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DQBR一時投下スレ

1ただ一匹の名無しだ:2012/05/01(火) 18:33:27 ID:???0
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

前スレ
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/

2Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:13:07 ID:???0
ターバンを巻いた男、すらっとした青髪の女性、同じく青髪の尖った髪の少年。
彼らと対峙しているのは、一匹の巨大な魔物。
その場にいる全ての人物をタバサは知っていたからこそ、彼女は今の状況が辛くて苦しくて仕方がなかった。
何故なら、今まさに両者の戦いの火蓋は切って落とされようとしているのだから。

先に動いたのは魔物だった。
三者を薙ぎ倒そうとその豪腕を振るうが、それは不発に終わる。
一番身軽な少年は豪腕を軽々と避け、その腕に乗って顔面へと駆け抜けていく。
魔物が防御態勢を取る前に、少年は魔物の顔面を切り裂いていく。
左目を重点的に切り裂かれた魔物が体勢を崩して後ろによろけたのを確認し、今度はターバンの男が正確に魔物の膝裏を杖で叩いて行く。
バランスを取ろうとしていた所に加えられた衝撃により、魔物は後ろへ大きくよろけた。
魔物が地面に倒れ込む寸前、女性の手から放たれた一発の火球が地面と魔物の間に滑り込む。
完全に虚を突いた攻撃になす術も無く、爆ぜ上がる火球に魔物は背中を焼かれることしか出来なかった。
「お願い! もうやめて!」
耐えられ無くなったタバサが、腹から空気を大きく振るわせながら叫ぶ。
だが、その場にいる四者にその声は届かない。
魔物が素早く起き上がり、トドメを刺さんと飛びかかっていた少年を蠅を追い払うように素早く叩く。
意識を全て攻撃に注いでいた少年は、横からの素早い攻撃をそのまま受け止めてしまい、地面を何回も転がり続けた。
即座に救援に向かった女性へ襲いかからんと、魔物は足を進めていく。
当然、ターバンの男が魔物の進路を塞がんと向かってくる。
が、魔物が吐き出した炎に遮られて思うように進めない。
男が炎にまごついている間にも、魔物は女性と少年に近づいていく。

「ゲロちゃんやめて! その人たちは私の家族なの!」
再びタバサは声を絞り出すが、魔物にも家族にもその声は届かない。
まるでそんな声など無かったかのように、彼らは振る舞っている。
タバサが叫んでいる間に、魔物は少年と女性の下にたどり着いた。
「どけ、天空の勇者は殺す。邪魔をするなら貴様諸共殺すぞ」
少年を庇うように立ちはだかる女性に向かい、魔物はまるで汚物を見るかのような目をしながら吐き捨てた。
「どきません。私はこの子の母親です。
 子を守るのが親の役目です」
「そうか、なら死ね」
手を広げて少年の前に立つ女性に対して、一切の躊躇いなくその爪を振るう。
女性は襲いかかる爪を真っ直ぐと見つめ、その場から動かない。
「やめてッ、やめてよぉぉぉぉ!」
泣きじゃくりながらタバサはひたすらに叫び続ける。
声が枯れそうになっても、ただひたすらに叫び続けた。
母へと迫る凶刃が止まることを、ただ祈りながら。

3Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:15:04 ID:???0
「がッ……はあっ」
祈りは、届かなかった。
純白の服を赤に染めるように、魔物の爪が胴体を貫いている。
同時に口からは大きな血塊が吐き出され、魔物の足を赤く染める。
「捕まえ、ましたよ」
血を吐きながらも、女性の目は真っ直ぐと魔物を見据えていた。
そしてゆっくり確実に呪文を紡ぎ、片手に巨大な火球作り出していく。
「食らい……なさッ」
振りかざした片手は上半身ごと宙を舞った。
一連の動作をつまらなそうに見つめていた魔物の片手が、胴を貫いている腕を軸にして女性の半身を吹き飛ばした。
ドサリ、と人であった肉塊が落ちる音が重く響く。
意識を取り戻した青髪の少年の目には、力なく倒れ込む母の半身の姿があった。
「ち、ちくしょおおお!!」
ろくに剣も構えず、少年は魔物へと飛びかかる。
魔物は片腕で少年を地面へと叩きつけ、そのまま頭を踏み潰す。
魔物に傷をつけるどころか、叫ぶことすら叶わずに少年は絶命した。
「なんで……なんで、どうしてそんなことするの!?」
タバサの叫ぶ声など全く気にしない様子で、魔物は手についた血を舐め続ける。
その頃、ようやくターバンの男が炎をかいくぐって現れた。
頭を潰されている息子と半身を失った妻の姿を見て、怒りに震えていた。
「天空の一族の血は美味だな……なぁ、伝説の魔物使いよ」
「……タバサも、そんな風に殺したのか」
怒りを押し殺しながら、男は魔物に問う。
タバサは自分がいることを必死に訴えるが、両者の耳には届かない。
男の問いに、魔物は大きな声で笑い出した。
ひとしきり笑った後に、まるで唾を吐くように何かを口から吐き出した。
瞬間、タバサの視界が暗転する。
「肉は食らった、残ったのはそれだけだ」
声と同時に、タバサの視界に光が戻る。
そこには自分を見下ろしている父の姿があった。

簡単な話だ、自分はすでに死んでいて、魔物の腹の中に頭だけ残っていたのだ。
声が届かないのも当然の話である。
首だけの彼女はそれでも、聞こえるはずのない声で叫び続ける。

ぐしゃり、という音と共にタバサの視界は再び闇に包まれた。

4Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:16:15 ID:???0
「うあああっ!!」
タバサの視界に再び光が灯る。
額からは汗がだくだくと流れ、手は小刻みに震えている。
「大丈夫か? ひどくうなされていたが……」
「えっ? えっえっ?」
耳に入ったのは先ほどまで居た人物の中の誰でもない別人の声。
目の前にいた声の正体を確認したと同時に、自分の首から下があることを確認する。
「……夢?」
「そのようだな。ゲロゲロが思わず足を止めてしまうほど叫んでいたぞ」
よく見れば話しかけているのは先ほどゲロゲロに襲いかかった男だった。
そして、周りを見れば奇抜な格好に身を包んだゲロゲロが心配そうな目で自分を見つめている。
「へ? あれ? ふえっ?」
先ほどの惨劇が夢であったと思ったら、今度は現状が理解できずに混乱してしまう。
自分がゲロゲロとエルギオスの戦いを止めるために飛び出し、ゲロゲロにその体を抱え込まれた所までは覚えている。
気を失って、嫌な夢から目が覚めたら妙な格好のゲロゲロが引く妙な乗り物に乗っていて、隣には襲いかかってきた男がいる。
「まあ、落ち着け。端折って話せば今の私はゲロゲロを襲うつもりはない」
頭に無数のクエスチョンマークを浮かべ続けるタバサに対し、エルギオスは初めから丁寧に話し始めた。

エルギオスは先ほどの戦いの後、ひとまずゲロゲロとしての記憶喪失を受け入れた。
しかしこれから先には、自分のようにムドーの姿を見るだけで襲いかかってしまう人間がいる可能性が高い。
ぱっと見は少女と男を引き連れている魔物だ、ムドーの事を知らない人間でも先入観で襲いかかってしまう可能性はある。
ましてや始まりの地でデスタムーアと問答していた人物やその仲間はムドーを知っていると推測できる。
ムドーという存在を知っている人間が、現状に対して記憶喪失という単語だけで簡単に引き下がるとは思えない。
これから起こる可能性のある無駄な戦いがもし起これば、ムドーは勿論自分やタバサの身にも危険が及ぶ可能性がある。
初見の人間は勿論のこと、ムドーを知る人間に対して彼が無害であることをアピールできるかが最大の課題であった。

5Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:17:16 ID:???0
「あははははは! それでそんな恰好してるんだ! でもゲロちゃん、すっごくかわいいよ!
 そうだ、私もそういう帽子持ってたからゲロちゃんにあげるね!」
「む、むぅ」
タバサが目覚めるまでの間に起こった事をエルギオスが説明した後、思い切り大きな声でタバサは笑っていた。
見えていた課題に対してエルギオスが取ったひとまずの手段。
それはムドーの見た目を可能な限りコミカルにする事だった。
この魔王を知る知らない問わずに笑いがこぼれてしまうくらい、おかしな恰好をさせる。
数分の説得の末、自分の持っていたスライムの服をムドーに着せることに成功した。
魔王というにはマヌケな服装なのだが、それに加えてタバサがスライムヘッドを装着させたため、より一層おかしな格好となった。
これで知らない人間はもちろん、知っている人間も彼が無害であるという事を信じやすいはずだ。
加えて自分に支給されていた乗り物を彼に引かせることで、安心感を盤石な物へと変えてゆく。
なによりムドーの事を見て笑い転げているタバサや、それを微笑みながら見つめているムドーの姿。
これを見てもなおムドーが危険な存在だと認識する人間は、この場には少ないはずだ。
「……ぷっくくく、ごめん! 我慢できない! ゲロちゃんの格好面白すぎるよ!
 早くお父さんやお母さん、お兄ちゃんにも見せてあげたいなぁ」
楽しい笑い声を響かせながら、スライムの服を身に纏ったムドーが引く人力車はゆっくりと進む。

ゲロゲロとエルギオスは知らない。
タバサが何気なく呟いた「家族に会いたい」という言葉に隠された意味を。
生々しすぎる夢の中で起きた惨劇、そしてそれは今現実に起こりうる話でもあった。
もし、ゲロゲロが記憶を取り戻したら?
夢の中の自分のように、ゲロゲロは自分に牙を向いてくるのだろうか?
そして自分を殺し、他の人をも殺して回るのだろうか?
それを考えないように、彼女は思い切り笑い飛ばす。
今のゲロゲロは心優しい魔物なのだから、そんなことはないと自分に言い聞かせながら笑い続けた。

夢が夢であることを、タバサは小さく祈り続ける。

6Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:18:10 ID:???0
【G-4/南部平原/午前】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実
[思考]:タバサ・エルギオスと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【エルギオス@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:光の剣@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:タバサ・ムドーと共に行く、贖罪として人間を守る
[備考]:シナリオED後の天使状態で参加しているので、堕天使形態にはなれません

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康
[装備]:山彦の帽子@DQ5 復活の玉@DQ5PS2
[道具]:支給品一式
[思考]:リュカを探す、ゲロゲロ・エルギオスと共に行く

7Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:19:20 ID:???0
投下終了です。

8現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:07:08 ID:???0
吹く風に煽られ、さらさらと砕けた煉瓦が宙を舞う。
煉瓦の正体は、入り口に倒れ込んでいる巨人の頭部であった物。
「ゴレムス……?」
ぼそりと共に旅をしていた煉瓦の巨人の名を呟く。
魔物使いの夫ならともかく、残った体の姿形だけでは共に冒険した仲間なのかどうなのか判断することはできない。
しかし視界に入った忌々しい首輪から、この巨人が殺し合いの参加者だということだけは分かる。
そそくさと巨人の腰のあたりに向かい、携えていた袋を手に取ろうとしたときだった。
「姉、さん?」
見間違えるはずもない。
美しく纏め上げられていたはずの黒髪。
血に染まりながらも白く輝いているかように光る衣服。
赤く広がる血溜まりの中で、姉であった物の残骸が散乱していた。
あまりの惨状に声も出せず、その場に立ち尽くしながら吐き続けることしか出来なかった。
幼き頃から共に暮らしてきたかけがえのない家族。
その命が奪われていることを知ってしまった。
現状から嫌な思考へと連鎖し、純粋に胃液だけをただひたすらに吐き続けた。

少ししてからフローラは正気を取り戻した。
そこで先ほどのバラモスの言葉の意味を理解し、大きく歯軋りをする。
だが、悲しみに打ちひしがれ立ち止まっている場合ではない。
やるべき事がある、何もかもが手遅れになる前にそれを成さねばならない。
「姉さん……さようなら」
小さく別れを告げ、姉であった残骸の傍に落ちていた武具とふくろを回収し、前を向く。
そして一抹の不安を抱えながらも力強く足を進めて行った。

9現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:08:01 ID:???0

「給仕探偵ジェイドッ! ここに見ッ参ッ! さあ呪文怪盗アンバー、今日という今日こそはお前を犯人だ!」
突然始まった寸劇を、口をあんぐりと開けてハーゴンは見つめている。
「メイド服といえばこれしかないよな!
 ……ってあれ? ハーちゃんひょっとして給仕探偵ジェイド知らないのか?
 有名な本だと思ってたんだけどな」
「……お前が読書を嗜んでいたことが驚きだ」
「なんだとぅ? まっ、あたしも近所のおばさんに読んで貰ってただけだけどな……」
先ほどまで元気だったソフィアの声色が突然弱くなり、瞳には悲しみが宿っている。
異変に気がつき声をかけようとしたハーゴンを遮るように、ソフィアの口が開く。
「なっつかしいなあ、昔シンシアと毎日これの真似して遊んでたな。
 たまにはあたしにもジェイドやらせなさいよとか言われて、怒られたっけな」
取り繕うように笑いながら呟くも、その瞳は悲しみに包まれたままである。
出会ってから初めて見せる表情に、ハーゴンも驚きを隠せなかった。
「シンシアというのは、友の名か」
「ああ、あたしの最ッ高の親友だ」
ハーゴンの問いかけに対して、ソフィアは振り向かずに答える。
「そして、あたしが守れなかった大切な人だ」
次に続いた言葉には、後悔や怒りがはっきりと込められていた。
その一言を皮きりに、彼女は止まることなく話し始めた。
「あたしが弱かっただけなんだ。あたしにみんなを守れる力が無かっただけ。
 そんな弱いあたしがさ、世界を救う天空の勇者とかいう大層な人間らしくてさ。
 今まで普通に接してくれた近所の人とか、みんな血眼になってあたしを守ろうと魔族と戦ってたんだよ。
 魔族もあたしの命を狙ってるし、みんなはあたしを守ろうと必死になってる。
 天空の勇者を殺す、守るの両極端に立ってね」
歩きながら口を開き続けるソフィアの後ろを、ハーゴンは黙ってついていく。

10現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:08:58 ID:???0
「優しくて仲のよかったみんなが死を代償にするほど躍起になって守ろうとした力。
 みんなを狂わせて、みんなを殺したのは天空の勇者っていう力。
 最初は凄く恨んだよ。あたしがそんな力を持って生まれたことをね。
 そこから、あたしは真実を知りたくて力をつけながら冒険し始めた。
 天空の勇者が何者なのか、何故狙われていたのか、みんなが命を賭して救うべき存在だったのか。
 魔族が私を襲う理由や、みんなが命を賭して救おうとした理由や、いろんなことの真実が冒険していくうちに分かった。
 それができたのはあたししかいないってことも十分に分かった。
 納得もしたし、後悔もしてない。
 ただ……」
そこで、ぴたりとソフィアの足が止まる。
合わせるようにハーゴンもその場に立ち止まる。
「ただ、あたしじゃなきゃ良かったのになってのは何回も考えた。
 ま、それはあたしにゃどうしようもない事けどな」
今までより一層低い声でソフィアが呟いたあと、くるりと振向いてハーゴンへと頭を下げた。
「悪いな、ひとりでベラベラ喋っちまって」
バツが悪そうに頭をかくソフィアに対し、ハーゴンは小さく笑いながら答えた。
「人間からそんな話を聞いたのは初めてだ、面白かったぞ。
 どの世界でも勇者というのはただ持ち上げられ、言われるがままに世界を救おうと動いているもの。
 そう思っていたが……まさか勇者本人からそんなことを聞くとはな。
 ひょっとすれば、ロトの血族もそうだったのかもしれんな……」
宿敵であるロトの血族のことがハーゴンの頭に浮かぶ。
彼らも、ソフィアのように何かしら苦悩しながら冒険していたのだろうか?

足を進める先に一人の女性が現れたのは、そんなことを考えようと思ったときだった。

11現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:09:42 ID:???0

息を荒げながら走ってきた女性、フローラを落ち着けた後に、二人は事の顛末を聞いた。
南の町でまるで女神のような一人の王女に会ったこと。
間もなく魔王の襲撃を受け、魔王がローラ姫の愛という感情を試すために人質として監禁していること。
そして、ローラ姫は自分を逃がすために自ら人質となったこと。
自己紹介もそこそこに、フローラは起きた事実の一部を語り続けた。
「こうしちゃいられねえ、さっさとアレフってのを探しに行こうぜ」
フローラが口を閉ざした瞬間、連動するようにソフィアの口が開いた。
困惑するフローラをよそに、ソフィアは一人しゃべり続ける。
「ローラは証明したかったんだよ。だから、自分が自ら人質になることを選んだ。
 アレフってのにこの上ない信頼を抱いてるから、命を賭ける事も怖くなかった。
 愛も何もかも、証明できるって自信とそれを裏付ける理由があったんだ。
 それを思いから確信に変えるため、気持ちが本当であることを確かめるために勇者を探す必要がなんだよ。
 自分ひとりがそれを言ってても、証明と確信にはなんねーからな」
聞いた話から自らが考え、思うことを口に出す。
自分の実体験から来た経験、人の思い、行動理由。
それらとローラ姫という一人の人物を結びつけ、狙いを探り出していく。
「ただ人質となる以上、どっかの世話焼きに救われちまうかもしれない。
 命が助かっても魔王に自分の誇りを証明できなきゃ、それはローラにとっての敗北だ。
 だから、それを防ぐために一刻も早くアレフを探さなきゃいけねえ。
 命を賭してまで成し遂げたいことなんだ、へたすりゃ死んじまうかもしれねえ」
人の気持ちを察して自分の気持ちと照らし合わせ、一つの答えを導き出す力。
それはいつかの自分に足りなかった力。
ソフィアの話を聞いているうちに、気がつけば俯いてしまっていた。
そのフローラの様子を知ってか知らずか、ソフィアは話を続ける。
「だから早く探しに行こう、魔王にわからせてやろうぜ。
 きっと、勇者様と勇敢な姫様が全部やってくれっから。
 な、いいだろハーちゃん」
そこでソフィアは後ろで腕を組んで黙ったままだった男に問う。
男はソフィアを見つめたまま、ニヤリと笑ってから答えた。
「……まあ、脱出の鍵を探すのにこの場にある様々な知識も借りようと思っていた所だ。
 事のついでに探す人間が増えただけのこと、大した差ではない。
 だが、魔王討伐に荷担することだけはできん。
 消費する必要のない体力や魔力を削って、いざという時に支障がでると困るのでな」
「そりゃ大丈夫だ、魔王は勇者に任せりゃいい。
 第一ローラの証明を成立させるには、あたしたちは手出ししちゃいけねーからな。
 あくまであたしらは、アレフってのを見つけたら事情を伝えるだけだ」
瞬時に相手の考えを理解し、それに対してしっかりと正しい答えを作る。
答えと共に現れた質問にもしっかりと対応できる力。
人の心を理解するとはこういう事なのだろうか?
ソフィアの答えを聞き、ゆっくりと頷き了承の意を示したハーゴンを見てフローラはそう思った。

12現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:09 ID:???0

もし、かつて自分に人の気持ちを考えるソフィアのような力が備わっていれば。
もっと夫婦として話し合う力があれば。
あの人の心やその中の苦しみをもっと理解する事が出来たのではないか?
と、かつての自分の無力さと、今の自分があまり変わっていない事を噛み締める。
今の自分が夫に出会うことが出来たとしても、また気持ちの入れ違いから夫を苦しめるだけなのではないか?
小さな不安が山となって彼女の心に積もって行く。

「さ、行こうぜ!」
そんな考えすら見透かしているかのように、ソフィアは笑顔でフローラに手を伸ばす。
その笑顔はローラとどこか似ているようで、違う輝きを持っていた。
遅すぎることはない、と彼女を見てフローラは再び思う。
力がないなら身につければいい、理解できなくとも理解しようとする姿勢を見せればいい。
人の気持ちを考えると言うことを、ソフィアの言動から学べる。
アレフを探すという短い間でも、今の自分から変わることは出来る。
そう心に決め、フローラはソフィアに匹敵するくらいの笑顔を作り、差し伸べられた手を取った。
変化への大きな一歩を、彼女はゆっくりと踏み出した。

13現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:29 ID:???0

面白い。
ソフィアの話や現れた女性とのやりとりから、ハーゴンは正直にそう感じた。
長らく人と接することが無かった為に忘れていたこと、人間も何の考えも無く動いているわけではないと言うこと。
人間が行動する上で、何かしらの理由は必ずついて来る。
だが、そうなるに至った気持ちや感情は本人にしか知り得ないこと。
一時的とはいえ、人間と協力することでそういった内面を知ることが出来た。
勿論、人間に対する憎しみを忘れた訳ではない。
ただ、自分の世界の人間の多くがソフィアのように固い意志を持った人間だったならば。
口を開けば「勇者ロト」と、嘗ての英雄にすがりついて考えることを放棄した連中に考える力があったなら。
自分を含め、世界は変わっていたのかもしれない。
「まあ、今更どうしようもないがな……」
聞こえないようにハーゴンは一人呟く。
そう、自分の住む世界は既に手遅れ。
人々はロトを崇拝し、その血族にすがりついている。
信者たる彼らから受けた仕打ちを忘れることは出来ない。
復讐と再生の為に、破壊が必要。
腐った世界を元に戻すために、一刻も早く戻らなければいけない。
そのため自分の力を貸すことも、他者や宿敵の力も借りる覚悟は出来た。
目的を果たすために、ハーゴンもまた一歩を踏み出していった。

14現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:52 ID:???0

誰かが命を賭ける理由。
それはソフィアが真実を追い求める中で最も知ることが多かった理由。
何を感じ、何を思い、何をするために動くのか。
そして何か守りたい、残したいと思ったときに。
人は、命を賭けるのだ。
かつて守られる側に立たされ、ある意味では多数の命を賭けて守られた。
その後守る側に立った事もあるし、守る側に立っている者も知っている。
だから、フローラの話の中の人物の考えはすぐにわかった。
命を賭してまで動く人の願い。
ただ、それを叶えたい。
その気持ちを胸に、ソフィアは協力することにした。
その気持ちと覚悟に答えられる、たった一人の勇者を探すことに。
彼女もまた、新たな気持ちと共に一歩を踏み出した。

人の思いを気づけなかった者。
人の思いを忘れていた者。
人の思いを見続けた者。

それぞれもまた、思いを抱えている。
交錯していく思いと感情。
その先で彼らがどう変わっていくのか?

まだ、彼らすらも知らない。

15現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:12:01 ID:???0
【F-3/中央部/午前】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
     アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9 
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
     脱出の力となる人間との協力。
     ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。
     ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。

16現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:12:12 ID:???0
投下終了です。

17トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:17:32 ID:???0
しゃらん♪
タンバリンをふりならすたび、ふしぎな音色がまたひとつ。
こちらは竜王の曾孫、ただいま傭兵募集中です。
今日も今日とて、魔王をたおす『ゆうしゃ』を求め、温泉のまわりを歩きます。

だがしかし、ひとえに彼が求める『ゆうしゃ』と申しましても、実にさまざまなものがいらっしゃいます。
たとえば彼が親しくしている(と、思っている)ゆうしゃたち、ロトの子孫三人勢。
彼は伝説などという大きな肩書きを背負うわりに、性格は少々ひっこみじあんであったご様子です。
竜王城に残された文献によれば、彼らの先祖である『ロトの勇者』とは、一部では『らんぼうもの』として名を馳せていたようですし、
その数代先の、彼の先祖である竜王を討ち取った勇者アレフもまた、女好きとして知られていたようです。
伝説にのみ名をのこす彼らのすがたに、竜王の曾孫は、とても興味がおありでした。
叶うものなら、会ってみたいとも。

さて、そんな彼が手にしているのは、先ほども申しましたこちら『ふしぎなタンバリン』でございます。
竜王の曾孫が、どの文献にも目にしたことのないような、文字通りふしぎな力を持った魔法の道具。
鳴らすたびに、素敵な音があたりいちめん響きわたり、人もまものも力がわいてくるという代物なのです。
いっぱんてきには「テンションが上がる」などと言われるようです。
彼は、支給されたこの道具の力が、いずれ勇者の手にわたることを信じていました。
そのため、施設の中を闊歩して、タンバリンを持ち歩き回っていたのです。

おや、噂をすれば、誰かが彼のそばに近づいてきた様子。

「これは、温泉ですの?」

ツインテールをゆらし、竜王の曾孫にあらわれたのは、淑女然とした雰囲気を身にまとった、一人の女の子でした。
だがしかし、長年ゆうしゃを求めていた曾孫はすぐにその姿に気付くのです。
文献に見まごうことのない少女の姿。この舞台にいると、頭では知っていたその存在。
ロトの始祖に名をつらねた、究極の女ぶとうか、リンリンであるということに。
彼は自分の存在に気付いた少女に対して、すぐに声をはり上げました。

「不思議なめぐり合わせもあるものだ。お前のようなものを待ち望んでいた」
「あなたは」
「竜王の曾孫、と呼ばれておる。勇者の子孫とは馴染み深いものよ」
「勇者の……?」
「とおい昔、勇者アレルとともに魔王ゾーマを見事打ち破り、アレフガルドに伝説を残した女ぶとうか、リンリンよ。わしはお前と会ってみたかった」
親しげな声をかけられて、少女は不思議そうな表情で首をかしげます。
「これも、夢なのでしょうか? 私たちのことを知っているなんて……それも、はるか未来の」
「夢? 勇者の一行ともあろうものが、可笑しなことを口にする。その強大な力を持って、魔王を倒そうと考えているのだろう? 伝説であったのと同じようにな」
「魔王? 伝説? ……」
考え込むような表情の少女に、竜王の曾孫は両手をひろげて、声たかだかと言いました。
「お前たちのような者にこそ、託したかった。このタンバリンは強大な力を秘めている。
 この力でいっこくも早くデスタムーアを倒してほしい。及ばずながら、力となろう」
夢にまで見た、こんなふうに勇者に依頼するあのシーンに出会えたように、少々こころおどる気持ちで。

18トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:19:33 ID:???0
「お断りしますわ」

そんなわけで、まさか断られるだなんて、彼は夢にも思わなかったのです。

気付けば、彼の見たものはくるくると空をまわっていて、何が起きたのかよくわからないほどでした。

「魔王を倒す? どうして? そうなれば、この夢も消えてしまうかもしれないのに。
 そう……しいて言うなら、魔王は最後。きっと、他にも素晴らしい闘いをわたしにくれる方がいるはずです。
 例えば」

彼が叩きつけられた地面は、たった今の衝撃のせいか、地面に大穴があいています。
ゴーレムのような表情で、リンリンは冷たく言い放ちました。

「あなたとか」

その先はおそらく文献にも記されていないことでした。
目の前の少女を含め、彼がどうして勇者と呼ばれていたのかを。
それはひとえに、彼らが「たたかうこと」ただそれだけを望んでいたのに、他ならなかったから。
彼が思っていたゆうしゃとは、少しだけ違っていたのです。

「まったく、私の夢でしょうに、どうしてそんなことを言うのかしら。
 そんな、今更すぎることを……」

彼の手をはなれた、あのふしぎなタンバリンもまた、彼といっしょに地面に転がっていました。



「それにしても、ここって本当に温泉なのね……」
先の少女から身を隠れる場所を探すようにして、自然と訪れた施設を見渡しながら、マリベルはやや呆然としてつぶやいた。
同じように、こちらは見覚えのある風景を眺めつつ、テリーはともに行く少女の背に声をかける。
「普通の温泉じゃないけどな。うかつに触るなよ」
「入らないわよ。どう見たって混浴だし」
「そういうことじゃない、慎重に行けと言ってるんだ。中にいい隠れ場所がある」
「どういうこと?」
「行ってみればわかる」
そう言って、彼は広々とした浴場に目を向けた。
はたからはどう見てもただの温泉でしかなかったが、よく調べれば中に洞窟があって、かつてはそこから元の世界に脱出したことを、訪れたテリーは知っている。
相手が同じである上に今回は状況が違うため、同じ脱出口を使えるとは思っていなかったが、なんらかの手がかりは得られるかもしれない。
だが先を行こうとする彼に対して、説明の無いマリベルは、少々憮然とした表情になった。
また騒がれるのも面倒かと、テリーは付け足す。
「姉さんたちと行ったとき、この先に洞窟があったんだ」
「ああ、そういうこと」
そういえば相手はこの世界にいたことがあるのかと、マリベルもやや合点がいった。
それにしても。口数が少ないわけではないが、多くを語らない目の前の相手を、マリベルは振り返る。
「テリーって、お姉さんがいるのね」
「……どうだっていいだろ」
「別に。ちょっと意外なだけ」

19トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:20:27 ID:???0
やや表情のにぶる青年に気付かず、マリベルはぽつりとこぼした。
「あたしもアルスに会いたいもん」
少女が普段言うのからすると、あまりに素直な一言に、テリーは思わずマリベルの方を見る。
少しはっとして、マリベルは我に返った。
「べ、別にそういう意味じゃないわよ。ただの幼馴染っていうか、こういうのも口癖で、こんな状況だし……」
「なにも言っていない」
冷静な態度をくずさないまま、温泉を検分しているテリーに、同じように座り込みながらマリベルは話しかける。
「どうしていちいちつれないのよ。テリーだってお姉さんに会いたいでしょう?」
「……俺は」
言われて、テリーの態度が瞬間とぎれた。
「俺自身はどうにかなるんだ。あの人は心配しすぎるから……」
「は? なに言ってるのあんた」
「早く行くぞ」
めずらしく明瞭にしないテリーの言葉に、マリベルは首をかしげながらも、結局それ以上の詮索は断言する。
彼の言葉から察するに、温泉に位置された岩場の裏に、おそらくその洞窟があるのだろう。
それにはどうしてもこの温泉に浸からなければならない。テリーが先言っていたことが思い返す。
一見ただの温泉だが、なにか危険があるのだろうか。
そうたずねようとした矢先だった。

響き渡ったのは、爆発音にも似た音だった。
衝撃が余波となって、二人が立っていた脱衣所にまでびりびりと空気を震わせていた。

「何? まさか、さっきのがもう」
「急いだ方がいいらしいな」
言うなり、テリーはマリベルを抱え上げて、そのまま温泉に飛び込んだ。
「きゃあ、ちょっと! いきなり何するのよっ」
「うるさい、いいから行くぞ!」
暴れるマリベルを無理やり連れながら、テリーは混浴の中へとそのまま足を進めていく。
「もう、なんでそうなるのよ! この自己完結男ーっ!」
なかば悲鳴を上げながら、マリベルは必死でテリーの肩にしがみついた。
マリベルはあずかり知らぬことだがこの温泉には特殊な成分があって、つかれば普通の人間は無気力になってしまう。
そのためテリーは自分の消耗もおしてマリベルを湯につからせぬよう抱えているのだが、彼女に言わせればそれも『自己完結』らしい。

(……会いたい、か)
さきの戦闘の疲労に加えてこの温泉で、身体は少しずつ重くなっていく。
流されないようふんばりながら足を進める中で、テリーの頭に浮かぶのはこの世界にいるであろう唯一の家族のことだ。
さきのマリベルのように、会いたいなどと口にする気にはあまりなれない。
むしろ彼女が自分を気にかけるあまり、この世界でよからぬことを考えてはしないか少し心配でもあった。
姉の強さはよくわかっているが、そういう意味で、できるだけ早く合流したいとも思う。

(俺ももう少し、伝える努力をするべきだろうか。姉さん)

なおもわめきつづけるマリベルをはじめ、他の人間がどうなろうと知ったことではなかったが、
姉ミレーユのことだけは、テリーはいくらでも頭を悩ませられた。
それでも、改めるだなんて今更すぎるように思え、踏み出すことができないでいる。

20トライ・ディス・シュート状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:21:43 ID:???0
【F-1/ヘルハーブ温泉外周/午前】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 腹部に打撲(中)軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9]
    支給品一式×2 (不明支給品0〜1個)
[思考]:竜王の曾孫の慟哭をつく
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。

【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:HP4/5 
[装備]:なし
[道具]:銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる リンリンの攻撃に混乱?

※ヘルハーブ温泉外周に、ふしぎなタンバリンが落ちています。

【F-1/ヘルハーブ温泉浴場/午前】

【テリー@DQ6】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 背中に打撲(中) MP消費少 温泉の成分で徐々に体力減少中
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康 MP微消費 テリーに抱えられている
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。 ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。

21 ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:22:44 ID:???0
投下終了です。
本スレにどなたか代理投下していただけるとありがたいです。

22君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 22:57:47 ID:???0
生きることはつまらない。
彼女が常々口にしていた台詞だ。
食事をしようが睡眠をとろうが、生の実感さえ感じることができないと、いつも嘆いていたのを覚えている。
そして戦いに関しては、命をぶつけ合い削り合うその瞬間だけは、生き生きと笑っていたことも。
美麗な容貌でありながら、その生き様はまるで修羅のようだった。
戦い以外なにもいらない、だからこそ彼女の戦いはなによりも強く美しかった。
そんな彼女と背中合わせで戦う相棒であったこと、彼女と対等であったことを何よりも誇りに思っていた。
彼女が戦う己以外何も見ていないとしても構わなかった。共に戦えるならそれでよかった。
だから忘れられない。
勇者アレルがアレフガルドから行方をくらましたとき、彼女が震える声で呟いたことを。

「アレルは私を裏切った」

彼女が他人に執着するようなことを言うのを、そのとき初めて聞いた。
そして彼女がアレルと戦うことを渇望していたと知った。
だが、彼にはわからなかった。どうして彼女の望む相手が、アレルでなければならなかったのか。
慰めるような言葉が口をついて出たのも、その動揺のせいだったかもしれない。

「俺がいる。俺がお前と戦おう。何度でも、お前の気が済むまで……」

修羅の女は最強を自負する魔法使いに無機質なまなざしを向けた。
その言葉を検分でもするかのように、しばらくじっと見つめていた。だが、やがてゆるゆると首を振った。

「お前は弱い」

立ち尽くした魔法使いを、もう視界に入れることさえなく。
女は光を取り戻したアレフガルドの空を、空虚な面持ちで眺める。

「お前などでは、この渇きは満たされぬ……」

久方ぶりに訪れた、自分たちが戦いを求めた果てに手に入れたあの世界の太陽は、二人の全てを奪ったのだと思った。

23君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 22:59:32 ID:???0
「――これがさっき言ってたアルス。で、マリベル、キーファ、アイラと、ついでにホンダラのおっちゃんな」
「ほう、こいつもお前さんのお仲間かい?」
「ホンダラのおっちゃんはアルスのおじさんだぞ! 面白いもんいっぱい持ってるんだ」
森の中で、魔法使いはガボと情報を交換していた。
いずれ来る『間引き』のときに備えて、今知れる参加者のことだけでも把握したい。
今後どこに行くかについては、ハッサンの死骸がある南を避けて北方の牢獄の町へと向かうのが妥当と考えるが、
如何せん目的地にするにはやや遠い。
いくら鍛えているとはいえ、魔法使いの体力と寄る年波ではそう簡単にたどり着ける距離ではなかった。

「なあおっちゃん、オイラやっぱり腹減ったよ。おっちゃんもお腹空かないか?」
だからガボが、切なそうに腹をさすりながら彼を見上げてきたときに、ここで一度休息を取っても良いかと彼は考える。
しかし次に続く少年の言葉は、老魔法使いの予測とは少しだけ違っていた。
「せっかく森にいるのに、ふくろに入ったやつを食うのはもったいねえな。オイラが食べものを探してきてやるよ」
「お前さんが? そんなちっちゃいのに、森だの山だので食材を採ったことがあるってのかい」
「おう! オイラにはすみかみたいなもんさ」
その言葉の真意は不明だが、ガボの表情は自信と期待に満ち溢れて、まるで犬がそうするかのように彼の許しを待っていた。
老魔法使いの役に立ちたいという思いが、その言動から感じられる。
悪い話ではないが、一人行動では万一のこともあろう。この辺りに他の参加者が潜んでないとも限らない。
そして何より、森の中には先の戦いの痕が残されている。
見られれば人死にがあったと気付かれるだろう。そうなれば後々面倒なことになるのは予測がつく。
そんな少しの思慮の末、結局、男魔法使いはガボの提案を承諾することにした。
「わかった。わしはここで待っていよう。すぐに戻ってくるんじゃぞ、何が起きるかわからんからな」
「誰がいるかわかんないもんな! 気をつけてくるよ」
「ああ。なるべく山沿いのほうを探すといい。人も少ないだろうし、湧き水があるかもしれない」
「山沿いな。わかったぞ」
そう言うとガボは、遠い咆哮をあげながら、まるで獣のように森の中を疾走した。
リンリンなどとはまた別の意味で人間離れしたその動きに、前世は狼かなにかだろうかと呆れた眼差しを送る。
なんにせよ、この手駒が自分に向ける信頼は相当なものだ。途中襲われでもしない限りは戻ってくるだろう。
山沿いに進めばハッサンの死体を見つけてしまうこともない。
こんな枯れた森でまともな食料が手に入るかは怪しいところだが、確かに少年の言うとおり、調達できたら儲けものだ。
ガボという手駒に信頼という餌を与えながら、生き延びなければならないのだ。全てはあの女と、カーラと再戦するために。

あの時、カーラは老魔法使いを、躊躇い無く『弱い』と言い放った。
最強を自負する彼を、彼女と対等に戦えると思っていた、そのことを誇りにさえしていた彼を、カーラは見向きもせずに去って行った。
忌まわしい記憶だ。
彼女の言葉を理解なんてできなかった。この強さが認められないなどと、そんなことはあってはならない。
「……お前はなにもわかってないぜ。カーラ」
森の中で、生気の無い木々を聞き役にして、老魔法使いは独りごちる。

24君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:01:24 ID:???0
ガボは嬉しかった。
身動き取れなくてお腹も空いて、助けを呼んでも誰も来なくて、寂しさや不安に駆られたとき、
差し伸べられる手がどんなにありがたくてたまらないかを、ガボはよく知っていた。
遠い昔にも似たようなことがあった。ガボがこの姿になった切欠の事件、かつて白狼としてオルフィーの町を守っていたとき、
魔物の呪いによって姿を変えられたガボは、身動きも取れず助けも呼べず困窮していた。
あのとき手を差し伸べてくれ、白狼の誇りを取り戻してくれたアルスたちへの感謝を、ガボは今でも忘れていない。
かのデスタムーアとかいう奴が何を言っているのかガボにはよくわからなかったが、理不尽だということだけはわかるこの世界で、
かつての状況とは違っても同じように手を差し伸べてくれた老魔法使いを、ガボは守りたいと思った。
――というわけで手始めに彼のために食材を探そうと森を疾走しているのだが、目的のものはなかなか見つかりそうにない。

「山や森が死んじゃってるみてえだなぁ……」
獣どころか鳥やネズミさえ見当たらない景色に、ガボは深く落胆する。
かろうじて、虫のようなよくわからない生物が時折草むらでうごめいているが、当然老魔法使いへの土産にはできない。
他にも狼の一匹でもいたら仲間に加えたかったが、今朝助けを呼ぼうと遠吠えをしてみたときに誰も来てくれなかった時点で、
望みはかなり薄かった。
「なんかいやな世界だよなぁ。封印ともちがう。どこ行ってもいやな匂いしかしねぇや」
誰もいないのをいいことにぼやきながら、とぼとぼと老魔法使いの言うように山の際を歩いていると、
がさがさと森の方でなにものかが歩いている音が聞こえてきてはっとする。
すぐさま野生の勘を頼りに耳を済ませる。どうやら目的だった獣の類ではない、恐らく人間のものだった。
相手の足音もやがて止まる。すぐに戻ってくる、という老魔法使いとの約束が一瞬ガボの頭をかすめたが、
もしかしたらアルスたちのうちの誰かじゃないかという望みに、ガボは呼びかけを放った。
「誰かそこにいるのか?」
様子をうかがうかのように息を潜めていた相手が、やがて森の影から姿をあらわす。
背中まで伸ばした流れるような銀髪に、漆黒の衣装。どことなく禍々しさを漂わせる長身の男に、ガボの目付きが自然と厳しくなる。

銀髪の男――ピサロが、結局一人で北へ行く旨を告げたとき、ミーティアから激しい抗議を喰らう羽目になった。
北に行っては先のような戦闘があるかもしれない、せっかく仲間になれたというのに、あえて一人で危険を冒そうとはどういう了見か――
ヤンガスも、ピサロの戦闘力をあまり知らぬゆえか、やや渋い顔だった。
どうせ絶望の町に行くのは後でもいいし、ひとまず3人一緒に行ってはどうかと提案してきたが、ピサロは結局それら全てを断った。
ヤンガスがどれほど戦えるかはわからないが、彼がミーティアを連れて絶望の町へ向かうのと、
すでに戦闘が起きている北の森を三人で探索するのでは、リスクがあまりにも違いすぎる。
ミーティアを、無用な危険に晒したくはない。
そのためピサロは一人行動を取り、ヤンガスやミーティアが見たという戦いの痕を調べることにした。
いまだそこには死骸が残されているはずだ。今後のために、首輪を入手できる機会があるならばできる限り手に入れたかった。
だだるミーティアを言いくるめ、渋るヤンガスに支障ない範囲で説明し、絶望の町へ向かう二人と別れて北方へ足を運ぶ。
しかし目的地へとたどり着くより早く、ピサロは獲物に遭遇することとなる。

25君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:02:54 ID:???0
彼は杖を構えたまま、視界に現れたときから近づくことなく、一定の距離を保っていた。
背丈の低い、一見みすぼらしい姿の少年だったが、ソフィアらもあの子供のような姿で強烈な力を持っていたことを思うと、
油断するわけにはいかない。この森にいる時点で、かの戦闘に関わっている可能性があるのだ。
そうしてしばらく、ピサロは少年の様子を見つめていた。警戒されているのか、少年もまたピサロを睨んでいる。
少しの沈黙のあと、先に声を発したのは相手のほうだった。
「オイラは、ガボだぞ」
突然の自己紹介に、内心やや肩透かしを喰らう。それでピサロもようやく口を開いた。
「……この付近に男の死骸がある。やったのはお前か」
「シガイ!? 誰かもう死んじゃったのか」
驚く少年――ガボに、ピサロはやや考え込むような表情になった。ガボは距離を縮めることはせずに、声を張り上げる。
「オイラ、さっきまで全然動けなかったから周りのことはよくわからねえんだ。
 だからその人のこともよく知らない。おっちゃんだったら知ってるかもだけど」
「おっちゃん?」
「呪いで動けなくなってたオイラを助けてくれたんだ。すっごい魔法が使えるんだぞ」
その言葉に、ピサロははっとした。ガボが言う、恐らく壮年であろう魔法使いの男というのは、
ミーティアが言っていた話にほぼ一致する。炎が男を焼き尽くしたこと、それを成したのが老人だったということ。
ガボが何も知らないのは恐らく本当だろう。そうでなければ、こうぺらぺらと他人のことは話すまい。
そして彼が言う『おっちゃん』とは、――恐らく。
ピサロの決断に迷いは無かった。
「……ガボと言ったな。私はピサロだ。そちらに攻撃する意志がないなら、こちらも危害を加えるつもりはない。
 この件に関して情報がほしい。その男のところへ案内してはもらえぬか」
「ピサロか。なんかかっけえ名前だな」
どうでもいい返答に、一瞬ひざから崩れ落ちそうになる。
だが、ガボはすぐに、力強い眼差しで頷いた。
「わかったぞ。最初に見たときはちっと魔物の匂いがするからケイカイしたけど、
 ピサロは見た目ほど恐そうじゃないし。おっちゃんのとこに連れてってやるぞ」
「……そうか。では、頼む」
「おう、任せろ! ところでピサロ、なんか食べ物持ってないか?」
「……」
いまいち緊張感の無い案内役に、ピサロはなぜか、無性にかつての連れを思い出す羽目になった。

26君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:04:11 ID:???0



「――やっぱり、納得できませんわ」
平原を踏みしめる中、お供に山賊を連れた姫君は、そう零した。
隣を歩くお供、ヤンガスは困り顔になり、ぽりぽりと頬をかく。ミーティア姫が、ピサロの選んだ行動に納得できぬまま
別離となったことはわかっていた。だがピサロに彼女を任された身としてはどうしようもない。
「こうしてる今も、ピサロさんは一人で、危険な目に遭っているのかもしれないのに……」
「だからって、姫さんを一人にすることはできないでがすよ」
「でも、ミーティアは見たんです、男の人が大きな炎に包まれるのを! もしもピサロさんがそんなことになったら」
目に涙さえ浮かべている彼女に、ヤンガスは内心困惑するが、つとめて冷静になだめることにする。
「姫さん。さっきは三人で行くことも提案しましたが、あっしは正直、こうなって良かったと思ってるんです」
「ヤンガスは、ピサロさんを見捨てることが正しいと言うの?」
「もしも姫さんの身になにかあったら、兄貴やトロデのおっさんに申し訳が立たないでがすよ」
誠意に満ちたヤンガスの言葉に、ミーティアは口をつぐむ。
たしかに、ミーティアにとって一番大事なのはエイトと会うことだった。
絶望の町へ行くことに決めたヤンガスの選択は理にかなっているし、それがミーティアのためであることもわかっていた。
だけど――。
「……やっぱりダメです」
「姫さん」
「私が足手まといなばかりに、ピサロさんが危険な目に遭うのだとしたら、そんなのはダメです。
 私だってずっと、エイトやヤンガスたちと旅を続けてきました。自分の身を自分で守るくらいはできます」
「ですが……」
「ヤンガス。ぶしつけなお願いで申し訳ないですが、どうかピサロさんを助けに行ってはくれませんか。
 短い時間だったとはいえ、共に過ごした人を見捨てることなどできません。
 私がいて足手まといなら、私はここでヤンガスの帰りを待ちますわ」
先ほどまでとはちがう、強い決意が見てとれる瞳に、ヤンガスの心が今度こそ揺らいだ。
ミーティアが譲らぬその想いは、彼が兄貴と慕う青年が、かつて見も知らぬヤンガスの命を助けたときを彷彿とさせるのだ。
賊として襲いかかり、無様にも壊れた橋に落とされて谷底に呑み込まれようとした自分を、エイトは命からがら引っ張り上げた。
なぜ助けたのか。そんな恩知らずな質問に、トロデは無礼者と怒ったが、青年は静かに笑ってこう言った。
――君にだって、大切な人がいるだろう?

そんな兄貴だったら、こんなときどうするか。考えずともわかることだ。
あのときと同じことを言って、きっとピサロのことだって、助けに行こうとしただろう。
ミーティアの芯の強さは、同じ仲間としてもよく知っている。実父が危険に晒されたとき、彼女はいつも身体を張って立ち向かっていた。
「……わかりました。ミーティア姫、あっしと一緒に行きやしょう」
「ヤンガス!」
喜色満面のミーティアに、ヤンガスはしっかりと頷いた。
「姫さんのことはあっしが必ずお守りします。ピサロのことも探しに行きやしょう。
 森に用事があるだけと言っていたし、案外すぐ合流して戻ってこれるかもしれないでがすね」
「ありがとう……。ミーティアも、せいいっぱい戦うわ」
そう言って微笑む姫の姿が、あのときのエイトにひどく重なる。
――やはりお似合いだと思うでがす。
心の中で、ヤンガスはそっと呟いた。

27君がそう言ったから 状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:05:42 ID:???0




【E-4/森林 北部/昼】

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける そのためにガボを利用して生き延びる
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ガボ@DQ7】
[状態]:健康  空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす おっちゃん(男魔法使い)のために戦う
      食料を調達 ピサロをおっちゃんのところに連れて行く

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。
      ガボに男魔法使いのところへ連れて行ってもらう 戦いのあとを探索する。

【F-4/平原/昼】

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトを探す  ピサロを助けに北の森林へ向かう
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ピサロを助けに北の森林へ向かう。ピサロとの合流を待って絶望の町へ向かう。戦うものは止め、説得する。
     仲間と同調者を探す。デスタムーアを倒す

28 ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:11:07 ID:???0
雑談スレにもある通り、死体の描写について
気付く前に予約してしまいましたので、一時投下という形にします。
問題なくなり次第、どなたかに本投下お願いしたいです。

29 ◆acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 07:41:42 ID:???O
解決いたしました。
他に問題がなければ、代理投下お願いしたいです。自分は規制のため書き込みできず…

30 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:25:02 ID:???0
カーラ、マーニャ投下します。

31ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:26:05 ID:???0
 
「あっちゃー……」
こりゃ完全に進路選択を間違えちゃったわねと、あたしは溜息をつく以外できなかった。
どうしてって? そりゃそうよ。
山岳地帯を越えてみるとそこには、火炎呪文で森を焼き払いまくっている異常な女がいたんだから。
 
 
***
 
 
数時間前。
あたしは迷っていた。
 
こういうのって何なのかしらね。
走馬灯の前触れ、みたいな? ……やだやだ、そんな不吉なワードは今は勘弁よ。
何でか無性に子供の頃のことに思いを馳せたくなっちゃったわけ。
あたしってば小さな頃は男の子顔負けにヤンチャだったのよ。
かくれんぼとか追いかけあいっこであたしの右に出る子はまあいなかったわ。
……それがどうかしたのかって? やぁね、話はここからよ。
かくれんぼの鉄則は、狭い場所から捜してエリアを潰していくこと。いわゆる消去法ってやつね。
ほらほら、意外と頭脳派なのよマーニャちゃんって。知ってた?
 
とにもかくにも、一刻も早くミネアを探したいあたしは、進路をどちらにとるべきか迷った。
このまま北に進むか、東へ迂回するか。
あたしは東に進むことにした。
西には協力を申し出てくれたルイーダとオルテガさんが向かっているし、
二人は仲間を募っていると言っていたから、やがて北の方にも協力者が流れていってくれるかもしれない。
なら狭い東の方からあたってみるべきじゃないかって。
淡い期待かもしれないけれど、信じられるものは信じなきゃやってらんないわ。
あと考えたのは、禁止エリアのこと。
時間がくれば否応なしに首輪が爆発して死んじゃうっていう、頭おっかしいルールのことよ。
もしミネアがどこかで身動きが取れなくなってこれに巻き込まれてしまったら……。
そう思ってあたしはね、足場も良くないし、越えた先は鬱蒼としてる森が続いているらしい、
あたし的には相当イケてないことばっかの東へ向かうことに決めたの。
 
で、その結果がコレ。
「ああ、ようやくあらわれてくれたか! 女よ、ここで私と戦ってもらおう!」
……あーあ、これ相当やばい、コイツ絶対やばいわ。だってなんかもう目がイっちゃってるんだもの……。

32ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:26:37 ID:???0
 
 
***
 
 
女が、無残に焼け落ちた木々を背景に近づいてくる。
(あたしやブライみたいな完全な魔法使いタイプ、ってわけでもないみたいね)
魔法を生業としているみたいだけれど、剣を持った姿はすらりとしていて様になっていた。
呪文を唱えながら剣を振るう、どちらかといえば、そう、それこそミネアに近いタイプのように見える。
ソフィアに出逢うまでの旅の道中、妹に前衛を任せて戦っていたことが思い出された。
「我が名はカーラ。お前の名を訊かせてもらおうか?」
……なんだろ。ここで名乗っちゃったら、その時点で負けってな気がするんだけど気のせい?
こんな開けっぴろげに清々しく(?)戦いを提案してくるなんて、かえって気味が悪い。
尋常ならない雰囲気に呑まれてしまいそう。
「お断りするわ」
「ほう?」
「悪いけど、あんたに付き合ってる暇なんて無いの。あたしは人を捜している。絶対会わなくちゃいけない人をね。
 だから、見逃してくれない?」
相手の手の内を見るためには、あえて自分のカードをいくらか見せることも必要。
そう、これはギャンブルの鉄則だ。
「それはできない相談というもの。行きたくば私を倒して行くことだ。戦いこそが我が望みなのだから」
「……だからこの有様ってわけね? 燻り出しってレベルじゃないわよ。それで、もう誰か――殺したの?」
「一人の少年と出逢った。キーファという名の、良き剣士だった」
(ゲスが……!)
この女はもうゲームに乗っている。そして、戦いに飢えた狼に違いなかった。
「ああ、そこらの殺戮者と同じと思ってくれるな。私は元より戦いに身を置きし者。
 己を満たすための舞台としてこのゲームを利用しているに過ぎない」
「そうかしら? あまり違わないように思えるんだけど」
「完全な理解を得ようとは思っていないが。――さて、そろそろ観念してもらおうか?」
さあ、どうしたものか……。
「女、もう一度だけだ。名を訊こう」
「……マーニャよ」
返答を聞き、女が笑んだ。
「改めて名乗ろう。カーラだ」
「そ。よろしくね……」

33ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:27:06 ID:???0
  
嬉々とした様相でカーラが剣を持つ手に力を込める。
こちらもルイーダに持たされた短剣・ソードブレイカーを構えた。
(相手はおそらく魔法と剣術の両方に長けている。こっちも貧弱な武器って訳じゃあないけど……)
少年といえど、すでに剣士を一人殺しているという。そんな相手の剣を自分が捌ききれるか?
答はノーだ。
(存外おしゃべりな女よね、けど嘘やハッタリを仕掛けてる風には見えない)
ならば。
(使えないカードは先に切るべき……!)
握った手をソードブレイカーの重心からずらす。
そして扇を投げつける要領でそのままカーラの足元に投擲した!
「愚かな、自ら武器を捨てるとは」
「そうでもないわよ――ベギラゴン!!」
「!!」
相手を一瞬怯ませられればそれで充分。その間に得意の呪文を唱え、放った。
最高クラスの火炎魔法。四方八方から巻き起こる炎の渦がカーラを飲み込んでいく。
(まだよ。これも二番目の足止めに過ぎない。いっちばんデカイのをお見舞いしてやらなきゃ!)
「唸れ轟音――」
狙うは魔法使いの至高の呪文イオナズン。
どれほどの手練れだろうと生身の人間、まともに食らえば一溜まりも無い、
はず――
「――バギクロス」
「ッ?!」
突如、強風が吹き荒れた。
集った火炎が、かき消されていく!
(最高位の風魔法……! 火炎系呪文だけじゃないっての? この女……!?)
 
「見事。呪文の精製速度、重量ともに申し分ない。だが、いささか事を急いたようだな」
涼しい顔でカーラが風の中心に直立している。
ベギラゴンの火炎も、そこらじゅうにカーラ自身が放っていた火炎の木々の燻ぶりさえも、全て消失した。
(けど、完全な相殺じゃない! ダメージは与えられてる! このまま呪文の連発で押し切れられれば……!)
「――ベホマ」
癒しの波動がカーラを包み込んだ。
「ふむ。やはり回復力は鈍いか……。
 さてもう終わりか? ならば私からいこう。――マヒャド!」
眼前に無数の氷の刃が迫り来る。
(はは、回復呪文に氷結呪文まで使いこなすっていうの? 常識破りもいいトコ、まるでどこぞの魔王様じゃない)
動揺を殺しきれないながらも詠唱を完成させたイオナズンでなんとか迎え撃つ。
辺りに衝撃波が走る中、窺い見るとすでにカーラは次の詠唱に入っていた。
赤い瞳を不気味に光らせ、こちらの一挙一動を凝視しながら……。

34ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:27:42 ID:???0
 
 
***
 
 
速さではあたしが勝っていたと思う。
けれど攻撃手段の多彩さに圧倒され、どうあがいても主導権を握ることができなかった。
深手をいくつか負い、回復手段もなく、あとはダメージが蓄積されていくジリ貧状態。
ついに体が地に付き、喉元に剣を向けられているっていう情けない有り様。
「命を懸けた勝負なんて、意外とあっさりしてるものね……」
「違いない。だが思えば、正面から魔法を打ち合うというのは――貴重な機会だったかもしれんな。
 なかなかに良い戦いだった。私の前に現れてくれたこと、感謝するぞ」
「そりゃぁどーも……」
 
首筋に、ピタリと剣の切っ先が触れた。
「そういえば捜し人がいると言っていたか? これも一つの縁、いずれ私の行く先で巡り会うかも知れぬ。
 遺言があれば聞いてやろう」
「そうね」
余裕綽々の表情。完全に詰みの状態。ぐうの音も出ないはずなんだけど。
「カーラ。あんた、つまらない女だわ」
カーラは訝しげに眉を上げた。
 
「ねえ、ポーカーはご存じ? あんたはね、まるで全部の手札がジョーカーなの。
 一人でなんでもこなせちゃう。どんな手でも負けない。これ以上なんてない最強さよね」
「…………」
「けど、あんたは――知らないのよ。
 クラブのジャックの頼もしさ……ダイヤのクイーンの華麗さ……ハートのキングの美しさ……
 スペードのエースの強さ……フラッシュや、ロイヤルストレートの輝きさえも」
「言いたいことはそれだけか?」
「……そうね。もう一つだけいいかしら? ギャンブルで”身を滅ぼさない”ための心構えを教えてあげる」
 
あたしは最後の賭けに出る。
(彼の者に宿りし魔力の源よ、我に集え)
「何ッ?」
 
「――どんなにツイてる時でも全額は注ぎ込んじゃいけない。勝負を”降りる”ためのBET(賭け金)は残しておくことよ」

35ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:28:27 ID:???0
  
魔力吸収呪文マホトラ。
なけなしの魔力があたしに流れ込んでくる。
森を焼き払うほどの消費、その後あたしに対しての最強クラス呪文の連発。
そう。この女がいかに化け物じみていても、必ず底はあるのだ。
 
「悪足掻きを……。”降りる”? この状態で逃れられると思っているのか?」
――はぁい、思ってるわよ。
そっちこそ、チェックメイトしたら終了だと思ってるの? ないない。そんなの盤をひっくり返しちゃえばいいんだから。
 
「ドラゴラム」
「なッ――!?」
 
巨竜変身呪文。これであたしは巨大な竜に姿を変える。
剣ではもう易々とは貫けないし、よしんばこの女が同じ呪文を唱えることができるとしても、
魔力はたった今あたしが奪いつくしてやった。これで対抗手段はナシ。
ふふ、呆気にとられた顔がその証拠かしら。意外とかわいい顔もするんじゃない。
 
(ほんとは……できることなら……このまま……焼き付けてやりたいんだけど……)
 
  
……体が言うことを聞かない。ダメージを受けすぎたか、竜化の影響で意識が朦朧としているのかもしれない。
なにせ今まで一人の時にこの呪文を唱えたことはなかったのだ。
どうにか力を振り絞り、翼を広げ、その場を飛び立つ。早く。一刻もはやくこの女からはなれないと――
 
 
 
(……ねぇミネア……一人ってこんなにも……心細いのね……あたし……)
 
 
 
 
 
……はやく……あいたい……
 
 
 
 
 
 
東へ――東へいってミネアをみつけなきゃ――

36ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:28:51 ID:???0
 
 
【D-6/森林地帯(ほぼ焼失)/昼】
 
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP3/4 頬に火傷、左手に凍傷 MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
 
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4 竜化
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     カーラから逃げる、一刻も早くミネアと合流するため、東へ飛行
 
※カーラの火炎呪文によりD-6の森林一帯がほぼ焼け落ちています
※ソードブレイカー@DQ9がカーラの現在地付近に落ちています

37 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:29:23 ID:???0
仮投下終了です。
気掛かりな点があるのですが、ドラゴラムで飛行というのはアリでしょうか?
自分としては可能なものと思い込んで書いていたのですが、ふと心配になりました。
その他にも問題があればご指摘お願いします。

38 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/26(火) 23:42:12 ID:???0
状態表を以下のものに修正します。
規制のため、どなたか代理投下をしてくださると有難いです。
 
 
【D-6/森林地帯(ほぼ焼失)/昼】
 
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP3/4 頬に火傷、左手に凍傷 MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
 
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4 竜化
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     カーラから逃げる、一刻も早くミネアと合流するため、東へ飛行

※竜化マーニャ:長時間、高度の高い飛行はできません。竜化の継続時間はお任せします 
※カーラの火炎呪文によりD-6の森林一帯がほぼ焼け落ちています
※ソードブレイカー@DQ9がカーラの現在地付近に落ちています

39 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:09:45 ID:???0
大変遅れて申し訳ありませんでした。
バーバラ、アレフ、ビアンカ、リッカ 投下します。

40天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:10:57 ID:???0



浮遊する。
空飛ぶ靴はまるで意思でも持つかのように、傷付いた足を上空へ運び、視界は地上から遠ざかっていく。
どこまで行くつもりなのか。
天馬の手綱を握らせたファルシオンほどの高度では無いにしても、支えの無い身体は不安定で、
行き先がどこなのか、そもそも着地できるのかどうかもわからない。
牢獄の町で負った傷が、それによる腰と足の痛みが、天へ近づくほど重くなっていく。
回復呪文の効果はあまりにも弱く、必死の逃亡の中では貫通した腿の傷を塞ぐのがやっとだった。
流した血を取り戻せたわけでもない。もともと一行の中でも飛び抜けて体力の無かった自分には、
それらのことでもひどく重傷に感じて、弱気にさえなってくる。
空飛ぶ靴の上昇はやがて下降に転じる。
と同時に、貧血でも起こしたのか、視界がにわかに霞んでいくのがわかる。
急激に高度を上げたことで、酸欠になっているのかもしれない。気付けば息も上がっていた。
遠のく意識を捕まえようという気力が、湧いてこない。現実を手放す感覚に甘えたくなってしまう。

(全部、夢だったらよかったのに)

墜ちていく。
さっき降りていった階段の先には、殺戮を望むばかりの大地があった。
救済を完遂すると決めた魔女も、この地上の牢獄に囚われているのなら、
天へと逃れたこの瞬間は、魔女は魔法が使えるだけの、ただの女の子に戻るのかもしれない。
閉じていく瞼の裏側で、幾度となく思い返す記憶があるのは、そのせいかもしれない。

――全部、夢だったんだな。

思い出す。
あの、未来が生まれるはずだったたまごに、かつて共に希望を祈っていた人のこと。
夢の世界で生きてきた記憶は、現実世界の自分と相容れることなく、その存在を失った。
現実世界に自分の居場所がないことを、誰よりも残酷な形で知ってしまった。
だからこそ、『彼』は祈っていた。
例えもう届かないとしても。自分にとっての愛する人が、相手にとっては見も知らぬ存在であったとしても。
彼らが幸せであるように、彼らの夢が守られるように。
誰よりも強く、誰よりも切実に、彼らと世界の愛と平和を、願い続けていたことを。

――だって、祈るだけならタダじゃん? ほら、バーバラも!
――どういうこと? ねえ、ロッシュってば!
――一度だけでいいから、祈ってみてくれないか? 僕と一緒にさ。

おもいだす。
地上の牢獄に再び降り立つそのときまで、魔女が少女に戻るその瞬間だけ、
バーバラは独り、記憶の回廊を巡っていた……

41天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:13:08 ID:???0


***


「リッカちゃん、見えてきたわよ。牢獄の町」
「あ、はい!」
ビアンカの言葉に、リッカは『あるくんです2』を操作する手を止める。
スライム型の小さなからくりは、画面(というらしい、説明書に書いてあった四角い部分)にスライムのような絵が表示されて、
しかも動くという、リッカには驚愕の代物だった。
これがどういう理由で支給されたのかはわからない。謎が多く、改めて調べる必要がありそうだ。
だが目下の問題は、視界の端っこで点のようにして見える目的地。
ここまでは特に誰かと遭遇することもなく、また後ろからあの恐ろしい道化師が追いかけてくることもなく
無事にたどり着けたが、町に入ればまた何が起こるかわからない。
アンジェやルイーダたちに会えるかもしれないし、逆に先のような存在にまた遭遇するのかもしれない。
戦えないリッカだからこそ、気を引き締める必要があった。
そしてもう一つ。リッカがこの世界で宿を提供できるとしたら、それは平野や森の中ではなく屋内だろう。
もしも戦いで傷付いている人がいたら、この手で安らぎを差し出そうと決めている。
この目的地で、自分の使命が果たせるかもしれないのだ。
勇むリッカは先の恐ろしい襲撃にも怯まず、しっかりと前を見据えていた。

「それにしても、大きいですね」
ぽつりとアレフがこぼす。ビアンカは前を行く男と遠い前方の景色を見比べ、首を傾げた。
「……そうかしら?」
「城塞と言っていいでしょう。どういった意図で作られたかはわかりませんが、町の外壁というには高すぎます」
その言葉に、ビアンカは目をみはる。
アレフが言っているのは恐らく目的地である牢獄の町のことだろうが、
どう見ても大きさを測れるほどの距離には思えなかった。大気の層からようやく抜け出たその姿は、
形など判然としない。
にも関わらず、今いる距離からそのことを測ったのだとしたら、やはり相当旅慣れているのだろう。
お出かけ程度にしか出歩かなかったビアンカには、途方もなかった。リュカだったら同じようにわかっただろうかと思う。
「……ああ、大丈夫ですお嬢さん方。いくら巨大な要塞が立ちふさがろうと、お二人は必ず私めがお護りします」
ビアンカの戸惑いをどう解釈したのか、そっと右手を胸に当て完璧するくらいの優しい微笑で横顔をのぞきこむアレフに、
思わず笑みがこぼれた。
「何度も聞いたわよ。頼りにしてるわ、アレフさん」
「私もです。本当にありがとうございます」
「私などには身に余るお言葉ですが、光栄です」
これも幾度聞かされたか知れない口上に、二人の顔は綻ぶ。
こんないつ襲撃があるかもわからない世界で、もとより戦闘力に自信のない二人に、アレフの申し出は非常にありがたかった。
少し極端ではあるが、女性としての丁重な扱いも、生まれくるいくつもの不安を紛らわせてくれる。

42天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:14:22 ID:???0
(リュカも、これくらいの気遣いができたらよかったのに)
本当に不器用だったから、と。ビアンカは目の前の男性に、なぜか似ても似つかない幼馴染を思って苦笑した。
最も、長いこと顔を合わせていない今となっては、きっと女性の扱いくらい会得しているだろうけれど。
なにせ、相手はあの清楚で可憐で、育ちもよく修道院で修行もしていたフローラだ。きっと学ぶことがたくさんあったはず。
ちくりと胸を刺す痛みも、今は振り切るだけだ。きっと、この同じ空の下にいるんだろう。一刻も早く彼に会わなければ。
そんな思いとともに、ビアンカは切なさを押し込めて、そっと空を仰いだ。

そして仰いだ空の先には、赤と黒の女の子がいた。

「なっ……!?」
ビアンカは思わず驚愕する。遅れてアレフとリッカも、ビアンカの見たものに気がついた。
遥か上空にいた少女は、三人の方に向かって急激な早さで降下しているのだ。
降下、とビアンカが思ったのは、少女が靴を地に向けて垂直に立ったまま降りているからで、
重力に逆らっているとは思えない降下の早さはむしろ落下に近いのかもしれない。
このまま墜落したら、お互い軽傷では済まない。
「危ないっ!!」
ビアンカとリッカを怪我の無いよう丁重に突き飛ばし、一人着地点から逃れられなかったアレフは、
そのまま少女を受け止めるべく身構える。
リッカは思わず目を塞ぎ、ビアンカは決死の眼差しで着地の瞬間を見つめていた。
しかし、アレフと少女が衝突することはなかった。
彼らの予想とは違って、少女はアレフのいる場所から外れ、
不思議な形状の靴をまるで地面に縫い止めるかのように、軽やかに地上へと降り立った。
ビアンカは息を呑み、リッカはそっと目を開ける。アレフが様子を伺うように凝視する中、少女は立ち尽くしたまま動きが無い。
その小さな身体が、やがて横倒しになる。
「……!」
アレフは即座に駆け寄り、その小さな身体を受け止めた。遅れてビアンカたちも歩み寄り、少女の姿を目におさめる。
黒と赤のドレスに身を包み、赤毛をうしろで結んだ少女は、弛緩した身体をアレフの腕に預けていた。どうやら意識はない。
そしてすぐに、足に怪我のあとがあることに気付く。
治療を施さなければ悪化する一方だろうことはわかっていたが、ビアンカは軽く混乱のさ中にあった。
(どういうことなの? キメラの翼ならこの世界では使えないはず……)
疑問は止まないが、とにかくビアンカは回復呪文が使えない。治療の手段をアレフに相談しようと、顔を上げたその瞬間。

「なんて愛らしいんだ……!!」

思わず荷物を取り落として叫んだアレフに、リッカはぽかんと口を開け、ビアンカはずっこけた。

43天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:16:20 ID:???0


アレフが、効き目の悪いベホイミを幾度となく施した末に、少女はようやく目を覚ました。
「う……」
「目が覚めましたか、お嬢さん」
少女が顔をしかめながら身を起こそうとするのを手助けしながら、アレフは優しく呼び掛ける。
「無事に目が覚めてよかった。覚えておいでですか?
お嬢さんは如何様なる魔法の力かはわかりませんが、遥か上空からこの地面へ降り立ったのですよ」
その言葉を、はじめ虚ろな眼差しで聴いていた少女だったが、やがて瞳に光を取り戻し、呟いた。
「そっか。あたし……」
夢見るような口調だった。
恐らく未だ意識がはっきりしていないのだろう。ビアンカは少女の肩に手を置いて、安心させるように微笑みかける。
「無理しないで。今は身体を休めるのが先よ」
本音は先に少女から話を聞き出したいところだが、負傷していた上、たった今目覚めたばかりの少女に無理はさせられない。
同じように考えたのだろう、アレフもまた少女を支え起こしながら、遠い目的地に視線を向けた。
「牢獄の町に急ぎましょうか。こんな平野にいるよりは安全でしょうし」
「そうですね。その方が、休む場所も見つかるかも」
リッカもそれに同意する。だが、当の少女は二人の言葉に目を丸くした。正面のビアンカをきっと見上げる。
「牢獄の町に行くつもりなの?」
「ええ、そうだけど」
「あそこは今危険だわ! 奴が……っ」
そう言って勢いよく立ち上がろうとし、ふらつく少女をアレフが支える。
息をつく少女に、ビアンカは眉をひそめた。
「……どういうこと?」
「魔物が、いるの……。奴が……キラーマジンガが……」
苦しげに告げられた言葉に含まれる、恐ろしげなその響きに、ビアンカの胸がどきりと鼓動を打ち鳴らす。


負傷と急激な高度の変化で、一時的に意識を失っていたらしい。
だが、目を覚まして起き上がってみても、思ったより辛くは無かった。
自分たちを見つけてくれた人々、主にアレフという名の男が、回復呪文を施してくれたようだ。
しかしそのことに感謝を抱く間もなく、バーバラは起きたばかりの頭を必死に回転させる。
つまりはどうやって、目の前の相手を『救済』したら良いのか。
さすがに三人相手にエイトと同じ手は使えない。
魔法をぶつけたとしても、三人相手に闘うというのはどうしても分が悪かった。
特に、このアレフという男には隙がない。負傷を追っていたバーバラが、真っ正面から戦って勝てる相手には思えなかった。

霞む目を、辺りに向ける。辛うじて牢獄の町が見えることから、思ったよりも遠ざかってはいなかったらしい。
キラーマジンガはあの場に留まっているのだろうか。こうしている間にも、あの殺戮マシンの犠牲者が出ているかもしれないのに。
己の手で参加者の救済を目指すバーバラにとって、かの存在は非常に悩ましかった。
できることなら破壊したい。だが、バーバラ一人ではどうすることもできないのもわかっている。
そして目の前の三人は、その牢獄の町に行こうと言うのだ。
(どうしよう。どうしたらいいの……)
ふらつく頭で必死に考えようとするバーバラに、目の前の女が呼び掛ける。

44天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:19:39 ID:???0


「キラーマジンガ……ですって?」
戸惑ってアレフらと視線を交わすビアンカに、バーバラは口を開いた。
「あたしは、奴から逃げてきたの。一人ではとても勝てなくて」
「そんな……」
「このままじゃ、みんな……」
リッカの顔に不安の色が浮かぶ中、思わず零れるようにして呟いたバーバラの言葉。
それを背後で聴いていたアレフは、他の女性たちの焦燥を振り切るようにして立ち上がる。
「ならば、私が倒しましょう」
「え……?」
バーバラは息を呑み、肩越しに彼を凝視した。
「当然のことです。お嬢さんをこんなにも傷付け苦しめたゴミカス……失礼、魔物を懲らしめないわけにはいきませんから」
「そうね。そんなに危険な魔物なら、なんとかしなくちゃ」
ビアンカも同意する。唯一リッカは戸惑う表情を見せたが、アレフが彼女を必ず守ると説得するのに首肯した。
一人だけ、話についてこれず呆けていたバーバラが、やっと事態を呑み込む。
(……そっか。その方がいいのか)
キラーマジンガが倒せない。そのことが彼女の目的を邪魔するのなら、先にそれを排除すればいいだけだ。
そのための手段は問わない。たとえ利用するようなことになっても、最後に皆を救えるのなら。
(また、四人がかりで倒せばいいんだね)
かつて海の深淵で、四人がかりでどうやって倒したのかはもうよく覚えていない。
深くおもいだすことなど出来そうもなくて、空で視た記憶だけが微かに、彼女の脳裏を掠めたけれど。

(あたしが全てを終わらせるんだ)

こころにきざみ込んだ言葉が、“誰か”の口癖であったことも、魔女である彼女は気付かない。
問うような視線を向ける三人へ、バーバラは手を伸ばした。
彼らの手を借り、障害を排除するために。そしてそれが終わったら、彼らをこの手で「救う」ために。


***


「……祈るって、あのたまごに?」

珍しく、神妙な面持ちでそう言う彼に、バーバラは首をかしげた。

45天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:20:50 ID:???0

「そ。生まれてくる僕らの未来に、いいことがありますようにって」
「ふうん。ロッシュがそんなこと言うなんて」
「そお〜? 僕はけっこう神頼み、山の精霊さま頼みだよ。
 お祈りするだけで戦わなくて済むならそれに越したことはないしぃ。
 毎日いろいろ、例えば……今日もいい夢見れますようにとか、世界が平和になりますようにとか、
 新しい町でバーバラみたいな可愛い子に出会えますようにとか……」
「もう、またそんなこと言って!」
まじめな話だと思って聞いていたのに、気付けばまた茶化されて、少女はもう、と頬を膨らませた。
それはクセか習性か、あるいは自分のペースを崩すまいとするためなのかはわからない。
根が真摯である彼の性格を理解してからは、一見ふざけた態度にも怒りを覚えることはなくなったが、
だからと言って時折人を口説こうとするのはどうなのだろうと彼女は思う。
もっとも、彼がただの女好きなのはわかっているので、
「ミレーユにも同じこと言ってたよね」と軽くあしらってはいるけれど。
それでもなんとなく面白くなくて、ぷいっと彼女は顔をそむけた。

そんな様子に、ロッシュは慣れた様子でふふっと笑う。
笑みを深めた表情のまま、そっと目を伏せてささやいた。

「大魔王を無事に倒して、みんなで帰ってこれますように、とか」

バーバラが視線を戻すと、そこには見たことも無いような穏やかな表情の彼が居て。

「もしそうなったとしても、夢の世界が消えてしまわないように、とか。
 ……僕やバーバラが、いつかまた笑って会えるように。とかね」
「ロッシュ……?」
戸惑う少女を見つめる彼の眼は澄んでいて、茶化すような色は見受けられなかった。
そこに悲壮感は無い。なにもかもを見透かすような眼差しで、ロッシュは言葉を紡いだ。

「……すべて叶うと、僕は信じてる。だからこうして祈るんだよ。
 夢を、夢のまま終わらせないために――」


――それは夢。
過去の記憶を見せられるだけ、時が経てばわすれるだけの、少女が天空に視ていた夢。

(結局ぜんぶ、叶わなかったよ。ロッシュ)

時は来て。
天を飛翔した旅の終わり、砕けた希望の欠片たちを、魔女は空に遺していく。
この地上の牢獄で、夢はどこまでも夢のまま。

46天空に視た夢状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:22:06 ID:???0


【B-4/平原/昼】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、さまよう鎧@DQ5
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町に向かう。 キラーマジンガをどうにかしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:あるくんです2@現実
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。
     あるくんです2について理解する。

【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
     とりあえず女性はすべて保護する。牢獄の町までビアンカ・リッカ・バーバラをエスコート。
     牢獄の町のキラーマジンガにお仕置きする。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口)はふさがっている
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り9個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
     キラーマジンガを破壊する、その後ビアンカ・リッカ・アレフを殺す
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。

47 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:23:32 ID:???0
投下終了です。
特に問題なければ、毎回申し訳ありませんが、代理投下お願いしたいです…。

48 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 22:12:06 ID:???0
仕事が早い…!投下ありがとうございました!

49 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:55:04 ID:???0
投下します。
予約期限を超過してしまい、申し訳ございません。

50ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:58:30 ID:???0
無意識のうちに体は逃亡を選んでいた。
けたたましく鳴る鐘のように全身が危機を訴える。
後ずさろうにも、まるで蛇に睨まれた蛙のように足は動かず。
荒れ狂う稲光の如く現れた男に睨まれれば睨まれるほど、内から湧き上がる恐怖は勢いを増していく。

恐怖で心を満たされそうになりながらも、状況を冷静に分析する。
相手はドランゴやボストロールすら優に上回る力の持ち主。
かといって動きが鈍いのか、といった訳でもない。
あのキラーマジンガより鋭い目が灯っている内は、どうにも逃げられそうにない。
当然、あの力とまともにぶつかりあっても勝ち目はない。
よって腕力に頼らない戦いを強いられるのだが、手札の一つである竜の吐息のカードを切ることは出来そうにない。
男が持つオーガシールドの力、そして男の力を考慮すれば打ち払われてしまう可能性が高い。
そもそも迂闊に息を吐き出そうとすれば、その隙に取り返しのつかない一撃を叩き込まれてしまう。
息を吐き出せる程の大きな隙が生まれたとしても、竜の吐息が有効な一手になるとは考えにくい。
貴重な主戦力のうちの一つを封じられ、状況的には不利である。
残された手札で、この場から脱する最良の手を打たねばならない。
一手間違えば死を招きかねない状況を背負いながら、ミレーユは行動に出る。

ミレーユの全身から光が溢れ出す。
視界を覆わんとする輝きに、男は思わず光から目を反らしてしまう。
それを確認してから、ミレーユは爪先から地面を抉るように足を振り抜き、砂煙を起こした。
そして蹴り上げた勢いを生かして宙を舞い、距離を一気に離していく。
息をつく間も無く全身から猛毒を分泌させ、それを霧状に振りまいてゆく。
これで男の目がくらんでいるうちに、男の視界は砂煙に包まれている上、辺りには毒の霧が漂っている。
これだけの状況を揃えれば、逃げることもたやすいはず。
残された手札を順序よく組み立て、場に揃えることが出来た。
あとは、全力で逃げるだけ。

51ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:59:14 ID:???0
そう、それだけのはずだった。
大魔王を討伐する旅の途中、幾多もの敵をこの手で追い払ってきた。
相手がどれだけ強くても所詮は人間、念入りの策なら通じると思っていた。
が、相手は「まとも」ではなかった。
一度視界に捉えた敵を逃さず、徹底的に叩き潰す。
彼の天性の才能は、光や毒の霧などで止められるものではなかったのだ。
光から目を背け、砂煙が視界に満ちた時点でもょもとは無意識に走り出していた。
ミレーユが砂煙を巻き起こした際と着地したときの音に向かって。

そうして、逃げ出そうとしていたミレーユの目の前に。
無機質な表情と、力一杯の拳が突きつけられた。

痛恨の一撃。
身を守ろうとする動きさえ許されず、もょもとの稲妻の如き拳がミレーユの頬に深々と突き刺さる。
首から上が千切れ飛んでしまいそうな衝撃を受け、まず顔の側面から高速で着地する。
その着地点を軸にして体全体がふわりと浮き上がる。
浮き上がった体も勢いに飲まれ、吸い込まれるように地面へと打ち付けられる。
まるで蹴り飛ばされたボールのように、転がりながら何度も何度も地面を跳ねていった。
山肌に背中を打ち付け、ようやくミレーユは止まることが出来た。
短く断ち切られた金髪は血と泥によって無造作に荒らされ、白く美しかった肌も所々が裂けて赤い肉が露出している。
口に溜まりきってもなおこみ上げる血塊を吐き出し、ゆっくり起き上がりながら回復呪文を唱えようとする。
が、その時。
既にもょもとは目前に立っていた。
回復も、攻撃も、防御も、何も間に合わない。
ただ、振り抜かれる拳を黙って見ているしかできなかった。
「ごふっ……あ」
ミレーユの腹部に深々と拳が突き刺さる。
ぷちぷちと何かが裂けるような音と共に、吸い込んでいた息、胃の内容物、大量の血液が絞り出されるように吐き出される。
同時に、ミレーユの体全体が羽根のようにふわりと浮く。
もはや抵抗は愚か生命活動すら停止しようとしているミレーユの姿をじっと見据えながら拳を振り上げ。
重力に引かれて浮遊から落下に切り替わろうとするミレーユの背に、叩きつけるように風を切って振り下ろした。

52ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:00:03 ID:???0
冒険の途中、ハーゴンの手下である「人間」の敵と多数向き合うことがあった。
もょもとはそんな「人間」が相手でも一切容赦することはなく、ただ的確に急所を突いて攻撃する。
動かなくなった相手でも、もょもとの中で何かのスイッチが切れるまでは攻撃を加え続けることが普通だった。
その様子は正に「悪魔の子」の呼び名に相応しい程の「破壊」であった。
常人からすれば異常な光景も、彼にとっては「たたかう」ことをこなしているだけに過ぎないのだ。
父の名を受け、ハーゴンに従い自分達に立ちはだかる者と「たたかう」こと。
そうしていればよかったのだから、そうしていただけ。

この場に来てからは、その目的を失っていた。
始めの声に諭されるまま「たたかう」ことを選んでいたが、周りはそれを止めて来る。
「たたかう」ことが正解なのか? 「たたかう」ことはいけないことなのか?
それすらも分からない、だから「たたかう」しかない。
今まで「たたかう」ことで全て理解してきた、「たたかう」ことを終えた先に全ての答えはあった。
正解なのか、いけないことなのかは「たたかう」ことを続ければいずれ分かるのだから。

初撃で手痛いダメージを負い、腹部と背部に突き刺さった追い討ちでミレーユは既に瀕死の状態。
だというのにもょもとは未だにミレーユを見据え、一歩ずつ近づいていく。
ギリギリのラインで意識を手放さずにいたミレーユにとっては、大魔王に匹敵する恐怖だった。
一歩ずつ、一歩ずつ、確実に青い悪魔は自分の命を刈り取らんと進んでくる。
逃げようと体を動かそうとする、手の小指の一本すら動かない。
一刻も早くそこから逃げ出したいのに、全身が釘で固定されたかのように動かない。
まごついている間にも、悪魔は着実に近づいてくる。
一歩一歩の足音が、鼓膜を破るほどの大きな音に聞こえる。
せめて逃げ出す時間を稼ごうと、口から竜の吐息を吐き出そうとする。
しかし、口を開けど開けどあふれ出してくるのは血塊のみ。
輝く息や灼熱の炎は愚か、火種の一つも起きず、つめたい風すら出て気やしない。
全身を使って自然に訴えかけても、火柱は愚か地響きすら起きない。
もう、石つぶてを投げる力も、大声も張り上げる力も、何もない。
恐怖に打ち震えながら、ただ、ただ、ただ、男が迫るのを待つだけだった。
悪魔が、目の前に辿り着いた。
歯を震わせ、涙を浮かべ、血を流しながら、振り下ろされる拳を見つめることしか出来なかった。
ミレーユは迫り来る死という現実から逃れるように目を閉じ、全てを放り出した。

53ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:01:04 ID:???0



アイラの提案の後、二人は南に見える欲望の町を目指して歩いていた。
西には先ほどのターバンの男が向かっていると考えられる。
何よりも南の町の立地が最悪という大きな理由もあった。
比較的向かいやすい牢獄の町と絶望の町、ヘルハーブ温泉に比べて欲望の町へのアクセスは劣悪だった。
南から向かおうにも森林から山地、そして再び森林と来て最後には毒の沼である。
旋回するようなルートも作用し、他の町に比べて面倒くささがハンパではない。
北側から向かうのならば平地のみで足取りを邪魔する物は何もないが、北側から向かう途中に牢獄の町が見える。
普通の人間ならまずこの牢獄の町へ向かうだろう。
よっぽどの物好きでもない限り、この欲望の町を目指す者などいない。

では、初めから欲望の町に居た者はどうするか?
毒の沼が待ち構える通りにくい南側にわざわざ抜けるとも考えにくい。
人が居るとすれば北側に抜けて平地に沿い、牢獄の町や他の施設を目指すだろう。
今、絶好の位置に居る自分達と出くわす可能性が高い。
町から出た人間がまともならば、欲望の町の情報も手に入る。
もし途中で誰に会うことがなかったとしても、欲望の町を探索する程度のことはできる。

自分達の現在位置、この地の形状を考え、そしてカインの状況を察する能力から出た提案により、二人は南へと足を進めていた。
まともな人間、それかかつての仲間に出会えることを祈りつつ。
願わくば、妹に会えることを期待しつつ。

この世界に呼び出されてから、初めて触れ合った異世界の文化。
自分の住む世界とは違う人、文化、生活、風習、全てが未知の世界。
魔物と心を通わせる人間の存在もそうだが、ロトの血というものを知らない世界があることに驚きを隠せなかった。
冒険の中、どこに行ってもロトの末裔扱いだった自分にとっては夢のような環境だった。
もし、そんな世界に生まれていたら。
ロトの血族という存在に縋りつく、狂信者のいない世界だったなら。
自分がこんなに苦しむことも無かったし、いつかあきなが漏らした願望すらも現実になっていただろう。

本当は、ハーゴンに加担しても良かった。
腐った世界と狂信者どもをぶち壊すため、邪神官に下っても良かった。
きっと世の中の人間は大いに恐れ戦くことだろう。
「ロトの血筋が世界を崩壊させようとしている」だなんて、あの世界の狂信者からすれば死にも等しい一撃だ。
ただあのときの自分は、それを行うにはあまりにも非力すぎた。
人類全体を裏切ることになる上、いずれはもょもととあきなの二人と刃を交えることになる。
冒険していた自分だからこそ分かる、二人の強さ。
自分と、ハーゴンの力をあわせてようやく五分が取れるかどうか?
それほどもょもとの力は異常であったし、あきなの魔術の能力はまるで神の如き才能だった。
結局僕は人々に従い、強い方へと付き、生き延びることを選んだ。
ロトの末裔の中で一番使えない上、ハーゴンに付くことすら許されなかった僕が生き残るにはそれしかなかったから。

54ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:01:36 ID:???0

ふと、そこで嫌な予感が頭をよぎる。
もし、もょもとやあきなと刃を交えることになったら。
タダでさえ何を考えているか分からないもょもとがそもそも「殺し合い」を理解できるとも思えない。
辺りの人間を敵だと認識して襲い掛かってしまうだろう。
自身を追い詰めやすいあきなは、適当な輩の言葉に追い詰められているかもしれない。
この世界に来ても、元の世界のように誰かに操られるがまま、贖罪の言葉を呟きながらどこかをふらついているかもしれない。
もし、そんな二人と自分が出くわしたら?
「嘗ての仲間」として、話ぐらいは聞いてくれるだろうか? そうであればどれだけ良いか。
仮に戦闘になったとしても、自分ひとりで勝てる可能性は非常に薄い。
まだ、あきなの方が勝てる可能性は若干高い。
魔術がどれだけ強力でも、それを放つ為の呪文を唱える時間が必要だ。
その隙に一発蹴りでも入れてやれば、あの虚弱な体質のあきなを崩すことは容易である。
問題は彼女が殺し合いに乗っているならば、彼女を唆す第三者が居るということだ。
その第三者の介入を受けながら、その隙を突けるかというと怪しくなってくる。
あきなと戦うに当たっては未知の第三者の力次第となるだろう。
問題は、もょもとである。
攻撃の正確性、威力、そして魔物を優にしのぐ残虐性。
トドメに本人が無自覚である可能性が高いと来る。
彼が戦闘だと判断すればそこは戦場だ、もょもとは一切の容赦なく叩き潰しに来る。
自分の方が素早さが勝っていて呪文が扱えるとしても、正直あの戦闘魔神に打ち勝てる自信はない。
隣にいるアイラを犠牲にすれば、逃げる時間ぐらいは稼ぐことが出来るだろうか?
と、そんな発想に至ってしまった自分の思考を恨み、またもや溜息が漏れる。

どうやら、自分の人間不信はよっぽど深いところまで根を張っているらしい。
たった今、信用したいと思ったはずの人間をいとも容易く切ろうとしていた。
生き残るのが重要ならば、確かにアイラを切るのはもっとも確実だ。
だが、それでいいのだろうか?
自己の欲のためだけ、他の存在を切り捨てる。
自分がよければ、他人がどうなってもいい。
ロトの末裔が苦しんでいることも知らず、何もかもを押し付けていたあの世界の人間と同じではないか。
こんな自分を、アイラは信用してくれているというのに。
自分は全くもってそれに応えることが出来ていない。
かといってどうするのが正解なのか、全く分からない。
人を、他人を、仲間を信用し、共に戦うということ。
誰かを信用するということ。
こんなにも、難しいことだったのか。
忘れて久しい感覚に、頭を悩まされ続ける。
そうして具体的な行動や正解を頭の中で出せず、思考の輪廻に陥っているとき。
「カイン! あれ!!」

現実は、容赦なく殺しにきた。

55ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:02:48 ID:???0

アイラの指差す方向を向く。
目に映ったのは見飽きた服、見飽きた顔、見飽きた光景。
数秒前まで考えていたことが、現実として襲ってくる。
そして思考の中で勝てるわけがない、そう結論付けたはずなのに。
気がつけば剣の柄を握り締め、アイラの引き止める声を背にしながら駆け抜けていく。
その速度を保ったまま、勝てるはずのない怪物へと切り付けて行った。

ミレーユにとどめを刺すはずだった拳。
それは、若葉のような緑色の風に遮られた。
もょもとは瞬時に拳を引き、乱入者から距離を取る。
「……どいてくれ、カイン。俺はそいつと"たたかう"んだ」
乱入者、カインは俯きながら剣を構える。
「カイン、どいてくれ」
「お前、何やってんだよ」
突きつけられた二度目の願いを無視し、依然俯いたままカインは吐き捨てるように呟く。
「父親や周りの人々が言うように戦い続けていたらその先にハッピーエンドがありました。
 だから今回も戦い続けてみんな殺してしまえば、ハッピーエンドに辿り着けるとでも思ってるのか?」
カインは怒りでもなく悲しみでもない感情が籠もった声でもょもとに問う。
「……"たたかう"のは、いけないことなのか?」
まるで子供のように、無垢な声色で答えるもょもと。
それを皮切りに、もょもとの口から次々に言葉があふれ出していく。
「父上はハーゴンを倒すことを勧めてくれた。そうすれば、民も喜んでくれると言ってくれた。
 世界を壊そうとしているハーゴンを倒し、世界が平和になればこれ以上の喜びはないと言ってくれた。
 そのためには"たたかう"ことが必要だってことも教えてくれた。
 民のため、父上のため、おれは戦った。
 民が尊敬するような素晴らしき王になりたいから、おれは戦い続けた。
 いろんな国に行って、生き残って、戦い続けて。
 そうして、ハーゴンを倒した先に答えはしっかりあった。
 魔物は居なくなったし、民の顔は輝いていた。
 おれはあの時、戦い続けた先にあった答えを掴んだんだ」
そこで、もょもとは大きく息を吸い込んだ。
カインは未だに俯いたまま、剣を構えて黙り込んでいる。
「この場所に来てから、おれはどうすればいいか分からなかった。
 そこで真っ先に教えてくれた人が居た。
 武器を装備して、戦う。それがこの場所でやるべきことだって。
 だから、俺は戦わなくちゃいけない。
 でも、おかしなことに"たたかう"ことを止めようとする人も居る。
 力のない女や小さな子供まで、武器を抜いておれを止めようとしてくる。
 "たたかう"ことはいけないことだって。
 おれは、どっちが正しいのか分からなくなった。
 生き残って戦い続けて答えを見つけることにした、この場所でも戦い続ければ答えは見つかる。
 それに納得できるかどうかは、見てみなくちゃ分からない」
流れるように飛び出した言葉達が、そこで止まる。
長い旅の中、カインの目の前でこれほどまでもょもとが喋ったことなど一度もなかった。
そんな機会も無かったし、その必要もなかった。だから喋らなかった。
初めて語られたことと、ここに来てからのこと。
全てを包み隠さず、もょもとは言葉にして吐き出した。
「カイン、どいてくれ。おれは"たたかう"んだ」
戦いの構えを作り直し、もょもとは最後の警告を放つ。
カインはもょもとの話の間、ずっと剣を構えて俯いたまま。

56ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:03:48 ID:???0

「はは、はははは」

小刻みに震えながら。

「はははははははは!!」

ようやくカインに追いついたアイラが、一歩引き下がってしまう表情を浮かべて。

「あっはははあははははは!!」

張り裂けんばかりの大声で、笑い出した。

そして、ぴたりと笑いを止め。
冒険の間、一度も見せたことのない表情のままもょもとの方へ向き。
弾け飛んでいく果実のように言葉を放つために、口を開いた。

「世界が平和になれば民や父親が喜んでくれる? そう言われたからハーゴンを討伐しに行った?
 戦い続けて、ハーゴンとシドー倒して、本当に世界が平和になったのは事実だ。
 それで本当に民が喜んでたなんて本気で思ってたのか?」
剣を持ちながら挑発するような態度と構えで、カインは"真実"を口に出した。
この目の前のバケモノが知らなかった、知らされることもなかった真実。
隣国という非常に近い存在だからこそ、知っていることもある。
ローレシアの民は、王子を疎んでいると。
悪魔の力を持った子供に、恐怖を抱いていると。
噂程度の話だったが、カインには噂が現実であるということを裏付ける要因と実体験がある。
噂が時に牙を持ち人に襲い掛かることも、自分自身が一番良く知っていること。
だから、カインは"真実"になりえる牙を手札に取った。

なぜか?

もょもとの様子からしても、黙っていれば戦闘になることは間違いない。
無差別的に人間を襲っているということは、そばに横たわる金髪の女性から容易に察することが出来る。
ならば、彼の戦意を失わせることが最優先だ。
しかし、それはただのぬのきれだけでロンダルキアを駆け抜けろと言われるくらい難しいこと。
破壊神を目の前にしても涼しい顔をしていたもょもとを崩す手段、そんなものはなかった。
そう、さっきまでは。
幸運にも「父を尊敬している」というワードを聞きだすことが出来た。
カインの中ではキラーマシンよりも殺人機械のような人物像に、ヒビが入った。
もょもとの戦意を喪失させるには、このヒビを叩くしかない。
「……どういうことだ?」
案の定、もょもとはカインの"噂"に乗ってきた。
「簡単な話だ。お前が生きて喜んでたやつなんて、あの国には誰一人としていなかったんだよ」
決壊したダムのように、カインの態度は一転し攻勢に入る。

57ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:04:54 ID:???0
「そりゃ、世界が平和になったことは喜ばしいことさ。
 魔物は居ないし、世界を滅ぼす存在も居なくなった。
 そう、世間一般的に見ればな。だがローレシアという王国だけは違った。
 お前だよ、お前。
 小さい頃からバカみたいな力と、天性の才能を持った悪魔みたいなやつに、いつか滅ぼされるんじゃないかって不安があったんだよ。
 王国の未来のため、お前がどっかで死んでくれることを願ってローレシア王はお前にハーゴン討伐を命じたんだよ。
 まさか、破壊神をも破壊しつくして戻ってくるなんて、考えなかっただろうな。
 ローレシアはさぞ恐怖に打ち震えただろうな、ただでさえヤバい奴が、ヤバイ実績を引っさげて帰ってきたんだから」
カインの口から次々に飛び出していく言葉というナイフ。
その一本一本が丁寧にもょもと突き刺さり、傷となったヒビを抉っていく。
あれだけ長い間冒険していたときでも、一度も表情を崩さなかったもょもとの顔が崩れる。
「違う、そんなことはない。父上はおれを信頼して、ハーゴン討伐を命じてくれた」
「そりゃ、そう思ってもらわなきゃ動かないだろ?
 どこの世界に「死んで欲しいからちょっと悪退治して来いよ」って自分の息子に命じる父親が居るんだよ?」
ま、似たようなのを一人知ってるけどな。という言葉を飲み込むため、カインはそこで言葉を切る。
「……さて、だ。
 お前が何か答えを見つけたのかどうかはともかく、世界の平和と引き換えにお前の国は絶望に包まれた。
 もしお前の得た答えが民の喜びだったなら、それは偽りだった。
 お前の国で喜んでた奴なんて、父親を筆頭に誰もいなかったんだよ」
「嘘だ、違う。父上はおれを――――」
「まだわかんねえか?」
今にも泣き出しそうな顔をしているもょもとに、一本の剣となった言葉を突きつける。
「お前が、あの世界で見た物は偽りさ。
 ローレシアの悪魔の王子の噂は広まりきってる、殺されないように振る舞いながら破壊神討伐へ差し向けようとしてただけなんだよ」
カインの口から出る言葉という言葉が、まるで串刺しの刑のようにもょもとに突き刺さって行く。
「そして、今。ローレシアの王と民の予感は当たった。
 悪魔の王子は誰かに唆されるまま、破壊を生み出す現人神になった。
 当の本人は答えを見つけるとか言ってるが、周りからしたらキラーマシンと大差ないね」
とうとう頭を抱えてうずくまってしまったもょもとに、カインはとどめの刃を突き刺す。

58ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:05:13 ID:???0
「やめろよ、もょもと。何の意味もないから。
 お前が戦っても、あの時と同じで心から喜んでくれる人なんて誰もいない。
 それどころか、他人の喜びを奪ってる。
 お前はまた力を振るって、お前の得にしかならない答えに満足するのか?
 万が一元の国に戻っても、誰も喜ぶ奴なんていないんだよ。
 殺人を殺人、破壊を破壊として認識しない魔物よりも残忍な王だなんて、誰も望んじゃいない。
 ……なぁもょもと、今は"たたかう"べきじゃないんだ。
 あの時みたいに、向かってくる奴をとにかく倒していけば、終わるわけじゃない」
カインは口を閉じ、動かなくなったもょもとにゆっくりと手を差し伸べた。
「一緒に行こう、もょもと。
 今お前に必要なのは"たたかう"ことじゃない、人間を知ることだ」
本来の目的であるもょもとの戦意喪失、それを早期に達成したカインは彼を仲間に引き込もうと思った。
様々な要因と理由、そして今後を考えても彼をここに放置するのは悪手だと考えたからだ。
一方的に真実を突きつけたことと昔のよしみもある。
彼がまともになるまでは、共にいようと考えた。
そしてあの時とは違い、自分から仲間を提案した。

知識や経験と言う名の歯車を、自分という基盤にはめ込み運命の道を進む。
真実というナイフがもょもとの歯車を止め、やがてもょもと自身も止まってしまった。
新しい歯車を手に入れない事には、彼は動き出すことはできない。
そこにカインは時間と行動という歯車を与え、もょもとを動かそうとした。

59ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:05:51 ID:???0



何も聞こえない。
何も見えない。

初めにいた場所のように、暗く何もない場所に立たされている。

「行け、我が息子よ! 必ずやハーゴンの野望を打ち砕くのだ!」
「王子様、世界に光を!」
「ロトの末裔よ、悪しき者達を滅ぼすのだ!」
父の声、民の声、人の声。
今まで投げかけられた言葉たちが次々に頭の中で繰り返される。
だが、カインはそれは偽りだと言う。
本当にそうなのだろうか?
人々が求めていたのは戦いの日々を潜り抜けた先にあった平和ではなく、自分がどこかで死に絶える事だったのか?
わからない、わからない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
どうすればいいのか――――?

「そーさ、人間だろうが魔物だろうが構うこたねえ。
 勝ち残っておまえさんの願いでもなんでも叶えちめえばいいのよ」

ふと、聞きなれない声が頭に響く。
初めの場所で、あの声はそう言っていた。
武器を持って、たたかう。
そして生き残って願いを叶えればいいと。
そう、この場では生き残れば願いが叶うのだ。

自ずと、体が動く。
標的は、もちろん。
目の前、すぐ傍に。

黒い影のような歯車が、笑う。

動き出した装置が歩む道は、先ほどと同じだ。
しかし、今の彼には覚悟がある。
真実を知るという、覚悟が。

60ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:06:09 ID:???0



「カイン!!」
一瞬だった。
痛覚と共に目に映ったのは、自分へ拳を伸ばしたまま横に大きく吹き飛ぶもょもとの姿だった。
至近距離の一撃、隣で舌戦を眺めていたアイラが居なければ死んでいたかもしれない。
理解できないことを理解する前に、起きてしまっていることに対処しなければいけない。
もょもとの戦意を失わせるのには失敗した、つまりあの破壊神と戦わなくてはいけない。
大きく吹き飛んだもょもとが起き上がり、襲いかかるまでに戦況を把握し戦術を立てる。
「アイラ、あいつはまだ生きてる。
 僕が前衛に出るから、銃の射程にあいつが入ったら僕に構わず迷わず撃て!
 じゃないと殺される!」
そう短く告げたあと、そばで横たわっていた女性に軽めの回復呪文をかけ、剣を突きつけながら選択を迫る。
「おいアンタ! 今死ぬか、あいつと戦うか三秒で選べ!」
まるで鬼のような形相でミレーユへと選択を迫る。
もょもとと戦うのだから今は僅かでも戦力が欲しい。
どうみてもボコボコにされている彼女でも、もょもとを破る鍵を見いだせるかもしれない。
なりふり構っている場合ではない。
「断れば死ぬ」という状況を突き付け、無理矢理協力させた。
同時に吹き飛んだもょもとが起き上がり、一言だけ呟く。
「カイン、おれは生き残る。たたかうことで生き残って願いを叶える。
 本当の……真実を知るという願いを!」
至近距離の銃撃を受けたにも関わらず、もょもとの傷は腹部に散見される程度にしか残っていない。
天武の才もここまでくると人外を疑わざるを得ない。
カインは苦虫を噛みしめながら、向かってくる"人間"を見据えた。

まるであの時と同じように、三人で一人に立ち向かって行く。

ああ、戦いが始まる。
真実を知らされなかったもの。
真実に辟易するもの。
"生きたい"という意志を抱えながら。
今、衝突する。

61ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:06:57 ID:???0


【D-7/草原/昼】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP13/20、全身打撲、軽度のやけど、腹部損傷(小)
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:たたかう 生き残って真実を知る願いを叶える

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る もょもとを倒す

【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(5/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する もよりの人里を目指す(よくぼうのまち) もょもとを倒す
[備考]:スーパースターを経験済み

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/7、全身裂傷、内臓損壊、髪が半分ばっさり
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す 死にたくないのでカインに協力

62 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:10:28 ID:???0
以上で投下を終了します。何かありましたらどうぞ。
また、改めまして期限を超過してしまったことをお詫び申し上げます。

そして毎度ながらで申し訳ないのですが、どなたか代理投下もお願いいたします。

63ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 07:03:29 ID:???0
代理投下しようとしたら途中までしか出来ませんでした。
申し訳ありませんが、どなたか続きをお願いします。

64ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 08:59:19 ID:???0
代理投下します

6564:2012/07/07(土) 09:27:05 ID:???0
>>58 まで投下できましたが、さるさん食らいました

残りどなたかお願いします

66ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 09:48:40 ID:???0
ちょっと挑んでみます

67 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 15:09:23 ID:???O
代理投下してくださったみなさん、有難うございます。

68ただ一匹の名無しだ:2012/08/09(木) 16:45:13 ID:???0
サルったんでこちらに続きを投下します。

69自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:45:28 ID:???0

ガボに斬撃を加えた両者は、その対象が違うということを認識し、驚きの表情で固まってしまう。
そして背と腹に大きな一文字を抱えながらも、立ったままその場を動かないガボは、奥歯を噛みしめながらある呪文を唱えていた。
もとより老人を守るために攻撃を食らうつもりで飛び出していた。
しかし攻撃を受け止めただけでは、物事は解決しない。
どんな手段を取ってでも戦闘を終わらせなければ、老人の安全は確保できない。
あの女性の戦闘意欲を失わせる、あるいは戦闘不能に追い込むことが必要だ。
そんな致命傷を一撃で与える手段、自分のことを全く省みないのならばガボには一つだけ心当たりがあった。
こみ上げる血を我慢しながら、素早く口を動かして呪文の詠唱を終えていく。
その一つ一つの言葉を紡いでいくうちに、目にはいろんな光景が広がっていた。
アルスに助けてもらったこと、これまでの冒険の日々、オルゴ・デミーラを倒したこと、殺し合いに巻き込まれたこと、妙な剣に悩まされていたところに老人に助けてもらったこと。
ありとあらゆる要素が頭の中でグルグルと周り続ける。
やがてガボを中心にゆっくりと閃光が生まれ、周囲を照らすように輝いていく。
そのとき、ようやくピサロがガボを助けようと傍へ接近することができた。
それをみたガボは、もう一度最後の力を振り絞ってピサロを突き飛ばす。
これから起きる、破壊の力に巻き込まれないように。
ピサロが突き飛ばされた意味を理解する前に、ガボの呪文が完成した。
ガボの体が徐々に光を帯びていく。
その光が何か、その場にいたすべての人間が理解した瞬間。
ガボの体を中心に、弾け飛ぶように爆発した。



自己犠牲呪文、メガンテ。
命の最後の輝きが、その場にある全てを等しく、飲み込んでいく。
破壊の力が全てを飲み込んで吹き飛ばした後、ガボはゆっくりとその場に倒れ込んだ。



その顔は、笑っていた。



「何故だ……」
ガボに突き飛ばされたお陰で致命傷を免れたピサロは、急いでガボの傍に近寄る。
当然脈などあるわけもなく、斬り裂かれた傷跡は焼け焦げていた。
それだけの傷を負っているのに、まるで一仕事を終えたような笑顔の前で、ピサロはただ立ち尽くすことしかできなかった。

70自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:04 ID:???0



少し離れた場所で全てを見ていたミーティアは、木陰に潜むことで負傷せずに済んだ。
しかし、この場にいる誰より落ち着いていても、目の前の状況を理解できずにいた。
飛び出した少年は男を焼き払った悪であるはずの老人を庇い、その命を使って爆発を起こした。
爆発に巻き込まれたヤンガスは何とか息をしているほどの傷を負った。
ピサロを助けに来たはずなのに、結果はピサロを救うどころか考える以上の最悪の事態になっている。
自分の行動が正義だったのか? 悪だったのか?
誰が悪くて、誰が正しかったのか?
少しの時間の間に起きた事柄と、その莫大な情報量に押しつぶされそうになる。
「姫さ……ん、大丈夫……でがすか?」
傷だらけで起き上がるヤンガス。
ありとあらゆるところに火傷を作り、呼吸の音が荒々しく聞こえる。
その姿を見て、ミーティアの中で全てが炸裂する。
現実に起こった出来事という要素が彼女に圧し掛かって行く。
認めたくない、無かったことにしたい。
考えという考えがなくなり、頭が恐怖に満ちる。
そして、傷だらけのヤンガスをその場に放置し。
薄暗い森の中へと、駆けだしていった。
「姫……さん!」
森の中へ溶けていくミーティアを見届けた後、ヤンガスはようやく起きあがった。
足の一歩一歩を進めるごとに、全身に激痛が走る。
それでも、ヤンガスは足を止めない。
今、この場でミーティアを守れるのは自分しかいないのだ。
痛みどころで立ち止まっている場合ではない。
思うように動かない体を、無理矢理動かし、ヤンガスはミーティアの後を追った。

71自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:20 ID:???0



「……ってぇ」
ガボの体当たりによって大きく吹き飛ばされた老人は、ゆっくりと体を起こした。
カーラの攻撃をその目にとらえることに必死だった彼は、受け身を取ることすらできなかった。
背中から受け身を取らずに着地したことによりダメージは少なくはなかったが、カーラの攻撃を受けるよりかはマシだったはずだ。
「余計なことしやがってッ……!」
しかし、彼自身は別にカーラの一撃を食らってもいいと思っていた。
斬撃を加えるという事はある程度密着をする必要がある。
そこにもう一度ありったけの魔力をぶち込めば、ダメージを与えることは出来たかもしれない。
痛み分けという形にはなるが、勝てる打算はあった。
それが全て台無しになってしまった今、もう一度戦術を立て直すことから始めなければいけない。
戦況を見直し、最適の策を立てようとしたその時。
大きな爆発音が耳に届き、同時に目の前にカーラが吹き飛んできた。
その姿は服の所々が裂け、所々からは焦げた煙を出している。
肩で息をしながら血を吐く彼女が瀕死であることは、誰が見ても分かる。
攻撃するなら、今しかない。
急いで呪文の詠唱に取りかかり、氷柱や火球を放つ。
しかし、傷だらけでまともに歩くことが出来ない彼女にすら、その攻撃の数々は届くことはない。
老人の攻撃を全て避けきった後、冷たい表情で一言を突き刺した。
「何故当たらない、そんな……顔をして、いるな?」
絶えず打ち出される攻撃を避けながら、本当につまらなそうな表情でカーラは告げる。
「あの、少年が。お前を……突き、飛ばし、自己犠牲呪文、を使った理由が分かる、か?」
傷だらけのカーラが、老人へと問う。
老人は答えず、黙ったままである。
「……それが、分からぬか。なら、私には、勝てぬ」
カーラが、にやりと笑う。
今にも死にそうな姿のカーラは、老人に対して余裕を見せている。
何故か? それが老人には分からない。
煽られているとしても、本当にカーラが余裕だったとしてもここで分からせておくしかない。
もう一度、老人は手に魔力を込め始める。
「カーラァ! てめぇは、てめぇだけは俺がぶっ殺す!!」
殺意をむき出しにして、傷だらけの女へと、彼は向かっていく。
女は、その老人の姿を。



笑って、見ていた。

72自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:42 ID:???0



【ガボ@DQ7 死亡確認】
※メガンテによるふくろの状況などは後続にお任せいたします。

【D-4/南部森林/昼(放送直前)】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。

【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP1/8、頬に火傷、左手に凍傷、MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:恐怖
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:逃げる
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。仲間と同調者を探し。戦うものは止め、説得する。デスタムーアを倒す。

73自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:54:02 ID:???0
残りの投下終了です。
どなたか代理投下をお願いいたします

74 ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 17:10:55 ID:???0
サルが解けたので投下してきました。
お騒がせいたしました。

75狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:24:27 ID:fHcM7xTs0


ばしゃり、と跳ねた水音を兆しに、竜王の身体は開放された撥条の如く躍動した。
数瞬、遅れてゼシカが見上げた空に、黒く丸い陰。
それは月でも太陽でもない、海を脅かす魔王の姿だ。

「ごぁあぁーーーっ!!」

水中から飛び出した勢いを利用し、遥か頭上へと跳躍した魔王、グラコス。
憤怒の形相を浮かべ、断頭台の刃のように巨大な穂先を振りかざして竜王へと迫り来る。

「ぬるい喃」

彼の周囲に、影が指す。
そうだというのに、当の本人は涼しげな顔だ。
嘲りに似た笑みすら浮かべている。

「なに余裕かましてるの!?」

グラコスの攻撃範囲外から、ゼシカが叱咤を飛ばした。
なにしろ魔物としてはやや小柄な竜王に対し、グラコスはおおよそ倍以上はあろうかという巨体である。
圧倒的な質量差を以ってしての攻撃、さしもの彼も受け止めるのは至難だろう。
ただし、その気は全くもって無い。


「『当てる』つもりでやっておるのか?」

ひょい、と身軽に飛び退る。
ただそれだけの所作が、グラコスの攻撃を絶望的な物とする。
このままでは地へと墜ち、陸に打ち上げられた魚のようになるだけだろう。
そう、このままでは。

「愚か者め!!」


醜悪な唇を、グラコスはにやりと大きく歪めた。
その刹那、地面と巨体が接触する。
だがその身体は地に減り込むどころか、大きく飛び跳ねて竜王へと追撃を行ったのだ。

「むっ!?」
「『殺す』つもりで!!やっておる!!」

尾びれを地へと激しく叩きつけ、巨体を前へと跳ね飛ばしたグラコス。
宛ら飛行するかの如く、水平に跳んだ姿勢のまま構えられた槍は竜王の首を狙っていた。

「ぐっ……!!」

76狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:24:58 ID:???0
「ぐぬっ!?」
「今度はこちらが行こう」



拳を固めた竜王が、その揺らぎを突破して躍り出る。
魔王の膂力から放たれた拳が、鞠のように膨らむ腹部に突き刺さった。
ずぬりと、減り込んだ一撃にグラコスは顔を歪める。

「む」
「げばっ!!」

竜王の拳撃に吹き飛ばされ、グラコスは湖面に激突する。
激しい水柱が立ち上り、通り雨のように水滴が周囲に散った。

「ふむ……」

竜王は思案する。
たった今の一撃で、グラコスを相手にするという不利に感づいた。

(余裕をかましては見たが、ジリ貧かもしれん)

先ほどのベギラマは密着状態にあり通用した。
しかし、濡れた身体に加え奴は氷の息での相殺を図ることで、炎の直撃は避けている。
同じ手を何度も食うほど愚かでは無いだろうし、呪文は有効な攻撃手段にならない。
先ほどの攻防でこっそりとラリホーを唱えたものの、効力を発したようにも感じない、耐性があるのだろう。
故にこちらの手札が、今は相手の攻撃タイミングに合わせての打撃に限られている、しかし。

(打撃が通り辛いのは厄介じゃ)

弾力性に富む身体に弾き返されてしまう。
斬撃を食らわせてやりたいところだが手持ちの武器の剣は抜くことが叶わないし、あいにく手札が無い。
爪による刺突でどうにかなるか、と正拳から貫手にするかと思案したところ。
違和を感じ取った。

「逃げた、か……?」

グラコスが水面に顔を出さない。
まさか待てば水辺に近寄ると思っては待ちぼうけているまい。
いったい相手が何を狙っているかを考え、そして一つの結論に行き当たる。

「!しまった……!!」


竜王は自分の誤算に気がついた。
先程からの攻防で、距離が離れてしまっている。
この状況で奴が確実に狙うとすれば自分ではなく─

「離れよっ!!!」
「きゃぁっ!?」

竜王の言葉に、湖から退こうと踵を返した彼女の目の前。
まるで間欠泉のように水柱が吹き上がった。

77ミス こっちが↑より先  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:26:11 ID:???0
「ちいっ!!避けおったか!」

竜王が纏う衣の肩口が裂け、弾けるように鮮血が飛ぶ。
身を捩っての回避はタイミングも何もかも絶妙であり、褒める他は無いだろう。

「ぐぶぶっ…!」
「なっ……」

槍を構え直すと、飛び出していたグラコスは大きく息を吸い込んだ。
遠目でその光景を見ていたゼシカは、その変容に思わず息を呑む。
巨体はぷくーっと大きく膨れ、まるで河豚か針千本のように丸みを帯びる。
風船が弾むようにしてグラコスの身体は大きく跳ね上がり、その反動で再び湖へと舞い戻った。

「ぷふぅー……」

空気を吹き出してぷかりと水面に浮かび、取り戻した余裕を振り翳す。
海の魔王の名は決して伊達ではない、地上でもその脅威は失われないのだ。

「げはっ!げはははっ!驕りが過ぎるぞ、竜の王!!」
「……」
「竜王っ!」





動かぬ竜王にゼシカは不安を覚える。
傷は深かったのだろうかと。
だがすぐに言い知れぬ怖気に襲われ、全身が硬直する。
杞憂だった。
この考えは、あまりに杞憂に過ぎた。
グラコスは確かに恐ろしい。
だが、目の前の竜王もまた。

「あー、その鈍らで斬るのはよしてくれんか?」
「なっ!?」

ごきり、と首を傾け肩を回す。
その何気ない姿にすら、ゼシカは畏れを抱かずにいられない。
魔王の槍をも通し斬らぬ、強固な守備。
当然、彼もまた 魔の長なのだ。

「半端に痛がるのも、面倒くさい。かといって無下にするのも気の毒じゃ」
「こっ……」

グラコスの顔色が、みるみるうちに憤怒に染まる。
竜王の口元に、隠し切れない笑みが浮かんでいたからだ。

「─格上に気を使わせてくれるなよ?」
「こぉぉぉぉの!!!腐れドラゴンがーーーーッ!」

怒りに駆られたグラコスは凍りつく息を吐き出した。
幻想的な輝きを生み出すとともに、圧倒的な破壊力を孕んだブレスが竜王目掛け襲い来る。
が、翳した掌から迸る閃熱が炸裂した。
温度差により、景色は陽炎が生まれたかのように大きく揺らぐ。

78狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:28:48 ID:???0
*****


この陰鬱とした雰囲気を孕んだ世界の湖にしては、ひどく澄んだ水だ。
そういう印象を、水底から空を見上げたゼシカは抱いた。

「〜〜!」
「そう暴れるでない……悪いようにはせんぞ、ぐははっ」

グラコスの槍を握る手とは対の手。
ゼシカの華奢な腰が、拘束されていた。
湖に叩きこまれたグラコス、あの僅かな間に湿地を掘り進みゼシカの眼前までトンネルを突き掘ったのだ。
恐るべき泳ぎの速度と獲物があってのみ成し得た技。
さしもの竜王も読みきるのが遅れ、この結果を招いた。

(っ、この…!)

しかし、力を込めればくしゃりと折れてしまいそうな彼女の身体はその形を保っている。
女性に対し、存外グラコスは丁重に扱っているようだ。
もっとも、ゼシカはそんな感情を抱くより嫌悪が先立った。
恐らく世界中のどんな聖人君子たる女性であろうとも、そう思わずには居られないだろうとまでも思う。

「お前をダシに、あ奴を這いつくばらせた後……わしがたっぷりと可愛がってやろうぞ!!」
(離れなさいよ!へちゃむくれ!!)

なにせ、この巨大な顔面が接吻射程範囲とも言えよう目の前にあるのだから。
おまけにどういう理屈か、こちらは口一つ聞けないのに、あちらは水中で口を利くのだ、それもねちっこい口調で。
一刻も早く逃れたかったが、両手を身体ごと拘束され身動きが取れそうにない。

(……りゅう、おう…!)

助けてとは言えない。
なにせ先ほど、嫌というほど畏怖を感じた対象だ。
このグラコスの手の内から救い出されたとしても、それは魔王から魔王へのバトンパスにすぎない。
自分が闇を秘める存在の、掌の上から逃れられるわけではないのだから。

「ブクルル……!来おったな……!!」

79狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:29:35 ID:???0


だが。
竜王は、来た。
相も変わらず不敵なままに。

「ようこそ!!そして死ねぃ!!ここが貴様の墓場となろう!!」

槍を構えてグラコスが泳ぐ。
その動きは先程までの地上戦とは、比べ物にならないほどの速さだった。
空を飛翔するドラゴンに喩えるのが相応しいほどのそのスピードに、掴まれたままのゼシカは翻弄される。
そして凄まじい加速のその刺突を、身動きの取りづらい水中で竜王は─



『自分の土俵が恋しくなったか、ヒキガエル』
「!?」

受け止めた。
槍の刃先はその身体に喰らい込み、確かに血は流れている。
だが柄を抑えた姿勢のまま、負傷も感じさせない様子で、彼は告げるのだ。
目の前のグラコスに"忠告"を。
危険を察したグラコスは飛び退るように泳いで、距離を離した。


『いいか?一言だけ言っておく』


水中で深紫のローブがゆらゆらと揺れる。
こちらにぴたりと向けられた指先も、恐ろしい形相も相成り、まるで水辺の幽霊のようだ。
だが、こうも勇ましき幽霊が存在しまい。
それにこんなに自己主張の激しい幽霊も居まい。


『その娘はワシのじゃ。丁重に扱え、というか離せ』


(……魔族の喉と頭ってのはどうなってるのよもう)

ゼシカは苦笑した。
異性に取り合われてこんなに嬉しくない瞬間なんてあるのかしら、と。


*****

80狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:30:20 ID:???0
大見得を切って戦いに挑んだのは良いものの。
ここは水中、炎の呪文さえも縛られた状況は間違いなく劣勢だった。
槍が、そして泳ぎにより生まれる水流。
それらは竜王の体力をじわりじわりと奪いゆく。

「先ほどまでの大口はどうした!?げははっ!」
『!』

グラコスが持っている武器を激しく振り回す。
竜王が手練とて、防ぎきる事は叶わない。
手傷を負い、澄んだ水には竜の血が混ざる。
確かに攻撃は届いているがここはグラコスの支配する水中という名の領域。
攻撃の速度も鈍っている、決定打には程遠い。

「それそれそれいっ!!」
『ぐ……!』

グラコスが渦を描くように竜王の周囲を泳ぐ。
水の流れはうねりを描き、身の自由を封じていった。

「急がねばこの娘も!貴様も!仲良く水の底ぞ!!」
(う……っ!!)

加えて人質を取られている、おまけに息も限界が近い。
まさに絶体絶命であった。

(なんとかし、なきゃ……)

意識が遠のきそうな最中、ゼシカは身を捩る。
自分にできる精一杯の抵抗を行うため。
両手は封じられた。
呼吸もできない。
ならば最後の手段が一つだけ残されていた。

(〜〜〜っ!やるしか無い!!)
「ぐむっ!?」


グラコスの視界が突如塞がれる。
その顔は柔らかい感触で満たされた。
彼女の豊満な胸部を、隙を見て顔面に押し付けたのだ。
端的に言うとゼシカはグラコスにぱふぱふをしてあげたということである。
グラコスはきもちよさそうだ。

81狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:31:02 ID:???0

音も聞こえぬ水の中。
戦う両者の動きすら静止し、まさに時が止まったような状態となる。

(ゆるんだ!!)

