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DQBR一時投下スレ
501
:
開幕5/5 修正
◆2UPLrrGWK6
:2015/11/01(日) 17:56:36 ID:/qeU8mJw0
告げたのは、過ち。
まるで糸を紡ぐときに重ねる順番を間違えるかのように。
街で出会った人間の、名を忘れてしまったかのように。
命を、些末な扱いで扱い、挙句に消し去ったのだ。
↓下記が正しい文章です、訂正致します。
告げたのは、過ち。
まるで糸を紡ぐときに重ねる順番を間違えるかのように。
街で出会った人間の、名を呼び間違えてしまったかのように。
そんな小さな間違いとやらで命を些末に扱い、挙句に消し去ったのだ。
502
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:13:34 ID:mOgFp4Lc0
◇
■■■■■残された時間は3時間。
緊張感からか、彼はあまり食べれなかった朝食を吐き出して、さらに嘔吐の不足分を補うかのように胃液までたっぷりと吐いている。
未消化の人参、ぐずぐずになったゆで卵、胃液でドロドロのパン。
吐き出されたそれらは彼の栄養になること無く、食べ物としては限りなく不名誉なことに、ただ景観を汚すだけの物体となっている。
武者震いではなく、純粋な怯えから身体はブルブルと震えていて、それでも剣を鞘から思いっきり引き抜くと、不思議と震えが止まっていた。
戦場に立つ前はどうしようもなく臆病者で、それでもいざ戦場に立ってしまえば、彼はどうしようもないほどに勇者だった。
ある意味、楽だった。
魔物と戦っている時に臆病でいる余裕はない、目の前の敵を殺すこと以外に何かを考えている余裕はない。
自分の命の価値だとか、故郷にいる家族のことだとか、仲間のことだとか、何もかもがどうでも良くなる。
目の前の敵を殺しさえすれば、自分の命は確実に助かるし、自分が敵を殺すまでに殺されていなければ仲間の命は無事だし、
生きていれば、いつの日か故郷に帰って家族に顔を見せることが出来る。
つまりは目の前の敵を殺せば、何もかもオーケー、シンプルな世界だ。
戦うのは怖いが、戦っている間は恐怖を忘れられる。
そうやって、魔物の屍を築いてきた。
これが人間同士の戦争だったのならば、相手が人間だったのならば、自分はもう少し悩んでいたのだろうか――魔物を殺しながら、時折彼は考える。
カンダタの時は、そこそこ手心を加えていた――と思う。
もしかしたら、本気で殺そうとしたけれど過去の自分は弱すぎて、ただ単純に殺せなかっただけかもしれない。たまに思う。
答えは出ない。
幸いなことに人間と殺し合う機会は無かったので、これからも出ないのだろう。
大魔王を殺しても――いや、むしろ大魔王という枷が無くなったからこそ、好き勝手に人間を襲う魔物は存在する。
彼らのおかげで人間同士の戦争は起こりそうに無かったし、駆除に勤しむ勇者一行を害そうとは誰も思わない。
勇者という強大な力を恐れても、勇者がいなくなればどうなるかが分かる程度には人間は賢い。
だから、今日も余計なことを考えずに勇者はのほほんと魔物を殺す。
朝飯が全て吐瀉物に変換されても、戦うまでの時間が恐ろしくてたまらなくても、
勇者以外にやることはなかったし、やりたいこともなかった。
時折、彼は考える。
もしも仲間が全員いなくなったら、誰が自分の名前を覚えているのだろう。
勇者様――以外に呼ばれる名前が無くなったら、自分はいつまでも自分の名前を覚えていられないに違いない。
きっと、自分は生まれた時から勇者で、死ぬ時も自分は最初から最後まで勇者だったと思い込むに違いない。
なにせ臆病な自分は皆には必要ないのだ。必要なのは勇気ある者だ。
つまりは勇気を持って魔物を虐殺してくれる駆除屋さんだ。
きっと、自分はそのうち、ロトというありがたい称号で歴史に語られるに違いない。
自分が死んだ後も、人間がそこそこに生きていればだけれど。
503
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:13:54 ID:mOgFp4Lc0
自分という存在が、そのうちに役割に完全に消されてしまうことに彼は特に悲観も絶望もしていない。
ただ、そういうものであると思っている。
そんなことよりも、魔物との戦いに確実に生き残ることのほうが大切なのだ。
「さーて、今日も勇者でもやるか」
勇者は一人、街を出る。
仲間たちはそれぞれ別の場所で戦っている。
残存勢力程度ならば、それぞれ一人で十分だ。
たまに会って酒を飲む。
勇者様以外の呼び名で呼ばれる。
自分の名前を初めて聞いたかのような新鮮な気分で受け取る。
故郷に帰る方法もたまに皆で探す。
何も見つからなくても、住めば都だよな、と言って笑う。
いかにも大丈夫という振りをする自分を嗤う。
もう戦いたくないし、勇者と呼ばれるのも嫌だし、故郷に帰りたいし、ひとりぼっちも嫌だ。
なんてことを考えないで、自分が大丈夫であることを信じ続ければそれが真実になると、
そうやって自分に嘘をついて、なんとなく生きていく。
魔王も、大魔王もいないのに勇者をやる自分は滑稽だけれど、
勇者をやって気を紛らわせる。
色々と狂っている気がする。
まぁ、人生ってそういうもんだよな。
な。
な。
な。
なぁ!!そうと言えよ!!!
504
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:14:10 ID:mOgFp4Lc0
◇
■の■■に残された時間は2時間。
「おはようございます、勇者様」
「やあ勇者様」
「おはよ勇者様」
「おはようございます」
何時も通りに彼は町人と挨拶を交わす。
彼は特に町人達のことを嫌ってはいない、だが、別に彼らのことが好きで大魔王を倒したわけではない、成り行きだ。
知らないところで彼らが魔物に惨殺されても特に何も思わないだろう。
もちろん、目の届く範囲で殺されれば気分が悪い、ぐらいの善性はあるが。
「今日も狩りですか」
「ええ、それが勇者の……」
勇者の――何なのだろうか、本当のところはこの行為に勇者は関係ないのではないのだろうか。
そう思っても、世間体があるので彼はなんとなく答える。
「やっぱり勇者様は偉いねぇ」
彼の答えに納得した町人がうんうんと頷く。
町人と別れた後、すぐに忘れてしまうようなどうでもいい答えだった。
「じゃあ気をつけて、勇者様」
「ええ」
町人に軽く会釈をして、彼は街の出入り口へと向かう。
「ゆうしゃさまーがんばえー」
「がんばれがんばれ」
「頑張るよー」
出入り口まで追いかけてきた子供が彼に言葉をかける。軽く受け流す。
子供は可愛い。けれど、やはり知らないところで殺されていても特に何も思わないだろうと、彼は思う。
仲間とか、家族とかは大切なのに、何故彼らを大切に思うことが出来ないのだろう。
たまに彼はそう考えることがある、だがどうせ答えが出ないので、戦いに赴いて考えることをやめてしまう。
街を出て、暫く歩く。
人の目が届かなくなる。
念のため誰も居ないことを確認する。
そして、彼は大きなため息を吐く。
膝が笑っていることに気づく。
戦いは恐ろしい。
けれど、普通に生きていくことも中々にしんどい。
「戦っている方がマシだよなぁ」
なんともなしに彼は呟く。
その声を聴くものは誰もいない。
505
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:14:26 ID:mOgFp4Lc0
◇
この■■に残された時間は1時間。
悲鳴。怒号。破壊音。
骨の砕ける音。
肉の焼ける臭い。
臓物の焼ける臭い。
血の臭い。
魔物の臭い。
咀嚼音。
くちゃ。くちゃ。くちゃ。くちゃ。
闇。
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
506
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:14:45 ID:mOgFp4Lc0
◇
この■界に残された時間は20分。
「何が起こっているんだ……?」
夜の訪れというには、あまりにも早すぎた。
太陽の光も、青い青い空も、何もかもが突如として現れた闇に呑まれてしまった。
取り戻したはずの光あふれる世界が、再び闇に蝕まれていく。
何もかもが大魔王を倒す前に逆戻りしたかのように、世界には終末の風景が広がっている。
振り返り、彼は街の方向を見る。
闇の中にあって、その街ははっきりと鮮やかな色彩を以て見えていた。
勇者が守ってきた街は色鮮やかな炎に彩られて、燃えていた。
何故、気づかなかったのか。
などと考えるよりも先に、彼の身体は動いていた。
逃げ出したいという気持ちを懸命に抑えこんで、
どうでもいいという気持ちを懸命に抑えこんで、
自分が守ってきた町人の顔を必死で思い出し、
ほとんど靄がかかっている彼らの顔を必死で思い出し、
全速力で街まで駆け抜けた。
507
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:14:57 ID:mOgFp4Lc0
◇
この世界に残された時間は10秒。
何もかもが手遅れで、街は既に魔物に蹂躙されつくしていて、生存者は誰ひとりとしていなかった。
建造物は何もかもが破壊され、民家も教会も商店も皆平等に瓦礫の山だった。
時折瓦礫の下から、救いを求めるように手が伸びていた。
大人のものも、子供のものもあった。
焼け焦げているものもあれば、不自然なほどに小綺麗なものもあった。
返事のないただの屍を魔物が貪っていた。
人間からはみ出た臓物を仲良く二匹の魔物で吸い上げている光景に出会った。
胴体で空腹が満たされたのか、魔物が頭部で遊んでいる光景に出会った。
今更になって駆けつけてきた勇者に対し、魔物が嘲笑を浴びせた。
彼は魔物を蹂躙した。
今一体何が起こっているのか、どこから魔物が入りこんだのか、
最後に残った魔物を彼が何度も何度も蹴りあげると、魔物は弱々しげに街の一角を指差した。
指差す方向を見れば、魔力が青く渦を巻いてそこに存在していた。
旅の扉――空間と空間を繋ぎ、長距離の移動を可能にする超次元の門である。
攻撃を止めた彼に対して薄っすらと頬を釣り上げた魔物は、背後から攻撃を加えようとして――彼に殺された。
最後の魔物なぞ視界に入れること無く、彼は睨みつけるようにして旅の扉を見た。
当然、この街にこのような旅の扉は存在していなかった。
どう考えても、魔物達が進軍のために用意したものだろう。
新しい魔物の軍勢――それも、旅の扉を用意できるような。
魔王を討伐し、その背後で糸を引いていた大魔王を討伐したと思えば、また新たなる敵だ。
何もかもキリが無いのだろうか、大魔王が最期に言ったように再び闇の中から敵が現れ続ける宿命なのだろうか。
最も、勇者が老いて生きてはいないという予言は外れることとなったが。
旅の扉を前に、不思議と足が竦むということはなかった。
旅の扉を利用すれば、逆に敵の軍勢に攻め込んでいける、そのようなシンプルな考えしかなく、
そして、臆病な精神も肉体も、その考えに逆らうことはなかった。
仲間を巻き込むこと無く、一人で行くことが大事だった。
一人で戦うことは恐ろしいが、それ以上に仲間を失うことは恐ろしかった。
慢心もあった、大魔王を倒した当時よりも強くなっている――だから、一人でも大丈夫であると思っていた。
この先に罠があろうとも粉砕出来ると思っていた。
旅の扉に足を踏み入れる。
水の重さが無く泳いでいるような、高所から落ちているのに自由に動けるような、そんな奇妙な浮遊感に包まれて、彼は世界を移動する。
それと同時に、世界を包む闇が濃度を増していく。
赤々と燃える炎すら見えない。
何も見えない。
完全なる闇に包まれて。
世界は。
眠る。
508
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:15:28 ID:mOgFp4Lc0
◇
世界が終わってから■■日あるいは■■時間あるいは■■年。
旅の扉を抜けると、再び闇だった。
自分の手足すらどこにあるか認識できない、完璧な闇だった。
彼は目を閉じる。
視覚が無意味になった以上、その他の感覚器官に頼るしか無い。
である以上、必要のない視界は閉じておくべきであろう。
そして、すぐに気づく。
装備していた剣、鎧、盾、兜、装飾品、何もかもが消えている。
目の見えない上に防具が無いのでは一撃一撃が致命傷と成り得る、魔力は封じられていないようだが苦戦は間違いないだろう。
耳を澄ます。
ざわつきがある。
だが会話の声は聞こえない。
他者は現状を認識していない――自分のような者なのだろうか、あるいは間抜けな魔物だろうか。
少なくとも声質は人間のように思える、だがそれだけでは判断しようがない。
「メラゾーマ」
突如、世界に光が取り戻された。
魔力による特大の火球が松明に火を灯したのだ。
薄ぼんやりではあるが、この暗黒の状況が理解できる。
まず、この場にいるのがほとんど人間であること、たまにモンスターが混じっていること。
それらが数十集まっていること。
ぼんやりとした灯りなので顔を見ることは出来なかったが、ほとんどが鍛えられた肉体をしていた。
そして燃えている松明というのは――人間であること。
誰かが悲鳴を上げる。
絹を裂くような女性の声。
「メラゾーマ」
だが、悲鳴はすぐに静まり返った。
松明が一つ増えるという最悪の形で。
魔力の炎に照らされて、呪文の主が暗闇の中に浮かび上がる。
二足歩行の様子を見れば人間と勘違いする者もいるかもしれない、
しかし、その頭頂部から足先にかけて、その様は怪物であった。
法衣を着た河馬――その姿を見て、それをイメージする者もいるだろう。
509
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:15:48 ID:mOgFp4Lc0
「くだらない悲鳴を上げたい者は他におるか?」
そして、勇者である彼にとっては見知った相手であった。
なにせ、この手で二度も地獄に送ってやった相手であるのだ。
魔王バラモス。かつて、勇者の出身世界を支配していた魔王である。
この魔王バラモスが復活しているとなれば、彼にはこの時点でこの件の黒幕が見えていた。
「よろしい、その賢しさがあれば、これから先もしぶとく生き残ることが出来るじゃろう」
そう言うと、バラモスは天に向けて掌から魔力を放った。
「では、二つのことについて説明しておこう」
魔力に反応し、天井が紫の光を帯びて、輝き始めた。
するとなんということだろうか、勇者の故郷であるアリアハンや上の世界、下の世界の様々な場所、そして勇者の知らない街が、大陸が、映しだされていた。
全ての場所に共通して言えることは、一見して全てが夜のように見えることであった。
だが、勇者は知っている闇に閉ざされた世界を。
それらはみな、闇に閉ざされた世界であった。
「まず第一に……我らが大魔王ゾーマ様によって、そなたらの世界の支配は完了した。と言っても、証拠が欲しいじゃろう?」
バラモスが合図を行うと同時に、天井に映る街の一部が魔物の軍勢によって蹂躙され、廃墟と化す様子が映された。
その中には勇者が先程まで暮らしていた街もあった。
「……録画技術と言うらしいが、まぁ、それ自体はどうでもいい、本題はここからじゃ。お主たちには殺し合いをしてもらう」
ざわめきが起こらんとするタイミングを見計らって、バラモスは再び松明を増やした。
それで静寂は取り戻される。
「ゾーマ様の配下である、このわし、ボストロール、やまたのおろちを除いて一人になるまで殺し合いを行い、最後の一人になった者には……世界をやろう」
世界をやる――その言葉にこの場に集められた者の中に動揺が走る。
「そなたらの生まれた世界でも、他の世界でも、好きな世界を一つくれてやる。
もちろん、魔物の指揮権もくれてやろう……支配者として振る舞うもよし、魔物の影響が及ばぬように……」
笑いをこらえきれなくなったバラモスがくつくつと笑った。
地獄の底から響いてくるような気味の悪い笑い声だった。
「勇者として世界を救うも良し、じゃ……勇者として、な」
悪趣味な趣向であった。
大魔王にお膳立てされた勇者など、喜劇にしか、なりはしないだろう。
だが実際に繰り広げられているのは残酷劇であるのだ。
「……では、殺し合いについて、重要な事を説明しておこう。
そなたらには皆、ゾーマ様によって呪いがかけられておる。
気づいた者もおろうが……この場でお主達は首以外は動かせないように麻痺させておる。
なにせ、開幕の儀を邪魔されるわけにはいかんからなあ」
つまりは、悲鳴を上げた者達はそもそも用意された犠牲羊であったのだろうか。
殺されるためだけに用意された、生け贄の羊であったと。
「もちろん、麻痺以上の事も出来る……なに、百聞は一見にしかずともいう」
そう言うや否や、天井に映しだされていた光景が変化する。
男だ――神官風の男が映っている。
510
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:15:59 ID:mOgFp4Lc0
「ようく見てやるが良い」
神官風の男は何かしらを叫んでいる、だが天井から声が聞こえることはない。
神官風の男が一瞬で凍りつく。
数万ピースのジグソーパズルの様に神官だった氷の彫刻が一瞬で砕け散る、二度と組み上がることのないパズルだ。
「と、このように……ゾーマ様が定める法に反した際、一瞬にして死を迎えることとなる。ようく理解したじゃろう?」
愉悦の笑みを浮かべて、バラモスが参加者の顔を見回す。
「では、そなたらを殺し合いの会場に送り出すこととしよう。
安心するが良い、ここで殺し合えなどとは言わん……もっと広い会場を用意しておる。
それと、会場についたらまずは足元を調べることじゃ。
殺し合いの役に立つ道具とこの殺し合いでの法が書かれた冊子を入れた袋があるからのう」
バラモスの両手から魔力が溢れだす、司会から、参加者、さらには参加者の運搬まで担当するというのだから恐れ入る。
「バシルーラ」
この世界に残された時間は■■時間
【ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII GAME START】
【ヘンリー王子を拉致した賊の一人 死亡】
【マイラの村のぱふぱふ嬢 死亡】
【クリフト 死亡】
【残り79名】
511
:
絶望系
◆fEE0wGm7Cc
:2015/11/02(月) 05:16:27 ID:mOgFp4Lc0
以上、投下終了します
512
:
欲望の最果て
◆pXJf5APJnM
:2015/11/02(月) 10:25:53 ID:2KQdCjVo0
「お目覚めかな?」
ある日、目覚まし代わりに聞こえたのは、その老人の一言だった。
飛び起きてみればそこはベッドの上では無く、真っ赤な絨毯の上であった。
辺りを見渡してみると、自分のように飛び起きた人間や、まだ寝息をたてている魔物の様な姿を確認することが出来た。
数で言えば十は確実に超えているし、見知った顔も何人か確認できた。
そもそも、それだけの人数を集められる、この場所は一体どこなのか?
疑問を答えに変えるべく手がかりを探して、もう一度辺りを見渡したとき、真正面の玉座に腰掛けている老人に気がついた。
「あなたは……」
気品溢れる赤いマント、黄金に輝く王冠、そして真っ白なヒゲ。
その姿は、確かに見覚えのある姿だった。
「いかにも、ワシがメダル王じゃ」
呼びかけに反応したのか、老人は静かに名乗る。
そして、自慢のヒゲをいじりながら、メダル王はゆっくりと立ち上がり、自分たちに近づきながら、口を開いた。
「突然だが、君たちは人間の"欲望"についてどう思う?」
あまりにも唐突な質問に、誰も答えを出すことは出来ない。
重い沈黙が少し続いた後、ふむ、と声を漏らしてから、メダル王は一枚のメダルを取りだした。
「例えば……この何の変哲もない"小さなメダル"」
取り出したメダル、それこそまさに彼が集めていた"小さなメダル"であった。
どこの誰が持っていても、なんて事はない小さなメダル。
たった一人、それを集めている者を除けば、この上なく無価値に等しいものだった。
「これだけでは何の価値も生まないし、何の価値も生まれることはない。
だが、これを集めることで"ご褒美"がもらえるのだとしたら?」
ぴん、と親指でメダルを弾き、それを手中に収めながら、メダル王は呟く。
そう、彼だけはこのメダルに価値を見いだし、それを沢山集めて来た者に褒美を取らせていた。
その褒美の数々は、どれもそう簡単には手には入らない、貴重な物ばかりだった。
「でも、ワシは知ってしまったのじゃ。
何でもない地面を闇雲になって探したり、上がり込んだ民家で徹底的に家捜ししたり、来る日も来る日も逃げまどう魔物を狩ったり。
"ご褒美"を貰うという"欲望"の為に、生き物はそこまで醜くなれるということを」
冒険者達の"小さなメダル"を集める為の行為、それは彼が知り得なかった真実。
だが、彼はそれを知ってしまった。
自身も抱えていた、人間のこの上ない"欲望"の存在と共に。
「そして、ふと思ったじゃ。その"欲望"の行き着く先がどうなるか、見てみたいとな」
それに気づいたから、彼はそれを突き詰めたいと思った。
"メダル"よりも執着できる、集めてみたいと思えるものに出会ったから。
故に、彼は淡々と口走る。
「だから、君たちには今から――――"命"を集める、殺し合いをして貰いたい」
誰もが耳を疑うような、衝撃の一言を。
「集めた"命"の数に応じて褒美は与えよう、そして、最後の一人になった暁には……何でも願いを叶えてやろう、どうじゃ?」
しん、と場が静まり返る。
何を言われたのかが理解できない、というのが正しいか。
何度も何度も繰り返し頭の中で流すことで、それを理解しようとする。
513
:
欲望の最果て
◆pXJf5APJnM
:2015/11/02(月) 10:26:13 ID:2KQdCjVo0
「ふざけるなよ」
そんな中、真っ先に言葉の意味を理解した存在が口を開く。
それは、人の何倍もの体を持つ、巨大な一匹の龍だった。
黄緑の竜鱗をきらきらと輝かせながら、桃色の髭をたなびかせて、メダル王へと鋭い眼光を飛ばしていく。
「貴様のような矮小な人間が、この神竜を飼い慣らすなど、出来ると思うなァッ!!」
そして、威嚇と共に、巨大な爪を一気に振り下ろしていく。
歴戦の勇者でさえも、ただでは済まないであろう一撃が、無慈悲に叩き込まれる。
少なくとも、何の力も持たないたった一人の人間にどうにか出来る一撃ではない。
これから訪れる未来と、その光景は誰もが分かっていた。
けれど、現実は嘘をついた。
次の瞬間、地面に横たわっていたのは、巨大な龍の方だったのだ。
顔のすぐそば、人間で言う首の辺りを境に、真っ二つに分かれた姿で。
対するメダル王は、傷一つないまま、ただ、龍の血だけを浴びていた。
「さて、既に気づいておるとは思うが、君たちの命はこちらで握らせて貰った」
まるで、何もなかったかのようにメダル王は言葉を続けていく。
あれだけの威圧感を放っていた龍が一瞬にしてただの肉塊と化した現実を前にしては、歴戦の戦士といえど異常さを認めざるを得ない。
淡々と続く言葉を、ただ黙って聞くだけだった。
「今の竜の様になりたくなければ、ワシに刃向かうことはやめておくのじゃ。それと――――」
「何よ、こんなのッ」
話の途中、赤と黒のドレスを身にまとった一人の少女が叫ぶ。
その場にいる大半が、首に着けられていたモノ。
それに気づいた彼女は、それを引きちぎろうとする。
両腕でそれを掴んで勢いよく引っ張ることで、引きちぎる事には成功した。
一つの爆発音と共に吹き飛んでいった、頭という部位の代償と共に。
鮮やかな赤が、絨毯の赤に溶け込んでいく光景は、一人の命が失われたという事を伝えるには十分すぎる情報だった。
「無理に外そうとしてもダメだということを、今から喋ろうと思っておったのにな。
まあいい、説明する手間が省けた」
一人の少女が命果て行く光景を見ても、メダル王は眉の一つすら動かさない。
その姿は、もはや恐怖すら覚えるほどで。
今度こそ、誰も彼もが静止した空間の中で、彼だけが口を開き続ける。
「他にも三日経つまで最後の一人が決まらなかったり、後に伝えられる禁止エリアに踏み込んでもそれは爆発する。
細かいことは、あとで袋に入っている冊子を読んでくれるか」
メダル王がそこまで言い終わったとき、辺りを青白い光が包み込み始めた。
足下を見れば巨大な旅の扉が、その場にいる何もかもを飲み込み始めていた。
どこかへと消えゆく人々を見つめ、メダル王は両手を広げて笑う。
「さて、始めよう。ワシに、人間の欲望の行く末を見せてくれ!!」
最後に聞こえた、その叫びを耳に刻み込んで。
ここではないどこか、いや、そう言い表すのは正しくないか。
これから先に待つ、短くとも長い絶望の数日を過ごす舞台へ、彼らは飛ばされていった。
514
:
欲望の最果て
◆pXJf5APJnM
:2015/11/02(月) 10:26:52 ID:2KQdCjVo0
あれほどいた人間たちが、誰一人として消え失せてしまった室内。
そこにあるのは、巨大な龍の死体と、一人の少女の死体。
ふう、とため息を一つつき、メダル王が玉座に再び腰掛けたときだった。
「メダル王様、お伝えされたとおり、例の十人の隔離、及び起床を確認してから旅の扉での転送が完了しました」
音もなく暗闇から現れた存在が、メダル王へと報告をしていく。
それを聞いたメダル王は、特に驚く様子もなく、ただ、頷いて了承の姿勢を示していた。
「しかし、何故このようなことを?」
ふと、疑問に思ったことを告げる。
ぴくり、とそれに反応したメダル王が、再び玉座から立ち上がり、どこでもないどこかを見つめながら、小さく呟いていく。
「人間の欲望と醜悪さは、切っても切れぬ」
そこで、わざとらしく言葉を切って。
「で、あろう?」
そう言いながら笑うメダル王に釣られるように、もう一人も笑った。
これは、一つの"もし"の始まり。
【バトルロワイアル 開始】
【神龍@DQ3 死亡】
【セティア@DQS 死亡】
【残り80人】
主催:メダル王@歴代
進行役:????
※書き手枠の10人にはルールブックが配布されておらず、OPのやりとりを見せられていません。
また、名簿への明記もされていません。
※ジョーカーとして下記3名が追加されます(すべてDQ5)
○ミミック/○ツボック/○エスターク
※誰かを殺すと、とどめを刺した人間が小さなメダルを手に入れることが出来、空に掲げることでアイテムと交換が出来ます。目安としては2枚ではがねの剣くらい(要議論かも)
※上記に伴い、支給品が一人一つとなります
515
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:53:30 ID:RnGgooy20
「全く、貴様が人間共を殺してくれるならこちらももっと楽なものを。つくづく勿体無いな」
くつくつと笑いながら、ゆっくりと拳を握る。
虎の眼光に応えるようにその目を鋭くし。
地獄の殺し屋と地獄の闘士は、焦土と化した地面を踏み締めた。
「その力をここで葬らなければならないとは、本当に残念だ」
互いの体に、再び力が入る。
張り詰めた空気がシンと静まり返り、
僅かな風すらも感じ取れるほどに感覚が鋭くなり───
「いや、まずはそちらが先決かな?お嬢さん」
516
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:55:30 ID:RnGgooy20
時は少しだけ遡る。
ターニアという、青い髪の少女が目を覚ましたのは、岩石が転がる山の麓だった。
近くにあるものの中でも一際大きな岩の陰で、彼女は小さく震えていた。
(殺し合い、なんて)
ターニアという少女にとって、争い自体は別に始めての事では無かった。
忘れもしない、「もう一人の兄」と出会った日。
炎が燃え盛るライフコッドの情景は、今でも鮮明に思い出せる。
だが、あの時は味方がいた。
自分のすぐ横にいて、自分を守ってくれた、「兄」が。
兄は直ぐに駆けつけてくれて、襲って来た魔物から戻ってきてくれた。
その後現れたもう一人の兄と兄がどうなったか、結局分からなかった。
全て終わった後で一つだけわかったのは、これまで兄と慕っていた人間が消えてしまった事だけだった。
それでも、「もう一人の兄」も私を妹と呼んでくれた。
だから、彼女も彼を兄と呼ぶようになった。
兄妹の絆は消える事なく、だから少女は「兄」が居てくれれば大丈夫だと胸を張って言えただろう。
───だが、その兄は今ここにはいない。
「やだ、怖いよ……お兄ちゃん」
体の震えが、否応無く高まる。
とにかく動いて探さなければと、怯える心に鞭を打ち立ち上がった。
ふくろを覗いて地図を見ると、ここから北には城がある事が分かった。
───確か、お兄ちゃんは王族の人だったよね。
それを思い出す。
簡単に集合をしたいなら、兄がそこにいる可能性は十分にある。
一先ずはそこを目的地として歩き出そうとした───その時。
「きゃあっ!?」
進行方向の先に、突然凄まじい光が巻き起こった。
それが嘗て見た、兄の仲間の少女が操る爆発呪文のものだと気付き───彼女は、思わず駆け出した。
彼女が冷静ならば、その使い手が少女バーバラとは限らないとすぐに思いついた筈だ。
だが、殺し合いという非常識な場において、平凡な少女である事に変わりないターニアが冷静である事を求めるのは難しかっただろう。
だから、彼女は進行方向を変えずにそのまま山を駆け下りた。
だから───
517
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:56:41 ID:RnGgooy20
ヘルバトラーが、池の端へとその巨躯を躍らせた。
何があったかとキラーパンサーは視線を巡らせ───そこで、漸く気付く。
獣からは木の陰となり死角となっていた場所で、少女がへたり込んでいる事に。
ヘルバトラーの急襲に驚いたのか数歩下がった為にキラーパンサーにも見えるようになった少女は、そこで始めて弾かれたように走り出した。
そこへ襲い来るは闘士の拳撃───どうにか紙一重で直撃を免れたが、その衝撃に簡単に姿勢を崩してしまう。
「あ─────!!!」
声にならない悲鳴を上げるターニアへと、ヘルバトラーは容赦無く拳を振り上げる。
死を体現したようにすら見えるそれは、少女にはやけに大きく見えて。
(───お兄、ちゃん)
そこで、彼女の意識は闇へ沈んだ。
518
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:57:47 ID:RnGgooy20
「───見捨てるならば、それもまた良し。邪魔な子供一人、貴様を警戒しながらでも簡単に殺せたからな」
冷徹な声。
その聞き手はおらず、ただの独り言として池のほとりに響き渡る。
拳を振り切ったヘルバトラーが浮かべるのは、満足気な笑顔。
「だが、まあ───人間に懐いた魔物は、時に蛮勇を冒してまで他人を庇う事があると聞いたからな。
どうせならと仕掛けてみたが、見事に誘われてくれるとは僥倖だ」
殴り抜いた虎───少女を突き飛ばし、身代わりになる形で殴られた魔物が飛んで行った方向へと歩を進める。
気絶したと思しき虎に一応の警戒をしつつも歩み寄り、スレイプニールを振り上げた。
ここで重要なのが、最後の一瞬まで気は抜かない事だとヘルバトラーは知っていた。
例えば、気絶した振りをしたキラーパンサーが今にも目覚めるかもしれない。
例えば、支給品が意思を持った何かで、唐突に何かを始めるかも知れない。
「───とうっ」
そう───例えば。
唐突に現れた第三者が放つ、油断を狙った不意打ちがあるかもしれない。
丁度、今自分へと放たれた鋭い一撃のような。
だからこそ、ヘルバトラーは一切の気を抜いていなかった。
木に潜んでいたらしい少女の一閃を大剣で軽々と受け止め、そのまま弾き飛ばす。
宙を舞いつつも華麗に着地した少女は、その剣を構えつつヘルバトラーへと向き直った。
519
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:58:30 ID:RnGgooy20
「全く、悲鳴を聞いて寄ってくれば魔物が人を庇ってるたあね。
庇うってのは流石に珍しいと思うんだけど、そこんとこあんたはどう思うのよ」
「珍しいも何も、そこまで酔狂な真似をする魔物は一握りだと思うぞ?
そして、そんな一握りだからこそこの殺し合いに招かれた───無論、今の一撃を出来る貴様も一握りの内だがな」
「───どうだかね」
と、そこで。
苦々しげに呟いた少女に、その瞬間僅かな隙が出来た。
「そうで無ければ───何だと思うッ!?」
ここで注意を和らげたのなら、それは先攻を譲るという意思表明に他ならない。
猛烈な勢いで突進し、スレイプニールを横薙ぎに払う。
単なる一閃では無く、その巨体や大質量の大剣が巻き起こす風圧も加味した剛の一撃。
並の人間なら、その勢いに呑まれ簡単に身体が二つに分かたれるであろう。
だが、少女も只者では無い。
強襲とも言えるその一撃を完璧に受け流し、懐へと流れるように潜り込む。
「隼斬り、っと」
銀光が二つ走り、ヘルバトラーの肉体に十文字が刻まれる。
決して浅くは無い一撃、だがそう簡単に闘士も沈まない。
切り結んだ直後の一瞬の隙に、大きく足を踏み鳴らした。
その危険に気付いた少女が飛び退るも遅く、地中から飛び出す何本もの岩石の柱。
本来ならこのヘルバトラーには使えない筈の、大地の鼓動という大技だ。
エビルプリーストが彼を復活させる時、10の世界の内で存在する全てのヘルバトラーの力をその肉体に内包させた事で可能となったその攻撃は、少女を再び大きく天へと打ち上げた。
520
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:59:23 ID:RnGgooy20
すかさず飛び上がり、不気味な笑いと共に強烈な体当たりをお見舞いする。
だが、少女もさるもの。空中で身体を捻り、剣を上空へ投げて徒手となると同時に爆裂拳を放つ。
───四肢での強烈な連撃、その中で鋭く疾い脚の一撃がカウンターの形となって顔面へと突き刺さり、ヘルバトラーも思わず身を引いた。
そのまま双方が落下し、森に二つの鈍い音が響く。
当然、それは戦闘終了の合図にはなり得ない。
少女は落ちてくる剣を掴みつつ走り、闘士もまた再び大剣を構え。
「ガキと猫が寝てんだ、少しは静かに出来ねぇのかテメー等」
次の瞬間、相対する彼女達の前の地面が大きく隆起した。
今にも踏み込もうとしていた両者が共にたたらを踏み、同時に声の出所と思しき今出来たばかりの岩山の頂点を見上げる。
そこにいたのは、キラーパンサーとターニアを担ぎ上げた小さな緑の亜人。
ドワーフと呼ばれる種族の青年である彼の目つきは、しかしその種らしからぬ鋭さを宿していた。
尚も二人を見下ろしつつ、悠然と彼は口を開く。
「ったく、殺し合いたあよお。何だってんなもんに俺達が巻き込まれなきゃあならねぇんだっての。
面倒事は嫌いなんだよこの野郎」
如何にも鬱陶しいといった口調で語る男が徐に指を鳴らし、岩山がゆっくりと崩れていく。
男が巻き起こしたこれは、ジバルンバという呪文によるもの。一定時間の後に大地を爆ぜさせるというジバ系の呪文、その極地だ。
伝わる世界が少ない故にジバ系を知り得ない少女や闘士にも、呪文の強大さとそれを操るこの男の力の凄まじさは十二分に伝わった。
521
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/15(日) 23:59:59 ID:RnGgooy20
「………ええっと、誰?というか、何?魔物?」
尚も張り詰めた空気が残る中、先に口を開いたのは少女。
空気を読まないあっけらかんとした口調とは対象的に、青年が目付きと同様鋭い声を上げた。
「俺はジャンボ。魔物かってお前、見りゃわかんだろ。ドワーフだよドワーフ」
呆れた様な口振りで簡易に自己紹介を済ませ、徐にその右手の弓を構えた。
鋭く光る目がヘルバトラーを射抜き、その弓の弦が強く引かれる。
「で、テメーは少なくとも乗ってるんだよな?
あの洞窟の時や根源とやらが造ったコピーとも雰囲気が違う。おまけに最初のあそこにいなかったとなりゃあ、考え付くのは主催の手下って事なんだろうからな」
「ほう、随分とよく見ていたものだな」
「こちとら商売もやってるんでね。観察眼は養っとかねーとヘタ掴まされちまう」
会話をしつつも、三者の間の空気は張り詰めたままに変わりない。
状況を伺い合う中で、最初に動いたのはヘルバトラーだった。
522
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:00:24 ID:MipmIT2M0
「………ええっと、誰?というか、何?魔物?」
尚も張り詰めた空気が残る中、先に口を開いたのは少女。
空気を読まないあっけらかんとした口調とは対象的に、青年が目付きと同様鋭い声を上げた。
「俺はジャンボ。魔物かってお前、見りゃわかんだろ。ドワーフだよドワーフ」
呆れた様な口振りで簡易に自己紹介を済ませ、徐にその右手の弓を構えた。
鋭く光る目がヘルバトラーを射抜き、その弓の弦が強く引かれる。
「で、テメーは少なくとも乗ってるんだよな?
あの洞窟の時や根源とやらが造ったコピーとも雰囲気が違う。おまけに最初のあそこにいなかったとなりゃあ、考え付くのは主催の手下って事なんだろうからな」
「ほう、随分とよく見ていたものだな」
「こちとら商売もやってるんでね。観察眼は養っとかねーとヘタ掴まされちまう」
会話をしつつも、三者の間の空気は張り詰めたままに変わりない。
状況を伺い合う中で、最初に動いたのはヘルバトラーだった。
523
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:01:41 ID:MipmIT2M0
大地を先程のように大きく打ち鳴らし、隆起させる。
ジャンボは咄嗟に後方へと跳んだが、その隙を狙い翼を広げる。
「……ふん、流石にここから更に二対一はこちらも消耗が大きい。
ここは一つ、引かせてもらうとしよう」
「ほーお。それで逃すとでも?」
番えられていた矢が放たれ、猛然と空を駆けた。
それを躱しつつ、ヘルバトラーは走へと移ろうとする。
しかし、ジャンボと名乗ったドワーフの腕は確かなもので、時たま挟まれる四連の矢や雷の矢の前に中々それを許さない。
埒が開かんな、と独り言を漏らし、ヘルバトラーは素早く次の手を打つ。
撤退では無く回避を念頭においた動きへと切り替え、その代わりに声を張り上げる。
「しかし、ドワーフよ。
貴様はどうして殺し合いを破壊しようとする?」
「……んなもん決まってんだろーが。こんな趣味悪いゲーム、乗る方がどうかしてらあ」
「嘘を吐くなよ。悪いが、今の俺は人間を見る目が大分肥えていてな。
貴様はそういう人間ではない───尤も、分かるのはそこまでだがな。しかし、だからこそ気にかかる」
そう言いながら、彼は燃え盛る業火を吐き出す。
それを守りの霧で打ち消しながら、ジャンボは苦々しげに口を歪め。
「なら、簡単に言うぜ───ムカつくんだよ、テメーら。
こちとら平穏無事な生活を送りてぇだけだっつーのに、わざわざやれ世界征服だのやれ殺し合いだのとおっ始めやがって。
それでもまあ、俺だけが巻き込まれんならそれでもいいけどよ───」
そこでチラリとターニアを一瞥し、ジャンボはその目を更に鋭くし、射抜かんばかりに睨みつける。
「こいつみてーな無力な奴を平気で犠牲にする、そう言うのが一番ムカつくんだよ。
そうやって簡単に日常が踏み躙られる
そんでもって俺ぁ───借りはきっちり返すタチなんだ。金も、怒りもよ」
それで言葉は終わりと言わんばかりに、放たれるのは光を纏う鋭い矢の連射。
それも、先程の連射の二倍近くの矢が放たれた。
「ふ、ならばやってみろ。出来るものなら、な」
ヘルバトラーも最後にそれだけを呟き、最大級の業火を吐き出す。
何本かの矢がその炎に拮抗するも燃え尽き、炎を飛び越えた残りも流石に躱され。
更に、収まらぬ炎は彼等を焼き尽くさんと迫り来る。
瞬時にジャンボが守りの霧を撒き、全員を炎から守ったが───
「………逃げられやがったか」
ジャンボの舌打ち。
そうして池のほとりには、三人と一匹が取り残される事となった。
524
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:02:25 ID:MipmIT2M0
「………う、ん………?」
「お、目ぇ覚めたか。大丈夫か?」
意識が覚醒すると共に、耳に飛び込んでくる気怠げな声。
聞き覚えがないその声に、ターニアは目を開き───
「っ!な、なに…!?」
「………あー、成る程、気持ちは分かるが落ち着いてくれや。うん。俺も最初はビビったよ、まさかこんなカビ団子にされるたぁ………」
目の前にいた緑色のそれに、思わず後退りしてしまった。
心優しい魔物がいる、というのはターニアも知っている。確か一匹や二匹、もう一人の兄が連れていた記憶があったからだ。
しかし、魔物に襲われて気を失ってから漸く目覚めた矢先にまた魔物がいれば、どんな人間でも警戒しない訳がない。───尤も、目の前のそれは魔物ではないのだが。
「…………ーい、おいこらー。聞いてんのかー」
ふと気付くと、またもそれが自分へと話しかけていた。
思わず身体を強張らせ、近くにあったバッグを盾のように構える。
そんなターニアの反応に、それは何故だか様子がおかしく───心なしか、焦っているようにも感じられる───なっていた。
「少なくとも、お前に危害は与えねえからよ───頼むから落ち着いてくれや、なあ?」
ああくそ、これだから年下相手は───などとぶつぶつ呟くそれの姿は、ターニアは何故か不安が取り除かれるのを感じた。
何かに似ている───そう考えた時にはもう、反射的にその答えが出ていて。
「お兄、ちゃん?」
ふと口から溢れた言葉に、目の前のそれが大きく肩を震わせた───まるで、懐かしい言葉を聞いたかのように。
口から勝手に出てきた言葉に対してのそんな彼の反応が、ターニアにそれを思い出させた。
外見は全くと言って良いほど似てない、というかそもそも人間ですらない。
それに、こんなぶっきらぼうではないし、もっと丁寧に接してくれる。
けれど。
───ある日の夕暮れ。
二人で歩いたライフコッドの片隅で。
何の気なしに呟いた、一つの言葉。
『お兄、ちゃん』
『ッ!?バネッサ!?』
『ふえっ!?』
『………ああ、ターニアか。ごめんね、何でもないや』
「…ふふふ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」
「何だよ、何も出やしねえぞ」
何故だか、最初に出会ったあの「兄」とそっくりな気がして。
ターニアの心は、少しだけ安堵に包まれた。
525
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:03:11 ID:MipmIT2M0
「……………へ」
「へ?」
と、そこで。
後ろから変な声が聞こえたと思い振り返れば、そこにいたのは赤髪の少女。
暫く固まっていた少女は、やがてとんでもなく酷いものを見る目に変わり。
「変態だーーーーーっ!!」
などと、唐突に大声を上げた。
その大声に面食らっている二人に構わず、少女が真っ直ぐに向かうのはドワーフの青年。
「あんたねえ、見ず知らずの少女にお姉ちゃんって呼ばれるのがそんなに嬉しいの!?
