したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

皮のニモ靴 ◆2tH7zOPLcg 作品

1名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 05:31:31
家に帰ってくると、相変わらずちらかっていた。
「ただいま」
「おかえり」
どうやら藤本しかいないらしい。ソファに寝そべって俺の漫画を呼んでいる
「帰ってきたら制服ぐらい着替えろよ。後藤は?」
「彼氏の家だって。晩御飯いらないってさ」
またお泊りコースですか。そんなにHが好きなら童貞の俺を男にしてくれても
いいじゃないかorz
「亜弥ちゃんは?」
「彼氏と遊んでる」
「えぇっ、あの子彼氏いたの!?初耳なんだけど」
「やべ国家重要機密だった。今の聞かなかったことに」
「できるか!はぁ〜マジ意味わかんね。いつからだよ、隠す意味がわかんね」
「まぁまぁおちけつ。亜弥ちゃん学校で人気あるじゃん?もしバレたらファンクラブの
連中に亜弥ちゃんの彼氏が闇討ちにあう危険性があるだろう」
「…なんか今日飯つくるのマンドクセ。適当にカップラーメンでも食ってくれ」
「ちょっとちょっと。どこ行くのよ」
「自分を見つめなおしに」
「あんた何へこんでんの?」
「うるさいな、一人にしてくれよ」
「なに?あんたまさか亜弥ちゃんに彼氏いたことにショック受けてんの?」
「・・・」

2名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 05:31:52
「ちょっと待ちなよ」
「うっせーなついてくんなよ」
今日は家にいたくない。こんな気持ちで亜弥ちゃんと顔あわせらんねーよ。
でも、河原沿いを意味もなく歩き続けて俺はどこへ行くんだろう。
「待てってば」
藤本はまだ追いかけてくる。
「しつこいぞお前。俺の気持ち察したんなら一人にしてくれたっていいだろう」
「財布も持たないでどこ行く気だよ。ほら」
「あ…」
どこまでも間抜けだな、俺。
「まぁちょっと座りなよ。あたしが話聞いてあげるから」
「いいよ無理して聞いてくれなくても」
「いいから」
藤本に手をひっぱられ、俺は近くの丸太でできたベンチに座った。
やめてくれ、俺童貞なんだし、女の子に触れたことだって全然ないんだから
手なんか握られたらドキドキしてしまうじゃないか。

3名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 05:32:08
俺は藤本に洗いざらい話した。
同居初日から一目惚れしてたことや、その他もろもろぶちまけた。
「だんだん生活が慣れ始めた頃、お前と亜弥ちゃんすごい仲良くなってたろ。後藤は
なんかあんま馴染んでなかったみたいだけど。まぁ、亜弥ちゃんと仲良くなりたかったから
頑張ってお前達の輪に入ろうとしたんだよね」
「え〜、それにしちゃ亜弥ちゃんと全然しゃべってなかったじゃん」
「俺女の子とか慣れてないからあがっちゃってダメなんだ。けっきょくお前に話かけちゃって、
二人でくだらない論争して終了。これの繰り返しだったわけよ」
「なんかひっかかるけど、その気持ちはわからんでもない。でも、コレだけは言える」
「なに?」
「あたしはあんたとくだらない論争するの、わりと好きだよ」
「…実は俺も」
ちょっとした沈黙が流れる。まさか藤本相手に気まずくなるとは思わなかった。
「ぶっちゃけあたしけっこう…」
あれ?あの向かい側の岸にいるの後藤じゃないか?
「おい後藤ぉぉぉっ!…あ、今なんか言ってたよね?」
「空耳じゃない?それよりほら、あの子気づいてないっぽいよ」
「なんかあいつ一人っぽいんだけど…」
「うーん…よし、とりあえずあの子んとこまで競争すっか!負けた方ジュースおごりね!!」
「なっ、せけーぞ藤本!合図も無しかよ!!」

4名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 05:32:32
その夜のことだ。
「後藤、部屋から出てこないな」
「まぁ、無理もないんじゃない。彼氏と別れたっていうんじゃね〜」
「そういや藤本って男友達多いくせに彼氏いないみたいだな。なんだかんだで
いっつもお前といる気がする」
「あたしはインドア派なの。あんたこそいつも引きこもってるじゃん」
「バイトない日くらい家でゆっくりしたっていいだろ。それより後藤どうすんの?
晩飯も食わなかったし」
「う〜ん、あの子そういうのに関してはうじうじしないでサッパリきりそうな感じ
するのに変だね。ってこれはあたしの偏見か。まぁ明日になりゃ元気出すでしょ」
「そんなもんか。俺には女のことはよくわかんないけど…なぁ、あれから
亜弥ちゃんから連絡きた?」
「今日は泊まるってメールきてからうんともすんとも。まさか亜弥ちゃんが
後藤真希現象起こすとはね」
「なんか、ホントきついわ。俺今日はもう寝る」
「ったく…まぁ、今夜だけはネガティブになりなよ。思いっきり泣きな。でも、
夜が明けたらまたポジティブになりなよね」
「あぁ、わかってる」
「淋しかったらいつでもうちらの部屋おいで」
「おう、おやすミキティ」
「はいはい」
さて、この惨めな気持ちどうしてくれようか。
俺は電気をつけずに部屋に入り、布団に倒れこんだ。
「ぐぇ」
俺の布団の中に、なぜか先客がいた。

5名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:55:07
「後藤お前なにやってんの?」
「んぁ。寝てた」
「いやそれは見ればわかるけどさ。ここ俺の部屋」
「いいじゃん、今日はこっちで寝たい」
「いやいや、じゃあ俺どこで寝ればいいんだよ」
「今日だけ抱き枕にしていいよ。でもHなことしたら殺すから」
「ほとんど拷問じゃねーかよ。早く部屋に帰れ」
「やだー」
「お前、寂しいの?」
「寂しくないよ。だから今日はここで寝る」
「意味わかんねーし。そんなわがまま言うなよな」
「わがままと生意気は違うのよ」
「わかったからどいて」
「私とやりたい?」
「は?」
「私とやりたいか聞いてるの」

6名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:55:26
俺は激しく困った。ここでやりたいって言ったらやらしてくれるのかな。
亜弥ちゃんのことが好きとはいえ、俺だって男。歳も同じだし、
できるもんなら後藤とHしたいなーなんて思ったこと何度かもある。
いや、まて。これは罠だ。俺を試しているに違いない。
「やるの?やらないの?」
俺は…

7名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:55:56
俺の胸は張り裂けそうになるほどドキドキしていた。
股間も自然と立ち上がって、目の前がクラクラしそうだ。
「どうするの?」
後藤が再度俺に尋ねる。俺はもちろん
「やる!」
と言った。もう止まらない。
「本気で言ってる?きみ童貞でしょ?」
「いや全然いいよ。やりたい」
よかった…17歳で童貞を捨てられるなんて夢にも思わなかった。
しかも相手はギャルの後藤。文句なしである。
亜弥ちゃんごめん。そしてこんにちは後藤のあそこ。
「はぁ〜もうアレだね、男ってみんな同じ。マジイラネ」
「えっ?」
後藤の口からため息とともに吐き出される一言に、俺はあっけに取られた。
「あの男もそう。なんかあるなーと思って家に行ったら案の定やろうとしてたっていうね」
おいおい、こいつまさかやる気ないんじゃないか。
「ま、きみの事試してみてわかったよ。男ってみんなバカやろうだって」
「いや意味わかんね」
「きみは亜弥ちゃん一筋だと思ってたけど、とんだ期待はずれ」
「えっなぜそれを」
「見てりゃわかるから。単純すぎ。どーでもいいけどちんちん立ってるよ」
「うおっ」
「なんかもうみんな信じられない。やりたがりばっかで誰も真剣にごとーと
恋をしてくれないんだもん!」
そう言うと、後藤はすすり泣き始めた。それを見て、さすがにちんこはしぼんでいった。

8名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:56:21
「まぁまぁ…泣くなよ。元気だせよ」
「うるさいな、こっち見ないでよ!あっち行って!」
そんなこと言われてもここ俺の部屋なんだが…
「後藤…あのさ、お前<恋>って漢字で書ける?」
「何?馬鹿にしてんの」
「いやさ、恋っていう漢字、下に心って書くよな」
「…うん」
後藤は手のひらに<恋>という字を書くような素振りをした。
「恋っていう漢字はさ、下の心がないと支えるもんなくなって崩れちゃうと思うんだ」
「下の心…下心」
「そう。恋に下心があるのは当然だと思うんだよね」
「…じゃあ、ごとーはどうすればいいの?」
「恋をするんじゃなくて、愛せばいいんじゃない?好きな人に恋するんじゃなくて、
好きな人を愛する。それが真心だよ。<愛>って真ん中に心って書くだろ?」
「あ…」
「今回はしょうがなかったけど、これからは<愛>せばいいんだよ。後藤の言うとおり、
男って俺も含めてやりたがりだけど、そんな部分まで愛せれば、また見方が
変わってくると思うよ」
「…なんかきみ、金八先生みたい。このばかちんが」
そう言って、後藤はクスッと笑った。
「じゃあ先生、<恋愛>ってどういうことなの?二つ入ってるけど」
「あ…そりゃお前、聞くのは野暮ってもんだろ」
一瞬、時が止まった。
そして、最初に笑ったのは後藤の方だった。

9名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:56:38
土曜の朝である。
昨日はいろいろあっていろいろ悩んだから疲れた。
それで得たものもあったけど、とりあえず今日は昨日よりいい日でありますように。
時刻は十一時、なんとか午前中に起きれた。
さて、今日はバイトも休みだし、やりかけのRPGでもしてゆっくり羽を伸ばそう〜と
布団の中で伸びをしている時だった。
「お〜い起きろ」
藤本だ。わざわざ起こしに来たのか、珍しいこともあるもんだ。
「起きてるよ。おはよ」
「おぅ、暇だしカラオケでも行こうよ」
「えぇ〜こないだ行ったばっかじゃん。今日は引きこもらせて」
「はぁ?あんなの歌ったうちに入んないし」
「マンドクセ。後藤でも誘えば」
「あんた年下のくせに生意気すぎない?早く準備しろ」
「わがままと生意気は違うのよ by後藤」
「美貴のこの手が光って唸る。ソロに戻れと輝き叫ぶ。ひぃぃぃぃぃっさつ…」
「準備します」
俺弱いなぁ…orz

