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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部

1 ◆YF//rpC0lk:2017/12/27(水) 20:28:42 ID:gcTLuMsI0
【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお、小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。
また、本企画は荒木飛呂彦先生並びに上海アリス幻楽団様とは一切関係ありません。

過去スレ
第一部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
第二部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1379761536/
第三部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1389592550/
第四部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1399696166/
第五部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1409757339/
第六部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1432988807/
第七部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1472817505/

まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16334/

548夢見るさだめ ◆753g193UYk:2019/03/27(水) 18:19:30 ID:1qUWgLbM0
 


「フン……、まずはひとりか」

 ジョースター邸の食堂の隣室に設えられたベッドに少女としての体で浅く腰かけながら、ディアボロはぽつりと呟いた。
 迷宮のような地下通路を彷徨い歩くうちに、ディアボロはちょうどエシディシが梯子を登って地上に出ていく瞬間を見かけた。それはディアボロにとって、新たな標的だった。
 エシディシに追随するかたちで地下からジョースター邸へと乗り込んだディアボロは、魔法使いとエシディシによる凄絶な戦いの顛末を、この部屋から壁抜けののみで見届けた。尤も、ずっと覗いているとこちらの存在に気取られる可能性があったので、部分的に覗き見ただけに過ぎない。
 わかったのは、エシディシが魔法使いの女に仕留められたこと。それから、仲間にはなんらかのスタンドを使う男がひとりと、十字架の弾幕を展開する女がひとり、それから能力不明の女がひとり。魔法使い含めて、計四人ということだ。
 ひとまず、気絶している魔法使いの女は後回しにして、ディアボロは殺せるやつから殺すことにした。
 エシディシに勝利し気が緩みきっている瞬間を狙って、壁抜けののみで壁に穴を開けたディアボロは、ホールにあった女神像から拝借した水差しをキングクリムゾンに構えさせ、そして、――時を吹き飛ばした。

 あまりにも容易い殺人だった。
 標的となったのは、一番無防備に心臓部をこちらに向けていた十字架の女だ。
 如何な弾幕を繰り出せる女とはいえ、時の飛んでいる間に急迫した凶器を食い止める術はない。キングクリムゾンの能力が解除され、水差しが女の胸に突き刺さるのを見届けると同時、壁に空いた穴は渦を描きながら閉じられていった。

「残りふたりも確実に『始末』したいところだが……、やつらはいったいどんな能力を使うのだ」

 それ次第では、挑み方を変える必要がある。
 もう一度、ディアボロは壁抜けののみで部屋の壁をつついた。小さく穿たれた穴は、そこから螺旋を描きながら巨大化してゆく。ディアボロの視界を確保するに足る大きさまで拡大したところで、ディアボロの意思に従い、穴の拡大は止まった。
 そっとのぞき穴に視線をやる。

「――なッ……なにィィ!?」

 思わずディアボロは声を上げ、壁抜けののみを取り落とした。空いていた穴も、開いた時とは逆方向に渦を巻きながら閉じられてゆく。
 見間違いでなければ、ディアボロが穴の向こうに見咎めたのは、特徴的な黄金の頭髪の男と、ディアボロに恐怖を刻み込んだ黄金のスタンドだった。

「ジョ……ジョルノ・ジョバァーナと……『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』……だとォォ!?」

 見間違いでなければ、魔法使いを抱き抱える男のそばに、ジョルノ・ジョバァーナと、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの姿が確認できた。思えば最後にジョルノの姿を見てからそれなりに時間も経過しているが、やつはこのジョースター邸に移動していたのだろうか。
 もしもジョルノがレクイエムを使用できる状態で隣室にいるとするなら、ディアボロにとってこれは非常にまずい事態といえる。

「いや……違うッ! あれがオレの『恐怖』というのならば……乗り越える必要がある! これは『試練』だ……!」

 そこで思いとどまったディアボロは、眦を決し、独りごちた。
 ここで再びレクイエムに背を向け逃げ出すことは、帝王としてのプライドに反することだ。許されない。絶対にあってはならない。今度出くわすことがあったとしたなら、それは確実に息の根を止める時だ。逃げる時ではない。
 殺意に満ちた瞳に決意の炎を再燃させて、ディアボロは再度闘志を燃やす。

「そうだ……どうせ全員殺すことには変わらないのだ」

 己自身に言い聞かせる。
 隣室にいるのがジョルノであろうとそうでなかろうと、ここで絶対に始末する。おそらく、不意打ちで仕留められるのはひとりが限度だろう。残りのふたりは、不意打ちが難しいなら正面から叩き潰す必要がある。
 キングクリムゾンならば、勝てる。そういう確信があった。

「だが……勝負は外のやつらがこの館に入館するまでだ。流石に多勢に無勢では分が悪いからな……それまでに必ず『始末』してやるぞ」

 肌にじわりと汗がにじむ。熱い思いが、胸の中で滾っている。
 この思いと願いを実現させるための力は、この手の中にある。
 壁抜けののみを拾い上げたディアボロは、殺意の衝動に突き動かされるまま、決然と立ち上がった。

549夢見るさだめ ◆753g193UYk:2019/03/27(水) 18:20:04 ID:1qUWgLbM0
 

【C-3 ジョースター邸 食堂の隣室/午後】

【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:爆弾解除成功、トリッシュの肉体、体力消費(中)、精神消費(中)、腹部貫通(治療済み)、酷い頭痛と平衡感覚の不調、スズラン毒を無毒化
[装備]:壁抜けののみ
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、トリッシュの物で、武器ではない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:隣室にいるのが誰であろうと関係ない。全員殺す。
2:爆弾解除成功。新たな『自分』として、ゲーム優勝を狙う。
3:ドッピオを除く、全ての参加者を殺す。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
 また、未来を視る『エピタフ』の能力はドッピオに渡されました。
※トリッシュの肉体を手に入れました。その影響は後の書き手さんにお任せしますが、スパイス・ガールは使えません。
※要所要所でエシディシとパチュリーの戦いを見て状況の確認だけしていましたが、エシディシの腕が吹き飛ばされる瞬間は見逃したため、吉良吉影のスタンド能力については確認していません。
※一度壁を閉じて視界から外した状態から隣室を確認したため、ぬえの能力によってジョルノ・ジョバァーナとゴールド・エクスペリエンス・レクイエムに誤認しています。近寄ったり直接戦ったりすると、すぐに正体不明の種は効果を失うものと思われます。
 

【C-3 ジョースター邸 食堂/午後】

【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:環境によって妖力低下中、精神疲労(小)、喉に裂傷、濡れている
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:正体不明の敵を見付け出して叩く。正体不明でビビらせるのはこっちだ!
2:そもそも吉良は本当に殺す必要があるのか疑問。集団を守るためなら戦ってくれるし、当面放置でいいのでは……
3:むしろ今最優先で始末すべきは『岸辺露伴』。記憶を読まれるわけにはいかない。
4:皆を裏切って自分だけ生き残る?
[備考]
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※妖怪という存在の特性上、この殺し合い自体がそもそも妖怪にとって不利な条件下である可能性に思い至りました。
※現状、妖怪『鵺』としての特性を潰されたも同然であるという事実に気付き、己の妖力の低下に気付きました。しかし、エシディシとディアボロに対する能力行使により、低下はいったん止まっています。

550夢見るさだめ ◆753g193UYk:2019/03/27(水) 18:20:41 ID:1qUWgLbM0
 
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:喉に裂傷、鉄分不足、濡れている
[装備]:スタンガン
[道具]:ココジャンボ@ジョジョ第5部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:我々は攻撃を受けているッ! いったいどこからだ!?
2:パチュリーは守る。絶対にだ。死なれると後々困るからな……
3:自分の『居場所』を守るため、エシディシの仲間は『始末』する必要がある。
4:封獣ぬえは『味方』たりえるのか? 今は保留。
5:この吉良吉影が思うに「鍵」は一つあれば十分ではないだろうか。
6:東方仗助とはとりあえず休戦? だが岸辺露伴はムカっぱらが立つ。始末したい。
7:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが……
8:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
 ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※パチュリーにはストレスを感じていません。むしろ、パチュリーを傷付けられることに『嫌悪感』を覚えている自分がいることに気付きました。
※藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。

【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:睡眠中、疲労(大)、魔力消費(大)、カーズの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の深夜後に毒で死ぬ)、服の胸部分に穴、服があちこち焼けている
[装備]:霧雨魔理沙の箒
[道具]:ティーセット、基本支給品、考察メモ、広瀬康一の生首(冷凍処理済み)
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
0:エシディシを撃破したことによる達成感。
1:起きたら夢美に礼を言う。それからカーズ打倒について話し合う。
2:レミィの為に温かい紅茶を淹れる。
3:射命丸文と火焔猫燐に出会ったら、あの死の真相を確かめる。
4:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
5:ぬえに対しちょっとした不信感。
6:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
7:妹紅への警戒。彼女については報告する。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けますが、ぬえに対しては効きません。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
 ラスボスは可能性世界の岡崎夢美である。
※藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。
※考察メモに爆弾に関する以下の考察が追加されました。
 死亡後の参加者の脳内からは、一切の爆発物・魔力の類は検出されなかった。
 よって、爆弾は参加者の生命力が途切れた時点で解呪される術式である可能性が高い。
 単純な術式で管理されたものであるなら、死を偽装できれば爆弾解除できる可能性アリ。

551夢見るさだめ ◆753g193UYk:2019/03/27(水) 18:21:27 ID:1qUWgLbM0
 



 パチュリー・ノーレッジの意識は混濁していた。
 自分が今どこにいるのか、今までなにをしていたのか、頭が上手く回らず思い出せない。けれども、無理をして考える必要もない気がしたので、パチュリーはそれ以上考えることはしなかった。ただ、ひどく疲れていることだけは、確かだった。
 淡い光が降り注ぐ中、あたたかいぬるま湯の中を漂っているような感覚の中、パチュリーはぼんやりと空を見上げていた。

 ――ごきげんよう、ひょっとして起こしてしまったかしら?

 よく聞き慣れた女の声が聞こえたような気がした。それがひどく煩わしく思えたので、パチュリーはあからさまに眉根を寄せて不快感を現しつつ、応えた。

「見てわからない。寝てるのよ、起こさないでくれる、夢美」

 パチュリーは今、エシディシとの戦いを終えて、ひどく疲れているのだ。もうしばらくそっとしておいて欲しい。くだらない理由で起こされたくはなかった。
 意識が、混濁している。ここまで起こった事実を断片的に思い出したり、遥か昔の出来事を昨日のことのように思い出したり、記憶が安定しない。

 ――ごめんね、ありがとう、パチェ。私、もう行かなきゃ。

 この場所で既に嫌というほど聞き慣れた女の声が、空から降り注ぐ。あの女にしては、優しく、どこか儚さを感じさせる音色だった。
 薄目のまま空を見上げていたパチュリーは、なんとなく、声の聞こえた方向へ向かって手を伸ばした。けれども、その手がなにかを掴むことはない。再び脱力し、腕をおろす。今は難しいことは考えなくても構わないと、そう思えた。
 起きたら、どうせ忘れている。
 だから、目が覚めたら、また夢美と色々な話をしよう。
 パチュリーは穏やかな感情のまま、今と昔が混濁する記憶の海の中へと、その意識を深く沈めていった。
 

 
【エシディシ@第2部 戦闘潮流】死亡
【岡崎夢美@東方夢時空】死亡
【残り 45/90】

552 ◆753g193UYk:2019/03/27(水) 18:28:41 ID:1qUWgLbM0
投下終了です。

553名無しさん:2019/03/29(金) 19:41:01 ID:tobLTWxw0
遂に柱が一つ折れたか
まあアルティメットシィングもマグマに落ちたら死にそうだったし多少はね

554名無しさん:2019/03/30(土) 16:39:25 ID:oXEp3pcA0
投下乙
夢美が最後までパチュリーのことを想って逝ったのが涙腺に来る

555名無しさん:2019/03/30(土) 16:49:18 ID:JZ82XAMM0
あれ?解毒剤どこいった?

556名無しさん:2019/04/30(火) 23:59:19 ID:yQjJy0W.0
令和になってもみんな頑張りましょう!お疲れさまでした!

557名無しさん:2019/05/01(水) 01:03:59 ID:9NXN9u6c0
そんな下らない事でageるとか俺を舐めてんのかこのド低脳がァーーっ!

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561名無しさん:2019/07/23(火) 11:48:11 ID:jqxUjP520
更新マダァー?

562名無しさん:2019/07/23(火) 17:01:22 ID:IMnbVT160
自分で書け

563名無しさん:2019/07/23(火) 19:58:28 ID:jqxUjP520
>>562
テクニックをおせーて!

564名無しさん:2019/07/23(火) 23:25:27 ID:OHWVO3ew0
予約来たと思ったら違うのか

565名無しさん:2019/07/24(水) 14:23:13 ID:18m3xVGo0
前々から変なレスでageてるのが居るけど同じ人?

566名無しさん:2019/07/24(水) 14:56:55 ID:kx5EWPdE0
企画主がサボってるからこんなのしか残らなくなったんだろ

567名無しさん:2019/08/03(土) 14:05:51 ID:4whQH8mk0
人が全然残ってないからageているのが
分からんのかここの連中は
ていうかいっそのこと打ちきり宣言
出した方がいいんじゃあないか?
このペースでは20年かかっても完結せぬわ

568名無しさん:2019/08/03(土) 16:09:19 ID:Wv2hjJp20
そういう余計な事する暇人の荒らし君は帰って、どうぞ

569名無しさん:2019/09/22(日) 02:53:04 ID:TSceRPlw0
待機

570名無しさん:2019/09/23(月) 23:22:53 ID:2N2hmfgQ0
こういうパロロワってみんなその作品全て知ってることが前提なの?
いくつか知らないのがあるんだけど…

571名無しさん:2019/09/23(月) 23:47:54 ID:AEdtiTlk0
暇人の荒らしは消えて、どうぞ

572名無しさん:2019/09/29(日) 15:22:12 ID:NxB7oA7A0
最後の投下から半年……か
ホモガキの荒らしはこれにどう答えるの?

573名無しさん:2019/09/29(日) 16:49:04 ID:CGJNbHGA0
予約来たと思ったらまたおかしいのが騒いでるだけかよ

574名無しさん:2019/10/27(日) 11:30:30 ID:UK2ouP9U0
age

575名無しさん:2019/11/04(月) 15:58:50 ID:qHHufXaI0
こうなったら……

576名無しさん:2019/11/04(月) 19:37:33 ID:0BDn5fsE0
>>575
なにが始まるんです?

577名無しさん:2019/11/24(日) 15:43:24 ID:/btArFh60
age

578名無しさん:2019/12/31(火) 23:59:00 ID:uCM0DZNw0
今年は大して進みませんでしたね…来年は頑張りましょう!

579 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:22:41 ID:fqyYqXkU0
投下します

580 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:24:20 ID:fqyYqXkU0
 四人が到着すれば、一番槍はその槍ともいえるヘアースタイルからか、仗助が動く。
 向かう仗助へと、傘を投げ捨てると同時に羽を羽ばたかせ、レミリアも肉薄する。

「ドラァ!」

 降り注ぐ雨粒を弾き飛ばしながら、クレイジー・ダイヤモンドの高速のジャブ。
 弾丸のような素早い一撃だが、対するレミリアは、スタンドを観察するかのような余裕の態度で躱す。
 続けて掛け声とともに、雨粒を吹き飛ばす勢いの拳を続けるが、すんでのところで避けられる。

「ブチャラティと同じタイプのスタンドね。
 当たれば致命傷、速度も十分。だけど───」

 無数に飛び交う拳を、舞台のプリマのように踊りながら回避。
 スペルカードルールの闘いにおいても、彼女はそういう技を使い慣れており、
 拳の当たるギリギリの距離を、さながらグレイズするように躱す。
 これが点数で競う戦いならば、さぞ高評価になっているだろう。

「万全ならまだしも、負傷したせいで鈍いわよ。
 スピードがない弾幕は、代わりに密度で補ったら?」

 仗助は生身の人間の上に、負傷も決して無視できるものではない。
 どうあっても全力からは程遠い状態、雨による体温低下も少なからずあるはずだ。
 では対するレミリアはどうか。負傷はあれど、エシディシの指を喰ったことで回復し、
 現時点の負傷はこの舞台においても、上から数えられるぐらいの軽傷に留まっている。
 覆しようのない、人間と吸血鬼の回復速度の差だ。

「へぇ〜〜〜じゃあ一つ、この仗助君なりの弾幕を見せてやりますよ!」

「! 貴方、今仗助って───」

「ドララララララララララァ!!!」

 敵から教えられるのは癪ではあるものの、
 試しに一発一発の速度ではなく、密度を優先する。
 爆弾を解体する爆弾処理班のように、繊細な動きで避けていたレミリアだが、

(負傷してる割に、精密で無駄がない。)

 スタンドの情報を得たり、見学できるほどの余裕は余りなかった。
 だから、細かい動きをするスタンドには少々、度肝を抜かれる。
 実際、精密動作性はブチャラティのスティッキー・フィンガーズよりも上だ。
 襲い掛かる拳の弾幕に隙間などない。グレイズ不可能の、拳と言う名の壁。
 ひらひらと避けることはできず、素早く空を舞いながら後退し、
 スタンドの射程距離から離れる。

「おっと。」

 着地する寸前、肌で感じ取れる程の熱気と、水が蒸発する音。
 いつの間にか背後へ回り込んでいた、燐の炎をまとった火炎車。
 タイミングをずらすかのように軽く羽ばたいて滞空し、難なく回避。

「やっぱ、雨だとばれるよね……!」

 あれだけ水蒸気をまき散らしていては、
 奇襲なんてものは決まるはずがない。
 誰にだってわかる、無意味な行為だ。

「そりゃ、ね。と言う事は───」

 相手は分かった上で攻撃している。
 態々外れる攻撃に力を入れるとも思えない。
 仗助はまだ距離が取れた状態。ヴァレンタインに至っては、
 慧音と露伴の前に立って此方を見ているだけで、戦意すら感じない。
 答えは一つしかない。

「本命はお前だろうな『元』天人!」

 仗助の拳の弾幕を壁と同時に彼女を隠すためのカモフラージュ。
 空からLACKとPLACKの剣を構えた天子が、勢いよく振り下ろす。

「元を強調するんじゃあないッ!!」

 避けるのは間に合わないのもあり、一先ず防ぐ。
 剣を使い慣れた天子の大剣と言う組み合わせの威力は十分。
 しかし……

「ほー。ならその力で早くこの手を押し切るといい。」

 レミリアは剣を、片手で受け止めている。
 刃に触れて多少血が滲んでいるが、この程度怪我ですらない。
 いくら遺体のお陰で、腕はなんとかなってると言えども、
 人に堕ちてしまった天子では、仗助同様差を覆すには役者不足だ。

「グヌヌヌ……!」

 剣を気合で押し込むが、全く刃が進まない。
 空中に浮いたまま、全体重をかけても進展はしない。

「ほらどうした! 私とタメ張れる我儘のように押し通せ!」

581 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:26:47 ID:fqyYqXkU0
 完全に莫迦にされている。
 空いた手は自由でありながら煽るために手を動かすだけ。
 いつだって攻撃できるのにしないのは、舐められてると言う事だ。

「こん、のぉ!!」

 このままいても埒が明かない。
 剣を手放し、自由になった両手で弾幕を眼球を狙うように飛ばす。
 余り予期してない攻撃もあってか、受け止めた剣も捨てながら下がる。
 勝つために手段を択ばない目潰し。えらく合理的で、人間臭い手段だ。

「本当に堕ちたな『元』天人。
 一体いくつの堕落をしたらそうなる?
 一つか? 二つか? それとも、五つか?」

 それを見てレミリアは、嗤う。
 憤慨も失望もない。あるのは面白いものが見れてると言う高揚。
 天人と言う高潔な存在が、此処まで変わらせたのはいったい何か。
 すごく興味がある。クリスマスプレゼントの箱の中身が気になって仕方がない、
 見た目相応の子供のような反応ではあるが、

「ジョジョ! こいつ一発本気で殴りたいから本気で手伝いなさい!!」

 当人はキレる。ある意味普通の反応だ。
 見世物として、人間に堕ちたわけではない。
 天人ではない以上、先のような無理はしない方がいいと思い、
 なんとか今まで堪えていたが、散々煽られて我慢の限界を迎える。
 度量の大きさなんてものは、天人時代に一緒に彼方に投げ捨てた。
 剣を回収しながら仗助へ一緒に共闘するよう指示するが、

「そろそろ良いだろう、レミリア・スカーレット君。
 やる気がないのであれば、我々と話し合いに応じてもらいたいのだが。」

 黙っていた最後の乱入者が、漸く口を開く。
 威厳ある声は雨にはかき消されず、全員に届いた。
 最後の乱入者、ヴァレンタイン大統領の声が。

「なんだ、気づいていたのか。」

 先程まで悪魔らしい笑みを浮かべていたが、
 きょとんとした可愛らしい少女の顔に変わる。
 出会ってからずっと黙ったまま戦いを見ていて、
 一番何を考えてるか分からなかっただけに、
 最も話の分かる発言をするとは、余り思っていなかった。

「は? え?」

 急に止めにかかるヴァレンタインに、天子だけが困惑する。
 この状況下で話し合い。どうしたらそんな発想が来るのか。
 頭に血が上ってるのもあってか、正常な思考があまりできない。

「人間の里を瞬きの間に横切れる速度を持つ彼女が、
 三人を置いて私達の方へ向かうのは容易なはずだ。
 特にお燐君以外は負傷者。速度を制限されたとしても、
 飼い主と子犬がじゃれ合うような遊びをする理由はないだろう。」

「まあ、なんか変とは思ってたんすけど。」

 態々アドバイスするのは余裕の表れとは思ったのだが、
 スタンドにも、仗助自身にも何も仕掛けてはこなかった。
 あの拳のラッシュを避けられるなら、背後に回り込むのも難しくはないはず。
 それと、仗助には聞こえていた。ラッシュの合間に、彼女が反応したことを。
 もし、敵であれば『ああ、お前が仗助か』なんて言い方をしてくるものだが、
 先の発言は、自分が仗助であることに驚いていた。敵がそんな反応をする理由が気になる。
 いくつかの疑念も合わせ、ラッシュをよけられた時点で、戦意は殆どなくなっていた。