まさか何!?妹萌え〜とか言っちゃうタイプの変態!?というか変態なのは確定でいいんだよねにやけてたもん!」
「いや、違、違うっての!にやけてたのは単純に昔いた自分の妹を思い出して…」
「実の妹に欲情してたの!?」
「畜生こいつ面倒臭えなオイ!」
喧々諤々としている二人を、ポカンと眺めるターニア。
と、背中から寄り添う温かい感覚。
振り返ると、そこにいたのはキラーパンサー。
思わず、ひっ、と声が出るが、敵意が無い───というか思いっきりリラックスして、挙句の果てにはゴロゴロと猫のように喉を鳴らしていては警戒する方が無茶というものだろう。
と、そこで暫く罵り合っていた二人がやっと落ち着きを取り戻した様で。
「………あー、なんだ。いい加減、今後の算段を決めていいか?」
その言葉で、漸く情報交換が行われる事になった。
526
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:04:03 ID:MipmIT2M0
「あー、つまりそいつら三人は一応信用出来る…と」
「うん、まー悪い奴じゃないたあ思うよ?特に、そう。この人。
で、そっちの…何だっけ、ゲレンデ?そっちについてはどーよ」
「ゲレゲレさんです。ええと、このゲマって人以外は大丈夫らしいですね。アベルって人とパパスって人は一番食いついてました」
そして。
ターニア、ジャンボ、そして少女───ポーラの情報交換の結果は、想像以上に芳しいものとなった。
というのも、キラーパンサーとの意思疎通が思いの外上手くいったという事がある。
どうやら随分と人間に慣れているらしく、言葉も殆ど分かっているような態度を見せ、挙句の果てには名簿を指差して知り合いらしき人物まで紹介してくれた。
因みにキラーパンサーの名前だが、彼に支給されていた絵本を発見したターニアがその登場人物の名前を試した結果、最も食いつきが良かったということでこれが採用された。
「んじゃまあ、そのゲマってのとエルキモスっての、姫様のニセモンに注意を払っときゃあいい訳か」
「うん、エルギオスさんね。可哀想だからちゃんと呼んであげよ?発想がサンディと同じだからね?」
ゲマ。
キラーパンサーがかなりの敵意を剥き出しにしており、詳細は不明だが危険と思われる男。
エルキモス、もといエルギオス。
ポーラ曰く、人間に絶望してやさぐれて世界をぶっ壊そうとした友人の上司の上司との事。全くもって意味が分からないが、とりあえず実力面ではとんでもなく危険という事だけは覚えておけ、らしい。
姫様のニセモン、もとい魔勇者アンルシア。
勇者になりたいが為に何でもやりかねない危険人物、勇者姫アンルシアと同じ顔だが胸で見分けられる。因みにこれを言った瞬間にジャンボは二人から殴られた。
その他もろもろ、仲間についてなどの確認が終わったところで、「よし」と手を叩きジャンボが立ち上がった。
527
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:05:03 ID:MipmIT2M0
「よし、んじゃあこれからどこに行くかだな。
個人的にはこっから北行って───」
「あ、あたしパス」
と、そこで。
彼の言葉を遮るポーラの一言に、空気が一瞬にして凍りついた。
「…理由を聞こうか」
「言いたくない」
即答。
やり取りだけ見ればふざけたものに写るかも知れないが、お互いの表情は真剣そのもの。
ターニアが固唾を呑んで見守る中、静寂が続き───
「……はぁ、ったく。俺が縛れる訳じゃねーし、しょうがねえか」
折れたのは、ジャンボの方だった。
この場でどう動くか───そんなもの、そもそも強いる事が出来る物ではない。
別れたいというのであれば、致し方無い事だろう。
「とまあ、そういう訳でお別れだ。死ぬんじゃねーぞ?
ターニア、ゲレゲレなら多分乗っても大丈夫だ。乗せてもらえ」
「うん、分かった。……ポーラさん、頑張って下さいね」
「うん。ま、そう簡単にはくたばらないって」
最後にそう言い残し、ポーラは東の山の方角へと歩いて行く。
それを見届け、ジャンボとターニアも改めて顔を見合わせた。
「よし、ターニア。俺は北の城に向かおうと思うが、お前はどうだ?」
「うん、私もそうしようと思ってたの。お兄ちゃんを探したいから」
「決定、だな。それじゃあ出発だ」
そうして一路北を目指し、一行はその歩みを進め始めた。
528
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:05:37 ID:MipmIT2M0
「………悪いね」
二人と一匹───いや、一人と二匹と呼ぶべきなのか───の姿が見えなくなったと確認し、ポーラは呟く。
その右手はしっかりと剣を握る一方で、反対に左手はその胸を掻き毟っていた。
激しくなる心臓の動悸にを抑えながら、譫言のように繰り返す。
「あの人達もいい人の筈、嘘吐きじゃない。あの人達もいい人の筈、嘘吐きじゃない。あの人達も……」
───ポーラという少女は、小さな頃から見えてはいけないものを見る事が出来た。
それは少女にとっては決して長所では無く、寧ろ非実在の恐怖が隣り合わせに有る事は常に彼女の心を蝕み続けた。
───例えば、真夜中の笑い声。
───例えば、夕暮れ時に映る影。
それらが何の変哲もない現実であっても、彼女には全て恐怖の対象に見えて。
そのせいで、周囲からも散々虐められた。
───例えば、あいつは幽霊の仲間だ、呪われるぞ、と罵られたり。
───例えば、幽霊の討伐だ、と散々に檜の棒で叩かれたり。
それは、怖がりで引っ込み思案な彼女が他人を信じられなくなるには十分過ぎた。
それを見兼ねた彼女の母親が勧めた武術においてその才能が開花し、虐められる事が無くなっても彼女はそれを治すことは出来なかった。
そうして孤独になってかなりの時が過ぎ、ただ己の体を鍛える事が楽しみとなっていた少女の前に。
妖精と会話し、己を天使と名乗る、その男が現れた。
529
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:06:25 ID:MipmIT2M0
自分以外に「見える」人と、始めて出会った喜び。
それが、初めて彼女に友を与えた。
旅をする為の仲間を探しているんだ、と言う彼に、自分が体を鍛えていた意味はここにあったのだと気付いた。
自分以外にも二人着いてきて最初は不安だったが、それも旅の内でわかり合う事が出来た。
もう少し明るくなった方が楽しくていい、と言われ、頑張って人と接せるようになったのはいつだったろうか。そう言えば、この喋り方はその時に手に入れたものでもあった。
スクルド達も大事な仲間だけれど───それでも、一番の友達は、一番の救いは、あの人だけ。
他人と接する事は、出来るようになった。
でも、彼以外の人を信じる事は、理性で分かっていても不可能だった。
「……早く会いたい、なーんて……乙女チックはあたしにゃ似合わないかな」
唯一信じられるあの人に、想いを馳せる。
願わくば、一刻も早く会えますように。
そして、それまで誰とも出会いませんように。
───こんな場所で、全く信じられない他の人間に、「手加減」出来るかどうか。
───自分でも、分からないのだから。
530
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:07:27 ID:MipmIT2M0
「ふん、中々やる奴らよ」
山を西へとひた走るヘルバトラー。
片手で袋から小さなビンを掴み、一雫だけ飲み込むと、先の戦闘で受けた傷がみるみる内に回復していく。
世界樹の雫。
圧倒的な治癒力をもつそれは、全て使わずともその傷を全回復させるだけの力を持っていた。
「ああいう手合いが多いというなら、やはりすぐに要所へ仕掛けるのはリスクが高そうだ」
そう呟きながら、反対の手で器用に地図を開く。
今彼が向かっているのは、東にある岩山を抜ける為の洞窟だ。
その理由は単純、手練が集まる為に大きく不利になり得ると言うのならばその前に闘えばいいだけの事という訳だ。
ただ一つの通り道であるあそこならば、城を目指す参加者は少なからず通る筈。
「………しかし、な」
先程の戦闘を思い出し、ふと呟く。
思い浮かぶのは、少女への攻撃というフェイントを仕掛けた事。
以前の───この記憶を持つ「自分」なら、人質など取らずに真っ向から勝負し勝利を収めんと戦った筈だ。
しっかりと実力に裏付けされた自信を持つ自分が、あのような卑怯と言える手を使った事。
531
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:08:33 ID:MipmIT2M0
「何処ぞの俺は、己よりも命令を優先していたという訳か」
その理由は、やはり他の世界の自分だろう。
自らの役目に疑問を感じていて───例えば、自分よりも強い対象の警護だとか───しかし敢えてそれに甘んじて任務を遂行する自分。
そんな別の世界のヘルバトラーが、真に忠誠を誓ってなどいないあのエビルプリーストの命令に従ったという事なら一応の辻褄は合う。
「やけにあのキラーパンサーの素性が脳裏に浮かぶと思ったが、或いはあれもそういう事か」
まるで最初から知っていたかのようにスラスラと出てきた、あの魔獣の本質。
それも或いは、自分が共に誰かに従属していた為なのかもしれない。
そんな愚にも付かない考えも浮かんだが、頭を振って余計な思考は払い除けた。
「───まあ、如何であろうと関係無い。
俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぞ、エビルプリースト」
ヘルバトラーは進む。
どんな自分でも、自分は自分だとそう言って。
全ては心のままに───やりたい事はどの自分も同じ。
地獄の闘士として、全てを壊すまで暴れるのみなのだから。
532
:
戦闘開始
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:09:18 ID:MipmIT2M0
【D-5/池のほとり/朝】
【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、道具1〜3
[思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく。
【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:休憩後はトロデーン城へ。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
【D-5/山岳地帯(東側)/朝】
【ポーラ(バトルマスター♀)@DQ9】
[状態]:HP3/4、足にダメージ(中)
[装備]:炎の剣@DQ6
[道具]:支給品一式、道具0〜2
[思考]:
基本方針:9主人公を探す。他人は信じたいが正直信じられない。
【D-5/山岳地帯(西側)/朝】
【ヘルバトラー@JOKER】
[状態]:HP3/5、腹に十字の傷(回復中)、右腕に傷
[装備]:スレイプニール@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜2個
[思考]:
基本方針:心のままに闘う。
1:西の洞窟へ出入りする参加者を狙う。
[備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
533
:
◆KV7BL7iLes
:2015/11/16(月) 00:11:16 ID:MipmIT2M0
投下終了します。
本スレに投下して下さった方、ありがとうございます。
534
:
彼の翼になれたなら
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 02:58:57 ID:A1gA7itY0
ギガデーモンは、興奮していた。
ゆっくりと大きく息を吸い込み、一瞬の間の後、心を落ち着かせるように吐き出す。木々が煽られて大きく揺れた。
次に、尾を思い切り大地に叩きつける。地響きが轟いた。
目の前の木を摘む。流石に雑草のよう、とまではいかぬも、く、と力を込めれば呆気なく抵抗は弱まり、地面の隆起と共に抜け取れた。
ギガデーモンは、興奮していた。
やはり、自身の身体に間違いない。ぐぐと握られた拳。はためく翼。堅固な鱗に、長く伸びた舌。また、牙の一本一本に至るまで、確かに自身の神経が伝っており、繊細な感覚も以前のままであった。
しかし、生前の彼と明らかに異なったものがひとつ。
端的に言い表すならば――――そのサイズ。
エビルプリーストの手によって蘇り、JOKERとしての任を与えられた際、彼は文字通り"JOKER"の力をその身に宿された。
元来、巨体とそこから繰り出される怪力を誇っていたギガデーモンではあるが、今のその姿は、それを最大限にまで高めた形と言えよう。
なにせ、巨大であった。
隣の小山と背丈を並べようかというほどに、彼は巨大に生まれ変わっていた。
「く……くくくっ……くわーっはっはっはっは!」
これが、笑わずにいられようものか。
エビルプリースト如きに侍従するのは癪ではあったが、中々粋なことをしてくれる。
「くくく……面白いではないか」
ギガデーモンは、戦うことを良く好んだ。しかし、それは所謂戦闘狂、バトルジャンキーとは一線を画するものであり、彼の中の「戦い」は、一般に使われる意味とは少し違った。
535
:
彼の翼になれたなら2/5
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 03:01:56 ID:A1gA7itY0
彼が快楽を覚える瞬間。それは強者を、或いは弱者を嬲り殺す瞬間であった。
平伏す姿を見下ろし、命乞いに頷き、その上で地に擦りつけられた頭を踏み、潰す。
また、屈強な戦士を力でねじ伏せ、信じられないといった様子で血を流す相手を存分に眺めた後、再度鎚を振るう。
相手の身体が間抜けな音を奏でる度に、相手の声帯が滑稽な悲鳴を歌う度に、極上の快楽が彼を支配した。
彼は言う。
――俺は「戦う」ことが好きなのではない。「勝つ」ことが好きなのだ――
その為ならば、エビルプリーストさえすることのなかった、罠の設置や不意打ちすらも、何ら躊躇もなくやってのけた。
現実として、それらはユーリル率いる導かれし者達に造作もなく看破され、易々と殺されてしまったのはギガデーモンのほうであったが。
だが、今の彼に姑息な手段は必要ない。
この身ひとつあれば、例え対峙する相手が勇者らであろうとも嬲り殺すことは容易い。そう思うほどに彼は自信に満ち溢れ、そう思わせるほどの力を自らに感じていた。そして、その通りの未来を想像して、くつくつと喉を鳴らす。
「さて、仕事をせねばなるまいな」
ここは殺し合いの舞台。JOKERとしての役割は果たさねばならぬだろう。やはり癪ではあるが、まあ、利害の一致、というやつだ。
ふくろを覗けば、なるほどやはり気が利くらしい、上等な品々が支給されていた。
しかし、彼はふくろごとそれらを打ち捨てた。
そして辺りを見渡し、いかにも丈夫そうな大木を手に取るなりそのまま引き抜き、爪で形を整え簡易な棍棒を作ると、肩に担いだ。
「ふん、この程度でも充分足るわ」
そんな強者の余裕を見せつけ、ギガデーモンは地鳴りを響かせ南下してゆく。
目指すは、トラペッタ。
「くくく、一石三鳥、というものか」
***
大木が引き抜かれたことによりポッカリと空いた大きな穴。
そのすぐ隣にある木の枝葉に隠れ、ガタガタと震える小さな妖精が居た。
派手な衣装と髪色に、ガングロと呼ばれるまでに濃く焼けた肌。それに桃色の羽を持ち合わせた妖精――サンディ。
もしもギガデーモンが生前と変わらぬ大きさであったなら、もしもサンディが人並みの大きさであったなら、凄惨な結末を迎えていたことだろう。或いは、彼女の身につけたきんのくちばしが幸運をもたらしたのかも知れない。
536
:
彼の翼になれたなら 3/5
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 03:06:50 ID:A1gA7itY0
ヤバイって。なによアイツ。ちょーヤバイんですケド。デカすぎでしょ。とにかく助かったから良かった……って全然助かってないんですケド!!
ありえなくない? 殺し合いとかさ?
アタシ、テンチョーと楽しくお喋りしてたハズなんですケド。
気づいたらなに? ビビるプリクラ?(超盛れそうな名前超うける)とかって奴が神になるとかどうとか?(早速話盛り過ぎでしょ超うける)
何がヤバイって、なんでかアーク以外にもアタシのこと見えてるっぽいのがヤバイ。何人かと完全に目があったヤバイ。あそこに居たのが全員天使とかありえないっしょ。だって天使はおねーちゃんが全部星に変えちゃったはずだし。
てゆーか、そのおねーちゃんは何やってんのよ。フツー助けにこない?
やっぱり――――用済みってことなの?
あーもう、訳わかんない。
とにかく、全然よくわかってないケド、アークのところに行かないと。アイツにはアタシが着いていてやらないといけないんだから。
だってアイツ、死んだズッキーニャみたいな目をしてた。
あのとき別れてから、どうしてるかなって少し様子を見に行ったら、もう完全に天使の力を失って人間になってたから、アタシのことなんて見えてなかったし、ホントに死んじゃったみたいにずっと塞ぎ込んでて。
なのに、なのに、今まで通り人助けなんかしちゃって、今まで通り笑顔を振りまいたりなんかしちゃって。
無理してるってアタシにはわかったケド、声なんて届かないし、色々やってみても、どうしようもなくて、後ろを着いていくくらいしかできなかった。
だから、あの時アークが何を願って女神の果実を食べたのかはわからないケド、とにかく、アタシの姿がまたアークに見えるようになったことが、超嬉しかったんだ。
しかも、それだけじゃないのよ。アーク、笑ってくれた。「サンディ」ってアタシの名前を呼んで、少しだけど、ちゃんと笑ってくれた。
537
:
彼の翼になれたなら 4/5
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 03:11:40 ID:A1gA7itY0
あの時はつい、キモい、なんて言っちゃったけど、実は心の中では、アタシがこれからアークの笑顔を取り戻していくんだって、息巻いてた。
テンチョーもホイッスルをアークに渡してたし、これからはアークの思った通りに自由に生きて欲しいなって、アタシはそれにくっついていけたらサイコーだなって思ってた。
そしたら、コレ。
ありえないんですケド、殺し合いとか。はぁ?ってカンジ。
初っ端からあんな化物と遭遇するし、アークはそばに居ないし。アゲ↑アゲ↑ガール☆のアタシも流石にサゲぽよため息。
ふくろの中身にしたってアタシには使えそうもないものしかないんだもん。
かわいいからつけてみたけど、この金ピカのくちばし、なんなの。
それに、これ。馬面した天使のハンドパペット。こういうのを人間が腕に嵌めて遊んでるのを見たことある。でもアタシには大きすぎてきぐるみくらいにしか使えない。いや、仮に普通に使えたとしてもどうしようもないんですケド。
でも、この剣。武器とかそうゆーの全然知らないけど、これがすごい剣だっていうのはアタシにもわかる。もしもこれをアークに届けられれば、悪いやつらをみんなぶっ飛ばして、あのプリクラも倒してくれるかもしれない。何より、アークが死ぬ確率を少しでも減らせるなら、それが一番良い。
あ、そーいえばさっきのデカいの、ふくろを捨てていってたような。
ええと、ええと、あ、あった。
ホント、馬鹿なことするよね。
では早速……うわっ、何このダサい帽子。なになに、インテリハット?
ファッションリーダーサンディちゃんがこんな帽子被ってるなんて知れたら……いや、むしろ一代ブーム来ちゃうかも?
うんうん、インテリガールにも憧れてたし悪くないカモ。ちょっと、だいぶデカいケド。よいしょ。
「……ま、こんなんで賢くなれたら、誰も苦労なんか――――」
待って。さっきのアイツ。もしかして最初の広場でエビルプリーストの近くに居たやつじゃない? 確か、参加者リストがふくろの中にあったよね。
うん、やっぱりそうだ。名簿の最後のページに纏めて載ってる五匹の魔物。これらはきっとこの殺し合いを円滑に進めるために送られた手駒だ。
『一石三鳥』
アイツ、そう言ってた。
地図によると、アタシのいるところは多分ここだから、アイツの向かった南のほうには……街がある!
もしもアタシがエビルプリーストとグルだったとして、ギガデーモンと同じだけ巨大な身体を持っていたら、どうするだろう。
538
:
彼の翼になれたなら 5/5
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 03:17:27 ID:A1gA7itY0
「……破壊だ」
そう。参加者が休息地とか拠点とかにしかねない街を破壊することだ。名簿を見る限り、アタシみたいに戦う力のなさそうな子供も何人か(どうしてかはわからないケド)この場にいるみたいだし、そういう人はまず間違いなく助けを、若しくは隠れ場を求めて拠点に行くはず。
そこで街をぶち壊して、ついでに弱者をあぶり出して殺す。これで二鳥。そして、もう一羽は。
アタシは知ってる。自らの危険を省みることなく、それが当たり前みたいに、なんともないように、人助けを一番に考えてしまう人を、アタシはよぉく知ってる。
もしも近くで戦闘の音が聞こえてきたら。もしも街のある方向からいくつもの黒い煙が挙がっているのを見たら。アイツなら、アークならきっと……ううん、絶対に駆けつけてしまう。
そういう、正義感を持った、勇者と呼ばれる人種を誘い出して、殺す。
ゲームに乗って、生き残りたいと思ってる連中なら寄ってはこないはず。そういう奴らはむしろ生かしておいたほうがゲームにとって都合がいいから。
よーするにヤツの作戦は、「拠点を壊滅させて回ることで、参加者の休息地を潰し、弱い者はあぶり出し、正義の者はおびき出し、一網打尽にする」っていう一石三鳥の作戦。
ふふん、このサンディにかかればこんなもんよ。
いや、そんなこと言ってられないっしょ。ヤバい。ちょーヤバいんですケド。あんなデカいやつに攻められたらひとたまりもないでしょ。
でも、希望がないわけでもないわね。ギガデーモンが敵側なんだとしたら、当然支給品だって良くしてもらってるはずよ。
その優遇されたものの中に、わざわざこの帽子が入れられてるってことは、それはつまり、オツムに難アリなところが少なからずあるってことよね。貴重な支給品を自分から捨てちゃう時点で相当なアレだけどネ。
でも、どうする。
それにしたってアレを止めるには、それなりの戦力が要る。だけど、信用できる人の少ないこの地で、それだけの仲間を集められるかな? 仲間集めにだって危険は無いとは限らない訳だし。
かと言ってシカトすれば、下手をしたらアークが殺されかねない。
さあ、どうする。
どうするアタシ。
どうする。
【G-1/森林地帯/朝】
【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 インテリハット@DQ7
[道具]:支給品一式 ロトの剣 白き導き手@DQ10 ギガデーモンのふくろ(不明支給品0��2)
[思考]:第一方針 アークを探す
�� 第二方針 ギガデーモンをなんとかできたら……?
[備考]:※インテリハットの効果で賢くなっています。
※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
�� ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。
【ギガデーモン@JOKER】
[状態]:健康 SIZE:G
[装備]:じょうぶなたいぼく@森
[道具]:なし
[思考]:基本方針 拠点を破壊して回る。弱者をあぶり出して嬲り殺す。あわよくば勇者をおびき出して嬲り殺す。
�� 第一方針 まずはトラペッタへ。
539
:
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 03:26:36 ID:A1gA7itY0
投下終了です。
サンディの支給品の「白き導き手@DQ10」についてですが、単なる一方通行の通信機とは言え3rd以降のアイテムになるので、問題はないでしょうか。
続けてもうひとつ、きんのくちばしなのですが、こちらは本来SFC版では男性専用装備であり、性格についてもラッキーガールなるものは存在せず、ラッキーボーイのみとなっております。
こちらのほうも、差し支えはありますでしょうか。
皆様が問題ありと判断なされた場合、早急に手直しして投稿し直したいと思っております。よろしくお願いします。
540
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/19(木) 05:07:40 ID:PbIVMvaY0
投下乙です
何だかんだ言いつつええ子やなサンディ
発売当時毛嫌いしてゴメンな…
さて装備の件についてですが「きんのくちばし」に関しては、今までのロワでも性別限定装備の縛りはスルーされてた事が多いので、個人的には問題は無いように思われます。
「白き導き手」は…今回シオンが参戦していない為、この場でどういう効果になるかイマイチ想像しづらいですが、
そもそもが余程の重要アイテムではない事と、精々一方通行のトランシーバー程度ならばこちらも問題ないかと思われます。
(どちらにせよ現状のサンディでは使いこなせないようですし)
541
:
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/19(木) 11:57:54 ID:A1gA7itY0
ありがとうございます。期限も迫っておりますので、本スレのほうにも一度投稿してみます。
542
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 12:34:29 ID:YOBqxoqY0
問題点として
サイズ・Gはブオーンを基準とするなら森の木々の倍くらいの背丈はあるはず
そうなると平原や町など空が開けてる場所のキャラクターはかなり遠くからでも視認できてしまう
気付かないなら気付かない理由付けが、気付くなら向かう逃げる等のリアクションが必要
つまり「直接書いていないキャタクター」の行動を広範囲において縛ることになることだと思う
通すのだったらこの点について改善案がほしい
543
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 12:53:33 ID:ARGit4KU0
ttps://www.youtube.com/watch?v=R5rAVbi0qP0
ちなみにサイズGのギガデーモンってのはこれのことなの?
544
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 13:16:54 ID:DsubxZ8I0
4本編(リメイク)の大きさでも十分大きいし、
ヘルバトラーのようにjokerの特技習得みたいな強化のほうがいいかもね?
545
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 13:29:45 ID:ARGit4KU0
でも同等か少し小さい程度のアトラスが1stで対して行動縛らなかったなら、こいつの視認範囲もたかがしれてるのでは
少なくとも別エリアから見えるほどの大きさではないだろう
546
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 13:31:58 ID:t1DOEBcoO
イメージ的には10の固体が二回りくらい大きくなったのを想像してた
そのくらいなら平原でも1エリアくらい間隔があれば見えないし
547
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 14:02:12 ID:1do5p9y.0
アトラスが同等の大きさってどこから出てきたんだ?
モンスターズだとアトラスはメガボディでもっと小さいけど
548
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 14:17:09 ID:lphk2lxg0
個人的には有りでもいいと思うけど、反対意見多いならそこまで推すつもりもないよ
てかさっさと結論出さないとこの付近が書けない
549
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 19:39:00 ID:o/MjFU4I0
>>543
そうだけど戦闘画面だと枠内におさめるためにちっちゃくなったりするからあんまり参考にはならないよ
イベントシーンがあるとサイズ・Gモンスターって凄く大きく演出される
ギガデーモンはイベントシーンないけど
550
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 19:52:00 ID:Cpl6l26.0
常時巨大が不味いのなら、
普段は通常サイズで、自由に巨大化出来る能力ってことするのはどう?
勿論作者さんがそういう方向で修正することに納得してくれるならだけど
551
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 20:12:55 ID:i8llX6kQO
自由にサイズを変えられるのは流石に便利が過ぎるような……
元より大きくはなってるけどGサイズほどではない、くらいはダメなのかね?
なにがなんでも元のサイズじゃダメってわけじゃないなら、元より大きく、且つギガサイズほど支障にならない範囲の巨大化なら、
修正も少しで済むし、他の書き手さんへの影響も減るし
552
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 20:22:49 ID:o/MjFU4I0
サイズ・Gって明記するんじゃなくて本来よりも大きくなったって描写なら大丈夫かもね
553
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/21(土) 21:36:09 ID:GC9qamR.0
>>549
そのイベントシーンとやらはギガデーモンにはないんだよね?
ならGサイズギガデーモンの大きさの基準になるのは
>>543
の動画だけなのでは?
で、その動画見る限り、そこまで周囲のキャラの行動に影響与える程の大きさではなさそうだけど
1エリア分くらい離れてれば「気付かなかった」で十分通りそう
554
:
◆hXOmdUGUdg
:2015/11/22(日) 00:05:41 ID:4OXSWODE0
皆様本当に申し訳ないです。
>>551
様の通り、JOKERよりも一回りサイズを小さくするということでよろしいでしょうか?
具体的に、ほとんどMサイズ寄りのGとMの中間、通常建物5,6階相当のところを3,4階相当、さらに言えばトラペッタの外壁から顔若しくは肩が覗く程度、でどうでしょうか?
これくらいでしたら1stのアトラスと同等か一回り上程の大きさになりますし、外壁含め街を破壊できること及び作中の描写にも違和感はないのではと思います。
555
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/22(日) 00:37:28 ID:oJiSW0Rs0
大きさで問題視されてるのは他エリアからも姿が見える場合のあれこれなんだよね?
だったらそれで問題ないんじゃないかと個人的には思うよ
556
:
◆KV7BL7iLes
:2015/11/22(日) 08:03:29 ID:jA9bvu3YO
自分もギガデーモンについてはそれでいいかと
それと、ジャンボについての指摘があったので
ジャンボという名前は公式配信でのキャラであるじゃんぼりぃから着想を得たものです
そもそも自分はソウラは未読ですし、性格面で似てしまったのは単なる偶然と思われます
557
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 11:16:13 ID:UE2KyYlA0
偶然なら偶然でそれでいいが、これは10主人公に限らずデフォルト名が存在してるのに違う名前にしてる理由はちょいと知りたかったり
デフォルト名だと何か支障あったりするんだろうかと思ってしまう。DQ5の娘なんか名前四文字超えてたりするし。10だと問題ないけど
まぁデフォ名が「ナイン」という8主人公の「エイト」と比べたらあまりにもあんまりな9主人公と、「エックス」だと某へぇ〜イイネ!が思い浮かぶ10主人公に関しては変えたくなる気持ちはわからんでもないけどw
558
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:04:24 ID:sh9ixqfw0
デフォ名じゃなきゃダメなんて決まりあったの?
1stとか2ndでも割りと自由に名前付けてたから何でもありかと思ってた
559
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:07:15 ID:0vbsFYO20
ちょっと待てちょっと待て
デフォルト名とかどうとか少し上のギガサイズ関連議論とか、最近どうでもいいことで騒ぎ過ぎじゃないのか?
そんなことで書き手のやる気を削いでしまう方がこの企画の為になってないって
いいからみんな少し落ち着こうぜ
560
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:22:55 ID:zF5Yr34Y0
そういやギガデーモンって修正とかするんでしょうか
内容そのままで
>>554
の大きさに関する補足入れるだけなんだったらもうwiki載せますが
561
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:34:18 ID:6VIcea320
そういうの雑談スレがあるんだからそっちでやって
562
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:35:25 ID:rwaOeBE60
ぶっちゃけ細かくディテール決めちゃうほうがよっぽど面倒くさくなるので、修正いらないよ
563
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 12:41:50 ID:UE2KyYlA0
単純に興味本位で聞いたつもりだったが、どうでもいい話だったな。すまんかった。
564
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/11/23(月) 15:40:11 ID:B0SbJ8mI0
じゃあとりあえずそのまま収録しときます
565
:
Rock 'n' Roll!! 修正 1/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:12:33 ID:.WvqDauo0
ロックンロール(Rock and Roll, Rock ’n’ Roll)は、
1950年代半ばに現れたアメリカの大衆音楽スタイルの呼称である。
語源については、古くからアメリカ英語の黒人スラングで
「性交」及び「交合」の意味であり、1950年代はじめには
「バカ騒ぎ」や「ダンス」という意味もあった。
〜〜 ロックンロール ウィキペディアより抜粋 〜〜
ローレルはご機嫌だった。
爆弾岩の大きさそのものは一抱えほどだったが、その重量はゆうに100kg近い。
しかしその重さをものともせず、彼は爆弾岩を抱えてご満悦だった。
今まで魔物といえばどんなにローレルが親愛の情を示してもこちらを攻撃する
凶暴な性格の相手ばかりだった。
それによってパーティを危機に陥れ、トンンラやルーナに責められることもしばしば。
その場は反省しても、またそれを繰り返してしまうのがローレルだった。
なのでローレルがこんなにも近づけてしかも触れることができたモンスターなど
数えるほどしかいなかったのだ。
鼻歌交じりでローレルは平原の丘陵を歩く。
そこでふと気づいた。手に抱えている岩の魔物がこちらをギョロりとねめつけていることに。
「む、目が覚めたか?」
ローレルは爆弾岩をそっと地面に置いて、自分はその対面に座った。
「それがしはローレル。ローレシアの……肩書などお主相手に意味あるまいな。
お主と友になりたいローレルだ、よろしく!」
そういって手を差し出すが、爆弾岩はとくにリアクションはない。
ただギロギロとローレルを見ている。
しかしそんな反応でもローレルはホッとしていた。
襲い掛かってこられなかっただけでも大金星を得た気分である。
「それがしはお主の敵ではない。ほれ、これがそれがしが持ってる道具だ」
ローレルは自分の羽織っているローブ、懐から銀色の匙、
そして腰に下げた剣を見せつける。
「……」
当然ながらとくに反応はない。
だが心なしか爆弾岩の視線から険が薄まったような気がして
ローレルは更に踏み込んでみることにした。
「あー、あなたーのおなまーえ、なーんですかー?」
目の前の魔物が人語を解するのかどうかは解らない。
しかしなんとかコミュニケーションをとろうと
変な外人のようなイントネーションで彼は語りかけた。
ばくだんいわはしずかにたたずんでいる。
「……」
「……」
「……」
「あーもしかして、名前はないのか?」
566
:
Rock 'n' Roll!! 修正 2/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:13:16 ID:.WvqDauo0
そういった時、爆弾岩の視線に突如として殺意がこもった(ような気がした)。
(むぉ、まずいな怒っておる……ということは名前はあるのか)
だが相手が喋れないのであれば知る方法がない。
そう思った瞬間、彼はひらめいた。
そうだ、名簿があるではないか、と。
慌てて袋の中から名簿を取り出し、パラパラとめくる。
果たしてそこにはあった。
それによりローレルは彼の種族が爆弾岩であること。
そして名前がロッキーであることを知ったのだった。
「そうか! お主はロッキーというのか!」
ゴロゴロ……
爆弾岩の名を呼んだとき、はじめてリアクションがあった。
その場をゴロゴロと転がってまた元の位置へと戻ったのだ。
もしかして喜んだのかもしれない。
「そうか、ローレル、ロッキーで名前も似ておるな!」
『ロ』しか共通点はないのだが彼はそれが嬉しくてたまらず満面の笑みを見せる。
「しかし名前があるということはお主まさか誰かご主人様がいるのか?」
普通魔物に名前はない。
あったとしてもそれは人語を操るような知性高い魔物か、
誰かに飼われているかだ。
ロッキーが全く言葉を発する様子のないことから後者ではないかと
当たりを付けてみたのだが。
ニヤリ
ばくだんいわはぶきみにわらっている。
「やはり! そうかじゃあこの中からお主のご主人様がいたら教えてくれ」
まだ爆弾岩の笑いが肯定の意味と決まったわけではないのだが、
彼はそう決めつけて話を進める。
名簿を最初からパラパラとめくり、ロッキーの反応を見る。
パラ……パラ……
しばらくして、あるページでロッキーが反応した。
ニヤリ
ばくだんいわはぶきみにほほえんだ。
そのページにはアベルという紫のターバンをかぶった青年の姿があった。
「ほほ〜〜この人がお主のご主人様かぁ」
ローレルは思う。
どうにかこのアベルと話をつけてロッキーを譲ってもらえないだろうかと。
彼にとってここまでコミュニケーションをとることのできた魔物はロッキーが初めてなのだ。
是非とも今後の人生を共に歩みたかった。
アベルを前にしてどう交渉するかと妄想を馳せる。
567
:
Rock 'n' Roll!! 修正 3/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:14:00 ID:.WvqDauo0
テーブルの上座に座るアベル。
その対面にローレルは座り、頭を下げる。
隣には寄り添うようにロッキーが佇んでいるのだ。
―― アベル殿! どうかロッキーをそれがしにお譲り下され!!
―― なんと誠実な男なんだ。よし、ロッキーは君に任せよう!
妄想が捗り、だらしない笑みを浮かべるローレル。
「でへへへ」 ドスッ
それをみて危機感を覚えたのか、ロッキーはゴロゴロと転がってローレルにぶつかった。
ただたいして勢いもついていなかったのでローレルを現実に戻しただけで
ダメージにはなっていない。
「ああ、すまぬなロッキー。お主を放って一人の世界に浸るなどあるまじきことであった」
慌てて表情を改め、優しくロッキーの表面を撫でる。
「一緒に行かぬか、ロッキー。お主のご主人様アベルを探しに」
ニヤリ
ローレルの言葉にロッキーは不気味な微笑みで返す。
彼にとってそれはもはや肯定以外の何物でもなかった。彼の中では。
「よし、ならお主の支給された道具を見せてくれぬか?
何か使える物があるかもしれん。いや、無理にとは言わぬがな」
「……」
ローレルの言葉にロッキーは少し迷うようなそぶりを見せ(ローレル視点)
しばらくしてあんぐりと口を大きく開けた。
ペッ
口の中から吐き出されたのは袋だった。
これがロッキーの支給品なのだろう。
「感謝するぞ、ロッキー。中を見せてもらおう」
中をのぞくとそこには三つの道具が入っていた。
順番に取り出す。
一つは指輪。
罠抜けの指輪といって装備するとあらゆる罠が装備者に対して発動しなくなるらしい。
一つは巻物が三巻。
紐で一括りにされていて、どうやら三巻セットらしい。
罠の巻物といって使用すると、使用者の半径20メートルの範囲に
あらゆる罠が発生するのだそうだ。
この指輪と巻物のコンボはかなり強力であると言える。
「しかしこれではロッキーには使えぬなぁ」
指輪も装備できないし、巻物を読むこともできない。
これではまさしく宝の持ち腐れだ。
568
:
Rock 'n' Roll!! 修正 4/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:14:37 ID:.WvqDauo0
あとで自分に使わせてもらえるように頼んでみようかと彼は考えた。
アベルを探すために必要な場面もあるかもしれない。
その為だったらロッキーも快く貸してくれるのではないだろうか。
そう思いながら彼は最後の道具を取り出した。
「おお、これは使いようによっては凄いかもしれん……」
それは壺だった。
合成の壺といってどうやら中に入れたアイテムを合成して
より強力にするためのものらしい。
一度中に入れると割らないと取り出せない為、
使用は一回限りであるから使いどころは難しい。
だがこれもロッキー自身が使用するのは難しそうだ。
「なぁロッキー。これらのアイテムはお主が使うのは難しそうだ。
どうだろう? これらをそれがしに貸してくれないか?」
この世界には自分やロッキーのように殺し合いを良しとしない輩だけではない。
この先、アベルを探す過程で他の参加者に襲撃される危険もあるだろう。
その中でこれらのアイテムを有効に使えれば抜け出せる危険もあるかもしれない。
そう説明するローレルにロッキーは……ニヤリ、と笑った。
「そうか! ありがとうロッキー!!」
ロッキーが自分の提案を受け入れたこと。
自分を信じて強力な道具を自分に預けてくれたことに狂喜して
ローレルはロッキーを抱き上げる。
しかし座った状態から急に立ち上がったこと。
そしてロッキーの重量が災いして、いかな強力を誇るローレルも
バランスを崩してしまった。
「ぬわぁっ」
足をもつれさせ、ロッキーを抱えたまま……なんと合成の壺の上に倒れ込んでしまった。
ヒュポッ
まるで、いやまさしく吸い込まれるように彼らは壺の中へと入ってしまう。
その勢いでグラグラと壺は揺れ……グラリ、と大きく傾くとそのまま倒れてしまった。
ローレルたちが居た場所は丘陵のちょうど小さな丘の頂点付近。
つまりそこは坂道だったわけで当然――
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ
「ぬぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」
彼らは地獄のローリングを体験する羽目になった。
頭の中はパニックでどうすればいいのかすら何も浮かばず、ただ回転に身を任せる他にない。
真っ暗な壺の中、目が回りまるで魂までもシェイクされるような不快な感覚。
脳みそが撹拌されたように蕩けてしまいそう。
いつまでそんな地獄を味わっていただろうか。
突然、転がっていた壺が大きく跳ねた。
坂の途中にあった石ころにぶつかったのだ。
569
:
Rock 'n' Roll!! 修正 5/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:15:46 ID:.WvqDauo0
そしてそのまま地面に叩きつけられ―― 割れた。
ガッシャーンッ
地面に投げ出され、衝撃にのたうつ。
「ぐあぁっ」
しばらく全身の痛みとこみ上げる吐き気を必死に堪えていたが、
もう一匹の存在が見えないことに気づき慌てる。
早く探さなければ――彼は名を呼んだ。
「ローレル! 何処だ!?」
あれ? ローレル? 自分が探すのはロッキーではなかったか?
いやローレルを探さないと。違うロッキーが見当たらない。
混乱し、頭を押さえて蹲る。
早く、あらゆる手を使ってでも……手? 手ってなんだ?
手は手だ。自分にもついている。
彼は己の手を見つめる。
「なんだ、これは!?」
何故自分に手がついている? 違う手は最初からあった。
それよりも何故手が岩のようにゴツゴツしているのだ?
違う前から自分は岩でできていた。
混乱に拍車がかかる。
「落ち着け! まずは自分を確認するんだ!!」
大声で叫ぶ。
そして――どれだけの時間が経ったのか。
彼はようやく事態を理解した。
「なんだ、何も悩む必要はなかった。それがしは……」
彼はニヤリと不気味にほほ笑んだ。
「いや、それがし達は……合体したのだ。」
ローレルとロッキー。
二人は合成の壺によって合成され、新たな一つの生命体として爆誕した。
よく見ると彼の肌は岩だけでなくうっすらと銀色の鉱石が混じっている。
オリハルコンの匙が混じったのだろう。耐久力は飛躍的に向上しているようだ。
その表面の胴体部分を中心に竜のウロコのような緑の肌が確認できた。
ドラゴンローブもまた合成されているようだ。
これにより呪文、ブレス耐性も大幅に向上している。
「それがし達は……違う、それがしは ―― ロッキール。
そう、それがしの名前は『爆弾岩人ロッキール』だ!」
高々に叫び、彼は歓喜に浸る。
570
:
Rock 'n' Roll!! 修正 6/6
◆S0i4l3vvG2
:2015/12/02(水) 20:16:13 ID:.WvqDauo0
憧れの魔物と一つになれたこと。憧れのご主人様の役により一層立てること。
二つの想いは交わり、一つになった。
アベル様の為に!
