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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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                            配給

【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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154名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 21:48:55 ID:u7PlYkbY0
瓜; - )「……っ」

記憶のフラッシュバックが始まった。
デミタス・エドワードグリーン。
判決は死刑。
その最終決定を下したのは――

(´・_ゝ・`)「エミリーもピピンもいい子たちだった……
      二人とも今は金持ちの愛玩道具になって、ビルボは真空パック詰めになった肝臓だけ見つかったよ。
      それが、お前が俺から奪った夢だ」

――他ならぬ、ヅー自身だ。
ジュスティア警察を嘲笑うようにして予告し、その通りに盗んだ。
彼は現場の警官たちのプライドを傷つけ、職を奪い、自殺者を出した。
それは許されることではない。

警官たちにも家族がいたのだ。
彼の事情など、知った事ではない。
ヅーが一日に十数名単位で死刑台に送り込んでいる事を、この男は知るはずもない。
罰を受けるべき人間の事情や名前など、宣告の後はどうでもいいのだ。

瓜; - )「……っそ」

(´・_ゝ・`)「そしてもう一つ。 俺が聞きたいのは謝罪の言葉でも命乞いの言葉でも強がりの言葉でもない」

最早、意識は薄らいで痛覚は消え失せていた。

(´・_ゝ・`)「お前の命が終わる音だよ」

そして、ヅーは意識がブラックアウトしていくのをただ受け入れるしかなかった。

155名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 21:53:33 ID:u7PlYkbY0
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..:..:.:..:...:.:.:..:..:.:.:..:.:..:.:.:.:..:..:.::..:.:..:.:.:.:.:..:.:..:..:.:.:..:..:..:.:.:..:.:.:..:.:.:.: August 10th AM09:32
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長い沈黙があった。
十分なのか、それとも一時間なのか。
時間の経過は心的な状況によって感じ方が大きく変わる。

(’e’)「――くそくらえ、と言ったら?」

(=゚д゚)「……手前ぇ」

銃爪にかけた指に力を込めようとした、その瞬間。
助手席側の扉が、軽くノックされた。
スモークガラスで中が見えないのであれば問題はないが、銃声は大問題だ。
誰がノックをしたのか、トラギコはジョーンズが抵抗しないように注意しながら、慎重にそちらを見た。

万が一にでもカージャッカーだとしたら、迎撃しなければならない。
果たしてそこにいたのは、トラギコの意表を突くには十分すぎる人物だった。
  _
( ゚∀゚)「おい、エンストか?」

手入れのほとんどされていない茶髪は大部分が白に染まり、一インチほどに伸びた無精髭と垂れた鳶色の瞳。
汗染みの出来たワイシャツに色褪せたジーンズ。
それでもなお失わない軍用犬じみた雰囲気。

156名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 21:58:22 ID:u7PlYkbY0
(;=゚д゚)「じ、ジョルジュ……さん?!」

ジョルジュ・マグナーニ。
ジュスティア警察で先輩としてトラギコに多くを教えてくれた、数少ない尊敬の対象。
一身上の都合で退職した彼が、どうしてここに、と考えてしまったのは懐かしさ故。
常に喪失感と命の危機にさらされ、心がすり減るのを防ぐために鋼鉄で保護してきたトラギコにとっては正に不意打ちだった。

同僚の登場は、固めてきたトラギコの心を内側から大きく揺さぶった。
思うのは過去。
振り返るのは良き思い出。
奪ったのは数秒。

(’e’)「では、失礼するよ」

一瞬の隙をついてジョーンズは車外へと飛び出し、血の跡を残して坂を転がりながら移動していった。
射殺しようにも、もう死角へと逃げ込んでいる。
  _
( ゚∀゚)「馬鹿な奴だ」

誰が乗っているのか分かっていないのだろう。
いや、ジョルジュには興味の対象外なのだ。
ジョルジュが興味を持っているのは、如何に素早く犯罪者を仕留めるか、その一点のみ。
ジョーンズの逃亡を見届けたジョルジュが取る次の行動は、誰よりもトラギコがよく知っていた。

彼に直接教えを受け、彼の行動を真似してきたからこそ分かる。

(;=゚д゚)「くっそ!! やべぇやべぇやべぇ!!」

157名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:01:30 ID:u7PlYkbY0
急いで運転席へと移り、頭を下げたままアクセルを踏んで車を発進させた。
キーを抜いてエンジンを切られていなかったのは不幸中の幸いだが、無理な体勢のせいでギアを変えられず、速度を出せない。
車が前に進むのと同時に助手席の窓ガラスが砕け散り、運転席のヘッドレストが吹き飛んだ。
驚くことではない。

ジョルジュが本気を出せばスミス&ウェッソンM29をホルスターから抜いて撃つ速度は、銃を構えた状態の人間と大差ない。
ジュスティア人の中で最も早撃ちを得意とする、世界最速のガンマン。
それが、ジョルジュだ。
一発の銃声で二つの的に弾を命中させることも、宙に放り投げた三つのコインが地面に落ちる前に吹き飛ばすことなど造作もない。

現場から離れるセダンの背後から、フルオート射撃に匹敵する速度の連射が車体を襲う。
マグナム弾でも、運転手を殺さない限りはセダンを止められない。

(;=゚д゚)「どうなってんだ!!」

その答えは分かっていた。
ジョーンズの仲間という事は、すなわちショボンの仲間へと身を堕としたことを意味する。
何が起きて、どうして彼らは結託したのか。
少なくともジュスティアの精神を持っている人間ならば、ショボンのような堕ち方はしない。

ジョルジュは確かに不真面目な部分も多かったが、それでも彼は良き警官であろうとしていた。
何故それが終わったのか。
答えが分かるはずはない。
  _
( ゚∀゚)「……」

バックミラーに映るジョルジュが、残忍な笑みを浮かべてアタッシュケースを構えた。
その中身を、その力をトラギコは知っている。
動いた口が紡ぐ言葉も、一言一句覚えている。

158名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:04:21 ID:u7PlYkbY0
  _      Go ahead.          Make my day.
( ゚∀゚)『いいぜ、望むところだ。 この俺を楽しませてくれよ』

起動したのは大口径対強化外骨格用リボルバーを使うAクラスのコンセプト・シリーズ、“ダーティー・ハリー”。
アタッシュケースに収納されているのは、反動抑制と動作補助の役目を持つ籠手と一体となった拳銃だ。
目的はただ一つ、重装甲の強化外骨格をも撃ち抜ける拳銃の携行と緊急時の使用である。
トラギコの所有するブリッツと非常によく似た設計思想をしているが、大きく異なるのはその射程だ。

ブリッツの主兵装である高周波刀は応用が効くが距離が短く、対するダーティー・ハリーは中距離を相手に十分戦える。
六十口径のニトロ・エクスプレス弾を強化した弾丸がもたらす威力はCクラスの棺桶の装甲ですら貫通し、頑強で名を知られるトゥエンティー・フォーの装甲も貫くことが実証されている。
ならば、セダンの装甲など紙同然。
運転席側を狙って撃たれれば、トラギコの体は水風船のように爆ぜることだろう。

蛇行運転で逃げようにも、相手が悪すぎる。
警察きっての射撃の天才を前に、逃げ切ろうとするのが不可能だ。
彼の実力を知っている人間だからこそ出来る戦い方をする他ない。
座席の下へと潜り込むと、半分に千切れたシートが落ち、フロントガラスに大きな穴が開いてそこから風が流れ込んできた。

(;=゚д゚)「くっそ、視界が……!!」

蜘蛛の巣状のひびがフロントガラス全体に走り、何も見えない。
続けてハンドルが破裂し、助手席のシートも半壊した。
運転席に撃って効果がないと判断して、潜んでいる可能性のある助手席を撃ち抜く。
かつて彼から教わった通りの順番だからこそ対応できたが、次に撃たれる場所も分かってしまう。

次は動きを止めるために車軸を狙ってくるはずだと思った瞬間、予想に反してセダンが上下に大きく揺れた。
明らかに、何かを乗り越えた感覚だ。
覚えている限りで乗り越え得る障害物と言えば、ガードレールしかない。
ガードレールにぶつかり、乗り越えたと考えるのが自然だ。

159名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:07:18 ID:oHcI4UCw0
支援

160名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:07:47 ID:u7PlYkbY0
不自然なのは速度をそこまで出ていなかったことだが、ジョルジュがガードレールの支柱を破壊したのであれば納得できる。
運転手を撃ち殺すのが難しいと判断し、崖から落として確実に重傷を負わせる方針に固めたのだろう。
それならば、速度を十分に高めずともセダンはガードレールを押し倒して乗り越えることが出来るのだ。
短時間で打ち出された方策は完璧で、トラギコには思い至らなかった。

完敗だったが、とにかく今は生き延びることを考える他ない。
どうにか座席の下から這い上がろうとするが、嫌な浮遊感を覚えた時にはトラギコの視界は大きく上下に揺れ始めていた。
猛烈な速度で滑落し始めているのだと認識したところで、どうしようもない。
シートベルトを片手で手繰り寄せ、手首に巻きつけるようにして握りしめた。

高低差や周囲の状況などを考える暇などないまま落ち続け、車体が大きく持ち上がると同時に横転した。
平衡感覚を失い、背中をダッシュボードに何度もぶつける。
車外に放り出されれば、待っているのは避けようのない死。
限りなく現実的な死の実感を総身で受けながら、トラギコはそれを受け入れるしかできない。

――そして、訪れた衝撃と共にトラギコの意識は黒い世界へと溶けて消えた。

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目を覚ました時、アサピー・ポストマンの周囲には黒尽くめの男が五人立っていた。
柔軟性のある素材で作られた上質な布地のダークスーツを着ているが、その上からでもはっきりと彼らの体に付いた筋肉の多さを見て取れる。
両腕の筋肉と胸筋は特に発達しており、彼らの腕力が如何に優れているのかを如実に物語る。
視線を読ませないためのサングラスと片耳に入ったインカムは、彼らが組織に属していることを示す。

161名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:13:01 ID:u7PlYkbY0
(;-@∀@)「え?」

生きていたことを喜ぶ間もなく、枕元に立っていた彫りの深い男がインカムに呼びかける。

(●ム●)「……保護対象が起きました」

アサピーの無事を歓迎している風ではないし、何よりも威圧感がすさまじい。
全員が懐を不自然に膨らませ、皮の厚そうな両手は傷だらけだ。
それを聞いた他の四人が互いに向かい合い、話しを始める。

川_ゝ川「各位、対象の起床に伴いプランAを実行する」

(,,●ω●)「プランA了解。 ルート確保後、戦術プランPPで行動を開始する」

(●ι●)「戦術プラン、市街地における最重要人物の護衛任務、了解。 ルートの消毒作業を開始する」

I●U●I「消毒作業了解。 チームB、作業に移れ。 十五秒後に移動を開始する」

次の瞬間、男たちは足元から艶のないモスグリーンに塗られた大型のスーツケースを持ち上げ、それを背負った。
そして背負うのと同時に、全員が同じ言葉を口にする。

『我らは平和を願い、勝利を求める。 どうか名も無き我らに、気高き白の祝福があらんことを』

小型にして強力、そして一際優れた携帯性と有用性の両立。
キー・ボーイやジョン・ドゥと肩を並べるほどの名機ながら、その特殊さ故に実戦で使用されることのあまりない強化外骨格の起動コード。
一部の軍やボディガードに幅広く浸透しているAクラスの強化外骨格、“エーデルワイス”。
新聞社に勤める前にフリーランスのカメラマンとして働いていた際に担当した雑誌で、ジュスティア軍が運営する警備会社の特集が組まれたことがあった。

162名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:17:50 ID:u7PlYkbY0
アサピーが担当したのは警備会社の社員の姿を撮影するだけで、実際に使われた写真は小指の爪ほどの大きさだった。
経営不振によりその雑誌社はすでに倒産しているが、初めて得た仕事が関係しているためにその記事の内容はよく覚えている。
雪原地帯以外ではほぼ使う事のない白を基調とした迷彩柄の装甲は、装甲とは言い難いほどに頼りなかった。
彼らの四肢を包んだのは、動作補助用の人工筋肉とフレームであり、生身の部分の露出の方が圧倒的に多い。

頭部だけはカメラと一体化した歪なヘルメットで護られているが、口元は大きく開いており実質的に守られているのは頭蓋だけとなる。
だが、この強化外骨格の優れた点はBクラス並みのパワーを発揮できながらもAクラスの中でもかなりの小型に納められている点だ。
加えて、使用者が走りながら起動コードを入力してもかなりの正確さで装着を完了させる人工知能の性能も、この棺桶の特徴の一つである。
コンテナ内に一度招かれて装着を済ませるタイプの棺桶と異なり、時間の短縮が出来る点で一線を画している。

グレート・ベルの鐘が、澄み渡る金属の音色を響かせた。

(::[∵/.゚])「作戦開始」

その一言と共に、アサピーは枕元にいた男に抱きかかえられていた。
思い出に浸る時間も瞬間も与えられないまま、説明さえもないまま病院の外へと連れ出される。
地平線の彼方に沈みゆく夕日の赤々とした血を思わせる深紅色と、巨大な暗幕が下りるように広がる濃い群青色の夜闇、そして鳴り響く鐘の音が不気味だった。
それはまるで――

――まるで、血に濡れた惨劇の舞台に幕を下ろすように見えて。

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163名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:22:02 ID:u7PlYkbY0
抵抗は最初から選択として頭に浮かぶことはなかったが、ただならぬ状況にあることを知りたい気持ちが湧き上がってきた。
ただの新聞記者の端くれから大事の中心に近づける機会は、人生でも二度あるかというほど。
この状況、興奮せずにはいられない。
何者かに脇腹を撃たれたとしても、つい先ほどまで眠りの中にいたとしても、関係ない。

今をただ生きて、真実を追い求めるだけだ。

(-@∀@)「取材を申し込んでも?」

揺さぶられながら、路地裏へと連れられながらアサピーは取材を開始した。
が、応じる者は当然いない。
そこで思い出す。
カメラがない。

(;-@∀@)「あ、あの、僕のカメラはどこにあるので?」

誰も答えない。
商売道具であり、アサピーの努力の結晶が一眼レフカメラの中にある。
それを回収しないことには、死にかけた意味がなくなってしまう。
背筋がようやく冷えてきた。

(;-@∀@)「ねぇちょっと、あれがないと困るんですよ。
      ショボン・パドローネとショーン・コネリのベストショットがあるんですってば」

好ましい反応はない。
どころか、無言の圧がアサピーを襲った。
目的地がどこであれ、意図的に迂回を繰り返して尾行者に気を遣い、時には分散し、時には集結して移動する彼らは無駄な行動を起こす気配を見せない。
されど放つ雰囲気、殺意、敵意、それら全てが物質的な何かを思わせながらアサピーの頬を舐めたのだ。

164名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:25:21 ID:u7PlYkbY0
これ以上語るのであれば、次にアサピーを待つのは無慈悲な咀嚼だ。
骨まで到達する一撃を甘噛みと表現し、彼らは今度こそ物理的にアサピーを黙らせるだろう。

(::[∵/.゚])「……コンタクト!!」

(;-@∀@)「えっ?!」

一喝。
対象はアサピー以外の全員。
目的は警戒、警告、そして戦闘開始の宣言。

(::[∵/.゚])「対象、デミタス・エドワードグリーンを確認。 排撃する」

(;-@∀@)「スクープ?!」

(´・_ゝ・`)「今度こそ盗ませてもらうぞ、そいつの命。
      ――姿は見えずとも、殺意は見える」

完全にアサピーを対象とした宣戦布告の言葉の後、一瞬でデミタスと呼ばれた男の姿が視界から消え失せた。
減音器で申し訳なさ程度に抑えられた銃声が連続するが、地面を抉るだけ。
この世界にいる人間は、こうも容易く銃弾を回避できるわけではない。
その非現実極まりない事象を現実へと落とし込むためには、旧時代の技術が必要となる。

強化外骨格が。

(::[∵/.゚])「報告の通りだ、慌てるな。 ケースDが発生、プランDで対処」

姿が見えないという圧倒的な不利にもありながら、男たちは落ち着き払った声と態度で動き始める。
まず、アサピーを抱えた男が跳躍し、建物の壁を足場にして屋上へと昇る。
その間に残った男たちがデミタスを探して仕留め――

165名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:29:19 ID:u7PlYkbY0
(::[∵/.゚])「馬鹿な、感無しっ――?!」

――首を刎ねられ、仕留められていた。
詳しいことは分からないが、デミタスの狙いがアサピーであり、彼を守ろうとしている男たちが窮地に陥っているのは分かる。
姿が見えない相手を前に、ジュスティア軍が翻弄されている。
そして、思い出す。

