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獣人総合スレ 避難所

730 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:51:49 ID:liN.ac4Y0
 
 「……」
 「犬上くん!」
 
 ヒカルがうどんに一途になれなかったのは隣り合わせでキツネ色の太股をちらつかせる悠里のお陰だった。
 意識無くとも自然に目に入る曲線美は上質なパンプキンスープの舌触りを思い起こさせる。美味は体に毒だと目線を逸らすと
やゆんな二つの丘がヒカルの眼を悪戯に弄ぶ。ダウンジャケットの隙間から覗く制服のカーディガンは破壊的に豊かな胸を包み切れず、
ボタンが一つ手を休めていた。大きく胸元を見せ付ける開襟シャツからは男子禁制なる桃の園が門にて罠を仕掛けていた。

 「……あの」

 空になったカップを脇に置いた悠里が次に手を付けたのはヒカルだった。ヒカルが油断した隙に悠里は腕を絡ませて、
箸持つ手を休ませて、ヒカルの二の腕を自らの胸に押し当てていた。俗に言う……。

 「あててんのよ」

 温かなダウンジャケット越しだからか柔和なる感触は二割増し、ヒカルも「当たってない、当たってない」と言い訳することで
自分の純情を守ろうとしていた。
 風吹き抜ける寒い筈の渡り廊下も悠里の仕業で夏のプールの気分と相成った。ヒカルは悠里の持つ思春期男子を包み込むような体温と
ミステリアスな銀色の髪の冷気で揺り動かされるしかなかった。
 ヒカルの理性が限界に達するかはいざ知らず、巧みなさじ加減で絡ませた腕をゆっくりと動かし、当たるか当たらないかの綱渡りで
ヒカルの眼を泳がせていた悠里はいきなりその腕を離し、すくと短いスカートを翻しながら立ち上がり体育館の方へと駆け出した。

 「犬上くん!」

 幸か不幸かヒカルは鳴りやまない胸の鼓動を手の平で確かめつつ悠里の後を追った。

 明々と明かりの点いた体育館は霜が溶けそうなぐらい熱気と気勢に包まれていた。裸足の足が床を叩き、竹と竹がぶつかり、
文字通り鎬を削る様が悠里とヒカルの前で広がっていた。
 一際目立つ一組がいた。一人は男子、一人は少女の打ち合いだった。

 「めぇええん!!」
 「まだまだ!夜月野!脇が甘いぞ!」
 「はい!刻城先輩!どぉおおお!!」
 「めぇえん!」

 小柄な少女は頭を降りかかる一刀をかわし、竹刀が面をかすって響く音を辺りに残していた。
 見ているヒカル側からしても手に汗握る光景で、うどんで緩んだ瞼も意識せずとも見開く闘いだ。

 「朝練、すごいよね。やっぱり袴姿って見てるとわたし、なんだか疼いちゃうし」
 「いつも剣道部の練習見てんの?」
 「ときどきね。ほら!あっち見て。つばぜり合いしている男子って燃えるね」

 体育館の出入口にもたれ掛かる悠里はカーディガンの衿元を指先で弄りながら、若きもののふたちの稽古を眺めていた。
 さっきまでヒカルに寄りかかり、道を外しかねない誘いをしていた娘も乙女の心を忘れていなかった。

 「世間はクリスマスってのに、そんなことを忘れ武道に打ち込む姿って」

 激しい打ち合いの末、一瞬の隙を狙い篭手と見せかけて小柄な体の不意をつく。またしても素早い足裁きで我が身を庇う。

 「どぉおおお!!」
 「……思う?」

 答えることを忘れたヒカルは小柄な少女剣士が余裕釈釈の身構えな先輩相手へ果敢に打ち込む姿を自分の言い訳にした。
 そして打ち合いは激しさを増し、そしてお互い攻めの体勢で剣を打ち鳴らす。

 「お互いに隙を見せないね。だから真剣な眼差しに痺れちゃうし、どちらか隙を見せる瞬間も……」
 「うっ!」

 右脇を手で抑えたヒカルをローファー一足片手に悠里はにまにまと眺めていた。

 「今度は左脇、いっとく?隙だらけの犬上くん」

 ヒカルは一本取られないように脇を固めた。

 日が昇ったとは言え、足元が寒いので、朝練に未練を残したヒカルと悠里は自分たちの教室に入った。
 ヒカルは本を相手に、悠里は携帯片手に何かのサイトと相手をしていた。

 「へぇ。うどんに牛蒡の天ぷら、そしてかしわご飯だって」

 書の世界に没頭した隙だらけのヒカルのお陰で悠里の独り言に終わった。冬季補習の時間までまだまだ。

 「なんだか、昨日の夜は特別な夜だってね。佐村井さんやはせやんも言ってた。わたしにとっては毎晩特別な夜かもね」

731 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:52:22 ID:liN.ac4Y0

 多少気にしつつ、ヒカルは悠里の言葉に耳傾けながら本をめくっていた。教壇に腰掛け、劣情を煽り立てるように
脚を組んだ悠里は言葉を続けたが、目の前のヒカルは隙を見せまいとじっと活字を目で追っていた。

 「小さい頃から檀家さん見てたからかもしれないけど、何事も毎日の積み重ねだよね。信心も本も武道の鍛練……
  そして、ついつい誰かの気を引いちゃうことも。だから、昨日の夜だけを特別にしたくないなって」
 「お祭りみたいなものだけど」
 「そうね」

 否定も肯定もしない悠里からはオトナの香りがした。
 そんな折、ヒカルたちの教室に朝練で果敢にも先輩に打ち込んでいた少女剣士が訪問してきた。
 袴姿に防具を付け、ジャージを羽織ったネコの少女だった。悠里は何事も無かったように脚を組み替えた。

 「……あのー。さっきまでわたしたちの朝練、見学されていた方ですよ……ね?」
 「……うん」
 「おにぎり、お呼ばれしませんか?沢庵も美味しいです!」

 本をめくる手を止めたヒカルと悠里は時間が止まったかのように裸足の少女をずっと見ていた。夜月野と名乗る少女は
悠里とヒカルの関係、そして起きようとしている状況に自分自身の納得出来る説明が出来ず、寒い中で額に汗を垂らした。
 防具の垂には力強く『佳望・夜月野』の毛筆の文字が書かれていた。それを見つけたヒカルは名前を呼んで夜月野の背筋を凍らせた。

 「名前を呼ばれるとは思いませんでした!」

 夜月野は耳を立てて肝を潰した。
 武道に励む者として、見せてはならぬ態度。そう思いつつ夜月野は見振り手振りで話を続けた。

 「あ、あの!わたしたち!」
 「ってか、どうして、ここがわかったの?」
 「こ、ここだけ明かりが点いてたから刻城先輩が……」
 「お気持ちありがとう。ごめんなさいね。わたしたち見てただけだから頂けないね」

 大人の対応の悠里に対して、慇懃にお辞儀をしたネコの少女は裸足の足音を残して教室から去った。

 「だろうね」

 教室での出来事と他者に説明するにはハードルが高い。悠里はカーディガンのボタンを弄り、ぴょんと教壇から降りた。
大きな尻尾が弧を描いて、ヒカルの目の前を横切っていった。

 「さて。わたしは帰るね。学生の本分、果たすんだよ!犬上くん!」
 「え?小野、補習は?」
 「そんなこと言ってないし」

 そういえば、悠里は一言も「補習を受ける」とは言っていなかったのをヒカルは思い出し、額に汗を流した。

 ダウンジャケットを羽織り、大きな尻尾と銀色の髪、そしてたわわな胸を揺らして悠里は教室にヒカルを残して消えた。
 ヒカルは朝の僅かな時間だが、キツネにつままれていたのではないのかと腕を抓ってみた。腕の痛みはすぐに忘れたかったが、
腕で感じた悠里のあだっぽい柔らかさを忘れることが出来ずに本をめくるスピードが落ちた。

 帰路の悠里はこっそりと体育館に近付き、おにぎりを囲む剣道部員たちを覗きにやって来た。さっきのネコ少女の夜月野も
仲間たちに囲まれ、朝練とは違った明るい声を上げていた。その中には夜月野曰く刻城先輩らしき姿もあった。彼は袴が良く似合う
ネコのメガネ男子だ。冷静かつ、礼儀正しい模範生だ。悠里的にはかなりポイントは高かろう、そんな男子こそ悠里の色仕掛けで
牙を抜いてみたくなるものだ。そして、悠里よりも年下で言っちゃ悪いが悠里より色気はない夜月野が落ち着き払った刻城先輩の隣で
恥じらうのを見ると、やはり悠里もちょっかいを出したくなるもんだ。

 「夜月野は背が小さいから面を取られ易い。瞬発力を鍛えて面を取られないようにしろ。足さばきな」
 「はい!」
 「そして守りに入るな。面を割る覚悟でな」

 目を輝かせている夜月野が刻城先輩の話に頷く姿に、悠里に潜む妖魔が羽根を伸ばし始めた。
 武道男子、そして袴男子が色香に崩れる姿は悠里にとっては大変なご褒美だ。

 「クリスマスに目もくれず、その存在さえ忘れ、ひたむきに武道を精進する刻城くん。覚えて損はない子ね」

 人差し指を口に当て、思案顔で眼を潤ませた悠里が踵を返して尻尾を揺らすと、体育館から夜月野の声が上がった。

 「それではちょっと遅れたけど、メリークリスマス!!」



   おしまい。

732わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:53:33 ID:liN.ac4Y0
『袴ときつね』

これでおしまいです!
投下おわり。

733わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:04:51 ID:l/gcxVvs0
投下しまっすわん。

734わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:05:16 ID:l/gcxVvs0

 雨降りだからバイクを降りよう。たまにはこんな日もあっても良かろう。
 一雨ごとに暖かくなるのは毎年のこと。さらば冬と言いつつも、今日はバイクには乗りません。

 市電で街を移動するのは久しぶりだとミナは言う。乗り慣れたエンジンの心地は足から伝わるモーターの振動に変わり、
流れる風景もガラス窓越し。バイクからの目線から見落としてたはずの物が目に見えてきて、どんよりとした灰色の空も
決して嫌いになれなかった。むしろ青空が持つ二つ目の顔を見せてくれいるようで、裏表のないいいヤツだとも感じる。
 周りに人が居る。誰も知り合いではないけれど、車内はすんの暇を共有する名もなき劇場か。
 長年暮らしてきた街の違う顔を垣間見るようで、ミナは生暖かい空気を楽しんでいた。

 「早速、冬クールの一番決めよっか?」
 「どれだろう。さくらが言ってたヤツ、三話目で脱落しちゃったし」
 「わたしもー。キャラデザが過去の呪縛から抜け切れてなくて萎えーってね」
 「このテイストで描いときゃいっかって保険かけてるのかなぁ?ねえねえ、違う絵描けないの?」
 「でも、再生回数伸びてるよね。男子には受けるんだ。あーいう古風な子」
 「男版『ウチら』だからね、アイツら」
 「それはさておき、春クールの青田刈りでもしよっか?豊作ですよ」

