね」、と返される。どうも柴田との会話は、ちぐはぐだ。
「…ほらあ、渡部さんですよ。もう元気になったんですよね?」
「ああ、昨日会ったらピンピンしてた。人騒がせな奴だよ、まったく」
これも上田の機転と、柴田の石、そして有田・山崎のフォローのおかげだろう。
あと、半日弱もの睡眠といったところか。羨ましい。自分だってたっぷり寝たい。
児嶋はというと、渡部を有田の家に運んだ後は、離れた地でそわそわしていただけだった。
だって田中には仕事の件のお礼に奢ってやりたかったし。
大体、別にあの場に居ても何の役にも立てなかったろうし。
「で、やっと教えてもらったんでしょ、渡部さんの能力」
「…っつうかさ、あいつ慎重すぎだよな。偉そうなくせに、てんでビビリなの。
もし俺だったら、自分の能力分かったら、まず皆に自慢して回るって、はは」
「ってまだ分かってないんすか、自分の能力!?」
「そこかい」
何だ、やはり間の抜けたことなのか。恥ずかしくなり、自分の頭を乱暴に掻く。
「まあ、でも大丈夫ですよ、いつかは分かるもんですから」
「『いつか』っていつだよ?」
「そりゃあ、一刻も早く来て欲しい日でしょうよ」そう言うと、柴田は満足げに去っていった。
何じゃそりゃ。後輩の適当な返しに呆れ顔になった。
613
:
581
:2007/09/08(土) 02:48:08
児嶋は楽屋のドアノブを捻った。
正面の壁時計を見て、また早く来すぎたことに気づく。
どうせ今日も、渡部は遅いんだろうな。
どうせ今日も、タバコ吸いまくる羽目になるんだろうな。
そう考え、苦笑を浮かべた。
児嶋の期待する『いつか』は、この日から三週間後の、とある日。
渡部の危惧する『いつか』は、既に動き始めている。
614
:
581
:2007/09/08(土) 02:52:34
これで一応終了です、長々と失礼いたしました
もともと見切り発車だったので強引な展開になってしまいましたが…
みなさんからのツッコミ、意見などいただければ嬉しいです
615
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 08:07:23
乙!白は暖かいな
渡部が設楽と同調してるのにすれちがってる辺り面白い
本スレ行っていいと思う
616
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 12:09:17
>>614
面白かった。
展開も別に強引さを感じなかったよ。
本スレ行きに賛成。
617
:
581
:2007/09/08(土) 15:21:45
褒めていただけて嬉しいです、ありがとうございます
めっさ長いですが、本スレにそのままコピペで投下しちゃって大丈夫でしょうか…
618
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 20:21:30
別にいいと思う 本スレ盛り上がるし
619
:
581
:2007/09/09(日) 00:13:36
よかった、では今から投下してきます
620
:
名無しさん
:2007/09/13(木) 01:01:48
ga
621
:
名無しさん
:2007/10/28(日) 19:49:40
age
622
:
4696
◆2sdZ4rmEDQ
:2007/12/07(金) 18:23:09
NON STYLE編の冒頭だけ書いてみました。
評価いただければ続きを書いたり本スレ投下してみたりするので、よろしくお願いします。
石。
ベッドの中に棲んでいた見覚えのないそれが、手になじんだ感触はこの上ない快感のように心が揺らいで、小さな体を全体で抱きしめた。手の中からじんわりと感情に共鳴するように温まる感触には、緩やかに心が安らいでいく。
手の中のきらめきはかすかに己に力を与えるような強さを持って、その中の闇に紛れたような黒ずみが、不思議に心を吸い込まれるような、ともすれば怖ろしい閃光を放っている。何度も見返してしまう鮮烈な美しさは、心臓に直接入っていくような激しい一体感を感じた。
久々に憶える、子供に似通った純粋で激烈な愛に、手が勝手に黄色い石をポケットに入れた。
「お前」
「何やそれ」
二人で楽屋にいた。井上が手の中で石を弄んでいると、石田が聡くそれを見つけ出し、井上の手の中の石の美しさに惚れ惚れしていた。
井上が何も言わずもったいぶった風の含んだ笑みをこぼすと、手を強く握り締め、黄色い輝きは手の中に収まって見えなくなる。
「めっちゃ綺麗や! くれ!」
「無理や」
「なんで!」
石田の声が炸裂する。井上が大口を開けて笑うと、伸びきった前髪をめくり、ゆっくり目を細めた。
「気に入ったから」
できれば一緒に寝たいくらい愛しかった。わずかに黒ずんだ輝きが髪の先から足の爪先まで掴んで離さない。
すべてを魅了された。
もしかしたら偏執的に見えるくらいこの石コロに触っている。体温で熱くなってきた石を握り込んでは開放すると、命あるもののように鼓動を打って反応を返すのが、脳が溶けかけるほど気持ち良かった。狂ったように静かに応酬する様子を見ると胸を押しつぶされるが。
「……石田」
「もしかしたら俺、お前みたいになるかもしれん」
「どういう意味?」
「石に話しかけるヤツになるかもしれんって事」
「……ハァ?」
623
:
名無しさん
:2007/12/09(日) 03:43:41
これだけじゃまだ解らんけれども、楽しみです
続きキボン
624
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:04:56
はじめまして、能力スレにラバーガールの能力案を募っていた者です。
ずっと読み専だったので色々とおかしな点もあるだろうし
いきなり本スレというのも気が引けるので、予告編として投下します。
そういえば、石。
自分達とバイト店員以外はいないモスバーガーで大水が何の気なしに呟いたのは、
ちょうどネタをつくっている最中のことだった。
それが今までネタの案を挙げていた口調と全く同じに呟かれたものだったので
反射的に「石」と書いてしまった飛永はその一文字に取り消し線を引きながら顔を上げた。
「石?」
「とうとう来ちゃったよ」
そう言いながらゴソゴソと取り出した大水は、石をテーブルにコロンと転がす。
