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皮のニモ靴 ◆2tH7zOPLcg 作品

1名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 05:31:31
家に帰ってくると、相変わらずちらかっていた。
「ただいま」
「おかえり」
どうやら藤本しかいないらしい。ソファに寝そべって俺の漫画を呼んでいる
「帰ってきたら制服ぐらい着替えろよ。後藤は?」
「彼氏の家だって。晩御飯いらないってさ」
またお泊りコースですか。そんなにHが好きなら童貞の俺を男にしてくれても
いいじゃないかorz
「亜弥ちゃんは?」
「彼氏と遊んでる」
「えぇっ、あの子彼氏いたの!?初耳なんだけど」
「やべ国家重要機密だった。今の聞かなかったことに」
「できるか!はぁ〜マジ意味わかんね。いつからだよ、隠す意味がわかんね」
「まぁまぁおちけつ。亜弥ちゃん学校で人気あるじゃん?もしバレたらファンクラブの
連中に亜弥ちゃんの彼氏が闇討ちにあう危険性があるだろう」
「…なんか今日飯つくるのマンドクセ。適当にカップラーメンでも食ってくれ」
「ちょっとちょっと。どこ行くのよ」
「自分を見つめなおしに」
「あんた何へこんでんの?」
「うるさいな、一人にしてくれよ」
「なに?あんたまさか亜弥ちゃんに彼氏いたことにショック受けてんの?」
「・・・」

57名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:17:41
後藤も亜弥ちゃんも帰ってきていない。藤本はソファーの上で何も知らずに
踏ん反りがえっている。
やるなら今しかない…か。
俺は部屋を出て、藤本たちの部屋のドアノブに手をかけた。
胸がバクバクいって、頭がクラクラする。
ちょっと気になったので、リビングのドアを開け、チラリと藤本がいるか確認した。
あいつは、ドラマの再放送を見ているようだ。
よし、いける!!俺は音を立てないように藤本たちの部屋に侵入した。もちろん電気はつけない。
この部屋、なんだかんだであまり入る機会ないよな。まぁ今はどうでもいいことか。
俺がこの部屋に入ったのは、取引のための品を取りに来たからだ。
先ほど俺を脅迫しにきた奴への口止め料と言ってもいいかもしれない。
あいつはこう言っていた。俺が後藤、松浦、藤本と同居してることを秘密にするかわりに、
『藤本美貴の下着を持ってこい』
見つかったらマジで殺されるよな俺。それこそあいつらと一緒に住めなくなるな。
たぶんアイアンクロー(類義語:シャイニングフィンガー)どころじゃ済まないだろう。
でも下着は入手しなくては。やらなきゃあの糞ったれに今の生活をめちゃくちゃにされてしまんだ。

58名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:17:55
俺は自分を奮い立たせ、タンスの<みき>と張り紙がしてある段の取っ手に手をかけた。
ついでにちんこまで奮い立たせてしまったのはここだけの秘密である。
俺、わけがあるとはいえ、これから下着ドロになるんだな…
藤本とはいえ女性、しかも年上のお姉さんだ。タンスを開けると、そりゃあもうアレよ。
こういうのは何かに例えられそうだな。そう、花畑だ。
いろいろある。白、黒、水色のボーダーなどなど。でもどうしよう、こんなの俺、盗むどころか触れないよ。
藤本のパンティやらブラジャーやらでこんな興奮するとは…俺、その手の性癖あったのかな。
とにかく、悠長にはしてられない。早いとこ下着を取って部屋戻らなきゃ。
でも、こんなことしたら、もうあいつらと今までみたいに喋れなくなりそうだな…
その時である。ガチャリと家の玄関の扉が開いた音がしたのだ。
やばい!後藤か亜弥ちゃんのどちらかに違いないだろうが、今この部屋に来られたら…!
だが部屋からも逃げられない。部屋を出ればすぐ左手には玄関なのだ。
隠れよう!どこか隠れることができそうな場所は…ないじゃねぇか!!
そして、無情にも部屋の扉は開かれたのだ。

59名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:18:10
とにかくタンスを普通の状態に戻そう、引き出したままだとまずい!
と思ったときにはもう遅かった。
部屋の扉を開けるなり、無言で俺を見つめる亜弥ちゃん。
引き出しの取っ手を握ったままという最悪の格好で亜弥ちゃんの方を振り返る俺。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
まるで時が止まったように感じた。ザ・ワールドだ。
だがすぐに亜弥ちゃんは目をパチパチ瞬きすると、今まで見せたことのないような表情になり、
顔に掌を押し付けた。
「なんで亜弥ちゃんがこんなところに?」
動揺しまくっていた俺は意味不明なセリフを吐く。それこそ亜弥ちゃんのセリフである。
「お兄さんこそ、何してるの?」
あまりの衝撃に表情すら変えられず固まっている俺に、亜弥ちゃんはゆっくり近づいてきた。
そして、その引き出しの中身を見るなり、
「えぇっ!うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!お兄さんマジで?」
と言った。
「亜弥ちゃん、これは誤解なんだ」
我ながら説得力ね〜なぁと思う。
「えぇ〜っ。お兄さん、これ美貴タンのパンツ…」
「頼む亜弥ちゃん、静かにしてくれ。藤本に聞こえる」
何を言ってるんだ俺は。
でも、こんな現場見られたら本当に殺されてしまう。あぁぁ…亜弥ちゃん、ドン引きだろうな…
「ごめん。二度とこの部屋入らないから、この事は藤本には黙ってて下さい」
もはや頭を下げるしかない。かっこわるい、俺かっこわるすぎる!!…嫌われたな。

60名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:18:27
ところが亜弥ちゃんは、冷たい表情どころか、逆に優しそうに微笑んだのだ。
「いい。いいんだよ、お兄さん。あたし、分かってるからね」
「え?」
なにをどんな風に分かってるのか、そこがまた怖い。
「心配しなくていいよっ。美貴タンにはこのこと黙っててあげるからね。
美貴タン、ああ見えて意外とセクシーなのよりキュートなパンツの方が多いんだよ。
まぁ見てわかったと思うけど」
いやあんた、今この状況でパンツの説明されても。
「お兄さんはセクシーなのとキュートなの、どっちが好きなの?」
う〜んどっちも…って違うだろ。
「亜弥ちゃん、話を聞いてくれ」
「わかってるってば。お兄さんだって男だもん、そういうのに興味があるってのは、
持って生まれた性なんだからしょうがないよ」
「いやだからさ」
「でもね、そんなことしなくても美貴タンはお兄さんのためだったら…ん、いいや。やめとこ」
「え?」
「とにかく秘密にしてあげるから安心しなよ」
気持ち悪がらないのか?普通の神経してる女なら幻滅対象だと思うんだが。
「亜弥ちゃん」
「なに?」
「このね、藤本の下着はさ、なんつーか…俺らがみんなで生活するために必要っていうか…」
当たり前だが、亜弥ちゃんは何も理解していないようだった。

61名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:18:48
飯を食べ終わって四人でくつろいでいる時、俺はあまり会話に参加せず物思いにふけっていた。
絨毯の上に座りソファーに寄りかかっている俺のすぐ後ろに、ソファーに寝転がっている藤本の足がある。
けっきょくあれから藤本のブラとパンティーのセットアップを入手したわけだが、
まるで爆弾を部屋に置いている気分だった。
夕飯の時も、起爆装置である亜弥ちゃんの存在にそわそわして、せっかく後藤がオムライスを
作ってくれたのに全然味わうことができなかった。
しかも亜弥ちゃんは、四人で話してる時でもちょっと目が合うとニコッと微笑んでくるのだ。
その笑顔の裏側には何があるのか…俺には想像もつかない。
いつまで亜弥ちゃんのお口のチャックが開かずに持つだろうか。そして何を考えてこんなに嬉しそうに
しているのか。それは大きな疑問であり、俺を不安にさせている。
だが、遠からず藤本の耳に俺が下着を盗んだ事実は入ると思う。殺されないことを祈るしかない。
いや、殺された方がマシなのかもしれない。ないとは思うが、もし泣かれでもしたら…俺は罪悪感でいっぱいだった。
「ねぇ、どうしたの?」
後藤の呼びかけで俺は我に返った。
「えっ?えっ?」
思えば今日初めての後藤との会話である。そういえば自分からは手を出してないとはいえ、喧嘩を
してしまったのだ。後藤にも後ろめたいものがある。
「なんか、変だよ。なんでそんなへこんでんの?」
「いや、なんもないよ」
後藤には喧嘩をした(というか一方的にボコられた)こと、藤本には隠れて下着を盗んだこと、
亜弥ちゃんにはそれを黙ってもらってること…気になることだらけで疲れてきてしまう。
そういえば藤本と亜弥ちゃん、飯の前に二人で部屋行ってなんか話してたな。
まさか、もう下着盗んだことばれてるんじゃ…いや、でも亜弥ちゃんは黙っててあげるって言ってたし…
「あんた、今日は随分と無口じゃない?」
藤本に声をかけられ、再び我に返る。
「え、いや、まぁ…んなことねーよ」
そう言いながら横を向いて藤本の方を見た。
やべ…こいつパンツ見えてる。
藤本は学校から帰ってきてもあまり制服を脱がないタイプなので、こういうことは珍しいことでも
ないのだが、今の俺の罪悪感に拍車をかけるには威力は十分であった。

