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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

712名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 08:15:06
うわぁ…マーチャン討ち漏らしたのか…

713名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 11:13:05
クッション性皆無w

714名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 12:48:40
クッション性大事

715 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/24(火) 02:12:19
フクの必殺技「Killer N」を受けても立ち上がれたのはマーチャン・エコーチームだった。
未経験の攻撃を回避する術を持たぬ彼女は当然のように直撃を喰らった訳ではあるが
斬撃を身体で受けたハルや、地に叩きつけられたアユミンと比べるとまだ軽症で済んでいたのである。
頭はクラクラするし、体中の骨がひどく痛むけれども、なんとか立つことは出来ていた。
このように押せば簡単に倒れてしまいそうな相手を前にして、フクは恐怖する。

(まずい……とっておきを覚えられちゃった)

マーチャンの異常なまでの超学習能力。それをフクは恐れていた。
一度体験した技であれば次からは完全に対応してしまうマーチャンには、もう「Killer N」は通用しないだろう。
ならばそれ以外の技を繰り出そうにも、今のフクの身体は必殺技の代償でひどく痛んでいる。
攻撃を受け続けて骨折した右腕はもう上がらないし、もともと完治していなかった脚も動きそうにない。
この状況でどうやってマーチャンを止めろと言うのか。
おそらくはいくらあがいてもフクには倒すことなど出来ないのかもしれない。
味方の力を一切借りない、という条件付きではあるが。

「喰らえっ!」

フクを窮地から救うために、サヤシ・カレサスがマーチャンの後頭部めがけて模擬刀を振り上げた。
近いところに位置していたのでいち早く援護することが出来たのだ。
フラフラなマーチャンに対する不意打ちは傍からは卑怯に見えるかもしれないが、サヤシは恥じてはいなかった。
"本当に誰かを守りたけりゃ他人の目なんて気になんない"ってやつだ。
この一撃でフクを守ることが出来るのであれば何がどうなってもいいと考えていたのである。
しかしこの攻撃は、マーチャンを倒すにはあまりにも単調すぎていた。

「当たらないよっ!」

マーチャンはしゃがみこむことで体勢を低くし、コサックダンスでもするかのようにサヤシの右足を蹴っ飛ばした。
これまでの実践や訓練の経験から、急所攻撃への対処法は特にしっかりと学習してきていたのだ。
ゆえに頭がちゃんと回っていない時であろうと行動に移すことが出来る。
攻撃のほとんどが急所に対する一撃狙いなサヤシにとって、マーチャンという相手は分が悪すぎるのである。

(くっ、どうしたらええんじゃ……)

それでもサヤシは歯を食いしばって立ち向かおうとした。
攻撃が通用するまでストイックに攻撃し続けようという思いなのだ。
ところが、そんなサヤシの気が急に変わり始める。
そこまで無理する必要は無いと、考えを改めていく。
その理由は、マーチャンのすぐ背後まで迫っていた頼れる存在にあった。

「スマーーーッシュ!!」
「!?」

マーチャンの後頭部を強く叩いたその人物は、さっきまでハルナンに押さえつけられていたエリポンだ。
突然の不意打ちをもらったマーチャンは、鼻血を吹き出しながらひどく困惑する。
急所攻撃には完全に対応する自分の身体が、エリポンの攻撃には反応しないのである。

「え!?え!?なんでエリポンさん!?ハルナンはどうしたの!?」

基本的にニヤニヤと笑いながら戦っているマーチャンが、今は普段見ないほどに狼狽している。
というのも、マーチャンは日ごろからエリポンを怖いと思っていたのだ。
フクの攻撃も、サヤシの攻撃も、カノンも攻撃も、同期やオダの攻撃だってすべて学習できるのに
目の前に現れたエリポンの攻撃だけは何故か覚えることが出来ない。
言わばマーチャン・エコーチーム唯一の天敵なのである。

「マーチャン!これ以上好きにはさせんよ!」
「うわ〜〜〜エリポンさんホント嫌だ……」

716 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/25(水) 12:59:54
「マーチャンはエリポンの行動だけは覚えることは出来ない」と書いたが
実際はちゃんと学習可能であるし、一度見た技であれば問題なく対応することが出来る。
ヤグラから水鳥のように飛んだ時にエリポンの跳躍を軽々とかわしたことからもそれが分かるだろう。
それでは何故マーチャンはエリポンの攻撃を回避できなかったのか。
その理由は、エリポンの使う魔法の多彩さにあった。

「ほら!まだ終わらんけんね!」

エリポンはマーチャンの頭を鷲掴みにしては、グルリと腕を一回転させてぶん投げる。
これはソフトボールのウインドミルと言われる投球法に近い動きだ。
ソフトボールと言うスポーツ一つとっても、複数のピッチング法が存在する。
そしてこの球技には投げるだけではなく、効果的に打ったり走ったりする手段も確立されている。
一つのスポーツでそれだけの動作があるのだから、
あらゆる競技を極めたエリポンは何千何万種類もの技を扱えることになるのだろう。
相手が普通の戦士であれば、いくら多数の技を持とうとも、似た動きを一まとめにして対策されてしまうのかもしれないが、
マーチャンには少しでも動作の違った技はまったく異なる動きに見えてしまっていた。
ゆえにエリポンの攻撃は毎回毎回が未経験。
これこそがマーチャンがエリポンを天敵だとみなす理由だったのである。

「ハルナンどこ!はやくエリポンさんを止めてよぉ!」

頭の中でグワングワンと鳴り響く音に悩まされながら、マーチャンはハルナンの名を呼びあげる。
アユミンとハルが倒れた今、ハルナンしか頼る人物はいないと考えているのだ。
しかしそのハルナンから返事は返ってこない。
マーチャンには見えていないかもしれないが、ハルナンはすぐ側に倒れていたのだ。
全身にひどい打撲を負いながら、血だらけで。

「あの負傷は……ひょっとしてエリポンが!?」

気づかぬうちに敵将が倒れていたので、サヤシは両手を挙げて歓喜した。
思えばエリポンはあのアーリーでさえも力負するほどの戦士だ。
貧弱なハルナンに抑えられるわけがなかったのである。

「勝ちじゃ!マーチャンさえ倒せばウチらの勝利じゃ!!」

717名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:22:29
血まみれのハルナン…嫌な予感しかしないなw

718名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:35:14
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

719 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:57:42
マーチャン撃破という最終目標のためにエリポンに加勢しようとするサヤシだったが、
当のエリポンにそれを制されてしまった。

「サヤシとフクは休んでて。ここはエリだけでやる。」
「どうして!?今は全力でマーチャンを倒すべきじゃろが……」
「マーチャンを倒しても終わらんから言ってる。」
「あ……!」

エリポンの言葉の意味をサヤシはすぐに理解した。
無駄かもしれないが、敵側に気づかれないように小声で確認を取る。

「ハルナンは死んだふりをしちょる……ってこと?」

勝利のためならなんでもやるハルナンのことだから、死んだふりくらいは十分やりかねない。
一ヶ月前にフクと直接対決した時もその通りだったので、確証が無い限りは戦闘不能と決めつけるべきではないのだろう。
それによく見てみればエリポンの身体は思っていた以上のダメージを負っている。
おそらくハルナンの押さえつけから逃れる際にいくらか抵抗されたのだろうが
その負傷のどれもが出血や打撲を伴った痛々しいものとなっていた。
あと少しで気絶するくらい弱っていた者がこれだけの強い斬撃を放つことが出来るだろうか?
ハルナンの生存確率をあげるには十分すぎる材料だ。

「そういうこと。だから油断せんと、備えないかんよ。」

死んだふりに関しては、エリポンには苦い思い出があった。
アーリー戦で油断したばっかりに、勝てる勝負を落としたことを今でも悔いていたのだ。
だからもう決して相手の生き死にを決めつけたりはしない。
ましてや勝敗が仲間の進退に直結するのであれば尚更だ。

「マーチャン!そろそろ倒れてもらうけんね!」
「う〜〜……ヤだよ。マーチャン負けたくないもん。」

マーチャンは近くで横たわっていたハルの剣を拾い上げては、利き腕ではない方の右手で掴んんでいく。
元々所持していた模擬刀と合わせて、現在の得物の数は計2本。
即ち、二刀流だ。

「エリポンさんの攻撃は避けられないから、もう避けない。
 マーはずっとずっと攻撃だけするから。」

720 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:58:36
ハルナンの気絶はやっぱり信じてもらえないみたいですねw

721 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/28(土) 18:57:32
以前からモーニング帝国ではすべての兵に模擬刀が支給されていたのだが、
その模擬刀を今の形状に改良して、より使いやすくしたのがマーチャンだった。
従来の模擬刀は個人の用途によって刀身の長さや重量が異なる"半オーダーメイド型"だったため、
一般兵や研修生が憧れの帝国剣士と同じスタイルの戦闘法をとるのには適していた。
しかしその反面、他の帝国剣士に心変わりした際には剣を一から作り直さなくてはならないため難儀したという。
(この現象を彼ら彼女らは推し変と呼んでいる。)
そこでマーチャンはどんなスタイルにも対応可能な扱いやすい剣を開発し、
汎用的な模擬刀として兵士たちに配布することを決めたのだ。
これによって兵士らは好きな時に好きなだけ戦闘スタイルの色を変更できるようになった。
これが現代の最新型の模擬刀なのである。
そんなマーチャンが作った模擬刀なのだから、性能を最大限に引き出すことが出来る。
二刀流がいかに効果的に相手を痛めつけることが出来るというのも、"覚え"済みだ。

「やぁーーー!!」

マーチャンは両腕をグルグルと回し、エリポンに斬りかかる。
子供が泣いた時に見せるグルグルパンチのような技ではあるが、これがなかなかに避けにくい。
だがそこは帝国剣士一の怪力を誇るエリポンだ。
二本の腕でマーチャンの両方の剣を白刃取り、完全に動きを止めてしまう。

(痛っったぁ……掌の骨がグチャグチャになっとる……でもここで気張らんと!)

激痛ではあるが耐えられない程ではない。
これでマーチャンを無効化出来たのだと思えば活力も湧いてくるものだ。
しかしそう思ってたところで、マーチャンは予想外の行動を取り出した。

「それあげます」
「えっ?」

なんとマーチャンは剣士の命とも言える剣を簡単に捨てては、
白刃取りをした時点で満足したエリポンの腹に目掛けて突進したのだ。
言うならばこれは無刀流。
武器に精通しているマーチャンは武器を失った時の戦い方も覚えていたのである。

「うぐっ……」

鳩尾にマーチャンの肩を打ち込まれたので、エリポンはひどく苦しんだ。
これまでの疲労やハルナンにやられた怪我も相まって、意識が飛びそうになってくる。

722名無し募集中。。。:2015/11/28(土) 20:27:59
そりゃハルナンだもの誰も信じないってwてか推し変ってww

723 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/29(日) 17:27:23
武道館待機中。。。
公演開始までに更新しようと思ってましたが難しそうです……

724名無し募集中。。。:2015/11/29(日) 21:58:41
マロ卒業おめ
作者さんは武道館行ってたんだね〜自分はLVで見てました

725 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/30(月) 02:32:52
卒コンは最高でした。福田花音という人の偉大さを再認識した日でしたね。
ライブ中盤の特殊なメドレーはこれまでのハローで(たぶん)見たことのない取り組みだし、
それを息切れもせずに普通にやってのけたのが凄かったです。

あと、関係者席にいる鞘師が開演前に転倒したのはちゃんと目撃しました。
あれもこれまでのハローにない取り組みでしたねw

726名無し募集中。。。:2015/11/30(月) 06:30:43
言葉ではなく歌の継承って感じがして娘。とはまた違った卒コンだったね

鞘師転倒は取り組みじゃねーw
LVだから見れなかったんだよな…

727 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/01(火) 12:29:08
次回更新遅れます。。。深夜頃の予定です。

728 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/02(水) 02:59:13
マーチャンは攻めの手を緩めなかった。
地団駄を踏むようにエリポンの足を何度も何度も連続的に踏みつけることによって
掌の骨だけでなく、足の甲の骨までも砕いていく。

「〜〜〜〜〜!!」

あまりにも非情な仕打ちを受けた結果、エリポンは声にならない声をあげることしか出来なかった
これではもうエリポンの手足は使い物にはならないため、今後はそれらを封じながら戦うこととなる。
しかし、手足を使わないスポーツなんて存在するのだろうか?
手が使えなければどんな器具も持つことが出来なくなる。
足が使えなければ走ることも跳ぶことも出来なくなる。
結論から言えば、こんな状況を覆すような魔法をエリポンは備えていない。
ひょっとしたらこの広い世界には手足を使わないスポーツも存在するのかもしれないが、
流石のエリポンもそこまではカバー仕切れていなかったのである。
だが、これで手も足も出ないと決めつけられるのはエリポンも心外に思っていた。
手も足も出ないならば、他のところを出せばいいのだ。

(頭突きならどうだ!)

エリポンがとった行動は、ただ頭を振り下ろすだけの行為だった。
折れた足では自重を支えることも跳躍することもままならないため、サッカーのヘディングとは大きく異なるが
フクやエリポンの強力な攻撃を受け続けてもうヘロヘロになっているマーチャンにとっては
とても効果的な攻撃手段に見えた。
ただ一撃だけでも良いので、エリポンの頭とマーチャンの頭を衝突させることが出来ればそれで十分なのだ。
エリポンの狙いは相打ち。
自らを犠牲にしてでもここでマーチャンを仕留めることが出来れば、戦況はかなり有利になる。
死んだふりをせざるを得ないほど切羽詰まっているハルナンを、フクとサヤシの二人がかりで倒せば良いのだから
ここでマーチャンを倒すことがどれだけ重要なのかはよく分かるだろう。
ところが、そんなエリポンの思いはあと一歩のところで届かなかった。

「それ、知ってるよ」

マーチャンはただ半歩だけ後退した。
それだけでエリポンの頭突きの軌道から外れることを、これまでの経験で知っていたのである。
エリポンがマーチャンに対してアドバンテージを持てていたのは「魔法」を使っていたからだ。
その「魔法」が封じられたのであれば、もはやマーチャンの敵では無いのである。
エリポンの頭突きは虚しくも回避されることとなる。

729 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/03(木) 12:57:59
頭突きが外れたと自覚したとき、エリポンはひどく絶望した。
もう彼女には体勢を整えるだけの余裕も残されていないので
後はマーチャンにやられるだけだと思ったのだ。
ところが、勝機は完全には途絶えていなかった。
自身の頭が地に落ちる直前、エリポンは股の間から後方を見ることが出来たのだが、
そこから希望とも呼べる存在が迫ってくることを確認したのだ。

「エリポン!そのまま持ちこたえて!」
「サヤシ!?」

すぐそこまで接近してきていたのは、Q期の味方サヤシ・カレサスだった。
ハルナン戦に備えて休めと念押ししたというのに、友だちを助けるため駆けつけてきたのである。
色々と思うことはあるが、エリポンはここでは素直に喜んだ。
そして、サヤシの出した指示に全力で応えようとする。

(そのまま持ちこたえる?……この体勢のままでいろってこと?)

頭突きを避けられて頭が地まで下りたその姿は、奇しくも馬跳びの馬の形に似ていた。
サヤシの声が無ければこのまま倒れこむところだったが、
エリポンは必死に馬の形をキープする。
この体勢こそがマーチャンに勝利する鍵なのである。

「エリポンごめん!ウチ跳ぶけぇ!」
「いっ!?」

サヤシは駆けつけた勢いのままエリポンの背中を強く叩き、その反動で跳躍した。
先ほど天気組が見せたヤグラと比べるとあまりにも低いが、
"馬跳びからの斬撃"という珍しい攻撃を敵に見せる目的は十分に果たしていた。
こんな攻撃、マーチャンにとってはもちろん初体験。
少しの回避行動もとることが出来ず、サヤシの模擬刀を脳天で受けてしまう。

「ぎゃあ!!」

フクの必殺技をはじめとして何度も強打を受け続けていたマーチャンには
今回の攻撃まで受けきることの出来る体力は残っていなかった。
アユミンやハルと同じように、床へと倒れていく。
そして気を失ったのはマーチャンだけではなく、エリポンも同様だった。
サヤシに背中を叩かれたのが決定打になったのか、頭から床にぶっ倒れてしまう。

「あぁ……エリポンがやられてしまった……」

サヤシはエリポンに軽く頭を下げると、ハルナンの方へと目線を移す。
現状は天気組全員が床に伏せる形となっているが
これで終わりだとは少しも考えていなかったのだ。

「ハルナン起きとるんじゃろ?……決着つけよう。」

730名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:08:05
エリポンwww

731名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:57:29
ドラマチックきた!!でもちょっとエリポン残念だなw

732 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/04(金) 13:00:19
この場に立っている者はフクとサヤシの2名のみ。
他の帝国剣士はオダも含めてみな倒れてしまっている訳だが、
その内のハルナンが死んだフリをしているという事実は、見届け人たちにもバレていた。
いくら気を失った風を装っても、勝利に対する執念までは隠せなかったのである。

「なかなかの胆力ですね。普通は私たちのような大物に見届けられたら、最後まで堂々と戦い抜くものですけど。」

マノエリナの声は皮肉のように聞こえるが、これは心からの褒め言葉だった。
どんな状況でも勝利のためなら泥を平気でかぶる精神を評価しているのだ。
その反面、厳しい意見も同じように飛び出していた。

「でも、ここからの逆転劇は期待できなさそうですよね。」

マノエリナの意見はもっともだった。
Q期側も満身創痍とはいえ、まだサヤシには普通に戦えるだけの余裕がある。
フクが動けないことを考慮に入れても俄然有利だろう。

「マノちゃん、まだ分からないじゃないか!ここから気合を入れて超パワーで相手を投げ飛ばせば……」
「それはマイミさんだから出来るんです。彼女には無理です。」
「う……」
「断言しますよ。天変地異でも起きない限り、天気組の勝利はあり得ません。 命を賭けてもいいです。」
「そんなに言うかぁ……」

マノエリナの言うことは極論ではあったが、マーサー王とサユ王も概ね同じことを感じていた。
そして、Q期が勝利に近いことはフクとサヤシも理解していたし、
何と言ってもハルナン自身がそうとしか思えていなかった。
全身から滝のような汗を流しながら、ハルナンは思考する。

(どうすれば……どうすれば私は王になれるの!?)

此の期に及んで、ハルナンには勝利するビジョンが描けていなかった。
ここで立ち上がろうとも、このまま死んだフリを続けようとも
サヤシに捕まって終わるイメージしか出来ていないのだ。
とは言え全くの無策という訳ではない。
ただ、「それ」が叶うための事象が発生する確率が限りなく低いのである。
決闘前、作戦を練る段階では「それ」はほぼ確定的に起こりうるものだと信じていたのだが、
ここまで来てもまだ来ないために、ハルナンの焦りが加速していく。

(どうして!?どうして来ないの!?……絶対に来るって信じていたのに……)

絶望に打ちひしがれたハルナンは、死んだフリの最中だというのにもかかわらず、天を仰いでしまった。
もうどうとでもなれと、ヤケになったのかもしれない。
ところがその時、ハルナンの頬へと朗報が舞い降りてくる。

「きた!!!!!」

突然ガバッと立ち上がったハルナンを見て、一同は驚いた。
戦闘中とは思えぬ喜びように、何が何だか分からなくなってくる。
そんな周囲の反応も構わず
ハルナンはフクを指さし、見栄を切る。

「やっと来ました。王の座、もらいます。」

733名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 18:22:29
何が来たの?

734名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 20:51:24
マイミが居ると言うことは荒れしかない←

735名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 11:33:05
頑張れハルナン!

