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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ

1名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0

   ―― ― ―― ― ―――

 恐らく私は。狂ってしまったのだ。
 穴ぐらから飛び出て。
 あの夜に浴びた。青い青い月の光で。

 透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
 私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ

 だから私は。私では無い。
 私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
 同じ形をしただけの。

 私ではない。誰かだ。

 斜視のこの目に。乱視のこの目に。
 映るこの景色は。当然に狂っていて。
 焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。

 正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。

 寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
 私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。

 唇に優しさが欲しかったのはきっと。
 今宵の月も青かったからなのだ。

   ―― ― ―― ― ――

157名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:41:23 ID:Rci4aPFU0

('A`) 「……来い」

ζ(゚、 ゚*ζ 「でも、一緒のベッドに入ったら、おじ様に触ってしまうかもしれないわ」

('A`) 「……良いから、来い」

 おずおずと、デレがベッドに這い上がる。
 ドクオは彼女のためのスペースを空け、布団を捲って迎え入れる。
 昨日、ドクオに血を飲ませ、ただでさえ貧血のはずだ。
 その体で床で寝るなど、緩やかな自殺でしかない。

ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様、ありがとう」

('A`) 「良いから寝ろ。ガキが隈なんて作ってんじゃねえ」

ζ(゚、 ゚*ζ 「ごめんなさい」

 二人の間に意図的に開いたスペース。
 デレは寝返り一つで落ちそうなほど端に寄り、体を丸めて眠っている。
 胎児のようだ。目を閉じ、眠りに堕ちようとしているこの姿が、最も生きているように見える。
 しばらく彼女の寝顔を見ていたが、ドクオも背を向け目を閉じた。
 静かな時間だ。眠気が優しく頭に靄を満たしてゆく。

158名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:42:14 ID:Rci4aPFU0

    「ねえ、おじ様」

 デレの声。
 まだ眠っていなかったのか。

   「なんだ」

 目を閉じたまま、眠気に惚けたまま応える。
 少し、動く気配がした。

    「お父様って、呼んでもいいの?」

   「……」

    「おじ様は、お父様のことを、嫌っているように見えるから。でも、私は」

   「勝手にしろ」

    「ありがとう、…………お父様」

   「……いいから、寝ろ」

    「はい、お父様」

159名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 22:43:23 ID:Rci4aPFU0

 終り。


 三行。

 ドクオ
 脅威の
 賢者タイム

160名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 23:04:42 ID:RV1em2Xc0
デレがかわいすぎて死にそう

161名も無きAAのようです:2014/03/05(水) 23:18:44 ID:NFWcmFXM0
どくおさんまじぱねぇっす

162名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 06:55:18 ID:cF6.ekro0
おつ

163名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 06:56:45 ID:cF6.ekro0
おつ
ドクオさんマジかっけえ

164名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 11:45:52 ID:nM/a3ti20
このドクオさんは間違いなくイケメン

165名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 23:25:01 ID:YVwiZyCo0
おつ
デレ…ドクオに惚れる

166名も無きAAのようです:2014/03/08(土) 06:51:39 ID:p/RlzpRYO
ドクオかっけえな

167名も無きAAのようです:2014/03/08(土) 15:50:40 ID:kBJhFtnw0
めちゃんこ読みやすい

168名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:30:40 ID:tv9rkfP60


        Place: 草咲市 須赤三丁目 31-1付近 薄暗いガード下
    ○
        Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 狂小屋アヒャ 子子子ギコ 子子子シイ

   ──────────────────────────────────

169名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:32:27 ID:tv9rkfP60

ξ*゚⊿゚)ξ〜♪

 黒いセーラー服の、若者にしては長いスカートを靡かせて、ツンは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
 腕に抱いているのは、何とも不気味なアニメキャラクターのぬいぐるみ。
 巷では人気らしいが、僕はよく知らない。
 女子高生と男子高校生は、同じ場所で生活しながら全く別の分化を築いて生きている。
 学年が違えばなおさら。僕には分からぬ流行というのが、彼女生きている世界にはある。

( ^ω^) 先輩、それとるのにいくら使いました?

ξ゚⊿゚)ξ 二千円。

( ^ω^) 普通に雑貨屋で買った方がよかったんじゃないですかお?

ξ゚⊿゚)ξ 分かってないわね、ブーンは。私は「イトーイぬいぐるみ」が欲しかったんじゃなくて、
      あのクレーンゲームのケースの中、潤んだ目でこっちを見ていたこの子が欲しかったのよ。

( ^ω^) はぁ。

 つい気の無い返事を返す。
 よくわからぬことであるけれど、クレーンゲームで取ったというのが彼女としては重要なのだろう。
 「わかればいいのよ」とツン勝ち誇った笑みを浮かべた。
 それが子供のようで愛らしく、まあいいかと、僕を諦めさせるのだ。

170名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:33:38 ID:tv9rkfP60

ξ*゚⊿゚)ξ 〜♪

( ^ω^)=3

 ぬいぐるみを抱く彼女、津雲ツンは僕の一つ年上だ。
 同じ学校に通う彼女を僕は「先輩」と呼んでいる。
 同じ学校に通う僕を、彼女は「ブーン」と呼ぶ。
 小さい頃からのあだ名だ。
 恥ずかしいのでやめてほしいと頼んだことが幾度とあったが、彼女はこの通り。
 僕の頼みなど、聞いてくれたためしがない。

ξ*゚⊿゚)ξ 早くいきましょ、ブーン。暗くなっちゃうわ。

( ^ω^) ゲームセンターで時間を食ったのは、先輩じゃないですかお。

ξ゚⊿゚)ξ 細かいこと気にしない。

( ^ω^) はいですお。

 ツンは、身長が低く、私服でいると中学生に間違われるほどだ。
 故に、歩みは自然と僕の方が速くなる。
 勝手に先に行くと、彼女はひどく怒るので、僕はゆっくりついていくのが常だ。
 その上で急ぐとなるとこれがまた中途半端な速度になって、中々疲れる注文である。

 僕たちは、線路のガード下に差し掛かった。
 急なカーブの先、窪地のようになっているので見通しが悪く、人通りが少ない割によく事故が起きる。
 立地のために昼間も暗く、いつも不気味な気配が漂っていた。

171名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:35:19 ID:tv9rkfP60

 黄色と黒のテープが張られたガードレールが歩道と車道を分けている。
 その、僕らの行く歩道に、一人の男が立っていた。
 薄手のようではあるが、コートを身に着け、帽子を目深に被っている。

 いかにも、怪しい。
 警戒心と緊張で、体が強張るのが自分で分かる。
 だけれどツンは、全く怖気る様子なくずんずんと先へ行ってしまった。
 慌ててついていく。彼女に何かあっては耐えられない。

(  ゚∀゚ ) なあ、君たちちょっといいか。

 男は、近づいた僕たちを見つけると、笑顔で声をかけてきた。
 手にはポケットサイズの地図を持っている。
 道を聞かれるのだろうな、とぼんやりと察した。

(  ゚∀゚ ) 杭持ちの「正十字協会」へ行きたいんだけど、道わかるかな?

ξ゚⊿゚)ξ 十協?

(  ゚∀゚ ) ああ、仕事で用があるんだけど、土地勘が無くてね。道に迷ってしまった。

 なるほど。
 地図をのぞき込むツンのすぐそばで、僕は少し感嘆する。
 協会に行く、というのは、中々上手い理由だと思う。

172名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:37:13 ID:tv9rkfP60

ξ゚⊿゚)ξ ここからだとちょっと遠いですよ。この道を……。

(  ゚∀゚ ) え?どの道?

 男が地図を差し出して、ツンはそれに指を伸ばしました。
 二人が重なる様に、地図を覗き込みます。
 僕は、鞄をちらりと見下ろしました。

ξ゚⊿゚)ξ 今いるところが、ここだから……。

(  ゚∀゚ ) うんうん。

 熱心に、ツンの説明を聞いている、などということは、無かった。

 男の、地図を持つのとは逆の手が、ツンと僕の死角から、ツンの首へ振るわれた。
 鋭い爪。人間の物ではない。
 この男は、吸血鬼。

(  ゚∀゚ ) ありがとなァ!

 狂気の笑みを見た。
 その瞬間に、僕のスイッチは確かに切り替わる。

( ;゚∀゚ ) ?!

 男の手は、大きく空振り。
 爪で切り裂かれるはずだったツンの体は、低く地面に伏せている。
 それだけでなく、ツンは男の右足を掴んだ。
 見計らうまでも無く、僕は鞄に手を入れ、中身を握って振り抜いた。

173名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:38:22 ID:tv9rkfP60

( ; ∀ ) ガッ!!

 鞄から飛び出したのは、鉄製の、手斧。
 先端に備わった鈍色の刃が男の胸元に食い込み、鎖骨のあたりを割り砕く。
 ツンが足を掴んで居たので、男はなす術なく後ろに仰け反って倒れた。
 後頭部を打ったのだろう。硬い音が、ガード下に反響する。

ξ゚⊿゚)ξ ちょっとブーン、イトーイに血がついたらどうするの。

( ^ω^) そこですかお、問題。

 鞘代わりにしていた鞄を捨て、僕は斧を両手で持つ。
 小ぶりで扱い易いとはいえ、片手ではコントロールが効かず、パワーも乗らない。
 おかげで一撃で仕留めるつもりが、中途半端なところを砕くだけに終わってしまった。

( ;゚∀゚ ) てめェ、まさかァ!

ξ゚⊿゚)ξっy=━ 遅いっつー。間抜け。

 ツンがスカートの内側に隠していた銃を抜いて、両手で構える。
 発砲。唇をかみしめて耐えているが、反動が辛いのだ。
 二発打ったところで手をプラプラとほぐし始めまる。

( ;゚∀゚ ) こんな、ガキがァ?!