「お姉さんの攻撃を片手で止めたりするのに、
 あたいに一撃浴びせたり弾幕飛ばせたのにしなかったり。
 なんとなくやる気がないって感じだったよね。」

 レミリアの実力も、噂で十分聞いたことある燐も同様だ。
 攻撃を仕掛けられる場面はいくらでもあったのに、まるで相手にしてない。
 力の消費を抑えると言うよりは、手加減しているかのような。
 侮った意味での手加減と言うよりは、気遣っての手加減の印象が強い。
 身内での弾幕ごっこをやるときも、そういうことも少なくはないので、
 加減していると言う事は、すぐに理解していた。

「え? へ?」

 当然ながら、露伴と慧音も理解している。
 つまり、頭に血が上って思考を放棄してる、天子だけだ。気づいてないのは。
 頭が雨で冷えたのもあってか、だんだん違和感に気づいていく。

「……地子さん、気づいてなかったんすか?」

 この人が気づかないはずがないだろう。
 秀才な面を見せた彼女だから分かっててやってたのかと思うが、
 一人だけ置いていかれてる様子を見て、なんとなく察してしまう。

582 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:27:43 ID:fqyYqXkU0
「……プッ。堕ちたな、本当に。」

 指摘されて返せない天子に、
 レミリアから哀れみを込めた下卑た笑みが飛ぶ。
 これもまた人を莫迦にしている態度なのは間違いなく、
 額に青筋が浮かぶ。

「やっぱぶん殴らせなさい!!」

「地子さんストーップストーップ!」

 暴れだす地子を一先ず、仗助と燐が抑える。
 負傷して人に堕ちた故に、抑えることは難しくないが、

「いやジョジョ! アンタはそっち!」

 それ以上に切羽詰まった表情の天子の視線を追う。
 余りの忙しさで肝心なことに気づいていなかった。
 顔を見た瞬間、雨に紛れて滝のような汗が流れ出す。
 ……この時が来ることを、彼は覚悟していた。
 あの件があった時点で。

「何嫌そうな顔をしているんだ?
 少なくとも君とは、同じ仲間のはずだろ……東方仗助。」

 ───岸辺露伴。
 前から嫌われてるのは明言もされたのもあって理解はしている。
 けれど、今回はそんなものなど、二の次であるのは間違いない。
 お互いにある一番の共通点。

「ほら、射程距離内に入っているぞ?
 出さないのか、クレイジー・ダイヤモンド。
 それとも『今の』お前と出会って、僕が冷静でいると思っているのか?
 頭を貶されたお前よりかはマシだろうが、感情なんてものを物差しで測れると思うなよ。」

 この反応、間違いなく慧音達から聞いている。
 そりゃそうだ。露伴はこんな殺し合いに乗る性格ではない。
 命令されれば噛みつく。反抗と言う言葉が人の形を成したようなものだ。
 だったら仲間であるのは当然であり、話を聞くのも当然の権利になる。
 康一の死……納得なんて、絶対にしないであろうことも。
 自分だって納得はしない。不幸な事故で片付けていいものではない。
 納得できてない状態なのに、どう返せと言うのか。
 言葉なんて、出てくるはずがなかった。

「見れば分かる傷……戦ってきたってことだろう。
 敵と戦った形跡から、今回だけは大サービスだ。忠告はしたぞ。」

 言いたいことを言い終えると、一瞬の静寂の後に同時に飛び出す拳。
 漫画家と言えども、子供を吹っ飛ばすぐらいの威力の拳は非常に鋭い。
 なんの障害もないまま仗助の頬に直撃し、水たまりへと吹き飛ばされる。

「ちょ、ジョジョ!」

 倒れた仗助へ、燐に抑えられていた天子は抜け出して駆け寄るが、
 彼女のことなど眼中がないまま、露伴は胸ぐらをつかみ上げる。

「仗助、貴様は一体何をしていたッ!?
 スタンドに治せない制限でもかけられていたのか!?
 何が『世界一優しいスタンド』だ? ふざけるなッ!!! 
 親友を治せずして、どこが世界一優しいスタンドだと言うんだッ!!!!」

 次々と飛び交う怒号に、仗助は何も返せない。
 何をしていたのか。吉良だけに警戒し続け、他のことに気づけず悲劇を起こす。
 制限も特にない。もしかしたらあるのかもしれないが、少なくともあの場で関係はない。
 優しいスタンド、承太郎に言われたことだが、とても露伴の前では言い切れる物ではなかった。
 何一つ返すことができず、ただ静かに、歯を食いしばりながら無言を貫く。

「待ちなさい!」

 そんな二人を止めたのは、天子だ。
 露伴から強引に仗助の首根っこを掴んで、強引に引き離す。
 昔なら難なくだろうが、今の身では少しきついと思いながらも、
 表情に出すことはなく引き離すことに成功する。

「アンタがジョジョと康一の知り合いなのは分かったわ。
 言いたいことは分かるけど、仗助だって同じ気持ちよ。
 『治した』仗助が、最も認めたくなかったわ。即死だって。」

 誰が言おうとも、言い訳にしか聞こえない。
 けれども、露伴は黙って天子へと視線を向けて手は出さない。
 先ほどまで怒号を飛ばし続けた表情はそのままに、静かに。

「何よりも、仗助は私の舎弟よ。
 舎弟の不始末は、私にも責任があるわ。
 これ以上仗助を殴るって言うなら、私に半分よこしなさい!」

 腰に手を当て、仁王立ちで天子が構える。
 発言内容から遠慮なく殴れ、とでも言いたいのだろう。
 『いや、なんでそうなるんすか』と、仗助は少し唖然とした表情だ。

「……言っとくが、僕は初対面の人間をいきなり殴る性格じゃあない。
 慧音さん達の失態を、お前に対する怒りは、今はこれだけで済ませてやるよ。」

 怒りは収まったわけではない。
 露伴にとって康一は最高の親友だ。あの程度で収まれば、
 それこそ本当に親友なのかと疑われるだろう。
 かといって、天子のお陰でやめたわけでもない。
 怒りはどんなに仗助にぶつけても、彼女にぶつけても。
 決して収まるわけではないからだ。
 問題なのは、そう。

583 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:29:06 ID:fqyYqXkU0
「それよりも……慧音さん。僕の記憶、食べてますよね。」

 康一の件で叱責するとき、おかしかった。
 クソッタレの仗助がいて、その仗助がいながら親友が死んだ。
 確かに怒る要素はあるし、怒り足りないのもおかしくはない。
 しかし、足りない。もう一つ、仗助に許せないことがあった筈。
 忘れるわけがないものを忘れている。自分にとって、もっとも必要なピース。
 そのピースはどこへ行ったのか? 失くせるやつは、今の露伴が知る限りたった一人。
 ヴァレンタイン以上に、今までずっと黙っていた存在へ、視線が集まる。

「さっきから、クソ河童のにとりを思い出そうとすると、
 何故か奴が死んだ結果だけが出て、過程が出てこないんですよ。
 このパズルのピースを意図的に隠されたような能力は、僕のスタンドと同じだ。
 どこまで僕の記憶が本物か、忘れさせた理由、口か本か……どちらか選んでもらいますよ。」

 似たような能力を持ってるにしても、察しがいい。
 自力で記憶の改竄に気づける辺りは、流石露伴と言うべきか。
 そのまま気づいてほしくなかったが、それも先延ばしに過ぎない。

「……分かった、これ以上はどうしようもないか。」

 露伴の離別は免れないことになるが、
 これ以上余計なことをしたところで、
 深まるのは疑惑と溝と墓穴だけになる。
 今のうちに話す方が、まだましな結果だ。

「だが、能力の解除は待ってもらいたい。
 でなければ、君は話し合いすら応じてくれないのだから。」

「……そういわれるなら、少しぐらいは待ってあげますよ。」

 けれど、能力の解除は少し待つように先延ばしにする。
 あんな状態では、話し合いにすら応じてくれないのと、
 それまでの間に、何かしら露伴を留める手段を探すためだ。
 姑息な手でしかないが、最悪露伴が離別するとしても、
 せめて仗助達が持っている情報だけでも共有させる。
 ヘブンズ・ドアーが効かない相手が出てきてる以上、
 『記憶を見ればすぐに分かる』も通用しない可能性があるのだから。

「吉良の記憶とパチュリーとの不和、か。
 なるほど、それて改竄がばれても解除しないわけか。
 具体的な内容を知らない今の僕だから、会話が通じている……と。」

 具体的な内容は避けたが、
 消した記憶がどういうものかを軽く、
 カッチカチに凍らせたアイスクリームで、
 溶けかけた表面を軽くなぞる程度の説明をする。

「離反するか、吉良を追い出すか。
 どちらかの選択肢を迫られたが、
 今は必要以上の争いをしている場合ではない。」

「フン。この状況が既に思惑通りってわけか……全く、
 人の自由を奪っておいて、よく澄まし顔でいられたもんだ。」

 いや、お前にだけは言われたくない。
 仗助と慧音の思考が完全に一致した瞬間だ。

「んじゃあ、あの吸血鬼マジで味方なの? 敵にならないの?」

 まだ冷めぬ怒りが残っているのか。
 喧嘩を止められた小学生のように、
 レミリアを指して天子が尋ねる。

「諦めろ。ジョナサン・ジョースターと共闘もしていたし、
 殺し合いに乗ってるなら余りに回りくどすぎるし、手間も多い。」

「? ジョナサン?」

「ん? どうしたんすか、お燐さん。」

「ああいや、ブラフォードのお兄さんって、
 あたいが最初に出会った人がいたんだけど、
 その人を倒すようにと、ディオに言われたとかなんとかって。」

「え、何それ初耳なんだけど。」

「んー、承太郎って人に注意されてたし、
 出会ったときって、あたいアレだったでしょ?」

 思い返せば、情報の共有は後回しにして話してはいなかった。
 集合してから情報を共有すればいい、なんて考えをしていたのもあるが。
 そのせいと言うわけでもないが、吉良のことも二人には話せていない。

「ちょ、ちょっと待った! お燐さん承太郎さんに会ってたんすか!?」

「情報の整理がいるか……露伴先生、
 記憶は少しだけ後にしてもらえるだろうか?」

 流れはいいわけではないが、悪くもない状態だ。
 新しい情報次第で、彼をこの場に留まらせることができるかもしれない。
 正直無理な気はするが、なるべく引き伸ばして、打開策を探さないよりはましだ。
 確認を取ろうとするも、露伴はレミリアとヴァレンタインの方に視線を向けている。
 向こうの話の方に興味があるのか、今は気にしてはいないらしい。

(向こうの話に食いついてくれてるか。
 私としても都合がいいが、うやむやにはできない。
 何かないだろうか……彼が離反するのをうやむやにできる案件は。)

584 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:30:20 ID:fqyYqXkU0

 先延ばしにしたところで、結局は訪れてしまう。
 それ以前に、記憶を一度奪ったという事実の時点で、
 露伴が自分に対する印象は、とてもいいとは言えない。
 同時に、吉良を抜きにしてもパチュリーとの相性も良くはなさそうだ。
 仗助を嫌いながらもそれなりに接している様子から察するに、
 絶望的ではないが、その中途半端さが慧音の胃を削っていく。
 露伴の離別を諦めるしかないのか、吉良を倒すべきなのか。
 どちらに転んでも、ろくな結果にはならないことだけは分かった。

「……何か話があるんじゃあないの?」

 相対したレミリアを前に、
 ヴァレンタインは仗助達の方へ視線を向けている。
 淑女を前に、随分と失礼なものだと軽口をたたく。

「いや、向こうが騒がしくて、少し気になっただけだ。
 私はファニー・ヴァレンタイン。アメリカの大統領を務めているものだ。」

「不要だろうけど、礼儀として自己紹介するわ。レミリア・スカーレットよ。
 しかしまあ、幻想郷縁起の情報を鵜呑みにしてる人間も、珍しいものね。」

「どういうことだ?」

「あれ、誇張表現多いわよ。」

 妖怪とは危険なものである。
 それを知らせるためのものの本であり、
 人にとって妖怪の恐ろしさを人に伝えることで、
 関わろうとしないようにする、自己防衛の一種。
 一方で、妖怪が自己紹介や誇張をしたかったり、
 著者の阿求のさじ加減で、実際の内容とは異なるものも多い。

「ま、参考になるのは事実だし、
 元々情報がないよりはいいんじゃないの?」

 異なると言っても、あくまで誇張した表現であって、
 ある程度の基本や骨組みに関しては、事実なことも多い。
 何より、彼は幻想郷の住人ではないのだから、それが頼りでもある。
 天子と違って、小ばかにできるものではないだろう。

「情報源のなさから頼りきりだったからな。
 新たな見解を得られたのは、大きな前進だと私は思うよ。」

 古い考えだけではいられない。
 人の上に立つものであれば、その考えは至極当然である。
 そういうものを取り込まねば、先のことなど見えはしないのだから。
 いくら遺体さえあればどうとでもなると言えども、
 頼りきりでは見落とす可能性だってある。

(恐竜は……いなくなってるな。)

 ちらり、とヴァレンタインは空を見上げる。
 Dioの恐竜は、先程からいなくなっている。
 彼がやられたか、或いは少し前から突然雪へと切り替わった異常気象の影響か。
 前者はまだないだろうとは思いつつも、恐竜の姿が見えないのであれば、
 こちらとしては都合のいいことだ。

「本題に入ろう。単刀直入に尋ねるが、君は聖人の遺体を持っているな?」

 雑談を切り上げて、肝心のものを尋ねる。
 一つだけではないであろう、彼の探し求めるものを。

「遺体? ああ、もしかしてこれのこと?」

 聖人なんて大それたものを持ち運んだ覚えはないが、
 そういえばブチャラティの支給品に奇妙なのがあったことを思い出し、
 野放しにされていた眼球の方を取り出す。

「君は遺体を装備していないのか。」

「装備? これを使って攻撃ができるとは思えないが、まさか食えるの?
 悪いけど、発酵食品については納豆は好きな方だけど、乾き物はちょっとね。」

「……言わずして交渉は、今後の信用に関わる。遺体について簡単に説明しよう。」

 妖怪は人を喰らい、レミリアもまた吸血鬼であることは知ってはいたが
 流石に遺体を物理的に食うという発想をするとは、余り予想はしなかった。
 遺体を物理的に飲み込めばどうなるか分からないが、
 あるなしに関わらず、そんなことになれば後が大変だ。
 それを止める為にも、遺体の効果について軽く説明する。

「なるほど、とんでもアイテムってわけか。」

 こんな目玉がねぇ……と、二つの眼球を手のひらで軽く転がす。
 価値観を知らないと伝えてくるかのような行動で、事実その通りだ。
 疑ってるわけではないが、吸血鬼である自分が、聖人に対して喜ぶべきなのか。

「価値も理解せずに交渉すれば、それは紛れもない詐欺に当たる。
 今後の信用問題に関わる以上。その価値を知ってから、改めて交渉を願いたい。」

「随分と信用を勝ち取りたいようだが、一体何を考えている?
 『誠実』と言うよりは『不気味』だぞ。得体のしれない、妖怪らしさが出ている。」

585 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:31:32 ID:fqyYqXkU0
 妖怪、言い得て妙だと思えた。
 自分は、この殺し合いに置いても信用を大事としている。
 それは信用を失えば、取り戻すのは容易ではないし、敵対されるからだ。
 最たる例が射命丸文。ジョニィ・ジョースターと出会ったことで、交渉が決裂してしまった。
 妖怪も似たようなものだ。幻想郷縁起による情報源でしか得られてないものの、
 畏怖されることを目的としているのは、ある意味一つの『信用』と言うものになる。
 形は違えど、信用を欲するところは、妖怪と言われてもあながち間違いではないだろう。

「博麗霊夢との『約束』だよ。」

 幻想郷の重要人物との協定。
 彼にとっても大事なものであり、
 今後の幻想郷の住人との交渉で大事なものとなる。
 先ほど、天子に対しての過剰な行動も明かしておくことで、
 後で言わなかったことによる印象の悪さを、今のうちに抑えておく。

「参考までに、どんな内容のを受けて、どんな内容を断ったかは答えられる?」

「ブラフォードとは『お燐君の家族の保護』、
 博麗霊夢とは『幻想郷の住人を此方から攻撃しない』、
 承太郎、F・Fとも彼らの仲間に対して、同じ約束を執り行っている。
 射命丸文の『遺体を渡す代わりに一時的にこちら側の遺体を全て預ける』、
 これだけはどれだけ譲渡しようとも、私としては認められなかった。
 彼女を信用するだけの材料の少なさも、少なからずあったが。」

 文とのやり取りについては、細かく話す。
 現状、交渉が決裂した唯一のものであり、
 レミリアにとって交渉の基準となりうるものだ。

「……その割には、無事に見えるけど?」

 文に撃たれたと言う話ではあるが、
 どうみても五体満足、風穴一つ空いていない。
 似たような傷を持っていた仗助と比べると、明らかに健康的だ。
 D4Cの特性を知らない以上、この反応は至極当然である。

「それについては、スタンドの能力の一環だと思ってほしい。
 スタンド能力を明かすと言う事は、弱点を晒してしまうことになる。」

 こればかりは、おいそれと話すわけにはいかない。
 信用が得にくくなるが、手の内をさらすリスクを考えれば仕方のないことだ。
 レミリアもそのことは理解している。ジョナサンの波紋を受けたのがいい例である。
 手の内が分かっていれば、戦い方だって変えていく。戦闘の基本中の基本だ。

「なるほど……ん〜〜〜……では、そうだな。」

 ただ此方にとって有益な協定なだけでは物足りない。
 これ程までに大事なものならば、ハードルを上げてみようかと、
 子供のような、或いは悪魔のような考えに至る。





「露伴と慧音達の仲を取り持ってもらいたい。」

 この場で、現状誰がどうやっても解決できなさそうなものを選ぶ。
 知っている者からすれば『無理難題』とか『輝夜の難題の方がマシ』とか野次が飛ぶだろう。
 あくまで今の露伴は、吉良とパチュリーの記憶がないからこそ、かろうじて話が通じてるだけ。
 記憶があった状態では、慧音の言葉など一切届くことはない程に怒り心頭の状態だった。
 あの状態の彼と、慧音達の仲を取り持つなど、荒木と太田だって首を横に振りかねない。

「取り持つとは?」

「私が慧音を襲った原因だよ。まあ、
 威嚇程度だったけど、見事に天人が勘違いした奴。」

 無理難題と、レミリア自身も理解しており、
 自分が知っている限りの情報を提供する。
 ……流石に、康一の首を用いての実験の為に、
 露伴と距離を置こうとしていたことは黙っておいた。
 言えば、本当に露伴との完全な決裂になってしまう。

「受ければ前払いで私は中にある心臓を、
 和解させれば眼球も提供。ダメだったら別の方法で交渉……どうだ?」

「聖人の遺体の価値を知った割には、気前がよすぎるな。」

 その前の文の条件が、余りに無理があったのもあってか、
 相手が出してきた条件は、えらく二つ返事で受けられそうな、
 ごく普通のもの。しかも、ダメであれば別の手段での交渉。
 かなり譲渡された内容で、逆にヴァレンタインが訝る。
 いくらなんでも、気前がよすぎる。先とは逆転した状況だ。
 聖人の遺体の価値を知って、初対面の得体がそこまで分かってない男を、
 簡単に信じられるものだろうか? 彼でなくとも、疑問を持つだろう。

「悪魔とは気前がいい囁きをするものだよ。
 だけど、その裏にはとんでもない理不尽をかけてくる。
 事実、露伴は理屈で相手できる人物じゃあないのよ。そうでしょ?」

586 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:33:06 ID:fqyYqXkU0

 仗助達の会話よりも、此方の会話を聞き入ってる露伴に視線を向ける。
 大統領や、聖人の遺体。創作意欲が沸いてくるようなものばかりで、
 ただの情報交換よりも、彼にとってはそちらの方が有意義なことだ。
 漫画に生きている男だから、ある意味当然の帰結か。

「短い時間で、僕のことをよくわかってるじゃあないか。」

「ま、本にされた経験があるのと、貴方のファンだからね。
 それで、露伴は今記憶を慧音に食べられたから一応会話できてるだけで、
 記憶が戻れば、こんな殺人鬼と理解しないパチェといられるか、僕は出ていく!
 なんて、推理小説で単独行動して、真っ先に死ぬような奴の行動を取ろうとしてたわ。」

「性格に難あり、と言うわけか。」

「難あり? おいおいおいおい、こんな真っすぐな僕のどこに難ありなんだ?」

「悪びれることもなく言える自信があれば、
 真っすぐと言うよりは曲げられないタイプね。」

 此処までぶれない相手はそうはいないぞ。
 少し呆れながらも、これが露伴と言う男だとよくわかる。
 ヴァレンタインからしても、これは十分な難題なのはすぐに分かった。

「言っとくけど、何らかの手段で洗脳とか操るとか、
 そういう手段はなしよ。ペナルティとして心臓は返してもらうから。」

 約束を大事にする傾向があるが、
 言い換えれば約束の範囲外は守らないとも受け取れる。
 一応、そんなことにはならないように釘は刺しておく。

「ちゃんと記憶を取り戻した露伴を、皆……は吉良って人が難しそうか。
 とりあえず、パチェと慧音と露伴と私が納得できる結果で取り持ってもらう。」

 一人の男を納得させられなければ、大統領の名折れ。
 上に立つものの務めであり、同時に、試練は強敵であるほど良い。
 彼はそう思っていたのもあってか、その難題に立ち向かう。

「……分かった、君の提案を受けよう。」

「契約成立。悪魔と契約して、本当に良かったのかしら?」

 最初に出会ったときのような悪魔のような笑みを浮かべる。
 少女らしからぬ恐ろしさがどこかあり、常人なら鳥肌が立つほどだ。
 無論、その程度の事で彼が動揺するわけではないのだが。

「国の為ならば、悪魔とも契約をする覚悟は───」

 不意にジョースター低から響く爆音。
 窓ガラスがガタガタと揺れだし、今にも割れそうになる。
 実は、先ほども窓ガラスが揺れてはいたのだが、
 そのときは戦闘中もあってか、気づいたものは誰もいない。
 爆音を聞いて、会話など当然続けている余裕はない。
 特に、あの男がいるのであれば。

「まさか吉良の野郎ッ!!」

「あの殺人鬼!!」

「パチェ───!」

 真っ先に動き出したのは仗助、天子、レミリアの三名。
 仗助と天子の二人は近くの窓から突入しようと走り出し、
 その同じ窓から入ろうと、レミリアは羽を羽ばたかせ───





