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『劇場版プリキュア』を楽しもう!

1運営:2013/02/17(日) 18:03:31
プリキュアシリーズの映画及び、オールスターシリーズの映画について語り合うためのスレッドです。
ネタバレな話題もOKです。また、これらの映画に関するSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※映画の視聴が未だといった方は、閲覧されないようにご注意お願いします。

2名無しさん:2013/02/22(金) 22:13:06
む、娘用にUSBキーボード買ってやろうかな・・・

ttp://shop.toei-anim.co.jp/feature/mini/special_201302_02.html

3名無しさん:2013/02/22(金) 23:38:49
>>2
USBキーボードいいね! 欲しくなってきたw
文字が読みにくくないのかな〜と、それだけは心配。というか、高かったw
耐水ポスターがコスト的にも手ごろかなあ。風呂場に貼ったら痛いけどwww

4ナイト:2013/02/23(土) 05:17:19
来月のnew stage2について話したりしませんか?

5名無しさん:2013/02/23(土) 08:41:48
new stage2では、キュアパッションにセリフがあるらしい。
ならピーチたちはもちろん、他の旧作シリーズの出番にも期待が持てるね。
個人的には、キュアエコーが登場しなさそうなのが寂しい……。

6ナイト:2013/02/23(土) 08:55:19
パッションやビートやタルトも出るみたいだかピーチ達も喋って欲しいですね。
エコーが出なかったのは残念ですが、いつかきっと

7名無しさん:2013/02/23(土) 11:52:38
先週のドキドキプリキュアのCM見てたら、もしかして初代から全員台詞ある!?って期待しちゃったんですが。
わたし、信じてる(笑)

8名無しさん:2013/02/23(土) 18:00:24
今年も勇気出して映画館に足を運ぶとするか(笑)

9名無しさん:2013/02/23(土) 20:36:17
前売り券の絵だとほかのプリキュアがほぼ全身横向きなのにベリーは体が正面を向いててバストラインがいい感じに見えるw
さすがmktn!

10名無しさん:2013/03/08(金) 06:48:49
なんか近付いて来た♪
まこぴーは間に合うのか!?

11名無しさん:2013/03/10(日) 09:44:15
ドキドキ!で映画バージョンのオープニング来たっ!
いきなりタルトが登場したんでびっくりした。なんか、エラそうに先生やってるし!
やっぱりみんな台詞ありそう♡
フレッシュ、ハトプリ、スイートが出会う場面がなんか興味深かった。
まず、えりかが真っ先にアコちゃんに駆け寄ってなでなでするところ(笑)
アコちゃんもえりかには素直に甘えるんだな〜。この二人がこんな仲良しなのが面白い。
ラブ、つぼみ、響の主人公チームが集い、
せっちゃんとブッキーがエレンに駆け寄り、
奏がニコニコと、美希、いつき、ゆりさんに歩み寄る。
なるほどね〜、って感じでした。

12名無しさん:2013/03/17(日) 18:43:39
いよいよ公開しましたね!
どなたか行かれましたかぁ?

13名無しさん:2013/03/17(日) 21:56:41
私はまだ観に行けてません。毎年5月のゴールデンウィーク辺りにギリギリ滑り込んでますw
評判はどうなんでしょうね?

14名無しさん:2013/03/18(月) 20:26:55
映画か…
行きたいな〜

15名無しさん:2013/03/20(水) 18:39:04
行ってきました!
プリキュア32人、さすがに全員には台詞無かったですけどね。
しかぁし!初代がカッコいい!!
そして、パッション&ビートが!マリンが!マリンがぁっ!
スマイルとドキドキのコラボも良かったし、メインのストーリーも良かったです。
ミラクルライトを力いっぱい振りまくる子供たちの姿も嬉しかったし、
「こんなに泣ける話だったんだ・・・」とハンカチを握るお母さんの姿も嬉しかったでランス♪
もう一回行っちゃうかもな・・・(笑)
SSは、終了した辺りで書く・・・かも。

17名無しさん:2013/03/23(土) 23:52:33
映画良かった!喋らなかったプリキュアもそれぞれ存在感あって楽しめました
パッションビートのシーン後にピーチメロディが並んで飛ぶとこ、何か語り合ってましたよね
あれだけで私には妄想広がって満足ですw

18一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:21:47
こんばんは。
映画のSS、というより、映画の宣伝にも使われているとあるシーンからの妄想を、ただ単に綴ったものです。
あのシーンの裏側で、実はこんなことがあったんじゃないかなぁ、と・・・。

タイトル:Waiting Time

妄想が膨らんで長くなりました。5レスお借りいたします。

19一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:22:29
「出来た。これでよし、っと。」
 グレルは、封をしたばかりの七通の手紙を、満足そうに両手で抱え上げた。
 中に入っているのは、プリキュアパーティーのお誘いを述べるグレルの映像だ。異次元へと通じる魔法のポストに手紙を放り込むと、グレルは後ろに立っているエンエンに、にやりと笑ってみせた。

「準備オッケー。あとはプリキュアたちがやって来るのを、待つだけだ。」
「あ、あの・・・グレル。」
 エンエンが、恐る恐る話しかける。
「プリキュアって・・・この世界まで、その・・・どうやって来るのかな?」
「そんなもん、プリキュアなんだから、簡単に来られるんじゃねえのか?」
 グレルは事も無げに言ってのける。そんなグレルを、エンエンは相変わらずびくびくした様子で見ながら、それでもしっかりと、首を横に振った。

「いくらプリキュアでも、そう簡単に異世界には行けないよ。そりゃあ中には、異世界までだって一瞬で移動できるプリキュアもいるけど・・・。」
 エンエンは、教科書の『キュアパッション』の項目を思い浮かべる。もう何度も何度も読み返した、憧れが一杯に詰まったプリキュア教科書。クラスの誰も知らないことだけど、もういつでも好きなページを完璧に思い出すことが出来るほどだ。
 もっとも、教科書に載っていることだけが、プリキュアの全てではないのだけれど・・・。

「ふん。だったらそいつと、そいつの仲間だけでも来られるだろ?運悪く全員が集まらなくたって、そんなこと気にすんなよ。」
 そう言い捨てて、おーい、と影の元へと駆け戻って行くグレル。
「グレル、待ってよ。」
 エンエンは、慌ててその後をパタパタと追いかける。

(プリキュア・・・本当に、この目で見ることが出来るのかな・・・)
(でも・・・もし本当にやって来たら、プリキュアは・・・)
 頭の中を、そんな声がぐるぐると回る。
 自分はいったい、プリキュアに来てほしいのか、それとも来てほしくないのか――エンエンには、それが自分でも、どうしてもわからなかった。



     Waiting Time



 その手紙がラブたちの元に届いたとき、四人はダンスレッスンを終えて、いつものようにカオルちゃんのドーナツカフェでくつろいでいるところだった。
 最初に手紙に気付いたのは、シフォンだ。まるでチョウチョか鳥のように、ひらひら、ふわふわ舞い降りて来る封筒に、キュア〜!と目を輝かせて飛び付いた。
「ラ〜ブ〜!」
「ん?それ、なーにー?シフォン。」
 ラブが封筒を受け取って、しげしげと眺める。
 宛名は無い。封筒の表紙に、特徴的なハートと星の模様が一面に描かれている。一体どこから落ちて来たんだろう、と封筒を裏返したとき、封が剥がれて、中から一筋の光が立ち上った。

「わっ!」
 驚く四人の前で、明るい光の帯の中に、子狸のような姿が現れる。葉っぱで出来たようなお面を被ったその使者は、ぺこりとお辞儀をして話し始めた。
「プリキュアの皆さん、こんにちは。僕たちの妖精学校で、プリキュアパーティーを開くことになりました・・・」
「うわぁ、プリキュアパーティー!?行く行く〜!ねぇ、いつ?どこで?」
 途端に目をキラキラさせて、小さな使者に話しかけるラブ。そんなラブに、しぃ〜、っと人差し指を立てるせつな。
 ラブが慌てて口を噤むと、子狸のような妖精は、パーティーの日時と、妖精学校に来てほしいという口上を二度ほど繰り返し、光と共に、すーっと封筒の中に消えた。

「えっ?ちょっとぉ、引っ込んじゃうの?」
 思わず封筒を覗き込むラブに、祈里が苦笑する。
「ラブちゃん。さっきのって、ただの映像なんじゃないかな。えっと確か、ホログラムだっけ。」
「えっ?」
 驚くラブを尻目に、せつながニコリと笑って祈里に頷く。

20一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:23:12
「そっか、ビデオレターみたいなもの、ってことね?まぁ、アタシたち宛だってことは間違いないんだし、行くっきゃないわよね。」
「うんっ、もっちろん!楽しみだなぁ、またみんなに会えるんだぁ。」
 勢いよく身を乗り出す美希に、再びキラキラと輝き出すラブの瞳。それを嬉しそうに眺めていた祈里が、何かに気付いたように、せつなの方に向き直った。

「妖精学校って、今タルトちゃんが行っているところよね?せつなちゃんがアカルンで送ってあげたの?」
 祈里の問いかけに、せつなは静かに首を横に振る。
「ううん。妖精学校から迎えが来たの。だから、そこがアカルンで行ける場所なのかどうか、確かめないと。」
 アカルンでの瞬間移動は、アカルン自身か、移動するメンバーの誰かが知っている場所でなければ、転移できないのだ。
「そっかぁ。でも、大丈夫だよ!もしもアカルンで行くのが無理でも、きっと何かいい方法が見つかるよ。」
 力強いラブの言葉に、せつな、美希、祈里の三人が顔を見合わせて、誰からともなく笑顔になる。
「そうね。何てったって、アタシたちには・・・」
 美希がそう言いかけたとき、ふいにラブのリンクルンが軽快な音楽を響かせ始めた。


 ☆


「嗚呼!やっぱりプリキュアやってて良かった・・・。この来海えりか、いずれはファッションデザイナーとして社交界デビューも夢では無いけれど、まさかその日が、こんなに早くやって来るとわぁ!」
 右手にぎゅっと封筒を握りしめ、目と口を全部真一文字にして、完全に自分に酔いしれているえりか。その雄々しすぎる姿に、コフレがはぁ〜っと溜息をつく。
「えりか、落ち着くですぅ。その発想は、大袈裟過ぎるですっ。」
「何よぉ、コフレ。だって、パーティーだよ?正式な招待状が来ちゃったんだよぉ?」
 興奮冷めやらぬえりかの手が、コフレのほっぺたをムニッとつまむ。
「でも、どう考えても社交界とは程遠いわね。」
「うん。だけどプリキュアのみんなが集まるんだからさ、とっても楽しいよ、きっと。」
 ゆりにやんわりとたしなめられ、いつきにニコニコと励まされて、えりかはニハハ・・・と笑って、やっとコフレを解放した。が、ハイテンションになっているのは、えりかだけではなかったようだ。

「また皆さんとお会いできるなんて・・・。今は総勢28人。いいえ、シプレの話ですと、新しいお仲間も加わったんですよね。となれば・・・ついに30人超え!そんな沢山のお仲間が一堂に会するなんて、これこそ空前絶後、合縁奇縁、一期一会の奇跡の宴!ぜぜぜ是非とも全ての方と、勇気を出してお話しなくては〜!」
「つぼみぃ〜、今からそんなに興奮してどーするの。」
 自分のことを棚に上げる、という言葉のお手本のようなえりかの発言に、ゆりといつきが思わず吹き出す。
 四人はいつものように、薫子の植物園に集まっていた。所用で出かけた薫子に留守番を頼まれたつぼみが、四人分のお茶を入れたところで、どこからともなく封筒が舞い込んだのだ。

「それで、妖精学校ってどこにあるの?どうやって行けばいいのかしら。」
 ゆりが笑いをおさめて、極めて現実的な質問を口にする。
「あ、それならきっとコフレが・・・」
「なんで僕ですか!?僕たちは、えりかたちと会う前はずっと、心の大樹に隠れていたんです。学校なんて、行ったことないですぅ!」
 えりかの軽い一言に、コフレがムキになって言い募る。シプレも、うんうん、と力強く頷く。その様子を見ていたポプリが、いつきの膝の上からふわりと飛び上がった。
「コッペ様〜!コッペ様は、妖精学校がどこにあるか、知ってるでしゅかぁ?」
 しかし、胸元のふかふかしたハートマークに、ぽふっ、と飛び込んだポプリに、コッペはわずかに黒目を動かしただけだ。

「困りました。せっかくのパーティーなのに、行き方がわからないのでは・・・」
 不安そうに呟くつぼみに、えりかがパチリと片目をつぶって、人差し指を立ててみせる。
「大丈夫だよ、つぼみ。あたしたちには、強い味方がたっくさんいるじゃん。ほら、つぼみも言ってた、イチゴの知恵ってヤツよ!」
「苺・・・ですかぁ?」
 えりかが怪訝そうに首を捻り、いつきが一瞬考えてから、クスリと笑う。ゆりだけが少し怒ったような顔で、「えりか、それを言うなら・・・」と言いかけたとき。
 テーブルの上に置かれたつぼみの携帯電話が、突然ブルブルと震え出した。
「あっ・・・すみません。」
 慌てて電話を手に取ったつぼみは、発信者の名前を見て、その顔をぱぁっと輝かせた。

 ☆

「へぇ、妖精学校でプリキュアパーティーかぁ!きっと美味しいもの、たっくさん食べられるんだろうなぁ。」
 今にもよだれをこぼさんばかりの響に、奏が呆れた視線を送る。

21一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:24:14
「響ったら、お行儀が悪い!大体、それより先に考えることがあるでしょう?」
「へ?ああ、やっぱり手土産は、奏のカップケーキだよね〜。」
「もうっ、友達の家に行くわけじゃないんだから・・・」
「え〜、持って行かないのぉ?奏のケチ。」
「だからっ!そういう意味で言ってるんじゃないの!」
 いつもながらの二人の掛け合いに、エレンは苦笑し、アコは我関せずとケーキを頬張る。
 響たちの元に封筒が届いたとき、四人とハミィ、それにピーちゃんとフェアリートーンたちは、いつものように奏の家でカップケーキを食べていた。ひらひらと舞い降りて来たそれを、響が見事にワンハンド・キャッチ。その途端に子狸の映像が現れたので、慌てふためいたエレンが二階に居ることを忘れて、ベランダから飛び降りそうになったほどだ。

「二人ともいい加減にしてよ。奏が言いたいのは、どうやって妖精学校まで行くのか、ってことでしょう?」
 しびれを切らしたアコが、呆れた声で二人を止める。奏はコクリと頷き、響はキョトンとして、え?そうなの?と呟いた。それを見て、ピーちゃんがアコの膝の上で、何故か得意げに、ピー!と鳴く。
 小学生のアコが中学生の二人をたしなめると言うのも、傍から見ればおかしな光景だが、四人にとってはそう不思議でも無いことだ。

 アコの言葉に、今まで一心にケーキを食べていたハミィが、ぴょん、とテーブルの真ん中に躍り出た。
「それなら、ハミィに任せるニャ。」
「ハミィ、妖精学校の場所、知ってるの?」
 エレンが期待に満ちた瞳で、親友の顔を覗き込む。
「もちろんニャ。前に一回だけ行ったことがあるから、虹の鍵盤は、ちゃあんと出せるニャ。」
 メイジャーランドの妖精であるハミィは、異世界間を結ぶ虹色の鍵盤を生み出す力を持っている。その鍵盤を使えば、誰でも異世界までひとっ飛びに移動することができた。

「良かった。じゃあこれでひと安心ね。」
 奏はようやく笑顔になったが、響の方は、いつになく真剣な顔で仲間たちを見回した。
「ねぇ。あたしたちは行き方がわかったけど、他のみんなはちゃんと行けるのかなぁ?」
 そう言われて、三人も顔を見合わせる。
「みゆきちゃんたちは、本の扉があるから大丈夫よね。」
「咲たちも、大空の樹から行けるわよね、きっと。のぞみたちには、シロップが居るし。」
 仲間たちの顔を思い浮かべながら、アコと奏が確認するように言い合う。すると、エレンがぼそりと呟いた。
「せつなのアカルンは、使えるのかな・・・。確か、行く人が知ってる場所じゃないと行けないって、前に聞いたことがあるんだけど。」
「つぼみちゃんたちも、移動手段、何か持ってるのかしら。」
 奏も心配そうな声を出す。すると黙って聞いていた響が、バン、とテーブルに両手をついて立ち上がった。

「いいこと考えた!じゃあさ、みんなで待ち合わせして、一緒に行こうよ。それならみんな、どうやって行けばいいかって、悩まなくていいもんね。」
「それいいかも!あ、でも響、待ち合わせって、みんなに加音町まで来てもらうの?」
 奏の問いに、響はちょっと考え込む。
「うーん、みんなの住んでる街の、ちょうど中間くらいのところで落ち合えたらいいんだけどな〜。」
「響、それは止めた方がいいわ。慣れない場所からだと、ハミィが方向を間違えるかもしれないもの。」
 アコがずばりと指摘する。エレンにも力強く頷かれて、ハミィは、ハニャニャ〜、と少し情けない声を出した。

「そうなると・・・なぎささんたちには、加音町はちょっと遠すぎない?」
「そっちは咲ちゃんたちに任せようか。じゃあ、まずはラブとつぼみに連絡取ってみる。」
 響が携帯を取り出して、何だか嬉しそうにアドレスを探す。その様子を、三人も笑顔で見守った。

 ☆

「はい・・・はい・・・えっ?・・・あ、ちょっとスミマセン。もう、えりかぁ!少し静かにして下さい。響さんの声が、聞こえないじゃありませんかぁ!」
 直前まで、「アコはっ?アコは元気?背ぇ伸びた?」と言い続けていたえりかは、涙目のつぼみに睨まれて、ようやく口をつぐんだ。
「はい・・・ありがとうございます、助かります!・・・ええ、すっごく楽しみですね!」
 ようやくスムーズに会話が出来るようになったつぼみが、電話口で頬を紅潮させる。その顔を、えりかもいつきも、そしてゆりも、期待に満ちた眼差しで見つめた。

「お待たせしました。響さんから、加音町で待ち合わせして、一緒にパーティーへ行こうって誘って頂きました。ラブさんたちも、ご一緒だそうです。」
 電話を終えて、嬉しそうに三人の顔を見回すつぼみ。だが。
「へぇ、響たちは、妖精学校に行く手段を持ってるんだ。ねぇ、どうやって行くの?」

22一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:24:49
 いつきの興味津津といった一言に、つぼみは再び涙目になった。

「それが、その・・・ハミィちゃんが空に虹色の鍵盤を出して、その上を、すいーっと飛んでいく、って言うんです。」
「へぇ〜!面白そう!」
 目を輝かせるえりかから、つぼみは困ったように顔をそむける。その様子に、えりかがニヤリと笑って、つぼみの肩を叩いた。
「つぼみぃ、怖いんでしょ〜?」
「そっ、そんなこと!でも、プリキュアに変身してならともかく、空を飛んでいくってことですよね?だ・・・大丈夫なんでしょうかぁ?」

「大丈夫ですぅ。」
「虹の鍵盤からは、絶対に落ちたりしないです!」
 シプレとコフレが、目の前までやって来てつぼみを励ます。
「ホントですかぁ?」
「二人がそう言うなら、安心ね。」
 ゆりもそう言って、まっすぐにつぼみを見つめて微笑んだ。

「ねぇ、つぼみ。」
 えりかは、つぼみの肩に手を置いたまま、少し真面目な顔になる。
「さっき、妖精学校までどうやって行こうかって悩んでたときさ。あたし、絶対に何とかなるって思ってたんだ。あの仲間たちが付いてるんだから、きっと誰かが連絡をくれるって。ね?その通りになったでしょ?」
「えりか・・・。」
 ニコリと笑うえりかの顔を、つぼみはまだ涙で潤んだ瞳で見つめる。
「響たちがあたしたちを誘ってくれて、一緒に行こうって言ってくれてるんだからさ。怖がらないで楽しもうよ。ほら、イチゴの知恵を信じてさ!」
 そう言って、ポンとつぼみの肩を叩くえりか。微笑みながらしっかりと頷いたつぼみは、次の瞬間、何だか恨めしそうな目つきでえりかを見据えた。
「わかりました。・・・でも、えりか。」
「なーに?」
「その諺は、『苺の知恵』じゃありません。」
「・・・へ?」
「生涯にただ一度きりの出会い・・・『一期一会』です!」
「えぇ〜!イチゴじゃないのぉ!?」
「苺じゃないです!大体、どうして苺だと思うんですかぁ!」

 言い争うつぼみとえりかを、いつものように楽しそうに見つめるいつき。その表情を、ポプリは彼女の膝の上から、じっと見つめる。
「いちゅき〜?」
「なんだい?ポプリ。」
「ポプリもいちゅきの、イチゴイチエなんでしゅか〜?」
 心配そうに自分を見上げる妖精を抱き上げて、いつきはその小さな顔に頬ずりする。
「そうだよ。ポプリも、シプレも、コフレも、つぼみも、えりかも、ゆりさんも、それから他の仲間たちも、み〜んな、ね。」
「嬉しいでしゅ!」
 ポプリはまだ、他の妖精全員とは喋ったことがない。今度のパーティーではみんなに話しかけて、自分も新しいイチゴイチエを作ろうと、ポプリは密かに、小さな胸を高鳴らせた。

 ☆

「やったぁ!みんな聞いて。響がね、あたしたちみんなで待ち合わせて・・・」
「加音町から一緒にパーティーに行こうって言うんでしょ?つぼみたちも一緒なのよね?ほとんど聞こえてたわよ。」
 電話を切って、勢い込んで話し始めたラブの後を、美希が苦笑気味に引き取る。
 電話の向こうの響の声は、興奮しているせいかヤケに大きくて、電話から漏れ聞こえる声だけで、何を言っているのか分かるほどだったのだ。
「良かったね、ラブちゃん。それにしても、ハミィちゃんって凄いのね。そんな能力を持っていただなんて。」
 大きな目を見開いて感心する祈里に、せつなが微笑む。口には出さなかったが、かつてはエレンも同じ力を持っていたと、本人から聞いたことがあった。

「加音町かぁ。今度こそ遅れないように、電車の路線はアタシが完璧に調べるとして・・・駅から待ち合わせ場所までの行き方は、ちゃんと訊いたの?ラブ。」
「うん、バッチリ!待ち合わせは、『調べの館』だって。」
 美希の問いに、ラブは自信満々で親指を立ててみせる。それを見ても、三人は何となく不安そうに顔を見合わせただけだった。何しろラブのせいで待ち合わせに遅れたことは、一度や二度ではないのだ。

23一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:25:46
「あとで響に頼んで、駅からの道順、メールで貰った方がいいわ、ラブ。」
「はーい。ねぇねぇ、それよりさ、せつな。加音町と言えば、やっぱりラッキースプーンのカップケーキだよねっ。帰りにちょっとだけ寄り道して、食べて帰ろうよ!」
「呆れた。パーティーでご馳走食べるんじゃないの?」
 道順のことなんか既に頭には無いラブに、さすがのせつなも肩をすくめる。
「だってぇ、みんなの顔を思い浮かべたら、何だか一緒に、みんなの町の美味しいものが浮かんで来ちゃったんだもん。『PANPAKAパン』のチョココロネ、美味しかったよねぇ〜!」
「うん。あと、小町さんとこの豆大福も。」
 うっとりと中空を見つめるラブに、祈里までもが幸せそうに呟く。それを見て、美希の顔がわずかに引き攣った。

(マズイわ。みんなの町の美味しいものって言ったら、必ず出てくるわよね、アレが。)
「えーっと、それからぁ〜」
「あ、アタシちょっと・・・カ、カオルちゃん!飲み物のおかわり・・・」
 なおも先を続けようとするラブを制して、美希はこそこそと席を立つ。だが、その背中からラブの声が追いかけて来て、美希は思わず耳をふさごうとした。
「そうだ、忘れてた!ほら、あのソースが香ばしくってさぁ、ほっかほかの、あかねさんの・・・」
「あかねちゃんの、お好み焼きでしょ?美味しいわよね。あの鮮やかなコテ返し、また見せてもらいたいわ。」
「・・・え?」

 意外な声が聞こえてきて、美希が思わず振り返る。すると、こちらをちらりと眺めて一瞬だけニヤリと笑うせつなと、目が合った。
「わっはー!そうだよね、せつなっ。ああ、思い出したら食べたくなってきちゃったよぉ!」
 ラブが再び、大喜びで騒ぎ始める。美希は、自分も一瞬だけせつなに膨れっ面をしてみせてから、カオルちゃんのワゴンへと向かった。

「なんか楽しそうだねぇ。持ち寄りパーティー?いやぁ、やっぱ餅よりドーナツだよね、グハッ!」
 カオルちゃんが、相変わらずのテンションで話しかけてくる。
「うーん、持ち寄りじゃあないんだけど・・・。でも、カオルちゃんのドーナツは、お土産に持っていこうかしら。」
 美希が弾んだ声でそう言って、飲み物を受け取る。
 一瞬、美希の脳裏にパノラマのように絵が浮かんだ。カオルちゃんのドーナツを囲んで、目を輝かせる大勢の仲間たちと、その真ん中で満面の笑みを浮かべている、自分たち四人の姿が。それがもうすぐ現実のものになるかと思うと、頬が緩むのを抑えきれない。

「そりゃあ歌が上手い人って言ったら、エレンとうららだよね〜。でも、歌はみんな好きだよね。またみんなで一緒に歌いたいな〜。」
 どうやらようやく、話題が変わってくれたらしい。久しぶりに会う仲間たちのことを、実に嬉しそうに話している三人の元へ、美希も笑顔で駆け戻った。

 ☆

 その光景を目の当たりにしたとき、エンエンはもちろん、さすがのグレルも息を呑んだ。
 雲の彼方から架けられた、大きな大きな虹の橋。その上を十二人の少女が、楽しそうに笑いさざめきながら飛んで来たのだ。
 先頭の三人は、何だか怖々飛んでいる少女を真ん中に、瞳に強い力を感じる二人の少女が両脇を固めている。
 続いては、口を真一文字に引き結び、気合い全開で飛ぶ少女。そんな彼女を、両側の二人が穏やかに見守っている。
 お次の三人は、それぞれ妖精を大事そうに抱きかかえて、楽しそうに談笑している。
 最後の三人は、最年少らしき少女の手を引く最年長らしき少女と、それをニコニコと見守る少女だった。

「す・・・凄い。なんでみんな、あんなにキラキラしてるんだ?」
 思わずそんな言葉をこぼしたグレルだったが、隣りでうっとりと呟くエンエンの言葉を聞いて、途端に顔を曇らせた。
「こんなにたくさん・・・。ねぇ、グレル。やっぱりプリキュアって、普段からみんな友達なのかなぁ?」
「・・・・・・。そ、そんなこと知るかよ!」
 グレルがそう叫んだとき、彼の後ろに、音も無く影がやって来た。

「へへっ、ヤツらが変身して来なかったのは、ラッキーだな。おい、始めようぜ。」
「・・・そうだな。」
 グレルが影と一緒に、くるりと踵を返す。エンエンは、仕方なくその後に続きながら、最後にもう一度振り返って、虹と共に煌めく少女たちの姿を見つめた。
(もうすぐ、ここにプリキュアがやって来る。プリキュアに会ったら、僕は――僕は本当は、どうしたいんだろう・・・。)
 心の奥に眠る、その疑問の答えが分かるまで、じっと待っている時間は、残念ながら今のエンエンには無いようだった。

24一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:26:18
 ひまわり色の太陽は、今日ものんびりと穏やかに、妖精たちの世界を照らしている。
 プリキュアたちも、プリキュアの妖精たちも、妖精学校にいる妖精たちも、これから何が始まろうとしているのか、まだ知る由も無かった。

〜終〜

25一六 ◆6/pMjwqUTk:2013/03/28(木) 00:28:34
うわー、最後の二行が入らなかった・・・。6レスになりました。
失礼しました!

映画、良かったですよ。コメントに書かれていた方もいらっしゃいましたが、
喋らないプリキュアも存在感の出し方に工夫がされていたように思います。
ストーリーも良かったし、パッション&ビートと、それを迎えに来る
ピーチ&メロディのシーンは、嬉しかったです。

26名無しさん:2013/03/28(木) 20:56:08
早速SS書いてくださりありがとうです!
映画まだ見てないけど、ますます見たくなりました。
読むの映画見てからにしようかなって思ったけど、
やっぱ待ち切れなくて読んじゃいましたw
フレッシュのシーン多めなのが愛を感じます!

27運営:2013/04/24(水) 23:19:09
こんばんは、運営です。
makiray様より、プリキュアオールスターズNS1と2の素敵なコラボ長編SSを頂きました!
保管庫に保管済みですので、是非お読み下さい。

・タイトル
思いよ、届け――プリキュア オールスターズ NewStage 2.1――

28名無しさん:2013/04/25(木) 04:38:47
『思いよ、届け――プリキュア オールスターズ NewStage 2.1』読ませていただきました。
公式作品じゃないかと思うほどに、キャラのセリフや行動、お話の展開に無理が無かった。
とても自然に読めました。これって、SSに一番必要なことなんですよね。
坂上あゆみちゃんが可愛い! 伏せますが○○○の登場も、とてもとても嬉しかった。
『NewStage 2』は大満足の映画なんですが、エコーが出ないのだけは残念でした。あのシーンには感謝してますけどね。
だからこの小説は、「まさしくこれが読みたかった!」なお話でした。
これで終わりなんでしょうか? 後日談か、書き足しがあると嬉しいなぁ〜と思います。
とても面白かったです。ありがとうございました。

29名無しさん:2013/04/25(木) 20:14:40
このお話、大好きです。「オマエくん!」と呼ぶあゆみの声が聞こえてきそうでした。
そして、最終話で思わず泣きそうになりました。
NS2にもしもエコーが出てきたら、きっとこんな展開になったんじゃないかと思わせる、
とても素敵なお話でした!

30六花♪:2013/09/08(日) 13:29:02
「今年でプリキュアは終わり」という噂が出ているのですが、今年は
New Stage3(オールスターズ)の映画はあるのでしょうか?

31名無しさん:2013/10/19(土) 15:32:03
スイートの映画、アニマックスでやってて久しぶりに観た。
本編の続きと言うか、補足と言うか・・・って感じの映画だな。
メフィストが、改めて父として夫として歩み出し、アコが加音町に残って響たちと一緒に戦うことを決める。
そうやって見ると、これはアコたち家族の物語なんだけど、その中で、響と奏とか、エレンとハミィとかの絆も描かれてる。
改めてみると、クレッシェンド・キュアメロディ、滅茶苦茶強いわ。
んで、不均等なハートが絆の力で大きなハートになって撃ち出されるパッショナート・ハーモニーが、やっぱり良かった!
最後の黒猫と白猫が戯れる何気ないカットも好きだな。

32名無しさん:2013/12/07(土) 17:00:29
最後の駆け込み(笑)で、ドキドキ!の映画観てきました。
ネットで書かれている感想通り、あれはマナの映画という色合いが強かったです。
でも、私が一番印象に残ったのは、強すぎるダビィと、キュアソードの新技でした。
カッコよかった!

33名無しさん:2014/02/21(金) 00:17:04
今さらですがNS2の感想。
マリンですね。最後の最後にもヤらかしましたし。
スーパーマンみたいに飛んでいくシーンや
うつ伏せで固まってるシーン、変顔で登場するシーン、
NS3でもヤらかすんでしょうか。ヤらかしてほしいです。
初代カッコ良かったなぁ〜セリフがいっぱいあって嬉しかった。
5GOGOがちょっと描写少なめだったのが残念だったけど。
そしてエンディングめちゃめちゃイイですね!
振り付けがカッコイイから。
NS3はハピプリのEDをみんなで踊るわけですが、
あの可愛い振り付けをムーンライトさん踊るのか…
まあとにかく、
『映画 プリキュアオールスターズ New Stage3 永遠のともだち』
3月15日より全国公開

34名無しさん:2014/02/23(日) 01:36:10
NS3、どうやらラブさんの声の出演はあるらしい!
せっちゃんは?美希たんは?ブッキーは?と気になるところだが、
それだけで映画に対する期待が高まるっ!

35名無しさん:2014/03/09(日) 12:56:53
坂上あゆみちゃん……キターーーー!!!!
ふーちゃん出るかな、出たら敵が死ぬよねw

makirayさん、出番です! あゆみちゃんSS期待してますw

36名無しさん:2014/03/09(日) 12:59:40
>>35
NS3の公式HPに、ふーちゃん居たよ!
敵の運命は決まったw
私もあゆみちゃんSSに超期待!!

37makiray:2014/03/15(土) 11:55:27
“NS3”見てきました。あゆみストとしては満足で、つけくわえることはありません。
 じゃ、お話を書かないのか、っていうと、それとこれとはまた別の話ってことでw

38名無しさん:2014/03/15(土) 12:56:29
>>37
早い!
そうですかぁ。わたしも早く観たいな。
じゃあじゃあ、SSは期待していいのね、いいのねっ!?

39名無しさん:2014/03/16(日) 13:38:31
>>37
自分もNS3観てきました!
あゆみちゃんスキーとしてはもう、大満足です。
と言いたいところですが、やっぱり読みたいあゆみちゃんSS……。
makirayさんのあゆみちゃんSSが超好きで……。できたらその後を描いた長編がいいな〜(チラ

40名無しさん:2014/03/18(火) 23:20:11
あゆみちゃん人気ですね〜。可愛いいですよね、ルックスも気弱な性格もw
映画館の大画面でお顔を拝みたいものです♪

41名無しさん:2014/03/21(金) 13:30:28
>>37
>>39
私も観てきました!
バトルのコラボが必見でした。
それと、ネタバレになっちゃうけど一言だけ。
いくら手の数がちょうどいいからって、「タコはやめて〜っ!!」

43名無しさん:2014/04/20(日) 09:20:30
NS3、まだやってるんだね
今からでも見にいこうかなぁ

44運営:2014/05/13(火) 23:13:52
こんばんは、運営です。
makiray様より、プリキュアオールスターズNS3の新作長編を頂きました。
「いっしょ 〜 プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a」
全5話・完結。保管済みです。

45名無しさん:2014/05/14(水) 20:16:20
>>44
わーい、makirayさんのエコーだ♪
NS3で、最後の方結構唐突にも感じられた展開を、完璧に補完してくれましたね!
フーちゃんがいつもあゆみの傍に居るって結末が、凄く嬉しかったです。
ありがとうございました!!

46名無しさん:2014/05/18(日) 15:20:38
>>makirayさん

「いっしょ 〜 プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a」読ませていただきました。素晴らしいSSですね、とてもとても感動しました。
本編の展開を大切にしながら、独自の物語を無理なく組み込んでいる。あゆみの気持ちが心に優しく響きます。
冒頭の保育園のシーンからして素敵でした。後、このSSも名セリフのオンパレードですよね。

>悪夢を乗り越えて精神的に成長するチャンスを奪ってしまっていることになる。

素晴らしいです……。

>私も前に、お母さんとケン力して…それで、あんな事件を起こしました。今だったら、それがとてもつまらない原因だったことがわかります。多分、バクのお母さんと子どもも、気持ちの些細なすれ違いが原因だと思うんです。

ここも凄かった。オリジナルストリーでありながら、NS1のエピソードを3に繋げて、よりしっかりした物語になっています。
ふーちゃんもいじらしくて良かったです。グレルとエンエンも好きだけど、やっぱりあゆみのパートナーはふーちゃんがいいな。

とてもとても好きな作品になりました。楽しかったです! ありがとうございました。
欲を言うと、完結後に保管庫に一挙掲載よりも、投下だとなおのこと嬉しかったかな。手間はかかりますが、次回以降、ぜひ検討お願いします。

47名無しさん:2014/05/21(水) 22:08:58
NS2のオープニングの響のダッシュ凄い!!
そのまま未来まで駆け抜けていきそうな勢い(歌詞ともリンクしてる)!
何回見ても笑える!!

48名無しさん:2014/06/08(日) 22:52:36
>>47
砂埃上げすぎ!!

49名無しさん:2014/08/20(水) 00:47:37
NS3、さすがに全員に見せ場を作るのは難しいと思うけど、
パイン・ミューズ(両方とも黄キュアやで)の扱いはあまりにも……
レモネードとピースはコンビで活躍しててよかった。
なにより大嫌いなタコ、それも巨大ダコで攻めるというmktnへの歪んだ独特な愛がよかった。

50名無しさん:2014/09/28(日) 22:37:00
ハピプリ映画仕様オープニング、スタートですね。
増子美代さん、映画進出おめでとう!(まずそこかよw)
ラブリーのバージョンアップモードが、すっごく羽がデカい!
ハピプリの場合は元々のバージョンで羽があるので、「天使」だけでは飽き足らないんだろうなぁ。
ラブリーらしいバトルの猛々しさと、神々しさの両方を期待しちゃうな。

51アクアマリン:2014/10/19(日) 21:03:07
 こんばんは、私事ですが、先週ハピネスチャージプリキュアの劇場版を見てきました。
とても素晴らしい内容で、もう1度観に行こうかと考えています。

 ネタバレ的なものは差し控えておきますが、「プリキュアに出来ることは何か」を改めて問い掛けてきた作品であると感じました。

52名無しさん:2014/10/21(火) 21:44:57
>>51
おひさです。
そうか〜面白そうとは感じてたけど、やっぱり面白いのか。
BD販売まで待とうかと思ったけど、観に行くかなあ。恥ずかしいけど・・・。

53名無しさん:2015/03/08(日) 10:04:56
今日の姫プリのオープニング、映画仕様になってたけど、そこにイース様の映像が!
もうこれだけで三回は観に行く理由が出来た。

54名無しさん:2015/03/09(月) 22:07:49
イース様は映画初登場ですよね!
個人的には舞の体操着姿がツボです。オールスターだと等身が伸びてスタイルアップ!
せっちゃんはなんか幸薄そうなんですけど……
のぞみ、髪伸びた?女らしくなったというか、去年に引き続き絶好調のような気がします。
きっと、シャンプーを変えたんだと思います。

55makiray:2015/04/15(水) 23:35:16
 どうも、makiray です。
 毎年恒例 (ぇ)、オールスターズ映画にキュアエコーが登場するパラレル版を投下させていただきます。

 いつものごとくダラダラと長いので分割しますが、大量投下になる見込みですので (汗)、二週間ほどかけてチビチビと、という感じで行きたいと思います。
 保管は一括でやっていただけると嬉しいです。

 タイトルは「Echo, Next Stage -プリキュアオールスターズ 春のカーニバル V1.1-」。
 しばらくお付き合いください。

56makiray:2015/04/15(水) 23:36:43
Echo, Next Stage (1/17)
-----------------------

「おひとり様ですか…」
 オドレンは坂上あゆみに対して不躾な視線を投げてよこした。
「一人じゃない。三人だ!」
 グレルが怒鳴る。エンエンは隣でハラハラしていた。
 春のカーニバルに招待されたあゆみとグレル、エンエンはハルモニア王国に到着したところである。
「お前、まさか、天下のキュアエコーを知らないって言うんじゃないだろうな!」
「天下の、って…」
 あゆみが困ったように笑う。
 オドレンは上を見て考えているようだった。
「確かに、聞いたことはあります。横浜の街を救ったんだとか」
「この人はちゃんと覚えててくれてるよ、グレル」
 エンエンが嬉しそうに言った。
「じゃぁ、通っていいんだよな」
「それは、まぁ」
「歌って踊っていただくことになりますが、大丈夫ですか?」
「あ、それはちょっと…」
 ウタエンの同じく不躾な言葉に尻込みするあゆみ。
「なんだよ。招待しておいて、そんなことまでやらせるつもりか」
「グレル、落ち着いてよ」
「まぁ、結構です。
 妖精のブースに席をご用意しましょう。一緒にご覧になってください」
「わかればいいんだよ、わかれば」
 こちらへ、と案内されて歩き出す。
「あゆみ、帰ったら歌とダンスの練習するぞ」
「え、あたしが?!」
「そうだよ。あんなやつらにバカにされて悔しくないのか。俺がみっちり仕込んでやる」
「グレルが…?」
「文句あんのか?」
 あゆみの母が外出しているときに、ダンスのゲームをやってみたことがある。グレルのダンスは、ダンスというより元気に暴れているだけのようにしか見えなかった。それはそれで可愛いらしいのではあるが。エンエンは動きが軽やかで意外に上手い。
「じゃぁ、教わろうっかな」
「おう。覚悟しとけよ」
 あゆみとエンエンは顔を見合わせて笑った。

 ブースに入ると、既に着席していた妖精たちがざわめいた。
「キュアエコー…」
「キュアエコーだ」
「え?」
 あゆみが、その雰囲気に困惑している間に、わーっと妖精たちが殺到した。皆が「こんにちは」「はじめまして」と口にする。あゆみはそれをおうむ返しにするのがやっとで、名前を覚えるのは無理だった。
「あゆみちゃん、すごい人気だね」
「そりゃそうだ。俺たちのキュアエコーだからな」
 グレルが胸を張る。
 キュアエコーが活躍することは多くないし、プリキュア教科書に載ったのも最近のこと。グレルやエンエンと出会ったことで意識して変身することができるようにはなったのだが、キュアエコーは文字通りの「伝説の戦士」なのだった。
「グレルだ」
「エンエンだ」
 自分たちでプリキュアを探し、自分たちでプリキュアの妖精となった二人も同じように人気者だったらしい。エンエンは照れていたが、グレルはますます胸を張ることとなった。

57名無しさん:2015/04/16(木) 09:44:22
>>56
待ってました、makirayさんのエコーSS!
続き正座で待機しておりますw

58makiray:2015/04/17(金) 00:02:50
Echo, Next Stage (2/17)
-----------------------

「すげーっ!」
「すごいよ、グレル!」
 ステージが中休みに入る。
 あゆみも拍手が止まらない。
 なんて素敵なんだろう。こんなに人を楽しく、こんなに人を笑顔にすることができるなんて。
(私もあんな風に歌ってみたい。ダンスをしてみたい)
 以前のあゆみだったら「私になんかできるはずない」と言って何もせずに諦めたに違いない。だが、今は違う。やってみたい、やってみよう、と思っていた。グレルやエンエンと一緒に練習をして、来年のカーニバルには三人で出よう、そう決めていた。
「この俺を唸らせるなんて、大したもんだぜ」
「そう言えば、グレルの歌は聞いたことがないよ」
「バ、バッカ野郎。俺はダンスも歌もすごいんだぞ!
 よし、聞かせてやる」
 しかし、「あー」と言いかけたグレルはいきなり咳込んだ。
「グレル、大丈夫?」
「喉が渇いて調子が出ないんだ。歌は今度な」
「えぇぇ…」
「なんだ、その疑いのまなざしは」
「ジュース貰ってくるね」
 あゆみが立ち上がった。
「俺が行くよ」
「いいよ。ここで待ってて」

