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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ
1
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0
―― ― ―― ― ―――
恐らく私は。狂ってしまったのだ。
穴ぐらから飛び出て。
あの夜に浴びた。青い青い月の光で。
透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ
だから私は。私では無い。
私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
同じ形をしただけの。
私ではない。誰かだ。
斜視のこの目に。乱視のこの目に。
映るこの景色は。当然に狂っていて。
焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。
正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。
寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。
唇に優しさが欲しかったのはきっと。
今宵の月も青かったからなのだ。
―― ― ―― ― ――
397
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:10:30 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「ごめんな、置手紙したから平気かと思ったんだけど」
静かな声。
少しかすれた響きが、体の中の巡り廻る。
ミセ* ー )リ 「そらそうだよな、私の言葉なんか、信用できるわけないか」
首を振る。
ミセリが悪いのではない。
( 、 トソン 「……学校で」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「学校で、女性の吸血鬼が殺されていた、という噂を聞いたんです」
ミセ* ー )リ 「……それが、私だと思った?」
( 、 トソン 「…………だって、ミセリ、最近なんだか、様子が変でしたし」
ミセ* ー )リ 「……そうだな。ごめん」
( 、 トソン 「……いえ。帰ってきだけで、良いです」
ミセ* ー )リ 「…………」
ミセリが腕の力を緩め、体を離す。
くっついたままでいようとしたけれど、体を撫で這ったミセリの手に肩を抑えられる。
意図が読めずに顔を上げると、唇が重なった。
398
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:12:33 ID:vmDd.ruE0
優しく触れあうだけの口づけ。
僅かに戸惑って、でもすぐに目を閉じた。
ミセリの舌が、私の唇の隙間を撫ぜる。
背筋が痺れた。
口の力が緩む。
滑り込んできた冷たい舌に、自分の舌を合わせる。
口の中をくすぐり合う。
ミセリの唾液で、舌が敏感になってゆく。
絡み合う。
唾液の水音が直接頭に響いて、体の芯がピリピリと疼く。
口蓋を撫で上げられて声が漏れた。
抜けかかっていた腰にさらに力が入らない。
ミセリに縋りついて堪える。
ミセリが体を引く。
舌が離れて、名残惜しかった私は、口を開いて舌を伸ばす。
唾液の糸が引いた。ミセリは、自分の唇をぺろりと舐める。
ミセ* ー )リ 「トソン、いいよね?」
耳元でささやかれ、体が震える。
女性の割に低く出された声が、神経を通じて全身を侵す。
触れるか触れないかの距離で、唇が首筋を下ってゆく。
胸元の汗を舐めとられた。喉の奥で、きゅっと、声が出る。
399
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:16:16 ID:vmDd.ruE0
キャミソールに手が潜り込んできた。
指の先が、羽毛のようにもどかしく背中を撫でてゆく。
喉の奥から息が漏れる。
いつもよりも、頭が痺れるのが早い
理性が効かなくなってきて、縋りついたまま、ミセリの耳を食む。
ミセ* ー )リ 「ベッド、行く?」
( 、 トソン 「……ここで、してください」
少しも我慢したくなかった。
ミセリが熱っぽいため息を漏らして、私の首筋に歯を立てた。
突き破られる皮膚。
沁み込む唾液が痛みをぼかして、血が流れ出る感触を心地よさに変える。
甘い触れ方で、背中を焦らしていた指先に、余裕がなくなってきていた。
呼吸が荒い。
まだ、ミセリには何もしていないのに、興奮している。
ミセ* , )リ 「トソン」
( 、 トソン 「?」
ミセ* , )リ 「お前、今日妙に可愛いぞ」
右手で私の履くショートパンツのホックを外しながら、左手の中指を舐るミセリ。
粘度の高い唾液が指に絡んで、糸を引いた。
そのまま指は下着に潜り込み、私の中へ。
400
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:17:45 ID:vmDd.ruE0
少し苦しい。でも痛みは無い。
まだ硬い肉をよけて、指がより深いところへ。
内から沁み込む唾液の感覚が、もう何度も味わっているからこそ、下半身の理性を奪ってゆく。
無理に動かすことなく、指が引き抜かれた。
唾液に変わって私の中に居た指を、ミセリが見せつけるように舐める。
何度も舌を絡め、吸い、長し目で私を見た。
脳まで裸にされるようで、顔を背ける。
ふふ、と艶のある息が、見えないところで嗤った。
下着ごと、ショートパンツを下げられる。
抵抗しない。たぶんもう、待ち望んでいた。
邪魔になって、途中から自分で脱ぐ。
足を開いた時に、内腿に感じたのは、汗では無くて。
視線が絡むまま、再び唇を重ねる。
唾液で溶けて、舌が混ざり合う。
ミセリの手が腰へ。尾てい骨を撫でてさらに下へ。
( 、 トソン 「っ?!」
唾液の付いた指が、後ろの穴へ触れた。
反射的に身を捩ったのを、抱きしめられて拘束される。
逃れられない。
唾液を塗り付け、解すように指が入口を刺激する。
401
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:19:37 ID:vmDd.ruE0
( 、 ;トソン 「そこは、きたな……」
ミセ* ー )リ 「力抜いて。痛いの嫌だろ?」
口を離して拒否するも、ミセリは有無を言わせない。
一度戻した指先に、たっぷりと唾液を滴らせ、再び背後へ。
もう一度拒否することもできたかもしれない。
でも、私の体も頭も既に、唾液に、感情の高ぶりに狂わされていた。
( 、 トソン 「っ……ぅ」
初めての感触だった。
柔らかい指なのに硬く感じる。
唾液のせいで痛くは無いけれど、変な心地がして、呼吸が止まって。
指先が入っているだけなのに、切ないくらいに苦しい。
ミセ* ー )リ 「どう?」
( 、 トソン 「なんか、変な感じで、気持ち悪いです」
意地悪に笑って、キス。
体ごと押し付けられて、冷蔵庫に凭れかかる。
八畳一間の、細い廊下。
熱と湿気が篭って頭がどんどん正常さを失う。
もう一方の手が、前に触れた。
唾液の催淫効果で歯止めが利いていない。
自分でも驚くほど、先ほどよりも抵抗なく、ミセリの指を受け入れる。
切ない。もっと先の触れあいを、体が、意志よりも強く求めている。
402
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:21:25 ID:vmDd.ruE0
ミセリの歯を舌で撫でる。
犬歯を探り当てて、強く押し付けて横に滑らせた。
痛みと、自ら感じる血の香り。唾液の中だ、すぐに直ってしまう。
ミセリが、すぐに私の舌を強く吸った。
不安や、憂鬱ごと血が吸い出されていくみたいだった。
私の脳は、チーズかバターのようになって、もう溶け出している。
胎の中で蠢く指の愛しさが堪らなくて、ミセリの体を抱きしめた。
私の中身を挟んで、ミセリの両手が触れあおうとする。
痛みに限りなく近い、快感。
反射的に歯を食いしばったせいで、自分の舌を噛んでしまう。
( 、 トソン 「ミセリ、それダメ……っ」
ミセ* ー )リ 「コレ?」
潰される蛙のような声が出た。
味わったことが無い、こんな感触。
抵抗したいのに体が言うことを聞かない。
ずるりと、後ろの指が引き抜かれた。
力が入っていたせいで、内側が引きずられる。
ほんの一瞬だけ、心地よい。
完全に指が抜かれても、穴が元に戻らないようなもどかしさがあって、物足りなくも感じる。
( 、 トソン 「指、汚い」
ミセ* ー )リ 「私にとっちゃ、全然汚くないんだけど」
403
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:24:29 ID:vmDd.ruE0
右手も私の中から出て行って、私を抱え上げる。
流しに座らされた。
右手で抱き留められ、舌を貪り合って。
左手は蛇口を捻って、私で汚れた指先を洗っている。
私は腰掛けた姿勢のまま、落ちないように足でミセリの腰を挟む。
左手が水を払って、背中から服の中へ。
脇の下を撫でて、胸に触れる。
優しい手つきで掴まれる。
自分で分かる、痛いほど硬くなった先端。
周囲を優しく揉まれ、さすられ、声になり切らない息が、合わさった口の隙間から抜ける。
窮屈で、煩わしいと感じたのと同時にミセリが離れる。
どちらのかなんてわからなくなった液体が蜘蛛の糸のように伸びて。
向かい合う。足で抱えたまま、右手を腰に回したまま、互いの顔を見ていた。
ミセリが笑う。
吸血鬼らしくない上気した頬で、少女のようでも少年のようでも、妖艶な女性でもある綺麗な笑顔。
のぼせてしまう。触れあう以外、まじりあう以外、どうでも良くなってしまう。
余りに煩わしくて、キャミソールを脱いだ。
下着もすぐに外して床に落とす。
ミセリもワンピースを脱いだ。
胸は下着をつけていなかったようで、既に露わになっている。
ミセリの両手が、私の胸を挟むように触れた。
掌で捏ねるように、先端だけは避けて刺激される。
