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YOU、恥ずかしがってないで小説投下しちゃいなYO!

1名無しさん:2006/09/04(月) 00:05:29 ID:ZZXqX536
どんどんこーい。

951名無しさん:2010/01/01(金) 01:25:48 ID:ZHUcoBT2
あけましておめでとうございます
続きwktk

952名無しさん:2010/01/01(金) 01:41:03 ID:X9hIl1V2
あけおめ!

   _、_
 ( ,_ノ` )      n
 ̄     \    ( E) グッジョーブ!!
フ     /ヽ ヽ_//

953青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:05:16 ID:T3/g47o6
  〜青色通知15.1(最後の初紀の場合)〜


 36.3℃。

 電子体温計に表記された数値を見て、母さんがこくりと頷いた。

 内心で、胸をなで下ろす。

 モンスターペアレント、とはちょっと違うけど……母さんの許諾を得ずに無理に学校に行こうものなら……ううっ、違う意味で悪寒が走るよ。

 ―――定期試験も近い今日この頃。

 タダでさえ、ここ数週間でかなりの欠席を重ねてるのに、これ以上家で悠長に寝てる訳にもいかないよ。

 ……それに。うん。

 今日は、学校に行かなきゃいけないんだ。絶対に。

「じゃ、行ってきまーすっ!」

 居ても立ってもいられず、私は家から飛び出す―――
 ―――つもりだった。

「―――初紀」
「ふぇっ、な、なに……?」

 呼び止める母さんの澄んだ声に、思わずパブロフの犬の如くフリーズする自分のカラダが恨めしい。

 油を射し忘れたブリキ人形みたいにぎこちなく振り返ると、母さんが真顔のまま近寄ってくる。

「こっちに座って、目を瞑って下さい」
「な、なんで―――」
「―――早く」

 前方には鬼気迫る表情でにじり寄る母。背中にはタンスという名の壁。
 逃げ道を完全に塞がれた私には、眼前で上辺だけ優しそうに笑う母さんに従う以外の選択肢は残されていないらしい。

 ……私は白旗を上げる代わりに、母さんに背を向けて座り込むしかなかった。

「あ……ぅ……」

 不意に、するりと髪を撫でる感触がして、思わず全身が強張ってしまう。

「ほら、じっとして下さい。
 こんなボサボサな髪じゃ、陸くんがガッカリしますよ?」
「……なんでそこに陸の話が出て来るかなぁ」
「だって、早く孫の顔が見たいですから」

 ……母さん、今、無邪気な声色でとんでもないコトを口走らなかった?

 ……。

 気のせいだよね、うん。聞き流そう、聞き流せ、私。

954青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:07:16 ID:Nz3aRIvA


 ―――思い立って切ってから間もないとはいえ、男だった時よりは随分と長くなった髪に通される櫛。

 当たり前なんだけど、"オンナ"としても"オトナ"としても経験値が乏しい私とは比べモノにならないほど、その手つきは丁寧で、手慣れていて。
 ……なんか、ちょっぴり悔しい。

「―――変わりましたね、初紀」

 私のよく分からない嫉妬心を後目に、母さんが感慨深そうに呟く。

「……自分でも、そう思うよ」

 いや、一月前と比べたら性別すら変わっているんだから、当然と言えば当然……なんだけどね。

「違いますよ」
「えっ?」
「"こっち"のコトですよ」
「わ……っ!?」

 私の上半身を背後から抱き止めるように回された母さんの両腕。
 そして、その両掌は私のあまり発展していない胸元にあてがわれて……って何冷静に実況してるんだ私っ!?

「ちょ、……ん……っ、はあ……ど、どこ触ってるの母さん!?」
「しーっ」

 ………あ……聞こえる。
 母さんの掌を介して、とくん、とくんって、私の鼓動が。

「……やっぱり変わってないかもしれませんね」

 あれ、あれ。
 なんだろ。
 今、私、凄いバカにされた気がする。
 特に胸囲についてバカにされた気がする。
 あの、さ。
 ……怒っていいのかなぁ?

955青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:08:59 ID:PCvkQmwI

「もう、しっかりしてください。もうすぐ新しい家族が出来るんですから」
「ご、ごめん……って、えっ?
 えぇええぇっ!!!?」

 この人、今、さり気なく凄い爆弾を投下してきたよっ!!?
 溜め息混じりに朝の風景で言う台詞じゃないよっ!!!

「お、おとうと!? いもうとっ!!?」
「宗くんの話だと確か女の子、とか」

 ……宗にい、凄いよ。
 いつも一緒に過ごしてた私ですら何にも気付かなかったのに。

「予定だと、今日だって話ですよ?」
「えぇええぇっ!!!?」

 母さんから淡々と聞かされる超展開に朝から私の絶叫が止まらない。
 そういえば私を妊娠してた時も、母さんの体格は殆ど変わらなかったって自慢話を聞いたことがあったっけ。

「……ごめんなさい」
「……? 何が、ですか?」
「だって、そんな大変な時期だったのに……色々、迷惑……掛けちゃったから」
「? 何のことか分かりませんけど……初紀。これだけは誓って言えます。
 あなたのことで迷惑だなんて思ったことはタダの一度もありませんよ?
 私も、お父さんも」
「ふぇ……」

 ふわりと、背中から伝わる温もり。

「こんなにいい子に育ってくれたあなたを"迷惑だ"なんて言ったらバチが当たります」

 くすぐったい。そう思っていた母さんの言葉と温もりが心地いい。

「……あなたが、男の子であろうと、女の子であろうと。
 たとえ世界中があなたの敵になろうと。私達はあなたの味方ですからね」
「かあ、さん……」

 ……涙が出そうになった。女になってしまってから、ずっと両親に対して抱え込んでた後ろめたい気持ち。
 私が持つべき気持ちは、それじゃないんだ。何で、今まで気付けなかったんだろう。陸やるいちゃんから教わった筈なのに。

「……母さん」
「なんですか?」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

 普段なら気恥ずかしくってなかなか言えないような私の言葉を、母さんはからかいもせずに受け止めてくれた。
 今なら心から思えるよ。
 "……あぁ、私、この人達の子で、良かったな"って。


「……でもね、母さん」
「はい?」
「いい雰囲気なったからって、私は着ないからね、それ」
「えぇ〜………」

 私を抱き止める母さんの手にはいつの間にか、網タイツやらウサ耳バンドやら、やたら布地面積の薄い水着が握られていた。

956青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:13:44 ID:Nz3aRIvA





 ……やれやれ。何とか母さんのコスプレ攻勢を潜り抜けてきたものの、とんだタイムロスになっちゃったな。
 陸、もう行っちゃってるかな……?
 いや、また遅刻って可能性も……。

「おはやっほーございますっ! おねーさんっ!」
「ひゃ……っ!!?」

 背後から、甲高い女の子の声の珍妙な挨拶が飛んできて、同時に誰かが私に抱き付いてきた。
 誰かと思って振り返ると、ブレザーを着たツーテールヘアの、私より一回り小っちゃな女の子が、ちょこんとそこに居た。
 ……あれ、この子、どこかで見たことある。
 眉の形とか猫目とか……どうみても、"アイツ"そっくり。

 ……まさかっ!!!?

「………う、そ、でしょ? ねぇ、嘘だよねぇっ!!?」
「えっ、えぇっ!?」
「だって、宗にいもハルさんも言ってたでしょっ!!? その可能性は凄い、低いって!!!」
「あ、のぉ―――」
「―――っく、詐欺だよっ、そんなのっ! 訴えようっ、ねっ!? 委員会相手に訴えようっ!!!」
「話を聞いてくださぁいっ!!」

 朝の通学路に、よくわかんないデザインが施された缶バッジだらけの学校バッグで私の頭を殴った音が響く。
 缶バッジがつむじを直撃したせいで地味に痛い。

「……っ、つぅ〜〜……」
「あ、ご、ごめんなさいっ。加減できなくて……つい、バカ兄ぃと同じテンションで叩いちゃいました……」

 ビジュアライズするなら、頭にヒヨコか星がいくつか飛んでいるであろう私に対して、深々と頭を下げるブレザー姿の女の子。

「"はつのり"さん、ですよね?」
「え……っ?」

 男の時の名前で呼ばれてハッと我に返る。
 アイツなら、私をその名前で呼ぶことはないし、さん付けするほど丁寧な性格もしていない。
 ……でも、アイツの面影はあるし、私を知っている。
 そんな人、居たっけ……?