62名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:19:06
「ちょっ、ちょっとあんたどこ見てんだよ」
うおぉっバレた!
「待て!ちょっとタンマ!」
「なに?」
「お前が制服着替えてりゃ今見なくて済んだはず」
「やっぱり!見たなっ」
ソファーにもたれかかっている俺の背中を、藤本はソファーに寝たままスネで一発蹴った。
しかもついてないことに、藤本の蹴った場所は先ほど青痰を作った場所にジャストヒットした。
「いぃっ・・・・・・・・・てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「は?」
藤本は俺の絶叫を聞いて驚いたらしく、ソファーから起き上がると、
「ちょっと、大げさに痛がるのやめてよね。今の軽くだったじゃん」
と言い、俺の背中の今蹴った場所をポンポンと優しく二回ほど叩いた。
軽くでも今の背中には凶器攻撃と同じである。俺は思わず藤本から離れた。
そんな俺を、何が起きたのかと後藤と亜弥ちゃんが見るが、それを気にするどころじゃない。
「いってぇ…」
「あんた何してんの?」
「お前もう俺にさわんな。あぁ…マジいてぇ」
ちょっとマジで背中やばいな。今日風呂で背中洗えなさそうだ…青痰ごときでここまで苦しんだ
ことは今までなかった。
「ごめん…」
「俺風呂入るわ」
とりあえず洗面所で背中の容態を見ることにしよう。
せっかく後藤と仲直りしたっていうのに、なんか今日はついてないな。

63名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:19:22
洗面所でスウェットを脱ぎ、鏡に背中を映してみる。
「うわぁ…こりゃひでぇ」
保健室で見たときはそんなでもないかな〜なんて思ってたけど、いざ家でじっくり
確認してみると、けっこうグレイトなことになっていた。
「あかすりで擦っても平気かな」
青痰の他にも、背中の皮膚が一部微妙に捲れて赤くなったりしている。
「そうとう優しく擦んなきゃダメだな」
これでは湯船には浸かることはできないだろう。あとで風呂入る後藤たちにも悪いし。
スウェットの下をトランクスごと脱ごうとした時、突然洗面所の扉が開いた。
「うおぉっ!なんだよ!!」
俺は慌ててズボンを上げた。

64名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:19:41
見ると、扉を開けたのは藤本だった。
「いきなり開けるなよバカ!向こう行って」
まったく、ノックぐらいして欲しいもんである。
「…あんた、その背中何したの?」
「別に。転んだだけだし」
「うわ〜へったくそな嘘。本当にどうしたの?」
「男にはいろいろあるんだよ。用がないなら向こう行ってくれ、風呂入りたいから」
そうは言ったけど、実際は藤本の下着盗んだ手前、こいつと対峙してるのが
変にそわそわして落ちつかないからだった。後ろめたくて、目も合わせられない。
「つーかさ、この背中のこと後藤には絶対に言わないでくれないか?」
「は?なんでそこでごっちんが出てくるの?」
「いいから。絶対言うなよ」
そう言って俺は洗面所の扉を閉めようとしたのだが、それを藤本が止めた。
「なんだよ」
「ねぇ、今日のあんたマジで変だよ。ご飯の時もろくに会話に入ってこないし、なんか
悩み事でもあるの?美貴に相談しなよ」
できたら苦労しないっての。俺が答えないでいると、藤本が洗面所に入ってきてドアを閉めた。
「お、おい何だよ」
「あんたあたしに何か隠してない?」
ビクッ!!

65名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:20:11
「えっ…隠してないよ」
「嘘だ、年上なめんな」
「いやマジでマジでマジで」
自分でも慌てているのがしっかりわかるから情けない。そして同時に藤本が怖かった。
「あんたさぁ、ご飯の時から美貴と目合わさないよね。話かけてもなんかきょどってたし」
「気のせいですよ」
「嘘ばっかつかないで」
「嘘じゃないって」
「じゃあ美貴の目を見て」
無理だ〜!!ただでさえ藤本の目つきは怖い方なんだ。今の俺にとっては、
藤本は俺という蛙を狙う蛇のようだ。
だが、ここで目を逸らしたりしたら、また藤本に何か言われそうである。
ここは我慢して藤本の目を見るしかあるまい。
「・・・」
「・・・」
無言になる。空気が重たい…早くこの状況なんとかしたい…
藤本が負けじと俺に一歩近づいた。ち、近い…限界かも。
そう思ったとき、藤本がさらに俺に近づいた。もっと詳しく言うと、顔だけ近づけてきた。
その結果、俺の唇と藤本の唇がぴったりくっついた。藤本はもう目を閉じていた。
ほんの三秒くらいだったと思う。藤本は俺から顔を離すと
「さっき背中蹴ったりしてごめんね」
と言い、顔を真っ赤にして、すぐに洗面所から出ていってしまった。
状況がよく理解できていない俺は放置されてしまった。
ただ一つわかっているのは、藤本にキスされたっていうことだけである。
蛙が蛇にキスされるなんて、聞いたことがない。

66名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:20:29
俺は部屋で机にテスト範囲の教科書を広げ、思案していた。もちろん勉強に集中していない。
昨日、今日でいろんなことがありすぎたな。先週の今は、俺なにしてたっけか。
とりあえず、ファンクラブの存在自体よくわかってなかった。
喧嘩なんかすることになるとは思っていないだろう。
後藤のことをよく知りたいとも思ってなかった。
藤本の下着を盗むことになるとは考えもしなかったし、まさかその藤本にキスされるとは
想像もしていなかった。
それになにより、亜弥ちゃんへの気持ちがこんなに薄れていくなんて。もともと、その程度の
気持ちだったのかもしれないなぁ。
机の引き出しの中に藤本のブラとパンティーが入っているが、早いとこ取引して自分の手元から
離したいところである。盗んでから思ったのだが、どっかで女性用の下着を購入して、
それに藤本のイニシャルでも書いとけば案外騙せたんじゃないだろうか。
まさか匂いでバレたりすることはあるまい。
とにかく、明日はこれを学校に持ってかなきゃならないんだよな…いつまでたっても
藤本の下着は爆弾のように感じる。
それにしても、さっきのキスはなんだったんだよ…あれ以降藤本と顔を合わせにくいんで、
俺は自室に閉じこもりっぱなしなのだ。気まずくてどんな顔して同じ部屋にいればいいのかわからない。
下着の件もあるし、俺、このまま藤本と話さなくなっていくんだろうか。

 コンコン…

部屋の扉を誰かがノックした。
「入っていいよ」
そう言うと、扉を開けて顔を出してきたのは後藤だった。

67名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:21:07
後藤の手にはライティングの教科書とマニキュアが握られていた。
「どうした?」
「うん、マニキュア塗るついでに一緒に勉強しようと思って」
勉強がついでかよ、まぁ後藤らしいけど。
「でも、マニキュアぐらい自分の部屋で塗ってきたらどうだ?」
「だって匂いきついもん。亜弥ちゃんたちに迷惑かけちゃう」
しょうがねぇな〜、俺は部屋の窓を全開にして換気をよくした。
それにしても、そのマニキュアの色は…なんというか、ドスのきいた赤だった。
「ねぇねぇ、こういう色の口紅とかっておかしいかな」
「いや口紅以前にそのマニキュアもけっこうきてると思う」
「そうかな」
「そうだろ。思ったんだけど、後藤ってなんか派手だよな。さっきのオムライス
だって派手にケチャップかかってたし」
「あたし原色好きなんだよね〜」
「まあなんにせよ、マニキュアはまだともかく口紅でその色は絶対やめた方がいいな。
亜弥ちゃんみたくなりたいんだろう?」
そう言うと、後藤は下唇を突き出してふて腐れた。
「そもそも学校に化粧していくなよ、スッピンでも魅力は十分だろ」
俺は椅子の背もたれにもたれかかってから、自分の背中の現状を思い出した。
「・・・・・・!!」
耐えろ。耐えるんだ俺。今発狂したら後藤に感づかれる可能性がある。
「どうしたの?」
「い、いやなにもないぞっ…」
「ならいいんだけど…あのね、今日帰る時に学校の坂の下に元彼がいてさ。
あたしのこと待ってたみたいなんだけど、きっぱり別れてきたんだ」
学校の下?元彼?やっぱりあのハゲデブは後藤の彼氏だったのか…
後藤はあーいうのが好みなのか?
「つーかさ、また喧嘩したでしょ」
その一言に俺は凍りついた。

