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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです

1名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:47:16 ID:U5Z4bAHs0

潮の香る港に、日本人とはかけ離れた二人の男が降り立った。

ここ、小樽の港には日本人以外にも出稼ぎにきたロシア人も多く、
外国人はそう珍しいものでもなかったのだが、
二人の異色は際立っている。

( ´_ゝ`) 「いやー気持ち悪かったなー。揺れる揺れる。
       船旅ってのはどうにもすかんね、俺は」

2月末とはいえ雪のまだ積もるこの土地で、
極彩色の派手なアロハシャツを羽織り、麦わら帽子を被った短パンの男と、

(´<_` ) 「アニジャ、静かにしろ。任務中だ。目立つ様な真似はするな」

対照的に、どこに売っているのかもわからない、
足首まで丈がある、フード付きの真っ青なローブをきた男の二人組。

( ´_ゝ`) 「はいはーい、わかってますよオトジャくん。
       そんじゃ、粛々と静かーに会話もなく黙々と目的地目指しますか」

アニジャ、と呼ばれたアロハ男は軽く手を振るだけで、
なんら悪びれもせずに歩き出す。

その背をオトジャというローブの男が追い、

(´<_` ) 「分かったのなら行動で示してくれ」

愛想の無い口調でそうたしなめた。
目を引く二人ではあるが、港を少し離れていくと車道を走る車ばかりで、
人通りは少なくなっていき、彼らを気に掛けるものはいなくなった。

2名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:48:55 ID:U5Z4bAHs0

( ´_ゝ`) 「なぁ、もう口開いていい?」

(´<_` ) 「あぁ、ここらへんでいいだろう」

倉庫や工場に挟まれた路地に辿りつくと、二人は立ち止まる。
座る場所はなどないが、アニジャは地面の汚さに構わず座り込む。

( ´_ゝ`) 「あー雪がひんやりして気持ちいい。
       なんだか目覚めちゃいそう」

(´<_` ) 「勝手に目覚めて貰っても構わんがもう少し緊張しろ。
       聖杯戦争は、これから始まるんだぞ」

( ´_ゝ`) 「まーまー、肩の力抜けよ。今のとこ俺達が一番乗りだ」

( ´_ゝ`) 「聖杯戦争に参加するであろう内藤も津出も、
       まだサーヴァントを召喚したとの報告は受けていない。
       始まってもいないのに殺し合うメリットなんて無いだろ?」

(´<_` ) 「楽観的すぎるんだ、アニジャは。どこに"アサシン"がいるのかもわからないんだぞ?」

( ´_ゝ`) 「だから、サーヴァントは召喚されていないって。
       気配遮断スキルを持つとはいっても、召喚されればわかるようになってんの」

(´<_` ) 「違う、そいつじゃない。だからアニジャは楽観的だと言ったんだ」

3名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:51:39 ID:U5Z4bAHs0

( ´_ゝ`) 「……あぁ、"あいつ"か。"あいつ"のことか」

"あいつ"、と口にした途端、アニジャは表情を変えた。
憎しみにも近い、嫌悪感を隠しもしない口振りで、

( ´_ゝ`) 「例え"あいつ"が出てきたとしても"双璧の全属性"が相手だ。
       あんな畜生なんぞに負けるはずはあるまいよ。
       俺の炎と風、オトジャの水と地の魔術、そして互いの空があれば奴が敵うはずはないんだ」

(´<_` ) 「で、あればいいんだがな。"あいつ"の為に一体どれほどの魔術師が犠牲になったかしれん。
       用心しておくことだ、アニジャ。だからこそ、俺達が魔術協会から選ばれたんだからな」

( ´_ゝ`) 「わかっているよ、オトジャ。七騎のサーヴァントが揃う前に死んだとなれば、末代までのお笑い草だ」

(´<_` ) 「気をつけてくれればいいんだ。頼んだぞ、アニジャ」

言いつつ、弟者は長いローブの袖を巻くって腕時計を見た。
時刻は9時を示しており、予定通りにことは運んでいるようで、
弟者は薄っすらと笑みを浮かべると、

(´<_` ) 「そろそろ迎えが来る頃だな。兄者、手筈通り札幌には一人で向かうんだぞ。
       俺も全サーヴァントが召喚され次第向かう。
       令呪がお互いに現われて、敵同士になってはかなわんからな」

遅刻すんなよ、とアニジャはからかおうとしたが、
それよりも速く車が二人の前に停車し、言葉を止めた。

4名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:53:03 ID:U5Z4bAHs0

从・∀・ノ!リ人 「おっきい兄者、ちっちゃい兄者、迎えにきたのじゃ」

(´<_` ) 「イモジャはかしこいなぁ。時間ばっちりだ」

後部座席が自動で開くと、アニジャは乗り込んでいく。

( ´_ゝ`) 「お前も、遅刻するなよ。
       サスガファミリー総がかりでも、サーヴァントで襲われては刃が立たん」

そこで、ようやくからかうタイミングが出来て、
麦わら帽子を手に取ったアニジャは満足げな表情で弟者を見た。

(´<_` ) 「アニジャが言うなよ」

( ´_ゝ`) 「……この帽子をお前に預ける。
       俺の大切な帽子だ、いつかきっと返しに来い。立派な魔術師になってな」

その帽子を、オトジャに被せるとアニジャはそのままドアを閉める。
苦笑いを浮かべ、弟者は二人の乗った車が発進していくのを見送り……。

まず感じた物は音だった。聴覚を殴りつける轟音。
次いで、身を吹き飛ばす熱風と衝撃波。
それらをオトジャが感じたのは一瞬のことだ。

車の下部に取り付けられたプラスチック爆薬から引き起こされた炎は、
ガソリンに引火すると酸素を次から次へと求めて大炎上となり、
恐るべきその運動は爆発と爆風となって二人を飲み込み、オトジャを弾き飛ばした。

5名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:54:11 ID:U5Z4bAHs0

( <_ メ;) 「―――――」

アスファルトの上を10メートル近く転がったオトジャは、
声を出すが、肺を焼かれてしまった為にそれは言葉にはならなかった。

考える間も無い、あまりにも唐突で残酷な出来ごとに、
思考が追いつかずパニックに陥ることも出来ない。

そんな中で彼が取った行動は本能的なもので、うつ伏せになった身を返し、
損傷した臓器への負担を軽減して苦痛を和らげるというものだ。
仰向けになると青い空が見えた。空気は乾燥していて、寒い風が吹いてはいるものの太陽は眩しい。

( <_ メ;) 「……?」

(  )

冷静に、落ちついて事態を把握しようとしていたオトジャの目に、太陽を遮る物が現れる。

人だった。
顔はフードを被っていてわからないが、
濃緑色のモッズコートに身を包む、170cm程の小柄な男だ。

小柄、とは言っても弟者の住む国からすれば、という意味で、
この国の平均的な体格ではあり、コートの上からでもわかる鍛え抜かれた肉体が、
一口に小柄とは言い切れない逞しさを放っている。

6名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:56:46 ID:U5Z4bAHs0

( <_ メ;) 「……ッ! ギザ……マ……!!」

フードの奥にある顔に目を凝らせば、見覚えのある顔をしていた。
多くの魔術師達を暗殺し、魔術協会と真っ向から敵対する、
魔術師界隈では指名手配をされ、オトジャが危険視していた男の顔である。

その男が、その"魔術師"こそが……。

(  ) 「聖杯は俺を選んだ。この土地に着いてから、すぐさま令呪が俺には刻まれた」

この惨事の中でも淡々とした口調で語れることからも、
この男がアニジャとイモジャの二人の命を奪ったことは明白であった。

そして彼はこれから、オトジャの命をも奪う。

魔術師達が嫌う近代科学によって生み出された、
ハンドガンの9mmパラベラム弾に眉間を撃ち抜かれることで。

銃声はグロック26の銃口から伸びる、サプレッサーによって減少され、
肉と頭蓋を穿つ生々しい音が響くのみであった。
魔術師と言えども人間であり、頭を撃たれれば血と脳を地面にこぼして死んでしまう。

( <_ メ) 「  」

爆破によって身体機能を著しく低下させられ、
尚且つ冷静な判断力を欠いたオトジャには魔術を使う間もなかった。

魔術師といえども、実際に命を奪い合う戦闘を経験した者は稀である。
それが、それこそがこの男との決定的な力量の差であった。
濃緑色のコートを羽織った男は、ジーンズからケータイを取り出すと発信し、

7名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:58:00 ID:U5Z4bAHs0

(  ) 『作戦完了、これより目標地点へ向かう。
     起爆装置は問題なく作動した。よくやった』

通話相手にそう告げる。
淀みない、機械的なやりとりの中でも、
最後の一言には微かに相手を労う気持ちが込められていた。

    『お疲れ様。みんなお待ちかねよ。船旅はどうだった?』

彼のケータイから聞こえる声は、
落ち着きがある中にも陽気さを感じさせる女の声だ。

(  )『問題は無い。誰も俺に気付きやしなかった』

    『あんた、目立たないもんね。懸賞金も掛けられてるのに、
     今まで生き残ってこられたのはその存在感の薄さのおかげかしら』

(  )『俺の魔術のおかげだ。万が一ということもある。
     無駄話はやめて、作戦に移るぞ』

    『はいはい、了解ですボス。じゃあ開始しましょ』

(  )『あぁ―――聖杯戦争を開始するぞ』

男はケータイを切ると駅へと向かって歩き出す。
フードを外すと隠されていた無表情が露わとなり、涼やかな眼の奥からは切なる願いの火と、
大いなる野望の火が、炎となって燃え盛っているような輝きが放たれていた。

8名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:58:55 ID:U5Z4bAHs0

******

札幌市東区。

中央区よりの位置にある東区役所方面を南下し、
VIP高校へ登校する生徒達は皆、春の近づきを感じながらも、
冬の寒気の入り混じる複雑な気候から身を護る為、それぞれ防寒着で身を固めている。

VIP高の生徒達の中で、垂れ眉のショボクレた顔をした少年、
ショボンは雪溶けで濡れた歩道に眉をひそめながら、
水溜りを避けるようにして歩いていく。

(´・ω・`) 「最近になって雪が溶けてきたね」

( ^ω^) 「暖かくなってきたからだお。
       まだ2月の末だけど、徐々に春は近付いてきてるんだお」

その隣を歩く大柄の少年ブーンは、
雲一つない青空を一度見やると、丸顔をショボンへと向ける。

(´・ω・`) 「暖かいのはいいことだけど、これじゃ靴がビチャビチャになっちゃうよ。
      僕も君みたいに安全靴を履いてくれば良かったかな。見た目は悪いけど」

( ^ω^) 「機能性はいいお。冬でもスニーカーじゃ、濡れちゃうのは当然だおね」

細い、笑みを作ったかのような目でショボンの足元を見て、
染みの出来た白のスニーカーを指して言う。

9名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 21:59:36 ID:U5Z4bAHs0

(´・ω・`) 「僕はスニーカーが好きだからさ」

こんなに暖かいのなら、道がびちゃ濡れになっているのはわかりきっていただろうに。
あえてスニーカーを履くという選択はショボンの洒落っ気ではあったのだが、
機能性を優先するブーンには理解し難い奇行でしかない。

(´・ω・`)σ 「どうやらツンも雪解けに苦戦しているみたいだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ

指を差す先には金髪を縦にロールした、
色白の女生徒ツンがおり、水溜りを避けるようにして進む姿から、
どうやら彼女もこの道に苦戦を強いられているようであった。

(* ^ω^) 「おっ! ツン、おはようだお!!」

ξ゚⊿゚)ξ 「あ……おはよう、ブーン……」

(´・ω・`) 「おはよう。元気が無いみたいだけど、水溜まりにでも突っ込んだかい?」

ξ゚⊿゚)ξ 「いえ……別に、何でもないわ」

(; ^ω^) 「大丈夫かお? 体調悪いのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「何でも無いって。それより、ブーン。
       今日の放課後、時間を頂けるかしら?」

(* ^ω^) 「わかったお! ツンの為ならいつだって暇にするお!」

ξ゚⊿゚)ξ 「……そう。じゃあ放課後に、ね」

10名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:01:02 ID:U5Z4bAHs0

ξ゚⊿゚)ξノシ

( ^ω^)ノシ


(´・ω・`) 「……なんだ、付き合いの悪い。
      クラスが同じなんだから一緒に登校してもいいのに」

( ^ω^) 「ツンは、やっぱり体調が悪いんだお。
       だから心配させまいと、一人で行っちゃったんだお」

(´・ω・`) 「そうかな? 確かに顔色はあまり良くなかったけど。
       それに、急に呼びだしてなんなんだろうね。
       もしかして、ブーンに告白するとか?」

(;^ω^) 「いやいやいや! それはないお。ツンに限っては、絶対!!」

(´・ω・`) 「幼馴染属性とか羨ましいよ」

(;^ω^) 「エロゲに限る話だお、そういうのは」

(´・ω・`) 「そうかい? もしかしたら、緊張のあまりに体調悪くしてるとか、
      ツンのことだし、あると思うんだけどなー」

( ^ω^) 「うーん……たしかに、何か悩みがあるかもってのは頷けるお」

(´・ω・`) 「……」

( ^ω^) 「うーん……」

11名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:01:49 ID:U5Z4bAHs0

(´・ω・`) 「まさか……」

( ^ω^) 「まさか、なんだお?」

(´・ω・`) 「僕達の関係に気付いたっていうわけじゃ……ないかな」

(;^ω^) 「え……?」

突然、僕達の関係、と言われてブーンは戸惑った。
普通の何一つ変わらない友人との関係の何を気付いたというのか。
ツンは何に合点がいったと言うのか、真剣に思考していくが、

(´・ω・`) 「うん、それなら僕らと登校しないというのも合点がいく。
      二人の邪魔をしちゃあ悪いと、ツンもそう思ったんだろう。
      カップルが二人で登校、というイベントを妨害してはいけないからね」
  _, ,_
( ^ω^) 「は? カップル?」