テーブル上を落ち着きなく転がりまわる球体の石は紺色の絵の具に白を混ぜたような深い青で、
透き通ってはいないかわりにしっかりと磨かれ、キラキラと輝いていた。
石の様子を目で追う飛永に、アベンチュリンっていうらしいよ、と大水は告げる。
「アベ…なに?」
「アベンチュリン。別名はインド翡翠。あ、でも翡翠では無いんだって。
翡翠に似てるからそう呼ばれているだけで。
似てるって言われるだけあって大抵は緑のものが多く出回っているんだけど、
こういう風に青いのは珍しいんだって。それで…」
「ちょ、ちょっと待って」
止めなければいくらでも話し続けそうな大水を一度制して、飛永はノートを閉じた。
こういう話はついで感覚でするものじゃないし、何より聞きたいことがたくさんあったからだ。
飛永は石をつまみあげると大水に渡してしまうよう促し、きちんとしまったところで口を開いた。
「なんで種類とか知ってるわけ?」
「調べてもわからなかったから、持って行って聞いた」
しれっと答える大水に、飛永は驚きと呆れを隠せなかった。
ひくりと顔がひきつったのが自分でもわかる。
大水の口ぶりから石を手に入れたのはここ数日の出来事なのだと勝手に解釈していたが、
もっとずっと以前から大水は既に石を手に入れていて自分に黙っていたのではないか。
嫌な予感を否定してくれるようにと、飛永は祈るような思いで言葉を続ける。
「ちなみにその石で何が出来るかわかってるとか言わないよね」
「いや、もうわかってるけど」
頼みの綱も簡単に切られ、飛永は頬杖をつくと大きなため息を吐きだした。
噂を聞く限り、石を手に入れた者が能力に目覚めるのは個人差があるという。
石を手に入れた瞬間反射的に能力に目覚める人もいれば、
何かの拍子に発動して初めて能力を知る人もいる。
大水のことだから手に入れてすぐに能力を…という仮定も出来ないことはなかったが、
そういう人はごく少数だそうなので、多分石を手にしてからある程度経っている可能性の方が高い。
別に自分に言わなければならないという決まりごとはなかったが、
石については散々二人で話していたことだったのだから
手に入れていたのならすぐにでも教えてくれたっていいだろう。
飛永は恨めしげに大水を睨むと、もう一度深いため息を吐いた。
625
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:08:35
彼らにとって、石の話は決してまことしやかに語られる噂話などではなかった。
厳密に言えば「身近な話だが蚊帳の外」といった具合だろうか。
他の事務所や他の芸人はどうだかわからないが、
彼らにとっての石とはそういう存在だった。
その点は人力舎という事務所柄が多いに関与している。
大っぴらに石を使って行動する先輩やら、突如奇怪な行動をとったと噂される先輩やら、
白のユニットや黒のユニットと呼ばれる者達の攻防やら。
人数が少なく厳しい上下関係があまり存在しない人力舎内において、
不思議な石とそれを持つ人々の能力、そして彼らの戦いは後輩達に筒抜けだった。
中には実際に石を使っている現場を目撃した者までいる始末だ。
ただし、話を耳にした後輩達の感想は様々である。
ある者は芸人たる証である石が欲しいと望んだし、
ある者は面倒事に巻き込まれたくないと感じた。
そして、ラバーガールは二人とも間違いなく後者であった。
そんな二人が仮定の話で、と石についての方針を決めたのはもうずっと前のことである。
方針、といってもそんなに大そうなものではない。
あくまで「もしも」の話を、ぼんやりと話し合ったにすぎない。
能力が開花する時期はともかく、一方にだけとても早く石が渡ることはないだろうし、
一方が勝手に動いても絶対互いの関係がギクシャクする。
石のために石を手に入れるきっかけとなった芸事を疎かにするのもどうかと思うし。
石にまつわる噂話が徐々に熱を帯びて飛び交い始めた頃二人が話し合って決めた方針は、
「石が実際に手に入ってから改めて話し合うが、手に入るまでは無関心・無知を装う」というものだった。
それから二人は何年もの間、興味の無いふりを徹底した。
実物を持っていなかったから特に意識をせずにできたし、
石についての話を持ちかけられても何度か敬遠してやれば、
次第に話し相手に選ばれることはなくなった。
けれどそれはあくまで「装う」だけであって、
耳に入って来た情報や石・能力に関しての知識は徹底的に収集した。
いつかやってくるかもしれないその時、身の振り方を決めやすいように。
これを続け、今。
とうとう自分達の元にも石がやってきてしまった。
他人事だったものが自分達にも関わりのある話になってしまう恐ろしさ。
これからのことを考えると、二人はただただ憂鬱で仕方ない。
「一か月前、起きたら枕元にあってさ」
「そんなに前からかよ。少しは言ってくれてもいいんじゃないの」
「いや、できればこのままなかったことに出来ればいいと思ってたから」
面倒、と言いながら大水は紙ナプキンに手を伸ばす。
そしてグラスなど周囲のものをどかしナプキンを広げると、
飛永のノートに挟んであるペンを抜きだし何かを書き始めた。
2本の縦線で区切られた3つの空間に、少しずつ文字が書き込まれていく。
飛永は眉を寄せながら字を見つめ、どうにか書かれている内容を理解した。
本来書く用途に使われる紙でないこと、飛永から見ると逆さに見えることを差し引いても大水の字は汚く読みづらい。
例えばそれが見慣れた名前でなかったから読むことなど出来なかっただろうと、飛永は心の中で苦笑する。
大水が書き込んでいたのは芸人達の名前だった。
3つに分けられているのは「白」「中立」「黒」なのだろう。
事務所の先輩、ライブや番組で見知っている芸人、舞台上以外でも親交のある芸人、様々な名前が書き込まれていく。
少しの時間を要し書き終えた大水は満足げに息をつくと、右手で氷が溶けきって水だらけになったグラスをあおり
左手でナプキンを反転させ、飛永に見せた。
飛永はもう既に大体の内容を把握している紙を律儀にもう一度確認すると、へえ、と声をあげる。
相方ながら、よくぞここまで調べ上げたものだ。
飛永は感心しながら字を追い、ふとした疑問が浮かんだ。
それは、お互い公私ともに親交のあるコンビのこと。
「ギースは?」
「ギース?わかんない。まだ持ってないんじゃない?この前もそういう素振りなかったし」
「まーね」