68名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:21:26
ここは誤魔化すしかあるまい。
せっかく後藤に許してもらったってのに、ここで喧嘩がバレたら意味ないじゃないか。
それに、俺の巻き添えを食った吉澤や亀井にも申し訳ない。
「それはない」
俺は断言した。
「あるわけない」
後藤が無表情で俺を見てくる。怖い…
「ホント?本当に喧嘩してない?」
「するわけないだろ。はは、なにをバカな事を」
「おかしいなぁ。あいつにお前の彼氏ボコしたって言われたんだけどな」
「えっ!後藤って彼氏いたの?別れたばっかなのに?」
「きみ自分で言ったんじゃないの?ごとーの彼氏か聞かれたときに、はいって」
「いや、それはこの前後藤が金髪たちに俺のこと彼氏だって言ったから口合わせただけで…」
「…ほ〜ら。やっぱりあたしの元彼と会ってるんじゃん」
あ…
「きみって嘘がヘタクソだね。放課後によっすぃ達とたまたま保健室の前で
会ったんだけど、なんかあるなと思ったんだよ。また三人でバカな事やったのかなって」
「…ごめん」
畜生、せっかく許してもらったばっかだってのに…

69名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:21:44
「つーかさ」
凹んでる俺に後藤はやや厳しい口調で言った。
「やりかえした?」
そんなこと聞いてどうするんだよ…また怒るのかなぁ。
後藤を怒らせたくはないし、嫌われたくもない。しかも何もしようとせず土下座した上に
手も足も出なかったなんて、男として恥である。
俺が何も答えずにいると後藤は真顔で
「どうなの?」
と言った。
もういいや、正直に言おう。
「なにも。やり返すどころか土下座した」
「は?」
「せっかく後藤が許してくれたのに、すぐ喧嘩なんて終わってるじゃん。だから
土下座して穏便にすませようとしたけどダメだった」
後藤は「え〜」と微妙な反応をする。
「ごめんなさい」
「で、やられたのに何もしなかったの?」
「…俺、後藤に嫌われたくねーもん」
なんだか愛の告白したみたいな感じになって、俺は一人で顔を赤くした。
「バカじゃん」
後藤はその言葉を投げ捨てるかように俺にぶつける。俺はもう何か
言えるような心境ではなかった。
俺が黙っていると、やがて後藤が口を開いた。
「ねぇ、もしかしてやられたの背中なの?ミキティに蹴られてたとき、やけに
痛がってたけど」
「うん、まぁ…」
「ちょっと見せて」

70名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:22:18
いきなり何を言い出すんだ。
「え、やだよ。それ服脱げってことだろ?」
「いいから」
「いやいいよ、やめときなって」
「ごとーに許してもらいたくないの?」
そのセリフを聞いたとき、なんだかもう許してもらったような感覚を覚えた。
「じゃあ、ちょっとだけ」
俺は立ち上がってスウェットの裾をまくり、後藤に背中を見せた。
「ほら」
後藤は無言だった。どんな顔して俺の背中見てるんだろうな。
「もういい?」
「うん」
スウェットをもとの状態に戻して、後藤の方を振り返る…ことができなかった。
立っている俺を後ろから後藤が膝立ちで抱きしめたからである。
「こんなにされちゃって…きみはバカちんだよ」
突然のことにびっくりしている俺は、後藤の言っていることがうまく頭に入って来なかった。
なんか抱きしめられてるというか、背中に頬擦りされてるような…やばい、ドキドキしてきたぞ。
「なんで抵抗しなかったの?」
「後藤に嫌われたくなかったし」
「…喧嘩する人は嫌いだよー」
「ごめん」
「喧嘩嫌いとは言ったけどさ、やられたらやり返してもいいんだよ」
後藤の手を回す力が強まった。

71名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:22:38
スウェット越しに後藤の温もりが伝わってくる。俺と後藤はしんみりしてそのままの
体勢で黙っていた。
そんな中、俺の股間は空気を読めなかったらしく、力強く起き上がってしまった。
おいおいおいちょっと待ってくれ。スウェットなので見事にテントが張れてしまった。
「いくら絡まれたって自分から殴りかかる人はやだけど、絡まれて殴られたんなら
被害者なんだし。そーいうので喧嘩になったんなら、あたし怒らないよ」
後藤、お前の気持ちはわかった。だから頼むから密着した状態で顔をそんな
動かさないでくれ。理性が…でも離れてくれなんて言えないし。
むしろ離れてほしくないかも。むしろちゃんと前から抱きしめたい!
心臓の鼓動は後藤に聞こえるんじゃないかと思うくらいバクバクいっていた。
俺、後藤のこと好きなのかな。
さっき藤本にキスされたのもびっくりしたが、今はそんなこと忘れてしまっていた。
亜弥ちゃんへの気持ちももう…
「ごめんね、ごとーのせいでこんな事になっちゃって」
…もうダメだ、限界。

72名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:22:56
俺は後藤に手を回されたまま無理やり振り向き、後藤に何も言う暇を与えず抱きしめた。
「わっ…」
と、後藤が呻く。
なんだかとても抱き心地がいい。前に布団につけられたのと同じ匂いが、後藤の髪の毛から
ほのかに香った。その匂いが、また俺を刺激する。
俺は力強く後藤を抱きしめた。
だが、それと反比例するかのように後藤の腕は俺の体からみるみる解けていく。
そしてついに、俺の体に回していた腕は、宙ぶらりんになり力なく垂れてしまった。
できたら手を回していて欲しかった。後藤の腕が解けたことで俺は軽く理性を取り戻し
始め、不安な気持ちが胸いっぱいに広がる。
もしかして、まずかったかな。
「どうしたの?」
後藤は優しい声で言った。
「ごめん、もう少しこうしてたい」
そう言って俺は後藤のうなじに顔を埋めた。
「…ごとーのこと好きなの?」
ごとーのこと好きなの?か…はは、そうかも知れない。

73名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:23:18
次の日、俺は昼休みに吉澤と亀井を屋上に呼び出した。
「よぉ、戦う少年。なんだ話って」
俺と亀井のために購買で昼飯を買ってきた吉澤は、やや遅れてやってきた。
「実はやばいことになってな」
「やばいこと?えっ僕また喧嘩とかすんのやだよ」
「いやそーいうことじゃないから安心しろ」
俺は昨日学校帰りに会った変なやつのことを手短に話した。
「あ〜、ついにそこまできちまったか。たぶんファンクラブの一人だ、間違いない」
吉澤は長井秀和調で言った。亀井はそれを聞いてヘラヘラ笑っている。
「お前ら笑い事じゃないぞ」
「わかってるって。でもこれだけは言える、俺はお前たちが同居してることを口に出したことはない。もちろん石川にも」
「僕も言ってないよ、さゆともそーゅー話題しないから」
「だよな。まぁバレちまったことはいいんだ。問題は藤本の下着を渡さなきゃならないことでな。お前らならどうする?」
さすがにもう下着を盗んだことは、いくらこいつらでも言えなかった。
「僕なら渡さないね。そもそもどうやって手にいれるんだよ、藤本先輩に頼めるわけないし」
「バカだなお前。それじゃなんも解決できねーじゃん。俺なら適当な下着買って、それにイニシャルでもいれて渡すね。所詮アホな連中の一人さ、そんぐらいで簡単に興奮するって」
二人の意見を聞いて、ますます俺は自分のやったことがいかにアホなことか思い知った。「で、お前それでどうしたの?」
吉澤が痛いところをついてくる。これじゃ正直に答えられん。

74名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:23:34
「きみ盗ったの?」
亀井がとんでもないことを言い出した。実際そうだけどさ。
「バカだな盗るわけないだろう。それはともかく俺は昨日いろいろあってだな」
やはり盗ったとは言えなかった。
「何があったんだ?」
「うん、実は…」

75名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:23:54
ここまで言ってから、俺はこれ言っていいのかな〜と思い始めた。
「おい何だよ、早く言ってくれ」
そんな俺を吉澤が急かす。
「うん、実は昨日藤本にキスされちゃった」
「えっマジで?藤本先輩と?ついに?どんなシチュエーション?えっえっマジで」
予想外な反応をしたのは亀井だった。つーかなんだ「ついに?」って。
「お前やっぱりMっ気あったのか…」
「いやいや何でそうなる」
「やった?」
「やってねーし!」
俺と吉澤が話していると、亀井は腕を組んで語り始めた。
「まぁ僕は知ってたよ。藤本先輩はきみに<ほ>の字だってこと」
「なんでだよ、お前この間ちょびっと会ったばっかじゃん」
「あのくらいでわかったらエスパーだよ。さゆが亜弥ちゃんからそーいう話を
聞いて、それが僕まで伝わってきたってわけ」
「亜弥ちゃんからそーいう話?」
「藤本先輩、きみのこと好きらしいよ」
「マジで…?」
じゃなきゃキスなんてされないか…でもなんであいつが俺を?俺なんかより
全然いい人は確実にいるはずなのに。
「まぁよかったじゃん、これを機に付き合っちゃえよ。亜弥ちゃんのことは綺麗さっぱり忘れてさ」
そうは言うけどな吉澤、俺は今…
「後藤と付き合ってんだ」
「え、なんだって?」
「俺、昨日から後藤と付き合ってんだ」

