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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議

1名無しさん@初回限定:2004/08/03(火) 00:27

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

規約はこちら
>>2

48名無しさん@初回限定:2005/08/03(水) 00:47:58
お疲れさまです。
この名前が後々どう生きてくるかが楽しみですね。
名前に関しても、ここまできたら自由に増やしてもいいかとw
智機・ケイブリス話の方も明日(もう今日ですが)か明後日には投下します。
頑張りましょう。

49とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/03(水) 00:53:45
終了。
余裕があれば明日もう一本かけるかな?
今作は一応ルドラサウムに関する伏線話のつもりで書きました。
ちなみに今回、名前だけ出た女性六人は本編で出すつもりは今の所ありませんので。
出るとしたらエピローグかな。

ワーグ登場…考えようかな

50名無しさん@初回限定:2005/08/03(水) 00:59:23
>>49
ワーグですか。
上で述べたように智機がいざという時の切り札としてひっそりと隠しているとか考えてましたが……
どうしますか?
かなり対ルドラサウムへの伏線になりそうですし。

51とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/03(水) 01:12:42
>>48
どうもです。
下の三人はこの手の作品に登場すれば大暴れしてくれそうと思いながら書きました。

>>50
それでは、登場させましょうか。
登場話はよければそちらでお願いします。
近々、公開の智機の過去話もそれに合わせますんで

では、今作を本スレに投下してきます。

52名無しさん@初回限定:2005/08/03(水) 01:17:21
>>51
了解しました。
ちと今、過去作を見直していたら、智機は魔人(ケイブリス)に関して無知であったようですね。
なので少し変更をして今は伏線の段階で処理をしておきます。
具体的にはケイブリスからワーグの存在を聴いてあれこれ思索する程度で……

53とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/04(木) 23:57:52
これから数時間後に知佳と透子の話をここに投下します。
後に微調整して明日の夜明け以降に本スレに投下です。

54名無しさん@初回限定:2005/08/05(金) 01:11:50
ちょっと変更を加えてるため遅れてます。申し訳ない。

55より鋭く、深く(1) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 04:49:35

(二日目 PM4:25 学校へと続く道)

「わたしの名前…知ってたのね」
 銀杏の木にたたずむ透子は知佳に言った。
 黄色く変わり始めた銀杏の葉は陽光に照らされ、透子と知佳の亜麻色の
髪と似た色彩を再現していた。
 風に吹かれていないそれは、今少なからず動揺している知佳と比べて対称的だ・
「……あ…あの人の…心を読んでしまったから…」
 と、知佳は新校舎において、智機が心中で透子に悪態をついていた事を思い出しながら言った。
「そうなの」
「…そうなのって……」
「……」
 透子の淡々として、どこかズレた反応。
 だが、そこに冷たさは感じられなかった。
 その為か知佳は自分の緊張が幾分か和らいでいるのを感じた。
「話はもういいの?」
「……」
 知佳の言葉に透子の返事はない。
「………」
 二人は会話を口にしてるが、別に読心能力が作用してないわけではない。
 透子は心の声の返事さえ返してないのだ。
 知佳はその沈黙に耐えられなくなったのか、透子に届くようにお礼の言葉が届くように念じた。

56より鋭く、深く(2) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 05:00:28

(さっきは……ありがとう…透子さん)
 それはケイブリスを追っ払ってくれたことに関する感謝の念。
 透子にも思惑があるかも知れないと解っていても知佳にはありがたかった。
 後ろ髪、惹かれる思いを残しながら、この場を去ろうとした知佳に対して、
透子は言った。
「単独行動を続けなさい…」
 空気が変わったような気がした。 
 知佳は足を止めた。
「…参加者の中にはあなたに対して危害を加える人がいる」
 透子の心の声は聞こえてこない。
 知佳は右手をぎゅっと握り締める。
「ゲームに戻りなさい」
「・・・・・・・・・」
 殺人ゲームの強要。
 それでも彼女の声には冷たさはなかった。
 知佳は大きくかぶりを振って叫んだ。
「……そんなこと、できないよっ!!」
「……」
 透子の心の声は聞こえない。
「透子さん!あなたは……」
「わたしは“こんな事”を望んでしている」
「・・・・・・!?」
 “こんな事しちゃいけないよ”と言おうとした知佳はショックに言葉を詰まらせた。
 それに構わず、遠い目で透子は言い続けた。
「もう、諦めかけていた…」
「……だから…ってこんな事したって」
 透子だけは他の運営者とは違う。
 それを願って、知佳は透子にゲームの運営をやめてくれるよう説得しようとした。

57より鋭く、深く(3) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 05:06:22

「……」
 知佳には言えなかった。
 そんなことしたってその人は喜ばないよとも、間違ってるよとも、はっきりと心の中で
そう思う事さえできなかった。
 もし恭也が命を落とせば、自分も運営者のようになってしまいそうな予感がしたからだ。
透子は自分に言い聞かせるようなやや強い口調で続けた。
「諦められない確かな理由がわたしにはできた」
「・・・・・・!?」
 偽りのない言葉。
 聞こえ始めた心の声もそれに同調し、それは知佳の心にも聞こえ始める。
 いつのまにか知佳の身体からは妖光が消えていた。
 そして、知佳の心に透子の心の声が台詞と同調して聞こえ始めた。
「この仕事を終えた時だけ、わたしの手で『あの人』を元に戻す事が出来るようになる」
 知佳の鼓動が早くなった。
「わたしが生まれた世界では『あの人』を復元できる方法はなかった…。 最初から……」
「だから…この仕事をやめることはできない」
「『あの人』を見捨てられないから」

 知佳の耳に頭にその独白は響き渡った。

「……………」

 それは知佳に有無を言わせない透子の威圧感。

「……………そん…な」
 
 知佳はなんとかそう言うものの、地面にへたり込んでしまった。

58より鋭く、深く(4) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 05:14:15

「もし、あなたが最後の一人になった時…」
「叶える願いは…よく考えてから、口にした方がいいと思う」
   
「・・・・・・・・・・・・・・・」

「?」
「どうして…どうして……わたしに話し掛けたの?」
「昨夜、あなたはわたしに心を閉ざさないでと伝えた」
「…………」
「言ってる意味がよく判らなかったけれど、印象に残った」
「………」
「だから気になった」

透子の姿が徐々に薄らいでいく。

「あなたは昨夜…“愛を知る人に、悪い人など居るはずがない”とも言った」
「…………」
「わたしは……」
 透子は神から受け取ったロケットを握り締め、自らの能力が住んでいた世界に
どういう影響を与ええるかを思い出しながら、この島に来る前にその事を知った人が
どういう反応をしたかを思い出しながら言った。

「……逆だと思う」

そう言い、透子は知佳の前からすっと姿を消した。
 
       *      *      *

「・・・・・・・・・・・・」
 知佳はしばし、茫然自失だった。
 我に返ったのは、遠くから何かが噴出される音を聞いてからだった。
 今の知佳にその音源を探す気はなかった。
 自分が甘かったことと、透子とも戦わなければならない現実が堪えたからだ。
 彼女は今、自分の身の回りしか気が回らなかった。
 「……何か、しなきゃ…」
 知佳はそう呟くと立ち上がり、目の前にある手帳を拾いに行こうと歩き始めた。
 歩く少女の周囲には微弱だが電気が漏電しているように、ぱちぱちと小さな音が響き渡る。
 透子が去ったからか、知佳の身体には虹色のオーラと翅が具現している。
 
 それはさっきまで比べて色は黒っぽくなっていた。


              ↓

59より鋭く、深く(4+1) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 05:15:58

【仁村知佳(№40)】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
      主にアイテム探しや、主催者への妨害行為】
【所持品:???】
【能力:超能力(破壊力さらに上昇中・ただし制御は多少困難に)飛行、光合成】
【備考:疲労(小)、やや放心状態】



【監察官:御陵透子】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・静止、偵察。戦闘はまだしない】
【所持品:契約のロケット】
【能力:中距離での意志感知と読心
     瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
    原因は不明だが能力制限あり、
    瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)】

60とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/05(金) 05:20:48
投下終了。
ちなみに今作の噴出される音は智機ロケットが発射された音です。
また、昼か夕方に。
>>54
いえいえ、無理しない程度に互いにがんばりましょう。

61とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/06(土) 00:11:58
本スレ投下終了。
次はあの六人のアイン・双葉に関する論議です。
今日、一日かけて完成させ、本スレに投下の予定です。
これで登場人物の時間軸は、ほぼ統一されるかな。

その後、どのグループに手をつけようかな?

62名無しさん@初回限定:2005/08/06(土) 23:53:37
今晩中には投下できそうです。

その前に一つ。
開始時間の方、先の話のやり取りと移動をその後の含めて

二日目PM5:20分くらいで大丈夫でしょうか?

63とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/07(日) 04:05:40
大丈夫です。
ちなみにその頃の東の森の戦闘はメール欄になってます。

64名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:43:12
では、まず此方へ投下します。
問題なければ、夜に本スレへと投下します。

65名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:44:54
(二日目 PM5:00 本拠地・管制室)

 辺り一面機械に包まれた部屋。
 そこに大きな影が一つ招かれるようにして入ってきた。
「ありがとう、良く来てくれた」
 そう言った彼女の前には巨大な影の主である魔獣が対峙していた。
 しかめっ面で辺りを見回し、「ケッ」と言うと彼は用件を切り出した。
「俺様をわざわざ引き戻したんだ。それ相応の理由がなくちゃ納得しないぜ?」
 魔獣ケイブリスの気がビリビリと場を振るわせる。
 なるほど、気の弱い者が奴の姿を見れば発狂して止まないだろう。
 機械である自分でさえ、場に漂う異質な気が体の表面から感じ取れて仕方がない。
 所詮、解析能力から来る危険信号が反応を出しているものだ。そう理解はしているが、この魔獣の凶悪さは異常だ。
 よくザドゥが易々と通したものだ。と思ったが、今ではその理由も良く解る。
 通さざるを得なかったのだ。
 戦えば自分とてタダではすまないと気づいたのだろう。
(これは予想以上に慎重に扱わねばいけないようだな……。特に機嫌に関しては……)
 こんな奴に礼も何もない。
 本来の智機の性格から考えれば、そう言いたい処だが、これから動いてもらいたい共謀者にもなるのだ。
 奴が納得して『私のために』動いてもらうよう働きかけねば。
 
「では、まず主題から始めよう」
 空中に高く持ち上げられた椅子の上から、見下すようにして智機はケイブリスへと語りかける。
「フン……」
 その様子が酷く気に入らないケイブリス。それも智機の計算の内だ。
 見た目とはいえ、このようにして奴との間に上下という差を作る。
 こうする事で『私の方が上』という印象を無意識の内に与えつけるのだ。
 頭の悪そうな魔獣だ。気にいらなさそうな顔はしているが、特に深くは考えていないのだろう。
 交渉を有利に進める上での彼女なりの演出と言えた。
 先のアズライトに対して持ちかけた時のように。

66名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:45:19
(その分、言葉の上では慎重に行かねばな……)
「単刀直入に言うぞ。“私と組まないか?”」
「ぁあ?」
 不満げに漏らされたケイブリスの返答が部屋に響いた。
 『何言ってるんだお前は?』とでもいいたげな声と顔をしている。
「組むも何も俺たちは……」
「まぁ、待て。今のはあくまでも主題だ。これからその訳を説明する」
 パチリ。椅子の横にあるスイッチを押すと部屋にモニターが現われ光が映る。
「これを見て欲しい」
 言われてモニターを見たケイブリスの目に映るのは五人の人物。
 それぞれ細かく何やらデータが書かれているようだが……。
「んん〜。こりゃザドゥの奴……それにお前もいるじゃねぇか」
「その通り。これは、我々運営者五人のデータだ。そして今ここにいる新たに呼ばれたお前を含めて計六人となっている」
「だけどよ? こいつがどうしたってんだ? 見ない顔の奴もいるみたいだがよ」
「話の続きだ。モニターを見ながら聴いて欲しい」
 モニターの方へとケイブリスが目を戻すのを確認すると智機は話を再開させる。
「我々運営者は、誰もが神と契約し、報奨の約束とともにこのゲームの運営に従事している」
 智機が一区切りした所で、モニターに変化が訪れる。
 具体的に言えば、人物の周りが色で分けられ、まるで勢力図かのように区分されたからだ。
「存じていると思うが、ザドゥをトップとし、我々はゲームを円滑に進めるための駒として配置されている。
 それが我々の運営形態だ。だが……」
「だが……なんだ?」
「各々の求める運営形態と言うのが極端に違うのだ。
 今、色で分けられた中、赤いのが消極派。青いのと緑が積極派と思ってもらえばいい」
 それを言われたケイブリスは、モニターを凝視する。
 確かにザドゥと透子は左側の赤か染められた中いた。
 それに対するように智機が青色、そして名前の上に素敵医師とふられた長谷川均とカモミール・芹沢は緑色だった。
「ザドゥと透子の奴はテコでも動かないだろう。それこそゲームの崩壊の危機になるような事態でなくては動かない。
 お前に首輪解除装置を奪取する命令を出した時点で、やっと動いたくらいだ」
「ほー……」
「だが、それもここまでだ。こうなった以上、今動いているのが収まれば、もうザドゥは動かないだろうな。
 それに透子も期待できん……」

67名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:46:18
「あの女か……」
 ここに来る途中、出会った少女の事をケイブリスは思い出す。
「あいつの能力は、運営に於いて必要と認められたもの以外、どうやら制限されているようだ。
 能力と存在が相まって生半可な事では倒すのは不可能かもしれないが、それに対するように誰かを攻撃するという能力も欠けている」
「ふぅん……なるほどな」
「まぁ、話を戻そうか。恐らく、この二人は参加者達がここに直接乗り込んできても静観を保つだろう。
 おそらく自分達に牙を向けられない限りはな」
 再び椅子にあるスイッチを智機は押した。
 すると画面が移り変わり、一つの動画が流れ始める。
「こいつはなんだ?」
 いるのは一人の男、そして今ここにいる彼女の姿。
 ケイブリスはそれを見入る。
「これは、以前校舎を襲ってきた参加者達とのやり取りを録画したものだ」
 画面の中の男が少女の映し出されたモニターを眺めている。
 その脇では同じくらいの年齢の幼い少女が大量の智機相手に奮戦している。
「おー、おー、あのちっこいの頑張るじゃねぇか」
『―――アズライトぉっ!!』
 男が叫ぶ、少女が泣く。
 そしてそれはアズライトと呼ばれた男の自爆で幕を閉じた。

「―――以上だ」
 映像が終わるとモニターは元の勢力図に戻る。
「で、一通り見終わったが、こいつを見せた理由は?」
 動画を見て抱いた疑問をケイブリスは、智機へと尋ねた。
「これだけの事があってもザドゥは動かなかった。
 そしてあろう事か、この件に関して映像の通り対処した私を快く思わず咎めたよ」
「あぁ? 何言ってるんだ、こんなヤツラはボコボコのギタギタにするのが当然だろうが。
 俺の眼から見てもお前が正しいぜ」
 まるでガイの野郎みてぇだな。とケイブリスは思う。
 鬱憤の溜まる千年を経験した自分にとって、手を出せないその気持ちは良くわかる。

68名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:47:16
「ありがとう。そう言って貰えると信じていた」
「で、青のヤツラが動かねぇのは解ったけどよ。
 わざわざ違う色にしたんだ。この緑はお前と同じってわけじゃぁねぇよな?」
「その通りだ。同じ参加者へ積極的に介入していくスタンスこそ一緒だが、そこにある目的が違う」
 モニターの一部分が光り焦点を浴びる男、長谷川均。
「私がやるのは、あくまでもゲームの運営を円滑にするための介入だ。“私の願いを叶えて貰うため”にな。
 だが、彼は違う。無論、彼も願いを叶えて貰うために運営をしているのには違いない。
 しかし、彼がゲームに介入する理由は異なる。」
「で?」
「介入したいから、面白そうだから。彼がゲームに手を出す理由はそれだけだ。
 おかげで此方が命令しても、言う通りに動かない事もあった。
 それどころか命令してない、余計な事までしだしたりもな……」
 ちらりと智機がモニターの方を見る。
「その女がどうした?」
 智機の見る先、同じく緑に囲まれた少女、カモミール・芹沢をケイブリスは指した。
「彼女もゲームを進めるべく、仕事を請け負って出動した。
 しかし、長谷川均の手によって薬を投与され、彼のいいなり同然の廃人にされたよ」
「おいおい、仲間割れか?」
「今の我々も、おいそれと言える立場ではないと思うがな……。
 まぁ、そうだ。奴は自分の好き勝手行動した挙句、同じ運営者にまで手をかけた。
 これには、あのザドゥも切れた。素敵医師と呼ばれる奴はザドゥの命で運営者から外されたよ。
 今、彼が席を外しているのも、長谷川均を処分するために動いているからだ」
「いないと思ったら、そう言うことか……」
「情勢は、極めてまずい事になっている。
 仮にザドゥが長谷川均を処分し、カモミール・芹沢を助けたとしても、彼女はこのゲーム中はもう使い物にはならないだろうな。
 そうなると残った運営者は、私を含めて四人しかいない。
 しかもザドゥと透子は、参加者が直接襲い掛かってくるまで手を出そうとはしない。
 例え拠点が襲撃されたとしても、ザドゥは私やお前に迎撃を命じ、参加者が彼の元に辿り着くまで椅子に座しているだけだろう。
 透子の方は、私でもどうなるかは不明だが……制限されたこの状況でもある。迎撃の数として考えるのは止めた方がいいな」

69名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:47:53
「おいおい、何とかできねぇのか?」
「まだ早い。これはあくまでもマシな状況の方だ。
 もし出撃しているザドゥが、既に首輪を外している参加者に襲われでもして見ろ。
 また首輪をつけていたとしても、爆発させる暇もなく、不意を突かれるケースもある。
 奴が負傷、最悪死んだ場合、残った運営は、私と透子と貴様と言うことになる。
 最悪、素敵医師達を残した状態でな」
「するってぇと……」
「その場合は、実質、私が権限を握ることになるのは間違いない。
 だが透子が素直に言う事を聞くとは思えない。お前に好き勝手動いてもわれても困る」
 ポリポリと頬をケイブリスがかいた。流石の彼も思い当たる節に気づく。
 実際、何もなければ自分は好き勝手動くだろうなと安易に想像がついた。
「そこでだ。最悪のケースを想定した事も含め、私とお前で手を組みたいのだ。
 我々の願いを叶える為にな……。
「クック……」
 ケイブリスがニヤリと笑った。
「俺達の願いを叶える為な……気にいった。いいぜ組んでやろうじゃねえか、ただし条件がある」
「ランスの処遇か?」
「解ってるなら話は早い。奴の始末だけは俺がやる」
「ふむ、私も見返りなしとは言わない。それを呑もう。その状況に手を貸す事、折れた手の補強と鎧の修理、これでどうだ?」
「OK、俺はお前に力を貸す。それで手を打とうじゃねぇえか」
「交渉は成立だな……」


「ところで具体的にこれからはどうするんだ?」
 破損したケイブリスの鎧を智機が受け取り、修繕と補強をしている。
 それと同時にケイブリスの身体データを収集し、彼の折れた腕を補佐するための機具の設計を創案していた。
「まずザドゥの方がどうなるかだな。
 明確に我々が手を組んだ以上は、もう恐れるものは数少ない。
 多少奴が文句を言おうとも、できる限り動いていくべきだろう」