彼は元の位置に戻り、道具を回収すると走り出した。
使えるべき主人を探すために。
【D-4/草原/朝】
【ロッキール(爆弾岩人)@ローレル@DQ2+ロッキー@DQ5】
[状態]:健康 岩石とオリハルコンとドラゴンローブの合成肌
[装備]:天空の剣
[道具]:支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3
[思考]:アベルを探し、仕える
※ローレシアの王子と爆弾岩が合成されました。
ロッキールが死亡した場合、ローレルとロッキーの両方が死亡扱いとなります。
571
:
ただ一匹の名無しだ
:2015/12/02(水) 20:17:08 ID:.WvqDauo0
ローレルの口調に違和感を覚えた方が何人もいらっしゃったようなので
修正をしてみました
これならどうでしょうか
572
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:11:25 ID:qMa5JxGY0
しゃきーん しゃきーん
鋏の音が、甲高く響く。
しゃきーん しゃきーん
何かが居たような気がして、そこに立ち止まる。
しゃきーん しゃきーん
けれど、そこには誰も居ない。
しゃきーん しゃきーん
男は、身を翻し、来た道を戻り始める。
しゃきーん しゃきーん
般若が何を考えているかなんて、人には到底理解できないだろう。
しゃきーん しゃきーん
鋏の音を響かせながら、男は街へと戻る。
しゃきーん しゃきーん
573
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:12:23 ID:qMa5JxGY0
誰かいるかもしれないという期待から、マリベル達は街のある北へと進路を取っていた。
街からとれる進路は西か南の二択、移動しようとする者達と出会う可能性も高く、悪くはない選択だった。
そうしてサフィールと二人、肩を並べてぽつぽつと歩き始めていた、が。
「しっかし、人っ子一人いないわね」
現実は、ご覧の有り様だ。
人どころか魔物、ひいては生きているものにすら出会うことはなかった。
「どっかで派手にドンパチやってるもんかと思えば、意外とそうでもないのね」
「ドンパチやってて欲しいんですか……?」
物騒なことを平気で口に出すマリベルに、サフィールは困惑する。
「ええ、そりゃどちらかといえばね。ドンパチやってるってことは、そこに誰かがいるってことよ。
悪い奴はぶっ飛ばして、いい奴を味方にすればいい、それだけのことよ」
だが、マリベルは特に悪びれることもなく、当たり前のように言葉を返す。
少し無茶苦茶な話ではあるが、言っていることは確かに一理ある。
何かが起こっているということは、誰かがいるという確証なのだから。
「はぁ〜あ、全くツイてないわね。サフィールの巻物に、なんか書き込めば楽になったりすればいいのに」
読みが外れた怒りか、歩き続けた疲れからか、マリベルはふとそんなことを口に出す。
サフィールが支給された巻物には、何かしらの魔力は感じている。
言われてみれば、何かを書き込んでくれと言わんばかりに真っ白だ。
「……あながち、それは間違いじゃないかもしれませんね」
ふふっと笑い、頭にその可能性だけを置いて、サフィールはそう返す。
そんなサフィールに、マリベルが少しムッとしたその時だった。
ぴしゃり、と大きな音と共に、遠くに一筋の雷が落ちた。
574
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:12:51 ID:qMa5JxGY0
「勇者の、雷」
それを見たサフィールは、思わずそう言葉をこぼす。
あの雷は間違いない、いや、見間違えるわけがない。
「勇者?」
「はい、選ばれし天空の勇者だけが操ることが許される、勇者の雷。
あれはただの雷じゃなくて、お兄ちゃんの雷によく似ていました……」
サフィールがこぼした言葉に、マリベルが突っ込み、サフィールは質問に答えていく。
そう、雷だけなら、魔物もそれを操ることができる。
だが、今しがた見た"それ"は、彼女のよく知る雷によく似ていたのだ。
ひょっとすれば、そこに兄が居るかもしれない、と彼女が考えた時だった。
「ふーん、雷なら、あたしも使えるけどね」
「ええっ!?」
マリベルの口から放たれたのは、衝撃の言葉だった。
驚くサフィールに、マリベルは淡々と言葉を続ける。
「驚くことはないわよ、ダーマ神殿に通って修行すれば、誰でも勇者になれるんだから。
ちょっと面倒だけど、ね。それに、別に勇者じゃなくても雷なら使えるわ」
そう言って、マリベルは少し軽めの雷を起こす。
嘘ではないとわかったが、サフィールはやはり驚きを隠すことができない。
マリベルが造作もなく生み出した雷、それもまた"勇者の雷"だったのだから。
「じゃあ"天空の勇者"って……」
彼女の中の"何か"が、崩れそうな音を立て始める。
誰も、誰しもが勇者のなれる、本当にそうだったのだとしたら。
父は、苦しい思いをしなくても良かったのではないか。
「悪いけど、話はあとでいい?」
思考の闇に陥りそうになったところで、サフィールの耳にマリベルの声が届く。
はっ、と我に返ったところで、マリベルが気を張り詰めているのに気がついた。
「誰か、来る」
少し遠く、そこに映ったのは、一人の女の姿だった。
575
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:13:29 ID:qMa5JxGY0
遠くに映ったのは、二人組の少女。
一人はふわりとしたパーマがかかった、栗色の髪の少女。
もう一人は、黒髪のショートが目立つ、まだ幼い少女。
間合いの少し外、万が一に応対できるように、そこで足を止める。
それから少し考えを張り巡らせながら、スクルドは呼吸を整え、始めの言葉を口に出す。
「こんにちは」
必要なのは、情報だ。
それを引き出すための、始めの一手を打つ。
「ここは殺し合いの場だってのに呑気なものね」
栗色の髪の少女から、返答が来る。
初手の反応は、上々。
即座に襲い掛かられるという最悪のケースを、頭から外す。
「いえ、そういう訳では。邪な気配を感じなかったので、警戒しなかっただけです」
「ふーん、随分と余裕じゃない? あたし達をナメてたってこと?」
「いえ、ですから」
「マリベルさん」
「冗談よ、ちょっとからかいたかっただけ」
確かに、油断していなかったわけではない。
最悪、戦いになったとしても、自分が優位に立てると踏んでいたから。
それが滲んでいた、ということなのだろうか。
なんにせよ、探りを入れられるのは、少し都合が悪い。
慎重に言葉を選びながら、どう会話を続けようかと少し考え始めた時。
「ところで、あんた北から来たわね? 聞きたいことがあるんだけど」
今度は、少女たちの方から問いかけが始まった。
あらかた、質問の内容は予想がついている。
なんでしょう、と返事をし、スクルドは続く質問を待つ。
576
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:13:54 ID:qMa5JxGY0
「北の街、そこに誰か居たかしら?」
問いかけは、彼女の予想通りだった。
二人組の少女で、能動的に殺しあう姿勢は見えないとなれば、仲間を探しているのはほぼ明確だ。
恐らく、"誰か"とはそんな人間を指しているのだろう。
揃った情報から素早く、かつ慎重に思考を重ね、最適の答えを口に出す。
「……いえ、軽く探しても、特には」
それは、"嘘"だった。
今、自分が欲しているのは戦力、それも前衛に立つ者だ。
外見だけでもひ弱そうだと思う上に、誰かを探しているとなれば、彼女たちが前衛に立てないことは容易に分かる。
そんな者たちを引き込んで、"あれ"に立ち向かえるだろうか?
答えはもちろん、ノーだ。
寧ろ、自ら死ににいくといっても過言ではない。
だから、彼女たちだけで北に向かわせ、"あれ"に彼女たちを殺してもらうのがベスト。
それはわかっている。だが、ここで誰かいると答えれば、何故それを置いてきたのか、と怪しまれることになる。
ましてや、同行を拒めば尚更のことだ。
だから、ここは"嘘"をつく。
どうせ無力な少女二人組、放って置いてもいずれ死を迎えるのだから。
「そう、ありがと。じゃ、行くわよ、サフィール」
「え?」
マリベルと呼ばれた栗色の髪の少女はそう答え、サフィールと呼んだ同行者の手を引く。
サフィールは、困惑しながらも手を引かれていく。
「ここで引き返したら、なんだか"アイツ"の言うとおりになってる気がして、気に食わないのよ。ほら、早く行くわよ」
「え、でも……」
「ごちゃごちゃ言わない」
そう言って、マリベルはサフィールの腕を強引に引いて、北へと行ってしまった。
なんて都合良く事が運んだのだろうか。
特に疑われることもなく、彼女たちは北へと向かっていった。
ああ、彼女たちはまもなく、"あれ"の餌食になるのだろう。
そう考えた後、彼女は進路を西へと取る。
南には誰も居ないと、彼女たちが証明してくれたのだから。
スクルドは浮かべてしまった笑みを消し、足を進める。
次こそは"あれ"に対抗できる者に出会えることを、祈りながら。
577
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:14:32 ID:qMa5JxGY0
「さっきの雷が気になってるんでしょ?」
不満そうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルははっきりとそう言い放つ。
そう言われて目を見開く彼女を見て、ため息を一つこぼしてからマリベルは言葉を続ける。
「あれだけ目立つ雷を使うってことは、それだけの事が起きてるってことよ。
そうでもしなきゃ行けない状況に、あんたは首を突っ込むっていうの?
言ったでしょ? 別に雷が使えるのは珍しいことじゃない。
あれがアンタのお兄ちゃんっていう確証なんて、どこにもないのよ」
マリベルが言っているのは、確かに正論だ。
あの場所には、あれほど目立つ雷、もといギガデインを放つ必要があったということ。
それがどのような状況かは、考えなくとも分かる。
「……でも、あそこには人が居るって証ですよ。マリベルさんが言ってた、ドンパチやってる状況じゃないですか」
「それとこれとは色々と話が別よ、それとも何? あんたは死にに行きたいの? ならここで置いてくけれど」
そこまで言われて、サフィールは閉口し、本当に口のへらない人だと、ため息をつく。
だが、破天荒なように見えて、そこには真っ直ぐな一本の芯がある。
その姿に少しだけ母を重ねながら、サフィールはマリベルと共に足を進めた。
しばらくして、彼女たちは街へと辿り着いた。
閑散とした空気は少し冷たく、確かに人の気配は感じられない。
「うーん、アテが外れたわね。ああいうキナ臭いのは、大抵嘘つきって相場が決まってるんだけど」
先ほどの女性に胡散臭さを感じていたマリベルは、それを"嘘"と踏んでいた。
故に、誰か居るのだろうと、半ば確信に近いものを感じていたのだが、それはどうやらハズレだったらしい。
少し人を疑いすぎだろうか、と思いながらマリベルは頭を掻く。
「とにかく、街を探索してみましょう。どなたかがどこかに居るかもしれませんし」
「言われなくてもそうするわよ」
サフィールの言葉に少しムッとしながら、一番目立つ大きな屋敷へと、マリベル達は足を進めていく。
あれだけ目立つのだから、誰かが来たとすれば、真っ先に足を踏み入れていてもおかしくはない。
そう思いながら、少し早足で辿り着いた屋敷の扉は、無防備にも開ききっていた。
「全く、行儀が悪いわね」
そんなことを言いながら、屋敷へと一歩踏み入れ、ばたん、と大きめの音を立てながらドアを閉める。
少し立ち止まり、何かの反応を伺うが、特に何も感じない。
やはり、誰も居ないのだろうかと思いながら、マリベルはずかずかと屋敷の中を進み、階段を登っていく。
578
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:15:02 ID:qMa5JxGY0
「……ん?」
その後ろを付いて行こうとしたサフィールが、ふと何かに気がつく。
それは、ぴとりと水の雫が落ちるような音だった。
音のする方へと体を向け、注意深く観察する。
そして、それが何なのか、分かってしまった時。
「アイラ!!」
マリベルの叫び声が、屋敷に響き渡る。
急いで二階へと駆け登ると、そこに飛び込んできたのは、三つの影。
ひとつは、マリベル。
ひとつは、マリベルが抱きかかえている誰か。
そして、もうひとつ。
腕に仕込んだ巨大な鋏を掲げた、漆黒に身を包む一人の男の姿。
「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
万が一を考慮して詠唱しておいた呪文を、即座に放つ。
空気が圧縮され、膨張し、そして破裂して生まれていく爆発が、漆黒の男を包み込んだ。
「大丈夫ですか?」
「けほっ、けほっ……ったく、加減ってモノをしなさいよ」
急いで駆け寄ったマリベルの姿に、特に怪我はないことを確かめ、サフィールはひとまず安堵する。
そして、マリベルのすぐ側に居た黒髪の女性の姿を見て、息を呑む。
おびただしい量の血は、一度ならず何度も突き刺されたであろう、痛々しい傷跡から今も流れだしていた。
考えるまでもない、下手人はあの男だろう。
そして、その結論に辿り着いた時、耳慣れない金属音が鳴り響く。
しゃきん、しゃきん、しゃきん。
それは、鋏の刃と刃が触れ合う音。
この場で鋏を持っている者は、ただ一人だ。
「一旦逃げましょう、ここじゃ分が悪すぎます!」
「言われなくても!!」
危険を察知した二人は、急いで部屋から飛び出し、屋敷の正面玄関へと駆け込んでいく。
幸い、足はそこまで速くないらしく、追いつかれることはなかった。
全力で駆けた後、まだ男が中に居るであろう屋敷を睨み、マリベルは言い放つ。
「サフィール、あたしはアイツをぶっ飛ばすわよ」
その言葉に込められていたのは、サフィールが初めて彼女から感じ取った感情。
「アイラの仇、ですもの」
それは、明らかな怒りだった。
その姿に、母の姿を少しだけ重ねながら、サフィールは一つの提案をする。
「マリベルさん。私に考えがあるんです。数分、稼いでもらえますか」
「はぁ!? あたしをコキ使おうっての!?」
言い換えれば、盾になってくれという依頼。
共に前線に立つつもりはないという意思表示にも等しい。
もちろん、そんな都合のいい逃げを、マリベルが許すはずはない。
「信じてください、読みが合ってれば、すぐに無力化できると思うんです」
そうだと分かっていても、それを押し切ってまで頼みたいと思う、確信が彼女にあった。
わずかにすれ違った一瞬、感じ取った気配。
それは、呪われし装備の、禍々しい気。
もし、男が"何かの呪い"によって凶行に及んでいるのだとすれば。
そして、何気なく口にしたマリベルの言葉が、本当だとすれば。
全てが噛みあえば、この場を一瞬で終わらせることができる。
だからこそ、彼女は無茶な願いをマリベルへと通した。
「ったく……三分よ、いいわね?」
揺るぎないサフィールの瞳に、折れたのはマリベルだった。
それから、時を同じくして、屋敷から飛び出してきた男へと、真っ直ぐに向かっていった。
そして、サフィールは巻物を開き、ペンを握った。
「……お兄ちゃん、私に力を貸して!!」
579
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:15:30 ID:qMa5JxGY0
「行くわよ化け物ッ!!」
アイラの遺体の側にあった袋から取り出した、赤の宝石が目立つ一本の剣を構える。
戦いにおいて、前線に立つことが多かったことに、今だけは感謝しながら、深呼吸を一つ挟む。
しゃきん、しゃきん、しゃきん、と絶え間なく鳴り響く鋏の音を聞き流しながら、気合を溜め、集中していく。
「はあっ!!」
かきん、と鳴り響く金属音、こすれあう刃と刃が拮抗しながら、マリベルは剣越しに男の顔を睨む。
「くっ……」
力は五分、いやマリベルが少し劣っているか。
鍔迫り合いを続けても、状況は好転しない。
そう踏んだマリベルは、素早く身を引き、刃から逃れていく。
どすん、と鋏が地面に突き刺さる音が軽く響く。
見境なく、ただ生きるものを狩る、ということか。
ならば、単純に向かってくるだけの魔物と、なんら差はない。
強大な力に巻き込まれないように、立ち回れば良いだけ。
「駆けろ、隼ッ!!」
素早く振るった二つの刃が、男へと真っ直ぐ向かう。
特に避ける素振りを見せず、男はその刃を正面から受け止めた。
だが、マリベルの表情は渋い。
放った二つの刃は、まるで吸い込まれるように男の纏う闇へと、飲み込まれていったからだ。
物理攻撃では分が悪い、ということか。
だとすれば一転、状況は悪化する。
不本意ながらも、彼女が得意とするのは至近距離戦だ。
後衛用の技術は、あまり持ち合わせていない。
ましてや、目の前のバケモノを倒すほどの技術となれば、尚更のことだ。
ぎり、と少しだけ歯を鳴らす。
時間は、まだ一分も経っていないだろう。
早くしろ、と心の中でサフィールへと念じながら、彼女は次の一手を考える。
「ちまちま攻めてちゃ話にならない、なら……」
手数ではなく、力。
敵が全ての力を自分に向けてくるのだから、それに勝る力を叩きつければいい。
一点集中、たった一度だけならば、目の前の男を超えられる。
580
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:16:00 ID:qMa5JxGY0
「我に宿れ、魔神の力ッ!!」
そしてマリベルは、信じられるこの両手に、全てをかける。
強く、強く剣の柄を握りこみ、ずしんと音を響かせて一歩を踏み込む。
その両目が捉えて離さないのは、男の体。
まさに今、鋏を振りかぶろうとしている、その姿に。
「っどりゃあああああああああああッ!!」
魔神の如く、彼女は斬りかかった。
何かが裂ける音が、閑散とした街に響く。
闇が飲み込みきれなかった刃が、男の体を縫い止める。
確かな手応え、それを感じたその瞬間。
ぴくり、と男の鋏が動いたのを見て。
「神よ、迷える子羊に救いを与え給え――――」
同時に聞こえ出したのは、サフィールの声。
それは、彼女の兄が得意としていた解呪の呪文。
いつも兄が口にしていたそれを、必死に思い出し、彼女は巻物に記していた。
「シャナク!!」
それが今、放たれる。
ぼうっと淡い光が巻物から飛び出し、男の姿を一瞬で包み込む。
そして、光は四方へとはじけ飛ぶのと共に、かしゃんという音と共に、男が付けていた能面が地へと落ちた。
「読み通り、ですね」
「ったく、遅いのよ……」
少し嬉しそうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルは少し呆れたように笑った。
「……ここ、は」
そんな二人をよそに、数回の瞬きを経て、男は小さくつぶやく。
「私は、あの面を付けて、それから……」
思い出せない、何も、何一つとして思い出せない。そう、面を付けるまでの事しか、思い出せない。
よもや、この面の呪いは正気を失わせる呪いだったのだろうか。
自分の知識にない呪いに少し興味を示しながらも、男はまず目の前の状況に対処することにした。
「貴様達が、私を?」
「そうよ」
問いかけの後、一歩ずつしっかりとにじり寄ったマリベルが、男の胸ぐらを掴んでいく。
「マリベルさん!」
「黙ってなさい」
サフィールの声を振り払い、マリベルは男を睨みつけながら、言葉を続ける。
581
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:16:36 ID:qMa5JxGY0
「いい? まず覚えておきなさい、あんたは許されない罪を背負ってるのよ」
「罪……?」
「そう、私の仲間を、あんたが殺したのよ」
鬼気迫る表情で、男へとマリベルは男へと真実を突きつけていく。
正気ではなかった、で済まされる問題ではないのだ。
だが男は、そんな彼女の顔を見て。
「だとすれば、どうした」
当然と言わんばかりに、笑い飛ばした。
「何れ全ては滅ぶ。一人の人間が死んだところで、なんだというのだ」
「――――ッ!!」
そこで耐え切れなくなったマリベルが、男の体を突き飛ばす。
それから再び剣を構え、背を向けたままサフィールへと告げる。
「止めないでくれる? これは、あたしの戦いだから」
「ほう、剣を取るというのか」
怒りを表すマリベルに対し、男は妖しくニヤリと笑う。
そして男も、再び鋏を構えて、マリベルへと告げる。
「ならば、振りかかる火の粉は払わねばなるまい!」
始まろうとしているのは、怒りという感情が渦巻く戦い。
止められない、止まるわけがない。
サフィールは、人よりその理由を知っている。
怒りに狂う、あの時の父親の姿を、自分はすぐ側で見ていたのだから。
だから、この戦いは止められない。
私怨と、罪と、正義。
何が正しいかなんて、彼女に決めることなんてできない。
ただ、戦いの行く末を、見守る。
それだけしか、できなかった。
582
:
CURSE
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:17:01 ID:qMa5JxGY0
【I-7/森/1日目・午前】
【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ホーリーランス
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
西に行き共に追跡者と戦ってくれる者を探す
【I-5/リーザス村・アルバート家前/1日目・午前】
【ハーゴン@DQ2】
[状態]:HP3/5、闇の衣により回避率上昇
[装備]:闇の衣@DQ8 大鋏@DQ3
[道具]:支給品一式
[思考]
1:火の粉を払う
2:主催に反抗し、脱出する
3:ピサロという男を探す
【マリベル@DQ7】
[状態]:疲労(小)
[装備]:妖精の剣
[道具]:支給品一式*2、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:ハーゴンをぶっ飛ばす
【サフィール@DQ5娘】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考]:見守る。怖い人を無視してマリベルさんに流される。
※般若の面@DQ3が放置されています
583
:
◆JQqRUp1HeY
:2016/04/24(日) 15:17:35 ID:qMa5JxGY0
規制されてるのでこちらに。
以上で投下終了です。
584
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 03:57:30 ID:yJkiwlng0
正義は必ず勝つという理屈を持ち出すのであれば、正義はこちらにある。
獲物を狩って喰う。 己の縄張りを広げる。
どんな生き物とてやっている、種の本能に基づく行動だ。
そこにケチをつけるのであれば、それはもはや一生命体として機能不全を起こしているだけのこと。
神々や精霊に近い姿をしているからといって、人間だけが寵愛を受け魔族は一方的に淘汰されるなど傲慢にもほどがある。
かつて、バラモスは大魔王ゾーマに仕えて地上世界を恐怖のどん底に陥れていた。
天地魔界に恐れるもののない大魔王に、バラモスは強く焦がれていた。
バラモス自身とて、あらゆる魔物の中でもトップクラスの実力があるだろう。
だが、自らの実力に絶大なる自負をもつバラモスでさえ、ゾーマの力を知ると平伏せざるを得なかった。
それが屈辱なのかと言えば違う。むしろ逆だった。
例えて言うなら、ゾーマは悪のカリスマなのだ。
この者になら己の力を預けられる。 服従を誓うことができる。
心酔する大魔王ゾーマの懐刀、その栄えある一番槍として、地上世界を侵略する。
それは何物にも代えがたい至福だった。
己が認めた相手に、自分の価値を認められる。
これほど素晴らしいことがあるだろうか。
例え勇者という人物が攻めて来ようと、何ほどのことがある。
必ずや殺害し、はらわたを食らってくれよう。
そう、バラモスの魔王としての誇りはそこにあった。
自らが信奉する魔界の大魔王ゾーマの強さ。
魔王として数多くの人間を殺めてきた日々。
極めてシンプルな、『力』による序列。
食物連鎖の上にいるものは、下にいるものの生殺与奪を握っているという優越感。
それこそがバラモスをバラモスたらしめている要素であった。
では、それが失われるとどうなるか。
「はあ……どうすればいいのだ……」
こうなるのだ。
ため息をついたことなど、今まで一度もなかった。
それが、この島に連れてこられてたった数時間で、一生分のため息をついたかのようだ。
バラモスには今、重いものがない。
自身の行動の指針、今後の身の振り方、そういったものの決定を下す判断力が失われている。
身命を捧げた主君、ゾーマはあんなにもあっさりと殺され。
ならばとより強い力を持ったエビルプリーストに取り入ろうと思ってみれば、たった一人の人間にあわや死ぬ寸前まで追いつめられ。
つまり、既存の価値観が木っ端微塵に粉砕されているようなものなのだ。
自信と尊厳を失った魔王はこんなにも情けない存在に成り下がる。
かつて勇者アスナと戦った時は、四人がかりでもまだ拮抗に近い状態を造り出せていたのだ。
双方ともに、一手でもミスをすればその瞬間勝敗が決まるような、そんな鎬を削る戦い。
その果ての敗北だ。 これならば負けるのも致し方なし。
自身を打ち破った勇者に最大の賛辞を送ろう。
そして、その程度の強さでは自分を倒せても、大魔王ゾーマは倒せぬという最大級の皮肉を胸の内に抱え逝った。
「戻れるのなら、あの頃に戻りたい」
ああ、よりにもよって、かつて魔王と呼ばれ恐れられたゾーマは過去に戻りたいと願っている。
過去の栄光が、今はもう手元にないと認めてしまっているのだ。
過ぎ去りし日々に思いを巡らせ、あの頃はよかったと懐かしんでいる。
何の疑いもなく、死体の山を築いていたあの頃を。
胸を張って自分は魔王だと信じていられたあの頃をだ。
当てどなく彷徨うバラモスは、自然と誰もいないような場所へと足を運んでいた。
585
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 03:58:46 ID:yJkiwlng0
「何者だ!」
「ひぃっ!」
しかし、こんなとこにも人がいたようだ。
口から心臓が飛び出してきそうなほどに、バラモスは驚いた。
いや、それは人ではなかった。
バラモスは見たことない種族だが、ドラゴンの亜種だろうということはすぐに分かった。
戦闘を終えた後なのだろうか、手負いといった表現が似合う状態だった。
魔竜アンドレアルの名を持つ紫竜は、語気を鋭くしてバラモスに詰めよった。
「ワ、ワシはバラモスだ……」
バラモスは人間でなかったことに安堵する。
人間と魔族は敵対している関係上、どうやっても戦闘は避けられない。
しかし、同じ魔族ならば話は通じるのだ。
「魔族か……我が名はレミール」
対して、レミールはムシの居所が悪い。
エビルプリーストに臣従を迫られ、否応の余地なく殺し合いに放り込まれ。
新たに使えると決めた主を守るどころか石にされてしまい。
転落の人生と言ってしまえばそれまでだが、バラモスと似たようなものだ。
しかし、レミールは武人としての誇りを未だ失ってはいない。
悲観するにはまだ早いと決めているのだ。
両者の違いはここにある。
「よかったぞ……ここには恐ろしい小鬼がおってな、難儀しておったとこだ」
「ほう?」
そして、この二人の最も大きな違い。
それはベクトルの向いている方向だ。
方やエビルプリーストに反旗を翻す武人、方やエビルプリーストに尻尾を振るしかないと考える魔王。
「どうじゃ、ともに戦わぬか?」
バラモスの考えたことはこうだ。
かつて勇者アスナが四人がかりで魔王バラモスに挑んだように、今度はバラモスが徒党を組めばよいと。
他人の力を借りるなど魔王を名乗った者として屈辱だが、背に腹は代えられない。
他のモンスターと力を合わせれば、あの小鬼だってきっと倒せる。
「かつてワシを打ち破った勇者の小娘もおるのだ。 きっとお主とて一人ですべてを倒すのは不可能」
言葉に熱が篭り始めた。
口にすると、自分の考えた策がいかに効率的かも分かる。
自分より強い人間がいようと、数で勝ればどうとでもなるのだ。
トラウマを植え付けられそうになっているのなら、克服してみせようじゃないか。
そしてバラモスはかつての自分を取り戻し、もう一度世界を蹂躙するのだ。
「エビルプリースト……いやエビルプリースト様にお仕えするためにも、お互い生き延びようぞ」
ただ一つ、誤算があるとすれば。
レミールはジョーカーでありながら、エビルプリーストに対して明確に反旗を翻している魔物だということ。
「エビルプリースト、様……だと?」
586
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:00:26 ID:yJkiwlng0
そんなレミールに対して、最も言ってはいけない言葉を言ってしまったことにバラモスは気づいていない。
地雷原のど真ん中を踏んでしまったことに、バラモスは気づくはずもない。
魔族、というだけですでに自分側の立場だと決めつけてしまっているのだ。
よって、次のレミールの行動はバラモスには予測が不可能。
レミールの返答は、『一族』による制裁だった。
「もう一度言ってみるがいい!」
「なっ、ぐああああああああああああ!」
どこからともなく現れたレミールと同じ紫竜。
体格はおろか顔つきまで、何から何まで同じのレミールが現れたのだ。
目の前にいたレミールと、増殖したレミールによる三重奏の攻撃。
一匹はバラモスの頸動脈に食いつき、もう一匹は右足の大腿部に、残る一匹が左手に噛みつく。
「エビルプリースト様だと? あのような簒奪者に忠誠を誓うというのか!」
もちろん、バラモスにそんな事情は知る由もない。
ただ、より強い力を持つ者に従うという、シンプルな理論だ。
しかし、それを喋った相手が不味かった。
魔族の中でも特にピサロへの忠誠心が強かったレミールに、それを言ってしまえばこうなるのは必定。
バラモスは運が悪かったとしか言いようがない。
「や、やめ……ゴボッ!」
三体がそれぞれの意思を持ち、怒りと鬱憤を晴らすかのようにバラモスの肉を食いちぎる。
激痛にのたうち回ることもできず、一方的に攻撃を受けるだけだ。
絶叫すらも、喉からこみ上げる血液にかき消される。
三匹の首が別々の方向にバラモスを引っ張り、バラモスの肉がちぎれ落ちる。
皮膚はおろか肉さえも食いちぎられたバラモスは、ところどころに骨すら見え隠れしていた。
自業自得と言えばそれまでだが、あまりにも凄惨な光景だった。
(こんな……こんなことが……)
理不尽過ぎる。
バラモスの思いはそれだけだった。
声をかけた魔物がエビルプリーストに牙を剥く存在だったなどと、誰が想像できよう。
敬愛する大魔王ゾーマはあっさり殺され、自分よりもはるかに強い人間がいて、仲間だろうと思っていた魔族も襲い掛かってきて。
一体どうすればよかったというのだ。
一体何をすれば、かつての自分を取り戻せていたというのだ。
抵抗することもままならず、レミールに噛みつかれる度に、バラモスの大事な何かが無くなっていくのを実感する。
憎かった、自分からすべてを奪ったありとあらゆる全てが。
勇者アスナにやられた、誇り高き魔王として死なせてくれなかった全てが。
もはや指一本動かすことすらままならない魔王バラモスは、最後に憎悪を抱えたままその命を終えようとしていた。
たった一つ、胸に抱いた憎悪を手土産にし、バラモスは地獄へと再び堕ちていく。
全身の臓器はその機能を停止し、今ここに魔王バラモスは二度目の死を迎える。
【バラモス@DQ3 死――
587
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:02:25 ID:yJkiwlng0
――救ってやろうか?――
もはや風前の灯となっていたバラモスの脳裏に、はっきりと何者かの声が聞こえてきた。
いや、何者か、などではない。忘れるはずもない。
バラモスはこの声の正体をはっきりと知っている。
自分をこんな状況に追いやった憎き元凶、エビルプリースト本人だ。
――簡単な事だ。その苦しみから救ってやろうというのだ――
ふ、ざ、け、る、な。
バラモスは霞のかかった脳内で、その言葉を必死に絞り出す。
この男のせいで、すべてを失ったも同然なのだ。
その男が今更出てきて、こんな惨めな思いをさせた癖に、救ってやるとは何様だと。
救うというのなら、すべてを元に戻してみせろと。
死の直前を迎えている自分の傷を癒したところで、何の意味もない。
この心に刻まれた、絶対的な敗北感は消えたりしない。
戻すのなら、何もかもを戻さなければいけないのだ。
――ああ、もちろんだとも。元に戻してやろう――
588
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:03:20 ID:yJkiwlng0
バラモスの中に、熱い何かが芽生えるのを感じた。
煉獄の火炎よりもなお熱いそれは、バラモスの体全体に火をつけたかのように感じられた。
これは断じて癒しの光などではない。
禍々しいだけの何かであり、少なくともバラモスの想像していたものとは100%違う。
バラモスは心の中で絶叫を上げた。
(ク、オオッオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!)
もしも、バラモスの声帯がまだ生きていたのなら、おぞましい断末魔の叫びを上げていただろう。
変わる。何かが変わっていく。
バラモスの中の何かが、変異している。
骨がむき出しの脚部でも歩行ができるように。
いくら出血しようと行動の妨げにならないように。
あらゆる恐怖心を無くし、本能のままに動けるように。
バラモスの意思さえ消し去っていく。
失ったものを補うように、闇の力が増していく。
そこに残ったのは、純粋なる殺戮と破壊の欲求。
そして、かつてバラモスだったものの残骸と、それを動かすナニカ。
――さあ、これで元通りだ。何一つ疑問に思うこともなく、己が暴威を示していたあの頃に戻れただろう?――
これこそがエビルプリーストによる救済。
――お前は無敵の存在だ。恐怖心を無くした今のお前なら、トロデ王にも遅れはとるまい――
元々、バラモスにはそういう『仕込み』がしてあった。
最初からこの魔王は『再利用』されることが決まっていたのだろう。
エビルプリーストはそれを活用させてもらっただけだ。
そう、バラモスとして死んだ後も、伝説の三悪魔の一角として、ゾーマの居城を守護するはずだった存在。
その名を――
589
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:03:53 ID:yJkiwlng0
――さあ、行くがいいバラモスゾンビ。まずは裏切り者を抹殺しろ――
バラモスゾンビ。
言葉もコミュニケーションも通じない、最悪のモンスターの誕生の瞬間だった。
◆ ◆ ◆
バラモスが完全に沈黙し、動かなくなったことを確認したレミールは『一族』を消して単独に戻った。
ゲマとの戦いも癒えてない状態だ。
『一族』すべてをまた戦闘ができるように回復するには長い時間がかかる。
その判断が仇となった。
今度はレミールの首にバラモスゾンビが噛みつく。
「バ、バカな!確かに死んだはずッ!!」
つい先ほどまで血だらけで伏していた存在に、ここまでの力がどうやって出せるというのか。
力まかせにバラモスゾンビを剥がそうとするができない。
とてもじゃないが、死にかけの存在の出せる力ではなかった。
「貴様は一体……ッ!?」
「クワアアアアアアアアアアアアアッ!」
言葉を操る知能さえ失われたバラモスゾンビだが、その代わりに得た腕力はそれを補って余りあるほどのメリットだった。
レミールはバラモスゾンビの首根っこを掴むと、適当な方向へ投げ飛ばす。
それでようやくレミールはバラモスゾンビの攻撃から逃れることができた。
しかし、受けたダメージがあまりにも大きい。
『一族』を呼びだすのさえ、ままならないほどだった。
そして同時に、ようやくレミールはかつてバラモスだったものをその目に捉えた。
(どう考えても普通ではない!)
かつて瞳があった場所には煌煌と暗い光が宿り。
むき出しの骨がところどころに見え隠れするというのに、意に介さず歩き。
それはまさにゾンビの名にふさわしき形相だった。
何かしらの超常的な力が働いてるとしか思えない。
そして、レミールのその推測は当たっていた。
高熱のガスを噴き出し、レミールは今度こそバラモスゾンビを倒そうとする。
防御行動すら取れず、バラモズゾンビに直撃した。
590
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:04:43 ID:yJkiwlng0
肉の焼ける匂いが充満する。
残っていたバラモスゾンビの衣服を完全に燃やしつくしてしまった。
なのに、痛覚すら消え失せたバラモスゾンビには効かない。
いや、効いているのだ。効いてはいるが、バラモスゾンビはその歩みを止めない。
痛みを感じる。恐怖におののく。そういった感覚や感情は邪魔だとエビルプリーストに取り除かれているのだ。
骨だけになった左手をバラモスゾンビが振るう。
レミールがそれ両腕をクロスさせてガードするが、勢いを殺しきれない。
それどころか、ガードした両腕の骨が折れたではないか。
(バカな!)
筋肉の無くなった骨だけに出せる力ではない。
骨の固さだけでこの威力は出せるものではない。
闇の力で強化されたバラモスゾンビの力は、ありとあらゆるモンスターの中でもトップクラスの威力を持っていた。
「ギイイイイイイイイイイイイィィィィ!」
射程圏内に入ったバラモスゾンビのラッシュ。
殴る、蹴る、噛みつく、ツメで引っ掻く。
それらがない交ぜになってレミールへと殺到する。
「ぐっ!がっ!」
本能のままに振るわれるバラモスゾンビの攻撃に手加減の余地はない。
そのすべてが全力であり、フルスイングだ。
反撃が反撃にならない。
レミールが尻尾を振るってバラモスゾンビに当てても、バラモスも同時に爪で引っ掻いてくるのだ。
痛覚のあるレミールの方が、結果として大ダメージを受けている。
攻撃を当てても、破壊の欲求だけで動くバラモスゾンビのカウンターが毎回飛んでくるのだ。
レミールは完全なジリ貧だった。
――気に入ってくれたかな、アンドレアル? いや、今はレミールだったか――
レミールの脳裏に忌々しき声が響く。
(貴様!やはり貴様の仕業か!)
レミールの現在の主君だ。あくまでも名目上のだが。
主君と仰いだことなど一度もないが、敗北してしまった以上そうなるのが魔族の道理。
――お前は人間を殺すどころか、人間の仲間になろうとした――
――おまけに保険のための復活の玉すらそうそうに使ってしまうザマだ――
――更生するならこれまでの不敬も不問にするとこだったが――
――ちょうどいい手駒を見つけてな。お前に代わって仕事をしてもらおう――
――という訳で、お前の処分はこのバラモスゾンビがやってくれる――
591
:
バラモスの憂鬱/救済
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:05:05 ID:yJkiwlng0
――その絶望の魂をわたしの復活のための供物にしてもらおうか――
その言葉を最後に、エビルプリーストとの声は途切れた。
要するに、レミールは用済み宣言を受けてしまったのだ。
(お、おのれエビルプリースト……私は絶対に貴様を許さぬゾォォォ!!)
エビルプリーストの高笑いしているところが容易に想像できる。
しかし、吠えるだけの力はもはやレミールにはなかった。
動かなくなったレミールに、バラモスゾンビがさらなる追い打ちをかける。
ついにその手がレミールの胸部を貫くと、心臓までも破壊する。
バラモスゾンビはレミールに倒れることすら許さず、その腕でレミールの体を持ち上げる。
破壊衝動を満たしたバラモスゾンビの次なる欲求は、どん欲なまでの食欲。
(主殿……ピサロ様……)
ぐちゃ。
ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
(無念……)
その音は自らの体を食うバラモスゾンビの咀嚼の音。
それに気づくことなくレミールが逝けたのはある意味幸福というべきか。
破壊と殺戮の化身、バラモスゾンビによる惨劇は、まだ始まったばかり。
かくして、最強最悪のジョーカーがここに誕生したのだ。
【レミール @JOKER 死亡】
【残り70名】
【I-2/森/1日目 昼】
【バラモスゾンビ@DQ3】
[状態]:HP8/10 MP2/3
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:殺戮と破壊
※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます
592
:
◆CASELIATiA
:2016/04/25(月) 04:07:11 ID:yJkiwlng0
投下終了しました
見れば分かる通り
①主催介入ってありなのか
②バラモスゾンビってありなのか
この二点です。
この二つについて皆様の意見を伺いたいと思います
593
:
ただ一匹の名無しだ
:2016/04/25(月) 06:19:00 ID:rJqXEe.A0
投下乙です
エビチリさんに関しては、ジョーカー関連だから出てきたってことと、バラモスがコミュニケーション不可能な状態で他キャラには介入が分からないから大丈夫だと思います
3パーティもみんな遠くにいるからおかしいってすぐに気付けるキャラはいませんし
駒が使えなくなったから取り替えるという理由も納得いきますし、
他のジョーカーも大体強化されているので、新たな駒であるバラモスも元の状態から変わっても筋は通るかと
私は通しでも問題ないと思います
594
:
ただ一匹の名無しだ
:2016/04/25(月) 07:57:37 ID:GBBLmFyM0
乙です
あまりにもジョーカー離反が多いし海老プリンスが手駒を増やそうとしてもおかしくないかと
問題無いと思います
595
:
ただ一匹の名無しだ
:2016/04/25(月) 17:46:03 ID:W1fiBNyY0
同じく
問題ないと思います
596
:
◆OmtW54r7Tc
:2016/07/02(土) 22:04:27 ID:ZbUvWf.A0
本スレないのでこちらに投下します
597
:
対策、新たなる姿
◆OmtW54r7Tc
:2016/07/02(土) 22:07:46 ID:ZbUvWf.A0
「あ、あの、マーサさま」
「なんですかパパス」
マーサとパパス――いや、ゲマとカンダタは、山を下りるべく西に歩を進めていた。
二人が目指すのはこの近くにある街、トラペッタ。
その途上、カンダタがゲマに声をかけた。
「その…この変装と偽名、やめた方がいいんじゃないかなって…」
「なんですって?」
「ひ、ひいいいい!すみませんすみません何でもないです!」
ゲマに凄まれ、慌てて平身低頭して謝るカンダタ。
そんなカンダタのプライドのない姿を気に入らないと感じつつ、ゲマは口を開く。
「…一応聞きましょう。何故やめた方がいいとおっしゃるのか」
「は、はい。その…正直、今のままじゃ他の参加者と出会う度に不審がられるんじゃないかって思いますぜ」
カンダタの言い分はこうだ。
現在、ゲマはマーサの姿と名前を借りて行動している。
カンダタはパパスの名を借りている。
しかし、この殺し合いの参加者には顔写真つきで名簿を全員に渡されている。
つまり、マーサという人物の名前、あるいは姿を持った参加者がいないことを全員が知っている。
そして、カンダタもパパスも名前と顔が割れているのだ。
「ですから、このまま他の奴らに接触したら、さっきみたいに不審がられて、正体を見破られちまうんじゃないですかねえ」
「ふむ…確かに一理ありますね」
カンダタの話を聞いて、ゲマは腕を組む。
なるほど確かに、彼の言う通り先ほどはデボラによってあっさり正体を見破られた。
そして、一度失敗したやり方を性懲りもなく繰り返すのは、愚者のすることだ。
彼の言う通り、やり方を変えるべきかもしれない。
「となるとさて、どうしましょうか」
変身を解き、素顔をさらすというのはダメだ。
元の姿では殺気を隠すことが難しく、不審を与えることになる。
それに、改めて名簿を見てみれば、デボラ以外にも彼の夫や彼らの息子、娘などの姿がある。
彼らから自分の悪評は広まっているはずだ。
598
:
対策、新たなる姿
◆OmtW54r7Tc
:2016/07/02(土) 22:09:24 ID:ZbUvWf.A0
となると他の参加者の姿を借りるべきか。
だが、出会った参加者が別の場所で化けた人物に出会っていたり、あるいは化けたその人当人と出会った時、面倒になる。
そうしてしばらく考え込んでいた時、ふと、自身の持つ袋が目に入った。
そう、先ほど石化したデボラを入れた袋を。
「…なるほど、その手がありましたね」
ゲマは変化の杖を使い、再び姿を変える。
マーサだったその姿は、たちまちデボラへと変わってしまった。
「これなら、大丈夫でしょ」
デボラの口調と声色をまねて、ゲマは言った。
デボラは現在ゲマが持つ袋の中におり、この先他の参加者が彼女と遭遇するということは起こり得ない。
そして、彼女が石化前に出会ったのはおそらくはあの紫竜と自分達だけ。
他から情報が伝わっている可能性は低い。
故に、この姿なら不審に思われる可能性はかぎりなく低いという事だ。
もっとも、デボラが正体を見破ったように、彼女の夫のアベルや息子、娘たちは自分の変装に違和感を感じ取って正体を見抜いてしまうかもしれない。
しかし、もしそうなったとしても問題はない。
なぜなら今の自分には、【本物のデボラ】という人質がいるのだから。
(いやはや家族愛とはすばらしいものですねえ…こんなにも利用価値があるのですから!)