76名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:24:12
「は?意味わかんね〜何お前革命起こしまくってんの?」
俺の度重なる驚愕の発言に吉澤も亀井も目を丸くした。
「きみそんなに飢えてたっけ?まさか亜弥ちゃんとも何か…」
「なわけないだろ、そんな見境なくねーよ」
「ほんの一週間前くらいまで亜弥ちゃん亜弥ちゃん言ってたお前が後藤とねぇ…で、藤本ミキティとはチューときた。なんだそのバラ色生活は」
バラ色か。バかなこと言うな、こっちはそのことでいろいろ悩んでるってのに。
「藤本ミキティはそのこと知ってんの?」
「知らないと思う、それから顔合わせてないし」
「まぁ実を言うと僕も最近熱いんだよね」
「道重ちゃんとだろ?」
「いいや安倍先生」
「こいつに続き亀井も驚愕発言ときたか」
「今度一緒にご飯食べにいくんだ、二人で」
おいおいそんなこと道重ちゃんにバレたら今度こそやばいんじゃないのか?俺がそう亀井に伝えると、
「へーきへーき、さゆも最近飯田先生とは相性がいいのとかうざいこと言ってるから」
飯田先生とは背の高いモデルみたいな人で、うちの学校のバスケ部の顧問である。確か美術の先生だったような…
「これ亜弥ちゃんに言わないでよ」
けっきょく内緒で会うのかよ。
「で、きみは後藤さんとどうなのさ?」
「やったか?」
お前ら行き着くとこはそれか。
だが俺の悩みは確かにそこにあったのだ。
「なんか、昨日付き合うってことになってから後藤が変なんだ」
「どんな風に?」
「なんつーかその…素気ないというか…冷たいんだよ」
そう言って俺は重いため息を吐いた。

77名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:25:09
放課後。テスト期間中なので、昨日と同じように部活導はなく、大半の生徒が一斉に下校してゆく。
そんな中、やはり昨日と同じように吉澤が現れた。
「よう、さっき言い忘れたんだけど、今日図書室で勉強でもしてこうかと思うんだがどうよ?」
「わりー、今日はちょっと無理そうだ」
「はぁ〜?なんで…ってそうか、そうだったな」
吉澤は勝手に納得し始めた。
「わりわり野暮だったな、愛しの真希ちゃんと帰るんだろ?」
「ん、まぁそんなとこ…」
帰れるもんなら帰りたいさ。でも昼休みに言ったじゃないか、後藤が冷たいって。
さっきだってさ…

「後藤、今日一緒に帰らない?」
「別にいいけど」
「じゃ生徒ホールで待っててよ、俺ちょっと放課後用事あるから」
「はぁ?じゃ先帰る」
「いやすぐ終わるよ」
「あたし待つのとか嫌いなんだよねー」
「…そっかぁ、わかった」

何この冷めっぷり。なんでいきなりあんな素気なくなってんだよ…あーぁ、あいつお昼ご飯なに食べたんだろ。
なんて感傷に浸ってる場合じゃないか。俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。
俺は吉澤と別れると、一人放課後の屋上へと向かった。
そう、例の取引きを行うために。

78名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:25:27
奴はすでに屋上で待っていた。
「よう、待った?」
「今ついたとこだよ」
ニヤニヤしながらこちらへ近づいてくる。そんなに藤本のパンツもらえるのが嬉しいかよ。
「で、例のもんは?」
「ああ、ばっちり持ってきた」
俺はポケットに丸めて入れていた藤本のパンツを取り出して、そいつの前で広げて見せた。
「へぇ、黒か」
俺の手からパンツを受け取ると、そいつはまじまじとパンツを見つめる。
これでよかったんだ。これで今の生活をめちゃくちゃにされないで済むんだ。
なんだかすっきりした。一日中爆弾抱えて歩いてたようなもんだからな。でも、これで終わりだ。
こうしたことによってあいつらと、後藤とまた生活していけるんだ。ありがとう、藤本(のパンツ)。
「じゃあ俺行くわ。約束通り、俺らのことは知らなかったことにしてくれよな」
用が済んだらここにいる必要もない。俺は一歩でも早く爆弾から遠ざかりたい気分だった。
「ちょっと待てよ」
そいつは俺を呼びとめ、俺の目の前で藤本のパンツを鼻につけた。
き、きもい…どうやら匂いを嗅いでるようだった。
「この匂い…確かにこれは藤本美貴のものだ。ゾクゾクするよ」
匂いでわかるのかよ!
「でもきみはこれをどうやって手にいれた?」
んなこと聞くなよ。俺にもプライドがあるし、盗んだなんて言い辛い。
だが、答えないと帰してくれなそうだ。しゃーない、答えるか。

79名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:25:48
まぁ答えると言っても「盗んだ」とバカ正直に答えたらかっこ悪いので、ややにごして言った。
「もらったんだ、自主的に」
まさかそれが命とりになるとは予想もしてなかった。
「もらっただって…?」
「ああ、だから自主て」
「お前が…お前みたいやつなんかが藤本美樹とそんな」
いやなんか勘違いしてないか?こいつ、まさか自主的って意味わかってないんじゃないだろうな、この歳で。
そいつの顔がみるみる赤くなっていく。怒りのオーラがこちらまで伝わってくるようだ。「あの…なんか勘違いしてない?」
やばいと思い、なだめようと試みたが遅かった。
「殺す!!!!!!!!!!!!」
そいつはハイパー化した。鞄から繰り出し式のカッターナイフを取り出して、そいつを俺に向ける。
「おいちょっと待ておちつけ」
「うるせー!浄化してやる!」
ダメだ理性失ってやがる!そいつは磐若のような形相で迫ってきた。

80名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:26:03
てめぇっ素手で勝負しやがれ!!なんてこと思ったが、こんなヒートしたヤツに
そんなセリフが通じると思えない。
俺は全速力で逃げ出した。
階段を何段もとばして下りていき、ヤツを撒こうとしたが、意外にヤツも足が早く
気を抜けばすぐ追いつかれそうな感じであった。
「待ちやがれゴルァ!!!!!!!!!!!!」
ヤツの理性を失った叫びが廊下に響いた。
一昨日は二人組のヤンキーに絡まれ、昨日はヤンキーのボスにボコボコにされ、
今日はイカレ野郎に追っかけられ…なんでこう災難続きなんだ。
しかもそいつは藤本のパンツを握り締めたまま俺を追っかけてるんだから、
絵面的にも情けないことこの上ない。
…ってそんなこと気にしてる場合じゃないな。とにかく先に力尽きた方の負けだ。
今の俺には先に力尽きる自信があった。むしろもう疲れ始めていた。
このままでは追いつかれるのも時間の問題…こうなったら最後の手段だ。
ここは二階。俺は廊下の窓を開けると手すりに足をかけ、躊躇することなく…

跳んだ。

そして着地失敗。予想以上にかかった足の負担、俺は無様に転がった。
「いってぇぇぇ…」
幸い怪我はしていないようだった。右のヒジをぶつけたぐらいか。
俺って意外と丈夫だったんだな…まぁ今はヤツを撒くことが先決だ。
無我夢中で校舎の中に入っていくと、何やらあまり馴染みの無い雰囲気の場所に着いた。
教室の札は3−1、3−2、3−3…
ここは…三年の校舎だ。

81名無し募集中。。。:2005/05/02(月) 00:06:46
三年生のクラスが密集している校舎に入る機会はほとんどないので、いつも
自分がいる校舎とはなんだか違う空気を感じた。そういえば、吉澤が
「なんかあそこは居心地が悪い」
なんて言ってたっけなぁ。やっぱり<縄張り>が違うからだろうか。
藤本は確か三年六組だったっけな。もう帰っただろうが、もし会ったりしたら気まずいので
あっちの方には近づかないようにしよう。
それにしても疲れた。無我夢中で走っていたからなぁ、こんなに走ったのは久しぶりだ。
俺は二階へと続く階段に腰掛けた。すぐ目の前に三年四組がある。
教室の明かりが点いてる、誰か残ってるのかな?
そんな疑問を神様はすぐに解いてくれた。教室から女子生徒が出てきたのだ。
それは、今二番目くらいに会いたくないやつだった。
「あっ」
と藤本が言った。反応されたからには俺も無視するわけにはいかない。
「おう」
なんだこの微妙な空気。沈黙は一瞬だったが、まるで時を止められたかのように
感じた。ザ・ワールドかよ。
「あんた何してんの?」
「ちょっと命のかかった鬼ごっこしててな。今はかくれんぼになってる」
「はぁ?」
「藤本こそ何してるんだよ、ここお前のクラスじゃないだろう」
「梨華ちゃんに勉強教えてもらってたんだけど、あの子トイレ行っちゃってさ。
やけに長いから様子見に行こうかと思って」
石川先輩、大の方かな。はは、まさかな。
「なんか今さっき勉強してるときにキティちゃんのボールペンなくしちゃってさ〜。
梨華ちゃん帰ってこないし、することないから探してたんだけど、一人きりで黄昏て感動した」
「なんだいそりゃ」
「あんた勉強しないの?さっきあんたの仲良しが二人で図書室いたけど」
たぶん吉澤と亀井のことかな?
勉強しなきゃなんねーよ。でも今はできるような状況じゃないんだ、追いかけられてるんだから。
もちろん、藤本に理由を言えるわけがなかった。