傾いだグラコスの顔を力いっぱい蹴り、ゼシカは浮上する。
やっと自由になった両手で胸を隠して人生最大級のあかんべえをかましながら、彼女は自由を手にした。

「……ふがっ!?し、しまった!!」

もう彼女の姿が湖面から出ようか、というところでやっと意識を取り戻したグラコス。
慌てて追おうとして藻掻いた尾鰭が、突如尋常でない力で抑えつけられる。

「!?」

掴んでいたのは竜王。
ただ、先程までとは一瞬、別人と見紛うほどの変容を遂げていた。
額に青筋、形相は般若も真っ青になるほどの険しいもの。
子供どころか魔物が見ても泣きそうになるものだった。

『醜き化性が、水底に這い蹲っておればいいものを─』

メリメリと音を立て、竜王の存在が膨れ上がって行く。
ドラゴラムとはまた違う、その祖となった真の姿への形態変化だ。
この姿を出す、ということは本気も本気ということ。
魔の長がたった一人の人間の女のために何を、と笑うことなかれ。
竜王の『とある矜持』を、グラコスは十二分に傷つけていたのだから。
いわば、竜の逆鱗を揺り動かしてしまった。
その代償は大きい。


『グルァアアァァーーーーッ!』
「わっ!?」

地上で呼吸を整えていたゼシカは腰を抜かした。
湖から、深紫色の鱗を持った竜が上半身を現したのだ。
小規模な波に攫われそうになるも、なんとか荷物を抱えて近くの岩に身を隠す。
よく見れば、その手にはグラコスが逆さ吊りにされている。
巨竜は目の前にそれをぶら下げながら、睨みを効かせこう叫ぶ。




『あの胸はワシのものじゃあああああああっ!!!』
「ぎええええええっ!!」
『 弁 え よ ッ !!』
「ぐばっ!?」




非常に低俗な主張を声高に叫びながら、哀れな魔王を湖底に叩きつけ、踏みつけた。
ゼシカが言葉を失ったのは言うまでもない。

82狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:32:15 ID:???0
*****


グラコスを撃退し、早々に二人は湖から離れた。
負傷した状態での急な変身により竜化が早々に解けてしまったため、生死の確認がとれていないのは痛手だったが。
ともかくかなりの時間を費やしてしまったものの、ようやく当初の目的である地図上で言う絶望の町というところを目指し歩みだした。

「まったく、まだ腹の虫が収まらんわ。あの潰れた面を焼いて溶かしてしまいたいというに。湖ごと蒸発させれば良かったわい」
「この状況でケンカ吹っかけないでよね、実際少しピンチだったんでしょ?」
「ぬ……まぁ、の」

攻撃を一身に受け続け、いかに頑強な竜の身体も負傷は色濃かった。
ゼシカは支給品の中から上やくそうを取り出し、差し出しつつはにかんだ。

「理由はどうあれ、助けてくれたのはありがとう。傷、ちゃんと治してね」

確かに目の前の存在は恐ろしい、それは変わらない。
だが、先ほどのグラコスとは根底から違う、僅かながら感じたその思いを─
ゼシカは信じたかった。

「……ゼシカよ」

受け取った竜王の顔がほころんだ。
そしておもむろに両手を広げる。

「濡れた髪や張り付いた服というのもまた一興」
「シリアスを保ちなさいよ!!緊張感ふっ飛ばしすぎだってば!!……っくし!」
「いかん、寒かろうゼシカ」

彼女のむき出しの肩に、そっと竜王は手を添えた。

「服を脱いで乾かさなくてはな」

鼻の下を伸ばした竜王に、ゼシカは頭を抱える。
ああ、手を出すのも気が引ける、どんな言い訳とツッコミでこの場から逃れようか、と。
足取りが重たいのは、水を吸い込んだ服のせいばかりではなさそうだった。

83狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:32:27 ID:???0

【E-3/湖岸南部/昼】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 体力消耗 羞恥 ずぶ濡れ
[装備]:さざなみの杖@DQ7 
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
     ※上やくそう1/2(残り1つ) 
     基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する
     服を乾かしたい


【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10 MP8/10 竜化により疲労(大)ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:①ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
 ②今のゼシカを目に焼き付けたい




【E-3/湖の底/昼】

【グラコス@J】
[状態]:???
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
    デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。

84 ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:33:42 ID:???0
投下完了です。
ご覧の方いらしましたら、どうか代理投下をお願いいたします。

85ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 20:22:41 ID:???0
代理投下やってみます

86ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 20:35:15 ID:???0
本当に申し訳ございません

>>76>>77より先に投下してしまった上、>>77を書き込めませんでした

87ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 23:44:59 ID:???0
これは最初から投下しなおしてみた方がいいかな? ちょっとやってみる

88ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 23:56:37 ID:???0
代理投下終了しました

89ただ一匹の名無しだ:2012/09/03(月) 00:16:03 ID:???0
乙です

90 ◆2UPLrrGWK6:2012/09/03(月) 01:03:13 ID:???0
代理投下ありがとうございました。
私のミスが混乱を招いたこと申し訳ありません。

91 ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:02:15 ID:???0
予約は破棄しましたが、書きあがりましたので今から投下させていただきます。

92零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:12:54 ID:???0



「英雄」というものは誰の記憶にも輝かしく映る。
その功績を称えられ、光り輝く戦士として後世にも語り継がれる。
やがて伝説となり、文面や伝聞のみの存在となってもその輝きは失われることはない。

「その淡い光を放つ存在が、ゴミだと分かる日がいつか来るさ」
そう言ったのは、どこの誰だったか。



轟音が、暗い空に響き渡る。
その音の正体は、たった一人の少女だ。
一歩踏み込み、腰を深く落として、片腕を真っ直ぐと突き出している。
普通の武闘家なら、なんてことはないただの一撃だ。
だが、この少女にとってはそんな「普通」さえも変貌する。
踏み出した右足の地面は大きくひび割れ、突き出した拳からはどういうわけか煙が立ち登っている。
そして、その一撃を食らって吹き飛んでいる者が誰かというと、かつて世界を支配しようとしていた竜族の子孫である。

たった一撃、されど一撃。
竜族の子孫の肉体があちらこちらから悲鳴を上げ、人のものではない肉が破裂して暗色の血を撒き散らす。
激痛に耐えるため、地面に這い蹲りながら全身を悶えさせる。
そんな竜族の様子を、少女は本当につまらなさそうに見つめる。
「はあ……まだ二撃しか加えていないというのに。
 あなたそれでも竜族ですの? 不甲斐ないにも程がありますわ」
腕を組み、溜息を一つ漏らす。
よろよろと起き上がる竜族に向ける視線は、極寒の大地よりも冷たい。
「何故だ、何故勇者の一行ともあろう者が。このような殺し合いに乗じているのだ」
「勇者? 何か勘違いしていますわね」
理解できないといった表情を浮かべる竜族に対し、少女はつらつらと語る。
「ゾーマを倒したのは世界救出でもなんでもなく、世界を掌握しようとするアレルにとっての障壁であり、私たちにとって力が試せる最大の敵だっただけ。
 そして、私は勇者でもなんでもなく、ただの一人の人間。闘争を楽しみたい一人のしがない武闘家ですわ」
口から零れだすのは、強烈な真実。
彼女の生きている世界の、遠い遠い遠い未来で描かれている史実とは全く違う事実。
それは、あまりにも残酷で。
竜族の知っていた事実、理想、全てをズタズタに引き裂いていった。
「伝説の勇者だとか、祭り上げるのは構いません。でも私たちにもやりたいことや、夢がある。
 それを邪魔する権利なんて、未来の存在であろうと誰であろうとありませんわ」
一口に言い切り、リンリンは大きく溜息をついて頭を抱える。
竜族は動かない。たったいま突きつけられた絶望が、強烈すぎた所為か。
「全く私の夢だというのに、なんでこんなことを……さぁ、立ちなさい。
 貴方は私の夢、私を満足させてくれる存在なのだから。立って戦いなさい」
真実を突きつけた少女の顔は変わらない。
その真っ直ぐな目が追い求める、闘争という目の前の快楽を掴むため。
拳を、構える。

93零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:13:49 ID:???0



「ちょっと、大丈夫!? ここであんたに死なれちゃいろいろと困るわよ!」
「ったく、少しくらい黙るとかできねえのかよ……お前が暴れてなきゃもうちょっと楽にここに来れたんだけどな」
ヘルハーブ温泉の中央に位置する洞窟に入り込んだ二人は、到着するや否や口喧嘩を始めた。
その原因は、内部に入った途端にテリーが倒れこんだことである。
ただでさえリンリンとの戦いで体力を消費しているのに、マリベルを抱きかかえながらこの温泉を移動したのだ。
連続する体力の消耗に、いくら歴戦の戦士といえど耐えられたものではなかった。
そうしてふらりと訪れた目眩に誘われるように、テリーは入り口で倒れこんでしまった。
それを切っ掛けとした口喧嘩を繰り広げながら、テリーは一人でゆっくりと起き上がる。
「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ!?」
「当たり前だろ、探索しに行くんだよ。この場所が安全とも限らない。
 いつまでもここでボーっとしてれば、アイツが来るかもしれないしな」
先ほどまで交戦していた女武闘家のことを思い出し、ふらつく体を無理やり働かせてテリーは内部の探索を始める。
体力を費やしてまで辿り着いた隠れ場所を自ら無駄にしないためにも、入り口からは早々に離れなくてはならないのだ。
「もう、待ちなさいよ! ちょっとは人の話聞きなさーい! このスカポンタン!!」
ロッシュ達と旅している間にはなかった騒がしさを背に受けながら、テリーは洞窟の内部へと足を勧めていく。
もし洞窟内部に人間が居れば、一段と響き渡るマリベルの声で自分達がこの場所に足を踏み入れていることを察しているだろう。
最悪中の最悪のケース、それを頭にしっかりと置きながらテリーは進む。
テリーに何を言っても無駄だと悟ったのか、ようやく静かになったマリベルも力強く足を進めていく。

94零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:02 ID:???0

「へいへいへ〜い、俺ァ英雄ホンダラだぁ〜。
 かーっ、もったいぶってねえでさっさと宝を寄越しやがれぇ〜、エック」
黙々と足を進めていくうちに見つけたのは、片手に酒瓶を持ち井戸の周りをふらふらと彷徨う酔っ払いだった。
僅かに生えた草を毟っては、酒を飲み。
何もない井戸の周りを調べては、酒を飲み。
井戸に向かって盛大に吐いては、酒を飲み。
洞窟に現れた二人の侵入者のことなど意にも介さず、井戸の周りを愉快な足取りでグルグルと回っている。
中に居る人間が殺人鬼であるという最悪のケースは免れた。
しかし殺し合いの最中で盛大に酔っ払う人間に出くわすとは、流石のテリーでも考えていなかった。
「最ッ悪……」
後ろからようやく合流したマリベルが、大きな溜息と共に頭を抱える。
「……知り合いか?」
「ま、そんなとこ」
マリベルにしては珍しく歯切れの悪い回答である。
どこかバツの悪そうなマリベルに問いかけるよりも早く、違う声がマリベルを捉える。
「おお〜っ、誰かと思えばマリベルじゃねーか!
 あのデスタムーアとか言うのも、またおめーらがビシッと一発シメてくれんだろ?」
こちらの存在にようやく気がついた酔っ払いが、テリーをグイっと押しのけてマリベルに近寄る。
何か期待するかのような眼差しを向けながら、マリベルに話し続ける。
「さっきも来たぜェ〜、魔王をぶっ飛ばすってヤツらがな!
 お前もあいつらと一緒に魔王をぶっ飛ばすんだろ?
 んなら俺ァここで酒でも飲みながら、それを待ってりゃ大英雄って訳だ!
 この手にゃ宝もあるし、一石二鳥どころか一石億鳥だぜぇ!」
「ちょっ、酒臭ッ! 一体どれだけ飲んでるって言うのよ!」
常人では考えられない量のアルコールを含んだ吐息に、思わずテリーとマリベルを鼻を覆ってしまう。
「そぉ〜だ、お前らなんかいいもん持ってねぇか?
 俺が英雄になった暁にゃあ、お前らも仲間として語り継いでやってもいいぞぉ〜」
「なっ、いい加減にしなさいよこの酔っ払い!」
迫りくる手をマリベルは少し強引に引き剥がす。
それでもホンダラはお構いなしといった表情で酒を一口グビりと飲みながら、マリベルに絡み続けていく。
「あんだよぉー、ツレねぇなぁ〜。ちょーっと高値で売れるモンをくれって言ってるだけじゃねえかよぉ〜」
「ったく相変わらずどうしようもない……ちょっと、テリー! 見てないで何とかしなさいよ!」
押しのけられたついでに、害の及ばない遠距離からその絡みを見ていたテリーに、マリベルは助けを請う。
「勝手にやってろ」
「ちょっとーっ!!」
だが、現実とは残酷なもので。
呆れ返ったように冷ややかな目線を向けたまま、テリーはマリベルから目を逸らした。
「いーやー!! 誰か助けてぇー!!」
温泉内部の洞窟に、乙女の叫びが響き渡って行った。

95零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:36 ID:???0

目覚まし時計に拡声器を添えたかのような騒音を背に、テリーはあることを調べていた。
酔っ払いが嘔吐する受け皿に使った井戸。
賢者たちが嘆きの牢獄に大穴を空けるまでの間、自分たちが狭間の世界から抜け出す際に用いていた井戸だ。
恐らくデスタムーアの手下が現世に舞い降りるのに用いられていた通用口だったのだろう。
あの世界を支配しようとするデスタムーアとしても必要な"裂け目"だったのだ。
絶望で心が満たされた人間が逃げ出さないように、体力を奪うあの温泉を回りに配備しておくことで、逃げ出そうとする人間を腑抜けにする。
デスタムーアの策としては完璧、これで絶望に満ちた人間達を自分の世界に閉じ込めておくことが出来る。
今……どう控えめに見ても体力も戦闘能力もなさそうで、酒を飲んでいるだけのグウタラオヤジがこの場にいることが引っかかるが、イレギュラーとして思考の外に置く。

この前提を踏まえたうえで、今回の場に置き換えて考えていく。
恐らく、この場には殺し合いの参加者達しかいない。
目の前のオヤジのような人間がいるにはいるものの、大体の参加者はロッシュやハッサンを筆頭に屈強な者たちがメインだ。
ある程度の体力さえあれば、ヘルハーブの温泉を乗り越えることは出来る。
「狭間の世界に到達するわけがない」「絶望に飲まれて死に絶えるに違いない」
などとタカを括っていた前のデスタムーアならともかく、一度倒された身の彼が、こんな簡単な場所に脱出経路を置いておくだろうか?
それこそデスタムーアを知っている人間なら、経験からこの場所に辿り着くのは簡単なことだ。
苦労する事といえば、ヘルハーブを乗り越えることぐらいか。

「待てよ……?」
その逆。
ヘルハーブの井戸が異世界と繋がっていることを知っている者を利用した、巧妙な罠だとしたら?
あえて次元の裂け目と思わしき物を残しておくことで、何かしらの罠へ誘っているとすれば?
可能性は0ではないどころか、グイグイと上がっていく。
「脱出が出来る!」と甘い考えを持つ者たちを、絶望の奥底へと叩き込んでいく。
デスタムーアがそれを目論んでいる可能性は十分にある。
甘い希望を抱いてこの井戸に飛び込むのは、向こうの思う壺かもしれない。

96零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:47 ID:???0

ここで落ち着いて考え直してみる。
一つ、この井戸がここではないどこかと繋がっている。
一つ、この井戸が始めの場所と繋がっている。
一つ、この井戸がなんらかの罠である。
一つ、ただの底の深い井戸である。

最初のケースならば、この井戸に飛び込めば殺し合いの場から脱出することはできる。
ただし魔王デスタムーアは存命しているし、首輪が爆発せずにその形を保っていられるとは限らない。
かなり危険な賭けだが、条件さえ整えば最高の逃走手段になるだろう。
二つ目のケースは最悪だ。
出現する場所はあの魔王の目前であることは確かであるし、脱出を目論んでいることもその場でバレてしまう。
まず、命は無いと思った方がいいだろう。
三つ目のケースは危険だ。
何が待ち受けているか全く読めない以上、危険性は二つ目のケースの次に高い。
だが罠を美味く掻い潜ることが出来れば、向こうの手段を何かしら利用することは可能かもしれない。
四つ目のケースはある意味一番のハズレだ。
ただの井戸、潜って身を隠すぐらいしか出来ない。
何もデメリットがない変わりに、メリットもない。

可能性を無限に孕んだ井戸を、ゆっくりと覗き込む。
見るだけで吸い込まれそうな漆黒が視界には広がるだけ。
酔っ払いのゲロも、一滴の水さえも自分の目には映らない。
やはり見るだけではこの井戸の正体など、掴むことは出来ない。
今この瞬間に飛び込んでいくのは、あまりにも危険すぎる。
そう結論付け、マリベルの方へ意識を向ける。
「なぁ〜マリベルよぉ〜、ケチケチしてんじゃねえよ〜。
 持ってんだろぉ〜、スッゲーお宝よぉ〜」
思考の網を張り巡らせているうちにも、酔っ払いはマリベルに絡み続けていた。
傍から見れば手つきは変態のそれそのものの、少女に執拗に迫る中年男である。
この光景が何時までも続いてマリベルの悲鳴をひたすら聞き続けるハメになる前に、手を打とうとテリーが足を踏み出していった時だった。
「い・い・か・げ・ん・に……しろっ!!」
なんとか手を上げずに堪え忍んでいたが、その声と共に堪忍袋の緒がブチっと切れる音がする。
もう一度体を大きく捻り、絡みつくホンダラの手を振り払い、大きくよろけたところを見逃さず。
一片の迷いもなく、握りしめた拳を突きだし、ホンダラの顎をめがけて振り抜く。
小気味のいい音と共に、ふわりとホンダラの体が浮き上がる。
そして綺麗な放物線を描き、受けた力に抗う事なくゆったりと落下し。
「あ」
二人の間抜けな声が重なりあった瞬間に、ホンダラは吸い込まれるように井戸の中へと落ちていった。

97零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:23 ID:???0



「真実とは、残酷なモノだな」
「は?」
リンリンが立てと命じたはずの竜族は、地に伏しながら小さくつぶやく。
その不可解な言葉に思わず声を漏らしてしまう。
「勇者も、救世主も、英雄も、そんなモノなど居はしなかった。
 自分たちの都合のいい存在に対し、その名を付けて持て囃しているだけではないか」
誰に命じられたわけでもない、自らの望みを叶える上で邪魔だったからその存在を打ち倒したまで。
周りの人物にとっては都合のいいその存在に対し、聞こえのいい言葉をつけて持ち上げているだけ。
いつしかそれは、綺麗な虚像へと変化し、人々の希望を一心に抱えた夢の英雄だと語り継がれていった。
そして虚像の追い求める人間に、人生すべてを奪われた数人の若者の存在を、この竜族は知っている。
「あやつらがこの事実を知ったら、耐えられんじゃろうな……じゃから」
もし、実像だと思いこまされてきた偉大なる先祖様が虚像だと判明したら?
実際にはこういう人間で、別に世界を救おうとは殆ど思って居なかったとしたら?
その虚像を現に落とし込むために、私情も何もかも捨てて生きてきた若者たちがどうなるか?
考えなくても、竜族には手に取るように分かる。
「ワシが止める!」
顔を上げ、リンリンを睨み返した後に大きく吠える。
体の細胞がうねり、その性質を変化させていきながら一つの形を作り上げる。
アレフガルドの地に伝わる、竜族の真の姿。
人の数倍にも及ぶ巨竜の姿は、全てを焼き尽くす炎と全てを掌握せんとする力を持つと言われている。
気迫溢れるその姿が、あたりの空気を振るわせていく。
「使うことはないと思っていたが、まさかこんなところで使うことになるとはな……。
 おまえとは違う、偉大なる先祖の兵法と戦の心得、その身に刻んで行けい!!」
巨竜の剛腕が、目の前の少女に向けて振り抜かれていく。
一般人からすれば即死は免れない勢いの腕を視界に捉えながらも。
リンリンの表情は、凍り付いていた。
「ヌルい」
巨竜の腕がはじき返される。
地面を抉り取るような大振りの一撃が、小蠅をあしらうかのような軽い動きに止められていた。

98零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:36 ID:???0
「あなた、戦いの場に立ったことがありませんわね?
 子供のような戦い方、力に腰が入ってませんわよ?」
一歩引き、拳を構える。
腕をはじかれたことを理解した巨竜が、炎を吐く構えに入る。
リンリンは動かず、巨竜の次の一手を待った。
「あなたこそ、目に焼き付けなさい。
 力とは、こう振るうものですわ」
全てを溶かし尽くすような炎が、巨竜の口から溢れだした時、リンリンはそうつぶやいた。
そして、炎はリンリンを包み込んでいく。
服は炭と化し、肉が焼け、やがてそこには骨が残る。
そう、普通ならば。
「未来に苦しんでいる人間が居る? 私たちのせいで?
 知ったことではありませんわ、いちいち自分の死に果てた後の未来のことまで考えられる訳がありませんわ。
 自分の人生、自分の好きなように生きて何か問題でもありますの?」
巨竜の耳に届いたのは、地面が大きく砕ける音と、聞こえるはずのない声。
炎の中を突き抜けながら、リンリンはまっすぐとその手を巨竜の腹部へと突きだしていった。
爆発的な加速力、まるで弾丸のような一撃を巨竜の腹部に叩き込んでいく。
「現状を打破するだけの力がなかった、その方たちが弱かっただけ。
 弱者というのは得てして何かのせいにしたがりますわ。
 わからないこともないですが、私を巻き込まないでくださります?」
よろける隙間すらを与えず、一撃の後に巨竜の頭へと飛びかかる。
ようやく痛みを認識し、身を悶えさせようとした巨竜の動きよりも早く、リンリンは全身を使って巨竜の首を捻らせる。
ゴキャリという骨が曲がるような音と共に、巨竜の顔は明後日の方向を向き、力なく倒れていった。
「全く、キテレツな夢ですわ。私の心が弱いのがいけないのかしら。
 もっと鍛練を重ねなければいけませんわね」
巨竜は力なく地に倒れ伏し、物言わぬ屍と化した。
その姿に一厘の興味も向けず、彼女は黙々と荷物だけ奪い去って行った。
その時だ、彼女の視界にあるものが映ったのは。
「おや……?」
何の変哲もない、ただの道具。
でも、巨竜の荷物を回収する彼女の意識に割り込むように映った道具。
光っていないはずなのに輝いて見えたそれを拾い上げ、彼女は小さく腕を振るった。



しゃらん。

99零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:57 ID:???0



沈黙。
吸引力が違うとでもいわんばかりに、一人の中年が井戸に誘われた。
偶然と偶然がかみ合い、とんでもない事態を引き起こした。
「……音は聞こえないな」
未だに固まって動かないマリベルをよそに、テリーは冷静に状況を判断する。
盗賊として鍛えた耳を澄ましても、何かの音は井戸からは聞こえなかった。
井戸の奥底がかなり深い、あるいは井戸の底にある程度広い空間が確保されているか。
"底がない"という可能性のケースだったときが若干厄介な程度か。
「イザと言う時の逃げ場くらいにはなる、か……?」
「ねえ、アンタ今の状況分かってんの!?」
冷静に場を判断し、イザと言う時の予定を立てていたテリー。
その様子が悠長に過ごす青年のように見えたのか、マリベルは若干声を荒げてテリーに歩み寄る。
「そりゃあ、いざって時に備えて逃げ道ぐらい調べとかなきゃマズいだろ」
「そうじゃなくって!」
思いっきり地面を踏みつけて怒りを露にするマリベル。
その口が開く前に人差し指を伸ばした手を添える。
「分かってる、分かった上でそうやってるんだよ」
何が? という声を出す前に、テリーが押さえ込むように言葉を続けていく。
「起こってしまったことは変えられない、それを受け止めた上でどう動くかが重要だ。
 やってしまったことはしょうがない、酔っ払って絡んでたアイツの自業自得だとは思うし、お前を責めるつもりもない。
 お前は自衛のためにぶっ飛ばした、そしてアイツは井戸に落ちた、それだけだ。
 だから、次に備えて動いていくことが大事に決まってるだろ?
 過ぎたことに一々ウジウジ悩んでたら、前には進めないからな。
 それとも何か? ぶっ飛ばされても文句は言えないレベルで絡みに来た奴をぶっ飛ばして起きた事故に、態々立ち止まって悔やむつもりか?」
マリベルに喋る隙間を与えないよう、畳み掛けるように口を開く。
思うところがあったのか、人を突き飛ばしてしまったという事実に怯えていたのか、なんにせよマリベルは平常ではなかった。
テリーに慰めの気持ちがあったかどうかはわからないが、テリーの言葉によってマリベルは落ち着きを少しずつ取り戻していく。
「……それもそう、ね」
止まっている時間などない、起きてしまったことは変えられない。
そう言い聞かせるように頬を叩いてから前を向き、テリーの手を取ろうとした時。
突き刺さるような闘いの気が彼女達を揺らした。
「なっ、なによコレ?!」
全身から汗が吹き出るプレッシャー、蛇に睨まれたかのように動けず、立ち止まる。
しかも、その気を放つ存在は着実にこの洞窟へと向かってきている。
この気を放つ存在に心当たりはあるものの、先ほどとは段違いの気にテリーですら足がすくみ始めている。
どの道、この場に留まれば「アレ」の餌食になるのは見え見えだ。
先ほどの状態でギリギリ五分、今の状況ならマリベルがいたとしても大幅に不利であることは分かる。
そもそも「闘う」という部隊に立たせてくれるかどうかすら分からない。
「袋の鼠かッ!」
外に出ればヘルハーブの湯が待っているし、この洞窟はここで終着点を迎えている。
「アレ」がこの洞窟に気がつかない訳もないだろう、あの戦闘力があればヘルハーブを突っ切ることも容易だろう。
ヘルハーブに浸かりながら戦闘が出来るとも思えないが、向こうにとって洞窟の中は最高の舞台。
ここで闘えば一瞬で決着がつくことすら考えられる。
「クソ……!」
ギリリ、と歯を軋ませる。
恐怖の瞬間は、確実に近づいていた。

100零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:16:16 ID:???0



しゃらん。
たのしいタンバリンの音が鳴り響く。
しゃらん。
その音は愉快な気分にさせてくれる。
しゃらん。
気持ちがいいからもう一度鳴らしたくなる。
しゃらん、しゃらん、しゃらん。
「不思議な感覚……でも、悪くない。むしろ開放感すらある……心地の良い夢ですわ」
人を殺す感覚とは違う、新しい快感に満足している。
その間も人間の潜在能力を引き出すタンバリンが、鳴り響いていく。
一音一音が人間の脳に作用し、精神的高揚をもたらして肉体的能力を引き出していく。
それを爆発させるその時を待ちながら、リンリンはタンバリンを鳴らしながら温泉内へと入っていった。
鳴り続けるタンバリンがまた一段、また一段とリンリンの心を高まらせ、快感を与えていく。
「おや?」
温泉に一歩足を踏み出したとき、僅かながらにリンリンの体勢が崩れた。
敵襲を受けたわけでもなく、先ほどまでの戦闘の余波が回ってきたわけでもない。
「なるほど、力を奪う魔の湯といったところかしら」
考えられるとすれば、足下の緑の湯だ。
タンバリンとは違う心地よさの反面、力がじわじわと抜けていく感覚もある。
普段のリンリンなら多少は危機感を抱いたかもしれない。
そう、普段の彼女なら。
「全く、どうしてこうも私の邪魔をする要因が多いのかしらね?」
タンバリンによる快感、それを邪魔するように力を奪う緑の湯。
リンリンにとって、それらは不快な存在でしかない。
愉快な夢を妨げる存在は、全てつぶすのみ。
緑の湯の中で深く深く息を吸い込む。
全身の意識と神経を一点に集中させる。
脳から流れ出た信号体中をかけ巡り、該当個所の筋肉を固める。
大きく緩やかに弧を描きながら、太股が振りあげられる。
頂点にさしかかった後、目にも留まらぬ早さで地面へと叩きつけていった。
一つの爆音と、はじけ飛ぶ湯。
何かが蒸発するような音と共に、姿を現したのは一つの大きなくぼみ。
片足によるたった一撃で、このヘルハーブを巡回していた湯をまとめあげるような大きなクレーターを作り上げて見せたのだ。
「これが私の力……ふふふ、いい、いいですわ! すべてが、すべてが素晴らしく心地の良い夢!」
もう、足を止めるモノは何もない。
この地に新しくできた緑色の湖を後目に、一歩ずつ一歩ずつ足を進めていく。
心地よく、気分をよくしてくれるタンバリンの音が鳴り響く。
それが鳴る度に、リンリンの足取りも軽くなっていく。
「あら?」
中央部にある巨岩、その中に入り込んでいった彼女。
「おかしいですわね、確かに何者かの気を感じたのに……」
牢獄の扉の先にあったのは、空の酒瓶が数本と、一つの井戸がぽつりと存在していただけだった。
人間の気を感じ、ここへ進んできた彼女は思わず首を傾げる。
「まあ、いいでしょう。それならそれで新しい人間を捜せば良いだけですわ」
井戸にも酒瓶にも微塵の興味を示さずに、彼女はその地を後にしていく。
今の彼女がこの"夢"で求めるのは無限の闘争、血沸き肉踊る争いの舞台。
そこで生命の断末魔を聞くことが目的なのだから、人間がいないのならば彼女が興味を引かれるはずもない。
タンバリンの音と共に、また別の戦の化身が足を進める。
西の地から、東へ東へ。
拳の魔神が、足を進めていく。
精神を高揚させる、タンバリンの音と共に。

101零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:16:37 ID:???0



真っ黒。
視界一面を埋め尽くすのは、黒、黒、ただただ黒。
自分の両手すら見えないこの空間で、テリーはしっかりとマリベルの手を握り続ける。
そうしないと、彼女がどこに行くかも、自分がどこに行くかも分からないから。
あの場にそのまま留まり、強大な闘気の持ち主であるリンリンと闘うことは自殺行為に近かった。
感じた"あれ"を信じるならば、自分もマリベルも数秒もたないだろう。
だが自分達が先ほどまで居たのは袋小路、逃げ場のない鼠と大差のない状況だった。
だから、ほんの僅かでも生き残る可能性が残されているコトに賭ける。
ベットするかしないかではない、しなければいけないのだ。
何の反応も返ってこなかった井戸、そこに飛び込んでいくほか無かったのだ。
咄嗟にマリベルの腕を掴み、体を引き寄せて共に井戸に飛び込んでいく。
それからずっと、視界は暗闇に包まれたままだ。
「あーもう! さっきから勝手に突っ走るんだからー!!」
マリベルが叫ぶ。
咄嗟の判断とはいえ、助かるための道を選んだはずなのだが、やはりマリベルにとっては「勝手な行動」になってしまうらしい。
ギャアギャアと騒がしい声と共に、テリーは暗闇の中をひたすらに落ち続ける。
どこに向かっているのか、そもそもどこかへ向かっているのか?
それは、わからない。

102零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:16:55 ID:???0














さて、ここで問題だ。
最初に井戸に飛び込んだはずの酔っ払い、ホンダラ。
彼もテリー達と同じように暗闇を落ち続けているのか。
既にその闇の先に辿り着いているのか。
それとも……この闇に飲み込まれ、命を失ったのか。

答えはそのどれでもない。

「いててて……ん、何だァ?」
空間から放り出されてごろごろとしばらく転がった後に、文句を並べながらホンダラは起き上がる。
見れば先ほどまでの空間ではない事ぐらい分かるのだが、酔っ払っている今の彼はそれどころではない。
もしここに辿り着くことが出来たのがホンダラでなければ、今の状況が笑えないことぐらい容易に察しがついただろう。
何の緊迫感も無く、腹を掻きながら酒を煽る彼が今立っている場所。
そう、この殺し合いの参加者が忘れるはずもない場所。

全ての始まりの場所に、彼は立っていた。

そんなこともつゆ知らず、彼は金目の物を求めて辺りを歩き出す。
懐に隠し持っていた真実のオーブが光り輝いていたことに気がつく様子など、全く見せる様子も無く動き出していた。

全ての参加者があずかり知らぬところで、歯車が一つ填まっていた。

103零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:17:19 ID:???0

【竜王の曾孫@DQ2 死亡】
【残り44人】

【F-1/ヘルハーブ温泉内部/昼】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(中)軽度の火傷、スーパーハイテンション
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
     銀の竪琴、笛(効果不明)、支給品一式×3、不明支給品(0〜1個)
[思考]:強者とは夢の中で今までできなかった死合いを満喫し、弱者の命の慟哭を聞く。
     自分の知らない自分の力をもっと試したい。
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。

【???/????/昼】
【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費少、マリベルと手を繋いでいる。
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:闇から抜ける。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康、MP微消費、テリーと手を繋いでいる
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは保留。

【???/スタート地点/昼】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、泥酔
[装備]:なし
[道具]:真実のオーブ@DQ6
[思考]:無事に帰らせてもらえたら俺は英雄ホンダラだぁ〜。
     高そうなもんを探すぞぉ〜。
[備考]:ホンダラが持っていた酒はカウンターからくすねたもの。

※ヘルハーブ温泉に大きな穴が出来、ヘルハーブ温泉の湯が一箇所に集められています。

104 ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:18:13 ID:???0
投下終了です。
スタート地点に到達、井戸の中身などかなり踏み込んだ内容になりましたが、何かありましたらどうぞ。
代理投下は三日ほど経って大丈夫そうならどなたかよろしくおねがいいたします。

105ただ一匹の名無しだ:2012/09/04(火) 04:31:15 ID:???0
お疲れ様です。面白い。

小さいことですが、アレルは別に世界を掌握したかった訳じゃなかったような。

106ただ一匹の名無しだ:2012/09/04(火) 18:52:15 ID:???0
アレルに世界を掌握する気がなくとも、リンリンの性格なら勝手に
そう思い込んでても不思議は無い気はする。
それにしても、今ロワのテリーはカッコイイな。

107ただ一匹の名無しだ:2012/09/06(木) 01:59:41 ID:???0
お疲れ様です。
井戸がどこにつながってるかでガラッと話の流れが変わるから確かに重要。
確かに慎重になりがちだが・・・ロワはいろいろと冒険してもいいと思うんだぜ、もういろいろすごい冒険してるし

108 ◆CruTUZYrlM:2012/09/07(金) 22:36:07 ID:???0
ありがとうございます。
ではこのまま行かせていただきます。

どなたか代理投下のほうをお願いいたします。

109熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6:2012/09/26(水) 07:40:00 ID:???O
大魔王デスタムーアの配下の一匹、デュラン。

彼は実に好戦的な魔物である。
しかしそれはただ戦いが好きなだけではなく、彼は"拮抗した戦い"を特に好んだ。
ヘルクラウドにロッシュ達を自ら招き入れ、ましてや客人として扱い、いざ自分との戦闘に入ろうとすれば敵の体力を回復させ、ロッシュ達と全力で戦えるよう配慮までした程に。


"強い者との戦いこそ我が命の全て"



彼が生きる理由は、勿論自身の主君の為である。
しかし、彼の生きる楽しみはただ一つ、戦いのみである。


       ◆  ◆ 


 ブゥン。

風切り音というには、破壊的すぎる音が顔のすぐ横で破裂する。
その音をすぐそばで聞いたロッシュは、浮かべていた苦笑いをさらに深くした。

 ロッシュによけられ空中で空振る事になったデュランの剣は、そのまま振り落とされ地面を砕いた。
振り落とされるのと同時にその場からロッシュは飛び退いた。
着地と同時に剣を地面へ突き立てる。

「『ジゴスパーク』」

デュランを中心に赤黒い閃光が走る。
閃光が縮小し、次の瞬間には周りの木々を巻き込みながら、耳を塞ぎたくなるような爆発音と共に砂埃が舞う。

110熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6:2012/09/26(水) 07:41:39 ID:???O


砂埃が立ち込め、視界が煙る中ロッシュは苦笑いのまま呟く。

「期待した程……効いてないみたいだね」


ジゴスパーク、それは地獄の雷を放つ究極の技。
放たれた者は最後、ただ跡形もなく焼き尽くされるのみである。

−−−例外を除き。


砂埃が晴れ現れたのは、圧倒的存在感を見せつけながら仁王立ちをする朱色の体。

「……今のは少々ひやりとさせられたぞ。
 さすがは勇者、と言った所か」

「いやいや、そんな笑顔で言われても全く説得力が無いからね?」


デュランの体は、小さな火傷で所々が黒ずんでいたが、ただしそれだけであった。

ロッシュは破邪の剣を構え、デュランへと走り出す。
デュランは笑ったまま動かない。
二メートル程の距離を一瞬で詰めたロッシュの剣はデュランの首を掻ききろうと振り落とされるが、それはデュランの右手により防がれる。
デュランの右手から血が吹き出すが、デュランは笑みを崩さない。

「その程度じゃ無いだろう?」

「……っ!」

剣を受け止められたまま空中で腰をひねり、全力でデュランの顔面に膝蹴りを食らわせる。
右手が剣から離れ、空中に放り出されたのをチャンスとしもう一度同じスタンスで回し蹴りを放つ。

111熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6:2012/09/26(水) 07:44:06 ID:???O
地面に着地後直ぐに剣を構え直し吹き飛んだデュランを追撃する。

「『五月雨剣』」

神速の動きでロッシュが剣を振るう。無数の真空の刃はデュランの体に傷を作り、血が溢れ出る。
五月雨剣から繋いだ一撃はデュランの頭蓋骨を砕く為に渾身の力で振り落とされた。

その一撃もデュランの大剣に防がれた。


金属音が鳴り響き、無防備だったロッシュの腹にデュランの蹴りがめり込み、ロッシュが吹き飛ぶ。
吹き飛んだ事を自覚するより早く吹き飛んだ方向にそびえ立つ大樹に背中を強打し、地面に伏せたロッシュが咳き込む。

その様子をゆっくりと立ち上がりながら眺めるデュランに、追撃する様子は無い。
にやにやと、本当に楽しそうな笑みを浮かべているだけである。


「っは…、……その余裕な笑み……ムカつくなぁ」

「その状態で言われると、かなりの説得力を持つものだな」

あうう。
正直、前に戦った時よりも、僕強くなってるって思ってたんだけどなぁ……。
どうやらこんな時に仲間の大切さを再確認させられたらしい。
……っと、無駄な事を考えてはらんないか


ロッシュはふらふらと立ち上がる。
横腹に添えていた手を剣へと持って行き、三度剣を構える。
その様子を眺めていたデュランも大剣を構え、更に笑みを深くする。

112熟れすぎた毒林檎  ◆YfeB5W12m6:2012/09/26(水) 07:47:08 ID:???O
「立ち上がるか。いやいや、それでこそ愉快な戦いが出来るというものだな。
 私は嬉しいよ、ロッシュ。こうしてまたお前と剣を交える事が」

「僕はもう金輪際勘弁してほしいけどね……!
 僕は平和が好きなんだからさー、君みたいな異常戦闘狂につきまとわれるのって困るんだよね」

「その減らず口がいつまで持つのかも見物だな。」

「ヒュー!
 君みたいなバトルジャンキーでも別の事に興味を示したりするんだねぇ」




ロッシュもデュランも互いに笑みを消すことは無く、示し合わせたように同時に地面を蹴った。
一人は自分の欲望の為に、一人は自分の我が儘の為に。




ただ、自分に忠実に。



【F-8/森/昼】

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:HP10/15、MP微消費、全身打撲、軽度のやけど
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、不明支給品(確認済み×0〜2)
[思考]:デュランを倒す

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP8/10、軽度の火傷、切り傷(小)
[装備]:デュランの剣@DQ6
[道具]:世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、基本支給品
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにカーラと決着をつける。ロッシュとの戦いを楽しむ。
[備考]:ジョーカーの特権として、武器防具没収を受けていません。

113 ◆YfeB5W12m6:2012/09/26(水) 07:48:18 ID:???O
以上で投下終了します。
何かありましたらどうぞ

114第一回放送 ◆HGqzgQ8oUA:2012/10/04(木) 21:00:39 ID:???0
 
 
 ――狭間の世界の空に、どこからともなく霧が広がった。
 
 
「ゲーム開始から六時間が経過した。
 これより、一回目の定時放送を行う」

 霧はやがて、いくつもの髑髏のような模様となって蠢きはじめた。
 まるでそれらの髑髏が、意思を持って声を響かせているかのように。

「自己紹介をさせてもらおう、私の名はアクバー。
 此度の“宴”の進行役を、デスタムーア様に代わって執り行う者である。
 この放送を耳にすることの出来た者全員に、まずはねぎらいの言葉を贈らせてもらおう。
 そしてこれから与える情報は、聞いていなかったでは済まないものだ。
 我が言葉には、しっかりと耳を傾けるのが懸命と言えよう」

 アクバーと名乗った魔物は、皮肉を交えながらも、淡々と話を進めていく。

「先に確認をしておこう。ルールブックを読まない者が、居ないとも限らん。
 この定時放送は、今後も六時間ごとに行われる。
 通知するのはその間の死者と残り人数、そして禁止エリアの位置が主となる。
 その他、伝達する必要がある事項が生じた場合も、ここで通知する。
 禁止エリアは、この放送後より二時間ごとに一エリアずつ施行され、
 選ばれたエリアは以後、その名の通り侵入を禁ずるものである。
 それでもなお侵入を試みたらどうなるかは、愚かな貴様たちでも想像がつくことだろう。
 まあ、試すのは自由だがな。さて……」

 空を舞う髑髏たちが嗤う。
 これより告げられる言葉に、希望はない。
 かといって、絶望に耳をふさぐことも許されてはいない。

「準備はできたか? 本題に入ろう。
 まずは、禁止エリアから読み上げよう。

  二時間後に【G−5】
  四時間後に【E−1】
  そして六時間後に【B−6】だ。

 忘れないように地図にでも書き込んでおくが良い」

115第一回放送 ◆HGqzgQ8oUA:2012/10/04(木) 21:01:11 ID:???0

 アクバーは、あえてここで一つ間をおいた。
 それが参加者たちに記録を取らせる時間を与えるためだとかは、断じてない。
 参加者たちの感じているだろう恐怖や緊張。その香りを楽しみたかったからに過ぎない。

「では次だ。待ちかねたか?
 これより、ゲームの開始から今までに砕かれた命たちの名を読み上げよう。
 
  デボラ
  ゴーレム
  アレル
  ギュメイ将軍
  ハッサン
  エイト
  あきな
  キーファ
  ククール
  ピエール
  イザヤール
  レックス
  サンディ
  エルギオス
  ガボ
  竜王の曾孫

 以上、十六名。残り人数は四十四人となった」

 現実を突きつけられ、これから参加者たちに広がっていくだろう動揺や困惑、絶望たち。
 それらの予感をひしひしと感じて、アクバーはついに破顔した。
 
「ふふふふふ。面白いっ! 実に愉快であるぞっ!
 僅か六時間の間にこれほどの命が砕かれるとはっ!
 これならば、終わりも存外早いものかもしれんな。
 引き続き奮闘し、我々を楽しませてくれたまえ。
 今回の放送は以上だ。ふふふふふ……」

 低く下卑た笑い声とともに、髑髏の霧は晴れていく。
 まるで新たな惨劇の幕が、開けたかのように。


 ――破滅の宴は、続いていく。


【残り44人】

116 ◆HGqzgQ8oUA:2012/10/04(木) 21:03:34 ID:???0
投下終了です。

禁止エリアは、施設や移動ルートを潰さない範囲で適当に振り分けました。
どこか希望の場所がありましたら意見お願いします。

117木漏れ日の森  ◆TUfzs2HSwE:2012/10/26(金) 19:13:42 ID:???0

(エイト、エイト、エイト……!)

涙が止まらない。
荒い呼吸をとめることもできず、必死に胸をおさえながら、ミーティアは無我夢中で森の中を走っていた。
助けようと思ったピサロのことも、傷だらけのヤンガスのことさえ、もはや脳裏には浮かばなかった。
こわかった。
失われた命が引き起こした、命を壊すための爆発が、瀕死で血だらけになってしまった、ヤンガスの姿が。ただひたすらに、ミーティアには怖いと感じられた。

(何をしているの、私は……)

エイトやヤンガスたちの勇気ある戦いを、目の前でずっと見てきたのではないか。
なのに自分は一体どこに向かって走っているのだろう。
逃げているだけだ。足が止まらない。逃げて逃げて、このまま逃げ続ければ、大好きなあの人に会えるんじゃないかと思った。

(エイト……)

彼がいたら。
きっとあの笑顔で、ミーティアを安心させてくれる。そしてあんな怖い戦いであってもどうにかしてくれるんだろう。
彼は誰よりも強かった。どんな困難との戦いも、その勇気と笑顔でどうにかしてきた。
えいと、えいと、狂ったように、姫は叫び続けた。

「あっ……!」

走り疲れた足が、絡まっていた木の枝にひっかかり、ミーティアは顔からずべりと転んでしまう。
恐怖と疲労と、やきついた景色と、人の死と、すべてがもたらす混乱でパニック状態になっていて、もはや立ち上がることもできなかった。
震える体が、ただ愛する近衛兵のすがたを求めて、ぴくりと腕を伸ばす。
その腕に、かすかに、やわらかな木漏れ日が降りそそぐ。
太陽など存在しない世界でも、正午になれば多少は明るくなるらしく、暗い森にはわずかな光がひどく尊い。
空はすぐに暗くなり、どこからともなく霧が広がっていったが、
あのかすかな光の中に、幼馴染の笑顔が見えた気がして、ミーティアはそっと目を閉じた――


「これより、一回目の定時放送を行う」


禍々しい声が響き渡ったのは、そんなときだった。

身体を投げ出したままのミーティアは、はっとする。
戦いを知らないミーティアでも、今からなにが話されようとしているのかはわかる。
急に、体中の芯から、びりびりとした冷気のような緊張感が張り詰める。
一字一句疑いようもなく頭の中に浸透していく。

ゲームの開始から今までに砕かれた命たちの名が呼ばれていく。

それがどういう意味を持つのか、ミーティアは確かにわかっていた。
でも、わからなかった。
たった今、わたしには何が聞こえたんだろう?
凍りついた時間の中で、ただひとつ、彼の名前だけがこだまする。

『エイト』

エイトが死んだ?
嘘。
そんなはずはない。

118木漏れ日の森  ◆TUfzs2HSwE:2012/10/26(金) 19:16:02 ID:???0
そんなはずはない。
それが、放送を聴いたヤンガスの脳裏に浮かんだ言葉だった。
やがてすべての名が読み上げられる。忌まわしい放送が終わりを告げ、広がった闇も霧散した。

「……兄貴……」

ざわめいていた森がしんと沈黙にしずむ。陽の光など差しようもない、暗い森。
はおうのオノが、どさりと突き刺さる。
ヤンガスは、自分の傷も、自分が追いかけなければならない姫君のすがたも、一瞬忘れた。

「くっ……くそぉおおおおおおおぉぉぉおおおおッッッ!!」

野太い声で、喉も裂けよとばかりに吼えた。
激情に身を任せ、何度も地面を殴り、男泣きにふせる。
悔しかった。腹立たしかった。そしてなにより、情けなかった。
兄貴になにがあったのかも、助けるどころか知るすべさえなく、ただその死だけを知らされたのだから。

(兄貴が……エイトの兄貴が、命を賭して死んでったのに、俺は……!)

そうだ。結局、なにができた。
デスタムーアを倒す、その思惑に乗るものは説得する。その目標に近付くことさえできていない。
兄貴の大事な人である姫さえ、危険にさらしてしまった。

「姫さん……!」

そこまで考えて、ようやくヤンガスはミーティア姫のことを思い出した。
はっとする。自分はどれくらいの時間、こうして呆けていたのだろうか。
落ちていたはおうのオノを拾いあげてかつぎ、ヤンガスは厳しいまなざしで前を見つめる。
そうだ。なげいてばかりもいられない。ヤンガスには、やらなければならないことがある。
エイトが志半ばに命を絶たれたなら、エイトが守れなかったものを守るのは、彼を慕ったヤンガスの使命だ。

「兄貴、見ていてくだせえ! あっしは兄貴の分も、この世界を戦いぬくでがす!」

傷の痛みなど、エイトが受けた苦しみを思えば、大したものではない。
負傷をおして、エイトへの変わらぬ思いを力に変えて、ヤンガスは再び走り出した。
大事なものを守るために。そして、光ある世界へ帰るために。



「これは、夢だわ。夢なんだわ……」

見えないはずの木漏れ日が見える。
うつろなまなざしに映る幻想のなかで、あたたかな太陽が、ミーティアのかたわらには降り注いでいる。

「エイトはどこ? エイトを探しにいかなくちゃ。きっとまた、森の中で、泣いてるかもしれないもの……」

ふらつきながらも、立ち上がる。
そうだ、とミーティアは思った。ここは、薄暗く、かすかな木漏れ日の降るトロデーンの森だ。
幼いエイトは、まだトロデーンに来たばかりで、記憶も無いから、きっと迷子になってしまったのだ。
ミーティアが、助けてあげなければいけない。

「行かなくちゃ……エイトが呼んでる……」

夢見る姫はそう言うと、うすく笑って歩き出す。
おぞましい呪いをかけられたときだって、エイトとはいつも夢で会えた。
今回だって、きっと会える。
どんなに辛く、苦しいことがあったとしても――二人は夢の中で、笑い合うことができたのだから。

119木漏れ日の森 状態表  ◆TUfzs2HSwE:2012/10/26(金) 19:16:44 ID:???0
【D-5/森/真昼】

【ミーティア@DQ8】
[状態]:?
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトに会う
[備考]:現状を夢だと思っています。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。仲間と同調者を探し。戦うものは止め、説得する。デスタムーアを倒す。

120 ◆TUfzs2HSwE:2012/10/26(金) 19:17:48 ID:???0
規制なので、代理投下していただけるとありがたいです。
問題などあればどうぞ。

121ハッピー・ギプス  ◆YfeB5W12m6:2012/10/29(月) 00:10:36 ID:???0
空から、それとも虚空から響いた声が止み、この世界を包んでいた霧が一瞬で晴れた。
発表された禁止エリアを鼻歌混じりに地図に書き込む少女は、可愛らしい微笑を浮かべていた。


霧が晴れたとは言え、元々くすんだ色の空から注がれる光に変わりは無い。明るくなるわけでも無ければ、暗くなるわけでも無かった。
ただ、世界は明るくならなくても、少女の心は明るくなる。
万が一の可能性など知りはしないが、兄がやくそくを破っていない、それだけで人を殺せるくらいに嬉しかった。



さて、そんな少女を背に乗せるジャミラスも、同じく笑みを浮かべていた。決して可愛らしくはない。
理由は至って単純、かつて己を滅ぼした勇者一行の一人の名前が飛び込んで来た為である。簡単に言えば「ざまぁwww」と言う事で、ジャミラスとて生物。本能のままに不気味な笑みを浮かべていた。

少女の鼻歌が聞こえて来ると言う事は、彼女の兄はまだ存命だと言う事にままならない。
調子がいい、とジャミラスの笑みは深くなる。
ジャミラスが笑っている事を知っているのかいないのか、背の少女は地図とメモ、魔物さんのサックの中に入れておくねー、と妙に間延びした声を出した。
声音は弾んでいた。

122ハッピー・ギプス  ◆YfeB5W12m6:2012/10/29(月) 00:15:38 ID:???O


だからこそ、気付かなかった。何かに狙われている事などに、気付く筈も無かった。


ふと、ジャミラスのバランスが左に傾く。違和感を感じ、リアとジャミラスが同時に右翼を覗けば、穴が空いていた。


まぁ、とどのつまりこの一人と一匹は、かなり気が緩んでいた。




   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


三度目の正直という事で、ドルマゲスは真空の刃を偶然視界に入った鳥の右翼に向かって放った。
先程まで気絶し、あまつさえ亀甲縛りにされていたドルマゲスだが、気絶から目覚めれば必ず獲物が居るという運の良さはなかなかのものだった。
縄も同様に真空の刃で切り裂いた。自身も少し切り裂いてしまったが。




さて、鳥を炙り今晩の食事にしようか、などと考えるドルマゲス。鳥から視線を外し思考する。色合いからして不味そうな予感がするが、食料は多いに越した事は無い。

悲しいなぁ、と呟き視線を空に戻し臨戦態勢を整えようとした時、鳥は既に真上に迫っていた。
鳥の表情は、予想外に怒りにはまみれていなかった。ただ、静かな表情で爪を振り下ろしてくるだけである。
ドルマゲスは不気味な笑みでそれを迎えた。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

123ハッピー・ギプス  ◆YfeB5W12m6:2012/10/29(月) 00:17:06 ID:???O
ジャミラスが振り上げた爪から、火炎が降り注いだ。まだだ、足りない。穴が空いた翼を羽ばたかせ、炎の海へと飛び込み爪を薙いだ。
薙いだ事により炎が飛び散る。辺り一面が小さく燃え上がった。
まだだ、まだ足りない。焼け焦げた人型など見つからない。見つからないなら死んでいない。死んでいないなら殺すまで。


翼に穴を空けられた。

これはジャミラスにとって一番の侮辱だった。
鳥型の魔物の命、プライド、全て、翼。それを傷つけた。例え表情が静かでも、内心は落ち着いて居られなかった。


「悲しいなぁ、あなたはこれから僕に食べられてしまうというのに、無駄な抵抗をするなんて、あぁ、本当に悲しいなぁ!」

少し、甲高い声が鼓膜に響いた。
どこに隠れていたのか、ぽつりと男はドルマゲスの目の前に現れた。ただただ不気味な笑みだった。
もう一つ不気味な事に、ドルマゲスは三人居た。
高ぶっていた感情が一瞬、停止する。

そんな隙を逃す筈も無く、ドルマゲスABCが突撃して来る。
ドルマゲスAの手にあるワイヤーがキラリと光った後は、一瞬だった。



ドルマゲスAの腹に、小さな短剣が突き刺さっていた。リアはちょっとだけ微笑んでいた。

「あっ、正解だった!」

声音は弾んでいた。



「……………………………………………………………………………………なっ、ぁ?」


背が小さかった事で、リアはジャミラスの背からドルマゲスの腹まで達するまで、気付かれる事は無かった。

ぬらり、と影が現れる。ジャミラスだった。表情は相変わらず冷めている。
俯き始めたドルマゲスの身体を、ジャミラスの拳が、真っ正面から全身全霊の力で殴りつけた。


何かが砕けるような音と共にドルマゲスの身体が後方に吹っ飛んでいった。後に残るのはジャミラスの清々しい顔だけである。


「行くぞ、娘」

静かに告げられ、笑顔で頷いたリアはドルマゲスの返り血を浴びていた。

124ハッピー・ギプス  ◆YfeB5W12m6:2012/10/29(月) 00:18:46 ID:???O
   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


さて、吹っ飛んでいったドルマゲス。

今までに散々、投げられ、縛られ、殴られ、また殴られ、死にかけの彼は、三度目の気絶を味わっていた。





二度ある事は三度ある。
仏に見捨てられるまで、後一回?



【C-4/平原/昼】

【ドルマゲス@DQ8】
[状態]:瀕死、気絶、肋骨折
[装備]:ステンレス鋼ワイヤーロープ@現実
[道具]:なし
[思考]:人間へ復讐(?)

【C-4/空/昼】

【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP8/10、飛行中、右翼に穴(小)
[装備]:なし
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。その後、どちらかが持っていれば剣を確保する。
カインを探しつつ北へ 殺害数をかせぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 どくがのナイフ@DQ7 支給品×2(本人確認済み)
[思考]:魔物さんにお兄ちゃんと一緒に殺してもらうんだ♪
それがダメだったらリアがお兄ちゃんの首輪外してあげるね♪
邪魔するやつは皆殺しだよ♪
お兄ちゃん、もう少しだけ待っててね♪

125 ◆YfeB5W12m6:2012/10/29(月) 00:20:25 ID:???O
以上で投下終了です
問題無ければ、代理投下の方をお願い致します

126 ◆TUfzs2HSwE:2012/10/31(水) 20:03:16 ID:???0
ヤンガスパートのみ
投下後に、ククールに関しての記述が無いのは不自然だと感じたため、
勝手ながら修正させてください


そんなはずはない。
それが、放送を聴いたヤンガスの脳裏に浮かんだ言葉だった。
やがてすべての名が読み上げられる。忌まわしい放送が終わりを告げ、広がった闇も霧散した。

「……兄貴……ククール……」

ざわめいていた森がしんと沈黙にしずむ。陽の光など差しようもない、暗い森。
はおうのオノが、どさりと突き刺さる。
ヤンガスは、自分の傷も、自分が追いかけなければならない姫君のすがたも、一瞬忘れた。

「くっ……くそぉおおおおおおおぉぉぉおおおおッッッ!!」

野太い声で、喉も裂けよとばかりに吼えた。
激情に身を任せ、何度も地面を殴り、男泣きにふせる。
悔しかった。腹立たしかった。そしてなにより、情けなかった。
仲間たちになにがあったのかも、助けるどころか知るすべさえなく、ただその死だけを知らされたのだから。

(兄貴やククールが、命を賭して死んでったのに、俺は……!)

そうだ。結局、なにができた。
デスタムーアを倒す、その思惑に乗るものは説得する。その目標に近付くことさえできていない。
兄貴の大事な人である姫さえ、危険にさらしてしまった。

「姫さん……!」

そこまで考えて、ようやくヤンガスはミーティア姫のことを思い出した。
はっとする。自分はどれくらいの時間、こうして呆けていたのだろうか。
落ちていたはおうのオノを拾いあげてかつぎ、ヤンガスは厳しいまなざしで前を見つめる。
そうだ。なげいてばかりもいられない。ヤンガスには、やらなければならないことがある。
エイトやククールが志半ばに命を絶たれたなら、彼らが守れなかったものを守るのは、彼を慕ったヤンガスの使命だ。

「兄貴、見ていてくだせえ! あっしは兄貴やククールの分も、この世界を戦いぬくでがす!」

傷の痛みなど、彼らが受けた苦しみを思えば、大したものではない。
負傷をおして、慕う兄貴分への変わらぬ思いを力に変えて、ヤンガスは再び走り出した。
大事なものを守るために。そして、光ある世界へ帰るために。

127 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:10:31 ID:???0
本スレにワケアリで投下不可なので、代理投下お願いします。

タイトルは『Who am  I?』

128 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:11:27 ID:???0

かつて、自分は世界を混沌へと陥れたことがある。
そんな自分を打ち倒すという、自己満足という名の蛮勇。
それを奮いに魔王軍へと挑んだ強者の話を、魔王バラモスは部下の魔物から幾度と無く聞いた。

──そして、ある者は鮮血の美酒となり、またある者はその肴となり消えた。
故にバラモスは、正義を声高に唱える連中を実に滑稽と思う。
自分を滅ぼさんとすべく心身を鍛え上げた勇者たちは、全て彼らが憎むべき魔王の贄として捧げられるのだから。
が、たったいま目の前に現れた男に、バラモスは些か異なる感情を抱く。
それは困惑だ。
自分に挑んだ幾多もの愚者の中に、こんな姿をした者が、果たしていただろうか?
バラモスとて知っている、荒んだ街にはこのような無頼漢がひしめくことを。
だがこの魔王の御前に、この妙な風体をした男は突然しゃしゃり出てきた。
今までとはまた違った滑稽さをそこに感じたバラモスは、男の目的を尋ねた。

「……ごろつき風情が、何をしに来た?」
「少々……」

男の腰から、剣が抜かれる。
雷の力を封じられた稲妻の剣が、鞘と擦れて小さく火花を散らした。


「──正義を示しに」


バラモスは、実に滑稽だと思った。
装いはどうあれ久方ぶりの生きが良い食事が、やってきてくれたのだから。


「……」

怯える少女に傷ついた姫君、その二人をいつでも庇える位置に立ち塞がる。
剣を握るその手に力が宿ると、まるで空気でも入れたかのように筋肉が膨れた。
漲る上腕二頭筋。
溢れんばかりの大胸筋。
八房に分かれた腹直筋。
それら全てが、生命の脈動に満たされている。
まるで古代の英雄を象る石像のような筋肉美。
これを遮るのにビロードのマントでは、肌触り含めあまりに繊細。
雄々しく勇ましき筋肉の集合体の前では薄衣に過ぎない。
ましてこの荒れた街並みを今吹き抜けているのは、寂しさに満ちたまるで荒野の風。
当然のようにマントは翻る。
そこから覗くのは、傷と言う名の勇気の証が刻まれた、まさしく漢の肉体。
戦いに赴くには、いささか無謀に見えるかもしれない──だが。

(だが、それがいい)

129 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:13:19 ID:???0
断っておくが別に露出願望が有る、というわけではない。
限界以上に鍛え上げられた肉体を曝け出せば、それは相手の心理を脅かす攻撃に等しい。
防具を捨てることは即ち、危機感を持たせ自らの反射を極限まで引き出す無類の防御となる。
そして肌を晒すことは戦の場に立ち上る熱、空気の流れ、果ては魔力の動きまでもを感じ取ることに繋がるのだ。
故にアリアハンの勇者オルテガは、重装備を敢えて好まない。
むしろ脱ぐ。
守るべきは頭と局部、それだけで充分に過ぎる。
そんな持論を振り翳す稀代の豪傑の瞳は、正義の光を湛え仮面の奥で輝いた。
対するバラモスはにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。


「ここに来たことを、悔やむが良い」


* * *


「あ、ぅ……」
「イタタ……大丈夫ですか?」

跳ね飛ばされて地面に転がったローラが、どうにかこうにか身を起こして震える少女の手を握る。
バラモスの負傷が殊の外色濃かったことが幸いしたか、目立った傷は負わなかった。
顔とドレスが赤土で台無しになった以外は支障無い。
少女の涙で濡れた頬を、ローラは手袋の汚れていない部分でそっと拭った。

「あ、あ……りがとう……」
「ご無事で何よりです」


にこ、と微笑んだその可憐な表情にタバサは思わず頬が熱くなるような感覚を覚える。
同時に、死の恐怖と直面したが故、自身の身体が凍えるように冷えきっていたことにも気づいた。
笑顔の持つ思わぬ作用にタバサは感謝しつつ、ローラの助けを借りて立ち上がった。
だが、危機を微塵も脱していないということに気づいてまた心がきゅっ、と鷲掴みにされたように萎む。
不安に苛まれて仕方がないのだ。
あの怪しい男、果たして味方なのだろうか、と。

「大丈夫……アレフ様とは似ても似つかないけれど、あのお方もきっと勇者なのでしょう」
「え?」

何を言っているんだ、と普段控えめなタバサですら思わず意見を言いそうになった。
アレが勇者なら、酒場や路地裏が勇者でいっぱいになってしまう。

「古い言い伝えで知っています、勇者のみに許された雷を操る力のことを……」
「あっ……」

なるほど確かに先ほど自分たちを庇った攻撃は電撃呪文、勇者の証以外の何物でもない。
彼は兄と同じ勇者なのかもしれない。
あぁぁ、言っててすごい違和感がある。
喉にベホマスライムでも突っかかったみたいな気分だ。

130 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:14:25 ID:???0

「事態は混乱していますが、こうなってはお任せする他ありません」
「……」

二人は、積み上がった瓦礫の陰に身を潜める。
ローラは早くも始まった、あらくれと魔王の睨み合いを見守った。

(それにしても……)

なんて格好なのだろう。
そういう意味でも眼が逸らせなかった。

(申し訳ありません勇者様……ローラははしたない女にございます……ぽっ)

男性の裸胸に多少、頬を赤らめながら。

対してタバサは、混乱の渦中にある思考を落ち着ける意味でも見守った。
どこかへと飛ばされた母の安否と、その真意。
息つく暇も無く自分たちを助けた謎の戦士。
それに、ゲロゲロさんもどうなったのかが気になった。
ごちゃまぜになった思考は、子供の頭には余りある悩みとなる。
だが、見守るだけでその不安が少しだけ軽減されたことは分かっている。
なぜならあの戦士の背中に──

(お父さん)

タバサは、父を重ねた。
全然、まったく、ほんの少しも似てはいないのにだ。

* * *

「!!」

爆心から脱したゲロゲロが最初に眼にしたものは、タバサへと狙いを定めた魔王の姿だった。
この距離では到底間に合わない。
そう思った矢先、突如として現れた謎の影によって彼女の命は救われることとなる。
思わず立ちすくんだゲロゲロの存在は、あちら側からは認識されていないようだ。
対峙からややあって、バラモスの爪と謎の男の剣が激しく交錯したのを眼にする。

「……何者なのだ……?いや、こうしてはおれん!!」


「ホォァアアアァッ!」
「ぐ、なぁっ!?」

互いの刃は激しくぶつかり合い、徐々に距離が離れる。
しかし仮面の男は雄叫びとともに、凄まじい踏み込みでの体当たりを敢行した。
彼を二回りほども上回るバラモスの体躯が思わぬ傾ぐほどの一撃であった。

(おのれ、此奴……!!)

バラモスも、この男の腕が立つことぐらいは予想済みである。
だが、それでも対応しきれない。
まるで底が見えない、常識を遥かに外れている。
この男に恐れは無いのだろうか?
重く早い攻撃は、度重なる戦闘により生じた傷口にひどく響いた。
バラモスは顔を顰め膝を突く。

「ぐ……ッ!」
「私は悪に……容赦せん!!」

131 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:15:10 ID:???0

続けて振り下ろされた稲妻の剣を、バラモスは爪で受ける。
このまま押し切ろうにも、痛む身体は言うことを聞かなかった。
ただ、相手を振り払い距離を離すに留まる。

「貴ッ様ぁぁ……!!」

憤怒の形相を、魔王は浮かべた。
煮え滾る怒りを、業火へと変え口から吐き出す。

「出でよ、爆雷ッ!」

反射的に、剣の刀身に左手を添えて前に突き出した。
稲妻の魔力が炸裂し、イオラ級の爆発を巻き起こす。
炎の幾らかは散らされ、煙が晴れればそこには覆面に焦げ一つつかないままの姿が現された。
バラモスはギリリと奥歯を噛み締めた。

「この魔王バラモスを相手に……やってくれるわッ!」
「……!!」

悪魔の名を宿す爪の刺突が、何本も迫る。
剣を構えて後退することでその攻撃を捌ききった。
しかしその精神に、ほんの僅かな迷いが浮かんでいた。




「バラ、モス?」

失った記憶の湖に、小石を投げ込まれたかのように。
自分の心を、使命感を揺さぶるこの名と、自分は一体どこで出会ったのだろう。
──勇者オルテガは、目の前の敵に迷いを抱えた。
が、立ち止まってはいられない。
ここで倒れれば、少女と姫君を守ることすらできないのだ。

「……でぁっ!!」

凄まじい連続攻撃を掻い潜り、稲妻の剣を振り下ろした。
圧倒的な速度、完全に虚を突いた。
まさに、会心の一撃──

だが。


「!」
「……く、くっくっ……」

剣は、竜巻を孕んだ堅固な盾により止められていた。
なんとも苦々しい顔をした魔物によって。
いや、止めざるを言わなかったと言うべきか。
この男がいかに強くとも。
この状況が、魔王バラモスを屠る絶好の機だとしても。
メガンテの危機がある以上は、決着をつけるのは──

「新手の魔物か!?」
「貴様に助けられるとは思わなかったぞ……」

この、復活の玉を持つ自分一人で無くてはならない。
受け止めた稲妻の剣を打ち払うや否や、ゲロゲロは後ろに槍を突き出した。

132 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:16:41 ID:???0

「ッ、抜かせ!」

だが、バラモスは飛び退いてその攻撃を回避する。
そのまま邪悪な笑いを浮かべ、こちらを指さした。

「さあ、我ら二人の魔王でその男を、あの娘どもを喰ろうてやろうぞ!!それが魔族の本分よ!!」
「なんと面妖な姿……だが、魔王か!ならばどうあっても私は退けぬ!」
「面妖なのはどちらだ?……邪魔立てしないでもらおう!!」

誰もが望まぬ三つ巴となり、剣が、爪が、槍が入り乱れる。
実力伯仲、三者譲らず。
オルテガは、二人の魔王を討たんとし。
ゲロゲロは、仇を討たんと魔王を狙う。
そしてバラモスは、この場の全てを出し抜こうと奮戦した。

──放送の、時間が迫っている。
刻一刻、均衡が崩れる瞬間の足音が、近づいていた。




「ゲロゲロ……駄目!その人と戦わないで!!」
「タバサさん、いけません!」

無事を確認できたと思えば、さらなる激しい戦いが始まってしまった。
引っ込んだ涙が込み上げそうになりながら、タバサは思わず駆け寄りそうになる。
そんな少女の小さな肩を、ローラ姫はつかんで静止した。

「ゲロゲロさんというのは、あの魔物のことなのですか?」
「そう……私のお友達だから……だから!」

ローラはゲロゲロの正体と、彼を友達というタバサにやや面食らった。
なにしろ、アレフガルドでは魔物と人間はかねてから大地を奪い合う敵対している存在。
魔物と友好的に過ごすなど、まるで耳にしたこともなかったからだ。

(そういうことも、大陸の外ではあるのかしら)

──が、この場合はローラの姫という立場が幸いした。
魔物に対しては多少の恐怖はあるが、よくよく考えれば攫われていた間に特に何かをされたわけでもない。
存在そのものが許せず、撲滅に燃えるような行き過ぎた考えには至っていない。
故に、彼女は魔物に対し友好的なタバサを否定することもなかった。

「ともかく、落ち着いて。バラモスを庇ってしまったのも、フローラさんの話と関わりがあるのでしょう」
「あっ……」
「メガンテの腕輪。それは一体、何なのです?」


* * *


(ぐむぅッ!)

エルギオスの仇を討つ為、バラモスを倒さねばならない。
されどタバサたちを守るため、バラモスを殺してはならない。
相反する二つの欲求をとどめながら、屈指の強者の間に割って入らねばならない。
盾でバラモスの攻撃を受け、寄らば突く、と仮面の男を威嚇する。
一刻も早く、彼に真意を伝えなければ。

133 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:17:56 ID:???0

「待ていっ!今、こやつを倒せば貴様も危ういのだ!!」
「妖魔の言葉に傾ける耳は持ちあわせていない!」

駄目だ話が通じない。
もとより、珍妙な格好をしているのだ、まともでは無いのかもしれない。
何より、強い。
対話を求めて隙を見せてしまっては、唯では済むとは思えなかった。
多少の苛立ちを覚えたゲロゲロの牙が噛み締められる。

「どうした……魔族としての本能が疼いているのでは無いか?」
「……!」

対するバラモスは、そんな競り合いを横目にゲロゲロに語りかける。
この魔王めは、神経を逆撫でることに定評があるようだ。

「その男を縊り殺せ!殺戮に悦べ!!それが貴様の本性だろう?!」
「……抜かせっ!!」

ゲロゲロの口から氷の息が吐き出され、地表は白銀に覆われた。
しかし激しい炎が吐きつけられ、すぐにその場を飲み込んでいく。
激しい温度差から、空気中の水分が一気に凝結を始める。
生み出されたのは──濃霧だ。
視界を覆われ、三人の戦況は混乱を極める。
三者全員が、一斉に攻撃の手を休めざるを得ない状況となる。
どちらかが狙ったわけではない、ほんの偶然だ。
戦いの最中に居る者も、それを見守る者も、互いの情報が遮断された。

その、瞬間だ。


「オルテガさんっ!バラモスの動きを封じて!このままだとメガンテが発動してしまう!」



* * *


「──生命と引き換えに、全てを破壊する呪文……」
「それがメガンテ、どのくらいの範囲になるかは分からないけれど、頑張って耐えられる呪文じゃないの……」
「なるほど、それで倒すに倒せないでいる、と」
「うん…………う、ん?」

物陰からすっ、と顔を出したのは妙齢の美女だった。
清楚を絵に書いたような母とはまた方向性が違うが、お化粧もバッチリで綺麗な顔だなあという感想を抱く。
そしてはたと、自分たちが完全に無警戒だったことに気がついた。
ひどく驚いたローラとタバサは、思わず身を寄せ合う。

「立ち聞きなんてしてごめんなさいね。私はルイーダ、オルテガさんと一緒にこの町に来たの」
「お、オルテガさん……?」
「それはあの、いろいろと肌蹴ていらっしゃるあのお方のことですか?」

ローラ姫がそっと手で指し示したのは、人外相手にまともに食らいついていく豪傑の勇姿。
ルイーダは苦笑しながら肯定した。

「ええそうよ……あ、傷を負ってるじゃない。見せて」

ローラ姫の火傷を見て、ルイーダはホイミを唱える。
効きはすこぶる悪いのだが、とりあえず応急処置にはなりそうだ。
痛みは消えた頃合いを見計らい手の光は淡くなり、やがて消える。

134 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:18:45 ID:???0

「これでよし、と。じゃあ、見つからないように隠れていなさい」
「どちらへ?」

すっくと立ち上がったルイーダにローラ姫は疑問を覚える。
予想が当たっていれば、あまりにそれは無謀だ。

「私なりに援護に向かうのよ。オルテガさんがいくら強くっても魔物ニ体の相手じゃ危険だからね」
「ま、まってください!」

タバサがルイーダの服の裾を掴み、引き止める。
怯えは見えるが、その瞳の光は確かに消えていない。
脳裏に浮かんだのは、年端も行かぬその身で戦いの中へと飛び込んでいく、我らが宿主の親友であり、命の恩人。
そして冒険においてのリーダー、アンジェ。
心根の強さも含め、タバサは彼女によく似ていた。
そんな彼女の懇願だからか、ルイーダはすんなりと耳を貸す。

「ゲロゲロは……あの緑の魔物は、味方なの、だから」
「味方?魔物が?」

偶然にも、この場に魔物と歩み寄ることもできるという認識を持っている者はいない。
ローラやオルテガにとっては、魔物は人と相いれぬ存在であるように。
ルイーダも同じく、魔物との友好関係を築いたという話を耳にしたことは無い。
タバサだけが、ゲロゲロに名を与え、友として生きていけると信じているのだ。
この危機的状況においては、突飛な話だった。

「……わかったわ」

あまり事態に余裕もない、一先ずはこの子の言うことを信じて行動する。
もとより、この争いを止めることが目的だ。
敵が少ないというのなら願ったり叶ったりである。

「とにかくあのバラモスの方。あいつを足止めして、戦いを一瞬でも止める」
「だっ、大丈夫なの?」
「ま、このルイーダさんに任せておきなさい」

間に合わせの策と、ほんの少しの勇気。
ろくな装備もないルイーダが今持ち合わせているのは、それだけだった。
だが、こんな理不尽な戦いを止めるといったオルテガの助けとなりたい。
それに、アンジェならばこうするという確信もあった。
無茶をする理由は、充分だ。
──それに。

「とりあえず、涙を拭いておきなさいね?女の子なんだから」

親友がそうであったように、子供は好きなのだ。

霧の立ち込める戦場、ルイーダには全てとは行かないが、理解できる。
盗賊の技能は、鈍っちゃいない。
準備は整い──叫ぶ。

135 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:21:08 ID:???0
* * *

「オルテガさんっ!バラモスの動きを封じて!このままだとメガンテが発動してしまう!」

凛とした声が、霧の中に足を止めた三者の注目を集める。
視界が奪われた今、否が応にもその発言の内容に全員が着目させられた。

(誰だ!?)

ゲロゲロは、新たなる乱入者に困惑する。
フローラでも、ローラ姫でも、ましてタバサでもない。

(オルテガ、という名を言ったからには、奴……この覆面男オルテガの仲間とみるか)

しかしメガンテの事を知っているのならば。
オルテガがその事を知ったのならば。

(今狙うはバラモスのみよッ!)

霧も晴れつつある。
バラモスの無力化を図る、好機は今だ。
大凡の当たりをつけ、ゲロゲロは穂先を向けた。

"これより、一回目の定時放送を……"

同時に、放送が流れだす。
だが失われした記憶を揺り動かすかもしれぬ名の羅列には、今は興味が無い。
ただ、義憤という信念を槍に変え、ゲロゲロは駆ける。


(オルテガ……?)

バラモスは、聞き覚えのあるような名に一瞬の当惑を覚えた。
そう、この名はいつだったか──

(……オルテガ……!!ネクロゴンド防衛網を単独突破した……!!)

姿までは見たことがなかったが、まさかあんな輩だったとは思わなかった。
多くの犠牲を払ったが、火口へと落下してようやくその脅威を絶ったという報告を幾年か前に聞いた。
最重要危険因子と畏れられていたその名を、まさかここで聞こうとは。

「オルテガかッ!!」

今、ここにて最も危険な存在はこいつだったのだ。
惑わされ、揺らぐ魔王など今はどうでも良い。
流れだした死者の名も、全くもって気にならない。
呼ばれて困る名はただひとつ、己の名のみ。
放送を歯牙にもかけぬまま、バラモスは踏み込んだ。

(この機に奴を始末する)

視界が奪われたが、先程までの攻防で距離は測っている。

(一撃で……はらわたを抉り出す!!)

136 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:22:26 ID:???0
これ以上の消耗はできない。
奴らを殲滅し、体を休めなければならない。
バラモスはオルテガの居るであろう方向へと爆発的に加速し──

「!?」

体勢を大きく崩す。
足元、ちょうど右足の膝の下までが、ぽかりと地面に空いた穴に埋もれていた。

* * *

(かかった!)

霧は、ほぼ晴れた。
ルイーダは、策が通ったことを物陰から目視し、思わず拳を固める。
オルテガに脅威を伝え、なおかつバラモスの動きを一瞬でも封じる。
この場にろくな道具も無い今、霧に紛れて拵えた間に合わせの『落とし穴』。
まんまと引っかかってくれたのは、本当に運が良かったとしか言いようが無い。
放送が流れてしまったのは予想外ではあるものの、やむを得ない。
もとより、アンジェとリッカ以外に知った名は見受けられなかったのだ。
聞き取れる範囲で彼女らの安否のみに気を使い、今は最善の策を取るしか無い。

(あとはオルテガさん!)

この隙を、彼が突いてくれれば。
せめて、指輪の嵌まる指を切り離してくれれば。
少なくともバラモスによるメガンテの脅威は失せる。
だが、肝心のオルテガは──


「……」
(どうしたの!?)

走っても、まして歩んですら居ない。
その動きがまるで彫像と化したかのように。
たった三つの音の並びが。
呼ばれた、その名が。
オルテガの心を激しく揺さぶったのだ。

(アレル?)

ぶつ切りの記憶が、暗闇にばら撒かれたかのように脳裏をめぐる。
遠き、旅立ちの日。
都を離れるその背に、残してきたのは。

(ねえ、─めて──て、この子……大──な──で待───の?)

北海の時化よりもなお暗い記憶の暗闇。
オルテガが聞いたその名は、まるで鐘の音が響き渡ったかのように感じられた。

アレル?
アレル……
その名は──

(おまえや、"アレル"のためにも……)

その、遠く、優しかった記憶の断片は。
無敵の勇姿に膝を突かせるほどの力を持っていた。

137 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:23:12 ID:???0


(放送……そうか)

身動きが取れないことに気づいたバラモスは、激しい恥辱を受けたと感じ激昂しかけた。
同時に最大の危機を感じたが、どうやらそれは杞憂となりそうである。

──勇者と囃された男と言えども、所詮は人間。
くだらぬしがらみに自滅するか。

目の前に膝を折る戦士の、なんと無力なことか。
たった一瞬、されど大いなる嘲笑を、バラモスは浮かべた。

「さらばだ、再び業火の餌食となるがよい。オルテガよ……!!」

滾るような炎が口から溢れ出んと揺らめいた。
目の前の男を灰燼と化し、脅威は去る。
その安心は──油断に、変わった。

バラモスの肩口を貫通するように、血染めの髑髏が覗いた。

「ぐぁああアッッ!!」
「……殺気を消さざるを得なかったのが……」

功を奏したか。
そう言い切らぬうちに、どす黒い返り血をゲロゲロは浴びた。
デーモンスピアは、バラモスの左肩に捩じ込まれていた。
命を奪うまでは行かない、しかし戦闘不能に追い込めばそれは勝利だ。
腕の負傷は致命とは言い難い。
しかしチェック・メイトへの布石としては上等である。

「お、のれェェーーーーッ!!」
「ぐ?!!」

焼けたローブが舞い上がると、その下からバラモスの強烈な尾の一撃が放たれる。
魔王たる身には似つかわしく無い、とても粗野で狡い手と言えた。
不意打ち気味にそれを食らったゲロゲロは、槍から手を離してしまう。
バラモスは肩口を抑え、落とし穴から転げるように脱出した。

「貴様らァ……!!貴様らだけは……」

荒い息を抑えぬまま、と血走った目で荒れた町並みを射殺すような瞳で見回した。
感じる気配は四方に及ぶ。
囲まれているにも関わらず、感じているのは危機ではなく相手への殺意のみ。

「ッ!!」
「……バラ、モス……なぜだか私には分からぬが……」

もうひとつ。
逆の肩口に傷が生まれる。
その恐ろしく鋭く疾き太刀筋は、芸術とも評するにふさわしかった。
ゲロゲロの立ち向かう姿が、オルテガの心を再び揺り起こしたのだ。

「貴様に、奇妙な縁と……激しい怒りを感じざるを得ぬ!!覚悟ッ!」
「どい、つも……こいつもがァァァーーーーーーッッ!!!」

138 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:23:40 ID:???0

魔王の巨体が怒りに震えたかと思うと、二の太刀を加えようとしたオルテガが吹き飛ばされる。
体当たりという、かの下級魔物のスライムと同じ攻撃方法を取ったのだ。
その己が行為が、バラモスのプライドをどんなに踏み躙ったことか。
三つ巴は互いに離れ、バラモスは咆哮じみた怒りをぶちまける。

「必ず……必ずや!!地の果てまで追いかけてでも!!はらわたを喰らってくれるわァッ!!!」
「ッ──状況を見るが良い……!今の貴様に未来は無いぞ!!」

ゲロゲロは声を荒らげるものの、正直五分と言ったところだ。
謎の乱入者二人を勘定に入れなければ、残存戦力は己が一人。
なおかつ装備は相手の肉に喰らいこんだままだ。
負傷の度合いを差し引いても、相打ちが良い所とゲロゲロは踏んだ。
しかし退けない。
もう退路は無いのだ。

「よくもmよくもこの魔王バラモスをこうも辱めてくれたな……貴様らには……恐怖をくれてやる!!」

ゲロゲロは警戒する。
よもや、自刃による共倒れを狙っているのであれば、全滅は必至だ。
だが。
魔王の誇り高き矜持が、彼らをの命を──救う道へと転がした。


「この我が!!必ずや貴様らを追い詰めて!!もっとも残酷な死を与えるその時まで……恐怖に慄いているがよいっ──!!」

「!?」



バラモスの姿が消失した。
そう、先ほどのフローラと同じく一瞬の浮遊の後──どこか、彼方へと追放されたのだ。
自らにバシルーラの呪文を浴びせることで。


かくして、町を一つ消失させた、長い長い暴虐の魔王の行進はこれにて一段落する。
だが、払われた犠牲は大きく、生まれた悲しみは深い。
逃げ延び、生き延びたとすればバラモスはまた屍を生むだろう。
全てを忘れた魔王と、全てを失った勇者。
果たして彼らに守れるか。
命を、そして己の心を。
その結末は記憶の虚と同じく、暗闇の中にあり──誰にも、読めない。

139 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 02:24:36 ID:???0




【G-3/絶望の町 屋外/真昼】

【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失 HP3/5 軽度の火傷
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:???
[装備]:山彦の帽子@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。
    ゲロゲロと共に行く

【ローラ@DQ1】
[状態]:???
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感

【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP8/10 MP 残り19ポイント 記憶喪失 奇妙な虚無感
[装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9
[道具]:基本支給品
[思考]:正義の心の赴くままに、主催者たちやマーダーと断固戦う。
     記憶を取り戻したい。
 アレル、バラモスという名前に、ひどく心当たりがある。
[備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。

【ルイーダ@DQ9】
[状態]:健康 MP微消費 手が泥だらけ
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:オルテガとともにバラモスと戦う。
      アンジェとリッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。

※光の剣@DQ2がエルギオスの死体付近にあります


【???/???/真昼】


【バラモス@DQ3】
[状態]:全身にダメージ(大)左肩に重症 右肩に貫通傷
[装備]:サタンネイル@DQ9、メガンテの腕輪@DQ5 デーモンスピア@DQ6(刺さっている)
[道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2
[思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く フローラと絶望の町に居た者どもは必ず追い詰めて殺す
[備考]:本編死亡後。

140 ◆2UPLrrGWK6:2012/11/06(火) 21:29:05 ID:???0
代理投下まことにありがとうございました、
細かい修正までしていただき申し訳ない。

141金魚の寿命と幸福論  ◆YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 14:34:21 ID:???O
焼けつくような痛みが、身体中を巡っている。痛覚が刺激され続ける。
女は、薄汚れた琥珀の髪をまだらにちらつかせ、足を引きずりながら歩いている。
生きているのが、不思議なほどのケガだった。腹には穴があけられ、そのうえから炎で炙られ、それでも女は歩みをとめない。


頭が、くらくらする。血がたりていないのかもしれない。
女の息は荒い。誰がみてもあきらかだった。女は、もうながくはない。

まともに働かない頭では、放送の内容すらか霞がかってインプットされていく。でも、弟の名前は聞こえなかった。これは、絶対だと断言できた。


サックの中で宝玉が、人知れず輝く。女の意志は、本物だ。


(三人じゃ、たりないわ。たった、三人じゃ、たりないの)


ひゅー、ひゅーと女の口から息がもれていく。皮膚がただれていても、髪がけがれようとも、その身の美しさは損なわれていない女には、とても似合わない音。
それでもやはり、女は美しかったのだ。

142金魚の寿命と幸福論   ◆YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 14:35:42 ID:???O



陳腐で使い古された言葉ではあるが、やはり愛すべき家族の為ならば、人は大抵なんだって出来るものである、とミレーユは思う。
それを信じるのがミレーユだからこそ、それの意味は奥深い。
幼い頃に弟テリーと引き離され、ミレーユはあまり綺麗とは言えない道を歩んで来た。奴隷から解放されても、子供一人、それも女である彼女を救ってくれる人間なんてそう居ない。居たとしても、それこそ本当に"けがらわしい"ものである。
しかしそれでも、ミレーユは生きてきた。果たすべき目的があるのだ。
だからこそ、テリーとの再開は運命といって違いないものだった。
今まで幸薄だった彼女に対する、これもまた陳腐ながらも、神様からの贈り物。

姉らしいことなんて、なに一つとして出来なかった。盲信だと言われても、間違いだと言われても、もう善悪などに興味は無い。
善悪などという、人の意志の建前にすぎない概念など視界には映らない。
テリーを守る。
それをミレーユは正しい事だとは思わない。
なんてことはない、それはただのミレーユの意志であるだけなのだ。









ふらり、女の体が前のめりに倒れる。
死ねないのに、逃げる為の労力がそれを邪魔する。
傷口が熱い。
血はもう、流れていない。

143金魚の寿命と幸福論   ◆YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 14:36:44 ID:???O
ミレーユが絶望する。流れ出る程の血すら、もう自らの身体には残っていない。それは死の宣告と同等、覚悟はあるのに身体がそれに順応しない。
瞼が重い。痛みすら麻痺しているので、まるで睡眠に誘うように瞼を開く事を許さない。
視界が黒く塗りつぶされていく。

頭の中に巡るのは、テリーの事。死ねない 死ねない死ねない 死ねない 死ねない 死ねない 死ねない 死ねない………………


身体中から力が抜けていく。
どうしようもなく、抗えなかった。





【ミレーユ@DQ6 死 ──







「まだよ」

そう呟いて女は、立ち上がった。






本来、立ち上がる事など出来る筈が無いミレーユが立ち上がったのは、ただ一つ、諦めなかった気力によるものだった。くじけぬ心も影響したのか、ミレーユの瞳は未だに輝きを失わない。


───とはいえ


───立てた所で、それは死を先延ばしにしただけ、よね


解っている。気力だけでは、死そのものには抗えない。それでも、ミレーユはまだ死ねない、死ぬのは自分が許さない。
しかし、もう呪文を唱える体力すら残っていない。
ならば、何で抗うか?
──物理的に、抗うしかない


ミレーユは最後の力で三つのサックをぶちまける。散らばった様々な支給品、その中に一つ、細長く丸まった紙があった。

144金魚の寿命と幸福論  ◆YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 14:37:46 ID:???O
それを戸惑う事なく手にし、紐を解き紙を勢いよく延ばす。
二人(一人と一匹)を殺し、奪い取った際に、これの意味を記したメモは確認していた。


ずらずらと文字が並ぶ紙の上に、ミレーユの血が零れる。
瞬間、紙が光り出す。それ程まぶしくはない、包み込むような暖かい光。


変身の巻物。
特定の魔物を指定し、それに姿を変える効力を持つ。

このままでは、遅かれ早かれ死んでしまう。それならば、例え異形のものになろうが、生存出来る確率が高い方を選ぶ。
それでも、恐ろしくはあった。
こんな状態だ、ひょっとしたら意識を保てずに暴走してしまうかもしれない。



光に包まれたミレーユの身体が変化していく。不思議と、違和感は感じない。
数メートルはある巨体に、背中から伸びていく白い翼。


砲口。


空気が振動し、踏み出した足の下、地面がひび割れる。
すうぅ、とそれが大きく息を吸い込む。
ともすれば喚き声とすら思える叫びと共に吐き出された激しい炎が、辺り一面を焼き尽くす。



「ウオオォオオォォアアアァアァァァァア!」


とある世界では、人類を助け、またある世界では種族の王、また別の世界では神と称えられる、それすなわち、ドラゴン。



引き裂く、焼き尽くす、踏み潰す。誰であろうとも、誰であろうとも。
ミレーユの意識はおぼろけだった。いつ途切れても、不思議は無い。それでも、ただ一つだけ、異常な程の強い想いだけが残る。



(テリー、の、ため、に、)

ドラゴンがその巨体を、自らが作った火炎の海へと進める。
(ま、え、すすまな、いと)
その翼には、悲しい姉の想いを抱いて、ドラゴンは進む。

145金魚の寿命と幸福論  ◆YfeB5W12m6:2012/11/08(木) 14:41:25 ID:???O

【D-8/草原/真昼】

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/5、内臓損壊、下半身やけど、竜化
[装備]:くじけぬこころ@DQ6
[道具]:雷鳴の剣@DQ6
[思考]:テリーを生き残らせるために皆殺し
[備考]:変身の巻物の効果で竜化しています。持続時間は不明。

※D-8にミレーユ、ククール、ピエールの支給品が放置されています

146 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:10:10 ID:???0
投下します

147マイフレンズ 1/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:10:48 ID:???0
 私が先行すれば、今度こそ道を間違えるはずもないだろう。
 と、ミネアはアリーナの前を進むことを選んだ。
 方針そのものは正しかった。
 アリーナは大人しく、ミネアの後ろをてくてくとついてきてくれていた。
 唯一の誤算は、アリーナの通った道を戻ってしまったことだろう。
 森に差し掛かったあたりで、「あ、ここからならわかる!」などと言うが早いか、
 アリーナはミネアをぴゅんと追い越して先に行ってしまったのだ。
 来た道を戻るだけ。
 さすがにそれくらいはアリーナでもできたので、道を正す必要こそなかったものの
 ともすれば野生児とも見紛うアリーナの歩みは、ミネアからすれば高速移動のようなものだ。
 はぐれないようについていくためには、慣れない森の中を力の限り駆け抜けるほかなかった。

「あ、ここだわ。あたしとアンジェが出会ったのが、ここ」
「ぜぇぜぇ……そ、そう……ですか……ぜぇぜぇ」

 そうして、森の開けた井戸の前についた頃――。
 息も絶え絶えに、枝葉によってマントで隠し切れなかった柔肌にいくつかの生傷を作った、
 かわいそうなミネアの姿がそこにあった。

 そのありさまを見て、さすがにアリーナもまたやってしまったと気付いたのか、何度となく頭を下げた。
 ミネアは既に怒る気力も失って、てのひらを見せて制すと、ぺたりとへたり込んだ。
 ちょっと待ってて、とアリーナは再びロープを落として井戸へと潜る。
 中に残されていた水筒の一本に素早く水を汲み、一口、味見してから飛ぶようにミネアの側へと戻る。
 横に座ってそれを差し出すと、ミネアはお礼もそこそこにくいっと飲み干して、大きく息を吐いた。

「……ふう。さすがに疲れたわ」
「ほんっとにごめんね。さっき注意されたばかりだったのに」
「まあ、今回は私の体力不足が原因ですから」

 ミネアが勇者やその仲間たちと、旅をしてきた期間は決して短くない。
 前線に立つことも一度や二度ではなかったから、最低限の体力は持っているつもりだった。
 が、姉のマーニャのように毎夜ステージに立つような、体を資本とする仕事をしてきたわけでなければ
 目の前のアリーナのように、武術を高め、そのために体を作ってきたわけでもない。
 ミネアは占い師という、どちらかといえばインドアに属する仕事を生業とする娘である。
 彼女たち本物のアスリートたちの基礎体力と比べれば、その差は歴然である。
 仕方のないことではあるのだが、ミネアはそれを自責の範疇だと捉えていた。

 ようやくミネアの息が整ってきた頃。
 アリーナが珍しく神妙な面持ちで何かを言い淀んでいるのに気付いた。
 どうしたのと促すと、彼女は恐る恐る、それを口にした。

「……ねえ、ミネア。どうしてこんなに私の無茶に付き合ってくれてるの?
 本当はマーニャのこととか、探しに行きたいんじゃないの?」

148マイフレンズ 2/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:11:19 ID:???0

 ミネアは思わず目を丸くした。
 これまで自由奔放に駆け回ってきた彼女から、そんな言葉が飛んでくるとは思っていなかったからだ。

「……確かに、姉さんのことを探したくないといえば、うそになりますけど」

 姉のマーニャの消息が不安であったのは、確かだ。
 アンジェやアリーナの想定以上の賢さの低さやらなにやらで後回しにせざるを得なかっただけで、
 可能であるならば、仲間集めもほどほどに姉との合流を最優先にしたかったのは間違いではない。
 けれど。

「もし私が友達をほっぽりだして、姉さん探しに奔走したとして。
 そうして無事に探し当てたとして、姉さんは喜んでくれないだろうと思うんです。
 なんでそんなことをしたの!って、きっと怒るんじゃないかなって、そう思うんです」

 ミネアはミネアの中に在る、マーニャのイメージを膨らませた。

 欲望だとか温泉だとか、いかにも姉さんが寄り付きそうな施設を浮かべる。
 絶望だとか牢獄だとか、いかにも姉さんが寄り付かなさそうな施設を浮かべる。
 姉さんはどこに行きそうか、どこに居そうか想像する。
 けれども必ず姉さんは、そのたびにそういう推理をぶっ壊して現れて、こう言うのだ。

 ――いい、ミネア。そういう『あたしならどうしてる?』なんてのはそんなに重要じゃないの。
 まずはあたしたちの友達を助けなさい。あんたがあたしを探すのは、それからでいいわ!

 ミネアは、そんな姉のイメージに従っているだけだった。

「もともと、姉さんの居場所がわかっているわけでもありませんからね。
 色々と考えはしましたけど、もしかしたらあっさり牢獄の町で見つかるかもしれません。
 そうでなくても仲間を増やせば、誰かが姉さんの手がかりを持っているかもしれませんし
 お互い生きていれば、いつかは……って、聞いてます?」
「ぐへへ、友達かぁ」

 語るミネアの前には、何やらブキミな笑顔を浮かべているアリーナがいて。
 もしかしたら相当恥ずかしいことを言ったのではないかと、ミネアは照れを隠して呟いた。

「そんなに変なこと言いました?」
「ううん、そうじゃない、うれしいの」

 そう言って、アリーナは両手を胸に当ててこう言った。

「私、ずっと友達がほしかったから」

149マイフレンズ 3/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:11:58 ID:???0
 
 
 ○


 サントハイムの王女であるアリーナは、その身分ゆえに、たくさんの人々と関わってきた。
 他国の国王や王妃に謁見する機会は少なくなく、時には同世代の王子や王女と触れ合うことも何度かあった。
 だが、そんなものは国交としての人付き合いに過ぎない。
 同世代の同じ身分の者同士ではあったが、アリーナと彼や彼女は、友人である前に国の代表であったのだ。

 王城内に、アリーナと同世代の娘がいなかったわけではない。
 しかしそれは、例えば召使いのような、彼女とは身分の差のあるものばかりであった。
 王女であるアリーナがいかに気兼ねなく付き合おうと言い寄ってみても、召使い側が遠慮しないはずもなく。
 たまに遠慮なく話してくれる子は、すぐにたしなめられて居なくなったり、態度を改めてしまったり。
 心を許しあえる友達にまで至ることは、なかなかできずにいた。

 だからアリーナは、城を出ることにしたのだ。

 友達らしい友達ができないのは、サントハイム王女という肩書きがあるからいけないのではないか。
 旅の武術家としてでも新たな生活をはじめれば、何かが変わるのではないか。
 一人の少女として、新たな人生を歩んでみよう……そう考えたのだ。

「でも、なんだかんだ、私は王女という肩書きに頼ってしまうことが多かったな。
 はじまりからして、クリフトとブライがついてきてくれたのもそうだし
 私を名乗ってたメイっていう子を助けたときも、『本物は私!』って気持ちが強かったしね。
 結局、武術大会にも王女として出場しちゃったから、注目が集まっちゃってお忍びの旅は全部おじゃん。
 まあ、それからはそれどころじゃなくなったから、あんまり気にしてなかったんだけど……」

 だからこそ、嬉しかった。
 サントハイムの国民みんなが消失して、不安とともに当てのない旅を続けて。
 その最中にクリフトまでもが病に伏して。
 ギリギリのところで気張っていたあの頃に、手を差し伸べ仲間に入れてくれたソフィアたちの存在が。
 同世代の、身分なんて気にせず付き合ってくれる彼女たちの存在が。

「やっと友達ができたって喜んでいたんだけど……あるとき急に怖くなったの。
 私だけが一方的に友達だと思ってたらどうしようって。
 ソフィアもミネアもマーニャも、私のことをたまたま導かれただけの仲間だとしか思ってなかったらって。
 言いだせなかった、ずっと」

 ミネアは、黙ってそれを聞いていた。
 どこか恐れを感じたようなアリーナの姿に、ミネアは覚えがある。
 時折不安そうにしていたあの目は、てっきりサントハイムの行く末を案じてのものだとばかり思っていた。
 内に彼女が抱えていたのはそれよりもっと小さく、しかしそれゆえに大きな問題であったのだ。

「だからミネアが私のことを友達だと思っててくれたのがわかって、本当によかった。
 ちっちゃな夢が、今、かなった気分よ」

150マイフレンズ 4/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:13:15 ID:???0

 そう言うアリーナの瞳には、ほんの少し涙が浮かんでいて。
 ミネアはそれまでの怒りを忘れて、アリーナの頭をそっと撫でて呟いた。

「もっと早く伝えられたらよかったね……私と姉さんはもちろん、
 きっとソフィアさんだって、あなたを友達だと思っているはずですよ」
「そっか、よかったあ」

 ミネアとて、他人事ではない話であった。
 父親を殺され、姉妹二人きりでの生活は明日を迎えるのが手一杯で、友達を作る余裕なんてなかった。
 いや、作ろうとしなかったと言う方が正しいかもしれない。
 姉妹が抱き、心の拠り所としてきたのはいつだって父親を殺したバルザックへの復讐心。
 もし、他に拠り所を見つけてしまったとき、それに安心してしまったとき。
 復讐心が薄れ、なくなってしまうのではないかと、それを何よりも恐れていたから。

 あの日。
 復讐だけを糧に進んだ冒険の果てに、バルザックへの復讐を遂げたとき。
 姉妹の手を取り共に喜んでくれたのが、ソフィアとアリーナの二人であった。
 あのときから、姉妹にとって彼女たちはかけがえのない友達に。
 そして新たな拠り所となっていったのだから。

『ゲーム開始から六時間が経過した――』

 放送が流れる。
 ミネアとアリーナは手を取り合いながら、彼女たちのたいせつな名前が呼ばれないことを、祈った。


 ○


 果たして、彼女たちのたいせつな名前が呼ばれることはなかった。
 ひとまずはよかったと言えるはずだった。
 しかし二人は、青ざめた顔を見合わせていた。

「サンディって……あの子よね?」

 アリーナが呟いたその名前こそが、その原因である。
 禁止エリアの予定地と、死者の名前に入れたチェックを確認して、ミネアは呆然と南へと視線を向けた。
 つい数時間前に別行動をとり、南へと下ったアルスとアンジェとその親友サンディ。
 うち、もっとも戦闘からは遠い存在であったはずの妖精の名だけが呼ばれていた。
 アルスとアンジェが呼ばれていないことには安堵したが、それがかえって謎を呼んでくる。

(もし戦いに敗れたのなら、アルスさんやアンジェさんの名も呼ばれているはずです。
 サンディさんだけが呼ばれたということは……)

 ケースはいくつか考えられた。
 サンディが命を懸けて二人を逃がし、アルスとアンジェは失意と共に逃走している可能性。
 不意を討たれてサンディがまず殺され、アルスとアンジェが今も危機に瀕している可能性。
 どちらにせよ、今、二人が悲しみと共にあることは想像するに難くない。
 そうでない可能性があるとすれば……ああなった場合や、まさかのこうなった場合も?
 などとあれこれ考え込んでいると、アリーナが動いた。

151マイフレンズ 5/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:14:15 ID:???0

「ねえ、ミネア。私――」

 彼女のその先に続く言葉を、ミネアはすぐに予測することができた。

「アンジェたちとも、ちゃんと友達になりたい。だから、戻ろう!」

 心情としては、ミネアもアリーナと全く同じことを考えていた。
 チームを分けて、それぞれに仲間を勧誘する。数時間前に立てたこの作戦は効率では一番だ。
 が、それらのチームが個別に全滅してしまっては元も子もない。
 アルスとアンジェの行き先は、少なくとも方角は分かっている。
 どこにいるとも知れぬマーニャやまだ見ぬ仲間を探すよりは、確かに仲間へと繋がる行動に思える。

(これで牢獄の町に姉さんやソフィアさんがいたりたら悔やみきれませんが……)

 しかしこれを是とすることは、これまでに数時間かけてしてきた移動を、無駄にすることでもある。
 南へ行き、北へと戻り、ただ同じエリアを往復してきただけ。
 仲間を増やしたわけでも、有益な情報を得たわけでもなく、ミネアたちはこの六時間ほぼ何もしていない。
 何か始まるかもしれない牢獄の町まで、やっとあと少しのところまで近付けたところだったのだから。

「そうですね、分かりました。戻りましょう」

 しばし悩んで、結局、ミネアはアリーナの提案を承諾した。
 牢獄の町は、禁止エリアに囲まれない限り、もうしばらく逃げることはない。
 一方で、助けを求めているかもしれない仲間の声を拾えるのは、きっと今だけなのだから。

 ミネアの言葉を聴くが早いか、アリーナの顔全体に笑顔が広がった。

「よおし、そうと決まれば、さっそく出発よ!」

 話が決まるや否や、アリーナは立ち上がり、屈伸をはじめた。
 ミネアもやや遅れて、立ち上がる。
 ぱんぱんと、地面につけていた身体の砂を払おうとして、思い出す。

「ええ、ですがその前に、一つお願いがあります」
「どうしたの? そんな、あらたまって」

 こほんと、一つ咳払いをしてミネアはきわめて真剣にそれを訴えた。

「いい加減、服、着させてください!」

 アリーナは、屈んだ姿勢のまま固まって、きょとんとミネアのほうを見た。

「な、何を言うかと思ったら……そんなにイヤだったの? マントでもダメだった?」
「当たり前です! 見てくださいこの生傷を! 痕になったらどうすればいいんです?」

 そう言ってマントをややたくしあげたミネアの両足に引かれたいくつもの線を見て
 さしものアリーナも「ああ……」と納得せざるを得なかった。

「これからまた森を通るワケだし……仕方ないかぁ。
 じゃあミネアが着替えてるうちに、私はもう少し水を汲んでおくね。
 井戸の中に水筒がもう少しあったと思うから。
 アンジェたちがどうなってるか分からないし、持っていったほうがいいよね?」
「ええ、お願いします」

152マイフレンズ 6/6 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:15:17 ID:???0

 みずぎミネア、いいと思ったのにな〜、と口を尖らせながらアリーナは井戸へと降りていく。
 いそいそと服を取り出しながら、ミネアは笑った。
 同じようなやり取りあったはずなのに、今までよりずっと打ち解けられたような気がしていたから。

「まっててねーアンジェ! すぐに私たちが飛んでいくからねー! 全・速・力でー!」

 井戸の中から反響して聞こえたアリーナの叫びに、今度はミネアが固まった。

(――ああ、そっか。またアリーナさんに合わせて走るのよね、そうよね……)

 ミネアは早くも今しがたした判断を、ほんの少しだけ後悔しそうになっていた。


【B-4/井戸/真昼】

【ミネア@DQ4】
[状態]:疲労(小)
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。 アリーナと共にアンジェたちと合流

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる、ミネアと共にアンジェたちと合流

153 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:15:59 ID:???0
投下終わりです

154 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:17:04 ID:???0
あ、代理お願いします
1レスくらいは自力でできるんですけど、投下となると詰まっちゃうっぽいので

155ただ一匹の名無しだ:2012/11/10(土) 02:20:30 ID:???0
代理してきました。

156 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/10(土) 02:25:37 ID:???0
ありがとうございましたー

157夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 07:55:35 ID:???O

「…………ここ、は……」

自然に口から言葉が流れ出た。 井戸へと飛び込み暗闇を抜けた先は、忘れる筈もない、忘れられる筈もない、薄暗い部屋──デスタムーアによって、悪趣味な宴の開催が宣言された、あの部屋だった。
見ればマリベルも、井戸を落ちている最中は騒がしく声をあげていたというのに、辿り着いた場所がどこか気付いたのか、息を飲んだ様子が窺えた。

ろくな灯りがない部屋の中、テリーがキョロキョロと部屋を見渡す。薄暗い為、部屋の構造全てが見えたわけではないが、確認する限りはチャモロと青い服を着た男の死体は無くなっていた。血の匂いも、全く感じかった。処理、されたのだろうか、と考えつつ足を一歩踏み出し、何かを踏みつけてしまった感覚。
テリーの足の下で転がっている、ホンダラ。


げっ……とマリベルが声をあげる。
あぁ、そういえばこいつも井戸に落ちたんだったか。正直、あの女とこの場所の印象が凄まじく、忘れていた。
酔っ払って感覚が鈍っているのか、ホンダラは踏まれたのにも関わらずうぇ?と情けない声をあげるだけだった。


……とりあえず、ほっとこう……


二人が同じ思いを抱いた時、ホンダラの懐で何かが光っている事にテリーが気付く。

158夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 07:57:29 ID:???O
ホンダラを転がし、それを半ば奪い取るに近い形で取り上げる。どこかで見た事のある、黄金の宝玉だった。


「真実のオーブ…………?」


牢獄の街に投獄されていた大賢者が作り出した、まやかしを打ち破るというオーブ。
これがこのホンダラのもとにあったという事は、これはホンダラの支給品なのだろうか?
だが今そんな事より気になるのは、これが光を帯びている事である。


「……あら、綺麗な宝玉じゃない」


落ち着きを取り戻したらしいマリベルが、真実のオーブをテリーの手からかすめ取る。おい、返せとテリーが口に出そとした時、禍々しい声が空気を振動させた。



「──ゲーム開始から六時間が経過した ──これより、一回目の定時放送を行う」



テリーとマリベルの動きが硬直する。放送の主の自己紹介もほどほどに(どこかで聞いたことのある名前だった)、禁止エリアが発表され──そして、ある意味ではお待ちかねだった死者の発表が続く。
次々と知らない名前が並んでいく中、一人だけ見知った名前が呼ばれた時、一瞬テリーの息が止まった。

159夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 07:59:01 ID:???O
──ハッサン、死んだのか

悲しいことだった。……悲しい、ことだったのだが、これといって実感が湧いてこない。
共に旅をした仲間が死んだのだ、悲しくないわけはない。事実、悲しいという感情は浮かんでいる。だが、それだけだった。喚くわけでもなく、泣くわけでもなく、ただ、悲しい。

こんなに浅いものでいいものなのかと思ったが意外と、人の死というものはそんなものなのかもしれないな、とまだ並べられていく名前を聞いていた時、後方でこつん、と何かが落ちた音がした。

振り向けば輝かしいオーブが暗闇に転がっており、それを手にしていた筈のマリベルは蒼白とまではいかなくとも、困惑したような──驚いたような顔をしていた。



「キ、ーファ」

呟いて

「……キー、ファ」

呟いたマリベルが、ほんの一瞬だけ息を潜めて、そして息を大きく吸い、そして






「あんのバカァァァァァァァァァァァァ!」
叫んだ。

耳をつんざくような悲鳴に、一瞬放送の内容も、未だに放送が流れているという事実も忘れそうになる。はぁ、はぁ、と肩を上下させ息を吐くマリベルは、キッ、と鋭く視線を光らせて、もう一度息を吸い込む。




「キーファのバカッ、バカッ、バカ王子!また勝手に居なくなって、本っっっっ当にどうしようもないバカッ!
 散々に文句を言ってやろうって思ってたのに、どうして聞かないでさっさと死んじゃうのよ!
  アタシや、アルスになーんの断りもなく───なに勝手に野垂れ死んでんのよ!!」




再び居なくなってしまったキーファが、許せなくて、許したくなくて、悲しくて、くしゃくしゃに顔を歪めて、マリベルは叫ぶ。
呼ばれた名前に、もう一つ見知ったものがあったのには気付いていた。そしてそれが怒りと悲しみを加速させる。

160夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:00:20 ID:???O
マリベルは気づかないが、放送は既に終わっており、辺りを包んでいた嫌な気も無くなっていた。




「か、って、に…………っ!」

薄暗い部屋の中、俯いたマリベルの表情は伺えない。泣いているのかもしれないし、ただ純粋に怒っているだけなのかもしれない。
そんなマリベルに対し、かける言葉が浮かばないテリーは、拾った真実のオーブを眺める。
気のせいかそれは最初にホンダラの懐から見つけた時よりも、強い光を放っている気がする。そして、なによりも───熱い。


「っ!」


手で持つのも辛い温度になり、再び真実のオーブが転がる。ただ違うのは、真実のオーブの光がかなりの速度で増していることだ。
収集がつかなくなった光が、部屋中を包み、視界を白で埋めていく。
流石にこんな状況ではテリーもマリベルも動きを止めるしかなく、放心していれば目も開けていれない眩しさに到達して──












────ゴポッ……

光が収まった頃には、水の中だった。

161夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:02:07 ID:???O
先程までいた部屋の跡形はなく、この現象を引き起こしたであろう真実のオーブすら無く、たった今、何が起きたかすらわからずに三人は水の中へ放り出されていた。
うっすらと上の方から光が漏れているのが確認出来るので、それほど深い場所ではないらしい。マリベルに視線だけで上がるぞ、という合図をおくり、息苦しさで目覚めたらしいホンダラの腕を引いてテリーが進む。
状況を理解出来ていないホンダラが暴れてただでさえ辛い体力がどんどんと減っていく。

それでもなんとか水の中から這い出てみれば、変わらない、何も変わらない、嫌な空の色をしたはざまの世界が映り込んだ。遅れてマリベルも上がってくる。何度か咳込み、深く深呼吸したマリベルがテリーに問いかける。

「ここって……あのじいさんが作った世界よね?」
「あぁ、間違いなくはざまの世界だな」


はざまの世界?とマリベルが頭をかしげる。この世界の名称だ、と小さく答え、テリーは先程自分たちが這い上がった小さな湖を覗き込む。


「……しかし、一体なんなんだ。いきなり湖に移動するなんて」

「まったくよ!おっかげで服がびっしょ濡れ、あーっ気持ち悪い!」

「…………それには同意だな」

「でも、なんでこんな所に飛ばされているの?テリー、わか」

「俺は知らないぞ。スタート地点が湖の底にでもあったんじゃないか?」


疲れている体に、水を吸った服というのは体中にアンクルを背負っている気分である。立っていることすら億劫になり、帽子を外してドサッとテリーが座り込む。
服の裾を絞りながらもぶつぶつと文句を呟くマリベルには、先程の辛そうな様子は感じられない。理解不能の現象が起こり、そちらを優先しているだけだということを解ってはいるのだが、今は寧ろそのマシンガンの如くの勢いに安心出来る。

162夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:04:37 ID:???O
慣れとは恐ろしいものだ、とテリーはマリベルに悟られないように苦笑いを浮かべる。


「あーもう、本当気持ち悪いわっ!せめて移動させるにしても、もっと場所があるでしょ、……っていうか、ここ、どこなの?」

「地図には湖は2つあるな。でも……ここから山が見えるって事は、ここの湖である可能性が高い」


テリーがびしょびしょになった地図の真ん中辺りを指差す。それを見たマリベルが顔をしかめ、大分離れた所に来ちゃったみたいねと呟いた。

「もう、それもこれもアンタが勝手な行動ばっかしたからよ!」

高飛車な態度でテリーを指差し、マリベルは言う。それに対しテリーは一度だけため息をついただけで何も言わなかった。そんなテリーの態度に、マリベルも思う所はあったが、疲労が溜まっている様子を見て、言葉を飲み込む。

なんだかんだで結構テリーには助けられている、それにこれ以上疲れられて危険に晒されるというのも御免だ。そう、言わないのは自分の為、別にアンタの心配してるわけじゃないんだからとマリベルが心の中で呟いた頃。




「ブワァーーーークショィッ!!」

163夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:06:32 ID:???O
盛大なくしゃみが、二人の鼓膜を打った。
何事だ、と二人が音がした方向を見れば──唇を紫色に染め、カタカタと身を震わせるオッサンもといホンダラが、何かを言いたそうに二人を睨みつけていた。

「な、な、な、な、なに、にに、が、ど、どど、どうなっ、てん、だぁ!?」


今の今まで酔いつぶれて寝ていたホンダラは、状況を把握出来ていなかった。
息苦しさに目を覚ましてみたら、いきなりの水の中。混乱していれば急な力で引っ張られ、いざ上がってみれば二人は自分を忘れて話を進めていく。虚しいし、悲しいし、なにより、寒い。寒すぎる。




あっ、とテリーが声をあげる。あぁ、そういえばこいつも居たんだったか。正直、この状況に混乱していて、忘れていた。

164夜の女王のアリア  ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:08:15 ID:???O
【D-4/草原/真昼】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費少、びしょぬれ
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康、MP微消費、びしょぬれ
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファ、ガボの死にショック。ホンダラは保留。

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:健康、びしょぬれ、混乱、寒い
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:な、な、一体なにがおきてんだぁ〜!?
    






















スタート地点。
光が無い場所で、光続けるものが一つ。
きらきら、きらきら、水滴が光を反射する。
きらきら、きらきら、血塗れた場所には似合わない美しさで、光続ける。


きらきら、きらきら。

165 ◆YfeB5W12m6:2012/11/16(金) 08:09:30 ID:???O
投下終了です。
規制中の為、よろしければ代理投下をお願いします

166対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:45:12 ID:???0
「キラーマジンガの能力を、知っている限りで話しておくね」

 歩きながら行われた情報交換の中で、バーバラが伝えた情報は大まかに二つ。
 一つ、その装甲は、すべての呪文を反射するということ。
 二つ、その一撃は、鍛えた戦士であっても手痛いものだということ。
 バーバラもビアンカも、得意とするのは呪文を用いた戦闘。
 決して前線に立つのは得意ではない。
 そしてリッカに至っては、そもそも戦力として換算できない。
 そんな女性たちがキラーマジンガの前に立つには、いささか荷が重過ぎる。論外といっていい。
 必然的に、キラーマジンガと正面から戦うことは、アレフ一人に任せることになった。

 四人で戦えばなんとかなるかもしれない。
 そんなバーバラの目論見は少しばかり外れた形となり、大丈夫なのと不安を見せる。
 しかしアレフはひとり気力を充実させ、どどんと胸を張った。

「なあに、麗しい女性に見られているほうが、かえって気合が入るというものですよ」

 そんな気合だけでは、とバーバラは異を唱えようとしたが、ビアンカとリッカはアレフを後押しする。
 なにせ、彼女たちは彼のその言葉に偽りがないことを、既にその目で見知っているからである。
 結局、他に手だてがあるわけでもないので、バーバラもその言葉に従うこととなり。
 アレフ一人を前に出すことを前提とした、対キラーマジンガの作戦が検討された。

 放送が流れたのは、ちょうどそれがまとまったころであった。


 ○


「レックスくん、デボラさん、ピエールまで……」

 目もとが子どものころのリュカにそっくりで、ほほえましく思ったレックス。
 滝の洞窟の冒険を助けてくれた、リュカのたいせつな仲間の一匹、ピエール。
 ともにリュカの妻の座を争った、エキセントリックなフローラの姉、デボラ。
 リュカは息子と仲間を。フローラは、たった一人の姉を。
 このわずかばかりの間に失ってしまった。
 二人が無事であったことは、ビアンカにとっては喜ばしいことだった。
 けれど……。
 たいせつな家族を失った二人のことを思って、ビアンカは大きく肩を落とした。

167対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:46:11 ID:???0

「そう、救ってあげられなかったのね――」

 キラーマジンガのような犠牲者を生む存在を確認していた以上は。
 少なからず《救済》の取りこぼしが出てしまうのは、やむをえないことだとは思っていた。
 ならばせめて、かつての仲間くらいは自らの手で。などとは思っていたのだが。
 思い通りになるわけなんかなかった。
 世界は、絶望にまみれているのだから。
 かつての仲間――ハッサンを含む、十六もの名前を悼んで、バーバラは静かに空を見上げた。

「十六人……そんなに……!」

 リッカに近しいものたちは、幸運にも名前を呼ばれることは無かった。
 アンジェとルイーダは、今もどこかでこの現状に抗っているのだろう。
 いつか再会したとき、彼女たちにいつもどおりを提供するのは、戦いに関われないリッカの責務だ。
 そここそが、私の戦場なのだから。
 あらためてそれを決意して、リッカはぐっと両手に力を込めた。

 そしてアレフは、一人静かに剣を抜き、身構えた。
 いくつか女性らしき名は呼ばれたが、ローラ姫さえ含まれていないなら問題はない。
 そうして意識をいち早く外へと向けられたのが、功を奏した。

 殺気は感じられなかった。
 しかし、空気の質が変わったのを、はっきりと知覚した。
 それは気配遮断を得意とするアレフだからこそ見抜けた、直感のようなものだったのかもしれない。

「みなさん、下がってください。――やつが、居ます」

 張り詰めた空気に気付いた誰かが、ぐっと息を呑んだ。指示に従い、誰からともなく後退する。
 やや遅れて、金属の擦れる機械の駆動音が聞こえ始めた。

「もしこの先を通りたくば、この私を倒していくがいい――」

 殺戮の魔神が、一同に迫る。
 アレフが力強く地を蹴って、戦いが始まった。


 ○

168対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:46:51 ID:???0

 尾に備えたビッグボウガンに、次々に矢を装填し射出する。
 キラーマジンガはそれらを高く打ち上げることで、空から矢の雨を降らせた。
 動きを封じる牽制。その隙に踏み込もうとする機械兵の戦略をアレフは読みきっていた。
 持ち前の俊敏さで矢の雨をひらひらとかわして、アレフは一気に敵前へと肉薄した。

「女性の足に傷をつけるようなゴミカスにゃ、お仕置きが必要だなコラアァァァァァッ!!」

 少しばかり下品な、しかし気合十分の掛け声一閃。
 再び弓を引き絞るより早くアレフの剣が振り下ろされる。
 想定をやや上回るスピード。
 キラーマジンガは行動を変更し、それを右手の剣でそれを受け止めた。
 その瞬間、

「『バイキルト』!」

 後方から唱えられた呪文によって、アレフの剣の力が倍増する。
 バイキルトで得た攻撃力に、ルカナンソードの斬りつけたものの装甲を削る能力が重なって。
 ばきり、とキラーマジンガの持つバスタードソードを真っ二つに叩き折った。
 このままさらなる追撃を加えるべく、アレフはさらに剣を振りかぶる。
 キラーマジンガは柄だけとなったバスタードソードを投げ捨てると、星砕きを両手持ち。
 腰部を回転させてフルスイングを仕掛けた。
 直撃すれば軽鎧などやすやすとぶち抜き、アレフの体を砕いたであろうその一撃は、

「『スカラ』!」

 再び後方から唱えられた呪文によって、その威力を半減する。
 アレフはそうして捌く余裕のできた攻撃を受け流し、反撃のための勢いへと変換。
 お返しとばかり体を回転させると、

「オラアァァアッ!!」
「――!」

 がら空きとなったキラーマジンガの顔面めがけ、遠心力の乗った強烈なまわしげりを放った。
 直撃。キラーマジンガは宙を舞い、そのまま地面へと打ち落とされた。

169対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:47:37 ID:???0
「ふうー……、お見事なサポートです、お嬢さまがた」
「やった!」
「かっこいいー!」
「キラーマジンガの装甲は、呪文を反射してしまう。
 けれど、アレフさんに効果を与える呪文ならその限りじゃない!
 あなたの言うとおりだったわね、バーバラちゃん」

 ビアンカが唱えたバイキルトは、アレフを対象とする攻撃力強化呪文。
 バーバラの唱えたスカラは、アレフを対象とする守備力強化呪文。
 キラーマジンガに攻撃呪文や補助呪文は通じないが、これならば呪文でも戦いに加わることができる。
 アレフたった一人が前衛でも、キラーマジンガを打倒できる可能性を模索した作戦がこれだった。

「作戦名『オレに任せろ』といったところですか。
 ……黄色い声援とともに戦うのは、なんとも至福の喜びです」

 キラーマジンガは、地面に沈んだまま動かない。
 気を配りながら、女性陣に微笑みを返しつつ、アレフは考える。
 女性に手を出す悪党は懲らしめて無力化する。命までは奪わない。
 キラーマジンガの脅威に相対してなお、アレフはそう考え続けてきた、しかし。

(できるのか、果たして……?)