最近、この2組は合同ライブを行っていた。
その時は稽古・楽屋・本番・打ち上げ等、相当な時間を共に過ごしたが、
彼らの石の目撃もしなければ特に話題としてのぼることもなかった。
元々石への関心が無いように装っていたので気を遣って話をしなかっただけかもしれないが。
626
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:14:13
疑問がいったんの解決を見せたところで、大水は本題とばかりに指でナプキンを叩く。
下のテーブルがコンコンと音を立てたのに反応して、飛永は視線を再びナプキンへと戻した。
「知ってるのはこれだけだけど、大体は白に偏ってる」
「そうだなぁ…人力内の情報がほとんど、ってのが原因だと思うけどな」
「っていうか黒の情報が少ない」
「黒は簡単に尻尾出さないだろ。それに人力内で黒側って相当勇気必要じゃない?」
「確かにね」
皮肉るように笑いながら、大水はペンで真ん中の空間を指した。
「出来れば、希望はここなんだよ」
「あくまで出来れば、な…難しそうだよ」
「そう。おぎやはぎさんならともかく、下っぱの俺らがずっと中立でいられるかって言うと微妙だし」
「協力しろって言われたらしなくちゃいけないだろうし、もしもが無いとも言い切れない」
「矢作さんのこともあったし。どんなに抵抗したって、やられる時はやられるよ」
「となるとやっぱり白かぁ」
戦うの嫌だなーと頬杖をついていた方の手で頭を掻く飛永を見て、大水が声を抑えて笑う。
それに気づいた飛永がわけがわからないといった表情で見てくるので、
大水はからかい交じりに飛永に腹のうちを告げた。
「まだ石持ってないのに、って思って」
「どうせそのうち来るでしょ」
「万が一の時のために使える力だと良いね」
「…そうだ、力だ力。どんなことできるの、それ」
出来れば自分達を守るのに少しでも有利な力の方が良い。
飛永の問いかけに、大水は少し考えてから、実際にやってみようか、と言った。
以上です。あくまで予告編なので、一旦ここで切りあげておきます。
普段の口調というものが定かでないのも不安要素です。
能力は能力スレに堂々と書いてしまっていますが、
今のところまだ出てきていないので伏せたままにしておきます。
本スレに耐えうるものであるか、もしくはそうなれるか。
添削よろしくお願いします。
627
:
名無しさん
:2007/12/19(水) 08:35:16
ラバーガールは詳しく知らないけれど、本スレでも大丈夫だと思いますよ。
続きが楽しみです。
628
:
632
:2007/12/19(水) 22:32:58
おお〜乙です!
まったりした雰囲気が本人っぽいですねー。続編も期待してます。
629
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:00:25
はじめまして、新登場スレや能力スレで犬の心について書いていたものです。
ラバーガールの書き手さんと同じく、ずっと読み専で、かつ二次小説初挑戦なもので
不安な点が多々あります。皆様の意見を取り入れて、本スレに投下できるような作品や
連作を書けるようにしていきたいと思っております。石能力と合わせて、添削宜しくお願いいたします。
今日は何の日かと聞かれれば、天皇誕生日だと答える気で居たが、誰とも遭わなかったし電話もかかって来なかった。
午後三時だというのに部屋は薄暗くて、かといって照明を付ける気にもならずに、窓際に立ち尽くす押見は力無くカーテンを揺さぶった。
恨めしかったのだ。
誰が? もしくは、何が? 答えを出すつもりはなかった。ただ、敗者復活戦が行われる大井競馬場へ赴くだけの強靭な精神力を押見は持ち合わせていない。
野外会場では、音が篭らないという事を分かっていたからである。
自分を破った強者達を笑う声が、か弱く虚空に掻き消えるのを聞きたくなかった。
M-1だけがお笑いじゃないとか、公正さを疑って喜んでみたりとか、酸っぱい葡萄を引き合いに出すまでもない。
受動的にうな垂れると冷たい床が見えた。靴下を履こうかと考えた。
もういい加減、子どもじゃないんだから、誰に要請まれた事でもないのに、そんな嘲笑が頭の中で反響した。
意味も無く裸足でいるのは自尊心のためだと、皆にからかわれる度にいじらしい気持ちになる。
その瞬間、ああ、俺を翻弄したあいつも、俺より大分歳を下回るあいつも、今西日を背に受けて戦っているんだという悪い考えがよぎった。
嵐のような不快感。押見は大股で部屋を横切ると、小さくて赤色の、古ぼけたテレビを蹴飛ばした。
精密機器であるはずのその箱は思いのほか軽く、床にぶつかって鈍い音を立て、あっけなく横倒しになった。
しかし押見はテレビには目もくれず、さっきまでテレビが置いてあった黒色の台を見下ろした。
表面には細かい埃が溜まっていた。蹴打の衝撃で舞い上がった塵の粒子が、目線の高さまで上がってくる。
聖夜を控えたというのに、孤独で、負け犬で、何もかもが腹立たしい。押見はもう一度、今度はテレビ台の側面を、力いっぱい蹴たぐった。
ガサ、と重いものが擦れ合う音と共に、一層の埃が宙に繰り出した。
吸い込まないよう、息を止めた押見の目に、飛び込んでくるものがあった。
乳白色の三角形。
はじめは、取るに足らないゴミだろうと思った。ソファーの下や物置の隅などに、見覚えの無いゴミが落ちているのは珍しい事ではない。
だからこれも、いつか知らぬ間にテレビと台の隙間に潜り込んだ、正体の不明瞭なゴミだろうと、推測したのである。
触りたくなかった。箒とちり取りを持ってこよう、と思ったその時、掃き溜めと化したテレビ台の上でその三角が一つ二つ輝いている事に気が付いたのである。
半ば混濁する意識の中、押見はしゃがみこみ、ためらわずにそれを手にとった。
重量感が噂と直結する。
「石だ」
630
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:01:31
自分自身でも意外な事に、事実と直面してからも押見は冷静だった。取り乱したり大きな声を出したりしなかった。
そのかわり、非常に高い熱を持った何かが頭の中を猛スピードで侵食していき、同時に、自分の中のもう一人の自分がそれを俯瞰し始めた。
押見はしゃがんだまま、埃の中で呼吸していた。
