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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
11
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:01:49 ID:U5Z4bAHs0
(´・ω・`) 「まさか……」
( ^ω^) 「まさか、なんだお?」
(´・ω・`) 「僕達の関係に気付いたっていうわけじゃ……ないかな」
(;^ω^) 「え……?」
突然、僕達の関係、と言われてブーンは戸惑った。
普通の何一つ変わらない友人との関係の何を気付いたというのか。
ツンは何に合点がいったと言うのか、真剣に思考していくが、
(´・ω・`) 「うん、それなら僕らと登校しないというのも合点がいく。
二人の邪魔をしちゃあ悪いと、ツンもそう思ったんだろう。
カップルが二人で登校、というイベントを妨害してはいけないからね」
_, ,_
( ^ω^) 「は? カップル?」
予想外の答えにブーンは戸惑いを通り越えて呆れた。
ただ、呆れた。呆れ果てた。
(´・ω・`) 「さぁ、手でも繋ごうか、ブーン。
気を使ってくれたツンにも悪いし……さぁ」
( ^ω^) 「ショボンは、そっち系のエロゲ脳だったかお……勘弁してくれお」
手を繋ぐことを強要してくる友人に、気色悪さを感じたブーンは、
彼を無視して足早に学校へと一人で向かっていった。
12
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:02:51 ID:U5Z4bAHs0
******
学校に到着し、ツンに何の用事か問いただしては見たものの、
結局答えては貰えず、幼馴染の勘からいくら聞いても答えてはくれないと、
ブーンは諦めることにした。
ツンの申し出のことが頭に引っかかったまま最後の授業を受けていると、
終業のベルが校内に鳴り響き、ホームルームが始まる。
( ´ー`)「今日は小樽のほうで自動車の爆発事故があったようだ。
整備不良が原因らしいけど、お前らも駐車している車を見かけたら、
爆発しないかどうか気をつけながら帰宅しろヨ」
担任のシラネーヨの言葉は生徒の身を気遣っているのだろうが、
どこか冗談めかしたもののような響きを持っている。、
しかし、今のブーンの耳に届いてはいなかった。
( ´ー`)「最近物騒なんだからな〜。寄り道も程ほどにしておけよ〜。
じゃあ、ホームルーム終わりだーヨ……散!」
「きりーつ、礼〜」
今度は完全に受けを狙いにいった発言であったが、
日直である女生徒は冷たい目を担任へ突き刺すと、
号令を終えた途端にそそくさと帰っていってしまう。
13
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:04:19 ID:U5Z4bAHs0
(;´ー`) 「……さようなら」
教室内にはまだ生徒が大勢残っていたが、
シラネーヨは居心地の悪さを感じたのかすぐさま退散し、
その背中をネタに一部の生徒達は会話に花を咲かせていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、ちょっといいかしら?」
そんな中で、ブーンにとってツンの声がやけにクリアに聞こえた。
やっときたか、という思いを胸に秘めたまま彼は振り返る。
( ^ω^) 「お、早速かお」
(´・ω・`) 「僕もいい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……来ないで。大事な話があるの、ブーンに」
(´゚ω゚`) 「大事な話……やはり!」
(;^ω^) 「すまんお、ショボン……」
(´゚ω゚`) 「ぶ、ブーン……」
ξ゚⊿゚)ξノシ 「じゃあね、諸本くん」
(;^ω^)ノシ「じゃ、じゃあ……また明日だお」
14
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:05:25 ID:U5Z4bAHs0
(´゚ω゚`) 「ブーン……君は、大人の階段をこうして登っていくんだね……」
呪詛のようなものが浴びせられながらも、
ブーンの背中はツンに率いられるまま教室を出ていき、
外気に備える為二人は手袋をつけ、校門をくぐっていった。
( ^ω^) 「ツン、話しってなんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
道中、彼がそう問いかけても、
ツンは口を固く閉ざして何も語ることは無かったのだが、
住宅の多い地帯を進み、路地へと入って人気が少ないのを確認すると、
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、貴方……聖杯戦争に参加するの?」
西洋系の血の混じった彼女の碧眼が、語気と共に鋭さを増した。
( ^ω^) 「……そうじゃないかと、薄々思っていたお。
そうであって欲しくないとも、思っていたけど……」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうなの?」
( ^ω^) 「ツンはどうなんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「質問に質問で返さないでくれるかしら?」
( ^ω^) 「まだ、決めかねているお」
15
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:06:56 ID:U5Z4bAHs0
ξ゚⊿゚)ξ 「呆れたわ。おばさまも、同じ気持ちでしょうね。
せっかく貴方にはおじさまの権利も、魔術刻印も継承されたというのに」
( ^ω^) 「ツンのお母さんはなんて言ってるんだお?
願い事の為に、魔術師7人も集めて殺し合うことに賛成なのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「当たり前じゃない魔術師なら。
これは根源への到達を……魔術師達の、
お父様達の長年の悲願を達成出来るかもしれないのよ」
( ^ω^) 「御三家が勝手に始めたことだお。
僕達は彼らとは違う。それにとーちゃんとモララーおじさんは、
僕やツンが殺し合いに参加することを良しとすると思うかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうに決まっているじゃない。根源への到達は偉業も偉業。
私達の後の世代にまでそれは語り継がれ、魔術師として最高の栄誉を手に出来る。
魔術師ならそんなこと、迷うはずないじゃない」
( ^ω^) 「僕は、とーちゃんが戦争で死んだ時から、ずっと考えてきたお。
どんな気持ちで、どんな願いを抱いて死んでいったのだろうかって」
( ^ω^) 「僕なら……そんな血塗れの名声よりも、
美味いもん食って好きな人達に囲われて死んでくれたほうが、
親としては嬉しいことなんじゃないかなって、今はそう考えているお」
ξ゚⊿゚)ξ 「逃げるの? ブーン」
16
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:08:15 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「……逃げる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、そんなもの逃げているだけじゃない。
貴方は怖いだけじゃない。戦う事を怖がって自分に都合の良いこと言って、
逃げようとしてるだけじゃない」
(;^ω^) 「そんなことはないお!!」
思わず、ブーンは声を荒げた。
自分なりに父の気持ちをずっと考えてきて出した結論なのに、
逃げる言い訳だと吐き捨てられてはたまったものではない。
ξ゚⊿゚)ξ 「いいえ、それは本当に単なる逃げなのよ。魔術師がそんな口を叩くはずがないもの。
いい? 例え相手がどんな魔術師で、どんなサーヴァントを召喚してきたとしても、
根源への到達を成し遂げてみせる。それが父から託された私達子の宿命ってものじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんな普通の、何も成し遂げることが出来ずに死んでいくような生き方のほうが、
何倍も怖いじゃない。ブーンはただの臆病者よ。自分には出来ないと諦めてしまった愚か者」
( ^ω^) 「違うんだお、ツン。それは誤解だお。絶対に違うんだお、それだけは」
ξ-⊿-)ξ 「ふん……じゃあ貴方は聖杯戦争には出ないのね?」
(;^ω^) 「うっ……それは、まだ決まっては……」
ξ゚⊿゚)ξ 「監督役のロマネスクおじさんから連絡が来てると思うけど、
今日くる連絡が最後通告になるわよ」
(;^ω^) 「……」
17
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:09:16 ID:U5Z4bAHs0
ξ゚⊿゚)ξ 「続々とこの札幌に、魔術師達がやってくるわ。
内藤と津出がこの土地で聖杯を発見したことで得た、この令呪」
ツンが制服の右の袖を巻くっていくと白く細い腕が現れ、
その二の腕には赤々とした紋章が刻まれていた。
そして、ブーンはそれに応えるように手袋を脱いでいくと、
包帯の巻かれた右手が現われ、それを解いていくと似たような紋章が掲げられる。
一月前、痛みと共に"いきなり"刻まれた紋章。
ξ゚⊿゚)ξ 「貴方も間違いなく聖杯に選ばれた魔術師の一人。
戦わないというのなら"内藤"は早く放棄することね」
それが、それこそが聖杯に認められた魔術師の証。
聖杯戦争に挑む為のチケットであり、サーヴァントを制御する三つの刻印。
サーヴァントを使役する"マスター"の"令呪"である。
( ^ω^) 「僕に諦めろというのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「既に、諦めているじゃない」
( ^ω^) 「諦めたわけじゃないお……」
諦めたわけじゃないが、二つだけ懸念することが彼にはあった。
一つは、自分の願いである。
万能の願望機と呼ばれる聖杯に託す願いが、果たして根源への到達などで良いのだろうか?
たしかにそれは父達の願いでもあり、究極の知識を求める魔術師達の悲願。
きっととてつもない力を手に入れることが出来るのだろうと、漠然とではあるが想像がつく。
18
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:10:34 ID:U5Z4bAHs0
しかし、そんなもので幸福になれるのかと問われれば、ブーンにはわからなかった。
あらゆる願いを叶えられると言うのに、そんな願いを果たしていいのだろうか。
これはまだ、解決できる問題かもしれない。
だが、どうしても避けられない問題というものもある。
それが、二つ目だ。
願いを諦めてでも、戦いを避けてでも直面したくない問題。
ξ゚⊿゚)ξ 「まぁ、いいわ。貴方が棄権しようが参戦しようが、
私にとって敵の一人に貴方が加わるか、
別の誰かが敵になるかの違いでしかないから」
そう、この少女と戦うことだけは、ブーンにはどうしても許容出来なかった。
幼いころより、父達が古い友人ということで付き合いのあった、
この幼馴染と魔術を競い合うことが彼にとって、一番怖いことだった。
ξ゚⊿゚)ξ 「貴方が戦うというのなら、共闘を申し出ようかとも思ったんだけど……。
仕方、ないわよね……それじゃあさようなら、魔術師内藤ホライゾンくん。
戦場になるこの土地で、せいぜい巻き添えを食わないようにすることね」
手を振ることもせず、冷たい態度と言葉で突き放したツンは、
踵を返すとそのままブーンの目の前から立ち去っていってしまった。
( ^ω^) 「……さようならだお、ツン」
大柄の彼と比べると少女の小さすぎる背中は華奢ではあったが、
身に纏う雰囲気はれっきとした魔術師のそれであった。
ブーンには、その遠くなっていく彼女の後姿を引き留めることは、出来なかった。
19
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:11:26 ID:U5Z4bAHs0
******
真っ白なダウンジャケットの前を閉じ、
薄ピンクのニット帽から栗色のショートカットを覗かせた女性は、
新千歳空港に降り立つと頬を赤らめさせた。
彼女の住むロンドンよりもこの土地が冷え込む証拠であり、
身体は正直にその温度差に反応する。
キャリケースを受け取り出口を目指すと、まずはバスを探した。
(*゚ー゚) 「ここが、日本の北海道……」
外に出ると空からは広大に見えた大地も呆気ないものだが、
陸から見る白銀の世界は彼女、シィを感嘆させるに足るものだった。
どこまでも続くような真っ直ぐに伸びた道路は氷に覆われ、
建築物の屋根には例外なく分厚い雪を被せられた、雪景色。
0度を下回る氷点下に吹く風は冷たさを痛みへと変える。
(*゚ー゚) 「こんなところで貴方は戦うというのね、ギコくん……」
ギコ、彼はシィのかつての恋人だ。
時計塔と呼ばれる、魔術協会の総本山で学びあった魔術師同士の恋人。
――――数年前に突然別れを切り出され、ギコが姿を消すことで破局してしまった。
が、シィは未だに諦めがつかず、消息不明だった彼が札幌に現われると聞き遥々やってきたのだ。
その彼がこんな極東の島国にやってくる目的とは――――
20
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:13:00 ID:U5Z4bAHs0
(*゚ー゚) (聖杯戦争……まだ、夢を諦めていないの? ギコくんは。
797番目の聖杯。聖堂協会は贋作だと言っていたけど、
それが集めてきた高度な魔力だけは本物)
(*-ー-) (魔術協会の調べたデータによれば、あらゆる願いを叶える願望機としての性能は確実にある。
貴方の願いは、これを手にすれば確実に叶えられるはず……)
でも、とシィは思う。
ギコの想いを知るが故に彼女は思うのだ。
(*-ー-) (それは貴方にとって、私を捨ててまで手にするべきものだったの……?)
その願いとは、自分よりも大事なものなのだろうか、
自分は彼にとってどのような存在であったのだろうか、と。
聖杯戦争はシィにとってどうでもいいものだ。
参戦するつもりはもとよりない。
ギコと再会することだけが彼女の目的なのだ。
そして問いただす。
ギコにとって己の存在とは何であるのか?―――と。
(*゚ー゚) (聖杯を求めてやってきた魔術師に会うかもしれない。
戦場になる札幌で戦いに巻き込まれることもあるかもしれない。
でも、私は……貴方にもう一度会いたいの……ギコくん)
シィの家系は魔術師としてまだ四代ほどしか続いていない。
魔術師としてはまだ幼く、世代を重ねていくことで強力になっていく、
魔術師の力の証とも呼べる魔術刻印は大した力を持ち合わせていない。
21
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:13:47 ID:U5Z4bAHs0
腕に自信のある魔術師が集うことになる聖杯戦争に、
巻き添えを食らってしまった場合心許ない力ではあるが、
シィには磨いてきた技と魔術の知識で切り抜ける、自信があった。
ましてやこの力に不満を持ったことなどない。
その未熟さで時計塔では迫害され、疎んじられ、嘲笑されもしたが、
だからこそ彼との出会いを果たせたのだから。
(*゚ー゚) (ギコくん、私、強くなったんだよ?
貴方と別れてから、ずっと、ずっと私は一人で戦ってきたの。
私は、家柄を鼻にかけてふんぞり返る連中より……ずっと強くなったわ)
その想いが故に、切磋琢磨してきた経験による自信が故に、
戦場へと足を踏み入れることを、彼女は躊躇わなかった。
札幌行きのバスを見つけると荷物を預けて乗り込み、2分後に発車した。
最後部にはまだ空いている席があるのを見つけ、窓際のそこへ腰かける。
離れていく空港を眺めながら、徐々に前へと視線を移していった。
前には街が広がっている。雪に塗れた千歳の街が。
そしてこのバスが進む先には札幌があり、そこにギコもいるはずだ。
シィは逸る気持ちを抑えながら、瞼を閉じて仮眠をとっていく。
時間はまだまだかかる。休める時に休んでおこう、といった考えからだった。
座席にまで伝わるエンジンの振動と暖房が心地よく、
興奮した心にリラックスをもたらし、やがて眠りへと落ちていくが……。
22
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:14:31 ID:U5Z4bAHs0
(*;゚ー゚) 「ッ!」
咄嗟に右手を抑えた。そこに熱を感じたのだ。
次いで刃物がそこを這っていったような鋭利な痛みが来て、
抑えた手から血が漏れ出てくる。
(*;゚ー゚) 「……まさか」
恐る恐る彼女が左手を離していくと、赤い物が見えた。
ハンカチを取り出して拭うと、血は不思議なことにもう止まっている。
だが赤い物はまだそこにある。赤く輝く三画の紋章がそこにはある。
(*;゚ー゚) 「"令呪"……? 私に……?」
シィは戸惑いを隠せなかった。
令呪とは聖杯から与えられるサーヴァントに対する絶対命令権であり、
この一画一画に膨大な魔術が込められ、
マスターの魔術回路と接続されることで機能する。
23
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:15:14 ID:U5Z4bAHs0
聖杯は聖杯に相応しい者を自ら選び、この令呪を与えるのだ。
つまり、シィもまた聖杯戦争に参加する権利を得た、ということであり、
棄権しない限り戦わなければならないということである。
聖杯を望んでなどはいない。願望機を使って叶えたい願いもない。
しかしシィは聖杯に選ばれ令呪を与えられてしまった。
その事実が彼女に混乱をもたらしたのだが、シィは強かであった。
(*゚ー゚) (聖杯なんて望んじゃいない。でも……これさえあれば私は、
サーヴァントを召喚して"ギコくん"の力になることも出来る)
右手の甲に宿った令呪を見て、彼女は薄っすらと笑みを浮かべる。
ギコに会いたいと思う気持ちは、彼を支えたいという決意へと変貌を遂げた。
(*゚ー゚) 「待ってて、ギコくん」
こうして、札幌の地にマスターが一人舞いおりていった。
24
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:16:06 ID:U5Z4bAHs0
******
東8丁目通りを境目とし、南側に位置する家屋の並ぶ通りがあった。
発展の止まったこの町には近代化の兆しが見えるが、
大江戸マートと呼ばれる古びた酒屋や個人経営の和菓子屋、
老夫婦がひっそりと営む理容室に、割烹着に身を包む妙齢の女性が切り盛りする弁当屋などが並び、
昭和の名残が色濃く刻まれていてどこか、不思議な暖かみを感じさせる町となっていた。
和と洋の入り混じる昭和の日本建築が形成する町の中に、
一つだけ異質な建造物がひっそりと置かれている。
民家の並ぶ通り、そこの一画に小さな駐車場を構え、
沈み始めてきた太陽の光を受け、真っ白に輝く尖塔を持つそれは教会だ。
ロマネ札幌キリスト教会と呼ばれるそこに、ロマネスク神父はいた。
礼拝堂には40人ほどの人が座ることが出来るのだが、
日曜でもなければ訪れる人は大しておらず、
神父は暇を持て余し長椅子に腰かけていた。
( ФωФ)旦 「……」
落ちついた色の壁には聖画が並び、中央にはキリスト象が置かれ、
その象と背後に嵌められたステンドグラスは、小さな教会にしてはたいへん立派なものだ。
ロマネスクはそれらを眺めながら茶をすする。
番茶で、高価な物でもないが近所の老婆が孫が世話になっているから、
といった理由で、断ったものの押しつけられる形で受け取ってしまった手前、
こうしてありがたく神父は頂いているのであった。
25
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:18:49 ID:U5Z4bAHs0
彼はこの土地に古くから住み着いており、小中高と札幌で学んだ。
両親は熱心なクリスチャンで北海道に布教へやってきたことで、
彼の生活がスタートし、その生涯も今年で42年目を迎えようとしていた。
信仰を尊び、よく学び、少林寺拳法を究める若かりし頃の彼が大学には進まず、
海外へと渡って聖堂協会に加わり代行者となったのは、
その信仰心から鑑みれば当然のことだったのかもしれない。
( ФωФ)旦 「……ブーンか?」
突如、神父は口を開く。
目はキリスト象へと向けられており、
両の手は湯呑みを握り二口目を運ぼうとしているところだった。
(;^ω^) 「ロマおじさん……相変わらず鋭いお」
( ФωФ)旦 「私は一応、君の拳法の師匠でもある。
長い付き合いであるが故に、気配がすればわかる」
火傷痕の残る神父の鋭い両目が、ゆっくり近づいてきたブーンを見つめると、
彼は父性を感じさせる柔らかな笑みを作り出し、
自分の腰かけている長椅子の隣に座るよう手で促す。
( ^ω^) 「お邪魔しますお」
( ФωФ) 「少し待っていろ、今お茶を淹れてこよう。番茶でよければな」
(;^ω^) 「あっ、そんな。構わなくっていいお」
26
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:20:29 ID:U5Z4bAHs0
( ФωФ) 「今のブーンの顔からはどこか翳りが見える。
長い話になりそうなのでな。気を落ち着かせる為にも、お茶が必要だ」
そう返すと神父は礼拝堂から出ていき、
手持無沙汰にブーンは聖画やステンドグラスを眺めていく。
( ^ω^) 「お見通し、かお……」
呟きにはどこか自嘲がこもっていて、ブーンの耳に重く響いたのだが、
礼拝堂には大した音響にもならずに虚しく消えていった。
華々しいステンドグラスはいつもブーンを圧倒させる。
普段のブーンならば、この輝きに感嘆させられるばかりであるのだが、
今はただ自分のちっぽけさを思い知らされるだけであった。
十字に磔にされたキリスト像にすら嘲笑されているような気持ちに陥る。
少林寺拳法の師匠ロマネスクに似ず、彼は信仰心というものを持ち合わせてはいなかった。
( ФωФ)旦 「祈ってみるか?」
お盆に湯呑みを二つ乗せたロマネスクが戻ってくるなり、
ブーンへとそう問いかける。
( ^ω^) 「お祈りなんて、する必要ないお……」
( ФωФ)旦 「神は迷える子羊を救ってくださる。信じてさえいれば、な」
言うなり、ロマネスクは自分の席に戻り、ブーンへと茶を差し出した。
27
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:21:39 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「ありがとうございますお」
( ФωФ) 「それで、ブーン。君は私に何の用事があって訪ねてきたのだ?」
( ^ω^) 「……聖杯戦争についてですお」
( ФωФ) 「ふむ、やはりか……棄権するのか?」
( ^ω^) 「いや、僕は棄権するつもりはないんだお……。
でも戦うつもりも……いや戦う理由がないんだお」
( ФωФ) 「内藤家と津出家は、根源への到達に意欲を燃やしていたが?」
( ^ω^) 「それは、とーちゃん達の話だお。それを、僕の願いにしていいのかわからないんだお。
親の遺志を子が継ぐ、立派な話しだお。でも、そこに僕の意思はない。
だったら、そんな物に命を賭ける価値は、人の命を奪ってでも叶える価値があるのか、わからないんだお」
( ФωФ) 「此度の聖杯戦争の監督役である私に、どうこう口出しする権利はないが……。
魔術師という者は、皆、根源への到達を目指しているのではないのか?
ならば、それだけで理由にはなりえると思うが」
( ФωФ) 「他者を討ち果たし、他者よりも強いことを証明する。
そして皆の羨望を勝ち得る。人間の闘争本能からすれば、至極自然だ」
( ^ω^) 「僕は……そんなもの要らないお」
( ФωФ) 「ふむ……そうか。そう答えるとは思っていたが、
やはりそう育ってしまったか、ブーン」
28
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:22:49 ID:U5Z4bAHs0
( ФωФ) 「私は君が聖杯戦争に参戦することを見越し、
シャキン……君の父に代わって君の肉体を鍛え上げ、拳法の技を授けたが、
どうやら君を強くすることは出来ても、優しさを忘れさせることは出来なかったようだ」
( ^ω^) 「……すいませんお」
( ФωФ) 「違う、責めているわけではない。むしろ誇ってもらいたいくらいだ。
君は君らしく、内藤の名に恥じぬ見事な男に成長した。
魔術師としては未熟と言っていいかも知れんが、君は内藤に相応しい」
( ФωФ) 「後は覚悟と決断を伴えば、一人前の男だ。
自分の誇りを持って、争うがよい」
(;^ω^) 「ロマおじさん……僕は戦いたくないって……」
( ФωФ) 「聖杯戦争の監督役ではなく、君の父の友人として、君の友人として言わせてもらおう。
それは君に誇りがないからだ。君に馴染む理想が魔術の教えにはなかったからだ。
だからこそ胸に手を当てて考えるがよい、君自身の想いを、何をしたいかを」
(;^ω^) 「僕の……想い?」
( ФωФ) 「君はシャキンに似ている。シャキンが君に何を教えてきたか、
"何と言って教えてきたか"を思い出せ。そこに君の理想があるはずだ」
(;^ω^) 「とーちゃん……?」
言われるがままに、ブーンは自分の胸に手を当て、瞼を閉じて思考していく。
心の奥底にあるものを、埃にまみれた古い記憶を手繰り寄せる。
29
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:23:55 ID:U5Z4bAHs0
*( )*
そうすると、ある女の子のことが脳裏をよぎった。
だが、それは違うと断じた。
かつてそう願ったことはあったが、魔術の無力さを噛みしめて呪い、
不可能なのだと悟った。あの時の血の臭いと残酷な景色は、
胸に深々と刻まれた無念は、忘れてはいない。
( ω ) (……違うんだお。僕が心のどこかで願っていることはわかっているお。
僕が叶えたいもの……それは……)
己の真なる願いを探すべく、彼は更に自分自身へ耳を傾ける。
すると、ある声が蘇ってきた。
(` ω ´) 「ブーン、魔術はな―――――――――なんだよ。魔術は―――の為に、
――――てきた。俺達の先祖は―――――――だから――――」
父、シャキンの言葉だ。
だが断片的で、古い記憶をはっきりと思い返すことは出来ない。
しかし、次の父の言葉はブーンは鮮明に覚えていた。
(`・ω・´) 「魔術よ人の為に斯くあれ―――これが内藤の教えだ。
俺達は先祖がそうしてきたように人々の為に魔術を行使し、
苦しむ人々を救わねばならない。それが、魔術を使う者の責任だ」
( ^ω^) (……そうか、そうだったのかお)
30
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:24:27 ID:HDILSgrs0
まってたよ同士よ!
31
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:25:01 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) (かーちゃんもよく、魔術の稽古をつけてくれる時、よく言っていたお。
とーちゃんが根源への到達を果たそうとしていたのは、
きっと、この内藤の教えを成そうとしていたからだお……)
でも、とブーンは思う。
( ^ω^) (それが僕の願いで……いいのかお?)
彼はまだ、答えを出せずにいる。
自分が六人の魔術師を倒してでも、幼馴染を殺してしまうかもしれないとしても、
果たすべき、果たしたい願いとは一体なんなのだろうか、と。
( ФωФ) 「……ブーン、答えは出たか?」
(;^ω^) 「あっ、いや、あの……まだ……だお」
自問自答を繰り返しているうちに、すっかり日が暮れてしまったようだ。
北海道の2月はまだ夜が早い。きっとすぐにでも真っ暗になってしまうことだろう。
ロマネスクから貰ったブーンのお茶は、もう冷え切っていた。
( ФωФ) 「では、棄権するか?」
(;^ω^) 「は……あー……いや……まだ、わかりませんお」
( ФωФ) 「で、あるのならば、それが答えだ」
32
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:27:23 ID:U5Z4bAHs0
(;^ω^) 「え……?」
( ФωФ) 「君は勝った後の願いに悩むが、棄権しようとは決してしない。
ならば、戦う意思があるということだ。
今は、それが答えでいいのではないか?」
(;^ω^) 「えっと……つまり、願いは勝った後に考えろ……ってこと?」
( ФωФ) 「あぁ、そうだ」
Σ(;^ω^) 「そういうわけにもいかないお!!」
( ФωФ) 「だが、棄権はしないのだろう?
ならば戦いながらでも考えるがいい」
( ФωФ) 「君からは闘志を感じる。
何か大きなことを果たしてやろうという、野望にも似たそれが、な」
(;^ω^) 「うぅ……」
( ФωФ) 「ブーン、すまないがもう遅いから今日は帰れ」
Σ(;^ω^) 「あっ! あぁ、すいませんお長々と」
( ФωФ) 「私が迷惑しているから、というわけではない。
君の身を案じて言っているんだ。
内藤家に参戦の意思があることは、この聖杯戦争を知る者には知れていることだ」
33
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:28:11 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「?」
( ФωФ) 「帰り道に気の早い他のマスターに殺されかねん。
ここは中立地帯で安全ではあるが、棄権しない限り匿ってやることは出来んしな」
Σ(;^ω^) 「……ッ!!」
( ФωФ) 「さぁ、分かったなら早く帰れ」
(;^ω^) 「わ、わかったお……すいませんでしたおロマおじさん」
( ФωФ) 「いや、いい。気が向いたらまた来るといい。
望めば稽古をつけてやることも出来る」
( ^ω^) 「もちろんだお、ありがとうございました……先生」
そう言って立ち去ろうとするブーンの背は、
どこか怯えており、横顔からはいまだ翳りが覗けた。
( ФωФ) 「……まだ悩んでいるのなら、母にも同じことを打ち開けてみると良い。
私よりも遥かに力となってくれることだろう」
そんな彼が気にかかったロマネスクは、背を押すように声を張り上げる。
ドアに手を掛けていたブーンは振り返り、
(* ^ω^)ノシ
人懐っこい笑みを浮かべて会釈をし、手を振った。
そのまま礼拝堂から出ていき、ロマネスクから姿が見えなくなってしまう。
34
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:29:04 ID:U5Z4bAHs0
が、
( ФωФ) 「神の御前だぞ、そんな物騒な物はしまっておけ」
ロマネスクは再び口を開き、語りかけた。
鋭い目つきは更に鋭くなっていき、語気にも力が籠る。
すると、どこから忍び込んだのか、懺悔室の扉から二人の人影が礼拝堂に現われ、
ステンドグラスの前に躍り出るとその姿が露わとなった。
(,,゚Д゚) 「久しいな、まさか貴様が、本当に監督役をやっているとは思わなかったぞ」
180cmほどの長身に引き締まった肉体を持つ、
茶色い皮のライダースジャケットを着た男がそう言った。
短く刈られた黒髪のせいで、野獣のようにギラついた目が際立つ。
今、その視線はロマネスクへと向けられているが、
ロマネスクの目は彼を見てはいなかった。
( ФωФ) 「ギコよ、それが貴様のサーヴァントか?」
ギコと呼ばれた男はそちらのほうをちらりと窺うが、
すぐに視線をロマネスクへと戻し、
(,,゚Д゚) 「あぁ、こいつが俺のサーヴァントだ。
剣のサーヴァント……セイバー」
<人リ゚‐゚リ
35
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:30:01 ID:U5Z4bAHs0
宣言をした。
聖杯に選ばれ、英霊をサーヴァントとして召喚し、
自分は聖杯戦争を戦う準備が整った、との宣言に他ならない。
眩い金髪を丸く束ね、動きやすい髪形は戦いに不便をもたらさず、
それでいて美しさを損なわない、機能性と装飾性を兼ねた美を持つ、
甲冑姿のこの少女こそがギコの召喚した、セイバーのクラスのサーヴァントである。
( ФωФ) 「セイバーか、それは心強いな」
(,,゚Д゚) 「そうだ。今すぐあの時の決着をつけるには、申し分ないサーヴァントだ」
( ФωФ) 「ふっ……生憎、今の私は監督役。サーヴァントは持ち合わせていない。
貴様との勝負は、貴様が此度の聖杯戦争を生き延びてからにさせてもらおう」
(,,゚Д゚) 「気に食わんな、道化が……」
( ФωФ) 「ならばセイバーに命じて私を殺してみるか?
"正義の便利屋"」
(,,゚Д゚) 「違う、そんな用事でわざわざここまできてやったわけじゃあない。
貴様の事は心底憎い。今すぐこの場で殺してやりたいくらいだ……」
(,,゚Д゚) 「だが、今の俺に貴様を殺す理由は無い。
貴様に釘を刺しにきてやった、それだけだ」
( ФωФ) 「ほう、それはそれは……御苦労なことだ」
36
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:31:12 ID:U5Z4bAHs0
(,,゚Д゚) 「……今度は邪魔をするなよ」
( ФωФ) 「忠告、痛みいる」
(,,゚Д゚) 「……」
この時、ギコの眉間が、僅かにではあるがピクリと動いた。
過去に味わわされた屈辱が脳裏を過ぎったのだ。
だが、ここで刃を振るい私闘に興ずることだけは、彼の"正義"が許さなかった。
(,,゚Д゚) 「……さらばだ」
苦い溜飲を飲み下し、ギコはそう告げると、
セイバーは実体を失って霊体化して消えていく。
( ФωФ) 「ふむ……」
瞬きの間にギコもその場から消え、彼の気配をロマネスクは感じなくなった。
はにや
( ФωФ) 「"正義の便利屋"刃児耶ギコ……やはり、彼もまた己の理想を諦めきれずにいるのか。
津出の悲願成就の為迷わぬツンに、内藤の教えから己なりの信念を模索するブーン」
コツ、コツと礼拝堂の中をロマネスクの皮靴が音を響かせる。
そして、ステンドグラス越しに月光を浴び、
夜空を見上げる彼は、懐かしい感覚を胸に得て呟く。
37
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:31:58 ID:U5Z4bAHs0
( ФωФ) 「我々が争った"中東の聖杯戦争"、聖堂協会と魔術協会双方が全力でぶつかりあい、
多くの犠牲を出した"聖杯戦争前哨戦"、
その遺伝子が此度の"雪国の聖杯戦争"の中で駆け巡っている」
( ФωФ) 「そしてまた、新たなる犠牲を作り出していく……多くの信念と意地をぶつけあって。
シャキン先輩、モララー先輩。あの子らはやるさ、きっとやる。
貴方らの代役を任された時は戸惑った。正直今もこれで良かったのか悩む」
( ФωФ) 「だが、今日のブーンの背中と笑顔を見て、俺は確信したよ。あの子らは立派に戦う。
……約束は果たしたよ。後は、見届けるだけだ。
杉浦ロマネスクではなく、この聖杯戦争の監督役として」
視線をキリスト像に移したロマネスクは、雑念を消して、祈った。
信念の為とはいえ血肉を散らし、この地で争いを繰り広げる者達へ、
神父である彼は何を願うのだろうか。
( -ω-) 「……」
その願いは、神のみぞが知る――――
( ФωФ) 「では、聖杯戦争の始まりを見守ろうか」
ロマネスクの呟きを聞く者は、彼が祈りを捧げるキリストが聞くのみであった。
38
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:34:07 ID:U5Z4bAHs0
******
(;^ω^) 「かーちゃん! ただいまだお!」
J( 'ー`)し 「お帰り、ブーン。今日は遅かったねぇ」
(;^ω^) 「かーちゃん、今すぐ聞きたいことがあるんだお。
これはとっても大事なことなんだお、だから真剣に聞いて欲しいんだお」
帰宅したブーンは開口一番、疑念と想いを吐き出していく。
愛する我が子は何か焦っているようだが、とても真剣そうな顔をしていたので、
母は読んでいた本をテーブルに置くと正座したままゆっくりと振り返り、真っ直ぐに彼を見据る。
J( 'ー`)し 「ブーン、まずは落ち着いて、正座しなさい」
(;^ω^) 「あ、うん……」
聞きたくて仕方がない、そう言った風体であったが、
母の威厳か、ブーンは気圧されてしまいその場で正座した。
J( 'ー`)し 「で、ブーン。話ってなんだい?」
( ^ω^) 「とーちゃんのことなんだお……」
J( 'ー`)し 「とーちゃんの?」
( ^ω^) 「うん……とーちゃんは聖杯を見つけてから、
ずっと根源への到達を目指していたって聞いてるお」
J( 'ー`)し 「そうだねぇー……あの人は、それはもう熱心だったわ」
39
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:35:12 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「でも、僕は思い出したんだお。
とーちゃんが生きてた時、僕にいっつも言い聞かせてたことを。
ちょっと前までかーちゃんが魔術を教えてくれてた時も教えてくれたこと」
J( 'ー`)し 「……内藤家の家訓かい?」
( ^ω^) 「そうだお、"魔術よ人の為に斯くあれ"だお。
根源への到達の為に魔術を使っているのだから当然のことだお。
根源から得られる膨大な知恵を手にすれば、きっと"魔法"を成すこともできる」
( ^ω^) 「とーちゃんは、だから根源への到達を目指したのかお?
功名心や後世に名を残す為とか、そういうんじゃなくって」
J( 'ー`)し 「……とーちゃんはね、シャキンは、それはもう人の為に人の為にって、
いっつも一所懸命な人だったんだよ。あの人が魔術師だって知らなかった時から、
私にはあの人の優しさが眩しかったよ」
(;^ω^) 「かーちゃん……?」
J( 'ー`)し 「あの人はきっと、魔術なんてものが無くても人様を幸せにしようと挑み続けたはずさ。
自分の幸せよりも人の幸せを望む人だった。だからこそ、私はあの人を選んで、
あの人を幸せにしたいって思えたんだ……」
J( 'ー`)し 「だからね……ブーン。全くもって、その通りさ。
とーちゃんはね、根源から得た知恵で人々を幸せにする為に戦ってたんだ。
幼稚な理想で、正義の味方気取りな馬鹿な人だったけど……」
J( 'ー`)し 「あの人は心の底から人類の幸福を望んだ、立派な男だったよ」
40
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:36:14 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「……そうかお。それが聞けて、良かったお」
J( 'ー`)し 「今になって、急にどうしてそんなことを聞いてくるんだいブーン?
私には、何となくわかる気がするけど、ブーンの口から聞かせておくれよ」
聞かれ、少し言い淀んでから、覚悟をして、
ブーンは口を開いていった。
( ^ω^) 「かーちゃん……僕は、聖杯戦争に挑むお」
J( 'ー`)し 「ふふふ、やっぱりね。私が聞いても何も答えてはくれなかったくせに、
男の子ってのはどうしてこう、いきなりなのかね。
でも、かーちゃんはブーンが決意してくれて嬉しいよ」
J( 'ー`)し 「もし、ブーンが戦う時がきたら……私は今日までずっとその時を待ち続けてきたんだ」
「ちょっと待ってなさい」と言ったかーちゃんは居間を離れ、
ブーンは痺れかけてきた足をのばし、少し揉んでから胡坐をかく。
その頃にはかーちゃんは戻ってきており、手には一丁の銃が握られていた。
41
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:37:09 ID:U5Z4bAHs0
(;^ω^) 「え、かーちゃん……それ……何?」
ゴト、と鈍い音を立てて、黒光りする銃身がテーブルに置かれる。
古臭い、どこか歴史を感じさせる銃にブーンは釘付けとなり、疑問が浮かぶばかりだ。
J( 'ー`)し 「こいつの名前はスオミ KP/-31
とーちゃんが生前見つけてきて、今回の聖杯戦争に使うはずだったものさ」
(;^ω^) 「魔術師が銃を!?」
魔術師とは近代科学を嫌う習性がある。
それは魔術で行えることに何故機械を使う必要があるのか、
という単純に必要がないからといった理由もあり、
魔術を扱える自分達が何故凡人達の使う物を使わねばならないのか、
という特権階級的意識が根底にあるからである。
だから魔術師同士の戦いに銃を持ち出すなど到底考えられないことでもあり、
真剣に魔術を競い合っているのにそんな物を使うなど、恥ずべき行為なのだ。
魔術を扱えるのにわざわざ凡人共の武器を持ち出すとは。
内藤も落ちぶれたな、と一笑に付されてしまうに違いない。
42
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:39:31 ID:U5Z4bAHs0
(;^ω^) 「かーちゃんマジかお!?」
J( 'ー`)し 「マジもマジ、大真面目よ。でも、こいつをそのまま使うわけじゃあないわ。
この銃は見てくれはただの古臭い銃だけど、
これを使っていたある英雄にこそ価値があるの」
9mmパラベラムと呼ばれる弾薬を扱う、口径の小さなサブマシンガン。
未だにこんな銃を使い続ける者など、正規軍では決してありえない。
これよりも遥かに優れた貫通力を持つ銃弾を撃てて、
装弾数にも恵まれたサブマシンガンは今や数多く出回っているのだ
実戦で使う為に用意したとなれば言語道断だが、
それは魔術師であるブーンの知る由もないこと。
では、その銃の価値とは?