 先ほどの斬り合いで、彼我の力量差は補助呪文や声援によるモチベーションの影響込みでほぼ互角。
 正面からの単純な一対一なら遅れを取りかねない難敵であるということを、肌で痛感していた。
 だが単純な実力差は問題ではない。
 問題は、キラーマジンガはただの生物とは異なるカラクリや機械と呼ばれる魔物であるという所だ。

 アレフは今までにたくさんの種類の魔物たちと刃や拳を交えてきた。
 死した人間の死体を利用した、がいこつのようなゾンビの魔物のような。
 大きな巨像に命が宿った、ゴーレムのような石造りの魔物のような。
 生物と言えるのか疑問を抱くような、不気味な魔物と出会ったこともある。
 それでも彼らからは、『心』が感じられた。
 だから反省させることができた。「分からせる」ことができた。
 しかし、このキラーマジンガからは、そういったものがまるで感じられなかった。

 果たして、このキラーマジンガにも『心』はあるのだろうか?
 このままさらに叩くことで、反省させて、分からせることができるのだろうか?

170対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:48:29 ID:???0
 未知の奇妙な強敵を目の前にして、アレフの頭に一瞬、迷いのようなものがよぎった。
 それはほんの一瞬のことだった。
 しかし、その一瞬を、キラーマジンガは見逃さなかった。

 起き上がりざま、キラーマジンガは折れて転がっていた大剣の刃を掴み、投擲した。
 真正面に飛んできたそれらを、アレフは難なく弾き返した。
 安い不意打ちだな、そう思った瞬間。アレフの頬を矢が掠めて通り過ぎて、悪寒が走る。
 危なかったからではない。
 アレフの後ろには、戦況を見守っていた女性たちがいるからだ――!

「しまっ――!」
「きゃああああっ!」

 ざくりと、何かが切り裂かれる音が響いた。


 彼女がその矢に気付けたのは、この中にあって一人、完全な非戦闘員であったからだ。
 バーバラは、念のために自分たちにかけるためのスクルトの呪文を詠唱していた。
 ビアンカは、今のうちに何か役立つアイテムを作れないかと、カマエルと相談していた。
 前だけをずっと見ていたリッカだけが、いち早く、それに気付くことができた。
 声を上げる暇は無く、リッカは精一杯に手を伸ばし、とん、とビアンカを射線の外に押し出した。

 矢は、そうして押し出されたビアンカの位置に残された、リッカの右腕を深々と貫いた。

(ッ……、これじゃあ、料理がっ――……)

 撃たれたことによる大きな衝撃に、リッカはたまらず吹き飛ばされる。
 遅れて来た激しい痛みに悲鳴をあげながら、
 リッカはこれから仕事ができなくなることを、一番恐れていた。


 ○

171対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:50:31 ID:???0

「……――てめェ何してくれてんじゃコラアアアアァァッッ!」

 ぷつんと、頭の中で何かが切れる音がしたのが分かった。
 アレフは敵への怒りと、それ以上に膨らむ己への怒りに震えながら吶喊した。

 油断があった。
 いくつもの補助呪文を受け、黄色い声援なんかももらっちゃって、いい気になって。
 余計なことを考えていたせいで、見落とした。
 絶対に指一本触れさせてはならない存在が、すぐ後ろにいることを、見落としていた。
 その結果が、これだ。
 声援はすでに失われた。代わりに響くのは、リッカの痛みに苦しむ悲鳴だけ。
 よりにもよって、必ず守ると誓って見せた彼女を今、俺は泣かせたのだ!
 かつてない気迫でキラーマジンガを圧倒しながら、アレフは叫ぶ。

「私はこのままこいつを引き離しにかかります!
 二人はそのまま、リッカちゃんを連れて、先へ!」
「…………。わかった、待ってるから!」
「ありがとうございます! 必ず、必ずや帰ります! どうか、ご無事で!」

 バーバラの返事を聞くが早いか、アレフは全身を持ってキラーマジンガを拘束する。
 せめてこれ以上は彼女たちに目を向けさせないよう、自分だけを相手にさせるよう。
 いっぺんの隙も与えぬままに攻撃を仕掛け続ける。
 そうして少しずつ、彼らは彼女たちから遠ざかっていった。


 ○


 吹き飛ばされたリッカには、バーバラが手当てに向かっていた。
 激しい痛みに喘いでいた、その声が徐々に小さくなっていく。

 リッカが吹き飛んだ際に、外れてこぼれたあるくんです2を拾い上げて、ビアンカはぞくりと身震いした。
 本来なら、撃たれていたのは私のはずだった。
 いや、狙われたのは胸か腹か、そのあたりだった。もっと酷いことになっていたに違いない。
 彼女の勇気には、機転には、感謝してもしきれない。

 アレフはまだ戦っている。
 あれだけあったはずの安心感は反転し、今は彼も倒されるのではという、不安へと変わっていた。
 彼に唱えてあげられる補助呪文はバイキルトひとつだけ。
 それをかけてしまった以上は、他に力になれることはもう無い。
 ……本当にそうなのだろうか?
 ビアンカは、一縷の望みに賭けて、カマエルへと声をかけていた。

172対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:51:11 ID:???0
「人の願いとか、想いとか。そういうのって錬金に反映されると思う?」
「残念ながら、それらを成分としてはわたくしは認識できません。ですが……。
 おじょう様たちのそういう気持ちこそが、『大成功』のために必要なものなのかもしれません」
「そう、錬金ってフクザツね。……けど、それならやってみる価値はあるかもしれないわ」

 思い起こしたのは、再会を果たした山奥の村で、夜通し語った冒険譚のうちのひとつだ。
 リュカとビアンカが十数年もの間、離れ離れになっていたように、
 アルカパにて二人で奪還したベビーパンサーの子――プックルともまた、離れ離れになっていた。
 十余年ぶりに再会したプックルは、すっかり立派なキラーパンサーへと成長していた。
 野性にかえってなお、その優しい心を忘れず、人を襲うことはしてこなかったものの、
 人々が田畑を耕し育てた野菜やらを勝手に食べてしまっただとかで、退治の依頼が出されていた。
 その依頼を請けたのが、偶然にも大人になったリュカだった。
 お互いに成長したリュカとプックルは、はじめはお互いをそうだと分からなかったのだという。

「そんなとき、僕とプックルを結び付けてくれたのが、これだったんだよ」

 そういって、うとうとと舟をこぐプックルのたてがみを撫でる。
 そこに結わえられていたのが、かつて幼少時に渡したビアンカのリボンだった。

「けれど、不思議なのはここからだ。
 ビアンカとの思い出のあるプックルが、このリボンを見て僕らを思い出してくれたのは、わかる。
 だけど、この子だけじゃない、特に何の思い入れもないはずのスラリンとかホイミンたちまで
 このリボンをつけると僕に懐いてくれたり、言うことを聞いてくれたんだ。
 おかげで今では、君のリボンは仲間たちの間で引っ張りだこでね――」

 なによそれ、とそのときは半信半疑で、一笑に付したけれど。
 彼がそう言ったのだから、それはきっとほんとうのことなのかもしれない。
 賭けてみる価値はある。

「カマエル。錬金をはじめたいんだけど、いいかしら」
「何なりとお申し付けくださいませ」

 ビアンカは、ふくろからさまようよろいを取り出して、釜に入れる。
 次に、リッカのあるくんですをきゅっと握って、これも釜へと入れた。
 最後に自らの髪を結わえていたリボンを解いて――せいいっぱいの願いを込めて、放り込んだ。

「それでは、錬金させていただきます……」

 ことことこと、ことことこと――。


 ――もしかしたら、君のリボンは君のやさしい心を魔物たちに教えてくれる、
 そんな不思議なアイテムなのかもしれないね。


 できあがるまでの数秒間。
 そういって、リュカの見せてくれたやさしい顔を、ビアンカは思い出していた。

 そして。

173対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:52:03 ID:???0
 

 ○


 このまま《救って》あげるべきだったのだろうかと、バーバラは思案する。
 リッカは眠っている。
 痛みに苦しむよりはよいだろうと、ゆめみのはなの香りを嗅がせたためだ。

 今、ここでリッカを《救済》するのは簡単だった。
 右腕に刺さったままの矢を乱暴に引き抜いて、代わりにどこかに突き刺してやればそれでお終いだ。
 が、そうしたならビアンカはどうするだろう。
 いくら言い訳を取り繕おうと、敵対は避けられない。
 そうして私たちが揉め始めたら、前線のアレフもその異常を察知し、戦いに影響が出るかもしれない。
 まだ早い。
 キラーマジンガが近くにいる以上は、その脅威がある程度薄れたのを確認してから事に移りたい。
 それまでは、協力しているフリを続けておく必要がある。

 アレフが女性にまつわることでその実力を倍増させるのは、なるほどよくわかった。
 ならば引き続きその爆発力に賭けてみることにしよう。
 現状の最善策は、「私たちが待っている」というエサを眼前にちらつかせることで、
 このままアレフがキラーマジンガを撃退できるように、さらに煽ててあげることだ。

 そのためにバーバラは、これまでもアレフの行動を褒めちぎってきた。
 これみよがしに「かっこいいー!」だの「待ってるから!」だのと期待に満ちた笑顔を向けてみたりして。
 狙い通り、アレフはひたすらテンションを上げて、キラーマジンガを攻め立てている。
 牢獄の町で待ってる――その言葉にウソはない。待っているのが何かを伝えていないだけ。
 騙しているわけじゃ、ない。

 リッカを背負って、立ち上がる。
 全身に痛みが走ったが、音を上げている時間はない。きっと、資格だって。
 ビアンカにも声をかけようと彼女のほうを見て。
 信じられないような光景を目の当たりにした。

「す、すばらしい……これはっ!」

 カマエルがふたを鳴らして、感動にむせび泣いている。
 どうやら上手くいったようだと、ビアンカはほっと息を吐いた。
 そこにいたのは、さまようよろい。
 ただの装備品だったさまようよろいは、ビアンカのリボンで自意識を、あるくんですで足を得て。

 ――ビアンカによって『心』を宿した、さまようよろいができた!

174対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:52:38 ID:???0
 リッカを背負ったバーバラが「何なの?」と当然とも言える疑問の声をあげる中で。
 生まれたばかりの騎士は、ビアンカを前に跪くと、指示を仰いだ。

 ビアンカは、そんな頼もしい騎士の手をとって。
 命令ではなく、お願いをする。

「サイモン、お願い。アレフさんを、助けに行ってあげて!」
「御意」

 サイモンと名付けられた騎士は、右手を胸に当て頷くと、走り出した。
 心無き魔物に、一人立ち向かう勇者の力となるために。


 ○


 彼女たちの姿が小さくなったのを確認して、アレフは足を止めた。
 けっこうな距離は稼いた。
 これならばキラーマジンガがいつ振り向き矢を放っても、もう彼女たちまでは届かないはずだ。

「さあ、ここまで来たらもうレディたちには手出しはできねえしさせねえ。
 ここからが本当の勝負ってヤツだな、タイマンだ、タイマン」

 ビアンカたちから距離が離れ、既に補助呪文の効果は消えつつある。
 が、それを補ってあまりある闘志と気迫が今のアレフにはあった。
 立て続けのラッシュに息を切らしながらも、気迫はひとつも衰えていない。
 それどころか、かえって増しているようにも見えた。

 規格外。
 キラーマジンガはアレフの気迫をそう登録・修正した。
 人間たちは『感情』や『精神力』などと呼ばれる内なるエネルギーによって、
 時に戦闘結果に多大な影響を与えることがあることを情報としては認識している。
 しかし今、対峙している男はそれによる揺れ幅として想定されたものをはるかに超越している。
 キラーマジンガはその根拠を分析することができずにいた。

 そんな機械兵の横腹に、強烈な体当たりが直撃した。

「――――!!」
「何だ……?」

 大きく体勢を崩し、ひるんだキラーマジンガ。事態に混乱したのはアレフも同じだ。
 ここからタイマンだと息巻いていたところに、突然の乱入者。
 それは敵なのか、味方なのか?
 戸惑いの中にあるアレフに向かって、サイモンは静かに頷くと、

「ビアンカに頼まれた」

 一言だけそう告げて、そのままアレフの横に立ち、キラーマジンガへと向きあった。

175対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:53:15 ID:???0
 兜のたてがみに結われた見覚えのあるリボンが、ひらりと揺れる。

(これは間違いなくビアンカさんのリボン!
 よく見れば、鎧のつくりもビアンカさんの支給品と同じもの!
 なぜ動いているのかは分からないが、これはビアンカさんのとっておきか何かか!)

 アレフはそれを見て、彼が味方なのだと直感的に理解した。
 そして同時に、"デキるヤツ"なのだとも、理解した。

「心強い、が、負けていられないな。
 このままじゃ彼女の騎士(ナイト)の座を奪われてしまうじゃあないか」

 ニヒルに笑いながらアレフは剣を構え、キラーマジンガに対峙する。
 キラーマジンガも体勢を整えると、二人をターゲットと認識して、身構えた。

「行くぞ、カラクリ野郎。
 帰る場所のある男たちはどこまでも強くなれるってことを、これからみっちり教えてやる!」


【A-4/平原/真昼】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康 リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町でアレフとサイモンを待つ
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 睡眠中
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口はふさがっている)
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り8個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
    牢獄の町へ向かう。その後ビアンカ・リッカ・アレフを殺す
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。

176対魔神戦用意!  ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:53:39 ID:???0
【B-5/平原/真昼】

【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:魔力消費(小) バイキルト&スカラ(いずれも効果小)、テンション高
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2 サイモン(さまようよろい)@DQ5(?)
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
    とりあえず女性はすべて保護する。キラーマジンガを分からせて一刻も早く女性たちのところへ戻る。

【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:HP8/10 胸部にダメージ
[装備]:星砕き@DQ9、ビッグボウガン(鉄の矢×15)@DQ5 
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(武器以外×0〜1)
    アレルの不明支給品(0〜2) ギュメイの不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する

※バスタードソード@DQ3は半ばから折られ、A-4の平原に放置されました。

【サイモン(さまようよろい)@DQ5(?)】
「さまよう鎧@DQ5」+「あるくんです2@現実」+「ビアンカのリボン@DQ5」の錬金で誕生。
リボンの力でやさしい心(=かしこさ)を得て、自力であるくんです。
兜のたてがみにあたる部分にビアンカのリボンが結われているのが普通の種と違う特徴。

177 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 20:54:20 ID:???0
投下終わりです。
問題がなければ、代理投下よろしくお願いします。

178ただ一匹の名無しだ:2012/11/16(金) 21:09:50 ID:???O
自分は問題ないと思いますが
代理投下してきても大丈夫でしょうか

179ただ一匹の名無しだ:2012/11/16(金) 21:11:07 ID:???0
僕も大丈夫だと思います!

180 ◆HGqzgQ8oUA:2012/11/16(金) 21:49:19 ID:???0
代理投下ありがとうございましたー

181 ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:33:04 ID:???0
アイラの話です

182彼がのこしていったもの ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:34:29 ID:???0


世界が、光った。


窓から入り込んできた眩い光で、アイラは目を開けた。
続く爆音と爆風で、地面が揺れる。
一体何が起こったのだろうかと体を起こそうとするが、
(痛いッ!)
ベッドに倒れこんでしまった。
大分休んだことで体力はまあまあ回復したものの、
どうやらあの金髪の女性の技を一人で全て受け止めた代償は少なくは無かったらしい。
全く無謀なことをしたわね、と自嘲のこもった溜息をつき、
状況を把握しようとベッドの脇にある窓枠に手を掛ける。
体を動かそうと力を入れる度に皮膚が引きつり激痛が走る、が
それでも何とか窓の高さまで顔を上げることができた。


「え…?」


街の一角が、燃えていた。

そしてあまりにも鋭い―殺気。

戦いが、起きていた。

183彼がのこしていったもの ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:35:01 ID:???0


行動を共にしていたカイン、自分を背に乗せて運んでくれたあのもょもとという男。
二人とも、この部屋には居ない。
(まさか…)
頭に浮かんだ最悪の事態を、アイラはぶんぶんと頭を振って打ち消す。
実際にこの目で見たわけではないのだ、希望は少しでも多いほうが良い。
だが、二人が戦いに巻き込まれていないとは限らない。
もしものときの為に、味方は多いほうが良いだろう。
痛む体を奮い立たせ、壁に手を掛け立ち上がり、自分の持ち物以外にも何か使える物は無いかと
部屋を見渡したアイラの視線の先に、
"それ"はあった。

机の上に置いてある、二つ折りにしたそれは、
(手紙、かしら…?)

184彼がのこしていったもの ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:37:02 ID:???0

その手紙は、戦いが始まる少し前に、一人の男が書き残していったもの。
別に書かなくてもいいじゃん、とカインには言われたのだが、本人がすっきりしなかったのか
なんだかんだ言って書き上げたものだった。

アイラはゆっくりと机に近づき、椅子に座ると、
その手紙を手に取った。


外の悲劇を、知ることも無く。




【E-8/欲望の町/午後】

【アイラ@DQ7】
[状態]:HP5/8、全身やけど
[装備]:モスバーグ M500(4/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(回復道具以外)
[思考]:ゲームを破壊する できるだけ早くカインの援護に向かう
[備考]:スーパースターを経験済み

※もょもとの手紙の内容については、後の書き手さんにお任せします。

185彼がのこしていったもの ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:38:17 ID:???0
投下終了です。
問題ありませんでしたら、
代理投下お願いします。

186 ◆MC/hQyxhm.:2013/02/19(火) 18:44:35 ID:???0
代理投下ありがとうごさいました!

187 夢は何も騙らない  ◆YfeB5W12m6:2013/02/20(水) 23:42:09 ID:???0



「…………みずみずしい、というか。ふにゃけているというか」

「まずい!!素直にまずいのよ!!な、に、こ、れ、っ!!!」


ホンダラと別れた後、もう少しだけ休憩しようと木の根元に座り、そういえば食事を取ってなかったなとテリーとマリベルは支給されたパンを取り出した―――二人の表情は揃って歪んだ。……まあ予想はついていたがその予想を裏切らない結果だった。
テリーがサックをひっくり返す。どばどばと落ちてきたものはどれもこれも水に濡れて見るも悲惨な姿となっていた。
特に紙類……地図はまだその役割を果たしていたが、メモ用紙のような無地紙は文字がにじみ乾き始めていて、掴んだそばから破け落ちた。
名簿も、くしゃくしゃでよくわからない紙と化していた。
ここまでだといっそ清々しい。


「そもそもこんな殺し合いの場に贅沢なパンを支給するとは思えないが……まあ、そうだな。普通にまずい」

「ぐちゃぐちゃしてるわ……こんなのなら食べないほうがマシかもしれないっていうか食べたくない!」


もくもくと食事を続けるテリーは、マリベルの文句に眉一つ動かさない。
面倒くさい奴だと思いつつ、マリベルへ右手を差し出す。
その行為を理解できなかったマリベルが浮かべたクエスチョンマークに、食べないならよこせと無言で訴える。
別に間接的にいただきたいとかそんな変態的趣向は全くなく、結局前衛であるテリーにはどんなものであれ食事をして体力を取り戻したかった。
とは言えマリベルも半日近くうろうろさせられ、なるべく思い出したくないようなことが多々あり、疲れていることは事実である。
盛大な間を空け、結局食べるとだけ短く言い今度はハムスターのようにパンを口へと突っ込んだ。
その様子を横目で見ていたテリーは面倒くさい奴だなと心の中で再び呟いた。

「……ねぇ、ひょっとして残りのパンもこんな感じ?」

「次に食べる時は乾いてるかもしれないが―――水を含んだパンの味にそう大差はないだろうよ」

「……………………」

188 夢は何も騙らない  ◆YfeB5W12m6:2013/02/20(水) 23:43:00 ID:???0
◇◇




「さて……これからどうするか、だな。いつまでもここでぐだぐだしてる訳にはいかないしな……」

とても満足とは言えない食事を終え、これからの行動をどうするべきか考える。
現在位置はちょうど狭間の世界の真ん中あたり。
北と西にそれぞれ町があり、そして南にはおそらくリンリンが徘徊している。
わざわざ危険を侵す必要はないし勝てる見込みもない。南への選択肢を消去する。
東には町すらない。つまりそれだけ危険人物に遭遇する可能性が低いということだが、裏を返せば人そのものと出会う確立も低いということになる。
剣を探すのにしろこの世界から脱出するにしろどうするのにも人と出会わなければ進まない。
無駄に体力を使う可能性が高くデメリットの方が上―――東もなし。


「牢獄の町か欲望の町か……?」

「ああ……近いのは欲望の街だがな。どうするか」

「こういうときにコイントスとかで決めれたら楽なんだけど。どっちの方がメリットがあるの?」

「どっちも同じようなものだ」


それこそマリベルが言ったようにコイントスなどでたらめに決めたって問題はないようなことだ。
なにせ状況をそれぞれの町の状況を把握―――というか知らない以上、別にどう考えてもわからない問題だ。
とはいえ乱闘になっている可能性もないわけではなく、結局未来に対する”もし”は常に想定しておかなければならなかった。
それが余計に頭を悩ませる。

はあ。
本日幾度目かのため息をつく。これから先もため息をつくのだろうと考え、またため息をつきそうになり無理やり飲み込む。
まあため息のカウントが増えるのは生きていれば、の話だが―――死ぬ気はない。
毒々しい色をした空を眺める。
眺めたところで空の色は色は変わらない。夢から覚めるように二度瞬きをしてみても青空には変わらない。
夢だと逃げたくなるのは人の本能か―――ハッサンとチャモロが死んだ夢。それはそれで嫌な物だ。
夢なんて言い換えれば欲望を綺麗に言っただけにすぎないとテリーは思う。
ならば、この世界は。デスタムーアがその字の通り支配するこの世界はデスタムーアの欲望を具現化したものか。
―――殺し合わせる夢? どんな歪んだ性癖だ。

………………殺し合わせる、夢? なぜそんな欲望を持つ必要がある?

殺された復讐? 単純にこの殺戮を眺めていたかった? 殺しあえばどうなるか、というただの知的好奇心?
どれもこれもこんなに大量に集めてまで知るべき事なのだろうか。
そうだ、そう―――そもそもデスタムーアにとってこの殺戮はどんなメリットがあるというのか。
復活したデスタムーアが以前より強大な力を持っていたのは、チャモロの攻撃に無傷だったことからもわかる。だが、これだけの参加者を集め、もし、もし全員がデスタムーアを倒そうという考えを持ったとしたならば。
例えこの首輪があろうとも、その場合は全員を殺して終わらせたのか?
ありえない。そんなことしてしまえば苦労も全て水の泡だ。
集められた者たちのなかにはかつて自らを打ち滅ぼした者達もいるというのに、なぜあそこまで余裕を持っていられる。
殺された恐怖がそうそう簡単に消えるものか―――?

189 夢は何も騙らない  ◆YfeB5W12m6:2013/02/20(水) 23:43:26 ID:???0


頭を振り、テリーは立ち上がる。考えてもわかりえないことだ。他人の気持ち、感情など理解しきれる筈もない。
マリベルのほうは向かずに欲望の町への方角を向き、東だと言う。
案の定マリベルは顔をしかめた。そのまなざしが語るのはたった一つ。
遠い。牢獄の町への距離と比べれば二倍近く歩くことになる。
もちろん、そんなことはテリーもわかっている。だが、その上でテリーはまるで独り言のように問いかけた。

「…………会いたいか?」

ホンダラと。


ピシッと音を立てマリベルが固まる。
見送ったのだから覚えている。あのおっさんが向かったのは紛れもなく北。



据わった目をしたマリベルの表情により、進路は決定した。



【D-4/湖のそば/午後】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費微小
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休憩中。井戸の底については保留。仲間と合流する。剣が欲しい。欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休憩中。仲間を探す。欲望の町へ

190 ◆YfeB5W12m6:2013/02/20(水) 23:44:10 ID:???0
投下終了です。

191 ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:42:04 ID:???0
規制中でした、代理お願いします

192 ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:43:11 ID:???0
封印された最中のダーマ神殿で出会った姉弟のことを、あたしは思い出していた。

姉の願いは弟の負担になって。
弟の願いは姉の負担になって。
お互いを気遣う心が刃となって、やがて弟は姿をくらまし、あたしがその後を知る由はなかったけれど……。

お互いに、"望んだ相手でいてほしい"という、小さな小さな善意のすれ違いの果て。
本当は誰も悪くないはずなのに、だけどお互いに傷をつけあって。
そんな歯車のズレを、冒険の中であたしたちはいくつも見てきた。

あいつとあいつのお姉さんも、そんな関係だったのだろうか。





土を蹴る足音が、やけに大きく聞こえてくる。

ぶっきらぼうで、生意気で。
イヤイヤいいながらも、なんだかんだで助けてくれて。
それなりに頼りになって、ほんのちょっとだけカッコいいところもあったりして。

そんなあいつが――テリーが、数え切れないほどたくさんの感情がない交ぜになったフクザツな表情で。
「何も、言わないでくれ」って、今にも泣きそう声でお願いしてきた。
いつだって余裕ぶって、命令と指示ばっかりしてきたあいつが!
もちろんまだ出会って半日足らず。全部を知った気になっていたわけじゃない。
それでも彼の性格くらいは、それなりにわかってきたつもりだったから、
こんなにも弱弱しい、雨に濡れた子供のような一面を見せてきたことは、予想外だった。。

あたしはそれから素直に口を結んで、あいつの少し後ろをとことこと追いかけている。
前を行くあいつの表情は、あれから見えないままだ。
けれど時折、足音に混じり鼻をすする音が聞こえてくるから、そういうことなんだと思う。

別に、あいつに従って言いたいことを言わないでいるとか、そういうわけじゃなくて。
あんな表情をしたあいつに、何も言えなくなっちゃっただけ、というのが正直なところで。

けど、それで良かったのかもしれない。
つらいときに受ける人の優しさはありがたいけれど、返せる余裕が無いときは苦しいだけだものね。
……ま、これ人の受け売りだけど。





あいつのお姉さん――ミレーユは間違いなく、殺し合いに乗っていた。
西で出会ったドリーマーのように、孕んでいたのは狂気の類だった。
あれと違うのは、お姉さんは逆に現実を見すぎた選択をしてしまったこと。
たった一つの命を守るため、ほかのあらゆるすべてを捧げる、棘の道。

193 ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:44:08 ID:???0
この半日の間に、たくさん戦って、きっと命を奪って。
ボロボロになって、異形の身体に頼って、考えることさえもやめて。
たった一つの道しるべを辿って、ここまでやってきたのだ。
見上げた献身だった。
とてもじゃないけど真似なんてできそうもない、ひとつの愛の形。

けれどあいつと無事に再会を果たしてなお、言葉ひとつかけてあげずに。
あたしなんかにかまけていことだけは、絶対に間違っていたと言いたかった。
見るべき相手はあたしじゃなくてあいつで、言葉をかけるべき相手もあいつだったはずなのに。
「せっかく出会えた元気な弟をムシして、何をしてんのよ!」って、言ってやるべきだった。
その前に、あいつはすべてを終わらせてしまったのだけれど。

あいつは、最良の選択をしてくれたんだと思う。
少なくともあたしの命がかかっていたわけで。
くやしいけど、あいつがいなかったら、ヤバかったと思う。
そうでなくとも、あのままお姉さんを放っておくわけにもいかないわけで。
いくら声をかけても聞く耳を持たなかった以上は、命を奪ってでも、"誰か"が止めるしかなかったと思う。
その"誰か"が、血の繋がった弟になってしまったことは、すごく悲しくて、
最良の選択でありながら、最悪の結末になっちゃったのを見届けて、ふと、思ったの。

もしあたしがここにいなかったら、どうなっていたかな――って。

あいつが一人きりでいたときに、お姉さんと対峙していたら。
もしかしたら平静を取り戻せたお姉さんと、ちゃんと言葉をかわせたかもしれない。
東へ向かおうという提案に、もっと我儘を通していたら。
すでにボロボロだったお姉さんは、あたしたちの知らないどこかで命を落として。
あいつは悲しむことになるだろうけど、それでも、同じ結末にはならなかったんじゃないかって。
そんな、意味のないたらればのループにハマっていたせいで。

あいつに消えない罪を背負わせてしまったのも。

そのせいで今、あいつがぐちゃぐちゃになっているのも。

……ぜんぶあたしのせいなんじゃないかって。

バカなこと考えてる自覚はある、けれど。
実際に目の前で、あたしを襲ってきたお姉さんを、実の弟がボッコボコにして殺しちゃう現場を見てしまったら。
そんな気分にもなるのもしょーがないって思わない?

194あたしの瞳には映ってる  ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:44:46 ID:???0
でも、だからこそ。
そんなあたしだからこそ、できることってあると思うのね。

――少なくとも、あたしの瞳には、今、泣いてるあいつが映ってるんだから。





あたしは少しだけ歩みを早めて、あいつの背中を追いかけていく。

今、かける言葉が見つからないのだとして……。

後ろじゃなくて、隣を歩いてあげるくらい、別にいいでしょ?




【C-4/西部/夕方】

【テリー@DQ6】
[状態]:ダメージ(大)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:欲望の町へ
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:仲間を探す。欲望の町へ

195 ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:45:11 ID:???0
以上です、問題なければお願いします

196ただ一匹の名無しだ:2013/03/10(日) 22:50:21 ID:???0
代理してきました

197 ◆HGqzgQ8oUA:2013/03/10(日) 22:56:17 ID:???0
ありがとうございました!

1981パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:11:00 ID:???0
生きるのは、難しい。
ただ、死ぬよりは簡単だけれど。




コンディションは悪くない、気分も乗ってなくも
ない。
楽しくは決してない、天気も邪魔をする程ではない。
こんな装備でも問題ない、気力はメーター超えしているほどに。
大切なものは亡くなったけれど、大切なことには気付けた気がする。
−−−上々。
どちらが優勢というわけでもない、疲労は共に気にならないほど熱くなっている。
つまらないわけじゃない、くだらなくもない。
勝ち目はある、そう「信じてる」
−−−上々?
傷口は痛む。それでも血塗れの魔人は笑っている。
傷口は痛む。だからどうした。
勝たなければ「ならない」
踏み出して、踏ん張って、剣を凪ぐ。
−−−上々!
−−−−−戦況は、上々。


「ベギラマ」
カインの手から炎の力を帯びた閃光が放たれる。
それはデュランの壁へはなりはしないとわかっていて放ったものだ。
先と同じようにカインは炎へと突進し、デュランはそれを実に下らなさそうに凪ぐ。
「二度目で効くとても、思ったか!」
現れたカインに、デュランは全ての力を集結させ剣で殴打をしにいく。
まともに喰らえば、それこそ塵一つ残りそうにないほどの闘気を纏った攻撃は普通ならば防御なり回避行動に移らなければならないだろう

に、カインはそんな素振りを示すことなくデュランへ剣を振り上げる。
「っ…………!」
どちらのものかわからない呻き声が上がり、デュランの攻撃が直撃したカインは大きく吹っ飛ぶ。
地面を何度も転がり、ようやく止まった時には衣服に小さな裂傷が見られ、胸には赤い染みも広がっていた。
−−−ただ、それだけだった。
少し顔をしかめながらもカインは立ち上がる。
足取りはしっかりしたもので、剣をしっかり構え、前を見据える。
別に、単純な話だ。
圧倒的な力でねじ伏せてくるならば、その力を緩和させればいい。
あらかじめスクルトで固くし、攻撃を受けることを前提とし攻撃を打ち込む。
その昔、もょもとがやっていた−−−ある意味ではやらせていた戦法だが、思いの外よく効いてくれたようだ。

(とは言え、この方法は僕に不向きすぎるけど)

立てる。剣は握れる。魔法も撃てる。
なのに、体の重さは増したような気がする。
骨の1、2本ぐらいは覚悟していたけれど、これは認識を改めた方がいい。
内臓器官の1個ぐらいは、まあ。覚悟しておいた方がよかったかな。

1991パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:11:41 ID:???0

−−−なんて、考えてる場合じゃないらしい。

「覚悟をして随分と勇ましくなったようだな」
背筋にいやな汗が流れるほどの笑顔で、魔人が立っていた。
ダメージが全くないことはないだろうに、眼中にないかのように、仁王立ちで、笑顔で、威圧的で。
「問おう」
魔人は−−−戦士は、手にしている剣を大きく凪ぐ。
「例え私を倒せたとして、デスタムーア様を倒せたとして、この世界から脱出できるという確証は?
この世界から脱出できたとして、幸せになれるという確証は、どこにある」
空気を切り裂き、それは風の刃となりカインへと向かう。
「どこにも、ないだろう。そんな答えはそもそも、存在すらしていないのだから」

「そうかい−−−存在゛すら゛していないのか」
かつて勇者が振るった剣で、真空の刃を切り裂く。
「だったら、それってさ」
剣を肩にかつぎ、不敵に笑う。
「僕の願いが叶わないっていう答えも、存在してないってことだからね」

「僕は1パーセントの望みを信じることにしたんだ。
僕が、この剣を振るうことが、その証明さ」




「そうか−−−上々だ」
魔人の口が、さらに釣り上がる。





ボロボロのドレスのままアイラは戦況を眺める。
広範囲に広がっているクレーターは、誰かが隕石でも落としたのだろうか。
そんか馬鹿なことが脳内をよぎるほどには、おかしい。
響く金属音はカインと、先程から感じていたすくみ上がるような殺気の正体らしい魔物との打ち合いによるものか。
物陰から二人の様子を眺める。
互いにかなり消耗している様子で、流れる血の量はおびただしい。
拮抗した戦いはどこかずっと眺めていられるような気がする、ような不思議な気分になる。
勿論、そんなことはしていられない。
どんな角度から見ても仲間になってくれそうにないだろう人物、いや、魔物だし。
ゆっくりと、銃の焦点を魔物へと合わせる。
一発の反動はかなり大きい−−−ミスでもして、戦況が悪くなってしまっては目もあてられない。
命を奪うには足りないものかもしれない。
「だから、お願い……カイン」
気付くはずのない言葉を、一人呟いた。


何が起きたか、それを理解するより早くデュランの体が傾いた。
倒れはしないと地面を強く踏みつけ、傷口から溢れる血を拭う。
軽い音が聞こえたと同時に頭に空いた小さな穴。
また横槍かと気配を探ろうとしてもデュランにその時間は与えられなかった。
聞き覚えのある音だ−−−なんだったかな、と脳は考え、出来た隙を逃しはしないとカインの体は走る。
「逃さないよ!」

2001パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:12:17 ID:???0
大きく振りかぶった剣が、デュランの体に大きな裂傷を与える。
同時に脳が音の正体と意味を理解した。
その証明と言わんばかりに正体−−−アイラが、ボロボロの光のドレスを纏ったまま駆け寄ってくる。
走るその姿は衣装とは間逆に安定しており、休ませていたのは無駄ではなかったらしく胸を撫で下ろす。
片手には攻撃の正体である黒い物体。
倒れたデュランからは離れて、こちらも安心したような顔色をしたアイラヘとゆっくりと駆け寄る。
「お疲れ様…………って、……カイン?」
少しだけアイラが目を見開いた。
別に驚かれるようなことをした覚えはない(筈の)カインは、少しだけ怪訝そうに顔を歪めた。
「僕が、どうかした?」
少しだけ考え込むそぶりを見せたアイラは、うーんと声を漏らす。
目を閉じたかと思えば何かに気付いたような表情になり、なるほどと一人勝手に納得する。
カインからすればその行動の意味はまったく理解不能なことだ。

ゆっくりと動く。

「なんでもないのよ。……、あ、そうだ。手紙、ありがとう」
銃を握っていないほうの手が一枚の紙をひらり、と掲げてみせる。
カインには手紙を書いた覚えはないが、手紙がある以上は誰かがそれを書いたということで。
「…………それは、僕が書いたものじゃあ、ないよ」
意図せずに声が沈んでしまった。
アイツ、書かなくてもいい、って言ったのに、律儀に書いてたんだな。
声の沈みの意味と、手紙を書いた人物に検討がついたのか、少しだけアイラの動きが固まった。
確かめるような視線から目を逸らすことはしてはいけない気がして、声が震えないようにそうだよ、とだけ告げる。

音も立てずに、

沈黙。
説明しなければならないことは沢山ある。
この街で何があって、もょもとが死んで、僕がこれからどうしたいのか。
伏せってばかりでは、それこそ1パーセントの望みが叶うはずない。
「アイラ、とりあえず一旦、さっきの家へ戻らないか?」
募る戦闘の疲労と、脳内の整理。
しなければならないことも色々積み重なって、その量を眺めるだけで憂鬱な気分になってくる。
だからって目を背けることだけはしないと決めたので、それから目を離したりはしない。
焦らなければならないほど時間がないわけでもない。
アイラもそれでいいらしく、小さく頷く。
「そうね、知りたいこともあるし−−−」

むくりと。

「行きましょうか−−− 「それは、困るな……」 −−−!」
ぽつり、と。
吐き捨てるように、低い声が脳に反響する。
危険だと、体中が、頭が、全てが警報をうるさく響かせる。
ミスった。確認しなかった。注意をしていなかった。相手は只者じゃなかった。
だからって、あれだけの攻撃を受けて、なぜ。
−−−違う。そんな体で、まだ、立てるから。
「さすがに、一人も殺せないようでは」
立てるから、魔王なのだろう。
「死にきれない、なあ」
大きく剣を振りかぶっているのが、見えた。
手前にいたアイラヘ、その剣先が向いていることも、見えた。
ロトの剣を片手に、魔王へと駆ける。
アイラも、両手に銃を構える。

2011パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:13:27 ID:???0

ただ、そう。

気付くのが遅かっただけ。

引き金に手がかかる。
遅かった。
剣が今度こそ全てを終えるために、デュランの命を刈り取ろうとする。
遅かった。
血が舞う。
小説かなんかじゃあ、あるまいし。
直前にデュランが力尽きてくれることもなく。
あざ笑うかのように、アイラの体は地面に吸い込まれていく。
衝撃でひかれた引き金で、銃弾は深く地面に刺さる。
少しだけ、遅れて。
剣は、カインは、ようやくに。
切り裂こうと、切り裂こうと。

ただ、そう。

その瞬間、デュランは笑っていた。

自分が殺される瞬間を、笑顔で待っていた。



どうやっても笑えない量の血が流れていた。
ただでさえ万全とは言い難い状態だったアイラにはそれは即効性の毒でしかなく。
ただひたすらにカインは回復呪文を唱え続ける。
気が狂っていると勘違いされてもおかしくないほどに、繰り返す。
瞳から零れ落ちようとしているものをひたすらに押しとどめて、繰り返す。

アイラが、ゆっくりと口を開く。
懇願にも近い声音で、小さな声で、それでも伝えようと。


「ね、え、カイン」

「スーパースター、は、ね」

「人を、喜ばせる、仕事なの」

「笑顔に、元気にさせる……」

「そんなスーパースターが、誰かを泣かせたら」

「仕事、なくなっちゃうわ」

「だから」

「いや、だからって言ったらおかしいかも、しれない、けど」

「泣かないで、」

「泣くぐらいなら、笑ってほしい」

「さすがに、この状況はわらえな、いだろうけど……」

「泣いて、ほしくは、ないかな、」

2021パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:15:31 ID:???0




「……なあ、さっき……」
真っ直ぐにアイラの瞳を見つめながらカインは呟く。
何かを堪えているようにも見えるが、必死に隠しているような表情は隠せないままぽつり、と。
「戦いに参加する前、僕に、何を言おうと、してたんだ」
アイラとはまた別の不自然な区切りで、無理やり絞り出した声は聞けたものでは無かったけど。
少しだけ笑みを浮かべてアイラは答える。
「変わったな、って」
カインが目を見開く。
予想していなかった答えは、喜ぶべきものだったか否か脳が判断するより早くアイラが続ける。
「覚悟、というか。吹っ切れた、顔、してたもの」
アイラには、何があったかはわからない。
カインが吹っ切れた理由は、わからない。
ただ、理由や理屈は必要ないほどに、カインは、覚悟をしていた。
「……そうかな」
「えぇ、」
「……そう、か……」
カインが気恥ずかしそうに頬をかく。
−−−だってよ、もょもと。少しだけ、僕、変われたみたいだぜ。


「……ごめん、僕じゃあ、救えない」
なんのためにこの町へ来たのだろう。
救うためにきたはずが、こうして目の前で死んでいくのを歯がゆい気持ちで眺めてる。
無理やり繋がせた糸も、もう長くはもってくれはしない。
「……ごめん」
謝罪なんて、必要ないかもしれない。
そんな言葉は求めてないだろうに、口からぽつりぽつりと溢れる言葉はただ、懺悔するだけ。
「−−− 」
なにかを言おうとアイラが口を動かす。
そして聞こえたものは、空気を吐き出す音だけ。
口の動きも緩やかで、読唇術すらできそうにない。
−−−それでも、
アイラはなにかを訴えていた。
「…………ああ、そう、か」
最初からどこか隅の方にそれが鎮座していたからか、何が言いたいのか−−−何が言いたかったのか、わかった気がする。
「そう、だよな」
血の流れが止まった傷口をひどく冷静に見つめながら、ひどい倦怠感に襲われながら、思い出す。
それは、あのとき、学んだ、ことだ。
伝わらなくなってしまうまえに、ゆっくりと、告げる。
本当に、言わなければならないことを。



分かり切ってしまっていることが、ある。
ああ、もう、みんな、死んじまったのか。
まだ暖かい手は何れ体温を失うだろうし、魔人が人を襲うこともないだろうし、拙い言葉で伝えようとしていた、仲間、も。
…………わかってるよ。悲観的にはならないし、もう逃げ出すこともしない。
泣かないのは約束だし、流石に笑えはしないけど戦い抜いてみせる。
それは剣に誓うし、仲間に誓うし、自分自身にも誓う。
−−−ほら、血筋なんて関係なしに、誓えるじゃあないか。

2031パーセントの望み  ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:15:49 ID:???0


ああ、いい忘れていたことがあったな。
亡くして気付いて、結局伝えきれなかったことが。
怒るより先に、悲しむより先にするべきだったかもしれなかった。
−−−礼を言うよ、もょもと。

「…………ありがとう」

かばってくれて、ありがとう。



【デュラン@DQ6死亡】
【アイラ@DQ7死亡】
【残り34人】

【E-8/欲望の町/夕方】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP4/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式 不明支給品×1(本人確認済み 回復道具ではない)
[思考]:妹を捜す、自分を貫く。
※もょもとの死体、オーガシールド@DQ6、基本支給品一式、 満月のリング@DQ9は近くにあります。

204 ◆YfeB5W12m6:2013/03/13(水) 21:16:55 ID:???0
投下終了です。
問題なければ代理投下をおねがいします

205ただ一匹の名無しだ:2013/03/13(水) 22:21:39 ID:???0
代理終了しました。

206 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:36:39 ID:???0
規制がかかってしまったので続きを代理お願いします。

207 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:37:13 ID:???0
こんな事をしている場合ではない、と思う。
こんな風に森の中の空き地で仲良くケーキを食べている場合ではないと思う。
何かがおかしい。こんなのんびり出来る状況ではないはずだ。
何かが絶対間違っている!

一人頭を抱えるハーゴンに、ピサロが話しかける。

「…大丈夫か」
「正直大丈夫ではない」
「ソフィアに出会ってしまったのだ、仕方あるまい」
「……そうだな」

顔を上げて見てみると、ピサロの目に微かな同情が映っているのが見えた。
そういえばこの男はかつてソフィアと旅をしていたな、ということをハーゴンは思い出す。

「…ピサロ」
「何だ」
「ソフィアは、お前と旅をしている時もあんな感じだったのか」

ハーゴンはミーティアの口にケーキを詰め込んでいるソフィアを指差してピサロに尋ねる。
ピサロは少し考え、そしてちょっぴり苦い顔をした。

「…そうだ」

そう答えたピサロは、涙目だった。



勇者と邪教の大神官とお姫様と魔族の王が、何故暢気にピクニック(天気はあまり良くないが)をしているのか?
時は少し遡る。
ソフィアとハーゴンがミーティアとピサロと合流してからのこと。
これからの方針を決めようという時に、ソフィアとミーティアのお腹が同時に音を立てたのだ。
顔を真っ赤にして俯くミーティアの横で、そういやまともに飯食ってなかったなあとソフィアが呟いたことから、
遅めの昼食とする事にしたのだ。
とはいえ傍にはカーラの遺体があるのでここで食べようという人はいなかった。
そうして少し進んだ所にあったこの空き地で、各自の支給品のパンと、ミーティアのふくろに入っていたこの、
バースデーケーキを食べることにしたのである。

208 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:37:55 ID:???0

どうやら全員食べ終えたようだ。
ソフィアがにこにことお腹をさすっている。
  
「はあ〜食った食った…腹いっぱい」
「うう…大変でしたわ…」
「…ソフィア」
「ん、何だ?ハーちゃん」

ぴょんっと立ち上がり、ソフィアがハーゴンの傍に来る。
腹一杯のくせによくそんな動きができる、とハーゴンは呆れつつも小声で囁いた。

「あの娘を…エイト、という奴に会わせるつもりなのか」

エイトはすでに死んでいる。
だがミーティアがその事を信じていない―信じるつもりも無いことは、先程のピサロへの行動からも分かる。
そんな狂気ともいえる感情を抱いている彼女が、エイトが生きてはいないという事の決定的な証拠を、
エイトの亡骸を、目にしてしまったとしたら。

「ああ…相当ヤバイ、危険な事だって事は分かってる。でも…アタシは、なんとか力になりてーんだ」

さっきまでのおちゃらけた表情は何処へ、一転真面目な顔をしてソフィアが答える。
その顔はどこか、焦っている様にも見えて。
相方の初めて見せる表情に、ハーゴンは少し、驚いた。


「…これから、何処へ向かう」
「そうだな…おーい、ミーちゃん、ピー助」

少し離れたところにいる二人を呼び寄せる。
ハーゴンが広げた地図を中心に、四人が丸く座る形になった。

「えっと…これから行く所を決めてェんだけど、ミーちゃんのその…エイトって奴を探すとして…」

ソフィアの指が地図の上を滑る。

「アタシとハーちゃんが居たこの…ヘルハーブ温泉ってとこにはそんな奴居なかった。
 ってことはそいつがウロチョロしてない限り、他の町…この、絶望の町か、牢獄の町か、欲望の町に居る可能性が高い」

全くこんな名前を町に付ける奴の気が知れねえ、とソフィアはぼやき、顔を上げてミーティアを見る。

「ミーちゃん、エイトの居る場所に心当たりは?」

ミーティアは横に小さく首を振る。

「そっか…絶望の町はまだ近いけど、他の2つはなかなか遠いなあ…」
「絶望の町に向かおう」

ピサロが口を挟む。

「もとより私達はそこに向かおうとしていたのだ」
「ええ、その通りですわ」
「…絶望の町、か」

209 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:38:21 ID:???0
ハーゴンがボソッと呟いた。
別に絶望の町に何があるわけでもないのだが、彼の頭には先程見かけた花嫁姿の少女が浮かんでいた。
ロトの末裔―彼の宿敵。
名簿を見る限り後の二人もこの世界に呼ばれているようだ。
ローレシアの王子、もょもと。
サマルトリアの王子、カイン。
ムーンブルクの王女、あきな。
三人とも直接の面識は無いが、好かれているわけなど無いという事位知っている。
何故なら、彼らはロトの血を引くものだから。
自分の様な危険分子は取り除くことが彼らの定めだから。

ハーゴンは今この世界で彼らと戦うつもりは無いが、向こうもそうだとは言い切れない。
いや、むしろ戦闘になる確率のほうが高いだろう。
彼らにとって自分は、自分にとって彼らは宿敵だ。
相容れない立場であるのは分かっている。
向こうがその気なら、戦闘になっても構わない。
だが、今は自分一人ではない。
ソフィアのような自分達の因縁とは全く関係のない者を巻き込んでまでロトの末裔と戦おうとはハーゴンも思っていない。

町という場所は人と人が出会う場所だ。出会う相手が必ず自分にとってプラスとは限らないが。
だから絶望の町に行くという事はハーゴンにとってリスクを伴う。
気はあまり乗らないが―

「ハーちゃんっ!」
「!」

自分を呼ぶ声で我に返る。

「ど−したんだ?ボーっとして。らしくねーぞ」
「…少し考え事をしていた」

考え過ぎか。
どんなに悩もうと向かう町で何が起こるのかは分からないし、そこで実際彼らと会うとは限らない。
ソフィアにも言われたが、自分らしくない、とハーゴンは薄く笑った。

「…おい、そろそろ出発しないか?」

地図を指でトントンと叩きながらピサロが言った。
さっさとしろ、という事らしい。

「う〜ん、ピー助に指図されんのはムカつくんだけど…。ま、いっか。よーし、出発するぞ!」

拳を天にかざしソフィアは叫んだ。

***

210 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:38:40 ID:???0
[状態]-緩やかに落下
<!-ターゲット発見-!>
[標的数]-4
-攻撃方法?-
[剣の範囲か?]-いいえ
[ハンマーの範囲か?]-いいえ
[弓矢の範囲か?]-はい
-攻撃方法決定-
射撃-鉄の矢×4
*攻撃開始*

***

落下するスピードが緩やかになってきた。
どうやら地上には大きな衝撃も無く降り立てるようだ。

発見した獲物は四体。
うち二人は人間、あとは魔族か。
右手のハンマーも、左手の剣も届く範囲ではない。
ならば、どうする?―簡単だ、尾に何がついている?
キラーマジンガは弓を引き絞り、矢を放った。

***

気付かなかった、いや、気付けなかった。
いきなり上空から降ってきた機械からの攻撃を受けるなんて、誰に予想できるだろう。
相当被害妄想の激しい奴でもないと考え付かないだろうな。
白い法衣の背中を赤く染めたハーゴンを見ながら、ソフィアは、ぼんやりと考えていた。

気が付いたら、ハーゴンが自分達の前に両手を広げて立っていて。
何が起こったのかを脳が理解するよりも早く木々がへし折れる音がして。
"それ"が、姿を現した。

「……逃げ、ろ」

ハーゴンの口の端からは血が流れている。
それを見るソフィアの視線の先―ここから数十メートル先。
木々を粉砕しながら向かってくる、それは。

何をした?
―傷つけた。
誰を?
―なかま、を。

211 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:39:54 ID:???0

「ハーちゃん」

妙に落ち着いた声色で呼ばれ驚くハーゴンに、ソフィアは手早く回復呪文―ベホマをかける。
何かしらの制限がかけられているのだろう、効き目はあまり良くない。

「ハーちゃんは、早く」

ハーゴンの前に回りこみ、肩をとん、と押す。

「ここはアタシに任せて」

周囲の物を破壊しながら、機械は近づいてくる。

「ピー助は、ミーちゃんを」

恐怖に震えるミーティアと、その横に居るピサロに向けて。

「ほら、早く。安全な所へ」

ソフィアが見せた、笑顔は。

「頼んだぜ」

飛び散った木片と舞い上がる土煙で、見えなくなった。

212 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:40:20 ID:???0





信じられない。
認められない。
あんな機械に―たった一人で!

「急げ、でないと死ぬぞ!」

恐怖のあまり立てなくなったミーティアを片腕で抱え、ハーゴンの腕を引きながらピサロが叫ぶ。

「放せ…っ!」

手を振り払い、ハーゴンはピサロを睨みつける。
ピサロはその視線を真剣な表情で受け止め、言った。

「ソフィアの事が心配なのは分かる。…だが、この状況ではこうするしかない」
「ソフィアを見殺しにするつもりか!?全員で逃げれば良かっただろう!」
「…無駄だ。あれは、足止めしない限り逃げ切れるような相手ではなかった。…認められないだろうが、生き延びるためだ。」

冷静に、淡々とピサロが紡ぐのは否定できない正論で。
ハーゴンは悔しさのあまり、唇を噛み―

「だが…私は!ソフィアを放ってはおけない!!」

そう言い捨てると、身を翻し、駆け出した。

「…っ!待て!!」

背後から呼び止める声が聞こえる。
だが、ハーゴンは止まらない。
立ち止まるものか!


『殺し合い』の場に、戦うものを助けに行くという行為は些か不似合いだ。
生き残る為には、他人になんて構っていられない。
非情かもしれない。だが、死んでしまっては話にならない。
そう、思っていた。


何故、あの娘を庇ったのか?
何故、助けに行くのか?
行動を共にしたから?
そうかもしれない。
だが、何か違うような気がする。
ならば、何故?
助けたところで、得るものなど無いのに?
…そうか。
はっきりとした理由なんて無い。


―なかま、だから!


ソフィアのかけてくれたベホマのおかげで、背中の傷は塞がっている。
動かすと少し痛むが、戦えぬ程ではない。
決意を胸に、ハーゴンは仲間の元へと駆ける。

213 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:40:45 ID:???0

【F-4/森/午後】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
小さなメダル@歴代、不明支給品(0〜5、内一つは武器ではない)、基本支給品*2
[思考]:キラーマジンガから仲間を守る。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【キラーマジンガ@DQ6】
[状態]:HP1/2
[装備]:星砕き@DQ9、ビッグボウガン(鉄の矢×11)@DQ5、雷の刃@DQS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(武器以外×0〜1)、ギュメイの不明支給品(0〜2)
[思考]:命あるものを全て破壊する

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:HP3/4
[装備]:オリハルこん@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品*2
[思考]:ソフィアを死なせない
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?

【F-4/平原/午後】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:破壊の剣@DQ2、杖(不明)、マントなし
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:ハーゴンを追うか迷う
     手段を問わず脱出。
     ミーティアを助ける

【ミーティア@DQ8】
[状態]:疲労(微)
[装備]:おなべのふた、エッチな下着、ピサロの外套
[道具]:基本支給品
[思考]:恐怖
     エイトに会う
     エッチな下着はなるべく早く脱ぎたい
[備考]:エイトは生きていると思っています。すべての死体にエイトの影がちらつくようです。

214 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 16:41:41 ID:???0
以上で終了です。問題ないようでしたら続き投下お願いします。

215 ◆MC/hQyxhm.:2013/03/16(土) 17:06:59 ID:???0
代理投下ありがとうございました。

216 梅花空木を髪に飾って ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:26:39 ID:???0
1、これからどうするか
2、欲望の街で何をどうするか
3、怪我の治療
4、そういえばさっき僕女性に担ぎ上げられたっけ
5、今も女性が力仕事してるしね…………
6、…………あれ、これでいいのか、僕は?

【結論】
男としてのプライドとは一体?


◇◇


非常に下らなくアホらしい、但しそれなりに重要な男としてのプライドの話は頭の片隅に追いやり、カラカラと音を立てながら進む猫者の荷台で淡々と治療を進めることにする。
こんな状態でデュランとまた戦闘になっては正直勝ち目はない。
出来れば自身の目的があるマーニャは付き合わせたくはないし、傍に控えているこの狼にもどれほどの能力があるのか判断がつかない。
なんか鼠っぽかったあの魔物と相打ちにでもなってくれれば楽出来ていいのだが……まあ、あの様子では流石に期待出来なかった。
あれから時間が立ちすぎている。デュランが他の誰かを殺している可能性が高くなり続ける。
焦っては事を仕損じる。わかってはいる。
頭の中で堂々巡りする会議をどこか他人事のように感じていた。


「アンタ、実は隠れ真面目系学級委員長タイプでしょ」

マーニャの声。
前は見ているがこちらを見ないで放たれた言葉は唐突すぎて、意味すら理解出来なかった。

「……僕が真面目系に見えるの?」
若干小馬鹿にするような感じで反論してみる。
自慢出来るような事ではないが、まず自分は見た目からして真面目に見られることはない。誰が目に痛い配色の服を着たトサカ髪の優男の事を真面目系の奴だと判断するのか。
因みにマーニャもそう思うらしく、まあ見た目は反抗期の子供よね、なんて言ってきた。

217 梅花空木を髪に飾って ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:27:30 ID:???0
反抗期になった記憶なんてありませんー(……本当に無くしているだけかもしれないが)とそれこそ駄々をこねる子供のように頬を膨らます。

「外見じゃなくってさ、こう……なんでもかんでも自分で背負おうとしてるトコ、っていうか」
マーニャの脳内に妹の顔が浮かび、続けて先ほど別れたばかりのフローラと目の前で死を選んだあきなの顔も浮かぶ。
共通して「しなくてはならない」という脅迫概念を抱いている3人だった。
今日はよくそんな人間に合う日だ……ロッシュだってそうだった。

「あのさあ、本当にしなきゃいけないこと、なんてのはそんな多くないのよ?
自分がやらなきゃいけない、自分しか出来ないって思い込んでるけどね、実際は他の誰かがすんなり終わらせていることだってあるのよ」
「…………え、いや、僕はそんなつもりはなi」
「自覚があろうがなかろうが、アンタは自分で自分を追い詰めてんのよ!自分の評価ってのは他人からしか下せないんだからね!
んで、今アタシはアンタに真面目系以下略って評価を下したんだから黙ってマーニャちゃんの有難ーーいお話を聞きなさい」
「横暴だよ!?」
「 黙 っ て 聞 き な さ い 」

ぐぐ、と押し黙ったロッシュに対する接し方は、まあ自分でもかなり横暴だとは思った。
それでも真面目な奴ってのは優しく諭す程度じゃ意見にヒビしか入らない。しかもそのヒビを直さないままに突っ走る。
どこまでいっても救われなかったあきなの姿。
もっと強く止めていれば、防げたかもしれない死。
うじうじ悩むのは自分の役目では無いとはいえ、学習しないわけではないのだ。
義務感なんてものは放っておけば膨らみ続けて最終的には ― ― ―踏み潰される。
妹と重ねているのかもしれない。

218 梅花空木を髪に飾って ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:28:11 ID:???0
ただの同情からきているのかもしれない。
ひょっとすれば、自分が抱いた感情は的外れなものなのかもしれない。
― ― ―だからって。

「ギャンブルだって最初はアレコレ考えるわよ。 でもね、結局追い詰められたら小難しい理論なんて持ってるだけ無駄になるの。
“しなきゃいけない” ― ― ―?そ、ん、な、も、の、は、ね、え、 ― ― ―」
だからって、止められないし ……

「この世に存在してないの!てっきとーーーーーに暮らして、アンタがしたいかしたくないか、結局は判断基準はそれだけよ!!」

単に、自分がムカつくから言うだけだった。


◇◇


よくある理論ほど真理である。
考えすぎる癖に関しては自覚はあったが(というか仲間から大分指摘されたが)まさかここまでボロボロに言われるとは思ってなく、一瞬意識が明後日の方向を向いていた。
適当に、適当に……なんて考えている時点で適当になんて考えられるハズがないので、なんとなく項垂れてみる。
当のマーニャは言いたいことを言えて満足なのか相変わらず前を向いたまま猫車を引っ張っていた。

219 梅花空木を髪に飾って ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:29:59 ID:???0
重くないのかなー、僕軽くはないんだけどなー、力持ちだなー、なんてズレたことを考えた。

あんだけ獣みたいにうーうー唸ってりゃ悩んでいることぐらいわかるわよ、と最後に突き付けられた言葉。
なんだろう、これが姉の包容力とでも言うのだろうか。こう、言葉は大分アレだったのだが暖かい気持ちになる。
…………同じく妹がいる身としては情けなくもなる。
いや、妹がいた、と言った方が正しいのかもしれない。二つの意味でも、だ。
亡くした妹と、無くした妹。

あーでも、僕としてはターニアにはまだ妹でいて欲しいしなあー、そりゃあ兄のように慕っていた人物が一国の王子とか、他人行儀になったって仕方ないんだけどさー!
いや、それでもだよ。あのパーティーのときにターニアはこれからお兄ちゃんって呼んでいい?って聞いてきてくれたわけだし、僕はそれを了承したわけだし、これは合法的にターニアが妹になったってことなんじゃないの?
…………ああ、いや、でも。僕の妹だったターニアとあのターニアは実質的には同じ人間でも、全てが同じわけではないんだ。
何も知らない無邪気なターニアじゃなく、どうしたってレイドック王子という肩書きが出てきてしまう。
いやいや、でもだy

「さっきから妹への愛がだだ漏れよ。シスコン」
生ゴミでも見るような目でマーニャがこちらを見ていた。
因みに僕は死にたくなった。
ウブな少女のように真っ赤になった顔を両手で隠しキャーキャー叫ぶ。
恥ずか死。恥ずか死。恥ずか死。
隣で大人しく座っていた狼が僕と同じポーズをして真似ていた。
本当に恥ずか死でも出来そうだった。

「まあ、でも……」
からり、と今まで途切れる事のなかった猫車の音が止まる。
マーニャが静かにこちらを見ていた。
「それがアンタのやりたいことならいいのかもね」
やかましいけど、と付け加えて再びマーニャが猫車を引っ張っりだす。
僕はと言えば首を傾げ、マーニャが言った言葉の意味を考えていた。
狼も同じように首を傾げて真似をしている。

………………ターニアを妹にしたい?

表し方が非常に犯罪臭いので直す。

ターニアともう一度仲良くなりたい?

220 梅花空木を髪に飾って ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:30:50 ID:???0

すとん。
パズルのピースが綺麗にハマった気がした。
そういやそんなことをあの魔物と話をしていた時も考えていた気がする。方向性は随分と真逆になったが。

「うへ、うへへへー」

犯罪者みたいな笑い方だったが、まあ致し方ない。
よくある理論ほど真理である。まったくだった。
もちろん目標を立てた所で問題はかいけつしていない。デュランのこともデスタムーアのことも、この世界から脱出する方法も全然わかっていない。
…………ただ。
重かった心が少しだけ軽くなった。少しだけ。問題の量を見れば頭痛がするので目を背けた。

「マーニャお姉さーん、ありがとうー」

ママから姉へ、ランクダウンなんだかアップなんだかよくわからない変動を起こしつつも、きっかけをくれたことに礼を一つ。
マーニャはゆっくりとこちらを振り向き、非常に美しい笑顔で…………

「お礼は5割増しの大特価でいいわよ? ……犯罪者予備軍のシスコンお兄ちゃん?」
「違うその言葉はそんな笑顔で言う言葉じゃない!」
マーニャの中での僕はシスコンとして固定されてしまい、覆すのは不可能そうだった。
男としてのプライドとは一体。何回目かの自問自答にがう、と狼が楽しそうにに一回鳴いた。



【F-8/北部/夕方】
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:瞑想中 HP6/10(回復中)、MP微消費、打撲(回復中)、片足・肋骨骨折(回復中)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、
[思考]:デュランとバラモスを止める 前へ進む マーニャと共に欲望の町へ

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP3/8 MP1/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     フローラと情報交換。一刻も早くミネアと合流するため、東へ。

【ガボの狼@DQ7】
[状態]:おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う)

221 ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 20:31:58 ID:???0
以上で投下終了です。
問題がないようでしたら代理投下の方お願い致します

222 ◆PnfI0WoaXs:2013/04/18(木) 23:07:04 ID:???0
盛大にミスを犯しました。
すみません、トリップキーの入力をミスしました、◆6UNSm6FHE6です。

223帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:14:12 ID:???0


タバサ。

タバサを、失った。

守れなかった。

止められなかった。

救ってやれなかった。



ローラは相変わらず、亡骸を撫で続けている。
自分の視点からでは、その表情を窺い知ることはできない。
彼女の頬を流れる赤と透明の液体がタバサの額に落ち、火傷を冷やすかのように濡らす。

バトルロワイヤルというこのゲームの、なんと残酷なことだろう。
戦う力を持たぬもの、未来ある幼きもの。願い、背負うもの、善悪すら関係ない。
参加者に待っているのは無常なる死であり、平等でないのは、それが訪れる順だけだ。
この瞬間に自分の命が繋がっているのも、偶然に過ぎない。
タバサの命が繋がっていないのも、偶然に―――

数分前まで、この小さな人間の心臓は確かに動いていたというのに。


異形の自分を恐れることなく、声をかけてくれた。
嘘偽りのない言葉に、心惹かれた。
不安な様子も見せず、励ましてくれた。
彼女の手は、とても温かかった。
記憶のない自分に、名前をつけてくれた。
それは、確かに私への贈り物だった。
自分を信じて、守ろうとさえしてくれた。
気を失うほど張り詰めていたのに。
目を覚ました彼女は、太陽のように笑った。
純粋無垢な姿に、眩しささえ覚えた。

いまはどうだ。
彼女はもう動かない。
二度と笑うこともない。
その温もりも徐々に失われてゆくのだろう。
こんなにも一瞬の間に、こんなにも呆気無く、少女の命の火は消えてしまったのだ。

224帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:14:47 ID:???0

彼女と過ごしたのは目覚めてからの半日足らずで、僅かそれだけの間しかない。
けれどその半日は、記憶を失った自分にとっては、全てだ。
全ての中心にいたのは、タバサだったのだ。
ゲロゲロを構成し、大部分を占めていたものが根幹から揺さぶられる。
目の前が真っ暗になるとはよく言ったものだが、まさにその通りだった。
立っているのがひどく億劫になり、ゲロゲロはその場に腰を下ろした。

ゆるゆると首を回すと、離れた場所で少女が両手を組んでいる。
傍にはおおよそヒトの形をしたものが落ちており、どちらもぴくりとも動かない。
彼女も、自分と同じように失ったのだ。
かける言葉など見つからないし、かけようとも思わない。
ローラとタバサの間に割り入ることができないように、あの空間を邪魔することは、誰にもできない。
此方に危害を加える様子は無いようなので、とりあえずはそっとしておく。

手前に、ひとつ、首が落ちていた。
赤い水溜りの中に、長い髪が広がっている。
心臓が跳ねた。
タバサがお母さんと呼び、必死に追った女性だ。
(……違う。どことなく雰囲気は近い気もするが、母親ではない)
走っているときは、遠すぎて気付かなかった。
今改めて確認すると、その髪の色彩はタバサやフローラのそれとは異なる。
焼け縮れ見る影も無いが、元は美しい濡羽色だったに違いない。

全身の火傷は、休むことなく痛覚を刺激している。
特に鋭い痛みを覚え、右腕に視線を移した。
傷は熱をもち、ずくん、ずくん、と悲鳴を上げる。
傷だけではない。
殆ど風の吹かないこの場では、爆発の残した熱が、身体に纏わりつくようだった。
あつい。
頭はクラクラとし、息苦しく、こめかみを汗が伝う。

225帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:15:29 ID:???0



「……おい」

何故だろうか、思ったよりも遠くで聞こえたような気がした。
決して大きくない影が自分の足元に落ちて、次に、破れた黒いスカートが視界に入る。
面を上げることは、できなかった。
この惨劇を引き起こしたイオナズンは、元々タバサが放ったものである。
彼女と共闘していたらしい彼は、タバサの意図したものではないとはいえ、その犠牲になった。
もし、自分がタバサを止めることができていたら。
こんなことには、ならなかったのだ。

「………」

続く言葉は無かった。
こちらの返事を待っているのだろう。
自責の念に駆られ、無意識のうちに視線を落とした。
スカートの裾からすらりと伸びた脚には程よく筋肉がついている。
それだけではなく、真っ赤なものもついている。

あぁ、なんて、なんて。


(芳しい)




目を見開いた。

(芳しい?)

なにが。どうして。

熱に侵された頭でその感情の意味するものを探り当てる。
高い知能と僅かな記憶のおかげで、すぐに正しい認識に辿り着くことができた。
だが、それが幸か不幸かと言われれば、間違いなく不幸だろう。
その認識は、闇への片道切符だったのだ。

イオナズンによるものだと思っていた熱は、決して、そんなものが原因などではなかった。
それは、辺りを満たす「死」の所為。
咽せ返るほど強く漂う人間の血の匂いが、ゲロゲロの血を沸かせている。
もっと真紅の花を咲かせろと叫んでいる。
転がる首を見て心臓が跳ねたのも、フローラの心配などではなかった。
無残な姿に、心が躍ったのだ。

226帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:16:05 ID:???0


条件反射というものがある。
梅干を見ると唾液が出るのも、その一種だ。
ゲロゲロに影響を与えたのは嗅覚と視覚から得た情報だけだが、日常的に殺人を犯していたゲロゲロにとって、その情報は梅干そのもの。
身体は正直だ。
ムドーの至福の時には、必ずこの匂いがしていた。
地に吸い寄せられるように這い蹲り、やがて動かなくなるのも同じだ。
ゲロゲロに覚えが無くても、ムドーが覚えている。


目がチカチカする。
魔物としての本能が、大きな口をあけて、ゲロゲロを飲み込もうとしている。

手が震える。
抗おうとする意思を、強すぎる欲求が押し流していく。

息ができない。
先刻は押さえ込んだはずの衝動がこみ上げ、抑えられない。

当たり前だった。
誰かに煽られたわけではない。
誰かを甚振る場面を見たわけでもない。
汚い欲望が己の内から湧いたのだと認めたのは、他でもない自分なのだから。

目の前の少女が異変に気づいたようで、顔を覗き込んでくる。
構えてはいないものの、その手にはしっかりと剣が握られている。

あぁ…今、下を向いていてよかった。
もし、顔を上げていたら。
彼女の瞳の色を知ってしまったら。
きっと、自分は、彼女を。

227帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:16:43 ID:???0




「―――ローラを、頼むッ!」

絞りだすように言い捨て、走り出した。

向かう先など決めていないが、その場から逃げ出すことさえできれば良かった。
後ろで何か叫んだが、ゲロゲロには届かない。
聞こえないわけではない。
それどころではなかっただけだ。
二人に危害を加えないよう、己を保つことで精一杯で。
痛みがブーイングするのを無視して、ゲロゲロは足を動かした。





《勿体無いことを。
 アレの腹を裂けば、さぞかし好い声で鳴くに違いない》

音も無く背後に忍び寄った死神が、しわがれた声で囁く。
姿など見ずともわかる。
忘れようがない、憎き相手だ。

《貴様も、今度こそ理解したであろう?》

そうだ。理解した。
理解したからこそ、逃げたのだ。
理性を失うのは、とても恐ろしいことだ。
自分が自分ではなくなってしまうような、得体の知れぬ不安。
負けはしないと、決意をしたはずだった。
なのに耐えられなくなる、まるで麻薬のように魅惑的ななにか。
そんなものが、自分の、全ての魔族の心の底に、大海のように広がっている。
まさに今ゲロゲロの心にぽっかりと開いた穴を満たそうとしている。

《ゲームを効率よく進めるためにいながら、何一つ「死」に貢献しない貴様の行動が今まで見逃されていたのも、
 いずれこうなることが必至だったからなのであろうな》

いやらしい笑みを浮かべたそれは、透けた身体の向こうに流れる木々を映しながらゲロゲロを囲むように回る。
言葉が出ない。
タバサに対し抱いた感情に名前をつけることは、未だできそうにない。
けれど、その感情を抱いている間は道を違えることはないと、根拠の無い理屈で思考を放棄してきた。
いずれ記憶が戻ったときに、向き合う必要があることはわかっていた。
わかっていたけれど、実際はどうだ。
記憶など戻らずとも、事実、自分は害悪な魔物だったではないか。
ボーダーラインは既に越えてしまっていて、意志の力だけでは引き返すことができないのは自覚している。
結局は自分もこの声の主と同類なのだ。

228帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:17:21 ID:???0


《何も戸惑うことは無い。躊躇う必要も無い。
 この世界では、多くの者がエゴで他人を殺しているのだ》

足が止まる。
なだらかなカーブを描く服を乗り越え、鈍色の腕が胸に差し込まれる。
言葉だけでは飽き足らず、物理的にも心の臓を捕らえようというのか。

《腹は減っていないか?》

そのまま全身が自分に重なり、身体を乗っ取られるような錯覚に陥る。
仮にそうだとして、誰が気づく?
誰も気づきはしない。

《奴等の臓物の味は知っているだろう?命を刈り取る瞬間の、絶望の表情を覚えているだろう?》

一度堕ちてしまえば、どんなに楽だろう。
苦しむことも無いし、我慢も葛藤も必要ない。
自分を縛るものは無く、欲望に身を任せ、自由に生きられるのだろう。

(…冗談ではない)

嫌だった。
波に流されたくはない。
渦に溺れたくはない。
認めたく、ない。

《ムドーよ。残虐なる魔王よ。大魔王デスタムーアの忠実なる僕よ。その力を行使するのだ》

「断る」

《何故だ。貴様は1匹の魔物であり、人間を殺める側の存在なのだ》

「その言葉は間違っていないのだろう。
 だが、そうだとしても…自分は、まだ「ゲロゲロ」でいたいのだ。
 タバサの信じた、エルギオスの信じた、「ゲロゲロ」で在りたいのだ!」

いつかくる、そのときまでは。

願いをぶつける。死神がたじろぎ、身体から這い出る。
乱暴に左腕を振り上げる。
迷いを断ち切るかの如く、刃で巨躯を二つに分かつと、醜い姿が煙のように揺らぎ霧散した。

229帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:17:52 ID:???0




近くに人の気配は感じられない。
自分の荒い吐息だけが、辺りの静寂を邪魔している。

(こんな幻につけ込まれるとは、我ながら情けない…)

傍らの大樹に背を預け、呼吸を整えながらゲロゲロは思う。

(ローラを置き去りにしたこともだ)

頭に浮かぶ彼女は、どれも泣き顔ばかりだ。
タバサを抱きしめては、涙を流している。
まだああしているのだろうか?

ローラも、かなりの怪我を負っていた。
箱入りである彼女だ。
あんなに酷いダメージを受けるのは、初めてではないだろうか。
命を脅かすほどの損傷ではなかったが、痕は残るかもしれない。
残っている薬を譲るのは、何も惜しくはない。
だが、届ける手段が見つからない。
あの匂いは自分には刺激が強すぎる。

(…大丈夫だ。少女に頼んだではないか)

魔物である自分を、隙だらけで居た自分を、彼女は斬らなかった。
尤も、この姿だからこそという理由かもしれないが。
どちらにしろ彼女がゲームに乗っている確率はないと判断する。
それに、二人は失った者同士だ。
きっと力になってくれる。

(大丈夫、大丈夫だ。問題ない)

自分の所業から目を逸らすように、言い聞かせるように繰り返す。

人力車の上でローラが見せた、人間が聖母と呼ぶものに似た表情。
そんな側面もあったと、ふと思い出した。
彼女の探し人は、日頃からそんな微笑みを向けられていたのだろう。
今は無理でも、いつかまた同じように笑えたら良い。
漠然と、そう思った。

230帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:18:37 ID:???0

(さて、これからどうするべきか)

もう来た道は戻れない。それだけははっきりしている。
多少は落ち着いたが、殺人の欲求は燻ぶり続けている。
血の匂いをさせる人間には、近づかないでおくべきだ。
次も逃げられる保証はどこにもないのだ。

思えば、今まではタバサを第一に行動してきた。
こうして独りになると、本当に自分がしたいことがすぐには思いつかない。
参加者との戦いで命を失うかもしれない。
主催の手の者が自分を殺しにくるのかもしれない。
先に、ムドーに支配されてしまうかもしれない。
残された時間の行動指針が必要だ。
悪を少しでも減らそうか。
今斬り裂いた仇だけは、許すつもりはない。
だが、バラモスだけを探し回ってなどいられない。
思索する。
何ができる。何をしたい。何をしたらいい?

(タバサの両親を探すのだ)

タバサの努力、優しさ、弱さ。
この半日に自分が知ったありとあらゆる一面を、懸命に生きた証拠を、彼女が愛する者へ余すことなく届けること。
本人を失った今、唯一自分ができる彼女への恩返しであり、償いでもあった。

そして、もうひとつ。
タバサは、父が魔物使いだと言った。
父を見つけたらなんとかしてくれるだろう、そうも言ったのだ。
魔物使いに寄り添う魔物は、邪気が消えるという。
もしかすると、自身に潜む闇も、振り払えるのではないか。
道を踏み外さないように、帰る場所を示してくれるように、自分の澪標となってくれるのではないか。
そう考えたのだ。
現状では、彼に一縷の望みを託すことしかできない。

(目標は定めた。あとは、そこへ向かうだけだ)

結局、やることは変わらないが、行動理由は異なる。
誰かのためではなく、自分のために。

深呼吸をすると、全身が痛みを訴える。
止血もせずそのままにしていた右腕は紫に染まっているものの、細かな傷は、既に塞がっていた。

231帰り路をなくして ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:19:44 ID:???0


(確かに、自分は魔物だ。自分の欲のため、罪無き者を殺める生き物だ。
 生まれ持った能力も、内に秘めるものも、人間とは異なる。
 それは紛れもない事実であり、逃れられない真実でもある)

殺戮が魔族の歩むべき道だというのなら、自分は違う道を探してみせよう。



「諦めなければ道は自ずと開かれる。そうであろう?エルギオス」





【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アレフを探す、アレフへのかすかな不信感


【E-4/南部森林/夕方】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:記憶喪失 HP1/7 殺人衝動
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5、復活の玉@DQ5PS2
[思考]:タバサの両親を探す。血の匂いのする人間を避ける。エルギオスの言葉を忘れない。
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

232 ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 14:22:23 ID:???0
以上です。
問題等なければ、代理をお願いいたします。

233 ◆50QT/sbUqY:2013/05/03(金) 20:10:55 ID:???0
投下ありがとうございました。

234第二回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/05/05(日) 13:35:23 ID:???0
「デスタムーア様、定時放送の時間でございます。死者は17名、生存者は27名です」
薄暗い空間で、一人報告をするアクバー。
跪くその先には、この殺し合いの首謀者。
「して、今回の禁止エリアは、どのように……」
アクバーが問うと、同時に一枚の紙が投げて寄越される。
そこには、今回の禁止エリアが記されていた。
但し。
「二倍にしろ」
その数は、六つ。
始めに指定していた数の、二倍だ。
「死者が半数を過ぎたならば、事は終わりに近い。
 もっと加速させて行くべきじゃろう? 今回はそれで行け」
「はっ」
短く返事をし、アクバーは放送へ向かう。

卑しく笑う、主君の声を背にしながら。

「ゲームより12時間、半日が経過した。
 私の声を再び聞くことが出来た諸君、いかがお過ごしかな?
 第二回の定時放送を行うぞ。
 今回は間怠っこしい前置きは省略する、諸君等も情報が欲しいだろうからな。
 まず……禁止エリアだが、デスタムーア様のご意向により二時間に二つ、計六つを指定させて貰う。
 20時 E-3 E-7
 22時 D-5 B-3
 24時 E-8 G-4
 以上六つだ、数が多い故、聞き間違えの無いよう確認するのが良いだろう。
 次に……この六時間で命を落とした者の名を告げる。
 グラコス
 カーラ
 もょもと
 シンシア
 アレフ
 アルス
 バラモス
 ミレーユ
 アイラ
 デュラン
 オルテガ
 ドルマゲス
 ピサロ
 ミーティア
 タバサ
 キラーマジンガ
 ハーゴン
 以上、17名だ。
 ククク……貴様等がこれほどまでに殺戮を好んでいるとはな。
 初めの六時間で、命を奪う快楽に目覚めたか?
 ならば、より多くの命を奪えば良い。貴様等は、そうせねば生き残れぬのだからな……。
 では、殺人者の諸君、六時間後にまた会おう……」

ふぅ、と息をつきアクバーは一つのことを考える。
それは、他でもない主、デスタムーアの事だ。
考えが読めない、正直な感想はそれだ。
なぜ、蘇り力を手に入れたにも関わらず、このような催しで戯れているのか。
「私には、分からぬ……」
悩みの種を抱えながらも、アクバーは再び闇へ溶けていった。

【残り27人】

235 ◆CruTUZYrlM:2013/05/05(日) 13:36:36 ID:???0
短いですが以上が第二放送案です、禁止エリアなどこちらで決めましたが、これで良いでしょうか?
特に何もなければ明日までには本投下したいと思います。

236ただ一匹の名無しだ:2013/05/05(日) 16:51:24 ID:???0
乙です
禁止エリアの配置、その数、ともに異論なしです

237ただ一匹の名無しだ:2013/05/05(日) 19:24:30 ID:???0
乙です。
同じく良いと思います。
こうやって見るとずいぶん死んでるなぁ

238ただ一匹の名無しだ:2013/05/05(日) 20:14:57 ID:???O
投下乙です
私も問題ないと思います

239恋愛のPaper Drivers ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:43:28 ID:???0
 
「――――ローラを、頼む!」

一匹の魔物がそういい残し、惨劇の場所から逃げ仰せた後。
その場には、二人の女性が残されていた。
「……ったく、魔族ってのはほんとに、こー自分しか見えてないっていうか」
ため息をつき、舌打ちをし、ふんわりとした頭を掻きながらソフィアは言う。
いかにも気だるそうな発言だというのに、それに伴うべき感情が無い。
表情も、声も、まるで剥げ落ちたかのように。

この場に残るもう一人の生きた存在が"ローラ"なのだということは、アリーナでも分かる。
ローラ、聞き覚えのある名前。
それは、愛の証明に走る女性の名前。
なぜ、そんな彼女が魔物と連んでいたのか。
それは、分からない。
だから、その理由を問おうとするが、できない。
彼女は今、まるで聖母のような輝きを纏い、動かぬ少女を抱きかかえている。
とてもではないが、今の血まみれた自分では話しかけられそうにもない。

ふと、足下を見やる。
ミーティアに自分が渡した"銃"と呼ばれる武器が、転がっていた。
見るも無惨に肉塊に成り果てたミーティアとは対照的に、銃はその形を綺麗に残していた。
は、と乾いた笑いが零れる。
その顔はもちろん――――笑っていない。

自分が良かれと思って渡した武器、それが彼女を駆り立てることになったのか。
渡したのは自分の身を守る最低限の力であって、誰かを守る力ではない。
……力のない者は、力を手にした時、その扱いを必ず誤る。
エビルプリーストが経験したそれを、自分がミーティアに経験させた、とも取れる。
はは、と、無表情のまま乾いた笑いが続く。
「大量殺人犯ソフィア、いっちょ上がり……ってか」
"真実"を呟き、銃を力強く握りしめていた腕を引き剥がす。
それをぽいとそこらへんに投げ捨て、溜息を一つつく。
そして視線を動かし、聖母の姿を目に捉え。
そのまま、ぼうっとしていた。
何をするでもなく、ただ、ぼうっと。

240恋愛のPaper Drivers ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:44:30 ID:???0
 
しばらくして、あの声が聞こえ始めた。
つまり、六時間が経ったということだ。
太陽のないこの場所では、時間の経過を肌で感じることは難しい。
十二時間という長い時間が経っても、空は一点の光もなく淀んだままだ。

特に動じるでもなく、地図を取り出し、読み上げられた禁止エリアに黙々と印を入れる。
その後ろで、あの声が名前を読み続ける。

「――――カーラ」

"終わった"バカ野郎の名前が読み上げられる。
他の誰でもない、この自分が殺した人間。
"終わり"を見て、"終わり"へ飛び込んでいった人間。

「――――シンシア」

もう一人、"終わった"バカ野郎の名前が読み上げられる。
彼女もいつの日か、自分に総てをかけて自ら"終わり"へと飛び込んでいった。
……きっと、この場所でもそんな風に飛び込んでいったのだろうか。
当然、涙は流れない。
悲しくはないから、というより悲しいとは?
それはわかんないから、後にしておこう。

「――――アレフ」

そこで、聞き覚えのある名前が飛び出す。
ソフィアは道具を漁る手を止め、ローラはビクリと何かに怯えるように跳ねる。
凍り付いていた時が、砕かれる。
ゆっくりと体を動かし、ローラの方を向く。

何度も見た顔、眼。
"終わり"へ向かう者が、"終わり"を見ているときのそれ。
「……アンタも、そうかよ」
ふぅ、と溜息を一つつき、顔についた血を乱暴に拭い。
ソフィアは聖母の元へと歩いていく。

残りの放送は、ほとんどノイズでしかなかった。

241恋愛のPaper Drivers ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:45:00 ID:???0
 


軽い音とともに、何かが炸裂する。
それは物理的な要素ではない。
ローラの頭の中で、すごく簡単に砕けていった。

音と色が落ちていく。
何も聞こえないし、何も見えない。
ただ、もやもやとした何かが心を蝕んでいく。

愛の証明をする必要はなくなった。
この放送でバラモスの名が呼ばれたからだ。
つまり、バラモスはもう死に絶えているということ。

同時に、愛の証明はどうあがいても出来なくなった。
誓いあうべき存在の名も呼ばれたから。
どうあがこうが証明は出来ない。

……私は、あの人を愛していた。
そして、あの人も私を愛しているものだと思っていた。
だから、言って欲しかった。

この世で一番、愛していると。
魔物の甘言に惑わされそうになっている自分を、言葉でばっさりと斬り伏せて欲しかった。
何よりも、彼を信じきれない自分が、怖くて、惨めで、情けなかった。

だが、もうこの不安を拭うことは出来ない。
愛していると言ってくれるあの人はもう。
この世に、居ないのだから。

「……そうだよな、普通こーなったら泣けるんだよな」
その時、一人の少女の声が闇を突き破って耳に届く。
ふと顔を上げれば、目の前には傷を負いながらも雄々しく立つ給仕服姿の少女が居た。
少女の言葉に誘われるように、目元を拭う。
先ほどまで流れていなかったはずの涙が、止めどなく流れ続けている。
「羨ましいぜ」
その涙を見て、少女はぼそりとそう言った。
何が羨ましいというのだろうか、今のローラには全く理解できない。
そんなローラをよそに、少女は言葉を続けていく。
「あー……そうそう、フローラから聞いてるぜ、アンタのこと。
 "愛"を証明するんだったけか」
フローラ、という名前にぴくりと反応する。
始めの時、フローラはアレフを探しに行ってくれた。
しかし、間もなくして出会った少女に諭され、絶望の町に帰ってきた。
……きっと、目の前の少女がその時の少女なのだろう。
少女は依然として無表情のまま、自分を見つめている。

242恋愛のPaper Drivers ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:46:24 ID:???0
「まさかさ、思い人が死んだから証明できませ〜ん☆ ふえ〜ん! とか言うんじゃねえだろうな」
ふざけた言い回し、でもそれに伴うべき感情がない。
無表情のまま繰り出されるおふざけは、ここまで怖いと感じる物なのだろうか。
恐怖心に駆られるまま、ローラは事実を認めていく。
自分の怯えた表情を察したのか、少女は一度首を傾げたが、そのまま話を続けていく。
「ずっと引っかかってた、会ったら言おうと思ってたんだ」
空気だけが、急に張りつめる。
無表情の少女の周りから、次々に感染するように。
「愛は、証明するもんじゃねーと思うぞ」
淡々と語られる言葉が、ローラの根幹を揺るがす。
「好きだっていったし、好きだって言ってもらったんだろ?
 じゃあ、アンタがそれを信じ続ければいいじゃねぇか」
 誰がなんと言おうと構わない、自分は相手が好きだって、信じ続ければいい。
 そして、それはアンタにしかできない。アンタが死んだら……それこそ愛の終わりだ」
まるで、心を見透かされているように。
少女は次々にローラの心を突き刺し、抉り、そして救っていく。
ああ、フローラもこうして心を動かされたのだろうか。
今なら、その気持ちが分かる。
「だからさ……終わんな、生きろ」
そして最後に差し伸べられた手を取り、小さく返事をしながら微笑んだ。
少女は未だに無表情のまま、けれど身に纏う雰囲気は柔らかくなっている。
「……ま、これは恋愛経験値0のレベル1野郎の考えだけどな」
ははっ、と声だけがする。
今まで無感情無表情だった彼女から放たれるその声は。
少しだけ、笑っているような気がした。
「あの……」
小さな声で、少女を呼び止める。
ローラには一つ、どうしても聞きたいことがあるから。
「お名前を、お教えいただけないでしょうか」
そう言われてハッとしたのか、少女は頭を掻く。
「っあー……悪い悪い、アタシはソフィアだ。
 よろしくな、ローラ姫」
無表情だけれど、申し訳なさそうに少女は名前を告げる。
ソフィア、ソフィア、その名前はローラの頭の中で渦を巻き、しっとりと染み込んでいく。
「よっしゃ、じゃあ生きようぜ。
 アンタが生き続けなければいけない理由は、もう証明したろ?
 だからさ、何でもいいから生き続けようぜ」
「……はい」
諭されるがまま、ローラは差し伸べられた手を取ろうとする。
だが、立ち上がれない。
もう一つ、まだ一つ、やることがあるから。
「すみません、後一つだけ」
申し訳なさそうに、ローラはソフィアへと問いかけていく。
「何だ」
「……この子を、せめて安らかに眠らせてあげたいんです」
そう、ローラの胸元で眠るように動かない小さな体。
先ほどまで元気に動いていたはずの、小さな命。
時間をかけた埋葬は出来なくとも、野ざらしではなくせめて何かはしてやりたいのだ。
「……いいぜ、しばらくやることなんてねーし。ハーちゃんとミーちゃんの分も、作ってやんないとな」
理由も、気持ちも伝わった。
だから、ソフィアも動く。
その気持ちを、返答に込める。

そしてローラはゆっくりと少女の遺体を寝かし、ソフィアと共に少しだけ作業に入ることにした。

243恋愛のPaper Drivers ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:47:37 ID:???0
 


終わりを作るのは人だ。
終わりを決めるのは人だ。
終わりを受け入れるのは人だ。

死ぬではなく、終わる。
それは総て人が、自分が決めることだ。
だから、終わりたくないなら終わりを決めなければいい。

自分が決めた終わりが絶対に正しいわけではない。
それは時に間違っていることも、狂っていることもある。
でも、自分では正しいと思っているから気づけない。

だが、所詮は自分が勝手に決めた終わり。
破ったところで誰も文句は言いはしない。
だったら自分の好きにしよう、満足するまで生き続けよう。

終わりじゃない、理由がある限り人は生き続けられる。
人は、そう簡単には終わらない。
そう、思っている。

【F-4/北部森林/夕方】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP2/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
     不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))、基本支給品*2
[思考]:終わらない
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる

----
以上で投下終了です。
なんか2chで新しい規制が始まったらしく、●持ちでも本スレに書き込み出来なくなりました(はげ)
しばらく代理投下をお願いするマンが続きそうです、申し訳ない……

と言うわけで、どなたか代理投下をお願いします。

244 ◆CruTUZYrlM:2013/05/08(水) 22:59:06 ID:???0
代理投下有難うございます

245Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:22:42 ID:???0


一風変わった宴のお話をしましょうか。
まるでお城のような、いえ、要塞のような町。
そこに招かれし十の魂。
ですが、まだ宴は始まりません。
招待客が揃っただけでは、運命の女神様は満足なされないのです。
まあ、そんなお顔をなされずに。
気晴らしに、お客様の紹介などどうです?


***


<愛する兄を求める少女>


わたしが町に入ってからすぐ、あの放送とかいうやつが流れた。
おっきな音で流れてくる、やっぱりなんだか好きになれないあの声。
どんどん「禁止エリア」が増えていって、「死んだ人」の名前も増えていく。悲しいもんだね。
でも、わたしには関係ないよー!
だってだぁい好きなお兄ちゃんの名前は呼ばれてないもん。
それだけが確かなら他の人が死んだってどうでもいい。
でも、安心はしていられないの。
今、この瞬間にお兄ちゃんは生命の危機に瀕しているかもしれない。
死んでもらっちゃ困るんだよ?
お兄ちゃんを殺していいのは、このわたしと魔物さんだけ。
どっかの誰かに、勝手に殺されるなんて許さない。

お兄ちゃん、早く会いたいね。


放送が終わると、少女――リアは立ち上がる。
彼女の纏う愛らしいドレスは所々破れ、血にまみれ、素肌とそこに付いた赤い傷跡が覗いている。
先程の戦いで道化師に付けられた傷は、あまり大きなものではないが、リアを苛立たせる要因となっていた。
ジャミラスと分かれてしまった事に加え、本題である兄を見つける事すら果たせていないのだ。
スムーズに進んでいた序盤に比べると、順調とは言い難い。
それら全てが苛々を増幅させる。

兄はこの町に居るだろうか?
居ないのなら手間が増えるのだが、重要なのは経路ではなく結果だ。
兄を、殺す。
目的の為なら手段は問わない。
辺りを見回した彼女の瞳に、ふと、金色が映った。

246Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:23:11 ID:???0
<叶わなかった恋に身を焦がした女性>


"タバサ"

放送が告げた名前は、かつての想い人の子の名。
六時間後のあの声が呼んだ、その双子の片割れ。
とうとう、二人共。
無慈悲な現実に、ビアンカはただ。
ただ、頭を垂れる事しかできなかった。

(リュカや、フローラさんは、今)

どうしているのだろう。
この短い時間の中で、家族を二人も失った彼らは。

力に、なりたい。
自分は死者を蘇らす事などできないし、この悪夢を今すぐ破壊する力も無いけれど。

「悲しみはね……分かち合うことが、できるのよ」

力に、なろう。
友の苦しみを、少しでも減らすことができるなら。


この町にこのまま居ても、二人に会えるとは思えない。
今こそ、この牢獄の町を出るべき時だ。
リッカとバーバラにその事を伝えようと、ビアンカはもと来た道を振り返った。
その瞬間。
今、角を曲がってきたのだろう、ビアンカの視界に、一人の少女が飛び込んできた。

血まみれのドレスを着、手には美しい短剣を握り、驚愕の表情を浮かべて。


「おかあ、さん」


少女は女を、母と呼んだ。

247Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:23:35 ID:???0

<救済を下す魔女と眠れる少女>


リッカは穏やかな寝息をたてている。
そんな彼女の顔を、複雑な気持ちでバーバラは見つめていた。
リッカを、救ってあげなくちゃ。
彼女が、いや、この殺し合いの場に招かれた皆の悲劇は全て、自分の所為なのだから。
全員を「救い」、デスタムーアをもう一度闇に葬ることが、彼らへの償い。
つい先程の轟音から察するに、新しい戦いがこの町で起き始めたのだろう。

(私の所為でまた、罪無き犠牲が増えるのなら)

誰かの手を汚すくらいなら。
全て、この手で。


「救済して」あげよう。


バーバラの瞳は閉じられ、

「一つは千に、千は一つに」

その唇は紡ぎ始める。

「闇よ、光よ、総ての力よ」

――――滅びの調べ、を。

「我は、今汝を解き放つ」


その時。


『ゲームより12時間、半日が経過した。
 私の声を再び聞くことが出来た諸君、いかがお過ごしかな?』

突然耳に飛び込んできた、聞き逃しようの無い声に、バーバラの集中が途切れる。
集っていた魔力が急速に引いていくのが分かる。

(しまった)

失敗した。
唇をかむバーバラに追い討ちをかけるかのように、声が悪夢を口にする。


『――ミレーユ』

248Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:24:00 ID:???0
<野望を抱く怪鳥>


地面に巨大な影を落としながらジャミラスは町の上空を旋回する。
名簿で確認したサマルトリアの王子の姿は、今のところ見当たらない。
どこかの建物に入っている可能性もあるが、戦闘が町で起こっているというのに隠れているだけ、という事は無いだろう。
あの娘の話を聞く限り、だが。
もしかするとこの町には居ないのではないか。
多少とはいえ犠牲は払ったのだから、何の収穫も無しでは癪にさわる。

「……とりあえず、そこらの奴でも殺して殺害数でも増やすとするか」

地上付近の微かな気流に乗り、ゆっくりと怪鳥は地上へと近づいてゆく。
そんな時、視界の端に、見覚えのある人物の姿が見えた。

知っている。
その顔も。
知っている。
纏う雰囲気も。
忘れるはずが無い――かつてこの身を屠った、勇者の仲間。

丁度良いではないか。
復讐も、殺害数稼ぎも、同時にできる。

「素晴らしい」

ジャミラスはニヤリと笑うと、急旋回し風を巻き起こしながら、魔女の元へと一直線に突っ込んでいった。



ミレーユ。
まさか、彼女が、姉のように慕っていた、彼女が死んでしまったなんて。
信じられる?
信じられない!

ミレーユ、ミレーユ。
彼女まで、私の所為で。
嘘!
嘘?
嘘じゃない?
嘘、嘘、嘘!


放送で呼ばれた名を耳にした途端、バーバラは思わず外に飛び出してしまった。
信じられない、でも信じるしかない、抗いようの無い現実を突きつけられて。


……あ、リッカ。置いてきちゃった。

ふと、ショックで忘れていた少女を思い出す。
そういえば、自分は、彼女を、皆を、殺そうと。
そうだ、今度こそあの呪文――マダンテを。

再び呪文を唱えようと顔を上げたバーバラの目の前には、巨大な鳥が迫っていた。

249Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:24:38 ID:???0

「……!、!?」


風圧に耐え切れずにバーバラの体が巻き上げられる。
目の端で、ジャミラスが向かってきているのが見えた。
剣を振りかざして。

間一髪。
魔女は空中で身を翻し、怪鳥の攻撃を避ける。

「ジャミラス……!」

残撃から逃れられずに切り取られた赤い髪の毛が宙を舞う。
くるくる。
くるくると。

バーバラは地面に降り立つと、皮の鞭を構え、同時に呪文の詠唱を始める。
マダンテは、使えない。
詠唱に、時間がかかり過ぎる。

「炎よ、集え――」

せめて、逃げる時間稼ぎだけでも。

「――メラミ!!」

火球が、バーバラの掌から放たれる。
それを盾にして、バーバラは鞭を振りかぶり――

「……え」

ジャミラスの一振りで、火球は一瞬にしてかき消される。
残撃は、そのまま。
鞭を振りかぶった事で、無防備にさらけ出されたバーバラの身体に。

「あっ」

鮮血が舞う。
くるくる。
くるくると。
宙に、深紅のリボンが描かれる。
見開かれた目に映るのは、追撃を放とうとしている怪鳥の姿。

一太刀。
魔女の身体は、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。
その身から赤を撒き散らしながら。

状況が悪かった。
あの時は、仲間が、皆が居てくれたから。
一人で、不意を突かれ、この魔物と戦うことは、あまりにも無謀すぎたのだ。

「み……な、ごめ……ん」

せめて、最期に。
置き土産をくれてやろうと、唇が開かれ――――

250Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:24:58 ID:???0

ジャミラスは残忍な笑みを浮かべ、足元に横たわるバーバラを見下ろしていた。

「素晴らしい」

満ち足りた気分だ。
復讐も、殺害数稼ぎも、同時にできたのだから。

「素晴らしい!」

上々だ。
素晴らしく、上々。

(さて……あの娘の元へ、行ってやるとするか)

ジャミラスはニンマリ笑うと、風を巻き起こし飛び立った。

251Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:25:15 ID:???0
<絆で結ばれた三人――肉体派王女、心優しき占い師、心を持った鎧の騎士>


アリーナ、ミネア、サイモン一行は、牢獄の町に少し入った所で佇んでいた。
ミネアの表情は冴えない。
いつも快活なアリーナも、俯き、黙り込んでいる。
先程流れてきた放送の衝撃が、まだ抜けきれずに。

「……ピサロ」

アリーナが呟いたのは、名を呼ばれたかつての宿敵の名。
そんな彼女らに、サイモンは尋ねた。

「知人が……呼ばれたのか」
「ええ……」

ミネアはそう答えると、サイモンに語り始めた。
ピサロ――父の仇。
彼が仲間になるとソフィアから告げられたときは、姉と一緒に猛反対したものだ。
真の黒幕は彼じゃなかったとしても、一度根付いた感情――憎しみはそう簡単に消えるものではない。
そういえば、ろくに話した事も無かったのではないだろうか。
基本、ピサロは一人だった。
稀にソフィアが少し話しかける事もあったが、彼はぶっきらぼうに一言返して、また黙り込むだけだった。

「……本当は、許してあげたいという気持ちは、大分前からあったんです」
「……あたしも、あいつとはそんな喋ったこととか、無いけど」

また、一対一で戦ってみたかったなあと、アリーナは言った。
あのときの、武術大会の続きをいずれは彼に申し込むつもりだった。
今じゃもう、叶わぬ事だけれど。

「……てゆうか、ミネア。そういえばそんなにピサロのこと見てたの?」
「えっ」
「確かに、そのピサロという人物をよく観察していたのだなという事は感じたぞ」
「えっ」
「もしかして、ミネア」
「違いますっ!!!!」

顔を真っ赤にしてミネアはアリーナとサイモンを叱る。

「それより、ビアンカさんを探さなければいけないでしょう!!」
「あーっ!そうだった!!」
「はあ……」

やれやれと、ミネアは肩を落とした。


ピサロさん。
もう、ごめんなさいは言えないけれど。
いつか、逢うことができたのなら。
その時は勇気を出して話しかけますから、ね。
どうか、安らかに。

252Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:25:32 ID:???0
<騙す男と騙された男>


恐怖は確実にホンダラを蝕んでいた。
自分のたった一人の甥が、先の放送で名を呼ばれた。
家族が、死んだ。
先程のドルマゲスの事と加わり、今、自分は「殺し合い」の場に居るのだという事実が。
その現実が、襲ってくる。


男魔法使いの頭は、ホンダラとは逆に物凄く落ち着いていた。
カーラ。
永遠の好敵手とも思っていた女性の名は、読み上げられた死者の名の中に入っていた。
死んだのか、カーラ。

あっけねえなあ。
お前は名を呼ばれ、俺はここに立っている。
何があったのか知らねえが、お前はそう易々とやられる奴じゃ無かったはずだ。
お前は死んで、俺は生きている。
そう言う意味では、俺の勝ちだなあ、カーラ。

少し浮かんだ笑みを偽りの仮面で隠し、男魔法使いはホンダラの方を向く。

「……俺の甥が、死んじまった」

聞いてもいないのに、ホンダラは語りだす。

「俺よりずっと強くて、"勇者"だった俺の甥が」

男魔法使いが『勇者』という単語に反応したことに、俯いて話すホンダラは気付かなかった。

「どうすればいいんだろうな、俺は」

思い返してみれば、自分は叔父らしいことを彼にしてやったことなど無いのではないか。
後悔と自責の念ばかりが、溢れ出す。

「簡単じゃよ」

老人は、ホンダラの肩に優しく手を置く。

「その少年の分まで、お前さんが生き残ればいいのさ」
「俺に……できるかな」
「できる。自信を持て、ホンダラよ」
「おう……。ありがとう、じいさん」
「礼はいらんよ、それより宝を探しに行こうではないか」

『優しい老人』の仮面に隠れて、男魔法使いは笑っていた。
なんて扱いやすいのだろう、この男は!

「……ま、有難く利用させてもらうぜ」

呟いた声は、ホンダラの耳に届くことは無かった。

253Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:25:56 ID:???0


***


さて、これでお客さまの名は出揃いましたね。
魂の数は十から九つに減ってしまいましたが。
宴の舞台は揃ってまいりました。
さあ、物語は続きます。


***


いらいら、いらいら。
リアは苛ついていた。
目の前の女性が着ているドレスと、髪の毛の色の所為だろうか。
女性に、自分に愛情など一欠片もくれなかった女――母の面影を見出したことに、リアは苛ついていた。

最後にあったのは、何時だろうか。

(お兄ちゃんが、帰ってきたときかな)

歓喜にむせぶ国民の前に立つ『勇者』の肩書きを背負う兄に、形ばかりの笑顔を向け。
自分には一瞥もくれることの無かった女。


愛さないのなら、何で産んだの、お母さん。


理由は簡単。
ロトの血を絶やさないため。
ロト、ロト、ロト。
誰だって、それしか言わない。
思い出せば思い出すほどに、苛々は募ってゆく。


「ねえ、あなた……どうしたの?」

女性がゆっくりと近づいてくる。
少し驚いた顔で。
少女は俯き、黙り込む。

「ね、顔、上げて」

女性はリアの目の前にしゃがみこみ、優しく促してくる。
母の面影を纏った女性が。

「何かあったのなら、良ければ一緒に――」

いらいら、いらいら。
また、この人も、リアの邪魔を、してくるんだ。
リアは体の後ろで、短剣をかたく握り締め、そして――――

254Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:26:28 ID:???0


「あっぶなあーーーーい!!!!」


突如現れた乱入者の蹴りで、リアの華奢な身体は吹っ飛ぶ。

「か、はっ……!!」

近くの建物の壁に勢いよく叩きつけられ、全身に衝撃が走る。
肺の空気が一瞬にして抜けていくのが分かる。
乱入者――アリーナは呆然とするビアンカに告げる。

「あの子に近寄っちゃダメ!あの子は……人殺しなの!」

リアはふと考える。
人殺し。
そっか、わたし、人を、殺したんだったね。

「え、でも、あんな女の子が……」
「ビアンカさん、ですね。私達は丁度、見たんです……あの子が、アレフさんを、殺すのを」
「アレフさんがっ!?」

アリーナに追いつき、息を荒げながらミネアが言った言葉に、ビアンカは驚いた声を上げる。
アレフ。
幾度と無く窮地を救ってくれた彼が、こんな少女に、殺されたなんて。
思わずリアを見ると、少女は彼女らを睨み付け、立ち上がろうとしているところだった。

「"勇者"アレフ、を……知ってるんだね」

鋭い目をこちらに向けながら、リアは言う。
その身に殺意をみなぎらせて。

「当たり前よ!だってアレフさんのおかげで私は」
「でもあなたは彼がいた所為で苦しむ羽目になった人が居るなんて、知らなかったでしょ?」
「!」

255Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:26:50 ID:???0
思わぬ返答をされ、ビアンカはうろたえる。

「その人のために、あなたは人を殺してるの?」
「違うよ。リアはただ、邪魔してくる奴を殺してるだけ。リアとお兄ちゃんの邪魔を」

アリーナの問いを、リアは笑って否定する。

「でも……でも、あなたが人を殺しているという事をその人は喜ばないんじゃないかと、私は思います」
「別にお兄ちゃんがそんな事……」

許してくれる、と続けようとして、そうとは限らないことにリアは気付いてしまう。
これまでの自分は、いつだって普通の女の子だった。
自分の妹が人を殺しているなんて、兄は露にも思っていないだろう。
今のわたしを見て、お兄ちゃんは。
リアの心に生まれた微かな恐怖は、ミネアによって言葉にされる。

「あなたのこと、嫌いにならないとも……限りませんよ」
「うるさい!!」

そんな事はない。あってはならない。
兄に嫌われる。唯一の理解者に、嫌われる。
それは、リアにとって何事にも勝る――恐怖。

「これ以上、リアとお兄ちゃんの邪魔をしようとするんなら……」

ナイフを構え、再び睨み付ける。

「あんたがやめる気が無いのなら、私達は止めるしかないっ!」

一気に臨戦態勢に入るアリーナたちの上に。


突如として、巨大な影が落ちた。

256Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:27:14 ID:???0
「面倒なことになったようだな?」
「……遅かったじゃない、魔物さん」

頭上から降ってきた声に、ミネアは身体を強張らせる。
先程の恐怖が、再び。

「何、丁度良い獲物が居たから、相手してやっていただけだ」

返ってきたジャミラスの声はどことなく嬉しそうに聞こえ。
きっと何人か殺してきたのかなあと、リアは思った。

そんな怪鳥を見るアリーナの目には怒りが篭っている。
無理も無い、この魔物はミネアを……ともだちを、傷付けたのだから。

「とりあえず、こいつらは……悪い奴らなのね」
「そのようだ」

周りの様子を見て、ビアンカとサイモンも戦う構えに入る。
そんな彼らを一瞥し、リアはジャミラスに尋ねる。

「お兄ちゃんは?」
「居ないようだ」
「ふーん。じゃ、この町には用は無いね」

そう呟くとリアはジャミラスの背に乗り、怪鳥は翼を広げる。

「じゃあね。お姉ちゃん達」
「そういう訳にはいきません!」

飛び立とうとしていたリアたちを鋭い強風が襲う。
体制を崩したジャミラスは再び地面に降りる羽目になった。

「あなたはまだしも……その魔物を、野放しにしておく訳にはいきません!!」

ミネアが再びバギクロスを放つが、ジャミラスの翼によって防がれる。

「ふん……小賢しい」
「やっぱり、お姉ちゃん達もリアの邪魔をするんだ」

リアは顔を上げ、アリーナ達を見、短剣を振り上げ――――

「なんで、どいつもこいつも、リアの邪魔をするのよっ!!!!」

――――真直ぐに、ビアンカ目掛け、投げつけた。

257Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:27:31 ID:???0
何故ビアンカに投げたのか。
それはただ、リアの目から見てビアンカが一番戦いなれていないように見えたからだ。

美しい装飾が施された短剣は。


「おっと、危ない」


ビアンカに届くことなく、突然現れた老人の手に収まった。
老人の急な登場に、その場の誰もが一瞬固まる。

「あなたは、一体……」
「なあに、通りすがりの魔法使いじゃよ。これでも昔、盗賊をやっておったんじゃ」

男魔法使いは笑って答え、呆然としているリアの方を見る。

「お嬢さんは、なかなか良い短剣をもっとるようじゃな。ほれ、わしも」

そう言うと、男魔法使いは自分の持っていた短剣を振ってみせる。

「じゃが、お嬢さんにはちと危ないんでな。没収じゃ」

そして、リアの短剣を袋にしまった。

258Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:27:55 ID:???0

ホンダラは少し離れた建物の影から見ていた。
突如として老人が隣から消えたと思うと、いきなり少し先に現れたのだ。


あのじいさん、只者じゃねえ。


とりあえずホンダラは、戦いが終わるまでここで隠れていることにした。






***


とうとう、皆が一堂に会し、宴が始まりました。

私が皆様にお語りできるのはここまでです。
この先、どうなるのか?
それは、私には判りません。

ですが、一つ。
皆様に、覚えていて欲しいこと。

運命の女神様は、とても気まぐれだという事。
そして、彼女は何時だって。











最も残酷なシナリオを、好むのです。












【バーバラ@DQ6 死亡】
【残り25人】

259Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:28:36 ID:???0
【A-4/ろうごくのまち/夕方】

【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP4/7、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:剣の秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
隙ができ次第牢獄の町を脱出。殺害数を稼ぐ
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。
    隙ができ次第牢獄の町を脱出

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:竜王のツメ@DQ9
[道具]:フックつきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタムーアを倒してゲームを終わらせる。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい

【ミネア@DQ4】
[状態]:HP4/5、疲労(小)、右肋骨喪失
[装備]:あぶない水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:仲間や情報を集める。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい

【サイモン(さまようよろい)@DQ5+9+α】
[状態]:健康
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント
[道具]:なし
[思考]:友達について考える。
    ジャミラスを倒す。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。

260Ensemble étrange―とある吟遊詩人の唄 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:28:46 ID:???0
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)、どくがのナイフ@DQ7
[思考]:ホンダラを利用し、世界を破壊する。
アリーナたちに協力する……?
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:とりあえず隠れて、戦いが終わるのを待つ
ボディガードと共にお宝を探す

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康 リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
    ジャミラスを倒す、リアを止めたい
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 睡眠中
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す。今は休む。
[備考]:寝ているため、放送があったことを知りません。

261 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/17(金) 18:30:06 ID:???0
投下終了です。
問題などなければ、代理投下お願いします。

262 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:09:23 ID:???0
仮投下を始めます。

263瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:09:53 ID:???0
.


空から町を眺める。

赤一色に染めあげられていく、町を眺める。

手を伸ばす、届かない。

声を上げる、届かない。

こぼした涙すら、届かない。


.

264瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:10:10 ID:???0
戦地にいるのは八人。
傍観を決め込んだ中年を除けば七人。
彼らは綺麗に二つの陣営に分かれていた。
人数にして二対五、しかも二の片方は年端もいかぬ小さな子供だ。
大の大人が四人もいる五の陣営の方が圧倒的に有利と思われる。
しかも、五のうち三は曲がりなりにも戦地を抜けてきた歴戦の強者。
残る二のうちの一は魔物、そしてもう一人も戦いを経験していないわけではない。
これでは戦闘経験のない少女と、傷ついた怪鳥に勝ち目などない。

「ぐうぅ……」
それを体現するかのように、ジャミラスは現に押されている。
前衛を張っているアリーナとサイモンには、攻撃力倍加呪文がかけられている。
その上、アリーナが手にしているのは武器の中でも最上級の近接特化型武器だ。
鬼に金棒どころではない、爆弾岩に復活の玉レベルだ。
一撃を貰うだけで致死レベルだというのに、その上細かくかつ鋭く動くサイモンの攻撃もある。
さらに後方から飛来する強力な呪文の数々まで対応しなければいけない。
剣一本では、さすがに限度がある。
「おい、リア」
「何」
「生きたければ少し時間を稼げ」
だから、ジャミラスは切り札を使うことを選ぶ。
消費が激しい故、ここまで使わずに取っておいたもの。
一対一ではなく、一対多に特化した切り札を。
剣を手に入れておいて正解だったと、心の中で笑い、指示を飛ばす。
ジャミラスの読みが確かならば、この局面においてリアという存在は状況を動かしうる要素だ。
「いいよ」
最低限の言葉だけで意志疎通をこなし、リアはひょいっとジャミラスの背から飛び降りる。
それを確認したジャミラスは、大きく口を開けて炎を吐き出していく。
攻撃を止めるためではなく、相手の意識を守りへ向けるための攻撃。
狙い通り、アリーナたちは一度大きく飛び退いた。
が、即座に狙いをジャミラスに澄まし、地を蹴り近づいていく。
その両者の間に、割ってはいるように現れるリア。
振り抜かれようとしていたアリーナの拳が、止まる。
「お姉ちゃんもさ……」
凍り付くような声、仕方なく横からすり抜けようとした体が思わず立ち止まってしまう。

「人殺し、だよね」

そして、続いた一言に影を縫い留められる。

265瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:10:41 ID:???0
.


「するってーと、あの嬢ちゃんは魔物と手を組んでて相当悪さしてると。
 んであのさまよう鎧は味方で、アンタらは後方支援に徹してると」
乱入者、男魔法使いは支援魔法と攻撃魔法を飛ばしながら、ミネアとビアンカから事の顛末を聞き出す。
どうやら、あの少女はただ単にヒステリックを起こしている訳ではないらしい。
「勇者ロト、ねぇ……」
むしろ、対峙している少女が怒り狂う理由をよく知っている、と言っても良いかもしれない。
彼女が憎む勇者ロト、その大本の血筋となる人間を男はよく知っているからだ。
「テメーで掴みとれない奴ほどよく吠える、ってな」
その一言は、二人に聞こえないようにこぼす。
ともあれ、状況は理解した。
やっかいなのは目の前の怪鳥である、ということだ。
あれさえ片づけてしまえば、ここに敵対する人間はいない。
だが、本気を出してすんなりと敵を倒すわけにも行かない。
この大集団、特に前衛を張っているアリーナとは正面衝突を避けたい。
ドルマゲス亡き今、自分の素性を隠す蓑として使ってもいい。
だが、アリーナの力もさる事ながら、集団としての力は大きくなりつつある。
これが今より人数が増え、絆の力が強くなれば。
自分一人で対応できるかどうかは、怪しくなってしまう。
故に、迅速にこの集団を潰す必要がある。
その上で一番やっかいなのは、アリーナだ。
近接戦闘の鬼である彼女と、自分の戦闘スタイルはつりあわないにも程がある。
逆に言えば、彼女さえ何とかしてしまえば後はどうにかなる。
なぜなら、残されているのはただのさまよう鎧と、戦闘経験の浅い熟女、そして今にも死にそうな占い師だけ。
自分一人が葬り去るのに、何ら無理はない。
だからそのときが来るまで、無理はせずにじっと待つ。
この戦闘によりアリーナが疲弊しきるのを、じっと待つ。
それまでは後方から微弱な魔法を飛ばしながら、味方というお面を被っておこう。
……そういえば、あの"盾"はどこに行ったのだろうか。
まあ、いい。
ふと前を向けば少女とアリーナが対峙している。
このまま呪文をキメてもいいが……ここは、様子見を選ぶとしよう。

266瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:11:05 ID:???0
.


「人殺し、だよね」
脳を揺さぶられる一言。
思いもしていなかった発言に、アリーナは思わず動揺してしまう。
「ち、違う。私は」
「私は何? 正義の味方?」
動揺を表に出してしまったアリーナに付け入るように、少女の言葉が続く。
「じゃあ正義って何? それに準じているというだけで、殺人が許される免罪符なの?。
 悪人がやれば咎められ、善人がやれば崇められる。
 善悪の判断なんて個人の都合でしかないのに?」
焦点が定まっていない光のない目で、リアは言う。
子供独特の"どうして人を殺してはいけないの?"という質問に似通っている。
ただそれは在り来たりなものとは違い、リアが過ごしてきた経験論から来ているもの。
アリーナが予想できる範囲では、とてもではないが考えつかない人生から来ているもの。
「お姉ちゃんから見て私は"悪"だと思うから。
 お姉ちゃんは私を"悪い子"だと思うから。
 私がやってることを"悪い"と思うから。
 そのぶっとい腕を振るって、私を"殺す"んでしょう?
 だったら……正義だなんだと言っても、やってることは人殺しなんだよ」
「でも……!」
アリーナは今、リアを止めようとしている。
それはリアが殺人者だから、人の命を奪う人間だから。
アリーナが、人々がそれを"悪"だと捉えるから、リアは"悪"である。
だから彼女を止めようとしている、"正義"として。
では、リアのやっている事は"悪"なのか?
リアのやろうとしていることが悪ならば、リアをここまで追いやった人間は"悪"では無いというのか?
人を傷つけるという事には変わりないのに、本質的には変わらないことなのに。
どうして、善と悪に分けることができるのか?
リアは、ありもしない"当たり前"を振りかざす大人が、大嫌いだった。
「うるさいなあ……お姉ちゃんにリアのやることを止める権利なんて無いって言ってるの」
更に苛立ちを込めた声で、リアは怒りを露わにしていく。
ふと同時に、空気が張りつめるのを察知する。
「目障りなの――――」
手を出せずにいたサイモンも、アリーナも、ようやくその気配を感じ取った。
目の前の言葉に夢中になっていて、気づかなかった。
それが死を運んでくる気配だという事に。
「死んで」
三文字の言葉と同時に、黒い影がリアの前に躍り出る。
同時に怪しく迸る紫色の閃光。
がつん、と何かに蹴られる感覚を鎧の騎士は覚えていた。

そして、牢獄の町の屋上が二つに裂けた。
.

267瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:11:33 ID:???0
視界が灰色に染まる。
建物の一部をも倒壊させたジャミラスの一撃が、粉塵を巻き上げていく。
ミネアとビアンカは、その風圧に堪え忍ぶのに精一杯だった。
その中で、たった一人だけ別の事を考えている人間がいた。
(……こりゃ、予想以上じゃねえか)
そう、男。老魔はこの粉塵を予想していたのだ。
おそらく次に大きな攻撃がくると"わかっていて"手を出していなかった。
そばにいた二人には「できるだけ警戒しろ」とだけ告げて。
本当は余計な真似をされたくなかっただけだが。
(……頃合いか)
あれほど大きな音が立っている一撃を、防御することなく受けたのだ。
アリーナの体へのダメージは尋常ではないはず。
アリーナが弱った、と言うことは。
男が手のひらを返すときだった。
ポゥ、と黄色い光を手に込めて魔を紡いでいく。
その矛先は、未だに目を粉塵から背けようとしている二人の女性。
一片の慈悲もなく呪文を紡いでいく。
「ガァゥッ!!」
だが、完成することはなかった。
背後から突然現れたドラゴンが、男に襲いかかったからだ。
「ぐっ……」
ごっそりと持っていかれた片腕を押さえ、男はドラゴンを睨む。
ドラゴンは、まるで女性を守るかのように、男の前に立ちはだかる。
「ラドンさん!」
「知り合いですか?」
「ええ、リュカさんが連れていた竜です」
煙も晴れ、ようやく事態を理解したミネアとビアンカが会話を交わす。
リュカの竜、その言葉を聞いてビアンカはハッとする。
しかし、肝心のリュカの姿は見あたらない。
魔物だけこちらにけしかけた? まさか。
魔物にも分け隔て無く愛情を注いでいた彼が、魔物を放ってそんなことをするわけがない。
ましてや、魔物を野放しにすると言ういろんな意味での危険性を、彼は一番理解しているはずだ。
では、なぜ?
疑問とともにドラゴンの顔をのぞき込んだ時、向こうはグルと小さく喉を鳴らしながらこちらを見た。
その目はまるでリュカのように、とても澄んでいた。
「めんどくせぇ……!」
そして、男が苛立った声を上げる。
残った片手で杖を持ち、怒りを露わにしている。
「あなたも、人を殺すんですか!?」
「ああそうだよ! こんなくっだらねぇ世界、俺が全部ブッ壊してやる!!」
片腕を失い、余裕がないのか。
現れたときの飄々とした態度はすでに消え失せている。
ビアンカは、そんな男に対して言葉を投げかける。
「じゃあ、どうして私を?」
「テメーらが扱いやすそうだったからだよ! クソッ!」
容赦なく、本心をぶちまけていく。
内側から入り、後にその集団を崩壊させていく。
その狙いすらもベラベラと喋り続ける。
さすがにそこまで言われては、ビアンカもミネアも認めざるを得ない。
目の前の男は、人を殺す人間なのだと。
認識と同時にすっ、と武器を構え、戦いの準備をしていく。
隣に広がる裂け目の奥、そこにはアリーナたちがいる。
彼女たちの支援をするためにも、ここで時間をとられるわけにはいかない。
ドラゴンの背から、彼女たちは男の出方を伺っていく。
「うぜェ、うぜェ、うざッてェッ!!」
男の苛立ちの叫びとともに、呪文が紡がれていく。

それが、もう一つの戦いの合図。
.

268瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:12:39 ID:???0
.

体を、ゆっくりと起こす。
紫色の閃光に包まれる直前、誰かが自分の体を蹴り飛ばしていた。
いや、誰かなんてのは考えなくてもわかる。
そんなことができるのは、あの場に一人しかいないのだから。
サイモンは、何かに突き動かされるように"彼女"を探す。
だが、時間はそこまでかからなかった。
わりとすぐ近く、見覚えのある尖り帽子が自分の目の高さあたりに見える。
おかしいのは、その衣服が深紅に染まっていること。
「ふん、まだ生きていたとはな……」
粉塵を起こした張本人、怪鳥の声がする。
サイモンは剣を構え、そして"彼女"は拳を構える。
まだ戦意を見せる二人に、魔物は正直に驚嘆する。
「寧ろ驚きだ、そんな姿で立っていられるとはな」
サイモンはともかく、アリーナの姿は正直言って立っているのがおかしい、というレベルだ。
綺麗に抉られた横一文字、そこから溢れ出さんとしている肉と臓物。
もう少し突けば体が真っ二つになるのでは無いか? と疑いたくなるほどボロボロの身体だというのに。
彼女は真っ直ぐ前を見据え、魔物を一点に睨みつけている。

激痛の果ての境地では、全ての感覚がリセットされるという話を聞いた。
きっと彼女は今、そこに居るのだろう。
ピリと張り詰めた気迫が、ジャミラスの毛を舐めるように立てる。
「ねえ」
そんな中でも、リアは動じない。
いや、動じないというよりは、見えていないというべきか。
見えていないのだから、気迫に動じる必要も無い。
「先、行ってて良い? 早くしないと、お兄ちゃんに会えなくなっちゃうかもしれないから」
 それと、良かったらその巻物と剣をリアに貸してくれない?」
「何だと?」
リアの要求に、思わずジャミラスは聞き返してしまう。
そんなジャミラスの態度も目に入っていないのか、リアは後ろから黙って手を突き出している。

269瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:12:53 ID:???0
「ナイフ取られちゃったから武器が無いの、先に行ってる時に誰かに襲われたりしたら嫌だから、貸して欲しいんだよね。
 それと、その巻物が有れば、リアにもさっきの打てるんでしょ? 万が一って事にも備えておきたいから、ね。
 それに魔物さんには立派な爪があるでしょ? それとも何? 剣がないとそんな死に掛けにすら勝てない?」
「フン、舐めた口を……」
マシンガンのように語られるリアの言葉に、ジャミラスは笑う。
今の相手は死にかけとただの魔物、剣を使うまでも無いというのはごもっともだ。
それにリアに死なれてしまうと、今後敵対するであろうカインに有利が取れない。
今後のための先行投資、一時的に貸すだけだからどうせ後で回収できる。
「先に行っていろ、すぐに追いつく」
「約束だよ」
目の前に投げ捨てられた剣と巻物を拾い上げ、リアはそそくさと懐から何かを取り出す。
それは、一枚の赤い絨毯。
彼女がちょこん、とかわいく座ると、不思議な事に絨毯はふわりと浮き上がった。
そのまま、ジャミラスが作った裂け目の上を沿うようにして、牢獄の町の屋上を、横から飛び出していった。
瞬間、先ほどまでリアが居た場所を"何か"が通り抜ける。
それは、傷だらけの体のハズのアリーナだった。
音を置き去りにしたかのような光速の一撃、攻撃にタイムラグがあったのはリアを認識するのに時間がかかっていたからか。
視界には靄がかかっているのだろうか、動きは早いが、遅い。
「……フン、すぐに終わらせてやる」
剣を構えながら様子を見ていたサイモンが動き出したのと同時に、ジャミラスはもう一つの巻物を取り出す。
それは、爪の秘技が記された巻物。
死にかけと魔物を倒すには、勿体無いかもしれない代物。
だが、リアを待たせていることもある。
ジャミラスは、躊躇わずにそれを使うことを選んだ。

これも、もう一つの戦いの合図。



こうして、二つの戦いの火蓋が落ちた。
勝つのは悪か、正義か。
誰も、誰もわからない。

270瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:13:06 ID:???0


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271瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:13:33 ID:???0
【ジャミラス@  .| ばかだ    ..|DQ6】
[状態]:HP4/  |    な    ..|7、右翼に穴(小)、左手首損傷(使用に違和感)
[装備]:ルカナ .|    き    ..|ンソード@トルネコ3
[道具]:剣の .....|    みたち  .|秘伝書@DQ9 ツメの秘伝書@DQ9 超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを......|       .は......|利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
隙ができ次第  |       こ......|牢獄の町を脱出。殺害数を稼ぐ
[備考]:支給 .....|    ははれ  |品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
         ...|    じ     .|
【リア(サマル ...|    ま    ..|トリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/  |  はでり    ..|5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:なし    |  な      ....|
[道具]:支給 .....|  く       ..|品一式*2 不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにい__.|  おわり     |ちゃんを、ころす。
    隙がで......|         ...|き次第牢獄の町を脱出
         ...|    お     |
【アリーナ@D......|    わ   .....|Q4】
[状態]:健康 .....|    り     .|
[装備]:竜王 .....|         ...|のツメ@DQ9
[道具]:フック ...| おわりおわり |つきロープ@DQ5、支給品一式 水筒×3
[思考]:デスタ ..| わりおわりお |ムーアを倒してゲームを終わらせる。
   ジャミラ   .| りおわりおわ |スを倒す、リアを止めたい
         ...| おわりおわり |
【ミネア@DQ4 ...| わりおわりお |】
[状態]:HP4/  | りおわりおわ |5、疲労(小)、右肋骨喪失
[装備]:あぶな__.| おわりおわり |い水着(下着代わり)、風のマント@DQ2
[道具]:支給 .....| わりおわりお |品一式
[思考]:仲間 .....| りおわりおわ |や情報を集める。
   ジャミラ   .| おわりおわり |スを倒す、リアを止めたい
         ...| わりおわりお |

272瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:13:44 ID:???0
【サイモン(さ ....| りおわりおわ |まようよろい)@DQ5+9+α】
[状態]:健康 .....| おわりおわり |
[装備]:さまよ......| わりおわりお |うよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント
[道具]:なし    | りおわりおわ |
[思考]:友達に | おわりおわり |ついて考える。
   ジャミラ   .| わりおわりお |スを倒す。
[備考]:マホト  .| りおわりおわ |ーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
         ...| おわりおわり |
【男魔法使い   | わりおわりお |@DQ3】
[状態]:MP消 ...| りおわりおわ |費(中)
[装備]:毒蛾 .....|         ...|のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給 .....|   は    .....|品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)、どくがのナイフ@DQ7
[思考]:ホンダ .|   か    .....|ラを利用し、世界を破壊する。
アリーナたち ....| てくな      |に協力する……?
[備考]:過去に |         ...|盗賊を経験しているようです。
※名前、職歴   | も      ......|、杖の種類は後続の書き手にお任せします。
         ...| ろくもく     .|
【ビアンカ@D  .|    ず   .....|Q5】
[状態]:健康  __|    れ   .....|リボンなし
[装備]:女帝 .....|    ていく .....|の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給 .....|       ゆ   |品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ ...|       め   |、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
    ジャミラ__.|    かせの  |スを倒す、リアを止めたい
[備考]:カマエ ..|    い     |ルによって錬金釜の使用方法を教わっています
         ...|    の      |
【ラドン(ドラゴ  |         ...|ン)@DQ1】
[状態]:全身に | は      .....|ダメージ(小) 致死毒(進行中)
[装備]:サタン  |       じ  .|ネイル@DQ9
[道具]:支給 .....|   ま     ..|品一式 不明支給品×1〜2(本人確認済み)、消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:人と魔 .|     り    .|物が手をとる可能性を見届けるため、リュカに従う。北へ向かい、ビアンカたちを救う。
※ラドンの毒  |    だ     |は本来即死効果のものであるため、キアリーによる完治はできません。

273瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:13:57 ID:???0
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.                          "せかいのおわり"
                       ほら、    夢    が――――染まるよ。

                              すっごくきれいだね。



























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274瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:14:09 ID:???0
誰も知らない。
特に怪鳥は知るわけもない。
自らの行動に誤算があったなんて。

怪鳥の一太刀は魔女の命の灯火をかき消すに値する一撃だった。
けれども、吹き消された灯火には、まだ種火が残っていた。
そう、魔女はまだ"死んでいなかった"。
斬られた傷は深くとも、即座に死に至るほどの傷ではなかったということだ。
じわりじわりと魔女の体の血が抜けていくにつれ、力が抜けていただけだったのだ。
まあ、それでも怪鳥にとっても"死んだも同然"だろう。
そのまま放っておけば、血を失い死に絶えていくのだから。
だから、怪鳥は死を確信してその場から立ち去った。

もし、怪鳥が即座に飛び去っていなければ。
もし、怪鳥が魔女の命が消えていることを確認していれば。
もし、怪鳥が魔女の心臓を貫いていれば。
もし、怪鳥が魔女の頭を踏みつぶしていれば。
もし、怪鳥がもう少し付近を探索していれば。

紡がれる未来は、少し変わっていたかもしれない。



ぱちり。
水に打たれたかのように、目を覚ます。
ぞわりと何かに舐められるような感覚に、寝ていてはいけない様な気がして。
痛む腕に顔をしかめながらも、ベッドから飛び起きていく。
側にいるはずのバーバラは、いない。
そして自分は今の今まで寝ていたということが、思っていたことを簡単に結びつける。
休んでいた民家から飛び出し、近くの首なし死体には目もくれず、一直線に飛び出していく。
「あッ!!」
見つけた、見つけてしまった。
暗く淀んだこの建物の中で、一際目立つ赤に身を埋めながら。
そこに倒れている少女、バーバラの姿が。
これだけの血を流し、倒れているという事は。
手遅れかもしれない、分かっている。
それでもリッカは、彼女の側に寄らざるを得なかった。
ガシリ、と青白くなりつつある細い腕を掴み、うつ伏せから仰向けに変えていく。
無駄かもしれないと分かっていても、何かしたいから。
「……まだ息がある」
口元に当てた手に、弱く弱く吐息がかかる。
だが、その息ははひゅ、はひゅ、と次第に小さくなっていく。
命が、消えようとしているのが分かる。
今自分にあるのは宿屋としての応急処置の手段だけ。
本格的な治療も、傷を治す回復呪文も、彼女には何もない。
だからといって、何もできないのは嫌なのだ。
目の前で消えかけようとしている、命があるのだから。
うまく動かせない右腕で傷口を押さえながら、慌ててふくろから何か道具を取り出す。
「あっ!」
そのとき、勢い余ってある道具がふくろからこぼれ落ちてしまった。
袋からこぼれだしたもの、蒼い球体は一直線にバーバラの胸元に落ちていく。
それを拾おうと手を伸ばしたとき、蒼い球体があたりを包み込むほどのまばゆい光を放った。

275瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:14:32 ID:???0
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「う……ん?」
目を覚まそうとする。
……もちろん、それはおかしいことなのだが。
ジャミラスに一撃を許し、胸に大きな一文字を咲かせてしまったはず。
身体から力が抜けていく感覚の中、何もできないままに意識が遠のいていくところまでは覚えているのだが。
なぜ、自分は目が覚めたのか。
それどころか、痛みまで消えているのはなぜか。
ああ、死んでしまった後の世界か。それならば納得だ。
そう思いながら、バーバラはゆっくりと目を開く。
「あれ…………?」
目を開いた時、飛び込んできた光景は最後の場所だった。
ぐるりとあたりを見渡してみても、自分が倒れたときと何ら変化はない。
ただ、変わっているとすれば。
「バーバラさん!!」
ぎゅっ、と何かに抱きつかれる。
見覚えのある、オレンジ色のバンダナ。
少しだけ心地のいい、やわらかな香り。
「リッ……カ?」
「よかった、ほんとによかった!!」
目に涙を浮かべながら、リッカはバーバラから離れようとしない。
どういうことか、リッカは自分を蘇らせたようだ。
しかし、ザオリクはおろかベホマもろくすっぽに効かないこの世界で、いったいどうやって?
傷だらけの自分を元に戻す、そして大魔王の力すらも消し飛ばせる何かを、リッカは持っていたというのか。
ふと足下を見る、そこには砕け散った蒼い欠片。
道具は例外、だということだろうか。
「……ありがと」
ともかく、蘇ったという状況を理解したバーバラは、すすり泣くリッカの頭を優しくなでる。
だが、いつまでもこうして女々しく抱き合っている場合ではない。
遠のいていく意識の中、ジャミラスが上へと飛び去っていったのが見えた。
こうしている間にも、ジャミラスによって"救われない"魂が生まれてしまう。
早く、早く自分が"救って"やらねば。
だからまず、目の前の彼女から、救ってあげよう。
抱きついているリッカから優しく離れ、バーバラは優しく微笑む。
「バーバラさん……?」
その意図が今一理解できず、リッカは呆けた顔でバーバラを見つめる。

276瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:14:42 ID:???0
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「……逃げて」
飛び出したのは、衝撃的な言葉だった。
「この靴、空飛べるから。それで逃げて」
「でも! バーバラさんは!!」
もちろん、リッカは食い下がる。
バーバラだけをおいて逃げるわけにはいかないから。
「あたし、こう見えてもすっごい強いんだよ?
 ま、アレフ程じゃないけど、さ」
だから、バーバラは"嘘"を盛った。
「それに、あたしまで逃げたら、ビアンカさんが可哀想じゃない」
本当はそんなんじゃない、ただ上に行ってみんなを"救い"たいから。
夢を司る者として、みんなを悪夢から覚ましてあげたいから。
可哀想だと思うのは本当だ、こんな悪夢に巻き込まれているのだから。
「ビアンカさんを助けにいく、だからリッカには先に安全なところに逃げてほしいの」
何より自分が"大魔女"になるところを、リッカにだけは見られたくないと思ったから。
リッカには、安全な場所に逃げてほしいと思ったから。
……こんなところに安全な場所なんて、あるわけ無いのに。
偽りに偽りを上塗りした自分の言葉に、自嘲の笑いを浮かべてしまいそうになる。
「ああ、そうそう……」
リッカに言づてを頼もうと、ある人物の顔を思い描く。
「……やっぱいいや」
が、やめた。
何より未練がましいし、彼も例外無く救う対象なのだから。
矛盾に矛盾していて、嘘まみれの自分自身に、ふふっ、と笑ってしまう。
「行って、あとで絶対に追いつくから」
「でも!!」
しかし、まだリッカは食い下がろうとする。
「行けって――――」
バーバラは静かにすぅ、と大きく息を吸い込む。
「――――言ってんのよぉぉぉっ!!」
ダンッ、と地面を強く踏みしめる音が響く。
バーバラの目は、本気そのもの。
従わなければどうなるか、リッカは何となく心で理解した。
「……約束ですよ」
「もっちろん」
そして、リッカは軽く地面を蹴り。
大空へ、飛び立っていった。

277瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:14:52 ID:???0
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「ごめんね、嘘ついて」
何度目か、笑う。
これから屋上に向かうのは、ビアンカを救うためではない。
屋上にいるありとあらゆる命を救う、いや殺すため。
もう、迷ってなどいられないのだ。
自分もいつ死ぬか分からない、それは先ほどのジャミラスとの戦闘で自分自身が噛みしめている。
時は12時間過ぎ、救われない命は半数を超えた。
早くしないと、救われない命が増えてしまう。
もう、魔力を渋っている場合ではない。
かつん、かつんと一段階段を上るごとに、決意を強固にしていく。
屋上からは人の気配を多く感じる、少なく見積もっても五人はいる。
「……私は、大魔女バーバレラ」
最後の一段を踏みしめ、粉塵立ちこめる屋上を見渡し、そう呟く。
「悪夢に迷える亡者達よ、私が今救ってあげましょう」
誰も、誰も気づかない。
「一つは千に、千は一つに」
破壊を齎す、大魔女の存在に。
「闇よ、光よ、総ての力よ」
優しくも残酷に、滅びの調べを歌う魔女の存在に。
「我は、今汝を解き放つ」
……ここまでは従来のマダンテ、魔物の悟りを用いて覚えられる物と同じである。
「眠れる大地よ、安らかなる大気よ」
彼女の紡ぐ破壊は、少しだけ違う。
「我が解き放つ力に応えよ」
カルベローナにはもう一つ、禁忌があった。
「今、我が汝等を救わん」
究極破壊呪文の更に上をいく呪文。
「破壊と、共に」
禁忌中の禁忌、その名を――――
「クラス・マダンテ」

278瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:15:02 ID:???0
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                                      .真っ赤に




























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279瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:15:22 ID:???0
「やだっ、やだ、やだぁぁぁっ!!」
空から大粒の涙を流し、リッカは泣きじゃくる。
「バーバラさん! ビアンカざああああん!!」
足下の赤い輝きに目を奪われた。
靴に身体を導かれながらも、その光の方を向く。
そこには、赤い光と共に崩れて溶けていく牢獄の町の姿。
素人でも分かる強大な魔力、あんなのに包まれて生きていられるわけがない。
「嘘つき! バーバラさんの嘘つき!!」
ただ、祈ることしかできない。
泣きわめき、叫びながら。
無力な彼女は、祈ることしかできない。



音のない轟音を感じ取り、離れた場所でリアは絨毯の上から振り向く。
そこには、赤に包まれていく牢獄の町の姿。
「わー、派手にやるね……」
感情のこもっていない棒読みで、彼女は言う。
ジャミラスの切り札というのはここまでスゴいものだったのか、その程度の感想だ。
何人死のうが、別に構わない。
「待っててね、お兄ちゃん」
だって、彼女は。
「今、殺してあげるから」
一人しか見えていないんだから。



「ひ、ひええええ〜〜っ!!」
融けだしていく牢獄の町のすぐ側で、慌てて逃げる一人の男がいた。
着の身着のまま、とにかく走り出していく。
なぜか? 死にたくないからだ。
傍観していた彼は階段を上る魔女の姿に気がつき、その尋常じゃない気配を察して、気づかれないようにこの町からでようとしていた。
幸運にも気づかれることなく町の外に出ることには成功したが、その瞬間牢獄の町が"赤"に包まれたのだ。
やばい、という第六感が働き、ホンダラはとにかくそこから逃げた。
「どいつもこいつも!! なんなんだよ、なんなんだよ!!」
戦うことを知らない彼は、ただ逃げまどうことしかできない。
この、悪夢の中を。

280瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:16:09 ID:???0



包み込んでいく赤。
砕け、融け、崩れていく町。
全てを飲み込み、全てを壊し、全てを救う。
赤が、ゆっくりと解き放たれていく。
「……ふぅ」
無惨にも崩れさった瓦礫の上。
一人の少女が、静かにため息をつく。
全て壊した、全て奪った、全て救った。
「はは、はははは、はははははは」
笑う。ようやく救うことができた達成感を噛み締め、笑う。
「ごめんね、遅くなって。
 あたしが、救ってあげなきゃいけなかったのに」
自分がやらねばならなかった、他に救うことができる人なんて、誰もいなかった。
魔力は失ったけど、多くの人を救うことができた。
時が経てば魔力は戻る、そうしたらまた"救い"に行こう。
まだまだ救われない魂が、たくさんあるんだから。
「あれ?」
そのとき、ガタリと瓦礫が動く音がする。
おかしい、あの魔法を受けて生き残っていられる人間がいるわけがないのだ。
疑問を抱きながらも、バーバラは音のする方向をじっと見つめる。
「バー、バラ?」
そこには見知った顔、ビアンカが立っていた。
無傷、という訳ではない。
だが、あの破壊呪文の中で過ごしたというには、あまりいも傷が少なすぎる。
バーバラの目は、疑念に満ちていた。
「どうやって生きてたの……」
何もかもを飲み込む破壊呪文の中、どうやって生きていられたというのか。
疑問に思いながら足下を見る。
瓦礫を背中で受け止め、その身を漆黒に焦がしながら死んでいる竜の姿が見える。
竜が、人を救ったというのか……?
「ま、いいや」
そこで、考えるのをやめる。
なんにせよビアンカは言ってしまえばただの一般人。
そして自分には魔力はなくとも、この身体に叩き込んだ武術がある。
戦闘経験の浅いビアンカに、後れをとることはない。
バーバラは地を蹴り、一気にビアンカへと詰め寄っていく。
「ビアンカさん、今救ってあげ」
振りかざした手がビアンカに突き刺さる直前。
視界に何かが写ったと同時に、覚えのある感覚に襲われる。
「え"っ?」
理解していた頃にはもう遅く、バーバラは再び胸に赤い花を咲かせていた。
そう、生きていたのはビアンカだけではない。
"もう一人"、いた。
ビアンカだけが生きている、そう思いこんで意識を全てビアンカに傾けていたバーバラにとって、それは最大の誤算だった。
「あ、が、ああ」
乱入者、鎧の騎士を認識すると同時に、心臓に剣が突き立てられる。
どくどく、どくどくと血が流れ、力が抜けていく二度目の感覚。
今度はリッカもいない、魔法の道具もない。
つまり、死ぬ。
「や、だ……」
だめだ、死ねない。
自分はまだ救わなきゃいけないんだから。
この悪夢をさまよう魂を、救って、救って、救って。
殺して、殺して、殺して、救って、殺して――――
「しに、たく……」
その言葉と同時に、剣がぐるりとひねられ。
大破壊を齎した魔女は、大きな血の固まりを吐いて、本当の眠りについた。

281瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:16:48 ID:???0
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「サイ……モン……」
ビアンカを救った影、さまよう鎧のサイモン。
彼が生まれるルーツとなった一部、あるくんですは「歩けば歩くほど」経験がたまる機械だ。
それが作用してなのか、サイモンも歩けば歩くほど物事を覚える。
そして、ようやく覚えたのは"防御の上をいく大防御"。
視界が赤に包まれると同時に、覚えたての構えに移ることで、あの破壊を凌ぐことはできた。
とはいえ、それができたのはサイモンだけ。
他の者は、たとえ破壊の光に気がついたとしても、動けるだけ。
結局、飲み込まれるしかなかった。
「……無事だったのか」
「ええ、まあ、ね」
何より、ビアンカとサイモンが助かった理由。
ビアンカはラドンがその身を挺してビアンカを庇い、ミネアが最後の力を振り絞って自己犠牲呪文をビアンカに紡いだから。
なけなしの呪文でも、命を賭した呪文は強い。
ビアンカの傷が驚くほど少ないのは、ミネアがその身を挺して呪文を唱えたからだ。
よく見れば、竜のそばに一人の遺体がある。
その顔は……どこか、笑っているようにも思える。
そして、サイモン。
彼がしのげたのは大防御を覚えていた、ということもある。
だが、それだけでは究極を越す破壊呪文はしのげない。
では、なぜか。
答えは少し遠くにある。
そこには、全身を真っ黒の炭に変えながらも崩れ落ちず、立ったまま死んでいるアリーナがいたから。
彼女もまた、最後の力を振り絞り"友"を守ろうとした。
立ったままの姿を保っているのが、彼女の意志の強さを表している。
怪鳥と老魔は、ただ飲み込まれて溶けていった。
その差は、生きる、守るという意志。
彼らにはなかった"絆"が、姿を保っていられた秘訣だったのだ。
「……ビアンカ」
そして生き残った、生かされたサイモンが小さく呟く。
「わからない、わからないんだ。
 ただ、気がついたらあの少女を斬っていて。
 それでも、わからないままで」
サイモンの中に、何かが生まれようとしていた。
けれどもサイモンはそれが"何"かはわからなくて。
ただ、身体が動くままに災厄の少女を斬った。
そうしなければいけなかったような、でもそれはしてはいけないことのような。
それが、わからなくなっていた。
「……助けてくれ」
ぽつり、と呟く。
悲しい、うれしい、楽しい、ムカつく、人間にあるあたりまえが。
今、それを知らない彼に芽生えようとしていて。
彼は、正体不明のそれに、怯えている。
だって――――飲み込まれそうだから。
「俺は、どうしたらいい」
生き残った唯一の人間、ビアンカに問う。
ビアンカは、それに応えることなく。
金属でできたサイモンの身体を、ぎゅっと抱きしめた。

かちゃり、と飾りがサイモンの身体とすれて音を立てる。
ふわり、と吹いた風がサイモンのマントを靡かせる。
瓦礫の上、たった二人で。

時だけが、過ぎていく。

282瓦礫の詩人達 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:17:19 ID:???0
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【ジャミラス@DQ6 死亡】
【男魔法使い@DQ3 死亡】
【ラドン@DQ1 死亡】
【ミネア@DQ4 死亡】
【アリーナ@DQ4 死亡】
【バーバラ@DQ6 死亡】
【残り20人】

【B-4/北部/夜中】
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2、魔法の絨毯@DQ5、剣の秘伝書@DQ9
[思考]:殺す。

【B-4/北西部/夜中】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:逃げる。

【B-4/上空/夜中】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま) 飛行中
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5
[道具]:大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:泣く。
[備考]:寝ていたため、放送の内容を知りません。

【A-4/ろうごくのまち跡/夜中】
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:"騎士"は今、"心"を手に。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント
[道具]:なし
[思考]:なんだ、これは。
[備考]:マホトーン、大防御を習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP1/3、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
     サイモンを、抱きしめる。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

283 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 01:17:35 ID:???0
以上で投下終了です。

仮投下、という形にしたのは言うまでも無く基本ルールに抵触しているからです。

・前話で死亡表記の出ているキャラクターを復活させた。

この一点ですね。
前話の描写を元にある程度理論を立てたつもりですが、逆に言ってしまえば「描写されていなければ覆して良い」という
前例を作ってしまうことになるため、一度住民の皆さんに意見を伺おうと思い、仮投下とさせていただきました。

・ジャミラスが加えたのは一撃だったこと
・ジャミラスは死亡をきっちりと確認していなかったこと
・前話のバーバラの描写が言葉が途切れるところで止まっていたこと
・復活の玉は死に行く者を止めるアイテムであること。

以上の点などから判断し、同じ事は繰返せないという風にはしたつもりですが、
やはり一度死亡表記を出されたキャラクターを復活させる、というのは、
その話中で死亡するとしても、ノーチェックで通して良い点では無いと思います。

その他にもいろいろと突っ込む点はあると思いますが、やはり大きい点としてはここだと思うので、
今回は此方の一点に絞らせていただきます。

「バーバラがクラス・マダンテを撃つ」というのが話の根幹に関わってくるので、修正するとなると大きく時間がかかると思われます。
ですので「やはり基本ルールに抵触するのは問題なのでは無いか?」という意見が多数だった場合、一時的に破棄とさせて頂きたいと思います。
その際は修正を進めますが、お気軽にこのパートを予約していただければ幸いです。

以上です、読み手書き手ないしDQBR2ndを見ている方のご意見を率直にお伺いしたい所存です。
宜しくお願いします。

284 ◆TUfzs2HSwE:2013/05/22(水) 02:35:27 ID:???O
投下乙です。
読了いたしました。感想はまた後程書かせていただきます。

基本ルールに抵触していること前提で書かれたものだということは書き手さん本人が一番よくわかっているようなので、
今から言うことは批判ではなくあくまで意見として聞いていただきたいです。

今回のは本当に基本中の基本のルールに抵触しているので、これが通った場合、やはり後の進行に影響が出ると思います。
何より、バーバラが死ぬという前話を書かれた書き手さんに対して、
それをひっくり返すような今作を認めるのは、失礼ではないかと感じます。

ただ、書き手一個人の意見として言えば、
マーダーが減っている中で、バーバラがマダンテを発動した結果大量に脱落するという展開は必須ではないかと以前から考えていました。
前々作を書いたものとしては、キャラを一ヶ所に集めることで、その展開が発動しやすいように仕向けたつもりでもありました。
なのでこの展開を書きたかった気持ちはわからないではないのです。
しかしバーバラのマダンテが発動できた理由がアイテムによる蘇生だけでは、前作でバーバラが死んでいった意味がまるで無くなってしまいます。

・前話でバーバラが死んだという事実を、アイテムという単一の要素だけで引っくり返さないでほしい
・マダンテが発動できた理由をもっと深く追求して描写してほしい

その上でこの展開になるのだとしたら私は有だと思います。

無茶ぶりを言うようで申し訳ないですが、今のDQ2ndの世界観や夢という要素を用いれば、単純に生死を引っくり返す以外にも方法があるのではないでしょうか。
それこそあまり出てきていない主宰者サイドと絡んでもいいかもしれませんし、
ルールに敢えて抵触するよりも、やりようがあるのではないかと思います。

私からは以上ですが、他の書き手さんにも意見を伺ってみたいです。

285ただ一匹の名無しだ:2013/05/22(水) 02:59:47 ID:ATS/v.CUO
あげときます

286 ◆MC/hQyxhm.:2013/05/22(水) 06:33:02 ID:???0
投下乙でした

さて、「今回のバーバラがマダンテを発動しする」という展開は、僕自身も考えていた展開でもあるので、僕個人としては「ああ、面白いなぁ」と思いました。
何より前話での僕のバーバラ退場の描写が曖昧だった事に問題があったような気がしました。すみません

しかしバーバラ蘇生が復活の玉による物であり、実質ノーコストというのは少し問題かな、と思いました。

僕としてはバーバラ蘇生の仕方をアイテム単体の物ではなく、何かそれなりの方法でできるなら、問題は無いかなと思います。

287 ◆jOgmbj5Stk:2013/05/22(水) 07:30:28 ID:???0
かなりの冒険作だと思います。投下するのは勇気が必要だったことでしょう、敬意を表します。
話自体も面白かったです。
しかしながら、この件にたいして意見を言わせてもらうと、まずバーバラは死んではいなかった、という点は
やはり受け入れがたい展開だと思います。
ジャミラスが確認していなかったとはいえ、メタ的ですが死亡表記によって確定されているのですから。
前の書き手が「死亡」とした以上、それを覆すにはそれそうおうの理由、演出が必要だと思います。
しかし、今回は

> 怪鳥の一太刀は魔女の命の灯火をかき消すに値する一撃だった。
> けれども、吹き消された灯火には、まだ種火が残っていた。
> そう、魔女はまだ"死んでいなかった"。
> 斬られた傷は深くとも、即座に死に至るほどの傷ではなかったということだ。
> じわりじわりと魔女の体の血が抜けていくにつれ、力が抜けていただけだったのだ。
> まあ、それでも怪鳥にとっても"死んだも同然"だろう。
> そのまま放っておけば、血を失い死に絶えていくのだから。
> だから、怪鳥は死を確信してその場から立ち去った。

と、ただ前回の内容を否定するのみとなっており、
これでは、さすがにリレーにもとるのではないか、と思います。

加えて言うならば、「復活の玉」という蘇生アイテムがこのロワで許されていた理由は
このアイテムが死んだ瞬間に発動する自動アイテムであること。死亡表記がされる前にその話中に復活するからこそ、
「アリ」だと認識されていたと思うのです。前話で死亡したキャラクターを復活させる為に使うのはどうかと、この点でも疑問に思います。

私個人の意見として、このまま通すには些か問題のあり過ぎる話だと言わざるを得ません。
私自身あまり参加できてないことで引け目もありますが、今回の話はロワの根幹にかかわる大きな話だと思えたので意見を書かせていただきました。
発想自体は面白いものだと思いますので、通すとするならば「バーバラが死亡している」前提で
それを覆すアイデアがあればまだ「特例」として認められ易かったかな、と。
そうするには主催が関わってきたり、いろいろともっと大きなお話になってしまうかもしれませんが。

288 ◆CruTUZYrlM:2013/05/22(水) 18:15:05 ID:???0
ご意見ありがとうございます。
◆jO氏や◆TU氏が仰るとおり、◆MC氏の作品をいいように使い、否定しきった上での展開ですので、リレーとしてはやはりNGの作品だと思います。
それを承知の上で書いたわけですが、指摘だけでなく代案まで提案してくださり、本当に頭の上がらない思いです。

死亡が曖昧だから復活の玉でいけるのではないか?
と考え執筆していたあまり、その他の手段に全く頭が働いていませんでした。

みなさんが言うとおり、アイテムという単一要素ではなく、もっと大きな何か、という点にフォーカスを当て、少し考えてみたいと思います。
後半部をほぼ一から書き直す事になるため、修正には非常に時間がかかると思いますので、今回の投下は破棄にいたします。
もちろん修正は行って参りますが、初めに申したとおり、
このパートを書きたい方がいらっしゃいましたら、お気兼ねなく予約していただければ幸いです。

後半部分全カット+加筆で前半部分だけを投下することも考えましたが、展開が狭まってしまうことのデメリットの方が大きく感じますので、完全破棄と致します。

貴重なご意見をくださった◆TU氏、◆MC氏、◆jO氏、また今回の投下を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
そして最後となりましたが◆MC氏、リレーの否定に始まり多数のご迷惑をお掛けいたしましたことを、
書面上で失礼いたしますが、深くお詫び申し上げます、大変申し訳ありませんでした。

今後より一層の精進に励んで参りますので、何卒よろしくお願いします。

289魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:43:26 ID:???0
誰かが言ってた。
本当に信じきれるのか、って。
盲信できるのか、妄信できるのか?
私は何でもないことのようにわらった。
大丈夫です。私が苦手なことは■■■■ことだから。
だから、大丈夫なんです。


その時は、いや、今でもそれは変わらない。

でも、そう言った事を本当に後悔していた。



◇◇



アンジェの足をとめたのは、無慈悲な声だった。



『アルス』

……覚悟はしていたはずなのだ。
信じようが信じまいが、彼が死んでしまう可能性は決して低くなかったのだから、ショックを受けるだろうことは覚悟、していたはず、なのだ。
―――動揺がゆっくり広がる。
街はもう見えているというのに、自然と足は止まっていく。
殴られたように視界が揺れる。
実際、流れる放送に殴られたようなものだった。
第二回放送、死者17名。
――――内、見知った人は1名。
リッカやルイーダが死んでいなくてよかったと思うべきなのか、死んだ人数が少なくても、悲しまなきゃいけないのかもわからない。
わかるのは、今自分が泣いちゃいけないということだけだ。
たった数時間前、決めたばかりなのだから、

「ごめんなさい、アルスさ、ん」
声が変に上擦っている。
「まだ、私、貴方のためには泣け、ないで、す」
きっと瞳には涙が溜まってる。
「でも、思いっきり、悲しみますし」
嗚咽が漏れる。
「後悔、してますし、」
頭によぎるのは、意味が無いと分かってしまっているもしも、で。
「でも、だからこそ、泣きません」
だからなのか、止まった一歩は進まなかった。
何をどうした所で、それこそ泣いたところで、進める気がしなかった。
―――先の見えない後悔の道が、とても怖くて進めない。

気分を晴らそうにも、全力だ突っ走っていたからか、一緒にいた仲間の姿は見えない。
ルイーダの元へと続く道のはずが、いつの間にか全く別の方向へと続いているような気がした。
このまま進んで、もし、……もし、ルイーダまでもが死んでしまったとしたら。
…………正直、耐え切れるとは思わなかった。


アルスが死んで、サンディも死んで―――

(…………そういえば、私、まだ一度目の放送聞いていませんでした)

290魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:44:46 ID:???0

気分を晴らそうにも、全力だ突っ走っていたからか、一緒にいた仲間の姿は見えない。
ルイーダの元へと続く道のはずが、いつの間にか全く別の方向へと続いているような気がした。
このまま進んで、もし、……もし、ルイーダまでもが死んでしまったとしたら。
…………正直、耐え切れるとは思わなかった。


アルスが死んで、サンディも死んで―――

(…………そういえば、私、まだ一度目の放送聞いていませんでした)

それはつまり、ひょっとしたらアンジェの知人が他にも死んでいる可能性が、笑えないほどの確率で存在しているわけであって……
後ろから来るであろうゼシカ達を待つか、足がちぎれてでもルイーダの所へと向かうか。
出来るなら進みたいのだが、情けないことに未だに足は進まない。
合流して話を聞いて、それからルイーダに会いに行こう。
それに、きっと。
もしも他に色んな人が死んでしまっていたら、一人じゃ耐えきれないだろうから。
……少しくらい、頼ってしまってもいいかなって、そんな思いもある。

一回、深呼吸。

ぐちゃぐちゃに混じって、混ざった色の判別すら出来なかった心が、少しだけ落ち着いた。
それに、こればっかりはもう、欝になっていても仕方ない問題だ。
どうしようもないことで、どうしようもないことすぎるけれど、受け入れて進まなければ。
受け入れられないなら引き摺って、それも出来ないなら小さく砕いて少しづつ運んでいこう。
運ぶにもまだ足は動いてくれないけれど、きっと、そのうち。


「アンジェ!」


…………聞き覚えのある声が聞こえた。


◇◇


一人寂しく、溜め息を吐いていた所だった。

“探し物”は町の中央では見つからず、ならしらみつぶしに探していくしかないと町の出入り口に近い場所から調べていた。
そして、町中を歩き回って数時間。

291魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:45:54 ID:???0
“探し物”のさの字すら見当たらなかった。
そんな簡単に見つかるものじゃあない……と、言うか何の手掛かりもなしに見つかるものではないのだが、数時間無駄な事をやらされていた感が拭えない感情と疲労した体はどんどんと苛立ちを募らせていた。
途中、握手見な放送が流れてきたのも苛立ちを募らせた原因の一つである。

死んだのだ。先ほど別れたばかりの男が。

自分が離れたから死んだ―――だなんてことは考えない。そもそもあれだけの力をもつオルテガが死んでしまった時点で、戦闘力にそれほど自信がないルイーダが居た所で戦況がひっくり返る筈がないのだ。
知識と知恵は与えられたかもしれない。
作戦は話せたかもしれない。
――――それだけだ。
圧倒的な実力があったオルテガは死んだ。
つまり、その力すら超える超絶的な実力を持った化物と遭遇したか、相手が想像を超えるような策士であったか。
他にも可能性はある。ただ、例えその内のどれかが正解だったとしても、ルイーダ諸共殺されていた可能性が高いだけだった。
――――それだけだ。

この世界に来て、初めての知人の死。
嘘だと笑えやしない、冗談はやめてとも言えない。
オルテガだけじゃない。
声を失ったあの女の子も。
本当に、冗談はやめてほしかった。

沈んでいた顔をなんとなく前へ向けてみる。本当になんとなくの行為だったのに、ルイーダの視界にいやに明るいその色が小さく映る。
トレジャーハンターとして鍛えられた視力の良さは、普通ならば絶対にわからないものを視界に入れた。
そして多分。
そこから先は――――偶然だった。
その色が探し物の一つであったのは、偶然だった。

いくら視界に映りにくい距離とはいえ、そこまで距離は離れていなかった。
町の出入り口で佇んでいたルイーダの足が真っ直ぐ町を抜け出して行く。
足音も聞こえていないのか顔を伏せている相手は気付かない。
一声。
走りながら出した声はそこまで大きいものではなく、まだ相手は気付かない。
目の前で、一声。
その小さな体が大袈裟なくらい勢い良く跳ねた。
ようやく上げられた顔は、やはりよく知っているものだった。
気が抜けた表情が、少しづつ感情を取り込んでいく。
そして、最終的には、

「ルイーダさんっ!!!」

犬のように飛び込んできた。
探し物の一つ、アンジェの突進は、なかなかの衝撃だった。



◇◇


放送が聞こえた瞬間、二人の足は同時に止まった。
聞かなければならない。何故か。生き残るために。
放送が終わる。一人の足は止まったままだった。
何も言わない。言わなさすぎて、逆に違和感を感じる。

「…………竜王?」

ゼシカの声にすら反応しない。

292魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:48:45 ID:???0

風も吹かず、鳥どころか生物が殆ど皆無なここでは、二人の声が途切れるだけでうるさいほどの静寂が生まれる。

ゼシカもまた、一人失った。
しかも、まるでそれは愛した人を追いかけたように、消えていった。
精神的ショックがまた積もる。
魚が死んだことは、寧ろ嬉しいかもしれない。
一度死んだはずの仇敵が、また死んだことだって、喜べる。
ただ、同時に。
どんどんと、一人きりにされていっているような気がした。
この世界に来て何個目かの不安。
今までとは全くベクトルの違う不安なのに、それは一番大きい筈の“死”の不安よりも、尚不安だった。
だからこそ、竜王の名を呼んだ。
今、自分は一人きりじゃない。一人きりになる、なんてふざけた不安を振り払いたかったのに。

…………竜王の表情は、まだ固まったままだった。

それからゼシカは声を上げなかった。
動かない竜王の側でまた、彼女も動かない。
それから、ずっとそうやって。
数分間、放心して。
ようやく竜王が歩き始めた。
但し、何も言わない。
先程のように拗ねているからじゃない。
ただ、何も言えなかった。
そんな竜王の様子をみて、ゼシカも何も言えなかった。
言えやしなかった。

(これは…………なんだ)
竜王は思う。

(あのエセ紳士が死んだ。だからどうしたというのだ
寧ろそれは、喜ぶべき事の筈だ
そう、決して悲しむものじゃない

なら、この言い様のない感情はなんだ。
経験したことがあるのかないのかすら判らぬ、これは、なんだ

悲しみ?
それは知っている。いや、知らなくとも断言できる。決してそれではない
喜び?
普通ならば、そうだ。
だが、これは違う。そんな愉快なものではない。喜びなど、微塵も感じぬ











そうか。これは、――――怒りか

散々コケにして、挙句には死に逃げされたことに対する怒りか。
ワシが手を下す前に、さっさと死んでいったことに対する怒りか。
目的を散々にしてくれたことに対する報復がまだだと言うのに、どこかの誰かに殺されたことに対する怒りか。
それとも、全部か)

293魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:54:11 ID:???0
間違いなかった。
それは紛れもなく、アレフに対する激しい怒り。
但しそれは、彼も良く知る憎悪という怒りではない。
ならば、何だというのか――――竜王には判断が出来なかった。
これもまた、知らない感情か。
それすら判らないまま、それでも怒りの炎は広がり続けていた。



――――ゼシカは、どうしてか言う事を戸惑った。
先程竜王は自分の中でそれを否定した。
だが、ゼシカの目に映る竜王の姿は、大きな怒りと、小さすぎて見失いそうになる、悲しみを感じたような気がしたのだ。
結局―――ゼシカは何も言わずに先へ向かったアンジェを追う選択をした。

うるさいほどに、静かだった。



◇◇


再び、アンジェの心は抉られた。
剣なんてものじゃない、大剣だ。
勢い良く刺され、勢い良く引き抜かれ、色々なものを飛び散らした。

ルイーダと再会出来た喜びは彼女の足を進めさせていた。
だからこそ、もう一度止められるにはそれなりの出来事が必要だ。
彼女が気絶し、聞き逃してしまった第一の放送は、足を止めるには十分すぎた。
ギュメイ将軍―――敵の立場ではあったけれど、しかし彼がどれだけ凄く、また優しい人なのかは、知っていた。
死後ですら仕えた国を心配して現世に降りてくるような人だった。
彼は3度蘇り、そして4度死んだ。

294魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:55:15 ID:???0

まず、一突き。

そして二突き目。

どこまでも純粋だったが故に、悲劇に堕ちた大天使。
そんなあの人は、死んでしまった弟子を救ってくれと、願ってくれて。
それは同時に、アンジェを救ってくれて。
ようやく静かに眠れるか、という所で―――墓荒らし。
荒らされるだけ荒されて、彼は2度死んだ。

抜かれた所から色々なものが流れ出す。

そして、次。
三突き目―――致命傷と言ったっていいレベルだった。




どうして――――また置いてっちゃうんですか、イザヤールさん。



「ルイーダさん」

今にも消えそうな声でアンジェは呟く。
ルイーダはその先に何を言われるのか知っているのか、その声に返事はない。

「少しだけ、縋っていいですか」

弱々しく抱きついてきたアンジェを突き放す事なんてしない。
どこまでも突っ走って行って、自分の辛さに気付けないアンジェがこうやって縋るのは、とても珍しいことだ。
優しく抱き寄せる。頭を撫でる。
泣きそうな声で、アンジェが零す。

「なんで、みんな、置いていくんですか! 私、もう、おんなじ人にも何回も何回も置いていかれてるんですよ!?
いやですよ―――ようやく会えたと思ったらまた離れて、それで気が付いたらまた会えなくなってて!!
みんな勝手です、私を一人にする!」

色んな人が彼女を置いていった。
追いかけて追いかけて、ようやく追いついた。
そうしたら―――消えていた。

295魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:56:30 ID:???0
心が刺される、貫かれる、抉られる。
それでも、泣かなかった。今だって、泣いていない。
その代わりの、泣き言だった。

「バカ、です、みんな…………!」

受け入れられなくなった悲しみ。
それぐらいなら、一緒に背負ってあげられる。
奇しくも、自分も先程失った。
悲しみを比べるのは間違いだろうが、約分ぐらいはいいだろう。
だから、今だけは。縋っても、いいんだよ。











その瞬間、背筋が凍り付いた。


「悲しんでいるのですね」

どこまでも優しい口調で、彼女は現れた。
フラフラとした歩きだったのに、それはとてもしっかりした足取りだ。
絶望の町から出てきたリンリンはどこまでも絶望的な無表情で、どうしようもなく絶望的な殺気を放ちながら、アンジェ達を見つめていた。

「わたくしも、先程色々失いました」

優しい口調と、徹底した無表情にはただただ恐怖しか覚えない。
脊髄に凍ったスライムを流されたように、生温い寒気を感じる。
アンジェもルイーダも直ぐに戦闘体制に入る。
――――とても、寒い。

「だからこそ、決めました」


「全部、壊そうと」


絶望的なまでに、寒い。




「アルスさんを殺したのは、あなたですか」

「ええ」

返事はとても簡潔なものだった。
それが余計に心を抉る。

296魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 20:58:23 ID:???0

相手は今片手を失っている。
なのに―――勝てる気がしなかった。
数時間前にアンジェ達と戦った時とは何かもが決定的に違う。
雰囲気も状態も思考も覚悟も―――全てが、違っている。

「アンジェ……なんなの、この子……」

ルイーダの表情が引きつっている。
誰だって一目見ればわかるほどの異常性―――それは恐怖に繋がっていた。
対するアンジェの表情は、引きつってはいなかった。
ただし、緊張からか固まっている。
この状況で逃げ出すのを許してくれるような相手ではない。
…………戦うしかないのだ。


「ルイーダさん、私、色んな人が死んでとても悲しいです。 エルギオス様もギュメイ将軍もアルスさんもサンディもイザヤール様も死にました」

「……ええ」

「置いていかれました」

「…………ええ」

「また、追いつけるでしょうか」

「ええ」

「なら、大丈夫です」

「―――なら、安心ね」


置いていかれるのが怖くて。
一人になるのが怖くて。
追いついて、また離れられるのが怖い。
怖いけれど、止まれば後悔する。
怖いけれど、止まれば追いつくこともできない。
―――もう、置いていかれたくないから、追いつきたい。

アンジェが混を構える。
ルイーダもナイフを構える。
そしてリンリンも、

「懐かしい名前ですわね」


「イザヤール様…………わたくしが、初めて殺した方でしたね」

意図せずに、アンジェの心を突き刺した。

何かが、アンジェの中を過ぎる。
それは、最初から確かにアンジェの中に存在していたものだ。
だからこそアンジェはそれを見なかった事にした。
耐えられると、思ったのだ。

なのに、それは。

――――それは―――――――――――

297魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:00:28 ID:???0



「自分に嘘はつけないのでしょう?」

最悪の言葉が、彼女を最後に貫いた。




――――マズイ。
どうしてそう思ったのか、と聞かれれば第六感が囁いたとしか言えなかった。
その第六感を疑うことはせず、自然とルイーダはアンジェへ声を掛け、彼女の傷口を傷つけないようにと慎重に言葉を選んでいた所への、突然の殴打、頭への激痛。
最初はあのいかれたお嬢様が攻撃を仕掛けたのかと思った。いや、そう確信していた。
だが、実際には、ぐらつく視界に映るリンリンの姿はおおよそルイーダを殴れるような距離ではなく、また動いた様子すらなかった。

そして、それを理解した瞬間、答えも自ずと見えてきた。

殴れる立場にいるのは一人だけだ。

その一人をちらりと見やる。


「あれ、 どう し て」

ポツリと呟いた彼女の表情は、信じられないものを見たように固まっていた。
その表情のままルイーダを見ていたのに、何故か彼女の足は真逆の方向へと向かうため反転する。
どうしてだろう。
本当に戸惑っている声音で呟くくせして、彼女の足はそのまま一歩を踏み出した。


アンジェの視界から倒れゆくルイーダの姿が外された。
代わりに映ったのはただの憎しみの対象。
自分が何をしでかして、これから何をしでかそうとしているのか理解していながら、さっきは踏み出せなかった一歩がどんどんと進まれる。
酷い頭痛が襲ってくるのに、頭はどんどん白く塗りつぶされていく。

ルイーダさんの手当を―――、

298魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:00:50 ID:???0

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


逆に走り出す。
武器を構えて、重騎士とは思えない早さで復讐すべき対象へと目標を定める。


止められないとわかっていた。
それでも止まろうとしたのは、間違いなく彼女の努力ではあった。
元々溢れ出ている慈悲の精神だった。
恨まないのではなく、復讐しないようにと押さえ
つける努力を、した。
だから、そう。
きっと、誰がなんと言おうとも――――
誰が、それを認めなくとも、許容せずとも――――


―――――………… 私は、悪くない。

◇◇

「アンジェ―――……ッ!」

致命傷になるような傷ではない。
だがお世辞にもか弱い女の子とは言えない力で殴られた頭はガンガンと痛みと警報を響かしていく。
走り出したアンジェを止めようとしても足どころか手の指一本すら動かない。
今、気を失ったら、アンジェは?
あのまま突っ走って行って―――止まらないだろう。

「待っ、ア――ェ――」

気が遠のく。
止めなければならないのに、意志の通りに体は動いてくれない。
痛みと共に視界が黒く潰されていく。

「…………アン、ジェ―――」



◇◇

誰かが言ってた。
本当に信じきれるのか、って。
盲信できるのか、妄信できるのか?
私は何でもないことのようにわらった。
大丈夫です。私が苦手なことは嘘をつくことだから。
だから、大丈夫なんです。

299魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:08:15 ID:???0
【G-3/草原/夜】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:ダメージ(中)、腹部に打撲(小)、軽度の火傷、左腕喪失
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[9]、ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、釣り糸(テグス)@現実、支給品一式×7
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

【ルイーダ@DQ9】
[状態]:気絶 MP微消費 手が泥だらけ ダメージ(中)
[装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9、光の剣@DQ2
[道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9
[思考]:絶望の町の探索、訪れるものとの接触。
      リッカを保護したい。
     殺し合いには乗らない。
 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。
    『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。

300魔宮にて ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:10:12 ID:???0
【アンジェ(女主人公)@DQ9】
[状態]:HP5/10、MP9/10、背中に擦り傷、全身打撲
[装備]:メタルキングの盾@DQ6、オリハルコンの棒@DQS
[道具]:ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー 支給品一式
[思考]:
[備考]:職業はパラディン。職歴、スキルに関しては後続の書き手にお任せします。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:さざなみの杖@DQ7
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
※上やくそう1/2(残り1つ)
基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう 最終的には首輪を外し世界を脱出する。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10、MP8/10、竜化により疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:絶望の町に向かう ゼシカと同行する 最終的にはデスタムーアを倒して世界を脱する 激しい怒り

301 ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:11:13 ID:???0
以上で投下終了です。
問題なければ投下の方を宜しくお願い致します

302 ◆1WfF0JiNew:2013/05/22(水) 21:24:27 ID:???0
投下お疲れ様です。魔宮については後ほど感想を。
意見については大体前で言われて、結論づいてるので感想と追記だけを。

痺れるなあ、途中の状態表ぶち抜き。
それまで積み重ねてきたものがすべて壊れるカタルシスはやっぱりすごい。
たった一つの呪文で絶望も希望もごった煮ぶち壊しはインパクトがありますね。
それでも、希望を絶やさずにビアンカを護ったアリーナ達の強さが突き刺さりました。

今回は破棄という形になりましたが、自分としては楽しく読ませて頂きました。
色々とルールの抵触がありましたが、氏の投下を読んで面白いと思った読者兼書き手もいるということをお忘れなきよう。

303ただ一匹の名無しだ:2013/05/22(水) 22:22:42 ID:???O
さるった…すみません
どなたか手が空いたら代理してくれると助かります

304 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:02:16 ID:???0
これより修正を投下します。
話の中身は別物になってしまいましたが、前話「瓦礫の詩人達」の修正なので一応此方に投下します。
なお、話の切れ目として2話に斬った方が良いと判断したため、2話連続投下とさせていただきます。
一予約に一話を守れず、申し訳ありませんでした。

305無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:03:20 ID:???0
魔術の都、カルベローナ。
その強大な力を持って、繁栄していた都は、魔王の手により滅び去った。
現にはとっくのとうに消え去っている、幻。

その都が、存在することを許されている世界があった。
殆どの人々は知らない、だが誰も知らない訳ではない。
知っている人間は、その世界の事をこう呼んでいた。

幻の大地、またの名を「夢」と。

では、その大地の住人は、いったい何者なのか。
現の人々の夢や願望が彼らを生み出したというのならば。
彼らもまた、夢の一部なのではないだろうか。

きっと、死ぬことなどないだろうと思っていたから誰も知ることはなかった。
夢の世界の住人が、"死"んだらどうなるか。
その真実を、あの世界の誰も知ることはなかった。

だって、彼らは夢から生み出された存在なのだから。

死ぬことなど、ない。

……ここは狭間の世界。
夢と現実の境界、人の悪しき感情が蠢く場所。
時にそれは牙を剥き、「夢」や「幻」として襲いかかる。

ある少女は恋人の姿を。
ある魔王は恋人の姿を。
ある魔王は自分の姿を。

映し出された虚像に、翻弄されることしかできない。
それは、この世界が生み出した夢。
本人の願望、希望が形となり惑わせていた。

そして、今。
一人の魔女が、生き絶えた。
幻の世界の住人であり、本当は既にいない存在が、死んだ。

幻の世界の住人が死んだら、どうなるのか?

知らない、それは誰も知らない。
ただ、分かっているのは。
怪鳥が飛び去った後、少女が横たわっていたはずの場所には。

何もなかった、ということ。

306無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:03:44 ID:???0
 


ゆっくりと起きあがる。
少し固めのベッド、自分の体温で暖まっているシーツ。
大半の人間が屈してしまう眠気の魔力に、リッカはいともたやすく勝利していく。
寝ぼけ眼をこすり、あたりを見渡す。
すぐ近くには、側にいてくれた少女の姿。
だが、リッカはその姿に疑問を覚える。
と、いうのは何も髪が金髪になっているとか、そういう話ではない。
目を覚ますつい先ほどまで、"誰もいなかったような気がする"のに、目の前には少女、バーバラが居るからだ。
目を覚ました今でも、正直言うと人間の気配はしない。
でも、目の前には確かにバーバラの姿があるのだ。
「おはよ」
「おはようございます」
微笑みかけながら挨拶をするバーバラに、リッカは頷いて応じていく。
胸の中の違和感は、まだつっかえたままだ。
「あの……守ってくれて、ありがとうございました」
だが、そんな違和感よりも伝えるべきことがある。
自分が眠っている間、自分のことを守ってくれた彼女へ感謝を告げなくてはいけない。
自分も疲れているのに、それを押して自分の事を見てくれていた。
バーバラが居なければリッカは、とっくのとうに死んでいたかもしれないのだ。
ゆっくりと頭を下げ、バーバラへ感謝の意を示す。
「"守る"かぁ……」
その言葉を受け、バーバラはやけに深刻な顔をしながらも、苦く笑う。
何かが食い違っているかのような、そんな反応。
リッカは、バーバラのリアクションがいまいち理解できずにいた。
「結果的には、そうなっちゃったのかな」
そこでバーバラは笑うことをやめ、リッカの顔をまじまじと見つめる。
「あのねリッカ、あたし実はね……貴方を、殺そうとしてたんだ。
 殺す……ううん、違う。"救おう"としてた」
つらつらと語り出されたのは、衝撃的な告白。
共に過ごしていた少女は、自分の命を狙っていたと言う。
「……"救う"?」
どうしても引っかかった一言を、リッカは問い返す。
「うん」
リッカの問いに特に悪びれる事なく答え、そのまま真剣な表情で言葉を続ける。
「これは魔王の作った悪夢の続き。
 人々はもがき、憎み、苦しみ、絶望することしかできない」
この殺し合い開いた魔王、デスタムーア。
バーバラはかつて、その魔王と戦ったと聞いた。
だが、魔王は蘇った。
以前よりも強大な力を手に、人間を苦しめようとしている。
「だからあたしが、夢の住人である大魔女バーバラが。
 みんなを悪夢から救ってあげなきゃ、いけなかったの。
 みんなが苦しむ前に、絶望に打ちひしがれる前に、この手で……」
夢を描かせ、その夢を叶え、生まれた絶望を吸い取り、狭間へ押し込めていく。
だから、この場にいる人間が深い絶望を覚える前に。
人間として、醜悪な部分を見せてしまう前に。
みんなを、"救おう"と思っていた。
「ま、叶わなかったんだけど、ね」
そこでバーバラは、いたずらっぽく笑う。
それが叶わなかった、と言うことはどういう事か。
リッカが先ほどから感じている妙な違和感も、今の一言で少し分かった気がする。
「……私は夢の世界の住人、同時に誰かが思い描いた夢でしかない。
 そしてこの世界は夢と現の狭間の世界、夢は形を持ち、現から生み出され、人を惑わせていく。
 だから……私が夢となって、誰かの夢へ託したかった。
 いわば、無念の塊って感じかな」
フフッ、と嘲るように笑ってから、バーバラはリッカへと向き直る。
リッカは、少し前から俯いたままだ。

307無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:14 ID:???0
「……悔しいよ」
ぽつりと、俯いたままのリッカへとこぼす。
それが引き金になったのか、自嘲的な笑いから一転、怒りに打ち震えるような声になっていく。
「でも! 何度倒しても蘇ってくる! 悪夢はいつまでだって続く!
 今回の殺し合いをどうにかしたとしても! またアイツを倒しても!
 また悪夢は続く! みんなは絶望する! 夢を良いように弄ばれる!!」
希望を手に、道を切り開いても。
また顔を出すのは絶望だ。
"たまご"は、何度でもそれを運んでくる。
終わらない終わりを、輪廻する悲劇を。
「だから、私が……みんなが絶望する前に、救わなきゃ、いけなかったのに……!!」
だから、悲しみの連鎖に巻き込まれる前に、その命を救わねばいけなかった。
けれどももう、それは叶わない。
死んでしまっては、元も子も無い。
バーバラは、まるで子供のように泣きじゃくる。
「バーバラさん」
そんなバーバラに、リッカが声をかける。
流れないはずの涙をぼろぼろと流しながら、バーバラは上を向く。

ぱしっ。

「どうして……」
軽い音と共に、バーバラの頬が叩かれた。
「どうして誰かを頼らなかったんですか!!」
ここは夢の世界、リッカの眠りの中。
「人は弱いです、一人じゃ何もできない」
分かっているのに、どんな攻撃よりも痛い。
「でも、人が人同士で支えあえば、それは大きな力になるんです」
そして何より、リッカの口から出てくる言葉たちが。
「バーバラさんも、そうやって魔王に打ち勝ったんでしょう?」
今までの人生の、何よりも痛い。
「どれだけ絶望が来ても、前が向けるなら。
 そして共に前を向いてくれる人がいれば、立ち向かっていける、私はそう思ってます」
知っていた、分かっていた、けれど頼ろうとしなかった。
「バーバラさんにも居たんじゃないですか? 一緒に前を向いてくれる人が、立派な仲間が!!」
幻を、"夢"を正さなきゃいけないのは自分だから。
そんな思いこみを抱え、一人でどうにかしようとしていたから。
「魔王が倒せるほど、何度絶望が来たって立ち向かえる、そんな素晴らしい仲間がいたんじゃないですか!?」
答えは簡単だった、けれど気づかない振りをしていた。
そして、今気がついても、それは遅いこと。
「バーバラさん」
涙をぼろぼろと流すバーバラに、リッカは言葉を続ける。
「真っ先に"救われるべき"は、貴方です」
放たれる言葉に、再びバーバラの心は縫い止められる。
「それも殺す殺さないじゃない、死ぬ死なない、絶望するしないじゃない。
 貴方が気に病む事なんて何もない、憎むべきは魔王、それだけでいいんです」
絶望は続く、終わらない悪夢が繰り返される。
だから、殺して終わらせるしか、救うしかなかった。
けれど、リッカはそうじゃないと言う。
「だから、もう、無理しないでください」
真っ直ぐとバーバラの目を見て。
「人間は、前を向けますから」
そして、その先の未来を見て、彼女は魔女に言った。

308無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:35 ID:???0
「そっ……か」
全てを察し、そして気づいた。
見えないフリをしていただけだと言うことに、気づいてしまった。
遅すぎる後悔が、バーバラを襲う。
「……リッカ、お願い」
もう、自分には何もできない。
肉体はとうに朽ち、夢も斬り裂かれた。
だけど、だけど。
「みんなを」
彼女なら絶望を、永遠の闇を切り開ける。
そう、確信した。
「助けて!!!」
最後の叫びと共に、光が満ちていく。



ぱちり。
目が覚める。
夢の中でも夢を見ていた、と言うことなのだろうか。
腕の痛みをこらえながら、リッカは器用に起きあがる。
「バーバラさん……?」
先ほど、といっても長い間眠っていたからそう近くはないが。
確かに隣に居たはずの人間はいない。
だが、リッカは分かっている。
もう、バーバラはいないのだと。
さっきまで見ていた夢が、それを教えてくれたから。
「……行かなきゃ」
自ずと、足が動き出す。
絶望しない、誰かと共に前を向く。
夢の中でそう誓ったから、人間はそれができると言ったから。

彼女は、前を向く。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/夜中】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、放送があったことを知りません。

309 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:55 ID:???0
ここで一話とさせていただきます。
続けて、残りのパートを投下いたします。

310 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:05:33 ID:???0
男は、純粋に恐怖していた。
血、怒り、殺人、躊躇いの無い眼差し、戦い。
今まで目にすることなど殆ど無かったものが、平然と行われている世界。
そして死にいく人間達の姿を見て、ふと頭に過ぎる。
次は、自分なのではないか?
「うわ、わあああああああああ!!!」
それを考えたとき、もう男に理性など残っているわけも無かった。
しばらく傍観していた場所から離れ、町から離れ、ただ只管に走り続ける。
どこが禁止エリアだったか? どこに向かうのが安全なのか? そもそもどこから来たのか?
そんなことを考える余裕がないほどには、男の精神は削り取られていた。



だってあんな惨劇を目にしたのなら、まともで居られるわけが無いのだ。



「ぐぬ……」
剣を片手に、ジャミラスは呻く。
それも無理はない、たった一人で複数人を相手にしているのだから。
目の前には強大な腕力を持つ少女、そしてたなびくマントが特徴的なさまよう鎧。
前衛の二人のコンビネーションを裁くだけでも一苦労なのだ。
しかもご丁寧に、腕力倍加呪文までかけられているから質が悪い。
さらに背後からの援護は強力呪文、極めつけに背中には戦えない荷物。
自分の思い通りに進まない現実に、ジャミラスは苛立っていた。
「どおりゃあ〜っ!!」
勢いよく地面を蹴り、両足を揃えて繰り出していく。
まるで弾丸のような一撃に、ジャミラスの体が大きく揺らめいてしまう。
その隙を逃さず、サイモンが一文字を加えていく。
致命傷ではないものの、ジャミラスの体力をしっかりと奪い去っていく。
「いけるよ、サイモン!」
即席のはずのコンビネーションを、瞬時に合わせながら次々に攻撃を仕掛けていく。
アリーナの類希なる戦闘センス、そして歩けば歩くほど経験を積むサイモンという存在。
この二人だから、できる芸当。

311"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:06 ID:???0

「おっほっほ、こりゃワシらの出番はなさそうじゃなァ〜」
まさに"ガンガンいこうぜ"と言って良いほどの進撃を見せる二人に、男魔法使いは舌を巻く。
同時に、前衛の二人に恐怖すら覚えていた。
在りし日のリンリンとカーラ、とまでは行かないにしてもそれに近い力はある。
今は仲間として後ろから援護している立場だが、自分が敵という立場に立ったとき。
ハッキリ言って勝算は無いに等しい。
隣で傷を癒しながら前衛を見つめる二人はともかく、前衛の二人は男魔法使いにとって一番やっかいな存在。
できるだけあの二人が傷を負い、かつ魔物も倒せるような展開に運ぶ必要がある。
老魔は呪を放ちながら、自分にとって都合のいい展開へ運ぶために、一挙一動を考える。
その時、背後に何かしらの気配を感じ、急いで振り向いていく。
「チッ、新手か!?」
振り向いた先にいたのは、傷ついたドラゴン。
血の臭いにおびき寄せられ、獲物を狙いに来たか。
放っておいてもいいのだが、この位置だと真っ先に狙われるのは自分だ。
老魔は躊躇い無く、上級の呪文を練り上げていく。
竜は依然としてこちらに向かって走ってくる。
その足は決して止まることはない。
だから、初めの内に迎え打つ。
「……んあっ?」
だが、練り上げた呪文が形になることは無かった。
何故ならまるで自分には興味がないと言わんばかりに、ドラゴンは自分の隣を通り抜けていったからだ。
そしてドラゴンはビアンカのそばに近寄ると、まるで彼女を守るかのように前に立ちはだかり始めたのだ。
「……リュカの感じがする」
リュカ、その名をビアンカが呟いたと同時にドラゴンも頷いたような気がした。
しかしビアンカの予測が当たっているとすれば、肝心のマスターはどこにいるというのか。
ドラゴンが来た入り口を見つめても、特に人の気配はしない。
「リュカは?」
言葉が通じるかどうかはわからないが、現れたドラゴンに問いかける。
すると、ドラゴンが少しだけ悲しそうな目をした気がした。
たまたまか、それとも意志が伝わったのか、それはわからない。
「……そう、でも大丈夫よ」
だが、ドラゴンが言わんとすることは分かる。
リュカは仲間を顎で使い、一人立ち向かわせるようなことをする男ではない。
ドラゴンがリュカの仲間という確証は「リュカの感じがする」というざっくばらんなものだが、それでもリュカの仲間だと思っていいだろう。
そして、何かしらの思惑があってドラゴンだけがここに来た。
そういうことなのだと、ビアンカは何となく感じる。
「ふふ、ありがと」
果敢にも前に立ちはだかろうとするドラゴンに感謝を述べ、ビアンカは優しく笑う。
「ミネアさん、彼の治療をお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
そして傷だらけの彼の体を、二人の癒しの光が包み込んでいった。

「よくわかんねぇけど、面倒な事になったな……」
その光景を遠巻きに見つめ、前衛の補助をしながら舌打ちしていたのは老魔だ。
魔物が人間を守る、なんて話は長い人生の中で一度も聞いたことはない。
だが、目の前ではさもそれが当然かのように行われている。
前衛には強固な攻撃陣、そしてひ弱だった光栄に魔物という大きな守り。
ここまで揃ってから崩すのは、流石に厳しいだろう。
かといって、無理に裏切れば自分の身を追いつめることになる。
協力しつつ、かつこの集団を崩す。
老魔は、そんな最善の一手を考え続けていた。

312"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:40 ID:???0
 


「そろそろ観念したらどう?」
強烈な蹴りをジャミラスに叩き込んだ後、足をトントンと整えながらアリーナは言う。
「ほざけ、この程度で圧倒したつもりでいるのならば、甘すぎるな」
「分かってたけど退く気ゼロ、か」
打撃に加え斬撃を加えても、まだまだジャミラスは立ち上がってくる。
サイモンとアリーナが手を抜いていたわけではない、ジャミラスがダメージを軽減する術をうまく駆使しているからだ。
しかし、それでダメージが無くなったわけではない。
じわじわと蓄積されているそれは、確実にジャミラスの体を蝕んでいた。
事実、今ジャミラスは少し荒目に呼吸をしている。
ダメージと疲労が体に溜まっている証拠だ。
「ふん……やはり人間の作りし武器などに頼っているのが間違いだったか」
ふと、ジャミラスはその一言と共に剣を投げ捨てる。
「やはり、この私の爪が一番良い。肉を裂くのも、潰すのも、この私の手ならば自由自在だからな」
剣で攻撃を防ぐという事を捨て、己の拳を武器にするという決意。
本気に変わった眼差しを受け、アリーナはグッと気を引き締める。
「サイモン、畳みかけるよ」
「御意」
仲間へ短く伝令し、ジャミラスの次の一撃に備えていく。
同時に、ジャミラスが羽を羽ばたかせながらアリーナ達へと近づいてい来る。
軌道は一直線、速度は上々。
だが、かわせない攻撃ではない。
アリーナとサイモンは、ほぼ同時に真逆の方へと飛び跳ねていく。
地面から空へ抉りとるようなジャミラスの拳は、空を切った。
怪しい、とアリーナが感づいたときにはほとんど手遅れだった。
黄金の螺旋を纏い、空へと上っていくジャミラス。
その腕に巨大な閃光を手にし、一直線に獲物へと向かう。
対象は、アリーナ。
飛び跳ねた際の着地の時間、その一瞬を突かれる。
慌てて防御の構えを取るアリーナ、構うことなく突っ切るジャミラス、駆け出すサイモン。
だが、間に合わない。
拳は無情にも振りおろされる。
「おいおい、ワシを忘れんとってくれ」
のほほん、とした気の抜けた声。
その声と共に、ジャミラスの目の前に一個の巨大火球が現れる。
このまま進めば、直撃する。
ジャミラスはチッ、と舌打ちをしながら手に貯めた閃光を火球へとぶつける。
一瞬のスパークと共に、その両者が弾け飛んでいく。
「危なかった……ありがと、おじいちゃん」
「ほほほ、こう見えてもまだ若いんじゃ」
少し遠くで笑っている老魔に、アリーナは感謝の言葉を述べていく。
あと少し遅ければ、どうなっていたかは分からない。
もう一度気を引き締め、ジャミラスへと向き合う。
「チッ、雑魚共が……」
「そう言ってられるのも今のうちだよ」
苛立ちを表に出すジャミラスに対し、アリーナは静かに告げていく。
攻め手が二人、援護の呪文もある。
たった一人のジャミラスに勝ち目などない。
そう、思っていた。
「サイモン、来るよ!!」
再び低空飛行を始めたジャミラスに対し、攻撃の構えを作っていく。
今度は避けるのではなく、空へと舞う前に叩きのめす。
相手の速度を利用して、己の拳の力を上げようと言うのだ。
すぅっ、と息を吸い、その時に備える。
「はああっ!!」
そして、最高速に乗ったジャミラスの体へ。
アリーナは真っ直ぐに拳を伸ばし、サイモンは渾身の一閃を放った。

313"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:54 ID:???0
 


それは、ジャミラスの体を傷つけることはなかった。

すんでのところで旋回したジャミラス。

空を切る剣と拳。

巨体が空へと舞った時、その先に見えたのは。

「邪魔だって言ってるのよ」

紫伝を纏いし剣を構えた、一人の少女だった。


.

314"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:12 ID:???0
人間の武器は使えない。
ジャミラスのその言葉は本心だ。
だが、剣を投げ捨てたのはそれだけではない。
人間の作りし剣が手に馴染まぬと言うのならば。
手に馴染む人間が扱えばいいだけのこと。
そう、唯一ジャミラスに力を貸す人間、リアへと渡せば良いだけのことだ。
余裕を持った言葉はいわばブラフ。
意識を自分だけに向けてもらう為の都合のいい要素でしかない。
本来の目的はリアに武器を渡すことだった。
それを体よく理解してくれたのか、リアはジャミラスの思い通りに体を動かしてくれた。
そして彼女は曲がりなりにもロトの末裔。
その小さな体に微弱ながら魔力を蓄えている。
魔力があれば、この巻物を読み解くことが出来る。
ジャミラスの勘が当たっていれば、一回はこの巻物の力を引き出せる。
そして、ジャミラスの読み通りリアは巻物の力を引き出した。
非力な少女が放つとはいえ、古の奥義の内の一つ。
歴戦の戦士と言えど、無傷でいられる訳など、ない。



爆発音と共に舞い、その場にいたであろう全ての人間の視界を奪った砂塵が、ゆっくりと晴れていく。
後衛に居た者はなんとか被害を免れたが、前衛はどうなっているか。
避ける暇など無かった、考えるまでもない。
しかし砂塵が晴れ、後衛の人間の目に真っ先に映ったのは。
"なぜか倒れ伏している"サイモンだった。

防御体勢はとれなかった、だが動けなかったわけではない。
剣を振りかぶっていたサイモンに対し、アリーナは即座に力を極限まで絞り。
必要最低限の力でサイモンを蹴り飛ばした。
防御をとれなかったサイモンは、アリーナの蹴りをもろに食らい吹き飛んだ。
だが、ある程度加減された蹴りはそこまで深手を与えたわけではない。
現に、サイモンは今ゆっくりと起きあがろうとしている。

では、蹴り飛ばした張本人はどうなったのか?

砂塵が、全て晴れていく。

315"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:31 ID:???0
 
煙が晴れた先、無情にも飛び込んできた光景。
真一文字に胴を斬り裂かれ、衣服を深紅に染めながらも立ちはだかる。
サントハイム王女、アリーナの姿。
普通なら、死んでいてもおかしくはない傷。
それでも立っていられるのは、何故か。
その時、ゴフッという音と共に大きな血の固まりを吐き出す。
「うわ……流石、に……ヤバ、いかな」
ふらつく体に対し、必死でバランスをとり、地面に立つ。
その目は、剣を持つ少女を見据えていた。
「アリーナ!!」
仲間たちの叫びが、空に響く。
「おっと、お前たちの相手はこの俺だ」
キィン、と剣の交差する音が聞こえる。
剣を持ったジャミラスが、サイモンの前に立ちはだかっていた。
「く……」
ジャミラスの追撃を避ける為に、サイモンは大きく飛び退く。
リアに戦いの心得がなかったからか、それとも非力な少女だったからか。
後衛陣にはさほど被害がなかったようで、老魔をはじめ、ビアンカたちにはそこまで目立った傷はなかった。
だが、攻めの要とも言えるアリーナは今いない。
この状況で、どう動けばジャミラスを倒せるだろうか。
「……頃合いか」
サイモンがそんな考えを巡らせていた時、老魔が言う。
何が頃合いだと言うのか、サイモンにはわからない。
まぁ、わからなくても答えは向こうからやってきたのだが。
間を置かず、一発の火球がサイモンを包み込んだ。
その場にいる誰もが息を飲み、老魔はそのまま動く。
立て続けに閃光があたりを包み込み、爆発音が鳴り響く。
竜と二人の女が煙で見えなくなったと同時に、老魔はジャミラスの前へと進む。
「なあ……」
ジャミラスは、老魔を警戒しながら二の句を待つ。
「手を、組もうぜ」
飛び出したのは、予想もしていなかった一言。

316"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:46 ID:???0
 


「邪魔だって言ってるでしょ」
二度目の爆発が近くで起き、砂塵が再び舞い上がる。
その中で、リアは冷たい眼差しでアリーナを見つめていた。
いつ死んでもおかしくはない、だというのにアリーナは立ち続けている。
「……悪いけど、ここは譲れないかな」
そこまで彼女をつき動かすのは、何か。
一本の柱、それが彼女の心にあるからか。
突如、ゆらりとアリーナの姿が消える。
死にかけが倒れただけ、そう思っていた。
だが、次の瞬間にはリアの視界が暗く染まる。
それとほぼ同時、何かに抱きしめられる感覚がリアを襲う。
「……寂しかったんだよね」
あと一歩で死ぬかもしれない、いやもう半分以上死んでいるはず。
そんな体のアリーナが、どこから振り絞ったのかわからない力を、全て移動に使った。
瞬時にリアの正面に移動し、傷だらけの体で抱きしめる。
突然の事態に、リアも反応することが出来ない。
「さっきの話、聞いてて思ったんだよね」
小さなリアの体をやさしく抱きしめながら、不自然なほど流暢に言葉を滑らせていく。
「無理ないわよね、誰も彼も話を聞いてくれないし、自分達の気持ちなんて考えてくれない。
 そんな世界にいたら、私だってどうかしちゃうと思う」
リアは動かない、動けない。
そんなに力は掛かっていないはずなのに、なぜか体が動かない。
そんな彼女に、アリーナは言葉を続けていく。
「だから、さ。私はあなたの"友達"になりたいの」
「ッ!!」
ようやく、アリーナの体を振り払い抜け出していく。
真っ赤に染まり始めていたドレスに、真新しい血がべっとりとついている。
「ふざけないで!!」
弾き飛ばされたアリーナは、それでも体勢を崩すことはなく。
ブレることなく真っ直ぐ、リアを見つめ続けている。
「こんなになるまで辛いことを抱えてきたんだね。
 お兄ちゃんにしか話せなかったんだね。
 誰も彼もあなたを勝手に評価して、遠ざかっていたんだね」
リアの過去は一般人が想像する何倍も壮絶なもの。
小さな体には、無数の心の傷が残されている。
では、この小さな体を傷だらけにしたのは、誰なのか?
言うまでもない、リアの世界の人間達だ。
もし誰か、誰かがそうでなければ。
彼女の心の寄り所が、兄だけでなければ。
こうはならなかったのかも、しれない。
「私は、そうじゃない。
 私は、あなたの話を、あなたの言葉が聞きたい。
 私は、ありのままのあなたを見たい」
でも、アリーナは今からでも遅くはないと思っている。
彼女が暴れているのは、誰にも話を聞いてもらえないから。
誰も話を聞いてくれないのだから、話を聞いてくれる兄と、永遠に共にいようとしている。
だったら、誰かが話を聞いてやればいい。
必要なのは同情でも、哀れみでもなく。
話を聞いてあげる事、それがあれば今からでも戻れる。
そう、信じている。
「だから、お願い」
アリーナは、すっと手を差しのべる。
「友達に、なってくれないかな」
誰かと話す、そんなことを知らずに育ってしまった少女へ。

317"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:02 ID:???0
 


差し伸べたその手は、弾かれる。



「……ふざけないでって言ってるでしょ」
リアは、怒っていた。
ほんの少しの話だけで、理解したつもりになっているアリーナに、怒りを露わにしていた。
今すぐ殺してやりたい、心の底からそう思うほどに。
「……そっか、突然誰かに優しくされたら、どうしたらいいかわかんないよね」
だが、アリーナは申し訳なさそうに笑う。
そうだ、リアは今まで"話を聞いてくれる人"を知らないのだから。
突然そんな人間が現れたとしても、対応できるわけがない。
「大丈夫、"あなた"をしっかり見てくれる友達は、一杯いる」
故に、アリーナは言葉を残す。
願わくば、少女が元の道に戻れるように。
叶うなら、少女に無二の友ができるように。
「だから、怖がらないでね」
そして何より、自分の気持ちを伝えるために。
言葉を、しっかりと紡ぎ、残す。
「あー、もう。もっ、とお話、したい、のになぁ」
時間切れ、それは誰よりも自分自身がわかる事。
再び大きな血の塊を吐き、体を大きくフラつかせる。
だが、アリーナは倒れない。
倒れたら、リアの話を聞いてやれなくなるから。
崩れ落ちそうになる足を振るわせ、渾身の力を込めて地面へ突き刺していく。
少女の目をしっかりと立って、見据える為に。
そして、そのまま。
目をしっかりと見開いたまま、長い長い眠りに、ついた。



「……何よ」
自分に特に危害を加えるでもなく、ただ言葉を吐き捨てて彼女は死んだ。
放っておくだけでもどの道、助からない命。
それが消えていった、それだけなのに。
「偽善者のくせに……」
どうして、心は晴れないのか。
どうして、心に何かが残っているのか。
この感覚、彼女ははっきりと覚えている。
勇者ロトを、この手で殺めたときと、全く同じ感覚。
動じる必要はない、何も気にすることはないのに。
何かがズシリと、心に残っていた。

後ろを振り向けば、煙が綺麗に晴れている。
その中央、まるで魔王のように君臨する一匹の魔物。
彼女は今の出来事を忘れようと、魔物へと歩み寄っていく。

決めきったはずの心には、綻びが生まれようとしていた。

318"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:19 ID:???0
 


「……手を?」
「そうだよ」
思わず問い返したジャミラスに、老魔は間を置かずに返答する。
先ほどまで敵として牙を向いていたはずなのに、なぜ。
「まあ、細かいことは抜きにすると、俺も片っ端から人間をぶっ殺そうと思ってるクチだ」
ヒゲをいじりながら、老魔は含んだ笑いと共に言う。
「……なぜ始めからそうしなかった」
「ハッ、魔物は揃いも揃って脳味噌がマヌケか?
 呪文が主体の俺が、あんな脳味噌まで筋肉な怪物少女に、真っ向から喧嘩ふっかけられっかよ」
ジャミラスの問いに対し、嘲るような笑いで答えていく。
思わず斬りつけそうになったが、グッと我慢をする。
「アリーナが死ぬまでその中に潜み、時が来れば内側から崩壊させる。
 だからそれまで待ってたって訳で、今がその時って事よ」
老魔は砕けた姿勢のまま、ジャミラスへとフランクに話しかける。
当のジャミラスは、まだ老魔の内心を探っている。
「では……貴様の誠意を見せろ」
「お安いご用さ」
ジャミラスの要求に対し、即座に返事をしながら老魔は動く。
振り向いた先には、一匹のドラゴンが老魔へと牙を剥こうとしていた。
だが、毒に蝕まれた体は上手く動かない。
よろり、と崩れた所を老魔は見逃さない。
老魔の手から放たれた氷刃が、ドラゴンの喉を貫く。
だが、ドラゴンは止まらない。
目の前の悪へ、狩るべき存在へ向かっていく。
一本、二本、立て続けに氷刃が体に突き刺さる。
それでも、止まらない。
かの男と約束したから、絶対に守ると約束したから。
目の前の男という悪から、彼女を守るために。
一歩、また一歩進む。
全身に突き刺さった氷刃から血が流れでようと、毒が体を動かすことを阻もうとも。
ドラゴンはひたすら前へと進む。
一歩、また一歩、また一歩。
そして、ようやく男を射程に納める。
目の前の男、駆逐するべき悪。
それに向かって、躊躇うことなく爪を降り下ろしていく。

319"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:37 ID:???0
 


「ふぅ、危なかったぜ……」
鋭利な爪を目の前にしながら、男は笑う。
氷刃を打ち込めど打ち込めど前へ進もうとするドラゴンに、初めは焦っていた。
どれだけ打撃を加えようと立ち止まる気配がなかったため、仕方なく手に持っていた杖の力を発揮させた。
砂柱の杖、どこからともなく砂の柱を発生させる能力を持つ未知の杖。
振りかざしたとほぼ同時に、自分の背丈の二倍ほどの砂柱が現れ、二人の間を引き裂いた。
そして、ドラゴンはその砂柱を引き裂き、そのまま息絶えていったのだ。
「さて、これで信用してもらえっかな?」
くるり、と振り向いて笑う。
呪文を打ち込んでいるときの容赦の無さ、そしてジャミラスの信用を勝ち得ようとしている姿勢。
ちゃっかりドラゴンの所持していた道具、装備を剥いでいる事実。
「なるほど、な」
否が応でも納得せざるを得ない。
差し出された爪を受け取り、事態が好転している事実に笑う。
「ねぇ、終わった?」
それと同時に、リアがジャミラスの元へと駆け寄ってくる。
より赤くドレスを染めた少女の手には、竜王の名を関する爪。
「……事情が変わった、だがもうすぐ終わる」
全てを察しながら、ジャミラスはニタリと笑い、リアに言う。
当のリアはジャミラスのその言葉には興味は無く、寧ろ隣の人間に不快感を示していた。
「よう嬢ちゃん、さっきは済まなかったな」
老魔……そう、先ほどリアの行く先を阻んだ男。
その男が何故この場にいるのかが、理解できなかった。
「これからは仲間だ、よろしくな」
先ほど奪ったナイフを、にこやかに差し出す老魔。
何を考えているのか、笑ったまま動かないジャミラス。
ぐるりと辺りを見渡し、状況を把握していく。
「……邪魔だけはしないでね」
「肝に銘じるぜ」
ぱしっ、と奪い取るようにナイフを受け取り、一睨みしてからジャミラスの元へと戻る。
こりゃ相当嫌われたなと思い、肩を竦めたとき、後ろで物音がした。
「あなた……なぜ……」
振り返ると、傷だらけになりながら自分を睨みつけている、先ほどまでの同行者の姿。
露出した褐色の肌には傷が増え、衣服は引き裂かれている。
……まあ、その要因は誰でもない、自分なのだが。
「全てを壊す、それだけよ」
短く、告げる。
息を呑むミネアを前に、老魔はちらと後ろを見る。
ニヤついているジャミラス、そして此方を意地でも見ようとしないリア。
「……なあ、助かりたいか?」
老魔はそれをチャンスと受け取り、ミネアに交渉を持ちかけていく。
「何を……」
「このままだと、オメーら全員あの鳥に喰われてオダブツだぜ?
 俺の言うことが聞ける、っていうなら助け舟を出してやっても構わねーが?」
老魔の言うとおり、このまま待っていれば間違いなくジャミラスに駆逐される。
サイモンと共に前衛を張ったとしても、勝てる見込みは薄い。
その要因は目の前の男であることだけは、確かなのだが。
悔しいが呪文の詠唱速度では勝ち目が無いし、攻め入る武器もない。
完全に、向こうのフィールド。
「……望みは?」
苦い表情をしながら、ミネアは老魔へと問う。
「まあ、待ってろ」
その返答を聞いてから、老魔はヘヘッと笑い、身を翻していく。
「なあ、ジャミラスよ」
剣を持ち、今にも襲い掛かろうとしていたジャミラスを止める。

320"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:09:12 ID:???0
「あの姉ちゃんは、どーーーーしても仲間を見逃して欲しいらしい。
 その為には何だってするって言ってるぜ?」
「なッ……!?」
「だろ?」
勝手に話を進めていく老魔に思わず声を上げてしまう。
確かに手札は無いとは言え、魔物に屈することがあって良いというのか。
だが、今の彼女にはこの老魔に頼ることしか出来ない。
遠くで倒れているビアンカを守る事など、今の彼女には出来そうも無い。
「あの姉ちゃんは僧侶だ、回復呪文の心得がある。
 だからよ、俺たちを回復してもらう代わりに、姉ちゃんとあいつらを見逃すってのはどうだ?」
老魔の要求を耳に入れ、状況を理解していく。
つまり、傷を癒せば見逃してもらえる、と言うことだ。
しかし、ここで魔力を使い尽くしてしまえば、ビアンカやサイモンを癒す力が無くなってしまう。
だが、この要求を蹴れば間違いなく"死"が待っている。
残されたサイモンとビアンカがどうなるかは、考えるまでも無い。
「なるほど……ならば、命だけは助けてやってもいいだろう」
「……リアは良いよ。それよりお兄ちゃんに会うまで魔物さんに死なれたら困るし、魔物さんを癒して欲しいかな」
「フッ、ナメられたものだな」
一人考えている中、ジャミラスはニヤリと笑い、リアは気だるそうな表情を浮かべる。
リアが回復を拒否した、ということが引っかかるが、それを気にしている余裕は無い。
「じゃ、頼むぜ?」
「……はい」
とにかく、従うしかない。
ゆっくりと手を翳して魔力を込め、敵として立ちはだかっていた存在の傷を消す。
やはり治りは遅く、最上級の呪文を重ねてようやく一つの傷が治せる程度だ。
特に負傷の酷い左手首を重点的に、ミネアは魔法を重ねていった。

321"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:09:28 ID:???0
 


「これで、良いでしょう」
汗を拭い、脇腹の痛みを堪えながらミネアは言う。
重ねがけの甲斐もあってか、ジャミラスの手首の傷は塞がり、翼の出血も止まっていた。
ジャミラスは手首をグルグルと回し、使用に違和感がない事を確かめる。
「……約束どおり、見逃してくれるんでしょうね」
「ああ、そうだな。約束どおり命は助けてやろう」
ミネアは契約を履行したことを告げ、ジャミラスはにこやかにそれに答える。
だが、言葉はそれで終わりではなく。
「"命"は、助けてやろう」
ジャミラスは、残酷な言葉を重ねていく。
「回復呪文が使える存在は貴重だからな、貴様にはこれからこの私に従ってもらう」
「なッ……!」
「ヒューッ……」
突然の隷属宣言に、ミネアは思わず言葉を失い、老魔は額から汗をたらす。
「どうした? 仲間がどうなっても良いのか?」
「くっ……」
歯がゆい思いをしながら引き下がるミネアと、悪魔の要求を平然と良いのけるジャミラスに感銘すら覚える老魔。
魔物の中でも、ここまで正直に欲望を放てる存在は初めて目にした。
その直球的な感情に、老魔は舌を巻くことしか出来ない。
「……我慢の限界です」
そんなジャミラスに、ついにミネアは本心をぶちまけていく。
「一度ならず二度までも、人を弄び踏みにじっていく」
ミネアがこうやって従わされるのはこれが初めてのことではない。
先ほどもジャミラスに蹂躙され、挙句の果てに肋骨の一本を毟り取られた。
そして今、自分に従えと強制してきている。
目当ては回復呪文、それ以外に価値は見出していないのだろう。
だから、自分が回復呪文を使わないと判断すれば、ジャミラスは即座に斬り捨てる筈。
これ以上悪事に加担したくない、そんな気持ちを正直にぶつけていく。
「そんな悪魔のクズの畜生に従うくらいなら、死んだ方がマシです!!」
ああ、こんな存在を少しでも信用してしまった自分が、憎くて仕方が無い。
せめて、せめて贖罪のために。
少しだけ取っておいたなけなしの魔力で呪文を紡ぐ。
その呪文は形となり、優しくミネアの体から離れ、ゆっくりと溶け出していく。

「ありがとう、そしてごめんなさい」

そんな声が、響いた気がした。

322"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:05 ID:???0
 


「下手に出ていれば良い気になりおって……」
首から上を失った死体を蹴飛ばし、ジャミラスは怒りを露にしていく。
一瞬とはいえただの人間にコキ下ろされたのだ、正常でいられるわけも無い。
「契約は破棄された、ならば俺が奴の言う事に従う理由も無い」
剣を取り、ジャミラスはゆっくりとビアンカに近づいていく。
もとより守る気も無かった契約を投げ捨て、本能のままに剣を振るおうとする。
ビアンカはまだ目を覚まさず、傷一つ無い体で横たわり、天使のような顔で眠っている。
「死ねぇッ!」
そんな天使に、悪魔は刃を振るう。
だが、聞こえるのは肉が裂ける音ではなく、金属が衝突する音。
「貴様……ッ!」
ジャミラスの目の前に現れたのは、老魔の火球に身を包んだはずの鎧の騎士だった。
片手にビアンカを抱きかかえながら、ジャミラスの剣戟を裁く。
「アリーナが、オレを助けてくれた」
その背に背負っていたマントは、半分が焼け落ちている。
「そしてミネアが、俺に力をくれた」
その胸に下げていた飾りは、光を帯びている。
「"ともだち"のいないお前らには、分からんだろうな」
再び現れた邪魔者に、ジャミラスの怒りは天を衝きそうになる。

「ねぇー、魔物さん」
そんな彼に、間の抜けた声が届く。
「リアはおにいちゃん探しに行きたいんだけど、まだやるの?」
そう、初めはアリーナとミネアが食い下がってきたので、仕方なく戦闘していただけ。
目の前には気絶した女と、鎧の騎士だけ。
彼らに構う理由など、何処にも無い。
ジャミラスにとっては参加者を殺す事は意義のあることだが、リアにとってはそうでは無い。
寧ろ、こうしている間にも兄に危険が迫っているかもしれないのだから。
不都合なこと、と言う方が正しい。
そうだ、怒りに身を任せて前を見失ってはいけない。
殺すべき存在はまだまだ居る、そしてその存在を殺すためにリアが必要なのもわかっている。
彼女の機嫌を損ねるのは、マズい。
「……命拾いしたな」
ジャミラスは剣を仕舞い、身を翻していく。
「言っていろ、クズめ」
サイモンもそれを追わず、じっと見つめていく。
ここで手を出すのは、あまりにも不利だ。
「行くぞ、魔力は温存しておけ、これから強敵と戦うからな」
「あいよ」
ジャミラスは二人となった同行者に一言だけ告げ、ほぼ全快と呼べる翼を広げ、大空へと飛び去っていった。
向かう方角は、東。
西より歩みを進めてきた自分達が進んでいない方角。
そして何より、禁止エリアの都合上、動きだす人間が多い。
ヘタに南に動くより、向こうから近づいてきてくれる可能性が高い方へと進む。
そこに求め人が居れば、更に良いのだが。
三者三様の考えをめぐらせながら、翼をはためかせて真っ直ぐに東へと向かっていった。



飛び去っていく怪鳥を見送った後、ゆっくりとビアンカを寝かせ、辺りを見渡していく。
全身に穴を空けながら横たわるラドン、首のないミネア、そして足を地面に埋め、立って死んでいるアリーナ。
動くことも無く、ただその場に立ち尽くし。
「……アリーナ、ミネア」
盾を置き、甲冑で出来たその腕を真っ直ぐ伸ばし。
「オレたちは、ずっと――――」
騎士は、ただ言葉を紡ぐ。

323"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:39 ID:???0
 




「"ともだち"だ」





それは、永久に続く誓いの言葉。





【アリーナ@DQ4 死亡】
【ラドン@DQ1 死亡】
【ミネア@DQ4 死亡】
【残り22人】

【A-4/ろうごくのまち/夜中】
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント(半焼)
[道具]:なし
[思考]:思案中
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし、気絶中
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。

324"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:55 ID:???0
 
【A-4/南東部/夜中】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP6/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:竜王のツメ@DQ9、
[道具]:支給品一式*2、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【B-4/北西部/夜中】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:逃げる

325 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:12:23 ID:???0
以上で投下終了です。
話の骨組みを根本から変えたため、前回での問題点そのものが無くなりました。
その他の点でなにかありましたらお気軽にどうぞ。
特に何も無ければ二話とも明日の夜には本投下したいと思います。

326 ◆TUfzs2HSwE:2013/06/03(月) 00:25:08 ID:???O
投下乙です。
仰る通り投下に関して問題はないかと思います。
感想は後に。とりあえず力作お疲れさまですと言わせてください。

327 ◆1WfF0JiNew:2013/06/03(月) 00:33:20 ID:???0
投下乙です、同じく特に問題ないかと。本投下時に感想は書かせていただきます

328 ◆HGqzgQ8oUA:2013/06/03(月) 01:32:40 ID:???0
大幅な改稿お疲れ様です、
すばらしい仕上がりだと思います
大したことではありませんが、ひとつだけ

>>311
男魔とラドンは過去に交戦してるので
ラドン乱入時、そのへんについて男魔の言及や懸念も多少あったほうがいいかなーと思いました
(それを踏まえても二者の方針自体には問題はないとは思いますが)

また同レス後半部、「後衛」が「光栄」になってる部分がありましたので、その誤字も報告させてください

329 ◆jOgmbj5Stk:2013/06/03(月) 20:04:36 ID:???0
長編をほとんど改稿されるという大変な修正お疲れさまでした。
その甲斐のある出来映えだと思います。
私からも一つ誤字報告を。

>>313
>
> 紫伝を纏いし剣を構えた、一人の少女だった。

これはおそらく紫電の誤字ではないでしょうか。

それでは本投下をお待ちしています。

330 ◆CruTUZYrlM:2013/06/04(火) 00:08:11 ID:???0
ご指摘、有難うございます。
それでは、本投下のほうにいってまいります。

331 ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:01:00 ID:???0
またかよ、って感じですが主催関連に関わる話なので仮投下いたします。

332ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:03:46 ID:???0
 
――――生きていたい。

大体の人間は、常にそう思っている。
無意識の内だったとしても、呼吸したり食事したり色々するのは、言うまでもなく生きていたいからだ。
全員が全員そうというわけではなく、中には自ら死を望む人間もいる。
だが、彼はそうではなく、ごく普通の"生きていたい"人間だった。
酒におぼれるし女は口説くし仕事もしない、傍から見れば完全にダメな大人。
けれども、彼は普通に"生きて"いたかった。
人生の途中で、ちょっと良い思いがしたいからお金を求めていただけ。
自分の望むまま、自由に生きていたかっただけ。
好きなことをたくさんして、幸せかどうかはまだわからないけど大往生を遂げる、それだけでよかったのに。

「はあっ、はあっ、クソッ!!」
息を上げ、肩を揺らし、それでも前に走り続ける。
逃げる、逃げる、何も考えずにただひたすら逃げる。
何から? 非日常から。
この場所では、当たり前など存在しない。
あるのは彼が"非日常"だと思っていたものばかり。
戦闘と殺人、他者を蹴落とすことになんの躊躇いもない人間たち。
正義だ何だと綺麗事を言っても、人を殺そうとしていることには変わりはない。
正当防衛? 他者を蹂躙する悪? そんなことは関係はない。
ホンダラからしてみれば、どちらも差はない。
力を以て相手をねじ伏せ、自分が正しいと主張する。
自分と意見の通わぬ者は、敵なのだから。
同時に、ホンダラはこの上なく恐怖している。
死が隣り合わせになっている場所。
強者が蠢き、自分の主張を遠そうとする場所。
恐怖と同時に、それに巻き込まれて死ぬのだけは"ゴメン"だ。

戦うことどころか、人殺しを何とも思わない、頭のネジが外れてるというより元々ない連中同士で、潰しあってくれればいい。
自分は生きたい、ただ平穏に生きたい。
人よりちょっと良い暮らしで、ふわふわのソファにふんぞり返りたい。
だから、巻き込まれたくない。
誰もいないであろう遠く遠く遠くへ、とにかく走る。
狂人たちの宴が視界に入らない、どこか遠い場所へ。
とにかく、走り続ける。



「ぬおっ!?」
ふとその時、大きく何かに躓いてしまう。
前を見るばかりで足下を見ていなかった故に、そこに横たわる少女に気づくことができなかった。
バランスを崩し、大きなモーションで盛大にコける。
そのまま、少女に覆い被さるような形で、ホンダラは倒れ込んでしまった。
「いてててて……」
強打した顔面を押さえながら、ホンダラは躓いた少女の姿を見て、驚愕する。
生々しく爛れた皮膚、無数の傷跡、あるはずの腕が片方無い。
服は貼り付いていると言った方が正しいくらいで、もはやただの布切れである。
よほど疲れているのか、それともホンダラの蹴り程度では動じないと言うのか。
少女は苦悶に満ちた表情のまま、眠り続けている。

おそらく、アルスやマリベルとそう変わらない年齢。
すらっとしたボディラインと、とても整った顔立ち。
さらけ出された乳と、寝息をたてている今の姿。
少女趣味は無いホンダラでも、吸い込まれてしまいそうな妖艶さがある。

けれど、ホンダラが考えているのはもっと別のこと。
甥であるアルスは死に、先ほど目の前では人が人を殺そうとする様を見せつけられ。
そして今、アルスとさして年齢の変わらない少女が、今にも死にそうな姿で横たわっている。

333ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:04:17 ID:???0
 
これが、当たり前。
この世界では、こうなるのが当たり前なのだ。
幼いとか、非力とか、個人の気持ちとか、そんなことは考慮されることもなく。
ただ傷つけられ、痛めつけられ、殺される。
何故か? 力がないからだ。

再び、ホンダラを恐怖が襲う。
いずれ、自分もこうなるかもしれない。
戦う力なんてミリも持っていない自分がこうなるのは、目に見えている。
「ふざけんな……」
けれど、それを受け入れたくはない。
ホンダラはただ、生きたい。
純粋にただ、生きていたい。
こんな殺し合いなんかに惑わされて、命を落としたくはない。

突き動かされるように、少女の荷物を漁る。
傷だらけのまま寝息をたてる少女は、起きる気配を見せない。
よほど消耗しているらしいというのは、素人目に見てもわかる。
それほど激しい戦闘を繰り広げてきた……この少女も、人殺しなのかもしれない。
正義だ何だか知らないが、ホンダラにとっては恐怖でしかない。
無我夢中で、道具を漁り続ける。
「何やってんだ、俺……」
ふと、我に返る。
今にも死にそうなほど傷ついている少女をの荷物を漁り、使えるものだけをかっぱらって逃げ出そうとしていた。
なぜか? 生きたいから。
実際、ホンダラが生きる為に使えそうなものは、少なかったのだが。
「俺はただ、生きたくて……」
誰も責めていないのに、正当化を始める。
これは正しいことだ、生き残るにはこうするしかないのだ。
繰り返し頭の中に言い聞かせようとする。
「違う、違う!!」
そんな彼の考えをあざ笑うように、もう一つの声が聞こえる。
声は、彼を「人殺し」だと罵る。
自分が生きたいから、自分が生きるためなら他はどうなろうとかまわない。
だったら、自分のやっていることも、あの人殺したちと同じだろう?
生きている人間に手をさしのべず、手前のことしか考えない。
それは人殺しの思考なのだと、声は言う。
「ああっ、もう、クソッ!!」
その声を振り切るように、なりふり構わずにホンダラは駆けだしていく。
少女の身体はもちろんそのまま、袋の口は空きっぱなし、中身は散らかしたまま。

違う、自分は人殺しではない。
ただ、生きたいだけ、ただ生きたいだけ。
自分は悪くなくて、悪いのは人殺しの連中。
自分は悪くない、悪いのは、悪いのは――――

334ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:04:35 ID:???0
 
「立ち去れ……」

ふと、聞き覚えのある声がホンダラの足を止める。
無我夢中でところかまわず走り続けていた彼は、ようやくあたりを見渡した。
「……ここ、どこだ」
大して冒険もしたことはなければ、記憶力もそこまでよくない。
おまけにパニック状態と決まりに決まりきったホンダラが、目的地を定めながら動ける訳がなかったのだ。
そして、そんな彼が不幸にもたどり着いたのは。

「これより先は禁域、立ち入ることは死を意味する」

禁止エリア。
甥の死んだショックで禁止エリアを忘れかけていたこともあったが、そもそも禁止エリアと方角の管理は男魔法使いに任せていた。
だから、ホンダラはここへ来てしまった。
運悪くも禁止エリアの発動とほぼ同時に、このエリアのど真ん中へ。

「これより時を刻む、定刻までに抜け出さねば、死が訪れる」

突きつけられる最悪の言葉。
突然の死刑宣告、ただでさえ響く声にパニックになっていたホンダラの頭の中は、瞬時に崩壊する。
声ともならぬ声を上げ、方角の確認などろくにもせず。
ただ、ただ、走り抜ける。
禁止エリアの、さらなる奥へ。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ホンダラは走る。
生ではなく、死に向かって。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ただ、ただ、走る。
生きるために。
一つ、二つ、三つ、四つ……
時が刻まれていく間、ホンダラはずっと走り続ける。
生きたいから、死にたくないから。
生きる道へ向かって、走り続けていく――――

けれど、現実は残酷で。

「時は満ちた」

死が、突きつけられて。

「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!!」

声にはならない声が響きわたって。

一つの命が、失われた。

【ホンダラ@DQ7 死亡】

335ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:05:01 ID:???0
 









「…………あれ?」
死んでいない、生きている。
首から上は繋がっているし、足もかすんではいない。
禁止エリアに居るというのに、自分は生きているのだ。
「……は、ははは」
久方ぶりの声を出す。
もう、叫びきって枯れていたと思っていても、出るものなんだなと感心しながら。
「やったああああああああああ!!!!」
腹の底から声を出し、心の底から喜んだ。
首輪の動作不良? 単なる気まぐれ? 何だって良い、自分は今生きているのだから。
「はははは!! はははははは!! やったぞおおおおお!!」
「うるさい」
は、と笑い声が止まる。
おかしい、あり得ない。
もう一人誰かがここにいるなんて、しかも、それがよりにもよって。
「あれだけやったにも関わらず、禁止エリアに来るとは……
 まったく、余計な仕事を増やしてくれるな?」
この殺し合いの元凶、大魔王デスタムーアだなんて。
「あ……わ……」
今度こそ声がなくなる。
いや、今更声が出たところでなにも変わりはしないのだが。
だって、目の前には魔王が居るんだから。
ホンダラがどうあがこうが、勝てる相手では無いのだ。
「……なんで、という顔をしているな」
大魔王は顎に手を当てながら、震える石像と化したホンダラに問う。
もちろん、ホンダラは答えられるわけがない。
「……簡単な話だ、その首輪はほんの少し魔力か籠もって居るだけの、ハリボテだからな」
まともに話が聞けるわけが無いホンダラに、大魔王は淡々と語り続ける。
「初めの爆発は私の呪文だ、そして初めに"首輪は爆発する"と話せば、首輪は爆発すると、思いこむだろう?
 そもそも盗聴やら何やらを六十人も管理できるか? ということだ、出来なくもないがメリットがなさすぎる。
 私の貴様等に殺し合いをして欲しいだけだからな……まあ、それを知っているのは私とアクバーだけだが」
呆然としているホンダラに、次々に事実が語られていく。
動作しない首輪、嘘の情報に踊らされ、命を握られていると思いこまされていた。
ふと、心に一つのことが思い浮かぶ。
もう出ないと思っていた声を絞り出しながら、ホンダラは魔王に問う。
「なんでだ?」
不思議と、声は震えていなかった。
「なんで、殺し合いなんだ?」
「いい質問だ」
ニヤリ、と魔王は下卑た笑いを浮かべる。
「強大な力を持って蘇り、そのまま直ぐにでも世界を手に納められる。
 だというのに反抗されるとわかっていて、何故歴戦の勇者たちを集めてこのような殺し合いをわざわざ開いたのか? ということだろう?」
「いや、そこまでは……」
自分が思っていた以上の返答をつきつけられ、ホンダラは言葉に詰まってしまう。
何を考えているのか、正直言って分からない。
いや、大魔王の考えなんて、分かりたくもない。
「それは……」

336ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:05:23 ID:???0
もったいぶった表情を浮かべながら、大魔王はニタニタと笑う。
正直、気味が悪いと思っていたとき。
ぶち、ぶちぶちっ、と何かが裂ける音が聞こえた。



次に目に映ったのは、肩までしかない自分の体と。

「禁止エリアで死ぬお前には関係の無いことだ」

全く笑っていない、大魔王の姿だった。



「まだ、首輪は爆発するもんだと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」

意味ありげな言葉を、もう何も聞こえない男の傍で呟いてから、仕事は終わったと言わんばかりに"幻影"を消し、大魔王は去る。
「殺し合いが必要である理由」それを明かすことは無く。
ただ、そこに残ったのは。
あたかも爆発で死んだかのように見える、一人の男の死体だけ。


【ホンダラ@DQ7 死亡】

【B-4/小さな湖付近/真夜中】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/25、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済) 睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

※B-3、西部にせかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9が放置されています。
※首輪は盗聴機能も爆発機能も無い"ハリボテ"ですが、それを知っているのはアクバーだけです。

337 ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:10:23 ID:???0
すいません、早速修正です。
>>336
「まだ、首輪は爆発するもんだと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」

「ふぅ、態々この場に現れんと手が下せぬというのは、厄介だな。
 しかしまだ……まだ、首輪は爆発する物だと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」


以上で投下終了です。

問題点は
・首輪システムなどハナからなく、首輪単体はハリボテであるということ。
・禁止エリアの処理には、デスタムーアが自ら登場して首を爆ぜさせなければいけないということ。
・デスタムーアは「自分のところに来ること」を望んでいること
などなど、急に主催関連について情報を出しすぎたかな? ということです。

そのほか、何かご指摘やツッコミが有りましたらどうぞ。

338 ◆1WfF0JiNew:2013/06/17(月) 00:24:59 ID:???0
投下お疲れ様です、自分的には特に問題はないかと。残り人数も少ないですし主催についても進めてもオッケーです。

339 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/17(月) 06:50:30 ID:???0
投下お疲れさまです!
私も全然問題なしだと思います。とうとう主催出てきたか……

340 ◆jOgmbj5Stk:2013/06/17(月) 21:47:35 ID:???0
おおう、こうきましたか。
私個人は展開的に問題ないと思います。
本投下をお待ちしています。

341 ◆CruTUZYrlM:2013/06/18(火) 20:50:00 ID:???0
ご意見有難うございます。
特に問題もなさそうなので本投下してきます。

342 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:35:40 ID:???0
ソフィア、ローラ 投下します

343 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:36:26 ID:???0


てくてく。
二対の足は、大地を踏みしめて。
てくてく、てくてく。
勇者と王女は、森の外を目指す。
てくてく、てくてく、てくてく。
心に、それぞれの思いを秘めて。
てくてく、てくてく、てくてく、てくてく。
少女達は、前へと進む。


***

344 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:36:49 ID:???0



(ハーちゃん)

ふと、亡くした仲間の顔を思い浮かべてみる。
この狂った舞台に呼ばれてから、初めて出会った異世界の住人。
その世界では勇者に相反する立場にあったらしい、邪教の大神官。

(最初、すっげー顔色悪い奴かと思ったけど、魔物だったんだよな)

それくらい、人間くさい奴だった。
初対面は、確か自分が叫んでいた時だっただろうか。
全く無防備にも程があるぞ、と鼻で笑われた。

(そのくせ、アタシが逃げろって言ったのに、なんでか戻ってくるし)

いや、『なんでか』ではない、理由は解っている。
紛れも無く、彼は自分の『仲間』だった。


(ミーちゃん)

続いて出会った、黒髪の少女を思い浮かべる。
愛する人の死を信じれなかった為に、狂気に走った悲劇の姫君。
そういえば、後ろを歩くローラが同じ道を辿らなくて本当に良かったと思う。

(きわどい格好しちゃってさ、別嬪さんが。でも根は純粋でー…)

「あーん」と、素直に口を開けていた。
どっかの誰かさんはノッてくれなかったのに。
本当に姫君らしい、純粋な少女だった。
その純粋さ故、生まれてしまった狂気。

345 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:09 ID:???0

(ピー助)

一度は敵対し戦った、魔族の王。
かつての彼もまた、愛する者の死をきっかけに禁断に手を染めた。
それを乗り越えるのだと、取り戻すのだと、言っていたのではなかったのか。

(……コイツもハーちゃんと同じで大真面目野郎でさぁ、ほんと)

お陰で、冒険の間も、今回も、幾度と無く救われた。
どちらかと言うと考えるより先に動くタイプの自分には、彼のような冷静な者が必要だった。


(タバサ……だったよな、確か)

ローラと行動を共にしていたという、幼い少女。
話を聞くに、彼女は心に深い傷を負っていたらしい。
そして、あのフローラの娘だったそうだ。
彼女も、このゲームの被害者。

(……ったく、あのジジイはこんな事して何が楽しいんだか、××××がよぉ)

デスタムーアに対する暴言を心の中で吐き捨て、ソフィアは視線を地面から前へと向けた。

346 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:28 ID:???0

「おい、この森とももうすぐおさらばできるぜ」

数十メートル先には、木々が途切れる所。

「割と広かったですわ……」

少し疲れた声で、ローラが答える。

(そりゃそうだな。こいつもお姫様なんだ、森なんてそうそう歩かねーよな)

ここに辿り着くまでの間、よく後ろから「きゃっ」だの「あっ」だの「そんなひどい」だの聞こえていた。
その度に敵襲かと振り向くソフィアの前には木の根などに躓き体勢を崩していたローラが居た訳だが。

「すみませんわ、足手まといになってしまって」
「そんなこたぁねェよ。気にすんなって」

軽い口調だとはいえ、感情が篭ってないと少し恐いです。
ローラは心の中で呟いた。
そして、自分達の歩みが止まったことを好機に、気になっていた疑問を口に出す。

「ソフィアさんはなぜ、旅に、出たのですか」
「旅?」
「冒険……ですわ。世界を救うなんて、そう思い立ちませんもの。気を悪くしてしまったのなら、ごめんなさい」
「……」

347 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:46 ID:???0
最初から、世界を救う目的ではなかった。
では、何故。
何故、自分は、自分達は、世界を救ったのか。


「"導かれた"んだろうな、アタシ達は」

相次ぐ事件を解決するため。
世界一強くなるため。
伝説の剣を見つけるため。
父の仇を討つため。
全てを失った悲しみと、憎しみのため。

「みんな、それぞれ目的が違ったんだ、最初は」

不思議な運命の下、光は集い。
一つの思いを胸に抱いて。
それは、まさしく。
『導き』としか、言いようが無い。


「……導き」

ソフィアの言葉に、ローラは微かな既視感を感じた。
それは確か、あの人の言葉。
忘れる事などできない、運命の日。



***

348 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:38:45 ID:???0

「……今の音は、一体……?」
「!」

「お助けに参りました、ローラ姫様」

「あなたは……?」

「おっと、自己紹介もなしに、申し訳ありません」
「私の名はアレフ。まあ、巷では、『勇者アレフ』とは呼ばれておりますけれど、それ程では」

「勇者、さま……!」

「さあ、こんな薄暗い洞窟は姫様に似合いません、太陽の下へ行きましょう」

「一つだけ、宜しいですか」

「どうぞ、何なりと」

「勇者様は、なぜ私を助けて下さったのですか」

「旅に出るときに、姫様の噂を聞きましてね。尤も、抽象的な噂に過ぎなかったのですが」

「では、なぜここが……いえ、私が生きてなどいない可能性もありましたのに」

「簡単な話ですよ」
「私は姫様の事を耳にしたとき、不思議な縁のような物を感じました」
「そうですね、『導き』とでも言いましょうか、運命のような物を」

「導き……それは、やはり精霊神さまの」

「いえ、違うでしょう。ご先祖は精霊神の加護を得ていたと伝説にありますが、私は全く」

「でしたら、それは一体」

349 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:03 ID:???0
「『私』でしょう」

「?」

「いえ、感覚に過ぎないのですが」
「姫様の下へと、『私』が『私』を導いてきた、そんな気がするのです」

「『自分自身』が……」

「はい。時として、『自分』は自分以上の事を知っているものなのです」

「難しいお話ですね」

「いえ、これは私の祖母の受け売りに過ぎないのですが。お恥ずかしながら、私も良く解らないのです」
「さあ、ラダトームへ帰りましょう、ローラ姫様」

「…………ローラと、お呼び下さい」

「へっ、いえ、そんな」

「構いませんわ。何より……」

「?」

「私は、勇者様にそう呼ばれたいのです……」

「……!はい、解りました、……ローラ」





***

350 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:30 ID:???0
導き。

それは、誰かから与えられるものだ。
しかし、全てがそうとは限らない。


(今、解りましたわ、アレフ様)


自分を信じる気持ち。
誰かを信じる気持ち。
それらは全て、自分自身への導きなのだ。



「ここから、どうする」
「そうですね……」

ローラは首を傾げて考える。

「北、ですわ」
「北?」
「ええ、まだ一度も行ったことがありませんし、もしかしたらフローラさんに会えるかもしれませんし」

それに。

(あなたにも、会えるかもしれませんわ……アレフ様)

心の中でそっと、呟いた。

351 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:56 ID:???0
***





今、少女達を導く思いは唯一つ。




とても簡単な、それでいて世界一難しいこと。







――――生きる。

352 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:40:13 ID:???0



【F-4/森の外、西/夜中】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
KBP GSh-18(16+0/18)@現実、基本支給品*2
不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる 北へ

353 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:41:42 ID:???0
以上で終了です。
タイトルは「導きなんてないけれど」です
問題ないようでしたら、代理投下お願いします。

354 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/26(水) 02:11:03 ID:???0
代理投下ありがとうございました。

355 ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:45:34 ID:???0
規制されてるのでコチラに投下します。

356ある愛の詩 ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:47:11 ID:???0
       





「「僕は彼女のことを愛していなかった」






#######





     
「やぁ、久し振りだね」

再会は、偶然で突然だった。
仲間にしたであろう魔物を引き連れて、暗い森から現れた蒼を僕が見逃すはずがない。
最初から重くなることはない、まずは気軽に。ちょっと散歩に行ってきたみたいに、彼女に声をかける。
約一日ぶりに見る彼女の姿は薄汚れていたけれど、美しさは違えていない。
両の瞳には清廉な意志を秘め、彼女は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
こんな時でも、彼女は貞淑な妻を貫いていたのだろう。

「あなた……お身体の方はご無事ですか? どこか怪我などしておりませんか?
 ああ、もうっ、服が汚れていますよ?」

オロオロとコチラへと駆け寄ってくる彼女に対して、自分は笑えているだろうか。
自分の中にある苦い感情を抑え込めているだろうか。
愛してなどいなかった事実を、隠し切れているだろうか。
きっと、どれもこれも見抜かれているのだろう。
彼女は僕と違って、聡明だから。それを知ってなお、僕を支えてくれる人だから。

「僕の方はこの通り五体満足さ。それよりも、君の方が怪我をしているじゃないか。
 おとなしくしてるんだ、回復呪文をかけるから」
「そんなことありません! あなたの方が!」
「いいや、君の方こそ必要だ」

嘘と偽りの関係で生まれた夫婦なのに、互いのことを最優先に考えていることがおかしかった。
滑稽だ、と皮肉げに口走りそうになる。僕は彼女のことを愛していなかったというのに。

357ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:47:36 ID:???0
       





「「僕は彼女のことを愛していなかった」






#######





     
「やぁ、久し振りだね」

再会は、偶然で突然だった。
仲間にしたであろう魔物を引き連れて、暗い森から現れた蒼を僕が見逃すはずがない。
最初から重くなることはない、まずは気軽に。ちょっと散歩に行ってきたみたいに、彼女に声をかける。
約一日ぶりに見る彼女の姿は薄汚れていたけれど、美しさは違えていない。
両の瞳には清廉な意志を秘め、彼女は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
こんな時でも、彼女は貞淑な妻を貫いていたのだろう。

「あなた……お身体の方はご無事ですか? どこか怪我などしておりませんか?
 ああ、もうっ、服が汚れていますよ?」

オロオロとコチラへと駆け寄ってくる彼女に対して、自分は笑えているだろうか。
自分の中にある苦い感情を抑え込めているだろうか。
愛してなどいなかった事実を、隠し切れているだろうか。
きっと、どれもこれも見抜かれているのだろう。
彼女は僕と違って、聡明だから。それを知ってなお、僕を支えてくれる人だから。

「僕の方はこの通り五体満足さ。それよりも、君の方が怪我をしているじゃないか。
 おとなしくしてるんだ、回復呪文をかけるから」
「そんなことありません! あなたの方が!」
「いいや、君の方こそ必要だ」

嘘と偽りの関係で生まれた夫婦なのに、互いのことを最優先に考えていることがおかしかった。
滑稽だ、と皮肉げに口走りそうになる。僕は彼女のことを愛していなかったというのに。

358ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:48:26 ID:???0
初っ端はタイトル間違えなので、↑から代理をお願いします。

359ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:50:08 ID:???0
「ともかく、無事でよかった」
「はい……!」

心底ほっとした表情を浮かべ、笑みを向ける彼女が、痛い。
涙の粒を目元に溜めた彼女が、辛い。
愛しているという偽りを、曇りなく信じている彼女が、怖い。
護りたいと願った僕の気持ちが、愛ではなく贖罪なのかもしれないと想うぐらいに。
もしくは、そうなのかもしれないけれど。
誰よりも知ってるはずの僕自身のことが、僕はわからないのだから本当に救えない。

「ですが、レックスとタバサは……」
「死んだね」

でもい、僕よりも二人の子供達はもっと辛い思いをしていたはずだ。
死んだ、そう、死んだのだ。
レックスもタバサもこんな地獄の掃き溜めのような場所で死んでいい子供ではなかった。
勇者という責務に縛られた時間を、取り戻して欲しかった。
どうしようもなく雁字搦めに詰んでいる自分と違って、彼らには未来があったのだから。

「タバサに僕らの関係を教えたのは君かい?」
「……はい」
「そうか……今となっては終わったこと、なんだろうね」

できることならば、二人が大人になるまで、僕らの事実を受け入れることができるまで。
大人の暗いことを知らずに生きて欲しかった。彼らは彼らの人生を謳歌して欲しかった。
だけど、そんな思いは今となっては意味が無いことだ。

360ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:51:14 ID:???0

「死んだ人は蘇らない。どんなに想っても、忘れないと叫んでも、二人共……もう、取り戻せない」
「…………っ」
「幸せになって欲しかった。そんなの、当たり前さ。僕らは親なんだからね。
 勇者に縛られた運命から、やっと逃れられて。これからだって思っていたんだから」

未来はもう砕けてしまった。
欠けてはいけないピースを、闇へと落として行方不明にしたんだ。
勿論、僕達は神様じゃない。都合よく、子供達のピンチに駆けつける英雄にはなれない。
僕も彼女も、そのことを受け入れられない程弱くはないけれど。
既に、僕は子供達の死を過去とし、受け入れてしまっている。
今も胸にわだかまりを残している彼女と違って、大切な人との別れは経験の差がある。
目の前で燃え滓になった父に手を伸ばすことすらできなかったあの時。
人の住む気配のない廃墟と化した故郷を歩かざるを得なかったあの時。
僕は、慣れてしまっている。大切なものを落とすことに順応してしまっている。

「だから、レックスとタバサについて考えても……僕らにできることは、生きることしか残っていない。
 彼らの思い出を想うことで救えるなら幾らでも想うさ。だけど、想いだけで人は救えないんだ」
「…………」
「ねぇ、フローラ。僕の言ってることは戯言だろうか」

答えは返ってこなかった。当然だ、元々答えを求めるような言質じゃない。
いくら僕達が嘆こうとも、二人は還ってこない。
僕らと子供達の関係は徹底的に終わってしまっているのだから。
そして、今まで騙してきた僕と彼女の関係もそう在るべきなのだ。

「ああ。それよりも戯言で傑作で最悪なのは……僕なんだろうね。
 今まで続けてきた」

終わるべきなのだろう。嘘と偽りで続けてきた愛を、これ以上続けることはきっと良くない。
今まで築きあげてきたものを全て削ぎ落とす。
その果てに残っているのは、愛か、打算か。今となってはわからない答えだけれど。

361ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:52:52 ID:???0

「僕らは……いや、僕は間違っていたんだ」

僕の気持ちに嘘偽りがないか確かめるためにも。
停滞していた愛と打算を。これまで積み上げてきた何もかもを終わらせる。
それだけは、間違いじゃないって信じたから。

「もう、止めにしようか。この関係を」

僕は、“初めて”彼女のことを正面から見つめよう。






#######






「私は彼のことを愛していた」






#######

362ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:53:53 ID:???0
わからなかった。否、わかりたくなかった。

「フローラさん……私、少し離れた所にいますね」

気を利かしたシャナさんが私達に背を向けて離れていく。
「行かないで下さい」と言う余裕はない。
今の私の頭の中にあるのは彼から告げられた言葉だけだ。
ほんの少しの静寂。されど、この瞬間は永遠にも感じられるぐらいに長く、重かった。

「どうして、ですか。このままでいいじゃないですか!」
「……駄目なんだよ、それじゃ」
「駄目じゃありませんっ! 私は今のままで満足しています! 貴方の後ろをそっと歩くだけで!
 だから、いいんです……! もう、いいんです……っ」

やっとの思いで出した声はすごくかすれ、とてもじゃないが聞き取りやすいとは言い難かった。
これから先、聞くであろう言葉が恐ろしくてたまらない。嫌だ、聴きたくない。
ただ、それだけの思いで、彼の言葉を無理矢理にでも遮った。

「だからこそ、駄目なんだよ。
 僕なんかにそこまでする必要も、どこまでもひたむきに付いてくる必要だってない」

過去をバッサリと切り捨てる彼の目は、いつもよりも冷たい。
これまで見てきた彼のイメージとは百八十度違っていた。
否、もしかするとこれが彼の本当の姿なのだろう。
幼い頃に父を亡くし、数年の間は奴隷として使われて。やっとの思いで帰ってきた故郷は滅びていた。
羅列するだけでも、痛々しい過去だ。

「僕は“独り”に慣れてるしね」

違う、と叫びたかった。独りじゃないと、否定したかった。
けれど、彼の目が否定を許さない。

363ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:54:36 ID:???0

「……君も気づいているはずだ。僕の気持ちを」

続く言葉は、私の胸の奥深くへと突き刺さる。
結婚してから現在まで、お互いに言い出さなかった嘘の関係。
病める時も健やかなる時も愛を貫くと誓った結婚式。
私が背を向けていた、唯一の嘘。

「子供達がいなくなった今だからこそ、言うべきだ。
 ここで全てを終わらせる。それが……子供達への何よりもの餞だ」

それでも、嘘と偽りで彩られた関係でよかった。
彼と子供達の傍にいられることが、私の幸せだったのに。
残酷で美しい世界で見つけた光が、消えていく。
掴み取った夢が砂となって零れ落ちていく。

「僕は君のことを愛していなかった。あの時、僕が君を取ったのは――」
「もう、いいです! やめ」
「――打算でしかない」

ぐらり、と世界が揺れた。私と彼が決定的に別れてしまった瞬間が、来た。
拒絶。排除。終焉。
これまで維持していた関係が壊れていく。
必死に取り繕っていた表情も歪み、苦渋へと変わる。

「もしもの可能性だ、僕らが無事にグランバニアに帰れたとしても……いずれは摩耗する。
 嘘でしかない愛で、続く関係じゃないんだよ、フローラ。
 関係に、小さなヒビはもう入っている。子供達も死んでいるしね」
「ちがっ」
「違わないよ。君自身理解できているはずだ。僕の嘘に気づいていた君ならね」

否定はできない。彼は正論を突き詰めて論を重ねていく。
これまで捩れていた嘘を丁寧に解いていかれるのを、私は黙っているしかなかった。
何てことはない、これは本来あるべき関係に戻るだけなのだ。
私と彼は、天空の盾がなければ結婚する運命ではなかった。
幾つもの偶然が重なって結ばれた関係だった私達が別れるのは当然だ。

364ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:55:27 ID:???0

「……いや」
「…………」
「そんなの、いやです……」

それでも、理解はできても納得はできなかった。
縋りたかった、失いたくなかった。それが彼の重みになるとわかっていながらも、捨て切れなかった。
目元から涙が垂れ落ちるのも拭わずに、私は彼に問いかける。
精一杯の虚勢を張って、拒絶の意志を投げつけた。
吐きだした渾身の言葉もあっさりと切り捨てられ、縋る両手は彼の心を動かすには至らない。
私と彼の間には、どうしようもない隔たりが感じられる。

「もう一度言うよ、フローラ。終わりにしよう」

こうなってしまったからには、もう止められない。
彼が一度決めたことに対して、必ず成し遂げる意志を持つことは、彼の傍にいた私が誰よりも知っている。
だからこそ、彼の言葉に私が反論できるはずもなく。

「はい……」

頷くしかなかった。
大好きだった人が、離れていく。手を伸ばしても、掴めない苦しみが胸を締め付ける。
これでいい、これでいいんだ。
何もかもが元通りになった関係。ただのフローラであっても、彼を想う気持ちは変わらない。
例え、どんなことがあっても――彼を愛し続けると誓ったことだけは嘘じゃないから。

365ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:56:24 ID:???0

           





「ねぇ、フローラ。終わりの後は―――」






最後に、彼はふっと柔らかい笑みを浮かべ。






「――――やり直せばいいんだよ」





私を強く、抱きしめた。

366ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:57:23 ID:???0
「……あ」

痛いぐらいに込められた力には熱が浮かぶ。
ほんのりとしたぬくもりが、現状を把握できていない私の震えを抑えていった。

「君に対して抱いてたのは愛なのか、罪の意識なのか。僕は今の今までわからなかったけれど。
 気づいてしまったんだ。教えてくれたんだ」

気のせいだろうか、数瞬前までよりも声が優しくなっているのは。
染み渡る彼の声が、私を包み込む。

「君がいて、レックスがいて、タバサがいて。グランバニアの国民に仲間の魔物たち。皆が僕を見てくれている。
 帰れる場所がないって嘆いていたけれど。僕を迎えてくれる場所は、人達はいたんだよ。
 僕の方こそ、彼らに背を向けて逃げていたんだ」

グランバニアの人達は彼のことを愛していた。仲間の魔物達も、レックス、タバサも。
……そして、私も。
皆、彼のことをしっかりと見ていた。独りにならないように、傍に寄り添っていた。

「僕はとっくに幸せだったんだ、救われていたんだ」

泣いているのか、笑っているのか。
一瞥では判断がつかない表情で、彼は私を抱きしめる。

「思えば、自分自身の気持ちがわからなかった。天空の盾があったせいで信じられなかった。
 僕の中に在る気持ちは本当なのか? 君やルドマンさんを欺いた僕が、幸せになっていいのかって。
 護りたいと願ったのは愛じゃなくて義務感じゃないのかって」

瞳から涙を一滴流して、彼は私の身体を離す。
正直、彼の身体のぬくもりが離れるのは嫌だったけれど。
それでも、彼の笑顔は離れない。

367ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:59:08 ID:???0

「僕はありのままに話した。僕が思っていたこと、終わらせたいって思っていたこと。
 全部を精算して君と向きあいたかった。その結果、君が僕を嫌いになってくれるならそれでもよかった」

彼は憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔つきをしている。
私と彼が最初に出会った時に見せてくれたあの笑顔。

「今度こそ……正真正銘、嘘偽りなく君に伝えたい」

私を惹きつけた、笑顔。

「僕と、結婚してくれますか? 尽くすのではなくて。後ろでそっと付いてくるんじゃなくて。
 一緒に横に並び立って歩いて欲しい。僕らが一緒に幸せになれる世界を、作ってくれないか?」
「はい……喜んで」

彼が伸ばしてくれた手を、今度こそしっかりと掴む。
もう二度と離れないように。
そして、指にそっと嵌められるのは皮肉にも偽りの愛の象徴とも言える結婚指輪だった。

「あの、ですね。リュカ様」
「リュカでいいって。そんなに畏まることないからさ」
「それじゃあ、リュカさん。そ、そのっ!」

――キス、してくれませんか?