予告状を出したうえで警察を手玉に取り、目的の物を奪い取った男の事を。
“ザ・サード”だ。
命を狙われる原因は分からない。
分からないことだらけの状況に慣れつつも、アサピーはその状態から一つの事を学んだ。

混沌としているように見える中にも、中心点が必ずあるという事だ。
例えばトラギコ・マウンテンライトが追っていた脱獄囚。
例えばショボンとショーンの争いの発端であるアサピー自身。
その中心点に向かうにつれて事態は激しさと混乱を加速させ、関係者を惑わせるのだ。

今見極めるべきはその中心点。
一介の記者であるアサピーが襲われる原因、殺されようとしているその理由こそが中心点に違いない。
目撃情報、もしくは体験がその原因だろう。

(::[∵/.゚])「状況Eが発生!! これよりルートRで保護対象をポイントCへ移送する!!
      支援プランDを――」

アサピーを抱えて屋上を駆け回っていた男が、つんのめり、アサピーはその場に放り出された。
辛うじて屋上の縁に体がぶつかって止まり、落下を免れたが強かに打ち付けてしまった全身が痛む。
手術を終えたばかりの傷口が開き、熱と痛みが腹から広がる。
何故男が倒れたのか、それは男の頭を見れば十分理解できた。

頭頂部が半分抉れていたのだ。

166名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:33:15 ID:u7PlYkbY0
(;-@∀@)「流れ弾? ……いや、これは」

予感というよりも直感でアサピーは自ら縁を乗り越えて、ゴミ捨て場の上に落ちた。
それが、この島で起きつつある事件の核心の片鱗をアサピーに見せるとは、誰も思わなかっただろう。
確かに目撃したのだ。
彼方で光った、カメラのフラッシュにも似た輝き。

マズルフラッシュと呼ばれるそれの場所を、アサピーは視認したのだ。
全てを繋げ、これまでの不自然な何もかもを解き明かし得る情報だった。
この情報をトラギコ・マウンテンライトに伝えれば、事態は急激な変化を起こすはずだ。
そうなればスクープの中心に入り込める。

幸いにして黒いビニール袋に入っていたのは可燃性のゴミばかりで、安いクッションの役割を果たした。
痛む体を使い、アサピーはゴミ捨て場を脱した。
決定的な瞬間を伝えるという任務、責務、責任の全てを一身で背負いながらアサピーは傷口を押さえながら歩き始める。
この事件、想像以上に奥が深く闇が多い。

指先に感じる血の感触の正体を確認するよりも、やるべきことがある。

(;-@∀@)「……ご、護衛の皆さん? 誰か、誰かいませんかー?」

ともあれ、アサピーは無力だ。
武器も技術も武術もない。
誰かに守られ、誰かの力を鉾として立ち向かわなければならない。
エーデルワイスを身に纏っていた男たちはどこに消えたのか分からず、姿の見えないデミタスの位置も分からない。

分かるのは殺されてはならないという事と、トラギコと会わなければならないという事。
どこの路地裏にいるのか、皆目見当もつかない以上、アサピーが取るべき進路は音のする方向。
即ち人通りの多い場所だ。
だが、それは賭けだ。

167名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:37:27 ID:u7PlYkbY0
アサピーが見た光の位置は、このグルーバー島の中心部に聳え立つティンカーベルの象徴。
つまりそれは――

――鐘の音を鳴り響かせる鐘楼、グレート・ベル。

その場所こそが、狙撃の原点。
調べれば必ず何かが見つけることの出来る聖域。
是非ともトラギコにこそ、それを任せたい。
彼ならば、真実を追求し答えへと辿り着くためには手段を択ばないあの男ならば、確実に実現できるはずなのだ。

(;-@∀@)「おーい、誰かー。 メディーック!!」

叫ぶがその声は虚しく響くだけ。
逆に、アサピーの場所を他者に知らせてしまうだけだとは思いもしない。
彼は素人。
襲われる側の経験はなく、スクープを目指して追うのが彼の仕事故に知らないのは当然だろう。

(;-@∀@)「誰か何とかしてくれー!!」

彼が叫んだその瞬間。
二つの勢力が。
否。
たった一つの強大な勢力に対して、唯一無二の存在が無慈悲極まりない牙を剥いていた事を、アサピーは知る由もなかった。

168名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:38:33 ID:u7PlYkbY0
.

「……また邪魔するか、女!!」


「悪いけどな、またあたしなんだよ、男」


この時。
ジュスティアでも、ましてやティンカーベルでもない別の存在に自分が生かされたことなど、アサピーは知るはずもない。
考えていたのは生き残る事と、これから向かうべき場所だった。
選択次第ではすぐに新たな魔手に狙われ、今度こそ殺されてしまう。

それを回避しつつも、安全に情報をトラギコへと発信できる場所。
ただ一か所だけ、アサピーの脳裏にその場所が浮かんだ。
斯くしてアサピーは、偶然その場にやってきたタクシーに飛び乗り、事なきを得た。
彼が目指したのはグルーバー島にある警察の支部ではなく、ジュスティア軍の駐屯地でもなく、ましてやモーニング・スター新聞の支社でもなく。

現段階で絶対にして唯一の安全圏。
ショボンが事件を起こした発生源。
島から隔絶され、隔離され、独立した海上の街。
それ即ち、船上都市にして世界最大の客船。

これより今、真実を巡る舞台はオアシズへと移るのであった。






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          Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編 第七章 了

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169名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:39:47 ID:u7PlYkbY0
支援ありがとうございました。
これにて本日の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

170名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:45:06 ID:oHcI4UCw0

ジョルジュがカッコイイ。

171名も無きAAのようです:2015/04/13(月) 03:23:08 ID:0ZOfpTTA0

熱くなってきたな

172名も無きAAのようです:2015/04/13(月) 08:40:10 ID:Vg1/oZVs0
おつん 
アサピー生きてたとは トラギコも満身創痍だしどうなるんだ

173名も無きAAのようです:2015/04/20(月) 20:57:10 ID:5tF1rZAw0
読んだ!

174名も無きAAのようです:2015/04/21(火) 00:52:53 ID:jAYoOxFk0

今まで読んできたブーン系の中で一番大好きだ。次回も待ってる!

175名も無きAAのようです:2015/04/21(火) 02:34:33 ID:rMLlNYo.0
自演乙

176名も無きAAのようです:2015/04/22(水) 13:11:20 ID:gDjJ741I0
泣けるぜ

177名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 20:22:37 ID:H9d9/bIA0
                        次回予告

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背を向けるのも向き合うのも自由だけど、絶対に逃げられないもの、なーんだ?

                                         イルトリアのなぞなぞ

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明日の夜、VIPにてお会いしましょう。

178名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 22:06:02 ID:Xvn7Em9Q0
キター(((o(*゚▽゚*)o)))

179名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 23:40:39 ID:4dkUQKUU0
ウホッ

180名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 23:54:33 ID:4cRB7eYo0


181名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:02:25 ID:EB3u4DHo0
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背を向けるのも向き合うのも自由だけど、絶対に逃げられないもの、なーんだ?

                                         イルトリアのなぞなぞ

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世界最大の豪華客船、そして船上都市という二つの言葉が連想させるのはオアシズを置いて他にはない。
客船を改造して作られた街の発電装置は自然の力だけで街一つに十分な電力を供給できるよう設計されており、船で文字通り一生を過ごすことが可能だ。
惜しむらくは世界最大級の船だけあって、寄港できるだけの環境が整っている限られた街にしか停泊できない事だけ。
それ以外の全ての事は船で事足りる上に、街に寄るたびに新たな商品を仕入れ、常に流動的な環境が船内の景気を停滞させることなく循環させていた。

言い換えれば、立ち寄らずともある程度の事は船の中で完結できるという事であり、万が一大地が裂けようともこの船だけは神話に出てくる箱舟のように悠々と終末世界を旅できるというわけだ。
だが、現在オアシズが停泊している港を保有するティンカーベルに乗客達が降り立つことは制限されていた。
制限に伴って商品の搬入出も禁止され、事態が落ち着くまでの間、船から降りることも船に乗り込むことも出来ない。
接岸していながらも島に降りることが出来ないがオアシズはもともと独立した街であり、陸地から離れていても生活するという意味では何一つ問題はない。

不燃ごみなどの廃棄物に関してはコンテナに積めたものを特定の廃棄場に運び出すことが許されている以外、何一つとして船に入ることも出ることも認められなかった。
それでもオアシズ側は不平一つ漏らすことなく、警察の要請通りに規定を守り続けている。
オアシズとしても犯罪者を船内に招き入れるのには反対というスタンスを貫いているため、船と外界を繋ぐ存在に対して警戒することに対しては大いに賛成していた。
船と港を繋ぐ唯一の道はオアシズの船倉と通じるものだけであり、そこは入り口が封鎖されている上に完全武装した男たちによって厳重な警備下に置かれている。

182名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:06:33 ID:EB3u4DHo0
支給されたライフルはダットサイトとフラッシュライト、そしてアングルドフォアグリップを装着したコルトM4カービンライフルで、背負うのは傑作強化外骨格“ソルダット”と重装備だ。
埠頭には三人一組の警備員が随時巡回を行い、不審者や不審物に細心の注意を払っていた。
彼らはジュスティアから派遣された兵士ではなく、オアシズが契約している警備員であり、その忠誠心と練度は軍人と比肩し得るだけのものを持っている。
軍帽の下から覗く双眸は闇を鋭く睨みつけ、安全装置の解除されたライフルのトリガーガードに指がかけられ、いつでも発砲出来る状態を整えている。

オアシズの厄日と呼ばれる連続殺人事件と海賊の襲撃以降、住人の命を守るという行為の重さに比べて銃爪を引く行為の軽さを実感した彼らの動きに躊躇はなくなった。
万が一不審者が現れた際には実力を持って対処することを誓い、銃把を握る手にも力がこもる。
離れた場所、グルーバー島の中央でグレート・ベルが“鐘の音街”の名に恥じぬ巨大な鐘の音を響かせた。
その美しい音色は数世紀以上も変わることなく島にあり続け、今なおその役割を果たし続けている。

警備員の一人が腕時計に目をやる。
夜光液で浮かび上がる文字盤が示す時刻は夜の五時五十五分。
六時五分前に鐘が鳴る習慣があるとは知らなかったが、そもそも島にある全ての風習を部外者が理解するなど不可能なのだ。
時計から目を上げ、警備員たちは歩哨の任務を再開した。

赤に染まった水平線の果ても、もう間もなく夜の帳に覆い隠されようとしている。
本格的な夜の到来に伴い、風が冷気を帯び始め、波の音と相まって夏の暑さを忘れさせてくれた。
避暑地としても知られているティンカーベルならではの気温変化だが、冬は川の水も凍るほどの寒さになる。
だからこそ発展したのが、アルコール度数の高い酒だ。

特にウィスキーの生産が盛んなのが、グルーバー島の西に位置するバンブー島である。
泥炭をふんだんに使って燻し香を身に纏った琥珀色の液体は、他に比類のない深みのある香りと味、そして中毒性を有している。
ティンカーベルの地で始まったとされるこのウィスキーは、スコッチ・ウィスキーと名付けられ、世界で愛飲されている。
しかしその輸出すらも禁止された今、何日間港が封鎖されるにしても、一日の遅れで生じる損害は相当な物だろう。

積み込みに勤しむ商業船などで賑わいを見せるはずの埠頭も、最低限の明かりだけで照らされて寂しげな印象を与える。
警備員が主に注視しなければならないのは海面だった。
埠頭に通じる橋を渡る者がいれば、島側の出入り口を封鎖している軍関係者たちから連絡があるはずだからだ。
橋の可能性をなくせば残りは海だけ。

183名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:10:45 ID:EB3u4DHo0
潜水装備を身につけた賊が現れる可能性を視野に入れ、二人はライトを地面ではなく海面の上を磨くようにして念入りに照らし、微細な変化に目を光らせている。
強化外骨格の中には潜水能力に長けた物が存在するが、使用するのが人間である以上は空気を外部に排出する必要がある。
つまり、不自然な泡があればそれは注意するに足るものという事。
仮に無呼吸で動いたとしても、多少なりとも透明度のある海中を動かなければならない以上、その姿を見つけ出すことは可能だ。

水平線に見えていた陽が沈み、オレンジとも紅蓮とも言える美麗な空が濃密な紺色に押しつぶされ、瞼をゆっくりと閉じるようにして夜へとその姿を変えた。
一日に一度しか見ることの出来ないその光景を、不思議なことに三人が三人とも眺めてしまっていた。
あまりにも美しい光景に目を奪われるのは人間として正しい反応だったが、彼らは決して警戒の糸を緩めたわけではない。
現に彼らは、無線機から聞こえてきた声に対して即時対応できたからだ。

『……こえるか? 聞こえるかオーナイン?』

聞き慣れたジュスティア軍人の声が無線機の向こうから呼びかけてきている。
いつもの雑談というわけではなさそうだ。
無線を通じてのやり取りしか行っていないが、すでに互いの好みや声を覚えるまでには仲が親密になっている。
何気ない故郷の話や酒の話。

事件が終わり次第、会って酒を飲みかわそうという約束まで取り交わしている仲となった。
共通認識が異なる街の人間を結び付け、思わぬ交友を広める機会になったのは皮肉というべきか幸運というべきか。
しかし規定のために名前を話すことは許されておらず、両者ともにその一線を越えないようにして話をしていた。

( 0"ゞ0)「こちらオーナイン。 何か起きたのか?」

『タクシーが来て、今検問で止められている。
オアシズへの乗船を求めている客がいるそうだ』

犯人の逃亡を防ぐため、橋に通じる道は厳重に封鎖され、特に船に近づくための道は徹底して守られている。
その検問の一つに引っかかったのは、今日はこれが初めての事だ。
むしろこの状況下で動くような馬鹿がいるとは思わなかった。

184名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:15:03 ID:EB3u4DHo0
( 0"ゞ0)「そちらで対応を」

当然の返答だ。
正直なところ、この事件に関してオアシズ側が持つ責任というのは乗客の安全を守る事であり、島の安全回復を手助けする義理はない。
失態を犯したのはジュスティアであり、オアシズではないのだ。
第一、島全体を封じたのはジュスティア側であり、怪しげな車両・人物の判断は彼らに一任されている。

オアシズの警備員が行うことはと言えば、ジュスティア側が許した人間が本当に安全なのかを確かめることと船の安全を維持することであり、遠く離れた検問所に指示をすることでもない。
仕事が分業されている以上、余計な介入は無用。
特に、大きな事件に関わり合いになるのは御免こうむる。
例え仲がよかろうとも、その一線を越えてしまえば双方の仕事に支障がでる。

互いにやるべきことをやる。
それが仕事だ。

『自称新聞記者の男で、市長と話がしたいと言っている。
緊急の用件だそうだが、どうする?』

( 0"ゞ0)「追い返してくれ。 ゴシップ記事を書かれたら俺が市長に殺される」

今朝行われたライダル・ヅーの会見によれば、モーニング・スター新聞は昨晩の火事について独自の調査を行い、記事に書き起こし、事件解決の妨害をしたらしい。
そのような前歴のある新聞社を、みすみす船内に招き入れる訳にはいかない。
市長も同様の意見であろうことは、火を見るよりも明らかだ。
沈静化の方向で進んでいる船内を再びかき回されようものなら、オアシズは再び大きな損害を受けることになる。

自分たちの行った愚かな報道を顧みずに来たのであれば、彼らの厚顔無恥な振る舞いに対して暴力で応じる他ない。

『了解』

185名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:18:20 ID:EB3u4DHo0
そして、無線機から音が途絶えた。
再び訪れた静寂の時間。
興味本位で記者が近付いてくるかもしれないことが分かった警備員たちは、一層気持ちを引き締めて警戒にあたることにしたのであった。

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                    Ammo→Re!!のようです

            Ammo for Tinker!!編   第八章 【brave-勇気-】

                                          August 10th PM06:24
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海から吹き付ける風は冷たく、肌寒くすらあった。
黄色い塗装のタクシーからは排気ガスが程よい熱を悪臭と共に吐き出され、車の傍は風さえなければ程よい温度を保っていた。
期待していた言葉が得られれば風の冷たさなど喜びで忘れる事が出来たのであろうが、男が期待していた返答は得られなかった。
風は、容赦なくその強さを増し始める。

絶望的な経験はこの三日の内に何度も経験してきたが、これほどまでに心折れるとはアサピー・ポストマンは思いもしなかった。
せっかく状況を好転させ得る情報を持っているというのに、相手方はそれを求めていない。
当然の展開と言えばその通りであるが、自分の持つ情報が見向きもされないというのはあまりにも悲しい話だ。
そして今、アサピーはもう一つの危機と直面していた。