10名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:56:57
顔を洗って髪をセットし鼻毛を切った俺は、クローゼットの前に立ち考えていた。
今日どんな格好すっかな。最近そこらへん出歩くとき適当な服しか
着てなかった。せっかく買った春物のジャケットを着る機会がないので
こいつを着ることにした。
「あれ、あんたそんなジャケット持ってたっけ?」
「ポールスミスだぞ。すごいだろ」
「いや一緒にいて落ち着かないんですけど」
「なんで?」
「あんたがかっこつけるっていうイメージないし」
ひどいなぁ。下駄箱でそんな会話をしながら、俺は下駄箱から皮のニモ靴を出す。
「あれっ何その靴。いつものボロいエアフォースは?」
「今日はちょっと決めてるからはかない」
「へぇ、あんたでもオシャレするんだ」
「お前な、これでも俺は服に金かける男だ。滅多に買えないけど」
実はキメの服装はこれのみだったりする。
「ふ〜ん」
藤本が靴を履く俺をジロジロ見てくる。
「なんだよ」
「なんか、今日はかっこいいじゃんよ」
「いつもかっけーよ」
「しゃしゃんな」
さて行くか、と立ち上がったとき、急に玄関が開いた。

11名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:57:29
「ただいま」
「あっ…亜弥ちゃん…」
突然の帰宅者に俺は驚いた。亜弥ちゃんは制服のまんま、あまり疲れた
様子はないが、目は眠たそうだった。
「ずいぶん帰ってくるの遅いじゃん。もう昼だよ?」
藤本が言った。
「うん、朝の五時ぐらいに寝ちゃってさ。さっき起きたばっかなんだ」
ローファーを脱いで、亜弥ちゃんは俺の横をすり抜けた。
朝の五時に寝たのか…それまで何やってたんだろう。やだなぁ、こういうこと
考えるの。もう考えたくない。どうしたらいいかわからなくて、俺はその場に突っ立っていた。
「美貴タンとお兄さん、お出かけ?」
「そうだよ」
「デート?」
「はは、ありえない」
「おーおー、無理してるね」
「ちょっとやめてよ。カラオケ行くんだけど亜弥ちゃんもくる?」
バカやめろよ。気まずいだけだろーが!…と言えない俺。
「あたしはいいや〜。すんげぇすんげぇ眠たいし、今日バイトだし」
「そっか。まぁ夕方には帰るけど、入れ違いになるかもね」
「そうだね、じゃあ行ってらっしゃい」
そう言って、亜弥ちゃんは自室に入った。自室と言っても、藤本と後藤も
一緒の部屋だったりするけど。
「じゃあ行こっか」
「…」
「ねぇ」
「ん、ああ、そうらしいな」
自分で何言ってるんだかよくわからなかった。

12名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:57:46
夕方。
楽しかった時間が過ぎるのは早い…と思ってるのは前を歩いている
藤本だけだと思う。俺は今日、一人で泣きたい気分だった。
「あ〜なんかすっきりしたねー!」
「そっかぁ。よかったな」
「あんたあんま高い声出せないよね。サヨナラバスとか青いベンチ、
苦しそうでマジ受けたんだけど」
「脳みその血管切れるかと思ったよ」
あはは…と藤本が笑い、急に真顔でこちらを振り向いた。
「な、なんだよ」
「お前、まだ亜弥ちゃんのこと気にしてるだろ」
「えっ…」
「…あんたってホントわかりやすい」
そう言って、また前を向き歩き始めた。
近所の河原まで歩いてきたころには、あたりは暗くなり始めていた。
「そういえば藤本さぁ、人のことオシャレするんだ〜とか言ってたけど、お前も
今日はずいぶんしっかりしたもん着てるじゃんか」
「ん、そう?今日の格好どう?」
「かっこいい」
「へへへ、サンキュ」
「でも、いつもの格好の方が俺は好きだけどな」
「制服かよ」
「でも、高3のお前はもうすぐ制服とさよならだぜ?」
「まぁ、確かに。あ〜あ、高校生活最後の年だし、彼氏欲しいなぁ」
ややSっ気のある女だけど、顔はいいんだからその気になればできるような
気もするんだがなぁ。あまりそういう縁がないのかもな、こいつ。

13名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:58:10
翌週の月曜日。
三時限目の授業が終わり、昼休みが始まると同時にとなりのクラスの友人吉澤が
駆け込んでくる。
「おいおいマジかよ」
吉澤は単刀直入にそう言った。
「何が?」
「お前、土曜日に三年の藤本ミキティと仲良くカラオケ行ったそうじゃないか」
「なんで知ってんの?」
「マジか?デマか?」
「マジだけど」
「お前…マゾっ気あったのか」
「なんでそうなるんだよ」
俺は土曜のことを手短に話した。
「なかなか適当な事情だな」
「だろ。あいつの気まぐれには参る」
「でもな、お前ちょっとまずいぞ」
「は?」
「お前、この学校に極秘裏に動いているファンクラブの存在を知ってるか?」
「聞いたこともない。何だそれ」
「まぁお前みたいな女に点数つけたりしないやつが知るわけないか」
「なんだよ。もったいぶるな」
「まぁまぁおちけつ。簡単に説明すると、藤本ミキティにもかなりの数のファンが
ついてるってこった」

14名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:58:24
まぁ藤本は胸はないけど顔の造りがいいから、モテても不思議じゃないが。
「お前呑気だな」
「いや何を心配する必要があるんだよ。そういやお前は誰からカラオケのこと聞いたんだ?」
「彼女」
あー、確か吉澤の彼女って三年生だったな。確か石川先輩っていう元新聞部のレポーターだったような。
「お前はあのファンクラブがどれだけ宗教的で恐ろしいかをしらない」
「そういうの別に興味ないしなぁ」
そう言って俺は立ち上がった。購買でカレーパンでも買ってこよう。
「おいおい、購買なんか行くなよ?刺されるぞ」
「どんなだよ」
俺が呆れていると、教室に…というか俺に来訪者が現れた。
「すいませ〜ん。○○くんいらっしゃいますか?」
「俺だけど」
誰だこの人。見たことはあるけど知り合いではないはず。
「は〜いどーも!△×高校新聞部のおじゃっま〜るしぇ!紺野です」
し、知らねぇ…
「ほれみろ。さっそく来たよ…」
吉澤が苦笑いしながら言った。

15名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:58:53
「お昼休みの忙しいときに悪いんですけど、質問に答えていただけますか?」
「いいけど…なんすか?」
「ずばり単刀直入にお尋ねするんですけど、お付き合いはいつからなんですか?」
これは藤本のことを言ってるのか?どんだけ噂広がってるんだ。
「いや、別に付き合ってるわけでもないんだけど」
「そうなんですか!?お付き合い前なのに熱いですね。知り合ったきっかけは?」
「たまたま」
間違っても同じマンションの同じ部屋に生徒四人で住んでるなんて言えない。
「っていうか、べつに特別な感情とかはないんですけど」
「えぇっそれは困りますね〜。記事にできない」
記事にする気だったのかよ!

おじゃなんとかって人がいなくなってから、俺は吉澤に相談した。
「この学校って女と遊ぶとこうなのか?他人のことに敏感すぎやしないか?」
「言ったろ。この学校のファンクラブを甘く見るなって。だいたい藤本ミキティが大人気なことぐらい
みんな知ってるだろ。あと、お前の好きな亜弥ちゃんとか」
そういえば、前に藤本が亜弥ちゃんの彼氏がファンクラブの連中にどうとか言ってたような…(>>61
「ちなみに俺の彼女もそうだし、さっきの紺野って子もそうだ」
「へぇ〜、なんか俺なんも知らないらしい」
「びっくりするのはそれだけじゃない。亀井も追っかけられてるメンバーその一人だぞ」
「えぇっ!あいつ男じゃん!!」
「でもご承知の通り、かなり女寄り…いや、女そのものっていってもおかしくないくらいの女顔だろあいつ」
「なんだか見境ないんだな」
「亀井は一年の道重ちゃんとできてるんだが、その道重ちゃんも追いかけられてるメンバーなんだよな。
こういう場合どうなるんだろうな」
「俺が知るかよ。そーいうの吉澤の方が詳しいだろう」
「とにかく、お前が藤本先輩や亜弥ちゃんと同居してるのがバレたら、いかなる事情だろうと命が危ない」
「後藤はいいのか?」
「後藤はいいだろ。昔は人気あったらしいけどギャル化して落ち目入ったわけだし」
でも中身は悪いやつではなさそうなんだけどなぁ。
あえて口には出さないでおいた。

16名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:59:12
家に帰ってくると、相変わらずちらかっていた。
「ただいま」
「おかえり」
いつものように、ソファに寝そべって俺の漫画を勝手に読んでいる。しかも山積みにして。
「なんだ、藤本帰ってきてたのか」
「帰ってきてちゃいけないのかよ。ねぇねぇ、あたし今日臨時収入があったんだけど」
「マジで?やったじゃん」
「うん、お母さんがたまにはおいしものでも食べなさいってお金振り込んでくれたの。
で、最近の晩飯なかなか質素だったし、今日は豪勢に焼肉でもどうよ」
「賛成!藤本のお母さんにありがとうございますって言っといてくれ」
「わかった。じゃあ買出し行こうぜ」
「俺、行かない」
買出し…吉澤に変な話もされてるし、迂闊に二人で歩き回るもんじゃないな。
そういえば、どっから俺とこいつがカラオケ行ったって広まったんだろう。あの日は誰とも会ってないし…
「は?一人で荷物持てるわけないじゃん。協力してよ〜」
嘘だ。平気で俺に全部持たせて、自分は手ぶらで悠々と歩いて帰るんだ。そうに違いない。
「とにかく今日は家出る気ないから俺」
「えっちょっと…」
藤本を振り切り、自室に閉じこもり鍵をかけた。
「んぁ」
布団からの予期せぬ声に、俺は死ぬほどビビる。
「後藤かよ。なんで俺の部屋で寝てるんだよ」
「いや、なんかうちの布団より全然寝心地いいからつい」
「ついじゃね〜よ。お前香水つけてんだろ?匂いつくじゃん」
「わかったわかった」
後藤が布団から這い出る。どうやらブレザーは脱いでいたらしい。
際どいくらいボタンの開いてるYシャツを着た後藤はとてもエロかった。