もっと触れてほしいけれど、このまま温いふれあいのままで脳を焼かれていたい。
404
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:28:46 ID:vmDd.ruE0
ミセリの指が、胸の先を、同時に摘まんだ。
急に変わった強い刺激に体が跳ねて、バランスを崩してミセリの肩を掴む。
優しい愛撫から、激しく引っ張られ、痛いのに、甘さを込めた息を吐いてしまう。
ミセリの頬が頬に触れた。
擦り付け合う。匂いを移しあうように、愛しさを表すような頬ずり。
少し油断したところで、耳に息を吹きかけられた。
体が強張る。そのまま、ひだから穴まで舐められて、堪える余裕なく声が出た。
執拗に、胸と耳を責められる。
快感で痺れて、足の力が抜けそうだ。
不安定な場所の、ハラハラで、快感に身を委ね切ることが出来ず。
もどかしくて、欲求が焦れて、もっと、もっと欲しくなる。
( 、 トソン 「ミセリ、ミセリ」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「触れて、ください。もう、切なくて」
ミセ* ー )リ 「…………いいよ」
流しから降ろされて、立たされる。
自分で思っていたより足に力が入らなく、尻餅を付きそうになったのを、ミセリが支えてくれた。
ミセリが屈み、私の右足を持ち上げる。
左足は腕で抱え支えられる。
愛液に塗れた足の付け根が露わになった。
見られている。でも、恥じらいよりも、触れてほしい思いが勝った。
405
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:32:48 ID:vmDd.ruE0
ここがアパートの一室であることも、もう関係が無かった。
声が上がる。性器の硬いところにミセリが吸い付く。
電流。皮膚が毛羽立つ。私の体からミセリ以外の感覚が吹き飛ばされた。
両手でミセリの頭を抱える。
さらに強く吸わる。取れてしまうそうなほどだ。
充血して過敏になったそこに舌が触れる。
悲鳴が喉を裂いて出た。脳みその中にある大事な糸が残らず引き千切られていく。
束ねた二本の指が、私の中に入ってくる。
刺激が二重になる。鋭い刺激の隙間を埋めるように粘度の高い快感が頭を埋め尽くす。
欠けていた部分が、丁度良く満たされた、充足感。
涎がだらしなく零れる、
吸血鬼の唾液でこの上なく敏感になった体は、もう私のものでは無くなっている。
体が痙攣するのに伴って、シンクがギシギシと軋みを立てた。
空いている左手の指が、口に変わって肉の芽を摘まむ。
場所を譲った口が、挿入を繰り返す指に合わさって、入口を舐め嬲る。
指がお腹の裏側を撫で上げて、掻きだした愛液を、舌が啜りとる。
指先が、私の弱いところを執拗に捏ねる。引っ掻く。舌を入れて舐めまわす。
やめてほしいけれど、やめてほしくない。
永遠に続けてほしいけれど、死んでしまうかもしれないくらいに頭が白くなる
しばらく、一体どれくらい貪られたか分からない。
何度、脳幹が焼け飛んだかも分からない。
廊下はサウナのように暑く、私とミセリは互いの汗にまみれきっている。
私は立っていることができず、床に倒れ込んで。
ミセリは私の足の付け根を、優しく、しつこく、舐り続けた。
お腹の中の栓が緩んで弛んで、汚い水音と共に、愛液が零れ出る。
体が痙攣する。ミセリの手が止まってゆっくりと引き抜かれた。
ミセリは、死体のような私の体を力強く体を抱き抱える。
406
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:34:16 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「指がふやけちゃった」
( 、 トソン 「そう言う、こと……」
冷たい床にへたり込みながら、舌を絡める。
心地よい気だるさ。
根拠のない安心感に満たされて、瞼が重くなる。
ミセ* ー )リ 「なあ、まだする?していい?」
( 、 トソン 「……好きなだけ、どうぞ」
ミセリが私を抱え上げ、ベッドへ。
押し倒すように乗せられ、ミセリは押入れの方へ。
散々弄ばれた名残で、ぼんやりとミセリを待っていると、さほどせずに戻ってきた。
ミセ* ー )リ 「……じゃ、いくね」
( 、 ;トソン 「…………なんですか、それ」
ミセ* ー )リ 「通販で買った」
ミセリが舌を這わせて居たのは、男性のそれを模した、何かだった。
当然ながら指よりも太く、腕ほどに長く、凶悪さがにじみ出ている。
ベッド膝を付き、ミセリが私の足を開く。抵抗は、したものの無駄だった。
( 、 ;トソン 「ちょ、ちょっと、ミセリ?」
ミセ* ー )リ 「………好きなだけって、言ったもんね」
( 、 ;トソン 「待ってください、そんなの入ら―――」
407
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:35:04 ID:vmDd.ruE0
時間で、二時間弱程度だろうか。
気付かぬ内にカーテンの隙間から覗く陽光がさらに強くなっている。
乱れに乱れたベッドの上で、私とミセリは抱き合っていた。
ミセリが腕を出してそこに私が頭を乗せて、抱えられているようなものなのだけれど。
シーツが湿気ている。替えはあるけれど、好感する気力なんてなかった。
冷房の吐き出す空気の冷たさが心地いい。
熱を持って静まらない体が、少しだけ癒される。
ミセ* ー )リ 「ごめんな、無茶しすぎた……?」
( 、 トソン 「吸血鬼のあなたに、本気出されたら、死んじゃいますよ」
ミセ* ー )リ 「……今日は、ダメだ。がまんが利かなかった」
( 、 トソン 「……」
ミセ* ー )リ 「…………あの時、出会ったのが、トソンで良かったよ」
( 、 トソン 「……」
応えるべき言葉が思い浮かばなくて、とにかく触れていたくて足を絡める。
ダメなのは、私も同じだった。
一線を引いたつもりでミセリと過ごしてきていた。
体を許しても、所詮人と吸血鬼なのだから、心を完全に預けるわけにはいかないと。
けれど。
408
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:36:51 ID:vmDd.ruE0
( 、 トソン 「……今日、本当に貴方が死んでしまったかもしれないと思ったら」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「他の何を失うより怖ろしいことだということに、気付いてしまいました」
ミセ* ー )リ 「……」
( 、 トソン 「おかしいと思いますよね。女同士で、人と吸血鬼で」
ミセ* ー )リ 「ああ、おかしいな。おかしいけど」
( 、 トソン
ミセ* ー )リ 「悪くない」
ミセリが、私の頭を抱きしめる。
胸が顔を圧迫して苦しい。苦しいけど、このままが良い。
ミセ* ー )リ 「正直なことを言うよ。初めてあんたに会った時、私はあんたに催眠術をかけた」
( 、 トソン 「……そうだろうとは思ってました」
ミセ* ー )リ 「血を貰ってあとは解放するつもりだったんだ、でも」
家出して、何も持たず行くあても無く、途方に暮れていた私をミセリは憐れんだ。
憐れんで、連れ帰った。血を代償に私に居場所をくれた。
409
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:37:56 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「だから、あんたが私に好意を持っていても、それは暗示のせいだった、はずだったんだ」
( 、 トソン 「違いますよ」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「絶対に違います」
ミセ* ー )リ 「…………おかげで、あんたを愛しいとしか思えなくなった」
絆されていく。
互いに超えるべきでないと分かっていた線が、気付いたら後ろにあった。
もうだめだ。自覚してしまったら、自認してしまったら、きっともう戻れない。
吸血鬼の時間は悠久で、人の時間はそれに比べれば酷く短い。
交わったところで、いつかずれてすれ違って、終わってしまうと分かっている。
でも、だからと言って触れあったことを無かったことにはできない。
希望の無い沼の深みでも構わないんだ。どうせ、望む未来なんて、そもそもないんだから。
ミセ* ー )リ 「…………後悔するなよ」
( 、 トソン 「さっき散々したので、大丈夫かと」
静寂。夏なのに、蝉の声すらない。
時計の針の音が聞こえた。カチカチと、時間を刻んでいる。
( 、 トソン 「……だから、教えてください。最近躍起になっている、何かについて」
ミセ* , )リ 「…………ああ」
410
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:40:03 ID:vmDd.ruE0
おわり
三行
真
昼
間から
411
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 16:02:38 ID:NPi1OaP.0
乙
話が動いて来たね
412
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 22:17:18 ID:PJBGs4hk0
乙
エロい
413
:
名も無きAAのようです
:2014/08/25(月) 03:05:11 ID:ZvHbLskU0
乙
414
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:01:57 ID:2xGyhTZw0
乙
話も面白いし、ゆりゆりも最高だし
415
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:57:31 ID:jMn5.vQM0
すごく面白い乙
何度も読んでしまう
416
:
名も無きAAのようです
:2014/09/22(月) 04:00:21 ID:fqLLkRjU0
そろそろかな?