736名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 12:43:33
マーサー王国の世界で作って欲しいな

三國志ツクールが発売されるのでハロプロ三國志のアイデアください [無断転載禁止]���2ch.net
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1449236618/

737 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:00:25
ポツリ、またポツリと水滴が落ちてくる。
それが雨粒だと気づくのには時間は要らなかった。
何故ならば、天候は10秒も経たぬうちに集中豪雨へと変わっていったのだから。

「な、なんなんだこの雨はっ!」

雨どころか強風も伴う暴風雨に打たれたことにサヤシは驚きを隠せなかった。
この訓練場の天井は以前クマイチャンがぶっ壊したために、雨風を防ぐ機能が失われていたことは知っていたが
こうも急に天気が変わるなんて異常にも程がある。
よりによって大事な決闘の時にこんな悪天候に見舞われるなんてとんだ災難だとも思ったが、
Q期の将、フク・アパトゥーマはこれが必然であったことに気付き始めていた。

「……そうか!なんで今まで忘れていたんだろう。」
「フクちゃん!?」
「サヤシ気をつけて!この雨は仕組まれている!!」

フクが叫ぶ位置から少し離れたところ、
見届け人の席ではマイミとマノエリナがバツの悪そうな顔をしながら俯いていた。
サユは自身の上着を動けぬオダに被せると、2人に対してチクリと言い放つ。

「この雨、あなた達のせいでしょ。」
「あぁ……」「おそらくそうかと……」

サヤシは知らなかったようだが、マーサー王国のマイミとマノエリナと言えば超のつくほどの雨女として有名だった。
それは迷信や噂話といったレベルを遥かに超えており、
催し物を延期させたり、移動の足を止めたりすることはしょっちゅうだ。
そんな雨女の2人が見届け人としてやってきたのだから、本日の天気が豪雨になることは決定付けられていたのである。

「そして、あなた達ふたりを見届け人にするよう扇動したのは……」

そう、こうなるように仕向けたのは他でもないハルナンだったのだ。
敵に対して有利に振る舞うには「地の利」を生かすことが鉄則ではあるが
決闘場が誰もが知る訓練場であるためにそれを有効活用することは難しい。
ゆえにハルナンは「地の利」ではなく「天の利」を生かすことを考えたのである。
今こうして雨が降ることはハルナンのみが知っていた。
これからハルナンは誰よりも有利に立ち振る舞えるのだ。

「でもっ!この雨の中じゃあハルナンだって上手く戦えんじゃろっ!」

息も出来ないほどの豪雨。しかも足場も悪いので少し歩くだけでも転倒しかねない。
普通の戦士であれば剣を振るうことすら困難なはずだ。
しかし、ハルナンには自分だけがただ一人動くことの出来る確固たる自信が備わっていた。

「私を誰だと思ってるんですかね……天気組の『雨の剣士』ですよ?」

738名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 13:18:47
最初なんでマノチャンが?って思ったけどそう言うことだったのか!?ハルナンオソロシイ…w

739 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:18:54
>736
こんなのがあるのですね。
手を出してみたいが、時間が無いので断念しますw
続きを書く方に専念せねば、、、

740名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 20:34:34
たまんねー!頑張れハルナン!

741名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 23:51:56
マーサー王完結したら期待してますw

742 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:23:04
雨の剣士という通り名は、決して雨天に強いからという理由で付けられたわけでは無い。
敵の身体部位を機能停止させるほどに斬りまくった結果、
そこから発生する血の雨に由来していたのだ。
なのでハルナンも他の剣士同様に荒天ではパフォーマンスが落ちるはずなのだが、
今日の彼女の動きからはそれを全く感じさせなかった。

「サヤシさん、あなたさえ倒せば実質的な勝利なんですよ!」

大雨で足元の悪い中、ハルナンはまったく滑ることなくスイスイと前進していっている。
ただでさえ瓦礫の上は動きにくいというのに、そこに雨水も加わった状況でこうもスムーズに動けるのは異常だ。
訓練とかでどうこう出来るレベルを超えている。
まるで特殊能力者のように振る舞うハルナンを前にして、サヤシは焦らずにはいられなかった。
だが、それでサヤシが圧倒的に不利だと決めつけるのは早計だ。
何故ならサヤシとハルナンの実力には大きな開きがあったからだ。

「ウチは負けない……ハルナンの攻撃の威力はだいたい分かっちょる……
 ガチンコでやったら負けるはずがないんじゃあ!!」

サヤシは己を鼓舞するかのように叫びだした。
この足元の悪さではもはや一歩も動くことは出来ないが、
幸いにも敵であるハルナンの方からこちらにやってきていた。
ならばやるべきは模擬刀と模擬刀のぶつかり合い。
となればいくら雨が降っていようと、剣術に長けているサヤシが有利に違いない。
非力なハルナンの斬撃を受けながら、強烈な一撃をぶっ放せば良いのだ。
サヤシは、そう思っていた。

「まだ分からないんですか?サヤシさん。」
「!?」
「私の繰り出す攻撃は、全てが必殺技級の威力に変わるんですよ。」

ハルナンはサヤシの左肩を、コン、と軽く小突いた。
普通であればなんともない攻撃だ。
むしろ攻撃とすらみなされない行為かもしれない。
しかし、今は状況が異なっていた。
雨水で踏ん張ることの出来ないサヤシはただそれだけでバランスを崩してしまい
大袈裟に転倒し、顔面から地面に落ちてしまった。
それもただの地面ではない。尖ったものがたくさん転がる瓦礫の山にだ。
こうなれば、サヤシの顔は血まみれのグシャグシャになってしまう。

「あ……ああ……」
「女性の顔を潰すのは心苦しいですね。だからサヤシさん、そのまま寝転がることをオススメしますよ。」

743 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:24:00
三部まで完結するのは来年末とかになってそうですねw

744名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 14:15:45
乙女を顔をもぐしゃぐしゃに痛めつける作者はSだなw

745名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 17:14:26
S描写には定評のある作者さんだからな

746 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:58:11
転倒による顔面への強打は痛いなんてものではなかった。
出血量も尋常ではなく、雨水で流される暇もなく溢れかえっている。
ただ肩を軽く叩かれただけでこれだけの大怪我を負わされたため、当然サヤシはパニックに陥る。
ハルナンはその狼狽っぷりを見て満足したのか
くるりとフクの方を向いて歩きだしてしまった。
おそらくはサヤシにやったように、フクも滑らして転ばすつもりなのだろう。

(今のフクちゃんが転ばされたら……もう起き上がることは出来ない!)

サヤシはパニック状態にあるものの、仲間の危機についてはなんとか察知することが出来た。
先ほどハルナンは「寝ててください」などと言っていたが、そんなこと出来るはずもない。
例え自分の顔が傷つこうとも、血液を大量に失おうとも
フク・アパトゥーマの刀として働く使命だけは果たさねばならないのだ。

(背後からやるしかない!ハルナンを斬るんじゃ!)

サヤシは上半身を起こし、この場を去ろうとするハルナンには向かって斬りかかった。
不意打ちではあるが、真剣勝負に卑怯もへったくれもない。
悪いのは相手の状態もろくに確認しないまま背を向けたハルナンの方なのだから。
……と、サヤシは思っていたが
このすぐ後の行動でその認識を改めることとなる。

「やっぱりそう来ますよね。」

なんとハルナンはサヤシの方へと身体の向きを戻し、
低い体勢から攻撃を仕掛けるサヤシの額を強く踏みつけたのだ。

「がっ!!……」
「寝てるわけないですもんね。サヤシさんのストイックさ、本当に感服します。」

『サヤシは必ず起き上がって奇襲をかけてくる』
ハルナンはそう予想していたからこそ、このような行動を取れていた。
サヤシは逆境に立てば必ず死に物狂いで立ち向かってくると、心から信じていたのである。
そして、この時ハルナンが見せた凄技は行動予測のみではなかった。
この滑りやすい環境で、一時的とはいえ蹴りのために片足で立っていたことが既に妙技なのだ。
これにはマノエリナも不思議がる。

「あのバランス感覚はいったい?……まるで雨天の戦いに慣れきっているような……」

マノエリナの発言がヒントになったのか、サユ王は何かに気づき始めた。
そしてマイミの方を向き、自身の考えを述べていく。

「ハルナンはこの一ヶ月間のほとんど、マイミと行動を共にしてたのよね?」
「その通り。訓練中も防衛任務中もずっとついてきていたな。」
「その期間のマーサー王国……いや、マイミ周辺の天気はどうだったの?」
「……言わなくてはダメか?」
「言って。」
「毎日が雨天の連続だ。」
「やっぱり。」

747 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:59:32
描写は前作比では抑えめにしてるつもりですw

748名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 18:05:50
ハルナンスゲー

勝っちゃうんじゃね?
ハルナン王のモーニング帝国も見てみたい

749名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 19:58:47
ハルナン王か…勝手なイメージだけどハルナンには参謀がよく似合うw
それか三国志の司馬懿のように国を乗っ取って自らが王となるような…w

750名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 20:40:02
>>749
すごく分かるわ

751名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 22:01:34
いや俺マジでここのハルナンのファンになって現実の飯窪春菜も推すようになってしまった

勝利の為には手段を選ばず我が身も省みず全力なところはどこか飯窪さんらしいジョジョのキャラっぽくもあって
作者さんの動かし方には感心させられますわ

752 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/10(木) 12:53:37
私の書く飯窪さんモチーフキャラは何故か黒くなりがちなんですけども
好評のようで安心しました。
このまま第一部の終わりまで突っ走っていきます。

あ、今日の更新は夜になります> <

753名無し募集中。。。:2015/12/10(木) 13:08:57
なんか完結する頃にはホントはるなんハロプロリーダーとか就任してそうだよなw

754 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/11(金) 02:49:43
名目上では、ハルナンは罪を償うためにマイミの側につくということになっていたが、
彼女の本当の狙いは「雨に慣れる」ことであった。
超がつくほどの雨女であるマイミの近くにいれば、必ず豪雨に見舞われる。
戦闘中だろうと、食事中だろうと、睡眠中だろうと、雨女パワーが弱まることは無いのだ。
そうすることによってハルナンは雨水にも耐えうるバランス感覚を身に着けようとしたのである。
……とは言っても、四六時中すべてが雨という訳には流石にいかなかった。
今日この日だってハルナンを焦らせる程度には晴れ続けていただろう。
いくらマイミが雨女でも、せいぜい降水確率を大幅に上げることくらいしか出来ないのだ。
ところが、ハルナンは晴れの日にだって雨の経験を積む作戦を練っていた。
それは「マイミの台風のようなプレッシャー」を浴び続けることだった。
マイミが臨戦態勢に入るとき、まるで暴風雨の如き重圧を発することは
アンジュ王国の番長タケやカナナンが身をもって経験している。
特にマイミはハルナンのことを自分を騙した敵だとみなしていたために、
瞬間最大風速計測不能級の台風のようなプレッシャーを絶え間なく放ち続けていた。
それを至近距離で常に浴び続けたのだから、そんじょそこいらの雨に当たるより良い経験になったろう。
正直言って、負傷した身体で緊張し続けることは吐くほど辛かったし、
キュート戦士団の他の4名それぞれから受けたプレッシャーも苦痛だった。
気が狂いそうになった。逃げ出したい衝動に何度も駆られた。
だが、ハルナンはなんとか耐えきったのだ。信念だけは貫き通したのだ。
最終的には、あれほど敵意を抱いていたマイミから認められた程だ。

「雨が降り続ける限り、私は帝国剣士最強です。これは傲慢でもなんでも有りません。事実です。
 サヤシさんよりも……そして、フクさんよりも強いんですからね!!」

ハルナンはフクをキッと睨みつける。
豪雨が邪魔をしてその時のフクの表情はうまく読み取れなかったが、
相当に焦っているということは容易く理解できた。

「動けないんですよね?そこで黙って見ててください。
 サヤシさんにトドメを刺したらすぐに向かいますから。」

755名無し募集中。。。:2015/12/11(金) 06:36:52
キュート戦士団の四人はどんなプレッシャーなのか…そういやアイリも雨の日に強くなるんだよな

756名無し募集中。。。:2015/12/13(日) 01:51:27
>>594
自ら敵陣に乗り込んで、辛さに堪え忍ぶくらいの気概

ハルナンのことか

757 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:32:06
>>753
残りのベリキューのプレッシャーについては考えています。
前作ネタだったり、いまの活躍を参考にしたものだったりと様々ですが……

>>754
!!
とりあえずノーコメントでw

758 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:33:07
あ、アンカー間違えてました。
それぞれ>>755 >>756 に対するレスです。

759 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:59:48
またか、とサヤシは思った。
格下扱いしていた相手に出し抜かれるという構図は、
一ヶ月前にハル・チェ・ドゥーにやられたのと全く同じ。
自分があまりにも成長していないため、落ち込みかけてしまう。

(いや、今は落ち込んでる場合じゃない!)

サヤシが思う通り、ここで落胆しても何も始まらなかった。
もしも諦めればハルナンはフクのところに行くだろう。
このハルナン圧倒的有利の環境で一対一の状況を作るのはまずい。
悔しいが、そうなればフクは長くは持たないだろう。
だからサヤシはここでハルナンを止めるしかないのだ。

(仕留める……までは出来んじゃろな。
 ハルナンは強い。ウチはまだ未熟……ちゃんと認めよう。
 じゃけど、削ることなら出来るはず!!)

サヤシは己の額を自ら地面に叩きつけ、
破片だらけの床であることもお構いなしにグリグリと擦り付けていく。
出血する傷口を更に痛めつけるのには理由があった。

「ウチの十八番は居合いだけじゃない!ダンスもじゃ!!」

サヤシは接地したおでこを起点にして、逆立ちするように両脚を上げていった。
これはヘッドスピンと言われるダンスの技。
本来は平らな床の上で行われるものではあるが、頭部を軸にして高速の回転力を発生させることが出来るのだ。
サヤシは自らが負傷するほどのリスクを負う代わりに、ハルナンに蹴りをぶつけようとしたのである。
ハルナンもサヤシが何かするとは思っていたが、それがダンスの技とまでは想像していなかったので
至近距離でサヤシの回転を受けてしまう。

「ああっ!!」

人間一人分が勢い付けてぶつかってきたので、ハルナンは耐えきれず転倒してしまう。
いくらハルナンが豪雨の中でも転倒しないバランス感覚を身につけたとは言え、
蹴りを受けても転ばない訓練をしてきた訳ではないので、当然の結果とも言える。

760 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/15(火) 12:54:45
転倒した結果、ハルナンは背中を強く打った。
それだけで呼吸が困難になるほどに苦しいし
その上、細かな破片が突き刺さったのか、あちこち出血していることも分かる。
自らが仕掛けた瓦礫だらけの戦場で、自分が傷つくとは皮肉なものだ。
なんとか意識を保ってはいられたが、もう少しサヤシの攻撃が重かったら正直言って危なかっただろう。
サヤシが小柄で細いのが幸いした。
今よりもう少しウェイトがあって、ポッチャリしてたら勝負は決していたのかもしれない。
それだけハルナンはギリギリだったのだ。
だが、そんなハルナンにもそれなりの成果は得られたようだった。

「あれ、サヤシさん……ひょっとして気を失ってます?」

ハルナンの目の前には、頭部から多量に血を流したサヤシが横たわっていた。
おそらくは出血多量と激痛に耐えきれず、気絶してしまったのだろう。
最後の強敵と思っていたサヤシがこうもあっけなく倒れたので、ハルナンはにやけそうになるが
ここは気を引き締めて、冷静に対処することにした。

「ちょっと分からないので、確認させてもらいますね!」

ハルナンはわざと大きな声を出しては
立ちあがって、サヤシの横っ腹を強く踏みつけた。

「念のためもう一発!」

一発と言っておきながら、ハルナンは二発、三発、四発もサヤシを蹴飛ばした。
この行為にはサヤシの安否を確かめるという理由の他に、
Q期最後の生き残りであるフク・アパトゥーマを刺激するという意味も込められていた。

(私の知っているフクさんは仲間を足蹴にされて黙っていられる人じゃないはず!
 さぁ!そのズタボロの脚でここまで来てみてください!!)

761名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 15:27:44
ハルナンおっかねえよw

762名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 19:20:08
心臓の音を聞くんじゃないのか
確認させてもらいます でDIOを期待したのにw

763名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 02:39:39
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

764 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:57:21
激昂したフクが瓦礫と豪雨に手こずっているところを叩くのがハルナンの勝ち筋だった。
味方であるサヤシがこんなにも酷い仕打ちを受けたのだから、
仲間思いのフクならいてもたってもいられなくなるだろうと考えていたのだ。
ところが、フクはハルナンの思った通りには動かなかった。
サヤシを幾度と踏みつけても、彼女は元の位置を離れようとはしない。

(おかしい……いつものフクさんじゃない?)

これ以上サヤシをいたぶるのが無駄だと感じたハルナンはすぐに攻撃を停止する。
サヤシが戦闘不能だというのは十分すぎるほど確認できたので、
黙りを決め込んでいるフクの方へと自ら向かうことにする。

「リスクを冒さないと利は得られないってことですね…
 分かりました。長い長い戦いに決着をつけに行きましょう。」

降りしきる大雨の中、ハルナンは敵将フク・アパトゥーマの元に一歩、また一歩と歩みを進めていく。

765 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:58:07
ちょっと短めの更新ですが、、、


DIOネタは思いつかなかったですw

766名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 12:40:03
静かなるフクが恐ろしい…w

767名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 17:25:07
いかに帝国剣士と言えどスタンドなしで心臓止めるのは厳しいやろw

768 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/18(金) 10:49:31
視覚的な情報が雨で遮られていたため、ハルナンは黙するフクを脅威に思っていた。
ところが実際は恐れることなど何もなく、
当のフクはただただ泣きそうな顔で絶望に打ちひしがれているだけだった。
まさに杞憂も杞憂。
限界を迎えた脚が本当に言うことを聞かないため、フクは動きたくても動くことが出来ないのである。
その上、必殺技Killer Nを放つ時に天気組三人から受けた傷が痛むので上半身も満足に動かない。
即ちフクはこれ以上ない程の満身創痍。
二発目の必殺技を繰り出すどころか、這って移動することすらままならないのだろう。
しかも雨風は継続して容赦なく降り注いでいる。
冷たく身にしみる雨粒は体力と熱量を次々と奪っていくため、
フクはあと数分も経過したら立てなくなるくらいに衰弱していた。
空が晴れれば少しは体力も回復するのかもしれないが、それがあり得ないことはフクが一番よく知っている。
食卓の騎士を尊敬しているだけに、マイミの雨女パワーの弱化を想像することすら出来ないのだ。
マイミとマノエリナを凌ぐほどの晴れ女が突然現れることなんてそう有り得た話ではないため、
そこに関してはフクも諦めていた。
だが、この場で立ち続けることだけは決して諦めてはいない。
歯を食いしばり、意識が飛びそうになるのを堪えて、気を引き締める。
もしもここで倒れてしまったらエリポンの、サヤシの、カノンの犠牲が無駄になることを分かっているからこそ
フクは恐ろしい強敵の前でも立つことが出来るのだ。
しかし、裏を返せばフクを支えるモチベーションはたったのそれだけ。
普段は応援という形で勇気を貰うのだが、今のこの状況ではそれが全くと言って良いほど期待できない。
唯一の仲間であるQ期はみな倒れているし、
立会い人は中立であるため、声に出してフクにエールを送ることはない。
つまりこの広い訓練場でフクはひとりぼっちなのである。
応援といった後押しもなく、弱った身体でハルナンに対抗するのは至難の技に違いない。
そうして困窮するフクに向かって、ハルナンがまた一歩近づいてくる。

769名無し募集中。。。:2015/12/18(金) 12:24:58
まさかもう何も打つ手が無かったとは・・・
雨女二人を覆す位の晴れ女なんて彼女達位しかいないけど…

770 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:04:05
ハルナンがフクの元に到達したちょうどその時、
本来ならばありえないはずのことが起き始めた。

「晴れ……た?」

先ほどまで訓練場を局所的に叩きつけていた豪雨が、嘘のように消え去ったのだ。
黒々とした雨雲も、吹き飛ばされそうなくらいの強風も、今はもう何もない。
唯一存在するのは暖かな日差しのみ。

「ど、どういうこと!?ありえない!」

当然のようにハルナンはパニックに陥る。
マイミとマノエリナといった盤石の布陣を築き上げてきたはずだったので
こうも簡単に雨が止んだ事実を受け入れられていないのだ。
信じられないような顔をしているのはフクも同じ。
だが、フクは知っていた。
雨女二人のパワーをも覆すことの出来る晴れ女集団がマーサー王国に存在することを。

「来てくれたんですね……皆さんお揃いで。」

フクが感激の涙を流すのと同じタイミングで、マイミとマノエリナは互いに顔を見合わせる。

「なるほど!あいつら近くに来ているんだな。」
「はい、この感じからすると6人全員いるに違いありません。」

一連の光景を目にしたマーサー王は、大きな声をあげて笑い飛ばした。
結末が全くと言っていいほど予想のつかない決闘に、心から満足しているようだった。

「フク・アパトゥーマも、ハルナン・シスター・ドラムホールドも
 どちらも勝利のために食卓の騎士の力を利用するとは……なかなか面白いじゃあないか。
 この勝負、どちらが勝つのかいよいよ分からなくなってきたとゆいたい。」

771 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:05:05
>>769
正解ですw

772名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:00
>>27
マーサ…6人…ハッ!?

松か?松なのか!?