17名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 12:59:31
※4人だと会話がわかりづらいんで今回は表記しますスマソ

 晩餐の時間である。
 藤本は俺の代わりに亜弥ちゃんを連れて材料の買出しをしてきたようだった。
俺「で、まぁ準備できたわけだが…なんか肉少なくないか?」
み「ごめん。意外と予算足りないもんだった」
あ「思ったんだけどさ、美貴タンのお母さんは4人のために振り込んだんじゃなくて、
美貴タンのために振り込んだんじゃないの?」
俺「俺もそんな気がする」
 いつものくせで、無理やり会話に入ろうとする俺。えぇい、あきらめろ俺!
俺「この量だろ…焼き係にまわったら確実に食えないで終われる」
み「とりあえず、買出ししてきた亜弥ちゃんとあたしは肉を食べる権利があると思うわけ」
俺「米研いで炊いたのは俺だぞ」
ご「冷蔵庫からタレとってきたのはごとーだよ」
俺「おいそれだけかよ」
ご「ごとーのバイト代入ったらご馳走するから今日は許して」
み「バイトなんかしてないじゃん…」
あ「あのさ、こういう時は、アレじゃない?」
ご「アレって何?」
あ「ジャンケンとか」
み「バカ言わないでよ」
俺「お前らもちつけ。大人しく四等分して、自分で焼いて自分の食えばいいだろ」
あ「まぁ普通はそうだよね」
ご「確かに。普通は仲良く分けるもんだよね」
俺「だろ後藤」
み「でもやっぱり年功序列っていうし」
俺「そんな食いたいのかよ。肉は金で買えるけど、肉食べて喜ぶみんなの笑顔はプライスレスだ」
あ「お兄さんいいこと言うね」
み「だーもう、わかったよ。じゃ、大人しく四等分しますかぁ」
 ちょっと納得してなさそうな表情で、藤本は肉を四等分した。

18名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:00:13
ふ〜食った食った。肉はちょっと食い足りないけど満足だ。
片付けはジャンケンの結果、藤本と亜弥ちゃんで決まった。
焼肉食った後にまったりと横になれるなんて、今日は贅沢三昧だなぁ俺。
部屋に入り、今朝から敷きっぱなしの布団の上に倒れこむ。
一瞬、また後藤いたりしないだろうかと思ったが、さすがに考えすぎだったようだ。
ただ、布団の状態がいつもと違っていた。
「…後藤の匂いがする」
そういえば、さっき俺の布団で寝てたっぽいからな。この匂いはシャンプー?いや、香水か?
枕に顔をつけて鼻から息を吸ってみると、女の子っぽい匂いがした。
どうして女って、いい匂いするんだろう。布団の中も後藤の匂いでいっぱいだ。
「これはやばいな」
下半身が急激に反応し始めている。今オナニーしたらめちゃくちゃ気持ちよさそうだ。

19名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:01:52
すっかり元気になったちんこを握り締めようとして、俺は思いとどまった。
ここでオナッたら、その後どんな顔して後藤と顔合わせればいいんだ。

男ってみんなバカやろうだって(>>7参照)

いいや違うぞ後藤。少なくとも俺は澄んだ心の童貞だ!
なんだか悲しくなるような自信を持ち、俺は後藤のいる隣の部屋の戸をノックした。
「後藤入るよ」
「ドゾー」
部屋に入るなり、俺は部屋の隅で雑誌を読んでいる後藤に尋ねた。
「後藤ってどの布団で寝てる?」
「ん、そこの敷きっぱのやつ」
「なんだ、お前だけかよ押入れにしまってないの」
「今日はちょっとだるくて。なんで?」
俺は後藤の質問に答えず、後藤の布団を広げた。
そしてシーツに顔を押し付け、力いっぱい匂いを嗅いでみた。
「きもっ!!きみ何やってんの!?」
「ダメだ〜この布団にも後藤の匂い染み付いている」
「いやマジできもいんですけど」
「お前が最近俺の布団で寝たりしてたせいで、俺の布団に女の匂いがついて落ち着かないんだよ。
だから布団干すまでとっかえてもらおうかと」
「ごとーの匂いがくさいって言ってるのそれ?」
「そうは言ってない」
むしろいい匂いなんです。オナニーしかけました。
「そんぐらい我慢してよ」
「お前が言うなよ」
「つーか丁度いいとこにきた。きみに相談したいことがあるんだよね」
「えっ?」

20名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:02:58
「今はきみが一人の男だと思って聞く」
いつもは男だと思ってくれてないってことか。
「どんな女に魅力があると思う?」
「なんだよそれ。好きな人でもできた?」
「質問を質問で返すなぁ〜。疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか?」
「後藤、漫画の読みすぎだぞ。そうだなぁ〜なんて説明したらいいかわからんけど、
芸能人でいうと<はしのえみ>とか好きだなぁ」
「きみに聞いたごとーがバカだったよ」
「そんなこと聞いてどうするつもりだ」
「…誰にも言わないって誓える?」
「誓える誓える」
「実はあたし、亜弥ちゃんみたいになりたいんだよね」
「えっ無理じゃね?後藤と亜弥ちゃんって見た目全然違うじゃん」
「いやごとーが言ってるのはそういうことじゃなくてね」
後藤は膝の上に広げていた雑誌を閉じて、そこら辺に放り投げた。
「うちの学校にあるファンクラブのこと、知ってる?」
「ああ、吉澤から聞いた」
「亜弥ちゃん、すごい人気あるんだよね」
「そうらしいな」
「ごとーもああなりたい」
「いやお前、聞くに可愛けりゃ男でも追っかける集団らしいじゃないか。
そんなのに好かれてどうする」
「確かに変な集団だとは思うけど、それらに好かれるイコール女として誇らしいというか」
「う〜ん」
俺はしばしこめかみに指を当てて思案した。女ってそんなもんなのか。
「でも好いてくんのはヤリチンそうな男ばっか。それ以前にあんま友達いないし」
そういや後藤って、一年の子といるのは見たことあるけどそれ以外はあんまないな。
「どうしたら人気者になれるんだろう…」

21名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:03:13
「はは、何意味わかんない相談してるんだろうねあたし。今の話は忘れて」
「いや方法はある」
俺は自信を持って言った。吉澤はギャル化して落ち目入った、なんて言ってたけど、
話してるぶんには中身は悪い奴ではないっぽい。
なんだか急に後藤の株を持ち上げたくなってきた。
俺が思うに、女の子の「追っかけ」なることをするやつらは処女っぽい子が好きなはずだ。
そのツボを刺激してやればいい。一人でも後藤の<推し>が現れれば、瞬く間に人気は
伝染していくはずだ。
俺はそれを後藤に伝えた。
「処女っぽい子ねぇ…でもどうやって?」
「そうだな。まずはお前に染み付いてる<ギャル>っていうイメージを拭いさらねばならない」
「ふむ」
俺はギャルっぽい後藤に軽く魅力を感じてたけど、これも後藤のためだ。
「イメチェンすることになりそうだな」
「う〜ん、でもスカートの丈とか戻せないよ?切っちゃった」
「いや、スカートの丈は別に戻さなくてもいいだろ。古き良き時代みたいな格好しても人気はでない」
「じゃあどうやって変わればいいの?」
「まず、ルーズソックスだな。あれを紺ハイソに変えろ。そして靴のかかとを踏むな」
「なんか落ちつかなそう…」
「贅沢言うなよ。あとはそのプリン化し始めてる頭だけど…そうだ!」
俺は部屋に戻り、本棚の上に置いてあったヘアカラーを持ってきた。
春休み、髪でも染めようかと思って買ったのだが、間違えて髪色戻しのナチュラルブラウンを
購入してしまったのだ。慣れないことはするもんじゃないな、と後悔した記憶がある。

22名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:03:52
「後藤、これやるから使えよ」
「髪色戻し?」
「そう。しかも黒くするんじゃなくて、自然な茶色に色を落ち着かせるっていう優れもんだ」
「でも、男もんだよ?」
「問題ないっしょ。俺だってマシェリで髪染めたことあるし」
「ふ〜ん、ありがと。今日さっそく使うよ」
そう言って、後藤は箱の裏の説明書きを読み始めた。
嬉しそうにしている後藤を見て思ったが、人気が欲しいだけでよくここまで変わろうと行動できるもんだ。
俺には自分の信念が崩されるような気がしてちょっとできなそうだな。
人気が欲しいっていう後藤の願望は、なかなかのものである。
…ちょっとおもしろいから、変なこと教えてみるか。
「後藤、最後に必殺技を伝授してやろうか?」
俺は囁くように言った。
「必殺技?」
「あぁ。その手の趣味の男を一撃で必ず殺す技だ」
「是非お願いします」
後藤が正座して俺を見つめた。
「これからは語尾に<〜ぽ>ってつけてみ」
「はぁ〜?」
だよな、さすがにおかしすぎたか。