石を巡る戦いについては、知らないという訳ではなかった。
先輩に可愛がられるタイプでないから直接話を聞いたことは皆無だし、周囲の芸人らもそういう事とは無縁な奴ばかりだった。
それでも、吉本という入り組んだ組織に属する以上、情報はそこここから入ってくる。
そして押見は、それら情報に関して、人一倍敏感だった。
持ち前のプライドの高さから、人前でその好奇心を発揮する事は伏せていたが、本当は知りたくて知りたくて仕方がなかった。
誰と誰が戦っているんだろう、石の力ってどんなものだろう、この戦いはいつから始まったのか、そもそも石の正体とは何なのか……
だが非関係者でしかない押見に伝わってくる情報といったらどれもこれも断片的なものと不明瞭なものばかりで、彼の底知れない知識欲を満たすには不足だった。
せいぜい、白や黒といった勢力の名前と、石を持つ芸人の名前をいくつか聞く程度。
それが今や、この手の中に石があるのだ。押見は石を持った右手を閉じ、少し力を込めた。上を向いた口角がさらに大きく吊り上がる。
俺は当事者になったのだ。今はまだ希望しかないが、これからどんどん現実が押し寄せてくるに違いない。
そして優越感――石を持つものと、持たないものの間に生まれる圧倒的な格差が、自分にとって有利なものに転換したのだ。
次第に鼓動が早くなっていく。
と、その時不意に、あの俯瞰的な自分が高揚感に水をさした。
馬鹿みたい、石ころに振り回されて、惨めなくらいに迷妄的だ。
『うるさいうるさいうるさい丸くなって踵をかえせば?』
いつもの癖で無意識に、意味の無いうたが脳内を反響した。
すると、にわかに手の中の石が熱をもって、ほんのりと赤く光り出した。
押見は手を開き、吸い寄せられるように石を見つめた。
重たい耳鳴りがし、軽い目眩で体勢が崩れる。押見はどっ、と腰を落とした。
石の事が分かる自分がいた。
全部ではない、まだ名前すら教えてくれないが、力量を確信するには十分すぎる程の情報量だ。
石の力や発動条件といった未知の知識が、押見の脳へとおぼろげに流れ込んでくる。
押見は立ち上がり、いける、と小さく呟いた。
631
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:02:00
押見は石をローテーブルの上に置いて、その前に座って観察を始めた。
石は既に光るのをやめており、はじめ見たときと同じように、ひどく不透明な乳白色をまとっていた。
片手で握れる位だからあまり大きくない。しかし不恰好にごつごつしていて、牙のように尖っている。
押見は腕を背後に投げ出すと、ぼんやりと、これからどうするかについて思案した。
黒に入るのは嫌だった。否、怖かった。
善悪の問題ではなく、伝え聞いた噂から判断し、目的のためには手段を選ばない団体に属するのはリスクが大きすぎると考えたのだ。
切り捨てられ、石だけ盗られてポイ捨て、なんて事になったら目も当てられない。
かといって、白に入る気にもならなかった。
ひねくれ者の性格が鎌首をもたげ、正義の味方を気取るなんて、と否定的な事をいうのだ。
それに黒にせよ白にせよ、自分が先輩との関わりが薄い事を考慮すれば、飛び込むのには勇気が要った。
と、すれば、無所属。
しかし――静観するのは心が許さない。
何故だろう。大して積極的でもない自分が、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
押見は首を折り、天井へ視線を移した。
戦いに関与したい。
目的の下で動きたい。
そして何より、石の力を使いたい。
俯瞰的な自分によれば、押見は暴走していた。まさしく力に振り回されようとしていた。
それを踏まえた上で、押見は、石を巡るこの戦いをめちゃくちゃにしてやりたいと望んだ。
自分を散々置き去りにしておいて、今更歯車になれなどと言われても、従えるはずがなかった。
暴走しよう。迷妄しよう。
そして押見は、この石にならそれが出来ると確信していた。
池谷はどうしよう?
この疑問が、今の今まで浮かんでこなかった事の方が不思議なのかもしれないが、それはある意味仕方がなかった。
押見から見て、相方であるこの男は、どうしようもなく能天気で、平和ボケで、戦いや諍いには結びつかない存在だったからだ。
石についても、池谷は押見と違って、さほど関心を示さないでいた。実物も、恐らくまだ持っていないだろう。
自分が石を手に入れた事については黙っておいて、この計画には相方を巻き込むべきでないのかもしれない。
そういう正常な意見を、押見は否定した。
合理的に考えて、異能者だらけのこの戦いをかき回そうと思うなら、池谷に協力させない道理はない。
体力、身の軽さ、意志の強さ……いつか池谷の元へ来るであろう石の力を度外視しても、計画に池谷を巻き込む価値はあった。
反射的に携帯電話を探る右手を意識しながら、押見は、相方を数値化する自分の合理性を嘆いた。
感情的な自分と理知的な自分が争っていた。心地よさに任せて暴走などしなければよかったと後悔した。
それでも、身体は自然に立ち上がるし、指はぎこちなく携帯のボタンを探る。左手は石をポケットにしまう。
家を出ようとしていたが部屋を片付けるつもりはなかった。
「――あ、もしもし池谷? 今どこよ? ふーん、バイト中か……ちょっと、話したい事あるからさ、そっち行っていい?」
倒れたままのテレビが、押見の背中をじっと見ていた。
632
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:02:26
駅前に馬鹿でかいクリスマスツリーが輝いていて遠くの景色が見えなかった。
時刻は五時前、そろそろ日が傾いていく頃だ。ツリーの電飾が一つずつ灯っていく。
押見は広場の隅の方を通った。若々しい中高生や足を弾ませて歩く人々の中で、
真っ黒なコートに身を包んで眉間にしわを寄せる押見はほんの少し浮いていた。
電車の中で隣に座った二人組がM-1の下馬評をするのを聞いてしまったのだ。
せっかく石を得た恍惚のおかげで忘れかけていたというのに、甲高い声で喋る彼女らのせいで、色々と思い出してしまったのである。
悔しさや恥ずかしさで胸が一杯になった。
それでも、頭の中はまだ幸せだった。
石を操って、これから自分がどう振る舞うか、という予想図が次から次へ浮かんでくる。
それらは全て――「犬の心」の予想図でもあった。