417
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:47:43 ID:rlK3C6BQ0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
418
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:50:46 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……体の力を抜け」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
('A`) 「恐れることは無い。俺に全て任せろ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
椅子に座らせたデレが、緊張した面持ちで唇を結ぶ。
ドクオは膝をついて目線を合わせ、真っ向から彼女の瞳をのぞき込む。
綺麗な瞳だ。透き通り、見ているこちらの方がすべてを見透かされている気分になる。
ドクオは、一度大きく息を吸って、目に力を込めた。
じくじくと眼窩が独特の熱を持つ。
暗示の力が働いているのだ。
自分で見たことは無いが、他人にはドクオの瞳が発光して見えるらしい。
おずおずとドクオと見つめ合っていたデレの顔が、惚けたようなものに変わった。
頬が紅潮し、薄い唇が桃色に染まる。
上手くかかったようだ。
ドクオはこの催眠術の真似事がどうにも得意になれないので、今回も失敗するかと内心は心配していた。
('A`) 「お前の名前は?」
ζ( *ζ 「……しずのめ……でれです」
('A`) 「他に名前はあるか?」
ζ( *ζ 「……ありません」
419
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:52:13 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「わかった。一先ず、デレと呼ぼう」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「デレ、お前はどこの生まれだ?」
ζ( *ζ 「そうさくし です」
('A`) 「両親の名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「お父さんと、お母さんの名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……思い出せないか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……質問を変えよう。お前はどこの小学校に通っていた?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………今の年齢は?」
ζ( *ζ 「9さい です」
('A`) 「……性別は?」
ζ( *ζ 「おんな です」
420
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:53:23 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「趣味はあるか?」
ζ( *ζ 「ほんを よむのが すき」
('A`) 「好きな本は?」
ζ( *ζ 「しあわせの あおいとり」
('A`) 「なんでその話が好きなんだ?」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「……好きな人はいるか?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「それは、誰のことだ?」
ζ( *ζ 「…………おとうさま」
('A`) 「……俺はお前にとってのなんだ?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「俺のほかにも、お父様が居たな?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「それは誰だ」
ζ( *ζ 「おとうさま」
421
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:54:30 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……逆に、嫌いな人はいるか」
ζ( *ζ 「くいもち」
('A`) 「なんで嫌いだ?」
ζ( *ζ 「おとうさまを ころそうとする」
('A`) 「……お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「俺は生きているが、お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「おとうさまは あたらしいおとうさま」
('A`) 「おとうさまは杭持ちに殺されたか?」
ζ( *ζ 「わからない」
('A`) 「前のお父様の遺物を持っているか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「……それはどこにある」
ζ( *ζ 「…………どこか」
('A`) 「どこだ」
ζ( *ζ 「……どこか」
422
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:55:25 ID:rlK3C6BQ0
半覚醒状態のデレに、他愛ない質問と、核心を探る質問をまぜこぜにして問う。
他愛ない方には答えが返ってくるが、核心に迫る物はダメだ。
ドクオの術にかかり、本人の意志は全く働いていないはずなのだが、それでも答えようとはしない。
知らない訳ではないのだ。知らないことには知らないとはっきり答えることからも分かる。
その後十数分に渡り、質問を続けて見たが成果は得られなかった。
分かったのは、今のデレの人格を形成している「おとうさま」の暗示の能力は、ドクオより数段上だということだけだ。
('A`) 「……もう一度聞く。おとうさんとおかあさんのことを覚えているか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………わかった。そろそろ終わりにしよう」
('A`) 「最後に、俺に言いたいことはあるか」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「何でもいい。ゆっくりでいい。どんな他愛ないことでも構わない」
ζ( *ζ 「…………なにもありません」
('A`) 「……」
ζ( *ζ 「……なにもありません」
デレの頬を、一筋の涙が伝った。
423
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:56:52 ID:rlK3C6BQ0
術を解く。
完全に気を失い、倒れかけたデレの体を受け止めた。
少女然としていて軽く、小さい。
しかし、年齢を考えれば、もう少し成長していてもおかしくないはずだ。
やはり、吸血鬼に定期的に血を与えるというのは、少女の体には荷が重いのか。
ドクオはぐったりとした彼女の目じりを指で拭ってやる。
('A`) 「ジョルジュ、すまん。デレを寝室に連れていく」
_
( ゚∀゚) 「あいよん」
部屋の隅で大人しく気配を消していたジョルジュが小走りで部屋の扉を開けた。
ここは一回の奥の物置部屋。今はジョルジュに貸し与えている場所だ。
デレは、今も死に失せた「お父様」の呪縛に囚われている。
出来るだけ、その名残の無い場所で術による干渉を行いたかった。
('A`) 「……どう思った」
_
( ゚∀゚) 「どうもこうも、本当にがっつり洗脳されてんだな、って感じ」
('A`) 「ああ」
_
( ゚∀゚) 「上辺だけをキャラ漬けされてるってレベルじゃないもんな。正直やった奴を殴り倒したいわ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「まあでも、希望はあるんじゃねえかな。最後のは、なんか、本人が呪縛と戦おうとしていた感じあるし」
('A`) 「だと、良いんだがな」
424
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:00:04 ID:rlK3C6BQ0
地下の寝室に降り、ベッドにデレを寝かせる。
洗脳されている部分に干渉したせいで消耗したのだろう。
ぐったりと眠って、起きる気配が無い。
('A`) 「最近は、少し人間味を取り戻してきていたようだったから、期待したんだがな」
_
( ^∀^) 「焦りは禁物ってな。状態が改善してる兆しはあるんだしよ、無理しないでいこうぜ」
('A`) 「……ああ」
デレの額を撫で、乱れた髪を調えてやる。
こうして寝ていると、本当にただの少女だ。
起きている時の所作言動の薄気味悪さが嘘のように思える。
_
( ゚∀゚) 「つかさ、なんでそこまでデレちゃんのこと気にかけてんのさ」
('A`) 「……お前も色々してくれてるだろ」
_
( ゚∀゚) 「そりゃ俺も並の善意?みたいなもんあるし。でもさ、ドクオはなんかこう、もっと必死というか、マジというか」
('A`) 「…………コイツは、洗脳されての行動とはいえ、俺の命の恩人だからだ。それ以外に理由は無い」
_
( ゚∀゚) 「ふーん……」
いまいち納得していないという顔ながら、ジョルジュはそれ以上続けなかった。
嫌われているのを自覚して、あまり接近しないようにデレを覗き込む。
_
( ゚∀゚) 「まあ、でも。目をつけたのがドクオだったってのが、この子のなけなしの幸運だったと俺は思うぜ」
('A`) 「……俺がどうかはともかく、他のゴミに同じように懐こうとしたかも知れないと考えると肝が冷える」
425
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:01:02 ID:rlK3C6BQ0
あらかじめ寝間着を着させておいたので、このまま寝付かせて問題ないだろう。
ドクオは布団をデレに被せてやる。
小さな、しかし少し荒い寝息が聞こえる。
以前に一度、暗示をかけた時もこうだった。
その時は、ドクオの暗示で無理やりに元の人格を引き出そうとしたが失敗。
術が解けたと同時にデレは意識を失い、そのまま数時間眠り続けたのだ。
悪夢を見ているかのように魘されている彼女の姿には、簡単に干渉できない何かがあった。
今回は多少気を使ったつもりだが、それでも夢見は悪いらしい。
もう一度額の汗を拭ってやる。
デレが少し反応した。閉じていた瞼が開き、うるんだ目でドクオを見上げる。
ζ( 、 *ζ 「お父様……?」
('A`) 「……負担がかかっているはずだ。もう少し寝ていろ。」
ζ( 、 *ζ 「……?」
術にかかる前後の記憶があいまいなのか、自身の状況が把握できてい無いようだ。
今、あれこれと説明しても無意味だろう。
ドクオは頭を撫で、一先ず寝かしつけようとする。
ζ( 、 *ζ 「お父様……」
('A`) 「なんだ」
ζ( 、 *ζ 「……傍に……いてください」
426
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:02:10 ID:rlK3C6BQ0
小さな手が布団から現れて、ドクオの指を掴む。
デレはそのまま瞼を閉じて、寝息をたてはじめた。
少し引いてみたが、寝ている割にはしっかりと捕まっている。
_
( ゚∀゚) 「よっぽど怖い夢でも見てんのかねえ」
('A`) 「……甘ったれなだけだ」
_
( ゚∀゚) 「ドクオも一緒に寝たら?昨日もロクに寝てないだろ?」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「色々考えてるのはわかるけど、無理は良くないって」
('A`) 「……そうだな。俺も少し寝る。上のことは任せていいか」
_
( ゚∀゚)b 「おうよ。家事もろもろとデレちゃんの夕飯は俺に任せな」
('A`) 「すまん、いつも世話になる」
_
( ^∀^) 「ま、無職の俺の方が世話になってんだけどな」
地下を出てゆくジョルジュを見送って、ドクオも布団に潜る。
ジョルジュの言っていた通り、ここ数日真面に睡眠をとっていなかったので、常に睡魔に襲われ続けている。
ついでに腹も空いているが、こちらはいつものことだ。
二日前にいくらかデレの血を吸ったので、まだまだ耐えられる。
427
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:04:44 ID:rlK3C6BQ0
デレをなるべく中央からどかさぬよう。端に寄って眠る。
仕方ないので、指はデレに捕まれたままだ。
暗示をかけて負担をかけたのはこちらなのだから、この程度のわがままは許してやっても罰は当たるまい。
目を閉じる。
デレの寝息だけが聞こえる。
最近では、すっかり耳に馴染んでしまった。
一度、同じ床に入ることを赦した時点からデレは必ずドクオと共に眠る様になった。
寝付くまでの数分を、会話して過ごすことも増えた。
デレが、少しずつ年相応のらしさを取り戻すのと同時に、ドクオもようやっと彼女に慣れ始めている。
( A ) 「…………」
ζ( 、 *ζ 「ん……」
( A ) 「…………おい、離れろ」
ζ( 、 *ζ スャー......