 ツンの放った弾丸は男の血に弾かれた。
 竹とんぼのような状態に形を変えた血が、クルクルと三つ、飛翔している。
 見た目は玩具のようだが、銃弾を弾いたのだ。侮れない。
 男はそのまま機敏に距離を取る。やはり、いまいち浅かった。

174名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:39:25 ID:tv9rkfP60

 僕はポケットからスプレーを取り出し、斧と服に吹きかけた。
 この程度の量であれば、これで血の機能を停止させられるはずだ。
 試作段階の品なので、あまり信用するべきではないけれど。

( ;゚∀゚ ) だが、残念!俺をそこらの雑魚と一緒にするなよ!

 斧に着いた血がうぞうぞと動き半端に刃の形になったが、そのままぽとりと地面に堕ちる。
 男の顔を見るに、斧に着いた血を操って奇襲するつもりだったんだろう。
 なるほど、中々役に立つ。

( ;゚∀゚ ) あ、あれェ?!

ξ゚⊿゚)ξ ブーン、アレなにやってんの?

( ^ω^) きっと其処らの雑魚と一緒にしてほしいんですお。

 シャツのボタンの2つ目を外して、僕が前へ。
 ツンは自分のカバンをごそごそと探ってる。別の銃を探しているんだ。
 だから、整理整頓は普段からちゃんとしておくようにと言っていたのに。

( ;゚∀゚ ) 何をしたかしらねえが、だが俺にはこの『ブラッドレッドスライサー』があるぜ!!

ξ゚⊿゚)ξ (うわだっさ) ボソッ

( ^ω^) (大天福さん未満のセンスですお) ボソッ

175名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:42:30 ID:tv9rkfP60

 しかし、敵の周囲を飛び回る刃というのは中々厄介だ。
 真正面から切り込めば、囲まれて刻まれてしまう。
 なら、やるべきことは決まっている。

( ^ω^) 先輩。ありましたかお?

ξ゚⊿゚)ξ おっけーおっけー。あったわ。

 ツンが拳銃の代りに取りだしたのは、銃身を切り詰めたショットガン。
 小さな銃ですら手を痺れさせる彼女に使えるのかと疑問に思われるかもしれないけれど、
 むしろ、だからこそ散弾であるほうが扱えるのだ。

 僕の脇を抜けて、ツンが突撃した。
 銃は腰元に、抱えるように持っている。
 散弾ならば狙いを定める必要性が他のよりも低いから、体全体で耐衝撃出来るのだ。

 男はツンの銃を見てぎょっとした。
 銃把にヘンテコなキーホルダーがついていることを除けば、拳銃よりも威圧感を感じるのは当然だろう。
 必然的に、血のプロペラはツンヘ。3つあるうちの、2つが彼女を襲う。

 狙い通りではあるんだけど、急がなければツンが刻まれてしまう。
 僕は斧を振りかぶり、思いっきり投擲した。

176名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:44:46 ID:tv9rkfP60

( ;゚∀゚ ) へっ?!

 斧を、殴りつける武器だと思いこんでいたのだろう。
 男は回避も防御もできず、間抜けな声と入れ替えに斧刃を受け止めた。
 位置は心臓。直接で無いとはいえ、確かな手応え。
 骨が砕け肉の潰れる音が反響する。

 ツンに飛ばされた2つの刃は、制御を失ってアスファルトとガードレールを抉った。
 中々の切れ味。人体に触れれば容易く刻まれてしまう。
 恐ろしい。幸だったのは、使っていたのが間抜けな吸血鬼だったということか。
 バカとハサミは使いようという言葉があるけれど、バカにハサミを持たせても役には立たないようだ。

ξ゚⊿゚)ξ ほっ

 辛うじて立っている男に、一切の減速無くツンが接近する。
 そして急ブレーキと同時、抱えていたショットガンを片手に持ち替え突き出し、銃口を男の頭へ。

( ;゚∀゚ ) あっ

 男の声は、銃声と散弾に飲まれた。
 飛び散る脳漿と骨片。頭の三割ほどが吹き飛ぶ。
 脳幹が残っているのでまだ殺しきれていない可能性もあるけれど、ツンならちゃんとやるだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ いったぁ〜もうマジ無理。

 手をプラプラとさせながら、瀕死の男に近づくツン。
 今度はちゃんと両手を添えて、腰元から散弾を放つ。
 砕けた肉片と骨が、飛沫となって舞い散った。
 これで終い。周囲を見渡して、ついついため息が出てしまう。
 諸先輩方であれば、もう少しスマートに出来たかもしれない。反省は多い。

177名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:45:39 ID:yJ2nmYSE0
きたきた

178名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:46:28 ID:tv9rkfP60

ξ;゚⊿゚)ξ ブーン、連絡ー。

( ^ω^) ハイですお。

 僕が処理班へ連絡する間、ツンは使った武器の片づけをしていた。
 相変わらず雑だ。備品は丁寧に扱ってと言っているのに。
 ポケットから仕事用に与えられた携帯端末を取り出し、処理班の番号を探す。
 いかんせん登録している番号が多いので、中々見つけられない。
 何より、普段使いの物とは異なるので、余計に扱い難く感じてしまう。

(*゚ー゚) あらあら、これはまた随分派手に散らかったのね。

 戦後処理で油断しきっていた僕とツンはその時酷く驚いていた。
 ガード下は薄暗く、確かに見通しがいいとは言えない。
 だからと言って、気付かないはずがないんだ。
 肩に手を触れられるほどの距離に、人が近づいてきていたことに。

 ツンは咄嗟に銃を構えた。
 僕は、背後数歩の距離にいたその人から飛びのき距離を取る。

 美しい人だった。
 妖艶さを持ちながら、どこか幼い少女のようで。
 赤みがかった頬には、右にだけえくぼが出来ている。
 散切りにした、女性にしてはあまり長くないが、優しい風に吹かれさらさらと靡いた。

 正直を言えば、僕は見とれてしまっていたのだ。
 彼女が、吸血鬼であると理解しながらも。

179名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:47:57 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) ちょとだけ、待ってもらえる?

 彼女は、ためらいの一つ無く、僕に近づき、手から携帯端末を抜き取った。
 僕は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
 金縛りだ。体が石のようにいうことを聞かず、首から下がどこかに消えてしまったようですらある。

ξ#゚⊿゚)ξ ブーン!下がりなさい!!

 ツンが、女性の頭に狙いを定める。
 僕は彼女の命令に従って、咄嗟に飛びのいた。不思議と、体が動いた。
 金縛りは恐らく、吸血鬼の持つ暗示の力を応用した物だったのだろう。
 こちらの意志が勝てば破ることはできる。
 虚しいのは、自分の意志でなく、ツンの命令が切っ掛けだったということだろうか。

ξ#゚⊿゚)ξっy=━ こんの!

 射線から僕が外れた瞬間に、サイレンサー付きの銃口が火を噴いた。
 くぐもった、行き場を失った空気が鳴らす汚い音。
 ツンは、貧弱ではあるけれど、射撃の腕前は中々だ。
 放たれた銃弾は、確かに女の眉間を軌道にしている。

 しかし。

180名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:48:38 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) 慌てない慌てない。

(,,゚Д゚) 最近の杭持ちは、挨拶もできねえのか。

 これまた唐突に現れたもう一人の男。
 女の脳を穿つはずの銃弾は、彼の手に収まっている。

(*゚ー゚) ギコさんありがとう。

(,,゚Д゚) 子供とはいえ、武器を持った相手だ。迂闊をするなよ。

 男の手から銃弾が落ちた。
 僅かに血がついている。
 少し安心した。無傷であったらいくらなんでも銃の存在意義が無い。
 とはいえ人間の僕たちで言う、針で間違って指を刺した、程度の傷でしかないんだけれど。

ξ#゚⊿゚)ξっy=━ なめんな!

(,,゚Д゚) ……。

 男の姿が消えた。
 目にも留まらぬ速さで、ツンヘ間合いを詰めたのだ。
 僕の頬を風が撫でる。すぐ傍を通ったはずなのに、全く反応が出来なかった。
 振り返る。既に、男がツンの背後に回り、手刀を振り下ろすところだった。

181名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:49:55 ID:tv9rkfP60

 首元を叩かれ、ツンが白目を剥いてグラついた。
 男はすかさずその体を支える。手から落ちた銃が、硬い反響を生んだ。

( ;^ω^) 先輩!!

(,,゚Д゚) 少し寝て貰っただけだ。案ずるな。

( ;^ω^) ……。

 確かに息はあるようだ。
 でも、白目を剥いて気絶しているのを見て、案じないなんてことはできない。
 どうしようもできない僕を尻目に、男は吸血鬼の死体をのぞき込んでいた。
 僕らよりも、こっちが目的だったと言わんばかりだ。

(*゚ー゚) ギコさん、どうですか?

( ;^ω^) (ギコ……ギコ?)

(,,゚Д゚) 顔が吹っ飛んでて判別がつかんな……。

(*゚ー゚) もっと上手に殺さなきゃ。ね、新人くん

( ;^ω^) (ギコ……そうか!)

182名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:51:36 ID:tv9rkfP60

 男の名前と、その尋常でない強さにつながる資料が、頭の中に眠っていた。

 子子子(ねこし)ギコ。脅威度B。
 血刑は不明だが、高い身体能力を利用した徒手空拳による戦闘は、吸血鬼の中でも群を抜く。
 純粋な戦闘に置いては、AA相当であるとされるが、吸血鬼の集団を自治し、
 人間に不要な害を与える吸血鬼を粛清するなど、人間に対し友好的な態度を貫いているため
 脅威度は数段控えた値に設定されている。

 となると、もう一人女性は、子子子シイ。
 彼女については名前と、ギコの伴侶または身内らしいということ以外は判明していない。
 体感するに、今僕が再びかけられたような、暗示の能力に長けてるようだ。

(,,゚Д゚) まあ、狂小屋に違いは無いだろう。

 ギコは、指に着いた吸血鬼の血を嗅いで眉間にしわを寄せる。
 ご明察。僕らが狙い、罠にかけて仕留めたこの男は狂小屋(きちがいごや)アヒャ。
 脅威度はギコに同じくBとされているものの、その力の差は現状を見れば明らかだ。

(*゚ー゚) そっか。ね、あなた名前は内藤くん?津雲くん?