 ホールの外に出ると、オドレンが悠然と歩いていた。その後から、大きめの箱を持ったウタエンがついてくる。あゆみは、あの人たちは裏方もやってるのか、と驚いた。
「おや、キュアエコーさん。
 楽しんでいただいてますか」
「はい。
 一緒に歌って喉が渇いたので、飲み物を貰おうと思って」
「飲み物ですか。プリキュア自ら」
「友達の妖精がはしゃいで歌いっぱなしなんです」
「なるほど」
 オドレンとウタエンがなぜか視線を交わす。
「あの。
 飲み物はこちらの部屋ですよね」
「あ、えーっと」
 なぜかウタエンが慌てているように見えた。
「こちらは妖精専用のお部屋なんですよ。ちょっとプリキュアには狭いので」
「はぁ…」
「こちらへどうぞ」
 オドレンが恭しくドアを開けた。
「灯りが」
 何も見えない。真っ暗だった。
「高級店の雰囲気を狙ってみたんですよ。さぁ、どうぞ中へ」
 お香を焚いたような匂いがする。あゆみの足がなぜか動くことを拒んだ。この中に本当にジュースやお菓子が並んでいるのだろうか。
「遠慮せずに、どうぞっ!」
 不意に背中を押されて、あゆみの体が中に飛び込む。そこに何があるのかを見て取るより先に、ドアが閉められた。また暗闇。そして、鍵をかける音。
「オドレンさん、ウタエンさん!
 開けて!
 出してください!」
 扉は思っていたよりも重い。ビクともしなかった。靴音と、低い笑い声が遠ざかっていく。あゆみは何度もドアを叩いた。
「開けて!
 開けてください!
 開け…て…」

59makiray:2015/04/17(金) 22:55:17
Echo, Next Stage (3/17)
-----------------------

「兄貴、いいんですか。あのドアを叩く音で誰かが気づいたら」
「あそこは元々、城の衛兵どもを閉じ込めておこうと思って、春眠草の鉢を並べてある。いつまでも起きてはいられんさ」
「それにしても面倒なプリキュアですねぇ」
「まったくだ。妖精から離れようとしないんだからな。まぁ、逆に言えばグレルとエンエンは放っておいてもよくなったってことだな。ほかのプリキュアどもへの目くらましになるだろう」
「手間が省けましたね」
「さて、変身アイテムは後いくつだ」
「もう少しです」
「いくつだって聞いてるんだ!」
「あ痛」

「遅いな。俺はもう喉がカラカラどころかガラガラだ」
「どうしたんだろう」
 エンエンは周囲を見回した。ステージが一段落したのは確かだが、なんだか静かすぎる。
「俺はあゆみのことは大好きだけど、もうちょっとキビキビして欲しいと思うことはあるぞ。これは一度ビシっと言ってやらないとだめだな」
「ねぇ、グレル。妖精の数が減ってるような気がするんだけど」
「え?」
 言われて見てみると、いくつかのブースに分かれて座っている妖精たちの何人かの姿が見えなくなっている。どのブースにも空席が目立つようになっていた。
「失礼な奴らだな。せっかくプリキュアが俺たちのためにショーを見せてくれてるのに」
「グレル…」
 エンエンがじっと見ている。その目は不安のために濡れ始めていた。
「泣くなよ、こんなとこで!」
「でも」
 グレルは腕を組んだ。改めて周りを見る。確かに妙だ。それと、あゆみが戻ってこないこととは関係があるのだろうか。
「臭いな」
「あゆみちゃんを探しに行こうよ」
「そうするか」
 そのとき、オドレンとウタエンがホールに飛び込んできた。大きな袋を持っている。その後から、プリキュアたちが追いかけて来る。
「私たちの変身アイテムが盗まれたんです!」
「なんだって?!」
 グレルとエンエンは顔を見合わせた。あのふたりは悪い奴だったのだ。そして、あゆみが戻ってこないこととは何か関係がある。
「エンエン、行くぞ!」
 立ち上がると同時に床が動いた。妖精たちのブースが壁に吸い込まれていく。向かいのブースの妖精たちはその中に閉じ込められてしまったようだが、すでに立っていた分だけ、グレルとエンエンの動きは早かった。足元の床が滑る中、バランスを取って外に出る。他の妖精たちもそれに続いた。
「あゆみちゃん!」
「俺たちが行くからな!」

60makiray:2015/04/18(土) 22:51:47
Echo, Next Stage (4/17)
-----------------------

〈許…ん〉
 その声は突然、頭の中に響いた。
〈許さ…ぞ!〉
「!」
 あゆみは飛び起きた。だが何も見えない。不愉快な甘さの香りが充満している。頭の中の靄を払おうと振ってみたが、頭痛が増しただけだった。
(そうだ。
 オドレンさんとウタエンさんに閉じ込められたんだ)
 あのふたりは何か企んでいる。みんなに知らせなければ。
 体が重い。あゆみはゆっくりとあたりを見まわした。光が漏れている場所がある。言うことを聞かない体を引きずって近づいてみると、そこはどうやら扉だった。隙間から外の光が差し込んでいるのだった。幅はほんの数ミリというころか。叩こうにも体が動かない。力が入らないまま押してみたが、扉はびくともしなかった。
(さっきの声は)
 怒りを帯びた恐ろしい声。あれは何だったのだろう。
 キュアエコーとなってから、人の強い気持ちが飛び込んでくるようになった。それは怒りであったり、悲しみであったりと様々だったが、あそこまで強い怒りは初めてだった。
〈春…カーニバ…は古来……受け…がれてきたもの。儂はそれと……換えにこ…ハ…モニ……国を外…から守っ……た。それ…蔑ろにす……はどう……つもりだ、人間…も!!〉
 あゆみは息苦しさを感じた。それはこの不快な匂いのせいだけではない。この声の持ち主が発する激しい怒りがあゆみの呼吸を奪ったのだ。
 とぎれとぎれの言葉の中からその意味を想像してみた。どうやら声の主は、「春のカーニバル」を楽しみにしていたのだが、それに不満を持っているのだ。
 あゆみは扉に体を押し付けた。この隙間から入ってくるわずかな風がこの部屋の匂いを薄めてくれるのではないかと思った。考えなければ。
「春のカーニバル」を台無しにしたのは誰だ。これははっきりしている。オドレンとウタエンだ。彼らが何をしようとしたのかはわからないが、招待した相手を閉じ込めておくことが「カーニバル」の本来の姿であるはずがない。
〈…!!〉
 一瞬、呼吸が止まったかと思った。その怒りに強さに喘いだあゆみの口の中にまた甘い匂いが飛び込んできた。あゆみは朦朧とし始めた意識を取り戻そうと唇をかんだ。この怒りを放っておけば恐ろしいことが起こる。
(待って!
 お願い! 待ってください!!)
〈なんだ〉
(…届いた)
 あゆみの声が届いたらしい。
〈何者だ。
 なぜ姿を隠している。儂から隠れようとはいい度胸だ〉
(私の名前は、坂上あゆみ。
 あなたの声が聞こえたので――)
〈人間か。
 人間風情が儂と話をしようなどと、笑止千万。
 己の不遜を思い知るがいい!〉
(やめて!!)

61makiray:2015/04/19(日) 22:59:31
Echo, Next Stage (5/17)
-----------------------

「グレル!」
 城を出て走り回る妖精たち。エンエンの悲鳴に足を止めると、城のはるか遠くに、遠近感を失わせる巨大な影があった。
「ドラゴン…」
 頭が空転する。泥棒の次は怪獣か。ハルモニアでは一体、何が起こっているのだ。
〈滅びよ、人間ども!〉
 その声自体が破滅をもたらす災いだった。
 ドラゴンが声とともに発した息は、まるで壁が迫ってくるかのような勢いでやってくる。
「みんな、捕まるんだ」
「手をつないで!」
 グレルとエンエンが叫ぶ。他の妖精たちは慌てふためいていたが、そう言われてある者は柱に抱き付き、届かない者はお互いに手をつなぎあった。そこはやはり、プリキュアとともに戦いを経験したふたりにしかない余裕だったのかもしれない。
「来るぞ!」
 それは嵐のようだった。妖精たちの体は枯葉のように翻弄されたが、その小さな体は逆に荒れ狂う風に逆らわず、うまく力を逃がしていた。
 だが、その嵐は石で造られた頑丈な建物をも崩してしまう。
「あ!」
「こっちだ!」
 妖精たちが必死に手を伸ばす。その手が奇跡的につながった。歯を食いしばる妖精たち。それはまるで折り紙で作ったリボンのようだったが、激しい嵐の中でその飾りを見ることができる者は誰もいなかった。
 やがて、何時間も続いたかと思われる嵐が収まった。どうやら、飛ばされてしまった妖精はいないようだった。エンエンはほっと息をついた。
 だが、城の様子は惨憺たるものだった。高い塔は倒れ、頑強だった塀は崩れ落ちている。プリキュアは、ほかの妖精たちは一体どうなったのだろう。
「あれ…なんだ?」
 何かが光っている。瓦礫の隙間から金色の光が漏れていた。グレルとエンエンはゆっくりと近づいた。
「掘ってみるぞ」
「危ないよ」
「誰かが埋まってるかもしれないだろ」
「でも、その光…あれ、どこかで見たような」

62makiray:2015/04/20(月) 22:51:24
Echo, Next Stage (6/17)
-----------------------

「俺が掘り出す前に思い出せよな」
 グレルはその小さな山によじ登ると瓦礫を取り除き始めた。他の妖精も手伝い、バケツリレーのようにしてよけていく。
「あ、わかった!」
「何の光だよ――あ!」
「フーちゃん!」
「あゆみ! うわっとっと」
 がれきの中から金色の光に包まれたあゆみが姿を現した。丸い光は自ら瓦礫を押しのけていく。グレルは慌てて飛び降りた。
「あゆみ!
 あゆみ!!」
「…。
 グレル、エンエン。
 無事だったのね」
「こっちのセリフだ!
 どこほっつき歩いてたんだよ。妖精に心配かけんじゃねぇよ!」
 あまりの剣幕に目を丸くしていたあゆみだが、グレルの目じりが濡れていることに気づいて頬を緩めた。
「ごめんなさい。
 ありがとう」
「何言ってるんだよ。こっちも大変だったんだぞ!」
「そうだ。
 ウタエンさんとオドレンさんは?」
「あいつら、泥棒だったんだよ。プリキュアの変身アイテムを盗んで」
「グレル、今はそれよりドラゴンの方が」
「ドラゴン?」
 あゆみはエンエンの視線をたどって振り向いた。そして理解した。そのドラゴンが、あの怒りの声の主だった。
 ゆっくりと立ち上がる。その動きにつれてあゆみの体から金色の光がこぼれた。
「あのドラゴンは、このハルモニア王国の守り神。
 毎年行われる『春のカーニバル』が邪魔されたことで怒っているの」
「そんなことで?!」
 小さな妖精があゆみのもとにかけよった。
「言い伝えでは、あのドラゴンは昔のハルモニア王国を滅ぼしかけたことがあるルモ」
 どうやらハルモニア王国の妖精らしかった。その恐ろしさを知っているのか、声が震えている。
「ドラゴンの大好きな歌とダンスを毎年捧げることで、ハルモニアの守り神になることを約束したのよ。
 それを裏切られた、と思っているの」
「まったく肝っ玉の小せぇやつだな」
「でも、約束を破られたら怒るのも当然だよ」
「話を聞いてもらわなくちゃ。
 グレル、エンエン、お願い」
「おっ、やっとキュアエコーのお出ましだな!」
「行こう!」
(フーちゃんも、お願いね)
 あゆみは、フーちゃんが姿を変えた胸元のキュアデコルに手を当てた。
 それには多くのエネルギーを必要とした。そのためキュアデコルになってから眠り続けていたフーちゃんは、あゆみが閉じ込められていた部屋が崩れたときにその危機を察知して目覚め、金色の光であゆみを守った。その一瞬、それまで切れ切れにしか聞こえなかったドラゴンの声がはっきり聞こえた。ドラゴンの激しい怒り、深い悲しみと絶望が伝わってきた。
 できるだろうか。いや、やらなければ。
 ハルモニア王国の妖精たちは震えながらも祈りをささげていた。それは、崩れ落ちた建物を透かして見えるハルモニアの人々たちもそうだ。彼らにはドラゴンを裏切るつもりなどなかった。逃げ出そうともせずに、膝まづき、許しを請おうとしている。
(その気持ちを届けるのが、私の役目。
 キュアエコーの力はそのためにある!)
 手を伸ばす。右手にグレル、左手にエンエン。
 フーちゃんのキュアデコルから滲み出す光が金色のトライアングルを形作る。
 それが破裂した。
「思いよ届け!
 キュアエコー!」

63makiray:2015/04/20(月) 22:53:05
Echo, Next Stage (7/17)
-----------------------

「え?」
「あれ、なに?」
 お城のテラスに集まっていたプリキュアの視線が空に向かった。
「泥棒とドラゴンの他にまだ誰かいるの?!」
 キュアフローラがパニックを起こして叫ぶ。
「あの光は、敵ではないようです」
「プリキュアっぽいよね」
 キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルが言った。
 白いドレス、淡いクリーム色の髪。
「キュアエコーではありませんか?」
「あゆみちゃん!」
 キュアビューティが指をさす。キュアハッピーの目が輝いた。
「あゆみちゃんもカーニバルに来てたんだ」
 キュアピースが言うと、キュアマーチとキュアピースがキュアハッピーを睨んだ。
「え」
「せやから、あゆみも誘おて言うたやろ!」
「だって、招待状を見たらすぐにでも行きたくなっちゃって…ごめんなさい」
 キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルが振り向いた。
「キュアエコーは何をしようとしているのですか?」
「キュアエコーは、思いを届けるプリキュア。
 きっとドラゴンを説得しようとしてるんだと思う」
 キュアハートが答えると、キュアフローラが力んだ。
「私も行く」
「いえ、様子を見ましょう。
 大勢で行くと、ドラゴンを刺激することになるかもしれない」
 キュアマーメイドに止められ、キュアフローラは不満そうだった。
「任せていいのかな」
 キュアトゥウィンクルの問いに、すべてのプリキュアが頷いた。

64makiray:2015/04/21(火) 22:48:02
Echo, Next Stage (8/17)
-----------------------

〈生きていたのか〉
「お願いです。聞いてください」
〈聞かん〉
「ハルモニアの人たちは、あなたを裏切るつもりはなかったんです」
〈だが、春のカーニバルは穢された〉
「それは泥棒が」
〈ハルモニアはその悪事がなされることを許したのであろう〉
「…」
〈過ちは償われねばならん〉
「私は、あなたの」
〈気持ちがわかるとでも言うのか〉
 キュアエコーはまた口をつぐんだ。
 フーちゃんとつながった瞬間に流れ込んできたドラゴンの意思。それは、深い悲しみと絶望で満たされていた。

 腕をほんの少し振っただけでも家が倒れ、尻尾のうねりだけで町がひとつ破壊されてしまう。ドラゴンは自分の居場所を求めていた。だが、求める行為そのものが人々の暮らしを脅かすのだ。ドラゴンは、矢を射かけられ、体を焼かれた。仲間もいない。それどころか、自分がいつどこで生まれ、なぜそのような姿をしているのかもわからない。心がささくれだっていくのは当然のことだった。やがてドラゴンは、人々から「怪物」「化け物」と呼ばれるようになった。
 そしてさまよい続けたある日、ハルモニアの外れにたどり着いた。音楽があふれ、人々がダンスを楽しむ、常にどこかで祭が行われている喜びの国、ハルモニア。そのメロディを耳にし、リズムを感じたドラゴンは、自分でも知らない内に祭が行われている広場に近づいて行った。
 人々が恐慌状態になったのは言うまでもない。母親は子供を守るために安全な場所を求めて走り、夫は妻を守るために武器を手に取った。
 ドラゴンは言った。
〈歌は終わってしまったのか〉

65makiray:2015/04/21(火) 22:49:35
Echo, Next Stage (9/17)
-----------------------

「なんだと?」
 国王は自分の耳を疑った。いや、その声は耳から聞こえたのではなく、心に直接響いたのだから、間違っているはずはない。しかし、怪物が音楽を求めているなど誰が信じられるだろう。
 信じられないでいるのはドラゴンも同じだった。音楽がこれほど自分の心を明るくするものだとは。ダンスがこれほど気持ちを浮き立たせてくれるものだとは。もっと聞きたい。もっと見たい。歌ってくれ。踊ってくれ!
 祭の中心である祭壇にいた国王は進み出た。
「歌が好きか」
〈あぁ〉
「ダンスが好きか」
〈あぁ〉
「しかし、お前が歌えば嵐が起こる。お前が踊れば大地が裂ける」
〈お前たちの美しい歌と、朗らかなメロディを聞かせてくれ。飛びまわるお前たちの笑顔を見せてくれ。俺はそれで十分だ〉
 国王は、彼の背中で武器を取り怯えている人々を見た。
〈俺はもとより化け物。詩を紡ぎだす舌も、軽やかに跳ねる爪先も持ってはおらん。
 だが、歌はいい。ダンスは素晴らしい。それがあれば、俺は自分が化け物であることを一時だけでも忘れることができる。
 頼む。祭を続けてくれ。その間、動くなと言えば動かぬ、石になれというのなら石にもなる。
 祭の間、俺がここにいるのを許してくれ〉
 王はドラゴンを見ていた目を怯えている人々に移した。そして、もう一度、ドラゴンを見る。
「ドラゴンよ。
 この国にとどまる気はないか」
 人々は抗議の声を上げた。
「ハルモニアにはお前の好きな歌とダンスがある。
 しかし、この喜びに満ちた国を脅かすものも少なくない」
〈俺に、この国の盾となれと言っているのか〉
「難しいことではあるまい。その巨体を見せれば、大抵の者は怯えて引き下がろう」
〈この醜い体が人間の役に立つのなら。
 この化け物が、歌を聴く場所を用意してくれるのなら〉
「ドラゴンよ」
 国王は周りを見渡した。むしろ、人々に向かって話しているようだった。
「自分を化け物と言うが、お前が本当に化け物だとは私には思えん。
 化け物が、歌が止まったと言って泣いたりするものか」
〈ナイタリ…それは俺の知らない言葉だ〉
 ドラゴンは自分の目から涙が流れていることに気づいていなかったのだった。それは、ハルモニアの人々の歌とダンスが呼び覚ました、ドラゴンの中の傷を洗い流すための涙だった。
 国王が笑う。人々もそれに気づいて武器を置いた。
「さっきも言った。この国には歌とダンスがあふれている。
 だが、毎年春に、お前のためにカーニバルを開こう。人々がただひたすら歌い、踊り、笑顔となるカーニバルだ。
 あるいは、遠来の客が一緒に声を揃えることもあろう。新しい踊りをもたらしてくれることもあろう。
 お前のためのカーニバルだ。それと引き換えに、このハルモニアを守ってくれ」
〈王よ。
 その祭を千年も繰り返せば、お前たちの歌と踊りで俺が浄められ、俺が化け物でなくなる日も来るのだろうか〉
「わからんやつだな。
 お前は化け物ではない。
 ハルモニアの守り神になるのだ」

66makiray:2015/04/21(火) 22:52:54
Echo, Next Stage (10/17)
------------------------

 キュアエコーは唇をかんだ。
 そのすべてが否定された。ドラゴンはそう思っているのだ。
 また再び居場所を失い、人々の憎しみの対象となる日が来る、それを恐れているのだ。
 そう。ドラゴンは、怒っているのではない。悲しいのだ。絶望しているのだ。
(どうすれば…!)
 ドラゴンは口を開けた。その奥に真っ赤な炎が見える。
〈あゆみ!〉
 大きな火の玉がキュアエコーの体を包んだかに見えたが、フーちゃんの金色の光がその直撃をかろうじて防いでいた。しかし、自らキュアデコルになるために力を使ったフーちゃんはまだ十分に回復してはいない。その光はか弱いものだった。
〈あゆみをいじめるやつは許さない!〉
「フーちゃん、無理しないで。私、大丈夫だから」
〈あゆみ…〉
「大、丈夫…」

「エコー!」
 真っ赤な炎に包まれたキュアエコーの体が支えを失って落下し始めた。
「あゆみ!」
「グレル、あゆみちゃんが!」
「行くぞ」
 その小さな体でどうしようというのか。それでも黙ってはいられない。走り出そうとしたグレルとエンエンの後ろで声が上がった。
「ルモー!」
 ハルモニア王国の妖精たちだった。彼らは、さっきと同じように手をつないでいた。
 違うのは、そうしてできた輪の上を光が流れていることだった。
「キュアエコーはハルモニアのために頑張ったルモ!」
「だから今度は僕たちが頑張る番だルモ!」
「キュアエコーと一緒に!」
 光の輪は大きく太くなった。七色の渦を巻き、そのまぶしさに辺りが暗く見えるほどだった。グレルとエンエンもその輪に加わった。
「キュアエコー!」
「俺たちの力を!」
「受けとって!」
 ポン、と音がしてその光の輪が浮かび上がった。それは落下してくるキュアエコーの体を迎えるように飛んでいく。
「!」
 キュアエコーの体はその輪の中央で落下を止めた。光の輪は脈動しながら、小さくなっていった。キュアエコーの体の周りをまわっている。そして、まばゆい閃光があたりに飛び散った。
「あれは…」

67makiray:2015/04/22(水) 23:04:39
Echo, Next Stage (11/17)
------------------------

 キュアエコーの白いドレスがまっすぐに伸びる。それは青い空の上でたなびいた。
 クリーム色の髪の周りで金色の輪が太陽の光を反射する。
「あれって…」
「妖精たちの力で、キュアエコーが」
「キュアエコー プリンセス・フォームです!」
「キュアエコー プリンセス・フォーム?」
 キュアエコーの体は再びゆっくりと浮かび上がった。ドラゴンの顔の正面で止まる。
〈お前は、一体、何者なのだ〉
「私はキュアエコー。
 思いを届けるためのプリキュアです」
〈思い、だと?〉
「ハルモニアの人たちが見えますか。
 あなたのために祈っているのが」
〈儂に見えるのは、儂の姿に怯える弱い人間の姿だけだ〉
「違います。
 望んだことではなくとも、あなたとの約束を破ってしまってことを悔いて、謝るために祈っているんです」
〈儂をたばかるつもりなら〉
「あなたを恐れていたら、あそこにとどまったりはしません!」
 もろくなっていたレンガが崩れる。人々は、それに巻き込まれることを恐れて場所を変えたが、そこを離れようとはしなかった。
「私は感じます。
 ハルモニアの人たちの、自分たちを守ってきてくれたあなたへの感謝と、それに報いることができない口惜しさ、カーニバルを穢してしまった自分たちへの憤り」
〈…〉
「これを言ったらあなたは怒るかもしれない。
 私も自分が一人だと感じていたことがありました。誰も私を見てくれない、私なんかいなくなってもいいんだって。それがもとで大きな過ちを犯してしまいました。
 でも、それはただの間違った思い込みだった」
〈…〉
「自分が心を閉ざしていただけだったんです。
 お母さんはいつも私のことを考えてくれていたし。
 新しい学校のクラスメートたちは、私に話しかけるきっかけを探してくれていた。
 そして、フーちゃんは、私のためならどんなことでもすると言ってくれた。
 グレルとエンエンは、私と一緒に戦おうと言ってくれた」
〈同じだというのか〉
「気づいてあげてください。
 ハルモニアの人たちは、あなたのことが大好きなんだっていうことに」
 王が祈っている。女王が両手を合わせている。ふたりは、ひとたびドラゴンが口を開けば、今度こそ崩れてしまうに違いないテラスにとどまっていた。
 ハルモニアの人たちは、形を失ってしまった自分の家のそばで頭を垂れていた。
 閉じ込められてしまった妖精たちは、必死にその声を届けようと頑張っていた。
 そして、それを支え、助けようとしている四十人の光の使者たち。
〈そうか…〉
「わかって――」
〈だが、遅すぎたようだ、キュアエコー〉
「どういう…ことですか」
〈ひとたび咆哮を上げて絶望と怒りに委ね、獣に戻ってしまったこの身はどうにもならん〉
「え…」
〈見えぬか。
 儂の心の臓で生まれた、この世を煉獄に変える炎が〉
 ドラゴンの胸を透かして赤い光が脈打っているのが見える。
〈所詮、儂は化け物、理屈の通らぬ怪物だ。お前の言うことはわかったし、今ではハルモニアの者たちの後悔もわかる。
 だが、この炎を消すことは、もはや儂にもできん〉
「待ってください。私たちが」
〈いや、儂はもう儂ではなくなろうとしている。この邪悪…炎は、な……してもこの世…焼き尽…さんと、わ…の体を乗…取ろう……ている。こ…してお前と話…て……間にも、わ…の心をむしば…、内…から突…崩そ……〉
「守り神様」
〈す…ぬ。ハルモニア…裏切る…は儂…方じゃ。
 下…れ。お前…で焼か…てし……ぞ〉
「守り神様!」
〈のけ、キュアエコー!〉

68makiray:2015/04/23(木) 22:14:22
Echo, Next Stage (12/17)
------------------------

「キュアエコーが!」
「マーメイド、トゥウィンクル!」
「待ってください、飛び出してはみなさんまで」
 キュアフローラは止めるキュアブロッサムに言った。
「キュアエコーが言ったじゃないですか。私たちは同じなんです。ときどきは失敗して迷惑をかけちゃうこともあるけど、歌とダンスが大好きで、それがあれば元気をもらってまたやり直せる。
 きっとわかってくれます」
「行こう」
 プリンセスプリキュアの三人がジャンプした。

 ドラゴンの口を裂くようにして、巨大な火球が飛び出した。それはあたりの景色を蜃気楼のように揺らしながら次第にスピードを増して襲い掛かってくる。
「プリキュア ハートフル・エコー コルティーナ!」
 波打つ光のカーテンがキュアエコーの前に生まれる。カーテンは一時、その火球を柔らかく包みこみ、力を逃がそうとするかのように揺れたが、火球の威力は想像以上だった。光のカーテンを支えるキュアエコーの顔が歪んだ。
「プリキュア ミント・プロテクション!」
「プリキュア サンフラワー・イージス!」
「プリキュア ロゼッタ・ウォール!」
「プリキュア ビート・バリア!」
 地上のプリキュアたちがバックアップする。キュアエコーのカーテンは厚みを増したが、火球の力は衰えなかった。
「マリン、ビューティ、ダイヤモンド、プリンセス、私たちの力で」
「前に出てはだめです!」
 キュアアクアたちはその火球を冷却することを考えたが、キュアエコーの声に止った。見れば、ドラゴンの足元は黒く焦げて煙を上げており、火球の真下の海は沸き立ち始めていた。
「なんてエネルギーなの…」
 キュアホワイトが呆然とつぶやいた。
「あたしたちの力、ぶつけてみる?」
 キュアルージュはキュアドリームを見る。
 しかしキュアソードが、危険すぎる、とつぶやいた。力と力がぶつかって大爆発が起こるか、あるいは、逆にあの火球に取り込まれてしまうかもしれない。
「クローバーボックスで動きを止められるかも」
「完璧に止めてみせる」
「できるって、私信じてる」
「精いっぱい頑張る!」
「通用しないかもしれません」
「どうして?!」
 キュアエースの言葉に、キュアピーチがかみついた。
「悪意がないからですわ」
「え?」
「プリキュアの光は癒しと浄化の光。
 キュアエコーの言うとおり、本当にドラゴンが怯えているだけであり、あれが邪悪な意思を持っての行いではないのであれば、プリキュアの力は通用しません」
「どうすればいいんですか!」
 キュアレモネードが叫んだ。

「守り神様!」
 キュアフローラたちがキュアエコーに並んだ。
「私たちも歌とダンスが大好きなんです!」
「みんなの歌声をハルモニアに響かせたい!」
「素敵なステップでハルモニアを埋め尽くしたい!」
 答えはなかった。
 今やドラゴンの目は濁った赤で塗りつぶされている。そこに「守り神」の面影はなかった。
「お願い、負けないで」
 キュアエコーの頬を涙が伝った。
「私にだってできたんです。
 あなたにできないはずがない。
 自分に負けないでください!」
「ハルモニアの人たちもあなたが大好きなの!」
「みんな、あなたが戻ってくれるのを待っています!」
「わかんないの? みんなの声が聞こえないの?!」
「く…」
 キュアエコーがまっすぐに伸ばしていた腕は、火球の勢いに押され、曲がっていく。体勢を変え、右手で左腕を支えようとしたが、その一瞬が隙となった。

69makiray:2015/04/24(金) 22:49:36
Echo, Next Stage (13/17)
------------------------

「エコー!」
 禍々しくも燃え上がる火球は、光のカーテンの中へ潜り込み、まるで包み紙の中のキャンディのように見えた。だがそのキャンディは、光のラッピングを燃やしていく。ミントの緑が消え、ヒマワリの花びらが散り、金色の壁が砕けた。
「エコー!!」
 キュアフローラが空を蹴った。キュアマーメイドが続き、キュアトゥウィンクルが追いかける。
「!」
「みんな!」
 地上のプリキュアたちと妖精たちは言葉を失った。
「え」
「消えた」
 そこには何もなかった。
 火球も、光のカーテンも。
「どういうこと?!」
「フローラ!」
「マーメイド!」
「トゥウィンクル!」
「エコー!!」
「そんな」
「…。
 あれ。あれ見て!」
 空中の小さな点が大きくなってくる。キュアフローラだった。キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルと一緒に、キュアエコーの体を支えている。
「大丈夫なの?」
 言うまでもない、キュアフローラの安堵したような笑顔が、キュアエコーが無事であることを示している。
「ハニー、お願い!」
 キュアラブリーがそれを迎えようとジャンプした。キュアハニーのバトンは優しい光でキュアエコーを癒していく。
「エコー。
 エコー!」
「あゆみちゃん!!」
 グレルとエンエンが駆けだす。
 キュアフローラたちはゆっくりとテラスに着地した。キュアエコーの体を横たえる。
「エコー、大丈夫?」
「あゆみ!」
「うん…」
「あゆみちゃん…あゆみちゃん…あゆみちゃん!」
「すげぇよ、やっぱ、俺たちのキュアエコーは最高だぜ!」
 エンエンが泣き出し、グレルも泣き顔のまま手を天に突き上げた。
「フローラさん、光は、無事ですか?」
「光?」
 キュアフローラが、キュアエコーの言ったことを理解できず、近づこうとしたとき、足元でかすかな音がした。

70makiray:2015/04/25(土) 22:49:00
Echo, Next Stage (14/17)
------------------------

「あれ」
 それを拾い上げる。
「ドレスアップキー?」
 キュアフローラたちが変身の時に使うドレスアップキーによく似ている。
 振り向くと、キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルも同じようなキーを手にしていた。
「いつの間に」
「エコーからのプレゼント?」
「それは、ドラゴンの光です」
「ドラゴンの…光?!」
 キュアフローラが意味を理解できずに叫ぶ。それはほかのプリキュアも同じようだった。
「わかった」
 エンエンだった。涙も拭かずに話し始める。
「きっと、ドラゴンの火球に込められていた絶望と恐れがそれに変わったんだ」
「…。
 そうか、エコーだから!」
 グレルがうれしそうに飛び上がった。
「どういうこと?」
 キュアトゥウィンクルが覗き込む。
「だから、エコーだからだよ」
「わかんないよ」
「鈍い奴だな!」
「なんですって?!」
「こういうことですか。
 エコー、つまり、山びこは、私たちの声が山肌に跳ねかえってきたもの。
 ドラゴンの火球がハートフル・エコー コルティーナで跳ね返されて逆転してできたのが、このドレスアップキーだ、と」
「あ、絶望が希望に、ってこと?」
 キュアマーメイドの説明に、キュアトゥウィンクルが答えた。
「そして、恐れが思いやりに、怒りが優しさに変わったんだ」
 キュアフローラは自分の手の中のドレスアップキーを見つめた。
「みなさん」
 キュアエコーはグレルとエンエンの力を借りながら立ち上がった。
「ドラゴンは、自分の中にはまだ、ドラゴン自身が制御できない邪悪な部分が残っている、と言っていました。恐れもまだ完全には消えていないはず。
 それを浄化してあげることはできませんか」
 プリキュアたちは海の向こうのドラゴンを見やった。確かに、さっきと同じように、まだ小さくはあるが、胸の部分に赤い炎が透けて見えた。放っておけば、さっきのような大きな火球になる。今度こそ防ぎきれないかもしれない。
「やろう」
 キュアフローラが言った。
「守り神様だって、こんなことしたくないんだもん」
「王陛下も、ハルモニアにはなくてなならない存在だとおっしゃっていたわ」
「それに、このドレスアップキーはドラゴンの中から出てきたようなもんなんでしょ。返さなきゃね」
「うん!」

71makiray:2015/04/26(日) 22:15:43
Echo, Next Stage (15/17)
------------------------

「フローラ」
 キュアブラックの声に、みなが道を開けた。
「あたしたちの力も使って」
 腕を伸ばすキュアブラック。その手から滲み出した光がキュアフローラの周りをめぐった。
 シャイニールミナス、キュアブルーム、キュアイーグレットが続く。すべてのプリキュアの光が城のテラスを満たし、ドレスアップキーに吸い込まれていく。
「俺たちの力も使っていいぜ。なぁみんな?」
「使うルモ!」
 そしてすべての妖精たちの光もそれに加わる。キュアフローラは、ドレスアップキーから伝わってくるぬくもりに目を閉じた。
「あたたかい…」
「フローラ」
「行こう」
「うん。
 エクス-チェンジ」
「モード・エレガント!」
 プリキュア、そして妖精たちは伸ばした手をドラゴンに向けた。
(お願い。
 歌とダンスが大好きだったあなたに戻って)
(みんな待ってるの)
(そして一緒に歌おう!)
「プリキュア サンテーヌ・ルミエール!!」
 光はテラスの上で破裂したかと思うと、ドラゴンの頭上で凝集した。雨のように光の粒が降り注ぐ。ドラゴンは突然のことに驚いたようだったが、やがて手の鉤爪をおさめ、太い尻尾を横たえ、両手をおろした。瞳に光が戻り、胸から透けて見えた炎も小さくなっていく。
 そして、その姿自体も、まるで空に青い絵の具を塗ったように消えていった。
「ごきげんよう…」

72makiray:2015/04/26(日) 22:16:32
Echo, Next Stage (16/17)
------------------------

 代わりに、ハルモニアの町に花びらが舞った。白、ピンク、黄色、青、紫。
「きれい」
 キュアミューズが言った。
「ドラゴンの中にも、ちゃんと素敵なメロディがあるんだよ」
 キュアメロディの言葉にキュアリズムが頷く。
 その花びらが繋ぎ合わせたかのように、城や家、橋や道路が元に戻っていく。花びらが消える頃には、さっきまでのハルモニアが姿を現していた。
「やった…」
「後は」
「ギク!」
「あんたたちの始末よね」
 ミルキィローズが見下ろす。すっかり腰を抜かしていたオドレンとウタエンは後ろずさった。何かにぶつかる。キュアムーンライトとキュアフォーチュンだった。
「あ…きれいな、おみ足で」
「ありがとう」
「王様のご機嫌もうかがった方がいいかもしれないわね」
「はは…。
 ごめんなさいぃ!」

73makiray:2015/04/26(日) 22:18:01
Echo, Next Stage (17/17)
------------------------

「エコー」
 エンエンが指差した。
「花びらがのってるよ」
「うん、きれいだよね」
「その肩のだよ」
 グレルがにやっと笑った。
 肩に手をやるエコー。広げてみると、カラフルな中に金色の花びらが混じっていた。
「こら、フーちゃん」
〈ふふふ〉
「疲れてるから休んでると思ってたのに」
〈なんだか楽しそうだから起きた〉
 キュアエコーが笑う。
 グレルとエンエンも嬉しそうに飛び跳ねた。
〈ドラゴンの声、聞こえたか?〉
「うん」
 ありがとう。
 ドラゴンはそう言った。
 本当に、ドラゴンの中の「獣」の部分が消えたのかどうかはわからない。
 だが、ハルモニアの人々は今度こそ「春のカーニバル」を大事に守り続けるだろうし、ドラゴンがそれに対する感謝を忘れることもないだろう。もう心配はない。
〈フーちゃんが時々遊んであげることにする〉
「うん」
「エコー、歌おうぜ!」
「みんなで踊ろう!」
〈フーちゃんも歌う!〉
「え、でも、まだ練習してないのに」
 グレルとエンエンに手を引かれていくエコー。その後を金色の花びらが追いかけていく。
「パフも歌うパフ」
「お兄ちゃんを置いていくなロマ!」
 城で。
 町で。
 家の中で。家の外で。
 ドラゴンが守る大地で。
 春のカーニバルがまた始まる。

74makiray:2015/04/26(日) 22:19:07
 以上です。
 長々と失礼しました。

75名無しさん:2015/04/27(月) 06:50:20
楽しませて頂きました。面白かった!
あゆみがドラゴンの気持ちに気づくシーン、こだまが返って来てから最後の浄化技、って辺りが特に好きです。
また来年の映画の時も書いて下さいね!!(気が早い(笑))

76名無しさん:2015/04/30(木) 22:14:42
>>74
「じゃぁ、教わろうっかな」←ここ好き。。

77名無しさん:2015/05/01(金) 22:21:31
>>73
読むの遅れました。面白かったです!
本編(NS3)以上にやんちゃなグレルが好き。フーちゃんとか、makirayさんの設定に繋がりがあって、いかにも続きって気がするのも嬉しい。
映画ではやや活躍の場が少ないというか、「登場する意味あるの?」って気がしたドラゴンさんが実にいい役回りで……。
とにかくキャラクターの魅力に溢れたSSでした。GJ!