それは恋する女性なら、一度は思い浮かべる極上の夢。
愛する人と誓いの口づけを交わす最高の幸せを、私は口に出してしまった。
正直、すごく恥ずかしいけれど。私も、一人の女声であるのだ。
この程度の事を望んでも罰は当たらないはずだ。
顔を真っ赤にして俯いた私を、彼はクスリと笑う。
だけど、彼は私の言葉を否定しなかった。
私の瞳から零れ落ちる涙を指で拭って、顎をそっと上へと寄せる。
見上げたら、彼の唇が近づいてきた。
それに、私は啄むように唇を寄せて――そっと触れた。
彼の笑顔を受けて、私も笑顔を返す。
数秒間、世界から音が消えた気がした。
唇を離した後も、私と彼は笑う。
お互いに嘘を取り払った本当の笑顔で、笑った。

「一緒に幸せになろう」
「ええ。いつまでも、貴方のお側に。リュカさん」

368ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:00:56 ID:???0
    
     

   
    
     
        



   


 

――――とまァ。めでたしめでたしってやつにはいかねぇんだよなァ? ヒヒッ」
    
 
    

        

      
     
  
   

  
   
       
嘘が終わり、真実が始まった。
いつまでも続く幸せを、帰れる場所を取り戻す旅が、始まった。
もう覚めることのない夢の中で、始まった。

369ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:02:25 ID:???0

「あァ、さっきから黙って聴いていりゃあなんだ? あ? 何が幸せだ、馬鹿馬鹿しい」

嘘つきだった夫婦を祝福するかのように、、槍が二人を縫い止める。
永遠の愛を誓った彼らに相応しく、二度と離れないように強く、強く縫い止める。

「人間サマはいいねぇ、簡単に幸せになれてよォ。どんなに媚びへつらっても迫害されちまう、奪わなきゃ奪われる。
 クソみてぇな世界で生きてる俺とは大違いだ」

突き刺さった槍を抜くのと同時に、二人は折り重なるように地面に倒れさる。
彼らが抱きしめ合っている瞬間をつき、槍を突き出すのは道化を気取るよりも簡単だった。

「はっ、黄泉の国で永遠の愛でも誓ってろってんだ。はっ、一生番ってろや、地獄でよォ!」

最後の最後まで手を繋ぎ、死がふたりを分かつまで一緒に、生きていた。
それが、影の騎士には腹立たしくて仕方がなかった。
彼らの幸せそうな横顔が、諦めてしまった自分を馬鹿にしている気がした。

「あァ、最っ高にイライラしやがる。何だ、テメエら。嘘つきだろうとも人間サマなら幸せになれんのかよ。
 真っ正直に生きても、嘘をついて生きても。どんな生き方貫こうとも、幸せになれねぇ、幸せへのなり方がわかりやしねぇ俺が惨めでならねぇじゃねぇかよ!!
 俺と、お前ら。何が違うってんだ? 種族か? んなモンで決まっちまうのか!?
 ちげぇ、違うだろ! 同じ、幸せになりてぇ奴等同士だろうが!
 勇者でもねぇ! 英雄でもねぇ! ただの凡人でしかねーだろうが! なァ! なァ!!!!」

言葉を出すにつれ、くつくつと黒い感情が噴き出してくる。
飄々と道化を演じてきた自分が剥がれてしまう、底なしの沼に沈んでしまう。
これが、魔物。どんなに取り繕うとも、欲望の前に自分を抑えきれないモンスター。
一度走り出したら止まらない激情が、影の騎士を覆っていく。

370ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:03:46 ID:???0

「なァ、目を覚ませよ」

そうだ、モンスターだ。
だから、今も影の騎士は感情のままに行動する。

「幸せってなんだ?」

幸せそうに倒れた二人の首根っこを掴み、彼は問いかける。

「どうして、テメエラを見てるとこんなにもイライラするんだ?」

返ってくることのない答えを。

「答えろよ、答えてくれよ」

自分の中に生まれた黒の靄を。

「畜生、畜生が」

死人は何も語らない。それを作ったのは自分だ。他ならぬ答えを求めていた自分なのだ。
ただ、幸せを求めて生きているだけなのに。
駆逐されるだけの魔物には不相応だというのか。
ささやかな“夢”すらも与えられない狭い世界を生きるしかないのか。

「幸せになりてぇだけなんだよ、俺は」

骸骨の歯をカツカツと鳴らしながら、嘲笑うしかなかった。
“夢”すら掴めない底なし沼に引きずられる自分に。
いつかきっと、自分が幸せになれると“夢”を見た愚かさに。
もう覚めることのない“夢”を見続ける彼らに。

371ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:04:36 ID:???0
          


【リュカ@DQ5 死亡】
【フローラ@DQ5 死亡】
【残り16人】



【E-5/森林/真夜中】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
    争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼、地獄耳の効果は第二放送終了時に消失しました。
    「シャナ」という偽名を名乗っています。

372ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:06:03 ID:???0
          

























――――だけど、“夢”から覚める可能性が僅かにでもあったのならば。

影の騎士は気づかない。フローラが身に着けていた腕輪に込められた魔法を。
魔法の名前はメガザル。自己の全てを捧げることで奉仕対象の命を復活させることができる禁忌の魔法。
彼女の愛が、魔法を発動させることで願ったのは――愛する人の蘇生。

一度は失った明日への道。
ラストチャンスに、死してなお、届くのなら。
彼女は迷わなかった。独りきりになる彼のことを想うと、悲しいけれど。
彼が生きて幸せを掴めるなら、何の悔いもなくこの魂を地獄へと売り渡すことができる。






――――どうか、彼に天壌無敵の幸運と未来を。






【リュカ@DQ5 蘇生】

373ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:07:20 ID:???0
投下終了です。代理、ありがとうございました。

374ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:11:15 ID:???0
状態表付け忘れてました。


【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:???

375少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:05:50 ID:???0



「――あ、魚焼けてる。もーらいっ!」



……がう。



「……あのさ、それ僕のなんだけど」



…………がう。



「え?そうなの?ごっめーんもう食べちゃった!」



………………がう。



「おいロッシュてめぇ」

「いたたたたた!暴力反対〜」



……………………がう!



「ねえ、その子呼んでるわよ?」

「うん?何?」

376少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:06:16 ID:???0



やっと気付いてくれた!
ごはんちょーだい、ごはん!


「……君さっきも食べたでしょ。お腹すくの早くない?」


いいの!
それとこれとは関係ないの!
お腹いっぱいでも、目の前にごはんあったらお腹すくよ!


「しょうがないなあ、僕の食べかけだけど、ほら」

「君のじゃないんだけどね……?」

「がう……」


ロッシュ、後ろの人怖いよ!
目が冷たいよ!
「ロッシュしばく」って目してるよ!


「食べないの?」


うん食べるよ!お腹すいたもん!!




「がうがう♪」









「ていうかなんでアンタ狼と会話してるのよ」


マリベルのツッコミは、風に流され華麗にスルーされた。


***

377少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:06:44 ID:???0
赤々と燃える焚き火を囲み、各々食べ物をつつく。


「本当に良く食べるね〜君は」


自分の食べかけの魚をがっつく狼を見て、ロッシュは満面の笑みで呟く。


「小動物がごはん食べてる姿って見てて和むわよね」


マーニャも微笑みながらそれに答える。
ちなみに、彼女が食べようと思っていたサンドイッチは黒いオーラを纏っていたカインに渡された。


「それには同意だよ」


サンドイッチで少し黒オーラが引っ込んだカインの頭に浮かんでいる小動物は狼ではない。

(リアは僕の作るホットケーキをおいしいおいしいって言って食べてくれたなあ)

浮かぶのはバターと蜂蜜たっぷりのホットケーキを口いっぱいに頬張る妹の姿。
年の離れた兄妹だ、カインにとってリアは十分小動物である。
話題にされている当の狼は魚を食べ終わり、くるりとロッシュの方を向く……が。


がしっ。


「がうっ!?」

「うふふ、あんたみたいなの見たらもふもふしたくなるのよね〜」


マリベルはそう言いながら狼を抱き上げ……いや、掴みあげた。
その光景は一見首を絞めているかのようにも見える。


「おい、やめとけよ。そいつ嫌がってるだろう」

「なによ!こんな美少女マリベルちゃんの腕に抱かれる事のどこが不満だって言うのよ!」

378少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:07:15 ID:???0

ぎゅうううう〜〜。

マリベルに思い切り抱きしめられ、狼は苦しそうにもがく。
もしかしたら本当に首が絞まっているのかもしれない。


「おい、かせって」

「ちょっと!?」


見るに耐えられなくなったのか、テリーが狼をマリベルの魔の手から救い出す。
彼の顔色はうっすら青い。
ごほごほと軽く咳き込んだ狼を指差し、フランクフルトを齧りながらマーニャが言った。


「それにしても、いつまでも『この子』とか『そいつ』とか呼ぶの可哀想よね。
 名前、決めてあげない?」

「名前か!いいね!……うーん、僕いいの思いつかないなあー。カイン君とかどうよ?」

「何その無茶振り……ロッシュ僕のこと嫌いでしょ絶対」

「いや、そういうの得意そうだな〜って思っただけだよ?
 別にセンスの欠片もないこと言って恥じかけばいいなとか思ってないよ?」

「おい」

「いいから考えてよ〜」


(困ったな。名づけとか、したことないよ)

そう思ってチラリと狼の方を見る。

(子供の狼、子……おおかみ……)


「……ベビーウルフ、とかはどう」


結構なドヤ顔だったかもしれない。
しかし、待ち受けていたのは気まずそうな顔をした仲間。
わりと自信あったんだけどな……。


「……」

「あー……」


羞恥で顔が赤くなるのがわかる。
表情は表に出さないタイプだと自負していたのだが。

379少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:07:44 ID:???0

(くそ……こうなったら。開き直ってやる)


「……なんか文句ある」


出来るだけ平静を保ち、じっと仲間を見る。
いや、と皆白々しく目を逸らし。


「うん、センスの問題じゃなかったね」

「……そのままじゃない」

「悪い。これは俺もフォローできないっていうか……」

「あ、あたしは嫌いじゃないわよ?カイン君のセンス」

「もうやめて」


マーニャのフォローが一番キツい。
僕は悪くない。
無茶振りしてきたロッシュが悪い。
怨念をこめて犯人を睨むと。

パンを握り俯いたロッシュの肩は微かに震えていた。
笑ってやがる。

(こいつ……覚えてろよ)


「テ、テリー、あんたはどうなのよ?」

「次は俺かよ……」


この場の何とも言えない雰囲気に耐えられなくなったマリベルにより、矛先はテリーに向いた。


「おおっイッケメーン!期待するよー!!」

「うるせえ」

「……みんな僕の扱い酷いよなー」

「自業自得だと思うよ」

「……」

380少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:08:34 ID:???0
茶々を入れてくるロッシュをガン無視して、テリーは真剣な顔で自分の腕の中の狼を見る。

(こういう時は色とかでつけるのが妥当か……?)

黒の毛並み、所々の白。

   黒 と 白 。
Black White

「……ブライトなんてどうだ」

「ブ、ラ……?どっから出てきたのよそれ?」

「いや、こいつの色って黒と白だろ?」


そう言ってテリーは狼を指す。
狼はキョトンとテリーを見上げる。


「ああ〜そうか!わかったわかった!やっぱりイケメンは考えることが違うね!」

「ブラックとホワイトでブライト……輝く、ね。やるじゃん」


皆から思った以上の(でも期待してた)高評価をもらい、テリーは得意そうな顔でマリベルを見た。
……が。


「何それ。かっこつけた名前ねー。あたしヤダ。却下」


マリベルが無慈悲にも切り捨てた。


「な、なんでだよ?俺的には全然オッケーだと思」

「ダメ!絶対ダメ!この子にはぁ〜もっとかわいい感じの名前が似合うと思うの!」


ワナワナと震えて尋ねるテリーを再び切り捨てるマリベル。
そして嫌がる狼を彼の腕から奪い去った。

((うわこの人こっわ……))

周りの男子二人がマリベルを畏敬の目で見るようになった事は言うまでもない。
パンを頬張りながら、ロッシュは口を開いた。

381少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:07 ID:???0
「ふぁに?ふぃんなおもふぃふかないふぁらふぉくがきめふぁうよ?
 (何?みんな思いつかないのなら僕が決めちゃうよ?)」

「ふーん、シスコン君いいの思いついたの?言ってみなさいよ?」


マーニャに促され、パンを飲み込んでロッシュは自信満々の笑顔ではきはきと答えた。


「はいっ!僕は、『ターニア』とかどうかなーって思うんだけど!どうかな?」

「「「「…………」」」」」


やっぱりか。
ロッシュを除いた四人の間にはそんな空気が漂っていた。


「うわ……分かってたけど、引くわ……(もうダメだわこのシスコン)」

「リーダー、あんたって奴は……(前からこれだもんな……)」

「何それ、引く……(ターニアってこの人の妹の名前なんでしょ……)」

「うん、理解できないね(崇高な妹の名前を獣なんかに付けるとか僕は死んでもしない)」

「えー何その全員一致のリアクション……凹むよ〜」


一人だけ違う理由で引いているなんて誰も気付く訳が無い。
まあそんな事はお構い無しに名前決めは続く。


「あたしは良いの思いつかないしー……マリベルちゃん決めちゃってよ」

「ほんと!じゃあね……」

382少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:23 ID:???0
マリベルは抱き上げた狼を目の前に持ってきて、にんまりとする。
見つめられている狼はかなりじたばたしているのだが、そんな事彼女には関係ない。


「でもアンタってふわっふわよね〜……あ、そうだ!!」


ぱっと明るい笑顔になってマリベルは宣言する。


「ウルフで、ふわふわ!アンタの名前は、『うるふわちゃん』よ!!!!」

「いやぁ可愛いじゃない!あたしもそれ気に入ったわ!よろしく、うるふわちゃん」

「……僕のと大して変わらない気がするんだけど……?」

「俺の方が狼らしい名前だったと思うんだけどなあ」

「うう……ターニア……」


こうして、マリベルの独断により、狼の名前は『うるふわ』となった。





「がう……」




***

383少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:50 ID:???0


ロッシュが盗って来た食料を三分の一ほど食べつくした所で、「眠い」とマリベルが言い出した。
ここには朝も夜も無いが、時間はきちんと過ぎている。
時計の上ではもうとっくに夜になっていた。

しかし、ここまで和んでいても忘れてはいけない、この場は殺し合いの場だ。
皆のんきに寝ていては全滅も冗談ではないので、交互に見張りと睡眠を繰り返しながら休息をとることにした。
ジャンケンの結果、最初の見張りはマーニャと僕に決まった。


「……みんな寝たみたいね。いいなあ、あたしも早く寝たいなあ」

「寝たいなら寝たら。見張りなんて僕一人で十分だし」

「だめだめ。カイン君ってそうやって無理して身体壊すようなタイプだと思うのよねー」

「……何その勝手なイメージ」

「お姉さんの性格診断ってやつよ。これでも結構当たるのよ?」

「……どうだか」

「つれないなあ。背中なんか向けちゃって。もうちょっと愛想あった方が人生楽よ?」


冗談のつもりで言ったのかもしれないけど。
冗談じゃないんだよな。
愛想なんて、あったとこで何が変わった?
周りからの評価が『お気楽者』になっただけだ。
……全く、気持ちよくない過去を思い出してしまった。
まあ、マーニャに悪気は無いんだろうけど。

(無理して身体を壊す、か)

そんな事は無かっただろ。
無理するほどの人生じゃ、無かった。
その筈なのに、なんでか、心に引っかかる。

(ていうか、なんか静かだな)

この人って、結構賑やかな人だと思うんだけど。
もしかして、あんな事言っといて、無理していたのは自分じゃないのか?
少しばかだなあとか思いながら振り向くと、そこには。

384少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:10 ID:???0

「あはははは!笑った!笑ったね、カイン君!!」


すっかり寝ているだろうと思っていた人が、凄い変な顔で僕を見ていた。
これまでに見たこと無いような、へんなかお。
思わず、口から笑いが漏れてしまった。


「いや、あんたってあんまり心から笑ってないからさ、笑わしたくなっちゃって」


目の前の女性は少しはにかみながら僕の方を見て笑う。


「そんな良い顔、出来るじゃない!」


(あ……)

その笑顔が、別の女性の笑顔とダブる。
この世界で初めに出会ったひと。
僕の話を始めて聞いてくれたひと。
僕が、救えなかった、もう一人のひと。
あのひとは、言った。
その命が消え行くときに。









『変わったな、って』








似ても似つかない言葉だけど。
思い出すには、それで十分だった。


「どうしたの?ぽかんとして」


突然話しかけられてハッとすると、マーニャが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「……何でもないよ」

「何よ?やっぱりつれないなあ」

385少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:31 ID:???0








ねえ、アイラ。

僕は本当に、変われたのかな。

自分じゃ、よく、分からないけど。

変わるって決めたけど。

わかったんだ。

やっぱり、まだ。

少し、こわいんだって。

でもさ、嫌な訳じゃないんだ。

だから、頑張るからさ。

もう少し、見てて、くれるかな。












「前を向くって、決めたからさ」

386少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:49 ID:???0
【C-8/夜中】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6(特薬草を使用)、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
    毒入り紅茶 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。休息。
※D-8のミレーユ、ククール、ピエールの支給品は回収されました。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:睡眠中 HP9/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:前へ進む 休息。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、休息。

【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う、この名前いやだなあ)

【テリー@DQ6】
[状態]:睡眠中 ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:睡眠中 MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休息。

387少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:13:05 ID:???0
以上です。
問題などありませんでしたら、代理投下お願いします

388 ◆MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:35:18 ID:???0
代理投下ありがとうございました

389 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:38:19 ID:???0
第三回放送投下します

390第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:38:55 ID:???0
「……宜しかったのですか?」
戻ってきたデスタムーアに、アクバーは問いかける。
何を? というのはもちろん、先ほど男との"会話"だ。
ふん、と鼻を鳴らしデスタムーアはアクバーに答える。
「どうせ禁止エリアは私が手を下さねばならなかった、そのついでに与太話をしただけよ」
そう、どうせ死に行く命。
そんな男に喋ったの単なる気まぐれにすぎない。
何を吹き込もうが、他の人間に伝わることなど無いのだから。
「それに……どうせ首輪のことはいずれ奴らにも分かる」
そう、何より首輪のことなど"いずれわかる"のだ。
それがどういった手段で判明するかは定かではないが、これから先どう足掻いても首輪がハリボテだという事はバレる。
もちろんデスタムーアはハナからバレるつもりだったので、問題はない。
それが参加者の手による解明か、はたまた時間経過による禁止エリア増大の自然解明か。
そのどちらであろうと、別に構わないのだ。
それも、計算の上なのだから。
「時にアクバーよ」
「はっ」
切り返すように、デスタムーアはアクバーへと問いかける。
「戦いの準備はできておるか?」
「いつでも、デスタムーア様の牙となりましょう」
その言葉に応じるように、アクバーは跪く。
「時が来たら……」
「承知しています」
「そうか、ならば行け」
「はっ」
"時"が満ちたとき、魔王の腹心の部下は牙を剥く。
けれど、今はまだその時ではない。
今は、まだ。

391第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:41:23 ID:???0
.


そして、会場に悪魔の声が響き渡る。



「18時間が経過した、定時の放送を行う。
 ……日の光など無いこの世界では、時間の流れが掴みにくいだろう。
 この狭間の世界では、昼も夜もない、ただ有るのは"空"だけだ。
 禁止エリアにも関わる事だ、時間管理はしっかりしておけ。
 さもなくば……命を落とす、それだけだ。

 ではまず、禁止エリアの発表だ。
 先ほど同様、六つ設定する。
 2時 B-5 F-5
 4時 A-4 C-7
 6時 E-5 G-3
 以上の六つだ、聞き間違えの無いよう、確認できるのならば確認した方が良いだろう。
 禁止エリアを頭に入れていなければ死ぬ、それは事実なのだからな。

 では、次に死者の読み上げだ。
 ヤンガス
 バーバラ
 アリーナ
 ラドン
 ミネア
 ルイーダ
 アンジェ
 竜王
 ホンダラ
 フローラ
 
 以上、10名だ。
 ……正直、驚いている。
 貴様等人間達がここまで血に飢えた生き物だったとは、思っていなかったからな。
 血を吸い、戦いの快楽に溺れ、そして59の屍の上に立つ。
 この調子ならば、簡単な話であろう?
 では、また六時間後に会おう。
 心の中の血の渇きを、思う存分に癒しておくことだな……」

笑い声が木霊する中、悪魔の声は空に解けていった。

【残り17人】

392第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:42:49 ID:???0
以上で投下終了です。
禁止エリアはまたまた独断で決めさせていただきましたが、もし「この方が良くない?」とかありましたら、是非お気軽に!

393LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:22:15 ID:???0
悪魔の放送が空に鳴り響く。
睡眠をとっている三人のためにも、この放送の内容は聞き逃すわけにはいかない。
筆記用具を手に持ち、紙にさらさらと必要な事だけをメモし、地図に印を入れていく。
呼ばれていく名に、知り合いの名は無い。
当然だ、ただ一人の肉親を残して、仲間も敵もとっくのとうに名前を呼び上げられているのだから。
強いて言えば、あの曾孫の祖先と思わしき"竜王"が死んだことぐらいか。
伝記上でしか知らないが、強大な力を以てアレフガルドを支配したと聞く。
そんな力の持ち主ですら、この場所では死ぬ。
討たれたのかどうかまでは知る由もないが、気を引き締め直す必要はある。
放送が途切れると同時に、カインは見張りの相棒に話しかける。
「なあ、マー……」
その声は、音として外に出ることすら叶わず、か細く途切れていく。
いや、恐らくカイン以外の人間でも、きっと声を出しきることは出来なかっただろう。
今し方声をかけた人間、マーニャは。
この地で初めて、いや人生の中でも初めてと言っていい。
それほど大きな粒の涙をぼろぼろと、輝く両目から止めどなく零していた。
思わず、言葉を失う。
圧倒されるほどの姿、本人は悲しい気持ちでいっぱいだというのに、それを見ている自分は美しいと思ってしまうほど。
言葉など、飛び出すわけもない。
「……ご、めん」
ゆっくりと顔を動かし、カインの方を向き、小さく言葉を漏らす。
その声は弱々しく、今にもたち消えてしまいそうなほどだった。
「ちょっ、と……風、当たって、くる」
途切れ途切れの言葉を残し、マーニャはその場からゆっくりと離れていく。
カインは、そんな彼女になんて声をかければ良いのか、わからない。
ましてや、彼女がどこかに行くのを止める事なんて、出来るわけもない。
「くそぉっ……」
誰かを信じる、前を向く。
以前のように「他人はどうでもいい」と思っていたときには感じなかった、初めての苦しみ。
それに対してどうすることも出来ず、ただただ地面を殴ることしかできない。
己の不器用さを、ただただ呪うばかりだった。

394LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:23:13 ID:???0
.


怪鳥が空を舞う。
その背には、魔法使いの老人とか弱い少女。
いや、か弱いという表現は誤用かもしれない。
自分の祖先を殺し、自分を止めてくれた人間を殺した。
悪鬼羅刹にもっとも近く、この殺し合いでもっともまともに"狂って"いる。
だが、その心に少しだけ、綻びが生まれ始めようとしていた。

「このアレフ、お嬢様の思いに我が身を以てお答えいたしましょう」

憎んでいたはずの祖先は、自分がどれだけ罵っても眉一つ動かさなかった。
どれだけナイフで刺しても、どれだけ呪詛をぶつけても。
決して動じることなく、自分を抱きしめに来た。

「友達に、なってくれないかな」

ある女は、体が両断されてもおかしくない傷を負っているというのに、自分のことを気にかけていた。
もっと知りたい、だから友達になって欲しいと。
どうせ死に行く人間の最後の狂言と、リアは笑い飛ばした。
けれど、その女は最後の最後まで自分を見つめていた。

二人とも、勝手だ。
自分がどんな世界で、どんな苦しみを味わって、どんなに孤独に過ごしてきたかも知らないで。
自分が言いたいことだけを言っている。
受け止められるはずがない、受け止められるわけがない。
何も分かってない人間の、狂言にしか過ぎないのだから。

だけどどうして、心は揺らぐのだろう。
もしまともな世界で出会っていれば、自分の世界がああでなければ。
二人の言葉に、耳を傾ける余裕もあったのだろうか。

いや、そんな事を考えるのは時間の無駄だ。
もう、作り上げられた世界を変える事なんて出来ない。
そして、この場所では一人しか生き残れない。

兄のいない世界なんて、死ぬよりも辛い事だ。

早くしなきゃ、早くしなきゃ。
兄と一緒に死ぬために、兄と一緒に旅立つために。
もう、残り人数も少ない。
ということは、兄に危険が及ぶ可能性が高くなる。

兄に先に死なれては、困る。
兄のいない世界など、考えられない。
だから、兄とともに死ぬ。
兄のいない世界を味わう前に、自分も死ぬ。

だからお兄ちゃん、今、今。
リアが殺してあげるからね。

そんな思いで心を必死に塗りつぶしていく。
揺らがないように、綻びが生まれないように。
もう一度、心に深く刻み込んでいく。

そんな決意があるとは露知らず、怪鳥は西へ飛ぶ。
禁止エリアに追い立てられるように出てくるであろう参加者を、追いつめて殺すために。
魔法使いは力を磨く、世界の全てに破壊を齎すために。

395LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:23:43 ID:???0
.


「あんっの……」
すうっ、と胸一杯に息を吸う。
「バカミネアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」
涙をまき散らしながら、空に響きわたるほど叫ぶ。
ふうっ、ふうっと肩で荒々しく呼吸をする。
落ち着かない、当然だ。
放送は死者を告げる悪魔の宣告。
その名にあったのは、かけがえのない仲間であるアリーナ。
そして、唯一の肉親であるミネアの名前。
揺らがない訳がなかった。黙っていられるはずがなかった。
二人とも正義感が強く、困った人を放っておけない質だ。
特にミネアは筋金入りで、道行く人が倒れようモノなら即ベホマ。
そんな彼女たちだったからこそ、マーニャの心には「誰かを守って死んでしまうのではないか」という不安があった。
だから、一刻も早く会いたかった。
あって無事を確かめたかった。
いつも通りに話して、いつも通りに笑って。
それだけで、良かったのに。

もう、叶わない。

アリーナのすっとぼけた会話を聞くこともない。
巨岩を優に砕く腕力を見ることもない。
心の奥底に秘める優しさを感じることもない。

妹のふんわりとした声を聞くこともない。
時に鬼のような恐ろしさを感じる占いを見ることもない。
時折見せる繊細さに触れることもない。

死んでしまっては、どうしようもない。

「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
ただただ、叫ぶことしかできない。
結局何も出来なかった無力な自分を呪うように。
声が枯れてしまいそうになるほど、叫び続けることしかできない。

「やだよぉ……行かないでよ、ミネアぁ……アリーナぁ……」
いつも強気な彼女からは考えられないほど、弱々しい声が漏れ出す。
誰が言っていたか、強気は弱みの裏返しだと。
この殺し合いが始まってから、頑なに妹を探し続けた理由。
それは、失ってしまうのが怖いから。
自分の中の支えであるものを、無くしたくないから。
分かっていたのだ、自分がそれに依存していることくらいは。
けれど、もうそれは失われてしまった。
柱を失ったことで、マーニャという一人の人間が音を立てて崩れ去っていく。
もう、強気でカジノ好きなマーニャはそこにはいない。
姉という肩書きすらも無くした、ただの一人のちっぽけな人間。
「うっ、うああ、うあああああああ!!」
無力で、惨めで、何も出来ない。
泣くことぐらいしか出来ないから、泣くしかない。
ずっと泣き続けている場合ではないことぐらい、分かってはいるけど。
せめて、後少しだけでいい。
大声を上げて、たくさんの涙を流させて欲しい。

396LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:24:14 ID:???0
.
しかし、それすらも叶わない。
ピリッ、と背筋を走った殺気に、マーニャは素早く飛び退いて武器を構える。
喪失感に襲われているとはいえ、敵の気配を感じてもなおぼうっとしているほどバカではない。
腫れた目をこすり、殺気の飛んできた方向を睨む。
一匹の怪鳥が、こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる。
先ほどロッシュとテリーの口から漏れた、世界を支配する四魔王のうちの一人、ジャミラスの姿とよく似ている。
急いでカインの元に戻ろうとするが、向こうの飛行速度は段違いだった。
下手に背中を見せれば、余計な傷を貰いかねない。
進撃を食い止めつつ、仲間のところまで退く。
そうと決まれば、行動は迅速な方がいい。
「獄炎よ、牢となり彼の者を捉えよ! ベギラゴン!!」
素早く呪文を唱え、炎を練り上げていく。
足止めが目当てならば、一点に集中した火球より、殺傷を目的とした爆発より、天高くに伸びる炎の方が良い。
手を振りかざすと同時に、怪鳥を包み込むように炎が巻き起こる。
その炎を見つめたまま、マーニャは素早く後ろへ飛び退いていく。
早く戻って、彼らに伝えなくてはならない。
だが、その撤退行動は許されない。
炎が巻き起こるとほぼ同時に、無数の氷柱が地面へと刺さる。
氷柱達は、その身を溶かしながらも炎達を弱めて行った。
予想外の出来事に、思わず歯を鳴らしてしまう。
テリー達の話が本当なら、ジャミラスはそんなに強力な呪文を使えることは無いはずなのだ。
事実、呪文を唱える素振りは微塵も見えなかった。
つまり、どう言うことかは分かる。
「筋の良い炎だ、けど、ちっとばかし足りねぇな」
よりにもよって魔物に手を貸す人間が、居ると言うことだ。
怪鳥が剣を握り、舌をなめずり回しながらマーニャの体をじろじろと見つめる。
ニタニタと下卑た笑いは、どこまでも気分を不快にさせてくる。
早く次の一手を打って、この状況を変えなければ。
「その髪の色……ふっ、そうか、そういうことか」
魔物の口から飛び出してきた言葉に、マーニャは疑いの目を向ける。
「……どういうことよ」
心を探られないよう、慎重に言葉を選んでいく。
手札を悟られてはいけない、まるでポーカーのように慎重に進んでいく。
「先ほど、貴様によく似た女をこの手で殺してきたばかりだ」
だが、魔物が切ってきたのは、オールジョーカー。
あり得ない手札、刃向かいようのない手札、そして何より。
一番見たくない絵面の言葉だった。
「テッメェエエエエエエエエエエッ!!」
瞬時に炎を練り込み、今度は火球として放っていく。
一発ならず二発、三発。
目の前の怪鳥を燃やしつくさんと、次々に放つ。
それをかき消すのは、今度は氷柱ではなく同じ大きさの火球だった。
マーニャが即座に練り上げた三発の球を、意図も容易くかき消していく。
「ふん、余計な真似を」
「おいおい、案外危なかっただろうが。その台詞は無いンじゃねえのか?」
魔物の側で老人が笑う。
そんなやりとりをしている間にも、呪文は次々に飛んでくる。
それを老魔がいなしていくというのを繰り返しているうちに、リアが口を開く。

397LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:24:26 ID:???0
「ねえ、魔物さん……あんなのどうでもいいから、早く行こうよ」
こんな所で時間を使いたくないという焦りが、その言葉を生む。
「嬢ちゃんの言うとおりだな、ここは俺に任せて先に行けよ」
何かを言いたそうにしていたジャミラスよりも先に、老魔が言葉を被せていく。
「禁止エリアの都合上、この先に誰かが居ンのはほぼ間違いねえ。
 だからよ、先に行ってそいつ等をぶち殺してくれよ。
 誰もいなかったら居なかったで、すぐ戻って来りゃあいい。
 なあに、あの女一人くらいなら俺一人で十分よ」
最もらしい理論を並べ、怪鳥に先に進むことを勧めていく。
誰かいるなら殺せばいいし、誰もいないなら戻ればいい。
口にしてみればシンプルで、それでいて相手を納得させやすい言葉。
言葉を言い終わってから、老魔はにっこりと笑う。
「それに、何より嬢ちゃんが行きたがってるからな」
「……勝手にしろ」
「待てやァッ!」
その言葉と同時に飛び去ろうとした怪鳥にめがけて、マーニャが再び呪文を放つ。
「おおっと、悪いがアンタの相手は俺だ」
そのマーニャに、ナイフを持って一気に詰め寄っていく老魔。
見てくれからは想像できない俊敏さに、マーニャは思わず一歩退いてしまう。
「アレを追いかけたいなら俺を倒してからにしな」
飛び去る怪鳥を指さしながらにたりと笑う老魔を前に、マーニャは先ほどカインから譲り受けた扇を構える。
「……アンタ、何で魔物と連んでるのよ」
そして、純粋に思ったことだけを、口にしていく。
「ハッ、愚問だな……このクソったれた世界に、興味がなくなっただけの事よ。それと――――」
老魔はさぞ興味がないといった表情で、マーニャに告げる。
ふと、脳裏によぎったのは始めに出会った少女。
目の前の男も、彼女とは違うが、同じように絶望しているのか。
考えをよそに、老魔は言葉を続ける。
「俺が世界最強の魔法使いだって事を証明するために、テメーみたいな二流に負けるわけにはいかねえよ」
前言撤回。
いつぞやの賢者のように、この男もただのバトルジャンキーだと言うことなのだろうか。
「ハッ、生憎。魔物と連んでるような自称一流芸人にも負ける気はしないわね」
ありったけの皮肉をぶつけるだけぶつけて、マーニャは戦いの構えを作る。
老魔がナイフと杖を構えて、後ろに飛び退く。
マーニャが扇を構えて、後ろに飛び退く。

それが、戦いの合図。

398LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:25:01 ID:???0
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はあ、とため息を一つこぼす。
優しい言葉の一つすらもかけてやれない、そんな自分に辟易してしまう。
変わる変わると口で言っていても、現実はこんなものだ。
パチンと音がするだけで別人になれるのならば、この世の中はそんなに苦しくない。
だからこそ、人間というのはもがくのだ。
苦しみから解き放たれたい、今を、自分を、全てを変えたいと願うあまり。
……まあ、何もかもが簡単に変えられる訳じゃない。
実際に一度挫折しているのだから、それくらいは分かる。
「あー、くそっ」
こういう事を悩むのは、柄ではない。
だけど、どれだけ頭をこねくり回しても、優しい言葉の一つすら浮かばない。
なんてひねくれた愚か者なんだろうか。
「……随分お悩みのようだねえ」
そっと声がかけられる。
うずくまる姿勢から首だけで振り向くと、そこには少し悲しげな表情をしたロッシュが立っていた。
「なんだよ、寝たんじゃなかったのかよ」
「なんか、ね。寝付けなくて」
頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうに告げる。
はぁ、とため息を一つこぼし、カインはロッシュを見つめる。
この脳天気そうな顔を見る度に思う。
へらへらと表面を繕っていて、それでいて裏では深刻なことを考えていたりする。
……まるで、僕じゃないか。
「まあさー、上手くは言えないけど。そんなに悩むことはないんじゃない?」
いや、僕ではない。
僕より腕が立って、僕より前を向けて、僕より絶望していなくて。
「考え過ぎなんだよ、きっと。そういうことを言おう言おうと考えるから、言葉に詰まる。
 "きっともっと相応しい言葉がある"なんて考えるから、言えるモノも言えなくなる。
 だからさ、思ったことをそのまま言えばいいんだよ」
何より、僕が言えない"言葉"を、彼は持っている。
正直言えば妬ましく、疎ましい。
どうしてこんなにも恵まれた人間から、同じ空気を感じなくてはいけないのか。
「もっと正直になってもいいんじゃな〜い?」
……いや、よそう。
今はそんなことを考えている場合ではない。
それより、ロッシュの言うことの方が万倍もタメになる。
不器用だったとしても、一言告げることが大事なのだから。
「なるほど、ね。前向きに善処するよ」
ロッシュの提案に対し、カインはざっくりと答える。
「んも〜う、カイン君ったらぁ〜、もっとお兄さんのこと頼ってもいいのよぉ〜?」
すると、こちらの心を見透かしているのか、なんともウザったらしいリアクションが返ってきた。
……切らずにとっておいたカードを、何の躊躇いもなく切る。
「マリベルとテリーにさっきの惚気全開寝言を全部チクるよ」
「すいません許してください何でもしますから」
「ちなみにマーニャは全部聞いてたから」
「……何て言ってた?」
「死ねクソボケ同じ酸素吸ってるだけで恥ずかしいから速やかに呼吸を止めろザキザキザキザキザキ」
「ひどくない!? っていうかマーニャはザキ使えないじゃん!」
「ちなみに一部だから」
「もっとあるの!?」
「そう、他には――――」
「もういいですマジで死んじゃうからやめて」
あっという間に会話の主導権を握り、どこか誇らしげな表情を浮かべるカイン。
まあ、こんな風に誰とでも気兼ねなく喋れればいいのだが。
少しずつ、頑張ろう。

399LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:25:30 ID:???0

そんなことを考えていたときである。

「――――お兄ちゃん!!」

耳に覚えのある声が聞こえる。
心臓がドクリと一回、大きく跳ねる。
ずっと聞きたかった声が、耳の中で何度も何度もリフレインする。
声のする方を向く、見覚えのある姿が居る。
腐り果てたあの世界で、たった一人だけの"信じれる人"がそこにいる。

「リアッ!!」

その名前を、愛しき妹の名前を叫ぶ。

「お兄ちゃあああああああああん!!」

はちきれんばかりの泣き声と共に、リアの小さな体がカインの胸元へと飛び込んでくる。
カインはその小さな体をしっかりと受け止め、精一杯の優しい力で抱きしめてやる。
鼻をつく血の香りとか、今まで溜まっていた疲労とか、全てがどうでも良くなった瞬間だった。

「会いたかった……ッ」

ただ、その一言を告げる。
これは夢ではなく、現実。
目の前にずっと会いたかった妹が、居るのだ。



「羨ましいね……」
感動の再会を横目でみつつ、ロッシュはため息を一つこぼし、ぽつぽつと歩き始める。
同族の気配がするということもあって薄々感づいてはいたが、やはりカインには妹が居たようだ。
生きて出会えた、というのは幸せなことだ。
こんな場所では、いつどこで誰が死んでしまうかなんて、分かる訳がないのだから。
きっと、彼は今、この上なく嬉しくてたまらないだろう。
「……僕も、会いたいな」
つい、本心を漏らしてしまう。
会いたい、会いたい、けれどこの場にどころか、どこにも居ない存在。
夢は夢としてしか生きれない、分かっている。
けれど、異世界と異次元が混じり合うほどの世界だったなら。
少しぐらい、また夢見てもいいんじゃないだろうか。
「くだらない、な」
何かを振り切るようにそう呟き、くるりと振り向いていく。
「そう思うだろう? ジャミラス」
「ふん、やはり気づいていたか」
視線を飛ばした先から、ゆっくりと現れる一匹の怪鳥。
カインが感動の対面をしていたとき、ロッシュはその先にあった気配をいち早く察知し、その正体を掴んでいたのだ。
剣を構え、淡々とした声でロッシュは怪鳥に告げる。
「悪いけど、あの二人の感動のご対面は邪魔させられないよ」

400LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:26:04 ID:???0
その一言を聞いてから、少し目を丸くして、ジャミラスは笑う。
「……感動の対面? ククク、そうか、フハハ、ハハハハハ!!」
笑う、笑う、笑い続ける。
生まれて初めて道化師を見たような子供のように、笑う。
「何が可笑しいのさ」
冷たく問いかけてみても、怪鳥はずっと笑っている。
「フンッ、これから死に行く貴様には関係のない事よ。
 精々あの二人が出会わせたことを、精々後悔するが良い」
「どういうことだい?」
さも意味ありげな言葉を吐くジャミラスに問いかけてみてみるも、返答は拳。
端的に言えば「さっさと死ね」ということなのだろう。
振るわれた拳をひょいと避けながら、ロッシュは言う。
「そっか、教えてくれないか。そうだろうとは思ってたけどね。
 こんな傷だらけで、ボロボロで、今にも死にそうな人間にそんなことを教えてもしょうがないもんね。
 でもね、ジャミラス。僕はこんな体でも――――」
そして、深呼吸を一つして。
「君を止めるくらい、どうってことはないさ」
不適に、笑う。
「ほざけ!!」
怪鳥の怒号が、戦いの始まりを告げた。

401LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:26:32 ID:???0
.


「おにい、ちゃ、ん! おに、い、ちゃ、ん!!」
何度も、何度も、妹は自分のことを呼ぶ。
服は血に塗れ、体のあちこちには擦り傷が出来ている。
ここにたどり着くまでに、果たしてどれだけの出来事があったのか?
考えなくても、分かる。
「……リア、もう大丈夫だ」
自分の胸で泣き続ける妹を、優しく抱きしめながら、頭をなで続ける。
「あのね、リアね。お兄ちゃんにずっと会いたかったの」
「うん」
涙をこらえて口を開く妹の話に、相づちを打つ。
「どんなに辛いことがあっても、邪魔する奴がいっぱい居ても、リア頑張ったの」
「うん」
体と震わせながら絞り出される声を、一音たりとも漏らさずに耳に入れる。
「お兄ちゃんのことが好きだから、お兄ちゃんのためなら何だって出来るから」
「うん」
肌の温もりが、涙の冷たさが、リアが生きていることを教えてくれる。
「リアはすっごく嬉しいの、こうやってお兄ちゃんにやっと会えて」
「うん」
ようやく落ち着きを取り戻してきたのか、少しクリアになってきた妹の言葉に。
「一緒に死ねるんだから」
「うん」
首を縦に動かして、頷く。





「――――うん?」





違和感を覚えたときには既に遅く。
リアの手は真っ直ぐに自分の首へ伸びていた。
首をカッ切るため? 違う、妹の手には何も握られていない。
首を絞めるため? 違う、妹の手は僕の首には触れていない。
首を抉るため? 違う、妹はもょもとみたいな怪力じゃない。

じゃあ、何か?

簡単なことだ。
この殺し合いという会場の中で、誰しもが平等につけられている"命の枷"。
無理に外そうとする者に、平等に死を与える悪魔の産物に。
僕の妹は、僕のそれにめがけて、手を伸ばしていた。

理解できなくて、動けなくて、ただ呆然と見ていることしかできなかった。

402LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:27:23 ID:???0
.
そして、カランと音が響く。



カラン、カランカラン。



金属が地面に落ちる音が、空に木霊する。



「――――あれ?」
声を出したのは、リア。
「おかしいよ、どうして爆発しないのかな?」
人の命を簡単に奪い去るはずの枷は、何もしなかった。
「あれ、あれあれあれ? なんで、なんでなんでなんで!?」
理解できない、理解できるわけがない。
「どうして、お兄ちゃんを殺してくれないの!!」
その枷が、何の意味もない事など、知るわけがないのだから。
「リア……お前」
「リアは!! お兄ちゃんのいない世界なんて!! 嫌だから!!」
呆然とした表情のカインの言葉なんて、今のリアには届かない。
「生きても意味がないの! そんな世界、リアはいらないの!!
 だから、死んでしまえば、お兄ちゃんと一緒に死んでしまえば、ずっと一緒にいられる!!
 この首輪が、あたしも、お兄ちゃんも殺してくれるって思ってたのに!!」
だって、今リアの全ては。
爆発しなかった首輪に、全て奪われてしまったのだから。
それでも、それでも欲したい。
「……ねえ、お兄ちゃん」
まだ、そこに彼女にとっての希望があるのだから。
「リアと一緒に」
彼女は、それを呟く。







「死んで」







孤独な男は一人、取り残される。

403LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:27:50 ID:???0

【C-7/中央部/黎明】
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、砂柱の杖@トルネコ
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品(1〜2)
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前は後続の書き手にお任せします。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:太陽の扇@DQ6
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、休息。

【C-7/C-8との境界/黎明】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP6/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:ロッシュを殺害。その後リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:睡眠中 HP9/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)、※不明支給品(後述)
[思考]:ジャミラスを止める

【C-7/中央部/黎明】
【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:竜王のツメ@DQ9、
[道具]:支給品一式*2、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
     世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶、※不明支給品(後述)
[思考]:
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

404LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:28:02 ID:???0
【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う、この名前いやだなあ)

【テリー@DQ6】
[状態]:睡眠中 ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:睡眠中 MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:休息。

※カイン、テリー、ロッシュ、マリベル、マーニャで支給品分配を行いました。
 全員分で計2〜8個、うち一つは武器では無い物が分配されています。
 誰に何が分配されたかはお任せします。

405LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:28:23 ID:???0
以上で投下終了です。
●が死んだので2chに書き込めなくなってしまいました……どなたか代理投下をお願いします。

406LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:33:07 ID:???0
>>403 状態表修正

【C-7/中央部/黎明】
【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、砂柱の杖@トルネコ
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品(1〜2)
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。最強を証明する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前は後続の書き手にお任せします。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:太陽の扇@DQ6
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式、※不明支給品(後述)
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     目の前のジジイをぶっ飛ばす

407LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:34:13 ID:???0
なんか本投下デキルっぽいんで本投下してきます。
お騒がせしました。

408 ◆.YEzVA6BUc:2013/08/27(火) 01:34:57 ID:nBwfi2LQ0
リュカ、影の騎士投下します

409 ◆.YEzVA6BUc:2013/08/27(火) 01:49:19 ID:nBwfi2LQ0
「18時間が経過した、これより定時の放送を始める。」
その言葉に、放心していた影の騎士は我に帰る。
「ハッ、もうそんな時間かよ。」
口に出して笑ってみるが、自分の中の空虚な感覚は消えない。
理由は、分かっている。だが、それを彼は肯定出来なかった。
(・・・ハッ、俺にもそんな感情があったなんてなァ)
手は止めず、そんな感傷を味わう。
「人を殺した事なんざ、ザラにあんのによォ・・・」
自嘲するように。
いや、事実それは自嘲だった。
「なんで、俺は・・・」
「・・・・・・嘆いてんだよ・・・」
それは、誰にも聞かれない。
だからこそ、彼はそれを吐き出した。
己の心の、小さな歪みを。

410 ◆.YEzVA6BUc:2013/08/27(火) 02:04:52 ID:nBwfi2LQ0
「答えを、聞けなかった・・・だからかい?」
だが、そこには一人。
「・・・!?」
死から、甦った男が、いた。
「何で、生きてんだよ・・・?」
放送の声は、影の騎士が知る名前を、一つだけ語らなかった。
伝説の魔物使い、リュカの名前を。


「・・・君に、殺されたんだ。僕とフローラは。」
その男は、至って冷静に見える。
「・・・ああ、そのとーりですよ。」
その男の問いに軽口で答えつつも、影の騎士は感じていた。
彼の主君、竜王にも勝るとも劣らない、その殺気を。
「だからほら、攻撃すりゃいいじゃねーか。
こっちは魔物、あんたは人間。
当たり前の正当防衛、敵討ちにはもっともってか」
だが、影の騎士はあえて誘う。

411 ◆.YEzVA6BUc:2013/08/27(火) 02:15:53 ID:nBwfi2LQ0
自分がいま生死の境にいることぐらい、簡単に分かる。
だが、人間の大きな欠点、すなわち驕り。
「必ず殺せる」と思った人間は、無意識に「予想外」を予想しない。
だからーーー
(いきなり、死んだ奥さんやらがいたら、ビックリするよなァ?)
ーーーそこを突く。
勝率は、今出る手では最良の目。
そして、歩いてくるリュカに対して、いつ杖を振ろうと、影の騎士がタイミングを見計らいーーー
「それで、なぜ嘆いていたんだ?」
その言葉に、意表を突かれる。

412 ◆.YEzVA6BUc:2013/08/27(火) 02:42:27 ID:nBwfi2LQ0
すいません。
何らかのエラーだと思いますが、一定の文字数を越えると、全て消えてしまうことが起きています。
期限内に直ったら、改めて投下しなおします。

413 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 09:54:39 ID:nBwfi2LQ0
直ったので続きから投下します

414 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 10:12:50 ID:nBwfi2LQ0
「・・・何で、んなこと聞くんだ?」
問いかける。
「単純に、君のことを聞いておきたい」
「殺す前の、冥土の土産って訳か?ハッ、いいぜ」
影の騎士は、簡潔に答えようとする。
そして、
「いいや、違う。。」
「君がさ、改心してくれる兆しを見せてほしい。」
返ってきた言葉に、呆気にとられる。

415 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 10:26:41 ID:nBwfi2LQ0
彼は、かつて、魔物との交戦で、一人の部下を失っていた。
双子の兄弟がまだ、戦うことに慣れていない頃。
二人をかばって、呪文の連打に耐え続け。
彼が駆け付けた時には、手遅れだった。
その魔物を、討とうとした時のこと。
彼は、魔物のある一言を聞いた。
その一言を聞いた彼は、とどめを刺さず、魔物を自ら従えた。


彼は、魔物の心が読める。
だが、彼は読んでいても、魔物自ら声を出さない限り、従えることをしない。
いま、影の騎士が何を思っているか、彼は知っている。
彼は、影の騎士を試す。
自らが抱く気持ちを、吐き出すか否か。
それは、まだ誰も知らない。

416 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 10:58:13 ID:nBwfi2LQ0
【E−5/森林/真夜中】

【影の騎士@DQ1】
[状態]右腕負傷
[装備]メタルキングの槍@DQ8
[道具]基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
   不明支給品(0〜3)
[思考]闇と人の中に潜み続け、戦わずして勝ち残る。
   争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]千里眼、地獄耳の効果は、第二放送時に消失しました。

【リュカ@DQ5】
状態健康
[装備]パパスの剣@DQ5
[道具]支給品一式×3、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]影の騎士を試す。

417 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 11:00:20 ID:nBwfi2LQ0
投下終了です。
代理投下お願いします。
途中お騒がせして申し訳ありませんでした。

418 ◆PZGErfdbRU:2013/08/27(火) 11:04:16 ID:nBwfi2LQ0
すいません、タイトル忘れてました・・・
「闇への問」
です。
よろしくお願いします。

419ただ一匹の名無しだ:2013/08/27(火) 11:24:49 ID:???0
投下乙です。
時間軸が放送前(真夜中)になっていますが、こちらは深夜との設定ミスでしょうか?

420 ◆.YEzVA6BUc:2013/09/01(日) 01:54:08 ID:.X2bz6d20
>>419
ものすごい今更ですがそうです すいませんでした

421 ◆CruTUZYrlM:2013/09/20(金) 00:00:41 ID:???0
だから、ビアンカは"彼女"に賭ける。
戦うことを強いられたこの場所で、戦うことしか知らない者に対して。
戦う以外の、人間の側面を見せられる手段を知っているのは、きっと彼女だけだから。
「ほら、ビアンカさん達も!」
「えっ?」
そうこうしているうちに、リッカがビアンカに声をかけてくる。
ぼうっとしていると後ろからぐいぐいと押され、襲撃者の座る卓へと案内された。
「こう言うときは、たくさんで食べた方が楽しいんですよ?」
そういって席につかされ、食事を目の前に出される。
食事という概念のないサイモンも座らせたのは、とにかく"にぎやかにしたい"という一心からなのだろうか。
「不思議な気分ね……」
誰にも聞こえないように、一人言葉をつぶやく。
先ほど、自分たちを殺しに来た人間と卓を囲んで食事を取るなんて、長い人生でも滅多に出来ない経験なのかも知れない。
そして、彼女を変えうる、ないしその片鱗を掴むことが出来るなら。
自分も、それに手を貸し、少しでもリッカの望みに近づかなければ。
「っと、いただきます」
食事の前の儀式を済ませ、ビアンカもまた、食卓に置かれた食事にを、口に運んでいった。



ここはリッカの宿屋。
全ての冒険者に、全ての旅人に、全ての人間に。
平等に癒しを与える、最高の宿屋。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/黎明】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕負傷(手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています

【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
     アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る
[備考]:マホトーン、イオを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リッカを見守る。リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
    料理の仕込でドタバタしていたため、第三放送の内容を聞いていません

422 ◆CruTUZYrlM:2013/09/20(金) 00:02:10 ID:???0

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/20、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ片腕に慣れたい
     少し、食事を摂る。
[備考]:性格はおじょうさま

※献立は後続の書き手にお任せします。

----
以上で投下終了です。
最後の最後でサルった……
タイトルは「夢が叶うのは、誰かのおかげじゃないから」でお願いします。

次スレの容量も近いので、スレ立ててきます。

423 ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:33:43 ID:C3nF/rro0
加えて、身体に限界までかけたスクルト、反撃として放ったロトの剣による斬撃。
幾つもの要素が重なった結果、カインの命脈は尽きず、今もこの世界に留まっていた。

「やだ……来ないで! だめったらだめ!」
「大切な妹のお願いごとでも、それだけは聞けないね」
「うるさい! もう、大人しくしててよ! どうせ、死ぬのに無駄だよ!」
「死なないさ。思ってるよりも傷は浅いんだよね」

嘘だ。刻まれた三爪痕はカインの身体を大きく引き裂き、多大なダメージを与えた。
今すぐ倒れてもいいのなら、倒れたいくらいに辛いし、視界は霞み、リアの顔をはっきりと見ることすら敵わない。
満身創痍。カインの身体は、限界だった。

「という感じだからさ。残念だったね、リア。僕は死なないよ」
「……ッ!」
「そう、睨まないでよ。僕は、怒った顔よりも笑っている顔の方が好きなんだからさ」

自分は何を口走っているのか。普段通りに喋れているかすらわからない程に、辛い。
痛みに喘ぎ、身体の動きは足を動かすだけでも一生分の体力を使った錯覚さえ覚える。
もう、止まってもいいのか。地面に倒れてもいいのではないか。
何度も、何度も。浮かび上がる諦めは、カインの体力を奪っていく。

――僕は、何を、護ると誓ったんだっけ?

自分の中にいる諦めが、囁く。
もう、十分やりきった、と。

――僕は、誰を救けると、誓ったんだっけ?

自分の中にいる絶望が、嗤う。
お前には無理だ、と。

424永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:40:38 ID:???0

「なぁ、リア」

それでも。それでも――!
カインは、倒れない。今までのどんな旅路よりも辛い路でも、止まらない。
ハーゴン討伐の時には横にいた二人がいなくても、リアが生きているなら頑張れる。
彼女が笑ってくれるならどこまでも強い兄を演じられる。

「僕が死なない理由なんて簡単なものさ。ロトの血なんて関係なく、リアと一緒に生きていきたい。
 世界の奴等の為に、死んでやるのはもったいないだろ? 僕らは誰よりも幸せであるべきなんだからさ」

それが、兄というものだから。
少しの諦めで消えてなくなりそうな想いを必死に抱え込みながら、カインは言葉を紡ぐ。

「それに、僕が死んだら……誰がリアの面倒を見るんだよ」
「そんなのいらないもん! お兄ちゃんを殺した後にすぐ!」
「何度も言わせないでくれよ、僕は死なない。お前と、二人で生きるって決めてるんだ」

ふらつく身体を必死に保ちながら、一歩ずつリアへと近づいていく。
こんな所で、終われない。自分がここで倒れたら、誰がリアの涙を拭うのか。
誰がロトの呪いに囚われた妹を、救いに行けるのか。
死んでも救ってみせるという覚悟を胸に刻み、手を伸ばす。

「だから――泣くなよ」
「な、泣いてなんか」
「はっ、そんな潤んだ目で言われても説得力がないよ。
 殺すだのなんだのってさ、今のお前に言われても全く怖くないね。数時間前に会ったバトルジャンキーの方がよっぽど怖かった」

額から滴り落ちる血は、一向に止まらないし、スクルトをかけていることにより身体の重さは半端じゃない。
足は棒のように固く動かないし、手に握っていたロトの剣はとっくに手放している。
コンディションは最悪だ、今までで一番ひどいとも言っていいぐらいだ。

425永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:41:17 ID:???0

「でも、これ以上、動いたら本当に死んじゃうよ?」
「……妹を残して死ねる訳ないだろ」
「死ぬよ! 本当に死ぬってば! これ以上動いたら、本当に……!」
「死なない!! 僕は、まだ死なない! お前を残して、死んでたまるか! 大好きな人にそんな思いは絶対にさせない!」

しかし、それがどうしたというのだ。
ここで最悪を超えなくて、いつ超える。彼女の涙を拭えなくて、何が兄貴だ。

「はっ、どうだい? これで大体は論破したと思うけど?」

一歩、一歩噛みしめるかのようにカインは、リアに近づいていく。
誰よりも辛い思いをしてきた彼女に、本物の幸せを教えるまで死ねない。
カインの中に生まれた意地は、彼の限界を踏み越えていく。
誰かに負けるのは仕方ないことかもしれないけれど、忌々しいロトの呪いにだけは負けられない。

「それに……やっと、辿り着いた」
「あっ……」

そして、カインとリアの距離が手を触れ合える距離にまで縮められた。
彼らを隔てていた距離はもう、ない。

「最初に言っておくとさ」

今度こそ、カインの手がリアへと届く。ふらふらになりながらも伸ばしてくる両手は、青白く生気が感じられなかった。
兄に怒られても仕方ないことをしてしまったのだ。叩かれるかと思った両手は、リアの頬をすり抜けて、背へと寄せられていく。
次いで、ほんの少しの力が込められ、優しくぎゅっと抱きしめられた。

426永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:45:05 ID:???0

「僕は、リアのやったことについて、詳しくはわからない。この世界で何を想って、何を行ったか。
 まぁ、大体は察することができるけどね」

カインは、この世界でリアがやってきたことはわからない。まともに会話をしていないのだから当然だ。
だが、血で真っ赤に染まった衣服に、魔物と一緒にいた事実から大体のことは察することができる。
あくまで、推測であるが、妹は自分の知らぬ参加者を排除して回ったのだろう。
自分と一緒に死ぬ為に、幾人もの参加者を切り捨てたマーダーだ。
そんな経緯が本当にあるのだとしたら、殺された参加者やその知り合いから恨みを掛けられてもおかしくはないし、実際に殺されても文句は言えない。
カインだってどんな理由があるにしろ、もょもとやアイラを殺した奴等を許すことはできない。

「それでも、リアと一緒に生きるっていう夢は、終わらない」

しかし、身内には甘くなってしまうのはカインの駄目な所なのだろう。
ああ、仕方ないのだとカインは自嘲する。
自分はリアの兄でもあり、大好きな人でもあるのだから。
どれだけの人を切り捨てて、ロトの呪いに侵されても、妹を突き放すことはどうしてもできなかった。
これは、兄として、一人の少女を愛する少年としてのエゴだ。自分勝手で、相手の気持ちを無視した個人的な感情だ。
だから、今の自分はロトの王子でも救世の英雄でもない――ただのカインだ。

「起きてしまったことは変えられないし、死んだ人達は蘇らない。皆、リアの想いを否定するかもしれない。
 そんなの、悲しいよな。苦しいよな」

もう離してやるものかと言わんばかりに強く抱きしめる。
やっと、掴めたのだ。大切な人に届いたのだ。

427永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:45:30 ID:???0

「だから、僕だけはお前の味方になる。どんなにひどいことをしても、僕は許すよ」
「やめてよ……やめてってば!」
「ごめんな、僕がお前の想いにもっと早く気づいていれば。一緒に心中する程に追い詰められていたお前に、何か与えていたら」
「そんなことない! お兄ちゃんは私の為に十分過ぎるくらいのことをしてくれたよ!
 怖い夢を見た時はずっとずっと、一緒にいてくれた! 政略結婚の道具でしかないって噂が流れた時は、私を慰めてくれた!」

薄っすらと笑みを浮かべながら、ただただ抱きしめるカインに、リアは耐え切れなかった。
右手にはめられていた爪が地面に滑り落ち、両手はカインの背へと回される。

「他にもお兄ちゃんにはいっぱい助けてもらったんだから!」
「もういいから。僕のことをどれだけ思っているか、よくわかったから」
「わかってないよ! お兄ちゃんは私のこと、全然わかってないよ……」

わかっていないという意味をカインは理解できなかった。
後は、ゆっくりとリアの心を解きほぐしていけばいいだけのはずなのに。

「あんな技を出して、リアの身体が耐えれる訳、ないんだよ」

妹の口から吐き出されたのは、どうしようもない絶望だった。
泣いているのか、笑っているのか。どちらとも言えない半端な表情を浮かべ、抱きしめられていた両手はそっと降ろされた。
何を言っているのか、カインには理解ができない。否、理解をするのを頭が拒んでいた。

428永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:45:52 ID:???0

「そんな訳ない、嘘だ」
「お兄ちゃんと違って、何の訓練もしていない私が……何の代償もなしに使えると、思う?」

思わない、とカインは口には出せなかった。
口にしてしまえば、認めてしまう。明晰な頭が導き出した答えを理解してしまう。

「違う……っ! そんな訳があるか! だって、だってさ……」

リアが使った技は、カインから見ても凄絶ともいえるものだった。
大地を薙ぎ、暴風を起こす爪技はもょもとの一撃並だ。
そんな一撃を、リアが代償なしに使えることができたならば、自分達の旅に付いてきたはずだ。

「これ以上、いいよ……自分でも、わかってやったことだから。
 あの技はね、本来なら魔力で補うものだけど……私には補える程、なかった。だから、代わりに補填したのが」
「やめろ、やめてくれ!」
「私の、命だったんだ。生命力で無理矢理補って、発動させたの」

リアの掠れた言葉に、カインは頷くしかなかった。
妹が最後の力を振り絞って投げかける想いを、切り捨てるなんてできなかった。

……どうして。

心中で投げかけた疑問に答えてくれる者なんていない。
何度も繰り返して唱える回復呪文は効かず、リアの力は徐々に衰弱していく。
握り返してくれた手も、悲しそうに笑う顔も、数分後にはもう見れないものになるだろう。

429永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:47:03 ID:???0

「本気だったんだよ? お兄ちゃんと一緒に死ぬ為に、私の全力でお兄ちゃんを……倒そうとした。
 私の中のお兄ちゃんが現実のお兄ちゃんと変わってさえいなければ、きっと……殺しきれた。
 あはは……お兄ちゃんと死ねるなら、それで満足だったの。一緒に死ぬことで、私達の関係が永遠になれるなら――よかったのに」

リアが望んだ願いの根幹は、永遠だった。
ずっと、大好きな人の中に在り続けたい。兄と過ごす時間を刹那に凍結したい。
だから、殺した。ロトの先祖も、友達になってくれるかもしれなかったお姫様も。
兄以外、リアにはいらなかった。兄に抱く感情をこの殺し合いに侵されぬまま、死にたかった。

「結局、私は何一つ得るものなんて」

その願いが叶わぬものなら、もうどうでもいいのだ。
未練を抱え、永遠になれぬまま消えていくことに妥協してしまったから。
きっと、兄はこれからも自分を置き去りにして進んでいくことだろう。
その横には自分じゃない別の誰かがいる未来へと、振り向かずに。
諦観に満ちた後悔にリアが潰されようとした時。

「ふざけんな」
「おにい、ちゃん?」
「何、言ってんだ。一緒に死ぬことで永遠になれる? そんなことしなくても、僕達の愛は永遠だろ。
 得るものはない? 散々に振り回しておいて、何にもなかったことになんてするなよ」

言葉が口から勝手に漏れだしていた。
妹の言葉を認めてはいけない。思うのはそれだけだった。

「で、でも」
「……ずっと、ずっと死ぬまで私達はいっしょにいよう。約束したよな、僕達が初めて自分を曝け出した夜に。
 あの時交わした約束は、まだ僕の中で生きている。いや、むしろ更に強まったね。死ぬまで?
 冗談じゃない、死んでからもずっと一緒だ。じゃないと、僕は嫌だ」

まだ、約束の履行は続いている。死が二人を分かつまで自分達の永遠は、壊れない。
これ以上、取り零してなるものかと、ギシリと歯を食いしばり、カインは回復呪文を唱え続けた。

430永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:47:28 ID:???0

「リアがどんなにひどいことをしてきたとしても、変わらない。
 僕が好きだっていう事実も、これからの未来を望むことも」

例え、世界がリアを悪姫と呼び、蔑んでも。
周りの誰にも受け入れられず、元の環境よりも酷くなったとしても。
自分だけは変わらない。お互い、欠かすことのできない存在でなのだから。

「僕達の未来をロトの呪いにくれてなんかやるもんか。だって、ムカつくじゃないか。
 そんなものがなければ、僕達は普通に愛し合えるのに。
 お前と一緒に過ごし足りないし、もっともっと言葉を交わしあいたいし、この世界を抜けだした後は僕達が僕達でいられる場所を見つけて暮らしたい」
「……私だって、もっともっとお兄ちゃんと過ごしたいよっ。こんな場所で終わるなんて嫌っ!」
「なら、それでいいじゃん。僕達はまだ、やり直せるんだしさ。未来だって選択肢がよりどりみどりだしね」

故に、カインは願い続ける。
これから先の未来は、きっと明るいことだらけだ。
行き先の不安定さに悲観するよりも、楽しいことを考えた方が見える世界は綺麗で美しい。

「春が来たら桜を見に行こう。桜の下で僕の作った弁当を食べて、リアは最ッ高にいい笑顔を見せるんだ」
「うん」
「夏になったらさ、海に行こうよ。お前、ずっと王城に閉じ込められていたから見たことないだろ?
 本当に綺麗なんだ、透き通るような青が一面に広がっているんだ、きっと驚くぜ」
「うん」
「秋になったら山に行こう。色とりどりの紅葉を見に行ってさ、のんびりとお茶を飲んでさ」
「……うん」
「冬になったら家でのんびりと暖炉の横で寝っ転がってさ。コーヒーを飲みながら雪を眺めてさ、何もせずに過ごすんだ」
「う、ん……」

431永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:47:52 ID:???0

無理な未来だってことは最初から理解している。
必死に取り繕ってる笑顔も剥がれかけ、いつもの軽口にもキレがない。
けれど、弱いな、とは思わなかった。大切な人がいなくなるというのに、悲しまない訳がない。
押し寄せる涙は拒まず瞳から流し、伝えたい言葉は惜しみなく声に出す。
ただ、それだけの行為が今のカインにはとても難しく感じた。

「やっぱり、お兄ちゃん変わったね。……昔のお兄ちゃんみたい」
「そうかな? でも、お前を想う気持ちは何一つ変わっちゃいないからな」
「ふふっ、わかってるよ。私だってお兄ちゃんのことずっと想っていたんだからね。愛憎入り混じってたけどさ」
「今じゃあ、こうして両思いだからね。本当に、わからないものだよ」

辛かった過去の中で見つけた拠り所だった。
永遠に続く世界だと思っていた。
だけど、それももうお終いなのだ。

「なぁ、リア」
「なぁに、お兄ちゃん」

それでも。それでも――。

「愛してる。死が僕達を離しても、ずっとだ」
「うん、私も。約束したもんね、ずーっと一緒だって」

二人が交わした約束は、永遠に破られることはないだろう。
その想い出だけで、カインはこれからも戦うことができる。
これから先、どれだけ辛いことがまっていたとしても、想いがこの胸に遺っている限り、ずっと。

「またね、お兄ちゃん」

少しの間だけ、離れ離れになるけれど――また、逢える。
カインがこれから先の人生を諦めず、自分らしく生きた先で妹は待っている。
だから、口にするのは――さよならじゃない、もう一度逢う為の言葉。
今、この瞬間だけは彼らが待ち望んでいた自由が其処にあった。

432永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:48:11 ID:???0



###



この世界は残酷だ。
たった一人、薄暗い空を見上げたカインは、なんの気なしにつぶやいた。
親友に護られ、仲間に救けられ、最愛の妹には最後まで心配をかけてしまった。
今だけは殺し合いのことなんて考えず眠りたい。ずっと、妹の思い出に浸りたかった。
生きる意味の大半を喪失してしまった今、カインが剣を取る理由はない。
ただ流れるままに受け入れて、死んでいく。
一緒に死ぬというありきたりな救いを否定した自分にはお似合いの未来だと、笑う。

「だけど、そんなのゴメンだね」

しかし、一番楽な方法だって知っているからこそ、カインはその方法を投げ捨てた。
精一杯、最後まで生き抜いた先でまた逢おうと、リアと約束をしてしまったのだから。
今は、少しの間離れてしまったけれど、想いを貫き、信じ続ければ逢えるだろう。

433永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:52:10 ID:???0

「またな……か。いつか、僕が最後まで進んだ先にお前が待っているのなら、僕は走れる。まだ、歩みを止めないでいられるから」

人によってはカインの行為を馬鹿にするのかもしれない。
ありもしない終着点に無理矢理に意味を見出しただけと否定するかもしれない。
されど、カインにとってはそれだけで十分なのだ。
他の誰から見ても意味のない約束だとしても、行為は永遠の愛と呼べるものだと信じているから。

――――寄る辺なきこの世界を終わらせた後に、君に逢いに行く。

もう、二人の永遠を邪魔するものはいない。



【リア(サマルトリア王女)@DQ2 死亡】
【残り15人】



【C-8/中央部/黎明】

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
     世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶、※不明支給品(後述)
    竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:諦めない、最後まで。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

434永遠の約束に願うこと ◆1WfF0JiNew:2013/12/04(水) 23:53:10 ID:???0
長くなりましたが、投下終了です。猿ってるかつ、何故か接続不をpcが起こしてるので本スレに転載してくれると超感謝です。

435天才の条件 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 00:50:59 ID:???0

「万を溶かす力、この手に宿れ――――」

                           「「メラゾーマ!!」」

「燃える勇気の力よ、悪を貫け――――」

交差するように木霊する両者の声と、巨大な火球。
相手を追いつけ、押し返せ、とせめぎ合う火球同士は、大きな音と共に破裂して消えていく。
飛び散る火の粉、燃えあがる草原。
それを微塵も気にしないまま、二人は次の呪文を放つ。

「地獄の火炎よ、全てを無に還せ――――」

                            「「ベギラゴン!!」」

「裁きの火炎よ、罪人に裁きを今――――」

燃えているなら、それを利用すればいい。
メラゾーマによって燃え上がり始めた地面に、まるで油を注ぐかのように炎が降り注ぐ。
ただでさえ強烈な火炎が、辺り一帯を包み込むように燃え上がっていく。
だが、互いの炎は消して消えない。
ぶつかり合っても、混ざり合うことなく、それぞれの形を保ったまま。
それはまるで炎で出来た決闘の場所、"コロッセオ"を具現化するように。
炎に囲まれながらも、両者は互いに相手を睨み、動かない。

「爆ぜろ、全ての記憶と共に――――」

                         「「イオナズン!!」」

「巻き起これ、全てを包む力――――」

少し遅れて、二つの大きな爆発が起こる。
二人を包んでいた、草原の炎は吹き飛ばされ、そこに残ったのはただの焦土。
だが、煙の中、二人の男女は確かにそこにいた。
煤を払うこともせず、目に入りそうになる土をのけることもなく。
まっすぐに、相手だけを見るため、目を見開いて。
「流石に、埒があかねえな」
「泣いて許しを乞うなら、今のウチだけど」
「ハッ、そりゃこっちのセリフだ嬢ちゃん」
両者の顔には、余裕。
相手を下に見るだけの力と、心持ち。
いや、それを出さなければいけない。
でなければ、"ナメられてしまう"から。
油断を誘うとか、そういう細かい問題の話ではない。
ただ、目の前の奴に"ナメられたくない"だけ。
お前なんかより、こちとら遙か上に居るんだ。
そう思っているからこそ、両者は動じない。
「……確かに魔術の筋はいい、だが」
その状況を動かすように、老人は口を開く。
マーニャは動かず、相手の様子を伺う、が。

436天才の条件 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 00:51:15 ID:???0
「攻めに特化しすぎて、搦め手を想定してねえ」
集中して見ていたにも関わらず、次の瞬間には相手の姿が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
空を飛んだわけでも、地面に潜ったわけでもない。
文字通り"消えた"と表現するしかない。
驚きの表情を浮かべたまま固まっていると、どこからともなく氷柱が現れた。
ヒャドの系列の最上位、ブライがよく使っていた呪文――――
「何なの、よッ!!」
一人だけでなく二人までも、あのピサロのように多岐にわたる呪文を操る者がいる。
その事実に戸惑いながら、マーニャは飛び交う氷柱を避け、時には扇で弾いていく。
「何だァ? マヒャドは使えねえのか!?」
どこからともなく、声だけが聞こえる。
襲われているという事は分かっているのに、それに対処できない。
その現状と、相手に"ナメられている"という事実が、マーニャを焦らせる。
同じ性質の力をぶつけて打ち消すのは、まだ容易だ。
相手の放つ同等、ないしそれ以上の力を放てばよいのだから。
だが、違う質の力をぶつけて消すのは、少し難しい。
少なくとも相手の魔力よりも上の力であることはもちろん、どの質の力をどれだけ盛ってぶつければよいのか、というのは咄嗟に判断しにくい。
無用な魔力の消費は避けたい、だが現状を切り抜けなければ話にならない。
最悪なことに、向こうはまだ魔力をたっぷりと残している。
マホトラで魔力切れを狙う作戦は、狙えそうにはない。
どうするか、次の一手を――――
「だのに……俺より強ぇ魔法使いを、名乗ってんじゃねえよ!!」
考えていたとき、ついに裁ききれなくなった一本の氷柱が、マーニャのわき腹に刺さる。
体の芯から冷やされる感覚、凍り付いていく血液。
すぐさま小さな炎を生み出して対処をするが、想像以上に傷が深い。
体勢を立て直しながら、次の攻撃に備える。
「ムカつくんだよ! テメーみたいにちょっと魔法が使えるからって調子に乗る奴が!
 俺からすりゃ! テメーの魔法なんざ屁でもねぇ! 」
響く怒号、巻き起こる氷柱の嵐。
肌を掠め、突き抜け、傷つけていく。
「だのに! アイツは! カーラは!!
 魔法が使える前も、そしてちょっと魔法が使えるようになった後も!!
 俺のことを見下して来やがった!!
 さも俺より魔法が上手いです、みたいなツラしやがってなぁ!!」
そこで、聞き覚えのある名前を耳にする。
この殺し合いが始まって、はじめに刃を交えた相手。
赤く燃えるような瞳、ただまっすぐに闘争を追い求めていた、彼女。
そんな彼女の名が、こんなところで聞けるとは。
老人の言葉から、マーニャは次第に事態を把握していく。
「俺が、俺が真の魔法使いなんだ!! 魔法じゃ、誰にも、絶対負けねえ!!」
老人が魔物と連んでまで戦う理由。
自分に率先して刃を向けにきた理由。
そして、今ここまで怒り狂っている理由。

437天才の条件 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 00:52:08 ID:???0



「……ククク、ハハハハ、アハハハハハハ!!」



その全てを理解して、笑う。
いや、笑わずにいられるだろうか。
目の前の男は、女々しくも死んでいった女の姿を、自分に重ね合わせているのだから。
「何がおかしいっ!!」
当然、男は怒る。
さも自分が"ナメられている"ように見えるのだから、無理はない。
それを分かった上で、この上なく楽しい表情を浮かべながらマーニャは追い打ちをかける。
「あれこれ御託を並べて、結局やってる事は女の尻を追っかけてるだけの変態エロオヤジじゃない」
「んだとォ!?」
「アンタみたいな自称天才じゃ、彼女には一生勝てないわ。そして……アタシにもね」
息をつく間もなく、次々に言葉を返していく。
火に油を注ぐような行為だとは自覚しているが、それでももう止まれない。
だって、こんなにも相手を"ナメきれる"のだから、止まれるはずがない。
さぞかし、怒りに震えているのだろう。
「……言ってくれるじゃねえか、だがよ、この状況を破れずにいるテメェが、どうやって俺に勝つ?」
響く言葉は、静かに、落ち着いている。
けれど、その奥底に秘められている感情を、マーニャが見逃すわけがない。
百戦錬磨、ギャンブルで鍛えた感情の読み合い。
ド三流のポーカーフェイスが、彼女に通用するわけがない。
「勝つ? 何を勘違いしてるのかしら」
だから、言葉という最高のカードで。
「今からは、アンタを全力で"ブッ潰す"」
三流の仮面を、引きはがしていく。
「ハハハ!! そりゃ笑い草だ! 今圧倒してるのは俺だってのによぉ! テメェの方が俺に泣いて詫びた方がいいぜ? 嬢ちゃん!!」
男は笑う。
マーニャの言うことが夢幻で、虚勢を張っているだけに過ぎないと。
まだ、余裕であると、見せつけている。
「……カーラは、あの人は」
「あ?」
ならば、マーニャは次のカードを切るだけ。
「誇り高き、戦士だった」
飛び出した唯一の名前、そして自身の知る全ての情報を使って。
「心に曲がらない一本の誇り、それを持って遠くへ、高くへ行こうとしていた。
 どんな相手だろうと、誇りを持って、全力で、戦い抜く人だった。
 だから、彼女は強かった、上へ登れた、新たな力を手に出来た。
 ……それに比べて、今優位に立ってるからって慢心しまくって相手を見下して、戦いに誇りのかけらもないようなアンタじゃねえ……。
 いッ…………生彼女に勝てないって言ってんのよ!!」
JOKERを殺す最強の手札、ロイヤルストレートフラッシュ。
その絵面が、綺麗に揃う。
「五月蠅ぇんだよ雑魚がァッ!!」
余裕という仮面をかなぐり捨て、怒りに打ち震える声が聞こえる。
それと同時に、炎と氷の嵐が、辺り一面に巻き起こる。
二つの相反する力で、身が焼かれていく。
このまま立っていれば、いずれ死んでしまうだろう。
そんな中、マーニャは冷静に一つの呪文を唱える。

438天才の条件 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 00:52:41 ID:???0

「ギラ」

それは、ちっぽけで、それでいて頼りになった、一筋の炎。
仇討ちだ何だと言って、必死こいて覚えた呪文の討ちの一つ。
力がほしかった、何もかもを圧倒する力が。
その切っ掛けになった、始まりの炎が、まっすぐに彼女の手から延びる。
「ハハハ! どうしたァ!? やっぱりテメェも口だけで、弱いじゃねぇか!!」
男は笑う。
あれだけ大見得を切っていた女が放ったのが、スライム一匹殺せるかどうかというレベルの炎だったからだ。
避ける価値も、潰す価値も、気にとめる価値もない。
「そんなカスみたいな魔法じゃ、俺には一生――――」
「見えた」
それが、最大の判断ミス。
「ガッ!?」
次の瞬間、自分の体がふわりと浮く感覚に襲われる。
ギリギリと音を立てて締め上げられる自分の体。
そして、それを成しているのは。
先ほど弱ったらしい呪文を放った女だ。
「……教えてあげるわ、今私がギラを使ったのは"節約"の為。
 相手の出方を伺うための、必要な"チップ"でしかない」
姿が見えないなら、その姿を察知できればいい。
ならば、あえて弱い呪文を放つことで、それを叶えることが出来る。
慢心しきった相手ならば、"避ける価値もない"と判断すると確信していた。
だが、避けないと言うことは、"そこにいる"と自分から伝えているようなものだ。
わずかに曲がる炎を見て、マーニャは即座に駆けだし、全力を込めて腕を突き上げた。
「てめ……このや、ろ」
何もないところから、苦しい声が漏れる。
だが、マーニャにとっては違う。
今、両手には確かに、人の肌を掴んでいる感覚があるのだから。
捕まえた、そしてもう二度と逃さない。
「冥土の土産よ、私のような超天才が、努力したらどうなるかってことを、教えてあげるわよっ!!」
叫びと共に、それは始まる。
「我が身に宿る全ての力よ。今こそ、その真なる姿を放つ時」
それは、かつての敵の呪文。
己が内にある魔力を全て解き放つ、禁忌の魔法。
「吹き飛べ……」
悔しかった。
仇敵だと思っていた存在と、肩を並べて戦うことになることが。
だから、だからせめて、"アイツ"にだけはナメられたくないと。
来る日も来る日も、いつかの日のように、魔術の研究に勤しんだ。
そして、それは今。





「マッ、ダンテェエエエエエエエエエエ!!」





全て、全て、解き放たれる。





.

439天才の条件 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 00:54:17 ID:???0
「……アンタも努力してたのかもしれないけど。
 私も、カーラも、努力をサボってたわけじゃないのよ。
 自分より努力が出来るから、強い。
 その存在を認めなかったのが、アンタの敗因よ」
塵一つ残らない場所に向かい、マーニャはただただ呟く。
暴走する魔力が生み出した力は、全てを飲み込み、破壊していった。
ほぼ直接それを叩き込まれた男の体など、残る余地などあるわけがないのだ。
「……って、もう聞こえてないか」
ふと、笑う。
聞こえていない、聞こえるわけがないと分かり切っていたのに。
どうしても言いたかったからか、それとも事実関係をはっきりさせたかったからか。
まあ、それもどうでもいい事だ。
そこまで考えたところで、ふらつき倒れ込む自分の体では、その先にたどり着けそうにもないのだから。
「……っあー、やっぱ無理だったかなー」
魔族ですら有数の者しか扱えず、それでいてなお禁忌とされていた呪文。
半ば無理矢理血路を開き、習得したは良いものの、消費は思っていたより激しかった。
間違いない、魔力だけでなく体力まで持って行かれている。
結局、魔族の持つあふれ出る魔力にたどり着くには、彼女の体力すらも魔力に変換しなければならなかった。
これだけ頑張ってもたどり着けない場所、そこにヤツは居た。
……だからこそ、追いつけ追い越せと努力出来たのかもしれないが。
「まだ、アイツを、殴っ、てない……のに」
倒れ込み、拳だけを握りしめて天に掲げる。
そうだ、まだ倒れるわけにはいかない。
本当にぶっ飛ばさなければいけない相手が、まだいるというのに。
禁忌を開いた代償は、彼女の全てだった。
そこまでして、いやそこまでしなければ勝てなかった相手だった。
だから、禁忌を開いたことに後悔はない。
ただ、やっぱり"弱い"ままの自分に対して、悔しいだけだ・
「ごめ、ミネア……仇、とれそ……に、ない、や」
ゆっくりと、それだけを呟き。
目を閉じると同時に拳はぱたりと地につき。
頭に描くのは、一足先にそこにいるであろう仲間の姿と。
「そ、だ……けっ、ちゃく、つけな、きゃね」
あの誇り高き女賢者の姿。
それらを見て、彼女は笑いながら旅立っていった。

【男魔法使い@DQ3 死亡】
【マーニャ@DQ4 死亡】
【残り13人】

※男魔法使いのアイテムは全て吹き飛びました。
 マーニャのアイテムにも余波が飛んでいるかもしれません。

440 ◆CruTUZYrlM:2013/12/21(土) 01:17:17 ID:???0
忘れてました投下終了です。

441 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:53:10 ID:yUu2Bwnc0
すいません、本スレに最初の部分だけ投稿したのですが、その後なぜか書き込めないので、こちらに投下します

442 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:53:32 ID:yUu2Bwnc0
「少し寝る。放送までには起こせ」
飯を食べ終わった後、そう言って、リンリンと名乗った武闘家は奥へと進んでいった。
「…はあ」
彼女が放っていた殺気から解かれ、やっと一息をつけたビアンカは、食器を洗っているリッカのもとへ向かう。
「あ、ビアンカさん!」
満面の笑みを浮かべ、入ってきたビアンカに声をかけるリッカ。
「もう少しで終わりますから、サイモンと一緒に向こうで休んでて下さい。後で掃除もしなきゃいけないし。」
そう言って笑うリッカ。本当に、ここが殺し合いの場だということを忘れているかのようだ。
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言って、彼女は調理場から出た。

サイモンは、一人隅で佇んでいた。
ビアンカは彼に近づき、その隣に座った。
「リッカは…強いな…」
「…そうね」
なぜ、彼女がそこまでするのか、二人には分からなかった。
「…彼女も、大事な人が死んだというのに…」
「…え?」
だが、サイモンのそのセリフで、ビアンカは顔を上げる。
彼女は、自分が放送を聞いていないことを思い出した。
「そうだ、忘れてた。サイモン、放送の内容を教えてくれない?」
「ああ、分かった」

443 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:53:53 ID:yUu2Bwnc0
「…ビアンカ。悪かっ―――」
「いいの、サイモンは悪くないし。ただ、ちょっと一人にしてくれない?」
そう言ってビアンカは外へ出る階段へ足を進めた。
―――フローラさんが…
彼女が、死んだ。
“彼”が伴侶として選び、その後共に石にされ、それでも最後には幸せを掴んだはずの彼女が。
そして、
「リュカ…」
“彼”の名を口にしたビアンカは、再び身を切られるような思いに駆られた。
もう彼は、その身に余るほどの傷を受けたはずなのに。
なぜ、家族を再び失わなければいけないのか。
なぜ彼が、ここまで傷つかなければいけないのか―――
そう思ったところで、彼女は外に出た。
そして、彼女は目にする。
こちらへ歩いてくる、一人の人影を。
そして、それは―――
「…リュ…カ…?」
今思っていた、幼馴染の形をしていた。

444 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:54:17 ID:yUu2Bwnc0
時は、少し遡る。
影の騎士は、今出来上がったばかりの、二つの土の山に目を向ける。
それは、リュカとフローラの、墓標だった。
「こんな事するなんて、俺もヤキが回ッたのかねェ」
だが、彼はそうした。
そうしないといけない、そんな気がしたから。
大した理由もなく、ただそれだけ。
「…さて、これからどうすっかねえ」
影の騎士は、改めて今後のことを考える。
自分をこれまで支えたものは、全て無くなっている。
どうするかは、彼にとって切実な問題だった。
「そういや、まだ…」
見てない支給品があった。
シンシアからせしめたものである。
「あんときはろくに見もせずに中身突っ込んだからな、焦ってたし」
そういいながら、彼が取り出したのは―――杖、指輪、そして少しの水が入った小瓶。
運悪く、説明書は入れる時に落としたらしく、入っていなかった。
「コイツは…魔法の聖水か。んで、残りの二つだが…」
指輪を翳してみると、僅かな旋風が巻き起こった。
水のリング。
かつて、目の前に眠る二人を結んだ指輪である。
「こいつは使えるな…さて」
この杖。
若干の魔力を感じるが、魔力が詰まった杖など何が起こるか分かった物では無い。事実、変化の杖も役には立ったものの、巻物が無ければ使い方が難しいなんてものでは無かった。
まして説明書もないのだ。リスクは高い。
「でもまあ、一応使ってみっか」
だが、ここで燻っているのも仕方がない。
そう思った影の騎士は、自らに向けて杖を振り―――
次の瞬間、光の球に包まれた。
「オ、オイ!?」
かろうじて荷物を掴み、そして、彼は何処へと飛んで行った。

445 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:54:44 ID:yUu2Bwnc0
影の騎士は平野に落ちた。
「……禁止エリアじゃなかっただけ、いいと思うか」
荷物は何とか持ってこれた。コンパスと地図、そして近くに見える大きな建造物から場所を把握する。
「A−4…か。となれば」
北にそびえる、ろうごくのまちへ。
彼は歩を進めようとし―――
「…変化、しとくか」
相手が知人だった時のリスクは大きいが、どの道この姿なら疑われる。
そして、彼は変化する相手を考えるが―――
何故か、彼には一つの顔しか思い浮かばなかった。
先刻死んだ男、リュカ。
他にも候補はいる筈だが、彼にはそれしか思い浮かばなかった。
「…もしかして、あれかねぇ。あいつになりたいのかね、俺は」
幸せを教えてくれたあの男になれば、自分もそうなれるのか、と。
そんな筈はないのに、彼はそうせずにはいられなかった。
冷静に考えれば、あと二時間もあれば放送で呼ばれる名前は、リスクが高すぎる。
ここは、ロッシュなどの方がいいと、彼の理性は告げていた。
だが。
「いいぜ、リスクぐらい背負ってやろうじゃねーか」
どの道一度死んだはずの命。
ならば、この姿で、理想を追ってみるのもまたいいかもしれない。
そう思い、杖を振った。

10分ほど歩き、彼はろうごくのまちの前にたどり着いた。
「ッタク、ボロボロじゃねーか…」
荒れ果てている町の外見に文句を言いながら進み、彼は一つの視線に気づく。
目を向けると、それを向けてくるのは金髪の女だった。
そして、よく見れば彼女は、こちらへ向かってきていた。

446 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:55:09 ID:yUu2Bwnc0
何者か。彼はとっさに身構える。
だが、相手はまっすぐこちらへ歩を進め―――
二人は、いつの間にか対面していた。
「オ、オイ…」
影の騎士が相手に話しかけようとして。
女、ビアンカは、影の騎士を殴りつけた。
「ぬがっ!?」
想像もしていなかった一撃に思わず仰け反るが、すぐに反応しようとして。
影の騎士は、自分が抱きしめられていることを感じた。
抱き寄せたビアンカは―――泣いていた。
「リュカ!!リュカああああっ!」
嘗ての思い人との再会。
それを前に、彼女は幼い子供の様に泣きじゃくっていた。
抱いている男が、偽物だと知らずに。
そして、それを前にして、影の騎士は。
(…一発目からアウトかよ)
と、悲嘆に暮れていた。
真実を知らす放送までは、まだ少し、時間があった。

【A−4/ろうごくのまち前/夜明け前】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    バシルーラの杖@、水のリング@DQ5、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:リュカの姿となり、理想を追ってみる。
目の前の女をどうしよう。

447 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:55:26 ID:yUu2Bwnc0
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカと会えて嬉しい。リッカを見守る。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
    第三回の放送内容をサイモンから聞きました。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/夜明け前】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕負傷(手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています

【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
     アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/20(回復中)、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)、睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ片腕に慣れたい
    睡眠をとる。
[備考]:性格はおじょうさま

448 ◆oN0T8/322o:2014/01/08(水) 23:57:39 ID:yUu2Bwnc0
投下終了です
ぎりぎりになってしまい申し訳ありません
代理投下お願いします
タイトルは「悲嘆、選択、そして…」です

449ただ一匹の名無しだ:2014/01/09(木) 00:06:55 ID:???0
代理投下して来ました。

450ただ一匹の名無しだ:2014/01/09(木) 00:07:23 ID:???0
途中送信失礼。
代理投下してて気になった点がありましたので、本スレのほうに書かせていただきました。

451崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:40:50 ID:aEho6lwE0
牢獄の町、その深部。
「…良かったのかい、こんなに食べて」
ビアンカをなんとか宥めたリュカ―――に扮する影の騎士は、落ち着いた彼女に連れられて、食卓の前に座っていた。
食卓の上にあった料理は、彼らによってすっかり平らげられている。
「いいのよ、まだ食材もいっぱいあるし」
食器を片付けながらビアンカは言う。

食事中、彼らは、それぞれのこれまでの事を話していた。
無論―――影の騎士は、自らの行動を「いかにもリュカがしそうなこと」として話したのだが。
また、フローラの死のくだりも話してはいない。
ついでに、ビアンカの話にあったドラゴンの話も付け加えておいた。
…つうか、あいつも会ってたのか。
嘗て少し話を聞いたくらいだが、彼は魔族の中でもエリートだったはず。
彼も何か不満でもあったのだろうかと、僅かな疑問を覚える。
まあ、どうでもいいか。
そう結論付けた影の騎士は、改めて彼女に話しかける。
「それで、これからどうするんだい、ビアンカ?」
今後の事について、彼は少し焦っていた。
出来れば、放送が来る前に彼女の前から姿を消しておきたかった。
理由は簡単。リュカの事がバレれば、それは自分にとってリスクしか生まない、ということ。
そんな影の騎士の打算と裏腹に、ビアンカは笑みを浮かべた。
「まあ、それもいいんだけど、一つ質問いい?」
「一体なんだい?話せることは一応全部話したけれど」

「そのモノマネ、いつまで続けるの?」

452崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:41:12 ID:aEho6lwE0
ドアが開く音で、リンリンは目を覚ました。
「…何ですか?」
小さく問うと、音の主―――リッカは笑って、
「あ、起こしちゃいました?」
と言った。
彼女はディパックの中から、どこからか持ってきた治療道具を取り出した。
それを手慣れた様子で扱い、怪我の治療の準備を始めた彼女を見て、リンリンは僅かに嫌がる。
「貸しなさい、自分で出来るわ」
自らの身体を扱う武闘家として、彼女がそれを他人に預けることは少なかった。
まして治癒を任せる相手など、それこそアレルかカーラの魔法ぐらいのものだ。
だが、リッカは譲らない。
「いいんですよ、これは宿屋としてやらなきゃいけないことなんですから」
そう言って、薬を取り出すリッカ。
どうやら、どうしても譲る気はないらしい。
リンリンは、はあ、と息をつく。
「仕方無いわね…でも、傷の治療だけにして」
今後、身体に支障がでるようなことはされたくないと主張するリンリン。
それを受け入れ、リッカは慎重に傷の治療を開始する。

しばらくの無言のあと、リッカは問う。
「あの…あなたは、この場所でどんなことをしていたんですか?」
「…え?」
あまりの急な言葉に、リンリンは少し固まる。
「…それを聞いて、どうするんです?」
「いいじゃないですか。少しぐらい」
笑顔で答えるリッカに、リンリンは少し考える。
自らの服に付いた鮮血から、自分が人を殺した―――少なくとも、人が死ぬ現場に居合わせたことは分かるはず。
…まあ、自分から言い出したことですもの。
後悔したとて自業自得だ。
そう思い、リンリンは自らのこれまでを語ることにした。

453崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:42:29 ID:aEho6lwE0
「…気づいてたのかよ」
驚きに口を歪ませた影の騎士。それとは対称的に、笑みを深めてビアンカは言った。
「まあ、あいつとは長い付き合いだし…それに、サイモンのリボンにも何も言わなかったし」
そこで一旦区切り、ビアンカは笑みに僅かに憂いを含ませた。
「あなたの目に、見覚えがあるから」
「目?」
「そう、目。あいつに改心させられた魔物がたまにする、後悔とか葛藤とかがごっちゃになってる、そんな目」
―――彼女がかつて、初めてリュカが改心させた魔物を見た時もそうだった。
これまで人間と戦ってきたのに、共に戦うことが許されるのか、と。
それにビアンカが気付く事が出来たのは、やはり彼女がリュカの姿を見て学んでいたから。
「んで?どうすんだ?分かってんだろうが、あんたと仲が良かったリュカは死んだよ。
俺が、殺した。
なんなら、復讐でもするかい?大方、俺のことを憎んでんだろうが―――」
「あのね、」
ビアンカは、彼の言葉を遮って言う。
そんな目をしていた魔物に、彼女がいつか贈った言葉を。
「いつまでも、後ろ向いてんじゃないの!」
突然の強い言葉に、魔物が僅かに飛び上がる。
「あいつは、あんたを信じたんだから。
そんなに卑屈になるのは―――あいつへは、多分一番失礼よ」
その言葉を聞いた魔物は、しばらく無言だったが。
ふと、彼女に問いかけた。
彼がずっと求めていた幸せのカギが、見つかる気がして。
「…なあ。あいつは、どんな風に生きてやがったんだ?」

454崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:42:55 ID:aEho6lwE0
「…まだ話の途中ですわよ?人の話は、最後まで聞くものではないですか?」
立ち上がった少女に、リンリンは言った。
話は、丁度佳境に入り―――青髪の女と、桃色髪の少女を殺した話を終えたところだ。
どうやら知り合いだったようだと、リンリンは醒めた心で思う。
そもそも、いくら御託を並べたところで、人間が抱いた本気の人間への殺意は抑えられない。
事実、今話した少女がそうだったではないか。
彼女は、それが修羅の道だとすら自覚せず、仇を討たんとしていた。
自分自身が守ろうとした人さえ見捨て。
あまつさえ、自ら手にかけて―――

………ああ、それをしたのは私でしたわね。
と、思考が追い付いた所で、リンリンは改めて隣の少女に目を向ける。
「それで、一体どうするんですか?
仇討ちなら、いくらでもお受けしますが」
あくまで丁寧に、相手の反応を伺う。
それに対し、リッカはしっかりと前を向いて答えた。

「そんなこと、しません。」

「…あら、意外な返事ですわね。てっきり、あの娘みたいに襲い掛かって来ると思っていましたが」
リンリンは意外と思いつつ答える。
とはいえ、それが虚勢であるだろうことは分かっていた。
彼女の頬は紅潮し、手は固く握りしめられている。
ただ、それでもリッカが手を出してこない事に、リンリンは感心していた。
「別に、耐える必要はありませんのよ?ある意味では、自然な衝動なのですから」
その頑なな姿勢に対し、彼女は揺さ振りをかけてみることにした。
もしかしたら、彼女は無意識に、アレルを勇者に仕立て上げた「一般人」の思考が知りたかったのかもしれない。
だが、彼女から返ってきたのは、あるいはあったかもしれない彼女の疑問への答えではなく、質問への答えですら無かった。
「あなたはどうして、人を殺すんですか?」
小さな声の、質問だった。
「…それを聞いて、どうするつもりですか?」
「わかりません」
震える声で、リッカは答える。
「宿屋の仕事は、どんなお客様にも公平に癒しを与えること」
そう、そんなことは分かっている。
でも。
「でも、それだけじゃないんです。
元気になった人が、笑顔で出ていくのを見守ること。そこまでが宿屋の仕事です。
だから、そのために話を聞くのは、私の仕事なんです
私にできるのは、宿屋の仕事だけだから」
だから、彼女は、出来ることを。
宿屋の仕事を完遂する。
「…いいでしょう。その代わり、後悔してももう遅いとは言っておきます」
リンリンは、目の前の少女がただの少女ではないと、その肌で感じる。
彼女もまた、あるいは戦士なのかもしれないと。
それを認め、リンリンは語りだす。
血に塗れた、勇者の話を。

455崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:43:19 ID:aEho6lwE0
「そうして、眠っていた地獄の帝王を倒して、あいつはグランバニアに凱旋した…これが、あたしの知ってるリュカの全て」
長い長い、彼の人生を語り終え、ビアンカは一息を付く。

実のところ、彼女が知っているのはそのほんの一部だけである。
彼が道中に何を考えたのか、何を思ったのかなど、ただの幼馴染みである自分には分からない。
だが、今目の前にいる、この悩める魔物に道を示すために。
彼女が知っている彼の全てを、有らん限りの言葉として、伝えようとした。
だから、後は。
前を向くのも、逃げるのも、影の騎士次第だと。
ただ、その方向が自分と同じ事になる事を祈った。


しばらくの、無言のあと。
ふと、影の騎士が立ち上がる。
そして、傍らにある―――白銀の槍へと手を伸ばす。
………駄目、だったか。
ビアンカは動かない。
どんな選択をしようと、それは彼次第だと。
だから、彼がそれを選んだなら、悔しいけれど認めなければならない。
………あいつみたいには、できなかったな…
そして、ビアンカは顔を上げた。
それと同時に―――


「あンの、馬ッ鹿野郎ォォォォォォ!!!!」


咆哮が、そして槍を叩きつけた乾いた音が、町に鳴り響いた。
「なんなんだよそりゃ!!人には幸せを語りやがって、結局は自分が幸せになれなかったら意味ねーじゃねーか!!」
その叫びは、ある意味では懺悔だった。
「それともあれか?自分はどうでもいいってか?自分とは違う幸せなヤツを増やしてやりたい、救ってやりたいなんて思ってたのかよォ!」
彼の、儚い幸せを奪った自分への。
「…クソッタレが」
未だに荒ぶる気持ちを抑えられない様子で、影の騎士は走って行った。
その後ろ姿を見ながら、ビアンカは一人呟く。
「リュカ。あたしにも…出来たのかな?」

外に出た、未だリュカの姿を保つ影の騎士は、空を見て呟く。
「…いいぜ、まだ何もわかんねぇがよ…」
その手に、たった今填めた翠色の指輪を。
「テメエがそう思ってたんなら…掴んでやるよ、幸せって奴をよ」
そして、その目に輝きを伴って。
「テメエが、そっちで嫉妬する位に…な」
決意をした影の騎士は笑う。
「だから、安心して家族と寝てやがれ」
天へ向けた槍が、僅かに瞬いた。

456崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:43:47 ID:aEho6lwE0
「…」
「だから、憎くて憎くて堪らないのよ―――あなたみたいな、他人任せにして、自分は何もしない人が」
リンリンの言葉が、だんだんと熱を帯びる。
「アレルが、それにどれだけ縛られたか分かる?」
再び、あの怒りが燃え盛る。
「あなたみたいな人間に、分かりもしないでしょう」
言い放つ。
怒りに任せ、吐き捨てるように。
そして、リッカは答えた。

「分からなくは…ないです」
「…ふざけないでもらえる?冗談なら…」
「冗談じゃありません!」
リッカは思わず叫ぶ。
「私だって、最初にセントシュタインの宿屋を任せられて、お父さんと比べられることが、本当は怖かった!」
他人の期待の重さは、知っている。
世界中の人ではなくても。
背負うことは、辛すぎると。
「ずっと、誰にも言えないで、抱え込んでて!」
押し潰されそうになって。
独りでは、耐えられなかった。
「―――だけど、私には、いたから」
―――独りでは。
「一緒に笑える仲間がいたから、だから私はこうやって仕事が出来るんです」
でも、独りじゃなかったなら。
分け合えたなら、それはあるいは耐えられるものだと。
「陳腐だけど、私は、皆がいたから生きてこれたんです」
「なら、何で」
なら。
「何でアレルは、いなくなったの?」
何で、私の親友は。
「私はあの子と、ずっと一緒に過ごしていたのに―――」
私の前から、消えたの…?
「それは、私には分かりません。
でも、あなたなら、分かるはずじゃないですか。
あなたが、その人と一緒にいたなら」
「―――そんなこと、今更言って何になるの!?」
何デ、今更気付カセルノ。
「あの子はもういないのに、どうしろって言うのよ!!」
モウ、戻レナイノニ。
「もう遅いのよ!!何もかも!!」
私ハ、彼ガ望ンダ事ヲシテイルト、
「なら、どうするんですか?」
信ジテ、
「決まっているわ。あの子を縛ったこの世界を壊す、それだけ」
イタカッタノニ、
「でも、それじゃ」
ヤメテ。
「あなたは、ずっと」
ヤメロ。
「その人に…」
ダマレ。
「五、月蝿い―――!!」
リンリンは、瞬時に拳を振るった。
相手は鍛えていないただの人間。頭蓋骨を狙えば、すぐに即死する。
そして、事実そうなった。
少女は赤い花を頭部に咲かせながら、石の壁にぶつかり、動きを止めた。
「……行かなきゃ」
リンリンは立ち上がり、ドアに手を伸ばして―――

457崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:44:09 ID:aEho6lwE0
袋の中で、何かが、壊れる音がした。
それは、ある紳士に贈られた宝玉。
彼女はそんなことは知らず、ただ去り行こうとする少女に言った。

「その人に、自分を見て欲しかったんですよね?」

何故、自分はそんなことを言っているのかなど、分からない。
ただ、考えたことをぶつけるなんて、自分らしくもないことだ。
もしかしたら、それはささやかな復讐だったのかもしれない。
真実を突きつける、なんて、ちっぽけすぎる復讐。
―――だって、やっぱり本当の気持ちは、抑えられないから。
そんなことを考えながら、リッカは目の前に迫ろうとする拳を見ていた。

もしも。
真実を、彼女が認めたなら。
その拳は飛んでこなかっただろう。
だが、ある意味で純粋すぎたその少女が認めるには、重すぎたのかもしれない。
だから、その拳は放たれた。
彼女に理解させてしまった元凶を、打ち抜くために。

そして、銀色が閃く。
「おれは、もう」
白銀の盾が、拳撃を止めた。
「ともだちを、失いたくない」
マントを翻し、騎士は呟いた。
「頼む、もう…やめてくれ」






その硬直の一瞬。
外では、追ってきた女が魔物に追い付いた、その時。
彼らに、四回目の悪魔の声が訪れる。

458崩れ、生まれる銀の庭 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:44:44 ID:aEho6lwE0
【A−4/ろうごくのまち前/早朝(放送直前)】
【影の騎士@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:あいつよりも、幸せになってやる。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:影の騎士、リッカを見守る。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
    第三回の放送内容をサイモンから聞きました。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/早朝(放送直前)】
【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、第二放送を聞き逃しています

【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの頭の飾り、ミネアの首飾り、アリーナのマント(半焼)
     アリーナの帽子、エイトのバンダナ、アレルのマント、ギュメイ将軍のファー
[道具]:なし
[思考]:リッカを見守る 
“ともだち”を守る。
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/20(回復中)、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)、睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]――――――――――
[備考]:性格はおじょうさま

459 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 00:45:33 ID:aEho6lwE0
仮投下終了です。

460 ◆oN0T8/322o:2014/03/01(土) 14:25:11 ID:aEho6lwE0
すいません、またやらかしました…
リンリンの状態表を変え忘れました

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP7/10、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済)、思考停止
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]――――――――――
[備考]:性格はおじょうさま

としていただけると有難いです。

461ただ一匹の名無しだ:2014/03/03(月) 18:52:54 ID:???0
投下乙です
リンリンはついに壊れちゃったか...
お前のマントの持ち主の代わりに色々ガンバレサイモンw
そして漸く「幸せ」に気づいた影の騎士 果たして掴み取れるのだろうか?