70名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:50:26
 今までは、思うように動きたくてもザドゥがいたせいで、動けなかった。
 無視して動くと言う手もあったが、素敵医師とカモミール・芹沢という二つの駒が消えた以上、ザドゥとの衝突は避けたかった。
 それにヘタして動けば、次は自分が粛清される可能性がある。
 その結果、どちらかが勝ち、新たな覇権を握ったとしても、相応の被害がもたらされるだろう。
 それで運営がお粗末になり、ゲームが崩壊したら本末転倒である。
 だが、ケイブリスという協力者を得た今なら違う。
 自分の持つ力と彼の強力な戦闘力を合わせれば、ザドゥと透子が組したとしても恐れる必要はない。
 今までは、衝突を避けるためお互いに譲歩しあっていた……いや、智機が不利であった状況が一変する。
 ザドゥが生きているのならば、彼に対する抑止力としてケイブリスの効果は大きい。
 最悪、ザドゥが形振り構わず我々に牙を向いたとしても、二人なら確実に勝てる算段を幾つか考案できる。
 ザドゥとてそれが解る人物だ。此方が動いたとしても、そうそうは形振り構わずなんて自体にはならないとふめる。
 ザドゥが負傷したり、死亡して身動きが取れなくなったのなら、二人が結束しているというのは大きい。
 透子も無下に反抗したりはしないだろう。もし素敵医師達が残っている場合も色々と工作しやすくなる。
 元々、今にいたるように素敵医師がやりすぎなければ、ザドゥが彼を明確に敵と定めなければ、彼と組むという選択肢も有り得た。
 その気概が彼との取引に応じたスタンスでもある。
 最も、今となっては彼に対する何とも言えない扱いづらさも解っているので組む気にはなれないが。
 それでも、ただ殺すのではなく、色々と工作しやすくなる。
 もしもの時もケイブリスがいれば、始末する事は簡単だ。
 それだけケイブリスと手を組めたというのは、それだけで大きい利益を生み出す。

「当面の目的は、組んだという事で達成された事ではあるが……。
 運営としては、反抗者をどうするか。それとゲームに乗る二人を残すという事だ」
「ああ、あいつもそんな事伝えてきたっけな……」
「望みとしては最適な人物がいたのだが……」
 その一人は、反主催のグループの中核として動いていた。着々と戦力を整え、抗う準備を整えつつある。
 願いを叶う事に拘っているはずの彼女が、今だそのように動いているのだ。
 恐らく、本心は『主催に参加者をぶつけ、勝てば良し。負けても自分が優勝すれば良し』と考えているのであろうが。
 問題は、撃退されたとはいえ、戦闘における警告効果はあったはずなのに。それでもまだスタンスを変えないという点だ。
 最低、確実に運営者と相打ちにもっていく自信はあるのだろう。
 とすると残っている参加者は、もう変心させでもしない限りは難しい。

71名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:51:34
 しおりと戦わせる存在がどうしても欲しいのだが……。
 候補のアインと双葉の方は、手を出す準備は万端だ。
 後は時間の問題。
 どちらかが生き残っているなら望みはある。その為にも手を出し、確保をするべく動いているが、あそこにはザドゥがいるのだ。
 万が一の可能性を考えると、時間と運という難しい勝負にもなる。
「どうにかして他も変心させる手段はないものか……」
「あー、そりゃ俺様の専門外だな。ワーグの野郎ならそう言うの得意なんだがよ」
「ワーグ? 少し話を聞かせてもらえないか?」
 何気ないケイブリスの言葉に何かの活路を見出した智機は尋ねる。
「俺様の陣営にいた魔人でな。夢を操れるんだ」
 ケイブリスは続ける。
 ワーグという魔人は人を眠らせ、夢の中に入ることで、意識を操作し、洗脳する事が可能なのだという。
「夢、洗脳、そうか……!」
「おお、何かいい案が浮かんだのか?」
「ああ……」
 素敵医師との取引であった薬物を使う手も考えてあるが、それだと対象を確保、投与、洗脳と面倒だ。
 だが、そのワーグと呼ばれるものなら、何のリスクもなく、相手を変える事ができるという。
(直接、プランナーの奴に掛け合ってみるか? その効果を持つモノでも何とか用意できれば……)
 智機がケイブリスに言った台詞は、ハッタリだけではなかった。
 そう。ルドラサウムとはプランナーは彼女とひっそりと接触していたのだ。
 と言っても今まで何かして貰っていたわけでもない。
 そうそう呼ぶな。と釘も刺されている。
 だが、彼女は唯一プランナーと連絡できる手段を持つ者だった。
 今までは呼んだ時のリスクを考えて、または運営のできぬ無能者という烙印を押されたくがないために呼ばなかったが、こうなった情勢なら話は別だ。
 一度は話し掛けてみる価値はあるかもしれない。
 ルドラサウムと違い、彼は運営に酷く拘るのを彼女も知っていた。
 だからこそ、自分と接触してきた事も。
「で、俺様はどうすればいい?」
 考え込み、黙ってしまった智機にケイブリスが声をかける。
(期を見て交渉してみるか……。と言っても今の情勢ではあまり時間はないが……。
 失敗したなら、此方で何とかその効果を出せる方法を試案してみよう)

72名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:51:49
「ん。あぁ、此方の作業が終わるまでは、じっとしていて欲しい。
 今の内に身体を癒しておけ。その後、かなり動いてもらう事になるだろうからな」
「ッケ。解ったよ」
 早く動きたい気持ちを抑え、ケイブリスは奥へと引き下がっていくとごろりと横になって寝た。
 
「さて。これから、やるべき事はいっぱいあるな」
 
【主催者:椎名智機】
【所持武器:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機
      6体は島中を徘徊)
       (本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】

【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折】

【現在位置:本拠地・管制室】

73名無しさん@初回限定:2005/08/07(日) 14:52:34
タイトルはまだ未定です。
中々、いいものが浮かばなく……。
状態欄に関しては間違いはないと思いますが、他にも突込みどころあったらお願いします。

74とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/07(日) 16:25:59
連絡が遅れてしまい、すいません。
新作読ませていただきました。なかなか面白かったです。
おかげで先の展開も色々とイメージしやすくなりそうです。

今晩投下の新作はそれを匂わせる描写が入ってます。

これも今はなき前スレでの誰かのアイデアを拾ったものですが、
取引材料になりそうなアイデアの一つにメール欄を考えてます。
よければどうぞ。

タイトルが思いつかなければ〜話とかつけてみてはどうでしょう。
ちなみに次ので234話目です。味気ないですが……

75 ◆/0/OloR40U:2005/08/08(月) 00:58:05
多少、加筆修正を加えて投下しました。
多分、この時間でないと連投制限くらいまくりそうだったので。
改めて遅れて申し訳ありませんでした。

次のメール欄も結末は幾つか考えてあります。
智機の過去話と>>74のメール欄に準じた匂わせる話によって、取り入れ上手く作りたいと思います。
今、智機(本体の方)達は休息状態なので、過去話の方の投下OKです。
その為に、時間も予定より早めておきました。

次に書きたい話で、まひると狭霧の掛け合いがあります。
もし、其方の都合と被らなければ、書きたく。
今後にあわせた彼女らの心情の描写といった感じになると思います。

76とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:16:26
こっちもようやく完成しました。
むこうに投下の予定でしたが連投規制が厄介そうなので一旦ここに投下します。
こっちもまひると紗霧の掛け合いが主ですので。

77心の天秤(1) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:18:23

(二日目 PM4:25 西の森)

「そうだ紗霧ちゃん、長い紫髪をしたナイチチ娘と会わなかったか?」
(なぬっ……ナイチチ!?)
 双葉の所在を知りたがっていたランスの質問に対し、少年まひるは“ナイチチ”という単語にびくっと身体を震わせ反応した。
「…………」
「………?」
「お前じゃないから、お前じゃないから」
とランスは呆れ顔で手をひらひらさせて否定する。
 紗霧はランス以上の呆れ顔で一瞬まひるを見たが、それ以上取り合わずにランスに言った。
「ランスさんは双葉さんと私を間違えられましたが、彼女について他にも情報を?」
「手帳に載ってたんだ。 朽木双葉って名前と長い紫髪の少女ってな」
(言われてみれば……)
 と、ユリーシャは反射的に紗霧の髪を見て納得した。
 紗霧の黒髪は確かに紫がかっており、見方によってはそう見えないこともない。
「それと……バットって書かれていたなあ」
と、ランスは怪訝な顔で思い出す。
「「バット?」」
 その単語に反応したのは本日『バット』に関わったまひるとユリーシャ。
「どうした」
 ランスの問いに対して、まひるは智機との戦闘を思い出したが、ちょっと怖くなったので「話を進めて」と促した。
 尚、魔窟堂は確かめたいことがあると言って、少し離れた所に移動している。
「………。 その手帳には私達、参加者の情報も書かれていたと言う訳ですか」
「まあな。 俺様が確認したのはそいつだけだが」
 紗霧は腕組してをしながら息をついて、話を続けた。
「私は会った事はありませんが、魔窟堂さんなら」
と、別の人物に手がかりを訊き出そうとした。

78心の天秤(2) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:19:28

「俺も会ったんだ」
と、その前に恭也は真剣な顔で口を挟んだ。
 その様子にランスは何かを察しながら彼に言った。
「お前もあいつに襲われたのか?」
「!!」
 その問いに恭也は一瞬ショックで凍りつく。
 だが、ある意味暴言とも取れるランスの発言に異を唱えることもなく単刀直入に言った。
「……襲われたかどうかまでは、解らない……
 でも、俺と仁村さんは……昨晩、星川翼と名乗る少年と出会ったんだ」


「!?」
「?」
「「!!?」」


            *         *         *

―――恭也の双葉に関する情報提供から、五分以上の時が流れた


「………」
 自分の知る双葉の情報を伝え終わった恭也も苦渋の表情で立ち尽くしている。
 ランスと紗霧は無言で何かを考えている。
「まさか…まさか…このような事に……」
 異変を伝えようと、ここに戻ってきた魔窟堂も眉間に苦悩からくる皺が刻まれていく。
「………………」
 まひるはいつになく真剣な表情で誰もいない前方を見つめていた。

 魔窟堂はさっき見つけた情報を伝えた後、恭也らに双葉とアインの事について尋ねられた。
 魔窟堂は渋ったが、紗霧に促された四人に問いつめられ、話さざるをえなくなったのだ。

79心の天秤(3) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:22:32

「早朝、私達を襲撃してきたのは双葉さんでしたか」
「……どうして…どうしてなんだ」
 平然としてる紗霧に対して、恭也はうわごとのように呟き、頭を押さえている。
「今の星川ってのは当然、あいつの作った偽者だろうな」
「……恐らくは…双葉の式神じゃろう…」
 先ほど、陰陽師の式神の事を思い出した魔窟堂はしぼり出すように言った。
「し、式神ですか……」
 双葉の事を話題に出されて少なからず動揺していたユリーシャも、その動揺を紛らわせようと何とか口を挟む。意味はわからなかったが。
 そんな彼女を紗霧は気づかれないように見た。
「きっと…心細かったんだな…」
 そう呟く恭也を尻目に魔窟堂はまひるの方に視線を向けた。
「…………………」
 アインの星川殺害の件を知ったまひるは無言のままうつむいている。
(この様子では、また繰り返し同じようなことを 
魔窟堂は未だ皆に伝えきっていないことがある。