 ………あ。

 居た。

 居たよ、一人だけ!

「"くーちゃん"っ!!?」
「……あの、そんなチワワみたいに呼ばないでくださいー。
 私にはちゃんと"空(そら)"って名前があるんですから」

 ―――私の目の前……いや、頭一つ下でむくれている女の子は、前田 空ちゃん。
 顔付きは似ているけど、性格はまるで似てない……陸の妹さんだ。

957青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:18:02 ID:f8tsLoZ.


「あ、ごめん。いっつも陸が"くー"って呼んでたから、つい……」
「まったくもーあのバカ兄ぃめ。いつか矯正してやるっ」

 道端で物騒にシャドーボクシングを始めるくー……じゃなくて空ちゃん。
 なるほど、こーいう部分は似てなくもないかも。

「……でも、良く分かったね、私が"御堂 初紀"だって」
「はつき……さん?」
「あ、名前、変わったんだよ。字は男の時と一緒で、は・つ・き」

 空中を指でなぞりながらゆっくりと説明してあげる。
 ……ちょっと前までだったら説明するのも躊躇ったのになぁ。

「あ、ごめんなさい……」
「えっ、何が?」
「あたし、デリカシー無いなぁ……もう、やだ」

 幼いなりに空ちゃんは私を気遣ってくれてるんだろう。
 心なしか空ちゃんのツーテールまでしょぼくれて見える……可愛いなぁ。
 生まれてくる妹もこんな風なら可愛がるかも。

「大丈夫大丈夫。陸に比べたら銀河と地底くらいの差があるから」
「……比べる対象レベルが低すぎてフォローになってませんよぉ……」

 それもそっか。うーん、女心って難しい。

「……あ、はつきさんの最初の質問に戻りますけど」
「あ、うん」

 最初の質問っていうのは、多分、"何故空ちゃんが私が女になった御堂 初紀だと知ってたか?"ということだろう。

「バカ兄ぃとデートしてるとこ見てたんで知ってたんですよね」
「そっかー……えぇええぇっ!!?」

 最近物凄い爆弾発言をサラリと言うのが流行りなの!?

「ウチに帰ってきたバカ兄ぃを問い詰めたらはつきさんだって聞いてビックリしましたよ〜」

 私も現在進行形でビックリしてますよ〜……。

「はつきさん、可愛かったなぁ。それに引き換えあのドンカンプリン頭バカ兄ぃめ―――」
「―――わーっ! わーっ!!」

 全っ然気付かなかったっ!! まさかあんなドタバタの予行デートを見られてたなんてっ!!

「ありゃりゃ、見られちゃマズかったですか?」
「そんなコトない……けど」
「ならいいじゃないですかっ!」

 ……ニコニコと笑いながら肘で私をつついてくる空ちゃんに……私はなんとなく不安を覚えた。

958青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/01/03(日) 01:20:59 ID:tO/A8gt.

「……でも、さ。イヤじゃない?」
「ほえ? なんでですか?」
「だって、ほら、……その……私、元は男だったわけだし。
 空ちゃんだってさ、お兄ちゃんがそんなのとデートしてるなんて……」
「別にいいじゃないですかっ」
「……え?」
「"そんなの"とか言っちゃダメですよ。……そんなコト言われたら私みたいなのは自信無くしちゃいます」
「えっ、空ちゃんは可愛いよ。
 うん、私が男だった時なら付き合いたいと思うっ!!」
「……もしかして、はつきさんってロリコンだったんですか?」
「ち、違うよっ!」

 あらぬ疑いを掛けられた。

「あははっ。冗談はさておき。
 とにかく、恋なんて当人同士のモノじゃないですか。そこに他人が茶々入れる方が無粋だって思いますよ?」
「……なんか空ちゃん、大人だなぁー」
「単に変わり者なだけかもですよ? ……あ、そうだ」

 思い出したように空ちゃんがポンと手を叩く。

「変わり者で思い出したけど、バカ兄ぃから伝言です」
「……陸から?」

 今の空ちゃんの一言で、兄に対するイメージがあまりよろしくないことを悟る。陸、ドンマイ。

「えーっと、
 "俺は委員会に呼ばれて午前の授業を休まなきゃなんなくなったからそこンとこよろしく"
 ―――だそうです」

 ……あのさ、陸。
 そんなので空ちゃん使っちゃダメでしょ。

「ちなみにバカ兄ぃのケータイは料金未払いで止まってます」
「……はぁ」
「どうやら、2000円ほど足らなかったみたいですね」

 ……2000円?
 なんか、どこかで聞いたような金額。

「じゃ、確かに伝えましたよ〜っ! 未来のおねーさんっ!!」
「な………っ!!?」

 なんか、凄い恥ずかしい台詞を平然と言い放って、空ちゃんは走り去っていった。

 ……今までちゃんと話したことなかったけど……"空"っていうより、"台風"みたいな子だったなぁ……。

 ……でも良かった。
 今日も陸は男の子だった。
 それだけで、胸が軽くなった気がした。
 ……いや、自虐じゃないからね? うん。


「―――これくらいは、喜んでも、いいよね……? るいちゃん」


 ―――抜けるような青に向かって呟いてから、私も空ちゃんに倣って、学校への道を走り出した。


  〜青色通知15.1(最後の初紀の場合)〜

959青色1号:2010/01/03(日) 01:32:09 ID:Nz3aRIvA
なんだかんだで年を越してしまいました。遅ればせながら明けましたおめでとうました。

こーやって見直すと改行ミスとか誤字脱字が本当に多いなぁ……とほほん。

こんなクソ長い話に付き合ってくれてる方、本当にありがとうございます。

960名無しさん:2010/01/03(日) 23:04:37 ID:URqiBD7c
残すは陸だけですね、わかりまs
妹の登場で陸の女体化もありだと思ったが……いやなんでもない

961名無しさん:2010/01/05(火) 02:12:50 ID:RRk8GdVM
あとちょっとがんばれ

962ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:21:20 ID:0qyr5F9g
【目指せ、甲子園─8】





目の前の少年、いや、今は少女か。その少女の様子は普通には見えなかった。
私が先程感じた違和感、そこから導きだした答えを告げただけ。なのに、目の前の少女は明らかに大きく動揺している。

「あの……どうしました?」
「あ……あぁ……」

干からびた喉から絞り出したような声に驚いてしまう。この少女にいったい何が起こっているというのか。

「だ、大丈夫ですか?」
「………………っ!」

硬直したように立ち尽くしていた彼女は、急に身を翻し走り出した。

「あ、あのっ!?」

止める間も無く、彼女は我が家を飛び出ていった。

「…………な、何だったの?」

その一言は、再び一人になり静けさの戻った居間に虚しく染み込んだ。
彼女の反応と突然の行動に私は眉を潜める他にない。
本当に何だったんだろうか。
考えようとしたが、すぐに止めた。
私はあの子の事をよく知らないのだ。面識も今日の放課後と今の2回しかない。
それでまともに考えろ、というのも大変な話だ。
あの子は野球部だったから、同じ野球部のまどかちゃんに聞けばわかるかもしれないが、放課後の件のせいで気まずい空気になるだろうから聞きにくい。

「うーん……」

私はあの子が開けっ放しで出て行った玄関の扉を閉めながら、聞くべきか考えていた。

963ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:22:52 ID:ebfKHlrw
翌日、昼。
結局、昨日は電話しなかった。何度か電話はしようと思ったが、その度に昨日の屋上での出来事とまどかちゃんの悲しげな顔が頭をちらつき、電話に伸ばす手を止めた。
そして、私は今も電話の前で自らの手を彷徨わせている。
明後日になったら、まどかちゃんとは嫌でも顔を合わせる事になるのだから、電話する事ぐらい……と、頭ではそう思っているのに体が反応しない。
そして、伸ばした手はまた引っ込められる。