 何を思ったか、窓を突き破る寸前。
 壁を蹴って、その反動で自分がいた場所へと戻る。

「え? ど、どうしたんだレミリア!?」

 自分から率先して動く。
 パチュリーが関わってる可能性が高いのだから、当然だ。
 しかし、それならば今の、向かいながら戻るとは挙動がおかしい。
 なぞの挙動に仗助達も止まり、二人に遅れて動き出そうとした慧音がその行動に疑問を持つ。

「───今、私飛んだよね?」

 余りに奇妙な疑問が出てくる。
 何を言っているのか、分からない。

「何を、言ってるんだ? 飛ばなければ空を舞うはずが───」

「いや、違う。私は彼女が飛ぶ瞬間を見ていない。」

 すぐ横にいたヴァレンタインも、今の状況には、僅かながら困惑している。
 確かにレミリアは飛ぼうとしていたのは分かる。だが、あくまでしていただけで、
 レミリアがどのような経路を使って窓へ向かったのかは、一切見えなかった。

「気づけば既に彼女は窓の前にいた。露伴君、だったか。
 君もレミリアの近くにいたが、彼女の動きに気づけたか?」

「いや、気づけなかった……間近にいた僕でさえ気づけなかった、」

587 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:34:16 ID:fqyYqXkU0
 正直、スピードには自信がある露伴でさえ、
 今の彼女が何をしていたのかを見ることができない。
 彼が連載している、週刊少年ジャンプの先輩となる漫画には、
 余りに速すぎて、目に映らない速度で攻撃を仕掛ける登場人物がいたが、
 レミリアがそこまで出せるなんて話は、聞いていない。

「何か異常なことが起きてるってことよ!
 吉良が何かしてたら、ぶちのめしてやるんだから!」

 そんなことはどうでもいい。
 最終的に吉良をぶちのめせばそれでいいと言う、
 脳筋を地で行くかのように、天子は窓を開けてすぐにジョースター艇に乗り込む。
 天人時代だったらぶち破っていたかもしれないが、今の状態ではあまり無茶はできず、
 (窓から入ることはともかくとして)丁寧に入らざるを得ない。

「いや待ちなさい。一つだけ説明しなきゃいけないことがあるわ。」

 招く前に、レミリアが引き止められる。
 いい加減突入したいんだけどと訝る天子だったが、
 彼女の表情は、先程までの笑みを浮かべてはいない。
 余り余裕のない表情をしており、流石の天子も黙って話を聞く。

「この能力、私は覚えがあるわ。時間が飛ぶこの能力を。」

 キング・クリムゾン。時間を飛ばす能力。
 数時間前に出会った、ブチャラティの因縁の敵。
 その能力を、把握している範囲で話してみるも、

「あんまりわからないんだけど。」

 はっきり言って時間を飛ばすとは、分かりにくい。
 現代人ならビデオテープで例えられれば分かるのだろうが、
 あいにくと幻想郷にはまだビデオテープはない以上、どうも例えが難しい。

「ざっくばらんに言えば、不意打ちも回避もし放題って思えばいいわ。
 ……ただ、疑問なのは放送であいつ……放送で呼ばれてたはずよ。」

 何より疑問なのは、なぜあの男が生きているのか。
 あの場で倒しきれなかったが、後の放送で亡くなっていた。
 荒木達の誤認か? それとも、別人が似た能力を持っているのか?
 いや、あんな凄まじい能力、そう何人も持っているとは思えない。
 それとも、あれからディアボロは何かとんでもないものを手にしたのか。
 死を偽装できるほどの、とてつもない何かを。

「あいつかどうかは別として、『元』天人。
 あんたも頑丈じゃあなくなっているんだから、
 無茶すると本当に死ぬから気をつけなさいよ。」

 先ほどまで煽りに煽っていたレミリアからの忠告。
 ふざけた態度でいる余裕が全くない相手と言う事なのだろう。
 先のヴァニラ・アイスや八坂神奈子と同じ、紛れもない強敵だと。

「『元』をつけるなってーの。
 その点は仗助のスタンドで治してもらうから任せたわよ!」

 忠告を受けて、気を引き締めて天子は今度こそ乗り込む。

「ちょ、地子さん一人で行ってどうするんすか!」

 今までのような戦いができるわけではない以上、
 天子一人で行かせるのは色々不安である。
 それに、吉良の事を知ってる以上仗助が動くのも当然だ。
 続けてレミリアも一緒に乗り込むと同時。

「仗助、これ持っておきなさい。」

 仗助のスピードに合わせながら、
 レミリアが投げ渡したのは、ウォークマン。

「えっと、これ……ウォークマン、っすか?」

 仗助は1999年の人間だ。
 彼の知るウォークマンと言うのは、
 大体カセットテープやディスクを用いた物。
 それより先の未来にある、それらさえ不要なものは未知に近い。

「何でこれ?」

 この状況下で渡すと言う事は、
 今この場で必要と言う事になる。
 一体これで、何をしろと言うのか。

「あいつがお前の力で治せるとか言っていたからね。
 なら、この場で致命傷を受けてはならないのは貴方よ。」

 ブチャラティが対策した時飛ばしへの対策。
 音楽がいきなり飛んだ瞬間こそが時が飛んだ瞬間。
 その時こそ、ディアボロは攻撃を仕掛けてくる。

588 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:35:18 ID:fqyYqXkU0
「何か好きな音楽でも聴きなさいな。」

「こんな時に音楽、しかもぶっつけ本番っすか。」

 ハンティングのときのプレッシャーを思いだす。
 あの時は見事にプレッシャーを跳ね返すことはできたが、
 ネズミの時の自分は、首の肉を削られた程度の軽傷だったのもある。
 今回は既に銃弾は受けるわ、肉体を削られるわの、立派な負傷者だ。
 果たして、今回もプレッシャーを跳ね返せるのか不安になってくる。

「それと、億泰って名前に覚えはある?」

「!」

 反応から、億泰の言っていた仗助とは、彼なのはすぐに分かる。
 同時に、彼女が誰から自分の事を聞いていたのかも理解できた。

「彼からの伝言よ。『すまねえ』って。」

 遺言とは言わない。
 彼の魂は、自分やジョナサンに受け継がれた。
 物理的には死んでいるが、その魂は終わりはしない。
 誰かが受け継ぐか、誰かへと託す。そうして人は生きていく。

「……億泰のヤロー……」

 状況が状況だからか、
 余り表情には出てこない。
 何を思ってるかは、彼のみぞ知ることだ。

 状況が状況なのもあって、少し駆け足気味ではあるが、一先ず彼の伝言は叶った。
 空の件はもう叶わない以上、できることはさとりの保護だが、彼女の行方は依然分からない。
 もしかしたら、ジョジョの方でちゃんと見つけていて、保護しているのかもしれない。
 となれば自分のすべきことは、ディアボロと思しき相手。生きているのか、はたまた別人なのか。
 ある意味、どちらも正解ではあるが、それを知るまで、あと少し。

【C-3 ジョースター邸エントランス/真昼〜午後】

【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:人間、ショートヘアー、霊力消費(大)、疲労困憊、空元気、濡れている、汗でベトベト、煩悩まみれ、レミリアに対する苛立ち
[装備]:木刀、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、聖人の遺体・左腕、右腕@ジョジョ第7部(天子と同化してます)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:時飛ばしの奴を倒す。吉良? 調子こいた時点で即ぶちのめす。レミリアは……一発だけ殴りたい
2:眠い、お腹減った、喉が渇いた、身体を洗いたい、服を着替えたい、横になって休みたい。
3:人の心は花にぞありける。そんな簡単に散りいくものに価値はあったのだろうか。よく分かんなくなってきたわ。
4:これから出会う人全員に吉良の悪行や正体を言いふらす。
5:殺し合いに乗っている参加者は容赦なく叩きのめす。
6:紫の奴が人殺し? 信じられないわね。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※デイパックの中身もびしょびしょです。
※人間へと戻り、天人としての身体的スペック・強度が失われました。弾幕やスペルカード自体は使用できます。

【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年1部〜3部全巻(サイン入り)@ジョジョ第4部、 鉄筋(残量90%)、マカロフ(4/8)@現実、予備弾倉×3、 聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、鉄パイプ@現実、 香霖堂や命蓮寺で回収した食糧品や物資(ブチャラティのものも回収)、基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1 :この能力、まさか……
2 :さて、慧音はどんな運命をみせてくれるのかしら。
3 :慧音と露伴をパチュリーの所に引っ張っていく。ま、出来たらでいいや。
4 :温かい紅茶を飲みながら、パチェと話をする。
5 :咲夜と美鈴の敵を絶対にとる。
6 :ジョナサンと再会の約束。
7 :サンタナを倒す。エシディシにも借りは返す。
8 :ジョルノに会い、ブチャラティの死を伝える。
9 :自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
10:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
11:ジョナサン、ディオ、ジョルノに興味。
12:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
13:後で大統領に前払いの心臓を渡しておかないと。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼と東方輝針城の間です。
※時間軸のズレについて気付きました。
※大統領と契約を結びました。
 レミリア、露伴、パチュリー、慧音が納得する形で、
 露伴、パチュリー達の仲を取り持つことで、聖人の遺体を譲渡するものです。

589 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:35:51 ID:fqyYqXkU0

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:黄金の精神、右腕外側に削られ痕、腹部に銃弾貫通(処置済み)、頬に打撲
[装備]:ウォークマン@現実
[道具]:基本支給品×2、龍魚の羽衣@東方緋想天、ゲーム用ノートパソコン@現実 、不明支給品×2(ジョジョ・東方の物品・確認済み。康一の物含む)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:吉良に時飛ばし!? っていうか本当に俺にできるんすかこの対策!? 
2:地子さんと一緒に戦う。
3:吉良のヤローのことを会場の皆に伝えて、警戒を促す。
4:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
5:あっさりと決まったけど…この男と同行して大丈夫なのか? 吉良のヤローについても言えなかったし……
6:億泰のヤロー……
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。
※デイパックの中身もびしょびしょです。





「……いかないのか?」

 慧音もそのまま突入しようとするが、
 残りの三人が行動を起こさず、そこを確認する。

「入れ違いで敵が逃げる可能性もある。
 それを考えれば、ある程度此方に人員を割く必要があるだろう。
 総力をつぎ込んで戦いに勝てるのであれば、誰もがそうしている。」

 ジョースター艇は中も見たが、かなり広い。
 どこからでも逃げることができるかもしれない上に、
 一人で此処から逃げる相手を補足するのは、容易ではない。
 彼の言う事はごもっともなことである。

 特に、雨から切り替わったとはいえ雪を用いれば、
 D4Cの能力の条件を容易く満たせる今の野外では実質無敵だ。
 そういう意味でも、彼が外に残るのは適任でもあった。

「あたいの場合、室内とかだと能力のせいで邪魔になるのもあるし……」

 燐は大統領が止まってるから、と言うのもわずかながらにあるが、
 自分の能力が、お世辞にも室内で協力して使うにはあまり向いていない。
 地霊殿のような広々とした場所ならともかく、此処では燃え移る可能性があるし、
 何より、全員で入ったら全員死にました、なんてことを数時間前、別の自分で体験している。
 れっきとした、彼女なりの考えを持っての待機を選んでいた。

「確かに……何かあったら頼む。露伴先生は?」

「当然、行くに決まってるじゃあないか。」

 記憶こそなくとも、何かしらの因縁があった相手だ。
 ならば我が物顔で暴れてるやつのことを、放っておくわけがない。
 他の二人が止まる理由を聞いておきたくて止まっていただけなので、
 仗助達に遅れる形で、二人も突入する。





「時間を飛ばす、しかしそれを認識ができないか。」

 なんとも形容しがたい能力だ。
 例えるならば、推理小説を読んでいたら、
 いきなりクライマックスを迎えてしまったようなものか。
 そのクライマックスに至るまでの数ページの内容は見たが把握はしていない。
 倒されれば好都合だが、逃げて相対したとき、どのような対策をするべきか。
 口伝と一回程度の時飛ばしだけでは、やはり理解をするのは難しい。
 二度目の時飛ばしの時に、対策を改めて講じるほかない。

 吉良と言う爆弾に向かっている仗助達は、果たして味方か。
 それとも爆弾を起動させる導火線か。
 カウントダウンはもうすぐ終わりを告げる。

590 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:36:51 ID:fqyYqXkU0

【C-3 ジョースター邸の横/真昼〜午後】

【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。『幻想郷の全ての知識』を以て可能な限り争いを未然に防ぐ。
1:時を飛ばすだと……?
2:私はどうすればいいんだ?
3:他のメンバーとの合流。
4:殺し合いに乗っている人物は止める。
5:出来れば早く妹紅と合流したい。
6:姫海棠はたての『教育』は露伴に任せる。
7:露伴先生をどうにかしなければ……!
[備考]
※参戦時期は少なくとも弾幕アマノジャク10日目以降です。
※ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。
※時間軸のズレについて気付きました。

【岸辺露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:背中に唾液での溶解痕あり、プライドに傷
[装備]:マジックポーション×1、高性能タブレットPC、マンガ道具一式、モバイルスキャナー
[道具]:基本支給品、東方幻想賛歌@現地調達(第1話原稿)
[思考・状況]
基本行動方針:色々な参加者を見てマンガを完成させ、ついでに主催者を打倒する。
1:時を飛ばす能力……厄介だが、面白そうな能力だ。
2:『東方幻想賛歌』第2話のネームはどうしようか。
3:仗助は一発殴ってやった。収まらないが、今はこれだけで勘弁しておく。
4:主催者(特に荒木)に警戒。
5:霍青娥を探しだして倒し、蓮子を救出する。
6:射命丸に奇妙な共感。
7:ウェス・ブルーマリンを警戒。
8:後で記憶を返してもらいますよ、慧音さん。
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
※射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。
※ヘブンズ・ドアーでゲーム開始後のはたての記憶や、幻想郷にまつわる歴史、幻想郷の住民の容姿と特徴を読みました。
※主催者によってマンガをメールで発信出来る支給品を与えられました。操作は簡単に聞いています。
※ヘブンズ・ドアーは再生能力者相手には、数秒しか効果が持続しません。
※時間軸のズレについて気付きました。
※歴史を食べられたため、156話と162話の記憶がありません。
※歴史を食べられたため、吉良吉影に関する記憶がありません。
※パチュリーが大嫌いなことは記憶がありませんが、
 慧音の説明、レミリアと大統領の会話で、ある程度は把握してます。
 今は緊急事態なのと記憶がないため一応会話が通じますが、記憶が戻れば元に戻ります。

【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康、濡れている
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・両耳、胴体、脊椎、両脚@ジョジョ第7部(同化中)、紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、拳銃(0/6)
[道具]:文の不明支給品(0〜1)、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×5、予備弾6発、壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しないが、霊夢、承太郎、FFの三者の知り合いには正当防衛以外で手出しはしない。
2:遺体が集まるまでは天子らと同行。
3:今後はお燐も一緒に行動する。
4:形見のハンカチを探し出す。
5:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
6:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
7:ジャイロ・ツェペリは必ず始末する。
8:時を飛ばす能力、対策をしておかなければ。
9:岸辺露伴……試練は強敵であるほど良い。
[備考]
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
※霊夢、承太郎、FFと情報を交換しました。彼らの敵の情報は詳しく得られましたが、彼らの味方については姿形とスタンド使いである、というだけで、詳細は知りません。
※レミリアと契約を結びました。
 レミリア、露伴、パチュリー、慧音が納得する形で、
 露伴、パチュリー達の仲を取り持つことで、聖人の遺体を譲渡するものです

591 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:37:12 ID:fqyYqXkU0
【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、こいし・お空を失った悲しみ、濡れている
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実
[道具]:基本支給品、リヤカー@現実、古明地こいしの遺体
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとりと合流する。
1:大統領と一緒に行動する。守ってもらえる安心感。
2:射命丸は自業自得だが、少し可哀想。罪悪感。でもまた会うのは怖い。
3:結局嘘をつきっぱなしで別れてしまったホル・ホースにも若干の罪悪感。
4:地霊殿のメンバーと合流する。
5:ディエゴとの接触は避ける。
6:DIOとの接触は控える…?
7:こいし様……お空……
8:外で待機。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。
 とはいえ彼によって無関係の命が失われる事は我慢なりません。
※死体と会話することが出来ないことに疑問を持ってます。

※大統領、レミリア、露伴を除いた四名が情報を共有しました
 どこまで話したかは、後続にお任せします

※キング・クリムゾンの能力を観測しました。
 レミリアによるキング・クリムゾンの能力説明がありましたが、
 各々が理解しきれてるかは別です。
 仗助だけウォークマンによる対策を教えられてます。

592 ◆EPyDv9DKJs:2020/01/08(水) 18:37:34 ID:fqyYqXkU0
以上で『COUNT DOWN “ONE”』の投下を終了します

593名無しさん:2020/01/09(木) 00:25:06 ID:W4fNV2T.0
ageましておめでとう!

594名無しさん:2020/01/09(木) 01:42:32 ID:3XVdaDqo0
投下乙です
仗助を殴る露伴先生が悲しい、やっぱり康一君は親友だったんだなぁ…
徐々に知れ渡るボスの情報に、吉良の元へ突撃する一行と今後の展開に更に期待してしまう
最近は頭のおかしい荒らしが湧いてるだけだったから、久々の投下は本当に嬉しい

595名無しさん:2020/01/10(金) 06:33:18 ID:kKJOuYwE0
ヒャッハー!マジで久々の投下だー!!
妙手とも言える音楽での時飛ばし対策…果たして上手く行くのか

596名無しさん:2020/01/20(月) 20:55:13 ID:11vuo8zU0
何度か体感してるジョルノですらも血を垂らしてなお反応出来なかったからな…
かなり不安は残るのぉ

597名無しさん:2020/02/09(日) 20:34:56 ID:eQDzavZg0
投下来てた!! 乙です!
藁の砦と化したジョースター邸についにグツグツシチューマンが……!
だがそれさえも前哨戦に過ぎなかった…・・・!

598名無しさん:2020/06/21(日) 16:18:47 ID:CGQOQoGQ0
コロナに敗けずに頑張りましょう!

599 ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:18:30 ID:Cv8akD0g0
お久しぶりです。投下します。

600雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:20:51 ID:Cv8akD0g0
『因幡てゐ』
【夕方】B-5 果樹園小屋 跡地


 「この世で最も強い力」とは何か?
 訊かれれば千差万別の回答が返ってくるであろうこの問いに、例えば因幡てゐならばこう即答する。

 『幸運』に決まっている、と。

 強い力、の定義を「どのような過程であろうと最終的に生存できる能力」に限定するならば、てゐの自説に違いなかった。何故を問われれば、提唱者である彼女本人がまさにその説を実証する体現者だからだ。
 因幡てゐとは、ここ幻想郷に居を構えたあらゆる人妖の中でも、頭抜けて長命の個体種である。無論、身近には蓬莱人などというインチキ生物も何人かは居て、こと『長命』といった土俵においては彼女らに敵うべくもない。
 しかしながら、てゐはやはり幸運だった。その人生には苦境も少なくなかったが、『不死の呪い』を受けずして順風満帆な生活を送れたのだから。
 ひとえに『幸運』の力が働いているとしか思えない。これ程までに健康で、長生きな人生を満喫出来ている理由など。

 強さに『腕力』や『妖力』も必要ない。極論、『知識』も不要なのだ。
 真に幸運な者であるならば、そもそも「争いに巻き込まれたりはしない」。つまりはそれが、生存能力に直結する力。

 災を避ける能力。これがてゐの言う所の「この世で最も強い力」なのである。

 この言説を借りれば、此度のゲームに巻き込まれている時点で、彼女の自慢の品である幸運など最早あってないようなもの。てゐはこの頃、自虐的にそう思うようになってきてはいたが。


 少なくとも。
 「今」、「この状況」においては。

 因幡てゐは、間違いなく『幸運』だった。

601雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:23:22 ID:Cv8akD0g0

「なんだ……?」

 始まりは、停車するバギーカーの助手席にて短い足を伸ばす、てゐの一言であった。
 予兆は、無かった。少なくとも、てゐの認識している範囲においては。
 あるとすれば、相棒であるジョセフが寝たきりのジョナサンなる男を気遣い、車を降りて行ったこと。そして、空条徐倫なる女もそれに続いて車を降りたこと。
 車内に取り残されたのは、意外に心地好かった助手席のシートにて寛ぐてゐ。そして、まだダメージの抜けきらない身体の安静の為という名目で後部座席を占領する博麗霊夢の二人のみ。
 ジョセフ、徐倫、魔理沙の三人。そしてこの地で出会ったさとり、こころ達は「全員漏れなく車外に出ている」。

 なにやら徐倫の怒号らしきものが聞こえ、フロントガラスから宙空を仰いでいたてゐも流石に視線を外にやった。この期に及んで彼女が車から降りようとしないのは、単純に「寒い」からだ。彼女は基本的に裸足族であり、靴を履くことを習慣付けていない。
 見ての通りに、屋外には新雪が積もりつつある。こんな場で裸足のままに長時間動き回ろうものなら、慣れたものとはいえ凍傷の危険性もある。

 〝雪〟を回避する為。
 それだけが、少女が外に降りたがらない理由であり。
 それこそが、少女が幸運だという根拠に他ならない。


「ちょ……っ!? な、何やってんのアンタら!」


 すぐ後方で慌てふためくその声の主は、我らが霊夢のもの。少女は車の窓からガバリと身を乗り出し、らしくもなく目を大きく見開いていた。

「……は?」

 それとは対照的に、続くてゐの声は極めて淡白なもの。彼女も霊夢と〝同様の景色〟を目撃し、理解不能といった反応を示した。
 全く、惚けたツラをしている事だ。もしここに鏡があったなら、鏡界の向こうに潜む自身の顔へとてゐは意地悪く呆れたろう。

 然もありなん。
 車の外には、音もなく忍び寄った〝異変〟が起こりつつあったのだから。

 空条徐倫が、我が相棒ジョセフの顔面を目一杯に殴り抜く異常な光景。
 てゐの目と鼻の先。外界との隔たりへと、不快な異音と共に、波紋状の亀裂が突如として広がった。


 健康的な真っ白い歯が一本、ドアガラスに突き刺さっていた。


            ◆

602雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:26:15 ID:Cv8akD0g0

 まるで垂らされた糸に釣られるように、男はゆっくりと立ち上がった。
 ジョナサン・ジョースター。ついぞ今まで、仮死状態とまで宣言された男が、だ。

「お、おじいちゃん! ……だよ、な?」

 尻すぼみに覇気を失っていく声の主はジョセフ。絶望的な状態にあったジョナサンの快復を図るべく、藁をも掴む気持ちで手持ちのスタンドDISCを取り出した張本人だ。
 徐倫の妨げにより一度は手から零れ落ちた円盤だったが、それは半ば事故のような形でジョナサンの額に吸い込まれ、結果───。

「立ち、上がった……」

 傍で始終を見ていた霧雨魔理沙が、豆鉄砲を食った鳩のような表情で呟いた。古明地さとりの話によれば、精神DISCなる円盤を抜かれた者は、魂を抜かれたみたいに仮死状態へと落ちる。復帰の手段はと言えば、抜かれたDISCを元ある場所に戻すしか無いのだと。
 この場においては誰よりもDISCに精通する徐倫も、さとりの話を後押す形でそれを肯定したのだから、確かな事実だと信頼していいだろう。
 ジョセフが懐から取り出したDISCがジョナサンの盗られた精神DISCなわけがない。つまり彼は、偶然所持していた有り合わせのDISCを使用して、ジョナサンの肉体の差し当っての復旧を目論んだ事になる。
  完全復活とはいかないにしても、効果は半分程期待できた。肉体の老朽化を防止する措置である仮初の円盤は、強引にでもジョナサンの身体を一時的に動かせる〝かもしれない〟という、ジョセフの一心な家族愛も不発には終わらずに済んだ。

 これが『不発』であったなら、どれほど良かったろう。
 問題なのは、偶然所持していたジョセフのDISCが、『暴発』を誘起する大地雷だという悪運だった。

「おいッ! 今コイツの額に入っていったDISCをとっとと戻せッ!」

 一体全体何事かと、徐倫が食って掛かる勢いのままにジョセフの胸倉を掴み上げた。その鬼気迫る表情たるや、今この現状が非常に由々しき事態なのだと、周囲の者に否応なく悟らせる類の相貌。
 だとしても、ジョセフが事の重大さの理解に至るにはあまりに材料が不足している。それよりもまず、彼は目の前の女の粗暴に対して気に障った。

「痛ッ……! な、なんだテメー! 苦しいだろーが! 放しやが────ッッ!!?」

 抗議の途中で、突然の振動がジョセフを襲い、視界がぐわっと回転した。
 脳が揺さぶられ、意識が飛びかける程の衝撃だった。彼の首は堪らず直角横90°まで曲げられ、下手をすればプラス90°の回転がその太ましい首を捩じ切ってしまいかねない程の、突発的な暴力。

(──────ぁ? ……な、んだ?)