( A ) 「…………チッ」
手を抱くようにすり寄ってきたデレを、少しだけ押し戻し。
ドクオもまた、深い眠りに就いた。
428
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:05:33 ID:rlK3C6BQ0
眠い人用三行
デレの洗脳
解けず
とりあえず添い寝
短いですが明日か明後日また投下します
429
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:09:43 ID:Lr4GRp020
ムジナまってたよ!!しえん!
430
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:10:37 ID:Lr4GRp020
っておわってたwwおつ
次に備えて今日のぶんいまからよんでくる
431
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:11:19 ID:ZOZNalQA0
乙
どう収束していくのか毎回気になるぜ
432
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 23:33:40 ID:scZKMryM0
乙!
本当に文章力があって、キャラの立て方も上手いよ
完結したら現行で見たあと
まとめでもういっぺん一気読みしたいぐらい
433
:
名も無きAAのようです
:2014/10/20(月) 01:45:29 ID:nVrxe7Es0
乙!
434
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 22:38:21 ID:wnH.c6X.0
ζ(゚ー゚*ζ
http://i.imgur.com/lgNMzMZ.png
キャラの掛け合いも面白いし背景の描写も密でわくわくする
続き楽しみです
435
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 23:00:15 ID:rWRoTenY0
>>434
クオリティすgeeee
436
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:38:46 ID:tDoD0cvc0
Place: 草咲市 とあるビルの屋上
○
Cast: 棺桶死オサム 百々クックル 小山内リリ
──────────────────────────────────
437
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:43:01 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「吸血鬼の生涯に、孤独はつきものだ」
その男は、屋上の縁に立ち月を見上げていた。
背に負った棺桶が黒いシルエットを歪にし、一目では人の姿とは分からない。
【+ 】ゞ゚) 「元は人であるから人を愛してしまうが、人にとって吸血鬼は恐れ忌むべき捕食者に過ぎない」
【+ 】ゞ゚) 「稀に受け入れる者が現れても、やはり長くは続かない」
大きく、輪郭のはっきりとした満月。
雲のない夜空にその光を遮るものはなく、街は夜とは思えぬほどに明るい。
いつもは眩しいネオンライトも、今日はどこか控え目だ。
【+ 】ゞ゚) 「故に、吸血鬼は愛されることに飢える。野良の吸血鬼が同族を生み出してしまう大きな理由はここにあるだろうね」
男、棺桶死オサムはくるりと振り返った。
月の逆光で表情は見えないが、恐らくいつも通りの腹立つ笑みを浮かべているのだろう。
【+ 】ゞ゚) 「悲しいことに、同意の下で吸血鬼化させたとしてもそう言った関係は割合すぐに破たんすると相場が決まっていてね」
【+ 】ゞ゚) 「有限の時間だからこそ尊く愛した相手でも、永遠に共にあるとなれば別であるから、必然ともいえるのだが」
棺桶死は、少し高く作られたそこから屋上の側へと降りる。
巨大な箱を背負っているにも関わらず、足音一つない。
黒い影に塗りつぶされたシルエットの中、その双眸だけが紅く怪しく輝いている。
【+ 】ゞ゚) 「これは、吸血鬼に与えられた罰なのだろう。人でありながら、人を喰らう、その業に対する、ね」
438
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:45:36 ID:tDoD0cvc0
棺桶死は屋上の端をなぞる様に横へ。
月明かりのあたりが変わり、体が徐々に闇から現れる。
穏やかな笑み。街ですれ違えば少々身分の高い老紳士にしか見えないだろう。
相対するは、長身の男と少女。
男は黒いスーツで全身を固め、少女は背中にランドセルに似た四角い皮の鞄を背負っている。
【+ 】ゞ゚) 「久しぶりだね百々、小山内。前に英栄で一戦交えて以来かな?」
( ゚∋゚) (……我らの前に進んで姿を見せるとは、何を企んでいる、棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「いやさ、態々草咲まで君らが来てくれたのだ。一戦、相手してやらねば義理が立たんと思ってね」
( ゚∋゚) (その余裕。今日こそ捻りつぶす)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ^) 「受けてたとう。アレが引退してから、どうにも退屈でたまらんからね」
( ゚∋゚) (…………ほざけ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
長身の男、百々(どうどう)クックルは両手に杭を備えた。
巨大なメリケンサックに、短杭の刃を生やした特注品。
便宜上、「拳杭」と名付けてはいるのだが、杭持ちの間では「百々杭」と呼ばれている
扱いが直感的で単純な半面、膂力が物を言うため百々以外に使う者が居ないからだ。
439
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:48:57 ID:tDoD0cvc0
百々の隣に立っていた少女、小山内(おさない)リリはテコテコと屋上の入口付近まで下がる。
それを合図に、百々は前へ。
長く逞しい足を活かし、瞬く間に棺桶死に肉薄。
走る勢いを殺さぬまま拳と杭を叩き付ける。
打撃と、金属を引っ掻くけたたましい音が連続する。
棺桶死は背負っていた棺桶を前に出し、百々の杭を受けたのだ。
百々は続けて逆の拳を、あえて棺桶に打ち込む。
剛力に蓋が軋み、棺桶死の体が僅かに揺らいだ。
この一瞬の隙に百々は横へ体を潜り込ませる。
見えたのは棺桶死の脇腹。
がら空きのそこへ、フックの容量で拳を振るう。
杭の先端が棺桶死の肉を捉えるかと思ったその寸前、棺桶死の身体が霧散した。
黒い霧の塊へと変貌した棺桶死は、百々から距離を取った位置で再び人の姿へ戻る。
【+ 】ゞ゚) 「やれやれ……流石、人間とは思えない」
棺桶死が手放していった棺の蓋は、大きく窪んでいた。
鉄製である。
そう簡単に歪むものでは無い。
【+ 】ゞ゚) 「大天福や素直嬢とは全く違う強さだ。彼らは人間的な部分をより特化しているが、君は」
言葉の途中で銃声が鳴り響き、棺桶死の頭が横に弾かれた。
耳のやや上から血飛沫が吹き出し、夜空に立ち上る煙となる。
440
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:50:39 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「…………余裕を持ちすぎかと思われますが」
血飛沫の原因は、屋上入口の陰から半身だけを露わした小山内リリ。
その腕には小さな体に見合わぬ厳つい小銃。
銃口から登る細い煙が風に吹かれて靡いている。
一発目の命中によって生まれた棺桶死の停止に、さらに引金を引く。
銃口の消炎器が、十字に火を噴いた。
地に伏せ、かなり独特な体制で銃身を抑えながらも狙いは正確。
放たれる弾は悉く棺桶死の体を貫いてゆく。
この射撃の間にも、百々は棺桶死に迫った。
拳の間合いへ到達すると同時にリリの銃が哭き止む。
( ゚∋゚) !