82名無し募集中。。。:2005/05/03(火) 07:02:24
「そーいや背中はもう平気?」
「おう、ちょっと痛いけど昨日ほどじゃないな」
むしろ今は先ほど二階から Flying In The Sky した時にぶつけたヒジの方が痛いかも。
なんか俺、最近傷ばっか作ってる気がするな。
「そっかーよかったね」
そして先ほどのようにまた俺と藤本に沈黙が襲い掛かる。
「さて、俺はそろそろおいとまするかな」
こんな微妙な雰囲気でいるのに耐えられないので、俺は帰ることにした。それに、さっきの
基地外くんに見つかったりしたらそれこそシャレにならない。
ああ、でもどうせ帰ってもすぐ藤本とは顔あわすことになるんだよな…なにせ同じ家に
住んでるわけだから。
「じゃーな」
立ち上がって藤本の隣をすり抜けようとすると、藤本が俺の腕をつかんでそれを止めた。
「待って」
その行動とセリフにドキッとしてしまった俺は浮気者だろうか。
「どうした?」
あくまでも平静を装うが、昨日の事もあったし、俺は内心ソワソワしていた。
「昨日あの…なんつーか急にあんなことして…その…なんとなくずるいことしてごめん」
そう言うと藤本は俺の方におでこをのせる。その重みが、なんだか心地よかった。
しかし、俺はどうすればいいんだろう。なんて反応すればいいんだろう。
藤本は俺になんて答えて欲しいんだろう。
返答に困って何も言わずに黙っていると、さらに藤本が続けた。
「ねぇ…あんたって結局はボーイフレンドなの?恋人になれないかなぁ…」
これ、告白として受け取っていいんだろうか。

83名無し募集中。。。:2005/05/04(水) 07:45:26
でも、俺にはマジで好きな子がいるんだ。今は冷たいけど、きっとそのうち機嫌なおして
前よりも仲良くなれると思う。

付き合ってるんだ、俺と後藤。

その一言がどうしても口に出せない。年上とはいえ、こいつとは友達としての付き合い長いし、
そんな藤本がまさか俺のこと見ててくれたなんて…そう思うと、なんだか胸が苦しかった。
そういえば昔、学校サボった昼間にファミレスに連れてってくれたなぁ〜こいつ。俺にとっては
あの時が初めて親の同伴無しでファミレスに入った日だった。
映画館に行ったときも、俺はわりと空いてた<パールハーバー>見たかったのに藤本が<千と千尋>見たいとか
だだこねたので、結局並んで見たんだっけなぁ。
こいつとの思い出は、思い出したらキリがない。やはり付き合いが長いことだけはある。
藤本、いつから俺のこと見ててくれてたんだろう。
「あの俺…」

タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ…

なんだ?何かが辺りを駆け回っているようなこの音は。
まさか…

タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ…

おいおい、こういう大事な場面でこれかよ。なんてありきたりというか、お約束というか…
こうなったら、あの基地外くんじゃないよう祈るしかない。
「見つけたぞゴルァ!!!!!!!!!!!!」
俺の期待はあっさり裏切られ、基地外くんは颯爽と登場した。

84名無し募集中。。。:2005/05/04(水) 07:45:45
最悪の状況だ。あんなヒートしてる状態で今の俺と藤本を見られたのだ。
階段から俺らを見下ろしている事情を知らない彼にとってはイチャこいてるように
見えてるかもしれない。
「てめぇマジ許さねぇ」
ほらやっぱり!そいつは階段を下り始めた。
「友達?」
藤本が呑気に俺に聞く。俺にはカッター片手に暴走するような友達はいねーよ…
って呑気なのは俺か!逃げないと!!
俺が走り出そうとしたのと同時くらいだろうか。基地外くんは階段を派手に踏み外し、
転がり落ちた。一瞬の出来事だったので、俺もよく状況が飲み込めない。
「いたい…痛いよ…」
持ってたカッターは転んだときに手放したらしく、階段の上に落ちていた。
「き、きみ…大丈夫?」
藤本が倒れている基地外くんに近づいて声をかける。
「あ、あ…」
基地外くんは藤本に声をかけられ、顔を真っ赤にしている。やっぱ、モテるんだな藤本って。
一人で関心してる俺の目に、爆弾が飛び込んできた。
あのバカ、藤本のパンツ落としてるじゃねーか!!しかも藤本の視覚に十分入る場所に。
これは回収しないとえらいことに…
「ん、何これ?」
遅かった。爆弾の導火線に火がついてしまった。
藤本が黒い物体を拾って、それを広げる。
「美貴のパンツ…」
藤本は一人で頷き始めた。これはまずすぎる状況だぞ、基地外くんも青くなっている。
おそらく藤本の気迫にやられたんだろう。
「あんたたちどういうことこれ?」
「いや待て藤本、これには深いワケが」
「これあんたが取ってきたんでしょ。バッカじゃない?マジ信じらんない!」
殴られる!と思ったら、藤本は四組の教室に入ってしまった。不発弾か?だがドアを乱暴に
閉めたところに藤本の怒りを感じる。
嫌われた…俺はしばらくそこに佇んでいた。基地外くんは何を考えてたんだろう。
トイレにいるはずの石川先輩も戻ってこなかった。

85名無し募集中。。。:2005/05/04(水) 07:46:03
「お、よっすぃやっと戻ってきたね。随分長電話だったじゃん」
「あー、なんか石川がしつこくてさ。あんま好きじゃない友達に勉強教えてるんだと」
「へ〜大変だね。ところでここの問題の『Do it!Now』ってどういう意味?」
「今ヤる!」
「エロ…なんか違くない?」


精神的ダメージ(悪いのは俺だけど)を食らった俺は、図書室に向かった。
おーいるいる、吉澤と亀井だ。
この遣る瀬無い気持ちは、あいつらといればなんとかなる気がする。
「よお、勉強捗ってるか?」
「あれっ、きみ後藤さんと帰ったんじゃなかったの?」
「ん、まぁ今日はいろいろ用事あったからさ」
俺は亀井の隣の椅子に腰掛けた。
「おっ、お前随分英語頑張ってんじゃん。どうした亀井?」
「こいつ、リーディングで八十点以上とるんだってよ」
「えぇっ?どう考えても無理だろ」
「でもやらなきゃ、安倍先生僕とデートしてくれないんだ」
デートってお前、道重ちゃんはどうするつもりだよ。
「まぁ俺も変だとは思ってたよ、お前の都合で無条件で先生と飯食いに行けるなんてさ」
「俺も吉澤と同意見。いつ条件つけられたんだ?」
「ついさっき職員室に日誌出しに行ったとき安倍先生に会ってさ。ご飯の話したら
八割取れなかったらこの話はナシだよって言われた」
あちゃ〜そりゃ実質断られたようなもんだな。安倍先生、亀井の成績知ってるんだろうか?
なんにせよ、英語関連の教科でこいつが八割以上を叩き出すのは奇跡なのれす。
そして奇跡は起こしてこそ価値がでるものの、それが起きないから奇跡っていうんだよな。
「亀井、乙。さーて、俺もちょっくら勉強すっかな」
俺は日本史の教科書を広げた。でも、後藤のことも藤本のことも頭から離れなかった。
亜弥ちゃんのことだけはすっかり忘れていた。

86名無しさん:2005/05/06(金) 15:50:10
家の中にいることは拷問のようだった。
後藤は話しかけても適当な返事しかしてくれないし、藤本に至っては目も合わせてくれない始末。
まぁ、藤本の件は完全に俺が悪いんだけどさ。
亜弥ちゃんが作った飯を食ったあと、俺はリビングに残らずすぐに部屋へと戻った。
あ〜あ、なんで後藤あんな冷たいんだろうな。俺、なんかしたっけ?
付き合うってこんなんだっけ?いきなり倦怠期がきたような感じである。
俺、後藤とおしゃべりして、もっと後藤の事知りたいんだけどなぁ。
「…勉強するか」
女のこと考えるのはやめよう、鬱になるだけだ。
手に取ったのは日本史の教科書。別に日本史が好きなわけではない。筆記用具やらノートを
取り出すのが面倒なだけである。
この時点で、俺は大して勉強をする気がないのが自分でもわかった。
えーと、1600年に関が原の戦いで1603年に…シマンネ。マンドクセ。

コンコン

誰かが俺の部屋をノックした。
後藤?藤本?今日のこともあるし、なんか藤本っぽい気がする。
もしかして許してくれるのかな?ちょっと期待して俺は
「入っていいよ」
と言った。