 薄れゆく意識の中、この脳震盪の因果にかろうじて辿り着く。
 ブン殴られたのだ。
 今、自分へと掴みかかる少女の華奢な腕によって、全力で。

「徐倫っ!?」

 叫ばれる魔理沙の言葉。その声に呼応するかのように、殴り抜いた徐倫本人の意識が今一度冷静さを取り戻した。

「…………え?」

 驚愕しているのは目撃者だけでなく、暴力を行使した本人とて例外ではなかったらしく。徐倫は、今自分が何をやっているのか誠に理解できないといった反応で、殴り飛ばしたジョセフと己の拳とを交互に見つめた。
 拳には飛沫状に血痕が付着している。無論、ジョセフのものと……あまりに躊躇のない熾烈さで打ち抜いた我が拳から捲れた、自傷の血である。
 痛みはない。その原因が、自分の中に渦巻く一種の興奮状態……アドレナリンの放出による作用である事にも、大きな動揺を隠せなかった。

 興奮している。間違いなく、自分は今。
 何故? 殴るつもりなど、微塵も無かった。
 ましてこちらの拳が傷付く程までに、全力で。
 その理由に、心当たりがある。

 ジョセフがDISCを取り出したのを見て、徐倫が嫌な予感を覚えたのは間違いない。
 だがそれは、あくまで予感。彼が所持するDISCの正体が『サバイバー』だと徐倫が知る機会など無かったし、かつて体験した刑務所懲罰房での地獄絵図を齎したスタンドの名称がそれだと、徐倫はそもそも認識まで至ってない。
 故に『予感』の範疇を出なかった徐倫は、それでも正体不明のDISCを意識の無い他人に使用するというのは、あまりにリスクの多い行動だという危機的意識はあったのだ。

 今はもう、その予感が最悪の実体験として彼女を蝕んでいる。
 ことが起こってしまった現状、頭の冷静になった部分で徐倫は思い描いていた。

 今、我々を襲っている〝この現象〟は十中八九、あの時の────。


            ◆

603雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:26:45 ID:Cv8akD0g0

 とある『悪の帝王』は、そのスタンドについて友人へ語る際、こう述べている。
 『最も弱く』、そして『手に余る』とも。

 発動の条件はといえば、地面が雨などで濡れている必要がある。その程度だった。
 神経細胞を伝わる電圧はほんの百分の七ボルト。脳の中で生まれたごく僅かな電気信号は、濡れた地表を伝わり周囲へ流れる。
 後はもう、終わりのようなものだ。対象の脳の大脳辺縁系、そこに潜む闘争的な本能をほんの一押し。

 どうしようもなく、手が付けられない能力。世にはそういった、使い手を悩ませる暴走スタンドも幾多存在する。
 この『サバイバー』も、その例には漏れず。制御が効かないという意味でも、なんの有効活用も見い出せない特級のハズレ品だった。

 そして、悪夢そのものでもある。
 周囲の人間にとっても。
 使い手本人にとっても。


 主催の二人が戯れに支給品へ混ぜ入れた『大地雷』は、ゲーム開始から十六時間が過ぎた今───深い眠りから目覚めるように、静かに爆発した。


            ◆

604雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:27:54 ID:Cv8akD0g0


(このおぞましい感覚は……あの時の!)


 意識がフワフワしている。
 思考が落ち着かない。
 心臓が熱い。
 理由もなく、ムカついてくる。
 ああ、言わんこっちゃない。
 だからアタシは言ったんだ。そのDISCはやめろって。
 よりによって。よりによってだ。
 あの懲罰房でアタシを襲った、あんな傍迷惑なモンを。
 よりによって、コイツが持ってたなんて。
 だから。
 だから、言ったんだろーが。


「だからやめろっつったろォオーがァァーーーッ!!」


 なんの理由も無い暴力によって、ジョセフを地面へと転がした徐倫は。
 現在、彼女らを襲う現象の正体に見当を付けつつも。

 溢れんばかりの『闘争心』に抗うことなど、叶わずにいた。

 鼻っ面を叩き折り、血反吐と共に地を這わせた男へ向けて徐倫は、間髪入れず追撃を行使しようと右脚を上げる。
 このまま足を振り下ろせば、そこにあるジョセフの顔面は潰れるだろう。どのような理由があろうと、仲間に対して行っていい仕打ちなわけがない。

「お、おいやめろ徐倫ッ!!」

 この絶望的な一日を最も長く共に過ごした魔理沙の精一杯な仲裁も、効果は無い。


 だから〝仕方なく〟魔理沙は、自分に背を向け隙だらけの徐倫の後頭部を、思い切りブン殴った。


「〜〜〜〜ッ!!?」

 嫌な音が響いた。
 音の出処は頭部を抑えながら悶える徐倫からでなく、手を出した魔理沙の拳からだ。
 人の骨という部位は想像の通りに硬いものだが、骨同士が接触した場合、当然ながら強い骨が打ち勝ち、弱い骨は破壊される。
 後頭部とは、前頭部や側頭部に比べると脆い。とはいえ、まだ少女である魔理沙の華奢な拳では打ち勝つには至らなかった。ボクシングで言う所の反則技ラビットパンチの格好だが、仕掛けた魔理沙側の拳に重大な負傷が発生するのは自明の理であった。

(〜〜〜って、問題なのはそこじゃないだろ!?)

 私は一体、何やってんだ!?
 喧嘩を止めようと行動を起こした魔理沙は、自分で自分の行為の意味が分からずに困惑した。
 見れば、箒よりも重い物など持った試しのない我が手からは、剥き出しの骨すら見えていた。殴り抜けた衝撃が返り、先端が皮膚を破って骨折したのだ。
 更に恐ろしい事に、痛みが無い。痛覚の代わりに興奮ばかりが脳の中を支配しているようで、自分が自分じゃないようだった。

 ぬっとりと背筋を這うような、不気味な気色悪さ。
 まるで折れた鉛筆が手の甲に突き刺さった様な光景。皮膚を食い破った基節骨を呆然と見下ろしながら魔理沙は、この独特な悪寒に対し、冷静な解答がひとつ浮かんだ。

「まさか.......スタンド攻───」
「そうだよ馬鹿野郎ッ!!」

 言い終わらない内に、徐倫のプロ顔負けの回し蹴りが、反撃の牙となって魔理沙の頬を真横から穿った。死角から飛んできた予期せぬ衝撃に、魔理沙の小柄な体は堪らず吹き飛ばされる。
 通常であればそれでK.O.だ。だというのに魔理沙は、よくもやったなと言わんばかりの勢いで起き上がり、額に青筋を立てながら尚も徐倫に向き直す。

 流血沙汰では収まらない、大喧嘩だった。
 この喧嘩に、理由など存在しない。サバイバーの性質によって増加を経た筋力の刃は、たちまちにしてそこに立つ者達を内部から崩壊させる。
 唯一、この悪夢を経験済みであった徐倫をしてこのザマなのだ。なんの事情も原因も露知らぬ他の者にとってみれば、この突然の災害に対処する備えなどあるわけが無い。

605雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:28:40 ID:Cv8akD0g0

「やめなさい魔理沙っ!! どうしたってのよ突然!?」
「ジョジョ!? な、なになに急にどうしたのよ皆して!」

 リングの観客席と化したバギーカーの車中から身を乗り出すのは、霊夢とてゐの二名。彼女らはやにわに争い始めた仲間達の姿を、我が目を疑いながら傍観する。するしか出来ない。
 ただの敵だとか邪魔者であれば、てゐはともかく霊夢の場合、怪我の上でも直ちに袖を捲りながらとっちめるくらいはやる。
 今、目の前で行われている異変は、そういったいざこざとは訳が違った。いつもの様に、懲らしめてハイお仕舞いではないのだ。
 博麗の巫女の頭の中にあるマニュアルには、こんな訳の分からない暴動を丸く収める術など項目に無い。ましてや旧来の友人の、今までに見たことのない激しい様相を目の前にしたとあっては、仲裁に向かう足も固まりつくのは当然だ。

「この.......馬鹿魔理沙! 徐倫も、今は喧嘩なんてしてる場合じゃないでしょう!?」

 眼前で行われている乱闘がただの喧嘩ではない事など霊夢にも承知である。それでも直接的な敵の姿や攻撃すら見えない以上、これは喧嘩の延長線にある馬鹿げた内輪揉めだ、という認識の下で動かざるを得なかった。

 どのような状況下にあろうとも。
 どこかの誰かの言葉ひとつで、自身の心が揺れ動こうとも。
 博麗の巫女とは、異変を解決する役職の人間である。
 長き立場の上で刷り込まれた博麗への意識は、たとえ怪我人であろうとも少女の足を立ち上がらせるには十分な異変が、目の前で繰り広げられている。

「アンタは中に居なさい!」
「え……って、霊夢!? その怪我で行くの!? なんかアイツら、普通じゃないよ……っ」

 愛用のお祓い棒を掴み取り、車のドアを取っ払う様に開けながら、霊夢は銀世界へ変貌しつつある外へ降りた。
 その荒立つ様は、とてもダメージを刻まれた少女には見えない程に勇敢な後ろ姿だ。そんな霊夢をてゐは、頼もしいと感じる以上に今回ばかりは不安が上回っている。

 幻想郷において、異変解決のエキスパートとして真っ先に名が挙がる博麗霊夢と霧雨魔理沙に加えて、あの強大な妖狐を共に撃破したジョセフ・ジョースターが揃ったパーティメンバー。てゐの心境からすれば、鬼が金棒に飽き足らずスペルカードまで修得したような心持ちでいた。
 何だかんだで、今やちょっとやそっとの襲撃者が現れたところで、仲間達が返り討ちにしてくれるだろうという驕りの心地もあった。
 その矢先の出来事である。牙を剥いてきた敵対者は、外敵ではなく仲間内だというのだから、弱者側であるてゐの心情は尚更に不安ばかりが肥大する。

「こんな怪我、ツバ付けときゃ治るわよ! ていうか、もう治ってる!」

 霊夢の言葉が虚勢なのは、てゐにだって理解出来る。彼女が後部座席で辛そうに横になっていたのは、事が起こり出す今の今までだったのだから。
 やっぱり止めた方がいいんじゃあ……とてゐが逡巡する間にも霊夢は、いきり立ったその足を現場へと走らせた。


 土と一緒に蹴られた雪が、てゐの鼻先を掠める。
 その〝雪〟こそが、まさに災を流し伝播させるコンベアを担っていた事に、誰一人として気付くことは出来ない。


            ◆

606雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:30:29 ID:Cv8akD0g0

 ただでさえ、どうしようもなく苛立っていた。
 完膚なきまでに叩きのめされ、死の淵を彷徨って。
 靈夢の中で、ジョジョからは『博麗』を否定され。
 けれども何処か、生まれ変われたようにも感じた。

 矢先、夢から蘇生出来たのは私だけで。
 ジョジョは、約束ほっぽり出して勝手に死んで。
 代わりに、アイツの娘を名乗る女が居て。

 もう、訳わかんなくなっちゃって。

 表にはいつも通りの『博麗霊夢』を演じられていたけど。
 心の中では、どうしようもない苛立ちが収まらなかった。


 いい加減、白状するわ。
 私は……、博麗霊夢は。



 滅茶苦茶、ムカついていた。



「ジョジョの…………バカヤローーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」



 巫女の洗礼を受けたお祓い棒とは、本来ならば神聖なる道具だ。罪や穢れ、厄災など不浄なものを排除する神事にて使用するこの棒は、言うまでもなく人を殴る用途には間違っても使ってはならない。
 博麗の力を存分に込められたお祓い棒は、悪を討伐するでもなく、妖魔を捩じ伏せるでもなく、〝ただムカついた〟から殴る為だけに振り翳された。
 そこに立つ誰へでもなく、今はもうこの世に居ない男への罵倒と共に、暴力の化身として霊夢の手先となったお祓い棒。
 不条理な暴力の矛先となったのは、友人の霧雨魔理沙。その冠にのさばる魔女帽の天頂目掛け、場外ホームランを狙うかの如く万力込めて。
 細長い見た目のわりに、この棒は強固だ。数え切れない妖怪や神、時には人間をもシバキ倒してきた経歴をその細身に宿す神具は、何者をも砕きかねんという勢いのままに、魔理沙の背後から振り抜かれた。

「が…………ッ!? ぁ、ぐ…………痛っ、て……〜〜〜ぇッ」

 観客席からリング上へと飛び乗ってきた活きのいい野次馬───巫女の不意打ちに、魔理沙は悶える。堪らず膝を折り、その無様を見下ろす霊夢の視線へと目が合った。
 その上から見下す様な視線に対しても、魔理沙の心中ではフツフツと怒りが湧き上がる。不意打ちされた事にも腹が立ったが、その相手が霊夢である事にも腹が立った。上からこちらを見下す視線にも腹が立った。

 だが、何より魔理沙を腹立たせるのは──

「だ……れが、ジョジョだよ……! この野郎、馬鹿巫女のクセして……ッ」

 崩れた魔女帽を被り直し、ゆっくりと乱入者の顔を睨み付けながら魔理沙が立ち上がる。
 双眸に宿った視線は、殺意とも取れるような壮絶な怒りの眼差しだ。

「なあ、オイ……お前に言ってるんだよ霊夢。私には『霧雨魔理沙』っつー、立派な名前があるんだぜ?」
「……」

 これが何らかのスタンド攻撃による現象なのは、かろうじて理解出来る。だが今の魔理沙にとって、最早それは遥かにどうでもいい些事の一つへと変化した。

 博麗霊夢。この期に及んでこの女は、とうに死んだ男の幻影など見ているというのだから。

「おーい、聞いてるかー? れ・い・む・ちゃーん?」
「うるさい」
「聞こえてるじゃんか。耳はマトモなのに目は盲目ってワケか? 何処にそのジョジョとやらが居るんだ? 私の帽子の中にはマジックアイテムしか入れてないぜ」

 後頭部と拳から流血を晒す姿も相まって、くつくつと口の端を引き攣りあげる魔理沙の姿は不気味の一言である。
 変わり果てた友の様子を霊夢は、静かに見つめた。
 あくまで、表面上は静かに。

「ジョジョですって? 私が、いつ、ジョジョを呼んだのよ」
「さっき叫んでたろ。高らかに」
「? 耳がオカシくなってんのはアンタの方じゃないの、魔理沙?」

 首を傾げる霊夢の顔面を、魔理沙のストレートが走った。骨が飛び出した方の右腕で、躊躇なく、だ。
 凶器の様に鋭く皮膚から飛び出た基節骨の先端は、棒立ちでいた霊夢の左目──その三センチ下を抉り、端麗であった顔を傷物に仕立てあげた。
 故意の、禁じ手である。

607雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:31:00 ID:Cv8akD0g0

「目も使い物にならなくしてやるぜ」

 そこにはいつもの魔理沙の面影など無い。膨張する闘争心に操られるがまま、目の前の生物を打ち倒し、勝利する事だけが彼女の思考を支配し始める。
 倫理観を排除し、血で渇きを潤さんと暴を振る舞う姿は邪悪とも言えた。何事でもなく、ただ気に入らないから。それだけの原動力で、友人であろうが殺しかねない勢いのままに暴れ散らすのだから。

 否。殺しかねない、ではない。
 掛け値なしに。正真正銘に。
 魔理沙の感情の器は、霊夢を殺してやりたい気持ちで溢れ返っている。

「私を見ろよ、霊夢。そんなぽっと出の男なんかより、ずっと傍にいた私だろ」

 ただ〝気に入らないから〟。
 魔理沙の何がそんなに、博麗霊夢を気に入らないのか。
 魔理沙は本当に、博麗霊夢を友達として見ていたのか。
 ただの友達ではないという自覚など、魔理沙の中で嫌という程に渦巻いていた。

 魔理沙にとって、博麗霊夢はただの友達などではない。
 特別な、相手だった。
 良くも、悪くも。

 なのに。それなのに。

 霊夢からしてみれば、魔理沙はただの友達なのだ。
 特別なのではない。霧雨魔理沙は博麗霊夢の特別ではない。
 霊夢に『特別』な相手なんか、いやしない。
 だから、長年心の奥底に隠し持っていたこの感情は、決して表に出すことなどしなかった。

 なのに。それなのに。

「私を見てくれない目なんか、もう必要ねーだろッ!」

 どうやら霊夢には、『特別』な相手が出来た。
 だから。

「あああ気に入らん! お前が!! 気に入らんッ!!!」

 今度はまだ無傷を保った左腕での目潰し。
 その指には本気の殺意が迸っていた。
 誇張でなく、脅しでなく、本気で潰す。
 刺激された闘争本能が、激昴を促す。


「あっそ」


 激情に動かされ、命を狩らんと迫り来る魔理沙。
 そんな友人の顔を、霊夢は容易く顎下から蹴り上げた。
 魔理沙とは対照的に、そこには如何なる感情も灯さない。
 先程大きく吠えた表情とは打って変わって、血に塗れた無表情。

 魔理沙の内に眠る事情など心底どうでもよさげに、霊夢はただただ友人の身体をひた殴りにした。

            ◆

608雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:31:26 ID:Cv8akD0g0

 てゐにはもう、訳が分からなかった。
 怪我をおしてまで乱闘を止めようと外に出た霊夢までもが、気付けば魔理沙を背後から殴り飛ばし、そのまま血生臭いファイトに没入し始めたのだから。
 この現象に陥るには、スイッチを押すように何かの『切っ掛け』が必要だ。車中に取り残されたてゐが今のところ無事で、外に降りた途端に豹変した霊夢がああなっているのだから、それはてゐであろうと予想は出来る。
 そして、その『切っ掛け』の具体性はいまいち掴めない所ではあるが、少なくとも外に降りるのは絶対にマズい。車から降りるというのは、即ち『登る』という事と同義である。
 阿鼻叫喚のリング。そこに登る命知らずなファイターが一人増えるだけだ。アレを見た後では、とてもここから外の世界に足を降ろそうなどと考えられるわけもない。

「分かんない分かんない意味分かんない! わ、私は関係ないからねーっ!」

 せめて自分にだけは火の粉が降り掛からないよう、てゐは臆面もなく助手席の下に丸まり小さくなっていた。
 敵の攻撃、その影の片鱗でも見えればまだ対処だとか抵抗の余地はあるかもしれない。
 今回の場合、それがまるで目に見えていない。あまりに唐突な形で、ウイルスの様に一斉に周囲を覆ったのだ。てゐでなくとも竦むのは当然と言えた。


 ゴン


 すぐ頭上で争いの余波が、車のドアガラスを叩く音がした。つい先程、衝撃で吹き飛んできた一本の歯がガラスに突き刺さってくる光景を、てゐは脳裏に思い描く。
 ここも最早安全地帯とは言えない。車の運転などした事ないが、ジョセフの横で操縦を眺めていたので、動かそうと思えば見よう見まねで可能かもしれない。幸運にも、エンジンは掛けられたままだ。


 ゴン!  ゴンゴン!