―――アインのタカさん殺害の件と、遙殺害の件

 形はどうあれ、事実は事実。
 素敵医師が絡んだ遙の件はともかく、自らの意思で殺害したタカさんの件を伝えれば、グループのアインに対する心象は更に悪くなる。
 魔窟堂はどうしてもアインを仲間として迎えたかった。
 だが、一方でまた同じような悲劇を繰り返してしまうんじゃないかという、
アインに対する恐れも芽生えているのも自覚したくはなかったが事実だった。
 魔窟堂は自分のそんな考えを慌てて頭から消して、タカさんのことを話すには
まひるがそれに触れてからだと考え、沈黙を守っていた。

80心の天秤(4) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:24:49

「それで、俺達はこれからナイチ…、双葉とアインに対してどうすればいいんだ?」
と、ランスは自らの考えを決めた上で紗霧に意見を求めた。
 紗霧はそれを見透かしたように、彼等に対して言った。

「皆さんは朽木双葉さんとアインさんを我々の同士として加えたいですか?」
 紗霧はランスの方を向き、彼もそれに答えた。
「双葉を加えるのは反対だ。いうか、ああいう奴は俺様のハイパー兵器で何とかしてやらんと、仲間に加えてなんて多分、言わないだろーな」
「ひねくれてますね」と、割とひねくれている紗霧が返す。 
「それにあいつがアリスを殺したかも知れんのだ、それで俺の気がおさまるか」
「…………」
 半ば吐き捨てるように言ったランスを見て、紗霧は少し考えて言った。
「参加者の中には首輪の盗聴器と発信機の両方を所持していた者がいたのをご存知ですか?」
「なんだと?」
 海原琢麿呂の事である。
 もっとも、彼が所持していたのは盗聴器だけであり、発信機は紗霧がずっと所持しているのだが。
「その人はもう亡くなってますが、どうやらそれらを行使して次々と参加者に手をかけて行ったみたいなんです」
「首輪にそんな仕掛けがあったのか?」
「ええ」
紗霧は貴方も気づいてなかったんですかと、言いたい気持ちをこらえて返事した。
「・・・・・・・」
 ランスは思い出した。
 今日の昼頃になるまで、自分の首輪が解除されてなかったことに。
 それに気づく事で、あの時は大して気にも留めてなかったが、運営者が簡単に自分らを見つけられた理由が彼にも解ったのだった。
(グレンの奴……)
 とランスは半ば呆れながら、殺した彼に毒づいた。

(ハイパー兵器って……)
と、続けて紗霧はその妙な単語に対して疑問をぶつけようとするが、悪い予感が頭をよぎり、とっさに次の質問をした。
「…アインさんはどう思います?」
 ランスはすぐに答えた。
「俺様一人なら加えてやるところだが……無理に加えるのはやめた方がいいんじゃないか?」
 ランスは仮にも一国の王である。
 美人の武将なら多少性格に難があっても、配下に加えていったが、他の女の部下を殺害していくなら話は別である。
 今回の場合は、アインによって他の女の子に危害を加えられるんじゃないかという危険を明確に提示されたが故の回答だった。
 紗霧がアインと遭遇していた事を話していれば、別の回答が返ってきただろうが。
(話聞く限り、俺様のハイパー兵器をぶちこむ前にやりかねないからなぁ…)
と思いながらランスは自分の結論を言った。
「敵として現われたら、捕獲できるなら戦う、できないなら逃げるでどうだ?」
「そうですか…。 両者ともそれが出来ない場合は戦闘不能になるまで戦うで。
 いいですね?」
 紗霧のその問いにランスはうなづいたのだった。

81心の天秤(5) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:27:03
 
 紗霧は次は恭也の方を向いた。
「朽木さんとアインさん。 出来るなら両方とも加えたいと思う」
「…………」
「でも、説得してもだめだったら…」
と恭也はランスの方を見た。
「お前も俺の意見に賛成か?」
 その問いに恭也は僅かに首を下げた。
「次は…」
 紗霧は次にユリーシャの方を向いた。
「………」 
 ユリーシャは何かを思い出してそれを口にしようとしていたが、それは紗霧が求める答えと関係がなかったので、自分の率直な気持ちを口にした。
「私は双葉さんも……アインさんも怖い方だと思います…」
「……」
「ですが……皆さんがどうしてもとおっしゃるなら……」
と、ユリーシャはランスを見つめる。
「…」
 紗霧は今度は魔窟堂の方を向いた。
 
 ちなみに、ユリーシャが思い出したこととは、ゲーム開始前に自分に話しかけてきた少年のことである。
 少年は自己紹介をしながら、ユリーシャを元気付けようとしていたが、精神的に余裕がなかったユリーシャはまともに取り合わずにさっさと教室を出たのだった。
 その少年の名は星川翼と言った。

82心の天秤(6) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:29:22

「魔窟堂さんも双方説得、でなければランスさんと同じで宜しいですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 魔窟堂は悩んでいた、自分は結局、アインと双葉にとって最悪に近い状況になるのをただ手をこまねいて見ていただけなのかと。
 最悪、不幸な自分に陶酔して、努力を無意識に怠っていたのではないかと。
 だが、それでも自分に出来ることを最大限努力してするしかないと言い聞かせて、紗霧に答えを返した。
「ああ……構わんよ…」
 (もし、再び遭えたなら己の全てをぶつけて諭すのみじゃ!!)
と、魔窟堂は心の中で叫んだ。

「まひるさんは……」
「あたし……アインさんがしたことには、すごく腹が立ってる」
「!! ま、まひる殿」
覚悟していたとはいえ、その言葉に魔窟堂は少なからずショックを受ける。
紗霧を除く、他の三人は何事かと顔を見合わせた。
「…アインさんは加えない方針ですか?」
「あたしはアインさんも双葉さんも受け入れたいよ」
「……?」
「でもさ、それはものすごく難しいことなんでしょ?」
「……当然ですね」
 まひるは手を自分の髪の結び目にやってから、言葉を続けた。
「それでも……あたしはアインさんに言いたいことがたくさんあるから、
それを目指したいよ」
と、言いつつ空を見上げるまひるに対して紗霧は胸の内を表に出さないように言った。
「まさか……今すぐあの三白眼ロボを追って東の森に行くおつもりですか?」
 魔窟堂がさっき上空を見上げている時に見つけた、飛行型智機。
 尋常ではない視力を誇る魔窟堂だから見分けがついた。
 だが、それを見つけたからといって紗霧の当面の行動に変更はない。
 運営側が準備を整えている内に、ここにいる全員で休憩を取りたいのが本音だからだ。
「あたし一人ならそうしてると思う。 でも、みんながいるから…」
 まひるは靴で土をいじりながら、はるか昔の友人だった軍人数人を思い出しながら言った。
「結局、貴女は何が言いたいんですか?」
 苛々した様子で紗霧は言った。
「あたしはランスの意見に賛成。それでいま、アインさんと双葉さんにあたしがしてやれることってないかなって考えてるんだ」
と、申し訳無さそうに笑いながら言うまひる。
「無いですね」
と、きっぱり紗霧は言った。
 それに魔窟堂らは反応するが、正直言って魔窟堂とまひる以外の者にはそんな余裕は無い。

83心の天秤(7) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:30:49

 最速でも、午後六時の放送が終わってからでないと動けそうにない。
「そっか…やっぱり悔しいよね」
 まひるは落胆した表情を見せず、笑顔で紗霧に言葉を返した。
「悔しいって何がですか……? アインさんのことですか?」
「紗霧さんは…ランスの意見に賛成でしょ?」
「……」
 まひるの問いに紗霧は黙ってうなずく。
「このまま……言いたい事を言えずに会えなくなるなんて嫌だなって思っただけ」
「・・・・・・・・・。 私に何をしてほしいんです」
 怒りも喜びも無い、淡々とした紗霧の問いにまひるはこう返した。
「紗霧さんがいなかったら、あたしはきっと力を出し切れないまま、あのメガネロボ軍団にやられてたと思う」
「………」
「あたし、頭良くないけど、そっちの方でもがんばるから…」
「・・・・・・・・・・・」
「…何か、あの二人を止めるのに、あたしがしてやれることって本当にない?」
「……」
 紗霧は考えた。そして…
「申し訳ありませんが、まひるさんには出来ることはありません。 ですが…」
と、言いつつ魔窟堂の方へ顔を向ける。
「むっ…わしの出番か!!」
と、嬉々して魔窟堂は声を上げる。
「勘違いしないでください。 魔窟堂さんにはその『出来うる限りの』ことをしていただきます」

84心の天秤(8) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:32:29

「気をつけてね…じっちゃん…」
と言って、しまったという感じでまひるは手に口を当てた。
 つい、昔の知人のことを思い出して口に出してしまったからだ。
 魔窟堂はそれに軽い違和感を覚えたものの、目を細めてやさしく語りかけた。
「そう、呼ばれるのも遠い昔のような気がするの…」
と、まひるの頭に手を置いた。
「くれぐれも東の森の深部には入らないで下さいね」
と、紗霧は釘を刺すのを忘れない。
「真のオタクを嘗めるでない」
と、魔窟堂は手に持った鍵束を懐にしまいこんで言った。
(充分嘗められそうな対象なんですが…)と、隠れオタクの紗霧が心中で毒づく。
「さっさと行け、じじい」
と横柄に空気に蹴りを入れながらランスは魔窟堂に催促する。
「では行ってくるぞ!!」
と魔窟堂は自分に気合を入れて、加速装置を発動させて、東の森・東部を目指して走り去ったのだった。