予想外の答えにブーンは戸惑いを通り越えて呆れた。
ただ、呆れた。呆れ果てた。

(´・ω・`) 「さぁ、手でも繋ごうか、ブーン。
      気を使ってくれたツンにも悪いし……さぁ」

( ^ω^) 「ショボンは、そっち系のエロゲ脳だったかお……勘弁してくれお」

手を繋ぐことを強要してくる友人に、気色悪さを感じたブーンは、
彼を無視して足早に学校へと一人で向かっていった。

12名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:02:51 ID:U5Z4bAHs0

******

学校に到着し、ツンに何の用事か問いただしては見たものの、
結局答えては貰えず、幼馴染の勘からいくら聞いても答えてはくれないと、
ブーンは諦めることにした。

ツンの申し出のことが頭に引っかかったまま最後の授業を受けていると、
終業のベルが校内に鳴り響き、ホームルームが始まる。

( ´ー`)「今日は小樽のほうで自動車の爆発事故があったようだ。
      整備不良が原因らしいけど、お前らも駐車している車を見かけたら、
      爆発しないかどうか気をつけながら帰宅しろヨ」

担任のシラネーヨの言葉は生徒の身を気遣っているのだろうが、
どこか冗談めかしたもののような響きを持っている。、
しかし、今のブーンの耳に届いてはいなかった。

( ´ー`)「最近物騒なんだからな〜。寄り道も程ほどにしておけよ〜。
      じゃあ、ホームルーム終わりだーヨ……散!」

     「きりーつ、礼〜」

今度は完全に受けを狙いにいった発言であったが、
日直である女生徒は冷たい目を担任へ突き刺すと、
号令を終えた途端にそそくさと帰っていってしまう。

13名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:04:19 ID:U5Z4bAHs0

(;´ー`) 「……さようなら」

教室内にはまだ生徒が大勢残っていたが、
シラネーヨは居心地の悪さを感じたのかすぐさま退散し、
その背中をネタに一部の生徒達は会話に花を咲かせていく。

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、ちょっといいかしら?」

そんな中で、ブーンにとってツンの声がやけにクリアに聞こえた。
やっときたか、という思いを胸に秘めたまま彼は振り返る。

( ^ω^) 「お、早速かお」

(´・ω・`) 「僕もいい?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……来ないで。大事な話があるの、ブーンに」

(´゚ω゚`) 「大事な話……やはり!」

(;^ω^) 「すまんお、ショボン……」

(´゚ω゚`) 「ぶ、ブーン……」

ξ゚⊿゚)ξノシ 「じゃあね、諸本くん」

(;^ω^)ノシ「じゃ、じゃあ……また明日だお」

14名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:05:25 ID:U5Z4bAHs0

(´゚ω゚`) 「ブーン……君は、大人の階段をこうして登っていくんだね……」

呪詛のようなものが浴びせられながらも、
ブーンの背中はツンに率いられるまま教室を出ていき、
外気に備える為二人は手袋をつけ、校門をくぐっていった。

( ^ω^) 「ツン、話しってなんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

道中、彼がそう問いかけても、
ツンは口を固く閉ざして何も語ることは無かったのだが、
住宅の多い地帯を進み、路地へと入って人気が少ないのを確認すると、

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、貴方……聖杯戦争に参加するの?」

西洋系の血の混じった彼女の碧眼が、語気と共に鋭さを増した。

( ^ω^) 「……そうじゃないかと、薄々思っていたお。
        そうであって欲しくないとも、思っていたけど……」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうなの?」

( ^ω^) 「ツンはどうなんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「質問に質問で返さないでくれるかしら?」

( ^ω^) 「まだ、決めかねているお」

15名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:06:56 ID:U5Z4bAHs0

ξ゚⊿゚)ξ 「呆れたわ。おばさまも、同じ気持ちでしょうね。
       せっかく貴方にはおじさまの権利も、魔術刻印も継承されたというのに」

( ^ω^) 「ツンのお母さんはなんて言ってるんだお?
       願い事の為に、魔術師7人も集めて殺し合うことに賛成なのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「当たり前じゃない魔術師なら。
       これは根源への到達を……魔術師達の、
       お父様達の長年の悲願を達成出来るかもしれないのよ」

( ^ω^) 「御三家が勝手に始めたことだお。
       僕達は彼らとは違う。それにとーちゃんとモララーおじさんは、
       僕やツンが殺し合いに参加することを良しとすると思うかお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうに決まっているじゃない。根源への到達は偉業も偉業。
       私達の後の世代にまでそれは語り継がれ、魔術師として最高の栄誉を手に出来る。
       魔術師ならそんなこと、迷うはずないじゃない」

( ^ω^) 「僕は、とーちゃんが戦争で死んだ時から、ずっと考えてきたお。
       どんな気持ちで、どんな願いを抱いて死んでいったのだろうかって」

( ^ω^) 「僕なら……そんな血塗れの名声よりも、
       美味いもん食って好きな人達に囲われて死んでくれたほうが、
       親としては嬉しいことなんじゃないかなって、今はそう考えているお」

ξ゚⊿゚)ξ 「逃げるの? ブーン」

16名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:08:15 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) 「……逃げる?」

ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、そんなもの逃げているだけじゃない。
      貴方は怖いだけじゃない。戦う事を怖がって自分に都合の良いこと言って、
      逃げようとしてるだけじゃない」

(;^ω^) 「そんなことはないお!!」

思わず、ブーンは声を荒げた。
自分なりに父の気持ちをずっと考えてきて出した結論なのに、
逃げる言い訳だと吐き捨てられてはたまったものではない。

ξ゚⊿゚)ξ 「いいえ、それは本当に単なる逃げなのよ。魔術師がそんな口を叩くはずがないもの。
       いい? 例え相手がどんな魔術師で、どんなサーヴァントを召喚してきたとしても、
       根源への到達を成し遂げてみせる。それが父から託された私達子の宿命ってものじゃない?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そんな普通の、何も成し遂げることが出来ずに死んでいくような生き方のほうが、
       何倍も怖いじゃない。ブーンはただの臆病者よ。自分には出来ないと諦めてしまった愚か者」

( ^ω^) 「違うんだお、ツン。それは誤解だお。絶対に違うんだお、それだけは」

ξ-⊿-)ξ 「ふん……じゃあ貴方は聖杯戦争には出ないのね?」

(;^ω^) 「うっ……それは、まだ決まっては……」

ξ゚⊿゚)ξ 「監督役のロマネスクおじさんから連絡が来てると思うけど、
       今日くる連絡が最後通告になるわよ」

(;^ω^) 「……」

17名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:09:16 ID:U5Z4bAHs0

ξ゚⊿゚)ξ 「続々とこの札幌に、魔術師達がやってくるわ。
       内藤と津出がこの土地で聖杯を発見したことで得た、この令呪」

ツンが制服の右の袖を巻くっていくと白く細い腕が現れ、
その二の腕には赤々とした紋章が刻まれていた。

そして、ブーンはそれに応えるように手袋を脱いでいくと、
包帯の巻かれた右手が現われ、それを解いていくと似たような紋章が掲げられる。

一月前、痛みと共に"いきなり"刻まれた紋章。

ξ゚⊿゚)ξ 「貴方も間違いなく聖杯に選ばれた魔術師の一人。
       戦わないというのなら"内藤"は早く放棄することね」

それが、それこそが聖杯に認められた魔術師の証。
聖杯戦争に挑む為のチケットであり、サーヴァントを制御する三つの刻印。
サーヴァントを使役する"マスター"の"令呪"である。

( ^ω^) 「僕に諦めろというのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「既に、諦めているじゃない」

( ^ω^) 「諦めたわけじゃないお……」

諦めたわけじゃないが、二つだけ懸念することが彼にはあった。
一つは、自分の願いである。

万能の願望機と呼ばれる聖杯に託す願いが、果たして根源への到達などで良いのだろうか?
たしかにそれは父達の願いでもあり、究極の知識を求める魔術師達の悲願。
きっととてつもない力を手に入れることが出来るのだろうと、漠然とではあるが想像がつく。

18名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:10:34 ID:U5Z4bAHs0

しかし、そんなもので幸福になれるのかと問われれば、ブーンにはわからなかった。

あらゆる願いを叶えられると言うのに、そんな願いを果たしていいのだろうか。
これはまだ、解決できる問題かもしれない。

だが、どうしても避けられない問題というものもある。
それが、二つ目だ。

願いを諦めてでも、戦いを避けてでも直面したくない問題。

ξ゚⊿゚)ξ 「まぁ、いいわ。貴方が棄権しようが参戦しようが、
       私にとって敵の一人に貴方が加わるか、
       別の誰かが敵になるかの違いでしかないから」

そう、この少女と戦うことだけは、ブーンにはどうしても許容出来なかった。
幼いころより、父達が古い友人ということで付き合いのあった、
この幼馴染と魔術を競い合うことが彼にとって、一番怖いことだった。

ξ゚⊿゚)ξ 「貴方が戦うというのなら、共闘を申し出ようかとも思ったんだけど……。
      仕方、ないわよね……それじゃあさようなら、魔術師内藤ホライゾンくん。
      戦場になるこの土地で、せいぜい巻き添えを食わないようにすることね」

手を振ることもせず、冷たい態度と言葉で突き放したツンは、
踵を返すとそのままブーンの目の前から立ち去っていってしまった。

( ^ω^) 「……さようならだお、ツン」

大柄の彼と比べると少女の小さすぎる背中は華奢ではあったが、
身に纏う雰囲気はれっきとした魔術師のそれであった。

ブーンには、その遠くなっていく彼女の後姿を引き留めることは、出来なかった。

19名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:11:26 ID:U5Z4bAHs0

******

真っ白なダウンジャケットの前を閉じ、
薄ピンクのニット帽から栗色のショートカットを覗かせた女性は、
新千歳空港に降り立つと頬を赤らめさせた。

彼女の住むロンドンよりもこの土地が冷え込む証拠であり、
身体は正直にその温度差に反応する。

キャリケースを受け取り出口を目指すと、まずはバスを探した。

(*゚ー゚) 「ここが、日本の北海道……」

外に出ると空からは広大に見えた大地も呆気ないものだが、
陸から見る白銀の世界は彼女、シィを感嘆させるに足るものだった。

どこまでも続くような真っ直ぐに伸びた道路は氷に覆われ、
建築物の屋根には例外なく分厚い雪を被せられた、雪景色。
0度を下回る氷点下に吹く風は冷たさを痛みへと変える。

(*゚ー゚) 「こんなところで貴方は戦うというのね、ギコくん……」

ギコ、彼はシィのかつての恋人だ。

時計塔と呼ばれる、魔術協会の総本山で学びあった魔術師同士の恋人。
――――数年前に突然別れを切り出され、ギコが姿を消すことで破局してしまった。
が、シィは未だに諦めがつかず、消息不明だった彼が札幌に現われると聞き遥々やってきたのだ。

その彼がこんな極東の島国にやってくる目的とは――――

20名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:13:00 ID:U5Z4bAHs0

(*゚ー゚) (聖杯戦争……まだ、夢を諦めていないの? ギコくんは。
      797番目の聖杯。聖堂協会は贋作だと言っていたけど、
      それが集めてきた高度な魔力だけは本物)

(*-ー-) (魔術協会の調べたデータによれば、あらゆる願いを叶える願望機としての性能は確実にある。
      貴方の願いは、これを手にすれば確実に叶えられるはず……)

でも、とシィは思う。
ギコの想いを知るが故に彼女は思うのだ。

(*-ー-) (それは貴方にとって、私を捨ててまで手にするべきものだったの……?)

その願いとは、自分よりも大事なものなのだろうか、
自分は彼にとってどのような存在であったのだろうか、と。

聖杯戦争はシィにとってどうでもいいものだ。
参戦するつもりはもとよりない。
ギコと再会することだけが彼女の目的なのだ。

そして問いただす。
ギコにとって己の存在とは何であるのか?―――と。

(*゚ー゚) (聖杯を求めてやってきた魔術師に会うかもしれない。
     戦場になる札幌で戦いに巻き込まれることもあるかもしれない。
     でも、私は……貴方にもう一度会いたいの……ギコくん)

シィの家系は魔術師としてまだ四代ほどしか続いていない。
魔術師としてはまだ幼く、世代を重ねていくことで強力になっていく、
魔術師の力の証とも呼べる魔術刻印は大した力を持ち合わせていない。

21名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:13:47 ID:U5Z4bAHs0

腕に自信のある魔術師が集うことになる聖杯戦争に、
巻き添えを食らってしまった場合心許ない力ではあるが、
シィには磨いてきた技と魔術の知識で切り抜ける、自信があった。

ましてやこの力に不満を持ったことなどない。
その未熟さで時計塔では迫害され、疎んじられ、嘲笑されもしたが、
だからこそ彼との出会いを果たせたのだから。

(*゚ー゚) (ギコくん、私、強くなったんだよ?
      貴方と別れてから、ずっと、ずっと私は一人で戦ってきたの。
      私は、家柄を鼻にかけてふんぞり返る連中より……ずっと強くなったわ)

その想いが故に、切磋琢磨してきた経験による自信が故に、
戦場へと足を踏み入れることを、彼女は躊躇わなかった。

札幌行きのバスを見つけると荷物を預けて乗り込み、2分後に発車した。
最後部にはまだ空いている席があるのを見つけ、窓際のそこへ腰かける。

離れていく空港を眺めながら、徐々に前へと視線を移していった。
前には街が広がっている。雪に塗れた千歳の街が。
そしてこのバスが進む先には札幌があり、そこにギコもいるはずだ。

