したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

もしもだーさくこと石田亜佑美と小田さくらが賞金稼ぎコンビだったら

1名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 12:00:05
小田「賞金は山分けですよね?」
石田「は?あんた助手でしょ?」

2名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 12:12:46
<あらすじ>
近未来の日本。震災と原発事故の影響で行政運営が破綻した東日本の某都市。
警察機構そのものが私企業に売却され、街はやりたい放題の無法地帯と化していた。
悪化する治安に対処するため、企業は独自の保安システムを構築する。
これはそんな現代の「賞金稼ぎ」の物語である…。

3名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 13:22:38
オールド・センダイ署の外観は、警察というよりも軍隊の基地のようだった。
煉瓦の外壁には銃撃の痕跡があばたのように残っている。
前の道路に乱雑に並んでいるパトロールカーのほとんどはあちこち凹んで、傷だらけだった。

石田亜佑美は、ガソリンをがぶ飲みするワゴンを署に隣接する駐車場に入れた。
バッグをつかんで正面玄関に向かう。

亜佑美がコード化された“狩猟”許可証を正面玄関横のスロットに差しこんだ。
スロットはブーッという音とともに、許可証を吐き出して金属の門のロックを解除した。

ちょうど同じタイミングで囚人護送車が止まり、何人かの犯罪者を吐き出した。
進化論に逆らっているような連中だった。人間より猿に近い。

ひとりの容疑者がいきなり警護の係員を蹴飛ばした。
亜佑美はあっけに取られて見つめた。
容疑者は、手負いのサイのようにいきりたっている。
身体つきもサイのようにごつい大男だった。

大男は手錠をかけられたまま突進し、正面ドアに頭突きをかまそうとした。
そのとき、亜佑美の後方から小さな影が高々と跳びあがった。

影は怒り狂う男の股間を蹴りつけた。
背丈はやっと大男の肘までしかない。小柄だ。
亜佑美と同じくらい小柄である。

大男はうめきながらも手錠のはまった両拳で、その影を突き飛ばした。
その影、亜佑美と同じくらいの体格、しかも同じように女の子である

不意をつかれたその女の子はどさりと床に倒れたが、すぐさま警棒を片手に大男に突進した。
そして驚くほどの素早い動作で立て続けに大男を殴りつけた。
たちまちのうちに大男は血だるまになった。

「それ以上やると公民権侵害で訴えられるよ」
見かねて亜佑美が声をかけた。
ちょうど女の子が大男の頭に最後の一撃を食らわせたところだった。
大男は倒れ、椅子をひっくり返しながら床にのびた。

それが小田さくらとの最初の出会いだった。

4名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 15:43:13
全員がおそろいの飛行服を着たように見える囚人を引率する係員たちが、記帳室を出たり入ったりしている。
てんやわんやの署内を取り仕切っている譜久村聖をようやく見つけられた。

さくらの姿を見るなり聖は、高い壇上にあるデスクから立ちあがった。
こちらに向かって歩きだしたが、3歩と進まないうちに、スーツ姿の女に阻まれた。
狡猾そうな顔つきの女だった。

「わたしの依頼人の件ですけどね。計画犯罪なんてとんでもありません。
これ以上の拘留は明らかにわたしの依頼人の人権侵害です」
聖はにこやかに微笑んでいる。
しかし紅潮した顔が内心の怒りを示していた。
「何回でも言ってあげますけどね。福田さん、あなたの依頼人はクズです。
あなたもクズです。ここにはここの規則があるんです。
クズが判事に話をするまでにはまだまだ日数があるんですよ。
さあ、とっとと出てってください。あなたは帰り、あなたの依頼人はここに残る」

弁護士の福田花音は不快感をあらわにしながら、聖をにらみつけた。
しかし、わざとらしくため息をつくと歩き去った。

さくらは思わず笑った。
聖は壇上から身振りしてさくらを呼び寄せた。
バッグに手をつっこんださくらは、なんの役にもたたない書類の束を取り出して、聖に手渡した。

「小田さくらです。オールド・ザマからの異動です」
聖はうなずいて、その書類をほかの役にたたない書類の山の上に置いた。

「いきなり仕事するなんて、熱心すぎるわね」
さくらが返事をする前に、聖がつづけた。
「ここの仕事にはちょうどいいくらいかな。さ、防具とスーツに着替えてきて」

「はい、感謝します」と、さくらはきびすを返しかけた。
聖はさくらの肘をつかんだ。「おっと、“ハンター”さん」
「はい?」
「楽しくやってね」

さくらは奥に向かい、大きな金属ドアをふたつ通り抜けた。
防具をつけているハンターたちを横目で見ながら、通路をぶらぶらと歩み進んだ。
さきほど見かけた女の子がいた。ハンターだったのか。

さくらは声をかけた。
「小田さくらといいます」
「あたし、石田亜佑美。いま手が放せないから」女の子はぶっきらぼうに答えた。

さくらは動じることなく亜佑美に尋ねた。
「わたしのロッカーはどこでしょう?」

亜佑美は不機嫌な表情でさくらを一瞥した。
そして手を伸ばし、左のロッカーから“鞘師”という名札をもぎとった。
「ここを使いな。いまのところ誰も使ってない」

5名無し募集中。。。:2016/03/09(水) 19:04:19
期待

6名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 11:29:13
さくらはロッカーに薄紫色のスポーツバッグを放りこんだ。
背後では、壁に埋めこまれた2台のモニターが、オールド・センダイ市内の各地域からの情報を中継している。
低いハム音が絶えずあたりに流れていた。

さくらは後ろにあった木のベンチに腰をおろした。
ベンチは体重を支えきれないような派手な音をたてて、壊れんばかりにたわんだ。

「そこ、座らないほうがいいよ」と、左側にいたハンターが忠告した。「怪我する」
すぐそばで、3人のハンターが小声でなにごとか話し合っている。
さくらはゆっくりと防具を装着しながら、その会話に耳を傾けた。

「鈴木さんのこと、なにか聞いた?」
「まだ危篤状態だって」

さくらはボディスーツのパッドを調整し、窮屈な袖を引っ張った。
さくらの左側にいたハンターが、にっこりと笑いかけてきた。
「で、あなたなんでこの“楽園”にやってきたわけ?」
さくらはあいまいに肩をすくめた。
「人事異動です。アップフロントによる組織再建の一環だそうで」
「佐藤優樹」ハンターが名乗った。
「小田さくらです」

別のハンターが歩み寄ってきた。
胸のポケットに工藤という名前が縫いつけてある。
「組織再建?ふん、あんな連中に任せておいたら街はガタガタになるだけだよ」

「なんでもかんでも予算、予算だからさ」優樹が言った。
「こっちは使えるものなら戦闘機でも使いたいのに」
「嘘だと思うなら、困った時に援軍を呼んでみな」と工藤遥。皮肉っぽく笑っている。

遥が鼻を鳴らして続けた。
「鈴木さんが、先輩のハンターなんだけどさ、救護班を呼んだんだ。
1時間近く放っておかれたんだよ。誰かがやっと見に行く気になるまでね」

さくらは靴の紐をぎゅっと締めた。室内が静かになった。
さくらが顔をあげると、聖がむっつりした顔で段ボール箱を手に持ち、
鈴木と名札のついたロッカーに歩み寄るところだった。
聖は名札をしばらく凝視し、やがてゆっくりとロッカーの中身を箱にあけはじめた。

全員の視線が聖に集中した。ただ、聖に背を向けていた遥だけがそれに気づかず熱弁をふるい続けた。
「会社のアホどもに、どう対処したらいいのか教えてやるよ。
ストライキをぶつんだよ。うちらがいなきゃどうなるか思い知らせるのさ」

さくらは遥に“まずいですよ”と目配せした。
遥はゆっくりと後ろを振り返った。
聖が鈴木香音の荷物を箱に入れている。ロッカーの名札をはがし、それを香音の私物の一番上に置いた。

目を赤くした聖が、ハンターたちに向き直った。
さっきより10年は老けこんだような顔だった。
「葬儀は明日」と聖。感情を押し殺した声だ。
「参列できる人は全員お願い。遺族への弔慰金は…慣例通り払われる」

ハンターたちは全員が床をにらみつけた。懸命に怒りを抑える表情である。
箱を持ちあげて出口に向かう聖は、遥の前でちょっと立ち止まった。
「ストライキの話なんてしないで。治安を守るために働いてるのよ。そのことを忘れないで」

7名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 13:04:27
オールド・センダイの法執行機関の職員は、とりわけカルテルに関してはひどく堕落していると評判だった。
カルテルの資金力は、警察官の稼ぎなどまったく問題にならない。