             *         *        *

「まひるさん、これから嫌というほど働いて頂きますからね」
「やさしくしてよー」
 紗霧は金属バットを取り出し、そんなまひるの頭を小突いた。
 恭也はそんな二人を暖かく見守っている。
 それとは対照的にランスとユリーシャはやや暗い雰囲気で思索していた。
(運営者の連中なら、秋穂やアリスを殺した奴が誰か知ってるはず)
(双葉さんと……アインさん……)
 ランスはやや暗い炎をたぎらせ、ユリーシャは漠然とした不安を抱えて歩く。
 紗霧は痛さに頭を抱えたまひるを余所に、チラっとユリーシャの方を見た。

                    ↓

85心の天秤(8+1) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:33:46

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】


【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
      解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識、双葉・アインとは会いたくない】


【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
    
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

86心の天秤(8+2) ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:35:01

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保】
【所持品:対人レーダー、レーザーガン、薬品数種類、謎のペン8本
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
      グループが危険に晒されるなら、応戦する
      島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】




【グループ:魔窟堂野武彦(元№12)】
【現在位置:西の森→東の森:東部】
【スタンス:運営者殲滅、ある施設の調査、森のある二ヶ所に火を炊く】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
      白チョーク数本、スコップ(小)
      ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン8本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:特になし】

87とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/08(月) 01:49:31
投下終了です。
明日、本スレに投下します。次は魔窟堂が見つけた隠し拠点の話です。
かなり初めの方の話にあった伏線を消化してます。プランナーも少し登場します。
次に東の森の決戦を一気に行きます。
幕間にヤク中前の素敵医師と、サイスと出会う前のアインの過去話が入ります。
まひるや紗霧のそれとは方向性がかなり違いますが。

昨日、隠し拠点のアイデアについてまとまったので早ければ今日あたりにも
ここに作品として投下します。
智機の過去話については一部を除いて、東の森の戦闘が片付いてからになると思いますので。

88 ◆/0/OloR40U:2005/08/08(月) 21:25:00
>>87
なるほど。
では、その魔窟堂〜東の森決戦の間を埋める形で残されたチームの掛け合いを描く事にします。
魔窟堂がどのくらいで戻ってくるか、どうなるかで若干変わるので、次の話を見てからいきますね。

智機での東西南北の鍵関連や手帳関連は、プランナーとのやり取りで絡める予定です。
此方は、時間軸のこともあるので決戦後にいく予定です。

89とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/09(火) 01:10:48
今作品、本スレ投下終了です。
次は予定通り、魔窟堂の話です。
作中時刻で17:15ごろ地震がおきます。
日中から夕方にかけて本スレに投下予定です。


>>88
了解しました

90とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/10(水) 02:48:25

『野武彦がゆく』投下終了です。
小ネタ入れれば良かったかな?

>>88
魔窟堂は5:30過ぎに戻って来れるよう調整しました。
次は東の森の決戦を4・5回に分けて一気に最後まで書く予定です。
その間良ければ、他のキャラのパートお任せします。



早ければ今日の夜以降に

91 ◆/0/OloR40U:2005/08/11(木) 00:37:21
>>90
お疲れさまです。
大分伏線が生み出されて絡んで来ましたね。
質問を何点か。

>ランスを救出した際、応急処置ができる場所を探して見つけた鍵が掛かっていた妙な建物の事を。
これは本編になかった今作での付け足し部分ですよね。
確認のために位置は東の森内でいいでしょうか?

>ゲームの舞台である『島』から異界へと通じる神々が創った空間ゲートはも含めて全部で四ヶ所。
作品を読んだ感じだと東西南北四つの建物全てがコレではなく、
魔窟堂が入った東の森内(?)の建物がコレであるという認識でいいでしょうか?
全部か全部でないかで智機話(メール欄)があるかどうか変わってくるので。
ぱっと思いついた構想では残りの一つはプランナー、一つは智機(ただし使用できない、プランナーとの連絡用)、最後はルドラサウムが管理してるというネタがあります。

お気づきになると思いますが、明日より三日ほど執筆が無理な環境になります。
その間の時間埋めにもなる掛け合い話は五日後ほどに投下予定です。

92 ◆/0/OloR40U:2005/08/11(木) 00:48:19
内、管理というより監視という言い方が正しいのもありますが……

93とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/11(木) 04:09:50
>>91
>ランスを救出した際、応急処置ができる場所を探して見つけた鍵が掛かっていた妙な建物の事を。
はい。 それでOKです。

>ゲームの舞台である『島』から異界へと通じる神々が創った空間ゲートはも含めて全部で四ヶ所。
はい。 建物全部じゃなくて構いません。ゲートの種類もそれでOKです。
こちらはゲートの種類をルドラサウム用、プランナー用、智機・透子用、一部の建物用の四つで
考えてました。
施設はどんな建物でも構いません。

それと以前、ザドゥが言った「うまく利用すれば、どの参加者でも優勝できる可能性を
秘めていたのにか」の言葉の意味は、“そこに訪れることができた参加者はその時に
自分が望む効力を持つアイテムを一つ召喚できる”という施設の用途を知っていたが
故の発言だったというオチを考えてます。
その場合、当然効力には限度がありますし、参加者に相当するキャラの召喚はできないように調整されてます。
ちなみに施設一つにつき一回しか利用できません。

>執筆・投下期間
了解しました。
その間にこちらは東の森の戦いを決着直前まで進める予定です。

94とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/17(水) 00:10:49
新作……遅れてしまってます。
今日の夕方あたりに一本ここに投下する予定です。

95 ◆/0/OloR40U:2005/08/17(水) 22:29:15
すみません。
事後処理(次回参加とか等)で此方も遅れてます。

96 ◆/0/OloR40U:2005/08/26(金) 23:04:56
ふぅ……やっと落ち着けました、スミマセン。
月曜辺りに投下予定です。

97 ◆/0/OloR40U:2005/08/31(水) 20:03:19
何度か書いてみたのですが、地震前で一度区切って、地震待ち。
その後、様子見て投下の二部構成予定にします。
前半部分、明日か明後日には投下できたらいいなぁ……

98とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/08/31(水) 20:12:22
こちらも長らく留守にしてすいません。
今日の深夜には一本投下できそうです。

99 ◆/0/OloR40U:2005/09/03(土) 21:38:50
中々日々が忙しく難航してます、大変申し訳ない。
日曜を使って仕上げれたら……

100とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/09/08(木) 00:39:46
かなり間があいてしまいましたが、今から本スレに投下します。

101とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/09/08(木) 01:04:54
投下完了。
時間が空いた割には今回はほとんど進んでなくてすいません。
次はある勝負が決着するくらい先に進めます。

>>99
こちらも返事さえ返せず申し訳ないです。

102とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/09/09(金) 21:20:03
ただいま執筆中。
作品が分化しそうです。
内ひとつを明日の午前12時以降に投下する予定です。
残りは余裕があれば明日の午後7時以降にここに一旦投下します。

103 ◆/0/OloR40U:2005/09/09(金) 23:47:43
どうもすみません。
先日は仕上げきれませんでした。
残りを土曜の夜を使って仕上げ、日曜に上げるよう善処します。

104 ◆/0/OloR40U:2005/09/11(日) 22:26:06
遅ればせながら、一日遅れてただいま完成しました。
一日遅れてしまいましたが、見直し含め、明日、必ず投下できます。

105名無しさん@初回限定:2005/09/12(月) 23:30:32
仕事先からです。
終電が……

106とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2005/09/12(月) 23:38:38
お疲れ様です。
無理せずいきましょう。
こっちも早く投下せねば……

107 ◆/0/OloR40U:2005/09/15(木) 20:47:23
缶詰状態から解放されて帰宅っす。
意識切れなければ今夜には……

108(元)グレン&まりな系:2005/09/15(木) 21:21:38
皆さん執筆お疲れ様です。
以前第二部〜第三部当たりでグレン&まりなや
アインVS遙などを書かせて頂いとりました者です。
ここ数ヶ月ほど葱板から離れていて、何気なく見てみてこのスレの
存在に今日気付きました。今から最初から読んでみます。
多忙な中での執筆、大変かと思いますが頑張って下さい。

109とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/08(水) 06:12:36
恥ずかしながらまた帰ってきました。
諸事情でまた長期間更新できなくてすみません。
今週中に一.二本書けそうな感じです。

本スレで書くことを希望されてる方がいらっしゃるそうですが、
もしここを見ておられるのなら、一度ご連絡をお願いします。
こちらが長期間離れていたこともあるので、もし宜しければその件に関してはそちらの希望通りの展開に進めて
もらっても構いませんので。

>>108
色々とごめんなさい。

今度こそ、この流れで完結させねば。

110135=138 ◆/0/OloR40U:2006/03/09(木) 01:19:06
あぁ、どうも同じくすみません。
ちなみに向こうでID変わってるのは後者が職場からだったから(バキューン

最近の私生活はそんな流れです。
おかげで書くのが凄いスローペース。
一応基盤がほぼ出来てるのは幾つかあるんですが、
続きなのが宣言していた狭霧たちのやり取り。
それと途中の構想を書き上げたもの幾つか。
そして(あくまで私が考えた構想での)EDとEPって感じです。
良ければ、それらだけ最後に投下しようかなぁと思っていた次第です。
一生懸命、最後までの道程色々と考えてみたんですが、どれもこれも分量がめちゃくちゃ多くなりそうなんですよね(;´Д`)
ですが書き手が集りそうですし、頑張れる所まで頑張ってみます。
途中シーンモノ、EDとEPはその内、「こんな結末」っていうアナザー的なものとしてあげようと思います。

111とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 01:45:59
どうもです。
ようやく作品が一本書きあがりました。
今回のは前編で、金曜日あたりに後編を投下できると思います。
展開はメール欄で。
こっちの考えた素敵医師とアインとの決着はすごく救いようのない内容なので
他の人に任せたほうがいいかもしれない。もしよければ内容を教えます。

今後の展開というかアイデアは他のメール欄にも書いてます。
では試験投下します。

112238話-1 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 01:49:02

(二日目 PM4:35 楡の木付近)

――――やはり、聞き入れてもらえる筈が無かったのだ。

彼はうつむき、洞の穴に背を向けた。
仲間達に助言を求め続けたが、返答はほぼ一緒だった。
結界の支配下からはずされている彼はさっき投げかけられた言葉を思い出し、考えた。