( ;^ω^) ……。

(*゚ー゚) 内藤くん、のほうか。私たちに名前を教えたくないのはわかるけど、なら、徹底しないとね。

 にこりと無垢な笑顔を作りながら、シイは僕の胸をつつく。
 学校指定の名札。白地のプラスチックに、黒で「内藤」と彫られている。
 もどかしい。掌の上で踊らされているような居心地の悪さを感じる。

183名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:52:34 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) ありがとうね内藤君。アヒャは、ちょっと最近悪ふざけが過ぎたから、私たちも探していたの。

(,,゚Д゚) 俺たちは吸血鬼の間じゃ名が売れているからな。警戒されて中々捕まえられず、困ってたんだよ。

( ;^ω^)…… いつから、僕らを?

(*゚ー゚) えっと、四日前くらいかな。君たちを、アヒャの狩場で見かけて、そこで興味を持ったの。

 僕らが丁度、狂小屋を狙って、出没地域をうろつき始めた頃だ。

(*゚ー゚)調べてびっくり。あなたたち、現役の高校生で杭持ちなのね。

 杭持ちの情報は、できうる限り漏えいしないようにされている。
 特に僕たちはいわゆる囮専門なので、なおさら厳しく管理されていなければならない。
 少なくともそこらの吸血鬼が少し調べただけでわかるほど安易な扱いはされていないはず。
 なのに、彼らにはわかってしまったのだ。
 実力に見合わない脅威度も含め、もしかしたら杭持ちに何かしらのつながりがあるのか、と勘繰りを覚える。

(,,゚Д゚) んで、まあ。自分たちを疑似餌として奴をおびき出そうとするお前たちを、俺たちは餌として使おうと思ったわけだ。

(*゚ー゚) あなたたち、普段があまりに普通だから、ガセかと思っちゃった。

 光栄だった。
 僕たちは戦闘よりもそちらの訓練を重点的に行わされているので、それ以外に価値を認められてはいない。

184名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:53:43 ID:tv9rkfP60

(,,゚Д゚) っつーわけで、此奴の死体はもらっていくぜ。

( ;^ω^) ま、待て!それはさせないお!

 僕は、反射的に拳を構えた。
 斧はさっき投げ、死体に食い込んだまま。
 予備の杭は目立たぬよう脛に備えているので、取って斬りかかるには時間を食いすぎる。

 とはいえ、この男相手に徒手空拳は無い。
 間抜けすぎて自分にため息が出そうだった。
 実際はため息の代りに脂汗がにじみ出た。

(,,゚Д゚) お前はいくらか賢そうだ。戦うまでも無く、分かるだろう。

 そう、僕は絶対にこの人には勝てない。
 完璧に隙をついた奇襲でも三割以下の勝率と予想する。
 僕が弱すぎるんじゃない。ギコが強すぎるんだ。

(,,゚Д゚) 俺たちは、お前たちと無暗に敵対する気はない。ほれ、お姫様を連れてさっさと帰れ。

 放り投げられたツンの体を、お姫様抱っこで受け止める。
 ツンは、細くて軽い。といっても、投げら慣性のついたその体は、僕をよろけさせるのに十分な重さを持っていた。
 片手とお尻を地面に突く。ツンは相変わらずの白目。
 涎が垂れているが、拭いてやる余裕は無い。

185名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:54:42 ID:tv9rkfP60

(*゚ー゚) じゃ、内藤君。少しそこで、目をつぶってじっとしていてね。

 しいが僕の顔を覗き込んで、笑った。
 その瞬間、瞼が急に重くなり、体が再び縛られたようにいうことを聞かなくなる。
 また暗示だ。やはり、自分の意志では破れない。
 抵抗虚しく、僕の体は瞼を閉じて、僕の意識を闇へ閉じこめた。

    ギコさん、大丈夫?

    気にするな。

    はやくいきましょ。きっとみんな待ってるわ。

    ああ

 足音が遠のいていく。
 必死でからだを動かそうとするが、やはり無理。
 腕に抱えたツンの髪がふらふらと腕を撫でるばかりだ。

( ;^ω^) ……くそっ

 やっと目を開けられたのは、数分ほど経ったのち。
 そこにギコとしいの姿は無く、僕たちが仕留めた狂小屋の死体も綺麗に失せてしまっていた。

186名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 18:56:19 ID:tv9rkfP60

 おわり


 三行

 白目剥き
 涎をたらす
 女子高生

187名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 19:15:57 ID:hrk8mp3Q0
徒手で戦うキャラはいいね、乙

188名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 01:24:20 ID:qb9yCy4UO

どんどんキャラが増えていくな

189名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 10:00:18 ID:KIRYljgY0
オツカレー

190名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:19:58 ID:MIBYgXtM0



        Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
    ○
        Cast:都村トソン 都村ミセリ

   ──────────────────────────────────

191名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:22:27 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「……ただいま」

 扉に備えられたナンバーロックを外し、扉を開ける。
 私たちの巣穴。慣れた臭いが鼻をくすぐる。
 私の持ち込んだ化粧品の類の甘い匂いの中に、別の臭いが混じっている。
 ミセリの匂いだ。花のような、甘さの中にほろ苦い渋みがある。

(゚、゚トソン 「ミセリ、いないんですか?」

 いつもなら眠っていても起きて返事をしてくる。
 靴を脱いだ。ミセリの靴は全部ある。
 だけど一組、朝出た時とはつま先の向きが変わっている靴があった。
 恐らくどこかに出かけていたのだろう。
 好んで履くパンプスやサンダルで無くスニーカーであったことが気になった。

(゚、゚トソン 「……寝ている」

 ベッドの上にミセリはいた。
 丸まり膝を抱いて、それでいて足は伸びている。
 柔らかい。猫みたいだ。

 鞄を置いてシャツを壁のフックにかける。
 それなりに物音を立てたはずだけれど、起きる気配が無い。
 ある程度息を吐ける恰好に着替え、私は床に座り込んだ。
 ベッドに凭れ、ミセリの顔を覗き込む。
 少女のようだ。
 本人曰く数世紀は生きているらしいが、この寝顔からはそんな年季を感じられない。

192名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:25:16 ID:MIBYgXtM0

 顔にかかった前髪を撫でた。
 相変わらず柔らかい。指でつまんで少し擦る。
 しゃりしゃりとした感触。
 汗の混じった脂の湿りもある。
 甘い臭いがほんの少し鼻に香った。

(゚、゚トソン 「何を、していたんだか」

 ショートパンツから伸びた足を撫でる。
 冷たくて、滑らか。吸いつくような潤いと張りに満ちた手触り。
 一昨日、あれほど私から搾り取ったのだ。
 肌艶が良くなるくらいでなければ困る。

ミセ*゚ , )リ 「……トソン?」

(゚、゚トソン 「おはようございます」

ミセ*゚ー )リ 「おかえり。学校、どうだった?」

(゚、゚トソン 「特どうということも。そちらは、どちらかへお出かけで?」

ミセ*゚ー゚)リ 「私も特にどうってことは無かったよ。ちょっとした散歩さ」

 ミセリの手が伸びて来た。
 頬に触れ、もみあげを撫でる。
 冷たい。帰路で火照った体に心地よい。

193名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:27:33 ID:MIBYgXtM0

ミセ*゚ー)リ 「おいで、トソン。一緒に寝よ」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ*゚ー)リ 「あんたも眠いっしょ?同じくらいまで起きてたんだから」

(゚、゚トソン 「それはそうなんですが、その……」

ミセ*゚ー)リ 「ん?」

(゚、゚トソン 「こないだ、無茶した時から、ちょっと腰回りが辛くてですね」

ミセ*゚ー)リ 「……ぷふっ……大丈夫だって、眠るだけだよ」

(゚、゚トソン 「そういって、いつも襲うんですよ、あなたは」

ミセ*‐ ,‐)リ 「今日は、本当に眠いからさ……」

(゚、゚トソン 「……」

 ベッドへ上がると、ミセリが胸元に頭を埋めてきた。
 本当に眠いんだ。私は彼女の頭の下に腕を回して柔らかく抱く。
 すぐに寝息が聞こえてきた。私のキャミソールを掴む手から少しずつ力が抜けてゆく。
 血は十分に足りていたはず。なぜこんなに疲れているんだろう。

 どうってことなかった、とは言っていたけれど、やはり何かあったんじゃないだろうか。
 杭持ちに追い掛け回されたとか、まったく無いとは言い切れない。
 血をねだってこないところを見るに怪我をしたりはしていないんだろうけど、やはりちゃんと聞き出すべきだった。

194名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:28:41 ID:MIBYgXtM0

 気になって眠ることが出来ず、まどろみの中でミセリの寝息を聞いていた。
 カーテンの隙間から洩れる陽光が少しずつ赤に。
 いい時間だ。そろそろ晩御飯を準備しないと。

(゚、゚トソン 「ミセリ」

 起きる気配が無い。
 ただ、私が離れることだけは阻止したかったのか、服を掴む力は少し強くなった。
 何度か、起こさないよう引き離そうとしてみたが無理だ。

(゚、゚トソン 「……たまには、コンビニのごはんでいいか」

 ミセリは謎の資金源があるらしく、衣料費や私の食費、家賃などは不自由なく賄えている。
 普段私が節約しているのは、あくまでそれに甘えきらないため。
 でもたまには、楽をしても罰は当たらないはずだ。

 私が怠惰に敗北してから、みるみる空が暗くなってゆく。
 日が沈むのが遅くなってきたとはいえ、夜は来る。
 応じて、私の瞼も重みを増してきた。
 暗くなった途端に眠くなるのだから、私もずいぶん動物らしい。

( 、 トソン 「30分くらいなら……」

 ミセリを抱きしめて、目を瞑る。
 すぐに、意識を繋ぐ糸がフツフツと切れ始めた。
 眠る。そう感じたのもつかの間、私の意識は暗転した。

195名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:29:49 ID:MIBYgXtM0

 どれくらい寝ていたのか、自分でも分からない。
 真っ暗になった部屋で目を覚ました。
 陽光が差し込んでいたカーテンの隙間からは、月明かりが零れている。
 体が、変だ。まるで、誰かにまさぐられているような。