「駄目だぁ、勇気が出ないや……」

そう呟き、姿勢を崩し仰向けに寝転がる。
寝転がった際にシャツがめくれてお腹が露になった。普段なら即座に直すのだが、今は「だらしない」と注意する家族もいないし、暑くてだるいから、直さずにただぼんやりと天井を眺めている。
このままお昼寝しちゃおうかな、とも考えたが、あまり眠くないし今日の厳しい残暑ではそれも難しいかもしれない。
結局、やる事は無くなり、暇を持て余す事になる。

「暇だなぁ……」

せめて、泊まりがけで遊びに行った弟達か妹の誰か一人でも返ってきてくれれば、暇潰し出来るんだけど。
でも、今日も遊んで帰ってくるらしいから早くても夕方までは帰ってこないだろう。

「やる事ないかなぁ」

そう口にしてから、何か時間を潰せるような事はないか思考を巡らせる。
部屋の掃除は……普段から綺麗にするように心がけているので、する必要がない。
勉強は……テスト前でもないし、休日の昼間からやる必要はない。
どこかに外出するのは……最近は物騒なので、出来るだけ家の中を空にするような状況は避けたい。
神社の方の掃除は午前中に済ませたし、買い物は昨日の帰りに済ませたし、お昼ご飯はすでに食べた……本当にやる事無いや。
なんの気なしに視線を天井から外し横を向くと、今時珍しいダイヤル式の黒い電話が視界に入る。
……結局はコレになるのか。
だけど、どうしても気が乗らず顔を逆の方に向けて、電話から目を背ける。
時計の秒針が動く音だけが耳に届く静寂な一時──それを破るチャイムの音が居間に響いた。

「誰だろう?」

今日は誰とも約束はしてなかったし、何らかの勧誘という訳でもないだろう。あの何百段もある石段を上ってくる物好きなどいない。
そう思いながら玄関のドアを開いた先にいたのは、まどかちゃんだった。

964ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:25:30 ID:eRSnsGDs
人間ってのは不測の事態には本当に弱い。
それは、昨日の後輩の奇行を目前にしていながら、何ら対処出来なかった時に思い知ったはずなのに。
私という人間は、今回もまとな対応が取れなかった。

「ま、まどかちゃん?」

ただ、こんな驚きの声をあげるだけで精一杯だ。
ていうか、私が電話しようと思っても出来なくてウジウジ悩んでいる時に来るなんてずるいよ、不意打ちだよ。
でも、電話する手間と勇気が省けたのは確かなんだけど……でも面と向かって話すのも電話と違った勇気がいるというか。それに気まずさも電話より何割増しになりそうな予感がするし……

「おい、みちる?」
「うわあっ!? な、な、何!?」
「いや、固まってたからどうしたのかと思って……そんなに驚かなくてもいいと思うのだがな」
「だって、まどかちゃん顔近づけすぎだよ! びっくりするに決まってるじゃない!」
「そ、そうか? 私の顔はそんなにびっくりする物なのか?」

まどかちゃんがちょっと落ちこんでいたけど、今の私にはその事を気にしている余裕はない。
今の私は心臓の鼓動を正常に戻す事が最優先事項だ。
……あれ? なんで私の心臓はこんなにドキドキしてるんだろう。
驚いたせいだとしても、落ちこんでいるまどかちゃんの顔を見ていると、なんだか胸の辺りが苦しくなってくる……なんでだろう? 落ちこんでいるまどかちゃんを放置してる罪悪感から?
他の理由も考えつかないし、多分それだろうけど。

「なあ、みちる……私の顔はそんなに酷いのか?」

あ、放っといた間にテンション凄く低くなってる。
これは返事を間違えると、まどかちゃんが自虐的になりそうな予感がする、根拠はないけど。
ここは慎重に答えないと。

「何言ってるの! 全然そんな事ないよ!」
「しかし、さっきはみちるがびっくりする顔だと言ったんじゃないか……」
「だから、それはいきなり顔を近づけられたから! それに私はまどかちゃんの顔好きだし」
「すっ!? おっ、おま、何を言って!?」

あ、まどかちゃんの顔が真っ赤に……怒ったかな?
だけど、まどかちゃんが怒るような事なんか言ってない……よね?
この時、私はふと気づいた。
心配していた気まずさは無く、いつもの私達の雰囲気とまったく変わらないという事に。

965ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:27:14 ID:GzO.18zQ
それから、しばらくしてまどかちゃんが落ち着いた時を見計らい家の中に入れた。

「すまないな、取り乱した」

自分のペースをすっかり取り戻したまどかちゃんを見ていると、さっきの取り乱しっぷりがまるで嘘のように思えてくる。

「いやいや、いいよ」

そのおかげで、妙に気まずさを意識せずにすんだし。とは言わないでおく。

「はい、どうぞ」

麦茶の注がれたコップを差し出すと、一気に半分以上を飲み干していた。
口や態度には出てはいなかったけど、やっぱりあの石段を上るのは疲れたんだろう。

「それで今日はどうしたの? 遊ぶ約束とかはしてなかったよね?」

私が聞くと、まどかちゃんは弛みかけていた表情を引き締め、口を開く。

「謝りに来たんだ」
「謝りに……?」

そう言われたが、別にまどかちゃんに謝られるような事をした覚えもされた覚えもない。

「えっと、まどかちゃん。私に何か謝るような事したっけ?」
「した」

即答された。
だけど、本当に覚えがない。
それなのに、まどかちゃんは私に謝る事があると言ってきた。覚えがないにも関わらず、だ。

「うーん……?」

本気で考えてみたけどダメだ、本当にわかんない。

「ごめん、謝られる理由が本当に思いつかないんだけど」

まどかちゃんに呆れられるのを覚悟で、私は正直に聞いた。

「……野球部だよ」
「……え?」
「だから、謝る理由」
「……え、え?」

野球部が謝る理由? どういう事だろう。

「最近お前の気持ちや意見を無視した勧誘してたから、随分と嫌な思いをしたんじゃないかと思って……」

最近……って昨日までのアレか。

「そんな事で?」
「そんな事って……私は本気で」
「私は、そんなに気にしてないよ……少なくとも謝られるくらいに嫌な思いはしてないつもりだけど?」
「…………」

まどかちゃんの反論を遮って自分の気持ちを語ると、何か言いたそうに、しかし何も言えずにいた。

966ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:29:34 ID:32JU6Dis
「そうか……気にしてないか」

少ししてからそう口にしたまどかちゃんは、どことなく安心したような表情を見せたが、すぐに難しい表情に変わり、何やら呟き始めた。

「いや、しかし……個人的には罪悪感を感じるし謝ってスッキリさせたいが、それこそ勝手な考えだし……」

呟きの内容はよく聞こえないが、何か悩んでいるような雰囲気は感じ取れる。
何を言ってるかわからないけど、まずは独り言を止めさせないと。これじゃ進む話も進まない。

「何をブツブツ言ってるの」
「い、いや、なんでも……って顔が近いっ!」

まどかちゃんは、何故か顔を赤くし勢いよく私から離れる。
その反応は心外な気がする。
って、さっき私がした反応と一緒なんだよね……まどかちゃんが落ちこんだ理由と気分が少しわかった気がした。

「はいはい、じゃあ顔が近くなくなったし、何を言ってたか聞かせてくれる?」
「む……気にするな」

私が聞くと、さっきまで顔を赤くしていた親友は、珍しい事に拗ねた表情を浮かべながら返事をした。

「気にするなって言われると、余計に気になるんだけど……ま、いっか」

もともと、独り言を止めるのが目的だったし。

「さて、どうしようか?」
「どうしよう、とは?」

私の言葉に、まどかちゃんが怪訝そうな表情で聞き返す。

「だから、何して遊ぶ?」
「あ、遊ぶって……」
「もしかして、この後に何か用事あったりする?」
「いや、特にないが」
「なら、遊んでも大丈夫だよね?」
「しかし、私はみちるに謝りに……」
「だから、私は気にしてないんだし、まどかちゃんも気にしないでいいのに」
「そ、それはそうなんだが……」

ああ……このままじゃ堂々巡りだ。
仕方ない。適当にまどかちゃんを納得させるか。

「じゃあさ、いつかまどかちゃんが一回だけ私のお願いを聞いてくれるっていうのは?」
「みちるの願いを叶える?」
「うん、今回の事はそれでチャラってのは、どう?」

まどかちゃんは少しの間、黙考し微かに頷いた。

「……わかった。しかし、無茶な願い事はするなよ?」

よし、なんとかなった。
無理に謝られても、なんか罪悪感を感じちゃうし、この方がいいはず。

「わかってるって」

私は立ち上がり、まどかちゃんに手を伸ばした。

「さ、遊ぼう!」





【目指せ、甲子園─8 おわり】

967ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 19:31:19 ID:ebfKHlrw
とりあえず、ここまで
この話は【目指せ、甲子園─7】と同じ時間軸をみちる視点で書いてものです
ちなみに次も、みちる視点です

968青色1号:2010/02/05(金) 21:31:39 ID:BEm7Jghw
うぁ、投下しようとしたら来てたっ
青春のかほりがする……GJ!