『あんたは……あんたは…やっぱり、あいつとは違う…………出てって!』

この場から逃げようという提案に対し、強張った声で彼女からこう返されたのも無理はなかった。
主の性格と立場を考えるならば、なおさら。
たとえ、主や自分達の力ではこの戦場にいる他の誰にも勝てないだろうという事実を告げたとしても。
罵倒された事に心を痛める暇さえ彼にはない。
それでも彼は最善を尽くせる方法を残り少ない時間で考えなければならなかった。
時間が経てば経つほど、多くの仲間も失っていく中で。
最善が何であるのかさえ、それが出来るかどうか解らなくても。
彼はひたすら考え続けた。

113238話-2 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 01:52:25

(二日目 PM4:40 楡の木広場)

タタタタタタタタタタッ……と、素敵医師の持つ自動小銃の軽やかな音が聞こえた。
地面と樹木に次々と穴を穿ったが、当の標的のザドゥにはかすりもしなかった。
「(や〜っぱ…射撃はセンセにはむかんき)」
素敵医師はそう考えながらも、残弾を意識しながらザドゥを見失わないよう、間合いを取り続けた。
ダァンッ!!と芹沢の銃弾も発射されたが、それも大きく外れた。
次にしびれを切らしたように芹沢は猛然とザドゥに向けてダッシュしようとする。
「ま、待つがよ!」
素敵医師の呼びかけに彼女は足を止め、とっさに距離を置く。
ザドゥも少し下がり、小さく舌打ちした。
「ひへ、ひへへひひ……」

超常能力であっても、火炎を伴わない物理攻撃のみなら警戒はしなかっただろう。
現にアインから至近距離のショットガンの射撃を受けても、短期間で蘇生するくらいだ。
芹沢もそれを受けても即死はしないように変化している。

「きひひひひひひひひひひひひひ……」
素敵医師は鞄から素早く何かを取り出し、ザドゥに向けて投擲した。
「!」
バンッ!と音がして、放たれた3本の試験管が爆発する。
ザドゥはそれをマントでガードしながら、それでも一定の距離を保った。

「………………」
素敵医師にはザドゥの狙いに気づいていた。

ゲーム開始直前にザドゥがタイガージョーに使用した奥義『死光掌』。
それを自分と芹沢に使用するつもりだと。
素敵医師は気功も多少は扱える。
それゆえか死光掌は自分らにとってやばい代物だと直感で悟っていた。

114238話-3 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 01:55:34

「…?」
足早に移動する彼の顔の横に白い小さな物体が寄ってきた。
空を舞っていた双葉の式神だ。
式神の目がキョロっとザドゥのいる方向に向き、次に素敵医師の方に向いて双葉の声で語りかけた。
『どういうことよ?』
「ふふ双葉の嬢ちゃん……いい今、取り込み中がよ!」
ザドゥが間合いを詰めてきた。
しばし無言で式神は素敵医師とザドゥを眺めて、少ししてから言った。
『まあ……いいわ…。 あんたの問題はあんた達で片付けて。
 あたしはアイン相手で手一杯だから』
「……っ!? あああ……わかったが……わかったがよ…きへへへ…」
彼の本音はアインをここに連れてきた上で、ザドゥとの戦いに加勢してほしかったが、言いくるめる余裕はなかった。

式神はふいにザドゥの方を向いた。
「「…………」」
式神はしばし黙ったまま式神はザドゥを見つめていたが、やがてそれ以上取り合わずに楡の木に向けて飛び去っていった。

115238話-4 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 01:57:47
                     ●               


(二日目 PM4:40 楡の木の洞)

双葉はおなかを片手で押さえながら、聞いていた。
小さなささやくような幼い少女のつぶやきを聴き続けていた。

『このおねえちゃん、首輪してないね…』
『それがどうかしたの?』
『鬼作おじさんが言ってた、助けにきてくれた人かもしれないよ?』
『信用できない』
『でもぉ……』
双葉は一人で会話する獣耳の少女しおりとアインを観察していた。
「(あの子、生き残ってたのね)」
先日の昼の放送は聞けなかったが、双葉はしおりとさおりの事を覚えていた。
校舎内で、体操服姿の少女に宥められていた双子の少女は嫌でも目立つ。
自分だけでは生き残るのは難しいかも知れない。
雰囲気からして何らかの力を持っているのは想像に難くない。
しおりはあらゆる面で異様で、己の身の危険も感じていたが、それでも素敵医師らと比べればまだマシに思えた。
うまく立ち回れば、協力し合えるかもしれないと思った。
片方の姉妹を失っている幼い少女を利用するという罪悪感を抑えながら、アインへの攻撃を再開すべく、術の詠唱を始めた。
手で押さえていた、おなかがキリリと痛んだ。

116238話-5 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 02:00:16


「ぬ!?」
カカカカカカッ……と放たれたメス数本がマントを木に縫い付けた。
彼の前方には『虎徹』が転がっている。
素敵医師は芹沢が虎徹を拾おうするのを妨害しようとした一瞬の隙を突いたのだ。
「もらったがよ!ザドゥの大将!!」
歓喜の入り混じった声色で素敵医師は巨大メスを持って踊りかかり、木ごと
彼のマントを音もなく切り裂いた。
綺麗にスライスされた木片が地に落ち、マントの破片が素敵医師の前方を漂った。
「ひひひ…へぇきゃっきゃーーーーーー……?」
切り裂いたのはマントの一部分だけだった。
そして、ザドゥは素敵医師の右後方に立っていた。
「いいいいいいいつの間に……かかかわり……」
「格闘にかけては俺の蔵書は世界一だ!」
「そ…そそそ…それはちち…ぐばきゃーーーーーーー!!」
ザドゥの渾身のドロップキックが非難しようとし悲鳴を挙げた素敵医師を頭部を直撃し、彼をふっとばし、轟音を立てて木に衝突させた。
「(それは格闘違う、がよ……)」
めきめきと木が倒れる音がした。
ザドゥはふん…と言い、次に芹沢の方を向き、気を充実させた。
芹沢の手には既に虎徹が握られている。
「来い!カモミール!!」
ケタケタと笑いながら、上段に振りかぶり刃を下ろす。
ザドゥはかろうじて交わし、技を放った。
『死光掌!』
白銀色の気を纏った拳が芹沢を射抜いた。
反動はほとんど無かった。
「か、カモミール…」
すぐに体勢を整えた素敵医師はこれを見て、動揺する。
ザドゥと芹沢。
しばしの沈黙。
「これがどうかしたの?」
嘲りを含めた声だった。
同時に芹沢の斬撃がザドゥを襲った。
血がわずかに宙を舞った。
ザドゥの左腕がかすかに切れていた。
「どーやら、失敗したようがね…けきゃぎゃぎゃ」
素敵医師は銃を構え、芹沢は銃剣を構える。
奥義をくらった芹沢には表面上変化はない。
ザドゥは怪我には目をくれずに、間合いを取り始めた。
死光掌を使い続けるために。

117238話-6 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 02:03:15
                    ●

(二日目 PM4:50 楡の木広場)

魔剣の斬撃が白銀の人型式神を切り裂く。
切った箇所から青白い燐光が立ち上るが、何も無かったかのように徒歩ながらも高速度かつ威力のある物理法則を無視したような体当たり攻撃を続けた。
アインは身体の節々に痛みを感じながらも、目の前にいる五体の式神を見据えた。
何度も切りつけたが、まだ一体も倒しきれていない。
通り抜けようにも散発的に幻術や木々による、攻撃が飛んでくるので、気の解放はし辛いのだ。
《確実に消耗しとるはずじゃ》
カオスのアドバイスを聞き流しながら、アインは少し離れたところにある者を見て目を見張った。
しおりが首を押さえながら、立ち上がってきたのだ。
「(早すぎる)」
式神の妨害が入って、完全に首をへし折るまでは行かなかったが、それ相応のダメージを受けて短時間で立ち上がってくるはずがないとアインは判断していたのだ。
「(わたしの認識もまだ、甘いわね)」
そう自嘲するアインを尻目に式神は、一斉に後ろ向きでしおりの傍に移動した。
「……?」
しおりは怪人の登場にとまどう。
そして、式神はたどたどしくもこう告げた。
『キョウリョク、シヨウ』
そして式神たちは再びアインへの攻撃を続ける。
アインは思わずしまったと毒づいた。
しおりはしばし呆然としていたが、一回うなずいてアインの方へ駆けた。
アインはとっさに魔剣を通じて気を解放させ、応戦する。

その時、カオスはしおりを見て、思った。
《……使徒…か。 いや……魔人か?》
刀と剣とが激しく打ち合った。
《それにしては…強すぎると感じるのは一体?》
                    ↓

118238話-6+1 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 02:04:38

【アイン(元№23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ少々、肉体・精神疲労(小)】
     

【しおり(№28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害(ただし慎重に)、とりあえず式神と共闘、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、】
【所持品:日本刀】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、しおり人格が主導
     首に多少のダメージ】

【朽木双葉(№16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘、???】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
      ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
     兵器化の乱用は肉体にダメージ、
     自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
    楡の木を中心に結界を発動、強化された式神五体を使役、
     (それぞれダメージ中)】

119238話-6+2 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 02:05:14

【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:双葉の守護、???】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【能力制限:幻術と植物との交信】
【備考:特になし】

【追記:アインVSしおり&双葉。 離れたところで、ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢。
    楡の木のすぐ近くで双葉がアインに攻撃開始。



【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
     小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
     カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)】

【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。 ザドゥとの戦闘を楽しむ】
【所持品:虎徹銃身(弾数無数、二発装填可)、虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:薬物により身体能力上昇、、左腕硬質化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、やや体力回復】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。薬物の影響により腹部損傷】


【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:マント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(小)】
【備考:なし】

120とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 02:09:54
投下終了。
何事もなければ午後8時くらいに本スレに投下したいと思います。
こっちもEDの構想はある程度浮かんでいるのですが、これも暗いし。

ではまた明日。

121133 ◆vhVkc9fxCs:2006/03/09(木) 09:49:46
どもです、向こうのスレの133でカキコした者です。
自分も若干停止前の展開からアインVS双葉で書き始めていましたが、
こちらの展開で良いと思います。
ただ、個人的意見としてはここで各キャラの掘り下げを更に深めるよりかは
一気に状況を展開させた方が良いかと考えます。
これまでの中断の多くも、物語状況の停滞から多く起こっているようですし。

122とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 20:21:02
本スレ投下します。

123とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/09(木) 21:23:42
投下終了。

>>121
こちらもどうもです。

>これまでの中断の多くも、物語状況の停滞から多く起こっているようですし。

おっしゃる通りです。
なので、予定にあった智機の過去話の前倒しを変更して
一気にアインVS素敵医師の決着まで書きあげていこうと思います。
アイン単独で〜の流れまでを今から書いて、明日辺りに投下。
しおりVS双葉話と前述にあった鬱結末までの話をここに投下して
流れしだいで本スレに投下したいと思います。
何しろまたややこしい展開になるので。
間に知佳の2・3レスくらいの作品が入る予定ですが、それは決着話の後で書きます。

書き始めの作品ですが、折角ですのでもしよければ書いていた作品をここに投下していただけないでしょうか?
興味があります。途中で終ってもいいので。

124 ◆/0/OloR40U:2006/03/10(金) 01:56:12
どうも、今日は昨日よりも長引きました。

>>121
どうも。これから頑張ってきましょう。

>>123
お疲れ様です。
智機の過去話も楽しみにしてます。
一旦落ち着くまで頑張って下さい。

此方の方は、今手直しを加えてる最中の狭霧チームを明日明後日には此方へ投下。
それが問題なく済めば、前にあった構想の智機とプランナーの接見をそのまま描こうかと。
それと、とある参加人氏だけに負担をかけさせてしまっているのも停滞の原因の一つでもあると思います、すみません。
もしよければ、知佳と透子のネタがあるので、此方で受け持とうかと思うのですが……。

125とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/10(金) 06:26:26
>>124
了解しました。
先に知佳と透子の話お任せします。

126133 ◆vhVkc9fxCs:2006/03/12(日) 21:59:35
>>124
 こちらこそよろしくお願いします。
 自分も何処か受け持てる所を考えなくては。

>>123
 恐縮です。
 それでは未完成の拙文ですがこちらに載せてみます。
 前作品の最後に現れた式神の役割が判らなかったので
 その辺は完全に憶測で進めています。ご了承ください。

127復讐者は傀儡と共に:2006/03/12(日) 22:03:09
……それは、一言で言えば「人形」だった。
身の丈六尺程度の人の形を持った、真っ白なのっぺりとした六体の怪物。
彼らはアインを包囲するかのように降り立ち、そのまま円陣を崩さずに沈黙する。
「な、何これ……?」
「………」
その包囲の中に共に置かれる形になったしおりも、その異様な光景に動けずにいた。
同様にアインもしおりを手にかけようとした動きを解き、様子を伺う。
「(……カオス、何か分かる?)」
「(フン……こりゃ『使い魔』みたいなモンじゃな。魔法使いとかの類が
  自分の手を汚さんでいいように操る手下って所じゃ)」
「(強さは?)」
「(普通の人間が相手なら強敵じゃろうが……ま、ワシなら楽勝よ。一体一秒、六体で六秒……どうする?)」
アインの問いにカオスは軽く答える。
ぱか。
その時、人形の頭に当たる部分に空洞が生まれた。
「「「「「「……会いたかったよ、本当に」」」」」」  
六体の口が同時に動き、全ての方向から響く声。
その口調はあくまで静かだが、その下の激情ははっきりと感じられる。
「朽木双葉ね」
それに対し、あくまで無感情に答えるアイン。
『アンタは星川を殺した』
「………」
『アイツは、ノリは軽いし、軟派なヤツだったけど……このゲームを
 ぶっ壊そうと真剣に考えて、動いてた』
「………」
『それを、アンタは何も聞かずに殺した!』
次第に感情が溢れてくる。
『……だから、アタシはアンタを殺す。ゲームをぶっ壊すのはそれからよ』
「………だから?」
アインは無造作に答えた。

128復讐者は傀儡と共に:2006/03/12(日) 22:04:12
「ッ!」
「彼がエーリヒを殺したのは事実よ。それもまた、動かない事だわ」
怒りのあまり息を飲む気配。対してアインは全く表情を崩さない。
数秒の沈黙、それを破ったのは震える双葉の声だった。
『……安心したよ、これで本当に躊躇無くアンタを殺せる!』
「貴方では私は倒せないわ」
『ハッ、舐めてくれんじゃないさ!』
挑発的とも言えるアインの言葉に、双葉は激昂して答えた。
同時に周囲の式神がぐにゃりと歪む。のっぺりとした頭部に凹凸が生まれ、
六尺あった丈は急速に縮まり、手足がほそくなってゆく。
つるんとした肌は次第に服となり、皮膚となり、色を纏う。
そして怪物であった姿は人影となり、人影は……
「!?」
初めてアインの顔に動揺が浮かぶ。
桃色の髪、穏やかな表情。細い手足に透き通るような肌。

―――式神たちは、涼宮遙の姿に変貌していた。

『あの男から聞いたよ、アンタの事、色々とね……』
「……それででた行動がこれ?」
『今の表情だけで充分答えは出たよ。効果ありってね』
「……………」
アインが腰を落とし、足に力を込める。
『さあ、それじゃ……!』

『『『『『いきますね、アインさん』』』』』

五人の遙は同時に口を開き、アインに飛びかかった。

129復讐者は傀儡と共に:2006/03/12(日) 22:04:52
ほぼ同じタイミングで地面を蹴り、真正面に突っ込むアイン。
『!?』
そのまま正面にいた遙の横を高速ですり抜け、振り向く事無く森の茂みへと飛び込む。
『アハハ♥』
『逃がしませんよ!』
『大人しくしてください!』
『アインさんっ!』
遙の姿の式神……コピー遙とでも言うべきか。彼女達も口々に言葉を発しつつ
アインの背を追う。
そして、後に残されたのは……
「……ちょ、ちょっと待って……!」
突然周囲に誰もいなくなり、しおりははたと我に返った。
慌てて更にその後を追おうとする。しかし、
『邪魔はさせないよ』
「ッ!」
背後の声に、しおりはとっさに振り向いた。
果たして、まだそこに一体白い影が立っていた。
先ほどアインを追ったのが五体……その残り一体である。
『アイツを殺すのはアタシなんだ、アンタにはこいつの相手をしてもらう』
その言葉を合図に、また式神がぐにゃりと歪み―――
「マ……!?」
式神は、アズライトの姿となっていた。

130復讐者は傀儡と共に:2006/03/12(日) 22:06:15



藪を越え、枝をくぐり、木陰から木陰へと移る。
「(全く、つくづくお嬢ちゃんは不器用じゃのう)」
動きを止める事無く走るアインの手の中で、カオスは毒づいた。
「(何がいいたいの?)」
「(さっきのアレ、わざとあの子の怒りを煽ったじゃろ?)」
「(……………)」
アインは答えない。
「(お嬢ちゃん、わざと『憎い仇』を演じようとしとる)」
「(……………)」
「(安っぽい罪悪感は逆効果じゃぞ?)」
「(そんなつもりは無……)フッ!」
カオスに反論しようとした途中でアインは身体を捻り横に飛んだ。
瞬間、アインが一秒後にいたであろう位置を横切る遙の爪。
良く見れば、その指先は鉤爪のように鋭く尖っている。
『アインさん』
『アインさん♪』
『アインさ〜ん』
更に次々とアインの周囲に降り立つコピー遙。
その中の一人がトコトコとアインの前に進み出る。
『アインさん……お願い』
アインは動かない。爪を振り上げる遙。
『ここで』
動かない。振り上げが頂点に達する。
『死んで』
降ろされる爪。
『下さ―――』
動かな―――

131復讐者は傀儡と共に:2006/03/12(日) 22:10:47
『ガッ!?』
獣のような叫び。
「………」
アインの手の先、無造作に上げられたカオスの切っ先が遙の胸を貫いていた。
「私の腕の中にあの時の感触がある限り……どこまで精工でも貴方達は偽者よ」
静かに宣告し、剣を引き抜くアイン。
『ア……!』
遙は苦悶の声を上げるが、それが止む前にその全身は青い炎に包まれ、燃え尽きる。
使役者から授かった命を失った式神の最後の姿である。
ざわっ
残り四体の遙の気配が変わる。全員が爪を構え、威嚇するように包囲を狭めようとする。
が、アインの速度はその反応を遥かに上回っていた。


書いていたのはここまでです。この後式神星川が出撃し、
アイン「双葉は私に復讐しようとしている。それなら……」
カオス「負けは無い、か。全く……可愛げの無い嬢ちゃんじゃわい」
と、アインの前に姿を現す事を確信して締め、その次の対双葉決着編に
持ってゆく方向で考えていました。
駄文失礼。

132とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/12(日) 22:41:33
おつかれさまです。
手段を選ばない双葉の必死さと、不器用なアインの描写が良かったです。
面白かったです。

ただいま、素敵医師の過去シーンを書いているけど、とても難しい。
大昔の彼が出てくるわけでもないのに。
でも、深夜に一本あげれそうです。

133 ◆/0/OloR40U:2006/03/13(月) 00:48:09
>>126
お疲れ様です。
これも戦闘シーンが格好良くていいですね。

ちょっと所要で昨日の夜が塞がってしまったので
早ければ今深夜。
遅ければ今日の夜。
くらいに此方へ投下します。

134心にただ降り積もる(前編・1) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:53:22

ここは下水道。
環境の劣悪さに顔をしかめながら、男は鞄の中身を確認する。
薬の数は残り少なかった。 煙草もきらした様だ。
彼はかつて自分を追放した組織の構成員に追われている。
また彼が麻薬の密売を組織に無断で始めたからだ。
その追っ手に麻薬を栽培していた隠れ家を留守中に発見されたのがまずかった。
地上には多くの追っ手が待ち構えている上、ここも捜索されているだろう。
ボディガードのデカオともはぐれたままなのに、これは面倒だと思った。
それに加え最近では低品質の麻薬しか使用していない。
これでは自分に移植してある変性細胞がいつ暴走しだすか解らない。 
そういえば最近、気分も良くないような気がする。
痛覚などとっくの昔に消し去った筈なのにだ。
とりあえず男は自らの躰を維持する方法を考えた。