462ただ一匹の名無しだ:2014/03/04(火) 01:47:49 ID:???0
投下乙!
ただ、話を聞いてあげたくて、それから感じ取ったものが、彼女にとっては残酷で。
そして、魔物は真実を知り、新たな道を突き進む。

463幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:51:57 ID:???0
ビアンカが気づいた時、そこは森だった。
よろよろと立ち上がり、彼女は近くを見回す。
しかし、見回したところで彼やあの魔鳥がいる訳でもない。

「…」

おそらくはあの杖の力で、自分が逃がされたと。
そんな真実を自らに突きつけてしまうだけだった。
自分の手で幸せを掴もうとしたばかりの彼を、死へ向かわせてしまった。

「…ごめんなさい…」

自分が代わりになれていたら。
元から知っていた友もいなくなり、未来もないような自分が、あの未来ある魔物に希望を託せていたらと。
そんな事は彼が許さないだろうと分かっていながら、いるからこそ後悔は渦を巻いて彼女の心を襲う。

「…本当に、ごめんなさい…」

涙がこぼれる。
取り残された者の哀しみが、森の深い霧と同じように彼女を包み込む。

「…ごめんなさい。そして、」

涙をこぼしながら、彼女は呟く。
幸せを求めて、最期まで戦っていた騎士を悼んで。
そして―――

「ありがとう」
「行かなくちゃ、あなたに顔向けできないわ」

いつまでも立ち止まったままでいる訳にはいかない。
それが彼の選択ならば、それに自分がしがみついている暇はない。
前を向くために。
彼の意志に応えるために。

464幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:52:32 ID:???0






「まずはリュカやフロー……あれ?」
はずだった。
「私、今…なんて…?」
僅かな心のスキマに、森に渦巻く霧が潜んでいなければ。
「…そう、そうよ、帰ったらまずは二人の墓を作らなきゃって思ったんだ」
じわりじわりと、霧は染み込む。
「行きましょう」
絶望を作るために。

465幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:53:01 ID:???0
ゲロゲロ、ソフィア、ゼシカの3人は、当初の予定通り北上していた。
ゲロゲロの、不意打ち警戒するべきという助言により、彼らが歩くのは禁止エリア沿い。
体の傷は、ゲロゲロが持つ杖、祝福の杖によって3人ともかなり回復していた。
もうすでに参加者は少ない。
これ以上無駄な被害者を出さないために、彼らはひたすら突き進んでいた。

ふと、草がすれ合う音がした。
とっさに身構え、質問を放つ。

「へい、そこのアンタ。ちょっと止まってくれる?
武器を置いて、名前を言ってくれるとありがたいね」

武器を置くような音の直後、返答が返ってきた。

「あたしはビアンカ。あなたたちは?」
「ソフィア、ゼシカ、それと―――にわかには信じられないかもしれねぇが、ムドー」
「…へぇ」
案の定、返事は訝しげだ。
それはそうだ。参加者の一覧に載っているムドーは魔物。
魔物が人間とともにいれば、疑われるのは当たり前。
どうやって説明するかと、3人は考えたが―――

「一つ質問」

事態はそう厳しくはなかった。

「リュカという人間を知っている?
知っていれば、その特徴も」

466幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:53:53 ID:???0
ゲロゲロが話した、リュカ、そしてその周囲の人々の旅路。
それは、ビアンカを信用させるに足るものだった。
だが。

「…つまり、リュカを殺したのは」

それは、リュカの最期の真実を彼女に伝える、残酷な物語だった。

「おい、こいつを恨むのは筋違いってもんだぞ。
こいつだって、やりたくてやった訳じゃ―――」
「いいのだ、ソフィア。これは私が受けるべき罰だ」

ムドーとしてやったこと。それは今の自分がゲロゲロだからといって、許されていいことではない。

「すまない…私は貴女の大切な人々を死に追いやってしまった」

魔王はひたすらに謝罪する。
彼らを―――タバサを、フローラを、リュカを。
死なせてしまった自らの不甲斐なさが、今更ながらに心を責め立てた。

「本当に、すまない…」

こんなに滑稽な王がいただろうか?
いないだろう。自分はもう王ではない。
惨めでちっぽけな情けない、只の魔物なのだ。
せめて今、ここで断罪が下るならば、甘んじて受けるのみだと。
そうして頭を下げ続けるゲロゲロを、ビアンカは。

ゆっくりと抱きしめた。

467幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:54:18 ID:???0
「…謝る必要なんてないの。だってあなたは今、私に謝れる程に心優しいじゃない」

赤ん坊をあやす母のように、ビアンカは語りかけた。
「いつまでも引きずっていても、前が見えるわけじゃない。
今ここでする事は、私に謝ることではないわ。」

先刻の影の騎士と同じように、リュカが言っていた事を思い浮かべて。
それに、彼女自身の気持ちをのせて。

「心を一つにして、デスタムーアを倒す。
そうして、皆で再び、幸せをつかめばいいんだと、私は思う」

そして、彼女は微笑む。



僅かな狂気を孕んだ顔で。
「それが、二人も喜んでくれるだろうし」
その独り言が、三人の耳に入る事はなかった。

468幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:55:00 ID:???0
(…どういうこった)

聞こえはしなかったが。
怪しんでいる者はいた。
ソフィアである。

(あの目、なんというか…既視感がある?
それに、さっきからちらちら、殺気が出てる…
やっぱり、ゲロゲロを憎んでるのかね)

だが、それなら。
ゲロゲロに語りかけた時に殺気が微塵もなかったのは不自然だ。
それに、殺気が発するポイントもバラバラだ。核心を突かない様な所でも関係ない。
まるで、心までバラバラになったかのようで。

(…そうだ、この違和感。
食い違ったことを受け入れて、しかもバカに機嫌がいい。この違和感は)

狂気に囚われた、ミーティアと同じ。
彼女と違って死を受け入れてはいるようだが、場所が場所だ。その可能性はかなり高い。
ならば。
確かめ、そしてもし思った通りならその目を醒ますため。
ソフィアはビアンカに近付こうとした、その瞬間に。
「伏せて!」
周囲を警戒していたゼシカの緊迫した一声が、静寂を切り裂く。

469幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:56:41 ID:???0
同時に放つのは、凍てつくような冷気の呪文。
それにより散らされたのは、深紅の業火。
そして、それを放ったのは―――

「貴様も、か。魔王の威厳まで無くし、無様なものよ」

魔鳥ジャミラス。
ジョーカーとして送り込まれ、今なおその役目を全うせんと飛び続ける、大魔王の忠君。
地上へと降り立ちながら、彼は

「何故人間なんぞと共にいる?ムドーよ、我らがここに来た目的を忘れたのか?」
「その名で呼ぶな。今の私はもうムドーではない。
私の名前は、ゲロゲロだ」

その目にある、魔王にはあり得ないような希望の光にジャミラスは顔を歪めた。

「ふん、そこまで面白くもない戯れ言を言えるなら世話はないな。
それと―――そこの女。さっきぶりだな」

話しても無駄だと思い、矛先を変える。
つい先程も勝てない事を見せつけてやったにも関わらず、希望を目に宿す女に。

「ヤツの犠牲も、大して意味はなかったと言うわけか。どうする?尻尾を巻いて逃げ出した方が、ヤツの意を汲んでいると思うがな」
「悪いけど、そういう訳にはいかないわ。
こんなところで諦めたら、皆に顔向けできないもの」

そして、彼女は叫ぶ。

「あいにく、諦めは悪いのよ!
猛る火焔よ、善なる左手に集え。そして、太陽の如く溶かせ!穿ち、進め! メラゾーマッ!」

470幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:57:03 ID:???0
ビアンカの手から、燃え盛る火球が噴き出す。
心からの想いが詰まった火球は、先程放った物より遥かに強い。

「諦めが悪いのは弱者の証拠とは、よく言ったものだな。
つい先程言ったはずだぞ、微温いと!」

だが通じない。
あっさりと火球は破られ、ジャミラスは一気に肉薄する。
そして、その爪を振り下ろそうとして―――
一閃の銀に、身を引いた。

「殺し合いやるってんなら、容赦する気はないんでね」

ソフィアが、天空の剣を改めて正眼に構える。

「ビアンカさん、こっちです!
荒れ狂え、地獄の使いよ!集え、深紅の炎!メラゾーマ!」

ビアンカに声を掛けつつ、火球を放ったのはゼシカ。
先程のビアンカと見た目は似た火球だが、ジャミラスはその危険度を瞬時に察知した。
業火から身を引いた魔鳥の上空で、音が生まれる。
イオン化した空気が放つ、はじけるような音。
ムドーの放った稲妻が、ジャミラスを襲う。
迸る光に身を引き、態勢を立て直す。
仕切り直し。

471幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:57:42 ID:???0
だが、尚もこちらへ向かって来ようとするビアンカに気付き、ジャミラスは呆れの視線を飛ばす。

「救えないヤツだな。女、ここまで力の差を見て、尚も向かってくるのか?
全く、愚かなものよ」
「さっきも言ったでしょう?諦めは悪いの」

だが、そこには確かな光があった。
自分の出来ることを見つけた、そんな光が。

「どいつもこいつも…呆れたものだ」
「余計なお世話だ」
「全くね」

それが合図になり、再び戦いが始まった。
ジャミラスに襲い掛かったのは、冷気と剣。
そして―――見分けのつかない、二つの火球。

「なっ…」

魔王と勇者の放つ殺気が、魔鳥に火球の危険度を教えない。
これが、ビアンカの見つけた『出来ること』。
これに対し、ジャミラスは。

「小癪な…!」

吐き出した炎で火球の一つを打消し、勇者と自分との狭間にもう一つの火球と冷気を挟む。
そして、そのまま後衛の二人へと突撃しようとして。
迫り来る三つ目の火球が、翼を掠めた。
完全な不意打ちに、ジャミラスは狼狽える。
いかに高速詠唱をしたとしても、呪文を放つには早すぎる。
何故―――そこでジャミラスは思い出す。
目の前にいる魔王が自分たちの主に与えられた書物。
呪文を一度の詠唱で2回放つことを可能とする、そのアイテムの名は。

「賢者の秘伝書か…猪口才な」

472幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:58:23 ID:???0
少し回復したとはいえど、ゼシカの魔力は残り少ない。
それを思い出したゲロゲロは、先程の稲妻の陰でそれを彼女に投げ渡していた。

「…厄介な」

ただでさえ強力な呪文を、連続で放ってくる赤毛の女。
さらにそれを見分けづらくする、金髪の女の攪乱。
近接攻撃で向こうへと踏み込ませない、翠髪の女。
そして、自らと同じ四魔王の一人。
一見すると不利極まりないが、敵―――特に翠髪と赤毛の女に魔力は少ない。
魔力が尽きてしまえば、翠髪はともかく、赤毛は無力となるだろう。
そして、そうなってしまえば、いくらでも突き崩す余地が出てくる。
それに、策を弄したところで、あの魔王は見破ってくるだろう。
つまり、―――逃げ場もない。
結論。

「ふん、いいだろう」

相手にとって、不足はない。
決死の戦いが始まろうとしていた。

473幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:58:56 ID:???0
殺しなさい 何を 
あの2体を      どうして
リュカとあの魔物を殺した  なぜ  彼らは生きてる
   いいえ  死んでる     そう 
  なら?     殺せばいい
   やつらを殺せ   いや     そんなことは
目の前の魔物が   二人を殺した
そんな  ゲロゲロさんは      何故?
  だってあれは   ムドーが  本当に?
     嘘じゃないの?     違う
 皆 うそつき     なら
      みんな ころせばいい

「…違う」
自らの心を覆う闇を否定し、ビアンカは改めて眼前の魔鳥を見据える。
彼女の瞳の中に二つ、紫色のターバンが翻った。

【Eー4/森/昼】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5、MP1/4表情遺失(人形病)
[装備]:天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
キメラの翼@DQ3×5、奇跡の剣@DQ7、ブロンズナイフ@歴代
基本支給品*2、聖なる水差し@DQ5
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ。
ジャミラスを倒す。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP4/5、MPほぼ0
[装備]:さざなみの杖@DQ7、おふとん@現実
[道具]: 賢者の秘伝書@DQ9
[思考]:首輪を外し世界を脱出する。北へ。
ジャミラスを倒す。

474幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 18:59:39 ID:???0
【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:HP4/5
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
     パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:ゲロゲロとして、生きる。北へ。
ジャミラスを倒す。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
    主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:HP9/10、リボンなし、精神に異常(自覚あり、今は押し留めている)
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:前を向かなければ でも…
ジャミラスを倒す。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。
    第三回の放送内容をサイモンから聞きました。
霧のせいで精神に異常をきたしています。

【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
    変化の杖@DQ3、バシルーラの杖@、魔法の聖水@シリーズ全般
[思考]:こいつらを殺す。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
     ターニアの件の真偽は不明です

475幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 19:00:24 ID:???0











ところで、今金髪の女が知っている事実として。
かつて、天空の勇者とその家族は、3つのリングを捧げ、暗黒の世界へ向かっていった。
今、そのリングは段々と近づきつつある。
1つは、女が持つ袋の中で。
1つは、魔鳥の持つそれの中で。
1つは―――数百メートル南東。
翠の髪の少女がその位置を知る、ある遺体の指に。

476幻にしがみついて  ◆oN0T8/322o:2014/09/17(水) 19:01:19 ID:???0
投下終了です。
どなたか代理投下お願いします

477ただ一匹の名無しだ:2014/09/18(木) 01:04:48 ID:???0
いってきます

478ただ一匹の名無しだ:2014/09/18(木) 01:37:52 ID:???0
志半ばでさるりました……
しかも2レス目の改行を忘れるという愚行
大変申し訳ありません……

479ただ一匹の名無しだ:2014/09/18(木) 02:50:49 ID:???0
代理行ってきます

480ただ一匹の名無しだ:2014/09/18(木) 02:54:28 ID:???0
最後のレスの改行が無視されてしまいました…
申し訳ありません

481ただ一匹の名無しだ:2014/09/26(金) 01:22:49 ID:???0

【C-5/東部/昼】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP3/7、ターニアに変化
[装備]:プラチナソード、サタンネイル@DQ9、はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*3、メタルキングの槍@DQ8、命のリング@DQ5
    変化の杖@DQ3
[思考]:勝ち残る。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。
     ターニアの件の真偽は不明です

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:――――――――――――
[装備]:
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:――――――――――――

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP1/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷、首輪解除、ゴーグル喪失、重傷 、気絶
[装備]:ロトの剣
[道具]:支給品一式×8、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9
     世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙、毒入り紅茶
    竜王のツメ@DQ9、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(リア確認済み)
[思考]:――――――――――――
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:――――――――――――
[装備]:スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9、雷の刃@DQS
[道具]:支給品一式*4、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、ビッグボウガン(矢なし)@DQ5
     パパスの剣@DQ5、祝福の杖@DQ5,王女の愛@DQ1,デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:――――――――――――
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。
    主催者が彼をどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けていました。

「定時放送、禁止エリアなし。
 死者、影の騎士、リッカ、リンリン、マリベル、以上四名
 残り、八名」

やけに機械的な声だけが、放送として告げられる。
その責務を背負っていたはずのものは、すでにそこには居ない。
次に逢い見えるのは。

惨劇の、舞台。

【残り 8人】

※アクバーが会場に登場しました、いつ、どこで、どのように現れるかは不明です。
※アクバーの目的は不明ですが、デスタムーアの命であることは確かです。

----
以上で投下終了です。
特に問題がなければ、9/28の0時には予約解禁にしたいと思います。

482ただ一匹の名無しだ:2014/11/29(土) 00:42:08 ID:???0
本筋とはあまり関係のないことなのでこちらで失礼します。

とても今更なのですが
>ここにいる訳がない、死んだはずの彼女がいた。
と、ありますが、これは"エンディングのシンシアは幻だった"ということでしょうか。

すでに結論の出ているものでしたらすみません。
その上単なるふとした疑問ですので、きちんとしたお答えでなくとも大丈夫です。

483 ◆CruTUZYrlM:2014/11/29(土) 01:39:28 ID:???0
>>482
レスありがとうございます。
本編では六章エンドのシンシアについて特に触れていませんが、
ご存じの通り解釈の分かれる要素となっています。
どちらも取れるあやふやな要素なので、本編で揺るぎない事実である「シンシアは死んでいる」にフォーカスさせていただきました。

ただ、今回の投下で今後の展開を絞るつもりもありません。
幻説でも、蘇生説でも自由に描写していただければと思っています。
DQ2ndのソフィアは、必ずしもラストシーンでシンシアに会っているわけではない、くらいで読んでいただけると幸いです。

484ただ一匹の名無しだ:2014/11/29(土) 23:10:37 ID:???0
おお!わざわざありがとうございます!

485死体描写なし修正版 ◆1WfF0JiNew:2014/12/03(水) 23:51:25 ID:???0
「久しぶり、バーバラ」

崩れ落ちた瓦礫。乾いた血飛沫。
かつては天真爛漫な笑顔を見せてくれた少女はどうしようもなく終わっていた。
彼女が最後にいたという場所で、ロッシュは静かに佇み、彼女への想いに浸っている。

(ま、感傷だよねぇ。死者は生者とは大きな隔たりがある。今更、君に声をかけても――届かない)

彼女の魂は今もデスタムーアに囚われているのだろうか。
それとも、どこでもない無の世界へと溶けていったのか。
ロッシュ自身が言ったように、幾ら考えても感傷の領域を出ない。
ビアンカが彼女と同行していたというが、又聞きで詳しくもわからず本心はやはり闇の中だ。

486 ◆1WfF0JiNew:2014/12/03(水) 23:51:53 ID:???0
本スレに落とすには短すぎるのでこちらに修正版を投下しました。

487 ◆KV7BL7iLes:2014/12/04(木) 20:58:43 ID:R69Ok5660
最後の最後で規制が…
状態表だけこちらに投下します


【A-4/ろうごくのまち跡/夜中】
【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)、祝福の杖@DQ5、エンプレスローブ@DQ9、ブロンズナイフ、リッカのバンダナ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、調理器具(大量)、ふしぎなタンバリン@DQ8、聖なる水差し@DQ5
      小さなメダル@歴代、命のリング@DQ5、白紙の巻物@トルネコ、猫車@現実、結婚指輪@DQ9、キメラの翼@DQ3
[思考]:生き残り、彼らの分まで夢を叶える。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける、やり残したことを済ませる

【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。

これで投下終了です

488未来へ―――― ◆CruTUZYrlM:2014/12/08(月) 01:24:22 ID:???0
【ロッシュ@DQ6】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:銀河の剣@DQ9、トルナードの盾@DQ7、星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式、
[思考]:諦めない。ジャミラスには落とし前をつける(?)

【ゲロゲロ@DQBR2nd】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:メタルキングの槍@DQ8、地獄の魔槍@DQ9、パパスの剣@DQ5、サタンネイル@DQ9、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、ヤリの秘伝書@DQ9、王女の愛@DQ1
[思考]:己が信念を貫く。
[備考]:ムドーが死に、彼が呼び覚まされました。

【ジェノシドー@DQBR2nd(DQMシリーズ)】
[思考]:絶望を、与える
[備考]:アクバーが"夢"の力とジャミラス、デュランの肉体によって変異しました。

----
以上で投下終了です。
ご意見、ご感想などあればお気軽にどうぞ。

489渇望1/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:31:08 ID:5745YWtY0

暗い闇の中をわたしは漂っていた。
そこには何もない。光も、熱も、魂すら……。

わたしは漂っていた。
そう過去形だ。
なぜならわたしは何者かによってその暗闇の海から引きずり出されたからだ。

誰かはわからない。
気づけばわたしは玉座の間と思わしき場所に佇んでいて、そこにはわたし以外誰一人として存在していなかったからだ。
いや、思わしき場所ではない。ここは玉座の間だ。
忘れもしないわたしの居城となるはずだったデスパレス。魔族の長たるわたしエビルプリーストが座る場所だ。
そしてこの場でわたしはあの勇者を名乗る下賎な人間とあろうことかそやつらと手を組んだ憎き裏切り者のピサロと相対し敗れた。
思い出すとわたしの魂の奥底からドス黒い憎悪がこみ上げて来る。
奴らはわたしの悲願を、踏みにじった。進化の秘法で究極の存在となったはずの私を打ち砕いて滅ぼした。
何故だ、わたしは最強の存在となったはずではなかったのか。
あの伝説の帝王エスタークをも超越した至高へと辿り着いたのではなかったのか。

わたしは叫んだ。

なぜわたしがここに居るのかわからない。ただ無性にわたしを殺した全てのものにこの憎しみを伝えたかった。
そんなことができるわけがない。ただそれでも我が内から溢れる憎悪を形にして吐き出したかった。
そうしなければ壊れてしまいそうなほど私は昂ぶっていた。

だがその行動は恐るべき結果をもたらす。
このわたしを中心とした破壊の衝撃によってデスパレスが粉々に砕け散ったのだ。
わたしは変身していない。わたしの中にある進化の力はいまだに眠っていることが感じられる。
そう進化の力は失くしていない。なのに未だ秘法を使用しない状態で城を粉々にするほどの魔力を放出できたことがわからない。
進化後ならばまだしもそうでないわたし自身がここまでの力を発揮することはできなかった筈だ。
ふと吹きさらしになった玉座の間の外を見る。
そこは見知った世界の景色ではなかった。虹色と鈍色が斑になったような奇妙な空間。
得体の知れぬ場所にこのデスパレスは浮遊していたのだ。

490渇望2/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:32:06 ID:5745YWtY0

ここは何処なのだ?

なぜこのような異常な場所にデスパレスが存在していたのか。
死んだはずのわたしが何故このような場所にいるのか。
わたしはまだ死んでいてここは死後の世界とでもいうのか。

では先ほど放出した魔力の津波はなんだというのか。
これこそわたしが生きている証ではないのか。
再び魔力を、今度は意識して高める。わたしの身体が変化を――いや、進化を始める。
我が皮膚は白く染まり硬質化していき、筋繊維は赤く露出し巨大化していく。
古き四肢は新生し強靭な魔王の腕が現れる。
そしてわたしの首はグズグズに融解し、それらは新たな魔王の貌を形作る。
わたしはエビルプリースト。至高にして唯一の存在。

そしてわたしは理解した。

わたしは神となった。
このデスパレスは神として新生するわたしの卵の殻だったのだ。
その象徴としてわたしが死したデスパレスを模してわたしの魂の新生を包みこんでいた。
誰がそうしたのかはどうでもいい。いや、わたしは元々そうなる運命だったのだろう。
進化の秘法は神へと至る秘法であり、奴らに破れ死することもその道程のひとつだったのだ。

だがまだわたしには足りないものがあることを理解する。
このまま元の世界へ還りすべてを支配する――ということはできない。
わたしは言わばまだ未完成の神でありこのゆりかごの空間から出ることはできないのだ。

生贄が要る。

わたしの器を満たすための餌が。それも極上のものが。
ただ強いだけの者ではだめだ。数多の選ばれし魂をぶつけ合い、磨きぬかれた器となった生贄が。

491渇望3/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:32:42 ID:5745YWtY0
粉々になったデスパレスを復元し、造りかえる。わたしに相応しい居城となるように。
次にわたしは奴らによって殺されてしまった手駒たちを蘇生させ我が前に跪かせる。
奴らは神となったわたしの力を理解したのだろう。わたしを主と認め平伏した。

魔性と野性の理想形ヘルバトラー。
剛力無双ギガデーモン。
増殖する魔竜アンドレアル。
獅子王キングレオ。
錬金術師の成れの果てバルザック。

彼らにあることを命じ、わたしはこの牢獄の空に箱庭世界を創世する。
元居た神々が創り上げた世界とは比べるべくもない小さなものであるが、
神として産声を上げたばかりのわたしとしては仕方のないことだ。
真の神として覚醒した後はかの世界を破壊してわたし好みの新たな世界を創世してやろう。

わたしは生贄に相応しいものたちを検索する。
資格ある魂の格を持つものたちは過去未来異次元全て含めて十ほどの世界から感じ取れた。


わたしに備わった新たな力を使いその資格ある者たちをこのゆりかごの世界へと引き寄せる。
誤算なことに魂の格が見合わぬ弱き者も幾人か混じってしまったようだが問題はないだろう。
まかり間違ってそれらが勝ち抜いたとしてもそうなることで魂の格が磨き上げられて相応しいステージへと至っている筈だ。
この大規模召喚は神となったわたしを持ってしても困難を極め、78の贄をこの城へと召喚し終えた頃にはほぼ全ての力を使い果たしていた。
だがそれでも問題ない。生贄たちには飼い主たつわたしに逆らえぬように首輪を付けている。文字通り行動を縛る鎖として。


突如召喚されて混乱しているのであろう。ざわめいている彼らをしばらく面白く眺めていたが、いつまでもそうしていても始まらない。
わたしは挨拶をしてやることにした。
パチンと指を鳴らすと薄暗かった広間をわたしの魔力が明るく照らし出し、互いの姿と一際高い殿堂にいるわたしの姿をあらわにする。
効果は会ったようで一同に会した生贄たちの視線をわたしへと集めることに成功した。

492渇望4/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:33:32 ID:5745YWtY0


「ようこそ、わたしの居城へ。さっそくだが目的を伝えよう。


  ―― 君たちには 『殺し合い』 をしてもらう ――」


動揺の気配が広がっていくのがわかる。
彼らは勇者だ魔王だとかつて己のいた世界では名をはせた連中なのだろう。
そんな彼らをわたしが翻弄しているかと思うと愉悦を感じざるを得ない。

「いわばバトルロワイアルとして残り一人となるまで殺しあうゲームだ。
 生き残った一人にはわたしの名にかけて望みを叶えてやろう。わたしは――」

そこでふと言葉を止める。
わたしはエビルプリースト。魔界の神を崇めし司祭であり、本当の名は神へと捧げてそれこそがわたしの洗礼名だった。
しかしながら神となったわたしには相応しくないように思える。
神の名を考えねばならない。

「わたしはかつてエビルプリーストと名乗っていたものだ。我が真名は再びわたしの前に立った者に教えてやろう」

「貴様! 生きていたのか!?」

金切り声をあげるねずみの一匹へと視線をやるとそこには薄汚い裏切り者ピサロの姿があった。

「黙ってわたしの話を聞いておれ、ネズミ。いや首輪に繋がれた犬、か」
「何?」

自分の首に付けられた金属塊には気がついていたのだろう。
不穏な空気を感じ取ったのか奴は動きを止め首輪に触れながらわたしを睨み付けるにとどまった。

493渇望5/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:34:17 ID:5745YWtY0
舌打ちする。ここで見せしめとしてみじめに殺すのも復讐としてひとつの道だったが……まぁいい。
わたしを完成させるための生贄として悲惨な殺し合いの坩堝へと叩き込むほうが楽しめると思おう。

「ひとつ伝えておこう。諸君らには首輪を付けさせてもらった。それはわたしの任意で爆破することができる。
 例え魔王であろうとその死の呪縛からは逃れられないと思っていただこう」

「調子に乗るなよ小童」

底冷えのする冷気とともに威圧のこもった声が響く。
見やるとそこには強大な魔力を秘めた巨躯の老魔族がいた。
大魔王。彼の姿を見たもの全てがそんな言葉を思い浮かべる。
事実彼は幾人もの魔王の上に立つ大魔王という存在だった。

「我はゾーマ……大魔王ゾーマよ。貴様ごとき矮小な存在に縛られると思うたか」

「ほう。ならば試してみるがいい小魔王よ」

「ほざけ! 貴様は我が腕の中で眠る価値すらない、千々に砕け散るがいい!!」

わたしは指を鳴らしてゾーマの首輪を発動させる。
だが自身の首から鳴り始めた警告音を無視してゾーマは凍える吹雪をわたしへと放った。

さすがは大魔王を名乗るだけのことはある――しかし
凍える吹雪はわたしに届くことなく途中で雲散霧消する。

「何ィ!?」

「調子に乗っていたのはそちらのようだな、ゾーマよ。そら、わたしに跪くならばその首輪を止めてやるぞ?

「おの――」

ゾーマは最後まで言葉を発することはできず、首輪が爆発した。

494渇望6/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 15:35:06 ID:5745YWtY0
ボンッとしけった火薬のような気の抜けた音。
だがそれは確実に大魔王の首を切断し宙へと舞い踊らせた。

「バ…カな――」

それが大魔王ゾーマの最後の言葉となった。
驚愕に顔を歪めたままゾーマの首は地に落ちてゴロゴロと転がった。

誰も言葉を発しない。
当然だろう。ゾーマは誰の目にも明らかなほど巨大な力を持っていた。
それが虫けらのように殺されたとなればわたしの力がどれほどか想像できぬほど高みにいると誰でも予想できよう。
実際にはそうでもないのだがな。さすがに大魔王と名乗るだけあってそれに見合うパワーはあった。
召喚にほぼ力を使い果たし、魔力が残り少なかったこともあるが神となったわたしがギリギリ防ぐことができたほどの力だった。
だがそれは誰にも気取られてはいない。これ以上反逆されては負けはしないまでも面倒なことにはなるだろう。
さっさと進行するべくわたしは指を鳴らして77の袋をそれぞれの足元へと現出させる。

「お前たちにはわたしからの餞別としてその袋を与える。そこには生存に必要な物資や武器が入っている。
 このゲームにおけるルールが書かれた冊子もな。文字が読めぬものにも理解できる術式を込めてあるので魔物も心配は要らぬ」

ここまでする必要はなかったかもしれないが、まぁいずれわたしの力となる者たちへのサービスだ。
彼らをここへ召喚した際に彼らに因縁深きアイテムもいくつか一緒に引き寄せられた。それらも無差別に袋に入れ込んである。
どうせ神へと完全覚醒を果たせばいかに伝説の武器とてわたしには敵わぬ。
それよりもそれらを殺し合いの武器として貶めたほうがより愉悦を感じられそうであった。

「それでは諸君らの健闘を祈る――さぁ、それでは殺し合いを始めよう――」

わたしは立ち上がり、両腕を広げる。
広間をわたしの魔力が包み込み、全てを箱庭世界へと転移させた。

「さぁ踊れ、わが生贄たちよ!! わたしが真の神へとなるためにっ!

 フゥーハッハッハッハッ!!」

【ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII GAME START】
【大魔王ゾーマ 死亡】
【残り77名】

495渇望6/6 ◆S0i4l3vvG2:2015/10/29(木) 16:15:05 ID:5745YWtY0
【主催者:エビルプリースト】
目的:神として完全覚醒するための器の選別としてバトルロワイアルを成功させる。

思考:1 殺し合いを見物して愉悦を楽しもう。
思考:2 神となったわたしの名前を考えよう。
思考:3 大魔道あたりを召喚して以降の運営進行を任せようかな。

496開幕1/4  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:44:17 ID:/qeU8mJw0
ひとつ、燭台に火が灯る。

揺らめく火には暖かさを感じるのが常というもの。

しかしその火は……これから始まるたくさんの"死"

それを予感させる、はじまりの火種。

ひとつ、またひとつ、燭台に火が灯る。

徐々に薄闇の中、照らしだされるのは、邪気に満ちた魔城。

そして、そこには。



「悲しいなぁ……」



暗闇に、絡みつくような、じっとりとした声が響き渡る。
"彼"はそれに軽い不快感を感じながら、自らの頭を振って、覚醒した。
すると、そこには彼の他に、数多くの人々が倒れ伏している。
老若男女に飽きたらず中には魔物と思しき影すら確認できた。


「……!?」


バンダナを巻いた青年が、辺りの景色に驚きの声を上げる。
リボンで銀髪を束ねた青年が、玉座に座った何者かを指さした。
姫君らしき少女は怯えた声を上げ、でっぷりとした体型の男性が前に進み出て大声を上げている。
だが、素性を知るであろう彼らをまるで意に介した様子が無い。
その玉座に足を組み座り続けていた"不気味な道化"は、徐ろに立ち上がる。
そして、深々と頭を垂れたのだ。


「ごきげんよう、皆さま方……本日は、この私めの催しに参加していただき、誠に感謝しています」


わざとらしいほど恭しげに、その道化師は前口上を述べる。
ようやく全ての者達が自分の置かれている状況を理解したのか、口々に皆が声を上げた。
何のことだ、ふざけるな。
ここは一体どこなのか。
そんな喧騒が押し寄せ、今にも誰かが食ってかかりそうなその瞬間。


「!?」

497開幕2/4  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:45:30 ID:/qeU8mJw0
ある一つの音が、静寂を生み出した。
それは何かが弾ける音、びしゃびしゃと液体が溢れる音。


商人風の身なりをした男、であったのであろうか。
今となっては確かめるのも憚れる。
もはやその人間の首から上は消失し、血を垂れ流す単なる肉塊と成り果てた後だったのだから。


少し遅れ、その静けさを蹂躙するように、どよめきと悲鳴が起こる。
目の前で起きた惨劇を理解し始めたのだ。


「皆様、ご静聴くださいませ」


その騒ぎも、もう一つの爆発音に静まり返った。
今度は老人であろうか、同じく首をごろりと転げ、細い肉体を遅れて横たえた。
老人の屍に、首を刈り取った謎に、そして道化師の言葉に皆一様に押し黙る。


「ただいまお見せいたしましたのは最初の演目……軽い、手品にございます」


血の匂いが皆の顔を曇らせているのとは対照的に、軽い笑みを浮かべていた。
続けて、ややおどけるように皆に問いかける。


「不思議なものです。彼の顔は一体、どこに消え仰せたのでございましょう?……種をこっそりと、お教えしましょうか」


クスクスといたずらっぽく笑う道化師。
この場に集められたほとんどに、今まで以上に更なる巨大な畏怖が渦巻いた。


「身体のどこかに、気づかぬうちに何かの戒めがされてはいませんか?例えばそう……首、の辺りなぞにご注目くだされば」

498開幕3/4  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:46:44 ID:/qeU8mJw0
誰ともなく、驚きの声が上がっていた。
ある者は自らの首に手をやり、またある者は互いの首元を指差して。
首などが無い異形の者も、自分の身体につけられた何かしらの"枷"に驚きを隠せなかった。


「種明かしでございます……これはあなた方の善良な意志を封じ、狂気へと駆り立てるための舞台装置の一つ」


玉座に再び腰を下ろし、道化師は手にした杖をくるくると弄ぶ。
その姿は、本当にこの状況を、ただただ楽しんでいるだけかのようだった。
一同、皆が固唾を飲む。
混乱している者もいた。
予感をしていた者もまた、いた。
道化師はそんな彼らの顔を見回し、再び満足そうに笑う。


「続いての演目は、あなた方の協力が必要なものでして。何、簡単なことですよ」


そこには恨みも、殺意も感じられない。
むしろにこやかに、愛想良く振舞っているようにすら感じられた。
道化師の存在意義の一つである、観客の心を惹きつけ離さない─
その役割を、ただ演じ続けているかのように。


「あなた方にはこれより、殺し合いをして頂きます」



*****




どこからともなく現れた、漆黒の怪鳥に睨みつけられる。
体中に隈を刻んだ、4足の巨体が腕を組み見下ろす。

その魔物らは道化師と意志を同じくしているのか、彼の指示通り集められた者たちを誘導していた。
腕のたつ者も居ただろうが、ここには同じく力なき者も居た。
そのためか、あれ以上に道化師に逆らい、彼ら魔物へと反発したものは居なかった。

目の前には広がる、蒼色の光。
話には聞いたことがある、"旅の扉"と呼ばれる神秘の門だ。
これから自分たちは、こことは違う地にて殺戮ショーを演じることになるらしい。
そこに足を踏み入れる前に……堪忍袋の緒が切れた。


「馬鹿げている……」


ぽつり、と初めて"彼"は呟いた。

499開幕4/5  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:48:56 ID:/qeU8mJw0
「馬鹿げている、こんな、こんなことが許されていいはずが無い!」


周りの人々が驚くほどに、大きな声を上げて道化師に食って掛かる。
巨体の魔物に鳥の魔物。
確かに恐ろしいことに変わりがない。
しかし義憤が彼を動かした。


「私の鍛えたこの手は、貴様のような外道を倒す為にあるのだ!覚悟しろ!」


素手で構わない、自分の最も得意とする武装である。
固めた正拳を古い、道化師の鼻っ柱をへし折るべく疾走した。


(不気味な術を使うとは言え、あの痩せた男に遅れなど取らぬ!なにせ……)


確固たる自信が、渾身の一撃をまっすぐ放つ足がかりとなった。
修行、修行、ひたすら修行。
その積み重ねが彼に……悪魔の宿った鎧の化身である魔物を倒すまでの腕を持たせた。
そんな努力の結晶が、この場で通じぬわけがない。
ない、はずであった。


「悲しいなぁ」


拳は届くことは無い。
声を上げることもできない。


「あと少しで私に触れるところまで近づけたのに」


彼の首もまた、消失させられた。
道化師の指の所作一つで、首輪が弾け飛んだのだ。


「何もできずにお別れとは……悲しいなぁ」


為す術もなく、倒れ伏した武闘家の死体。
その脇を通り過ぎる。


「皆様に一つ、謝ることがございます。今お別れした、彼……そして」


老人、そして商人風の男。
彼らの脇もまた通り過ぎた。


「先ほどお別れした、お二方……」


そして振り返り、一瞬哀悼するような表情を浮かべ……手を振るう。
すると、ずぶりと沼のように屍を闇が飲み込んだ。

500開幕5/5  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:52:11 ID:/qeU8mJw0

「誤ってこの場に相応しくない方々に、招待状を送ってしまったのです。それが彼ら……」


告げたのは、過ち。
まるで糸を紡ぐときに重ねる順番を間違えるかのように。
街で出会った人間の、名を忘れてしまったかのように。
命を、些末な扱いで扱い、挙句に消し去ったのだ。


「彼らのような名も無き者たちと肩を並べさせてしまい……深くお詫び致します」


恭しく頭を下げつつも、笑みを浮かべたその道化師。
無慈悲で冷たく、そして傲慢。
不気味な存在感を放っていた。


「旅の扉をくぐった先で……貴様らは最初に、これと同じ袋を手にすることになるだろう」


惨劇には目もくれず、淡々と告げるのは漆黒の怪鳥。
爪の先にぶら下げられていたのは、旅慣れた者ならば見慣れた『ふくろ』だった。


「貴様らの命を繋ぐ、道具や武器を詰めている。せいぜい活用することだ」

「その他に、殺し合いに置ける決め事も確認できる書物も入っている」

腕を組んでいた、巨体の魔物が続けて告げる。
彼もまた、参加者たちを一瞥して笑みを浮かべた。


「面倒に思いみすみす死ぬような、つまらぬ事は避けたほうが良い。吾輩を退屈させてくれるなよ」


二人の間を縫うように、進み出た道化師は最後に深々とお辞儀をした。
これから起きるであろう惨劇に、胸を躍らせているのは確実に見て取れる。
そんな表情であった。


「それでは皆様、しばしのお別れ。どうかまた、お会いいたしましょう」


道化師の笑みが大きく歪んだと思った瞬間、一同は蒼い光に飲み込まれる。
彼らは、これより誘われるのだ。
血に染まった舞台へと。


【DragonQuestBattleRoyaleIII 開幕】

【おーあなた友達の商人@DQ3 死亡】
【ラダトーム城の光あれ老人@DQ1 死亡】
【絶望の町の素手でデビルアーマー倒せる男@DQ6 死亡】
【残り77名+α】

501開幕5/5 修正  ◆2UPLrrGWK6:2015/11/01(日) 17:56:36 ID:/qeU8mJw0
告げたのは、過ち。
まるで糸を紡ぐときに重ねる順番を間違えるかのように。
街で出会った人間の、名を忘れてしまったかのように。
命を、些末な扱いで扱い、挙句に消し去ったのだ。

↓下記が正しい文章です、訂正致します。

告げたのは、過ち。
まるで糸を紡ぐときに重ねる順番を間違えるかのように。
街で出会った人間の、名を呼び間違えてしまったかのように。
そんな小さな間違いとやらで命を些末に扱い、挙句に消し去ったのだ。

502絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:13:34 ID:mOgFp4Lc0



■■■■■残された時間は3時間。

緊張感からか、彼はあまり食べれなかった朝食を吐き出して、さらに嘔吐の不足分を補うかのように胃液までたっぷりと吐いている。
未消化の人参、ぐずぐずになったゆで卵、胃液でドロドロのパン。
吐き出されたそれらは彼の栄養になること無く、食べ物としては限りなく不名誉なことに、ただ景観を汚すだけの物体となっている。
武者震いではなく、純粋な怯えから身体はブルブルと震えていて、それでも剣を鞘から思いっきり引き抜くと、不思議と震えが止まっていた。
戦場に立つ前はどうしようもなく臆病者で、それでもいざ戦場に立ってしまえば、彼はどうしようもないほどに勇者だった。
ある意味、楽だった。
魔物と戦っている時に臆病でいる余裕はない、目の前の敵を殺すこと以外に何かを考えている余裕はない。
自分の命の価値だとか、故郷にいる家族のことだとか、仲間のことだとか、何もかもがどうでも良くなる。
目の前の敵を殺しさえすれば、自分の命は確実に助かるし、自分が敵を殺すまでに殺されていなければ仲間の命は無事だし、
生きていれば、いつの日か故郷に帰って家族に顔を見せることが出来る。
つまりは目の前の敵を殺せば、何もかもオーケー、シンプルな世界だ。
戦うのは怖いが、戦っている間は恐怖を忘れられる。

そうやって、魔物の屍を築いてきた。
これが人間同士の戦争だったのならば、相手が人間だったのならば、自分はもう少し悩んでいたのだろうか――魔物を殺しながら、時折彼は考える。
カンダタの時は、そこそこ手心を加えていた――と思う。
もしかしたら、本気で殺そうとしたけれど過去の自分は弱すぎて、ただ単純に殺せなかっただけかもしれない。たまに思う。

答えは出ない。
幸いなことに人間と殺し合う機会は無かったので、これからも出ないのだろう。
大魔王を殺しても――いや、むしろ大魔王という枷が無くなったからこそ、好き勝手に人間を襲う魔物は存在する。
彼らのおかげで人間同士の戦争は起こりそうに無かったし、駆除に勤しむ勇者一行を害そうとは誰も思わない。
勇者という強大な力を恐れても、勇者がいなくなればどうなるかが分かる程度には人間は賢い。

だから、今日も余計なことを考えずに勇者はのほほんと魔物を殺す。
朝飯が全て吐瀉物に変換されても、戦うまでの時間が恐ろしくてたまらなくても、
勇者以外にやることはなかったし、やりたいこともなかった。

時折、彼は考える。
もしも仲間が全員いなくなったら、誰が自分の名前を覚えているのだろう。
勇者様――以外に呼ばれる名前が無くなったら、自分はいつまでも自分の名前を覚えていられないに違いない。
きっと、自分は生まれた時から勇者で、死ぬ時も自分は最初から最後まで勇者だったと思い込むに違いない。
なにせ臆病な自分は皆には必要ないのだ。必要なのは勇気ある者だ。
つまりは勇気を持って魔物を虐殺してくれる駆除屋さんだ。

きっと、自分はそのうち、ロトというありがたい称号で歴史に語られるに違いない。
自分が死んだ後も、人間がそこそこに生きていればだけれど。

503絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:13:54 ID:mOgFp4Lc0
自分という存在が、そのうちに役割に完全に消されてしまうことに彼は特に悲観も絶望もしていない。
ただ、そういうものであると思っている。

そんなことよりも、魔物との戦いに確実に生き残ることのほうが大切なのだ。

「さーて、今日も勇者でもやるか」
勇者は一人、街を出る。
仲間たちはそれぞれ別の場所で戦っている。
残存勢力程度ならば、それぞれ一人で十分だ。
たまに会って酒を飲む。
勇者様以外の呼び名で呼ばれる。
自分の名前を初めて聞いたかのような新鮮な気分で受け取る。
故郷に帰る方法もたまに皆で探す。
何も見つからなくても、住めば都だよな、と言って笑う。
いかにも大丈夫という振りをする自分を嗤う。

もう戦いたくないし、勇者と呼ばれるのも嫌だし、故郷に帰りたいし、ひとりぼっちも嫌だ。

なんてことを考えないで、自分が大丈夫であることを信じ続ければそれが真実になると、
そうやって自分に嘘をついて、なんとなく生きていく。

魔王も、大魔王もいないのに勇者をやる自分は滑稽だけれど、
勇者をやって気を紛らわせる。

色々と狂っている気がする。

まぁ、人生ってそういうもんだよな。

な。

な。

な。

なぁ!!そうと言えよ!!!

504絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:14:10 ID:mOgFp4Lc0



■の■■に残された時間は2時間。

「おはようございます、勇者様」
「やあ勇者様」
「おはよ勇者様」

「おはようございます」

何時も通りに彼は町人と挨拶を交わす。
彼は特に町人達のことを嫌ってはいない、だが、別に彼らのことが好きで大魔王を倒したわけではない、成り行きだ。
知らないところで彼らが魔物に惨殺されても特に何も思わないだろう。
もちろん、目の届く範囲で殺されれば気分が悪い、ぐらいの善性はあるが。

「今日も狩りですか」
「ええ、それが勇者の……」
勇者の――何なのだろうか、本当のところはこの行為に勇者は関係ないのではないのだろうか。
そう思っても、世間体があるので彼はなんとなく答える。

「やっぱり勇者様は偉いねぇ」
彼の答えに納得した町人がうんうんと頷く。
町人と別れた後、すぐに忘れてしまうようなどうでもいい答えだった。

「じゃあ気をつけて、勇者様」
「ええ」
町人に軽く会釈をして、彼は街の出入り口へと向かう。

「ゆうしゃさまーがんばえー」
「がんばれがんばれ」
「頑張るよー」
出入り口まで追いかけてきた子供が彼に言葉をかける。軽く受け流す。
子供は可愛い。けれど、やはり知らないところで殺されていても特に何も思わないだろうと、彼は思う。

仲間とか、家族とかは大切なのに、何故彼らを大切に思うことが出来ないのだろう。
たまに彼はそう考えることがある、だがどうせ答えが出ないので、戦いに赴いて考えることをやめてしまう。

街を出て、暫く歩く。
人の目が届かなくなる。
念のため誰も居ないことを確認する。
そして、彼は大きなため息を吐く。
膝が笑っていることに気づく。
戦いは恐ろしい。
けれど、普通に生きていくことも中々にしんどい。

「戦っている方がマシだよなぁ」
なんともなしに彼は呟く。
その声を聴くものは誰もいない。

505絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:14:26 ID:mOgFp4Lc0



この■■に残された時間は1時間。







悲鳴。怒号。破壊音。
骨の砕ける音。
肉の焼ける臭い。
臓物の焼ける臭い。
血の臭い。
魔物の臭い。

咀嚼音。

くちゃ。くちゃ。くちゃ。くちゃ。








闇。






闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇

506絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:14:45 ID:mOgFp4Lc0



この■界に残された時間は20分。

「何が起こっているんだ……?」
夜の訪れというには、あまりにも早すぎた。
太陽の光も、青い青い空も、何もかもが突如として現れた闇に呑まれてしまった。

取り戻したはずの光あふれる世界が、再び闇に蝕まれていく。
何もかもが大魔王を倒す前に逆戻りしたかのように、世界には終末の風景が広がっている。

振り返り、彼は街の方向を見る。
闇の中にあって、その街ははっきりと鮮やかな色彩を以て見えていた。
勇者が守ってきた街は色鮮やかな炎に彩られて、燃えていた。

何故、気づかなかったのか。
などと考えるよりも先に、彼の身体は動いていた。

逃げ出したいという気持ちを懸命に抑えこんで、
どうでもいいという気持ちを懸命に抑えこんで、
自分が守ってきた町人の顔を必死で思い出し、
ほとんど靄がかかっている彼らの顔を必死で思い出し、
全速力で街まで駆け抜けた。

507絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:14:57 ID:mOgFp4Lc0


この世界に残された時間は10秒。

何もかもが手遅れで、街は既に魔物に蹂躙されつくしていて、生存者は誰ひとりとしていなかった。
建造物は何もかもが破壊され、民家も教会も商店も皆平等に瓦礫の山だった。
時折瓦礫の下から、救いを求めるように手が伸びていた。
大人のものも、子供のものもあった。
焼け焦げているものもあれば、不自然なほどに小綺麗なものもあった。
返事のないただの屍を魔物が貪っていた。
人間からはみ出た臓物を仲良く二匹の魔物で吸い上げている光景に出会った。
胴体で空腹が満たされたのか、魔物が頭部で遊んでいる光景に出会った。
今更になって駆けつけてきた勇者に対し、魔物が嘲笑を浴びせた。


彼は魔物を蹂躙した。


今一体何が起こっているのか、どこから魔物が入りこんだのか、
最後に残った魔物を彼が何度も何度も蹴りあげると、魔物は弱々しげに街の一角を指差した。
指差す方向を見れば、魔力が青く渦を巻いてそこに存在していた。
旅の扉――空間と空間を繋ぎ、長距離の移動を可能にする超次元の門である。
攻撃を止めた彼に対して薄っすらと頬を釣り上げた魔物は、背後から攻撃を加えようとして――彼に殺された。
最後の魔物なぞ視界に入れること無く、彼は睨みつけるようにして旅の扉を見た。

当然、この街にこのような旅の扉は存在していなかった。
どう考えても、魔物達が進軍のために用意したものだろう。

新しい魔物の軍勢――それも、旅の扉を用意できるような。
魔王を討伐し、その背後で糸を引いていた大魔王を討伐したと思えば、また新たなる敵だ。
何もかもキリが無いのだろうか、大魔王が最期に言ったように再び闇の中から敵が現れ続ける宿命なのだろうか。
最も、勇者が老いて生きてはいないという予言は外れることとなったが。

旅の扉を前に、不思議と足が竦むということはなかった。
旅の扉を利用すれば、逆に敵の軍勢に攻め込んでいける、そのようなシンプルな考えしかなく、
そして、臆病な精神も肉体も、その考えに逆らうことはなかった。

仲間を巻き込むこと無く、一人で行くことが大事だった。
一人で戦うことは恐ろしいが、それ以上に仲間を失うことは恐ろしかった。
慢心もあった、大魔王を倒した当時よりも強くなっている――だから、一人でも大丈夫であると思っていた。
この先に罠があろうとも粉砕出来ると思っていた。

旅の扉に足を踏み入れる。
水の重さが無く泳いでいるような、高所から落ちているのに自由に動けるような、そんな奇妙な浮遊感に包まれて、彼は世界を移動する。

それと同時に、世界を包む闇が濃度を増していく。
赤々と燃える炎すら見えない。
何も見えない。
完全なる闇に包まれて。
世界は。
眠る。

508絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:15:28 ID:mOgFp4Lc0



世界が終わってから■■日あるいは■■時間あるいは■■年。

旅の扉を抜けると、再び闇だった。
自分の手足すらどこにあるか認識できない、完璧な闇だった。
彼は目を閉じる。
視覚が無意味になった以上、その他の感覚器官に頼るしか無い。
である以上、必要のない視界は閉じておくべきであろう。

そして、すぐに気づく。
装備していた剣、鎧、盾、兜、装飾品、何もかもが消えている。
目の見えない上に防具が無いのでは一撃一撃が致命傷と成り得る、魔力は封じられていないようだが苦戦は間違いないだろう。


耳を澄ます。
ざわつきがある。
だが会話の声は聞こえない。
他者は現状を認識していない――自分のような者なのだろうか、あるいは間抜けな魔物だろうか。
少なくとも声質は人間のように思える、だがそれだけでは判断しようがない。

「メラゾーマ」

突如、世界に光が取り戻された。
魔力による特大の火球が松明に火を灯したのだ。
薄ぼんやりではあるが、この暗黒の状況が理解できる。

まず、この場にいるのがほとんど人間であること、たまにモンスターが混じっていること。
それらが数十集まっていること。
ぼんやりとした灯りなので顔を見ることは出来なかったが、ほとんどが鍛えられた肉体をしていた。
そして燃えている松明というのは――人間であること。

誰かが悲鳴を上げる。
絹を裂くような女性の声。

「メラゾーマ」

だが、悲鳴はすぐに静まり返った。
松明が一つ増えるという最悪の形で。
魔力の炎に照らされて、呪文の主が暗闇の中に浮かび上がる。

二足歩行の様子を見れば人間と勘違いする者もいるかもしれない、
しかし、その頭頂部から足先にかけて、その様は怪物であった。
法衣を着た河馬――その姿を見て、それをイメージする者もいるだろう。

509絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:15:48 ID:mOgFp4Lc0

「くだらない悲鳴を上げたい者は他におるか?」

そして、勇者である彼にとっては見知った相手であった。
なにせ、この手で二度も地獄に送ってやった相手であるのだ。
魔王バラモス。かつて、勇者の出身世界を支配していた魔王である。
この魔王バラモスが復活しているとなれば、彼にはこの時点でこの件の黒幕が見えていた。

「よろしい、その賢しさがあれば、これから先もしぶとく生き残ることが出来るじゃろう」
そう言うと、バラモスは天に向けて掌から魔力を放った。
「では、二つのことについて説明しておこう」
魔力に反応し、天井が紫の光を帯びて、輝き始めた。
するとなんということだろうか、勇者の故郷であるアリアハンや上の世界、下の世界の様々な場所、そして勇者の知らない街が、大陸が、映しだされていた。
全ての場所に共通して言えることは、一見して全てが夜のように見えることであった。
だが、勇者は知っている闇に閉ざされた世界を。

それらはみな、闇に閉ざされた世界であった。

「まず第一に……我らが大魔王ゾーマ様によって、そなたらの世界の支配は完了した。と言っても、証拠が欲しいじゃろう?」
バラモスが合図を行うと同時に、天井に映る街の一部が魔物の軍勢によって蹂躙され、廃墟と化す様子が映された。
その中には勇者が先程まで暮らしていた街もあった。

「……録画技術と言うらしいが、まぁ、それ自体はどうでもいい、本題はここからじゃ。お主たちには殺し合いをしてもらう」
ざわめきが起こらんとするタイミングを見計らって、バラモスは再び松明を増やした。
それで静寂は取り戻される。

「ゾーマ様の配下である、このわし、ボストロール、やまたのおろちを除いて一人になるまで殺し合いを行い、最後の一人になった者には……世界をやろう」
世界をやる――その言葉にこの場に集められた者の中に動揺が走る。

「そなたらの生まれた世界でも、他の世界でも、好きな世界を一つくれてやる。
もちろん、魔物の指揮権もくれてやろう……支配者として振る舞うもよし、魔物の影響が及ばぬように……」
笑いをこらえきれなくなったバラモスがくつくつと笑った。
地獄の底から響いてくるような気味の悪い笑い声だった。
「勇者として世界を救うも良し、じゃ……勇者として、な」
悪趣味な趣向であった。
大魔王にお膳立てされた勇者など、喜劇にしか、なりはしないだろう。
だが実際に繰り広げられているのは残酷劇であるのだ。

「……では、殺し合いについて、重要な事を説明しておこう。
そなたらには皆、ゾーマ様によって呪いがかけられておる。
気づいた者もおろうが……この場でお主達は首以外は動かせないように麻痺させておる。
なにせ、開幕の儀を邪魔されるわけにはいかんからなあ」

つまりは、悲鳴を上げた者達はそもそも用意された犠牲羊であったのだろうか。
殺されるためだけに用意された、生け贄の羊であったと。

「もちろん、麻痺以上の事も出来る……なに、百聞は一見にしかずともいう」
そう言うや否や、天井に映しだされていた光景が変化する。
男だ――神官風の男が映っている。

510絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:15:59 ID:mOgFp4Lc0

「ようく見てやるが良い」
神官風の男は何かしらを叫んでいる、だが天井から声が聞こえることはない。
神官風の男が一瞬で凍りつく。
数万ピースのジグソーパズルの様に神官だった氷の彫刻が一瞬で砕け散る、二度と組み上がることのないパズルだ。

「と、このように……ゾーマ様が定める法に反した際、一瞬にして死を迎えることとなる。ようく理解したじゃろう?」
愉悦の笑みを浮かべて、バラモスが参加者の顔を見回す。

「では、そなたらを殺し合いの会場に送り出すこととしよう。
安心するが良い、ここで殺し合えなどとは言わん……もっと広い会場を用意しておる。
それと、会場についたらまずは足元を調べることじゃ。
殺し合いの役に立つ道具とこの殺し合いでの法が書かれた冊子を入れた袋があるからのう」
バラモスの両手から魔力が溢れだす、司会から、参加者、さらには参加者の運搬まで担当するというのだから恐れ入る。


「バシルーラ」

この世界に残された時間は■■時間

【ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII GAME START】

【ヘンリー王子を拉致した賊の一人 死亡】
【マイラの村のぱふぱふ嬢 死亡】
【クリフト 死亡】

【残り79名】

511絶望系 ◆fEE0wGm7Cc:2015/11/02(月) 05:16:27 ID:mOgFp4Lc0
以上、投下終了します

512欲望の最果て ◆pXJf5APJnM:2015/11/02(月) 10:25:53 ID:2KQdCjVo0
「お目覚めかな?」

ある日、目覚まし代わりに聞こえたのは、その老人の一言だった。
飛び起きてみればそこはベッドの上では無く、真っ赤な絨毯の上であった。
辺りを見渡してみると、自分のように飛び起きた人間や、まだ寝息をたてている魔物の様な姿を確認することが出来た。
数で言えば十は確実に超えているし、見知った顔も何人か確認できた。
そもそも、それだけの人数を集められる、この場所は一体どこなのか?
疑問を答えに変えるべく手がかりを探して、もう一度辺りを見渡したとき、真正面の玉座に腰掛けている老人に気がついた。

「あなたは……」

気品溢れる赤いマント、黄金に輝く王冠、そして真っ白なヒゲ。
その姿は、確かに見覚えのある姿だった。

「いかにも、ワシがメダル王じゃ」

呼びかけに反応したのか、老人は静かに名乗る。
そして、自慢のヒゲをいじりながら、メダル王はゆっくりと立ち上がり、自分たちに近づきながら、口を開いた。

「突然だが、君たちは人間の"欲望"についてどう思う?」

あまりにも唐突な質問に、誰も答えを出すことは出来ない。
重い沈黙が少し続いた後、ふむ、と声を漏らしてから、メダル王は一枚のメダルを取りだした。

「例えば……この何の変哲もない"小さなメダル"」

取り出したメダル、それこそまさに彼が集めていた"小さなメダル"であった。
どこの誰が持っていても、なんて事はない小さなメダル。
たった一人、それを集めている者を除けば、この上なく無価値に等しいものだった。

「これだけでは何の価値も生まないし、何の価値も生まれることはない。
 だが、これを集めることで"ご褒美"がもらえるのだとしたら?」

ぴん、と親指でメダルを弾き、それを手中に収めながら、メダル王は呟く。
そう、彼だけはこのメダルに価値を見いだし、それを沢山集めて来た者に褒美を取らせていた。
その褒美の数々は、どれもそう簡単には手には入らない、貴重な物ばかりだった。

「でも、ワシは知ってしまったのじゃ。
 何でもない地面を闇雲になって探したり、上がり込んだ民家で徹底的に家捜ししたり、来る日も来る日も逃げまどう魔物を狩ったり。
 "ご褒美"を貰うという"欲望"の為に、生き物はそこまで醜くなれるということを」

冒険者達の"小さなメダル"を集める為の行為、それは彼が知り得なかった真実。
だが、彼はそれを知ってしまった。
自身も抱えていた、人間のこの上ない"欲望"の存在と共に。

「そして、ふと思ったじゃ。その"欲望"の行き着く先がどうなるか、見てみたいとな」

それに気づいたから、彼はそれを突き詰めたいと思った。
"メダル"よりも執着できる、集めてみたいと思えるものに出会ったから。
故に、彼は淡々と口走る。

「だから、君たちには今から――――"命"を集める、殺し合いをして貰いたい」

誰もが耳を疑うような、衝撃の一言を。

「集めた"命"の数に応じて褒美は与えよう、そして、最後の一人になった暁には……何でも願いを叶えてやろう、どうじゃ?」

しん、と場が静まり返る。
何を言われたのかが理解できない、というのが正しいか。
何度も何度も繰り返し頭の中で流すことで、それを理解しようとする。

513欲望の最果て ◆pXJf5APJnM:2015/11/02(月) 10:26:13 ID:2KQdCjVo0
 
「ふざけるなよ」

そんな中、真っ先に言葉の意味を理解した存在が口を開く。
それは、人の何倍もの体を持つ、巨大な一匹の龍だった。
黄緑の竜鱗をきらきらと輝かせながら、桃色の髭をたなびかせて、メダル王へと鋭い眼光を飛ばしていく。

「貴様のような矮小な人間が、この神竜を飼い慣らすなど、出来ると思うなァッ!!」

そして、威嚇と共に、巨大な爪を一気に振り下ろしていく。
歴戦の勇者でさえも、ただでは済まないであろう一撃が、無慈悲に叩き込まれる。
少なくとも、何の力も持たないたった一人の人間にどうにか出来る一撃ではない。
これから訪れる未来と、その光景は誰もが分かっていた。

けれど、現実は嘘をついた。
次の瞬間、地面に横たわっていたのは、巨大な龍の方だったのだ。
顔のすぐそば、人間で言う首の辺りを境に、真っ二つに分かれた姿で。
対するメダル王は、傷一つないまま、ただ、龍の血だけを浴びていた。

「さて、既に気づいておるとは思うが、君たちの命はこちらで握らせて貰った」

まるで、何もなかったかのようにメダル王は言葉を続けていく。
あれだけの威圧感を放っていた龍が一瞬にしてただの肉塊と化した現実を前にしては、歴戦の戦士といえど異常さを認めざるを得ない。
淡々と続く言葉を、ただ黙って聞くだけだった。

「今の竜の様になりたくなければ、ワシに刃向かうことはやめておくのじゃ。それと――――」
「何よ、こんなのッ」

話の途中、赤と黒のドレスを身にまとった一人の少女が叫ぶ。
その場にいる大半が、首に着けられていたモノ。
それに気づいた彼女は、それを引きちぎろうとする。
両腕でそれを掴んで勢いよく引っ張ることで、引きちぎる事には成功した。
一つの爆発音と共に吹き飛んでいった、頭という部位の代償と共に。
鮮やかな赤が、絨毯の赤に溶け込んでいく光景は、一人の命が失われたという事を伝えるには十分すぎる情報だった。

「無理に外そうとしてもダメだということを、今から喋ろうと思っておったのにな。
 まあいい、説明する手間が省けた」

一人の少女が命果て行く光景を見ても、メダル王は眉の一つすら動かさない。
その姿は、もはや恐怖すら覚えるほどで。
今度こそ、誰も彼もが静止した空間の中で、彼だけが口を開き続ける。

「他にも三日経つまで最後の一人が決まらなかったり、後に伝えられる禁止エリアに踏み込んでもそれは爆発する。
 細かいことは、あとで袋に入っている冊子を読んでくれるか」

メダル王がそこまで言い終わったとき、辺りを青白い光が包み込み始めた。
足下を見れば巨大な旅の扉が、その場にいる何もかもを飲み込み始めていた。
どこかへと消えゆく人々を見つめ、メダル王は両手を広げて笑う。

「さて、始めよう。ワシに、人間の欲望の行く末を見せてくれ!!」

最後に聞こえた、その叫びを耳に刻み込んで。
ここではないどこか、いや、そう言い表すのは正しくないか。
これから先に待つ、短くとも長い絶望の数日を過ごす舞台へ、彼らは飛ばされていった。

514欲望の最果て ◆pXJf5APJnM:2015/11/02(月) 10:26:52 ID:2KQdCjVo0



あれほどいた人間たちが、誰一人として消え失せてしまった室内。
そこにあるのは、巨大な龍の死体と、一人の少女の死体。
ふう、とため息を一つつき、メダル王が玉座に再び腰掛けたときだった。

「メダル王様、お伝えされたとおり、例の十人の隔離、及び起床を確認してから旅の扉での転送が完了しました」

音もなく暗闇から現れた存在が、メダル王へと報告をしていく。
それを聞いたメダル王は、特に驚く様子もなく、ただ、頷いて了承の姿勢を示していた。

「しかし、何故このようなことを?」

ふと、疑問に思ったことを告げる。
ぴくり、とそれに反応したメダル王が、再び玉座から立ち上がり、どこでもないどこかを見つめながら、小さく呟いていく。

「人間の欲望と醜悪さは、切っても切れぬ」

そこで、わざとらしく言葉を切って。

「で、あろう?」

そう言いながら笑うメダル王に釣られるように、もう一人も笑った。



これは、一つの"もし"の始まり。



【バトルロワイアル 開始】

【神龍@DQ3 死亡】
【セティア@DQS 死亡】
【残り80人】

主催:メダル王@歴代
進行役:????

※書き手枠の10人にはルールブックが配布されておらず、OPのやりとりを見せられていません。
 また、名簿への明記もされていません。
※ジョーカーとして下記3名が追加されます(すべてDQ5)
○ミミック/○ツボック/○エスターク

※誰かを殺すと、とどめを刺した人間が小さなメダルを手に入れることが出来、空に掲げることでアイテムと交換が出来ます。目安としては2枚ではがねの剣くらい(要議論かも)
※上記に伴い、支給品が一人一つとなります

515戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:53:30 ID:RnGgooy20
「全く、貴様が人間共を殺してくれるならこちらももっと楽なものを。つくづく勿体無いな」

くつくつと笑いながら、ゆっくりと拳を握る。
虎の眼光に応えるようにその目を鋭くし。
地獄の殺し屋と地獄の闘士は、焦土と化した地面を踏み締めた。

「その力をここで葬らなければならないとは、本当に残念だ」

互いの体に、再び力が入る。
張り詰めた空気がシンと静まり返り、
僅かな風すらも感じ取れるほどに感覚が鋭くなり───










「いや、まずはそちらが先決かな?お嬢さん」

516戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:55:30 ID:RnGgooy20


時は少しだけ遡る。
ターニアという、青い髪の少女が目を覚ましたのは、岩石が転がる山の麓だった。
近くにあるものの中でも一際大きな岩の陰で、彼女は小さく震えていた。

(殺し合い、なんて)

ターニアという少女にとって、争い自体は別に始めての事では無かった。
忘れもしない、「もう一人の兄」と出会った日。
炎が燃え盛るライフコッドの情景は、今でも鮮明に思い出せる。
だが、あの時は味方がいた。
自分のすぐ横にいて、自分を守ってくれた、「兄」が。
兄は直ぐに駆けつけてくれて、襲って来た魔物から戻ってきてくれた。
その後現れたもう一人の兄と兄がどうなったか、結局分からなかった。
全て終わった後で一つだけわかったのは、これまで兄と慕っていた人間が消えてしまった事だけだった。
それでも、「もう一人の兄」も私を妹と呼んでくれた。
だから、彼女も彼を兄と呼ぶようになった。
兄妹の絆は消える事なく、だから少女は「兄」が居てくれれば大丈夫だと胸を張って言えただろう。

───だが、その兄は今ここにはいない。

「やだ、怖いよ……お兄ちゃん」

体の震えが、否応無く高まる。
とにかく動いて探さなければと、怯える心に鞭を打ち立ち上がった。
ふくろを覗いて地図を見ると、ここから北には城がある事が分かった。
───確か、お兄ちゃんは王族の人だったよね。
それを思い出す。
簡単に集合をしたいなら、兄がそこにいる可能性は十分にある。
一先ずはそこを目的地として歩き出そうとした───その時。

「きゃあっ!?」

進行方向の先に、突然凄まじい光が巻き起こった。
それが嘗て見た、兄の仲間の少女が操る爆発呪文のものだと気付き───彼女は、思わず駆け出した。
彼女が冷静ならば、その使い手が少女バーバラとは限らないとすぐに思いついた筈だ。
だが、殺し合いという非常識な場において、平凡な少女である事に変わりないターニアが冷静である事を求めるのは難しかっただろう。
だから、彼女は進行方向を変えずにそのまま山を駆け下りた。
だから───

517戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:56:41 ID:RnGgooy20


ヘルバトラーが、池の端へとその巨躯を躍らせた。


何があったかとキラーパンサーは視線を巡らせ───そこで、漸く気付く。


獣からは木の陰となり死角となっていた場所で、少女がへたり込んでいる事に。


ヘルバトラーの急襲に驚いたのか数歩下がった為にキラーパンサーにも見えるようになった少女は、そこで始めて弾かれたように走り出した。


そこへ襲い来るは闘士の拳撃───どうにか紙一重で直撃を免れたが、その衝撃に簡単に姿勢を崩してしまう。


「あ─────!!!」


声にならない悲鳴を上げるターニアへと、ヘルバトラーは容赦無く拳を振り上げる。


死を体現したようにすら見えるそれは、少女にはやけに大きく見えて。




(───お兄、ちゃん)

そこで、彼女の意識は闇へ沈んだ。

518戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:57:47 ID:RnGgooy20
「───見捨てるならば、それもまた良し。邪魔な子供一人、貴様を警戒しながらでも簡単に殺せたからな」

冷徹な声。
その聞き手はおらず、ただの独り言として池のほとりに響き渡る。
拳を振り切ったヘルバトラーが浮かべるのは、満足気な笑顔。

「だが、まあ───人間に懐いた魔物は、時に蛮勇を冒してまで他人を庇う事があると聞いたからな。
どうせならと仕掛けてみたが、見事に誘われてくれるとは僥倖だ」

殴り抜いた虎───少女を突き飛ばし、身代わりになる形で殴られた魔物が飛んで行った方向へと歩を進める。
気絶したと思しき虎に一応の警戒をしつつも歩み寄り、スレイプニールを振り上げた。
ここで重要なのが、最後の一瞬まで気は抜かない事だとヘルバトラーは知っていた。
例えば、気絶した振りをしたキラーパンサーが今にも目覚めるかもしれない。
例えば、支給品が意思を持った何かで、唐突に何かを始めるかも知れない。





「───とうっ」

そう───例えば。
唐突に現れた第三者が放つ、油断を狙った不意打ちがあるかもしれない。
丁度、今自分へと放たれた鋭い一撃のような。
だからこそ、ヘルバトラーは一切の気を抜いていなかった。
木に潜んでいたらしい少女の一閃を大剣で軽々と受け止め、そのまま弾き飛ばす。
宙を舞いつつも華麗に着地した少女は、その剣を構えつつヘルバトラーへと向き直った。

519戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:58:30 ID:RnGgooy20
「全く、悲鳴を聞いて寄ってくれば魔物が人を庇ってるたあね。
庇うってのは流石に珍しいと思うんだけど、そこんとこあんたはどう思うのよ」
「珍しいも何も、そこまで酔狂な真似をする魔物は一握りだと思うぞ?
そして、そんな一握りだからこそこの殺し合いに招かれた───無論、今の一撃を出来る貴様も一握りの内だがな」
「───どうだかね」

と、そこで。
苦々しげに呟いた少女に、その瞬間僅かな隙が出来た。

「そうで無ければ───何だと思うッ!?」

ここで注意を和らげたのなら、それは先攻を譲るという意思表明に他ならない。
猛烈な勢いで突進し、スレイプニールを横薙ぎに払う。
単なる一閃では無く、その巨体や大質量の大剣が巻き起こす風圧も加味した剛の一撃。
並の人間なら、その勢いに呑まれ簡単に身体が二つに分かたれるであろう。
だが、少女も只者では無い。
強襲とも言えるその一撃を完璧に受け流し、懐へと流れるように潜り込む。

「隼斬り、っと」

銀光が二つ走り、ヘルバトラーの肉体に十文字が刻まれる。
決して浅くは無い一撃、だがそう簡単に闘士も沈まない。
切り結んだ直後の一瞬の隙に、大きく足を踏み鳴らした。
その危険に気付いた少女が飛び退るも遅く、地中から飛び出す何本もの岩石の柱。
本来ならこのヘルバトラーには使えない筈の、大地の鼓動という大技だ。
エビルプリーストが彼を復活させる時、10の世界の内で存在する全てのヘルバトラーの力をその肉体に内包させた事で可能となったその攻撃は、少女を再び大きく天へと打ち上げた。

520戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:59:23 ID:RnGgooy20
すかさず飛び上がり、不気味な笑いと共に強烈な体当たりをお見舞いする。
だが、少女もさるもの。空中で身体を捻り、剣を上空へ投げて徒手となると同時に爆裂拳を放つ。
───四肢での強烈な連撃、その中で鋭く疾い脚の一撃がカウンターの形となって顔面へと突き刺さり、ヘルバトラーも思わず身を引いた。
そのまま双方が落下し、森に二つの鈍い音が響く。
当然、それは戦闘終了の合図にはなり得ない。
少女は落ちてくる剣を掴みつつ走り、闘士もまた再び大剣を構え。



「ガキと猫が寝てんだ、少しは静かに出来ねぇのかテメー等」

次の瞬間、相対する彼女達の前の地面が大きく隆起した。
今にも踏み込もうとしていた両者が共にたたらを踏み、同時に声の出所と思しき今出来たばかりの岩山の頂点を見上げる。
そこにいたのは、キラーパンサーとターニアを担ぎ上げた小さな緑の亜人。
ドワーフと呼ばれる種族の青年である彼の目つきは、しかしその種らしからぬ鋭さを宿していた。
尚も二人を見下ろしつつ、悠然と彼は口を開く。

「ったく、殺し合いたあよお。何だってんなもんに俺達が巻き込まれなきゃあならねぇんだっての。
面倒事は嫌いなんだよこの野郎」

如何にも鬱陶しいといった口調で語る男が徐に指を鳴らし、岩山がゆっくりと崩れていく。
男が巻き起こしたこれは、ジバルンバという呪文によるもの。一定時間の後に大地を爆ぜさせるというジバ系の呪文、その極地だ。
伝わる世界が少ない故にジバ系を知り得ない少女や闘士にも、呪文の強大さとそれを操るこの男の力の凄まじさは十二分に伝わった。

521戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/15(日) 23:59:59 ID:RnGgooy20

「………ええっと、誰?というか、何?魔物?」

尚も張り詰めた空気が残る中、先に口を開いたのは少女。
空気を読まないあっけらかんとした口調とは対象的に、青年が目付きと同様鋭い声を上げた。

「俺はジャンボ。魔物かってお前、見りゃわかんだろ。ドワーフだよドワーフ」

呆れた様な口振りで簡易に自己紹介を済ませ、徐にその右手の弓を構えた。
鋭く光る目がヘルバトラーを射抜き、その弓の弦が強く引かれる。

「で、テメーは少なくとも乗ってるんだよな?
あの洞窟の時や根源とやらが造ったコピーとも雰囲気が違う。おまけに最初のあそこにいなかったとなりゃあ、考え付くのは主催の手下って事なんだろうからな」
「ほう、随分とよく見ていたものだな」
「こちとら商売もやってるんでね。観察眼は養っとかねーとヘタ掴まされちまう」

会話をしつつも、三者の間の空気は張り詰めたままに変わりない。
状況を伺い合う中で、最初に動いたのはヘルバトラーだった。

522戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:00:24 ID:MipmIT2M0

「………ええっと、誰?というか、何?魔物?」

尚も張り詰めた空気が残る中、先に口を開いたのは少女。
空気を読まないあっけらかんとした口調とは対象的に、青年が目付きと同様鋭い声を上げた。

「俺はジャンボ。魔物かってお前、見りゃわかんだろ。ドワーフだよドワーフ」

呆れた様な口振りで簡易に自己紹介を済ませ、徐にその右手の弓を構えた。
鋭く光る目がヘルバトラーを射抜き、その弓の弦が強く引かれる。

「で、テメーは少なくとも乗ってるんだよな?
あの洞窟の時や根源とやらが造ったコピーとも雰囲気が違う。おまけに最初のあそこにいなかったとなりゃあ、考え付くのは主催の手下って事なんだろうからな」
「ほう、随分とよく見ていたものだな」
「こちとら商売もやってるんでね。観察眼は養っとかねーとヘタ掴まされちまう」

会話をしつつも、三者の間の空気は張り詰めたままに変わりない。
状況を伺い合う中で、最初に動いたのはヘルバトラーだった。

523戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:01:41 ID:MipmIT2M0
大地を先程のように大きく打ち鳴らし、隆起させる。
ジャンボは咄嗟に後方へと跳んだが、その隙を狙い翼を広げる。

「……ふん、流石にここから更に二対一はこちらも消耗が大きい。
ここは一つ、引かせてもらうとしよう」
「ほーお。それで逃すとでも?」

番えられていた矢が放たれ、猛然と空を駆けた。
それを躱しつつ、ヘルバトラーは走へと移ろうとする。
しかし、ジャンボと名乗ったドワーフの腕は確かなもので、時たま挟まれる四連の矢や雷の矢の前に中々それを許さない。
埒が開かんな、と独り言を漏らし、ヘルバトラーは素早く次の手を打つ。
撤退では無く回避を念頭においた動きへと切り替え、その代わりに声を張り上げる。

「しかし、ドワーフよ。
貴様はどうして殺し合いを破壊しようとする?」
「……んなもん決まってんだろーが。こんな趣味悪いゲーム、乗る方がどうかしてらあ」
「嘘を吐くなよ。悪いが、今の俺は人間を見る目が大分肥えていてな。
貴様はそういう人間ではない───尤も、分かるのはそこまでだがな。しかし、だからこそ気にかかる」

そう言いながら、彼は燃え盛る業火を吐き出す。
それを守りの霧で打ち消しながら、ジャンボは苦々しげに口を歪め。

「なら、簡単に言うぜ───ムカつくんだよ、テメーら。
こちとら平穏無事な生活を送りてぇだけだっつーのに、わざわざやれ世界征服だのやれ殺し合いだのとおっ始めやがって。
それでもまあ、俺だけが巻き込まれんならそれでもいいけどよ───」

そこでチラリとターニアを一瞥し、ジャンボはその目を更に鋭くし、射抜かんばかりに睨みつける。

「こいつみてーな無力な奴を平気で犠牲にする、そう言うのが一番ムカつくんだよ。
そうやって簡単に日常が踏み躙られる
そんでもって俺ぁ───借りはきっちり返すタチなんだ。金も、怒りもよ」

それで言葉は終わりと言わんばかりに、放たれるのは光を纏う鋭い矢の連射。
それも、先程の連射の二倍近くの矢が放たれた。

「ふ、ならばやってみろ。出来るものなら、な」

ヘルバトラーも最後にそれだけを呟き、最大級の業火を吐き出す。
何本かの矢がその炎に拮抗するも燃え尽き、炎を飛び越えた残りも流石に躱され。
更に、収まらぬ炎は彼等を焼き尽くさんと迫り来る。
瞬時にジャンボが守りの霧を撒き、全員を炎から守ったが───

「………逃げられやがったか」

ジャンボの舌打ち。
そうして池のほとりには、三人と一匹が取り残される事となった。

524戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:02:25 ID:MipmIT2M0
「………う、ん………?」
「お、目ぇ覚めたか。大丈夫か?」

意識が覚醒すると共に、耳に飛び込んでくる気怠げな声。
聞き覚えがないその声に、ターニアは目を開き───

「っ!な、なに…!?」
「………あー、成る程、気持ちは分かるが落ち着いてくれや。うん。俺も最初はビビったよ、まさかこんなカビ団子にされるたぁ………」

目の前にいた緑色のそれに、思わず後退りしてしまった。
心優しい魔物がいる、というのはターニアも知っている。確か一匹や二匹、もう一人の兄が連れていた記憶があったからだ。
しかし、魔物に襲われて気を失ってから漸く目覚めた矢先にまた魔物がいれば、どんな人間でも警戒しない訳がない。───尤も、目の前のそれは魔物ではないのだが。

「…………ーい、おいこらー。聞いてんのかー」

ふと気付くと、またもそれが自分へと話しかけていた。
思わず身体を強張らせ、近くにあったバッグを盾のように構える。
そんなターニアの反応に、それは何故だか様子がおかしく───心なしか、焦っているようにも感じられる───なっていた。

「少なくとも、お前に危害は与えねえからよ───頼むから落ち着いてくれや、なあ?」

ああくそ、これだから年下相手は───などとぶつぶつ呟くそれの姿は、ターニアは何故か不安が取り除かれるのを感じた。
何かに似ている───そう考えた時にはもう、反射的にその答えが出ていて。

「お兄、ちゃん?」

ふと口から溢れた言葉に、目の前のそれが大きく肩を震わせた───まるで、懐かしい言葉を聞いたかのように。
口から勝手に出てきた言葉に対してのそんな彼の反応が、ターニアにそれを思い出させた。
外見は全くと言って良いほど似てない、というかそもそも人間ですらない。
それに、こんなぶっきらぼうではないし、もっと丁寧に接してくれる。
けれど。
───ある日の夕暮れ。
二人で歩いたライフコッドの片隅で。
何の気なしに呟いた、一つの言葉。

『お兄、ちゃん』
『ッ!?バネッサ!?』
『ふえっ!?』
『………ああ、ターニアか。ごめんね、何でもないや』

「…ふふふ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」
「何だよ、何も出やしねえぞ」

何故だか、最初に出会ったあの「兄」とそっくりな気がして。
ターニアの心は、少しだけ安堵に包まれた。

525戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:03:11 ID:MipmIT2M0
「……………へ」
「へ?」

と、そこで。
後ろから変な声が聞こえたと思い振り返れば、そこにいたのは赤髪の少女。
暫く固まっていた少女は、やがてとんでもなく酷いものを見る目に変わり。

「変態だーーーーーっ!!」

などと、唐突に大声を上げた。
その大声に面食らっている二人に構わず、少女が真っ直ぐに向かうのはドワーフの青年。

「あんたねえ、見ず知らずの少女にお姉ちゃんって呼ばれるのがそんなに嬉しいの!?
まさか何!?妹萌え〜とか言っちゃうタイプの変態!?というか変態なのは確定でいいんだよねにやけてたもん!」
「いや、違、違うっての!にやけてたのは単純に昔いた自分の妹を思い出して…」
「実の妹に欲情してたの!?」
「畜生こいつ面倒臭えなオイ!」

喧々諤々としている二人を、ポカンと眺めるターニア。
と、背中から寄り添う温かい感覚。
振り返ると、そこにいたのはキラーパンサー。
思わず、ひっ、と声が出るが、敵意が無い───というか思いっきりリラックスして、挙句の果てにはゴロゴロと猫のように喉を鳴らしていては警戒する方が無茶というものだろう。
と、そこで暫く罵り合っていた二人がやっと落ち着きを取り戻した様で。

「………あー、なんだ。いい加減、今後の算段を決めていいか?」

その言葉で、漸く情報交換が行われる事になった。

526戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:04:03 ID:MipmIT2M0




「あー、つまりそいつら三人は一応信用出来る…と」
「うん、まー悪い奴じゃないたあ思うよ?特に、そう。この人。
で、そっちの…何だっけ、ゲレンデ?そっちについてはどーよ」
「ゲレゲレさんです。ええと、このゲマって人以外は大丈夫らしいですね。アベルって人とパパスって人は一番食いついてました」

そして。
ターニア、ジャンボ、そして少女───ポーラの情報交換の結果は、想像以上に芳しいものとなった。
というのも、キラーパンサーとの意思疎通が思いの外上手くいったという事がある。
どうやら随分と人間に慣れているらしく、言葉も殆ど分かっているような態度を見せ、挙句の果てには名簿を指差して知り合いらしき人物まで紹介してくれた。
因みにキラーパンサーの名前だが、彼に支給されていた絵本を発見したターニアがその登場人物の名前を試した結果、最も食いつきが良かったということでこれが採用された。

「んじゃまあ、そのゲマってのとエルキモスっての、姫様のニセモンに注意を払っときゃあいい訳か」
「うん、エルギオスさんね。可哀想だからちゃんと呼んであげよ?発想がサンディと同じだからね?」

ゲマ。
キラーパンサーがかなりの敵意を剥き出しにしており、詳細は不明だが危険と思われる男。
エルキモス、もといエルギオス。
ポーラ曰く、人間に絶望してやさぐれて世界をぶっ壊そうとした友人の上司の上司との事。全くもって意味が分からないが、とりあえず実力面ではとんでもなく危険という事だけは覚えておけ、らしい。
姫様のニセモン、もとい魔勇者アンルシア。
勇者になりたいが為に何でもやりかねない危険人物、勇者姫アンルシアと同じ顔だが胸で見分けられる。因みにこれを言った瞬間にジャンボは二人から殴られた。
その他もろもろ、仲間についてなどの確認が終わったところで、「よし」と手を叩きジャンボが立ち上がった。

527戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:05:03 ID:MipmIT2M0
「よし、んじゃあこれからどこに行くかだな。
個人的にはこっから北行って───」
「あ、あたしパス」

と、そこで。
彼の言葉を遮るポーラの一言に、空気が一瞬にして凍りついた。

「…理由を聞こうか」
「言いたくない」

即答。
やり取りだけ見ればふざけたものに写るかも知れないが、お互いの表情は真剣そのもの。
ターニアが固唾を呑んで見守る中、静寂が続き───

「……はぁ、ったく。俺が縛れる訳じゃねーし、しょうがねえか」

折れたのは、ジャンボの方だった。
この場でどう動くか───そんなもの、そもそも強いる事が出来る物ではない。
別れたいというのであれば、致し方無い事だろう。

「とまあ、そういう訳でお別れだ。死ぬんじゃねーぞ?
ターニア、ゲレゲレなら多分乗っても大丈夫だ。乗せてもらえ」
「うん、分かった。……ポーラさん、頑張って下さいね」
「うん。ま、そう簡単にはくたばらないって」

最後にそう言い残し、ポーラは東の山の方角へと歩いて行く。
それを見届け、ジャンボとターニアも改めて顔を見合わせた。

「よし、ターニア。俺は北の城に向かおうと思うが、お前はどうだ?」
「うん、私もそうしようと思ってたの。お兄ちゃんを探したいから」
「決定、だな。それじゃあ出発だ」

そうして一路北を目指し、一行はその歩みを進め始めた。

528戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:05:37 ID:MipmIT2M0
「………悪いね」

二人と一匹───いや、一人と二匹と呼ぶべきなのか───の姿が見えなくなったと確認し、ポーラは呟く。
その右手はしっかりと剣を握る一方で、反対に左手はその胸を掻き毟っていた。
激しくなる心臓の動悸にを抑えながら、譫言のように繰り返す。

「あの人達もいい人の筈、嘘吐きじゃない。あの人達もいい人の筈、嘘吐きじゃない。あの人達も……」

───ポーラという少女は、小さな頃から見えてはいけないものを見る事が出来た。
それは少女にとっては決して長所では無く、寧ろ非実在の恐怖が隣り合わせに有る事は常に彼女の心を蝕み続けた。
───例えば、真夜中の笑い声。
───例えば、夕暮れ時に映る影。
それらが何の変哲もない現実であっても、彼女には全て恐怖の対象に見えて。
そのせいで、周囲からも散々虐められた。
───例えば、あいつは幽霊の仲間だ、呪われるぞ、と罵られたり。
───例えば、幽霊の討伐だ、と散々に檜の棒で叩かれたり。
それは、怖がりで引っ込み思案な彼女が他人を信じられなくなるには十分過ぎた。
それを見兼ねた彼女の母親が勧めた武術においてその才能が開花し、虐められる事が無くなっても彼女はそれを治すことは出来なかった。
そうして孤独になってかなりの時が過ぎ、ただ己の体を鍛える事が楽しみとなっていた少女の前に。

妖精と会話し、己を天使と名乗る、その男が現れた。

529戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:06:25 ID:MipmIT2M0

自分以外に「見える」人と、始めて出会った喜び。
それが、初めて彼女に友を与えた。
旅をする為の仲間を探しているんだ、と言う彼に、自分が体を鍛えていた意味はここにあったのだと気付いた。
自分以外にも二人着いてきて最初は不安だったが、それも旅の内でわかり合う事が出来た。
もう少し明るくなった方が楽しくていい、と言われ、頑張って人と接せるようになったのはいつだったろうか。そう言えば、この喋り方はその時に手に入れたものでもあった。
スクルド達も大事な仲間だけれど───それでも、一番の友達は、一番の救いは、あの人だけ。
他人と接する事は、出来るようになった。
でも、彼以外の人を信じる事は、理性で分かっていても不可能だった。

「……早く会いたい、なーんて……乙女チックはあたしにゃ似合わないかな」

唯一信じられるあの人に、想いを馳せる。
願わくば、一刻も早く会えますように。
そして、それまで誰とも出会いませんように。

───こんな場所で、全く信じられない他の人間に、「手加減」出来るかどうか。
───自分でも、分からないのだから。

530戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:07:27 ID:MipmIT2M0

「ふん、中々やる奴らよ」

山を西へとひた走るヘルバトラー。
片手で袋から小さなビンを掴み、一雫だけ飲み込むと、先の戦闘で受けた傷がみるみる内に回復していく。
世界樹の雫。
圧倒的な治癒力をもつそれは、全て使わずともその傷を全回復させるだけの力を持っていた。

「ああいう手合いが多いというなら、やはりすぐに要所へ仕掛けるのはリスクが高そうだ」

そう呟きながら、反対の手で器用に地図を開く。
今彼が向かっているのは、東にある岩山を抜ける為の洞窟だ。
その理由は単純、手練が集まる為に大きく不利になり得ると言うのならばその前に闘えばいいだけの事という訳だ。
ただ一つの通り道であるあそこならば、城を目指す参加者は少なからず通る筈。

「………しかし、な」

先程の戦闘を思い出し、ふと呟く。
思い浮かぶのは、少女への攻撃というフェイントを仕掛けた事。
以前の───この記憶を持つ「自分」なら、人質など取らずに真っ向から勝負し勝利を収めんと戦った筈だ。
しっかりと実力に裏付けされた自信を持つ自分が、あのような卑怯と言える手を使った事。

531戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:08:33 ID:MipmIT2M0

「何処ぞの俺は、己よりも命令を優先していたという訳か」

その理由は、やはり他の世界の自分だろう。
自らの役目に疑問を感じていて───例えば、自分よりも強い対象の警護だとか───しかし敢えてそれに甘んじて任務を遂行する自分。
そんな別の世界のヘルバトラーが、真に忠誠を誓ってなどいないあのエビルプリーストの命令に従ったという事なら一応の辻褄は合う。

「やけにあのキラーパンサーの素性が脳裏に浮かぶと思ったが、或いはあれもそういう事か」

まるで最初から知っていたかのようにスラスラと出てきた、あの魔獣の本質。
それも或いは、自分が共に誰かに従属していた為なのかもしれない。
そんな愚にも付かない考えも浮かんだが、頭を振って余計な思考は払い除けた。

「───まあ、如何であろうと関係無い。
俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぞ、エビルプリースト」

ヘルバトラーは進む。
どんな自分でも、自分は自分だとそう言って。
全ては心のままに───やりたい事はどの自分も同じ。
地獄の闘士として、全てを壊すまで暴れるのみなのだから。

532戦闘開始 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:09:18 ID:MipmIT2M0
 【D-5/池のほとり/朝】
 【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
 [状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
 [装備]:悪魔のツメ@DQ5
 [道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
 [思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。

 【ターニア@DQ6】
 [状態]:体の一部に擦り傷あり
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式、道具1〜3
 [思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく。

 【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
 [状態]:健康
 [装備]:ナイトスナイパー@DQ8
 [道具]:支給品一式、道具0〜2
 [思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:休憩後はトロデーン城へ。
 [備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。

 【D-5/山岳地帯(東側)/朝】
 【ポーラ(バトルマスター♀)@DQ9】
 [状態]:HP3/4、足にダメージ(中)
 [装備]:炎の剣@DQ6
 [道具]:支給品一式、道具0〜2
 [思考]:
基本方針:9主人公を探す。他人は信じたいが正直信じられない。

 【D-5/山岳地帯(西側)/朝】
 【ヘルバトラー@JOKER】
 [状態]:HP3/5、腹に十字の傷(回復中)、右腕に傷
 [装備]:スレイプニール@DQ10
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:
基本方針:心のままに闘う。
1:西の洞窟へ出入りする参加者を狙う。
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。

533 ◆KV7BL7iLes:2015/11/16(月) 00:11:16 ID:MipmIT2M0
投下終了します。
本スレに投下して下さった方、ありがとうございます。

534彼の翼になれたなら  ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 02:58:57 ID:A1gA7itY0
ギガデーモンは、興奮していた。

ゆっくりと大きく息を吸い込み、一瞬の間の後、心を落ち着かせるように吐き出す。木々が煽られて大きく揺れた。
次に、尾を思い切り大地に叩きつける。地響きが轟いた。
目の前の木を摘む。流石に雑草のよう、とまではいかぬも、く、と力を込めれば呆気なく抵抗は弱まり、地面の隆起と共に抜け取れた。

ギガデーモンは、興奮していた。

やはり、自身の身体に間違いない。ぐぐと握られた拳。はためく翼。堅固な鱗に、長く伸びた舌。また、牙の一本一本に至るまで、確かに自身の神経が伝っており、繊細な感覚も以前のままであった。

しかし、生前の彼と明らかに異なったものがひとつ。

端的に言い表すならば――――そのサイズ。

エビルプリーストの手によって蘇り、JOKERとしての任を与えられた際、彼は文字通り"JOKER"の力をその身に宿された。
元来、巨体とそこから繰り出される怪力を誇っていたギガデーモンではあるが、今のその姿は、それを最大限にまで高めた形と言えよう。

なにせ、巨大であった。
隣の小山と背丈を並べようかというほどに、彼は巨大に生まれ変わっていた。

「く……くくくっ……くわーっはっはっはっは!」

これが、笑わずにいられようものか。
エビルプリースト如きに侍従するのは癪ではあったが、中々粋なことをしてくれる。

「くくく……面白いではないか」

ギガデーモンは、戦うことを良く好んだ。しかし、それは所謂戦闘狂、バトルジャンキーとは一線を画するものであり、彼の中の「戦い」は、一般に使われる意味とは少し違った。

535彼の翼になれたなら2/5  ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 03:01:56 ID:A1gA7itY0
彼が快楽を覚える瞬間。それは強者を、或いは弱者を嬲り殺す瞬間であった。
平伏す姿を見下ろし、命乞いに頷き、その上で地に擦りつけられた頭を踏み、潰す。
また、屈強な戦士を力でねじ伏せ、信じられないといった様子で血を流す相手を存分に眺めた後、再度鎚を振るう。
相手の身体が間抜けな音を奏でる度に、相手の声帯が滑稽な悲鳴を歌う度に、極上の快楽が彼を支配した。

彼は言う。

――俺は「戦う」ことが好きなのではない。「勝つ」ことが好きなのだ――

その為ならば、エビルプリーストさえすることのなかった、罠の設置や不意打ちすらも、何ら躊躇もなくやってのけた。

現実として、それらはユーリル率いる導かれし者達に造作もなく看破され、易々と殺されてしまったのはギガデーモンのほうであったが。

だが、今の彼に姑息な手段は必要ない。
この身ひとつあれば、例え対峙する相手が勇者らであろうとも嬲り殺すことは容易い。そう思うほどに彼は自信に満ち溢れ、そう思わせるほどの力を自らに感じていた。そして、その通りの未来を想像して、くつくつと喉を鳴らす。

「さて、仕事をせねばなるまいな」

ここは殺し合いの舞台。JOKERとしての役割は果たさねばならぬだろう。やはり癪ではあるが、まあ、利害の一致、というやつだ。
ふくろを覗けば、なるほどやはり気が利くらしい、上等な品々が支給されていた。
しかし、彼はふくろごとそれらを打ち捨てた。
そして辺りを見渡し、いかにも丈夫そうな大木を手に取るなりそのまま引き抜き、爪で形を整え簡易な棍棒を作ると、肩に担いだ。

「ふん、この程度でも充分足るわ」

そんな強者の余裕を見せつけ、ギガデーモンは地鳴りを響かせ南下してゆく。

目指すは、トラペッタ。

「くくく、一石三鳥、というものか」


***

大木が引き抜かれたことによりポッカリと空いた大きな穴。
そのすぐ隣にある木の枝葉に隠れ、ガタガタと震える小さな妖精が居た。
派手な衣装と髪色に、ガングロと呼ばれるまでに濃く焼けた肌。それに桃色の羽を持ち合わせた妖精――サンディ。

もしもギガデーモンが生前と変わらぬ大きさであったなら、もしもサンディが人並みの大きさであったなら、凄惨な結末を迎えていたことだろう。或いは、彼女の身につけたきんのくちばしが幸運をもたらしたのかも知れない。

536彼の翼になれたなら 3/5  ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 03:06:50 ID:A1gA7itY0
ヤバイって。なによアイツ。ちょーヤバイんですケド。デカすぎでしょ。とにかく助かったから良かった……って全然助かってないんですケド!!

ありえなくない? 殺し合いとかさ?

アタシ、テンチョーと楽しくお喋りしてたハズなんですケド。
気づいたらなに? ビビるプリクラ?(超盛れそうな名前超うける)とかって奴が神になるとかどうとか?(早速話盛り過ぎでしょ超うける)
何がヤバイって、なんでかアーク以外にもアタシのこと見えてるっぽいのがヤバイ。何人かと完全に目があったヤバイ。あそこに居たのが全員天使とかありえないっしょ。だって天使はおねーちゃんが全部星に変えちゃったはずだし。

てゆーか、そのおねーちゃんは何やってんのよ。フツー助けにこない?



やっぱり――――用済みってことなの?



あーもう、訳わかんない。

とにかく、全然よくわかってないケド、アークのところに行かないと。アイツにはアタシが着いていてやらないといけないんだから。

だってアイツ、死んだズッキーニャみたいな目をしてた。
あのとき別れてから、どうしてるかなって少し様子を見に行ったら、もう完全に天使の力を失って人間になってたから、アタシのことなんて見えてなかったし、ホントに死んじゃったみたいにずっと塞ぎ込んでて。

なのに、なのに、今まで通り人助けなんかしちゃって、今まで通り笑顔を振りまいたりなんかしちゃって。
無理してるってアタシにはわかったケド、声なんて届かないし、色々やってみても、どうしようもなくて、後ろを着いていくくらいしかできなかった。
だから、あの時アークが何を願って女神の果実を食べたのかはわからないケド、とにかく、アタシの姿がまたアークに見えるようになったことが、超嬉しかったんだ。
しかも、それだけじゃないのよ。アーク、笑ってくれた。「サンディ」ってアタシの名前を呼んで、少しだけど、ちゃんと笑ってくれた。

537彼の翼になれたなら 4/5  ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 03:11:40 ID:A1gA7itY0

あの時はつい、キモい、なんて言っちゃったけど、実は心の中では、アタシがこれからアークの笑顔を取り戻していくんだって、息巻いてた。
テンチョーもホイッスルをアークに渡してたし、これからはアークの思った通りに自由に生きて欲しいなって、アタシはそれにくっついていけたらサイコーだなって思ってた。

そしたら、コレ。

ありえないんですケド、殺し合いとか。はぁ?ってカンジ。
初っ端からあんな化物と遭遇するし、アークはそばに居ないし。アゲ↑アゲ↑ガール☆のアタシも流石にサゲぽよため息。

ふくろの中身にしたってアタシには使えそうもないものしかないんだもん。

かわいいからつけてみたけど、この金ピカのくちばし、なんなの。
それに、これ。馬面した天使のハンドパペット。こういうのを人間が腕に嵌めて遊んでるのを見たことある。でもアタシには大きすぎてきぐるみくらいにしか使えない。いや、仮に普通に使えたとしてもどうしようもないんですケド。
でも、この剣。武器とかそうゆーの全然知らないけど、これがすごい剣だっていうのはアタシにもわかる。もしもこれをアークに届けられれば、悪いやつらをみんなぶっ飛ばして、あのプリクラも倒してくれるかもしれない。何より、アークが死ぬ確率を少しでも減らせるなら、それが一番良い。

あ、そーいえばさっきのデカいの、ふくろを捨てていってたような。

ええと、ええと、あ、あった。
ホント、馬鹿なことするよね。

では早速……うわっ、何このダサい帽子。なになに、インテリハット?
ファッションリーダーサンディちゃんがこんな帽子被ってるなんて知れたら……いや、むしろ一代ブーム来ちゃうかも?
うんうん、インテリガールにも憧れてたし悪くないカモ。ちょっと、だいぶデカいケド。よいしょ。

「……ま、こんなんで賢くなれたら、誰も苦労なんか――――」

待って。さっきのアイツ。もしかして最初の広場でエビルプリーストの近くに居たやつじゃない? 確か、参加者リストがふくろの中にあったよね。
うん、やっぱりそうだ。名簿の最後のページに纏めて載ってる五匹の魔物。これらはきっとこの殺し合いを円滑に進めるために送られた手駒だ。

『一石三鳥』

アイツ、そう言ってた。
地図によると、アタシのいるところは多分ここだから、アイツの向かった南のほうには……街がある!

もしもアタシがエビルプリーストとグルだったとして、ギガデーモンと同じだけ巨大な身体を持っていたら、どうするだろう。

538彼の翼になれたなら 5/5  ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 03:17:27 ID:A1gA7itY0

「……破壊だ」

そう。参加者が休息地とか拠点とかにしかねない街を破壊することだ。名簿を見る限り、アタシみたいに戦う力のなさそうな子供も何人か(どうしてかはわからないケド)この場にいるみたいだし、そういう人はまず間違いなく助けを、若しくは隠れ場を求めて拠点に行くはず。
そこで街をぶち壊して、ついでに弱者をあぶり出して殺す。これで二鳥。そして、もう一羽は。

アタシは知ってる。自らの危険を省みることなく、それが当たり前みたいに、なんともないように、人助けを一番に考えてしまう人を、アタシはよぉく知ってる。

もしも近くで戦闘の音が聞こえてきたら。もしも街のある方向からいくつもの黒い煙が挙がっているのを見たら。アイツなら、アークならきっと……ううん、絶対に駆けつけてしまう。

そういう、正義感を持った、勇者と呼ばれる人種を誘い出して、殺す。
ゲームに乗って、生き残りたいと思ってる連中なら寄ってはこないはず。そういう奴らはむしろ生かしておいたほうがゲームにとって都合がいいから。

よーするにヤツの作戦は、「拠点を壊滅させて回ることで、参加者の休息地を潰し、弱い者はあぶり出し、正義の者はおびき出し、一網打尽にする」っていう一石三鳥の作戦。

ふふん、このサンディにかかればこんなもんよ。

いや、そんなこと言ってられないっしょ。ヤバい。ちょーヤバいんですケド。あんなデカいやつに攻められたらひとたまりもないでしょ。
でも、希望がないわけでもないわね。ギガデーモンが敵側なんだとしたら、当然支給品だって良くしてもらってるはずよ。
その優遇されたものの中に、わざわざこの帽子が入れられてるってことは、それはつまり、オツムに難アリなところが少なからずあるってことよね。貴重な支給品を自分から捨てちゃう時点で相当なアレだけどネ。

でも、どうする。
それにしたってアレを止めるには、それなりの戦力が要る。だけど、信用できる人の少ないこの地で、それだけの仲間を集められるかな? 仲間集めにだって危険は無いとは限らない訳だし。
かと言ってシカトすれば、下手をしたらアークが殺されかねない。

さあ、どうする。

どうするアタシ。

どうする。



【G-1/森林地帯/朝】
 
【サンディ@DQ9】
 [状態]:健康 ラッキーガール
 [装備]:きんのくちばし@DQ3 インテリハット@DQ7 
 [道具]:支給品一式 ロトの剣 白き導き手@DQ10 ギガデーモンのふくろ(不明支給品0��2)
 [思考]:第一方針 アークを探す
    �� 第二方針 ギガデーモンをなんとかできたら……?
 [備考]:※インテリハットの効果で賢くなっています。
     ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
    �� ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。


【ギガデーモン@JOKER】
 [状態]:健康 SIZE:G
 [装備]:じょうぶなたいぼく@森
 [道具]:なし
 [思考]:基本方針 拠点を破壊して回る。弱者をあぶり出して嬲り殺す。あわよくば勇者をおびき出して嬲り殺す。
    �� 第一方針 まずはトラペッタへ。

539 ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 03:26:36 ID:A1gA7itY0
投下終了です。

サンディの支給品の「白き導き手@DQ10」についてですが、単なる一方通行の通信機とは言え3rd以降のアイテムになるので、問題はないでしょうか。

続けてもうひとつ、きんのくちばしなのですが、こちらは本来SFC版では男性専用装備であり、性格についてもラッキーガールなるものは存在せず、ラッキーボーイのみとなっております。
こちらのほうも、差し支えはありますでしょうか。

皆様が問題ありと判断なされた場合、早急に手直しして投稿し直したいと思っております。よろしくお願いします。

540ただ一匹の名無しだ:2015/11/19(木) 05:07:40 ID:PbIVMvaY0
投下乙です
何だかんだ言いつつええ子やなサンディ
発売当時毛嫌いしてゴメンな…

さて装備の件についてですが「きんのくちばし」に関しては、今までのロワでも性別限定装備の縛りはスルーされてた事が多いので、個人的には問題は無いように思われます。
「白き導き手」は…今回シオンが参戦していない為、この場でどういう効果になるかイマイチ想像しづらいですが、
そもそもが余程の重要アイテムではない事と、精々一方通行のトランシーバー程度ならばこちらも問題ないかと思われます。
(どちらにせよ現状のサンディでは使いこなせないようですし)

541 ◆hXOmdUGUdg:2015/11/19(木) 11:57:54 ID:A1gA7itY0
ありがとうございます。期限も迫っておりますので、本スレのほうにも一度投稿してみます。

542ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 12:34:29 ID:YOBqxoqY0
問題点として
サイズ・Gはブオーンを基準とするなら森の木々の倍くらいの背丈はあるはず
そうなると平原や町など空が開けてる場所のキャラクターはかなり遠くからでも視認できてしまう
気付かないなら気付かない理由付けが、気付くなら向かう逃げる等のリアクションが必要
つまり「直接書いていないキャタクター」の行動を広範囲において縛ることになることだと思う
通すのだったらこの点について改善案がほしい

543ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 12:53:33 ID:ARGit4KU0
ttps://www.youtube.com/watch?v=R5rAVbi0qP0

ちなみにサイズGのギガデーモンってのはこれのことなの?

544ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 13:16:54 ID:DsubxZ8I0
4本編(リメイク)の大きさでも十分大きいし、
ヘルバトラーのようにjokerの特技習得みたいな強化のほうがいいかもね?

545ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 13:29:45 ID:ARGit4KU0
でも同等か少し小さい程度のアトラスが1stで対して行動縛らなかったなら、こいつの視認範囲もたかがしれてるのでは
少なくとも別エリアから見えるほどの大きさではないだろう

546ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 13:31:58 ID:t1DOEBcoO
イメージ的には10の固体が二回りくらい大きくなったのを想像してた
そのくらいなら平原でも1エリアくらい間隔があれば見えないし

547ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 14:02:12 ID:1do5p9y.0
アトラスが同等の大きさってどこから出てきたんだ?
モンスターズだとアトラスはメガボディでもっと小さいけど

548ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 14:17:09 ID:lphk2lxg0
個人的には有りでもいいと思うけど、反対意見多いならそこまで推すつもりもないよ
てかさっさと結論出さないとこの付近が書けない

549ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 19:39:00 ID:o/MjFU4I0
>>543
そうだけど戦闘画面だと枠内におさめるためにちっちゃくなったりするからあんまり参考にはならないよ
イベントシーンがあるとサイズ・Gモンスターって凄く大きく演出される
ギガデーモンはイベントシーンないけど

550ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 19:52:00 ID:Cpl6l26.0
常時巨大が不味いのなら、
普段は通常サイズで、自由に巨大化出来る能力ってことするのはどう?
勿論作者さんがそういう方向で修正することに納得してくれるならだけど

551ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 20:12:55 ID:i8llX6kQO
自由にサイズを変えられるのは流石に便利が過ぎるような……

元より大きくはなってるけどGサイズほどではない、くらいはダメなのかね?
なにがなんでも元のサイズじゃダメってわけじゃないなら、元より大きく、且つギガサイズほど支障にならない範囲の巨大化なら、
修正も少しで済むし、他の書き手さんへの影響も減るし

552ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 20:22:49 ID:o/MjFU4I0
サイズ・Gって明記するんじゃなくて本来よりも大きくなったって描写なら大丈夫かもね

553ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 21:36:09 ID:GC9qamR.0
>>549
そのイベントシーンとやらはギガデーモンにはないんだよね?
ならGサイズギガデーモンの大きさの基準になるのは>>543の動画だけなのでは?
で、その動画見る限り、そこまで周囲のキャラの行動に影響与える程の大きさではなさそうだけど
1エリア分くらい離れてれば「気付かなかった」で十分通りそう

554 ◆hXOmdUGUdg:2015/11/22(日) 00:05:41 ID:4OXSWODE0
皆様本当に申し訳ないです。
>>551様の通り、JOKERよりも一回りサイズを小さくするということでよろしいでしょうか?
具体的に、ほとんどMサイズ寄りのGとMの中間、通常建物5,6階相当のところを3,4階相当、さらに言えばトラペッタの外壁から顔若しくは肩が覗く程度、でどうでしょうか?
これくらいでしたら1stのアトラスと同等か一回り上程の大きさになりますし、外壁含め街を破壊できること及び作中の描写にも違和感はないのではと思います。

555ただ一匹の名無しだ:2015/11/22(日) 00:37:28 ID:oJiSW0Rs0
大きさで問題視されてるのは他エリアからも姿が見える場合のあれこれなんだよね?
だったらそれで問題ないんじゃないかと個人的には思うよ

556 ◆KV7BL7iLes:2015/11/22(日) 08:03:29 ID:jA9bvu3YO
自分もギガデーモンについてはそれでいいかと

それと、ジャンボについての指摘があったので
ジャンボという名前は公式配信でのキャラであるじゃんぼりぃから着想を得たものです
そもそも自分はソウラは未読ですし、性格面で似てしまったのは単なる偶然と思われます

557ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 11:16:13 ID:UE2KyYlA0
偶然なら偶然でそれでいいが、これは10主人公に限らずデフォルト名が存在してるのに違う名前にしてる理由はちょいと知りたかったり
デフォルト名だと何か支障あったりするんだろうかと思ってしまう。DQ5の娘なんか名前四文字超えてたりするし。10だと問題ないけど
まぁデフォ名が「ナイン」という8主人公の「エイト」と比べたらあまりにもあんまりな9主人公と、「エックス」だと某へぇ〜イイネ!が思い浮かぶ10主人公に関しては変えたくなる気持ちはわからんでもないけどw

558ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:04:24 ID:sh9ixqfw0
デフォ名じゃなきゃダメなんて決まりあったの?
1stとか2ndでも割りと自由に名前付けてたから何でもありかと思ってた

559ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:07:15 ID:0vbsFYO20
ちょっと待てちょっと待て
デフォルト名とかどうとか少し上のギガサイズ関連議論とか、最近どうでもいいことで騒ぎ過ぎじゃないのか?
そんなことで書き手のやる気を削いでしまう方がこの企画の為になってないって

いいからみんな少し落ち着こうぜ

560ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:22:55 ID:zF5Yr34Y0
そういやギガデーモンって修正とかするんでしょうか
内容そのままで>>554の大きさに関する補足入れるだけなんだったらもうwiki載せますが

561ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:34:18 ID:6VIcea320
そういうの雑談スレがあるんだからそっちでやって

562ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:35:25 ID:rwaOeBE60
ぶっちゃけ細かくディテール決めちゃうほうがよっぽど面倒くさくなるので、修正いらないよ

563ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:41:50 ID:UE2KyYlA0
単純に興味本位で聞いたつもりだったが、どうでもいい話だったな。すまんかった。

564ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 15:40:11 ID:B0SbJ8mI0
じゃあとりあえずそのまま収録しときます

565Rock 'n' Roll!! 修正 1/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:12:33 ID:.WvqDauo0
ロックンロール(Rock and Roll, Rock ’n’ Roll)は、
1950年代半ばに現れたアメリカの大衆音楽スタイルの呼称である。
 語源については、古くからアメリカ英語の黒人スラングで
「性交」及び「交合」の意味であり、1950年代はじめには
「バカ騒ぎ」や「ダンス」という意味もあった。
〜〜 ロックンロール ウィキペディアより抜粋 〜〜



ローレルはご機嫌だった。
爆弾岩の大きさそのものは一抱えほどだったが、その重量はゆうに100kg近い。
しかしその重さをものともせず、彼は爆弾岩を抱えてご満悦だった。
今まで魔物といえばどんなにローレルが親愛の情を示してもこちらを攻撃する
凶暴な性格の相手ばかりだった。
それによってパーティを危機に陥れ、トンンラやルーナに責められることもしばしば。
その場は反省しても、またそれを繰り返してしまうのがローレルだった。
なのでローレルがこんなにも近づけてしかも触れることができたモンスターなど
数えるほどしかいなかったのだ。
鼻歌交じりでローレルは平原の丘陵を歩く。
そこでふと気づいた。手に抱えている岩の魔物がこちらをギョロりとねめつけていることに。

「む、目が覚めたか?」

ローレルは爆弾岩をそっと地面に置いて、自分はその対面に座った。

「それがしはローレル。ローレシアの……肩書などお主相手に意味あるまいな。
 お主と友になりたいローレルだ、よろしく!」

そういって手を差し出すが、爆弾岩はとくにリアクションはない。
ただギロギロとローレルを見ている。
しかしそんな反応でもローレルはホッとしていた。
襲い掛かってこられなかっただけでも大金星を得た気分である。

「それがしはお主の敵ではない。ほれ、これがそれがしが持ってる道具だ」

ローレルは自分の羽織っているローブ、懐から銀色の匙、
そして腰に下げた剣を見せつける。

「……」

当然ながらとくに反応はない。
だが心なしか爆弾岩の視線から険が薄まったような気がして
ローレルは更に踏み込んでみることにした。

「あー、あなたーのおなまーえ、なーんですかー?」

目の前の魔物が人語を解するのかどうかは解らない。
しかしなんとかコミュニケーションをとろうと
変な外人のようなイントネーションで彼は語りかけた。

ばくだんいわはしずかにたたずんでいる。

「……」

「……」

「……」

「あーもしかして、名前はないのか?」

566Rock 'n' Roll!! 修正 2/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:13:16 ID:.WvqDauo0
そういった時、爆弾岩の視線に突如として殺意がこもった(ような気がした)。

(むぉ、まずいな怒っておる……ということは名前はあるのか)

だが相手が喋れないのであれば知る方法がない。
そう思った瞬間、彼はひらめいた。

そうだ、名簿があるではないか、と。

慌てて袋の中から名簿を取り出し、パラパラとめくる。
果たしてそこにはあった。
それによりローレルは彼の種族が爆弾岩であること。
そして名前がロッキーであることを知ったのだった。

「そうか! お主はロッキーというのか!」

ゴロゴロ……
爆弾岩の名を呼んだとき、はじめてリアクションがあった。
その場をゴロゴロと転がってまた元の位置へと戻ったのだ。
もしかして喜んだのかもしれない。

「そうか、ローレル、ロッキーで名前も似ておるな!」

『ロ』しか共通点はないのだが彼はそれが嬉しくてたまらず満面の笑みを見せる。

「しかし名前があるということはお主まさか誰かご主人様がいるのか?」

普通魔物に名前はない。
あったとしてもそれは人語を操るような知性高い魔物か、
誰かに飼われているかだ。
ロッキーが全く言葉を発する様子のないことから後者ではないかと
当たりを付けてみたのだが。

ニヤリ

ばくだんいわはぶきみにわらっている。

「やはり! そうかじゃあこの中からお主のご主人様がいたら教えてくれ」

まだ爆弾岩の笑いが肯定の意味と決まったわけではないのだが、
彼はそう決めつけて話を進める。
名簿を最初からパラパラとめくり、ロッキーの反応を見る。

パラ……パラ……

しばらくして、あるページでロッキーが反応した。

ニヤリ

ばくだんいわはぶきみにほほえんだ。

そのページにはアベルという紫のターバンをかぶった青年の姿があった。

「ほほ〜〜この人がお主のご主人様かぁ」

ローレルは思う。
どうにかこのアベルと話をつけてロッキーを譲ってもらえないだろうかと。
彼にとってここまでコミュニケーションをとることのできた魔物はロッキーが初めてなのだ。
是非とも今後の人生を共に歩みたかった。
アベルを前にしてどう交渉するかと妄想を馳せる。

567Rock 'n' Roll!! 修正 3/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:14:00 ID:.WvqDauo0
テーブルの上座に座るアベル。
その対面にローレルは座り、頭を下げる。
隣には寄り添うようにロッキーが佇んでいるのだ。

―― アベル殿! どうかロッキーをそれがしにお譲り下され!!

―― なんと誠実な男なんだ。よし、ロッキーは君に任せよう!

妄想が捗り、だらしない笑みを浮かべるローレル。

「でへへへ」 ドスッ

それをみて危機感を覚えたのか、ロッキーはゴロゴロと転がってローレルにぶつかった。
ただたいして勢いもついていなかったのでローレルを現実に戻しただけで
ダメージにはなっていない。

「ああ、すまぬなロッキー。お主を放って一人の世界に浸るなどあるまじきことであった」

慌てて表情を改め、優しくロッキーの表面を撫でる。

「一緒に行かぬか、ロッキー。お主のご主人様アベルを探しに」

ニヤリ

ローレルの言葉にロッキーは不気味な微笑みで返す。
彼にとってそれはもはや肯定以外の何物でもなかった。彼の中では。

「よし、ならお主の支給された道具を見せてくれぬか?
 何か使える物があるかもしれん。いや、無理にとは言わぬがな」

「……」

ローレルの言葉にロッキーは少し迷うようなそぶりを見せ(ローレル視点)
しばらくしてあんぐりと口を大きく開けた。

ペッ

口の中から吐き出されたのは袋だった。
これがロッキーの支給品なのだろう。

「感謝するぞ、ロッキー。中を見せてもらおう」

中をのぞくとそこには三つの道具が入っていた。
順番に取り出す。

一つは指輪。
罠抜けの指輪といって装備するとあらゆる罠が装備者に対して発動しなくなるらしい。

一つは巻物が三巻。
紐で一括りにされていて、どうやら三巻セットらしい。
罠の巻物といって使用すると、使用者の半径20メートルの範囲に
あらゆる罠が発生するのだそうだ。

この指輪と巻物のコンボはかなり強力であると言える。

「しかしこれではロッキーには使えぬなぁ」

指輪も装備できないし、巻物を読むこともできない。
これではまさしく宝の持ち腐れだ。

568Rock 'n' Roll!! 修正 4/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:14:37 ID:.WvqDauo0
あとで自分に使わせてもらえるように頼んでみようかと彼は考えた。
アベルを探すために必要な場面もあるかもしれない。
その為だったらロッキーも快く貸してくれるのではないだろうか。
そう思いながら彼は最後の道具を取り出した。

「おお、これは使いようによっては凄いかもしれん……」

それは壺だった。
合成の壺といってどうやら中に入れたアイテムを合成して
より強力にするためのものらしい。
一度中に入れると割らないと取り出せない為、
使用は一回限りであるから使いどころは難しい。

だがこれもロッキー自身が使用するのは難しそうだ。

「なぁロッキー。これらのアイテムはお主が使うのは難しそうだ。
 どうだろう? これらをそれがしに貸してくれないか?」

この世界には自分やロッキーのように殺し合いを良しとしない輩だけではない。
この先、アベルを探す過程で他の参加者に襲撃される危険もあるだろう。
その中でこれらのアイテムを有効に使えれば抜け出せる危険もあるかもしれない。
そう説明するローレルにロッキーは……ニヤリ、と笑った。

「そうか! ありがとうロッキー!!」

ロッキーが自分の提案を受け入れたこと。
自分を信じて強力な道具を自分に預けてくれたことに狂喜して
ローレルはロッキーを抱き上げる。

しかし座った状態から急に立ち上がったこと。
そしてロッキーの重量が災いして、いかな強力を誇るローレルも
バランスを崩してしまった。

「ぬわぁっ」

足をもつれさせ、ロッキーを抱えたまま……なんと合成の壺の上に倒れ込んでしまった。

ヒュポッ

まるで、いやまさしく吸い込まれるように彼らは壺の中へと入ってしまう。

その勢いでグラグラと壺は揺れ……グラリ、と大きく傾くとそのまま倒れてしまった。
ローレルたちが居た場所は丘陵のちょうど小さな丘の頂点付近。
つまりそこは坂道だったわけで当然――

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ

「ぬぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」

彼らは地獄のローリングを体験する羽目になった。
頭の中はパニックでどうすればいいのかすら何も浮かばず、ただ回転に身を任せる他にない。
真っ暗な壺の中、目が回りまるで魂までもシェイクされるような不快な感覚。
脳みそが撹拌されたように蕩けてしまいそう。

いつまでそんな地獄を味わっていただろうか。

突然、転がっていた壺が大きく跳ねた。

坂の途中にあった石ころにぶつかったのだ。

569Rock 'n' Roll!! 修正 5/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:15:46 ID:.WvqDauo0
そしてそのまま地面に叩きつけられ―― 割れた。

ガッシャーンッ

地面に投げ出され、衝撃にのたうつ。

「ぐあぁっ」

しばらく全身の痛みとこみ上げる吐き気を必死に堪えていたが、
もう一匹の存在が見えないことに気づき慌てる。
早く探さなければ――彼は名を呼んだ。

「ローレル! 何処だ!?」

あれ? ローレル? 自分が探すのはロッキーではなかったか?
いやローレルを探さないと。違うロッキーが見当たらない。

混乱し、頭を押さえて蹲る。

早く、あらゆる手を使ってでも……手? 手ってなんだ?
手は手だ。自分にもついている。

彼は己の手を見つめる。

「なんだ、これは!?」

何故自分に手がついている? 違う手は最初からあった。
それよりも何故手が岩のようにゴツゴツしているのだ?
違う前から自分は岩でできていた。

混乱に拍車がかかる。

「落ち着け! まずは自分を確認するんだ!!」

大声で叫ぶ。

そして――どれだけの時間が経ったのか。
彼はようやく事態を理解した。

「なんだ、何も悩む必要はなかった。それがしは……」

彼はニヤリと不気味にほほ笑んだ。

「いや、それがし達は……合体したのだ。」

ローレルとロッキー。
二人は合成の壺によって合成され、新たな一つの生命体として爆誕した。
よく見ると彼の肌は岩だけでなくうっすらと銀色の鉱石が混じっている。
オリハルコンの匙が混じったのだろう。耐久力は飛躍的に向上しているようだ。
その表面の胴体部分を中心に竜のウロコのような緑の肌が確認できた。
ドラゴンローブもまた合成されているようだ。
これにより呪文、ブレス耐性も大幅に向上している。

「それがし達は……違う、それがしは ―― ロッキール。

 そう、それがしの名前は『爆弾岩人ロッキール』だ!」

高々に叫び、彼は歓喜に浸る。

570Rock 'n' Roll!! 修正 6/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:16:13 ID:.WvqDauo0
憧れの魔物と一つになれたこと。憧れのご主人様の役により一層立てること。
二つの想いは交わり、一つになった。

アベル様の為に!