だが、恐ろしいのはカルテルの財産や人的資源だけではない。
カルテルは法の執行者を恐れない。あまりにも頻繁に誰でも殺すことを実地に見せてきた。
警察官、政治家、裁判官、ジャーナリスト。誰も安全ではない。

しかも直接的に問題となる人物を殺すだけでなく、その家族、関係者をも殺す。
信じられないほど陰惨な殺し方をすることが多かった。

しかし、だからといってオールド・センダイに正直な人間がいない、カルテルの犯罪行為に立ち向かう勇気ある人間がいないわけではない。

亜佑美は拳銃をホルスターにおさめ、ヘルメットをつかみ、ロッカーをばたんと閉めた。
そして遥の肩に手を置いた。
「考えこまないほうがいい。みんなイライラしてるんだから」
「ああ…そうだね」

大部屋に戻った亜佑美は聖に呼び止められた。
「あゆみちゃん」と、聖は話しかけた。「新しい相棒に、近所の地理を教えてあげて」

「よろしくお願いします」さくらは亜佑美の手をぎゅっと握り、上下に振った。
愛想よくにっこりと笑っている。

「いったいあの…」悪態が出てくる前に亜佑美はつばを飲んだ。
聖が眉を吊りあげた。「小田さくらちゃん、オールド・ザマでの“戦果”を調べた。完璧ね」

「ふん、こっちよ」亜佑美はそれ以上なにも言わずにさくらを完全に無視して、その脇を通り抜けた。
きつく握られた手が赤くなっている。
亜佑美は足早に部屋を抜けていく。さくらは小さくなってその後を追った。

聖がクスクスと笑っている。「お幸せに、おふたりさん」
楽しそうな口調で続けた。「お似合いのカップルだわ」

亜佑美とさくらは駐車場に入った。ガソリンの臭いと、一酸化炭素ガスが充満していた。
ハンターたちが次々とターボクルーザーに乗りこんでは急発進させていく。

「ピカピカですね」さくらが言った。
「先週、被弾したキズを修理したばかりだからね」亜佑美が応えた。
亜佑美は運転席に歩み寄ると、ぐいとドアを開けた。
「あんたがこのあたりの道を覚えるまでは、あたしが運転したほうがいいわね」

さくらは亜佑美の脇をすり抜けて、運転席に座った。
「新しいパートナーと組むときは、自分が運転することにしてるんです」
さくらはそう言ってドアを閉めた。

残された亜佑美は不機嫌な表情でさくらをにらんだ。
さくらがエンジンをかけると、諦めたようにぐるりと車体を回って助手席についた。

「あんた、ザマでもこういう車に乗ってたの?それとも向こうじゃ、おかかえ運転手つき?」亜佑美がからかい口調で言った。
答えるかわりに、さくらはアクセルを踏みこんだ。
タイヤをきしませながら、スロープを出る。

通りへの出口のところで、2台のターボクルーザーが停車していた。
さくらはニヤリと笑うと、2台の間をスレスレに通り抜け、一路北を目指した。

亜佑美はあっけにとられながらつぶやいた。
「…なかなかやるじゃない、新入りにしては」
ターボクルーザーはすべるように裏通りを走った。
背後の再開発された地区でスカイラインが太陽を浴びて輝いている。

オールド・センダイのスラム街にターボクルーザーが飛びこみかけた時、亜佑美はバックミラーを指した。
「文明社会にサヨナラを言ったほうがいいわよ」
さくらはバックミラーをちらりと見た。
「あれが文明と呼べるものなら」さくらがつぶやき返した。
「あんた…のみこみが早いんだね」亜佑美は苦笑いした。

8名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 18:45:15
亜佑美はターボクルーザーの側面に寄りかかり、周囲の焼け落ちたまま放置されているビルを眺めた。
5年以上前のこの街は、まだ活気に満ちていた。
大勢の家族が住み着いており、何代にもわたって住み着いている古顔たちがたくさんいた。

頭上には暗くて不気味な雲が立ちこめている。
ポロポロと崩れていく過去の破片を見おろすような陽光が、雲の間から出たり、引っこんだりしていた。

この区画でたった一軒だけポツンと店を開いているバーガースタンドに、亜佑美は目をやった。
ヘルメットを脱いださくらが、2杯分のコーヒーの勘定をクレジットカードで済ませているところだった。

さくらがコーヒーを手にして歩み寄ってきた。
亜佑美にコーヒーを手渡し、ふうとため息をついた。
「なによ?」
訊かれてさくらは恥ずかしげに微笑した。
「コーヒー、苦手なんですけど。チャレンジします」

「ああ…あそこ、コーヒーしかないからね」亜佑美はコーヒーをすすった。
一口飲んで苦味に顔をしかめたさくらを見て、亜佑美はニヤニヤと笑った。
「お子ちゃまか」

さくらはじっと、この新しい相棒を見つめた。
「石田さん、どうしてこの仕事を?」
「さあね」
「“さあね”って、どういう意味ですか?」

亜佑美はコーヒーをすすり、一瞬考えこんでから答えた。
「この街をなんとか救おうと…そんなところね」
「善良な市民のために街を安全に」さくらはうなずいた。

「あんたこそ、どうしてなのよ?」
さくらが答えるより先に、車の計器盤が甲高い音をたててパッと点灯した。
さくらは、開けたままの運転席の窓に頭を突っこんだ。
グリッド上に情報が表示されはじめている。グリッドマップが点灯した。
移動する青い光点を追尾している。

“リンク”の通信回線がやかましい音をたてはじめた。
「周辺のハンターに通知――事案発生。112進行中。プレート701、サブセクター61にて北上中の白色のバンを追跡せよ」

運転席につこうとしたさくらを追い越して、亜佑美はするりと自分がハンドルの後ろへすべりこんだ。
「さあ、乗りなさい。置いてくよ」

ぶつぶつ小声でぼやきながら、さくらはターボクルーザーを回りこみ、助手席に飛びこんだ。
間髪を入れず、亜佑美はアクセルを踏みこむ。
もうもうと土埃と砂利をあとに残してターボクルーザーはバーガースタンドを離れた。

さくらは前屈みに“リンク”の方へ身を乗りだした。
「こちら石田と小田。本部どうぞ」
ピクピクと脈打つ青い光点をじっと見つめた。
計器盤上に表示されたセクターのグリッドをジグザグに横切っていく。

“リンク”の指令員の声は、冷静かつ能率的であった。
「了解。容疑者は複数で武器を所持している。当該容疑者は高性能爆発物を使用して強盗事件を起こし――」

ターボクルーザーの何ブロックか先方に、キズだらけの白色のバンがいた。
無法者集団と、武器と、焼け焦げた現金袋をすし詰めにして、裏通りを轟音とともに驀進していた。

9名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 20:02:16
車体を傾けて走るバンが目視できる距離になった。
ターボクルーザーはバンを追ってぐんぐん近づいた。

そのとき、バンはスピードを落としはじめた。
ツイン・タービン車を振り切るのは無理だと観念したのか。いや、そうではないだろう。

さくらはM16自動小銃を構えた。首筋の後ろの毛が震えた気がした。
亜佑美は依然としてアクセルを目一杯踏みこんでいる。
「スピードを落としてください」と、さくら。
「なんでよ?連中に追いつきかけてるのに」と、亜佑美。

さくらは鋭い一瞥を亜佑美に向けた。
亜佑美は顔に平手打ちを食ったかのように、言われたとおりにした。

次の瞬間、バンの後部ドアが蹴り開けられ、ロケット推進式の擲弾が発射された。
バンの後方に煙が充満し、疾走してくるクルーザーがまったく見えなくなった。
その煙の中で無法者たちは目をパチクリさせた。
当然、フロントガラスが砕け散ったはずなのに、その音が聞こえない。
タイヤのきしむ音もない。ずたずたになった人間の肉片も見あたらない。

やがて徐々に煙が消散した。無法者一味は、まじまじとバンの後方を見つめた。
いるはずのターボクルーザーがいない。街路があるだけで、何もない。
「おい、あそこに追跡してくる車がいるって言ったよな」
「もちろんいたぜ。俺はこの目で見たんだ」

突然、ターボクルーザーが姿を現した。
街路の右側にある歩道から飛びでてきて、後部ドアを開けたままのバンの傍らを追い越していく。

さくらは、白色のバンに銃弾を射ちこみ、亜佑美はハンドルを握ったまま歯を食いしばった。
反撃に連射されてきた銃弾に、ふたりは本能的に頭を下げて、ターボクルーザーをバンから引き離した。