 話の内容はともかく、ミナは吊り革に捕まって自分たちの世界に浸る女子高生の会話を聞いていた。
遠い姪っ子たちが我が家の居間でだべっているようだった。何を話してるかは分からないが、それだけでいい。と。
ただ、二人は冬の終わりを惜しみつつ、春の訪れに喜びを感じているんだと、ミナには何となく分かってきた。
 一人はイヌっ娘、一人はネコっ娘。お互い制服は違うが共通点は眼鏡っ娘。ミナとは違う世界を生きる二人と共に
車窓を分かり合うことにミナは不思議に思えてきたし、それが市電の魔力なんだとも感じた。

 「さくらはイヌ耳キャラが出るだけでご飯三杯はいけるよね」
 「だからさ、もっちーもイヌ耳に萌えるべきだよ!」

 ふと、さりげないイヌっ娘の言葉にミナは聞き耳を立てた。

 「『もっちー』……」

 この子も『もっちー』なんだ、と。自分が知っている『もっちー』ではないな、だけどほんのちょっとだけ思い出した。

 「どうしてるかな」

 二人してはしゃぐイヌっ娘ネコっ娘たちの歳の頃を思い出していると、相変わらず降り続けてるのにも関わらず
いつの間にかガラス窓を叩く雨音が消えていた。ミナの鼓膜が雨音を聞くことを拒否しはじめたのだった。


    #


 ミナの知る『もっちー』は教室では借りてきたネコのように大人しいネコだった。
 それゆえクラスメイトの女子からは何となく浮いていた。
 そして、隙あらばもっちーのことを笑おうと、揚げ足を取ろうとクラスメイトの女子たちはもっちーに目をつけていたことが
ミナには面白くなかった。ただ、彼女は他の女子には無かったさくら色のような色香を兼ね備え、そして気丈にもミナの前では
笑顔を絶やすことをしない子だった。

 「何かあったら、わたしに言うんだよ」

 ミナはもっちーに対して口をすっぱくしていた。

 ある日、もっちーは普段見せない顔をしてトイレの手洗い場にいた。トイレのサンダルを履いたもっちーは誰かから見られることを
避けるよう、クラスメイトから逃れるよう、そっとしてくれと言わんばかりに静かにたたずんでいた。
 もっちーの後ろ姿を見かけたミナが鏡越しにもっちーを覗き込むと、蛇口をしめ、ハンカチを焦るように隠した。
ミナが立てたトイレのつっかけの音に反応して、いかにもばつの悪い反応を示したもっちーはミナに目を合わせようとしなかった。

735『もっちーのこと』 ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:00 ID:l/gcxVvs0
 「何かあったらって……言ったじゃない!」
 「いいんです。杉本さんには迷惑かけられないし」
 「わたしも迷惑してるから遠慮しないで!」

 ミナももっちーの態度を認め、そっともっちーの洗い立ての手首を握る。これでお互いひんやりだ。

 「もっちー。大丈夫。わたしがアイツらから守ってやるから」

 一言も話していないのにも関わらず、もっちーの行き場のない感情を受け止めたミナはトイレ脇の土間に投げ出された
片方だけのもっちーの上履きに誓いを立てた。所詮、ガキがやったことだから大人げなくて結構……そんな屁理屈は許せない。

 「隠すなんて、卑怯過ぎるし」

 口を閉ざしてしまったもっちーはミナの声を何様かと思い込んだか、わっと感情を解き放ち、再び自分の手を濡らした。

 あれから、高校を出て、お互いそれぞれ自分の道を歩みだし、風の便りさえ届かなくなってきた。

 そんなもっちーがミナの前に現れた。偶然の出会いだった。
 愛車に跨り冬の夜の風を走り、休憩に凍てつく手を缶コーヒーで温めていると、ふと明かりが恋しくなった。
 喜んで寒い中を走り回るのはイヌかバイク乗りぐらいだと、ミナは自虐的になっていたところに差し伸べられた暖かな光。
 誘ってないのに誘われたかのごとく、ミナは愛車に待てを命じて明かりの灯るレストランに近寄ってみた。ガラス張りの店内が
わいわいと人のぬくもりに唆されて、色恋沙汰の始まりが種蒔かれているようにミナには見えた。
 わたしになんか、関わりないかも。だって、缶コーヒー如きで喜んでいるような女だし。でも……誘われたら嬉しいかも。

 チーズの香り漂うレストランが小さな頃に憧れた二次元の世界に見えてきた頃、三次元のリアルなんだとミナは引き戻された。

 「もっちーだ」

 ミナが知る限りのもっちーは男の匂いなどしなかった。ミナが知る限りのもっちーは女の香りなどしなかった。
 たかが十年ちょっとだ。十年ちょっと会わなかっただけでこんなにも人は変わるのか。
 同年代の男女が一同小洒落たレストランのテーブルを囲み、チーズフォンデュを食している中で、ミナが知っている
もっちーが姿を現すことはなかった。言うならば……小悪魔もっちー。魔方陣の代わりに小さな鍋、契約の代わりにぶどう酒の杯を交わす。
 男どもがもっちーに明太子味のチーズフォンデュを勧めるなか、もっちーは目を細めながらパンを摘んでいた。
 ガーリック味もいいかもと男が張り切ると、男の腕を叩きながらもっちーは明太子味を選んでいた。そして、しっかりガーリック味も
堪能しているのをミナが見逃すはずはなかった。

 「なんだかなぁ」

 あまり見つめていると妬みに変わるを嫌ったミナは残りの冷え切ったコーヒーを飲んだ。

 もっちーは悪魔の契約を交わしました。
 真っ白な正義がくすんで見えてきました。
 魔界へ魂を売ったもっちーに乾杯。

 だって、ちやほやされるの羨ましいし。


    #


 「どうして、もっちーにみんなちやほやするのかなぁ」

 暇を貰ったミナのバイクがガレージで鈍い光を反射していた。ミナはタンクの光沢を肴にしながら北の方の地図を眺めて
もっちーの新たなる門出を嫉妬していた。
 バイクがミナをちやほやしてくれるわけでもないし、春だからコイツにつんつんしてみるか。
 

 おしまい。

736わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:28 ID:l/gcxVvs0
投下おしまいっす。

737名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:40:15 ID:Ip.vqT4s0
怪盗シロ先生
http://imefix.info/20130321/611344/rare

738名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:42:24 ID:jQevw4W20
ありがとうございます。ほんとに描くとはさすがw

739名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:45:44 ID:3LIN.aG20
そこはかとなくエロい

740名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 23:28:34 ID:N8fhMoOk0
混ざってる混ざってるw

741名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:44:57 ID:XrLJbLaU0
>>737
コレッタ「か、かえすニャーーー!!」
怪盗シロ先生「……」
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/287/kaitou_shiro.jpg

742名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:54:26 ID:XEhnZ1dk0
コレッタかわいいお

743名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 23:03:39 ID:pmyEjx160
それを盗むかwww

744名無しさん@避難中:2013/03/23(土) 00:17:04 ID:QOI.Iae60
しかもすぐ捕まりそうなwww乙です。

745わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:07:42 ID:wr8SlciI0
本スレのお題「ぬいぐるみ」書きました!
ババアも出るよ!

746しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:29 ID:wr8SlciI0

 保健室のベッドに乱雑に置かれたサイフ、携帯、ハンカチ、手袋、マフラー……白先生の私物であった。
 ちょっとしたお値打ち品、オトナの女が持つような品ばかりだが、乱れ打つよう無様に並んだ姿を晒してる。
 ベッドの脇に跪き右手を鶴が首を伸ばすように突き出して、手首を下げる三十路のネコ一人。保健室の主だ。

 「この感覚。この感覚だぞ……。ここから左に……3秒!」

 まるで機械のように腕を水平移動させながら白先生はぶつくさ独り言。ぎこちなく腕の動きを止めると今度は下に動かし始めた。
そしてハンカチを鳥がくちばしで咥えるように掴むと再び一言発する。

 「よし!この感覚だぞ」

 さながら、ゲームセンターのクレーンゲームの真似事。腹痛でやってきた子ネコのコレッタが背後にやってきたことに
気づいた白先生はしらんぷりの態度を取って保健医の顔に戻り、がらがらっとカーテンを引っ張りベッドの上を隠した。


     #


 ここまで通い詰めれば、もはや常連客だ。寒い中、若いもん集まる街のゲーセンの一角、ひとり三十路のネコがいた。
 他のゲームに興味を持たず、真っ先にクレーンゲームに噛り付くこの客は遊ぶことを知らなかった。なぜなら、景品のぬいぐるみに
心奪われ、まるでストイックなアスリートのようにまっすぐに、ひたむきにガラスケースに向き合っていたからだ。
 
 「頼む、笑ってくれ。クレーンの女神よ、笑ってくれ……」

 クレーンゲームにへばり付き、めげることなくガラスのケースで重なり合うぬいぐるみを手に入れようと、白先生は右手にボタン、
左手に硬貨を携えて機械に運命を託していた。コレッタたちの笑顔を見たいから、一万二万は当たり前。百遍だめなら千遍だ。
ぐぐっと近付くアームがぬいぐるみを優しく抱き上げる。祈る気持ちで行方を見守るが、ガラスの壁は厚く思いは伝わらず、
アームの束縛を拒否したぬいぐるみは自由な世界へと戻っていった。白先生に宣告されたものは非情にも『ゲームオーバー』。
 白先生はぎゅっと左手の中の硬貨を握り締めた。仕事を終えたケースの中のクレーンは真面目にスタート位置へと戻っていった。

 ふと、白先生がガラスの中のぬいぐるみから目を背けると、明らかに場違いな自分が通りに晒されていることに気付いた。
人気者であるクレーンゲームのコーナーは一元さんでも気軽に入れるように一階にあることが大抵だからだ。
 月給切り詰め手に入れたちょっと品の良いダウンジャケットにブーツ姿の白先生は周りの若者だけが持つ金で買えない何かに嫉妬した。
たとえ、それが無意味なことであろうとも、せずにいられない三十路の悲しい性だった。

 「あっ」

 隣のケースは羽振りが良い。硬貨を入れて間もないと言うのにぬいぐるみをゲット。吸い込まれるようにぬいぐるみは
取り出し口へと転がっていった。プレイヤーは学園・高等部の生徒と歳はそんなに変わりはしない、ぱっつん前髪みどりの黒髪美しい
ウサギの少女だった。見覚えないので佳望の生徒ではないはず、しかし、彼女に興味を抱いた白先生はそっと近付き手元を覗き込んだ。
 少女は白先生を不審がることもせず、白先生の心の内を見透かすように明るく口を開いた。

 「不思議ですよね?どうしてそんなに上手いんだって?それにわたし、そんなに目を動かしてませんからね」

 ウサギの少女の声に白先生は息を止めた。

747しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:47 ID:wr8SlciI0
 「気配で分かるんです。わたし、勘だけはいいんです」
 「ほう……。しかし、それだけで」