23名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:04:06
翌日。
三時間目が終わり昼時になるころには、俺の腹の虫は悲鳴をあげていた。
購買行っても平気だろうか。行ったら本当に刺されるんだろうか。
もしかしたら、もう時効なんじゃないかな。行っても平気なんじゃないかな。
「よぅ。どうしたの、元気ないじゃん」
聞きなれた声に俺は顔を上げた。
クラスが違うのに時々出没する、暇な黒メガネの亀井である。
「なんだ亀井か」
「同居中の女達とうまくやってんの?」
「こらお前っ…」
「わかってるよ。言わないよ言わないから」
そうだ。こいつ連れて購買行こう。一人だと危険かもしれないが、誰かと
一緒なら安全のような気がする。
「亀井、購買行こうぜ」
「行かない」
「なんで?」
「痴漢にあうから。この前なんか購買で焼きそばパン争奪のため特攻したら、
誰かがドサクサに紛れて僕の尻わしづかみしたんだ」
「マジかよ…」
これもファンクラブの連中の仕業なのか。可愛ければ本当に男でもいいのか。
「じゃあ、飯どうすんの?」
「僕は今、ご飯食べるような気分じゃないんだ。パンも喉を通らないと思う」
「元気ないのはお前じゃねーかよ。どうした?」

24名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:04:36
そんな時、後藤がパンと焼きプリンを抱えて教室に戻ってきた。
俺と後藤は同じ三組。後藤の変貌に、クラスの連中はびっくりしてたな。
ちなみに亀井は六組で、吉澤が四組だ。まぁどうでもいいけど。
「お、きみらご飯食べないの?」
「食べたいけど購買行けない」
「ご飯が喉を通らない」
すると後藤はしょうがないなぁ〜と言いながら、アンドーナツとクリームパンを
よこしてきた。
「ほいお裾分け」
「えっいいのかよ」
「いいよいいよ、昨日のお礼。二人で仲良く分けるんだよ」
「あぁ…㌧クス」
俺らにパンを渡すと、後藤は自分の席について、サンドイッチを食べ始めた。
「僕までもらっちゃっていいのかな。いきなりだったからちゃんとお礼言えなかった」
「きっと機嫌がいいんだろ。礼ならあとで俺から言っておいてやるよ」
「あの子、ごぼう巻きさんだっけ?確かギャル系だったような…」
「…後藤な」
そんな時、昨日と似たようなタイミングで教室に来訪者が現れた。
「すいませ〜ん。後藤さんいらっしゃいますか?」
「あ、はい」
「は〜いどーも!△×高校新聞部突撃レポーターのおじゃっま〜るしぇ!紺野です」
でたぁ〜!!あの人突撃レポーターだったのか。
「お食事中に悪いんですけどインタビューしてもよろしいですか?」
おじゃマルシェ紺野は、後藤にいろんな質問をかましていた。
そりゃそうだ。ギャルから清純系に多少ながらいきなり変身したんだから。
「いいなぁ」
亀井がつぶやいた。
「お前もあんなふうにインタビューされてみたいのか?けっこうしんどいぞ」
「いや、僕もあんな風に突撃レポーターやってみたいなって思って」

25名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:04:57
俺と亀井は後藤からもらったパンを持って屋上に出た。
「そういや今日は吉澤見てないな」
「石川先輩と昼飯でも食ってるんじゃないの」
太陽の日差しが痛い。空気は暖かく、外にいるだけで気分がよくなってくる。
「で、お前が飯を食う気分にならなくした原因ってなんだ?」
「実はさゆとケンカしてさ。別れるかもしれない」
さゆってのは確か学年が一つ下の、亀井の彼女のことだ。Hはまだらしい。
「何やらかしたんだよ」
「ちょっとした冗談のつもりだった。今は反省している」
そう言って亀井は語り始めた。
「さゆってファンクラブの連中からけっこう人気あるんだよ。で、それを軽く誇りと
しちゃってるところがあるわけ。でも気持ち悪い話、僕もさゆ並に人気あるらしいんだわ」
「それで?」
「昨日の放課後、校内で遊んでたんだけどさ。鏡がある水道のところで、さゆが
よしっ今日も可愛い!とか言い出したんだよね。で、ついつい『でも僕の方がぶっちゃけ
男にモテてるよね』って言っちゃった」
「どんなケンカだよそれ」
「それだけじゃないんだ。そんな現場にたまたま安倍先生が来ちゃったんだよ」
「安倍先生が来るとまずいのか?」
「つい、さゆそっちのけで安倍先生に話かけちゃった」
「ダブルコンボじゃん」
「昨日から電話も出てくれないし、今朝送ったメールも返ってこないし、マジで
終わったくさい。あのファンクラブからさゆを守りきれるのは僕しかいないのに」
そんな時、亀井の携帯電話がなった。
「さゆだ!!」
すかさず出る亀井。なにやらボソボソ話をしている。
俺は考えていた。吉澤といい亀井といい、少なからずファンクラブを恐れている。
藤本と遊んでたことがおおやけになった俺は、こんなのほほんとしてていいのだろうか。

26名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:05:16
じゃあ、どうしてカラオケ言ったことがおおやけになったのだろうか。
カラオケは二人っきりで行ったし、行きも帰りも知り合いにあったりしていない。
誰かが遠くから見かけたのか。いや、俺にはそんな気の利く友達はいない。
だいたい面白がって寄ってくるようなやつばっかだ。と言っても俺、友達少ないけどorz
そうすると、言ったのは藤本しかいない。
しかも、藤本はファンクラブの連中が恐ろしいってことを知っているようだった。それでいて
俺と二人でカラオケ行ったなどと言ったんだ。
何考えてるんだよあいつ。なんだかちょっと腹が立ってきた。
「うん、じゃああとでね」
亀井の電話が終わったらしい。
「許してくれたのか?」
「おぅ、さゆのやつ、僕のこと王子様だって」
なんだそりゃ、バカかと。
「亀井、ファンクラブってどのくらい恐ろしいんだ?」
「男の僕を追っかけるぐらいの基地外集団だからねぇ。その気になったら何をしだすか
わかったもんじゃないよ。歪んだ愛情とでも言うべきか」
「そうか…」
「きみ、藤本先輩とカラオケ行ったらしいじゃん。けっこう噂になってるから気をつけた方がいいよ」
「そんなに広がってんのかよ!お前誰から聞いた?」
「さゆから」
「マジかよ…なんてこった」
「僕、藤本先輩とか見たことないんだけど。同居してるなら今度紹介してよ」
「ああ、機会があったらな…」
俺はなんだか、廊下を歩くのも怖くなってきてしまった。
できることなら、今日はずっと屋上にいたい気分だった。

27名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:05:32
「お〜い!サ・ボ・り・魔!!」
帰り道、後ろから声をかけてきたのは進化した後藤だった。
「やめてくれよ、恥ずかしいな」
「午後の授業出なかったじゃん。圭ちゃんプンプンだったよ」
「大丈夫、あの先生はやることやってりゃ成績くれるから」
「あと、リーディングのなっちも怒ってた。つーか聞いてよ!あたし授業中爆睡こいちゃったんだけど、
あの先生、ごとーの事ばーかばーかって言って起こしたんだよ」
「事実だから仕方ないんじゃない?」
「あ、それむかつく」
「そういえば、亀井が昼間のお礼言ってたぞ」
「亀井って、あの黒縁メガネの人?なんか可愛いねあの人」
「よく言われるみたいだけどな。ところでどうだったよ、変身して初日の学校は?」
おじゃマルシェにもインタビューされてたし、後藤を知ってるやつらの間ではけっこうな
激震をあたえたんじゃないだろうか。
「う〜ん、こんなもんかなって感じ。でもあたしを知ってる男子も女子も、あたしが通ると何かに驚いてる感じがしたかな」
「そっか〜そりゃよかったな」
「うん。れいなも、先輩変わったなって言ってた。でもなんかいいよって」
れいな…あぁ、後藤の後ろによくくっついてる一年のヤンキーか。
「これはもしかしたら、ファンクラブの男ども見返してやれるかもしれない」
「亜弥ちゃんを超えるか?」
「さぁ、どうだろうね。いくらあたしでもそこまで自信過剰じゃないぽ」
「そうか…えっ?ぽ?!」
「さて、今日の晩御飯何かな〜」

28名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:05:50
ファンクラブ…か。
後藤もファンクラブの連中にギャーギャー言われるようになりそうだな。
元がいいから、おそらくたやすいだろうな。
そうすると、なんだ?後藤とも二人で歩いたりできなくなるってことか。
「なんか、やだな」
「ん、何が?」
「あっいや、なんでもね」
いかんいかん、思わず口に出してしまった。
亜弥ちゃんの彼氏も大変だ。ファンクラブの連中に感づかれないように
付き合ってるんだもんな。きっと、そんなファンクラブの連中のこと糞食らえと
思っているに違いない。
「きみ、そんな怖い顔もできたんだね。どうしたの?」
「ファンクラブのこと考えてた。どんなやつらなのかなって」
「そうだねぇ〜ごとーも詳しいことは知らないけど…そういえばこんな話を聞いたことあるよ」
「なに?」
「四組にいるののって子、わかる?」
「あぁ〜、あれだろ。ぼんちちって子とよく一緒にいる」
「あいぼんね。その、ののの彼氏がファンクラブに素性知れちゃったことがあってね。
その彼氏が廊下歩いてる時、ある生徒がいきなり液体をかけたの」
「きたね…液体ってなんの?」
「それはわからない。しかも液体かけた本人は液体飲んで保健室に運び込まれたらしいよ」
…俺の学校ってそんなとこだったっけ?
とにかく、ファンクラブってのがいかに危険なやつらかわかった。それをわかっていながら、
藤本は俺とカラオケ行ったなどと誰かにほざいたわけか。