773名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:45
安価ミス

774名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 18:40:17
>>771
当たっちゃった…って王国ほったらかしで何してるんだかw

775名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 23:48:13
食卓の騎士4人いれば十分なほど強くなっているってことなのだろう

776名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:46:12
文化番長メイメイがまさかの卒業・・・マーサー王始まってからすでに3人(幻の4人)卒業だなんて…変化激しくて構想狂いまくってそうw

777名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:47:30
>>775
お留守番のキュート戦士団…今は4人か6人かも気になるな…

778 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:26:36
モーニング帝国城の城門。
現在そこにはマーサー王国から来たとされる6名の騎士が居座っており、
帝国の門番や、警備研修の真っ只中にある研修生らを震え上がらせていた。

「モモ!本当に私たち全員がここまで来る必要あったのか!?」

モモ、と呼ばれる女性に対して怒鳴り声をあげたのは
鋭い目付き(と顎)が特徴的な女性だった。
怪物のようなオーラを放つ集団の中でも彼女のそれは特に殺人的であり、
兵士らはみな、全身の四肢が鋭利な刃物によって輪切りにされたかのような錯覚に陥っていた。
人体の「普段は見られない裏側」をオープンに晒す感覚は、イメージとは言え恐ろしい。

「あら、ミヤはマーサー王に何かあっても良いって言いたいの?
 私たち全員で帰路を護衛するべきだと思わなかった?」
「マイミとマノエリナがついてるじゃないか!どう考えても十分すぎる。」
「"あの時"みたいなことが無いとも言えないでしょ?」
「うっ……」

通称モモも、ミヤと呼ばれる女性に負けず劣らずの存在感を持っていた。
彼女が発するのは冷気。
戦士として位の低いものはすぐにでも凍死してしまうほどの寒気を感じてしまう。

「ちょっと二人とも!喧嘩はしないの!」
「ほんとだよ!マーサー王を護る私たちが仲間割れしちゃ意味が無いよ!」

二人の仲裁に入ったのは、「色黒の長身」と、「長身の域を超えた巨人」だった。
色黒はとても明るくて、戦いとは無縁のように見えたが
その太陽のような明るさが突出しすぎるあまり、兵士らは業火の如き熱に炙られる。
肌が焼けて真っ黒コゲになる苦痛は並大抵ではなかった。
そして巨人は巨人で、天空から押さえつけてくるかのような重力を発生させている。
門番と研修生の全員がここから逃げ出したいと思っているのに、
それが叶わないのはこのプレッシャーのせいだったのだ。
もう一人、さっきから退屈そうにしている美女もいるが
その美女のオーラも例外なく凶悪。
ゆえに一般兵らは5種類の殺人級オーラをグッチャグチャに浴び続けなくてはならなかった。

「よし分かった!モモの言い分を少しは認めよう!護衛の強化は必要だった。」
「少し?何よその引っかかる言い方は。」
「副団長である私ならびに、ベリーズの構成員4名が王を護るのは認める。
 でも、お忙しい団長のお手を煩わせる必要はなかったんじゃないか!?
 ですよね?シミハム団長!」

視線の先にいたのは、目を閉じて座禅を組んでいる小柄な女性だった。
派手な怪物集団の団長と言うにはあまりにも地味で、弱々しくも見える。
そして不思議なことに、その団長からは全くと言って良いほどオーラが感じららなかった。
他のメンバーが天変地異を起こしているのに対して、彼女は"無"そのものなのだ。
一見して弱き者だというのに、化け物らみなが注視してる。
目をパチリと開いた団長が首をちょっと横に振るだけで、大袈裟に反応をする。

「団長!……団長がそう言うのであれば……」
「ほら〜私の方がシミハムの気持ちを分かってたでしょ?」
「う、うるさい!」

779 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:28:14
芽実の件も驚きましたね、、、
でも二部の内容にはほとんど影響ありません。
まだ固まって無い三部の内容は揺れてますけどねw

キュートの人数はまた今度に。

780名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 16:40:28
オーラやべぇw
兵士達は失神して漏らすレベル

781名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 20:50:02
団長のプレッシャーは『沈黙』かな?そうか…シミハムの声はもう。。。涙

そっか取り敢えずメイメイは話に影響ないのか〜

キュートはまだひっぱるのねw

782 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/22(火) 12:55:03
フク・アパトゥーマは、自身の身体が軽くなるのを確かに感じた。
体力を奪いつつあった豪雨が止んだというのもあるが
それ以上に「憧れのベリーズ戦士団が来てくれた」という事実が疲れを吹っ飛ばしてくれている。
しかもフクは、ベリーズが自分を応援してくれているということを微塵も疑っていない。

(有難う御座います!私、勝ちます!)

Q期の期待に応えるという使命感に加えて、歴戦の戦士らの応援パワーも加わったのだからフクはもう無敵だ。
激痛で動かせなかった腕だって、今なら動く。
これまでにない希望に満ちた一撃を、ハルナンへとぶつけていく。

(どうして!?こんなのありえない!!)

フクとは対照的に、ハルナンは絶望の奥底に立たされていた。
さっきまでの勝ちムードが180°ひっくり返されたので、動揺も半端ではない。

(フクさんはこれを狙っていたというの?……それとも全くの偶然?)

これまで豪雨でフクの表情が見えなかったため、ハルナンは相手の真意を掴めずにいた。
天候を晴れにする手段を握りながらハルナンを躍らせていたのかもしれないし、
あるいは何も考えずこうなることだけを信じて待っていたのかもしれない。
前者であればハルナンをも越える策略家となるし、
後者であれば神に愛された存在だと認めなくてはならない。
どっちにしろ、今のパニック状態にあるハルナンが相手するには強大すぎていた。

「う、うわああああ!」

ハルナンは模擬刀を構え、フクの放つ斬撃に力いっぱい当てていった。
もはや、それくらいしか出来なかったのだ。

783名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 14:59:40
ハルナン策士の割には詰めが甘かったな
こんな形成逆転の一手を許すとは

784名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 17:54:06
策士策に溺れる…ハルナンらしいなw

785 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 12:59:11
フク・アパトゥーマとハルナン・シスター・ドラムホールド。
この時点でどちらがより負傷しているかと聞けば、誰もがフクを指さすだろう。
いくら元の膂力に差があるとは言っても、
この状況で普通に斬り合えばハルナンが勝利するはず。
しかし、精神の疲弊が段違いだった。
地から天に上がったばかりの者と、天から地に落とされたばかりの者とでは、勢いか違うのだ。
そして奇跡はまたもフクを味方する。

(えっ?……剣が何色にも輝いて……)

フクの剣が七色に輝くのを目撃したハルナンは、
いよいよ神の所業であることを疑わなくなってしまった。
普段フクが持つ装飾剣よりも煌びやかに輝く模擬刀を前に、
対抗せんとする意志さえも奪われたのだ。
もっとも、フクの剣が輝いた現象は神や仏の仕業とはまったく関係ない。
ただの光の反射。単なる物理現象である。
オダ・プロジドリやサユ王がやってみせたような刀身による反射がたまたま決まっただけのこと。
唯一違う点といえば、雨上がりの太陽光を跳ね返したために
その光が虹色に輝いたことくらい。
マーチャン・エコーチームが製作したこの模擬刀は、汎用的なためどんな色にも変えることが出来る。
サヤシにつけばサヤシの色に、アユミンにつけばアユミンの色に、
要するに推し変がとてもし易い仕様になっている、というのは以前説明した通りだろう。
だがいくら変えられるとは言っても、フクは単推し程度では満足出来なかったのかもしれない。
彼女の剣は7色の剣。
つまりは箱推し。
尊敬する人物を一人に絞るなんてナンセンス。
まったくもって勿体なさすぎるのだ。

「たあああああ!!」

その一撃は確かに弱々しかったかもしれない。
それでも、同期の思いを乗せて、尊敬する戦士らの応援を力にして、なんとか放つことができた。
だからこそ、考えすぎた結果として恐怖に飲まれたハルナンを打ち破れたのだ。
すべての結末を見届けたサユ王が立ち上がり、宣言する。

「勝者はフク!次期モーニング帝国帝王はフク・アパトゥーマであることを認める!」

勝利をおさめたフクは安心しきって、その場に倒れてしまう。
今はホッとしているが、これからが大変だろう。
なんせ、今後は七色では収まらない程の光を背負い続けなくてはならないのだから。

786 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 13:01:21
決着はつきましたが、一部はあとちょっとだけ続きます。

現在はハロショで娘。の握手待ち。。。
参加メンバーは鞘師に加えて譜久村、飯窪、あかねちんです^^

787名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 13:35:52
ついに決着!新フク王万歳!ハルナンも頑張った!

そしてリアルに握手会に参加する作者さん…取り敢えず譜久村と飯窪さんに謝っとけwまた創作意欲湧くこと祈ってます

788名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 18:36:44
なんか最後の最後でハルナン情けないなあ

789 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:56:00
決着から数ヶ月後。
モーニング城では新たな帝王の就任式が始まるとして、たいへん賑わっていた。
この日の主役はもちろん、例の決闘で勝利したフク・アパトゥーマだ。
数時間後の就任スピーチに備えて、控え室で身体を休めている。

「フク王様、脚の方の調子はもう宜しいのですか?」
「うん、ハルナン。もうすっかり歩けるようになったよ。」

この控え室の中にはフク王の他にもう一名。
モーニング帝国に2人存在する帝国剣士団長のうちの1人であるハルナンが立っていた。
これから大舞台へと羽ばたくフクのサポートを務めているのだ。
もう1人の帝国剣士団長は部屋の外の警備に当たっているため、ここには2人しかいない。

「それにしてもフク王様。」
「なに?どうしたの?」
「やっぱりフク王様こそ前線で戦い続けるべきだと今でも思うんですよねぇ……
 王座は、戦闘の役に立たない私に譲ってみませんか?」
「ちょっと!まだ言ってるの!?」
「うふふふ、冗談ですよ。 緊張をほぐすためのギャグです。」
「笑い事じゃないよもう……それにね、ハルナン。」
「はい?」
「私はね、ハルナンの方がずっと前線向きだと思ってるよ。」
「……それはギャグですか?」
「ううん。冗談なんかじゃない。
 ハルナンの策で帝国剣士全員を動かしたら凄いことが起こるはず。
 ううん、モーニング帝国剣士だけじゃもったいない。
 アンジュの番長、果実の国のKAST達とも協力しよう。
 個性の強い戦士達をまとめる総指揮は、ハルナンにしか取れないんだよ。」
「お言葉は嬉しいですけど……結局、私が前線に立つのとは関係ないのでは……」
「ある。」
「ありますか?」
「ハルナンはいつも最後には自ら敵に立ち向かってるよね。
 その自己犠牲の精神があるからこそ、天気組のみんなは従ってきたんじゃないかな。」
「あはは、じゃあそう受け止めておきます。
 ただ、一つだけいいですか?」
「なに?」
「総指揮に立つってことはQ期さんも自由に使っていいんですよね?
 後輩の私から命令するのは難しいので、王の方から新任帝国剣士団長さんに言付けしてもらえませんか?」
「うん。言っておく。」
「それはどうも。」

790 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:59:07
マーチャンがやられた時点でハルナンには豪雨の中での戦いしか残されていなかったので、
雨が止むことでパニックになり、冷静さを欠いたということになっています。
ベリーズ全員がやって来るというのは、想定外だったんですね。

握手会行ってきました!みんな可愛かったです。
一瞬で終わったので謝罪は無理でしたw

791名無し募集中。。。:2015/12/24(木) 20:39:30
まぁベリーズが総出来るなんてそりゃ想定外だわなw
握手会楽しんで来たようで何より

792 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:13
式典が行われる会場には数え切れないほど多くの人々が収容されていた。
城に仕える者だけではなく、新たな王を一目見たいと望む国民たちも集っている。
おかげ様で一階席、二階席、アリーナ席のどれもが満席。満員御礼だ。
そして、関係者席には特に重要なVIPらが着席していた。
アンジュ王国のアヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー王ならびに8名の番長や、
果実の国のユカニャ・アザート・コマテンテ王と4名のKASTらも十分大物ではあるのだが、
特に来場客らからの視線を集めていたのはマーサー王と11名の食卓の騎士だった。
祝いの場なのでいつもの天変地異の如き殺人オーラを最小限に抑えてはいるが、
それでも彼女らはそこに居るだけで周囲を緊張させる。
この数ヶ月で大きく成長したモーニング帝国剣士らも、ベリーズ&キュートの放つプレッシャーだけはまだまだ苦手なようだった。
あの自由奔放なマーチャンでさえも、本能で危険を感じ取ったのか、大人しくなっている。
そんな中でビビっていないのはQ期団のサヤシ・カレサスくらいのものだ。
とは言っても、決してサヤシのメンタルが強くなったという訳ではない。
今は別件で頭がいっぱいなのである。

「認めない認めない認めない……」
「ちょっと、まだ落ち込んでるの?」
「カノンちゃん……ウチはもうダメなんじゃ。Q期としてやってく自信が無い……」
「気持ちは分かるけど決まったものはしょうがないでしょ。
 ほらお菓子あげる。ストレスは甘い物で吹き飛ばせばいいんだよ。」
「ありがとう……」
「まだたくさん残ってるからね。」

793 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:43
夜ごろにまた更新出来そうです。

794名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 15:51:05
やはり食卓の騎士は『11名』なのか…

夜の更新も楽しみにしてます

795名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:09:41
悪魔の誘惑やめーやw

796 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:16:31
トントン、と扉がノックされる音をフクとハルナンは耳にした。
警備を担当する新帝国剣士団長、兼新Q期団長には誰も通すなと伝えていたので
2人は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、
部屋に入る客人の正体を知るや否やすぐに納得する。

「へぇ〜フクちゃんなかなか可愛く着飾ってるじゃないの。」
「「サユ王様!!」」
「王じゃないでしょ、もう。」
「いえ、私たちにとってはいつまでもサユ王です。」

フクを訪ねてきたのはモーニング帝国の先代の王、サユだった。
わざわざこうして訪ねてきてくれたのだから、現王フクはたいへん嬉しくなってくる。

「でもいったい何の御用で……ひょっとしてスピーチのアドバイスとか……」

サユは名演説家として他国にも有名だったので、
人前で話すのが苦手なフクはありがたい助言を期待していた。
ところが、サユの目的はそれではなかったようだ。

「ううん、初スピーチは自力でなんとかなさい。」
「ではいったい何用で…」
「私はね、自分の考えの正しさを確認しに来たの。
 いや〜我ながら完璧完璧」
「???」

フクにはサユの言葉の意味がまるで分からなかったが
ハルナンはすぐに気づいたようで、クスクス笑っていた。

「ふふふふ……スパルタにも程がありますよ。本当に。」
「え?え?ハルナンは何か知ってるの?」
「はい。サユ様は私たち帝国剣士に一人前になって欲しいがために引退を決意したんですよ。」
「ええ〜〜!?」

そこからサユはこれまでの選挙戦の裏で行われた、
数々の暗躍を白状していった。
わざと全員が血を流すように誘導したこと、
ハルナンが上手い具合に盛り上げてくれたこと、
そして最終的に素晴らしき新王と、立派な帝国剣士たちが誕生したことを告げていく。

「……ってワケ。なかなか満足いく結果だったわよ。」
「あ、有難う御座います!そんなに良くしてくれてたなんて……
 でも、ハルナンはこのことを初めから知ってたの?
 じゃあ今までのは全部演技……」
「違いますね。」
「!」
「演技なんかじゃありません。本気で帝王の座を勝ち取ろうとしてました。
 この期間、嘘をつくことはあっても手を抜いたことは一度とたりとも有りません。
 ですが、残念なことにフクさん達のほうが一歩上を行ってたのですよねぇ……」
「そ、そっか。」
「でもいいんです。おかげで"ファクトリー"に対抗できるかもしれない大戦力の指揮権を得ることが出来ました。
 いつまでも脅威に怯えるより、近々こちらから仕掛けていきましょう!!」
「「"ファクトリー"……!」

797 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:18:51
>>794
はい。ベリーズ6名+キュート5名の計11名となっています。
マノエリナは食卓の騎士には含まれません。念のため。

>>795
サヤシが誘惑に勝てたかどうかは二部以降をご確認くださいw

チャンスがあれば深夜にもう一回更新します。

798名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:49:47
やはりウメサン・メグ・マイハはいないんだな・・・分かっちゃいたが寂しいな

次回はついにファクトリーの謎が明らかになるのかな?サユ王も知らない感じだったけど…?

799名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 23:57:05
考えたらスケート靴とか忍刀の使い手が入るより先に王が代わるんだな

800 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:41:55
ハルナンは、王と剣士団長クラスの者にはファクトリーに関する情報を共有していた。
モーニング帝国に危険を及ぼすかもしれない存在ではあるが
その力が強大すぎるため、いたずらに恐怖を植え付けないよう公開範囲を狭めていたのである。

「ユカニャ王が"悪意なき悪"、"バイ菌"といった言葉で形容するファクトリーですが
 つい最近、マーサー王国の領土にて8名固まって行動しているのが確認されたみたいですね。」
「知ってる!確かベリーズの皆さんが対処したって聞いたよ。」
「はい。フク王様の言う通りです。」
「でも、シミハム様、ミヤビ様、モモコ様の力を合わせても追い払うのが精一杯だったらしいね……」
「はい。それもフク王様の言う通りです。」

あの怪物のように強い食卓の騎士3人の力を合わせても倒しきれなかったという事実は、
絶望を感じるには十分すぎるほどの情報だった。
そんな凶悪な存在が最低8人も周辺国をうろついていると考えると、王としては気が気でない。

「ハルナン。ファクトリーを倒す策はあるの?」
「……100%とは言えません。まだ足りていないんです。」
「足りていない、ってのは?」
「味方の伸びしろに関する情報ですね。特に新人が……」

完全に作戦会議モードに入るある室内に、外にいる新任剣士団長の声が飛び込んでくる。

「ちょっとちょっとー!そろそろ式が始まるけんねー急いで急いでー!」

はっとしたフクは時間を確認し、もう本番まで時間が無いことを理解する。

「あわわわっ、ほんとだ。急がなきゃ!」

フクとハルナンは急いで残りの支度を終わらせていく。
そんな慌ただしいフクに向かって、サユはくつろぎながら声をかけ始める。

「あ、そうだフクちゃん。」
「な、な、なんですか!?」
「合宿は全カリキュラム修了したから。」
「!!……それで、合否の方は……」
「安心していいよ。4人全員合格。」
「本当ですか!……ということは、残るは最終試験のみですね。」

801 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:43:20
>>799
ちゃんと忘れていませんよw
タイミング的にはほぼ同時ってとこですね。

802名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:27:51
ついに12期参戦か!寺合宿のシーンは描いてくれるのかな?