 白先生が話し終える前、少女はまた一つぬいぐるみをゲット。彼女の視線に動きはなかった。

 「モーターの音やぬいぐるみを挟む音を頼りにしてるだけですよ。わたし、耳だけはいいんです」

 と、話しているうちにまたひとつゲット。
 白先生には聞こえなかった取り出し口にぬいぐるみが転がる音を聞いた少女はガッツポーズをする。
ふと、白先生のブーツのつま先を叩く感覚があった。足元には白い杖が転がり、少女は少し焦った顔をしてしゃがみ込み、
手探りで杖を探していた。冷たい少女の手が白先生の太ももを掴んだ。

 「す、すいません!」

 少女の白い杖を拾い上げた白先生は優しく声をかけた。
 純白の杖の先は赤く塗られ、使い込まれて出来た傷が少女との信頼関係として刻まれている。杖には彼女の名前と思われる
『YUKI』との文字が記されていた。

 「気をつけてな。『ゆき』。ほら、手を握るぞ」

 初めて会ったのに自分の名前を呼ばれた不意打ちに『ゆき』の手が止まった。
 白先生は「ああ、すまん。仕事柄、相手を名前で呼ぶ方が信頼を築けるから」と言う。
 
 「はい。先生」
 「……」
 「『雪妃』も名前で呼んでくれて嬉しいです」

 しっかりと両手で握らせた白先生は目を丸くした。
 初めて会ったのに自分が保健室の住人だと分かるとは。

 「オキシドールの匂いがしたんです。医者か学校の保健室の先生か。どちらも先生だなって」
 「……」
 「わたし、鼻だけはいいんです」
 「……」 
 「ほんのお返しですよ」


    #


 別の日、同じゲーセンにてクレーンゲームの興じていた白先生はオオカミの青年から「お姉さん」と呼び止められた。
 彼は先日会った雪妃よりも年上の印象を受ける物腰柔らかい青年だった。淀みのない目はおよそオオカミのものとは即座に
考えがたいぐらい、ガラス球のような光が周りの筺体から発する明かりで輝いて見えた。

 「お姉さん。ぬいぐるみ、取りたいんですよね」
 「……今、必死にやってるところだけどな」
 「ぼく、取って見せますよ。ノーミスで取りますから、じっとアームから目を離さないでくださいね」

 煙に巻かれたような気持ちで青年の言葉に乗せられた白先生は自分の顔が反射するガラスケースの中のアームに焦点をあわせていた。
それよりも、三十路を超えた自分を「お姉さん」と他人から、しかも見知らぬ他人から呼ばれたことに少々動揺していた。

 で、技のほうだ。
 アームが動く、掴む、あがる、投入口までぬいぐるみを運ぶ。そして、青年の元にぬいぐるみが……。鮮やかとしか言いようがない。
『天才という名は彼のためにあると言っても過言ではない』という言葉さえも陳腐に聞こえるボタン捌きであった。

 「お姉さん。差し上げますよ」
 「い、いいや。いいよ。自分で掴んでこそ、ゲームだ」

 青年は少し悔しそうな顔をしてぬいぐるみをお手玉のように軽く空中に上げながら、白先生との再会を誓う言葉を残して
ゲームセンターの出入り口へと去っていった。すれ違いに現れたのは白い杖の少女だった。先日のような笑顔はなく、寧ろ
青年に対して軽蔑の眼差しを向けていることに等しい態度を雪妃が取っていることに白先生は気づいていた。相手の心情に
気付くことは職業の性だと白先生は(自分ひとりで)言う。
 白い杖をかつかつと地面に当てながら雪妃は真っ直ぐとゲームセンターに入ってゆき、杖の先が白先生のブーツに当たると
ぜんまいの切れたロボットのようにぴたっと足を止めた。

748しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:08 ID:wr8SlciI0
 「ごめんなさい!先生ですよね。声が聞こえました」

 白先生は首を縦に振ることで返事をしようとしたが、雪妃のために「ああ」と口に答えを出した。

 「あいつ、『イカサマ王子』です」

 確かに王子と名乗るにふさわしいほどの振る舞いだ。だが、雪妃は低い声で続けた。

 「筺体にコイン、入れてないんです。なんらかの小細工を使った方法で誤作動させてます。きっとコインの投入口に……。
  だって、コインを投入する音が聞こえなかったんです。わたし、耳だけはいいから分かるんです」
 「……証拠は。証拠がないとこちらも手を出せないぞ」
 「はい。立証は目撃者でも居ない限り難しいでしょう。先生、気をつけてくださいね。あいつ……年上好みですから」
 「……」
 「年上の女性に擦り寄ってぬいぐるみを贈る。いつも敬語ですし、気に入られやすいんです。
  イカサマはゲーム感覚でしょう。一瞬でもいいから、自分をチヤホヤしてくれるような女性を探しているんです」

 雪妃はゲームの神へ訴えるようにクレーンゲームにコインを投入し、次々とぬいぐるみを狩っていった。

 「この辺であいつの名と破廉恥な振る舞いを知らない者はいません。ただ、証拠があがらないんです。
  なのに……わたしにだけ証拠が聞こえるのに、証明できないって……悔しいじゃありませんかっ!!」


    #


 『イカサマ王子』がコレッタに近づいているのを白先生はゲームの最中に目撃した。

 年上好みと聞いていていたはずなのに。目をぱちくりしていると王子はコレッタに何かを話しかけ、以前白先生に求めた
ことと同じようにアームの先を見放さないようにコレッタに指示をしているのに気づいた。あろうことか、コレッタにだ。
 コレッタとイチャコラしているのを見るだけで、白先生は胸の奥が沸騰してくるような気がした。

 だから、というのは失礼かもしれないが……白先生は途中でゲームを放棄して王子に寄りつめた。
 王子は鬼気迫る形相の白先生に対して、なんとも紳士的な表情で迎え入れた。作法も知らぬ野武士が氷の面構えをした
貴公子に斬りかかる、と言うべきか。ただ、言えること。野武士は本気だ。

 「イ……王子さまだね」
 「そんな呼び名、されているんですかね。ぼく」
 「失礼覚悟で聞く。コインは入れたのか」

 白先生の問いかけを遮るように筺体のランプが灯りだし、いかにもせせら笑っているように見えてきた。
 そして、あれよと言う間にぬいぐるみが捕獲され、コレッタの元へと取り出し口に転がってきた。
 何も事情を知らないコレッタは不思議そうにぬいぐるみを眺め、そしていつのまにか手中に収まっていた。
 
 「否定しないな」
 「肯定もしていませんよ。コインは入ったのでしょうか?疑問ですね。なのに、ぬいぐるみが手に入った。お姉さん、質問は愚問です」
 「ちゃんと、ちゃんとコインの音がしないっていう証言もあるんだぞ」
 「お姉さん。冷静に考えてください。コインの音って聞こえますかね」
 「あの子……あの子には聞こえないんだ!」

 冷静になれ。落ち着け。感情に訴えるな。ババア。
 王子の嫌味なほどの爽やかさが白先生を煽り立てた。

 「コレッタ!近づくな!離れろ!こいつ、こいつはな!」
 「ニャ?」
 「店員さーん!ここでオバサンが暴れていますよー!」

 王子が手を振っているうちにわらわらと制服姿の店員が集まり始め、白先生は羽交い絞めにされながらクレーンゲームから
引きずりはなされていった。きらきらと輝き続ける電飾に照らされて、テンション上がる音ゲーのサウンドに囲まれて、
三十路を過ぎた一人の保健医は両手を振り乱しながらスタッフオンリーの札が掲げられた部屋に店員と共に吸い込まれていった。

 「王子!王子はいくらでも傷つけ!!でも、コレッタだけは傷つけるな!!わたしが許さん!!」という声を残して。

749しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:26 ID:wr8SlciI0

     #


 日の長くなった五月晴れの午後。
 
 白先生は市電の中で雪妃に再会した。手を伸ばせば気づく距離だが気づくことが無い雪妃を驚かせないように
声をかけながら肩を優しく叩くと、雪妃はにこりと花を咲かせた。もちろん、あの日と同じように白い杖を片手にしていた。
 初めて会ったときの冬服から制服から涼しげなワンピースに身を包んでいる雪妃の姿は白先生には新鮮だった。
雪妃の持つ白い杖にはケレーンゲームのぬいぐるみがぶら下がる。市電が加速をする度にゆらゆらと揺れるぬいぐるみを
白先生は目で追っていた。

 「先生、あれからゲーセン行ってますか?」
 「いや……全然」

 あの店に近づくのはやめた。
 なんだか自分が恥ずかしくなるからだ。法や世間が白先生を許しても、白先生が自分を許せなかったのだ。

 「それじゃ。わたしと一緒に行きましょうよ」
 「……」

 白先生が巻き込まれた店内での出来事を知らない雪妃は白先生がクレーンゲームに夢中になっている姿を想像してにやりと笑った。
 雪妃は白先生に再会の約束を交わし、途中市電を降りてかのゲームセンターへと杖に頼りながら向かった。歩きなれた道だから、
たどり着くまでがなんだか楽しい。にぎやかなサウンドが雪妃の耳にだんだんと聞こえてくるのがいやがうえにもテンションを上げる。

 店内に足を入れた雪妃は杖の動きを止めた。
 王子だ。あの王子、まだくたばり損ねていたのか。嫌でも鼓膜を響かせる王子の爽やかな声、そして折り重なるように幼い子供の声。

 「さあ。コレッタちゃんの好きなもの、取って見せようか」
 「ウチのコレッタがすいません!ほら、お礼は?コレッタちゃん」
 「ニャ」
 「もー!コレッタちゃんのご返事はいつも可愛いね。お母さん、萌えしびれちゃった」

 雪妃は膝打った。打ちまくりだった。
 イカサマ王子はコレッタではなく、コレッタの母親狙いだったことに。将を射んとせば、馬を狙え。
 年上好みの王子が取った謀にまんまと転がされる、コレッタの母はコレッタ以上に周りに花びらを散らせていた。
 王子と子供とちょっと子供っぽいオトナの声が三つ編みのように美しく輝きながら絡む。だが、美しいものにも消えるときが。

 「……おにいちゃん。右手で何してるニャ?」
 「ん?」

 たじろぎを隠す王子の手元をコレッタが覗き込むたびに、コレッタの母は首を傾げていた。

 「コレッタちゃん!な、何……ごめんなさいね!」
 「ニャ!お金入れてないのにうごきだしたニャ!!」
 「コレッタちゃん!」
 「どうしてニャ?どうしてうごかしたニャ!?」

 もはやこれまでか。王子は表情を変えずにいることに限界を感じ、脱兎の如くコレッタの元から店外へと駆け出すが、
刹那に脛に激痛を感じ地面にひれ伏した。悶絶に苦しみながら見上げる王子の視線の先には、聖剣のように白い杖を構える
雪妃の姿が逆光の中浮かんでいた。

 「わたし、勘だけはいいんです」

 白先生。また、ゲームセンターで会いましょう。
 雪も融けました。
 草木も萌え出でています。
 悪いオオカミはいなくなりました。

 ただ、美しすぎて、物足りません。雪妃は待ってます。


  おしまい。

750わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:11:58 ID:wr8SlciI0
「ぬいぐるみ」で描いた!
ババアもでるよ!のおまけまむが。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/412/dr_shiro_cyan.jpg


投下はおしまいです。

751名無しさん@避難中:2013/05/13(月) 20:43:39 ID:eRw7z.IEO
ぬこぽ

752名無しさん@避難中:2013/05/15(水) 13:29:38 ID:o4fSKqi20
>>751
ニャッ

753名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 02:34:50 ID:35kl/ZvY0
白「児ポ規制が改正されるぞ。気をつけろよ因幡

リオ「はああー?私は児ポなんで一ミリも関係ないですよ?先生こそ大丈夫なんですか

白「ガキの身体に興味持ってたら先生なんかできんわい!