シィは逸る気持ちを抑えながら、瞼を閉じて仮眠をとっていく。
時間はまだまだかかる。休める時に休んでおこう、といった考えからだった。

座席にまで伝わるエンジンの振動と暖房が心地よく、
興奮した心にリラックスをもたらし、やがて眠りへと落ちていくが……。

22名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:14:31 ID:U5Z4bAHs0

(*;゚ー゚) 「ッ!」

咄嗟に右手を抑えた。そこに熱を感じたのだ。
次いで刃物がそこを這っていったような鋭利な痛みが来て、
抑えた手から血が漏れ出てくる。

(*;゚ー゚) 「……まさか」

恐る恐る彼女が左手を離していくと、赤い物が見えた。
ハンカチを取り出して拭うと、血は不思議なことにもう止まっている。
だが赤い物はまだそこにある。赤く輝く三画の紋章がそこにはある。

(*;゚ー゚) 「"令呪"……? 私に……?」

シィは戸惑いを隠せなかった。

令呪とは聖杯から与えられるサーヴァントに対する絶対命令権であり、
この一画一画に膨大な魔術が込められ、
マスターの魔術回路と接続されることで機能する。

23名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:15:14 ID:U5Z4bAHs0

聖杯は聖杯に相応しい者を自ら選び、この令呪を与えるのだ。

つまり、シィもまた聖杯戦争に参加する権利を得た、ということであり、
棄権しない限り戦わなければならないということである。

聖杯を望んでなどはいない。願望機を使って叶えたい願いもない。
しかしシィは聖杯に選ばれ令呪を与えられてしまった。
その事実が彼女に混乱をもたらしたのだが、シィは強かであった。

(*゚ー゚) (聖杯なんて望んじゃいない。でも……これさえあれば私は、
     サーヴァントを召喚して"ギコくん"の力になることも出来る)

右手の甲に宿った令呪を見て、彼女は薄っすらと笑みを浮かべる。
ギコに会いたいと思う気持ちは、彼を支えたいという決意へと変貌を遂げた。

(*゚ー゚) 「待ってて、ギコくん」

こうして、札幌の地にマスターが一人舞いおりていった。

24名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:16:06 ID:U5Z4bAHs0

******

東8丁目通りを境目とし、南側に位置する家屋の並ぶ通りがあった。

発展の止まったこの町には近代化の兆しが見えるが、
大江戸マートと呼ばれる古びた酒屋や個人経営の和菓子屋、
老夫婦がひっそりと営む理容室に、割烹着に身を包む妙齢の女性が切り盛りする弁当屋などが並び、
昭和の名残が色濃く刻まれていてどこか、不思議な暖かみを感じさせる町となっていた。

和と洋の入り混じる昭和の日本建築が形成する町の中に、
一つだけ異質な建造物がひっそりと置かれている。

民家の並ぶ通り、そこの一画に小さな駐車場を構え、
沈み始めてきた太陽の光を受け、真っ白に輝く尖塔を持つそれは教会だ。
ロマネ札幌キリスト教会と呼ばれるそこに、ロマネスク神父はいた。

礼拝堂には40人ほどの人が座ることが出来るのだが、
日曜でもなければ訪れる人は大しておらず、
神父は暇を持て余し長椅子に腰かけていた。

( ФωФ)旦 「……」

落ちついた色の壁には聖画が並び、中央にはキリスト象が置かれ、
その象と背後に嵌められたステンドグラスは、小さな教会にしてはたいへん立派なものだ。

ロマネスクはそれらを眺めながら茶をすする。

番茶で、高価な物でもないが近所の老婆が孫が世話になっているから、
といった理由で、断ったものの押しつけられる形で受け取ってしまった手前、
こうしてありがたく神父は頂いているのであった。

25名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:18:49 ID:U5Z4bAHs0

彼はこの土地に古くから住み着いており、小中高と札幌で学んだ。
両親は熱心なクリスチャンで北海道に布教へやってきたことで、
彼の生活がスタートし、その生涯も今年で42年目を迎えようとしていた。

信仰を尊び、よく学び、少林寺拳法を究める若かりし頃の彼が大学には進まず、
海外へと渡って聖堂協会に加わり代行者となったのは、
その信仰心から鑑みれば当然のことだったのかもしれない。

( ФωФ)旦 「……ブーンか?」

突如、神父は口を開く。

目はキリスト象へと向けられており、
両の手は湯呑みを握り二口目を運ぼうとしているところだった。

(;^ω^) 「ロマおじさん……相変わらず鋭いお」

( ФωФ)旦 「私は一応、君の拳法の師匠でもある。
          長い付き合いであるが故に、気配がすればわかる」

火傷痕の残る神父の鋭い両目が、ゆっくり近づいてきたブーンを見つめると、
彼は父性を感じさせる柔らかな笑みを作り出し、
自分の腰かけている長椅子の隣に座るよう手で促す。

( ^ω^) 「お邪魔しますお」

( ФωФ) 「少し待っていろ、今お茶を淹れてこよう。番茶でよければな」

(;^ω^) 「あっ、そんな。構わなくっていいお」

26名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:20:29 ID:U5Z4bAHs0

( ФωФ) 「今のブーンの顔からはどこか翳りが見える。
        長い話になりそうなのでな。気を落ち着かせる為にも、お茶が必要だ」

そう返すと神父は礼拝堂から出ていき、
手持無沙汰にブーンは聖画やステンドグラスを眺めていく。

( ^ω^) 「お見通し、かお……」

呟きにはどこか自嘲がこもっていて、ブーンの耳に重く響いたのだが、
礼拝堂には大した音響にもならずに虚しく消えていった。

華々しいステンドグラスはいつもブーンを圧倒させる。
普段のブーンならば、この輝きに感嘆させられるばかりであるのだが、
今はただ自分のちっぽけさを思い知らされるだけであった。

十字に磔にされたキリスト像にすら嘲笑されているような気持ちに陥る。
少林寺拳法の師匠ロマネスクに似ず、彼は信仰心というものを持ち合わせてはいなかった。

( ФωФ)旦 「祈ってみるか?」

お盆に湯呑みを二つ乗せたロマネスクが戻ってくるなり、
ブーンへとそう問いかける。

( ^ω^) 「お祈りなんて、する必要ないお……」

( ФωФ)旦 「神は迷える子羊を救ってくださる。信じてさえいれば、な」

言うなり、ロマネスクは自分の席に戻り、ブーンへと茶を差し出した。

27名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:21:39 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) 「ありがとうございますお」

( ФωФ) 「それで、ブーン。君は私に何の用事があって訪ねてきたのだ?」

( ^ω^) 「……聖杯戦争についてですお」

( ФωФ) 「ふむ、やはりか……棄権するのか?」

( ^ω^) 「いや、僕は棄権するつもりはないんだお……。
       でも戦うつもりも……いや戦う理由がないんだお」

( ФωФ) 「内藤家と津出家は、根源への到達に意欲を燃やしていたが?」

( ^ω^) 「それは、とーちゃん達の話だお。それを、僕の願いにしていいのかわからないんだお。
       親の遺志を子が継ぐ、立派な話しだお。でも、そこに僕の意思はない。
       だったら、そんな物に命を賭ける価値は、人の命を奪ってでも叶える価値があるのか、わからないんだお」

( ФωФ) 「此度の聖杯戦争の監督役である私に、どうこう口出しする権利はないが……。
        魔術師という者は、皆、根源への到達を目指しているのではないのか?
        ならば、それだけで理由にはなりえると思うが」

( ФωФ) 「他者を討ち果たし、他者よりも強いことを証明する。
        そして皆の羨望を勝ち得る。人間の闘争本能からすれば、至極自然だ」

( ^ω^) 「僕は……そんなもの要らないお」

( ФωФ) 「ふむ……そうか。そう答えるとは思っていたが、
        やはりそう育ってしまったか、ブーン」

28名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:22:49 ID:U5Z4bAHs0

( ФωФ) 「私は君が聖杯戦争に参戦することを見越し、
        シャキン……君の父に代わって君の肉体を鍛え上げ、拳法の技を授けたが、
        どうやら君を強くすることは出来ても、優しさを忘れさせることは出来なかったようだ」

( ^ω^) 「……すいませんお」

( ФωФ) 「違う、責めているわけではない。むしろ誇ってもらいたいくらいだ。
        君は君らしく、内藤の名に恥じぬ見事な男に成長した。
        魔術師としては未熟と言っていいかも知れんが、君は内藤に相応しい」

( ФωФ) 「後は覚悟と決断を伴えば、一人前の男だ。
        自分の誇りを持って、争うがよい」

(;^ω^) 「ロマおじさん……僕は戦いたくないって……」

( ФωФ) 「聖杯戦争の監督役ではなく、君の父の友人として、君の友人として言わせてもらおう。
        それは君に誇りがないからだ。君に馴染む理想が魔術の教えにはなかったからだ。
        だからこそ胸に手を当てて考えるがよい、君自身の想いを、何をしたいかを」

(;^ω^) 「僕の……想い?」

( ФωФ) 「君はシャキンに似ている。シャキンが君に何を教えてきたか、
        "何と言って教えてきたか"を思い出せ。そこに君の理想があるはずだ」

(;^ω^) 「とーちゃん……?」

言われるがままに、ブーンは自分の胸に手を当て、瞼を閉じて思考していく。
心の奥底にあるものを、埃にまみれた古い記憶を手繰り寄せる。

29名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:23:55 ID:U5Z4bAHs0

*(  )*

そうすると、ある女の子のことが脳裏をよぎった。
だが、それは違うと断じた。

かつてそう願ったことはあったが、魔術の無力さを噛みしめて呪い、
不可能なのだと悟った。あの時の血の臭いと残酷な景色は、
胸に深々と刻まれた無念は、忘れてはいない。

(  ω ) (……違うんだお。僕が心のどこかで願っていることはわかっているお。
       僕が叶えたいもの……それは……)

己の真なる願いを探すべく、彼は更に自分自身へ耳を傾ける。

すると、ある声が蘇ってきた。

(` ω ´) 「ブーン、魔術はな―――――――――なんだよ。魔術は―――の為に、
       ――――てきた。俺達の先祖は―――――――だから――――」

父、シャキンの言葉だ。
だが断片的で、古い記憶をはっきりと思い返すことは出来ない。
しかし、次の父の言葉はブーンは鮮明に覚えていた。

(`・ω・´) 「魔術よ人の為に斯くあれ―――これが内藤の教えだ。
        俺達は先祖がそうしてきたように人々の為に魔術を行使し、
        苦しむ人々を救わねばならない。それが、魔術を使う者の責任だ」

( ^ω^) (……そうか、そうだったのかお)

30名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:24:27 ID:HDILSgrs0
まってたよ同士よ!

31名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:25:01 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) (かーちゃんもよく、魔術の稽古をつけてくれる時、よく言っていたお。
       とーちゃんが根源への到達を果たそうとしていたのは、
       きっと、この内藤の教えを成そうとしていたからだお……)

でも、とブーンは思う。

( ^ω^) (それが僕の願いで……いいのかお?)

彼はまだ、答えを出せずにいる。
自分が六人の魔術師を倒してでも、幼馴染を殺してしまうかもしれないとしても、
果たすべき、果たしたい願いとは一体なんなのだろうか、と。

( ФωФ) 「……ブーン、答えは出たか?」

(;^ω^) 「あっ、いや、あの……まだ……だお」

自問自答を繰り返しているうちに、すっかり日が暮れてしまったようだ。
北海道の2月はまだ夜が早い。きっとすぐにでも真っ暗になってしまうことだろう。
ロマネスクから貰ったブーンのお茶は、もう冷え切っていた。

( ФωФ) 「では、棄権するか?」

(;^ω^) 「は……あー……いや……まだ、わかりませんお」

( ФωФ) 「で、あるのならば、それが答えだ」

32名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:27:23 ID:U5Z4bAHs0

(;^ω^) 「え……?」

( ФωФ) 「君は勝った後の願いに悩むが、棄権しようとは決してしない。
        ならば、戦う意思があるということだ。
        今は、それが答えでいいのではないか?」

(;^ω^) 「えっと……つまり、願いは勝った後に考えろ……ってこと?」

( ФωФ) 「あぁ、そうだ」

Σ(;^ω^) 「そういうわけにもいかないお!!」

( ФωФ) 「だが、棄権はしないのだろう?
        ならば戦いながらでも考えるがいい」

( ФωФ) 「君からは闘志を感じる。
        何か大きなことを果たしてやろうという、野望にも似たそれが、な」

(;^ω^) 「うぅ……」

( ФωФ) 「ブーン、すまないがもう遅いから今日は帰れ」

Σ(;^ω^) 「あっ! あぁ、すいませんお長々と」

( ФωФ) 「私が迷惑しているから、というわけではない。
        君の身を案じて言っているんだ。
        内藤家に参戦の意思があることは、この聖杯戦争を知る者には知れていることだ」

33名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:28:11 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) 「?」

( ФωФ) 「帰り道に気の早い他のマスターに殺されかねん。
        ここは中立地帯で安全ではあるが、棄権しない限り匿ってやることは出来んしな」

Σ(;^ω^) 「……ッ!!」

( ФωФ) 「さぁ、分かったなら早く帰れ」

(;^ω^) 「わ、わかったお……すいませんでしたおロマおじさん」

( ФωФ) 「いや、いい。気が向いたらまた来るといい。
        望めば稽古をつけてやることも出来る」

( ^ω^) 「もちろんだお、ありがとうございました……先生」

そう言って立ち去ろうとするブーンの背は、
どこか怯えており、横顔からはいまだ翳りが覗けた。

( ФωФ) 「……まだ悩んでいるのなら、母にも同じことを打ち開けてみると良い。
        私よりも遥かに力となってくれることだろう」

そんな彼が気にかかったロマネスクは、背を押すように声を張り上げる。
ドアに手を掛けていたブーンは振り返り、

(* ^ω^)ノシ

人懐っこい笑みを浮かべて会釈をし、手を振った。
そのまま礼拝堂から出ていき、ロマネスクから姿が見えなくなってしまう。

34名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:29:04 ID:U5Z4bAHs0

が、

( ФωФ) 「神の御前だぞ、そんな物騒な物はしまっておけ」

ロマネスクは再び口を開き、語りかけた。
鋭い目つきは更に鋭くなっていき、語気にも力が籠る。

すると、どこから忍び込んだのか、懺悔室の扉から二人の人影が礼拝堂に現われ、
ステンドグラスの前に躍り出るとその姿が露わとなった。

(,,゚Д゚) 「久しいな、まさか貴様が、本当に監督役をやっているとは思わなかったぞ」

180cmほどの長身に引き締まった肉体を持つ、
茶色い皮のライダースジャケットを着た男がそう言った。
短く刈られた黒髪のせいで、野獣のようにギラついた目が際立つ。