かつてアベルを人質にされてパパスが全く抵抗できなかったように。
石化したデボラの姿を見せれば、彼らは従順に自分に従ってくれるだろう。
「それじゃ、行くわよ」
「あ、あの…俺の名前は」
「ああ、そういえばそっちの問題もあったか。ったく、下僕のくせに面倒かけてんじゃないわよ」
出発を再び邪魔されたことに内心気に入らないと感じつつ、デボラに扮したゲマは面倒くさそうに思案する。
といっても、こっちの問題はすぐに解決だ。
元々彼にパパスと名乗らせたのはただの気まぐれにすぎない。
それが不都合だというなら、やめればいいだけだ。
「しょうがないわねえ、本名名乗っていいわよ。ただし、あたしの事はちゃんとデボラさまって呼びなさいよ!」
「は、はい!デボラさま!」
こうして、デボラに姿を変えたゲマは、下僕を引き連れ再び歩きだしたのだった。
「ところで、あんた名前なんだっけ?」
「カンダタですよっ!」
599
:
対策、新たなる姿
◆OmtW54r7Tc
:2016/07/02(土) 22:09:52 ID:ZbUvWf.A0
【G-1/山/昼】
【ゲマ@DQ5】
[状態]:HP9/10 MP4/5 デボラの姿
[装備]:てっかめん グレイトアックス@ダイの大冒険
[道具]:支給品一式 変化の杖 デボラの石像
[思考]:この殺し合いをぶち壊す。
【カンダタ@DQ3】
[状態]:HP1/2 素顔
[装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ
[道具]:支給品一式 こんぼう
[思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。
【デボラ@DQ5】
[状態]:石化(装備ごと石化しています)
[装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
[道具]:支給品一式
[思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する
※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
(シャナク、万能薬、月のめぐみ等)
600
:
◆OmtW54r7Tc
:2016/07/02(土) 22:10:30 ID:ZbUvWf.A0
投下終了です
601
:
◆.51mfYpfV2
:2016/07/07(木) 22:46:25 ID:reO1xxo20
時間ギリギリになってしまいましたが、投下します
602
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:47:35 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。
この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。
ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。
恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー
ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。
わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。
頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。
「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」
敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。
603
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:48:25 ID:reO1xxo20
「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」
気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。
「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」
譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。
「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」
ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。
「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」
出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。
『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』
大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。
604
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:49:16 ID:reO1xxo20
「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」
例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。
「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」
言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。
「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」
生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。
「…………」
我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。
そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。
「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」
最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。
605
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:49:55 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」
自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?
目の前の姫は、奪った命を背負えているか?
「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」
ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。
「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」
やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。
「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」
ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。
(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)
「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」
無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。
606
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:50:39 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」
地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。
「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」
海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。
「私たちが意識するべきことはみっつ。
ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」
地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。
「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」
次に、と言いながら指を動かす。
「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」
最後に東に指を滑らせる。
「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」
607
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:51:21 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。
「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」
追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。
「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」
言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。
身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。
(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)
チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。
我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。
(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)
もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。
608
:
命の重さ、愛の固さ KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:52:07 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」
一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。
「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」
二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。
そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。
【G-4/平原/昼】
【ローラ姫@DQ1】
[状態]:ショック
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
アレフに会いたい
【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。
609
:
KinniSSM
:2016/07/07(木) 22:52:47 ID:reO1xxo20
以上で投下終了です。
指摘などがあれば、よろしくお願いします。
610
:
◆.51mfYpfV2
:2016/07/07(木) 23:14:11 ID:reO1xxo20
すみません、トリップミスしてしまってたので、新しいトリップで投下し直します
611
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:15:40 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。
この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。
ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。
恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー
ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。
わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。
頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。
「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」
敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。
612
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:16:38 ID:reO1xxo20
「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」
気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。
「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」
譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。
「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」
ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。
「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」
出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。
『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』
大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。
613
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:17:19 ID:reO1xxo20
「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」
例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。
「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」
言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。
「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」
生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。
「…………」
我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。
そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。
「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」
最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。
614
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:17:57 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」
自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?
目の前の姫は、奪った命を背負えているか?
「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」
ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。
「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」
やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。
「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」
ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。
(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)
「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」
無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。
615
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:18:54 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」
地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。
「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」
海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。
「私たちが意識するべきことはみっつ。
ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」
地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。
「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」
次に、と言いながら指を動かす。
「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」
最後に東に指を滑らせる。
「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」
616
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:19:30 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。
「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」
追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。
「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」
言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。
身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。
(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)
チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。
我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。
(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)
もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。
617
:
命の重さ、愛の固さ
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:20:35 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」
一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。
「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」
二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。
そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。
【G-4/平原/昼】
【ローラ姫@DQ1】
[状態]:ショック
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
アレフに会いたい
【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。
618
:
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/07(木) 23:21:33 ID:reO1xxo20
改めて、投下終了です。指摘などあればお願いします。
この度は初歩的なミスすみませんでした。
619
:
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 22:56:38 ID:hs45yPTo0
予約分を投下します
620
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 22:57:31 ID:hs45yPTo0
瓦礫の崩れる音が収まり、トラペッタには不気味なほどの静寂が訪れる。
皆の待つ門へと向かう足取りは重く、しかし小さな足音はやがて事実を伝えるだろう。
ギガデーモンを倒したこと。そして。
「エルギオスとドラゴンは、死んだ」
ナブレットが告げると一同はそれぞれに表情を歪ませた。
ぼろぼろと涙をこぼしていたサンディがナブレットに向き直る。
見ている方が苦しくなるような悲痛な表情で、悲しみと怒りの感情がないまぜになった瞳で、サンディはナブレットを睨む。
「……どうしてよ!」
――あァ、近しいヤツを喪うのはツライよな。
「みんなで戦えば何とかなったかもしれないのに、」
――決意を胸に秘めてこっちにゃ背中しか見せてくれなくってよお。
「この門が使えないことを知ってたら置いて行ったりなんてしなかったのに!」
――気付いた時には遅いんだ。だってそうだろ? もう会えなくなるなんてこっちは思いもしねえんだから。
「なのに! 自分だけ無傷で安全なところにいて! 見届けたなんてエラそうなこと言っちゃってさ! そんなの……」
――だから、サンディ、よしてくれよ。
「見届けた? 見殺しにした、の間違いでしょ!!? アタシはそんなヤツゼッタイに――」
――そうやって俺を責めるフリをして、
「――ゼッタイに許さない!! 一生、何があっても許したりしないんだから……!!!」
自分自身を、責めるってのは、よ。
やり場のない喪失感に、誰も、何も応えられずにいた。
泣きじゃくりながら勢いのままに罵倒の言葉を吐き捨て、サンディはその場から逃げるように飛び去っていった。
621
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 22:58:19 ID:hs45yPTo0
「ゲルダ。お前も傷だらけのところ悪いが、ガボたちを休ませてやってくれるか」
「それは構わないけど……。あのコ、大丈夫なのかい」
「ああ、俺が探してくる。見捨てるわけにはいかねえだろう。……俺にも一つ、思うところがあってな。二人で話がしたい」
ナブレットは表情を隠すようにシルクハットをかぶりなおした。
「ただ、これだけドデカい戦闘をやってのけたんだ。
乗じて新たな敵襲が来るかもしれない。その時は構わず逃げてくれ」
「……わかったよ。そこの宿屋の二階にベッドがいくつかあったはずだ。アタシたちは一旦そこで休むことにする」
ゲルダはサンディが脱ぎ捨てた知識の帽子を拾い上げた。
飛び去ったサンディを追うために、ナブレットはもう一度北の階段を駆け上がる。
……アタシはなんてバカなんだろう。
ぜんぶ、ぜんぶアタシのせいなのに。
皆で逃げようとしたときにダンチョーさんが何か言いかけてたことにも気づいていたのに。
賢くなったつもりで、舞い上がって、このまま何もかもウマくいくんだって信じ切って、思いこんで。
それを人のせいにして、喚いて、怒鳴り散らして。
逃げ出して、こんな路地裏の隅っこに引っ込んで、拗ねたり泣いたりして。
サイテーじゃん、アタシってば。
膝を抱えて座り込むアタシにふっと陰が差す。
シルクハットをかぶった黄緑色の小さな体。
「……妖精は井戸のそばにいるってのは本当なんだなあ」
「何よ、ソレ」
「メギストリスって都の噂話さ。井戸には話好きの妖精が住んでいるんだと」
「そんなの知らないし、キョーミない。っていうかコッチこないでほしいんですケド」
ホラ、こうやって心配かけて、悲劇のヒロインぶって。また当り散らしてる。
あれだけ酷いコト、言ったのに。
もー、ぐっちゃぐちゃで、ワケわかんない。
622
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 22:59:27 ID:hs45yPTo0
「――サンディ。俺が憎いか」
「…………」
「お前の言った通りだ。俺は何もできなかった。
犠牲を出さずに……ってのはどのみち無理だったろう。それは退却を選んだお前さんの方がよく分かってるよな。
けど他にやりようはあったかもしれない。少なくとも、お前に悔いが残らない道ってのはあったはずだ」
「分かったようなこと言わないで。……もういいでしょ、ほっといてよ。ヒトリになりたいの」
「いいや放っておけねえよ。遺されるヤツの辛さってのは俺も知ってるんだ。だからお前をこのままにしておきたくない」
――俺のわがままだがちょっとした”昔話”を聞いてくれるか、とナブレットは前置きをして話し出す。
ナブレットには年の離れた妹がいた。この話は二人が暮らしていたオルフェアの町で起こった話。
妹には生まれつき不思議な力があった。それは未来を見ることのできる予知能力。
だがプクランド大陸の破滅を目論む悪魔に目をつけられ、やがてあらわれるプクリポ族の救世主の存在を予知するよう強要をされた。
「予知をしなければ町中の子供を食い殺すと脅された。
だが当時――十五年前にはまだ救世主は生まれていなかったんだ。それを知った妹は悪魔と契約を交わした。
救世主が生まれるまでの十五年のあいだは、絶対に子供たちに手を出すなと。
そのかわり、十五年経てば、救世主だろうがなんであろうが子供たちを好きにして構わないからと」
そして十五年後の約束の日。
悪魔の手の届かない場所に子供たちを隠してしまうこと。それが妹からナブレットに託された役割だった。
サーカスの特別講演と称して町中の住民を集め、イリュージョンを使い子供たちをさらった。
そして『異世界』の扉の中に隔離し、妹の予知の通りに現れた冒険者、ジャンボとともに悪魔を討伐したのだ。
「……ずいぶん勝手な妹サンね。
子供たちを守るなんてゴリッパだけど、アンタに面倒事を押し付けて、そんな強引なことをさせるなんてさ」
「まあそりゃあな。その頃には妹はいなかったんだ。――なにせそれよりも五年ほど前に死んじまったからな」
「え……」
プクランドに迫る危機は、その悪魔だけではなかった。
そして妹はもう一つ不思議なチカラを持っていた。
『異世界』の中でとある者に授けられた「何でも願いがかなうノート」
ただし願いをかけるのは3つまで。そして最後の願いごとを書いたとき……ノートの持ち主は破滅し、無残な死を遂げるという。
「何ソレ……じゃあアンタの妹さんは……世界を救うためにそのアイテムを使って、自分を犠牲にしたとか……そういうコトなの?」
「…………。
それが、わからねえのさ。知らねえんだ。
アイツが最後に何を書いたのか。そもそもどんな願い事をしようとしていたのか。アイツは何も話しやしなかった……」
623
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:00:34 ID:hs45yPTo0
……。同じだ。
たった今、エルギオスたちも、逝ってしまった。アタシには何も言わずに。
「運命ってなんだ? 使命ってなんだ? 俺たちはごく普通のただの兄妹だった。
少なくとも神サマや精霊サマからなにか大それたモンをたまわるなんて存在じゃあなかった。
なのにどうしてアイツが命と引き換えにそんなことをしなくちゃならなかった? 俺にはずっとわからなかった」
「…………」
「アイツの予知どおりに悪魔を倒してやった時、俺は何とも言えない気持ちになってよお。
だってもうアイツはこの世にいないんだぜ。
それに、子供たちを守るためにやったことだなんて言やぁ聞こえはいいが、皆を傷つけたことに変わりはねえ。
町中の住人から責められても仕方ないと思っていた。すべてが終わった後、俺は町を去ろうと決めていた。
そうすることでケリをつけたかったんだ。
いや、消えてしまいたかったのかもしれねえな。何も言わずにいっちまったアイツみてえによ……。けど……」
「……でも。そんなの、ダンチョーさんが悪いわけじゃないじゃん……」
「そう、そんな風にな。子供たちがよお、言ってくれたのさ……」
一人も犠牲にならぬよう、一時的にとはいえ無理やり親元から引き離し、『異世界』の扉の中という得体の知れない場所に閉じ込めた。
怖くなかったはずがないだろう。悲しくならなかったはずがないだろう。それでも子供たちは言ってくれたのだ。
――団長さんを信じてたよ。助けてくれてありがとう!――
――いなくなるなんて言わないで! ボクたちサーカスが大好きなんだ!――
――あんたは子供たちの命の恩人よ。これからも町にいてちょうだいよ!――
「……いやあ、参ったよな。不覚にも涙がこみ上げてきちまってよお。許してもらえたから……それもあるが、それだけじゃなくてよ、」
ナブレットはシルクハットのつばをグイと押さえる。
「アイツにも聞かせてやりたかった……。そして……それは俺からも伝えたかった思いだったと気が付いた。
先に死なれて、俺には心のどこかで納得できずにアイツを許せないような気持ちがあったのかもしれない。
けど子供たちの言葉でわだかまってたものが消えていった。アイツに、ありがとうって、伝えたかった……。だから、サンディ」
上擦った声でそこまで言うと、顔を上げた。
「お前を探しにきたのは同情したからでもただ慰めたいからだけでもない。
伝えたくて来たんだ。――助けてくれてありがとよ。いま俺やガボたちが生きていられるのは、お前たちのおかげだ――」
また、ぼろぼろと涙の粒があふれ出る。
何もできなかったのに。この胸には後悔しか残っていないのに。
自分の思い上がりでみんなを傷つけたと思っていたのに、それすらも思い違いだったっていうの。
「バッカみたい……ホンット、サイテー……」
624
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:01:24 ID:hs45yPTo0
誰かを助けるために自分を犠牲にする。そのためにすべてを失ってしまう。それでも思い通りにいかなくて、また傷ついて。
思い浮かぶのはアークの姿だ。アイツ、今どこでどんな顔をしてるの。
ナブレットはぐしゃぐしゃの泣き顔を覆うように、シルクハットをかぶせてくれた。
「……話のオマケだ。俺はよ、昔、シルクハットじゃなくてコック帽をかぶってたんだ。本当はケーキ職人だったんだ」
「え、それがどうしてサーカスのダンチョーさんになっちゃったわけ?」
「妹が言ったんだよ。――子供を集めるのにはケーキもいいけどサーカスなのっ!ってな。
おかげで、曲芸のきの字も知らなかった俺が今じゃアクロバットスターなんて呼ばれててよ。まったく無茶なこという妹だったぜ、はは」
人生なんてどうなるかわからねえよな、と困ったように笑う。
それは少し照れくさそうな笑顔でもあって。
「何よソレ。……あはは、ダンチョーさんの妹さんって、ソートーな変わり者だったのね……」
――アタシもこんな風に笑える時が来るのかな。今は全然できそうに思えないケド。
「昔話はここまでだ。他のやつらには話すなよ? おおっぴらに語るようなことじゃねえしな。さて、ちょっとは気が紛れたか?」
「うん……ゴメンナサイ……アタシ、謝んなきゃ。ダンチョーさんにも酷いコト言って、みんなにも……けど……」
「ん?」
「今よりも、もっと。グシャグシャな顔になっちゃうかもだけど。それでも行かなきゃ……南の広場に」
見に行かなきゃいけない。向き合わなきゃいけない。
エルギオスたちが遺してくれた思いを受け止めなきゃ。
でなきゃきっと、ずっと後悔したままでいることになる。それだけは絶対に、イヤだ。だから。
「そうか。辛くなったら、俺の胸でいいなら貸してやるぜ」
「や……それはエンリョしとくワ。そのかわりこの帽子はもうちょっと借りておくわね」
「ははっ、そうしろい。……ううっ、今自分でもガラじゃねえこと言っちまって鳥肌がたってらあ」
二人は路地裏から広場へと向かった。
崩れた瓦礫、焼け焦げた炎の跡、血飛沫。
段上から見える戦闘の痕跡はサンディの想像以上に酷いものだった。
サンディはシルクハットを握り締めてひとしきり泣いた。ナブレットは何も言わずただ寄り添った。
泣きじゃくる声の間から、感謝を告げる言葉が小さく聞こえた気がした。
625
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:02:48 ID:hs45yPTo0
どのくらいの時間、そうしていただろうか。近づく気配に気づきナブレットは振り返る。
「なんだ? お前ら宿にいるんじゃなかったのか?」
「この子たちがどうしてもって聞かなくてね」
ゲルダとともにホイミンと、ライアンに背負われたガボが広場へとやってきた。
「おっちゃんありがとう。ここで下ろしてくれ」
「ガボ、大丈夫なの? 足、ひどいケガしてるのに……」
「ああ、ホイミンもありがとうな。けど背負ってもらったままじゃカッコがつかねえから」
全員が弔いに来たのだ。エルギオスとゴドラ、自分たちを守ってくれた二人を。
頷いたライアンはガボを下ろす。
と、同時にサンディに向き直り頭を下げた。
「サンディどの、すまない。皆も、私を助けようとしてくれたばかりにこのようなことになってしまった!
しかし、なんと詫びればよいのか見当もつかないのだ……」
「チョ……やめてよね。アンタに謝ってほしいなんて思っちゃいないわよ。そうじゃない、そうじゃなくて……。
謝んなきゃいけないのはアタシのほうよ! ゴメン、みんな、みんな一緒に戦ってくれたのに、あんな取り乱して……アタシ……」
消沈してサンディが俯くと、今度はガボが声を張り上げた。
「サンディ、オイラもだぞ!
オイラがちゃんとぼうぎょできてたらみんなに加勢できてたんだ。そしたらちゃんとやっつけられたかもしれない!」
「ぼ、ぼくも! ライアンさんを助けるのに必死で、もっとまわりに注意できてたら……」
さらにホイミンが弱々しくふるえた声で後悔を口にする。
やれやれ、とゲルダも頭を振った。
「……こういうたられば話ってのは性に合わないが、この際吐き出しちまうべきなのかもね。
アタシも見通しが甘かったよ。
この町を脱出するルートは限られてたんだ。一番知っていたのに、アンタに全部丸投げした。その責任は感じてる」
「な、なによソレ。やめてよ……みんな……一人で泣いてたアタシが、マジダサイじゃん……」
しゅんと落ち込むサンディの姿に困った笑みを浮かべるナブレット。
「顔を上げようぜ。おんなじなんだ。皆、こいつらにもらった命だ」
626
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:03:45 ID:hs45yPTo0
表情を引き締め彼は皆へと伝える。
エルギオスとゴドラの勇姿とその思い。
打ち明けた最期の決意を、全員が胸に深く刻み込み、彼らを追悼した。
***
「さて、これからどうしようか」
各々に共通する目的。
ライアンはユーリルを、ゲルダは元の世界の仲間たちを、ナブレットはジャンボを、そしてサンディはアークを探すために行動していた。
そしてガボとホイミンは『みんな友達大作戦』をかなえるためにできるだけ多くの参加者を集めたいと思っている。
トラペッタを拠点にできればと考えていたが、今の戦闘で半壊してしまった。
さらにこの惨状。ギガデーモンの巨大な死体が残るこの場所が目的に適しているとも言い難い。
一同は地図を眺めながら頭を悩ませる。
「ここを離れることも視野に入れた方が良さそうだ。
だが今から拠点を移るにしても、どこも距離がある。ゲルダ、どうだ?」
「そうだね……南の洞窟の滝の上には粗末な小屋があるだけで、何より逃げ場がないから却下だ。
リーザス村まで行くとなると、木の多い一本道を橋を渡って行かなきゃならない。
着いたところで出入りは西か東かの二択。もしどちらかが塞がれれば、結局今回と同じことになっちまうだろう」
「なら、西にあるトロデーン城が一番いいのか。しかし、この場所もどん詰まりだな」
「だが人が集まりそうなトコロってんなら最有力候補だよ。だけど……」
ゲルダが言いよどむ。
「ナブレット。大事な事を言うよ。――アタシの地理感覚をあまり過信しない方がいいかもしれない」
「どういうことだ?」
「ここから城に繋がる橋。これは昔とあるバカがぶっ壊して無くなっちまったはずなのさ。だが地図には記されている……」
「それって、この地図がニセモノってこと?」
「エビルプリーストがオイラたちをだまそうとしてるのか?」
ホイミンとガボが率直な疑問を口にする。
「いいや、違うね。きっと橋は”存在してる”。……おかしいのさ。この町にはもともと火事で全焼した家があったんだ。
宿からここに来る道の途中にね。だがその家は、今”存在してる”んだ……。さっきこの目で確認したよ」
「――やっぱりこの世界は作り物、エビルプリーストにとって都合のいい『異世界』ってわけか」
「……それについては、ギガデーモンにも同じことが言えよう。
私はかつて勇者殿たちとともに奴を打ち倒した。
もとより巨大なモンスターではあったが、これほどまでに規格外な大きさではなかったはずなのだ……」
「それじゃあいつ、エビルプリーストのチカラで本当より強くなってたってことか!? そんなのずりーぞ!」
627
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:04:39 ID:hs45yPTo0
「あーーーーもうっ!!! まどろっこしいったらありゃしないワ!!!」
「サンディ?」
黙って落ち込んでいたはずのサンディが急に叫んだ。
フワリと飛び上がりゲルダの元に近づく。
「……アリガト。アンタが拾ってくれたのネ。アタシもこれ返すから、ソレ、返してもらっていい?」
サンディはシルクハットを差し出し、かわりに知識の帽子を指さした。
ゲルダはサンディからシルクハットを受け取ると、そのままナブレットの頭に戻してやる。
「……わかったよ。約束通りだ。ちゃんと返してもらったからね」
「おいおい、俺は物じゃねえっつったし帽子が本体ってやつでもねえぞ……」
げんなりとするナブレットを尻目にサンディとゲルダはくすくすと笑い合った。
――大丈夫。もうヘコたれてなんていらんない。
勇気を振り絞ってサンディはもう一度、知識の帽子をそうびした。
「……今アレコレ細かいことをあげつらっても混乱するだけだわ。
アタシたちはあいつ――エビルプリーストの都合のいい世界の中にいる。まず前提として考えるのはソレだけでいい」
ギガデーモンのような差し金や世界のこともそうだが、あいつにとって都合のいいルールは他にもある。
そう、それはこれから始まる定時放送。
「禁止エリアが発表されるわ。みんな、どう動くかを決めるのはそれからよ」
【G-2/トラペッタ中央広場/1日目 昼】
【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給
品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。
628
:
ともしびのあと
◆HOdC4dGYwU
:2016/07/18(月) 23:05:08 ID:hs45yPTo0
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
ホイミンたちを守る
【ガボ@DQ7】
[状態]:HP3/10 腕や背中にいくつか切り傷 全身打撲 両足骨折
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8
[思考]:ホイミンと共に『みんな友達大作戦』を成功させる
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる
【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
アウトロースキル39以上
【ナブレット@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
みんな友達大作戦を手伝ってやる
※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています。
---
以上で投下終了です。
629
:
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:04:26 ID:WY6/oKtc0
投下します
630
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:05:41 ID:WY6/oKtc0
突如として、空気が震えた。
それに続き、肌を叩き付ける膨大な魔力を感じた。
そして竜の咆哮を思い起こさせるような轟音と、脳髄まで刺すかのような凄まじい閃光。
何かがーー否、戦闘が起こっているのだとサヴィオとコニファーが判断するには、十分すぎる光景だった。
やがて元の通り静まり返り、何事もなかったかのように空気は落ち着き、澄ましている。
「今のは……まさか、マダンテか?」
「え、コニファー知ってるの? もしかして、仲間が……」
「いや、俺の仲間にはマダンテを使えるヤツはいなかった。でもよ、その魔法があるってことはよく知ってる」
サヴィオの問いに答えながら、堕天使エルギオスとの戦いの最中、マダンテに何度か痛め付けられたことを思い出す。
膨れ上がり暴走した魔力は叩き付けるように押し寄せ、肌を灼き、コニファーたちを呑み込んだ。
それほど魔力が高いわけでもなければ敏感なわけでもないコニファーでも、枷が外れ、意志もなく暴れ狂う魔力をはっきりと感じ取れた。
寧ろ魔力に敏感ではなかったからこそ、あの凄まじい魔力のうねりが脳裏に焼き付いて離れない。
今しがた目にしたものは、離れていたところで発動したからだろう傷付けられこそしなかったものの、確かにあの時と同じ魔法だった。
「マダンテってのは、使ったヤツの魔力を全部ぶっ放して暴れさせるものらしい。その威力は……言うまでもねぇな」
「そりゃ、あんな光景を見れば分かるさ……ん?」
まだ呪文の使用者は確認できない距離だが、地面が穿たれ、岩肌が抉れているのは微かに見える。
あれだけの広範囲にわたって地形を変えてしまっているのだ、どれほどの威力か説明されるまでもなかった。
顔を引きつらせていたサヴィオは、ふと気付く。
「魔力を全部……だとしたら、あれを放ったのが誰であれ、マズいことになってるかもしれないのか……」
冷や汗を流すサヴィオに、コニファーは黙って頷く。
ゲームに乗る気のない者が襲撃者をマダンテで撃退したというだけなら、問題はない。
しかし、撃退できていない場合、マダンテの使用者は魔力もなしに戦闘を続けることになる。
逆に襲撃者がマダンテを使ったのだとすると、生存者がいたとしてもかなりの重傷は免れない。
最悪のパターンは戦闘がゲームに乗った者同士で行われていた場合だ。
「でもよ……」
ぽつりと呟いて、コニファーは来た道を振り返る。
その向きは南。パパスとイザヤールが向かった方角だ。
「旦那たちに危険な役割を受け持ってもらってんだ。後戻りなんてしたら……示しがつかねぇさ」
「……ま、そうだよねぇ。どのみち前進しかないよね」
「なァに、まだ距離はあるんだ。警戒しときゃ、どのパターンでも手は打てるだろ」
「もっと近付く前に気付けて良かったね。はあ……ホント、運が良いのか悪いのか……」
ぼやきつつもいつでも詠唱に入れるように神経を集中させるサヴィオににやりと口角を上げ、コニファーは彼よりも少し前を歩き出す。
パーティを抜けた後のサバイバル生活経験を活かして警戒に当たるのは適材適所というものだ。
援護は頼んだぜ、と小声で呟くと、偵察は頼んだよと返ってきた。
誰かと共に生きようとするのは久し振りだなと、なんとなく思った。
631
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:07:46 ID:WY6/oKtc0
束の間の静けさの後、響いてきた爆音を耳にした二人は、姿勢を低くし、更に慎重に歩みを進めた。
コニファーは弓に矢を番えながら、サヴィオは魔力を練り上げながらマダンテが放たれたであろう場所に近付いたものの、既に再びの静寂に包まれ、戦闘は終わりを迎えていたようだ。
やや安堵して力を抜き、辺りを見回したサヴィオの目は、二人の人影を捉えた。
動く気配のない大きな体躯と……見覚えのある僧衣。
そこにいたのは間違いなく。
「フアナ!」
「あ……」
「サヴィオのお仲間さんか。だが……再会を祝福、というわけにもいかねぇようだな」
フアナを庇うような体勢で灼け爛れ、絶命している大男。
先程聞いたばかりの爆音もあり、何が起こっていたかは想像に難くない。
フアナは焦点の合わない目を見開き、そこに仲間がいると認識した途端涙を溢れさせた。
ふらふらとした足取りで歩み寄ろうとする彼女をサヴィオは慌てて抱き止め、幼子をあやすように頭を撫でてやる。
信頼できる仲間と会えた安心感と、生きた人の温もりを実感してか、ついにフアナは声を上げて泣き出した。
おろおろとするカマエルを抱え、コニファーは二人から少し離れて辺りを警戒し始める。
まだフアナのことを詳しく知らないため、下手に慰めるよりは共に旅をしていたサヴィオに任せた方が良いだろうという判断だった。
いくら経った頃か。漸く泣き声が落ち着き、フアナはぽつりと呟き始めた。
「わた、し……私……」
「うん」
「私……謝ら、なくちゃ……」
「謝る?」
「謝らなくちゃ……いけ、ないのに……いけなかった、のに……」
ズーボーさんに。
そう言って涙に濡れた顔を上げ、もう動かない彼を見る。
あれだけ大きく見えた背中が、連発されたイオナズンによって小さくくすんでしまっていた。
ちょっと大股で歩けば、それだけで乗り越えられそうで、居たたまれなくなる。
「ありがとうって、それしか……それしか言えなくて……」
632
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:08:47 ID:WY6/oKtc0
殺し合いに放り出されてから半日にも満たない時を振り返る。
モンスターと認識したズーボーに襲いかかり、しかしその不可解な行動に戦き逃げ出し、ゼシカやバーバラと出会い。
ヘルバトラーに襲いかかられ、そしてズーボーは何よりも仲間を守る為に戦った。
二人だけでなくフアナもズーボーに守られ、その結果、今こうして生きている。
「モンスターだと思って、信用ならないって突っぱねて、そのくせ、守って、もら……て……」
一旦落ち着いたはずの涙が、またボロボロと溢れ出す。
ゴシゴシと目を擦り、それでもフアナはズーボーをしっかりと見据えて。
「何よりも、謝ら、なきゃ……いけな、かった……のに……私、最低な、こと……」
「……フアナ」
しゃくりを上げ、止めどなく涙を流すフアナに、サヴィオはそっと囁く。
「フアナはさ、正義感が強くて、間違いを許せなくて。でも見栄っ張りだから、自分がちょっと間違えることすらも許そうとしなかったでしょ」
いつだったか、THE・ガマン大会8668で熱い正義の心を手にしたんだと、自慢げに語っていたことを思い出す。
しかし堂々とした態度のその反面、輝かしい数々の経歴をことあるごとに披露するも何故かオチに回ってしまうようなどこか抜けているところを気にしている部分もあった。
「だから、そのズーボーって人のことも、モンスターと思って襲いかかった自分が許せなくて、間違ってないんだって思い込もうとして、突っぱねちゃったんじゃないかな」
こうして再会するまでの様子は見ていないから、分からないけれど。
共に旅をしてきた仲間なのだ、ある程度は予想できる。
「でも、間違えない人間なんていないんだしさ。ありがとうった言えただけでも十分だよ。
それでもフアナは納得いかなくて、謝りたいと思ってる。最低なんかじゃないよ」
「でも……いくら、謝りたい、って、思っても……もう、ズーボー、さんは……ズーボーさん、には……届かないのに……!」
最期まで、バーバラの、ゼシカの、フアナの命を守り続けて、ついには声も満足に出せないほど灼き尽くされて。
ありがとうの言葉すら、届いたかどうか判断できないというのに。
「届くよ、きっと」
フアナの悲痛な言葉にやんわりと返し、サヴィオもズーボーの亡骸を見遣る。
惨たらしく灼け爛れているけれど、微かに分かるその表情を見れば、誰でも思うだろう。
ありがとうは、きっと届いてる、と。
633
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:09:53 ID:WY6/oKtc0
ーーごめんなさいだって、きっと届く。
その言葉に後押しされるように、そっとサヴィオから離れ、ズーボーの傍にしゃがみ込む。
恐る恐る幅のある肩を起こして、改めてその顔を見つめる。
表情全てまでは分からないが、魔障や幾重の爆発に耐え続けた彼の口元はーーそれでもほんの少しだけ、弧を描いていた。
「ズーボーさん……」
ふと、抱き起こす両手がいっぱいに広げられていることに気付く。
彼の亡骸は今も小さくなんてなかった。くすんでなんていなかった。
ならば、小さくなっていたのは、くすんでいたのは。
自分の心、だったのだろうか。
「もう、遅いかも……いいえ、もう、遅いけど……ごめんなさい。
そして、もう一度……本当に、ありがとう」
漸く素直に吐き出せた謝罪と、誰かを守る者への、一番の餞となる言葉を紡ぐ。
「こんな私を……守ってくれて、ありがとう……」
ズーボーをそっと横たえ、フアナは祈るようにその手を組む。
誇り高きパラディンへ黙祷を捧げる中、時折落ちるぽつりという音だけが響き渡った。
やがて手を解くと同時に、泣き疲れたのか精神的に限界だったのか、フアナはぱたりと気を失った。
支える力を欠いた体をサヴィオは慌てて受けとめ、落ち着いた呼吸に安心して息を吐く。
「……フアナ、だったか。そいつ、大丈夫なのかい?」
時折様子を見ていたコニファーが声をかける。
自身も打ちのめされた僧侶が仲間にいるからか、どこか気になるようだ。
やや心配そうな声色の言葉に、サヴィオは曖昧に微笑んでみせた。
「まあ……多分。謝れたことで、フアナなりにケジメは付けられただろうし、その内立ち直るとは思うよ。
でも見栄っ張りでさ、すぐ強がるから。今はこのまま休ませてやっていいかな?」
旅の途中もそうだった。
引っ込み思案なアスナやパーティで一番年若いホープに心配かけまいと、その性格も手伝って、フアナは自分の弱い姿は見せようとはしなかった。
そんな彼女をすぐ起こしたら、また強がるだろうから、ゆっくり休ませてやりたいのだとサヴィオは言う。
コニファーも了承し、平原の端まで移動してから腰を落ち着かせることにした。
フアナを抱きかかえ歩き始める前に、サヴィオはズーボーの亡骸を振り返る。
634
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:12:09 ID:WY6/oKtc0
「貴方のおかげで仲間に会えたのに、ごめんね。フアナが目を覚ましたら、必ず埋葬するから……少しだけ、待っててね」
頭を下げて、今度こそ歩みを進める。
一時的とはいえ埋葬をしないことへの罪悪感と、必ず弔うからという想いを胸に秘めて。
岩壁の付近でフアナを下ろし、彼女のことはサヴィオに任せ、コニファーは再び周囲の警戒に当たっていた。
教会からここまで誰にも出会わず、更には北に城があるということもあって、人が来る可能性は低いだろうとは思うが、それでも念には念を入れておく。
(俺は……生きてるんだよな。こうして、確かに生きてる……)
ちらりと視線をズーボーがいる辺りに投げ掛ける。
コニファーは確かに生きている。こうして立っているのだから。
コニファーは確かに生きている。亡骸と違い、こうして動いているのだから。
コニファーは確かに生きている。
けれど。
(こんな形で生きてるって実感するなんて、な……)
誰かの死によって、生を実感するなんて。
皮肉にしては質が悪い。
(なあ、アーク、スクルド、ポーラ……お前らは、大丈夫か?)
僧侶である彼女の弱った姿を見て。
死を以て生を教えてくれた彼を見て。
コニファーは、かつての仲間たちを思い返す。
アークやポーラの腕っぷしの強さはよく知っているし、スクルドもよく回る頭でパーティをサポートしていた。
そう簡単に死んだりはしないだろうとは思うが、過った不安は消えようとしない。
(お前らの命を犠牲に生きてるって実感するなんて、俺はゴメンだ。
どうか、生き延びててくれよ……)
とにかく生きて、感覚を保つ。その想いに変わりはないけれど。
こんな悲しい形で為し遂げるのは、もうしたくはない。
それも仲間の命で、など。
そんなことを許容できるほど、コニファーの感覚は狂ってはいない。
635
:
魂へと馳せる想い
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:14:04 ID:WY6/oKtc0
(ああ、ほら、また。なんでこんな嫌なことを考えるほど、自分の感覚に安心するんだ……)
がしがしと頭を掻き、目を逸らす。
きっと亡骸を見たばかりだから、気が滅入っているのだろう。
ならば煩わしいことは考えないようにと、警戒に神経を集中させる。
別のことでも、感覚は保てるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、コニファーは弓を強く握り締めた。
【C-4/平原/1日目 昼】
【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
サヴィオと仲間を探す。
【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。コニファーと仲間を探す。
フアナを休ませる。フアナが目を覚ましたらズーボーを埋葬する。
[備考]:元遊び人です。
【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP1/10 気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:???
※バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 がズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8 の入ったふくろがズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※バーバラとゼシカが付近にいることにはまだ気付いていません
636
:
◆jHfQAXTcSo
:2016/07/22(金) 23:14:44 ID:WY6/oKtc0
以上で投下終了です。
指摘などあればよろしくお願いします。
637
:
ただ一匹の名無しだ
:2016/07/24(日) 21:36:53 ID:xUlW7nbk0
投下乙です
フアナさんとサヴィオが合流したか
フアナさん立ち直れるだろうか…
他人の死を見て生を実感してしまうコニファー君も物悲しいねえ
640
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 00:58:46 ID:/n5HYbQo0
青い空、白い雲、照りつける太陽。
本日は絶好の晴天なり。
そして同時に、絶好の殺し合い日和。
「いません!」
「うーん……」
「はてさて……」
フアナとサヴィオ、そしてカマエルは再びあの地へと戻ってきた。
フアナがズーボーを失い、気絶した場所。
地形を変化させるほどの大規模呪文が何度も爆発した激戦の地。
「僕もコニファーもいたけど、見落としはなかったと思うよ?」
「でも、死んでないんですよね?」
「それは僕も保証するけどさ」
「ワタクシも聞き間違いはないと思いました」
「けど、って何ですか?」
「いや、あの放送が真実とは限らない線もあって……ってそんなこと言いだした日にはキリが無いけど」
となると、バーバラとゼシカはサヴィオとコニファーが来る前にどこかへ移動した。
理由はすでにフアナとズーボーは死んだと勘違いしたため。
あるいは、生存が判明してるヘルバトラーか悪意を持った人間が二人を拉致した。
考えられるのはこのあたりか。
サヴィオが辺りをもう一度見回す。
魔の瘴気は緑豊かだったはずの場所を死の大地に変えていた。
急速に枯れた植物、紫に変色した土、あっという間に風化した岩石。
大自然の植物で満たされていた大地の中に円形に広がる、茶色の大地。
明らかに自然にできたものではない。
フアナが見た、ヘルバトラーの攻撃によるものだと推察される。
どれほど強大な敵と戦ったのかも自ずと知れる。
「そういえば……思い出してきました!」
円周率は軽く10万桁まで覚えてるほど記憶力の良いのがフアナという僧侶。
教会の教典の暗誦は4歳の頃にはすでにできていた。
あの時何が起こったのかを正確に思い出していく。
あの時、ゼシカとバーバラはとっておきの呪文を放とうとし、フアナはズーボーを死なせまいと前に出た。
そして、ヘルバトラーの魔の瘴気と二人の最強の呪文が激突し、フアナはズーボーに守られたのだ。
ゼシカ、バーバラとズーボー、フアナは離れた場所にいた。
そのことをフアナは思い出す。
「こっちです!」
フアナが記憶にある場所へと走り出す。
そこにはゼシカとバーバラこそいないものの、紙があった。
本来ならフアナの傍に置かれていたこの書置きが風で吹き飛ばされた結果、この場所に飛ばされたのは偶然なのか必然なのか。
ゼシカとバーバラの生存はこの時保証された。
同時に、ヘルバトラーや悪人に拉致されたという最悪の可能性も消えた。
しかしこんなものを残してフアナを置いて行く理由とはいったい何なのか。
期待と不安混じりに、フアナはその紙を手に取る。
641
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:00:47 ID:/n5HYbQo0
『ごめん
バーバラがどこか行った
追いかける』
「これは……シンプルな文面からも、急いでることが滲み出てますねえ」
カマエルの言葉に二人も同意する。
文字はいかにも走り書きといった感じで雑で、大きさも統一が取れてない。
最低限の情報だけ書かれたメモは逆に不安を煽ることとなる。
どこかへ行ったとはどういうことなのか。
「目的地も告げず、ゼシカの同行も許さずに一人でってことみたいだね」
「はい。 けれどどうして……」
「ねえフアナ、バーバラって子は誰にも相談せずに突っ走るような性格だった?」
「いいえ。 私の目には元気な女の子という風にしか見えませんでした」
フアナの言を信じるなら、少なくとも正常な状態で下された判断ではないということか。
だとしたらそれは内的な要因なのか、外的な要因なのか。
例えば仲間の死で自暴自棄になったのか、それとも誰かにおびき寄せられたのか。
どちらにせよ、危険な状態にあることは確かだ。
「とりあえず探しに行こうか」
「はい、任せて下さい。 探偵事務所でアルバイトしてたこともありますから、人を探すのは得意です」
「あ、そう。 じゃあお任せするよ」
「タンテイ……とは何でしょうかご主人様」
「しっ、フアナの邪魔はしないで」
フアナがまず最初にしたことは自生している木に近寄ることだった。
その木を隅々と見渡す。
注目してるのは枝。 葉っぱではなく枝だ。
丁度良い枝を見つけると、フアナはバギでその枝を斬り落とす。
斬ったのは最も高い部分に近い細めの枝。
それを二つほど用意する。
「ダウジングマスターの称号を持ってますからね。 探し人から埋設された水道管まで、何でも見つけてみせます」
L字に近い枝を両の手に一本ずつ軽く握る。
あとはこの簡易L字ロッドが反応する方へ行けばいいだけだ。
これはフアナが土木工事に携わる際に習得した技術だ。
「スイドウカン、とは一体何なのですか?」
「聞かない方がいいと思う。 僕はもう突っ込むのは止めた」
アスナ一行はフアナに対して、事の真相を確かめないのが暗黙の了解になっている。
642
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:02:41 ID:/n5HYbQo0
クイッ
「ふむ」
クイックイッ
「こっちです」
クイックイックイッ
「むむむ、近いですよ」
クイックイックイックイッ
「ズバリ、この近くです!」
グイーン
「見つけました! サヴィオ、ここを掘ってください」
「ええ? だってここは……」
「いいですから、早く!」
「はぁ……僕、肉体労働得意じゃないのに」
フアナの指示した場所を掘り返すサヴィオ。
スコップもないので時間がかかりそうだ。
毒々しい色をした大地を素手で触りたくはない。
途中からそう考えたサヴィオは手に持ってるろうがぼうで掘る。
(これ、地表の柔らかい部分はまだしも、固い土に当たったらどうしよう。
ていうかそもそもゼシカとバーバラを探してるのに、何で土を掘ってるんだろう)
そんなことを考えていたら、固い感触にぶつかった。
石か何かと勘違いしそうになるが違う。
これはまさかゼシカとバーバラの装飾品か。
まさかこんなところにいたとは。
ろうがぼうの使用を止め、サヴィオは再び手での作業に戻す。
地中に埋まってた何かが出土された瞬間、地面が光る。
「こ、これはっ!」
「まさか!