78名無しさん:2015/08/06(木) 09:02:31
姫プリの映画予告に、ちゃんとゆいちゃんが登場してた。
今度は置いていかれないらしい。
良かった〜♪

79名無しさん:2015/12/23(水) 01:03:06
オールスターズ映画CMにエコー居た! 嬉しい。

80名無しさん:2016/04/28(木) 22:14:06
デラックス一作目のエンディング曲、くどまゆさんが歌う「プリキュア、奇跡デラックス」の
2番のサビと最後のサビの「♪脈々つながる〜」が「♪ニャプニャプつながる〜」に聴こえたので、報告いたします。

81makiray:2017/02/01(水) 23:43:25
 どうも、makiray です。
「プリキュアオールスターズ」をキュエアコー視点で描く毎年恒例のシリーズ、諸事情により大幅に遅れて今頃の公開となりました。えぇ、一年前のお話です。
 競作企画の前座を(勝手に)務めさせていただきますが、例によって長いので、一日一編という感じで行きます。しばらくお付き合いください。
 では「Echo, Back and Forth - みんなで歌うo/~ 奇跡の魔法! Ver.1.1 -」、12 スレ、お借りします。

82makiray:2017/02/01(水) 23:44:52
Echo, Back and Forth (1/12)
---------------------------

「今のは…」
 学校からの帰り道。
 あゆみは足を止めた。
 歌が聞こえたような気がした。
(ル…ラ…)
 周囲を見渡す。
 人々は、忙しそうに、あるいは楽しそうに歩いている。早足で、スキップで。
 今の歌が聞こえたのは自分だけらしかった。
 耳を叩く強い木枯らしがそう聞こえたのではない。今のは確かに歌だった。
(ということは)
 自分にだけ聞こえた、ということは、これは普通の「歌」ではない。CD ショップや配信サイトで聞ける種類のものではないということだ。そして、これはきっと良い知らせではない。
(誰…あなたは誰?)
 あゆみは目を閉じ、その歌の痕跡を追おうとしたが、それはもう消えてしまっていた。
 おそらく、今の時点であの歌が聞こえたのはあゆみ、キュアエコーだけだ。「思いを届ける」プリキュアは、人の強い思いを敏感に察知する。そのあゆみが見失ったのだから、誰にも追いかけることはできないだろう。今度、聞こえたときには逃さないようにしなければ。
 あゆみは、バレンタインに浮かれる街を、それには似つかわしくない厳しい表情で歩きはじめた。

「あゆみ…」
 自分の部屋で難しい顔で考えていると、エンエンが覗き込んだ。グレルも心配そうに見上げる。
 あの歌声は、グレルやエンエンにも聞こえるようになってきた。
 あゆみは、星空みゆきに連絡を取って遠回しに聞いてみたが、彼女たちはそういう歌声はキャッチしていないらしい。最初に聞いてから二週間、店先を飾る商品がチョコレートから雛あられに変わっても、あの歌声を感じ取れるのはキュアエコーだけのようだった。
「ありがとう。
 私は大丈夫」
 あゆみはグレルとエンエンに笑顔を返した。
「だけど…。
 あの歌声が聞こえるのは私だけなんて。
 寂しいね」
「あゆみには俺たちがついてる!」
「そうだよ。そんなこと言わないで」
「違うの。
 あの歌を歌っている人が、寂しいだろうなって」
 誰かに何かを伝えるために歌っているはずだ。だが、それを聞けるのは広い世界にこの三人だけ。その三人も、誰がどこで歌っているのかをまだ把握できないでいる。
「キュアエコーはまだまだだね」
「修行が足りないとは俺も思――」
「グレル」
 エンエンは怒ると実は怖い、ということを知っているグレルは口を押さえた。
 それにしても、どういうことだろう。
 寂しい、とは言ったが、あの歌声にはそれは感じられない。むしろ温かい。
 だが、あの歌を消そうとする力がある。あゆみがその歌の出どころを追えないでいるのはそのせいだが、あるいはそれが寂しいと感じさせる理由なのかもしれなかった。
 なぜわからないのだろう。
 自分が子供だからか。もし、この歌を聞いたのが月影ゆりだったら、すぐにわかったりするのだろうか。
 逆に、調辺アコや円亜久里のように子供の純粋さをちゃんと持っていたら、すぐに感じ取れたりするのだろうか。
 子供でも大人でもない自分の状態があゆみはもどかしかった。

「うん、わかった。行く!」
 雛あられがキャンディとマシュマロに変わる頃、みゆきから連絡があった。プリキュア全員でお花見をするという。
 相変わらず、歌声がどこから聞こえるのかはわからないが、聞こえる頻度は確実に上がっていた。電話での話しぶりではまだみゆきには聞こえていないようだが、集まった時にそのことを話してみよう、とあゆみは思った。
 確かに、申し訳ないとは思う。みなが集まるのは友達だからであり、お互いの笑顔を見るためだ。だが、黙ってはいられない。自分一人では解決できないのであれば、先輩たちの力を借りるよりほかにない。そして、あの歌声と、その歌声を消そうとする力が感じさせる気配は、放置してよいものだとはとても思えなかった。
 あるいは、そのことが大事な友人たちに危険をもたらすかもしれない。だが、彼女たちはそれを絶対にはねのけることができる。あゆみは、信頼と確信を持っている。
 だが、その反対はどうだろう。あゆみにはまだ「私もプリキュアです」と胸を張る自信はなかった。

83名無しさん:2017/02/02(木) 00:34:22
>>82
待ってました、makirayさんのエコーのお話!
映画のシーンを思い出してしまいました。続き楽しみにしてますね。

84makiray:2017/02/02(木) 23:54:58
Echo, Back and Forth (2/12)
---------------------------

 足を速めるあゆみ。人々の間を縫って進むため、時折、靴がキュっと鳴った。
「あゆみ…ちょっと苦しい」
 肩から提げたトートバッグの中のグレルが言った。
「ごめん。もうすぐだから我慢して」
 あゆみには珍しく、グレルとエンエンの声に構わず速足で進む。
 胸騒ぎがする。
 夕べ、最終的な待ち合わせの場所と時間を連絡してきた みゆきが、「こないだ言ってた歌声って、ルルルとかラララって感じのやつ?」と言った。
「みゆきちゃんにも聞こえるの?」
《うん。あかねちゃんたちも聞こえるんだって。なんだろうね》
 そして、今伝わって来る、お世辞にも愉快とは言えない、みゆきの思い。ついにあゆみは走り出した。
 都会にしては高い木に囲まれた公園の一角、あゆみはそこに飛び込んだ。
「みゆきちゃん!」
「サニー! ピース!」
 そこにいたのはみゆきではなくキュアハッピーだった。
 そして、茶色い泥のようなものがうごめいている。
「マーチ! ビューティ!」
 キュアハッピーの悲鳴。四人はその中に取り込まれてしまったのに違いない。
 そして、赤い目の道化師がキュアハッピーを見下ろしている。
「グレル、エンエン、お願い!」
「よし来た!」
(フーちゃん、私に力を貸して)
 三人が手をつなぐ。グレルの左手、エンエンの右手、そしてフーちゃんが姿を変えたエコーキュアデコルからにじみ出した光がトライアングルの中心で破裂した。
「思いよ届け、キュアエコー!」
 あゆみの栗色のツインテールが淡いクリーム色に変わる。胸のエンブレムが輝き、キュアエコーが姿を現した。
「ハッピー!」
「エコー!」
 キュアエコーとキュアハッピーは二人でその泥に手を伸ばしたが、あとわずかのところで泥は地面に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「みんな…」
「エコー、危ない!」
 キュアハッピーの声に体を翻す。ふたりがいた場所に火球が炸裂した。
「あれは、ジョーカー?」
「よくわからない。急に頭が痛くなって、気が付いたらあそこにいたの。
 ジョーカーに似てるけど、なんか違う気もする」
 キュハッピーとキュアエコーは、よくわからないそれを睨んだ。何でもいい。キュアサニーたちをさらったのだから、味方ではありえない。
〈ハッピー…エコーや!〉
「…。
 サニー?」
〈みんな、キュア…コーが来…く…たで!
 今、ハッ…ーと一緒…たいや〉
「サニー!」
「エコー、どうしたの?」
「キュアサニーの声が聞こえるんです」

85makiray:2017/02/04(土) 00:16:47
Echo, Back and Forth (3/12)
---------------------------

 ふたりは、ジョーカーらしきそれの攻撃をかわしながら叫んだ。
「サニー、今どこにいるんですか?」
〈であ…ば心強…で…ね〉
「ビューティ! 返事を」
〈…ッピー、…の泥には気…付けて!〉
〈ハッピ…の…が聞こえ…いよ〉
 途切れ途切れだ。こちらの声もあちらの声も完全には届かないようだ。
「だけど、みんな無事なんだよね」
「はい」
「そうか。
 エコーがいてくれてよかった」
「え…?」
「私の思いをみんなに届けて。
 絶対に助けに行くからって」
「もちろんです――ハッピー!」
 着地のタイミングを取れず、バランスを崩しそうになったキュアハッピーの手を引く。
 その瞬間、強烈な思いがキュアエコーの中に飛び込んできた。そしてその思いは、四人へ瞬時に伝わった。まるで隣にいるかのようだった。
〈ハッピーが頑張ってる〉
〈あたしたちも頑張らなきゃ〉
〈このような牢など、すぐに脱出してみせます〉
〈よっし、みんな、行っくでぇ!〉
 それが彼女たちの力を引き出す。同じことがふたりにも言えた。
「エコー、お願い」
「はい。
 プリキュア ハートフル・エコー!」
「プリキュア ハッピー・シャワー!」
 ハートフル・エコーの光のドームが辺りを包む。その中でジョーカーらしきそれは出口を探していた。邪悪なものはこの光のドームの中にいるだけで力を弱めてしまう。
 そこをハッピー・シャワーが見舞う。それはうめき声を上げた。
 光の粒子がドームを満たす。浄化が成功したのだろうか。
 キュアハッピーの表情は厳しい。
 キュアエコーも違和感を抱いていた。激しい戦いをしていながら、敵の「思い」が漏れて来ない。あるいは、あれは生きていないのかもしれない。
(つまり、どう出るもわからない、ということ――)
 キュアエコーは身構えたが、遅かった。背後からあの泥が飛んできてふたりの体を捉えた。
「ハッピー!」
「エコー!」
 抜け出そうともがく。だが、当然のこととはいえ、それはただの泥ではない。ゴムのように伸びて切れないし、逆に革のベルトのように締まって来る。
〈あか…、ハ…ピーが捕…った!〉
〈逃…て!〉
〈…コー!〉
〈こ……に来…は…けま…ん!〉
 遅かった。
 やがて、泥も見えなくなり、辺りは何事もなかったかのように静かになった。ジョーカーによく似たそれも姿を消した。

86makiray:2017/02/04(土) 23:59:50
Echo, Back and Forth (4/12)
---------------------------

「エコー。
 エコー!」
 キュアハッピーが肩をゆさぶると、キュアエコーは目を覚ました。
「…。
 グレル! エンエン!」
「俺たちなら無事だ」
「ここはどこなんだろう」
 曇った空。体の下にあるのはどうやら石畳のようだ。ふたりはゆっくりと立ち上がった。グレルは厳しい顔で、エンエンは不安げにあたりを見まわす。
「あの偽物のジョーカーを使ってる誰かが作った世界、なんじゃないかな」
 キュアハッピーの言葉にキュアエコーは頷いた。彼女たちに覆いかぶさるようにそびえる石造りの建物は立派なものだが、住んでいる人の気配も、利用する人の気配も感じられなかった。
「みんなはここに捕まってるのかな…」
 キュアエコーは目を閉じて息を吐き、気持ちを集中した。弱いものだが、プリキュアたちの「思い」が感じられる。
「そうだと思います」
「手掛かりは…あの歌?」
 頷くキュアエコー。
 ほかのプリキュアの声は弱くなったが、あの歌の気配は感じる。こうして話している間にも断片的に聞こえてきていた。
「それを追いかけよう」
 キュアエコーは、しばらくそれに心の耳を傾けていた。
 自分の知らない雰囲気をまとっているような気がした。この歌声の主が届けようと思っている思いがはっきりしないのは、声が途切れて遠いせいだけではないようだった。
「エコー…?」
「あ、ごめんなさい。あの歌声を聴いてて。
 行きましょうか」
「うん――待って」
「あれは」
 また空に浮いているものがあった。馬車のように見える。乗っているのは――
「カバさん?」
「いきなり失礼なことをおっしゃいますね、キュアハッピー」
「じゃぁ、お馬さん」
「お初にお目にかかります、トラウーマと申します」
「トラさんなの?」
 トラウーマは歯を食いしばって何事かを我慢した。
「それは後にしましょう。
 まずは、おふたりのことを知りたいのですがね。
 特に、あなた」
 トラウーマは杖でキュアエコーを指した。
「一応、プリキュア教科書に載ってはいるようですが、どうも情報量が少ないようでしてね」
「当たり前でしょ。エコーはあたしたちの秘密兵器なんだから!」
「秘密兵…」
 キュアエコーは、照れとも困惑ともつかない顔でつぶやいた。
「そうだよ、どれだけ世界の危機を救ってきたことか!」
 エンエンが叫ぶとグレルは剣を抜いた。
「お前みたいなトラだかウマだかわかんないやつには負けないぞ!」
「お前に言われたくないわ! タヌキだかイヌだかわかんないかっこしてっ!」
「俺たちはれっきとした妖精だ!」
 トラウーマは怒りのせいか肩で息をしていたが、深呼吸をすると我を取り戻した。
「思い出しましたよ。グレルくんとエンエンくんですね。プリキュア教科書の端っこに載ってましたよ」
「そうだよ。よく覚えておけっ!」
「暇ができましたら。
 話を元に戻しましょうか。
 キュアエコーさん、あなたのことを教えていただきますよ。
 では、ソルシエール様」

87makiray:2017/02/05(日) 22:29:36
Echo, Back and Forth (5/12)
---------------------------

「…。
 あ」
「エコー」
 キュアエコーの表情が歪んだ。額を手で押さえる。
「頭が…」
「さっきの私と同じ。
 やめなさい、トラウーマ!」
「まぁ、すぐに終わりますから」
「プリキュア ハッピー――」
「あれは」
 キュアハッピーがハッピー・シャワーの構えを取ると、エンエンが空を指さした。
 トラウーマの横に黒い塊がある。それはうねうねとうごめくと大きくなり始めた。
「やっぱり、私の時と同じ。
 きっと…」
 つぶやくキュアハッピー。
「ほう、面白いですねぇ」
 黒い塊は人の形をとった。
 目が赤く虚ろなのは偽のジョーカーと同じ。
 だが、その、身長が3mほどにも届く女性の姿は。
「…。
 私?」
 鈍い茶色のツインテール。
 それは「坂上あゆみ」だった。
「ソルシエール様には、人が最も恐れるものを実体化させる魔法があります。
 これまで何度も世界の危機を救ったという、歴戦の勇士であるキュアエコーが最も恐れているのは、どうやらあなた自身だったようですね。
 どのような物語が隠されているのでしょう。興味深い」
 トラウーマがいやらしく笑った。
〈リセット…リセット…〉
 偽物のあゆみは、あゆみの言葉を誤解したフーちゃんが呟いていた言葉を口にしながらゆっくりと歩き出した。
「エコー…」
 キュアハッピーは足元だけは確認したが、どうすればいいかわからずキュアエコーを見た。キュアエコーは歯を食いしばったまま自分を見上げていた。
「大分、困ってらっしゃるようですね、お二人とも。
 キュアエコーさんは勿論、キュアハッピーさんも自分のお友達を攻撃するわけにもいかないでしょうし、これは大変だ。
 では、しばらく困っていていただくことにしましょう」
 トラウーマを載せた馬車が消えた。
「ハッピー」
「うん」
「先に行って」
「でも!」
「大丈夫」
 キュアエコーは笑った。
「…」
 言葉が出ないキュアハッピー。
「それより、サニーたちを早く」
「そうだ、行ってくれ、キュアハッピー。
 ここは俺たちで何とかする」
「だけど、あゆみちゃん」
 キュアハッピーは思わず、変身前の名前を呼んだ。
「大丈夫。
 私」
 キュアエコーはキュアハッピーの目を見た。
「わかってるから」

88makiray:2017/02/06(月) 23:03:16
Echo, Back and Forth (6/12)
---------------------------

「…。
 わかった。
 すぐに追いかけてきてね」
「うん」
 キュアハッピーは駆け出した。一度だけ振り向いたが、そのまま仲間の元に向かった。
「エコー」
〈リセット…〉
「来るよ」
 キュアエコーが石畳を蹴る。グレルとエンエンも続いた。「あゆみ」はゆっくりと歩いてくるだけで、突然、蹴り上げたりはしなかった。
 その代わり腕を振ったが、キュアエコーは並んでいる建物の壁を蹴って方向を変え、難なくよけた。
「へっ。偽物は大したことねぇな!」
 グレルが叫んだ。エンエンも余裕がある様子で「あゆみ」の周囲を走っている。
(違う)
 キュアエコーの表情が曇った。
 積極的な攻撃を加えたりしない。逃げたものを追いかけるほどの勢いもない。それは、かつての自分そのものだった。
 内側にいら立ちをため込むだけ。母に文句を言ったことはあったが、あれは所詮、肉親への甘え。泣き言をつぶやくのがせいぜいで、そのことがフーちゃんに誤解を与えてしまった。
 尤も、ソルシエールとかいう誰かに作られたこれが操り人形なら、苛立つということもないのかもしれないが。
 キュアエコーは逃げ回るのをやめた。「あゆみ」の前に降り立つ。そして、両手を伸ばす。
「もう、いいんだよ」
「エコー…」
 グレルとエンエンも足を止めた。
「私は、あなたが何に苦しんでるか知っている」
 上からのぞき込むように「あゆみ」も止まった。
「でも、もうその必要はないの。
 お母さんが私のことを大事にしてくれていることが分かった。
 学校に友達がいる」
 瞳のない目がキュアエコーを見ている。
「それだけじゃない。
 私はプリキュアになった。
 素敵な仲間が 40 人もできたんだよ。
 そして」
 キュアエコーは伸ばして両手を胸の前に置いた。胸元のエンブレムの前で重ねる。
「私は、きっと、誰かの役に立つことができる」
 それがどういう形かはまだ分からない。でも、この「光の力」はそのためにある。いつか、きっと、苦しんでいる人のために、辛い思いをしている人のために、この力を役立てることができるはずだ。大した実績もないが、そのスタートラインに立っている事だけは確かだ。
「これが、あなたが欲しかったものでしょう?」
 見下ろしていた「あゆみ」が動きを止めた。
 信じられる友だち。
 信じてくれる友だち。
 誰かの力になれる、という確信。
「もう怯えなくていいんだよ」
 単なるくぼみでしかなかった瞳に光が宿った。いや、その明るさはやがて全身を覆い、淡い黄色に変わったかと思うと音もなく飛び散り、「あゆみ」の姿は消えた。グレルが、やった、と指を鳴らす。
(でも)
 キュアエコーはその光の粒を追うでもなくその場に立ち尽くした。
(あれが私のコピーだとしたら。
 私は、あの頃の私から何も変わっていない、ということ。
 この「光の力」を、きちんと使えてない、ということ…)
「エコー…。
 エコー」
 グレルが白いブーツを叩く。はっと気づいたキュアエコーが下を見ると、心配そうな瞳が四つ、そこにあった。
「あ、ごめんね」
「大丈夫?」
 エンエンが目じりに涙をためている。
「うん」
 キュアエコーが微笑むと、エンエンも笑顔になった。
「行こう」
 あの歌はまだ聞こえている。

89名無しさん:2017/02/06(月) 23:27:14
>>88
おー、こう来るんだ!
あゆみが過去と向き合ってここまで言えるようになって、それでもまだどこか自信がない。
こういうところが、あゆみちゃんらしいなぁ。
続き楽しみにしてます!

90makiray:2017/02/07(火) 23:38:55
Echo, Back and Forth (7/12)
---------------------------

 キュアマジカルが崖にたたきつけられる。鋭い悲鳴が響いた。
 ソルシエールとトラウーマは、「プリキュアの涙」を手に入れようとしていた。そのため、プリキュアと妖精たちを捕え、助けに来たプリキュアにかつての敵のコピーを差し向けてきている。
 そして、まだ戦いに不慣れなキュアミラクルとキュアマジカルに狙いを絞ったようだった。
キュアマジカルのドレスは汚れ、フリルが千切れている。
「あぁっ!
 くっ…」
 ピエーロの姿をしたものの手から影のエネルギーが打ち出される。キュアマジカルの体はそれによって巻き上げられ、山肌にたたきつけられた。
 とどめを刺そうと次の奔流が放たれたとき、灰色の空に眩しい光が点をうがった。キュアマジカルの体がふわりと浮く。
「あれは…」
「キュアエコー!」
「来てくれたのね」
 キュアエコーはキュアマジカルの体をゆっくりと横たえた。
 影を感じて立ち上がるキュアエコー。プリンセスプリキュアの四人も、覆いかぶさるように見下ろしているピエーロのようなもの、ゴーヤーンによく似たものを睨み返した。
「さぁ、あなたも一緒に」
 キュアマジカルに呼び掛ける。だが、その答えは予想もしないものだった。
「無理…」
「え?」
 キュアエコーは驚いて振り向きかけた。それでは敵に背を見せることになると気付いて姿勢を戻す。
 無理。
 確かに、そうかもしれない。
 助けに入りキュアマジカルを抱きかかえたとき、キュアマジカルが怯え、恐れているのがわかった。敵の攻撃ですっかり打ちのめされている。それは心身のどちらも同じようだった。
 だが。
「キュアマジカル」
 キュアエコーは、ゴーヤーンらしきものを見据えたまま言った。まだキュアマジカルの中の光は失われていないはずだ。
「なぜあなたは今まで戦っていたの」
「…。
 私は…私は立派なプリキュアになりたくて。でも」
「立派な…プリキュア?」
 それは予想外にキュアエコーの胸に刺さった。
(私は…)
 立派なプリキュアだろうか。いや。それは考えるまでもない。とても胸を張って「私もプリキュアの一員です」などとは言えない。だが、それは――

91makiray:2017/02/08(水) 23:00:04
Echo, Back and Forth (8/12)
---------------------------

「お花見行くんでしょ」
 キュアフローラが言った。キュアマジカルが顔を上げる。
 別の空間では、キュアミラクルがルルンの涙の声を聞いていた。
(マジカル…!)
(ミラクル…!)
 大事な友達を助けなければ。
 そして、新しい友達と一緒に、お花見に行くんだ。
 ふたりは、遠く離れた場所でそれぞれに立ち上がった。ここを乗り越えなければ、「立派なプリキュア」も何もない。
(つながっている…)
 その思いがキュアエコーの胸に届いた。こんなに固く結ばれているふたり。
 そして、あの歌。
(どういうことだろう)
「また新手?!」
 プリキュアたちの肩が上下する。仲間と一緒で心強くは思うが、楽な戦いではない。
 それでも、彼女たちの顔には笑みが浮かんでいる。キュアマジカルが立ち上がったから。絶望の淵から戻ってきてくれたから。
「歌は…?」
 誰かが言い、視線はキュアエコーに集まった。それをたどれば、仲間たちに会えるはずだ。
「マジカルは先に行って。歌の聞こえる方へ」
「でも」
 キュアマジカルがキュアエコーに振り向いた。
「私にはもう聞こえないわ」
「大丈夫。あの歌声は、まるであなたを呼んでいるようだった」
「私を…?」
 キュアマジカルは、さっきまで歌声が聞こえていた方向を見た。そう言われれば、そうだったような気もする。いや、歌っている人を知っているとか、聞いたことがあるメロディだとか、そういうわけではない。だが、自分が全く知らないものではない、そういう気がした。
「『思いを届けるプリキュア』のキュアエコーが言うんだから間違いないよ」
 キュアフローラが力を込めて言った。驚いたような表情のキュアエコー。
「わかりました」
 キュアマジカルは深々と頭を下げると踵を返した。
「でも、エコー。
 どうして、あの歌がマジカルを呼んでる、って思ったの?」
 キュエアコーは、一瞬、視線を落としてから答えた。
「わかりません。
 でも」
「でも?」
「あの歌…あれは、ただの歌ではないような気がします」
「どういうこと?」
 キュアエコーは首を振った。
「でも、私たちが知っている歌とは違う、と思わせる何か、それが、キュアマジカルの空気と似ている、そう思ったんです」
「歌とは違う何か…」
 彼女たちをプリキュアにする光の力。それは例えば、のぞみたちの前には蝶の形で現れた。ある時は花であり、あるときは音楽であり。キュアミラクルとキュアマジカルの場合に何だったのかは知らないが、その要素があの歌にも感じられる、ということだった。
(それに、私は…今のキュアマジカルとは一緒にいない方がいい)
 キュアマジカルは、完全に立ち直ったわけではない。まだ、傷つき疲れている。その危なげな精神状態をキュアエコーが感じ取り、そしてほかのプリキュアに伝えてしまう心配があった。キュアハッピーと一緒に戦った時に、キュアハッピーとキュアサニーたちの気持ちの仲立ちをしたことと同じことが起こる。そして、今のキュアマジカルの精神状態は、他の人に伝えていいものではないように思えた。
(ごめんなさい。
 私はまだそれをうまくコントロールできない)
「来るよ」
 キュアエコーの思いを破るように、低い声でキュアトゥィンクルが言った。

92makiray:2017/02/09(木) 23:54:13
Echo, Back and Forth (9/12)
---------------------------

 抵抗もむなしく、キュアエコーたちは囚われてしまった。
 それはやはり、ソルシエールが生み出すコピーが、プリキュアたちが戦ってきた幹部や「ラスボス」のものだったからである。下っ端のスナッキーやウザイナー程度であればどうと言うこともなかったはずだが、意思を持たないコピーではあっても強敵だった。
 どういう作用が働いているのかわからないが、この檻の中ではプリキュアの光の力は無効になってしまうようだった。さほど太くはない柵も、それほど大きくない錠前もびくともしなかった。
「外から壊してもらうしかない、ということですか」
「残ったのは、キュアミラクルとキュアマジカルだけか…」
「妖精は…アロマとパフ」
「あとは、ルルン」
「無事だといいんだけど…」
(ソルシエール…。
 ソルシエール…)
 キュエアコーは目を閉じた。
(ソルシエール。
 わたしの声が聞こえますか、ソルシエール…)
 答えはない。届いた、という手ごたえもない。
(どうして)
 最初にあの歌を聞いたのはキュアエコーだった。つまり、ソルシエールの思いは、キュアエコーに届いていた。なぜ、今、それが聞こえない?
 あの歌が流れ、少女の幻が見える以上、ソルシエールは心を閉ざしてはいない筈だ。だのになぜ、エコーの声がソルシエールに届かないのだ。
(立派なプリキュア…)
 リコの言葉がよみがえる。それはキュアエコーの胸をチクチクと刺し続けていた。
 元より、自分が立派なプリキュアだなどとは思っていない。だが、何度か大事な友達の力になれた、と感じられたことはある。「思いを届けるプリキュア」として役に立てたことがある。
 だが、今回はその兆しが無い。思いが届かない。
(ソルシエール…!
 お願い、私の声を聴いて。あなたの声を聴かせて!)
 だめだ。逆に、様子を見守っている仲間たちのかすかな息遣いがこだまして耳鳴りのように響く。キュアエコーは力の感じられない目を上げると首を振った。
「焦らないで、エコー」
 キュアムーンライトの優しい声が逆にプレッシャーとなる。キュアエコーはもう一度、深呼吸をした。
(ソルシエール!)
 なぜ。
「エコー、座って」
「いえ」
「楽にして。顔色が悪いわ」
 キュアアクアが言うと、プリキュアたちは狭い牢獄の中で場所を詰め、空間を作った。
「すみません」
「無理し過ぎよ。この牢は私たちの光の力を弱める作用があるみたいだから」
「…」
 そのせいだ、と考える根拠がキュアエコーにはなかった。
(だめだ)
「え、どうしたの?」
「だめです…私」
「エコー…」
「私の思いは、ソルシエールには届かないんです!」
「落ち着いて。この牢は」
「できません!」
「泣き言いってんじゃねぇ!」
 隣の牢から声がした。グレルだった。
「思いを届けられないんだったら、何ができるって言うんだよ!」
「グレル…」
「キュアエコーには、ほかにできることはないだろうが!」
「ちょっとあんた、いくらエコーのパートナーだからって」
 キュアブラックが反論したが、グレルの口は止まらなかった。
「ブラックみたいにパワーはないし、ホワイトみたいに物知りじゃない。
 ブルームやイーグレットみたいに空も飛べない。
 ほかに何ができるか言ってみろよ!」
 さすがに、同じ牢に閉じ込められている妖精たちが止めた。だが、エンエンが後を継いだ。
「あゆみは、あきらめなかったんでしょ?
 あきらめなかったから、キュアエコーになって、フーちゃんとお話ができたんでしょ?
 今度はあきらめるの? だめだよ、あゆみ!」

93makiray:2017/02/11(土) 00:05:18
Echo, Back and Forth (10/12)
----------------------------

 キュアエコーの周りに金色の花びらがこぼれた。
「フーちゃん…」
〈あゆみはだめじゃない。フーちゃんは知ってる〉
「キュアマジカルだって傷だらけになっても頑張ってるんだよ」
「先輩のキュアエコーがそんな情けないこと言ってどするんだよ!」
 キュアマジカル。その名前が頭に浮かんだとき。
〈考えてみて〉
「え…」
 キュアエコーの目が焦点を失ったように見え、キュアハッピーたちは顔を見合わせた。そうではない。キュアエコーは、ふいに飛び込んできた声に集中していた。
「これは…マジカル」
「聞こえるのか?」
 グレルがまた怒鳴った。
「うん。
 マジカルはミラクルと会えたみたい」
 やった、と声が上がる。キュアマーメイドが、しっ、と口に指をあてる。どうやら、キュアマジカルやキュアミラクルとのコンタクトに成功したらしい。キュアエコーの邪魔をしてはならない。
〈あなたに…あなたに…〉
 はっきり聞こえる。一体、何が起こったのだ。キュアエコーは混乱したまま、二人の声に耳を澄ましていた。
(そうか…これは、私たちがプリキュアだから)
 以前からプリキュア同士で、声を介さない意志の疎通は可能だった。多くは、なんとなくそんな感じがする、という程度で、明確に言葉の形で認識できるのはキュアエコーだけだったが、それはこれまでにもあったことだ。その鋭さの違いが、プリキュアの力を奪う牢の中で現れたに過ぎない。
 今まで聞こえなかったのは、キュアミラクルとキュアマジカルがばらばらだったからだ。再会した二人は、今までよりも強く結びついている。それで、二人の声が聞こえるようになったのだ。
 つまり、これは当然の結果である。キュアエコーが立ち直ったのでも、未知の力が覚醒したのでもなかった。だが、これはいい知らせだ。キュアミラクルとキュアマジカルが耳にするソルシエールの声が聞こえる。
〈だから…それは…〉
 キュアミラクル、キュアマジカルとの「同調」状態はどんどんよくなっている。今では息遣いも聞こえるほどだ。そして、それに乗って来る、ソルシエールの「思い」。
〈闇の中も怖がらずに
 安らかな夢見られたのはなぜ?〉
 究極の魔法の奥義を教えて欲しい、という願いに子守歌で答える魔法つかい。ソルシエールは困惑し、戸惑い、子ども扱いされていると考えて落胆していた。それは、怒りでも憤りでもない。
 つまり。
〈あなたは、先生に会いたいのでしょう!?〉
〈なんだ、貴様は〉
 つながった。
〈あなたは亡くなった先生にもう一度会いたいと考えている〉
〈つまらぬことを〉
〈プリキュアの涙を使った魔法があれば、もっとすごいことができるはず。きっと、究極の魔法の秘密も解明できるわ。
 それなのにあなたは先生を蘇らせることを考えている。それは〉
〈やめろ!〉
〈あなたは、大好きな先生にもう一度、会いたいと思っているのよ〉
〈やめ――〉
 ソルシエールの声が途切れた。キュアミラクルやキュアマジカルの声も聞こえなくなり、キュアエコーは再びそこに崩れ落ちた。
「エコー!」
「エコー、どうしたんだ。大丈夫か!
「あゆみ。あゆみ!」
 わかった。
 ソルシエールの声が聞こえなくなる直前、彼女の心のひだに触れた。それでわかったことがある。
(ソルシエールは、意思が強い人ではないんだ)
 それで色々なことの説明がつく。
 プリキュアが恐れている者のコピーを作り出すほどの力がある。では、幼いころの不安を制御できているかと言えば、できていない。あの歌は、彼女の心から漏れたものだ。それがキュアエコーに届き、この世界に来てからは、プリキュア皆に聞こえるようになった。
 今も、キュアエコーは無理やりに彼女の心をこじ開けたのではない。自信を失っているはずの自分が言うことではないが、ソルシエールとのコンタクトは簡単だった。彼女は、心を閉ざし続けるほどの強さも持っていない。
 一方で、すべてのプリキュアが捕えられているという事実。
 このことは、一つの仮説を導き出す。
 ソルシエールは誰かに利用されている。
「みんな、聞いて」

94makiray:2017/02/12(日) 00:10:52
Echo, Back and Forth (11/12)
----------------------------

「いただきましたよ、プリキュアの涙」
 トラウーマが本性を現した。
 本来の目的は封印された能力を解放することだった。そのために、ソルシエールの魔法を利用したのだった。
 自らの封印を解いたトラウーマは屋敷と一体となって、巨大な姿に変わり、世界を闇に閉ざそうとする。
 だが、この世界にはまだ光があった。ミラクルライトが、捕らわれていたプリキュアたちを牢から解き放つ。

「それじゃ行くよ、みんな!」
 そうだ。
 キュアエコーにできることがある。
「グレル、エンエン、フーちゃん」
「どうした」
「私、ソルシエールのために戦う」
 かつて、世界をリセットしてしまいそうになった。弱い心が犯す過ちの恐ろしさを知っている。
 今、その罪を償い、次の一歩を踏み出そうとしている少女がいる。キュアエコーは、その手助けをしなければならない。それこそが、キュアエコーのもう一つの役割。
「トラウーマに騙されていたことに気づいた、その気持ちをみんなに届けたい。
 ソルシエールの胸にあるみんなへの謝罪の気持ちを届けたい」
〈あゆみ…〉
「僕たちも一緒だよ」
「キュアエコー、復活だ!」
「うん。
 まず、この闇を払おう!」
 キュアエコーは地面を蹴った。

95makiray:2017/02/12(日) 08:51:21
Echo, Back and Forth (12/12)
----------------------------

 究極の魔法、それは歌だった。
 魔法つかいがソルシエールに歌って聞かせた、子守歌のような歌。それそのものが魔法だった。
 トラウーマは、自分の過ちに気づいたソルシエールの歌に苦しめられ、同時にその歌はプリキュアに力を与えた。
 光を取り戻したプリキュアと、光を取り戻そうと決心したソルシエールによって、トラウーマは消滅した。

 改めて、お花見が催される。彼女たちは満開の桜の下にお弁当を広げた。
「あの、坂上さん…」
「え?」
 あゆみが振り向くと、リコがペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。
 あと、ごめんなさい。私」
「あ、坂上さん」
 みらいが隣に並び、同じように頭を下げた。
「坂上さんがリコを助けてくれたんですよね。
 おかげで私たち、また会うことができました!」
 こちらは屈託のない笑顔だが、リコはすっかり恐縮している。
「私は、何も」
 少し頬を染めながら、あゆみは手を振った。
 掛け値なしに何もしていない。
 確かに、あの歌と、キュアマジカルの雰囲気に共通点がある、と言ったのはキュアエコーだ。つまり、その共通点が魔法ということなのだが、それは例えば、一緒に戦ったときに、ソルシエールの歌と最もシンクロしていたのはキュアミラクルやキュアマジカルの技だった、と皆が言っている。別に、キュアエコーでなければ気づかなかった、というわけではない。
 牢に捕えられた時も心が折れてしまい、投げだしそうになった。グレル、エンエン、フーちゃんがいなかったらどうなっていたかわからない。
 本当に、キュアエコーはまだまだだ。修行が足りない。
 隣に みゆきとあかねがやってきて、キュアエコーがどれだけすごいプリキュアか、とあることないことを言い、みらいとリコが感心してメモをっている。あゆみの頬はますます赤くなった。
 一つ、わかったことがある。
 キュアエコーは、「思いを届ける」プリキュアだ。誰かの思いを読み取る力はない、ということだ。
 今まで、そう感じたことが何度もあったが、それは偶然だった。同じ「光の使者」同士だったり、ものすごく強い思いだったり、という特別なことがなければ感じ取ることができない。
 ソルシエールは、師匠の魔法つかいに会いたい、ということしか考えておらず、そこをトラウーマに利用されただけなのだ。「プリキュアを倒す」「世界を闇に閉ざす」などという強い意志があったわけではないから、その思いが届かないのは当然だった。むしろ、そういう立場がストレスになったことで、子供の頃の思い出が漏れ出し、それがあのかすかな歌声となった。こちらの方がまだ強い、と言えた。
 もう一つ、過ちを犯したことがある、という心の奥の傷。これがあるからこそ、できることがある。
 キュアエコーがどのようにして人々の役に立つことができるのか、それがわかったことは大きい。この力を磨いていけば、きっと「立派なプリキュア」になれる。
「一緒に、『立派なプリキュア』になりましょう」
「いえ、坂上さんはもう『立派なプリキュア』です!」
「私たちのお手本になる人なんです!」
 だから、やめてってば、と言って下がろうとすると、マナが逆に背中を押し、めぐみがはやし立てる。
「先輩として一言アドバイスしてあげたら?」
「ゆりさんまで…」
 それにしてもこの二人は、この懇願を四十何回も繰り返す気なのだろうか。美墨さん、雪代さん、日向さん、美翔さん…そうだ。
「じゃ、一つ、いいかな」
「はいっ!」
「あゆみ、って呼んで」
「はいっ――はい?」
 困惑するみらいとリコ。だが、ほかのメンバーからは一斉に笑顔がこぼれる。グレルは、そういうことだよ、とみらいに耳打ちをした。
「そういうこと、って」
「はい、握手」
 エンエンがリコの手を引いた。
「私のお友達になってくれる?」
「よ、よろしくお願いします!」
 あたしとも、私とも、とそれぞれが みらいとリコの手を取る。モフルンももみくちゃにされていた。
 その光景を見ながら、案外これが「立派なプリキュア」になる近道なのかも、とあゆみは思っていた。

96makiray:2017/02/12(日) 08:52:02
 長々と失礼しました。

97名無しさん:2017/02/12(日) 10:13:48
>>96
毎日少しずつ、まだちょっと自信ないなりに一生懸命なあゆみの気持ちに一喜一憂して、楽しませて頂きました。
グレルとエンエン、あゆみのいいパートナーになったなぁ。
またmakirayさんのエコーSS、読めるの楽しみにしています!

98名無しさん:2017/02/14(火) 21:44:01
>>96
読み応えがありました。

99makiray:2017/07/28(金) 22:14:27
 どうも、お久しぶりです。
 遅くなりましたが、毎年恒例(まだ言う)オールスターズ…もといドリームスターズ映画にキュアエコーが登場するパラレル版を投下させていただきます。
 今回は、映画の直前のお話です。
 タイトルは「プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche-」

 16 スレ、お借りします。

100makiray:2017/07/28(金) 22:16:46
Quartet Branche (1/16)
----------------------

「なぎささん?」
《あゆみちゃん。久しぶり!》
「あの…今年はお花見しないんですか?」
《もちろん、やるよ。
 今日、これから ほのかと下見に行くんだ。いいとこ見つけたらしいよ》
「そうなんですか。楽しみです!」
《決まったら連絡する》
「はい!」
 坂上あゆみは笑顔で電話を切った。
「やるのか?」
 机の上のグレルが言った。
「うん」
「みんなに会えるんだね」
 エンエンが手を合わせた。
「うん!」
「よし、今年こそは俺の美声を披露してやるからな」
「あ…」
「なんだ、その顔は!」
 あゆみとエンエンは顔を見合わせて笑った。

101makiray:2017/07/29(土) 10:13:10
Quartet Branche (2/16)
----------------------

《ほのか?》
「遅いよ、なぎさ。
 私、もう神社に着いちゃった」
《ごめーん。
 あゆみちゃんから電話があってさ》
「あゆみさん?
 元気だった?」
《うん。お花見、楽しみにしてるって》
「よかった。
 じゃ、私が一人で下見しておくわね」
《怒んないでよ。急いで行くからさ》
「はいはい」
 雪城ほのかはその木を見上げた。大きく枝を広げた桜の木。まだ蕾だが、これが咲いたら壮観だろう。みんな喜んでくれるに違いない。
 だが、ここまで見事だと花見客も多いかもしれない。何か別の楽しみ方も考えておいた方がいいだろうか、とほのかは辺りを見回した。
「先にお参りしておこうかな」
 なぎさを待っていたらいつになるかわからない。そう言えば、どこにいるか聞かなかったな、と思いながら、ほのかは賽銭箱に五円玉を投げ入れて手を合わせた。
〈間違いないな〉
 ほのかは少し顔を上げた。今の声は?
〈そうだ。間違いない〉
「ほのか…嫌な気配がするミポ…」
「うん…!」
 ほのかは身構えた。狛犬が動いたような気がする。
〈あ、気づいた〉
〈お前が下手なんだよ〉
「あなた方、何者?」
 石にしか見えなかった二体の狛犬が鮮やかな黒に変わった。
「ほのか!」
「まさか、ザケンナー」
〈ざけんなー?〉
〈知らんなー!〉
 二体の狛犬が大きく口を開けた。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「あっ」
 風が起こった。台風のようだった。胸元のスカーフがバタバタと音を立てる。ミップルのコミューンも激しく揺れた。ほのかは本能的に体を低くしたが、靴はじわじわと地面を削って行った。
「く…あぁっ!」
 ほのかの足は、ついに地面を離れた。高く巻き上げられたその体は、青い空に突然現れた「扉」に吸い込まれて行った。
 やがてあたりは、そんな強風が吹き荒れたとは信じられないほどの静けさを取り戻す。タッタッタ、と聞こえてくるのは石段を上がって来る美墨なぎさの靴音だった。
 だが、そこで待っているはずの ほのかの姿はなかった。鞄だけが落ちている。
「ほのか…?」

102名無しさん:2017/07/29(土) 12:09:21
>>101
待ってました!
あの狛犬二匹が早くも登場!?
続き楽しみにしています。

103makiray:2017/07/30(日) 03:38:06
Quartet Branche (3/16)
----------------------

 日差しがまぶしい。鳥も鳴いている。
 美翔 舞はスケッチブックの上で色鉛筆を滑らせていた。やがてその手が止まる。
「咲…」
「なに?」
「…面白い?」
「うん」
 日向咲は満面の笑顔で答えたが、舞は苦笑した。咲は、舞が絵を描いているところをじっと見ているだけだからだ。
「舞が一生懸命に絵を描いてるところを見ると、あたしも楽しくなってくるんだ」
「でも…」
「ひょっとして、邪魔かな」
「あ、そういうわけじゃないの」
 舞は慌てて両手を振った。
「咲が退屈じゃないのかなぁ、と思って」
「そんなことないよ。
 そうだ、何か飲むもの買って来るね。鳥居を出たところに自販機があったはずだから」
 咲が走っていく。舞は微笑んでいたが、また狛犬に視線を戻して手を動かし始めた。
「…え?」
 狛犬が動いた…ような気がする。
〈また気づかれた〉
「チョピーっ!」
「あなた方、何者なの?!」
 狛犬が真っ黒に色を変えて、台から飛び降りた。
「舞!」
「まさか、ウザイナー?」
〈うざいなぁ?〉
〈知らんなー…って、さっきも言ったな!〉
 狛犬が口を開けると嵐が起こった。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「あぁっ!」
 舞は、電灯の柱をつかもうと手を伸ばした。だが、体は既に激しい嵐で滑り始めている。届かない。逆に少しずつ離れていく。
「くっ…きゃぁっ!」
 舞の体は、空に開いた扉の中に吸い込まれて行った。
 不思議な嵐だった。辺りの枯れ葉が飛び散ったりすることもない。咲が戻ってきても、何事かが起こったようには見えなかった。
 しかし、舞はいなかった。スケッチブックも色鉛筆のケースも残っている。
「…。
 舞?!」

104makiray:2017/07/31(月) 22:33:12
Quartet Branche (4/16)
----------------------

「あれぇ?」
 それは、妙に高い声を上げた。
 青白い顔。
 ギョロリと大きな目。
 そして、高い鼻。
 辺りは雪が積もっている。だが、積もっているのはその区画だけだった。直径 5m ほどの円の外側には明るい緑色の芝が広がっている。
「…。
 あなたは、誰」
 その雪に体を横たえていた ほのかが目を覚ます。ほのかは、自分の体をさするより先に、舞を揺り起こした。ふたりは、それを睨みつけた。
「僕は、烏天狗」
「烏天狗…?」
 本で見た「烏天狗」とは違うような気がする。だが、本人がそう言っているのだから、そうなのだろう。それに、後ろに黒い体を横たえているのは、あの狛犬だ。自分たちに害を加えるものであることは間違いがない。
「そぉんな怖い顔しないでよぉ」
 烏天狗は体をくねらせながら言った。
「僕は、きれいなものや、可愛いものが大好きなんだ。
 今はね、白いものがマイブーム」
 本を取り出す烏天狗。
「それでぇ、これを参考にしてみたんだ」
「それは…」
 烏天狗が手にしているのは「プリキュア教科書」だった。
「君は、雪城ほのか、キュアホワイトでしょ?」
 ほのかは無言で睨み返した。
「で、君は美翔舞、キュアイーグレット」
 舞の瞳にも同じ敵意がこもっている。
「でもおかしいなぁ、白くないんだよなぁ。これじゃコレクションの意味がないよ…」
「コレクション?」
「そういうこと…」
「せっかく、君たちのために雪を用意したんだよ。
 白い雪の絨毯の上に白いプリキュアが勢揃いしたらきっときれいだろうなぁ…。
 って思ったのに。
 なんで白くないの?!」
(プリキュアをコレクション?)
「ねぇ、変身してよ。
 白いプリキュアに」