969名無しさん:2010/02/05(金) 21:31:58 ID:dHt6uGx6
乙!

まとめ経由で最初から読んでみたけど、展開がwktkすぎる

続編首を長くして待ってます!

970青色1号:2010/02/05(金) 22:01:32 ID:ISxi7G7E
  〜青色通知15.2(最後の陸の場合)〜


 人生のターニングポイントってのは大抵、本人の意志に関係無く唐突に訪れる。どうやら、それは俺も例外ではないらしい。

 ―――何があったかって?

 そんな事に興味を持った奇特な奴が居たとしても、んな野暮ったいコトを聞くのはナシにして欲しいもンだ。

 ……ま、平凡なイチ高校生の俺の私生活に興味を持つ奴なんざ居ないと思うが。

 ……ケータイを見やる。
 時刻は午前11時35分。

 ……随分あっさりと終わっちまったなぁ。

 "緊急でお願いしたいことがある"

 って、神妙な声色で神代サンに呼び出されたから、てっきり俺は、また血ぃ抜いたり、レントゲン撮ったりっていう、俺の嫌いな部類の検査で時間を食うと踏んでたんだが。

 ま、結論から言えば……今日はそんなコトは一切なかった。

 ただ、神代サンの差し出した分厚い書類の最後のページに自分の名前を書いただけで。

 なんでも、俺が委員会に協力する上で守秘義務とか行動制約がどうたらって話で、口約束じゃなくてキチンと誓約書を書かなきゃならないらしい。

 ホントなら未成年だけじゃ都合が悪いらしく、保護者の同意も要るらしいんだが、そこは、まぁ……内容が内容だから、神代サンも気を遣ってくれたんだとさ。

 ……万一、お袋に俺の性交渉事情が知れたりなんかしたら……やめよう、考えただけでブルーマンデーでもねぇのにプラットホームからダイブしたくなる。

 ………。

 ―――それにしても。

 ……神代サンが委員会の長になるなんてな。
 件の新委員長様曰わく"適任者が見つかるまでの代理"だって話だが。

 ……そう。
 ハルさんは異性化疾患対策委員会の長ではなくなった。

 便宜上は"一身上の都合での依願退職"って話らしいが、仮にも国の管理運営する組織の長をそう簡単に辞められるなんて正直考えにくいし、あの人は、あの人なりの目的があって役職に就いていた筈だ。

971青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:09:34 ID:BEm7Jghw

 原因を作ったのは、やっぱ……俺達、なんだろうな。

 多分、るいが通知受取人をしてるっていう事実が発覚したのが、キッカケになって責任問題に発展したんだろう。

 言い換えれば、俺達がハルさんを辞職まで追い込んだんだ。

 神代サンには、自意識過剰だと咎められたが……。
 ………そりゃ、ガキがケツ持ちを出来るような事態じゃないってコトくらい俺にだってわかる。
 でも、だからと言って俺の……腹の奥底のザワついた感覚が消えることはなかった。

 ……なんつーか、俺がやったコト、やろうとしたコトの大半が無駄だったんじゃねぇかって。

 その証拠に、るいはこの国にはもう……。

 ……考えんのやめ、女々しいっつの。

 はぁ。

 ………学校、フケちまうかな。

 ―――いやいやいや、ただでさえ出席日数がヤバいのに、試験前にサボんのはもっとヤバい。

 その事実が、くーの奴……妹に知れたら缶バッジだらけの鞄で百叩きにされちまう。
 それだけはマジで勘弁だ。
 端から見れば微笑ましい光景に見えンのかもしんねぇけど痛ぇンだよ、あれ。
 ……この前なんか安全ピンが肩に刺さったし。
 アレは……マジで悶絶した。
 血が噴水みてぇになった時は何のコントか隠し芸かと思った程だ。

 ……そんな悪夢の再来はゴメンだ。

 俺は、溜め息を一つ吐いてから鉛のように重たくなった足を引きずって学校への道を歩き出すことにした。

 ……そういや神代サン、俺の誕生日プレゼントがどうとかって言って、変な手紙貰ったけど、何なんだコレ?

 "時期が来るまで開けるな"とか言うし……訳が分かんねぇ。

972青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:11:39 ID:pHLSHDWU



「はぁ」

 ―――漸く学校近くまで辿り着き、思わず溜め息が出た。
 時刻は……丁度、昼休みが始まった頃か。

 ……今日に限っては学校に遅れた正当な理由があるんだよな。うん。
 いつもなら、歴とした理由が無くたって、こんな陰鬱とした気分にならねぇってのに、正門から入ることに何故か気後れを感じちまってる俺が居て……。
 俺は結局、裏門―――とは名ばかりの傾斜のキツい石畳の階段を見上げたまま……そこから動けずにいた。

 なんつーか……その。

 こんな半端な気持ちを引きずったまんまでアイツと会うのは、なんか違う気がして。
 あれこれと無いアタマ絞って考えたってテメェを納得させる答えを弾き出すコトなんざ出来やしないのに。

 "ひーちゃんの、ばか"

 ……今更、るいに言われた言葉が突き刺さる。
 ああそうだよ、俺はバカだ。
 初紀を消去法で選んだって認めたくないばっかりに、テメェにあれこれ言い訳して答えを先延ばしにしてんだ。
 そんなの、初紀が望んでないことだって分かってる。俺ん中のどこかしらに、るいが居ようと、初紀は許してくれるんだろう。
 アイツは……自分を押し殺すのが大得意な奴だから。


 俺は、どうすりゃいいんだよ……?
 見上げた傾斜のキツい石畳の階段は答えちゃくれない。

「………クソっ」

 何もかも投げ捨てたくなる衝動に駆られて、俺は階段に背を向け―――ようとした。

「―――なぁに一人で身悶えしてるのさ?」
「っ!?」

 背を向けた先から聞き覚えのある声がして、俺は金縛りにでもあったように動けなくなる。
 そして次第に近付いてくる足音。
 多分……今、一番会いたくて、一番会いたくない奴だと直感する。

「……」
「……まーったく、空ちゃんから聞いた時はビックリしたんだからな〜。
 メールしても宛先不明で送信出来なかったし」

 返事すら出来なかった。
 どんな顔すりゃいい? アイツに、なんて声を掛けりゃいい?
 そんな訳の分からない自問自答がアタマん中をグルグルと巡っては消えていく。

973青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:14:11 ID:yCYO23cg

 次第に、ローファの石畳を降りていくコツコツという音がこっちに迫ってくる。
 ―――呼吸が浅く、小刻みになる気がした。

 出来ることなら走って逃げ出したいくらいなのに、俺の体がそれを拒んでいて身動きがとれない。

「―――ね、覚えてる? 此処で予行デートの待ち合わせした時のコト」

「………」

「遅刻するわ、デリカシーは無いわ、言葉遣いは乱暴だわ……ホントにサイテーだったよ?」

「………」

「"こんな奴、好きになる物好きなんていない"って思ってたのになぁ」

「………」

「……でもね」

「………――――っ!!?」

 不意に、背中に、俺より一回り小さな温もり。

「……今日、今、この瞬間。
 そんなサイテーな奴が、男のままでホント良かったって、私は思ってるんだ。
 へへっ、おかしいよね。自分でも、笑っちゃうよ」
「……はつ、き……っ!」