803名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:55:04
周辺国をうろちょろしてるってファクトリーは野盗かよw

804 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 17:33:43
舞台に主役が登場することで、会場は一気に静まり返る。
純白のドレスと、金色に輝くティアラで彩られた新王フク・アパトゥーマに目を奪われているのだ。
普段は軍服や訓練着ばかり着ているイメージが強いため、誰もがその美しさに息を飲む。
だが、しばらく経つと来場客はまたざわつき始めた。
フクではなく、その三歩後ろについている帝国剣士団長に注目している。
関係者席にいるサヤシも、その事実が公に晒されてしまったことにガックリきていた。

「はぁ〜……なんでエリポンなんかが剣士団長になってしまったんじゃ……」

王の後ろの帝国剣士団長は、新任のエリポン・ノーリーダーと、従来通りのハルナン・シスター・ドラムホールドの2名だった。
今後はそれぞれがQ期団と天気組団の団長をも兼ねることになる。
この時のエリポンの表情はドヤ顔にも程があり、
今すぐにでも「これが現実です。」と言いたそうな雰囲気を醸し出している。
このまま放っておけば会場はいつまでもざわついていたのだろうが、
フク王が拡声器に手を伸ばすことでそれもピタリと止む。
やはり主役はフク。みな彼女の演説を聞きに来たのだ。
最重要同盟国であるマーサー王国の面々もこれは見逃せない。

「ほらフクちゃんのスピーチが始まるよ。 あの時モモが晴れさせたおかげで王になれたんだよね。」
「え?クマイチャン何言ってるの?意味が分からないんだけど……」
「またまたぁ。」

誰もが新王フクの力強いスピーチを期待したのかもしれない。
先代サユがやってみせたように、人の心を鷲掴みにする話術を見たいと思うのは当然だろう。
だが、残念ながらフクにはそんなトークなどできやしない。
弱々しいかもしれないし、文量もサユと比べてずっと短いが、
フクは自分の思いの全てを言葉に詰め込んでいた。

「モーニング帝国史上、最も頼りない帝王だと思われてしまうかもしれません。
 でも、タカーシャイさん、ガキさん、レイニャさん、アイカさん、
 そしてサユさんに教わったことには誰よりも自信があります。
 サユさんのように背中で語ることは出来ないと思いますが、
 みんなで頑張っていくことは出来ると思うので、精一杯頑張りますので、
 これからのモーニング帝国をよろしくお願いします。」

本心を言葉にしたフクに対する反応は、文句無しの拍手喝采だった。
立ち上がりながら手を叩く人たちまで視界に入ってくる。
確かにサユのような名演説とは言えないかもしれないが、
この場にいる人々の心を掴むには十分すぎたのだ。

「さて、それでは仕上げですね。」

ハルナンが重厚そうな剣を取り出し、フク王に膝をついて手渡した。
王が剣を取り、力強く掲げることが恒例の儀式となっているのだ。
フクは宝石が贅沢に散りばめられた剣を見て、
剣士時代愛用していた装飾剣「サイリウム」のことを思い出した。

(懐かしいなぁ、確かにアヤチョ王に折られちゃったんだっけ……
 剣士だった私を支えてくれてありがとう。
 そして王となる私をこれからも支え続けて欲しい。」

フクは鞘から剣を引き抜くと、雲ひとつない天空へと突き上げた。
その剣は装飾剣「サイリウム」のようにピンク色単色には輝かない。
決闘の日の模擬刀のように虹色の7色にも輝かない。
新たなる剣は太陽に照らされることで13色に輝くのだ。
王が握るに相応しき装飾剣、その名も「キングブレード」。
その剣が放つPRISMのGRADATIONは、この国の全ての「かがやき」を表現している。

805名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 18:21:13
いいネタの盛込みだね

806名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 19:20:08
キンブレwついに『ミズキングダム』建国か…某スレのように変態王国にならないことを祈ろうw

807 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:01
式も終わり、各国の重鎮への挨拶も済んだところで
フク王はやっと帝国剣士らに会うことが出来た。
Q期団はもちろんのこと、天気組団も式の感想を言い合う場を設けたいと考えていたのだが
フク王にはそれよりももっと見て欲しいものがあったようだ。

「みんな、今日のイベントはまだ終わりじゃないよ。」
「え?」「それはどういう……」
「新しい帝国剣士のお披露目会が開催されるから、今すぐみんな広場に来て!」
「「「!!!」」」

フク、ハルナン、エリポンの3名に連れられた先にある大広場には
サユ前王が召集した500名の一般兵らがズラリと並んでいた。
それを見て、サヤシがごくりと唾を飲む。

「入団当時を思い出す……最終試験が行われるんじゃな。」

モーニング帝国剣士の最終試験。それはお披露目の場で500人斬りを達成することだった。
帝国剣士の新人は特殊な場合を除き、基本的には若き少女から選ばれるため、
屈強な男性兵達に舐められないように実力を示さねばならないのだ。
同期の力を合わせて500もの男を納得させる。
それが出来ねば帝国剣士としての資格はない。

「うわぁ〜アレ大変なんだよねぇ……」
「アユミンさん達は苦戦したんですか?私は1人で500人斬りを達成しましたが。」
「うるさいぞオダァ!!」

この試験、期にどんなタイプの戦士が揃っているのかによって難易度が大きく上下する。
Q期のような純粋な戦闘タイプなら楽勝なのだが、
天気組みたいに特殊戦法を使うようではなかなか難しいのかもしれない。
それでも、この試験は必ず乗り越えねばならない。
一切の言い訳は許されない。

「それでは新たな帝国剣士たち!前に!」

フクの号令とともに新メンバー4人が登場する。
4人の少女はさすが合宿を乗り越えただけあって、一癖も二癖もあるように見えるが
その中でも最も小柄な新人は、帝国剣士らの視線を多く集めていた。

「あれ?あの子は確か……」
「サユ様のお付きの……」

一同が質問を投げかける暇もなく、最終試験の時刻が迫ってくる。
フク王の呼びかけに応えることでお披露目は始まるのだ。

「ハーチン・キャストマスター!」
「はい!」
「ノナカ・チェルシー・マキコマレル!」
「はい!」
「マリア・ハムス・アルトイネ!」
「はい!」
「アカネチン・クールトーン!」
「はい!」
「今こそ力を合わせて、帝国剣士としての威厳を示すのだ!!」

808 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:37
ようやくここまで来たかーって感じです。

809名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 15:45:41
おお!いよいよですね…1部で一スレまるまる消費って感じですね

810名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:33:16
マキコマレルw

811名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:57:14
>>810に先を越された

812 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:16:04
「じゃあウチから行くわ。ノルマは100人なんやろ。余裕のよっちゃんやで。」

他の3人に先駆けて前に出たのは、新人の中では最年長であるハーチン・キャストマスターだった。
雪のように真っ白な肌と、折れてしまいそうなくらいに細い腕が特徴的な女性だ。
彼女ら新メンバーは最終試験を攻略するための作戦会議を事前に行っており、
各自が順番に100人ずつ計400人を撃破して、残る100人を4人のコンビネーションで始末しようと決めていたのだ。
ところが、先陣を切るはずのハーチンの両手には剣が握られていなかった。
帝国剣士は文字通り「剣士」であるため誰もが剣を武器にするのが道理だし、ハーチンもその例からは漏れていない。
そう。彼女の剣は手ではなく足に装備されているのである。

「あ!あれは……!!」

オダにはハーチンの履いている靴に見覚えがあった。
それは以前マーチャンがラボで試作品として使用していた刃付きの特注シューズだったのだ。
靴底にエッジが取り付けられたその見た目はまさに「スケート靴」そのもの。
おそらくはスケートの要領で滑りつつ、蹴り技で相手を斬りつけるための武器だと想像できる。

「でも、陸地じゃ滑れんっちゃろ?」

エリポンがそのような疑問を抱くのは至極当然のこと。
スケート靴は氷の上を移動するための道具。地上では満足に滑ることが出来ないはずだ。
だが、スケート靴の製作者であるマーチャンはそのことも折り込み済みだった。

「エリポンさん遅れてるなー」
「なん!?」
「ローラースケートですよ、あの子が履いてるのは。」
「!」

ハーチンはマーチャンの記述した説明書の通りに、かかと部分をコンと強く叩く。
それがギミックの起動スイッチとなり、靴内部に収納されていた車輪が外へと飛び出していく。
このスケート靴「アクセル」はアイススケートとローラースケートを切り替えることによって氷上と陸上の両方に対応可能なのである。
さっそくハーチンはローラーによる加速で敵の集団が固まっているところへと突撃する。

「ほらほら〜行くで〜!」

そこからはハーチンのオンステージだった。
高速移動からの勢いで繰り出される蹴り、すなわち斬撃を避けられる兵はそうそういなかった。
スケート競技の経験で培った柔軟性のおかげで彼女の脚は高くまで上がるため、
剣を手に持つ剣士と比べてまったく見劣りしない射程をもカバーしている。
そして特筆すべきは、攻撃にしょっちゅう組み込まれているスピンの回転力の凄まじさだ。
ハーチンはその細腕細足ゆえに一見して非力な戦士のように見えるのだが、
一っ跳びでダブル回転、トリプル回転くらいは簡単にしてしまうので、その回転力がスケート靴のブレードの破壊力をより一層高めてくれる。
ゆえに硬い装甲であっても簡単に切り崩すことが出来るのだ。
スケート技術を取り入れた戦法を巧みに操るため、ハーチン・キャストマスターは西部地方で「氷上の魔術師」と呼ばれていた。
だが、そんな彼女にも直すべき欠点はある。

「Ummm……ハーチンまた悪い癖が出てる……」
「女の子があんな顔をするなんて、マリア、信じられません。」
「ハーチーーーン!顔!顔!」

ハーチンの欠点。それは戦闘の悦びに浸るあまり、ついつい変顔になってしまうことだった。
白目を剥いた変顔で敵をバッタバッタと薙ぎ払う様は、傍から見れば恐怖でしかない。
それが由来となって、ハーチンは西部地方で「表情の魔術師」とも呼ばれていたという。

813 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:17:49
キャラ名や武器名はあとでまとめて由来を説明するつもりですが、
ノナカ・チェルシー・マキコマレルはそのまま「巻き込まれる」ですw

814名無し募集中。。。:2015/12/28(月) 07:58:57
氷上と表情w

815 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/29(火) 03:28:08
変顔はともかく、華麗に滑りながら攻撃する戦法はなかなか見事なものだ。
ハーチンのバランス感覚ならば、アユミンがツルツルに均した地面の上でも転倒せずに活躍出来るかもしれない。
先輩剣士と連携可能であれば技のバリエーションも増えるため、実戦が非情に楽しみになってくる。
そんなハーチンに続こうと、もう一人の新人剣士が準備をし始める。

「ハーチンの戦い方は本当にfabulousだなぁ……そろそろ私も行かなきゃ。
 あ、その前に先輩方にご挨拶か……」

二人目の新人は少しボーっとした、どこか田舎臭い雰囲気を残した少女だった。
彼女の名はノナカ・チェルシー・マキコマレル。異国での修行経験を誇りに思っている。
異国語を「覚えた」ことのあるマーチャンも、そこに興味を持ったようだ。

「外国の言葉話せるの?」
「Yes!」
「喋ってみて。」
「How are you doing? I am fine.
 I'm so happy to be a member of this team.
 Why don't we talk about the globalization of Moning empire's swordwoman together?
 I want to liven up the Military strength with you all!」
「What do you want? Is it necessary?」
「Oh! マーチャンさん、さすがです。」

異国語となると急に流暢に喋りだすノナカに、マーチャン以外の先輩剣士らは困惑してしまった。
その中でもエリポンだけはなんとか話に入ろうと頑張ってはみたものの、
語学力が足りないために「I am a pen!」としか言えなかった。
そうこうしているうちに、ハーチンがノルマの100人斬りを達成する。

「よっしゃ終わった!ノナカちゃん交代な〜……ってあれ?ノナカちゃんどこに消えた?」

もうすぐ出番だというのに、さっきまで先輩の前で自己紹介していたというのに、
ノナカは足音も無くその場から消え去ってしまっていた。
いや、正確には「足音が無い」というワケではない。非情に聞き取りにくいだけで有るには有るのだ。
帝国剣士の中でも特に優れた音感を備えたカノンとマーチャンだけが、一般兵の密集地帯へといち早く視線を向ける。

「あそこだ!ノナカちゃんはもう戦闘開始してるんだよ!」

カノンが叫んだころには既に、ノナカは柄の部分に紐のついた忍刀をぐるりと回して、周囲の敵をぶった切っていた。
音が鳴るよりも速く刀を投げつける芸当は、忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」がおもちゃのように軽いからこそ出来ることだ。
この「無音切り」を自身の代名詞としているノナカだが、彼女の特徴はそれだけではなかった。
次の行動が、特にエリポンを驚愕させる。

「アクロバットまでやりようと!?」

周りの兵をあらかた切り終えたノナカは、次の敵が集まるところへと前転で移動していた。。
他にもバク転や側宙など、エリポンを彷彿とさせるアクロバットで相手を翻弄する。
回転数や力強さなどは先駆者であるエリポンに軍配が上がるが、その代わりノナカの器械体操はとても静かだった。
音をほとんどたてずに縦横無尽に跳び回る様はまるで忍者のよう。
海外生活の長いノナカは、それが反動となって母国の文化に強い興味を持つようになっている。
その結果、はるか昔の暗殺者として実在したとされる忍者の戦闘スタイルを好んで取り入れたのだ。

「はぁ、やっぱりみんな西洋の鎧ばっかり着てるなぁ……忍者がいなくてちょっぴりSHOCK……」

816名無し募集中。。。:2015/12/29(火) 22:23:37
ノナカの謎の忍者推しは元ネタなんかあったっけ?まぁチェルのくのいちは似合うから良いけどw

817 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:33:34
次々と実力を示していくハーチンとノナカに続いて、3人目マリア・ハムス・アルトイネが登場する。
彼女が立ち上がるなり、残った300名の一般兵らもピリッとし始めた。
マリアは研修生の出身であり、その中でも優れた逸材として有名だったのだ。

「大大大好きなサユ様にひみつのマリアちゃんな修行を見てもらって、マリア、とっても嬉しかったです。
 だからマリアはもう、ややチビマリアじゃなくておとなマリアなんです!」

言葉のセンスはあまりに個性的すぎるが、研修生のTOPまで登りつめた実力は本物だ。
その強さの秘密は両方の手に異なる剣を握った「二刀流」スタイルにある。
左手には投てき用途で使われる小型の投げナイフ「有」。
右手には敵を叩き潰すに十分な重量を誇る両手剣「翔」。
この「投げナイフと両手剣」の2つを同時に扱う怪物のような強さが兵士らを怯えさせているのだ。

「両手剣?あの子、両手剣を片手で持っちゃってるけど……」

アユミン自身も「振分髪政宗」と名付けられた大太刀を愛用するが、やはり両手で握るのが精いっぱいだった。
マリアはこれまでとても辛い自主トレーニングや春季キャンプ、秋季キャンプをこなしてきたため
右手一本で両手剣をも持ち上げてしまうくらいのパワーを手に入れていたのだ。
新メンバーの中で最も長身、すなわち体格に恵まれているとは言ってもかなりの細身なので一見して弱そうだが、
実際に超重量の武器を軽々と持ち上げているところを見るに、筋肉がギュッと凝縮されているのだろう。
この厳しい修行もすべて、サユ(元)王をお守りしたいという一心で乗り越えてきた。
それだけマリアはサユのことを尊敬していたのである。

「それじゃあ行きます!20勝目指すので見ててください!」
「マリアちゃん!20勝じゃあかんで!100勝せな!」
「そうでした。100勝します!」

スケート術やアクロバットで動き回った同期とは対照的に、マリアは初期位置から動かなかった。
そう、彼女は投げナイフをぶん投げることによって、マウンドから一歩も下りずに敵を倒せるのだ。
これよりマリア・ハムス・アルトイネの始球式が開始される。
大きく振りかぶって第一球。今投げられた。

「あーーーーーーーー!?」

誰もが見事な投球を期待したものだが、それに反してマリアの投げナイフは上空高くにふっとんでしまった。
その先に敵がいれば良かったかもしれないが、残念ながらモーニング帝国の一般兵に空を飛べる者は存在しない。
普段の訓練や合宿では滅多に制球を乱したりはしないのに、ここぞという時で手元が狂ったのである。
あまりにショックすぎたマリアは、ガクッと項垂れて、地に手と膝をついて落胆する。

「汗ですっぽ抜けちゃいまりあ……ハンカチでちゃんと拭いておけばよかったです……」

ひどく落ち込んでいるマリアを見て、兵士らは「今なら倒せるんじゃないか?」と思い始める。
帝国剣士となる最終審査というプレッシャーに押しつぶされたマリアなら怖くないと考えて、大勢で押し寄せたのだ。
だがマリアの得意とするスタイルはご存知二刀流。
投げナイフ「有」がダメでもまだ両手剣「翔」がある。選手交代だ。
これ以上ミスをしたら帝国剣士になれない、つまりはサユを守れないと考えたマリアは必死で両手剣を振りまくった。
この剣は刃こそ鈍いが、かなりの重量であるためにヒットした敵をホームランのごとく遠くまで飛ばすことが出来る。
結果としてマリアは、マウンドから一歩も下りることなく次々と押し寄せる100名の命知らずを迎撃してみせた。

「勝てたけどイメージと違う……不甲斐なくてごめんちゃいまりあ……」

818 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:37:04
マリアは研修生TOPと書きましたが、
モーニング帝国の研修生のメンツは現実世界の研修生とは異なっています。
アンジュルム合格者がいない、カントリーがいない、こぶつばがいない、等々……ですね。
段原はいるかどうかは現実の動向次第ですねw

>>816
忍者推しに元ネタはありません!
音関連+器械体操=忍者っぽいというイメージだけで設定してますね。

819名無し募集中。。。:2015/12/30(水) 10:55:08
次はクールトーンちゃんか
どんな武器を使うんだろ

820 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:09:49
ハーチン、ノナカ、マリアの3人が見事100人斬りを達成した今、
残る最後の一人であるアカネチン・クールトーンに注目が集められた。
戦闘向きには到底見えないその風貌に、ハル・チェ・ドゥーも心配しているようだった。

「クールトーンちゃんだっけ?……大丈夫?戦える?」
「ハルさん、これから私のことは名前で呼んでほしいです。」
「えっと……アカネチン?」
「はい!せいいっぱい頑張るので見ててくださいね!」

憧れの先輩に並ぶため、アカネチンは意気揚々と戦場に向かっていった。
もう彼女は研修生でも書記係りでもない。いっぱしの帝国剣士なのだ。
剣をその手に握り、同期と同じように100人の一般兵を倒さんとしている。

「えっ、あれがアカネチンの剣?」
「ペンのように見える……いや、彫刻刀じゃろうか?」

カノンとサヤシだけでなく、帝国剣士の誰もがアカネチンの持つ剣に驚きを隠せなかった。
それもそのはず。その剣はたった10cm強しかない筆のような形状をしていたのだ。
彫刻刀のようなナリをしたその剣の正体は"印刀"。本来は木や石を彫って印鑑を作るための道具だ。
その印は書をかいた後に己の名を判するときに用いられるため、書道には欠かせない。
印刀「若木」をアカネチンなりに扱うのが、彼女が合宿で習得した戦闘スタイルなのである。
しかしそれをもってしても、アカネチンは殆どの一般兵らに舐められているようだった。

「アカネチンって研修生にいた子だろ?……強かったか?」
「実力は中の下ってところかな。マリア様と違って恐れるに足りない。」
「だったら手柄を立てるチャンスじゃないか。仮にも帝国剣士。痛い目を見せて、俺たちの力を示してやろう!」

残りの200人のうち、考えの浅い者どもは一斉にアカネチンに襲い掛かった。
帝国剣士の最底辺が相手ならば自分たちも勝利を収めることが出来ると思ったのだろう。
だがアカネチンだってサユ元王に認められ、修行を積んできた戦士だ。
この程度の逆境を乗り越えられないはずがなかった。

「全部、見えてます!」

複数の兵士らによる剣や槍の雨あられをアカネチンはすべて避けきってしまった。
どちらかと言えばどん臭いイメージだったはずのアカネチンがとても見事な回避を決めたので、一同は驚愕する。
一見して超常的な進化のように見えるが、これまでの経験を思い返してみればこれくらいは出来て当然だ。
クマイチャンとモモコの本気の戦いを間近で見たり、合宿でサユによる殺気の込められた斬撃を避け続けた彼女にとって
一般兵の攻撃を見極めることなんて容易いのである。

821 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:11:41
今日はあと一回更新をする予定です。
それで第一部は最終回となりますね。

こぶしファクトリーも最優秀新人賞をとったことですし、
登場を予定している第二部の準備を進めねば……

822名無し募集中。。。:2015/12/31(木) 09:16:20
アカネチンはやはり『眼』か…それにしても印刀とはマニアックなw
いよいよ一部も完結…約7ヶ月楽しい時間だった!二部も楽しみにしてます

823 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:17:58
アカネチンの得意技は見切りのみではない。
サユの書記係だった時に見せた高速筆記だって立派な個性の一つだ。
「筆」を「印刀」に、「紙」を「相手の肉体」に置き換えれば、特技は戦闘スキルへと変化する。

「うわあああああ!!」
「い、痛い……!」

相手の肉を掘るという行為は、アカネチンの可愛らしい見た目とはウラハラにあまりにもえげつなかった。
剣で四肢を斬りつけるのと比較するとダメージ量は明らかに少ないはずなのだが、
日常のそばにあるリアルな痛みという理由から、周囲にいる敵兵らの戦意を喪失させていく

(よし!この戦い方なら勝てる!)