命からがら急いでタクシーに飛び乗ってオアシズを目指したのはいいが、肝心の金がなかったのだ。
気付いたのは乗車して目的地を告げ、メーターが三十ドルを示した時だった。
着の身着のまま病院から連れ出されたため、金になりそうな物は何一つ身につけていない。
金銭がないままにタクシーを転がしてしまった以上、金は払わなければならない。

186名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:22:23 ID:EB3u4DHo0
しかし無い袖は振れない。
逆立ちしたところで一セントも転がっては来ない。
このままでは運転手に警察に突き出されて投獄されるのは必至。
ただでさえ方々から狙われている上に、警察はアサピーを目の敵にしている。

その理由を作ったのがアサピー自身であることが、更に最悪だった。
エラルテ記念病院で起こった火災事故を“事件”として記事にして、警察全体に良くも悪くも多大なる影響を及ぼした。
己の行動によって多くの警察官が迷惑をこうむり、捜査に支障が出ることは記事を形にする前に分かっていたが、止められない思いというのも世の中にはある。
何よりもアサピーが信じているのが、真実を表にするという行為の持つ絶対的な正義だ。

秘密裏に処理されてしまう事件の影というのは、公に出来ない後ろめたさがあるものである。
問題なのはそれが隠され続け、特定の人間だけが墓場に持っていくという特権を有していることだ。
情報は公平であり、その公平さの中で初めて善悪が決定する。
単純な殺人一つを見ても、それが自らの尊厳を守るための行為なのか、それとも快楽を目的としたものなのかは情報無くして判別できない。

民衆は真実を欲しているのだ。
欲しているのだから、与えるのだ。
それこそが記者。
それこそが、アサピーの心掛ける記者の絶対的な信念である。

信念を貫き通すためには必要な物がある。
この世界を動かし、変え得るものと同様に“力”だ。
マスメディアはその力を腕力、武力以外で持つ言わば第三の力を掲げる存在。
その一員であるアサピーがこの状況を打破するには、その力を使う他ない。

使える力は情報の収集とその発信である。
これまでに手に入れた情報を利用して、何かしらの突破点を見つけなければアサピーは無賃乗車の罪で投獄される。
そんな愚かな話があろうか。
ティンカーベルを大きく揺るがす事件の片鱗を握りながらも、くだらない罪で投獄されるという事が愚か以外の何に思えよう。

187名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:24:46 ID:EB3u4DHo0
島の状態を考えれば、オアシズは絶対的な安全圏。
そこに逃げ込み、手に入れた情報をトラギコに共有するための手段を模索すれば大きな進展が期待できる。
だというのに、オアシズ側はアサピーを受け入れてくれない。
果たして本当に、今目の前にある検問所の人間はアサピーが話した通りの言葉を伝えてくれたのだろうかと心配になる。

オアシズの停泊する埠頭に通じる橋は言わば最後の砦であり、そこを守るための検問所は海沿いの道を完全に封鎖する形で配置されている。
車両を使って強硬突破を試みようなら即座に破壊するだけの装備があり、武器がある事をアサピーはタクシーから確認した。
いくら運転手を脅してもオアシズへ到着する間もなく爆殺されるに違いない。
急造されたにも関わらず検問所は厳重な状態にあり、二人一組で砂浜を警戒している様子が伺える。

確実なことは言えないが、おそらくは橋の上にも数か所の検問所があるのだろう。
複数個所に分担して道を封鎖することで、取り逃がしや取りこぼしを防ぐ効果が期待できる。
それでも防げるのは物理的な問題であり、情報はそう簡単にはいかない。
人から人へと伝えられる情報以外にも、紙やラジオを通じて伝えられる情報を完全に封じるのは不可能だ。

その自由さこそが情報の強みであり、そして弱みでもある。
実際に必要とする人間に伝わらなければそもそもの効果がない上に、そこに悪意が紛れ込めば情報は本来の方向性を失い、暴走してしまう。
生き物のように繊細で、大砲のように強力なもの、それが情報だ。
特に人伝いの情報伝達は誤解が生じたり、連絡内容に徐々に間違いが紛れ込んだりするのが常である。

そういった情報の特性を理解した上でそれを取り扱うのがプロだ。
仕事をする人間の全てがプロであれば誰も困らないが、世の中そうもいかない。
無能な人間もいれば、化け物じみた能力を持つ人間もいる。
今回の場合、アサピーの状況を端的に伝えたりすれば当然伝わらないし、そのように扱われれば断られるのが道理。

せめてこちらの服装からただならぬ状況を察してほしいし、病院から連れ出された経緯を軍人が共有していればまだ身動きが取れる。
しかしながら、詰所から帰ってきた男の反応を見る限りでは情報共有はなされておらず、丁寧に説明したとは思えなかった。
情報はこうも簡単に死ぬのだ。
改めて話をするように頼み込むアサピーに対して警備の男はライフルから手を放すこともなく、短い言葉で彼に再び退去を命じた。

188名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:27:24 ID:EB3u4DHo0
|゚レ_゚*州「悪いが、例外は認められない。 話をしただけでもありがたいと思え」

(;-@∀@)「ああそりゃあどうもありがとうございます。
      でもですね、軍人さん。 どうしても話をせにゃならんかもしれんので。
      アサピー・ポストマンって聞いたことないですかね?」

食い下がることは記者として必要な資質の一つである。
駄目だと言われて引き下がるようでは、記者失格だ。
例え相手が柔軟性の欠片も持ち合わせていない人間だとしても、だ。

|゚レ_゚*州「話は以上だ」

(;-@∀@)「以上だ、って…… この事件に関する重要な情報があるんですってば!!
      ここに来たのだって、あなた達の仲間が襲われて大変なことになったからで。
      だもんで、とにかく僕の話を!!」

|゚レ_゚*州「ならここで話せ」

堅物。
これがジュスティア軍人の理想的な対応であり、一般的な対応であった。
マニュアルに対して絶対服従、規律遵守の性格は警備員としてはこの上なく必要な能力である。
逆に、個人の裁量で動かれては警備の意味がなくなる。

最高の警備員に人間性は不要と著書内で記したのは、ジュスティア警察の最高責任者、ツー・カレンスキーだ。
軍の元帥であるタカラ・クロガネ・トミーも兵たちに同様の躾を施しているらしく、軸のぶれなさが如何にもという具合である。
反抗するアサピーの様子を見て、新たに二人の兵士が現れた。
威圧的な視線を向けられるが、それでも諦められない。

189名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:31:48 ID:EB3u4DHo0
諦めればこれまでの努力が無駄になる上に命の危険に晒され、無賃乗車の罪で逮捕されてしまう。
突破口を得るまでは梃子でも動くまいと決め込んだアサピーは、これで生じた犠牲や被害に対しての責任について問うことにした。
正に、その時である。

(::゚J゚::)「……まて、お前がアサピーか? モーニング・スター新聞の?」

地獄に仏とは、まさにこの事。
首を縦に激しく振って男の言葉を肯定する。
アサピーの名を知る話の分かりそうな男が現れ、事態が好転するかに思われた。
だが。

(::゚J゚::)「お前が今日の朝刊を書いた糞記者だな!!」

(::0::0::)「何?!」

|゚レ_゚*州「……ほほう」

事態が思わぬ方向に動き始めた。
それまでの空気とは打って変わり、兵士たちが向ける視線の中に嗜虐的な物や怒りの色が伺える。
興味を持たれたのは大いに嬉しいことだが、この展開は好ましくない。
空気の変異に対してアサピーは身の危険を感じ、一歩下がって背中をタクシーの扉に預けた。

極力名前と会社名を出さずにおいたのは、こうなることが怖かったからだ。
警察に恨まれていれば当然、軍人にも恨まれているしジュスティア関係者の全員に嫌悪されているはずだ。

|゚レ_゚*州「予定変更だ。 ちょっとこっちに来い」

(;-@∀@)「あ、いや、やっぱり遠慮しときます」

(::0::0::)「まぁまぁ。 タクシー代は払っておいてやるから」

190名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:36:50 ID:EB3u4DHo0
(;-@∀@)「あ、こりゃどうも」

首根っこを掴まれたアサピーはテントの幕内に連れていかれ、状況の進展に内心で喜んだ。
その喜びが恐怖に切り替わるのに時間はそうかからなかったのは、無言で椅子に座らされ、両手両足を結束バンドで拘束されたからである。
明らかに歓迎ムードではないのは分かっていたが、ここまで乱暴に扱われるとは思いもしなかった。
せいぜい唾や罵声ぐらいで済むと思っていたが、それどころでは済まないのは間違いない。

(;-@∀@)「これは、流石にやりすぎじゃないっすかね?」

ハードSMで互いに楽しもうというわけではなさそうだ。

(::0::0::)「やりすぎかどうかは、結果次第だろうな。
     俺たちは記事を書けないが、これからやる事がどういう効果を生むのかは分かっているつもりだ」

(;-@∀@)「あ、怒ってます?」

(::0::0::)「まさか。 とりあえず俺たちは不審者を捕まえて、尋問をするんだ。
     仕事だよ、仕事。 お前が何者なのか、口を割ってもらうまで尋問する」

彼らがここに連れてきた意味が分かった。
不審者への尋問という形で、今朝の記事を生み出したアサピーに対して復讐しようというのだ。
あくまでも職務上の行為故に咎められることもなければ、彼らの行為に間違いはない。
罵倒するよりも遥かにストレス発散になる。

(;-@∀@)「ぼくは怪我人ですよ!! 怪我人に対して非道なことをして、恥ずかしくないん――」

それ以上の言葉を紡ぐ前に、アサピーの口に絞り雑巾が突っ込まれた。
泥と腐った水の味がした。

(::0::0::)「まずは口の利き方を直させなければなあ」

191名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:40:22 ID:EB3u4DHo0
|゚レ_゚*州「任せな、教育は得意なんだ」

男は指の骨を鳴らしながら近づき、左手の拳を握り固める。
その事前動作が示すのはただ一つ。

(;-@ロ@)「もぼぼー!!」

振り下ろされた拳が、アサピーの太腿を直撃した。
激痛のあまり飛び上がりそうになるが、椅子から離れることが出来ない。

|゚レ_゚*州「俺たちに舐めた口を利いたら、次は殴るぞ。
     今のは撫でただけだ。 そうだろ?」

(;-@ロ@)"

首肯する他ない。
拳を使わずに口頭で済ませられないのかと言いたかったが、どうにか耐える。
しかし。
男が全くおかしなことを話し始めた時、アサピーは自分の考えが甘いことに気付く。

(::0::0::)「さて、質問を始めるか」

当たり前の話ではあるが、口の中に雑巾が入ったままでは二択の質問以外に対して答えることは不可能だ。
初めから何も聞く気はないのだ。
これは痛めつけるための儀式、そして遊びの一環。

|゚レ_゚*州「クラーク、道具は?」

( ''づ)「ほらよ」

192名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:45:05 ID:EB3u4DHo0
新たな男が持ってきたのは、黒い布とバケツに入った水。
何に使われる道具であるかは、一目瞭然だった。

=(;-@ロ@)=

迫る男の手から逃げるようにして体を激しく揺らして抵抗するも椅子を倒されて無駄に終わり、布を被せられて視界を奪われる。
恐らくは水を使った最も手軽な拷問方法、それがウォーターボーディングだ。
布を伝って水を鼻や口から流し込むことで、人体に溺れていると錯覚させることで苦痛を与える拷問であり、軍や警察の情報収集でよく使われている。

(::::::::::)「んー!!」

講義も虚しく、アサピーの顔に海水がかけられた。
一度にかけるのではなく、鼻の穴に流れ込む量が多くなるように少しずつ必要な場所に流してくる。
口は閉じればどうにかなるが、鼻の場合はどうにもならない。
意図的に封じる訳にもいかず、口の中の雑巾のせいで呼吸は鼻に頼らざるを得ない。

結果、尋常ではない量の海水が鼻を通じて体内に――と錯覚させている――流れ込み、アサピーはもがき苦しむ。
水を吐き出すことも叶わず、最小の水で溺れさせられる。
程よく苦しんだところで布が取られ、口からも雑巾が抜き取られた。
海水を吐き出し、せき込む。

(;-@д@)「ごっほ、げはぁっ!!」

(::0::0::)「ああ、悪い。 雑巾を取るのを忘れてたよ」

人生に最悪の一日があるのだとしたら、アサピーにとってそれは間違いなく今日だ。
再度布をかけられ、水を注がれ、たっぷりと苦しんでから解放される。

(;-@д@)「は、はなしを……」

193名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:49:43 ID:EB3u4DHo0
|゚レ_゚*州「しつこい奴だな」

(;-@д@)「お願いですから、話を…… ぎゃっ!!」

ブーツの爪先が、アサピーの太腿を直撃した。
恨まれるのは記者としてよくある話ではあるが、拷問されるという話は聞いた試しがない。

(::0::0::)「まだ素直になり足りないらしい。
     もう一度だ」

そして、濡れた布がアサピーの視界を覆い尽くした。

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August 10th                              .,.,,....::;:;;.,:;:;;.,::;;:;;;;;;;;;;;;; PM07:11      
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初めて新聞というものに興味を持ったのは、六歳の時だった。
その時期、アサピーの友人たちが話題にしていたのは漫画本やコメディアンの話で、誰もニュースには興味を持っていなかった。
勿論、アサピーも最初は漫画やラジオドラマの話が面白く感じていたのだが、八月六日のモーニング・スター新聞の朝刊が全てを変えた。
世界最大の鉄道都市“エライジャクレイグ”が手掛ける線路工事の地域が拡張され、数十年以内に世界最高峰のクラフト山にまでそのレールを広げるという計画が書かれていたのである。

鮮明に記憶しているのは、カラーで描かれた線路図とそれがもたらす世界への影響だ。
要点を捉えた記事は彼の想像力を大いに掻き立て、エライジャクレイグが新たに開発した列車の内装は彼に夢を与えた。
そこで列車に興味を持てばまた異なった未来が待ち受けていたのだが、アサピーがその心を奪われたのは写真だった。
一枚の写真、そして複数の文章が与える力に魅了され、いつしか自分も新聞記者として活躍して世界中の様子を伝えたいと思うになったのだ。

194名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:56:10 ID:EB3u4DHo0
関わった――というよりも、一人で作り上げた――学級新聞が校内で表彰され、景品として渡されたポラロイドカメラは文字通り壊れて動かなくなるまで使い続けた。
思えば安物のカメラであったが、この上のない宝物としてアサピーはそれを使った。
最初に撮影したのは家事をする母親だった。
それが遺影になった日、十三歳になったアサピーは真実の普及に対して妄執的な考えを持つようになる。

精神的に不安定な女が運転する乗用車が歩道に突っ込み、歩行者七人が次々と撥ね殺された。
悲惨な交通事故として処理された突然の死に対して、アサピーが求めたのは真実だった。
事故が起こったアサピーの生まれ故郷である“潮風の街”、カティサークは幸いにしてジュスティアと契約して警察と司法が行き届いていたため、犯人はすぐに逮捕された。
問題となったのは、犯人の責任問題や事件が起こった背景にあったが、街の長の意向で犯人の名前や出自、事件の詳細などは一切公表されなかった。

裁判が行われたが傍聴席は解放されず、一般への公開もなかったことが事故の背後に何かがある事を匂わせていた。
秘匿された真実は逮捕から二日後に下された懲役七年という罰で隠され、遺族以外の記憶から風化するかに思われた。
事故の真実を教えてくれたのは、新聞だった。
複数の新聞社がこの事故の背後関係などを調べ、一年後、モーニング・スター新聞社のライバルであるオトコウメ・ニュースペーパーが一面を使って報道したのである。

そして公になったのはカティサークの長と犯人との間で金銭的な取引があり、意図的に情報が隠され、刑罰が軽くなったという真実だった。
司法はあくまでも警察と契約を交わしている人間の意見を反映するための機関で、いわば警察のおまけだ。
どれだけ非道な真似をしたところで、契約者がそれを非道と認めず、重い罰を望まなければそれまで。
事故が事件へと変わった瞬間、アサピーは救われた思いがした。

知りたかったのは理不尽の理由。
犯人の死に方よりも、理由に関係する情報の方がアサピーを救ってくれた。
真実とはあるべき人の手元に帰すべき物で、選ばれた人間だけが眺めていていいものではないと感じたのはこの日からの事。
以降は写真を取り、雑誌に投稿し、出来る限りメディアに関わりを持ち続けようとした。

アルバイトで貯めた金でカメラを買い、写真を撮り、新聞社や雑誌社に送る日々が続いた。
苦しい生活が続く中でもアサピーが耐えられたのは、夢があったからだ。
いつの日か隠された真実を写真に収め、世界に向けてそれを公表すると云う夢。
息苦しさを覚え、アサピーの意識がそこで覚醒した。

195名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 19:59:32 ID:EB3u4DHo0
(;-@д@)「げほっ、ごはっ!!」