(゚、゚トソン 「……ミセリ、いくらか前に自分で言ったこと、忘れました?」

ミセ*  , )リ 「あの時は、眠いからって言ったんだよ?今ミセリさん眠くないし」

(゚、゚トソン 「この、猿」

 ミセリが、私のキャミソールをめくりあげ、下着を外し、肌に吸い付いていた。
 血を吸っているのではない。
 性的な意味で、私の肌を刺激している。

 だから腰が辛いんだって、と少し腹が立つ。 
 寝起きのせいもあって、丹念な愛撫も快感を催すには遠い。
 私は、やや強引に、ミセリを引き離そうとした。

(゚、゚トソン 「……ミセリ?」

 顔に触れた指先が、濡れた。
 唾液とは違う、もっと水に近いもの。
 頬を撫で、その水の出所をなぞっていく。
 指がたどり着いたのは、目じり。
 途中で気づいてはいたけれど、これは、涙だ。

196名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:31:04 ID:MIBYgXtM0


(゚、゚トソン 「どうしたんですか」

ミセ*  , )リ

 答えはない。
 強引に持ち込んで誤魔化すつもりだ。
 残念だけれど、この程度で流されてしまう私では無い。

(゚、゚トソン 「……」

ミセ* д )リ そ 「痛い?!」

 拳骨を握り、ミセリの頭を叩く。
 こちらの手が痛い程度には、力を込めた。
 ミセリが私から離れる。頭を押さえているのが薄暗闇の中に見えた。

ミセ;*゚д゚)リ 「何すんのさ!」

(゚、゚トソン 「だからエッチする気無いって言ってるじゃないですか」

ミセ;*゚ ,゚)リ 「そこは何かあったと察して受け入れてくれるところじゃないの?」

(゚、゚トソン 「知りません。そうそう都合よく押し切られてたまるもんですか」

ミセ;*゚ ,゚)リ 「ちぇー……厳しいなトソンは」

 流石に諦めたのか、ミセリが完全に身を起こした。
 私はベッドの枕元に置いてあった照明のリモコンを手に取る。
 ボタンを押す。人工的な白い光が部屋を照らす。
 ミセリは眩しそうに顔をしかめた。

197名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:32:25 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「で、何があったんです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「別に、大したことじゃないんだけど」

(゚、゚トソン 「ならさっさと吐きなさい」

ミセ*゚ ,゚)リ 「ちょっと昔のこと思い出しただけだってば」

 ミセリがだるそうに、私の腹に抱き着いた。
 再び発情する様子はないので、放っておく。
 私は下着のホックを止めなおし、捲れた服を元に戻す。

ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、なんも心配されるようなことないよ」

 彼女の過去を私は知らない。
 吸血鬼になった経緯を含め、ミセリは話したがらないのだ。
 だから、昔のことがなぜ涙に繋がるのか分からない。
 ただ単に懐かしんだのか、それとも、何か悲しい記憶が眠っていたのか。

 心配するなと言われても無理なのだ。
 普段は余裕綽綽で腹が立つにやけ顔をしている彼女が、拗ねたような寂しい顔をして涙を流しているなんて。
 雷が落ちてくる方がまだ平静を保っていられる。

(゚、゚トソン 「じゃあ、心配されないような振る舞いをしてください」

ミセ;*゚ー゚)リ 「それは横暴だぜトソンちゃん」

198名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:33:37 ID:MIBYgXtM0

ミセ*゚ー゚)リ 「それより、お腹空かない?晩御飯どうすんのさ」

 そして、やっぱり昔のことは話してくれないのだ。
 無理に聞き出しはしない。ミセリが嫌がって逃げるのが目に見えているから。
 だから自然に彼女の口から零れるのを待っているのに、そんな機会は一生来そうにない。

(゚、゚トソン 「コンビニで済ませようかと。ミセリの せ い で 何もできてないので」

ミセ;*゚ー゚)リ 「トソンさん、ご機嫌ななめ?」

(゚、゚トソン 「別に」

 ミセリが「ななめ?」に合わせて体を斜めにした。
 困ったような笑顔も合わさる。
 負けてはならない。今の私は不機嫌だ。

ミセ;*゚ー゚)リ 「……」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ;*゚ー゚)リ 「……」

ε=(゚、‐トソン

ミセ;*゚ー゚)リ 「?」

 負けた。そもそも、ずっと腹を立てているのは性に合わない。
 不満が消えたわけでは無いけれど、今のところは勘弁してあげることにする。

199名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:35:50 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ 「ん?」

 ミセリに凭れかかる。
 何とも言えない表情。

(゚、゚トソン 「……晩御飯、買いに行きますけど一緒に行きますか?」

ミセ*゚ー゚)リ 「行く行く!」

(゚、゚トソン 「じゃ、早く準備してください」

ミセ*゚ー゚)リ 「そこの川沿いさ、ちょっとお散歩したり?」

(゚、゚トソン 「……どうせなら、外で食べますか。今日は風がありますし」

ミセ*゚ー゚)リ 「いいねぇ、こんな月夜だ」

(゚、゚トソン 「あなたの食事は帰ってきてからですが」

ミセ*゚Д゚)リ 「えー!たまにはお外でしたりしたいー」

(゚、゚トソン 「……一度杭持ちに殺されてしまえばいいのに」

ミセ*゚Д゚)リ 「冗談でもそう言うこと言うなよー!」

200名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:38:19 ID:MIBYgXtM0

 サンダルをつっかけて、家を出た。
 歩いて10分もかからないコンビニ。
 ミセリを雑誌のコーナーに待たせ、適当な夕飯を選ぶ。
 いざ楽をするといっても、沁み込んだ貧乏性は抜けきらないもので、何とも地味な品々になった。

ミセ*゚ー゚)リ 「何買ったの?」

(゚、゚トソン 「サンドイッチと、野菜ジュースです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「もっと栄養あるもの食えばいいのに。お金の心配なんかしないでさ」

(゚、゚トソン 「人のお金で贅沢するほど私は図々しくありません」

ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、私がもらってる血やらなんやらの対価なんだから、堂々と受け取れっての。頑固だな」

 解せない、と表情でぼやきながら、ミセリが先を行く。
 ミセリにはわからない、私の小さな意地だ。
 彼女との関係を飼い主と家畜然としたものから、少しでも遠ざけるための最低限の抵抗。

 少しだけ離れたミセリとの距離を、小走りで詰める。
 見た目こそ、私と同じくらいの小柄な少女だけれど、仮にも吸血鬼だ。
 力では筋骨隆々の男を簡単に組み伏せるし、走力では、原動機付自転車くらいならたぶん勝てる。
 彼女自身は普通に歩いているつもりでも、私にはかなり速いペースなのだ。

ミセ*゚ー゚)リ 「ん、ごめん、速かった?」

(゚、゚トソン 「少しだけ」

 息が切れ、体に汗が滲むのがわかった。
 風が心地よい。それ以上に、空気が温い。

201名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:39:23 ID:MIBYgXtM0

 コンビニからさらに10分弱歩いて、川沿いの道に出た。
 朝夕、ランニングに励む人を良く見かける土手の上の道。
 車道とは完全に隔てられていて、煩わしいライトの光に目を潜める必要が無い。
 街燈の類がほとんど無くこの時間はどうしても暗いが、今日は月があるので幾分視野がある。

(゚、゚トソン 「そこのベンチにしましょうか」

 土手から川の方へ下ると、もう一段舗装された川原になっている。
 ベンチがいくつかあり、昼間に生きているのか死んでいるのか分からないお爺さんが良く座っているところだ。
 その内の一つに、私とミセリは腰をかけた。
 川の潺が、耳に優しい。この音の中でなら、遠くから聞こえる車の音も、気にならなかった。
 水の傍のお蔭か空気もひんやりとしている。ここで食べることにして正解だった。
 ミセリにくっついていても、部屋にこもって過ごす初夏の夜は、暑い。

ミセ*゚ー゚)リ 「トソン」

 私が食事を初めて数分経った頃、ミセリが呟く。
 独りごとのようで、自分が話しかけられたのだと気づくのに時間がかかった。
 ちらりと横を見る。体ごと仰け反って、月を見上げていた。
 半開きの口から、続きの言葉が出てくる様子は無い。

(゚、゚トソン 「なんですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「……あー、いや、ごめん。なんとなく呼んだだけ」

(゚、゚トソン 「……?」

ミセ*゚ー゚)リ 「月ってのはさー―……いいよな。こう、頭が、静かに、冷たく狂っていく感じがする」

202名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:41:39 ID:MIBYgXtM0

(゚、゚トソン 「はぁ」

 つられて、私も空を仰ぎ見る。
 雲の無い空に、藍の天幕をくり抜いて穴をあけたような、明るい月。
 惜しくも満月では無いけれど、十分すぎる光を持っていた。
 たしかに。
 言葉や動作には出さず同意する。
 月の持つ不思議な魅力は、太陽とはまた違ったエネルギーを持っているように思えた。

ミセ*゚ー゚)リ 「これで、もう少し青いと、たまんないんだけどな」

(゚、゚トソン 「十分綺麗ですよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「……」

 ミセリの体が、近づいた。
 月を見上げていたので、反応が遅れる。
 気づいた時には、ミセリの舌が、私の首筋を舐め上げていた。

(゚、゚トソン 「ちょっ」

ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、汗かいたな。さっきから、すげえ、良い匂いする」

(゚、゚;トソン 「もう、人に見られますって。夜でも人は結構通るんですから」

203名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:52:50 ID:MIBYgXtM0

ミセ*゚ー゚)リ 「良いじゃん、私は気にしないし」

 押し倒される形。
 抵抗する間に少し唾液を打たれた。
 夕方とは違う。本気だ。完全に食べるつもりで来ている。

(゚、゚;トソン 「杭持ち通報されたら、不味いから言ってるんです。こんな家の近くで……!」

ミセ*゚ー゚)リ 「じゃあいっそ、することしちゃう?そうすれば、少なくとも杭持ちは呼ばれないよ?」

(゚、゚;トソン 「ああ、もう、アホ」

 抵抗するのをやめた。
 どうせ体に力が入らなくなってきている。
 下手に長引かせるよりも、さっさと吸わせて済ませた方がいい。

ミセ* ー )リ 「じゃ、いただきます」

 鋭い歯の感触と痛み。血の抜けていく脱力感。
 時折漏れるちゅう、という空気の漏れる音。
 やけに少量ずつを、時間をかけて飲む。
 たぶん、お腹が空いていた、というわけじゃなかったんだろう。