 名前を呼ぶ声が、震えた。
 理由も分からないまま、みっともなく目頭が熱くなって、今、背中を抱きとめている女の名前を呼んだまま、言葉が出なくなる。

「……誕生日、おめでと、陸」
「……初紀……っ!!」

 俺は……初紀のことが好きなんだ。
 そう自覚した瞬間には、俺は自分より一回り小さな温もりを、力一杯に抱きしめていた。

「ちょ……っ、く、苦しいって……」
「……っ」

 ………ヤバい。
 俺は、るいや初紀の言う通りサイテーな人間なのかもしれない。
 俺の胸の中で小さく切なげに訴える声。
 両腕を介して伝わってくる線の細い華奢なカラダ、体温。微かに香るシャンプーの匂い。肋骨辺りに感じる控えめな膨らみの感触。
 
 ……それらが、否が応にも俺の下半身を押し上げる原因となってしまうなんて。

「―――っ、ちょっ、陸……っ」

 抗議と、羞恥と、当惑と、期待とが入り交じったような目が俺を見つめてくる。

「……わ、悪ぃ」
「ちが、う。嫌なんじゃなくて、その……びっくりした……だけだから」
「え……っ?」

974青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:15:45 ID:QKTVwy5Q

 困ったような恥じらいは合意のしるし。とかなんとか巷じゃ言ってるけど、まさか。
 ……これが、まさか、"フラグ"というものなのか?! そうなのかっ!!?

「……でも、ここじゃ嫌だよ……」
「……」

 おい、フラグってこんなあっさり折れるのか? んなバカな、責任者出てこい。 って、いやいやいや。冷静になれ俺。

 ……流石に、この時間帯は人通りが極端に少ない裏門だが。ここで行為に及ぶのは危険過ぎる……よな。
 ……はぁ。

「……陸?」
「ん……?」
「今、露骨にガッカリしたでしょ」
「え、あ、し、してねぇよ!」
「ウソ」
「ううう嘘じゃねぇってっ!!」
「じゃあもう、こういうことしない」
「えぇっ!!?」
「……やっぱりガッカリしてるんじゃん」
「う………」

 ―――初紀の奴、るいと交流する内に男の扱い方に慣れてきたのか……?
 俺の腕の中に、顔を埋めながら初紀がイタズラっぽく笑う声を聞いて、不謹慎にもそう思った。

「……良かった」
「へ?」
「そーいうこと思えないくらい、私にはやっぱり魅力がないのかな……って、ちょっと不安になったから……」
「……ンなコト、ねぇよ」

 こういう時、上手く言葉が出て来ない俺の足りない脳みそが恨めしい。

「……ありがと」

 それでも、初紀は可愛らしく笑ってくれる。
 でも―――。

「―――さ、早くしないと昼休み終わっちゃうよ?」

 初紀はぴょんぴょんと飛び跳ねるみたいに階段を上っていく。

「な、なぁっ、初紀っ!?」
「ん?」

 慌てて呼び止めて、初紀がくるりと振り向く。
 少しだけ裾上げされたスカートから伸びる脚は相変わらず綺麗だな……って、そうじゃねぇっ!

「……本当に、俺なんかでいいのかよっ!!?」
「………」

 初紀が、目を見開いた。
 何かに驚いたような、キツネに摘まれたような顔をして。
 何が言いたいのかまで分からない、けど……俺は言葉を続ける。

975青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:17:42 ID:QKTVwy5Q

「……こんな、以前のお前より弱いような、うわついた野郎じゃなくてっ、もっと、お前だけを真剣に想ってくれるような奴の方が―――」
「―――ばーか」

 何故か、突然平坦な口調でバカにされた。

「んな……誰がバカだっ!? 俺は真面目に―――っ!!」
「ばーかばーかっ」

 ―――いつか、どこかで初紀とこんなやりとりをしたような気がする。

「なんだっつーんだよっ!!?」
「……なぁんだ。
 結局、似た者同士だったんだね、私達って」

 ―――確か、その時も、初紀はそうやって笑っていた気がする。

「だからっ、何がだって訊いてン―――!!」
「―――どうしてさ。私の気持ちを無視して話を進めるの?」
「えっ」

 急に投げ掛けられた問いに、頭がフリーズする。

「……私は、見返りが欲しいんじゃなくて、ただ……、陸が……好き。
 迷惑……かな」

 気付くと、俺は息を飲み込んでた。

 ……そうか、俺。
 初紀を想う振りをして、知らない内に自分の罪悪感を消そうとしてたんだ。
 今でも、二人のどちらかを選べていない罪悪感を、初紀を遠ざけるコトで。

「……私、待ってるよ。ずっと。
 陸が心の整理をつけるの。
 どんな答えでも、……受け入れてみせるから」
「……お前は――るいが、ここに帰ってくる、その時まで待てンのかよ!?」
「―――待つよ?」

 俺の、自分勝手で最低な問い掛けにも、初紀は淀みなく答えた。

「陸が私達を好きで居てくれるなら。ずっと」
「なんで頑固なンだよ……バっカじゃねぇの?」
「あははっ、お互い様でしょ?」

 ……あぁ、くそっ!
 なんだっつーンだよっ!!?
 こんなに、いい女を苦しめるような真似してっ!
 死ね、死ねよ俺っ!!!

「まぁた、そんな顔してる」
「……ンだよ?」
「どうせ、また"死ね、俺"とか思ってたんでしょ?」
「……っ」
「あー、やっぱりね。
 そーいうの、悪い癖だよ。嫌いじゃないけど」

 ……何でもお見通しなクセに、それ全部受け入れてくれンのかよ。
 ……そんなのに甘えられる訳ねぇだろうがっ!!

976青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:20:18 ID:gp/sIvLg

「……初紀ぃっ!!」

 一段飛ばしで傾斜のキツい階段を駆け上り―――

「ひゃ…う…っ!?」

 ―――俺は初紀の背中を力一杯に抱き締めた。

「……え、ちょっ、な……に……っ?!」
「初紀……一回しか言わねーぞ。
 俺は……そのっ、あのっ、―――」

 ……くそっ。
 テンパって言葉が出て来ない。畜生、最後の最後まで締まらねぇのかよ俺っ!!

「……ひと……し……」

 背中から抱き締めている腕を初紀に、震えた手で掴まれる。

 とくん、とくん。

 どっちの鼓動かはわかんねぇけど……確かに小刻みに脈打つ音を感じた。
 心地よい緊張感が、俺と……初紀を支配する。

「……言って……? 私、きちんと聞いてるから。
 どんな答えでも、……私、受け入れてみせるから……っ」

 さっきと同じ言葉を、さっきと違う消え入りそうな声で初紀が呟く。
 多分、涙を堪えているんだろう。背中越しに、鼻をすする音が聞こえる。

 これ以上、コイツを……こんな小さな身体で虚勢を張ってきた初紀を待たせるわけにはいかねぇよ……!