今、その視線はロマネスクへと向けられているが、
ロマネスクの目は彼を見てはいなかった。

( ФωФ) 「ギコよ、それが貴様のサーヴァントか?」

ギコと呼ばれた男はそちらのほうをちらりと窺うが、
すぐに視線をロマネスクへと戻し、

(,,゚Д゚) 「あぁ、こいつが俺のサーヴァントだ。
      剣のサーヴァント……セイバー」

<人リ゚‐゚リ

35名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:30:01 ID:U5Z4bAHs0

宣言をした。

聖杯に選ばれ、英霊をサーヴァントとして召喚し、
自分は聖杯戦争を戦う準備が整った、との宣言に他ならない。

眩い金髪を丸く束ね、動きやすい髪形は戦いに不便をもたらさず、
それでいて美しさを損なわない、機能性と装飾性を兼ねた美を持つ、
甲冑姿のこの少女こそがギコの召喚した、セイバーのクラスのサーヴァントである。

( ФωФ) 「セイバーか、それは心強いな」

(,,゚Д゚) 「そうだ。今すぐあの時の決着をつけるには、申し分ないサーヴァントだ」

( ФωФ) 「ふっ……生憎、今の私は監督役。サーヴァントは持ち合わせていない。
        貴様との勝負は、貴様が此度の聖杯戦争を生き延びてからにさせてもらおう」

(,,゚Д゚) 「気に食わんな、道化が……」

( ФωФ) 「ならばセイバーに命じて私を殺してみるか?
        "正義の便利屋"」

(,,゚Д゚) 「違う、そんな用事でわざわざここまできてやったわけじゃあない。
      貴様の事は心底憎い。今すぐこの場で殺してやりたいくらいだ……」

(,,゚Д゚) 「だが、今の俺に貴様を殺す理由は無い。
      貴様に釘を刺しにきてやった、それだけだ」

( ФωФ) 「ほう、それはそれは……御苦労なことだ」

36名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:31:12 ID:U5Z4bAHs0

(,,゚Д゚) 「……今度は邪魔をするなよ」

( ФωФ) 「忠告、痛みいる」

(,,゚Д゚) 「……」

この時、ギコの眉間が、僅かにではあるがピクリと動いた。
過去に味わわされた屈辱が脳裏を過ぎったのだ。
だが、ここで刃を振るい私闘に興ずることだけは、彼の"正義"が許さなかった。

(,,゚Д゚) 「……さらばだ」

苦い溜飲を飲み下し、ギコはそう告げると、
セイバーは実体を失って霊体化して消えていく。

( ФωФ) 「ふむ……」

瞬きの間にギコもその場から消え、彼の気配をロマネスクは感じなくなった。
                   はにや
( ФωФ) 「"正義の便利屋"刃児耶ギコ……やはり、彼もまた己の理想を諦めきれずにいるのか。
        津出の悲願成就の為迷わぬツンに、内藤の教えから己なりの信念を模索するブーン」

コツ、コツと礼拝堂の中をロマネスクの皮靴が音を響かせる。
そして、ステンドグラス越しに月光を浴び、
夜空を見上げる彼は、懐かしい感覚を胸に得て呟く。

37名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:31:58 ID:U5Z4bAHs0

( ФωФ) 「我々が争った"中東の聖杯戦争"、聖堂協会と魔術協会双方が全力でぶつかりあい、
        多くの犠牲を出した"聖杯戦争前哨戦"、
        その遺伝子が此度の"雪国の聖杯戦争"の中で駆け巡っている」

( ФωФ) 「そしてまた、新たなる犠牲を作り出していく……多くの信念と意地をぶつけあって。
        シャキン先輩、モララー先輩。あの子らはやるさ、きっとやる。
        貴方らの代役を任された時は戸惑った。正直今もこれで良かったのか悩む」

( ФωФ) 「だが、今日のブーンの背中と笑顔を見て、俺は確信したよ。あの子らは立派に戦う。
        ……約束は果たしたよ。後は、見届けるだけだ。
        杉浦ロマネスクではなく、この聖杯戦争の監督役として」

視線をキリスト像に移したロマネスクは、雑念を消して、祈った。
信念の為とはいえ血肉を散らし、この地で争いを繰り広げる者達へ、
神父である彼は何を願うのだろうか。

( -ω-) 「……」


その願いは、神のみぞが知る――――


( ФωФ) 「では、聖杯戦争の始まりを見守ろうか」

ロマネスクの呟きを聞く者は、彼が祈りを捧げるキリストが聞くのみであった。

38名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:34:07 ID:U5Z4bAHs0

******

(;^ω^) 「かーちゃん! ただいまだお!」

J( 'ー`)し 「お帰り、ブーン。今日は遅かったねぇ」

(;^ω^) 「かーちゃん、今すぐ聞きたいことがあるんだお。
      これはとっても大事なことなんだお、だから真剣に聞いて欲しいんだお」

帰宅したブーンは開口一番、疑念と想いを吐き出していく。
愛する我が子は何か焦っているようだが、とても真剣そうな顔をしていたので、
母は読んでいた本をテーブルに置くと正座したままゆっくりと振り返り、真っ直ぐに彼を見据る。

J( 'ー`)し 「ブーン、まずは落ち着いて、正座しなさい」

(;^ω^) 「あ、うん……」

聞きたくて仕方がない、そう言った風体であったが、
母の威厳か、ブーンは気圧されてしまいその場で正座した。

J( 'ー`)し 「で、ブーン。話ってなんだい?」

( ^ω^) 「とーちゃんのことなんだお……」

J( 'ー`)し 「とーちゃんの?」

( ^ω^) 「うん……とーちゃんは聖杯を見つけてから、
      ずっと根源への到達を目指していたって聞いてるお」

J( 'ー`)し 「そうだねぇー……あの人は、それはもう熱心だったわ」

39名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:35:12 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) 「でも、僕は思い出したんだお。
      とーちゃんが生きてた時、僕にいっつも言い聞かせてたことを。
      ちょっと前までかーちゃんが魔術を教えてくれてた時も教えてくれたこと」

J( 'ー`)し 「……内藤家の家訓かい?」

( ^ω^) 「そうだお、"魔術よ人の為に斯くあれ"だお。
      根源への到達の為に魔術を使っているのだから当然のことだお。
      根源から得られる膨大な知恵を手にすれば、きっと"魔法"を成すこともできる」

( ^ω^) 「とーちゃんは、だから根源への到達を目指したのかお?
       功名心や後世に名を残す為とか、そういうんじゃなくって」

J( 'ー`)し 「……とーちゃんはね、シャキンは、それはもう人の為に人の為にって、
      いっつも一所懸命な人だったんだよ。あの人が魔術師だって知らなかった時から、
      私にはあの人の優しさが眩しかったよ」

(;^ω^) 「かーちゃん……?」

J( 'ー`)し 「あの人はきっと、魔術なんてものが無くても人様を幸せにしようと挑み続けたはずさ。
      自分の幸せよりも人の幸せを望む人だった。だからこそ、私はあの人を選んで、
      あの人を幸せにしたいって思えたんだ……」

J( 'ー`)し 「だからね……ブーン。全くもって、その通りさ。
      とーちゃんはね、根源から得た知恵で人々を幸せにする為に戦ってたんだ。
      幼稚な理想で、正義の味方気取りな馬鹿な人だったけど……」

J( 'ー`)し 「あの人は心の底から人類の幸福を望んだ、立派な男だったよ」

40名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:36:14 ID:U5Z4bAHs0

( ^ω^) 「……そうかお。それが聞けて、良かったお」

J( 'ー`)し 「今になって、急にどうしてそんなことを聞いてくるんだいブーン?
       私には、何となくわかる気がするけど、ブーンの口から聞かせておくれよ」

聞かれ、少し言い淀んでから、覚悟をして、
ブーンは口を開いていった。

( ^ω^) 「かーちゃん……僕は、聖杯戦争に挑むお」

J( 'ー`)し 「ふふふ、やっぱりね。私が聞いても何も答えてはくれなかったくせに、
      男の子ってのはどうしてこう、いきなりなのかね。
      でも、かーちゃんはブーンが決意してくれて嬉しいよ」

J( 'ー`)し 「もし、ブーンが戦う時がきたら……私は今日までずっとその時を待ち続けてきたんだ」

「ちょっと待ってなさい」と言ったかーちゃんは居間を離れ、
ブーンは痺れかけてきた足をのばし、少し揉んでから胡坐をかく。

その頃にはかーちゃんは戻ってきており、手には一丁の銃が握られていた。

41名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:37:09 ID:U5Z4bAHs0

(;^ω^) 「え、かーちゃん……それ……何?」

ゴト、と鈍い音を立てて、黒光りする銃身がテーブルに置かれる。
古臭い、どこか歴史を感じさせる銃にブーンは釘付けとなり、疑問が浮かぶばかりだ。

J( 'ー`)し 「こいつの名前はスオミ KP/-31
      とーちゃんが生前見つけてきて、今回の聖杯戦争に使うはずだったものさ」

(;^ω^) 「魔術師が銃を!?」

魔術師とは近代科学を嫌う習性がある。

それは魔術で行えることに何故機械を使う必要があるのか、
という単純に必要がないからといった理由もあり、
魔術を扱える自分達が何故凡人達の使う物を使わねばならないのか、
という特権階級的意識が根底にあるからである。

だから魔術師同士の戦いに銃を持ち出すなど到底考えられないことでもあり、
真剣に魔術を競い合っているのにそんな物を使うなど、恥ずべき行為なのだ。

魔術を扱えるのにわざわざ凡人共の武器を持ち出すとは。
内藤も落ちぶれたな、と一笑に付されてしまうに違いない。

42名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:39:31 ID:U5Z4bAHs0

(;^ω^) 「かーちゃんマジかお!?」

J( 'ー`)し 「マジもマジ、大真面目よ。でも、こいつをそのまま使うわけじゃあないわ。
      この銃は見てくれはただの古臭い銃だけど、
      これを使っていたある英雄にこそ価値があるの」

9mmパラベラムと呼ばれる弾薬を扱う、口径の小さなサブマシンガン。

未だにこんな銃を使い続ける者など、正規軍では決してありえない。
これよりも遥かに優れた貫通力を持つ銃弾を撃てて、
装弾数にも恵まれたサブマシンガンは今や数多く出回っているのだ

実戦で使う為に用意したとなれば言語道断だが、
それは魔術師であるブーンの知る由もないこと。

では、その銃の価値とは?

J( 'ー`)し 「この銃を使っていた英雄は―――――」

過去の英雄を英霊の座から呼び出し、使い魔とするサーヴァント。

ブーンの英雄や英霊といったイメージを覆す、
自らのサーヴァントとなるその英雄の名を……彼は知らなかった。

43名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:41:24 ID:U5Z4bAHs0

******

古い記憶。

少女の住む国は内戦の絶えない国だった。
力ある者達が聖戦と声高に叫んで違う考えを持つ者達を殺し、
異端と蔑んで徹底的に"浄化"していたのだ。

そんな国は家族を失う子供で溢れかえっており、少女もその一人だった。
行き場を失った子供達は大人達に銃を持たされて戦うか、奴隷として売り出されるかのどちらかだ。

少女は奴隷の道を歩まされてしまう。
食事をし、働き、家族みんなで普通に暮らしていたところ、
ある日突然やってきた"聖戦士"達に平穏を壊され、少女は全てを奪われてしまう。

襲われたことに混乱した。犯されることに恐怖もした。
屈辱の時間は続いたが気付けばことは済み、全ては突風のように過ぎ去っていた。
そして何時の間にか少女は奴隷市場の商品として並べられていたのだ。

   「……」

少女は呆けたように空を眺めていた。
太陽の眩い輝きに目を奪われているようだ。

一瞬で何もかもが崩れ去ってしまった為、幼い脳が処理に追いつけていないのかもしれない。

そんなふうに空を見ていた折、店主に腕を引っ張られた。
力強く、太い腕だ。少女は自分の細腕が脱臼してしまいそうな程の痛みを感じる。
だが抵抗する力も心も、今の彼女には残ってはいない。

44名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:42:56 ID:U5Z4bAHs0

店主はこの少女を力強く宣伝したが、客のノリはイマイチである。
そこで、彼はこう提案する。

  「じゃあ、味見していっておくれよ。
   その上でこの商品がいかに上物であるか判断してくれ」

  「ッ!?」

少女は驚愕したが、店主は下卑た笑みを浮かべて、

  「ただし手を出すからには買ってもらうぜ、冷やかしはよしておくれよ」

そう言うなり、少女の服とも言えないような布切れに手をかけ、
力を込めると引き裂いていく。布が甲高い音を立たせて、
少女の成長段階にある身体が見物客達の前に晒されていってしまうと、