(゚、゚トソン 「もう、さっさと済ませてくださいよ」

 反応は無し。私はため息を吐きながら、空をまた見上げた。
 月が、少しだけ眠そうに、空に居座っている。
 縋りついてきたミセリに腕を回す。もう一度ため息。
 服の下に伸びてきた冷たい手を払い退けられ無かったのはきっと、あの光り輝く穴のせいなんだ。

204名も無きAAのようです:2014/03/15(土) 23:55:25 ID:MIBYgXtM0

 おわり


 とくに
 しんてんは
 ない

205名も無きAAのようです:2014/03/16(日) 01:11:46 ID:Mb.jlXhQ0
おつ

206名も無きAAのようです:2014/03/16(日) 18:33:53 ID:3boErWk60


207名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 18:22:19 ID:fqS3T7Es0
( ・∀・)< エロいな

208名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:36:11 ID:WoQAy0kw0

        Place: 草咲市 須赤二丁目 18 黴の臭い漂う路地裏
    ○
        Cast: 天主堂モララー 大天福ショボン 喜瀬キナコ 小豆オグラ 磯部ノリ

   ──────────────────────────―――────────

209名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:38:47 ID:WoQAy0kw0

(´†ω・`) 「やはり、おかしい」

 いつにない神妙な顔で、大天福はそう呟いた。
 手にはいつもの長杭。刀身には今殺したばかりの吸血鬼の血がべっとりとついている。
 黴と血の臭いの中、彼の汚れ一つない白いシャツが、むしろ不気味なものに見えた。

(´†ω・`) 「あまりにも、多い。雑魚ばかりではあるが、それでも」

( ・∀・) 「確かに、今日だけでもう三件目ですからね」

 僕と大天福が、志納ドクオに敗走してから三日。
 休養が開けて初めての仕事は、中々忙しい。
 言葉にした通り、三件の吸血鬼討伐。時刻はまだ昼の2時だ。
 僕らだけでこれなのだから、他の杭持ちを加えれば相当な数になるだろう。

 草咲市はもとより吸血鬼が多い町として知られている。
 しかし、それは『子子子ギコ』、『鴨志田フィレンクト』等の、有力な指導者の元に吸血鬼が集っているから、だ。
 彼らは無暗に人を襲うことはせず、ひっそりと生きることで杭持ちとの衝突を避けている。
 今日僕たちが屠っているのは、そういった組織からあぶれた吸血鬼ばかり。
 元々存在しないわけでは無いが、日に何度も殺さねばならないほどでは無かった。

(´†ω・`) 「例の、毒の吸血鬼といい、ここ最近の草咲は、嫌な気配が漂っている」

( ・∀・) 「地雷女の謎の滞在もありますからね」

(´†ω・`) 「……」

210名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:41:24 ID:WoQAy0kw0

 一先ず、死骸の片づけをするために、端末を取りだす。
 しかし、僕の手は大天福の手に止められる。
 その視線は路地の先。
 三人の人影。昼の強い日差し、うだるような暑さの中に、黒いレインコートを着込んで立っている。

 間違いなく、吸血鬼。
 僕はため息を吐いたが、大天福は静かに杭を構えた。

(゚ぺキ ナ 「大天福ショボンと、天主堂モララーだな」

(´†ω゚`) 「いかにも!」

 三人が、歩み寄ってくる。
 うち一人、僕たちに名を尋ねた女は見たことがある顔だ。
 ギコ、フィレンクトのどちらの傘下にも入らず活動している、脅威度Cの吸血鬼。
 喜瀬キナコ。凶暴性は低く、自ら杭持ちに接近するようなものでは無かったと記憶していたが。

 ノ小ヽ
( `豆´) 「……こいつが、姐さんを」

ノリノ・ _・リ 「オグラ、抑えなさい」

 なるほど。ぼんやりとだが事情は読めた。
 僕らへの、主に大天福への復讐だろう。
 よくあることだ。
 僕らの役割上、恨みを買うのは必然ではあるが、少々面倒だ。

211名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:44:23 ID:WoQAy0kw0

 吸血鬼は一種の害獣ではあり、人間と同じく意志を持つ動物でもある。
 これが厄介だ。害獣は駆除されても人を恨まない。
 吸血鬼は恨む。友を仲間を殺されれば、杭持ちに報復に現れる。
 元は人間だ。当然ではあるが、害獣には過ぎた感傷であるとも思う。

(゚ぺキ ナ 「臼杵モチコ、は知っているな」

(´†ω・`) 「……」

(#`豆´) 「なぜ、姐さんを殺した。姐さんは……ッ!!」

ノリノ・ _・リ 「オグラ、キナコに任せて」

(#`豆´) 「むぐぐ」

(゚ぺキ ナ 「……モチ姐さんは、群れにあぶれた私たちを、助けてくれた。
      血を与えてくれて、寝床も、服も、全てを面倒見てくれた。
      あんたたちにむやみやたらと喧嘩を売ったことも無い、善良な吸血鬼だった」

(´†ω・`) 「……」

(゚ぺキ#ナ 「何故、殺した。姐さんは、お前らに殺されるようなことを、何一つしていなかった!」

 一歩前に出た、ショートカットの女。
 少女と呼んでも差し支えないだろう。
 他の二人も、高校生程度の年齢に見えた。
 社会的にも経験の浅い彼らが吸血鬼として生き延びるのは難しかったはずだ。

212名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:45:49 ID:WoQAy0kw0

(゚ぺキ#ナ 「答えろ大天福!!」

(´†ω゚`) 「……どれだけ善良であっても吸血鬼は吸血鬼」

(゚ぺキ#ナ

(´†ω゚`) 「大天福は、常に正義でなければならぬ!」

(゚ぺキ#ナ 「それが、答えか……ッ。オグラ!ノリ!」

(#`豆´) 「応!!」

ノリノ・ _・リ 「……」

 初めから、大天福の答えなどどうでもよかったのだのだろう。
 三人の吸血鬼は自らの腕に爪を立て、大きく切り裂いた。
 吹き出す血液。すぐさま意志を持って固まった。

(゚ぺキ#ナ

 吉瀬キナコは両手の指を延長するような長く鋭い爪を。

(#`豆´)

 オグラは腕に鮫の鰭のような刃を。

ノリノ・ _・リ

 ノリは両の手の甲に、四角い板のような盾を。

213名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:48:31 ID:WoQAy0kw0

(´†ω・`) 「モララー、下がっていろ。俺一人で十分だ」

( ・∀・) 「大丈夫ですか?」

(´†ω・`) 「リハビリだ」

 仮にも三人全員血刑使い。
 子供ではあるが、ちゃんと吸血しているのならば膂力は僕たちを軽く凌駕する。
 決して弱い相手では無い。
 例え雑魚であっても二対一の状況を維持するのが基本であると考えれば、大天福の言葉に従うわけにはいかない。

 ただ。

( ・∀・) 「わかりました。ただし、無様な姿を見せた時点で加勢します」

 正義を謳う大天福は決して曲がらない。
 なら僕は、彼の弟子として大人しくその背中を眺めるしかない。

(#`豆´) 「舐めやがって!!」

 腕を振りかぶり、オグラが大天福に飛び掛かった。
 愚かな。人数の理を活かすには、もっと連携を図るべきだ。

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」

 大天福が前へ。杭の切っ先を引きずる様に体を先行させる。
 速い。目で追うのがやっとだ。

214名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:50:54 ID:WoQAy0kw0

(´†ω゚`) 「スワロォォォウッエェェッッジ!!!」

(゚ぺキ;ナ 「オグラ!」

 キナコが援護しようとしたが遅い。
 大天福は、振り下ろされるオグラの腕を斬り上げ弾いた。
 そのまま脇を抜け、振り返りながら背中に一太刀。
 切り裂かれた体が血を吹く。
 流水のような、あるいは翻る燕のような無駄のない動き。
 余計な心配は不要のようだ。

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッブレェェェェッド!!」

ノリノ・ _・リ 「……」

 大天福は一呼吸と置かず、背後にいたキナコへ。
 振り向きざま、切り上げの片手居合切り。
 間に割って入ったノリが腕の盾で受け止めた。
 金属音が鳴り響く。中々の硬度だ。
 キナコは仲間が斬られたのに動じ、反応が遅い。
 ノリがいなければ、体が二つになっていただろう。

ノリノ・ _・リ 「……」

 吸血鬼と力比べは賢い選択では無い。
 大天福は後退。ノリは拳闘の構のように、盾で体を守る。
 居合の一太刀を受けたところを見るに、硬度はかなりのものだ。
 血刑の性能自体は彼女が最も高いかもしれない。

215名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:53:15 ID:WoQAy0kw0

 だが、大天福を倒すならば、もっと奇抜な武器を持たねばならなかった。
 それこそ、志納ドクオの『毒』や地雷女の『火薬』など。
 血を硬化し、武器として扱うだけの血刑は、大天福には通用しない。

(´†ω゚`) 「ぉぉ……ッ」

 服の上からでも、背なの筋肉が隆起するのが分かった。
 大天福は上段の構。
 振り下ろしの一撃は、恐らく大天福が出せる最大の威力だろう。

ノリノ・ _・リ 「キナコ、私が受け止めたら腹を裂きな」

(゚ぺキ ナ 「……わかった」

ノリノ・ _・リ 「オグラもまだ死んでない。ちゃんとしなさい」

(゚ぺキ ナ 「うん」

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」

 舗装された地面を抉るほどの、蹴り。
 刹那の肉薄。この力を活かした振り下ろしの一撃は、相当の重さを持つ。
 大天福は素直に、真上から、ノリに向かって杭を振り下ろした。