105makiray:2017/07/31(月) 22:33:55
Quartet Branche (5/16)
----------------------

(ふざけないで)
 ほのかと舞は知らずに手をつないでいた。変身できるものならしたい、という気持ちがそうさせたのかもしれない。
 お互いの手からは、暖かさと強さが伝わってくるが、それはそれぞれのパートナーとは違うものだった。プリキュアになるには、ほのかには なぎさ、舞には咲が必要だった。
「早く変身してってばぁ!」
 烏天狗は地団太を踏んだ。
「誰があなたなんかのために変身してあげるものですか」
「え?」
「そんなことしたって、あなたを喜ばせるだけだわ。お断りよ」
「意地悪だなぁ、もう」
 プリキュアの癖に、とぶつぶつ言う烏天狗。
「あれ」
 振り向く。
「ひょっとして、ふたり一緒じゃないと変身できない、とか」
 握り合った手に一瞬、力がこもる。
「キュアホワイトにはキュアブラック、キュアイーグレットにはキュアブルーム。
 お友達がいないとだめ?」
「どうかしらね」
「教えるわけないじゃない」
「ですよねー」
 烏天狗はプリキュア教科書をパラパラともてあそんだ。
「呼んでみたらわかるかもしれないわよ」
 ほのかが言った。舞は、意外な言葉にちらりとほのかを見た。だが、その意味はすぐに分かった。
「うーん。
 黒とか紫をここに入れるのは本意じゃないんだけど、君たちが白いプリキュアになるためにはそれが必要だって言うんなら、しょうがないのかもしれないなぁ」
 烏天狗は後ろの狛犬を起こした。
「お前たち、ちょっとさっきの世界に行って――」
(かかった)
 ほのかが呟く。
「とか言うとでも思ったぁ?!」
 突然、振り向く烏天狗。
 その手を振ると、烏の翼で風を巻き起こす。
「人を騙そうとする子にはお仕置きだ!」
 さっきの狛犬のものとはけた違いの嵐が吹き荒れる。それは足元の雪を巻き込んで吹雪となった。ほのかと舞は、息もできずにいたが、やがて風は起きたときと同じように唐突に収まった。
 そこには、二つの白い繭が横たわっていた。
「そこでおねんねしてなさい」
 烏天狗はまたプリキュア教科書を開いた。
「相棒がいないと変身できないんだとすると、面倒くさいなぁ。
 でも、諦めるのも嫌だし。
 とりあえず、集めるだけ集めるか」
 ページをめくる手を止める。烏天狗は、あるページを狛犬に示した。
「今度は、これを持って来て。
 あ、黄狗一人でいいよ。向こうは変身できないんだから」
 黄狗が姿を消した。
「これは、なかなかのレアアイテムだよ」
 烏天狗が舌なめずりをして笑った。

106makiray:2017/08/01(火) 23:03:50
Quartet Branche (6/16)
----------------------

「おぉ…」
 グレルが思わず声を上げる。エンエンも、首が痛くなるのではないかと思われるほど見上げていた。
 近所の神社に立っている桜の木。一足早く花をつけている。
「あの花も頑張ってるんだね」
 口の悪いグレルも頷いた。エンエンもうれしそうだった。
「でも、あゆみ、先にお花見しちゃっていいのか? みんなで見るんだろ?」
「大丈夫だよ。ほのかさんたちも下見してるんだし」
「そうか。でもこれくらいにしておこうぜ」
「みんなと一緒がいいよね」
 あゆみは小さく笑った。グレルとエンエンがこんなに義理堅いとは。それだけ、プリキュアや妖精たちに会えるのが楽しみだということだろうか。
「じゃ、帰ろうか」
「おう。
 …?」
 一緒に歩きだしたが、グレルは時折、後ろを振り向いた。
「どうしたの、グレル」
 エンエンが言う。グレルが首をかしげているので、エンエンも後ろを振り向いた。別に変なものはない。狛犬がいるだけだ。
「なんか気配がするんだよな…」
「なぁに、グレルはお侍さんになったの?」
「なぁ、あゆみ。
 狛犬って黒いのもいるのか?」
「うーん、石の種類に寄るんじゃないかな。大体は灰色だと思うけど、黒いのもあったりするかも」
「そうか…」
「地面に置いてあったりする?」
 エンエンも狛犬が気になるらしい。
「どうだろう。普通は台の上にいると思うよ」
「ふぅん…」
「動いたりするか?」
「まさか、石の彫刻だよ」
「でもさ」
 一体、どうしたというのだ。あゆみは振り返った。
「…」
 グレルとエンエンが言ったとおりだ。
 黒光りする狛犬が地面の上にチョコンと座っている。
「なんだろう…」
〈キュアエコーだな〉
 あゆみは伸ばしかけた手を止めた。グレルが腰の剣を抜く。エンエンも身構えた。
「あなたは」
〈烏天狗様の命令で、お前をさらいにきた〉
 体を起こす あゆみ。この狛犬は一体、何を言っている? いや、これはきっと狛犬ではない。
〈烏天狗様は、白いプリキュアをコレクションしている。
 キュアホワイト、キュアイーグレットはゲットした。次はお前だ〉
「なんですって?!」
〈来てもらうぞ!〉
 黄狗が口を開ける。
〈アーッ!〉
 猛烈な風が起こった。胸元のリボンが暴れる。
「グレル! エンエン!」
「あゆみ!」
「あゆみちゃん!」
 三人を手をつないだ。
〈あゆみ!〉
「フーちゃん、お願い!」
 三角形の中心で光が破裂する。

107makiray:2017/08/02(水) 20:23:41
Quartet Branche (7/16)
----------------------

 淡いクリーム色のツインテール、白いドレス。キュアエコーだ。
〈え?!
 変身できるなんて聞いてないぞ!!〉
「ホワイトとイーグレットを返して!」
 強い風に腕で顔をかばいながらキュアエコーは叫んだ。
〈やなこった!
 あ、痛!〉
 エンエンが投げた石が当たり、黄狗は情けない声を上げた。
「エコー、こいつ、弱っちぃぞ。やっちまえ!」
 キュアエコーは、両足に力を入れた。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
 真っ直ぐに天に届く光が嵐を止めた。
〈えっ?
 えぇっ?!〉
 黄狗はさらにうろたえている。
「さぁ、ホワイトとイーグレットを――」
〈おぼえてろー!〉
 黄狗は小走りになったかと思うとやがて土煙を上げて走り去った。
「逃げるな!」
「逃げ足早いね…」
 なんだったんだ、と思う。
「エコー、あいつ、プリキュアをコレクションしてるって」
 我に返る。あれは確かにそう言っていた。
「助けに行こうよ!」
 キュアエコーが頷く。
「その前に。
 奏ちゃんに連絡してみる」
 コレクションの対象は「白いプリキュア」らしい。キュアホワイトとキュアイーグレットはすでに「烏天狗」の手に落ちている。
 もう一人の「白いプリキュア」、キュアリズムのことが心配だった。

108makiray:2017/08/03(木) 23:00:31
Quartet Branche (8/16)
----------------------

「レッツ プレイ、プリキュア モジュレーション!」
 光が飛び散る。
「響け、四人の組曲!
 スイートプリキュア!!」
 狛犬は二匹。変身できないと思っていた あゆみがキュアエコーに変身してしまい、一匹では歯が立たなかったため、二匹に戻した。しかし、あゆみから奏に連絡が行っていたため、響たちが揃って迎え撃つ形になっている。四人は、狛犬が現れるとすぐに変身した。
「とっととやっつけて、ホワイトたちを助けに行くよ!」
「えぇ!」
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「プリキュア ミュージック・ロンド!」
 赤狗が三色の光のリングに捕えられた。このまま浄化できる。
〈手のかかるやつだなっ!〉
 黄狗は、赤狗の下に潜り込み、上半身を跳ね上げた。その力で、赤狗の体が黄狗の三色のリングから飛び出す
〈おお、よくやった〉
〈偉そうなんだよ〉
「ミュージック・ロンドが効かない…?」
 キュアビートが言った。
「もう一度、行くわよ!
 プリキュア シャイニング・サークル!
 辺りに、金色に輝く音符が乱舞した。狛犬たちはその輝きに目をしばたたかせている。
「リズム、ビート!」
「はいっ!」
「プリキュア ミュージック・ロンド!!」
 ふたたび、光のリングが飛んでいく。
 何を考えたのか、狛犬はお互いに向かって走り出した。まるで相撲取りのように正面衝突をする。
「え?!」
 二匹がぶつかったことで大きな火花が生まれる。それが三色の光のリングを弾き飛ばしてしまった。
「…。
 なに、それ」
 キュアリズムが呆然としている。ミュージック・ロンドが破られたのは事実で、呆然としている場合ではないのだが、頭をゴツンとぶつけて火花を生み出す、というやり方が冷静な反応を拒んでいた。狛犬は衝突のショックか仰向けになって足をひくつかせている。むしろ、笑いがこみ上げてきそうだ。それは、キュアミューズも同じらしく、呆れて顔をしかめていた。キュアビートなどは、感心したように何度も頷いている。
「リズム!」
 キュアメロディが叫ぶ。
 狛犬は突然、起き上がり、キュアリズムを挟んだ。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
 これまでと同じように嵐が巻き起こる。至近距離から風を食らったキュアリズムはあっという間にバランスを崩し、空中に巻き上げられた。空に開いた扉に吸い込まれていく。
「リズム!
 リズムーっ!」
 それを追うように靴音が響く。なぎさ、咲、そして あゆみ。
「遅かった?!」
「グレル、エンエン! フーちゃん!」
「おう!」
〈あ、またキュアエコーだ〉
 光が飛び散る。狛犬がキュアエコーに気づいた。やみかけた嵐がまた力を増す。キュアエコーの長いツインテールが風の中で暴れた。
「なぎさ!」
「あ…ありがとう」
 変身できないため足元がおぼつかない なぎさと咲が手をつないだ。大事なパートナーを奪われた怒りは感じるが、やはり変身するパワーにはならない。

109makiray:2017/08/04(金) 22:26:28
Quartet Branche (9/16)
----------------------

〈もう、早くこっちこいよ〉
〈帰りたいんだからさぁ〉
 狛犬が割れた声で言った。
「グレル、エンエン」
「なんだ」
「私、行くよ」
「エコー…え?」
「あの扉の向こうに行く」
 その声は風に乗ってなぎさの耳にも入った。
「エコー、バカなこと言わないで!」
「ほのかさんも、舞さんも、奏さんも向こうで捕まっています!」
「だからって!」
「向こうに行けるのは私だけなんです!」
 烏天狗は、白いプリキュアをコレクションしようとしている。求めているのはキュエコーだけ。キュアエコー以外のプリキュアを呼び込む気などさらさらないのだ。
「いいぜ、エコー」
「グレル」
「僕も行くよ」
「うん。
 しっかり捕まってね」
 キュアエコーは体の力を抜いた。足がふわりと浮く。
「エコー!」
「必ずみんなを助けます。
 待っててください」
 キュアエコーの姿も天空の扉の向こうに消えた。

110makiray:2017/08/05(土) 16:17:42
Quartet Branche (10/16)
----------------------

 白い闇。
 扉の向こうでは吹雪が渦巻いていた。何も見えない。風が耳元で騒ぎ立てる。キュアエコーはグレルとエンエンを抱いた腕に力を込めた。
「プリキュアたちはどこにいるんだよ!」
 グレルが大きな声を出す。
 わからない。探そうにもこの状態では。
「吹雪を払おう!」
 エンエンも怒鳴った。エンエンのそんな声は初めて聴いたような気がする。
「でも」
「トラウーマのときにやったでしょ!」
 そうだ。
 あのときは黒い煙だった。それを、体を回転させることで吹き飛ばした。
「僕たちも手伝うから!」
「そうだ、三人一緒なら、こんな吹雪なんか!」
「…。
 うん」
 キュアエコーは足を止めた。ゆっくりと息を吐く。グレルとエンエンも同じようにした。
 掌が暖かい。この吹雪の中で体は既に冷え始めているが、お互いにつないでいる手は別だった。
(いつもと、違う)
 閉じていた目を開けると、自分の体がうっすらと光っている。グレルとエンエンの体も。キュアエコーの光の力が伝わったのか、それともグレルやエンエンがもともとそういう力を持っていたのかはわからない。
 いや、それは、後だ。
 キュアエコーの体は、ふたたびゆっくりと浮かび上がった。
 猛吹雪のせいで体は時折、右に左にと揺れた。だが、ここに来たときのように巻き上げられたりはしない。まっすぐに上昇していく。
 合図をする必要もない。キュアエコーの体が回転し始める。両手のグレルとエンエンが惑星のようにその周囲を回り、光の粒をまき散らした。
 それは次第にスピードを上げる。
 回転速度が上がる。キュアエコーの白に、グレルとエンエンの淡い黄色が加わった渦は、やがて当人たちの形を失い、一瞬、ソフトクリームのように見えたかと思うと、直ちに嵐の核となった。
 その「ソフトクリーム」から生まれた風はあたりの吹雪を巻き込み、空に飛ばしてしまった。ゴウ、っという音が余韻を残す。
「あれは」
 そこに横たわっている大きな繭。
「三つ…まさか」
 キュアエコーは繭に駆け寄り、どうすればいいかわからないまま、それをこすった。
「リズム…」
 まるで氷を磨いたように、繭の一角が透明さを取り戻した。その奥でキュアリズムが眠っている。
 ということは、残る二つは ほのかと舞に違いない。
「だめだよ、そんな乱暴しちゃぁ!」
 背後から甲高い声。キュアエコーは烏天狗をにらみ返した。
「リズムを元に戻して!」
「やだ、こわぁい」
「戻して!」
 烏天狗は顔の両側で手をひらひらさせて笑った。
「はい、そうですか、なんて言うわけないだろ!」
 キュアエコーが一歩踏み出す。烏天狗は、わずかに体をのけぞらせた。
 グレルはキュアリズムが閉じ込められている繭の上に飛び乗った。腰につけている剣を抜く。
「えいっ!」
 カツン、と固い音。
 それでも簡単に割れるようなものではないらしかった。グレルは大きなかけ声とともに剣を繭に降りおろしていたが、繭には傷が付く様子すらなかった。
「グレル…痛くないの?」
「そんなこと言ってる場合か!」
「でも」

111makiray:2017/08/06(日) 07:30:41
Quartet Branche (11/16)
----------------------

(音が…)
 グレルは一所懸命にキュアリズムが閉じこめられた繭をたたき続けている。その音が変わってきたような気がした。
(ひょっとしたら)
 さっきもそうだった。烏天狗の吹雪を消すために三人で手をつないだ――もちろん、フーちゃんも一緒だった――とき、今までに感じたことのない力強さが伝わってきた。
 グレルのおもちゃの剣は、あの繭を割れるのかもしれない。
「つづけて!」
「?」
 グレルの手が止まる。キュアエコーはもう一度、叫んだ。
「グレル、エンエン!
 繭をたたき続けて!」
「わかってる!」
 心配そうに見ていたエンエンも繭に飛び乗った。
「僕もやる!」
「よし!」
 二人は一緒に剣を握りなおした。その瞬間、剣が光を帯びた。
「やっぱり…」
 何が理由かはわからない。グレルとエンエンが成長したということなのか、それとも、キュアエコーと一緒に戦ってきたことが理由なのか。そうだとすればきっと、今はキュアデコルとなっているフーちゃんの存在も重要なキーのはず。
 確かに言えることは、グレルとエンエンが「光の力」を発揮することができる、ということだ。
「行くぞ!」
「えいっ!」
「やぁっ!」
「そんなことはさせないよっ!!」
 危険を感じた烏天狗がじゃまをしようとする。だが、キュアエコーはその前に回り込んだ。
「がんばって!」
「任せておけ!」
「僕たちは、プリキュアのパートナーなんだ!」
「だから、俺たちがプリキュアを」
「助けるんだ!」
 パリン、と。
 想像していたのよりもきれいな音が響いた。
「割れた!」
 足場を失ったグレルとエンエンが、それでもうれしそうな顔で落ちていく。ポコン、と今度はかわいい音がして二人が着地した。
「…。
 あれ、私」
「リズム!」
 キュアリズムは、なにが起こったのか、一瞬、わからなかったようだった。だが、烏天狗の前にいるキュアエコー、そして自分の目の前で得意そうにふんぞり返っているグレル、喜びを満面にたたえているエンエンを見て了解した。
「ありがとう!」
「いいってことよ」
「けがはないの?」
「うん、大丈夫」
 キュアリズムはそう答えると、厳しい顔つきに変わった。そしてまだ冷たい地面を蹴る。
「やぁっ!」
 キュアエコーと烏天狗の間に割って入る。烏天狗が驚いて一歩下がると、キュアエコーと一緒に距離をとった。
「よかった、リズム」
「助けにきてくれたのね」
「ほのかさんと、舞さんも?」
「うん。繭の中」
 二人はそういうと無言で頷きあった。烏天狗よりも、二人の方が先だ。
 だが、どうすれぱいい?
 グレルとエンエンのおかげで、あの繭が割れることはわかった。だが、かなり時間がかかっている。
 また繭を叩く音が響きはじめた。グレルとエンエンがさっきと同じように繭に飛び乗って割ろうとがんばっている。だが、その表情はさっきよりも厳しい。

112makiray:2017/08/07(月) 07:49:00
Quartet Branche (12/16)
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「私もやってみるね」
 そういうとキュアリズムは下がった。
「ファンタスティック ベルティエ!」
 だめだ。グレルの剣より音だけは大きいが傷すらつかない。
「えい。
 えい!
 えい!!」
 いや、グレルのおもちゃの剣の方が効いているように見える。ぶつけたときにかすかに光が散っている。
「そうだ。
 あたしたちは『光の使者』」
 ふいに、足元が揺れた。
「エコー!」
 キュアエコーが巨大な狛犬を必死で止めている。その腕も足も震えていた。
「プリキュア ミュージック・ロンド!」
 キュアリズムが振り下ろしたベルティエから光のリングが飛んだ。それはブーメランのように狛犬の顔面をかすめていった。狛犬は、怯えたような声を上げると慌てて引っ込んだ。まるで猫のように自分の鼻先をさすっている。
「エコー、手伝って!」
「はい」
 キュアリズムはキュアエコーの手を握った。そして確信した。できる。
 キュアエコーが真剣な瞳を向ける。この、熱くて強い思い。それは彼女たちプリキュアが等しく持っているものだ。
「私たちの『光』であの繭を壊すの」
「それは、どうやって」
「わたしに合わせて――あっ!」
 狛犬が突っ込んできた。ふたりはそれを避けるように後ろにジャンプした。着地。カッ、カッ、カッと靴音が響いた。キュアリズムが、まるで狙いをつけるように狛犬へ鋭い視線を投げた。
 合わせろ、と言われただけだ。キュアエコーには何をどうすれぱいいのかわからない。
 だが、強くつないだ手から、力が伝わって来る。それはキュアエコーの中の光を呼び起こし、増大させる。同じことがキュアリズムの中でも起こっている。
 ふたりは、違う。キュアリズムが、キュアメロディ、キュアビート、キュアミューズとするのと同じ技を繰り出すことはできない。
 だが、ふたりは同じプリキュアだ。それは決定的な問題にはならない。
 つまり、新しいことができる。
「行くわよ!」
「はい!」
 つないだ手から、小さな、しかし純白に輝く光の輪が生まれた。それは二人の前で回転しながら大きくなり、光を強めていく。
 輪の成長が止まる。しかし回転速度ばますます上がり、巻き込まれた空気が風になって、キュアエコーとキュアリズムの長い髪を暴れさせた。
 光の輪が辺りを照らす。強すぎる光に風景が白く染まった。
「プリキュア ハートフル・ハーモニー!」
 それははじかれたように飛び出すと、二つの繭に向かって行った。白い風景が切り出されて移動していく。リングは繭を中に取り込むと天に向かって上昇を始めた。繭は花びらのようにリングの中で回っていたが、突然、弾けた。
「…」
「え」
「どういうことだ」
「なんだ、これぇ!」
 当のキュアエコーとキュアリズムがあっけにとられている。エンエンは何も言えない。グレルの大きな声の後、烏天狗の悲鳴が響いた。
 眉が割れ、その中から飛び出したのは、雪城ほのかと美翔舞ではなかった。
 パラシュー卜でもつけているかのようにゆっくりと降り立つふたり。
「ありがとう、エコー」
「ありがとう、リズム」
「えーーーー!!」
 烏天狗がまた悲鳴を上げる。
「変身できないんじゃなかったのか!」
 キュアホワイ卜が静かに笑った。
「そんなことは言っていない筈よ」
「だって。
 だって!」
「世界に光がある限り、私たちはいつでも現れるわ」

113makiray:2017/08/08(火) 22:57:37
Quartet Branche (13/16)
----------------------

「ホワイト! イーグレッ卜!」
 パートナーがいなければ変身できないはずのキュアホワイ卜とキュアイーグレッ卜が目の前にいる。烏天狗だけではない。誰もが驚いていた。
 キュエコーとキュアリズムの、新しい光が奇跡を起こしたのだ。
 四人が並んだ。
「繭の中でいろいろ考えてわかったわ。
 何もかもこの烏天狗の仕業なのよ」
 キュアホワイトが言った。
「何もかもは言い過ぎだろ!」
 烏天狗の抗議を相手にしない。
「どういうつもりか知らないけど、烏天狗は『白いもの』をコレクションしようと考えた。
 まずは雪」
「そうか。
 だから今年の冬は雪が少なくて暖かったんですね」
 キュアイーグレッ卜も、すべてを理解したようだった。
「桜が咲かなかったのもそのせい」
 桜だけではない。春に咲く花は、一定の寒さを経験しなければ花をつけられない。烏天狗が雪を奪ったおかげで気温が十分に下がらず、桜は蕾を成長させることができなかったのだ。
「そんなの僕の知ったことじゃない!」
「自然のリズムを壊すなんて、絶対に許せない!」
 キュアリズムが激しく指を差して責め立てる。
「行くわよ、みんな!」
「はいっ!」
「光の使者、キュアホワイ卜!」
「煌めく銀の翼、キュアイーグレッ卜!」
「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」
「思いよ届け、キュアエコー!」
「こ、こ、こ、狛犬!」
 烏天狗は狛犬のお尻を蹴りつけた。狛犬は、四人の白いプリキュアから発せられる、彼らにとっては不快極まりない光に毛を逆立てて唸り声を上げた。
「はぁぁぁぁ――」
 プリキュアの体から光が滲みだす。それは陽炎のようにゆらゆらと上昇すると、辺りを包み込んだ。
 やがて、四人の中央に集まり始める。プリキュアたちが指差す先の一点に凝集した白い光は、さっきとは逆に、どんどん小さくなっていく。グレルとエンエンは眩しさに小さな手をかざした。
 次の瞬間。
「プリキュア ホワイ卜・レインボー!!」
 光の点が爆発した。その、光の爆風は、彼女たちが広げた手に従い、狛犬と烏天狗に殺到する。
 烏天狗は慌てて狛犬の体の下に潜り込んだ。
「うわぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁ!」
 それは爆発であると同時に吹雪でもあった。光の吹雪は、狛犬と烏天狗の力を奪っていく。狛犬も、その下に隠れた烏天狗もまばゆい吹雪の中でガタガタと体を震わせていた。
 永遠に続くかと思われた光の吹雪がふっと消える。そこにいたのは、小さな二匹の狛犬と、その下でぐったりしている烏天狗だった。
 キュアイーグレッ卜が小さく息を吐き、キュアリズムと微笑みあった。グレルとエンエンがキュアエコーに駆け寄る。
「すごいメポ!」
「びっくりしたチョピ!」
 と、キュアホワイ卜が足場を固めた。
「お前たち…」
 烏天狗が体を起こそうとしている。なかなか起き上がれないのは狛犬が上に載っているせいだと気付くと、乱暴にそれをどけた。狛犬はその陰に隠れるように身を縮めている。
「お前たちなんか…。
 あっちへ行けーっ!」
 烏天狗は怒りに任せて、どこから取リ出したのか大きな扇を振った。その息も絶え絶えの様子とは裏腹に強い風が吹き荒れる。プリキュアたちの体が浮いた。
「あっ」
「グレル! エンエン!」
 キュアエコーがグレルとエンエンを抱きかかえる。そしてキュアホワイ卜達もお互いに手をつないだ。
「みんな、しっかり!」
「手を放さないで!」

114makiray:2017/08/09(水) 19:44:39
Quartet Branche (14/16)
----------------------

「あ…あれ!」
 なぎさが天を指さした。薄暗く曇った空に、突然、白い点が現れた。
 点は少しずつ大きくなる。それはドレスだった。
「エコー」
「リズム!」
 影はもうニつ。
「ほのか!」
「舞!」
 キュアミューズがキュアモジューレを吹く。やわらかな音とともにたくさんの音符が飛び散り、落ちて来る四人の体を支えた。
「ほのか…ほのか!」
「舞ー!!」
 なぎさと咲がふたりをハグする。
 ふたりの姿はもうプリキュアではなかった。やはり、あれはいつもの変身ではない、ということだった。ほのかが決着を急いだのはその不安があったからだが、当たっていたようだった。キュアエコーとキュアリズムは自分で変身を解いた。そして、ふっと息をついた。

「烏天狗はどうなったの?」
 再会の感激が収まった頃、咲が言った。
「多分、浄化はできてないんじゃないかな…」
「あたしたち、追い出された、っていう感じだと思うわ」
 舞が言うとほのかが額いた。
「また何かしようとする、ってこと?」
「じゃ、みんなに知らせなきゃ」
 響とエレンが慌てる。と、なぎさが手を上げた。
「はいはいはい、あたしにいいアイディアがある」
「なに?」
「みんなでお花見をしよう!」
 ほのかがため息をつく。アコも肩をすくめた。
「なによ。あたしは、みんなに大事なことを知らせようと思って」
「はいはい」
 咲がなだめるように肩を叩く。
「そもそも、みんなでお花見をする計画は前からあったんだから、改めて提案することじゃないでしょ」
「こんな事件があったからみんな忘れてるかと思って…」
「俺たちが集まろうなんて大事なこと忘れるはずないだろう」
「なぎさが大雑把だからってほかのみんなも大雑把だと思うのは間違いメポ」
 グレルが言うとなぎさは更に体を小さくしたが、メップルに対しては大声で反論していた。
 あゆみはそれをニコニコと見ていたが、ほのかと舞が近づいて顔を寄せてきた。
「なんですか?」
 一応、気にして小さな声で聞いてみる。
「キュアホワイ卜に変身できたことは、なぎさには内緒ね」
「キュアイーグレッ卜もお願い」
「どうしてですか?」
「やきもちでへそを曲げそうな人がいるから」
「ハートフル・ハーモニーもね」
 奏も加わる。
「…あぁ」
 それはきっと、心配した上でのことだろうが、確かに、わざわざ言うことでもなかった。
「わかりました」
「私たち、ホワイ卜・プリキュアだけの秘密ね」
「はい」
 四人で笑いあう。
「あー、ほのか、あたしの悪口言ってるでしよ!」
 なぎさが矛先を変えた。
 四人が苦笑すると、なぎさの口調はヒー卜アップした。
 これは確かに、四人だけの秘密にするべきだ、とあゆみは思った。

115makiray:2017/08/09(水) 19:46:19
Quartet Branche (Epilogue)
----------------------

「嫌んなっちゃうなぁ…」
 烏天狗は狛犬に体をもませていた。ときおり、あ痛たたた、とうめいては、もっと優しくやれ、と狛犬を小突いていた。
「もう、白いものなんかいらない。こっちで願い下げだ」
 ゴロン、と仰向けになる。狛犬は枕にされてしまった。
「もっと可愛いものがいいな。
 白はもう嫌だから、ピンク色。
 あぁ、金魚なんかいいな」
 烏天狗は、懲りる様子もなく、次のコレクションについて検討をし始めた。

116makiray:2017/08/09(水) 19:47:09
「プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche-」、終了です。
 16 スレのつもりでしたが、15 でした。
 長々と失礼しました。

117名無しさん:2017/08/09(水) 21:03:12
>>116
この四人の取り合わせってなかなか新鮮でした。
パートナーに黙っててね、という三人が可愛かったですw
本編の後、みんなでお花見したのかな。賑やかで楽しそうですね。

118Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 01:14:08
もしアウトでしたら、削除していただいて構いません。
投下させていただきます。
『びーえる!』18禁、BL注意。
あとはよろしくお願いします。

119Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 01:15:41
「――ダメだ、ナ○ツ。もう我慢できないよ」
 艶っぽい低音で囁きながら、コ○はナ○ツの乳首をきゅっと抓る。
「だ、だめっ……だ、もし誰かに見られたらっ……!」
「仕方ないんだよ、もうこんなに滾ってるんだから」
 コ○の色白の体に見合わない、黒く逞しいそれ。
「なあ、ナ○ツも本当は欲しくて堪らないんだろ?」
 耳殻に舌を這わせながら、ゆっくりとそれを擦りつける。
「ぁっ……」
 感じる箇所をふと通り過ぎ、思わずナ○ツは声を出してしまう。
「恥ずかしがらずにホラ、『挿れて下さい』って言えよ。『コ○の逞しい●●●で、俺の中をいっぱい掻き乱して下さい』って。ナ○ツのおねだりする声が聞きたいなぁ」
「そ、そんなっ……」
「ふーん、欲しくないのか?じゃあ、やめようかな」
 耳元に感じていたコ○の吐息が、ゆっくりと離れていく。
「そんなことっ……言ってな……い」
 今すぐ欲しい。欲しくて堪らない。
 逞しいそれで思いきり貫いて、激しく突き上げて、自分の滾ったものも強く握り締めて、扱きあげてほしい!
「じゃあ言えるな?ナ○ツ」
 じわじわ責められて、極限まで高められたナ○ツの身体は、もう拒む事はできなかった。
「コ○ので……いっぱい、掻き乱してくれ……」
「僕の、何で?」
「分かってて……訊かないでくれっ……」
 真っ赤に染め上がったナ○ツの頬に、コ○はチュッと口付ける。
「分からないから訊いてるんだよ」
「う、嘘だっ」
「嘘じゃないって。焦らさないで、早く言えよ」
「焦らしてるのは……そっち……ぁっ……」
 腰が無意識にいやらしくくねってしまう。早く欲しい。これ以上、我慢できそうもない。
「コ○の……逞しい●●●を、俺の中に……っ」
 そう言うと、手首を掴まれ、後ろ手に彼に股間に導かれた、
「お前が欲しいのは……これか」
「そ、そう……はやく……っ」
 これ以上焦らされたら、どうにかなってしまう。ナ○ツは我慢できずに自分から彼の滾ったそれを、自らの潤んだ窄まりにあてがった。
「アッ――!」
 ぬぷりっ、と先端を受け容れた瞬間、まるで全身の血が沸騰するかのような、そんな快感に包まれる。
「んぅぅっ……」
 何もかも埋め尽くすコ○の昂ぶり。ぐいぐいと押し広げられながら、どこまでも高められていく。呼吸はすっかり乱れ、ただただ彼を受け容れるので精一杯だった。
「食いしん坊だなぁ、ナ○ツは!」
「コ○……お、奥まで……来てくれ……っ」
 壊れてもいい。滅茶苦茶に突き上げて欲しい。
「急かすなよ、ナ○ツ。せっかくのお前の体なんだから、じっくり味わわせてくれ」
 焦らすように腰を引かれ、もどかしくて狂いそうになる。
「あぁっ、イヤだ、もっと……」



あゆみ「――ど、どうかな?初めて書いたから、何がなんだか分からなくて……」
やよい「いい!スゴくいいよ、あゆみちゃん!」
あゆみ「そ、そう?これ、こまちさんにも見せたほうがいいかな?」
やよい「うん。こーいうのもイケるクチかもね!」
あゆみ「オールスターで繋がるBLの輪、だね」
やよい「さて、この前の続きだけど……」
あゆみ「うん。ベタ塗りと消しゴム掛けだよね」
やよい「それと、今日はトーンもやってもらおうかなって」
あゆみ「えぇっ!?私なんかがそんな大役を!?」
やよい「いや〜、実は昨日、気合入れてカッター握ってたら指ケガしちゃって……ちょっと刃物とは距離を置こうかなって」
あゆみ「そうなんだ……。で、どこをやればいいの?」
やよい「この男性キャラの乳首のところと、あとお尻の――」



120運営:2017/08/21(月) 22:09:03
運営です。Mitchell & Carroll様、いつも楽しい作品をありがとうございます。
で、さすがにこれは問題あり……なんですが、内容はとても面白く、削除も惜しい(運営の一人が強く推しました)ので、特例で保管させていただくことにします。
ちょっと無理やりではあるんですが、保管庫Q&Aの3を適用します。まずヒロインと男性キャラとの絡みではないこと。及び、妄想オチであること。シリアスではないこと。ヒロイン同士のお話で終わっていること。でギリギリOKとします。
投下ありがとうございました!

121Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 23:25:01
>>120
どうもありがとうございました。

122makiray:2017/11/02(木) 21:31:06
 一応、プリアラの映画がベースなのですが、映画を見てなくても OK ですし、ネタバレにもなっていません。
 3スレ、お借りします。

123makiray:2017/11/02(木) 21:32:21
きらら星またたく (1/3)
----------------------
 パリ7区のシャン・ド・マルス公園に店を構えたキラキラパティスリー。
 そのドアがバタンと開く。次には、カツカツカツ、とヒールの高い音が響いた。
「あの、今日の営業はもう…」
「Des bonbons ou un sort」
「え?」
 その少女が言ったフランス語を宇佐美いちかたちは理解できなかった。
 なにせ世界パティシエコンテストへの参加は急に決まったもので、フランス語を勉強する時間などほとんどなかった。“Bonjour”と“Merci”、あとは自分たちが提供するスイーツの名前くらいがせいぜいである。
「Des bonbons ou un sort!」
「Pardon...」
 有栖川ひまりがやっと思い出した言葉で、もう一度、と言う。年は彼女たちと同じくらいだろうが、姿勢もスタイルもよいその少女は、その外見に似つかわしくもなく、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
「ったく。
 じゃ、Trick or Treat!」
「あ、それはわかる」
 立神あおいが言った。だが、別にハロウィンのフェアはやっていない。顔を見合わせているばかりだが、琴爪ゆかりが、あ、と口を開いた。何か思い出したらしい。
「シエルは? いるんでしょ?」
「シエルのお友達かな」
「パリに来て、このあたしをおもてなししないで済むと思ってるの? 大人しく出さないと、いたずらしちゃうわよ?!」
 悪い人には見えないのだが、言っていることが物騒である。なんとかして帰ったもらった方がいいだろうか、と思っていると、キッチンからキラ星シエルが顔を出した。
「いた!」
「あ…」
 ふたりは、お互いを認めると笑顔になった。
「シエル!」
「きらら!」
「きらら、って…あっ!」
 いちかたちもそれが誰であるかを思い出した。五人一斉に指をさす。
 少女は、からかうように笑った。
「ごきげんよう」

「そうか。
 シエルが MON TRESOR にいたころ、きららちゃんと会ってたんだ」
 その少女は、天ノ川きららだった。
「そ。駆け出し同士、傷をなめ合っていたわけ」
「わたしはちゃんと一人前のパティシエになってたわよ」
「えー、オーナーにダメ出しされてしょげちゃってたのは見間違いかなぁ」
「記憶にないわ」
「それは失礼」
 きららは、にひ、と笑った。
「ところで」
 剣城あきらが言う。視線は、きららといちかから、ひまり、あおい、ゆかり、と移動する。
「なに?」
 シエルがそれぞれの顔を見た。どれも、困っている表情。このふたりは、お互いのことをどこまで知っているのだろう。
「どうしたの?」
「あ、きららちゃん」
 いちかが立ち上がった。
「改めて紹介するね。
 こちらは、キラ星シエル」
「知ってる」
「またの名を、キュアパルフェ」
「ふうん、どっかで聞いたような――え?」
 シエルがいちかに駆け寄った。
「ちょっと、いちか、そんなこと、一般の人に」
「大丈夫。きららちゃんは――」
 シエルはきららを見た。きららの唇が震えている。それはつまり、「キュアパルフェ」という名前が何を意味するかを知っている、ということだ。シエルの視線は、きららから、あきら、ゆかり、あおい、ひまり、いちか、と移動した。
「…」
「…」
「シエルがプリキュア?!」
「きららがプリキュア?!」

124makiray:2017/11/02(木) 21:34:00
きらら星またたく (2/3)
----------------------
 さらに、シエルが実はキラリンという妖精である、という事実もきららに伝えられる。きららはしばらく頭を抱えていた。
「ていうか、いちかちゃんたちが言ってたキラキラルってそういうパワーも持ってるんだ」
「えぇ、まぁ」
「了解」
「わかったの?」
「理屈考えてもしょうがないからね。あたしたちだって似たようなもんだし」
「つまり、きららとは、駆け出し仲間であると同時に、プリキュア仲間でもあるわけね」
「さっきは違うって言ってなかったっけ」
「認めてあげたのよ」
「って言うか、違うよ」
 きっぱりとした言い方に、一瞬、皆の表情が曇る。
「あたし、もう駆け出しじゃないし」
「…」
「シエルは知らないけどね」
 また、にし、と笑う。またからかわれたのだ。シエルの顔が赤くなる。
「私の店の『スイーツのセーヌ川』は何度も見たでしょ?
 また私のスイーツを食べられなかった、ってがっかりしてたじゃない」
「うーん、そしたら別の店にいけばいいだけだし」
「なんですって?」
「ここは花のパリ。おいしいお店はいくらでも」
「きららちゃん」
 ヒートアップしそうな言い合いを いちかの言葉が止めた。
「ん?」
「きららちゃんって、そんな言い方する人だった…っけ」
 きららの目がわずかに開いた。
「私、きららちゃんとシエルがどんな関係だったかは知らない。
 きららちゃんだって、今年の春に会ったっきりだし。
 でも、きららちゃんがそんな意地悪を言う人だなんて…思ってなかった」
 一度落ちた視線を上げるきらら。どうやら、ひまりたちも同じことを考えているようだ。
「…。
 ごめん」
 きららは小さく頭を下げた。
「スイーツだけじゃない。モデルも一緒でさ。
 スタイルが良くて、クールなウォーキングができるモデルなんて、パリにはいくらでもいるんだ。認めてもらって抜け出すんだ、ってみんな言ってるけど、そもそも見てもらう機会が少ない。
 だから、ことあるごとに、『あたしの方がきれい』『あたしの方が上手い』ってアピールしていかないといけないんだよね。
 あたし、もともと根性悪いけど、それが強くなってる、って日本のモデル友達にも言われた」
「根性悪くなんかないよ」
「いや、それは」
「根性悪い人が、プリキュアになれるはずないもん」
「…」
 またきららの視線が落ちる。シエルは、次の言葉が出ないきららを見ていた。
「そんなときは、スイーツね」
 シエルが立ち上がった。
「何か食べたいものある? 簡単なものなら作るよ」
「…。
 ミルフィーユ」
 シエルは、簡単なものって言ったのに、と笑いながらキッチンに向かった。

125makiray:2017/11/02(木) 21:34:47
きらら星またたく (3/3)
----------------------
「そんなすぐ帰っちゃうの?」
「学校、そんなに長く休めないし」
「そっか」
 きららは笑っていたが、瞳の奥に寂しさが見えた。
「冬休みにでもまた――」
「ノーブル学園の近くに店、出せるかな」
「出せると思う…けど」
「はるはるとみなみんにさっきのミルフィーユ、食べさせてあげてよ」
「きらら」
「あたしがいなくなってすっごい寂しいらしいからさぁ。ちょっとはまぎれるんじゃないの?」
「…。
 それは保証するわ」
「よろしく」
 寂しいのは自分も同じだろうに、自分の事より、友達の方が先。
 同じなのだな。
 シエルは、自分を支えてくれる いちかたちのことを思った。
 隠し事も一つなくなり、シエルときららの間もさらに近くなった。駆け出し仲間であり、プリキュア仲間であり。
「ね、日持ちのするスイーツなら日本から――」
「あぁ、久しぶりにマーブルドーナツ食べたいなぁ。シエル、日本から送ってくれない?」
「絶対にいや」
 きららは、まぁまぁ、とシエルの肩をたたいて笑った。
「しばらくは、パリの No.2 のスイーツで我慢するよ」
「今頃おだてたって」
「どこが No.1 かなんて言ってないよ」
「…!」
 そのやりとりを見ていた あおいが肩をすくめた。
「どこで入ったらいいかわかんないよ、あのふたり」
「でも素敵だよね」
「いい関係だと思います」
 いちかの言葉に言葉にひまりが頷いた。
「こっちにも似た感じの人がいるけど」
「誰のことかしら」
 あきらが苦笑する。
「ね、写真撮ろう。
 ミルフィーユと一緒に、はるかちゃんたちに届けよう!」
 いちかがカメラを取り出した。
 きららが、写真は事務所通してほしいなぁ、と言ったが、もう誰も戸惑わない。気にしなくていい関係がまた一つ出来上がった。

126名無しさん:2017/11/03(金) 08:07:57
>>125
おー、早々と劇場版設定!
パリと言えばやっぱりこの人ですね。
翻弄されるいちかたちが、らしくてニヤけましたw

127名無しさん:2018/06/24(日) 21:43:01
今年はオールスターズ復活なのね!
55人声付きって凄いな。どうやってお話作るんだろう!
とにかく楽しみ。

128makiray:2018/09/22(土) 23:01:05
 毎年恒例――だけど半年も経っている!――春映画にキュアエコーを登場させるお話、「プリキュア スーパースターズ Ver.1.1」をお届けします。
 12 スレ、お借りします。

129makiray:2018/09/22(土) 23:04:05
Soliste Echo(01/12)
-------------------
「…」
 一瞬、口を尖らせかけた あゆみに、エンエンが首を傾げた。
「どうした」
 グレルがあゆみの勉強机から見上げながら言う。
「ほのかちゃんも出ない」
「なーにやってんだ、あいつら」
 腕を組んだグレルが小さな指をパタパタさせている。どこでそういうポーズを覚えたのだ、とあゆみは思った。
 春が近い。恒例の、プリキュア花見大会の計画も始まっているはずだ。学校の友人から穴場を教えてもらったので、そこを提案してみようと思って美墨なぎさに電話をかけてみたが通じない。最初にかけたときは夕方だったから、夜を待ってもう一度かけてみたが同じだった。そして、雪城ほのかも出ない。ラクロス部は練習が夜にかかることもあるかもしれないが、科学部はそんなことなさそうな気がする。九条ひかりは就寝が早い、と聞いたことがあるので、おそるおそるかけてみたが、やはり出なかった。
「みんな、忙しいのかな」
「お花見より大事な用事なんかないだろ!」
 エンエンの言うことが気になる。たまたま三人とも忙しかった…。学年末で、試験もあるだろうし――それはあゆみも同じだが――暇を持て余している、ということはないだろうが、それは電話に出る暇も、コールバックする余裕もない、というほどのものだろうか。
「あゆみ、どうすんだ」
「明日、もう一回、電話してみる。もうこんな時間だし」
「早く決めてもらわないと困るぞ。俺だって忙しいんだ」
「何に?」
 あゆみとエンエンの声が揃うと、グレルは悔しそうな顔でそっぽを向いた。あゆみとエンエンが顔を見合わせて笑う。
「明日まで待っててくれる?」
「しょうがねぇな。俺はもう寝るぞ」
「うん。おやすみなさい」

 あゆみはスマートホンを置いた。
「あゆみ…」
 さすがのグレルも大きな声を出さない。いや、出せない。エンエンは不安そうにあゆみを見上げている。
 翌日、学校から帰ったあゆみは、なぎさとほのかが相変わらず電話に出ないことを確認すると、日向 咲、夢原のぞみ、桃園ラブ、花咲つぼみ、とかける相手を変えていった。最後が朝日奈みらい。誰も出ない。さらに、出なかった人と生活のリズムが違う仲間――例えば、高校生の月影ゆり、小学生の調辺アコや円亜久里、仕事で学校に行っていない可能性のある剣崎真琴――にもかけたがやはり同じだった。
(どういうこと)
 最初のうちこそ、「あゆみに何かサプライズを用意していて、それで電話に出ないようにしているのではないか」などとからかっていたグレルとエンエンだが、あゆみがいくら相手を変えても一人も出ない、ということがわかると、笑いが消えて行った。
(何が考えられるだろう)
 いや、「大丈夫だ」と思える答えは出てこない。
「ケータイじゃなくてうちにかけてみたらどうだ」
「それは…よくないかもしれない、って気がする」
 想像の通りだとすれば家族はかなり心配しているだろう。そこに電話をすることはためらわれる。そして、もっと悪い想像として、家族も同じような目にあっていたり、ということはないか。
 ふたたびスマートホンを手に取るあゆみ。ここは、あとで「心配し過ぎ」と笑われるのを覚悟のうえで、全員に連絡を取ってみるべきだった。
 しかし。
 あゆみは、名前を書きだしたノートを見ていた。何度コールしても出ないのが数人、「電源が切られているか電波の届かないところに」となったのが大半。
 結論は出た。「プリキュアに何かあった」のだ。
「でも、そうだとしたら、どうして」
 なぜ、あゆみ、キュアエコーが無事なのか。
 それはわからない。単に順番の問題で、たまたま最後に一人残っているだけなのかも――
 あゆみの背中を悪寒が走った。
(私が、最後のプリキュア?)
 体がぶるっと震えた。
「あゆみちゃん」
「あゆみ!」
 グレルとエンエンが机から見上げている。その温かい視線にあゆみは我に返った。
(しっかりしなきゃ)
 あゆみは自分に言い聞かせた。電話が通じないだけだ、と。湧き上がってくる不安と恐怖を押しつぶすように胸の中で何度も繰り返した。
 だが、それは気休めのための努力でしかない。
 おそらく、このまま待っていれば、敵が姿を現すはずだ。それが何者なのかはわからないが、プリキュア全員を手にかけたのだとしたら目的があるはずで、黙っているはずがない。
 だが、それを待っているわけにもいかない。何かが起こっているのだ。じっとしているのは間違いだ。どうすればいい? たった一人で――
 あゆみの顔が上がる。グレルとエンエンはそれを追うように見上げた。
 まだ、連絡を取っていないところがある。あゆみは力を込めなおすように手を握って開いた。

130makiray:2018/09/23(日) 23:02:14
Soliste Echo(02/12)
-------------------
 スマートホンを手に取り、検索用の入力欄をタップする。思い出せ。名前はなんだった。まだ会ったことがないので、個人の番号は知らない。手がかりは店の名前だけだ。確か。
「あった、キラキラパティスリー」
 あゆみは通話ボタンを押した。
 呼び出し音が、一度、二度。
(出て。お願い)
 三、四。
(お願い、誰か!)
 五――
《お待たせしました、キラキラパティスリーです》
 女の子の声。
「いた」
《もしもし?》
「あの、私、坂上あゆみって言います」
《はじめまして。宇佐美と言います》
「宇佐美いちかさん?」
《は…はい、そうですけど》
「あの、宇佐美さんの名前は、みらいちゃんとリコちゃんから聞いて」
《みらいちゃんとリコちゃん…あぁ。はい、えっと、それで》
「私も、プリキュアなんです」
《…》
「あの、もしもし?」
《なんですとーっ?!》

 あゆみは駅を出ると走り出したが、坂の途中で足を止めた。
「すごい坂だね」
「これは…」
 トートバックの中のグレルも、この長い坂を見て、早く行け、とは言わなかった。
 あゆみは、いちかには異変の話をしていない。いちかが、みらいやリコから名前を聞いただけのプリキュアから電話がかかってきたことに興奮していたせいもあるし、翌日は出張販売の予定で忙しそうだったこともある。その出張販売の場所は横浜から行ける距離だったので、そこで会って話そうと考えた。花見のことは、いちかの方から、「はるかちゃんがそのうち連絡する、って言ったけど、どうなったかなぁ」と言ってきたので、ほかの誰かに聞いてみる、とかわした。
「上り切った…」
「あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。あとは下りだしね」
「どんなやつらなんだろうな」
「『やつら』とか言っちゃダメ」
 あゆみはトートバックの上からグレルをこづいた。
 この不安な状況にあっても、そこは楽しみである。
〈フーちゃんも楽しみ〉
 今はキュアデコルに姿を変えたフーちゃんも楽しそうな声で言った。
「着いた…けど」
 上りが長かったのだから、下りも相当に長い。その、下りきったところに広場があった。移動式の遊戯設備がいくつか並んでいる。どうやら何かのイベントをやっているらしい。奥に「キラキラパティスリー」の看板も見えた。
「賑わってるみたいだね」
「うん、いいにおい」
「あ、あゆみ!」
 グレルが突然、大きな声を出す。
「どうしたの?」
「太陽マンだ!」
「たい…え?」
 トートバックから身を乗り出して指さしている。キラキラパティスリーの建物とは反対の方向に小さなステージがあり、「太陽マン ヒーローショー」と書いてある。
「グレル、今はそれより」
「行ってみようか」
「でも、あゆみちゃん」
「今は、忙しくて難しい話を出来る感じじゃなさそう。それに、宇佐美いちかさんがいないみたい」
 長いツインテールだと聞いた。そろいの制服を着た女の子は五人いるが、それに当てはまる人がいない。
「わたしも一休みしたいし」
「だろ。だろ?!」
「いいけど、興奮してバッグから飛び出したりしないでね」
 あゆみは、笑顔を振りまいてスイーツを売っている立神あおいたちの横を通り過ぎて、ヒーローショーの会場に向かった。

131名無しさん:2018/09/24(月) 07:30:49
>>130
待ってました!
しかも他のプリキュアの描写も出て来るとは。続き楽しみにしてます!