空が白い。気温が下がってきた。
店の前の舗道を掃除していた店員に事情を説明すると裏口から入れてくれた。
厨房は細長く、騒がしく、暖かかった。料理人が二、三人いた。池谷は部屋の一番奥におり、熱心に魚をさばいていた。
「池谷」
戸の後ろに隠れるようにして押見は呼ぶと、右手を挙げて手招きをした。
それに気付くと、池谷は包丁を扱う手を止め、早足で押見の方へ近づいてきた。
料理人らしい真っ白な服を着ていて、押見は自分の格好とのコントラストを覚えた。
そして、どうか池谷に石があれば、それは黒色であってほしいと唐突に願った。
「どうしたの、押見さん」
「何作ってんの? まだお客さん来てないみたいだけど」
押見は質問に答えなかった。腕組みをして、さっきまで池谷が立っていた辺りを眺めた。
「仕込みだよ。今日はクリスマス直前だから、忙しくなると思うんだよ」
「ふーん……」
「聞いてくれよ。今日はいい鰆が入ってさあ」
「またその話? 言っとくけど、お前が思ってるほど魚って面白くないから」
「それは押見さんが鰆の事を知らないからだって! それにそれだけじゃなくて。クリスマスは鶏肉ばっかりちやほやされるけど、魚料理もまた乙なんだよ」
「別にちやほやはしてないでしょ」
押見は自分の脈の音を聞いた。それはだんだん大きくなってくる。
押見の目は料理人としての池谷を見た。押見の耳はクリスマスという単語を聞いた。
その時、押見は、世界は途方もなく広がっているという事――つまり、芸人どうしの世界、
さらに言えば、石を巡る戦いの周りにある世界なんて、吹けば飛ぶような小さい世界ではないかと思えてきたのだ。
そして次に浮かんできたのが、羞恥心――M-1の結果に落ち込んだ自分や、反動ででもあるかのように石を歓喜した自分、
静止のきかない妄想の末、練り上げた計画――それら全てをもう一人の自分が俯瞰し、あざけった。
押見は前を向けなかった。じっとりと汗をかいてうつむくと、床が鏡のように反射して赤くなった顔が見えた。
「押見さん? 具合、悪いの?」
前触れもなく黙った押見を案じて、池谷が声をかける。
また押見は返事をしない。深呼吸をして、池谷と目を合わせた。
「頭冷やしてくる。邪魔して、ごめん」
引き止めて何か言おうとする池谷を放り出すと、押見は店を駆け出た。
633
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:05:32
気が付くと人気の無い川べりまで来ていた。精一杯走ったものだから息が上がっていた。
川は東から西に向かって流れていて、下流を見やると黄金色に輝く夕日が映った。
押見は泣き出したかった。何もかもが虚しいものに思えた。
自分が笑いに対して抱く感情や、石を使う事に関する憧れ、果ては存在意義まで、明瞭なものは一つもなかった。
乱れた呼吸を押しとどめようともせずに、押見はコートのポケットをまさぐった。
尖った石の先が、押見の指を傷つけた。構わなかった。
震える手で乱暴に引っ張り出して、その姿を一瞬だけ確認する。
石は朱を注いだように光っていた。
左目の端から涙が零れた。押見は石を持ったまま、水面を見据え、右腕を大きく振りかぶった。
手首を冷たい感触が襲う。
「捨てる位なら譲って下さい」
押見の背筋が凍りついた。横目で見ると、何物かが自分の手首を掴んでいた。来訪者の姿は見えなかった。
恐ろしくなって振りほどこうとしたが、強く握り締められていてなかなか自由にならない。
「いぃっ! 嫌だあっっ!」
絶叫し、身体を大きくよじって身をかわした。とっさにあいた方の手で突き飛ばすと、不意をつかれた男は尻餅をうった。
押見の奥歯がカチカチうち合わさった。男は自分より若く見えたが、目は空ろで、倒れた時も、立ち上がる時も、視線を押見から離さなかった。
さては黒のユニットの手先か。
本能的な恐怖にあてられた押見はようやく、自分が巻き込まれた戦いの壮大さを悟った。
男が一歩、また一歩、押見の傍へ近寄ってくる。
その時間は、押見にとって、尋常ではない長さに感じられた。
「来るな、来るな、来るなあっ!」
押見は石を体の前にかざし、身を守るように振り回した。
だが、男がダメージを受けた様子はまるでない。
心臓が爆発したように感じられて、気が遠くなっていく。もう駄目だ、と、焦る気持ちの中絶望した。
馬鹿だなあ、意味の無いうたを唱えないと。
そう、くすぐるように呟いたのは、分析的な自分だった。
突然の忠告に押見は当惑したが、すがるとすればこの言葉しかなかった。
「分かってるけど困っちゃうなあ、いつかは仔猫が帰ってくるさ」
適当に思いついた言葉を、呼吸音と勘違いしそうなほど小さな声で囁きながら、
押見は牙のような石を持ち、切り裂くつもりで振り払った。
男が歩みを止め、苦しそうに頭をかかえたのが見えた。
だが、押見はもう限界だった。
深い呼吸が出来ない。頭の片側が割れるように痛む。警報音のような高い音が聞こえて、今にも鼓膜が破れそうだ。
全部吐きたい。目の前が真っ暗になる。どうして、ここに立っているのか分からない。
思わず後ずさりすると、背後が土手になっていた。
息が苦しい。この川に飛び込んでやろうか。今の押見には、主観的で愚かな自分しか残っていなかった。
力の抜けた手から石を落とすと、少し気が楽になった。
634
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:05:57
情緒不安定な押見の様子が気になって、あの後池谷は店を出た。
勘と聞き込みを頼りにようやく探し当てた押見は、しゃがんで憔悴した男を背にして川べりに立ち、淀んだ目で水面を見ていた。
ぱっと見ではよく分からない状況だったが、押見が正気で無い事だけは誰が見ても確かだった。
池谷は押見の元へ走った。
そして、持てる力の全てを込めて、押見のコートの首根っこを掴むと、思いっきり引き落とした。
ほぼ惰性で立っていた押見は簡単に倒れると、そのまま意識を失った。
次に池谷は男の傍へ駆け寄った。
そして、手に持った、黒地に白い星が散りばめられた蜻蛉玉を指先で撫でると、男の両目を力強く覗き込んだ。
しばらくすると男は生気を取り戻し、きょとんとして、何気なく横になったままの押見を見た。
少しの沈黙の後、男は池谷を振り払って立ち上がり、一目散に走り去った。
「じゃあ、帰ろうか、押見さん」