 が。

216名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:54:32 ID:WoQAy0kw0

ノリノ _ リ 「うぐっ」

( へ キ ナ 「え、ぁ?」

 大天福が突如力を失い、ふらりと、キナコとノリの間をすり抜けた。
 急激な転換。僕も一瞬思考がついて行かなかった。
 誰もが、剛剣と血の盾のぶつかり合いを予測したはずだ。
 それが脈絡なく消えた。
 客観できる僕ですら、大天福の体が消えたように見えた。
 目の前で構えた二人には、未だ何が起きたかわかっていないだろう。

(´†ω・`) 「……大天福ファントム」

 ノリの脇腹と、キナコの首が血を吹いた。
 脇、肋骨の隙間から心臓を突き破壊。
 首は動脈をでは無く、椎骨を大きく削りに行った。
 即死せずとも、これだけで戦闘不能だ。

 大天福が、杭の血を払う。
 それに合わせたかのように、二人が膝から崩れ落ちた。

( へ キ ナ 「そんな、こんなに、つよ、い」

ノリノ _ リ 「……毒で、死にかけたってのは、デマ、か……」

 デマでは無い。本当だ。
 医者が回復したことを異常と評価したほど、彼は死の淵に追いやられていた。
 今も決して万全ではないだろう。
 それでも彼女らが負けたのは、力の差があったとか、そんな単純な話ではない。

217名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:55:45 ID:WoQAy0kw0

( ・∀・) 「……大天福は、正義でなければならない」

 僕の呟きは、口元に零れたところで、雄叫びにかき消される。
 戦闘不能かと思われたオグラが、立ち上がった。
 背中と切断された腕から、三日月のような血の刃を生やしている。
 もう失血で仮死に陥っても不思議では無い。
 良く立ったものだ。それほど深い恨みを持っていることを、哀れに思う。
 どれだけ憎み恨んでも、その刃は届かないのだから。

(#`豆´) 「死ねェェ!大天福ゥゥ!!」

(´†ω・`) 「……大天福エンドロウル」

 長く、伸びのある片手突きが、オグラの眼窩を穿つ。
 切っ先は脳を、頭蓋を貫き後頭部に表れる。
 意識を失うオグラ。勢いづいたまま前へ崩れる
 大天福の手を離れた杭が地面に当たり、より深く突き刺さってゆく。

( ぺキ ナ 「おぐ、ら……」

 大天福は、腰裏に備えている通常の杭を引き抜き、倒れたオグラの背中に突き立てる。
 心臓を突いた。刃を少し横へ動かし、確りと破壊。
 そこまでする必要はないが、彼なりの礼節なのだ。

218名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 22:59:11 ID:WoQAy0kw0

( へ キ ナ 「……クソ!なんでだよ!なんでなんだよ!!」

(´†ω・`)

( へ キ ナ 「私たちだって!好きで吸血鬼になったんじゃない!!それなのに!それなのに!!!」

ノリノ・ _ リ 「キナコ……」

( へ キ#ナ 「畜生!畜生!恨んでやる!呪ってやる!!畜生!!畜生!!」

ノリノ・ _ リ 「……」

( へ キ#ナ 「私たちは、悪いことなんてしてない!!姐さんも!オグラも!ただ、普通に!!!」

(´†ω・`)

( へ キ#ナ 「人間だった頃のように、生きたかっただけなのに!!」

( ‐∀‐) 「……それが出来たら、どれだけ良かったろうね」

 大天福が、そっと杭を振り上げる。
 喜瀬キナコの口からは、止めどない呪詛が吐き出され過ぎている。
 頸椎を断たれ、体を動かせない彼女に出来る唯一の攻撃だった。

(´†ω・`) 「大天福は、正義でなければならない」

 杭の切っ先が、キナコの後頭部に突き刺さる。
 体重をかけて刺しこまれた刃がその脳幹を断つまで、響き渡る呪詛が止まることは無かった。

219名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 23:00:18 ID:WoQAy0kw0

 おわり


 大天福
 大先生
 大復活

220名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 23:37:42 ID:24ornE7k0


221名も無きAAのようです:2014/03/17(月) 23:42:16 ID:8wAonVOY0
おつ

222名も無きAAのようです:2014/03/18(火) 00:42:14 ID:vgIvtSlg0

先生は病み上がりでもテンションが高いが決めるときは格好いい

223名も無きAAのようです:2014/03/18(火) 00:52:36 ID:IvRs5xyE0

美味しそうな名前の吸血鬼ですね

224名も無きAAのようです:2014/03/18(火) 11:20:01 ID:B3ltWjXM0
大天福復ッ活ッ!

225名も無きAAのようです:2014/03/19(水) 19:32:24 ID:fPJkzclk0

面白い

226名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:08:02 ID:lSl8DXgg0


        Place: 草咲市 十日町 1‐103  マンション『シャンデリゼTOKA'S』屋上
    ○
        Cast: 志納ドクオ 本田蕪太郎 鈴木バーディ 長岡ジョルジュ

   ──────────────────────────────────

227名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:10:16 ID:lSl8DXgg0

('A`) 「……明るいな」

 路地裏から眺めるよりも空が近い。
 近辺で最も高いマンションを選んだのは正解だった
 満月に近い月から眩いほどの光が屋上に降り注いでいる。

('A`) 「……来てもらって早速で悪いんだけどよ。地雷女の居場所を知っているか?」

 対面する二人の杭持ちは、表情一つ変えなかった。
 油断も、驕りも無い。むしろ、ドクオに対し緊張しているようですらあった。
 大天福を下した結果は、思っていたよりも大きいらしい。
 目撃情報から杭持ちの派遣までの速度を見るに、「脅威度」もかなり高めに設定されているのだろう。

(=゚@゚)

〈+^@^〉

 加えて、毒に備えてのガスマスク。
 この装備が、全ての杭持ちに配られているとは考えにくい。
 恐らく、一定数の対ドクオ要員が配備されているとみていいだろう。

('A`) 「……ダメか、やっぱ、ちゃんと止めを刺せなかったのはまずかったな」

 血刑を見せた上で逃がしてしまったために、かなり動きにくい状況になってしまった。
 これまでのように、気軽に人探しをすることはできないだろう。

228名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:12:35 ID:lSl8DXgg0

(=゚@゚) 「……神の御名の元に」

〈+^@^〉 「裁きを!」

 一人が前へ。杭を構え、身を低くする。
 もう一人が持っているのは、散弾銃だ。
 相変わらず十字架がついている。あれを見ると胸やけがする。

('A`) 「…………」

 人間から吸血鬼への変貌は、多くのエネルギーが必要となる。
 大半の者はその消費が生み出す極度の「渇き」に抗えず、人を食らってしまうのだ。
 だが、ドクオは鉄の意志でその衝動を抑えた。
 代償に体はやせ細り、力を失い、およそ吸血鬼とは思えないほど貧弱な体となっていたのだ。

 それはあくまで、大天福と戦うまでの話。
 ドクオは賤之女デレと出会い、血を喰らい、体は完全に吸血鬼となってしまっている。

('A`) 「……気に食わねえ」

(=゚@゚) 「なに?!」

 生み出される膂力は、以前の比にならない。

229名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:16:51 ID:lSl8DXgg0

 身軽な、素早い動きで肉薄した杭持ちを飛び越える。
 戸惑う二人の杭持ち。
 事前に情報を掴まれているというのは、悪いことばかりでは無いらしい。
 恐らく、血刑以外は畏れるに足らないと判断されていたのだろう。

〈+^@^〉 「だからって!!」

 銃を構えなおす杭持ち。
 躱すも守るも厄介な散弾だ。
 だが、少し反応が遅かった

('A`)σ 「……」

 親指の爪で、人差し指を切る。
 血が零れ、瞬く間に針の形に変化。
 形が定まるのも待たず、その針を放つ。
 ドクオはこの一連の動作を、跳躍から着地、杭持ちの銃口が自分を向くまでに済ませていた。

〈+^@^〉 「!」

 小さく細い血の針が、杭持ちの首筋に刺さった。
 ドクオの毒は、何も揮発吸引させるだけでは無い。
 マスクをしていようが、傷を与えることさえできれば十分だ。

230名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:18:17 ID:lSl8DXgg0

〈+;^@^〉 「あっぐ……」

 杭持ちがふらつく。
 銃口がぶれ、膝が下がる。
 即効性は中々。ただし、致死性はいまいち。
 まだ毒の生成には改良の余地がある。

('A`) 「……」

 指先に、長い爪程度の血の刃を作り、毒にあえぐ杭持ちへ。
 もう一人の方は、無視する。

〈+;^@^〉 「くそっ!」

 震える銃口がドクオを向いた。
 まだ撃たない。この期に及んで、否、狙いを定められない今だからこそ、ギリギリまでひきつけようとしている。

〈+;^@^〉 「!!」

 銃声。
 跳ねる銃身と、眩い火炎。
 吐き出された複数の弾丸が、肉を貫き骨を砕く。

(= @ )、´ ∴ 「ぐぶっ」

〈+;^@^〉 「あ」

 ただし、当たったのはもう一方の杭持ちに、であるが。

231名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:20:43 ID:lSl8DXgg0

 引金にかかった指の動きを見切り、ドクオは素早く身をかわした。
 反射的に杭持ちはその動きを、追い、発砲。
 それでもドクオの速さには間に合わず、弾丸はドクオを外れ。
 銃の射線を避け、曲線を描きながら迫っていたもう一人の杭持ちに命中したのだ。

 距離が開いたため弾がちり、胸から足にかけて数か所、血を吹き出している。
 戦闘不能は明らか。
 狙い通りだ。思いのほか上手くいった。

 あとは、味方を撃って動揺する残りの一人を。

('A`) 「……」

〈+; @ 〉 「かっっ」

 殺して終りだ。
 喉に深々と突き刺さる血の爪。
 毒でなくとも、ほぼ即死だろう。

('A`) 「……今日も、収穫は無し」

 死んだ二人の杭持ちを見て、ドクオは独り言ちた。
 杭持ちを殺すことは目的で無い。
 彼らが持つかもしれない地雷女の情報、それが欲しいのだ。

232名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:23:11 ID:lSl8DXgg0

('A`) 「……このやり方、そろそろ辞めるか」

 ドクオは、吸血鬼になる前、ごく一般的な家庭にあった。
 吸血鬼たちの情報を仕入れる幅広い情報網も無ければ、調査して人を見つけ出すようなノウハウも無い。
 杭持ち相手になれない捜査をしているが、争いになるばかりで一向に進展しないままだ。
 おかげで悪名ばかりが広まり、窮屈さが増すばかり。