リオ「ええー?本当ですかー?コレッタちゃんの柔肌をニヤニヤ眺めたりしてませんかー?

白「腹の立つ奴だな。だが実は興味は無いが生徒の成長を知るためにある程度のデータは覚えてるぞ。お前の胸囲は○○cm。

リオ「ギャー!わ、忘れろ!忘れてください!

白「腹回りは○○だったか?メリハリが無いな。

リオ「ぬおおー!訴えるぞ!勝つ見込みはあるぞ!

白「胸が薄いと細身の服が似合って良いな。羨ましいよ。ははっ。

754名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 03:03:30 ID:7Abex2kc0
なぜ把握しているw

755名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 21:04:39 ID:0tG/YBXI0
お知恵拝借。
けも学の「映画研究会(創作系)」の子たちを描こうと思って、キャメラを
三台用意しました。 ひとりは黒柴犬チビ助眼鏡っ娘ってのを考えてますが、
のこりふたりの種族は何にしたら良いでしょうか? 私が考えると全部犬に
なりそうで…
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/445/furry529.jpg

756名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:12:17 ID:/Nfxb2hU0
目がよさそうな鳥とか?

757名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:56:48 ID:YdgHYWV60
背が高いから映画館では最後列に座るという気配りをする映画好きなキリンさん

758名無しさん@避難中:2013/06/02(日) 09:08:39 ID:zYQYgfFA0
アクション映画が大好きだけど意外と運動音痴で熱血馬鹿でなおかつ無駄に馬鹿力なライオンさんとかw
ミージカル映画が好きだけど臆病で自分が歌う事なんて絶対無理!な小鹿さんとかw

759わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:33:23 ID:VejPUCRk0
>>755
書いてみた。どんなキャラかなぁ?この子。でも、書いてみた。

760「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:00 ID:VejPUCRk0

 プールでイヌが溺れた。
 誰も疑うことは無かった。

 梅雨の一休みの中、さんさんと水無月の太陽に照らされるなんて、なんという贅沢。
 苦手な水泳が大手を振ってサボれるなんて、なんという贅沢。
 スク水姿の女子に囲まれるなんて、なんという贅沢。

 救い出されて尻尾を丸めた果報者のイヌは恥らいも無く無様な姿を披露していた。
 彼女……、そう。彼女はコンクリ打ちっぱなしのプールサイドにて仰向けに、濡れた紺色のスク水に身を包んで息も荒い。
 ここが安楽なる保健室のベッドでないことは我慢してくれればよいが、生憎ここは青空の元のプールだ。多少の犠牲はやむ得ない。
小さな体からはぁはぁと命の息吹が湯気を立たせて、ぽっこりお腹が上下に揺れる。空を流れる雲たちがやけに速い。

 「まったく……。お前、己を考えろよ」
 「はぁ……寝不足でした。眠いのを無理して……、だ、台本書いてました」
 「無理すんな」
 「助監督への道は厳しいんです。これしき……」

 保健医の白先生、脈を計り、彼女の容態が安定したことを確かめると、イヤミの無いお説教で彼女に愛の鞭をお見舞いしていた。
 ここで白衣姿なのは眩し過ぎるのでいそいそと白先生がプールサイドから退散すると、白衣の裾を引っ張る感覚がした。
無言で引っ張る力に対して、白先生は頷くことで「安心しろ」と伝えていた。程なくして裾は自由を得た。

 太陽の日差しが眩しく思ったか、コンクリと同化していた彼女が目を見開いて、きゃんと無駄吠えの声上げる。
 ちょっと太めの両脚を天高く突き上げ、勢い付けてむっくり起き上がると同時に、お互い打ち合わせをしたかのように
周りのスク水女子が一歩後ずさり。起き上がったチビっこイヌは滴る雫を拭いつつ、自身の健在をアピールしていた。
 山椒は小粒でも辛いんだぞと、言わんばかりに。

 「良い画が見えたんだよ!凄いんだったら!ゆらゆら揺れる画なんてプールの中じゃないと見られないんだから!」
 「……」
 「きれいな、画だったんだよ。あたしのファインダーに映ったんだよ」

 濡れた黒い毛並みがきらきらと、自信なさげな胸がおしとやかに、ちっぽけな体全身で奇跡の瞬間を伝えたくて 身振り手振りで
『全学年の生徒に見守られながらプールの底に沈む』屈辱を『神からの恩恵を授かる』名誉に仕立て上げる姿。それは彼女の癖だった。

 「おねえちゃん。何言ってるニャ?」
 「吸い込まれるような画だよ!青い画ってこんなに涼しくも、心惹かれるものなんて!」
 「ニャ?」

 彼女は未来の映画監督を夢見る少女。そんじょそこらの失敗なんぞ、未だ見ぬ銀幕への拍手に変わるのならばなんでも……と。

 「はやく……続きを撮らせてください!」
 「ニャ……?」

 あどけない瞳とネコ耳が溺れたイヌを捕らえる。
 そして、また一歩後ずさり。

 「とにかく、助かってよかったニャ」
 「……ありがとうございます」
 「年下に頭下げるのまだはやいニャよ」

 彼女は低学年のネコたちに敬語で気を使った。

 悟った。
 初等部……女子小学生たちに紛れて泳ぐのはもうやめようと。
 ちっちゃい頃を思い出すかもと思ったけれどとんだ大誤算。
 やっぱりJSは最高だぜ!だなんて、うそっぱちだ。JSの頃の記憶なんて、プールの底に沈んでしまえ。

 眠気が瞼にのしかかる。うとうとと、どっと疲れが彼女を襲い、再びプールサイドのコンクリへ体を沈め目を閉じた。

     #

761「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:33 ID:VejPUCRk0

 彼女は『監督』と呼ばれていた。女子高生だけど『監督』だ。
 学園の映画研究会に所属する『監督』は事実、上に立つ立場だし、求心力も備えているし、映画監督を目指しているから異論は無い。

 事件が落ち着いた頃、目を覚ました誇り高き『監督』は一人ぼっちで更衣室で濡れた体をタオルで拭いていた。
 にぎやかだったプールは静寂を取り戻し、水面だけが自由な時間を弄ぶ。彼女の眼鏡が息で曇る。

 黒い毛並み美しく、ちっちゃい体はちょこまかと、そして眼鏡で光る瞳はどんな原石でも見分ける選球眼を携えていた。
 スペック高くても、所詮は女子高生。スク水姿で一人ぽつんと更衣室で姿見の前で突っ立ていた。肩に掛けたフェイスタオルから
しずくがぽたりと落っこちて、床を濃く湿らせる。時間が経つとともにその円は数を増やし、やがて不思議なサークルへと姿を変える。

 照明の消えた更衣室に差し込む光は四角四面な窓からの日光だけ。
 白く映える窓、床に落ちる影。『監督』はじっとその光を横っ面で受け止めていた。

 「元気になったニャか?」
 「さっき居た……」
 「ミケのこと?わたし、ミケっていうニャよ」
 
 更衣室の窓からひょこりと顔を出した子ネコが一人。さっきの事件を目の当たりにしていた子だった。
 夏みかんのような明るい色がさらさらとプールの風に揺れ、前髪をハートの髪留めで括った三毛猫の子ネコ。『監督』を案じて
わざわざここまでやって来た。ぐったりと仰向けになっていたときにはオトナに見えたミケは今となって小さく見える。

 「あたしがミケちゃんと同じぐらいの頃に見た映画を思い出してね」
 「そうなんだニャ」
 「あんな吸い込まれそうな空色の映画、あたしも撮ってみたいし」

 雫がつららと『監督』の毛並みを走り、紺色に染まるスク水は緩やかな丘を描く。草原を走る透明な羊の群れのようだ。
 優しい丘を登ったら、すらりと斜面を駆け下りる。そして粒は集い、『監督』の脚の付け根に淀む。
 『監督』はくすぐったくて、人差し指でスク水からむちっと映え出る脚の付け根をさすった。

 「絶対、撮ってやるんだから」

 小さい頃に見たんだ。
 まるで自分が魚になったように、青くきらめく空を自由に、銀幕の中にも空はあると。
 そして、空の向こうには紺青に染まる空の果て。散りばめられた瞬く星。その中をふわりふわりと浮かんでくるり。
 真っ暗な映画館に窓のように切り抜かれたスクリーン。
 リアルと妄想が混じり合う非現実的な空間。

 宇宙旅行はまだまだだけど、幻燈の前ではいつでもどうぞ。
 浮世をすっ飛ばしたいから、無敵の英雄に願いを託す。
 過ぎ去った日々は戻らないから、ちょっと指定席で現実逃避。

 ずっとこのまま騙されていたいと願いつつ、幼き日の『監督』は再び同じ夢を見る日を、そして誰かに分かち合う日を待ち続けていた。

 「おねえちゃんの映画を楽しみにするニャね。ミケは『かれし』といっしょに見に行くからニャ」
 「いるんだ。彼氏」
 「いないニャよ。これからさがすニャ」
 「じゃあ、ミケちゃんの彼氏が出来るまでにおねーさんは空色の映画、頑張って撮っちゃうぞ」
 「間に合わないかもニャね」

 夏の雲は流れが早く、映画に、青い色に取り付かれ、幼心を抱いたままの『監督』も、今では華のじょしこーせー。
 いつの日か『青い映画』を撮ってやるんだぞ。
 スク水脱いで、制服に着替えたばかりの『監督』からは塩素混じりの夏の匂いがした。


   おしまい。

762わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:37:53 ID:VejPUCRk0
おまけ。
描いてみた。どんなキャラかなぁ?でも、描いてみた。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/461/cinema_culb.jpg

投下、おしまいです。

763名無しさん@避難中:2013/06/09(日) 15:15:42 ID:9SZlIrvg0
アドバイスありがとうございます。
とりあえず5にん描いて本板の方に投稿してみました。
後は女性副部長が進行管理とかやれば成り立つのかな?
キャストは演劇部とかから調達するのかな?

また昨日も中古の8m/mキャメラを買ってしまった…

764名無しさん@避難中:2013/06/09(日) 19:50:15 ID:RnPqhTBA0
>>763
乙です。賑やかそうだw

765名無しさん@避難中:2013/06/29(土) 19:56:13 ID:Qd2YZu6M0
本スレババア本www乙ですー

766名無しさん@避難中:2013/06/29(土) 19:59:19 ID:G9FFuduE0
兎も巻き込んで是が非でもコレッタを魔法少女に!