  「ま、待った! そいつはいくらだ!? 俺が買う!!」

客の波から割って出てきた、若い黒髪の兵士が名乗りをあげた。

この時の少女には金のことはわからなかったが、
市場で、魚が10匹以上は買えるくらいの金額を店主に払った彼は、
少女の手を引いてその場を急いで去っていく。

  「……」

  「危ないとこだったな、君」

黒髪の兵士はしばらく歩き続けると手を離し、少女へとそう語りかける。

45名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:44:43 ID:U5Z4bAHs0

  「……」

だが彼女は口を固く閉ざし、応えようとはしなかった。

  「成り行き上、買っちゃったけどさ。家に帰っていいよ」

  「……」

  「……じゃあ、元気でな」

男の肌の色はこの国の物とは違って少し白かった。
黄色人種のものかもしれないが、この国の人間では無いことだけはたしかで、
おそらくは傭兵で、若さゆえに先程のような行動をとってしまったのだろう。

少女はその男が背を向け、去っていくのを立ち止まって見続けていた。
ついさっきまで太陽を見ていたのと同じように。

  「お家無い……」

すると、彼女の口から自然と声が出た。

虫が鳴くような小さな声ではあったが、それは確かに兵士へ届いていたようで、
少女のほうを振りかえって来た道を戻ってくる。

  「そうか……そうだよな……」

そして彼女の目の前で立ち止まると、心底困り果てたように頭を抱えた。
少女もまた困惑していて、二人は結論を出せずにそのまま立ちつくしてしまう。

46名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:46:47 ID:U5Z4bAHs0

  「あの……お兄さんは私を買ったんだから、連れて帰るものじゃないんですか?」

  「いや……アレは、ちょっとした気の迷いだ……。
   君、俺と同じ目の色で、髪の色も一緒だったからさ……、
   その、見ていられなくて……」

  「私、お母さんもお父さんもいなくなっちゃった……」

  「……」

少女が何を言いたいのかは、若いこの男にも痛いほどよくわかった。
どうしてやるのがこの少女にとって最善のことなのか、
初めからわかりきってはいたのだが、それをしてやれるほどの決心はこの男にはなかった。

だがこの少女の目を見ていると、彼は過去を思い返し、
心臓が鷲掴みにされたような苦しみを覚えるのだ。

何とかしてやりたいが、という思いと、無理だという思いが男の中でせめぎ合っている。

しかし、

  「……私、どうしたらいいの?」

少女のその一言が男に覚悟を持たせた。
責任を最後まで果たし切る、という重い覚悟だ。
だからその証として、彼はしゃがみ込んで少女と同じ目線に立つと、

  「じゃあ、君に名前をつけよう」

そう言って辺りをキョロキョロ見回すと、一旦空を見てから少女を見直して、

47名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:50:40 ID:U5Z4bAHs0

  「君の名前は、今日からクウだ」

  「……クォーォ?」

  「そうだ、俺の国の言葉で、空って意味だよ。
   恐らくは、君の祖先を辿れば俺と同じ国に住む人種のはずさ。
   似合うと思うが……どうだ?」

川 ゚ -゚) 「うん……なんとなく、懐かしい感じがする。
      クーォ?……クゥー?……クゥー……クー……クー……」

     「そうそう、まっ、多少イントネーションは違ってもいいか……」

川 ゚ -゚) 「でも私……」

     「うん?」

川 ゚ -゚) 「……」

少女は、いや、クーは自分には両親から貰った名前がある、
と、そう言いかけたが、胸の奥から刺々しい過去の痛みが引きずり出てきて、
喉に何かがつっかえたように苦しくなって、声が止まってしまう。

川 ゚ -゚) 「ううん……何でも無い」

だから彼女は、この時この名前を受け入れて、新たなる人生を歩むことを決意した。

     「そうか……じゃあ自己紹介だ。俺の名前は――――――」

48名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:52:26 ID:U5Z4bAHs0

******

真っ暗な空間。
四角形を描くこの場所はどこかの地下室だ。

闇の中では黒々とした小さな多足生物がうごめいており、
触覚やその沢山の足をうねらせて何かへと集まっていた。
空間の中心には1m程の盛り上がりがあり、そこに"何か"がいることは確かである。

地下室の扉が開き重低音が響く。
すると、前方だけを照らす小さな灯りをもった人々が続々と降りてきて、
虫達は一瞬だけ機敏な反応を示したが、害がないことを悟ると中央の"エサ"に没頭し続ける。

人々はそれぞれローブをきており、マスクをしている為、
顔を見ることはかなわなかった。

彼らがマスクをしている理由は単純である。
この部屋は臭うのだ。鼻腔から頭までを満たす血の粘つく臭いと、
嗅覚を突き刺すようなアンモニア臭と糞尿の悪臭、それに混じる淫靡なメスの臭い。

何も知らずに入ってしまえば卒倒してしまうだろう。
それら全てを少しでも軽減させる為、彼らはマスクを装着しているのだ。

  「どうやら、間に合ったようだな」

一人が口を開く。男の、年齢を感じさせる鈍い声だ。

49名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:54:19 ID:U5Z4bAHs0

  「えぇ、急ピッチで苗床となる工程を進めていきましたから。
   下手をすればこの"魂蟲"に肉も残さず食い殺されてしまっていたでしょうが、
   被験体の肉体的強度と治癒力の高さのおかげで、どうやら成功しそうです」

次にしたのは女の声だ。
まだ若く、少々幼さは残るがどこか艶を感じさせる声である。

  「実験中だったこの蟲が使えるとはな。
   常人……いや"人間"であれば、恐らく一瞬で肉体を食らい尽くされていただろう。
   俺達は良い拾い物をしたな。まだ人間でなくなってから日が浅く、上手く適応出来たようだ」

   「これなら我々が聖杯戦争を勝ち抜くことも充分に可能だ。
    後は、我々の命令通り動けるかどうかだが……」

  「ご心配なく、三日三晩かけて私が催眠をかけましたから。
   最も、この"化物"に魂蟲の苗床になった後、自我が残っていればの話しですが」

  「残っておらずとも、他の六人のマスターを始末さえしてくれればいい。
   聖杯が現われたところを蟲にこいつを殺させ、俺達が頂いちまえばいいのさ」

   「そう言えば、残っていたと言えばこいつが持っていた魔術刻印、どうなったんだ?
    欠片みたいなもので、魔術回路などは二割程度しか引き継がれてはいないようだったが」

50名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:56:30 ID:U5Z4bAHs0

   「問題は無い、体内に入り込んだ魂蟲が魔術回路の代替物となり、
    術に必要な魔術を送り込むことになるが、元々あった回路もそのまま使える。
    水道の蛇口がいくらあろうとも、ダムに不都合は起きんよ」

   「へぇ……なるほど。じゃあこの最終調整さえ終われば、
    サーヴァントを召喚して化物を戦わせられるというわけか」

    「そういうこと。呪文は催眠の時に刷り込んだし、やるべきことをやってくれるでしょ。
     同じ"バーサーカー"同士、文字通り死ぬまで暴れ回ってくれるわ」

    「そうなりゃ、俺達一族が根源への到達を成し遂げるってわけか……。
     この土地で内藤と津出が聖杯を発見したって聞いてから、
     潜伏しつづけた苦労もこれで報われるぜ。ここ、寒くて仕方がないんだよ」

    「ふっふ、まだ気が早いぞ。……集中しろ、目を凝らして見ておくが良い。
     そろそろ、最終調整が終わるところだ。目覚めるが良い、我らの美しき獣よ……」

最年長の者がそう言うよりが早いか、虫達に変化が起きる。
中心部へと集まるそれらが次々と吸収されていったのだ。

部屋で蠢いていた虫達の姿は徐々に消えていき、
やがて"苗床"となった化物の姿が露わとなっていくと……、

51名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 22:57:54 ID:U5Z4bAHs0

川  ) 「 」

    「おぉ、四肢がついているぞ。五体満足だ」

部屋と同じ、闇色のドレスを見に纏ったその美しき化物が立ち上がり、
その様に彼らは感嘆の声を上げていく。

    「なんだあのドレス。あれ、爺さんの趣味かい?」

    「いや、あれは私の趣味。折角の私達の力作なんだから、
     美しく着飾ってあげたいじゃない?」

    「そんなことはどうでもよい、早くサーヴァントを召喚させるぞ。
     サーヴァントの召喚は椅子取りゲームだ。急いで準備しろ」

慌ただしく動き始める彼らの目には、もうその化物は移っておらず、
サーヴァント召喚の儀式の用意をしていく。

川  ) 「……」

今まで意識を失い、覚醒したばかりの化物は、
自分の左手の甲に宿る赤々とした紋章を不思議そうに見つめる。
その視線はどこか煽情的で、"令呪"の放つ輝きに目を奪われているようだった。

聖杯戦争の為に精製されたこの最悪の怪物は、こうして札幌の地で目覚めたのだ。

52名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:02:25 ID:U5Z4bAHs0

******

円山は市街地に面していながら、そのほとんどの面積が山と、
原生林に覆われた自然の豊かな土地であり、北上すればそちらへ、
北東へと向かえば北海道の陸路の要である札幌駅へ向かう事も出来る。

自然と科学が混然一体となり、田舎的でもない都会的でもない、
小奇麗さと小汚さが相まって不思議な静けさを醸し出す土地だ。

原生林の中には公園があり、その入り口付近にはマンションが建てられていた。
そこの一室こそが魔術師、隠田ドクオの隠れ家が一つである。

髪も瞳も黒く、日系人らしい顔立ちをしていたが、
彼の浅黒い肌の色と独自の雰囲気には日本人らしからぬものがあり、
人種を判別させることは難しかった。

しかし170cm程の身長は平均的な日本人男性のそれで、
彼はオリーブドラブのモッズコートを羽織り、裾を悠然と翻して歩く。

前を開いたままのその姿は寒そうに思われるが、しかしどこか様になっている。

それがこの男の国籍の特定を難しくさせる要因でもあった。

53名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:03:54 ID:U5Z4bAHs0

('A`)ノ 「……」

ドクオはマンションの玄関へ辿りつくと、暗証番号を押してセキュリティーを解き、
ドアをくぐっていくと階段を登って目的の部屋に向かう。

二階の203号室であり、彼がそこを選んだ理由は戦略的に優位をとれるからだ。
二階ならばいざ襲撃を受けた祭も脱出するのに適し、外部の敵を早期発見することも可能で、
風の影響も上のフロアに比べて少ない。

最上階のほうが敵の索敵に優れるという意見もあるだろうが、
それならば屋上へ行けばいい話だ。それよりも、上階に居を構え、
万が一敵に火攻めをしかけられた時に脱出できなくては困る。

リスクを最小限に抑え、最大限のメリットを得るには、
ドクオの持論では二階がベストだったのだ。

聖杯戦争に挑むにあたって、彼に妥協は一切なかった。
あらゆる事態に備え、念入りに計画を立ててきた。

その最後の一押しが今日の"仕事"である。

ドクオは目的地の前に到達すると、ノックをした。
すると5秒と待たずに扉の向こう側から気配が生まれ、

   「"愛国者は?"」

そう問われた。
唐突すぎる問いであり、要領を得ないものであるが……、

54名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:05:29 ID:U5Z4bAHs0

('A`) 「"らりるれろ"」

ドクオは迷わずに合言葉を答える。

すると素早く扉が開かれていき、

('、`*川 「……尾行は?」

女性が現われるなりそう尋ねた。
砂色の髪が美しい、緑色の目をした彼女は、
ドクオの仲間であるペニサス・イトーだ。

('A`) 「一切無い。追っ手は送られていないようだ」

('、`*川 「入って」

言って、彼を招き入れると周辺を油断のない眼つきで見回し、
そっと扉を閉めていった。

廊下をドクオは進んでいき、その背後にペニサスがつく。
168cmと女性として高身長の部類に入る身体はYシャツ姿であり、
白い生地からは豊かな膨らみが作られている。

鍛えられているのか引き締まった体型をし、
しなやかな筋肉を持ち合わせているのだが女性らしさも併せ持つ。
真の肉体美というのは、こういうことを言うのかもしれない。

('、`*川 「お帰りなさい、ボス。自分の目で現地を見てきて、どうだった?」

55名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:06:41 ID:U5Z4bAHs0

('A`) 「悪くない土地だ。都市開発されていながら自然も残っていて"マナ"が豊富だ。
    これなら存分に魔術を行使することができるだろう。
    高層建築物も多く、偵察も容易そうだ。……もっとも、お前達はもう知っているだろうが」

ドアを開くと、キッチンとダイニングが一緒になったそこは、
左手側がダイニング、右手側がキッチンとなり、ダイニングの中心にはテーブルが置かれ、
それを囲うようにソファーが配置されていて、テレビと向き合うようになっていた。

今、テーブルの上ではトランプが忙しなく動きまわり、
6人の男女がそれぞれカードゲームに興じている。
  _
( ゚∀゚) 「おぉ! ボス、お帰り」

(゚、゚トソン 「お帰りなさいませ、ドクオさん」

 ( ^Д^) 「お帰り〜。 あ、革命で」

(;><) 「ちょ……! あ、あぁ、お帰りなさいなんですボス」

( ´∀`) 「お帰りモナ、ドクオ」

('A`) 「……楽しそうだな」
 _、_
( ,_ノ` ) 「お前ら、手を止めろ。ボス、すまん」

('A`) 「いや、何も悪いとは言っていない。お前達もよく働いてくれたしな。
    だが……なんだそれ? ポーカーじゃないのか?」

56名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:09:16 ID:U5Z4bAHs0

 ( ^Д^) 「日本のゲームでな、大富豪ってんだ。ボスもやるか?」

('A`) 「後でな、今は報告と会議が先だ」

ドクオが彼らにボスと呼ばれるのは、そのままの意味だ。
ペニサスを含め、口を開いた順からジョルジュ、トソン、プギャー、ビロード、
モナー、渋澤と言い、この七名はドクオにとって仲間でもあるが同時に部下でもある。