「徳川家の埋蔵金!?」
テテレテテレテー テテテテー♪
なんと! サヴィオは バレットハンマーを みつけた!
なんと! サヴィオは オーガシールドを みつけた!
なんと! サヴィオは ウェディングドレスを みつけた!
なんと! サヴィオは アルゴンリングを みつけた!
「って、ちが〜〜〜〜〜〜〜う!!
フアナはダウジングロッドを地面に叩きつけた。
643
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:04:23 ID:/n5HYbQo0
「こ、こんなはずじゃあ……!」
「いや〜、おかしいと思ったんだよね。 場所が場所だし」
サヴィオがチラリとある方向を見る。
そこには痛めつけられたズーボーの遺体があった。
そんなところに埋まってるはずがないだろう、常識的に考えて。
「き、きっと感度が高すぎたんです! 今度はちゃんと対象を生物に絞りますから!!」
「いや、久しぶりにポンコツな部分を見れて安心したけどね僕は」
「優秀な私がこんな屈辱……」
苦笑交じりにサヴィオはフアナの背中を見守る。
たぶんフアナは余計な技能や資格を取得せずに、僧侶一本だけに専念したら歴史に名を残すレベルの偉人になったんだろう。
それくらい優秀なのがフアナという人間だが、サヴィオはあえて口にしない。
フアナは今のままの方がきっと生き生きとしてて、サヴィオも見てて楽しい。
それ以上にフアナ本人が性格的に、僧侶というたった一つの道に縛られることを由とはしないだろう。
そこがまたフアナという人間の魅力だ。
完璧な人間よりは、完璧でない人間の方が見てて楽しい。
冗談、戯言、酔狂、与太、大いに結構だ。
「ねえフアナ。 どうしようか」
「何をですか……? あっ」
ズーボーの遺体の埋葬。
それは当初の二人の目的になってた。
しかし、状況は変わった、
ゼシカとバーバラが行方不明で、ゼシカの方はフアナ宛てに書置きを残す余裕がある。
一方、バーバラの方は良くない精神状態にあると推察される。
ゼシカ一人でバーバラを捕捉し、ここに連れて帰ることはできるのか。
ここでズーボーの埋葬を行い、二人を追いかけるのは後回しにするか。
ゼシカとバーバラの捜索を優先し、ズーボーの遺体は野晒しにしたままか。
きっと、それはどちらも正しいし、正しくもないのだ。
あちらを立てればこちらが立たず。
二兎を追う者は一兎も得ず。
「サヴィオ、お願い」
フアナの意図を察したサヴィオが地面に爆裂呪文を打ち込む。
空いた穴に二人がかりでズーボーを運び、今度は腐敗を遅らせるためにズーボーの遺体の周囲をヒャダルコで包み込む。
最後に土をかけるのだけは手作業だ。
棺桶も作る余裕がない今、これが二人にできる精いっぱいの葬儀だ。
「この気候だと痛みも早いだろうし、気休め程度だけどね」
「いいんです。 きっとズーボーさんも分かってくれる」
「キンキンに冷やしておいたからね。 天国で火傷が癒えてくれるといいね」
「うん……」
簡易的な埋葬を行い、全力でゼシカ、バーバラの捜索に当たる。
それがフアナの下した決断だった。
(ありがとう、ズーボーさん)
今は前だけを歩いて行こう。
そう決めたフアナは祈りを終わらせると、再び木の枝を握りしめた。
大きなオーガの、優しいパラディン。
フアナはズーボーの存在をいつまでも忘れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
644
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:06:27 ID:/n5HYbQo0
「ところでフアナ、もしかしてあれはゼシカかバーバラが肉体改造に成功した姿なのかい?」
「何を言ってるんですかサヴィオ」
「な、なんとも凶悪そうなモンスターですね……」
フアナとサヴィオが新たに発見したのは、よりにもよってヘルバトラーだった。
といっても、未だ気付かれてはいない。
かの魔物は巨木に背中を預け、休憩中のようである。
よく見れば体中が血まみれ、体の部位はところどころ欠損しており、生きてる方が不思議な状態だ。
さすがにあの超破壊呪文を受けて五体無事とはいかなかったようだ。
「これはチャンスです」
「かも」
長い期間を共に過ごしてきた二人。
そこには熟年の夫婦にも似た、阿吽の呼吸が生まれていた。
先手必勝、先んずれば人を制す。
あの魔物が完全回復すれば、また誰かが死ぬような死闘が発生するは必至。
亡きズーボーの仇を討つため、この殺し合いを終息させるため、今度はこちらが仕掛ける番だ。
「行くよフアナ。 魔法力は?」
「はい、なんとか。 呪文はもちろん」
「ああ、あれで行く」
「カマエルはお二人の成功を祈っております!」
紡がれる詠唱。
高まる魔力。
これまでの思い。
その全てをこの一撃に託す。
「「荒ぶる聖風」」
そう、二人で同じ呪文を唱えれば。
相乗効果でその威力は何倍にも増す。
「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」
ダブルバギクロス。
その威力はバギムーチョにも勝るとも劣らぬ。
荒ぶる竜巻は狙いをヘルバトラーに定め、進路上のものすべてを切り刻む。
「ッ! 何だと!?」
ようやくヘルバトラーが気付くが、遅い。
この怪我では思うように体が動かない。
「これで幕です。 ヘルバトラー!」
フアナが吠える。
ズーボーと、散っていった者たちの魂が安らぐことを祈って。
「貴様は!」
呪文を放った相手を確認するのと、バギクロスで全身を切り刻まれる。
ヘルバトラーはその二つを同時に味わった。
地面に伏したヘルバトラーの顔が屈辱で歪む。
「糞、くっそおおおおおおおおおおおお!!
俺様が、この俺様がああああああああああ!」
645
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:07:21 ID:/n5HYbQo0
まだ足りない。
人を殺し足りない。
恐怖の表情を見れてない。
戦闘の喜びを噛みしめ切れてない。
この力でもっともっと楽しみたいというのに、人間風情が何故邪魔をする。
ああ、ダメだ。
命が消えていく。
もっと血を、臓物を、悲鳴を寄越せ。
まだ死にたくない。
死 に た く な い!
何をしている
ヘルバトラーの命がまさに風前の灯火となった瞬間、神の名を僭称する悪逆の神官が囁いた。
エビルプリーストだ。
ヘルバトラーは藁にもすがる思いでその声に全力で耳を傾ける。
何のために貴様に10の世界すべての可能性を与えたと思っている
いや、つい最近新たな可能性が加わったのだが、まあいい
失望の声だけを浴びせに来るような男ではない。
この男がこうやって声をかけているということは、何らかの救済が見込めるはず。
それを期待するヘルバトラー。
せかいじゅのしずくや扱いやすい大剣を渡したりと、ジョーカーの中でも相性の良い道具を優遇されていた。
それは偏に、ヘルバトラーこそが最も戦果を期待できる存在だったからだ。
裏切りの恐れのあるアンドレアル。
知能が残念なギガデーモン。
所詮は元人間のバルザック。
弱肉強食の掟に忠実過ぎて、参加者の僕になってしまったキングレオ。
646
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:08:57 ID:/n5HYbQo0
予見していたことだが、ヘルバトラーのみがエビルプリーストの任務に忠実なのだ。
ギガデーモンは支給していたインテリハットさえ装備すればもっと死人が出ただろうが、結果は街一つを滅ぼした程度。
純粋な魔物で知能も戦闘能力も高い、ピサロへの忠誠も薄く、己が欲求さえ満たせればそれで良い。
ヘルバトラー以上にジョーカーとしての適任はいない。
思い出すがいい
貴様の本当の力を
その魔瘴は何のためにあるのかをな
魔瘴。
それはズーボーたちと戦った時に使用したような、単なる飛び道具ではない。
これは人を死に至らしめ、魔物の力を増幅させる気体。
そして10の世界すべての力を得たヘルバトラーが、こんなところで這いつくばっていていいはずがない。
(なるほど、そういうことか……)
潮の香りのする洞穴で、ドワーフの男と戦った記憶を思い出す。
あの時の自分も、こうして敗北してしまった。
だが、それで終わりはしなかった。
今までの自分の馬鹿さ加減に嗤ってしまう。
自分はこんなにも力の使い方を間違えていたのだ。
(感謝するぞ、エビルプリーストよ)
死んだかどうか確認するために近寄るフアナとサヴィオ。
ヘルバトラーにとってもはや二人は死を告げる死神ではなく、これから狩る絶好の獲物。
「っ! まだ生きて!」
立ち上がるヘルバトラーを見て、しかしサヴィオは動じない。
どう見ても死にかけ。
ここからの逆転の目など有り得ない。
そうだ、ついさっきまではそうだった。
「ククク、貴様らに見せてやろう」
魔瘴をその腕に集めるヘルバトラー。
いつの間にか、周囲には魔の霧が立ち込めていた。
「サヴィオ、あれを吸ったらダメ!」
フアナとサヴィオは後退を始めた、
わざわざ接近しなくても呪文がある。
それでなくても肉弾戦は得意ではない。
「魔瘴の、本当の使い方をなぁ!」
その魔瘴を、自分の体へと向けて開放する。
魔の霧がヘルバトラーを包む。
647
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:10:26 ID:/n5HYbQo0
魔瘴とは非常に不安定で不定形であり、その形は千差万別だ。
多くの場合は無差別に死をまき散らすだけの毒でしかない。
だが、特に濃度の高い魔瘴は意思のようなものを持つことが観測されている。
例えば、邪悪なる存在が退治され、残った無念が残留思念となって魔瘴と混じり合う。
混ざった魔瘴は退治された魔物とまったく同じ形を取り、しかもさらに凶悪になって甦ることもある。
また、一つの大陸を外界から隔絶することもできたりと、人間にとっては危険極まりない代物だ。
だが、魔物にとってはあまりにも使い勝手の良い気体。
魔瘴と融合したヘルバトラーの傷が癒えていく。
ポーラにつけられた十字の傷が。
マダンテの力で消し飛ばされた腕と翼と角が。
バギクロスでついたいくつもの傷が。
その全てに魔瘴が入り込み、ヘルバトラーの新鮮な血肉となる。
「フアナ、これヤバいよ! 逃げた方がいい!」
「そんな……こんなのって……!」
魔瘴が晴れていく。
中心にいたはずのヘルバトラーが、その姿を現す。
その姿はフアナにとっては悪夢にも等しい。
みんなで頑張ってつけた傷が、余すところなく復元されている。
ヘルバトラーは例の不気味な笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「では試しに」
指をクンッと上にあげる。
それだけで地面が割れ、激しく隆起する。
これはもはや地殻変動や局地的な地震にも等しい揺れだ。
大地の鳴動が魔瘴によって強化され、ここまでの威力になっているのだ。
「第二ラウンド開始といこうか。 今度こそあの……まあいい、忘れた。
何とかという聖騎士と同じ目に合わせてやろう」
その魔物はもはやヘルバトラーであってヘルバトラーに非ず。
魔瘴によって大幅に力を増幅されたこの魔物はこう呼ばれるべき存在だった。
即ち、ヘルバトラー強。
648
:
10の世界の可能性
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:10:53 ID:/n5HYbQo0
【C-4/平原/1日目 午後】
【ヘルバトラー強@JOKER】
[状態]:HP全快
[装備]:
[道具]:支給品一式、道具0〜2個
[思考]:
基本方針:心のままに闘う。
[備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
※さらに強力な特技、呪文が使えるようになりました(イオグランデなど)
【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個 カマエル@DQ9 バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5
ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
[備考]:元遊び人です。
【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP1/20
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカと合流する
649
:
◆CASELIATiA
:2017/08/22(火) 01:12:25 ID:/n5HYbQo0
投下終了しました
判断してもらいたい点は
・また主催介入してるけどいいのか
・ヘルバトラー強ってアリなのか
に2点です。
忌憚のない意見をお待ちしてます
650
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/08/22(火) 01:42:57 ID:yYm9hUxM0
・エビルプリーストの介入
バラモスゾンビの前例もありますし、優遇されている理由も充分納得できるものなので問題ないと思います。
・ヘルバトラー強
これからの展開を考えるにおいてトロデーン周辺の対主催とマーダーの戦力差は深刻だったのでむしろ妥当な強化だと思います。
個人的にCASELIATiAさんの作品はドラクエ10の設定が深く盛り込まれていて好きです。
651
:
ただの一匹の名無しだ
:2017/08/22(火) 09:54:43 ID:a638lkYU0
投下乙です。
エビルプリーストの介入はこれといって不自然ではないと思います。
元々この辺りには強力なマーダーが少ないことが問題視されていたし、全然問題ないと思います。
むしろ私としてはこの作品でDQ10名物の強ボスを見れた喜びの方が上でした。
652
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/08/22(火) 14:00:52 ID:gyKMPWjo0
問題ないと思います。
私も10の描写が好きです。
653
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:20:14 ID:jV4HiEsM0
「サフィール。何してるんですか、こんな所で。」
それは、何気ない父親の声。
たまたま予想してもいないところで、見つけた娘に対して、投げかけた言葉だ。
だが、視線が、違った。
父親は、娘を、愛する存在を見る目で、見てなかった。
それに合わせて、周りの空気も、親子同士の会話とは思えないほど、殺伐としている。
たとえ親が子を叱っている時でさえ、こんなことはならないだろう。
「………やめてください。」
サフィールはアベルを諭そうとする。
「やめてください?何を、止めるというんですか?」
「この世界で人を傷つけて、殺すことです。」
「そうか、君は、知ってしまったんですね。」
アベルは、自分の行いを知られたからといって、特に悪びれる様子もなかった。
表情一つ、変えない。
だが、それが逆に、おぞましいものを潜ませていた。
「私は、知ってました。おとうさんが苦しんでいたことを。でも、自分がされたことを、この世界の人達にするのは間違ってます。」
「何を間違っているというんですか?私は愛を求めたから、幸せになれなかった。
だから、愛を壊すんですよ。そして、愛という物がどれほど価値のないものか、分からない奴らに、真実を教える。」
「そんなことをしても、誰も喜びません!!」
「あのローラとかいう女といい、おまえといい、本当に嫌な目をする。」
アベルの両目と、持っていた剣に一層邪悪な光が帯び、同時に剣をもってない方の手には、緑の光を帯び始めた。
「消えろ。」
アベルは自分の娘を、まるで邪魔な魔物を追い払うかのような目で、バギクロスを唱える。
「誰が喜ぼうと悲しもうと、私の知ったことではありませんね。」
十字の竜巻が、サフィールに襲い掛かる。
まともに受ければ、パトラの二の舞になっていただろう。
「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
しかし、サフィールの放った大爆発は、その竜巻を吹き飛ばした。
「一皮、剥けましたね。この世界で、新しい友達でも出来たのですか?」
サフィールは、ただ一つ頷く。
サフィールにとって、友達、特に人間の友達は、あまり多くなかった。
オジロン前王の娘ドリスや、ラインハットのコリンズ王子など、いないわけではない。
だが、旅を続けるという以上、友達として交流する時間はほとんど用意されてなかった。
その点で、マリベルという人物はほんの僅かだけでも共に冒険をした友達だった。
彼女はサフィールにとってかけがえのない存在になった。
だからこそ、約束を守る。
マリベルという命が、消えてなくなってもその決意は変わらなかった。
654
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:21:00 ID:jV4HiEsM0
「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」
マリベルに流されて、父親を止める。
彼女が殺された原因も、父親にあるのだから。
「だが、友情も、愛と同じで儚く崩れるだけですよ。」
アベルはサフィールの喉元めがけて、剣を振った。
だが、それは予想外の力によって止められる。
10歳の少女の力ではない。
アベル本人が使っていた、ドラゴンの杖の力だ。
ボブルの塔で見つけた時は、アベルしか受け付けなかったはずだが、どうしたことか。
「崩れる物ではありません!どんな時でも誰かの心の中に残っています!!」
そうですか、その杖まで、私を否定するのですね。
アベルの憎しみと破壊の剣の力は比例する。
拮抗していたドラゴンの杖ごと、サフィールを弾き飛ばす。
「きゃあ!!」
アベルの心の中の憎しみや怒りを吸い、ネプリムやパトラの命を吸い、地獄の悪魔が人間への憎しみを糧に作った剣は、更なる力を増す。
「主殿!!」
後ろにいたリオウが、アベルに声をかける。
「リオウ!手を出すな!!これは、私だけの問題だ!!」
そうだ、これは、私だけの問題だ。
家族でさえも殺すことで、私は愛を求めていた過去と決別できる。
私の幸せは、その先にある。
新しい何かを得るためには、古い何かを犠牲にしないといけない。
父親は、最早自分を寝食を共にした娘と見ていない。
何を言っても、止めることが出来ない。
ならば、覚悟はしていたが、こうして止めるしかない。
「凍てつけ!!マヒャド!!」
いくつもの白銀の刃が、アベルに襲い掛かる。これで凍り付かせて、動きを封じることが出来れば。
「無駄ですよ」
アベルは剣を振るい、大きい氷を次々に砕いていく。
直に当たっただけではなく、剣を振った時に起こる風圧に当たるだけでも砕けることが、どれほどの威力の斬撃か分かるだろう。
急激な温度低下は、アベルの肌に多少のダメージを与えることは出来たが、これでは全く進展がない。
マヒャドを連発していても、いずれ魔力が切れ、殺される。
イオナズンを使ったら、バギクロスで相殺されてしまう。
サフィールの魔力を最大限まで活用した攻撃呪文は、二つとも決定打にならなかった。
だが、まだ一つだけ試してないことがある。
655
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:22:09 ID:jV4HiEsM0
「あくまで、私を否定するのですね。私がどんな思いをしてきたか知っていて。」
再び、斬撃が来る。
「マヌーサ!!」
「なっ………」
だが、その斬撃に切り裂かれたのは、サフィールの幻影であった。
これで一瞬時間を稼ぎ、そのスキにドラゴンの杖の力を使って、竜に変身すれば………。
始めてドラゴンの杖の真の力が分かった時、それはサフィールの母親が囚われた大神殿での出来事。
四方八方から襲い来る手ごわい敵に、複雑に入り組んだ神殿。
戦いは、熾烈を極めた。
これまでの魔物の本拠地では、新たに仲間になってくれる者もいたが、この場にはそういった魔物さえいない。
魔物に囲まれ、万事休すと思われた際、アベルが持っていたドラゴンの杖の宝珠が光り、アベルを強大な力を持った竜に変身させ、危機から逃れたのだ。
あの時のように、ドラゴンの杖なら自分と父親を救ってくれるはずだ。
「竜の力よ、私を救いたまえ………」
「そうはさせません!!」
だが、幻影の中で、的確に狙いを定め、剣を振り下ろす。
幻影の中でも、宝珠の光が仇となり、サフィールの位置が分かってしまったのだ。
祈りをささげるのを破棄し、あわてて斬撃を止めるが、先ほどのように吹き飛ばされる。
やはりドラゴンの杖に関して、自分以上に知っている人物が敵である以上、頼りすぎるのは危険だ。
彼女にとって、ドラゴラムという、もう一つ竜に変身する方法があるが、これはイオナズンやマヒャドに比べても詠唱時間と使用魔力が多すぎるため、味方がいない時に使うのはリスクが高すぎる。
「否定しても構いません。ただ、私が破壊するだけですよ。」
「魔王」と化した父親は止まらない。これでサフィールにとって状況はますます絶望的になってしまった。
だが、運は彼女を見放していなかった。
656
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:22:51 ID:jV4HiEsM0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は少し遡り、場所は滝の洞窟前。
“彼”はなおも佇んでいた。
死者の名が告げられ、彼女の死が改めて確認された後も。
だが、その硬直は、突然解かれることになる。
遠く風に乗ってかすかに聞こえた、イオナズンの爆音とサフィールの悲鳴に。
(爆音!?)
(彼女が、唱えた、魔法だ。)
(悲鳴!?)
(彼女に、似た、声だ。)
ゴーレムといえども、死の概念は分かっていた。
“彼”は街の守護者として、いくつもの魔物や人の死を見てきたから。
彼女は、死んだ。
自分の目の前で。
その死骸はここにある。
あのわけの分からない神官の男からも、名が告げられたではないか。
そこで、“彼”に一つ、疑問が生まれた。
だが、何らかの形で、彼女は生き返ったのかもしれない。
とある記憶の世界の、創造の力を持った若者のように。
そして、再び自分を必要としているのかもしれない。
それならば、今度こそ彼女を守らねば。
ただ、守るために戦うことしかなかったゴーレムに、疑問が生まれること自体おかしいことだ。
だが、“彼”は自分を守護者以上の存在として見てくれたネプリムに出会い、何かが変わっていた。
自分で作った墓を後にし、ダイナミックに歩き出す。
止まっていた守護者の時間が、再び動き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………………どうすればいいんだ。」
父と娘の戦いを、遠くから見ている者がいた。
獅子の王、キングレオ。
いや、今はリオウという名前だが。
何かやらなければならないはずなのに、何もするなと命令されるのは、窮屈だ。
目の前に現れたガキ。
あいつは、我が主の娘らしいな。
家族同士の戦いを見ると、我も父親を生贄にし、キングレオ城の王位と、デスピサロ様の幹部としての地位を手に入れたことを思い出す。
成り上がるためには、家族さえも犠牲にしなければならない。
当然の話だ。
愛だの恋だの、そんなものは魔族の世界に必要ない。
だから我は、エルフの娘との恋に現を抜かすピサロ様には完全に従えなかった。
最も、我の上司にして、同じようにそれを反対していたエビは、やることなすこと小物過ぎて今も昔も好かないが。
やはり、目的も方針も一致しているという点で、アベルは実力面でもカリスマ面でも本当の主なのだ。
弱肉強食、強い者に従って生きるキングレオにとって、弱肉強食の世界を肯定するアベルは理想の上司だったのだ。
657
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:23:24 ID:jV4HiEsM0
やはり本当の主のためにも、最低限出来ることはしておこう。
改めてアベルを主として認めたリオウは、ザックを開ける。
エビからの支給品というのがなんとも気に食わないが、アベル様のために使うのなら仕方ない。
入っていたのは、ツメと草。
ツメはオリハルコン製の物で、これは確かに武器として申し分なく強い。
しかし、問題はあとの一つ。
草はルーラ草という、その名の通り飲むかつぶして振りかければどこかへ飛べるというものらしい。
我の力が足りないというのか。
危なくなったら飲んで逃げろとでもいうのか。
そもそもアベル様のために使いたい道具なのに、自分が使ってもアベル様に使っても、離れ離れになってしまいこれ以上手伝うことが出来なくなるではないか。
エビが自分の力を甘く見ている、はたまた他人に付くことを恐れていると考えると、落胆してしまう。
だが、ゴーレムやジンガー、小僧の変身した竜など、自分と同じか、それ以上に力の強い者がこの世界にいるというのも事実。
草は使う気はないが、いざという時のために、ツメを付けておこう。
最も我が主が、あの小娘に負けるとは思わないが、契約には忠実に。
呪文と斬撃で、容赦なく殺そうとするアベル。
それに対し、マヌーサや爆発魔法、氷魔法などの絡め手や、ドラゴンの杖で攻撃から身を守るサフィール。
防戦一方になっている以上、アベルを止めるどころか、殺されないようにするだけで精いっぱいだった。
そもそも、父親と娘ということを除いても、コンディションの差が圧倒的だった。
アベルはサフィールを殺すつもりでいるが、サフィールは「止める」つもりでいる。
加えて、この世界でアベルは何の喪失感もなく、反面サフィールは兄と、友を失ったことで、精神的にも疲れている。
「私はね、幸せが欲しいんですよ。誰がどうなってもいい。
そのために、邪魔なものは全て破壊する。
サフィール、君もそろそろ、過去と決別すべきです。私を殺すか、殺されるか、選びなさい。」
斬撃が、来る。ドラゴンの杖で、守る。
破壊の剣の衝撃は、攻守ともに優れた杖を介してでも強力で、そろそろ手の
感覚がなくなってきた。
相手にかけたマヌーサも効果が切れる時間だ。
魔力もそろそろ限界を迎えるだろう。
「そんなの、おにいちゃんやおかあさんが喜ぶはずがありません!!」
だが、彼女はあきらめない。
(黙れ………いつまで家族のことなどを、気にかけている………!!)
(そもそも、おまえの兄が勇者として生まれなければ私は………!!)
アベルには分かっていた。
サフィールも、かつての自分と同じで、愛を求めているのだ。
ならば、かつての自分と同じ気持ちを味わせてやろう。
更に憎しみを帯びた剣が、振るわれる。
「きゃ!!」
だが、それは幸か不幸か、当たらなかった。
658
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:24:52 ID:jV4HiEsM0
サフィールが、何かに滑って転んだため。
だが、その拍子に、ドラゴンの杖も、落としてしまった。
足元を見ると、それはすでに醜悪な肉塊と化したパトラだった。
サフィールでも、アベルにより犠牲になった人だということが分かる。
彼女にとって、それは気持ち悪いというよりも、父親に対する恐怖の方が強く感じた。
かつての父親は、魔物と対峙した時でさえ、ここまで徹底的な攻撃をしなかった。
父親の苦しみと、幸せへの執着は、それほどまでなのか。
そして、自分は父親によって、同じような姿になるのか。
振り下ろされるはずだった剣を止め、アベルはこう問う。
「一つだけ聞きますよ。私と一緒に、参加者を殺し続けませんか?過去と決別し、全てを破壊すればもう死んだリュビや、友達のことを考える必要もなくなりますよ。」
「イヤです!!」
だが、それでもサフィールは頑なに拒否する
どうしてここまで自分の意思を貫けるのだろう。
だが、意志の強さのみでは、どうにもならないこともある。
ならば、と父親は怒りに任せてサフィールを殺そうとしたところ。
ズシン
ズシン ズシン
ズシン ズシン ズシン
地鳴り?
いや、これは………
アベルが後ろを振り向くと、一度戦ったゴーレムが走ってきていた。
既に、ゴーレムの長く太い腕が、伸ばせば当たるという距離だ。
まずい…………!!
「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
しかし、この場にいたもう一人の人物、リオウが4本の腕で、ゴーレムの攻撃を止める。
主殿の娘には手を出すなと言われていたが、因縁の相手の一人だし、こいつなら戦ってもいいだろう。
「主殿!!」
「リオウ、でかした。」
「もう、油断はせんぞ。」
力はゴーレムとリオウは同じか、ゴーレムの方がわずかに勝っているくらいだったが、今回は違う。
ゴーレムは、組み合ってすぐに、拳の先にツメが刺さっていることに気づいた。
しかもオリハルコンのツメはゴーレム以上に固く、かぎ状になっていて抜けない。
腕を振って抜こうとするも、リオウは残りの腕でがっちりと押さえる。
659
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:26:30 ID:jV4HiEsM0
「フフ、もう動けはせんぞ。」
続いて、リオウはゴーレムに向けて、高熱のガスを吐く。
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない。
「ならば、これでどうだ。」
更に、凍える吹雪を吐く。
「主殿!!」
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない、が、低温と高温の差は、ゴーレムの頑強な体を脆くしていった。
「よし、あとは私が倒す。」
サフィールの魔力はもう切れかけている上に、杖も落とした。
ゴーレムを先に殺しても、問題はないだろう。
アベルは踵を返し、ゴーレムに突進する。
「爆ぜろ………イオラ!!」
「ぐっ!」
アベルの背中に、爆発が起こる。
「もう……これ以上、誰かを傷つけるのは…………。」
パトラの血を浴びて全身が血と泥で汚れ、息も絶え絶えになりながらも、抵抗を続ける。
アベルには、どうしてサフィールが自分を否定し続けようとするのか、分からなかった。
「うるさい!!」
怒りのままバギマを唱える。
あとで殺せばいいし、今は詠唱時間の短いバギマで十分だ。
竜巻は大きくはないが少女を吹き飛ばすほどの力はあり、ゴーレムの近くに飛ばされた。
まさか、ここまで抵抗してくるとは。
まあ、どのみち敵として、家族もゲレゲレもロッキーも、私の願いのために殺すつもりだったから私に従ってもあまり変わらないが。
仮に先ほど、サフィールが父親に従おうとしても、やがて殺すつもりだった。
リオウやジンガーだって、犠牲にする必要があるなら、いつかは殺さなければならない。
死ねば、全て無くなる。愛も、友情も、過去も、未来も。
そうだ。この戦いが終われば、王として思い切ってグランバニアの政治の形態を変え、世界中に戦争を仕掛けよう。
従う者は奴隷か兵士に、逆らう者は家族や友達ごと拷問するか皆殺しだ。
サンチョやピピン、中には他の住民やモンスターも止めるかもしれないが、その時はまた殺すだけだ。
そして、愛に執着する者たちに、それがどれほど脆いものなのか思い知らせよう。
力を持つ者だけが、幸せになれる。それを教えて、何が悪い。
少なくとも伝承にある、愛した者に裏切られ、英雄の自覚を捨てて凡庸な人間として生きた勇者ユーリルよりかは良い生き方のはずだ。
「死ね。」
無慈悲にも、アベルは横に闇を纏った剣を一閃。
少女の体は二つに切り裂かれ、守護者の体は砕かれた―――――――――――
【サフィール @DQ5 死亡】
【ゴーレム@DQ1 死亡】
【残り46人】
660
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:26:57 ID:jV4HiEsM0
―――――――――――はずだった。
「!!」
「!!!」
「!!!!」
「!!!!!」
敵味方問わず驚く。
何しろ、赤い肌をした巨大な神官が、突然斬撃を長い4本腕で受け止めたからだ。
(……………!!)
(助けて、くれたのですか?)
(な、なんだ、こいつは!!)
(サフィールが呼び出したというのか?いや、我々の世界にいる者ではない………しかも、ライオウやバトラー以上の魔力を感じる……………。)
彼の名は、幻魔ドメディ。
パトラが持っていた幻魔のカードによって呼び出された者だ。
世界でも召喚者がわずかしかいない幻魔中でも、味方への攻撃を難なく仁王立ちで受け止め、攻撃面でも最強レベルの幻魔だ。
「オオオオオオオオオ!!!!」
ドメディは、雄たけびを上げ、4本のうちの上の2本の腕で、十字を描く。
彼がなぜこのタイミングで呼び出されたのか、サフィール達を守ったのかは、誰にもわからない。
死ぬ直前のパトラがカードに祈りをかけたことによるものなのか、
父親を止めたいという想いを抱いたサフィールが、一度パトラの死体に触れた際、無意識にカードに触れたことによるものなのか。
一つ言えるのは、決して諦めなかったサフィールの気持ちが、二人を救ったのだ。
「うわあああああああ!!!!!!」
「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!!!」
光の十字が、二人を襲い、吹き飛ばした。
「おのれええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「待て、リオウ、迂闊に………」
アベルの指示も聞かず、目の前の敵に向かって突進する。
予想外の攻撃、しかも予想外の攻撃はアベルとジンガー、竜化したチャモロ、ドメディと三度目。
もはや我慢の限界だった。
661
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:27:18 ID:jV4HiEsM0
「がっ!!」
しかし、突進したところで、リオウの上から、ゴーレムの岩石がいくつも落ちてきた。
グランドクロスを放った後、既に4本の腕で岩石を掘り出し、待ち構えていたのだ。
「リオウ!!」
アベルもドメディに向かっていこうとするが、今度はリオウから解放され、自由になったゴーレムの殴打がアベルを襲った。
「ぐはっ!」
破壊の剣で受けたことで、ダメージはある程度抑えるが、それでも威力はかなりのものだった。
やはり、こいつは接近戦では勝てない。
アベルはサブウェポンである吹き飛ばしの杖を振り、ゴーレムと距離を取ろうとする。
だが、地面にどっしりと踏ん張ったゴーレムは、魔法弾程度で吹き飛ばない。
おかしい。何故だ。何故なのだ。
我は復活し、勇者たちにやられたときより、強くなったはずだ。
そして、アベル様という、理想の主を手に入れた。
今度こそ、我の未来は約束されたはずなのに。
アベル様に付き従ったことは、正しくなかったのか。
大人しくエビに従っておけばよかったのか。
それとも誰にも従わずに生きればよかったのか。
「くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!」
だが、グランドクロスと岩石落としを受けても、まだ戦えることが、ジョーカーの力だろうか。それとも獅子の王としてのプライドだろうか。
再び立ち上がり、ドメディに飛び掛かる。
今度は、あの十字の構えはとってない。オリハルコンのツメで一撃でも当てれば………。
だが、今度は下側の腕の手刀により、オリハルコンのツメをはめた腕は切り落とされてしまった。
ドメディは攻撃力さえも他の幻魔や精霊とは一線を画していた。
「ぎゃおおおーっ!!」
痛みに、腕を抑える。
だが、それ以上に厄介なことがあった。
「「しまった!!!」」
二人がドメディに苦戦しているスキに、サフィールはドラゴンの杖を手に取り、竜に変身したのだ。
662
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:27:35 ID:jV4HiEsM0
(誰だかわかりませんが、ありがとうございます!!)
すでにリオウの方は手負いの状態だ。
竜は、そのままアベルの方に向かっていく。
おとうさんに分かってもらうには、これしかない!!
僅かだけ残っている体力を、全て竜の力に変え、突撃する。
既に死に体のリオウはアベルの方を見やる。
主でさえも、ゴーレムと竜に襲われ、危ない状態だ。
だが自分は腕の一本を武器ごと奪われ、反撃しようにも奴を倒せそうな技はない。残された道具もルーラ草のみ。
「エビめ、どうせ無様に這いつくばった我が姿を見て、せせら笑っているのだろう。」
リオウは、弱肉強食を貫く者は、いつかは喰われることを知っていた。
だが、何も出来ずにエビごときの作った世界で死にたくない。
ドメディからは新たな魔力を感じる。トドメを刺す気だろう。
だが、残った三本の腕でザックからルーラ草を取り出す。
どうせこれを飲んで逃げても、すでに負傷し、ベホマも効果が少ない状況では、一時しのぎにしかならない。
何より、「契約には忠実に」のモットーはどうなる。
獅子の王として、プライドを捨ててまで生きるつもりはない。
「タダでは、死なぬ………」
ボロボロの体に鞭打って、草を、主の下に投げる。
「全員、殺してやる………。」
吹き飛ばしの杖は通じず、ゴーレムの攻撃をまともに受け、頭から血を流し、アベルは怒りに燃えていた。
ゴーレムの攻撃を今度はかわし、竜の炎はバギクロスで弾く。
だが、状況は明らかに悪くなっていく。
このまま、アベルは負けてしまうだろう。
だが、リオウの方から飛んできた物。
そんなものに気づいてはいなかったが、突然体が浮かび上がる
「うわあああああああ!!!」
そのまま、どこかへ飛んで行ってしまった。
それを見届けたリオウは、ドメディの放った火柱に焼かれながら満足する。
「ざまあみろ、エビめ。」
「アベル様は、この場にいる奴らも、お前もきっと破壊するぞ………。」
663
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:30:35 ID:jV4HiEsM0
「消えてしまった………。」
竜の姿から戻り、体力を使い果たしたサフィールは、そのまま倒れる。
知らない世界に飛ばされ、殺し合いを命じられ、初めて一緒に冒険する友と出会い、友が自分をかばって殺され、父が持っていた杖を受け取り、父を止めようとする。
考えてみれば、10歳の少女には過酷すぎる半日だ。
「……………。」
近くで、その目を見ると、分かる。
彼女は、ネプリムではなかった。
ネプリムは、死んだままだ。
人間は、やはり子供さえ殺そうとする醜い生き物だった。
自分の闇の記憶の断片では、食料を無くした人間は、子供食べることさえあった。
この少女も、遠からず死ぬ。
やはり、闇の記憶の断片に従って、醜く争う人々を滅ぼしてしまおう。
だが、出来ない。
「!?」
暖かな光が二人を包み込む。
ボロボロになっていた二人の傷が癒えていく。
まだそこにいた幻魔が唱えたベホマズンだ。
それだけ唱えると、媒体となったカードごと消えてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夢とも現とも分からない、ぼんやりとした空間だ。
ここはどこだろう。
「サフィール!!」
殺されたはずの友の、赤毛の頭巾の少女が呼びかける。
「マリベル………さん?」
「お疲れ様、とでも言うと思ってるの?あたしが殺される原因を作ったあんたのお父さんを逃がしてさ、よくのうのうと会いに来れるわね!!」
「……………言われなくたって、やることは最後までやります。ただ、少しだけ…………。」
「まあ、がんばりなさい。」
さっきよりずっと小さい声で呟く。
「サ、サフィール!!」
今度は、自分の兄である、黒髪の勇者が涙目で少女を呼ぶ。
「ご、ごめんなさい。ぼく、何も出来ず、おとうさんが、あんなことを思っていたなんて………」
「何言っているんですか。私も知らなかったです。おかあさんも、気づかなかったと思います。」
「こ、こんど、は、サフィールみたいに、勇敢に………。」
「ありがとう。」
自分は、必要とされていないと思っていた。だが、必要とされていると思っていた兄に勇敢だと言われたのは嬉しかった。その兄は本物なのかどうかは分からないが。
「リュビ、終わったら、またいつか、一緒にハイキングへ行きましょう。」
「え?」
その「いつか」はいつになるのだろうか。
664
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:31:12 ID:jV4HiEsM0
「マリベルさん、友達になってくれて、ありがとうございました。」
「え?まあ、いいのよ。このあたしの、友達であることを、誇りに思いなさい。」
やはりこの世界でも、マリベルは高飛車で多弁のようだ。
「では、そろそろ行きます。」
「や〜ね。最後の別れみたいな顔しないで。」
「………あと、ありがとう。」
自分をかけがえのない存在として見てくれたことを感謝しているのは、実はマリベルの方だったが、それはまた別の話。
マリベルが消え、リュビが消える。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めると、夕焼けがまぶしかった。
どうやら、時間はある程度経っていたらしい。
自分は、花と草でできたベッドに、寝かされていた。
辺りを見回すと、さっきのゴーレムが旗の横で佇んでいる。
どうやらここまで運んで、このベッドもゴーレムが作ったようだ。
傷は、ドメディのベホマズンであらかた癒えていた。
どうやら、ゴーレムは誰を守っているようだ。
ゴーレムは、静かに佇んでいる。
「誰か、そこにいるのですか?」
ゴーレムは静かに佇んでいる
かつて父が仲間にしたゴレムスは、言葉は通じたが、このゴーレムに言葉が通じるかはわからなかった。
そこにいるのは、もう物言わぬ神官だった少女。
ゴーレムがおとうさんに襲い掛かったことは、この人もおとうさんに殺された者だろうか。
サフィールは物言わぬ前に座り、祈りをささげる。
「必ず、おとうさんを止めます。だから、安心して、天国へ行ってください。」
何か備える物はないかと、ザックを探る。
それは、木の人形。
とある世界で、英雄が妹にあげた人形。
その妹は兄を見殺しされた憎しみのあまり、魔物となったが、わずかな人間らしさを繋ぎとめていた人形。
最も、そんなことを少女が知るはずもない。
昔は人形遊びが好きだった彼女だ。
新しい友達にと、石壁の中に置く。
再び、少女は歩き出す。まだ、自分のやることは、終わっていない。
歩き出して、すぐのことだった。
ゴーレムが、後ろからついてきた。
「一緒に、行ってくれるのですか?」
そのようだ。
665
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:32:46 ID:jV4HiEsM0
「あの、名前、なんていうのですか?」
(わたしのなまえをあげるわ)
(ずっと、いっしょね)
「……………………。」
こうやって、字を書くこと、出来ますか?