「大丈夫?」亜佑美が叫んだ。
「大丈夫です」さくらは応えた。「ひとりは仕留めたと思います」

バンの後部席では、一味がパニック状態に陥っていた。
「あう、ちくしょう!やられた!!」
バンがターボクルーザーに再攻撃をかけた。すると相手はまたもや姿を消した。

「なんだ、あいつら!幽霊か!?」
ターボクルーザーがまたしても突然現れ、大量の弾丸がバンの側面に降り注いだ。

「やつら、またスピードをあげはじめました」さくらが言った。
「怖がってるんだよ」亜佑美の声には追う者の強みがあった。
言うなり亜佑美はアクセルを踏む足に力をこめ、さらにスピードをあげた。

しかし、さくらには、何かが気にかかっていた。
弾倉を装填しながら、片方の目でバンをじっと見つめた。
その疑念を亜佑美に伝えようとした瞬間、不安が現実となった。

バンの後部ドアが開いたかと思うと、一味のうちふたりの身体が悲鳴をあげて、自らの仲間たちの手で道路に投げだされた。

「くそ!」亜佑美が目を見張った。
大きな図体が空を切り、疾走するターボクルーザーめがけてぶつかってきた。

10名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 22:07:53
どすんと不気味な音と同時に、人間の身体がフロントガラスにぶちあたった。
衝撃でガラスが粉々に砕け散り、亜佑美とさくらは咄嗟に顔を両手で覆った。

悪党の身体は持ちあがり、クルーザーのボンネットを飛び越えた。
血とブヨブヨしたものの切れ端がクルーザーの中へ飛びこんでくる。
亜佑美がバックミラーに目をやると、すでに生命を失ったふたつの死体はグルグルと狂ったように街路上で回転していた。

この衝突のショックは、亜佑美に一瞬、疾走するクルーザーのコントロールを失わせた。
「しっかりつかまって!!」亜佑美は金切り声をあげて、アクセルとブレーキを同時に操作した。
スピンしはじめて道から飛びだしそうな車体をなんとか制御しようと必死に努めた。

ターボクルーザーは歩道に向かってスキッドしていく。
さくらの両目は飛びださんばかりに見開いていた。
目の前にはパーキングメーターが並んでいた。

金属ではなく新開発のプラスチック製のパーキングメーターであることを祈った。
ターボクルーザーはメーターの列に真正面から激突し、コンクリートの土台からメーターをすっぽりと切り取った。
「…プラスチックで助かりましたね…」

「繰り返す」亜佑美が身をかがめて“リンク”に声を送りこんでいた。
「容疑者の車を追跡中。応援を緊急要請。コード3」
本部の指令員からの応答はなかった。

「あのバン、どうなったかな?」
さくらはグリッドを調べた。青い光点は速度をあげて現場から遠ざかっていた。

あの悪党どもは、ドジなハンターのたった1台のターボクルーザーのスピードを落とさせるためだけに仲間を生け贄にした。
とんでもない連中だ。しかも市街地に入ってのゲリラ戦となれば勝ち目はない。

速度を落としていた亜佑美が、ブルルンと勢いよくツイン・タービンを始動させた。
なにがなんでもあのバンに追いつこうと決意を新たにした顔だった。

「バックアップは期待できないよ」亜佑美はさくらを振り向いた。
「わたしも初日から黒星とかごめんですから。あ、右が近道です」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「…“出張”で何度か」
亜佑美はブレーキ音をきしませながら鋭く右折した。

「そういや、まだ聞いてなかったな」
「はい?」
「あんたがこの仕事をしている理由」
「ああ」

亜佑美はいきなり急ブレーキを踏み、さくらは危うくダッシュボードに激突するところだった。
「ずいぶん乱暴ですね――」
文句を言いかけたさくらは、目の前を砲弾が飛んでいくのを見た。

間一髪で砲弾を避けたターボクルーザーは、街路の噴煙と炎の中を突き抜けた。
爆発に次ぐ爆発が街路を揺るがし、あたりは爆煙と破片だらけになった。

「ずいぶん嫌われてますね」さくらがしみじみ言った。
「あたしを殺したいやつは、列に並ぶことになるからね」亜佑美は轟音を響かせながら裏通りを走り抜けた。

11名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 11:29:04
「あった」と亜佑美が言った。
今は使われていない大きな倉庫の近くに、あの白色のバンが停車していた。
ドアは開いたままで、車内には誰もいない。

「寄せてください。ゆっくり」とさくらが言った。
亜佑美はターボクルーザーを進めて、バンの横を通り越した。
「誰もいない」
「あそこです」とさくらが耳打ちした。

亜佑美はターボクルーザーを倉庫の横に寄せて、エンジンを切った。
さくらは本部とつながっているコンピューター・マップに自分たちの座標を入力した。
ビュー・スクリーンが始動する――“全パトロール出動中――出動可能推定時刻は30分後”
亜佑美は肩をすくめた。「ダメだこりゃ」

亜佑美とさくらは、ヘルメットをかぶった。勝ち目はない。
だが、アドレナリンが全身を駆け巡っている。
まさに白鯨を追うエイハブ船長の心境だ。読んだことはなかったが。

ふたりはスーツの中で無線装置を作動させて、ターボクルーザーから降りた。
亜佑美は倉庫の正面入口を指した。
さくらはこくりとうなずき、銃口を2階へ通じる階段に向けた。
「連絡を切らないでよ」亜佑美が言う。
さくらはうなずいた。「了解」

亜佑美は正面入口の内側に姿を消し、さくらは目の前に伸びる錆びついた金属階段を見つめた。
自分の体重に持ちこたえてくれるだろうか…。
次の瞬間、猫のような優雅さでふわりと階段に飛び乗り、昇りはじめた。

倉庫の内部は暗かった。亜佑美は無言であたりを見回した。
今さら引きさがる気はない。
目の前には無数のコンテナが転がっている。これでは人工の迷路だ。
コンテナの山に沿って足早に前進した亜佑美は、ふと立ち止まった。
声…。男の声だ。亜佑美は歩調を落とし、自動小銃を握りしめた。

この墓穴に隠れているゴリラどもが、どれだけ大きく、どれだけ強いかは定かではない。
くねくねと折れ曲がるコンテナの列の迷路を忍び足でたどる。
亜佑美は話し声にじっと聞き耳をたてた。

亜佑美のいる階の上では、さくらが壁づたいに這っていた。
下方の床に目をやった。木箱の山を越えたところに動きの気配がある。
さくらは敏捷な動きで、無音のまま跳躍した。
男がふたりいた。どうやらマリファナを吸っているようだ。

見張りも置いていないとは、さくらは理解に苦しんだ。
強盗が成功して安心しきっているのか。
追跡してきたハンターも見事に撃退できたと思っているのかもしれない。
ネズミを丸呑みした蛇のように、気が弛んでいる。勝機あり。
さくらは、観察を続けた。

男のひとりが、囲いのない集荷用エレベーターの方へ歩み去るのを見守った。
ジーッとジッパーをさげる音が聞こえた。
小便をしている。その放尿が終わるのをさくらは待った。

頃合いを見計らって、さくらが矢のように跳ねあがった。
男の口を塞ぎ、胸骨の下にナイフを突き刺した。
男はズボンの股にシミをつけたまま、あっという間もなく絶命した。
さくらは、足もとを流れていく小便に顔をしかめた。

12名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 12:58:58
もうひとりの男も、警戒どころかマリファナを吹かして、イヤホンの音楽に合わせてかすかに身体を揺すっていた。
さくらは背後から近づいて、胸に2回ナイフを埋めこんでやった。
最後の息を吐き出す低い音と、気管に血が流れこんでごぼごぼいう音がした。

ふたりの男が片づけられるまで、ほとんど音らしい音はしなかった。
さくらは自分の手際に、満足の念を抱いた。
ちょっとでも悲鳴らしいものが聞こえたら、技術的観点からは推奨に価しないのである。
騒がしい殺しはさくらの流儀ではなかった。

さくらの耳に、死んだ男のイヤホンから洩れてくる音楽が聞こえた。
曲は、大ヒットしたアイドル・グループのものだった。
「…アイドルには気をつけて」さくらは死んだばかりの男にささやいた。

同じ頃、亜佑美はマリファナに酔っている男たちに銃を突きつけているところだった。
「動かないで」亜佑美は命じた。抑揚のない落ち着いた口調である。
ひとりがショットガンに飛びつこうとしたが、余裕がなかった。
男の胸に銃弾がぶちこまれた。しばらくもがいたが、やがて動かなくなった。

亜佑美は自分の両手が震えている事実を隠そうと努力した。
やむを得ない事態だとはいえ、人を殺す現実はどうにも気に入らない。
強引に身震いから自分の心を引き離した亜佑美は、残るひとりに警告した。

「手順は分かってるでしょ?」空いている片手を背後に伸ばして、手錠を引っ張りだす。
つかつかと進みでた亜佑美が男に手錠をかけようとした時、背後で何かがカチャンと音をたてた。
この上なく聞き慣れた音だった。