彼は元の位置に戻り、道具を回収すると走り出した。
使えるべき主人を探すために。


【D-4/草原/朝】
【ロッキール(爆弾岩人)@ローレル@DQ2+ロッキー@DQ5】
[状態]:健康 岩石とオリハルコンとドラゴンローブの合成肌
[装備]:天空の剣
[道具]:支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3
[思考]:アベルを探し、仕える

※ローレシアの王子と爆弾岩が合成されました。
 ロッキールが死亡した場合、ローレルとロッキーの両方が死亡扱いとなります。

571ただ一匹の名無しだ:2015/12/02(水) 20:17:08 ID:.WvqDauo0
ローレルの口調に違和感を覚えた方が何人もいらっしゃったようなので
修正をしてみました
これならどうでしょうか

572CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:11:25 ID:qMa5JxGY0
 


しゃきーん しゃきーん


 鋏の音が、甲高く響く。


しゃきーん しゃきーん


 何かが居たような気がして、そこに立ち止まる。


しゃきーん しゃきーん


 けれど、そこには誰も居ない。


しゃきーん しゃきーん


 男は、身を翻し、来た道を戻り始める。


しゃきーん しゃきーん


 般若が何を考えているかなんて、人には到底理解できないだろう。


しゃきーん しゃきーん


 鋏の音を響かせながら、男は街へと戻る。


しゃきーん しゃきーん

573CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:12:23 ID:qMa5JxGY0
 誰かいるかもしれないという期待から、マリベル達は街のある北へと進路を取っていた。
 街からとれる進路は西か南の二択、移動しようとする者達と出会う可能性も高く、悪くはない選択だった。
 そうしてサフィールと二人、肩を並べてぽつぽつと歩き始めていた、が。
「しっかし、人っ子一人いないわね」
 現実は、ご覧の有り様だ。
 人どころか魔物、ひいては生きているものにすら出会うことはなかった。
「どっかで派手にドンパチやってるもんかと思えば、意外とそうでもないのね」
「ドンパチやってて欲しいんですか……?」
 物騒なことを平気で口に出すマリベルに、サフィールは困惑する。 
「ええ、そりゃどちらかといえばね。ドンパチやってるってことは、そこに誰かがいるってことよ。
 悪い奴はぶっ飛ばして、いい奴を味方にすればいい、それだけのことよ」
 だが、マリベルは特に悪びれることもなく、当たり前のように言葉を返す。
 少し無茶苦茶な話ではあるが、言っていることは確かに一理ある。
 何かが起こっているということは、誰かがいるという確証なのだから。
「はぁ〜あ、全くツイてないわね。サフィールの巻物に、なんか書き込めば楽になったりすればいいのに」
 読みが外れた怒りか、歩き続けた疲れからか、マリベルはふとそんなことを口に出す。
 サフィールが支給された巻物には、何かしらの魔力は感じている。
 言われてみれば、何かを書き込んでくれと言わんばかりに真っ白だ。
「……あながち、それは間違いじゃないかもしれませんね」
 ふふっと笑い、頭にその可能性だけを置いて、サフィールはそう返す。
 そんなサフィールに、マリベルが少しムッとしたその時だった。
 ぴしゃり、と大きな音と共に、遠くに一筋の雷が落ちた。

574CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:12:51 ID:qMa5JxGY0
「勇者の、雷」
 それを見たサフィールは、思わずそう言葉をこぼす。
 あの雷は間違いない、いや、見間違えるわけがない。
「勇者?」
「はい、選ばれし天空の勇者だけが操ることが許される、勇者の雷。
 あれはただの雷じゃなくて、お兄ちゃんの雷によく似ていました……」
 サフィールがこぼした言葉に、マリベルが突っ込み、サフィールは質問に答えていく。
 そう、雷だけなら、魔物もそれを操ることができる。
 だが、今しがた見た"それ"は、彼女のよく知る雷によく似ていたのだ。
 ひょっとすれば、そこに兄が居るかもしれない、と彼女が考えた時だった。
「ふーん、雷なら、あたしも使えるけどね」
「ええっ!?」
 マリベルの口から放たれたのは、衝撃の言葉だった。
 驚くサフィールに、マリベルは淡々と言葉を続ける。
「驚くことはないわよ、ダーマ神殿に通って修行すれば、誰でも勇者になれるんだから。
 ちょっと面倒だけど、ね。それに、別に勇者じゃなくても雷なら使えるわ」
 そう言って、マリベルは少し軽めの雷を起こす。
 嘘ではないとわかったが、サフィールはやはり驚きを隠すことができない。
 マリベルが造作もなく生み出した雷、それもまた"勇者の雷"だったのだから。
「じゃあ"天空の勇者"って……」
 彼女の中の"何か"が、崩れそうな音を立て始める。
 誰も、誰しもが勇者のなれる、本当にそうだったのだとしたら。
 父は、苦しい思いをしなくても良かったのではないか。
「悪いけど、話はあとでいい?」
 思考の闇に陥りそうになったところで、サフィールの耳にマリベルの声が届く。
 はっ、と我に返ったところで、マリベルが気を張り詰めているのに気がついた。
「誰か、来る」
 少し遠く、そこに映ったのは、一人の女の姿だった。

575CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:13:29 ID:qMa5JxGY0
 


 遠くに映ったのは、二人組の少女。
 一人はふわりとしたパーマがかかった、栗色の髪の少女。
 もう一人は、黒髪のショートが目立つ、まだ幼い少女。
 間合いの少し外、万が一に応対できるように、そこで足を止める。
 それから少し考えを張り巡らせながら、スクルドは呼吸を整え、始めの言葉を口に出す。
「こんにちは」
 必要なのは、情報だ。
 それを引き出すための、始めの一手を打つ。
「ここは殺し合いの場だってのに呑気なものね」
 栗色の髪の少女から、返答が来る。
 初手の反応は、上々。
 即座に襲い掛かられるという最悪のケースを、頭から外す。
「いえ、そういう訳では。邪な気配を感じなかったので、警戒しなかっただけです」
「ふーん、随分と余裕じゃない? あたし達をナメてたってこと?」
「いえ、ですから」
「マリベルさん」
「冗談よ、ちょっとからかいたかっただけ」
 確かに、油断していなかったわけではない。
 最悪、戦いになったとしても、自分が優位に立てると踏んでいたから。
 それが滲んでいた、ということなのだろうか。
 なんにせよ、探りを入れられるのは、少し都合が悪い。
 慎重に言葉を選びながら、どう会話を続けようかと少し考え始めた時。
「ところで、あんた北から来たわね? 聞きたいことがあるんだけど」
 今度は、少女たちの方から問いかけが始まった。
 あらかた、質問の内容は予想がついている。
 なんでしょう、と返事をし、スクルドは続く質問を待つ。

576CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:13:54 ID:qMa5JxGY0
「北の街、そこに誰か居たかしら?」
 問いかけは、彼女の予想通りだった。
 二人組の少女で、能動的に殺しあう姿勢は見えないとなれば、仲間を探しているのはほぼ明確だ。
 恐らく、"誰か"とはそんな人間を指しているのだろう。
 揃った情報から素早く、かつ慎重に思考を重ね、最適の答えを口に出す。
「……いえ、軽く探しても、特には」
 それは、"嘘"だった。
 今、自分が欲しているのは戦力、それも前衛に立つ者だ。
 外見だけでもひ弱そうだと思う上に、誰かを探しているとなれば、彼女たちが前衛に立てないことは容易に分かる。
 そんな者たちを引き込んで、"あれ"に立ち向かえるだろうか?
 答えはもちろん、ノーだ。
 寧ろ、自ら死ににいくといっても過言ではない。
 だから、彼女たちだけで北に向かわせ、"あれ"に彼女たちを殺してもらうのがベスト。
 それはわかっている。だが、ここで誰かいると答えれば、何故それを置いてきたのか、と怪しまれることになる。
 ましてや、同行を拒めば尚更のことだ。
 だから、ここは"嘘"をつく。
 どうせ無力な少女二人組、放って置いてもいずれ死を迎えるのだから。
「そう、ありがと。じゃ、行くわよ、サフィール」
「え?」
 マリベルと呼ばれた栗色の髪の少女はそう答え、サフィールと呼んだ同行者の手を引く。
 サフィールは、困惑しながらも手を引かれていく。
「ここで引き返したら、なんだか"アイツ"の言うとおりになってる気がして、気に食わないのよ。ほら、早く行くわよ」
「え、でも……」
「ごちゃごちゃ言わない」
 そう言って、マリベルはサフィールの腕を強引に引いて、北へと行ってしまった。
 なんて都合良く事が運んだのだろうか。
 特に疑われることもなく、彼女たちは北へと向かっていった。
 ああ、彼女たちはまもなく、"あれ"の餌食になるのだろう。
 そう考えた後、彼女は進路を西へと取る。
 南には誰も居ないと、彼女たちが証明してくれたのだから。
 スクルドは浮かべてしまった笑みを消し、足を進める。
 次こそは"あれ"に対抗できる者に出会えることを、祈りながら。

577CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:14:32 ID:qMa5JxGY0
 


「さっきの雷が気になってるんでしょ?」
 不満そうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルははっきりとそう言い放つ。
 そう言われて目を見開く彼女を見て、ため息を一つこぼしてからマリベルは言葉を続ける。
「あれだけ目立つ雷を使うってことは、それだけの事が起きてるってことよ。
 そうでもしなきゃ行けない状況に、あんたは首を突っ込むっていうの?
 言ったでしょ? 別に雷が使えるのは珍しいことじゃない。
 あれがアンタのお兄ちゃんっていう確証なんて、どこにもないのよ」
 マリベルが言っているのは、確かに正論だ。
 あの場所には、あれほど目立つ雷、もといギガデインを放つ必要があったということ。
 それがどのような状況かは、考えなくとも分かる。
「……でも、あそこには人が居るって証ですよ。マリベルさんが言ってた、ドンパチやってる状況じゃないですか」
「それとこれとは色々と話が別よ、それとも何? あんたは死にに行きたいの? ならここで置いてくけれど」
 そこまで言われて、サフィールは閉口し、本当に口のへらない人だと、ため息をつく。
 だが、破天荒なように見えて、そこには真っ直ぐな一本の芯がある。
 その姿に少しだけ母を重ねながら、サフィールはマリベルと共に足を進めた。

 しばらくして、彼女たちは街へと辿り着いた。
 閑散とした空気は少し冷たく、確かに人の気配は感じられない。
「うーん、アテが外れたわね。ああいうキナ臭いのは、大抵嘘つきって相場が決まってるんだけど」
 先ほどの女性に胡散臭さを感じていたマリベルは、それを"嘘"と踏んでいた。
 故に、誰か居るのだろうと、半ば確信に近いものを感じていたのだが、それはどうやらハズレだったらしい。
 少し人を疑いすぎだろうか、と思いながらマリベルは頭を掻く。
「とにかく、街を探索してみましょう。どなたかがどこかに居るかもしれませんし」
「言われなくてもそうするわよ」
 サフィールの言葉に少しムッとしながら、一番目立つ大きな屋敷へと、マリベル達は足を進めていく。
 あれだけ目立つのだから、誰かが来たとすれば、真っ先に足を踏み入れていてもおかしくはない。
 そう思いながら、少し早足で辿り着いた屋敷の扉は、無防備にも開ききっていた。
「全く、行儀が悪いわね」
 そんなことを言いながら、屋敷へと一歩踏み入れ、ばたん、と大きめの音を立てながらドアを閉める。
 少し立ち止まり、何かの反応を伺うが、特に何も感じない。
 やはり、誰も居ないのだろうかと思いながら、マリベルはずかずかと屋敷の中を進み、階段を登っていく。

578CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:15:02 ID:qMa5JxGY0
「……ん?」
 その後ろを付いて行こうとしたサフィールが、ふと何かに気がつく。
 それは、ぴとりと水の雫が落ちるような音だった。
 音のする方へと体を向け、注意深く観察する。
 そして、それが何なのか、分かってしまった時。
「アイラ!!」
 マリベルの叫び声が、屋敷に響き渡る。
 急いで二階へと駆け登ると、そこに飛び込んできたのは、三つの影。
 ひとつは、マリベル。
 ひとつは、マリベルが抱きかかえている誰か。
 そして、もうひとつ。
 腕に仕込んだ巨大な鋏を掲げた、漆黒に身を包む一人の男の姿。
「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
 万が一を考慮して詠唱しておいた呪文を、即座に放つ。
 空気が圧縮され、膨張し、そして破裂して生まれていく爆発が、漆黒の男を包み込んだ。
「大丈夫ですか?」
「けほっ、けほっ……ったく、加減ってモノをしなさいよ」
 急いで駆け寄ったマリベルの姿に、特に怪我はないことを確かめ、サフィールはひとまず安堵する。
 そして、マリベルのすぐ側に居た黒髪の女性の姿を見て、息を呑む。
 おびただしい量の血は、一度ならず何度も突き刺されたであろう、痛々しい傷跡から今も流れだしていた。
 考えるまでもない、下手人はあの男だろう。
 そして、その結論に辿り着いた時、耳慣れない金属音が鳴り響く。
 しゃきん、しゃきん、しゃきん。
 それは、鋏の刃と刃が触れ合う音。
 この場で鋏を持っている者は、ただ一人だ。
「一旦逃げましょう、ここじゃ分が悪すぎます!」
「言われなくても!!」
 危険を察知した二人は、急いで部屋から飛び出し、屋敷の正面玄関へと駆け込んでいく。
 幸い、足はそこまで速くないらしく、追いつかれることはなかった。
 全力で駆けた後、まだ男が中に居るであろう屋敷を睨み、マリベルは言い放つ。
「サフィール、あたしはアイツをぶっ飛ばすわよ」
 その言葉に込められていたのは、サフィールが初めて彼女から感じ取った感情。
「アイラの仇、ですもの」
 それは、明らかな怒りだった。
 その姿に、母の姿を少しだけ重ねながら、サフィールは一つの提案をする。
「マリベルさん。私に考えがあるんです。数分、稼いでもらえますか」
「はぁ!? あたしをコキ使おうっての!?」
 言い換えれば、盾になってくれという依頼。
 共に前線に立つつもりはないという意思表示にも等しい。
 もちろん、そんな都合のいい逃げを、マリベルが許すはずはない。
「信じてください、読みが合ってれば、すぐに無力化できると思うんです」
 そうだと分かっていても、それを押し切ってまで頼みたいと思う、確信が彼女にあった。
 わずかにすれ違った一瞬、感じ取った気配。
 それは、呪われし装備の、禍々しい気。
 もし、男が"何かの呪い"によって凶行に及んでいるのだとすれば。
 そして、何気なく口にしたマリベルの言葉が、本当だとすれば。
 全てが噛みあえば、この場を一瞬で終わらせることができる。
 だからこそ、彼女は無茶な願いをマリベルへと通した。
「ったく……三分よ、いいわね?」
 揺るぎないサフィールの瞳に、折れたのはマリベルだった。
 それから、時を同じくして、屋敷から飛び出してきた男へと、真っ直ぐに向かっていった。
 そして、サフィールは巻物を開き、ペンを握った。
「……お兄ちゃん、私に力を貸して!!」

579CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:15:30 ID:qMa5JxGY0
 
「行くわよ化け物ッ!!」
 アイラの遺体の側にあった袋から取り出した、赤の宝石が目立つ一本の剣を構える。
 戦いにおいて、前線に立つことが多かったことに、今だけは感謝しながら、深呼吸を一つ挟む。
 しゃきん、しゃきん、しゃきん、と絶え間なく鳴り響く鋏の音を聞き流しながら、気合を溜め、集中していく。
「はあっ!!」
 かきん、と鳴り響く金属音、こすれあう刃と刃が拮抗しながら、マリベルは剣越しに男の顔を睨む。
「くっ……」
 力は五分、いやマリベルが少し劣っているか。
 鍔迫り合いを続けても、状況は好転しない。
 そう踏んだマリベルは、素早く身を引き、刃から逃れていく。
 どすん、と鋏が地面に突き刺さる音が軽く響く。
 見境なく、ただ生きるものを狩る、ということか。
 ならば、単純に向かってくるだけの魔物と、なんら差はない。
 強大な力に巻き込まれないように、立ち回れば良いだけ。
「駆けろ、隼ッ!!」
 素早く振るった二つの刃が、男へと真っ直ぐ向かう。
 特に避ける素振りを見せず、男はその刃を正面から受け止めた。
 だが、マリベルの表情は渋い。
 放った二つの刃は、まるで吸い込まれるように男の纏う闇へと、飲み込まれていったからだ。
 物理攻撃では分が悪い、ということか。
 だとすれば一転、状況は悪化する。
 不本意ながらも、彼女が得意とするのは至近距離戦だ。
 後衛用の技術は、あまり持ち合わせていない。
 ましてや、目の前のバケモノを倒すほどの技術となれば、尚更のことだ。
 ぎり、と少しだけ歯を鳴らす。
 時間は、まだ一分も経っていないだろう。
 早くしろ、と心の中でサフィールへと念じながら、彼女は次の一手を考える。
「ちまちま攻めてちゃ話にならない、なら……」
 手数ではなく、力。
 敵が全ての力を自分に向けてくるのだから、それに勝る力を叩きつければいい。
 一点集中、たった一度だけならば、目の前の男を超えられる。

580CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:16:00 ID:qMa5JxGY0
「我に宿れ、魔神の力ッ!!」
 そしてマリベルは、信じられるこの両手に、全てをかける。
 強く、強く剣の柄を握りこみ、ずしんと音を響かせて一歩を踏み込む。
 その両目が捉えて離さないのは、男の体。
 まさに今、鋏を振りかぶろうとしている、その姿に。
「っどりゃあああああああああああッ!!」
 魔神の如く、彼女は斬りかかった。
 何かが裂ける音が、閑散とした街に響く。
 闇が飲み込みきれなかった刃が、男の体を縫い止める。
 確かな手応え、それを感じたその瞬間。
 ぴくり、と男の鋏が動いたのを見て。
「神よ、迷える子羊に救いを与え給え――――」
 同時に聞こえ出したのは、サフィールの声。
 それは、彼女の兄が得意としていた解呪の呪文。
 いつも兄が口にしていたそれを、必死に思い出し、彼女は巻物に記していた。
「シャナク!!」
 それが今、放たれる。
 ぼうっと淡い光が巻物から飛び出し、男の姿を一瞬で包み込む。
 そして、光は四方へとはじけ飛ぶのと共に、かしゃんという音と共に、男が付けていた能面が地へと落ちた。
「読み通り、ですね」
「ったく、遅いのよ……」
 少し嬉しそうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルは少し呆れたように笑った。
「……ここ、は」
 そんな二人をよそに、数回の瞬きを経て、男は小さくつぶやく。
「私は、あの面を付けて、それから……」
 思い出せない、何も、何一つとして思い出せない。そう、面を付けるまでの事しか、思い出せない。
 よもや、この面の呪いは正気を失わせる呪いだったのだろうか。
 自分の知識にない呪いに少し興味を示しながらも、男はまず目の前の状況に対処することにした。
「貴様達が、私を?」
「そうよ」
 問いかけの後、一歩ずつしっかりとにじり寄ったマリベルが、男の胸ぐらを掴んでいく。
「マリベルさん!」
「黙ってなさい」
 サフィールの声を振り払い、マリベルは男を睨みつけながら、言葉を続ける。

581CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:16:36 ID:qMa5JxGY0
「いい? まず覚えておきなさい、あんたは許されない罪を背負ってるのよ」
「罪……?」
「そう、私の仲間を、あんたが殺したのよ」
 鬼気迫る表情で、男へとマリベルは男へと真実を突きつけていく。
 正気ではなかった、で済まされる問題ではないのだ。
 だが男は、そんな彼女の顔を見て。
「だとすれば、どうした」
 当然と言わんばかりに、笑い飛ばした。
「何れ全ては滅ぶ。一人の人間が死んだところで、なんだというのだ」
「――――ッ!!」
 そこで耐え切れなくなったマリベルが、男の体を突き飛ばす。
 それから再び剣を構え、背を向けたままサフィールへと告げる。
「止めないでくれる? これは、あたしの戦いだから」
「ほう、剣を取るというのか」
 怒りを表すマリベルに対し、男は妖しくニヤリと笑う。
 そして男も、再び鋏を構えて、マリベルへと告げる。
「ならば、振りかかる火の粉は払わねばなるまい!」
 始まろうとしているのは、怒りという感情が渦巻く戦い。
 止められない、止まるわけがない。
 サフィールは、人よりその理由を知っている。
 怒りに狂う、あの時の父親の姿を、自分はすぐ側で見ていたのだから。
 だから、この戦いは止められない。
 私怨と、罪と、正義。
 何が正しいかなんて、彼女に決めることなんてできない。
 ただ、戦いの行く末を、見守る。

 それだけしか、できなかった。

582CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:17:01 ID:qMa5JxGY0
 
【I-7/森/1日目・午前】
【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ホーリーランス
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    西に行き共に追跡者と戦ってくれる者を探す

【I-5/リーザス村・アルバート家前/1日目・午前】
【ハーゴン@DQ2】
 [状態]:HP3/5、闇の衣により回避率上昇
 [装備]:闇の衣@DQ8 大鋏@DQ3
 [道具]:支給品一式
 [思考]
     1:火の粉を払う
     2:主催に反抗し、脱出する
     3:ピサロという男を探す

【マリベル@DQ7】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:妖精の剣
 [道具]:支給品一式*2、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:ハーゴンをぶっ飛ばす


【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式
 [思考]:見守る。怖い人を無視してマリベルさんに流される。

※般若の面@DQ3が放置されています

583 ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:17:35 ID:qMa5JxGY0
規制されてるのでこちらに。
以上で投下終了です。

584バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 03:57:30 ID:yJkiwlng0
正義は必ず勝つという理屈を持ち出すのであれば、正義はこちらにある。
獲物を狩って喰う。 己の縄張りを広げる。
どんな生き物とてやっている、種の本能に基づく行動だ。
そこにケチをつけるのであれば、それはもはや一生命体として機能不全を起こしているだけのこと。
神々や精霊に近い姿をしているからといって、人間だけが寵愛を受け魔族は一方的に淘汰されるなど傲慢にもほどがある。

かつて、バラモスは大魔王ゾーマに仕えて地上世界を恐怖のどん底に陥れていた。
天地魔界に恐れるもののない大魔王に、バラモスは強く焦がれていた。
バラモス自身とて、あらゆる魔物の中でもトップクラスの実力があるだろう。
だが、自らの実力に絶大なる自負をもつバラモスでさえ、ゾーマの力を知ると平伏せざるを得なかった。
それが屈辱なのかと言えば違う。むしろ逆だった。
例えて言うなら、ゾーマは悪のカリスマなのだ。
この者になら己の力を預けられる。 服従を誓うことができる。
心酔する大魔王ゾーマの懐刀、その栄えある一番槍として、地上世界を侵略する。
それは何物にも代えがたい至福だった。
己が認めた相手に、自分の価値を認められる。
これほど素晴らしいことがあるだろうか。
例え勇者という人物が攻めて来ようと、何ほどのことがある。
必ずや殺害し、はらわたを食らってくれよう。

そう、バラモスの魔王としての誇りはそこにあった。
自らが信奉する魔界の大魔王ゾーマの強さ。
魔王として数多くの人間を殺めてきた日々。
極めてシンプルな、『力』による序列。
食物連鎖の上にいるものは、下にいるものの生殺与奪を握っているという優越感。
それこそがバラモスをバラモスたらしめている要素であった。
では、それが失われるとどうなるか。

「はあ……どうすればいいのだ……」

こうなるのだ。
ため息をついたことなど、今まで一度もなかった。
それが、この島に連れてこられてたった数時間で、一生分のため息をついたかのようだ。
バラモスには今、重いものがない。
自身の行動の指針、今後の身の振り方、そういったものの決定を下す判断力が失われている。
身命を捧げた主君、ゾーマはあんなにもあっさりと殺され。
ならばとより強い力を持ったエビルプリーストに取り入ろうと思ってみれば、たった一人の人間にあわや死ぬ寸前まで追いつめられ。
つまり、既存の価値観が木っ端微塵に粉砕されているようなものなのだ。
自信と尊厳を失った魔王はこんなにも情けない存在に成り下がる。
かつて勇者アスナと戦った時は、四人がかりでもまだ拮抗に近い状態を造り出せていたのだ。
双方ともに、一手でもミスをすればその瞬間勝敗が決まるような、そんな鎬を削る戦い。
その果ての敗北だ。 これならば負けるのも致し方なし。
自身を打ち破った勇者に最大の賛辞を送ろう。
そして、その程度の強さでは自分を倒せても、大魔王ゾーマは倒せぬという最大級の皮肉を胸の内に抱え逝った。

「戻れるのなら、あの頃に戻りたい」

ああ、よりにもよって、かつて魔王と呼ばれ恐れられたゾーマは過去に戻りたいと願っている。
過去の栄光が、今はもう手元にないと認めてしまっているのだ。
過ぎ去りし日々に思いを巡らせ、あの頃はよかったと懐かしんでいる。
何の疑いもなく、死体の山を築いていたあの頃を。
胸を張って自分は魔王だと信じていられたあの頃をだ。
当てどなく彷徨うバラモスは、自然と誰もいないような場所へと足を運んでいた。

585バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 03:58:46 ID:yJkiwlng0
「何者だ!」
「ひぃっ!」

しかし、こんなとこにも人がいたようだ。
口から心臓が飛び出してきそうなほどに、バラモスは驚いた。
いや、それは人ではなかった。
バラモスは見たことない種族だが、ドラゴンの亜種だろうということはすぐに分かった。
戦闘を終えた後なのだろうか、手負いといった表現が似合う状態だった。
魔竜アンドレアルの名を持つ紫竜は、語気を鋭くしてバラモスに詰めよった。

「ワ、ワシはバラモスだ……」

バラモスは人間でなかったことに安堵する。
人間と魔族は敵対している関係上、どうやっても戦闘は避けられない。
しかし、同じ魔族ならば話は通じるのだ。

「魔族か……我が名はレミール」

対して、レミールはムシの居所が悪い。
エビルプリーストに臣従を迫られ、否応の余地なく殺し合いに放り込まれ。
新たに使えると決めた主を守るどころか石にされてしまい。
転落の人生と言ってしまえばそれまでだが、バラモスと似たようなものだ。
しかし、レミールは武人としての誇りを未だ失ってはいない。
悲観するにはまだ早いと決めているのだ。
両者の違いはここにある。

「よかったぞ……ここには恐ろしい小鬼がおってな、難儀しておったとこだ」
「ほう?」

そして、この二人の最も大きな違い。
それはベクトルの向いている方向だ。
方やエビルプリーストに反旗を翻す武人、方やエビルプリーストに尻尾を振るしかないと考える魔王。

「どうじゃ、ともに戦わぬか?」

バラモスの考えたことはこうだ。
かつて勇者アスナが四人がかりで魔王バラモスに挑んだように、今度はバラモスが徒党を組めばよいと。
他人の力を借りるなど魔王を名乗った者として屈辱だが、背に腹は代えられない。
他のモンスターと力を合わせれば、あの小鬼だってきっと倒せる。

「かつてワシを打ち破った勇者の小娘もおるのだ。 きっとお主とて一人ですべてを倒すのは不可能」

言葉に熱が篭り始めた。
口にすると、自分の考えた策がいかに効率的かも分かる。
自分より強い人間がいようと、数で勝ればどうとでもなるのだ。
トラウマを植え付けられそうになっているのなら、克服してみせようじゃないか。
そしてバラモスはかつての自分を取り戻し、もう一度世界を蹂躙するのだ。

「エビルプリースト……いやエビルプリースト様にお仕えするためにも、お互い生き延びようぞ」

ただ一つ、誤算があるとすれば。
レミールはジョーカーでありながら、エビルプリーストに対して明確に反旗を翻している魔物だということ。

「エビルプリースト、様……だと?」

586バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:00:26 ID:yJkiwlng0
そんなレミールに対して、最も言ってはいけない言葉を言ってしまったことにバラモスは気づいていない。
地雷原のど真ん中を踏んでしまったことに、バラモスは気づくはずもない。
魔族、というだけですでに自分側の立場だと決めつけてしまっているのだ。
よって、次のレミールの行動はバラモスには予測が不可能。
レミールの返答は、『一族』による制裁だった。

「もう一度言ってみるがいい!」
「なっ、ぐああああああああああああ!」

どこからともなく現れたレミールと同じ紫竜。
体格はおろか顔つきまで、何から何まで同じのレミールが現れたのだ。
目の前にいたレミールと、増殖したレミールによる三重奏の攻撃。
一匹はバラモスの頸動脈に食いつき、もう一匹は右足の大腿部に、残る一匹が左手に噛みつく。

「エビルプリースト様だと? あのような簒奪者に忠誠を誓うというのか!」

もちろん、バラモスにそんな事情は知る由もない。
ただ、より強い力を持つ者に従うという、シンプルな理論だ。
しかし、それを喋った相手が不味かった。
魔族の中でも特にピサロへの忠誠心が強かったレミールに、それを言ってしまえばこうなるのは必定。
バラモスは運が悪かったとしか言いようがない。

「や、やめ……ゴボッ!」

三体がそれぞれの意思を持ち、怒りと鬱憤を晴らすかのようにバラモスの肉を食いちぎる。
激痛にのたうち回ることもできず、一方的に攻撃を受けるだけだ。
絶叫すらも、喉からこみ上げる血液にかき消される。
三匹の首が別々の方向にバラモスを引っ張り、バラモスの肉がちぎれ落ちる。
皮膚はおろか肉さえも食いちぎられたバラモスは、ところどころに骨すら見え隠れしていた。
自業自得と言えばそれまでだが、あまりにも凄惨な光景だった。

(こんな……こんなことが……)

理不尽過ぎる。
バラモスの思いはそれだけだった。
声をかけた魔物がエビルプリーストに牙を剥く存在だったなどと、誰が想像できよう。
敬愛する大魔王ゾーマはあっさり殺され、自分よりもはるかに強い人間がいて、仲間だろうと思っていた魔族も襲い掛かってきて。
一体どうすればよかったというのだ。
一体何をすれば、かつての自分を取り戻せていたというのだ。
抵抗することもままならず、レミールに噛みつかれる度に、バラモスの大事な何かが無くなっていくのを実感する。
憎かった、自分からすべてを奪ったありとあらゆる全てが。
勇者アスナにやられた、誇り高き魔王として死なせてくれなかった全てが。
もはや指一本動かすことすらままならない魔王バラモスは、最後に憎悪を抱えたままその命を終えようとしていた。
たった一つ、胸に抱いた憎悪を手土産にし、バラモスは地獄へと再び堕ちていく。
全身の臓器はその機能を停止し、今ここに魔王バラモスは二度目の死を迎える。


【バラモス@DQ3 死――

587バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:02:25 ID:yJkiwlng0





                ――救ってやろうか?――








もはや風前の灯となっていたバラモスの脳裏に、はっきりと何者かの声が聞こえてきた。
いや、何者か、などではない。忘れるはずもない。
バラモスはこの声の正体をはっきりと知っている。
自分をこんな状況に追いやった憎き元凶、エビルプリースト本人だ。







                ――簡単な事だ。その苦しみから救ってやろうというのだ――







ふ、ざ、け、る、な。
バラモスは霞のかかった脳内で、その言葉を必死に絞り出す。
この男のせいで、すべてを失ったも同然なのだ。
その男が今更出てきて、こんな惨めな思いをさせた癖に、救ってやるとは何様だと。
救うというのなら、すべてを元に戻してみせろと。
死の直前を迎えている自分の傷を癒したところで、何の意味もない。
この心に刻まれた、絶対的な敗北感は消えたりしない。
戻すのなら、何もかもを戻さなければいけないのだ。









                ――ああ、もちろんだとも。元に戻してやろう――

588バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:03:20 ID:yJkiwlng0
バラモスの中に、熱い何かが芽生えるのを感じた。
煉獄の火炎よりもなお熱いそれは、バラモスの体全体に火をつけたかのように感じられた。
これは断じて癒しの光などではない。
禍々しいだけの何かであり、少なくともバラモスの想像していたものとは100%違う。
バラモスは心の中で絶叫を上げた。

(ク、オオッオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!)

もしも、バラモスの声帯がまだ生きていたのなら、おぞましい断末魔の叫びを上げていただろう。
変わる。何かが変わっていく。
バラモスの中の何かが、変異している。
骨がむき出しの脚部でも歩行ができるように。
いくら出血しようと行動の妨げにならないように。
あらゆる恐怖心を無くし、本能のままに動けるように。
バラモスの意思さえ消し去っていく。
失ったものを補うように、闇の力が増していく。
そこに残ったのは、純粋なる殺戮と破壊の欲求。
そして、かつてバラモスだったものの残骸と、それを動かすナニカ。






                 ――さあ、これで元通りだ。何一つ疑問に思うこともなく、己が暴威を示していたあの頃に戻れただろう?――







これこそがエビルプリーストによる救済。







                 ――お前は無敵の存在だ。恐怖心を無くした今のお前なら、トロデ王にも遅れはとるまい――







元々、バラモスにはそういう『仕込み』がしてあった。
最初からこの魔王は『再利用』されることが決まっていたのだろう。
エビルプリーストはそれを活用させてもらっただけだ。
そう、バラモスとして死んだ後も、伝説の三悪魔の一角として、ゾーマの居城を守護するはずだった存在。
その名を――

589バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:03:53 ID:yJkiwlng0






                 ――さあ、行くがいいバラモスゾンビ。まずは裏切り者を抹殺しろ――





バラモスゾンビ。
言葉もコミュニケーションも通じない、最悪のモンスターの誕生の瞬間だった。



◆     ◆     ◆




バラモスが完全に沈黙し、動かなくなったことを確認したレミールは『一族』を消して単独に戻った。
ゲマとの戦いも癒えてない状態だ。
『一族』すべてをまた戦闘ができるように回復するには長い時間がかかる。
その判断が仇となった。
今度はレミールの首にバラモスゾンビが噛みつく。

「バ、バカな!確かに死んだはずッ!!」

つい先ほどまで血だらけで伏していた存在に、ここまでの力がどうやって出せるというのか。
力まかせにバラモスゾンビを剥がそうとするができない。
とてもじゃないが、死にかけの存在の出せる力ではなかった。

「貴様は一体……ッ!?」
「クワアアアアアアアアアアアアアッ!」

言葉を操る知能さえ失われたバラモスゾンビだが、その代わりに得た腕力はそれを補って余りあるほどのメリットだった。
レミールはバラモスゾンビの首根っこを掴むと、適当な方向へ投げ飛ばす。
それでようやくレミールはバラモスゾンビの攻撃から逃れることができた。
しかし、受けたダメージがあまりにも大きい。
『一族』を呼びだすのさえ、ままならないほどだった。
そして同時に、ようやくレミールはかつてバラモスだったものをその目に捉えた。

(どう考えても普通ではない!)

かつて瞳があった場所には煌煌と暗い光が宿り。
むき出しの骨がところどころに見え隠れするというのに、意に介さず歩き。
それはまさにゾンビの名にふさわしき形相だった。
何かしらの超常的な力が働いてるとしか思えない。
そして、レミールのその推測は当たっていた。
高熱のガスを噴き出し、レミールは今度こそバラモスゾンビを倒そうとする。
防御行動すら取れず、バラモズゾンビに直撃した。

590バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:04:43 ID:yJkiwlng0
肉の焼ける匂いが充満する。
残っていたバラモスゾンビの衣服を完全に燃やしつくしてしまった。
なのに、痛覚すら消え失せたバラモスゾンビには効かない。
いや、効いているのだ。効いてはいるが、バラモスゾンビはその歩みを止めない。
痛みを感じる。恐怖におののく。そういった感覚や感情は邪魔だとエビルプリーストに取り除かれているのだ。
骨だけになった左手をバラモスゾンビが振るう。
レミールがそれ両腕をクロスさせてガードするが、勢いを殺しきれない。
それどころか、ガードした両腕の骨が折れたではないか。

(バカな!)

筋肉の無くなった骨だけに出せる力ではない。
骨の固さだけでこの威力は出せるものではない。
闇の力で強化されたバラモスゾンビの力は、ありとあらゆるモンスターの中でもトップクラスの威力を持っていた。

「ギイイイイイイイイイイイイィィィィ!」

射程圏内に入ったバラモスゾンビのラッシュ。
殴る、蹴る、噛みつく、ツメで引っ掻く。
それらがない交ぜになってレミールへと殺到する。

「ぐっ!がっ!」

本能のままに振るわれるバラモスゾンビの攻撃に手加減の余地はない。
そのすべてが全力であり、フルスイングだ。
反撃が反撃にならない。
レミールが尻尾を振るってバラモスゾンビに当てても、バラモスも同時に爪で引っ掻いてくるのだ。
痛覚のあるレミールの方が、結果として大ダメージを受けている。
攻撃を当てても、破壊の欲求だけで動くバラモスゾンビのカウンターが毎回飛んでくるのだ。
レミールは完全なジリ貧だった。

                  ――気に入ってくれたかな、アンドレアル? いや、今はレミールだったか――

レミールの脳裏に忌々しき声が響く。

(貴様!やはり貴様の仕業か!)

レミールの現在の主君だ。あくまでも名目上のだが。
主君と仰いだことなど一度もないが、敗北してしまった以上そうなるのが魔族の道理。



                  ――お前は人間を殺すどころか、人間の仲間になろうとした――


 
                  ――おまけに保険のための復活の玉すらそうそうに使ってしまうザマだ――



                  ――更生するならこれまでの不敬も不問にするとこだったが――



                  ――ちょうどいい手駒を見つけてな。お前に代わって仕事をしてもらおう――



                  ――という訳で、お前の処分はこのバラモスゾンビがやってくれる――

591バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:05:05 ID:yJkiwlng0



                  ――その絶望の魂をわたしの復活のための供物にしてもらおうか―― 



その言葉を最後に、エビルプリーストとの声は途切れた。
要するに、レミールは用済み宣言を受けてしまったのだ。

(お、おのれエビルプリースト……私は絶対に貴様を許さぬゾォォォ!!)

エビルプリーストの高笑いしているところが容易に想像できる。
しかし、吠えるだけの力はもはやレミールにはなかった。
動かなくなったレミールに、バラモスゾンビがさらなる追い打ちをかける。
ついにその手がレミールの胸部を貫くと、心臓までも破壊する。
バラモスゾンビはレミールに倒れることすら許さず、その腕でレミールの体を持ち上げる。
破壊衝動を満たしたバラモスゾンビの次なる欲求は、どん欲なまでの食欲。

(主殿……ピサロ様……)

ぐちゃ。
ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。

(無念……)

その音は自らの体を食うバラモスゾンビの咀嚼の音。
それに気づくことなくレミールが逝けたのはある意味幸福というべきか。
破壊と殺戮の化身、バラモスゾンビによる惨劇は、まだ始まったばかり。
かくして、最強最悪のジョーカーがここに誕生したのだ。



【レミール @JOKER 死亡】
【残り70名】


【I-2/森/1日目 昼】

【バラモスゾンビ@DQ3】
 [状態]:HP8/10 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊

※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます

592 ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:07:11 ID:yJkiwlng0
投下終了しました
見れば分かる通り

①主催介入ってありなのか
②バラモスゾンビってありなのか

この二点です。
この二つについて皆様の意見を伺いたいと思います

593ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 06:19:00 ID:rJqXEe.A0
投下乙です
エビチリさんに関しては、ジョーカー関連だから出てきたってことと、バラモスがコミュニケーション不可能な状態で他キャラには介入が分からないから大丈夫だと思います
3パーティもみんな遠くにいるからおかしいってすぐに気付けるキャラはいませんし

駒が使えなくなったから取り替えるという理由も納得いきますし、
他のジョーカーも大体強化されているので、新たな駒であるバラモスも元の状態から変わっても筋は通るかと

私は通しでも問題ないと思います

594ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 07:57:37 ID:GBBLmFyM0
乙です
あまりにもジョーカー離反が多いし海老プリンスが手駒を増やそうとしてもおかしくないかと
問題無いと思います

595ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 17:46:03 ID:W1fiBNyY0
同じく
問題ないと思います

596 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:04:27 ID:ZbUvWf.A0
本スレないのでこちらに投下します

597対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:07:46 ID:ZbUvWf.A0
「あ、あの、マーサさま」
「なんですかパパス」

マーサとパパス――いや、ゲマとカンダタは、山を下りるべく西に歩を進めていた。
二人が目指すのはこの近くにある街、トラペッタ。
その途上、カンダタがゲマに声をかけた。

「その…この変装と偽名、やめた方がいいんじゃないかなって…」
「なんですって?」
「ひ、ひいいいい!すみませんすみません何でもないです!」

ゲマに凄まれ、慌てて平身低頭して謝るカンダタ。
そんなカンダタのプライドのない姿を気に入らないと感じつつ、ゲマは口を開く。

「…一応聞きましょう。何故やめた方がいいとおっしゃるのか」
「は、はい。その…正直、今のままじゃ他の参加者と出会う度に不審がられるんじゃないかって思いますぜ」

カンダタの言い分はこうだ。
現在、ゲマはマーサの姿と名前を借りて行動している。
カンダタはパパスの名を借りている。
しかし、この殺し合いの参加者には顔写真つきで名簿を全員に渡されている。
つまり、マーサという人物の名前、あるいは姿を持った参加者がいないことを全員が知っている。
そして、カンダタもパパスも名前と顔が割れているのだ。

「ですから、このまま他の奴らに接触したら、さっきみたいに不審がられて、正体を見破られちまうんじゃないですかねえ」
「ふむ…確かに一理ありますね」

カンダタの話を聞いて、ゲマは腕を組む。
なるほど確かに、彼の言う通り先ほどはデボラによってあっさり正体を見破られた。
そして、一度失敗したやり方を性懲りもなく繰り返すのは、愚者のすることだ。
彼の言う通り、やり方を変えるべきかもしれない。

「となるとさて、どうしましょうか」

変身を解き、素顔をさらすというのはダメだ。
元の姿では殺気を隠すことが難しく、不審を与えることになる。
それに、改めて名簿を見てみれば、デボラ以外にも彼の夫や彼らの息子、娘などの姿がある。
彼らから自分の悪評は広まっているはずだ。

598対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:09:24 ID:ZbUvWf.A0
となると他の参加者の姿を借りるべきか。
だが、出会った参加者が別の場所で化けた人物に出会っていたり、あるいは化けたその人当人と出会った時、面倒になる。
そうしてしばらく考え込んでいた時、ふと、自身の持つ袋が目に入った。
そう、先ほど石化したデボラを入れた袋を。

「…なるほど、その手がありましたね」

ゲマは変化の杖を使い、再び姿を変える。
マーサだったその姿は、たちまちデボラへと変わってしまった。

「これなら、大丈夫でしょ」

デボラの口調と声色をまねて、ゲマは言った。
デボラは現在ゲマが持つ袋の中におり、この先他の参加者が彼女と遭遇するということは起こり得ない。
そして、彼女が石化前に出会ったのはおそらくはあの紫竜と自分達だけ。
他から情報が伝わっている可能性は低い。
故に、この姿なら不審に思われる可能性はかぎりなく低いという事だ。

もっとも、デボラが正体を見破ったように、彼女の夫のアベルや息子、娘たちは自分の変装に違和感を感じ取って正体を見抜いてしまうかもしれない。
しかし、もしそうなったとしても問題はない。
なぜなら今の自分には、【本物のデボラ】という人質がいるのだから。

(いやはや家族愛とはすばらしいものですねえ…こんなにも利用価値があるのですから!)

かつてアベルを人質にされてパパスが全く抵抗できなかったように。
石化したデボラの姿を見せれば、彼らは従順に自分に従ってくれるだろう。

「それじゃ、行くわよ」
「あ、あの…俺の名前は」
「ああ、そういえばそっちの問題もあったか。ったく、下僕のくせに面倒かけてんじゃないわよ」

出発を再び邪魔されたことに内心気に入らないと感じつつ、デボラに扮したゲマは面倒くさそうに思案する。
といっても、こっちの問題はすぐに解決だ。
元々彼にパパスと名乗らせたのはただの気まぐれにすぎない。
それが不都合だというなら、やめればいいだけだ。

「しょうがないわねえ、本名名乗っていいわよ。ただし、あたしの事はちゃんとデボラさまって呼びなさいよ!」
「は、はい!デボラさま!」

こうして、デボラに姿を変えたゲマは、下僕を引き連れ再び歩きだしたのだった。

「ところで、あんた名前なんだっけ?」
「カンダタですよっ!」

599対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:09:52 ID:ZbUvWf.A0
【G-1/山/昼】
【ゲマ@DQ5】
 [状態]:HP9/10 MP4/5 デボラの姿
 [装備]:てっかめん  グレイトアックス@ダイの大冒険
 [道具]:支給品一式 変化の杖  デボラの石像
 [思考]:この殺し合いをぶち壊す。

【カンダタ@DQ3】
 [状態]:HP1/2 素顔
 [装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ 
 [道具]:支給品一式 こんぼう
 [思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
 呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
 (シャナク、万能薬、月のめぐみ等)

600 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:10:30 ID:ZbUvWf.A0
投下終了です

601 ◆.51mfYpfV2:2016/07/07(木) 22:46:25 ID:reO1xxo20
時間ギリギリになってしまいましたが、投下します

602命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:47:35 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。



この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。

ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。

恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー



ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。



わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。

頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。

「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」

敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。

603命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:48:25 ID:reO1xxo20
 




「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」

気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。

「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」

譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。

「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
 共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
 あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
 そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」

ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。

「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
 運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」

出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。

『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』

大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。

604命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:49:16 ID:reO1xxo20
 


「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」

例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。

「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」

言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。

「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
 私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
 確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」

生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。

「…………」

我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。

そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。

「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」

最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。

605命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:49:55 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
 他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
 そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」

自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?

目の前の姫は、奪った命を背負えているか?

「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」

ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。

「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」

やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。

「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」

ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。

(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)





「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」

無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。

606命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:50:39 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」

地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。

「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」

海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。

「私たちが意識するべきことはみっつ。
 ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
 ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
 そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
 私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」

地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。

「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
 ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」

次に、と言いながら指を動かす。

「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
 しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」

最後に東に指を滑らせる。

「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
 更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
 そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」

607命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:51:21 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。

「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」

追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。

「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」

言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。





身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。

(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
 私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
 私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)

チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。

我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。

(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)

もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。

608命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:52:07 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」

一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。

「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」

二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。

そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。



【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】 
[状態]:ショック 
[装備]:毒針 
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット 
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖) 
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う 
   アレフに会いたい 

【チャモロ@DQ6】 
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能) 
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5 
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み) 
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 
   ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。 

609KinniSSM:2016/07/07(木) 22:52:47 ID:reO1xxo20
以上で投下終了です。
指摘などがあれば、よろしくお願いします。

610 ◆.51mfYpfV2:2016/07/07(木) 23:14:11 ID:reO1xxo20
すみません、トリップミスしてしまってたので、新しいトリップで投下し直します

611命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:15:40 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。



この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。

ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。

恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー



ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。



わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。

頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。

「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」

敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。

612命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:16:38 ID:reO1xxo20
 




「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」

気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。

「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」

譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。

「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
 共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
 あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
 そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」

ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。

「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
 運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」

出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。

『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』

大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。

613命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:17:19 ID:reO1xxo20
 


「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」

例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。

「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」

言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。

「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
 私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
 確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」

生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。

「…………」

我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。

そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。

「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」

最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。

614命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:17:57 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
 他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
 そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」

自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?

目の前の姫は、奪った命を背負えているか?

「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」

ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。

「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」

やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。

「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」

ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。

(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)





「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」

無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。

615命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:18:54 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」

地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。

「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」

海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。

「私たちが意識するべきことはみっつ。
 ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
 ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
 そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
 私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」

地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。

「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
 ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」

次に、と言いながら指を動かす。

「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
 しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」

最後に東に指を滑らせる。

「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
 更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
 そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」

616命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:19:30 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。

「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」

追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。

「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」

言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。





身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。

(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
 私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
 私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)

チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。

我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。

(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)

もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。

617命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:20:35 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」

一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。

「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」

二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。

そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。



【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:ショック
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
   アレフに会いたい

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

618 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:21:33 ID:reO1xxo20
改めて、投下終了です。指摘などあればお願いします。
この度は初歩的なミスすみませんでした。

619 ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:56:38 ID:hs45yPTo0
予約分を投下します

620ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:57:31 ID:hs45yPTo0
瓦礫の崩れる音が収まり、トラペッタには不気味なほどの静寂が訪れる。
皆の待つ門へと向かう足取りは重く、しかし小さな足音はやがて事実を伝えるだろう。
ギガデーモンを倒したこと。そして。

「エルギオスとドラゴンは、死んだ」

ナブレットが告げると一同はそれぞれに表情を歪ませた。
ぼろぼろと涙をこぼしていたサンディがナブレットに向き直る。
見ている方が苦しくなるような悲痛な表情で、悲しみと怒りの感情がないまぜになった瞳で、サンディはナブレットを睨む。


「……どうしてよ!」

  ――あァ、近しいヤツを喪うのはツライよな。


「みんなで戦えば何とかなったかもしれないのに、」

  ――決意を胸に秘めてこっちにゃ背中しか見せてくれなくってよお。


「この門が使えないことを知ってたら置いて行ったりなんてしなかったのに!」

  ――気付いた時には遅いんだ。だってそうだろ? もう会えなくなるなんてこっちは思いもしねえんだから。


「なのに! 自分だけ無傷で安全なところにいて! 見届けたなんてエラそうなこと言っちゃってさ! そんなの……」

  ――だから、サンディ、よしてくれよ。


「見届けた? 見殺しにした、の間違いでしょ!!? アタシはそんなヤツゼッタイに――」

  ――そうやって俺を責めるフリをして、


「――ゼッタイに許さない!! 一生、何があっても許したりしないんだから……!!!」

  自分自身を、責めるってのは、よ。



やり場のない喪失感に、誰も、何も応えられずにいた。
泣きじゃくりながら勢いのままに罵倒の言葉を吐き捨て、サンディはその場から逃げるように飛び去っていった。

621ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:58:19 ID:hs45yPTo0
「ゲルダ。お前も傷だらけのところ悪いが、ガボたちを休ませてやってくれるか」
「それは構わないけど……。あのコ、大丈夫なのかい」
「ああ、俺が探してくる。見捨てるわけにはいかねえだろう。……俺にも一つ、思うところがあってな。二人で話がしたい」

ナブレットは表情を隠すようにシルクハットをかぶりなおした。

「ただ、これだけドデカい戦闘をやってのけたんだ。
 乗じて新たな敵襲が来るかもしれない。その時は構わず逃げてくれ」
「……わかったよ。そこの宿屋の二階にベッドがいくつかあったはずだ。アタシたちは一旦そこで休むことにする」

ゲルダはサンディが脱ぎ捨てた知識の帽子を拾い上げた。
飛び去ったサンディを追うために、ナブレットはもう一度北の階段を駆け上がる。








……アタシはなんてバカなんだろう。
ぜんぶ、ぜんぶアタシのせいなのに。
皆で逃げようとしたときにダンチョーさんが何か言いかけてたことにも気づいていたのに。
賢くなったつもりで、舞い上がって、このまま何もかもウマくいくんだって信じ切って、思いこんで。
それを人のせいにして、喚いて、怒鳴り散らして。
逃げ出して、こんな路地裏の隅っこに引っ込んで、拗ねたり泣いたりして。
サイテーじゃん、アタシってば。


膝を抱えて座り込むアタシにふっと陰が差す。
シルクハットをかぶった黄緑色の小さな体。

「……妖精は井戸のそばにいるってのは本当なんだなあ」
「何よ、ソレ」
「メギストリスって都の噂話さ。井戸には話好きの妖精が住んでいるんだと」
「そんなの知らないし、キョーミない。っていうかコッチこないでほしいんですケド」


ホラ、こうやって心配かけて、悲劇のヒロインぶって。また当り散らしてる。
あれだけ酷いコト、言ったのに。
もー、ぐっちゃぐちゃで、ワケわかんない。

622ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:59:27 ID:hs45yPTo0
「――サンディ。俺が憎いか」

「…………」

「お前の言った通りだ。俺は何もできなかった。
 犠牲を出さずに……ってのはどのみち無理だったろう。それは退却を選んだお前さんの方がよく分かってるよな。
 けど他にやりようはあったかもしれない。少なくとも、お前に悔いが残らない道ってのはあったはずだ」

「分かったようなこと言わないで。……もういいでしょ、ほっといてよ。ヒトリになりたいの」

「いいや放っておけねえよ。遺されるヤツの辛さってのは俺も知ってるんだ。だからお前をこのままにしておきたくない」





――俺のわがままだがちょっとした”昔話”を聞いてくれるか、とナブレットは前置きをして話し出す。



ナブレットには年の離れた妹がいた。この話は二人が暮らしていたオルフェアの町で起こった話。
妹には生まれつき不思議な力があった。それは未来を見ることのできる予知能力。
だがプクランド大陸の破滅を目論む悪魔に目をつけられ、やがてあらわれるプクリポ族の救世主の存在を予知するよう強要をされた。

「予知をしなければ町中の子供を食い殺すと脅された。
 だが当時――十五年前にはまだ救世主は生まれていなかったんだ。それを知った妹は悪魔と契約を交わした。
 救世主が生まれるまでの十五年のあいだは、絶対に子供たちに手を出すなと。
 そのかわり、十五年経てば、救世主だろうがなんであろうが子供たちを好きにして構わないからと」

そして十五年後の約束の日。
悪魔の手の届かない場所に子供たちを隠してしまうこと。それが妹からナブレットに託された役割だった。
サーカスの特別講演と称して町中の住民を集め、イリュージョンを使い子供たちをさらった。
そして『異世界』の扉の中に隔離し、妹の予知の通りに現れた冒険者、ジャンボとともに悪魔を討伐したのだ。


「……ずいぶん勝手な妹サンね。
 子供たちを守るなんてゴリッパだけど、アンタに面倒事を押し付けて、そんな強引なことをさせるなんてさ」
「まあそりゃあな。その頃には妹はいなかったんだ。――なにせそれよりも五年ほど前に死んじまったからな」
「え……」

プクランドに迫る危機は、その悪魔だけではなかった。
そして妹はもう一つ不思議なチカラを持っていた。
『異世界』の中でとある者に授けられた「何でも願いがかなうノート」
ただし願いをかけるのは3つまで。そして最後の願いごとを書いたとき……ノートの持ち主は破滅し、無残な死を遂げるという。

「何ソレ……じゃあアンタの妹さんは……世界を救うためにそのアイテムを使って、自分を犠牲にしたとか……そういうコトなの?」
「…………。
 それが、わからねえのさ。知らねえんだ。
 アイツが最後に何を書いたのか。そもそもどんな願い事をしようとしていたのか。アイツは何も話しやしなかった……」

623ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:00:34 ID:hs45yPTo0
 
……。同じだ。
たった今、エルギオスたちも、逝ってしまった。アタシには何も言わずに。


「運命ってなんだ? 使命ってなんだ? 俺たちはごく普通のただの兄妹だった。
 少なくとも神サマや精霊サマからなにか大それたモンをたまわるなんて存在じゃあなかった。
 なのにどうしてアイツが命と引き換えにそんなことをしなくちゃならなかった? 俺にはずっとわからなかった」

「…………」

「アイツの予知どおりに悪魔を倒してやった時、俺は何とも言えない気持ちになってよお。
 だってもうアイツはこの世にいないんだぜ。
 それに、子供たちを守るためにやったことだなんて言やぁ聞こえはいいが、皆を傷つけたことに変わりはねえ。
 町中の住人から責められても仕方ないと思っていた。すべてが終わった後、俺は町を去ろうと決めていた。
 そうすることでケリをつけたかったんだ。
 いや、消えてしまいたかったのかもしれねえな。何も言わずにいっちまったアイツみてえによ……。けど……」

「……でも。そんなの、ダンチョーさんが悪いわけじゃないじゃん……」

「そう、そんな風にな。子供たちがよお、言ってくれたのさ……」

一人も犠牲にならぬよう、一時的にとはいえ無理やり親元から引き離し、『異世界』の扉の中という得体の知れない場所に閉じ込めた。
怖くなかったはずがないだろう。悲しくならなかったはずがないだろう。それでも子供たちは言ってくれたのだ。

 ――団長さんを信じてたよ。助けてくれてありがとう!――
 ――いなくなるなんて言わないで! ボクたちサーカスが大好きなんだ!――
 ――あんたは子供たちの命の恩人よ。これからも町にいてちょうだいよ!――


「……いやあ、参ったよな。不覚にも涙がこみ上げてきちまってよお。許してもらえたから……それもあるが、それだけじゃなくてよ、」

ナブレットはシルクハットのつばをグイと押さえる。

「アイツにも聞かせてやりたかった……。そして……それは俺からも伝えたかった思いだったと気が付いた。
 先に死なれて、俺には心のどこかで納得できずにアイツを許せないような気持ちがあったのかもしれない。
 けど子供たちの言葉でわだかまってたものが消えていった。アイツに、ありがとうって、伝えたかった……。だから、サンディ」

上擦った声でそこまで言うと、顔を上げた。


「お前を探しにきたのは同情したからでもただ慰めたいからだけでもない。
 伝えたくて来たんだ。――助けてくれてありがとよ。いま俺やガボたちが生きていられるのは、お前たちのおかげだ――」
 

また、ぼろぼろと涙の粒があふれ出る。
何もできなかったのに。この胸には後悔しか残っていないのに。
自分の思い上がりでみんなを傷つけたと思っていたのに、それすらも思い違いだったっていうの。

「バッカみたい……ホンット、サイテー……」

624ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:01:24 ID:hs45yPTo0
誰かを助けるために自分を犠牲にする。そのためにすべてを失ってしまう。それでも思い通りにいかなくて、また傷ついて。
思い浮かぶのはアークの姿だ。アイツ、今どこでどんな顔をしてるの。

ナブレットはぐしゃぐしゃの泣き顔を覆うように、シルクハットをかぶせてくれた。



「……話のオマケだ。俺はよ、昔、シルクハットじゃなくてコック帽をかぶってたんだ。本当はケーキ職人だったんだ」
「え、それがどうしてサーカスのダンチョーさんになっちゃったわけ?」
「妹が言ったんだよ。――子供を集めるのにはケーキもいいけどサーカスなのっ!ってな。
 おかげで、曲芸のきの字も知らなかった俺が今じゃアクロバットスターなんて呼ばれててよ。まったく無茶なこという妹だったぜ、はは」

人生なんてどうなるかわからねえよな、と困ったように笑う。
それは少し照れくさそうな笑顔でもあって。

「何よソレ。……あはは、ダンチョーさんの妹さんって、ソートーな変わり者だったのね……」

――アタシもこんな風に笑える時が来るのかな。今は全然できそうに思えないケド。



「昔話はここまでだ。他のやつらには話すなよ? おおっぴらに語るようなことじゃねえしな。さて、ちょっとは気が紛れたか?」
「うん……ゴメンナサイ……アタシ、謝んなきゃ。ダンチョーさんにも酷いコト言って、みんなにも……けど……」
「ん?」
「今よりも、もっと。グシャグシャな顔になっちゃうかもだけど。それでも行かなきゃ……南の広場に」

見に行かなきゃいけない。向き合わなきゃいけない。
エルギオスたちが遺してくれた思いを受け止めなきゃ。
でなきゃきっと、ずっと後悔したままでいることになる。それだけは絶対に、イヤだ。だから。

「そうか。辛くなったら、俺の胸でいいなら貸してやるぜ」
「や……それはエンリョしとくワ。そのかわりこの帽子はもうちょっと借りておくわね」
「ははっ、そうしろい。……ううっ、今自分でもガラじゃねえこと言っちまって鳥肌がたってらあ」

 

 
二人は路地裏から広場へと向かった。

崩れた瓦礫、焼け焦げた炎の跡、血飛沫。

段上から見える戦闘の痕跡はサンディの想像以上に酷いものだった。

サンディはシルクハットを握り締めてひとしきり泣いた。ナブレットは何も言わずただ寄り添った。

泣きじゃくる声の間から、感謝を告げる言葉が小さく聞こえた気がした。

625ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:02:48 ID:hs45yPTo0
どのくらいの時間、そうしていただろうか。近づく気配に気づきナブレットは振り返る。

「なんだ? お前ら宿にいるんじゃなかったのか?」
「この子たちがどうしてもって聞かなくてね」

ゲルダとともにホイミンと、ライアンに背負われたガボが広場へとやってきた。

「おっちゃんありがとう。ここで下ろしてくれ」
「ガボ、大丈夫なの? 足、ひどいケガしてるのに……」
「ああ、ホイミンもありがとうな。けど背負ってもらったままじゃカッコがつかねえから」

全員が弔いに来たのだ。エルギオスとゴドラ、自分たちを守ってくれた二人を。
頷いたライアンはガボを下ろす。
と、同時にサンディに向き直り頭を下げた。

「サンディどの、すまない。皆も、私を助けようとしてくれたばかりにこのようなことになってしまった!
 しかし、なんと詫びればよいのか見当もつかないのだ……」
「チョ……やめてよね。アンタに謝ってほしいなんて思っちゃいないわよ。そうじゃない、そうじゃなくて……。
 謝んなきゃいけないのはアタシのほうよ! ゴメン、みんな、みんな一緒に戦ってくれたのに、あんな取り乱して……アタシ……」

消沈してサンディが俯くと、今度はガボが声を張り上げた。

「サンディ、オイラもだぞ!
 オイラがちゃんとぼうぎょできてたらみんなに加勢できてたんだ。そしたらちゃんとやっつけられたかもしれない!」
「ぼ、ぼくも! ライアンさんを助けるのに必死で、もっとまわりに注意できてたら……」

さらにホイミンが弱々しくふるえた声で後悔を口にする。
やれやれ、とゲルダも頭を振った。

「……こういうたられば話ってのは性に合わないが、この際吐き出しちまうべきなのかもね。
 アタシも見通しが甘かったよ。
 この町を脱出するルートは限られてたんだ。一番知っていたのに、アンタに全部丸投げした。その責任は感じてる」

「な、なによソレ。やめてよ……みんな……一人で泣いてたアタシが、マジダサイじゃん……」

しゅんと落ち込むサンディの姿に困った笑みを浮かべるナブレット。

「顔を上げようぜ。おんなじなんだ。皆、こいつらにもらった命だ」

626ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:03:45 ID:hs45yPTo0
表情を引き締め彼は皆へと伝える。
エルギオスとゴドラの勇姿とその思い。
打ち明けた最期の決意を、全員が胸に深く刻み込み、彼らを追悼した。


 
***


「さて、これからどうしようか」

各々に共通する目的。
ライアンはユーリルを、ゲルダは元の世界の仲間たちを、ナブレットはジャンボを、そしてサンディはアークを探すために行動していた。
そしてガボとホイミンは『みんな友達大作戦』をかなえるためにできるだけ多くの参加者を集めたいと思っている。

トラペッタを拠点にできればと考えていたが、今の戦闘で半壊してしまった。
さらにこの惨状。ギガデーモンの巨大な死体が残るこの場所が目的に適しているとも言い難い。
一同は地図を眺めながら頭を悩ませる。

「ここを離れることも視野に入れた方が良さそうだ。
 だが今から拠点を移るにしても、どこも距離がある。ゲルダ、どうだ?」
「そうだね……南の洞窟の滝の上には粗末な小屋があるだけで、何より逃げ場がないから却下だ。
 リーザス村まで行くとなると、木の多い一本道を橋を渡って行かなきゃならない。
 着いたところで出入りは西か東かの二択。もしどちらかが塞がれれば、結局今回と同じことになっちまうだろう」
「なら、西にあるトロデーン城が一番いいのか。しかし、この場所もどん詰まりだな」
「だが人が集まりそうなトコロってんなら最有力候補だよ。だけど……」

ゲルダが言いよどむ。

「ナブレット。大事な事を言うよ。――アタシの地理感覚をあまり過信しない方がいいかもしれない」
「どういうことだ?」
「ここから城に繋がる橋。これは昔とあるバカがぶっ壊して無くなっちまったはずなのさ。だが地図には記されている……」

「それって、この地図がニセモノってこと?」
「エビルプリーストがオイラたちをだまそうとしてるのか?」
ホイミンとガボが率直な疑問を口にする。

「いいや、違うね。きっと橋は”存在してる”。……おかしいのさ。この町にはもともと火事で全焼した家があったんだ。
 宿からここに来る道の途中にね。だがその家は、今”存在してる”んだ……。さっきこの目で確認したよ」
「――やっぱりこの世界は作り物、エビルプリーストにとって都合のいい『異世界』ってわけか」
「……それについては、ギガデーモンにも同じことが言えよう。
 私はかつて勇者殿たちとともに奴を打ち倒した。
 もとより巨大なモンスターではあったが、これほどまでに規格外な大きさではなかったはずなのだ……」
「それじゃあいつ、エビルプリーストのチカラで本当より強くなってたってことか!? そんなのずりーぞ!」

627ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:04:39 ID:hs45yPTo0
「あーーーーもうっ!!! まどろっこしいったらありゃしないワ!!!」
「サンディ?」


黙って落ち込んでいたはずのサンディが急に叫んだ。
フワリと飛び上がりゲルダの元に近づく。

「……アリガト。アンタが拾ってくれたのネ。アタシもこれ返すから、ソレ、返してもらっていい?」

サンディはシルクハットを差し出し、かわりに知識の帽子を指さした。
ゲルダはサンディからシルクハットを受け取ると、そのままナブレットの頭に戻してやる。

「……わかったよ。約束通りだ。ちゃんと返してもらったからね」
「おいおい、俺は物じゃねえっつったし帽子が本体ってやつでもねえぞ……」

げんなりとするナブレットを尻目にサンディとゲルダはくすくすと笑い合った。



――大丈夫。もうヘコたれてなんていらんない。
勇気を振り絞ってサンディはもう一度、知識の帽子をそうびした。


「……今アレコレ細かいことをあげつらっても混乱するだけだわ。
 アタシたちはあいつ――エビルプリーストの都合のいい世界の中にいる。まず前提として考えるのはソレだけでいい」

ギガデーモンのような差し金や世界のこともそうだが、あいつにとって都合のいいルールは他にもある。
そう、それはこれから始まる定時放送。

「禁止エリアが発表されるわ。みんな、どう動くかを決めるのはそれからよ」






【G-2/トラペッタ中央広場/1日目 昼】

【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給

品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
      ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
       ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。

628ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:05:08 ID:hs45yPTo0
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
    ホイミンたちを守る

【ガボ@DQ7】
[状態]:HP3/10 腕や背中にいくつか切り傷 全身打撲  両足骨折
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8
[思考]:ホイミンと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
   アウトロースキル39以上

【ナブレット@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
    みんな友達大作戦を手伝ってやる

※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています。


---
以上で投下終了です。

629 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:04:26 ID:WY6/oKtc0
投下します

630魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:05:41 ID:WY6/oKtc0
突如として、空気が震えた。
それに続き、肌を叩き付ける膨大な魔力を感じた。
そして竜の咆哮を思い起こさせるような轟音と、脳髄まで刺すかのような凄まじい閃光。
何かがーー否、戦闘が起こっているのだとサヴィオとコニファーが判断するには、十分すぎる光景だった。
やがて元の通り静まり返り、何事もなかったかのように空気は落ち着き、澄ましている。

「今のは……まさか、マダンテか?」
「え、コニファー知ってるの? もしかして、仲間が……」
「いや、俺の仲間にはマダンテを使えるヤツはいなかった。でもよ、その魔法があるってことはよく知ってる」

サヴィオの問いに答えながら、堕天使エルギオスとの戦いの最中、マダンテに何度か痛め付けられたことを思い出す。
膨れ上がり暴走した魔力は叩き付けるように押し寄せ、肌を灼き、コニファーたちを呑み込んだ。
それほど魔力が高いわけでもなければ敏感なわけでもないコニファーでも、枷が外れ、意志もなく暴れ狂う魔力をはっきりと感じ取れた。
寧ろ魔力に敏感ではなかったからこそ、あの凄まじい魔力のうねりが脳裏に焼き付いて離れない。
今しがた目にしたものは、離れていたところで発動したからだろう傷付けられこそしなかったものの、確かにあの時と同じ魔法だった。

「マダンテってのは、使ったヤツの魔力を全部ぶっ放して暴れさせるものらしい。その威力は……言うまでもねぇな」
「そりゃ、あんな光景を見れば分かるさ……ん?」

まだ呪文の使用者は確認できない距離だが、地面が穿たれ、岩肌が抉れているのは微かに見える。
あれだけの広範囲にわたって地形を変えてしまっているのだ、どれほどの威力か説明されるまでもなかった。
顔を引きつらせていたサヴィオは、ふと気付く。

「魔力を全部……だとしたら、あれを放ったのが誰であれ、マズいことになってるかもしれないのか……」

冷や汗を流すサヴィオに、コニファーは黙って頷く。
ゲームに乗る気のない者が襲撃者をマダンテで撃退したというだけなら、問題はない。
しかし、撃退できていない場合、マダンテの使用者は魔力もなしに戦闘を続けることになる。
逆に襲撃者がマダンテを使ったのだとすると、生存者がいたとしてもかなりの重傷は免れない。
最悪のパターンは戦闘がゲームに乗った者同士で行われていた場合だ。

「でもよ……」

ぽつりと呟いて、コニファーは来た道を振り返る。
その向きは南。パパスとイザヤールが向かった方角だ。

「旦那たちに危険な役割を受け持ってもらってんだ。後戻りなんてしたら……示しがつかねぇさ」
「……ま、そうだよねぇ。どのみち前進しかないよね」
「なァに、まだ距離はあるんだ。警戒しときゃ、どのパターンでも手は打てるだろ」
「もっと近付く前に気付けて良かったね。はあ……ホント、運が良いのか悪いのか……」

ぼやきつつもいつでも詠唱に入れるように神経を集中させるサヴィオににやりと口角を上げ、コニファーは彼よりも少し前を歩き出す。
パーティを抜けた後のサバイバル生活経験を活かして警戒に当たるのは適材適所というものだ。
援護は頼んだぜ、と小声で呟くと、偵察は頼んだよと返ってきた。
誰かと共に生きようとするのは久し振りだなと、なんとなく思った。

631魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:07:46 ID:WY6/oKtc0
 


束の間の静けさの後、響いてきた爆音を耳にした二人は、姿勢を低くし、更に慎重に歩みを進めた。
コニファーは弓に矢を番えながら、サヴィオは魔力を練り上げながらマダンテが放たれたであろう場所に近付いたものの、既に再びの静寂に包まれ、戦闘は終わりを迎えていたようだ。
やや安堵して力を抜き、辺りを見回したサヴィオの目は、二人の人影を捉えた。
動く気配のない大きな体躯と……見覚えのある僧衣。
そこにいたのは間違いなく。

「フアナ!」
「あ……」
「サヴィオのお仲間さんか。だが……再会を祝福、というわけにもいかねぇようだな」

フアナを庇うような体勢で灼け爛れ、絶命している大男。
先程聞いたばかりの爆音もあり、何が起こっていたかは想像に難くない。
フアナは焦点の合わない目を見開き、そこに仲間がいると認識した途端涙を溢れさせた。
ふらふらとした足取りで歩み寄ろうとする彼女をサヴィオは慌てて抱き止め、幼子をあやすように頭を撫でてやる。
信頼できる仲間と会えた安心感と、生きた人の温もりを実感してか、ついにフアナは声を上げて泣き出した。

おろおろとするカマエルを抱え、コニファーは二人から少し離れて辺りを警戒し始める。
まだフアナのことを詳しく知らないため、下手に慰めるよりは共に旅をしていたサヴィオに任せた方が良いだろうという判断だった。





いくら経った頃か。漸く泣き声が落ち着き、フアナはぽつりと呟き始めた。

「わた、し……私……」
「うん」
「私……謝ら、なくちゃ……」
「謝る?」
「謝らなくちゃ……いけ、ないのに……いけなかった、のに……」

ズーボーさんに。
そう言って涙に濡れた顔を上げ、もう動かない彼を見る。
あれだけ大きく見えた背中が、連発されたイオナズンによって小さくくすんでしまっていた。
ちょっと大股で歩けば、それだけで乗り越えられそうで、居たたまれなくなる。

「ありがとうって、それしか……それしか言えなくて……」

632魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:08:47 ID:WY6/oKtc0
殺し合いに放り出されてから半日にも満たない時を振り返る。
モンスターと認識したズーボーに襲いかかり、しかしその不可解な行動に戦き逃げ出し、ゼシカやバーバラと出会い。
ヘルバトラーに襲いかかられ、そしてズーボーは何よりも仲間を守る為に戦った。
二人だけでなくフアナもズーボーに守られ、その結果、今こうして生きている。

「モンスターだと思って、信用ならないって突っぱねて、そのくせ、守って、もら……て……」

一旦落ち着いたはずの涙が、またボロボロと溢れ出す。
ゴシゴシと目を擦り、それでもフアナはズーボーをしっかりと見据えて。

「何よりも、謝ら、なきゃ……いけな、かった……のに……私、最低な、こと……」
「……フアナ」

しゃくりを上げ、止めどなく涙を流すフアナに、サヴィオはそっと囁く。

「フアナはさ、正義感が強くて、間違いを許せなくて。でも見栄っ張りだから、自分がちょっと間違えることすらも許そうとしなかったでしょ」

いつだったか、THE・ガマン大会8668で熱い正義の心を手にしたんだと、自慢げに語っていたことを思い出す。
しかし堂々とした態度のその反面、輝かしい数々の経歴をことあるごとに披露するも何故かオチに回ってしまうようなどこか抜けているところを気にしている部分もあった。

「だから、そのズーボーって人のことも、モンスターと思って襲いかかった自分が許せなくて、間違ってないんだって思い込もうとして、突っぱねちゃったんじゃないかな」

こうして再会するまでの様子は見ていないから、分からないけれど。
共に旅をしてきた仲間なのだ、ある程度は予想できる。

「でも、間違えない人間なんていないんだしさ。ありがとうった言えただけでも十分だよ。
 それでもフアナは納得いかなくて、謝りたいと思ってる。最低なんかじゃないよ」
「でも……いくら、謝りたい、って、思っても……もう、ズーボー、さんは……ズーボーさん、には……届かないのに……!」

最期まで、バーバラの、ゼシカの、フアナの命を守り続けて、ついには声も満足に出せないほど灼き尽くされて。
ありがとうの言葉すら、届いたかどうか判断できないというのに。

「届くよ、きっと」

フアナの悲痛な言葉にやんわりと返し、サヴィオもズーボーの亡骸を見遣る。
惨たらしく灼け爛れているけれど、微かに分かるその表情を見れば、誰でも思うだろう。
ありがとうは、きっと届いてる、と。

633魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:09:53 ID:WY6/oKtc0
ーーごめんなさいだって、きっと届く。

その言葉に後押しされるように、そっとサヴィオから離れ、ズーボーの傍にしゃがみ込む。
恐る恐る幅のある肩を起こして、改めてその顔を見つめる。
表情全てまでは分からないが、魔障や幾重の爆発に耐え続けた彼の口元はーーそれでもほんの少しだけ、弧を描いていた。

「ズーボーさん……」

ふと、抱き起こす両手がいっぱいに広げられていることに気付く。
彼の亡骸は今も小さくなんてなかった。くすんでなんていなかった。
ならば、小さくなっていたのは、くすんでいたのは。
自分の心、だったのだろうか。

「もう、遅いかも……いいえ、もう、遅いけど……ごめんなさい。
 そして、もう一度……本当に、ありがとう」

漸く素直に吐き出せた謝罪と、誰かを守る者への、一番の餞となる言葉を紡ぐ。

「こんな私を……守ってくれて、ありがとう……」

ズーボーをそっと横たえ、フアナは祈るようにその手を組む。
誇り高きパラディンへ黙祷を捧げる中、時折落ちるぽつりという音だけが響き渡った。





やがて手を解くと同時に、泣き疲れたのか精神的に限界だったのか、フアナはぱたりと気を失った。
支える力を欠いた体をサヴィオは慌てて受けとめ、落ち着いた呼吸に安心して息を吐く。

「……フアナ、だったか。そいつ、大丈夫なのかい?」

時折様子を見ていたコニファーが声をかける。
自身も打ちのめされた僧侶が仲間にいるからか、どこか気になるようだ。
やや心配そうな声色の言葉に、サヴィオは曖昧に微笑んでみせた。

「まあ……多分。謝れたことで、フアナなりにケジメは付けられただろうし、その内立ち直るとは思うよ。
 でも見栄っ張りでさ、すぐ強がるから。今はこのまま休ませてやっていいかな?」

旅の途中もそうだった。
引っ込み思案なアスナやパーティで一番年若いホープに心配かけまいと、その性格も手伝って、フアナは自分の弱い姿は見せようとはしなかった。
そんな彼女をすぐ起こしたら、また強がるだろうから、ゆっくり休ませてやりたいのだとサヴィオは言う。
コニファーも了承し、平原の端まで移動してから腰を落ち着かせることにした。
フアナを抱きかかえ歩き始める前に、サヴィオはズーボーの亡骸を振り返る。

634魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:12:09 ID:WY6/oKtc0
「貴方のおかげで仲間に会えたのに、ごめんね。フアナが目を覚ましたら、必ず埋葬するから……少しだけ、待っててね」

頭を下げて、今度こそ歩みを進める。
一時的とはいえ埋葬をしないことへの罪悪感と、必ず弔うからという想いを胸に秘めて。





岩壁の付近でフアナを下ろし、彼女のことはサヴィオに任せ、コニファーは再び周囲の警戒に当たっていた。
教会からここまで誰にも出会わず、更には北に城があるということもあって、人が来る可能性は低いだろうとは思うが、それでも念には念を入れておく。

(俺は……生きてるんだよな。こうして、確かに生きてる……)

ちらりと視線をズーボーがいる辺りに投げ掛ける。
コニファーは確かに生きている。こうして立っているのだから。
コニファーは確かに生きている。亡骸と違い、こうして動いているのだから。
コニファーは確かに生きている。
けれど。

(こんな形で生きてるって実感するなんて、な……)

誰かの死によって、生を実感するなんて。
皮肉にしては質が悪い。

(なあ、アーク、スクルド、ポーラ……お前らは、大丈夫か?)

僧侶である彼女の弱った姿を見て。
死を以て生を教えてくれた彼を見て。
コニファーは、かつての仲間たちを思い返す。
アークやポーラの腕っぷしの強さはよく知っているし、スクルドもよく回る頭でパーティをサポートしていた。
そう簡単に死んだりはしないだろうとは思うが、過った不安は消えようとしない。

(お前らの命を犠牲に生きてるって実感するなんて、俺はゴメンだ。
 どうか、生き延びててくれよ……)

とにかく生きて、感覚を保つ。その想いに変わりはないけれど。
こんな悲しい形で為し遂げるのは、もうしたくはない。
それも仲間の命で、など。
そんなことを許容できるほど、コニファーの感覚は狂ってはいない。

635魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:04 ID:WY6/oKtc0
(ああ、ほら、また。なんでこんな嫌なことを考えるほど、自分の感覚に安心するんだ……)

がしがしと頭を掻き、目を逸らす。
きっと亡骸を見たばかりだから、気が滅入っているのだろう。
ならば煩わしいことは考えないようにと、警戒に神経を集中させる。

別のことでも、感覚は保てるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、コニファーは弓を強く握り締めた。



【C-4/平原/1日目 昼】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   サヴィオと仲間を探す。

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。コニファーと仲間を探す。
   フアナを休ませる。フアナが目を覚ましたらズーボーを埋葬する。
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP1/10 気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:???

※バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 がズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8 の入ったふくろがズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※バーバラとゼシカが付近にいることにはまだ気付いていません

636 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:44 ID:WY6/oKtc0
以上で投下終了です。
指摘などあればよろしくお願いします。

637ただ一匹の名無しだ:2016/07/24(日) 21:36:53 ID:xUlW7nbk0
投下乙です
フアナさんとサヴィオが合流したか
フアナさん立ち直れるだろうか…
他人の死を見て生を実感してしまうコニファー君も物悲しいねえ

64010の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 00:58:46 ID:/n5HYbQo0
青い空、白い雲、照りつける太陽。
本日は絶好の晴天なり。
そして同時に、絶好の殺し合い日和。

「いません!」
「うーん……」
「はてさて……」

フアナとサヴィオ、そしてカマエルは再びあの地へと戻ってきた。
フアナがズーボーを失い、気絶した場所。
地形を変化させるほどの大規模呪文が何度も爆発した激戦の地。

「僕もコニファーもいたけど、見落としはなかったと思うよ?」
「でも、死んでないんですよね?」
「それは僕も保証するけどさ」
「ワタクシも聞き間違いはないと思いました」
「けど、って何ですか?」
「いや、あの放送が真実とは限らない線もあって……ってそんなこと言いだした日にはキリが無いけど」

となると、バーバラとゼシカはサヴィオとコニファーが来る前にどこかへ移動した。
理由はすでにフアナとズーボーは死んだと勘違いしたため。
あるいは、生存が判明してるヘルバトラーか悪意を持った人間が二人を拉致した。
考えられるのはこのあたりか。

サヴィオが辺りをもう一度見回す。
魔の瘴気は緑豊かだったはずの場所を死の大地に変えていた。
急速に枯れた植物、紫に変色した土、あっという間に風化した岩石。
大自然の植物で満たされていた大地の中に円形に広がる、茶色の大地。
明らかに自然にできたものではない。
フアナが見た、ヘルバトラーの攻撃によるものだと推察される。
どれほど強大な敵と戦ったのかも自ずと知れる。

「そういえば……思い出してきました!」

円周率は軽く10万桁まで覚えてるほど記憶力の良いのがフアナという僧侶。
教会の教典の暗誦は4歳の頃にはすでにできていた。
あの時何が起こったのかを正確に思い出していく。
あの時、ゼシカとバーバラはとっておきの呪文を放とうとし、フアナはズーボーを死なせまいと前に出た。
そして、ヘルバトラーの魔の瘴気と二人の最強の呪文が激突し、フアナはズーボーに守られたのだ。
ゼシカ、バーバラとズーボー、フアナは離れた場所にいた。
そのことをフアナは思い出す。

「こっちです!」

フアナが記憶にある場所へと走り出す。
そこにはゼシカとバーバラこそいないものの、紙があった。
本来ならフアナの傍に置かれていたこの書置きが風で吹き飛ばされた結果、この場所に飛ばされたのは偶然なのか必然なのか。
ゼシカとバーバラの生存はこの時保証された。
同時に、ヘルバトラーや悪人に拉致されたという最悪の可能性も消えた。
しかしこんなものを残してフアナを置いて行く理由とはいったい何なのか。
期待と不安混じりに、フアナはその紙を手に取る。

64110の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:00:47 ID:/n5HYbQo0
『ごめん
 バーバラがどこか行った
 追いかける』

「これは……シンプルな文面からも、急いでることが滲み出てますねえ」

カマエルの言葉に二人も同意する。
文字はいかにも走り書きといった感じで雑で、大きさも統一が取れてない。
最低限の情報だけ書かれたメモは逆に不安を煽ることとなる。
どこかへ行ったとはどういうことなのか。

「目的地も告げず、ゼシカの同行も許さずに一人でってことみたいだね」
「はい。 けれどどうして……」
「ねえフアナ、バーバラって子は誰にも相談せずに突っ走るような性格だった?」
「いいえ。 私の目には元気な女の子という風にしか見えませんでした」

フアナの言を信じるなら、少なくとも正常な状態で下された判断ではないということか。
だとしたらそれは内的な要因なのか、外的な要因なのか。
例えば仲間の死で自暴自棄になったのか、それとも誰かにおびき寄せられたのか。
どちらにせよ、危険な状態にあることは確かだ。

「とりあえず探しに行こうか」
「はい、任せて下さい。 探偵事務所でアルバイトしてたこともありますから、人を探すのは得意です」
「あ、そう。 じゃあお任せするよ」
「タンテイ……とは何でしょうかご主人様」
「しっ、フアナの邪魔はしないで」

フアナがまず最初にしたことは自生している木に近寄ることだった。
その木を隅々と見渡す。
注目してるのは枝。 葉っぱではなく枝だ。
丁度良い枝を見つけると、フアナはバギでその枝を斬り落とす。
斬ったのは最も高い部分に近い細めの枝。
それを二つほど用意する。

「ダウジングマスターの称号を持ってますからね。 探し人から埋設された水道管まで、何でも見つけてみせます」

L字に近い枝を両の手に一本ずつ軽く握る。
あとはこの簡易L字ロッドが反応する方へ行けばいいだけだ。
これはフアナが土木工事に携わる際に習得した技術だ。

「スイドウカン、とは一体何なのですか?」
「聞かない方がいいと思う。 僕はもう突っ込むのは止めた」

アスナ一行はフアナに対して、事の真相を確かめないのが暗黙の了解になっている。

64210の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:02:41 ID:/n5HYbQo0
クイッ

「ふむ」

クイックイッ

「こっちです」

クイックイックイッ

「むむむ、近いですよ」

クイックイックイックイッ

「ズバリ、この近くです!」

グイーン

「見つけました! サヴィオ、ここを掘ってください」
「ええ? だってここは……」
「いいですから、早く!」
「はぁ……僕、肉体労働得意じゃないのに」

フアナの指示した場所を掘り返すサヴィオ。
スコップもないので時間がかかりそうだ。
毒々しい色をした大地を素手で触りたくはない。
途中からそう考えたサヴィオは手に持ってるろうがぼうで掘る。

(これ、地表の柔らかい部分はまだしも、固い土に当たったらどうしよう。
 ていうかそもそもゼシカとバーバラを探してるのに、何で土を掘ってるんだろう)

そんなことを考えていたら、固い感触にぶつかった。
石か何かと勘違いしそうになるが違う。
これはまさかゼシカとバーバラの装飾品か。
まさかこんなところにいたとは。
ろうがぼうの使用を止め、サヴィオは再び手での作業に戻す。
地中に埋まってた何かが出土された瞬間、地面が光る。

「こ、これはっ!」
「まさか!
「徳川家の埋蔵金!?」

テテレテテレテー テテテテー♪

なんと! サヴィオは バレットハンマーを みつけた!
なんと! サヴィオは オーガシールドを みつけた!
なんと! サヴィオは ウェディングドレスを みつけた!
なんと! サヴィオは アルゴンリングを みつけた!

「って、ちが〜〜〜〜〜〜〜う!!

フアナはダウジングロッドを地面に叩きつけた。

64310の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:04:23 ID:/n5HYbQo0
「こ、こんなはずじゃあ……!」
「いや〜、おかしいと思ったんだよね。 場所が場所だし」

サヴィオがチラリとある方向を見る。
そこには痛めつけられたズーボーの遺体があった。
そんなところに埋まってるはずがないだろう、常識的に考えて。

「き、きっと感度が高すぎたんです! 今度はちゃんと対象を生物に絞りますから!!」
「いや、久しぶりにポンコツな部分を見れて安心したけどね僕は」
「優秀な私がこんな屈辱……」

苦笑交じりにサヴィオはフアナの背中を見守る。
たぶんフアナは余計な技能や資格を取得せずに、僧侶一本だけに専念したら歴史に名を残すレベルの偉人になったんだろう。
それくらい優秀なのがフアナという人間だが、サヴィオはあえて口にしない。
フアナは今のままの方がきっと生き生きとしてて、サヴィオも見てて楽しい。
それ以上にフアナ本人が性格的に、僧侶というたった一つの道に縛られることを由とはしないだろう。
そこがまたフアナという人間の魅力だ。
完璧な人間よりは、完璧でない人間の方が見てて楽しい。
冗談、戯言、酔狂、与太、大いに結構だ。

「ねえフアナ。 どうしようか」
「何をですか……? あっ」

ズーボーの遺体の埋葬。
それは当初の二人の目的になってた。
しかし、状況は変わった、
ゼシカとバーバラが行方不明で、ゼシカの方はフアナ宛てに書置きを残す余裕がある。
一方、バーバラの方は良くない精神状態にあると推察される。
ゼシカ一人でバーバラを捕捉し、ここに連れて帰ることはできるのか。
ここでズーボーの埋葬を行い、二人を追いかけるのは後回しにするか。
ゼシカとバーバラの捜索を優先し、ズーボーの遺体は野晒しにしたままか。
きっと、それはどちらも正しいし、正しくもないのだ。
あちらを立てればこちらが立たず。
二兎を追う者は一兎も得ず。

「サヴィオ、お願い」

フアナの意図を察したサヴィオが地面に爆裂呪文を打ち込む。
空いた穴に二人がかりでズーボーを運び、今度は腐敗を遅らせるためにズーボーの遺体の周囲をヒャダルコで包み込む。
最後に土をかけるのだけは手作業だ。
棺桶も作る余裕がない今、これが二人にできる精いっぱいの葬儀だ。

「この気候だと痛みも早いだろうし、気休め程度だけどね」
「いいんです。 きっとズーボーさんも分かってくれる」
「キンキンに冷やしておいたからね。 天国で火傷が癒えてくれるといいね」
「うん……」

簡易的な埋葬を行い、全力でゼシカ、バーバラの捜索に当たる。
それがフアナの下した決断だった。

(ありがとう、ズーボーさん)

今は前だけを歩いて行こう。
そう決めたフアナは祈りを終わらせると、再び木の枝を握りしめた。
大きなオーガの、優しいパラディン。
フアナはズーボーの存在をいつまでも忘れない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

64410の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:06:27 ID:/n5HYbQo0

「ところでフアナ、もしかしてあれはゼシカかバーバラが肉体改造に成功した姿なのかい?」
「何を言ってるんですかサヴィオ」
「な、なんとも凶悪そうなモンスターですね……」

フアナとサヴィオが新たに発見したのは、よりにもよってヘルバトラーだった。
といっても、未だ気付かれてはいない。
かの魔物は巨木に背中を預け、休憩中のようである。
よく見れば体中が血まみれ、体の部位はところどころ欠損しており、生きてる方が不思議な状態だ。
さすがにあの超破壊呪文を受けて五体無事とはいかなかったようだ。

「これはチャンスです」
「かも」

長い期間を共に過ごしてきた二人。
そこには熟年の夫婦にも似た、阿吽の呼吸が生まれていた。
先手必勝、先んずれば人を制す。
あの魔物が完全回復すれば、また誰かが死ぬような死闘が発生するは必至。
亡きズーボーの仇を討つため、この殺し合いを終息させるため、今度はこちらが仕掛ける番だ。

「行くよフアナ。 魔法力は?」
「はい、なんとか。 呪文はもちろん」
「ああ、あれで行く」
「カマエルはお二人の成功を祈っております!」

紡がれる詠唱。
高まる魔力。
これまでの思い。
その全てをこの一撃に託す。

「「荒ぶる聖風」」

そう、二人で同じ呪文を唱えれば。
相乗効果でその威力は何倍にも増す。

「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」

ダブルバギクロス。
その威力はバギムーチョにも勝るとも劣らぬ。
荒ぶる竜巻は狙いをヘルバトラーに定め、進路上のものすべてを切り刻む。

「ッ! 何だと!?」

ようやくヘルバトラーが気付くが、遅い。
この怪我では思うように体が動かない。

「これで幕です。 ヘルバトラー!」

フアナが吠える。
ズーボーと、散っていった者たちの魂が安らぐことを祈って。

「貴様は!」

呪文を放った相手を確認するのと、バギクロスで全身を切り刻まれる。
ヘルバトラーはその二つを同時に味わった。
地面に伏したヘルバトラーの顔が屈辱で歪む。

「糞、くっそおおおおおおおおおおおお!!
 俺様が、この俺様がああああああああああ!」

64510の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:07:21 ID:/n5HYbQo0
まだ足りない。
人を殺し足りない。
恐怖の表情を見れてない。
戦闘の喜びを噛みしめ切れてない。
この力でもっともっと楽しみたいというのに、人間風情が何故邪魔をする。
ああ、ダメだ。
命が消えていく。
もっと血を、臓物を、悲鳴を寄越せ。
まだ死にたくない。

死 に た く な い!





                        何をしている





ヘルバトラーの命がまさに風前の灯火となった瞬間、神の名を僭称する悪逆の神官が囁いた。
エビルプリーストだ。
ヘルバトラーは藁にもすがる思いでその声に全力で耳を傾ける。





                  何のために貴様に10の世界すべての可能性を与えたと思っている
                  いや、つい最近新たな可能性が加わったのだが、まあいい





失望の声だけを浴びせに来るような男ではない。
この男がこうやって声をかけているということは、何らかの救済が見込めるはず。
それを期待するヘルバトラー。
せかいじゅのしずくや扱いやすい大剣を渡したりと、ジョーカーの中でも相性の良い道具を優遇されていた。
それは偏に、ヘルバトラーこそが最も戦果を期待できる存在だったからだ。

裏切りの恐れのあるアンドレアル。
知能が残念なギガデーモン。
所詮は元人間のバルザック。
弱肉強食の掟に忠実過ぎて、参加者の僕になってしまったキングレオ。

64610の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:08:57 ID:/n5HYbQo0
予見していたことだが、ヘルバトラーのみがエビルプリーストの任務に忠実なのだ。
ギガデーモンは支給していたインテリハットさえ装備すればもっと死人が出ただろうが、結果は街一つを滅ぼした程度。
純粋な魔物で知能も戦闘能力も高い、ピサロへの忠誠も薄く、己が欲求さえ満たせればそれで良い。
ヘルバトラー以上にジョーカーとしての適任はいない。





                  思い出すがいい
                  貴様の本当の力を
                  その魔瘴は何のためにあるのかをな
                  




魔瘴。
それはズーボーたちと戦った時に使用したような、単なる飛び道具ではない。
これは人を死に至らしめ、魔物の力を増幅させる気体。
そして10の世界すべての力を得たヘルバトラーが、こんなところで這いつくばっていていいはずがない。

(なるほど、そういうことか……)

潮の香りのする洞穴で、ドワーフの男と戦った記憶を思い出す。
あの時の自分も、こうして敗北してしまった。
だが、それで終わりはしなかった。
今までの自分の馬鹿さ加減に嗤ってしまう。
自分はこんなにも力の使い方を間違えていたのだ。

(感謝するぞ、エビルプリーストよ)

死んだかどうか確認するために近寄るフアナとサヴィオ。
ヘルバトラーにとってもはや二人は死を告げる死神ではなく、これから狩る絶好の獲物。

「っ! まだ生きて!」

立ち上がるヘルバトラーを見て、しかしサヴィオは動じない。
どう見ても死にかけ。
ここからの逆転の目など有り得ない。
そうだ、ついさっきまではそうだった。

「ククク、貴様らに見せてやろう」

魔瘴をその腕に集めるヘルバトラー。
いつの間にか、周囲には魔の霧が立ち込めていた。

「サヴィオ、あれを吸ったらダメ!」

フアナとサヴィオは後退を始めた、
わざわざ接近しなくても呪文がある。
それでなくても肉弾戦は得意ではない。

「魔瘴の、本当の使い方をなぁ!」

その魔瘴を、自分の体へと向けて開放する。
魔の霧がヘルバトラーを包む。

64710の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:10:26 ID:/n5HYbQo0
魔瘴とは非常に不安定で不定形であり、その形は千差万別だ。
多くの場合は無差別に死をまき散らすだけの毒でしかない。
だが、特に濃度の高い魔瘴は意思のようなものを持つことが観測されている。
例えば、邪悪なる存在が退治され、残った無念が残留思念となって魔瘴と混じり合う。
混ざった魔瘴は退治された魔物とまったく同じ形を取り、しかもさらに凶悪になって甦ることもある。
また、一つの大陸を外界から隔絶することもできたりと、人間にとっては危険極まりない代物だ。
だが、魔物にとってはあまりにも使い勝手の良い気体。

魔瘴と融合したヘルバトラーの傷が癒えていく。
ポーラにつけられた十字の傷が。
マダンテの力で消し飛ばされた腕と翼と角が。
バギクロスでついたいくつもの傷が。
その全てに魔瘴が入り込み、ヘルバトラーの新鮮な血肉となる。

「フアナ、これヤバいよ! 逃げた方がいい!」
「そんな……こんなのって……!」

魔瘴が晴れていく。
中心にいたはずのヘルバトラーが、その姿を現す。
その姿はフアナにとっては悪夢にも等しい。
みんなで頑張ってつけた傷が、余すところなく復元されている。
ヘルバトラーは例の不気味な笑みを浮かべ、こちらを見ている。

「では試しに」

指をクンッと上にあげる。
それだけで地面が割れ、激しく隆起する。
これはもはや地殻変動や局地的な地震にも等しい揺れだ。
大地の鳴動が魔瘴によって強化され、ここまでの威力になっているのだ。

「第二ラウンド開始といこうか。 今度こそあの……まあいい、忘れた。
 何とかという聖騎士と同じ目に合わせてやろう」

その魔物はもはやヘルバトラーであってヘルバトラーに非ず。
魔瘴によって大幅に力を増幅されたこの魔物はこう呼ばれるべき存在だった。

即ち、ヘルバトラー強。

64810の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:10:53 ID:/n5HYbQo0

【C-4/平原/1日目 午後】
 【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]:HP全快
 [装備]:
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:
基本方針:心のままに闘う。

 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
※さらに強力な特技、呪文が使えるようになりました(イオグランデなど)

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個 カマエル@DQ9 バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
   
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP1/20
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカと合流する

649 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:12:25 ID:/n5HYbQo0
投下終了しました
判断してもらいたい点は

・また主催介入してるけどいいのか
・ヘルバトラー強ってアリなのか

に2点です。
忌憚のない意見をお待ちしてます

650ただ一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 01:42:57 ID:yYm9hUxM0
・エビルプリーストの介入
バラモスゾンビの前例もありますし、優遇されている理由も充分納得できるものなので問題ないと思います。

・ヘルバトラー強
これからの展開を考えるにおいてトロデーン周辺の対主催とマーダーの戦力差は深刻だったのでむしろ妥当な強化だと思います。

個人的にCASELIATiAさんの作品はドラクエ10の設定が深く盛り込まれていて好きです。

651ただの一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 09:54:43 ID:a638lkYU0
投下乙です。
エビルプリーストの介入はこれといって不自然ではないと思います。
元々この辺りには強力なマーダーが少ないことが問題視されていたし、全然問題ないと思います。

むしろ私としてはこの作品でDQ10名物の強ボスを見れた喜びの方が上でした。

652ただ一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 14:00:52 ID:gyKMPWjo0
問題ないと思います。

私も10の描写が好きです。

653前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:20:14 ID:jV4HiEsM0
「サフィール。何してるんですか、こんな所で。」

それは、何気ない父親の声。
たまたま予想してもいないところで、見つけた娘に対して、投げかけた言葉だ。
だが、視線が、違った。
父親は、娘を、愛する存在を見る目で、見てなかった。
それに合わせて、周りの空気も、親子同士の会話とは思えないほど、殺伐としている。
たとえ親が子を叱っている時でさえ、こんなことはならないだろう。


「………やめてください。」
サフィールはアベルを諭そうとする。

「やめてください?何を、止めるというんですか?」
「この世界で人を傷つけて、殺すことです。」
「そうか、君は、知ってしまったんですね。」

アベルは、自分の行いを知られたからといって、特に悪びれる様子もなかった。
表情一つ、変えない。
だが、それが逆に、おぞましいものを潜ませていた。

「私は、知ってました。おとうさんが苦しんでいたことを。でも、自分がされたことを、この世界の人達にするのは間違ってます。」
「何を間違っているというんですか?私は愛を求めたから、幸せになれなかった。
だから、愛を壊すんですよ。そして、愛という物がどれほど価値のないものか、分からない奴らに、真実を教える。」
「そんなことをしても、誰も喜びません!!」
「あのローラとかいう女といい、おまえといい、本当に嫌な目をする。」

アベルの両目と、持っていた剣に一層邪悪な光が帯び、同時に剣をもってない方の手には、緑の光を帯び始めた。
「消えろ。」

アベルは自分の娘を、まるで邪魔な魔物を追い払うかのような目で、バギクロスを唱える。
「誰が喜ぼうと悲しもうと、私の知ったことではありませんね。」
十字の竜巻が、サフィールに襲い掛かる。
まともに受ければ、パトラの二の舞になっていただろう。


「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
しかし、サフィールの放った大爆発は、その竜巻を吹き飛ばした。

「一皮、剥けましたね。この世界で、新しい友達でも出来たのですか?」
サフィールは、ただ一つ頷く。

サフィールにとって、友達、特に人間の友達は、あまり多くなかった。
オジロン前王の娘ドリスや、ラインハットのコリンズ王子など、いないわけではない。
だが、旅を続けるという以上、友達として交流する時間はほとんど用意されてなかった。


その点で、マリベルという人物はほんの僅かだけでも共に冒険をした友達だった。
彼女はサフィールにとってかけがえのない存在になった。
だからこそ、約束を守る。
マリベルという命が、消えてなくなってもその決意は変わらなかった。

654前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:21:00 ID:jV4HiEsM0
「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」


マリベルに流されて、父親を止める。
彼女が殺された原因も、父親にあるのだから。

「だが、友情も、愛と同じで儚く崩れるだけですよ。」
アベルはサフィールの喉元めがけて、剣を振った。

だが、それは予想外の力によって止められる。
10歳の少女の力ではない。
アベル本人が使っていた、ドラゴンの杖の力だ。
ボブルの塔で見つけた時は、アベルしか受け付けなかったはずだが、どうしたことか。

「崩れる物ではありません!どんな時でも誰かの心の中に残っています!!」

そうですか、その杖まで、私を否定するのですね。
アベルの憎しみと破壊の剣の力は比例する。
拮抗していたドラゴンの杖ごと、サフィールを弾き飛ばす。

「きゃあ!!」
アベルの心の中の憎しみや怒りを吸い、ネプリムやパトラの命を吸い、地獄の悪魔が人間への憎しみを糧に作った剣は、更なる力を増す。

「主殿!!」
後ろにいたリオウが、アベルに声をかける。
「リオウ!手を出すな!!これは、私だけの問題だ!!」

そうだ、これは、私だけの問題だ。
家族でさえも殺すことで、私は愛を求めていた過去と決別できる。
私の幸せは、その先にある。
新しい何かを得るためには、古い何かを犠牲にしないといけない。


父親は、最早自分を寝食を共にした娘と見ていない。
何を言っても、止めることが出来ない。
ならば、覚悟はしていたが、こうして止めるしかない。

「凍てつけ!!マヒャド!!」
いくつもの白銀の刃が、アベルに襲い掛かる。これで凍り付かせて、動きを封じることが出来れば。


「無駄ですよ」
アベルは剣を振るい、大きい氷を次々に砕いていく。
直に当たっただけではなく、剣を振った時に起こる風圧に当たるだけでも砕けることが、どれほどの威力の斬撃か分かるだろう。

急激な温度低下は、アベルの肌に多少のダメージを与えることは出来たが、これでは全く進展がない。
マヒャドを連発していても、いずれ魔力が切れ、殺される。
イオナズンを使ったら、バギクロスで相殺されてしまう。


サフィールの魔力を最大限まで活用した攻撃呪文は、二つとも決定打にならなかった。
だが、まだ一つだけ試してないことがある。

655前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:22:09 ID:jV4HiEsM0
「あくまで、私を否定するのですね。私がどんな思いをしてきたか知っていて。」
再び、斬撃が来る。

「マヌーサ!!」
「なっ………」
だが、その斬撃に切り裂かれたのは、サフィールの幻影であった。


これで一瞬時間を稼ぎ、そのスキにドラゴンの杖の力を使って、竜に変身すれば………。



始めてドラゴンの杖の真の力が分かった時、それはサフィールの母親が囚われた大神殿での出来事。
四方八方から襲い来る手ごわい敵に、複雑に入り組んだ神殿。
戦いは、熾烈を極めた。
これまでの魔物の本拠地では、新たに仲間になってくれる者もいたが、この場にはそういった魔物さえいない。
魔物に囲まれ、万事休すと思われた際、アベルが持っていたドラゴンの杖の宝珠が光り、アベルを強大な力を持った竜に変身させ、危機から逃れたのだ。
あの時のように、ドラゴンの杖なら自分と父親を救ってくれるはずだ。



「竜の力よ、私を救いたまえ………」

「そうはさせません!!」
だが、幻影の中で、的確に狙いを定め、剣を振り下ろす。
幻影の中でも、宝珠の光が仇となり、サフィールの位置が分かってしまったのだ。
祈りをささげるのを破棄し、あわてて斬撃を止めるが、先ほどのように吹き飛ばされる。

やはりドラゴンの杖に関して、自分以上に知っている人物が敵である以上、頼りすぎるのは危険だ。
彼女にとって、ドラゴラムという、もう一つ竜に変身する方法があるが、これはイオナズンやマヒャドに比べても詠唱時間と使用魔力が多すぎるため、味方がいない時に使うのはリスクが高すぎる。

「否定しても構いません。ただ、私が破壊するだけですよ。」
「魔王」と化した父親は止まらない。これでサフィールにとって状況はますます絶望的になってしまった。


だが、運は彼女を見放していなかった。

656前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:22:51 ID:jV4HiEsM0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

時は少し遡り、場所は滝の洞窟前。
“彼”はなおも佇んでいた。
死者の名が告げられ、彼女の死が改めて確認された後も。

だが、その硬直は、突然解かれることになる。
遠く風に乗ってかすかに聞こえた、イオナズンの爆音とサフィールの悲鳴に。

(爆音!?)
(彼女が、唱えた、魔法だ。)
(悲鳴!?)
(彼女に、似た、声だ。)

ゴーレムといえども、死の概念は分かっていた。
“彼”は街の守護者として、いくつもの魔物や人の死を見てきたから。

彼女は、死んだ。
自分の目の前で。
その死骸はここにある。
あのわけの分からない神官の男からも、名が告げられたではないか。

そこで、“彼”に一つ、疑問が生まれた。

だが、何らかの形で、彼女は生き返ったのかもしれない。
とある記憶の世界の、創造の力を持った若者のように。
そして、再び自分を必要としているのかもしれない。
それならば、今度こそ彼女を守らねば。

ただ、守るために戦うことしかなかったゴーレムに、疑問が生まれること自体おかしいことだ。
だが、“彼”は自分を守護者以上の存在として見てくれたネプリムに出会い、何かが変わっていた。
自分で作った墓を後にし、ダイナミックに歩き出す。


止まっていた守護者の時間が、再び動き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「………………どうすればいいんだ。」
父と娘の戦いを、遠くから見ている者がいた。
獅子の王、キングレオ。
いや、今はリオウという名前だが。


何かやらなければならないはずなのに、何もするなと命令されるのは、窮屈だ。
目の前に現れたガキ。
あいつは、我が主の娘らしいな。
家族同士の戦いを見ると、我も父親を生贄にし、キングレオ城の王位と、デスピサロ様の幹部としての地位を手に入れたことを思い出す。

成り上がるためには、家族さえも犠牲にしなければならない。
当然の話だ。
愛だの恋だの、そんなものは魔族の世界に必要ない。
だから我は、エルフの娘との恋に現を抜かすピサロ様には完全に従えなかった。
最も、我の上司にして、同じようにそれを反対していたエビは、やることなすこと小物過ぎて今も昔も好かないが。
やはり、目的も方針も一致しているという点で、アベルは実力面でもカリスマ面でも本当の主なのだ。


弱肉強食、強い者に従って生きるキングレオにとって、弱肉強食の世界を肯定するアベルは理想の上司だったのだ。

657前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:23:24 ID:jV4HiEsM0
やはり本当の主のためにも、最低限出来ることはしておこう。
改めてアベルを主として認めたリオウは、ザックを開ける。
エビからの支給品というのがなんとも気に食わないが、アベル様のために使うのなら仕方ない。
入っていたのは、ツメと草。

ツメはオリハルコン製の物で、これは確かに武器として申し分なく強い。
しかし、問題はあとの一つ。
草はルーラ草という、その名の通り飲むかつぶして振りかければどこかへ飛べるというものらしい。
我の力が足りないというのか。
危なくなったら飲んで逃げろとでもいうのか。
そもそもアベル様のために使いたい道具なのに、自分が使ってもアベル様に使っても、離れ離れになってしまいこれ以上手伝うことが出来なくなるではないか。
エビが自分の力を甘く見ている、はたまた他人に付くことを恐れていると考えると、落胆してしまう。


だが、ゴーレムやジンガー、小僧の変身した竜など、自分と同じか、それ以上に力の強い者がこの世界にいるというのも事実。

草は使う気はないが、いざという時のために、ツメを付けておこう。
最も我が主が、あの小娘に負けるとは思わないが、契約には忠実に。




呪文と斬撃で、容赦なく殺そうとするアベル。
それに対し、マヌーサや爆発魔法、氷魔法などの絡め手や、ドラゴンの杖で攻撃から身を守るサフィール。
防戦一方になっている以上、アベルを止めるどころか、殺されないようにするだけで精いっぱいだった。

そもそも、父親と娘ということを除いても、コンディションの差が圧倒的だった。
アベルはサフィールを殺すつもりでいるが、サフィールは「止める」つもりでいる。
加えて、この世界でアベルは何の喪失感もなく、反面サフィールは兄と、友を失ったことで、精神的にも疲れている。

「私はね、幸せが欲しいんですよ。誰がどうなってもいい。
そのために、邪魔なものは全て破壊する。
サフィール、君もそろそろ、過去と決別すべきです。私を殺すか、殺されるか、選びなさい。」

斬撃が、来る。ドラゴンの杖で、守る。
破壊の剣の衝撃は、攻守ともに優れた杖を介してでも強力で、そろそろ手の
感覚がなくなってきた。
相手にかけたマヌーサも効果が切れる時間だ。
魔力もそろそろ限界を迎えるだろう。

「そんなの、おにいちゃんやおかあさんが喜ぶはずがありません!!」
だが、彼女はあきらめない。

(黙れ………いつまで家族のことなどを、気にかけている………!!)
(そもそも、おまえの兄が勇者として生まれなければ私は………!!)

アベルには分かっていた。
サフィールも、かつての自分と同じで、愛を求めているのだ。
ならば、かつての自分と同じ気持ちを味わせてやろう。
更に憎しみを帯びた剣が、振るわれる。
「きゃ!!」
だが、それは幸か不幸か、当たらなかった。

658前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:24:52 ID:jV4HiEsM0
サフィールが、何かに滑って転んだため。
だが、その拍子に、ドラゴンの杖も、落としてしまった。
足元を見ると、それはすでに醜悪な肉塊と化したパトラだった。
サフィールでも、アベルにより犠牲になった人だということが分かる。

彼女にとって、それは気持ち悪いというよりも、父親に対する恐怖の方が強く感じた。
かつての父親は、魔物と対峙した時でさえ、ここまで徹底的な攻撃をしなかった。
父親の苦しみと、幸せへの執着は、それほどまでなのか。
そして、自分は父親によって、同じような姿になるのか。


振り下ろされるはずだった剣を止め、アベルはこう問う。
「一つだけ聞きますよ。私と一緒に、参加者を殺し続けませんか?過去と決別し、全てを破壊すればもう死んだリュビや、友達のことを考える必要もなくなりますよ。」
「イヤです!!」
だが、それでもサフィールは頑なに拒否する
どうしてここまで自分の意思を貫けるのだろう。
だが、意志の強さのみでは、どうにもならないこともある。


ならば、と父親は怒りに任せてサフィールを殺そうとしたところ。


ズシン

ズシン ズシン
ズシン ズシン ズシン

地鳴り?
いや、これは………
アベルが後ろを振り向くと、一度戦ったゴーレムが走ってきていた。
既に、ゴーレムの長く太い腕が、伸ばせば当たるという距離だ。

まずい…………!!