29名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:06:10
「どうした?眉間に皺なんか寄せちゃって」
「俺にもいろいろ悩みとかあるんですよ」
「きみ、亜弥ちゃん以外のことで悩んだりするんだ」
「ほっとけ」
「ごとーが悩み聞いてあげようか」
「え、相談に乗ってくれるのか?」
意外なものだ。俺には後藤は人の悩みとか相談に乗るような女には見えなかった。
「まぁ昨日のお礼というか。とりあえずちょっとすわろ」
俺らは、いつも通る河原沿いにある丸太のベンチに腰掛けた。
そういえば、この間亜弥ちゃんのことでショック受けて藤本に慰められた時もこのベンチに
座ったな。で、確かあの辺にトボトボ歩いてる後藤を見つけて、藤本と後藤のところまで
追いかけっこしたんだ…負けてジュースおごったな。
俺は藤本とカラオケ行ったことと、それがファンクラブの連中に知れ渡ってしまったこと、
そして今、無性に藤本にイライラしてることを語った。
「…というわけよ。後藤はどう思…っておい寝るなよ」
「んぁ。はは、ジョークジョーク」
嘘だ。今明らかにカクンカクンうたた寝してた。
「まぁ、そんな心配しなくても大丈夫だと思うよー。ミキティが人気あるっつっても、
ファンクラブのみんながみんなミキティのファンってわけじゃないだろうし」
「そういうもんか。でも、だからって俺とカラオケ言ったなんて誰彼に言う必要なくないか?」
「ミキティだって、いくら先輩とはいえ女の子だよ。この間何してたの〜とか友達に聞かれたり
したら、そういう話になるもんじゃないかなー」
へぇ…。そう呟いたときだ。
俺は俯いて話をしていたので、その時後藤の表情が変わっていることに気づかなかった。
砂利道をジャリッジャリッと闊歩してきた二人組に気づいたのも、そいつらが
俺らの前で立ち止まった時だった。

30名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:06:31
「おい」
二人組みの黒髪で頭ツンツンさせてる学ランの男が言った。
やべ、からまれた…orz
「お前真希じゃねー?久しぶりじゃん」
「え、あぁ…うん」
後藤の知り合い?制服が違うから他校の生徒っぽいけど…知り合いなら後藤が
目を泳がす意味がわからない。
「なになに?こいつが噂の後藤真希?」
黒髪学ランの隣にいる、金髪赤ジャージが後藤を見てヘラヘラ笑った。
「そうそう。つーかお前何その髪の色」
「別に」
「いやマジおかしいから。何でそんな綺麗めな格好してんの」
「いいじゃん」
「これから俺らカラオケ行くんだけどよ、真希も来いよ」
「行かないし」
なんか、後藤この人たちと話してんのすごく嫌そうだな。
「意味わかんねぇ、お前は強制参加だから」
「そんなのいきなり言われたって無理だし」
なんか険悪なムードになってきているわけだが…早くどっか行ってくんねーかなこの人たち。
チラッと黒髪学ランのやつを見上げたとき、ジャストタイミングで目が合っってしまった。

31名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:07:03
からまれるか…と思いきや、そいつはすぐに後藤に目を戻した。
「ど〜せバイトもしてねーんだろ。行くぞ」
「え、だから行かないって言ってんじゃん」
「は?」
「もうそういう遊びはしないから」
そういう遊び…?俺には深い意味はわからないが、とにかくその一言が黒髪の
態度を変えさせたことには間違いない。
「てめーそのカッコといい、なに大人ぶってんだよ」
「別に…大人ぶる気も意地を張る気もないの」
「つーかそこに座ってるやつ、彼氏じゃね?」
金髪赤ジャージがタバコを持った手で俺を指す。あぁ、余計なことを…
「真希、そうなのか?」
なわけないだろ、頼むから早く去ってくれ。
「そうだよ」
うんそうだな…って違うだろおい。
「はぁ〜?お前ホント趣味悪くなったな。こいつ弱そ〜」
黒髪が俺を覗き込んでくる。まさか標的俺に変わったんじゃないだろうか?
「おい、真希連れて行くけど、いいよな?」

32名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:07:28
さて、どうするか。
とりあえず「ドゾー」と後藤を渡して、歩き出したところを後ろから超電子ドリルキックで
しとめて、怯んだところで後藤を連れて全力ダッシュするか。
いや、ちょっと卑怯だな。それじゃ助けても後藤に嫌われる恐れがある。
やはり正々堂々といくしかないのか。
「おいどうなんだよ!」
黒髪に怒鳴られてビクッとする俺。いやマジで怖いんですけど。

なにが君の幸せ?
何をして喜ぶ?
「はは、こいつびびってら。後藤行くぞ」
「…」
わからないまま終わる。
そんなのは…
「イヤだ!」

俺は半ばヤケクソだった。黒髪に思いっきりタックルをかましたのだ。
「いって!てめ何すんだよ!!」
尻餅をついた黒髪が怒鳴る。金髪は軽く驚いたようだが、すぐ俺を睨みつけ始めた。
「後藤はなぁ!いま自分から変わろうとしてんだよ!!自分のスタイル捨ててまでして
良くなろうとしてんだよ!お前らなんかに邪魔されてたまるか!!」
たぶん、俺の人生の中でこれが一番カッコよかった瞬間になるだろう。
「マジてめーぶっとばす」
黒髪が立ち上がった。確か、何かで読んだことがある。
『相手が拳を振り上げた瞬間がチャンスだ。腰の捻りで右の拳を叩き込み、ひるんだところで
黄金の左ストレートを繰り出す』
今こそ試すときだ。
黒髪が拳を振り上げた。よし腰の捻りを使って…
「へぶしっ!!」
まともに顔面に右ストレートをもらい、俺はふっとんだ。

33名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:07:46
畜生、あの本嘘つきじゃねーかよ。相手が振り上げたときにはもう間に合わないじゃないか。
ぐあー左の頬が痛い。
しかし俺が痛がる暇もなく、黒髪は俺の肩をつかんで起こし、腹に膝蹴りをくれた。
「おぇっ…」
食らった瞬間、俺を見て笑う金髪と、黙ってこちらを見る後藤が見えた。
俺、かっこわりー…
力なく砂利の上に倒れる。で、気を抜いてたら横になってる俺の腹にもう一発蹴りが
入ったもんだからたまらない。
「もうやめて!」
後藤が叫んだ。
その時だ。見慣れた自転車が俺らが乱闘してる(一方的にやられてるけど)場に止まったのだ。
「おーおー、君ら何してんの?」
「か、亀井…」
なんでこいつがここに…?
「なんだてめーは」
「おい、こいつマジ女みてーな顔してねぇ?」
黒髪と金髪が亀井の顔を見て中傷し始める。
「失礼な。これでも僕はれっきとした男の子ですよ?」
亀井は自転車を降りると、黒髪に言った。
「亀井…っ、お前こんなとこでなにを」
「さゆが今日アルバイトで暇だから、藤本先輩でも見せてもらおうかと思って」
くだらねぇ…くだらねぇけどマジで救世主だ。

34名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:08:11
「で、お前なんなの?」
黒髪が亀井に呆れたように言った。
「僕?こいつの友達だよ」
「これ俺らの問題だからどっか行ってくんねーかな。目障りだから」
「なんで見ず知らずのきみにそんな事言われなきゃなんないの?」
「は?おめーさっきからしゃしゃってんじゃねーぞ、こら」
亀井の舐めた口調にしびれを切らしたのか、黒髪は亀井に近づいていった。
なんかよくわからんけどラウンド2が始まりそうな気がした。
「お、やるの?僕はこれでも元陸上おぅぇ」
言い終わる前に、腹にパンチをもらった亀井は力なく膝を突いて咳き込んだ。そして
「げほ」
と言った。弱い、弱すぎる。
「もうどうでもいいわ。てめーら次俺の目に入るとこ来たらただじゃおかねーから」
そう言って砂利を乱暴に蹴り散らし、黒髪と金髪はそのまま歩いて行ってしまった。

35名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:08:28
「亀井、生きてるか」
「…きみは?」
「できることなら死んだ方がマシの領域」
「ってかマジで腹苦しい。きみん家で横になりたい」
はは、丁度いい。うちにくる口実できたな…なんて冗談いう気力はもはやない。
「後藤、大丈夫?」
後藤は立ったまま何も答えない。ただ、こちらをじーっと見つめていた。
なんだか、睨んでるようにも見えた。
「…後藤?」
「ごめん。あたし喧嘩する人って大嫌いなんだよね」
「は?」
「先帰る」
え、えっ?何言ってるんだよあいつ。後藤の態度には、俺だけではなく亀井も
意味わかんねー的な表情をしている。
そんなバカな。これが最良の選択肢だったはずだ。なのに、後藤は怒っている。
やっと打ち解けてきたと思ったのに…後藤の背中が淋しかった。

なにが君の幸せ?
なにをして喜ぶ?
わからないまま終わる
そんなのは…いやだ

36名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:08:54
マンション後松藤。ここの三階が俺の帰る家である。
亀井を連れて家に着くと、迎えてくれたのは亜弥ちゃんだった。
「おかえりなさ…うわ、二人とも砂埃すごいよ!…お兄さん、その顔どうしたの?」
「はは、転んじゃった」
「えぇっそれバカだよ〜!口の端切れてるよ」
「うん、わかってる」
「あ、隣の人は…」
「あぁ、俺とタメの友達」
「亀井先輩ですよね?」
ズバリと名前を言い当てられ、亀井は驚いているようだ。
実際俺も驚いている。紹介した記憶はないんだが…
「え、まぁ…そうですけど」
「道重さんのプリ帳で見ましたよ〜!生で見ると可愛いですね〜」
「あ〜よく言われるんですよ、あはは」
あははなんて言ってるけど、年下の女に可愛いとか言われて嬉しいのか?俺だったら凹むがな。
「亜弥ちゃん、後藤帰ってきた?」
「うん、一応帰ってきてはいるんだけど…なんかすぐ部屋閉じこもっちゃって」
「…そっか」
「あ、とりあえず家ん中入りなよ。お兄さんの部屋に紅茶持ってくから待ってて」
「おぅ、ありがとう」