彼の興した、ある会社の社員なのだ。

社長に対して敬意の欠いた口振りをする者が多いが、
それは生死を賭けた場面を共に切り抜けてきた仲間である、という意識からくるもので、
ドクオもまた同じ認識をしていて、仕事以外で上下関係を強要したことはない。

仕事となれば彼らの行動は素早く、散らばっていたトランプを集めて、
姿勢を整えると一斉にドクオのほうを皆が見た。

('A`) 「まずはみんな、三ヶ月前からの潜入任務、御苦労だ。
    お前達のおかげで魔術師が動いてる素振りを見せることもなく、
    準備を進めることが出来、俺は"サスガブラザーズ"の追跡に専念出来た」

('A`) 「ありがとう。奴らを始末することで一つ席が空き、これで聖杯戦争に参戦出来る。
    令呪もこの通りだ。俺はこれから、サーヴァントの召喚を行う。
    ペニサス、例の物を持ってきてくれ」

('ー`*川 「了解」

笑みを作って応えた彼女は、ダイニングから姿を消す。
ペニサスが戻ってくるまでの間、
ドクオは改めて説明をしようと口を開く。

57名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:10:47 ID:U5Z4bAHs0

('A`) 「聖杯は魔力を溜めこみ、奇跡を引き起こすことを可能にする。
    英霊の召喚はその膨大な魔力による奇跡の一端と言えるだろう。
    俺達魔術師は聖杯に選ばれて令呪を得ることで、マスターになる」

('A`) 「令呪とは三画からなる聖痕のようなもので、サーヴァントへの絶対命令権を持つ。
    命令は単純で短期なものであるほどその効力は強く、例えば遠く離れた場所から"来い"と命じれば、
    瞬間移動をしたように即座に目の前に現われる。逆に、複雑で長期にわたるものほど令呪の効果は薄い」

('A`) 「一度令呪を使うと一画が消費されてしまう。三度限りの命令権だ。
    これがあるからこそ魔術師は英霊を従えることが出来る。
    自害しろ、と命じられればそれまでだ。だから英霊達はマスターに従う」

('A`) 「英霊は聖杯に呼びだされ、使い魔、サーヴァントになるが元は英雄だ。
    気性の荒い奴もいればプライドの高い奴もいる、扱いは気をつけろよ。
    それでだ、サーヴァントにはクラスというものがあって……」

そこでドクオはペニサスが戻ってきたことに気付き、言葉を区切った。
長々とした話しではあったが、これから行う戦いのこととあって、
仲間達は真剣な面持ちで聞いてはいるが、退屈しているに違いない。

58名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:11:48 ID:U5Z4bAHs0

('、`*川 「ボス、持って来たわよ」

ペニサスはそう言って、布に覆われた棒状の何かを両手でドクオに差し出す。
受け取ったドクオは包みを解きながら、再び口を開く。

('A`) 「サーヴァントにはクラスがあり、セイバー、ランサー、アーチャー、
    ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーの七つだ。
    俺がこれから呼びだそうとしているのは……」

布を全て払い去る。

そして、皆の前でドクオは掲げた。
現われたものは3m近くある槍であり、古びたそれは中世の英雄の愛槍であったものだ。

('A`) 「ランサーだ。この遺物で俺はある英霊を召喚する」

この槍を寄り代に使えば、確実にドクオの意中の英霊を召喚することが出来るだろう。
彼はその英霊を何故狙うのか充分に説明すると、この街の中でもマナが特に豊富であり、
人気の少ない原生林へと向かい、召喚の儀式の用意を仲間と共に始めていく。

PMC(傭兵企業)"インビジブルワン"を率いる魔術師、隠田ドクオ。
傭兵を部下として使うこの魔術師は、必勝の為の布石を打っていく。

59名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:13:05 ID:U5Z4bAHs0

******

その夜、聖杯戦争に挑むべく、
五人のマスターがサーヴァント召喚の儀式を開始する。

ある者は自宅にある魔術工房で―――――


( ^ω^) 「大丈夫、大丈夫だお。この聖遺物があれば、確実にあの英霊が召喚できる。
       とーちゃんとかーちゃんに託された物、今こそ全て引き継ぐお」

ブーンは、自ら描いた召喚の陣と向き合い、集中力を高める。
魔方陣の中央には母より預かったあのサブマシンガンが設置され、
それを一瞥したブーンは頭の中で召喚の手順を反芻していく。


ある者は人気のない大地で―――――


(*゚ー゚) 「ギコくん……待ってて。今度は、私が力になるから……」

シィに願いなどは無かった。だが想いだけはある。

かつての恋人の力となるべく、病院からこっそりと拝借した輸血パックから血を垂らし、
魔方陣を描いていき、それを終えると万が一の為に用意しておいた聖杯戦争の文献をもう一度読みこみ、
召喚の呪文を間違えぬよう、しっかり脳へと刻む。

60名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:14:19 ID:U5Z4bAHs0

ある者は整えられた闇の中で――――


    「いい? 貴女はこれからサーヴァントの召喚をするの」

川 -) 「……」

黒いドレスを見に纏う、かつて"クー"と名付けられた"化物"は、
召喚の陣に向かわされて、催眠に従ってサーヴァントの召喚に備えていた。

   「魔方陣は用意した。後は狂化の一文を忘れずに挟むこと――――始めて」

女に指示されるがままに、化物は一度だけ頷くと、口を開いていく。
口ずさむのは召喚の呪文だ。


ある者は最もマナの豊富な場所で―――――


('A`) 「サーヴァントの召喚に大掛かりな術式は必要ない。
    聖杯が魔力を供給してくれるから、魔術師は呼びだすだけだ」

そう語るドクオではあるが、魔方陣に手抜かりは無く、
彼はその出来に満足すると再び口を開く。
水銀を用いて作られた魔方陣へと向かい手をかざし、

('A`) 「どんな大魔術が使われるのか、と期待してたんだろうがな」

61名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:15:49 ID:U5Z4bAHs0

('A`) 「じゃあ、儀式を始めるぞ――――」

その言葉に部下達は首肯を返し、ドクオが呪文の詠唱を開始していく。


('A`) 「告げる」

( ^ω^) 「告げる」

(*゚ー゚) 「告げる」

川 -) 「告げる」


( ^ω^) 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に――――」

(*゚ー゚) 「聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ――――」

('A`) 「誓いを此処に。我は常世全ての善となる者、我は常世全ての悪を敷く者――――」

川 -) 「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
     汝狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――――」


( ^ω^) 「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

呪文の結びをつけるとともに、ブーンは身体を流れる魔力の奔流を限界まで加速させた。
サーヴァントをこの世に導きだし、そして繋ぎとめる為に大量の魔力を必要とする為だ。

62名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:16:54 ID:U5Z4bAHs0

逆巻く風と稲光。

吹き飛ばされそうな風圧に耐えるブーンの前で、召喚の紋様が輝きを放つ。
魔方陣の中に出来た道はついに"あの世"へと繋がったのだ。

工房から溢れんばかりの光の奥から、現われ出でるものがある。

(;゚ω゚) 「成功……した?」

(<`十´>


それは――――白き戦闘服を纏う立ち姿。

(*゚ー゚) 「これが、サーヴァント……!」


|/▼)


それは――――純白のローブに防具を備えた男の姿。

川 -) 「……」


以#。益゚以


それは――――禍々しき輝きで黄金の鎧を曇らせた狂戦士の姿。

63名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 23:18:43 ID:U5Z4bAHs0


目,`゚Д゚目


それは、男の狙い通りの鎧武者の姿。

険しい眉間に荒々しさを感じさせる相貌は、
快活さを感じさせる笑みを一瞬見せ、膝を突く。

目,`゚Д゚目 「問おう。貴殿が拙者を招いたマスターか?」

全て思うがままにことが運び、達成感から笑い声の一つでも上げてもおかしくないのだが、
ドクオは憮然と己の召喚したランサーを見返し、仲間を見渡すと宣言した。


('A`) 「あぁ―――聖杯戦争を開始するぞ」


聖杯戦争の火蓋は切られ、夜が更けその第一日目が始まろうとしていたその時、
札幌の街に、どこまでも響き渡るような獰猛な雄叫びが放たれていった。

聞く者を恐怖させる獣の轟きに、不穏な空気が漂い始めていく中――――


――――聖杯戦争は、開始される。

64 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/02(月) 23:22:51 ID:U5Z4bAHs0
以上で第一話 聖杯戦争を開始する 投下終了です

本人証明の為にいちおう酉をつけておきます
それではまた次回に

65名も無きAAのようです:2012/04/03(火) 00:30:21 ID:UG..4.v20
フェイトか期待



66名も無きAAのようです:2012/04/03(火) 01:26:00 ID:qUJcEhE.0
乙乙 楽しみにしております

67名も無きAAのようです:2012/04/03(火) 06:32:25 ID:1hwJ3nuEO
読みがいあって、かつ面白いよ 
次回が待ちどおしいけれど 
これだけ量があると次は1ヶ月後位になるのかな

68名も無きAAのようです:2012/04/03(火) 17:37:41 ID:Q6SmkjUY0
そうか、ブーンのサーヴァントはアーチャーか。
チート性能だな。

69名も無きAAのようです:2012/04/03(火) 17:46:15 ID:yHPsLwB.0
銃が聖遺物だしアーチャーだろうな

70名も無きAAのようです:2012/04/04(水) 00:09:30 ID:uqjNVnBk0
>>69 スオミを使う白装束は俺の知る限りチートアーチャー。

71名も無きAAのようです:2012/04/04(水) 06:30:52 ID:ERiRsyow0
まさか白い死神か?
舞台と言い、こりゃ勝負は決まったな。

72名も無きAAのようです:2012/04/05(木) 02:11:10 ID:02aRJQTM0
http://the99mmikd.blog.fc2.com/blog-entry-34.html

まとめさせていただきました
要望等あればお願いします

73 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:15:13 ID:nqepu3F.0

内藤家の一階には魔術の研究を行う工房があり、
今、そこに一騎のサーヴァントが召喚された。

(<`十´> 「問おう、お前が私のマスターか?」

雪原に擬態する真っ白なギリースーツを装備したサーヴァントは、
死神を連想させるマスクを覆った顔をブーンへと向けて尋ねた。

(;^ω^) 「そ、そうだお……僕が君のマスターだお」

150cm代と大柄のブーンと比べると酷く小柄な体型だったが、
それでもサーヴァントの放つ威圧感に彼は気圧されてしまい、
とっさに平静を装ったものの声が上ずってしまう。

(;^ω^) 「き、君は……アーチャーで間違いないのかお?」

(<`十´> 「如何にも」

(;^ω^) 「第二次世界大戦で、沢山人を―――」

ブーンは彼の生前について全く知らなかったのだが、
母親に教えられていたためその活躍ぶりは把握していた。
しかし、ブーンは争いを好まず戦争に嫌悪もしている。

大戦で戦った英雄に対して、そんな彼は抵抗を持たずにいられない。

74 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:16:16 ID:nqepu3F.0

(<`十´> 「マスター、一つ言っておくが。
      私は命じられたことを可能な限り最大限に遂行しただけだ」

それを察したのか、言葉を遮ってアーチャーは先手を打つ。

(;^ω^) 「で、でも……」

(<`十´> 「私達の生きる時代ではそれが正義だった。
      銃を取らねば、何も守れなかった。それだけだ」

(;^ω^) 「……」

つい出してしまった言葉に後悔しかけるが、
それでもブーンは戦争というものを肯定することは出来なかった。

……それは、これから聖杯戦争を戦う自分への否定でもあったのかもしれない。

(<`十´> 「マスター、名前は?」

ブーンが口籠ってしまったことで生まれた沈黙を破ったのは、
アーチャーの問いであった。

75 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:17:13 ID:nqepu3F.0

( ^ω^) 「僕は、内藤ホライゾン。みんなブーンって呼ぶからブーンでいいお」

(<`十´> 「ふむ……ブーンか。お前の口振りから見るに、私の名は知っているようだな。
      ならば、あえて名乗らん。顔を合わせることもそれほどないだろうしな」

(;^ω^) 「え……え!?」

アーチャーの何気ない言葉に、ブーンは驚愕した。
自分の言葉がどこまで彼を傷つけたのだろうかと心配するが、

(<`十´> 「む? 勘違いするな。お前の言葉に私は何の感慨も浮かばない。
      戦略的な問題だ。お前は聖杯戦争が終わるまでここで隠れていればいい。
      私が6人のマスターもサーヴァントも、全て仕留めてこよう」

(;^ω^) 「い、いや! それは!!」

(<`十´> 「マスターが死ねばサーヴァントに魔力供給がされなくなる。
      お前に死なれたら、私が困るのだ。だから、外に出歩かずここで隠れていろ」

(;^ω^) 「そんな甘いはずがないお! 6人を相手に君1人で立ち向かえるわけ……」

76 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:19:45 ID:nqepu3F.0

(<`十´> 「一度に相手にするわけではない。ゲリラ戦は私の得意手だ。
      もしものことがあれば私はマスターを援護するが……足手まといだ、お前は」

(;^ω^) 「……!」

正直に、包み隠しもせずにアーチャーに言われ、
ブーンは自分の足場が崩れ去ったような感覚を覚えた。

口から否定の言葉が出かけるが……、

(<`十´> 「違う、とは言わせぬぞ? どう見てもマスターの眼は戦う者の眼では無い。
      胸の内に、何か決めたことはあるのだろうが……戦いへの迷いも見えるぞ?」

ブーンは父であるシャキンの真意を知り、迷いを断ち切れたつもりでいたのだが、
アーチャーの問いにブーンは自信を持てなくなってしまったのだ。

元から、それは一過性のものでしかなかったのかもしれない。
いずれ壁にぶつかれば、脆くも崩れ去るだけの貧弱な覚悟だったのかもしれない。
しかし、"根源への到達"を"人々の為"に成そうとしていたのは、間違いなく彼の意思だ。