 ガラスを叩く音が増えた。石か何かが飛んで来ているのだろう。
 そろそろ限界だ。てゐは抑えていた頭から手を退かし、なんとか体を起こしあげようと意を決する。つまり今から華麗に逃げるのだが、これは苦渋の撤退であり、決して相棒を見殺しにする臆病風に吹かれたのではない。

 自分で自分に言い訳を終え、慄える心を鼓舞し、少女はここでようやく頭を上げ───


「テメェーーてゐッ! 居るんならとっとと返事しやがれッ!!」
「わっひゃああぁぁーーーーっ!?!?」


 これから見殺しにする予定であった相棒の憤怒の形相が、亀裂の入ったドアガラスの向こう側に貼り付き、こちらを見下ろしていた。
 南無三である。この尻の軽い筋肉チャラ男の毒牙に掛かれば、自分のようなか弱き美少女などあっという間にひん剥かれ、あえなくその純潔を奪われるに違いない。

「なにアホ面で怯えてやがるこのドチビ! 遊んでる場合じゃねーんだぞタコ!」
「え……あ、あれ? ジョジョ、だよね?」
「ああ、ジョジョだぜ!」

 誰よりも頼りになるそのスーパーヒーローの頼もしき名乗りを聞き遂げ、てゐの表情へとみるみるうちに生色が戻る。
 勝利も同然であった。やはり最後には我が相棒が全ての悪を捩じ伏せ、自分を幸福に導いてくれる。確信めいたその希望の未来を胸に期待し、颯爽とドアを開かんとする手には思わず力が漲る。

「いや、開けなくていい。あんま時間ねーからよく聞けよ相棒……!」
「……ゑ?」

 希望のドアを開放せんとする手が、ピタリと止まった。
 ガラス越しに睨み付けるジョセフの顔は傷だらけではあったが、至って真面目で、いつもの余裕は欠片も見えない。


 二人の詐欺師の目線が、互いに交差する。
 方や、額からダラダラに血潮を流し。
 方や、額からダラダラに汗を垂らし。

 果てしなく嫌な予感しか、しない。


            ◆

609雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:33:14 ID:Cv8akD0g0
『古明地さとり』
【夕方】B-5 果樹園小屋 跡地


 初めは、何かタチの悪い冗談かと思った。

 目の前で起こった事象が受け入れられずに困惑した古明地さとりは、次に夢でも見ているのだと思った。ベタだけども、本当に〝これ〟は夢かなにかなんだと、思う他なかった。
 だって、さっきまで普通に会話していた相手がなんの前触れもなく、互いに殺し合いを始めたのだから。
 不穏はすぐに混乱を呼び、訳が分からなくなって彼女は瞼を閉じた。それでも、生々しい闘争と渇望のノイズだけは耳の中にまで侵入してきた。
 結局、眼前で始まった殺し合いが夢でないことを悟ったさとりは、過呼吸気味に陥りながらも次なる結論を出した。


 ああ、そう。
 この人たちはつまり、ゲームに『乗った者たち』だったのね。


 それ以外に考えられない。だって現に、目の前で殺し合っているのだから。
 不可解なのは『三点』あって、まずよく知らない人間二人の方はともかく、博麗の巫女と黒白魔法使いの二人は郷では有名な者たちだ。特に巫女の方がゲームに乗っていたなんて、俄には信じられない。
 二点目の不可解な事柄。彼女らと居合わせた時、さとりは当然ながらサードアイでキッチリ『視ている』。全てを、とはいかないけど、心の裏側でコイツを嵌めよう、騙し殺そう、なんて嘘は片鱗も見せていない。これがおかしい。
 サトリ妖怪に『嘘』を吐ける存在なんて何処にもいない。だというのに、彼女らはさとりを騙し、善人ぶった上で自ら化けの皮を剥ぎ、殺し合っている事になる。
 それが『三点目』。折角見事に騙し通し、虚を衝く絶好の好機を得た筈だったのに。

 どうしてこの巫女たちは、私たちを無視して勝手に殴り合っているのだろう。

「う……っ」

 浮かび上がった不可解な問題を解決するべく、再びサードアイを起動するも……すぐに後悔した。
 彼女たちの心の『声』があまりに凄惨で、貪欲すぎた。圧の大きい心を覗いてしまった反動は、今のさとりの肉体からすれば負荷が過ぎる。

「さとり……大丈夫か?」

 喉奥から迫り上がる吐き気に根負けし、両膝を突くさとりへと心配の声を掛けたのは隣のこころだ。
 心配してくれるのは本当にありがたいのだが、一層青い顔を浮かべているのは彼女の方だった。無表情を貫いているだけに、より分かりやすい。

「私は大丈夫。それよりも……貴方の方こそ、今にも倒れそうですよ」

 負の声を拒絶する為に、さとりはサードアイを閉じながらこころの肩を借りる。66の面を操る彼女の様相は、フラフラとはいかない迄も、いつものポーカーフェイスが台無しの落ち着きのなさが見て取れた。

「……怖いの」
「怖い?」

 俯きがちに発せられたこころの言葉は、泣きごとのように酷く弱々しい。まるであの怪物・藤原妹紅と対した時みたいに。

「こいつらの『感情』が、私には分かる。でも、分からない。だから、怖い」

 震えながら吐かれるその説明には不足が多く、さとりが全てを察せるまでには至らない。言葉足らずであるこころの次の台詞を、さとりは急かさずに待った。

「感情は平等でなくては、ダメ。誰かに不平に齎された、贋物の感情なんかじゃあ絶望しか訪れない」

 希望がない。
 感情を失うとは、そういう意味だ。
 奪うまでもなく、現状ここには希望が見えない。
 操るまでもなく、どうしようもなく絶望的である。
 こころがこの会場に飛ばされて、初めに感じた事だった。

「膨れ上がった『怒り』の感情。あの人たちを動かしているのは、たったのそれだけ。感情を過剰に暴走させるっていうのは、死ぬ事と何も違わない」

 秦こころがかつて『希望の面』を失い、能力を暴走させた過去。本人にとって耐え難い過失であったその時の名状し難い感情は、二度とは忘れない。
 現在、霊夢らを襲っている現象は、指向性は違えどあの時と同じだ。幻想郷の人々から希望の感情が失われ、刹那的な快楽を求めるようになった、あの異変と。

610雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:33:40 ID:Cv8akD0g0

「何とか……何とかしなければ……! 皆に、元あるままの感情を取り戻さなければ、きっと取り返しのつかない事が起こる……っ」

 使命感からか。はたまた贖罪の気持ちか。
 此度のアクシデントはこころ本人に何ら非は無いが、ここで呑気に見ている訳にはとてもいかない。
 周囲を覆う『怒』の感情に当てられながらも、面霊気は竦む足へと強引に気合を入れた。その右足はつい先程、妹紅戦にて背後から切断されたばかり。河童の薬が驚異的な速度で治癒を施してはいるが、痛みは依然収まる気配がない。

 健気だった。
 涙をも誘うその勇姿にさとりは、一縷の希望を見出した気がした。

「……詰まる所、こころさん。あの人間たちは、自ら殺し合いに投じてるのではなく、他の外的要因によって無理矢理に『感情』を狂わされている、というのが貴方の意見でしょうか?」

 こくり、と首肯。
 そういう事であれば、あまりに不可解なこの現状にも筋が通る。
 そして、筋が通らない事柄もあった。

 では何故、自分は無事なのか?

 こころの話をそのまま信用すれば、元よりこの地で白蓮の帰還を待っていた自分たち両二名に、怒の感情が襲って来ない事には違和感が残る。

 秦こころに関しては、何となく予想が出来る。
 曰く彼女は感情のエキスパートであり、66の感情の面を操る究極の面霊気。以前までの不安定であった時期ならともかく、現在のこころに対して感情を操作するような攻撃など、無効化されて然るべきといった考えも出来るからだ。
 即ち『相性』であるのだが、じゃあさとりに対し効果が見えない理由が見当たらない。この謎さえ解ければ、もしかすれば事件解決への足掛かりになり得るかも知れないのに。

 考えても答えは出ない。前提すら間違っているのかもしれない。
 不毛な謎解きにお手上げ寸前でいたさとりの耳へと、管楽器を吹き鳴らした様な聞き慣れない音が二回、鳴り響いた。

「おい、アンタらこっち! 急いで乗って!」

 獰猛な暴れ牛を従える──バギーカーを操縦する因幡てゐが、クラクションを鳴らしながらさとり達を懸命に手招きしていた。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

611雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:34:34 ID:Cv8akD0g0
『因幡てゐ』
【夕方】C-5 魔法の森 南の小道


 「この世で最も強い力は何か」という議題における解答は『幸運』であると。
 心からそう信じていたし、理論上でも間違いはない。
 しかしながら最近は、『幸運』であることが即ち『幸福』に繋がるかと問われれば、答えに窮するというのもまた事実だった。

 どうも幸運=幸福と考えるのは間違いらしい。納得出来ないし、歯痒い気持ちもあるけど、そう考えざるを得ない出来事が最近、連続して多すぎる。
 幸運者には幸運者にしか理解出来ない悩みというものはある。まさに今、少女が幸運者であったからこそ、こうして慣れない車の運転に勤しみつつ、奔走しているのだから。

 幸運の白い兎、因幡てゐ。
 現段階の彼女には素知らぬ事実だが、あの場の全員の中で彼女だけが唯一、スタンド『サバイバー』の能力に接触していない。
 雨や雪などで濡れた地表を介し、対象者の闘争本能を刺激するその地雷スタンドは、最後までバギーカーを降りずに篭ったてゐにだけは届くことがなかった。

 そして今、助手席と後部座席に座る古明地さとりと秦こころ。
 二人はサバイバーへとモロに触れてしまった。その上で影響が垣間見られない原因の一つに、こころの『面霊気』という特性が齎す耐性がある。これは先程さとりが予想した推理がピタリ当たっていた。

 もう一方のさとり。彼女にとっても『幸運』な事に、少女の体内には『聖なるモノ』が宿っていた。
 聖人の遺体。この世の絶大なパワーの一部を宿す遺体が、少女を悪い気配から護ったのだった。

 この幸運な結果が、果たして幸福に繋がるのか。己の腹に宿る『正体』に検討もつかないさとりでは、答えを先延ばしにする事しか出来ずにいる。




「───ジョナサン・ジョースターがいつの間にか消えてる事に、気付いてた?」

 かなりの低身長ゆえ、相当苦しそうに足を伸ばしながらの運転。故に速度は控えめながら、小道を走るその車に乗り込んでいるのはてゐ、さとり、こころの三名だ。
 すぐ左手には魔法の森の木々が並んでおり、それなりに体積の広いバギーカーを走らせるにはギリギリ、といった程度の小道をてゐは探り探りに徐行運転を続けている。

「そういえば……あの乱闘に泡を食うばかりで、気付きませんでした。……あ、そこ右に曲がってます」

 体格上、仕方ない事であるが、何とかアクセルを踏み込めている体勢のてゐの視線では、運転席から前方下半部は殆ど目視できてない。従ってナビゲーターを助手席のさとりに委任し、自分は辿々しい運転に全神経を集中させていた。

「右……右ね、了解。って、この先竹林だぞオイオイ。夢遊病にしたって散歩コースは選んで欲しかったなあ」
「……では、あの乱闘はジョースターさんのDISCが原因と考えても?」
「ジョジョ曰くね。更に言えば、そのDISCを暴走させた張本人もジョジョが原因らしいんだけど」

 結局の所、今こうしててゐが無免許運転を渋々強制させられているのも、全ては我が相棒の尻拭いという事になる。まだあの場でファイトクラブに勤しみ、奴めの顔面をボコスカ殴っていた方が幸福だったのではないかと、てゐは己の幸運力に疑問を挟まずにはいられない。

 しかし、頼まれてしまった。
 あの時、ジョセフは託したのだ。
 この地獄を終わらせる。そしてこれ以上の波紋を拡げない為。
 唯一の相棒へと、事態の収束……その手段を伝えて。

(あームカつく! 考えてみれば妖狐の時だって助けてやったのは私の方からじゃんよ! 何であんな奴を『相棒』に選んじゃったんだ私は!?)

 白兎の心中に湧き上がる怒りは、決してサバイバーの影響ではない。ここで少女が無責任なる相棒へ苛立つのは、当然の権利と言えた。
 図らずも理不尽な試練に立たされたてゐ。運転する盗難車でこのまま何もかも放棄し逃亡するというのも、ひとつの選択ではあった。少なくとも以前のてゐであれば、そうする。
 それをやらない理由など、考えるまでもない。
 我が身可愛さの選択が、自分の中で既に有り得ない事柄となっている自覚。

 何にも増して最も苛立つ相手とは、己の危うく、不合理な指針。それだけの事だ。

612雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:34:56 ID:Cv8akD0g0

「兎に角! 今はあのジョナサンをとっ捕まえるよ! サトリ妖怪、次どっち!」
「あ、ハイ。彼の足跡はそのままで……」

 理不尽な苛立ちをぶつけられるのは、さとりも同じである。
 消失したジョナサンを追うのに、この白銀の環境は不幸中の幸いと言うべきか。あの身長195cmの体躯から生み出される雪上の足跡は、うっかり雪山で目撃すればビッグフットか何かだと勘違いすること請け合いである。
 追う側である我々にとっては都合が良い。四苦八苦しながらハンドルを操るてゐを横目に、さとりは膨れたお腹を無意識にさすった。

(私やこころさんがあの能力の影響から逃れたのは……何か、意味があるのかしら)

 万物の起こりには必ず意味が存在する。
 家族を喪ったばかりのさとりにとって、今や自分の保身だけでも精一杯というのが現状であり、正直言って「あの巫女達を救わなければ」という気持ちはそれ程大きくない。

 だが、ジョナサン・ジョースターは例外だ。
 彼には大きな借りがあり、知らず命を救われていたさとりは、まだ彼に対し感謝の言葉も掛けられていない。
 錆に塗れ、血に濡れたこの世界において『優しさ』を忘れることは即ち、敵を増やすことに他ならない。旧地獄に逃げ、地底の溜まり場で最低限の処世術を学んださとりは、それを体験している。
 見返りを期待してでもいい。『敵』を増やすよりは『味方』を増やす事の方が遥かに建設的で、自分が傷付かない方法なのだから。

(何より……白蓮さんと約束しましたから)

 聖白蓮は決死の覚悟で紅魔館に向かった。
 ジョナサンのDISCを取り返し、傷だらけで帰還を遂げた其の場所に肝心のジョナサン本人が居なかったとあれば、留守を任された自分らは何をやっていたんだという話になる。
 無論、あの慈悲深い尼はそんな事でさとりを批難したりはしないだろう。どころか自責に苦しむさとりを至極丁寧に慰め、負傷体のまま即座にジョナサン捜索へ飛び出すくらいはやるかもしれない。

 それが、さとりには堪らなく嫌で。
 因幡てゐに協力する、自分なりの理由だった。


 前方に竹林が見えてきた。
 足跡は、林内に伸びている。このまま何事もなく事を成し遂げるという期待は、果たして楽観的であろうか。

 言い知れぬ不安が、さとりの胸中を過っていった。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

613雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:35:32 ID:Cv8akD0g0
【C-5 魔法の森 南/夕方】

【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:黄金の精神
[装備]:閃光手榴弾×1、焼夷手榴弾×1、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」、マント
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品×2(てゐ、霖之助)、コンビニで手に入る物品少量、マジックペン、トランプセット、赤チケット
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:何で私がアイツの尻拭いを!
2:柱の男は素直にジョジョに任せよう、私には無理だ。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船終了以降です(バイクの件はあくまで噂)
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※蓬莱の薬には永琳がつけた目盛りがあります。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。


【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷(大方回復)、体力消費(中)
[装備]:草刈り鎌、聖人の遺体(頭部)
[道具]:基本支給品(ポルナレフの物)、御柱、十六夜咲夜のナイフセット、止血剤
[思考・状況]
基本行動方針:地霊殿の皆を探し、会場から脱出。
1:ジョナサンを保護。
2:ジョースター邸にお燐が居る……?
3:お腹に宿った遺体については保留。
[備考]
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は少なくとも地霊殿本編終了以降です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
 このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
 それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
 精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
 もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
 そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。
※両腕のから伸びるコードで、木の上などを移動する術を身につけました。
※ジョナサンが香霖堂から持って来た食糧が少しだけ喉を通りました。
※落ちていたポルナレフの荷を拾いました。
※遺体の力によりサバイバーの影響はありません。


【秦こころ@東方心綺楼】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(小)、右足切断(治療中)
[装備]:様々な仮面
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:ジョナサンを保護。
2:感情の喪失『死』をもたらす者を倒す。
3:感情の進化。石仮面の影響かもしれない。
4:怪物「藤原妹紅」への恐怖。
[備考]
※少なくとも東方心綺楼本編終了後からです。
※石仮面を研究したことでその力をある程度引き出すことが出来るようになりました。
 力を引き出すことで身体能力及び霊力が普段より上昇しますが、同時に凶暴性が増し体力の消耗も早まります。
※石仮面が盗まれたことにまだ気付いてません。
※面霊気の性質によりサバイバーの影響はありません。


【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:???、背と足への火傷
[装備]:スタンドDISC「サバイバー」、シーザーの手袋(右手部分は焼け落ちて使用不能)、ワイングラス
[道具]:命蓮寺や香霖堂で回収した食糧品や物資、基本支給品×2(水少量消費)
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:???
2:レミリア、ブチャラティと再会の約束。
3:レミリアの知り合いを捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
6:スピードワゴン、ウィル・A・ツェペリ、虹村億泰、三人の仇をとる。
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。

614雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:36:01 ID:Cv8akD0g0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『ジョセフ・ジョースター』
【夕方】B-5 果樹園小屋 跡地


「───これで、良いんだろ。徐倫ちゃんよ」
「ええ。上出来よ、ジョセフ」


 さとりとこころを拾ったバギーカーの姿はジョセフの視界からどんどん小さくなり、やがて消えた。
 満身創痍の状態でそれを見送ったジョセフは、ゆっくりと徐倫へと向き直し、再びファイティングポーズを構える。

「じゃあもういいだろ。オレに女を殴る趣味はねーし、この辺でお開きにしとこーぜ」
「……同意見、よッ!」

 言葉とは裏腹に、雪を滑走路にして徐倫は踏み込んだ。鋭い前蹴りがジョセフの鼻先1cmを掠め、思わずスリップしそうになる。
 縺れる足を組み直し、ジョセフは闘志に燃える徐倫からすぐに距離をとる。彼女の瞳からは、未だに戦意の炎は途絶えていなかった。

 頭でもおかしくなりそうなこの状況、その原因。
 ジョナサンの額に吸い込まれたDISCの回収が、異変を収める手段。
 突発的な闘気に支配されながらも、徐倫はそれらの説明をジョセフへと伝えた。無論、拳を飛ばしながらだ。
 因幡てゐに全てを託すジョセフの行動は、徐倫を端としていた。どうやらサバイバーの影響下であっても、完全に正気を失うわけではないらしい。
 つまり徐倫は、残ったなけなしの理性でサバイバー攻略に打って出たのだ。後はてゐ達次第。自分に出来ることはこれ以上ない。

「じゃあもういいだろうがッ! こっち来んじゃねーよ、アブねー女だな!?」
「アタシもずっとイラついてたのよね。悪いけど、ストレス発散に付き合ってくれる?」

 徐倫の言う『ストレス』が、父・承太郎の死亡と博麗霊夢の存在にある事は、ジョセフの知るところでは無い。
 暴れ回るナイフの刃と化した徐倫を鎮める手段は、ジョセフにもある。

 波紋だ。
 マトモな生物がこれを喰らえば、大抵一発で幕引きとなる。ジョセフは格闘の合間合間に、相手へこれを流す好機を窺っていた。


 これも当然、ジョセフの知るところでは無い事実だが。
 人を強制的に闘争状態へ落とし込むサバイバー。ジョセフにその影響が比較的薄いのは、その『波紋』がプラスに作用していたからである。
 柱の男との決戦の為、師から尻を叩かれながら完遂した波紋の修行は、常時波紋の呼吸を習慣付ける癖を修得させた。
 全く偶然の産物である。雪を通じて体内に流れんとするサバイバーの電気信号は、修練を積んだ波紋使いの『無意識の波紋呼吸』によって阻害されていた。
 微弱に流れる波紋が、ジョセフに忍び寄る信号を僅かにだがカットさせている。この効能によって、ジョセフの正気は完全ではないにしろ、それなりに保てていた。

 本来ならてゐに付いて行く役割は自分なのだろう。しかしこのサバイバーの魔力は相当に厄介で、ひとたび体内へ侵入を許したなら、時間経過以外による方法での自力復帰は不可能に思える。
 少量とはいえ影響を受けてしまったジョセフが、てゐ達の傍に居座る状況はあまり適切な判断とも言えなかった。

(もどかしいぜチクショー! DISC回収して早く帰って来てくれよ……てゐちん!)