87名無しさん:2005/05/06(金) 15:51:26
おじゃましまーすと部屋に入ってきたのは亜弥ちゃんだった。
あまりの珍しい出来事に、俺は呆然とする。
「どうしたの?狐につままれたような顔して」
「いや、亜弥ちゃんが俺の部屋くるなんて、珍しいこともあるんだなーって」
「でも美貴タンはしょっちゅー入ってたみたいだけど?」
うぅっ…藤本の話か。今の心境で藤本の話はちょっと…
「お兄さん、美貴タンとなんかあったでしょ」
「え、なんで?」
「顔にそう書いてあるもん」
俺が皆からわかりやすいって言われる理由はここにあるのかもしれない。
まぁいくら亜弥ちゃんでも後藤のことは読み取れまい。
「あややに相談しなよ」
「…きみらは三人ともいい子だな。俺が困ってると必ずそう言ってくれる」
「うん、面白そうだし」
面白そう…か。
「よし」
俺は立ち上がり、財布や携帯を手に取る。
「お兄さん?」
亜弥ちゃんが不思議そうに俺を見上げて言った。
「俺、しばらく留守にするよ」
「どこ行くの?」
「旅にでるんだ。自分を見つめなおしてくる」
「はぁ?」
眉をひそめ、亜弥ちゃんは懐疑的な色を見せる。
「一人で?テストはどうするの?」
「それまでには帰ってくるさ。後藤と藤本によろしく」
「あたしも行こうかな」
「は?」
「お兄さんいい所連れてってあげるよ、ちょっと着替えてくるから下のテラスで待ってて」
いい所…?連れてってあげる…?亜弥ちゃんからそんなこと言われるなんて初めてだ。
俺は震える心臓を抱えて家を出た。

88名無しさん:2005/05/06(金) 15:53:33
テラスにあるでかい鏡の前で、俺は佇んでいた。
亜弥ちゃんはいい所に連れてってくれるなんて言ってたけど、一体どこに連れていく気だろう。
ほんの一週間ちょい前まで好きだった亜弥ちゃんと夜に二人でお出掛けか…いくらその気がなくなったとはいえ、平常心でいられるわけがない。
俺は鏡の前でしきりに髪をいじっていた。
あぁ〜前髪が決まらねーよ。
少ししてから、エレベーターで亜弥ちゃんが降りてきた。
「おまたせー」
亜弥ちゃんはやけにボーイッシュな服装だった。それでいて七分袖のTシャツがなんだか可愛らしい。
「どこ行くの?」
「とりあえずついてきて〜」
俺は亜弥ちゃんの背中を見つめ歩く。やっぱこの子可愛いなよなぁ。
付き合いたかったな、この子と。
連れていかれたのはこのマンションの駐輪場。こんなとこに来て何する気だ?

89名無しさん:2005/05/06(金) 15:54:06
「さ〜て、久々だからかかるかな〜」
ビ、ビッグスクーターだと?!
亜弥ちゃんはバイクの前でキーケースを取り出した。
「えっ?このビッグスクーター亜弥ちゃんのなの?」
「あ、やっぱビッグスクーターに見える?」
「違うの?」
「これ友達から5万で売ってもらったんだけどね、こう見えても原チャなんだよ。ナンバー見てみ〜」
確かにナンバープレートは原チャのものである。
「20年も前のやつなんだよ、確か名前はキャビーナとかいう…あ、かかったかかった」亜弥ちゃんのマシンがマフラーを通じて唸りをあげた。
「さ、乗って」
「は?」
乗るっつったって、これ原チャだろ。
「あ、そうかメット渡してなかったね」
そう言うと亜弥ちゃんは一度エンジンを止めて、シートからヘルメットを取り出した。でもこれって…
「工事用ヘルメットかよ」
「大丈夫、こけないから」
いやそういう問題か?
「ほら早く〜」
「う、うん」
俺は後部のシートに跨った。でかいとはいえさすがは原チャ、密着状態になる。俺はおそるおそる亜弥ちゃんの腰に手を回した。
「きゃっお兄さんのH!サイドにつかむとこあるからそこ握って」
「わぁっごめん!」
やっべ〜ドキドキしてきた。うわうわ息子よ何故反応している!
「あやや行きま〜す」
ドキドキしている俺をよそに、亜弥ちゃんは颯爽と発進した。
走ってる間も、俺は終始ドキドキしていて、亜弥ちゃんにバレそうで怖かった。
このドキドキは、なぜとまらない…

90名無しさん:2005/05/06(金) 15:55:32
亜弥ちゃんとはまるで釣り合ってない原チャは同じくまるで釣り合ってない俺を乗せて道路を滑走していた。
工事用のヘルメットをかぶっていた俺は、そりゃもう気が気じゃなくて落ち着かず、途中の信号で止まったとき、勢い余って亜弥ちゃんの後頭部にヘッドバットをかましてしまった。
でも亜弥ちゃん、法廷速度くらい守ろうよ…きみは学園のアイドルなんだし。なんてワイルドな。
そんなこんなだったが、無事目的地には着いたようである。
「ここは…」
俺はこの地に見覚えがあった。
「知ってるの?」
「ああ、ここ亀井の地元だ」
まぁそんな程度である。
港の見える丘公園。亀井はここでよく道重ちゃんと遊んでいるらしい。
「お兄さん、ここ夜にきたことあるっ?」
「夜はないなぁ、昼間なら」
「そぅ?じゃついてきて」
俺達は原チャをおりると、夜の公園へと足を踏み入れた。

91名無しさん:2005/05/07(土) 03:28:44
夜の公園に入るというのは、俺にとってあまり気分のいいことではなかった。
そりゃ都合よく考えればいろんないけないことを期待できるが、俺にはどうも
ヤンキーが溜まってるというイメージの方が強い。
ましてや、最近後藤がらみでヤンキーにはひどい目に合わされたばかりである。
どうにも落ちつかない。亜弥ちゃん、よくこんなとこ来てるのかな…
「お兄さん?」
「んっ?」
「きょどりすぎ〜」
ぐあ〜なんか…かっこ悪いな俺。
「ヤンキーとか嫌い?」
「うん、関わってあまりいい思いしたことないな」
「そっか。あたしも大っ嫌い」
ホントか?ホントにそう思ってるか?そう思ってるやつが原チャ二人乗りでしかも
法廷速度振り切って工事用のヘルメットかぶらせたりするのか?
「お兄さん、信じてないでしょ?」
「ん、信じてないというか…亜弥ちゃんって意外とワイルドだなーと思って」
「うーん、うちのお父さんもお母さんも元ヤンだったみたいでさぁ。あたしにも
多少その血が流れてるわけだからね〜。でも、そっちの血は受け継いでないけどね」
いや、きみ多かれ少なかれ受け継いでると思うよ。
そんな風に思ってる俺をよそに、亜弥ちゃんは砂場の方へ歩いていく。
「ちょっ、亜弥ちゃん何を…」
「お兄さん見えないの?ほら」
亜弥ちゃんが遠くを指差した。
はは、なんでここまで来て気づかなかったんだ俺。こんなに綺麗で壮大な夜景を。
「綺麗だなぁ。あれは横浜ベイブリッジ?」
「そうだねぇ。こっから見る景色も綺麗だけど、あのドライブウェイから見る夜景はもっと
綺麗なんだろうなぁ」
後藤はこういう景色を眺めたことあんのかな。

92名無しさん:2005/05/07(土) 03:29:31
「お兄さんは美貴タンと何があったの?」
何があったかって…ごめん言えないよ。俺が悪いとはいえ、理由が理由なんだ。
俺は亜弥ちゃんの質問に答えず、ただ黙って夜景を眺めていた。
「何も答えない…か。やっぱりなんかあったんだね」
「藤本からなんも聞いてないの?」
「うん。ただあたしの前で『もうやだ』って言っただけ」
あんなに仲いい亜弥ちゃんにも、俺がしたこと言わなかったのか…あいつ。
「言いわけだけさせてもらっていい?」
「どうぞー」
「俺、今の生活好きなんだ、みんなといるの楽しくてさ。それを壊したくなかった」
これが亜弥ちゃんの口から藤本に伝わらないかな、なんて考えてしまった俺は、
多分卑怯者だと思う。
「お兄さん、夜景綺麗だと思わない?」
「うん」
「なんかさ、悩み事って自分にとっては大ゴトだけど、他人にとってはちっぽけな
もんでしかないのかなって思うんだよ」
ぼけーっと夜景を眺める俺に、亜弥ちゃんは語りかけた。
「その証拠に、この夜景は広くて綺麗…あたしね、辛いことあると、よくこの景色を
眺めにくるんだけど、そうしてると…なんだか自分の悩みがホントにちっぽけな
ものに感じてくるんだぁ…ってちょっとありきたりな感じかな?」
「いや、俺はいいと思うよ」
「ごめんね、でも本当にそう思うんだ〜。それにこうやって夜景を眺めながら考えてると、
時間立つのもあっという間。不思議だよねぇ」
亜弥ちゃんって、年下なのに随分いろいろ考えてるんだな。
俺は亜弥ちゃんの話を聞きながら、心の隅で何を考えてるんだろう。
後藤のこと?藤本のこと?それとも…