痩せこけた男が姿を現した。ショットガンの銃口を亜佑美の首に押しつけた。
「武器を捨てたらどうかね?お嬢さん」
亜佑美は歯ぎしりをしながら手をゆっくりとさげて、自動小銃を手放した。

男たちがニヤニヤとほくそ笑みながら言った。
「たったひとりでここへ乗りこんでくるとはたいしたもんだ」
「へっ、殺す前に楽しませてもらうぜ」

亜佑美は心の奥底でさくらの身を案じていた。もう殺されたんだろうか…。

次の瞬間、凄まじい音響と同時に痩せこけた男の頭がばらばらに消し飛んだ。
そして、もうひとりの男の腹に弾丸が射ちこまれた。

猛然と突き進んできたさくらは、喚き散らす男の頭も吹き飛ばすと、心配そうに亜佑美に向き直った。
「怪我はありませんか?」

後頭部が削げ落ちた男の死体につまずき、亜佑美はよろめいた。
まじまじとさくらを見つめ、ようやく言葉が口から発せられた。
「あ、うん、怪我はしてない、うん」

13名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 20:20:15
長かった1日が終わり、さくらはデスクのコンピューターで、オフショア銀行口座にアクセスした。
思っていたより高額の報酬が入金されていて、さくらは驚いた。

別のウェブページから“リスト”のデータベースにアクセスする。
今日、地獄へと旅立たせてやった類人猿どもは「大物」とまではいかなくとも、それほど雑魚というわけでもなかった。
そこそこ名を売っていた盗賊団だ。

さくらは“リスト”を眺めながら、売店で買ったバニラ・アイスクリームをひとくち食べた。
アイスクリームが半分こぼれ落ちそうになっていたので、さくらは急いで食べるはめになった。

ハンター稼業はフルタイムの仕事だが、1日24時間働くのは必要に迫られた場合に限られる。
今日の働きは、9時5時で働いている人ならきつい日だったと断言するだろう。
風呂とベッドの力を借りて心を落ち着けたかった。

まぶたが重くなってきたところで、さくらはコンピューターに目を向けた。
ソフトウェアが処理を終えていた。

さくらが頭の後ろで手を組み、椅子に座り直した。
亜佑美が声をかけてきた。
「あんた…“寮”に越してきたんでしょ?」
「ええ、そうです」
「帰るんなら一緒においでよ」

亜佑美が“寮”の前に駐車しながら、すぐには降りなかったので、
さくらは亜佑美が何を言いだすか察しがついていた。
「あのさ、小田…ちゃん」
「はい?」さくらは笑みを隠した。

口の中でもたついている言葉を言わずにすむ何かが転がっていないか捜しでもするように、亜佑美は視線を落とした。
「あんたには命を救われた。どうもありがとう」

さくらは無表情のまま、黙っていた。

「さ、さてと、部屋へ入ろう」
さくらは亜佑美が車から身体を半分出してから、口を開いた。
「そういうことって言いにくいものですよね」

「あんたも一度言ってみるこった」
亜佑美は背を向けたまま、答えた。

14名無し募集中。。。:2016/04/03(日) 15:25:24
起きる時間ではなかったが、亜佑美は堅いベッドで目覚めた。
決まった時間に寝る習慣がないのだから、こういったことには、無理やり慣れるしかなかった。
眠れるときに、眠れるだけ眠った。時間が充分でなければ、別のときに眠る。

この商売をはじめようと思ったときから、いつでもどこでも、どんな状況でも、
眠れるだけ眠ることが大切だと学んだ。
今でも実践している大切な教訓だ。

わざと呼吸を抑えて睡眠を促すという、自分で習得した重要なテクニックのひとつも駆使したが、
今日はそれも効かなかった。

亜佑美はいつものように服を着たまま寝ていて、バスルームに行き、服を脱いだ。
ストレッチをして、風呂に湯を張った。
バスタブが湯でほぼ満たされると、亜佑美は中に入った。
火傷しそうなほど湯は熱かったが、そのくらいが好みだった。

身体をゆっくり沈めて、首と両膝だけが水面からのぞくだけとなった。
神経が高ぶり、落ち着かなかった。
殺してきた連中がひどい人間であっても、完全に気が楽になることはない。

もっとも、不平を言える義理でないことは分かっている。
誰にこんな暮らしをさせられたわけでもない。
過去を考えるのは好きではないが、今の自分に至る道へ、自分の意思で足を踏み出したのだ。

亜佑美は目を閉じて、頭を湯にすっぽり浸けた。
“嫌なら、辞めればいい”単純な一言だが、そのとおりだ。
ごく最近、そう言われたことを思い出した。

好きであれば、さぞかし気も楽だろうが、面倒なことに嫌いでもないのだ。
おまけに、あまりにも多くの敵をつくってきた。
引退すれば、やわになり腕が鈍る。
襲撃を受けても、敵の姿さえ見えないかもしれない。

亜佑美は湯から顔を出した。入浴の鎮静効果が消えた。
考えすぎた代償だ。床に湯を飛び散らせて、亜佑美はバスタブを出た。

チーズ・サーモン・オムレツとキノコのブルスケッタを食べ、ビタミン剤やミネラルを加えた我流のシェイクを胃に流しこんだ。
腰のホルスターから拳銃を手に取り、分解し、順序立てて掃除してから組み立て直した。
やり慣れたことをして、気持ちが落ち着いてきた。

亜佑美はラップトップに番号を入力した。
通話がつながるまで、スピーカーからダイヤル・トーンを模した音が流れた。
「コール・センターです」退屈そうな女の声が応待した。
「こちら石田亜佑美ですが、伝言か今日の予定があれば教えてください」

15名無し募集中。。。:2016/04/10(日) 21:02:25
亜佑美が運転するターボクルーザーは、オールド・センダイの中産階級の住宅地を走っていた。
大半が穏やかな家庭を持つ、比較的安全な地域だった。

だが、20分も走ると風景は悪い方へと変わっていく。
汚れた庭のある古びた小さな家が並ぶ平地。
カラフルないたずら書きに覆われた低いビル。
いたずら書きにも、様々なものがあり、どうしようもないものもあるが、アーティスティックに描かれたものもある。

通りの人々は奇妙だった。
若かろうが年寄りだろうが、男だろうが女だろうが、
ふたりの乗ったターボクルーザーが通りすぎると、必ずそれを目で追った。
別の地域ではみんな他人のことなど無関心だが、ここは違った。
みんなが他人を見つめる。誰もが例外なく。恐怖や怒りの視線で…。
通りかかるものはすべてが脅威なのである。

さくらは、ターボクルーザーに乗る前にドーナッツを買っていた。
道路を見つめたままの亜佑美が箱のふたを開けてひとつ取り出した。
それを見つめると、まるで猫の寝藁の中から取り出したような顔をした。

「いつも、どんなやつがこんなものを食べるのか不思議だった」
毒々しいピンクの砂糖をまぶしたドーナッツに亜佑美は噛みついた。
「こういうやつですよ」さくらは唇を噛んでしまい、痛かった。

そのとき、前方の舗道にしゃれたバンがあるのが見えた。
バケット・シートの助手席側で、窓を巻きおろして顔をのぞかせている男と、若い女が話しこんでいる。
売春婦かもしれないし、そうでないかもしれない。
そのバンの車体にはワイキキの夕陽が描いてあった。アロハ。

亜佑美とさくらは、その女がバンの乗員ふたりを誘っているのかと思った。
ところが、その女の顔がこわばり、助手席の男が目を離したと思われるたびに、じりじりと後退りしていく。

本能的に、亜佑美は拳銃に手を伸ばした。
女が「嫌よ」とはっきり言ったのが聞こえた。もう充分だった。

亜佑美はターボクルーザーの外へ出た。
空のカップとドーナッツをさくらの膝にぶちまけながら。

一歩踏み出したところで、バンの助手席の男が片手に安物の拳銃を光らせて、いきなり舗道へ飛びだした。
もうひとりの男もやはり武装しており、女を車内へ連れこみ、サイド・ドアをぴしゃりと閉めた。

亜佑美とさくらは拳銃を抜き、バンの方へと大股で歩いた。
最初の男が大声でふたりに向かって叫んだ。「そこを動くな、バカ野郎!」

男の拳銃が火を噴いたが、ふたりは撃ち返さなかった。まだ早い。
亜佑美とさくらは汚れたアスファルトを踵で切るように前進した。
バンの薄い板金に流れ弾を貫通させるわけにはいかない。人質がいるあいだは。