132makiray:2018/09/24(月) 23:18:51
Soliste Echo(03/12)
-------------------
 異変が起こったのは、しばらく後である。
「なに?」
 立ち上がる あゆみ。
 空に巨大な扉が現れたかと思うと、そこから黒い巨人がこちらに乗り込んできた。手と足、それに顔らしいものがあるから「巨人」と言ってもいいだろうが、それを「人」というのはためらわれる。あゆみは直感した。プリキュアたちに何かが起こったとすれば、あれと関係がある。
「あゆみ!」
「うん!」
 一瞬、襟元のキュアデコルが熱を持った。
〈いやな感じがする〉
 フーちゃんも同じことを感じている。
 海に向かって走る。見たことのないプリキュアが戦っていた。
「あれが、いちかちゃんたち」
「すげぇぞ!」
 軽やかに飛び回り、色のきれいなリボンを打ち出しては巨人を翻弄し、拘束している。
 その姿が少しずつ大きく見えてくる。だが、護岸の向こうにプリキュアの姿が消えたかと思うと、巨人は扉の向こうに行ってしまった。
「どうしたんだろう」
〈プリキュアの光が消えた〉
 フーちゃんがつぶやく。あゆみは浜に降りる階段に飛びついた。そこに、ふたりの少女が上がってくる。
「ごめんなさい」
 赤ん坊を抱えた少女と、長いツインテールの少女が、ぶつかりそうになった謝罪もそこそこに走っていこうとする。
「待って!」
 うるさいな、と言いたげな険しい表情で振り返る少女たち。
「宇佐美いちかさん、じゃないですか?」
「…そうですけど」
「何があったんだ!」
 グレルがバッグから飛び出した。エンエンも続く。
「妖精…?!
 じゃ、あなたは、坂上あゆみちゃん!」
「どうしたんですか?
 プリキュアのみなさんは?」
「みんなは――
 みんなは…」
 いちかの視線が落ちる。野乃はなは、それを心配そうに見やったあと、あゆみに視線を戻した。
「ウソバーッカ…さっきの化け物に捕まってしまいました」
「捕まった…」
「いちかちゃんの仲間も、私の仲間も…」
「せや、えらいこっちゃ」
「ネズミがしゃべった!」
「俺はハリハム・ハリー様や!」
 赤ん坊のハグたんは、ふたりの曇った表情をよそに、グレルとエンエンに向かってハギュハギュと手を伸ばしていた。だが、今はそれに頬を緩める者はいない。
「つまり、二組のプリキュアが捕まってしまった、ということなんですね」
 いちかと はなが頷く。
「変身して助けに行こうよ」
 エンエンが言ったが、いちかと はなは弱々しく首を振った。
 ポケットから何かを取り出す。石ころに見えたそれは、どうやら変身アイテムのようだった。
「変身できないってことか」
 だまって頷くふたり。
「坂上さん、ほかのプリキュアの皆さんは」
 いちかがやっと声を出した。
「え、いちかちゃんたちのほかにもプリキュアがいるの?!」
 はなは驚いてそう叫んだが、この坂上あゆみという少女が最初に「プリキュア」という言葉を使っていたことを思い出した。
「それが…」
〈あゆみ…さっき、ウソバーッカがいなくなったらプリキュアの光も消えた〉
「だから、それは――え」
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」

133makiray:2018/09/25(火) 21:05:51
Soliste Echo(04/12)
-------------------
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」
 グレルが叫ぶ。
「ひょっとして、それを伝えに、わたしのところに」
 今度は、あゆみが頷いた。
 それきり彼女たちは黙った。ハグたんも、不安げに はなたちの顔を見ている。
「せや、それで、どこ行くつもりやったんや、いちかはん」
「そうだ。
 桜が原に行こうと思ってたの」
「桜が原…?」

 三人は苺坂に向かった。そこにある神社の境内。
 いちかはポーチから「スイーツ」のマークが描かれたカードを取り出した。
「桜が原は、この世界の町じゃないんだけど、サクラっていうコは、世界を渡っていく力を持ってるんだ」
 その後、そのカードを通じて何度かコンタクトを取ったことがあるという。
「スマホみたいに使えるの?」
「っていうか、このカードを持って、サクラとお話ししたい、って思うと――」
 いちかはそのカードを強く握って目を閉じた。
 時が移る。いちかの眉間が険しくなり、汗が流れ、やがて歯を食いしばったが、やがて、はぁっと息を吐き出した。
「だめだ、サクラの声が聞こえない」
「いつもはすぐに聞こえるの?」
「そういうわけじゃないけど…今は、なんか、届いてる、って感じがしないんだ。呼び出し音も鳴ってない、っていうか」
「ちょっといいですか」
 あゆみは、いちかのカードに手を重ねた。
「…」
 確かに。なにかとつながる力を持っているもののような感じがする。言えば、キュアエコーの光の力と共通点がある、ような気がした。
「そのサクラっていうコに手伝ってもらう、っていうことですね?」
「うん。
 ウソバーッカは、マホウ界に行く、って言ってた。でも、私たちはみらいちゃんやリコちゃんと一緒でないとカタツムリニアは乗れないから」
「わかりました」
「なにが…わかったんですか?」
 はなとハグたんが一緒に首をかしげる。それを可愛いと感じている余裕は今はない。
「フーちゃん、グレル、エンエン。
 お願い」
〈うん〉
「よしきた!」
「思いを届けるプリキュアの登場だね」
 あゆみは、グレル、エンエンと手をつないだ。
 胸元のキュアデコルが瞬き、三人のトライアングルが光を帯びる。
「思いよ届け、キュアエコー」
「…」
「キュアエコー…」
「すごい!」
「きれい!」
「かわいい!!」
 いちかと はなはもちろん、ハグたんも、小さな体のままのハリーも飛び跳ねて喜んでいる。
「うけてるな…」
 グレルがつぶやいた。かすかにほほを染めるキュアエコー。
「あの…カードを貸してください」
「よろしくおねがいします!!」
 お辞儀をするようにカードを差し出すいちか。はなも覗き込む。
 カードの縁が光っていた。キュアエコーがゆっくりと息を吐く。
 はなはそれを、何か困っているのだ、と思ったらしい。突然、大きな声を出した。
「フレ、フレ、あゆみちゃん!
 フレ、フレ、エコー!」
「あの…」
 キュアエコーが苦笑気味に言う。
「ちょっと集中したいので…」
 ハリーがはなの足をコンと叩く。はなは体を小さくして恐縮した。

134makiray:2018/09/26(水) 21:37:59
Soliste Echo(05/12)
-------------------
 キュアエコーが手のひらを上に向けると、カードは浮き上がり、零れ落ちた光の粒が、キュアエコーの周りを舞った。やがて光の粒が空に吸い込まれていく。
「サクラさん…聞こえますか?」
〈誰?〉
「サクラの声だ!」
〈誰なんですか?!〉
 キュアエコーの目がかすかに動く。
「私は坂上あゆみ、キュアエコーです」
〈プリキュアなの?! いちかのお友達?〉
「サクラ、私だよ。いちかだよ!」
 やはり、サクラには、今のいちかの声が聞こえていないようだ。
 キュアエコーはいちかに向かって手を伸ばした。わけがわからないまま、いちかはその手を握った。
「えっと…」
〈いちか!〉
 サクラの声が明るさを取り戻した。
「どういうこと…?」
 はながキュアエコーの顔を覗き込む。
「思いを届ける、それがキュアエコーの光の力なんだよ」
 かわりにエンエンが答えた。
「だから、いちかちゃんはサクラってコとお話ができるようになったの?」
「そういうこと」
 なぜかグレルがキュアエコーの代わりに威張っている。
 その間にいちかはサクラへ事情を説明していた。
〈でも、あたし、そっちに行けないんだ〉
「どういうこと?」
〈ずっと試してたの。でも、この扉が開かない〉
〈うちも手伝ぅとるんやけど、びくともせんの〉
「シズク」
 いちかは知っているようだったが、キュアエコーも はなもそれが誰だかはわからない。ひとまずは、サクラの仲間だろう、と理解した。
〈あ、扉が少し軽なったような気もする〉
「ひょっとしたら、キュアエコーの力のおかげかな」
 それはありうる。声だけとはいえ、こちらの世界と桜が原との間がつながったせいかもしれない。
「ちょっといいですか」
 キュアエコーはいちかの手を放すと、自分の両手を結んだ。それをカードの下に向けて伸ばし、すうっと息を吐いて手を開いた。
〈扉が動くよ!〉
 できる。
「いちかさん、はなさん。
 たぶん、桜が原への扉を開くことができると思います」
「キュアエコーの力で?」
「いえ、正確には、私とサクラさんの間の――」
「ありがとう!!」
 いちかとはなが感謝に満ちた顔を寄せてくる。キュアエコーはまたほほを染めてのけぞった。
「あの、ちょっと離れてもらえますか?」
「はは、ごめんなさい」
 ふたりが下がる。キュアエコーは、手で、もう少し、と示した。
 2m ほどの距離になると、キュアエコーは正面にあったカードを下から跳ね上げた。カードは光の粒を残して、宙に舞い上がった。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
 キュアエコーの指から発せられた光が、カードに吸い込まれていく。ふっと光の脈動が収まると、まるでケーキにナイフを入れたように、目の前の空間が割れた。
「サクラ!」
「いちか!」
 割れた空間は扉になり、中からかわいらしいピンク色のドレスを着た少女が飛び出してきた。おっとっと、とバランスを崩しそうになり、いちかに抱きとめられる。向こうで体ごと扉に力を込めていたのだろう。
 キュアエコーは、よかった、と息をついた。
「サクラ、すぐで悪いけど、私たちをマホウ界に連れて行って」
「うん!」
 サクラに続いて、いちか、はな、ハリーが扉の向こうに飛び込んだ。
「エコー、あなたも来て」
「いえ、私は残ります」

135makiray:2018/09/27(木) 22:45:10
Soliste Echo(06/12)
-------------------
「私は残ります」
「どうして?
 みんなを助けるの手伝ってほしいんだ」
 キュアエコーは首を振った。
 グレルとエンエンも、どうした、と不思議そうに見上げている。
「残ります。
 この世界にプリキュアはいないから」
「!」
 そうだった。
 プリキュアアラモードの五人も、HUG っとプリキュアのふたりも、そして先輩たちも皆、ウソバーッカの中に捕らわれている。みらいたちはまだ無事かもしれないが、それはマホウ界のこと。この世界、ナシマホウ界にいるプリキュアはたった一人、キュアエコーだけ。
 昨夜の心配は現実になったのである。
「エコー…」
「心配するな。俺たちにドンと任せておけ!」
「大丈夫だよ」
 グレルが胸をたたき、エンエンが微笑む。ポシェットから漏れた光は、フーちゃんも同じ気持ちだということだ。
「あんた…」
 顔を上げる。扉の向こうに、きれいな青のキツネがいた。
「あなたは…」
「わたしの名前はシズク。サクラの友達。
 あんたに、カードを一枚、預けましょ」
 キュアエコーの前にカードが浮かび上がった。さっき、いちかが持っていたのと同じもの。ただし、中央のマークは「扉」だった。
「あんたにはなんや、うちらと近いものを感じる。きっと、このカードが役に立つ思う」
 それがどういう意味かはわからない。だが、これからの一人きりの戦いの役に立つのであれば、それが何であっても欲しい、というのが偽らざるところだった。キュアエコーはカードを手に取った。
「すぐに戻ってくる」
 いちかが表情を引き締めて言った。
「うん」
「ありがとう、キュアエコー」
 走り出すいちかたち。その背中を隠すように扉が閉まる。切れ目はすぐに消え、あたりはなんの変哲もない神社に戻った。
「さて、俺たちの力の見せ所だぞ」
 無言でうなづくキュアエコー。
 いちかたちの言うとおりであれば、ウソバーッカはマホウ界だ。だが、いつ戻ってくるかわからない。それは、マホウ界で苦しめられてこちらに戻ってくるのかもしれないし、それはそれとしてこのナシマホウ界で悪事を働くのかもしれない。あるいは、狙い通りにみらいたちをも捕らえ、最後のプリキュアを始末しにやってくるのかもしれない。
〈あゆみ…〉
 フーちゃんが小さな声を上げた。キュアエコーは手を必要以上に固く握っていた。
 不安? ある。あるに決まっている。
 だが、この世界にプリキュアは一人しかいないのだ。であれば、道も一つしかなかった。

 マホウ界では、リコとことはがウソバーッカの中に飛び込んだ。魔法で中からみなを脱出させることができるだろう、と考えたからだったが、そうはならず苦戦していた。
 はな、いちか、みらいの三人は辛うじて脱出に成功した。そこで、あのウソバーッカが、かつて はなが不思議な空間で出会ったクローバーという少年に「闇の鬼火」がとりついたものであることがわかる。はなは、クローバーを傷つけたことを謝り、闇の鬼火につけいらせないようにするため、六角塔の「時の扉」を目指す。
 六角塔は見つかり、闇の鬼火にクローバーを利用させないようにすることはできた。だが、闇の鬼火は、中にプリキュアたちを抱え込んだまま巨大化してしまう。
 はな、いちか、みらいは走った。まだアスパワワもキラキラルも魔法の力も戻ってこない。ハグたんを抱え、クローバーと一緒に走るしかなかった。
 だが、巨大化した闇の鬼火は今にも追いつきそうだ。
 もう足も心臓も限界だ。だが、止まるわけにはいかない。足をもつれさせただけでも捕まってしまうかもしれない。そう、頭に思い浮かべてしまったのがよくなかったのか、はながつまづいた。
「はなちゃん!」
 みらいが戻ろうとする。
「立って!」
 いちかが悲鳴を上げた。
 ウソバーッカの大きな手が上から覆いかぶさってくる。はなは、はぐたんを腕の中に抱え込んだ。
「!
 …」
 ショックが来ない。はなは恐る恐る顔を上げた。
 はぐたんを抱えたはなの体をかばっているのは。
「エコー。
 エコー!」
 ハートフル・エコーの光に怯えたウソバーッカは、熱いものにふれてしまった子供のように手を引っ込めていた。

136makiray:2018/09/28(金) 22:02:16
Soliste Echo(07/12)
-------------------
「ありがとう!」
 キュアエコーは答えなかった。肩を大きく上下させて、荒い息をしている。
 遅れてきたグレルとエンエンはその場へ大の字になって倒れこんだ。
「大丈夫?!」
 いちかとみらいが走ってくる。キュアエコーはその場に崩れ落ちた。
「エコー!」
「――夫です」
 それも声になっていない。
「遅くなってごめん」
 みらいがその手を取った。エコーは、かぶりを振った。
 ウソバーッカは、マホウ界でみらいたちを取り逃がした後、何度かナシマホウ界に侵入しようとした。キュアエコーにできることは、そのたびに扉を閉じるくらいだったが、「思いを届ける」プリキュアであるキュアエコーの力を逆に作用させることでしのいできた。つまり、この世界に入り込みたい、というウソバーッカの「思い」を妨害する、という方法だったが、それにはシズクがくれたくれた「扉」のカードが手助けとなった。
 だが、それにも限度はある。五度目でついに突破され、侵入を許してしまった。それを追ってきたが、被害にあった人々を見なかったことにもできず、それを全部やろうとしたキュアエコーは文字通り、疲労困憊であった。まだ光の技を使うことはできるが、声を出す気力は残っていなかった。
 震える足で立ち上がる。グレルとエンエンもお互いに助け合いながら立った。
「エコー…」
 キュアエコーの胸の宝石はもう光を失いかけている。立っているのがやっとのはずだった。
 クローバーと目が合う。彼は、その緑色の瞳でキュアエコーを見つめた。
 今、彼が何者なのかをエコーに、あるいは、クローバーにキュアエコーについて説明できる余裕がある者はいない。だが、クローバーは今の様子から、キュアエコーが はなの友人であり、ウソバーッカと戦って弱っているのだ、ということを理解した。
「あの…」
 クローバーは両手を差し伸べた。握手だろうか、とキュアエコーも手を伸ばした。
「…。
 あ」
 クローバーの手から淡い緑色の光がにじみ出した。それは暖かく力強い。疲れきったキュアエコーの体にしみていく。しかし。
「待って!」
 キュアエコーはその手を振り払った。詳しいことはわからないながら、クローバーが何かキュアエコーのためにしてくれているのだ、ということを察していた はなたちも驚いた。
「どうしたの、エコー」
「その力は、ひょっとして、あなたの…」
 クローバーの、いくらか傷ついたような表情が緩んだ。わかったのか、という顔だった。
「それは」
「いいんです」
 クローバーは振り向いた。その足元に円陣が現れたかと思うと、クローバーは光になった。
「何をするつもりなの?!」
 緑色の光は「芽」を出した。それはあっという間に双葉から本葉へと成長し、キュアエコーや はなたちの足元から茎を伸ばし、朝顔の蔓のように巻き付いてくる。
 不快感はなかった。むしろ、その暖かさが安心をくれる。強張った体が緩み、しおれた心がほぐれていく。
 一方、鬼火には逆の効果があるようだった。身もだえて苦しんでいる。
 それだけではない。
(あれは…)
 鬼火が腹部を押さえている。その指の間から緑色の光が漏れている。クローバーの光だ。それが突然、はじける。
「出れた!」
 ずっと上の方、緑の光がはじけたあたりから声が聞こえた。
「リコ! はーちゃん!」
「あおちゃん! ひまりん! ゆかりさん! あきらさん! シエル!」
「さあや! ほまれ!」
「プリキュアが…」
 脱出してきたのだ。
 同じようにクローバーの光で力を得て、そうして得た力を合わせて。
 再会の喜びもそこそこに全員が一斉に変身した。あたりが昼の光で埋まる。
 これで――
「エコー、おかしいぞ」
(いない)
 飛び出してきたのは9人。はなや いちか、みらいの仲間たちだけだ。
 どういうことだ。プリキュアは全員、捕まっているのだと思ったのだが。

137makiray:2018/09/29(土) 22:00:40
Soliste Echo(08/12)
-------------------
「マジカル!」
 キュアエコーは駆け出した。自分の体が軽くなっていることに気づく余裕はなかった。
「エコー!
 エコーも一緒だったんですね。ありがとうございま――」
「ウソバーッカの中で、ほかのプリキュアを見なかった?」
 キュアエコーは、彼女には珍しく、キュアマジカルの言葉を遮るように言った。
「ほかの…」
「ブラックやホワイトがいた筈なの」
「見てません…」
 キュアマジカルの肩からキュアエコーの手が落ちる。
(思い違い…?)
 その可能性はあるだろうか。
 キュアエコーは顔を上げた。まだ腹を押さえている鬼火をにらみつけるように。
(誰か。
 私の声が聞こえますか?!)
 キュアエコーの思いが飛ぶ。
(…誰…?)
 それは弱い。だが、戻ってきた声に全員が顔を上げた。
「今の声…」
「まだ、誰かが捕まってるの?」
「でも、みんないるよね…」
 キュアエールやキュアホイップたちがお互いの顔を見る。
「まさか、フローラたちがこの中にいるっていうこと?」
 キュアミラクルが叫んだ。頷くキュアエコー。
 花見の計画があったことを知っているキュアホイップたちは、「全員と連絡が取れない」ということを聞いて、さすがに偶然とは考えられない、と思った。
「それに」
 キュアエコーは視線をさらに上げた。プリキュアたちが変身したときの光はもう消え、ウソバーッカの大きな体の背後も、自分たちの後ろも、空全体が闇に閉ざされている。多くの人がその下で怯えているはずだ。
「この状態で、ブラックやホワイト、ハッピーやサニー…40人もいるプリキュアが一人も活動していないなんて。
 ありえない」
 以前のキュアエコー、あるいは坂上あゆみを知るものなら、その断言口調に驚いたかもしれない。
 そして、再会と、もう解決も同然と喜んでいるキュアエールたちとは正反対の、頬が強張り、緊張をたたえたその目に。
「エコー…」
 キュアホイップが小さな声で言った。
 そうか、まだ一人なんだ。
 キュアエコーは気づいた。
 事態が好転してなどいないこと。そして、弱っているように見えるウソバーッカだが、まだプリキュアを内部にとらえていられるだけの力は持っていることに気づいていたのは、キュアエコー一人だった。
(まだだ)
「グレル、エンエン、行くよ」
「うん」
「おぉっ!」
「エコー、どうするの?」
 キュアエコーが振り向く。
「みんなを助けに行きます」
「ウソバーッカの中に?」
「無茶だよ。
 あの中は!」
「みなさんが出られたんですから、大丈夫です」
「だけど」
 それに、限界が近い。クローバーの光で一時的に力は戻ったが、そう長くは持たないような気がする。今のうちに、みんなを助け出さなければ。そして、キュアミラクルたちにバトンタッチするのだ。
 キュアエコーは、シズクからもらった「扉」のカードを取り出した。何度も使ったせいで縁が欠けている。
 このカードを使えるのは、「思いを届けるプリキュア」、キュアエコーだけだ。役目を果たさなければ。
 キュアエコーはそのカードをウソバーッカに向けて投げた。闇の中を白い線が伸びていく。
 カードから溺れ落ちた光は小川のせせらぎのように揺れた。地面を蹴るキュアエコー。
「エコー!」
「こちらはお願いします!」
 信じていないのではない。任せていく。シズクがあのカードを預けてくれたように。
「みなさん、もうすぐ行きます!」

138makiray:2018/09/30(日) 23:13:57
Soliste Echo(09/12)
-------------------
「咲…」
「うん…」
「咲、しっかりして!」
 咲は球体の中に座り込んで頷くだけだった。舞が、自分が閉じ込められている球体をたたく。だが、相変わらずそこから出ることはできない。ふたりとも、膝まで石になってしまっている。舞は自分の勢いでバランスを崩し、やはり球体の中に座り込んだ。
「まずいわね…」
 水無月かれんが辺りを見回す。鬼火の体内はサイケデリックな配色のまま。その中に閉じ込められている彼女たちも、ほとんどが膝まで石になっている。そこから先、腿がどうか、あるいは腕はどうなのか、というのは人によって違うようだった。
 次に座り込んだのはラブだった。蒼野美希が球体越しに名前を呼んだが、ラブは手を上げて返事をしただけだった。
 ひかりが深い息をつく。自分を落ち着かせるため、そして、実際に苦しい。
 ゆりと菱川六花が視線を交わす。
 この疲労感はしばらく前から強くなっている。外で何が起こっているのかはわからないが、はっきりと「力が抜けていく」という感触があった。
 プリキュアの力が吸収されている。そしておそらく、その力は鬼火の力となっている。
「そんな。これは、闇の力なんでしょう?!」
「確かに。ウソバーッカにとってはプリキュアの光の力はマイナスでしょうね。でも、そのマイナスをプラスに転じることができれば」
 40 人ものプリキュアの力を手にすることができる。
「だって」
「私、ウソバーッカの形が気になってる」
 ゆりが言った。
「形?」
「ルビンの壺にそっくり」
「壺…?」
 ウソバーッカの体そのものに目を向ければそれは壺だ。だが、そのアウトラインに目を向ければ、それは向かい合った人間の顔となる。
「ウソバーッカは二面性を体現しているんじゃないかしら。
 光と影。
 プラスとマイナス。
 嘘と真実」
「早く出ないと」
 真琴が力のない声で行った。
 手がかりのない球体に手を押し付け、なぎさがやっとの思いで立ち上がる。
「プリキュアの力が、悪いことに使われるなんて冗談じゃない」
「なぎさ…」
「でも、どうすんの」
「全員、一度に脱出するのが理想ですが」
 青木れいかが言った。賛同は得られたものの、その方法がない。
「出る元気がある人だけでも」
「みんなを残していくなんて」
「だけど」
「来る」
 星空みゆきが言った。
「なんて」
「キュアエコーは絶対に来てくれるよ」
 坂上あゆみがいないのにはみな気付いていた。
「あゆみちゃんは、絶対にこの異変に気が付く」
「そして、気付いたら、黙っているはずがありません」
 最初に出会った「スマイルプリキュア」の全員が断言した。
「悔しいけど、エコーが来てくれるのを待つしかないんだね」
 北条響は顔色の悪い南野奏を心配そうに見ながら、早いといいけど、とつぶやいた。
「来ましたわ」
「え?」
「私にはわかります。あゆみちゃんのあふれるような愛が――」
「亜久里ちゃん!」
 アコの声が一条の光でかき消される。気を失いかけた亜久里もそのまぶしさに目を開けた。
「エコー!」
 気味の悪い色がうねる中、真っ白い光を渡ってくるのはキュアエコーだった。
「みなさん、ご無事ですか?!」

139makiray:2018/10/01(月) 20:57:03
Soliste Echo(10/12)
-------------------
「ありがとう!!」
 球体がキュアエコーの周りに集まってくる。キュアエコーはそれに押しつぶされそうになった。
「あの、ちょ、ちょっと待ってください」
「あ」
「みなさん、お揃いですよね」
「点呼!」
 来海えりかが号令をかけると、それぞれのグループ毎に確認が始まる。全員いるようだった。
「では、早速――」
「その前に外の状況を教えて」
 ゆりが言う。
「え、はい。あの」
 さっきまで捕まっていたメンバーも含め、三組のプリキュアが変身していること、ウソバーッカだったものはクローバーと分離して今は「闇の鬼火」単体であることを伝える。
「野乃はな…誰か知ってる?」
 手が上がらない。
「また新しいプリキュアが生まれたってことだね」
 知らない名前。だが、それは朗報だ。みな、勇気づけられたように頷く。
「では――」
「どうするつもりなのですか?」
 れいかが尋ねる。
「えと、外からここまでのルートはああいう風に見えているので」
 キュアエコーが指さす。キュアエコーはシズクからもらったカードに導かれてこの奥に来たが、その痕跡が光の粒の流れとして残っていた。
「私の力で皆さんをそちらの方向に押し出します」
「エコーの力だけで?」
「大丈夫かな」
「それは…」
「いいんじゃないかな。あたしたちの力はまだ残ってるだろうし。力を合わせれば」
「はい。
 それでは」
「あのさ――」
「お前ら、エコーの話を聞けーっ!」
 ついにグレルが怒鳴った。一瞬、皆が口をつぐんだが、雰囲気は緩んだ。
「ごめんごめん」
 なぎさがごまかすように笑う。
 ほのかはキュアエコーの胸元のエンブレムが光を失いかけていることに気づいていた。
 当然だ。「プリンセスプリキュア」までのプリキュアはここにいるのだし、「魔法使いプリキュア」よりも後輩たちはその手前に捕らわれていたことがわかった。みらいたちは外にいたが変身できない状態、つまり、ウソバーッカの外にいたのはキュアエコーだけだったのだ。
 それは奥に捕らわれていた彼女たちの希望ではあったが、その結果が、この真っ白いドレスに傷をつけリボンの色もくすんだ、今のキュアエコーだった。助けてもらう必要はあるが、一刻も早く、キュアエコーを解放しなければ。
「お願い」
「はい」
 キュアエコーが、今度は真剣な顔で頷いた。
 球体は自然にキュアエコーの周りに集まった。
 キュアエコーは「扉」のカードを見た。終わったらシズクに返すつもりだったが、最後まで原形をとどめていてくれるかどうか不安になる。
「グレル」
「おう」
「エンエン」
「うん」
「フーちゃん」
〈うん〉
 キュアエコーはカードを投げた。自分が来たルートを反対になぞる。
「プリキュア」
 全員の呼吸が一つになる。
「ハートフル・エコー!」

140makiray:2018/10/02(火) 21:36:13
Soliste Echo(11/12)
-------------------
 キュアエコーが手を高々と掲げる。その指先から伸びる光は、上空からシャワーのように降り注ぎ、やがて光の川となって、プリキュアたちを閉じ込めた球体を運んで行く。全員の球体が動き出したのを確認するとキュアエコーもその後に続いた。何人かが球体の中で振り向く。キュアエコーは頷き返した。
 みんなを闇の鬼火の中から助け出すことが私の役目だから。
 ハートフル・エコーの光と、プリキュアたちの中の光は呼応しているようだった。球体はどんどん加速していく。
(早く)
(急がないと)
(助けるんだ)
(新しい仲間のプリキュアを)
(まだ会ったことのない友達を)
(みんなを助けるんだ)
(みんなを!)
(みんなを!!)
「行くよっ!」
 出口が見えた。
 40個の球体はその勢いのまま、鬼火の体から飛び出した。その瞬間に球体も割れる。
「出た!!」
 着地。
「みんな、変身できる?!」
 なぎさが叫ぶ。
 彼女たちはいっせいに自分たちの変身用アクセサリを確認したが、まだ石のままだった。
「だめか」
「すいませ――」
 言いかけたキュアエコーの足から力が抜ける。
「エコー」
 わずかな光が飛び散り、キュアエコーは坂上あゆみの姿に戻ってしまった。
「あゆみちゃん!」
「大…丈夫…です」
 限界だった。フーちゃんのキュアデコルも輝きを失っている。
「グレル! エンエン!」
 ふたりとも みゆきの手の中でぐったりしている。
「みんな、お願い!!」
 たまらず はるかが叫んだ。
 キュアミラクル、キュアマジカル、キュアフェリーチェが頷き返す。
 魔法使いプリキュア、プリキュアアラモード、HUGっとプリキュアが円を形作る。
「プリキュア スーパースターズ!!」
 鬼火が浄化されていく。
 それがわかったのか、あゆみの体から緊張が抜けて行った。その手の間から、扉のカードが零れ落ちたが、すでに模様の判別も難しくなっていたそれは、淡い光を放ったと思うと風に消えて行った。

 はなの提案で、そのままハグたんのお花畑デビューに参加することになった。色とりどりの花が咲き誇り、視界のすべてがまぶしかった。
「あゆみちゃん」
 いちかがかけよってきた。
「ありがとう」
「え?」
「私たちが変身できない間、世界を守ってくれて」
「いえ、そんな」
 ふたりの足元ではハリィがグレルを肘で突いていた、
「お前、なかなかやるやないかい」
「ふふん。あったりまえだ」
 グレルが胸を張る。エンエンが苦笑した。

「あゆみちゃん」
 振り向くとリコの顔はそこになかった。彼女と みらいは深々と頭を下げていた。
「どうしたの?」
「お礼と…あと、ごめんなさい」
「え、なにが?」
「あゆみちゃんは、先輩たちを探してたのに、私、何の役にも立てなくて」
「そんな!」

141makiray:2018/10/02(火) 21:38:10
Soliste Echo(12/12)
-------------------
「お前が気にすることないだろう」
 足元からグレルが言う。リコは、横柄な口調と裏腹に小さな体を目をパチクリさせて見ていた。
「僕たちはみんなを探してたんだから、リコちゃんたちが無事なら、何も悪いことなんかないんだよ」
 エンエンが微笑んだ。
「そうだよ。
 それより、私、ちょっと言い方がきつかったかも。ごめんなさい」
「そんな!」
 さっきのあゆみと同じことを叫ぶリコとみらい。
「それに、ウソバーッカの中はとても苦しかったんでしょ? 私はずっとこっちだったから楽だったかも―――」
 勢いをなして反論しようとしたふたりに、のぞみの声がかぶさった。
「ほんっとうに、あの中、つらかったよね。体が重くなってさー!」
「ダイエットさぼってるからじゃないの?」
 夏木りんが憎まれ口をたたく。
「ウソバーッカのせいだもん!」
「体はつらかったけど、気持ちはそうでもなかったな」
「そうなんですか?」
 ゆりの言葉に、みなが振り向いた。何人か、既に先回りをして頷いている。
「希望があったから」
「希望」
「そう。
 あゆみが必ず助けに来てくれる、って」
「私――」
「ウソバーッカは、プリキュアを『一組ずつ』始末すると言って、それを実行に移した。
 だとすれば、どのグループに属しているわけでもないキュアエコーはその網から漏れる」
 あゆみは言葉がないようだった。
「あゆみさんが仲間外れだって言ってるんじゃないのよ」
 秋元こまちが助け舟を出すように言う。
 そして、愛乃めぐみの明るい声が続いた。
「あゆみちゃんは、みんなのプリキュアだからね!」
 みなが頷いた。
「え…」
「あたしとひめが喧嘩したら仲裁してくれるし、いおなと ひめがもめてたら取り持ってくれるし」
「あんたんとこ、けんかばっかりかいな」
「しかも、あたしばっかり!」
 大森ゆうこが、まぁまぁ、と 白雪ひめをなだめる。
「みんなの、なんて、そんな」
 あゆみの頬が染まった。グレルがニヤニヤと笑っている。エンエンもうれしそうだ。襟のエコーデコルが瞬いているのは、フーちゃんが喜んでいるからだろう。
「坂上さん、わたしたちのこともよろしくお願いしますね」
 さあやと ほまれが手を伸ばす。あゆみは、おずおずと二人と握手をした。
「私とも、お友達になって!」
 はなとも握手を交わすと、もっと小さな手が伸びてきた。
「はぐたんも、あゆみちゃんとお友達になりたいって」
 あゆみは、今度は、おそるおそるという様子ではぐたんの手を握った。その小さな手は、想像よりも強い力で握り返してきた。
「はぎゅ、はぎゅー」
「ふふふ」
 ふーちゃんも同じように笑う。はぐたんの目があゆみの襟元で揺れるキュアデコルを追っていた。
「よっしゃ、はぐたんのお花畑デビュー、続けよか!」
 ハリーが突然、人間の姿になって言う。あゆみが怯えて三歩下がった。
「あの、どちらさまですか?!」
「え、言うてなかったか。俺や、俺――」
「お前、ネズミじゃなかったのか!」
 グレルが叫ぶ。
「お、れ、は、ハリハム・ハリー様やぁっ!」
 なんぼ言うたらわかんねーん、という悲鳴が花畑に響き渡ったが、それは少女たちの笑い声にかき消されていった。

142makiray:2018/10/02(火) 21:40:41
 以上です。長々と失礼しました。

143名無しさん:2018/10/03(水) 06:53:37
>>142
面白かった! キュアエコー愛がびんびん伝わるお話でした。あゆみちゃん、成長したなぁ! 歴代キャラの登場も嬉しかった。ハピプリメンバーの掛け合いに、ニヤニヤでしたw

144名無しさん:2018/10/07(日) 06:16:18
>>142
始まり方が完璧! 12話とあったので長いかと思ったけどそんなことなかった。引き込まれて一気に読みました!!
キャラクターも全員魅力的でした。「あんたんとこ、ケンカばっかりかいな」とか、えりかの「点呼!」とか映像が目に浮かびますw
欲を言えばもっと戦闘シーンの描写を見たかったんですけど、読みやすい長さを考えられたのでしょうね。
映画もう一度見たくなったのでレンタルして来ます! めちゃ楽しい作品をありがとう!