飲み込んでしまった海水を吐き出す。
雑巾の風味が程よく合わさり、嘔吐感を誘発する。
しかし全ては錯覚による影響だ。
実際に溺れたわけではないので、水はあまり飲んでいない。

錯覚により体が反応しているだけで死ぬわけではないのだ。

从´_ゝ从「ほら、起きたか?」

(::0::0::)「あと少しで死ぬところだったが、気分は?」

時間は分からないが、どうやら気絶していたようだ。
死にかけたというのに、全く悪びれる様子のないジュスティア軍人たち。
男達がいくらアサピーに対して恨みを持っているにしても、いささかやりすぎだ。
が、間違ってもそれをここで糾弾しようものなら間違いなく殺される。

糾弾するとしたら、生きて帰ってからだ。

从´_ゝ从「覚えておけよ、新聞屋。
      お前らが捜査を邪魔するたびに、俺たちの仲間はこんな気分になるんだ。
      一歩間違えれば死にかねない仕事をしているんだよ、俺たちは」

ようやく終わりが見えてきたのを察したアサピーは、彼らが反省を求めていることを理解した。
記事が生むのは良い影響だけではないのは重々承知しているが、悪影響をこうむる人間の種類を深く考えたことはなかった。
最初の頃は良心の呵責があったが、それは意味のない葛藤だと断じて忘れることにした。
無意識下で意識しないようにしてきたのは、記者として生きるためだ。

196名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:01:07 ID:EB3u4DHo0
知らないわけではない。
ただ、考えないように生きてきただけである。
記者は読者が求める真実を見つけ出し、掘り出し、作り出し、そして生み出す。
そのためには誰かが傷つくことを考えてはいられない。

分かっていることだ。
拷問されて思い出すようなことではない。
それでも、今一度考えるいい機会になった。
そう思わなければ、この受難はあまりにも耐えがたい。

新聞記者を辞める日が来たら、この事を自叙伝として出版してもいいぐらいだ。

(::0::0::)「これに懲りたら、もう二度とあんなことをするなよ」

腕の結束バンドをナイフで切り、男がそんなことを言う。
無論、話を聞くつもりはない。
せめてもの反抗として、アサピーは返事をしなかった。

(::゚J゚::)「……おい、何をしているんだ?」

足を固定している結束バンドにナイフの刃が食い込みかけた時、テントの幕を開けて入ってきたのはアサピーの正体を告発した男だ。
声色に滲み出るのは批難の色。
既視感のある嫌な予感に、アサピーは身を震わせた。

从´_ゝ从「あぁ、痛めつけたからもう帰す。
      怪我をしているようだしな」

(::゚J゚::)「何を甘いことを。 こいつを帰したら、また同じことをするぞ」

197名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:06:38 ID:EB3u4DHo0
从´_ゝ从「その時はまた捕まえるだけだ」

先ほどまで痛めつけていた男の声に、もう憎しみのそれは窺えない。
生粋のジュスティア人らしい対応であり、頼もしくすら思える。
今現れた男はアサピーを敵として認識しており、紛れもない憎しみの感情を持っている。

(::゚J゚::)「こいつは今ここで殺しておこう」

(::0::0::)「おいおい、正気か? 何でそんなに殺すことにこだわるんだ?」

(::゚J゚::)「当たり前だろ」

さも当然のように言い放ったその言葉からは、一片の揺るぎも感じ取れない。
害虫を見つけたら殺す、そんな風にしか聞こえなかった。
アドレナリンによって紛らわされていた恐怖が、今になってアサピーの体に寒気を思い出させた。
痛めつけるのではなく殺されるという行為に幾度となく晒されてきた彼は、殺意と呼ばれるものに敏感に反応することが出来るようになった。

(::゚J゚::)「そいつは、ここで君たちに殺される予定なんだ。
     ただでさえ予定が狂っているんだ、ここらで修正しないとね」

徐々に変わりゆく男の様子。
この雰囲気、アサピーは知っている。

从´_ゝ从「何を――」

(::゚J゚::)「お休み」

男が放った台詞と同時に、男二人が昏倒するようにして倒れる。
二本のワイヤーが男たちに繋がっていることから、テーザーガンを使ったのだと推測できた。
本来であればすぐにでも逃げ出したいのだが、足と椅子がまだつながったままのために起き上がる事すら叶わない。

198名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:13:44 ID:EB3u4DHo0
(::゚J゚::)「さて、そういうわけで死んでもらおうか」

その外見、口調や声色こそ違うが、放つ雰囲気は既知の物。
モーニング・スター新聞社を襲い、同僚を殺し、アサピーを殺さんとした男のそれと酷似している。

(;-@∀@)「ひょっとして、ショボン・パドローネ?」

(::゚J゚::)「……ほぉ、よく分かったね。
     流石に成長するか。
     ま、意味ないんだけどね」

あっけのない肯定の後、ショボンはアサピーの腹部を蹴り上げた。
呼吸が止まり、悲鳴を上げることも出来ない。
仮に悲鳴を上げたところで、この場所に連れてくる姿を見られている以上、助けは期待できない。
ジュスティア警察や軍隊を敵に回しているアサピーを助ける酔狂な人間など、少なくともこの検問所にはいないだろう。

完璧な変装をしたショボンは慣れた手つきで痛みに喘ぐアサピーを再び椅子に固定し直し、雑巾を口に突っ込んだ。
そして布を被せ、水をかけ始める。
拷問は適度に苦痛を与え続ける物だが、ショボンの場合は殺すために行う。
そのため、海水は途切れることなくアサピーの鼻に注がれ、体力と冷静さを奪い続ける。

何度も咳き込んで口から吐き出そうとするも雑巾が邪魔をして、上手くいかない。
尋問中の事故死を装うのならば、この殺し方しかない。
すでに幾度も痛めつけられていたせいで意識を逆転のための思考に割くだけの余裕はもはや残っておらず、殺されるのを待つ他ない。
あと一歩。

本当に、あと少しという所でオアシズに辿り着けるというのに。
アサピーに出来るのは空気を求め、塩水を吐き、楽になる事を求めて抗うだけ。

「……ん?」

199名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:19:11 ID:EB3u4DHo0
ショボン――声色は別人――の声が、何かに気付いた風に漏れ出た。
その間にも海水をアサピーに垂らすのを止めることはなく、本当にショボンが声を出したのを聞いたのかどうかも怪しい。

「今度は番犬の登場か」

そしてその言葉を最後に、アサピーはその日三度目となる気絶を体験することになった。

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<_プー゚)フ

相性を考えれば、ダニー・エクストプラズマンにとってショボン・パドローネという男との戦闘で負けはないはずだ。
この禿頭の男はあれやこれの下地を作ってから戦いに挑むタイプで、突発的な戦闘を好まない性格をしている。
逆を言えば、ショボンはこうした突発的に発生した状況下での戦闘を苦手としているという事だ。
多少の危険が伴ったが、アサピー・ポストマンを泳がせておいて正解だった。

これがライダル・ヅーの仕掛けた第二手目。
何度も命を狙われるだけの価値を持つ男を餌にして、最重要目標を釣り出すという作戦は見事に形を成した。
新聞社で対峙したショーン・コネリの報告を聞く限り、ショボンの持つ強化外骨格はBクラスのコンセプト・シリーズ“ダイ・ハード”。
近接戦で高い能力を持つダイ・ハードが相手ならば、エクストの“ダニー・ザ・ドッグ”の方が優位にある。

200名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:23:43 ID:EB3u4DHo0
高周波発生装置を搭載しているとはいっても、それは脛にある楯と各関節に仕込まれたナイフだけの話。
同じく一つの能力に特化して設計されたダニー・ザ・ドッグは全身が高周波兵器だ。
短期決戦を狙えば、負けることも仕留め損なう事もあり得ない。
しかもショボンは、強化外骨格を手元に置いていないというハンデがある。

今ならば難なく殺せる。
が、この男は恐ろしくしたたかな性格の男だ。
こちらが棺桶を身に纏う隙にアサピーを殺し、この現場を離脱するだろう。
エクストにとってアサピーの命は第三番目の優先順位にあり、いざとなれば切り捨てても構わない存在だ。

重罪犯の確保、もしくは殺害に次いで優先されるのが犯人の逃亡の阻止である。
棺桶が使えないのは、第三位までの優先事項を一気に破りかねないからであり、アサピーの命を心配しているわけではない。
かと言って、事前に装着した状態で移動しようものならば跫音で気付かれ、同じ結果になる。
銃か、それとも近接戦闘か。

最も好ましいのは近接戦闘だが、ショボンはそれを絶対に避けてくる。
戦いに応じれば御の字で、逃げられる可能性の方がはるかに高い。

(::゚J゚::)「で、どうする? 捕まえるか? それとも殺す?」

<_プー゚)フ

見え透いた挑発だ。
声帯を損傷しているエクストが言葉を発するためには、人口声帯を取り出して使う必要がある。
それは致命的ともいえる隙を産む。
言葉に言葉で応じる必要はない。

予期できる動きを計算に入れ、チャンスを窺う。

(::゚J゚::)「無視かい? 騎士らしくもない」

201名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:29:19 ID:EB3u4DHo0
言葉を黙殺し、逆にその隙を狙ってエクストは攻撃の手段を選択してから実行に移す。
この間、コンマ七秒。
背負っていた強化外骨格を降ろし、駆け、握り固めた左の拳をショボンの腹部に放つ。
呼吸を止めて隙を作り出すための定石に対して、ショボンは予期していたような動きでそれを掌で受け止める。

(::゚J゚::)「ったく、これだ――」

予想通り。
接近できればそれでいい。
この拳はショボンを戦いの舞台に連れ出すための拳。
これでようやく幕が上がるというものだ。

超至近距離から放つ後ろ回し蹴りが、動物的な反応速度で後退したショボンの頬を掠める。
変装用のマスクが吹き飛び、テントの壁に叩き付けられる。

(´・ω・`)「――あっぶないな」

当たれば顎の骨を砕き、首の骨を折る一撃。
頬に掠りでもすれば脳震盪を誘発させられたのだが、文字通り皮一枚のところで回避された。
これほどの威力を持つ蹴りを涼しい顔で受け流せる人間は稀有で、改めてショボンの実力を認識する。
続けて放つ足払いを難なく回避したショボンは、腰に手を伸ばした。

武器の使用を予期し、その種類を想定する。
対刃物、対拳銃の訓練と実戦は十二分に経験している。
対爆破物の実践はまだ十数回程度。
少し心もとないが、仮に爆発物を使用されても自らの命を守るだけの対応は出来るはずだ。

何を取り出すのかと身構えたエクストに投げつけられたのは、円柱の物体。

<_プー゚)フ「っ!!」

202名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:34:19 ID:EB3u4DHo0
――フラッシュグレネード。
次に起こるのは閃光と耳を聾する破裂音。
どちらも一時的に人体からその機能を奪い取る効果があり、エクストは腕を眼前で十字に組んで視覚の防御を行った。
そして生じる落雷にも匹敵する閃光と爆音がテントを満たす。

視覚は守られ、聴覚は奪われた。
暗闇の中で人間が真っ先に頼るのは視覚ではなく聴覚だ。
何が起きているのかも分からない中、手さぐりで動くのはあまりにも危険。
動かないのはもっと危険である。

素早く腕を解いて、エクストはショボンの行方を目で追いつつ、アサピーを庇える位置に立つ。
直後、エクストの正面にショボンの姿が現れる。
回復していない視力を使って、エクストは右足を軸にした回し蹴りで相手を牽制。
これ以上の接近を許さず、また、武器による殺傷を回避する一撃だ。

接近戦を好むはずのないショボンが接近したという事は、拳銃ではなくナイフしかないと考えられる。
事実、回し蹴りを放った左足の太腿に熱を感じる。
切られた。
傷の深さは大したことはなさそうだが、警戒しておく必要がある。

浅くとも何度も切られれば血が失われ、やがては死に至る。
次第に回復してきた視力が、ショボンの姿をはっきりと捉えた。
彼の背にダニー・ザ・ドッグが背負われていることを除けば、何一つ問題はなかった。

(´^ω^`)「あっはっは、これはもらっておくよ。
      こっちの作戦の邪魔をした代金だと思っておくんだね」

<_プー゚)フ「……!!」

203名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:36:44 ID:EB3u4DHo0
狡いショボンの得意とするのが、目を逸らすことの出来ない事態を用意して本命から目を逸らさせるという行いだ。
この短時間の間によくもそれだけ考えられるものだと褒める反面、それを許してしまった自分がふがいない。
だがしかし、棺桶には起動コードがいる。
ダニー・ザ・ドッグのコードはエクストの首にあるセンサーに指をかざさなければならず、あのままでは使用は出来ない。

それに、コンテナに入った強化外骨格はかなりの重量になるため、走ることは困難になる。
つまり罠。
こちらを憤らせ、怒らせ、判断力を削いで勝機を見出すための罠なのだ。
素早くショボンの目論見を見破ったエクストは、構わず近接戦闘を再開することにした。

ナイフを持っていようが、当たらなければいいだけの話。
少しゆるく握った拳の中指を立て、地面を強く蹴って地を這うように低く疾駆する。
僅かに驚きの表情を浮かべつつもショボンは逆手に構えたナイフを振り、エクストの前髪を数本切り落とす。
遅い。

拳を繰り出すと見せかけて放つのは、重量によって跳躍がままならない無防備な足を狙った脚払い。
当たる寸前、ショボンはナイフを振り切った反動を利用して背負ったコンテナでそれを防ぐ。
ブーツの固い爪先と金属がぶつかり、鈍い音を鳴らす。

(´・ω・`)「危ない危ない」

そのままコンテナを肩から降ろして、ショボンは逃走を図る。
背を見せてテントから出て行ったその瞬間を、エクストは待っていた。
姿勢を整え、コンテナを背負い、親指を喉のセンサーに当てて横に引く。
すぐさま体全体がコンテナに包まれ、強化外骨格が体を覆う。

似`゚益゚似

204名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:40:58 ID:EB3u4DHo0
嗅覚センサーを最大値にまで引き上げ、ショボンの匂いを識別させる。
カメラが映し出す視覚情報に映像として同期された匂いの色が、彼の逃走経路を浮かび上がらせる。
整備士以外にはあまり知られていないが、ダニー・ザ・ドッグには他の強化外骨格よりも遥かに優れた嗅覚センサーが搭載されており、それを映像化することが可能なのだ。
周囲にある多くの匂いが種類に応じて彩られ、視認可能な情報としてカメラに表示される。

その中から必要な匂いだけが残り、ショボンの軌跡を教えてくれる。
風で匂いが霧散する前に追いつくべく、エクストはテントを飛び出した。
夜間でも真昼のように明るく鮮明な映像を映し出すことの出来る両眼のカメラが、そこに転がる静かな死を見つけ出した。
警備をしていた男たちが倒れ伏し、口から血の泡を吹いて呼吸することなく虚ろな目を夜空に向けている。

僅かだがショボンの香りがそこに残されている。
体温の低下が見られることから死後間もないというわけではなく、アサピーが拷問を受けている間に殺されたようだ。
ショボンの匂いは高く積まれた土嚢の裏に続いていたが、追う必要はなくなった。

(::[-=-])『ったく、今日はとことん犬野郎に邪魔される一日だ!!』

土色のデザートカラーをした強化外骨格、ダイ・ハードが猛烈な勢いで飛び蹴りを放ってきたのである。
ショボンは逃げようとしたのではなく、棺桶を身につけるために時間を稼いだのだ。
その行為が如何に愚かなことか、エクストは教えてやろうと決めた。
脛を守っていた楯が足首の位置に移動して固定され、巨大なナイフとしてダニー・ザ・ドッグの装甲を抉ろうとする、その刹那。

エクストは全身の高周波装置を起動させ、破壊兵器へとその身を転じさせた。
迎え撃ったその手段は正攻法だった。
しかしながら相手は狡猾なるショボン。
無策に突撃をするような手合いではなく、必ず何かを仕掛けてから動く男だ。

否が応でも応じざるを得ない手を選ぶのは、戦闘でも同じ。
一手目の次が本命。
高周波装置を備えた武器同士がぶつかり合い、不協和音を奏でる。
単純に考えて出力される範囲はダニー・ザ・ドッグの方が上であるため、防衛で後れを取ることはない。

205名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:45:05 ID:EB3u4DHo0
互いに破壊の音色を奏でる高周波兵器は、装甲の上を滑るようにして火花を残して別れる。
飛び散った花火の後に残ったのはリンゴを思わせる手榴弾。
これが第二手にしてショボンの本命と見定めたエクストは、それを気にすることもなく追撃を選んだ。
爆風だろうが火炎だろうが、高周波振動を続けるダニー・ザ・ドッグの装甲に傷をつけることは敵わない。