安物の拳銃は幾度も幾度も発射されたが、そのたびに外れた。
見るからに慣れていない男は、ふたりの表情すら変わらない接近にすっかり狼狽えていた。

さくらは微笑を浮かべた。バンのフロントガラスがあらかた視界におさまった。
そこで女が後部座席に押しこめられているのを確かめた。

アイコンタクト。「解決方法はふたつ。その女性を放しなさい。さもないと――」
亜佑美が言い終わる前に、男は死体となって地面に倒れた。
「え?」拳銃は無害の道具となって舗道にガチャンと落ちた。
続けて、車内の男の頭部の残骸が人質のブラウスの上一面に撒き散らされた。

「ちょっと!なんなの!」女が悲鳴をあげ続けているので、亜佑美は大声になった。
「いや、撃てってことかと。違ってましたか」

「まったく」亜佑美は言った。「あんたと一緒のときはウェット・スーツを着てたほうがいいわね」
飛び散った血に亜佑美は顔をしかめた。
「ドーナッツのお返しです」さくらが言い返した。
「食べこぼしは自分の膝へ落としてください」

16名無し募集中。。。:2016/04/14(木) 07:58:08
おもしろい

17名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 20:31:19
こんなスレあったのかw
というか狼のスレが落ちちゃったよ

18名無し募集中。。。:2016/06/30(木) 13:17:55
続き期待

19名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 11:27:25
港を歩きながら、さくらは吹きすさぶ風に肩をすくめた。
白い波頭から飛び散るしぶきをまともに顔に受ける。
予測不可能な夏の猛烈な嵐が接近していた。
頭上には積乱雲が現れ、稲光が水平線を照らしている。

入り江の端の遊歩道で、さくらは数日前に目をつけておいた店へ近づいた。
倉庫やみすぼらしい店が雑然と並んでいる一角にある、スクーターや小型バイクを貸し出している店だった。
さくらは、いちばんありふれたスクーターを借りた。
愚鈍そうな店員に運転免許証を見せて、近づいてくる嵐の方角へ走り出た。

うらさびれた路地に入り、轍のできた道でスクーターを停めて、ナンバープレートに泥をこすりつけた。
取り外すより安全だ。警官に見咎められたとしても、知らなかったと答えればすむ。
スクーターを借りた理由は単純だった。
これからやろうとしている「仕事」に不測の事態が起きた場合、素早く逃走できるからだ。

最初の雨粒がまわりに落ち、風が吹きつけてきた。
さくらは、目的の建物の裏側へまわり、狭い道に入った。
夜闇にまぎれ、さくらはスクーターのサドルに足を乗せて立ち上がった。

ジャンプしてブロック塀の上端をつかむと、その勢いで塀の上に登った。
横殴りの風を受けながら、雷鳴に負けないよう神経を研ぎ澄ました。
足を踏み外さないようにしながら屋根によじ登る。
身を屈めて雨に濡れたタイルを横切り、裏口の隙間を飛び越えた。
窓に取りつけられた装飾用の鉄格子と、絡み合った古い導管をつかみながら、傾斜した屋根に登った。

暗闇のなかでひざまずき、テラコッタのタイルを外した。
さくらは、慎重に屋根裏部屋に飛び降りた。
点検用パネルがあるはずなので、天井を蹴破る必要はなかった。

暗がりに目を慣らし、さくらはパネルをそっと動かす。
隙間から階段の吹き抜けを覗いた。
防犯用センサーや警報機を探してみたが、そうしたものはなさそうだった。

さくらはパネルを開けて、静かに梯子を下りた。
念のため、腰から拳銃を抜き出し、足音を忍ばせて階段を下りて目的の部屋の扉に近寄った。

敵の心臓部に近づいているという思いに駆り立てられて、さくらは本能的な恐怖心を覚えた。

暗がりに包まれた室内で、さくらは窓際に素早く移動してカーテンをしっかり閉じた。
スタンドを見つけて、明かりをつける。
誰かの家に侵入する際に最もしてはならないのは懐中電灯を使うことだ。
光は漏れて、隣人や通行人は家のなかを動きまわる光を見て必ず警戒する。
一方、ほの暗い明かりは安心感を与え、警戒されることはまずない。

室内の片隅に書類が散乱した机があった。
ファイルや請求書の山のなかで、かろうじて開けられたスペースにコンピューターのモニターとキーボードが鎮座している。
マウスを動かすとスクリーンが明るくなった。
ありがたいことに家主が電源をつけたままにしていたため、パスワードを解読したりハードディスクを外したりする心配はない。

さくらはポケットに手を入れて、USB メモリーを取り出した。
コンピューターに差しこんで、内容をすべてバックアップするよう操作した。
ファイルとメールの内容をコピーしながら、さくらは机を調べはじめた。
机を4分割して、急ぎたくなるのをこらえて順序立てて見ていく。

手がかりになりそうなものはすべて携帯カメラで撮影した。
しかし、直感的に今回の「仕事」につながるものはないような気がした。
「疑惑」への加担をうかがわせるようなものは、見当たらない。

そのとき、スタンドの明かりが消えた。

20名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 14:36:48
さくらは拳銃に手を伸ばした。耳を澄ましたが物音は聞こえない。
机から立ち上がり、外の様子を知ろうと窓際へ向かう。
カーテンを少し開けて、通りをうかがった。
嵐は勢いを増して、あたり一面が暗やみに包まれている。停電したらしい。

オールド・センダイでは停電に見舞われることは、それほど珍しいことでもない。
懐中電灯に頼らざるを得ず、さくらは机を調べ続けた。
停電のおかげで、懐中電灯を使うのを躊躇する必要はなくなった。
いまごろは全住民が使っているだろう。
さくらは室内を捜索し、隠し金庫がないかどうか確かめた。そうしたものはなかった。

コンピューターからUSB メモリーを抜き出す。
幸いにも停電する前にコピーは終わっていた。

机以外で手がかりがありそうな場所を探すことにした。家主の寝室だ。
箪笥からかかろうとしたところで、背の高い書類棚を見つけて、開けようとすると鍵がかかっていた。

奇妙に思ったさくらは、ピッキング用の工具を取り出した。
解錠に集中力を使う。背後のカーテンはぴったり閉じられている。
外では風がいよいよ荒れ狂っていた。
そのせいでさくらは、家主の車が私道に入ってきたことに気づかなかった。

家主は鍵を玄関の扉に差しこみ、片手で開けた。
屋根にあったタイルが外されたせいで、家のなかに嵐が吹きこんでいることに気づいた家主は、ただちに異状を悟った。
それだけでは確信を持てなかったとしても、上階から聞こえる足音が不審者の侵入を明確に告げていた。

家主は車に戻り、緊急通報した。
奇妙ではあるが、家主がただちに踏みこまず緊急支援を要請したことが、さくらにチャンスを与えてくれた。
家主が戻った物音は、風にほとんどかき消されながらもさくらの耳に入った。

経験が浅いハンターであれば、反射的に窓際に走って外の様子を見ただろう。
さくらはその場に踏みとどまり、ひたすら耳を澄ました。
わずかな時間ではあれ、チャンスであることに変わりはない。
この際、与えられたものは文句を言わずに受け取るしかない。

ハンターは他人が見過ごしてしまうような危険の兆候を読み取り、
常人ならば死んでしまう状況で生き抜く方法を身につけている。
当座しのぎの解決策は、さくらにもあった。
しかし、今回の「仕事」ではそうはいかない。
自分を特定できる可能性は残してはならない。家主を傷つけることは論外だった。

さくらは書類棚の書類をいくらか床に撒き散らした。
さらに箪笥を引き出して逆さにし、空き巣狙いに見せかけた。
通報を受けた側がいつ到着するかは分からないが、この家主の要請となれば全力で救援を送りこむ。

さくらは屋根裏部屋に通じる梯子へ走った。
逃げるときに備えて、梯子も屋根のタイルもそのままにしてある。
家の照明が灯った。一帯の送電が復旧したのだ。

足音が聞こえてくる。同時に車のドアが開けられる金属的な音も聞こえた。
バタンと閉じられなかったことから、警官隊が音を忍ばせて接近していることが分かった。

梯子をよじ登っているとき、玄関の扉が開け放たれる音と、叫ぶ声が響いた。
武器を捨てて出てこいと言っていた。
さくらはもちろんそんな言葉には従わず、タイルを取り外した場所の下まで行くと、傾斜した屋根まで上がった。

暗がりに隠れて、匍匐前進しながら、素早く下の様子を偵察した。
車庫と裏庭のほうへ警官隊が移動している。家を包囲していた。
脱出方法はひとつ。屋根を助走して、私道を挟んだ倉庫の屋根に飛び移る。
造作もないことだ。この程度の距離を飛び越える訓練は何度も繰り返してきた。