戦士としての手応えを感じ始めたアカネチンは、恐怖で動きの鈍った相手を引き続き削り取ろうとする。
しかし、つい最近まで並程度の実力だった彼女がこんな戦い方を長く続けられる訳もなかった。
敵の肉をえぐる感触は己の手に直接伝わってくるし、悲痛な叫び声だって間近で耳にしなくてはならない。
おまけに今回のノルマを達成するには100回も同じ行為を繰り返す必要があるので、
まだ幼いアカネチンは精神的にも肉体的にもひどく苦しめられることになった。

「はぁ……はぁ……でも、ここで頑張らないといけないんだ……」

結果だけ書けば、アカネチン・クールトーンは100人切りを見事達成することができた。
だが先に述べた理由から疲労困憊になり、条件をクリアーするや否や地面に倒れこんでしまった。
心も体も限界なので、ここから先はもう戦うことなど出来ないだろう。
帝国剣士のほとんどが、ここまでよくやったとアカネチンを温かい目で見守ったが、
唯一ハルナンだけがあえて厳しい言葉を投げかけていた。

「あれ?たしか最後の100人は4人のコンビネーションで戦うんじゃなかったっけ?
 アカネチンがこんな状態なら、3人で戦うしか無いのね。」

同期の力を合わせて500人を倒す、という最終試験の条件自体を満たすことは出来るだろう。
しかし、それでは有言実行にならない。計画倒れとみなされてしまう。
実際の戦場では不測の事態などいくらでも起こりうるため、せめて試験や訓練の場ではトラブルなくこなさねばならないのだ。
それを新メンバーに知ってもらいたいため、ハルナンはあえて言葉にした。
ところが、ハーチンら3名はまったく落胆をしていないように見える。

「ハルナンさん、アカネチンは戦いながらこれを書いてたんですよ。見てやってください。」
「このメモは……!!」

ハーチンに手渡された紙には、残る100名の敵兵の特徴がびっしり記述されていた。それも血文字でだ。
アカネチンは持ち前の洞察力で戦況を見張り続け、同期に情報を共有する目的でメモを残したのである。
兵士の血液をインク代わりに印刀で書いた文章はとても読みやすく、
一目見るだけでハーチン、ノナカ、マリアの3人は残る100名の弱点を理解することが出来た。
嘘みたいに簡単に頭に入ってくるのである。
そして3人は自分たちが一人で戦うよりも圧倒的に早いスピードで残党を制圧するのに成功する。

「やったー!アカネチンのおかげやで!」
「Yes! やっと帝国剣士として認められるんだね。」
「嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね。」

とても嬉しそうに喜ぶ新メンバーから少し離れたところで、フク王がハルナンに声をかける。

「私はあれもコンビネーションの一つの形だと思ってるけど、ハルナンはどう思う?」
「王がそうおっしゃるのなら私が言うことは何もありませんよ。それに……」
「それに?」
「アカネチンの能力は非常に有用です。本人はまだ気づいていないのかもしれませんけどね。」
「そうなの?じゃあハルナンが新メンバーの教育係としてちゃんと教えてあげてね。」
「えっ?」

すべての帝国剣士が新たな仲間を受け入れたところで、この物語は完結する。
そして、新たな物語が始まる。

New Start
Morning Empire's Swordwoman。'15

第一部:sayu-side 完

824 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:20:40
昨日中に更新するつもりが新年になっちゃいましたね……
何はともあれ、これで第一部は終了です。

第二部はすぐには始めず、当分はおまけ更新が続くと思います。
それにしても一部は七か月もかかってたんですねw
すべて終わるのはいつになるやら……

825名無し募集中。。。:2016/01/01(金) 09:05:43
確かにアカネチン能力は使いようによっては強力だな
第一部完了お疲れ様でした
おまけも楽しみにしてます

826名無し募集中。。。:2016/01/02(土) 22:49:58
まさかの13期ww

827 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:34
13期。来るとは思ってましたが本当に来ましたねw
加入までには2部まで終わってるといいなぁ

さて、だいぶ空きましたがおまけ更新を行います。
まずはキャラ名+武器名+必殺技名の元ネタから。

828 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:53
■モーニング帝国剣士

フク・アパトゥーマ :団地妻
装飾剣「サイリウム」 :そのままサイリウム
装飾剣「キングブレード」 :複数色切り替え可能なサイリウム+王の剣
必殺技「Killer N」 :( ̄ー+ ̄*)キラーン

エリポン・ノーリーダー :空気読めない+リーダーではない+仮面ノリダー
打刀「一瞬」 :前作のガキの武器から。新垣里沙の写真集のタイトル

サヤシ・カレサス :植物を枯れさす
居合刀「赤鯉」 :広島カープのイメージ

カノン・トイ・レマーネ :トイレのモノマネ
出刃包丁「血抜」 :食事のイメージ

ハルナン・シスター・ドラムホールド :いもうと+太鼓持ちアイドル
フランベルジュ「ウェーブヘアー」 :ファッションのイメージ

アユミン・トルベント・トランワライ :れいなの好きな弁当を先にとったエピソード+すべりキャラ
大太刀「振分髪政宗」 :伊達政宗の愛刀+振分親方

マーチャン・エコーチーム :ヤッホータイ
木刀「カツオブシ」 :前作のレイニャの武器から。れいなの猫イメージ

ハル・チェ・ドゥー :ハルーチェ+どぅー
竹刀「タケゴロシ」 :タケちゃんとの因縁(やっちまったな等)
必殺技「再殺歌劇」 :ステーシーズ 少女再殺歌劇

オダ・プロジドリ :自撮りのプロ
ブロードソード「レフ」 :レフ板

ハーチン・キャストマスター :素人時代にツイキャスのキャス主
スケート靴「アクセル」 :トリプルアクセル

ノナカ・チェルシー・マキコマレル :チェル+巻き込まれる
忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」 :好物のカツ丼を我慢

マリア・ハムス・アルトイネ :ハー娘。+明日も嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね
投げナイフ「有」 :元日ハム投手のダルビッシュ有
両手剣「翔」 :日ハム打者の中田翔。有と翔でユウショウ=優勝

アカネチン・クールトーン :クルトンが好き
印刀「若木」 :あかねちんがブログに載せた習字

829名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 05:00:19
エコーチームってそれだったのかwww
包帯の印象だったから全然分かんなかった

830名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 12:45:23
「勝抜」ってカツ丼のことだったのか!w

831 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:08
■アンジュ王国の番長

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー:捨て犬+シューティングスター+唐揚げを投げたエピソード
七支刀「神の宿る剣」:博物館に飾ってそうな武器

マロ・テスク:そのままマロテスク
小型銃「ベビーカノン」:前作のカノンの武器から。

カナナン・サイタチープ:埼玉は安いイメージと発言したエピソード
ソロバン「ゴダン」:中西香菜がそろばん5段

タケ・ガキダナー:親戚マイミのキャラ名+子供っぽい
鉄球「ブイナイン」:巨人が黄金時代にV9達成

リナプー・コワオールド:ブログで昭和時代の人の名前に「子」が多いと発言
愛犬「ププ」:勝田里奈の愛犬
愛犬「クラン」:勝田里奈の愛犬

メイ・オールウェイズ・コーダー:スマイレージはいつもこうだ
ガラスの仮面「キタジマヤヤ」:ガラスの仮面に登場する北島マヤ+しゅごキャラミュージカルで芽実が演じた結木やや


■果実の国のK(Y)AST

ユカニャ・アザート・コマテンテ:あざとい+困り顔+石川県の方言「〜てんて」
※武器未登場

トモ・フェアリークォーツ:フェアリーズのファン+ローズクォーツ
ボウ「デコピン」:佳林にデコピンをよくする

サユキ・サルベ:さるべぇ
ヌンチャク「シュガースポット」:バナナの甘い箇所

カリン・ダンソラブ・シャーミン:男装好き+wonderful worldの時の髪型が社民党党首っぽい
※武器未登場

アーリー・ザマシラン:ハーモニーホール座間での公演に遅刻
トンファー「トジファー」:植村の育ててたトマトの名前

832 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:50
ヤッホータイはまーちゃん曰く「ヤッホー隊」らしいですよw

833 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 18:55:29
アンジュの必殺技を忘れていました。
以下に追記します。

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー
必殺技「聖戦歌劇」:我らジャンヌ 少女聖戦歌劇

マロ・テスク
必殺技「爆弾ツブログ」:前作のカノンの必殺技から。いちごのツブログ。

834名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 21:18:36
未発表の武器&技が気になる
そう言えば前に『フクのサイリウムの名前には秘密がある』って言ってたけど結局なんだったんだろう?

835 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:16:30
最後は前作キャラの元ネタです。
特別なことが無い限りは、今作では苗字と武器名を出すことはないと思います。


■食卓の騎士+サユ王

クマイチャン
武器は長刀
必殺技「ロングライトニングポール」:電柱
必殺技「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」:流星ボーイ
オーラ「重力」:高い所から下へと押さえつけるイメージ

モモコ
武器は暗器
必殺技「ツグナガ拳法」:ツグナガ憲法
必殺技「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」:許してにゃん
オーラ「冷気」:血の通ってないアイドルサイボーグのイメージ

マイミ
オーラ「嵐」:雨女のイメージ

ミヤと呼ばれた女性
オーラ「斬撃」:尖った顎のイメージ+普段は見られない裏側を見せるGreen Room

色黒の長身
オーラ「太陽」:明るいキャラのイメージ+日焼け

シミハム
オーラ「?」:?

サユ
武器はレイピアとマンゴーシュ
必殺技「ヘビーロード」:道重
必殺技「ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"」:道重一筋
必殺技「ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"」:結局道重
必殺技「ヘビーロード"派生・スティール(今尚)"」:今尚道重
必殺技「ヘビーロード"派生・トゥーレイト(今更)"」:今更道重
必殺技「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"」:道重依存
必殺技「ヘビーロード"派生・リミット(限界)"」:限界道重
オーラ「光」:鏡をよく見るイメージ

836 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:18:49
>>834
後の武器が「キングブレード」になる、というのが秘密でした。
サイリウム持ちのフクがいずれ王になることを暗に示してたんですね。

837名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 06:14:19
>>836
なるほど!何故気付かなかったんだorz
ミヤの「裏側」ってそっちかーてっきり表裏が分からない意味かと…w

838 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:38:26
おまけ更新「Q期のお披露目」

タカーシャイ王「うーん……エリポン、サヤシ、カノンのヤツら、最終試験だってのに相当緊張してるなぁ」

ガキ「実力は有るんですけどね。いかんせん実戦経験に乏しい……」

タカーシャイ王「よし!じゃあ経験豊富な子を追加しよう!」

ガキ「研修生からですか?」

タカーシャイ王「もちろん!フクちゃん降りといで!」

フク「ええええええええ!?」

839 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:43:11
おまけ更新「天気組のお披露目」

アユミン「大変だよハルナン!ハルが気絶した!」

ハルナン「ええっ!?ケンカ強いって自慢してたから前線に配置したのに!」

アユミン「ぶっちゃけ私もヤバいかも……ごめん、後は頑張って……」

ハルナン「そんなあ!まだ敵兵は200体以上も残ってるのよ?どうすれば……」

マーチャン「ねえねえハルナン」

ハルナン「なに!?今は話をしてる場合じゃ……」

マーチャン「マーチャンね、全部覚えたよ。」

840 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:44:49
おまけ更新「オダのお披露目」

オダ「最終試験って出来レースみたいなものですよね。あれで苦戦する人いるのかなぁ……」

アユミン「てめぇ……」

841名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 12:52:03
フクちゃんいきなりかよwって確かに合宿してないんだよなぁ…それで王になるとは

842名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:29:43
オダぁ!w

843名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:54:41
マーサー王の世界でやってみたいわ

ハロプロ三国志のゲーム作ってみたんだけど [無断転載禁止]���2ch.net
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1451441803/

844 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/08(金) 07:44:44
明日には二部に入れると思います。

845名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 19:06:35
2部まだかな
ドキドキ

846 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/09(土) 21:33:28
SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1452342496/

次スレを立てました。
続きはそこで進めていきますので、移動をお願いします。

こっちのスレもおまけ更新は続けるつもりです。
たまにで良いので覗いてみてくださいね。

847名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 21:35:11
>>846
乙です

848名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:18:11

『外伝:もう一人のA』

849名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:19:14
 
「みんな、頑張って。そして死んではなりません。必ず生きて帰ってきて。これは命令です」

たった一人で見送りにきた果実の国国王、ユカニャ・アザート・コマテンテはいつもの困り顔の眉根を更に寄せ、そう告げた。

「心配すんなよ。あれだけ特訓を重ねたんだ。もう今までのKASTじゃねえよ」
「そうそう。それにあたしたちにはまだやることが沢山ある。夢にまで見た『例大祭』だって控えてるんだし」
「だからあたしらが帰るまでこの国のこと頼むで、ユカニャ王」
「うんうん。みんな、絶対勝とうね!」

『例大祭』というのは、ある程度以上の国力をもつ国にのみ開催が許される大掛かりで神聖な行事で、
最近ようやくこの国でもそれを取り行う許可が下りたのである。
これは王、KASTのみならず国民全員の夢でもあった。

死出の旅になる可能性もあるのに、帰ってきてからのことをもう考えている。
ユカニャ王は少し安心した。

捕らわれた隣国の王と元帝王を救うため。
強大な敵を倒すため。

それらもひいてはこの愛する自国の未来のため。

彼女たちは壮絶な闘いへと身を投じる。

その日、黒蝶の戦闘装束を纏った4人の少女たちは誰にも知られぬよう静かに国を出た。

850名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:20:13
果実の国を出て間もなく、4人は道で一人の旅人とすれ違う。
背格好からするに彼女たちと同世代の少女のようだが、その深くかぶったフードの奥の顔を見ることはできない。

「どうした、カリン?」

そのまま歩を進める一同だったが、
先頭のトモが振り返ると、カリンが立ち止まってその旅人の後姿を見つめていた。

「・・・今の子・・・?」
「ん?あの旅人がどうかしたのか?」
「みんなは気付かなかった?なんか、うまく言えないんだけど、あの子・・・」
「おいおい、合同作戦会議に遅れるわけにはいかないんだぞ?小さなことには構わず急げ!」
「う、うん、そうだね、ごめん」

カリンは自分の中の胸騒ぎを振り払うようにして再び歩き出した。

このカリンの予感は的中するのだが、
彼女たちKASTがそれを知るのはこれよりずっと後のことである。

フードの奥でニヤリと歪む旅人の口元を見た者は誰もいない。

851名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:21:33
果実の国は新興国である。
地理的に穏やかな気候で肥沃な大地を有しており、自給率100%を越える食料で他国と貿易関係を持つことで独立を保っている。
農業が盛んだった地域の領主たちをまとめ上げ、ひとつの国として形作らせたのはひとえにユカニャ王の功績だ。
戦士としての技量や科学者としての実績はもとより、特に政治的な手腕に長けていることがユカニャ王が王たる所以である。
「あざとい」とまで揶揄される彼女のロビイ活動により、
政治家だけでなく多くの資産家、投資家、そしてイイジマ氏やイシイ氏といった強大な荘園領主たちを味方に引き入れ、国を興すことができたのだ。

だが経済的に順調な一方、軍事力においてはまだ心許ないのが正直なところでもある。
元々が農民の多かった地域性もあり、人々は自分たちをファミリーのように思っており、平穏無事に暮らすことを一番に考えている。
実際、果実の国の兵士たちは他国に比べ平均年齢が高いという指摘もある。
食料に溢れていながら兵力の弱い国…そんなものは悪党たちの格好の獲物でしかない。

だからユカニャ王はジュースを使い、力を失うほどに自らの戦闘に力を入れてきたのだ。
果実の国において、軍事力の要となるKASTは欠かせないのである。

しかし今やKASTは3国合同作戦のために旅立ってしまい、いつ帰るともわからない。
こうなると今の果実の国はいつ攻め込まれてもおかしくない状態であるため、王の判断によりKAST不在の情報はトップシークレットとされた。
そのため4人は密かに出立したのである。

とはいえいつまでも隠し通すことはできないだろう。
侵略者がこの情報を掴んで攻めて来る前に防衛策を立てねばならない。
モーニング帝国の新王から屈強な防衛隊を派遣してもらう段取りにはなっているが、まだ数日かかるらしい。
帝国兵がいれば大きな抑止力となるはずだが、それまでの数日間の空白期間がユカニャ王には大きな懸念事項であった。

「急いで…今は一刻も早く…!」

4人を極秘で見送って帰ってきたユカニャ王の不安と焦燥感はつのるばかりであった。

852名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:22:27

だが王が帰城して間もなく、執務室の扉が音もなく開いた。

焦る気持ちで国内の防衛対策資料に目を通すユカニャ王は気付かない。

ひとつの影が忍び寄る。

ユカニャ王が資料から目を上げたとき、その人物は目の前の椅子にゆったりと腰掛けていた。

「!!!!何者!!??」

ユカニャ王は恐怖した。

果実の国とはいえ、一国の王である自分の部屋までこうも簡単に警備を突破して来ている時点で只者ではない。
王の部屋に部外者が侵入する目的はひとつしかない。
暗殺だ。

戦う術を持たぬユカニャ王は硬直している。
KASTを見送ってすぐにこんな事態になるとは。
死の匂いと王の責任は硬直するユカニャの体中を冷や汗となって覆った。

「おいおい、ずいぶんとご挨拶だな」

座った人物のフードの奥から聞こえた声に、ユカニャ王は聞き覚えがあった。

いや、覚えがある所ではない。
忘れようとしても忘れられぬ声。
まさか。

「オレだよ」

そう言ってゆっくりとフードを脱ぐ。

ユカニャ王が予感した通りの人物がそこにいた。

かつてKASTがKYASTだった頃。
本当のKYASTはKYAASTだった。

戦士は、「6人」いた。
そう、「A」はもう一人いたのだ。


「久しぶりだな、ユカニャ王」


アイナ・ツカポン・アグリーメントは、そう言ってニヤリと笑った。

853名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 06:30:08
おお外伝来てた!

良いよ良いよ楽しみ増えて

854 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/19(木) 08:47:34
外伝を書いてくれて有難うございます!
どこかで見たことあるような人たちが多数登場してますねw(いーいしさんとか)
例大祭は、今年の11月開催のアレにかかってるんでしょうか。

アイナの武器や戦闘スタイルが気になります。

855名無し募集中。。。:2016/05/22(日) 12:29:13
ツカポンきたー!握手会にしれっとファンとして紛れ込むくらいスムーズに入ってきたなw

856名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:07:12
 
「ア、アイナ・・・なぜここへ・・・?」

ユカニャ王は侵入者が思いもよらぬ相手だったことに驚き、困惑していた。

「王に直接話しに来たんだよ。その方が早いからな」

かつて突然KYASTの前から姿を消したアイナ。
その一件は果実の国に大きな混乱と失望をもたらし、果実の国の発展が遅れる一因ともなった。
そのアイナが、今ここに再び戻ってきた。
数年ぶりに会うアイナのショートカットは長い金髪になり、
平民の出で両親の愛に乏しかったことを跳ね返すように品性を磨いていたはずの言葉遣いはまるで男のものになっている。

「アイナ・・・ずいぶんと粗野になったのね」

「フン・・・色々あったんでね」

こちらも見ずにそう言うアイナは以前とは違ったオーラをまとっているように感じる。
かつて日差しを浴びる元気なフルーツのようだったオーラは今やどこか禍々しい。

「単刀直入に言うぜ。王の力でオレをこの国の…」

アイナの言葉が終わる前にユカニャ王は叫んでいた。

「ムリだよ!いくら謝ったって、もうムリ!」
「あの時、国民のことを考えなかったの?KYAASTの支援者のこととか、部下たちのこととか、全然考えなかったの?」
「一言もなく突然消えて…大切な『原液』まで持ち出して…あれからの研究がどれだけ遅れたか!」
「この国に貴女の居場所はないから!すぐに出て行って!!」

ユカニャ王はアイナから目を離さずに言い切った。
アイナは脱走者であり、犯罪者。いくら実力があっても、もう一度この国に関わらせるわけにはいかなかった。
それは王として、今ここでいくら謝られても許すことはできなかった。

だが、アイナの意図は王が思ったものとは違っていた。

「フッ…ハハハ…アッハッハッハ!そうだな、確かに『ユカニャ王の下では』そうなるわな」
「謝る?冗談はよせよ。話は最後まで聞きな、王様。オレが言いたかったのはな」
「『王の力でオレをこの国の王にしろ』ってことだよ」

「な、なんですって!!??」

「言葉の通りさ。オレがこの国の王になる。あんたは王位を譲って降りるんだ」

857名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:08:17

ユカニャ王はこの突拍子もない言い分…つまり『脅迫』に再び驚き、恐怖した。
そのタヌキのような垂れ目は大きく見開かれたままだ。

「オレの軍団はもう蜂起の準備をしている。断ればあんたも含め、現体制に関わる者は全員殺す」
「昔のよしみだ。今、王位を譲るんなら誰の血も流さないことを約束してやる」
「どうだ?イエスかノー、シンプルな答えだぜ」

旧友は国を裏切っただけでなく、王を脅迫し王位の強奪まで図る侵略者だった。
不敵に笑うアイナ。その袖から覗くジャマダハルの切っ先はこれが本気であることを示していた。
アイナの実力はユカニャ王が一番よく知っている。

「こんなことをしてどうなるかわかっているの?いくら貴女でもKAST全員を相手にして勝てるとでも?」

ごくりと生唾を飲む音が聞こえてしまわないか注意しながら、ユカニャ王は恐怖を押し殺して精一杯のブラフを仕掛ける。
本来このようなことがあればKASTが許すはずはない。

「フッ…無駄な抵抗はやめろ、ユカニャ王。オレがなぜ『このタイミングで』来たと思う?」

・・・バレている。
アイナはKASTが不在なことを知っている。そしてモーニング帝国の防衛隊がまだ来ていないことも知っている!
いったいどこから漏れた情報なのか、だが今はそれどころではない。
この状況、絶体絶命だ。

「・・・嫌だと言ったら・・?」
「いま、ここで…殺すの、私を…?」

「それが返事か?」

アイナはユカニャ王を見ずにスッと立ち上がると袖をめくり、自慢のジャマダハルを晒す。
次の瞬間にはその刃はユカニャ王の首に触れていた。

858名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:09:23

冷たい、それはそれは冷たい感触がその黒めの肌に伝わってくる。
ジャマダハル…ユカニャ王はかつてアイナが最も尊敬する戦士の武器を模して作ったものだと話してくれたことを思い出した。
共闘していた頃には何度も助けられた刃が、今やその首を切り裂かんとしている。
ユカニャ王は目を閉じた。

「・・・・・・フン」


ふいに首筋に感じる抵抗が消えた。

「やはりこれではつまらん。考え直すチャンスをやる」
「明日の正午にもう一度来る。準備をしておけ」
「よーく考えろよ?こっちも王になったはいいが兵士が全滅してますじゃあ困るからなあ!」

捨て台詞を残してアイナは執務室の窓から風のように消えていた。
侵入の手口を見るに追っても無駄だろう。

ユカニャ王はガクリとへたり込んで大きく息をついた。

自らの命の危機は脱した。だが国は大きな危機に陥っている。
たった数分の出来事なれど、事態は大きく変わってしまった。

KASTもいない、モーニング帝国の援軍もないこの状況で、
国を守るため、侵略者・アイナ軍団と戦わねばならない。

果たして勝てるのだろうか?もし負けたら果実の国はどうなる?