J( 'ー`)し 「この銃を使っていた英雄は―――――」
過去の英雄を英霊の座から呼び出し、使い魔とするサーヴァント。
ブーンの英雄や英霊といったイメージを覆す、
自らのサーヴァントとなるその英雄の名を……彼は知らなかった。
43
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:41:24 ID:U5Z4bAHs0
******
古い記憶。
少女の住む国は内戦の絶えない国だった。
力ある者達が聖戦と声高に叫んで違う考えを持つ者達を殺し、
異端と蔑んで徹底的に"浄化"していたのだ。
そんな国は家族を失う子供で溢れかえっており、少女もその一人だった。
行き場を失った子供達は大人達に銃を持たされて戦うか、奴隷として売り出されるかのどちらかだ。
少女は奴隷の道を歩まされてしまう。
食事をし、働き、家族みんなで普通に暮らしていたところ、
ある日突然やってきた"聖戦士"達に平穏を壊され、少女は全てを奪われてしまう。
襲われたことに混乱した。犯されることに恐怖もした。
屈辱の時間は続いたが気付けばことは済み、全ては突風のように過ぎ去っていた。
そして何時の間にか少女は奴隷市場の商品として並べられていたのだ。
「……」
少女は呆けたように空を眺めていた。
太陽の眩い輝きに目を奪われているようだ。
一瞬で何もかもが崩れ去ってしまった為、幼い脳が処理に追いつけていないのかもしれない。
そんなふうに空を見ていた折、店主に腕を引っ張られた。
力強く、太い腕だ。少女は自分の細腕が脱臼してしまいそうな程の痛みを感じる。
だが抵抗する力も心も、今の彼女には残ってはいない。
44
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:42:56 ID:U5Z4bAHs0
店主はこの少女を力強く宣伝したが、客のノリはイマイチである。
そこで、彼はこう提案する。
「じゃあ、味見していっておくれよ。
その上でこの商品がいかに上物であるか判断してくれ」
「ッ!?」
少女は驚愕したが、店主は下卑た笑みを浮かべて、
「ただし手を出すからには買ってもらうぜ、冷やかしはよしておくれよ」
そう言うなり、少女の服とも言えないような布切れに手をかけ、
力を込めると引き裂いていく。布が甲高い音を立たせて、
少女の成長段階にある身体が見物客達の前に晒されていってしまうと、
「ま、待った! そいつはいくらだ!? 俺が買う!!」
客の波から割って出てきた、若い黒髪の兵士が名乗りをあげた。
この時の少女には金のことはわからなかったが、
市場で、魚が10匹以上は買えるくらいの金額を店主に払った彼は、
少女の手を引いてその場を急いで去っていく。
「……」
「危ないとこだったな、君」
黒髪の兵士はしばらく歩き続けると手を離し、少女へとそう語りかける。
45
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:44:43 ID:U5Z4bAHs0
「……」
だが彼女は口を固く閉ざし、応えようとはしなかった。
「成り行き上、買っちゃったけどさ。家に帰っていいよ」
「……」
「……じゃあ、元気でな」
男の肌の色はこの国の物とは違って少し白かった。
黄色人種のものかもしれないが、この国の人間では無いことだけはたしかで、
おそらくは傭兵で、若さゆえに先程のような行動をとってしまったのだろう。
少女はその男が背を向け、去っていくのを立ち止まって見続けていた。
ついさっきまで太陽を見ていたのと同じように。
「お家無い……」
すると、彼女の口から自然と声が出た。
虫が鳴くような小さな声ではあったが、それは確かに兵士へ届いていたようで、
少女のほうを振りかえって来た道を戻ってくる。
「そうか……そうだよな……」
そして彼女の目の前で立ち止まると、心底困り果てたように頭を抱えた。
少女もまた困惑していて、二人は結論を出せずにそのまま立ちつくしてしまう。
46
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:46:47 ID:U5Z4bAHs0
「あの……お兄さんは私を買ったんだから、連れて帰るものじゃないんですか?」
「いや……アレは、ちょっとした気の迷いだ……。
君、俺と同じ目の色で、髪の色も一緒だったからさ……、
その、見ていられなくて……」
「私、お母さんもお父さんもいなくなっちゃった……」
「……」
少女が何を言いたいのかは、若いこの男にも痛いほどよくわかった。
どうしてやるのがこの少女にとって最善のことなのか、
初めからわかりきってはいたのだが、それをしてやれるほどの決心はこの男にはなかった。
だがこの少女の目を見ていると、彼は過去を思い返し、
心臓が鷲掴みにされたような苦しみを覚えるのだ。
何とかしてやりたいが、という思いと、無理だという思いが男の中でせめぎ合っている。
しかし、
「……私、どうしたらいいの?」
少女のその一言が男に覚悟を持たせた。
責任を最後まで果たし切る、という重い覚悟だ。
だからその証として、彼はしゃがみ込んで少女と同じ目線に立つと、
「じゃあ、君に名前をつけよう」
そう言って辺りをキョロキョロ見回すと、一旦空を見てから少女を見直して、
47
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:50:40 ID:U5Z4bAHs0
「君の名前は、今日からクウだ」
「……クォーォ?」
「そうだ、俺の国の言葉で、空って意味だよ。
恐らくは、君の祖先を辿れば俺と同じ国に住む人種のはずさ。
似合うと思うが……どうだ?」
川 ゚ -゚) 「うん……なんとなく、懐かしい感じがする。
クーォ?……クゥー?……クゥー……クー……クー……」
「そうそう、まっ、多少イントネーションは違ってもいいか……」
川 ゚ -゚) 「でも私……」
「うん?」
川 ゚ -゚) 「……」
少女は、いや、クーは自分には両親から貰った名前がある、
と、そう言いかけたが、胸の奥から刺々しい過去の痛みが引きずり出てきて、
喉に何かがつっかえたように苦しくなって、声が止まってしまう。
川 ゚ -゚) 「ううん……何でも無い」
だから彼女は、この時この名前を受け入れて、新たなる人生を歩むことを決意した。
「そうか……じゃあ自己紹介だ。俺の名前は――――――」
48
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:52:26 ID:U5Z4bAHs0
******
真っ暗な空間。
四角形を描くこの場所はどこかの地下室だ。
闇の中では黒々とした小さな多足生物がうごめいており、
触覚やその沢山の足をうねらせて何かへと集まっていた。
空間の中心には1m程の盛り上がりがあり、そこに"何か"がいることは確かである。
地下室の扉が開き重低音が響く。
すると、前方だけを照らす小さな灯りをもった人々が続々と降りてきて、
虫達は一瞬だけ機敏な反応を示したが、害がないことを悟ると中央の"エサ"に没頭し続ける。
人々はそれぞれローブをきており、マスクをしている為、
顔を見ることはかなわなかった。
彼らがマスクをしている理由は単純である。
この部屋は臭うのだ。鼻腔から頭までを満たす血の粘つく臭いと、
嗅覚を突き刺すようなアンモニア臭と糞尿の悪臭、それに混じる淫靡なメスの臭い。
何も知らずに入ってしまえば卒倒してしまうだろう。
それら全てを少しでも軽減させる為、彼らはマスクを装着しているのだ。
「どうやら、間に合ったようだな」
一人が口を開く。男の、年齢を感じさせる鈍い声だ。
49
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:54:19 ID:U5Z4bAHs0
「えぇ、急ピッチで苗床となる工程を進めていきましたから。
下手をすればこの"魂蟲"に肉も残さず食い殺されてしまっていたでしょうが、
被験体の肉体的強度と治癒力の高さのおかげで、どうやら成功しそうです」
次にしたのは女の声だ。
まだ若く、少々幼さは残るがどこか艶を感じさせる声である。
「実験中だったこの蟲が使えるとはな。
常人……いや"人間"であれば、恐らく一瞬で肉体を食らい尽くされていただろう。
俺達は良い拾い物をしたな。まだ人間でなくなってから日が浅く、上手く適応出来たようだ」
「これなら我々が聖杯戦争を勝ち抜くことも充分に可能だ。
後は、我々の命令通り動けるかどうかだが……」
「ご心配なく、三日三晩かけて私が催眠をかけましたから。
最も、この"化物"に魂蟲の苗床になった後、自我が残っていればの話しですが」
「残っておらずとも、他の六人のマスターを始末さえしてくれればいい。
聖杯が現われたところを蟲にこいつを殺させ、俺達が頂いちまえばいいのさ」
「そう言えば、残っていたと言えばこいつが持っていた魔術刻印、どうなったんだ?
欠片みたいなもので、魔術回路などは二割程度しか引き継がれてはいないようだったが」
50
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:56:30 ID:U5Z4bAHs0
「問題は無い、体内に入り込んだ魂蟲が魔術回路の代替物となり、
術に必要な魔術を送り込むことになるが、元々あった回路もそのまま使える。
水道の蛇口がいくらあろうとも、ダムに不都合は起きんよ」
「へぇ……なるほど。じゃあこの最終調整さえ終われば、
サーヴァントを召喚して化物を戦わせられるというわけか」
「そういうこと。呪文は催眠の時に刷り込んだし、やるべきことをやってくれるでしょ。
同じ"バーサーカー"同士、文字通り死ぬまで暴れ回ってくれるわ」
「そうなりゃ、俺達一族が根源への到達を成し遂げるってわけか……。
この土地で内藤と津出が聖杯を発見したって聞いてから、
潜伏しつづけた苦労もこれで報われるぜ。ここ、寒くて仕方がないんだよ」
「ふっふ、まだ気が早いぞ。……集中しろ、目を凝らして見ておくが良い。
そろそろ、最終調整が終わるところだ。目覚めるが良い、我らの美しき獣よ……」
最年長の者がそう言うよりが早いか、虫達に変化が起きる。
中心部へと集まるそれらが次々と吸収されていったのだ。
部屋で蠢いていた虫達の姿は徐々に消えていき、
やがて"苗床"となった化物の姿が露わとなっていくと……、
51
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:57:54 ID:U5Z4bAHs0
川 ) 「 」
「おぉ、四肢がついているぞ。五体満足だ」
部屋と同じ、闇色のドレスを見に纏ったその美しき化物が立ち上がり、
その様に彼らは感嘆の声を上げていく。
「なんだあのドレス。あれ、爺さんの趣味かい?」
「いや、あれは私の趣味。折角の私達の力作なんだから、
美しく着飾ってあげたいじゃない?」
「そんなことはどうでもよい、早くサーヴァントを召喚させるぞ。
サーヴァントの召喚は椅子取りゲームだ。急いで準備しろ」
慌ただしく動き始める彼らの目には、もうその化物は移っておらず、
サーヴァント召喚の儀式の用意をしていく。
川 ) 「……」
今まで意識を失い、覚醒したばかりの化物は、
自分の左手の甲に宿る赤々とした紋章を不思議そうに見つめる。
その視線はどこか煽情的で、"令呪"の放つ輝きに目を奪われているようだった。
聖杯戦争の為に精製されたこの最悪の怪物は、こうして札幌の地で目覚めたのだ。
52
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:02:25 ID:U5Z4bAHs0
******
円山は市街地に面していながら、そのほとんどの面積が山と、
原生林に覆われた自然の豊かな土地であり、北上すればそちらへ、
北東へと向かえば北海道の陸路の要である札幌駅へ向かう事も出来る。
自然と科学が混然一体となり、田舎的でもない都会的でもない、
小奇麗さと小汚さが相まって不思議な静けさを醸し出す土地だ。
原生林の中には公園があり、その入り口付近にはマンションが建てられていた。
そこの一室こそが魔術師、隠田ドクオの隠れ家が一つである。
髪も瞳も黒く、日系人らしい顔立ちをしていたが、
彼の浅黒い肌の色と独自の雰囲気には日本人らしからぬものがあり、
人種を判別させることは難しかった。
しかし170cm程の身長は平均的な日本人男性のそれで、
彼はオリーブドラブのモッズコートを羽織り、裾を悠然と翻して歩く。
前を開いたままのその姿は寒そうに思われるが、しかしどこか様になっている。
それがこの男の国籍の特定を難しくさせる要因でもあった。
53
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:03:54 ID:U5Z4bAHs0
('A`)ノ 「……」
ドクオはマンションの玄関へ辿りつくと、暗証番号を押してセキュリティーを解き、
ドアをくぐっていくと階段を登って目的の部屋に向かう。
二階の203号室であり、彼がそこを選んだ理由は戦略的に優位をとれるからだ。
二階ならばいざ襲撃を受けた祭も脱出するのに適し、外部の敵を早期発見することも可能で、
風の影響も上のフロアに比べて少ない。
最上階のほうが敵の索敵に優れるという意見もあるだろうが、
それならば屋上へ行けばいい話だ。それよりも、上階に居を構え、
万が一敵に火攻めをしかけられた時に脱出できなくては困る。
リスクを最小限に抑え、最大限のメリットを得るには、
ドクオの持論では二階がベストだったのだ。
聖杯戦争に挑むにあたって、彼に妥協は一切なかった。
あらゆる事態に備え、念入りに計画を立ててきた。
その最後の一押しが今日の"仕事"である。
ドクオは目的地の前に到達すると、ノックをした。
すると5秒と待たずに扉の向こう側から気配が生まれ、
「"愛国者は?"」
そう問われた。
唐突すぎる問いであり、要領を得ないものであるが……、
54
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:05:29 ID:U5Z4bAHs0
('A`) 「"らりるれろ"」
ドクオは迷わずに合言葉を答える。
すると素早く扉が開かれていき、
('、`*川 「……尾行は?」
女性が現われるなりそう尋ねた。
砂色の髪が美しい、緑色の目をした彼女は、
ドクオの仲間であるペニサス・イトーだ。
('A`) 「一切無い。追っ手は送られていないようだ」
('、`*川 「入って」
言って、彼を招き入れると周辺を油断のない眼つきで見回し、
そっと扉を閉めていった。
廊下をドクオは進んでいき、その背後にペニサスがつく。
168cmと女性として高身長の部類に入る身体はYシャツ姿であり、
白い生地からは豊かな膨らみが作られている。
鍛えられているのか引き締まった体型をし、
しなやかな筋肉を持ち合わせているのだが女性らしさも併せ持つ。
真の肉体美というのは、こういうことを言うのかもしれない。
('、`*川 「お帰りなさい、ボス。自分の目で現地を見てきて、どうだった?」
55
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:06:41 ID:U5Z4bAHs0
('A`) 「悪くない土地だ。都市開発されていながら自然も残っていて"マナ"が豊富だ。
これなら存分に魔術を行使することができるだろう。
高層建築物も多く、偵察も容易そうだ。……もっとも、お前達はもう知っているだろうが」
ドアを開くと、キッチンとダイニングが一緒になったそこは、
左手側がダイニング、右手側がキッチンとなり、ダイニングの中心にはテーブルが置かれ、
それを囲うようにソファーが配置されていて、テレビと向き合うようになっていた。
今、テーブルの上ではトランプが忙しなく動きまわり、
6人の男女がそれぞれカードゲームに興じている。
_
( ゚∀゚) 「おぉ! ボス、お帰り」
(゚、゚トソン 「お帰りなさいませ、ドクオさん」
( ^Д^) 「お帰り〜。 あ、革命で」
(;><) 「ちょ……! あ、あぁ、お帰りなさいなんですボス」
( ´∀`) 「お帰りモナ、ドクオ」
('A`) 「……楽しそうだな」
_、_
( ,_ノ` ) 「お前ら、手を止めろ。ボス、すまん」
('A`) 「いや、何も悪いとは言っていない。お前達もよく働いてくれたしな。
だが……なんだそれ? ポーカーじゃないのか?」
56
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:09:16 ID:U5Z4bAHs0
( ^Д^) 「日本のゲームでな、大富豪ってんだ。ボスもやるか?」
('A`) 「後でな、今は報告と会議が先だ」
ドクオが彼らにボスと呼ばれるのは、そのままの意味だ。
ペニサスを含め、口を開いた順からジョルジュ、トソン、プギャー、ビロード、
モナー、渋澤と言い、この七名はドクオにとって仲間でもあるが同時に部下でもある。
彼の興した、ある会社の社員なのだ。
社長に対して敬意の欠いた口振りをする者が多いが、
それは生死を賭けた場面を共に切り抜けてきた仲間である、という意識からくるもので、
ドクオもまた同じ認識をしていて、仕事以外で上下関係を強要したことはない。
仕事となれば彼らの行動は素早く、散らばっていたトランプを集めて、
姿勢を整えると一斉にドクオのほうを皆が見た。
('A`) 「まずはみんな、三ヶ月前からの潜入任務、御苦労だ。
お前達のおかげで魔術師が動いてる素振りを見せることもなく、
準備を進めることが出来、俺は"サスガブラザーズ"の追跡に専念出来た」
('A`) 「ありがとう。奴らを始末することで一つ席が空き、これで聖杯戦争に参戦出来る。
令呪もこの通りだ。俺はこれから、サーヴァントの召喚を行う。
ペニサス、例の物を持ってきてくれ」
('ー`*川 「了解」
笑みを作って応えた彼女は、ダイニングから姿を消す。
ペニサスが戻ってくるまでの間、
ドクオは改めて説明をしようと口を開く。
57
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:10:47 ID:U5Z4bAHs0
('A`) 「聖杯は魔力を溜めこみ、奇跡を引き起こすことを可能にする。
英霊の召喚はその膨大な魔力による奇跡の一端と言えるだろう。
俺達魔術師は聖杯に選ばれて令呪を得ることで、マスターになる」
('A`) 「令呪とは三画からなる聖痕のようなもので、サーヴァントへの絶対命令権を持つ。
命令は単純で短期なものであるほどその効力は強く、例えば遠く離れた場所から"来い"と命じれば、
瞬間移動をしたように即座に目の前に現われる。逆に、複雑で長期にわたるものほど令呪の効果は薄い」
('A`) 「一度令呪を使うと一画が消費されてしまう。三度限りの命令権だ。
これがあるからこそ魔術師は英霊を従えることが出来る。
自害しろ、と命じられればそれまでだ。だから英霊達はマスターに従う」
('A`) 「英霊は聖杯に呼びだされ、使い魔、サーヴァントになるが元は英雄だ。
気性の荒い奴もいればプライドの高い奴もいる、扱いは気をつけろよ。
それでだ、サーヴァントにはクラスというものがあって……」
そこでドクオはペニサスが戻ってきたことに気付き、言葉を区切った。
長々とした話しではあったが、これから行う戦いのこととあって、
仲間達は真剣な面持ちで聞いてはいるが、退屈しているに違いない。
58
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:11:48 ID:U5Z4bAHs0
('、`*川 「ボス、持って来たわよ」
ペニサスはそう言って、布に覆われた棒状の何かを両手でドクオに差し出す。
受け取ったドクオは包みを解きながら、再び口を開く。
('A`) 「サーヴァントにはクラスがあり、セイバー、ランサー、アーチャー、
ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーの七つだ。
俺がこれから呼びだそうとしているのは……」
布を全て払い去る。
そして、皆の前でドクオは掲げた。
現われたものは3m近くある槍であり、古びたそれは中世の英雄の愛槍であったものだ。
('A`) 「ランサーだ。この遺物で俺はある英霊を召喚する」
この槍を寄り代に使えば、確実にドクオの意中の英霊を召喚することが出来るだろう。
彼はその英霊を何故狙うのか充分に説明すると、この街の中でもマナが特に豊富であり、
人気の少ない原生林へと向かい、召喚の儀式の用意を仲間と共に始めていく。
PMC(傭兵企業)"インビジブルワン"を率いる魔術師、隠田ドクオ。
傭兵を部下として使うこの魔術師は、必勝の為の布石を打っていく。
59
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:13:05 ID:U5Z4bAHs0
******
その夜、聖杯戦争に挑むべく、
五人のマスターがサーヴァント召喚の儀式を開始する。
ある者は自宅にある魔術工房で―――――
( ^ω^) 「大丈夫、大丈夫だお。この聖遺物があれば、確実にあの英霊が召喚できる。
とーちゃんとかーちゃんに託された物、今こそ全て引き継ぐお」
ブーンは、自ら描いた召喚の陣と向き合い、集中力を高める。
魔方陣の中央には母より預かったあのサブマシンガンが設置され、
それを一瞥したブーンは頭の中で召喚の手順を反芻していく。
ある者は人気のない大地で―――――
(*゚ー゚) 「ギコくん……待ってて。今度は、私が力になるから……」
シィに願いなどは無かった。だが想いだけはある。
かつての恋人の力となるべく、病院からこっそりと拝借した輸血パックから血を垂らし、
魔方陣を描いていき、それを終えると万が一の為に用意しておいた聖杯戦争の文献をもう一度読みこみ、
召喚の呪文を間違えぬよう、しっかり脳へと刻む。
60
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:14:19 ID:U5Z4bAHs0
ある者は整えられた闇の中で――――
「いい? 貴女はこれからサーヴァントの召喚をするの」
川 -) 「……」
黒いドレスを見に纏う、かつて"クー"と名付けられた"化物"は、
召喚の陣に向かわされて、催眠に従ってサーヴァントの召喚に備えていた。
「魔方陣は用意した。後は狂化の一文を忘れずに挟むこと――――始めて」
女に指示されるがままに、化物は一度だけ頷くと、口を開いていく。
口ずさむのは召喚の呪文だ。
ある者は最もマナの豊富な場所で―――――
('A`) 「サーヴァントの召喚に大掛かりな術式は必要ない。
聖杯が魔力を供給してくれるから、魔術師は呼びだすだけだ」
そう語るドクオではあるが、魔方陣に手抜かりは無く、
彼はその出来に満足すると再び口を開く。
水銀を用いて作られた魔方陣へと向かい手をかざし、
('A`) 「どんな大魔術が使われるのか、と期待してたんだろうがな」
61
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:15:49 ID:U5Z4bAHs0
('A`) 「じゃあ、儀式を始めるぞ――――」
その言葉に部下達は首肯を返し、ドクオが呪文の詠唱を開始していく。
('A`) 「告げる」
( ^ω^) 「告げる」
(*゚ー゚) 「告げる」
川 -) 「告げる」
( ^ω^) 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に――――」
(*゚ー゚) 「聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ――――」
('A`) 「誓いを此処に。我は常世全ての善となる者、我は常世全ての悪を敷く者――――」
川 -) 「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
汝狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――――」
( ^ω^) 「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
呪文の結びをつけるとともに、ブーンは身体を流れる魔力の奔流を限界まで加速させた。
サーヴァントをこの世に導きだし、そして繋ぎとめる為に大量の魔力を必要とする為だ。
62
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:16:54 ID:U5Z4bAHs0
逆巻く風と稲光。
吹き飛ばされそうな風圧に耐えるブーンの前で、召喚の紋様が輝きを放つ。
魔方陣の中に出来た道はついに"あの世"へと繋がったのだ。
工房から溢れんばかりの光の奥から、現われ出でるものがある。
(;゚ω゚) 「成功……した?」
(<`十´>
それは――――白き戦闘服を纏う立ち姿。
(*゚ー゚) 「これが、サーヴァント……!」
|/▼)
それは――――純白のローブに防具を備えた男の姿。
川 -) 「……」
以#。益゚以
それは――――禍々しき輝きで黄金の鎧を曇らせた狂戦士の姿。
63
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 23:18:43 ID:U5Z4bAHs0
目,`゚Д゚目
それは、男の狙い通りの鎧武者の姿。
険しい眉間に荒々しさを感じさせる相貌は、
快活さを感じさせる笑みを一瞬見せ、膝を突く。
目,`゚Д゚目 「問おう。貴殿が拙者を招いたマスターか?」
全て思うがままにことが運び、達成感から笑い声の一つでも上げてもおかしくないのだが、
ドクオは憮然と己の召喚したランサーを見返し、仲間を見渡すと宣言した。
('A`) 「あぁ―――聖杯戦争を開始するぞ」
聖杯戦争の火蓋は切られ、夜が更けその第一日目が始まろうとしていたその時、
札幌の街に、どこまでも響き渡るような獰猛な雄叫びが放たれていった。
聞く者を恐怖させる獣の轟きに、不穏な空気が漂い始めていく中――――
――――聖杯戦争は、開始される。
64
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/02(月) 23:22:51 ID:U5Z4bAHs0
以上で第一話 聖杯戦争を開始する 投下終了です
本人証明の為にいちおう酉をつけておきます
それではまた次回に
65
:
名も無きAAのようです
:2012/04/03(火) 00:30:21 ID:UG..4.v20
フェイトか期待
乙
66
:
名も無きAAのようです
:2012/04/03(火) 01:26:00 ID:qUJcEhE.0
乙乙 楽しみにしております
67
:
名も無きAAのようです
:2012/04/03(火) 06:32:25 ID:1hwJ3nuEO
読みがいあって、かつ面白いよ
次回が待ちどおしいけれど
これだけ量があると次は1ヶ月後位になるのかな
68
:
名も無きAAのようです
:2012/04/03(火) 17:37:41 ID:Q6SmkjUY0
そうか、ブーンのサーヴァントはアーチャーか。
チート性能だな。
69
:
名も無きAAのようです
:2012/04/03(火) 17:46:15 ID:yHPsLwB.0
銃が聖遺物だしアーチャーだろうな
70
:
名も無きAAのようです
:2012/04/04(水) 00:09:30 ID:uqjNVnBk0
>>69
スオミを使う白装束は俺の知る限りチートアーチャー。
71
:
名も無きAAのようです
:2012/04/04(水) 06:30:52 ID:ERiRsyow0
まさか白い死神か?
舞台と言い、こりゃ勝負は決まったな。
72
:
名も無きAAのようです
:2012/04/05(木) 02:11:10 ID:02aRJQTM0
http://the99mmikd.blog.fc2.com/blog-entry-34.html
まとめさせていただきました
要望等あればお願いします
73
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:15:13 ID:nqepu3F.0
内藤家の一階には魔術の研究を行う工房があり、
今、そこに一騎のサーヴァントが召喚された。
(<`十´> 「問おう、お前が私のマスターか?」
雪原に擬態する真っ白なギリースーツを装備したサーヴァントは、
死神を連想させるマスクを覆った顔をブーンへと向けて尋ねた。
(;^ω^) 「そ、そうだお……僕が君のマスターだお」
150cm代と大柄のブーンと比べると酷く小柄な体型だったが、
それでもサーヴァントの放つ威圧感に彼は気圧されてしまい、
とっさに平静を装ったものの声が上ずってしまう。
(;^ω^) 「き、君は……アーチャーで間違いないのかお?」
(<`十´> 「如何にも」
(;^ω^) 「第二次世界大戦で、沢山人を―――」
ブーンは彼の生前について全く知らなかったのだが、
母親に教えられていたためその活躍ぶりは把握していた。
しかし、ブーンは争いを好まず戦争に嫌悪もしている。
大戦で戦った英雄に対して、そんな彼は抵抗を持たずにいられない。
74
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:16:16 ID:nqepu3F.0
(<`十´> 「マスター、一つ言っておくが。
私は命じられたことを可能な限り最大限に遂行しただけだ」
それを察したのか、言葉を遮ってアーチャーは先手を打つ。
(;^ω^) 「で、でも……」
(<`十´> 「私達の生きる時代ではそれが正義だった。
銃を取らねば、何も守れなかった。それだけだ」
(;^ω^) 「……」
つい出してしまった言葉に後悔しかけるが、
それでもブーンは戦争というものを肯定することは出来なかった。
……それは、これから聖杯戦争を戦う自分への否定でもあったのかもしれない。
(<`十´> 「マスター、名前は?」
ブーンが口籠ってしまったことで生まれた沈黙を破ったのは、
アーチャーの問いであった。
75
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:17:13 ID:nqepu3F.0
( ^ω^) 「僕は、内藤ホライゾン。みんなブーンって呼ぶからブーンでいいお」
(<`十´> 「ふむ……ブーンか。お前の口振りから見るに、私の名は知っているようだな。
ならば、あえて名乗らん。顔を合わせることもそれほどないだろうしな」
(;^ω^) 「え……え!?」
アーチャーの何気ない言葉に、ブーンは驚愕した。
自分の言葉がどこまで彼を傷つけたのだろうかと心配するが、
(<`十´> 「む? 勘違いするな。お前の言葉に私は何の感慨も浮かばない。
戦略的な問題だ。お前は聖杯戦争が終わるまでここで隠れていればいい。
私が6人のマスターもサーヴァントも、全て仕留めてこよう」
(;^ω^) 「い、いや! それは!!」
(<`十´> 「マスターが死ねばサーヴァントに魔力供給がされなくなる。
お前に死なれたら、私が困るのだ。だから、外に出歩かずここで隠れていろ」
(;^ω^) 「そんな甘いはずがないお! 6人を相手に君1人で立ち向かえるわけ……」
76
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:19:45 ID:nqepu3F.0
(<`十´> 「一度に相手にするわけではない。ゲリラ戦は私の得意手だ。
もしものことがあれば私はマスターを援護するが……足手まといだ、お前は」
(;^ω^) 「……!」
正直に、包み隠しもせずにアーチャーに言われ、
ブーンは自分の足場が崩れ去ったような感覚を覚えた。
口から否定の言葉が出かけるが……、
(<`十´> 「違う、とは言わせぬぞ? どう見てもマスターの眼は戦う者の眼では無い。
胸の内に、何か決めたことはあるのだろうが……戦いへの迷いも見えるぞ?」
ブーンは父であるシャキンの真意を知り、迷いを断ち切れたつもりでいたのだが、
アーチャーの問いにブーンは自信を持てなくなってしまったのだ。
元から、それは一過性のものでしかなかったのかもしれない。
いずれ壁にぶつかれば、脆くも崩れ去るだけの貧弱な覚悟だったのかもしれない。
しかし、"根源への到達"を"人々の為"に成そうとしていたのは、間違いなく彼の意思だ。
(;^ω^) 「……」
彼の意思に違いは無かったのだが、揺らいでしまった。
揺らいでしまったブーンはアーチャーに反論出来なかった。
77
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:25:12 ID:nqepu3F.0
(<`十´> 「どこに不都合がある? お前は手を汚さずに聖杯を手に入れられる。
私はかつての大戦と同じように、可能な限り最大限に任務を遂行するだけだ」
(;^ω^) 「君一人じゃ……勝てないお」
(<`十´> 「マスターと一緒じゃ私は勝てん」
サーヴァントにも聖杯に託す願いがある。
だからこそ英霊の座より現世への召喚に応じるのだ。
叶えたい願いを、中途半端な覚悟で戦いに臨むブーンに妨げられるよりは、
己の腕を信じそれだけで聖杯戦争に挑むほうが、アーチャーにとっては堅実だった。
(<`十´> 「ではな、マスター。何かあれば令呪で呼ぶがいい」
そう言ってアーチャーは霊体化していき、姿を失っていくと、
(;^ω^) 「アーチャー!!」
文字通り、ブーンの前から消えてしまった。
令呪と魔術回路は繋がっており、まだ彼が近くにいることは理解できたが、
ブーンの呼ぶ声にアーチャーが応えることはなかった。
78
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:27:12 ID:nqepu3F.0
******
|/▼) 「問おう、汝が我を召喚せしマスターか?」
人気の無い円山の中腹で魔方陣を敷いたシィは、
儀式の際に莫大な魔力によって吹きすさんだ疾風が止んだかと思うと、
静まり返った夜闇の中心で、眩いほどの白さを放つローブを顔を覆うように纏った男に問われる。
(*;゚ー゚) (これが、サーヴァント……)
自らが行使した魔術が成功し、見事サーヴァントの召喚を成し遂げた高揚感に一瞬浸るが、
男の身から感じられる魔力の濃さに対する驚きのせいで、それは心の端へと追いやられてしまう。
(*;゚ー゚) 「えぇ、そうよ」
しかし、どれだけ高等な存在であっても所詮は使い魔である。
術者に行使される側である彼に、シィは魔術師らしく毅然とした態度で応えるが、
規格外の魔力量に尻ごみする気持ちは抑えられなかった。
|/▼) 「我は聖杯の招きに従い、"英霊の座"より現世へ"アサシン"のクラスを得て参上した」
アサシン。
気配遮断スキルを持ち、姿を見せず、気配も感じさせずにマスターを暗殺する、
名の通り暗殺者の英霊が就くクラスである。
79
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:27:58 ID:nqepu3F.0
正面切っての戦闘では、他のクラスに比べステータスで劣り不利ではあるが、
マスターが上手く暗殺者としての本領を発揮させてやれれば、充分に勝ち残っていけるクラスだ。
サーヴァントはマスターの魔力供給により現世に姿を留めることが出来、これを"現界"と言う。
マスターから魔力を与えられない限り、自力で補給することの出来ないサーヴァントは姿を保てず、
聖杯を手にすることは叶わずに消滅する羽目になる。
そこに、アサシンが付け込む隙があるのだ。
サーヴァントのステータスはいくら低くとも、人間が彼らに敵うことはない。
闇に溶け込みマスターを狙うアサシンは、聖杯戦争において魔術師の天敵と言っていいだろう。
(*゚ー゚) 「アサシン……」
しかし、セイバー、アーチャー、ランサーの"三騎士"と呼ばれるクラスには、
圧倒的にステータスで劣っていることに変わりは無い。
シィはいざ敵に襲われた際、このアサシンが撃退することは出来るのだろうかと不安を抱く。
姿を見せず暗躍すればいいのだが、何らかのアクシデントに見舞われ、
襲撃されてしまった場合はかち合いに弱いアサシンは頼りがいが無かった。
(*゚ー゚) (でも、ギコくんと合流できれば……)
しかし、アサシンほど情報収集能力に長けたサーヴァントもいないだろう。
戦闘面では役に立てないかもしれないが、ギコとさえ合流出来れば心強い戦力になるに違いない。
マスター殺しのサーヴァント、アサシンとギコのサーヴァントがいれば、
もはや敵はいないだろうとシィは考え直していき、安堵の息をひとまず吐いた。
80
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:28:57 ID:nqepu3F.0
|/▼) 「なんだ、俺じゃあ頼り無いのかいお譲さん?」
先程の硬い口調とは打ってかわり、やけに砕けた声でアサシンが尋ねる。
(*゚ー゚) 「いえ、そんなことはないわ。貴方ほど便利なサーヴァントはいないもの。
英霊の前で溜息なんて失礼だったわね、ごめんなさい」
|/▼) 「良いんだ、ステータスの低さには些か俺も不満を覚える。
生きていた頃ならばこの程度の身体能力じゃあなかったんだが……」
(*゚ー゚) 「あら、残念ね。英霊になる前のほうが強かったの、貴方達は?」
|/▼) 「あぁ、現地での知名度やマスターとの相性など、
様々な要因によって英霊は能力を限定され、サーヴァントとして召喚される。
残念でならない、貴女のような女性に俺の全てを見せてやれないとは……」
フードの端から窺える口元を緩めたアサシンはシィの前で跪くと手を取り、
その甲へと静かに口づけていった。
(*゚ー゚) 「貴方、本当にアサシンなの……?」
シィが疑問に思うのも無理はない。
アサシンという割には服装は白いローブとよく目立ち、
何より、その振る舞いが彼女の想像していたアサシンの印象とはかけ離れていた。
|/▼) 「あぁ、アサシンさ。アサシン教団の長、ハサン・サッバーハの名を受け継いだ者の一人」
81
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:30:31 ID:nqepu3F.0
(*゚ー゚) 「アサシンってもっと寡黙なイメージだったんだけど……。
まぁ、いいわ。ステータスを見る限りアサシンであることは間違いないしね」
マスターとなった者にはサーヴァントのステータスが視えるようになる。
目に映る、というよりは意識に直接情報が刻まれてくるような感覚に近い。
これは敵のサーヴァントにも同様であり、"真名"や"宝具"といった例外以外は開示される。
シィの意識に、アサシンの保有するスキルとステータスが映し出されていく。
【クラス】 |/▼)アサシン
【マスター】シィ・C・ルボンダール
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男性
【身長体重】
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 魔力D 敏捷A 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
【保有スキル】投擲(短刀):B
短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。
風除けの加護:A
中東に伝わる台風避けの呪い。
【宝具】???
82
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:31:17 ID:nqepu3F.0
得た情報は記憶の片隅に記録され、意識すればいつでも見ることが出来る。
シィはアサシンのステータスを見るのを止めると、次に取るべき行動を命じていく。
これが、聖杯戦争が開始して初めての二人の作戦行動となる。
(*゚ー゚) 「アサシン、早速やって貰いたいことがあるの」
|/▼) 「何なりと、マスター」
跪いたまま、アサシンは演技っぽくそう応えた。
どうやらこのサーヴァントは主従の関係の通り動いてくれるらしい。
シィはそれに安堵して、彼を真っ直ぐに見据えて告げる。
(*゚ー゚) 「この写真の男の人を捜し出して」
そう言ってアサシンに見せたのは、
『 (,,゚Д゚) 』
かつてのギコの写真だった。
まだ少し幼さの残る顔立ちではあるが、眼には厳かな光が宿っている。
(*゚ー゚) 「昔の写真だけど、顔立ちはそれほど変わっていないはずよ。
私達が勝ち残るには、彼と合流しないといけない。重要な仕事よ」
|/▼) 「……」
アサシンはその眼を見ただけで、生前の経験から、
この少年は腹に何かを抱え、自らに十字架を科して死地に赴いていく、
試練に生きる人間であることを察した。
83
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:32:01 ID:nqepu3F.0
が、特に何かを語るわけでもなく、口の端を少し緩めると、
|/▼) 「了解だ、マスター」
ただ、それだけを言葉にして跳躍の姿勢を取ったその時、
「―――――――――ッ!!」
|/▼) 「ッ!」
夜の市外の静けさを打ち破る、地の果てにまで轟くような、
凶暴すぎる獣の雄叫びが二人の身を震わせた。
(*;゚ー゚) 「な、なに!?」
|/▼) (この空気の震え方、近いな……)
聞く者の恐怖心を煽るそれにシィは狼狽し、アサシンの表情は強張っていく。
先に判断を下したのは、マスターよりも実戦経験の豊富なアサシンの方だ。
|/▼) 「マスター、仕事は取りやめだ。安全な場所まで逃げるぞ」
(*;゚ー゚) 「敵がいるの……!?」
唐突に知らしめられた敵の存在にシィはただ動揺するばかりだ。
……ここのマナの豊富さが敵の魔力を紛れこませていたの?
やっと敵を察知したシィは冷静に分析していくが、
今はそんな悠長に構えていられる場合では無い。
84
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:33:03 ID:nqepu3F.0
(*;゚ー゚) 「何なのこの魔力の量、尋常じゃない! 一体何を召喚したっていうのよ……!」
|/▼) 「相手が何だろうが関係ない。早く逃げろ。
サーヴァントが近付いてきていることだけは確実だ!」
(*;゚ー゚) 「そ、そうね! わかったわ」
シィは言葉と同時に力強く一歩踏みこんだが、アサシンはその場から動こうとはしない。
数メートル程駆けたあたりで気がつき振り返ると、
「止まるな、そのまま走り続けていけ。俺は奴を食い止める」
両刃剣を背負った純白のローブの背はそう応える。
(*;゚ー゚) 「食い止めるって、貴方のステータスで大丈夫なの!?」
何度も言うように、アサシンのステータスでは三騎士に遥かに劣る。
もし相手のサーヴァントが三騎士であれば生還は絶望的だ。
「良いから、俺を信じて背を向けろ。大丈夫だ。
撤退するアサシンを追跡できるサーヴァントなどそうはいまい」
そんな不安要素を一切感じさせぬ、絶対的な自信を持った声で背は語る。
85
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:33:56 ID:nqepu3F.0
(*;゚ー゚) 「そ、それもそうね……危なくなったらすぐに逃げるのよ! 絶対よ!!」
「分かっているさ、マスターは自分の身を心配していればよい。行け」
白衣のアサシンは落ちつき切っていた。
数多くの修羅場を超えてきた経験がそうさせるのだ。
暗殺者と言えども英霊である。状況の判断においては彼の方が一枚も二枚も上手だった。
言葉通り、自分の安全を優先することにしたシィは踵を返す。
「一つ聞き忘れていた事があったな、マスター」
(*;゚ー゚) 「何!?」
「俺は名乗った。だが、貴女の名は何と言うんだ、マスター?」
こんな時に、とシィは舌打ちをしたくなったが、
アサシンの声はどこか軽々しいものでも不快さは感じられず、
むしろ自身の緊張がほだされて表情が緩んでいった。
(*゚ー゚) 「シィよ、シィ・C・ルボンダール。それが、貴方のマスターの名前」
「シィか。では、次に会うまでに覚えておこう。行くが良い。
この場はアサシンのサーヴァント、ハサン・サッバーハが受け持った」
アサシンが言い切るよりも早く、木々の砕けていく音が鳴り響き、
「――――――――――ッ!!」
雄叫びが近づいてきた。
86
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:35:33 ID:nqepu3F.0
本能的に、恐怖が命ずるままにシィは逃げ出していき、
アサシンは背中にかけていた鞘から大振りの両刃剣を引き抜く。
構えと激突はほぼ同時であった。
|/▼) 「くっ……」
フードに隠れた表情は想定以上の一撃の重みに歪んでいく。
以#。益゚以 「――――――――ッ!!」
彼に襲いかかったのは憤怒とも狂気ともつかぬ、
人と言う枠組みから外れた形相をしたサーヴァントだった。
美しいはずの装飾を禍々しき闇色で曇らせた鎧兜を纏い
髪を血の色に染めて逆立たせたその男からは、英霊という風格が感じられない。
|/▼) 「"バーサーカー"か……面白い!」
召喚時に狂化を施し、理性が無くなる代わりにステータスを底上げされるクラス。
アサシンは一合打ち合って感じた剛力と狂気から、バーサーカーのサーヴァントであると察した。
真紅の瞳が彼を射抜き、目の前の"物体"を破壊するべく狂った英霊は剣を振りかぶる。
その一刀もかつては名剣と呼ばれた逸品であったのだろうが、
現世に狂化されて現われたことで輝きは失われ、
魔剣とでも呼ぶべき凶刃となってアサシンを襲う。
87
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:36:37 ID:nqepu3F.0
膨れ上がった筋肉を持つ巨体から繰り出す一撃は、
頭をかち割るべく真上から振られていく。
力任せの一撃だ。
単純ではあるが速度と威力には優れ、アサシンは迷わず避けた。
刹那、アサシンがいたはずの地面が爆撃でもされたかのように膨れ上がり、
石と土が重々しい音を立てて宙へと爆ぜる。
飛び上がったアサシンは木の幹へ着地するが、
|/▼) 「ちぃ……完全に避けてこれか」
屈むと同時に右肩から下腹部へかけて亀裂が走り、血が噴出した。
バーサーカーの剣圧によってカマイタチが生じ、肉を断たれたのだ。
最初に防いだ一撃も全身の骨を軋ませており、彼は確実にダメージを蓄積していた。
以#。益゚以 「――――――――ッ!!」
だが、そんなこともお構いなしにバーサーカーは次の攻撃へと移り、
振った刃を返してアサシンの足場となる木を吹き飛ばす。
人間の力では決して折れぬであろう大樹は小枝のように呆気なく圧し折れ、
夜空に投げ出されたアサシンは超人的な身のこなしで体勢を立て直すと、
別の木に飛び移って敵を見直す。
以#。益゚以 「グゥゥゥウゥゥゥゥゥ……」
呻りをあげる狂気のサーヴァント。
そして暗殺者のサーヴァントの両者は一拍の間睨み合う。
88
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:38:31 ID:nqepu3F.0
|/▼) 「動く者は全て殺す、とでも言いたげだな。意思も残ってはいまい」
以#。益゚以 「――――――――――ッ!!」
先に動き出したのはバーサーカーだ。
見失った獲物を捉えて、彼が襲いかからない理由は無い。
アサシンはその短絡な行動に苦笑するが、
ステータスの差は埋めようがなく、劣勢に立たされていた。
バーサーカーは、アサシンに止めを刺すべく咆哮をあげて突進していく。
|/▼) 「単純で狩りやすい。が、今は足を止められれば充分。
ついでだ、貴様の真名――――探らせて貰うぞ!!」
それでも、彼の余裕は崩れなかった。
真っ正面から突っ込んでくるバーサーカーへ短刀を投げかけると同時、
アサシンは跳躍して背後を取っていった。
金属のぶつかり合う閃光と、叩きつけられる暴力の爆音が夜の円山で炸裂し、
聖杯戦争の初戦を飾るアサシンとバーサーカーの戦闘は白熱していく。
89
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:39:32 ID:nqepu3F.0
******
川 -) 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公―――」
闇の中で言葉が響く。
川 -) 「降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
暗闇に満たされた室内の中央には魔方陣が刻まれ、
黒のドレスで着飾った長髪の女性は、令呪の宿る左手を前へとかざし、
言葉―――呪文を口ずさみ続けている。
川 -) 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
呪文に触発されるように蟲の血で形成された魔方陣は輝きを放っていき、
部屋を赤く照らしてどこからともなく疾風が舞い込む。
その様を、ローブで身を包んだ男女が見守っていた。
ある者は興奮気味に、ある者は興味深く、ある者は願うように。
川 -) 「――――告げる」
彼らに"化物"と呼ばれる女性は体内を異物が巡っていく感覚を得る。
苦痛ではあるが、魔術を行使する上でそれは避けられないものだ。
逆に、その感覚がどれだけ魔力を練り上げられているか測る指標にもなる。
90
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:40:36 ID:nqepu3F.0
赤々と輝く魔方陣は不可思議な力を発していき、
陣内を稲光が走っていった。
聖杯が数十年もの年月をかけて蓄積してきた大魔力が注がれ、
この世と"あの世"を隔てる壁を打ち破り、かつての功績や伝説から集めた信仰により、
人間霊から精霊の粋にまで昇華された英霊を"英霊の座"より呼びだそうとしているのだ。
川 -) 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
聖杯の強大なサポートを得ながら化物は英霊を現界させるべく、
己の体内から練り上げた魔力を魔方陣へ与え続けていく。
色香を漂わせる口から紡がれる呪文に応え、
英霊召喚の予兆はより一層激しくなり、風は暴風へ変化し、
稲光も強烈さを増して莫大な熱を撒き散らす。
川 -) 「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
この場を包むのはもはや闇では無く、青と赤の閃光だ。
測り知れぬエネルギーが部屋を満たしていき、それは最高潮へと達する。
91
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:41:36 ID:nqepu3F.0
川 -) 「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―――」
そして召喚されるサーヴァントの理性を奪うかわりにステータスを上げる、
"狂化"の一文を付け加えると、
川 -) 「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」
川 -) 「天秤の守り手よ―――」
これまで込められ続けてきた魔力が堰を切った濁流の如く流れて行き、
その奔流がひときわ鮮烈な光を放つと人影が現われた。
あまりにも刺激の強すぎる閃光に多くの者は目を覆ったが、
川 -) 「……」
マスターである、この美しき化物だけは真っ直ぐに人影を見据えた。
以#。益゚以 「……」
光が散っていき、その姿が露わとなると、
ローブの男女は息を飲み、次いで歓喜した。
「成功だ! 流石は"吸血鬼"と言ったところか。
これで我が一族の大望をやっと果たせる」
92
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:42:33 ID:nqepu3F.0
川 -) 「……」
「すっげぇ! これがサーヴァントかよぉ!!