「―――初紀、お前が……好きだ」

 俺が、俺の意志で選び取った答えを、気持ちを……初紀という"女"に告げた。

 ―――考えてみれば、俺はとっくに答えを出してたんだよな……。

 ―――初紀が通知受取人になると告げられたあの日に。
 手錠で繋がれてた初紀と、部屋から逃げ出したるい。
 ……俺は迷わず初紀を助けるコトを選んだんだから。

「……し、信じて……いいんだよ……ね……?」
「ああ」
「……ただ、っく、慰めで……えくっ、言ったわけじゃ、ないんだよね…?」
「ああ」
「もう……ひっ、く……遠回りしなくて、いいんだよね……?」
「ああ……!」

977青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:24:20 ID:oAbHcOXg

 何度も、何度も、俺は初紀の言葉を肯定した。
 初紀は、ずっと……こんな苦しい気持ちを抱えながら俺と接していたのかって思うと、……申し訳なさで一杯になる。

「……なんで、だろ……今、すっこい、嬉しい……のに、……どうしてっ、こんな……ひっく……」
「……初紀」

 しゃくりを上げる初紀の声を耳を傾けても、俺は名前を呼ぶしか、出来なかった。
 クサい台詞の一つも言えない俺の語彙の無さを恨みたくなった。
 ……だから、代わりに精一杯、震える小さな身体を抱き締める。

「……」
「……」

 兎みたいに真っ赤に泣き腫らした目が俺に向けられる。
 そして、その目がゆっくりと閉じていく。初紀が目を閉じ終えた瞬間に零れた涙が、日の光で反射して……凄く綺麗だった。

「……」

 初紀は、証が欲しいよう見えた。
 いや、俺が……そうしたいから、そういう風に見えたのかもしれない。
 これが初めてじゃねぇのかもしれねーけど、……お互いの気持ちが通じて、こういうコトをするのは初めてだから。

 だから、俺は……初紀の頭に手を添えて―――

「ん……っ」

 お互いに緊張してて、どっちの震えなのか分からないけど、少し初紀の身体が強張ったのは分かる。
 ……ヤバい。
 今、俺……すっげぇ緊張してる。コイツと喧嘩した時でも、こんなビクついたことなんかなかったのに。

「初紀……っ!」
「………っ」

 上手く出来るかはわかんねぇけど……いや、そんなんじゃねぇよな。
 背伸びなんかしてる場合じゃねぇだろ!
 俺は、意を決して目を閉じ……ゆっくりと、初紀の唇に―――――。

 とくん。

 とくん、とくん。

 ……どくん。

978青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:28:44 ID:.QicLn4U



『んーーーっ、私もーっ』



「「え………っ?」」

 俺と初紀はシンクロして疑問の声を上げ、目を開けた。
 明らかに、俺でも、初紀でもない声が聞こえたから。それも、かなりの至近距離から。
 僅か数センチの距離に見知った顔が、二つ。

 ―――二つぅっ!!!?

「のぐわぁっ!!?」
「きゃぁぁっ!!?」

 俺達のマジビビりの声に、階段周りの防風林で羽休めをしてた椋鳥が一斉に飛び去っていった。

『あーあ、せっかくのシャッターチャンス逃しちゃった。失敗失敗』

 "そいつ"は、携帯のカメラを構えながら可愛らしく舌を出して笑っていた。
 本来なら、此処に居るはずのない……人物だ。

「なんで……!?」
「どうして……!?」
「お前が、」
「あなたが、」
「「ここにいる(の)っ!!?」」

『あはははっ、息もぴったりだね、お二人さんっ』

 彼女は、青いリボンで結わえた短めのポニーテールを跳ねさせながらイタズラっぽく笑った。


「るい……っ!」「るいちゃんっ!」


 んなバカなっ!?
 もうこの国には居ない筈の、元通知受取人、"坂城るい"が此処に居るなんて何の冗談だっ!!?

「まさか、飛行機が墜落して……!」
「ええっ!? ああああのっ、るいちゃんっ? 足、あるよねっ!?」
「頼む、成仏してくれっ!」
「あのさ、勝手な想像で人を殺さないでくれるかな?
 ……だから、手を合わせるなーっ!!」

 片目を瞑り、鬱陶しそうに頭を掻きながら、俺達を窘めるるい。

「で、でも、海外に居るご両親の所に行くコトになったんじゃ……!?」
「ん〜、本当ならね」
「んじゃ、なんで此処に居るンだよっ!?」
「まぁ……イロイロありまして」
「イロイロ端折り過ぎだろっ!!」
「……ていうか、ひーちゃんさ、神代せんせーから何にも聞いてないの?」

979青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:32:31 ID:r6XgMnik

 神代サンから?
 ……まさかっ!?

 俺は神代サンから受け取って、制服のポケットに突っ込んだまんまになってた"誕生日プレゼント"の手紙の封を破り、中をあらためる。



 "前田 陸 殿

 この度は、異性化疾患対策委員会への協力、有難う。
 ―――――。
 ――――――。
 ―――さて、誕生日プレゼントということで黙っていたが、この度、坂城るいは僕の私設秘書見習い、兼、監視官として働くこととなった。
 現在の高校には通い続けるので仲良くして欲しい。
 さて、疑問にも思うしれないが、彼女がご両親の下に行く件については、彼女が極度の高所恐怖症が原因で飛行機での移動が不可能と判断され白紙となった。
 ―――――。
 ――――――。
 ――――――。
 異性化疾患対策委員会 委員長代理
 神代 宗"



「………なんじゃこりゃあっ!!!?」

 刑事ドラマの殉職シーンみたいな声を上げるしか出来なかった。

「あはははっ、別に高所恐怖症じゃないんだけどね、私」
「「え?」」

 ステレオサウンドでるいの言葉に首を傾げる。

「そもそも、私の主治医だった人だからね。神代せんせーは」

 るいの言葉で、ある事実が脳裏をよぎった。
 ……まさか。

「ハルさんの嘘の死亡報告の時と同じ手を使ったってのかっ!?」
「まぁ、過去のカルテを改竄するなんてそう簡単には出来ないから、せんせーが口頭で両親にそう伝えただけだけどね」

 俺も初紀も唖然とするしかなかった。
 仮にも政界の名家の出身だっつーのになんつー荒技に出るんだよ、あの人はっ!?

「……それにしても、その手紙に書いてある"監視官"って……なに?」

 初紀が当然の疑問を向ける。
 確かに私設秘書ってのは何となく理解出来る―――とは言っても一介の女子高生に出来る作業とは思えない―――けど、監視官ってなんなんだ?

「あーそうそう。それね。
 私、"ひーちゃんと初紀ちゃんの監視"を任されてるんだよね」
「………え、俺と……初紀?」
「はい、コレ」

 るいは、軽い感じでキャリーバッグの中からA4のファイルを取り出して、俺に手渡す。
 これ……今日神代さんに頼まれてサインした"誓約書"じゃねーかっ!?

980青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:38:44 ID:.QicLn4U

 …………へ?
 甲ってのは……俺のことだよな?
 乙は……委員会か。
 うん、そうだ、誓約書のアタマに書いてある。

「……陸、これって………あの、その」

 初紀が顔を赤らめて口ごもる。
 え、何だよ、どういうことだよっ!?

「ひーちゃんは、今日から5年間、誰ともえっち出来ませんってコト」

 …………。
 そうか、なるほど。俺は5年間……
 って、なにぃぃいっ!!?

「ど、どどどどういうことだよっ!?」
「異性化疾患の抗体がえっちするコトによって消える可能性を考慮したんだろうねー」

 そもそも、男女間の性的な交わりを以て異性化疾患を回避出来るんだから……確かに理にかなっているのかもしれねぇけど……。

「で、晴れてこーんな可愛らしい子と結ばれた、うら若き男子が次のステップを我慢出来るワケないもんね?
 そこで! 私の出番ってワケですよ」
「どういうことだよっ!?」
「私が初紀ちゃんと生活を共にして、初紀ちゃんのバージンを毎日確認させてもらいまーすっ」
「「えええぇえっ!!?」」

 るいの奴……なんて羨ましい……じゃなくてっ!!!

「は、初紀は、関係ねぇだろっ!?」
「大アリだよー。
 だって、ひーちゃんは見ず知らずの女の子を抱けるような性格してないし、コトが起こるとしたら……ね?」
「"ね?" じゃねぇよっ!! つーか、初紀の両親がンなコト許すわけが――――」
「―――あっ」

 そこで、初紀が何かに気付いたような素っ頓狂な声を上げる。

「……もしかして、母さんが言ってた"家族が増える"って……!?」
「あ、うん。私のこと。再就職先が見つかっても、通知受取人用の宿舎には戻れないしね。
 もちろんお給料から下宿代は出させてもらうよ?」

 ―――全身の力がヘナヘナと抜けていくのが分かる。
 今日、この日までの俺の葛藤は一体なんだったっつーんだ……!?