767名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 11:42:31 ID:SnqnR7HI0
もふもふスレも便乗age

768名無しさん@避難中:2013/08/06(火) 07:20:31 ID:EKFUNT2M0
白センセ ビキニ姿で のうさつよ

769名無しさん@避難中:2013/08/06(火) 20:08:20 ID:R1n2qVYc0
ババァ無理すんなw

770青空町耳嚢 〜創作発表板五周年企画SS〜  ◆KYvOzJo9IM:2013/08/27(火) 16:22:39 ID:g1PJ08CI0
青空町耳嚢 第12/21話
【無念なり】

 住宅街の裏通りで、犬と猫がケンカしているのに出くわした。
 激しい争いの末、勝者となった灰色の大柄な猫は、ブロック塀に跳びあがると悠々と去っていった。
 あとに残されたのは、満身創痍で倒れ伏している茶色のやせ犬。首にスカーフみたいなものが巻いてあるところからして、飼い犬のようだった。
 あまりに痛々しかったので保護して飼い主に連絡しようかと近寄ったものの、その犬はよろよろと立ち上がって去っていってしまった。
 その去り際、犬が悔しげに呟いた。

「無念なり」

 次はがんばれ、と思わず応援したくなった。


【終】

-------------------------
【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/

771わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:02:50 ID:Hcu2UIes0
5周年おめ!!
わお!50スレ祭りとな!

50は無理だけど、SS書いた!ホラーじゃなくてすまない。

772『タイムカプセル』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:03:23 ID:Hcu2UIes0

 髪の長い娘がざっくざっくと公園で穴を掘っていた。
 陽射しの強い夏の真昼間、立木が落とす濃い影の元ひたすらシャベルで掘り起こす。
 シャベルのリズムに合わせて束ねた髪が揺れ、一言も喋らず一心不乱に土の中を見つめていた。

 「ルル姉、何やってんだ?」

 声をかけられたことすら気付かずに、ルルという名の娘は穴を掘る。
 ルルは人だ。ケモノたちの住むこの街では珍しい。ただでさえ目立つ存在なのに、可憐で華奢な体で重いシャベルを扱う姿は
どう転んでも目を引く。やがて、息も荒くなり一休みとシャベルを放り出すと、傍らにいた少年の足元にからんと転がった。

 「ルイカ、見てたの?」
 「ルル姉、訳わかんねぇよ」

 ルイカと呼ばれた少年はケモノだが、あまり見ぬ種族ゆえやはり目を引く。やや耳はシャベルのように尖り、やじりのように
目つきのきついカルカラというケモノだった。
 ルルとルイカを繋ぐのはたった一筋の親族であること。種族は違えど系譜が繋がると逃れられぬ関係となる。
 ルイカはルルと見えない鎖で繋がれているようなしがらみを足元に感じた。

 「見つかんない。どこにも」
 「はあ?何がさ」
 「タイムカプセル。わたしがちっちゃいときに埋めたの。覚えてるでしょ?」
 「なんだよ。ガキくせ……」
 「ガキのくせに人をガキ扱いするなんて大層な様ね」

 茶色く窪んだ土、黒くうずたかく盛られた土、そして色白の娘。どれもこれも不釣り合いで、ちぐはぐで。
 それを繋ぐタイムカプセルさえも見つからない。

 「木の箱に入れてたの。大人になったら掘り起こすんだって」
 「土に返ったんじゃね?」
 「将来、思い描いた自分になれてるかって……どうか。大人になった自分への手紙だね」

 無いものはない。求めても戻ってきやしないタイムカプセル。この星を捨てて遥かかなたへ飛び去ってしまったのか。
 ルルは手を払い、また一度地球の裏側にまで通じるのではないのかという勢いで再び穴を掘りはじめた。

 ルイカはルルの姿に一種の後悔を感じた。しかし、ルルに弱みは見せられぬ。

 (ルル姉が埋めた後、おれが掘り起こしたんだよな)

 ルイカの記憶は確かだった。
 そのタイムカプセルはルイカの自宅の机の中にある。土にまみれた木箱は眠りを邪魔されてルイカの手元にあるのだ。

 「ふう。休憩!ルイカ、穴、見てて!」
 「おれが?何でだよ」
 「危ないでしょ?掘りっ放しじゃ!わたしここにいるからアイス買ってきて!」

773『タイムカプセル』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:03:50 ID:Hcu2UIes0
 ルルに刃向かうのは万死に値する。大袈裟かもしれないが、二人はそんな関係だ。ルイカは渋々と公園を去った。
 しかし、もやもやした気持ちは晴れない。アイスを買いには行かずに、その脚で自宅に戻り机の中をまさぐった。
 机の中は整理整頓されて風通しが良い。そんな町並みのような机の引き出しの中にぽつんと違和感ありありの木の箱が一つ。

 「これだ」

 土にまみれたようにくすんだ木箱、大きさはおよそ文庫本ほどだ。錆びた蝶番が固く、蓋を開けるのも至難だった。
 やがて蓋は開き、中に一枚の桜色の便箋が日の目を見た。几帳面に畳まれた便箋に書かれた一文にルイカは目を止めた。

 『りっぱなおとなになってますか』

 幼く、たどたどしく、舌ったらずな手書きの文字。ルルが8歳のときに書かれた自分への手紙だった。

 確か幼き頃のルルが大人になったルルと同じように穴を掘っていたんだ。ざくざくと、重なる姿は変わらなかった。
ルイカはその一部始終を眺めてて、ルルが埋めたタイムカプセルをルルがいない間に掘り起こしたのだった。
 「ガキくせー」とルイカが減らず口叩いたからルルからびんたをお見舞いされた。だから今でも覚えている。

 (一矢報いたかった)

 語彙の増えた今、振り返るとそうだ。中の手紙の代わりにテストの裏の藁半紙を入れて、ルイカは土に埋もれているはずの木箱に入れた。
木目の刻まれたタイムカプセルをかばんに隠し、ルルの待つ公園へと脚を運んぶ。

 「ルイカ、アイスは?」
 「知らねーよ。おれはルル姉の下僕かよ」
 
 あまりにも暑く、喉が渇くから、ルルがアイスを買いに走った。
 これ幸運とルイカはルルの掘った穴を掘り続け、かばんに入れた木箱を埋めた。

 「ったく」

 穴をじっと見つめていると吸い込まれそうになる。だから踏ん張って、しがみつく。
 程なくするとアイスを二本手にしたルルが頬を赤くして帰ってきたが、ルイカはアイスだけ受け取って公園から去った。

 その晩。
 ルルは自宅のリビングで木箱に入っていた藁半紙を眺めていた。久しぶりに再会したタイムカプセル。
そう。ルルはルイカが埋めた木箱を掘り当てたのだった。諦めかけていたのでちょっと嬉しい。丁寧に土を払い除け持ち帰った所だった。

 藁半紙の表には結構良い点数のテストの答案、おまけに持ち主の名前まで書かれている。そして裏には男子の手書き文字。

 『ガキくせぇこと、未だにしてんじゃねーよ』
 「ルイカもね」

 『りっぱなおとなになってますか』へのルイカからのアンサーだった。にやりとルルは手紙の返答主に噛み付いた。

  
    おしまい。

774わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:05:46 ID:Hcu2UIes0
ルルさんとルイカをお借りしました!!
と言うわけで、ザッキーも加えてこちらもどうぞ。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/548/lulu_5th.jpg

775名無しさん@避難中:2013/08/30(金) 13:15:19 ID:smY3qPLc0
投下乙!

776名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 07:58:37 ID:7wnoB0C6O
白先生、スク水の季節…終わっちゃいましたね。

いや、先生が着るんじゃなくて…

777名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 08:20:42 ID:f0a9F6z60
ババァ無理すんなwww

778名無しさん@避難中:2013/10/05(土) 23:02:48 ID:G3eEYy9g0
「かわうそは僕の嫁」と「トド彼」、立て続けに耳尻尾どころじゃないケモノ
とのラブラブ漫画の単行本がでてきてました。

皆様におかれましてはこんなのは如何でしょう?

779名無しさん@避難中:2013/10/06(日) 14:41:13 ID:kg/aFcbI0
>>778
無茶するBBAは美しい。
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/599/shiro_manga.jpg

780名無しさん@避難中:2013/10/07(月) 11:55:53 ID:lVkr18Sk0
BBAめ、溜め込んだ使い道見失った結婚資金があるだろう!

781名無しさん@避難中:2013/10/12(土) 07:42:44 ID:BWNHqBf.O
リオ「ただのBBAには興味ありません。このなかに巨乳、残念、ロリコン、保健医がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

782わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:30:17 ID:10nzO7Xs0
本スレ>>116 お題「将来の夢」でちょいと書きました。

おまけ。
コレッタだよ!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/609/Coletta.jpg

以下より、どうぞ。

783『ユメミルコネコ』 ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:30:52 ID:10nzO7Xs0

 保健室の白先生が居眠りしていた。
 人目も憚ることなく、無防備に椅子に仰け反ってすやすやと。

 そろりそろりと忍び寄る小さなユメミルコネコが一人。
 どきりどきりと揺れ動く小さな胸に希望を乗せて。

 「ちょっとかりるニャ」

 白先生を起こさないように、子ネコのコレッタがメガネをひったくった。薄い手のひらには重くのしかかるオトナのメガネ。
 コレッタは頬を赤くしながら白先生のメガネをかけた。

 メガネをかければちょっと一人前に見えるかもしれないと、コレッタはメガネのつるを摘んでいい気になっていた。
 そして白先生の真似をしてゆっくりと、子ネコにはちょっと大き目のメガネをかける。

 初めての視界はぐるぐると廻るよう。瞳は鳴門のようにぐるぐると廻るよう。
 足元もふらふら、オトナになるって厳しいニャ。

 メガネをかける前は「白先生みたいなオトナになりたいニャ」と、まだ見ぬ未来の希望へと手のひらをぐっと伸ばしていたのだが、
今やその手は制御不能!度があっていないからと子ネコのコレッタには理屈は通じぬ。

 足元でんじゃらす!
 コレッタは前のめりに転びそうになりつつ声を上げた。

 ふにゃあああああああ!!

 助かったニャ?
 でも、おかしいニャ?
 