わけもない。さくらは目算で距離を計り、自分に強く言い聞かせた。
訓練よりもはるかに長い距離であることは関係なかった。

身を伏せたまま、もうちょっとましな方法がないかと考えようとしたとき、家のどこかの扉が開け放たれる音がした。
続けてスタン・グレネードの爆発音が響いた。
家主たちは時間を空費するつもりはまったくないらしい。

もはや迷う暇はない。さくらは低い姿勢で軒先めがけて疾走した。
一瞬の後、両足が宙を飛び、さくらは少しでも遠くへ行くため両腕を懸命に伸ばした。
倉庫の雨樋をつかみ損ねて、身体が落下を始めた。
もうだめだと思ったそのとき、左手が金属に触れて滑り、右手が金属をどうにかつかんだ。
さくらは曲芸師さながら、ブランコのように揺れながら、倉庫の屋根へよじ登ろうとした。

だが、幸運の女神にはここで見放された。
夜の闇はさくらを完全に隠してはくれなかった。
叫び声と同時に銃声が響いた。

見られていた。しかし、銃弾は見当違いの方向に飛んだ。
暗がりでさくらが飛ぶのに気づいた者はいないようだ。まだ女神に見放されてはいない。

21名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 15:51:21
問題は倉庫の屋根からどうやって逃げるかだった。
屋根のどこかにメンテナンス用の階段があるはずだ。
そこから建物に入り、裏手にあるスクーターまで抜け出さなければならない。

追っ手との競争になるだろう。
さくらは全速力で屋根の鋼材を突っ切り、給水塔を目指した。
きちんと保守点検されているならば、給水塔には扉があり、そこが階段に通じている。

あった。さくらは扉を蹴り開けて、階段を飛ぶような勢いで駆け下りた。
幾筋ものサーチライトが点灯されて、倉庫の外から光が差しこんできている。
さくらはそれらを片っ端から拳銃で撃ち抜きたかったが、そんなことはしなかった。

サーチライトを増やそうと配線を伸ばしている警官が見えた。
ライトを上に傾けて、順番に照らされている。
さくらは、見つからないように給水管を伝って物品庫の屋根に飛び降りた。

屋根から側壁に手を伸ばし、警官隊が自分を捜すのを横目にアルミニウムの突起を握って下りた。
サーチライトは、頭上の梁を照らしている。
さくらは裏手へ駆け出した。

シャッターを抜けて夜気のなかへ飛び出した。
スクーターのイグニッションに鍵を挿しっぱなしにしておいて正解だった。
両手がひどく震えていたので、鍵を挿しこむだけで手間取ったに違いない。

コンテナの山を突っ切り、横滑りしながらスクーターを走らせた。
警官隊がまだ倉庫にいるうちに、さくらは夜の闇に消えた。

追跡してくる気配はなかった。交通量の多い通りに出ると、さくらは荒っぽい運転をやめた。
“寮”に着いて、小さな車庫にスクーターを入れた。
さくらは、自分が負傷していることにさえ気づかないほど疲れていた。

しかし、気づいた者がいた。
「こんな嵐の夜に、あんた仕事熱心だね」亜佑美が言った。
さくらが答える前に、亜佑美の表情が変わり、心配と当惑の入り混じった顔になった。
「怪我してるじゃない!?」

いつも塵ひとつないタイルの床に血の足跡がついている。
さくらは床を見下ろし、自分の左のふくらはぎが出血しているのに気づいた。
逃げる途中、深い傷を負ったようだ。
血で濡れた靴底で歩いていたのだ。

「道の真ん中に錆びた鉄の手すりがあって。飛び越えたとき、こすれたかもしれないです」
とっさに思いついたことをさくらは口にした。
特に疑う理由もないので、亜佑美は納得したようだった。

さくらはなるべく床を汚さないようつま先立ちで歩いて、自分の部屋へ戻った。
傷口はやはり屋根から飛び降りたりしているときに、どこかにこすれたのだろう。
きれいに洗ってから止血用の包帯を巻いた。

とにかく今回はいろいろとお粗末だった。
ヘッドラインを飾るニュースになるとは思わないが、隠密行動と呼ぶには騒がしくなりすぎた。
夜明けまではとりあえず動かないほうが賢明だろう。
さくらは、不安と怒りを覚えながらも疲労に負けて就寝した。

22名無し募集中。。。:2016/07/31(日) 19:28:11
夜明け前に目覚めたさくらは、傷む脚を引きずってラップトップに向かった。
USB メモリーをスロットに挿入してファイルを調べた。
ある程度の勘を働かせながら慎重に調べたが、不審を覚えるものは何ひとつなかった。

大半の人々が犯す過ちは、見られたくないものを暗号化することである。
さくらのような練達から見れば、それは何を調べればいいか教えてくれているに等しい。

しかし、嫌な予感がした。やはりどれも暗号化していない。
意図的に手がかりをなくそうという判断かどうかはともかく、これでは突き止める術がない。

あきらめたさくらは、通常の仕事をするために支度をした。
部屋を出てエレベーターへ向かった。

“寮”の食堂「パシフィック・ヘル」は朝だというのに宴会のような騒ぎだった。
亜佑美が近づいてきて、事情を説明してくれた。
「どこかの誰かが譜久村さんの家に侵入したらしいよ」
「譜久村さんの?命知らずな泥棒ですね」
「間抜けよね。きっと知らなかったんでしょうけど」

「事件はいつ起きたんです?」さくらは素知らぬ顔で調子を合わせた。
他のハンターたちは、テーブルのまわりにいたので、亜佑美とさくらの声は聞こえなかった。

「夕べ、あんたが出かけてたころだよ。あんたが血だらけで…」
亜佑美は何かを思いつき、話すのを途中でやめた。
しかし、いったん口から出た言葉は取り消しようがなかった。

「話によると、船の修理工場あたりから犯人が逃げた跡には血がついていたらしい…」
亜佑美はそこで口を閉じて、さくらを見つめた。

亜佑美とさくらの目が合い、どちらも目をそらさなかった。
亜佑美が犯人を知ったのは疑いない。
さくらは否定することもできたが、亜佑美が納得してくれるかどうかは確信が持てなかった。
あるいは脅しをかけることもできたかもしれないが、亜佑美が簡単に怖じ気づく人間ではないことは分かっていた。

望ましい状況ではないが、さくらは直感を信じて、いちかばちか賭けることにした。
「石田さん。いまは本当のことは話せないんです」
さくらはちょっと間を置いて続けた。
「私が出かけたのは昨夜ではなく、一昨日の晩です」

亜佑美は驚いた様子で反駁しかけたが、さくらはそのいとまを与えず話し続けた。
「昨夜、石田さんと私はコンビとして任務にあたっていた」さくらは言った。
「静かな夜で、ただのパトロールでしたね」

亜佑美の目がにわかに輝きを帯びた。意図は伝わったようだ。
「ちゃんと説明すると約束する?」
亜佑美は声を低くした。

ふたりはふたたびお互いを見た。
さくらは直感を信じるよりほかなかった。
秘密は守られるか。さくらは相棒の目をじっと見つめた。
「約束します」

23名無し募集中。。。:2016/08/24(水) 21:58:10
期待

24名無し募集中。。。:2017/10/29(日) 17:21:43
牧野真莉愛と加賀楓はターボクルーザーの座席から、ある家を監視しているところだった。
その家の前に、けばけばしい黄色に塗られた高級車が乗り付け、ふたりの男が降りてきた。
どちらも、膨らんだバックパックを肩にぶら下げている。

真莉愛が腕時計に目をやって、驚いたように首を振る。
「きっかり2時。犯罪者なのに几帳面なのね」

「忘れないで」楓が言う。「相手は幼児虐待の逮捕歴があるクズだから。抵抗したら撃つ」
ボディアーマーを装着しながら真莉愛が答える。「抵抗しなくても撃つ、でしょ?」

真莉愛と楓は、さっきの男たちが車に戻ってきて走り去るのを待ってからターボクルーザーを降りた。
ほぼ同じ戦闘装備のふたりは、家の横手の暗がりへ素早く駆け込んでいく。
防弾ヘルメットには暗視単眼鏡が装着されていた。

裏口の強化スチールドアの蝶番に導火線をダクトテープで貼り付け、先端を雷管に繋ぐ。
身を屈めて逆戻りし、革製の戦闘手袋をはめた両手で耳を覆った。

激しい爆発を生じさせたところで、真莉愛は屋内に突入すべくドアを蹴り開ける。
ドアが大きな音を立てて、キッチンに倒れ込んだ。
楓は思いきり大声で「警察だ!」と叫び、真莉愛と共に家の中に入り込んだ。