さっそく暴れさせようぜ! こいつならやれるよ!!」
以#。益゚以 「……」
しかし、彼らとは対照的にサーヴァントとそのマスターは、
不気味なまでに沈黙していた。
「まぁ、待たんか。まずは情報の収集じゃ。
ただ暴れさせるだけでは勝てるものも勝てん」
互いを見やる二人をよそにローブの男女は作戦を立てていくが、
「そうね、じゃあ"クー"。バー―――」
川 ∀) 「……」
"クー"という化物の笑みが全てを壊した。
「――――――――ッ!」
ローブの男の胴から上が、突如として振るわれた片刃剣に消し飛ばされたのだ。
彼らは息を飲み込み、剣の持ち主であるバーサーカーは、
闇と狂気に染まった黒刃を再び振りかざしていき、
「―――――――――」
断末魔を上げる間も無くまた一人がその餌食となった。
93
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:43:27 ID:nqepu3F.0
「どういうことだ!? 早く化物を鎮めろ!!」
生き残った二人の男女の内、まだ若い男がそう叫ぶと、
呆気にとられていた女は慌てて"化物"へと魔術を行使する。
「嘘……暴走!? 催眠が効いていないっていうの!?
そんな、意思なんて欠片くらいしか――――」
しかし、女の言葉は途中で途切れてしまう。
男が、バーサーカーに殴り飛ばされて壁に激突すると、
全身の骨を肉ごと粉砕されてしまったのだ。
息を飲み、潰れたトマトみたいになった男を看取った彼女は、
川 ∀) 「……」
振り返ると、口の端を釣り上げて禍々しい笑みを作ったクーに目を奪われた。
彼女がローブの女へと飛びかかったのだ。
押し倒され、馬乗りになったクーへ女は手をかざし、生き延びる為に魔術を行使した。
「ひぃ……っ!」
これまでにない程の集中力だった。
まるですがるかのようにクーにかかった催眠を強めるが、
常人であれば廃人になりかねない強制力もクーには何の変化ももたらさない。
94
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:44:16 ID:nqepu3F.0
川 ∀) 「シネ……シネェ!!」
無駄だというのに魔術を使い続ける女の首を、クーは両手で締めあげた。
嗚咽を漏らし、口から唾液をしたたらせて悶える女を心底面白そうに見つめるクー。
舌舐めずりをしてから、クーは女の首筋に大口を開けて食らいついた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
肺が張り裂けんばかりの悲鳴を女が上げるが、
首に穴があいてしまった為にやがてそれはただの酸素となって漏れ出し、
息の根と共に止まっていった。
租借の度に女体が震え、淫猥な響きをもって血肉を散らしていく。
今のクーの胸にあるものは喜びだ。
空腹が満たされる食欲から与えられる幸福感を味わっていた。
人のそれと変わりない食欲を、クーは女の命を貪ることで満たす。
川 ゚∀゚) 「アッハッハッハッハッハ! マズイィ! マズイナァ!!」
骨の髄から血の一滴に至るまで貪り尽くしたクーは、
残った死体に唾を吐き捨てるとバーサーカーを一瞥した。
以#。益゚以 「……」
95
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:45:10 ID:nqepu3F.0
川 ゚ -゚) 「オマエモハラガヘッテイルダロウ、バーサーカー?」
声帯が人間の構造と違うのか、壊れているのか、
それとも精神の狂いのせいなのか、クーの声はどこか歪だ。
以#。益゚以 「……」
バーサーカーは沈黙を守っていた。
彼には狂化が施されている為、理性は残っていない。
マスター以外の存在を全て粉砕するだけの暴力の塊。
それが、今回の聖杯戦争で召喚されたバーサーカーというサーヴァントだった。
川 ゚ -゚) 「イクゾ、バーサーカー。ショクジヲシニイコウ」
以#。益゚以 「――――――――――――――ッ!!」
クーの言葉を命令と受け取ったのか、
バーサーカーは雄叫びを上げると剣を一度振るい、
天井をぶち破ってこの場を包む闇を晴らしていった。
天井に出来た穴からは夜空が覗けた。
そこから差し込む美しい月光がスポットライトのようにクーを照らしていき、
木々に覆われた景色を魅せていく。
どうやら、ここは山中に作られた地下施設のようであった。
96
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:45:58 ID:nqepu3F.0
跪いたバーサーカーはクーを肩に乗せると再び咆哮し、
外へと向かって飛び出していく。
川 ゚ -゚) 「ツギハオイシイモノヲタベヨウ。キットタノシイゾ、バーサーカー」
狂化のステータス向上の恩恵を受け、膨れ上がった筋肉に覆われた巨体を、
闇に染めたサーヴァントへとそう語りかけるクーに、
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
応えるかのようにバーサーカーは獣じみた雄叫びを上げた。
そして彼は、空中から何者かを発見するともう一度叫ぶ。
|/▼)
応答ではなく、己の敵を発見した歓喜の咆哮を上げるバーサーカーは、
地に着地してクーを肩から降ろすと、その者へと向けて一目散に駆けだしていった。
川 ゚∀゚) 「ヌケガケナンテズルイゾ、バーサーカー」
その背を狂った笑みを浮かべて見送るクーは、ゆっくりと同じ方向へと歩き出す。
97
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:46:42 ID:nqepu3F.0
******
木々を震わす獰猛な叫びと連続して響き渡る破壊の音。
サーヴァントを召喚して間もなく、穏田ドクオ達は異変を感じていた。
('A`) 「こいつは……」
目,`゚Д゚目 「敵のサーヴァントに違いあるまい」
山道の外れにある広いスペース。
雪の敷き積もったその中心には土が露わとなった円形の部分があり、
そここそがドクオのサーヴァント"ランサー"が召喚された場である。
不自然に雪が融け上がって出来たクレーターに立つランサーは、
漆黒に塗られた当世具足と呼ばれる軽装の鎧を装備し、
肩には黄金で出来た数珠をぶら下げており、武者然としていた。
鹿の角を模した装飾のある兜をかぶった顔は、
敵の存在にさして脅威を感じていないのか威風堂々である。
同じくらいの目線に立つドクオを威厳に満ちた瞳で見据えたランサーは、
目,`゚Д゚目 「我が主よ、下知を。我が槍にて敵の首級を上げてみせようぞ」
そう指示を乞う。
冷静な声とは裏腹に、胸中では早速現われた敵との戦に燃えている様子だ。
98
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:49:40 ID:nqepu3F.0
('A`) 「いや、霊体化していろ。ランサー」
しかし、ドクオはそれを制する。
ランサーは少々面食らったようで抗議した。
目,`゚Д゚目 「むう、何故で御座るか? 拙者の力量を信用出来ぬとでも?」
('A`) 「違う、お前の強さは分かっている。敵の情報を探りたいだけだ。
相手がどんなサーヴァントか、どんなマスターかもわからないんだぞ?」
目,`゚Д゚目 「しかし、それは相手も同じことであろう。
兵は神速を尊ぶという。先手を制すれば優位であることに変わりない」
('A`) 「孔子か? 敵を知り、己を知れば百戦危うからずとも言うぞ。
先手を制しても、仕留め切れなきゃ意味がねぇ」
目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孔子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」
('∀`) 「フフ……まぁ、そんなとこかな? 」
目;`゚Д゚目 「なんと! いやこれは失礼致した!」
('A`) 「いや、いい。今回は情報収集に専念だ。
可能であるならば敵の排除を行う」
99
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:52:31 ID:nqepu3F.0
目,`゚Д゚目 「承知! では霊体化し偵察へ……」
('A`) 「行かなくて良い。偵察ならこいつらでやる」
親指を背後へ向けてドクオが言うと、ランサーはそちらへ振り返る。
視線を向けた先には、
('、`*川
_
( ゚∀゚)
(゚、゚トソン
( ^Д^)
( ´∀`)
( ><)
_、_
( ,_ノ` )
7人の仲間―――PMCインビジブルワンの傭兵達が武装しており、
あらゆる場所で一定の偽装効果を持つ、デシタルカモフラージュを施した迷彩服を着こんでいた。
手にはそれぞれ短機関銃や対物狙撃銃が構えられ、戦闘の準備は万端である。
100
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:53:48 ID:nqepu3F.0
目,`゚Д゚目 「これが貴殿の臣下で御座るか?」
('A`) 「まぁ、そんなとこか……」
('、`*川 「違うでしょ、ボス。私達は同志でしょうが」
( ´∀`) 「いや、ドクオの会社の社員である手前、
そう言っても変わりないんじゃないかモナ?」
_
( ゚∀゚) 「ボスがトノサマ? チョンマゲ似合わねーんじゃね?」
(゚ー゚トソン 「ぷっ、言えてますね、それ」
_、_
( ,_ノ` ) 「お前ら、軽口叩くな。ボス、今使い魔に敵を追跡させている。
アンタがサーヴァントと話している間に放っておいた。映像を見てくれ」
渋澤が談笑し始めた彼らを制すと、ドクオに小型のノートパソコンを渡した。
画面には使い魔に取りつけたCCDカメラから送られる映像が流れていて、
複数のブラウザが立ち上がっていることから、駆り出された使い魔が一匹だけではないことがわかる。
('A`) 「おっ、気が効くな。仕事が早い」
('、`*川 「こっちでの潜伏生活が始まってから、非常時に備えてすぐ偵察出来るように、
色んなところに仕掛けておいたのよーボスー」
('A`) 「お前達にも魔術を教えておいて良かったな、助かる」
言いながらも画面に目を走らせたドクオは、白いローブのサーヴァントと、
黒く禍々しい鎧を着こんだサーヴァントとの戦闘を眺めていく。
場所は、恐らくはこちらとは反対側の森の中だ。
101
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:54:30 ID:nqepu3F.0
('A`) (粉塵で見えんが……黒いのは恐らくバーサーカー。
さっきの叫びもこいつのものだろう……が、こいつはなんだ?)
彼が疑問に思ったのは白いサーヴァントだった。
純白のローブで身を覆い、フードに隠れて顔は見えず、
軽装な防具を装備して両刃の大剣を構えてはいるがセイバーには思えない。
ならば、俊敏な身のこなしや短剣を投擲して戦う姿からアーチャーの可能性もあるが、
宝具を使用せずに戦闘しているライダーかもしれない。
いずれにせよ、既に召喚されているランサーとバーサーカー以外のクラスには間違いないが、
どのクラスであるか断じるには情報が少なすぎた。
電子機器越しにはサーヴァントのステータスが見られないことが悔やまれる。
('A`) (……今はこいつらよりも)
ドクオは別の窓へ目を移していく。
サーヴァント達の戦闘よりも重要な映像を見つけたのだ。
【 (*;゚ー゚) 】
白いダウンジャケットを着た薄ピンクのニット帽の女性だ。
帽子からはみ出した栗色の髪や雪のような肌から白人であることは明白である。
そして、右の手に宿る令呪を目敏く見逃さなかった。
102
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:55:37 ID:nqepu3F.0
('A`) 「こいつがマスターだな」
その言葉にインビジブルワンの傭兵達は目をギラつかせると、
己の標的を見定めて"部隊長"であるドクオに指示を乞う。
_、_
( ,_ノ` ) 「ボス、指示を」
('A`) 「恐らくはこいつが白いやつのマスターだ。
バーサーカーに襲われ逃走中、ってとこだろうな。
バーサーカーのマスターが見えないのが気にかかるが、マスターには違いない」
('A`) 「このマスターの位置と動きから察するに、
西から下山してそのまま10丁目方面に逃げ込むつもりだな。
俺とジョルジュが追跡する。お前達は――――――――」
ドクオは情報をまとめ、仲間達へと指示を下していった。
目,`゚Д゚目 「どれ、我が主の手並みを拝見させて頂くかのう……」
103
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:56:26 ID:nqepu3F.0
******
(*;゚ー゚) 「はぁ……はぁ……っ」
シィは走っていた。
アサシンにその場を任せて逃走し、既に10分ほどが経過している。
その間一切速度を落とさずに全力で走り続けることで、
剣を交える金属音は途絶えたが、未だに木々を破壊する爆音は耳に届く。
(*;゚ー゚) (アサシンは大丈夫なのかしら)
森を抜け、市街に面した場所に到達したシィは、
ようやくサーヴァントの身を案じる余裕が生まれた。
背後を振りかえり山を見渡すと、土煙が立っているのが目立ち、
それは一般人には微かな変化にしか思われないだろうが、
彼女にはそこでサーヴァント同士の剣劇が繰り広げられていることが分かる。
(*;゚ー゚) 「アサシン、早く戻ってきて」
アサシンは充分に時間稼ぎの役割を果たした。
後は撤退し、シィの元に戻るのみだ。
サーヴァントを召喚した以上戦いの権利を放棄しない限り、
シィは狙われ続けることになる。
バーサーカーから逃げおおせたと言ってもアサシンが彼女の傍にいない以上、
残る5人のマスターに狙われた場合成す術も無く殺されてしまうだろう。
そんな状況で夜の街を歩くのは、シィには危険極まりない行為であった。
104
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:57:24 ID:nqepu3F.0
(*;゚ー゚) (とりあえず、どこかに隠れていなきゃ)
そう思ったシィは止めていた足を動かし、ひとまずどこかに隠れることにした。
魔術を使っているところを一般人に見られるのは、魔術師にとって禁忌である。
もっとも"証拠"さえ残さなければ問題はないのだが、人混みとあってはそうもいかない。
だからシィは、深夜でも人の多い場所を探して歩き続けた。
ビルの林立する10丁目通りを歩き続け、アスファルトに積もった雪に足跡を刻むシィ。
彼女は交差点に迫るとまだ灯りのつく場所を見つけた。
ほとんどの店はシャッターを降ろしていたが、
まだコンビニや一部のファーストフード店は開いている。
(*゚ー゚) 「そういえば!」
シィはここまでやって来る時、左側に曲がった先に、
コンビニがあったことを思い出すとスピードを上げた。
口からは荒い息が漏れ、心臓はもはや限界を迎え早鐘を打っていたが、
生き残る為に全力で走り続けた。
コンビニへ逃れようとする彼女はもはや縋りつく思いだ。
(*;゚ー゚) (人前じゃ、他のマスターも下手なことはしないでしょう)
交差点に差し掛かり、シィが後少しだと思った途端、胸の内に安堵が生まれた。
自分はサーヴァント同士の戦いに、生き残ったのだ。
これでかつての恋人と、ギコと合流できれば、聖杯を手にするのも夢ではない。
105
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 13:58:18 ID:nqepu3F.0
(*゚ー゚) 「大丈夫、私はまだ戦える……これからも」
確かな自信を手にしたシィは笑みを作り出そうとすると、
(*゚ー゚) 「え……?」
音が響いた。
生々しい音だ。
衝撃が左肘から右半身へ響いていくと、次に強烈な熱量を左腕に感じる。
(*゚ー゚) 「なに……?」
走ることで生まれた熱ではない。
熱源へ目を配らせるが、彼女は事実を否定したくなった。
(*;゚ー゚) 「なん……なのよ……これ?」
灼熱を感じる左肘から先が地面に転げ落ちていたのだ。
血液がだくだくと流れ出る真っ赤なそこからは白い骨が飛び出していて、
それを目にしたシィは反射的に絶叫を上げそうになるが、
('A`) 「……」
濃緑色のモッズパーカーを羽織ったドクオに顔面を殴りつけられ、
口まで出かかっていた声は掻き消されてしまった。
自分の腕から噴出した血によって出来た水溜りに倒れ、
シィの白いダウンは赤黒く汚れていく。
血に塗れた彼女の傍らには、吹き飛ばされた己の腕がぽつりと並んでいる。
106
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 14:04:03 ID:nqepu3F.0
(*;´ー゚ナ) 「な……に……?」
('A`) 『狙撃は成功だ。これより移植を行う。周囲の警戒を怠るな』
シィは未だに事態が飲み込めていない様子だ。
だが、インカムを装着したドクオは彼女と打って変わり、
冷静に状況を仲間へ報告し、進めていく。
_
( ゚∀゚) 「ボス、本当にそんなこと出来るのか?」
反対側、交差点から回り込んできたジョルジュがドクオに尋ね、
その間にも彼は雪の上に転がった令呪の宿るシィの左手を掴むと、
('A`) 「出来るさ、霊媒治療術は心得ている」
(*;´ー゚ナ) 「うっ……!」
身動きを取れぬよう彼女の身体を蹴りあげ、
踏みつけながらも魔術を練り上げて呪文を唱え出す。
シィはその様をただ眺めていることしか出来なかった。
ドクオの魔術によって、奪われてしまった自分の左手に宿る令呪が輝きだし、
_
(;゚∀゚) 「……つッ!」
痛みと共にジョルジュの右手へと移植されていった。
今や、シィに宿っていた令呪は彼の手の甲で赤々と輝いている。
107
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 14:05:53 ID:nqepu3F.0
(*;´ー゚ナ) 「あっ……あぁ……」
言い知れぬ喪失感にシィは苛まれた。
サーヴァントも、聖杯も、ギコの力になるという想いも、
全て姑息な手で奪い取られてしまったのだ。
('A`) 「ジョルジュ、命じろ。令呪を使って、あの白いサーヴァントに」
_
(;゚∀゚) 「……どうすればいいんだ?」
('A`) 「簡単だ。『マスターの変更を認め、前マスターを殺害せよ』と、
令呪を意識して念じればいい。急げ、マスターの危機をサーヴァントは察知してくるぞ」
_
(;゚∀゚) 「あいよ……」
言われた通り、ジョルジュは令呪の宿る手を抑えつけ、集中していく。
ドクオはシィの動きとサーヴァントの襲来に備え、警戒しながら彼を一瞥する。
_
(;-∀-) 「令呪を以って命ずる……マスターの変更を認め、前マスターを殺害しろ……」
ジョルジュの言葉と共に令呪は一際大きな光を放ち、一画が失われた。
そして、残り二画となった令呪の前に――――
|/▼) 「……」
稲妻が生じたかと思ったその瞬間、サーヴァントが現われた。
108
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 14:06:49 ID:nqepu3F.0
('A`) 「ふん、アサシンだったか……」
マスターだけが持つサーヴァントのステータスを見る眼で、
疑問だった彼のクラスをドクオは確認した。
しかし、興味の無いような声で呼ばれたアサシンのサーヴァントは、
|/▼) 「……」
(*;´ー゚ナ) 「ひっ……あ、アサシン……嘘よね?」
淡々とシィの元へ近づいていき、ドクオは離れていく。
フードに隠れた顔を拝んだ彼は笑みを浮かべ、
アサシンは感情を窺わせぬ冷たい眼でシィを見た。
|/▼) 「……すまん、シィ」
(*´ー;ナ) 「いや……いやよ!」
横たわった彼女は涙を流し、必死に訴えかけた。
それでも、アサシンは令呪で命じられた通りに行動するしかなく、
その場で跪くとシィの首を掴んだ。
(*´ー;ナ) 「―――――」
何が起きたのか、掴まれた首には短刀の刃が突き立っており、
それはアサシンの右手の籠手から伸びていた。
引き離された白刃は血に塗れ――――
109
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 14:07:42 ID:nqepu3F.0
(* ーナ)
シィの命はその短刀によって奪われてしまった。
アサシンは首から離した手でシィの開きっぱなしの瞼を閉じてやり、
|/▼) 「眠れ、安らかに……」
亡骸へそう言葉をかけた。
その言葉は万人に等しく訪れる、死出の旅立ちが安らかであることを祈るものだ。
生前にアサシンが多くの暗殺対象へ向けて放った言葉でもある。
('A`) 「よくやったジョルジュ、アサシン。作戦は終了だ」
ドクオは仲間達へそう呼び掛けると、二人は速やかにその場を離れていく。
その迅速さは彼らが戦闘のプロフェッショナルであることの証明に他ならない。
死体や現場の後片付けは、聖堂協会と魔術協会の仕事だ。
死体一つ片付けることくらい、彼らにとっては造作もない。
ドクオがどのような汚いやり口でマスターを殺害しても、
聖杯戦争で生じた戦闘の後始末をするのは両教会の仕事であり、彼は利用しているのだ。
_
( ゚∀゚) 「了解」
|/▼) 「……」
新たなマスターにジョルジュを迎えたアサシンは何も語らず、
実体を失って霊体へと変化していった。
110
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/14(土) 14:09:06 ID:nqepu3F.0
第二話 問おう、お前が私のマスターか? 投下終了
次回は未定です
まとめありがとうございます
111
:
名も無きAAのようです
:2012/04/14(土) 14:19:54 ID:rp64bvng0
ドクオエグいことするな
112
:
名も無きAAのようです
:2012/04/14(土) 15:34:17 ID:vz1eRMck0
えっげつねぇ…
乙面白いよー
113
:
名も無きAAのようです
:2012/04/14(土) 15:58:44 ID:KCxdRVpc0
乙。しぃ……
114
:
名も無きAAのようです
:2012/04/14(土) 21:58:20 ID:J66INDbo0
遅れたが乙
115
:
名も無きAAのようです
:2012/04/15(日) 01:07:25 ID:rLZpVoYQO
乙。しかし「兵は神速を尊ぶ」や「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」は孫子の兵法だ。
116
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/15(日) 13:30:51 ID:mWGjqv/A0
>>115
すまん、誤解してた……
まとめさん、まとめた際に
>>98
のセリフを修正して頂けると嬉しいです
>目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孔子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」
×
目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孫子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」
○
何か指摘や質問があればレスお願いします
117
:
名も無きAAのようです
:2012/04/15(日) 19:56:38 ID:Ke/Jo88Q0
>>116
修正しました
118
:
名も無きAAのようです
:2012/04/15(日) 21:56:38 ID:qH2PoAXU0
面白い
119
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/04/15(日) 22:43:47 ID:mWGjqv/A0
>>117
ありがとうございます
指摘し忘れた部分まで、助かりました
120
:
名も無きAAのようです
:2012/04/26(木) 07:02:10 ID:yQOLQPO60
キリツグなみの外道…だが、そこがおもしろい乙
121
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:20:44 ID:Xm/VcOpw0
深夜を迎え、空が白み始めてきたその頃、山を降りる女性がいた。
黒のドレスを身に纏い、夜そのものと同化したような彼女は木々を抜け、
コンクリートに囲われた10丁目通りを進む。
川 ゚ -゚)
その姿は幽鬼さながら、生気といった物が感じられなかったが、
女性の相貌は花も恥じらうほどの美しさといった様で、
裸足でアスファルトの上を歩く彼女は見る者があれば魅了したことであろう。
人外の美貌を持つ"吸血鬼"、クーは交差点まで歩き続けると目的の物を見つけた。
(* ー )
川 ゚∀゚)
道端に打ち捨てられたシィの亡骸を見つけると、
クーは口を大いにに歪め、人ならざる笑みを浮かべる。
妖しくも邪気を発露させる笑顔で、一言。
川 ゚∀゚) 「イタダキマス」
そう発するが早いか、遺体に跨ると首へかぶりついた。
真っ赤な口から覗かせる白い八重歯は獰猛な肉食獣を思わせ、
体温を失った柔肌を食い破り、肉の味を堪能しながら租借する。
122
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:21:34 ID:Xm/VcOpw0
川 ゚〜゚)
ぐっちゃぐっちゃ。
野性味の溢れる音を響かせて、喉を鳴らせるなりもう一口。
1分と経たずにシィの顔は"顔"を失っていき、
目玉まで食らわれて白骨をクーへ晒した。
川 ゚〜゚)
目玉を口の中で弾けさせ、濃厚な鉄の味と弾力を楽しんだ彼女は、
シィの頭蓋を路面に叩きつけてかち割っていき、
そこから露わとなった紫色の血管が張り巡らされ、皺の刻まれた黄土色の脳を拝む。
租借していた物を飲み下すと、ぶよぶよとしたそれを手にとって、
脳幹を引きちぎって口の前へと持っていった。
川 ゚ -゚)
丸っこいそれは弱々しく脈を未だに打っており、
鼻を突くような異臭を放つ。
鼻腔を満たすのは吐き気を催すような濃密な血の臭いだ。
123
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:22:34 ID:Xm/VcOpw0
しかしクーにとっては肉汁ほとばしるステーキのジューシーな香りと同意である。
川 ゚∀゚)
芳しい匂いを嗅いだ顔からは笑みがこぼれ、
血液と肉片を散らせて彼女は脳を貪っていった。
川 ゚ー゚)ー3 「ゲフゥ……」
満腹となったのか、彼女の血に塗れ赤黒くなった顔からは幸福さが読み取れた。
まるで、腹をすかした子供がご馳走を平らげたかのよう。
いや、人間にとってはおぞましい光景にしかすぎないのだろうが、
彼女にとってはシィの遺体は紛れもないご馳走に違いなかった。
川 ゚ー゚) 「マジュツシダッタノカ。ドウリデウマカッタワケダ。
マリョクガメグッテイクノヲカンジル」
魔術師を食らう事でクーの身体に魔術刻印と回路が取りこまれ、
それがそのまま彼女の力となっていったのだ。
魔術刻印は魔術師の家に生まれ、家督を継いだ者へと代々譲渡されていき、
先祖の作り出した魔術回路や魔術を引き継いでいく。
そして受け継いだ者は己の研究の成果をまたそれに刻み、次の代へと託していくのだ。
次代を繋いでいくにつれ魔術刻印は強化され、より強力な物となって魔術師の家系を支えていく。
長い歴史を持つ家系ほど優秀な魔術師を生み出すことが出来るということで、
その事実は歴史の浅い家系を持つ魔術師達が軽視される実体を作り出していた。
124
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:23:28 ID:Xm/VcOpw0
しかし、そんなことはクーにとっては関係なく、
シィの家、ルボンダールの魔術刻印を体内に取り込んだことで、
パワーアップ出来たという結果だけが重要だった。
川 ゚ -゚) 「ムシドモ、ザンパンハキサマラニクレテヤル」
魔術師の肉は美味い。
そう学んだ彼女は食い散らかした遺体の残りを体内に巣くう、
"魂蟲"という魔術によって生み出された虫達に食わせてやる。
蛆が湧くように遺体へ群がる魂蟲達を傍目にし、
川 ゚∀゚) 「サテ、イッスイシタラマジュツシドモヲクイニイコウカ」
朝陽の昇り始めてきた空に舌打ちをするとクーは笑みを浮かべた。
美味い食事を人間と同じく吸血鬼も好む。
骨まで虫に食らわせ、地面に零れた血の一滴まで吸い尽くさせた彼女は、
太陽の届かぬどこか暗い所へと消えていく。
シィの敗退とアサシンのマスター交代。
そして、クーの食事によって聖杯戦争の第一夜は明けていった。
125
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:24:27 ID:Xm/VcOpw0
******
カーテンから微かに漏れ出る朝陽がブーンの目を刺激する。
( ´ω`) 「……」
眩しさに瞼を抑えながら、彼は気だるい身体をベッドから起こした。
4畳ほどの空間にはベッドや机、テレビなどが置かれており、
本棚の空いたスペースには少林寺拳法の大会で取ったトロフィーや、
家族や友人達との思い出の写真が飾られている。
昨夜アーチャーを召喚したものの、戦力外通告を彼に突きつけられ、
家を飛び出されてしまった後、ブーンは自室に籠りきっていたのだ。
数々の自問自答を繰り返し、苦悶している内に彼はこうして朝を迎えてしまった。
( ´ω`) 「僕に……マスターになる資格はなかったのかお?」
ブーンは自らのサーヴァントにかけた言葉の一言一句を思い返しては、後悔して過ごした。
サーヴァントは使い魔と言えども元を辿れば英霊であり人間だ。
アーチャーという人間が生きた時代への理解が、彼には足りなかったのだ。
英雄と呼ばれた者であれば己の戦いを誇りに思っていてもおかしくは無い。
だが、アーチャーと対面した時にブーンは肌で"何か"を感じ取ったのだ。
この英霊ならば己を理解してくれるのかもしれないという、錯覚に陥るような"何か"を。
だが、それに甘えたブーンの直情的な言葉が引き金になったのは確かなことであった。
126
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:25:25 ID:Xm/VcOpw0
( ´ω`) 「学校……行くかお」
苦悩していても時間は過ぎていく。
ブーンは習慣に従い、制服に袖を通していくと身だしなみを整え、
教科書など必要な物をメッセンジャーバッグにしまっていくと一階へ降りる。
J( 'ー`)し 「おはよう、ブーン」
( ´ω`) 「おはようだお、かーちゃん……」
リビングには彼の母がいた。
いつものように朝食を並べたテーブルに向かって座る彼女の表情は穏やかで、
息子を見る瞳は一見しただけで彼の異変に気付いたのか、
J( 'ー`)し 「サーヴァントの召喚、上手くいったのかい?」
( ´ω`) 「召喚は出来たお……でも……」
J( 'ー`)し 「でも?」
( ´ω`) 「……」
「学校で何かあったのか?」とでも言うような口振りで尋ねる。
そんな母にブーンは昨夜の失態を語ることは躊躇われた。
父を失って以来、自分に夫の望みを託し、
期待して見守ってきてくれたはずの母に申し訳が立たないのだ。
ブーンの胸を薄暗いものが覆っていき、己へ更なる嫌悪が募っていく。
127
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:26:09 ID:Xm/VcOpw0
J( 'ー`)し 「ブーン、アンタはね、とーちゃんとかーちゃんの自慢の息子だ。
私はねぇ、アンタを信じてるよ。命がある限り何度だってやり直しは効くよ」
( ´ω`) 「かーちゃん……」
J( 'ー`)し 「だけどね、アンタがそんな顔をしてる内はやり直しなんて出来るわけがない。
シャンとしなシャンと! 背筋曲がってるよ!? 猫背は折角の男前を代無しにしちまう」
( ´ω`) 「……ごめんお」
J( 'ー`)し 「だから背筋ピンとして、ごはん食べて気分でも変えなさい。
さっ、冷めないうちに食べましょう」
( ´ω`) 「わかったお……いただきます」
叱咤されたものの、ブーンの顔にさした影が消え去ることは無い。
しかし、言われたままに彼は箸をとり、ほかほかと湯気を立てる白米を口へ運ぶ。
重い気持ちのまま租借していくと口の中にほのかな甘みが広まっていった。
( ´ω`) 「……」
無言のまま食事を進めていくが、食卓に並べられた味噌汁の香りや、
鮮やかな鮭の紅色が彼の五感を刺激していき、
それらの旨みは疲弊していた心に微かな喜びを味わわせる。
128
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:26:53 ID:Xm/VcOpw0
( ^ω^) 「……」
いつも通りの母の味だ。
何の変哲もないただの朝食の風景。
だが、掛け替えの無い物である。
ブーンは穏やかなこの空気に癒され、料理に食欲を掻きたてられた。
人間とは単純なもので、食事によって与えられる幸福感で嫌なことを一時忘れられるのだ。
立ち直った、とまでは言えない物の、彼は普段通りの表情を作れるようにはなった。
J( 'ー`)し 「ブーン、美味しかったかい?」
母は、人間と言う物を良く知っていた。
何より、自分と夫の息子の持つ強さをよく理解していた。
彼女は絶望に打ちひしがれた時の夫のことを思い返しながら、ブーンへ尋ねる。
( ^ω^) 「うん、美味しかったお。ご馳走さま」
朝食を平らげたブーンは微笑みを返し、立ち上がると、
( ^ω^) 「それじゃあ、学校へ行ってくるお」
J( 'ー`)し 「そうかい、まだ寒いから暖かい格好していくんだよ」
わかったお、と短く答えたブーンは自室へ上がり、
青と白のスタジアムジャンパーを羽織り、
茶色のメッセンジャーバッグをかけて戻ってくると、玄関へ進んでいく。
129
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:27:41 ID:Xm/VcOpw0
( ^ω^) 「いってきます」
J( 'ー`)し 「いってらっしゃい」
背筋を真っ直ぐと伸ばして外へ出ていくブーンを、母は見送った。
聖杯戦争の行われる土地で、平素通りこうして日常は繰り広げられていく。
だが、ブーンの脳裏にはやはりアーチャーのことが引っかかっていた。
( ^ω^) (学校に向かったは良いもの、途中で他のマスターに襲われたら……)
背筋に冷たいものを覚えるが、アーチャーの言葉が蘇る。
(<`十´> 『ではな、マスター。何かあれば令呪で呼ぶがいい』
手袋を脱ぎ、令呪を隠す包帯を見やる。
たしかに令呪をいつでもアーチャーをこの場にすぐさま呼びだす事が出来るが、
そんなことの為に貴重な三回限りの令呪を使用していいものなのか……。
溜息を吐かざるを得なかった。
三回とは言えども、サーヴァントへの命令権を失えば制御することは出来なくなってしまう。
同時にマスターとしての資格を失うことになるからだ。
実質、二回限りの絶対命令権。これをただ呼ぶ為に使うなど、愚の骨頂と言っても良いだろう。
130
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:30:07 ID:Xm/VcOpw0
( ^ω^) (まぁ、仕方ないおね)
そう断じることが出来るようになるほど、今のブーンは前向きな姿勢を取り戻せた。
「我に従え」などという、漠然とした命令では令呪の効力を最大限に発揮するには至らないのだ。
「次の攻撃を全力で放て」というような単純明快な命令であって、初めて令呪は十全に機能する。
( ^ω^) (でも、いざとなったら背に腹はかえられないお。
それにアーチャーを呼んだら、説得のチャンスだお。
気持ちを切り替えないと……)
胸の内に決意を固めると、ブーンは北24条通りにある
東区役所方面と栄町駅方面に分かれる交差点に友人の姿を見かけた。
( ^ω^) 「おはようだお、ショボン!」
駆け寄って声を掛けるとショボンは振り返り、
(´^ω^`) 「昨夜はお楽しみのようでしたね」
にやけた憎たらしい面を見せてきた。
昨夜、という単語にブーンは動揺するが、
魔術師でも魔術使いでもないショボンが聖杯戦争を知る筈がない。
(;^ω^) 「な、なんのことだお……?
(´^ω^`) 「付き合った翌日にセックスするのは当たり前じゃないですか〜。
最近の若者の性は乱れてますからね〜。で、どやったんや? どやったん?
あのツンデレ娘は夜はどんなデレを見せてくれたんや?」
131
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:30:50 ID:Xm/VcOpw0
(;^ω^) 「し、知らんお。昨日のことかお?」
昨日、ツンに呼びだされたことをショボンは誤解していた。
しかし、昨日と言ってしまったはいいものの、
どう誤魔かせばいいのかブーンは困ってしまう。
(´^ω^`) 「おう? おうおう、そうかそうか。
"付き合ってるのは二人だけの内緒ね!"
パターンですか。それじゃあ話せないのも納得ですな」
(;^ω^) 「誤解だお! ちゃんと話せばわかってくれるお。
だから、ちょっと黙って話を聞いてくれお!!」
三(´つω;`) 「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな!!」
嘘泣きを交えて学校へ走り去るショボン。
立ちつくすブーンを見た登校途中の生徒は口々に、
「ホモ?」「カップルだったの?」「キモッ」「ホモォ……」など、
更なる誤解を招きかねない言葉を連ねていった。
(;^ω^) 「まっ、待つおショボン! 勘違いさせるようなことすんなお!!」
見事にショボンの策にかかったブーンは、慌てて後を追った。
短距離走では校内一の記録を保持する彼は、あだ名の起源となる、
⊂二二二(;^ω^)二⊃ BoooooooN!!
"ブーンフォーム"と呼ばれる姿勢を取って、校内最速を誇る全力疾走を道行く人々へ見せつけた。
ショボンに追いつくのに5秒も掛からず、
132
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:31:57 ID:Xm/VcOpw0
───────── ― - --
─── /⌒ヽ, ─────────
 ̄ ̄ / ,ヘ ヽ/⌒ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ , ” ' ‐ ,
 ̄ ̄ i .i \ (#^ω^)ヽ, ___,, __ _ ,, - _―" ’. ' ・, ’・ , /∧_∧
── ヽ勿 ヽ,__ j i~"" _ ― _: i ∴”_ ∵, ))
______ ヽ,, / / __,,, -- "" ─ "ー ・, ; ; - 、・ r=-,/⌒ ~ヽ~,
─────── ヽノ ノ,イ ─── ― - i y ノ' ノi j |
─────── / /,. ヽ, ── i,,___ノ //
______ 丿 ノ ヽ,__,ノ ___ _ _ _ ,' ゝi
j i / y ノ
_____ 巛i~ ____ _ / /~/
i < /
─────── ヽ, \
_ _ / ヽ_ )
──── // | | 巛 r、 r、 i (~_ノ
// | | ===┐ | | | | ノ /
// | | | | !」 !」 ノ /
~ ~ | | O O (~ ソ
===┘ ~ ̄
133
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:33:54 ID:Xm/VcOpw0
背を捉えるなり速度重視の飛び蹴りを横っ面に炸裂させた。
綺麗な弧を描いて宙を舞ったショボンは、柔道を幼い頃から学んでいる経験から、
これまた綺麗な受け身をとり、
(メ;)´^ω^`)v 「許してだっちゃダーリン☆」
足跡をつけた頬をブーンへ向けて笑みとピースを送る。
(;^ω^) 「呆れて物も言えないお……」
その後、紆余曲折あって校門の前で登校途中の生徒を待ち構え、
選手宣誓のごとく彼らは「僕達はホモじゃありません」宣言をするのだが、
ξ゚⊿゚)ξ 「あぁ、そう」
ツンの残冬にも負けぬ凍てつく視線と言葉を浴びせられると、
元通りのテンションになってとぼとぼと教室へ向かい、
何事も無かったかのようにホームルームを待った。
( ´ー`)「はーい、日直ー」
間延びした声でクラス全員に、教室に入ってきた担任のシラネーヨは言う。
日直が起立と礼と言い放つとクラスメイト達は従った。
規律のとれた、模範的な高校生と言えよう。
134
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:36:07 ID:Xm/VcOpw0
( ´ー`)「おはようだーよ」
ほぼ自動化されたように黒い出席簿を開いて点呼をとると、
ホームルームを始めていくがなんら変わり栄えもするものはない。
しかし、
( ´ー`)「昨日の夜、寝ようと思ったらクマかなんかの鳴き声が聞こえたんだけど、
お前達にも聞こえたか? 大きかったんだけど、ニュースにもなってないし……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ッ」
シラネーヨの何気ない、もしかしたら寝ぼけて聞こえただけかもしれない、
そんな話にツンは引っかかるものがあった。
シラネーヨの自宅は聖杯の設置された札幌神宮の近くにあり、
その一帯となる円山はマナが一際豊富なので、サーヴァントの召喚にはもってこいの場所だ。
聖杯は魔方陣と器によって、大聖杯と小聖杯によって分かれる。
大聖杯となる魔方陣は札幌神宮の地下に敷かれており、
今は亡き父、モララーの推測では円山のマナがそこに流れ込んでいるのだという。
聖杯の異常か、召喚されたサーヴァントによる物か。
ツンには、シラネーヨの口振りからして後者であると判断した。
で、あるのならば、クマの鳴き声といった情報から、
恐らくは、理性を失ったバーサーカーが獣じみた叫びを上げたのだろうと答えを導き出す。
135
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:37:38 ID:Xm/VcOpw0
ξ゚⊿゚)ξ (たぶん、円山のほうにバーサーカーとそのマスターがいるのね。
所構わず叫び出すバーサーカーなんて、一体どれほどの狂化スキルなのかしら)
更に推測していき、ちらっとブーンのほうを見て溜息をついた。
( -ω-) Zzz
ξ∩⊿-)ξー3 (バカ……)
彼は既に眠っていたのだ。
他のマスターがいるにも関わらずのこのこと学校に現われ、こうして無防備を晒す。
自分はなめられているのだろうか、とツンは憤りそうにもなったが、
呆れてそんな気にもなれなかった。
一晩中葛藤し、眠れなかったブーンは睡魔に勝てなかっただけなのだが、
それを抜き差ししても彼には緊張感が足りなかった。
136
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:38:27 ID:Xm/VcOpw0
ツンはそんな背景は知る由もなかったのだが、
ξ゚⊿゚)ξ (私が手段を選ばないような輩だったらどうするってーのよ。
アンタ今頃、私の魔術かサーヴァントにミンチにされてるのよ?)