145makiray:2018/12/19(水) 22:00:32
 毎年恒例…いや、秋映画がオールスターズなのは今回が初めてか。
 で、オールスターズと聞いたら黙っていられず、それにキュアエコーを登場させるお話、「オールスターズメモリーズ Ver.1.1 〜origin〜」をお届けします。
 7スレ、お借りします。

146makiray:2018/12/19(水) 22:02:52
origin (1/7)
------------

「!」
「戻れた」
 ミデンに記憶を奪われ、子どもになってしまっていたプリキュアたちだが、はぐたんとメモリーズライトの力で元に戻ることができた。
「なんでキュアエールだけいないの?!」
 キュアエールはミデンの心の中にとどまっていた。ミデンを独りぼっちにできなかったのだ。
「エールらしい」
 キュアエトワールが笑うと雰囲気が緩んだ。
「あれ…」
 キュアマジカルが辺りを見回した。
「どうしたの?」
「エコーは?」
 プリキュア全員が同じように自分たちの顔を見る。確かに、キュアエコーがいなかった。
「そもそも、中にいたっけ?」
 キュアハッピーが首をひねる。やはり同じように誰もが首をひねった。記憶を奪われて子どもになっていた時のことを覚えていないのだ。
「最初からいなかった可能性の方が高いんじゃないかしら。ウソバーッカのときもそうだったわ」
 キュアアクアが言った。
 春の戦いで、ウソバーッカはプリキュアたちをチーム単位で狙ったため、キュアエコーが網から漏れた。そのことが逆転する上で意味を持ったのだが、今回も同じではないだろうか。
「だといいんですけど…」
 キュアマジカルはまだ心配そうである。
「ミデンがあのときのことを知っているとは思えないし、そうだとすればエコーを特別扱いして別のところに閉じ込めたりする理由もないと思うわ」
 キュアミントの指摘はもっともだった。
「エールのところに向かいましょう。ほかのプリキュアが囚われていないか注意しながら」
 キュアムーンライトの提案に皆が頷く。

 キュアエールの言葉はミデンに届いた。
「ありがとう…」
 ミデンの体が光の粒になって天に昇っていく。
「…」
 キュアダイヤモンドが眉をひそめた。光の粒の下に何かが見える。
「…。
 そうか!」
 キュアホワイトが叫んだ。その声に何人かの視線が動いたが、多くのプリキュアは動けないでいた。
 知っている。見たことがある。一度や二度ではない。
 やがて光は消え、ミデンの姿はなくなった。そこに現れる、栗色のツインテールの少女の姿。
「あゆみちゃん!」
 キュアマジカルが飛び出す。体を起こしていいのかどうかわからず、手を泳がせていた。あゆみは、何かを握りしめている。
「ホワイト、どういうこと?」
「…」
「さっき、『そうか』って言ったよね」
 キュアホワイトは黙っている。
「ホワイト!」
「…。
 まず、地上に戻りましょう」

147makiray:2018/12/20(木) 22:19:06
origin (2/7)
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「ほのか、話して」
 野乃はなたちがピクニックをしていた原っぱに戻る。あゆみはレジャーシートの上に体を横たえていたがまだ目覚めなかった。
「ほのか」
 美墨なぎさに問い詰められる形で雪城ほのかは口を開いた。
「たぶん、ミデンに最初に捕まったのがあゆみさんなんだと思う」
「あゆみちゃんが?」
「わたしたちがミデンに襲われたの、横浜だったでしょう」
「あ」
「でも、あゆみちゃんはミデンの中から出てきたように見えたよ」
 日向咲が言う。
「行動を起こすには実体が必要だった、ということじゃないかしら。だから最初だけは、記憶を奪うだけじゃなくて、体ごと乗っ取ったんだと思う」
 彼女たちが、あゆみ、またはキュアエコーが中にいなかった、と断言できないのはそのせいだった。ミデンがプリキュアの力を使うとき、その体はそれぞれの色に染まったが、その時、彼女たちはあゆみと「一心同体」になっていたのである。その感触のせいで、「いなかった」と言い切れないでいたのだ。
「ミデンが白かったのは…」
 頷くほのか。あれは、キュアエコーの白だったのだ。
「あゆみちゃん!」
 リコが叫んだ。あゆみが目を開いた。
「え、リコちゃん…どうして、ここに」
「大丈夫? 怪我はない?」
「え…!」
 あゆみは突然、ジャージの襟に手をやった。
「え…え?」
 何かを探している。リコがキュアデコルを差し出す。
「探しているのはこれ?」
「フーちゃん!」
 あゆみはそれを両手で受け取った。
「フーちゃん…」
〈あゆみ…フーちゃんは大丈夫〉
「よかった」
 あゆみの目じりがにじむ。
〈あゆみ…ごめん〉
「フーちゃんは悪くない」
〈ごめんなさい。
 フーちゃんは、ちょっと疲れた。休んでもいいか?〉
「うん…」
 あゆみはキュアデコルを胸に抱くと、聞こえるか聞こえないか、という声で「ごめんね」と言った。
 みなは顔を見合わせていたが、剣城あきらが膝をついた。
「あゆみちゃん…何があったのか教えてくれるかな」

148名無しさん:2018/12/20(木) 22:26:25
秋映画でもmakirayさんのキュアエコーSSが読めるとは!
続き楽しみにしてます。

149makiray:2018/12/21(金) 22:24:38
origin (3/7)
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「あ、軍手忘れた」
 あゆみは、友人たちに「先に戻ってて」と声をかけると校舎の裏手に戻った。後ろで「軍手くらいいいじゃん」「相変わらず真面目だなぁ」という声が聞こえた。
 あゆみたちの学校では秋に廃品回収をする。近隣の住宅から不用品を集めて売り払い、文化祭の運営費用に充てる、というのが毎年のイベントだった。
 廃品を置いてある空き区画に戻る。目印として甲側にピンクの縫い取りをした軍手がブルーシートの上に置いてあった。こんなところで役に立つとは、とあゆみは小さなため息をついた。
「?」
 足元、ブルーシートの下から段ボールの箱が零れ落ちた
「なに…カメラだ」
“MIDEN”と書いてある。戻そうと拾い上げたが、箱はしっかりしているようだった。開けてみると、確かにカメラで、箱のデザインから考えて古いものだと思われるのだが、中はきれいだった。パーツ類はビニールの袋に入っており、ひょっとしたら未使用なのかもしれない。
「これだったら、ちゃんとしたカメラ屋さんに持って行った方がいいんじゃないかな…え?」
 首筋に熱を感じる。
 いつも一緒にいられるよう、ペンダントにしてあるフーちゃんのキュアデコルだった。
〈ミデン…〉
「たぶん、そう読むんだろうね。
 フーちゃん、カメラに興味あるの?」
 キュアデコルが熱を持ち始める。
「フーちゃん…?」
〈同じ…フーちゃんと…同じ〉
 カシャ、と音がした。こちらを向いたレンズの奥、なにかがうごめいたようだったが、何も見えない。吸い込まれそうだ。それは「闇」、いや「無」と言った方がいいような気がした。
 次の瞬間、あゆみは今度はまぶしさに目を細めた。キュアデコルが光り始めている。
〈ミデン、フーちゃんと友達になるか?〉
〈…こい〉
〈友達になるか?〉
〈来い〉
 それは命令だった。であれば「友達」ではない。
「フーちゃん、だめ!」
 背筋に寒気を感じたあゆみはカメラの箱を投げ捨てると、右手でジャージごとキュアデコルを握り、左手をその上に重ねた。
〈なら、お前も来い〉
 カメラの奥から声が聞こえたような気がした。次の瞬間、あゆみの姿が消える。
 白い軍手が音もなく落ちた。

「ミデンはフーちゃんの力を使おうとしたんだ」
 ミデンが欲しかったのは、貪欲に力を求めるフュージョンの能力だった。
 逆に言えば、ミデン自身はほとんど力を持っていなかった、ということになる。まさに廃棄処分される直前、記憶が欲しい、空っぽの自分は嫌だ、その思いが強くなったときに、フュージョンのかけらであるフーちゃんと出会ったのだ。プリキュアというものの存在を知ったのは、フーちゃんとあゆみを取り込んだ結果にすぎない。
「そして、フーちゃんを守ろうとしたあゆみちゃんも一緒に吸収してしまった、ってことか」
「同じってどういうことなんだろう」
 春野はるかが首をかしげる。
「フーちゃんは…独りぼっちだったんです」
「え、あゆみちゃんは?」
「グレルとエンエンだっているじゃない」
「でも、フーちゃんと同じ存在はいません」
 まだ腑に落ちない者が何人かいるようだった。
「私は、みなさんと会うのが楽しいし。
 グレルやエンエンは、ミップルやメップルと会うのが楽しい。
 フーちゃんにはそういう相手がいません」
「…」
「あゆみちゃんやグレルやエンエンじゃ埋められないところがある、っていうことか」
 56人が黙る。花咲つぼみが口を開いた。
「フーちゃんは、疲れた、って言ってたみたいですけど」
「ミデンの中に取り込まれてすぐ、ミデンが友達を欲しがってたわけじゃない、ということに気づきました」

150makiray:2018/12/22(土) 22:06:37
origin (4/7)
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 ふたりは、フージョンの力を要求するミデンに抵抗した。
 だが、それはフーちゃん、あるいはフュージョンの「本質」である。宝石や現金のように、それを渡せばおしまい、というものではない。絶対に渡さない、という強い意志で抵抗し続けるしかなかった。
〈う…う…〉
〈フーちゃん!〉
〈あゆみ…苦しい〉
〈がんばって、フーちゃん!〉
 学校だったのがまずかった。グレルとエンエンは、ぬいぐるみのふりをしてあゆみの家にいる。一緒であれば、キュアエコーに変身してなんらかの手を講じることができたかもしれない。
 だが、あゆみの中にはプリキュアの光がある。それがフーちゃんの力によって引き出されて、あゆみはキュアエコーに変身するのだ。ふたりなら切り抜けられるはずだ。
〈がんばる。フーちゃん、がんばる〉
〈ミデン、あなたにフーちゃんは渡さない!〉
〈よ・こ・せ!〉

「あ、ミデンが最初、『よこせ』ってしか言ってなかったのは、フュージョンの口癖?」
 あゆみは答えなかった。そのとき、あゆみとフーちゃんはミデンの中にいたので、ミデンがなぎさとほのかを襲った時に何を言ったのかは知らない。
「あの、私、何をしたんですか?」
「いや、あゆみちゃんが何かしたわけじゃ」
「みなさん、どんな目にあったんですか?!」
 琴爪ゆかりが、頭のいい子ね、とつぶやいた。
「教えてください」
 立ち上がる。
 あゆみが諦めることはないだろう。誰が言う? 誰が説明するのがいいだろう、と顔を見合わせる少女たち。
「あのね」
 はなが進み出る。輝木ほまれが止めようとし、薬師寺さあやが心配そうに見ていたが、はなはそのまま説明を始めた。
「…。
 わかりました」
「あゆみちゃん」
 説明が終わった。あゆみは何も言わない。フーちゃんのペンダントを首にかけなおすと、頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「あゆみちゃんは悪くない!」
 何人かの声が重なる。
「でも」
「だって」
「わたしがちゃんとフーちゃんを守れればこんなことにはならなかったかもしれない」
「いいえ」
 海藤みなみが反論する。
「ミデンの思いは強かった。早晩、なんらかの力を得ていたと思う。
 キュアエコー以外のプリキュアに出会って、その力を使っていたかもしれない」
「だったら、最初になっちゃった人は、やっぱり同じように謝ると思います」
「それは…」
 当然だ。どの道、ミデンは暴れるんだから最初の一人だとしても自分は悪くない、などと考える者はここにはいない。
「すべてわたしのせいだ、とは言いません。ミデンの寂しさが起こしたことだから。ミデンの持ち主だった人たちにも、もっと大事にしてあげてほしかったとも思います。
 でも、私は防げたかもしれないんです。
 私は、プリキュアだから。
 私は、防がなきゃいけなかったんです」
「それは違うと思います!」

151makiray:2018/12/23(日) 22:22:55
origin (5/7)
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「それは違うと思います!」
 さあやの声は意外に大きかった。本人が驚いている。
「すいません。
 違うというわけではなくて…あの」
「聞かせて」
 あきらが促す。
「わたし、不思議だったんです。ミデンがどうして、何もしなかったのか」
「何もって」
「わたしたちの記憶を集めただけですよね」
「だけっていうか…」
「うん、はなは大変だったと思う。迷惑をかけてごめんなさい。
 でも、それ以外は何もしなかった」
 さあやはみなを見渡した。
「だって、プリキュアの力を手に入れたんですよ。
 それを悪用すればこの世界を征服することだってできたかもしれない」
「ミデンは『思い出』が欲しかっただけなんでしょ?」
 ほまれが口をはさんだ。
「それも事実。
 でも、力を手にしたら人が変わってしまう、というのもよくあることでしょう。
 それを止めていたのが、あゆみさんとフーちゃんじゃないのかな」
「そうだ。
 あゆみちゃんとフーちゃんは十分にその役割を果たしていた、ってことだよ」
 はなの言葉に、そうか、という空気。何人かがあゆみを見たが、あゆみは目を伏せた。
 北条響が、珍しく難しい顔をしていた。
「確かにあたしたちも一度はフュージョンにやられそうになっちゃったからね。
 あの勢いで来られたら大変なことになったかも」
「でも、ミデンはそんなことしなかった」
「自分の『思い出』が欲しい、それだけを…貫いたわけだよね」
「暴走を食い止めた…というか、あれをミデンの純粋な思いにとどめたのが、あゆみさんが持っているプリキュアの光。無理がある推測だとは思いません」
 あゆみは目を伏せたままである。
「あゆみさんは、なぜそんなにつらそうな顔をなさっているのです?」
 愛崎えみるだった。
「…」
「あゆみさんは、プリキュアとして立派に戦ったのです。
 そして、友達であるフーちゃんさんのことも守ったのです!
 これは、とっても素晴らしいことなのです!!」
「そんなこと」

152makiray:2018/12/24(月) 22:11:41
origin (6/7)
------------

「変身するだけがプリキュアではないのです!」
 ほまれが、え、とつぶやく。はなとさあやの肩が震えた。
「何を笑っているのですか!
 私は今、大事な話をしているのです!!」
 苦しそうな呼吸の下から、ごめん、という声が聞こえる。
「あなたは、昔の私に似ています」
 ルールー・アムールがえみるの隣に立った。
「計算だけで判断していた頃の私のようです。
 ですが、あなたは人間。アンドロイドの私とは違って、柔軟な心を持っているはず。
 その柔軟さを発揮できない局面があるようですね。想像ですが、ご自分のことになったときに」
「…」
「確かに、あゆみちゃんにはそういうところがあります」
 リコがあゆみの手を取った。
「顔を上げて、真ん中にきて。
 あゆみちゃんは、私たち『みんなのプリキュア』なんだから」
「私は、そんな立派なものじゃない!」
 あゆみがリコの腕を払う。だが、リコはもう一度、その手を取った。
「もしあゆみちゃんじゃなかったら、って思ったら、私は足が震えてくる」
 何を言い出すのだ、という視線にも構わず、リコは続けた。
「ヨクバールにドンヨクバール、私たちは色々な種類の敵と戦ってきました。
 もし、ミデンが取りこんだのがフーちゃんとあゆみちゃんじゃなくて、そういう存在だったとしたら」
「負けてたかもしれない」
 宇佐美いちかが言った。
「ラッキーだったわね。そのラッキーを呼び込んだのはあなたよ」
 ゆかりが笑みを浮かべる。あゆみはやはり答えなかった。
「本当に面倒なコねぇ」
 ゆかりの言葉に、立神あおいが、どの口が、とつぶやいた。
「ね、誰かあゆみを元気づけるパーティを企画してくれない?」
 はいはいはい、と手が上がった。

153makiray:2018/12/25(火) 22:24:44
origin (7/7)
------------

「じゃ、行くよー」
 はなが、あゆみ、ほのか、美翔舞、南野奏の笑顔をファインダーに収めて、MIDEN F Mark-II のシャッターを押す。草原に笑顔の花が咲いた。
「みんな、いい顔!」
「楽しいから。
 ね、あゆみさん」
「はい、絶好調です」
 舞が笑う。
「次は、私たちとですわ」
 調辺アコと円亜久里が隣に並ぶ。
 あゆみは引っ張りだこであった。
 本人はまだ納得していないが、今回の事件があの規模で済んだのはあゆみとフーちゃんのおかげだ、ということでまとまり、「みんなのプリキュア」という評価がまた強まった。
「私たちも一緒に撮るのです」
「あの、ちょっと待って」
「前のルールーに似ているということは、私との相性もいいはずなのです!」
 何度か、ちょっと待って、と言った後、あゆみは頬をマッサージした。撮影のたびに笑顔を作っているので強張り始めている。
「大変だな…」
 グレルが珍しく、意地の悪いことを言わずに本心から同情している。エンエンも心配そうだった。
「そこまで頑張って笑わなくてもいいんじゃないかな…」
「ミデンを笑顔でいっぱいにしてあげたいから」
 それはそうだけど、とエンエンが口ごもる。
「みんなのリクエストだし。
 ここで断ったら女がすたるもん」
 グレルとエンエンが顔を見合わせた。
「じゃ、最後に全員で撮るよー!」
 三脚を据え終わった はなが叫んだ。みなが集まってくる。
「じゃ、あゆみちゃん、掛け声お願い!」
「え、わたし?
 なんて言えばいいの?」
「笑顔にするにはイ段の言葉だよね。『チーズ』とか『1たす1は2』とか」
「イ段…あ、はい」
「決まった?
 じゃ、押すよ」
 セルフタイマーを仕掛けて はなが走る。滑り込むようにしてみんなの中に納まった。
「せーの。
 ウルトラハッピー!!」
 カシャ。
 なぜか拍手が巻き起こる。みな、改めて笑顔になった。
「あゆみ、あゆみ」
 グレルがあゆみの足をつついた。
「なに?」
「大丈夫か?」
「…。
 なにが?」
 グレルとエンエンはまた顔を見合わせた。
「今日のあゆみちゃん、言うことがいつもと違うよ」
 言われていることがわからず、あゆみは首を傾げた。
「絶好調とか。
 女がすたる、とか」
「『ウルトラハッピー』はみゆきちゃんの口癖だよね」
「わたし…そんなこと言ってた?」
 言ってる言ってる、と夢原のぞみ。
「ひょっとして、ミデンの中で、あたしたちの口癖もうつっちゃった?!」
「ねぇねぇ、『ありえなーい』って言ってみてよ」
「そんな…」
「『ワクワクもんだぁ』も言ってほしい!」
 大騒ぎである。
「どうしたの?」
 東せつなは小さな顎に手を当てて何か考えているようだった。桃園ラブが覗き込む。
「せつなも、何かあゆみちゃんに言ってほしいの? 『精一杯頑張るわ』とか」
「あゆみちゃんは自分の力でプリキュアになった人で、キュアエコーは私たちの意思の疎通を助ける『思いを届けるプリキュア』で、誰とも協力できて頼りになる『みんなのプリキュア』なのよね」
「うん」
「あゆみちゃんが、私たち全員の力を身につけたんだとしたら…最強よね」
 草原に風が渡る。
 ゆりの、「そうね」という同意がきっかけとなり、あゆみはもみくちゃにされた。
「私は、ちょっとみなさんの口癖がうつっただけで、そんな…お願い、助けて!」
 その間にも「『やるっしゅ』って言って」「『計算通りだし』は?」「それ、口癖じゃないし!」「『嫌いじゃないわ』もいいわよ」とリクエストが飛ぶ。
「グレル! エンエンー!」
 さすがのグレルにも、55人のプリキュアの中に割って入る勇気はない。エンエンと一緒に、はらはらしながら見ているしかなかった。

154makiray:2018/12/25(火) 22:25:57
 以上です。
 いつもこれくらいコンパクトなサイズにしたいと思っているのですが…。

155名無しさん:2018/12/26(水) 07:31:22
>>154
面白かった!
ミデンの事件が自分のせいなんじゃないかと悩むあゆみも、全力で励ます55人も、最後のもみくちゃにされるあゆみも最高でした。素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます!

156makiray:2019/07/29(月) 22:14:12
毎年恒例、春映画にキュアエコーを絡ませるお話です。
12 スレ、お借りします。大体、一日一スレで行く予定です。

157makiray:2019/07/29(月) 22:16:54
はだしのプリキュア (01/12)
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「うわ…」
 坂上あゆみはおもわず口に出してしまった。50 人ものプリキュアが続々集まってくる様子は壮観だった。もちろん、みな変身前の普段の姿ではあるが、知ってしまうと、プリキュアとしての姿を重ねてしまうのは当然だった。
 春が近づいてやっと暖かくなりかけたある日、四葉邸に集まれ、と星空みゆきから連絡があった。みゆきも何か慌てているようだったが、今日の午後、という急な話にあゆみは驚いた。いつものお花見というわけではなさそうだった。
 それは今の雰囲気でもわかる。これだけの人数がいるというのにおしゃべりに花が咲くこともない。あったとしても、隣と小声で、というのがせいぜいだった。グレルもエンエンも、トートバッグから顔を出しはしたが、あたりを見回して察したのか、何も言わなかった。
(授業みたいだな…)
 ここは会議室のようだった。あるいは、テーブルを並べ替えて飾ればパーティ会場にできるのかもしれないが、今は、正面に演壇があり、机はそれに向かって整然と並べられていた。
 あゆみは、誰かに聞いたりもしなかった。そういう空気でないのも事実だが、昨日あたりから体調がよくない、ということもあった。何をするにも億劫で体が重く感じる。今日だって、単なるお花見だったら断ったかもしれない、という気がする。
「お待たせしました」
 四葉ありすが入ってきた。皆の視線がそれに注がれるのは当然だったが、空気が冷たくなったような気がした。セバスチャンが、今入ってきたドアを静かに閉めた。
 ありすは演壇に立つと全員の顔を見渡した。視線があゆみに来たときに一瞬、動きが止まったような気がしたが、勘違いかもしれない。
「現状からご報告します。
 四葉の科学チームが解析を続けておりますが、まだ仮説を得るにも至っておりません。
 情報取集の段階で足踏みしています」
 何人かが頷く。あゆみはその様子を見ていた。やはりだ。自分が知らないことがあるようだ。億劫さが消えたわけではないが、友人たち、プリキュアたちが真剣な顔をしているのが、何かが起こっているせいだとしたら、このままではよくないような気がした。
「あの」
 手を上げる。やはり何人かが振り向く。咎める視線はなかった。むしろ、何か知っているのか、という期待だった。
「今日の目的は何なんでしょうか」
 眉を顰める人がいる。
「わたし、何か知らないことがあるみたいで――」
 さすがに声が途切れる。ありすは あゆみを見ていたが、わずかに首を傾げた。
「なんか、ごめんな――」
「昨日、あゆみさん、あるいは、キュアエコーと一緒だった方はいらっしゃいますか?」
 声はない。首を横に振った者はいた。昨日、とは。
「あゆみさんかキュアエコーを見た、という方は?」
 同じだった。手を上げる人もいない。
「やはりそうでしたわね。さっき、あゆみさんと目が合ったときにそんな感じがしたのです。
 では、状況の整理を兼ねて、私からご説明いたします」
 それは想像したよりも短く終わった。
 昨夜、ほぼすべてのプリキュアが突然、異次元空間に引きずり込まれたのだという。
「おそらくあれは、『ワームホール』あるいはそれに類するものだと思います。
 その先では、プリキュア・アラモードの六人、HUGっとプリキュアの五人、名称不詳のプリキュアが四人、戦っていましたが、わたしたちがそれに加わる前にワームホールは閉じ、わたしたちはそれぞれ元の世界に戻されたのです」
「…」
「すでに戦っていたプリキュア、それに後から呼ばれた形のプリキュアがいたのに加え、あゆみさんのように、ワームホールに引きずり込まれなかったプリキュアもいたわけですね。その違いが何によるものなのか、ということも解明しなければなりませんわ」
 そういうことか。
 複数のプリキュアが一緒に戦う大きな事件はこれまでに何度も起こっているが、今回は性質が異なるらしい。
「…。
 え」
 あゆみは突然、立ち上がった。
「リコちゃん?!」
 が、すぐに座り込んだ。いや、倒れたのだった。
「あゆみちゃん!」

158名無しさん:2019/07/30(火) 11:37:20
待ってました!!

159makiray:2019/07/30(火) 21:31:05
はだしのプリキュア (02/12)
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 あゆみが気づいたのは広い寝室だった。客用だろうか。
「そうだ、わたし」
 プリキュアたちが集まった会議室で、急に目の前が真っ暗になり、意識を失ったのだ。
「グレル! エンエン!」
 枕の横に小さな布団があり、グレルとエンエンもそこで眠っていた。エンエンが目を覚ます。
「あ、あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。エンエンは?」
「ちょっと眠い…」
 グレルは大の字になって、いびきが響いてこないのが不思議、という様子で寝ていた。
(ふたりも疲れてるの?)
 あゆみは、襟のキュアデコルに手をやった。
「フーちゃん?」
〈あゆみ…大丈夫か?〉
「うん。心配かけてごめんね?」
〈フーちゃんは大丈夫〉
「お目覚めでしたのね」
 短いノックの後、ありすが顔をのぞかせた。
「あの、わたし、どれくらい」
「15 分も経っていませんわ」
「会議は…」
「わからないことが多すぎて決めるもなにもありませんでした。
 まずは調査です」
 そうだ。なぜ自分が倒れたか思い出した。急に立ち上がったからだった。
「さっき、リコちゃんがいたような気がするんだけど」
 ありすは、いつもの笑みをキープしたまま頷いた。
「さきほど、ワームホールが発生した、と申しましたが、つまり、時空そのものが歪んでいるのです。
 本来なら行き来できるはずのない世界にいるリコさんと期せずして再会、ということになったのはそのためだと思います」
 そういうことだったのか。
「さっき、名前のわからないプリキュアがいる、というお話をしましたわね。
 実は、彼女たちが観星町に住んでいる、ということはわかっているのです」
「観星町」
「これからそこに向かいます」
「わたしも行きます」
 あゆみは、ありすの言葉を遮るように言った。
「でも、お体が」
「もう大丈夫です。
 それに、あんなところで倒れてしまって、みんなに迷惑をかけたから、少しでも役に立ちたいと思って」
 ありすはしばらくあゆみを見ていたが、やがて頷いた。
「わかりましたわ。セバスチャンを向かわせることになっていますので、ご同行をお願いします。
 あとは…そうですね、れいかさんにもお願いしましょう」
 それはおそらく、体調が万全でないあゆみのためだろう、と思ったが、あゆみは何も言わなかった。あの仲間たちの力になれるのならなんでもよかった。

160makiray:2019/07/31(水) 21:46:44
はだしのプリキュア (03/12)
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 車が停まる。
「天文台…でしょうか」
 れいかが言った。
 セバスチャンは、あゆみとれいかを残し、中に入る許可を得るため建物に向かっていった。
 あゆみはちらりと後ろを見た。大きめのワゴンが静かに待っている。四葉家の科学捜査チームが中に乗っているらしい。いつもなら、四葉家はいつも大げさだなぁ、と笑うところだが、今回はそういうわけにはいかなかった。改めて今日の参加者の顔を見たら、リコやことはだけではなく、トワもいた。彼女たち自身も、どうやってこの世界に来たのかわからないのだという。みらいは、誰かが「プリキュアを集めたい」とか願いをかけたんじゃないかな、と言ったが笑ったのは数人だけだった。
「返事がありません。やむをえませんな」
 セバスチャンが戻ってきた。やむをえないとどうするのだろう、と思ったが、後ろのワゴンから人が下りてきた。彼らは背中に大きなリュック――ではないのだろうが、ほかに何と言えばいいのか――を背負うと建物に向かっていった。
「おふたりも参りましょう」
 れいかが、どこに行くのですか、と聞くと、建物の裏側でございます、という答えが返ってきた。
「裏側?」
 ふたりの疑問をそのままに、セバスチャンと捜査チームは建物の脇を抜けて裏手に進んでいった。つまり、やむを得ないので許可を得ずに中に入る、というわけだった。
 思ったより広い。顔を上げると星がよく見える。
「しばらくここでお待ちください」
 捜査チームが、色々な器具を背中のリュックから取り出した。早速、調査が始まっているようだ。
「望遠鏡…でしょうか」
 れいかが指さす。確かに、星空の観察に適した晴天ではあるが、一基は倒れていた。あゆみが、何かあったのかな、とつぶやくと れいかが頷いた。
「お待たせしました。
 坂上様、当家のものと一緒に、その望遠鏡の確認をお願いできますか。
 青木様は、こちらの方へ」
「あ、でも」
 れいかがあゆみを見る。心配してくれているのだろう。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「わかりました。
 無理はなさらないでくださいね」
 うん、と頷き、捜査チームの後ろをついていく。一人は立ったままの望遠鏡を、あゆみともう一人は倒れた方に近づいた。起こすのを手伝う。
 そんなに、というくらい慎重だった。その望遠鏡で何を見ていたのかを確認したいのだと言う。
「倒れた時に動いたりしてませんか?」
 なんでも、三脚の状態から想像して場所はずれていない可能性が高いという。台の上の望遠鏡自体は動いたかもしれないが、重さや固定の状況を調べれば、少なくともここからここまでのどこか、という範囲は見当がつくらしい。捜査チームのメンバーは、蹴とばしたりしていれば別ですが、と付け加えながら望遠鏡に機器を接続した。装置の数字を見ながら細かな作業をしてファインダーをのぞく。
 何が見えるのか目元だけでなく口元まで一緒に動かしているのがおかしい。あゆみの頬が緩みそうになったが、そういう場合ではない、と思って我慢する。やがて彼は顔を離した。
「何が見えたんですか?」
 特に何も、と言う。うっすらと銀河が見えるだけだったらしい。わたしものぞいていいですか、と言うと彼は場所を譲った。望遠鏡を動かさないようにそっと顔を寄せる。
「…。
 きれい」
 確か「連星」というのだったか。青や緑、黄色のカラフルな星が五つほど並んでいる。
「あれ、なんていう星だかわかりますか?」
 捜査チームのメンバーは、多すぎて「あれ」と言われても、と苦笑した。銀河を形成する星には違いないが、と言う。
「いえ、そういうのじゃなくて。あの五つの星です」
 場所を替わる。彼はやはり、そんな目立つ星はない、と言う。
 自分はまだ疲れていてありもしないものを見えたと思ってしまっているのか、と思っていると れいかとセバスチャンがこちらに来るところだった。
「もうあちらの調査は終わったんだそうです」
「え、もう?」
 こちらは望遠鏡を起こし終わったばかりだというのに。れいかの方の望遠鏡は倒れたりしていないのですぐ終わったのであるらしい。
「あゆみさん、少し顔色が戻りましたね。よかった」
 気づかなかった。あゆみは自分の頬に手を当てた。確かに、さっきよりは暖かくなっているような気がする。いや、それより。あゆみは、れいかにファインダーをのぞかせた。
「あ…」
 れいかも、あゆみと同じように、その星の美しさに笑みを浮かべた。逆に、捜査チームのメンバーたちには困惑が浮かんだ。
「どう?」
「素敵です。心が温かくなるような、勇気づけられるような、そんな光です」
「わたしにも見せていただけますか」
 あゆみと れいかが下がり、セバスチャンがファインダーをのぞき込んだ。
「…」
 あゆみと れいかが下がり、セバスチャンがファインダーをのぞき込んだ。
「…」
「セバスチャンさん…」

161makiray:2019/08/01(木) 21:15:26
はだしのプリキュア (04/12)
--------------------------

 セバスチャンは、顔を上げると、メンバーに何事かの指示を出した。
「重要な手がかりが得られたようです」
「どういうことですか」
「わたしにはいつもの天の川しか見えません。ほかのメンバーも同じです」
「え」
「ここにいる中では、それを見ることができるのは、坂上様と青木様だけのようでございます」
「わたしと、れいかちゃんだけ…。
 !」
 声にならない声を上げる。ふたりは顔を見合わせた。
 あの星はプリキュアにしか見えないのか。
「実は、この望遠鏡が向いている方向が、昨日、ワームホールで皆さんが向かった方向なのです。
 必要なデータは取得したしました。急ぎ戻り、詳細な分析を加えたく思います」
 れいかが、急ぎましょう、という。あゆみも遅れて頷いた。

 四葉家の会議室。50 人のプリキュアが待っているところに、セバスチャンともう一人、科学捜査チームの技官がやってきた。ひとまず報告できることは二つだけだという。ありすは、よくない方を先に、と言った。
「例の『連星』ですが、みなさんが『ワームホール』状の環境で連れ出された方向と一致することは確認できました。
 ただ、距離が一致しません」
「距離…」
「お嬢様含めプリキュアの皆さんは、『ワームホール』状の環境から脱出する直前までいらしたわけですが、特異な状況とはいえ、おおよその位置はわかっています。それと、あの『連星』が存在する場所とが一致しません」
「偶然ということですか?」
 あゆみの表情が曇る。
「それが…。
 実はあの『連星』の正確な位置がまだ把握できていないのです」
「それは、みなさんに見えないからですか?」
「いえ」
 調べようにもあの星は科学捜査チームには見えない。雪城ほのかと菱川六花がラボに出向き、方向などを指示している。チームは言われた方向から来ている光を解析しているに過ぎない。確かに既知の星とは異なる何かがあることは確認できたが、それは、目隠しをしてやる「スイカ割り」を科学的に再現しているようなものだった。
「計算のたびに異なる数値になっていまして」
「…。
 妨害されている、とか」
「いえ。妨害電磁波の類は確認されていません」
「どういうことでしょう」
 ありすが首をひねる。セバスチャンが技官を促した。
「?」
「こちらが二つ目の報告です。
 あの『連星』のスペクトル パターンを確認したところ」
 誰かが――というには多かったが――「スペクトル パターンってなに?」と言う。光の性質でございます、とセバスチャンが答えた。
「既存の星のどれとも一致しません。類似する星も発見できませんでした。
 ただ、よく似た光のデータが見つかっています」
「何の光ですか」
「ミラクルライトです」
 講堂内にざわめきが広がる。「ミラクルライト?」と何人もがつぶやいた。
 れいかが挙手した。
「あゆみさんの顔色が戻ったのはそれが理由ではありませんか?」
 あ、とあゆみ自身もつぶやいた。
 プリキュアに力を与えてきたミラクルライトの光。
 体調を崩していたあゆみにその光が力を与えたのかもしれない。
「つまり、通常の光ではない、ということですね」
「あの連星の位置が確定できないのはそれが理由かもしれません」
 技官がありすの言葉を補足した。プリキュアの光、ミラクルライトの光は通常の物理法則の埒外にある。通常の物理法則を前提とする現在の地球の計測機器と処理技術で正確な値が出ないのはそれが理由かもしれない、ということだ。
「…」
 ありすは正面のモニタに映し出されている五つの星を見上げた。何人か、ミラクルライトと聞いて喜んでいるものはいたが、それは果たして本当に吉報なのだろうか。
「あゆみさん」
 ありすがあゆみを見る。
「ご気分はいかがですか? 星の光が見えていると思いますけど」
 あゆみは、同じようにモニタを見た。芳しくないようだった。
「モニタごしでは違うのかもしれませんね」
 ありすは、あゆみをはじめ、全員を休ませることにした。

162makiray:2019/08/02(金) 21:02:46
はだしのプリキュア (05/12)
--------------------------

「脱出できる確率は 0% です」
 ルールー・アムールが言った。
 ここは星系「ミラクル」。
 星奈ひかるたちが出会ったのは、ピトン。ミラクルライト製造の見習い職人である。
 ここは星系全体がミラクルライトの工場なのだ。
 しかし、事故が起こった。製造中のミラクルライトが黒い光を発するようになってしまったのである。ピトンはその犯人として追われていたが、ひかるたちもその仲間と誤解されてしまった。そして今は、スタートウィンクルプリキュア、HUGっとプリキュア、プリキュアアラモードの全員が檻の中である
「まぁ、それくらいあれば十分でしょ」
 立神あおいが、琴爪ゆかりを見ながら言った。
「どうして?」
「またまた。ゆかりさんならいつも」
「さっきの大統領の話、聞いてた?」
「?」
「『この宇宙から思いが消える』ってやつ?」
 ゆかりが頷く。
「大変だよ!
 絶対に防がなきゃ!」
 野乃はなが興奮したように言う。
 それはそうなんだけど、とゆかり。
「どうしたんですか?」
 ひかるが話に加わる。
「この状況、ピンチよね」
「はい」
「誰かが助けてくれるといいな、って思わない?」
「思います」
「それにはどうしたらいいかしら」
「うーん。
 携帯は通じませんよね、きっと」
「そうね」
「無線機」
「持ってるの?」
「うーん、のろし」
「持ってるの?」
「伝書鳩」
「持ってるの?」
「テレパシー!
 これも持ってませんけど」
 ひかるが笑うと、宇佐美いちかが自分の手を鳴らした。
「あゆみちゃん。
 キュアエコー!」
「そうか」
 薬師寺さあやが明るい声を上げた。
「キュアエコーは《思いを届けるプリキュア》だから――」
「ちょっと待って」
 輝木ほまれが止める。同時に彼女たちは、ゆかりが心配していることを理解した。
「宇宙から『思い』が消えてしまったら、多分、あゆみはキュアエコーに変身できなくなる。
 というか、キュアエコーが存在する根拠がなくなる、と考えた方がいいのかもしれない」
「そんな…」
 愛崎えみるが唇を震わせた。
「星はどんどん闇に侵食されている。残ったミラクルライトの光も地球には届かないだろうし。『思いの力』も弱まっていると考えないと」
 剣城あきらが言った。
「つまり、キュアエコーが、わたしたちと地球に残っているプリキュアの橋渡しをしてくれることは期待できない、っていうことね」
 キラ星シエルが厳しい顔になったが、逆に有栖川ひまりは気丈に頷いた。
「わたしたちは、独力でこの危機をのりきらなければいけないんですね」
 ひかるたちスタートウィンクルプリキュアは「キュアエコー」というのが何かをまだ知らない。だが、ひまりの言葉の意味だけは理解した。
「できれば、キュアエコーが消えてしまう前にね」
 ゆかりがつぶやいた。

163makiray:2019/08/03(土) 22:00:50
はだしのプリキュア (06/12)
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 あゆみは、科学捜査チームのラボに呼ばれた。そこではすでに、ほのか、水無月かれん、六花がチームのメンバーと協力していた。グレルが、「お前たち、白衣、似合いすぎだろう」と言った。
 ありすは、テーブルに置いてあったミラクルライトを一本、取り上げた。
「あゆみさん、ちょっとこれを持ってみていただけますか」
 言われるままにそれを受け取る。何か期待されているような気がするが、どうすればいいのかわからない。両手で握ってみたりした。ありすに言われて、何本か持ち替える。何が起こるわけでもなかった。
「ありがとうございます」
 横にあったモニタに今の様子が映し出された。画面が映画のような雰囲気なのは何か加工をしているからだろうか。
「さきほどの動画をもう一度見ましょうか」
 画面が二つに区切られる。左側に今の様子、右側には別の動画が映し出された。
「以前、あゆみさんにミラクルライトの回収を手伝っていただいたことがありましたわね」
 あぁ、とあゆみ。
 前に ありす――というより四葉家――の手伝いをしたことがあった。戦いが終わって、人々が放置したミラクルライトを集めて回ったのだった。
「確かに光ってるのよね…」
 ほのかがつぶやいた。
 どちらの動画も画像処理をしてあるようなのだが、以前の動画では、あゆみが手にしているミラクルライトがうっすらと光っているように見えた。
「しかも、ほら」
 かれんが指さす。
 ミラクルライトは、あゆみが手にした瞬間に光り始めるのである。そして、四葉家の担当者に渡すと消える。
「あゆみちゃんに反応しているとしか思えない。
 でも」
 六花が、左側の動画から、あゆみに視線を移した。あゆみは自分が持っているミラクルライトを見た。光ってはいない。
「もちろん、目で見て分かるようなものではないのですわ。
 この処理済み画像も、たまたま見つけたものですし」
「どういうこと…なんですか?」
 エンエンが心配そうに見上げる。
「わたしたちの仮説…っていうか、勝手な想像なんだけど」
 ほのかが控えめに言う。
「あゆみさんは、フーちゃんを説得するために自分の意思でプリキュアになった」
 黙ってうなずくあゆみ。
「その時に作用したミラクルライトの力は、ひょっとしたら想像以上に強かったかもしれない、と思って」
「なんだよ、強いって」
 グレルがややいら立っている。かれんは、グレルとエンエンをきちんと見ながら続けた。
「あゆみ、というか、キュアエコーは、ミラクルライトに対して、ほかのプリキュアよりも敏感なんじゃないかな、って考えてるの」
「わたしが、あの星を見ただけで顔色がよくなったことですか?」
「そう。れいかちゃんは確かに、きれいだとか、勇気づけられる、とかそういう感じはしたって言うんだけど、それでれいかちゃんの体調に影響が出たわけじゃないの」
「キュアエコーは、《思いを届けるプリキュア》であると同時に、《ミラクルライトのプリキュア》なのではないか、ということですわね」
「ミラクルライトのプリキュア…」
「グレル、エンエン、ふたりはどうなの?」
 六花が視線を向けてくる。グレルが視線をそらし、エンエンはうつむいた。
「ひょっとして、あゆみちゃんと同じ?」
 ゆっくりうなづくエンエン。
「あの星を見た時は確かに、体調が戻ったような気がしたんです。
 でも今は、前より悪くなっているような」
 悪いっていうほどではないんですけど、とあゆみは小さな声で付け加えた。
「あの連星の光が弱くなっているような気がするのよ。関係あるのかもしれない」
「観測できればいいのですけどね…」
 連星は「プリキュアである者の目」にしか見えない。弱くなったような気がする、と言ったものは多かったが、「気がする」の域を出ない。一方で、あゆみの体調が相変わらずよくなさそうであることもわかる。手詰まりなのかもしれない、と誰もが思っていたが口にはしなかった。
 チャイムが鳴った。みらいたちが来たらしい。お手伝いすることがないかと思って、と言う。ありすは、残念ながら、と首を振った。
「わからないことばかりなのですわ」
「フーちゃんは?」
 ことはがのぞき込む。以前から、「はーちゃん」と「フーちゃん」で仲がいい。
《フーちゃんは元気だ》
 同じことを繰り返す。納得しているのかどうか、ことはは「よかった」と言った。

164makiray:2019/08/04(日) 22:34:42
はだしのプリキュア (07/12)
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「一旦、休憩にしましょう。
 リコさん、あゆみさんをお部屋まで」
「大丈夫だよ」
 子どもでもあるまいし、とあゆみは笑ったが、リコは笑わなかった。じゃ一緒に、とつないだ手に力強さが感じられなかった。

 異変はすぐに起こった。
 空に「ヘビ」が現れたのである。
 節々に原色の輪をまとう、嫌悪感を引き起こさずにはいられない不気味さだった。
「ありす」
 会議室に集まる少女たち。最初に口を開いたのは美墨なぎさだった。
「あの星のこと、何かわかった?」
「いいえ」
 あの「ヘビ」の発生源はあの連星ではあるようだったが、彼女たちの目視によるものだった。確信はあるが、証拠はない。
「あたしたち、ここに集まってる意味ないんじゃない?」
 何人かが なぎさを振り向き、何人かが頷いた。
「ごめん、ありすとか四葉とかを責めてるんじゃないよ。
 ただ、町のみんなが心配なんだ」
 頷く顔が増える。
 小泉学園、夕凪町…それぞれが産まれ、育ち、暮らしてきた町。その人たちも、同じようにあの「ヘビ」に怯えているはずだった。
「そうですわね」
 ありすは、マナが頷くのを見ると決断した。みなが立ち上がる。
「当家の警備部隊に送らせます。急がせますので、少々お待ちください」
 セバスチャンが会議室を出て行った。
「ありすちゃん、ミラクルライトを貸してくれない?」
 はるかが言った。さすがに、みなみも驚いている。
「いちかちゃんたちがきっと突破口を開いてくれるから」
「そうだ。そのとき、あたしたちも力になれる」
「プリキュアの光の力を送れるかもしれません」
 ありすは頷くと、ラボのミラクルライトを持ってくるよう指示を出した。
 やがてそれは全員に行き渡り、護衛となる警備部隊の準備が整ったところから出発していく。それを、「事態が悪化すれば変身できなくなる可能性がある。早めにプリキュアに変身しておいた方がいい」という月影ゆりの意見が追いかけた。
「あゆみさんは、当家にお残りください」
「でも」
「わかってる。
 あゆみちゃんもフーちゃんも横浜の町が大好きだっていうことはわかってるよ」
 マナがあゆみの肩を握る。
「でも、戦える状態じゃないでしょ」
「一人では危険ですわ」
 真琴からも亜久里からも心配があふれている。
 でも、とあゆみは言いかけたが、途中でやめた。「ヘビ」が現れてからの疲労感ははっきりしていた。自分だけでなく、グレルもエンエンも元気がない。
「わたしたちと一緒にいよう」
 六花がのぞき込む。
 その心配はうれしい。とてもうれしいが、自分が「半人前」であることがまた突きつけられているのも事実だった。
(わたしは、いつまで…)
 しかし、それを跳ね返すだけの根拠もない。グレルとエンエンの様子に、それでも変身する、とも言えない。
 わかりました、と答えるしかなかった。