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

615雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:36:32 ID:Cv8akD0g0
【B-5 果樹園小屋 跡地/夕方】

【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:半闘争状態、顔面流血、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、てゐの幸運
[装備]:アリスの魔法人形×3、金属バット、焼夷手榴弾×1、マント
[道具]:基本支給品×3(ジョセフ、橙、シュトロハイム)、毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフ(人形に装備)、小麦粉、香霖堂の銭×12、賽子×3、青チケット
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:取り敢えずは徐倫らの沈静化。
2:カーズから爆弾解除の手段を探る。
3:こいしもチルノも救えなかった……俺に出来るのは、DIOとプッチもブッ飛ばすしかねぇッ!
4:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ!
[備考]
※参戦時期はカーズを溶岩に突っ込んだ所です。
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※因幡てゐから最大限の祝福を受けました。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。


【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:闘争状態、顔面流血、体力消耗(中)、全身火傷(軽量)、右腕に『JOLYNE』の切り傷、脇腹を少し欠損(縫合済み)
[装備]:ダブルデリンジャー(0/2)
[道具]:基本支給品(水を少量消費)、軽トラック(燃料70%、荷台の幌はボロボロ)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:アタシが最強だァァーーーッ!!
2:FFと会いたい。だが、敵であった時や記憶を取り戻した後だったら……。
3:しかし、どうしてスタンドDISCが支給品になっているんだ…?
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
※霧雨魔理沙と情報を交換し、彼女の知り合いや幻想郷について知りました。どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
※ウェス・ブルーマリンを完全に敵と認識しましたが、生命を奪おうとまでは思ってません。
※人間の里の電子掲示板ではたての新聞記事第四誌までを読みました。

616雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:36:57 ID:Cv8akD0g0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『博麗霊夢』
【夕方】B-5 果樹園小屋 跡地


(てゐ達は……行ったわね。後は私自身、だけども)

 静かに。
 流れる水のように自然体で立つ霊夢。
 冷静でいられる自分と、衝動に身を任せたい自分。
 相反する二人の己の境界で、彼女は自分に起こる異変へと冷静な分析を終えていた。
 そして、あくまで心の内のみで冷静であった部分も。

「どうしたのよ、魔理沙。私が気に入らないのでしょう?」

 次の瞬間には、激情を拳に乗せて目前の友人へと打ち込んだ。魔理沙は頬を打ち抜かれ、そのまま紙屑のように雪の上を転がる。
 かなりの力を込めなければ、今の魔理沙の様に吹き飛んだりしない。負傷状態であるにもかかわらず、霊夢は少女の身で人間一人を思い切りに殴り飛ばしたのだ。
 痛みはない。疲労も、この状態ではまるで感じない。羽が生えたみたいだと、皮肉気味に霊夢は笑った。

 喧嘩なんかしている場合ではない。先程、霊夢自身が魔理沙へ放った台詞だ。

「ク、ソ……っ! 畜生、やりやがった、な……!」

 それでも、仕方ないではないか。
 魔理沙の方から立ち上がり、しつこく向かって来るのだから。

 だから〝仕方ない〟。
 霊夢が友へと手を出すのは、それだけの理由であり。
 それだけで十分だとも、思えた。

「アンタ、勘違いも甚だしいわよ。私は別に、死んだジョジョを今更どうこう思ったりしてない」
「ハァ……ハァ……。私には、そうは思えんけど、な……っ」
「しつこいわね。それって、嫉妬?」
「うる、さいッ!」
「見苦しいわね」


 尚も土を蹴り、駆け出してくる魔理沙へと。

 霊夢はあくまで、静かに。

 精神の内では、激情に身を任せて。

 理由の無い暴力に縋り、浸り。

 傷付いた心を、ひたすらに慰めていた。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

617雪華に犇めくバーリトゥード ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:37:32 ID:Cv8akD0g0
【B-5 果樹園小屋 跡地/夕方】

【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:闘争状態、体力消費(大)、胴体裂傷(傷痕のみ)、左目下に裂傷
[装備]:いつもの巫女装束(裂け目あり)、モップの柄、妖器「お祓い棒」
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん(半分消費)、アヌビス神の鞘、缶ビール×8、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
0:
1:有力な対主催者たちと合流して、協力を得る。
2:1の後、殲滅すべし、DIO一味!!
3:フー・ファイターズを創造主から解放させてやりたい。
4:『聖なる遺体』とハンカチを回収し、大統領に届ける。今のところ、大統領は一応信用する。
5:出来ればレミリアに会いたい。
6:徐倫がジョジョの意志を本当に受け継いだというなら、私は……
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎の仲間についての情報を得ました。また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。
※自分は普通なんだという自覚を得ました。


【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:闘争状態、右手骨折、体力消耗(小)、全身に裂傷と軽度の火傷
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」、ダイナマイト(6/12)、一夜のクシナダ(60cc/180cc)、竹ボウキ、ゾンビ馬(残り10%)
[道具]:基本支給品×8(水を少量消費、2つだけ別の紙に入っています)、双眼鏡、500S&Wマグナム弾(9発)、催涙スプレー、音響爆弾(残1/3)、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』、不明支給品@現代×1(洩矢諏訪子に支給されたもの)、ミニ八卦炉 (付喪神化、エネルギー切れ)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:博麗霊夢が気に食わない。
2:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※徐倫と情報交換をし、彼女の知り合いやスタンドの概念について知りました。どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
※アリスの家の「竹ボウキ@現実」を回収しました。愛用の箒ほどではありませんがタンデム程度なら可能。やっぱり魔理沙の箒ではないことに気付いていません。
※人間の里の電子掲示板ではたての新聞記事第四誌までを読みました。
※二人は参加者と主催者の能力に関して、以下の仮説を立てました。
荒木と太田は世界を自在に行き来し、時間を自由に操作できる何らかの力を持っているのではないか
参加者たちは全く別の世界、時間軸から拉致されているのではないか
自分の知っている人物が自分の知る人物ではないかもしれない
自分を知っているはずの人物が自分を知らないかもしれない
過去に敵対していて後に和解した人物が居たとして、その人物が和解した後じゃないかもしれない

618 ◆qSXL3X4ics:2020/07/21(火) 15:38:08 ID:Cv8akD0g0
投下終了です。

619名無しさん:2020/07/21(火) 17:57:55 ID:GMOym/zs0
お久しぶり&投下乙です
やっぱサバイバーってクソだわ(確信)。とはいえ東方主人公'sの感情剥き出しの大喧嘩の行く末は気になるな
このままだと被害が拡大するからジョナサン一旦止まってくれー!

620名無しさん:2020/07/22(水) 15:54:04 ID:2uHeQI6E0
投下乙です
霊夢と魔理沙がサバイバーという状況でいつかはやるかもしれないことを思っていた以上に激しくやってる…
このメンバーにサバイバーへの特攻持ちが揃っている状態だったのに加えて黄金の精神でそれなりに対抗できてるギリギリさはジョジョらしく、ここからロワらしく無慈悲な現実が突き付けられるようなことにはならなさそうでちょっと安心してしまった

621 ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:08:33 ID:xCgiZT7s0
ゲリラ投下致します。

622 ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:09:30 ID:xCgiZT7s0



雪という物を見て、人は何を想像するだろう?


人肌に重ねただけで滲み、崩れ、黄金を満たさぬ水の一欠片でしか無くなる儚さ。
一面の白い景色から感じる冬の厳しさ。古くから芸術的な価値を以て意匠となってきた叡智。
物というのは不思議な事に、見る側面や人物によって様々に姿を変える。
しかし情景を重ね、趣を撫でる――自然現象の一つであるという事実は易易と改変出来る物ではない。

しかしながら、これが自然現象と呼んで片付けるには異常な空模様だという事はとうに分かりきっていた。
異質な空気の震え。急速な雲の変化。先刻までは雨が降っていた事を示すかの様に木々は雨露をその葉から静かに垂れ流す。
驟雨であったならばすぐ太陽が照らしても良いものを、逆に曇天の空は暗くなるばかり。
"ウェザー・リポート"による人工的な降雪だろうという結論を導き出すのに、そこまで時間を要するものではない。
直接見なくとも、確信出来る程には彼の行動はそれとなく読めるのだ。


降雪模様に包まれた会場の中、蒼白と憂いと苦笑いを帯びた感情のまま空を眺めるその男。
足取りは重いようで軽いようで、見る者によって様々な印象を受け取らせるだろう。
雪に足跡を残しても、すぐには積もって消えてしまいそうな泡沫の存在。
但し一参加者がその光景を見れば、驚く以外の何事も出来ないに違いないだろう程の異端さを纏っている。


その人物はある物語を紡ぎ、とある物語を夢想し、この会場を作り上げた主催者の一端。



即ち、荒木飛呂彦その人であった。



彼の表情に余裕は微塵も無い。
「目の前に雪にタイヤを取られた車が立ち往生しているから上着を汚してでも助けよう」だとか、
「こんな時に雪が降り積もるのはどう見ても異変だから元凶をとっちめてやろう」だとか、
そんな思考が介在出来る程落ち着いていない、ただただ逼迫した状況に追われている様な危うさ。
差し迫った驚異からの逃亡を図って、行く宛もなくただただ彷徨うだけの放浪のその現場。
導きの灯火は存在せず、ただただ当惑と悲嘆と狼狽と恐怖とその他諸々のマイナスな感情がごちゃまぜになっている。
笑っているのか泣いているのかは本人ですら分からない。グチャグチャなままその一歩その一歩を刻んでいく。
出来る事は歩く事だけ。歩けば舗装された道が目の前に現れるかもしれない、という淡い期待。
云わば遭難者である。

623 ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:10:34 ID:xCgiZT7s0

ここまで至らしめた原因、こうなるまでに至った経緯。
それらを想起し自制しようとする度に、あの忌々しい張り詰めたような笑顔が脳を埋め尽くす。
裸体。赤面。先程目にしたあの光景が浮かぶ度に、どうとも言い表せない感情の潮流が巻き起こってしまう。
フェードアウトさせて一刻も早く消し去りたいのに脳の一領域にこびり付いて削れない。
どうして、なんて言葉すらも喉に辿り着けない程澱んだ思考が彼をますます苦しめている。
冷静になりさえすればこの疑念を取り払える展開もあったかもしれないが、そうする事も出来ない嗟傷の中で呻くのが精一杯だった。

そもそも全裸の男を相手に冷静になれというのも無理があるのだ。
露天風呂という場所もルールがあるからこそ見ず知らずの他人とも一緒の湯に浸かれるものの、公共の場ではそうはならない。
ギリシャ彫刻における美と博物館に突如現れた露出狂が違うのは誰だって分かるはずだ。

太田君がもし仮に吹けば倒れそうなあの痩せこけた体ではなく、ルネサンス期の彫刻の様な均衡の取れた美術的な筋肉質の……


……いや、よそう。


想像するも悍ましい気持ち悪さを堪えて歩みを進める。
太田君にも見付からずに――もっと言えば誰にも見付からずに居たかった。どこに向かっているかもなるべく考えないようにしていた。
それでも当初思っていた通り、足を向けてしまえばこのゲームを根底から覆しかねない場所に歩を進めている自分が居る。
ダメだと思う感情と、太田君と事を交えるよりはマシだという感情。どちらが天使でどちらが悪魔かなんて分かる訳もない。
そもそも人の大勢居る場所に竄入して何になるのだ。逃げるならとっとと逃げてしまえば良いのにそれすらも出来ない。
それに仮に参加者が逆上して殺しに掛かってきた場合も戦闘に入ってこちらの手の内を明かした時点でゲームの進行に支障が出る。

ならば太田君の殺害と引き換えに上手いこと参加者に融通を利かせるか?
答えは否だろう。こと交渉においてこちらが不利になるのが見え見えだ。
わざわざ身を隠しているはずの主催者の一人が動揺しながら姿を現している時点で主催者間で何かあった事に気付かれる。
あそこにはゲームに乗っている参加者は誰一人として居ないのだから、そんな条件を出したところでどうにもならないのだ。

何故考えながら歩いているのだろう。
止まって考えればまだ打開のアイデアに閃けるタイムリミットを稼げるだろうのに。
何故あそこに行けば事態が解決すると信じ込んでいるのだろう。
誰かにこんな話を聞いて欲しくて雪の中を歩いている訳ではないのに。

あと少しで辿り着くという恐怖に己の心を塗りたくられそうになる。
何歩か歩くだけでエリアの境目に立つというのに、その何歩かが出ないという事実がそれを顕著に示している。
恐怖を支配するメソッドなんて作中で書いた身でも、一丁前に恐怖はするものだ。
太田君の男色への恐怖も大概だが、ここまでくるとどちらが上か分かったものではない。
時間経過で恐怖が和らぐかもしれないという希望すらも感じられない。
もしあそこから誰かが出てきたら、と思うと気が気で無くなるだろうという確信を持っている。



そうして立ち竦んで。
やはり一歩が踏み出せなくて。
ブツブツああでもないこうでもないと呟いて。
心臓が跳ねる音を一分間にどれだけ聞いたかも分からくて辟易して。

そして草を掻き分け雪を踏み締める音がして。


「うげぇ、全然違うじゃん。ダレよおっさん」


自分以外の存在が近付いていた事に否応が無しに気が付かされるのだ。

624Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:12:21 ID:xCgiZT7s0


─────────────────────────────



【午後】C-4 魔法の森 南東部




心身共に疲弊した荒木の前に参加者が現れてしまったという事実。
少女の声。人の集まる場所の近く。太田君の顔。色々な要素が脳裏で鬩ぎ合っては弾け飛ぶ。
危険信号の点滅音はけたたましく耳の奥を揺らして離さず、この事態の緊急性を嫌程かというレベルで訴えていた。
いつもの調子なら接近してくる誰かの存在に気付くのは簡単だろうが、それすらも出来ない程に切羽詰まっていたのだから無理はない。
余程の訓練を積んでいたとしても極限状態に置かれた者が普段通りに振る舞える保証などどこにも無いのだから。

参加者に気付かれたというこの事態この状況は、それ程までに緊張を加速させるに値する。
彼の首の皮一枚で繋がっていた精神性の最後の牙城をいとも容易く壊してしまえる物を秘めていたこの接近劇。
思い付く防衛策は一つしか無かった。



「逃げるんだよォォォ─────ッ!!!!!」


自身の能力を使おうとは全く考えていない、イイ年した男の全力ダッシュ。
鍛え上げられた筋肉と、それを活かせる彼のトレーニング生活はこういう時に功を奏すのだ。

こと逃亡という観念に対して、年甲斐といったプライドは関係無い。
命あっての物種であるし、相手を振り切って追跡を断念させれば事実上の勝利と言っても過言では無い。
逃げるが勝ちというのも走為上という兵法三十六計に記された由緒ある戦法に由来している。
戦って玉砕する心配は皆無でも、相手の姿も確認せずに逃亡に走らせる程の余裕の無さが今の荒木には存在していた。

これからどうするかという展望は存在しないのに。
逃げれば事態が解決する訳でもないというのは嫌でも分かっている。
それでもまずは目の前の参加者から一刻も早く身を隠す事が先決だという考えを脳が思い付く前に実践していた。
姿は見られているだろうけれども、相手が一人の様子ならどうにかこうにかなるに違いないという淡い期待もある。
立場上は主催者なのだから毅然として振る舞うのが最適解だったかもしれないが、そんな心の余裕が無い事はとうに分かりきっている。


だが、結局は幸か不幸かという問題なのだ。
追跡者が逃がしてくれるかどうかはその時になってみないと分からないもので。



荒木の走っていたすぐ後ろの木が何の前触れも無く爆ぜたのはそれから数秒も経っていない事だった。

625Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:14:22 ID:xCgiZT7s0


走りながらも振り返ると眼下に入るは黒い火柱。
火柱と形容するのがやっとな程、ソレはドス黒い揺らぎを風に靡かせながら天に迸らせていた。
バチバチと轟く木の焼け焦げる音が辛うじてそれが炎である事をこれでもかと認識させてくる。
弾け飛ぶ火の粉も怨念の宿ったかのような黒色。焼け焦げる木の姿も火柱と見分けの付かない程の黒炭一色。
視界の数割かが黒色で埋め尽くされて他の色を侵食してゆく、悪夢の様な何か。

こんな能力の使い手は居ないと思考が喧しく叫んでいる。
"マジシャンズ・レッド"の様な万能チートスタンドを配布したスタンドDISCに加えた事実も存在しない。
太田君の揃えた幻想少女達にもこんな炎を扱える該当者は居なかったはずだと記憶が訴える。


「あれェ生きてるのかぁ〜。まぁイイや。殺しちゃえば皆同じでしょ?」


炎の数々によって遮蔽物が取り払われ、焼け焦げた木の後ろから人影が姿を現す。
しかし後方に現れたその姿はどこからどう見ても語られ見せられた藤原妹紅のそれで。
本来であれば白かったはずなのに今や黒く長く暗黒を湛えたその髪と、切り刻まれた痕の残る服装だけが記憶との相違点。
ただ、外斜視を思わせるようなその目の焦点の合っていない様子と口ぶりの危うさが、想定の一参加者と違う事を否応が無しに語っている。
DIOの肉の芽といった精神干渉手段とは別の意味で、何かがおかしいと判断するには充分過ぎる姿。

それどころか、違和感といえば遭遇時の発言。相手の姿を捉えながら誰だと聞いている。
主催者である自分の姿なんか最初のオープニングセレモニーの時点で見ているだろうから分かるはずだという仮定。
そうでなかったとすれば無謀なただの可哀想な少女だが、それはそうとしてもやはりその姿自体が違和感満載だ。


「■■■■───!」


最中、思案をぶった斬るかのような咆哮。
迷いも吹っ切れてくれれば良いのに、あくまで止まるのは頭の回転だけ。
憎悪や怨念を埋め込んで無理矢理発音に押し留めたとも言えるような、そんな惨憺たる声が耳を劈く。

何かがおかしい、何かがマズイ。
違和感や懸念など全て取り去ってしまえるレベルで目の前の少女は壊れているという確信。
ただやはり、主催として参加者を殺しにかかるのはゲーム的に宜しくない。
けれども太田君が目の前に現れる前に早くなんとかしなければならない。
そもそも主催者という立場を投げ捨てるなら後方の相手を一瞬で片付ければ良い話なのに、未だにそれに拘泥している自身もある。

626Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:15:33 ID:xCgiZT7s0

逸る気持ち、焦る気持ち。全てを邪魔だてするかのように目の前の少女は黒く染まった炎を翳して放ってくる。
それでも走る。走る。撒けば事態の根本がが解決する訳では無いと頭の片隅で分かっていても、足が止まらない。
直線的で美的センスを微塵も感じられない弾幕を逃げながら避けるのは弾幕ごっこに精通していなくても余裕らしいが、それでも猶予が無い。
手を出せぬままの膠着状態。しかもこの場所は非常に宜しくない。

そもそも先程向かおうとしていた大人数集まっている場所自体がレストラン・トラサルディー。
逃亡している真っ只中ではあるが、ここから少し歩けば余裕で視界に入ってくる程度には大した距離も無く行けてしまう場所である。
この焦げた匂いや音から誰かが訝しんで様子を見に近付いてくる可能性も否定は出来ない。
もし参加者に見付かった場合、自分の余裕の無さを看過されたらそれはそれでマズイのはさっきも考えた通りなのだ。
しかもよりによってこの藤原妹紅と因縁のある面子もレストランに居る面々には混じっている。

心臓が跳ねる。息のペースが乱れゆく。足が縺れそうになる。思考が纏まらない。
死への恐怖は全く無かった。存在しているのはただただ己の行く末への不安という一点。
この先太田君に転んでも他の参加者に転んでも眼前の参加者に転んでも、残っているのは行先不透明な未来だけ。
どれが一番マシかなんて優劣付けれない。そもそも全てが一番ダメな選択肢のタイ。
このゲームを壊す事だけは絶対に避けたいという、ある意味子供じみたワガママが全てを邪魔しているのだという事に気付けず。


せめて突如反撃のアイデアが閃いてくれさえすれば。
もしくは何事も無かったかのように主催者として振舞う道筋が開かれさえすれば。


されども狂炎は止まない。
雪が降り積もっては溶かされていく。



―――息を飲む。


選択が、出来ない。




眼前が真っ白になる。
それでも諦めずに足は動かしている。
自身の能力で切り抜けられる方法を漸くその可能性に気付いて模索しようと出来たのは運が良かったのか。


両の眼を見開いた瞬間。



そこには草木の燃え跡が広大に広がるのみで。


藤原妹紅のその姿は、忽然と姿を消していたのだ。

627Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:16:56 ID:xCgiZT7s0
─────────────────────────────





暴風雨の様に驚異が去ってまだ幾秒しか経っていないのに、体感では分単位で時が進んでいるように思える。
肩で息をしなければならない程に、遅れて吹き出した緊張の糸の縺れという名の楔は深く打ち込まれていた。
突然の転移という目の前に発生した僥倖の原因はいざ知らず、まだ根本的な問題の解決には一切至ってはいないのだ。
藤原妹紅という壊れた参加者が居なくなったからとて他の問題点となる太田君の存在や他の参加者の動向も安全な訳ではない。
どこに逃げれば安全か、確証のある行動は出来ない。―――少なくとも、会場内では。
主催者はパネルから参加者の位置を確認出来るが、それが主催者の位置もパネルに表示されない保証とはならない。
少なくとも大一番を決めるために入念な仕掛けをしているであろう太田君なのだから、そんなミスが無いはずがない。
地下空間のマッピングもされているのだから、そちらに逃げて座標だけ誤魔化すのも不可能である。

だが焦る思考に早く解を出せと責め立てる傍ら、視界にノイズが走った事実もしっかりと視神経から脳に行き届いていた。


瞬間、空間の一部が歪んで何かを形作ってそれは人型で見覚えのある帽子を被っていて―――




「荒木先生、大丈夫ですか!!」


その声と同時に思考が全て停止し、髪も全神経までもが震え上がる程の悶え。
背筋が凍った。それ以上に最適な表現はこの世に存在しないと言っても過言ではない。
運動後にかく気持ちの良い汗ではなく、雪やこの森自体の湿気に後押しされた、ゾッとするような気持ち悪さ。
振り返るまでもない。眼前に彼が居る。何も無かったはずの空間に突然転移して現れたのをこの目がはっきり捉えてしまっている。
一難去ってまた一難とも言うべきか。しかも先程の藤原妹紅以上の災難否、災害。
肌色を見せているのは腕と顔だけで、一糸纏わぬ裸体は存在しない。着衣の乱れや着崩しも見受けられない。
それにあの張り付けたような笑みを浮かべていない、ただただ心配している様に思えるその顔。
その数点に安堵して、それよりも大きな問題がある事に身が竦む。


「お、太田君!!??どど、どうしてこここに!!それにふ、服……!!??」


太田が目の前に居る現実が到底受け入れられずに、吐き出した言葉はギリギリで体を為しているだけのしどろもどろ。
体が驚愕したままわななき、足を滑らせてそのまま尻餅を付く醜態まで晒してしまう。
後方には焼け焦げた木の痕。立っていれば飛び越えられるだけの障害物も、今となれば追い詰めるのに都合の良い袋小路。
精神的にも肉体的にも逃げ場の無い、袋の鼠を追い詰める為の単純な行き止まりの完成である。

雪に足を掬われたのだ。立ち上がるまでのコンマ数秒。この状況で目の前の狂人が事を起こす可能性は否定できない。
いや、近くにレストランがあって参加者が来るかもしれない状態でそんな危険な事をするだろうか?
首を縦に振るのはこんな危機的状況では無理だ。


この男には、やると言ったらやる………『スゴ味』があるッ!

628Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:17:47 ID:xCgiZT7s0



「服、あぁ……先程は人を出迎えるのに失礼な格好ですみません。一際礼節を欠いておりました」


弔意を示すかのような凛とした真剣な声。ハンチング帽を腕に携え、そのまま腰を軽く曲げた姿勢。
目の前の男のそれがアレやソレとは断じて関係が無いのは最早明白で、逆に白色の靄が掛かったのは荒木の思考の方だった。
汗も拭えない緊迫した状況に水を指すかのような謎の行為。この隙に逃げようとは出来ない気迫も揃って何がなんだか分からず。
やっとの事で足の筋肉を呼び起こし、雪の上に静かに靴先を下ろす。立てば事態が動くかと思ったが、そうでもないらしい。
謎が謎を呼び、頭は混迷に至る。真っ白で意味も定まらぬ言葉をちぐはぐに繋ぎ合わせて、事態の解決を図ろうとする。
そして漸く、その意味しているものが誠心誠意の謝罪の姿勢である事に遅れて気付くのだ。
それでも疑念は拭えない。


「し、しかし……僕が来ると分かっていながらあんな……つい裸になったと……」


「そこについては……その、パソコンの中身をつい見られるのではないかと恐れて慌ててしまって……」


「パソコンがな、なんだって言うんだ」


「……すみません、正直に申し上げます。ある事に使う為に参加者の座標を移動させられるツールを作成してました」


「それを、見られたくなかったのかい、太田君は……」


「ええ、荒木先生には無断でやっておりましたので……」


数秒の沈黙。雪のしんしんと降る音すら聞こえてきそうな程の静けさが辺り一面に広がった。
その無音のひと時がが二人の間では相当に気まずいものであったのは言うまでもない。

確かに俄かに信じ難い言い分でもある。妻帯者という立場をカモフラージュに事を及ぼうとした可能性のある人間の弁明だ。
向こうの初期作品でこちらのネタを流用したのが家庭を持つ前だという事実を踏まえると信憑性があるようにも思えてくる。
しかしながら、確かに考えてみればそんな与太話とも思えるトンチキ新説のシリーズよりは明らかに信用に足りるのも事実で。
精神的な拠り所を喪いかけた思索を再び元の状態に立て直せるのならそうした方が良い、という瓦解を恐れる心もそれを受け入れるのに一役買っていた。

一人は冷静さを欠いた結果あられもない痴態を晒し、もう一人はそれを見て冷静さを更に欠いた結果絶句して焦燥感に囚われ。
傍から見れば変な確執という短い語彙で締め括られるこの有様でも、太田や荒木にとって紛れもない大問題。
それを冷静になって飲み込んでみれば、後々酒のタネになるだけの笑い種。傍目八目とはよく言ったものである。
古今東西、諍いというのはどうやって解決するかは結局当人達に委ねられるのだ。
それがたまたまこんな逃走劇までしでかすとは先刻までの自身に聞いても要領を得ないだろう。


「まさかこんな所で一人歩いていらっしゃったのも、もしかして頭を冷やすため、だったり……?」


「……無粋だよ太田君」


無論、先程までの醜態を悟られるのは荒木にとっては御免被る事態である。

629Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:19:06 ID:xCgiZT7s0



乱れた息を整える為に軽く深呼吸をすると、ひらひらと舞う雪の粉が息に掻き乱されるのがなんとも風流に思えてくる。
しかし冷静になると次第に呼気の冷たさが身に染みてくるようになり、ついさっきまでの自分自身をどこか他人事のように荒木は感じていた。
それと同時に余裕の出てきた心のスペースに羞恥心といった感情も戻ってきているのもまた同じく。
取り乱してあらぬ事に思い至った自分自身。浅ましくも悍ましい妄想など、思い出すも憚られるに決まっていよう。
逆に一刻も早く忘れてしまいたい。穴があれば入ってそのまま顔を隠したい、そんな心の疚しさは止まらない。
そんな先程の自分の焦りを追いやるかのように、今更になって気付いた疑問点が口を衝いて出ていた。


「しかし太田君こそだ。何故わざわざこんなところまで来たんだい?」


「その……ただのお節介です。先程の行為への謝罪というのもありましたけども」


「ふむ」


太田の言葉から一拍して、そうかと気付く。
どうやら頭の回転軸も次第に元に戻ってきているようだ。



「ははーん、なんとなく話が読めてきたぞ。まず君は僕と藤原妹紅の座標が一定間隔を取って移動していたのを見た。
 そして万が一を危惧して、開発していたツールで藤原妹紅の座標だけをどこかに移動させた。
 事の次第はこうなんじゃないかな?」


「荒木先生、お見事です。いやはや、短い会話からここまで類推されてしまうとは……」


「けれども第二回放送前に単独で移動していたであろう藤原妹紅を移動させているのは戴けないな。
 あれも君の仕業だろう?」


「……面目の無い事です」


顔を軽く俯かせた太田の方をふと見ると、手にちょっとした箱が抱えられているのが目に入った。
最初は謝罪のつもりもあったのだろうから、こういう時に菓子折りを持っていても不思議では無いのかもしれない。
箱自体は菓子折りにしてはやや厚みを帯びた形状をしているが、大きさとしては熨斗紙を付けても見栄えするくらいには大きい。
確かに通例的に菓子折りは挨拶と一緒に渡すのが礼儀という文章を目にする機会はあるだろうが、こんな雪の下では少々不格好である。
そのような大きさの箱を片手で軽々しく持っているにも関わらず、この細く折れそうな身体をした太田という男は若干のミステリーだとも荒木は思った。

そんな考えは露知らず。
荒木の目の動きを察したのかどうかは分からないが、太田は喜々とした表情で箱に手を掛けた。
蓋にまで指が至れば、いよいよ後は御開帳を待つだけである。

630Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:20:35 ID:xCgiZT7s0


「これは太田君らしい立派な"菓子折り"じゃぁないか」


箱が開封されれば中には衝撃吸収材に包まれた、謹製だろう目を引く手作りラベルが目を引く赤ワインが一本鎮座していた。
まず目を引くのはロゼワインの様な透き通る綺麗さではなく、これぞ赤ワインと表現したいかの如く外果皮の赤紫の表現の強い色艶。
雪下の薄暗さで行うテイスティングだからとは言え、手に取ってまじまじと見ても透明さも兼ね備えたワインレッドは変わらず。
これ程の色合いならば渋さもたけなわ、フルボディの格をふんだんに味わえるだろうと胸が躍るのを感じずにはいられない。
ビンの下に目線を動かすと、当然と言わんばかりに沈殿した澱がワインとの境界線を見事に引いていて、素人目でも上質な物だと認識出来る。
それも当然か、太田が選んだ酒なのだ。ビール党であろうとも、酒には手を抜かない男だろうという期待が大きい。


「ふむ……やっぱり露天風呂で言っていたように、他者の行動に倣って感情を募らせようというわけかな。
 太田君のようなチャレンジ精神も中々に含蓄がある、そういう姿勢は取り入れていきたいものだね」


「ンフフフ、そう言って戴ければ用意した甲斐があるってもんです」


そう言って太田はハンチング帽に手を掛ける。
いつもの帽子の下にはまたいつものハンチング帽が顔を覗かせ―――その上にはお誂え向きなワイングラスが二つ。
まるで買ってきたばかりと言わんばかりに、クシャクシャになった紙がグラスの中に押し込まれている。
初めからこんな時の為だけに用意したとしか思えない周到さに荒木は口元を手で隠して苦笑い。


「いやいや荒木先生、幾ら僕でも機会が来るまでずっと待つなんてそんな事出来ませんよ。
 これは姫海棠はたてにさっき"ウェザー・リポート"の制限の若干の解除を頼まれてふと思い立ったんです。
 湯に浸かりながらの酒ときたら、次は荒木先生と雪見酒でもご一緒したいなと」


「確かに彼女は彼と同行していたね。ルールに抵触しない限りの主催者としての譲歩、か。全く太田君らしいな。
 しかしわざわざ僕と酒を飲みたいが為だけにそんな提案を了承したのかい?」


「かもしれませんね、彼女に丸め込まれてしまったというのも大きいのですが……
 ま、彼女の記事の次号次々号への期待の前払いでもありますから」


全てに思いを馳せるかの様な表情を浮かべながら、煌々とした声色で語る太田。
その瞳は少年時代の憧憬を見るかのように爛々と輝いているものの、独特の妖光をも放っている。
筋骨とは全くの無縁の様な体をしながらも、その実力や妖しさは荒木に引けを取らない雰囲気を醸し出している。
少なくとも、このゲームに掛ける情熱と酒への情熱という一見して別物の二つを奇妙なレベルで共存させている様は荒木以上のものであった。
楽しむ事を第一条件に多少の円滑な進行を取り払う姿は、さながら彼の目を通して見たジョセフ・ジョースターに近い。
これはあのジョセフも念入りに好かれるわけである。隠しきれない遊び心にもたまには与るべきだろう。


「そこまで言うなら君からの酒の招待、受けないわけにはいかないな。
 太田君のさっきの失態は……水に、いや酒に流そうじゃないか」


「ありがとうございます、荒木先生」

631Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:21:26 ID:xCgiZT7s0



荒木の持つグラスにとぽとぽ、とワインが注がれていく。
濁りを排した丁寧な色が無色透明なガラスの器に注がれ染まり、清く澄みわたる空の様に広がる。
ふむ、とグラスを静かに回すと中のワインもつられてゆっくりとその回転に追随していった。
ワインについて聞き齧った知識だけでも、重ね重ね良質なものだと分かっていく様には感嘆さえ覚えようか。
だが早く一口含みたい気持ちはそっと堪える必要がある。まだ空のグラスがもう一つあるのに、先に飲んでしまうのは失礼だ。
荒木は一旦グラスを雪の上に置いて、ワインの注ぎ手と受け手を交代した。


「あのシーンのジョニィとジャイロは聖なる遺体を全て失った後でしたが……
 そういえば僕らは何も失ってませんでしたね」


「このゲームだとそりゃあ失う物も差し出す物も中々無いからね」


「ンフフ、それもそうです」


雪の中に乾いた音が一つ、丁重に響いた。
それはさほど大きくもなく、会場のどの参加者の耳に入る事も無く。
男二人の乾杯の音頭は人知れず幕を開けたに過ぎない。



「それじゃあ、『ネットにひっかかってはじかれたボールに』乾杯しようか」


「ええ」



クイッ、とグラスが傾けられて中のワインが下へ下へ。
喉を軽く鳴らし、その爽やかのようで重い味わいに舌鼓を打つ。


他の参加者が近くを通り過ぎるかもしれない、という懸念材料も今だけはどうでもよく。
先程の確執も恥も一旦脇道に逸らして。

ただ、持って来たワインに感銘を寄せていた。

632Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:23:48 ID:xCgiZT7s0

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【午後】D-3 旧地獄街道




光の対義語は、と聞かれたら闇と答えるのが通例だろう。例えそれが作麼生と説破の様な場でも変わらないはずだ。
神がそう宣えば追聯したその二つの概念が生まれ、そこに交えぬ境界線が発生する。
そして互いが互いを嫌悪し合って元の黙阿弥に戻れなくなる。
世間の常識がそれを身に着けていない者を迫害する様に。
世間体を維持出来ない者がそこを離れざるを得ない様に。
異常者が健常者の様に振舞うのを忌避する様に。

この一面に広がる建物群の空間もその境界線の一つ。
幻想郷にて越えてはならぬラインを跨ぎかねない者達の収容房にして楽園。
旧地獄という、幻想郷に馴染めない妖怪にとっての不可侵の砦。


「何よあのオッサン、凶悪なツラして逃げやがって……しかもドコよここ」


太田に位置座標を飛ばされた藤原妹紅も、そのど真ん中に居た。


彼女もまた闇であり、異常の側の存在。本来であれば厭われるべき忌まれる者の側。
しかし不思議なもので、異常というのはあくまで観測者の倫理観に全てを委ねられる尺度の一つ。
彼女自身にとっては自分自身こそが唯一無二の正常性を担保出来る存在で、他の全てが異常なのだ。
暗闇に目が慣れて、その内光が何かを忘れてしまったら、もう二度と戻れない深淵の世界。
彼女の瞳に映る光は、一周回って闇になってしまった。
眼前に現れた主催者の顔ももう覚えていない。
あるのは醜い生への渇望だけ。


誰も自分に害しそうな敵が周囲に居ない事を確認してから、妹紅はその大通りを注意深く歩き始めた。
建物の雰囲気は、普通にどこにでもありそうな木造家屋ばかり。時折家っぽくない建物もあるが、基本的には住宅地。
しかしこの空間の天井は不気味で、天蓋は高く衝いた厚い岩盤に覆われ、隙間一つ無く太陽光の一筋すら届かない。
にも関わらず家々の軒先に吊るされた赤提灯の一個一個が周囲を照らしており、黄昏時の様な明るさを常に演出している。
しかし本来あるべき妖達の姿はどこにも無く、従ってそれらの纏う酒乱のアルコール臭ささえも漂っていない。
あるのはお祭り気分に取り残された建物の数々と、藤原妹紅の一人だけ。
孤独な旅路に輩は必要ない。

633Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:25:25 ID:xCgiZT7s0

そう、輩なんて居ないのだ。

なのに。



『貴方しか居ない世界で果たして誰がアナタをマトモだって証明してくれるの?』


「うるさいうるさい、マトモじゃないお前が口を挟まないでよ」


また誰かが後ろから口を挟む。自分以外ここには居ないのだから、これはきっとマボロシなんだ。そうに決まっている。
けれども手を変え品を変え、時折こうやって当たり前のような質問をされる。
同じ声で同じ語調で私に付き纏ってちっとも離れてくれやしない。私にずっと付いてくるお前の方がよっぽどマトモじゃないっての。
頭は痛むし全てが散々だし、進んでも進んでも同じような建物しかない。
少し遠くに行けば立派な色とりどりの建物があるのは見えるけど、あそこに蓬莱の薬は無い気がする。
輝夜にはあんな豪華絢爛なのは似合わない。もっとドブ臭い場所の中で蠢いていた方がアイツらしい。


「例えばこんなボロ納屋の中に居たりは〜?」


なんかそれっぽい建物の扉を開けてみる。ハズレ。ただの小屋。
ヒトの跡すら感じられない程に冷え切っていて、扉を開け放った瞬間に冷たい空気が外に流れ込んできた。
おかしいな。こんな所こそ輝夜にお似合いだし、ここに輝夜が居れば自ずと蓬莱の薬を取り戻せるはずなのに。
いや、でもたまにはこういう場所で休まないとまたさっきの誰かみたいに逃げられる様な気がする。
誰かが来て殺されるのは嫌だからあまり眠りたくはない。蓬莱の薬を取る前に死ぬのは勘弁だ。
畳に腰を下ろしたまま壁にもたれ掛かって、片膝を立てる。こうすると眠りが浅くなって何かあればすぐに起きれる。


「……?」


前もこんな体勢をした事があった気がする。よく覚えていない。
よく覚えていないのは頭痛のせいだ。私に悪いところなんてない。
生きようとしているだけなのにそれが悪いことなわけがない。


『■紅。アン……もうマ■■じゃ■……。い……■■実を見■■……』


私を糾弾するな。



…。


何も聞こえない。

何も聞きたくない。



意識を闇に溶かす。目を瞑れば光は入らない。


何も間違ってないのに。

634Run,Araki,Run! ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:26:18 ID:xCgiZT7s0
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【午後】D-3 旧地獄街道

【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:発狂、記憶喪失、霊力消費(小)、黒髪黒焔、全身の服表面に切り傷、浅い睡眠中、濡れている
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。殺す。化け物はみんな殺す。殺す。死にたくない。生きたい。私はあ あ あ あァ?
1:蓬莱の薬を探そう。殺してでも奪い取ろう。
2:―――ヨシカ? うーん……。
[備考]
※普通の人間だった時代と幻想郷に居た時代の記憶が、ほんの僅かに混雑しております。
※再生能力が格段に飛躍しています。
※第二回放送の内容は全く頭に入ってません。


※C-4境界線の鉄塔とレストラン・トラサルディーの真ん中ぐらいの位置で主催者二人が酒盛りをしています。

635 ◆e9TEVgec3U:2020/07/28(火) 01:27:14 ID:xCgiZT7s0
以上で投下を終了致します。

636名無しさん:2020/07/28(火) 10:57:33 ID:vSGXn63g0
投下乙です
主催のおっさん二人が面白過ぎる

637名無しさん:2020/07/28(火) 15:50:11 ID:ln5Px7EM0
やった投下だ!
運営すっぽかして謎の友情を育むおっさん二人…なんとも言えない趣がある(あるか?)
黒妹紅はもうせめて輝夜と再会出来ればワンチャン…なさそうだなあ

638 ◆qSXL3X4ics:2020/07/31(金) 17:23:43 ID:LM0DDSIo0
投下します。

639紅の土竜:2020/07/31(金) 17:29:52 ID:LM0DDSIo0
『サンタナ』
【夕方】C-3 紅魔館 地下大図書館


 蝿が目障りだったので、払い除けた。

 目の前の女を出し抜けに吹き飛ばした行動の真意など、サンタナからすればほんのその程度の反射に収まる。
 実際には、蝿は飛んですらいない。血溜めの桶でも頭から被ったかの様な色合いの衣服を纏ったその少女は、自分に対して困惑や動揺の様子こそ見せてはいたものの、敵意は無く、サンタナがこれに先制攻撃を入れる意味など全くなかった。
 それでも試す必要はあった。サンタナには、DIOから語られた『君と会わせたい人物』とやらが、本当に会う価値のある人材なのかを見定める必要があったのだ。
 偏に『見定める』と言っても、品物の値打ちを判ずる考査には諸々の嗜好が出る。サンタナがまず採った選択が、『暴力』による小手調べだったというだけの話。彼という人種を考えれば、当然の手段である。


「…………? どういう事だ、これは」


 考査結果のみを見て、サンタナの頭には疑問符が押し寄せる。
 ただ、払っただけ。
 超生物たる男からしてみれば腕をほんのひと薙ぎの、何という事も無い行為である。本当に殺すつもりの威力など、少なくとも今の一撃には込めていない。

 しかし、その少女───秋静葉にとって、柱の男とのフィジカル差はあまりに瞭然。サンタナがDIO戦にて大きく疲弊している状態を差し引いても、このあまりに埒外な先攻を食らったのでは、堪らず紙切れのように吹き飛ばされる醜態を見せたのは致し方ないと言えた。


 何だ、この虫けらは。
 この、脆弱な生物は。
 これがDIOのぬかした、オレと『縁』がある女?


 ───本当に、舐められたもんだ。


「どうやら時間を無駄にしたらしい。……不愉快、だ」

 元々、どうしようもなく腹立たしげに感じてはいた。
 DIOに立ち向かったはいいが、事実上の敗北を喫し。
 むざむざ撤退する訳にもいかず、あろう事か奴の口から仲間へと誘われ。
 刻むべき道を『二択』に迫られた結果として、奴から宛てがわれた女の正体が〝これ〟では。

「う……ぅ、あ……っ」

 反吐を吐き、地べたに四つん這いの格好を取る女を見下ろすサンタナは、また嫌悪し、蔑んだ。
 いよいよ我慢ならなかった。DIOは何を以て、オレと〝これ〟の縁がどうだのという話を持ち掛けたのだ?

「……女。お前は、何だ?」
「かっ……は、ァ……ッ!?」

 体重の数値は三桁を優に超すサンタナ。その大木のように太ましい脚が、悶え蹲う静葉の背へと、遠慮の欠片もなく真っ直ぐ落とされた。

 DIOは先程、別れ際にこう言い残している。

『───好きにすればいい。気に入らないようなら喰っていいし、力は全く以て脆弱な少女だ』

 奴なりの冗句か何かだと、その場は流したものだったが。どうやら言葉の通りとなりそうだ。それぐらいに、サンタナにとっての秋静葉という存在の第一印象は、言葉を交わすまでもなく最低ラインから始まった。
 このまま杭打ちした足の先から『喰って』も問題は無かろうが、言葉を交わす事でこの『交流』が意味を形成する。そんな邂逅に成り得る可能性も否定出来ない。初めこそ暴力での会話を試みたものだが、それだけでは〝人の底〟を測れやしない。少なくとも、今のサンタナにはそういった意義ある体験が、回数こそ少ないものの経験として活きている。

 甲羅を経る。
 良く言えば、そういう目的を兼ねた腹案──下心のような気持ちで、サンタナは自らより下に見ている少女へと、漠然ながらも尋ねたのだった。
 「お前はオレにとって、有益をもたらす存在なのか?」と、値踏みするかの様に。全ては、己の糧に通ずるか?という思惑の上であった。
 命を握られた側の少女にとってみれば、ここで答えを誤るわけにはいかない。突然にして陥った窮地であると同時に、重大な質問だった。

640紅の土竜:2020/07/31(金) 17:31:12 ID:LM0DDSIo0


「あ……う、……ぐ、そォ……っ! わだ、し……は……〝また〟こう、しで……」


 虚勢でもいい。
 負け犬の遠吠えでもまだ許容出来る。
 命乞いでさえなければ、少しは耳を貸す気持ちになれるかもしれないと。
 サンタナの心の片隅。ほんの僅かには残っていた『同情心』の様な薄っぺらい気持ちも。
 この、意味すら伴っていない様な言葉の羅列を半分ほど耳に入れた所で。

 サンタナが気まぐれで掛けたふるいに、この雑魚は尾ヒレを引っ掛けることなく奈落の海へと堕ちる。
 ───その運命が決定した。


「エ゛シディシの時と……私はな゛にも、がわらない゛……っ!!」


 ピクリ、と。
 稚魚を喰らわんと顎を開く大鮫───サンタナの足による『食事』が、何の答えにもなっていない女の醜い回答によって中断された。
 今……コイツの口から吐き出された名前。サンタナはここでようやく『共通点』を見出した。

 共通点。DIOの言う所の『縁』であった。

「…………誰だと?」
「エシ、ディシよ! あなた、あの大男の仲間、なんでしょう……!?」

 仲間。……『仲間』ときた。
 同族ではある。生態上のカテゴリで表せば同胞なのは違いない。
 しかし、その質問に対する答えには胸を張ってYESとは言えない。言えないが……やはり名目の上では仲間だと、肯定すべきなのだろう。
 従ってサンタナは、口には出さずとも否定の意を示さない態度によって、真下の少女との『会話』を続行する事とした。口下手である彼なりの、自己顕示の手段であった。

「エシディシ様を知っているのか」

 その単語───『エシディシ』とは、少女にとって最早呪いの類である。


 秋静葉。
 此度の遊戯において、少女の『始まり』は血に濁った泥底からであった。
 ただでさえ指折り弱者の彼女が選び取った道は、あろう事かゲーム優勝。己以外の全ての生命へと宣戦布告を遂げたというのだ。
 まず、間接的にではあるが弾丸使いのミスタを仕留められた。あの孤高の男リンゴォとの決闘の最中という、用意された舞台上でなければ成し得ない、破格の戦果であったと言えた。