ξ゚ー゚)ξ (全く、抜けてんだから……)
幼馴染の情ゆえか、彼に敵愾心を抱くことはなく、
それどころか自分自身のささくれ立った気持ちが癒されているのを、
心のどこかでは感じていた。
だが―――――
ξ゚⊿゚)ξ (聖杯を取るというのなら、話は別よ)
冷たい仮面で優しさの暖かみを覆い隠し、ツンは決意を固めていた。
137
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:39:49 ID:Xm/VcOpw0
*******
('A`) 「状況を確認する」
円山のマンションの一室。
リビングに置かれたテーブルへ向かい、
ドクオ達インビジブルワンはソファに座っていた。
('A`) 「聖杯戦争の概要について、まずはおさらいしていこう」
('A`) 「聖杯戦争とはあらゆる願いを叶える聖杯という魔術礼装を奪い合う戦いだ。
聖杯は地脈から魔力を溜めこみ、7人の魔術師に令呪を与え、サーヴァントを各々に与える。
サーヴァントのクラスは7つだけだ。それぞれ――――」
<人リ゚‐゚リ セイバー
('A`) 「このクラスは剣を武器にするサーヴァントが該当し、
ステータスが最も優れ、これまでの聖杯戦争を全て終盤まで戦い抜いた実績から、
最優のサーヴァントと呼ばれている」
(<`十´> アーチャー
('A`) 「アーチャーは弓。遠距離武器を使用するサーヴァントがこれに該当する。
弓、と言いきってもいいのだが、英霊によっては大量に所持する宝具を投げつけるような奴もいる。
気をつけておけ。このクラスは単独行動スキルを持ち、魔力供給を行わずとも数日は現界していられるぞ」
138
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:41:13 ID:Xm/VcOpw0
目,`゚Д゚目 ランサー
('A`) 「ランサー」
目,`゚Д゚目 「応!」
('A`) 「……は、見ての通りだ。ジョルジュ、わかるか?」
_
( ゚∀゚) 「あぁ、ステータスが見えるぜ。変な感覚だ」
【ランサー】 目,`゚Д゚目
【マスター】穏田ドクオ
【真名】???
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A++ 魔力D 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】耐魔力A
Aランク以下の魔術をキャンセル。
【保有スキル】 直感B
戦闘の"流れ"を読むことの出来る能力。
敵の攻撃をある程度予測することも出来る。
騎乗D
騎乗の才能。馬であるならば人並み以上に乗りこなすことが出来る。
知識を与えられれば現代の乗り物を扱う事も可能。
【宝具】 ???
139
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:42:23 ID:Xm/VcOpw0
_
( ゚∀゚) 「敏捷に一際優れ、高い白兵戦能力を持つ槍使いってのが、このクラスの特徴か?」
('A`) 「その通りだ。全クラス中ランサーは最高の敏捷を持つ」
目,`゚Д゚目 「恐らくは、拙者の逸話によるものでござろう。
拙者は身のこなしで事なきを得てきたからのう。それ故の当世具足で御座る」
('A`) 「なるほどな、重装備では取り回しづらく、逆に負傷してしまうわけか」
目,`゚Д゚目 「然り!」
('A`) 「このランサーのように、敏捷が特に高い者でなければこのクラスには該当しない。
少々、ステータスが高すぎる気もするが……」
目,`゚Д゚目 「主の補正と日の本における拙者の知名度の恩恵であろう。
本来ならば、A++のような評価を受けることは無いで御座る」
('A`) 「俺もそれほど落ちぶれてはいないということか……。
次のクラスについて説明しよう」
140
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:44:31 ID:Xm/VcOpw0
(???)ライダー
('A`) 「このクラスは敏捷くらいしか目を見張る物はないものの、、
固有スキルに騎乗A+以上を持ち、強力な宝具を数多く所有する。
何らかの乗り物に乗って戦闘するのが特徴だな。耐魔力スキルも持っているぞ」
(???)キャスター
('A`) 「キャスターは魔術に特化したクラスで、魔術A以上がキャスターの条件だ。
しかし、魔術に攻撃を頼り切るキャスターは耐魔力を持つサーヴァントには滅法弱く、最弱と呼ばれる。
一見脅威には思えんが、道具作成と陣地作成のスキルを活かして戦術を組んでくることだろう」
('A`) 「相手は常に自分に有利な状況に持ちこんで戦闘をしかけてくるはずだ。
結界を用い籠城する戦術も非常に有効で、手ごわい相手に違いない。攻城戦も想定しておけ」
|/▼) アサシン
('A`) 「アサシンのサーヴァントはステータスは貧弱もいいところだ。
白兵戦においては勝ち目は無いと言っていい」
|/▼) 「随分な言われようだな」
('A`) 「だが、事実だ。お前もわかっているはずだが?」
|/▼) 「あぁ、マスターが変わりステータスが降下してしまったのでな」
141
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:45:29 ID:Xm/VcOpw0
【クラス】|/▼)
【マスター】長岡ジョルジュ
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 魔力E 敏捷B 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
【保有スキル】投擲(短刀):B
短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。
風除けの加護:A
中東に伝わる台風避けの呪い。
142
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:46:32 ID:Xm/VcOpw0
('A`) 「確かに、低下しているが、お前には虎の子の気配遮断スキルがあるだろ。
マスターを暗殺出来ればサーヴァントもいずれ消える、まだ活躍してもらうぞ」
|/▼) 「まずは、お前を殺してみせようか?」
アサシンは冗談めかした口調で言ったのだが、
( ^Д^) ( ><)
_、_
( ,_ノ` ) 「……!」(゚、゚トソン
('、`*川 ( ^Д^)
言葉を聞いた途端、皆が一斉に懐に忍ばせていたハンドガンに手を伸ばし、
魔術を使える者は詠唱の準備を、ジョルジュは令呪を使用する構えをとった。
|/▼) 「冗談だ、貴重な令呪、無駄にはするなよマスター。
不本意な契約だが、聖杯を取れるのならば構いはしない。
俺を存分に使うが良いマスター、ドクオ」
('A`) 「そうさせて貰おう。ジョルジュ、よろしく頼むぞ」
_
(;゚∀゚) 「任せとけよ。お前とは長い、魔術も他の奴より使えるつもりだ」
さて、と仕切り直し、ドクオは最後のクラスについて解説していく。
143
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:47:32 ID:Xm/VcOpw0
以#。益゚以 バーサーカー
('A`) 「次はバーサーカーだ。こいつには制約が無い。
どんな英霊でも狂化を許諾すればバーサーカーになれる。
呪文に一節加えるだけでクラスを指定することも可能だ」
('A`) 「狂化は理性を失う代わりにステータスを強化することが出来る。
ただし、一部の宝具が使えなくなったり、理性を失って戦闘の技術に支障をきたす、
消費魔力量が膨大になるなど、デメリットも多く抱えている」
('A`) 「宝具と真名さえ割れれば、このクラスは大して恐ろしくもないんだが……。
アサシン、お前は実際に交戦したんだよな?」
|/▼) 「いかにも。だが、真名は判明せず、宝具を使う事も無かった。
常時開放型なのか、使えなくなってるのかもわからん」
('A`) 「そうか……マスターは見かけたか?」
|/▼) 「いや、残念ながら。マスターらしき人物は現われなかった」
('A`) 「もう一度、探る必要があるな……」
|/▼) 「分からないことばかりだが、奴は強い。
これだけはたしかだ。狂化などされなくても、
奴は充分に聖杯を狙える器であったのだろう」
('A`) 「強力な英霊を更に強化したか。
魔力消費が莫大な物になるはずなんだが……。
マスターは一体どんな化物なのやら」
144
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:48:55 ID:Xm/VcOpw0
(-A-) 「もう一度整理しよう。サーヴァントのクラスは7つ。
セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、キャスター、バーサーカー、ライダーだ」
('A`) 「サーヴァントは聖杯より魔力を得て現世に現われる。これが現界だ。
現界したサーヴァントは実体と霊体を使い分ける事が出来る。
実体化と霊体化だ。霊体は目視は不可能で、普段はこの形態をとることになるな」
('A`) 「実体化したサーヴァントには魔力の核となる器官があり、そこを潰せば魔力を保てなくなり死ぬ。
人間と同じく、心臓や脳を潰してやればいい……が、神秘を伴った武器でなければ、
奴らにダメージを与えることは出来ない。魔術による攻撃ならば通用するが……」
(-A-) 「耐魔力スキルがあるサーヴァントには通用しないと思ったほうがいい。
スキルのランクにもよるがな。正直、俺の魔術ではサーヴァントには敵わないだろう。
だが、前にも言ったようにマスターの魔力供給が無ければサーヴァントは姿を保てない」
('A`) 「よって、俺達はマスターさえ倒せばいい。マスターを失ったはぐれたサーヴァントは、
サーヴァントを失ったマスターと再契約するケースもある。その場合は少々厄介だ。
だからアサシン、ランサー。討ち漏らしはなしにしてくれよ」
目,`゚Д゚目 「御意」
|/▼) 「了解だ」
(-A-) 「さて、次は具体的な話しに移っていこう」
('A`) 「聖杯は召喚した英霊の魂を取りこみ、万能の願望機となる。
つまり他の6騎を倒す必要があるのだが、5騎のみを倒しその力を分ける事も出来る。
どの程度の願いを叶える事が出来るのかはわからんがな」
145
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:50:09 ID:Xm/VcOpw0
('A`) 「ランサーとアサシンを擁する俺達は、他のサーヴァント達を倒し聖杯を狙う。
血の気の余った奴や情報を欲した奴らが、今日から動き出すことだろう。
基本的に戦闘行為や魔術の行使を一般人に見られてはならない」
('A`) 「発見された場合は目撃者を即時に抹殺し口封じするのがルールだ。
だから真夜中に行動を開始するのがセオリーだ。
俺達がどのマスターがどのクラスを従えているか知るチャンスでもある」
('A`) 「昨夜の帰還後、使い魔を放ってもバーサーカーはもう見えなくなっていた。
しかし、奴とそのマスターが円山にまだ残っているのは確実のはずだ。
……トソン、内藤と津出の情報を教えてくれ」
(゚、゚トソン 「了解です」
トソンはテーブルの端に置いていた地図を取り出し、
拡大図を広げていくと赤枠で囲んだ場所を指で示していく。
慎み深い紅色の唇を動かした彼女は、
(゚、゚トソン 「札幌の東区に区分され、北24条方面にある……この敷地の広い家が津出の所在地です。
内藤の家はここから2丁離れて、西の方にある一軒家です。
両者とも東区役所方面のVIP高に通い、幼い頃から面識がある模様」
(゚、゚トソン 「なお、昨日。内藤はどうやら聖杯戦争に迷いを持っているような会話を津出としていました。
それを津出はなじっており、決別したかのように思われます」
('A`) 「盗聴器でも仕掛けたのか?」
146
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:51:49 ID:Xm/VcOpw0
(゚、゚トソン 「いえ、この子がやってくれたのですよ」
∧ ∧
(=^o^=) にゃあ〜
トソンが呼んだのか、窓際に立っていた猫が駆け寄ってきて、
そっと灰色の毛で覆われた身体を両手で抱いたその姿は、
ペットを抱く可憐な少女のように見えた。
('A`) 「使い魔か。お前は、この中で一番使い魔の扱いに長けていたよな」
(^ー^トソン 「ふふ、ありがとうございます」
にっこりとほほ笑むその姿は少女っぽさに拍車を掛ける。
その様に、彼女の恋人であるジョルジュは見惚れていた。
('、`*川 「アンタより先にこっちに着いてから、ちゃんと仕事してたのよ?
でも、内藤と津出の情報はあっさり掴めたものの、他のマスターについてはまだなの。
ごめんなさい。どうやら、外部の連中が今回は多いみたいね」
('、`*川 「……一応、魔術的な仕掛けが施していそうな所は見かけたんだけども」
('A`) 「どこだ?」
ペニサスは拡大図の別のページを開き、印を付けた場所を指差す。
('、`*川 「伏古の7条にある、公園のお隣のこのお屋敷。
結界が張られてる感じはするんだけど、
偽装されてるからか詳しいことわからないのよ」
147
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:52:46 ID:Xm/VcOpw0
('、`*川 「危険だと判断して、それ以上の調査は打ち切ったわ」
('A`) 「ただの進入を阻む魔術結界ではなく、トラップの類か。
それだけ分析出来れば十分だ、賢明な判断だった」
('A`) 「後は、俺が直接調べに行こう。帰還次第、作戦を改めて立案する」
目,`゚Д゚目 「応! では拙者が供を」
('A`) 「いや、ランサーはここに残ってこいつらを守ってくれ」
目;`゚Д゚目 「主っ! 何故で御座るか!? それでは主の身が危険に晒されよう」
('A`) 「俺は問題ない。俺の魔術は隠密行動に特化している。
サーヴァントに通常兵器は通用しない、いくら武装していても敵に襲われればこいつらでも一溜まりもないんだ。
だからランサー、こいつらを守ってくれ。サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけだ」
目;`゚Д゚目 「しかし……」
目,`-Д-目 「否、主の命に従おう」
('A`) 「悪いな、ランサー。槍を振るう機会は今夜にでもやってくるはずだ。
それまで我慢してくれ。じゃあ――――」
('A`) 「最後に確認しておきたいんだが、監督役はどうなっている?」
( ´∀`) 「それは僕から」
148
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:53:57 ID:Xm/VcOpw0
( ´∀`) 「今回の聖杯戦争の監督役は、杉浦ロマネスク。
杉浦はここのロマネ札幌教会の神父モナ。
10年前に父親が死去して引き継いで以来、一人で切り盛りしてるモナ」
( ´∀`) 「それで聖杯戦争が札幌で行われるにあたって、聖堂協会に所属している彼は、
能力を買われてる事もあって今回の監督役に任命された」
('A`) 「あぁ、よく知ってる。神父の動向は?」
( ´∀`) 「聖杯戦争が始まる前となんら変わりないモナ。
内藤が昨日、教会に訪れていた。教会内にしかけた盗聴器から会話を聞いた限り、
どうやら参戦するのを渋っていたらしい。それよりも耳寄りな情報があるモナ」
('A`) 「なんだ?」
( ´∀`) 「ドクオが入手した情報通り、刃児耶ギコが参戦していたことが判明したモナ。
奴は神父と会話した後、消えたモナ。追跡は不可能だった。
それよりも会話の中でギコは自分のサーヴァントが"セイバー"であることを明かしたモナ」
('∀`) 「そうか……来たか、"便利屋"」
モナーの報せを聞いたドクオの頬は自然と綻び、声からは薄っすらと喜びが感じられる。
部下達は敵の名を聞き微笑むボスに、言い知れぬ恐怖を覚えた。
('A`) 「それは良いことを聞いた。セイバーのマスターがもう判明するなんて。
運の良いことにこちらにはアサシンが居る。暗殺の脅威はもう無い。
じゃあ、更なる情報を集めに伏古にある屋敷へ行ってくる」
149
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:54:59 ID:Xm/VcOpw0
ソファから腰を上げて玄関へ向かうドクオは、
('A`) 「引き続き、監視を怠るな。特に監督役の教会をな。
聖杯戦争中は教会一帯に使い魔を放つことを禁止されている。中立地帯だからな。
渋澤、プギャー。二人一組で監視に当たれ。不審な動きが見えたら俺に連絡しろ」
ポケットからケータイ電話を取り出して見せ、そう付け加えた。
人員を二名割いてまで監督役に監視をつける理由とは。
( ^Д^) 「ボス、どうして監督役なんぞをそんなに警戒するんだ?」
何故そこまで執着するのか、プギャーは説明を求める。
('A`) 「奴は―――前回の聖杯戦争の勝者だ」
短く、それだけを告げてドクオは部屋から出ていった。
150
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:55:59 ID:Xm/VcOpw0
******
部屋を出たドクオはトレードマークとなりつつある、
濃緑色のモッズコートを右手で翻すと袖を通していった。
真っ白なロングスリーブTシャツをコートで覆っていき、
両脇のガンホルスターをファスナーを閉じて隠すと、
ダメージを受けた青いジーンズを履く彼はもはや一般市民にしか見えない。
階段を下りて地下にあるガレージへと向かう。
そこにはドクオ達インビジブルワンの所有する車両が二台あり、
その内の黒いパジェロVR−Ⅰへドクオは乗り込み、キーを差し込む。
重厚ながらも滑らかな車体がエンジンの稼働に震えていく。
ギアをニュートラルから1stへ。
('A`) 「さて、伏古とやらにいってくるか」
呟き、アクセルを踏み込もうとしたその時、
('、`*川 「ボスー!」
エンジンの呻りにペニサスが足音を加える。
彼女は黒い長髪を振りみだしてパジェロへ駆けより、
('A`) 「どうした?」
ミラーを開けてドクオはペニサスのほうを覗きこむ。
151
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 16:56:59 ID:Xm/VcOpw0
('、`*川 「アンタにちょっとプレゼントしたいものがあってね」
(;'A`) 「プレゼント?」
⊂('ー`*川 「そっ、これこれ」
右手に掴んでいた物を窓越しドクオの首へ巻きつけ、
彼はそちらへ視線を落としていった。
(;'A`) 「お前、これ目立つだろ……」
彼の首には赤いマフラーが巻かれ、言葉の通り、
濃緑色のコートにこれでは目立ってしまうに違いない。
('、`*川 「良いの良いの。この方が冬にあってるし、パンピーに見えるでしょ?」
(;'A`) 「あぁ……あぁ……その通りだけど……まぁいいか」
暖かいしな、そう付け加えたドクオはミラーを締めていく。
('A`) 「サンキューな」
('ー`*川 「似合ってるわよ。少しは陰気な顔が紛れそう」
(;'A`) 「うるせー……」
('、`*川 「それ、こっちに来てからジャパネットってとこで買ったの。
おまけでもう一個ついてきたんだけど、アンタに似合ってよかったわ」
152
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:00:13 ID:Xm/VcOpw0
('A`) 「……?」
ペニサスの言葉は閉まり切ったミラーに遮られ、彼には届かなかった。
手で離れろと告げられ、ペニサスが数歩後ろへ下がるが遅いか、
黒のパジェロが発車していった。
幸いなことに空は快晴で、太陽が札幌の市街を照らしていた。
予報ではここ一週間の天気は安定する模様。
円山を降り、新聞社を抜けて北一条の通りへ入ると赤い塔が目に入る。
147mにもなり天を貫かんとするこの電波塔はテレビ塔と呼ばれ、
夜にはイルミネーションで飾られて観光名所の一つとなっている。
北海道にとって、東京の東京タワーのような存在だ。
近年改修され、より鮮やかな表示となった時計の表示枠は11時36分を告げる。
('A`) (内藤と津出は学生だったな。通学していないとしたら、
遭遇戦になることもあるだろうな)
ハンドルを握る右手の令呪を見やり、最悪の場合これを使ってランサーを呼ばねば、
ドクオは敵サーヴァントに対抗できずに命を奪われることになるだろう。
もっとも、ドクオの魔術は隠密行動に優れた物なのだが、
アクシデントというものはどうしてもついて回ってしまうものだ。
雪の残る道ではあるが、ここは交通量などが多い為かアイスバーンではない。
軽自動車ではまだハンドルを雪に取られることもあるだろうが、
スーパーセレクト4WDⅡという駆動システムは苦も無くパジェロを走らせる。
153
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:02:15 ID:Xm/VcOpw0
隠田ドクオは魔術師である以前に、傭兵でもある。
渡り歩いてきた紛争地帯の中には雪国もあり、雪道での運転経験も豊富だ。
そんな彼とパジェロは日本の交通法に従い、安全運転で走り続け、東区へとさしかかる。
ここまで来るとアイスバーンが増え、環状通りへ入ると路面には氷が張って輝いていた。
氷の道を走行する自動車の中には時折スリップする物もあった。
(;'A`) 「うおっ、危ねぇな……」
目前の車両がスリップした時にはドクオも流石に肝を冷やす。
車間距離を適切に保っていたことが幸いだった。
そのまま環状通東駅を右折し、伏古通りに向かっていく。
すると、サイクリングロードを発見した。
木々が生え揃えられ、舗装されたスペースを持っていたのだが、
雪が大量に積っている為それらは覆い隠され、ドクオには細長い雪原にしか見えなかった。
('A`) (反対車線に見える公園が伏古公園か?)
中央分離帯のように設置されたサイクリングロード。
そこを左折して、サイクリングロード越しに見える公園を覗くと、
これもまた雪原じみた公園を見かける。
('A`) (広い敷地だ。中央には噴水、球状のスペース。右には木々に覆われたジョギングコースと、
左にはフェンスと野球場と小山。奥には遊具コーナーか……ここで待ち構えれば、
スナイパーも設置でき、ランサーの得物を充分に活かしてやれるだろう)
154
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:03:29 ID:Xm/VcOpw0
伏古公園を見たドクオの頭は、自然と戦略を組み立てていた。
もしこの目的地の屋敷にいる者が魔術師で、マスターであるのならば、
ここが戦場になる可能性は十分にあるだろう。
他に、スナイプポイントになりえる場所はないか探しながら、
パジェロを走らせているとペニサスが目を付けていた屋敷らしい物を見かけた。
標識を見やると、伏古7条と記されており、ここで間違いないと確信した。
北24条通りへ向かう道路と分かたれる、交差点が前方に映り、
ドクオはパジェロを転回させて反対車線に入り込んだ。
屋敷の傍には公園があり左折して路肩に停車させる。
公園にはまたしても小山があり、今は雪に埋もれているが砂山やベンチなど、
ささやかな遊具が設置されているのが雪原の凹凸から察せられた。
('A`) 「へぇ、こんな田舎にも立派な屋敷はあるもんだな」
ベンチに腰かけたドクオは不審さを感じさせぬよう、
さもドライヴの休憩に立ち寄った者のように自然と振舞いながらも、屋敷を盗み見ていく。
赤レンガで作られた、一見古風な屋敷だが、
覗ける内装から近代化されていることは明らかだ。
門も構えられており、玄関まで石畳で覆われ、ロードヒーティングが成されているのか雪は無い。
155
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:06:48 ID:Xm/VcOpw0
歴史と科学が融合し、様式美と性能美を併せ持つ無駄の無い屋敷だった。
また、別館と一体化しており、別館にはガレージが備えられている。
ここ一帯の住居としては破格の広さで、一区画を丸ごと屋敷にしていた。
赤レンガ庁舎を彷彿とさせるレンガ屋敷だ。
ドクオはその端から端へと視線を走らせていき、ポケットからタバコを取り出す。
黄色のソフトパッケージにはハトが描かれ、バニラの甘い香りが鼻腔を撫ぜる。
白いフィルターを口に加え、ジッポーで火を付けると濃厚な甘みとは裏腹に、
どっしりとした重みが肺にパンチを効かせていった。
(-A-)y━~~ (正解だよ、ペニサス。もし使い魔を入り込ませていたら、
お前の魔術回路は焼かれていたことだろう。こいつは単純な術式じゃあない)
煙を吐き出し、ドクオは屋敷全域に掛けられた結界を分析していく。
有効範囲は大したものではなく、索敵に向く結界ではない。
しかし、侵入者を呪う術式が組まれ、更には交霊を司る術も合わせられている。
おまけに術式それぞれに念入りに偽装の術式が組まれており、
そうとも知らずに使い魔が入りこんだ途端、魔術を供給する術者へ膨大な魔力を送り込む仕掛けだ。
マナ オド
魔力には二種類あり、自然の生み出す"大源"と、生物に宿る"小源"に分かれる。
生物が自ら生成するオドと自然が生成するマナでは、絶対量こそ変わるが性質は同じ魔力である。
大まかに言えば魔力とは出力機であり、魔術師は入力機だ。
一度に大量の魔力を送りこまれると魔術回路は処理しきれずに暴走し、
魔術師の神経やら内蔵をズタズタに引き裂いてしまうのだ。
156
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:07:43 ID:Xm/VcOpw0
本来、人間には魔術を操る器官など存在しない。魔力とは身体にとって異物にしかすぎない。
それだけならば魔術師の力量如何によっては制御してみせることだろう。
だが、呪いによって送り込まれる魔力は指向性を持ち、魔術回路をかき乱す。
(;'A`)y━~~「相当な魔術師が住んでいるに違いあるまい……」
ドクオですら、このまま足を敷地内に踏み入れれば一瞬で魔術回路を焼かれることだろう。
('A`)y━~~ (これほどの術式、一体誰が……無名の魔術師の筈がない。
しかし、高名な魔術師がやってくるのなら容易に情報が手に入るはずだが……)
脳内に記録された魔術師のリストを読みあげるも、
その誰もが今回の聖杯戦争に参戦するとの情報は得ていない。
いや、目ぼしい魔術師は皆この地にやってくる前に全て消した。
('A`)y━~~ (そのはずだ……)
まさか、とドクオはある考えに至るが、
('A`) 「ッ!」
側頭部を貫くような鋭利な殺気を感じて飛び退る。
タバコを吐き捨て、雪の上に膝を突いて着地するとベンチが爆ぜた。
同時、甲高い銃声が空を走っていく。
157
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:09:58 ID:Xm/VcOpw0
('A`) (着弾と銃声がほぼ同時か、近いな)
聞き覚えのある音だ、とドクオは感じた。
未だにスナイパー達に根強く支持される木製ライフルから立つやけに甲高い音。
(;'A`) (モシンナガンか)
ベンチは粉々に砕け、今や雪の上に木片と金属片を晒している為、狙撃位置は割り出せない。
モシンナガンに使用される7.62mm×53R弾は貫通力には優れるが、これほどの衝撃を与えるはずがなく、
即座にこれはサーヴァントによる攻撃だとドクオは判断した。
ここまで至るのに要した時間は一秒にも満たず、彼は既に次の行動に移っている。
戦場を越えてきた数だけドクオは戦士として鍛え上げられ、
磨きぬかれた状況判断能力と行動力がそうさせたのだ。
インビシブル ウロボロス
('A`) 「invisible―――uroboros」
呪文の高速詠唱。
――――隠匿の魔術。
背に掘られた穏田家の魔術刻印が輝き、全身に魔力を覆わせたドクオは飛び出していく。
先程まで彼がいた位置に弾丸が飛び込み、雪煙を上げた。
姿勢を低く、そして全力で足を振りあげて駆け抜ける。
158
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:11:24 ID:Xm/VcOpw0
先程の狙撃でドクオはスナイパーの居場所を特定していた。
小山にいるはずだが……そこには人の姿など見当たらず、
('A`) (気配遮断のようなスキルか。見えんが、いるのは確実だ)
ドクオはパジェロのほうへと駆けこんだ。
途端に銃声は止んだが、これはひとえに彼が行使した魔術のおかげだ。
隠田家が秘術であるそれは気配を隠匿するというもの。
今の彼の姿は外界から隠匿されており、何人たりとも視界に納めることは敵わない。
これが、この魔術こそがランサーを伴わずに出てきたドクオの自信の源である。
隠密行動に特化した魔術。
隠田家に授けられる隠者の属性がそれを実現させたのだ。
この隠匿の魔術を使われては、サーヴァントと言えども彼を捉えることは不可能だ。
しかし、サーヴァントとはかつての英雄である。
戦いのセオリーというものを、彼らが理解していないはずがない。
ドクオがパジェロのドアを開けた、その途端。
ガラス片が雨霰となって散っていった。
気配遮断スキルにも匹敵するほどの魔術ならば、長時間行使出来るはずもない。
そう踏んだ敵サーヴァントは自動車を逃走に使うと踏み、
見えないながらもドアが開く瞬間を狙って、頭部があるはずの部位へ弾丸を放ったのだ。
159
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:13:22 ID:Xm/VcOpw0
が、
(;'A`) 「危なかった……」
ドクオのほうが一枚上手であった。
その一瞬を狙われることを予期して、わざわざ反対側へと回りこみ、
地面に伏せた状態で手を伸ばしてドアを開けたのだ。
背の上に粉々になったガラスが降り注ぐが、
シャツの下にきていた防弾ベストが身体を守り、幸いなことに無傷で済んだ。
ドクオは座席に伏せたままキーを挿しこみ、片手でギアをチェンジして蹴りを放つが如くアクセルを踏み込む。
それよりも早く、蜘蛛の巣状になっていた反対の窓ガラスが完全に消し飛び、
背のほんの数センチ上をサーヴァントの放った弾丸が通過していった。
背筋に冷たいものが走ったが、パジェロは獰猛な呻りをエンジンから上げて急発進する。
他人から彼の姿が見えていれば間抜けな格好に見えただろうが、
九死に一生を得たドクオは速やかに姿勢を正して運転していく。
まだ、安心は出来ない。
追跡を避けるべく、ドクオは全速力でその場を抜けた後、
遠回りをしてから帰路へと就くことにした。
160
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:14:05 ID:Xm/VcOpw0
―――彼が睨んでいた公園の小山の上。
(<`十´> 「……逃したか。魔術師の分際で、中々やる」
雪に埋もれたサーヴァント……アーチャーは呟く。
その姿は、彼の宝具の一つによって雪と同化していた。
限定的な能力ではあるが、アサシンの気配遮断スキルと同等の効果を発揮する宝具。
ドクオには見えなかったが、しかしその正体を見破られる日は遠くは無いだろう。
確実に仕留められるとアーチャーは踏んでいたのだが、
今回行われた戦闘は吉と出るか、凶と出るか。
彼のマスターである内藤ホライゾンは、その事を知る由も無かった。
小山の上でライフルを構えていたアーチャーはそのまま霊体化していき、
次なる標的を求めて歩き出していく。
161
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:16:26 ID:Xm/VcOpw0
ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
第三話 「invisible―――uroboros」part"乱世エロイカ"
以上で投下終わりです
少々忙しいので、次回も少し遅れるかもしれません
162
:
名も無きAAのようです
:2012/05/05(土) 19:42:20 ID:qjSrwb9A0
おつ
163
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 01:54:41 ID:dj6TV37o0
乙
ドクオかっこいいな
164
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 01:12:08 ID:7X8dDWl.0
乙。わくわく
165
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 21:03:09 ID:g6ApKFEA0
乙
166
:
名も無きAAのようです
:2012/05/08(火) 20:05:24 ID:0QR9ENqs0
乙乙
167
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/30(水) 23:13:00 ID:0SErUlTU0
申し訳ありませんが
しばらく投下が出来ません
プロットを書きなおすのに難航してまして
fate/zeroが最終回を迎える前には投下します
168
:
名も無きAAのようです
:2012/05/30(水) 23:23:11 ID:urOBYd/w0
約束された支援の剣
待つべき黄金の剣
169
:
名も無きAAのようです
:2012/05/30(水) 23:31:41 ID:5rQDM1ZE0
期待すぎる がんがれ
170
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/31(木) 22:45:06 ID:zvBq.XBc0
>>168
遥かなる長編完結
作者は未完にして死せず
171
:
名も無きAAのようです
:2012/06/18(月) 18:59:18 ID:vs5qusk60
おいそろそろ最終回なるぞ
172
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 20:04:21 ID:j.P9Rmuk0
うぇい、
173
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 22:44:05 ID:nh2hwTKA0
令呪を持って命ずる
続き投下しろ下さい
174
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 23:10:26 ID:4xgPgeqU0
重ねて令呪をもって命ずる
続きをお願いします……
175
:
名も無きAAのようです
:2012/07/04(水) 13:58:08 ID:wwODdNuU0
せっかく復活したのに逃亡現行増やしただけってのは笑えんぜ?
がんばれよ
176
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/08(日) 22:56:54 ID:1fsBmsng0
すまぬ……すまぬ。
近頃忙しくて中々時間をとれないんだ。
少しずつではあるが書き溜めは進んでいる。
今月中に投下できるよう努力するので、申し訳ないがもう少しだけ待っておくれ。
177
:
名も無きAAのようです
:2012/07/08(日) 23:00:09 ID:dueMCOaQ0
構わん
気負わずに書くがいい雑種
178
:
名も無きAAのようです
:2012/07/09(月) 13:48:08 ID:lEhO9gjY0
我様乙
179
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/24(火) 00:58:34 ID:EJcW5b1g0
次の日曜日に投下する。
第四話は完成した。
180
:
名も無きAAのようです
:2012/07/24(火) 17:21:51 ID:ZCOgngGk0
おおお期待!
181
:
名も無きAAのようです
:2012/07/24(火) 18:12:13 ID:CO1nukFk0
よしこい
182
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 00:59:29 ID:TZdjw55g0
昼の西日を浴びてロマネ札幌キリスト教会は、白亜の輝きを放っていた。
小さな建築物の鐘の下、入口であるドアに手をかける者の姿がある。
赤いスポーツバイクを停車させ、茶色のライダースジャケットを羽織った男、
(,,゚Д゚) 「ロマネスク」
ギコは、教会に入るなりそう言った。
日焼けした肌と短く刈られた黒髪が、
彼の肉体の強靭さを牛皮繊維の上からでも主張し、冷ややかな雰囲気を放つ。
ハニヤ
( ФωФ) 「何かね、刃児耶ギコ」
呼ばれたロマネスク神父は礼拝堂の椅子に座り、湯気立つ湯呑みを傍に置いて、
詰襟の藍い僧衣を着た身体をギコのほうへ向けていく。
( ФωФ) 「貴様がここを再び訪れるとは思いもしなかったよ。茶でも飲むか?」
立ち上がった彼は湯呑みを右手に取り、差し出すと、
(,,゚Д゚) 「いらん、貴様と馴れ合うつもりはない」
拒否されてしまうが、表情も変えずにロマネスクは湯呑みを椅子に置く。
感情を窺わせない透明な瞳をギコへと向けて、
対照的に彼は刃の如く鋭い眼をロマネスクに突きつけた。
(,,゚Д゚) 「聖杯戦争の参加者、全員の名前を教えろ。
事前に教会から参加表明がされているはずだ。
監督役なら、把握しているのだろう?」
183
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:03:25 ID:TZdjw55g0
( ФωФ) 「いかにも。しかし私が把握しているのは参加を表明した者だけだ」
(,,゚Д゚) 「実際にサーヴァントを召喚した者、ではないということか?」
( ФωФ) 「そうだ。此度の聖杯戦争ではどうやら、既に異常が起き始めているようなのでな。
現状、私の力不足もあり全てのマスターを把握しているわけではないのだ。
サーヴァントが全て召喚されたことに変わりは無いのだがね」
(,,゚Д゚) 「参加を表明した魔術師でいい、教えろ」
( ФωФ) 「事前に聖杯戦争への参加表明をしてきたのは、表明順に述べていくと、
津出ツン、内藤ホライゾン、アニジャ・サスガ、ハインリッヒ・クーゲルシュライバー、
ティーチャー・イブンラハド、シィ・C・ルボンダールと貴様の七名だ」
(,,゚Д゚) 「ロマネスク、シィ・C・ルボンダールと言ったな? 彼女もなのか?」
( ФωФ) 「知り合いかね?」
(,,゚Д゚) 「古い、な」
( ФωФ) 「六名の魔術師の参加表明は受けていたのだが、
最後の一人が見つからなかった所、昨日彼女がやってきた。
貴様を探しているようだったぞ?」
(,,゚Д゚) 「俺を……?」
( ФωФ) 「貴様を追ってこの地までやってきたようだった。
北海道へ到着して数分後、令呪が宿ったと言う。
聖杯が、彼女も自らを手にするに値すると認めた証だ」
184
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:04:50 ID:TZdjw55g0
(,,゚Д゚) 「幸運だった、というわけだな。では、異常とは?」
( ФωФ) 「昨日、アニジャ=サスガが到着するはずだったのだが、
未だに私へ連絡が届いていない。サーヴァントが召喚されているところを見ると、
マスターが七人いることは間違いないのだが……」
(,,゚Д゚) 「アニジャである、という確証はないわけだな」
( ФωФ) 「あぁ、私はこの目でアニジャを確認していないのだ。
それに小樽で三名の焼死体が発見されたと聞く」
(,,゚Д゚) 「アニジャ含むサスガ家の者達がそこでやられ、参加表明をしていない、
外来の魔術師がサーヴァントを召喚したと、そういう予測か?」
( ФωФ) 「アニジャとオトジャ、二人合わせて全属性を司るサスガブラザーズ。
時計塔で教鞭を取りサスガファミリー稀代の天才と呼ばれたあの男を、
倒せる魔術師などそうはいないのだが、可能性があることは否めない」
(,,゚Д゚) 「確かにキナ臭い。もし事故では無く、アニジャを打ち負かした上で席を奪い取ったとなれば、
相当の手練で、正体不明ともなれば情報の収集にも骨が折れるだろう」
( ФωФ) 「世間では爆発事故で片付けられてしまっているが、聖堂協会は真相究明中だ。
手口が分かれば、その魔術師が何者かおのずと判明してくるものだろう」
(,,゚Д゚) 「手口……?」
ギコはその言葉に引っかかったようで、口に手を当てて少し考え込んだ。
一分ほどの間が過ぎ去り、やがて答えを得たのか頬を緩めていく。
185
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:06:51 ID:TZdjw55g0
(,,゚ー゚) 「ロマネスク、気を付けておけ。敵は"アサシン"かも知れんぞ?」
苦笑じみたものを浮かべる彼は満足したのか、踵を返して玄関へ向かう。
自分を探すシィ、かつての熱い感情が懐かしくなり、会ってみたくなったのだ。
ここでロマネスクなどに油を売っている時間は無い。
「最後に聞いておこう。昨夜、戦闘があったようだが死体は出たか?」
だが、去り際に背を向けたまま彼は再び問う。
腑に落ちない点があったのだろうか。
表情からはその意図は汲めそうにも無い。
( ФωФ) 「いや、こちらでも小規模の戦闘を確認したものの、死者は出ていない。
霊器盤を見るにサーヴァントの脱落も確認されていない。
恐らくは、互いに撤退したものと考えるべきだろう」
「果たして、どうだろうな。納得した、感謝する」
( ФωФ) 「なに、これも監督役としての務めだ」
186
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:09:45 ID:TZdjw55g0
「……そのまま変な真似はせず、励むことだな。
俺は貴様が不審な動きを見せれば真っ先に"斬り"にくるぞ」
そう言い残したギコはドアを開いて姿を消した。
ロマネスクは脇に置いた湯呑みを取り、すっかり冷めきってしまった茶をすすっていく。
( ФωФ) 「ふむ……」
湯呑みを離した口元をきつく結び、鼻を鳴らした彼は呟く。
( ФωФ) 「聖杯を求めるほどの願いを持つ者が、諦めるはずもあるまいか。
貴様がこの地に現われたとすれば、聖杯が貴様を選ぶのも道理」
アサシン
( ФωФ) 「聖杯に魅入られるというのは、呪縛のようだな……"隠匿の魔術師"よ」
187
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:13:45 ID:TZdjw55g0
******
刃児耶ギコという男は便利屋を営んでいる。
正義の下にあらゆる依頼をこなす、人呼んで"正義の便利屋"。
依頼主は主に魔術協会や聖堂協会といった、神秘の絡んでくる組織だ。
ギコは己の正義を下にそれを遂行し人々を救う。
組織の利権や体裁など彼には関係なく、揉め事が起きた際に駆け付け、
多くの人々を救う為に正義と剣を振りかざす、それが彼の仕事であり信念なのだ。
魔術協会にも法はあり、一般社会で魔術絡みの事件を起こした者は処刑されるが、
神秘の漏洩を防ぐことが目的であり、決して正義や倫理の為に下される裁きなどではない。
刃児耶ギコという男の心は魔術師にしてはあまりにも純粋すぎた。
だからこそ彼は自分の信じる正義の為、自らの学び舎である時計塔を飛び出し、
今の便利屋稼業に勤しんでいるのである。
きっかけは12年前に行われた中東の聖杯戦争だ。
19歳の頃、聖杯戦争が行われる一年ほど前にそれを知った彼は、
聖杯戦争について一年かけて調べ上げ、参加表明と共にイラクへ降り立った。
「あんな若造が無謀な真似を……」
魔術師達は口々に彼を詰り、或いは若さゆえの過ちと同情もした。
しかし、彼は見事終局まで勝ち抜き、後に刃児耶ギコ生涯の宿敵とも呼べる、
あの"アサシン"と対峙することとなった。
188
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:16:53 ID:TZdjw55g0
若くして魔術協会の封印指定執行者に選ばれ、暗殺の術を極めた一族の跡取りは、
黄金の鎧を纏ったアーチャーを従え、赤き衣を羽織るセイバーとギコは激闘を繰り広げる。
結果はギコの勝利に終わったが、彼は結局敗者になってしまう。
杉浦ロマネスクにまんまと出し抜かれ、聖杯を横取りされてしまったのだ。
当時のことをそれ以上、彼は思い出したくは無かった。
苦い記憶だ。
アサシン
辛くも"隠匿の魔術師"と刃児耶ギコは生き延びたが、
その出来事は彼らに深い傷を残してしまう。
ギコは中東の聖杯戦争を終え、便利屋となった。
数年戦い続け、多くの者を救い多くの者を殺し続けた。
理想の為だ。多数の命を救いたいという想いの為だ。
例え少数の犠牲が出ることになろうとも、大勢を救うためならば手を汚し続ける。
そして彼はこう呼ばれるようになった。
雇い主の都合の良い正義を振り下ろす"正義の便利屋"と。
皮肉な呼び名である。
彼は、ただ人々の命を守りたかっただけなのに……。
気付けばそんな名で呼ばれ、振り返れば死体の山が出来あがっていた。
そして以前よりも更に強く望むことになった。
189
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:18:08 ID:TZdjw55g0
"平和が永久に続く世界"が欲しい、と。
今度こそ望みを果たすべく、ギコはこの雪国の聖杯戦争に臨む。
己の正義を貫き通す、今度こそは。
だが今回の戦いにおいて不安要素が二つほどあり、もう一つ先程の会話で出来てしまう。
一つは今回の聖杯戦争の監督役が杉浦ロマネスクであるということだ。
監督役とは言え、以前自分から聖杯をかすめ取った男である。
信用出来る筈がなく、このまま大人しく傍観しているという保証はどこにもない。
彼の動きには注意を向ける必要があった。
アサシン
次に、"隠匿の魔術師"が参戦しているという可能性だ。
あの男が野垂れ死んでいなければ聖杯を逃すはずがないと、
そうは思っていたのだが、本当に現われるかは半信半疑だった。
しかし、この不穏な空気は奴によるものだろうと、ギコは確信している。
予感めいた物が彼の胸にはあるのだ。
確証は無く、それらしい動きを掴めてはいないが、
恐らく近いうちに戦うことになるだろう。
正面から来るはずは無い。暗殺を人一倍警戒しなければ、
いかに正義の便利屋と言えども成す術も無く殺される。
190
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:19:37 ID:TZdjw55g0
相手はその道のプロフェッショナルなのだ。
他のマスターと比べればその手口を知っていることは強みであるが、
頭痛の種であることには違いない。
最後に、シィの存在である。
時計塔時代に出会い、意気投合した彼女とは、
自然な成り行きで恋人同士になったのだが、
ギコは時計塔を抜けると共に、一方的に別れを告げてしまったのだ。
シィは大切な存在だった。
そのことに嘘偽りは無く、それ故に別れた。
明日も生きていられるか分からないような道を自分は生きる。
そう覚悟を決めた自分に、魔道の探究を捨ててまで付いてきてくれるとギコは思わなかったし、
付いてきて欲しくも無かった。魔術を用いた闘争の日々はあまりにも危険過ぎる。
だが、心の片隅にはいつも彼女がおり、彼は後悔もしていた。
孤独の連続で、裏切られることもザラだ。
191
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:22:30 ID:TZdjw55g0
一人だから乗り越えられたのだろうが、やはり空虚だった。
支えてくれる者のいない虚しさを耐えきり、正義を貫き続けるギコ。
孤高な正義の使者。
そんな男を追ってシィはロンドンから遥々北海道までやってきた。
もう、10年以上の時が過ぎているにもかかわらずに。
もしそれが本当なら、早く見つけて保護してやりたい。
許されるのならばこの両の手で抱きしめ、温もりを得て空白の時を埋めたかった。
それがギコの偽らざる気持ちだ。
戦うことになったら……と考えると、背筋が凍りつく。
だがそのような事態になったとしても、ギコは迷わず剣を振るうしかない。
正義の為、理想の為、争いのない世界の為に。
(,,゚Д゚) 「さて、ではまず円山のほうを探してみるか」
敵対することになろうとも、探さずにはいられない。
刃児耶ギコは一人の男として、マスターとして行動を開始していく。
真紅のフルカウルに覆われた、バンディット1250Fのキーを回し、
水冷エンジンを唸らせると極太のマフラーが震え、無色の煙を吐き出す。
膨大な排気音はサイレンサーに殺され、教会からギコを乗せたバンディットは弾け飛んでいった。
目的地はマナが最も豊富な円山だ。
そこが、シィの殺害現場であるとも知らずに。
192
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:25:50 ID:TZdjw55g0
******
茜色に染まった空の下、ブーン達は下校時刻を迎える。
ショボンと共に校門を潜ったブーンは、夕方になり冷えた空気に身を震わす。
黒の詰襟をスタジャンとマフラーで防寒していても、雪国に吹く凍てついた風は厳しい。
生まれてから今日までこの地に住まうブーンにもそれは例外ではなかった。
現在の気温は−8℃。温度計を見られれば、
彼にとっては「暖かいもんだ」と呟ける程度の気温である。
( ^ω^) 「暖かいうちにとっとと帰るかお」
(´・ω・`) 「ゲーセンにでも寄って帰らないかい?