「プリキュア ラブリンク!」
 ゆりのアドバイスの通り、空から星が消え始めるころにマナたちは変身した。四葉タワーに移動する。
 何が起こっているわけではない。だが、地上から光が失われていく。空には、「ヘビ」の毒々しく鮮やかな節だけが見える。人々は絶望し生きる意志を失い始めていた。

165makiray:2019/08/05(月) 21:22:56
はだしのプリキュア (08/12)
--------------------------

 あゆみには、連星の状況を監視しろ、という役割が与えられていた。ありすがキュアロゼッタとなった今では、四葉のラボで連星の位置を示すことができるのは一人しかいない。
「数値を確認させてください」
 あゆみは技官のディスプレイをのぞき込んだ。さっきと同じ。
(うん)
 変わるはずがない。連星は移動するわけではないし、観測できないのだから、そもそも満足な数値が得られない。あゆみには、その光が暗くなっていく一方だということはわかるが、ここに張り付く必然性はなかった。
「わたし、ちょっと」
 あゆみは、小さな声で言うと、グレルとエンエンをトートバッグに入れ、ラボを出た。
「坂上様、どちらへ」
 セバスチャンがいた。いや、立ちはだかっている。
「ありすお嬢様より、坂上様はきっとそのようになさるので、気を付けるよう申しつかっておりました。
 危険でございます。ラボにお戻りください」
 あゆみは、しっかりと首を振った。
「坂上様」
「黙っているなんてできません」
「ですが」
「わたしもプリキュアなんです!」
「しかし、今は」
「変身できなくてもプリキュアなんです!!」
 言葉に詰まるセバスチャン。
 グレルはあゆみのトートバッグから飛び出すと剣を抜いた。
「どけ!
 俺たちだってプリキュアだ! 邪魔するな!!」
「セバスチャンさん、お願い!!」
 エンエンも身を乗り出して叫ぶ。
「行かせてください。
 ありすちゃんには後でわたしから話します。
 それに」
 あゆみはきっと顔を上げた。
「きっとわかってくれると思います」
「プリキュアだから…でございますか」
 頷くあゆみ。
 セバスチャンは、三人の目を順番に見つめた。
 わかる。わかりすぎるほど。
「承知しました」
「セバスチャンさん!」
「二人ほどおつけします」
「いえ、それは」
「四葉も大変なんだろ?」
「それがわたしどもの役割でございますので」
 実際のところ、それぞれの町にプリキュアたちを送り届けたメンバーはここに戻ってきている。人が足りないわけではない。なにより、この三人は絶対に守らなければならない三人だった。
「どちらにいらっしゃる予定ですか」
「四葉タワーに」
 セバスチャンの目が細められる。
「…。
 理由をうかがってもよろしいですか?」
 キュアロゼッタをはじめ、ドキドキ!プリキュアの五人がそこにいる。それに合流しようというのか。
「わたしが今行けるところで、一番、あの星に近いところだから」
「プリキュアの光を届けに行くんだね」
 エンエンの言葉にあゆみが頷いた。
 今、光を失ったも同然の あゆみには、届けられるものは何もない。だが、二手に別れ、意思の疎通もできない状態になっているとはいえ、50 人ものプリキュアがそれぞれに活動している。そのおかげで事態が改善されたとき、できる限り、あの星に近いところにいたい。
「承知しました。
 メンバーをこちらに呼びますので少々お待ちください」
「ありがとうございます。
 あ、ありすちゃんにはわたしが」
 あゆみがスマートホンを取り出すのをセバスチャンが止めた。
「わたしがいたします」
「でも」
「いえ、それがわたしの役目でございますので」

166makiray:2019/08/06(火) 22:38:22
はだしのプリキュア (09/12)
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 四葉タワーの最上階。
 キュアハートたちは、すでにラブハートアローを手にして真っ黒な空にとぐろを巻く蛇をにらんでいた。みな避難していて動くはずのないエレベータのドアが開き、警備部隊のメンバーに続いてあゆみが姿を現すと、キュアソードは驚いた顔をし、キュアエースは駆け寄ってきて「大丈夫なのですか」と尋ねた。
「ありがとう。
 わたしのことは心配しないで」
「そうは参りません。
 みなさん、わたしはあゆみさんとご一緒します」
 キュアハートが、わかった、と手を振る。キュアロゼッタが笑顔を見せる。「やはりいらっしゃいましたね」と言われているような気がした。
 顔を上げる。連星の場所はすぐにわかった。蛇のとぐろの中心にある。味方だとは到底思えない蛇の中心にミラクルライトの光がある、というのがどういうことかはわからないが、一つだけわかっていることがある。
(あそこにプリキュアがいる)
 HUGっとプリキュアとプリキュアアラモード、そして、まだ会ったことのないプリキュアがそこで戦っているはずだ。
 何ができるかわからない。何もできないかもしれない。だが、もし、チャンスがあるなら力になりたい。力にならなければ。
(わたしだってプリキュアなんだから)
 その声が聞こえたのか、グレルとエンエンがバッグから這い出してきた。その時のため、小さな手にミラクルライトを持っている。
 あゆみは襟のエコーキュアデコルに手を当ててみた。フーちゃんの「呼吸」がわかる。フーちゃんも気を張り詰めている。
 深呼吸。
 わずかな兆しも見逃してはならない。

 キュアスターは、仲間たちの助けを得て、ピトンを最後のミラクルライトがある部屋に送り届けたが、ほかのプリキュア同様、闇に捕らわれてしまった。
 ピトンは、やっと見つけたミラクルライトに最後の仕上げをしようとしたが、ミラクルライトはくすんだ色に染まってしまった。
 大統領も、言葉を絞り出してピトンをなぐさめたが、それが無力であることはわかっていた。
 キュアスターは体が動かない状態のまま、思いを巡らせていた。これまでの戦いで疲労していたため混乱していた思いは、やがてクリアになり始める。
(みんなの思いをつなげたい)

「?」
 あゆみは、エンエンに言われて肩を上下させてリラックスしようとしていたが動きを停めた。
「あゆみさん?」
 キュアエースが声をかけたが、返事をしない。目元が険しくなっている。ふいにあゆみは展望台のガラスに駆け寄った。
「あゆみさん、危険です!」
 ガラスに顔をつけるようにして何かを探している。
「あゆ――」
「ちょっと待って」
 あゆみには珍しい強い口調。キュアエースは、わずかに後ろに引いて様子を見守ることにした。それに気づいたキュアダイヤモンドとキュアソードが静かに近づいてきた。キュアハートも続きそうになったが、警戒が手薄になることを気にしたキュアロゼッタに手振りで止められていた。
 あゆみの厳しい目つきに変わりはない。追いついたグレルとエンエンが、どうしたんだ、とあゆみの顔と外を見比べていたが、それにも返事をしなかった。
〈…の思いを〉
 あゆみが息をのむ。
〈わたしの手でしっかりつかむんだ〉
「聞こえる」

167makiray:2019/08/07(水) 22:38:00
はだしのプリキュア (10/12)
--------------------------

「え?」
「割って」
「あゆみちゃん」
「このガラスを割って。
 邪魔なの!」
「危険よ」
「誰かの声が聞こえた!
 あの星にいる誰かの声が聞こえたの!!」
 我慢できなくなったキュアハートが駆け寄ってくる。
「あゆみちゃん、聞こえたの?」
「聞こえた。
 まだ途切れてない。
 お願い、このガラスを割って!!」
 背後でキュアロゼッタが警備メンバーに指示を出していた。警備メンバーは車のシートベルトよりさらに頑丈そうなベルトを持ってくると、それを接続したベストをあゆみに着せた。あゆみは、体を動かされ、視界が遮られることにはっきりと不快感を見せたが、キュアロゼッタは譲らなかった。
「失礼しました。これで大丈夫です。
 キュアハート」
 キュアロゼッタの言葉に、キュアハートはラブハートアローを構えた。キュアソードが足元を固めると、キュアダイヤモンドとキュアエースはあゆみの後ろに立ち、いつでもサポートできるように構えた。
「行くよ」
 あゆみが頷くとキュアハートは引き金を引いた。
 まばゆい光線が分厚いガラスに向かって延びる。だが、それをガラスを貫いただけで割れはしなかった。え、とキュアハート。
「早く!!」
 あゆみが叫んだ。
「プリキュア ホーリー・ソード!!」
 キュアソードの手から無数の剣が放たれる。
「これでどう?!」
 今度こそ、その一角のガラスが外に飛び散った。代わりに、地上1000mの強風が飛び込んでくる。
 あゆみはさらに前に進み出た。背後の壁に固定されたベルトのせいで前進を阻まれると、視線を動かさず、後ろ手にそれを引っ張ったが、ベルトはピクリともしなかった。
〈…に思いが詰まっている!〉
 あゆみはミラクルライトを突き出した。まっすぐ伸びた右手に左手を添える。ミラクルライトはわずかずつゆっくりと方向を変えた。後ろで、キュアロゼッタがまた合図をする。警備メンバーは、あゆみの後ろで何かの装置を作動させた。
「あ」
「ミラクルライトが」
 あゆみの手のミラクルライトがうっすらと光った。このタワーの最上階で光を失った空を見守り続けて闇に慣れた目でないと気が付かないほどの明るさ――あるいは、暗さ――だったかもしれない。だが、ミラクルライトは間違いなく光っていた。
 キュアロゼッタが後ろに下がり、無線でセバスチャンを呼びだした。
「あゆみさんが光をとらえました。方向のデータを送らせます」
《承知しました》
 警備メンバーが測定データを送信する。

168makiray:2019/08/08(木) 22:24:48
はだしのプリキュア (11/12)
--------------------------

「わたしたちはここにいる!」
 あゆみが叫んだ。
「あなたが誰だかはわからない。でも、同じ光を持っている。同じ強さの思いを持っている!
 わたしたちはあなたの仲間。あなたの友達!」
 キュアエースがミラクルライトを掲げた。あゆみを見ながら方角を微調整する。それはやがて弱々しくはあるが光を取り戻した。それを見たキュアダイヤモンドがつづき、キュアハート、キュアソードも同じくミラクルライトを持った手を伸ばした。
《方角のデータをプリキュアの皆様に転送いたしました》
「あなたもミラクルライトをそちらに向けてください、セバスチャン」
《わたしがでございますか》
「えぇ、あなたもプリキュアなのですから」
《…承知いたしました》
 キュアロゼッタは小さく笑うと自分もミラクルライトを手に持った。
 蛇がうねった。目のない顔が展望室をのぞき込む。キュアハートはミラクルライトを持っていない方の手でラブハートアローを持ち替えようとしたが、何が見えたのか、蛇は慌てたように後ろに下がった。
「ミラクルライトに怯えてる」
 キュアダイヤモンドがつぶやいた。この弱々しい光に。
「効いてる!」
「何でも言って!」
 あゆみの言葉は続く。
「わたしはひよっこのプリキュアだけど、わたしも一緒に戦いたいの!」
「わたしたちもいます!」
 キュアエースが言った。キュアロゼッタが続く。
「こちらには十分な戦力があります!」
「道さえ開けば、わたしたちもすぐそこに行く!」
「ホイップ! エール!」
「一緒だよ!!」
〈ありがとう〉
「つながった…」
 あゆみが言い終わらないうちに、ミラクルライトの光が増した。
〈みんなの想い、しっかり届いたよ!!〉
「やった!!」
 遠くで光が散った。キュアダイヤモンドが目を細める。プリキュアの誰かがあの蛇に攻撃を仕掛けたのだ。
「ミラクルライトをむけるようお願いしましたのに」
 キュアロゼッタが困った顔をする。が、キュアダイヤモンドが否定した。
「光の力を使えるようになったってことだよ」
「うん。わたしも力が湧いてきた」
「不思議です。ミラクルライトを持っているわたし自身が力を得られるとは」
 キュアソードが力強く言うが、キュアエースは困惑しているようだった。
「当然だよ」
 キュアハートは全く動じていない。
「だってここには、〈ミラクルライトのプリキュア〉がいるんだからね!」
 聞こえているのかいないのか、あゆみもグレルもエンエンも、ミラクルライトを持った手をまっすぐ伸ばしている。三人のミラクルライトは、キュアハートたちのものより明るく、もう「輝いている」と言っても大げさではないほどになっていた。そして、あゆみの襟もとにあるフーちゃんのエコーキュアデコルも同じ色の光を発している。
 その光に導かれるようにして、キュアハートたちのミラクルライトが光を増した。
 それがレーザーポインターとなる。
 やがて世界を満たしたミラクルライトの光は、惑星ミラクルに向かってまっすぐに伸びて行った。

169makiray:2019/08/08(木) 22:29:34
はだしのプリキュア (12/12)
--------------------------

「そうと決まればお花見だ!!」
 なぎさの一声で全員集合のお花見が決まった。
 参加者は 50 人を超える。だが、作業をする人もそれだけいる、ということであり、準備は意外にスムーズに進んだ。
 問題は当日。自己紹介の時間が長い、ということだった。特に、プリキュアになったばかりの星奈ひかるたちは、一度に 50 人を覚えなければならず、見るからに混乱していた。例外は羽衣ララで、「記録は AI に任せればいいルン」と涼しい顔である。
「星奈ひかるです」
「坂上あゆみです」
「…」
 ひかるは、あゆみを顔をしばらくのぞき込むように見ていた。
「あの」
「その声!」
「え?」
「ミラクルライトの人だよね!!」
「…え?」
 驚くあゆみをよそに、ひかるは自分の仲間を呼んだ。
「ララ! えれなさん! まどかさん!
 ミラクルライトの人、ここにいたよ!!」
 その三人が驚いた顔で集まって来る。
「あの」
「聞こえてた!」
「聞こえてました!」
「聞こえてたルン!」
「な…に…が…ですか?」
「わたしたちはここにいる!」
 ひかるが叫ぶと、ほかのプリキュアたちも集まってきた。
「わたしたちはあなたの仲間!」
「あなたの友達!」
「すごくうれしかったルン!!」
「え…」
 困惑するあゆみと、目をキラキラさせているひかるたち。ゆかりが後ろに立った。
「つまり、思いがつながったのよね。
 キュアエコーと」
「えっ?!」
「坂上さんがキュアエコーだったんだ!
 きらヤバ〜!!」
 ひかるの声はさらに大きくなる。
「そうですけ――」
「ありがとう!!」
 ひかるはあゆみの手を両手で握った。ありがとう、と言いながら、何度も振る。
「あの」
「だって、ゆかりさんが、キュアエコーが助けてくれないとどうにもならないって」
「すごく不安だったルン」
「そんな言い方はしてないわよ」
「ほんとうにありがとう!!」
 みなが笑う。マナがありすの腕をつついた。
「ありす、あゆみちゃん、取られちゃうよ」
「あゆみさんはいつも人気者ですから」
「はやくツバつけておかないと。四葉にスカウトするんでしょ?」
「え…えぇっ?!」
 あゆみの悲鳴が上がる。
「セバスチャンがあゆみさんをとても高く買っているのです。
 おふたりで新しいプリキュアチームを結成する、というのはどうですか?」
 それぞれがキュアエコーとキュアセバスチャンの組み合わせを想像した。何人かが吹き出したが、黄瀬やよいが難しい顔をしている。腕を組んで考え始めた。
「あ、やよいちゃんの創作スイッチが入った」
「あかんて。今日は花見やんか…」
 同じく難しい顔をしていたグレルが、プルンスの体を剣でつつく。
「何するでプルンスか!」
「お前、タコじゃないのか」
「プルンスは宇宙妖精でプルンス!」
 フワはエンエンの額の模様が気に入ったようで、手で撫でたり唇で触れたりしていた。
「フワ…フワ…フワ!」
「くすぐったいよ…」
 そのかわいらしい様子に皆の笑顔がこぼれる。
 ひかるたちに何度も感謝されているあゆみだけが困っていた。

170makiray:2019/08/08(木) 22:31:18
以上です。
お騒がせしました。

171名無しさん:2019/08/10(土) 00:31:50
>>170
毎回楽しみにしています。
実にあゆみらしい、エコーらしい戦い方!
楽しませて頂きました。

172名無しさん:2019/08/11(日) 22:18:32
>>157>>170
AYUMI SAKAGAMIへの愛が感じられました。
あとなんかグレルとエンエンのぬいぐるみ的なもの欲しくなってきた

173makiray:2020/12/22(火) 21:58:32
ご無沙汰しております、オールスター映画にキュアエコーが登場するお話です。
タイトルは“Messenger of Light.”
12 スレお借りします。

174makiray:2020/12/22(火) 22:02:06
Messenger of Light (1/12)
-----------------------
「さて、昼飯の前に一頑張りすっか」
 久しぶりに晴れた土曜日の朝。
 休日出勤している母の代わりに掃除や洗濯を終えて坂上あゆみが部屋に戻ってくると、グレルは「れんしゅうちょう」を広げた。エンエンが、「僕もやる」と続く。
「あんまり頑張りすぎないでね」
「いや、一日も早く人間の言葉の読み書きをマスターして、あゆみを導いてやらなきゃいけないからな」
「あ…お手数をおかけします」
「あゆみちゃんからのメモくらいは読めるようにならないとね」
 ふたりは一週間ほど前からひらがなの練習をしている。子ども用の練習帳を買ってやると熱心に取り組み始めた。続くだろうか、途中で飽きるのではないだろうか、と思っていたが、何せ勉強の材料はいくらでも目に入ってくる。飽きたり音を上げたりする様子はなかった。
「あれ」
「なんだよ」
「もう 8p 目なの?」
「そうだよ。せっかくガクシューイヨクが一杯なんだから邪魔すんなよな」
「昨日は 6p 目だったでしょ。だめだよ飛ばしちゃ」
「もうできちゃったんだよ」
「グレル」
「本当だよ。ほら」
 グレルは不服そうに 7p 目を開いて見せた。確かにもう書き込んである。さっき始めたばかりではなかったのか。あるいは昨日のうちに 7p 目まで進んでしまったのか。詰め込み過ぎるとよくないと思って一日一ページと約束したのに。
「俺にかかればチョロいもんだよ。
 ほら、上手いだろう?」
 自慢げに練習帳をトントンと叩く。
「…?」
 あゆみは練習帳を手に取った。確かにきれいだ。昨日今日初めて書いたとは思えない。
「エンエンは?」
 言われるとエンエンは 8p 目を両手で隠した。エンエンもそこまで進んでいるのか。お願い、ちょっと見せて、と取り上げる。同じ。7p 目の字は、小学生と言っても通るくらいきれいだった。その前のページとははっきり違う。ひらがなの書き方に慣れた、ということなのだろうか。
 あるいは、ここからの上達は早いかもしれない。グレルもエンエンも妖精だから体は小さいが、子どもというわけでもないのだし、そう遠くないうちに漢字の練習に進んでもいいのかもしれなかった。
「ありがとう。
 でも、やっぱり一日一ページでね。その一ページをゆっくりしっかりやった方が身につくよ」
 子どもの頃に言われて、ちょっと気を悪くしたことのある台詞を自分が言うことになるとは。
「あゆみもしっかりやるんだぞ」
「…。
 はい」
 グレルとエンエンがひらがなの練習を始めるのと同時に、ふたりからあゆみにも課題が与えられた。プリキュア教科書の文字を読めるようになれ、というものだった。しょうがない。一緒に勉強することにしようか。あゆみは栞を目印にプリキュア教科書のページを開いた。
「…」
 妙に読みやすい。ここは前にやったページではないだろうか。栞を間違って挟んだのか。あゆみは前のページに戻ってみたが、その表情が次第に険しくなる。
 このページだけ、今日初めて読んだはずのこの 7p 目だけが、異常に読みやすい。暗唱できたりするわけではない。内容も覚えてはいない。「読みやすい」のだった。
 不思議そうに見ていたグレルとエンエンと目が合う。なんでもない、と取り繕うこともできない。逆に、背筋を悪寒が駆け上がった。
 同じではないのか。
 グレルとエンエンのひらがなが、練習帳の 7p 目でやけにきれいに書けていることと、プリキュア教科書の 7p 目がやけに読みやすいこととは、同じ現象なのではないのか。
「あゆみちゃん…?」
「どうした?」
〈――み。
 ――ゆみ〉
「フーちゃん?」
 三人の頭の中にフーちゃんの声が響いた。あゆみは襟元からペンダントを取り出した。フーちゃんのエコーキュアデコルが、見たことのない早さで明滅している。
〈あゆみ〉
「どうしたの」
 その声に切迫感がある。グレルとエンエンは、あゆみの手の上のエコーキュアデコルを心配そうに覗き込んだ。
〈あゆみ!〉
「フーちゃん、どうしたの」
〈キュアエコーになって!

175makiray:2020/12/23(水) 20:59:27
Messenger of Light (2/12)
-----------------------
「フーちゃん、どうしたの」
〈キュアエコーになって!
 空を見て!!〉
「フーちゃん!?」
〈お願い。キュアエコーになって!!〉
「落ち着いて――」
〈早く!!〉
 エコーキュアデコルを見つめて困惑しているあゆみの手をグレルが引っ張った。
「変身するぞ」
「でも」
「フーちゃんがこんな言い方するなんて普通じゃないよ」
 エンエンも真剣な顔で言う。
「何か理由があるんだ。
 急ぐぞ」
「…。
 うん」
 あゆみはその場で立ち上がり、左手をグレル、右手をエンエンとつないだ。エコーキュアデコルから滲み出した光が、その三角形を縁取る。光の渦はあゆみの周りを舞った後、あゆみの身体に吸い込まれていった。
「屋上に行こう」
 キュアエコーはあゆみの部屋の窓を開けると、手すりを足掛かりに一気にマンションの屋上に飛んだ。

 カツ、とキャエコーのヒールが音を立てた。
 風のない好天。確か、晴れるのは三日ぶり、とかニュースで言っていた。足元から街の喧騒が聞こえる。
「フーちゃん、外に出たよ」
〈今、何時?〉
「もうすぐお昼じゃないかな。それがどうしたの――」
 どこかから鐘の音が聞こえる。正午だろう。
〈エコー、空を見て!〉
 フーちゃんの声は悲鳴に近かった。キュアエコーは理由を問うのをやめ、周囲を見渡した。自分の町、繁華街、駅、学校のある方角、さらに遠く、緑にかすんだ山の――
「エコー、あれ」
 気づいていた。山の向こうで小さな光が揺れている。三つ。
「…」
「ミラクルライトの…光?」
 そう言っているうちに光は見えなくなった。
「フーちゃん、どういうこと?」
〈あれは――〉

176makiray:2020/12/24(木) 21:27:02
Messenger of Light (3/12)
-----------------------
 あゆみは体を起こすと大きな息をついた。
(変な夢。
 尻切れトンボだし)
 夢に整合性を求めるのは間違っているのかもしれないが。
 今日は母が休日出勤をしている。掃除に洗濯と、やることはたくさんあった。寝坊してもいられない。グレルとエンエンはここのところ、ひらがなの練習に熱中しているから、その間に片づけてしまおう。
 ベッドから降りようとして手をつく。かすかな痛み。
 右手を上げてみて驚いた。エコーキュアデコルを握っていた。こわばった手を広げてみると、掌にデコルの跡がついている。
 いつもは枕元に置いておくのに、なぜ今日に限って握りしめているのだ。
「あゆみちゃん…それ…」
 起きてきたエンエンがそれを指さして何か言いかけた。だが、言葉が続かない。
「どうしたの?」
 また、「それ…」と言ったまま、エンエンは首を傾げた。そのまま、ぼんやりした声で「おはよう」と言う。グレルも起きたようだった。
「まだ眠いぜ。変な夢見るし」
「どんな夢?」
「フーちゃんが…」
「うん」
「フーちゃんが…あれ?」
「忘れちゃったの?」
「もういいよ、夢なんか」
 よくはない、あゆみがそう感じたのと同時に、エコーキュアデコルが熱を持った。
「フーちゃん?」
〈あゆみ…〉
「どうしたの?」
 フーちゃんの声に切迫感がある。
〈あゆみ!
 あゆみ!!〉
「フーちゃん!?」
 様子がおかしい。フーちゃんの声はやがて鳴き声になった。もう止まらなかった。あゆみはエコーキュアデコルを両手に包み胸元に抱いた。

〈またひとりぼっちになったと思った〉
 フーちゃんの言葉に、あゆみたちが驚いた。あゆみたちがフーちゃんをひとりきりにするはずがない。
〈でも、あゆみたちは…フーちゃんのことを忘れてた〉
「そんなことない」
「絶対にないぞ!」
「昨日だって一緒に遊んだじゃない」
〈違う…違う〉
「フーちゃん、お願い。どういうことなのか教えて。
 私が悪いんだったら一杯あやまるから」
〈あゆみは悪くない!〉
「じゃ、俺か?」
「僕なのかな」
〈悪いのは〉
 三人が言葉を待つ。何がフーちゃんをこんなに苦しめているのか。
〈リフレイン…〉

177makiray:2020/12/24(木) 21:29:07
Messenger of Light (4/12)
-----------------------
「時間の妖精…?」
 机の上にエコーキュアデコルを置く。その上に小さなフーちゃんの姿が映し出された。
 フーちゃんによれば、時間の妖精は二人いて、過去を司るリフレインと、未来を司るミラクルンと言うらしい。
 リフレインは自分が宿っている時計塔が解体されるのを防ぐため、「土曜日の正午」が来るたびに時間を巻き戻しているのだという。
〈あゆみたちは、そのたびにみんな忘れて、元に戻る。
 フーちゃんのことも〉
 またフーちゃんの声が小さくなる。あゆみは手を握りしめた。自分が、フーちゃんのことを忘れたらしい、という事実に怯えながら。
「でも、フーちゃんは、違うの?」
 エンエンがおずおずと言った。
 誰も答えなかったが、もともとはフュージョンの一部であるフーちゃんは不自然な時間の流れの影響を受けない、ということなのだろうか。
「フーちゃんは、私たちに何度もそのことを教えてくれたのね?」
〈何回も…何回も…〉
「ごめんなさい」
「ごめんな」
「ごめんね」
〈あゆみも、グレルも、エンエンも悪くない!〉
 また泣き出す。エンエンはもちろんだが、驚いたことにグレルもベソをかいていた。
 そうやってゆっくりとフーちゃんから話を聞いていく。
 どうやらフーちゃんは「毎日」あゆみに事情を伝えたらしい。あゆみたちはそのたびにどうにかしようとアクションを起こすのだが、すぐに時間切れになってしまう、ということを繰り返していた、ということのようだった。
 そして、不自然ではあっても時間はそのように流れて――あるいは、戻って――おり、フーちゃんだけがそれに逆らっている、という状態はフーちゃんの身体にかなりの負担を与えたらしく、まもなくフーちゃんはあゆみにコンタクトをとることができなくなった。疲労困憊の状態から立ち直ったのが「数日前」で、「昨日」になってやっとあゆみをキュアエコーにするところまでこぎつけたのだった。
「フーちゃんのおかげだよ」
〈…〉
 エンエンが言ったが、フーちゃんは答えなかった。
「グッジョブだぜ、フーちゃん」
〈フーちゃんは何もしてない…〉
 どうやら照れている。あゆみはほっとした。
 おそらく「何カ月も」フーちゃんをひとりきりにした。しかも、何度も「フーちゃんのことを忘れた」のだ。それがリフレインという妖精の企みのせいで、正確には「忘れた」のではなく、土曜日の午前中をなかったことにされた、ということなのだとしても、だったらしょうがないよね、と言えるようなことではなかった。
(ごめんね…フーちゃん)
 プリキュアになれたこと、グレルやエンエンと会えたこと、そもそも、この町で最初の友達になってくれたこと――フーちゃんには感謝してもしきれないほどのものをもらっている。そのお返しが、「何カ月ものおきざり」だとしたら、とても許されることではなかった。あゆみは、胸の中で「ごめんね」を繰り返した。
〈あゆみ…?〉
 何かに気づいたらしい。フーちゃんが心配そうな声になった。
「それで、あゆみ。どうするんだ」
「え…?」
「え、じゃないだろう。そのリフレインってやつのせいで、この世界がおかしくなっちまってるんだ」
「プリキュアの出番だよね」
「あ、うん」
 あゆみは最低限の身支度を終えると、トートバッグを肩にかけた。グレルとエンエンが飛び込む。
 すこやか市に向かう。そのリフレインとミラクルンに会わなければ。
 腕時計を見る。9時半。間に合うだろうか。
 いや、考えている間に行動だ。あゆみはバタンと音をさせて家のドアを閉じた。

178名無しさん:2020/12/25(金) 00:00:10
>>177
待ってました、makirayさんのキュアエコーSS!
続き楽しみにお待ちしてます!!

179makiray:2020/12/25(金) 22:24:28
Messenger of Light (5/12)
-----------------------
「なんで発車しないんだろう」
 走りながらスマホで経路案内のアプリを起動し、駅に着いたところで調べた。11 時半前にはすこやか駅に着けそうだ。何度か乗り換える。どの列車も定刻通りに進んだ――と思っていたが、あと駅三つ、というところで電車は長い停車をした。
 もう一度、アプリで確認する。待ち合わせがあるダイヤではなかった。
「もう 11 時半だ…」
 確かに、すぐ発車すれば 12 時前にすこやか駅にはつく。だが、それからその時計塔のところまで行かなければならない。あゆみはつかまっていた手すりを握りしめた。
《ご迷惑をおかけしております》
 車内アナウンス。イライラしていたほかの乗客も顔を上げた。
《運行中に異音を検知、臨時の点検をしておりましたが、本車両の運行を見合わせることといたしました》
「え?」
 エンエンもバッグの中で声を上げた。
《お忙しいところ申し訳ありませんが、ホームで次の列車をお待ちください。
 なお、後続の列車は 10 分ほどで到着いたしますが、本車両を移動してからの入線となります。発車には更に 10 分ほどを見込んでおります》
「合わせて 20 分」
 これからの行程がどれだけスムーズに進んでも、正午までにすこやか駅には着かない。
 あゆみは列車を飛び出した。
「どうするんだよ、あゆみ!」
「ここからタクシーで行く」
 間に合うかどうかはわからない。だが、すこやか駅から時計塔に行くのではなく、ここから直行すればすこしは時間を稼げるのではないか。
 あゆみはホームの階段を駆け上がった。

 タクシーのドアに手をかける――
 あゆみは、自分が息を切らせていることに気づいた。
 随分と気持ちが焦っている。リアルな夢だった。
「…。
 違う。
 フーちゃん!」
 グレルとエンエンも飛び起きた。慌てた顔。多分、自分も似たような表情をしているのだろう。
〈あゆみ!!〉
 フーちゃんは、今度は泣かなかった。
 よかった。覚えている。
 あゆみはジャージのままリビングに走った。テレビをつける。朝のニュース番組の隅に表示されている日付は、昨日と同じだった。天気予報も「三日ぶりの晴天」と同じことを繰り返している。
 一昨日はキュアエコーになって、ミラクルライトらしい光を目撃した。
 昨日は、フーちゃんから説明を聞いて、すこやか市に向かった。
 どちらも時間切れにはなったが、今日は初めから、世界はループしているが自分たちだけがそれを知っている、という状態。事態はいい方向に向かっている。今日こそ。それには、昨日とは違うアプローチが必要だ。
 スマートホンを取り上げる。
「まず、みんなに知らせよう」
「ジョーホーキョーユーってやつだな」
‘P’の文字が光で縁取られたアイコンをタップする。四葉ありすがグループ会社に作らせた、プリキュア同士の連絡アプリだ。最初は既存の SNS を使っていたが、利用不能になるというアクシデントが2回起こったところで、一般のシステムではいざという時に役に立たない、ということになった。
 あゆみは、「リフレインという妖精が時間を操っている」というメッセージを最初に流した。中には数カ月ぶりの人もいる。まず全員に、これが時候のあいさつやお花見のお誘いなどではなく、異常事態発生のアラートであることを認識してもらうためだ。詳細の情報を後から付け加える。
「これでよし」
「大騒ぎになるぞ」
「出かける準備をしておこう」
 フーちゃんのエコーキュアデコルを改めて首にかけた。
 どこに向かえばいいのかはまだわからないが、残り時間は少ない。あと2時間半、正午までになんとかしなければ、また同じ一日が繰り返される。

180makiray:2020/12/26(土) 21:54:14
Messenger of Light (6/12)
-----------------------
 だが。
「もう9時半…」
 昨日も一昨日も、8時過ぎに起きて休日出勤をしている母親の代わりに家事をした。今日はなぜ一時間半も遅れているのだ。
「時間の流れに逆らったからかな…」
 エンエンが言った。
 フーちゃんは、リフレインが繰り返した不自然な時間の流れのせいで力を失いかけた。妖精ではなく、人間に過ぎないあゆみは、たった数日で疲弊してしまうのかもしれなかった。
「急がないと」
 どうしても今日中に解決しなければ。
「誰か返事をしてください!」
 あゆみは、スマートホンを叩くようにメッセージを入力した。
《ちょっと待ってね。整理してるから》
 最初に反応したのは水無月かれんだった。
《誰か異常に気づいた人はいますか?》
 これは雪城ほのか。
《ちょっとレスポンスが悪いわね。朝早いし》
 と蒼乃美希。
「でも」
 つい声に出してしまうあゆみ。
《起こしますわね》
 四葉ありすが言ったかと思うと、あゆみの手の中のスマートホンが震え、大きな音が鳴った。こういうときのために、機器の設定を無視して大きな音を出す機能を用意しておいたのだという。
「びっくりしちゃったよ」
「無茶すんなー、あいつ」
《おはよ…》
《ちょっと、どういうこと?!》
《あゆみちゃん!!》
  星空みゆきに続いて、美墨なぎさ、日向咲と次々に入ってくる。挨拶もそこそこに驚きのレスポンスが続いた。
「ごめんなさい、すぐには信じられないと思うんですけど」
《あゆみがそんな嘘で私たちを叩き起こすとは思わない》
《フーちゃんなんでしょ。納得だよ》
《気になるのは、あゆみが見たっていう光ね》
《方角は?》
「西の方…です」
《もうちょっと絞れない? 建物とか目印にして》
「屋上に上がればわかるかも」
《あまり意味はないと思います。ほんの少しの差でも、遠ければ遠いほどずれが大きくなりますから。四葉のチームが伺って精密に測定できればまだしも》
《今からでも迎えない? まだ2時間以上あるわ》
《四葉を出すことには躊躇せざるを得ません》
《なんで?》
《正午になると時間が巻き戻されるのですよね。そのとき、精密機器や大型機械の動作も正常に巻き戻されるのでしょうか》
《だって、今まで何度も起こってるんでしょ》
《例えばのお話ですが。
 ミサイルが着弾する瞬間に時間が戻されたら、そのミサイルは間違いなく爆発せずに発射した基地に戻るのでしょうか》
 またレスポンスが途切れる。
《その電車の故障というのが気になります。ひょっとしたら、完全に戻るわけではないのでは》
《点検なしにずっと走らせ続けた、ってことかもしれないんだね》
《じゃ、急がないと!!》
《一般的な精度の機器を持って陸路で移動、なら可能かと思いますが、装備と車両の再点検をしてからだと》
《明日に持ち越しになる可能性があるわね》
「それはだめです!」
 あゆみはボタンを連打してしまった。“!”がいくつも並ぶ。
《あゆみちゃん?》
 もう、フーちゃんに、忘れられるかも、という思いをさせたくない。それは絶対にだめだった。今日中に解決しなければ。あと2時間で。

181makiray:2020/12/26(土) 21:55:43
Messenger of Light (7/12)
-----------------------
《よろしいですか》
 香久矢まどかだった。星空ひかるたちからメッセージが来ないのはなぜだろうと思っていたのだが。
《今、私たちの前で同じことをおっしゃってる人がいます》
《!》
《平光ひなたさんという方をご存知の方はいらっしゃいますか?》
 またレスポンスが止まる。知らない名前だ。
《沢泉ちゆさんについての情報を求めます》
 ルールー。そう言えば、野乃はなたちからも連絡がなかったのだった。
《プリキュアだとおっしゃっています》
《マジ?!》
《今、どちらですか》
《すこやか市です》
《え、ルールーたちも?》
《揃ってるの?》
《はい。今日はすこやか市の温泉巡りをする予定でした。トラブルがいくつかあって実現可能性は3.8%にまで下がっていたのですが、さらに下がっているようです》
《私たちはキャンプです》
《いいなぁ》
《それどころじゃないでしょ!》
《その方は本物のプリキュアの可能性が高いと思います。
 実は以前から、すこやか市周辺でプリキュアのものと思しき光を観測していたのです。なかなか確証を掴めなかったのですが、実在したのですね》
「じゃぁ、その人たちも、時間が巻き戻されていることを知っているんですね?!」
《なんで気づく人と気づかない人がいるんだろう》
《パートナー妖精が、フーちゃんみたいな力を持っているとか》
《ミラクルンライトのおかげだと言っています》
《ミラクルライトじゃなくて?》
《見せていただきました。よく似た形状です。ミラクルライトの一種とみなして差し支えないと思われます》
《だからあゆみちゃんなんだ》
《ミラクルライトのプリキュアだから!!》
《フーちゃんとあゆみちゃん、最強!!》
 夢原のぞみが、グレルが聞いたら拗ねそうな書き込みをした。
「これからすこやか市に行きます」
 昨日よりスタートが遅い。また車両故障があれば間に合わないかもしれない。だが、昨日までと決定的な違いがある。
 すこやか市にはプリキュアがいるのだ。正午までに合流できれば、必ず事態を変えられる。
《私たちがあゆみちゃんを乗せていく》
「リコちゃん」
《魔法の箒ならもっと早いから》
《フーちゃんと一緒! はー!》
《行ける人だけでも行きましょう。私も坂本の車で向かいます》
《かれんさん、あたしたちを拾ってくれませんか》
《みんな、ミラクルライトを用意して。
 そうすれば、その不自然な時間の流れに巻き込まれずに済む》
 月影ゆりの指示が飛ぶ。
 あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけた。

182makiray:2020/12/27(日) 23:01:54
Messenger of Light (8/12)
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 あゆみは腕時計を見た。11 時半を過ぎた。間に合うだろうか。
「ごめんね。急いではいるんだけど」
 つかまっている腕の力が緩んだのでそう気づいたのだろう、十六夜リコが前を見たまま言った。
「ううん。ありがとう」
 箒で飛ぶこと自体は魔法の力によるものだが、ワープするわけではない。確かに、街の景色は足元を高速で流れていき、それは列車などよりは早いのだが、飛行機には遠く及ばない。
(お願い。間に合って)
 もう二度とフーちゃんのことを忘れるわけにはいかない。それは、絶対に、だめだ。
「なんか嫌な感じがする」
 花海ことはが険しい表情で言った。朝日奈みらいやリコは感じなかったが、すこやか市が近づくにつれて、ことはの不快感は強くなっていく。
「ひょっとしたらもうプリキュアたちが戦ってるのかも」
 みらいの箒を握る手に力がこもった。変身してから来ればよかった。変身するにはみらいとリコがモフルンを介して手をつなぐ必要がある。飛んでいる間は無理だ。
「見て!」
 あゆみが指さした。グレルとエンエンも肩のバッグから顔を出す。
 すこやか市と思われる場所から、光が伸びていく。
「はー!
 ミラクルライトの光だ!」
「あそこにプリキュアがいるのね」
 つまり戦いは始まっている。
(あの光の下にプリキュアが)
 知らず、リコに掴まっているあゆみの手に力がこもった。
(キュアスターや、キュアエールや…。
 私たちがまだ会ったことのないプリキュアが)
 そしておそらく、ミラクルライトによる応援が必要になるほど、プリキュアは苦戦しているのだ。
「グレル、エンエン」
「うん」
「行くか!」
「待って、あゆみちゃん、ここじゃ」
「今すぐミラクルライトが必要なの!」
 みらいの箒が隣に寄ってきた。
「はーちゃん、前をお願い」
「はー!」
 ことはが先頭を切る。そうしてできた空気の流れの中を、みらいとリコの箒が進む。これでいくらか安定するはずだった。
「リコ」
 みらいの手が伸びてきた。リコは片手を離すとそれを握った。
 呼吸を合わせる。ふたりの箒は、何度か前後したが、やがてぴったりと並んだ。
「あゆみちゃん、今だよ」
「フーちゃん、お願い!」
 グレルとエンエンはバッグを飛び出し、あゆみの肩に乗った。胸元のエコーキュアデコルが輝き、純白の光が三人を包んだ。
「想いよ届け、キュアエコー!」
 キュアエコーは、みらいとリコの箒の上に立った。キュアエコーの手の中のミラクルライト、グレルとエンエンのミラクルライト、エコーキュアデコルの光が強さを増す。
「みんなの光を預けて!」

183makiray:2020/12/28(月) 22:57:23
Messenger of Light (9/12)
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「お邪魔します!!」
 雪城ほのかと九条ひかりは、美墨なぎさの部屋に飛び込んだ。彼女たちが今行けるところで一番、高いのがそこだった。
「誰もいないから。早く!」
 サッシを全開にする。
「すこやか市ってどっち?」
 地図で照らし合わせて、ほのかが指さした。
 そちらに向けてミラクルライトを振る。
「あゆみ、頼んだよ!」

「天文台、開けてもらったから」
「え、いいの?」
「急ごう」
 舞は珍しく父に無理な頼みごとをした。理由は、なぎさたちと同じ。彼女たちがすぐに行ける場所で遮る物がないところがそこだった。
 霧生薫・満とともに、すこやか市の方角に向けてミラクルライトを振る。
「お願い、あたしたちの光を届けて!」

「間に合わないわね」
 水無月かれんは何度も時計を見た。
 週末の幹線道路は混雑していた。渋滞とまではいかないが、正午までにすこやか市に着くのは無理なようだった。坂本が、申し訳ありません、と言う。
「気にしないで」
 秋元こまちはミラクルライトを握りしめた。
 春日野うららがミラクルライトを握って目を閉じる。夏木りんが続いて祈る。美々野くるみは、せめてもと車の窓を開けた。
 見知らぬプリキュアに呼びかける。私たちは、あなたの味方、友人なのだ、と。
 のぞみの手の中のミラクルライトの光が強まった。