 やわらかく。とろけそうな肌触り。ボーダーのシャツ越しながら、薄っすらと感じる(永遠の)嫁入り前の……。

 「コ、コレッタ!!何しているんだ!!」
 「ご、ごめんなさいニャ!白先生みたいになりたくて……ニャ」
 「わたしみたいに?か?」
 「ニャ!」

 白先生はぐっと額に汗たらして堪えた。お願いだから爪は立てないでくれ。胸が痛いんだ。比喩でもなく、ホンキで。
 コレッタの手中に収まりきれない白先生の無駄に大きな胸は子ネコになぜか自慢げだった。


  おしまい。

784わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:31:14 ID:10nzO7Xs0
投下おしまいです。

785名無しさん@避難中:2013/10/16(水) 19:45:25 ID:C/D6zyY.0
コレッタにゃんハスハス

786名無しさん@避難中:2013/10/29(火) 21:43:10 ID:FFL30Yic0
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/620/furry535.jpg

787名無しさん@避難中:2013/10/30(水) 07:06:11 ID:reOTjpGM0
がおー

788名無しさん@避難中:2013/11/24(日) 18:30:38 ID:fnBtgo/I0

 「もう一ヶ月か……」

 咥えた煙草の煙がやけに澄んで見える。汚れ塗れの世間よりかは煙の方が清く見える。
 私は携帯灰皿に吸いかけの煙草を押し込んで、校舎の屋上から浮かれた町並みを眺めていた。
 もうクリスマスなんか関係は無いと、とっくに切り捨てていたが、どんなに抗おうとも時の流れには逆らえないと知った二十歳の夜。
父との死闘が遥か昔のように流れ去り、私の眼帯だけが古傷を癒す。父など……、私の記憶には無い。

 「獅子宮せんせー」

 背後から叩くように聞こえる声、まさに彼女は乙女だ。
 私と同じ歳だというのに、子猫の頃を引きずる彼女は泊瀬谷と呼ぶ。
 私の勤める学園で現代文を教える泊瀬谷だが、些か少女趣味過ぎるのが難点だ。私がかい潜ってきた修羅場とは別世界に生きてきたから、
それはそれで理解は出来るが、闘いに明け暮れていた頃の獅子宮玲子と出会わなかった事を幸いだと思え。

 「あと、一ヶ月ですね!」
 「そうだな」
 「プレゼント、どうしましょうかね!」

 またも私に無縁なフレーズが現れた。
 プレゼントか……。クリスマスイヴの夜にたむろする不逞なる餓鬼共にナックルパンチならばプレゼントしたことはあるが、
リボンや包装紙で飾られた物など私にはもはや関係無い。仮にも頂ける物ならば、血の滴るような生肉でも望もうか。一人マンションで
憂き世をえぐるように食したいと。それを泊瀬谷に伝えた所……。

 「獅子宮先生、肉食系ですね!」

 きっと泊瀬谷は勘違いしているのだろう。何しろ泊瀬谷は乙女だ。
 泊瀬谷の脳内ではクリスマスの夜に寄り添う野獣のような男を描いているに違いない。
 私は携帯灰皿をズボンのポケットにしまいながら、マリアナ海溝よりも深い呼吸をしていた。

     −−−−−−了−−−−−−

789名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 07:30:38 ID:Gi2EsxgQO
獅子宮「ぬこぽ」

790名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 20:58:21 ID:qv1eS3No0
わん!

791名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 22:32:29 ID:pQvCBvvs0
獅子宮「わん…だと?誰だっ。誰が吠えた!」
犬上「え?ぼくじゃないですよ…。早く、本の続きを読ませて下さい」
芹沢「え?マジ?わたしじゃない…ってかさ、あまがみ部じゃね?」
大場狗音「久々に出て来て、これなの?私のあまがみと獅子宮先生の本気噛み…どっちがいい?」
芹沢「弟を差し出します!タスク!!!!」

792名無しさん@避難中:2013/12/13(金) 12:32:59 ID:JhxJMXjIO
絶対に「にゃっ」てはいけない学園24時



ぬこぽ

793名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 10:30:36 ID:OrDtm5As0
にゃんにゃん

794名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 10:30:36 ID:OrDtm5As0
にゃんにゃん

795名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 22:34:04 ID:bIObV0h.0
みゃー

796名無しさん@避難中:2014/02/22(土) 12:01:26 ID:Fa43XJv60
ぬこの日か

797名無しさん@避難中:2014/03/03(月) 17:45:36 ID:Pp/uTr.E0
落ちた?

798名無しさん@避難中:2014/04/10(木) 01:29:18 ID:RE.b8SHM0
ksks

799名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 05:25:38 ID:XFNF9ICc0
ぬこぽ

800名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 08:23:02 ID:KTz4sKmA0
にゃぺち

801名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 06:47:58 ID:rY.P/gTA0
>>800
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/834/nyapeti.gif

802名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 11:28:39 ID:kS69i7b.0
かわいい

803名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 22:37:31 ID:Fj6bprFA0
>>801
にゃ

804わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:44:17 ID:RBA6yh0k0
投下します。


     『だてめ』



 真面目のまー子でお馴染みの風紀委員長が、雑貨屋でいちゃいちゃとデートをしていた。

 委員長からいつもつっかかられてばっかりの犬上ヒカルは、見て見ぬふりをして通り過ぎようと心に決める。
 学校から電車で4、5分のショッピングモールの本屋に立ち寄って、発売を心待ちにしていた本を手に入れて、
自分の部屋を図書館にしようと浮かれていた帰り道。テナントして入居していたカオス感漂う雑貨屋の店先でのことだった。
 ディスプレイとして並んでいるご当地袋ラーメンのコーナーに気を取られていいた矢先のことだった。

 「これ、よくない?リオ」

 相手にリードされてばかりのリオは、おそらくきっとまんざらでもないはず。
 風紀委員の活動では委員長だからリードする方のリオだが、委員長の殻を突き破ったとき、牽引される快感で自分の奥底に
潜む被虐性が露になるのだと、ヒカルはクラスメイトの分析をそっと楽しんでいた。

 「……」

 後ろ手でスクールバッグぶら下げたり、小首を傾けるリオの仕草に、同い年のヒカルは年の差を感じた。
 もちろん、年上に、だ。
 もしかすると、女子っていう生き物は生を賜ったときから男子より年上なのでは。
 自分自身の日常を振り返れば、ヒカルは実にそう思う。

 「そういえば、この前さぁ、タスクに似合うTシャツ買ってやったのにさ、着てくれないんだよね」
 「気に入らなかったんじゃね?」
 「むかつくなぁ、なぐるよー。たった一人の姉貴だしー、女子喜ばせろよー」
 「モエはドSだなぁ」

 弟の愚痴でリオの『彼氏様』はぷうっと頬を膨らませて、リオの腕を引っ張った。
 素敵な『彼氏様』は、一人の可憐なオンナノコだし。女子喜ばせてナンボだろ、と。

 「モエー、結婚してくれー」
 「無理じゃね?」

805わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:44:37 ID:RBA6yh0k0
 ヒカルがリオに感付かれる前にこの場から逃げ去ろうと踵を反したと同時に、リオの愛しの『彼氏様』から軽々しい声が飛んできた。
逃げ場 、ナッシング。逆らうは辱しめの嵐。『カピバララーメン』なんかに夢中になるんじゃなかったと悔やんでみるものの、
もはや後の祭りだった。つかつかと近寄るモエは珍しいものをみるように目を丸くしていた。

 「犬上もこんなところ来るんだ」
 「いや……、本屋さん寄ろうと思って」
 「ウチら、デートだよ。放課後デート」

 愛しの『彼氏様』は女子力フルスロットルでピースサインをつきだした。同性同士だから遠慮はいらない。
女子高生同士の百合百合タイム、リオと『彼氏様』なモエのお買い物は綿菓子の味がした。

 「モエ、こんなのどうかなぁ。赤フレーム見付けたんだけど」
 「リオ!いいじゃん、これー」

 伊達メガネが欲しくって、モエはリオを連れ出した。
 メガネっ娘のリオが選ぶメガネに興味もあるし、いち早くリオに自慢出来るし。
 ごちゃごちゃした店内にディスプレイされた伊達メガネからは、知性とおしゃれ心がほんのりとにじみ出ていた。

 「そーだ。犬上もしてみたら?」
 「何を?」
 「決まってんじゃん。だーてーめ」

 思考と行動が同時のモエの手には、空色のフレームが瑞々しい伊達メガネが収まって、ヒカルが返答を濁しているいる間に
あるべく位置に掛かった。白い毛並みのヒカルの顔に一輪のすみれが花咲く。
 メガネは初めてだ。多少、視界が狭まったことだけが気にかかる。
 鏡に写った自分の姿に対して、妙によそよそしさを感じた。
 オトナになったら、こんな自分になるのかもしれない……と。

 「メガネ男子だっ。これでご飯三杯はいける」
 「は?」
 「だって、メガネは男子をドSにするんだよ?女子喜ばせなさいよー」
 「ドSが?」

 狂喜に沸くリオの言葉と自分の姿をちょっとした想い出にして、ヒカルはそっと空色の伊達メガネを外した。


     #


 梅雨も明けたと言うのに、本を枕にして不意に目覚めた朝は、しとしとと霧雨で幕開けを迎えていた。
 もはや急がなければ遅刻は必至の時間だぞと、アナログ時計が報じる。

 昨日買った本に夢中になって、ついつい夜更かししてしまい、気がついたら普段着のまま夢の中。
 とにかく、学校への支度をしなければと肝を冷やして制服に着替える。最悪の事態を思い浮かべては、無心に事を進める。

 朝ごはんも食べずに学校へと急ぎ、自転車を走らせているとまぶたに霧雨がこれでもかと吸い付いてくる。
拭っている暇はない、水と風を切りながら、校門へと続く坂道を一気にかけ上った。胸の奥からはあはあと暑い息が立ち込める。
その甲斐あってか校門には何とかセーフ。まとわりつく水滴を拭いながら、土足場で靴を脱ぐと、蒸れたにおいがぼんやりと立つ。
 廊下では「おはよう」の挨拶そこそこに誰もが皆一日の始まりに備えていた。

806わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:45:07 ID:RBA6yh0k0
 「リオ!ちーっす!急がないと遅刻遅刻!」

 既に風紀委員の仕事で登校していたリオは、遠巻きにヒカルとモエを眺めていた。両手一杯に抱えた冊子の重さに耐えながら……。

 自分と同じく急いでいる割には、実に能天気な挨拶をかけてくるモエの姿に気を取られていると 、ヒカルはモエとモエの弟の話が
脳裏をよぎった。あの、雑貨屋でのTシャツの話……だ。袈裟懸けしていいる通学かばんから、モエに悟られないように、
そっと空色の伊達メガネを掛けてみた。モエの強い勧めで買ってみたものの、袋に入ったまま通学かばんに入れたままだった。

 初めて自分の意思で掛ける伊達メガネは、悪巧みが微塵もない共犯意識と似ていた。
 掛け心地は変わらない。ただ、視界がちょっと狭まったような。土足場が小さく見える。
 もしかして、微妙なおしゃれ心に目覚めた自分を誰かが笑っているのかもしれない。それはそれで、ブラックなヒストリーとして
自分自身で語り継ごうではないか。

 「あっ。犬上、ちーっす!」
 「……おはよ」

 ちょっとどきどきする。
 相手は普通どおりに挨拶してきただけなのに。

 「いそぐよ!犬上、走れ!リオ、またあとで!」

 なのに期待外れの結末だ。
 モエが逃げるようにヒカルの元から走り去ったのは、時間ぎりぎりだからだと理解したのは、教室に入ってからだった。

 一時限目が始まる間際の教室にて、席に着いて安堵の一息をついた矢先、一仕事終えたリオが手首をばたばたと振り
ヒカルの顔を覗きこんだ。昨晩寝落ちしてしまったからと、本の余韻に浸ろうと伊達メガネの感覚を気にしていていたときのこと。
 日常が非日常になるまんざらでもない高揚感がヒカルを調子にのせていた。

 「もしかして、この間モエが選んだヤツ?」
 「うん」
 「いいね。メガネ男子」

 素っ気無いリオの反応にはちょっと期待はずれだった。

 「ってかさ。雨なんて、もーって感じだよ」
 「梅雨も抜け切れてないんだよ」
 「わたし、朝に委員会の仕事あるから坂道ダッシュで駆け上ったら、もーメガネに水滴が付く付く。前が見えないよお」
 「そうなんだ」
 「あれ?犬上、ならなかった?自転車だと、尚更なのに」