「悩み事なんて、解決しようがしなかろうがいつか必ず消えるよ。時間があたし達を救ってくれる」

93名無しさん:2005/05/07(土) 03:30:28
「あたし達って…亜弥ちゃんも何か悩んでるの?」
「うんまぁ…」
亜弥ちゃんは俯いてため息を吐いた。辺りが暗いのでよくわからないが、亜弥ちゃんの
表情には陰りがあるように感じた。
「…別れよっかな」
「え?」
「ううん、こっちの話。そんなことよりお兄さんどうするの?もう知ってるんじゃないの、美貴タンの気持ち」
「俺は…藤本とは付き合えないよ」
むしろ、今はもうめちゃくちゃ嫌われてるだろう。友達としての藤本も帰ってこないと思うと、
急に胸が痛くなった。
「じゃあ、なんで美貴タンのパンツ持ってったの?」
「さっき言った通りだよ。今の生活を壊したくなかったから」
亜弥ちゃんは今ひとつ理解しかねているようだ。
それもそうだよな、パンツで守り抜いた生活ってどんなんだ。
逆を言えば、パンツがなかったら壊れた生活。自分でも滑稽だと思う。
その生活と引き換えに失ったものは、藤本との友情…
そんなのはいやだ、守ってもこれじゃ意味ないじゃないか。帰ったら藤本に土下座してでも
謝ろう。またいつものように意味のない言い争いがしたい。
「何か、自分の中で解決した?」
「うん…」
なんだか、亜弥ちゃんには全部見透かされちゃってる感じがするな。
「よかったね…あ、お兄さん今何時だかわかる?ケータイ、原チャの中に置いてきちゃった」
「んっちょっと待って、俺も時計してくるの忘れたから携帯で」
携帯電話って便利だ。時計代わりにもなるんだもんなぁ。
パカッと携帯を開くと『不在着信 1件』の文字。
おかしいな、鳴ってたのになんで気づかなかったんだ?ボタンを押して表示された名前に俺は驚いた。

『後藤真希 22:03 41秒』

94名無しさん:2005/05/10(火) 13:29:42
俺の胸が高鳴った。
素気ないとか冷たいとか思ってたけど、もしかしたら俺の勘違いだったのかもしれない。
だって、本当にそうだったらわざわざ電話なんてかけてこないだろうから。
「お兄さん、今何時?」
「んっ、ああわり。えー22時53分…53分!?」
おいおい、電話きてから50分も経ってんじゃねーか!!
「どうしたの?」
「亜弥ちゃんわるい、ちょっと大事な人から電話きてたからかけ直してくるわ。
すぐ戻るから待ってて!」
「えっちょっと…もう」
俺は嬉々となって砂場のすぐ近くの階段を下り、ベンチのたくさん並ぶ広場に出た。
お〜いるいるカップル。なんか一人でボーっとしてるヤツもいるが、それもアリだろう。俺もいつか
後藤と来てやるからな、待ってろよおめーら!
俺はいちゃついてるカップルを邪魔しないよう、一番隅っこの空いてるベンチに腰掛けた。
不在だった着信履歴から発信しようとした時、俺はふと思った。
かけ直すにはちょっと時間経ち過ぎか?
いや、今かけ直さないでどうする。俺は後藤の彼氏だぞ、変なこと気にするな俺。
俺は自分でもよくわからない迷いを吹っ切り、親指でボタンをプッシュした。

95名無しさん:2005/05/10(火) 13:29:57
プップップップップップップップッフッ゚…トゥルルルルル…トゥルルルルルルル…

『もしもし』
「もしもし後藤?わりわり、さっき電話気づかなかったんだ。どうした?」
『何やってたの?』
「あの時間はたぶん亜弥ちゃんの原付のケツに乗ってる途中だったかな。マジわりぃ」
『どこ行ってたのよ』
「港の見える丘公園まで来ちまったよ〜あ、別に亜弥ちゃんとは深い意味があって来てるわけじゃないよ」
『嘘だ。まぁいいけどね〜』
「え、いや嘘じゃないって。もう帰るからさ、まだ起きてるっしょ?何かについて語ろうぜ」
『今からバイト行くところ』
「は?今から?」
『忙しいんだから切るね』

ブツッ…ツー、ツー、ツー…

切られた。
なに、この一瞬で終わった電話。
こんなの期待して電話かけ直したんだっけか…俺。

96名無しさん:2005/05/11(水) 12:03:15
後藤は冷めててよくわかんないし、藤本はプンプンだし、なんかよくわからん。
最近いろんなことがありすぎた。
亜弥ちゃんに彼氏がいること知って、藤本とカラオケ行ったのが広まりファンクラブ
なる連中から命狙われて、後藤の古い知り合いに絡まれて、ボコされて、
藤本のパンツ盗んで、藤本にキスされて、後藤と付き合って…
密度の濃い一週間だったなぁ。なんだか、先週見ていた世界と今見ている世界が
まったく別物な気がしてならない。
俺はなにげなく着信履歴を見てみた。

『後藤真希 22:03 41秒』

はぁ…この時はいったいなんのために電話してきたんだよ後藤…もうダメだ、泣きてぇ。
俺は垂れかかった鼻水をズズッとすすった。
「えーん」
勘違いしないでほしい。今の泣き声は俺のものではない。
「えーん」
どうやら俺の対面のベンチに座っている女の子が泣き声の主らしい。暗くてよく見えないが、
うちの学校の制服を着ている。つーかこんな時間に一人で何してんだ?危なっかしいったら
ありゃしない。周りのカップルも、皆どうしたんだとチラチラその子を見ていた。

97名無しさん:2005/05/12(木) 15:29:22
「えーん」
その子は泣きやむ気配を見せない。
とりあえず俺にはどうすることもできないので亜弥ちゃんのところへ戻ることにした。
「わりわり」
亜弥ちゃんは砂場のワクに座ってほっぺを膨らませていた。どうやらふてくされているようだ。
「暗闇に女の子一人おいてけぼりにするなんて」
「ごめんごめん、マジで急用だったからさ」
「誰?」
後藤…と言おうとしたが、亜弥ちゃんにそれを言うとなんだかまた面倒なことになりそうなので、適当に濁すことにした。
「まぁこっちのこと。そーいやさっきあそこでうちらの学校の生徒が泣いてたんだけど」
「えっそうなの?知ってる人?」
「知ってたら話かけてるよ」
「へ〜あたしも見てこよっ」
野次馬根性丸出しだなおい。
俺がついていこうとすると、亜弥ちゃんはそれを止めた。
「お兄さんはきちゃダメ!」
「なんで?」
「お兄さんだってあたしのこと一人にしたじゃん、同じ苦痛を味わいなさーい」
「なんじゃそりゃ」
しゃーない、しばらく夜景でも見て落ち着くか。

98名無しさん:2005/05/13(金) 13:03:41
『悩み事なんて、解決しようがしなかろうがいつか必ず消えるよ。時間があたし達を救ってくれる』

俺は夜景を眺めながら、亜弥ちゃんが言っていた台詞を思い出していた。
確かにそうかも知れない。どんな大事件が起きたって、皆二ヶ月もすれば忘れてしまうだろう。
だが俺は当事者だし、いま藤本や後藤と向き合わないと二人ともいなくなってしまう。それでもいいやと思うことが悩みの消えた時だったとしたら…俺は自分の考えてることが恐ろしくなり、考えるのをやめることにした。
とにかく、後藤冷たい理由はわからないが、それで俺がおどおどしてても状況は何も変わらない。吉澤の彼女、石川先輩のようにポジティブに行こう、ポジティブに…
「ほら行くよ」
階段の方から亜弥ちゃんの声が聞えた。どうやら戻ってきたようである。しかも、先ほどベンチで泣いていた子を連れて。

99名無しさん:2005/05/13(金) 13:04:06
「なんだ、亜弥ちゃんの知り合いだったの?」
「知り合いも何も、お兄さんも知ってると思ってたけど」
「えっ誰だっけ?」
これでも友達の少ない男だ。知り合いじゃない自信はおおいにある…って自慢になんないか。
「ほら、こないだ家にきたお兄さんの友達の彼女だよ」
最近うちにきた友達っていうと亀井ぐらいしかいないな。ということは…
「道重ちゃん?」
「そう、お兄さん会ったことない?」
「えぇっあるにはあるけど」
こんな子だったっけ?
俺が会った時は髪を二本に結わいてて、ちょっと田舎っぽい感じだったのに、いつのまにこんな色っぽくなってたんだ?前髪なんてアシメ入ってるし。
「ちょっと何見とれてるの?」
「いや、そんなことは」
ないとも言い切れないかも。
「お兄さん、ちょっとこの子家まで送ってくるからさぁ、ここで待っててくれない?」
「えっ今から?もう遅いし、ここ亀井の家近いからあいつんち泊まってけば?」
俺がそう言うと、道重が突然
「うわ━━━━ん!!」
と涙腺から噴水のように涙を噴き出した。
「ちょっとちょっと、泣かさないでよ〜」
「俺のせいかよ」
わけがわからない。

100名無しさん:2005/05/13(金) 13:04:26
「とにかく、すぐ戻ってくるから」
「どれくらい?」
「30分くらい」
な、なげぇ…「あとで午後ティーおごってあげるから辛抱して。ほら、さゆ行くよ」
状況を飲み込めない俺を放置して、亜弥ちゃんは道重ちゃんの手を引き行ってしまった。
おいおい寂しすぎるぞ…
でもなんで道重ちゃん泣いてたんだろう。
暇だし、ちょうどいい。俺は亀井に電話してみることにした。

『こちらはNTTドコモです。おかけになった電話番号は、電波の届かない所に…』

あれ、電源切れてやがる。
この時間にあいつが電源切るなんて、珍しいな。充電でも切れたのか?