オレンジ色の爆炎と飛び散った鉄片がカメラを覆い尽くすも構うことなく前進し、匂いを頼りに拳足を振るう。
確かな感触を正拳突きに捉え、爆煙が晴れる。
背後からバッテリーを狙っていたショボンが、肘に仕込まれた高周波ナイフで拳を止めていた。
どれだけ強力な強化外骨格でも、電力を絶たれれば機能を停止する。

性能差を埋めるとしたら、そこを狙うしかない。

(::[-=-])『ちっ!!』

似`゚益゚似『ぬんっ!!』

同時に互いを押しのけ、エクストが後ろ蹴りを見舞う。
巨大な二枚の楯がそれを防ぐと同時に、ショボンは跳躍して後退する。

(::[-=-])『どうだろう、見逃してくれないかな?』

似`゚益゚似『死ね、悪党』

(::[-=-])『おお怖い』

とび後ろ回し蹴りに対してショボンは僅かに状態を逸らして回避し、殺した兵士から奪い取ったのであろうカービンライフルを至近距離から撃った。
銃弾は振動する装甲によって砕け散り、鉄粉となって風にさらわれる。
銃身を蹴り払って破壊。
一つの高周波兵器と化したエクストを前には、銃もナイフも爆薬も意味をなさない。

206名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:47:21 ID:EB3u4DHo0
バッテリーの残量が残り五分の稼働時間を示す。
この調子で全身を振動させていれば五分後には動けなくなり、強制的に排出される。
そうなってしまえば有利な立場になるのはショボンだ。
時間稼ぎという目標、それが生み出す効果と戦力差の逆転。

ダニー・ザ・ドッグが持つこの力を知る以上、ショボンはそれが電力を大量に使うことを知っているはずだ。
だからこそ、手榴弾や高周波ナイフ、銃弾を使ってこちらを乗せてきた。
二つの罠を用意したうえでの目的に気付いた時には、もう、エクストは引き返すことが出来ない事を悟った。
ここで殺すか、殺されるか。

引くという選択肢はなく、それがあったとしても選ぶような人間ではない。
円卓十二騎士の一人として、エクストはここで勝負を決する覚悟があった。
勝負は五分以内。
その間に終わらせる。

ここで小悪党は死ぬのだ。

(::[-=-])『だけどね、犬と遊んでいる時間も無いんでね。
      僕は失礼するよ。 この場所に仕掛けた爆弾が爆発する前にね』

似`゚益゚似『っ、貴様!!』

(::[-=-])『ここが吹き飛べば、どれだけの被害になるだろうね』

隠し通すことの出来ない大きな失態を繰り返すことが何を産むか、エクストはよく知っている。
日に数度もそれが起こればジュスティアの信頼は地に落ち、ティンカーベルとの関係は終わりを告げるだろう。
ショボンを目の前で逃して爆発を防ぐか、爆破されることを覚悟でショボンを捕まえるか。
彼に託された選択肢は天秤に乗せるにはあまりにも脆く、重要すぎた。

207名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:50:55 ID:EB3u4DHo0
逡巡というにはあまりにも長い時間を費やすエクストを前に、ショボンは飛ぶようにしてその場を走り去った。
事態を受け入れ、エクストはすぐさま爆弾の仕掛けられた場所を探すことにした。
センサーをフル稼働させ、爆発物を探る。
念入りに排水溝や茂みの中を探すが、何一つ痕跡が見つからない。

捜索開始から三分後、エクストはショボンに騙されたことに気付くのであった。

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目が覚めた時、アサピーはまず自分が天国や地獄と呼ばれる場所にいるのか、それとも日に二度目となるエラルテ記念病院に運ばれたのかを考えた。
後者であれば再び命の危機にさらされ、今度こそ自由を奪われるだろう。
ともあれ、それは生きている証なのだから文句ばかりも言えない。
ところが前者の場合は話が別である。

カメラがあればそれに収めるか、それとも自由気ままに天国探検をするか、地獄から脱出を試みるか。
そうなれば子供のころに夢見た冒険者になれる。
一度死んでしまえば何をしても怖くない。
意識がある以上は死後の世界にはいないのだと思えるが、案外死の世界でも思考が出来るのかもしれない。

痛みという概念もあれば、現実世界との区別は曖昧となる。
どちらも現実であり、それまでアサピーが生きていた世界とは別かどうかという断定は他者に委ねる他ない。
柔らかな布団に寝かされていることと、近くから潮騒の音が聞こえることから、少なくとも死んだわけではなさそうだ。

208名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 20:57:53 ID:EB3u4DHo0
(;-@∀@)「い、生きてる……生きてるぞ……」

部屋は見事な調度品と家具で彩られていたが、窓が一つも見当たらない。
衣服はみすぼらしい病院の患者着ではなく、洗剤の香りが漂う清潔感のあるパジャマだ。
肌触りがよく、布の質が極めて良い。
腹部の手術跡に当てられたガーゼと包帯は真新しくなっていて、誰かがここに運んだだけでなく世話をしてくれたのだと分かる。

ジュスティアの関係者でない事だけは断言できる。
拷問で殺されかけたことは、必ずや記事にして世間に公表しなければならない。
サイドテーブルの上に水差しが置かれていることに気付き、自らのために水を注いで三杯飲んだ。
出入り口と思わしき扉が開き、現れた人物がこの場所がどこであるのかを教えてくれた。

¥・∀・¥「初めまして、ですね。 私、オアシズの市長リッチー・マニーと申します」

(;-@∀@)「マジかよ、こいつはおったまげ……」

つまりアサピーは、幸運にも目的地であるオアシズへと乗船することに成功したのだ。
いかなる手段を使って船内に運び込まれたのか、それが気になるところだが今はそれどころではない。
真実を世に知らしめるため、是が非でも彼の協力がいる。
むしろ、このオアシズ上で最も権力を持つ男が協力してくれれば鬼に金棒だ。

¥・∀・¥「なにやら、お話があるとかで。
      私でよろしければお話をお伺いしますが」

興奮を押さえつつ、マニーは確実に用件を伝え、目的を果たすべく乾いた唇を舐めた。
三度それを繰り返し、ようやく言葉を口にする。

(-@∀@)「あの島で起きている事を、世間に知らせたいのです。
      そのためにはオアシズの協力が必要不可欠でして」

209名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:01:18 ID:EB3u4DHo0
¥・∀・¥「ほほう、その事態とは?」

より効果的に。
より扇情的に。
心を揺さぶるためにわざと言葉をため、それから発する。

(;-@∀@)「極悪な脱獄犯が――」

¥・∀・¥「“ザ・サード”と“バンダースナッチ”ですか? それで?」

出鼻を挫かれたことに、アサピーは動揺を隠せなかった。
衝撃的とも言える話を知っているのは、どうしたわけか。

(;-@∀@)「ど、どうしてそれを」

¥・∀・¥「あぁ、話の腰を折ってしまいましたね。
      それで、続きは?」

続きを促され、アサピーは気を取り直して続ける。

(-@∀@)「エラルテ記念病院で火事が起こり、今日また襲撃がありました。
      前者の犯人はまだ捜査中ですが、後者、僕を襲撃してきたのはザ・サードでした」

¥・∀・¥「情報が不正確ですね。 貴方が襲われる前に、すでにライダル・ヅー様が襲われています。
      その犯人もまた、ザ・サードです。
      アサピー様、申し訳ないが前置きはさておいて本題に入ってはもらえませんか?
      時は金なり、です。 今はとにかく時間が惜しい」

210名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:04:20 ID:EB3u4DHo0
どうにも雲行きが怪しい。
流石に最初からこちらに好意的だと考えていたのは甘かったようだ。
気を取り直して咳払いをし、アサピーは核心部分を話すことにした。

(-@∀@)「僕が手に入れた情報を整理すると、何者かによって狙撃が三度行われました。
      僕を二度撃ち、エラルテ記念病院でカール・クリンプトンを撃った人物は同一だと思われます。
      証言と実体験を基にお話ししますが、発砲音は聞こえていませんでした。
      ですが、発砲炎を見てその狙撃地点が分かり、発砲音が聞こえなかった理由も分かりました」

これが、アサピーの手に入れた事件解決への大きな足掛かり。
これ以上の情報は、おそらくはマニーには意味がないだろう。

¥・∀・¥「……狙撃については聞いていましたが、場所は?」

(-@∀@)「グレート・ベルです。 狙撃手は、グレート・ベルの鐘の音に合わせて狙撃をしていたのです」

全ての狙撃の際には、必ず鐘の音が鳴り響いていた。
二度はその音の意味があったから分からなかったが、三度目。
つまり、病院から連れ出されている最中に鳴った鐘だけは別。
特に意味もなく、時刻を告げる物でもなかった。

鐘の音の大きさと鳴らされる意味をよく知っているからこそ、アサピーは気付くことが出来た。
では、実際にそのようなことが可能なのだろうか。
問題はそこにあった。
他の音で銃声を誤魔化すことが、果たして可能かどうか。

それを聞くためにも、トラギコとの接触が必要だった。

211名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:09:44 ID:EB3u4DHo0
(-@∀@)「しかし僕は銃器については素人ですので、そのようなことが可能かどうか。
      その裏付けをするために、トラギコ・マウンテンライト刑事とコンタクトを取りたいのです。
      そのために、ここに来ました」

あまり驚いた様子を見せず、笑顔をそのままにマニーは得心した風に頷いた。

¥・∀・¥「なるほど。 やはりそうでしたか。
      申し訳ありませんが、今はあまり手を貸すことが出来ません。
      勘違いをしないでほしいのは、手を貸したくないわけではないのです。
      今、貴方を匿うと多方面に不利益が生じます。

      何故なら、貴方は重要な役割を持った生餌なのです」

(;-@∀@)「生餌?」

¥・∀・¥「貴方は今、ショボン・パドローネらに執拗なまでに狙われていますよね?
      ジュスティアはそこに目をつけ、貴方を餌にして彼らを釣り上げようとしているのですよ。
      現に、二回の成功例まで作ったのですから、今後も同じでしょうね。
      つまり、生餌を庇えば当然被害が生じますし、せっかくの好機をも失うことになります。

      だからこそ、貸せる力は限られます」

一度目は、病院から移動する際。
そして二度目は拷問中に。
どちらもジュスティア警察か軍の人間が傍にいて即応できていたのは、そういうわけだったのだ。

¥・∀・¥「貴方が伝えたいことは分かりました。
      次に、私からの質問です。 貴方は、何を見たのですか?
      危険を冒してまでも彼らが追う、その情報。
      それが何なのかが分かれば出し抜くことが可能です」

212名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:11:53 ID:EB3u4DHo0
(;-@∀@)「何度も考えたのですが、これと言って……
      でも、カメラが盗まれてしまったので正直なところあったとしても記憶には……」

マニーは首を横に振った。

¥・∀・¥「カメラが盗まれてからも、貴方は狙われていました。
      つまり、フィルムではないのです。 貴方が無意識の内に目撃した何かが、彼らにとって不都合なのです。
      思い出してください」

(;-@∀@)「と言っても、本当に覚えがないんですよ」

¥・∀・¥「ファインダー越しに何かを見てしまったとか」

トラギコと出会ってからアサピーが調べてきたのは、事件に関係しそうな情報の収集だ。
その過程で何かを見つけてしまった、と考えて記憶を探る。
朝市の写真にはショボンとデミタス・エドワードグリーンが写っていたが、それはもはや意味を持たないだろう。
情報が古く、そして広く知れ渡ってしまっている。

逆に、そう言った鮮烈な情報以外にこそ答えがあるような気がした。
狙われる直前に行ったことと言えば、爆破現場の写真を撮ったり、情報を聞いたりしただけだ。
その時に撮影した写真が、問題なのかもしれない。
それが考えうる限り最も自然なことだった。

(;-@∀@)「あの、爆破事件についての詳細とかはご存知ですか?」

¥・∀・¥「私の耳に入っている限りでは、これと言った証拠も残っていないために捜査が難航しているとのことです」

奇妙だ。
アサピーはあの現場で見つけた物があった。
恐らくは警察が見つけて捜査に役立てるだろうと思った、ある物が。

213名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:16:58 ID:EB3u4DHo0
(-@∀@)「スーツケースも見つかっていないんですか?」

¥・∀・¥「さぁ、流石に何が証拠物品として回収されたのかまでは私でも分かりかねます。
      それこそ、警察に確認しない限り不可能ですよ」

現場に駆け付けたアサピーが見つけたのは、熱と爆発の威力で変形したスーツケースだった。
それは黒く焼け焦げたのか、それとも元から黒かったのかは分からないが、蓋が半分吹き飛んでいたのを除けばかなり原型を留めていたのは確かだ。
気になる点があるとしたら、それぐらいだろう。
今は思いつくことが少ない。

やはり一度、トラギコを介してジュスティア警察に話を聞かなければ何も分からない。
パズルのピースが欠けた状態でそれを組み合わせることは出来ず、答えに辿り着くことは永遠に不可能である。
狙われる直接の原因は不明だとしても、現場で撮影と取材をしたことが大きく関係していることは確かだ。
撮影したのは証拠品や負傷者の状況で、爆破直後の画像としてはかなりの鮮度を持っていた。

そして最初に襲われたのは、手に入れた情報を持ち帰って整理しようとした時だ。

¥・∀・¥「何はともあれ、貴方を襲ったのは情報に価値を見出す人間の集まりです。
      新聞記者と少し思考回路が似ている点があるので、貴方の方がよく分かっていると思います。
      ねぇ?」

そう。
警察と新聞記者が情報に対して持っている考え方は、大きく異なる。
正確な情報と判断してから公表するのではなく、かもしれない、という可能性の段階で公表する違いだ。
当然前者が警察であり、後者は新聞社全般が持っている考え方である。

ショボンはアサピーが何かを知っているかもしれない、同僚に何かを話したかもしれないという可能性で殺すことを選んだ。
不確かだろうが、知られていたとしたら死んでもらった方が好都合。
全ては自分たちにとって好都合だから、という考えに他ならない。
実に自分勝手で、そして賢い選択だ。

214名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:20:17 ID:EB3u4DHo0
アサピーら新聞社が不確かでも情報を人々の下に手渡すのは、万が一その情報が正しければ新聞社は正義となり、間違っていたとしても不利益にはつながらないからだ。
いわば保険のような意味合いが強い。
それでも、その情報で救われる人がいるのも事実だ。
例えば脱線事故が起こった際に、死傷者の正確な数よりも死傷者がいたのかどうか、という情報の方が喜ばれる。

正確な数字はさておいて、自分の身内や知り合いがそれに巻き込まれたかどうか、の方が大切なのだ。

(;-@∀@)「要するに、僕が殺された方が彼らにとっては都合がいい、と。
      とんだファック野郎どもだ……」

¥・∀・¥「まぁそれは致し方ないことかと。 しかし、貴方が何かしらの可能性を持っているのもまた事実。
      ですが我々としては、別にティンカーベルがどうなろうと構わないのです。
      他の街の話ですからね。 ただ、ここにいつまでも留まるわけにもいきません」

(;-@∀@)「では、僕に協力をしてくれるので?」

期待を込めて尋ねたアサピーに対して、マニーは質問で返した。

¥・∀・¥「一つ訊きますが、この事件を記事にするのはいつですか?」

(-@∀@)「明日にでも……いや、今日にでも!」

力強く断言する。
情報は鮮度こそが重要だ。
すぐにでも号外を発行させれば、たちまちアサピーは英雄の階段を駆け上がることになる。

¥・∀・¥「なら、私は貴方に協力できません」

(-@∀@)「え?」

215名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:26:01 ID:EB3u4DHo0
全く予想していなかった答えに、アサピーは言葉を失いかけた。

¥・∀・¥「切り取られた真実を記事にして、それが世にもたらす不利益を考えていないからです。
      あなた方がいう所の真実、つまり情報とは断片的な物。
      ナイフの危険性だけを取り上げ、その使い方と利便性を知らせないのと同じですよ。
      不完全な情報を与えて神を気取る人に協力はするつもりがありません」

世界最大の豪華客船の市長の口から出てきたのは、幾度となく聞いてきた言葉だった。
情報がもたらす弊害。
それを知らないマスコミ関係者は一人もいない。
故に、アサピーは決まりきった言葉で返すことにする。

(;-@∀@)「ですが、人々には情報を知る権利があります。
      我々はその手助けをしているだけで――」

言葉を遮るようにして、だが威圧的ではない声色でマニーはその決まりきった言葉を一蹴した。

¥・∀・¥「知る権利ではなく、知りたい人間が知り、そうでない人間は知らないままでいる権利ですよ。
      無理やり押し付ける事を手助けとは言いません。
      餌を待つ豚ならいざ知らず、人間ならば自力で調べるという事が出来ます。
      どうしても情報を与えたいのなら、求める人間にだけ与えるべきではありませんか?