 あ。
 しまった。

 「……あれだよね。今、思い出して『伊達メガネ』掛けました。って、感じだよ?犬上?」
 「はっ」

 あれだけ急いで霧雨の中を自転車で疾走すりゃ……。ヒカルはメガネっ娘の苦悩を受け取れなかった自分の未熟さに冷や汗をかいた。
 リオのメガネとヒカルの伊達メガネの輝きは違うんだから……。

 冷やかす神あれば、拾う神あり。
 ヒカルの背後から叩き込まれた乙女の声は、ヒカルにとって救世主。
 リオの『彼氏様』の声は、リオにとってドSなアイツ。

 「ちーっす!あ!犬上、似合うよ!メガネ男子はご飯三杯いける!」
 「あ」
 「どお?似合うかなぁ」

 チェキポーズで『たった今、掛けました』アピールが漂う赤い伊達メガネのフレームから覗き込むモエの
きらきらとした目は男前だった。


   おしまい。

807わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:47:12 ID:RBA6yh0k0
おまけ。

いまどき犬っ娘+昭和昭和した商店街+レトロな電車
モエ「ちょー、懐かしくね?生まれてないけど!」
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/837/moe_in_arcade.jpg

投下おしまいです。

808名無しさん@避難中:2014/10/09(木) 14:44:54 ID:iCnBwmmU0
昭和のかほり…

809名無しさん@避難中:2014/10/21(火) 17:09:55 ID:Av36T/Dw0
朝起きると猫が二本足で台風の外の様子を見ていた
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/868/Coletta_typhoon.jpg

http://twinavi.jp/topics/tidbits/543d069b-b3b0-4521-8425-035aac133a21

810名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 01:35:02 ID:2Cx3j03w0
白先生、あけましてぬこぽっぽ

811名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 01:38:27 ID:GKhzb3120
にゃ。あけおめ

812名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 22:10:50 ID:le5j6Tr.0
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/906/furry538.jpg

813名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 22:48:02 ID:GKhzb3120
おお久々のこたつみかんさんや

814名無しさん@避難中:2015/01/02(金) 02:56:12 ID:j5IwoUL20
ひつじー

815名無しさん@避難中:2015/01/02(金) 11:24:18 ID:8anTrItY0
やっぱ見ると安心する絵柄だわ

816名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 01:17:08 ID:GOW0Dlwg0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org128534.jpg

817名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 06:24:17 ID:k2QwjcTo0
……ふぅ

818名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 09:31:30 ID:R7jdo0aM0
かわい!

819わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:09 ID:MkSoj18Y0
本板がうまくいかないからこちらで「ねこの日」。





 「ねこの日ですね」
 「おめねこ!」

 彼らは口を揃えて今日は『ねこの日』だと言う。去年も今年も、そして来年も、2月22日の夜はやってくる。
 泊瀬谷も彼らに混じって「おめねこ」のご挨拶。毎年つつがなくやって来る『ねこの日』を祝いつつ、何かにつけて集まって、
ゆるく時間を共有しようと、暇だけを持て余す彼らは賑やかに公園で夜会を開いていた。

 今年は雪が舞う。去年と比べて人数は少ないものの、物好きなメンバーが集まった。
 泊瀬谷も彼らの誘いを断り切れず、顔を出すだけと夜の公園に姿を現した。

 ネコの夜会はいつも眠い。約束の場所には、そんなに多くもないネコたちが続々と集まってきた。馴れ合いというわけものない、
付かず離れずのほどよい関係がネコたちには心地よいからだ。
 公園でネコたちは、特に何かをするわけでなく、ベンチに座る者いれば、たちんぼうもいる。集まりの中の一人となった
紅一点な泊瀬谷は仕事を終えたオトナの世界からの帰りの格好のまま、コドモの気持ちでブランコに乗ってあくびをしていた。

 そそくさと急ぎ足でこの公園に来た泊瀬谷の瞳にちらつく雪が闇に映える。
 泊瀬谷は教師だ。ネコの教師だ。現代文を教える高校教師だ。勤め先である学園から直接やって来た。
きっと帰りは遅くなるだろうと、宿直室覚悟で職員室にて残った仕事を片付けていた。焦れば焦るほど上手くいかないもので、
明日は休みだからと言い訳をして、仕事を切り上げてしまった。心残りがあるものの、ネコの夜会で忘れるつもりだった。
 泊瀬谷が学園を出て夜会の公園に着いたときには、既に何人かのネコたちが場を温めていた。

 「お久しぶりです」
 「はせやん。なんだか今夜は『きゃりあうーまん』っていう装いで」
 「仕事帰りですよお。それに、わたしそんなにてきぱきしてませんし」

 先客の老ネコにからかわれながら泊瀬谷は仲間に加わった。
 ふっさふさの毛並みに包まれた翁は色艶は流石に薄れてきたものの、齢を積み重ねてきた証である貫禄は十分だった。
 呑気な先発組と違って泊瀬谷は仕事帰りだったので、ちらりと顔を見せただけでこの場をあとにした。

 たまには雪降る夜もきれいだなと、物思いに耽る余裕さえなく泊瀬谷は足速にせせこましい新年の町並みを歩く。
両手で口元を覆い隠していると、そのときはそのときで温かい。おもむろに手を離し息を吐くと、目の前が真っ白に輝いた。
 残念なことに「寒い」の一言で何もかもが吹き飛ばされた。

 「暖かいところ、行こう」

 光は人を呼び、人は光を紡ぐ。
 誰もが心寂しくなる季節だから、光が解き放つ理論を無条件に受け入れる。泊瀬谷も賛同し、自然に足はコンビニへと向いていた。

 コンビニは明るい。コンビニがクラスメイトならばきっと人気者になれるだろう。
 コンビニの中だけは時間を切り取ったような明るさだった。
 夜更かしさんたちは立ち読みに興じ、腹ぺこさんたちは籠いっぱいにお菓子を詰め込んで、これから向かう夜の世界に
やんわりと立ち向かう。泊瀬谷もコンビニの掟に倣い、とりあえずみかんゼリーをひとつお買い上げ。

 「太るかな……」

 体重のことを気にせず、美味しく頂くこともコンビニの掟。

 「ま、いいか」と、泊瀬谷は小さなビニル袋をぶら下げて、足早にコンビニから出ると見覚えのある子を見付けた。
 昼間見る姿とは印象は違う。きっと夜のせい、服のせい。自転車のハンドルに泊瀬谷と同じビニル袋をぶら下げて、
暖色系のマフラーを巻き直していたイヌ男子。雪のように白い毛並みとマフラーが相対して映える。

 「先生」

820わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:31 ID:MkSoj18Y0
 気付いたのは、イヌ男子の方だった。
 彼の口から白い息が吐き出され、形を成す前に散り散りに消えた。

 「ヒカルくん、買い物?」
 「はい」
 「夜中に?」
 「はい。夕方から本を読んでたら、夕飯食べるの忘れちゃった」

 ヒカルの手にはコンビニの買い物袋。さほど入っておらず食事よりかは間食である。
 夜道のヒカルは白い毛並みが街灯の明かりに照らされて、眩しく見えると言っても過言ではない。



 「今から帰りですか」
 「うん」
 「家まで遠いんですか」
 「ちょっとね」

 ハンドルにコンビニのビニル袋をぶら下げているのだから、聞かずとも分かるはず。
 だが、泊瀬谷はヒカルとの間を縮めようと、どんなことでもいいから会話を振りたかったのだ。
 付け焼き刃のような泊瀬谷の話はすぐに雪で冷やされてしまいつまづく。

 カチカチカチと車輪を廻す男を散らかしながら、ヒカルが自転車を押して行く。話もせず、ただ並んで歩いているだけの
二人をじれったく感じているような自転車の声がおせっかいを焼いてきた。まるで、気が利く振りをしている子のように。

 泊瀬谷は自転車に急かされて、学校を出て夜会に顔を出し、今に到るまでをヒカルに話した。
 ヒカルにはいい迷惑かもしれないと、泊瀬谷はだんだんトーンを落とすと、ヒカルは自転車を止めて泊瀬谷の顔を覗き込んだ。
 泊瀬谷の顔は潤んで見える。なぜかと尋ねれば「冷たいから」と強情を張って、ふんと答えるに違いない。ヒカルはもちろんそれ以上、
詮索するつもりはなかった。

 ヒカルは泊瀬谷の姿をじっと見つめる。教室とは違う、一人の女性の香り。コートに着いた雪、足元を濡らしたブーツ。
ヒカルと歩いているのは、ヒカルの先生ではなく、泊瀬谷という名の一人の女性。

 どうしてヒカルが気にかかるんだろう。
 泊瀬谷は自分のヒカルに対する思いをふと疑問に思った。
 教師と生徒、ただそれだけの繋がり。それ以上に意味を持たせることは許されるのか。

 いけないことを承知で、こっそり自転車二人乗りしたから?
 お互い本を貸し借りしたから?
 それとも、学生時代は先生になるために必死で、大人になるまで誰かを想うことに憧れるだけで、自らの意志で人を大切に
することができなかったことの反動なのか?

 いや……、そんなことは小手先の言い訳。泊瀬谷だって大人だ。簡単な思い出だけで理由付けして分かったつもりになるなんて、
恋に溺れた若輩者の為せる技だと、泊瀬谷はくびを振る。

 (どうして、ヒカルくんより早く生まれたんだろう)

 大人の香り漂うコート、大人の財力でちょっと無理して買ったブーツ。
 せめて自分が大人でなかったらと、取り返しのつかない自分を悔やむ。

 雪景色の開放感と比べて、二人の間はぎこちない。雪たちに地上に住む生き物の語らいと言って見せることは到底出来ない
二人の間の空気は、二人にとっては壊したいものではないのだからそっとしてあげて欲しい。
 まだまだ世間を知らないヒカルが空気を壊した。故意でもない、必要とされたために。

 「ウチに寄りますか」

 ブーツの踵が地面を鳴らす音をやめた。ヒカルの声を聞くためにではなく、ヒカルの声に驚いてだった。
 もしかして、ヒカルなりの意地悪かもしれない。泊瀬谷を困らせるために、泊瀬谷をぬか喜びさせるために、わざわざついたウソ。
困った顔を見せてたじろぐ泊瀬谷をにんまりと楽しむために、ヒカルは泊瀬谷をたぶらかせていたのか。

 「父は仕事仲間の寄り合いで、母は海外に出ているから今夜はぼく一人なんです」 

 それは、ヒカルの家の前を掠めたときに分かった。家に灯かりが点っていない。すなわち、家はヒカルのいいなりだから。

 (ヒカルくんちって、初めて入るなあ)

821わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:48 ID:MkSoj18Y0

 寒さなんか溶けちゃうくらい、頬を赤らめて真冬の街を一緒に歩く。
 指と指を絡ませあって、イヌの優しい毛並みに触れる。ぐいと強引に、半ば遠慮がちに自宅へと引っ張るヒカルの後ろ姿が、
なんだか照れくさく、ついつい視線を反らせてしまう。否定をしないのは肯定の意味。こましゃくれた子供のような理屈は
今夜限りでいいから通して欲しい。 ネコの泊瀬谷は、そんなイヌのぎこちない真っすぐさを独り占め出来る夜が待ち遠しくも、
恥じらいを隠せなかった。やがて、二人は住宅街へ飲み込まれヒカルの家の前で足を止めた。自転車の音も口を閉じた。

 「着きました。先生」
 「……ここでヒカルくん、育ったんだね」
 
 泊瀬谷には『犬上』の表札がやけに堅苦しく見えた。ヒカルは玄関の鍵を開けると、自分の担任教師を家に誘った。
 もじもじしているオトナを蔑ろにするようにヒカルはずかずかと家へ入っていったけど、オトナはオトナの殻に閉じこもったままだ。

 「やっぱり、だめだよね」

 敷居を跨いだ後に、泊瀬谷は足を止めてヒカルを困らせた。

 「先生だからって、生徒の家に……」
 「大丈夫ですよ」
 「それに、誰か来たりして怪しまれたり」
 「ぼくの父って、一応物書きしてるから、出版社の人がよく出入りしてるんです。特に女の人。ネコの人。
  父は優し過ぎるから、若い女の人がよく担当になるんです」
 「もしかして、わたしに」
 「『出版社の人です』って言ってれば、周りは分かりませんよ。先生」

 言葉を返すことを拒んだ泊瀬谷は、うんと頷くだけだった。
 ヒカルから誘われるがままに、泊瀬谷は玄関に腰掛けて、ブーツを脱ごうと脚を組んでファスナーを下ろした。
 恩師の背後に立ち、あまりにも無防備なうなじを晒す姿をヒカルはじっと見ていた。後先考えることを果敢にも捨ててしまえば、
泊瀬谷のうなじを突いたりすることだって、尻尾を掴むことだって、はたまた無抵抗な体を後ろからぎゅっと男子高校生の欲望のまま
欲しいままに支配してしまうことさえも出来るのに。そんな姿を許してしまう泊瀬谷は気にもせず、必死にブーツを脱いでいた。
 ヒカルのような年下の者が見ても手を差し伸べたくなる光景。それでも泊瀬谷が脱ぎ終わるまで手を出さずにヒカルは待ち続けていた。
玄関にヒカルのスニーカーと共に泊瀬谷のブーツが並ぶ。犬上の家の玄関ではとんと見られなかった光景だった。
 泊瀬谷が上がると中身を失ったブーツは気を緩めたのか、踝からヒカルのスニーカーの方へと、くたっと折れた。

 「……」
 「どうしたの」
 「なんだか、小さいときを思い出しちゃって。すいません」

 小さい頃のヒカルを知らない泊瀬谷は、玄関で待つ幼き頃のヒカルの姿を想像で補うしかなかった。

 今よりも、小さく。
 今よりも、幼い声。
 疑うことを知らず、目に入るものを信じる。
 泊瀬谷だけのヒカル像。誰かに見せるためでなく、誰かに聞いてもらうためでない、
 自分勝手で融通の効かず、誰かからも咎められることのない世界。

 自分の担任が、そのような妄想をこね回しているとはつゆしらず、ヒカルは泊瀬谷を自分の部屋に通すことにした。

 「いいですか?」
 「大丈夫!遅くなっても大丈夫なように着替え持ってるから!」
 「え?」

 泊瀬谷は「下着の」と付け加えようとしたが、淡い青少年の為に口を閉じ真実を隠した。
 もはや会話文として崩壊していても、なりふり構わず泊瀬谷は突き通す。だって、オトナだもん。

 「でも……着るもの、ないですよね、上に。すいません。そうだ。ぼくのジャージ着てください」
 「ヒカルくんの?」
 「中学のときのですけど、ぴったりだと思うんですが」

 今年一番のプレゼントだ。泊瀬谷の胸は高まった。
 ただ、服を着る。それだけなのに、ヒカルの一部を手に入れたような。一部でもいいから手に入れたのならば、
ヒカルのすべてを知った気にもなれるという勘違い。

822わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:30:25 ID:MkSoj18Y0
 これを着ていたヒカルのことを。
 これを着てグラウンドを駆け回った後の荒い息を。
 これを着て誰かに脆くも淡い片思いをしていたのだろうかという、一方通行の嫉妬が。

 「先生はぼくのベッドで寝て下さい。ネコの毛が付いちゃ、あとが面倒臭くなるから」

 ヒカルは泊瀬谷を自分の部屋に残して、静かに扉を閉めた。
 優しさに、温かさに、体が動かなくなる不思議。扉を叩く音が聞こえた。泊瀬谷は遠慮がちに「はい」と返事した。

 初めて入る、男の子の部屋。
 多感な時期を過ごす男の子、世間に振り回されて少年に憧れる大人になりきれない大人。
 すうっと深呼吸すると、甘酸っぱさが体の中からくすぐってくる。

 女の子目線から思っていたよりも整然としていた。本棚には幾多の書籍が並び、背表紙を眺めているだけでも清々しい。
 書の在りかは姿を写す鏡より正直なり。いにしえから知恵ある人々はそう言うではないか。
 本棚を見れば人となりが分かるということを正確に言い表している。泊瀬谷にはその意見に相違はないと確信した。
ただ、ヒカルの部屋はそれだけではなかった。本に真っ直ぐな少年からは、文よりも武に対する憧れがちらりと垣間見えるのだ。
例えば幼き日を思い出すような幻想的な文学集に混じって、ロードムービーを思い起こすような、バイク乗りの紀行集が
並んでいたりする。やはり、男の子。メカとかマシンには弱いのだ。

 「やっぱり、こうゆうのとか好きなのかな」

 表紙を飾るバイクに跨がったイヌの女性が爽やかだった。
 悔しいからヒカルのベッドに腰掛けて、ごろりと横たわって頬擦りをしてみた。

 本棚を見れば人となりが丸裸になると言うらしい。初めて都会にやって来た田舎者の視線で本棚を見上げてみた。
どきどきと胸が否応無く心拍のピッチを上げて、安らぐどころではなくなってきたのだ。
 むくりと起き上がった泊瀬谷は本を一冊無作為に選び、再びごろりとヒカルのベッドに寝転んでページをめくってみた。
ヒカルもこんな格好で、こんな楽な姿勢で、こんな本を読んでいるのだと考えると、ヒカルを覆う物が少しずつ剥がれてゆくのだ。

 「……」

 しばらく活字の世界に入り浸った泊瀬谷には外界からの言葉は届かぬ。
 言葉をかみ締める喜びを。
 絡んだ糸と糸の模様を楽しむ快感。
 そして、全てが解れた時の開放感。

 頭の中にすっと麻薬にも似た清涼感が通り抜け、泊瀬谷はいつの間にかに夢心地に揺れていた。

     #

 自宅なのに、ヒカルがよそよそしい気持ちなのは泊瀬谷のせいだ。
 居間のソファーで寝転んで、読みかけの本を閉じるのは泊瀬谷のせいだ。

 しんと静まり返った自宅なのに、心臓の鼓動が聞こえてくる。

 (ヒカルくんっていうんだ。お父さんにお世話になってます。よろしくね)

 物書きである父の手綱を引く若いネコの女性。幾人もこの部屋で父の作品の打ち合わせなり、原稿の引き受けなりが行われた。
 ヒカルの記憶がソファーの肌触りのきっかけで甦ってきた。

 泣いていたときにはわくわくするような絵本。
 楽しいときには一緒に共犯意識芽生えるような推理もの。
 ささくれだったときには突き抜けるような爽快な詩集。

 そんな本たちと友人にしてくれたのは彼女たちだった。

 「……」

 一つ屋根の下に男子と幼いオトナが一人づつ。
 二人の性差、種族差もあるが、想うことは一緒。

 ヒカルと泊瀬谷は目を合わせることなく、暖かい夜の時間を共有していた。

823わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:31:42 ID:MkSoj18Y0

     #


 街が動き出す時間だというのに、外は薄暗いという不精者。
 ただ、アスファルトの路面は雪化粧で明るく見える働き者。

 朝になれば雪が積もるだろう。そんな予想が当たるなんて、老ネコ侮りがたし。
 寒さで携帯のアラームが鳴る前にに、泊瀬谷は目を覚ましていた。肩をすくめながら布団から抜け出すと、本ばかりの棚に囲まれた
男子の部屋が変わらずに存在していた。

 ぎゅっと襟元を掴む。ヒカルのジャージだ。くんくんと襟首の匂いを嗅ぐ。
 一晩共にした、ゼッケン「犬上」の体操着は、泊瀬谷の体温でなま温かかった。

 「ヒカルくん、寝てるのかな」

 机の上に置いていたイヌのカバーが着せられたティッシュは泊瀬谷が部屋に入ったときと変わらない姿だった。
ゴミ箱も空っぽなのも昨晩と同じだ。くんくんと鼻を過敏に鳴らしても昨晩と同じ匂いがするだけだった。
 ほっとしたような、口にはしてはいけない安堵感が泊瀬谷を責めた。2月下旬はまだ寒い。

 「ヒカルくん、おはよう。よく眠れました」

 ヒカルは居間で本を読みながら暖房にあたっていた。栞を挟んで本を置くと、すっくと立ち上がる。
 泊瀬谷は「いいよ、いいよ」とヒカルをソファーに座らせて、深々とお礼を言った。
 
 「朝早いね」
 「はい」
 「じゃあ、先生帰るから。適当に朝はどこかで食べるし」

 いつでも会えるのに、千年の別れに匹敵する思い。いや、いつでもとは言えなくなる時期が来ることを踏まえてか。
 泊瀬谷が犬上の家をあとにしようと玄関を出たとき、家の中に向かって叫んだ。

 「せんせい!ありがとうございます!」

 ヒカルは一瞬きょとんと目を丸くしたが、自分が泊瀬谷に提案したアドバイスを思い出して膝打った。
 泊瀬谷は「先生はわたしだぞ」と頬を赤くしながら、薄っすらと色塗られた白い町をブーツで足跡を残していった。
  
    おしまい。


「にゃーにゃーみー!」
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/922/nekonohi2015.jpg

824名無しさん@避難中:2015/02/24(火) 01:15:09 ID:8cz0TPRg0
普通の男子だったらもっといちゃいちゃしたくなる展開だろうに一人で本を読ん読んでしまうヒカルくん純情すぎぃ!

825名無しさん@避難中:2015/07/29(水) 21:42:56 ID:oQQ4WWyA0
にゃにゃぽ!

826名無しさん@避難中:2015/08/03(月) 18:59:00 ID:QCHIuEmo0
タマクロー!

827名無しさん@避難中:2015/08/03(月) 18:59:22 ID:QCHIuEmo0
ニャホニャホと見間違えた…….

828名無しさん@避難中:2015/08/11(火) 23:02:29 ID:ZoHSpr3c0
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/963/furry539.jpg

829名無しさん@避難中:2015/08/11(火) 23:20:33 ID:EDPIat4Y0
かわいい


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