101名無しさん:2005/05/17(火) 08:57:51
「うそつき」
俺は亜弥ちゃんに文句を言った。
「30分くらいって言ったじゃん」
けっきょくあれから亜弥ちゃんが俺を迎えに戻ってきたのは一時間半後。予定時間を
一時間も遅れてのご到着であった。
「ごめんごめん、ちょっとトラブッてさぁ」
「道重ちゃんと?」
「うん、あの子今日うち泊まるから」
は?泊まる?
「うち客人用の布団なんてないけど…」
「平気平気、お兄さんの部屋にあたしの布団敷いて、それ貸してあげたから」
「えっ俺の部屋?」
つーことはあれか?俺が道重ちゃんと同じ部屋で寝るってことなのか。
いや普通にまずいだろそれは。いくら友達の彼女とはいえ、何かするってことはなくても
絶対意識して眠れないと思う。
「なんか同じ部屋で寝るなんて気まずいな」
「お兄さんなんか勘違いしてない?さゆとはあたしが寝るよ」
「は?どこで?」
「お兄さんの布団で。悪いんだけど、今日だけリビングに寝てくれない?」
リビング…まぁそうだよな。普通に考えてそうだわ。何を期待してたんだ俺は。
リビングか…寒そうだな。でも今日だけだし、まあいっか。
「ほんっとゴメンね。今度焼きそばおごってあげるから」
いつもそんなこと言ってるけど、未だに何一つおごってもらっていないわけだが。

時間が時間なので、俺達はさっさと帰ることにした。
これから密度の濃い時間を送ることになるのも知らずに。

102名無しさん:2005/05/17(火) 08:58:11
家についたのは一時ちょうどくらいであった。
明日起きれるかなぁ〜けっこう目が冴えちゃってるんだけど。かといって風呂に
入るのも面倒くさいし。
とりあえず、いつも藤本が陣取ってるソファーの上に寝そべった。
「あんま寝心地よくないな」
俺はボソッと呟く。
「藤本のやつ、よくこんなとこで漫画なんか読めるなぁ」
「こんなとこで悪かったわね」
突然の声に驚き、俺は体を起こす。
そこにはホットパンツにでかめのパーカーという、寝巻き姿の藤本が立っていた。
あんな怒ってたのに、普通に俺に話しかけてくるなんて…俺はあっけにとられてしまう。
「…なんか言ったら?」
藤本が眉をひそめて言う。
「いつからいたの?」
我ながら空気を読んでない発言だと思う。もっと話すべきことはあるはずなんだが…
「今きたばっか。なんか眠れなくてさ〜、部屋、誰もいないし」
口調は至って穏やかである。もう怒ってないのだろうか。
「あれ、後藤は…バイトだっけ?」
「はぁ?あの子バイトなんかしてないじゃん、しかもこの時間だよ?あんたの部屋で、うぅーんと
さゆみんだっけ?その子と寝てるよ」
「亜弥ちゃんは?」
「お風呂」
これはどういうことだ。後藤と道重ちゃん、面識ないのに俺の部屋で二人で寝てて平気なのか?
って言っても、俺がリビングで寝ることには変わりないんだろうけど。
「ふぅ…」
藤本が息を吹いた。それが沈黙開始のスタートとなる。
藤本は立ったまま黙って下を向き、絨毯を見つめていた。
今日のことを謝るなら…今しかない。

103名無しさん:2005/05/17(火) 08:58:29
俺は勇気を出して沈黙を破ることにした。
「「あのさ」」
どうやら藤本も同じ気持ちだったらしい。
俺と藤本の声がハモッた。
「どうした?」
「なんだよ、あんたから言ってよ」
「いいよ、藤本から言えよ」
「あたしは…あたしはただ知りたいだけ」
藤本はテーブルの座席に腰掛けた。
「なんで美貴のパンツ持ってったのかなって」
先ほどまでの声より小さい声で藤本はそう言って、テーブルに突っ伏した。
それでも口に出すことを躊躇している俺は最低かもしれない。さっき公園に
いた時は、土下座してでも謝ろうと思っていたのに。変なプライドが俺の邪魔をする。
黙っている俺にしびれを切らしたのか、藤本はさらにこう言った。
「お願い、ホントのこと言って。覚悟、できてるんだ」
今のセリフ、もっと違うシチュエーションで聞きたかったなぁ…
「俺さ、藤本たちと住んでるのバレて、脅されてたんだ」
藤本はテーブルに身を突っ伏したまま、黙って話を聞いているようだ。
「そいつお前のこと好きみたいで…下着渡せばこのこと黙っててくれるっていうから
それで…俺、今の生活壊されたくなくて」
あーもう、思ってることがうまく口に出せねーよ。
「ごめん」
もう、そう言うしかなかった。

104名無しさん:2005/05/17(火) 08:58:48
「つーかさ」
藤本が顔を上げて俺を見た。
「今の生活壊されたくないって意味がよくわからない」
「え、それは…」
「だって、美貴も亜弥ちゃんもごっちんも、あんただって同じ学校だよ?こういう生活に
なってから別に長いわけでもないし。学校で会えるんだよ?」
確かに…でも言い訳とかじゃなくて、これが俺の正直な犯行動機なんだが。
「あんたと美貴は小学校からの付き合いなのに…今の生活って何?」
「それは…」
「壊されるものなんて、ほとんどなくない?」
壊されるもの…なんだろう。
今の生活?
なんだそれ。
「あんた、誰かと離れるのがイヤなんじゃないの?それが美貴じゃないのはわかってるけどさ…」
それを言われて、俺はドキッとした。
自分でもわかっていなかったが、もしかしてそうなのか?俺。
そして、心の中で思い浮かべた顔。そして、
「ごめん」
自然とそんなセリフが出てきた。
「…今まであんたにはいっぱいひどい事されたし美貴もひどい事言ったけど」
藤本が目にいっぱい涙をためて言った。藤本の涙を見るのは小学生以来だ。
「こんな気分…マジで初めてだよ」
そしてボロッと涙を一滴、テーブルの上に垂らした。
「藤本」
「あたししばらくこの家出る」
「えっ?」
藤本は立ち上がって、逃げるようにリビングを出る。

105名無しさん:2005/05/17(火) 08:59:02
「おいちょっと待て」
リビングの扉を開いた藤本は、立ち止まった。それは俺の声に反応したわけではなく、
部屋までの短い廊下の壁に寄りかかってた誰かに気づいたからだった。
「…いつからいたの?」
「んぁ。初めの方から」
後藤?
「聞いてたの?」
「そんなとこ」
「…そういうの、やめてよね」
一段と声のトーンを低くし、藤本は言った。そして、そのまま部屋へと引っ込んでいく。
俺は藤本を追いかけた。家出るってなんだよ、俺はそんなのこれっぽっちも
望んでない。望んでねーよ。
リビングを出ると、上下スウェット姿の後藤が俺の腕を掴んだ。
やっぱり、今藤本が会話してたのは後藤だったんだ。
「なんだよ」
「どこ行くの?」
「決まってんだろ、そこだよ」
俺はアゴで藤本達の部屋を指した。
「どうしてあの子止めるの?」
どうして止めるかって?そんなの決まってるじゃないか。
「ごとーよりも、ミキティのこと好きなの?」
「そんなんじゃない」
「じゃあなんで?」
「親友だからさ」
後藤の手を振りほどいて、俺は藤本がいる部屋に入った。

106<設定>:2005/05/17(火) 17:40:24
主人公と藤本が親が同業で元々知り合いで、二人の親が出張(単身赴任?)
松浦が藤本の幼馴染で、高校近いってことで転がり込んだ
後藤が家のゴタゴタで家出して、後藤の親が旧知の主人公の親に頼んで預かってもらってると
一応三人の親が主人公の親の口座に生活費の四分の一を振り込んでる


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