「警察だ!」と真莉愛も叫ぶ。
ふたりが居間に移動すると、テレビの前に男が唖然とした様子で座っていた。
「警察だ!床に這いつくばれ――すぐに!」楓が怒鳴る。
男が床に身を投じて、頭の後ろに両手を持っていく。

「仲間はどこ?」楓は詰問した。
「2階だ」男が言う。「上にいる」
真莉愛が男を押さえておき、楓が居間の向こう側にある階段に移動する。
銃声が鳴り響き、楓はボディアーマーの背中に銃弾が食い込むのを感じた。

くるっと振り向いてアサルトライフルをぶっぱなし、廊下の突き当たりにある閉じられた直後のドアに弾丸を撃ち込む。
ドアを蹴破ると、血まみれの男がバスタブに倒れ込んでいるのが見えた。
居間へ取って返す。

「あっちは終わった」と楓は言った。「そいつに嘘をついた罰を与えてやって」
真莉愛が嬉しそうな顔で男の頭に銃弾を撃ち込み、脳漿と骨片が床に飛び散る。

2階の寝室に行くと、ベッドの上に2個の黒いバックパックが置かれているのが見えた。
中身をチェックする。情報屋に教えられたとおり、カネがぎっしり詰まっていた。

真莉愛と楓は顔を見合わせて笑った。
肩にバックパックを担いで、ドアに足を向けたとき、誰かが咳をする音が聞こえた。

25名無し募集中。。。:2017/10/29(日) 18:07:59
ふたりは立ち止まってアサルトライフルを構える。
出所はクローゼットの中で、子どもの咳のように聞こえた。
クローゼットのドアを開くと、幼い少女が枕の上に座って、こちらを見上げている。

せいぜいが小学校低学年ぐらいの少女で、大きな目を希望を込めたように見開いている。
中の様々な物品の様子からして、かなりの期間、クローゼットの中に閉じ込められていたのだろう。
「おうちに帰れるの?」震える声で少女が言った。

楓はしゃがみ込んで少女を抱え上げた。
「もちろん帰れるよ」そう言ってから少女を抱えて廊下に出た。
バックパックを真莉愛に渡して、楓は階段を降りる。
真莉愛は両肩にバックパックをぶら下げた格好で階段を降りきった。

「こいつらはあなたの家族?」頭の吹き飛んだ死体を指差して真莉愛が少女に問いかけた。
幼い少女は怯えて口がきけず、無言で首を振っただけだった。

真莉愛と楓はターボクルーザーに乗り込んだ。
楓がハンドルを握り、ターボクルーザーを縁石から車道に出す。
近所の住民は屋内に留まっていたが、それは意外なことではなかった。
この界隈は警察が現れて壁が穴だらけになるほど銃をぶっぱなしても、住民がぽかんと見物しているような場所ではない。
そんなことをしたら、両側から銃弾を食らうはめになるだけだからだ。

「後始末はきっちりできた?」楓が真莉愛に問いかけた。
「ギャングが撃ち合った跡のようにしておいたよ」
真莉愛が後部シートに目をやると、幼い少女はちょこんと座って現金の詰まったバックパックにもたれ込んでいた。

「狭くてごめんちゃいまりあ。お嬢ちゃん、どこに住んでるの?」
「オールド・ケセンヌマ」少女が答えた。
楓は始末してきた誘拐犯どもをもう一度殺してやりたい気分になった。

「まだ通報が入った様子はない」楓は言った。
「正直、そろそろこんな危ない街におさらばするほうがいいような気分。“資金”もあるし」

「だよね」真莉愛が言って、親指で背後を指差す。
「この子を見つけちゃったのは、潮時だっていう神様のお告げかも」

ほどなくして、少女の両親は長い間行方不明だった娘と再会した。
ドアがノックされて出てみると、娘が玄関に立っていて、その左右にサングラスをした女がふたり。
手にはテディベアのぬいぐるみとホットケーキの入った袋を持っていた。

「よく頭に入れておいて下さい。――わたしたちはここに来たことは一度もないってことを」
楓はホットケーキの袋を少女の父親に手渡し、真莉愛と共に徒歩で去っていった。

26名無し募集中。。。:2017/10/30(月) 07:01:26
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

27名無し募集中。。。:2018/01/24(水) 12:53:55
まりでぃーだと!?久しぶりに覗いてみたらまさかの急展開w
あっちの話ともリンクするのかしら?

28名無し募集中。。。:2018/01/29(月) 14:44:13
だーさく含めたフクちゃんたちはいわゆる「警察機構」なわけですが
まりでぃーはそこから逸脱した「悪い賞金稼ぎ」でもあるんです
小田ちゃんがいろいろ探っているのはこのあたりに真の目的があるようなないような…

29名無し募集中。。。:2018/01/29(月) 23:17:52
小田ちゃんの暗躍が気になるねぇ

30名無し募集中。。。:2018/02/10(土) 10:30:52
4日間、真莉愛と楓は毎夜、麻薬密売人たちを襲撃した。
仲間のアジトがある場所を吐かせながら、効率的かつ迅速に“資金”を溜めていく。
前夜も街に出てひと稼ぎしようとしたのだが、ふたりに痛めつけられた密売人が商売敵のことをべらべらとしゃべった。

「あの野郎は、優に1億は貯めこんでる!ウソじゃねえよ!」
密売人は血まみれになった顔を戦闘ブーツの底で踏みにじられながら、ぎゃあぎゃあとわめいた。

そういうわけで、真莉愛と楓はターボクルーザーの中から暗視ゴーグルを通して、そのくたびれた家屋を観察している。
「ねえ、かえでぃー、どう思う?」
楓はチョコムースポッキーをぽりぽり食べている。
「わたしにはボロ屋にしか見えないね」
「もしそいつらがほんとうに大金を持っているとしたら、わざとそうしてるのかも」

真莉愛は手を伸ばし、後部シートの男の頭から黒いフードを剥ぎ取った。
両手を背後で縛られた密告者は口にダクトテープが貼られ、鼻と頬骨が折れ、目が開かないほどまぶたが腫れている。
「これが罠だったら、あんた、じっくり拷問しちゃうからね」
テープの隙間から血と鼻汁を浸み出させながら男がうなずいた。

「じゃ、取りかかろ」真莉愛は密売人の頭にフードを被せ、コードをしっかり引っ張りきつく結んだ。
楓が銃床で男の側頭部を殴りつけて気絶させる。

ふたりはターボクルーザーを降りて、猫のように民家の方へ移動し、闇を探りながら裏手へまわった。
1階の窓から9ミリ弾を連射する鋭い銃声が響く。
楓は胸と肩を守っているボディアーマーに被弾した。
ふたりは応射し、消音された223口径弾を窓から室内にばらまいた。

発砲してきた相手の頭部が粉砕され、ドスンと音を立てて床に倒れこむ。
別の窓からまだ誰かが発砲してきたので、ふたりは古びた炉の陰に身を隠した。
「これはヤバい」弾倉を交換しながら楓が言った。「退散する?」
「やだ、まりあは1億が欲しいもん」弾倉の再装填を素早く済ませて真莉愛が言う。

「ここにカネなんかありゃしないよ。ただの罠だ」
「まりあはそうは思わないな。あれ見て」真莉愛は家の上の方の角を指差した。
そこを通る雨樋の下に、目立たない小さな赤外線カメラが仕掛けられている。
「警備を厳重にしてるのは、ここに大金があるからだよ」

「あのね、それは退散した方がいいってことでもあるんじゃないの」
「そうしたいならしてもいいよ。でもまりあはこの家を襲ってフロリダかどこかでリタイア生活をエンジョイする」
楓がくくっと笑う。「ふたりとも殺されたらあんたのせいだからね」
「そうこなくっちゃ。頑張っちゃいまりあ!」

31名無し募集中。。。:2018/02/12(月) 14:46:58
夜が明けようとしていた。
朝日が差しこみ、通りに立ちこめている霧とともに広がっていく。
いま、聞こえるのは足音だけだ。

大きな音が古びた建物のあいだでこだまする。
佐藤優樹が履く支給品の戦闘ブーツが舗道を叩く。
空気は冷たいが優樹の皮膚からは汗が噴き出していた。
脚が折れそうだ。筋肉という筋肉が痙攣する寸前だった。
歯がギシギシ鳴り、心臓はスネアドラムのごとく大きく脈動している。

優樹は工藤遥の身体を米俵のように肩に担いでいた。
一見すると楽そうに見えるが実際はそうではない。
肩は焼けるように熱い。遥の重みで背骨が尾骨にめりこみそうだ。
遥の脚をつかんでしっかり胸に押しつけているので腕がブルブル震える。