前みたいにアリオのとこでさ」
学校から歩いて15分程の場所に大型ショッピングモールがある。
ここの生徒達にとっては最寄りにある娯楽の宝庫だ。
地下鉄に乗って札幌駅にで降り、街に寄っていく者達もいるが、
学校近辺に住む彼らにとっては遠すぎ、"寄り道"にはならない。
( ^ω^) 「いや、今日は他に寄りたいところがあるからやめておくお」
聖杯戦争に参加する魔術師7人が揃ったか否か。
ロマネスクに尋ねてみたかった。
単独行動を行うアーチャーとコンタクトを取れない今、状況を把握しなければならない。
状況如何によってどう立ち回るかが決まる。
193
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:27:30 ID:TZdjw55g0
(´・ω・`) 「お、デートかな?」
(;^ω^) 「誰とだお」
(´・ω・`) 「ツンとに決まっているじゃあないか」
(;^ω^) 「だから、ツンとはそういう仲じゃないお」
(´・ω・`) 「でも正味な話、中学くらいまでは仲がよかったんだろ?」
(;^ω^) 「最近は何だか付き合いが悪いんだお……昔みたいに話してくれないし」
ブーンとツンは幼少の頃よりの仲であった。
何故疎遠になったかは、理解は出来ているがショボンに語れる内容ではない。
聖杯戦争で敵同士になるから、彼の推測ではそんなところだ。
非情に徹しきれるよう、数年の時をかけて彼女はブーンへの情を捨てようとしているのだ。
(´・ω・`) 「ふーん。まぁ、デートじゃないっていうのなら、僕がついていっても良いかな?」
魔術の使用を一般人には見られてはならない。
秘匿されるべきことで、公になってしまえば魔術協会に粛清されてしまう。
社会へ混乱を招かぬ為の配慮だが、親しい友人にも明かせぬこの秘密に重責のようなものを感じていた。
(;^ω^) 「ロマネスクおじさんに稽古をつけてもらうんだお。だから……」
194
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:28:26 ID:TZdjw55g0
(´・ω・`)ノシ 「あぁ、なるほどね。お邪魔になるだろうし、また今度ということで」
やけにあっさりとショボンは手を振って去っていく。
寺生まれで将来僧侶になる道を志す彼はクリスチャンは嫌煙しているようで、
ロマネ札幌キリスト教会に近寄ることすら避けている節がある。
冷たさを感じられるほどの素っ気無さだ。
( ^ω^)ノシ 「おっおー」
ブーンは彼の気持ちを理解しているつもりである。
だから、この態度にも慣れたもので不快さを感じることは無かった。
足はロマネスクの元へと向いていく。
東へと進んでいくブーンの目には下校する生徒がちらほら目に付いた。
帰宅部生徒達の中には見知った顔もおり、
( ^ω^) 「お」
ξ゚⊿゚)ξ
ふわりとしたブロンドの後ろ髪が美しい、ツンもその一人だ。
視線に気づいたのかほんの一時だけ目が合うと、
ブルーの瞳は感情を窺わせまいとでもするかのように伏せられる。
金髪と共に赤いダッフルコートの裾は揺れ、ローファーが雪を踏みしめていった。
195
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:29:06 ID:TZdjw55g0
( ^ω^)ノ 「おーいツーン!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
呼びかけるも、再び彼女が振り返ることはない。
( ^ω^) (やっぱり無視ですか)
まわりの生徒達の視線が突き刺さってくる気がして、
ブーンは気恥ずかしさを感じ、いてもたってもいられずツンの前へ出る。
( ^ω^) 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「付いてきなさい」
そうして名を呼ぶが早いか、ツンは無機質な声で言う。
命じられるがままにブーンは彼女の足取りを追い、建物の陰へ。
ξ#゚⊿゚)ξ 「アンタ! 昨日言ったことを全然理解していなかったみたいね!!」
(;^ω^) 「お……」
人目が無くなった途端に烈火のごとく怒声が上がった。
鬼気迫る表情でブーンへ詰め寄っていくツン。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私達はもう敵同士なのよ! 敵だって言うのに、
アンタはのこのこ学校までやって来て、間抜け面下げて私に付いてきて!!」
196
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:29:49 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) (呼んでおいてそりゃないお)
うっかり口に出しそうになった言葉を喉奥へとしまい込む。
彼の経験上、こうなったツンに余計なことを言ってしまうと、
火に油を注ぐこととなってしまう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「良い? アンタと馴れ合うつもりはないのよ私は!
学校で攻撃しなかったのも、私はフェアに戦いたかっただけ。
他にマスターがいるとしたら、アンタみたいに気が緩んでる奴なんかすぐに殺されちゃうんだから!!」
( ^ω^) 「学校に、僕とツン以外に魔術師はいないはずだお」
ξ#゚⊿゚)ξ 「そういうことを言ってるんじゃないの! 気をつけろって言ってんの!!
サーヴァントを召還したその時から、私達は標的にされてんのよ。
津出、内藤と札幌にいる魔術師の家系はもう聖杯戦争の関係者達には割れてるわ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「お父様達が聖杯797号を発見したのだから、当然のこと。
どんな姑息な奴が参加してるかもしれないんだから、気をつけてなきゃいけないじゃない。
アンタ今日居眠りしてたでしょ? 私がその気ならいつだって呪いで殺せたんだからね!!」
(;^ω^) 「うぅ……」
たったの一言が三倍四倍となって返ってくるのだ。
右手で銃を作ったツンはブーンの喉元へ指先を突きつけ、
殺気の篭った声音で言い放つ。
ξ#゚⊿゚)ξy= 「今夜、アンタの迂闊さを思い知らせてあげるわ。
早々に決着をつけてしまいましょう」
197
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:34:50 ID:TZdjw55g0
手首に嵌められた、金細工のブレスレットがキラリと光る。
津出家に伝わる、魔術礼装だ。魔の気配がブーンの肌を指すほどに濃く感ぜられた。
彼女がその気になればこのままブーンは殺されてしまうだろう。
しかし、そうしないのは先ほどの言葉通り"フェアに戦いたい"からだ。
この宣戦布告は一発の銃弾にも等しい。
戦いは既に始まっているのだ。
ブーンへそう告げるための攻撃であり、ツン自身にも覚悟を持たせる一撃。
ξ゚⊿゚)ξ 「寝首を掻かれないよう、今度は居眠りしないことね」
背を向けて路地を抜けたツンは下校路に再びつく。
赤いコートの生地に覆われた背中を見送ったブーンも、
少し間を空けてから目的地へと進み始める。
( ^ω^) (途中までは一緒なんですけどねー)
ツンとブーンの家は近く、通学路もほぼ一緒だ。
お互いを認識しあっているのに無視しあい、黙々と歩き続ているというのに、
ツンの背中はブーンの視界から離れることはずっと無い。
まるでストーカーのようだお。
断じてありえないことではあるが、ブーンは内心そう苦笑いを浮かべていた。
しかしそんな妙なシチュエーションも彼が途中でコースを外れることで、終わりが訪れる。
整形外科病院のある辺りへ曲がり、住宅街を進むブーン。
198
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:35:49 ID:TZdjw55g0
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
彼へ振り返ったツンの瞳は暗く、どこか寂しげであった。
199
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:40:47 ID:TZdjw55g0
******
( ^ω^)
( ФωФ)「ブーン、来たか」
静けさに包まれた礼拝堂で茶を啜っていたロマネスクは、
ブーンが口を開くよりも早く声を上げた。
( ФωФ)「さて、何の用かな。監督役としてか、それとも神父としての私に用か?」
時刻は夕暮れ。
ギコが訪れてからこれまでの間、聖堂協会の者達を動員して調査を行っていたのだが、
有力な手がかりを得られないまま時が過ぎていき、
ロマネスクはこの件に関する調査を打ち切ろうかと考えていたところだった。
何も問題は起きてはいない。
だから彼はこうして休んでいたのだが、そこへブーンが現れた。
良いタイミングであったと言えよう。
( ^ω^) 「ロマおじさん、僕と組み手をして欲しいお」
200
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:41:52 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「何?」
ロマネスクの予想を反する要望であった。
聖杯戦争が開始された今さら、稽古をしてくれとせがまれるなど考えようも無い。
しかし、監督役としてではなく拳法の師匠として頼られることに、
ブーンとの変わらぬ絆をロマネスクは感じていた。
( ФωФ)「よろしい、では先に地下室で待っていなさい」
胸の内に微かな火がともり、頬を緩めたロマネスクは支度を始める。
紺色のコートを揺らし、扉の鍵を閉めるべく玄関へ向かうのを
ブーンは視界の端に収め、私室へと入り込んでいく。
休憩用のベッドと机、聖書などを収める本棚だけが置かれた、
小奇麗でいて殺風景な部屋の隅には階段がある。
地下室へと続く下り階段で、ブーンは慣れたように降りていくと、
教会には似つかない畳の敷かれた簡易な道場が視界に広がった。
壁はコンクリートで塗り固められており、壁紙は張られていない。
201
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:47:38 ID:TZdjw55g0
( ^ω^))
道場に入る前に一礼し、藁の青臭い香りを鼻腔で楽しむ。
ロマネスクの父は敬虔なクリスチャンであると同時に、求道的な武道家であった。
日本人で名のある空手家である父の元に生まれ、世界中のあらゆる武道を学んできたのだ。
ロシアでシステマの修練を行っている時に母と出会い、キリスト教徒である彼女を通じて入信したらしい。
当時のロシアでは宗教は弾圧されており、幾多の修羅場を潜り抜けた末に国外へ抜け出し、
こうして自らの教会を立ち上げることになったのだと。
ある時、ブーンはそう聞いたことがある。
この畳張りの部屋はその名残なのだ。
ロマネスクも父にここで鍛え上げられた。
そして、今はブーンが。
( ФωФ)「待たせたかね」
( ^ω^) 「ちっともだお」
武道家達が積み上げてきた歴史と、杉浦親子の間で結ばれてきた絆の温もりは、
弟子であるブーンの肌に道場へやって来る度伝わってくる。
スタジャンと制服を脱いでいき、部屋の隅に置くとブーンはTシャツ一枚になり、
ロマネスクは青い僧衣のまま対峙した。
202
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:51:40 ID:TZdjw55g0
軽い柔軟体操を行い、
((ФωФ )
( ^ω^)) 「よろしくお願いしますお」
一礼を交わすと張り詰めた空気がブーンの肌を粟立たせる。
ロマネスクの放つ闘志によるものだ。
気を練り上げ、実戦さながらの緊迫感をブーンへ与える。
相手はかつて聖堂教会と魔術教会で繰り広げられた戦争に参加し、
代行者としても戦果をあげてきた歴戦の猛者だ。
一線を退いてはいるといっても、命を奪い合うという行為を行ったことのないブーンなど、
容易い相手である。内藤家の跡取りとして魔術の教練を受け拳を鍛えてきたとは言っても、
まだまだヒヨッコにしかすぎない。
間合いは10歩ほど離れているがすぐにでも詰め寄られてしまうことだろう。
ロマネスクの身体を通して出る"気"が重圧となり、どう攻めても返り討ちにされる結末が脳裏を過ぎった。
だからブーンは足を引き、間合いを開くことにした。
距離を置くことで攻撃が命中するまでの時間を稼ぎ、迎撃しようというのだ。
先手必勝とは言うが、時と場合による。
戦争においては待ち伏せ側が有利であるとブーンは承知していた。
203
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:53:38 ID:TZdjw55g0
経験と実力の差を戦術によって覆す。
靴を脱いだ素足は畳を踏みしめるも、感触はやけに重い。
身体全体が重く、呼吸が苦しくかんじられる。
まだ大して動いてもいないと言うのに、額からは大粒の汗が流れていく。
(;^ω^)
拳を構え、何時でも防御や反撃を行えるようにしたまま、ブーンはなお身を引かせた。
( ФωФ)「ッ!!」
おぉ、という叫びが聞こえたかと思えると、ロマネスクは動きを作り出す。
来た。
硬直した身が突貫するロマネスクを待ち構え、射程に入ると右の拳を放つ。
中指から小指までを上にした、傾き気味の拳は額を捉えた。
屈筋と伸筋を用いた拳は加速と停止を瞬時に行い、衝撃を増している。
鋭い音が空を切り、次いで肉と肉がぶつかり合う鈍い音が響いた。
その時には既にブーンは畳へ叩き付けられてしまっていた。
反転した視界にロマネスクが映る。
一瞬で勝敗は決してしまったが、くじけずに彼はもう一戦望んだ。
空気が再び張り詰めていく間もなく、構えたブーンは突っ込んでいく。
己の引き出せる最速を求め、畳を力の限り蹴り飛ばす。
生み出された振動を突き出した拳に伝動させ、胴へと余すことなく破壊力を与えた。
204
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:55:52 ID:TZdjw55g0
しかし、渾身の一撃はロマネスクの身を掠めて風を切る音が立つのみ。
(;^ω^) 「ッ!?」
素早く利き足を引き、間合いを取ろうとするが攻撃後に生まれた硬直を、
ロマネスクが逃すはずも無く、重々しい音が拳とともにブーンの下腹部へ突き立った。
(;゜ω゜)
あ、という喘ぎすら漏れずブーンは呼吸すらままならない。
力を失ったように両足は膝をついていき、四つん這いになって、
大きく開かれた口から涎がダラダラとこぼれて行く。
こみ上げて来た唾液の塊を吐き出すことで、ようやく呼吸が出来た。
朦朧とした意識の中、ブーンはロマネスクを見上げる。
( ФωФ)「ブーン、休もうか」
四十を過ぎた肉体であるにも関わらずに、彼は汗の一粒すら浮かべてはいない。
構えもせずに悠然と、慈愛の籠もった瞳でブーンを見つめていた。
これが今のブーンと聖杯戦争を生き延びた者との、覆しがたい実力差である。
だが決して彼が無力であるわけではない。
この十年の間、血反吐を吐くような鍛錬に臨んできたのだから。
拳法という武道の競い合いでは敵わぬが、これが実戦で、
魔術さえ扱えればまた結果は違うものになっていたに違いない、はずだ。
聖杯戦争を戦える力は充分に備えている。
205
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:58:02 ID:TZdjw55g0
ロマネスクに学んだものは少林寺拳法。
父と母からは魔術を。
この二つを用いて彼はこれから戦いに臨む。
ブーンはその前に「自分は勝ち抜ける」という自信を持ちたかった。
だからこうしてロマネスクの下を訪れたのであったが、この完敗が現実である。
勝てずとも、互角の勝負を演じられれば希望を持てただろう。
だが手も足も出なかった。
そんなはずはない、自分はもっとやれるはずだ。
ブーンは自らをそう鼓舞して、ロマネスクの視線に応える。
(;^ω^) 「いえ、回復しましたお……もう一度お手合わせお願いするお」
( ФωФ)「ふむ」
静かにロマネスクは笑みを作ると、ブーンが立ち上がる様を見届け、構えを作る。
若さが彼を駆り立てるのか、ブーンは猛然とロマネスクへともう一度立ち向かっていった。
206
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:59:35 ID:TZdjw55g0
******
組み手開始から三時間ほどが過ぎた頃、
地下に作られた道場ではブーンが畳の上で大の字になって倒れていた。
身体中に痣を作り、大量の汗を滴らせた彼は疲労困憊し、
深いダメージを受けた為立ち上がる気力は残っていないようだ。
ロマネスクは荒い息をつく彼へ、そっと近寄り、
( ФωФ)「少し休もう、ブーン」
対照的に、整った呼吸をして囁いた。
優しい、父性を匂わせる声だ。
(メ;´ω`) 「そうさせて……貰うお…」
力無く息を切らせながらも、ブーンは応えた。
ロマネスクには子供がいてもいい年頃なのだが、
残念ながら彼には妻も無く子も無い。
( ФωФ)「冷たい茶でも持ってこよう。そのまま休んでいなさい」
しかしブーンに接する彼は、父親と言っても差し支えはないだろう。
昔、シャキンとの間に交わされた約束が彼をそうさせたのだ。
「息子を見守ってくれ」と、死の際に放たれたシャキンの言葉が、
ロマネスクを一人の男として成長させ、慈愛の心と父性が今の彼を作り上げた。
207
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:00:17 ID:TZdjw55g0
事前に用意していたのか、上階へ向かったロマネスクは、
コップと麦茶が満たされたボトルを載せた盆を持って、すぐに帰ってくる。
ガラスコップ一杯に麦茶が注がれ、褐色に満たされていくとブーンへ差し出された。
(*´ω`)ノ旦ノ「おっおっ!」ゴッキュゴッキュ
水分を失った身体に、冷えた茶が染み渡る。
喉をならして飲み込んでいくブーンの口腔に、
麦の甘みが広がっていった。
(*^ω^) 「ありがとうだおロマおじさん! 美味しかったお!!」
汗を腕で拭い、笑みになったブーンを見て、ロマネスクも釣られて微笑する。
( ФωФ)「冬とは言っても運動後にはやはり冷たい茶だ。
良い茶を貰った。お婆さんに直接お礼を言わねばな」
( ^ω^) 「また、貰い物かお?」
( ФωФ)「私が昨日飲んでいた茶も、同じ方から頂いたものだ。
孫が世話になっているからと言われたが、
断ってもどうしてもと押し切られてな」
( ^ω^) 「ロマおじさんは、面倒見が良いからだお。
教会だっていうのに小っちゃい子達が児童館代わりに寄ってくる。仁徳だおね」
キリスト教の教会だからと毛嫌いして近寄らない、
ショボンのことを頭に浮かべながらブーンは呟いた。
208
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:03:32 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「本気を出させて貰った。実戦と、同じように。しかし実戦ではない。
実戦ならばブーンは魔術を使えたよ。
私とて内藤家の魔術師と殺しあえば敵うかはわからない」
( ^ω^) 「ロマおじさんだってそれは同じ条件じゃないかお」
( ФωФ)「いや、私はな。魔術のほうは治癒魔術や強化の魔術くらいしか扱えんのだ。
もし此度の聖杯戦争に参加していれば、老化もあって以前のようにはいかない。
君に屠られていただろうさ。全盛期は既に遠い昔の話だよ」
( ^ω^) 「全盛の頃だったら、この聖杯戦争も勝ち抜けたかお?」
( ФωФ)「私は既に、願いを果たした。挑む理由はないよ」
( ^ω^) 「もう願いは叶えられたから、力があったとしても挑まないのかお?」
( ФωФ)「若い私にあった強迫観念じみた使命感は、もはや無い。
聖杯戦争に挑む君の前で口にするのは憚れるが、年老いた私は学んだのだ。
命を天秤にかけてまで、叶えるべき願いなどはないのだと」
( ^ω^) 「……それは、勝者の余裕ですお」
( ФωФ)「そう言うだろうから、言うべきか悩んでいたのだ」
( ^ω^) 「何で今になって言ったんだお」
( ФωФ)「ふっ、君が中年の戯言に屈するような、
半端な意思で戦いに望んだわけではないのだと確信したからだよ」
209
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:07:34 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) 「褒めている、のかお?」
( ФωФ)「あぁ、そうとも。しかし、この雪国の聖杯戦争に聖堂協会は反発している。
あまり表立った行動や、表社会に影響を及ぼすようなヘマはしないでくれ。
少しでも問題が起これば協会は間違いなく"異端狩り"を行うだろう」
( ^ω^) 「異端狩り?」
( ФωФ)「端的に言えば教義に反する者を抹消することだ。
聖堂協会は札幌に存在する聖杯を、"神の奇跡"を汚した贋作であり破棄すべきだと主張している。
だから十年前の戦争が起きた。君が幼い頃の話だから、忘れてしまっているかもしれないがね」
淡々と語るロマネスクではあったが、苦い記憶があるビジョンと共に脳裏に蘇った。
血を湛えた己の拳。
傷を負った肉体と精神は満身創痍となり、霞む視界には斃れた友の姿が浮かぶ。
戦場は騒音に満ちているというのに鼓動がやけに大きく聞こえ、
一対の陰剣と陽剣を構えた男はこちらを振り返り――
(`・ω・´)『あぁ……』
( ФωФ)「む……」
亡き友の姿が目前に現れた。
意思の強さが込められた鋭い眼光を向ける男性は、シャキンだ。
モララーと共に、一つ年下の自分を中学時代に魔道へと誘った男。
若さゆえの過ちとも呼べる事柄で、魔術師にとっては大問題であったのだが、
あの出会いがなければ今のロマネスクは無い。
210
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:08:27 ID:TZdjw55g0
師とも呼べるシャキンとモララーは、結果的に戦争では敵同士になってしまった。
彼が魔術を知らなければ、もしかしたら"聖杯戦争前哨戦”と呼ばれる戦いは起きなかったかもしれない。
しかし、シャキン達と出会っていなければ今のロマネスクが無いように、
ブーンもこのような男には成長しなかっただろう。
それを幸か不幸かを決めるのは、ブーン自身が決めることである。
( ФωФ)(ご子息を見に来たのですか……先輩? それとも、俺を笑いに?)
否、と自ら投げかけた問いをロマネスクは打ち消す。
(`・ω・´)『そういうことかお』
逆八の字を象られた険しい眉は、緩やかな弧を描いていき、
鋭い目つきは真ん丸で人懐っこい瞳へと代わっていった。
亡霊の像が消えていく。
( ^ω^) 「双方、多大な犠牲が出て、今回の聖杯戦争が終了するまで聖堂協会は監視を行う。
その約束のおかげで魔術協会と聖堂協会の和平が実現した」
シャキンの姿をロマネスクに見せたのは、やはり親子であるが故に似通っているからだろうか。
彼はロマネスクの胸中も知らずに会話を続けていた。
(;^ω^) 「昔、そうロマおじさんやかーちゃんに教えてもらったの、思い出したお」
211
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:09:51 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「しっかりしてくれ、ブーン。もはや君は、一端の魔術師なのだぞ?」
(;^ω^) 「言いにくい話だけど、マスターとして半人前もいいとこだお。
僕は、サーヴァントを召還したはいいけど、ちょっと話したら見限られて、
もうどこにいるのかもわからない、半人前なんだお」
少し拗ねたように、ブーンは昨夜の失態を暴露する。
羞恥心が、言葉の歯切れを悪くさせた。
( ФωФ)「む、令呪を通しても存在を感知出来ないのか?
魔術回路がつながってる内は、念で交信できるはずなのだが……いや」
(;ФωФ)「まさか、ブーン。アーチャーを召還したのか?」
(;^ω^)) 「……」コク
ブーンは何も言わず、ただ頷きだけを返す。
(;ФωФ)「単独行動スキルが仇となったか……」
( ^ω^) 「でも! ちゃんと考えはあるんだお!!
情けない話だけど、手のうちようはあるんだお。
心配しなくても大丈夫ですお」
(;ФωФ)「そうか……監督役として、私は必要以上に君に肩入れすることは出来ない。
シャキンに恥じぬよう、しっかりやってくれたまえ」
212
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:13:35 ID:TZdjw55g0
( ^ω^) 「おっおっお、勿論だお! ロマおじさん、充分休んだことだし、そろそろ……」
呼吸を整えたブーンは立ち上がり、拳を構えるも、
ロマネスクは座ったまま首を横に振るう。
( ФωФ)「いや、止めておこう。今夜、戦闘になる恐れもある。
教会から出れば、戦闘区域だ。余力を残しておいたほうがいい」
( ^ω^) 「それもそうだお……でも、ロマおじさんに一本も取れなかったのは悔しいお」
( ФωФ)「まだ、拳のみの戦いでは私には敵わんよ。時間ももう遅い。帰りたまえ」
( ^ω^) 「ちぇー」
しぶしぶながらもブーンは立ち上がり、
部屋の隅に捨ててあったブレザーと、スタジアムジャンバーを羽織っていく。
( ФωФ) 「まぁ、また拳のみの勝負でよければ相手になろう。いつでも来たまえ」
(*^ω^) 「お言葉に甘えさせてもらうお」
畳を踏みしめ階段の脇に置いた靴を履き、ロマネスクの私室へと昇る。
礼拝堂を進み、玄関の扉に手をかけるとロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)「……ブーン、最後に忠告が一つある」
( ^ω^) 「ん? なんだお?」
213
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:16:19 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「君の父……シャキンを殺したのは刃児耶ギコだ。
此度の聖杯戦争に参加している、セイバーのマスターだ」
(;^ω^)そ 「ロマおじさんッ!?」
外に出たブーンははっとして背後へ振り返るが、
白亜の扉は堅く閉ざされ、声に応える者はいなかった。
春風が混じり始めた寒空の下で、ブーンはギコという男の名を脳に刻み付ける。
( ^ω^) 「刃児耶……ギコ……セイバーのマスター」
ロマネスクの言が本当ならば、かつての戦争で父を殺めた仇の名を、ブーンは口ずさんだ。
シャキンの顔が目に、ローソクの炎のようにぼうっと浮かぶ。
街灯も少なく、月明かりだけが照らす夜の東区をブーンは歩む。
人気は無いといっていいほど少ない。
住人達の帰宅が住み、家で団欒をとっているのだろう。
労働で疲れ、帰宅してきた父を、母と子供が暖かく迎える。
夕餉に舌鼓を打って談笑し、風呂に入って一日の疲れを癒す。
そんな幸福な一時を誰もが迎えるわけではないが、父を自分と母から奪ったのはギコだ。
遠い過去の話ではあるが、父の葬儀で流した母の涙をブーンの眼は焼き付けている。
214
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:17:29 ID:TZdjw55g0
夜闇の如く暗い考えが胸を浸していく。
住宅街へ入り、公園を横切っていくと……。
「やっぱり、ロマおじさまのところに行っていたのね」
( ^ω^) 「ッ!?」
声がした。
清澄でいて、勝気さが滲み出た声。
少女の物と思われるそれは、聞き覚えがあった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ここで貴方の迷いを終わらせてあげるわ。
戦いましょう、父様達もきっと喜んでいるはずよ。
聖杯戦争……魔術師として己の魔術を、存分に競い合える戦場」
(;^ω^) 「ツン……やるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、構えなさいブーン。一族の誇りと願いを賭けて」
ツンの全身を魔力が駆け巡っていき、右腕へと集約されていく。
周囲の空間が熱を孕み始め、朧のように歪むと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get set―――」
呪文が響いた。
己の気を高める、スイッチとなる頭語である。
募った魔力は魔術回路によって"力"へと変換され、
高密度に圧縮された炎が右手から噴射された。
215
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:19:05 ID:TZdjw55g0
Σ(;^ω^) 「くっ、本気かお!?」
ブーンの足元に炎の弾丸は突き立って、雪を音も無く溶かしていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「呆けているんじゃないわよ。サーヴァントを出しなさい、ブーン。
さもないと――――貴方、無様に死ぬわよ?」
言葉に表れたものは怒りと、
( ゚_ノ゚)
大きな銀と黒の十字を首から下げた、
鉤十字の装飾を施された軍服を身に纏うサーヴァントが現れた。
(;^ω^) (アーチャーを呼ばないと……!!)
令呪を使用する。
ブーンの生存本能が咄嗟に行動を取らせていくが、直前で理性が邪魔をした。
「こんなところで使ってしまって本当にいいのか?」
その躊躇いが空白を生み出してしまう。
かつて戦場で名を馳せた英霊が隙を見逃すはずも無く、
腰のホルスターから瞬く間に抜かれた、ワルサーP38がブーンへと向けられ―――
216
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:23:56 ID:TZdjw55g0
第4話 「get set―――」 part 乱世エロイカ②
投下終了。遅れてしまって申し訳ない。
待っていてくださった方々には感謝と謝罪をする。
これからは月一の投下を目標にします。
217
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 10:15:22 ID:fXUOG.TU0
マジか!乙
218
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:31:36 ID:CpT9oAKIO
乙!
219
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:37:05 ID:0VZCBLis0
おつー
220
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 20:00:11 ID:w12BCxLE0
ギコェ…
シィはもう
221
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 00:52:52 ID:zaN4V8hE0
乙!
続きが気になる
222
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 13:56:19 ID:P5IkB5k.0
ギコほど不幸が似合う奴はそうそういないぜ
223
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 04:56:44 ID:s0hHn/8Y0
ギコ視点に立つと、ギコにはドクオを倒して仇を討ってほしいな
224
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 06:16:11 ID:1vbJD/rM0
なんというギコへのエールwwww
225
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 11:39:51 ID:la8NPhW60
しかしシィの遺体食べられちゃったのに
ギコはどうやってドクオが仇だって気付くんだろう
226
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:48:55 ID:xvC0Jaek0
アサシンが何か言うんじゃね。
227
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:52:44 ID:1vbJD/rM0
アサシン「シィなら朝しんだwww」
228
:
名も無きAAのようです
:2012/08/02(木) 13:25:32 ID:iY/8zESo0
ギコが人気なのって、シローを彷彿とさせるからかな?
ドクオはキリツグと考えると、キリツグvsシロー(エミヤ?)だから胸熱
229
:
名も無きAAのようです
:2012/08/03(金) 10:54:59 ID:/a3o2mnY0
まだ大した活躍してないよな
230
:
名も無きAAのようです
:2012/09/06(木) 15:56:27 ID:1DJMbsfc0
まだかーまだかー
231
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 00:17:31 ID:QCpLB3rI0
明日の22時頃に投下する
遅れて申し訳ない
232
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 00:23:58 ID:gnaa9reI0
うひょー!!
来たか!!
233
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 08:53:13 ID:xFZfoilA0
キタゼー!
234
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:11:50 ID:QCpLB3rI0
夜の帳が落ちた札幌市東区、その片隅にある公園で小さな光が灯る。
遅れて乾いた音が響き、大柄の少年の足元に火花が散った。
(;^ω^) (本当に撃ってきたお!!)
少年、ブーンはロマネスクとの稽古で火照った身から、
血の気が引いていく感覚を味わう。
恐怖によるものだ。
( ゚_ノ゚) 「……」
軍服姿の男は構えていたワルサーの照準を修正し、
素早くブーンの額へ狙いを定めていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、威嚇する必要はないのよ。英霊さん?」
引き金にかけられた指を注視し発砲の間際にブーンが飛び退いたことは、
ツンの目にも明らかなことであったが、意地悪くサーヴァントへ激を飛ばす。
英霊とのみ呼んでクラス名を伏せる抜け目無さは周到であると言えよう。
(;^ω^) (飛び道具? ってことはアーチャーかお?)
短絡的な思考でクラスを結びつけるが、「いや」と否定する。
アーチャーは自分が召喚したはずだ。
同じクラスのサーヴァントが召喚されることはない。
ではこの英霊は一体どのクラスに該当するのか?
235
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:13:23 ID:QCpLB3rI0
戦場に初めて入り込んでしまった緊張感とツンの言動が、
ブーンを当惑させ冷静な思考能力を奪っていた。
( ゚_ノ゚) 「貴様、何故サーヴァントを呼ばない?」
剥き出しの銃身が踊り、ワルサーの銃口がブーンを捉える。
雪の敷積もった足元には穴があり、弾丸が減り込んでいた。
一瞬、ほんの一瞬反応が遅ければこれが額に風穴を空けていたことだろう。
明確な殺意を以って放たれた弾丸はブーンの背筋に何か冷たいものを走らせる。
心臓は早鐘を打ちサーヴァントの口の動きがやけに緩慢に見えた。
何故サーヴァントを呼ばないのか。
違う、呼ばないのではない。呼べないのだ。
アーチャーの作戦が裏目に出てしまったことで生じた自体に、
怒りとも恐怖ともつかぬ感情が湧いてきた。
助けがくることはない。令呪を使えば、話は別であるが。
目前には規格外の魔力の集合体であるサーヴァントとそのマスター。
ツン一人ならまだしも、魔力そのものとも呼べるサーヴァントに、
人間であるブーンが行使できる魔術程度で、傷を負わせることなど、
ましてや倒すことなど不可能だ。
銃撃は外れたが、そんなものに攻撃されたという事実は、
ブーンを恐慌状態に至らせるに充分だった。
令呪を使用するという考えも、吹き飛んでしまう。
236
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:15:25 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
磨いてきた魔術も拳法もサーヴァントには歯が立たない。
絶対に敵わぬ敵を前にしてブーンは背を向けて逃げ出す。
今の彼に魔術師としてのプライドなど微塵もない。
策などでもなく、ただの恐怖による逃亡だ。
圧倒的に己を上回る力量を持ち決して倒せぬ敵は恐れそのものである。
相対した者は逃げるか許しを請うか、
全てを諦め黙って命を差し出すかの選択しか与えられない。
勝算のない戦いを挑む者がいようものか。
逃げ出した彼を嘲笑うことなど出来やしない。
死を受け入れず足掻いてみせただけでもブーンには勇気があったと言えよう。
(;^ω^) 「ツン、やめてくれお! 僕達が戦う必要なんてないんだお!!
同じお菓子食べて一緒に本を読んでた、ツンちゃんじゃないのかお!?」
そして彼には、停戦を申し込むだけの勇気すらもあった。
ツンと殺し合うなど、耐え切れなかったのだ。
敵意による恐怖を跳ね除けて、精一杯心の叫びをブーンは上げる。
237
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:16:51 ID:QCpLB3rI0
ξ ⊿ )ξ 「……無様ね、ブーン」
しかし思いの丈は彼女には届かなかった。
むしろこれは、ツンからしてみれば決闘に対する侮辱ですらあった。
夜の海の如き暗さに沈んだ少女の表情は、
ξ#゚⊿゚)ξ 「命乞いとはッ!!」
瞬く間に憤怒の色に染まり、背を向けるブーンに罵声を浴びせて右腕を構える。
アミュレットが煌き魔力回路が巡って手のひらへと集約されていくと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get―――set」
詠唱。
次いで甲高い音が響く。
銃声にも似たそれに遅れて火球が右手から放たれ、ブーンに襲いかかった。
238
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:17:47 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「ッ!?」
背後から迫る熱気に、彼女の扱う魔術を知悉していたブーンは身を崩し、
慌てて転げていくと先程まで頭のあった位置へと、火球が過ぎ去っていく。
安堵の息をつく間もなく、立ち上がって走り去ろうとするが、
( ゚_ノ゚) 「マスター、威嚇する必要はないんだぞ!?」
銃声が響いた。
(;^ω^) 「ぐっ!!」
起き上がろうとしていたブーンは雪の上で尻餅を突いてしまい、遅れて痛みを感じる。
右足を撃たれたようだ。制服のズボンには黒いシミが広がっており、
弾丸は脛の肉を打ち破って骨を砕いていた。
その部分だけ火鉢を押し付けられたような高熱を感じる。
あまりの衝撃に痛覚が麻痺してしまったのだ。
だが、徐々に正常な働きを取り戻してきた神経は、
強烈な痛みをブーンへもたらしていく。
( ω ) 「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
これまでに感じたことのない激痛に、ブーンは涙をこぼしかける。
打ち身や骨折ならば稽古や試合で何度も経験してきたが、
銃で撃たれるなど銃社会でもない日本で経験できるはずもない。
239
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:19:02 ID:QCpLB3rI0
銃傷にもだえる彼へ、ツンとライダーはゆっくりと、
確実に追い詰めるかのように近寄っていく。
彼らの足音はブーンにとって、死刑囚が絞首台から聞く処刑人の足音も同義であった。
人間の脚力などでサーヴァントから逃れようという考え自体が無謀だったのだ。
百戦錬磨の英霊にとって背を向けて逃げ出す獲物の、何と狩り易いことか。
ξ゚⊿゚)ξ 「サーヴァントも連れず……アンタ、私をどこまで馬鹿にしたら気が済むの?