「ま、いいじゃん。細かいコトはさ」
「ちっとも細かくねぇよっ!!」
「……っ、ぷくくっ、あははははっ!」

 何がツボにハマったのか、るいは俯いて、凄く楽しそうに笑う。

981青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:43:33 ID:.QicLn4U

「……るいちゃん」
「―――っ」

 不意に初紀が声を掛けたその瞬間に、るいは身体を弛緩させて、甲高い声を止めた。
 ―――そして。

「おかえりなさい、るいちゃん」

 まるで、どっかの御伽噺かなんかの聖女みたいな清らかな顔で、初紀は……俯いて固まったまま動こうとしない―――るいを抱き止めた。

「なんでそんな優しいのかな。
 私、此処に居てもいいのかなぁ?
 二人の仲を掻き回すだけ掻き回したのに。
 ……ひーちゃんにも、初紀ちゃんにも、いっぱい、迷惑掛けちゃったのに……! また、きっと、いっぱい、いっぱい……困らせちゃうよ……?」

 平静を装ってたようなるいの声が、言葉を重ねる毎に……震えてきてるのがわかる。
 ……そう、か。るいは、無理に明るく振る舞ってただけだ。
 本当は―――。

「ね……、陸」

 初紀の視線が俺に向けられる。

「さっきの告白の返事、少し待ってもらっていいかな?」

 初紀は冗談めかすわけでもなく、真面目に問いかけてきた。

「え……っ?」
「ど、どういうことだよ?」

 俺は、多分るいと同じ様な顔をしていたと思う。

「これで、私達は同じスタートラインに立てた気がするから。
 ……同じ場所、同じ時間、同じ好きな人。
 何の足枷もない、自由な恋。
 ……恋に勝ち負けなんて、本当はあっちゃいけないんだろうけど……。
 お手柔らかにね、るいちゃん?
 どっちが、勝っても負けても。……私はずっと友達だからね?」

 初紀はそう言って、これ以上無いほどの綺麗な微笑みをるいに投げかけた。
 ……強いな。ホント、強ぇ。
 女になっても、お前だけには敵う気がしねぇよ。

「……ダメ、かな? 陸?」

 ……ったく。
 さっきの俺の一大決心はなんだったんだよ、ホントに。
 でもよ―――。

「るい―――」

 ―――俺、嬉しいんだよ。
 今、コイツが目の前に居てくれて。

「―――おかえり」

 暫く、この二人の美少女に振り回されることになるだろう。
 いずれ、どちらかを選ぶ時が来るだろう。

 周りの環境にも、遠回りな思いにも左右されない、俺自身の意志で。

 それが、なんて幸福なことで、なんて不運なことだとしても。

982名無しさん:2010/02/05(金) 22:50:00 ID:xHZO7ZZI
GJ!!!

983青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/05(金) 22:54:08 ID:r6XgMnik

 ―――決めなくちゃなんねぇんだよな。

 でも、今は―――。

「ただいま―――ひーちゃん、初紀ちゃん……!」

 ―――今だけは、真っ赤に泣き腫らした目を押し隠して、心底から嬉しそうに笑うポニーテールの少女の帰還を、素直に喜ぶことにしよう―――。



 ―――予鈴のチャイムが防風林の向こう側から聞こえてくる。

「……どうしよ。こんな顔じゃ……」

 ……初紀も、るいも、このまま教室に戻ると誤解されること請け合いな真っ赤な目をしていた。

 ……ま、試験前だけど今日くらいは……いいか、無礼講だ。

「屋上、行くか?」

 俺がそう問い掛けると、二人は暫くの間、顔を見合わせてから。

「「………うんっ」」

 思春期の男を一瞬で恋に落としてしまいそうな眩しい笑顔で頷いた……。







 ―――俺に宛てられた青色通知から事を発した、俺の情けなくて忘れられない数日間の話は、これでおしまいだ。

 ……コイツは余談だが、俺達が直面したこの物語は、青色通知や通知受取人を取り巻く、数多くの問題の一例に過ぎないらしい。
 他の誰かの元に青い封書が届いた時、それは……そいつらにとって、どんなものになるのか俺は知らない。
 幸せを運ぶものなのか。
 または、人生を奈落まで突き落とす最後通告なのか。
 そこには、届いた奴にしか分からない、たった一つの物語が綴られている。
 そんな気がしてんだ、……なんとなくだけど、な。


 15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する世界だったら

  〜青色通知〜

  了

984青色1号:2010/02/05(金) 23:00:02 ID:GCfaQzbc
すっげぇ難産だったけど、青色通知はこれにておしまいです。


お付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。


↑建前 本音↓

もう小難しい設定じゃ絶対ぇ書かないっ! 疲れたっ!! 陸氏ねっ!!!

985名無しさん:2010/02/05(金) 23:02:37 ID:foShRnuE
長丁場おつかれwwww

986 ◆jz1amSfyfg:2010/02/05(金) 23:08:53 ID:Bqv1VbVs
長い間お疲れ様でしたー!



>>969
言われてまとめられている事に気づいたw

まとめてくれた人ありがとうー!

987名無しさん:2010/02/05(金) 23:23:19 ID:wsh95M1o
盛大に乙っ!

988青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2010/02/06(土) 00:46:15 ID:TpO2LH9w
  〜青色通知、御堂家の後日談〜

るい「初めまして、坂城るいです。今日からお世話になりますっ」

るい(わ、初紀ちゃんのお母さん……だよね? 凄い綺麗な人だなぁ……)

初紀(……るいちゃん、凄い営業スマイル)

初葉「あ、あなたが宗くんの言っていた子ですね?」

るい「はいっ」

初葉「ふふっ、自分のウチだと思ってくつろいで下さいね」

るい「ありがとうございますっ
 それで、あの……お家賃のコトなんですけど―――」

初葉「―――要りませんよ」

るい「え……っ、で、でもっ」

初葉「他ならぬ、宗くんのお願いですから。主人も納得してくれていますよ?」

るい「そんなの、悪いです……っ、私、きちんとお支払いしますからっ!」

初葉「あらあら、困りましたね
 ――――あ」

初紀(あ……なんか良からぬコトを思い付いた顔してる)

初葉「じゃあ、るいさん。お家賃の代わりに、お願いがあるんです」

るい「はいっ、なんですかっ!?」

初葉「私の作ったお洋服をモデルさんになって―――」
初紀「―――却下」

初葉「どうしてですかっ!? こんなに可愛いかったら、水兵さんも女給さんもウサギさんも絶対似合いますっ! 私が保証しますっ!!」

初紀「論点そこじゃないでしょっ!? そもそも未成年にバニー服着せるなんてどーいう神経―――」

るい「―――いいですよ?」

初紀「何るいちゃんもあっさり承諾してるのっ!?」

るい「だって、見られるだけだし、可愛い洋服着られるのは嬉しいし」

初紀「乙女として羞恥心はどこに行ったんですかっ!?」

るい「でも、そーいうの好きでしょ? ……ひーちゃんも」

初紀 ぴくっ

るい「いいのかなぁ? 私がいろーんなコスプレでひーちゃんにあんなことやこんなことしても……」

初紀「だ、ただだだダメっだってば!」

るい「だって、おんなじスタートラインに立てたんだもん。後は全力で走り抜けるだけでしょ?」

初紀「う……」

るい「どうしよっかなぁ? 私は乗り気だし、初紀ちゃんは嫌がってるし……しょーがないよね?」

初紀「わ……私も着るっ、着ますっ!」

初葉「決まりですねっ」


 その後、御堂空手道場にはコスプレをした二人の美少女が居るという噂が瞬く間に広がり、爆発的に男性の門下生が増え、収入が格段に増えたという。

989青色1号:2010/02/06(土) 01:08:01 ID:WiVJB6dc
 ごめんなさいごめんなさい、ホントにごめんなさい。
 クソ真面目な話ばっか書いてておちゃらけたのが書きたくなっただけなんですホントにごめんなさい。
 こんなアホなので残り少ないレス消化してごめんなさい。

 あぁ、恥ずかしい。死にたい。今すぐ死にたい。

 次回作あるかどうかわかんないけど、別スレで探偵物の続き書くかもしれないけど書かないかもしれないんでごめんなさい、本当にごめんなさい。
 坂城るいがフライングで出ててごめんなさい。