('A`) 「……できれば、避けたかったが……あいつらに頼るしかねえか」

 ドクオの脳裏に浮かぶ、二人の吸血鬼。
 男と女の、この界隈で吸血鬼を滑る自治組織のリーダーだ。
 杭持ちとは別の方面で、情報には鋭い。
 
 だが、気がかりもある。
 二人は争いを好まぬ、平和主義者。
 目的が報復であるドクオに協力してくれるかどうかがそもそも怪しい。
 
('A`) 「……ん?」

 来ているパーカーのポケットが震えている。
 携帯電話に着信があったようだ。
 取りだして画面を見ると、発信元の名前は『賤之女デレ』。
 数秒迷い、ため息を吐いてから通話のボタンを押す。

233名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:25:45 ID:lSl8DXgg0

('A`) 「……なんだ」

    『……ごめんなさい、お父様。本当は、電話なんてしたら嫌かと思ったのだけど』

('A`) 「別にいい。なんだ」

    『いえ、特に何かあったわけでは無いの。ただ、お帰りが遅いから、ちょっと心配で』

('A`) 「……」

    『ほら、最近は怖い人たちがたくさんいるでしょう?もし、何かあったら大変と思って……』

('A`) 「……用事が長引いただけだ。もうしばらくで帰る」

    『……わかりました。お風呂沸かしておきましょう』

('A`) 「要らない気を使うな」

    『私がしたいんですもの。それでは、くれぐれも気を付けてくださいねお父様』

('A`) 「……ああ」

 通話を終え、画面を眺める。
 シンプルな構造、デザインの電話だ。
 洋館に数台あったものの一つを、デレに持たされた。
 これも前の『お父様』の仕込みだろう。
 何とも言えない気持ちにはなるが、あれば便利だ。
 ドクオが個人で所有していた物は、吸血鬼になった日に壊して捨てた。

234名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:28:10 ID:lSl8DXgg0

('A`) 「……帰るか」

 件の吸血鬼に会いに行くことも考えたが、今日は一先ず帰ることにする。
 デレにもうしばらくと言った手前、あまり時間を浪費することもできまい。

 携帯電話を入れているのとは逆のポケットから小さな紙の箱を取りだす。
 煙草だ。銘柄は「ECHO」。人間だった時分からずっと吸っていたが、金がなくなって以来やめていた。

('A`)o-~~

 喉が焼けるように痛む。
 煙は肺を蹂躙し。独特の辛みが、鼻の奥をツンとさせた。
 不味い。銘柄のせいでは無い。
 吸血鬼になり、煙草や酒が苦手になった。
 感覚が鋭敏すぎるのだ。
 その上含まれる毒性への依存は一切なくなるので、もはや吸う意味は一切ないのだが。

 煙草を咥えたままフェンスを飛び越えた。
 立ち入り禁止になっているが、関係ない。
 人が来ないという意味ではむしろ便利だ。
 とはいえ、今回二人殺したので、しばらくは避けた方がいいだろう。

 非常階段を降り、マンションの裏手から路地へ。
 ショットガンの銃声が人を呼び寄せていないかだけが気がかりだったが、どうやら杞憂のようだ。
 よくよく考えれば、この街で銃声が鳴るのは珍しいことでは無い。
 そして、銃声が鳴り響くところに野次馬根性で顔を出すのは愚か者のすることだ。

235名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:29:23 ID:lSl8DXgg0


 路地をしばらく行くと、遠くからギターの音色が聞こえてきた。
 ストリートミュージシャンの類だろうか。
 時折見かけるが、繁華街から離れた場所にいるのは珍しい。

 姿が見えた。男だ。
 黒いジャケットに、金属製のアクセサリ。
 耳だけでなく、唇にもピアスをつけている。
 パンク、あるいはメタルの趣。
 少なくとも抱えているアコースティックギターにはあまり似合わない。
  _
(  ∀ )´

 男がドクオに気づいた。
 が、特に何かするわけでも無く、先ほどからの曲を弾き続けている。
 聞けば、小声で歌も歌っていた。
 高いが男っぽさのあるしゃがれた声。
 この歌は、随分昔にいくらか流行ったロックバンドのものだ。
  _
( ゚∀゚) 「――― ―― ――――………♪」

 ドクオが目の前に差し掛かり、曲が終わった。
 男と目が合う。少し伺うような目をした後、少しの驚きを湛えたように見える。
 だがすぐに、うれしげに細まった。表情の変化の激しい男だ。
  _
( ゚∀゚) 「……俺の歌、どうだった、“お兄さん”」

 無視しして通り過ぎようとしていたので、やや面を喰らう。

236名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:30:27 ID:lSl8DXgg0


('A`) 「……少し耳に入っただけだ。何か言えるほど聞いていない」
  _
( ゚∀゚) 「なら、もう一曲どうよ」

('A`) 「そう言うのは、他の奴にやってくれ」
  _
( ゚∀゚) 「ちぇー、ノリが悪いな」

('A`) 「……」
  _
( ゚∀゚) 「あ、ちょっと待ってくれよ」

('A`) 「なんだ」
  _
( ゚∀゚) 「……煙草、一本貰えねえか。切らしちまってよ」

('A`) 「……」
  _
( ゚∀゚) 「へへへ……ありがてえ。しかし、吸血鬼もヤニを吸うんだな」

('A`) 「……ッ!」

 あまりにも自然に紡がれた言葉に、ドクオの反応は遅れていた。
 咄嗟に、親指の爪を人差し指の爪に突き立てる。
 当たり前のように、ドクオが吸血鬼であることを見破った。
 あるいは、知っていた。敵か味方か、少なくとも杭持ちではなさそうだが油断はできない。

237名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:33:00 ID:lSl8DXgg0
  _
( ‐∀‐)o-~~ 「フー―……、そんなに驚くなって」

('A`) 「……」
  _
( ゚∀゚) 「志納ドクオ、毒物を扱う要注意吸血鬼……」

 滑らかな口調だった。
 何かを暗記しているといったところか。
  _
( ゚∀゚) 「駅前の掲示板に、手配書が張ってあったんだ。お前、自分で思ってるより顔が広まってるぜ」

 手配書。そうか。
 大天福を倒し、杭持ちに名が広まったということはつまり、そう言った対応もされているということだ。
 ドクオは名前がばれている。虚しいことに名前にも特徴があるので、身元はあっさりとばれただろう。
 となれば、手配書にはほぼ間違いなく本人の写真が使われている。
 すれ違った人間に、吸血鬼とばれてもおかしくは無い。
  _
( ゚∀゚) 「おっと、通報する気も、どうこうする気無いからさ、変な気を起こさないでくれよ」

('A`) 「……」
  _
( ゚∀゚) 「……つーか、ここまで来てまだ気づかないのか?」

('A`) 「何がだ」
  _
( ゚∀゚) 「あれー?それなりに仲良かったつもりなんだけどな……」

238名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:35:48 ID:lSl8DXgg0
  _
( ゚∀゚) 「……覚えてない?俺なんだけど」

('A`) 「……………………………???」
  _
( ゚∀゚) 「ジョルジュだよ。中学校で一緒だった長岡ジョルジュ」

('A`) 「…………?」
  _
( ゚∀゚) 「ほらよ、高速道路下のトンネルで一緒にエロ本をあさって読んだ!」

('A`) 「……あ!」

 思い出した。十年以上昔のことなのですっかり忘れていた。
 確かに、昔そんな頭の悪いことをしていた時期があった。
 一緒に誰かいたが、確かにナガオカとかそんな名前だったと思う。

('A`) 「まさか、十円禿を「組織の奴にやられた」と拙い演技で語っていたあの……?」
  _
( ;゚∀゚) 「やめて!」

('A`) 「常におっぱいおっぱい騒いで女子にゴミ溜めを見る目で見られていたあの……?」
  _
( ;゚∀゚) 「やめて!」

('A`) 「女子の着替えを覗いて両親が学校に呼ばれたあの……?」
  _
( ;゚∀゚) 「やめて!!めっちゃ覚えてるじゃんおまえ!!」

239名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:36:44 ID:lSl8DXgg0

 思いのほか懐かしい再会に、気分が少し上がる。
 だが、すぐに自制した。
 ドクオは、吸血鬼だ。人間では無くなった。
 その上今人を殺したばかりだ。
 呑気に旧友との出会いを喜べるような状況では無い。
 何より、長岡が話しかけてきた理由が分からない。
  _
( ゚∀゚) 「いやーしかし、思いのほか早く見つけられたぜ」

('A`) 「……あ?」
  _
( ゚∀゚) 「いやさ、手配書見てさ、探してたんだよ、お前のこと」

('A`) 「……懸賞金稼ぎでもする気か?」
  _
( ゚∀゚) 「おいおい、ダチ公売ったりしねえよ

 長岡が頭を掻く。言葉を選んでいるようだ。
 旧友とはいえ、手配されている吸血鬼を探す目的とは何だ。
 懸賞金の類なら可能性はある。顔見知りであることを利用して、油断をつこうとしているとか。
  _
( ゚∀゚) 「あのさぁドクオ」

('A`) 「……」
  _
( ゚∀゚) 「俺のこと、吸血鬼にしてくれねえか?」

('A`) 「……………………は?」

240名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:37:45 ID:lSl8DXgg0

 おわり


 三行

      _     
   (*゚∀゚)∩   
      ⊂彡

241名も無きAAのようです:2014/03/22(土) 23:46:34 ID:phSuwnGY0


見事に三行で収まるな

242名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 00:03:09 ID:sMv5T2p.0


243名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 00:44:45 ID:7k6zEjKQ0
乙乙
三行ワロタ

244名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 01:29:05 ID:mbwa.w5Q0
おつ

245名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 15:00:00 ID:ixBuhj6M0


246名も無きAAのようです:2014/03/24(月) 02:57:13 ID:fAksANss0
次回も気になるな


247名も無きAAのようです:2014/03/24(月) 08:57:59 ID:R4ayzcoM0
おつぱい!おつぱい!