 次に、というより、次こそが問題だった。
 意気揚々ではないが、強者を仕留められた結果に静葉の心はどこか浮いていた。
 「この調子で行けば……」といった焦燥の気持ちが無かったといえば嘘になる。こういった波乱の地において、強者弱者関係なく絶対に浮かべてはならない思考だ。
 その油断を突くようにして、あの大男エシディシは試練として立ち塞がったのだ。今更、語るべき内容でもない。大敗を喫し、心臓には『結婚指輪』を仕掛けられる。傍迷惑な、再戦の契りであった。

 弱者が、強者から一方的な蹂躙を受けた。
 事実とは、ただのそれだけである。
 この指輪が存在する限り、エシディシとの再戦は避けて通れぬ試練。
 だからこそ静葉の中でエシディシの存在は大きく、そして歪みきった死神の様な因縁を結んだ相手。

 DIOと出会い、言われるがまま待ち人の潜む地下へと足を運んだ。彼は、その場所に居る人物を『縁』ある相手だと言っていた。静葉の通った境遇と、少し似ているかもしれない相手だとも。


 相手の正体は、闇の一族。
 憎きエシディシと風貌を似通わせた、鬼人だ。
 一目見て、奴の仲間だと理解した。


 出会い頭に、吹き飛ばされた。
 会話を挟むことなく、まるで突風が過ぎるかの様に。
 そして今また、静葉は鬼人の脚に踏みつけられている。
 嫌でも想起するのは、エシディシの蹂躙を受け、心臓に手を掛けられたあの瞬間の悪夢だ。


「エシディシを知ってるか、ですって……?」


 かくして、少女は出会った。
 この鬼人───サンタナと、地の底にて。

641紅の土竜:2020/07/31(金) 17:33:28 ID:LM0DDSIo0

「私は……アイツと戦わなきゃ……勝たなきゃ、駄目なの……ッ」
「……キサマ、名前は」
「……ぅ、……し、静葉。秋、静葉……っ」

 ひとまず男の質問に答えることで、静葉はその場しのぎの延命を図った。首だけを回し周囲を確認するが、猫草の鉢は遥か遠くに転がっている。反撃の材料は現時点で無い。
 目に見えて動転、困惑するのは静葉の心境からすれば致し方なかった。なにせ図書館にて待つ者はDIOの口ぶりからして『味方』か、それに準ずる相手。少なくとも危険な相手だという認識は、全く予想の外であったからだ。
 そこに居た者があのエシディシと似た容貌の男であるだけでなく、唐突に攻撃を仕掛けてきたというのだから、誰であってもパニックに陥るのは当然。DIOを信頼しての結果、という事実も大きな作用を生んでいた。

 DIO。静葉は、彼と出会って『変わった』。
 正確には『戻された』。この殺し合いが始まる以前の、或いは始まった当初の頃の、秋静葉というか弱い少女神へと。
 その瞳からは、寅丸星と共に行動していた頃ほどの我武者羅さは消滅している。無論、今でも勝利への貪欲さは失われてはいないが、その『勝利』への意識が以前に比べて方向性が違っていた。

 何処がどう変化しているか。
 その具体性は静葉自身にも分かっていない。
 かつては迷いを捨て、修羅にも成ろうという思い上がりを決意したものだったが。

 今の秋静葉は。
 迷妄しつつも泥濘駆けんと努力する───〝極上の弱者〟を貫いていた。

(サア ソロソロ ダゼ)
(ウフフ フ フ シヌワ。モウスグ シヌネ)
(アナタ ハ ヨワイオンナ デスモノ)
(シ ヲ イトウ ノデアレバ タタカイナサイ)

 静葉を苦しめる『頭の中の声』が止むことはない。この声を拒絶する方法を知ってはいるが、彼女がこれを拒むことは、もうやらない。
 あるとしたら、それは死ぬとき。
 秋の終焉。即ち、晩秋。
 何故ならば、彼女は受け入れたのだから。

 この『弱さ』を。
 この『痛み』を。
 この『地獄』を。

 しかし。
 甘んじ、受け入れる事と。
 それらを乗り越える事は。
 同じではない。
 二つは全く別次元のステージ上にとぐろを巻いている。

 弱きを受け入れるという事は。
 弱きに押し負け、潰される恐怖がすぐ身近に感じるという事だ。


(タタカウ シカ ナイ)(タタカエヨ)(シヌノガ コワイノデショウ?)(タタカエ)(サモナケレバ)(シヌ ゾ)(シヌ)(イモウト ハ スクエナイ)(ハヤク)(ハヤク タタカエ)(サモナクバ)(コッチガワ ニ コイ)(ハヤク)(ハヤク シネ!)(シネ シネ)(コロセ……!)(テキ ヲ コロセ!)(アルイ ハ)(アルイハ)



「や……やめてぇぇええッ!!!」



 無数の『何か』から逃れるように。
 それは己の背後にポッカリ口を開けた絶壁の崖。深淵の中より、呪言と共に腕を伸ばさんとする亡霊共のような幻影であったが。
 静葉はたちまちにして喚き散らし、懸命に懇願した。

「嫌! こ……来ないでッ! わた、私に近付か、……ないで! 化け物ッ!!」

 気付けば、背を杭打っていた化け物の脚は離れていた。枷から逃れた静葉は、腰を抜かしながらも尻餅姿勢のままに後退る。猫に追い詰められた鼠だって、こうまで取り乱さないだろう。
 当然、そんな体勢では化け物から距離を取ることなど不可能。サンタナが間合いを詰めるまでもなく、背後の本棚へまんまと頭をぶつけ、叶わぬ逃避行となった。

642紅の土竜:2020/07/31(金) 17:35:13 ID:LM0DDSIo0

「……少し、黙れ。別に今すぐ取って食おうというわけじゃない」
「来ないでって言ってるでしょう! わた、わたし……まだそっち側に行くつもりなんて、ない!!」

 浅慮、というよりも気が動転しすぎて周囲に目がいってない。弱肉強食のサバンナに兎が一匹放り込まれたのでは、こうも吠えるのは無理ないかもしれない。しかし兎は、草葉の陰より現れた獅子に臆するというよりかは、別の『何か』に怯えている様にサンタナには見えた。
 どちらにせよ筋金入りの弱者である事に変わりない。こんな底辺者がよくぞまあ今まで生きてこられたなという感想よりもまず、少女の吐いた名前にサンタナは思い至る節がある。

 間違いなく、以前に主エシディシが森で出会ったとかいう女がこの『秋静葉』だ。
 廃洋館での三柱会議の場。あそこに顔を出していたサンタナは当然ながら聞き及んでいる。その事を語る主の模様はと言えば、至極どうでも良さげに流してはいたが、掻い摘んで言うと「秋静葉という女に結婚指輪を仕掛けた」との内容だった。

 結婚指輪……サンタナの『番犬』時代であった遥か以前にも覚えはある。
 確か、主らが戯れのように対象者へと交わす再戦の契り。その強制の証が『結婚指輪』という名の猛毒リングだ。
 幼心に「何が面白いのだろうか」といった乾いた印象を抱いた記憶もある。故にではないが、自分はそんな大層なアクセサリーなど常備していなかった。主から賜る機会すらとんと無かった。

 昔日の思い出に顔を歪ませるのは今すべき事ではない。
 なんとも面白いというのが、つまりはこの静葉は遅かれ早かれ、主エシディシと一戦を交える未来が確定しているという事実だった。
 それがどういう意味であるのか。考えることすら馬鹿馬鹿しくなる。

「……フフ」
「な、何よ……! なにか、可笑しなことでもあるの……!?」
「可笑しなことだらけだ。主のいつもの戯れながら、オレには理解できん。よりによってこんな負け犬を相手に選んだというのは」

 エシディシ。サンタナが二人持つ主の、片方の柱。
 自分などが改めて口に出すまでもない事だが。エシディシは、人智を遥かに超えた戦闘力を振り回す強者の一角である。無論、サンタナよりも数倍上手だ。
 そのサンタナを前にしてこうまで酷く狼狽する一介の雑魚が、何をどう闘えばあの狂人に勝ち星を上げる偉業など成し遂げられるのだろうか。

 主も主で、という話にもなる。貴重な指輪を引っ掛ける相手がよりによってコイツでは、暇を持て余した戯れにすらならないだろうに。どんな大物が釣れるか分からないところに魚釣りという余興の楽しみもあろうが、獲物が雑魚だと知っている釣り堀に垂らす貴重な餌と時間など、無駄以外の何物でもない。
 或いは、釣り糸を垂らす行為そのものに興を見出している可能性も無きにしも非ず。カーズやワムウと違ってエシディシは、専ら人を食った様な態度で相手を弄る悪戯好きの側面も目立つ。
 ともすれば、当人にとって意義のある再戦など実の所どうでも良く、旗色の見込めない対戦者が絶望に塗れ四苦八苦する様をただ観察して楽しむため、とすら邪推してしまう。

 だとするなら。
 だとしなくても。
 少女を不憫だなんて、とても思えない。
 滑稽な話だ。当然な末路だとすら考える。
 人間を脅かす存在。
 それこそが柱の一族の本懐。
 その相手が、神であろうが関係ない。
 ましてこの少女は、清々しい程に弱かった。

 弱い。ただそれだけならまだしも。

「───ふんッ」
「がァ……っ!? ぁ、ぐ……」

 この期に及んで立ち上がろうともしない静葉へ距離を詰め、横っ面に一撃の蹴り。これにも万力の一片たりとて込めていなかったが、結果は先程の焼き増し。

「逆に驚いた。同じ『弱者』でも、目に映る姿がこれ程に違うとは」

 暴力に蹴散らされ、無力を訴えかける静葉の姿を見下ろすサンタナの瞼には……また別の『弱者』が映っていた。

 その妖怪……古明地こいし。
 彼女との触れ合いはサンタナにとって短い──いや、皆無に等しかった。
 こいしは弱く、矮小で、苦しんでいた。その点では静葉と何ら変わらない。

 サンタナは知らない。
 古明地こいしが『強さ』について大いに迷い悩める、一匹の仔羊であった事を。
 ワムウと僅かな時間を共に過ごし、最期には彼女なりの『強さ』を見出して永い眠りについた事を。

 サンタナは知っている。
 古明地こいしの『勇気』は絶対的な暴力に捻じ伏せられ、最期の灯火も消し飛ばされた事を。
 カーズの凶悪性を前にして、胸に抱いた『誇り』も、何もかも蹂躙され尽くされた事を。

643紅の土竜:2020/07/31(金) 17:36:24 ID:LM0DDSIo0
 『勇気』も『誇り』も、物理的な力が伴っていない限りは、より大きな『強さ』に踏み躙られる。世の条理だった。
 ではこいしの生き様は、果たして無意味だと断じられるのか?

 サンタナには……そうは思えなかった。
 ワムウの膝元に抱えられながら両の瞳を閉じゆく少女へ対し、サンタナの心には確かに『称賛』が芽生えたのだから。

 そして今。
 古明地こいしと同じように『強さ』を求め、悩んでいた『弱者』が目の前にて悶えていた。
 カーズの暴力に侵略され、命を摘み取られるこいし。図式の上では、今のこの状況はそれと同じだ。
 さながらカーズと同じ類の暴を、サンタナは眼前の静葉に振るっている。既視感の宿るこの光景をしてサンタナは、先の台詞を吐いたのだった。


 同じ弱者でも、こいしと静葉ではこうまでに違うのか、と。


「か……は……っ ぅ、うう……あ、ぐぅ……!」

 反撃を試みるでもなく、少女は蓄積するばかりのダメージにただただ悶えるだけ。

 これでは、とても『称賛』など出来ない。
 こんな虫けらに、『勇気』も『誇り』もありはしない。
 例えあったとしても……それはこいしとは種からして異なる、真の弱者がほざく低級な生き様だ。

 これでは、とても『糧』にはならない。
 こんな虫けらを、一匹潰したところで。
 サンタナの『生き様』を……刻み付けることなど出来ない。『証』を残すことなど、出来ない。


「お前は……殺す価値もない様なゴミだった。心底、呆れたぞ。お前にも……お前の様な虫けらを配下に持つ、DIOにも」


 この邂逅は、元を正せばDIOの橋渡しあっての『縁』だ。それはサンタナにとっても、静葉にとっても同じであった。
 彼女がDIOからどういった紹介文を受けてこの地へ降りて来たのかは知らないが、凡そサンタナと似たような文言であろうことは予想出来る。
 共通点は『エシディシ』だ。恐らくDIOは事前に静葉の口から聞き知っていたのだろう。彼女の境遇と、敵を。そこにエシディシと風貌似通わす自分が現れたとあれば、我々の関係性にも自ずと察せる。

 そこで、二人を出逢わせてみよう。果たして、どうなるか?
 大方こんなところだ。あの底意地悪い吸血鬼が晴れ晴れに考えそうな理屈としては。

「つまらん。とっとと消えろ……この負け犬めが」

 結局、静葉は見逃すことにした。これでは殺すよりも、まだ生かした方がマシだと判断しての事だ。
 サンタナの目的は虐殺ではない。かと言って主達にただ付き従うでもない。
 自らの名を知らしめ、『恐怖』を伝搬させる事にある。であるのならば、こんな他愛もない雑魚一人喰ったところで腹などふくれようもないし、このまま逃がし、精々怯えながら残りの生に齧り付いていればいい。

「オレは『サンタナ』だ。この名を出して、精々DIO辺りの強者にでも泣きつけ。……どうでもいいがな」

 名乗るという行為にサンタナが見出した意味はとても大きい。しかし今に限っては、辟易と共に反射的に出した、名ばかりの表看板だった。

「………………く、ぅ」

 呻き声を小さくあげる静葉は、未だに逃げようとしない。これ程までサンタナ相手に暴の威圧を散らつかされながら、こちらを見上げて生傷を撫でるばかりであった。
 とうとう腰まで抜かし、逃走すら行えないか。グズグズする少女の歯切れの悪さには、苛立つばかりであった。

644紅の土竜:2020/07/31(金) 17:37:03 ID:LM0DDSIo0

「どうした。何故逃げん」
「……貴方と、お話がしたいから」


 お話。

 ……それは、何だ?

 今、『会話』をしたいと。

 そういう意味で言ったのか?


「キサマ……状況が分かっていないのか? それとも、それすら理解出来ない本物の馬鹿か」
「最初、貴方の姿を見て思ったわ。『あのエシディシが仲間を遣って、私を殺しに来たんだ』って。どうにかして戦おうって思ったし、けどやっぱり逃げたいとも思った」

 ポツポツと口を開き始める静葉の瞳には、依然としてサンタナへの恐怖が滞在していた。瞳を覗くまでもなく、その肩や腕には震えが見て取れた。

「そんなわけ、ないのにね。アイツにとって、私はそんな価値すら無い弱者……。こんな指輪を引っ掛けておきながら、私は奴の眼中にも無い」
「そうとも。そしてそれはオレにとっても同じだ。キサマと会話して、オレになんのメリットがある」

 会話。
 メリット。
 それらの言葉を口に出しながらサンタナは、既視感を覚えた。
 DIOだった。そういえばあの男も、続行すべき死合を止めて急に会話を始めようとしたのだった。自らの命を狩らんとする襲撃者相手に、言葉を以て探りを入れようと。
 静葉がやろうとしている事は、立場こそ圧倒的に異なるものの、DIOと同じだった。


「キサマ……オレが怖くないのか?」


 この質問に意味は無かった。
 答えなど、静葉の様子を見れば誰の目から見ても明らかなのだから。


「怖い。とても、怖いわ」

「でも」



「私はもう……『恐怖』からは逃げない」



 凛とした、などとはとても形容出来ない、少女の倒錯しながらも真っ直ぐに射抜こうと仰ぐ眼。
 まるで『恐怖』そのものに成らんとするサンタナへの反旗の如く。絶対に屈してやるものかという強い想いの込められた瞳が、サンタナには気に食わなかったのかも知れない。

645紅の土竜:2020/07/31(金) 17:37:48 ID:LM0DDSIo0

 腹の下から蹴り上げ、虚空を回った静葉の首を壁に打ち付けたサンタナは、少女の眼前に見せ付けるようにして大槍───鋭く構えた右腕を突き付ける。

「立派なことだ。負け犬ごっこなら、あの世でやれ」

 時として地上には、このように無意味な蛮勇を振り翳す馬鹿な人間が現れる。震えるほどの恐怖をその身に刻み付けられておきながら、勝ち目の無い戦に投じる愚か者。

 何故、弱い癖して戦おうとするのか。
 何故、怖い癖して立ち向かおうとするのか。
 何故、逃げないのか。
 何故。何故。何故。

 この女は神らしいが、身に宿す非力さも、心の脆弱さも、人間共と何一つ変わりはしない。
 まして目の前の脅威と戦おうともせず、話がしたいなどとぬかして茶を濁す。つい先程は「来ないで!」と拒絶までしておきながら。言う事やる事がグチャグチャだ。

 興醒めもここまで来ると、いっそ芸術。
 殺してしまおう。サンタナは、殺意以外の全てを放り投げて腕に力を込めた。



「負け犬ならアナタだって同じじゃないっ!!」



 カラン。
 壁に打ち付けられた静葉の足元へ、何かが落ちた音がした。



「………………オレを、負け犬だと?」



 それは、どういう。



「どういう、意味だ?」



 不思議と、怒りは湧き上がらなかった。
 平時であれば負け惜しみの戯言だと一笑に付すか、そうでなくともこの罵倒に気分を害し、どちらにせよ捻り潰すか。

 ただ何故、この取るに足らない女はオレを指してその言葉に至ったのか。それが疑問だった。
 
「どういう意味だと、聞いている」
「ぅあ……っ」

 首を絞める腕には思わず力が入る。怒りは湧かずとも、焦燥の気持ちが煮え始めていることは自覚出来た。
 と、ここまで来て、こうも首を絞められたのでは言葉など発せられないだろうと。サンタナはゴミでも投げ棄てるようにして、静葉をその場から放った。

「あ……げほっ げほっ……っ!」
「なんとも脆い女だ。そのザマでよくぞ人を負け犬呼ばわり出来たもんだ」
「はぁ……はぁ……。その、げほっ 様子だと、当たりみたい、ね」

 〝当たり〟……つまり、謀られたという事、か。

「小娘……カマをかけたのか」
「何となく、思っただけよ。……貴方の目、少しだけ私に似てた気が、して。それに『エシディシ』の名前を出した時の貴方の……何ていうか、態度とか、感情……それが、卑屈っぽく見えた。残りは……勘、だけど」

 似てた、と静葉は言う。
 サンタナと秋静葉の瞳が、似ている。
 それはつまり、静葉がサンタナへ対し『同族意識』だのといった抽象的な感傷を抱き、負け犬などと吐いたのだろうか。
 許されざる毒。闇の一族たる名誉を攻撃するような愚挙だ。これ程に屈辱的な中傷を受けて尚、何故だかそれに怒りを抱く気持ちになれない理由がサンタナには分かってしまった。

646紅の土竜:2020/07/31(金) 17:38:15 ID:LM0DDSIo0

 負け犬、負け犬、と。しきりにその言葉を口に出していたサンタナ自身、脳裏に追想されるのは『主』と『自分』の関係。
 他の同胞達はこの自分に対し、かつてどのような目を向けていたか。回顧するのも憚られるほど屈辱的な視線だったはずだ。そしてそれは、かつてと言うほど過去の話ではないし、いつの日からか彼らの見下しを〝屈辱〟だと感じることすらなくなっていった。

 面と向かわれ、口に出された事は実際あっただろうか。
 同胞達から『負け犬』だと。蔑みの目で。
 覚えてなどいない。いないが、少なくとも『番犬』といった散々な扱いは受けていた。

 そして今。
 サンタナはあの時のカーズらと同じ目線で、眼下の『負け犬』を蔑んでいた。

 もう、分かっている。
 秋静葉は、かつての弱かったサンタナだ。
 しかし致命的に異なる箇所がひとつ、ある。
 昨日までの自分は、寄る辺のない『虚無』でしかなかった。
 対して、この負け犬はどうだ。
 抗おうという気概こそ見せぬものの、恐怖(サンタナ)から逃げようとせず。
 それこそが我が信念と言わんばかりに、こちらを見上げるのだ。

 少女の瞳に燻るモノの根源───〝底辺を経た弱者〟だからこそ通ずる、同族意識。

 それは裏を返せば、同族嫌悪ともなる。

 成程、コイツはただ弱いだけの『弱者』とは違うらしい。しかし当人も問題とするのは、その『弱さ』が肝心だった。
 サンタナと静葉では、致命的に異なる点がもうひとつあった。
 サンタナが自虐する〝弱さ〟とは、あくまで同胞間での立ち位置による意識。精神的な問題でもある。
 静葉に足りないのは、どちらかと言えばもっと根本の……生物学上での高み。生存競争における強さを求めていた。この点のみを見比べれば、サンタナという生物がその総体において遥か上……尋常でない強みを蓄えている事は流石に自覚している。

 静葉に、サンタナのような強みは無い。
 自分と接点を同じくして、肝心な部分では違っていた。
 その半端さが、少女への『同族嫌悪』という感情に導いている。

 どこか、似ていて。
 だから、気に食わない。

647紅の土竜:2020/07/31(金) 17:38:55 ID:LM0DDSIo0


「───力が欲しいのか?」
「え?」


 断じて感傷的になった訳では無い。
 だが……これもあの吸血鬼の言う『縁』なのだろう。
 或いは、皮肉な巡り合わせとでも。


「そこに落ちている『石仮面』を使えばいい。使い方を知らないか?」


 縁とは、本当に皮肉なものだ。
 座り込んだ静葉のすぐ傍には、サンタナにも覚えがある仮面が転がっていた。恐らく、先程コイツを壁に打ち付けた時にディバッグから落ちたのだろう。

 石仮面。カーズの開発した、闇の一族を『究極』へと昇華させる道具の一つであると同時に、人間を吸血鬼へと変貌させる道具でもある。
 サンタナはそれを知っていた。まさかコレが支給品に紛れていたとは驚いたが、知っているからこそ、そこの無力に薦めるのだ。

「石、仮面……」
「そうだ。手っ取り早く力を身に付けたいならば、被らぬ手はないだろう」

 尤も、リスクはある。そもそも神とやらが吸血鬼に変化出来るのかは置いても、鬼一口のリスク程度を冒す覚悟も無い輩ではないだろう。


「これを被れば私も、DIOさんのように……───」


 虚ろとなった目で、少女が仮面に触れた。

 その目が何処を目指しているのか。

 目指すは高みか。DIOか。虚構か。

 如何な『同族』であるサンタナにも、そればかりは測れない。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


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