池谷は暖かい溜息を一つつくと、安らかに呼吸する押見の身体を持ち上げ、来た道を引き返していった。
押見泰憲(犬の心)
ドッグトゥースカルサイト(犬歯型のカルサイト、サイキックな手術に使われる強力な石)
能力 石を手に持って切り裂くような動作をすることによって相手の精神力を削り取り、神経不安を呼び起こす。相手の精神を大きく傷つけることがあり、不安定な能力。
条件 使用している間は、意味の無いうたを唱え続けなければならない。また、能力の反動で自分自身が混乱することもある。
池谷賢二(犬の心)
星柄の蜻蛉玉(依存心を払う・多種多様)
能力 不安や混乱で判断力を失った相手を立ち直らせ、冷静な状態に戻す。また鎮静効果もあり、激情した相手や号泣している相手を鎮めることもできる。
条件 相手が池谷と三秒以上目を合わせること。
以上で終りです。乱文・長文失礼しました。
M-1の行われた12月23日の設定で書いています(本当はhypeをやっているはずなのですが)
気が付いたら暴走して、しかもかなり会話が少なくなってしまったと反省しております……
口調や雰囲気は∞一部でのトークを参考にしました。
未熟な点、見苦しい点など多いかと思いますが、皆様の意見を取り入れて、少しでも読むに堪えうる作品にしたいと思います。
添削宜しくお願いいたします。
635
:
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/27(木) 02:53:57
>>627
>>628
米おそくなりました、そう言ってもらえて嬉しかったです。
ありがとうございました。
もう本スレには投下しましたが、続きも今執筆中です。
>>634
乙です、同じ読み専だったとは思えない心理描写の巧みさ。
ぐっと引きこまれました。犬の心好きなのもあり、続きが楽しみです。
本スレ行って大丈夫だと思いますよ。
636
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/27(木) 15:31:10
>>635
ありがたいお言葉感謝します。
635さんのラバーガール編も続きを楽しみにしています。
本スレを盛り上げていけるように、
少しでも尽力したいと思います。
635さんも頑張ってください。
637
:
名無しさん
:2008/06/23(月) 23:18:48
本スレの
>>71
に書き込んだ者です
リチャホ編の話が気になりすぎて続きを書きそうになっているのですが、私は作者さん本人ではありません
もし作者さんが見てくださっているなら「やめてくれ」「別にどっちでもいい」などご意見ください
もし作者さんからのお返事がいただけなければ、ここの住人さんにご意見を伺いたいと思い書き込ませていただきました
スレ違いでしたら、廃棄の方に投下いたします
638
:
名無しさん
:2008/06/24(火) 01:12:17
問題ないと思う
あの話のオチ見たかったし、個人的に期待しております
639
:
名無しさん
:2008/06/24(火) 21:23:34
自分もいいと思います
640
:
本71現637
:2008/06/25(水) 19:45:12
ご意見ありがとうございます
ただし皆さんのご期待に添える形になるかは自信がありませんが…
もしかしたら作者さんがいらっしゃるかもしれないので、一応来週まで待ってみます
641
:
名無しさん
:2008/06/27(金) 00:10:59
楽しみにしてるノシ
642
:
本71現637
:2008/07/06(日) 02:03:57
こんばんは
とりあえず今日からぼちぼちと、かなりのスローペースで投下していこうと思います
展開に無理があったり矛盾があったりする場合、厳しくも愛のあるご指摘をよろしくお願いいたします
作者さんの了承を得ることが出来なさそうなので残念です…
643
:
本71現637
:2008/07/06(日) 02:12:11
人は、失って初めて、ものの大切さを知る、というけれど。
ならば「奪う」ということは、案外「教える」行為に通じるところがあるのかもしれない。
だからといって、「白」の連中に石や相方の大切さを教えて回る気など、毛頭ないわけで。
状況に反して哲学的な思想が浮かび、柴田は右手で頭を乱暴に掻きむしった。
今、彼は土田の楽屋にいる。苛立ちながら、忙しく部屋中を歩き回っていた。
というのも、本来なら同局の屋上で矢作が転落死するのを見届けているはずだったのだ。
しかし、予定外の土田の登場に加え、階下からは「白」の奴らのやって来る、気配。
さすがにその場に留まれなくなった柴田は、土田の能力―瞬間移動―に助けられ、窮地を脱することができたのだった。
…おそらく、矢作は死んでいない。局内の平和な静寂が破られていないからだ。
「まあ落ち着けって、」淡々とした声にたしなめられた。土田だ。ゆったりとソファに腰掛けている。
「お前さ、焦りすぎだよ。別に殺す必要はないじゃんか。大体、矢作さんは白じゃないんだし」
「何言ってんだよ。甘ぇぞあんた、」
すかさず柴田が噛み付く。とはいえ、今の柴田は、柴田であって柴田でなかった。
つまり、黒い欠片に思考を乗っ取られている状態であり、彼自身の健康的な意識は闇に沈んでいたので。
「白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ!敵は居ないに限るだろ」
「…短絡的だな」
「お前らが慎重すぎなんだ、くそ!」
依然として鼻息荒く歩き回っている後輩に、土田は溜め息を吐いて。
「慎重にもなるって。死人が出たりして、事が表沙汰になったら、色々と面倒だろ?」
そんな“シナリオ”、今は組み込まれてないんだぞ。
そう付け足す。幹部の意思をほのめかされて、多少頭が冷えた柴田は、ようやくその足を止めた。
「…じゃあ、ほっとけっていうのかよ、このまま」
不満をあらわにして土田を睨みつける。せっかく精神の極限まで追い詰めた獲物を諦めることなど、まっぴら御免だったので。
「いいか、矢作さんに限らず、白の奴らにだってそうだ。俺たち黒は、別に殺しが目的なんじゃあない。石だ。奴らの石を奪って無力化させること。
それだけに心血を注げばいい。もちろん、『シナリオ』に注意しながらな」
そう宥める先輩の向かいにあるソファに腰を下ろして、口を尖らせる。