失望したわ、ブーン。シャキンおじ様もきっと悲しまれることでしょうね。
お父様の娘である私と、息子であるアンタとの決着が、こんな無様なものになるなんて」
冷徹に見下ろしたツンは、手で銃を形作り銃口をブーンへ向ける。
魔力が指先へと、高度に圧縮されていくのがブーンにもわかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「これで……おしまい……」
火球が現れ、魔力の流れが止まる。後は放つのみ。
(;^ω^) 「ツン……」
死の際というものはこんなにも静かなものなのだろうか。
ブーンの心は不気味なくらいに穏やかで、何の感情も湧いてはこなかった。
ツンが行使した火の魔術が自分へ襲いかかるというのに、まるで他人事のようにしか映らない。
あぁ、あれが己を焼き尽くすのだろう。
そう傍観することしか今の彼にはできなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……"ライダー"。殺って」
炎で構成された球体がぼっと音を立てて消えていき、ツンはサーヴァントを呼んだ。
240
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:20:29 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「手を汚すのが怖いか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなわけ、ないじゃない。魔力を温存しておきたいだけよ」
( ゚_ノ゚) 「ならば……」
ライダーと、最後にクラス名が明らかになった死刑執行者は、
ブーンの額へと銃を押し当てて引き金に指をかける。
茫然自失となったブーンにもはや、アーチャーを令呪を使用して呼ぶという考えはなかった。
ただ死を受け入れるだけの家畜である。
( ^ω^) (……ごめんお、とーちゃん)
死の直前に脳裏を過ぎったのは父の顔だった。
( ゚_ノ゚)
だが彼の目に写っている者は軍服姿のサーヴァントである。
押し付けられた拳銃の重みが、ブーンに死を予感させた。
続けざまに胸を突く思い出が蘇る。
*( )*
それは後悔の記憶―――
魔術でも救えぬ物があると、幼心に刻みつけられたトラウマ。
無意識ながらも、彼の"人々を救いたい"という想いに駆られる、要因となった出来事。
失われてしまった友人の顔が心の奥底で浮かび上がり、
241
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:22:13 ID:QCpLB3rI0
(#^ω^) 「ッ!!」
気づけばブーンは動き出していた。
起き上がりに生じる臀力に乗せた右の拳が風となり、ライダーの頬を捉える。
渾身のストレートがぶちかまされた。
が、拳に感触は無く、しかしライダーは宙を飛んだ事実に変わりはない。
何故拳が空を切ったというのに奴は飛んだのか?
答えは遅れてやってきた音によって明かされる。
銃声だ。
その時、ブーンの脳裏には声が聞こえてきた。
サーヴァントとマスターのみが行える念波による交信である。
(<`十´> 『待たせたな、マスター』
(;^ω^) (アーチャー!?)
ξ゚⊿゚)ξ 「何っ!?」
凍てついた空気が震え、高い高い音が彼方より張り詰めていくが、
飛び上がったライダーはツンを抱えて駆け出し、
積もった雪の飛沫が足元で爆ぜる。
銃声のした方角を見やったライダーは目を鋭くして、
( ゚_ノ゚) 「サーヴァントを呼んだのか?」
242
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:25:21 ID:QCpLB3rI0
ξ;゚⊿゚)ξ 「違うわ、ライダー。令呪を使ったわけじゃないわ。
敵サーヴァントは私達が隙を見せるのを待っていたのよ!」
銃声一つでサーヴァントと断じるのは早合点とも取れるが、
何が起きるかはわからぬ戦闘において、
常に最悪の状況を想定しておくほどの用心深さは必要不可欠である。
そしてその用心深さからくるツンの判断は、正しかった。
同時に自らの浅はかさに冷水を浴びせられた。
ブーンはサーヴァントを隠し、ライダーのマスターであるツンが無防備になったところを狙撃させ、
勝負をつけようと策を練っていたのだ。サーヴァントを出さぬのは別行動をとっているのか、
あるいは戸惑いによるものなのかとツンは"思わされて"しまっていた。
先日から、いや、ここ数年のブーンの態度、
それすらも己を欺くための演技だったのだとツンは彼の狡猾さを思い知る。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうやら私は貴方を過小評価していたようね……ブーン。
貴方は私と同じ、ここからは一人前の魔術師として扱わせて貰うわ」
しかし、こうなっては下手に行動を取れない。
真っ先にブーンを仕留めようにも、敵は狙撃が可能なサーヴァント。
恐らくはアーチャーかキャスターのクラスだ。
ライダーにも先程の狙撃のみでは位置を割り出せないらしく、
彼はツンの目を見ると首を横に振った。
膠着状態と言えよう。
243
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:26:50 ID:QCpLB3rI0
張り詰めた空気がピリピリとツンの肌を刺激していき、
次の一手を目まぐるしく頭の中で探っていく。
撤退すらも、既に選択肢の一つとして浮かび上がっていた。
(;^ω^) 『アーチャー! 今までどこに!?』
ツンの焦燥を知る由もなく、ブーンは魔力のパスが再び繋がった、
どこにいるかもわからぬアーチャーへ念によって問う。
(<`十´> 『そんなことより目の前の状況に集中しろ。
間一髪だった。お前がそのままジッとしてれば仕留められたものを……』
(#^ω^) 『いるならいると言えば―――』
(<`十´> 『マスターに知らせれば勘付かれていた。演技が出来る人物でもあるまい。
良いから集中しろ、先ほどのように。敵はこちらの位置には気づけん。
イニシアチブはこちらが取ったが、依然お前が無防備であることに変わりない』
(<`十´> 『ゆっくりと、そのまま敵から目を離さずに後退しろ。
敵の出方を探り、追ってくるのならば仕留める』
( ^ω^) 『追ってこなかったらどうするんだお?』
(<`十´> 『家へ帰れ。マスターが逃げれば敵も今夜は下がるだろう。
奴らからすれば、お前のサーヴァントのクラスが絞れただけでも大した情報だ。
だがそうはいかん。私が撤退する敵を追跡し、仕留める』
244
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:36:10 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 『仕留めるって、ツンは……』
口に出しかけたところで、ブーンは躊躇った。
攻撃してくるのならばと先程は無意識で拳を振るったが、
平静を一度取り戻すとやはり、ツンを傷つけたくはないという気持ちが勝ってしまう。
(<`十´> 『知っているさ。夕刻の会話、聞かせて貰ったぞ。だから私がここにいる』
アーチャーは彼らの関係を知った上で今夜、現れた。
ブーンの気持ちをよく理解し、利用してこの戦法を取ったのだ。
聖杯を掴み取る為に召喚に応じ契約を交わすサーヴァント。
そして聖杯を欲するマスター。
あらゆる願いを叶えるという聖杯を手にする為に呼ばれ、
自らにも求める理由があるからには、己の"任務"を最大限に全うするのみだ。
サーヴァントとはそういうものなのだ。
6人の魔術師とサーヴァントを討ち取るマシーンなのだ。
私情などを挟むブーンはアーチャーに蔑まれて当然である。
聖杯戦争を勝ち抜くべくアーチャーという武器を手にしたのは彼なのだから。
(;^ω^) 『アーチャー!』
245
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:39:10 ID:QCpLB3rI0
(<`十´> 『恨み言を聞いてやる時間はない。下がれ』
(;^ω^) 『くっ!!』
苦虫を噛み潰したような表情でブーンは一歩下がっていく。
視線はツンとライダーへ向けたままだ。
ξ゚⊿゚)ξ 『逃げる気ね』
( ゚_ノ゚) 『そのようだ、敵サーヴァントの居場所が読めん。
こちらにとって攻め込むには不利だが、
奴からしてみればこちらを攻めるに不利だ。距離が離れてしまってはな』
ξ゚⊿゚)ξ 『狙撃が失敗した今、撤退するほうが無難、ということね』
ツンはブーンの動きをじっと観察し、ライダーは弾丸が飛んできた方角を見やるその間も、
ブーンはまた一歩後退し公園の外へと向かっていった。
(;^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ 『仕方ないわね。今回は見逃しましょう。
ブーンのサーヴァントが、遠距離攻撃が出来るってことがわかっただけで―――』
意思をライダーへと送る、その最中。
突如として疾風が舞い込んできた。
246
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:41:49 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「なっ!?」
疾風の中、ブーンはそれを見た。その者が見えた。
その身を守る鎧は西洋の物ではなく、東洋の具足と呼ばれる物。
両腕を覆う金属板は矢と槍から頭部を守るべく長方形に広がり、
兜には鹿角を模した装飾がなされている。
闇に紛れるかのようなその具足は禍々しさを放っていたが、
何よりブーンの目を引いたものは肩に下げられた黄金の数珠と、
長さ5メートルは優に越える長槍だ。
刃ですら50センチ近く、切っ先は鋭く笹の葉の如き形状をしており、
街灯に照らされただけで暗闇が霞むような眩い光を放っていた。
それはブーンの槍という物の概念を変えてしまった。
驚きとも興奮ともつかない奇妙な気持ちをブーンは味わったのだ。
本で、斬馬刀という長すぎる太刀を初めて見た時の感覚にこれは似ている。
こんな物を使って本当に戦えるのか?
一体重さは何キロあるというのだ?
目,`゚Д゚目
見るからに扱いにくそうなこの槍を、
片手で軽々と持ち上げるこの男は、一体何者か?
247
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:43:40 ID:QCpLB3rI0
その問は、愚問である。
(<`十´> 『マスター敵だ! 脇目も振らずに逃げろ!! 全力だ!!』
唖然とするブーンへアーチャーは怒号を飛ばす。
人形のように立ち尽くしていたブーンよりも早く、敵は彼を見た。
目,`゚Д゚目 「聞けい! 我は槍がサーヴァントランサー!!
内藤ホライゾン殿、御首頂戴致す」
振り返ると同時に、ランサーは槍を構える。
切っ先は長槍ゆえブーンの喉に触れかかっており、
些細な力が加えられただけで肉を突き破ることだろう。
(;^ω^) 「……」
だが、ブーンは動かなかった。
槍の放つ輝きとランサーの強烈な殺気が、彼から意思を奪い取っていたのだ。
蛇に睨まれた蛙の如く、動くことが出来なかった。
目前にまで突きつけられた刃はこれから自分の喉を掻き切る。
そんなことも理解出来ないほどに、彼は恐怖に支配されてしまっていた。
逃げようと思考することも許されない。
身体全体を強固な鎖で縛り付けられているようだ。
248
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:45:58 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目
ランサーの目は己の得物に匹敵するほど鋭く、ブーンの瞳を射抜いていた。
そして行動は迅速だった。
構えられた槍が横凪に振るわれる。あ、と声を出す間もない。
代わりに金属音が響いた。
目,`゚Д゚目 「見切っているぞ、アーチャー」
視線を離さず、ランサーはそうアーチャーへと告げた。
ブーンの視界の端へと槍は振るわれており、切っ先から火花が散る。
(<`十´> 『……ッ! マスター! 早く逃げろ!!』
再びアーチャーの怒号。
自然と足は動いていた。
言われたとおり脇目も振らずに、後方へと。公園の外へとひた走る。
アーチャーの声により緊張が解け、槍とともに恐怖が遠のいたのだ。
人は痛みを恐怖する。ブーンは包丁で指を切った経験があった。
あの槍に刺されればそんなチンケな刃物と比べ物にならぬ痛みを味わうだろう。
だからそれとの距離が離れたことで硬直状態から脱することができたのだ。
249
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:49:16 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
しかし"恐怖"は既に背後から迫っていた。
逃げ出し距離を離したブーンへ、一足飛びのみで急接近したのだ。
槍を振るった、そのままの姿勢でだ。
上半身を捻り込むことで足から加わった力を槍へ乗せ、
風の唸る音と共にブーンの胴へ柄が炸裂する。
(;゚ω゚) 「ぐぅぅぅぅッ!!」
衝撃は肋骨を打ち砕いて肺にまで達して収縮し、一時的な呼吸困難の苦しみに襲われた。
吹き飛んだブーンの身は地面へと激突して跳ねるが、
積もっていた雪がクッションとなってそれ以上の傷は負わずにすんだ。
うつ伏せに倒れたブーンをランサーは更に追撃する。
アーチャーが援護するべく狙撃するも、やはり弾かれた。
硬質な音が、虚しく響き渡る。
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
250
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:52:52 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> 「チィ……」
ランサーの言葉通り、アーチャーが正面から立ち向かえばブーンを守ることは出来るだろう。
彼の位置からの狙撃では着弾まで数コンマほどのタイムラグがあり、人間同士の戦闘ならばいざしらず、
音速の域に達する速さで移動する、サーヴァント同士の戦いにおいては大きな負い目だ。
相手が敏捷に長けるランサーであるというのならば致命的と言えよう。
だからと、ランサーの前に出ればそれこそ思う壺だ。
アーチャーは遠距離攻撃を得意とするクラスであり、
逆を言えば接近戦では有用な攻撃手段をあまり持たない。
比べて、ランサーは近接戦闘のエキスパート。
敏捷、筋力、耐久において彼に勝るステータスは無いだろう。
考えうる限り最悪の状況である。相手はあのランサーだけではなく、
ライダーとそのマスターツンまでいるのだ。
もしライダーがランサーと共にブーンへ攻撃を加えれば、もはやアーチャーに防ぐ術はない。
ブーンが殺されたとしてもアーチャーは他のマスターを探し、
契約を行えば良いだけの話しだが、見つかるかは運だ。
単独行動スキルにより他のサーヴァントよりは長生きできるが、
魔力が尽きれば肉体を維持できなくなりアーチャーの聖杯戦争はそれまでとなる。
しかしその僅かな望みでさえ潰すため、ランサーはアーチャーを引っ張り出そうと挑発しているのだ
251
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:55:35 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> (もしだ。もし、これが単なる偶然で、偶然で私達の戦闘に遭遇し、
迷わず私のクラスを特定し、あの少女とサーヴァントから逃げようとしたマスターを狙い、乱入し!
ランサーに誘き出させようとしているのなら、そのマスターは何者だ?)
(;<`十´> (戦い慣れし、聖杯戦争を知悉した者だ。そいつは始めから私を狙っていたのか?
マスターだけを始末しても私は単独行動スキルで数日生き延び、新たなマスターを見つけることも、
私のマスターを始末したそいつに復讐することも出来る。奴にとって私はアサシンほど厄介なのだろう)
(;<`十´> (だとしたら、何時から見ていた? 何時から私たちの戦闘を、行動を監視していた?)
アーチャーのライフルにはスコープはついていなかった。
陽光や電灯によってガラスが反射する恐れがある為だ。
故に彼は伝説となり、こうしてサーヴァントとして戦っているのだ。
生前から行っていた肉眼による長距離射撃は、固有スキルである千里眼が補助し、
最新式の光学照準器よりも正確な狙撃を可能とする。
だがその狙撃も、この状況では歯が立ちそうにはない。
――――たった一つの攻撃方法を除けば。
(<`十´> (この距離、真名開放を行えば仕留められる。
標的は3つ。例え"宝具"を開放しようとも目撃した敵を全て消せば……)
宝具の使用は諸刃の剣である。
一撃で敵を屠るほどの威力を持つ物や、戦況を絶対的に優位に立たせる物などがあるが、
皆全て、英霊の過去や伝説に纏わる武器であり、使用すれば真名が露見してしまう恐れがあるからだ。
真名が分かれば、後は文献を調べて弱点を見出しそこを叩けばよい。
252
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 22:56:19 ID:dzQ0jLO60
キタ
253
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:00:17 ID:QCpLB3rI0
アーチャーにとってこれは起死回生の一手でもあり、地獄行きへの切符でもある。
(<`十´> 「何、変わりはない―――」
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
ランサーが動きを作る。
攻撃の挙動だ。前進し、槍を振り上げて起き上がろうとするブーンの首を刎ねようというのだ。
もはやアーチャーが割って入ろうにも間に合わない。
一瞬の猶予もならない事態にもかかわらず、アーチャーの心は穏やかだった。
身体に力が篭ってはおらず、引き金にかけた指の動きは恋人に愛撫するかのように優しかった。
その指つきが、かつて505人もの兵士へ死を与えた魔弾を放つ。
(<`十´> 「これも、訓練だ」
雪と一体化した狙撃兵は独白する。
―――そして、
グリムリーパーバレット
(<`十´> 『白き死神の魔弾!!』
宝具の真名が謳われると共にライフルへと死神が込められていき、
高密度の魔力を帯びた十六の弾丸がランサーを撃ち抜いた。
254
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:02:48 ID:QCpLB3rI0
******
彼女は夢を見ていた。
懐かしき故郷の乾いた風の匂いが鼻腔を満たし、
建物に遮られることなく照りつける陽の光が肌に心地よい。
石で作られた店の並ぶ市場を男に連れられて彼女は歩いていた。
足に伝わる熱砂の感触は小さな針が無数に突き刺さってくるようで、
時たま転がっている石を踏んでしまった時などは槍で刺されたかと思うほどだ。
だが、奴隷には靴など与えられない。服があればいい方だ。
その服も自分を売っていた店主に破かれてしまったのだが、
"クー"という名と共に男は服を与えてくれた。
もはや服としての役割を果たさないボロ切れの上から、
自分の新たな人生への一歩を踏みしめる気持ちでそれを羽織った。
オリーブドラブという濃い緑色の生地で作られたコートを、
人はミリタリーパーカーともモッズコートとも呼ぶ。
モッズの人々に好まれたことからモッズコートとの名が付いたのだが、
元はアメリカ軍に採用された物で、男から与えられた物の装飾性は低く、
無骨なデザインで本来の用途で扱われるべく作られたのだろう。
彼は兵士だった。クーの故郷の地形に溶け込むべく砂漠を模した迷彩服を着込み、
首には似たような色のストールを掛けていて、何よりもクーに「兵士だ」と思わせた物は、
ベルトで肩に掛けていたアサルトライフルだった。この銃にまで迷彩は施されている。
255
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:03:50 ID:QCpLB3rI0
クーが羽織っているコートは戦場で使うわけではなく、
市場へ出かける際の日除けとして羽織ってきた物なのだろう。
目付きが険しく表情には生気というものが感じられない。
自分を買った主を観察しながら付き従っていると、不意に言葉をかけられた。
「あぁ、そういえば靴を持っていなかったな。痛むだろ?」
抑揚のない声だ。
その意味をクーは見出そうとする。
自分を買い、すぐに手放して家へ返そうとしたこの男の心理が気になり、
"良い人"なのか"悪い人"なのか探り続けているのだ。
服装を観察していたのもこの為だ。
しかし、どちらか判明しないまま付いて来たのは彼女のほうだ。
いや、彼女にはそうする他なかった。
帰る家などもう無いのだから。
川 ゚ -゚) 「うん」
短く返し、次に男がどんな言葉を投げかけるのか、
神経を研ぎ澄ませて耳を立てていく。
256
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:05:14 ID:QCpLB3rI0
「コートならサイズが大きくても良いが、靴はそうはいかねぇよな……」
実際、わずか十歳でしかないクーにはミリタリーコートは大きすぎた。
手どころか足まで隠してしまい、歩く度裾が引きずられてしまっている。
男が目指す場所に着く頃にはボロボロになっていることだろう。
しかし、靴は小さすぎても大きすぎても履くことは出来ない。
裸足で砂上を歩くクーのことを気に病んでいるらしく、
男は市場をキョロキョロと見回し始めた。
が、靴を売っている店は中々見つからないしあったとしても大人のサイズしかない。
無表情のまま立ち止まり、口に手を当てて何やら考え事をすると、彼は屈みこんだ。
クーに背を向けたまま、
「肩車だ、肩車。靴なら後で用意する。良いか? 肩車だぞ?
おんぶはダメだ。暑いからな」
川 ゚ -゚) 「……」
いきなり、そんなことを言われてクーは子供ながらに戸惑った。
見ず知らずの大人に急に肩車をすると言われても、乗り難い。
第一、クーは奴隷として買われた身なのだ。
主人の肩に乗る奴隷などいようものか。
彼女には、この状況を理解出来なかった。
それでも「ほら」と急かされてはそうする他ない。
恐る恐る迷彩服の肩へ足を掛けていき、前屈みになって安定を取る。
両足が乗った感触を確かめた男は「立つぞ」と声をかけた。
257
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:06:30 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「あっ」
浮上していく視点。
地面が離れていきより多くの物が見えた。
ダンボールを集めて作った台の上に乗せられた果物、
壊れかけ錆が浮くラジオなど機械を売っている店と豚を解体している男。
色々な物が目に移り、市場を見渡せるようになった。
川*゚ -゚) 「わぁ〜」
子供らしい純粋な感動が胸を満たしていった。
心臓が高鳴り全身が嬉色に染まっていくのを覚えた。
「歩くぞ、落ちるなよ」
対照的なほどぶっきらぼうな声が返る。
男が一歩進む度に視界が揺れたが、それすらにも喜びがあった。
これ以上素足で歩かせぬ為にしただけの肩車は、クーに様々な想いを巡らせる。
想いには、悲しみも含まれていた。
川 ゚ -゚)
足から伝わる筋肉の硬さと太さが男の屈強さを伝え、クーに安らぎを与えたのだが、
そんな頼りになる男がほんの数日前まで共にいた父と兄を想起させたのだ。
258
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:08:40 ID:QCpLB3rI0
父達の背は彼ほど逞しくはなかったが、クーにとっては絶対であった。
牧家であった彼女の家は市場から離れており、
少し遠出をすれば獣や害虫に襲われることもあったのだが、彼らは必ず守ってくれた。
男家族の頼もしさは母や兄弟、そしてクーに安寧を与えていた。
父と長男がいればどんな苦難や危険も乗り越えられるだろう、なんとかしてくれると、
普段そんなことを思うことはなかったが、それほどまでに安全を保証されていたのだ。
だが、父は"聖戦士"達に銃弾で穴だらけにされ、兄は片腕を切り落とされてしまい、
母とクー達は乱暴されて奴隷として市場に卸された。
妹が二人いたのだが早々に売り落とされ、母は聖戦士達の元にいる。
家族は離れ離れになってしまったのだ。あんなに強い父と兄がいたというのに。
男の肩が物語る強さは彼女にとって空虚なものだった。
空虚であるだけならばまだ良い。蘇っては痛みを与える記憶がその空虚を満たそうとしてくるのだ。
喉の奥が乾いていき、目が熱くなってくる。頬を涙が伝っていく。
気道に何かが突っかかったかのように苦しかった。
それでも、心の叫びが嗚咽混じりに口から漏れ出てきた。
川 ; -;) 「私は……どうしたらいいの? どこへ行けばいいの?」
鎖に繋がれて店の前に出され、買い手を待つ日々は思考能力を奪う。
何かをする自由を与えられずただ使役され、店主の相手をさせられる。
まだ10歳の少女にとってどれほど過酷な日々だったのだろうか。
259
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:09:47 ID:QCpLB3rI0
しかしそんな時にこの男と出会い、買われた。
飼い主が変わるだけで彼女の日々に何の変化ももたらさないはずだったが、
この男は「家に帰っていいよ」と自由を与えた。
とぼけた命令だ。
「帰る家が奴隷にあるはずがない!」と怒鳴り返す者もいるだろうが、
クーの中にその言葉で生まれたものは問いであった。
「どうして?」「どうすれば?」「どこへ?」と疑問ばかりが生じる。
目の前で行われようとしていた邪悪な行為を止めようと、
手を差し伸べただけだった彼には迷い続ける彼女を救うほどの覚悟はなかった。
しかしその問いを聞いた彼は、今度は覚悟を決めて、
少女を"救う"覚悟をして再び手を差し伸べたのだ。
「君は新しい家で暮らすんだ。父もいなければ母もいないし、兄弟だっていない。
だがそこは君の新しい家であり出発点だ。いずれは独り立ちをするものだが、
それまでは俺が君を護り育てよう。不自由をさせるだろうが、俺が与えられる限りの物を与えてやる」
260
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:10:59 ID:QCpLB3rI0
川 ; -;) 「貴方が、私を育てる?」
「あぁ」と短いながらも力強い声を男が返す。
だが、その頼もしさがクーには不安だった。
彼との生活に不満はないが、再び家族を失うことが怖かったのだ。
川 ; -;) 「貴方は……大丈夫? し、死んじゃうんじゃ……」
問いの真意がもしかしたら、この言葉では伝わらないかもしれない。
クーにそんなことを考える余裕はなかったが、
男は少し笑って、肩に乗るクーにもそれは聞こえた。
「大丈夫さ、クー。ここだけの話しだが、俺は魔法が使えるんだ」
今のは、冗談なのだろうか。どんな冗談なのだ。
どこが面白いのだろう。意味もわからないしつまらないが、
川 ;ー;) 「ふふっ」
釣られて、クーも笑った。
261
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:14:36 ID:QCpLB3rI0
******
円山の木々が生い茂る場所で、クーは目覚めた。
人であった頃の記憶が夢として蘇り、暖かい気持ちが懐いていたが、
それも空腹によって意識を呼び覚まされたとあっては消し飛んでしまう。
川 ゚ -゚) 「行くゾ、バーサーカー。食事ダ」
彼女は、血に飢えていた。
人間の頃に抱いた喜びも死徒には必要のないものだ。
魂蟲によってズタズタにされた声帯も、死徒故の高い治癒力により、
徐々に治り始め人間らしい発音が出来るようになってきた。
それが必要か不要かは分からないが、肉体はそう適応した。
バーサーカーは霊体から肉のある身体へと変化して現れると、
「――――――――ッ!!」
応じるようにそう叫んだ。
森の中で響き渡る咆哮に動物達は一斉に逃げ出す。
野生に生きるものたちの生存本能が危険を訴えたのだ。
狂気の闇に染まる鎧に覆われた巨体が、荒野を行く百獣の王の如く山を降りていく。
そんな恐るべき存在を、付き人のように後ろを歩かせる黒いドレスを纏ったクー。
異様な二人を前にして近寄ろうと考える者はいないだろうが、
262
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:16:48 ID:QCpLB3rI0
「お姉さんどこ行くの!? 綺麗なドレス着てるね〜。
ちょっと遊んでいかない? 俺さ〜遅くまでやってる良い店知ってんだよね〜」
街に降り立ったところで、ドレスから覗くクーの珠のような白い肌に魅了されたのか、
街灯に群がる羽虫さながらに男が声をかけてきた。
「ねぇどう? コスプレならさ、もっとイイ衣装あるしさ〜奢るよ〜?」
この男は背後のバーサーカーに対して愚かな勘違いをしているらしい。
妖艶でいて、危険な微笑をクーは浮かべると、
川 ゚ー゚) 「お前はウマイのカナ?」
「やっだな〜お姉さ〜ん。俺そんなんじゃないよー。俺ってさ、ピュア。ピュアだがば……」
男の喉笛を噛み千切り、言葉を遮った。
両腕を押さえ込んでいくクー。抵抗させぬ為でも逃さぬ為でもなく、
これは単に食べやすいように小分けする為に行われた。
クーの細腕には吸血鬼の怪力が宿っており、人間でしかない男の腕など小枝を折るほど容易い。
掴まれた両腕が呆気なく引きちぎられてしまうが、喉を食い破られた男には悲鳴を上げる事もできなかった。
263
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:17:55 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「マズイな……」
ぷっ、と肉片を吐き捨てると拳程もある蟲が死体を這っていき、食い尽くしていく。
バーサーカーも腕の欠片を拾い上げると口に含み、魔力を補充した。
人間の体内に生じる魔力(オド)などサーヴァントにとって微量なものでしかないが、
塵も積もればなんとやらだ。そして"塵"はこの街に履いて捨てるほどある。
バーサーカーとクーは通行人を見かけると一目散に駆け出し、喰らっていった。
人々が住まい生活する円山の街はもはや、弱肉強食の世界と成り代わった。
死徒より食物連鎖の下に立つ人間達は彼女にとって食料にしか過ぎない。
幸い夜遅く、人通りは少ない為犠牲者は少なく住んでいるが、
クー達がこのまま東へ向かえばそこには北海道の中枢を担う札幌がある。
大都市にこの二匹の化物が訪れれば未曾有の大量殺戮が起きてしまうことだろう。
だが―――それを許す"正義の便利屋"ではなかった。
(,,゚Д゚) 『trace―――on!』
必死に馴染ませた呪文が発され、黒白の夫婦剣が、
死肉を貪るクー達へ立ちはだかるギコの両手に現れた。
<人リ゚‐゚リ
蒼白のプレートアーマーを纏う少女、セイバーと共に彼は邪悪へと斬りかかっていく。
264
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:19:39 ID:QCpLB3rI0
第5話 「trace―――on!」part 乱世エロイカ③ 投下終了
これからおまけ投下
265
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:20:24 ID:QCpLB3rI0
日本式住宅の立ち並ぶモダンな住宅街の中、異色を放つ家屋がある。
真新しく、西洋様式を取り入れた洋館じみた建築物。
古めかしい、未だ木造建築が目に付く街の、
近代化の先駆けと言えるその一軒家は、津出家の住まいだ。
鍵を開けて、玄関へと赤いダッフルコートを羽織ったツンは入っていき、
ξ゚⊿゚)ξ 「ただいま帰りました、お母様」
大理石をローファーで踏み鳴らすと習慣通り挨拶をした。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、お帰りなさいツン。寒かったでしょう?」
するとすぐさま母、デレがやってきて娘を迎える。
揺れるブロンドは絹がごとく、サファイアを思わせる瞳をした淑女は、
西欧系の白人である。仕草の一つ一つが優雅で、育ちの良さが伺われた。
ツンが礼儀正しく、きちんと「ただいま」と言えるのは単に、
彼女の教育の賜物と言えるであろう。
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、心配いりませんわ」
が、ブーンと話している時と比べると、まるで別人だ。
勝手知ったる仲であるから、と言えば聞こえは言いが、
この少女は猫を被っているにしか過ぎない。
266
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:21:24 ID:QCpLB3rI0
ツンの凶暴性とも猛々しさとも言えるものが出ることは滅多になく、
社交性があると称える者もいることだろう。
実際彼女は、上手く立ち回っていた。
学校では成績優秀な上に容姿端麗で、素行も良い。
どの親が見ても「自慢の娘さん」と呼べるだろうが、
ツンは父モララーに恥じぬよう生きてきただけで、
目標達成には貪欲な少女である。
彼女の目標にして、モララーの悲願であった“根源への到達”だ。
何らかの障害が生じた際には"お嬢様"の皮などズルリと剥げる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、そう。ココアでも飲む?」
リビングへ向かいながら、デレはそう訪ねた。
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、遠慮しておきますお母様。私は今夜"ライダー"と共に討って出ますので、
仮眠を取ろうと思います。くれぐれも、夜は出歩かないようお気をつけて」
ζ(゚ー゚*ζ 「わかったわ。無茶はしちゃダメよ? 危なくなったらいつでも戻ってきなさい」
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、敵の追撃に合うかもしれないというのに、
ここへ引き返すことなど出来ませんわ。
出会った敵は全て、片っ端から薙いでいきます」
267
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:23:07 ID:QCpLB3rI0
ζ(゚ー゚*ζ 「貴女も一流の魔術師だけど、聖杯を求めて札幌にやってきた魔術師達も、
みんな腕に自信があるからこんな殺し合いに参加してるのよ?
敵を過小評価してはいけないわ。いざとなったら私もツンの力になるわ。だから―――」
ξ゚⊿゚)ξ 「敵も一流であるというのなら、札幌は既に戦場であるということも理解してくださいお母様。
こうして家にいることも危険です。魔術を扱えるとは言え、
サーヴァントがいなくては丸腰であるのと同義。そう説明していたはずです」
ζ(゚ー゚*ζ 「でもね、ツン……」
ξ-⊿-)ξ 「今からでも構いません、お婆様のお宅へお向かいください。
聖杯戦争が始まった今となっては――――」
苛立ちを堪えながらも、ツンは自室へ向かいながら言い放つ。
ξ ⊿ )ξ 「お母様は足でまといです。お父様の為にも、私の為にも早く……お願いします」
心無いを言葉を吐いてしまい胸を痛めつつも、
ツンは二階にある自室への階段を上っていった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……私は、母親として貴女を守ってあげたいだけなのよ?」
娘の背を見送ったデレは、彼女の主張を最もなものだと理解しながらも、
ここから離れるわけにはいかないと、決意を固める。
デレの言葉は二人っきりの家の中で生まれた虚無へと、溶けていってしまった。
268
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:24:51 ID:QCpLB3rI0
******
陽が落ち、カーテンによって月明かりすら差し込まぬ、
暗闇に包まれた部屋に軽い電子音が響く。
ξ-⊿-)ξ 「ん……」
寝ぼけ眼でベッドを手探るものの、音源は見つからず、
苛立ちを募らせたツンは身に震えを覚えた。
寝返りを打ってみると、身体のあった場所でケータイが震えていた。
ξ#-⊿゚)ξ 「うっさいわねぇ」
スライド式のそれは以前似たような失態を晒してしまったが故の配慮だ。
ケータイ上部を展開したツンは耳障りなアラームを切り、時刻を確認する。
十九時四十六分―――可笑しい。
アラームは三十分に設定してあったはずなのだが……。
鈍い頭を擦り、崩れたブロンドを震わせるツン。
ξ;゚⊿゚)ξ 「あっ!」
思い至ったものはリジューム機能である。
アラームにも気づかぬほど熟睡していた彼女は完全な寝坊をかましてしまったのだ。
事切れたアラームは三十分を過ぎて持ち主を目覚めさせるべく、
リジュームにより電子音を響かせ、その事実を確認するまでもなくツンはベッドから飛び出す。
269
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:26:29 ID:QCpLB3rI0
壁に打った釘へ掛けた衣紋掛けから赤いダッフルコートをひったくると、
己の魔術礼装であるアミュレットを見やる。寝る時であろうとこいつは欠かせない。
これが自身を守る武器となるのだから。銃社会に住まう者が枕元に銃を隠しておくのと同じことである。
ブーンはブレスレットだと言うが、この魔術礼装は正しく言うとアミュレットなのだ。
アミュレットとはいわゆる護符やお守りといった物の類で、霊的な悪しき力を断つと言われる。
それにはツンの青い瞳とは対照的な、鮮やかな真紅を持つルビーが嵌められていた。
ルビーを基点として、黄金の輪を這うかの如く刻まれた文字は、
今は失われた言語で組まれた呪文であり、津出家の初代当主の血で綴られている。
同じ血が流れる者にはこのアミュレットは歯車が噛み合うかのように合致し、
詠唱の補助から魔力の高効率化までを成し遂げ、術者の魔術回路と共に魔術を放つ。
言ってしまえば魔術刻印のようなものだ。
きちんと先祖代々より受け継がれてきた礼装を確認したツンは、
"敵"が辿るであろうルートで待ち伏せるべく、部屋から飛び出していく。
目も当てられぬような失態で、時間を無駄に消耗してしまった。
270
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:27:21 ID:QCpLB3rI0
猶予はない。
ぎり、と歯ぎしりの一つでもしたかったが、そんな時間すらも惜し―――
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
―――いのだが。
( ゚_ノ゚) 「1っ、2っ、3っ、4っ! 5っ、6っ、7っ! 8っ!!」
扉の前で床に座り込み、上半身を前へ可能な限り倒して柔軟体操を行う、
軍服のズボンに白いランニングシャツ一枚という、ラフな格好をした金髪男が邪魔だった。
ランニングから伸びた白い腕は太く、汗の粒が輝く。
上体をゆっくり起こしていく男は、
( ゚_ノ゚) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
一瞬ツンと顔を見合わせたが、
271
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:28:23 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「2、2、3、4っ! 5、6、7……」
再び身を伏せて屈伸運動を続けていくものの、
ξ#゚⊿゚)ξ 「無視してんじゃないわよ!!」
怒号と共に浴びせられたツンの蹴りに背中から倒されてしまう。
思わぬ仕打ちに頭を打ち付けたが、屈強な肉体を持つ男はけろりとしてツンを見た。
軽く息をつき、まるでくつろぐかのようにそのまま脇にあった牛乳パックを手に取る。
ごく、ごくと喉を鳴らして牛乳を飲み干していく男は、
( ゚_ノ゚) 「どうしたマスター? 何を慌てている」
ξ#゚⊿゚)ξ 「人の家の牛乳勝手に持ってきて呑気に体操してる場合じゃないの!
私は霊体化していたアンタに今夜敵マスターと戦うって伝えたはずよね?」
( ゚_ノ゚) 「マスター。誤りがあるぞ? この牛乳は君のムーター(母)に貰ったものだ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「……そんなことは聞いてないわ。"ライダー"、作戦を忘れたのかしら?」
( ゚_ノ゚) 「正面から立ち向かい、実力でねじ伏せる。そんな物は作戦とは呼べんよ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「あら、不服かしら?」
ツンにとって策謀などは不要であった。
272
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:30:22 ID:QCpLB3rI0
聖杯戦争は聖杯を奪い合う戦争と銘を打っているものの、
これは魔術師同士の魔術の競い合いである。
誰何かの魔術師が根源への到達に相応しいか、聖杯によって篩にかけられるのだ。
ならば正々堂々と魔術によって他者を圧倒するのみ。
最も根源へ到達するにたる魔術の腕を持つ者が聖杯を手にするのだから。
父から十全な状態で魔術刻印を引き継ぎ研鑽を続けてきたツンには、
己こそが根源へ到達するに値する魔術師である自信があった。
怒りに染まった瞳の奥に、実力に裏打ちされたその自恃を見取ったサーヴァント、
"ライダー"は不敵に微笑んだ。
( ゚_ノ゚) 「いや、敵がいるのなら撃滅する。出撃だ」
立ち上がったライダーは踵を合わせ、不動の姿勢で敬礼をマスターへ捧げる。
それは腕を斜め上に張り出すナチス式敬礼であった。
ツンとライダーの作戦が今夜、開始されようとしていた。
273
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:33:37 ID:dzQ0jLO60
おまけ終了か。やっぱ引き込まれるなこの話。乙やでーい。
274
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:33:58 ID:QCpLB3rI0
おまけ終わり
投下遅れてすいませんでした
今月末にもう一度投下出来ればいいかなと思っています
275
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:36:15 ID:QCpLB3rI0
>>273
乙ありがとうございます!きっとfateという元ネタの魅力のおかげでしょう
投下遅れても読んでくれることに感謝。
276
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:39:08 ID:SUR4swNM0
結構近代の英霊が多いんだな、もしも〜みたいな感じで好きだわ
277
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:48:54 ID:QCpLB3rI0
>>276
僕の考えた最強のサーヴァント()を集めて北海道舞台で書きたい、という思いから書き始めました。
ありがとうございます
278
:
名も無きAAのようです
:2012/09/09(日) 09:03:01 ID:cI5hYG3s0
乙
みんなかっけぇのにブーンだけしょっぺぇなwwwww
覚醒すんのかwww
279
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/21(金) 23:38:52 ID:HyRI3nPU0
今月は厳しいので、来月末くらいを目処に次の投下を考えています
もう少々お待ちを
280
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 06:49:50 ID:Vd2IKoZU0
まぁゆっくりな
281
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 12:57:05 ID:zB6IN/Fc0
リョーカイでーす。
282
:
名も無きAAのようです
:2012/09/27(木) 10:06:29 ID:2Y6qSEacO
追い付いた
原作知らんけどなかなか面白い
因縁が絡み合っていくな
283
:
名も無きAAのようです
:2012/10/15(月) 23:41:26 ID:Phpmb.dI0
もうすぐだな。
284
:
名も無きAAのようです
:2012/10/22(月) 01:17:17 ID:UUu7PF720
あぁ、もうすぐだ。
285
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/23(火) 18:34:53 ID:ZAsAokfo0
/{,
! ヽ,
| ヽ, ,イ
l, ヽ / /
!, \ / /
ヽ i、 ,i" /
\ ヽ、 ,rーー、 ,r' /
\ ゝ、 iレ<ッソ ,r' /
\ `、 ,rーッヽ'イ、 ,r' /
\ ヽ_ ,.-'´ : ;リ`ヽ;iヽ\ ,r'" ,/
\ ヽ ,. - ': : :_;、: ::/l_;};;;{_ヾ! / ,/
ヽ_, ,.-ヘ─'´: : ;.-‐'´ `\;〉イi;7i':::\ / /
_,,..------.、 ヾ彡ヘ-─'´ r'`フ=={ヽ: :`ヽ-;ッ-、 /
 ̄ ̄ヾ、:.`ヽ、 _ヽ〉 ,rー'´_;ノ:;;:i};:ヽ\``'7'クシ'´ _,..--‐;:=ー
,-=;' ´ ̄ ̄ ̄: : : : : :.``ー─‐‐'"ブ´:::-、::::リシ::\``'ー'--‐'' ´ /´`
〈 ;:、 ;:: -─-,.-ッ: : : : : : : ;/:ヾヽ:;:-'ヘ:;:::/ヘiヽ、: : : : : : : :ヽ、__
/'´ '´ ,rー'´: : ;: : :,.-‐ヘ\:::;>"´: : : : :``'、:::!レ彡、: : : : : : : : : : : :`ー- 、
,..‐'´: : : :;;r','/:::::::::::;ゞ'´: : : : : :.i"::::`ーッネぐ:::::ヽ: : : : : : : : ; -─'⌒`
_,..- ''´: : : : : ;:_ノ;ヘヾ!::::::;/: : : : : : : : : }ヾ、r={{::::::{{:::::::::): : : : : :/
´  ̄`ヽ;.:- '´ /::::::゙ヾゞ'´: : : : : : :; : : : :.'!;::::;i  ̄r'^‐<、,、:(⌒′
,ヘヽ;::::/ヽ、: : : : : //-─ー^ー'`` ̄` `
/::::::ツ'´ ゝ─-i'´ ′
,..〈;::::::/
/:ヽニソ'
i' ̄ヽ;/
ヽ._,/
10月31日の23時頃に出来れば投下したいと思います
所用によって出来ない可能性もありますが、その際はまた報告させて頂きます
286
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:17:53 ID:LjnB6O220
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
まってたわ
287
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:26:00 ID:a8V/VFO20
待ってた!後誰だったっけこのAA
288
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:57:10 ID:o0IgIWzg0
待ってる
289
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 21:55:35 ID:eq6Sgaaw0
来たか
かっこいいアーチャーじゃないですかー
290
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/30(火) 15:06:08 ID:psvYex6A0
予告通り明日投下します
しかし、少々短くなりそうです。申し訳ない
/ : : : : : : : : 〉′: : : ::::::|:/ |: :/│:{: : : |:..:/ 1ハ: : :..:.:::::::| |: ::: : : : : : : : \
/: : ::::::::::::::::::::}: /: :..:.::::::::|',__|:/ !/|: : :ハ:.:{ __,|i斗-- ::::::::| |::::::::::::::::::::::::::/
 ̄ `ヾ:::::::::::::::::|∧: : ´ ̄/二ヾ{==--!: :/ |: |===彡--リ-|: : : ::::::::| |::::::::::::::::::::/
\:::::::::}::::}: : ::::ィ:iγ⌒ヽ\ヽ!:/ :::! /γ⌒ヽ!:ヽ::::::/:j/:::::::::::::::/
. /::::::/:::rヘ:.:.:::::::l.乂:::::ノ ,. j' } リ {:. 、.乂:::::ノ|: イ::://{|::::::::::::::::\
/::::::::::/:::::| ∨:! ::|ミ===彡ィ !.:.. \/..ミ==彡: : /.′j::::::::::::::::::::::ヽ
イ--――=ァ:::| 冫リ∨..{:::::::::}..{ ,ノ}:.、:. }..{ }.....|: / ′リ}:::::}  ̄ ̄ ̄
/:::::ハ..い{ }..{ }..{ --―-- 、...{ ......|/ .′ イト、:::,
ノ:≦iニヽ :、}..{ } /」´ ̄ ̄`i」:, }{ }...′' /::::|_ ヾ{
__,,イ二ニニ|ニニ\:.}..{ }{ .′: : : : : : : :..:.,}.{ }.{ /¨´:/ヽ:!ニ=-
ニニニニニニニ|ニア:、::::\:.. }{,′r――― 、:.:}.{ }.{/:::: /ニニi|ニニニニニニ=-
ニニニニニニニ|=/ニ \:::::: 、 ..{{/ } {ハ}.{ }イ:::::/二ニ|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|/二二 }八{ \{∨ j./..{ /|/}:イニ\ニi|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|ニニニニム \\ー――/ / /ニニニ=ヾlニニ/ニニニニニ ばかやろー!