―――自らを異形化させる

これは駄目だ。
かつて、面白半分にシマント川に実験段階の薬品を垂れ流し、無数の人間を怪物化させてみたことがあったが、男にして見ればそれほど面白くはなかった。
ただの獣に興味は無い。
勿論、その実験薬を自らに使用するつもりなどなかった。

次に男はぼんやりとしながら制御法の手がかりを考え始めた。

135心にただ降り積もる(前編・2) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:54:46

移植している細胞を新しいのに取り替える。
『気力奪い』を使って、他人の気を自分の躰の制御にあてる。
脳細胞の一部を切除・または特定の薬品を注入する。
神や霊を自らに降ろして、その力に期待する。
海外に行って、わざと未知の病気に感染してみる。
オオアナにいって放射能に汚染されてみる。
噂にあったナントカという博士の開発した次元ドアとやらを利用してみる。

ろくでもない方法を次々と頭に思い浮かべながらも、男は仕方なく鞄から薬を取り出し、注入する準備を始めた。
男がそれらの方法を取るには、もう時間と技量が無さ過ぎたからだ。
断念せざるを得なかった。
男は薬を体内に注入し、恍惚とした表情のまま自らの躰を見回してみた。
全身火傷の包帯だらけで、変形した頭部。
白衣と貞操帯を身に付け、異臭を放ち続けている。
もっとも男は自分が不潔で悪趣味などとは思ってないのだが。
表面上、いつもと変化は無いように見える。
だが、男には自らの肉体の劣化が激しくなっているのに気づいていた。

―――まもなく朽ち果てて死ぬ

男に死の実感は薄かった。
だが、未練はある。
もっと開発した薬を使い続けたい。
新たな快楽を得られ続けられるのもある。
それ以上に新たな薬を作り続け、使用する行為そのものが男にとって重要だった。

136心にただ降り積もる(前編・3) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:55:55
              ●


投与してから幾分か時間が過ぎた。
もう薬はほとんど残っていない。
地上に出るしかない、と男は思った。
また殺されるかもしれないが、運がよければまた蘇生して、隙を見て薬物を奪えるかもしれない。
時間が無い、なぜなら男の頭部が脈動を始めたからだ。
梯子を目指しながら、男はこれまでの研究のことを思い出し……否、思い出せていた。

137心にただ降り積もる(前編・4) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:56:56

            ●

彼が子供の頃に故郷の海岸で出会った、屈強な外国人。
ある亡国の格闘家でもあり、薬理学者でもあったその男は不老不死を求めていた。
彼はその学者の思想の一部に同調し、医者になることを志した。
出会って数年後にその学者は何故か急速に老化して死去したが、一応弟子でもあった彼は研究成果である『変性ガン細胞のサンプル』を手にしていた。
自分と学者の成果を世界に役立てたいと強く望むようになった彼は、『それ』の欠陥部分を補うべく研究を始めた。 
実験対象は自分だけにするつもりだった。
亡くなった学者は拉致を望んでいた節があったが、彼はそこまで非情にはなれなかった。
自分が人体実験に適するようになるには、一流の格闘家のような強靭な肉体と精神、そして高度な気功術を会得する必要があったからだ。
彼はまず薬理学の勉強をしながら、身体を鍛えた。
だが現実は厳しかった。
薬剤師の免許を取ることはできたが、実験に満足に耐えられると思える程までは強くなることが出来なかったからだ。
それに加え、医師免許取得試験に落ちた。
金銭的に余裕がなかった彼は自分に失望して悔やんだ。
彼は薬売りとなった。その時点では研究はほとんど進んでいなかった。
ある日、彼の行きつけの風俗店のスタッフから誘いがあった。
モグリの医者にでもなってみないかと。
最初は拒否したが、夢を諦めきれない彼は渋々、その誘いに乗った。
それから彼の環境が変わった。
大金が入るようになったし、コネもできた。
話し好きだった彼を慕う患者も多く出来た。
彼は趣味でも合った風俗店通いも辞め、私財で新薬を開発し始め、自分が中毒にならないよう気を配りながら、実験を進めた。
ただ1人で。
分かち合う同士もほしかったが、研究内容が内容だけにある程度安全に行えるまでそれを口外したくなかった。
ある日、海外のオカルト本を集めてみた。
それらには神の器となる人間の事や、北方のある国の洗脳術の事などが書かれていた。
それらは彼が住んでいる所では、実在さえ立証されてないものだったが、あの学者から聞かされていた話の中にもあったことから、一応参考程度には目を通した。
彼は非合法なことに手を染めてはいったが、極力、研究の実験に他人は使わなかったし、麻薬の開発や買売を避けていた。
彼は自分の力で患者に感謝されるのが、何よりの喜びだと思っていたからだ。
しかしその反面、研究の成就の願いは消えずに心の奥深くに残っていた。
ある日、彼の祖国ニホンが大国ウィミィに戦争を仕掛けられた。
彼は研究が中断されるのを悔しがりながらも、医師として当然の務めを果たそうとした。
研究はまだ実用段階に入っていない。
その事実が彼にとって一番悔しかった。

138心にただ降り積もる(前編・5) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:57:50

           ●

開戦直後、彼は戦火に巻き込まれた。
全身火傷を負い、痛みにのた打ち回りながら生死の境をさ迷った。
そんな彼を救おうと多くの者が治療を試みた。
彼の命は助かった。
モルヒネを大量投与し、痛みを消し去ったおかげで。
そして、彼の心に禁忌は無くなった。
皮肉なことにそれがきっかけで彼の能力は更に上がり、研究も一応の完成を迎えた。
変性ガン細胞が躰になじんだ。
彼は人間的な容姿と心を代償に、かりそめの不死を手に入れた。
自制心の無くなった彼は、日々その狂気の度合いを深め続けた。
戦時中、研究の大きな手がかりになるだろう患者が彼の前に現れた。
赤毛の女に連れてこられた子供。
その子供は高い治癒能力を持つ血液をその身に宿していた。
彼はそれに気づかなかった。 治療して返した。
以前の彼なら気づいただろう、その時の彼は新しい麻薬の開発に余念が無く、気づけなかったのだ。
彼の研究はもう進まなかった。

そんな男の名は長谷川均。

戦時中から、男は素敵医師と自ら名乗るようになった。

139心にただ降り積もる(前編・6) ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 01:59:48
                ●

素敵医師はまるで普通人が白昼夢を見ているような感覚に包まれながら、歩を進めた。
こつ…こつ…と軽やかな足音が聞こえたような気がした。
素敵医師はそれに気を止めなかった。
薬を手に入れるのが先決だからだ。
突如、周囲が完全な闇に包まれた。
彼がその異変に反応するよりも早く、目前に白い塊が出現する。

『それ』は白鯨に酷似していた。

             ●

「キミなら、そう言ってくれると思ってたよ」
 主に異世界人同士で行われる殺人ゲームの管理スタッフとしてのルドラサウムからの誘い。
 報酬は永遠の命と、現状の改善。
 素敵医師に断る理由などなかった。
 むしろ、この状態でなくても望むところだ。
 ゲームの説明はルドラサウムの部下からされるという。
 素敵医師はすぐにでも、異世界に旅立っても良いと思っていた。
「その前に、前払いをしておかなきゃねー」
 彼らの目前に赤黒い球体が現れた。


             ●

 飲み込んだ赤黒い球体は血の味がした。
 これで躰の崩壊は止められるはずだ。
 ルドラサウムから報酬とその前払いの説明を受けた彼に突如、睡魔が忍びこむ。
「そうそう……言い忘れたけどー」
 素敵医師は、どこかとぼけた感じの神の声を聞き逃さないように耳を傾けた。
「キミの願いさー、もしかしたらゲーム中に叶うかも……」
 素敵医師は口を開けた。
「……知れないよ〜。 これって、キミだけのサービスかな?キャハハハハハハハハ……」
 ザドゥにとって耳障りなその笑い声は、素敵医師には心地良く聞こえた。

              ●

素敵医師がいなくなった異空間。
ルドラサウムはさっきまで彼がいた空間を見つめていた。
その口元には無邪気な笑みが浮かんでいた。

――――それは正和37年 シコク某所での出来事


             ↓

140とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/13(月) 02:09:37

前半部分、試験投下終了です。
屈強な学者は『大悪司』世界のクレイジーナックル2ラスボスをイメージしてます。
正直、このエピソードの作成には苦労しましたし、迷いました。 
素敵医師関連の伏線はこれでほとんど回収できるかな?
変に素敵医師を喋らせると、完成できないので無口にしました。

実は後半部分も投下する予定でしたが、見落としがあり投下は今日か明日になりそうです。
この前半部分、話として読めるかどうか疑問な内容ですが。

141 ◆/0/OloR40U:2006/03/14(火) 03:03:44
付け足そうと思ったシーンの出来がイマイチ……。
今日無理だったらつけたすの止めてそのまま投下しようorz

142とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/14(火) 23:35:19
本スレ投下します。

143とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/15(水) 00:24:49
投下終了。
本当はもっと進める予定でしたが、バランスが悪くなりそうだったのでああなりました。

次は決着2歩手前くらい進める予定です。

144 ◆/0/OloR40U:2006/03/16(木) 00:24:43
決算期って帰してもらえませんよねorz

145 ◆/0/OloR40U:2006/03/18(土) 02:47:43
えーと、本当に申し訳ない。
今週の日曜に無理でしたら、狭霧たちの続き書きたい方いたら書いてくださいorz
此方のは空白の時間を埋める形でも十分対応できる話ですので……。

146とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/21(火) 20:57:16
今日の深夜あたりに一本投下できそうです。

>>145
連絡が遅れてしまってすいません。
あの6人の話のネタのストックはあるので、今週中にここに投下できると思います。

あと、智機のプランナー謁見話の伏線として、アインと素敵医師との決着の直後の
展開(ネタバレ)でメール欄を考えてるんですが宜しいでしょうか?
出来れば今夜中にまたここに書き込みたいと思います。

147とある参加人 ◆98ZwrBkTNw:2006/03/22(水) 01:17:54
投下終了。
また前半部分が膨らんでしまいました。
もっと先の展開に進めたかったです。




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