「白の奴らの石だけを、かよ?」
すると、
「…白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ。敵は居ないに限るだろ」
聞いた台詞を吐き、土田はにやりと笑んでみせた。
どっちが短絡的だよ、と柴田も苦笑を返した。
644
:
本71現637
:2008/07/07(月) 00:48:00
「大丈夫?大丈夫、矢作さん?」
山崎は、地面にうずくまって咳き込んでいる弱々しい先輩の背中をさすってやっていた。
「ちょっと山崎君、俺の心配もしてよ」
「小木さんは大丈夫でしょ、ピンピンしてんじゃん」
同じく隣でへたり込み不平を漏らす大きな先輩を軽くあしらい、右手を休めないまま夜空を仰ぐ。
屋上までは相当な高さがあり、てっぺんは闇にかき消されて見えない。すぐに首が痛くなった。
(あんな高いところ、仕事でだって飛び降りられないや)
心で呟き、目線を先輩たちに戻す。どちらも疲労しきった様子だ。
その二人の後ろには、巨大なトランポリンが頼もしく佇んでいた。
あの時。
後藤の能力が及ばず、小木と矢作の落下速度が元に戻り始めていた、あの時。
山崎は、携帯片手にスタジオを奔走していた。
電話の相手は、渡部。彼に指示されるまま、訳も分からず目的地に向かっていたのだ。
詳細は分からなくても、受話器越しに事の重大さは伝わってくる。
そうして着いた場所は、局の外。冷たい夜風。
上空からは、今まさに後藤の力が届かなくなる寸前だったおぎやはぎの影。――その事実は知らなくても、今自分のすべきことは理解できたので。
静かに携帯を切り、息を吸い込むと、
「あんたらはアレだ、飛び上がって死ね!!」
この場に適した「キーワード」を、大声で叫ぶ。次の瞬間、人影の真下のアスファルトに大きなトランポリンが出現して。
待ち構えていた丈夫な布に無事着地した二つの影は、それぞれ反動で何度か跳ね上がる。
走り寄る山崎がその影の正体を確認できる距離にまで達したときには、すっかり反動も落ち着いていて。
トランポリンの上には、憔悴しきった様子で横たわる矢作と、味わった恐怖を取り乱しながら訴えてくる小木。
そうして今に至る、というわけだ。
「矢作、歩ける?」
小木が立ち上がり、相方に手を伸べる。だが、彼自身もまだ落下の際の恐怖を拭い去れていないようで。
「いや膝大爆笑じゃないすか、小木さん」と山崎がツッコミを入れる。
「…うるさいなもー!本当に怖かったんだって!」
「っつか紐なしバンジーとか馬鹿でしょ!体のでかさに脳みそ追いつけてないし!」
「なんてこと言うかな!俺未熟児なのに」
「気ぃ使うわ!っつかネタじゃなかったんすか、それ?」
山崎と小木とのやりとりを見て、今まで黙りこくっていた矢作が、小さく、しかし楽しそうな笑い声を上げた。
それに気づいた二人は言い合いを止め、ほぼ同時にきょとんと矢作の方を見やった。
「…ごめんな。小木、山崎、」その真っ直ぐな瞳に、先ほどまでの怯えは微塵も無くて。
「もう二度と紐無しバンジーなんかしねえからさ、俺」
そう言って、再び俯き、笑った。
命の極限に身を置かれたことが、皮肉にも彼にとっては立ち直るための大きなきっかけになったのだ。
不安と絶望の闇が、さあっと霧散していく、感覚。
(――俺は、生きている。俺には、頼れる大事な仲間がいる。だったら、まだ他にやることがいっぱい、あるはずだ)
「矢作…、」小木からも笑みがこぼれる。「よかった、“いつもの”矢作だ」
「…えー、矢作さんって普段こんな悟ったみたいな人でしたっけ?」
「そのテの感想は俺がいないときに言ってくれよ」
異議を唱える山崎に、淡々と矢作がツッコんで。今度は三人同時に、笑い声を上げた。
645
:
本71現637
:2008/07/08(火) 00:34:55
目を閉じる。
自分は独りじゃないという安堵感。
自分は生きているという充実感。
矢作の胸の中が、そういった前向きな感情に満たされているのを確認すると、渡部はほっと胸を撫で下ろし目を開けた。
「同調」が解除され、自分の感覚に素早く切り替わる。
彼は今、スタジオの倉庫前に立っていた。この時間帯は人通りがない場所なのだが、しかし油断はできない。
力を使っている間は、全くの無防備状態なので。「矢作を自殺寸前にまで追い込んだ人物」が、いつ現れるか分からないので。
その「人物」にはプロテクタのようなものが掛かっていて、同調で動向を探ることが困難なので。
――先ほども柴田に同調を試みたが、やはり普段より体力の消耗が激しく、うまくいかない。
ただ、証拠としてはその事実だけで十分なので。(信じたくは、ないけれど。)
自分の能力が戦闘向きでないことを、渡部は承知していた。
できることといえば、予め敵の思考を読み取り、危機を回避すること。あるいは、いち早く仲間のピンチに気付き、他の仲間に助けを求めること。
ちなみに、あの時山崎に向かうよう指示した場所は、矢作を含む現場の芸人たちに素早く同調し、それぞれの視覚が認識している風景から割り出した予想落下地点だった。
幾分ゆっくりだったとはいえ、落ちる感覚には肝が冷えた。「仕事でも無理だ」、という山崎の思考に全く同意する。
…自分の能力では、それぐらいしかできない。攻撃することはできないし、急な襲撃にあった時には「同調」する暇すらない。
肝心の「思考」まで精確に読み取るためには、最低でも5秒は同調できないと意味がないのだ。
ほんの0.5秒の判断が命取りになる戦闘において、それはあまりに痛い。
(俺にできること。事前に敵を予測して“常に”見張りつつ、仲間に危険が及んでいないか“常に”確かめること)
そう、これはあくまで理想論。そんなことを“常に”行なっていれば、己の身がもたない。
今自分が倒れてしまっては、じわじわと侵食するように迫り来る危険を、誰が察知できるというのだ。
無理をするのと責任を果たすこととは、絶対に違う。
でも。いつか無理をしてでも責任を果たさなきゃいけない日が来る。これは予感でなく確信だった。
今はまだ、立っていなければ。
その思考の一瞬後に、携帯のバイブ音が鳴り響いた。画面には、さっき自分が呼び出した山崎の名前。
軽く深呼吸し、気持ちを切り替える。ともあれ、矢作は助かったのだ。改めて心の底から歓喜が湧き上がってくる。
「…おう、よかったよー間に合って!ありがとな、お疲れさん」開口一番、後輩を労ってやる。