37名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:09:19
部屋に入ると、亀井はブレザーを脱いで絨毯の上に寝そべりこう言った。
「まぁゆっくりしてけよ」
「お前が言うなよ」
「なんてありきたりなジョークなんだ」
「お前が言うなよ」
「きみ、後藤さんと帰ってたの?」
「お前が…あ、いや、まぁそんな感じかな」
急に話題を変えるなよ、俺はスウェットに着替えながら思った。
口の端が痛い、こりゃちょっと切れてるかもな…はぁ。
「さっきも家来る途中に聞いたけど、なんできみがキレられてんの?きみが
後藤さん助けたようなもんだろ」
「…喧嘩する人嫌いだってさ」
「はぁ〜誰が原因だよって感じだよ。でも、きみは一応あの人と一つ屋根の下に
住んでるわけだし、うまくやっていきたいんなら謝ったほうがいいんじゃない?」
「う〜ん…」

38名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:09:34
「でも、自分で反省すべき点がわかってないのに謝るって…いやそれはおかしいだろ」
「じゃあ謝らないの?」
「こんな気持ちで謝るっていっても、なんて言ったらいいのかわからんし…
下手したら口論しかねないしな」
などと俺は言っているが、実際はなんとかして後藤に許してもらいたかった。
まさか、これがきっかけであいつギャルに戻りだしたりしないだろうな。
俺の指図は受けたくないとか言い出したりして。
「きみ、後藤さんに軽く気があるだろ?」
「別にそういう感情はないけど、最近よく話すようになったのは確かだ」
そう、思えばこの間のことだ。後藤にやろうって言われてアホみたいに勃起したな。
俺の布団が寝心地いいみたいなこと言って匂いつけていくし。まるで縄張りというかなんというか。
人気者になりたいとか言いだして変身したのは昨日のことだ。
そして今日は、怒ってる。
なんだかな…前はほとんど後藤と話したりしてなかったのに、この一週間足らずで随分と
気楽に話せるようになった。まぁ、何度かオカズにしかけたこともあったけど。
後藤のこと考えてたらなんだか…いや、たぶん一種の気の迷いだ。
「紅茶遅いな。ちょっと取りにいってくる」
台所に行くと、そこには藤本がいた。めずらしくソファーの上じゃない。
「あれ?亜弥ちゃんは?」
「ん、ベランダで電話してるよ」
「ふーん…じゃまあ紅茶できたら俺の部屋に持ってきてくれ。二人前な」
「なんで美貴が。ここに来たついでにあんたが持っていってよ」
そう言って藤本はこちらをちらりと見て、眉をしかめた。
「あんた、どうしたの。その顔」
「あ〜、転んだ」
「嘘だね。喧嘩してきただろ」

39名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:09:51
「よくわかったじゃん」
「転んでその傷はありえないでしょ。殴られたようにしか見えないもん」
「まあいろいろすったもんだがあったわけよ」
「ふ〜ん、あんたが喧嘩だなんてなんか意外。あ、紅茶ストレートのまんまでいい?」
「ミルクティーでよろしく。あ、俺砂糖二つ使うから砂糖三つキボンヌ」
「だり。テーブルの上にあるから好きなだけ持っていって」
しょうがないな。俺はテーブルの上から砂糖とミルクを三つずつ取り、ポケットに突っ込んだ。
「そーいや藤本。お前俺とカラオケ行ったこと言いふらしただろ」
「は?美貴言ってないよ?」
「やめて」
「いやマジで違うから。カラオケ行ったとは友達に言ったけど、あんたの名前出してない」
「じゃあなんで事実とはいえ噂広まってんだよ」
「あたしも梨華ちゃんに言われてびっくりしたよ。てっきりあんたが言いふらしたのかと」
あれ、これはどういうことだ?俺は自分からは誰にも言ってないし、藤本以外ありえないんだが。
「こうみえてもあたし、ファンクラブのきもいやつらに追っかけられてる立場だからさ。言ったら
どうなるかくらいわかってるよ。ほら、紅茶できたよ」
そう言って藤本は、流しの三角コーナーに使い終わったティーパックを捨てた。
おかしいなぁ、じゃあ誰が…
俺が思考を巡らせていると、亜弥ちゃんがベランダから戻ってきた。
「お兄さんごめん!ちょっと今大事な人から電話きてて」
大事な人…彼氏か。でもなんだろう。今、俺は自然に現実を受け止めてるというか、
あまりショックじゃなかった。
「ていうかさ、今お兄さんと美貴タンの話ちょっと聞こえてたんだけどね」
「え?」
俺と藤本がはもり、そして亜弥ちゃんを見る。亜弥ちゃんは両手の皺と皺を合わせてこう言った。
「ホントごめん!お兄さんの名前出しちゃったのあたしかも」

40名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:10:06
ははは、なんて笑える話なんだ。
そう、そうだよ。藤本とカラオケ行ったことを当日知った人間がいたじゃないか。
靴をはいて、藤本と家を出ようとしたときに突然玄関の扉を開けて朝帰り(昼帰り?)してきた人間が。
松浦亜弥。
好きな子だったはずなのに、すっかりその存在を忘れてた。
そうだよ、俺らカラオケ行く前に第三者と会ってるんだよ…
「ちょっとちょっと。亜弥ちゃんやめてよね、そーいうの」
「美貴タンごめん。友達が、土曜日に藤本先輩が男の人と歩いてたって言い出したもんだから…
つい口が滑っちゃって」
「まったく。あたしはいいんだけど、こいつが…」
藤本が慈悲の目をこちらに向けた。
「お兄さんホントごめん。友達には言わないでって言ったんだけど…ファンクラブの
人達に変なことされてない?」
「まぁ今のとこは平気だけど」
明日はどうなるかわからない。このまま噂が自然消滅することを祈るしかないのか…
「女の美貴が言うのもなんだけど、女の噂ってすごいね。なんて膨大な範囲のネットワークなんだろ」
呑気に言ってくれるなまったく。
「ほら、紅茶冷めちゃうよ?」
「わかってるよ。そうそう藤本、亀井がいるうちに俺の部屋来て。あとででいいから」
「なんで?気まずいんだけど」
「いいから、頼んだ」
二つのカップを持って部屋に戻ろうとした俺に、亜弥ちゃんが声をかけてきた。
「お兄さんごめんね。今度プリッツおごるから」
「いいってことよ」
なんて心が広いんだ俺。自分で自分を褒めたくなった。

41名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:10:21
亀井が家に来てからすでに六時間以上が経った。
別に大した話をしていたわけでもないが、そこはやはり男友達で、たらたらと無駄な話が続いた。
二、三時間前に話した内容など、もはや覚えていない。
でも、それが楽しかった。俺はそこまで友達も多くないし、こういう時間がとても貴重なものであった。
「おーおー、もうすぐ十二時じゃん」
下まで見送ると言い家を出て、一時間も経ってしまったらしい。
立ち話で一時間か…そりゃ足が疲れてるわけだ。
「そろそろ帰るか?」
「そうだね、明日も学校あるし」
亀井は自転車のスタンドを足で払い、そして跨る。
「じゃまた明日。早いとこ後藤さんと仲直りしなよ」
「おぅわかってる。じゃあな」
そうしてあいつは立ちこぎで颯爽と帰っていった。

ぐうぅぅぅぅ…
「あぁ〜、腹減った」
腹の虫が鳴いている。そういえば、さっき藤本が言ってたな。
『今日はコープで買った生麺のラーメンだから、あまり遅いと作ってあげないよ』
藤本が起きてた気配はあったけど、きっと作ってはくれないだろうな。
それにしても、藤本が夕食当番の日はほとんど麺類だな。今日はラーメン、この前は奇跡的に
焼肉だったけど、その前はうどんで、さらにその前はざるそばだった気がする。
あいつ、麺類以外の料理作る気ないのかよ。
家に入りリビングの扉を開けると、ジャージ姿の藤本がソファーの上で漫画を読んでいた。
もちろん、言うまでもなく俺の漫画である。

42名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:10:47
「お前も好きだな、その漫画」
「うん、なんかこれ読んでるとあたしにもスタンド出せるんじゃないかと思ってくる」
俺の漫画を面白いと思ってくれるのは嬉しいけど、部屋から大量に持っていって
山積みにするのはやめてくれないもんかなぁ。もう慣れたから言わないけどさ。
「あの亀井って子、随分可愛らしい顔してるね」
「藤本もやっぱりそう思ったか。あいつ、男のくせにファンクラブの連中に
追いかけられてるらしいぞ」
「えっマジで?なんか怖い」
「そんなことより藤本。頼みがある」
俺は床に正座して、藤本の目を見た。
「ご飯なら作らないよ」
なんだよなんだよ、漫画読んでる余裕あるならラーメンの一つや二つ作ってくれてもいいのに。
口を「へ」の字に曲げてふてくされている俺に、藤本は付け足した。
「だってもうできてるもん。ほら、そのテーブルの上に注目」
「え?」
藤本の言った方向に目をやると、どんぶりがあった。
おぉっ!親子丼ですか!?…と思ったら、具は玉ねぎと細く切った油揚げ。
玉子とじというやつだ。でも、腹が空いている今はそれでもありがたかった。
「マジ助かったわ、藤本サンキュー」
言うと同時に箸を握り、俺はガツガツと食べ始める。
「ウマー」
見た目はアレだけど、やけにうまく感じた。腹が減ってるからというのもあるだろうが、
それだけじゃない気がする。とにかく美味しい。
「これさ、言わないでって言われたことなんだけど」
唐突に藤本が話を振った。
「なに?」
「その玉子とじ、あたしが作ったんじゃないんだよね」
「え?」
頭の上に?マークを乗せる俺に、藤本は言った。
「それ作ったの、ごっちんだよ」