サフィールが支給品の紙とペンで、手本を見せた。
やはり、出来ないようだ。別のことを言おう。
「言い忘れていました。助けてくれて、ありがとうございます。」
少女は、小さい手を出す。
これは、なんなのだろうか。
守護者の巨大な手で、それに触れる。
巨人と、少女は共に歩き出す。それが、初めて心が通じた時だった。
そして、ゴーレムに温かいなにかが入ったような気がした。
そういえば、ネプリムから名前をもらった時も、こんな感覚だった。
それがアベルやネプリムの求めていた、「幸福」であることを、彼は気づくのだろうか。
“彼”は、守護者だ。
ネプリムを守らなければならない。
だが、一人であるサフィールも、守りたかった。
二人同時には守れない。
片方を、見捨てないといけない。
前へ進むためには、犠牲も必要だ。
だが、本当に見捨てられたわけではない。
二人の、心の中に残っている。
ネプリムは、しばらくはあの小さな守護者が守ってくれるはずだ。
そしてすべてが終われば、また戻ろう。
【リオウ @JOKER 死亡】
【残り47名】
【F-5/平原 /夕方】
【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP: ほぼ全快MP 3/5(気絶中に回復)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
666
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:33:02 ID:jV4HiEsM0
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
【????/夕方】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/10 MP1/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(3) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]:過去と決別するために戦う
※アベルがどこへ行ったかは、次の書き手さんにお任せします。
※【F-5/滝の洞窟手前】に、木の人形@DQ7 が置かれました。
※【F-5/平原】に、オリハルコンのツメ@DQ9が落ちてまいす。
※それ以外のリオウの一般支給品は全て燃え尽きました。
667
:
前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
◆znvIEk8MsQ
:2017/08/23(水) 09:42:26 ID:jV4HiEsM0
これにて全部です。私として疑問なのは、
・ゴーレムがサフィールの呪文と、悲鳴でネプリムと一瞬勘違いしてサフィールを助けるという流れ
・ドメディの召喚過程
・ゴーレムがサフィールを寝かして、起きたサフィールとその後共に行くという展開
これらの3つの展開がアリなのか
他にキャラクターの心情に矛盾点があれば、指摘お願いします。
実際に、書いてみて特にこのゴーレムというキャラ、設定や伏線が多くてかなり書きにくかったので、
どこかミスしている可能性があります。
今回のストーリーは、
「アベルサフィール合流→戦い→ゴーレム乱入→ドメディ乱入→リオウ死亡アベル逃走→ゴーレムとサフィール共に行く」
という大筋がありますが、それをひっくり返すような所でなければ変更しようと思います。
また、自分の話ですが、明後日からしばらくこのスレッドを使えないので、
明日の21:30までに意見をお願いします。
採用されれば、明日の22:00ごろに本投下します。
668
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/08/23(水) 21:56:24 ID:U6ss6raw0
投下乙です
特に無理のある展開もないように思えますし、自分はいいのではと思います
669
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/08/23(水) 23:37:40 ID:8aVUZ.vE0
自分も問題ないと思います
670
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:47:13 ID:TWSW542k0
一時投下します。
671
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:48:00 ID:TWSW542k0
第二回放送を控え、静寂に包まれた虹色と鈍色の世界でエビルプリーストだった者は玉座に佇んでいた。
わたしはこのバトルロワイヤルの全てを盗聴している。
"主人公"とでも呼ぶべき各世界の中心人物が次々と殺し合いの渦に巻き込まれ、心も身体も壊れていく様は何とも爽快なものだ。
そして戦場で散った命はわたしの魔力を確かに増幅させている。
このまま殺し合いが首尾よく進み、数多の世界の頂点に立った者の魂を喰らった時は、たかだか6時間を生き残れない弱者20人程度の魂などとは比べ物にならないほどのチカラを得られるのだろう。
672
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:48:45 ID:TWSW542k0
そう、全ては順調に進んでいるはずだ。
ジョーカーとして送り込んだ手駒たちも、なかなかによく戦ってくれる。特にヘルバトラーはわたしの期待以上の力を身につけた。
しかし多少引っかかることもある。
過去の因縁もあり、ピサロに付けた首輪を集中的に盗聴しているのだが、奴らにはどうもこの殺し合いにわたし以外の何者かの意図を感じられるとのことだ。
もちろんこの殺し合いはわたしの意思で始めたものであると自負しているが、自分が過去にロザリーを殺してデスピサロの暴走を誘発したのも確かだ。第三者の何かしらの誘導が無かったとも言いきれない。
もしかすると、何者かが私の持つ進化の秘法のチカラを利用しようとしているのではないか――――――
――――――突然、頭痛が走る。
脳を焼くような、あるいは抉るような。
いや、この痛みには覚えがある。
過去にも何度か、こんな痛みに襲われたことがあったような気がする。
そう、あれは確か、首輪の仕組みについて思案している時――――――
何故このような首輪にしたのか部下達に問い詰められた時――――――
そして、ロザリーを再び攫った時――――――む、ろざりー?
奴を攫ってきた?そのような記憶は――――――
673
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:49:34 ID:TWSW542k0
「ええと、何について考えていたのだっけか…?」
思い出した。
全ては順調に進んでいるのだ。
そして今、わたしは83の生贄と共にその神としての力を真に完全覚醒させようとしているのだ。
このまま殺し合いが続けば、たった一人の勝者を迎える時はやって来る。
その時、わたしはどのように勝者を迎えるべきなのか、何も考えていないことに気がついた。
荒廃した神殿で破壊の象徴として君臨し、破壊の宴を開こうか。または邪気の満ち溢れる山々で悲鳴を山彦として響かせようか。あるいは美しき水晶に彩られた宮殿で身体をドロドロに溶かしてやろうか。天に都市を創造しおおぞらに戦うというのも乙なものだ。時も空間も混沌もを操り様々な世界を移り変えながらいたぶるのも悪くない。
いくつもの"神"の逸話を思い返してわたしは考える。
674
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:50:48 ID:TWSW542k0
――――――いや、どれも数々の強者たちの殺し合いに勝ち抜いた真の勝者を迎えるには相応しくないだろう。
かつての神々は、どれも"勇者"なる者を下等生物として扱っていた。
だからこそ、神は"魔王"として、"勇者の挑戦"を、勇者を見下しながら迎える。
だが、私はまだ完全な神ではない。
この殺し合いの勝者を食らった時、わたしは神として完全覚醒する。
言い換えれば、勝者は神を生み出すのだ。
そう、わたしが真の神となるまでは勝者は神であるわたしと対等の存在であるべきだ。
勇者がいて、魔王がいる。
勇者が魔王を倒してもいずれ新たな魔王が産まれる。
勇者が天命を迎え死のうとも、いずれ新たな勇者が産まれる。
世界は光にも闇にも染まることはない。
この虹色と灰色がいつまでも斑に続いていく世界は、そんな勇者と魔王の宿命の連鎖を映し出しているようではないか。
――――――決めた。
このどこまでも続く斑模様の世界で死者どもの血を美酒に語り合おう。
勝者の願いを、その願いに至るまでの経緯の全てを聞き、その者の全てを理解した上で喰らってやろう。
わたしは勇者に、そして勇者はわたしになる。
終わらない宿命の果てに勇者と魔王は混じり合い、神となる。
その後に、わたしは名乗ろうではないか。
新たなる神の名を。
究極の神を産んだ神なる人の子に最大限の経緯を込めて。
――――――神の名は、勝者の名。
675
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:53:16 ID:TWSW542k0
わたしは目を閉じ、指を鳴らす。玉座の前に現れるもう一つの玉座と円卓。
パーティーの準備は整った。あとは殺し合いが進むのを待つのみ。
玉座に深く腰掛け、そっと目を閉じる。
次の瞬間――――――
「このような異世界に居たとはな…。探したぞ。」
誰もいないはずの世界に声が響き渡った。
次の瞬間、目の前の空間が縦にぷっつり切り裂かれ、中から1人の男が現れる。
胸に竜の様な紋章が象られた赤い装束に身を包んだ男。
「だ――――――誰だっ!」
「彼らや他の世界の者達が既に犠牲になっているのは残念なことよ…。償っても償いきれぬ…。」
男は確かにそう言った。
当然、わたしは興味が湧いた。
ずっと気になっていたわたしの復活の経緯の真相が暴かれるかもしれない。そう思い詳しく話を聞こうとした矢先だった。
「神聖なる竜紋よ…。汝を縛らん!」
「なっ…!」
突然の攻撃だった。
竜を模した紋章がわたしの動きを封じてしまった。
676
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 22:54:49 ID:TWSW542k0
「さて、色々と聞かせてもらおうか。何故お前たちは自我を持つ?」
「な、何のことだ?」
質問の意味が分からない。
自我などわたしが持っていない方がおかしいではないか。
「分からぬか…では、お前はどうやってここに来た?」
「知らぬ…!気付いたらここで蘇っていたのだ…!進化の秘法の最終形態とでも呼ぶべき、神たる力を身につけてな…!」
男は腕を組んだまま動こうとしない。
この男は、わたしの復活の謎についてわたしよりも多くを知っているのだろう。
「神たる力とは滑稽なものよ。どうやら何も知らないようだな。それは神の力などではない。」
「では――――――何故わたしは蘇った!何故わたしは――――――こんな殺し合いの儀式などやっておるのだ――――――」
677
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 23:01:36 ID:TWSW542k0
――――――キィィィィン。
頭痛が始まった。
その瞬間わたしは理解した。
また、わたしの記憶は改ざんされるのか、と。
悔しいがピサロたちの読みは正しかったようだ。
わたしを操る黒幕がいて、この殺し合いを始めさせた。
死者の魂はわたしを確実に強化している。
そうして強くなったわたしをまた利用するつもりなのだろうか。
そして頭痛は最高潮へと達していき――――――
「ぐあああああああぁ!」
「む…?」
一瞬飛んでいた意識が戻った。そしてわたしの記憶は――――――消えていない。
消えているのはわたしを縛っていた封印。
黒幕とやらはわたしに魔力を送り込み、封印を破るだけの力を手にいれた。
さしずめ頭痛はその反動だった、とでもいったところか。
678
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 23:04:23 ID:TWSW542k0
「まさか竜神の封印を打ち消すとは驚いた。どうやら今までの奴らとは違うらしい。」
「ふっ、ふっふっふっふ…。何という屈辱よ。ただの操り人形だったわたしが――――――神へと上り詰めたと思い上がっていたとはな…!」
記憶を消されないのは全てを知った上で目の前の男を殺せ、ということなのだろう。
もっとも男を殺した後は知りすぎたわたしをどう対処するのかは知らんがそんなことはどうでもいい。
「例え利用されていようとも…お前の魂も喰らってわたしの力の礎としてくれるわ…!」
「お前が喰らっているのは魂などではない。」
男の身体は光に包まれていき――――――
血に染まったような深紅の毛。
大自然さえも包み込むような深緑の翼。
白銀で彩られたような牙。
黄金のように光り輝く瞳。
黒鉄の如く硬い鱗。
聖なるオーラを全身に纏い――――――
「お前の喰らっているのは"追憶"の力よ。そして――――――お前自身もまた"追憶"なのだ。」
"永遠"を思わせるほど美しき巨竜がそこにいた。
679
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 23:10:18 ID:TWSW542k0
【???】
【エビルプリースト@DQ4】
[状態]:健康
[思考]:目の前の男を殺す。
【竜神王@DQ8】
[状態]:健康 永遠の巨竜
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明
【黒幕?】
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明
680
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/15(金) 23:29:10 ID:TWSW542k0
一時投下終了しました。
元々はこの後の竜神王の回想まで書いている途中でしたが、リレー小説の個人の域を超えていると思ったためここまでとします。
審議してほしいのは
・この展開がアリなのか
現状「おわかれのつばさ」+「どうぐ範囲化術」が有力な脱出の手段として書かれていますが、これだと危険思想を持つジャンボと(あまり過去作を引っ張ってくるのは好きではありませんが)1stの最終生存メンバーでもあるフォズの生存が必須となってしまい、これから先の展開が制限されているような感覚を覚えたため、竜神王という「対主催サイドのイレギュラー」を用意することで他の脱出手段の当てになると思いました。
しかしその反面、エビルプリーストの正体に大きく踏み込んだため、他にも考えられる様々な展開の可能性を消してしまっています。
・投下時期
この仮投稿では第二回放送直前としていますが、その辺りの記述(必要に応じてヘルバトラーに関する記述など)を変えてもう少しピサロたちの考察が進んでからの投下も考えています。
・矛盾、誤字、不自然な表現、改善案など
これらがあればご指摘ください。
特に頭痛のシーンなどはあらかじめ書き進めていたものに後から付けたものなので少し不安に思っています。
・タイトル
正式な投下の際に付けようと思っていますが、現状何も思いついていないので案をいただければ。
681
:
ただの一匹の名無しだ
:2017/09/16(土) 07:48:55 ID:7srRvJoc0
かなりの挑戦作、乙です。
私的に気になったことは、作中で竜神王がエビに「竜神の封印」らしき技を使いエビの動きを封じる描写がありますが、
この技はエイトのように、竜の加護を受けた者、或いは竜神族と関係の深い者にしか効かなかったはずです。
最もそれだけで投下を破棄しろというわけではないです。
実際に原作のDQ8でも、何故竜神の封印がエイトにしか効かないか、具体的な理由は不明だし、
原作の竜神の封印とは別物、エビも何らかの形で竜神族の加護を受けている、などの解釈の余地はいくらでもあります。
ただそこだけが気になりました。
それともう一つ、「おわかれのつばさ」と「道具範囲化術」がクリアのカギになっていると書いてましたが、
62話「書院、或いは〜」でヤンガスに仄めかされた月影の窓、105話、「箱のカギは〜」でアスナの開けた黒い穴など、脱出の手掛かりになりそうなものはまだありそうです。
仮に脱出手段がおわかれのつばさと道具範囲化術だけだとしても、必ずしも二人を生還させる必要はないと思います。
(過去作を引っ張り出すと、1stでは首輪解除のカギのアバカムを覚えているのがサマンサだけでしたが、サマンサが死んでも首輪解除に成功することが出来ました。)
もしジャンボとフォズを生還させるのが不満の場合は、二人を殺して、技のみを何らかの形で他人に使わせることも辻褄が合えば可能だと思います
(但し道具範囲化術を他の誰かに使わせるのは難しいと思いますが)
長々と書いてしまったので、一度まとめると、
・竜神の封印がエビに効くのはどういうことか。
・まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか
この二点が気になりました。
本投下されるか没になるかは不明ですが、恐らく苦労して作ったのでしょう。実際に読んでて面白かったです。改めてお疲れさまでした。
採用されても没になっても、これからも頑張ってください。
682
:
ただの一匹の名無しだ
:2017/09/16(土) 08:00:02 ID:7srRvJoc0
誤字失礼しました。
誤:まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか
正:まだおわかれのつばさと道具範囲化術と、それを使えるジャンボとフォズの転職のみがクリアのカギと決まってないのではないか
683
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/09/16(土) 12:48:35 ID:Rk4Zkx6w0
投下乙です
自分も意見を
対主催サイドのイレギュラーということですが、その手段としていきなり主催者のとこへ正面から乗り込むというのはかなり直球すぎるように思います
襲撃成功で「バトルロワイアル完!」とするのもあれですし、またエビルプリーストが放送を行わなければならない都合上放送をまたいで決着を先延ばしにもしにくいですし、この展開だと放送前に無力化される未来しか見えないです
故に、イレギュラーとして機能しにくいのではと思います
もっとも、無力化された上で傷痕を残す展開を書ける方がいればその限りではありませんが
684
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/09/16(土) 15:08:57 ID:mE8X4tBk0
正直な感想を言うと破棄だ破棄!って騒ぐほど矛盾があるわけではないが修正無しで通すのも厳しいと思う。です
首輪解除要員に生存ロックがかかるのを危惧して出したということですが、それなら名簿外のキャラを出すのではなく参加者の知識や技術や支給品でどうにかできたと思います
例えばフアナさんに首輪解除選手権優勝!とかの設定を与えることもできますし
しかし竜神王は今回の話の根幹を担う役割ですので、修正はかなり大掛かりなものになるのでは?という懸念もあるため、気軽に修正要求も出しにくいと思いました
名簿外キャラの参戦は2ndでもしっかり前例がありますしキャラ追加、それ自体がダメではありません
なので、自分としてはもう少し他の人の意見も聞いてみたいかなと思います
685
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/16(土) 17:20:55 ID:6dMOhaf.0
ご提案・ご指摘ありがとうございます。
>>681
>>684
これは元々投下する予定だった竜神王がエビの元にやってきた経緯の方で触れていたのですが、後半を排除したことで矛盾として残ってました…
自分は強化されて復活したエビの力を「追憶の回廊」によるもの(黒幕が4の世界から持ち出した進化の秘法に刻まれた歴史を元に、追憶の回廊で追憶のエスタークやエビを創り出した。追憶のデスピサロは行方不明、役に立つか分からない追憶のバルザックは検討中。)という設定で作っていたため、竜神王の技術である追憶の回廊から生まれたエビにも封印は通用する、という設定です。
正直脱出の鍵については、「仮に黒幕がラプソーンならレティスに乗って脱出したい」という個人的な想いがかなり出ていました。他に代案も色々考えられそうですし、この話の意義として脱出の鍵となるという点は撤回ということでお願いします。
>>683
襲撃については、ちょうど最終生存メンバーが確定する辺りに黒幕やその思惑、さらにはエビ復活の謎辺りが解明出来ているくらいが物語の進行にちょうど良いと思い、黒幕を引っ張り出すために行いました。
仮にエビを倒しても黒幕の存在があるのでバトルロワイヤルの進行にはさして影響はないと思っていましたが、確かに第2回放送を行う必要はあるので放送直前である今は投下時期としては相応しくないですね…
仮に採用された場合でも放送後を目安にしたいと思います。
686
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/09/16(土) 19:17:02 ID:8O236NkA0
>>685
返答ありがとうございます
追憶の方はよく知らないから答えられないので後者について
今回の話は終盤の展開として考えているのでしょうか?
それとも第二回放送前後の話として考えているのでしょうか?
>>683
への返答はどっちとも取れる書き方でよく分からないです
仮に前者の場合、余計に先の展開への制限を促しそうな気がしますが
687
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/17(日) 15:15:52 ID:DNdEqB4s0
>>686
第二回放送前後のつもりです。
もうすぐ第二回放送が始まりそうなので、投下するなら第二回放送後を考えています。
追憶云々については3DS版ドラクエ8の隠しダンジョンにまつわるエピソードです。
脱出の糸口となる手段が「フォズの転職+ジャンボ道具広域化」のみしかフラグがないからそれらを殺せない、という状態だと思ったので竜神王という脱出のフラグを立たせることでそれらを殺すという選択肢を取れることがひとつの目的でした(もっともアスナの開けた穴など、見逃していたフラグがいくつかあったのでその必要はありませんでしたが。)
自分としてはそういったフラグの数が少ないことによる展開の制限は好ましくないと思っていますが、誰かの投下した作品で事実を確定させた場合に「その事実に基いて以降の作品を投下しなければならない」という制限はリレーの範囲内であり、どちらにせよいつかは必然的に起こることなので問題ないと考えています。
688
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/09/17(日) 18:35:03 ID:G6s6Fvqs0
えっと、この話はいつ投下されようと「第○回放送前にこの戦いをなんとかしないといけない」問題は消えてないと思いますよ
そして誰がその続きを書くのかという問題もあります。
【主催側の舞台裏】は書きたいなら好きに書いていいと思います。
しかし、その場の空気や出すべき時期を読む力も要求されます。
例えば参加者の登場話も出そろわない内に、エビと外部からのイレギュラーがドンパチやってたらそりゃ怒られますよね?
また、エビを倒して脱出EDが確定路線ではないのに、まだ半分も減ってないのにこの話は早いのではないでしょうか。
リレーの結果であるならば、エビや黒幕の一人勝ちエンドでも問題はないというのがこの企画の主旨のはずです。
そして何より、【主催側の舞台裏】は他人にリレーを強要してはならないのです。
極論、主催側の話なんて、いよいよ決戦の時が来るまでは放送話以外書く必要は無いんですよ。
舞台裏の話をリレーするあまり、内部の話が疎かになるってのは本末転倒です。
この話をトリップを出して自分が書きます!という書き手が現れるか、大幅に加筆修正してリレーの必要のない一話完結の物語として完成させない限り、このまま通すのは色々と影響が大きいと思います。
最後に、氏は撤回はなされましたが生存補正がかかるということで出した竜神王自体も、原作で繋がりのあった8キャラとの生存補正をかけてしまうのではないか、という問題もあります。
※エビは投票で選ばれた主催なので4のキャラと因縁ができるのは仕方ないです。
まとめると
1:まだ第二回放送前なのに早過ぎるのではないか
2:舞台裏の話を他人のリレー前提で書くのはどうなのか(氏本人が自己リレーするから大丈夫!と言うのは通りません)
3:この時期に竜神王を出したらそれこそ8のキャラに生存補正がかかるのではないか
です
ただしトリップを出して自分が続きを書いてリレーの必要のない形に仕上げて繋ぎます!
という書き手が現れたのなら無条件で通してもいいと思います
※もちろんその書き手が仕上げた話に問題があればこの話含めて没になると思いますが
689
:
◆2zEnKfaCDc
:2017/09/17(日) 19:11:04 ID:DNdEqB4s0
>>687
なるほど、理解しました。
自分にはこれを一話完結に収められるだけの技量はありませんので、続きを書く、または一話完結で代筆してくださる書き手が現れない限りは没にしようと思います。
690
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/09/17(日) 20:03:43 ID:G6s6Fvqs0
投下乙でした
この話、矛盾自体は無いと思いました
もっと状況が煮詰まってきた頃に投下されていたら、また違った結果になったと思います
691
:
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:19:02 ID:rAMbjtuw0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
バルザックは雄たけびを上げ、三人に突進してくる。
「来るぞ!!」
イザヤールの警告と共に、それぞれ異なる方向に大斧を避ける。
外れた大魔神の斧は、地面に大きな穴を開けた。
「避けたか。だが、次こそ真っ二つにしてくれる!!」
バルザックは目標をイザヤールに定め、大斧を振り下ろす。
「ふんっ!!」
だが、それはイザヤールの大剣で受け止められる。
斧と剣がぶつかり合い、がちんと高い音が鳴った。
「やるな、だが、チャンスだ。モリー、ザンクローネ!!」
「うむ!!」
「おうよ!!」
イザヤールの声を受けて、蒼炎のツメとプラチナさいほう針がバルザックの背中に襲い掛かる。
「ぐうっ!!」
背中に幾筋の傷を入れられ、バルザックは呻く。
「ならば、まずは貴様達からだ!!」
禿げ頭の男に斧を受け止め、その間に奇抜な格好の男と小人が攻撃してくるようだ。
ならば、先に攻撃してくる方を仕留める。
「大した奴じゃねえな。」
モリーの頭から攻撃を仕掛け、今度は肩の上に乗ったザンクローネが笑う。
今度は同じように斧をモリー達の方に振り回す。
「その程度で、わしらを倒せるとでも思ったか!!」
ラプソーンを倒したメンバーの中でもかなりのスピードを持っていたモリーは、バルザックの攻撃を難なくかわす。
692
:
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:20:03 ID:rAMbjtuw0
「ならば、これでどうだ!!」
バルザックは大きく息を吸い込み、炎を吐きだす。
「斧が当たらないなら、丸焼きにしてくれるわ!!」
だが、モリーはそれを避けようとせず、何かのポーズをとる。
「なんだ!?その、馬鹿にしたようなポーズは!!」
「モリィィィィ!!!!バァァニングゥゥゥゥゥゥ!!」
「馬鹿な!!ぐあああ!!」
彼の熱血スキルの力で灼熱の炎を出す。
その熱さと勢いは、バルザックの吐いたものを優に上回っていた
「くそぉぉぉ!!ならば、これでどうだ!!」
体を焼かれ、三人から離れたバルザックは、魔法の詠唱に移る。
復活と共に、新たに身に付けた呪文を唱えようとする。
当たれば、三人ともそれなりなダメージを受けるだろう。
「焼き尽くせ!!ベギラゴ………ぐぅ!?」
だが、余程の達人でない限り、詠唱時間が長いのが欠点だ。
頭に、ゴツリと鈍い衝撃が走る。
「遅い」
素早く後ろに回り込んだイザヤールが斬夜の太刀で峰うちをしたのだ。
侮っていた奴らに情け容赦なく圧倒される。
これはキングレオ城とサントハイム城で以前2回も経験している。
しかもその度に上司から、部下から馬鹿にされてきた。
「なめやがってえええぇぇぇ!!」
怒りに任せて、大魔神の斧を振りかざす。
勿論、そんなザマでは三人を倒すことが出来ない。
地面がいたずらに耕されるのみである。
三人は斧の攻撃の間を縫って、攻撃を仕掛けていく。
(明らかに、武器に体が付いて行っていない…………)
イザヤールは、攻撃をしながらそう思い始めた。
これでは、武器を振り回すのではなく、武器に振り回されているようなものだ。
戦いは、武器の強さや個人のスキル以上に、武器とその使い手のシンクロ具合に左右されることを示す悪い例のようなものだ。
693
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:20:30 ID:rAMbjtuw0
「ハア………ハア………クソォ!!」
次第に、バルザックが息切れしてきた。
「マスター、ヒーロー、畳みかけるぞ!!」
「了解だ。」
「任せな!!」
「タイガークロー!!」
「ミラクルソード!!」
「超隼斬り!!」
「ぐあああああああああ!!!」
強力な技を3つ全身に受け、バルザックの体は地に伏す。
「こんな………はずでは…………。」
「バルザック………だったな。もうやめろ。」
「何だと?」
ここまで徹底的に攻撃して、何が言いたいのだ。
「貴様は、人間だろう?」
「黙れ!!」
「近づいてみて、分かった。姿こそ人間とかけ離れているが、何かの力を使って魔物になった人間だろう?」
かつてガナン帝国兵のような魔物になった人間によく近づいていたイザヤールだからこそわかることだ。
だが、その言葉は、バルザックの神経を逆なでするだけだった。
「黙れと言ってるだろ!!」
―魔族の恥め、所詮は元人間という事か
―人間のくせに威張り散らしやがって
―さすがはキングレオ様。同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか
バルザックは何かをするたびに部下から、上司から、同僚から人間であったことをネタに蔑まれてきた。
とうとう怒りも限界に達したバルザックは、イザヤールを頭から真っ二つにしようと再び斧を振るう。
だが、これまで何度もやって悉く失敗に終わったやり方が、上手くいくはずがない。
イザヤールは紙一重で斬撃をかわし、後頭部に蹴りを入れる。
バルザックは前のめりに倒れた。
694
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:20:54 ID:rAMbjtuw0
「貴様を倒す必要はない。もう、止めにしないか?二人は、どう思う?」
「オレは別にいいけどよ、アンタはそれでいいのか?」
「人間を守り、正しい方向に導くのが、守護天使の役目だ。」
「うむ。ワシも鬼ではない。最初は許すつもりはなかったが、哀れなヤングにトドメを刺すようなことはせん。」
端から見て、降伏か死しかバルザックには残されていないようだった。
(こうなれば………どうなるか分からないが「アレ」を使うしかあるまい……!!)
「貴様等、それで、勝ったつもりか?」
「まだやるというのか?やめておけ。」
「私には、とっておきの奥の手があるのだよ!!」
バルザックはザックを開ける。
そこから出てきたのは、光る石。
なんの変哲もない鳥の卵のような形の石、のはずだった。
三人の顔色が突然変わる。
「やめろ!!」
イザヤールが怒鳴る。
本人以外の誰もが驚くほどの大声で。
「こいつが、そんなに怖いか?」
バルザックは得意げにそれを見せびらかす。
「違う!!それは、ヤングのような人間が使っていい物ではない!!」
モリーも、この感じは覚えている。
法王の館で戦った、杖の邪悪な力の操り人形にされている黒犬。
石から醸し出される気配は、邪悪さこそ感じないもののその杖から発せられる魔力に酷似していた。
「知っているのか?コイツは、進化の秘石。これで私は、誰よりも強い力を持つことが出来るのだ!!
貴様等、私を侮ったこと、後悔するがよい!!」
バルザックはそれをそのまま飲み込む。
695
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:21:10 ID:rAMbjtuw0
「危ない!!止めるぞ!!」
イザヤールが、モリーが、ザンクローネが、バルザック目掛けて攻撃を仕掛ける。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付くと、先ほど攻撃を仕掛けた3人が倒れていた。
「どうだ。これが進化の秘宝を使った、私だ!!」
声を上げたのは、バルザック。
それは獣人の姿ではなく、青い巨鬼の姿だった。
「凄いぞ!!かつて進化の秘宝を使った時より、力を感じる!!
感謝するぞ!!エビルプリースト!!」
尻尾一振りで3人をなぎ倒したバルザックは空に向けて、勝利の咆哮を上げる。
やはり、私を案じて、武器以外にとっておきの進化の媒体である、これを私に支給したのだろう。
だが、それでエビルプリーストよりも強くなってしまったのは、皮肉な話だが。
「私は、むて…………き………だ…………わ………………た……………し…………………」
(何だ?これは?)
突然、胸の中が焼けるように熱くなる。
「ぐあああああああああああ!!!!!」
痛みにこらえきれず、地面を爪で掻き毟る。
「な…………に………を、し……………た………き……さま…ら………」
消えていく。
記憶も、劣等感も、妬みも、憎しみも。
かつて私が進化の秘宝を使い、魔物になった時は、意識だけは保っていたはずだ。
(私は人間を棄て、力のある魔族になりたかった。
だが、望んでいたのはこんなものではない。こんなものでなかったはずだ。)
696
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:21:32 ID:rAMbjtuw0
そうだ、私が、本当に望んでいたのは……………)
最後に、エドガンに師事していた時から抱いていた錬金に対する想いも消えた。
「思い出せぬ………何も………。」
だが、破壊の意志だけは残っていた。
そして、より多く敵を破壊するための知恵と、より強い敵でも破壊できる力。
「滅びよ………すべての生きる者共よ………」
過去をすべて失ったバルザックは、今度は次第に巨大化していく。
トラペッタを襲ったギガデーモン、程大きくはないが、かつてのバルザックを優に3倍は凌ぐ大きさだ。
エビルプリーストが渡したのは、かつて自分が変身するために使っていた道具とは似て非なる物。
そして、エビルプリースト本人が更に研究を重ねて、使った物とも異なる物。
それは、強い武器や防具を錬金を通して更に強くさせる石だ。
ある星屑の力を持つ剣を、銀河の力を秘めた剣にさせ、
ある輪廻の蛇の力を持つ盾を、ウロボロスの力を持つ盾に進化させ、
またある鬼神の力を持つ槍に、地獄の力を与えた。
だが、それらの武具に進化の秘石を通して凄まじい力が備わった理由は、あまり知られていない。
答えは極めてシンプルである。
元々の武具が、かなりの力を持っているからだ。
力のない者は、力を手にした時、それを持て余し、自らの崩壊を招く。
それは、武器にも言えること。
ただの凡庸な武具に、進化の秘石を使っても、強くなることはない。
元々強力な武具に、それのみならず魔力を秘めたオーブや、太陽の石、氷の結晶などの中和剤を使って、その武器は進化するのである。
そんな道具を、錬金釜も、その力を中和するアイテムもなしに力のないものが使ったらどうなるか、火を見るより明らかである。
そして、許容しきれない力はとめどもない怒りに共鳴して、持ち手に理性の崩壊をもたらす。
697
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:21:51 ID:rAMbjtuw0
かつてのバルザックの上司であったピサロが、愛した者を殺された怒りによって、理性を失ったように。
バルザックの蔑まれ嬲られることで溜まり切った怒りと、強すぎる外部からの力は完全なる自我の崩壊をもたらした。
エビルプリーストは、これを予想し、バルザックに進化の秘石を渡したのだ。
元人間であることをコンプレックスにしているバルザックのことだ。
人間らしい感情に振り回され、碌なことにならないのではないかと。
最も、エビルプリーストはこの道具を知らなかったはず。
本当に渡したのは、誰だろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所はバルザック達がいる場所から少し東。
ここでも、人と竜の激しい戦いが繰り広げられていた。
「フ、いくら力を身に付けたと言っても、人の身では体力の限界があるぞ」
「はは、そっちこそ、魔族だからと言って、そんな大きな竜に長い間変身できないんじゃないか?」
どちらが言うことも当たっていた。
いくら強い力や技、魔法を身に付けていようとそれを使うための体力には限界がある。
また、竜王の方もこれほど長い時間変身していたことは、かつてアレフと戦った時でさえなかった。
だからと言って、迂闊に攻めの一手に出ると、その隙を突かれる可能性が高い。
一度目の放送が始まってから、4時間以上。
既に互いに消耗しながらも、先の全く見えない戦いであった。
だが、その戦いは急遽水を差される。
「な、なんだよ!?アレ!!」
いち早くレックが、それに気づく。
「なんじゃ!?」
「竜王、見ろよ…………」
遠くの方に、青い、巨大な、竜王よりも巨大な何かが暴れていた。
まだ距離はレック達とはかなり離れている。
逆に言うと、そこからでも見えるほどのメガサイズだということだ。
「気にすることはない。キサマはワシとの戦いにのみ集中すればよいのだ。」
竜王が爪を振るう。
698
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:22:16 ID:rAMbjtuw0
「そんなこと、言ってる場合か!!向こうで、誰かが襲われているかもしれないんだぞ!!」
レックは鋼の剣でそれを打ち払い、向こうへ行こうとする。
ひょっとしたら向こうに、ターニアや他の仲間、ティア達がいるかもしれない。
「ワシのことは恐れないのか?」
「あんたのことは知っているけど、向こうにいる奴は何なのか分からないんだ!!」
「小僧が、ワシをどこまでも愚弄しおって。これで片づけてくれるわ!!」
「竜王の口に闇の力が集まり、炎にして吐き出す。」
それが黒く輝く闇の炎となって、レックに襲い掛かる。
「マズいな………ならば……」
闇の力は、勇者の雷の力と同様、軽減させる方法が少ない。
「打ち返せえええ!!勇者の雷よ!!ギガディィィンン!!」
とっておきの魔法を打ち、闇の炎を弾き飛ばす。
やはり、闇の力に対応するのは、勇者の雷だ。
「まさか、闇の力を秘めた炎でも倒せぬとはな。」
「誰かを助けに行くところを邪魔するなんて、王の誇りとしてどうなの?」
「貴様………………。」
「それじゃあ、俺は向こうにいる人達を助けに行くよ。」
「待て!!」
「まだ何かあるの?」
「人間の脚ではあの魔獣がいる向こうに行くまで時間がかかるだろう。乗るがよい。」
「それは助かるけど、いいのか?」
「構わん。それともう一つ、そこの岩の上に、ワシのザックが掛かっている。中に回復の薬があるはずだ。ヤツを倒した後、それを使え。」
「どういう風の吹き回しだ?」
レックは流石に驚きながらも、そのザックを取る。中には言われた通り、クスリが入っていた。
竜王は背中を丸め、背に乗れというポーズをとっている。
どうやらレックを騙すつもりでもなさそうだ。
「人間に協力するなどと馬鹿げたことはできぬが、傷つき弱った敵を殺すことも、王の誇りに反するからな。」
「また、「誇り」ってやつか。アンタはなぜ、そこまで誇りにこだわるんだ?」
「黙れ。人間にそこまで話す必要などない。ヤツが倒れれば、すぐさま助けた者共々殺してくれるわ。」
「おおこわ。」
竜王は翼を広げ、夕日をバックにレックを乗せて飛んでいく。
「竜に乗るなんて、久しぶりだね……」
ムドーの城へ乗り込むときのことを思い出す。
最も、前は黄金竜で、今回は紫竜であるが。
699
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:23:00 ID:rAMbjtuw0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………う………無事か?」
イザヤールが起き上がる。
「ああ、なんとかな。」
「マスターの悪い予想が、当たってしまったか。」
「まだ………生き残っているな………虫けらのように潰してくれるわ!!」
凄まじい力を得たバルザックは、虫でも潰すかのように平手で3人を潰そうとする。
「まだだ!!!」
しかし、イザヤールが斬夜の太刀でそれを受け止める。
「イザヤール!!」
「マスター!!それでは!!」
「人を守る。それが守護天使としての役目だ!!」
力ではかなわない、はずなのにそれでも必死でバルザックの手を受け止める。
「モリィィィィ!!バーニイイイング!!」
モリーもあきらめず抵抗を続ける。
「温い。」
だが、その炎は氷の息によって打ち消される。
「くそったれ!!」
ザンクローネが飛び出し、バルザックを斬りつける。
だが、巨大化したということはそれを守る脂肪の鎧も厚くなったということ。
その斬撃はバルザックの皮膚を薄く傷つけるだけだった。
「貴様等を破壊してくれる!!」
バルザックはぶおんと押さえられていない方の手を振るう。
なんとかザンクローネに当たらずに済んだが、次もかわせるという保証はない。
巨大になったということは、それ相応に攻撃範囲も広がっているからだ。そして………。
「ぐはっ!!」
ザンクローネに当たらないと思っていたその手は、イザヤールに当たった。
急に別の方向からの追撃に耐えられず、岩壁に叩きつけられる。
「イザヤール!!」
「マスター!!」
700
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:23:29 ID:rAMbjtuw0
「これで、貴様たちを守る者さえ、いなくなったな。」
(まずいぞ、ヒーローを狙うと見せかけて、守りの要であるマスターを攻撃するとは、戦略の質まで上がっている!!)
守りの要を失ってしまったことの危険さは、モリーが分かっていた。
かつてバトルロードでエイトのチームと戦っていた時と同じだ。
自分のチームのはぐれメタルが倒されてしまってから、戦況が極めて悪くなったからだ。
たとえ今の攻撃で死んでいなくても、これまで通り守りの要を勤めることは出来ないだろう。
先程までとは打って変わって、3人が圧倒的に不利だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「この辺りで良いか?」
「ああ、ありがとう。下ろしてくれ。」
レックはバルザックから少し離れたところで降りる。
幸いなことに、まだあの青いバケモノには気づかれていないはずだ。
だがこれは逆に言うと、誰かが奴に襲われている可能性が高い。
そこにいる人達を案じ、レックは走り出す。
レックの背中が遠くなると、竜王も変身を解き、元の姿に戻る。
そして、こう呟いた。
「必ず、戻って来い」
(ヤツめ、ここまで近づいても気づいてないとは、それほどでもない。
おそらく、エビなんとやらと同じ、力を何かの形で手にした力無き者だろうな。
だが、そういった者だからこそ、何をするか分からん。)
竜王が気になったことはもう二つ。
人間に協力するなど、馬鹿げたことは王の誇りが許さない。
だが、一度戦った相手が自分との戦いで消耗していたため、別の者に倒されるのはどうだろうか。
最後の一つは、レックが言ったこと。
(誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。一度でも、考え直すことはなかったのかい。)
自分が誇りを貫くことで、誰かの誇りを壊してしまうことは、正しいことなのか。
自分が、何をしたいのかは分かっていた。
だが、それを、誇りが許さなかった
701
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:23:48 ID:rAMbjtuw0
【C-7/荒野/1日目 夕方】
【モリー@DQ8】
[状態]:HP1/3,MP微小費
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める
レックたちへの加勢
【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ふてぶてしく全てを救う
【イザヤール@DQ9】
[状態]:気絶
[装備]:斬夜の太刀@DQ10
[道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1)
[思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。
[備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
(「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)
【バルザック@JOKER】
[状態]:HP全快、メガボディ化
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、道具0〜1個
[思考]:全てを破壊する
[備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※過去の記憶を失い、ただ戦うための戦略と誰かを殺すことしか覚えていません(進化の秘宝を使ったデスピサロのように)
※バルザックの姿はバルザック+(第二形態)です。
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/3 MP3/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、エルフの飲み薬@DQ5確認済み支給品1~2個
[思考]:バルザックを倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。
【竜王@DQ1】
[状態]:HP2/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックを助けるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。
※D-7南/荒野にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。
※バルザックの近くに、大魔神の斧@DQJが落ちています。
※バルザックの飲み込んだ進化の秘石@DQ9は溶けたか残っているかは、次の書き手にお任せします。
702
:
誤った進化
◆znvIEk8MsQ
:2017/11/02(木) 21:29:12 ID:rAMbjtuw0
投下終了です。OKか破棄か気になった点は、言うまでもなくバルザックの変身過程です。
バルザックが進化の秘石を使って更なる強大な力を手に入れたが、その反動でデスピサロのようになってしまった、
という展開が、完全にオリジナル設定だからです。
他には、いくらバルザックが巨大だからと言って、戦いながらもそれに気づくレック、誇りを貫くか否かで悩んでいる竜王など、「これはないなあ」と思う点があるかもしれません
やり直すとしても、大筋が、「バルザックが進化の秘石を飲み込む」というものがあるので、破棄申請されても改定するのは難しいです。
もし破棄申請が出なければ、明後日の午後6時に本投下したいと思います。
703
:
ただ一匹の名無しだ
:2017/11/02(木) 23:12:38 ID:fxRXW1/U0
お疲れさまです
自分は問題ないと思いました
704
:
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:53:56 ID:tBv3.T9M0
一時投下します。
705
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:55:00 ID:tBv3.T9M0
また、守れなかった。
ひとり、ひとりと、隣からいなくなっていく。
微かに見えた黒い雷は、おそらくジゴスパークだろう。
レックやテリーが使っていたのを何度も見たことがあるし、はぐれメタルの職を経験している自分も使える技だ。
それでも、彼女の使う地獄の雷は自分のそれの比ではなかった。
そうさせたのは、彼女の実力か、それともそれほど強い想いなのか。
どちらにせよ、あの威力では先に行っていたローラとアレフはもちろん、後からついて行ったトンヌラもただでは済んでいないだろう。
ハッサンを殺した2人が死んで、ざまあみろと思う気持ちが心の片隅を支配して、聖職者でありながらそんな邪な気持ちを抱く自分にも嫌気が差して、スクルドを止められなかったことも自分を責める材料になって――――――
なぜ、こんなことになったのか。自分の中から原因を見出すのは簡単すぎるからこそ、他人の中から原因を見出したくもなる。
そしてその対象はキラーマジンガ。
あの機械兵が間違いなく原因のひとつだ。
あの時、橋の上で妨害を受けなければもっと早くリーザス村に到着して、また違う結末を迎えていただろう。
たらればの話をしても仕方がないなんて分かっている。
もはや八つ当たりにも近いことだと分かっている。
海底神殿で、デュランとの戦いの中でと、これまで幾度となく自分たちを苦しめてきたあの機械兵。こんな場所でも立ち塞がるのか、そう思えてさらに苛立ちを感じた。
「生命反応ヲ確認。」
機械兵と相対する。
橋の上で戦った時には折れていなかった剣が折れているのに気づく。あの後にまた誰かと戦ったのだろう。
じゃあ、それは誰と?