『はい!…って何で知っ…?ああそうか、“使った”んすね!』
受話器の向こうで山崎の声が感情豊かに移り変わっている。
『えっと、一応報告しときますけど、矢作さんも小木さんも、二人とも無事ですよ!』
「本当ありがと。今まだ外だよな?三人で俺の楽屋向かって。児嶋居るし」
『え?』
「ほら、“飴”だよ。みんな疲れてるみたいだし、一個食べるだけで大分違うぜ」
『…はいっ、あざっす!』
心の底から嬉しそうな後輩の返事に、渡部は思わず笑みをこぼした。
ある日ビッキーズの須知がくれた、体力回復効果のあるキャンディ。(自家製、らしい。)
彼らは芸人としての活動を辞めてしまったが、今も白の味方で、時々飴を送ってくれている。
黒に知られてしまうと危険に巻き込んでしまう可能性があるので、飴は白を代表して児嶋のもとに送られることになっていたのだ。
これは白の中心ユニットの中で最も影が薄いから、という理由の人選で、当の児嶋はそうとも知らず得意げにしている。
『あ、渡部さんは今どこです?今後のこととか色々相談したいんすけど』
「4階の倉庫前。…分かった、俺も戻るわ。楽屋で会おうぜ」
じゃあ後でな、と短く添えると、電話を切った。正直なところ、渡部自身もこれ以上は“飴”がないと限界だった。
「――『今後のこと』、か」
山崎の言った一言を、噛み締める。
きっと彼は知らない。矢作を追い詰めたその「人物」の正体を。
きっと小木も、他の仲間たちも、誰も知らないだろう。
――そして、きっとそのほうがいい。
世の中には皆で背負った方が良いものとそうでないものとが、あるから。知ってんだ、俺。
もう一度だけ柴田に同調してみようと目を閉じたが、やはり激しい眩暈がしたので、やめた。
646
:
名無しさん
:2008/07/08(火) 07:07:37
オパール編続き読みたかったので、乙です!
でも、ちょっと気になる部分が。
>>645
で、ビッキーズの描写がありましたが、オパール編は
2004年〜05年あたりの話、という設定なので、
ビッキーズが07年に解散したのと矛盾してるな、と思いました。
なんだか口やかましくてすみません…。
でも「芸人の活動を辞めてしまったが」という描写を抜かせば大丈夫だと思いますよ。
647
:
名無しさん
:2008/07/08(火) 07:09:01
>>646
ミスです。
×芸人の
○芸人としての
648
:
本71現637
:2008/07/08(火) 10:39:27
>>646
的確なご指摘ありがとうございます
時系列を今と完全に混同してしまっていました
おっしゃるとおり「芸人としての〜」のフレーズはカットします、すみません
そして全体的につじつまを合わせようと必死すぎて中身が疎かになっていないか心配です…
649
:
本71現637
:2008/07/15(火) 12:07:34
「おい、もういいよ。これ以上無理すんなって」
真剣な表情でそう言う有田に肩を借りながら、上田は黙って屋上のドアを見つめている。
一陣の夜風が、二人の髪をゆらりと駆けた。
先ほど山崎から有田に着信があり、小木と矢作の無事が分かった時、屋上は歓喜に沸いた。
その後、後藤も上田も力を使いすぎているので、一旦全員楽屋に戻ろうという流れになったのだけれど。(実際、岩尾と後藤は既に下へ降りていた。)
「みんな無事だったんだから、今日はもういいじゃん、な?」
もう一度宥める。相変わらず上田の目はじっとドアを見据えていて。
左半身に相方の重みを感じながら、有田は溜め息をついた。
また“使う”気なんだ、というのはすぐ分かった。
ここに駆けつける際、既に上田は石を使用している。それも、通常の比にならない激痛と引き換えに。
だからこそ、彼は今、一人では立つこともままならない状態だった。ダメージは、まだ確実に残っているのだ。
「――俺は、見たんだ、記憶の中で、あいつを、」
うわごとのように、上田が呟く。「さっきまでは、ここに、居たはず、なんだ」
「…そうとは限らねえだろ」
「有田…もし俺があいつなら、矢作が死ぬとこ、見たいと、思うよ、この目で」
「やめろよ、そういうの」
「自分で、追い詰めた、獲物だしな。それに、本当に死ぬか、どうか、見張らないと、不安だ」
「……」
そんなことは、有田にだって分かっていた。あいつは、――柴田は、確実に屋上に居たはずだ。
しかし。
例の激痛は柴田に関する記憶を探ったときに襲い掛かるようだった。
大げさでなく、これ以上痛みが蓄積したら、本当に命に関わるだろう。
「…馬鹿じゃないんだからさ、頭冷やせよ、なあ。それで死んでちゃあ意味無いだろって」
あえて厳しい口調で返す。何としても、今上田に力を使わせてはいけない。そう思った。
「――えー、皆さんご存知でしょうか、」
「…やめろっつってんだろ!」
発動条件である薀蓄を語ろうとした上田の胸倉を引っつかむ。
たったそれだけの動きで、上田は酷く痛そうに呻き、顔をしかめた。
「ほら見ろ、そんな体でもつわけねえだろ」
「……覚悟は、してる」
「そんなに死にたいのかよ」
「後悔、したくない、だけだ」
その真っ直ぐな目を見て、有田は返す言葉に詰まってしまった。
こうなると、頑固な上田はてこでも動かないのだ。
溜め息を吐き、しかし最終手段を決意した有田は、相方を掴んでいた手をそうっと離した。
ゆっくりその場にひざまづいた上田に向かって、自分の石をかざして。
「じゃ、俺もお前に使うけど、いいか」
予想外の展開だったのか、上田は目を丸くしている。
明らかにさっきまでの勢いが萎れていくのが見て取れたので、有田は石をしまうと、
「…独りでやるのは、漫才とは呼ばないよ」
歯を食いしばって俯いている相方に、そう言った。
650
:
本71現637
:2008/08/17(日) 13:52:45
諸事情によりパソコンを開けない日々が続き、大変長い空白になってしまいました…ごめんなさい
続きをまた少しずつ投下していきたいと思っていますが、ひき続き矛盾点等のご指摘をよろしくお願いします
651
:
本71現637
:2008/08/17(日) 14:00:16
しかも急ぐあまり下げ忘れてしまい重ね重ね申し訳ありません
次回から気をつけますorz
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