大きな踏み込みから、棺桶死の胸部に杭を叩き込む。
三本の杭が肉を断ち、骨を砕いた。
振り抜いた拳の勢いのまま棺桶死の体が宙に浮く。
百々は軸足を入れ替え、体重を移動し、逆の拳で頭部を殴り払った。
深く食い込んだ杭が、硬い音を立てながら棺桶死の顔を四分割する。
血と脳漿が吹き出し百々の体を濡らすが、それでも巨漢は止まらない。
さらに切り返しの拳。
捻りが咥えられた並列する三本の刃が棺桶死の胸を抉り、吹き飛ばす。
軽々と浮いた棺桶死は放物線を描き貯水タンクへ。
仰け反った姿勢で頭部から衝突し、跳ねて地面に伏せる。
441
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:01:44 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「クックルちゃん!」
手りゅう弾のピンを口で外し投げつけるリリ。
貯水タンクに跳ねたそれは、起き上がろうとしていた棺桶死の頭へと落ちる。
そして。
静かな月夜に似合わぬ轟音が鳴り響く。
リリは腕で顔を庇い、百々は彼女の小さな体の前で自らの肉体を盾とした。
ぱらぱらと、舞い上げられた瓦礫の落ちる音。
百々とリリはすぐに離れ、それぞれの得物を構えながら、棺桶死の居た場所を睨みつける。
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。これくらいで奴が死ぬとは思えません」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「一応大天福ちゃんにも連絡はしておきました。彼のことだからすぐに来てくれると思います」
手りゅう弾によって破損した屋上の床。
そこには棺桶死の身体、流れ出た血すらも存在しない。
「やれやれ、やはり君らは容赦がないね」
後ろからの声に、咄嗟に振り返る二人。
が、棺桶死の姿を視認することが出来ず、リリが横に吹き飛ばされた。
コン.ク.リートの床を転がり、縁の段差に背中を打ちつける。
口から唾液が零れ、苦しげに身を丸めた。
442
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:03:19 ID:tDoD0cvc0
リリを心配する余裕も無い。
百々は僅かに見えた棺桶死の攻撃を腕で捌く。
すさまじい衝撃にスーツの内に仕込んだ特殊繊維のプロテクターが軋みを上げた。
次々と襲い来る棺桶死の攻撃。
月明かりの中、百々は硬く握られた白い拳を視認した。
ただし、その数が妙に多く感じる。
棺桶死が早いとか、薄暗い中で残像が見えるとか、そんな甘いものでは無い。
実際、棺桶死の手は左右合わせて六つ存在していた。
棺桶死の身体は、大半が霧に変化したまま。
実体化しているのは胸部と顔、そして複数に増えた腕のみだ。
その状態から、人間には再現不可能な速度と力の連撃を放っている。
【+ 】ゞ゚) 「よく耐える。……だが」
連続する打撃を受け切れず、いくつかの拳が百々の体を捉えた。
内臓が揺さぶられ、骨が痺れる。
絞り固めた筋肉の防御も余り役には立たない。
こじ開けられた腕の防御の隙間を抜けて、百々の顎が打ち上げられた。
巨体が浮き、そのまま受け身も取らず地面に落ちる。
【+ 】ゞ゚) 「速さだけなら大天福だね。アレは私より僅かに速い」
霧を纏い完全な実体へ戻る。
腕は二本に戻り、受けた数々の傷は一つも残っていない。
軽く埃を払い襟を正すさまは銃弾爆薬鋼の剣が煌めく戦闘の後とは思えぬほど穏やかだ。
443
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:04:47 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「おや、死なない程度に意識を飛ばしたつもりだったのだが」
⌒*リ´・-・リ 「…………う、くっ」
【+ 】ゞ゚) 「相変わらず見かけに寄らない頑丈さだ」
⌒*リ´・-・リ 「……棺桶死、あなたはなぜ、この街に来たのです」
【+ 】ゞ゚) 「……特に理由は無い。娘の顔を見ようかと思ってね」
⌒*リ´・-・リ 「……」
リリは小銃を杖代わりに立ち上がった。
やや覚束ないが、気丈に棺桶死を睨みつける。
⌒*リ´・-・リ 「…………ハインリッヒ高岡とは何者なのです」
【+ 】ゞ゚) 「!」
⌒*リ´・-・リ 「先日、私たちの元に、あなたの居場所をリークする電話がありました」
⌒*リ´・-・リ 「それは、あなたが私たちをおびき出すため、素直ちゃんたちの前に姿を現す以前の話です」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「信憑性の無い情報でしたので、一先ずは裏取りをしていたのですが、結果として正しかったということになります」
444
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:39:51 ID:tDoD0cvc0
※私用にて中断します
445
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:08:17 ID:oAXzoo4c0
おま……!乙……!
446
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:13:46 ID:9jQR.3h.0
くぁ……!
乙
447
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:14:42 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「私たちですら正確な居場所のつかめないあなたの、一時の隠れ家までを暴いて見せたその男が名乗った名」
⌒*リ´・-・リ 「それが、ハインリッヒ高岡」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「疑問に思った私たちは、とりあえずその男の名を調べました。
偽名である可能性も考慮し、近しい意味合いを持つ名前までを徹底的に」
【+ 】ゞ゚) 「そして、見つかったかね?」
⌒*リ´・-・リ 「いいえ。少なくともここ十数年の記録からは、それらしい人物を特定できませんでした」
棺桶死はごく小さな声で「そうだろうね」と呟いた。
やはり関係者なのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「と、本来ならばここで「ハインリッヒという名は偽名である」と結論付けて終わりなのですが……」
頭の片隅に置く程度に留めていたその名を、リリたちはこの街に来てもう一度聞くことになる。
ここ、草咲市市街は最近妙に吸血鬼絡みの事件が頻発している。
今までにない規模での吸血鬼の量産。それに伴う数々の凶行。
杭持ちたちは全力で原因の解明に当たっており、僅かずつであるが進展も得られている。
その中に、あったのだ。
ハインリッヒという名が。
⌒*リ´・-・リ 「大天福ちゃんが、一連の事件の要因に関わると思われる吸血鬼を捕らえたのですが、
その吸血鬼が取り調べの中で唯一口にしたのが『ハインリッヒの意志』という一言だったそうです」
448
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:16:05 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「……なにか、繋がってくる気がしませんか?」
⌒*リ´・-・リ 「地雷女。棺桶死オサム。吸血鬼事件の異常な頻発。その他にも、いつになく草咲市は賑やかです」
⌒*リ´・-・リ 「この、きなくさ〜〜〜い感じ、全て偶然でしょうか?」
【+ 】ゞ゚) 「…………そうか。奴はついにそう言う手段に出たか」
⌒*リ´・-・リ 「やはり、御存じなのですね」
【+ 】ゞ゚) 「ああ。だが、語らんよ。奴のことは、出来るだけ私たちだけで片付けたいからね」
⌒*リ´・-・リ 「よく言います。私たちを招くようなマネをしたのは、この件に少しでも戦力を巻き込みたかったからでしょう」
【+ 】ゞ゚) 「……察しが良くて助かるね」
⌒*リ´・-・リ 「貴方の思惑通りに私たちが動くと?」
【+ 】ゞ゚) 「私の思惑では無い。人を救いたい君たちの意志が、私の利と一致するだけさ」
⌒*リ´・-・リ 「腹の立つ言い方だ。……と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「!」
棺桶死の背後、気絶していたはずの百々が立ち上った。
わずかな間もおかず、そのまま熊が爪を振るうように、棺桶死の体を薙ぎ払う。
素早い反応を見せたため深く抉ることはできなかったが、血が地面に跡を残す。
449
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:18:07 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「む?」
( ゚∋゚)
相変わらず冷静さを見せた棺桶死だったが、少しして眉をしかめた。
切り裂かれた傷の修復が遅い。
霧への変化すらもどこか鈍っている。
【+ 】ゞ゚) 「おやおや。これは」
( ゚∋゚) (我々がいつまでも貴様に振り回されるだけだと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「ふむ。確かに油断してもいられないようだ」
棺桶死の血が糸のように伸び傷口を縫合してゆく。
折角の有効打もすぐに回復されてしまったが、止むを得まい。
血刑の糸による縫合は飽くまで応急処置。
これまでのように時間を巻き戻すかの如く復活されるよりはマシになったと思うべきだ。
【+ 】ゞ゚) 「気絶したふりをして、杭に何か仕込んだか」
( ゚∋゚) (抗血刑剤。かねてから研究されていたが、ようやっと実用レベルに達したというところだ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「…………旭の遺産か。死んでもなお仇を成す者とは、どこにでもいるものだね」
450
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:19:20 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「…………さて、頃合いだ。そろそろお暇させてもらうとしようか」
( ゚∋゚) (逃げるつもりか棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「……これ以上は戯れでは済まなくなるだろう。まだ君らを殺すときでは無い」
( ゚∋゚) (我らがこの好機をみすみす逃すと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「好機……?はて……」
棺桶死が顎に手を当て小首を傾げる。
同時に、百々の杭の刃が根元から全て折れた。
咄嗟に構えたリリの小銃も、弾倉が地面に落ち込められていた弾が一つ残らず取り外される。
どちらも、装備して居たそれぞれは何の操作もしていない。
【+ 】ゞ゚) 「いくら君でも、素手で私とやり合うのは無理があるのではないのかな、百々」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「……本当に、忌々しい人」
【+ 】ゞ^) 「止むをえまい。私は人類にとっても、吸血鬼にとっても最大の怨敵でなければならないからね」
451
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:20:25 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「では、また会おう百々、小山内。その日まで、健やかで居ておくれよ」
棺桶死の体が文字通り霧散した。
黒い靄は瞬く間に空気に融け消えて、彼の放っていた強烈なプレッシャーも綺麗に消え去る。
⌒*リ´・-・リ 「……結局、核心事は煙に巻かれてしまいましたね」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「ええ。腹立たしいことですが、今は棺桶死の思惑に乗るしかないでしょう」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。まずは装備を新調しなければ。私の銃は何とかなりますが、クックルちゃんの杭は時間がかかりますし」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「水臭いことを言わないで、クックルちゃんのサポートをするのが、私のお仕事だもの」
( ゚∋゚)
棺桶死が一度去った場所に再び戻ることは滅多にない。
二人は手早く戦闘の痕跡を清掃し、屋上を去った。
人のいなくなった屋上は煌々とした月の明りの中で、時が止まったように、静寂を取り戻した。
452
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:21:21 ID:tDoD0cvc0
.