答えはすぐに思い浮かんだ。
おそらく、この辺りにいたはずのサフィールだろう。
そして機械兵がここにいるということは――――――
――――――ああ、また守れなかったのか。
サフィールが逃げ延びたのだとか、戦ったのは別の人物だったのだとか、そんな可能性はあったのかもしれないがそんなことを考慮する余裕はなかった。
憎い。
絶望が、憎悪が、溢れ出して止まらない。
あの機械兵が――――――憎い。
706
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:55:43 ID:tBv3.T9M0
「敵ト、認識。」
そうだ。
奴にとって僕が敵であるように、僕にとっても奴は敵なのだ。
人の心を弄ぶあの魔王の如き男の手先。
多くの命を奪っていった敵――――――
いや、本当の意味で皆の敵なのは僕なのかもしれない。
ハッサンも、もう少し早く動いていれば死なずに済んだのだろうか。
アモスとも最後の瞬間はきっと分かり合えていた。殺さなくても、何かしらの手段はあったはずだ。
トンヌラも、アレフも、ローラも、サフィールも――――――
一旦、考えるのをやめた。
せめて、今はこれ以上誰も失うことのないように。
「キラーマジンガ。貴方は、僕が倒す。」
「戦闘開始。あべる様ノタメニ、破壊ヲ。」
言うが早いか、ジンガーより早くチャモロは動く。
ドラゴンの杖をサフィールに渡したチャモロは今は何も武器を持っていない。
元より格闘技を特別好むチャモロではないが、キラーマジンガには呪文が通用しない。
また、威力の高い特技は発動までの隙が大きい。遠距離戦では弓矢を駆使して戦うキラーマジンガ相手に使う余地があるとは思えない。
ちまちまとした攻撃では鋼鉄の装甲を貫けるはずもなく、勝機があるとすれば接近戦での高威力の格闘技が最も有効だろうとチャモロは判断した。
チャモロが近づくと予定調和とでも言うが如く振り下ろされる槌。キラーマジンガにとっては牽制程度の攻撃なのだろう。
だがそんな簡単な攻撃でさえ、軽装備の人間相手には一撃必殺となり得る。
仮に死なずとも、これを受ければ剣による追撃を避けられない。
それでも、不思議と怖くはなかった。
何度も戦ったことのある相手だからだろうか、それとも多くの死を間近で経験し過ぎたからだろうか。槌による牽制を難なく躱す。
ただ、躱したからといって油断など出来ない。
槌により叩きつけられた地面から砂埃が巻き起こり、微かにチャモロの足を取る。
大局的に見るとただの砂埃でもコンマ1秒の動きの乱れが生死を分ける戦いの中では立派な障害物になりうるのだ。
だが、チャモロは次の一手を回避に回すために動いていなかった。
キラーマジンガの攻撃を2度受けきると隙が出来ると分析したが、相手の行動にパターンがあるとはいえ自分の行動までもをパターン化するのは危ないかもしれないからだ。
初撃を回避してすぐに動く。
砂埃で足が取られないよう、回避と同時に大地を踏みしめていた。そして敵が剣を振り下ろす直前、地面をバネに飛び上がり膝蹴りを入れる。
707
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:56:23 ID:tBv3.T9M0
ガシャリと鋼の音が鳴り響き、ジンガーは後退する。
折れた剣での第二撃はチャモロには届かない。
「ヤハリ、ソウカ。」
ジンガーは呟いた。
先程の戦いは殺し合いではなかった。だが、今は紛れもない、殺し合いをしている。
破壊し、破壊される――――――このために、自分は動いているのだと実感する。
中距離まで離れたジンガーはビッグボウガンを引く。
それに気づいたチャモロは1歩引き下がる。
矢を放たれて1番厄介なのは遠距離ではなく中距離である。
目視で回避出来るだけの距離があればこちらからの攻撃手段はなくともリスクを負うこともないのだ。
放たれたジンガーの矢を逸れて躱したチャモロは再び距離を詰めにかかる。槌にも剣にも対抗出来るよう両方に注意を払っていた。
来たのは横薙ぎの斬撃。
斬撃の軌道に合わせて身体を逸らして躱し、そのまま爆裂拳を叩き込む。
高速打から逃れるようにジンガーは引き下がった。
チャモロは攻撃を防いでいるのではなく、捌いている。
あくまで、相手の攻撃に対応する目的は自分の攻撃を一方的に通すことにあるのだ。
それでも、割に合わないとでも言うべきか。
1回相手を怯ませるのに2回の命の危険を潜らなくてはならない。どれだけ追い詰めても一瞬で形勢は逆転しうるのだ。
負けるビジョンはいくらでも見えるというのに、勝機は見えない。
でも、引くわけにはいかない。
ここで倒さなくては、直接的であれ間接的であれ、また誰かが犠牲になるかもしれない。
初撃。
ジンガーはチャモロに対し矢を連射する。
これまで回避を主とした戦術を取っていたためか、線状ではなく扇状の攻撃。
「はっ!」
真空刃でその全てを弾き飛ばして道を作り、前進する。
次は、打撃か斬撃か。
どちらが来ても反応出来るよう、ジンガーの両腕へと意識を集中する。
(!?)
しかし、ジンガーの取った行動はどちらでもなかったのだ。
第二撃は単純な体当たりだった。
衝撃がチャモロの身体を弾き飛ばし、草原の上に転がす。
708
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:57:09 ID:tBv3.T9M0
もしも初撃にこれを受けていればそのまま追撃の矢を心臓に受け、無事では済まなかっただろう。
だが、キラーマジンガは2回の攻撃行動の後は次の攻撃行動までにしばしのインターバルを必要とする。
よって攻撃行動の出来ないジンガーがとった行動は接近。
チャモロが立ち上がる瞬間を狙い、次の攻撃行動として槌を振り下ろす。
避けられない。
槌の一撃がチャモロに命中し、骨にヒビが入る音が響く。
だが、命までを奪うことは出来ない。
「大防御…!!」
チャモロは左腕で一撃を何とか受け止めていた。
体つきは華奢なチャモロだが、それでもパラディンの職を極めているのだ。並の戦士を優に凌駕する防御力を持っている。
だが、勝てるわけではない。
左腕をやられ、武闘を駆使しての戦いも半ば封じられてしまった。
何度も倒してきた相手だと言うのに、隣に誰もいない、ただそれだけのことで人はこんなにも弱くなってしまうのだろうか。
でも、諦めるわけにはいかない。
「僕は――――――最後まで戦う…!」
誓いを言葉にして吐き出す。
根性論で乗り切れる戦いではないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
「―――そう、諦めちゃだめだ。」
「―――助太刀するでござる。」
その時、剣を振りかざすジンガーと素手で対抗せんとするチャモロの間に割って入る二人がいた。
その者の内の1人は炎を纏う赤剣と対をなすかのように青く美しい剣を構え、機械兵の斬撃を受け止める。
もう1人はその状態のキラーマジンガに体当たりをして怯ませる。
「間に合ってよかったでござる、チャモロ殿。お主のことはサフィール殿から聞いております。」
その者は図らずもサフィールが生きていることを伝えてくれた。
「…と、名乗るのが遅れたね。僕はアルスで、こっちはライアンさん。この殺し合いを終わらせるために仲間を集めてるんだ。」
そして孤立し弱っていたチャモロに、仲間がいることの安心感を思い出させてくれたのだった。
「アルス殿、一旦離れましょう。作戦についてチャモロ殿に。」
「分かった。」
アルスとライアンは予め何かしらの考えがあって挑んでいるらしい。
最低限の会話で行動方針を決めていく。
「魔神――斬り!」
アルスは攻撃の後の僅かなインターバルの時間を利用して渾身の一撃を叩き込み、ジンガーは数メートル吹き飛んでいく。
再び戦闘へと戻ろうとするも、既にアルスたちは逃走を成功させていた。
709
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:57:57 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「みんな友達大作戦…?」
ハッサンやアモスを想起させるような屈強な男の口から飛び出たのは、何とも可愛らしい作戦名だった。
人も魔物も、全員仲間にして主催を倒す。
確かに理想的ではあるだろうが、現実的に可能なのだろうか。
「しかし、相手はあのキラーマジンガです。仲間にすることは出来るのでしょうか?それに、この世界でも奴は破壊の限りを尽くしてきたはずです。やはり納得しない人だっているかもしれません。」
「そう…思うよ。」
サフィールの話では、マリベルの死には少なからずキラーマジンガが関わっていたそうだ。もちろん、憎いという心が全く無いといえば嘘になる。
「でも、それは機械兵が悪いんじゃない。裏にはいつも人間や魔物の悪意があるんだ。」
(――――――ぼくとしては戦いしか知らぬからくり兵に同情しているくらいだ。真に悪といえる存在がかれらではないということが人間たちにはわからんのさ。)
いつかゼボットが言っていた言葉。彼もかつてのアルスと同じように、自分の、そして他人の命に対して無頓着だった。
ただし彼は彼のやりたいことを見つけていた。だからこそエリーを作り上げられたのだろう。
それでも機械兵を憎まずにいられない人がいることも理解出来るが、アルスの意見がどうしてもゼボット側に傾くのは、長く命への関心を持っていなかったからかもしれない。
「…分かりました。ただ、どうやってあれを仲間にするのですか?」
「それには、考えがあるのでござる。」
「うん。サフィールによると、キラーマジンガは人間に従っているそうなんだ。」
「それは私も知っています。あのアベルという男の意思に従って破壊を繰り返しているそうです。」
「そう、奴はただ無差別に人を襲っているのではなく、人の命令に従っているのでござる。ならば、何かしらの方法でこちらから命令することも可能なのではなかろうか。」
「なるほど、命令を上書きするわけですね。」
「ふたつ、可能性がある。まず1つ目。過去に機械の兵団と戦った時に、エラーを引き起こす音波を発する装置を使ったことがあるんだ。さすがに同じものは支給されてないだろうけど、何かしらの音波を発するものがあれば回路を狂わせることが出来るかもしれない。」
ただ、残念なことに音に関する道具は誰も持っていなかった。
そもそも橋の上で銃を暴発させた時キラーマジンガの近くでかなり大きな爆音が響いたはずだが、それで何のエラーも起こっていないことを見るに音によるエラーは現実的ではないのかもしれない。
「そして2つ目。これは…成功するかどうかは実は僕次第だ。"魔物ならし"という技があってね。魔物を手懐ける特技なんだけど、それが機械相手にも通用することがあるんだ。それを使えば、破壊の命令を解除することも出来るかもしれない。」
「そんな技が…!アルスさんは使えるんですか?」
「それが、僕は使えないんだ。でも他に方法がないのなら試してみるよ。仲間が使っているのを見たことだけならあるからね。」
ガボはモンスターマスターを極めていた。
生きていれば、きっとみんな友達大作戦の立役者となってくれていたのだろうが、感慨にふけっている暇はない。
こちらを発見した機械兵が迫ってきているのだから。
「敵ヲ、確認。破壊シマス。」
「違うさ、僕らは敵なんかじゃない。」
作戦開始。
そして殺し合いとは呼べない何かが、始まる。
710
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:58:28 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ジンガーがアルスを槌で殴り掛かる。
ライアンが割って入り受け止めるが、想像以上の重圧に氷の刃を弾かれる。
炎剣による第2撃を後続のアルスが弾き、ライアンは事なきを得た。
「助かったでござる…!そして気をつけてくだされ!心無しか斬撃の精度が上がっているでござるよ!」
ジンガーは戦った相手の行動パターンを分析している。
よって防御の手薄になりがちな部分を持ち前の正確さで確実に突くことが出来るのだ。
「ならば…真空刃!」
攻撃の軌道をずらすべく風の刃を放つ。
ジンガーの振るった剣は空を斬るに留まる。
正直に言うのなら、チャモロはキラーマジンガを仲間にするのにあまり乗り気ではない。
ただしそれは個人の感情によるものが大きい。
海底神殿での戦いはチャモロだけでなく、パーティー全員に大きなトラウマを与えた。
デュランとの戦いの前座として召喚されたキラーマジンガもレックのラミアスの剣を持ってしても苦戦を強いられた。
チャモロにはこれを仲間にするのは信じられないとさえ思える。
だが、仮に成功すればかなりの戦力となるのは間違いない。
ここで自分の感情を押し通して、そのせいで守れない命があればきっとまた後悔することになる。
だから出来る限りのことをしようと決めた。
元の世界に帰りたい、きっとその想い自体は誰もが同じはずだ。
チャモロの攻撃によって怯んだジンガーは後退しながら矢を連続で放つ。
接近攻撃を主とする3人を相手にするジンガーにとっては適度に距離を置く方が有利なのだ。
711
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 11:59:45 ID:tBv3.T9M0
だが、ジンガーはアルスの素早さを見誤っていた。
疾風突きの勢いに乗せてアルスは接近する。
灼熱剣エンマによる斬撃が放たれるも、アルスはオチェアーノの剣で押し返す。
ジンガーはまだアルスと戦ったことがなく、動きのパターンがインプット出来ていないのだ。
そしてアルスはジンガーの下へと辿り着く。
武器を納め、鋼鉄の身体に触れる。
「もう破壊をやめるんだ、キラーマジンガ。エビルプリーストを倒すため、君の力を貸してほしい。」
言葉を紡ぎ語りかける。
機械相手に、周りから見たら滑稽だと笑われるかもしれない。
でも、人間の愛に触れて育てば機械兵にも"心"が芽生えるのだとアルスは知っている。
現代のフォロッド城のエリーを巡る騒動。アルスが自分の心の問題について考え始めたのもこの出来事があってのことだった。
「誰も死ぬことがあってはいけないんだ。君も、君のマスターも、みんなでこの閉ざされた世界から脱出しよう。」
「ますたー…あべる様…?」
アルスの言葉にジンガーが反応を示す。
それは有効だったのか、それとも悪手だったのか。
「あべる様ハ、イナクナッタ。あべる様ノ指示ガ、必要ナノダ。」
「だったら僕たちも探すのに協力する。今は敵対しているかもしれないけれど、君のマスターも仲間にしてみせる。」
「ソウカ、分カッタ。」
言葉が届いた。
アベルと出会った時にどうなるかは分からないが一時的とはいえ成功したのだろうか。
「――――――オマエタチハ、今ハあべる様ノ敵ナノダナ。」
(…!)
一瞬抱いたそんな幻想は、すぐに打ち砕かれた。
ジンガーはメガトンハンマーで地面を思い切り叩きつけ、辺り一面を衝撃波で吹き飛ばす。
「ぐっ…!」
「駄目で…ござるか…!」
「やっぱり、アイツは…!」
言葉は届いた。
だが、ジンガーのアベルへの忠誠を読み違えていたらしい。もっと早くに心を取り戻し、魔物マスターに転職出来ていたら。
もっと早くにトラペッタに辿り着き、ガボを守れていたら。
心を取り戻したアルスに待っていたのは後悔の連続だった。
もう、後悔はしたくない。
だが実力が足りない。
衝撃波によりアルスは空へと放り出される。
最も近くで衝撃波を受けた分、他の2人よりも大きなダメージを負ってしまったのだ。
そして、ジンガーの追撃がアルスに迫る。
712
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 12:00:30 ID:tBv3.T9M0
「アルス殿!ぬおおおお!!」
ライアンがアルスの前に立ち塞がり、ジンガーの斬撃を氷の刃で受け止める。
想像以上の重圧に押し返されそうになる。
さらにその時、ジンガーの持つ灼熱剣エンマが更なる熱を放つ。
アルスを狙ったのは隙が出来たからでも近くにいたからでもない。
アベルと敵対しているとの言葉を吐いたアルスにジンガーは怒っていた。
それは天使の守る世界の人々やアストルティアに生きる人々には"怒り"と呼ばれている現象。
だが、この場の全員が知らない。知る由もない。
この状態の者の放つ一撃は、平常時よりも遥かに強力であるということを。
「ぐっ…ぬおおお…!」
灼熱剣の熱で氷の刃が溶け始める。
だが、即座に完全に溶けるには至らない。それは氷の刃が強力な武器であったからなのか、それとも剣の元々の持ち主である今は亡きナブレットの執念なのか。
どちらにせよ、ライアンの守りが崩れるのは遠くはない。
アルスはすぐに戦闘復帰するにはダメージが大きいだろう。
動けるのは自分だけだ。そして、動くとするならば今しかない。
「黒き雷よ――――――」
ごめんなさい。
心の中で呟いた。
魔物も機械も、全員が協力して戦えるのならそれは本当に夢のような話だと思える。
だけど、そんな夢に執着して目の前で消えるかもしれない命を見捨てることは出来なかった。
「我が敵を―――飲み込め。」
あの時のスクルドもきっと、守りたい何かがあったのだろう。
それは命かもしれないし、想いかもしれないし――――――何にせよ、許してはいけないのに許さなくてはならない気がした。
彼女も、方向性は違うのかもしれないけれど、今の僕のように苦しんでいたのだ。
713
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 12:01:57 ID:tBv3.T9M0
「ジゴスパーク――――――」
地獄の雷を呼び出す。だが打ち出すことはしない。
このまま放とうものならライアンもアルスも巻き添えにしてしまう。
チャモロは荒れ狂う力を右腕に込める。
(ハッサンさん…見守っていてくれていますか?今の僕はあなたに胸を張ることは出来ないけれど――――――)
ジンガーに近づくにつれて灼熱剣の熱気が伝わってくる。
裸出した顔を、腕を焦がすその熱がやけに冷たく感じられた。
(せめて、今はこの技で――――――)
「正拳――突き!!」
地獄の雷を纏った拳が、ジンガーの装甲を真っ直ぐに貫いた。
悲鳴をあげることもなく、機械兵はただただ砕けていく。
「あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。」
ただひとつ、機械兵が最期に発した言葉は、機械兵のものとはとても思えないくらいに、人間味に溢れていて。
この機械兵も苦しんでいたのか?
そんな疑問が、そんな迷いが頭の中を掠めた時には、全てが終わっていた。
作戦は失敗した。
キラーマジンガを破壊――――――いや、殺したこと自体は間違っていなかったはずだ。
ライアンとアルスの命を守れたことを誇りに思うべきなのに。
でもキラーマジンガをこの手で倒したことを、この作戦の失敗を、どこかで喜んでいる自分がいたのも確かだった。
その後は、どことなくいたたまれない空気が辺りを支配していた。
「僕たちはリーザス村へと向かう。チャモロ、君も仲間になって欲しいんだ。」
「…ごめんなさい。僕はトラペッタ方面に向かいます。」
サフィールが向かったらしい場所。
たった今、感情の枠にヒビが入って感情が零れ出して、そのままにキラーマジンガを殺した。
今リーザスに向かって、もしもハッサンの仇の2人が生きていたら、スクルドと再び出会ったら、その時自分がどうするのか、それを考えるのが怖かったのだ。
「サフィールさんは僕が守ります。彼女と共に仲間も集めます。だから、もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。」
「うん、分かった。じゃあ行こうか、ライアン。」
「うむ…」
ナブレットの形見だった氷の刃は完全に溶けてなくなっていた。
物にそれほどの執着があるわけではなかった。大切なのは、あの時にナブレットが剣を渡してくれたから自分は今こうして生きているということ。
714
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 12:02:40 ID:tBv3.T9M0
「ナブレット殿…ありがとうでござる。」
小さく呟いて、アルスの渡してくれた新たな剣を装備する。
まどろみの剣。ラリホーの効力のあるこの剣は、きっとみんな友達大作戦に貢献してくれるだろう。
散っていった命に報いるため、せめて前を向いて、戦おう。
ある者は無力感を噛み締め、ある者は使命に燃えて、ある者は罪悪感に苛まれ――――――それぞれがそれぞれに思うところのあるこの戦い。
ただし、戦いはまだ終わっていない。
この戦いは始まりにしか過ぎないことを、この時はまだ誰も知らなかった。
【G-5/平原/真夜中】
【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。
【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。
【F-4/平原 /真夜中】
【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/10 MP1/5 左腕骨折 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
715
:
踏み込んで、天と地まで
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 12:04:38 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「キラーマジンガ…恐ろしい奴よ。主への忠誠心から、自ら別の世界の可能性を掴み取るとは…!」
ジンガーの放ったグランドインパクトも怒りによる能力上昇も、彼のいた世界のキラーマジンガが使いこなせるものではない。
主催者、エビルプリーストは笑っていた。
「バラモスが死んで退屈しておったでな――――――救ってやろうとも考えていたが、どうやらその必要もないようだ。」
奴が他の世界の可能性を掴み取ったのなら、必ずや起こる現象があるはずだ。
そしてそれは何を生み出すのか、まだ予測もつかない。
「何とも面白い…面白いではないか…くはははははははははは!!!」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
アルス、ライアン、チャモロの3人がジンガーの居た場所を離れてしばらくした後、1体の機械兵が天より舞い降りた。
その機械兵はキラーマジンガであり、ジンガーではない。
彼は地に伏し動かなくなったジンガーを見下ろしている。
「Code 87:Remote Repair 開始。」
そしてインプットされたデータの通りに、ジンガーに腕を宛てて壊れた部品を組み直していく。地獄の雷によって破壊された装甲が、アクセルが、修復されていった。
「完了。」
新たな機械兵の発したその言葉と共に、ジンガーは地の底より舞い戻った。
「助カッタ。宜シク頼厶、個体Bヨ。」
「…。」
心の宿った機械兵と、心無き機械兵。
2体はそれ以上言葉を交わすこともなく、アクセルを踏み込んだ。
【F-5/平原 /真夜中】
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。
アルス達の向かった先を知りません。
【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:無し
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
716
:
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/09(土) 12:22:24 ID:tBv3.T9M0
投下終了です。
気になる点は、キラーマジンガBの存在。
・参加者追加について
設定としてはバラモスゾンビやヘルバトラーの「その個体特有の形態変化」に近いもので、キラーマジンガのイメージからかけ離れたものでもないとは思いますが、リレー小説における扱いとしてはDQBR2ndのサイモンに近いものだと思います。
トラペッタ方面の人物の淘汰、みんな友達大作戦の成功、リーザス方面での戦闘など、ジンガーが行う可能性のあることを色々考えた結果、1体では荷が重いのではないかと考え、この話を書くに至りました。
一応、
>>715
の展開のみを没にしても話の大筋は通ると思うので、この設定が没になっても本投下はします。
とりあえず以下に挙げる点はこの点が受け入れられている前提のものとなります。
・マジンガBの支給品までもが追加されていること
近くにネプリムの不明支給品やリオウのオリハルコンの爪が落ちているはずなので、装備品の調達自体は難しくないのですが、マジンガ2匹で道具漁りをする図が場面に対して不格好だと思ったので追加キャラにも関わらず最初から装備品を持っている設定にしています。この点について意見を聞きたいです。
これらの点に反対意見がなければ、月曜日の夜に大体このまま本投下しようと思います。
717
:
ただの一匹の名無しだ
:2018/06/10(日) 13:16:55 ID:zEIRyHuU0
投下乙です。やはりマジンガは2体1セットか……。
10世界の技を使うバラモスゾンビや強ボスの形で復活したヘルバトラーのように、キラーマジンガも10世界の技を使うならこれもよいと思います。
新キャラではなく、2体1セットと解釈するならばこれでもよいと思います。
あとこれはどうでもよい話ですが、チャモロがキラーマジンガと闘った場所は海底神殿ではなく、海底宝物庫だと思います。
海底神殿は確かグラコスと闘った場所です。
718
:
◆2zEnKfaCDc
:2018/06/11(月) 22:40:28 ID:LjyLYJEw0
ご意見&ご指摘ありがとうございます。
特に反対意見もないようですので、指摘箇所修正の上投下したいと思います。
719
:
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:41:12 ID:Z.uZw2LI0
投下します。
720
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:42:12 ID:Z.uZw2LI0
今一度状況を確認しよう。
つい先刻まで有象無象が集まっていたこの場所だが、今は自分を合わせて5人しかいない。
ほとんどがこの地を去ったか、戦いの果てに死んでしまった。
「私達は城へ戻る。ジャンボ、ホイミン。後を頼んだ。」
「オレでいいのか?」
「貴様しかいないのだからな。」
「うん。必ずターニアを連れ戻すよ。」
軽く言葉を交わして、二人は遠くへ行った。
それをアンルシアがぼんやりと眺めている。
残りは、自分も入れて3人。
加えて一人はなおも気絶している。
そして、目的の道具が目の前にある。
結論を言うと、今がロザリーのもとに帰る、千載一遇のチャンスと言える。
今一度周りを確認する。
誰も自分の動きには注目していない。
ゆっくりと、ゆっくりとティアのザックに手を伸ばす。
おわかれのつばさは、何の苦労もなく、自分の手に収まった。
そのまま、自分のザックにしまい込む。
「我々は城に戻る。二人共大丈夫だな。」
「…………。」
「ヤンガスの話によると、城には月の世界へ行ける窓があるらしい。脱出の手がかりもあるかもしれん。」
アンルシアは黙ってティアを抱え、ピサロについていく。
だが、一つ気がかりなことは。
今、ここにいる二人の安否だ。
正直なところ、見ず知らずの小娘二人、どうなろうと構わない。
だが、急に二人を置いて消え去れば、怪しまれかねない。
またおわかれのつばさを奪って消えるところを見られれば声を上げられる。
それが何者かに盗聴される可能性だってある。
721
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:42:40 ID:Z.uZw2LI0
自分としてはすぐにでもこの道具を使いたいところだが、一度城に戻り、月影の窓とやらを確認し、
そして二人から離れて使うべきだ。
ピサロがそう考え続けていたところで、
3度目の放送が流れた。
――――――「まずは禁止エリアの………」
どの道脱出するのだからどうでもいい。
アンルシアはジャンボが走って行った方をじっと眺めている。なおも変わらないままだ。
―――――「続いて、この地で死者の仲間入りになった………」
私にとって、生死が気になるのはこの戦いに参加した者ではない。
「ス…ら…い……m」
ティアのザックから、光る翼を取り出す。
「D……rあ…ン」
本物だ。図鑑で見たと同じものだ。
「と………n…ヌ……ら」
煩いノイズだ。
「お兄ちゃん!?」
ティアが突然目を覚ました。
全く持って忘れていた。
この少女の兄が呼ばれたとは。
「ティアちゃん!?」
アンルシアも意識を向け始めた。
「お兄ちゃん……どうして……なの?」
兄を失って、予想通りと言えばそうだが、ティアは錯乱状態だ。
アンルシアの背中の上で暴れ始める。
722
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:43:36 ID:Z.uZw2LI0
「落ち着け!!小娘!!」
ピサロとアンルシアの声も聞かずに、ティアは泣き始める。
どうにかアンルシアがティアをなだめるも、どちらも精神的に極めて不安定な状態だ。
こんな時に別の敵からの襲撃が来れば、大変なことになる。
どさくさに紛れておわかれのつばさのみを持ち逃げするというやり方もあるが。
早くこの場から離れないと十中八九面倒なことになる。
城が見えてきた。
(……!?)
だが、その城からは何とも邪悪な気配が伝わってくる。
元々ヤンガスの話によると、あの城はかつて呪われた時の姿になっていたという。
だが、そんなものではない。
昼間とは全く気配が違う。
他の二人は気付いていない。
一つはかつての自分の部下、ヘルバトラー……のようだが圧迫感が全く違う。
もう一つ、さらに城に近づいてくる邪悪なオーラを感じる。
城は今でも安全だとばかり思っていたが、そうでないことがすぐに伝わった。
月影の窓を見つけるどころか、以前現れたという場所である図書館に行くことさえ難しい可能性が高い。
だが、どうすればいい?
城が安全じゃないなら、他の場所が安全だということにはつながらない。
「止まれ!!」
城へ向かおうとしている二人に警告をする。
「城から邪悪な気配を感じる。しかも、二つもだ。」
「え!?」
アンルシアが慌て始める。
更に、城の中から、巨大な竜巻が巻き起こる。
バギクロスよりはるかに巨大なサイズだ。
ここにいてもいつ敵に感づかれるか分からない。
723
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:44:14 ID:Z.uZw2LI0
しかもタイミングの悪いことに、ティアが泣き始めた。
「おにいちゃん!!たすけてぇ!!どこにいるの!?おにいちゃぁん!!」
「静かにしろ!!キサマの兄は死んだ!!」
言ってすぐに、自分の行動を後悔した。
「おにいちゃんはどこぉ!?おにいちゃんが……しんじゃうはずがない………。」
子供をあやしたことなんて、一度もない。
どうにもできない状況で、予想外な周りの状況の変化に頭が回らない。
厄介な事態はさらに続く。
「そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!」
ティアが自分のザックを探り始めた。
「待って!!ティア!!」
アンルシアがそれを止めようとする。
全く持ってこれは予想外だった。
私はてっきりティアがおわかれのつばさの使い道を知らずに、しまっていたのだとばかり思っていた。
だが、既に知っていたとは。
大方、仲間と共に使いたいとか、人間特有のくだらない理由だろうが、今更理由などはどうでもよい。
「あれ……!?どうして……ないの?」
当然ながら、ティアがおわかれのつばさがないことに慌て始める。
しかし、アンルシアは、もう一つのことに気付いていた。
「あなた……どうして……?」
その目線は自分のザックからはみ出ていたたおわかれのつばさに注がれている。
(!!)
これはまずい。
こうなってしまったが最後、おわかれのつばさを用いて脱出するしか道はない。
だが、おわかれのつばさを手に入れたのはよかったが、それの使い方までは知らない。
また使用した後、いつになれば帰ることが出来るのか。
一瞬で帰れるなんてことは、誰も言っていない。
724
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:44:50 ID:Z.uZw2LI0
「ジャンボの味方のフリして、私達を騙していたのね!!」
アンルシアはティアを地面に置き、戦乙女のレイピアを構える。
しかし、突然アンルシアの呼吸が荒くなり、手が震え、武器を落としてしまった。
(なんだ……これは……。)
恐らく仲間が人殺しをしていたという事実を、自分の行いが大量殺人を招いてしまったという事実がフラッシュバックしているのだろう。
(これは……まるで……)
全てを知り、ぬけがらのようになった、あのユーリルだ。
ティアはどうなっているのか後ろを振り返る。
先程の戦いの、エイトとかいう青年のように後ろから刺されてはたまったものではない。
予想通り、ロトの剣で斬りかかってきた。
しかし、所詮は修行もろくに積んでいない少女の太刀筋。
攻撃してくることを見れば、よけるのも簡単だ。
「……ぎが……でいん」
抜け殻となった勇者は、歯をガチガチ言わせながら、呪文を紡ぐ。
だが、雷の力はそれに答えてくれない。
アンルシアの状態こそは気になるが、今気になるべきはロザリーだ。
とにかく、これをどうすれば元の世界に戻れるのか。
(!?)
「待って……返しなさい……!」
アンルシアの呼びかけも無視して、おわかれのつばさが光り始めた。
光はピサロを包み始める。
大きくなった光は、そのまま天空へと飛んで行った。
ティアが、アンルシアが何かを言った。
だが、最早どうでもよいことだ。
ロザリーの安否を確かめる。それだけだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
725
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:45:13 ID:Z.uZw2LI0
(ここは……?)
おわかれのつばさが発した強い光に、まだ目がくらんでいる。
一瞬、首輪を確認する。
大丈夫だ。特に変化はない。
「ピサロ様!?」
懐かしい、とは言っても1日ほど聞いてなかっただけの声が、耳に響く。
「ロザリー!?無事だったか?」
「ピサロ様こそ、そんなに慌てて、どうしたのですか?」
徐々に目が慣れている。
間違いない。ここはロザリーヒルの塔の中。
そして目の前にいるのは、ロザリー。
鈴のように透き通った声、きめ細やかな肌、宝石のように綺麗に輝く赤毛。
間違いなく彼女だ。
心を安堵が芯まで包み込む。
エビルプリーストの魔の手から、今度は彼女を守れたようだ。
「大丈夫だ。もう安心しろ。」
「安心しろって……どういうことですか?」
「聞いてくれ。ロザリー。あの忌々しい魔導士、エビルプリーストが復活したのだ……。」
だが、こうして戻れた以上、ロザリーに指一本触れさせることはない。
「そんな……。勇者様と、倒したのじゃなかったのですか?」
「何故かは分からん。だが、今はロザリーを守ることが先だ。」
「……ピサロ様、その首輪、一体何ですか?」
首輪。
今もなお動かずに首下で留まっている
今までは脱出することばかり考えていたが、これもどうにかしなければならないだろう。
だが、一たびエビルプリーストの作った鳥籠の中から逃れられれば、直す方法なんていくらでも思い当たる。
726
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:45:56 ID:Z.uZw2LI0
既に首輪の仕組みは、大魔道の手紙によって、簡素であることが分かっている。
「ああ……これは……。」
「逃げられると思っていたのですか?」
ロザリーの顔が邪悪に歪む。
彼女がこのような邪な表情を浮かべるはずがない。
「貴様!!ロザリーではないな!?」
「もちろん、その通りだ。あの程度の道具で、逃げられると思ったか?」
口調はロザリーのものではない。
だが、姿はロザリーである以上、誰なのか分からない。
そしてなによりまずいことがある。
体が、全く動かない。
首輪から流れ出る何かが、自分の体を縛っている。
これは、人間が呪われた武具を身に着けた時にかかるという、呪いか?