(;^ω^) 「……」

彼の意思に違いは無かったのだが、揺らいでしまった。
揺らいでしまったブーンはアーチャーに反論出来なかった。

77 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:25:12 ID:nqepu3F.0

(<`十´> 「どこに不都合がある? お前は手を汚さずに聖杯を手に入れられる。
      私はかつての大戦と同じように、可能な限り最大限に任務を遂行するだけだ」

(;^ω^) 「君一人じゃ……勝てないお」

(<`十´> 「マスターと一緒じゃ私は勝てん」

サーヴァントにも聖杯に託す願いがある。
だからこそ英霊の座より現世への召喚に応じるのだ。

叶えたい願いを、中途半端な覚悟で戦いに臨むブーンに妨げられるよりは、
己の腕を信じそれだけで聖杯戦争に挑むほうが、アーチャーにとっては堅実だった。

(<`十´> 「ではな、マスター。何かあれば令呪で呼ぶがいい」

そう言ってアーチャーは霊体化していき、姿を失っていくと、

(;^ω^) 「アーチャー!!」

文字通り、ブーンの前から消えてしまった。
令呪と魔術回路は繋がっており、まだ彼が近くにいることは理解できたが、
ブーンの呼ぶ声にアーチャーが応えることはなかった。

78 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:27:12 ID:nqepu3F.0

******

|/▼) 「問おう、汝が我を召喚せしマスターか?」

人気の無い円山の中腹で魔方陣を敷いたシィは、
儀式の際に莫大な魔力によって吹きすさんだ疾風が止んだかと思うと、
静まり返った夜闇の中心で、眩いほどの白さを放つローブを顔を覆うように纏った男に問われる。

(*;゚ー゚) (これが、サーヴァント……)

自らが行使した魔術が成功し、見事サーヴァントの召喚を成し遂げた高揚感に一瞬浸るが、
男の身から感じられる魔力の濃さに対する驚きのせいで、それは心の端へと追いやられてしまう。

(*;゚ー゚) 「えぇ、そうよ」

しかし、どれだけ高等な存在であっても所詮は使い魔である。
術者に行使される側である彼に、シィは魔術師らしく毅然とした態度で応えるが、
規格外の魔力量に尻ごみする気持ちは抑えられなかった。

|/▼) 「我は聖杯の招きに従い、"英霊の座"より現世へ"アサシン"のクラスを得て参上した」

アサシン。

気配遮断スキルを持ち、姿を見せず、気配も感じさせずにマスターを暗殺する、
名の通り暗殺者の英霊が就くクラスである。

79 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:27:58 ID:nqepu3F.0

正面切っての戦闘では、他のクラスに比べステータスで劣り不利ではあるが、
マスターが上手く暗殺者としての本領を発揮させてやれれば、充分に勝ち残っていけるクラスだ。

サーヴァントはマスターの魔力供給により現世に姿を留めることが出来、これを"現界"と言う。
マスターから魔力を与えられない限り、自力で補給することの出来ないサーヴァントは姿を保てず、
聖杯を手にすることは叶わずに消滅する羽目になる。

そこに、アサシンが付け込む隙があるのだ。
サーヴァントのステータスはいくら低くとも、人間が彼らに敵うことはない。

闇に溶け込みマスターを狙うアサシンは、聖杯戦争において魔術師の天敵と言っていいだろう。

(*゚ー゚) 「アサシン……」

しかし、セイバー、アーチャー、ランサーの"三騎士"と呼ばれるクラスには、
圧倒的にステータスで劣っていることに変わりは無い。

シィはいざ敵に襲われた際、このアサシンが撃退することは出来るのだろうかと不安を抱く。
姿を見せず暗躍すればいいのだが、何らかのアクシデントに見舞われ、
襲撃されてしまった場合はかち合いに弱いアサシンは頼りがいが無かった。

(*゚ー゚) (でも、ギコくんと合流できれば……)

しかし、アサシンほど情報収集能力に長けたサーヴァントもいないだろう。
戦闘面では役に立てないかもしれないが、ギコとさえ合流出来れば心強い戦力になるに違いない。

マスター殺しのサーヴァント、アサシンとギコのサーヴァントがいれば、
もはや敵はいないだろうとシィは考え直していき、安堵の息をひとまず吐いた。

80 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:28:57 ID:nqepu3F.0

|/▼) 「なんだ、俺じゃあ頼り無いのかいお譲さん?」

先程の硬い口調とは打ってかわり、やけに砕けた声でアサシンが尋ねる。

(*゚ー゚) 「いえ、そんなことはないわ。貴方ほど便利なサーヴァントはいないもの。
     英霊の前で溜息なんて失礼だったわね、ごめんなさい」

|/▼) 「良いんだ、ステータスの低さには些か俺も不満を覚える。
    生きていた頃ならばこの程度の身体能力じゃあなかったんだが……」

(*゚ー゚) 「あら、残念ね。英霊になる前のほうが強かったの、貴方達は?」

|/▼) 「あぁ、現地での知名度やマスターとの相性など、
    様々な要因によって英霊は能力を限定され、サーヴァントとして召喚される。
    残念でならない、貴女のような女性に俺の全てを見せてやれないとは……」

フードの端から窺える口元を緩めたアサシンはシィの前で跪くと手を取り、
その甲へと静かに口づけていった。

(*゚ー゚) 「貴方、本当にアサシンなの……?」

シィが疑問に思うのも無理はない。

アサシンという割には服装は白いローブとよく目立ち、
何より、その振る舞いが彼女の想像していたアサシンの印象とはかけ離れていた。

|/▼) 「あぁ、アサシンさ。アサシン教団の長、ハサン・サッバーハの名を受け継いだ者の一人」

81 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:30:31 ID:nqepu3F.0

(*゚ー゚) 「アサシンってもっと寡黙なイメージだったんだけど……。
     まぁ、いいわ。ステータスを見る限りアサシンであることは間違いないしね」

マスターとなった者にはサーヴァントのステータスが視えるようになる。
目に映る、というよりは意識に直接情報が刻まれてくるような感覚に近い。
これは敵のサーヴァントにも同様であり、"真名"や"宝具"といった例外以外は開示される。

シィの意識に、アサシンの保有するスキルとステータスが映し出されていく。


【クラス】 |/▼)アサシン
【マスター】シィ・C・ルボンダール
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男性
【身長体重】
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 魔力D 敏捷A 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
           サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
           ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
         
【保有スキル】投擲(短刀):B
         短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。

         風除けの加護:A
         中東に伝わる台風避けの呪い。

【宝具】???

82 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:31:17 ID:nqepu3F.0

得た情報は記憶の片隅に記録され、意識すればいつでも見ることが出来る。
シィはアサシンのステータスを見るのを止めると、次に取るべき行動を命じていく。
これが、聖杯戦争が開始して初めての二人の作戦行動となる。

(*゚ー゚) 「アサシン、早速やって貰いたいことがあるの」

|/▼) 「何なりと、マスター」

跪いたまま、アサシンは演技っぽくそう応えた。
どうやらこのサーヴァントは主従の関係の通り動いてくれるらしい。
シィはそれに安堵して、彼を真っ直ぐに見据えて告げる。

(*゚ー゚) 「この写真の男の人を捜し出して」

そう言ってアサシンに見せたのは、

『 (,,゚Д゚) 』

かつてのギコの写真だった。
まだ少し幼さの残る顔立ちではあるが、眼には厳かな光が宿っている。

(*゚ー゚) 「昔の写真だけど、顔立ちはそれほど変わっていないはずよ。
     私達が勝ち残るには、彼と合流しないといけない。重要な仕事よ」

|/▼) 「……」

アサシンはその眼を見ただけで、生前の経験から、
この少年は腹に何かを抱え、自らに十字架を科して死地に赴いていく、
試練に生きる人間であることを察した。

83 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:32:01 ID:nqepu3F.0

が、特に何かを語るわけでもなく、口の端を少し緩めると、

|/▼) 「了解だ、マスター」

ただ、それだけを言葉にして跳躍の姿勢を取ったその時、

   「―――――――――ッ!!」

|/▼) 「ッ!」

夜の市外の静けさを打ち破る、地の果てにまで轟くような、
凶暴すぎる獣の雄叫びが二人の身を震わせた。

(*;゚ー゚) 「な、なに!?」

|/▼) (この空気の震え方、近いな……)

聞く者の恐怖心を煽るそれにシィは狼狽し、アサシンの表情は強張っていく。
先に判断を下したのは、マスターよりも実戦経験の豊富なアサシンの方だ。

|/▼) 「マスター、仕事は取りやめだ。安全な場所まで逃げるぞ」

(*;゚ー゚) 「敵がいるの……!?」

唐突に知らしめられた敵の存在にシィはただ動揺するばかりだ。

……ここのマナの豊富さが敵の魔力を紛れこませていたの?
やっと敵を察知したシィは冷静に分析していくが、
今はそんな悠長に構えていられる場合では無い。

84 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:33:03 ID:nqepu3F.0

(*;゚ー゚) 「何なのこの魔力の量、尋常じゃない! 一体何を召喚したっていうのよ……!」

|/▼) 「相手が何だろうが関係ない。早く逃げろ。
    サーヴァントが近付いてきていることだけは確実だ!」

(*;゚ー゚) 「そ、そうね! わかったわ」

シィは言葉と同時に力強く一歩踏みこんだが、アサシンはその場から動こうとはしない。
数メートル程駆けたあたりで気がつき振り返ると、

   「止まるな、そのまま走り続けていけ。俺は奴を食い止める」

両刃剣を背負った純白のローブの背はそう応える。

(*;゚ー゚) 「食い止めるって、貴方のステータスで大丈夫なの!?」

何度も言うように、アサシンのステータスでは三騎士に遥かに劣る。
もし相手のサーヴァントが三騎士であれば生還は絶望的だ。

   「良いから、俺を信じて背を向けろ。大丈夫だ。
    撤退するアサシンを追跡できるサーヴァントなどそうはいまい」

そんな不安要素を一切感じさせぬ、絶対的な自信を持った声で背は語る。

85 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:33:56 ID:nqepu3F.0

(*;゚ー゚) 「そ、それもそうね……危なくなったらすぐに逃げるのよ! 絶対よ!!」

      「分かっているさ、マスターは自分の身を心配していればよい。行け」

白衣のアサシンは落ちつき切っていた。
数多くの修羅場を超えてきた経験がそうさせるのだ。
暗殺者と言えども英霊である。状況の判断においては彼の方が一枚も二枚も上手だった。

言葉通り、自分の安全を優先することにしたシィは踵を返す。

     「一つ聞き忘れていた事があったな、マスター」

(*;゚ー゚) 「何!?」

     「俺は名乗った。だが、貴女の名は何と言うんだ、マスター?」

こんな時に、とシィは舌打ちをしたくなったが、
アサシンの声はどこか軽々しいものでも不快さは感じられず、
むしろ自身の緊張がほだされて表情が緩んでいった。

(*゚ー゚) 「シィよ、シィ・C・ルボンダール。それが、貴方のマスターの名前」

    「シィか。では、次に会うまでに覚えておこう。行くが良い。
     この場はアサシンのサーヴァント、ハサン・サッバーハが受け持った」

アサシンが言い切るよりも早く、木々の砕けていく音が鳴り響き、

    「――――――――――ッ!!」

雄叫びが近づいてきた。

86 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:35:33 ID:nqepu3F.0

本能的に、恐怖が命ずるままにシィは逃げ出していき、
アサシンは背中にかけていた鞘から大振りの両刃剣を引き抜く。
構えと激突はほぼ同時であった。

|/▼) 「くっ……」

フードに隠れた表情は想定以上の一撃の重みに歪んでいく。

以#。益゚以 「――――――――ッ!!」

彼に襲いかかったのは憤怒とも狂気ともつかぬ、
人と言う枠組みから外れた形相をしたサーヴァントだった。

美しいはずの装飾を禍々しき闇色で曇らせた鎧兜を纏い
髪を血の色に染めて逆立たせたその男からは、英霊という風格が感じられない。

|/▼) 「"バーサーカー"か……面白い!」

召喚時に狂化を施し、理性が無くなる代わりにステータスを底上げされるクラス。
アサシンは一合打ち合って感じた剛力と狂気から、バーサーカーのサーヴァントであると察した。
真紅の瞳が彼を射抜き、目の前の"物体"を破壊するべく狂った英霊は剣を振りかぶる。

その一刀もかつては名剣と呼ばれた逸品であったのだろうが、
現世に狂化されて現われたことで輝きは失われ、
魔剣とでも呼ぶべき凶刃となってアサシンを襲う。

87 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:36:37 ID:nqepu3F.0

膨れ上がった筋肉を持つ巨体から繰り出す一撃は、
頭をかち割るべく真上から振られていく。

力任せの一撃だ。

単純ではあるが速度と威力には優れ、アサシンは迷わず避けた。
刹那、アサシンがいたはずの地面が爆撃でもされたかのように膨れ上がり、
石と土が重々しい音を立てて宙へと爆ぜる。

飛び上がったアサシンは木の幹へ着地するが、

|/▼) 「ちぃ……完全に避けてこれか」

屈むと同時に右肩から下腹部へかけて亀裂が走り、血が噴出した。
バーサーカーの剣圧によってカマイタチが生じ、肉を断たれたのだ。
最初に防いだ一撃も全身の骨を軋ませており、彼は確実にダメージを蓄積していた。

以#。益゚以 「――――――――ッ!!」

だが、そんなこともお構いなしにバーサーカーは次の攻撃へと移り、
振った刃を返してアサシンの足場となる木を吹き飛ばす。

人間の力では決して折れぬであろう大樹は小枝のように呆気なく圧し折れ、
夜空に投げ出されたアサシンは超人的な身のこなしで体勢を立て直すと、
別の木に飛び移って敵を見直す。