ニニニニニニニ|二ニニニニム \ 二二. / ハ二二二二i|二 /ニニニニニニ
ニニニニニニニ|二二二ニニム ー―‐ ′ {ニニニニニ|ニ.′ニニニニニ
291
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 15:40:23 ID:Il.CQKPQ0
www
切嗣わろたwww
待ってるよ
292
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 20:11:10 ID:b5B5XIxU0
まぁ落ち着けよケリィ
293
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:57:13 ID:TimGRJiI0
******
円山と呼ばれる街は住宅地と山が密接し、
自然と都市が入り混じった混沌としたその町外れには、
深夜ということもあり人気というものが無く、しんと静まり返っていた。
ほんの―――数分前までは。
蒼と銀の影は巨大な黒を中心として踊り、光が弾ける。
遅れて大気の爆発と共に激しい音が街中を震わせ、夜の闇を街灯よりも鮮やかに彩っていく。
影は甲冑を纏う少女の姿をしており、両腕には黄金に輝く西洋剣が握られていた。
黒は巨躯の男の姿であり、民族風の衣装と特異な鎧で身を覆う。
そして、丸太の如き右腕には漆黒の片刃剣が構えられ、
先程の光は西洋剣との衝突によって生まれたものだった。
再び、西洋剣が振るわれ、少女は連続して斬撃を男へと浴びせていく。
男は巨岩のようにじっと構え、沈着に全ての攻撃を防いでいった。
轟音に次ぐ轟音が休むことなく発せられ、彼らのいる地点だけ嵐がやってきたかのようだ。
全ての動きは音速の域に達しており、その速度を以て放たれる一撃が激突しあうことで暴風が生まれ、
人知を超えた、人ならざる者が繰り広げる戦闘の激しさを物語っていた。
彼らは古の英雄であり、聖杯の招きによって現世へ再び現れたサーヴァントである。
蒼のドレスと白銀のプレートアーマーを纏う少女、
セイバーは体格で勝るバーサーカーへ技を凝らして斬りかかっていく。
294
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:58:03 ID:TimGRJiI0
彼女の小柄な身は巨躯のバーサーカーの死角へと回り込み易く、
そこにセイバーが付け入る隙があった。
力任せに振り下ろされる片刃剣をセイバーは屈んでかわし、
息吐く間もなく右足の蹴りが繰り出されるが、
その頃には既に身を転げさせて背後へと回っていた。
遅れて、バーサーカーの左足から血飛沫が吹き出していく。
すれ違いざまにセイバーが両刃剣で切りつけていたのだ。
以#。益゚以 「―――――――ッ!!」
痛みによるものか、それとも怒りか。バーサーカーが咆哮を上げる。
以前よりも荒々しさを増した彼は片刃剣を振り回し、セイバーへ叩きつけた。
輝く剣で彼女は防いで見せるが、バーサーカーの勢いは尚も止まらず、
その剛力が刀身を通して身を震わし、ほんの一時怯んでしまう。
すかさずバーサーカーは狂ったように斬りかかっていき、セイバーには防ぐことしか出来なかった。
徹底的に叩き潰さんとする、猛襲である。
一撃、もう一撃と目にも止まらぬ速さで繰り出され、
去なし、避け、辛うじて防いでいたが、このままでは押し切られ、
いずれ切り捨てられてしまうことは必至であった。
窮したセイバーへ、地を強く踏みしめたバーサーカーの、
膨れ上がった全筋力が渾身の一撃を叩きつけられていく。
295
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:00:30 ID:TimGRJiI0
理性を失い狂暴性のみで行動するバーサーカーに、
少女を切り捨てる躊躇いなどはなかった。
轟、と風が唸りを上げ、両刃剣が金属音を一際けたたましく響かせる。
神々しく輝く剣はその輝きに値する程の名声があるのだろう。
騎士達がその輝きに魅せられ、我も我もと戦場へ勇んで足を踏み入れることもあっただろう。
しかし如何に名剣と言えども、こう休む間もなく打ち続けられれば金属疲労により砕けてしまう。
黒刃を受けた黄金の剣はあらぬ方向へと吹き飛んでいき―――
バーサーカーの首筋へと返っていく。
以#。益゚以 「ッ!?」
星の煌きの如く走った刃が肉を裂き、血が飛沫を上げる。
セイバーは全身の力を抜いてバーサーカーの攻撃を受け、
その際に生じた衝撃を利用して身を一転させ、斬りかかったのだ。
己の全筋力を用いて放った剣の威力を、
その身に受けたバーサーカーの首が切断されていき、
痛みに声を上げる間もなく宙へと舞っていった。
夜空に血と首が月明かりで映し出され、
今までの戦闘行動の速さからは信じられぬ程の穏やかな時間が流れ、
やがて肉がアスファルトを跳ねる生々しい音が響き渡る。
黒き巨躯が、倒れていく。
セイバーの手に敵を打ち倒した感触が残っていた。
だというのに、周囲は不気味な静粛に包み込まれてしまっている。
296
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:03:09 ID:TimGRJiI0
達成感はすぐに違和感へと変化し、
<人リ゚‐゚リ 「……!」
それは形となって現れた。
カザ
地に伏した巨体が首を逸したまま立ち上がり、闇雲に剣を振り翳し始めたのだ。
あまりにも突飛な出来事に腰を抜かす者もあるだろうが、流石は英霊である。
即座に足を引き、距離を置いてバーサーカーの出方を伺ったセイバーは、
<人リ゚‐゚リ 「……ッ!?」
川 ゚∀゚) 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
背後から襲いかかるクーに不意を打たれてしまった。
狂気に染まった笑みで襲いかかってきた彼女は、
セイバーに取り付こうとしていくが、
(,,゚Д゚) 「逃がさん」
追跡してきたギコがそれを阻んだ。
両手に持った黒白の中華剣をクーへ投擲する。
夜闇を切り裂いて進む刃はしかし、あらぬ方向へと飛び去ってしまう。
297
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:05:06 ID:TimGRJiI0
振り向きざまに、クーが魔術を用いたのだ。
一体、どのような術を?その疑問を浮かべる間もなく、
(,,゚Д゚) 「trace―――on」
呪文を唱え、再びギコの両手に黒と白、対となる剣が現れる。
中国の歴史を思わせるような、小振りな曲刀だ。
構え、対峙したクーは右腕を翳し、掌へと走らせていく。
刹那、それは蒼いエネルギーの奔流となってギコへと押し寄せた。
魔力を物理的な形に変換して放つ、という魔術である。
雷鳴じみた音が轟き、閃光が周囲を満たす。
ほぼ同時に莫大な火花が散った。
(,,゚Д゚) 「ふん」
双の剣を交差させることでクーの飛ばした雷を防いだのだ。
そのままの姿勢でギコは疾走していき、間合いを詰める。
接近を許さぬと、破竹の勢いで魔力で出来た雷弾を雨霰の如く飛ばすクー。
しかしギコの動きは留まらぬばかりか、益々速度を上げて懐へ入り込み、
構えた剣を頭上へ振りかぶり、敵を捉えた。
交差し、膂力を活かした二重の斬撃が、クーへと襲いかかる。
かと思われたが、刃が切ったものは虚空であった。
二度目の空振りに肩透かしを食らい、直ぐさま反対方向へと振り返る。
己が、先程まで向いていた位置へと。
焦燥が危機意識と共に脳内を駆けてゆき、何か冷たいものが背筋を撫ぜた。
298
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:06:24 ID:TimGRJiI0
川#゚ -゚) 「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!」
眼を真っ赤に染め上げたクーが、ギコの首筋へと噛み付かんとしていたのだ。
彼女の両手からは電流のように魔力が駆け巡っており、
先程の投擲を避けたのと同じ魔術を行使したことが察せられた。
右手が彼の左肩を掴んでおり、咄嗟に右足をクーの胴へと叩き込んでやると、
革靴がドレスごしに肉を打つ生々しい音が響き渡る。
くの字に折れ曲がった彼女の身体は三、四歩仰け反り、
もう数秒遅れれば首に食らいついていたはずの八重歯が遠ざかっていった。
警戒し、ギコも同じく下がり、敵の動きを観察しようとするが、
(,;゚Д゚) 「ぬうぅぅぅッ」
何事が起きたのか、口内が鉄の味で満たされ、
左腕が膨れ上がりあらぬ方向へと曲がっていくと、
破裂した水風船の如く血が飛び散った。
だらり、と力なく左腕は垂れ下がり、無事な右手で口を拭う。
すると右の手にべったりと赤い物がこびりついた。
どうやら、吐血したようである。
何故、と自らに問うまでもない。これがクーの扱う魔術だ。
299
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:07:20 ID:TimGRJiI0
(,,゚Д゚) 「死徒め」
一見しただけでギコは彼女の正体を見極めていた。
常人であればただの猟奇殺人者にしか思えぬはずだが、
この類の生物を彼は何度か相手取ってきたことがある。
吸血鬼ドラキュラと言えば、一般的にもよく知られる存在であり、
それは伝説や創作物でのみ語られる想像上の怪物でしかない。
だが、そのイメージに近い生物がこの世には存在しているのだ。
それが、死徒である。
死徒は他の死徒によって血を吸われ、死亡して脳が溶け、
魂が肉体より解放されることで食屍鬼(グール)になる。
食屍鬼は腐り落ち欠けてしまった肉体を取り戻すべく、他の肉体を喰らう。
そうして新たな脳を構築することで、食屍鬼は吸血鬼と呼ばれる存在になることが出来る。
全ての人間が死徒となれるわけではなく、
肉体的ポテンシャルや魂の強度が優れた者のみが不老不死の化物になれるのだ。
今、ギコと対峙しているこの女は、紛れもない吸血鬼である。
肉体を取り戻すべく食欲だけで動く食屍鬼などではない。
その能力の高さは、推して測るべしである。
300
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:09:53 ID:TimGRJiI0
右手に構えた剣の柄を、彼は更に力を込めて握った。
何度か吸血鬼との戦闘経験はあるものの、
初めて命の駆け引きをした時のような、耐え難い緊張をギコは味わう。
(,,゚Д-) (この吸血鬼は莫大な魔力を抱えている……)
戦闘が開始してからというものの、隠しきれぬほどの魔力を彼は感じ取っていた。
吸血鬼の身体能力は一般に伝わっているように超人的であるものの、
魔術などは人間とさして変わらない。
真祖と呼ばれる吸血鬼がおり、文字通り祖である彼らは超越的な力を持つが、
それは不老不死を活かして長年魔道を探究し続けた結果であり、
人間が同程度の時間を掛ければ彼らと同等の能力を得られる。
では、果たしてこの女は、クーは真祖であるか否か。
何故吸血鬼なぞが聖杯戦争に紛れ込んできたのか。
疑問は多々あるが、確実なことはクーが絶対的な強者である、ということだけだ。
(,,゚Д゚) (次は、抜からん)
左腕を右手で強引に元の位置へ戻し、魔術によって筋繊維を再生させる。
魔力が糸のようになり、神経を繋ぎ止めることで激痛が走るが、
ギコは決してクーへ注ぐ視線を外しはしない。
301
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:18:51 ID:TimGRJiI0
苦痛に眉根を歪めながら睨みつけ、彼女の所作一つ一つを観察する。
間合いは八歩ほど離れていたが体制は既に立て直されていた。
蹴りを食らわされたクーの表情は憤怒に歪み、すぐにでも飛びかかってくることだろう。
地を強く踏みしめ、一点へと集められる魔力に大気が歪む。
来る、とギコが確信したその時、
<人リ゚‐゚リ 「――――――!」
主の危機を察したのか、セイバーがクーへ斬りかかった。
輝く剣が柔らかい肉体を大きく切り裂き、
内蔵を晒した胴をクーはセイバーへと晒すこととなった。
その顔には、不敵な笑み。
止めを刺さんとギコが駆けるが、セイバーの背後にはバーサーカーが迫っていた。
失われたはずの首が生え、獰猛な獣そのものの表情に衰えはない。
首と左胸にはサーヴァントの心臓たる魔力の核があるはずなのだが……。
バーサーカーの真名へ迫りつつある高揚感と、
何か恐ろしい物に対峙するような絶望を抱きながらも、
ギコは構えた剣を振るった。
バーサーカーへ、だ。
302
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:20:58 ID:TimGRJiI0
シンギムケツニシテバンジャク
(,,-Д-) 『―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ』
詠唱開始。
上空へ、高く、
チカラヤマヲヌキ
(,,-Д-) 『―――心技、泰山ニ至リ』
バーサーカーの頭上へと飛び上がったギコは構えた名剣、
干将莫耶(カンショウバクヤ)を掲げ、詠唱が続く。
ツルギミズヲワカツ
(,,-Д-) 『―――心技黄河ヲ渡ル!』
黒白の剣へ魔力が集い輝き出す。
陽光の如きその光に包まれた剣は太刀にも劣らぬ大剣となり、
ギコの持てる全力を以て叩き込まれた。
バーサーカーの漆黒の鎧ごと剛健な肉体は断ち切られ、
鈍痛じみた手応えを得たギコは剣を離すと、
軽業のような動きで宙へと再び舞上がった。
303
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:22:58 ID:TimGRJiI0
続けざまに干将莫耶を両手の内へ作り出すと、瞬く間に投擲する。
が、手元が狂ったのか、虚しくそれはバーサーカーの背後へと流れてしまう。
するとまたしてもギコは新たに干将莫耶を作り出し、放り投げる。
バーサーカーの首元を跳ねんとした双剣はしかし、
両肩から胴まで達する刀傷を受けたにも関わらず、
力強い剣の薙払いで跳ね除けられてしまう。
あらぬ方向へと飛んでいく干将莫耶へ目もくれず、
更なる干将莫耶を出現させ、バーサーカーの頭部へと放つ。
剣を振ったことで隙の生まれたバーサーカーへ見事に直撃したが、
まるで金属板にぶつかってしまったかのように跳ねてしまい、虚しく音を残した。
次いで、ギコは着地をとる。
好機と見たバーサーカーは巨体を戦車の如く加速させ、肉薄していく。
セイメイリキュウニトドキ
(,,-Д-) 『―――唯名別天ニ納メ』
以#。益゚以 「ッ!?」
しかし、バーサーカーは異変を察知する。
風を切る羽音が聞こえてくるのだ。
それも一つや二つでは効かぬ、折り重なった音が規則的なリズムを刻み、
己へと近寄ってくるのだ。足を止め、周囲を見た。
304
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:25:02 ID:TimGRJiI0
その時には既に、バーサーカーは取り囲まれてしまっていた。
先程、尽く防ぎきって見せた六つの剣にだ。
ワレラトモニテンヲイダカズ
(,,゚Д゚) 『両雄、共ニ命ヲ別ツ!!』
干将莫耶は中国に伝わる名剣であり、宝具にも数えられる。
黒と白のこの夫婦剣は互いに惹かれあう性質を持ち、
ギコはこれを利用してバーサーカーを取り囲む剣の結界を作り出したのだ。
技の名を、鶴翼三連と呼ぶ。
今、それがバーサーカーへと炸裂した。
逃げ場を逸したバーサーカーには六つの剣を受ける他なく、
全ての刃がほぼ同時に身体へ突き立ち、爆発した。
地面は大気と共に震え上がり、粉塵が舞っていくが、
ギコは涼しげな目でその光景を睨みつける。
305
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:27:58 ID:TimGRJiI0
間を置かずして呪文を呟き、
(,,゚Д゚) 『trace―――on』
背後へ向けて無数の剣を出現させる。
これらは一振りずつが天下に名だたる名剣であり、
形も西洋から東洋まで様々な物が取り揃えられていた。
先程から干将莫耶を何度も作り続けることが出来たのは、
単にこれが彼の魔術であるからである。
投影魔術。
ギコの扱うこの魔術は物を複製するというものであり、
絵画から宝具まで多様なものを模倣出来るのだが、
その性質ゆえに魔術協会からは異端扱いされていた。
もっとも、ギコほどの高度な投影を通常は行えぬ為、
魔術師の常識では投影魔術は非常に効率が悪い、という意味ではあるが。
投影品であるこの宝具達はその例に漏れず、ランクがオリジナルよりも一つ下げられている。
しかし、これほどの数を長時間に渡って存在させられているという事実は、
ギコを知らぬ魔術師達にとっては驚嘆に値するものだ。
おまけに、この数である。
セイバーと対峙するクーの目には、彼女の背後に剣の林が出来ているように映った。
名剣、宝剣の数々はどれもが現代の魔術を凌駕する神秘に包まれており、
その威力はただの刃物など比べるべくもない。
306
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:29:51 ID:TimGRJiI0
その威容は言葉では表せられぬような、畏れを見る者へそれは与えた。
吸血衝動に駆られ異常な食欲に気を狂わせている、
クーにすら一拍の間を与えたほどだ。
停滞した空気を察し、好機と見たセイバーは飛び出した。
同時、剣の林が彼女と共に空を翔ける。
機関銃掃射の如き苛烈さで迫る刃を両の手に掴むセイバー。
見れば、先程まで握っていた黄金の剣は地面へ突き刺されており、
そこまでを目に収めた彼女は、虚脱した意識を取り戻し、
例の魔術を用いて剣の軌道を変える。
西洋剣は見事に明後日の方角を切り裂くも、
逆の腕により振るわれた剣までは避けられなかった。
辛うじて左頬を薄く裂かれるに留まるが、
遅れてやってきた荒波の如き剣の群を避けることは出来なかった。
川 -) 「グァァァァァァァァァァッ!?」
鈍い音を立てて、彼女の身体は続々と貫かれていく。
抜かりなく、背後へと回っていたセイバーが、
クーから外れていった剣を二振り手に取るとX字に斬りかかった。
307
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:31:53 ID:TimGRJiI0
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
が、咆哮と共に現れたバーサーカーがクーの前へ躍り出て、盾となる。
金属の砕ける音が響き渡り、漆黒の鎧を前に剣は散っていく。
跳ね除けられ、地面に伏せてしまったクーはそのまま、
疾走を続けセイバーへ突っ込んでいくバーサーカーの姿を見送った。
彼女の二回りも三回りもの巨体を誇る男の肩が、ぶち当てられる。
魔術でも宝具でもない、単なる質量の違いからくる力の差がこの場面で発揮された。
子供がダンプカーに撥ねられたかのように、セイバーは空中へ吹き飛ばされてしまう。
(,;゚Д゚) 「ちぃッ」
突進を避けて身を転げさせていたギコは、片膝を突くとクーを見た。
セイバーを援護すべく、彼は干将莫耶をその手に駆ける。
瞬間、その目に収めていたクーの顔が破裂した。
(,;゚Д゚) 「な……に?」
響くものはアスファルトに水滴が跳ねる、生々しい音だけであった。
一体、何者による攻撃だ? 何による攻撃だ?
ギコの疑問は、被害者自身の手で解消されることとなる。
魔力の気配が一層濃密な物となるのを彼は感覚で理解した。
砕け散り、脳の破片までも地面に零した顔が、即座に再生されていったのだ。
魂によって生を得る、死徒ならではの頑丈さである。
308
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:33:13 ID:TimGRJiI0
川 ゚ -゚) 「……そこか」
元に戻った顔で、平然と言ってのけたクーは振り返る。
攻撃された方向へと。
遅れてやってきた高い音により、ギコも何とか銃声だと理解したものの、
具体的な方角まで割り出すことは不可能だった。
だが、クーはそちらへと走り出す。彼女は把握していたのだ。
(,;゚Д゚) 「貴様ッ!? まさか!!」
一拍遅れてギコも駆ける。獲物を狩ろうとして追うわけではない。
クーの纏う莫大な魔力の気配に、懐かしい匂いが紛れていたのだ。
望郷の想いに駆られ、円山で探し求めていた人物の足取りが彼女の魔力にある。
――――嫌な予感が脳裏を過ぎった。
新たなる敵へ向かっていく死徒の魔力から、
かつての恋人シィの魔力と似た感覚が漂ってくるのだ。
信じたくない気持ちでギコの頭は一杯になった。
嘆きも怒声も、口から溢れるかのように吐き出されそうだった。
奥歯を音が鳴るほど噛み締めるギコ。
抑えきれず、クーへと突進していくもバーサーカーによって阻まれてしまう。
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
309
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:34:06 ID:TimGRJiI0
(,,#゚Д゚) 「退け! 木偶めッ!!」
構わずに干将莫耶を左右から振るおうとするが、
割り込んできたセイバーによってそれは止められてしまう。
疾走の速度を乗せた刃は、あっさりと絡め取られセイバーの手に移る。
<人リ゚‐゚リ 「……」
少女は何も口にはせず背で語る。
干将莫耶を構え蒼のプレートアーマーを纏う、
この少女にしか見えぬ英雄は、バーサーカーとの戦闘を受け持とうと言うのだ。
いや、それだけではない。
ここで合力してバーサーカーの排除に当たるか、という問いも与えられている。
310
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:35:35 ID:TimGRJiI0
(,;゚Д゚) 「くっ……」
今回は円山にシィを探しに来たのみであったが故、
このバーサーカーのような規格外の化物を倒しきれる礼装はない。
並大抵のサーヴァントならまだしも、耐久にこれほど優れる者では手古摺るだろう。
よって、セイバーと共同してバーサーカーを討つことは、
死徒による新たな被害者を生むのみであろうと判断し、ギコは駆け出した。
クーを狙撃した者は一体何者だろうか、という疑問もある。
ある人物の姿が一瞬、頭にちらついた。
あの男であるのならば――――
恋人の仇に宿敵。
両者を一辺に相手取る覚悟をして、ギコは夜の街を走り抜ける。
その背後で、黒と蒼の輝きが再び乱舞を始めていた。
夜の静粛などもはや、どこにも存在しない。
時を超えて現れた英雄と魔術師によって、札幌は今や乱世と化していた。
311
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:40:58 ID:TimGRJiI0
******
_
(;◎∀゚) 「なっ、馬鹿な! 急所のはずだぞッ!?」
戦場となった場所から2km程離れたビルの上、
灰色に淡い青色などを塗り、都市迷彩を施した布を被ったジョルジュは、
バレットM82A1という狙撃銃のスコープを覗いたまま驚嘆した。
M82A1は1mを優に超える長大なライフルであり.50BMG弾を使用する。
これは現行機関銃弾最大の口径であり、コンクリートを障子紙のように貫く威力を持つ。
2km先の装甲車を撃破したという逸話を持つほどの銃だ。
ただの狙撃銃などではなく、あまりに過剰すぎる威力から、
国際条約で人に対して使用するのを禁ぜられており、"対物狙撃銃"というカテゴリーに属する。
そんな桁違いのライフルによる狙撃を頭部へ受ければ、即死してしまうことだろう。
無論、ジョルジュもそう確信しており、つい先程まで対象は死亡したものだと思っていた。
頭部を粉微塵に吹っ飛ばされて生きていられる者などいるはずもない。
しかし、狙撃された対象は跡形も無くなった頭部をまた生やして見せた。
聞けば冗談だと笑い飛ばすような突飛もない話だが、ジョルジュは現にその様子を目に焼き付けていた。
信じられないのは当人とて同じである。
312
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:42:27 ID:TimGRJiI0
すぐさまジョルジュは第二射へ移ろうとするが、
何せ発射煙が凄まじい為に、ターゲットをスコープの十字線へ収めることは困難だった。
M82A12を使用した後に生じる煙は、
緩やかな気候の土地で使用しても通常の狙撃銃の比ではないが、
何せ雪国で発砲した為、周囲の冷気が火薬の燃焼により発生した煙との温度差から、
通常よりも多くの発射煙が湧き出てきて、更にジョルジュの視界を悪化させる。
この悪状況がジョルジュの焦りに拍車を掛けた。
―――あの女だけは決して生かしてはおけない。
アサシンを連れて円山内へ巡回に出たところ、発見出来たのは僥倖であろうか。
ジョルジュは、二度と出会うこともないだろう女を見かけたその瞬間から、彼女の抹殺を決意していた。
彼のボスであるドクオにその存在を知らせるわけにはいかないのだ。
ましてや、対面させるなど言語道断である。
もしそんなことがあれば彼は躊躇うだろう。揺らぐだろう。
折れはしないが、己の理想を捻じ曲げてでも女を救うはずだ。
共に聖堂協会を抜け出して傭兵稼業を始めたほどの付き合いだ。
ジョルジュには、いともたやすく想像のつくことであった。
救いたい者がいれば、彼は何処へだって向かうのだ。
そこに、どんな困難や苦痛が待ち受けていたとしても。
どんな手段を使ってでも彼は救う。
313
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:43:38 ID:TimGRJiI0
人は彼を大悪党とも英雄とも呼ぶように、評価は両極端である。
誰よりもドクオは人間でありすぎるのだ。聖人君子などとは程遠い。
弱さも強さも持つ、魔術と戦闘の術に少しだけ長けるだけただの人だ。
そんな彼だからこそ、支えてやらねばと人が集った。
ジョルジュ自身は、彼に付き異端を片っ端から狩れれば良いのだが、
ここで動揺されてしまえば目的の達成が危うくなる。
発射煙が晴れていくまで、やけに長く感じられた。
「人ならざる者に、そんな玩具が通じるものかね?」
ふと、背後より声を掛けられた。
_
(;◎∀゚) 「黙れアサシン、黙って敵に備えていろ」
彼のサーヴァントとなったアサシンは、少々おしゃべりが過ぎる。
腹立たしさに拍車をかけられ、つい引き金にあてた指へ力がこもりそうになった。
敵はまだ見えない。
あの再生能力から、死徒となったのであろう女相手に、
現代兵器などでは心許ないが無駄弾は避けたい。
何より、こちらの位置を探る材料をこれ以上与えたくはなかった。
314
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:44:37 ID:TimGRJiI0
|/▼) 「いや、私は何も言っていないが?」
霊体化を解いて隣に現れたアサシンの言を聞き、ジョルジュの心は乱れた。
_
(;゚∀゚) 「はっ!?」
思わず背後へ振り返るも、夜空と暗闇に包まれた街並みが見えるだけだ。
「アンタらはよく訓練され武器も揃っているが、束ねる者は如何なものか?
感情のままに生きる、人間らしい生き方かもしれぬが、果たして王たる器と呼べるか?」
もう一度、振り返る。虚空へと。
( <・>w<・>) 「テメエの待望を託すに、相応しき人物なのかね?」
先程まで自分が見ていた場所、狙撃位置にそれはいた。
宙に浮かんでいるそれは、奇妙と表現する他ない。
人のような外見をしているが人ではなく、足には蹄があり、
細長い顎鬚の生えた面などは人間だが、二つの角が額から伸びている。
極めつけは、背についたコウモリの黒い翼だ。
悪魔である。
聖堂協会の代行者を勤めていたジョルジュは、経験から即断した。
発見から引き金を引くまで、1秒とかからなかっただろう。
しかし、突如として現れた悪魔の姿は霧のように消えていき、
315
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:45:46 ID:TimGRJiI0
川#゚ -゚) 「――――――――ッ!!」
代わりにいつの間にか接近してきた女、クーが現れた。
弾丸が放たれる刹那、宙に飛び上がった彼女はM82A1の銃身を片手で押しのけ、
弾丸は明後日の方角へ飛んでいき銃声が虚しく響く。
_
(;゚∀゚) 「テメェッ!?」
唐突すぎるきらいはあったが、積み重ねてきた経験から、
ジョルジュが取る行動は迅速そのものだった。
銃を捨ててバックステップを行い、身に纏った蒼い僧衣とコートから、刃のない剣を取り出す。
両手に三つずつ掴んだかと思えば瞬く間に柄から先が出現した。
左右に六つ伸びた、黒鍵という剣を構えた様はまるで異様に長い爪のよう。
十字架を模したそれは切れ味こそ鈍いものの、霊的な干渉力に関しては優れている為、
悪霊や悪魔といったものと戦う代行者にはおあつらえ向きの武器である。
霊体であるサーヴァントに対しても、いくらかは有効だ。
もちろん、死徒に対しても同様である。
ビルの屋上に着地したクーと、ジョルジュは対峙した。
相手の隙を伺うという真似をするようなクーではない。
真っ先に駆け出し、右手を翳すと雷となって魔力が放たれる。
亜光速に達する指向性を持った魔力は雷鳴を響かせ、
身を屈ませたジョルジュのコートの肩を焼け焦がしていく。
316
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:46:51 ID:TimGRJiI0
間一髪で避けたように思われたが、それは本命などではない。
陽動にしか過ぎず、クーは息つく間もなくジョルジュに飛びかかった。
無論、容易に接近させるジョルジュではない。
_
( ゚∀゚) 『jesus―――christ』
魔術の基礎中の基礎、強化の術を使用し、
代行者として鍛え上げられたジョルジュの肉体は今や、音速の世界の住人となっていた。
肉体のみならず視神経に反射神経をも強化した彼は、
光速で移動する物体すらも捉えられる。
ジョルジュは魔導の素養には恵まれてはいなかったが、強化だけは行えた。
唯一使用出来る魔術をドクオと出会ってから鍛えに鍛え、
既に極めたと言ってもいいレベルに達していた。
生死をかけた戦場を行き来してきたことで、磨きぬかれた集中力による賜物である。
突っ込んできたクーを避ける必要などはない。
ただ、右の膝を突き出してやるだけでことはすむ。
ジョルジュの膝蹴りが炸裂するかと思われたその時、クーは突如として宙を舞った。
それも不自然に、まるで重力が逆さになったかのように、
足が天へ引っ張られたかのようなアクロバティックな動きでだ。
膝蹴りを空振り、隙の出来た背後に回ったクーは、脇腹から臓物を引き出すべく左手を繰り出す。
317
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:47:50 ID:TimGRJiI0
|/▼) 「……」
が、更にその背後から音もなくアサシンが現れる。
気配遮断スキルによって隠密行動をとっていた彼は、この時を待っていたのだ。
クーが魔術を囮に使ったように、ジョルジュもまた自ら囮になったのだった。
雪のように美しき首筋へ、アサシンの抜いた両刃剣が喰らいかかるも、
それは何らかの力を受けて虚空を割くのみに留まってしまう。
|/▼) 「魔術か、面妖なッ」
危険を感じ、アサシンは深追いせずにジョルジュの傍へと身を転がせていく。
ビルの縁に足がかかり、ふと背後を伺った。
すると、
(,,゚Д゚)
以前のマスター、シィに見せられた写真の男がバイクに跨って走っていた。
深夜に、もはや人気の無くなった通りをひた走る彼は、
千里眼を持たぬアサシンの目にもはっきりと映る。
こちらへ向かっているとなれば、尚更だ。
|/▼) (シィによれば、あの男もマスターのはず。
あれがセイバーのマスターか。あの女がバーサーカーを連れていないということは、
セイバーに足止めでも食らっているのか? 令呪を使用すれば、一瞬だが……)
318
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:49:03 ID:TimGRJiI0
思考を巡らせ、どの対処法が最も効率が良いか、
暗殺者の論理から解を導き出そうとするアサシン。
両者とも、サーヴァントを連れぬマスターだ。
ならば、サーヴァントであるアサシンに対抗できるわけもない。
|/▼) 「マスター、新手だ。セイバーのマスターが来るぞ」
_
( ゚∀゚) 「マジか、だったら―――」
|/▼) 「私が仕留めてこよう。その間、お前にこの女を任せるぞ」
ギコがやって来ぬ内に、早々にクーを片付けてしまおう。
そう続けようとした己のマスターに有無を言わせず、アサシンは縁の上へ立った。
_
(;゚∀゚) 「なっ! ちげぇだろ!!」
クーから目は離さぬまま荒い口調でジョルジュは言うが、
アサシンは自分の力量に絶対の自信があるらしく、既に行動を開始していた。
_
(;゚∀゚) 「待―――」
瞬間、轟と音が走り、雷がジョルジュを貫かんとして言葉を遮られてしまう。
間一髪で避けるものの、視界の端にはアサシンがビルから飛び降りる姿がちらつき、
クーへの集中力が削がれてしまう。
319
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:49:44 ID:TimGRJiI0
元から、強引に鞍替えをさせたサーヴァントである。
令呪によって服従を強いているが、効力は薄く、
そう易々と言うことを聞いてはくれぬだろう。
半ば諦めにも似たような想いで、ジョルジュはクーとの戦闘を続行していく。
一方のアサシンはと言えば、傍から見れば身投げをしているようにしか見えなかったであろう。
両腕を大きく広げ、およそ30m程の高度から飛び降りる者など自殺者そのものである。
しかし、彼の優雅ささえ感じさせる鳥のようなポーズを見れば、その印象はがらりと変わる。
ギコとの距離は、既に40mにまで縮まっていた。
大型スポーツ車のバンディットのエンジンをもってすれば、
あっという間にビルにまで辿り着くはずだ。
投げ出されたアサシンの身は夜空へ溶け込み、目標へと接近していく。
凍てつくような風が頬を刺し、白いローブは荒々しく翻る。
ビルの高度と己の体重から割り出した落下予測地点と、
ギコのバイクの速度から想定した通過地点は重なっており、その計算は恐ろしい程正確だった。
既に、ギコの首筋が彼の目にはっきりと映し出され、手を伸ばせば届く位置にまで来ていた。
ギコはクーのいるビルへと血走った目を向けている為、アサシンの接近にまだ気づいていない。
|/▼) (仕留めた)
籠手に仕込まれた小刀が腕を突き出すと共に飛び出し、
ギコの首へとその切っ先が叩き込まれていった。
320
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:54:34 ID:TimGRJiI0
第六話 「jesus――――christ」part 乱世エロイカ4
終
アーチャーとライダーのステータスを第五話で表記しようとしたのですが、
忘れていた為、おまけという形で投下します
ついでに、おさらいとしてランサーとアサシンも並べておきます
321
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:56:14 ID:TimGRJiI0
【クラス】アサシン |/▼)
【マスター】長岡ジョルジュ
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 魔力E 敏捷B 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
【保有スキル】投擲(短刀):B
短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。
風除けの加護:A
中東に伝わる台風避けの呪い。
【ランサー】 目,`゚Д゚目
【マスター】穏田ドクオ
【真名】???
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A++ 魔力D 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】耐魔力A
Aランク以下の魔術をキャンセル。
【保有スキル】直感B
戦闘の"流れ"を読むことの出来る能力。
敵の攻撃をある程度予測することも出来る。
騎乗D
騎乗の才能。馬であるならば人並み以上に乗りこなすことが出来る。
知識を与えられれば現代の乗り物を扱う事も可能。
322
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:57:52 ID:TimGRJiI0
【クラス】アーチャー (<`十´>
【マスター】内藤ホライゾン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力C 耐久B 魔力D 敏捷B 幸運A 宝具A++
【クラス別スキル】単独行動A
マスターからの魔力供給が無くなっても現界していられる能力。
ランクAならば五日間は行動可能である。
耐魔力C
第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。
【保有スキル】千里眼C
純粋な視力の良さ。遠距離視や動体視力の向上。
高いランクの同技能は透視・未来視すら可能にするという。
猟師の手腕A
残留魔力や魔力の痕跡を元にサーヴァントの動きを把握する追跡術。
不可視の死神A
霊体化している時は気配が遮断され、マスターにしか感知出来なくなる。
しかし魔力供給のパスが切れるとマスターにも把握出来なくなってしまう。
【クラス】ライダー ( ゚_ノ゚)
【マスター】津出ツン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力C 耐久A 魔力E 敏捷D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】対魔力D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗A
幻獣・神獣クラスを除く全ての獣、乗り物を乗りこなす事が出来る。
【保有スキル】破壊王A+
敵を倒すたびに全ステータスが1ランク上昇していく。
戦闘続行A
瀕死の傷でも戦闘可能。決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
323
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:59:53 ID:TimGRJiI0
宝具と真名は本編の進むと明らかになるという感じで
今回は投下これで終わりです
大幅に遅くなってしまい申し訳ありませんでした
次回は11月末に投下する予定です
324
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 00:44:42 ID:cR45g.z2O
乙、安定して面白い
ところで、この話は元ネタであるフェイトとの繋がりはあるの?
真祖とか、一応型月らしい話は出てきてるけど……
325
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 01:23:14 ID:DXl/paDA0
>>324
fateとは繋がりがありません
設定を使わせて頂いているだけです
色々と繋がりがあるんじゃ?という所が多々ありますが、
そこは物語が進んでいくにつれて、疑問が解消されるかと思います
真祖については、死徒という設定を説明する上で必要だと判断したので記述しました
326
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 01:32:37 ID:cR45g.z2O
>>325
なるほど、つまり型月の世界観にブーン達を放りこんだって感じなのね
判りやすい説明をありがとう
327
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 01:36:34 ID:DXl/paDA0
>>326
あ、その説明が一番簡潔で分かりやすいです
こちらこそありがとうございます
328
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 02:26:42 ID:CO0TiRXM0
交信が楽しみですわ
英霊のまなよそくとかは控えた方がいい?
329
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 07:05:46 ID:3A2cL9..0
ライダースキルランク底上げとかやべぇなwww
330
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 10:38:50 ID:DXl/paDA0
>>328
真名や展開の予想はおkですよ
投下まで時間がかかるので、待ってるまでの間どんどんやってください
331
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 15:08:04 ID:JijkyPyg0
>>330
おk、把握。
とはいってもほとんど分かってないけど。
とりあえずアーチャーはシモ・ヘイヘだと思う
332
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 16:57:26 ID:QmC3C5YoO
アチャとランサーは判るけど、ライダーが全く判らない
ワルサーやら敬礼やらでドイツ軍って事は判るけど
スキル的に戦車かUボート乗り?
言動からして、ナチっぽくは無いんだよね
333
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 19:00:31 ID:BYnBUXMs0
やっぱりあれじゃないの
ルーd
334
:
名も無きAAのようです
:2012/11/07(水) 21:48:13 ID:SiCVK5jE0
( <・>w<・>) これもサーヴァントかな
335
:
名も無きAAのようです
:2012/11/10(土) 11:06:15 ID:EFQInQtY0
悪魔だって書いてあったよ!