 本当にありかとうございました。
 しばらく死んでます。

990名無しさん:2010/02/06(土) 12:34:28 ID:5B9p0qAc
いやいや。フライングしてて「あー、こうなるのかー」ってニヨニヨしてたからいいんです。
下手するとひーくんに会えない状態で虚勢張ってるのかなとか思ってたから安心したのよ。

991ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/07(日) 05:10:24 ID:oY4YUpm2
【目指せ、甲子園─番外編1】





【翔太の服装整理】



「ああ……相変わらずクローゼットには母さんが買ってきた女物の服に浸蝕され続けてる」

せっかく休みを利用してクローゼット整理しようと思ったのにこれじゃ、整理する気も失せる。

「まあ、愚痴言ってもしょうがないか……」

俺は渋々、クローゼットの中を整理し始めたのだが……

「ん、なんだコレ?」

クローゼットの中から一着、明らかに他の服とは違う物が出てきた。
黒のワンピースに清潔感をイメージさせる白いエプロン、そのエプロンと同じ色のヘッドドレス、そしてワンピースと同じ黒のタイツ……と、どこから見てもメイド服そのものだった。
こんなのは、普通男は着ない。
もちろん俺も着た事は無い。
という事は、母さんが俺用に買ってきたって事になる。

「母さん……アンタは息子にメイド服を着せて何をしたいんだよ……」

母さんを遠くに感じた一日だった……





【目指せ、甲子園─番外編1 おわり】

992ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/07(日) 05:11:58 ID:jN2LkQdw
という訳で番外編でした
現在、【目指せ、甲子園─9】を携帯でチマチマと打っているのですが、予想以上に長くなりそうで10レス以上使ってしまう危険があるので、今回は番外編になりました

完成して、次のスレがたっていたら、9話目を投下します

では、また次回

993名無しさん:2010/02/09(火) 00:19:34 ID:PceC/6UA
続きwktk

994青色1号:2010/02/10(水) 04:25:44 ID:aFGiFVuY
口調で一瞬分からなくなるけど、
まどかは厳格な口調をした純正な女の子で、みちるはにょたっ子の巫女さんなんですよね?

解釈間違ってたらすみません。
と改めて通して読んだら、先が気になってしょーがないです、は、早く続きを……。

995名無しさん:2010/02/10(水) 04:27:22 ID:v7yqbxN.
しまったコテ付けてた死にたい。
無理にせっついて、すみませぬ……。

996 ◆jz1amSfyfg:2010/02/10(水) 14:58:03 ID:dIdvf2TA
>>994
そう考えてもらって問題はありません
わかりにくい文章ですいません……

次のスレにて続きを投下するので、少しの間お待ちいただけたら幸いです

997ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/13(土) 02:44:16 ID:vZO0bqBI
【目指せ、甲子園─番外編2】





【母親の罠】



メイド服ショック(番外編1を参照)から数時間。
気力の急降下にもめげずに、クローゼットの中の整理を黙々と続け、それを終える頃にはもう夕方になっていた。

「風呂にでも入るか……」

疲れた。ただ疲れた。
せめて風呂に入って、ゆっくりとしたい。
一階に降りて、風呂場に向かう途中で母さんと鉢合わせした。

「あら、お風呂入るの?」
「そのつもりだけど、もう入れる?」
「ええ、今ちょうど沸いたところよ」

タイミングがいいことにちょうど風呂が沸いたようだ。

「んじゃ、入らしてもらうかな」

そのまま、脱衣所に入る。
シャツを脱ぎ、ふと何も纏ってない上半身を見て、気分が滅入る。
さらしを巻かなくても気づかれないんじゃないか、と思うほど薄い胸にため息が出る。
状況が状況なので、文句はないが。
それにしても、女体化初日は自分の裸体一つまともに見れなかったのに、今は普通に見る事ができる。『慣れ』って恐ろしい。
気を取り直して、着替えを続ける。
ズボンとパンツ──一応付け加えておくが、ちゃんと男性用だ──をさっさと脱いで、浴室に入る。



手早く頭と体を洗い、湯船に入る。

「ふー……落ち着く」

湯船につかってリラックスする……が、妙に気にかかる違和感。何か忘れているような気がする。
……何だったかな。何か必要な物が無いような……

「……あっ!」

声が出てしまうほど大事な物……バスタオルと着替えを忘れた。
バスタオルに関しては、使わなくても脱衣所でしばらく待っていれば体が乾くので無くても大丈夫だ。もちろん有った方が便利なのは言うまでもないが。
問題は着替えだ。
真っ裸で家の中をうろついても風邪をひいたりはしないだろうけど、さすがに家族とはいえども裸の姿を晒すのは避けたい。
今、父さんは会社で兄貴はバイト中なので、家には母さんしかいないが、そろそろ2人が帰ってくる頃だ。
部屋に戻って着替えるとしても、すでに2人が帰ってきていれば、風呂場から一歩も出られない。
さて、どうすればいいか……
俺が頭を働かせていると、脱衣所の方から扉の開く音と母さんの声が聞こえた。

「翔太、着替えとバスタオル忘れたでしょ? ここに置いておくからね」


どうやら、母さんが気がついて持ってきてくれたらしい。
俺は湯船から感謝の言葉を送った。

998ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/13(土) 02:45:09 ID:ZWvqeYZc
「さて、そろそろあがるか……」

体から湯気が出るほど浸かったし、頃合いだろう。
浴室から出て、脱衣所に置いてあったバスタオルで体を拭く。

「それにしても、助かった」

母さんが気づいてくれなかったら、真っ裸で家の中をうろつかなきゃいけないところだった。

「いやー、本っ当に助か……」

言葉はそこで止まってしまう。
服が置いてあるべきところには、予想だにしない物が置いてあった。

「こ、これは……」

俺は震える手でそれを掴み取り──



「か・あ・さ・ん!」
「あ、翔太、随分のんびりだったじゃない」

台所で、おたまでに鍋をかき混ぜていた母さんが振り返り……笑顔で頬に手を当てる。

「あら、まあ。可愛い服着てるじゃない」
「半ば無理矢理着せたくせに!」
「いいじゃない、似合ってるわよ、そのメイド服」
「嬉しくないよ!」

風呂場に持ってきた『着替え』の内容がメイド服だったとは……クローゼットの奥深くに封印してきたはずなのに、見つけるとはな、隠し方が甘かったか。
それはともかくとして、着替えの服がメイド服しか置いてない状況では、それを着ざるをえない。

「バスタオルがあるじゃない」
「着れるか! 父さんや兄貴が帰ってくるかもしれないのに!」

しかも、その格好で見つかったらメイド服よりヤバイ、色々と。

「なら、普通の服に着替えてくれば?」
「よく言えるな。俺の服隠したくせに」
「あら、人聞きが悪い。男物の服を一旦拝借しただけよ」
「それを隠したって言うんだ! 返せよ!」
「やあよ♪ 可愛いんだし、今日一日着てればいいじゃない」
「着てられるか! こ、こんな恥ずかしい格好……っ!」

そう、母さんの持ってきたメイド服はなぜか露出度が高めで、下手すると下着が見えてしまいそうなほど、スカートも短い。

「じゃあ、着替えれば?」
「だから、服が女物しかないから、男物を返せっつってんだよ!」
「ダメ。家では女の子らしくするって約束でしょ?」
「ぬぐ…………」

それを言われると反論できない。

「さあ、選びなさい。普通の女性用の服に着替えるか、それとも、そのメイド服を着たままでいるか!」

母さんは俺にビシリと指を突きつけ、言ってのけた。





【目指せ、甲子園─番外編2 おわり】

999ファンタ ◆jz1amSfyfg:2010/02/13(土) 02:46:17 ID:ZWvqeYZc
とりあえず、ここまで
これの続きは投下するかもしれないし、何事もなかったかのように他の話を投下するかもしれません
予定は未定です

1000名無しさん:2010/02/13(土) 18:57:18 ID:lj8pC.xo
投下乙


次スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/7864/1266054928/

現本スレ
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