453
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:22:16 ID:tDoD0cvc0
ダッ!
ダッ!!
ダッ!!
ダッ!!
ダッ!!
454
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:24:18 ID:tDoD0cvc0
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> <
> 大 天 福 大 参 上 ! ! ! <
> <
´ ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
三 ∧_∧
三⊂(´†ω゚`)つ
三 〈 バー―――z___ンッ!!
(_/⌒J
(´†ω゚`) 「またせたな百々!!!この大正義大天福が来たからには―――――ッ!!」
(´†ω゚`)
(´†ω゚`)
(´†ω・`)
.
455
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:25:56 ID:tDoD0cvc0
おわり
間が空きましたがあけましておめでとうございます。今年も滞りつつ続けてゆきます
三行
( ゚∋゚) (棺桶死殺す)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
>>434
遅くなりましたが、大変に素晴らしいです
イメージの中にあったデレそのものを描いていただき非常に喜ばしく思います
456
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 19:24:43 ID:Q5B5v9ls0
乙、このぐらいの間は訓練されたブーン系民には一日と変わらない。
オレは更新されたのをみて狂喜乱舞したけどな
457
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 19:54:09 ID:P5VBhslg0
乙乙
大天福先生が大天福すぎてとても良い
458
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 20:35:05 ID:TcjWcj5o0
乙!
459
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 21:40:40 ID:oAXzoo4c0
乙 オサムかっけぇ〜〜〜
460
:
名も無きAAのようです
:2015/01/04(日) 09:05:34 ID:wiiJefkc0
キテタ!
毎回三行が秀逸過ぎる
461
:
名も無きAAのようです
:2015/01/04(日) 13:19:20 ID:42G6Detw0
おつ
462
:
名も無きAAのようです
:2015/01/19(月) 21:47:37 ID:7UVWQIYA0
乙!
やっぱムジナが個人的に一番面白いわ
463
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:13:40 ID:fIZnY.bU0
Place: 草咲市 幸寿町 辺丹州 字 戸六 35-7 穏やかな音楽の流れる喫茶店
○
Cast: 流石兄者 素直クール わかばを吸う女
──────────────────────────────────――――――
464
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:18:49 ID:fIZnY.bU0
その女は、既に席に座り煙草を燻らせていた。
窓際の角の席。
入口に背を向けるその姿は若い女のようにも、老いた老女にも見える。
「あれだ」
そう一言だけ呟き、クールは席に向かう。
ハイヒールの鳴らす硬質な音が、静かな喫茶店の中に響いた。
先ほどまでテーブルを拭いていた店員の女がいそいそと駆け寄ってきたが、
一瞥もしなかったクールの態度にやや戸惑っている。
「二人。あちらと待ち合わせで」
「あ、はい、いらっしゃいませ」
俺に頭を下げ店員はいそいそとカウンターへ戻る。
カップを拭いていた店長らしき老人と目が合ったが、逸らされた。
服装で俺たちが杭持ちだと見抜いたのだろう。
客に対するには、少し鋭さの過ぎる警戒心が見て取れた。
「流石くん、早くきたまえ」
「はい」
先に女の向かいに腰を下ろしたクールに呼ばれ、俺もテーブルへ。
数秒悩んで、クールの隣に間を空けて腰掛けた。
465
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:21:34 ID:fIZnY.bU0
「良い雰囲気の店ですね」
「でしょう。気に入ってるの、暴れたりしないでね」
俺の述べた社交辞令に、同じく社交辞令然とした返事をする女。
初めて正面から顔を見た。
世間一般で言えば、美人な部類か。
気だるげな表情がむしろ艶となっている。
「紹介しよう。部下の流石くんだ」
「流石兄者です、初めまして」
クールが相変わらず無感情な声で俺を紹介しる。
最近やっとこの、「これはペンだ」と言うのと同じトーンで名を伝えられることに慣れた。
初めの頃は紹介されていると気付けず、反応が遅れてしまったものだ。
「初めまして。私は、そうね」
女は少し悩み、テーブルに置いてあった煙草の箱を手に取った。
薄い緑の地にシンプルなロゴとデザインが描かれている。
喫煙者でないため詳しくは無いのだが、ひらがなで名前が書かれた煙草は初めて見る。
「仮に、『わかば』とでもしときましょうか」
「偽名ですか」
「そうね。だけれど気を悪くしないで。普段使っている名前ですら、私の本来の名前じゃないから」
466
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:22:35 ID:fIZnY.bU0
互いの紹介を終え、落ち着いたところに丁度店員が現れる。
俺とクールの前に水とおしぼりを置き、伝票にペンを構えて注文を取る姿勢になった。
特に何かを頼むつもりでも無かったため、目でクールを窺う。
「経費は落ちる。良識の範囲で好きなものを頼みたまえ」
「じゃあ、俺はブレンドを」
「私もブレンドおかわり。それとガトーショコラ一つ」
「私はアイスラテを。と、ショートケーキを二つ」
「俺は要りませんよ」
「何を言っている。二つとも私が食べるに決まっているだろう」
苦笑する店員を戻らせ、わかばの女は咥えていた煙草を灰皿に押し付ける。
吸殻はこれを含めて三本。
珈琲も二杯目であるし、少々待たせてしまったようだ。
遅れてきたわけでは無いのだが、はるかに早く彼女はここに着ていたのだろう。
「それで、話しってのは何」
「率直に言おう。君の力を借りたい案件がある」
予測できていたのだろうか。
わかばの女はため息を吐き、器に残ってた珈琲を飲みほした。
467
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:23:52 ID:fIZnY.bU0
「私が出張んなきゃいけないような緊急事態なわけ」
「そうだ。でなければ連絡などしない」
いかにも乗り気でないという風に、わかばの女は唇を尖らせる。
「いいわあ、一応話くらいは聞きましょう」
「そう言ってもらえると重畳だ」
「でも、期待はしないでよ。私は、今の生活ぶっ壊してまで協力するような義理は無いから」
「ああ、分かっている」
二人の女の会話を、水で喉を潤しながら聞く。
優位性を持っているのは、わかばの方で間違いないだろう。
こちらは依頼する側なのだから当然と言えばそうだが、それだけでない何かが感じ取れた。
「わかば」がどういった存在で、クールや十字協会とどういった関係があるのか、俺は一切教えられていない。
一応尋ねてはみたのだが、「今は顔だけ覚えておけ」という返答しか得られなかった。
協力を仰ぐといった時点で無認可の吸血鬼狩り屋の類かと予想していたのだが、どうにも空気が違う。
468
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:25:03 ID:fIZnY.bU0
「流石くん、細かい話は君に任せる」
「わかりました」
「あなた、良くこれの部下なんてやってられるわね」
「異動の願いは散々出しているのですが、認められなくて困っています」
「ふうん。なんだか嫌にタフそうな相棒で良かったわね、クーちゃん」
「タフ過ぎて困っているところだ。あと部下の前でクーちゃんはやめろ」
「いいじゃない。私にとってはいつでもどんなときでもクーちゃんはクーちゃんよお」
「流石くん、さっさと話を」
「はい」
わかばが、煙草を一本抜き取り、口に咥える。
ライターを構えたところで、思い出したように俺を見る。
「煙草、吸っても」
「俺は構いませんが」
「ありがと」
ライターが火花を飛ばし、細い火が点る。
煙草の先端が燃え、軽い明滅を起こす。
一度大きく吸い込んだ煙を、俺たちにかからぬよう、少し開けた窓に吹くわかば。
その目が俺を流し見たのを確認し、俺は口を開いた。
469
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:28:56 ID:fIZnY.bU0
「現在、草咲市に棺桶死オサム『始祖の吸血鬼』が姿を現していることはご存じで」
「いいえ。そう、あのおじいちゃんまた来てるの」
「はい」
棺桶死オサム、そして吸血鬼に対する認識はある程度共有できているようだ。
これならば、いちいち説明せずに済む。楽でいい。
「まさか、あのおじいちゃんを殺すの手伝えってんじゃないでしょうね」
「正確には、それも視野に含めて、複数の状況に対する遊撃的な立場を取っていただきたいと、上は考えています」
「遊撃的、ねえ」
「我々のみでは手に負えない状況が発生した際の援護、ということになります」
「ねえ、クーちゃん」
「なんだ」
相変わらず顔を窓側に向けたまま、わかばは視線のみをクールに移動する。
やはりわかばの用いる呼称が気に入らないのか、普段よりもいくらか不満げに見えなくもない。
面白い。今度隙を見せた際に俺もクーちゃんと呼んでみよう。
そのためにも普段から防弾ベストを着込んでおかなければ。
470
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:31:54 ID:fIZnY.bU0
クールの反応を無視し、わかばが煙草を咥えたまま向き直る。
軽く握った状態両手を目の前に差し出し、言葉に合わせ一本ずつ立ててゆく。