      両親が死んだことさえ理解できない子供に伝えるのが、果たして正義なのでしょうか?
      両親の死体を前にした子供に対してその心境を訊き、それを記事にするのが果たして子供のためになるのでしょうか?
      知ることが必ずしも人にとって幸せとは限らないのですよ」

静かに、そして一言ずつ確かに言い聞かせるようにしてマニーはその口から力のある言葉を連ねた。
反論の余地は、なかった。
新聞記者として、そしてそれを志してからの人生でこれほどまでに短い言葉で黙らされたのは初めてだ。
恫喝に対しての耐性はあったが、こちらが掲げる権利の間違いを指摘する権利に対しては何一つとして言葉は用意されていない。

216名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:32:33 ID:EB3u4DHo0
(;-@∀@)「……む、ぐぅ」

¥・∀・¥「……私がオアシズの市長になった際、貴方の会社が書いた記事を今でも覚えていますよ。
      前市長の息子が市長に就任、親族経営がもたらす負の連鎖、外界を知らない無知な市長、と散々に書かれました。
      市長を継ぐにあたり父が私に課したいくつもの課題を取り上げることもなければ、謝罪することもありませんでした。
      断片的な情報を世に送り出して、あとは知らぬふり。 幸いにして父はそれを予期して私にそれを乗り越えるだけの知識を与えてくれていました。

      時間が経てばそのような振る舞いを忘れ、取材を申し込んでくるようになりましたけどね。
      それが彼らの流儀で、それが彼らの力の使い方なのでしょう。
      ですがアサピーさん、貴方はまだあの業界に染まり切っていない。
      そうお見受けしたからこそ、こうしてお話をしているのです」

(;-@∀@)「僕に、何をしろと?」

ここで頷かなかったのは、アサピーの中にある僅かな矜持の賜物だった。
彼がこれまでの人生で培ってきた価値観はまだ消えていない。

¥・∀・¥「全ての情報が出そろい、事態が収束するまで情報を公にしないでいただきたい。
      それだけです」

(;-@∀@)「何故です? 情報が広まればそれだけでショボンたちの行動が制限されるのでは?」

¥・∀・¥「それが有効な時期は過ぎ、事態はあまりにも複雑になりすぎました。
      加えて、様々な方面で方向性がばらばらの酷い修復――tinker――を試みた結果、どうしようもなくなりました。
      ならばせめて、事態が収束した時に一矢報いるために力を振るった方が賢い。
      解決は別の人に任せるのがよろしいかと」

(;-@∀@)「大人しくここで待て、と?」

¥・∀・¥「私の要望を受け入れるか否か、それによりますね」

217名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:36:13 ID:EB3u4DHo0
これがマニーの本題だと分かったところで、アサピーに有利な点はない。
最早カードは使い尽くし、切り札もない。
それに提案自体は悪い内容ではない。
問題は、アサピーのこれまでに作り上げてきた価値観や倫理観と呼ばれるものを変えるかどうか、という点にある。

真実を多くの人に知ってもらいたい。
それを求める人間にこそ、それを知らせなければならない。
その使命感で一心不乱に働き続けてきた。
生き方を変えるのと同じく、マニーの要求を呑むのは容易な話ではない。

だが。
この葛藤こそが、アサピーの心の中に知らずの内に芽生えていた良心の呵責の証明であり、揺るがぬはずと豪語していた信念の弱さでもあった。
本当に己の行動に疑念一つなく、曇り一つなく、後悔もせずに生きていたのだとしたら、この瞬間にすぐに拒否すればいいだけだ。
それが出来ないという事は、考える余地があるという事に他ならない。

(;-@∀@)「ですが……しかし……」

¥・∀・¥「もう一度言いますが、時は金なり、です。
      金は時には成り得ませんが、時は金を越え得る力を持っています。
      ご決断を」

手に汗が滲む。
歴史を変えるスクープを手放し、信念を変える覚悟を決めなければならない。
アサピーはマニーの提案を受け入れる方に気持ちが傾いていた。
足りないのは覚悟。

自分自身の全てを変えるという覚悟が、アサピーには欠けていた。
これまでに行ってきたのは他者の変化。
生半可な未経験者、すなわち自慰行為に長けているだけで本番を知らない哀れな童貞と言ってもいい。
知ったつもりになっていただけで、いざ自分自身が変化させられようとするとそれを受け入れられない弱さが露呈する。

218名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:36:25 ID:vl31qxjM0
ここでTinkerに繋がるのか、支援

219名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:39:16 ID:EB3u4DHo0
何度も何度も思案する。
正しいのはどちらなのか。
変えるべきか、変えずに抗うべきか。
世間に知らしめるべきか、思いとどまるか。

(;-@∀@)「せめてトラギコさんにだけは……伝えたいのですが……」

絞り出すようにして口にしたのは、せめてもの妥協点。
今の彼に出来る精いっぱいの決断だった。
自分自身の力で世間に出しても効果が半端なのであれば、その情報を用いて世界を変えてくれる人間に託すのが一番だ。
少なくとも切り取って報道する同業者ではなく、全ての情報を正しく見つめ、そして運用してくれる人間と言えば彼の知る限りトラギコ一人しかいない。

重要性を知っているからこそ正しく動かせる、そう感じたのである。
出会ってからまだわずかな日数と時間しか経っていないが、彼がこれまでに手掛けてきた事件の解決率やそのスタンスを鑑みての結論。
短時間で下せる結論は、これが限界だ。

¥・∀・¥「……いい選択です。 ですが一つ残念なお知らせがあります」

(;-@∀@)「どのような?」

挑発的な笑みと呼ぶにはあまりにも優しく、同情的というには厳しい表情がマニーの口元に浮かぶ。
短い間で見た最初の変化だった。

¥・∀・¥「トラギコ様の消息が途絶えました。
      私に出来るのはその情報をジュスティアに流すことではなく、アサピー様が動きやすくするためのお手伝い。
      つまり、必要な道具などの手配だけです。
      ……ここから先は、アサピー様の行動一つで事態が大きく変わります。

      それを踏まえた上で、改めてアサピー様の意志を確認させていただきたい」

220名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:43:32 ID:EB3u4DHo0
刑事をやっているだけでなく、事件に積極的に首を突っ込んでいくトラギコならいつかはそうなると分かっていた。
彼ほどの男が無傷でいられるはずもなく、また、足を動かすことを躊躇する人間でないことは一目で分かる。
むしろ何かに巻き込まれていない方が不自然だ。
そんな彼の生き方に共感を覚え、憧れを抱いたのは事実。

今は、ただ。
トラギコに会い、彼に真実を託すだけ。
彼ならば、アサピー以上に情報を正しく使ってくれるはずだ。
故に、答えは一つ。

(-@∀@)「無論、探しに行きます」

真実が真実でなくなること、それがアサピーには耐えられない。

¥・∀・¥「では、防弾着と武器を用意いたします。
      他に必要な物はありますか?」

(-@∀@)「あとは、フィルムカメラを一つ」

銃を使わずとも世界は変えられる。
ナイフを持たずとも人は脅せる。
それがカメラだ。
デジタルカメラよりもフィルムカメラを選んだのは、フィルムさえ奪われなければ決して写真を消されないからだ。

¥・∀・¥「かしこまりました。 武器は拳銃を手配しておきます。
      用意するまでの間、温かい食事をお持ちいたしますので、しばしお待ちください。
      私がこうして匿えるのにも限界がありますので、一時間後には出発していただきます」

221名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:48:53 ID:EB3u4DHo0
いかなる手段でここに運び込まれ、そして隠されているのは訊けなさそうだと判断したアサピーは素直にうなずいた。
部屋から出て行ったマニーの背を見送り、アサピーは布団から出てクローゼットに向かった。
アイロンのかかったシャツとジーンズを借り、身なりを整える。
皮のジャケットを羽織り、そのサイズを確かめる。

若干大きめだが、防弾着を下に着こむことを考えれば丁度いい。
手に入れた全ての情報を伝える相手はトラギコだが、今度は彼の情報を集めなければならない。
彼に追いつくのは至難の業だろうが、それでもやらなければならない。
まずは目撃情報だ。

恐ろしいほど目立つ外見をしており、使っていたのは新聞社の原動機付自転車だ。
足取りを追うのは不可能ではない。
むしろ、これが本業だ。
真実を探して組み立て、形と成せばトラギコの居場所にたどり着ける。

用意された食事を平らげ、ホルスターに入った拳銃を腰に下げた。
銃を使うつもりはなかった。
だが、トラギコに渡せば情報同様に上手に使いこなしてくれるはずだ。
代わりに首から提げたのはケースに収められた上等なカメラだ。

ニッコール社製のカメラで、小型だが頑丈な作りをしたモデルだった。
間違いなくマニーなりの配慮だ。
これから先に待ち受ける困難を考えれば、防弾使用のカメラでもなければ心もとない。
それでも、何も無いよりかはいい。

予備のフィルムは五つあり、それら全てはカメラケースに収納されていた。
ケース自体も丈夫な素材で作られており、軽くて使い勝手がいい。
上手くすれば刃物程度は防げるのかもしれない。
間もなく、アサピーは廃棄物の詰まったコンテナと共にティンカーベルの収集所に送り届けられた。

222名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:51:03 ID:EB3u4DHo0
無事に収集所にコンテナが到着したという知らせを聞いたマニーは、己の役割が一つ終わった事に胸をなでおろした。
市長室の机上に置かれた無線機を使い、マニーはそのことを協力者に告げた。

¥・∀・¥「……ご相談いただいた通り、彼を送り届けました。
      えぇ、お話の通りになりました。 ……いえ、お礼など。
      我々としてもこの事件が終わることを願っておりますので、この程度の強力であれば……
      はい、それでは引き続きのご健闘をお祈りいたします」

斯くして、第三手目が動き出した。
そして。
この手を考え出したライダル・ヅーですら知らぬことであったが、オアシズに集まった情報はリアルタイムで別の人物の元へと送り届けられていた。
先ほどまで使っていた無線とは異なる無線機、そして周波数に対して呼びかけるマニーの声はとても穏やかだ。

まるで、親に褒めたがっている子供のように、だがその身を案じる親友のように優しい。

¥・∀・¥「ジュスティア側の動き、狙撃地点共に予想通りです。
      新聞記者の男がトラギコ様に接触を試みようと……えぇ、そうです。
      ……はい、分かりました。
      また何かあればいつでもご連絡ください。 こちらも、新しい情報が入り次第お伝えいたします。













      ではご武運を、デレシア様」

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           Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編 第八章 了

                                         August 10th PM08:44
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223名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 21:51:46 ID:EB3u4DHo0
これにて本日の投下は終了となります
支援ありがとうございました

質問、指摘、感想などあれば幸いです

224名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 22:03:35 ID:vl31qxjM0
乙。
やはり事件の裏で暗躍していたのはこのお方。
早く続きを読みたくなります。

225名も無きAAのようです:2015/05/10(日) 23:23:25 ID:Z6i9msrQ0
乙。結局またデレシアかぁ

226名も無きAAのようです:2015/05/11(月) 00:44:25 ID:cav6VDfY0
乙。
相変わらずショボンは狡猾でしぶとい禿だなぁ
アサピーサイドの話が新鮮というかなんというか
この作品じゃブーンちゃん以上に一般人だからかな

227名も無きAAのようです:2015/05/11(月) 22:28:33 ID:MlBN5f5U0
デレシアとかいうロリババアの長金髪をおちんぽに巻きつけてしこしこしたいよぉ・・・

228名も無きAAのようです:2015/05/13(水) 18:50:27 ID:VEbezAms0
今読んだ!乙

やっぱマニーは有能だな

229名も無きAAのようです:2015/05/24(日) 03:02:09 ID:gLkLxdcY0
最新話来てたのか、おつ!
デレシアの動向が気になりすぎる…!アサピーも随分成長したなぁ…。今回も最高だった、次回も待ってる!

230名も無きAAのようです:2015/05/31(日) 15:43:59 ID:TKL.OCnY0
やっと追い付いた!乙!!
マニーさんが輝いて見える…

231名も無きAAのようです:2015/06/26(金) 20:27:56 ID:Uvv/mdck0
明日

VIP
会いましょう

232名も無きAAのようです:2015/06/26(金) 22:23:26 ID:gc3/d71k0
全裸待機!

233名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:04:07 ID:m/DZJGrM0
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カメラを構える行為は、銃を構える行為と同じである。
                  どちらもその人差し指で人の人生を左右するのだ。

                                   戦場カメラマン ミズーリ・タケダ

                      August 10th PM08:43
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アサピー・ポストマンが隠れ潜んだコンテナの中は錆びた鉄の匂いや妙に酸味のある悪臭が漂い、加えて完全な暗闇だった。
月光すら差し込むことなく、目が慣れるまでには長い時間がかかる事だろう。
コンテナ内は絶えず振動し、耳を押さえていなければ軽い頭痛を覚えるほどの音が反響していた。
クッションも何もないコンテナの片隅に膝を抱えて座り込み、アサピーはひたすらに振動と騒音に耐えた。

不満はなかった。
何も、黒塗りのリムジンやピンクのキャデラックに乗る必要はない。
これに耐えるだけで、厳重体制にあるティンカーベルとオアシズとの行き来が可能になるのだから、破格の待遇と言える。
島から外に出ることも、外から島に入ることもままならぬ現状を考えれば、悪臭と騒音で満ちたコンテナも箱舟にさえ思えよう。

今、アサピーはオアシズから出た廃棄物を詰めたコンテナ内に潜み、それをトラックが島の奥に運んでくれるのを待っていた。
オアシズはそれ単体で生活できるよう設計されているが、不燃ゴミの廃棄とその処理についてはまだ完全とは言い難い。
可燃ゴミについては独自に焼却して発電に利用するのだが、大型の焼却炉と処理設備が必要となる不燃ゴミの場合は、流石のオアシズでも完全に処理をすることは出来ない。
そこで考え出された方法が、寄港した街に不燃ゴミをコンテナ単位で買い取ってもらい、処分してもらう手段だった。

234名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:14:10 ID:m/DZJGrM0
これは非常に効率が良く、また、双方にとって利益になることから今では陸地繋がりの町同士でも積極的に行われている。
ティンカーベルの完全封鎖という状況にありながらも、この部分については死角だった。
片道切符のコンテナに人が入り込み、こうして島に舞い戻るなど想定の範囲外だったのだろう。
内心でオアシズの市長であるリッチー・マニーに改めて感謝し、夜光液の淡い光を発する時計に目を向ける。

時針が示す時刻は夜の九時十七分前。
時間としてはまだまだ余裕がありそうだが、油断は一切できない。
これから先何にどれだけ時間を使うか分からない。
到着するまでは静かに待機し、体力を温存しておくのが一番だ。

やがて、舗装路を走るノイズ音じみた音に変化が生まれ始めた。
少しずつ砂利を踏みしめる音が増え、遂には砂利の音と入れ替わり、体が小刻みに振動する事となった。
徐々に体が傾き、転がり落ちそうになるのを両手両足で耐える。
砂利道の斜面を下り、コンテナを運送するトラックが停車した。

停車してから数分の時間が経過したことから、予定通りの場所に到着したのだと推測した。

(-@∀@)「……おっ、と」

直後に感じ取った浮遊感から、クレーンで吊り上げられるのが分かる。
そして平らな金属の上にコンテナが積まれ、タイヤが土を踏みつける音が遠ざかって行った。
時計に目を向けると、午後九時十四分前を示している。
アサピーは静かに立ち上がり、胸にさしていたペンライトを点けて出口を目指す。

内側から開けられるよう細工のされた扉を慎重に少しだけ押し開き、ライトを消す。
人が近くにいないことを確認し、金属の軋む音を最小限に抑えつつ扉を完全に開いた。
外の世界に満ちる夜の光は淡く、日中の強い日差しよりも柔らかく物の輪郭を照らし出す。
影絵のような幻想的な世界を目の当たりにし、アサピーは一瞬だけその景色に目を奪われた。

235名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:18:42 ID:m/DZJGrM0
すぐに意識を切り替えたアサピーは降りるのに支障のない高さであること、そしてコンテナの周囲に人影がないことを確かめる。
四方を背の高い木々に囲まれている事から、ここがティンカーベルの北西にある廃棄場だと理解した。
山奥だが、街に戻れないほどの距離ではない。
コンテナから身を投じ、着地すると同時に周囲に目を配る。

姿は見えなかったが、着地で生じた比較的大きな跫音に気付いた警備の人間がいるかもしれない。
しばらくそうして身構えていたが何も起きず、風が運んだ雲が月を覆った時、アサピーはようやくティンカーベルに再び戻ってきたことを強く実感することが出来た。
しかし余韻に浸っている暇はない。
これからアサピーが行わなければならないことは命がけのものであり、そして何より、手がかり一つない状況での人探しだ。