遥はすでに死んでいるかもしれない。身体はまったく動いていない。
短距離走のようなスピードで駆け抜けていくのに合わせて、遥の頭が優樹の腰の後ろにコツコツとあたる。
脚を伝い落ちてブーツに溜まる液体が、遥の血なのか自分の汗なのかも分からない。

遥はもう無理だろう。こんな怪我をして生きていられるはずがない。
銃撃は予測していない方角からだった。

優樹はよろめきながら走った。アドレナリンと恐怖心だけが優樹を支えていた。
遥の頭が破裂した。その光景を思い出すのに記憶を探る必要はない。
目に焼きついていて、まばたきするたびによみがえる。

優樹は遥を見ていた。そして大音響に鼓膜が震えた。
同時に遥の顔の片側が熟れた果実のように赤く歪んで崩れるのを見た。
そして自分の顔に降り注いだ飛沫が遥の血や骨や肉の断片だと分かった。

膝がアスファルトをかすめ、靭帯が切れそうになったとき、前方に明るい看板が見えてきた。
白地に赤い十字。
優樹は泣きたかった。負荷はいっこうに軽くならない。
むしろ、遥はさっきより重くなっていた。

優樹はガラスのドアに寄りかかった。
ドアは大きく開き、優樹の膝がガクリと折れる。

頭から救急待合室に倒れこんだ優樹を少なくとも20組の目が見つめた。
誰も何も言わない。治療エリアの奥では電話が鳴っている。
待合室の人々はふたりを見つめていた。ふたりの下から流れ出て広がる血を。

優樹は片方の手を遥の顔にあてていた。
崩れた側でなく――まだ遥らしく見えるほうの側を。
「大丈夫」優樹は声を絞り出したものの、大丈夫でないことは分かっていた。「大丈夫」

遥が咳きこんだ。優樹はびっくりして息が止まった。
死んだと思いこんでいたのだ。「誰か!助けを呼んで!誰か!!」
まわりの人々に叫んだつもりだったが、出たのはささやき声だった。

32名無し募集中。。。:2018/02/13(火) 07:32:38
どぅー…

33名無し募集中。。。:2018/02/23(金) 13:28:49
え…なんだか凄い急展開…どぅーはまりでぃーとは別の第三者に頭吹っ飛ばされたの?

34名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 09:14:33
真莉愛と楓は、ナイロン製の折りたたみ式ジム・バッグにせっせと札束を詰めこんだ。
床にはずたずたになった死体が転がり、コルダイト爆薬の匂いが重く漂っている。

5分後、ふたりが裏口から外へ飛び出すと、赤と青のライトが近所の木々や家屋の壁を照らしているのが見えた。
「まずい」楓が言った。
「こっち」真莉愛はバッグを塀の外へ放り投げてから、塀を跳び越えた。
楓もそれに続く。積み上げられている古いタイヤや屋根板を乗り越えながら走った。

パトロールのターボクルーザーが街路を行き来しているのが民家のあいだから見える。
道路封鎖にかかっていることがすぐに明らかになってきた。
「無害な住民に見せかけるようにした方がよくない?」真莉愛が言う。
「だね」と楓。

ふたりは現金を詰めたバッグを倒壊したガレージの土台の下へ隠した。
バッグが見つからないように軽量ブロックの破片を隙間に押しこんでから、裏道を駆け抜ける。
治安の悪化で住民が激減している地区の奥へと走っていった。

裏道の突き当たりをサーチライトが照らし、大きな声が呼びかけてきた。「止まれ!」
真莉愛と楓はそろってその場に凍りつき、次に聞こえるのは機関銃の発射音だろうと予想した。
他の音が聞こえるようなら自分たちは運がいいのだ。

カービンをしっかり肩づけした迷彩服の兵士が姿を現す。
「武器を捨てろ!」そのひとりが叫んだ。「今すぐにだ!」

「落ち着いて」兵士たちに目を留めながら楓は言い、真莉愛にささやきかけた。「話はわたしに任せて」
「その方がいいよね」真莉愛がつぶやき、ライフルを捨てた。
半秒ほど遅れて楓もライフルを路面に投げ捨てた。

「撃たないで」冷静な声で楓は言った。
「わたしたちとあなた方は同じ側にいる」さりげなく両手を上げたが、肩より高くは上げずにおく。
「オールド・センダイ所属の加賀楓です」

真莉愛が思わず苦笑いの声を漏らしたせいで、楓は危うく警察機構の職員としての態度を崩してしまいそうになった。

35名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 10:06:02
真莉愛と楓が両手を上げて立ち、兵士たちに戦闘ハーネスやボディアーマーを剥がされている。
すると後方から背の高い女がひとり、ふたりを蔑むように見やったあと、ぎょっとしたように真莉愛と楓を見直した。

「か、かえでぃー?…まりあ?」背の高い女が言った。
「いったいここで何してるの?」
楓がにやっと笑った。「久しぶり。調子はどう、佐々木?」

兵士たちのカービンの銃口がわずかに下がる。
「こいつらと知り合いなのか、佐々木巡査?」

「はい」と佐々木莉佳子。「オールド・センダイ署のハンターで、何度も表彰されてます」
ボディアーマーを剥いでいた兵士が後退り、その場にいる兵士全員が好奇心を募らせた目でふたりを眺めやった。

「IDは?」兵士のひとりが、この状況の処理にいくぶん自信を失ったような口調で問いかけた。
「秘密任務に従事する場合は持たないようにするのが通常ですよ。そうでしょ?」

主導権を奪えたと思った楓は両手を下ろし、真莉愛にも同じようにしろと指示した。
“身分保証人”になってくれた莉佳子に感謝だ。
「任務の詳細を明かすことは許されていないんです」

「しかしなぜ、オールド・ケセンヌマに?管轄下ではない以上、確認を取る必要――」
兵士を遮って楓が言う。
「作戦行動の妨害をされたと報告しますよ。こっちはここでぐずぐずしている暇はないんで」

そわそわと足を踏み換えている兵士を見て、真莉愛は楓の大ぼらが功を奏したと察した。
そこで真莉愛は袖口をまくり腕時計を露出させ、これ見よがしに時刻を確認する。
スケジュールに遅れが出ていると楓にささやきかけた。

上官らしき男が莉佳子に目をやって顎をしゃくり、暗がりへ連れていく。
「間違いないのか、佐々木巡査?」
「あのふたりは有能なハンターです。まさしく、“秘密任務”に投入される類いの」

「諸君!」楓が大声で呼びかける。「我々は時間を無駄にしている!」
「作戦行動を妨害したなんて報告されたら厄介ですよ。解放しましょう」
莉佳子の言葉に、上官らしき男は少し考えてからうなずいた。

36名無し募集中。。。:2018/02/24(土) 10:51:34
ライトを光らせながら交差点を回りこんできたパトロールカーが急ブレーキをかけ停止した。
助手席のドアが開き、見るからに激怒している警官が降りてくる。

「どういうことだ、これは!?」警官が詰め寄ってきて太い指で真莉愛と楓を指差した。
「そのふたりを逮捕しろ!ついさっき、そいつらのクルーザーの後部で半死半生の男が発見された」

警官がなおも怒鳴る。
「そのふたり組は、オールド・ケセンヌマのありとあらゆるゴロツキの根城を襲ってカネを強奪したやつらだぞ!」
莉佳子が真莉愛と楓を見やる。
「なんの話をしてるの?」

「クルーザーにいたのは重要な情報屋のひとりですよ」楓は言った。
「極秘の任務をぶち壊しにする気ですか!?」
警官が眉をひそめて不信感をあらわにする。
「なんの話だ?」声が裏返り、金切り声のようになった。「おまえらは何者なんだ!?」

莉佳子がふたりをわきへ連れていき、他の者に話が聞こえないところへ遠ざかった。
「かえでぃー…まりあ…。ほんとうに秘密任務に従事してるの?それとも強盗してまわってるのか、どっち?」

殺気立つにらみ合いになる。
「オールド・センダイ署に話の真偽を確認しなきゃならない」莉佳子が言う。
「これ以上死者を出さないうちに」

1分後、真莉愛と楓は装甲されたパトロールカーの後部シートに乗せられ、ドアがバシッと閉じられた。
「いまだかつて聞いたことのない、よくできた大ぼら吹いたね」真莉愛が言う。
「あとちょっとで成功だった――あとちょっとでね」ため息を吐いた。

楓はブーツを履いた両脚を助手席の背もたれに乗せて組んだ。
「まあ、まだ手錠はかけられてないから、機会が訪れたらすぐに動こう」
楓は続けた。「脱走するには何人か倒さなきゃならないけど」

真莉愛が忍び笑いを漏らす。
「“秘密任務”…“作戦行動”…大ぼらもいいところだね」
楓もつられて笑った。「他に言いようがないでしょ?」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板