「荒巻、渋澤、百々、大天福、増井、盛岡、横堀、咲名、的間。今挙げた杭持ちのうち何人がこの街に来てるの」
「現時点では四人だ。ただし、咲名は今杭を持っていない」
「それぞれの子分は」
「百々は小山内。大天福には天主堂、盛岡には権藤がついている」
「ちなみに親猫のおにいさんやラスイチのおじさんとの協力体制は」
「子子子ギコ、鴨志田フィレンクト両陣営共に、一応は約束されている」
クールの返答を聞き、わかばは眉間に皺を寄せた。
煙草の煙が沁みた、というわけでもないのだろう。
「あのさ、あんた含めて、十協の戦力トップ10が五人もいて、それぞれ子分も真面に揃ってて、
加えて親人間派吸血鬼の二大勢力が共に協力的なのよね。普通ならそれだけでオーバーキルだってのに、
その上で私を引っ張り出すってさ、それどんな異常事態なのよ。
吸血鬼満載したジャンボジェットが突っ込んで来るってレベルじゃなきゃ納得しないわよ」
「近い状態にあると、言っても過言ではありませんね」
「飽きれた。世の中腐ってるわ。No futureだわ」
言葉通りの心底呆れた顔から煙が吹き出された。
クールに見慣れてきた今、こちらの方が大げさな反応に見えて仕方ない。
何はともあれ、この意見には同意だ。今の草咲市は異常が過ぎる。
471
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:33:22 ID:fIZnY.bU0
現在、草咲市で俺たちを振り回す事案は主に三つ。
棺桶死オサム、『地雷女』両名の不自然な滞在。
好戦的な新生吸血鬼、仮称『蠍』こと志納ドクオの出現。
高危険度吸血鬼の不自然な大量発生。
どうやらそれらには関連性があるようだが、一体どんな裏があるのかがまだ見えていない。
つい最近新たに得られた情報では「高岡ハインリッヒ」などと言うこれまた聞き覚えの無いワードまで登場している。
一切の明度を得られぬまま、断片の情報ばかりが手に入り、解決にはほとんど繋がらない。
結局それぞれに部分的に対応しなければならないため、労力体力がすり減るばかりだ。
三つめに上げた大量発生の件は特に人手を食い、俺たちまでそちらに駆り出されかねない状況になっている。
「それで、私なのね」
「はい。解決の糸口が見つからないからこそ、せめて目の前の事件には応対しなければなりませんから」
「一応聞くけど、人員はもう余裕無いのよね」
「辛うじて、あと数名回してもらえるとは言われていますが、そうですね。それ以上は望めません」
「ま、いくらここが激戦区って言ったって、他を無視するわけにはいかないもんねえ」
「はい」
わかばは幾分減った煙草を灰皿に捩じりつけ、何度目か分からないため息を吐く。
どうやら受ける気にはなってくれたようだが、やはり乗り気とはいかない。
472
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:37:40 ID:fIZnY.bU0
「報酬は出すと、上は言っています」
「報酬ったってあんた、私はそもそも十協に養われてる立場だもの」
「十協なくなられても困るしねえ」と呟き足す。
俺が話す間に届けられたコーヒーを、そっと唇に運んだ。
慎ましい嗜み方だ。隣で二つ目のケーキを食い散らかしているクールにも見習ってほしい。
「わかったわ。どれくらい手伝えるか分からないけどとりあえずはね」
「そう言っていただけると助かります。素直さん」
「ちょっと待ちたまえ。今大事なところだ」
残しておいた二つ分のいちごをたっぷりと味わうクールを待つ、俺とわかば。
反撃に銃弾さえ飛んでこなければ、横っ面を全力で殴っているところだった。
無論、俺が殴りかかったところでこの女はあっさりと躱すだろうが。
「これを。連絡用だ。必要な番号とアドレスは全て入力してある」
「あらあら、随分準備がいいこと」
「お前はごねるこそするが、こちらの依頼を断ることはないからな」
「あんたたちが断り切れない話ばっかり持って来るからでしょお。そろそろ勘弁してよね」
473
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:39:27 ID:fIZnY.bU0
「じゃ、要件が済んだなら、私は帰るわよ」
一通りの話が済み、荷物を手早くまとめ、立ち上がるわかば。
ハイヒールのせいもあってか、思っていたよりも身長が高い。
「ああ、応じてもらって感謝する」
「感謝してるなら、もっと媚びた声出してもらえないかしら。せっかく可愛い顔してるんだから。ね」
「ね、と言われましても」
不意に話を振られ、ついクールの顔を見た。
俺に他人の顔面をとやかく語る美的な感性は存在しないが、ほとんどの人間がこの顔を美しいと賞する。
中身を知っている俺にとっては、外面などどうでもいい。
いくら美しい拵えが施されていようと、刃物は刃物。
肉を裂き魂を刈り取る死神の鎌に「可愛い」などとのたまわれるほど、俺は剛毅な質でない。
「素直さんが他人に媚びるところは見て見たい気もしますね」
じろりと、クールの視線が刺さる。
白を切ってわかばに目を戻すと、いかにもわざとらしいため息が聞こえた。
続いて、決心したように深く息を吸い込む音。
「ありがとお、わかばちゃあん」
一瞬、俺とわかばの動きが止まった。
たまたま見合わせていた彼女の瞳孔が開くのが分かる。
恐らく俺も同じような状態だろう。
474
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:41:05 ID:fIZnY.bU0
「お望み通り媚びてやったぞ」
反射的にクールを見た。
こともなげに、ストローに口をつけ残りのアイスラテをじゅるじゅると鳴らしている。
相変わらずの無表情ではあったが、こちらを向かないという頑なさだけは感じ取れた。
「今の聞いたよね、流石っち」
「ええ、幻聴だと思いたいところではありましたが」
「そうね、そう。私まだ鳥肌が収まらないわ」
わかばが腕を見せた。
触れるまでも無く肌が粟立っているのが分かる。
「俺も三年くらい寿命が縮んだかも知れません」
「大概にしたまえよ流石くん。わかばについてはやむなく大目に見るが」
「だってねえ。あんた、そんな甘ったるい声も出せるんだ」
「末の妹の真似だ。私や他の妹共と違って、奇跡的に一般的な人格なのでな」
「今の、他の人たちの前でもやってもらっていいですか」
「四肢に一発ずつ、頭と心臓に四発ずつ鉛をぶちこませてくれるならば考えてやる、流石くん」
「脳天に一発ならば悩むところでした。諦めましょう」
「仲良いのねえ、あなたたち」
475
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:43:19 ID:fIZnY.bU0
「さて、どうしましょうか。これから」
「どうするもこうするも、上からの命令には従わねばなるまい」
わかばが去った後の喫茶店。
クールが追加でモンブランを注文したために店を出られなくなり、俺は斜向かいに座り直す。
「警邏の応援に入るんですか」
「不満ではあるがな」
「俺の勘では、地雷と吸血鬼の大量発生は関連性があります」
「それは私も分かっている」
「蛆のように湧く吸血鬼を狩るより、地雷の周辺を浚う方が速いかとは思いますが」
「同意見ではあるが、現状は手詰まりだ。せっかくもらえた増援も、全て向こうに取られては捜査も進まん」
素直クールにしては異様に聞き分けが良い。
撃つなと言っても撃ち、壊すなと言っても壊し、行くなと言っても向かうこの女が命令を聞くなど気色悪いにもほどがある。
何かに感づいているのだろうか。
「そう訝しがるなよ流石くん」
モンブランの頭頂に乗った栗の甘露煮を丁寧に掬い取り、頬張る。
続けて何かを喋ろうとしている気配はあるが咀嚼が終わらない。
俺は氷の溶け切った水を、少しだけ口に含む。
476
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:44:50 ID:fIZnY.bU0
「人手を失った今、乙鳥や賤之女デレについて調べるのは骨だ。
本来地雷にたどり着くための糸口に過ぎなかったと考えればむしろここに執着するのは無駄ですらある」
「それならば少しでも甲斐のある方に行くと」
「そうだ」
「正直に言ってはいかがですか」
「なんだ」
残っていた大きなケーキの塊を、クールは口に押し込んだ。
まるで子供だ。
口の端に付いたクリームを指で拭い、咀嚼途中の舌で舐めとる。
俺は親では無いので一々注意する義理も無いが、これの隣に居る俺が恥をかくのでは無かろうか。
「久々に思い切り引金を引きたいだけでしょう。最近はフラストレーションの溜まる場面が多かったですから」
クールの表情に当然変化は無く、膨らんだ口を黙々と動かし、モンブランを味わっている。
両頬を挟み叩けばさぞ愉快だろう。
その場合、正面では噴出した脂と糖と唾液の混合物を浴びることになるので、立ち位置は重要だろうが。
ぼんやり殴る角度を色々想定している内に、クールは全てを飲み下した。
すすぎとばかりに残していた水を飲みほして、立ち上がる。
「流石は流石くん。そこまで分かっているならば、さっさと弾薬の追加申請をしてくれるとさらに流石なのだがね」
「ついでに、また異動願いを出しておきます」
「構わんが、資源を無駄にするのはあまり流石でないと、私は思うよ流石くん」
477
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:46:04 ID:fIZnY.bU0
おわり
三行
「率直に言おう。君の力を借りたい案件がある」
「わかったわ。どれくらい手伝えるか分からないけどとりあえずはね」
「ありがとお、わかばちゃあん」
478
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 06:07:04 ID:hz3Zpf.60
おつおつ
このコンビの掛け合いも大好きだ
479
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 20:30:10 ID:U1rYcqMMO
ω・)乙。大天福先生の他にも強い杭持ちがいるのな
480
:
名も無きAAのようです
:2015/01/26(月) 00:43:36 ID:fQk3VuFw0
おつ
481
:
名も無きAAのようです
:2015/01/26(月) 08:10:29 ID:uNY7hUJE0
乙
482
:
名も無きAAのようです
:2015/05/27(水) 17:15:00 ID:n3hJY36.0
いつまでサボってるんだ?