248名も無きAAのようです:2014/03/24(月) 14:11:29 ID:qjuLdh2M0
三行ワロス
('A`)カッコいいな

249名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:33:04 ID:gpa8a09A0

        Place: 草咲市 東芒二丁目 14 静かな趣の洋風建築
    ○
        Cast: 流石兄者 素直クール 美麗な少女たち 

   ──────────────────────────────────

250名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:34:40 ID:gpa8a09A0

「これは、吸血鬼が住むのにおあつらえ向きなところですね」

 草咲市の市街地の外れ。隣市である井谷市との境にその洋館はあった。
 旧国道から少し外れ、最近開発の進んだ住宅地を抜けるとぽつりと突然現れる。
 一つだけ明らかに年代が違う。
 外観は、ほぼ廃屋同然。
 敷地をぐるりと囲む鉄柵には、鉄線で「危険」の看板が括られている。

「行こう、流石くん」

「はい」

 鉄格子の扉を封じていた鎖を、銃で断つ。
 立派な住居侵入罪だが、やむを得ない。
 所有者と連絡が取れないのだ。
 そもそも、ちゃんとした管理人が存在するのかも怪しい。
 いくらか調べていたが、それらしい人物が見当たらなかった。
 相続の過程で漏れてしまったのか、それとも、意図的に所有者を不明な状況にしたのか。
 ここが吸血鬼の根城であった、という話が真実味を帯びていく。

「二階のガラスが数枚割れているようだ」

「石ころや何かで割った、という感じでは無いですね」

251名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:37:41 ID:gpa8a09A0

 洋館の入口にも、やはり鍵がかかっていた。
 南京錠では無く、扉に備え付けの鍵だ。
 受け継がれる上で改修を行わなかったのか、趣を重視して変えなかったのか。
 洋館同様、鍵もかなりの年代もののようだ。

「流石くん」

「大丈夫です」

 俺は専用の工具を、鍵穴に差し込む。
 最新の錠は難しいがこれだけ古いものなら俺でも外すことが出来る。
 鍵の職人がよほど凝ったことをしていなければ、10分もかからない。

 予想通り、数分で閂が重い音を立てた。
 ドアノブを慎重に捻ってみる。開いた。
 各部の取りつけは、見た目の割にはしっかりしているようだ。

「流石流石くんなだけある。空き巣もお手の物だな」

「身に着けろといったのは素直さんでしょう。付け焼刃ですよ」

「いやいや。真剣に鍵穴を覗き込む姿は、熟練の盗人のそれだったよ」

 無機質な、一定のトーンで冗談を言う。
 ラジオの未選局ノイズの方がもう少し起伏と面白味に富んでいる。
 俺は反論を辞め、工具の代りに取りだした懐中電灯で屋内を照らした。

252名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:39:01 ID:gpa8a09A0

 中は、想像よりもいくらか綺麗に保たれている、ように見える。
 床に埃が積もってこそいるが、掃除すればすぐにでも住めそうなほどだ。
 一歩、踏み込む。
 埃が舞い上がり、電燈の光の中で靄に変わった。
 これが、『乙鳥ロミス』が生前隠れ家にしていたという屋敷。

「住人がいなくなってから数か月、といったところか」

 ゆっくり奥に進む俺の後ろ。
 埃を指で掬い取り、クールが呟く。
 本当ならば事前に得た情報と合致する。
 埃のつもり具合で推測した物なので断定はできないが、大よそ間違ってはいないだろう。
 俺も、同じような感想を持った。

 今のところ何かが潜んでいる気配は感じない。
 埃からして、実際に何かがいるということも無いのだろう。
 それでも慎重に歩を進めるのは、ここがあくまで吸血鬼の根城であったとされる場所、だからだ。
 
 吸血鬼が、一国一城の主になるなど、普通は不可能だ。
 そう言った手合いは底抜けに運が良いか、狡猾で賢く非常に用心深いかのどちらか。
 後者であった場合、杭持ちに侵入された際に備えて罠の一つや二つしかけていてもおかしくは無い。

「こういった場所は、俺より素直さんが前に出た方がいいんじゃないですかね」

 俺も人より五感が優れているつもりだが、クールには負ける。
 クールは、六感まで含めて獣に近い感度を持っている。
 罠の類を見破るなら、彼女の方が確実性が高い。

253名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:41:17 ID:gpa8a09A0

「もし私がうっかり罠にかかった場合、私が辛い思いをする。死ぬことすらあるだろう」

「はい」

「流石くんが罠にかかった場合、私は君に「間抜けが」と飽きれるだけで済む」

「はい」

「そう言うことだ」

 成程確かに。言い得ている。
 俺も、この場に部下がいれば先に歩かせて安全確認に使うだろう。
 鉱山における小鳥のようなものだ。
 彼女の意見には、賛同せざるを得ない。

 俺のすることは一つ。罠があったら回避。
 あわよくば、後ろに続くクールだけがその餌食になれば大変に愉快だ。

「さて、どうします?」

 期待に反し、罠らしきものは無かった。
 玄関ホールから続く広い空間。
 左手にはダイニングらしいテーブルと椅子の置かれたスペースがある。
 奥には恐らくキッチンがあるのだろう。
 正面には二階へ続く階段。右手には客間らしい扉があった。

 純粋な洋館というより、どこか日本建築の匂いを感じる。
 元の主の趣味だったのだろうか

254名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:42:44 ID:gpa8a09A0

「二階へ行ってみよう。あのガラスの割れていた部屋が気になる」

「そうですね。」

 これだけ調えられた内装で、ガラスだけを放置していたとは考えにくい
 昔から割れていたのならば、きちんとした補修していたはずだ。
 家主と仮定する、『乙鳥ロミス』が地雷女に殺されたという情報を信じるならば。
 その現場はあの割れガラスの部屋である可能性が大いにある。
 本人が殺された、あるいはそれなりの手傷を負い、ガラスを直す余裕が無かったのだろう。
 もしこの予想があっていれば、他にも何か、手がかりがあるかもしれない。

 階段下から二階を照らす。
 白い、円形の光に照らされたそこを見て、俺とクールは顔を見合わせた。

 登ってすぐの壁に、大きな血の跡がある。
 それだけでない。壁のみならず階段の手すり、天井にまで破壊された痕跡があった。
 埃を払えばすぐにも使える一階とは、大きな違いだ。
 まさに天と地獄。地獄の方が上にあるあたり、なかなか面白い。

「行こう流石くん」

「吸血鬼が潜んでいて襲われるなんてことは」

「何を言っているんだ流石くん。居たら素直に殺せばいいだろう」

「流石ですよ、素直さんは」

255名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:43:38 ID:gpa8a09A0

 一段登るたびに軋む階段。
 左手で懐中電灯を逆手に持ち、その甲に銃を持った右手を置く。
 何かがいるとは考えにくいが、念の為だ。
 後ろには同じく銃を構えるクール。
 この女のことだ。ついうっかり引金を引きたくなって俺の背中に発砲してくる危険性もある。
 急がなければ。

 二階も、一階と同じく埃が積もっている。
 戦闘を行った形跡がある以外は下と同じだ。

「どう思う、流石くん」

「破損の状態から見て、爆発物ですね。が、焦げた臭いはしない。
 それにこの壁や地面に張り付くような独特な発破痕。恐らく地雷女で間違いないかと思います」

「概ね同意見だ」

「ただ、少し疑問が」

「なんだね」

「地雷女がこれだけ血刑を駆使して戦った相手は、本当に乙鳥ロミスだったんでしょうか。
 この状況を見るに、地雷女はかなりの苦戦をしています。
 ほぼ無名同然の乙鳥ロミスにそこまでの能力があったとは思えません」

 通称で「地雷女」と呼ばれる吸血鬼は、非常に高い戦闘能力を有することで知られている。
 血刑もさながら、本人の膂力も高い。
 過去には、仮死寸前の状態で五人の杭持ちを殺したという記録もある。
 最近でこそ大人しいが、まぐれで善戦できる相手では無いのだ。

256名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:44:43 ID:gpa8a09A0

「では、地雷女と戦ったのは別の誰かであると、君は思うのかい」

「地雷女の目的が乙鳥ロミスであったことは、聞き込みの結果からして確実です。
 何らかの情報を仕入れ、ここにたどり着き、ロミスと戦闘になった。そこまでは納得がいきます。
 しかし、それにしてもこの有様に繋がる物でしょうか。
 資料に辛うじて名前が載っていた程度の吸血鬼が、地雷相手にそこまで善戦できたというのがどうにも腑に落ちない」

 資料のみならず、吸血鬼たちへの聞き込みでも、ロミスが力自慢の吸血鬼で無かったことはわかっている。 
 常に杭持ちや人間の迫害を恐れ、人目を避けて歩く。
 それが多くの口から語られるロミスのイメージだ。
 謎が多く、それらの情報が全てではないだろうが、武闘派であるような印象は一切無かった。

「よほど巧妙に力を隠していたか、別の協力者がいたか、あるいは」

 言葉を切る。
 クールの目が鈍く光った。

「既に名の知れた吸血鬼が偽名を騙っていた、と」

「可能性は無いことも無いかと。ただ、乙鳥ロミス、という「人間」は実在しました。
 回収された死体は、乙鳥ロミスが吸血鬼化したものであると確認されています。
 なので、実在する乙鳥を隠れ蓑にしていた別の吸血鬼が居た、と言ったところでしょうか」

「少々突飛な発想の気もするが。乙鳥が隠れた実力を持っていたと考える方が自然じゃないか」

「ええ。ただ乙鳥ロミスは3年前に吸血鬼になったばかりの、新参です」

 窓ガラスが割れていた部屋へ。
 やはり荒れている。


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