震える手をギュッと握り締め、ユカニャ王は立ち上がる。

すぐに側近を呼んで指示を出す。

決戦まではもう24時間を切っていた。

859名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 13:52:07
軍団って例の大塚軍団かw
外伝だと味方の使える駒が限られてるからユカニャ王がどう巻き返すのか楽しみ

860 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/24(火) 01:18:32
ユカニャ王がアイナに向かって叫ぶシーンを見て、
武道館最終話でつるりんが愛子に怒鳴るシーンを思い出しましたw

861名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:19:31
正午。

アイナ軍団は城門に集っていた。兵士崩れや山賊崩れの荒くれ者たちが約1000人。
皆、血に飢えたような目をしている。

閉ざされた城門はアイナへの返答を意味していた。

「ま、こうでなきゃあ面白くねえからな。よし、てめえら、突っ込め!!」

大きな柱で強引に城門をこじ開け、アイナ軍団は城内へとなだれ込む。
果実の国攻略戦が始まった。

862名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:22:46

一時間ほど経っただろうか。
アイナ軍団はようやく城内の大規模アトリウムへとたどり着く。

そこにはユカニャ王を守るように、果実の国の精鋭ばかりが1000人、命知らずが2000人、待ち構えていた。

あえて城内に敵を誘い込み、狭い通路での落とし穴や射撃窓からの矢攻撃などのトラップの雨あられで、
可能な限り自軍の戦力を温存しつつ敵戦力を削ぐ。
そして最後はバックアタックやサイドアタックされない部屋内で隊列を組んで迎え撃つ。
これがユカニャ王の作戦だった。

おかげでアトリウムまで来れたアイナ軍団は800人程度しかおらず、皆一様に疲弊していた。

「ここまでは上出来…ここからが正念場ですね…!」

最後にアイナが姿を現すとアトリウム内の空気がピシッと張り詰めた。

「ユカニャめ、せこいマネしやがって…オレたち相手にこの人数で勝てると思ってんのか?」

「貴女たちのような侵略者に屈する果実の国ではありません!」

「いいぜ、どれだけ無意味なことしてるのか教えてやる!かかれ!!」
「国王、ユカニャ・アザート・コマテンテの名において命じます!全軍、侵略者を撃滅せよ!!」

「「オオオオオーーーーー!!!」」

ドカーンという衝撃音とともに、アイナ軍団と果実の国軍は激突した。


数で勝る果実の国軍だが、地力はアイナ軍団に軍配が上がる。
陣形を組んで戦うも、果実の国軍は少しずつ押され始めていく。
ユカニャ王が後方からエールを送ることで、軍は何とか耐えていた。

「みんな、何とか持ちこたえて!」
「あともう少し頑張れば、強力な援軍が来てくれます!」

「おいおい、いつまで頑張るつもりだ?帝国の援軍ならあと2日は来ねえぞ〜」

アイナはそう言って嘲笑う。
ユカニャ王はそれを唇を噛みしめて睨みつけた。

(みんな、私を信じて…信じて今は耐えるのです…)


(そして…お願い、一秒でも早く来てこの国を救って…『2人とも』!)

863名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 06:20:02
そうか!あの『二人』かいたね!!ユカニャ王やローズクォーツとの関係を考えるとピッタリな助っ人だわ

864名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:18:18

このままでは守りきれない。
ユカニャ王の言葉を信じて戦う果実の国軍だったが、
敵と直に刀を交え、一人また一人と倒れていく味方を見る度に、兵士たちの心は少しずつ弱気に傾いていく。

「ハハッ!どうしたどうした果実の国よぉ?てめーらの兵士はもう残り半分だぞ?」

最後方で腕を組んでニヤニヤと戦況を見つめるアイナ。

兵士たちの心の炎が消えかかる。
悔しいがこのまま押し切られてしまうのか。
この平和な国がこのような邪悪な侵略者に…

その時、突然アイナは何かを感じて顔を上げる。

「!?」


アトリウムの天窓がバリンと割れ、二つの影が舞い降りる。

「ぐえっ」「ぐはぁっ」

落ちてくる影はクルクルと回転したかと思うと落下の勢いそのままにアイナ軍団を蹴り倒し、
反動で再びクルクルと回って綺麗に着地した。

「き、来た!!」

苦境に心底困り顔だったユカニャ王の顔は一気に光を取り戻す。
来た。来てくれた。ついに来てくれたのだ。

「な、なんだてめえらは!?」

突然の乱入者にアイナ軍団はひどく混乱している。

「おまたせ、ユカ!」
「ごめんねぇ、遅くなっちゃった〜」

865名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:22:55
二つの影は二人の乙女だった。
ユカニャ王をユカなどと馴れ馴れしく呼ぶこの二人はいったい何者なのか。

「も〜、この子が途中で道を間違えちゃうからさぁ〜」
「あわわわ、それは誰にもナイショって言ったじゃん〜」

一人は茶髪のショートボブで全身黒の衣装を身に着けている。
もう一人は黒髪のロングヘアーの毛先をゆるく巻いて、対照的な全身真っ白の衣装。
まるでこの世界の幼女たちが大好きなおとぎ話に出てくる伝説の戦士のようだ。

「来る途中に兵隊さんに聞いたし事情はわかったよ。あとは任せて」
「待たせちゃった分はここから取り返すから!」

「二人とも…よく来てくれたね、ありがとう、ありがとう…」

最大のピンチに助けに来てくれた親友たち。
二人を見つめるユカニャ王の目から涙がこぼれる。

乱入者に驚いたのは敵だけではない。
果実の国軍兵たちもこの二人にびっくりして動きが止まってしまっている。

「あら、完全アウェーだね、この状況?」
「それじゃあいつもの、いこう!」

二人は並んでスッと前に出ると、この戦場全体に対して大見得を切った。

「ガレリア所属!天空を満たす静かなる月輪!モエミー・レルヒ・マーキュリー!」
「同じくガレリア所属!大地を照らす燃え立つ日輪!アサヒ・シオン!」

「果実の国を狙う悪党ども!」
「この輝きを恐れぬなら、かかってきなさい!」

866名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:27:31
名乗り終わるとともに一分の隙もない構えを取る二人。
二人の纏う闘気が只者でないことはこの場にいる全員が感じていた。
ユカニャ王が頼りにしていた強力な援軍がこの二人であることは疑いようがなかった。

気圧されるアイナ軍団の何人かが、ここまできてようやく気付く。

「ガレリアのモエミー?アサヒ?…ま、まさか!?」
「通った後には何も残らないって話の、ガレリア1のダーティペア、あのビ、ビ、ビ??」
「ビター・スウィート!?」

「ちょっとちょっとぉ!ひどいこと言わないでよね、失礼しちゃう」
「そうだよぉ、私たちは任務を確実にこなしてるだけなんだから」

『ガレリア』とは、某財団が設立したこの大陸最大のミュージアムである。
どこの国からも独立を保ち、この世界全ての歴史的文化的遺産を保管することを使命としている。

モエミーとアサヒはそのガレリア所属のエージェント。
世界を股に掛け、秘宝を探し保護したり、盗掘者や悪質な美術品シンジケートを叩き潰すのが仕事だ。
だが真面目で正義感に溢れるこの二人は、特にその秀でた武力でやりすぎてしまうことも少なくない。
だから盗賊や密輸などの裏世界にいた者にはこの二人の悪名は轟いているのである。

美人の見た目だけで『甘く』見てかかり、結果、死ぬほどキツイ『苦い』思いをさせられる。
転じて『ビター・スウィート』というのが彼女たちの通り名なのだ。

「チッ…厄介な連中が来てくれたな。だが構うな、数で押し潰せ!!」

引き気味の軍団だったがアイナが一喝するとすぐに正気を取り戻して襲い掛かってくる。
国盗りをするのに輝きを恐れてはいられない。

「じゃあ私は右ね、アサヒちゃん」
「左行くね、モエミーちゃん」

向かってくる数百の大群相手に2人が左右に別れると、あっという間に敵が吹っ飛ばされ始める。
アウトロー組織に乗り込んで壊滅させるのが仕事の2人には数の暴力などお手の物。
使いこなす強力な武器に悲鳴が上がる。

「な、なんだあっちは…どうやったらあんなに色々な倒し方ができるんだ…?」
「こ、こっちは…なんだ?何が起きてるのかわかんねえぞ??」

果実の国軍の逆襲が始まった。

867名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 06:36:42
B&S予想あったったー…けど予想の斜め前いく設定wまさかプリキュアとダーティーペアぶっこんでくるとはww
確かに『萌』『あさひ』で月と太陽ピッタリ

868 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/26(木) 13:22:18
ビタスイ!
大塚さんもそうですが、絶妙に本編に出てこない人たちが多数登場しますね。
このまま果実の国軍優勢で終わるのか、それとも……

869名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 14:13:10
本編作者さん、いつもレス下さる方も本当にありがとうございます

870名無し募集中。。。:2016/05/27(金) 23:55:34
続きはまだかな〜気長に待ってますけどね

871名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:43:32

「ガレリアから来たなら昨日からたった一日で間に合うはずがない…」
「ユカニャめ、事前に手を回していやがったな…」

アイナはユカニャ王にしてやられたことに歯噛みした。
その通り、あざといユカニャ王はモーニング帝国からの援軍がKASTの出立に間に合わないと知り、
国防手段として2人を呼び寄せる手をアイナが宣戦布告に来訪する前から打っていたのだ。
ユカニャ王が待っていたのは始めからビター・スウィートだったのである。

もちろん通常ならこのような手続きには時間がかかるし、
何より独立を保つガレリアがそう簡単にエージェントを貸し出すはずもない。
そこを乗り越えて最短で助けに来たのは、ユカニャ王と2人が旧知の仲であったからに他ならない。

ユカニャ、モエミー、アサヒの3人はかつて大志を抱いてそれぞれ上京してきた新人同士だった。
モエミーとユカニャは隣国の出身で出生年月日が同じという縁があったり、ユカニャとアサヒは当時は雰囲気が似ていてよく間違われたものだ。
「森の泡戸」という冒険者ギルドで出会った3人はすぐに仲良くなり、
共に訓練したり、いつか大国に仕官して出世することを夢見て毎晩語らった同期であったのだ。

別の道に進んではいるが、当時の絆は今も変わっていない。
それにアサヒはKASTのトモ・フェアリークォーツの数少ない友人の一人でもある。
2人は果実の国のためならば、と全てを差し置いて駆けつけて来たのだ。

872名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:48:26

「Don't stop me now!私を止めてみな!」

モエミーが振り回す長柄の武器の前に、被害者たちが見る見るうちに積み上げられていく。
先端に付いた鋭い刃で矛のように斬り、槍のように突き、
両側に左右対称に付く「月牙」と呼ばれる三日月状の刃で斧のように叩き、大鎌のように薙ぎ、引っ掛けて投げ、足を払う。

これがモエミーが「九印」と名付けて愛用する武器、『方天戟(ほうてんげき)』である。
元々は別の大陸のもので、かつてモーニング帝国に来た大陸剣士が持参した物の一つと言われている。

複数の用法があってオールマイティーに戦えるが、それ故に常人にはその性能を完全には活かしきれぬ武器。
モエミーは敵の戦闘スタイルや弱点に合わせて、その全ての用法を使いこなす。
斬られ、突かれ、潰され、投げられ地に伏す敗者たちを見て、果実の国軍兵が驚くのも無理はなかった。


「火傷しても知らないから!その心の闇、私の光で照らしてみせる!」

こちらの果実の国軍兵も目を丸くした。
道に迷ったとか言う話だし、どちらかというと大人しく地味に見えるアサヒ。その手は空、剣や槍は持っていない。
だがアサヒに飛び掛っていくアイナ軍団はどういうわけか一瞬で体勢を崩し、床に叩きつけられたり、投げ飛ばされている。
そうかと思えば離れた敵は間合いを詰められ、拳や足刀を叩き込まれて一瞬で倒される。
これらはアサヒが使用する異国の格闘技「合気道」と「空手道」によるもの。そう、こう見えてアサヒは武術家なのだ。

この世界にいる徒手空拳で戦う戦士たちは、その多くが力に任せたファイトスタイル。
だがアサヒの武術は相手の力を利用したり、どうしたら効率的に倒せるかを極限まで突き詰めたもの。
荒々しいはずの徒手空拳でありながら、洗練された動きで的確に急所を突き、相手を倒すアサヒは珍しく映るのだ。

本来は徒手空拳相手に武器を使えば絶対的に有利なはず。
だが敵が振るう剣や槍はアサヒの両腕に備わった、肘まである金属製の白い籠手のようなもので防がれ、流される。
「特殊手甲・桜花」。自身の拳への負担も減らしつつ敵への攻撃力も高める、アサヒの防具であり武器だ。
オープンフィンガーのこの手甲のおかげで、アサヒは敵の武器を気にせず「打」「投」「極」の全てを相手に仕掛けられるのである。

873名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:50:40

「ひ、ひぃぃ…」「く、くそっ…」

気付けば敵全員が距離を取って逃げ腰になっていた。
アイナ軍団でまだ立っている者はもう300人にも満たない。形勢は逆転である。
妙な槍に近付けば訳もわからず切り伏せられ、徒手空拳には武器が全く役に立たずに殴られ投げられる。
まさにビター・スウィート。たった2人相手に、屈強な賊たちは完全に震え上がっていた。

尚も敵を睨みつけ、最後まで止める気配のないモエミーとアサヒ。
ユカニャ王と果実の国軍兵たちは勝ちムードを感じ始めていた。

「いける、いけるぞ…!」「これなら…!」


だが荒くれ者たちを率い、一国を獲ろうとするアイナがそう甘いはずがなかった。

「しょうがねえな…お前ら、アレを使え」

指示を聞いた残存アイナ軍団たちは、一斉に懐からアンプルを取り出し、ビキッと割って橙色の液体を飲み干す。

その光景を見たユカニャ王の表情が一気に強張った。

「…いけない!あれは『オレンジジュース』!!」

874名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:38:03

「これは!?」「どういうこと!?」

モエミーとアサヒは驚愕した。
さっきまで腰の引けていたアイナ軍団たちからおびただしい量の殺気が発せられていたからである。

「ククク…きたきたきたぁ…」「こっからはオレらのターンだぜぇ…」

血走った目でこちらを睨み返してくるアイナ軍団。一歩、また一歩と2人への距離を縮め出す。
ユカニャ王は必死に叫んだ。

「モエミー!アサヒちゃん!今のその人たちは危険すぎる!!」

875名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:40:18

ユカニャ王が開発した、人間の潜在能力を引き起こす不思議なジュース。

現存するジュースは、リンゴ、レモン、グレープ、メロン、そしてピーチの5種類。

だがそれらを開発するにあたって、ユカニャ王が最初に作り上げたプロトタイプのジュースがあった。
つまり全てのジュースの原点、それが「オレンジ」である。

オレンジは画期的だった。
動物実験の段階でも各能力を飛躍的に増大させ、果実の国の未来を担うものと期待された。

しかしオレンジは絶大なる力をもたらすものの、当然ながら身体への負担が大きすぎた。
そこでユカニャ王は総合的な能力アップよりも、負担を減らし各能力に特化させることへと運用方法を変更する。
オレンジの複合的な能力を5つに分散することにしたのである。
それが今の5種類のジュースなのだ。

そしてそこに至るまでの検証において、自ら治験に志願した者がいた。
それがKYAASTだったアイナ・ツカポン・アグリーメントだ。

アイナもかつては合同育成プログラムで優秀な成績を残した者の一人。
当時はカリン、サユキと並ぶKYAASTのもう一人のA(エース)。戦場での活躍はめざましいものがあった。

だがアイナは更なる力を求めた。国を、皆を守れるもっと強い力を得てもっと強い自分になる。
そのために躊躇するユカニャを押し切って、少々危険なオレンジを飲んだ。
もちろん戦績は連戦連勝。彼女のおかげで果実の国は独立を勝ち取ることができたといっても過言ではない。
全てがうまくいっているように見えた。

しかしあの日、アイナは突然姿を消した。
同時にオレンジの原液も保管庫から消えていた。

876名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:42:45


あれから数年。
ユカニャ王はこんな形でオレンジと再会することになるとは思いもしなかった。

「くっ!いったい何が…?」「つ、強くなった…!?」

一方的にやられるだけだったアイナ軍団は今やビター・スウィート相手に十分渡り合っている。
当然だ、軍団全員がオレンジの爆発的な効果を享受しているのだから。
一太刀、また一太刀と徐々に攻撃を受け出す2人。こうなれば戦力差は目に見えている。

形勢は再逆転した。

かつて果実の国を救ったオレンジは、今や最悪な災厄の劇薬となって果実の国に帰ってきたのである。

877名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 21:05:22
本作を上手く掘り下げてるなぁ〜次も楽しみに待ってるとゆいたいです

878名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 22:12:35
オレンジジュース…別名つかポンジュースw本編の設定を受け継ぎつつも独自の発想盛り込んでくるの上手いなぁ

879 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/30(月) 08:54:21
「森の泡戸」ってなんだろうと思いましたが
フォレストアワードだったんですねw

880名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:41:51

「な、なんなんだこいつらは!」「うわああーーーーー!!」

あちこちから果実の国軍兵の悲鳴が上がる。
剣は避けられ矢も当たらず、斬っても斬っても立ち向かってくる超人と化したアイナ軍団。
集中力と動体視力が増大し、恐怖心も重力さえも感じない、リミッターの外れた荒くれ者たちに適うはずがない。
あっという間に果実の国軍の数は減り、後は100人程度がユカニャ王を必死で護衛するのみになってしまった。
このまま壊滅してユカニャ王の首が獲られてしまうのも時間の問題だ。

だがビター・スウィートもこの状況を黙って見過ごすつもりはない。

「モエミーちゃん、こっちもアレをやるしかないね」
「しょうがない…またダーティペアって言われちゃうけど、背に腹は代えられない!」

2人は構えを解いて印を結び、目を閉じる。
周りの空気が大きく対流していく。
ガレリアで異文化の高僧より教えを受けた「月と太陽の呼吸法」。
朝日と月光をイメージしながら行う呼吸法で、腹部の丹田を意識して呼吸をすることにより、
身体・細胞のすべてに太陽と月のエネルギーが満ちていく。
呼吸は深くなり、脳内にα波が発生し、2人の秘められた力が解放されていくのだ。

カッと目を見開いたとき、2人の表情は別人のように変わる。

燃える太陽の暗示を持つアサヒは激情を伴って瞳に炎を宿し、
静かなる月の暗示を持つモエミーの目は据わり瞳に狂気が宿る。

リミッターの外れた連中に遠慮はしていられない。
全力の本気で一度で意識を断つのだ。

「いくよ、まずはドラゴン」

モエミーがそうつぶやくと、一瞬にして九印でアイナ軍団たちの肩を貫く。
血飛沫が間欠泉のように大きく、高く噴出する。激しく燃え盛る火花のようでもある。
敵はあっという間にバタバタと倒れていく。

「続いてナイアガラ」

今度は大きく振りかぶって、並んだアイナ軍団たちの上半身を横一列に薙ぎ払う。
噴き出した血がまるで横長の滝のように噴き出した。

「そしてスターマイン」

九印の切っ先にフックされた敵が上空へと投げ上げられる。
モエミーは高速で移動しながら槍を捌いて敵を逃がさない。
それは次々と放り上げられ、空中で激突していく。
アトリウムにドカンドカンと轟音が鳴り響く。

モエミーの必殺技「大花火」。
人間を使った、あまりに衝撃的なショーである。
これはモエミーが誇りとする、自らの出身地の祭典になぞらえたものだ。

西方では満月は狂気を増大させると言い伝えられている。
このような衝撃的な仕打ちをモエミーが表情一つ変えずに行うのは、彼女が月の力を持つからに他ならない。
アトリウムに血の雨が降る。

「怯まないか…なら続けるしかない」

大花火は多勢向けの技であり、恐怖心で敵を圧倒する意味合いも大きいのだが、オレンジを飲んで恐怖心のないアイナ軍団にそれは通用しない。
いかに非情な技であろうとも、向かってくる限りはモエミーは人間花火を打ち上げ続ける。