ロザリーは自分のザックから、私がトロデーンの図書館から拝借した本を出す。勿論、「勇者死すべし」に挟まっていた手紙も。
「やはり、この本を読んだか。全ては私の思惑だがな。
奴も愚かだ、あの程度の手紙を紛れ込ませたこと、知られないとでも思っていたのか。」
目の前にいる存在。
エビルプリーストか。別の想像もしない何かか。
まだ口だけは動く。
「貴様は、なぜこんなことをする?」
「こんなこととはどういうことだ?」
「貴様は、私達をこの戦いに巻き込んだのはよい。だが、なぜこのような書物を私に読ませた?」
そこから返ってきたのは、自分の予想もつかない一言。
「ピサロという魔王が、そしてロザリーが、一つの大きな可能性の媒体だからだ。
そして貴様は予想通り、この戦いにおいて大いに活躍してくれた。図書室でずっと本を読んでいるより、な。」
「待て!!それは、どういう……。」
自分を覆っている、闇が濃くなる。もはや周りさえ見ることが出来ない。
「それ以上言う必要はない。」
指をパチンと鳴らす音。
意識が、闇に包まれた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
727
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:46:16 ID:Z.uZw2LI0
一方で、トロデーン付近の草原。
「ねえ、どうするの?おねえちゃん……」
ティアは、なおも泣き叫び続ける。
「逃げるのよ、ティア……。」
にげる。いざという時に必要なことだと、ジャンボから教わった言葉。
あの時こそ、ジャンボの考えには反対したが、今の自分は力がない。
アンルシアはティアを連れて逃げる。
ピサロがどうなったのかも知らずに。
【ピサロ@DQ4 死亡?】
【残り?人】
※ピサロ、およびピサロが所持していた本以外の支給品の消えた先、(死亡、行方不明、会場のどこか)などは次の書き手にお任せします。
【D-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】
【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーン城から逃げる
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい
[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。
【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:恐怖
※第二放送の内容を聞いてません。
728
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/02(水) 20:50:39 ID:Z.uZw2LI0
投下終了です。言うまでもありませんが、一時投下スレを使った理由は、
・おわかれのつばさの使用と
・ピサロの会場脱出からの流れです。
この2点の意見を聞きたいです。
この2点及び他に反対意見がない場合は、1月4日の21:00に本投下しようと思います。
729
:
ただ一匹の名無しだ
:2019/01/03(木) 09:48:10 ID:OOQQzTMk0
一時投下乙です…が
これで通すにはおわかれのつばさがなんで発動したのかとか、ピサロの安否とか、色々情報をぼかしすぎてて続きを後の話に委ねるにはハードルが高すぎかなあと思います
730
:
その翼、絶望か希望か
◆qpOCzvb0ck
:2019/01/03(木) 21:41:33 ID:MvKKHGCw0
ご意見ありがとうございました。
仰る通りおわかれのつばさの使う過程に大分雑なところがありました。
それから行方不明になったピサロを引き継ぎで使うのも大分はばかられるのも言われてみて共感できることなので、
以上の点から投下破棄します。
仮に修正するとしても、時間がかかるはずなので、このパートを書く際に他のアイデアがある方は先に書いてください。
お騒がせしました。
731
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:27:41 ID:gYmjXASs0
不慣れですがよろしくお願いします。出来たものを貼ります
732
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:29:47 ID:gYmjXASs0
闇夜が眩しく輝いていた。
【E-4/トロデーン〜トラペッタの川沿い/黎明】
ざあざあと流水音が谷間から響いている。城での戦闘後、アベルはトロデーンとトラペッタを繋ぐ橋近くに
移動し一時の休息をとっていた。橋は、呪われし王と姫に付き従い旅を始めたばかりのエイトが山賊ヤンガスと
初めて出会った場所でもある。
草むらに横たわり夜空を眺めていたアベルは、首を回して大地に目を向けた。
彼の傍らには袋が二つ無造作に放り置かれている。うち一つは先の戦闘の鹵獲品だった。
名はアスナと言ったか。
アベルは袋の持ち主を回想した。仲間を守ろうとして命を落とした勇士の姿。夢の中で幾度と見た、痛ましい
その様。いつでも彼に吐き気を催させてきた、愛情深きその生き様。
だがもう始末した。胸に広がる確かな満足感はアベルの心を和ませる。
アベルは上体を起こし袋を掴んだ。
ここまでの疲労は大きく、ただ横になっているだけでは回復は期待出来ない。やらねばならない事はまだ
沢山ある。
若干の水や食料が残っている事を期待して彼は中身を探る事にした。
なめらかな布が手に触れる。広げてみると、花嫁の為の純白のドレスだった。続いて一端の尖った戦鎚が
現れた。
今頃まで袋の中で眠っていた道具たちだ。持て余されたものばかりだろうとアベルは予測していた。
二つの装備品は名もそのままの『ウエディングドレス』、ライフル弾薬のようなものを二つ並べたデザインの
『バレットハンマー』だった。予想通りの無用な品を脇へやり、彼は検分を続ける。
733
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:30:55 ID:gYmjXASs0
次に出て来たのは大きな赤い宝石の付いた指輪だった。
「随分と大きな石を付けたものですね…」
宝石には特に魔力を感じない。飾りの大きさに見合わず細い径は女物である事を示していた。
「…エル…トリオから、ウィニアへ…」
アベルは目を凝らしリングの内側に刻まれた小さな文字を読んだ。
"愛を込めて。"
突如閃光のように広がる記憶。頭に締め付けられるような痛みを覚えアベルは指輪を取り落とした。
痛みにきつく閉じた筈の視界に一人の女の姿が浮かんだ。純白のヴェールが黒髪に流れている。
彼女が紡いだ言葉。その目が語った言葉───。
「ああ」
意識が追い付くよりも先にアベルは谷間に歩み寄っていた。足元で水がざあざあと音を立てている。アベルは
谷間に手を差し出すと、アルゴンリングを掌から零した。
ある若者の愛の結晶は、静かに川へ飲まれて行った。
(さようなら)
アベルは続いてウエディングドレスを放り投げた。
細密な刺繍に彩られたドレスが虚空に広がり、ゆっくりと落ちて行く。
眺めていると、頭痛もまたゆっくり引いて行くのを感じた。アベルは踵を返すと、残る支給品の確認に取り掛かった。
734
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:32:50 ID:gYmjXASs0
【E-4/平原/早朝】
親に子が殺される。
およそ人間が体験し得る中で最も悲惨な死に方だとジャンボは思う。
彼は草の上に腰掛け、サフィールがジンガーに語る話を黙って聴き続けていた。ホイミンも同様にジャンボの
傍らでふよふよと浮かんだまま、共に少女の邪魔をせぬよう少し離れた位置に陣取っている。
その中でネプリム、先程味方に付けたもう一体のキラーマジンガだけが、サフィールの隣で武器を構えたまま
微動だにせず立っていた。
「ジンガー、これが私の知るお父さんの、アベルと言う人の全てです」
サフィールに向かい立つジンガーはネプリム同様、少女の言葉を微動だにせず聴いていた。違いと言えばこの
対話に先立って武器が取りあげられている事。
少女は語った。サンチョやオジロン先王、そして行方不明の間グランバニアに残されたアベルの仲間モンスター
達に聞かせて貰い、そして再会して旅を共にする中で知り得た事を。
735
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:33:29 ID:gYmjXASs0
「誰もが彼の帰る日を待っていました。リュビと私、そしてグランバニアの子供達はサンチョおじさんや
ピエール達が聞かせてくれる、父の冒険のお話が好きでした。捜索の旅に出る事を許して貰えた時は、
本当に嬉しかった」
「サフィール……」
声を漏らしたのはホイミンだった。ジャンボが隣を見ると、涙ぐんだホイミンがサフィールの傍へ行きたそうに
手(または足)をゆらゆらさせている。ジャンボはそれを掴むと軽く引き戻した。まだ、割って入る時ではない。
ジャンボはじっと眺めていた。十やそこらの娘が、実の親に殺意を向けられている子供が、極力感情的にならぬよう
静かに語る様子を。そしてどう覚悟を決めるのかを。
「私はお父さんを探します。何度でも探します。彼が何もない暗闇に向かって行こうとするなら、止めます。
命を奪う事になっても」
(───その一言が聞きたかった)
ジャンボは息をゆっくりと吐いた。掴んでいたホイミンの手足を放す。
サフィールは、俺達が遠からずアベルと戦う上で不確定のリスクだと言わざるを得なかった。父親への愛情に
よって動きが鈍るようなら引き攫って逃げるしかないと思っていた。しかし彼女は確かな覚悟を決めていた。
本当なら望まれるべきでない覚悟。
だが最悪の事態を避ける為には逃げ続けるか、さもなくば徹底して戦うしかない。
「そういう事だジンガー。俺達はアベルを止めるが、お前はどうする?サフィール、少し離れろ」
立ち上がって言うとジャンボは一歩近づく。
退るよう言われたサフィールは、ジンガーのモノアイを真っ直ぐに見つめて動かなかった。代わりにネプリムが
一歩進み出る。ホイミンがサフィールの隣に寄り添った。
ジンガーは回答を出せずにいた。少なくとも音声での返答では。
736
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:34:11 ID:gYmjXASs0
「…オ前ハワタシノ問イニ、マダ答エテイナイ」
目の前の小さい人間は、主のアベルについて話したいと言った。それはジンガーの中で高い必要性を評価されている。
故に彼は一時的にサフィールと話をすると言うコマンドを割りこませる事が出来た。
「いいえ、答えました。私はあなたとアベルと言う人の話をしたかった。そして私の話はこれでおしまいです。
聞いてくれてありがとう。ジンガー、心から感謝します」
「ソウカ。…ソウダナ」
ジンガーは理解した。
彼には、アベルについて話せる事が何もなかった。よって彼は当初の役目に復帰しなくてはならない。
「ジンガーよ。酷だとは百も承知で言わせて貰うぜ…破壊だけを求めてやり通したとして、お前はそこで不要になる。
アベル本人も自身の存在を必要としなくなるだろう。残るのは無だけだ」
ジャンボが天使の鉄槌を携えながら進み出る。行き場のない苦渋の色が顔に浮かんでいた。
「…ぼく、きみの敵になりたくないよ。友達になれたらいいのに。だけど、だけど…」
ホイミンはその先を言えなかった。
「ワタシトシテモ本意デハナイ。個人的ニ武器ヲ返シ全力デ戦ッテミタカッタガ、ソレハ叶ワナイ。許セ、同胞」
沈黙を守っていたネプリムが声を掛ける。同じキラーマジンガだからこそ彼は知っていた。与えられた命令を
自分の判断で破棄する方法は存在しないという事を。
(シカシソコヘ行クト、今ノワタシハ何ナノダローカ。マッ、イイカ)
「───我ガ主ノ娘ヨ、修理ヲシテクレタ事ニ感謝スル」
サフィールは頷いた。そして一歩後ろへ下がった。その顔にはジャンボと同じく苦渋が満ちている。
不可避の戦いを前に張り詰める緊張を破ったのは、鼓膜を叩いた僅かな振動だった。
737
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:34:44 ID:gYmjXASs0
「…何だ今の…人の声か?」
音に最初に気付いたのはジャンボだった。
「熱源感知。距離:310メートル」
ネプリムの頭部がぐるりと旋回し、西を向いた所で静止する。「300メートル。熱源解析開始」
「ジャンボさん、何か見えますか?」訊かれてジャンボはネプリムの見る方角へ目を凝らす。しかし一帯は
暗く、闖入者らしき姿は遠景の黒に溶け込んでいる。
ジャンボは目を凝らすが何も見えなかった。「ネプリム、どうだ?」
「290メートル。熱源解析ぷろぐらむ更新:71%ノ確率デ人間、個数2」
「頼もしいじゃねえかお前はよ」
ジンガーもまたネプリムと同じく接近する動体を感知し、その細部を捉えようとしていた。
(アレハ、アノ人間ハ、モシカシタラ)
「280メートル。解析更新:人間2体ト判断。さふぃーる、攻撃スルカ?」
「い、いえネプリム。まずは誰なのかを───」そこでサフィールは言葉を中断した。
「───あべる様!!!」
大音量の機械音声が響いた為だった。
「何だって!?おい待てジンガー!!!」
ジャンボは制しようとしたが既にフルスロットルにアクセルを開放したジンガーは爆音を上げて発進した。
バックファイアの火の粉を浴びてジャンボは悪態をつく。
「クソッ!本当に奴だとしたら───良いんだな!?サフィール!」
サフィールの顔は青褪めていたが、強く頷いた。その隣でホイミンも青い顔をさらに青くしている。
彼らの目にも徐々に人の形をした輪郭が見え始めた。
「確かに二人居るようだが……」
二人分の人影のうち、片方の足取りがおかしい。まるで無理に引き歩かされているような………
738
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:35:37 ID:gYmjXASs0
「久しぶりだねジンガー。武器はどうしたんだい?」
耳に心地いい声だ、と感じた事をジャンボは後にも思い出す事になる。
悪魔とは意外にも穏やかでよく通る声を持っているのだなと。
「奪ワレマシタ。申シ訳アリマセン───マスター、ヨクゾ御無事デ」
「ありがとう。お前もよく無事でいてくれた。武器ならお前に適当なものがあるから使うといい。
今取り出すから、少し待ってくれ」
お互いがはっきり見える距離まで歩み寄ったサフィール達は「もう一人」の様子に絶句した。
髪の毛を掴まれ、無理矢理歩かされている。
「さふぃーる、ドッチガ『あべる』ダ?鎧ノ方カ?青服ノヘバッテル方カ?」
「馬鹿野郎!男の方に決まってんだろうがッ!」ジャンボは激情に任せて怒鳴った。
「ついに会えたなアベル……てめえ、ターニアに何しやがったッ!!!」
少女から手を離すと、アベルは袋から戦鎚を取り出しジンガーに手渡した。
「お前にぴったりだな。いい時に居合わせてくれた」
そう言ってアベルは手をはたいた。何本もの青い髪がはらはらと地面に落ちる。
「答えろこの野郎ッ!!!」
「貴方が『ジャンボさん』ですか?察するにうちの娘を保護してくれていたようだ。礼を言いますよ。
そしてサフィール。しばらく振りでしたね、元気そうで何よりです」
アベルはにこりと微笑んだ。何の屈託もない、優しげな微笑だった。
サフィールは戸惑った。以前会った時に見せた冷酷な表情とは全く違う。まるで、一緒に旅をしていた
あの頃のような……。
「……ターニア、解るか?俺だ。あの時は怖がらせちまってすまなかった。お前の兄貴やその仲間を
どうこうしようなんてもう思っていない。誓って言う。だから、頼むからこっちへ来るんだ」
アベルを詰問しても埒が明かないと判断したジャンボはターニアに直接声を掛ける。少女は解放された後も
その場に力なくへたり込んで動こうとしない。
「心配ねえ、お前が動けば俺達がそいつらを抑える。頼むよ、そいつから離れてくれ…!」
しかしジャンボの訴えも虚しく、ターニアは再び髪の毛を掴まれ強引に立たされた。
「!…そ、その女性の顔は…お父さん…それに、その鎧は…」
「彼女が教えてくれました。この辺りに貴女達が居ると」
飽くまで優しい笑みを湛えてアベルは言う。
「有難うターニア。短い道中でしたが楽しかったですよ」
ジャンボは歯噛みした。こうなるともう迂闊に手出し出来ない。しかも立たされた事で見えたターニアの顔は、
見るも無残に腫れ上がっていた。
739
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:36:30 ID:gYmjXASs0
「会いたかったですよ、サフィール」
「…何故ですか、お父さん。私を殺し損ねていたからですか」
猛烈な憤怒を滾らせ睨むジャンボとは対照的に、サフィールは静かな怒りをその目に宿していた。少女への
無体な振る舞いを冷静に非難する、そんな眼差しだった。
「いいえサフィール。いつかの時は本当に酷い事を貴女に言ってしまい、すまなかったね。私は、もう愛と
言うものを否定したりしません。その事をまず貴女に伝えたくて探していました」
「なに言ってんだてめえ…」
この男、どこか様子がおかしい。初対面ながらジャンボはそう感じた。サフィールの方をちらりと振り返ると、
彼女もまた怪訝な顔をしている。
「貴女も気付いていたことでしょう。実際私は愛を捨て切れてなどいなかった。そんな事は人として
産まれた者には不可能だと、ようやく解ったんです。
大切な娘よ、私は貴女を愛しています」
「……なにを…なにを言ってるんですか…あなたは…」
父の愛の言葉に少女は頭を抱えて後じさる。
「…おい、よせ、何をするつもりだ。ターニアを離せ…」
ジャンボの肌に冷たい汗が伝う。アベルは剣を抜いていた。
「そして気付きました。愛する者と引き離される苦痛こそが私を前進させ、戦う力の源になっていたのだと。
────だから」
「やめろオォーーーッ!!!!」
どん、と背中を押されてターニアが前のめりによろけた。その左肩目掛けてアベルが破壊の剣を振り下ろす。
ケーキでも切るように、少女の肉と骨は難なく断たれた。心臓まで袈裟切りにされたターニアは夥しい血を
散らしながら一度膝をついた。そしてゆっくりと地面へ倒れてゆく。
「ぅぅうあぁあああああああああああーーーーッ!!!!!」
ジャンボは叫んでいた。唱和するようにホイミンも叫んでいた。そんな絶望の合唱を飲み込んで
爆轟が炸裂した。
「イオナズンッ!!!」
放った直後、閃光に目が眩む前にサフィールはジンガーがアベルの前に身を挺するのを見た。
だから父はまだ生きているだろうと確信する。
740
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:37:01 ID:gYmjXASs0
"愛している───だから"
だから?
もう聴きたくなかった。何も言って欲しく無かった。父は生きたまま地獄に落ちたのだと確信した。
サフィールは再び魔力を集中させる。
「───思い切った事をしますね。彼女は、まだこと切れていなかったでしょうに」
煙の向こうから聴こえる声。それを目掛けサフィールは両手の間に完成した呪文を放とうとした、矢先。
「危ねえ!!」
がきん、と鉄同士がぶつかる音が耳を刺す。サフィールは顔を顰めつつも自分が太い両腕にさっと
抱き取られた事に気付いた。
前方を見る。二体のキラーマジンガがそれぞれハンマーを手に競り合っている。サフィールは状況を
理解した。まず最初に父はジンガーを自分にけしかけたのだ。
とにかくもう一度!
半身をジャンボに庇われたままサフィールは既に仕上がっている呪文、マヒャドを放った。極大冷気は
キラーマジンガ達の脇を通り抜け、守るものの居なくなったアベルを襲うはずだった。
「不可解だぜ。いくらジンガーが庇ったとしても、さっきの声はずいぶんとへっちゃらそうだった。
その上ジンガーを離すなんて」
「あの鎧に何かがありそうです。前回会った時あんな鎧は身に着けていなかった。違う属性の呪文を
ぶつけてみましたが、もしかしたら呪文そのものに強い抵抗力があるのかも」
ジャンボは少女の冷静な分析と行動に瞠目した。そして言われてみれば確かに、アベルの佇まいには
本人の凶悪さだけでない禍々しい何かを感じていた。ターニアの無残な有り様にすっかり気を取られて
いたが、そもそもターニアは人質としてまだ使えたはずだ。敢えて捨てる必要があったとは思えない。
(呪いの装備だとしたら……いや、そいつは後だ!)
天使の鉄槌を握り締めジャンボはネプリムの加勢に飛び出す。驚くべき事に、両腕に武器を装備した
ネプリムがバレットハンマーのみを手にしたジンガーに押され始めている。
「おいネプリム!遊んでんじゃねえぞ!」
ジャンボが戦列に加わった事でジンガーは猛攻を止めて飛び退る。
「バカヲユーンジャナイ。単純ナ事、コイツガ強イノダ」
戦闘機械の本分だからなのか、ネプリムの音声は心なしか楽しげだった。
「くっそ、ご主人に会えて力が湧いたってか?」
あり得る事だ。ジンガーには確かに心があったのだから。しかしそれだけでなく、彼が与えられた
バレットハンマーは機械の体に対して特別な威力を持つ。一発いいのを貰ったらネプリムでも
かなり危ないだろう。
「ジンガー、受け取れ」
癒しの光が忠臣を包む。薄れ始めた煙幕を割ってアベルが姿を現した。
741
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:38:37 ID:gYmjXASs0
「私は愛し続けようと思う。そして失い続けようと思う」
爆発と冷気を受けて髪は乱れ、細かい傷が幾つもその顔に見えている。しかしさしてダメージを受けた
様子はなかった。
「やはり、その鎧は」
改めて観るその姿にサフィールは恐怖を覚えた。
アベルが装備しているのは『じごくのよろい』。元はアスナの世界に在った呪われた鎧で、地獄から
来た悪魔の骨で作られた物と伝えられている。一目でそれと解ったアスナが袋に仕舞いこんでいた
支給品だった。
「思った通りではありますが、行きずり程度の縁ある人を失った処で何の痛痒も感じない。やはり、
より強い共感と親しみが必要ですね」
アベルは穏やかな目でサフィールを見詰めた。
鎧の胸元には怪物の頭骨が飾られていた。それが、斬り捨てられた犠牲者の血を浴びて嗤っていた。
少なくともサフィールにはそう見えた。
【F-3/平原/2日目 早朝】
【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う
【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MP1/8
[装備]:天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品)ナイトスナイパー@DQ8 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS
メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。
【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。
742
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:39:07 ID:gYmjXASs0
【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/3
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う
時は少し遡る。
「娘の所在を教えてくれて有難うございます。貴女が通りがかってくれて、助かりました」
にこりと微笑みかける男の足元で、ターニアは蹲っていた。ローラを刺した恐怖から走り続けていた
彼女は、トロデーンとトラペッタの間に架かる橋へ辿り着いた所で最悪の存在に出会ってしまった。
口の中にごろごろした感触を覚える。
殴られた頬が焼けた石を当てられたように熱い。
「さて、娘に会いに行かなくては。解りますか。あの子とは話したい事が沢山あるんです」
これで解放される?そう思ったターニアの考えは甘かった。
「ッ!いたッ…!」
突然髪の毛を鷲掴みにされ、引き上げられる。
「さあ立って。どうか貴女も一緒に」
何を言っているの?どうして私が?なんなの、この人はなんなの?
「話をしましょう。貴女の事を聞かせてください。どこで生まれ、どんな風に暮らしていたのか…」
訳が分からないままターニアは歩くしかなかった。男が髪を掴んだままずんずん歩き出したからだ。
「聞こえましたか?」
743
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:41:01 ID:gYmjXASs0
言うが早いか、ターニアの顔面に拳が突き入れられた。
「うぶッ!」
「聞かせてください。私は、とても頭が痛むんです。でも、和らげる為のヒントはさっき手に入れました。
貴女の名前は?」
「た、たーにあ…」
答えるしかなかった。喋らなければこうやって殴るつもりなのだ。
「よろしくターニア。私の名前はアベルです。出身は?」
再び髪を引っ張りながらアベルは歩き出す。
「ライフコッド…です。レイドックのお城の北、ずっと山奥にある…小さな村」
「いいですね。続けて。どんな所なのか、あなたの言葉でもっと聞かせてください」
口の中に溜まった血と一緒に歯を吐き出しながらターニアは懸命に話した。
ライフコッド。空気と日射しがとても綺麗な村。
よそから来た人にはすごく構えてしまうけれど、本当はとても優しい人ばかり。
両親をなくしてひとりになってしまった自分にも、皆とてもよくしてくれた。
「素晴らしいですね。私も、出来る事なら行ってみたいものです」
そう。大好きな村。不満はなにもなかった。
…いいえ、一つだけ。
平穏な一日の終わりにごはんを食べながら、その日のちょっと楽しかったこと、可笑しかった
ことを聴いてくれる人がいたらいいのになと思っていた。
例えばきょうだいがいたら、なんて。
贅沢をいえば、上のきょうだい。
うん、やっぱりお兄ちゃんがいいなぁ、って……。
「…お兄、ちゃん……」
ターニアの目に涙が溢れた。
黙り込んだターニアをアベルは繰り返し殴打した。しかし、その一言を最後にターニアは口を
開かなくなった。
その目からは光が失われ、表情も消えた。疲労と恐怖の果てにターニアの精神は、ここではない
別の場所へ肉体よりも先に旅立っていた。幻の大地とも違う、どこか遠い夢の世界へ。
744
:
愛さえも、夢さえも
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:41:43 ID:gYmjXASs0
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。
※ターニアの支給品一式(愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1)は、袋ごとE-4の
橋の架かる谷底に捨てられました。
※「アスナの不明支給品0〜2 本人確認済み」は地獄の鎧のみ、アスナの袋に入っていた
「サヴィオの不明支給品0〜1」は、0個だったものとして処理しました。
【ターニア@DQ6 死亡】
【残り18人】
745
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 22:48:35 ID:gYmjXASs0
間違いなく全文置けたようです。このロワを知らない友人にもチェックして貰いましたが
誤字脱字の他、自分で気付いてないおかしなところがあれば教えて下さい。
大丈夫なようであれば、まとめ更新は自分で出来ますのでさせて頂きます。
とても楽しかったです。予約スレでは沢山質問してしまいすみません、有難うございました。
746
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/01(日) 23:27:22 ID:gYmjXASs0
読み返して気付きましたが、彼らが合流したのはF3のところをE4になっていました。
失礼しました。
747
:
ただ一匹の名無しだ
:2019/09/02(月) 17:32:29 ID:7NXlBI6k0
投下乙です
ターニアの死ぬまでの過程がなかなかむごい…
身体より先に心が死ぬなんて
特に問題はないと思います
748
:
◆vV5.jnbCYw
:2019/09/02(月) 18:35:01 ID:VWI/VfW60
投下乙です、初参戦とは思えないキャラの動かし方、支給品の使い方、お見事でした。
幼女を精神的に殺害し、呪いの装備で身を固め、いよいよアベルさん魔王化終わりって気がしますね。
私が見る限り特に問題点はありませんでした。
面白かったので、また時間が空いた時でいいので別の話の投下してくれると嬉しいです。
今私は日常生活と、「ゲームキャラ・バトルロワイヤル」の執筆にかまけて中々こちらに投下できませんが、今書いているロワが切りの良い所まで行ったら戻ろうと思います。
749
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/02(月) 20:01:41 ID:ExveRP6I0
確認恐れ入ります。ついでのご連絡ですが、予約期間と延長期間についてですが、ざっと探した範囲に
見当たらなかったので、まとめに新規ページを置かせて頂いてよろしいでしょうか?
ドラクエは魅力的な作品ですししょっちゅう公式が何かよこしてくるので、新規の人もまだ
来ると思います。
現在リンクされている2ndの手引きと違う点は予約期間の時間のみのようですから、そこだけ変えて
コピペさせて頂く事になるとは思います。
原作バトロワもパロロワも好きで読み手として居た期間は長いですが、こうして書いてみて、
これで大丈夫なのかと不安があり緊張しましたが楽しかったです。
それから、「管理人への連絡」のスレで初めてまとめ更新をした旨を書いたのも自分です。その書き込みで「よくわからな
かったので更新していない」と言ったマップについては、管理画面を見たら非常に複雑で、ミスした場合を考えると怖かったので
手出しできませんでしたが、今回投稿させて頂いた話がこのまま大丈夫なようでしたらそれも
自分でちゃんと片付けて置こうと思います。
長文失礼しました。
750
:
ただ一匹の名無しだ
:2019/09/02(月) 21:00:09 ID:0TL7yoJk0
投下乙です。
前からターニアが悲惨な最期になりそうな雰囲気してたから覚悟してたけどこれは辛い…
レックがターニアの最期を知ったらどうなってしまうのか、気になるところですね。
751
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/09/04(水) 00:19:20 ID:Pmp4Y3mw0
自分で書いたものをまとめに更新するのは「本当に良いのか!?」と迷いましたが、
諸々更新させて頂きました。スレ趣旨に逸れて連絡を続けてすみません。
>>746
の表記ミスの他、文法がおかしい気がした所1箇所を修正させて頂きました。
そして昨日気付いたんですが…キラーマジンガの背面ってつるつるだったんですね…何故か排気マフラー
的なものがあるように思い込んでいました…ですのでバックファイア云々の部分を削除しました。
あまり細かい事を言わなくてもとは思ったのですが、自分の所為でこの先マジンガの
デザインを誤解する人があっては申し訳ないと個人的に考えました。
752
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 22:55:58 ID:RUDAQ9iE0
投下させていただきます
753
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 22:58:53 ID:RUDAQ9iE0
【C-4/平原/深夜】
エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。
「ゼシカ……ここに居たのか」
それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。
遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。
その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。
754
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:00:27 ID:RUDAQ9iE0
:
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2019-12-23 22:56:34
【C-4/平原/深夜】
エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。
「ゼシカ……ここに居たのか」
それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。
遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。
その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。
彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。
「…本当に、済まない。私は急がなくては」
立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
【D-6/荒野/黎明】
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。
来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。
755
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:01:36 ID:RUDAQ9iE0
すみません、確認のため張っておいた場所から関係ないものまでコピーしてしまったようです。
張り直します。
756
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:03:32 ID:RUDAQ9iE0
彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。
「…本当に、済まない。私は急がなくては」
立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
【D-6/荒野/黎明】
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。
来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。
757
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:04:48 ID:RUDAQ9iE0
「そんなに落ち込むなよ。姫さんの案内が助かるのは元よりの事だし、ちょっとくらいの寄り道
構いやしないって」
最後尾を行くレックも努めて明るい調子で言った。
「良いさ。あんまり速いと竜王に追いてしまったかも知れない。あいつも案外迷ってたりしてさ」
「そうだな。そこで出会っちまったらお互いバツが悪いぜ」
「まあ。…うふふっ。でも、早くまた会いたいですね」
今のミーティアには二人の優しさが有難くも申し訳なかったが、落ち込んだ顔を見せたところで
何にもならないと思い直す。顔を上げると、切り立った岩棚の向こうに月が見えた。ミーティアは
頭の中で方角を整理する。今度こそは大丈夫そうだと思えた。
和やかなムードのまま三人は歩く。ただ、口数は再び少なくなった。皆それぞれにもう会えない者と、
まだ出会える希望が持てる者が居る。言っては悪いが竜王にかまけている間に失われたり、探す暇も無いままで
いたりする人々。黙々と歩いているれば嫌でも彼らの顔が頭に浮かんだ。
かと言って無理にお喋りをして頭から閉め出す事もしたくなかったし、そんな必要を感じずにいられるのは
目指す所に脱出の希望があるが故だった。
思考が悪い方へ向きそうな時、彼らは仲間に話しかけた。いずれもがちょっとした雑談。ミーティアに
とって衝撃の事実が齎されたのは、そんな中だった。
「…そういえばさ、姫さん。君って兄弟はいるのか?」
「いいえ?一人娘ですけれど」
前を向いたままポツリと呟かれたキーファの問いにミーティアは小首を傾げる。
「じゃあ……君の許嫁になってるって言う王子には兄弟がいるって事だよな?」
続いて質問されたその意図がミーティアには解らなかった。あのチャゴス王子がどうしたと言うのだろう。
彼もまた一人っ子で、そのせいかたっぷり甘やかされて───
「───あっ…」
ミーティアは気付いた。
そうなのだ。トロデーンにもサザンビークにも王の子は一人しか居ない。そこで王を失ったトロデーンの
ただ一人きりの王女が他国に嫁ぐ事など出来はしない。
「そう、ですわ…サザンビーク唯一の王子の彼がトロデーンの婿になる事も出来ない…」
トロデ在位のうちにミーティアとチャゴスの子を一人トロデーンに養子に出すと言う流れも御破算。
両国の婚姻話は、すでに破綻しているのだ。
758
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:06:19 ID:RUDAQ9iE0
「やっぱりか。世界が違えばそれでもアリな所が有るのかとも思ったが、普通どこでも無理だよな。
こういう事になっちまったら…」
「そうか。ミーティアは女王になるしかないって事か…」
妹にその立場を押し付けてしまったキーファと、自覚する暇もなく次期国王の座に就いてしまったレックは
それぞれ複雑な表情をしている。
無理もない事だがミーティアは混乱していた。あれほど嫌でたまらず、しかし受け入れるのが自分の責務と
悩み続けたチャゴスとの婚姻。それは逆に彼とだけは出来ないと言う話に変わってしまっていた。
(どうして気付かなかったのかしら。お父様が名前を呼ばれてから、今の今まで…)
いや違う。と、そこまで考えてミーティアは首を振った。いろんな事があったにせよ、今思えば新しい事実は
視界のすぐ端にチラついていたように思う。ただそれが余りにもあっさりと現れ、それでいて確定的な変化
だったから、目を向けるのを無意識に避けていたのだと彼女は思った。
(なんて事。私、もうとっくに自由でしたのね。誰でも好きな人を選んで、選んで貰えたなら…あのお城で
皆とずっと一緒に暮らしていける…)
それを幸運と言う程ミーティアはあさましくなかったし、父が一手に抱えていた責務は今彼女の中にある。
引き換えに、生まれつきどうしても持ち得なかった「自分で選ぶ」自由が突然得られた事に、ただ混乱ばかり
していられる程彼女は幼くも弱くもなかった。
【C-6/西のトンネル南側/黎明】
竜王は道に迷う事こそなかったものの、傷ついた体は歩みが遅かった。
ミーティア達が道を一つ間違えなければ、加えて竜王がここでもう一人の人物と出くわしていたならば、
彼らはまとめて再会していたかも知れない。
「行ったようですね。素早く気づいてくれて有難うございます、お爺様」
見覚えの無い人物がトンネルへ入るのを見送り、その足音もやがて消えるとエイトはトーポを掌に載せ、
身を潜めていた岩棚を滑り下りた。
余計な面倒事は二度と御免だ。トンネルを出てすぐに、鼠に姿を窶した祖父グルーノがいち早く南から
歩いてくる人影に気づかなければ、海側を禁止エリアで狭められたこの場所では否応なく対面する羽目に
なっていた。
何か気にかかるでも事があるのか、見知らぬ人物が去った方を眺めている祖父をポケットに戻して
エイトは声を掛ける。
「行きましょう。その調子で姫の事も見つけて貰えると助かりますよ」
慎重に行かなくては。この先の荒野は何度歩いても、空から観た記憶すらあってもなお得意ではない。
そびえ立つ岩壁と起伏の激しい地面には方向感覚を狂わされやすく、気付くと逆方向へ進んでいる事も
過去にしばしばあった。
禁止エリアが増えたお陰で南東部が寸断され、南からリーザス村へ行けなくなったのはむしろ有難いくらい
だった。そちらからミーティアがやってくる可能性が無くなるのだから、今回の捜索が終わればもう二度と
この難所に来る必要も無くなる。
759
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:07:18 ID:RUDAQ9iE0
長い一日だった。随分と傾いてきた月を見遣りエイトは思う。
けれど色んな事を変えてしまうには短すぎる一日だった。
こんな僅かな時間に、旅の仲間たちは一人残らず逝ってしまった。
何よりも、身命を賭して使えるべき王がどこにも居ない。呪われてもめげず、五十路を超えてまだ自身を
おっさんじゃなくお兄さんだと言い張った、タフでひょうげた王の姿は本当に何処にも居なかった。
狂わずに済んでいるのは寸での所で引き止めてくれたアルスやブライ老、赦してくれたデボラの存在だけ
ではない。ゲームと称されたこの空間と、ここに放たれた人々が自分以上に狂っていたからだ。
ゼシカの側にあった遺体が最たる例だ。あの遺体の異常さは紛れもなく死後に蹂躙された結果だ。
最初はそれが何なのかさえ解らなかった。黒く焼け焦げた皮膚は直接の死因なのだろうが、それが悉く裂けて
桃色の肉が露出し、更に棒で叩いたか足で踏み散らかしたかで滅茶苦茶な有様だった。誰が何のために、そして
何故ゼシカとその隣にあった別の男性の遺体は無事だったのかと言う疑問はさて置いても、あんなものの傍に
ゼシカを放置するのは流石に躊躇われた。
まかり間違えば優しいミーティアの目に触れるやも知れない懸念があっての事、ではあるが。
「──姫。ミーティア姫!!」
丹念に周囲を見回しながら歩くエイトは、いつしか我知らず大声を上げている自分に気付いた。
あの遺体の惨状に引き比べる事で安堵を得ていた己の正気も、こうして彼女を見つけられずに居れば危ういらしい。
ドラゴンに変身出来れば探しやすいのにと思う。大きな背に姫を乗せ、遠くに飛んで行けたなら───だが所詮、
混血の身には叶わない。
何と中途半端な生き物だろうか。
竜にもなれず、そして人間の男なら──そうと思い込んだままで居られたなら──誰もが腹を括って掴めるので
あろう選択肢にも自分は────
【C-6/荒野/黎明〜早朝】
「──エイト?」
人らしき声を耳にして三人は足を止めた。
そして見た。荒野の出口、砂の地面から草地に変わる坂の上から姿を現したエイトの姿を。彼の方もまた
向かう先に立っている探し人の姿を見止める。
「…ッ!エイト!」
「ミーティアッ!!!」
互いに斜面を駆けていく二人。エイトは勢いが付き過ぎたのか、挿し伸ばした両手はミーティアを抱き
かかえる形になった。ミーティアもまた後ろに倒れそうな姿勢になってエイトの首にしがみ付く。
「……ん、良かったねミーティア」
「…熱いねえ」
不安定な足場のせいもあろうが通常より割増しに情熱的なハグを目の当たりにしたレックとキーファは、
少し離れた所から苦笑い半分の笑顔を浮かべている。
「エイト、嬉しいですけどちょっと苦しいですわ」
「あっ…失礼しました!」
我に返ったエイトはミーティアの背から手をほどき、彼女の足元に跪いた。
760
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:09:09 ID:RUDAQ9iE0
「よくぞご無事で……畏れ多くも陛下より賜った近衛兵長の役にありながらこのエイト、今の今まで
姫のお側に馳せ参じる事が出来ず、申し訳次第もございません!」
「良いのですエイト。あなたも無事でいてくれたのですから…さあ立って、私たちは道中を急いでいる所
なのです。向こうのお二人の事も紹介しなくては」
促されてエイトは二人の男の方を見る。ようやくか、と言った風情でレックとキーファは蚊帳の外の位置から
歩み進んだ。
「私とレックさん、キーファさんはお城を目指しているのですが、先ほども言った通りあまり時間が
ありません。進みながら説明しますね」
「解りました姫。私はトロデーン近衛兵長、エイトと申します。どうやらお二人とも姫を守って下さって
いた様子。深く感謝します」
その名を聞いたエイトは一瞬眉を顰めた。しかしすぐに了承し、型通りの挨拶と謝辞を述べる。
そして一路トロデーンへと歩き出す道すがら、ミーティアはこれまでの経緯と目的をエイトに説明した。
一時離れていた間の事などもレックとキーファが補足する。黙って聞いていたエイトが再び口を開いたのは、
トンネルを抜けた直後の事だった。
「皆さんの話は一つ一つ納得出来ましたし、悪くない考えだと私も思います」
その声に前方を歩いていたレックとキーファが振り返る。すると、エイトはその場に立ち止まり
ミーティアを片手で制している。
「ですが、これ以上姫を危険に晒す事を許容出来ません。私はここで姫と共に残ります」
「エイト!それは駄目です!」
ミーティアはすかさず反駁したが、レックとキーファはさして驚いてはいなかった。この短時間に
目の当たりにしたエイトの忠臣ぶりから見れば、さもありなんと言った所だ。
「うーん、実は俺もそうした方が良いかもしれないと思ってたんだ。俺とキーファだけなら走ればまだ
充分に間に合う。その間君がミーティアを守っててくれるとなると、むしろ好都合なんだよな」
「それはそうだがレック、姫さんがいないと場所が解らないぜ?」
ミーティアとしては意外な事に二人は同意を示した。反論しようとした矢先、エイトが更に提案する。
「それについても考えがあります。この鼠、トーポと言うんですが普通よりずっと頭が良く城内の
事なら全て理解しています。この子を案内にお貸ししますよ」
エイトはポケットから顔を出していたトーポを手に乗せると、素早く一言囁いた。
(レックさんには一応気を付けて下さい。何かあったら、すぐ引き返して)
そして二人に差し出す。
「エイト、お爺…トーポに私たちの役目を押し付けるだなんて…あ、待って!」
しかしトーポは一言きゅっと鳴くと、差し伸ばされたレックの手を伝い肩に飛び乗った。
761
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:10:16 ID:RUDAQ9iE0
「可愛いな。解った、大切に預からせてもらうよ。それと一つ頼みがあるんだけど」
「ターニアさんについては、残念ですが本当に一度会ったきりです。今も城周辺から東の辺りには
居るのではと思いますが…」
「そうじゃなくてさ、剣を余分に持ってないかな?俺のは結構前に折れちゃって。あるなら出来れば
貰いたいんだけど」
要望を聞いてエイトは暫し値踏みをするようにレックを見詰めた。竜王と言う存在が人間を試そうと
ミーティアを人質に、彼らと一戦交えたと言う話に嘘は無いだろう。だが気になるのはやはり
ジャンボと言う縁もゆかりもなさそうな人物に狙われている理由だ。
「…あいにく剣はこれ一振りしか持ち合わせませんでした。代わりと言っては何ですが、これまでの
お礼に差し上げたい物が」
言うとエイトは袋から「魔法の聖水」を二つ取り出した。元々六個入りでエイトに支給されていた
物で、すでに二個消費している。
「おお、良かったじゃないか!けどエイト、俺は魔法を使えないから二つともレックにやっていいよな?」
「そうでしたか。ええ勿論、どうぞレックさん」
「ありがとなエイト。けどさん付けでなくて良いよ」
礼を言うとレックはその場で瓶を開けて一気に飲み干した。不用心な行動にエイトは少し面食らう。
「…ぷはーッ!丁度喉も乾いてたから美味かったぜ!じゃ、行くかキーファ」
「おう。じゃあ姫さん、何かあったらトーポに手紙を持たせるから、安心して仲良くやっててくれよ」
「あ……どうかお気をつけて!」
なし崩しに置いて行かれる形になったミーティアは名残りを惜しむ間もなく、走り去っていく仲間の背に
手を振った。そしてエイトに向き直り、毅然とした顔で問い質す。
「済んだ事は仕方ありませんし、貴方の立場上言う事は理解出来ます。でもなぜ私の意見も聞こうとして
くれないのですか?」
確かに歩きどおしで疲れているし、自分が付いたままでは間に合わなかったのではないかとも思う。
その理由で置いて行かれるのならやむを得ないが、仮にたっぷり時間があろうとエイトは同じ事を
言ったであろうとミーティアは確信していた。
「…すみませんでした、姫。ご不満は承知の上で差し出がましい真似を」
畏まりながらもエイトは言えなかった。あれから時間は経っているが、城では戦闘が起きていた。
あの二人に話さないまま送り出し、あまつさえ祖父まで付けた事は。
(結局、レックについてはよく解らなかった。アルスの知り合いである所のキーファ共々、見た通りの
ただのお人好しと判断して良いのかどうか…)
762
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:12:43 ID:RUDAQ9iE0
エイトは疑念の発端である例の混戦が起きたややこしい事情は伏せつつ、ターニアとその前に別れた
アルスについて二人に話して置いた。どちらも東に居たのだから早晩会えるかもしれない。甚だ
投げっぱなしで申し訳ないが、レックに付きまとう色々の事はキーファや彼らの知己に任せる事にした。
これでもう、良い。脱出出来ようが出来まいが、最後までミーティア姫を守り続けられれば私は───
「エイト。顔を上げて聞いてください」
静かな声にエイトの思考は中断された。
「長年の友人としてお願いします。どうか私に彼らの後を追わせて下さい」
「姫!ですが…」
言葉と共にエイトは息を飲んだ。姫君の手にはそこに有るまじき物、両刃の短剣が携えられていた為だ。
「私、ようやく解りましたわ。王族としての矜持と責任──それは安全なお部屋に飾られて、起きる事をただ
眺めるお人形では決して成し得ません」
エイトは黙ってミーティアの顔を見ているしかなかった。その表情は悲しそうでもあり、どこか清々した
様子でもあった。
「確かに危険も有るでしょう。貴方が私を一人にはしない事も、そして貴方を危険に晒す事も承知で言います。
私は人の尊厳を踏みにじるエビルプリーストと名乗る者を許せません。父の名誉にかけて抵抗します。その為に
ここを脱出すると言う希望を持ちながら人任せになど出来るでしょうか。
聞き入れて貰えないのなら、エイト、貴方と一戦交えてでもミーティアは行きます」
「本気……なのですか」
問うまでもなくミーティアの目は決意を物語っていた。
「…解りました。姫、お供します」
折れるしかなかった。馬の姿にされ馬車を引かされ、それでも文句ひとつ言わなかったミーティアが
全存在をかけて拒否しているのだ。どうあっても彼女の身を守りたいと言う自分の矮小な願望を押し付ける
事は、彼女の言う通り王族の矜持を汚す事と同じだ。
「それでもどうか約束して下さい。御身の安全を最優先に行動すると」
「ええ。貴方の判断に従いますわ」
エイトはほっとしたように肩を落とした。そして預かったままのミーティアの袋を背中に下げ直すと、
「では失礼を」と一声かけてミーティアを抱え上げた。
「きゃっ…待って下さいエイト、自分で歩けますから!」
いわゆるお姫様抱っこにされ、ミーティアは慌てて言い募る。
「お言葉ですが、彼らに追いつくならこの方が速いですから」
ミーティアは何か言いたげに口を開きかけたが、すたすたと歩いていくエイトの腕にやがて身を預けた。
763
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:13:46 ID:RUDAQ9iE0
──エイト。私、貴方に会えたら訊きたい事が一つありました。
結婚式前夜に貴方がサザンビークの亡き王子様の息子だと言う証をもって現王に会いに行ったその時、
何を話したのか。
でも、もうそんな事は知る必要が無くなりました。
今までミーティアは自分で選ぶ勇気が無いまま、貴方に手を引いて貰って逃がして貰う事ばかり考えていました。
そして、自分で選ぶ事が出来るんだと悟った今、反省しました。
だって貴方にも等しく選ぶ自由があったのに。私は不自由な身を嘆くだけで何もしなかった。
私は満足です。例え貴方が責任感の為だけに私を守ろうとしているのだとしても──それは悲しいけれど、
貴方の自由なんですもの。そして私は貴方の傍に居られさえすれば…。
【C-5/平原/早朝】
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品13個
確認済み支給品1〜2個 魔法の聖水×1 トーポ(DQ8)
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。
【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/2
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。レックとその仲間チャモロに対して疑問が残る。
※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。
【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。トロデーン城に向かい、月影の窓を探す。
※トーポは元の姿に戻れなくされています。
※ターニア、アルス、竜王の情報を交換しました。
【竜王@DQ1】
※時系列上171話開始直前の為割愛
764
:
転がり込んだ幸運
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/23(月) 23:21:43 ID:RUDAQ9iE0
全て貼れたようです。こちら一時投下スレに置かせて貰ったのは、
本当にトロデが死んだらミーティアとチャゴスの婚礼は無理筋になるのか?と言う事です。
そもそも一人娘を嫁にやるのがすごいなって話なんで、原作内にトロデーンの血筋を絶やさない
上手い案でも提示されていたのかな?と思いつつ調べきれませんでした。
それにしても、その方が早かろうとお姫様抱っこさせてますが、空の上のローラ姫に呪われないか心配です。
765
:
◆vV5.jnbCYw
:2019/12/24(火) 20:20:44 ID:b6alsEW60
投下乙です。
今回は特に見た限り問題はなかったので、このまま本投下して問題ないと思います。
エイトやミーティア達のフィールドが丁寧に描写されていたのが面白かったです。
私も荒野で迷った人(しかも2周目も)なので良く分かります。
エイト、やはりレックには疑い持っているのですね。
いよいよ佳境。どうなるのか気になります。
766
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/25(水) 12:05:37 ID:hfcKEYVs0
確認ありがとうございます(それと、書き手紹介ページの件遅ればせながら有難うございました)。
疑問点についてですが自分も自分の周りのプレイヤー一名に訊いてもそういう話は出た覚えがない状態で、
vV5.jnbCYwさんもご存じないようならもう良いかなあと思っている次第です。何らかの抜け道が無い場合辿り着く結論として
ミーティアが嫁に行った後は子を一人トロデーンに養子に出さないと行けないのではと言うのは、個人的にかなり嫌でしたし
もう死んでるトロデのイメージに合わないしこの話で大した意味を持ってないので削除しておこうかと考えています。
ではぼちぼちと諸所ページを編集させて頂きます。
767
:
◆EJXQFOy1D6
:2019/12/25(水) 20:58:47 ID:hfcKEYVs0
編集終わりました。本投下と聞いてそれは一時投下じゃない方に置く事を指すのではとも思いましたが、
毎回してる質問回数を出来るだけ減らしたく自己判断でそのまま編集させて頂いています。
現状脱出フラグはおわかれのつばさとかカマエルとか月影の窓とか解呪とかありますね。パロロワは終盤になると
レギュラー的な書き手さんらが密かに相談して方針を決めているのだろうと想像をしてるんですが
こちらはまだそんな感じではなさそうですね。もしかしたらこの先、ちゃんと予定があったのにと言うフラグを
潰してしまうかもしれませんので投下の後でもいいので止めて頂ければ喜んで受け入れます。
完結を心から期待しています。
768
:
光の中に消え去った
: 光の中に消え去った
光の中に消え去った
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