43名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:11:16
俺の箸を持つ手が止まる。
後藤が作ってくれた…?わざわざ俺のために?
「あんた、ごっちんと何かあった?」
「え…」
あったけど、藤本と後藤の話をするのはなんというか…恥ずかしい。
「そうか、あったのか」
何も答えていないのに、藤本は勝手に納得してしまった。
「ごっちんが、玉子とじ作ったの美貴ってことにしようとしててさ。なんか
あるな〜と思ってたんだよ」
「後藤は…なんか言ってた?」
「な〜んも」
と、藤本は右の手を振って答える。
「でも、あの子があんたにご飯作ったこと内緒にしようとするあたり、変だな〜ってね」
やっぱり、気まずいんだろうか。でも、こうやってご飯作ってくれたってことは、
もうそんなに怒ってないのかな?
「こんなことって初めてだよね。あんた達、ちょっと前までは全然話したりしてなかったのに」
「まぁ、クラスも一緒だしな」
そう言って、俺はどんぶりの中のご飯を米粒一つ残らず一気に平らげた。
「急に髪の色も大人しくなったし。なんかちょっと可愛くなったと思うよ」
「えっ、うーんそうだな」
「あんた何照れてんの?」
「バカ、照れてねーよ」
「ムキになるところが怪しい」
「はいはい、ごちそーさん」
俺はそんな藤本を無視して、流しに食器を置く。部屋に戻ろうとしたとき、藤本が言った。
「ごっちんにちゃんとお礼言うんだよ」
「わかってるよ。おやすみ」
自室に戻る前に、後藤がいる部屋の前に立った。たぶん、亜弥ちゃんもいるだろう。
でも、俺はそれでも構わない。
「後藤、玉子とじありがとうな。うまかった」
言った瞬間、あまりにも恥ずかしくなって、俺は逃げるように自室に駆け込んだ。

44名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:11:33
次の日のことだ。
結局、昨夜から今日にかけて後藤と話すことはなかった。昨日の夜食のお礼、
あいつにちゃんと聞こえていただろうか。
一応、念を押して昼休みに後藤の携帯へメールを入れた。同じ教室にいるのに
メールするのも妙な話だが、一言『玉子とじ、ありがとう』とだけ送っておいた。
返事は、きていない。
さて、何はともあれ今日の授業もこの英語でラストだ。授業終了まであと十分、
終われば楽しい放課後が待っている。
テスト前だし、寝ないで気合いれるか!と心の中で意気込んだ矢先、ポケットの
中の携帯電話がブルブルと震えた。
ここで携帯を見てしまったら、授業に集中できない。普通なら、辛抱して授業が
終わるまで見ないものであろう。でも、俺は見た。俺は意志の弱い男らしい。
相手は後藤だった。
『もう喧嘩とかしちゃヤダよ』
ちらっと後藤の席を見ると、一瞬目が合って、すぐ逸らされてしまった。
その行為に、俺はなぜかドキッっとした。

授業が終わって、後藤と話がしたいと思ったけど、なんだか照れくさくて
後藤の席まで足を運ぶことが出来なかった。

45名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:11:58
放課後である。
帰りのホームルームが終わり、教室から出て行く生徒の流れを逆流して
教室に入ってくるバカがいた。
「よぉ」
「なんだ吉澤か」
「なんだとはご挨拶だな。俺はサッカー部のウルトラマンエースだぜ?」
「わかったわかった、石川先輩と合体変身でもしててくれ。で、なんか用?」
「一緒に帰ろうぜ」
そうか、テスト期間に入ったって事は部活動はほとんど休みか。
「久々に横浜でもどうよ」
お前は勉強する気はないのかと。
「お前もなかなか能天気だな。いつも部活で勉強なんかしてないんだろ?
テスト期間中くらいまじめに机に向かいなさい」
「お前が言うか」
他愛もない会話をしながら下駄箱に向かうと、見慣れた女顔の男がこちらに向かって
つかつか歩いてくる。
「やばいやばいやばい」
「どうした亀井?」
「マジでやばい」
「もちつけ。何があった?ほら深呼吸」
吉澤が亀井をなだめる。少し間を置いたところで、亀井は言った。
「昨日のやつら、仲間連れて学校の前の坂の下にいるんだ!」

46名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:12:16
「昨日のやつら?」
吉澤には亀井の言っている意味がわからないらしいが、まぁ無理もない。
「実は昨日ちょっといろいろあってな」
俺は吉澤に昨日の有様を説明した。

「へぇ〜お前らが喧嘩するなんてな。意外や意外」
「よっすぃ、関心してる場合じゃないよ」
「相手は何人なんだ?」
俺の問いに亀井は指を三本立てる。
「三対三かぁ」
吉澤が腕組をしながら言った。
「おいおい、俺はゴメンだぞ。なんで学校帰りにリアルKOFなんかしなきゃ
ならないんだ」
「わかってるよ。俺だって昨日その現場にいなかったのに巻き込まれるなんて
ごめんだって」
「でも、もしかしたら彼らが下にいる理由、僕たちじゃないかも知れないよ?」
亀井の発言に、俺は何か危機的なものを感じた。なんだか嫌な予感が…
「後藤…か?」
「そう、後藤さんだよ。あの子、彼らの知り合いなんだろう?」
「だとしてもそいつら、次お前と亀井見たらただじゃおかねーみたいなこと
言ってたんだろ?やばいことには変わらないんじゃないか?」
まるで他人事のように吉澤は言った。しかし、言っていることは的確である。
とりあえず、あいつらを後藤と接触させるわけにはいかない。するとやはり…
「う〜ん」
「きみ、まさか後藤さんのために囮になろうとしてるんじゃ…」
なかなかするどいな、亀井。
「ぅっだーもう!うだうだ考えても仕方ないだろ。どうせ帰るには坂下らなきゃ
ならないんだぜ?」
ということは、そうすると…
「…急行突破しちゃいますか?」
三人の意志が一つになった瞬間だった。

47名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:12:34
坂を下っていく生徒を、俺ら三人は坂の上から見下ろしている。
「あれか、お前らが昨日交戦したって言う輩は」
「うん、でも昨日は黒髪と金髪だけだったんだけど」
「…昨日はあんながたいのいい奴いなかったな」
でかいやつ、見た目からしてヤンキーだとわかる。

どうやら、あれが大ボスらしい。

…絶対捕まりたくねぇ〜!骨の一本や二本、軽く折ってくれそうじゃないか。
「お前、びびってるのか?」
「そりゃそうだ。吉澤は怖くないのか?」
「そりゃ怖い。しかも俺は昨日いなかったわけだから、俺にとっては他の二人も
未知数だし。でも諺であるだろ。『大男 総身に知恵が 回りかね』って」
つまり、強くても頭はバカってことか。吉澤はさらに続けた。
「それにこんな話を聞いたことがある。ホーロー虫っていう虫がいるらしいが、
体長が2cmしかないくせに、自分の何倍もの大きさの虫を餌として向かっていく
勇敢な虫なんだと」
「つまり、でかけりゃいいってわけじゃないってことか」
「じゃあよっすぃ理論でいくと、この中で最強なのは僕ってわけだね」
もしここで『小男の 総身の知恵も 知れたもの』とか『大は小を兼ねる』なんて
言ったら、自信なくすだろうなぁ亀井。
「お前ら二人は顔割れてるからまとまって下るのは危険だな」
「じゃあ吉澤と亀井は二人で下れよ、とりあえず俺が先に行く。いざとなったら
その時はよろしく」
「おぅ、まかせとけ」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、今にも爆発しそうなほど脈を打っている
心臓を抱えて坂を下り始めた。

48名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:12:49
一歩一歩踏みしめて、坂を下っていく。ポケットに突っ込んだ手のひらには
ジトジトと汗が滲んでいた。
それにしても急行突破って言わないよな〜コレ。
坂を下っている他の生徒も、三人の不良の存在に居心地の悪そうな空気を
出しているように感じた。
このまま流れに乗っていけるか。俺はなるべく三人組から離れた所を
歩いて、決してそっちを見ないように、目の矛先を前を歩いている男子生徒の
後ろ頭に向けた。
「あいつだ」
そんな声が聞こえた。あぁ…ガッデム。いやきっと空耳だ、そうに違いない。
だがけっきょく俺は視線を三人の方へ向けてしまった。やつらは坂道を下る生徒の
流れを横断して、俺のほうにまっすぐ向かってくる。
そして、俺の前で三人が立ちふさがった。もう勘弁してくれ…orz
「おい、お前真希の彼氏なんだってな」
でかい奴が、単刀直入にそう言った。

49名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:13:11
どうして俺と後藤が付き合ってることになってるんだろう。
やっぱ昨日、後藤が出まかせで黒髪に俺のこと彼氏だとか言ったからなんだろうな。
まぁこのでかい奴がまっすぐ俺のとこに来たってことは、初めから俺に
用があってここで待ち伏せしてたんだろう。
「はい」
俺も後藤に習って出まかせを言った。出まかせというのがちょっと寂しかった。
「あ?てめー人の女に手ェ出してんじゃねーぞ」
人の女?後藤の最近別れたっていう男はこいつだったのか。
でかい奴は言うまでもなく俺より背が高く、上から俺を睨んでるようだった。
俺は俺で、強気に「はい」なんて言ったものの、びびって目を逸らし、今じゃ
うつむいてでかい奴のベルトのバックルあたりをじーっと眺めている始末である。
「お前ちょっと面かせ」
ブレザーの襟を捕まれ、強く引っ張られた。
あぁ、マジかよ。周りの生徒は俺のことチラ見するだけだし…今日は無事に
家帰れるかなぁ。なんか、また現実を素直に受け止めている俺がいる。
最近、こんなんばっかだな…
「おい待てよ。一人相手に三人とか」
「なんだおめーは」
「俺か?俺はサッカー部のスーパースター、吉澤瞳様だ」
吉澤…いざとなったら頼むとは言ったけど、お前怖くないのかよ。
親指で自分を指している吉澤の右手は小刻みに震えていた。
「いじめ、かっこ悪い」
亀井まで。お前だって昨日やられたばっかじゃん。
「おい、こいつ昨日の女顔だぜ」
「だな。やっぱ見ててイライラするわ」
金髪と黒髪がヒソヒソと話し始めた。
こんな大ピンチで危機的な状況の最中だというのに、俺は友情を感じて震えていた。