336
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/27(火) 01:53:47 ID:G7Pq2aBk0
申し訳ありませんが、今月末の投下は難しそうです
ですので予定を変更して12月の8日か9日あたりに投下したいと思います
度々遅れてしまって申し訳ありません、必ず完結だけはさせますので、どうかしばしお待ちを
337
:
名も無きAAのようです
:2012/11/27(火) 07:25:58 ID:fWWrVuoEO
Vitaでステイナイトしながら待ってるよ
338
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 21:44:48 ID:mXLUZPNc0
遂に今日か・・・
339
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 22:23:39 ID:ncdL14qg0
来るか……
340
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/09(日) 23:32:36 ID:o.JuIvjw0
すまない……バイトが予想以上に立て込んでしまい間に合わなかった。
申し訳ないがこの際、12月24日まで延期させてもらおうと思う。
上手くいけば2、3話書きためられてpart乱世エロイカの終わりまで書けるはず。
本当にごめんなさい。
341
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 23:36:48 ID:ncdL14qg0
おk、把握。ムリしないで下さいねー。待ってます。
342
:
名も無きAAのようです
:2012/12/10(月) 00:13:24 ID:bfrvo0Wk0
報告だけでもありがたい
クリスマスプレゼント待ってる
343
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
344
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/21(金) 23:47:12 ID:dh/5vEkw0
アルバイトが忙しく、なかなか時間が取れないが、24日に必ず投下させて頂く。
途中からながらになるかもしれないが、必ず投下させて頂く。
345
:
名も無きAAのようです
:2012/12/21(金) 23:59:45 ID:3OCDKS4.0
投下してくれるのはもちろん有難いが、あまり気負い過ぎずに楽しく投下してれれば良いと思うよ
346
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/22(土) 22:43:19 ID:je3G2qoA0
暖かいお言葉をありがとうございます
ながらでも楽しんで投下出来ればと思っております
347
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 23:06:59 ID:BzmwS2.gO
俺、伏古六条五丁目に住んでたよ(笑)伏古公園でマラソン大会したわ
作者がんがれ
348
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 00:59:36 ID:.p1nYNcE0
わくてか
349
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:11:25 ID:Se0v3M7c0
******
空気が張り詰めていた。
冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。
歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。
( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」
ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。
状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。
むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。
それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。
このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。
350
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:14:23 ID:Se0v3M7c0
ただ、その判断をツンは下せずにいた。
望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。
彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。
追撃か、傍観か、撤退か。
いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
反面、ツンは焦っていた。
状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。
鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。
ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。
咆哮を耳で聞いた。
351
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:15:21 ID:Se0v3M7c0
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず怒声を浴びせたのだ。
このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。
選択が迫られている。
あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。
ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。
取るべき行動方針は四つのいずれか。
第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。
第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。
第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。
愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。
352
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:16:21 ID:Se0v3M7c0
では、残る第四の方針とは――――
何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
怒声が上がった。
ついにランサーが動き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)
反射的に叫びそうになるツンだったが、
(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」
ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。
そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。
――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。
353
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:17:02 ID:Se0v3M7c0
(;^ω^) 「ッ!?」
槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」
白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。
ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。
しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、
ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」
それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」
ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。
354
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:18:36 ID:Se0v3M7c0
ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。
ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」
途端、空が割れた。
この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。
目,`゚Д゚目 「ッ!?」
尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。
死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。
放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。
中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る十五の弾丸がランサーを狙う。
355
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:19:16 ID:Se0v3M7c0
しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。
鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。
と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。
するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。
夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。
グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。
かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。
その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の敏捷性を活かして逃れるが、
356
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:19:58 ID:Se0v3M7c0
目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」
頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。
ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、
ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」
金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。
巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。
月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。
――――ユンカース Ju-87
通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。
それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。
357
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:21:22 ID:noZfhVJE0
うはきてる!
358
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:21:38 ID:Se0v3M7c0
火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。
更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。
目,`゚Д゚目 「笑止」
爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴足りとも流されてはいない。
(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」
全くの無傷である。
(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」
流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」
(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」
複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。
359
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:22:25 ID:Se0v3M7c0
魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。
(;^ω^) 「おぉーんッ!?」
照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。
地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。
(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」
公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。
攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。
謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。
硬い、金属質な音だ。
アーチャーはそれを騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。
黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。
360
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:23:09 ID:Se0v3M7c0
目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」
漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。
先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。
何という槍捌きか。
この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。
彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。
高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。
第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。
鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。
槍術の究極系が、そこにはあったのだから。
361
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:24:11 ID:Se0v3M7c0
まさに神武と言えよう。
ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。
目,`゚Д゚目 「では――――」
( ゚_ノ゚) 「ッ!」
(<`十´> 「……」
ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。
(;^ω^) 「おっ……」
雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。
ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――
362
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:25:05 ID:Se0v3M7c0
目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」
先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、
(;^ω^) 「おぉっ!?」
ブーンの左足から血の花が咲いた。
(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」
彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。
(<`十´> 「狙撃か」
この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。
363
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:26:01 ID:Se0v3M7c0
( A )
背格好からして男であろう。
既視感を覚える姿であった。
ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。
――――あれはたしか昼間に。
角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。
相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。
が、しかし。
目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」
ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれていく。
(;<`十´> 「ちっ」
もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。
銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。
364
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:28:34 ID:Se0v3M7c0
ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。
先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。
敵は、ずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。
あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。
ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。
(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」
サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。
(<`十´> 「7.62……NATO弾……」
敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。
―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。
などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。
(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)
365
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:30:10 ID:Se0v3M7c0
第七話前編、ここで終了です。
26日が休日なので続きはその日に。
明日も仕事があるので今日はここで切らせてもらいます。すいません。
366
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:38:06 ID:noZfhVJE0
乙ー
367
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:52:44 ID:u602xFKsO
乙ー
ライダーはエーリヒ・ハルトマンかと思ったけど・・・
そういえばこっちもチートだわな・・・
368
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:55:33 ID:Se0v3M7c0
乙ー
ブーンこれでいいのか……主人公……
369
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:02:46 ID:ThT8KJC60
乙乙!
370
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:23:36 ID:xQnRz6A.0
乙ー
ライダーの歴代相棒達も出ないかなー
このランサーさんって1万人相手に無傷だった人だよね・・・?
371
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/27(木) 22:40:56 ID:79dFdAXY0
すまん、昨日は寝落ちして投下できなかった
明日も早いので今日はもう寝るが
明後日には出来れば投下しようと思う
372
:
名も無きAAのようです
:2013/01/02(水) 00:23:12 ID:PHHb2tpY0
あけおめー
投下待ってるよー
373
:
名も無きAAのようです
:2013/01/04(金) 23:24:27 ID:/Hw.cJIo0
どうせ言った日に投下しないんだし報告いらね
374
:
名も無きAAのようです
:2013/01/11(金) 02:28:37 ID:Sm8VdI6Y0
投下はよ
375
:
名も無きAAのようです
:2013/01/11(金) 22:24:29 ID:JOYM5TYU0
生存報告だけでも・・・
376
:
名も無きAAのようです
:2013/01/18(金) 23:52:30 ID:wJf4x7u.0
投下マダー?
377
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 21:41:56 ID:ew.Lsz1Q0
もう1ヶ月か
378
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 23:34:34 ID:vJNk1RScO
のんびり待つさ
379
:
名も無きAAのようです
:2013/02/02(土) 14:31:48 ID:RP.JQISQ0
ギコかっけえ
380
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:13:34 ID:1oiKVfdg0
******
空気が張り詰めていた。
冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。
歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。
( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」
ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。
状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。
むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。
それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。
このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。
381
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:14:16 ID:1oiKVfdg0
ただ、その判断をツンは下せずにいた。
望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。
彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。
追撃か、傍観か、撤退か。
いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
反面、ツンは焦っていた。
状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。
鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。
ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。
咆哮を耳で聞いた。
382
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:15:17 ID:1oiKVfdg0
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず、怒声を浴びせたのだ。
このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。
選択が迫られている。
あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。
ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。
取るべき行動方針は四つのいずれか。
第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。
第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。
第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。
愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。
383
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:16:50 ID:1oiKVfdg0
では、残る第四の方針とは――――
何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
怒声が上がった。
ついにランサーが動き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)
反射的に叫びそうになるツンだったが、
(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」
ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。
そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。
――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。
384
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:19:18 ID:1oiKVfdg0
(;^ω^) 「ッ!?」
槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」
白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。
ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。
しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、
ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」
それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」
ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。
385
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:20:41 ID:1oiKVfdg0
ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。
ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」
途端、空が割れた。
この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。
目,`゚Д゚目 「ッ!?」
尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。
死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。
放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。
中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る15の弾丸がランサーを狙う。
386
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:21:54 ID:1oiKVfdg0
しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。
鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。
と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。
するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。
夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。
グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。
かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。
その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の俊敏さを活かして逃れるが、
387
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:24:35 ID:1oiKVfdg0
目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」
頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。
ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、
ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」
金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。
巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。
月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。
――――ユンカース Ju-87
通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。
それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。
388
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:26:39 ID:1oiKVfdg0
火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。
更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。
目,`゚Д゚目 「笑止」
爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴たりとも流されてはいない。
(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」
全くの無傷である。
(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」
流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」
(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」
複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。
389
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:28:24 ID:1oiKVfdg0
魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。
(;^ω^) 「おぉーんッ!?」
照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。
地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。
(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」
公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。
攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。
謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。
硬い、金属質な音だ。
アーチャーはそれをこの騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。
黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。
390
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:32:36 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」
漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。
先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。
何という槍捌きか。
この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。
彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。
高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。
第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。
鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。
槍術の究極系が、そこにはあったのだから。
391
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:34:15 ID:1oiKVfdg0
まさに神武と言えよう。
ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。
目,`゚Д゚目 「では――――」
( ゚_ノ゚) 「ッ!」
(<`十´> 「……」
ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。
(;^ω^) 「おっ……」
雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。
ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――
392
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:37:41 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」
先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、
(;^ω^) 「おぉっ!?」
ブーンの左足から血の花が咲いた。
(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」
彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。
(<`十´> 「狙撃か」
この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。
393
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:38:34 ID:1oiKVfdg0
( A )
背格好からして男であろう。
既視感を覚える姿であった。
ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。
――――あれは確か昼間に。
角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。
相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。
が、しかし。
目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」
ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれてしまう。
(;<`十´> 「ちっ」
もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。
銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。
394
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:39:33 ID:1oiKVfdg0
ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。
先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。
敵はずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。
あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。
ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。
(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」
サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。
(<`十´> 「7.62……NATO弾……」
敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。
―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。
などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。
(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)
395
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:40:59 ID:1oiKVfdg0
******
身に纏う白きローブが凍りつくほどの速度で落下するアサシンは腕を伸ばし、
鈍い輝きを放つ仕込み刃が、ギコの喉元へと吸い込まれるかのように飛び出していく。
気配遮断スキルによってアサシンは夜空と同化しており、
ギコから彼の姿を見ることは出来ず、
ただビルの頂上にいるクーだけを睨み、バイクのエンジンを唸らせていた。
一陣の風と化したギコはアサシンにとって火に飛び込んでくる羽虫も同然で、
その命を刈り取るなど熟練した暗殺者である彼にとって赤子の手を捻るほど容易いことだ。
しかし、刹那の間に予想だにもしなかったことが起きた。
それはまず音となってアサシンに伝わり、仕込み刃を通じてきた衝撃が驚愕をもたらす。
ロー・アイアス
(,,゚Д゚) 「熾天覆う七つの円環ッ」
静かに詠唱の声が響き渡り、ギコとアサシンの視線が重なった。
アサシンの瞳孔が見開かれていく。馬鹿な、とでも言いたげな表情で。
|/▼) 「宝具をッ!? 貴様ッ」
七つの花弁の如き盾が一瞬で目前に展開され、
仕込み刀を弾かれたアサシンは呟くが、その先の言葉を次ぐことは出来なかった。
敵の攻撃を瞬時に理解したギコが宝具を展開すると共にバイクの機首を上げ、
アサシンの胴体にタイヤを炸裂させたのだ。
雄叫びをあげるエンジンに力を与えられてタイヤがアサシンの肉体を食んでいく。
396
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:43:19 ID:1oiKVfdg0
肉を打つ音が街中を轟いてゆき、胴を衝撃が貫くも、
アサシンの左腕がギコの眼前に突き出される。
(,,゚Д゚) 「ッ!」
直感がギコの身体を突き動かしていた。
ハンドルを振るうが早いかアサシンの右腕から乾いた音が響き、
ギコの左頬を何かが掠めていく。
その何かが通過した後には赤い線が残り、硝煙と血の匂いが鼻腔をくすぐった。
(,,゚Д゚) 「仕込み拳銃とは、小賢しい」
呟き、アクセルを思い切りかけたギコはアサシンを捉えた愛車から手を離していく。
車体を蹴り上げ、宙に飛び上がった彼は、
(,,゚Д゚) 「―――I am the bone of my sword.」
黒白の二刀を作り出しアサシンへ投擲した。
空中へ大型バイクに押し上げられたアサシンの目には、
双刃が映ってはいるが、地に足が着かぬこの状況では身動きが取れない。
そしてその黒白の夫婦剣は更なる驚きをアサシンへ与える。
397
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:44:28 ID:1oiKVfdg0
|/▼) (またしても宝具をッ!)
アサシンには理解ができなかった。
彼の魔術の知識では到底追いつけぬ神秘がそこにはあるのだ。
何故、宝具を一介の魔術師如きが所持している?
アサシンは困惑せざるをえない。
宝具とは打ち立てられた伝説から生み出される、
人々の信仰によって宝具足る力を得る英霊と対となるものだ。
故に伝説の担い手でもないただの凡人が宝具を手にしたとて、
その真価を発揮することは出来ず満足に振るうことすら不可能であろう。
宝具を呼び出し、宝具を使用する、この男は一体?
アサシンが理解の及ばない不条理な事態を前に、
己へと迫る二刀の存在など彼にとっては些細な問題にしかすぎなかった。
白いローブに覆われた両腕を広げたアサシンの眼前で、火花が散っていく。
甲高い音と共に黒白の二刀はあらぬ方向へと飛び去った。
ローブの袖から伸びた、二つの仕込み刃によって弾かれたのだ。
難なく二刀を防いだアサシンは間を置かずしてバイクを蹴り上げた。
この上なく邪魔だったのだ。敵へと斬りかかっていくには。
398
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:45:21 ID:1oiKVfdg0
彼にとっては大した障害でも無く、大した攻撃でもなかった。
ただ、宝具を次々に繰り出してくるこの魔術師、
ギコの不可解さに思考を奪われ、合理的な解を導き出す時間が欲しかったのだ。
先程の夫婦剣の投擲も何ら危険を及ぼすものではなく、アサシンにとっては二の次であった。
蹴り上げられた赤い車体は持ち主のほうへ落下していき、
高速で迫ってくる愛車へとギコは向かっていった。
疾走し、跳躍する。
自分へと宙より落ちてくるバイクを、足場にして更なる跳躍。
高く高く飛び上がったギコは黒白二刀、干将莫耶を大上段に掲げアサシンを捉えた。
空中に浮かぶアサシンもまた彼を捉えている。
そして、抜き放たれたのは無数の短刀であり、その全てがギコへ切先を向けて殺到した。
ほんの一瞬で投擲された十を超える短刀を干将莫耶でギコは防ぐ。
あまりの速さで短刀が弾かれた為に、
連続して発された金属音が重なってほぼ一つに聞こえた。
399
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:46:10 ID:1oiKVfdg0
しかし、それでも左肩と右足に一つずつ短刀は突き立ってしまう。
迸る鮮血にギコは目もくれず、アサシンだけに目をやっていた。
アサシンもこれで仕留められるとは思っていないようで、
ギコから目を離さず、止めを刺すとでも言わんばかりにギコを睨む。
いつの間にか抜き放たれた大振りの両刃剣をアサシンは構え、
両者は渾身の力を込めて剣を振りかぶり、叫んだ。
(#゚Д゚) 「お前と遊んでいる暇はないッ!」(▼\|
互いに、優先するべき敵があった。
その的に比べれば、今己の眼前に立つ敵などただの障害でしかなく、
障害を排除するべく放った剣は激突しあい、街を震わせていく。
400
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:47:14 ID:1oiKVfdg0
川 ゚∀゚) 「ははっ」
紅い双眸は血に飢えた肉食獣の物に等しく、それが彼女の行動原理を物語っていた。
食欲を満たすにはまず獲物を仕留める必要がある。
罠を仕掛け、猟犬に追い立てさせ、銃で撃つというのが狩りであるが、
食欲を満たす為という目的を達する点において、
彼女が行おうとしていることは狩りに他ならず戦闘などではない。
食料を得るべく魔術という道具を用い、クーは魔力を最速で練り上げて右手をジョルジュへ向けた。
川 ゚∀゚) 「は?」
右腕は地面を向いたままだ。
掌へ凝縮された魔力は放たれようとしているが、手が動いてはいない。
ふと視線を腕へと落とすと、
川 ゚ -゚) 「なんだこれは」
細く、視認が困難な糸が二つ絡みついていた。
不思議そうに糸の伸びる先をクーが眺めていくと、ジョルジュが映る。
彼はコートの袖から伸びる何かを両手で握りしめており、
それがクーの腕を締め上げるピアノ線であることは明白だった。
401
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:54:18 ID:1oiKVfdg0
_
( ゚∀゚) 「"流体魔術"なら通じねーぞ?」
川 ゚∀゚) 「小癪な!!」
こんな非力なピアノ線など吸血鬼であるクーの怪力にすぐさま引きちぎられてしまうことだろう。
現に彼女はそうしようとしたが、魔術の発動直前であることが災いしてしまった。
光にも匹敵する魔力の雷が足場を破壊してしまったのだ。
容易にコンクリートを溶解させて大穴は広がり、音を立てて屋根が崩れ落ちていく。
その上に立つクーもまた溶解液と化したコンクリ片と共に落下していった。
七階建てビルの屋上から放たれた魔の雷は、最下層に到達してなお勢いを衰えさせなかったようで、
クーの落ちていった穴はまるで奈落の底まで続いているようにジョルジュには感じられた。
_
( ゚∀゚) (やはり真祖には遠く及ばねえ。スペックは匹敵するが、死徒共と変わりやしねえ)
数分ほどの戦闘を経てジョルジュはそう結論づける。
死徒、グールの上位に立つ存在、真祖。
他者の血液を得ることで悠久の時を生きる存在。
人の一生を凌駕する時間を以て身につけたその魔術は人知を超えた域に達する。
到底人間一人で手におえる相手ではないが、クーはまだその域には達してはいない。
真祖ほどではないが、グールほど劣ってもいない。
だからこそ、そこにジョルジュが付け入る隙があった。
そして彼女の扱う魔術を知っているからこそ裏をかけた。
402
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:55:25 ID:1oiKVfdg0
勝てる。
その確信がジョルジュにはあった。
_
( ゚∀゚) 「死んでもらうぞ化物。異教は排斥されるべきなんだよ」
黒鍵を再び構えたジョルジュは袖から伸びるピアノ線を辿り、
クーを追跡せんと焼き切られた穴へと向かって駆け出すが、腕が突然引っ張られた。
この強引で暴力的な力は明らかにクーのものだ。
_
(;゚∀゚) 「強化の魔術を使ってこれかよ。馬鹿げてやがる!」
万力で腕を押し潰されているのではないかと錯覚するほどの痛みに、
ジョルジュは素早くピアノ線を左手の黒鍵で断ち切ろうとしたが、
右腕に引っ張られて地面へと叩きつけられた為それは叶わなかった。
強化を施された肉体に大したダメージは被らなかったが、
地に這いつくばっているジョルジュの眼前には、より危険なものが広がることとなる。
川 ゚∀゚) 「ははっ」
クーが、ジョルジュのピアノ線を引っ張り上げることで屋上へと舞い戻ってきたのだ。
左手には莫大な量の魔力が込められており、それが今まさに放たれようと輝きを放っていた。
剣を複製するわけでもなく炎を巻き起こすでもなく、ただ単純に魔力に指向性を持たせて放つ術式。
魔力放出によってジョルジュは貫かれようとしていた。
瞬きする間もなく発動するそれを避ける術は彼にはない。
403
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:57:49 ID:1oiKVfdg0
_
(;゚∀゚) 「ホントに馬鹿げてやがるぜ」
ならばと、せめて致命傷を避けるべく身を捩らせて覚悟を決めるも、杞憂に終わった。
クーの左腕の肉と血が炸裂し、収束されていた魔力があらぬ方角へと向けて放たれたのだ。
夜空を一筋の雷光が照らしていき、ほんの少し遅れて銃声が二人の耳朶を打っていく。
続けざまにジョルジュの耳へある声が届いた。
(⊆、⊇トソン 『I(インビジブル)2、支援します。
速やかにランデブーポイントへ移動してください』
魔術を用いた一種のテレパシーによって乗せられた、トソンの声だ。
街中に放った使い魔から異変を感じ取ったのか、ジョルジュの帰還の遅れを察してか、
インビジブル1の傭兵達は既に戦闘態勢をとってクーを包囲しているようだった。
その証拠に、クーの目からジョルジュを逃れさせる為ビル屋上へスモークが散布されている。
狙撃とほぼ同時に白リン手榴弾を放っていたのだろう。
_
(;゚∀゚) 『I2了解。悪い、助かった。その後のプランは?』
念波で交信しながらジョルジュはピアノ線を切り落とし、駆け出していく。
戦闘中に咄嗟に思いついた、黒鍵と右腕にピアノ線を巻きつけ、
"流体魔術"を逆に利用してクーを縛り付けるという戦法は、発想は良かったが失策であった、
とジョルジュは肉に食い込んだそれを切り落としながら悔やんだ。
404
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:59:04 ID:1oiKVfdg0
_
(;゚∀゚) 「ちっ、アサシンの野郎は何してやがんだ!」
クーを挟撃し各個撃破に当たっていれば、こんな事態にはならなかっただろう。
ジョルジュ一人には荷が重すぎる役目であったのだ。
アサシンはサーヴァントであるが故にギコとクーの戦闘力を過小評価しすぎ、
連携もとれずギコも討ててはいないという体たらくである。
慢心と言われても弁解はできまい。
そのツケを一挙に回されたジョルジュはたまったものではない。
脱兎のごとく逃走する醜態を晒す事態に、舌打ちをついた。
だが、"煙幕をはられ狙撃を受けている"というだけの理由で、逃がすクーでもない。
(⊆、⊇トソン 「目標、左半身を仰け反らせ落下。ビル屋上へ着地までおよそ4秒。
ヘッドショットエイム――――」
_、_
( ,_ノ◎) 「ヘッドショットエイム」
スポッターを務めるトソンの傍ら、L96A1構えた澁澤がクーに狙いを定め、
引き金にかけた指へ力をこめたその時、
(⊆、⊇;トソン 「―――ッ!?」
トソンの目に異形が飛び込んできた。異形としか形容の出来なかった。
トソンもとっさにはそれが何であるか理解が追いつかず、ただ呆然とする他なかった。
クーの銃撃によって失われた肘から無数の黒く蠢く物が這い出てきたのだ。
405
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:59:57 ID:1oiKVfdg0
蟲である。
鎧のような甲殻で身を多い、鞭のごときしなやかさを誇る無数の触手を伸ばした“魂蟲”が、
女体より這い出てくる姿はトソンに生理的嫌悪をもたらし、それを認知することを心が拒んだ。
魂蟲の一部はそのままクーの血肉へとなっていき、腕を形成していく。
余った蟲達は甲殻を断ち割り、六枚羽根を広げて煙が立ち込める夜空を舞う。
群をなし、ジョルジュを発見するべく街中へと広がっていった蟲達を見て、
ようやっとトソンは己を取り戻したが、澁澤はとっくに銃弾を放っていた。
トソンが気付いた時にはもうクーの頭部から血飛沫が飛び散っており、命中したのだと彼は確信する。
(⊆、⊇;トソン 「ヘッドショットヒッ―――いえッ!」
澁澤が予想していた言葉は遮られ、代わりに起こるはずのなかった事態がスコープに映っていた。
弾丸がクーの眼前に現れた魂蟲が盾となり、蟲達の血飛沫が散ったのだ。
雪のように白い肌は無傷で、赤き瞳が澁澤とトソンを睨む。
川 ゚ -゚) 「そんなオモチャじゃ私は殺せやしない」
次の瞬間には、周囲に青白い光と蟲を纏わせたクーが立ちはだかっていた。
欠損した部位を黒々とした蟲が蠢き合い、それぞれが結集して一つの生物となったような奇妙な光景。
たまらずトソンは足に装着していたホルスターからハンドガンを抜き、乱射した。
406
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:01:25 ID:1oiKVfdg0
刹那の間に瞬いた銃火三つに遅れ、三つの虚しい金属音と火花が散っていく。
魂蟲達の甲殻がトソンの持つUSPの9mm弾を弾いたのだ。
本来、人間の体内に潜り込ませその者の生殺与奪を得、
魔術回路として与えられるこの蟲はこれほどの硬度を持たないのだが、
クーの吸血鬼としての体質と魔力を貪ることにより、
今や魂蟲達はより獰猛により狩猟に適した形に進化していったのだ。
その結果甲触手は剣の如く鋭く、甲殻は鎧の如く発達し、
拳銃弾程度ではもはや彼らは止められなくなった。
次いで、触手が鉄のような冷たい輝きを放ち、クーの腕から一斉にトソンへと蟲達が飛び立っていく。
_、_
( ;_ノ` )「ちっ!」
群をなして殺到する蟲達へ渋澤が冷静に手榴弾のピンを引き抜いて投げ込むも、
蟲の群れに飲まれた手榴弾は爆発する直前にズタズタに切り裂かれ、
その威力を発揮することはなかった。
小さな爆発が黒い塊となった蟲達の中で沸き起こるも、勢いを彼らが衰えさせることはなく、
トソン達は咄嗟に身を伏せた。這い蹲る形となった彼女らに蟲達が容赦するはずもなく、
降伏を示した獲物達を貪らんとするだけだ。
蟲達が羽音を一層耳障りに響かせ加速した直後、何かが飛来する音がした間もなく大爆発が巻き起こった。
火炎に飲まれた虫たちは六枚羽を燃え滾らせてぼとりと落ちていき、
爆発を避けた虫たちも鉄片によってズタズタに切り裂かれてしまった。
鮮血と炎の紅き乱舞がクーの目前で繰り広げられ、彼女は宙に尾を引いた白煙を辿っていく。
407
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:02:29 ID:1oiKVfdg0
川 ゚ -゚) 「またエサが増えたか。捕食出来ず少々焦れている、逃げるなよ?」
その先にはビルがあり、ちょうどこちらを見通せる階層の窓が割られているが、誰もいない。
既に、そこには。
('、`*川 「逃げるですって? 随分な口を聞くようになったじゃない。
逃げるのは貴女のほうよ、"クーちゃん"。
既に貴女は私達に囲まれ銃口に晒されている―――"逃げるなよ"?」
クーの目の前に彼女はいた。
炎の中に"隠れ"潜んでじっと隙を伺っていたのだ、ペニサスは。
気付いた時にはクーの身体は二つの黒鍵によって切り裂かれていた。
川 ゚ -゚) 「クー……ちゃん? 誰だ、貴様は?」
しかし両腕を切り落とされてなお、彼女は余裕を崩さない。
両腕を失うよりも、まるで己の名を知るこの女のほうが重大であるかというように。
('、`*川 「……何も、何も覚えてないのね。なら、何も思い出せぬままに死んで逝きなさい」
突如として幾重もの銃声が響き渡る。まるで一つの音のように感じられるほどそれは同時であった。
そしてクーの身体中に風穴が無数に空いていき蜂の巣となってしまう。
川.゚。-・゚o) 「ナ……ニ……ヲ……? ペ――――」
喉を撃ち抜かれた彼女の声は言葉にはならず闇へと消えていくが、
依然倒れるということはせず平然と立ち尽くしている。
だが、その目からは以前の貪欲な肉食獣の輝きが失われてしまっていた。
408
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:05:01 ID:1oiKVfdg0
かのように思われた。
四方八方より殺到する弾雨によりズタズタに引き裂かれたクーは、
肉片へと変貌していったが、いまだ銃火が止むことはなかった。
だが、吹きす荒ぶ弾雨の中彼女の砕けた足が、胴から溢れた臓物が、
弾け飛んだ腕が、穴だらけの顔が再生していき、立ち上がる。
歯をギリ、と噛み締めたクーは口から血反吐を漏らし、キッとペニサスを睨みつけ―――
川#゚ -゚) 「バーサーカー!!」
令呪を用いて己のサーヴァントを呼びつけた。
雷鳴と白光が辺りを包み込み、一瞬後に闇が現れる。
夜と一体化する、漆黒の巨躯と鎧。
浮かび上がる面は、怒り一色に染まった獰猛な獣のモノ。
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
召喚と同時に振り上げられる邪悪な剣が、ペニサスを捉える。
慌てて仲間たちが銃撃を浴びせるもバーサーカーにそんなものは効かず、
虚しく火花を散らしていくのみだ。
409
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:06:42 ID:1oiKVfdg0
川 ゚ -゚) 「雑魚はお前にくれてやる。私は逃げた奴を追おう」
ペニサスに刃が振り下ろされるのを見届けもせず、
クーは身体中に青白い魔力を纏わせてその場を去っていく。
魔力をジェット噴射のように放出することで高速移動を行う、魔力放出を応用した移動法だ。
('、`*川 「時間を掛けすぎたようね……」
諦観の篭った瞳でバーサーカーを見届けるペニサスだが、
('、`*川 「"貴女”も、"私たち"も」
その諦めは全く別の次元へと向けられているようだった。
バーサーカーの凶刃が彼女の身に触れることはなく、
圧し切られた刀身が宙を舞った。
刹那、清澄な空を切り裂く音色がたつ。
刃は鏡のように曇りがなく、表がペニサスの顔を、裏がバーサーカーの紅き瞳を映し出した。
そしてその刃を備えた槍を構える者もまた、闇を纏ったかのような漆黒の鎧を身に包んでいた。
鹿角の兜を被った男は黒き巨人と対峙し、闘気が滾る眼で敵を貫く。
目,`゚Д゚目 「槍が英霊ランサー! 参上仕った!!」
構えた槍は切先を敵へと向けた。無論、己の敵へとだ。
連戦にも関わらずランサーの闘志は衰えることなく疲労もない。
いや、それどころか益々盛んである。
不完全燃焼で終えた先の戦いの凝りを、晴らさんかの如く彼は吠えた。
410
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:09:15 ID:1oiKVfdg0
ランサーと対峙するバーサーカーは新たに現れた獲物に歓喜し、
ただ叩き潰さんがため力の限り剣を振り払う。
腹から先が折れたその刀身は凄まじい風切り音を立て、虚空を裂いた。
手応えが感じられず、バーサーカーは本能的に上を見た。
ランサーはそこにいた。
槍を片手に持ち替え、もう片方の手でペニサスを抱えた彼は、
バーサーカーの顔面を脚絆で踏みつけて再び跳躍する。
理性など残っていないバーサーカーはその程度の痛みでは怯みもせず、
それどころか踏みつけられた衝撃を利用し、
振り返りざまに黒剣を叩きつけようとした。
しかし、折れた刀身ではもはや届かずランサーの具足を掠めることすら出来ない。
逃げる獲物に怒り、吠え、バーサーカーは屋上から飛び降りたランサーを追う。
その後ろ姿を息を飲んでトソン達には眺めることしかできなかった。
優先順位だ。トソン達はバーサーカーにとっては脅威に値せず、目もくれる必要はない。
いや、もしかしたら他のサーヴァントを倒すという目的を以て召喚された英霊としての、
意思がこの狂ったサーヴァントにほんの僅かにでも残っていたのだろうか。
411
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:09:55 ID:1oiKVfdg0
着地したランサーはペニサスを下ろし、
('、`*川 「私達は引き続きバーサーカーのマスターを狙うわ。ランサー、貴方は―――」
目,`゚Д゚目 「ペニサス、主は撤退をお望みである。引くのだ」
意気揚々と何か焦りのようなものを見せる彼女に、そう告げた。
('、`*川 「相手は死徒だと、ボスには伝えたはずよ?
まだ、不完全な吸血鬼。今なら充分、仕留められると教えたはず」
目,`゚Д゚目 「一体どれほどの死者を出せばその者を討てる?
主は損害を望んでいない。こちらの存在が他のマスター共に知れ渡ることも、現段階では」
目,`゚Д゚目 「各自の安全を確保し情報収集に努めよ、後は俺に任せろ」
目,`゚Д゚目 「との言伝を拙者は賜った。蛮勇は匹夫のすることぞペニサスよ」
"インビジブルワン"
('、`*川 「……ボスは、I1は今どこに?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、去り際にペニサスが問う。
412
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:10:37 ID:1oiKVfdg0
目,`-Д-目 「見えぬが、既に到着しておられる」
( 、*川 「そう……“Holy shit”」
槍を構え直し、気を練り上げたランサーは上空を向く。
以#。益゚以 「――――――――――ッ!!」
天から響き渡る獣の雄叫び。
月夜に浮かび上がる黒き巨躯が、大上段に折れた剣を構えて降りかかる。
未熟な隠匿の魔術によって姿が消えていくペニサスに目をやらず、
ただランサーはそちらを一直線に向き、突きを放った。
刃と刃が激突し、衝撃波が周囲に轟いていく。
僅かの遅れで、鼓膜を突き破るほどの金属音が街中を震わせていった。
聖杯戦争開始二日目、第二夜の終局の始まりである。
413
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:11:26 ID:1oiKVfdg0
******
闇夜に咲く火花。火花に次ぐ火花。
それらは連続して咲き乱れる。
次いで音が来る。硬い、金属同士のぶつかり合う音だ。
電灯の薄明かりのもとで彼らの一帯だけまるで照明が当てられてるかのように、
二人の男は絶え間無い剣戟を繰り広げていた。
|/▼) 「ッ!」
翻るは両刃の剣。鉛色の刃が男の首を狙う。
風を薙ぎすすむ刃を相手のが白の短剣で受け止める。
(,,゚Д゚) 「シィッ!!」
息吐く暇なしに対となる黒の短剣で白ローブの男の腕を切りつける。
が、ローブの袖を覆う篭手から仕込み刃が伸びて、短剣を凌いだ。
その隙に片手で構えた剣を白ローブの男が一閃。
今度は黒白双刃を交差させて男が鉛色の両刃を受け止め、そのまま押し込めていく。
|/▼) 「ギコよ、無謀だぞ。サーヴァントに身体能力で敵うとでも?」
白ローブの男、アサシンはフードで見えなくなった顔を苦笑させ、
両刃剣を受け止められたにも関わらず落ち着いて言い放つ。
414
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:12:29 ID:1oiKVfdg0
(,,゚Д゚) 「なに……?」
ギコは驚きを隠そうともしなかったが、全身に篭った力を緩めはしなかった。
いや、それどころか強化の魔術を用いて益々力を強めていった。
無論ギコが驚いたのはそんなことではない。
アサシンが、彼の名を知っていたことが全くの予想外であったのだ。
(,,゚Д゚) 「何故、貴様が俺の名を?」
両者の力はなんと拮抗した。
三つの剣が停滞し、そのまま二人は凌ぎを削り合う。
四つの瞳が睨みを効かせ、
|/▼) 「わかるさ、シィは私のマスターだからな」
(,,゚Д゚) 「シィの? シィが俺の命を狙うとでも?」
|/▼) 「お前の命を狙うのはこの私で、もはやシィはこの世にはいない」
(,,゚Д゚) 「……貴様が殺ったのか?」
|/▼) 「殺ったのは穏田ドクオさ」
(,,゚Д゚) 「ほう……それで、それを伝えて貴様は何がしたい?」
アサシンはフードに隠れた顔を笑みで満たし、その場を飛び退った。
招かれざる客が現れ、アサシンに斬りかかったのだ。
415
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:13:22 ID:1oiKVfdg0
<人リ゚‐゚リ「……」
現れたのは甲冑を装備した金髪の少女。
セイバーである。
セイバーはギコを護るかのように立ちはだかり、剣を構えた。
最も優れたサーヴァント、セイバー。
アサシンが真っ向から対峙して敵うような相手ではなく、
その実力の差を身に纏う魔力の高さから彼は察していた。
故に彼は逃走を選択する。彼がもし、一人であったのならば。
だが彼は一人ではない。それを今知るのはこの場でアサシンのみであった。
同じ気配遮断の能力を持つ、"彼"をここで認識できるのはアサシンだけだ。
そして彼はいる。ギコの背後にいる。
(#'A`) 「ギコォォォォォォォォォォォォォ!!」
|/▼) 「ッ!?」
莫大な魔力を発露させて、ドクオは姿を現した。
(,,#゚Д゚) 「ドクオッ!!」
憤怒の表情をしたギコは、彼へと振り向き咆哮を轟かせていく。
積もりに積もった恨みと怒りを、数年ぶりの再会を果たした宿敵へ剣と共にぶつけていった。
416
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:17:02 ID:1oiKVfdg0
第七話「"holy――――shit"」乱世エロイカpart5
投下終了
417
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:18:34 ID:ZZcIgyGI0
久しぶりだ!やっぱり面白いな。乙!
418
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:20:40 ID:A/BG0Oig0
うおおおおおおおおきてたあああああああああああ!!!!!
419
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:21:54 ID:zCr9S4fc0
おつ
420
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 23:20:36 ID:7fSwMxTc0
おつおつ
421
:
名も無きAAのようです
:2013/03/26(火) 00:23:00 ID:r/Cx9MtQ0
乙ー。ランサー強い
422
:
名も無きAAのようです
:2013/03/30(土) 21:20:56 ID:/ahSQnZM0
来てたか・・・!乙
423
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/04/09(火) 10:46:16 ID:p.TqZ4to0
******
ギコとアサシンが剣戟を繰り広げる傍ら、ビルの上では閃光が瞬いていた。
月光よりも輝かしきそれはクーから放たれており、少し遅れて鋭い音が響く。
光速にも匹敵する勢いで走ったものは雷だ。
雷の向かう先には男の姿がある。ジョルジュだ。
だが既にそこにジョルジュの姿はない。
クーの魔力の流れと挙動を魔術によって強化された動体視力で見切り、
地面を蹴ることで飛び上がっていたのだ。
発射直前で行われた回避動作を認識してはいるものの、
高速故にもはや魔力の流れを抑えられず、虚空を白光が貫いていった。
しかし宙に浮かんだ彼はあまりにも無防備であり、クーはにやりと笑みをつくり右手をかざす。
右手へ光が集まりだしていき、魔力が凝縮されていく。
雷が発生するまでのタイムラグは2秒とないが、
ジョルジュはコートの袖から刃を取り出し投擲してみせた。
二筋の鈍色が闇を走り、突き出された女の細腕をその切っ先に捉える。
肉を鉄が食い破るかと思われた、途端に黒鍵は軌道を変えてしまう。
その軌道変更にジョルジュの意思は全く介してはいない。
クーの魔術により防がれ、黒鍵は今や彼女の首筋を掠めもせずに飛んでいった。
黒鍵を投擲したことにより生じた隙をクーは見逃しはしない。
424
:
名も無きAAのようです
:2013/04/10(水) 01:11:15 ID:aGZgUn9k0
姿があるのかないのかはっきりしろよ
425
:
名も無きAAのようです
:2013/04/15(月) 17:11:17 ID:2DazmoCg0
どう考えてもギコが主人公
426
:
名も無きAAのようです
:2013/09/01(日) 16:44:02 ID:8w3AvPhY0
すんごい待つ
427
:
名も無きAAのようです
:2013/12/25(水) 16:53:39 ID:1w9rDKSg0
まだかーい?
428
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 17:15:50 ID:yxszmN8c0
待ってるよ
429
:
名も無きAAのようです
:2015/11/03(火) 20:44:22 ID:51b1Pji20
一年やーん!
430
:
名も無きAAのようです
:2018/09/23(日) 22:42:43 ID:xsK9sR5M0
4年やーん!
431
:
宝イック辛い
:2023/07/27(木) 15:29:47 ID:TVVPfstg0
黒田はるひ
アホか渡辺を殺って
432
:
名も無きAAのようです
:2023/08/10(木) 11:35:57 ID:2t677z9w0
青山繁晴は夫婦でメタンハイドレート詐欺をしている詐欺師です
数年前に新潮の記事で、東大の理系の教授がメタンハイドレートの実用化は科学的に不可能だと説明していました
この教授はメタンハイドレートは公共事業だといってました
メタンハイドレートの開発に税金が年間100億円も使われていたんだけど、今では年間200億円もの税金が使われています
繰り返しますが科学的に実用化が不可能です
これを仕切ってるのが詐欺師、売国奴、税金泥棒の青山繁晴です
こいつ感情的な声を出すでしょ、感情的な声を出すのは障害者です、文系の低脳
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武田邦彦は3年ぐらい前の秋か冬に、「いま地球は寒冷化しています。今年の夏のロサンゼルスは30度を超えてる日はないです」といってたので調べたらロサンゼルスは連日ほぼ30度を超えていた。
うそついていたんだよ、武田は。
武田のようにハスキーで感情的な声を出すやつは文系に大人気になるんだよなー。
武田はいい加減な人なので使うな。
マツダもダメだな。
武田は「自分は障害があり、体のバランスがわるくてまっすぐ歩けない」みたいなこともいってた。
こーゆう人は、@@者手帳をもらってる人だ。
こーゆう人は、感情的な声を出す。
健康で身体能力が高い人は武田のように異常な感情的な声は出さない。
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Q
長い目で見れば地球は寒冷化するってホント?
そろそろ氷期が来ると聞いたのですが、だとすると温暖化は心配しなくていいのでは?
A
少なくとも数万年は寒冷化しない
温暖な間氷期はあと数万年続く
回答者/木野佳音
東京大学工学系研究科 助教 古気候学
ht tps://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00241.html
433
:
名も無きAAのようです
:2023/08/17(木) 16:51:02 ID:mdTtmh4w0
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