大切な情報を伝えるという目的のため、アサピーは重い足取りで廃棄場の出口に向かって歩き出した。
周囲に人の気配はまるでなく、代わりに野生の生物たちが息づく気配を感じられる。
高く積み上げられたコンテナの林が作り出す影は濃く、何かが潜んでいるとしても見つけ出すことは敵わない。
おぼろげな月明りを頼りに歩き、ひび割れたアスファルトの車道に出た。

車道は街に通じる証明だ。
しかし、車道上には身を隠す物が何もない上に、山奥の廃棄場付近には街灯すらない。
万一暴漢にでも出くわしたら事だ。
目が闇に慣れるまで、アサピーは意図的に車道から僅かに外れて歩くことにした。

木の枝を踏み、よく分からない生物を踏み、顔に枝が当たってかすり傷を作りながらも、アサピーは一定の歩調を保ったまま進む。
静かな夜だ。
喧騒もなく、人工の音もない。
聞こえるのは虫の合唱、木々のざわめき、そして己の跫音。

暗闇の中でも不安に感じるどころか、母体にいるような安心感を覚える。
やがて、まっすぐ続いていた車道の先に、新たな道が見えてきた。
少し太めの道路とぶつかったので、アサピーは左に曲がった。
目が慣れてきたので車道の中心を歩き、ティンカーベルの街を目指すことにした。

236名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:23:55 ID:m/DZJGrM0
このまま道なりに行けば山を越えて、やがては街の入り口にまで辿り着くことが出来るはずだ。
そこからトラギコ・マウンテンライトの消息を探り、どこで彼が消息を絶ったのかを知らなければならない。

(-@∀@)「生きていてくださいよ、トラギコさん……」

それは願いや祈りと言った神頼み的な行為というよりも、本人への切実な希望だった。
全ての情報を上手に役立ててくれるのは、アサピーの中にはトラギコしかいない。
荒っぽいが確実に事件を解決してくれる彼のような存在は、正直なところ万年休暇を取っている神よりも遥かに頼もしい。
腹部に感じる熱と痛みをこらえて、確実に歩みを進める。

雲が流れ、再び姿を現した月が夜の世界を撫でるようにして仄かにモノクロの世界を浮かび上がらせる。
余計な装飾もなく、シンプルにして幻想的、そしてどこか懐かしく感じられる影絵の世界。
白と黒の濃淡だけで描かれた世界を歩くアサピーは、心奪われる景色を前にしても決して思考を止めることはなかった。
考えているのは二つの事だ。

トラギコの行方と、自分が狙われる原因。
前者は情報がなければ推測も何も出来ないが、後者に関してはいくつかの推測をすることが出来る。
幾度も命を狙われてきたアサピーが見てしまった光景とは何か、それを考えるという行為は非常に有意義だ。
いくつかの推測を立てられれば、それをトラギコに伝えて捜査の役に立つことが出来る。

自分は主役になるような柄ではない。
分かっていることだ。
事件を率先して解決する人間には、才能があり、実力がある。
アサピーにはそれがない。

237名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:30:16 ID:m/DZJGrM0
だから。
だからこそ、アサピーはそれを持つ人間の傍に立たなければならない。
そしてそれを世間に知らしめる役割こそが、アサピーのそれなのだ。
斯くして英雄は作られ、真実が創られる。

問題は、それがいつ、どのタイミングなのかということ。
口約束とはいえ、アサピーはマニーの提示した事件が解決した後に真実を公表するという条件を飲み、今に至る。
それを果たす義務はないが、その条件はマニーの持っていた信念と価値観を揺さぶった。
確固たる信念と価値観だと思っていただけに、それは非常に衝撃的だった。

自分の中で揺らいでいる間は無理に動かない方が利口だと考え、アサピーはひとまず、トラギコに託すことにした。
委ねる、と言い換えた方が適切なのかもしれない。
彼は正しく行動し、最終的に収まるべき場所に彼が導いてくれる。
そんな風に考えている自分に、アサピーは嫌気ではなく清々しい気持ちになっていることに気が付いた。

偶像崇拝に近しいかもしれないが、それでも彼は実在の人物であり実績もある人間だ。
考えや判断を委ねることが楽なことは知っているし、それが依存の始まりであることはよく分かっている。
だが断じて、アサピーはトラギコに依存をしているのではない。
彼は、正義そのものだとアサピーは信じている。

この世にはびこるあらゆる悪と対極の存在。
決してぶれない軸と信念を持ち合わせ、絶対的にルールを順守する姿。
アサピーにとって最も身近な正義の象徴はジュスティア警察でもなく、軍でもなく、トラギコの存在だった。
故に、然るべきものを然るべき人間に託し、使ってもらいたいだけなのだ。

現に感じているのは図書館の窓を開いて入ってきた新鮮な空気のような、そんな気持ち。
ちょうどいい機会なのかもしれないとさえ思う。
新聞記者として本当の意味で活躍するために、自分自身の立ち位置を今一度考えるためには、この上ない機会だ。
これまでは理想で動いてきた節が否めず、真実の持つ多面的な情報を理解した上で世間に公表することなど、これまでに一度も考えたことがなかった。

238名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:36:02 ID:m/DZJGrM0
期せずして手に入れたビッグスクープに浮かれ、それが夢の実現のための最後の鍵であるかのように取り扱ってしまった。
様々な側面を持つ真実に対して、ただの一度たりとも向き合っていなかったのである。
それは確かだ。
理解していたつもりになっていたが、実のところは断片ですら理解していなかった。

トラギコから受けた指示という理由もあったが、それでも実行に移したのは自分自身の判断だ。
断片的な真実の公開という選択は、結果的にトラギコの選択が間違いではなかった事を証明した。
つまり誤ったのは、アサピー自身の覚悟の量だった。
そしてそれが及ぼした影響は、痛みを伴ってアサピーを襲った。

真実を追う覚悟はあったが、真実に追われる覚悟はなかった。
誰も教えてはくれなかった。
真実が牙を剥き、噛み付いてくるなど。
繊細なのも重要なのも知っていた。

それでも、真実は箱入り娘の令嬢のように従順だった。
少なくとも、トラギコと会うまでは。
ようやく本質に触れることが出来たという事を理解したアサピーは、今はただ、真実の行く末を見届けなければならないという義務を自覚していた。
全てを見た上でそれを公表すればいい。

途中経過も真実の一つに変わりはないが、不完全であることもまた事実。
不完全をそのままにせず、パズルのピースが欠けている状態で表に出すことは一先ず止めておく。
そして。
欠けたピースの内、アサピーが狙われる理由が大きな割合を占めている事だけは断言できる。

慎重な人間であるはずのショボン・パドローネが二度にわたって命を狙い、狙撃手には二度撃たれ、退院祝いにデミタス・エドワードグリーンに殺されかけた。
異常としか言いようのない執着ぶりだ。
逆にそれこそが、アサピーが真実に近づいているという証明にもなっている。
考えの及ばない領域ではないと、アサピーは考えた。

239名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:42:46 ID:m/DZJGrM0
少なくとも自分が見聞きした情報の中に、彼らがどうしても消したいものがあるのだから、思い出せないはずはない。
現時点でアサピーが見立てている最も高い可能性は、現場に残されていたスーツケースを目にしたことだ。
黒のスーツケースに手がかりが残されている可能性は十分にあるのだが、警察がそれを回収したのかどうかが気になる。
これで警察が回収していれば、アサピーの算段は外れたことになる。

一つ目の可能性として視野に入れ、アサピーは新たな可能性を考え出すべく記憶を探り始めることにしたのであった――

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                                  Ammo→Re!!のようです  
     ,....、    ____
     /   ヽ..._/二二二ト、 r‐ュ
    / r┴┴‐┼──‐弋三三マヽ            Ammo for Tinker!!編
  j   ̄>──┴─ 、:.:.:.|─‐9|<7|l
  f'  7´ ´¨`ヽ`ヽヽ:::::::__ヽ|}}─ j|^:|Yl
 j  、l::;′   Y:::::l:::l::::{ ヾ!|!ュ:.:.:l|:::V        第九章 【cameraman-カメラマン-】
 l  l:::|     ||:::::|:::|::ハ  \_:.:.:ト、::ト
 l  `ヽヽ __ノ/.::/::/:::::/ヽ    ̄ヽr‐
  '  / マ=∠∠∠∠ -'"        ∨        August 10th PM 10:31
  '     ハ::::「 -r 、
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爆発が起きたのは、午前四時十四分。
爆破現場となったスタードッグス・カフェは粉塵が舞い、悲鳴がいたるところから聞こえていた。
カメラを携えて現場を見たアサピーが抱いた第一印象は、戦場だった。
額から血を流す人や泣きわめく子供、そして漂う焼けた匂い。

その瞬間をカメラに収め、次に爆発の中心部を撮影した。
焦げ跡が不自然な形に歪んでおり、それも撮影した。
片側が吹き飛んだスーツケースが遠くに転がっているのを見つけ、駆けよってシャッターを切る。
再び現場に戻り、負傷者が出来るだけ大勢が入るようにして構図を整え、記事用の写真を撮った。

240名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:46:55 ID:m/DZJGrM0
一通り撮影を終えてから、アサピーはようやく負傷者の救助に当たることにした。
幸いにして死者はおらず、軽傷者だけで済んだのは奇跡か、はたまた意図的なのか。
それを記事にすればより人々の関心を得られると思ったが、今回はトラギコへの情報提供が主であるためにそれは一先ず置いておくことにした。
彼に協力をすれば多くのスクープが自ずと舞い込んでくると信じたからだ。

動揺して頭の回らない――つまり、口が緩くなっている状態――を逃すことなく、目撃者に情報を聞き込み、新鮮な内に仕入れを済ませた。
それでも、すぐに警察官が現れて現場を封鎖し、以降は聞き込みによる情報収集だけしか行えなかった。
警察官の名前を写真に収めるのと同時に記憶したのは、彼を英雄的な存在として記事にする時が来た場合に備えてだった。
名前はイブケ・ゼタニガ、階級は巡査だ。

写真を撮られたことに対してひどく憤慨し、フィルムを寄越せと怒鳴ってきたがアサピーは逃げた。
彼の英雄的行動が多くの証拠を残し、被害者の拡大と混乱を回避できたのだから、何も恥ずかしがる必要はないのだ。
ここまでが、アサピーが爆破事件で行った主な行動である。
その中にアサピーを消してまで隠したい情報があるのか、それを考える。

上り坂になり、アサピーは少し歩調を早めることにした。
坂になれば速度が落ち、余計な時間がかかってしまうからだ。
街でトラギコに関する情報を集め、新聞社に寄って配達用の原動機付自転車を使って彼の足取りを追わなければならない。
事態は一刻を争う。

あのトラギコの消息が途絶えるという事は、紛れもない緊急事態だ。
星空を眺めながら、トラギコの安否を気遣う。
巻き直したばかりの包帯に湿り気を感じ、指で触れてみる。
僅かだが、濡れていた。

傷口が少し開いている。
しかし、それでも歩みは緩まない。
思考もまた、止まる事を知らない。
ただただ、動き続けた。

241名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:53:35 ID:m/DZJGrM0
ティンカーベルに到着してから優に一時間半以上が経過した頃、目の前にそれまでよりも急な斜面が現れ、速度が落ちた。
流石に運動不足のアサピーにとって、山道を歩き続けるのは難しいことだった。
何より、彼は前半で車道ではなく林を歩いた。
それは足首への負担を減らしてくれたが、着実に体力を奪っていた。

そこから更に三十分をかけて峠に到着し、足を止めて小休憩をする。
遠くの眼下に見える街の明かりに胸を撫で下ろしつつも、地上の星明りを両断する陰に注意を払う。
ティンカーベルを“鐘の音街”の名で有名にした街の名物、グレート・ベル。
アサピーの見立てでは、そこに狙撃手が潜んでいるのだ。

自分を二度も狙撃した人間とは、何者なのだろうか。
今もまだあの場所から誰かを狙っているのだろうかと考えると、恐怖に身が固まる。
発砲炎を目視してから避けられるのか、そもそもそこにいるのか、など考えが溢れ出して止まらない。
休憩を終え、アサピーは車道を下り始めた。

下り坂という事もあって、割と早いペースで歩くことが出来た。
その足を止めたのは、不思議な光景を目にしたからだ。
一部分だけ消え去ったガードレール。
地面に残された根元はその先端が引き千切られた様になっており、アスファルトから僅かに浮き上がっている。

強引に力が加わり、ガードレールが失われたのだろう。
交通事故か何かだと考えるが、ガードレールは千切れない。
どれだけ高速で車両が突っ込んできても、決して千切れはしない。
それが千切れるという事は、不自然という事なのだ。

よくよく観察してみると弾痕の様にも見える。
かなりの大口径の銃で撃ち抜かなければこうはいかない。
ガードレールがあった場所から見下ろすと崖のような急な斜面が森まで続いており、タイヤで削り取ったような跡が残されている。
堅気でない者同士の争いがあったのだろうと推測し、一先ず写真を撮った。

242名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 20:57:45 ID:m/DZJGrM0
それから少し道なりに進んで、アサピーは足を止めた。
車の部品が落ちていた。
外装、そして金属製で作られた部品の一部。
周囲にブレーキの跡がないことから、整備不良による事故か何かが起きた可能性が頭をよぎった。

十五分後、アサピーの足は逆方向に向くことになる。
電池切れで道の端に乗り捨てられたスーパーカブを見つけたのだ。
紛れもなくアサピーがトラギコに貸した物であり、それがここにあるという事は、トラギコがここまで来たという事。
後は簡単な計算だった。

バイクの電力がなければ、ヒッチハイクしかない。
ヒッチハイクをして間もなく、トラギコは何者かに襲われ、車ごとガードレールから落ちて行ったのだ。
走って先ほどの場所に戻り、慎重に斜面を下ることにした。
見た目以上に足場は悪く、滑りやすい土質だ。

カメラケースを後ろにやり、両手両足を使って斜面を進む。
暗がりの中にあって見えなかったが、二本の木に押し潰されたセダンが見えてきた。
フロントグリルが変形し、見るも無残な姿と化しているが一目で高級車と分かる。
車体のあちらこちらに銃創のような大きな穴が空き、全てのガラスは粉々に砕け散っている。

死体が見つからないことを願いながらペンライトを取り出し、車内を窺う。
誰も乗っていないのが分かると、車内を観察する余裕が生まれた。
車内で争った形跡もなければ、物を荒らされた形跡もない。
運転席に乾いた血を見つけ、その量が少量であることが気になった。

撃ち合いではなく、このセダンの運転手が一方的に撃たれたようだ。
助手席のヘッドレストが吹き飛び、倒木の枝に引っかかっている。
天井にも大きな穴が空き、そこから月光が差し込んでシフトレバーを照らし、幻想的な光景に見えなくもない。
しかし、どちらも明らかに撃ち込まれた銃弾が作った物で、追撃されたことを如実に語っている。

243名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:04:27 ID:m/DZJGrM0
セダンは何者かに襲われ、逃げ、崖下に転落し、更に大口径の銃弾によって駄目押しをされた。
ますます運転手がトラギコである可能性が濃厚になった。
一度、ライトを足元に向けるが、コケと落ち葉以外手がかりとなりそうなものは何も残されていない。
薬莢の不気味な輝きがないことから、追撃者はここに降りてこなかったのだろうと考えられた。

襲われた人間がトラギコであると決定づける証拠は依然として見当たらない。
仮にこのセダンのドライバーがトラギコだったとしたら杖がどこかにあるはずだが、それらしき物はない。
車内に死体や目立つ血痕がないという事は、運転手は車外にその体を出すことに成功したという事。
つまり、地面に杖を突いた窪みを見つけることが出来れば、運転手がトラギコであり、無事に生き延びたという証拠になる。

ライトを木の枝に括り付け、地面を高い位置からまんべんなく照らす。
視線だけでなく体全体を地面に近づけ、不自然に抉れた場所がないかを探る。
脚を引き摺った跡でも構わないのだが、事故を起こしてから時間が経っていることもあって何も見当たらない。
一度視線を上げ、周囲に目を向ける。

すると、車を押しつぶす木も銃弾によって倒されたことが分かった。
乱暴にちぎられた断面にレンズを向け、シャッターを切る。
今度は車内に何かめぼしい物はないかを探すことにした。
サンバイザーの裏やグローブボックスの中を探すと、車検の書類が出てきた。

持ち主はイーディン・S・ジョーンズとある。
聞き覚えのある名前だった。
写真を一枚撮り、そして思い出す。
超が付いても余りある有名な考古学者だ。

歴史的な発掘をいくつも手掛け、特に強化外骨格の研究には多くの貢献をしている人物として教科書にも名を載せる人物である。
彼が研究に携わってから世の中に復元された太古の技術や道具は数知れず、彼抜きには現代の科学は語れないとまで言わしめる存在。
若い頃は何故か鞭を持って遺跡の発掘を行い、特徴とも言えるカウボーイハットを被った姿はしばしば教科書に載っている。
取り分け、ダット(※注釈:Digital Archive Transactor)の研究成果は高く評価され、多くの知識を世に広めることに貢献した。