50名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:13:30
「女顔、お前次俺の前出てきたらただじゃおかねーって言ったよな」
黒髪が亀井ににじり寄った。
「今日は昨日みたいには済まさねーから」
そう言いながら、亀井の腹に一発。
「ぅおぇ…またお腹ですか」
苦悶の表情で、亀井はそのまま膝をついてしまった。
正直、本気でむかついた。
人はキレると恐怖を乗り越え痛覚も感じなくなる。
それは吉澤も同じだったらしく、鞄をそこらに放ると黒髪に掴みかかった。
「てめぇっ…!」
俺も黙って捕まれていられたくなくなり、襟を掴んでいたでかい奴の腕を
乱暴に振り払った。
しかしその瞬間、俺の頭の中にある言葉が思い出されたのだ。

『もう喧嘩とかしちゃヤダよ』

51名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:13:46
「てめーやる気か?おい」
昨日の俺ならきっと、後先構わず突っ込んで、袋叩きにあっているんだろう。
しかもそれをわかってて特攻していたと思う。今もそうしたい気分だ。
でも、俺は後藤に言われたばっかだ。ここで喧嘩をしたら、いくら相手から
しかけてきたと言っても、結果的に後藤を裏切ることになってしまう。
落ち着くんだ、俺。怒りからは本当の強さは生まれない。
明鏡止水だ。心を落ち着かせて冷静になるんだ。
「…」
「おいどーなんだよ」
俺は無言で地面に膝をつき、両手をついた。
「なにしてんだお前。土下座か?」
でかい奴の質問に、俺は答えない。
なにがきみの幸せ?それは俺なんかにはわからない。
なにをして喜ぶ?それだって検討もつかない。
でも一つ言える事は、喧嘩をしなければ後藤は怒らないんだ。
なにもわからないまま後藤との関係が終わる…そんなのはいやだ。
「すいません。こんなことしかできないっすけど許して下さい」
俺は地面におでこをつけて言った。辺りはシーンと静かになる。
「お前よ、真希とヤッたか?」
「…やってないです」
「はは、そりゃそうだよな!」
後頭部にズンと重みがきた。どうやら頭を踏まれているらしい。
「ざけんな!足どかせ」
「しゃしゃんなデブ!」
吉澤と亀井はでかい奴に臆することなく叫んだ。

52名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:15:02
「調子こいてんじゃねぇぞ」
「うぐっ!」
「ぁでっ!」
二人の呻き声が聞こえた。金髪と黒髪にやられてるんだろうと思う。
「真希とやろうとしたって無駄だぜ?あいつああ見えてガードかてぇから。
お前みたいなひょろっちいやつに股なんか広げるわけねぇよ」
「すいませんお願いがあります!」
俺はでかい奴の足を頭を持ち上げ無理やりどかし、見上げて目を合わせた。
もう状況が状況だから恐怖心も薄れていた。
「この二人は関係ないんで見逃してやって下さい」
どうせもうどうにもならないんだ。巻き込むわけにはいかない。
それに、こいつらの気持ちは十分俺には届いた。
あぁ〜ホント、俺なんていい子なんだろう。
「お前よ、自分の立場わかってるか?人の女に手ェ出して、この二人は
関係ないから見逃せ?」
「でも、後藤は別れたって」
「あぁ!?」
やべ、でかい奴キレてるっぽい。
「てめぇに意見する権利はねんだよ!かっこつけてんじゃねぇぞゴルァ!!」

それから先のことはよく覚えていない。とりあえず頭蹴られて、倒れたところで
腹にも何発か蹴りもらって、なんか足がいっぱい見えた気がする。亀井と吉澤が
でかい奴を止めに入っていたのが軽く記憶にある。
で、気がつくと安倍先生が俺の顔の前で「大丈夫?大丈夫」と言っていたのだった。

53名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:15:40
安倍先生の肩を借りて、俺は坂道を登り学校へ戻った。
荷物は吉澤が持ってくれているみたいだ。
ところが保健室まで来てみたものの、鍵が開いていない。
「あ、そういや今日は裕ちゃん休みだったな。ちょっとここで待ってて、
なっち鍵取ってくるから」
おいおいマジかよ。うちの学校は保健室の真ん前が下駄箱なので、これじゃ曝け者だ。
「テスト前だっつーのに、俺ら何してるんだろうな」
吉澤が廊下に座り込んで言った。
「僕達、停学食らうかもね」
「二人とも、マジわりぃな」
まさか奴らの狙いが俺だけだったとはな…俺は手を合わせて謝った。
「なーに、いいって事よ。俺ペプシね」
「僕ガリガリくんで」
「お前らってどうしてそう感動を薄れさせてくれるんだ?」
そうやって三人でヘラヘラ笑っていたが、俺はすぐに笑えなくなった。
後藤が向こうからやってきたのである。
どうしよう、こんな顔見られたらまた喧嘩したと思われてまた嫌われてしまう。
嫌われたらなんのためにあの猛攻に耐えたのか、この二人を巻き込んだのか
わからなくなってしまう。
俺は…

54名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:16:39
「ねぇねぇ、なんか向こうから後藤さんっぽいの来るよ!」
亀井も後藤がこちらに向かってくるのに気づいたらしい。
「きみ平気なの?喧嘩したらあの子怒るんじゃないの?」
「やばいな。ちょっと俺隠れるわ!」
俺は保健室のすぐ横の通路に身を隠した。ちょっと先へ行くと生徒指導室に
なっているのだが、今あそこから先生が出てきたらちょっと気まずいな。
だが、贅沢は言ってられない。ちょっと隠れきれてはないけど、目立ってはいないはずだ。
…そろそろ後藤が通りかかる頃だ。
「あれ、あんた何してると」
「あ、れいな。びっくりした〜後藤さんの後ろにいたのか。気がつかなかったよ」
なにやら亀井とれいなって子は知り合いらしい。後藤はれいなって子といたのか。
ってことはすぐそこに後藤がいるのか。おいおい早く追っ払ってくれよ。
「どうしたん?ずいぶん服装乱れてるけど。喧嘩?」
ギクリ!!
「はは、れいなじゃないんだから」
「なんというとや」
「ちょっと体育館でバスケしててね。したらよっすぃの顔面にボールぶつけちゃってさ。
したら腫れてきちゃったから、保健室きたんだ」
「ふ〜ん気ぃつけんと。じゃあまた明日ね。あ、今日メールするから。真希さん行こ」
ナイス、ナイスだぞ亀井。
「お〜い、出てきても平気だぞ」
しばらくしてから吉澤に呼ばれ、俺は挙動不審に通路から出る。
「大丈夫だよ。もう後藤行っちゃったから」
「そうか…いやなんかいろいろ悪い」
「あ、安倍先生来たよ!!」
さっき後藤が歩いてきた方から安倍先生がノコノコと歩いてくる。うん、ちょっと可愛いな。
でも、中澤先生がいないとなると誰が手当てしてくれんだろう。
なんだか嫌な予感がした。

55名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:17:04
「ったくなんなんだよ」
吉澤、亀井と別れてから、俺は一人愚痴っていた。
「あの人ヤブじゃねえかよ」
安倍先生の手当ては、それはそれはひどいもんだった。
擦り傷にはマキロンを二、三発ふってくるし、傷口に絆創膏貼る時だって、傷より
ちょっと小さいの貼ってから「あ、間違えた」とか言ってベリッと剥がしてくれるんだもんな。
まぁ今回は顔よりもボディの方が痛いな。なにせ蹴られまくったわけだから。保健室でも
脱いで見たけど、けっこう背中に青痰があったわけで。
いつもの河原沿いを歩いていると、丸太のベンチにうちの高校の男子生徒が
座っていた。ここら辺でうちの高校の生徒を見かけるなんて珍しいな。
俺は背中のズキズキする痛みを気にしながら、そいつの前を通り過ぎる。
「あのすいません」
そいつは急に立ち上がって言った。
「え…俺?」
どうも辺りには俺以外いないようだ。
「はい。あの、さっき不良にやられてるところを先生に伝えにいった者です」
へぇ〜そうだったのか。じゃあこの人が安倍先生を呼んできてくれたんだな。
でも、なんであんな現場に安倍先生なんか呼んだんだ?
もっと強そうな先生いただろうに…保田先生とか。
「そうだったのかぁ、ありがとう」
一応お礼は言っておいた。
「いえいえ、お怪我は大丈夫ですか?」
「まぁなんとか。あの…何か俺に用ですか?」
そのセリフを聞くなり、そいつは河原から見えるマンション後松藤を指差した。
「あの、何か?」
「きみ、藤本美貴や松浦亜弥と一緒に住んでるだろう」

56名無し募集中。。。:2005/05/01(日) 13:17:22
帰宅すると、藤本がいつものようにソファーに寝そべっていた。
「おかえり」
「たらいま。なんかさ、俺帰ってくるといつもお前いるけど、なんもすることないの?」
「だって、テスト前だからバイト休みもらってんもん」
そのわりには机に向かってる姿見たことないけどな。
「後藤は?」
「まだ帰ってきてないよ。亜弥ちゃんも友達と勉強して帰るってさ」
「ふ〜ん。あのさ、藤本まだここにいる?」
「いるけど、なんで?」
「いや、いるならいいんだ」
そう言うと俺はリビングを後にし、自分の部屋へ戻った。
鞄を適当に放り、制服からスウェットに着替え、ズキズキする背中の痛みを
気にしながら、俺は絨毯に横になる。
さて、えらいことになったな…

『きみ、藤本美貴や松浦亜弥と一緒に住んでるだろう』
『えっ?』
『誤魔化そうとしても無駄だからね。悪いけど、ここ数日間あのマンションの向かいの
建物から君たちが同じ部屋に帰っていくのを確認させてもらったから』
『…どうしてそんなことを?』
『そんなこときみが知る必要ないから。まさかきみのような男が学園のアイドルたちと
同居してるなんてな。正直ショックだったよ。でも、これがみんなにバレたらどうなるだろうね』
『は?』
『きみには僕に借りがあるわけだから。まぁ、見つけたのが僕で本当にきみは幸運だったと思うよ』
『何が言いたい?』
『僕の頼み、聞いてくれるね。いやなら断ってくれてもどうぞ。きみが学校にいられなくなる
だけだから』

ホント、えらいことになったもんだ…


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板