881名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:43:14

「はぁぁぁ〜〜〜〜…!」

一方のアサヒは大軍を前にして、両手の指をしっかり畳んでギュッと拳を固め、力を溜める。
すると白かった手甲の桜花が見る見るうちに赤くなっていき、まさに桜色に染まる。

「たあっ!」

そして向かってきた最初の敵の腹に溜めた正拳突きを叩き込む。
するとどうだ、爆発音とともに敵は十数メートルも吹っ飛んでしまった。
鎧は破壊され、何人か巻き込まれた者も同様に意識を飛ばされている。

「なンだそれは…?」

先程までとは桁違いの威力になった正拳に足が止まるアイナ軍団。
でもそれがまた命取りになる。

「隙あり!」

またもや爆発音とともに数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
明らかに異常な攻撃力である。
近接単体攻撃だけだったアサヒが複数を巻き込めるようになったのだ。

これはアサヒの桜花がガレリア秘蔵のオーパーツ金属を使った手甲であることの表れである。
桜花はアサヒの燃え上がる太陽エネルギーを吸収し、拳で解放するという機能を持つ。
これにより、太陽の力を使ったアサヒの正拳は、それだけで大砲一撃分とも言われる衝撃を放つことができる。
アサヒの両手が真っ赤に燃えて、敵を倒せと轟き叫ぶのだ。


力を解放して多人数攻撃を仕掛けるビター・スウィート。
だがオレンジを飲んで異常な力を得たアイナ軍団との戦闘をいつまでも続けるわけにはいかない。

「モエミーちゃん、残りをお願い!私がヤツを引き受ける!」

そう叫ぶとアサヒは眼前の敵を一気に飛び越し、奥のアイナへとダッシュする。
多人数戦にはリーチも長く攻撃範囲が広いモエミーが有利なのは事実。
よって疲労してしまう前に、単体戦向きの自分が首魁を仕留めようというのがアサヒの考えであった。

「おっと…もうオレと1対1をやろうってのか?」

腕組みしながら嘲笑う金髪のアイナ。ゆっくりとジャマダハルを装着する。

邪魔する軍団員を吹き飛ばし、スルリスルリと駆け抜け、ついにアイナの元へと到達したアサヒ。
ダッシュの勢いのまま飛び上がり、全てに決着をつけんと拳を振り上げる。

「痛いよ!覚悟しなさい!」
「フン!やってみろ!」

ガキィンという金属音と共に、両雄の剣と拳が交わった。

・・・かに見えた。

「・・・・っ!」

膝をついて悔しそうに胸を押さえるアサヒ。その手の隙間から流血が見える。
しかし一方のアイナのジャマダハルには血は付いていなかった。

アイナとアサヒの数メートル先に、5本の爪に付いた血を眺める異民族の女がひとり。
彼女が一瞬で飛び込んで、アサヒの薄い胸を切り裂いたのである。

「おう、外の掃除は終わったのか?カ・カよ」

アイナ軍団の隠し玉。
辺境の地から来た異民族の戦士。
野趣溢れる顔立ちのその女は、カ・カといった。

882名無し募集中。。。:2016/06/01(水) 00:43:43
長岡花火wそしてまさかのカ・カww茂木だっけ?ふーちゃんは無事アイナ軍団から逃れられたのか

883 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/01(水) 23:10:24
茂木が出る予感はしてましたw
桜に月に、ビタスイ楽曲(田﨑名義含む)の歌詞がよく登場しますね。

884名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:12:09

「アサヒちゃん!大丈夫!?」

モエミーが方天戟で敵を斬り上げながら声をかける。

「大丈夫…まだ…やれる!」

アサヒは立ち上がると胸の痛みを堪えながら構えを取った。

そんなアサヒを横目で見ながらアイナはユカニャ王に残念なお知らせを伝える。

「おい、外に隠してた残りの兵はみんなこいつが片付けてくれたそうだぜ」
「当てが外れて悪かったなユカニャ!ハッハッハッハ」

ユカニャ王は下唇を噛んだ。
アトリウムで迎え撃ちつつ、後半戦で隠していた兵を投入して奇襲を仕掛ける予定を見抜かれ、阻止されてしまったのだ。
カ・カを既に外に放っていたことからして、ビター・スウィート乱入以外のユカニャ王の作戦は読まれていたのだろう。
悔しいがアイナの方が一枚上手だった。

王の作戦が阻止されたのならば、後はモエミーとアサヒに全てが託されていることになる。
アサヒは自分を急襲したこのカ・カと呼ばれた女を必ず倒さねばならないと理解した。

構えを取って対峙すると、アサヒはカ・カを観察する。
先程の両手の爪は鋭く発達していてまるで獣のよう。
さっき使わなかったことから武器は持っていない、これはスピードや身体能力で肉弾戦を挑むタイプと見た。
つまりは自分と似たタイプ。
ならば尚のこと自分が倒すべき相手だ。そして最短で倒す道は見えた。

既にオレンジを飲んだ軍団兵にやられたりカ・カにやられた傷で、白い服も桜色に染まり出しているアサヒ。
一方、両の爪をこちらに向けて威嚇してくるカ・カ。
お互いにジリジリと少しずつ間合いを詰めていく。

床の土煙がパッと上がって、飛び出した2人の間でバシバシと激しい連打の攻防が展開された。
アサヒの的確な急所への拳撃を、カ・カも同様の攻撃で相殺する。
カ・カの攻撃は系統立っていないナチュラルなものであったが、それゆえに軌道が読みにくく、次第にアサヒも防御に回っていく。
そしてカ・カは自分が優勢と見るや更に手数を増やして連撃を加えてくる。
アサヒの腕や腹が少しずつカ・カの爪によってダメージを受けていく。このまま押し切られてしまいそうだ。

885名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:15:31

だがアサヒはあきらめていなかった。防御の型・「蕾」で自らの急所はガッチリと守りつつ、ある一瞬を狙っている。
上段への攻撃を蕾で逸らしたアサヒはついにカ・カの右手を取った。

「!!??」

アサヒはそのままカ・カの後ろに回り込み、その回転を利用して手首を反し、取った手を振り下ろして後ろに引き倒す。
合気道の片手取り四方投げである。急に後方に身体を倒されるこの技に対応するのは困難。
もちろん、異民族でそのような「技術」を知らないカ・カには効果覿面だった。
驚き、訳もわからず受身も取れずに後頭部を床に強打するカ・カ。
そこを逃さず、アサヒは顔面に向かって拳を打ち下ろした。

ドゴォ、という破壊音がアトリウムに響く。
見守る果実の国軍兵たちはカ・カの顔が潰れた音だと思った。

だが破壊されたのは床のブロックだけ。
カ・カはすんでのところで思い切り顔を背け、直撃を避けたのである。

「は、外した…?」

アサヒは驚いていた。これまで四方投げを初めて喰らって混乱しない人間など一人もいなかった。
しかも確実に後頭部を床に叩きつけたのに追い討ちの拳すらかわすなんて…。
先程カ・カの実力を見立てた時に、ここまでやれば対応もできず、拳の初撃でKOできると踏んでいた。
だが実際は仕留め切れず、特殊手甲・桜花による一撃必殺の爆圧の存在すら知られてしまった。

戸惑うアサヒを跳ね飛ばし、カ・カが飛び上がって起き上がり距離をとる。
後頭部を打ったダメージはあるようだが、アサヒの拳を警戒する目つきで睨みつける。

非常にやりにくくなってしまった。
アサヒは果たしてこのタフで獣人のようなカ・カをどう攻略したら良いのだろうか。

886名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:40:51
一瞬でも隙を見せるとカ・カは飛び上がって手刀で斬りつけてくる。
アサヒが辛くもかわすと後ろの壁に一筋の裂け目が入る。
お互いが一撃必殺、クリーンヒットした時点で勝負が決まるのだ。

こうなるとアサヒの狙いは一つしかなかった。
だがそれに向けての布石を打つのも、カ・カの止まぬ攻撃を避けながらでは並大抵なことではない。

上下左右から、袈裟懸けに爪で切り裂いてくるカ・カ。
桜花で防いだり受け流して正拳に繋げても、勢いのあるカ・カ相手に拳は空を切った。
前蹴りで間合いを広げつつ応戦するも有効打が出ない。

ナイフのように突いてくるカ・カの手を取って引っ張り、体勢を崩させる。
そこに顔面へ向けて渾身の手刀を振り入れる。
だがそれでもカ・カは後ろに仰け反って避けてしまう。
空振ったアサヒにはわき腹に貫手を入れられ、足を払われて倒される。
次の瞬間、カ・カの鋭い爪は寝た状態のアサヒの顔をかすめて床に穴を開けた。
すぐに転身して脱するアサヒ。頬から一筋の血が流れ落ちる。

ダッシュで間合いを詰めて攻撃を再開するカ・カ。
無言で静かに、だが激しく攻めてくる。まさに殺し屋といったところか。
前進しながら連撃を止めないカ・カ。受けながら下がりつつ機会を伺うアサヒ。

その時、振り下ろす爪の向こうでカ・カの口元が一瞬ニヤリと歪んだ。

「(何か来る!?)」

アサヒは前面からの攻撃への防御に意識を集中させる。
だが読みは合っていたが対策は外れていた。

「1対1とは言ってないよなあ?」

後ろからの声。
一筋の光と共に肉が切られる音がした。

「ッ・・・しまった・・・」

背中を大きく斬り裂かれ、膝から崩れるアサヒ。
背後でアイナのジャマダハルが血にまみれて嗤っていた。

カ・カは単にゴリ押し攻撃をしていたのではない。
気付かれぬようにアイナと挟み撃ちにできる位置へと誘導していたのだ。

アサヒを見下ろすカ・カとアイナ。
2人は仲良く右手を振り上げた。後は打ち下ろして終わりだ。
アイナのジャマダハルがキラリと光る。

「させるかぁーーーーー!!!!」

叫びと同時に方天戟が振り下ろされ、辺りの床ブロックが粉々に砕け散る。
アイナとカ・カは反射的に左右へと飛び退いた。
ようやく最後のアイナ軍団兵を打ち倒したモエミーが割って入ってきたのだ。

「アサヒちゃん!?」
「う、うん、、ごめん、ちょっとやられちゃったみたい・・・」
「こっちこそごめん!あいつらに手間取っちゃったから…」

即座にアサヒを守るように立ちはだかるモエミーの後ろで、よろよろとアサヒは立ち上がった。

「まだ立てるの・・・?」
「ふふ…モエミーちゃんを不利にはさせないよ・・・」
「アサヒちゃん…」
「モエミーちゃん、お願いがあるの」

887名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:41:39

「フン…あいつらめ、オレンジ飲んだならもうちょい粘れるかと思ったのによ」

アイナはジャマダハルを撫でながら吐き捨てた。

「これで2対2、ようやくオレの出番ってワケだ。さっさとやろうぜぇ!」

言い終わらぬうちに飛び掛ってくるカ・カとアイナを、前に出たモエミーが九印を高速回転させて弾き飛ばす。
そしてすぐに離れたアイナに向かって突進しつつ刃を高速で突きまくる。

「おっ、おっ?オレとやろうってか?」

アイナも受けて立ち、飛び下がりつつキンキンと金属音を鳴り響かせながら刺突を捌く。

「ほぅ、なかなか鋭い攻撃だな!だがこれじゃあお前の負けだぜ?」
「えっ?」

アイナの言葉に反応したモエミー。その後ろで大きな影が飛んだ。

「やれ、カ・カ!」
「!!!!」

またもこの2人による挟み撃ちだった。
2対2なのだから、モエミーがアイナを攻めるならカ・カはアサヒに向かうと思っていた。
しかしそれは勝手な思い込みで、完全なミス。
重傷のアサヒなど後でゆっくり相手しても遅くはない。ならば動けるモエミーを先に潰すのは自明の理。
モエミーが乱入した時点でアイナとカ・カは考えを合わせていたのだ。


2対1ではモエミーに勝ち目はない。
上空から両爪で切り裂かんと迫るカ・カ。
背後の上空から、しかも予想外の攻撃なら普通は反応できるはずがない。

だが、モエミーは九印をひらりと翻すと上空のカ・カに向かって突き上げた。

「!?」

空中への予想外の反撃に、慌てて切っ先をかわすだけになるカ・カ。
しかしモエミーが相手ならそれだけでは済まない。
切っ先を回転させて、横の月牙をカ・カに引っ掛ける。

「てぇぇぇーーーーい!」

長柄をぐるりと回し、カ・カの勢いを利用して逆に上空に放り投げ返す。
方天戟ならではの反撃だった。

「なんだと!?」

一連の行為があまりにも流れるように行われたことにアイナは驚いた。
なぜここまでモエミーは綺麗に反撃できたのか。
それはカ・カのバックアタックがモエミーの罠だったからである。
カ・カは「仕掛けさせられた」のだ。

888名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:42:35

この2人がアサヒより自分を優先してくることはモエミーにもわかっていた。
だからあえてアイナに攻撃を集中させて距離を取ることで背後に隙を作り、カ・カを飛びかからせたのである。
だが、突くことができたのになぜ斬らずに放り投げたのか。

それは「時間稼ぎ」だった。

上空に飛ばされたカ・カは懸命にバランスを取り、着地に備えようとしていた。
しかし放り投げられた先で、既に攻撃対象から外していたアサヒの姿が目に入る。

アサヒは腰を落とし、両肘を横腹につけて何か力を溜めている。
アサヒの周りの空間が、まるでプロミネンスのように激しいオーラで歪んでいるように見えた。

この時、初めてカ・カは自らの窮地を自覚した。
アサヒと自分の着地点には5mほど距離がある。近接攻撃のアサヒでは射程範囲外だ。
だが、アサヒはあの傷で何か大それたことを間違いなく企んでいる…。
そして空中にいる限り自分は避けることはできないし受身も取れない。
寒気がゾワッと全身を走った。

強敵、カ・カを倒すにはもうこれしかなかった。
この技は発動前に体内の気を練りに練って極限まで洗練しなければならないため、時間が必要なのである。
それは鍛錬を積んだアサヒには数秒に過ぎなかったが、殺し屋カ・カにはその数秒が命取り。
何とか自分でその隙を作ろうとしたがその前にやられてしまい、後は発動させるのが精一杯。
だからアサヒは代わりにモエミーにその数秒の時間を作ってくれるように頼んだのだ。

「アサヒちゃん、決めて!!」

モエミーはアサヒを信じて、その時間を作った。
アサヒはモエミーの信頼に応える。

カ・カは焦った。
早く、コンマ数秒でも早く、技の発動より早く着地できれば回避できる。
懸命に足を伸ばし、大地を求める。
早く、早く。

アサヒは落ち行くカ・カから目を離さず、左拳を前に突き出し、右拳を思い切り後ろに引き絞る。
そして最大級の気合を発し、右の正拳を打ち出した。


光。
大きな爆発。
それはまさに太陽フレア。


一瞬でカ・カは壁に激突し、大きくめり込んで動かなくなっていた。


自らの太陽エネルギーを最大限に高めて爆発させ、拳気にして放つ。
それは錬気なれば、目には見えず、離れた相手でも打ち砕く。
そこに在るのに見えない、雨夜の月。

アサヒの最終奥義『神手』が、見事に炸裂した。


「やったよ・・・ありがとう、モエミーちゃん・・・」

アサヒは力尽き、ばたりと倒れた。

889名無し募集中。。。:2016/06/05(日) 11:18:23
凄いバトルだ…読んでて鳥肌たった…

890名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:13:03

「・・・チッ」

カ・カが倒され、アイナ軍団も後は頭領のアイナひとりとなった。
ついに1対1、最後の闘いだ。

モエミーはアイナに対峙しながらアサヒの状況を伺う。
倒れたアサヒにはユカニャ王と残りの護衛がすぐに介抱にあたっていて、何とか大丈夫そうだ。

アイナは背後の倒れた自軍兵の山を見て、改めてモエミーに目をやる。
さすがのモエミーも、あれだけの数のオレンジ使用者を相手にした後では満身創痍。
至る所から出血があり、肩で大きく息をしている。
アイナは無傷の自分が負けるはずがないと思っていたが、念を入れることにする。

だがその懐に手を入れようとするのをモエミーは許さなかった。
あっという間に間合いを詰めた九印の刃がアイナの手に伸びる。

「させないっ!」
「おっと!?」

モエミーにはバレていた。アイナの懐には自分用のオレンジがあったのだ。
モエミーも今まで散々苦労させられたあの液体を今アイナに使われたらまずいと分かっている。
それだけは阻止しながら倒さなくてはならない。

突き、薙ぎ、叩く。モエミーは大きく器用に九印を振り回して、休まずアイナを攻める。
アイナはなかなかオレンジを手にできない。
足を薙ぐように九印を振り、ジャンプでかわしたところを斧のように上段から叩き切る。
アイナはたまらずジャマダハルでガードし、膝をつく。

すぐにモエミーは九印を引き、回転してアイナの顔に斬りつける。
アイナは前転でかわすがモエミーは逃がさず柄の部分を殴り当てた。

「くッ・・・」

怯んだアイナにモエミーの刺突連打が襲い掛かる。
だがアイナも伊達にKYAASTだったわけではない。

「懐に入ればオレの勝ちだろ?」

アイナの戦闘スタイルもカ・カ同様、いや尊敬する戦士と同様に、俊敏に立ち回り接近戦を手数で圧倒するタイプ。
突きをジャマダハルでずらしてダッキング、スッとモエミーの目の前に躍り出た。
こうなると方天戟のリーチがデメリットとなる。隙だらけのモエミーがそこにいた。

「終わりだッ!」
「そうはいかない!」
「なにっ!?」

確実に喉を突き刺したはずのジャマダハルが金属音と共に弾かれる。
アイナが目にしたのは柄の短い手槍を持つモエミーだった。
そのまま上段中段下段とコンビネーションで斬りつけてくる。
突然のモエミーの近接対応に不意を突かれたアイナはガード一辺倒。
何とかモエミーの一撃を強く叩いて飛び下がって距離を取る。

が、モエミーはそれも許さない。
下がるアイナめがけてぶんっとその手槍を振る。
すると当たらない距離に飛んだはずのアイナの太ももがズバッと血を噴いた。

「ぐうぅっ…なんだ…?」

アイナの足を斬ったのは、リーチの長い方天戟・九印だ。
なぜモエミーが2つの槍を使っているのか?