さっさと続き!
483
:
名も無きAAのようです
:2015/08/11(火) 22:38:41 ID:i.gb1g5I0
楽しみに続きを待っております
484
:
名も無きAAのようです
:2015/09/09(水) 05:25:26 ID:FSizOkdU0
まだかなー
485
:
名も無きAAのようです
:2015/11/16(月) 05:16:49 ID:r5itCX7k0
モチベーションなくなっちゃったのかな…
486
:
名も無きAAのようです
:2016/01/27(水) 13:40:25 ID:qby..1f60
待ってる
487
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:36:34 ID:K0Dfv0VQ0
Place: ―
○
Cast: 都村ミセリ 都村トソン
──────────────────────────────────
488
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:37:23 ID:K0Dfv0VQ0
幸福な微睡だった。
頬に、腕に、胸に感じる、自分とは違う体温。
はっきりしない意識で、少し強く抱きしめる。
静かに続く寝息に、「んん」と声が混じった。
もぞもぞと動く。
これ以上ないというくらいにひっついているのに、さらに近づこうとする。
肌が擦れ合う。堪らなく愛おしく、彼女の頭に顔を押し付けた。
人の臭い。
シャンプーの残り香と、汗と皮脂の混じった、ほんのり塩気と苦みのある甘い香り。
幸せが胸の中にじわじわと広がってゆく。
薄い毛布が一枚。
少し肌寒い、雨模様の夏の朝。
服を纏わない互いの体の熱が、めまいがしそうなほどに心地いい。
掌で体を撫でてやる。
瑞々しい肌。触れているこちらの方が気持ちよくなってしまう。
この柔らかい幸せの塊を、壊さないよう、傷つけないよう優しく。優しく撫でる。
孤独を融かし尽くして、柔らかな日だまりを思い出させてくれる彼女を、
自分からすれば刹那の間に老い朽ちる彼女を、少しでも長く傍らに置けるよう。
「ミセリ」
小さな声が、胸元で紡がれた。
寝ぼけている。軽やかな鈴のような声に少女の甘さが混じっている。
489
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:38:17 ID:K0Dfv0VQ0
「どうしたんです?」
「なんでもないさ。なんとなくだよ」
この心の穏やかさを、なんと言葉にすれば伝わるだろうか。
心臓の拍動のほんの少し横で、一緒になって脈を打つ、愛しさの感情。
惜しみなく注いで良い。躊躇わず受け取ってよい。
怯えた野良猫の心はもう消えた。
孤独を感じる必要などもう失せた。
首輪の要らない、代償の要らない、愛していい人を見つけたのだ。
「…………したいんなら、良いですよ」
「まだ朝だよ」
「本来、貴方にとっては夜みたいなものでしょう」
耳を澄ます。
鼓動が体を伝わって聞こえる。
窓の外で、しとしと雨が降っている。
なんて明るい夜だろう。
なんて怖くない夜明けだろう。
490
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:39:13 ID:K0Dfv0VQ0
吸血鬼になってからずっと、なる前からも。
夜明けは一人でいることが普通だった。
どれだけ人を騙して連れ帰っても。
ホテルの一室で、男女問わずに床を共にしても。
夜が明ければ独りだった。
光が全てを明かしてしまえば、何もかもが終わりだった。
時には、吸血鬼と知ってなお離れていかない者もいた。
しかし捕食者と肉という関係性は、人の精神を容易く疲弊させる。
結局、それまでのようにはいかずに、ほどなくして破綻した。
いつも一人だった。
心の凍えに、ぬるま湯をかけて温めてやるけれど、すぐに冷めて余計に寒くなる。
「……あんたにとっちゃ朝でしょ。もう少し寝な、私も寝るし」
「実を言うと」
「ん?」
「あなたに触られていたら、なんだか、その……」
「……」
「したく、なってしまいまして」
491
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:40:57 ID:K0Dfv0VQ0
「昨日したばっかりなのに?」
「昨日、貴方が途中で寝ちゃうから」
恥ずかしげな声で、胸に顔を押し付ける。
頭を撫でてやる。腰に回された手の力が強くなる。
体を剥して、顔を見た。
昨日半端にして眠りに落ちたせいか、髪が乱れたまま。
恥ずかしげに、うるんだ目でこちらを見上げてくる。
心臓が焼け付いてしまう。
堪らなくなって、顎に指を添え、顔を寄せた。
驚きを見せるが、すぐに目を閉じて受け入れようとする。
「あ、やっぱりだめです」
触れる寸前で顔を逸らした。
ちくりと寂しくなる。この程度で寂しがった自分に、少し戸惑う。
「嫌だった?」
「嫌っていうか、寝起きですし、口臭いかも……」
強引に唇を奪う。
最初は拒もうとしたが、すぐに舌が柔らかくなる。
492
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:41:52 ID:K0Dfv0VQ0
「いつものトソン」
「……まったく」
本当は、頭が惚けているだけで、今回もほどなくして終わっていしまう温もりなのかもしれない。
絡み合っているのが依存心ばかりだということは、自覚している。
欠けている自分の何かを都合のよい誰かに求めているだけ。
お互いを摺りつけ合って摩耗して行くだけの関係性。
楽で、怠惰で、温かくて、震えるほどに満たされている。
いつか来る淋しさばかりの終焉など気にならないくらい。
これで良い、と思える過ち。
このままがいいと願う誤り。
冷静なフリをする脳みそは、きっともうすでに熱にうなされている。
元々冷たいこの身体に、彼女の体温は愛し過ぎる毒だから。
「ねえ、トソン」
「はい」
「たまには、トソンにリードされたい」
「…………」
「だめ?」
「いいでしょう。頑張ります」
「ほどほどにな」
493
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:42:51 ID:K0Dfv0VQ0
いつか彼女に、別れを告げる日も来るだろう。
永遠に一緒に居るなんて、迂闊なことは言えないから。
それでも、今は共にある。
触れあい。舐めあい。侵しあい。赦しあう。
刹那で去ってゆくこの時間を、悔いの一片も残さずに貪りつくす。
「…………どう、ですか?」
「……そうゆうこと、一々聞かないの」
「仕方がありません。あなたがお手本なんですから」
「…………っ」
「声、上げないんですか」
「生意気」
頭の中に咲いた白い花の香りに酔いながら、掌に触れる髪を撫でて。
あばらの檻に閉じ込められた心臓が打つ鼓動を数えて。
擦れ合う肌から一つに融けるような錯覚に惚けて。
この空気に、心地に、干渉に酔って溺れる自分たちの体を強く強く結びつけ合う。
依存してしまうことを恐れない。傷つけあうことも恐れない。
血流にのって全身を侵すこの麻薬のような感傷を受け入れる。
どうせ足掻いたところで、絡まった糸が解れることはないのだから。
共に抱いた蓮の花が散るまでの短い生涯を、精々美しく生きるしかないのだから。
494
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:44:00 ID:K0Dfv0VQ0
三行
多分
再開
します
495
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:58:27 ID:YVITkghk0
よおおおおおおっしゃあああああああああまってたあああああ
乙
496
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 03:21:16 ID:3Un72ygg0
よく帰ってきてくれた
乙
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