244名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:10:17 ID:m/DZJGrM0
その人物の所有する車がここにこうしてあるのは、何かの偶然とは思えない。
襲われたのはトラギコではなく、ジョーンズかもしれない。
他にも手がかりになりそうな物を漁り、遂に見つけることが出来た。
運転席の足元に落ちていたカブのキー。

紛れもなく、モーニング・スター新聞社で使われていた物だ。
トラギコはこの車に乗り合わせ、そして運転していたことはまず間違いない。
そして、ここで何かに巻き込まれ、転落したのである。
そこにジョーンズも同席していたかどうかまでは不明だが、トラギコがこの車に乗っていたことが分かれば十分だ。

すでに彼らが死亡し、死体を処理されたと考えなかったのは、仮に処理するのであればこのように目立つ場所に車を残しておくはずがないからだ。
仮にアサピーが追跡者であれば、車をもっと目立たない場所に動かしている。
ついでに、所有者の身分の特定につながるような書類を車内残してはおかない。
事故からどれだけの時間が経過したのかは不明だが、トラギコ達は逃げ果せたと考えられる。

少なくとも事故直後の話であり、その先で殺された可能性も十二分にあるのだが。
何にしても、トラギコならば路上駐車されていたジョーンズの車を偶然盗んだかもしれないため、追うのはトラギコだけにするべきだった。
欲張って二兎を追っても得られるのは決まっている。
最初と同じく目的は一つにするのが賢明だ。

彼の行く先については、今の段階では一つの方角しかない。
崖から落ちて来たのに崖を上る馬鹿はおらず、逃げるのであれば相手とは反対方向に進むという事だ。
即ち森に逃げ込んだと考えるのが自然だが、これだけの事故を起こしたのだから、無傷で済んでいるはずがない。
ましてや彼は足を負傷している身なのだから、この車から逃げたとしても、その跡を消すだけの余力はなかったはずだ。

何者かがトラギコを連れ去った、もしくはトラギコの逃走に手を貸している可能性がある。
どちらか分からないが、どちらにしてもアサピーは動かざるを得ない。
夜の森は非常に危険であり、装備が不十分な状態で入るべきではない。
一流のキャンパーでも夜になれば森の中を動き回ることはしない。

245名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:15:47 ID:m/DZJGrM0
方角を一瞬で見失う上に、目標物を視認することも困難。
夜の森に生息する野生動物の事を考えれば、キャンプをして過ごすのが上策だ。
森について多少の知識を持つ人間がアサピーの装備を見れば、間違いなく自殺志願者だと考えるだろう。
大型のライト、もしくは強力な光源を持つライトならばまだしも、彼が持つのはペンライト。

電池が切れた途端に視界は失われ、朝日が昇るまでの間の行動が制限される。
改めて車内に使えそうな物はないかと探すと、非常用のライトが見つかった。
試しにスイッチを入れると、強力な白光が迸った。
運には見離されていないらしい。

ペンライトを顔の位置に構え、ゆっくりと森の中に足を踏み入れる。
鳥の声。
虫の声。
風の声。

そして、どこまでも続く闇がアサピーを迎え入れるが、彼の足取りはしっかりとしたままだった。

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246名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:20:38 ID:m/DZJGrM0
捜査本部として選ばれた建物――島で一番の不人気ホテルとして名高い“カナリア・ホテル”――は、ティンカーベルが独自に持つどの軍事的な組織よりも厳戒な警備体制と緊張感に包まれていた。
指揮を執るライダル・ヅーは顔の半分に包帯を巻き、衣服の下にいくつもの痣を隠しておきながらも顔色一つ変えずに狭い部屋で情報の整理を行っている。
部屋には彼女以外に誰もおらず――誰も入室を許可されていないため――、時計の秒針が時を刻む音と万年筆が用紙の上を滑る音だけが行き来していた。
沈黙の中、ヅーが書いているのは報告書だった。

この事件の発端、そして犯人、目的、事件発生時刻、証拠品、目撃者の証言など事細かに並べられた言葉は自分が事件を振り返るための物でもある。
こうして冷静に書き出すことで今一度事件全体を第三者的な視点で見下ろし、気付くことの出来なかった何かを見つけられる可能性があるからだ。
新たな情報が入って来るたびに紙に書いては破り捨て、常に最新の状況を把握する。
嫌でも見えてきたのは同郷の軍人と警察の無能さ、敵の用意周到さと狡猾さ。

そして、ショボン・パドローネの属する組織が何者かを追い回す過程で多くの傷跡が出来たという事。
ヅーの負った傷も、その内の一つだった。
所詮は途中経過の副産物、風が吹いて木の葉が舞うような物だ。
傷は痛むが、その悔しさの方が勝る。

何としてもショボンの組織に対して一矢報いなければ気が済まなかった。
目的は何であれ、その組織は悪だ。
悪を滅ぼす。
それがジュスティアであり、ジュスティア警察はその執行者である。

先手を打ってショボンの行動を阻害することにしたヅーは、目撃証言を基に彼が追っている人物の特定を急いだ。
だが。
得られた証言はお世辞にも役立つとは言い難く、自分自身で目撃した情報の方がいくらかマシだ。
とはいっても、偶発的に遭遇したカーチェイスで得た物なのだが。

瓜//-゚)「……やはり、ないか」

247名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:26:57 ID:m/DZJGrM0
大型のツアラーバイクを改造し、荒地での走行にも対応させた物は一般人が手に入れるには余りある代物だ。
強化外骨格“イージー・ライダー”の追跡を逃れられるだけの機動性と速度、そして運転手の手腕。
これの情報を使って運転手の割り出しを行えればと思ったのだが、そこから先が難航した。
まずは車種の特定を行わなければならず、ここ数年の間に発表された車種のカタログと格闘したが、当てはまる物はなかった。

そこで新たに十数年前の物から見返すことにしたのだが、該当する車種は存在しなかったのである。
流石にそれ以上前の車種とは考えにくく、一から作り上げたバイクである可能性が高かった。
カウルは黒、もしくは群青色の塗装が施されており、その形状は空気力学に基づいて設計されたのだと一目で分かる鋭角と直線で構成され、ツアラータイプの特徴とも言える大きなウィンドシールドが一枚。
ヅーが見たのはバイクの側面を一瞬と、その後ろ姿を数十秒だけ。

捜査チームを編成した際、ヅーはその車体をスケッチし、全員に配った。
特徴的な性能を持っているバイクであるため、目撃情報はすぐに集まるだろうと思ったのだ。
結論から言えば、駄目だった。
遠くからツーリングに来ていた集団が唯一の証言者であったが、彼らが見たのは走り去る後ろ姿だけで運転手を見た者はいない。

目撃された日時を考えても、ヅーの持つ情報の方が新しいぐらいだ。
あの夜以降、誰もそのバイクを見ていない。
まるで亡霊だ。

瓜//-゚)「カメラの情報も……なしか」

もう一つ、ヅーが追っている物がある。
エラルテ記念病院で醜態を晒し、殺されかけた時に誰が自分を救ったのか、という事だ。
アサピー・ポストマンの入院していた部屋に現れたデミタス・エドワードグリーンに警備員が殺され、ヅーも深手を負った。
そして、顔を潰されて殺される寸前、ヅーは意識を失った。

再び目を覚ました時、ヅーは病室のベッドの上に寝かされていた。
自分に対して十分すぎる殺意と動機を持つデミタスが見逃すはずもなく、痛む体に鞭打って現場に戻ると争った形跡が残されていた。
目に見えて床に増えていた真鍮の薬莢はライフルのそれではなく、拳銃用の物だった。
何者かが争い、デミタスからヅーを守ってくれたのだ。

248名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:33:36 ID:m/DZJGrM0
だが、残された薬莢は九ミリ口径の物で、軍が採用しているコルト・ガバメント――四十五口径――ではない。
勿論、強化外骨格の補助を得ているデミタスが使用したとは考えにくい。
礼を言うのもあるが、何よりデミタスをいかにして撃退せしめたのか、その技量にこそ興味があった。
が、目撃者は愚か映像すら残されていない。

また、ホテルで警官が奇妙な殺され方をした事件もある。
目撃情報で得られたのは頬に二本の傷を負った男の目撃情報ぐらいで、それ以上に詳しい情報は得られなかった。
その人物には心当たりがあったため、事実上有益な情報は得られなかったことになる。
死体を鑑識に回して調べさせているが、何も見つからないだろうと諦めていた。

今、二人の亡霊がヅーを悩ませていた。
どうにか足跡を見つけたいところなのだが、どちらも手詰まりの状態である。
情報整理をしていく中で見えてくるのは、ショボンたちは周りの被害や自分たちが生み出す物を全く意に介することなく対象を追っているという事実であり、その対象は只者ではないという結果のみ。
特に情報に対して価値を見出す人間にとっては、分かり切った情報を突きつけられることほど腹立たしいことはない。

瓜//-゚)「さて、どうしましょうか」

腹立ったとしても、それを思考に影響させないのがヅーの強みの一つだ。
彼女は例え砲弾が降り注ぐ戦場でも策謀することの出来るだけの精神力と集中力を持ち合わせており、今はただ、己の手中に集まった情報が足りないだけだ。
欲しいのは決定打ではなく、全てを線で繋ぐことの出来る核心だ。
追う理由、追う相手、追う方法など、とにかくショボンたちが何を目的としているのかを今一度整理しなければ分からない。

状況の悪化はもはや、誰が諸悪の根源とは言い難いほどに悪化している。
絡んだテグスを解くようにして徐々に紐解き、そして見つけなければならない。
単独での解決は不可能だ。
複数の人間がそれを試みたせいで酷い有様――tinker――になってしまっており、今後はその悪化を防ぐことに注意しなければならない。

249名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:37:38 ID:m/DZJGrM0
引っ掻き回した人間の一人、トラギコ・マウンテンライトには監視をつけていたが、今日の昼前に消息不明となってしまった。
本来であれば自らの手で探しに行きたいところだったが、そこまで暇がないため、苦肉の策としてアサピーを使った作戦を考え付いた。
餌として動かし、結果としてまんまとショボンをおびき出すことに成功し、そして今ではトラギコ探索の要人として仕立て上げた。
特例中の特例であるが、オアシズへの乗船とその後の降船まで手はずを整えたのだから、何かしらの成果を得ることを期待している。

彼が犯した愚かな過ちの精算はこうして少しずつ行ってもらうのだ。
気がかりな点は多々あるが、それでも片手が開くのは大きい。
始点を脱獄として考えると何かが見えてくるかもしれないと考え、ヅーは改めて事件の初日から見直すことにした。
書類の山から引っ張り出したのは、シュール・ディンケラッカーとデミタスの資料だった。

この二人以外にも、極悪という意味ではエリートたちがセカンドロック刑務所には揃っていた。
それでもあえてこの二人を選んだのには、理由がありそうだ。
二人の共通点を探すのではなく、二人が他よりも優れている点を調べる。
書類に記載されているのは児童誘拐と窃盗に長けた二人の犯罪歴で、その生い立ちから逮捕までの流れが簡単に載っている。

他の囚人たちとは異なり、殺人や強盗、強姦や脅迫ではないのがポイントと言える。
こうして改めて書類を見ると、二人が何かを盗むことに特化しているのが共通点として分かる。
つまり、ショボンは何かを盗ませたかったのかもしれない。
秘密裏に盗ませようとして失敗したと考えられる。

では、何を盗もうとしたのか。
盗みに失敗したとして、何故人を追い回す必要があるのか。
その人物が何かを持っているから、としか考えられない。
危険を冒してまで追うという事は、物である可能性が低い。

手に取って盗めるような物ならばどこかに隠されればそれまでであり、追う必要があるとしたら移動を続ける人間ぐらいだろう。
しばらく考え込み、どうして自分がもう一つのスタート地点に目を向けなかったのかと自責した。
カーチェイスを繰り広げた今日の朝一時ごろ、バイクとSUVが現れたのは森の中からだった。
わざわざ逃げる途中で山中に逃げ込んだのではなく、最初から山にいたのだ。

250名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:43:10 ID:m/DZJGrM0
その正確な場所を知るのはライダーを追いかけていたSUVの乗員、つまり現在尋問の真っただ中にあるケイティ・グラハムという男がそのカギを握っている。
書類の山に埋もれていた無線機を取り、尋問室に繋ぐ。
捜査本部として選ばれたこのカナリア・ホテルには内線電話があったが、盗聴を恐れてヅーは軍から暗号無線機を借りていた。

瓜//-゚)「ケイティを私の部屋に連れてきてください。 今すぐに」

無線に応じた男は少し狼狽えたが、三分以内に連れてくると返答した。
机上を整理しようとはせず、ヅーはケイティを待った。
訊くべきことは二つ。
何を依頼されたのか、そしてどこにいたのか、だ。

規則正しいリズムでノックがあり、扉に向かってヅーは入るよう短く言葉を投げかけた。
開いた扉から現れたのは、彼の生みの親でも判別がつかない程に顔が変わったケイティと手錠につながる縄を握った私服警官だった。
包帯などの手当てがされていることから、恐らく話すことの出来る全ての情報を出したのだろう。
もっと早い段階で話していれば暴力は使用せずに済んだというのに。

瓜//-゚)「……単刀直入に訊きます、いいですか」

万年筆のキャンプを外し、メモ用紙の上で構える。
これから男が話す全ての情報はヅーが書き記し、活用するという表明だ。
それを見て、ケイティを連れてきた警官は縄を握ったまま、部屋の端に移動した。

(::#:-:#::)「……ふぁい」

見るも無残な姿には、初めの頃のような威勢の良さは微塵も残っていない。
プライドを持つのであれば、それに相応しい実力が備わっていなければ意味がないことをよく理解できたことだろう。
口の中に脱脂綿が詰められているような声の男に、ヅーは二つの質問をした。

251名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:47:18 ID:m/DZJGrM0
瓜//-゚)「深夜にカーチェイスをしていた相手について、貴方はどのような命令を受けていましたか?
     そして、その相手がいた場所について正確な位置を話してください。
     そうすれば、貴方の家族には悪くない対応をします」

(::#:-:#::)「相手は二人組の女で、耳付きの雄ガキが一匹……
      場所はスワンソングキャンプ場から北西に進んだところ……
      殺せと……殺せと言われて、俺たちは……」

これだけ有益な情報が残されているのに、それは一つとしてヅーの下に資料として提出されていなかった。
怒りはメモを走らせる万年筆の筆先から滲み出ることもなく、静かに積もった。
意図的なのか、それとも偶発的なのか。
積もらせた怒りの発散についてはそれからだ。

瓜//-゚)「結構。 人相や名前は?」

(::#:-:#::)「顔は分からねぇ……名前は……確か……」

一呼吸おいてから男が口にした言葉は、はっきりとした発音ではなかったが、聞き間違えることはなかった。

(::#:-:#::)「デレシア、だ……」

万年筆が、ヅーの手の中で折れた。
インクが黒い血のように机の上に広がり、書類を染め上げる。
ケイティは怯えて後退るが、ヅーの視線は射竦めるようにしてそれを逃さない。

瓜//-゚)「その名前、間違いありませんか?」

(::#:-:#::)「あ、あぁ……本当だ……嘘じゃない」

252名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:52:31 ID:zZdSJOgM0
支援

253名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 21:53:00 ID:m/DZJGrM0
どうやら、事態はヅーが想像している以上に複雑なようだ。
先のジュスティアで行われた会議で取り上げられた名前は、限られた人間だけが知るはずの名前。
ジュスティアがその歴史の中で最も隠し通したい事件の中心人物であり、ジュスティアの天敵として記録されている女性。
それがデレシアという存在なのだ。

しかしそれは、歴史の影で語り継がれるジュスティアの汚点。
経過した年月を考えれば、現代にデレシアなる人物が存在するはずはないのだ。
デレシアを名乗る何者かをショボンが追っているだけか、適当な名前をでっち上げたのだろう。

瓜//-゚)「スワンソングキャンプ場への行き方は?」

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--‐‐''''""゙ ̄  _,,、-‐''"                l  |.:  ::.|  August 11th AM 00:49
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重武装した兵士を乗せた多目的装輪車――ハンヴィー――が一両用意され、ヅーはその後部座席に乗り込んだ。
彼女自身も強化外骨格――“棺桶”――を持ち出し、戦闘に備えて大口径のライフルと弾を用意していた。
太腿の骨は折られ、ろっ骨にひびが入り、鼻の骨も折れているが、戦う意思は健在だった。
棺桶があれば、折れた足でも走ることが出来る。


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