891名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:14:10

だがこれは簡単なことだった。
九印の柄には伸縮自在のスイッチが付いているのだ。
モエミーはこれで近接戦闘の際には柄を短くして手槍として使い、対応するのである。

「チッ、小賢しい真似をしやがって!」

再びリーチを取ったモエミーはさらにアイナを攻め立てる。
攻勢のモエミーにアイナは少しずつ圧され、生傷が増え始めていた。

アサヒの介抱は衛生兵に任せ、戦況を固唾を呑んで見守るユカニャ王。
ここまではモエミーがリードしている。
まだ安心はできないが少しずつまた勝ちの目が出てきた、そう感じ始めていた矢先。
ユカニャ王の視界の端を何者かが横切る。

「…え!? モエミー、危ない!!」

だがその声は遅かった。
モエミーの九印がアイナのガードを弾き、ついにその胸に刺さろうかというその瞬間。
ひとりの人物が間に飛んで入った。
九印はその人物に突き刺さり、動きが止まる。

「!!?? なんで・・・はッ!!??」

それはもう動けないはずのカ・カだった。
カ・カが最後の力を振り絞り、身を挺してアイナを守ったのだ。

だがこのカ・カの働きは単にアイナへの直撃を防いだだけではなかった。
これが今回のカ・カ最大のファインプレー。

「ありがとうよ、カ・カ…おかげでちゃんと『飲めた』ぜ」

カ・カの身体がずるりと崩れ落ちる。
モエミーの顔が凍りつく。

そこには空になったオレンジのアンプルを持ったアイナがいた。

892名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 20:27:51

「あ・・・あぁ・・・そんな・・・」

オレンジを飲んだアイナの強さをユカニャ王が知らぬはずがない。
またもや形勢は逆転してしまった。

「ぐはぁっ!」

反応もできずにモエミーの胸から血が噴出した。
今のアイナのジャマダハルより速く動ける者はこの場には存在しない。
モエミーの胸のサイズはアサヒより上ではあるが、ジャマダハルの斬撃をまともにくらえばひとたまりもないのだ。

「ぐ・・・がはぁっ・・・」
「モエミー!」

膝をつくモエミーの口から血がこぼれる。
ユカニャ王は震えながらも懸命に見守ることしかできない。

「フン・・・頑張ってくれたが、ここまでだな!」

モエミーの周囲にアイナの残像がババッと表れて消えると、更にモエミーの体中から鮮血が飛び散った。

「・・・くッ・・」

ここまでオレンジを飲んだ大軍を相手に立ち回って全滅させただけでも驚異的な粘りだというのに、
攻勢から一転、逆襲を受けたモエミーの体力も精神力も限界だった。

ここで自分が倒れたらユカニャ王の命が、果実の国が奪われてしまう。
しかし必死に意識を繋ぎ止めても、ボロボロの身体で振る方天戟には、威力も怖さも、もうない。
アイナはやれやれ、と言った表情で方天戟を受け止めると大きく遠くへ蹴り飛ばす。

「ここで見てな・・・果実の国の王位継承をな!」

そう言い放つとアイナは素早くモエミーの背後に回り、強烈な肘打ちを落とす。
モエミーは床面に叩きつけられ、もう立ち上がることはできなかった。

893 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/06(月) 22:54:39
緊迫したシーンなのにアサヒより上という一文が気になってしまう……

894名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:52:07

希望は潰えた。
絶望へのカウントダウンが始まる。

震えるユカニャ王に向かって一歩、また一歩と金髪のアイナが近付いてくる。

「う、うわああああああああああ!!!」

最後の護衛兵などアイナの敵ではなかった。ましてやオレンジを飲んでいるのだ。
為す術もなく斬られ倒れていく護衛たち。
ユカニャ王を守る最後の壁はあっという間に消えていった。

するとアイナの前に出る影がひとつ。
ひとりの護衛兵がブルブル震えながらアイナに話しかける。

「アイナ様・・・私のことをお忘れですか・・・?」
「新兵の頃より貴女に従い、貴女に育てて頂いた者です・・!」

それはアイナがKYAASTだった頃の部下の一人だった。
アイナの強さに憧れ、果実の国とアイナのために尽くしてきた一介の兵だ。

「お願いです、もうお止めください、このようなことは・・・」
「まだ間に合います、もう一度あの頃を思い出してください・・・!」
「貴女はそんな女性ではなかったはず・・・私は信じています、貴女g」

「うるせえよ」

言い終わらぬ内に兵は無残に斬り捨てられた。
それは氷。どこまでも凍てつく氷のように冷たいアイナの眼。
もう誰もアイナを止めることはできない。
流血の水たまりに足を踏み入れるアイナの靴に、黒い血がピチャリと跳ねる。

最後の護衛もあっけなく斬られ、この場に立つ者はいよいよユカニャ王とアイナの2人だけとなった。

「やめなさい・・!」
「ん?何の真似だそれは」

ピーチジュースが無くとも、ユカニャ王は王であった。
ガタガタと震えながらも、隠し持っていた護身用の小型拳銃デリンジャーを構えている。
意地でも、このままタダではやられない。

「そんな生まれたての小鹿みたいに震えてて、弾丸が当てられるのか?ははは」
「やめて・・これ以上近付かないで・・私にこれを撃たせないで・・!」

「アイナ・・やめましょう、こんなこと・・」
「泣き落としか?さすがあざといなユカニャ。だがここまで来てやめられるわけねぇだろ!」
「それでも・・・私は・・・!」
「やってみろ!!オレンジを飲んだこのオレが、そんなヘナチョコ拳銃を避けられないとでも思ってるのか?」

ユカニャ王は覚悟した。
ぎゅっと目を瞑って思い切り引き金を引く。

ぱん。

だがその結果は大方の予想通り。
アイナは余裕でかわし、ついでにデリンジャーも手から叩き落としていた。

万策尽きたユカニャ王は、力なく床に膝をついた。
昨日同様に、王の首に冷たく当たるアイナのジャマダハル。
もはやユカニャ王の命と果実の国の命運は風前の灯。
その首筋には、震えすぎて刃に当たった皮膚から薄く血が垂れ始めていた。

アイナは大きく息をつく。

「ふぅ・・・招かれざるゲストが2人も来やがったから手間取っちまったが、ようやくオレの望みが叶うってわけだ」
「ユカニャ!さぁ国民どもと、てめぇの胴体にお別れしな!」

ユカニャ王は今度こそ最期を感じ、強く目を瞑る。
国民たち、そして遠く戦いに赴いたKASTのみんな・・・ごめん。

「ユカ・・・」「ユカちゃん・・・」
「ユカニャ王…」「王様…」

わずかに意識のある全ての戦士が、ことの成り行きを歯を食いしばって見つめていた。

アイナはジャマダハルを大きく振りかぶると、
ユカニャ王の首めがけて斬り落とした。

895名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:53:57


金属音。

それも強い意志のこもった、抵抗の刃の音。



ユカニャ王は恐る恐る目を開いた。
まだ自分は死んではいない。

見上げると、ローブを深くかぶった人物が、アイナのジャマダハルをギリギリで受け止めていた。

「な、なんだ!?」

最後の最後に、予想もしなかった乱入に驚くアイナ。
だが本当の驚きはこの後にやってくる。

「悪いな・・・招かれざるゲスト、3人目だ」

まさかまだ奥の手を残していたのかと、アイナはユカニャ王を見た。
だがユカニャ王も何がなんだかわかっていない顔をしている。

「誰だてめ・・・ハッ!!??」

アイナは気付いた。
ジャマダハルを受け止めるその刃。裾からのぞく腕。
そして醸し出すこの空気。
アイナの表情が一瞬で強張り、急いで飛び下がる。

「つれないことを言うな。私が誰だかわからないか?」
 

アイナの身体中から、冷や汗がじっとりとにじみ出る。

知らないわけが無かった。
まさか。こいつは。こいつだけは。

その人物がゆっくりとローブを外し、素顔を見せる。


そこにいた全員が声を失った。


果実の国軍も、アイナ軍団さえも。
言い尽くせぬ衝撃が一帯を貫いた。


「私は・・・お前だよ」


なぜなら、

ローブを脱いだその人物、

その人もまた、アイナ・ツカポン・アグリーメントだったのだから。

896名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:59:47
やばい…鳥肌がだった!いったいどういう事なんだ!?

てか本編作者さんどこ気にしてんのさw

897名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 21:20:35
??
助けに来た方が本物のツカポン?全然先がよめない

898名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:47:15

もう一人のA INA。

まったく同じ顔の2人のアイナ。


「て、てめぇは・・・!!」

飛び下がったアイナはようやく言葉を発した。

だがアイナ以外の人物たちは未だに状況が理解できていない。

なぜ同じ顔の人物が2人いるのか??
最初からいた方は金髪ロング、今来た方が黒髪ショート。かろうじて見分けは付く。

果実の国の国民たちが知っているかつてのアイナは黒髪ショートだった。
それにずっと共に戦ってきたユカニャ王だけは、黒髪の方からどこか懐かしい空気を感じていた。

となると、金髪の方が偽者のアイナなのだろうか??

「ど、どっちが本物なの…?」

先程まで生死の境目にいたユカニャ王が、止まらぬ震えを押さえながら聞く。

黒髪のアイナは落ち着いて答える。

「どちらも本物さ、ユカニャ王」

899名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:53:47

一同はますますわからなくなってしまう。
だが混乱する皆を前に、黒髪のアイナがゆっくりと口を開いた。

「わからなくて当然だ、私だって今も信じられないのだから」

そして金髪アイナをけん制しつつ、淡々と語り出す。

「今こそ語ろう、あの日に何が起きたのか・・・」



アイナがKYAASTにいた頃。
オレンジを飲むことでアイナは無双の活躍をしていた。
新しい力。国を守る力。KYAASTの大黒柱とまで呼ばれた。
仲間でありライバルでもあった、サユキやカリンをも凌駕する力、そして自分。
アイナは幸せだった。何もかもがうまくいっていた。

だがオレンジの強大な力の影響は、少しずつアイナの身体を蝕んでいく。
普段の自分とオレンジを飲んだ自分。その乖離に悩み始めた。
自分はこのままでいいのか、本当の自分の実力が追いついていないまま、戦い続けていいのだろうかと。

オレンジによる各能力の飛躍的な増強は、肉体は耐えられても、常人では精神が耐えられない。
よって脳は自己防衛的に、本人の中にオレンジを制御するための、もうひとつの仮想人格を作る。
そのおかげでアイナは戦場でもオレンジの力をいかんなく発揮することができたのだ。

アイナが本来の自分との乖離に悩むうちに、少しずつ、仮想人格の力が強まってくる。
オレンジをうまく扱い、成功を手にし続ける攻撃的な人格。
それはアイナの中にいる、もうひとりのアイナ。Aina I N Aina。
アイナは徐々にその人格を抑え続けられなくなりつつあることに怯えていた。
だがオレンジなしで戦場に出れば元の自分のまま。苦しかったが飲まないわけにいかなかった。

そしてあの日。
アイナが目覚めた時、もう一人の自分が『現実世界に存在』していたのである。
それが今目の前にいる、金髪のアイナだったのだ。

とても信じられない現象だったが、猛烈に悪い予感がした。結果はその通りだった。
金髪のアイナはオレンジの原液を盗んで遁走し、黒髪のアイナは事態を収拾しようと単身で追いかけた。

そして国境山中の崖まで追い詰めたものの、オレンジを飲んだ金髪アイナに返り討ちにされ、突き落とされてしまう。
こうして黒髪アイナは滝に飲まれ、行方知れずとなったのだった。

900名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:59:31

驚愕の真実。
誰もが一言も漏らさず、黒髪のアイナの言葉に耳を傾けた。
だがその内容を疑う者はひとりもいない。
現にこうして目の前に2人のアイナが存在しているのだから。


「それから河に流されて、気付いたときにはアンジュ国の外れにあるサナトリウムにいた」
「そこのフユカという女性に助けられ、傷を治して、今までずっと暗躍するそいつを追っていたんだ」

「アイナ・・・あなた・・・ずっと一人で・・・ずっと独りで戦っていたのね・・・」

全てを知ったユカニャ王は、溢れる涙を抑えられなかった。

「どうして、どうして話してくれなかったの・・もっと早くに知っていれば・・・うぅ」

誤解だった。不幸な出来事に襲われただけ。脱走者でも犯罪者でもない。
黒髪のアイナはKYAASTだったあの頃と何も変わっていなかったのだ。

「報告が遅くなってすまない、ユカニャ王」
「そしてたくさん迷惑をかけてすまなかった・・・いくら謝っても許されることではないが」
「私は責任を取らなくてはならない・・・!」

黒髪のアイナはそう言うと、改めて金髪のアイナの方に向き直った。

「やっと会えたな、もう一人の私。この日をどれだけ待ち焦がれたことか」
「今日でこの運命ともお別れだ!私は私を取り戻す!」

「まさか生きていたとはな…あの時に死体を確認しておくんだったぜ」
「だが昨日までと何も変わらねぇよ。あの日からもこれからも、アイナ・ツカポン・アグリーメントはずっとオレだけだ!」
「今度こそ完全に存在を消してやる!」

金髪のアイナがジャマダハルを構える。
同時に黒髪のアイナもジャマダハルをその右腕に装着する。

ユカニャ王の心は震えた。
この姿。あれから何年経っても、今も忘れぬこの雄姿。
戦場を駆け抜けた、あのアイナとジャマダハル「梅茶香」。
希望が、もう一度この国に帰ってきたのだ。

「アイナ・・・!」

ユカニャ王を見て、強く頷く黒髪のアイナ。

正真正銘の、最後の闘いが始まった。

901名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 06:52:10
あぁ・・・俺達のつかぽんが帰ってきた
しかもここでふーちゃんの名前が出てくるなんて…アンジュ国にまだいたんだね
「梅茶香」=ばいちゃーこかw1本づつのジャマダハル…前作のチサトとアスナの戦いを思い出す

902名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:27:36

金髪のアイナが素早く踏み込み、足を刈るように斬りつける。
バックステップでかわし、即座にダッシュで距離を詰める黒髪のアイナ。
ドシュドシュッと風を切る重い音がアトリウムに響く。
金髪のアイナも負けじとしゃがみこんで避け、アッパー気味に突き上げる。
背中を反らせて最小限の動きでかわした黒髪のアイナが右腕で突くと、金髪が数本、風に舞った。

「ケッ…ちったぁ鍛えたようだが、まだまだ十分『見える』ぜ」
「オレンジが欲しくなったんじゃねえのか?クックック」

「私はオレンジは使わない。私自身の力でお前に打ち勝ってみせる!」

「面白れぇ、やってみやがれ!」

そう言うと一気にギアを上げる金髪のアイナ。
そのスピードは先程モエミーを斬り刻んだ時のように残像が出るレベルである。
高速で黒髪のアイナの周囲を飛び回り、かく乱する金髪のアイナ。
一瞬でも隙ができれば斬撃が襲ってくる。

「ハァッ!」
「くッ!!」

キンキン、と刃が交錯する音がする。
だがそれすら、倒れている一般兵では目が追いつかない。

かろうじて見えているユカニャ王だったが、心境は穏やかでない。
幼少より蹴球で鍛えた強靭な脚力もアイナの武器の一つなのだが、
やはりオレンジを飲んだ金髪のアイナの方が、スピードも力も優勢なのだ。
元々の力に加えて、重力も感じずリミッターも外れているのだから当然である。

徐々に凶刃は黒髪のアイナの身体に届き始めた。
黒髪のアイナの攻撃はほとんど当たらず、当てても防がれていた。

意を決したように金髪のアイナの移動先を呼んで足払いを仕掛けるも、
直前で空中に逃げられ、一回転した金髪アイナに肩を斬られる。

意表をついた裏拳で急襲しても、金髪アイナには払い流され、腹に思い切り膝を入れられてしまう。

「ぐふっ…かはっ…」

黒髪のアイナは明らかに劣勢だった。希望に暗雲が立ちこめる。
やはりオレンジの力は圧倒的なのだ。今の金髪アイナに勝てる者などいるのだろうか。

黒髪のアイナは集中が切れたかのように、大振りで何度もジャマダハル「梅茶香」を振り下ろす。
もちろんそれらは全てかわされ、逆に落ち切った右手を蹴り上げられ、梅茶香は外れて地に落ちた。

武器すら失った、黒髪のアイナ。既に負傷箇所も多く、肩で息をしている。
金髪のアイナが動きを止めてゆっくりと近付いてくる。

「ここまでだな…ノコノコ出てこなければそのまま生きていけたのに、馬鹿な真似しやがって」
「もう終わりにしようや。お前はオレに勝てない。潔く死にな、もうひとりの自分の手に掛かってなぁ!」

金髪のアイナはジャマダハルを引き、腰を落としていく。
最大スピードで一気に駆け抜けながら斬る、いや構えからして心臓を貫くつもりだろう。

今度こそ終わりだ。
武器すらない黒髪のアイナに防ぐ手立てなど残されていない。
最後の希望が、目の前で消え行く・・・。

だがユカニャ王は気付く。
黒髪のアイナの瞳の光が、まだ消えていないことに。
ダメージでフラつく身体の、その瞳の奥に確かな闘志を見た。

黒髪のアイナは、丸腰でも何か考えている。
ユカニャ王はその瞳の光に殉じることにした。
指を組んで、祈る気持ちで最期の攻防を見届ける。

(アイナ・・・あなたを信じてる!)

903名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:29:15

ここからの出来事は全て一瞬だった。
見えたのは、2人のアイナとユカニャ王、倒れたビター・スウィートの2人だけ。

黒髪のアイナが軽く腕を上げて構えると、金髪のアイナの脚に力が入る。
力は足の親指から発して膝、大腿、腰で前進する力に変換され、爆発的なスピードが生まれる。

もう次の瞬間には金髪アイナのジャマダハルの切っ先は、黒髪アイナの左胸に到達していた。

胸当てを貫き、服の繊維を切り裂いて進むジャマダハル。
その切っ先は、服を抜けて肌に触れ、表層組織を掻き分ける。
毛細血管が破壊され、鮮血が外へと溢れ出す。

だがその刹那、黒髪のアイナの目がカッと見開かれる。

何年も待ちわびたこの瞬間。
忌まわしき運命を越えて、今アイナの闘志が燃え上がる。
 

両手で胸を刺すジャマダハルごと腕を取る。

切っ先を外し、そのまま飛びつくように地面を蹴る。

右足は大きく振り上げて踵落としを後頭部へ、

同時に下からは渾身の左蹴り上げが、顎を目がけて加速する。

全力で腕を取られた金髪のアイナに避けることは不可能。

天と地から迫りくる、殺気をはらんだ風圧と戦慄。

次の瞬間、金髪のアイナの頭部は上下同時に、最大級の衝撃と共に蹴り込まれた。

因縁も、運命も、思い出も、後悔も、執念も、責任も、全て乗せて、

まるで大顎を開けたワニの如く、強烈で残酷に頭蓋骨を噛み砕く。

そして両脚は頭部を挟んだまま、体重を預けて身体ごと地に落とす。

それは因縁を断ち切る、とどめのギロチンであった。



素手だからこそできた、一度きりの大技。

仕掛けられた相手は問答無用で夢の世界へと連れ去られ、二度と戻ることはない。

黒髪のアイナが研鑽に研鑽を重ね、この日、このチャンスのために、磨き抜いてきた秘奥義。

その名も「夢王」、ここに完了。

904名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:31:23


終わった。
長い戦いが、今終わった。

ユカニャ王は未だ信じられないといった表情で目を見開いている。
それは倒れたままのモエミーとアサヒも同じだった。

黒髪のアイナは、ずっと、ずっと、この一撃に賭けていた。

いくら鍛えても、常人がオレンジに長期戦を挑むのが不利なのは自分が良く分かっていた。
集中力と動体視力が増大し恐怖心もないのだから、一度外してしまえば最後、2度目は通用しない。
だからこそ、オレンジの隙をついて一撃で確実に葬り去る必要があった。

ユカニャ王が悲しい事件でその力を失ったように、
オレンジの弱点は恐怖心のなさと、その力への驕りにあるとアイナは考えた。
特に使い続けている金髪のアイナなら尚更だ。

だからあえて攻撃を受け、自分の方が強いと自覚させ、愛用の武器すらわざと捨てて丸腰になったのだ。
そうすれば金髪のアイナには必ず油断が出る。
だが、それは一度きり。そのチャンスに決めきらなければ自分の負けであり、死だった。

果たして、金髪のアイナはフェイクも入れずに全力で心臓を狙ってきた。
突進の狙いさえ分かれば、ベクトルをずらして一瞬なら隙を作ることができる。

そして一撃必殺の「夢王」を叩き込んだのだった。


それは怖ろしい賭け。まさに命懸けの作戦だった。
勝負が終わっても、未だに黒髪のアイナは全身から冷や汗が止まらず、荒い息を吐いている。

どんなに怖くても、あきらめない。

最期まで希望を捨てず、心で勝つ。

これが黒髪のアイナの、たったひとつの作戦だった。


倒れた金髪のアイナ。もう動くことはできない。
ユカニャ王が近付くと、その身体はサラサラと灰になって崩れてゆく。
アトリウムに一陣の風が吹くと、その灰も風に乗って散っていった。

こうして、数年前からの因縁の全てが終わったのだった。

905名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:35:02



「アイナはこれからどうするの・・・?」
「さあ、まだ何も決めていないな」
「もし、もし良かったら・・もう一度・・」
「いや、それはダメだよ、ユカニャ王」

ユカニャ王の申し出に、アイナは首を振ってきっぱりと断った。

「一連の事件の原因は全て私にある。迷惑をかけた責任は取らなくてはならない」
「・・・その気持ちだけ頂いておくよ、ありがとう」

そしてアイナはいずこかへと旅に出た。

ユカニャ王は忘れないだろう。
オレンジの運命に翻弄された一人の戦士のことを。
そして本当の実力を身につけ、オレンジの運命に打ち勝った、誇るべき友のことを。

さようなら。
そしてありがとう、アイナ。




全てを終えて、ユカニャ王は玉座で物思いに耽る。

今回の一連の事件のこと。
奇しくも、「ジュースへの決別」という同じ選択をしたアイナとKAST。
開発中の"NEXT YOU"。
そして宿敵"ファクトリー"。

KASTと、果実の国の未来のために、
王として取るべき選択は。

窓の外には曇り空が広がっている。

大きく息をつくと、ユカニャ王はゆっくりと目を閉じた。


(終)

906名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:38:37
以上です
お付き合い頂きましてありがとうございました

907名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 23:59:34
何故ユカニャ王は力を失ったのか?
開発中の"NEXT YOU"とは?
アイナと再び出会う事はあるの?

気になることは沢山あるけどまずは完結乙でした本編の物語が進めばまた新たな外伝も出てくるのかな?

908名無し募集中。。。:2016/06/09(木) 22:04:19
上二つは本編に記述がありますね
最後のはどうでしょうね



ちなみにつかぽんには「オレンジジュース」という持ち歌が本当にありますw

909 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/10(金) 01:23:53
外伝さん、お疲れ様でした。
緊迫感のあるバトルシーンが楽しめただけでなく、
「KASTが居なくなったら国防はどうなるの?」という本編のツッコミ所を補っていただいたことについても嬉しく思ってます。

アイナやビタスイが本編に出る事は有りませんが、ユカニャ王は重要な役回りで再登場する予定です。
その際には今回のお話を意識してしまうかもしれませんね。


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