「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
しかし、この場にいたもう一人の人物、リオウが4本の腕で、ゴーレムの攻撃を止める。
主殿の娘には手を出すなと言われていたが、因縁の相手の一人だし、こいつなら戦ってもいいだろう。
「主殿!!」
「リオウ、でかした。」


「もう、油断はせんぞ。」
力はゴーレムとリオウは同じか、ゴーレムの方がわずかに勝っているくらいだったが、今回は違う。
ゴーレムは、組み合ってすぐに、拳の先にツメが刺さっていることに気づいた。
しかもオリハルコンのツメはゴーレム以上に固く、かぎ状になっていて抜けない。
腕を振って抜こうとするも、リオウは残りの腕でがっちりと押さえる。

659前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:26:30 ID:jV4HiEsM0
「フフ、もう動けはせんぞ。」
続いて、リオウはゴーレムに向けて、高熱のガスを吐く。
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない。
「ならば、これでどうだ。」
更に、凍える吹雪を吐く。
「主殿!!」
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない、が、低温と高温の差は、ゴーレムの頑強な体を脆くしていった。

「よし、あとは私が倒す。」
サフィールの魔力はもう切れかけている上に、杖も落とした。
ゴーレムを先に殺しても、問題はないだろう。

アベルは踵を返し、ゴーレムに突進する。

「爆ぜろ………イオラ!!」
「ぐっ!」
アベルの背中に、爆発が起こる。
「もう……これ以上、誰かを傷つけるのは…………。」
パトラの血を浴びて全身が血と泥で汚れ、息も絶え絶えになりながらも、抵抗を続ける。
アベルには、どうしてサフィールが自分を否定し続けようとするのか、分からなかった。

「うるさい!!」
怒りのままバギマを唱える。
あとで殺せばいいし、今は詠唱時間の短いバギマで十分だ。
竜巻は大きくはないが少女を吹き飛ばすほどの力はあり、ゴーレムの近くに飛ばされた。
まさか、ここまで抵抗してくるとは。
まあ、どのみち敵として、家族もゲレゲレもロッキーも、私の願いのために殺すつもりだったから私に従ってもあまり変わらないが。
仮に先ほど、サフィールが父親に従おうとしても、やがて殺すつもりだった。
リオウやジンガーだって、犠牲にする必要があるなら、いつかは殺さなければならない。
死ねば、全て無くなる。愛も、友情も、過去も、未来も。



そうだ。この戦いが終われば、王として思い切ってグランバニアの政治の形態を変え、世界中に戦争を仕掛けよう。
従う者は奴隷か兵士に、逆らう者は家族や友達ごと拷問するか皆殺しだ。
サンチョやピピン、中には他の住民やモンスターも止めるかもしれないが、その時はまた殺すだけだ。
そして、愛に執着する者たちに、それがどれほど脆いものなのか思い知らせよう。
力を持つ者だけが、幸せになれる。それを教えて、何が悪い。
少なくとも伝承にある、愛した者に裏切られ、英雄の自覚を捨てて凡庸な人間として生きた勇者ユーリルよりかは良い生き方のはずだ。


「死ね。」
無慈悲にも、アベルは横に闇を纏った剣を一閃。
少女の体は二つに切り裂かれ、守護者の体は砕かれた―――――――――――


【サフィール @DQ5 死亡】
【ゴーレム@DQ1 死亡】

【残り46人】

660前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:26:57 ID:jV4HiEsM0
















―――――――――――はずだった。


「!!」
「!!!」
「!!!!」
「!!!!!」
敵味方問わず驚く。
何しろ、赤い肌をした巨大な神官が、突然斬撃を長い4本腕で受け止めたからだ。

(……………!!)
(助けて、くれたのですか?)
(な、なんだ、こいつは!!)
(サフィールが呼び出したというのか?いや、我々の世界にいる者ではない………しかも、ライオウやバトラー以上の魔力を感じる……………。)


彼の名は、幻魔ドメディ。
パトラが持っていた幻魔のカードによって呼び出された者だ。
世界でも召喚者がわずかしかいない幻魔中でも、味方への攻撃を難なく仁王立ちで受け止め、攻撃面でも最強レベルの幻魔だ。



「オオオオオオオオオ!!!!」
ドメディは、雄たけびを上げ、4本のうちの上の2本の腕で、十字を描く。


彼がなぜこのタイミングで呼び出されたのか、サフィール達を守ったのかは、誰にもわからない。
死ぬ直前のパトラがカードに祈りをかけたことによるものなのか、
父親を止めたいという想いを抱いたサフィールが、一度パトラの死体に触れた際、無意識にカードに触れたことによるものなのか。
一つ言えるのは、決して諦めなかったサフィールの気持ちが、二人を救ったのだ。

「うわあああああああ!!!!!!」
「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!!!」
光の十字が、二人を襲い、吹き飛ばした。


「おのれええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「待て、リオウ、迂闊に………」

アベルの指示も聞かず、目の前の敵に向かって突進する。
予想外の攻撃、しかも予想外の攻撃はアベルとジンガー、竜化したチャモロ、ドメディと三度目。
もはや我慢の限界だった。

661前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:27:18 ID:jV4HiEsM0
「がっ!!」
しかし、突進したところで、リオウの上から、ゴーレムの岩石がいくつも落ちてきた。
グランドクロスを放った後、既に4本の腕で岩石を掘り出し、待ち構えていたのだ。


「リオウ!!」
アベルもドメディに向かっていこうとするが、今度はリオウから解放され、自由になったゴーレムの殴打がアベルを襲った。


「ぐはっ!」

破壊の剣で受けたことで、ダメージはある程度抑えるが、それでも威力はかなりのものだった。

やはり、こいつは接近戦では勝てない。
アベルはサブウェポンである吹き飛ばしの杖を振り、ゴーレムと距離を取ろうとする。
だが、地面にどっしりと踏ん張ったゴーレムは、魔法弾程度で吹き飛ばない。




おかしい。何故だ。何故なのだ。
我は復活し、勇者たちにやられたときより、強くなったはずだ。
そして、アベル様という、理想の主を手に入れた。
今度こそ、我の未来は約束されたはずなのに。
アベル様に付き従ったことは、正しくなかったのか。
大人しくエビに従っておけばよかったのか。
それとも誰にも従わずに生きればよかったのか。


「くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!」
だが、グランドクロスと岩石落としを受けても、まだ戦えることが、ジョーカーの力だろうか。それとも獅子の王としてのプライドだろうか。
再び立ち上がり、ドメディに飛び掛かる。
今度は、あの十字の構えはとってない。オリハルコンのツメで一撃でも当てれば………。


だが、今度は下側の腕の手刀により、オリハルコンのツメをはめた腕は切り落とされてしまった。
ドメディは攻撃力さえも他の幻魔や精霊とは一線を画していた。
「ぎゃおおおーっ!!」
痛みに、腕を抑える。
だが、それ以上に厄介なことがあった。


「「しまった!!!」」
二人がドメディに苦戦しているスキに、サフィールはドラゴンの杖を手に取り、竜に変身したのだ。

662前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:27:35 ID:jV4HiEsM0

(誰だかわかりませんが、ありがとうございます!!)
すでにリオウの方は手負いの状態だ。
竜は、そのままアベルの方に向かっていく。

おとうさんに分かってもらうには、これしかない!!
僅かだけ残っている体力を、全て竜の力に変え、突撃する。


既に死に体のリオウはアベルの方を見やる。
主でさえも、ゴーレムと竜に襲われ、危ない状態だ。
だが自分は腕の一本を武器ごと奪われ、反撃しようにも奴を倒せそうな技はない。残された道具もルーラ草のみ。
「エビめ、どうせ無様に這いつくばった我が姿を見て、せせら笑っているのだろう。」
リオウは、弱肉強食を貫く者は、いつかは喰われることを知っていた。
だが、何も出来ずにエビごときの作った世界で死にたくない。


ドメディからは新たな魔力を感じる。トドメを刺す気だろう。
だが、残った三本の腕でザックからルーラ草を取り出す。
どうせこれを飲んで逃げても、すでに負傷し、ベホマも効果が少ない状況では、一時しのぎにしかならない。
何より、「契約には忠実に」のモットーはどうなる。
獅子の王として、プライドを捨ててまで生きるつもりはない。

「タダでは、死なぬ………」

ボロボロの体に鞭打って、草を、主の下に投げる。


「全員、殺してやる………。」
吹き飛ばしの杖は通じず、ゴーレムの攻撃をまともに受け、頭から血を流し、アベルは怒りに燃えていた。
ゴーレムの攻撃を今度はかわし、竜の炎はバギクロスで弾く。
だが、状況は明らかに悪くなっていく。
このまま、アベルは負けてしまうだろう。


だが、リオウの方から飛んできた物。
そんなものに気づいてはいなかったが、突然体が浮かび上がる
「うわあああああああ!!!」
そのまま、どこかへ飛んで行ってしまった。

それを見届けたリオウは、ドメディの放った火柱に焼かれながら満足する。
「ざまあみろ、エビめ。」
「アベル様は、この場にいる奴らも、お前もきっと破壊するぞ………。」

663前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:30:35 ID:jV4HiEsM0
「消えてしまった………。」
竜の姿から戻り、体力を使い果たしたサフィールは、そのまま倒れる。
知らない世界に飛ばされ、殺し合いを命じられ、初めて一緒に冒険する友と出会い、友が自分をかばって殺され、父が持っていた杖を受け取り、父を止めようとする。
考えてみれば、10歳の少女には過酷すぎる半日だ。





「……………。」
近くで、その目を見ると、分かる。
彼女は、ネプリムではなかった。
ネプリムは、死んだままだ。
人間は、やはり子供さえ殺そうとする醜い生き物だった。
自分の闇の記憶の断片では、食料を無くした人間は、子供食べることさえあった。

この少女も、遠からず死ぬ。
やはり、闇の記憶の断片に従って、醜く争う人々を滅ぼしてしまおう。
だが、出来ない。


「!?」
暖かな光が二人を包み込む。
ボロボロになっていた二人の傷が癒えていく。
まだそこにいた幻魔が唱えたベホマズンだ。
それだけ唱えると、媒体となったカードごと消えてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


夢とも現とも分からない、ぼんやりとした空間だ。
ここはどこだろう。
「サフィール!!」
殺されたはずの友の、赤毛の頭巾の少女が呼びかける。

「マリベル………さん?」
「お疲れ様、とでも言うと思ってるの?あたしが殺される原因を作ったあんたのお父さんを逃がしてさ、よくのうのうと会いに来れるわね!!」
「……………言われなくたって、やることは最後までやります。ただ、少しだけ…………。」
「まあ、がんばりなさい。」
さっきよりずっと小さい声で呟く。

「サ、サフィール!!」
今度は、自分の兄である、黒髪の勇者が涙目で少女を呼ぶ。
「ご、ごめんなさい。ぼく、何も出来ず、おとうさんが、あんなことを思っていたなんて………」
「何言っているんですか。私も知らなかったです。おかあさんも、気づかなかったと思います。」
「こ、こんど、は、サフィールみたいに、勇敢に………。」
「ありがとう。」

自分は、必要とされていないと思っていた。だが、必要とされていると思っていた兄に勇敢だと言われたのは嬉しかった。その兄は本物なのかどうかは分からないが。

「リュビ、終わったら、またいつか、一緒にハイキングへ行きましょう。」
「え?」
その「いつか」はいつになるのだろうか。

664前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:31:12 ID:jV4HiEsM0
「マリベルさん、友達になってくれて、ありがとうございました。」
「え?まあ、いいのよ。このあたしの、友達であることを、誇りに思いなさい。」


やはりこの世界でも、マリベルは高飛車で多弁のようだ。
「では、そろそろ行きます。」
「や〜ね。最後の別れみたいな顔しないで。」

「………あと、ありがとう。」
自分をかけがえのない存在として見てくれたことを感謝しているのは、実はマリベルの方だったが、それはまた別の話。
マリベルが消え、リュビが消える。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


目が覚めると、夕焼けがまぶしかった。
どうやら、時間はある程度経っていたらしい。
自分は、花と草でできたベッドに、寝かされていた。
辺りを見回すと、さっきのゴーレムが旗の横で佇んでいる。
どうやらここまで運んで、このベッドもゴーレムが作ったようだ。

傷は、ドメディのベホマズンであらかた癒えていた。
どうやら、ゴーレムは誰を守っているようだ。


ゴーレムは、静かに佇んでいる。


「誰か、そこにいるのですか?」
ゴーレムは静かに佇んでいる
かつて父が仲間にしたゴレムスは、言葉は通じたが、このゴーレムに言葉が通じるかはわからなかった。
そこにいるのは、もう物言わぬ神官だった少女。
ゴーレムがおとうさんに襲い掛かったことは、この人もおとうさんに殺された者だろうか。
サフィールは物言わぬ前に座り、祈りをささげる。
「必ず、おとうさんを止めます。だから、安心して、天国へ行ってください。」
何か備える物はないかと、ザックを探る。

それは、木の人形。
とある世界で、英雄が妹にあげた人形。
その妹は兄を見殺しされた憎しみのあまり、魔物となったが、わずかな人間らしさを繋ぎとめていた人形。
最も、そんなことを少女が知るはずもない。
昔は人形遊びが好きだった彼女だ。
新しい友達にと、石壁の中に置く。




再び、少女は歩き出す。まだ、自分のやることは、終わっていない。
歩き出して、すぐのことだった。
ゴーレムが、後ろからついてきた。
「一緒に、行ってくれるのですか?」
そのようだ。

665前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:32:46 ID:jV4HiEsM0
「あの、名前、なんていうのですか?」



(わたしのなまえをあげるわ)
(ずっと、いっしょね)


「……………………。」
こうやって、字を書くこと、出来ますか?
サフィールが支給品の紙とペンで、手本を見せた。

やはり、出来ないようだ。別のことを言おう。


「言い忘れていました。助けてくれて、ありがとうございます。」
少女は、小さい手を出す。


これは、なんなのだろうか。
守護者の巨大な手で、それに触れる。


巨人と、少女は共に歩き出す。それが、初めて心が通じた時だった。
そして、ゴーレムに温かいなにかが入ったような気がした。
そういえば、ネプリムから名前をもらった時も、こんな感覚だった。


それがアベルやネプリムの求めていた、「幸福」であることを、彼は気づくのだろうか。


“彼”は、守護者だ。
ネプリムを守らなければならない。
だが、一人であるサフィールも、守りたかった。
二人同時には守れない。
片方を、見捨てないといけない。
前へ進むためには、犠牲も必要だ。


だが、本当に見捨てられたわけではない。
二人の、心の中に残っている。
ネプリムは、しばらくはあの小さな守護者が守ってくれるはずだ。
そしてすべてが終われば、また戻ろう。

【リオウ @JOKER 死亡】
【残り47名】

【F-5/平原 /夕方】
【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:HP: ほぼ全快MP 3/5(気絶中に回復)
 [装備]:ドラゴンの杖
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     おとうさんを見つけて止める

666前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:33:02 ID:jV4HiEsM0
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る


【????/夕方】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/10 MP1/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(3) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]:過去と決別するために戦う

※アベルがどこへ行ったかは、次の書き手さんにお任せします。
※【F-5/滝の洞窟手前】に、木の人形@DQ7 が置かれました。
※【F-5/平原】に、オリハルコンのツメ@DQ9が落ちてまいす。
※それ以外のリオウの一般支給品は全て燃え尽きました。

667前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:42:26 ID:jV4HiEsM0
これにて全部です。私として疑問なのは、

・ゴーレムがサフィールの呪文と、悲鳴でネプリムと一瞬勘違いしてサフィールを助けるという流れ
・ドメディの召喚過程
・ゴーレムがサフィールを寝かして、起きたサフィールとその後共に行くという展開

これらの3つの展開がアリなのか
他にキャラクターの心情に矛盾点があれば、指摘お願いします。
実際に、書いてみて特にこのゴーレムというキャラ、設定や伏線が多くてかなり書きにくかったので、
どこかミスしている可能性があります。
今回のストーリーは、
「アベルサフィール合流→戦い→ゴーレム乱入→ドメディ乱入→リオウ死亡アベル逃走→ゴーレムとサフィール共に行く」
という大筋がありますが、それをひっくり返すような所でなければ変更しようと思います。

また、自分の話ですが、明後日からしばらくこのスレッドを使えないので、
明日の21:30までに意見をお願いします。
採用されれば、明日の22:00ごろに本投下します。

668ただ一匹の名無しだ:2017/08/23(水) 21:56:24 ID:U6ss6raw0
投下乙です
特に無理のある展開もないように思えますし、自分はいいのではと思います

669ただ一匹の名無しだ:2017/08/23(水) 23:37:40 ID:8aVUZ.vE0
自分も問題ないと思います

670 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:47:13 ID:TWSW542k0
一時投下します。

671 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:48:00 ID:TWSW542k0
第二回放送を控え、静寂に包まれた虹色と鈍色の世界でエビルプリーストだった者は玉座に佇んでいた。


わたしはこのバトルロワイヤルの全てを盗聴している。

"主人公"とでも呼ぶべき各世界の中心人物が次々と殺し合いの渦に巻き込まれ、心も身体も壊れていく様は何とも爽快なものだ。


そして戦場で散った命はわたしの魔力を確かに増幅させている。

このまま殺し合いが首尾よく進み、数多の世界の頂点に立った者の魂を喰らった時は、たかだか6時間を生き残れない弱者20人程度の魂などとは比べ物にならないほどのチカラを得られるのだろう。

672 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:48:45 ID:TWSW542k0


そう、全ては順調に進んでいるはずだ。

ジョーカーとして送り込んだ手駒たちも、なかなかによく戦ってくれる。特にヘルバトラーはわたしの期待以上の力を身につけた。


しかし多少引っかかることもある。
過去の因縁もあり、ピサロに付けた首輪を集中的に盗聴しているのだが、奴らにはどうもこの殺し合いにわたし以外の何者かの意図を感じられるとのことだ。
もちろんこの殺し合いはわたしの意思で始めたものであると自負しているが、自分が過去にロザリーを殺してデスピサロの暴走を誘発したのも確かだ。第三者の何かしらの誘導が無かったとも言いきれない。

もしかすると、何者かが私の持つ進化の秘法のチカラを利用しようとしているのではないか――――――



――――――突然、頭痛が走る。
脳を焼くような、あるいは抉るような。
いや、この痛みには覚えがある。
過去にも何度か、こんな痛みに襲われたことがあったような気がする。
そう、あれは確か、首輪の仕組みについて思案している時――――――
何故このような首輪にしたのか部下達に問い詰められた時――――――

そして、ロザリーを再び攫った時――――――む、ろざりー?
奴を攫ってきた?そのような記憶は――――――

673 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:49:34 ID:TWSW542k0






「ええと、何について考えていたのだっけか…?」

思い出した。
全ては順調に進んでいるのだ。
そして今、わたしは83の生贄と共にその神としての力を真に完全覚醒させようとしているのだ。


このまま殺し合いが続けば、たった一人の勝者を迎える時はやって来る。

その時、わたしはどのように勝者を迎えるべきなのか、何も考えていないことに気がついた。


荒廃した神殿で破壊の象徴として君臨し、破壊の宴を開こうか。または邪気の満ち溢れる山々で悲鳴を山彦として響かせようか。あるいは美しき水晶に彩られた宮殿で身体をドロドロに溶かしてやろうか。天に都市を創造しおおぞらに戦うというのも乙なものだ。時も空間も混沌もを操り様々な世界を移り変えながらいたぶるのも悪くない。



いくつもの"神"の逸話を思い返してわたしは考える。

674 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:50:48 ID:TWSW542k0



――――――いや、どれも数々の強者たちの殺し合いに勝ち抜いた真の勝者を迎えるには相応しくないだろう。

かつての神々は、どれも"勇者"なる者を下等生物として扱っていた。
だからこそ、神は"魔王"として、"勇者の挑戦"を、勇者を見下しながら迎える。
だが、私はまだ完全な神ではない。
この殺し合いの勝者を食らった時、わたしは神として完全覚醒する。
言い換えれば、勝者は神を生み出すのだ。
そう、わたしが真の神となるまでは勝者は神であるわたしと対等の存在であるべきだ。

勇者がいて、魔王がいる。
勇者が魔王を倒してもいずれ新たな魔王が産まれる。
勇者が天命を迎え死のうとも、いずれ新たな勇者が産まれる。
世界は光にも闇にも染まることはない。
この虹色と灰色がいつまでも斑に続いていく世界は、そんな勇者と魔王の宿命の連鎖を映し出しているようではないか。





――――――決めた。



このどこまでも続く斑模様の世界で死者どもの血を美酒に語り合おう。
勝者の願いを、その願いに至るまでの経緯の全てを聞き、その者の全てを理解した上で喰らってやろう。
わたしは勇者に、そして勇者はわたしになる。
終わらない宿命の果てに勇者と魔王は混じり合い、神となる。


その後に、わたしは名乗ろうではないか。
新たなる神の名を。
究極の神を産んだ神なる人の子に最大限の経緯を込めて。



――――――神の名は、勝者の名。

675 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:53:16 ID:TWSW542k0
わたしは目を閉じ、指を鳴らす。玉座の前に現れるもう一つの玉座と円卓。

パーティーの準備は整った。あとは殺し合いが進むのを待つのみ。
玉座に深く腰掛け、そっと目を閉じる。

次の瞬間――――――



「このような異世界に居たとはな…。探したぞ。」

誰もいないはずの世界に声が響き渡った。
次の瞬間、目の前の空間が縦にぷっつり切り裂かれ、中から1人の男が現れる。
胸に竜の様な紋章が象られた赤い装束に身を包んだ男。


「だ――――――誰だっ!」


「彼らや他の世界の者達が既に犠牲になっているのは残念なことよ…。償っても償いきれぬ…。」


男は確かにそう言った。
当然、わたしは興味が湧いた。
ずっと気になっていたわたしの復活の経緯の真相が暴かれるかもしれない。そう思い詳しく話を聞こうとした矢先だった。


「神聖なる竜紋よ…。汝を縛らん!」


「なっ…!」

突然の攻撃だった。
竜を模した紋章がわたしの動きを封じてしまった。

676 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:54:49 ID:TWSW542k0



「さて、色々と聞かせてもらおうか。何故お前たちは自我を持つ?」

「な、何のことだ?」

質問の意味が分からない。
自我などわたしが持っていない方がおかしいではないか。


「分からぬか…では、お前はどうやってここに来た?」

「知らぬ…!気付いたらここで蘇っていたのだ…!進化の秘法の最終形態とでも呼ぶべき、神たる力を身につけてな…!」

男は腕を組んだまま動こうとしない。
この男は、わたしの復活の謎についてわたしよりも多くを知っているのだろう。


「神たる力とは滑稽なものよ。どうやら何も知らないようだな。それは神の力などではない。」


「では――――――何故わたしは蘇った!何故わたしは――――――こんな殺し合いの儀式などやっておるのだ――――――」

677 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:01:36 ID:TWSW542k0


――――――キィィィィン。

頭痛が始まった。
その瞬間わたしは理解した。
また、わたしの記憶は改ざんされるのか、と。
悔しいがピサロたちの読みは正しかったようだ。
わたしを操る黒幕がいて、この殺し合いを始めさせた。
死者の魂はわたしを確実に強化している。
そうして強くなったわたしをまた利用するつもりなのだろうか。
そして頭痛は最高潮へと達していき――――――



「ぐあああああああぁ!」



「む…?」



一瞬飛んでいた意識が戻った。そしてわたしの記憶は――――――消えていない。
消えているのはわたしを縛っていた封印。
黒幕とやらはわたしに魔力を送り込み、封印を破るだけの力を手にいれた。
さしずめ頭痛はその反動だった、とでもいったところか。

678 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:04:23 ID:TWSW542k0



「まさか竜神の封印を打ち消すとは驚いた。どうやら今までの奴らとは違うらしい。」



「ふっ、ふっふっふっふ…。何という屈辱よ。ただの操り人形だったわたしが――――――神へと上り詰めたと思い上がっていたとはな…!」


記憶を消されないのは全てを知った上で目の前の男を殺せ、ということなのだろう。
もっとも男を殺した後は知りすぎたわたしをどう対処するのかは知らんがそんなことはどうでもいい。


「例え利用されていようとも…お前の魂も喰らってわたしの力の礎としてくれるわ…!」


「お前が喰らっているのは魂などではない。」


男の身体は光に包まれていき――――――



血に染まったような深紅の毛。
大自然さえも包み込むような深緑の翼。
白銀で彩られたような牙。
黄金のように光り輝く瞳。
黒鉄の如く硬い鱗。
聖なるオーラを全身に纏い――――――




「お前の喰らっているのは"追憶"の力よ。そして――――――お前自身もまた"追憶"なのだ。」





"永遠"を思わせるほど美しき巨竜がそこにいた。

679 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:10:18 ID:TWSW542k0
【???】

【エビルプリースト@DQ4】
[状態]:健康
[思考]:目の前の男を殺す。

【竜神王@DQ8】
[状態]:健康 永遠の巨竜
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明

【黒幕?】
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明

680 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:29:10 ID:TWSW542k0
一時投下終了しました。

元々はこの後の竜神王の回想まで書いている途中でしたが、リレー小説の個人の域を超えていると思ったためここまでとします。

審議してほしいのは

・この展開がアリなのか
現状「おわかれのつばさ」+「どうぐ範囲化術」が有力な脱出の手段として書かれていますが、これだと危険思想を持つジャンボと(あまり過去作を引っ張ってくるのは好きではありませんが)1stの最終生存メンバーでもあるフォズの生存が必須となってしまい、これから先の展開が制限されているような感覚を覚えたため、竜神王という「対主催サイドのイレギュラー」を用意することで他の脱出手段の当てになると思いました。
しかしその反面、エビルプリーストの正体に大きく踏み込んだため、他にも考えられる様々な展開の可能性を消してしまっています。

・投下時期
この仮投稿では第二回放送直前としていますが、その辺りの記述(必要に応じてヘルバトラーに関する記述など)を変えてもう少しピサロたちの考察が進んでからの投下も考えています。

・矛盾、誤字、不自然な表現、改善案など
これらがあればご指摘ください。
特に頭痛のシーンなどはあらかじめ書き進めていたものに後から付けたものなので少し不安に思っています。

・タイトル
正式な投下の際に付けようと思っていますが、現状何も思いついていないので案をいただければ。

681ただの一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 07:48:55 ID:7srRvJoc0
かなりの挑戦作、乙です。
私的に気になったことは、作中で竜神王がエビに「竜神の封印」らしき技を使いエビの動きを封じる描写がありますが、
この技はエイトのように、竜の加護を受けた者、或いは竜神族と関係の深い者にしか効かなかったはずです。
最もそれだけで投下を破棄しろというわけではないです。
実際に原作のDQ8でも、何故竜神の封印がエイトにしか効かないか、具体的な理由は不明だし、
原作の竜神の封印とは別物、エビも何らかの形で竜神族の加護を受けている、などの解釈の余地はいくらでもあります。
ただそこだけが気になりました。

それともう一つ、「おわかれのつばさ」と「道具範囲化術」がクリアのカギになっていると書いてましたが、
62話「書院、或いは〜」でヤンガスに仄めかされた月影の窓、105話、「箱のカギは〜」でアスナの開けた黒い穴など、脱出の手掛かりになりそうなものはまだありそうです。
仮に脱出手段がおわかれのつばさと道具範囲化術だけだとしても、必ずしも二人を生還させる必要はないと思います。
(過去作を引っ張り出すと、1stでは首輪解除のカギのアバカムを覚えているのがサマンサだけでしたが、サマンサが死んでも首輪解除に成功することが出来ました。)
もしジャンボとフォズを生還させるのが不満の場合は、二人を殺して、技のみを何らかの形で他人に使わせることも辻褄が合えば可能だと思います
(但し道具範囲化術を他の誰かに使わせるのは難しいと思いますが)

長々と書いてしまったので、一度まとめると、
・竜神の封印がエビに効くのはどういうことか。
・まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか

この二点が気になりました。
本投下されるか没になるかは不明ですが、恐らく苦労して作ったのでしょう。実際に読んでて面白かったです。改めてお疲れさまでした。
採用されても没になっても、これからも頑張ってください。

682ただの一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 08:00:02 ID:7srRvJoc0
誤字失礼しました。
誤:まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか
正:まだおわかれのつばさと道具範囲化術と、それを使えるジャンボとフォズの転職のみがクリアのカギと決まってないのではないか

683ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 12:48:35 ID:Rk4Zkx6w0
投下乙です
自分も意見を

対主催サイドのイレギュラーということですが、その手段としていきなり主催者のとこへ正面から乗り込むというのはかなり直球すぎるように思います
襲撃成功で「バトルロワイアル完!」とするのもあれですし、またエビルプリーストが放送を行わなければならない都合上放送をまたいで決着を先延ばしにもしにくいですし、この展開だと放送前に無力化される未来しか見えないです
故に、イレギュラーとして機能しにくいのではと思います
もっとも、無力化された上で傷痕を残す展開を書ける方がいればその限りではありませんが

684ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 15:08:57 ID:mE8X4tBk0
正直な感想を言うと破棄だ破棄!って騒ぐほど矛盾があるわけではないが修正無しで通すのも厳しいと思う。です
首輪解除要員に生存ロックがかかるのを危惧して出したということですが、それなら名簿外のキャラを出すのではなく参加者の知識や技術や支給品でどうにかできたと思います
例えばフアナさんに首輪解除選手権優勝!とかの設定を与えることもできますし
しかし竜神王は今回の話の根幹を担う役割ですので、修正はかなり大掛かりなものになるのでは?という懸念もあるため、気軽に修正要求も出しにくいと思いました
名簿外キャラの参戦は2ndでもしっかり前例がありますしキャラ追加、それ自体がダメではありません
なので、自分としてはもう少し他の人の意見も聞いてみたいかなと思います

685 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/16(土) 17:20:55 ID:6dMOhaf.0
ご提案・ご指摘ありがとうございます。

>>681 >>684
これは元々投下する予定だった竜神王がエビの元にやってきた経緯の方で触れていたのですが、後半を排除したことで矛盾として残ってました…
自分は強化されて復活したエビの力を「追憶の回廊」によるもの(黒幕が4の世界から持ち出した進化の秘法に刻まれた歴史を元に、追憶の回廊で追憶のエスタークやエビを創り出した。追憶のデスピサロは行方不明、役に立つか分からない追憶のバルザックは検討中。)という設定で作っていたため、竜神王の技術である追憶の回廊から生まれたエビにも封印は通用する、という設定です。
正直脱出の鍵については、「仮に黒幕がラプソーンならレティスに乗って脱出したい」という個人的な想いがかなり出ていました。他に代案も色々考えられそうですし、この話の意義として脱出の鍵となるという点は撤回ということでお願いします。

>>683
襲撃については、ちょうど最終生存メンバーが確定する辺りに黒幕やその思惑、さらにはエビ復活の謎辺りが解明出来ているくらいが物語の進行にちょうど良いと思い、黒幕を引っ張り出すために行いました。
仮にエビを倒しても黒幕の存在があるのでバトルロワイヤルの進行にはさして影響はないと思っていましたが、確かに第2回放送を行う必要はあるので放送直前である今は投下時期としては相応しくないですね…
仮に採用された場合でも放送後を目安にしたいと思います。

686ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 19:17:02 ID:8O236NkA0
>>685
返答ありがとうございます
追憶の方はよく知らないから答えられないので後者について
今回の話は終盤の展開として考えているのでしょうか?
それとも第二回放送前後の話として考えているのでしょうか?
>>683への返答はどっちとも取れる書き方でよく分からないです
仮に前者の場合、余計に先の展開への制限を促しそうな気がしますが

687 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/17(日) 15:15:52 ID:DNdEqB4s0
>>686
第二回放送前後のつもりです。
もうすぐ第二回放送が始まりそうなので、投下するなら第二回放送後を考えています。
追憶云々については3DS版ドラクエ8の隠しダンジョンにまつわるエピソードです。

脱出の糸口となる手段が「フォズの転職+ジャンボ道具広域化」のみしかフラグがないからそれらを殺せない、という状態だと思ったので竜神王という脱出のフラグを立たせることでそれらを殺すという選択肢を取れることがひとつの目的でした(もっともアスナの開けた穴など、見逃していたフラグがいくつかあったのでその必要はありませんでしたが。)

自分としてはそういったフラグの数が少ないことによる展開の制限は好ましくないと思っていますが、誰かの投下した作品で事実を確定させた場合に「その事実に基いて以降の作品を投下しなければならない」という制限はリレーの範囲内であり、どちらにせよいつかは必然的に起こることなので問題ないと考えています。

688ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 18:35:03 ID:G6s6Fvqs0
えっと、この話はいつ投下されようと「第○回放送前にこの戦いをなんとかしないといけない」問題は消えてないと思いますよ
そして誰がその続きを書くのかという問題もあります。

【主催側の舞台裏】は書きたいなら好きに書いていいと思います。
しかし、その場の空気や出すべき時期を読む力も要求されます。
例えば参加者の登場話も出そろわない内に、エビと外部からのイレギュラーがドンパチやってたらそりゃ怒られますよね?
また、エビを倒して脱出EDが確定路線ではないのに、まだ半分も減ってないのにこの話は早いのではないでしょうか。
リレーの結果であるならば、エビや黒幕の一人勝ちエンドでも問題はないというのがこの企画の主旨のはずです。

そして何より、【主催側の舞台裏】は他人にリレーを強要してはならないのです。
極論、主催側の話なんて、いよいよ決戦の時が来るまでは放送話以外書く必要は無いんですよ。
舞台裏の話をリレーするあまり、内部の話が疎かになるってのは本末転倒です。
この話をトリップを出して自分が書きます!という書き手が現れるか、大幅に加筆修正してリレーの必要のない一話完結の物語として完成させない限り、このまま通すのは色々と影響が大きいと思います。

最後に、氏は撤回はなされましたが生存補正がかかるということで出した竜神王自体も、原作で繋がりのあった8キャラとの生存補正をかけてしまうのではないか、という問題もあります。
※エビは投票で選ばれた主催なので4のキャラと因縁ができるのは仕方ないです。

まとめると
1:まだ第二回放送前なのに早過ぎるのではないか
2:舞台裏の話を他人のリレー前提で書くのはどうなのか(氏本人が自己リレーするから大丈夫!と言うのは通りません)
3:この時期に竜神王を出したらそれこそ8のキャラに生存補正がかかるのではないか

です

ただしトリップを出して自分が続きを書いてリレーの必要のない形に仕上げて繋ぎます!
という書き手が現れたのなら無条件で通してもいいと思います
※もちろんその書き手が仕上げた話に問題があればこの話含めて没になると思いますが

689 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/17(日) 19:11:04 ID:DNdEqB4s0
>>687
なるほど、理解しました。
自分にはこれを一話完結に収められるだけの技量はありませんので、続きを書く、または一話完結で代筆してくださる書き手が現れない限りは没にしようと思います。

690ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 20:03:43 ID:G6s6Fvqs0
投下乙でした
この話、矛盾自体は無いと思いました
もっと状況が煮詰まってきた頃に投下されていたら、また違った結果になったと思います

691 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:19:02 ID:rAMbjtuw0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
バルザックは雄たけびを上げ、三人に突進してくる。

「来るぞ!!」

イザヤールの警告と共に、それぞれ異なる方向に大斧を避ける。
外れた大魔神の斧は、地面に大きな穴を開けた。

「避けたか。だが、次こそ真っ二つにしてくれる!!」
バルザックは目標をイザヤールに定め、大斧を振り下ろす。

「ふんっ!!」
だが、それはイザヤールの大剣で受け止められる。

斧と剣がぶつかり合い、がちんと高い音が鳴った。
「やるな、だが、チャンスだ。モリー、ザンクローネ!!」

「うむ!!」
「おうよ!!」

イザヤールの声を受けて、蒼炎のツメとプラチナさいほう針がバルザックの背中に襲い掛かる。

「ぐうっ!!」
背中に幾筋の傷を入れられ、バルザックは呻く。

「ならば、まずは貴様達からだ!!」

禿げ頭の男に斧を受け止め、その間に奇抜な格好の男と小人が攻撃してくるようだ。
ならば、先に攻撃してくる方を仕留める。

「大した奴じゃねえな。」
モリーの頭から攻撃を仕掛け、今度は肩の上に乗ったザンクローネが笑う。


今度は同じように斧をモリー達の方に振り回す。
「その程度で、わしらを倒せるとでも思ったか!!」
ラプソーンを倒したメンバーの中でもかなりのスピードを持っていたモリーは、バルザックの攻撃を難なくかわす。

692 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:03 ID:rAMbjtuw0
「ならば、これでどうだ!!」
バルザックは大きく息を吸い込み、炎を吐きだす。
「斧が当たらないなら、丸焼きにしてくれるわ!!」

だが、モリーはそれを避けようとせず、何かのポーズをとる。
「なんだ!?その、馬鹿にしたようなポーズは!!」

「モリィィィィ!!!!バァァニングゥゥゥゥゥゥ!!」
「馬鹿な!!ぐあああ!!」
彼の熱血スキルの力で灼熱の炎を出す。
その熱さと勢いは、バルザックの吐いたものを優に上回っていた



「くそぉぉぉ!!ならば、これでどうだ!!」
体を焼かれ、三人から離れたバルザックは、魔法の詠唱に移る。

復活と共に、新たに身に付けた呪文を唱えようとする。
当たれば、三人ともそれなりなダメージを受けるだろう。
「焼き尽くせ!!ベギラゴ………ぐぅ!?」



だが、余程の達人でない限り、詠唱時間が長いのが欠点だ。

頭に、ゴツリと鈍い衝撃が走る。
「遅い」
素早く後ろに回り込んだイザヤールが斬夜の太刀で峰うちをしたのだ。



侮っていた奴らに情け容赦なく圧倒される。
これはキングレオ城とサントハイム城で以前2回も経験している。
しかもその度に上司から、部下から馬鹿にされてきた。



「なめやがってえええぇぇぇ!!」
怒りに任せて、大魔神の斧を振りかざす。
勿論、そんなザマでは三人を倒すことが出来ない。
地面がいたずらに耕されるのみである。

三人は斧の攻撃の間を縫って、攻撃を仕掛けていく。


(明らかに、武器に体が付いて行っていない…………)
イザヤールは、攻撃をしながらそう思い始めた。
これでは、武器を振り回すのではなく、武器に振り回されているようなものだ。

戦いは、武器の強さや個人のスキル以上に、武器とその使い手のシンクロ具合に左右されることを示す悪い例のようなものだ。

693誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:30 ID:rAMbjtuw0


「ハア………ハア………クソォ!!」
次第に、バルザックが息切れしてきた。

「マスター、ヒーロー、畳みかけるぞ!!」
「了解だ。」
「任せな!!」


「タイガークロー!!」
「ミラクルソード!!」
「超隼斬り!!」

「ぐあああああああああ!!!」

強力な技を3つ全身に受け、バルザックの体は地に伏す。
「こんな………はずでは…………。」




「バルザック………だったな。もうやめろ。」
「何だと?」

ここまで徹底的に攻撃して、何が言いたいのだ。

「貴様は、人間だろう?」
「黙れ!!」
「近づいてみて、分かった。姿こそ人間とかけ離れているが、何かの力を使って魔物になった人間だろう?」

かつてガナン帝国兵のような魔物になった人間によく近づいていたイザヤールだからこそわかることだ。




だが、その言葉は、バルザックの神経を逆なでするだけだった。
「黙れと言ってるだろ!!」


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か
―人間のくせに威張り散らしやがって
―さすがはキングレオ様。同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


バルザックは何かをするたびに部下から、上司から、同僚から人間であったことをネタに蔑まれてきた。
とうとう怒りも限界に達したバルザックは、イザヤールを頭から真っ二つにしようと再び斧を振るう。
だが、これまで何度もやって悉く失敗に終わったやり方が、上手くいくはずがない。

イザヤールは紙一重で斬撃をかわし、後頭部に蹴りを入れる。
バルザックは前のめりに倒れた。

694誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:54 ID:rAMbjtuw0

「貴様を倒す必要はない。もう、止めにしないか?二人は、どう思う?」
「オレは別にいいけどよ、アンタはそれでいいのか?」
「人間を守り、正しい方向に導くのが、守護天使の役目だ。」
「うむ。ワシも鬼ではない。最初は許すつもりはなかったが、哀れなヤングにトドメを刺すようなことはせん。」



端から見て、降伏か死しかバルザックには残されていないようだった。

(こうなれば………どうなるか分からないが「アレ」を使うしかあるまい……!!)

「貴様等、それで、勝ったつもりか?」
「まだやるというのか?やめておけ。」

「私には、とっておきの奥の手があるのだよ!!」
バルザックはザックを開ける。




そこから出てきたのは、光る石。
なんの変哲もない鳥の卵のような形の石、のはずだった。


三人の顔色が突然変わる。
「やめろ!!」
イザヤールが怒鳴る。
本人以外の誰もが驚くほどの大声で。
「こいつが、そんなに怖いか?」
バルザックは得意げにそれを見せびらかす。

「違う!!それは、ヤングのような人間が使っていい物ではない!!」
モリーも、この感じは覚えている。
法王の館で戦った、杖の邪悪な力の操り人形にされている黒犬。
石から醸し出される気配は、邪悪さこそ感じないもののその杖から発せられる魔力に酷似していた。


「知っているのか?コイツは、進化の秘石。これで私は、誰よりも強い力を持つことが出来るのだ!!
 貴様等、私を侮ったこと、後悔するがよい!!」

バルザックはそれをそのまま飲み込む。

695誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:10 ID:rAMbjtuw0


「危ない!!止めるぞ!!」
イザヤールが、モリーが、ザンクローネが、バルザック目掛けて攻撃を仕掛ける。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




気が付くと、先ほど攻撃を仕掛けた3人が倒れていた。
「どうだ。これが進化の秘宝を使った、私だ!!」
声を上げたのは、バルザック。
それは獣人の姿ではなく、青い巨鬼の姿だった。

「凄いぞ!!かつて進化の秘宝を使った時より、力を感じる!!
感謝するぞ!!エビルプリースト!!」

尻尾一振りで3人をなぎ倒したバルザックは空に向けて、勝利の咆哮を上げる。
やはり、私を案じて、武器以外にとっておきの進化の媒体である、これを私に支給したのだろう。
だが、それでエビルプリーストよりも強くなってしまったのは、皮肉な話だが。






「私は、むて…………き………だ…………わ………………た……………し…………………」

(何だ?これは?)
突然、胸の中が焼けるように熱くなる。
「ぐあああああああああああ!!!!!」
痛みにこらえきれず、地面を爪で掻き毟る。

「な…………に………を、し……………た………き……さま…ら………」
消えていく。
記憶も、劣等感も、妬みも、憎しみも。
かつて私が進化の秘宝を使い、魔物になった時は、意識だけは保っていたはずだ。

(私は人間を棄て、力のある魔族になりたかった。
だが、望んでいたのはこんなものではない。こんなものでなかったはずだ。)

696誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:32 ID:rAMbjtuw0
そうだ、私が、本当に望んでいたのは……………)
最後に、エドガンに師事していた時から抱いていた錬金に対する想いも消えた。

「思い出せぬ………何も………。」

だが、破壊の意志だけは残っていた。
そして、より多く敵を破壊するための知恵と、より強い敵でも破壊できる力。
「滅びよ………すべての生きる者共よ………」


過去をすべて失ったバルザックは、今度は次第に巨大化していく。
トラペッタを襲ったギガデーモン、程大きくはないが、かつてのバルザックを優に3倍は凌ぐ大きさだ。


エビルプリーストが渡したのは、かつて自分が変身するために使っていた道具とは似て非なる物。
そして、エビルプリースト本人が更に研究を重ねて、使った物とも異なる物。





それは、強い武器や防具を錬金を通して更に強くさせる石だ。
ある星屑の力を持つ剣を、銀河の力を秘めた剣にさせ、
ある輪廻の蛇の力を持つ盾を、ウロボロスの力を持つ盾に進化させ、
またある鬼神の力を持つ槍に、地獄の力を与えた。


だが、それらの武具に進化の秘石を通して凄まじい力が備わった理由は、あまり知られていない。
答えは極めてシンプルである。
元々の武具が、かなりの力を持っているからだ。
力のない者は、力を手にした時、それを持て余し、自らの崩壊を招く。
それは、武器にも言えること。


ただの凡庸な武具に、進化の秘石を使っても、強くなることはない。
元々強力な武具に、それのみならず魔力を秘めたオーブや、太陽の石、氷の結晶などの中和剤を使って、その武器は進化するのである。

そんな道具を、錬金釜も、その力を中和するアイテムもなしに力のないものが使ったらどうなるか、火を見るより明らかである。



そして、許容しきれない力はとめどもない怒りに共鳴して、持ち手に理性の崩壊をもたらす。

697誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:51 ID:rAMbjtuw0


かつてのバルザックの上司であったピサロが、愛した者を殺された怒りによって、理性を失ったように。

バルザックの蔑まれ嬲られることで溜まり切った怒りと、強すぎる外部からの力は完全なる自我の崩壊をもたらした。


エビルプリーストは、これを予想し、バルザックに進化の秘石を渡したのだ。
元人間であることをコンプレックスにしているバルザックのことだ。
人間らしい感情に振り回され、碌なことにならないのではないかと。

最も、エビルプリーストはこの道具を知らなかったはず。
本当に渡したのは、誰だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


場所はバルザック達がいる場所から少し東。
ここでも、人と竜の激しい戦いが繰り広げられていた。


「フ、いくら力を身に付けたと言っても、人の身では体力の限界があるぞ」
「はは、そっちこそ、魔族だからと言って、そんな大きな竜に長い間変身できないんじゃないか?」


どちらが言うことも当たっていた。
いくら強い力や技、魔法を身に付けていようとそれを使うための体力には限界がある。
また、竜王の方もこれほど長い時間変身していたことは、かつてアレフと戦った時でさえなかった。
だからと言って、迂闊に攻めの一手に出ると、その隙を突かれる可能性が高い。


一度目の放送が始まってから、4時間以上。
既に互いに消耗しながらも、先の全く見えない戦いであった。



だが、その戦いは急遽水を差される。



「な、なんだよ!?アレ!!」
いち早くレックが、それに気づく。
「なんじゃ!?」
「竜王、見ろよ…………」


遠くの方に、青い、巨大な、竜王よりも巨大な何かが暴れていた。
まだ距離はレック達とはかなり離れている。
逆に言うと、そこからでも見えるほどのメガサイズだということだ。


「気にすることはない。キサマはワシとの戦いにのみ集中すればよいのだ。」
竜王が爪を振るう。

698誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:22:16 ID:rAMbjtuw0
「そんなこと、言ってる場合か!!向こうで、誰かが襲われているかもしれないんだぞ!!」
レックは鋼の剣でそれを打ち払い、向こうへ行こうとする。
ひょっとしたら向こうに、ターニアや他の仲間、ティア達がいるかもしれない。

「ワシのことは恐れないのか?」
「あんたのことは知っているけど、向こうにいる奴は何なのか分からないんだ!!」
「小僧が、ワシをどこまでも愚弄しおって。これで片づけてくれるわ!!」
「竜王の口に闇の力が集まり、炎にして吐き出す。」


それが黒く輝く闇の炎となって、レックに襲い掛かる。
「マズいな………ならば……」
闇の力は、勇者の雷の力と同様、軽減させる方法が少ない。

「打ち返せえええ!!勇者の雷よ!!ギガディィィンン!!」


とっておきの魔法を打ち、闇の炎を弾き飛ばす。
やはり、闇の力に対応するのは、勇者の雷だ。


「まさか、闇の力を秘めた炎でも倒せぬとはな。」
「誰かを助けに行くところを邪魔するなんて、王の誇りとしてどうなの?」
「貴様………………。」

「それじゃあ、俺は向こうにいる人達を助けに行くよ。」
「待て!!」
「まだ何かあるの?」


「人間の脚ではあの魔獣がいる向こうに行くまで時間がかかるだろう。乗るがよい。」
「それは助かるけど、いいのか?」
「構わん。それともう一つ、そこの岩の上に、ワシのザックが掛かっている。中に回復の薬があるはずだ。ヤツを倒した後、それを使え。」
「どういう風の吹き回しだ?」

レックは流石に驚きながらも、そのザックを取る。中には言われた通り、クスリが入っていた。

竜王は背中を丸め、背に乗れというポーズをとっている。
どうやらレックを騙すつもりでもなさそうだ。


「人間に協力するなどと馬鹿げたことはできぬが、傷つき弱った敵を殺すことも、王の誇りに反するからな。」
「また、「誇り」ってやつか。アンタはなぜ、そこまで誇りにこだわるんだ?」
「黙れ。人間にそこまで話す必要などない。ヤツが倒れれば、すぐさま助けた者共々殺してくれるわ。」
「おおこわ。」


竜王は翼を広げ、夕日をバックにレックを乗せて飛んでいく。
「竜に乗るなんて、久しぶりだね……」
ムドーの城へ乗り込むときのことを思い出す。
最も、前は黄金竜で、今回は紫竜であるが。

699誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:00 ID:rAMbjtuw0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…………う………無事か?」
イザヤールが起き上がる。
「ああ、なんとかな。」
「マスターの悪い予想が、当たってしまったか。」


「まだ………生き残っているな………虫けらのように潰してくれるわ!!」


凄まじい力を得たバルザックは、虫でも潰すかのように平手で3人を潰そうとする。

「まだだ!!!」
しかし、イザヤールが斬夜の太刀でそれを受け止める。
「イザヤール!!」
「マスター!!それでは!!」


「人を守る。それが守護天使としての役目だ!!」
力ではかなわない、はずなのにそれでも必死でバルザックの手を受け止める。


「モリィィィィ!!バーニイイイング!!」
モリーもあきらめず抵抗を続ける。


「温い。」
だが、その炎は氷の息によって打ち消される。

「くそったれ!!」
ザンクローネが飛び出し、バルザックを斬りつける。
だが、巨大化したということはそれを守る脂肪の鎧も厚くなったということ。
その斬撃はバルザックの皮膚を薄く傷つけるだけだった。

「貴様等を破壊してくれる!!」
バルザックはぶおんと押さえられていない方の手を振るう。
なんとかザンクローネに当たらずに済んだが、次もかわせるという保証はない。
巨大になったということは、それ相応に攻撃範囲も広がっているからだ。そして………。

「ぐはっ!!」
ザンクローネに当たらないと思っていたその手は、イザヤールに当たった。
急に別の方向からの追撃に耐えられず、岩壁に叩きつけられる。

「イザヤール!!」
「マスター!!」

700誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:29 ID:rAMbjtuw0

「これで、貴様たちを守る者さえ、いなくなったな。」

(まずいぞ、ヒーローを狙うと見せかけて、守りの要であるマスターを攻撃するとは、戦略の質まで上がっている!!)


守りの要を失ってしまったことの危険さは、モリーが分かっていた。
かつてバトルロードでエイトのチームと戦っていた時と同じだ。
自分のチームのはぐれメタルが倒されてしまってから、戦況が極めて悪くなったからだ。

たとえ今の攻撃で死んでいなくても、これまで通り守りの要を勤めることは出来ないだろう。

先程までとは打って変わって、3人が圧倒的に不利だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「この辺りで良いか?」
「ああ、ありがとう。下ろしてくれ。」
レックはバルザックから少し離れたところで降りる。


幸いなことに、まだあの青いバケモノには気づかれていないはずだ。
だがこれは逆に言うと、誰かが奴に襲われている可能性が高い。


そこにいる人達を案じ、レックは走り出す。



レックの背中が遠くなると、竜王も変身を解き、元の姿に戻る。
そして、こう呟いた。
「必ず、戻って来い」


(ヤツめ、ここまで近づいても気づいてないとは、それほどでもない。
おそらく、エビなんとやらと同じ、力を何かの形で手にした力無き者だろうな。
だが、そういった者だからこそ、何をするか分からん。)


竜王が気になったことはもう二つ。
人間に協力するなど、馬鹿げたことは王の誇りが許さない。
だが、一度戦った相手が自分との戦いで消耗していたため、別の者に倒されるのはどうだろうか。


最後の一つは、レックが言ったこと。
(誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。一度でも、考え直すことはなかったのかい。)

自分が誇りを貫くことで、誰かの誇りを壊してしまうことは、正しいことなのか。


自分が、何をしたいのかは分かっていた。
だが、それを、誇りが許さなかった

701誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:48 ID:rAMbjtuw0


【C-7/荒野/1日目 夕方】

【モリー@DQ8】
[状態]:HP1/3,MP微小費
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める
    レックたちへの加勢
【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う


【イザヤール@DQ9】
 [状態]:気絶
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP全快、メガボディ化
 [装備]: なし
 [道具]:支給品一式、道具0〜1個
 [思考]:全てを破壊する
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※過去の記憶を失い、ただ戦うための戦略と誰かを殺すことしか覚えていません(進化の秘宝を使ったデスピサロのように)
※バルザックの姿はバルザック+(第二形態)です。


【レック@DQ6】
[状態]:HP1/3 MP3/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、エルフの飲み薬@DQ5確認済み支給品1~2個
[思考]:バルザックを倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP2/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックを助けるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。


※D-7南/荒野にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。
※バルザックの近くに、大魔神の斧@DQJが落ちています。
※バルザックの飲み込んだ進化の秘石@DQ9は溶けたか残っているかは、次の書き手にお任せします。

702誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:29:12 ID:rAMbjtuw0
投下終了です。OKか破棄か気になった点は、言うまでもなくバルザックの変身過程です。
バルザックが進化の秘石を使って更なる強大な力を手に入れたが、その反動でデスピサロのようになってしまった、
という展開が、完全にオリジナル設定だからです。
他には、いくらバルザックが巨大だからと言って、戦いながらもそれに気づくレック、誇りを貫くか否かで悩んでいる竜王など、「これはないなあ」と思う点があるかもしれません

やり直すとしても、大筋が、「バルザックが進化の秘石を飲み込む」というものがあるので、破棄申請されても改定するのは難しいです。

もし破棄申請が出なければ、明後日の午後6時に本投下したいと思います。

703ただ一匹の名無しだ:2017/11/02(木) 23:12:38 ID:fxRXW1/U0
お疲れさまです
自分は問題ないと思いました

704 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:53:56 ID:tBv3.T9M0
一時投下します。

705踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:55:00 ID:tBv3.T9M0
また、守れなかった。
ひとり、ひとりと、隣からいなくなっていく。

微かに見えた黒い雷は、おそらくジゴスパークだろう。
レックやテリーが使っていたのを何度も見たことがあるし、はぐれメタルの職を経験している自分も使える技だ。

それでも、彼女の使う地獄の雷は自分のそれの比ではなかった。
そうさせたのは、彼女の実力か、それともそれほど強い想いなのか。
どちらにせよ、あの威力では先に行っていたローラとアレフはもちろん、後からついて行ったトンヌラもただでは済んでいないだろう。

ハッサンを殺した2人が死んで、ざまあみろと思う気持ちが心の片隅を支配して、聖職者でありながらそんな邪な気持ちを抱く自分にも嫌気が差して、スクルドを止められなかったことも自分を責める材料になって――――――

なぜ、こんなことになったのか。自分の中から原因を見出すのは簡単すぎるからこそ、他人の中から原因を見出したくもなる。

そしてその対象はキラーマジンガ。
あの機械兵が間違いなく原因のひとつだ。
あの時、橋の上で妨害を受けなければもっと早くリーザス村に到着して、また違う結末を迎えていただろう。

たらればの話をしても仕方がないなんて分かっている。
もはや八つ当たりにも近いことだと分かっている。

海底神殿で、デュランとの戦いの中でと、これまで幾度となく自分たちを苦しめてきたあの機械兵。こんな場所でも立ち塞がるのか、そう思えてさらに苛立ちを感じた。

「生命反応ヲ確認。」

機械兵と相対する。
橋の上で戦った時には折れていなかった剣が折れているのに気づく。あの後にまた誰かと戦ったのだろう。
じゃあ、それは誰と?

答えはすぐに思い浮かんだ。

おそらく、この辺りにいたはずのサフィールだろう。

そして機械兵がここにいるということは――――――



――――――ああ、また守れなかったのか。

サフィールが逃げ延びたのだとか、戦ったのは別の人物だったのだとか、そんな可能性はあったのかもしれないがそんなことを考慮する余裕はなかった。

憎い。
絶望が、憎悪が、溢れ出して止まらない。



あの機械兵が――――――憎い。

706踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:55:43 ID:tBv3.T9M0

「敵ト、認識。」

そうだ。
奴にとって僕が敵であるように、僕にとっても奴は敵なのだ。

人の心を弄ぶあの魔王の如き男の手先。
多くの命を奪っていった敵――――――

いや、本当の意味で皆の敵なのは僕なのかもしれない。
ハッサンも、もう少し早く動いていれば死なずに済んだのだろうか。
アモスとも最後の瞬間はきっと分かり合えていた。殺さなくても、何かしらの手段はあったはずだ。

トンヌラも、アレフも、ローラも、サフィールも――――――


一旦、考えるのをやめた。


せめて、今はこれ以上誰も失うことのないように。

「キラーマジンガ。貴方は、僕が倒す。」

「戦闘開始。あべる様ノタメニ、破壊ヲ。」

言うが早いか、ジンガーより早くチャモロは動く。
ドラゴンの杖をサフィールに渡したチャモロは今は何も武器を持っていない。
元より格闘技を特別好むチャモロではないが、キラーマジンガには呪文が通用しない。
また、威力の高い特技は発動までの隙が大きい。遠距離戦では弓矢を駆使して戦うキラーマジンガ相手に使う余地があるとは思えない。

ちまちまとした攻撃では鋼鉄の装甲を貫けるはずもなく、勝機があるとすれば接近戦での高威力の格闘技が最も有効だろうとチャモロは判断した。

チャモロが近づくと予定調和とでも言うが如く振り下ろされる槌。キラーマジンガにとっては牽制程度の攻撃なのだろう。
だがそんな簡単な攻撃でさえ、軽装備の人間相手には一撃必殺となり得る。
仮に死なずとも、これを受ければ剣による追撃を避けられない。

それでも、不思議と怖くはなかった。
何度も戦ったことのある相手だからだろうか、それとも多くの死を間近で経験し過ぎたからだろうか。槌による牽制を難なく躱す。

ただ、躱したからといって油断など出来ない。
槌により叩きつけられた地面から砂埃が巻き起こり、微かにチャモロの足を取る。
大局的に見るとただの砂埃でもコンマ1秒の動きの乱れが生死を分ける戦いの中では立派な障害物になりうるのだ。

だが、チャモロは次の一手を回避に回すために動いていなかった。
キラーマジンガの攻撃を2度受けきると隙が出来ると分析したが、相手の行動にパターンがあるとはいえ自分の行動までもをパターン化するのは危ないかもしれないからだ。

初撃を回避してすぐに動く。
砂埃で足が取られないよう、回避と同時に大地を踏みしめていた。そして敵が剣を振り下ろす直前、地面をバネに飛び上がり膝蹴りを入れる。

707踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:56:23 ID:tBv3.T9M0

ガシャリと鋼の音が鳴り響き、ジンガーは後退する。
折れた剣での第二撃はチャモロには届かない。



「ヤハリ、ソウカ。」

ジンガーは呟いた。
先程の戦いは殺し合いではなかった。だが、今は紛れもない、殺し合いをしている。
破壊し、破壊される――――――このために、自分は動いているのだと実感する。



中距離まで離れたジンガーはビッグボウガンを引く。
それに気づいたチャモロは1歩引き下がる。
矢を放たれて1番厄介なのは遠距離ではなく中距離である。
目視で回避出来るだけの距離があればこちらからの攻撃手段はなくともリスクを負うこともないのだ。

放たれたジンガーの矢を逸れて躱したチャモロは再び距離を詰めにかかる。槌にも剣にも対抗出来るよう両方に注意を払っていた。

来たのは横薙ぎの斬撃。
斬撃の軌道に合わせて身体を逸らして躱し、そのまま爆裂拳を叩き込む。
高速打から逃れるようにジンガーは引き下がった。

チャモロは攻撃を防いでいるのではなく、捌いている。
あくまで、相手の攻撃に対応する目的は自分の攻撃を一方的に通すことにあるのだ。

それでも、割に合わないとでも言うべきか。
1回相手を怯ませるのに2回の命の危険を潜らなくてはならない。どれだけ追い詰めても一瞬で形勢は逆転しうるのだ。
負けるビジョンはいくらでも見えるというのに、勝機は見えない。

でも、引くわけにはいかない。
ここで倒さなくては、直接的であれ間接的であれ、また誰かが犠牲になるかもしれない。

初撃。
ジンガーはチャモロに対し矢を連射する。
これまで回避を主とした戦術を取っていたためか、線状ではなく扇状の攻撃。

「はっ!」

真空刃でその全てを弾き飛ばして道を作り、前進する。

次は、打撃か斬撃か。
どちらが来ても反応出来るよう、ジンガーの両腕へと意識を集中する。

(!?)

しかし、ジンガーの取った行動はどちらでもなかったのだ。
第二撃は単純な体当たりだった。
衝撃がチャモロの身体を弾き飛ばし、草原の上に転がす。

708踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:57:09 ID:tBv3.T9M0
もしも初撃にこれを受けていればそのまま追撃の矢を心臓に受け、無事では済まなかっただろう。
だが、キラーマジンガは2回の攻撃行動の後は次の攻撃行動までにしばしのインターバルを必要とする。
よって攻撃行動の出来ないジンガーがとった行動は接近。
チャモロが立ち上がる瞬間を狙い、次の攻撃行動として槌を振り下ろす。

避けられない。
槌の一撃がチャモロに命中し、骨にヒビが入る音が響く。
だが、命までを奪うことは出来ない。

「大防御…!!」

チャモロは左腕で一撃を何とか受け止めていた。
体つきは華奢なチャモロだが、それでもパラディンの職を極めているのだ。並の戦士を優に凌駕する防御力を持っている。

だが、勝てるわけではない。
左腕をやられ、武闘を駆使しての戦いも半ば封じられてしまった。
何度も倒してきた相手だと言うのに、隣に誰もいない、ただそれだけのことで人はこんなにも弱くなってしまうのだろうか。

でも、諦めるわけにはいかない。

「僕は――――――最後まで戦う…!」

誓いを言葉にして吐き出す。
根性論で乗り切れる戦いではないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。



「―――そう、諦めちゃだめだ。」

「―――助太刀するでござる。」

その時、剣を振りかざすジンガーと素手で対抗せんとするチャモロの間に割って入る二人がいた。

その者の内の1人は炎を纏う赤剣と対をなすかのように青く美しい剣を構え、機械兵の斬撃を受け止める。
もう1人はその状態のキラーマジンガに体当たりをして怯ませる。

「間に合ってよかったでござる、チャモロ殿。お主のことはサフィール殿から聞いております。」

その者は図らずもサフィールが生きていることを伝えてくれた。

「…と、名乗るのが遅れたね。僕はアルスで、こっちはライアンさん。この殺し合いを終わらせるために仲間を集めてるんだ。」

そして孤立し弱っていたチャモロに、仲間がいることの安心感を思い出させてくれたのだった。

「アルス殿、一旦離れましょう。作戦についてチャモロ殿に。」

「分かった。」

アルスとライアンは予め何かしらの考えがあって挑んでいるらしい。
最低限の会話で行動方針を決めていく。

「魔神――斬り!」

アルスは攻撃の後の僅かなインターバルの時間を利用して渾身の一撃を叩き込み、ジンガーは数メートル吹き飛んでいく。

再び戦闘へと戻ろうとするも、既にアルスたちは逃走を成功させていた。

709踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:57:57 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「みんな友達大作戦…?」

ハッサンやアモスを想起させるような屈強な男の口から飛び出たのは、何とも可愛らしい作戦名だった。
人も魔物も、全員仲間にして主催を倒す。
確かに理想的ではあるだろうが、現実的に可能なのだろうか。

「しかし、相手はあのキラーマジンガです。仲間にすることは出来るのでしょうか?それに、この世界でも奴は破壊の限りを尽くしてきたはずです。やはり納得しない人だっているかもしれません。」

「そう…思うよ。」

サフィールの話では、マリベルの死には少なからずキラーマジンガが関わっていたそうだ。もちろん、憎いという心が全く無いといえば嘘になる。

「でも、それは機械兵が悪いんじゃない。裏にはいつも人間や魔物の悪意があるんだ。」

(――――――ぼくとしては戦いしか知らぬからくり兵に同情しているくらいだ。真に悪といえる存在がかれらではないということが人間たちにはわからんのさ。)

いつかゼボットが言っていた言葉。彼もかつてのアルスと同じように、自分の、そして他人の命に対して無頓着だった。
ただし彼は彼のやりたいことを見つけていた。だからこそエリーを作り上げられたのだろう。

それでも機械兵を憎まずにいられない人がいることも理解出来るが、アルスの意見がどうしてもゼボット側に傾くのは、長く命への関心を持っていなかったからかもしれない。

「…分かりました。ただ、どうやってあれを仲間にするのですか?」

「それには、考えがあるのでござる。」

「うん。サフィールによると、キラーマジンガは人間に従っているそうなんだ。」

「それは私も知っています。あのアベルという男の意思に従って破壊を繰り返しているそうです。」

「そう、奴はただ無差別に人を襲っているのではなく、人の命令に従っているのでござる。ならば、何かしらの方法でこちらから命令することも可能なのではなかろうか。」

「なるほど、命令を上書きするわけですね。」

「ふたつ、可能性がある。まず1つ目。過去に機械の兵団と戦った時に、エラーを引き起こす音波を発する装置を使ったことがあるんだ。さすがに同じものは支給されてないだろうけど、何かしらの音波を発するものがあれば回路を狂わせることが出来るかもしれない。」

ただ、残念なことに音に関する道具は誰も持っていなかった。
そもそも橋の上で銃を暴発させた時キラーマジンガの近くでかなり大きな爆音が響いたはずだが、それで何のエラーも起こっていないことを見るに音によるエラーは現実的ではないのかもしれない。

「そして2つ目。これは…成功するかどうかは実は僕次第だ。"魔物ならし"という技があってね。魔物を手懐ける特技なんだけど、それが機械相手にも通用することがあるんだ。それを使えば、破壊の命令を解除することも出来るかもしれない。」

「そんな技が…!アルスさんは使えるんですか?」

「それが、僕は使えないんだ。でも他に方法がないのなら試してみるよ。仲間が使っているのを見たことだけならあるからね。」

ガボはモンスターマスターを極めていた。
生きていれば、きっとみんな友達大作戦の立役者となってくれていたのだろうが、感慨にふけっている暇はない。

こちらを発見した機械兵が迫ってきているのだから。

「敵ヲ、確認。破壊シマス。」

「違うさ、僕らは敵なんかじゃない。」

作戦開始。
そして殺し合いとは呼べない何かが、始まる。

710踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:58:28 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ジンガーがアルスを槌で殴り掛かる。
ライアンが割って入り受け止めるが、想像以上の重圧に氷の刃を弾かれる。

炎剣による第2撃を後続のアルスが弾き、ライアンは事なきを得た。

「助かったでござる…!そして気をつけてくだされ!心無しか斬撃の精度が上がっているでござるよ!」

ジンガーは戦った相手の行動パターンを分析している。
よって防御の手薄になりがちな部分を持ち前の正確さで確実に突くことが出来るのだ。

「ならば…真空刃!」

攻撃の軌道をずらすべく風の刃を放つ。
ジンガーの振るった剣は空を斬るに留まる。

正直に言うのなら、チャモロはキラーマジンガを仲間にするのにあまり乗り気ではない。
ただしそれは個人の感情によるものが大きい。
海底神殿での戦いはチャモロだけでなく、パーティー全員に大きなトラウマを与えた。
デュランとの戦いの前座として召喚されたキラーマジンガもレックのラミアスの剣を持ってしても苦戦を強いられた。
チャモロにはこれを仲間にするのは信じられないとさえ思える。

だが、仮に成功すればかなりの戦力となるのは間違いない。
ここで自分の感情を押し通して、そのせいで守れない命があればきっとまた後悔することになる。

だから出来る限りのことをしようと決めた。
元の世界に帰りたい、きっとその想い自体は誰もが同じはずだ。

チャモロの攻撃によって怯んだジンガーは後退しながら矢を連続で放つ。
接近攻撃を主とする3人を相手にするジンガーにとっては適度に距離を置く方が有利なのだ。

711踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:59:45 ID:tBv3.T9M0
だが、ジンガーはアルスの素早さを見誤っていた。
疾風突きの勢いに乗せてアルスは接近する。
灼熱剣エンマによる斬撃が放たれるも、アルスはオチェアーノの剣で押し返す。
ジンガーはまだアルスと戦ったことがなく、動きのパターンがインプット出来ていないのだ。

そしてアルスはジンガーの下へと辿り着く。
武器を納め、鋼鉄の身体に触れる。

「もう破壊をやめるんだ、キラーマジンガ。エビルプリーストを倒すため、君の力を貸してほしい。」

言葉を紡ぎ語りかける。
機械相手に、周りから見たら滑稽だと笑われるかもしれない。
でも、人間の愛に触れて育てば機械兵にも"心"が芽生えるのだとアルスは知っている。
現代のフォロッド城のエリーを巡る騒動。アルスが自分の心の問題について考え始めたのもこの出来事があってのことだった。

「誰も死ぬことがあってはいけないんだ。君も、君のマスターも、みんなでこの閉ざされた世界から脱出しよう。」

「ますたー…あべる様…?」

アルスの言葉にジンガーが反応を示す。
それは有効だったのか、それとも悪手だったのか。

「あべる様ハ、イナクナッタ。あべる様ノ指示ガ、必要ナノダ。」

「だったら僕たちも探すのに協力する。今は敵対しているかもしれないけれど、君のマスターも仲間にしてみせる。」

「ソウカ、分カッタ。」

言葉が届いた。
アベルと出会った時にどうなるかは分からないが一時的とはいえ成功したのだろうか。



「――――――オマエタチハ、今ハあべる様ノ敵ナノダナ。」

(…!)

一瞬抱いたそんな幻想は、すぐに打ち砕かれた。
ジンガーはメガトンハンマーで地面を思い切り叩きつけ、辺り一面を衝撃波で吹き飛ばす。

「ぐっ…!」

「駄目で…ござるか…!」

「やっぱり、アイツは…!」


言葉は届いた。
だが、ジンガーのアベルへの忠誠を読み違えていたらしい。もっと早くに心を取り戻し、魔物マスターに転職出来ていたら。
もっと早くにトラペッタに辿り着き、ガボを守れていたら。
心を取り戻したアルスに待っていたのは後悔の連続だった。

もう、後悔はしたくない。
だが実力が足りない。

衝撃波によりアルスは空へと放り出される。
最も近くで衝撃波を受けた分、他の2人よりも大きなダメージを負ってしまったのだ。

そして、ジンガーの追撃がアルスに迫る。

712踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:00:30 ID:tBv3.T9M0
「アルス殿!ぬおおおお!!」

ライアンがアルスの前に立ち塞がり、ジンガーの斬撃を氷の刃で受け止める。

想像以上の重圧に押し返されそうになる。
さらにその時、ジンガーの持つ灼熱剣エンマが更なる熱を放つ。

アルスを狙ったのは隙が出来たからでも近くにいたからでもない。
アベルと敵対しているとの言葉を吐いたアルスにジンガーは怒っていた。
それは天使の守る世界の人々やアストルティアに生きる人々には"怒り"と呼ばれている現象。

だが、この場の全員が知らない。知る由もない。
この状態の者の放つ一撃は、平常時よりも遥かに強力であるということを。

「ぐっ…ぬおおお…!」

灼熱剣の熱で氷の刃が溶け始める。
だが、即座に完全に溶けるには至らない。それは氷の刃が強力な武器であったからなのか、それとも剣の元々の持ち主である今は亡きナブレットの執念なのか。

どちらにせよ、ライアンの守りが崩れるのは遠くはない。
アルスはすぐに戦闘復帰するにはダメージが大きいだろう。
動けるのは自分だけだ。そして、動くとするならば今しかない。

「黒き雷よ――――――」

ごめんなさい。
心の中で呟いた。

魔物も機械も、全員が協力して戦えるのならそれは本当に夢のような話だと思える。

だけど、そんな夢に執着して目の前で消えるかもしれない命を見捨てることは出来なかった。

「我が敵を―――飲み込め。」

あの時のスクルドもきっと、守りたい何かがあったのだろう。
それは命かもしれないし、想いかもしれないし――――――何にせよ、許してはいけないのに許さなくてはならない気がした。

彼女も、方向性は違うのかもしれないけれど、今の僕のように苦しんでいたのだ。

713踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:01:57 ID:tBv3.T9M0
「ジゴスパーク――――――」

地獄の雷を呼び出す。だが打ち出すことはしない。
このまま放とうものならライアンもアルスも巻き添えにしてしまう。
チャモロは荒れ狂う力を右腕に込める。

(ハッサンさん…見守っていてくれていますか?今の僕はあなたに胸を張ることは出来ないけれど――――――)

ジンガーに近づくにつれて灼熱剣の熱気が伝わってくる。
裸出した顔を、腕を焦がすその熱がやけに冷たく感じられた。

(せめて、今はこの技で――――――)



「正拳――突き!!」



地獄の雷を纏った拳が、ジンガーの装甲を真っ直ぐに貫いた。
悲鳴をあげることもなく、機械兵はただただ砕けていく。

「あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。」

ただひとつ、機械兵が最期に発した言葉は、機械兵のものとはとても思えないくらいに、人間味に溢れていて。

この機械兵も苦しんでいたのか?
そんな疑問が、そんな迷いが頭の中を掠めた時には、全てが終わっていた。

作戦は失敗した。
キラーマジンガを破壊――――――いや、殺したこと自体は間違っていなかったはずだ。
ライアンとアルスの命を守れたことを誇りに思うべきなのに。

でもキラーマジンガをこの手で倒したことを、この作戦の失敗を、どこかで喜んでいる自分がいたのも確かだった。



その後は、どことなくいたたまれない空気が辺りを支配していた。

「僕たちはリーザス村へと向かう。チャモロ、君も仲間になって欲しいんだ。」

「…ごめんなさい。僕はトラペッタ方面に向かいます。」

サフィールが向かったらしい場所。
たった今、感情の枠にヒビが入って感情が零れ出して、そのままにキラーマジンガを殺した。
今リーザスに向かって、もしもハッサンの仇の2人が生きていたら、スクルドと再び出会ったら、その時自分がどうするのか、それを考えるのが怖かったのだ。

「サフィールさんは僕が守ります。彼女と共に仲間も集めます。だから、もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。」

「うん、分かった。じゃあ行こうか、ライアン。」

「うむ…」

ナブレットの形見だった氷の刃は完全に溶けてなくなっていた。
物にそれほどの執着があるわけではなかった。大切なのは、あの時にナブレットが剣を渡してくれたから自分は今こうして生きているということ。

714踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:02:40 ID:tBv3.T9M0
「ナブレット殿…ありがとうでござる。」

小さく呟いて、アルスの渡してくれた新たな剣を装備する。
まどろみの剣。ラリホーの効力のあるこの剣は、きっとみんな友達大作戦に貢献してくれるだろう。
散っていった命に報いるため、せめて前を向いて、戦おう。

ある者は無力感を噛み締め、ある者は使命に燃えて、ある者は罪悪感に苛まれ――――――それぞれがそれぞれに思うところのあるこの戦い。
ただし、戦いはまだ終わっていない。
この戦いは始まりにしか過ぎないことを、この時はまだ誰も知らなかった。


【G-5/平原/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【F-4/平原 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/10 MP1/5 左腕骨折 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

715踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:04:38 ID:tBv3.T9M0




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「キラーマジンガ…恐ろしい奴よ。主への忠誠心から、自ら別の世界の可能性を掴み取るとは…!」

ジンガーの放ったグランドインパクトも怒りによる能力上昇も、彼のいた世界のキラーマジンガが使いこなせるものではない。

主催者、エビルプリーストは笑っていた。

「バラモスが死んで退屈しておったでな――――――救ってやろうとも考えていたが、どうやらその必要もないようだ。」

奴が他の世界の可能性を掴み取ったのなら、必ずや起こる現象があるはずだ。
そしてそれは何を生み出すのか、まだ予測もつかない。

「何とも面白い…面白いではないか…くはははははははははは!!!」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

アルス、ライアン、チャモロの3人がジンガーの居た場所を離れてしばらくした後、1体の機械兵が天より舞い降りた。

その機械兵はキラーマジンガであり、ジンガーではない。
彼は地に伏し動かなくなったジンガーを見下ろしている。

「Code 87:Remote Repair 開始。」

そしてインプットされたデータの通りに、ジンガーに腕を宛てて壊れた部品を組み直していく。地獄の雷によって破壊された装甲が、アクセルが、修復されていった。

「完了。」

新たな機械兵の発したその言葉と共に、ジンガーは地の底より舞い戻った。

「助カッタ。宜シク頼厶、個体Bヨ。」

「…。」

心の宿った機械兵と、心無き機械兵。
2体はそれ以上言葉を交わすこともなく、アクセルを踏み込んだ。

【F-5/平原 /真夜中】

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。
アルス達の向かった先を知りません。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:無し
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。

716 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:22:24 ID:tBv3.T9M0
投下終了です。
気になる点は、キラーマジンガBの存在。
・参加者追加について
設定としてはバラモスゾンビやヘルバトラーの「その個体特有の形態変化」に近いもので、キラーマジンガのイメージからかけ離れたものでもないとは思いますが、リレー小説における扱いとしてはDQBR2ndのサイモンに近いものだと思います。
トラペッタ方面の人物の淘汰、みんな友達大作戦の成功、リーザス方面での戦闘など、ジンガーが行う可能性のあることを色々考えた結果、1体では荷が重いのではないかと考え、この話を書くに至りました。
一応、>>715の展開のみを没にしても話の大筋は通ると思うので、この設定が没になっても本投下はします。
とりあえず以下に挙げる点はこの点が受け入れられている前提のものとなります。

・マジンガBの支給品までもが追加されていること
近くにネプリムの不明支給品やリオウのオリハルコンの爪が落ちているはずなので、装備品の調達自体は難しくないのですが、マジンガ2匹で道具漁りをする図が場面に対して不格好だと思ったので追加キャラにも関わらず最初から装備品を持っている設定にしています。この点について意見を聞きたいです。

これらの点に反対意見がなければ、月曜日の夜に大体このまま本投下しようと思います。

717ただの一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 13:16:55 ID:zEIRyHuU0
投下乙です。やはりマジンガは2体1セットか……。
10世界の技を使うバラモスゾンビや強ボスの形で復活したヘルバトラーのように、キラーマジンガも10世界の技を使うならこれもよいと思います。
新キャラではなく、2体1セットと解釈するならばこれでもよいと思います。
あとこれはどうでもよい話ですが、チャモロがキラーマジンガと闘った場所は海底神殿ではなく、海底宝物庫だと思います。
海底神殿は確かグラコスと闘った場所です。

718 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:40:28 ID:LjyLYJEw0
ご意見&ご指摘ありがとうございます。
特に反対意見もないようですので、指摘箇所修正の上投下したいと思います。

719 ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:41:12 ID:Z.uZw2LI0
投下します。

720その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:42:12 ID:Z.uZw2LI0
今一度状況を確認しよう。

つい先刻まで有象無象が集まっていたこの場所だが、今は自分を合わせて5人しかいない。

ほとんどがこの地を去ったか、戦いの果てに死んでしまった。




「私達は城へ戻る。ジャンボ、ホイミン。後を頼んだ。」
「オレでいいのか?」
「貴様しかいないのだからな。」
「うん。必ずターニアを連れ戻すよ。」

軽く言葉を交わして、二人は遠くへ行った。

それをアンルシアがぼんやりと眺めている。

残りは、自分も入れて3人。
加えて一人はなおも気絶している。


そして、目的の道具が目の前にある。

結論を言うと、今がロザリーのもとに帰る、千載一遇のチャンスと言える。


今一度周りを確認する。
誰も自分の動きには注目していない。

ゆっくりと、ゆっくりとティアのザックに手を伸ばす。
おわかれのつばさは、何の苦労もなく、自分の手に収まった。
そのまま、自分のザックにしまい込む。



「我々は城に戻る。二人共大丈夫だな。」

「…………。」

「ヤンガスの話によると、城には月の世界へ行ける窓があるらしい。脱出の手がかりもあるかもしれん。」


アンルシアは黙ってティアを抱え、ピサロについていく。

だが、一つ気がかりなことは。

今、ここにいる二人の安否だ。

正直なところ、見ず知らずの小娘二人、どうなろうと構わない。

だが、急に二人を置いて消え去れば、怪しまれかねない。
またおわかれのつばさを奪って消えるところを見られれば声を上げられる。
それが何者かに盗聴される可能性だってある。

721その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:42:40 ID:Z.uZw2LI0
自分としてはすぐにでもこの道具を使いたいところだが、一度城に戻り、月影の窓とやらを確認し、
そして二人から離れて使うべきだ。

ピサロがそう考え続けていたところで、


3度目の放送が流れた。



――――――「まずは禁止エリアの………」

どの道脱出するのだからどうでもいい。

アンルシアはジャンボが走って行った方をじっと眺めている。なおも変わらないままだ。

―――――「続いて、この地で死者の仲間入りになった………」

私にとって、生死が気になるのはこの戦いに参加した者ではない。

「ス…ら…い……m」
ティアのザックから、光る翼を取り出す。


「D……rあ…ン」

本物だ。図鑑で見たと同じものだ。

「と………n…ヌ……ら」

煩いノイズだ。


「お兄ちゃん!?」

ティアが突然目を覚ました。

全く持って忘れていた。
この少女の兄が呼ばれたとは。


「ティアちゃん!?」
アンルシアも意識を向け始めた。

「お兄ちゃん……どうして……なの?」

兄を失って、予想通りと言えばそうだが、ティアは錯乱状態だ。
アンルシアの背中の上で暴れ始める。

722その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:43:36 ID:Z.uZw2LI0
「落ち着け!!小娘!!」
ピサロとアンルシアの声も聞かずに、ティアは泣き始める。


どうにかアンルシアがティアをなだめるも、どちらも精神的に極めて不安定な状態だ。

こんな時に別の敵からの襲撃が来れば、大変なことになる。
どさくさに紛れておわかれのつばさのみを持ち逃げするというやり方もあるが。


早くこの場から離れないと十中八九面倒なことになる。


城が見えてきた。

(……!?)

だが、その城からは何とも邪悪な気配が伝わってくる。

元々ヤンガスの話によると、あの城はかつて呪われた時の姿になっていたという。
だが、そんなものではない。
昼間とは全く気配が違う。


他の二人は気付いていない。

一つはかつての自分の部下、ヘルバトラー……のようだが圧迫感が全く違う。
もう一つ、さらに城に近づいてくる邪悪なオーラを感じる。


城は今でも安全だとばかり思っていたが、そうでないことがすぐに伝わった。

月影の窓を見つけるどころか、以前現れたという場所である図書館に行くことさえ難しい可能性が高い。

だが、どうすればいい?
城が安全じゃないなら、他の場所が安全だということにはつながらない。


「止まれ!!」
城へ向かおうとしている二人に警告をする。

「城から邪悪な気配を感じる。しかも、二つもだ。」


「え!?」
アンルシアが慌て始める。


更に、城の中から、巨大な竜巻が巻き起こる。
バギクロスよりはるかに巨大なサイズだ。

ここにいてもいつ敵に感づかれるか分からない。

723その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:44:14 ID:Z.uZw2LI0

しかもタイミングの悪いことに、ティアが泣き始めた。
「おにいちゃん!!たすけてぇ!!どこにいるの!?おにいちゃぁん!!」

「静かにしろ!!キサマの兄は死んだ!!」

言ってすぐに、自分の行動を後悔した。

「おにいちゃんはどこぉ!?おにいちゃんが……しんじゃうはずがない………。」

子供をあやしたことなんて、一度もない。
どうにもできない状況で、予想外な周りの状況の変化に頭が回らない。

厄介な事態はさらに続く。


「そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!」

ティアが自分のザックを探り始めた。

「待って!!ティア!!」

アンルシアがそれを止めようとする。
全く持ってこれは予想外だった。

私はてっきりティアがおわかれのつばさの使い道を知らずに、しまっていたのだとばかり思っていた。
だが、既に知っていたとは。

大方、仲間と共に使いたいとか、人間特有のくだらない理由だろうが、今更理由などはどうでもよい。


「あれ……!?どうして……ないの?」
当然ながら、ティアがおわかれのつばさがないことに慌て始める。


しかし、アンルシアは、もう一つのことに気付いていた。

「あなた……どうして……?」
その目線は自分のザックからはみ出ていたたおわかれのつばさに注がれている。


(!!)


これはまずい。

こうなってしまったが最後、おわかれのつばさを用いて脱出するしか道はない。

だが、おわかれのつばさを手に入れたのはよかったが、それの使い方までは知らない。
また使用した後、いつになれば帰ることが出来るのか。

一瞬で帰れるなんてことは、誰も言っていない。

724その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:44:50 ID:Z.uZw2LI0

「ジャンボの味方のフリして、私達を騙していたのね!!」

アンルシアはティアを地面に置き、戦乙女のレイピアを構える。


しかし、突然アンルシアの呼吸が荒くなり、手が震え、武器を落としてしまった。


(なんだ……これは……。)

恐らく仲間が人殺しをしていたという事実を、自分の行いが大量殺人を招いてしまったという事実がフラッシュバックしているのだろう。


(これは……まるで……)
全てを知り、ぬけがらのようになった、あのユーリルだ。


ティアはどうなっているのか後ろを振り返る。

先程の戦いの、エイトとかいう青年のように後ろから刺されてはたまったものではない。

予想通り、ロトの剣で斬りかかってきた。
しかし、所詮は修行もろくに積んでいない少女の太刀筋。
攻撃してくることを見れば、よけるのも簡単だ。

「……ぎが……でいん」

抜け殻となった勇者は、歯をガチガチ言わせながら、呪文を紡ぐ。
だが、雷の力はそれに答えてくれない。


アンルシアの状態こそは気になるが、今気になるべきはロザリーだ。


とにかく、これをどうすれば元の世界に戻れるのか。

(!?)

「待って……返しなさい……!」

アンルシアの呼びかけも無視して、おわかれのつばさが光り始めた。

光はピサロを包み始める。


大きくなった光は、そのまま天空へと飛んで行った。

ティアが、アンルシアが何かを言った。
だが、最早どうでもよいことだ。

ロザリーの安否を確かめる。それだけだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

725その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:45:13 ID:Z.uZw2LI0

(ここは……?)
おわかれのつばさが発した強い光に、まだ目がくらんでいる。


一瞬、首輪を確認する。
大丈夫だ。特に変化はない。

「ピサロ様!?」
懐かしい、とは言っても1日ほど聞いてなかっただけの声が、耳に響く。


「ロザリー!?無事だったか?」

「ピサロ様こそ、そんなに慌てて、どうしたのですか?」

徐々に目が慣れている。

間違いない。ここはロザリーヒルの塔の中。
そして目の前にいるのは、ロザリー。

鈴のように透き通った声、きめ細やかな肌、宝石のように綺麗に輝く赤毛。

間違いなく彼女だ。


心を安堵が芯まで包み込む。
エビルプリーストの魔の手から、今度は彼女を守れたようだ。

「大丈夫だ。もう安心しろ。」


「安心しろって……どういうことですか?」

「聞いてくれ。ロザリー。あの忌々しい魔導士、エビルプリーストが復活したのだ……。」

だが、こうして戻れた以上、ロザリーに指一本触れさせることはない。

「そんな……。勇者様と、倒したのじゃなかったのですか?」

「何故かは分からん。だが、今はロザリーを守ることが先だ。」

「……ピサロ様、その首輪、一体何ですか?」

首輪。
今もなお動かずに首下で留まっている
今までは脱出することばかり考えていたが、これもどうにかしなければならないだろう。

だが、一たびエビルプリーストの作った鳥籠の中から逃れられれば、直す方法なんていくらでも思い当たる。

726その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:45:56 ID:Z.uZw2LI0

既に首輪の仕組みは、大魔道の手紙によって、簡素であることが分かっている。

「ああ……これは……。」
「逃げられると思っていたのですか?」

ロザリーの顔が邪悪に歪む。
彼女がこのような邪な表情を浮かべるはずがない。


「貴様!!ロザリーではないな!?」

「もちろん、その通りだ。あの程度の道具で、逃げられると思ったか?」

口調はロザリーのものではない。
だが、姿はロザリーである以上、誰なのか分からない。

そしてなによりまずいことがある。

体が、全く動かない。
首輪から流れ出る何かが、自分の体を縛っている。

これは、人間が呪われた武具を身に着けた時にかかるという、呪いか?

ロザリーは自分のザックから、私がトロデーンの図書館から拝借した本を出す。勿論、「勇者死すべし」に挟まっていた手紙も。
「やはり、この本を読んだか。全ては私の思惑だがな。
奴も愚かだ、あの程度の手紙を紛れ込ませたこと、知られないとでも思っていたのか。」



目の前にいる存在。
エビルプリーストか。別の想像もしない何かか。


まだ口だけは動く。

「貴様は、なぜこんなことをする?」
「こんなこととはどういうことだ?」

「貴様は、私達をこの戦いに巻き込んだのはよい。だが、なぜこのような書物を私に読ませた?」


そこから返ってきたのは、自分の予想もつかない一言。

「ピサロという魔王が、そしてロザリーが、一つの大きな可能性の媒体だからだ。
そして貴様は予想通り、この戦いにおいて大いに活躍してくれた。図書室でずっと本を読んでいるより、な。」
「待て!!それは、どういう……。」

自分を覆っている、闇が濃くなる。もはや周りさえ見ることが出来ない。

「それ以上言う必要はない。」

指をパチンと鳴らす音。
意識が、闇に包まれた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

727その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:46:16 ID:Z.uZw2LI0
一方で、トロデーン付近の草原。


「ねえ、どうするの?おねえちゃん……」

ティアは、なおも泣き叫び続ける。

「逃げるのよ、ティア……。」


にげる。いざという時に必要なことだと、ジャンボから教わった言葉。
あの時こそ、ジャンボの考えには反対したが、今の自分は力がない。




アンルシアはティアを連れて逃げる。

ピサロがどうなったのかも知らずに。


【ピサロ@DQ4 死亡?】
【残り?人】

※ピサロ、およびピサロが所持していた本以外の支給品の消えた先、(死亡、行方不明、会場のどこか)などは次の書き手にお任せします。

【D-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーン城から逃げる
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:恐怖
※第二放送の内容を聞いてません。

728その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:50:39 ID:Z.uZw2LI0
投下終了です。言うまでもありませんが、一時投下スレを使った理由は、
・おわかれのつばさの使用と
・ピサロの会場脱出からの流れです。
この2点の意見を聞きたいです。

この2点及び他に反対意見がない場合は、1月4日の21:00に本投下しようと思います。

729ただ一匹の名無しだ:2019/01/03(木) 09:48:10 ID:OOQQzTMk0
一時投下乙です…が
これで通すにはおわかれのつばさがなんで発動したのかとか、ピサロの安否とか、色々情報をぼかしすぎてて続きを後の話に委ねるにはハードルが高すぎかなあと思います

730その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/03(木) 21:41:33 ID:MvKKHGCw0
ご意見ありがとうございました。
仰る通りおわかれのつばさの使う過程に大分雑なところがありました。
それから行方不明になったピサロを引き継ぎで使うのも大分はばかられるのも言われてみて共感できることなので、
以上の点から投下破棄します。
仮に修正するとしても、時間がかかるはずなので、このパートを書く際に他のアイデアがある方は先に書いてください。
お騒がせしました。

731 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:27:41 ID:gYmjXASs0
不慣れですがよろしくお願いします。出来たものを貼ります

732 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:29:47 ID:gYmjXASs0
 
闇夜が眩しく輝いていた。


【E-4/トロデーン〜トラペッタの川沿い/黎明】


ざあざあと流水音が谷間から響いている。城での戦闘後、アベルはトロデーンとトラペッタを繋ぐ橋近くに
移動し一時の休息をとっていた。橋は、呪われし王と姫に付き従い旅を始めたばかりのエイトが山賊ヤンガスと
初めて出会った場所でもある。

草むらに横たわり夜空を眺めていたアベルは、首を回して大地に目を向けた。
彼の傍らには袋が二つ無造作に放り置かれている。うち一つは先の戦闘の鹵獲品だった。

名はアスナと言ったか。
アベルは袋の持ち主を回想した。仲間を守ろうとして命を落とした勇士の姿。夢の中で幾度と見た、痛ましい
その様。いつでも彼に吐き気を催させてきた、愛情深きその生き様。

だがもう始末した。胸に広がる確かな満足感はアベルの心を和ませる。

アベルは上体を起こし袋を掴んだ。
ここまでの疲労は大きく、ただ横になっているだけでは回復は期待出来ない。やらねばならない事はまだ
沢山ある。
若干の水や食料が残っている事を期待して彼は中身を探る事にした。

なめらかな布が手に触れる。広げてみると、花嫁の為の純白のドレスだった。続いて一端の尖った戦鎚が
現れた。

今頃まで袋の中で眠っていた道具たちだ。持て余されたものばかりだろうとアベルは予測していた。
二つの装備品は名もそのままの『ウエディングドレス』、ライフル弾薬のようなものを二つ並べたデザインの
『バレットハンマー』だった。予想通りの無用な品を脇へやり、彼は検分を続ける。

733愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:30:55 ID:gYmjXASs0
 
次に出て来たのは大きな赤い宝石の付いた指輪だった。

「随分と大きな石を付けたものですね…」

宝石には特に魔力を感じない。飾りの大きさに見合わず細い径は女物である事を示していた。

「…エル…トリオから、ウィニアへ…」

アベルは目を凝らしリングの内側に刻まれた小さな文字を読んだ。


"愛を込めて。"


突如閃光のように広がる記憶。頭に締め付けられるような痛みを覚えアベルは指輪を取り落とした。

痛みにきつく閉じた筈の視界に一人の女の姿が浮かんだ。純白のヴェールが黒髪に流れている。
彼女が紡いだ言葉。その目が語った言葉───。

「ああ」

意識が追い付くよりも先にアベルは谷間に歩み寄っていた。足元で水がざあざあと音を立てている。アベルは
谷間に手を差し出すと、アルゴンリングを掌から零した。

ある若者の愛の結晶は、静かに川へ飲まれて行った。

(さようなら)

アベルは続いてウエディングドレスを放り投げた。

細密な刺繍に彩られたドレスが虚空に広がり、ゆっくりと落ちて行く。
眺めていると、頭痛もまたゆっくり引いて行くのを感じた。アベルは踵を返すと、残る支給品の確認に取り掛かった。

734愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:32:50 ID:gYmjXASs0
 
 
 

【E-4/平原/早朝】


親に子が殺される。

およそ人間が体験し得る中で最も悲惨な死に方だとジャンボは思う。

彼は草の上に腰掛け、サフィールがジンガーに語る話を黙って聴き続けていた。ホイミンも同様にジャンボの
傍らでふよふよと浮かんだまま、共に少女の邪魔をせぬよう少し離れた位置に陣取っている。
その中でネプリム、先程味方に付けたもう一体のキラーマジンガだけが、サフィールの隣で武器を構えたまま
微動だにせず立っていた。

「ジンガー、これが私の知るお父さんの、アベルと言う人の全てです」

サフィールに向かい立つジンガーはネプリム同様、少女の言葉を微動だにせず聴いていた。違いと言えばこの
対話に先立って武器が取りあげられている事。

少女は語った。サンチョやオジロン先王、そして行方不明の間グランバニアに残されたアベルの仲間モンスター
達に聞かせて貰い、そして再会して旅を共にする中で知り得た事を。

735愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:33:29 ID:gYmjXASs0
 
「誰もが彼の帰る日を待っていました。リュビと私、そしてグランバニアの子供達はサンチョおじさんや
ピエール達が聞かせてくれる、父の冒険のお話が好きでした。捜索の旅に出る事を許して貰えた時は、
本当に嬉しかった」

「サフィール……」

声を漏らしたのはホイミンだった。ジャンボが隣を見ると、涙ぐんだホイミンがサフィールの傍へ行きたそうに
手(または足)をゆらゆらさせている。ジャンボはそれを掴むと軽く引き戻した。まだ、割って入る時ではない。

ジャンボはじっと眺めていた。十やそこらの娘が、実の親に殺意を向けられている子供が、極力感情的にならぬよう
静かに語る様子を。そしてどう覚悟を決めるのかを。

「私はお父さんを探します。何度でも探します。彼が何もない暗闇に向かって行こうとするなら、止めます。
命を奪う事になっても」

(───その一言が聞きたかった)

ジャンボは息をゆっくりと吐いた。掴んでいたホイミンの手足を放す。

サフィールは、俺達が遠からずアベルと戦う上で不確定のリスクだと言わざるを得なかった。父親への愛情に
よって動きが鈍るようなら引き攫って逃げるしかないと思っていた。しかし彼女は確かな覚悟を決めていた。
本当なら望まれるべきでない覚悟。
だが最悪の事態を避ける為には逃げ続けるか、さもなくば徹底して戦うしかない。

「そういう事だジンガー。俺達はアベルを止めるが、お前はどうする?サフィール、少し離れろ」

立ち上がって言うとジャンボは一歩近づく。

退るよう言われたサフィールは、ジンガーのモノアイを真っ直ぐに見つめて動かなかった。代わりにネプリムが
一歩進み出る。ホイミンがサフィールの隣に寄り添った。

ジンガーは回答を出せずにいた。少なくとも音声での返答では。

736愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:34:11 ID:gYmjXASs0
 
「…オ前ハワタシノ問イニ、マダ答エテイナイ」

目の前の小さい人間は、主のアベルについて話したいと言った。それはジンガーの中で高い必要性を評価されている。
故に彼は一時的にサフィールと話をすると言うコマンドを割りこませる事が出来た。

「いいえ、答えました。私はあなたとアベルと言う人の話をしたかった。そして私の話はこれでおしまいです。
聞いてくれてありがとう。ジンガー、心から感謝します」

「ソウカ。…ソウダナ」

ジンガーは理解した。
彼には、アベルについて話せる事が何もなかった。よって彼は当初の役目に復帰しなくてはならない。

「ジンガーよ。酷だとは百も承知で言わせて貰うぜ…破壊だけを求めてやり通したとして、お前はそこで不要になる。
アベル本人も自身の存在を必要としなくなるだろう。残るのは無だけだ」

ジャンボが天使の鉄槌を携えながら進み出る。行き場のない苦渋の色が顔に浮かんでいた。

「…ぼく、きみの敵になりたくないよ。友達になれたらいいのに。だけど、だけど…」

ホイミンはその先を言えなかった。

「ワタシトシテモ本意デハナイ。個人的ニ武器ヲ返シ全力デ戦ッテミタカッタガ、ソレハ叶ワナイ。許セ、同胞」

沈黙を守っていたネプリムが声を掛ける。同じキラーマジンガだからこそ彼は知っていた。与えられた命令を
自分の判断で破棄する方法は存在しないという事を。

(シカシソコヘ行クト、今ノワタシハ何ナノダローカ。マッ、イイカ)

「───我ガ主ノ娘ヨ、修理ヲシテクレタ事ニ感謝スル」

サフィールは頷いた。そして一歩後ろへ下がった。その顔にはジャンボと同じく苦渋が満ちている。

不可避の戦いを前に張り詰める緊張を破ったのは、鼓膜を叩いた僅かな振動だった。

737愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:34:44 ID:gYmjXASs0
 
「…何だ今の…人の声か?」

音に最初に気付いたのはジャンボだった。

「熱源感知。距離:310メートル」

ネプリムの頭部がぐるりと旋回し、西を向いた所で静止する。「300メートル。熱源解析開始」

「ジャンボさん、何か見えますか?」訊かれてジャンボはネプリムの見る方角へ目を凝らす。しかし一帯は
暗く、闖入者らしき姿は遠景の黒に溶け込んでいる。

ジャンボは目を凝らすが何も見えなかった。「ネプリム、どうだ?」

「290メートル。熱源解析ぷろぐらむ更新:71%ノ確率デ人間、個数2」

「頼もしいじゃねえかお前はよ」

ジンガーもまたネプリムと同じく接近する動体を感知し、その細部を捉えようとしていた。

(アレハ、アノ人間ハ、モシカシタラ)

「280メートル。解析更新:人間2体ト判断。さふぃーる、攻撃スルカ?」

「い、いえネプリム。まずは誰なのかを───」そこでサフィールは言葉を中断した。

「───あべる様!!!」

大音量の機械音声が響いた為だった。

「何だって!?おい待てジンガー!!!」

ジャンボは制しようとしたが既にフルスロットルにアクセルを開放したジンガーは爆音を上げて発進した。
バックファイアの火の粉を浴びてジャンボは悪態をつく。

「クソッ!本当に奴だとしたら───良いんだな!?サフィール!」

サフィールの顔は青褪めていたが、強く頷いた。その隣でホイミンも青い顔をさらに青くしている。
彼らの目にも徐々に人の形をした輪郭が見え始めた。

「確かに二人居るようだが……」

二人分の人影のうち、片方の足取りがおかしい。まるで無理に引き歩かされているような………

738愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:35:37 ID:gYmjXASs0
 
 

「久しぶりだねジンガー。武器はどうしたんだい?」


耳に心地いい声だ、と感じた事をジャンボは後にも思い出す事になる。

悪魔とは意外にも穏やかでよく通る声を持っているのだなと。


「奪ワレマシタ。申シ訳アリマセン───マスター、ヨクゾ御無事デ」

「ありがとう。お前もよく無事でいてくれた。武器ならお前に適当なものがあるから使うといい。
今取り出すから、少し待ってくれ」

お互いがはっきり見える距離まで歩み寄ったサフィール達は「もう一人」の様子に絶句した。
髪の毛を掴まれ、無理矢理歩かされている。

「さふぃーる、ドッチガ『あべる』ダ?鎧ノ方カ?青服ノヘバッテル方カ?」

「馬鹿野郎!男の方に決まってんだろうがッ!」ジャンボは激情に任せて怒鳴った。

「ついに会えたなアベル……てめえ、ターニアに何しやがったッ!!!」

少女から手を離すと、アベルは袋から戦鎚を取り出しジンガーに手渡した。

「お前にぴったりだな。いい時に居合わせてくれた」

そう言ってアベルは手をはたいた。何本もの青い髪がはらはらと地面に落ちる。

「答えろこの野郎ッ!!!」

「貴方が『ジャンボさん』ですか?察するにうちの娘を保護してくれていたようだ。礼を言いますよ。
そしてサフィール。しばらく振りでしたね、元気そうで何よりです」

アベルはにこりと微笑んだ。何の屈託もない、優しげな微笑だった。
サフィールは戸惑った。以前会った時に見せた冷酷な表情とは全く違う。まるで、一緒に旅をしていた
あの頃のような……。

「……ターニア、解るか?俺だ。あの時は怖がらせちまってすまなかった。お前の兄貴やその仲間を
どうこうしようなんてもう思っていない。誓って言う。だから、頼むからこっちへ来るんだ」

アベルを詰問しても埒が明かないと判断したジャンボはターニアに直接声を掛ける。少女は解放された後も
その場に力なくへたり込んで動こうとしない。

「心配ねえ、お前が動けば俺達がそいつらを抑える。頼むよ、そいつから離れてくれ…!」

しかしジャンボの訴えも虚しく、ターニアは再び髪の毛を掴まれ強引に立たされた。

「!…そ、その女性の顔は…お父さん…それに、その鎧は…」

「彼女が教えてくれました。この辺りに貴女達が居ると」

飽くまで優しい笑みを湛えてアベルは言う。

「有難うターニア。短い道中でしたが楽しかったですよ」

ジャンボは歯噛みした。こうなるともう迂闊に手出し出来ない。しかも立たされた事で見えたターニアの顔は、
見るも無残に腫れ上がっていた。

739愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:36:30 ID:gYmjXASs0
 
「会いたかったですよ、サフィール」

「…何故ですか、お父さん。私を殺し損ねていたからですか」

猛烈な憤怒を滾らせ睨むジャンボとは対照的に、サフィールは静かな怒りをその目に宿していた。少女への
無体な振る舞いを冷静に非難する、そんな眼差しだった。

「いいえサフィール。いつかの時は本当に酷い事を貴女に言ってしまい、すまなかったね。私は、もう愛と
言うものを否定したりしません。その事をまず貴女に伝えたくて探していました」

「なに言ってんだてめえ…」

この男、どこか様子がおかしい。初対面ながらジャンボはそう感じた。サフィールの方をちらりと振り返ると、
彼女もまた怪訝な顔をしている。

「貴女も気付いていたことでしょう。実際私は愛を捨て切れてなどいなかった。そんな事は人として
産まれた者には不可能だと、ようやく解ったんです。
大切な娘よ、私は貴女を愛しています」

「……なにを…なにを言ってるんですか…あなたは…」

父の愛の言葉に少女は頭を抱えて後じさる。

「…おい、よせ、何をするつもりだ。ターニアを離せ…」

ジャンボの肌に冷たい汗が伝う。アベルは剣を抜いていた。

「そして気付きました。愛する者と引き離される苦痛こそが私を前進させ、戦う力の源になっていたのだと。
────だから」

「やめろオォーーーッ!!!!」

どん、と背中を押されてターニアが前のめりによろけた。その左肩目掛けてアベルが破壊の剣を振り下ろす。
ケーキでも切るように、少女の肉と骨は難なく断たれた。心臓まで袈裟切りにされたターニアは夥しい血を
散らしながら一度膝をついた。そしてゆっくりと地面へ倒れてゆく。

「ぅぅうあぁあああああああああああーーーーッ!!!!!」

ジャンボは叫んでいた。唱和するようにホイミンも叫んでいた。そんな絶望の合唱を飲み込んで
爆轟が炸裂した。

「イオナズンッ!!!」

放った直後、閃光に目が眩む前にサフィールはジンガーがアベルの前に身を挺するのを見た。
だから父はまだ生きているだろうと確信する。

740愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:37:01 ID:gYmjXASs0
 
"愛している───だから"

だから?

もう聴きたくなかった。何も言って欲しく無かった。父は生きたまま地獄に落ちたのだと確信した。
サフィールは再び魔力を集中させる。

「───思い切った事をしますね。彼女は、まだこと切れていなかったでしょうに」

煙の向こうから聴こえる声。それを目掛けサフィールは両手の間に完成した呪文を放とうとした、矢先。

「危ねえ!!」

がきん、と鉄同士がぶつかる音が耳を刺す。サフィールは顔を顰めつつも自分が太い両腕にさっと
抱き取られた事に気付いた。

前方を見る。二体のキラーマジンガがそれぞれハンマーを手に競り合っている。サフィールは状況を
理解した。まず最初に父はジンガーを自分にけしかけたのだ。

とにかくもう一度!

半身をジャンボに庇われたままサフィールは既に仕上がっている呪文、マヒャドを放った。極大冷気は
キラーマジンガ達の脇を通り抜け、守るものの居なくなったアベルを襲うはずだった。

「不可解だぜ。いくらジンガーが庇ったとしても、さっきの声はずいぶんとへっちゃらそうだった。
その上ジンガーを離すなんて」

「あの鎧に何かがありそうです。前回会った時あんな鎧は身に着けていなかった。違う属性の呪文を
ぶつけてみましたが、もしかしたら呪文そのものに強い抵抗力があるのかも」

ジャンボは少女の冷静な分析と行動に瞠目した。そして言われてみれば確かに、アベルの佇まいには
本人の凶悪さだけでない禍々しい何かを感じていた。ターニアの無残な有り様にすっかり気を取られて
いたが、そもそもターニアは人質としてまだ使えたはずだ。敢えて捨てる必要があったとは思えない。

(呪いの装備だとしたら……いや、そいつは後だ!)

天使の鉄槌を握り締めジャンボはネプリムの加勢に飛び出す。驚くべき事に、両腕に武器を装備した
ネプリムがバレットハンマーのみを手にしたジンガーに押され始めている。

「おいネプリム!遊んでんじゃねえぞ!」

ジャンボが戦列に加わった事でジンガーは猛攻を止めて飛び退る。

「バカヲユーンジャナイ。単純ナ事、コイツガ強イノダ」

戦闘機械の本分だからなのか、ネプリムの音声は心なしか楽しげだった。

「くっそ、ご主人に会えて力が湧いたってか?」

あり得る事だ。ジンガーには確かに心があったのだから。しかしそれだけでなく、彼が与えられた
バレットハンマーは機械の体に対して特別な威力を持つ。一発いいのを貰ったらネプリムでも
かなり危ないだろう。

「ジンガー、受け取れ」

癒しの光が忠臣を包む。薄れ始めた煙幕を割ってアベルが姿を現した。

741愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:38:37 ID:gYmjXASs0
 
「私は愛し続けようと思う。そして失い続けようと思う」

爆発と冷気を受けて髪は乱れ、細かい傷が幾つもその顔に見えている。しかしさしてダメージを受けた
様子はなかった。

「やはり、その鎧は」

改めて観るその姿にサフィールは恐怖を覚えた。

アベルが装備しているのは『じごくのよろい』。元はアスナの世界に在った呪われた鎧で、地獄から
来た悪魔の骨で作られた物と伝えられている。一目でそれと解ったアスナが袋に仕舞いこんでいた
支給品だった。

「思った通りではありますが、行きずり程度の縁ある人を失った処で何の痛痒も感じない。やはり、
より強い共感と親しみが必要ですね」

アベルは穏やかな目でサフィールを見詰めた。
鎧の胸元には怪物の頭骨が飾られていた。それが、斬り捨てられた犠牲者の血を浴びて嗤っていた。

少なくともサフィールにはそう見えた。



【F-3/平原/2日目 早朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MP1/8
[装備]:天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品)ナイトスナイパー@DQ8 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS 
メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

742愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:39:07 ID:gYmjXASs0
 
【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/3
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う
 
 
 
 
 
 
時は少し遡る。



「娘の所在を教えてくれて有難うございます。貴女が通りがかってくれて、助かりました」

にこりと微笑みかける男の足元で、ターニアは蹲っていた。ローラを刺した恐怖から走り続けていた
彼女は、トロデーンとトラペッタの間に架かる橋へ辿り着いた所で最悪の存在に出会ってしまった。

口の中にごろごろした感触を覚える。

殴られた頬が焼けた石を当てられたように熱い。

「さて、娘に会いに行かなくては。解りますか。あの子とは話したい事が沢山あるんです」

これで解放される?そう思ったターニアの考えは甘かった。

「ッ!いたッ…!」

突然髪の毛を鷲掴みにされ、引き上げられる。

「さあ立って。どうか貴女も一緒に」

何を言っているの?どうして私が?なんなの、この人はなんなの?

「話をしましょう。貴女の事を聞かせてください。どこで生まれ、どんな風に暮らしていたのか…」

訳が分からないままターニアは歩くしかなかった。男が髪を掴んだままずんずん歩き出したからだ。

「聞こえましたか?」

743愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:41:01 ID:gYmjXASs0
  
言うが早いか、ターニアの顔面に拳が突き入れられた。

「うぶッ!」

「聞かせてください。私は、とても頭が痛むんです。でも、和らげる為のヒントはさっき手に入れました。
貴女の名前は?」

「た、たーにあ…」

答えるしかなかった。喋らなければこうやって殴るつもりなのだ。

「よろしくターニア。私の名前はアベルです。出身は?」

再び髪を引っ張りながらアベルは歩き出す。

「ライフコッド…です。レイドックのお城の北、ずっと山奥にある…小さな村」

「いいですね。続けて。どんな所なのか、あなたの言葉でもっと聞かせてください」

口の中に溜まった血と一緒に歯を吐き出しながらターニアは懸命に話した。


ライフコッド。空気と日射しがとても綺麗な村。

よそから来た人にはすごく構えてしまうけれど、本当はとても優しい人ばかり。

両親をなくしてひとりになってしまった自分にも、皆とてもよくしてくれた。


「素晴らしいですね。私も、出来る事なら行ってみたいものです」


そう。大好きな村。不満はなにもなかった。

…いいえ、一つだけ。

平穏な一日の終わりにごはんを食べながら、その日のちょっと楽しかったこと、可笑しかった
ことを聴いてくれる人がいたらいいのになと思っていた。

例えばきょうだいがいたら、なんて。

贅沢をいえば、上のきょうだい。

うん、やっぱりお兄ちゃんがいいなぁ、って……。

「…お兄、ちゃん……」

ターニアの目に涙が溢れた。

黙り込んだターニアをアベルは繰り返し殴打した。しかし、その一言を最後にターニアは口を
開かなくなった。

その目からは光が失われ、表情も消えた。疲労と恐怖の果てにターニアの精神は、ここではない
別の場所へ肉体よりも先に旅立っていた。幻の大地とも違う、どこか遠い夢の世界へ。

744愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:41:43 ID:gYmjXASs0
 
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。

※ターニアの支給品一式(愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1)は、袋ごとE-4の
橋の架かる谷底に捨てられました。

※「アスナの不明支給品0〜2 本人確認済み」は地獄の鎧のみ、アスナの袋に入っていた
「サヴィオの不明支給品0〜1」は、0個だったものとして処理しました。


【ターニア@DQ6 死亡】

【残り18人】

745 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:48:35 ID:gYmjXASs0
間違いなく全文置けたようです。このロワを知らない友人にもチェックして貰いましたが
誤字脱字の他、自分で気付いてないおかしなところがあれば教えて下さい。
大丈夫なようであれば、まとめ更新は自分で出来ますのでさせて頂きます。
とても楽しかったです。予約スレでは沢山質問してしまいすみません、有難うございました。

746 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 23:27:22 ID:gYmjXASs0
読み返して気付きましたが、彼らが合流したのはF3のところをE4になっていました。
失礼しました。

747ただ一匹の名無しだ:2019/09/02(月) 17:32:29 ID:7NXlBI6k0
投下乙です
ターニアの死ぬまでの過程がなかなかむごい…
身体より先に心が死ぬなんて

特に問題はないと思います

748 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/02(月) 18:35:01 ID:VWI/VfW60
投下乙です、初参戦とは思えないキャラの動かし方、支給品の使い方、お見事でした。
幼女を精神的に殺害し、呪いの装備で身を固め、いよいよアベルさん魔王化終わりって気がしますね。

私が見る限り特に問題点はありませんでした。
面白かったので、また時間が空いた時でいいので別の話の投下してくれると嬉しいです。


今私は日常生活と、「ゲームキャラ・バトルロワイヤル」の執筆にかまけて中々こちらに投下できませんが、今書いているロワが切りの良い所まで行ったら戻ろうと思います。

749 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/02(月) 20:01:41 ID:ExveRP6I0
確認恐れ入ります。ついでのご連絡ですが、予約期間と延長期間についてですが、ざっと探した範囲に
見当たらなかったので、まとめに新規ページを置かせて頂いてよろしいでしょうか?
ドラクエは魅力的な作品ですししょっちゅう公式が何かよこしてくるので、新規の人もまだ
来ると思います。
現在リンクされている2ndの手引きと違う点は予約期間の時間のみのようですから、そこだけ変えて
コピペさせて頂く事になるとは思います。

原作バトロワもパロロワも好きで読み手として居た期間は長いですが、こうして書いてみて、
これで大丈夫なのかと不安があり緊張しましたが楽しかったです。
それから、「管理人への連絡」のスレで初めてまとめ更新をした旨を書いたのも自分です。その書き込みで「よくわからな
かったので更新していない」と言ったマップについては、管理画面を見たら非常に複雑で、ミスした場合を考えると怖かったので
手出しできませんでしたが、今回投稿させて頂いた話がこのまま大丈夫なようでしたらそれも
自分でちゃんと片付けて置こうと思います。
長文失礼しました。

750ただ一匹の名無しだ:2019/09/02(月) 21:00:09 ID:0TL7yoJk0
投下乙です。
前からターニアが悲惨な最期になりそうな雰囲気してたから覚悟してたけどこれは辛い…
レックがターニアの最期を知ったらどうなってしまうのか、気になるところですね。

751 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/04(水) 00:19:20 ID:Pmp4Y3mw0
自分で書いたものをまとめに更新するのは「本当に良いのか!?」と迷いましたが、
諸々更新させて頂きました。スレ趣旨に逸れて連絡を続けてすみません。
>>746の表記ミスの他、文法がおかしい気がした所1箇所を修正させて頂きました。
そして昨日気付いたんですが…キラーマジンガの背面ってつるつるだったんですね…何故か排気マフラー
的なものがあるように思い込んでいました…ですのでバックファイア云々の部分を削除しました。
あまり細かい事を言わなくてもとは思ったのですが、自分の所為でこの先マジンガの
デザインを誤解する人があっては申し訳ないと個人的に考えました。

752 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 22:55:58 ID:RUDAQ9iE0
投下させていただきます

753転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 22:58:53 ID:RUDAQ9iE0
【C-4/平原/深夜】


エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。

「ゼシカ……ここに居たのか」

それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。

遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。

その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。

754転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:00:27 ID:RUDAQ9iE0

:
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2019-12-23 22:56:34
 
 
 
【C-4/平原/深夜】


エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。

「ゼシカ……ここに居たのか」

それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。

遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。

その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。

彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。

「…本当に、済まない。私は急がなくては」

立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
 
 
 
 
【D-6/荒野/黎明】
 
 
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。

来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。

755転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:01:36 ID:RUDAQ9iE0
すみません、確認のため張っておいた場所から関係ないものまでコピーしてしまったようです。
張り直します。

756転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:03:32 ID:RUDAQ9iE0
彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。

「…本当に、済まない。私は急がなくては」

立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
 
 
 
 
【D-6/荒野/黎明】
 
 
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。

来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。

757転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:04:48 ID:RUDAQ9iE0
「そんなに落ち込むなよ。姫さんの案内が助かるのは元よりの事だし、ちょっとくらいの寄り道
構いやしないって」

最後尾を行くレックも努めて明るい調子で言った。

「良いさ。あんまり速いと竜王に追いてしまったかも知れない。あいつも案外迷ってたりしてさ」

「そうだな。そこで出会っちまったらお互いバツが悪いぜ」

「まあ。…うふふっ。でも、早くまた会いたいですね」

今のミーティアには二人の優しさが有難くも申し訳なかったが、落ち込んだ顔を見せたところで
何にもならないと思い直す。顔を上げると、切り立った岩棚の向こうに月が見えた。ミーティアは
頭の中で方角を整理する。今度こそは大丈夫そうだと思えた。

和やかなムードのまま三人は歩く。ただ、口数は再び少なくなった。皆それぞれにもう会えない者と、
まだ出会える希望が持てる者が居る。言っては悪いが竜王にかまけている間に失われたり、探す暇も無いままで
いたりする人々。黙々と歩いているれば嫌でも彼らの顔が頭に浮かんだ。
かと言って無理にお喋りをして頭から閉め出す事もしたくなかったし、そんな必要を感じずにいられるのは
目指す所に脱出の希望があるが故だった。

思考が悪い方へ向きそうな時、彼らは仲間に話しかけた。いずれもがちょっとした雑談。ミーティアに
とって衝撃の事実が齎されたのは、そんな中だった。

「…そういえばさ、姫さん。君って兄弟はいるのか?」

「いいえ?一人娘ですけれど」

前を向いたままポツリと呟かれたキーファの問いにミーティアは小首を傾げる。

「じゃあ……君の許嫁になってるって言う王子には兄弟がいるって事だよな?」

続いて質問されたその意図がミーティアには解らなかった。あのチャゴス王子がどうしたと言うのだろう。
彼もまた一人っ子で、そのせいかたっぷり甘やかされて───

「───あっ…」

ミーティアは気付いた。

そうなのだ。トロデーンにもサザンビークにも王の子は一人しか居ない。そこで王を失ったトロデーンの
ただ一人きりの王女が他国に嫁ぐ事など出来はしない。

「そう、ですわ…サザンビーク唯一の王子の彼がトロデーンの婿になる事も出来ない…」

トロデ在位のうちにミーティアとチャゴスの子を一人トロデーンに養子に出すと言う流れも御破算。
両国の婚姻話は、すでに破綻しているのだ。

758転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:06:19 ID:RUDAQ9iE0
「やっぱりか。世界が違えばそれでもアリな所が有るのかとも思ったが、普通どこでも無理だよな。
こういう事になっちまったら…」

「そうか。ミーティアは女王になるしかないって事か…」

妹にその立場を押し付けてしまったキーファと、自覚する暇もなく次期国王の座に就いてしまったレックは
それぞれ複雑な表情をしている。

無理もない事だがミーティアは混乱していた。あれほど嫌でたまらず、しかし受け入れるのが自分の責務と
悩み続けたチャゴスとの婚姻。それは逆に彼とだけは出来ないと言う話に変わってしまっていた。

(どうして気付かなかったのかしら。お父様が名前を呼ばれてから、今の今まで…)

いや違う。と、そこまで考えてミーティアは首を振った。いろんな事があったにせよ、今思えば新しい事実は
視界のすぐ端にチラついていたように思う。ただそれが余りにもあっさりと現れ、それでいて確定的な変化
だったから、目を向けるのを無意識に避けていたのだと彼女は思った。

(なんて事。私、もうとっくに自由でしたのね。誰でも好きな人を選んで、選んで貰えたなら…あのお城で
皆とずっと一緒に暮らしていける…)

それを幸運と言う程ミーティアはあさましくなかったし、父が一手に抱えていた責務は今彼女の中にある。
引き換えに、生まれつきどうしても持ち得なかった「自分で選ぶ」自由が突然得られた事に、ただ混乱ばかり
していられる程彼女は幼くも弱くもなかった。
 
 
 
 
【C-6/西のトンネル南側/黎明】
 
 
竜王は道に迷う事こそなかったものの、傷ついた体は歩みが遅かった。
ミーティア達が道を一つ間違えなければ、加えて竜王がここでもう一人の人物と出くわしていたならば、
彼らはまとめて再会していたかも知れない。

「行ったようですね。素早く気づいてくれて有難うございます、お爺様」

見覚えの無い人物がトンネルへ入るのを見送り、その足音もやがて消えるとエイトはトーポを掌に載せ、
身を潜めていた岩棚を滑り下りた。

余計な面倒事は二度と御免だ。トンネルを出てすぐに、鼠に姿を窶した祖父グルーノがいち早く南から
歩いてくる人影に気づかなければ、海側を禁止エリアで狭められたこの場所では否応なく対面する羽目に
なっていた。

何か気にかかるでも事があるのか、見知らぬ人物が去った方を眺めている祖父をポケットに戻して
エイトは声を掛ける。

「行きましょう。その調子で姫の事も見つけて貰えると助かりますよ」

慎重に行かなくては。この先の荒野は何度歩いても、空から観た記憶すらあってもなお得意ではない。
そびえ立つ岩壁と起伏の激しい地面には方向感覚を狂わされやすく、気付くと逆方向へ進んでいる事も
過去にしばしばあった。
禁止エリアが増えたお陰で南東部が寸断され、南からリーザス村へ行けなくなったのはむしろ有難いくらい
だった。そちらからミーティアがやってくる可能性が無くなるのだから、今回の捜索が終わればもう二度と
この難所に来る必要も無くなる。

759転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:07:18 ID:RUDAQ9iE0
長い一日だった。随分と傾いてきた月を見遣りエイトは思う。
けれど色んな事を変えてしまうには短すぎる一日だった。
こんな僅かな時間に、旅の仲間たちは一人残らず逝ってしまった。
何よりも、身命を賭して使えるべき王がどこにも居ない。呪われてもめげず、五十路を超えてまだ自身を
おっさんじゃなくお兄さんだと言い張った、タフでひょうげた王の姿は本当に何処にも居なかった。

狂わずに済んでいるのは寸での所で引き止めてくれたアルスやブライ老、赦してくれたデボラの存在だけ
ではない。ゲームと称されたこの空間と、ここに放たれた人々が自分以上に狂っていたからだ。

ゼシカの側にあった遺体が最たる例だ。あの遺体の異常さは紛れもなく死後に蹂躙された結果だ。
最初はそれが何なのかさえ解らなかった。黒く焼け焦げた皮膚は直接の死因なのだろうが、それが悉く裂けて
桃色の肉が露出し、更に棒で叩いたか足で踏み散らかしたかで滅茶苦茶な有様だった。誰が何のために、そして
何故ゼシカとその隣にあった別の男性の遺体は無事だったのかと言う疑問はさて置いても、あんなものの傍に
ゼシカを放置するのは流石に躊躇われた。
まかり間違えば優しいミーティアの目に触れるやも知れない懸念があっての事、ではあるが。

「──姫。ミーティア姫!!」

丹念に周囲を見回しながら歩くエイトは、いつしか我知らず大声を上げている自分に気付いた。
あの遺体の惨状に引き比べる事で安堵を得ていた己の正気も、こうして彼女を見つけられずに居れば危ういらしい。
ドラゴンに変身出来れば探しやすいのにと思う。大きな背に姫を乗せ、遠くに飛んで行けたなら───だが所詮、
混血の身には叶わない。

何と中途半端な生き物だろうか。
竜にもなれず、そして人間の男なら──そうと思い込んだままで居られたなら──誰もが腹を括って掴めるので
あろう選択肢にも自分は────
 
 
 
 
【C-6/荒野/黎明〜早朝】
 
 
「──エイト?」

人らしき声を耳にして三人は足を止めた。

そして見た。荒野の出口、砂の地面から草地に変わる坂の上から姿を現したエイトの姿を。彼の方もまた
向かう先に立っている探し人の姿を見止める。

「…ッ!エイト!」

「ミーティアッ!!!」

互いに斜面を駆けていく二人。エイトは勢いが付き過ぎたのか、挿し伸ばした両手はミーティアを抱き
かかえる形になった。ミーティアもまた後ろに倒れそうな姿勢になってエイトの首にしがみ付く。

「……ん、良かったねミーティア」

「…熱いねえ」

不安定な足場のせいもあろうが通常より割増しに情熱的なハグを目の当たりにしたレックとキーファは、
少し離れた所から苦笑い半分の笑顔を浮かべている。

「エイト、嬉しいですけどちょっと苦しいですわ」

「あっ…失礼しました!」

我に返ったエイトはミーティアの背から手をほどき、彼女の足元に跪いた。

760転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:09:09 ID:RUDAQ9iE0
「よくぞご無事で……畏れ多くも陛下より賜った近衛兵長の役にありながらこのエイト、今の今まで
姫のお側に馳せ参じる事が出来ず、申し訳次第もございません!」

「良いのですエイト。あなたも無事でいてくれたのですから…さあ立って、私たちは道中を急いでいる所
なのです。向こうのお二人の事も紹介しなくては」

促されてエイトは二人の男の方を見る。ようやくか、と言った風情でレックとキーファは蚊帳の外の位置から
歩み進んだ。

「私とレックさん、キーファさんはお城を目指しているのですが、先ほども言った通りあまり時間が
ありません。進みながら説明しますね」

「解りました姫。私はトロデーン近衛兵長、エイトと申します。どうやらお二人とも姫を守って下さって
いた様子。深く感謝します」

その名を聞いたエイトは一瞬眉を顰めた。しかしすぐに了承し、型通りの挨拶と謝辞を述べる。
そして一路トロデーンへと歩き出す道すがら、ミーティアはこれまでの経緯と目的をエイトに説明した。
一時離れていた間の事などもレックとキーファが補足する。黙って聞いていたエイトが再び口を開いたのは、
トンネルを抜けた直後の事だった。

「皆さんの話は一つ一つ納得出来ましたし、悪くない考えだと私も思います」

その声に前方を歩いていたレックとキーファが振り返る。すると、エイトはその場に立ち止まり
ミーティアを片手で制している。

「ですが、これ以上姫を危険に晒す事を許容出来ません。私はここで姫と共に残ります」

「エイト!それは駄目です!」

ミーティアはすかさず反駁したが、レックとキーファはさして驚いてはいなかった。この短時間に
目の当たりにしたエイトの忠臣ぶりから見れば、さもありなんと言った所だ。

「うーん、実は俺もそうした方が良いかもしれないと思ってたんだ。俺とキーファだけなら走ればまだ
充分に間に合う。その間君がミーティアを守っててくれるとなると、むしろ好都合なんだよな」

「それはそうだがレック、姫さんがいないと場所が解らないぜ?」

ミーティアとしては意外な事に二人は同意を示した。反論しようとした矢先、エイトが更に提案する。

「それについても考えがあります。この鼠、トーポと言うんですが普通よりずっと頭が良く城内の
事なら全て理解しています。この子を案内にお貸ししますよ」

エイトはポケットから顔を出していたトーポを手に乗せると、素早く一言囁いた。

(レックさんには一応気を付けて下さい。何かあったら、すぐ引き返して)

そして二人に差し出す。

「エイト、お爺…トーポに私たちの役目を押し付けるだなんて…あ、待って!」

しかしトーポは一言きゅっと鳴くと、差し伸ばされたレックの手を伝い肩に飛び乗った。

761転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:10:16 ID:RUDAQ9iE0
「可愛いな。解った、大切に預からせてもらうよ。それと一つ頼みがあるんだけど」

「ターニアさんについては、残念ですが本当に一度会ったきりです。今も城周辺から東の辺りには
居るのではと思いますが…」

「そうじゃなくてさ、剣を余分に持ってないかな?俺のは結構前に折れちゃって。あるなら出来れば
貰いたいんだけど」

要望を聞いてエイトは暫し値踏みをするようにレックを見詰めた。竜王と言う存在が人間を試そうと
ミーティアを人質に、彼らと一戦交えたと言う話に嘘は無いだろう。だが気になるのはやはり
ジャンボと言う縁もゆかりもなさそうな人物に狙われている理由だ。

「…あいにく剣はこれ一振りしか持ち合わせませんでした。代わりと言っては何ですが、これまでの
お礼に差し上げたい物が」

言うとエイトは袋から「魔法の聖水」を二つ取り出した。元々六個入りでエイトに支給されていた
物で、すでに二個消費している。

「おお、良かったじゃないか!けどエイト、俺は魔法を使えないから二つともレックにやっていいよな?」

「そうでしたか。ええ勿論、どうぞレックさん」

「ありがとなエイト。けどさん付けでなくて良いよ」

礼を言うとレックはその場で瓶を開けて一気に飲み干した。不用心な行動にエイトは少し面食らう。

「…ぷはーッ!丁度喉も乾いてたから美味かったぜ!じゃ、行くかキーファ」

「おう。じゃあ姫さん、何かあったらトーポに手紙を持たせるから、安心して仲良くやっててくれよ」

「あ……どうかお気をつけて!」

なし崩しに置いて行かれる形になったミーティアは名残りを惜しむ間もなく、走り去っていく仲間の背に
手を振った。そしてエイトに向き直り、毅然とした顔で問い質す。

「済んだ事は仕方ありませんし、貴方の立場上言う事は理解出来ます。でもなぜ私の意見も聞こうとして
くれないのですか?」

確かに歩きどおしで疲れているし、自分が付いたままでは間に合わなかったのではないかとも思う。
その理由で置いて行かれるのならやむを得ないが、仮にたっぷり時間があろうとエイトは同じ事を
言ったであろうとミーティアは確信していた。

「…すみませんでした、姫。ご不満は承知の上で差し出がましい真似を」

畏まりながらもエイトは言えなかった。あれから時間は経っているが、城では戦闘が起きていた。
あの二人に話さないまま送り出し、あまつさえ祖父まで付けた事は。

(結局、レックについてはよく解らなかった。アルスの知り合いである所のキーファ共々、見た通りの
ただのお人好しと判断して良いのかどうか…)

762転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:12:43 ID:RUDAQ9iE0
エイトは疑念の発端である例の混戦が起きたややこしい事情は伏せつつ、ターニアとその前に別れた
アルスについて二人に話して置いた。どちらも東に居たのだから早晩会えるかもしれない。甚だ
投げっぱなしで申し訳ないが、レックに付きまとう色々の事はキーファや彼らの知己に任せる事にした。

これでもう、良い。脱出出来ようが出来まいが、最後までミーティア姫を守り続けられれば私は───

「エイト。顔を上げて聞いてください」

静かな声にエイトの思考は中断された。

「長年の友人としてお願いします。どうか私に彼らの後を追わせて下さい」

「姫!ですが…」

言葉と共にエイトは息を飲んだ。姫君の手にはそこに有るまじき物、両刃の短剣が携えられていた為だ。

「私、ようやく解りましたわ。王族としての矜持と責任──それは安全なお部屋に飾られて、起きる事をただ
眺めるお人形では決して成し得ません」

エイトは黙ってミーティアの顔を見ているしかなかった。その表情は悲しそうでもあり、どこか清々した
様子でもあった。

「確かに危険も有るでしょう。貴方が私を一人にはしない事も、そして貴方を危険に晒す事も承知で言います。
私は人の尊厳を踏みにじるエビルプリーストと名乗る者を許せません。父の名誉にかけて抵抗します。その為に
ここを脱出すると言う希望を持ちながら人任せになど出来るでしょうか。
聞き入れて貰えないのなら、エイト、貴方と一戦交えてでもミーティアは行きます」

「本気……なのですか」

問うまでもなくミーティアの目は決意を物語っていた。

「…解りました。姫、お供します」

折れるしかなかった。馬の姿にされ馬車を引かされ、それでも文句ひとつ言わなかったミーティアが
全存在をかけて拒否しているのだ。どうあっても彼女の身を守りたいと言う自分の矮小な願望を押し付ける
事は、彼女の言う通り王族の矜持を汚す事と同じだ。

「それでもどうか約束して下さい。御身の安全を最優先に行動すると」

「ええ。貴方の判断に従いますわ」

エイトはほっとしたように肩を落とした。そして預かったままのミーティアの袋を背中に下げ直すと、
「では失礼を」と一声かけてミーティアを抱え上げた。

「きゃっ…待って下さいエイト、自分で歩けますから!」

いわゆるお姫様抱っこにされ、ミーティアは慌てて言い募る。

「お言葉ですが、彼らに追いつくならこの方が速いですから」

ミーティアは何か言いたげに口を開きかけたが、すたすたと歩いていくエイトの腕にやがて身を預けた。

763転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:13:46 ID:RUDAQ9iE0
──エイト。私、貴方に会えたら訊きたい事が一つありました。

結婚式前夜に貴方がサザンビークの亡き王子様の息子だと言う証をもって現王に会いに行ったその時、
何を話したのか。

でも、もうそんな事は知る必要が無くなりました。

今までミーティアは自分で選ぶ勇気が無いまま、貴方に手を引いて貰って逃がして貰う事ばかり考えていました。

そして、自分で選ぶ事が出来るんだと悟った今、反省しました。

だって貴方にも等しく選ぶ自由があったのに。私は不自由な身を嘆くだけで何もしなかった。

私は満足です。例え貴方が責任感の為だけに私を守ろうとしているのだとしても──それは悲しいけれど、
貴方の自由なんですもの。そして私は貴方の傍に居られさえすれば…。
 
 
 
【C-5/平原/早朝】
 
 
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品13個 
    確認済み支給品1〜2個 魔法の聖水×1 トーポ(DQ8)
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。
 
【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。
 
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/2
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。レックとその仲間チャモロに対して疑問が残る。

※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。トロデーン城に向かい、月影の窓を探す。

※トーポは元の姿に戻れなくされています。

※ターニア、アルス、竜王の情報を交換しました。


【竜王@DQ1】

※時系列上171話開始直前の為割愛

764転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:21:43 ID:RUDAQ9iE0
全て貼れたようです。こちら一時投下スレに置かせて貰ったのは、
本当にトロデが死んだらミーティアとチャゴスの婚礼は無理筋になるのか?と言う事です。
そもそも一人娘を嫁にやるのがすごいなって話なんで、原作内にトロデーンの血筋を絶やさない
上手い案でも提示されていたのかな?と思いつつ調べきれませんでした。
それにしても、その方が早かろうとお姫様抱っこさせてますが、空の上のローラ姫に呪われないか心配です。

765 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/24(火) 20:20:44 ID:b6alsEW60
投下乙です。
今回は特に見た限り問題はなかったので、このまま本投下して問題ないと思います。

エイトやミーティア達のフィールドが丁寧に描写されていたのが面白かったです。
私も荒野で迷った人(しかも2周目も)なので良く分かります。
エイト、やはりレックには疑い持っているのですね。
いよいよ佳境。どうなるのか気になります。

766 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/25(水) 12:05:37 ID:hfcKEYVs0
確認ありがとうございます(それと、書き手紹介ページの件遅ればせながら有難うございました)。
疑問点についてですが自分も自分の周りのプレイヤー一名に訊いてもそういう話は出た覚えがない状態で、
vV5.jnbCYwさんもご存じないようならもう良いかなあと思っている次第です。何らかの抜け道が無い場合辿り着く結論として
ミーティアが嫁に行った後は子を一人トロデーンに養子に出さないと行けないのではと言うのは、個人的にかなり嫌でしたし
もう死んでるトロデのイメージに合わないしこの話で大した意味を持ってないので削除しておこうかと考えています。
ではぼちぼちと諸所ページを編集させて頂きます。

767 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/25(水) 20:58:47 ID:hfcKEYVs0
編集終わりました。本投下と聞いてそれは一時投下じゃない方に置く事を指すのではとも思いましたが、
毎回してる質問回数を出来るだけ減らしたく自己判断でそのまま編集させて頂いています。
現状脱出フラグはおわかれのつばさとかカマエルとか月影の窓とか解呪とかありますね。パロロワは終盤になると
レギュラー的な書き手さんらが密かに相談して方針を決めているのだろうと想像をしてるんですが
こちらはまだそんな感じではなさそうですね。もしかしたらこの先、ちゃんと予定があったのにと言うフラグを
潰してしまうかもしれませんので投下の後でもいいので止めて頂ければ喜んで受け入れます。
完結を心から期待しています。

768 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 


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