以#。益゚以 「グゥゥゥウゥゥゥゥゥ……」

呻りをあげる狂気のサーヴァント。
そして暗殺者のサーヴァントの両者は一拍の間睨み合う。

88 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:38:31 ID:nqepu3F.0

|/▼) 「動く者は全て殺す、とでも言いたげだな。意思も残ってはいまい」

以#。益゚以 「――――――――――ッ!!」

先に動き出したのはバーサーカーだ。
見失った獲物を捉えて、彼が襲いかからない理由は無い。

アサシンはその短絡な行動に苦笑するが、
ステータスの差は埋めようがなく、劣勢に立たされていた。

バーサーカーは、アサシンに止めを刺すべく咆哮をあげて突進していく。

|/▼) 「単純で狩りやすい。が、今は足を止められれば充分。
    ついでだ、貴様の真名――――探らせて貰うぞ!!」

それでも、彼の余裕は崩れなかった。

真っ正面から突っ込んでくるバーサーカーへ短刀を投げかけると同時、
アサシンは跳躍して背後を取っていった。

金属のぶつかり合う閃光と、叩きつけられる暴力の爆音が夜の円山で炸裂し、
聖杯戦争の初戦を飾るアサシンとバーサーカーの戦闘は白熱していく。

89 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:39:32 ID:nqepu3F.0

******

川 -) 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公―――」

闇の中で言葉が響く。

川 -) 「降り立つ風には壁を。
     四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

暗闇に満たされた室内の中央には魔方陣が刻まれ、
黒のドレスで着飾った長髪の女性は、令呪の宿る左手を前へとかざし、
言葉―――呪文を口ずさみ続けている。

川 -) 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)
     繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

呪文に触発されるように蟲の血で形成された魔方陣は輝きを放っていき、
部屋を赤く照らしてどこからともなく疾風が舞い込む。

その様を、ローブで身を包んだ男女が見守っていた。
ある者は興奮気味に、ある者は興味深く、ある者は願うように。

川 -) 「――――告げる」

彼らに"化物"と呼ばれる女性は体内を異物が巡っていく感覚を得る。
苦痛ではあるが、魔術を行使する上でそれは避けられないものだ。
逆に、その感覚がどれだけ魔力を練り上げられているか測る指標にもなる。

90 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:40:36 ID:nqepu3F.0

赤々と輝く魔方陣は不可思議な力を発していき、
陣内を稲光が走っていった。

聖杯が数十年もの年月をかけて蓄積してきた大魔力が注がれ、
この世と"あの世"を隔てる壁を打ち破り、かつての功績や伝説から集めた信仰により、
人間霊から精霊の粋にまで昇華された英霊を"英霊の座"より呼びだそうとしているのだ。

川 -) 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
     聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

聖杯の強大なサポートを得ながら化物は英霊を現界させるべく、
己の体内から練り上げた魔力を魔方陣へ与え続けていく。

色香を漂わせる口から紡がれる呪文に応え、
英霊召喚の予兆はより一層激しくなり、風は暴風へ変化し、
稲光も強烈さを増して莫大な熱を撒き散らす。

川 -) 「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、
     我は常世総ての悪を敷く者」

この場を包むのはもはや闇では無く、青と赤の閃光だ。
測り知れぬエネルギーが部屋を満たしていき、それは最高潮へと達する。

91 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:41:36 ID:nqepu3F.0

川 -) 「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
     汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―――」

そして召喚されるサーヴァントの理性を奪うかわりにステータスを上げる、
"狂化"の一文を付け加えると、

川 -) 「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」

川 -) 「天秤の守り手よ―――」

これまで込められ続けてきた魔力が堰を切った濁流の如く流れて行き、
その奔流がひときわ鮮烈な光を放つと人影が現われた。

あまりにも刺激の強すぎる閃光に多くの者は目を覆ったが、

川 -) 「……」

マスターである、この美しき化物だけは真っ直ぐに人影を見据えた。

以#。益゚以 「……」

光が散っていき、その姿が露わとなると、
ローブの男女は息を飲み、次いで歓喜した。

   「成功だ! 流石は"吸血鬼"と言ったところか。
    これで我が一族の大望をやっと果たせる」

92 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:42:33 ID:nqepu3F.0

川 -) 「……」

   「すっげぇ! これがサーヴァントかよぉ!!
    さっそく暴れさせようぜ! こいつならやれるよ!!」

以#。益゚以 「……」

しかし、彼らとは対照的にサーヴァントとそのマスターは、
不気味なまでに沈黙していた。

   「まぁ、待たんか。まずは情報の収集じゃ。
    ただ暴れさせるだけでは勝てるものも勝てん」

互いを見やる二人をよそにローブの男女は作戦を立てていくが、

   「そうね、じゃあ"クー"。バー―――」

川 ∀) 「……」

"クー"という化物の笑みが全てを壊した。

    「――――――――ッ!」

ローブの男の胴から上が、突如として振るわれた片刃剣に消し飛ばされたのだ。
彼らは息を飲み込み、剣の持ち主であるバーサーカーは、
闇と狂気に染まった黒刃を再び振りかざしていき、

    「―――――――――」

断末魔を上げる間も無くまた一人がその餌食となった。

93 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:43:27 ID:nqepu3F.0

    「どういうことだ!? 早く化物を鎮めろ!!」

生き残った二人の男女の内、まだ若い男がそう叫ぶと、
呆気にとられていた女は慌てて"化物"へと魔術を行使する。

    「嘘……暴走!? 催眠が効いていないっていうの!?
     そんな、意思なんて欠片くらいしか――――」

しかし、女の言葉は途中で途切れてしまう。
男が、バーサーカーに殴り飛ばされて壁に激突すると、
全身の骨を肉ごと粉砕されてしまったのだ。

息を飲み、潰れたトマトみたいになった男を看取った彼女は、

川 ∀) 「……」

振り返ると、口の端を釣り上げて禍々しい笑みを作ったクーに目を奪われた。
彼女がローブの女へと飛びかかったのだ。
押し倒され、馬乗りになったクーへ女は手をかざし、生き延びる為に魔術を行使した。

   「ひぃ……っ!」

これまでにない程の集中力だった。
まるですがるかのようにクーにかかった催眠を強めるが、
常人であれば廃人になりかねない強制力もクーには何の変化ももたらさない。

94 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:44:16 ID:nqepu3F.0

川 ∀) 「シネ……シネェ!!」

無駄だというのに魔術を使い続ける女の首を、クーは両手で締めあげた。
嗚咽を漏らし、口から唾液をしたたらせて悶える女を心底面白そうに見つめるクー。

舌舐めずりをしてから、クーは女の首筋に大口を開けて食らいついた。

   「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

肺が張り裂けんばかりの悲鳴を女が上げるが、
首に穴があいてしまった為にやがてそれはただの酸素となって漏れ出し、
息の根と共に止まっていった。

租借の度に女体が震え、淫猥な響きをもって血肉を散らしていく。
今のクーの胸にあるものは喜びだ。
空腹が満たされる食欲から与えられる幸福感を味わっていた。

人のそれと変わりない食欲を、クーは女の命を貪ることで満たす。

川 ゚∀゚) 「アッハッハッハッハッハ! マズイィ! マズイナァ!!」

骨の髄から血の一滴に至るまで貪り尽くしたクーは、
残った死体に唾を吐き捨てるとバーサーカーを一瞥した。

以#。益゚以 「……」

95 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:45:10 ID:nqepu3F.0

川 ゚ -゚) 「オマエモハラガヘッテイルダロウ、バーサーカー?」

声帯が人間の構造と違うのか、壊れているのか、
それとも精神の狂いのせいなのか、クーの声はどこか歪だ。

以#。益゚以 「……」

バーサーカーは沈黙を守っていた。
彼には狂化が施されている為、理性は残っていない。
マスター以外の存在を全て粉砕するだけの暴力の塊。

それが、今回の聖杯戦争で召喚されたバーサーカーというサーヴァントだった。

川 ゚ -゚) 「イクゾ、バーサーカー。ショクジヲシニイコウ」

以#。益゚以 「――――――――――――――ッ!!」

クーの言葉を命令と受け取ったのか、
バーサーカーは雄叫びを上げると剣を一度振るい、
天井をぶち破ってこの場を包む闇を晴らしていった。

天井に出来た穴からは夜空が覗けた。

そこから差し込む美しい月光がスポットライトのようにクーを照らしていき、
木々に覆われた景色を魅せていく。

どうやら、ここは山中に作られた地下施設のようであった。

96 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:45:58 ID:nqepu3F.0

跪いたバーサーカーはクーを肩に乗せると再び咆哮し、
外へと向かって飛び出していく。

川 ゚ -゚) 「ツギハオイシイモノヲタベヨウ。キットタノシイゾ、バーサーカー」

狂化のステータス向上の恩恵を受け、膨れ上がった筋肉に覆われた巨体を、
闇に染めたサーヴァントへとそう語りかけるクーに、

以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」

応えるかのようにバーサーカーは獣じみた雄叫びを上げた。
そして彼は、空中から何者かを発見するともう一度叫ぶ。

|/▼)

応答ではなく、己の敵を発見した歓喜の咆哮を上げるバーサーカーは、
地に着地してクーを肩から降ろすと、その者へと向けて一目散に駆けだしていった。

川 ゚∀゚) 「ヌケガケナンテズルイゾ、バーサーカー」

その背を狂った笑みを浮かべて見送るクーは、ゆっくりと同じ方向へと歩き出す。

97 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:46:42 ID:nqepu3F.0

******

木々を震わす獰猛な叫びと連続して響き渡る破壊の音。
サーヴァントを召喚して間もなく、穏田ドクオ達は異変を感じていた。

('A`) 「こいつは……」

目,`゚Д゚目 「敵のサーヴァントに違いあるまい」

山道の外れにある広いスペース。
雪の敷き積もったその中心には土が露わとなった円形の部分があり、
そここそがドクオのサーヴァント"ランサー"が召喚された場である。

不自然に雪が融け上がって出来たクレーターに立つランサーは、
漆黒に塗られた当世具足と呼ばれる軽装の鎧を装備し、
肩には黄金で出来た数珠をぶら下げており、武者然としていた。

鹿の角を模した装飾のある兜をかぶった顔は、
敵の存在にさして脅威を感じていないのか威風堂々である。

同じくらいの目線に立つドクオを威厳に満ちた瞳で見据えたランサーは、

目,`゚Д゚目 「我が主よ、下知を。我が槍にて敵の首級を上げてみせようぞ」

そう指示を乞う。
冷静な声とは裏腹に、胸中では早速現われた敵との戦に燃えている様子だ。

98 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:49:40 ID:nqepu3F.0

('A`) 「いや、霊体化していろ。ランサー」

しかし、ドクオはそれを制する。
ランサーは少々面食らったようで抗議した。

目,`゚Д゚目 「むう、何故で御座るか? 拙者の力量を信用出来ぬとでも?」

('A`) 「違う、お前の強さは分かっている。敵の情報を探りたいだけだ。
    相手がどんなサーヴァントか、どんなマスターかもわからないんだぞ?」

目,`゚Д゚目 「しかし、それは相手も同じことであろう。
       兵は神速を尊ぶという。先手を制すれば優位であることに変わりない」

('A`) 「孔子か? 敵を知り、己を知れば百戦危うからずとも言うぞ。
    先手を制しても、仕留め切れなきゃ意味がねぇ」

目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孔子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」

('∀`) 「フフ……まぁ、そんなとこかな? 」

目;`゚Д゚目 「なんと! いやこれは失礼致した!」

('A`) 「いや、いい。今回は情報収集に専念だ。
    可能であるならば敵の排除を行う」

99 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:52:31 ID:nqepu3F.0

目,`゚Д゚目 「承知! では霊体化し偵察へ……」

('A`) 「行かなくて良い。偵察ならこいつらでやる」

親指を背後へ向けてドクオが言うと、ランサーはそちらへ振り返る。
視線を向けた先には、

('、`*川
  _
( ゚∀゚)

(゚、゚トソン

( ^Д^)

( ´∀`)

( ><)
 _、_
( ,_ノ` )

7人の仲間―――PMCインビジブルワンの傭兵達が武装しており、
あらゆる場所で一定の偽装効果を持つ、デシタルカモフラージュを施した迷彩服を着こんでいた。
手にはそれぞれ短機関銃や対物狙撃銃が構えられ、戦闘の準備は万端である。

100 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:53:48 ID:nqepu3F.0

目,`゚Д゚目 「これが貴殿の臣下で御座るか?」

('A`) 「まぁ、そんなとこか……」

('、`*川 「違うでしょ、ボス。私達は同志でしょうが」

( ´∀`) 「いや、ドクオの会社の社員である手前、
        そう言っても変わりないんじゃないかモナ?」
  _
( ゚∀゚) 「ボスがトノサマ? チョンマゲ似合わねーんじゃね?」

(゚ー゚トソン 「ぷっ、言えてますね、それ」
 _、_
( ,_ノ` ) 「お前ら、軽口叩くな。ボス、今使い魔に敵を追跡させている。
      アンタがサーヴァントと話している間に放っておいた。映像を見てくれ」

渋澤が談笑し始めた彼らを制すと、ドクオに小型のノートパソコンを渡した。
画面には使い魔に取りつけたCCDカメラから送られる映像が流れていて、
複数のブラウザが立ち上がっていることから、駆り出された使い魔が一匹だけではないことがわかる。

('A`) 「おっ、気が効くな。仕事が早い」

('、`*川 「こっちでの潜伏生活が始まってから、非常時に備えてすぐ偵察出来るように、
      色んなところに仕掛けておいたのよーボスー」

('A`) 「お前達にも魔術を教えておいて良かったな、助かる」

言いながらも画面に目を走らせたドクオは、白いローブのサーヴァントと、
黒く禍々しい鎧を着こんだサーヴァントとの戦闘を眺めていく。
場所は、恐らくはこちらとは反対側の森の中だ。


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