「学校の屋上に行こう!」
 桃園ラブからの提案を受けると、蒼乃美希は鳥越学園、山吹祈里は白詰草女子学院へと走った。待ち合わせしている余裕はなかった。
 ラブと東せつなは屋上に飛び出すと、さらに管理施設の上へ登る。
「精一杯、頑張りましょう!」
「受け取って、あたしたちの光!」

「中からぁ?」
 来海えりかが、ゆりの提案に大声を上げた。
「この植物園の窓全てをミラクルライトの光で満たすのよ」
「そうか、ミラクルライトだけの光より大きくなる」
 明堂院いつきが力強くうなづいた。
「おばあちゃんもお願いします!」
 花咲つぼみがミラクルライトを掲げた。
「私たちの心の花は絶対に枯れません!」

「揃ったけど…」
 北条響が事情を把握できない様子で言った。
 ミラクルライトの光を届けたい、と相談してみると、調辺音吉は四人を「調べの館」に集めた。館の中に流れている水路が使えると言う。
「心配するな、水と光は相性がいい。
 おぬしらの友達にも水のプリキュアがおるじゃろう」
「すこやか市は海辺の町だって聞いたわ」
 南野奏が言う。調辺アコはうなづくと自分のミラクルライトを水路にかざした。黒川エレンのライトの光がそれに重なる。
「あたしたちのハーモニー、響かせよう!」

「プリキュア スマイル・チャージ!」
 みゆきたちはふしぎ図書館に集まると変身した。ここなら人目を気にする必要はない。プリキュアになれば光の力を最大限に発揮できるはずだ。
「あゆみちゃんならきっとやってくれるよ」
「うちらはうちらのできることをやる」
「私たちだってヒーローなんだから」
「直球勝負だよ!」
「これが私たちの道です!」

184makiray:2020/12/28(月) 22:59:00
Messenger of Light (10/12)
--------------------------

 剣崎真琴はカメラの前に立っている相田マナたちにサインを送った。今だ。
 配信ライブのクライマックス。マナたちは見学の予定だったが、戦っているプリキュアたちの応援に向かった方がいいのではないか、と結論が出かけたとき、菱川六花が「いい考えがある」と言った。
 真琴のサインを合図に、タイミングを揃えてマナたちがミラクルライトを振る。急いで集めたおそろいのコスチューム、四人の姿がシルエットでカメラに映る。五つのライトの光が全世界に配信されていった。
「ともに上のステージにまいりましょう!」

「プリキュア くるりんミラーチェンジ!」
 キュアラブリーたちはブルーに導かれてクロスミラールームに入った。
 真琴のライブで配信されるミラクルライトの光は、世界中に届きはするが、一般の通信回線を通るので決して強くはない。クロスミラールームを通じて世界中のプリキュアと連携、彼女たちのミラクルライトの光と、配信を映し出しているモニタから発せられるマナたちのミラクルライトを共鳴させる、という作戦だった。
「プリンセス、ヨーロッパをお願い」
「ラジャー!」
 キュアハニーがアメリカ、キュアフォーチュンがアフリカとオセアニア、キュアラブリーがアジアを担当する。
「今こそ、あたしたちの愛とラブとラブリーを!!」

 できれば高いところがよかったが、いかに海藤みなみが信頼篤い生徒会長でも、普段は施錠されているノーブル学園の時計塔の開錠許可を、理由の説明なく緊急に得るのは難しかった。
「そうだ、海は?」
 天ノ川きららが叫んだ。
「さすがです、きらら」
「だてに何度も海を越えてません」
 紅城トワの言葉に、きららは「にひ」と笑った。
 みなみが駆け出す。春野はるかも続いた。
 理屈は響たちと同じ。海は世界中につながっている。学園の前の海をミラクルライトの光で満たすことができれば、それは当然、すこやか市にも届くはずだった。
「咲き誇れ、あたしたちの光!」

 宇佐美いちかがいちご坂を駆け上がる。剣城あきらが追い越していった。彼女には珍しく、いちかを見向きもせず走っていく。今は、誰が一番かは重要ではない。とにかく一秒でも早く光を届けなければ。有栖川ひまりも必死の表情だった。
 いちご山の頂上。あきらがミラクルライトをかざした。次にたどり着いた立神あおいが荒い息のまま続く。
 妖精たちが、何事かと顔をのぞかせた。
「あなたたちも祈って!」
 琴爪ゆかりが叫んだ。
 キラ星シエルがライトを点灯させる。
「これでパルフェよ!」

 その光はすべてそれぞれの頭上へ延びて行き、世界を覆っていく。濃淡を持って揺れる光の波は、まるで太陽の表面で踊るプラズマのようだった。
 キュアエコーが高々とミラクルライトを掲げる。グレルとエンエンも続いた。
 ミラクルライトが熱を持っている。世界中の光に呼応しているのだ。あとは、その光をすこやか市に導くだけだ。
「世界に響け、みんなの想い!
 プリキュア ハートフル・エコー!!」
 ミラクルライトを持った手を前に伸ばす。
 世界を覆った光が、一斉にすこやか市へと向きを変えた。

185makiray:2020/12/29(火) 22:14:37
Messenger of Light (11/12)
--------------------------

「あ、あゆみちゃん」
「みらいちゃんもお花見ルン?」
「ここで会えるなんて、キラやばー!」
 すこやか市の学校跡。
「あの…解決した?」
 みらいは、天宮えれなに耳打ちした。
 ひかるたちは桜の木の下にシートを広げて花見の真っ最中だったのである。
「あ、うん。おかげさまで」
「のぞみ先輩なのです」
 学校前の道に、水無月家の大きな車は入れなかった。のぞみたちは途中から徒歩でやってきた。
「やっぱり間に合わなかったわね」
「間に合ったんじゃないですかね。お花見には」
 かれんが悔しそうに言うと、りんが混ぜ返した。
 その様子を、花寺のどかは、友だちの多い人たちだなぁ、と思いながら見ていた。
「あ、のどかちゃん、紹介するね」
 お互いの自己紹介の後、はなが付け加えた。
「さっきの光は、あゆみちゃんの光なんだよ」
「え?」
「あゆみさんがキュアエコーなんです」
 薬師寺さあやが、微笑みながら言った。
「あ――」
 さっき説明を受けた。世界中のプリキュアがミラクルライトを使って光を生み出した。それをキュアエコーが誘導したのだ、と。
 この栗色のツインテールの少女がキュアエコー。
「ありがとうございます!」
「やめて、やめて」
 あゆみは笑いながらものどかの体を起こした。沢泉ちゆがやはり会釈をしていて、平光ひなたが手を振っていた。照れくささを感じながらも、あゆみも会釈を返した。
(私は、自分の役割を果たしただけ――)
 いや、それは違う。おそらく今回は、プリキュアの力を利用した、と言う方が正しい。
〈あ…。
 ミラクルンと…リフレイン〉
「え?」
 あゆみはフーちゃんの声に声を上げた。時計台の上に影が二つ。大きな方がリフレイン、小さな方がミラクルン。あゆみはとっさにフーちゃんのエコーキュアデコルを両手でかばった。
「どうしたの、あゆみちゃん」
「リフレインが時計台の上に」
「見えるの?!」
「だって――」
 あゆみはのどかと時計台を何度も見た。のどかたちには見えていないのか。
「もう大丈夫」
 のどかが言った。
「坂上さんが届けてくれた光でリフレインのお手当ては終わったから。もう、時間を勝手に巻き戻したりはしないと思う」
「…」
 そういうことなのだろうか。確かに二人の姿はぼやけ始めている。
〈フーちゃんには見える。でも、本当はあゆみたちには見えないはず〉
 リフレインとミラクルンの姿の向こうに学校の古い屋根が透けて見えるようになった。リフレインは静かな表情でこちらを見ていた。ミラクルンが小さな手を振る。
 そうか。時間の妖精の本来の姿は、人間には見えないものなのか。
 だとすれば今見えているのは、フーちゃんの力を借りているからか、それともミラクルンライトを生み出した妖精と「ミラクルライトのプリキュア」との間になんらかの共通点があるからなのか。
 あゆみは小さく手を振った。ミラクルンが笑ったような気がした。やがてどちらの姿も見えなくなった。

186makiray:2020/12/29(火) 22:21:21
Messenger of Light (12/12)
--------------------------

〈あゆみ〉
「なに?」
〈フーちゃんは怒ってない〉
「…」
 グレルとエンエンが辺りをうかがいながらバッグの縁に登ってきた。
「怒ってもいいんだぞ」
「僕たちのためにフーちゃんが――」
〈怒ってない〉
「うん」
 ありがとう。そして、ごめんなさい。
 私は忘れない。フーちゃんに悲しくて悔しい思いをさせてしまったこと。
 独りぼっちがどれだけ辛いかを知っている自分が、大好きな友だちを独りぼっちにしてしまったことを。
(絶対に忘れないから)
〈怒ってない〉
「うん…」
 グレルとエンエンも困ったように顔を見合わせた。
〈それよりフーちゃんもみんなに紹介してほしい。
 みんなと友だちになりたい〉
「わかった。
 妖精さんたちにも紹介してもらおうね」
 さっきからユニが呼んでいる。しびれを切らしたのか、輝木ほまれが迎えに来た。
 ほまれに手を引かれ、あゆみは仲間たちのもとへ急いだ。

187makiray:2020/12/29(火) 22:23:45
以上です。
お騒がせしました。

188名無しさん:2020/12/30(水) 09:34:20
>>187
楽しませて頂きました!
キュアエコーが、プリキュアみんなの輪の中に普通に居るってだけで凄く嬉しい。
今回のフーちゃんは何だかいじらしいです。

189ゾンリー:2021/05/29(土) 21:20:50
こんばんは、ゾンリーです。
「映画 ヒーリングっど❤プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」のSSです。
ネタバレありですので、DVD含めこれから映画を観る方はご注意下さい。
2レス使わせて頂きます。

190ゾンリー:2021/05/29(土) 21:22:43
 柔らかい毛布のぬくもりを感じながら、私は目を覚ました。腕を枕にして突っ伏していたからか、麻痺してるのかどうにも腕の感覚が薄い。大きく伸びをして感覚を取り戻していると、とある人物と目が合った。
「あら、お姫様のお目覚めね」
「おはようございます……ふあぁ」
 静かに食器を片付けるこの人こそ、のどかちゃんのお母さん――花寺やすこさんだ。
「……早起きなんですね」
「慣れているだけよ。まだみんな起きるまで時間あるでしょうし、寝ててもいいのよ?」
「ううん、手伝います」
 やくそく通り開かれた私のお誕生日会。楽しい楽しいパーティーは夜遅くまで続き、私もお母さんものどかちゃんたち皆も、いつの間にか眠っていたらしい。
 ……その反動で、部屋はひどい有様なんだけどね。
「じゃあ、こっちのゴミを纏めてもらえるかしら」
 手渡されたコンビニエンスストアのレジ袋に、次々とお菓子の空き袋やらを入れていく。
「手際がいいわね。お家でもよくお手伝いしてたの?」
「お母さん、研究に夢中になるとすぐ散らかしちゃうから」
 そう言って苦笑しながら、セレブ堂シュークリームの空き箱を畳む。「箱は潰してから捨てる」お片付けの常識だ。
 散らかったゴミを纏めれば、随分と部屋がすっきりした。
「……このくらいだったら、みんなが起きてからでも大丈夫そうね。そうだ、ちょっとお散歩にでも付き合ってくれないかしら? 朝ごはんも買いに行かないといけないし」
 優しく微笑みかけるおばさま。私はお母さんがまだ熟睡しているのを確認して、大きく頷いた。時刻はまだ午前六時半前。設えられたメモ紙を置手紙にして、私たちはホテルの一室を後にした。

 高く、まだ日が昇りきらない白んだ空。海沿いの公園を私たちは歩く。吹きすさぶ、強いくらいの潮風が寝ぼけ頭に心地よい刺激になっていた。
「この時間でも、やっぱり人はそこそこいるのね」
 公園には散歩に来た人くらいしか見当たらないけど、少し遠くに目をやれば、スーツ姿のサラリーマンが何人も歩いているのが確認できた。
「うん、そろそろ通勤ラッシュ……私も学校に行くときぎゅうぎゅうに押されて、もう大変で」
「あら、すこやか市にくればそんなこと無くなるわよ?」
「ホント? 行ってみたいなぁ……!」
「大歓迎。いつでもいらっしゃい」
 未だ見ぬのどかな風景に想いを馳せながら、それでも愛しいこの街を港越しに眺める。ゆめアールの大規模実験が終了して一日。街はいつもの風景を取り戻していた。
「……この前は、大変だったわね」
 手すりに体重を預け、おばさまが静かに問いかける。おばさまは、私が夢の力の精霊――人間じゃないことを知らない。それなのに心配してくれたのが嬉しくて、でもお母さんの想いが伝わって無いっぽいのが悔しくて、私は息を漏らした。
「うん、ちょっとだけ。でも、私はお母さんの研究を応援する。これからも、ずっと」
 欄干に佇んでいたカモメが一羽、群れを見つけて羽ばたいていく。目で追った先にある太陽が眩しくて、染みた。
「そう……よね」
「だから、また東京に遊びに来てください! その時はもっとすごいゆめアールを見せますから!」
 これはお誘いと、自分への決意。研究を絶対に成功させて、お母さんのイメージアップを実現する。名付けて「お母さんキラキラ大作戦」! ……ちょっとダサいかな? まあいっか。
 私の熱量に押されたのか、おばさまの表情に笑顔が戻る。私は朝の空気を目いっぱい吸い込むと、それに負けじと大きく口角を上げた。
「そろそろ戻りましょうか。のどかたちもそろそろ起きるんじゃないかしら」
「朝ごはんも買わないと、ですね!」
 少し短くなったシェルピンクの髪を揺らしながら、市街地を歩く。港沿いの公園から数分、私行きつけのパン屋さんにたどり着いた。
「ここのサンドイッチ、すごく美味しいんですっ」
 ショーケースに並んだ、色とりどりの断面。まだ目が覚めて間もないのに、どんどん食欲がわいてくる。
「確かに、すごく美味しそう! カグヤちゃんはどれが好き?」
「えーっと、たまごも好きだし……あ、この海老カツもプリプリで美味しいんですよ! のどかちゃん好きそう……ひなたちゃんはこの照り焼きチキンとか?」
 そんな調子で夢中でショーケースを覗いていると、店内で流れるラジオが七時を告げると同時に、私のお腹が盛大に鳴った。
「……ぅ」
「うふふ。それじゃあさっきのやつと……これとこれ、あとこれもお願いします」
「あいよっ!」

191ゾンリー:2021/05/29(土) 21:23:16
 袋いっぱいに入ったサンドイッチを受け取って、再びホテルへと向かう。
「あらほんと、急に人が増えてきたわね」
 行き交うスーツ姿の人、人、人。駅の近くを通るときには、まったり横並びでーなんて言ってられないくらいに混んでいて。
「私のクジラさんで行きます?」
「あら、そんなことしたら目立っちゃうわよ?」
「あ……そっか」
 この人混みの中を空飛ぶクジラで一飛び。きっとすごく盛り上がるんだろうけど、それで騒ぎになったらもっと混み合っちゃうもんね。
「さ、そろそろうちの眠り姫達はお目覚めかしら」
 自動販売機であったかいカフェオレを七本(!)買ってから、エレベーターで上がっていく。数十分ぶりにホテルの部屋へ戻ると、ちょうどのどかちゃん達が目を覚ましたところだった。
「んぁれ? カグヤちゃん起きてたんだ……ふわぁ」
「おはよっ、のどかちゃん」
「んー……おあよーみんなーおやすみー」
「ほら、ひなた二度寝しないの。おはようございますカグヤちゃん、おばさま」
「二人とも、随分と早起きされたんですね」
 ひなたちゃん、ちゆちゃん、ひなたちゃん、アスミちゃんも、続けて起き上がる。
「あとは……」
 黒いポロシャツ姿でコクンコクンと船を漕ぐ、私のお母さん。
「おかーさんっ、みんな起きてるよ!」
「ん? あ、ああもちろん起きてるぞ……はうあっ!」
 目覚まし代わりに、熱々の缶をおでこにピタリ。その様子がおかしくって、みんな一斉に笑い出す。
「カグヤぁ……」
「えへへ、目が覚めたでしょ?」
「覚めたには覚めたが……むぅ」
 どこか不満そうなお母さんの手を引っ張って、大量のサンドイッチが並ぶテーブルへ。
「さあ、好きなものを取って頂戴」
「あったしこれー! 照り焼きチキン!」
「お、カグヤちゃんの予想通り」
「うそマジ? エスパーじゃん!」
「じゃあカグヤはこれか? 人参たっぷりサラダ」
「た、食べれるもん!」
 強がってみたけど、やっぱり別のにしておけばよかったと一口で後悔。お母さんめ、仕返しのつもりだ。

 そういえば、と置きっぱなしの置手紙を手に取る私。大きな窓からはさっきまで散歩していた公園が遠くに見えた。流れる水は変わることなく煌めいていて、空木に小さな撫子色の花が咲いている。

(うん、生きてるって感じ!)

 いつの間にか横にいたおばさまと笑い合う。
 私の心には、今日もすこやかな風がそよいでいた。

192ゾンリー:2021/05/29(土) 21:24:09
以上です。どうもありがとうございました!
(ネタバレありですので、ご注意を!)

193ゾンリー:2021/05/29(土) 21:26:42
書き忘れた💦
タイトルは「空木に撫子色浮かべて」です。

194名無しさん:2021/05/31(月) 22:41:04
>>190
>>191
匂いや彩り、光が漂ってくる、良い作品でR

195ゾンリー:2021/11/23(火) 22:23:03
こんばんは、ゾンリーです。
引き続き「映画 ヒーリングっど❤プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」のSSです。
長くなったので前後編に分けました。
まずは前編、投稿します。5、6レス使います。

196ゾンリー:2021/11/23(火) 22:25:12
「空と春(前編)」


 爽やかな風が髪を揺らす。ガタンと小さく車が揺れた衝撃で、私──我修院カグヤは目を覚ました。
視界いっぱいに広がる緑と青。その清々しさは、寝ぼけた私の意識を覚醒させるのに十分すぎる程で。
「わぁ……!」
「ようやくお目覚めか。もう入ったぞ、ここがすこやか市だ」
 車のルームミラー越しに笑いかけるのは、私のお母さん──我修院サレナ。
 私たち二人とたくさんの荷物(現に私が座っている後部座席の八割も、段ボールに浸食されている)を乗せた軽自動車は、軽快に……とは言えない乗り心地で前進していく。
(のどかちゃんたち、驚くかな?)

 時は一ヶ月ほど前に遡る。
「こうすれば何とか……しかしそれだとカグヤの学校が……」
 仄暗い部屋でひとりパソコンとにらめっこするお母さん。何かに行き詰まると、それなりの声量で独り言を言うのはいつもの癖。もう、前と違って隣に人が住んでるっていうのに。
 ゆめアールの一件以降、私達は住んでいた家を引き取って、都内のマンションで暮らしている。お母さんは「窮屈な思いをさせるな」って謝ってたけど、私にとってはこのくらいが丁度いい……というか元々が広すぎたんだよね。
「どーしたの? お母さん」
 さて、私関係なら無視するわけにいかない。部屋の明かりを点けてから、私はお母さんに話しかけた。
「ん? あぁ、いや、実は精霊……エレメントに関する現地調査の目途がようやく立ったんだが、時期がな……」
「時期?」
「現地調査は三週間。本来ならカグヤの夏休みに合わせておきたかったんだが、一か月後しかスケジュールが合わせられそうにないのだ」
 パソコンに表示された予定びっしりのカレンダー。一か月後というと、三学期の終わりごろと春休みの始めが重なるあたり。
「うーん……」
 私がここで「三週間くらい一人でも大丈夫だよ」なんて言えたらカッコいいんだろうけど、恥ずかしながら料理も洗濯もまだまだ一人じゃ満足にできないのが現状。
「でもさお母さん、春休みも重なるし、二週間くらいなら……学校休んでもいいんじゃない? なんて」
「……」
 あれ? 冗談のつもりだったのに、真面目に考え込み始めたお母さん。そしてまた漏れる独り言。
「確かに、撮影の仕事と言い張ればなんとかなるか……? いやしかし成績に影響が……となると学校へ行くのは必須。待てよ? 別段今通っている学校である必要は無いのだ。よし、カグヤ、転校だ!」
「えええええ?」
 あまりにも話が飛躍しすぎて理解が追い付かないけど、要するに「現地調査の間だけ近くの中学校に転校する」ってことでいいのかな。
「よし、こうしては居れん、早速必要書類をまとめなくては。カグヤも荷物を纏めておいてくれ」
「う、うん」
 ドタバタといろんな所に連絡を入れ始めたお母さんを邪魔したくなくて、部屋に戻ろうとする私。でも一つだけどうしても気になっちゃって、お母さんの方に振り向いた。
「現地調査って……どこなの?」
 お母さんの手が止まる。刹那、待ってましたと言わんばかりに眼鏡が鋭く光った……気がした。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたな。現地調査の場所、それは……」

「すこやか市、着いた〜!」
 車から降りると、私は全力で身体を伸ばす。全身で感じる優しい風は、まるで私たちを歓迎してくれているようだった。
「数時間揺られっぱなしだったもんな。疲れただろう」
「ううん、お母さんこそ運転お疲れ様」
「……あの子たちに会いに行くか?」
 途端、お母さんの目が優しくなる。現地調査だなんて言ってたけど、半分くらいは、私をのどかちゃん達と会わせるのが目的なのかもしれない。けれど、私は静かに首を振った。
「今日は日曜日だし、どこか出かけてるかも。それにね、折角なら……とびきりビックリさせたいじゃない?」
 お母さんに向かって得意の目元ピース! そして小さいポーチから一枚の紙を取り出す。そこには「お客様控え」の文字と「すこやか制服店」のロゴが。
「私、取りに行ってくるね!」
「一人で大丈夫か?」
「だいじょーぶ。地図アプリだってあるし、お母さんと違って方向音痴じゃないもん!」
「流石だな。何かあったら連絡するんだぞ」
 スマートフォンとお財布、制服注文の控えをショルダーバッグに入れて、私は駆け出した。
 知らない景色、どこか懐かしい風。まだ太陽は沈む素振りを見せたばかり。
 ここから三週間、どんなに楽しいことが待っているんだろうか。それを考えただけで胸の奥からワクワクがどんどん湧き上がってくる。
 スマートフォンに表示されたマップはまるで宝の地図。私は時折身体をくるくるさせて向きを確認しつつ、探索ついでに進んでいく。のどかな自然公園に、東京とはまた違う賑わいを見せる商店街。

197ゾンリー:2021/11/23(火) 22:25:44
「すごいすごい、生きてるって感じ!」
 すっかり伝染ってしまった口癖を零しながら、商店街を一つ一つ見て回る。すっかり地図アプリはスリープ状態に入っており、私の目の前にはおいしそうに蒸しあがった饅頭の湯気が広がっていた。
「お、ここらじゃ見ない顔だね。お一つどうだい? すこやか市名物、すこやか饅頭」
「じゃあ……一つと言わず二つ下さい!」
「ぬおっ? そんな顔で言われちゃあ断れねえ。ほれ持っていきな! ただし、美味しかったらお友達にも宣伝してくれよ?」
 コンビニエンスストアの肉まんよろしく、紙に包まれたすこやか饅頭が二つビニール袋に入って手渡される。
「もっちろんです! ありがとうございますっ!」
 受け取った饅頭をカイロ代わりにして再び歩き出しす私。そこから数分ほど歩いただろうか。ついに目的の制服店へとたどり着くことができた。
「我修院さんね。用意できてますよ」
「よし、これで私も……!」
 店員のおばさんから受け取ったのは、ビニールに包まれたすこやか中の制服。ピーコックグリーン──クジャクの羽のような緑色を基調にしていて正に「健やか」って感じだ。
「来年度から中学生? 頑張ってね」
 う、密かにコンプレックスにしてることを突かれた……「もう中学二年生です!」って反論したかったけど、おばさんの慈愛に満ちた笑顔に押されてなにも言えなかった。
「ありがとうございましたあ」
 制服店を出ると、空は真っ赤に染まっていて。
「そろそろ帰らないとだよね。お土産いっぱいになっちゃった」
 制服店のおばさんから持たされたジュースやお菓子でバッグが重い。両手で制服を大事に抱えて、私は来た道を戻っていく。
(のどかちゃん、どういう反応するかな……? ふふっ、思わず「えー?」って叫んじゃったりとか! あ、でもそれはひなたちゃんかも。ちゆちゃんは……)

 太陽が海岸線の彼方に沈んで、薄明の空に細い月が浮かぶ。

 この月が沈めば、また新しい一日が始まるんだ。

 私は太陽に「またね」と月に「こんばんは」を語り掛けて、もう一度彼女の口癖を真似てみた。




「生きてる……って感じ」


 翌日。目覚ましよりも二十分早く起きた私は、起きるや否やベッドを飛び出し、冷え込んだ部屋のカーテンを勢いよく開いた。寒過ぎて太陽の暖かさはまだ感じられないけど、すこやか市に来て初めて迎える朝は明るくて、眩しくて。
 壁にかけられた制服を背伸びして取って、早速腕を通してみる。長袖のブラウスにある袖のボタンをとめて、ジャンパースカートの構造にちょっとだけ悪戦苦闘。
(あれ? ここのボタンがここで……うぅ、こんなことならもったいぶらずに昨日着ておけばよかった)
 なんとか着替えを終えて、寝癖たっぷりの髪の毛をセットし終えたところで、止め忘れていた目覚ましがジリリリと鳴った。
「……よし!」
 すっかり上った太陽に照らされる部屋を後にして、通学カバンを持ってリビングへ。併せて設われたキッチンでは、お母さんが慣れない手つきで卵焼きを焼いている最中だった。
「おはよう、お母さん」
「おはよう。ふふ、よく似合っているぞ」
「えへへー」
  ・
「忘れ物は無いか?」
「何回も確認したよ。お母さんこそ大丈夫? 何か忘れてても私届けに行けないよ?」
「あぁ。カグヤを見習って私も確認したからな」
 東京から持ってきた、使い慣れたローファーに履き替えて、お母さんと二人外に出る。
 お互いに「行ってきます」を言って、私は中学校の方へと歩き始めた。海岸線から少しずつ山の方へ近づくにつれ、同じ制服を着た人が増えていく。
(あ)
 角を曲がって、ひらけた視界のその先に、私は見慣れた人かげを見つけた。見つからないよう細心の注意を払って、その三人組に近づく。
「のどかっちー! ちゆちー! 大ニュース大ニュース??」
「おはよーひなたちゃん」
「どうしたの? 藪から棒に」
 ハイテンションのひなたちゃんがのどかちゃんとちゆちゃんの元へ駆け寄る。
「ウッソ、私そんなに感情無い??」
(?)
「ひなた、それを言うなら『ぶっきらぼう』。藪から棒って言うのは『いきなり』とかそういう意味」
「おぉ?なるほど! さっすがちゆちー!」
「それでひなたちゃん、大ニュースって?」
 心当たりがあり過ぎて、立てている聞き耳がピクンと動く。

198ゾンリー:2021/11/23(火) 22:26:19
「そうそう大ニュース! なんと、今日うちのクラスに転校生が来るんだって!」
(! さっすがひなたちゃん、情報早いなー)
「ふわぁ?! 一体どんな子なんだろうね」
 後ろ後ろ、ここに居ますよー……って言いたいのをグッと我慢して、歩いていると、いつの間にか校門がすぐそこまで迫っていた。
 私は少しずつのどかちゃん達と歩調をずらし、気づかれないように校門をくぐった。
「……またね」

八時三十五分、朝のHRを告げるチャイムが鳴る。私は円山先生に連れられて教室の少し手前まで歩いてきた。
「それじゃあ、しばらくしたら先生が合図するから」
 そう言い残して先生は教室の中へ。一人取り残された私は、自分の鼓動が急速に早まっていることに気づいた。
(ワクワクしてる……それとも緊張? ふふっ、どっちもかな)
「はい席についてくださーい」
「せんせー! 転校生が来るってほんとですかー??」
 教室の外からも聞こえるひなたちゃんの声。それは私に「早く教室に入りたい」とより強く思わせるには十分で。
「平光……ちゃんと紹介するから、まずは席について」
 否定しなかった先生の言葉に、もっとざわつく教室。それも一瞬で収まって、すこやか中学校のHRは順調に進んでいく。
「……えー、それじゃあ、平光の言う通り転校生を紹介します。親御さんの都合で今日から修了式までの丁度二週間ですが、皆さんと一緒に勉強するお友達です。それじゃあ入って」
 ガラガラガラと木製の引き戸が開かれて、みんなの姿が目に入る。手を当てた心臓のバクバクが最高潮に達して、自然と口角が上がった。
「おはようございます!」
 クラスの生徒全員から集まる視線。モデルのお仕事で慣れっこなはずなのに、妙にソワソワしてしまう。
 教室前方から見て右奥にのどかちゃん達を見つけて、少しだけ肩の力が抜ける。……代わりに彼女達がすごく驚いてるようだけど。
「それじゃあ、自己紹介を」
「我修院カグヤです。東京から来ました。えっと……短い間ですけど、よろしくお願いします!」
 拍手もそこそこに、教室内が再びざわつき始める。「カグヤちゃんってあのゆめプリの?」「うっそ、サイン貰わなきゃ」えとせとらえとせとら……。
「それじゃあ席は花寺の後ろで。あ、でも教科書がないのか」
「先生、それじゃあ今日だけ私の隣でもいいですか?」
 のどかちゃんがそう発言して、後ろにある机を動かす。私とちゆちゃんとのどかちゃん、三人横並びのような感じだ。
「ふわぁ、ビックリしたよぉ」
「こっちに来るなら連絡してくれればよかったのに」
「えへへ」
「カグヤちゃんと一緒とかメッチャ嬉しい!」
 暖かみのある木製の机に荷物を下ろして、椅子に座る。東京の学校で座っていた椅子とは全然座り心地が違ったけど、ずっと立ちっぱなしだった体には丁度よくて、私は悟られないように四肢の力を抜いた。
「なんだ、知り合いだったのか。それなら、昼休みにでも学校の案内をお願いできるかな?」
「「「はい!」」」
 四人で笑いあって、再びHRが進んでいく。ワクワクは未だ衰えることのなく私の中から溢れ出してきて、東京の学校とは変わらないチャイムでさえも、愛おしく感じた。

「それじゃあ号令をお願いします」
「きりーつ、礼」
「「ありがとうございましたー」」
「んーーー四時間目終わったぁ!」
「カグヤちゃん、内容分かった?」
「うん、向こうでもうやった内容だったから」
 他愛もない話をしながら、教科書やノートを片付ける。四時間目が終わったということは、みんな大好きお昼休みの時間!
「ねぇ、のどかちゃん達はいつもどこでご飯食べてるの?」
「天気がいい日はお外のベンチかなぁ」
「カグヤちゃんも一緒に来るよね!」
 いの一番にお弁当を取り出したひなたちゃんが振り返る。
「もっちろん!」
「学校の案内もしないといけないし、丁度いいわね」
 四人で教室を出ようとすると、扉の外に大きな人だかりが。のどかちゃんと二人「何だろう?」と首をかしげながら近づくと、何故か視線はこちら側。
「ちょっちょっちょ、のどかっちカグヤちゃんストーップ!」
「「?」」
「あの人だかり絶対カグヤちゃん目当てだって!」
 確かに、目線はのどかちゃんというより私向き。中にはペンとノートを掲げてる人まで。
 のどかちゃんもそれに気づいたようで、少し顔を引きつらせて「どうしようっか」って尋ねてきた。

「うーん、じゃあ全部対応しちゃおう!」

199ゾンリー:2021/11/23(火) 22:27:21

「「「「いただきまーす……」」」」
 結局、私達が解放されたのはお昼休みが終わる十分前。三人とも突発的なサイン&握手会の手伝いをしてくれて、何とかお弁当までありつけた。
「ふわぁ、大変だったね……」
「アハハ……ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「全然かまわないわよ。放課後まで人だかりができるほうが大変だし」
「そうそう、ちゆちーの言う通り! ……てゆーか、ベンチめっちゃ狭くない?」
 裏庭のベンチ一脚に、ぎゅうぎゅうに座る私達四人。ひなたちゃんのツッコミにごもっともと思いつつ、久々に触れる彼女たちの体温が懐かしくて温かくて。私は楽しみにしていた玉子焼きを大きく頬張った。
 木枯らしが凪いで、木漏れ日が笑い合う私達を優しく包む。ずっとこんな時間が続けばいいな……って思ったけど、お昼休みはもう残り僅か。急いでお弁当を食べ終わったところで、終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「そうだ、今日から掃除場所変わったんだった。私……どこだっけ?」
「私とひなたは体育館でしょ。ということだから、また教室で」
「うん、またね」
 二人が体育館の方に歩いて行って、私とのどかちゃん、二人きり。まだ掃除当番は知らさせてないけど、のどかちゃんの提案で、彼女と同じ教室掃除をすることに。
「ここって、お昼休みの後に掃除なんだね」
「カグヤちゃんのところは違うの?」
 児童玄関で靴を履き替えて、再び教室へ向かう。
「うん、こっちは六時間目終わってからなんだ。お仕事が入ると途中で抜け出すことが多かったから、先に授業やってくれてありがたかったなぁ」
「へぇー、ん? そういえばモデルのお仕事は? ここから東京に行くのってすごく大変なんじゃ……」
「うん。だからここにいる間のお仕事は全部終わらせてきた! 結構大変だったんだよ?」
 二階へ続く階段を上って、少し歩く。窓から見えた教室内ではもう既に机を後ろへ運んでいる最中で、私達は少し急いで掃除用具入れから箒を手に取った。

 あっという間に五時間目と六時間目が終わって、放課後。ちゆちゃんは部活、のどかちゃんは委員会のお仕事があって、学校案内はひなたちゃんと二人で行くことに。
「んでー、ここが家庭科室! 昨日調理実習でシフォンケーキ作ってさ、それがメッチャ美味しかったの!」
「いいなぁ、私も食べてみたかったー」
「え、じゃあさじゃあさ、作ったの家に余ってるから食べに来ない?」
「いいの?」
「もち! のどかっちもちゆちーも誘ってさ、そんなに遅くまで居れないかもだけど……プチパーティしようよ!」
「パーティ?」
 パーティ。その言葉を聞いただけで、胸が高鳴る。
「いよーっしそれじゃあ張り切って次行こー!」
「おー!」
 家庭科室を後にして、歩く廊下が木の板からコンクリートに変わった。

「「「「かんぱーい!」」」」
 部活と委員会を終えた二人と合流して、向かったのはひなたちゃんのお姉さん――平光めいさんがやっているカフェワゴン。テーブルの上に出されたのは、昨日三人が作ったというシフォンケーキと、このカフェの名物、グミ入りというワンダフルなジュース。
「カグヤちゃんどう? この町は」
「とっっっっっても素敵! みんな凄く生き生きしてて、見てるだけでこっちまで元気いっぱいになっちゃう」
「よかったぁ」
「ふふ、のどかもすっかりすこやか市民ね」
 そっか、のどかちゃんもすこやか市には引っ越して来たんだっけ。ふざけて「のどか先輩」なんて言ってみたら、途端に顔を紅潮させて、かわいかった。
「あー、アスミンやニャトランたちにも会わせてあげたいなー」
 そう言って、ジュースを飲み干すひなたちゃん。器用にストローでグミを口に頬張った。
「仕方ないわよ。そう簡単に何度もヒーリングガーデンには行けないし……」
「向こうにはエゴエゴとクジラさんが行ってるよ。ちゃんと仲良くできてるかな……?」
「「「あー……」」」
 あはは、だよねー。でも、エゴエゴもお母さんの協力に意欲的だし、クジラさんも居るからきっと大丈夫。
「でも三週間だけかー……もっと長かったらいいのに」
「私もそうしたいんだけどね。でもさ、また絶対来るよ! あ、でも皆にもまた東京に来てほしいな」
「行く行く絶対行く!」
「私も!」
「私も」
 よかった。あの一件以来、東京に行きたく無いって思われてたらどうしようって思ってたけど、どうやら杞憂だったみたい。小さな肩の荷が一つ降りて、胸のあたりがスッと軽くなった。
「お嬢さん方?、宴もたけなわですけど、そろそろ閉店の時間ですよー」
 その後も他愛のない話に花を咲かせていると、めいさんに声をかけられてはっと時間を確認する。五時四十五分、もう帰らないと「学校で色々あって」とは言い訳し難くなる時間だ。

200ゾンリー:2021/11/23(火) 22:27:51
「わ、本当。それじゃあ、また明日ね!」
 お土産にと持たされた大量のシフォンケーキ(一体どれだけ作ったんだろう……)を手にして帰路につく私達。「また明日」の言葉がなんだか嬉しくって、砂利道を進む感覚を噛み締めながら、私は明日も訪れる学校生活に思いを馳せた。

「ただいまー……って、お母さん今日遅いんだっけ」
 電灯に照らされたテーブルの上には置き手紙とお金。プロジェクトの決起集会で食べて来るって言ってたこと、すっかり忘れちゃってた。
「うーん、どうしよう?」
 地図アプリを起動して、飲食店で検索。惣菜店はギリギリ閉まってて、他のお店は料亭だったり居酒屋だったり、中学生一人で行くのには結構ハードルが高い。

 外食は諦めてお弁当にしようとスーパーで再検索をかけようとしたその指を、呼び鈴の音が遮った。
「はーい」
(宅急便、お母さん頼んでたかな?)
「ごめんくださーい」
 ドア越しに聞こえたのは、予想外な子供の声。驚きつつもドアを開けると、そこには小学生くらいの女の子。愛くるしい二つ結びで、手にはお鍋が握られていた。
「あれ? あなた確か……」
「あ、えっとえっと、私、隣に住んでる……」
 そのキーワードでビビっときた。
「りりちゃん!」
「!」
 私とお母さんが越してきたのは、こじんまりとした小さなレンガ造りのアパート。そのお隣さんとして昨日ご挨拶に行ったのが、このりりちゃんが住んでいる部屋。
「どうしたの? こんな時間に」
「その……シチュー作りすぎちゃったんで、お裾分けに……」
 そう言って、顔を赤らめるりりちゃん。お鍋からは濃厚な甘い匂いが漂っていた。
「ホント? 丁度晩御飯どうしようって思ってたんだ! ありがとう」
「……? 我修院さんも一人なんですか?」
 あれ、我修院さん「も」? その含みのある言い方に追及すると、どうやらりりちゃんもお母さんの帰りが遅いらしい。それも、今日だけとかじゃなくて、結構頻繁に。
「じゃあさ、一緒に食べようよ!」
「えっ、いいんですか?」
「もっちろん! それと、カグヤでいいよ」
「……!」
 りりちゃんはもっと顔を赤らめて「カグヤおねえちゃん」とはにかむ。私はその天使のような笑顔に悶絶しながら、りりちゃんを家へ招き入れた。
「おじゃましまーす……ふふっ」
「どうしたの?」
「部屋の形はうちと一緒なのに、ここまで違うんだなーって」
 そう言われて、挨拶に行ったりりちゃんの部屋を思い出す。言われてみれば、家具の配置は一緒なのにカーテンの色とか食器の置き方で、まるで別の部屋みたいに見える(実際別の部屋なんだけど)。
 私はシンクの下にある棚からパックご飯を二つ取り出しレンジで温めて、同時進行でりりちゃんから受け取ったシチューをコンロで温めなおす。あとはそれをお皿に盛り付ければ、シチューライスの完成。グラスに注いだ麦茶をりりちゃんに運んでもらえば、すべての準備が整った。
「「いただきまーす!」」
 大きく掬ったシチューライスを口に運ぶ。バターのコクと甘みがゴロゴロと入った具材と混ざり合い、更にご飯と絡んで口の中を駆け巡る。
「おいしい! これ本当にりりちゃんが作ったの?」
「えへへ、初めて作ったわりには上手にできたかな」
「初めて? 凄いね」
 発見したサツマイモとシチューの相性の良さにも驚きながら、会話が弾む。
「そうだりりちゃん、よかったら一人の時はこうやって食べに来ない?」
「いいの?」
「うん、お母さんもきっと良いって言ってくれるよ。まあ、三週間だけなんだけど……」
 りりちゃんが、伏し目がちになる。でもすぐに納得したように笑顔になってくれた。
「気にしないで! ジョセフィーヌのおかげで寂しくなんかないもーん」
「ジョセフィーヌ?」
「あ、えっとね、私が前に拾ったペンギンさんでね。お別れしちゃったんだけど、勇気をもらったんだ」
 りりちゃん、強い子だなぁ。
「そっか。ねぇねぇ、シフォンケーキもあるんだけど……?」
「? 食べたい!」
 夜が更けていく。ふんわりとした甘さが口と心に広がって、なんだか温かい。
 二人っきりの女子会は、りりちゃんがコクンコクンと船を漕ぐまで続いた。

201ゾンリー:2021/11/23(火) 22:28:22
続いて後編、お願いします!
やはり5、6レス使わせて頂きます。

202ゾンリー:2021/11/23(火) 22:28:57

「おはよう!」
「おっはよーカグヤちゃん」
「おはよー、カグヤちゃん」
「おはよう。カグヤちゃん」
 三者三様の「おはよう」を受けながら三人の輪の中へ。転校初日から三日。少しずつこの町の生活にも慣れてきた私は、学校生活を満喫していた。
「そういえば今日理科の小テストじゃなかった?」
「ひなたちゃん、この前補習受けてたよね……」
「ふっふっふ、今回はちゃーんと復習してきたから完璧! なんなら勝負してもいいよ〜?」
 にやり顔のひなたちゃんに、心の底から驚いたような表情ののどかちゃんとちゆちゃん。
「そう言うってことは、随分と自信があるようね」
「ふわぁ、負けないよ!」
「私も私も! 理科は得意なんだ」
 四人で笑いあってると、校門はすぐそこに。けれど歩調を遅らせる必要なんてどこにもない。
「えーじゃあさ、一番点数低かった人が一番高い人のお願い一個聞く罰ゲームってのは?」
「自分の首絞めることになっても知らないわよ……?」
「ふふっ、面白そう!」

 そして。
「どおぉぉぉぉしてぇぇぇぇぇぇぇ……!」
 ひなたちゃんが九十二点、のどかちゃんとちゆちゃんが横並びで九十六点。そしてなんと、私が全問正解の百点! ということで……。
「ほらひなた、言わんこっちゃない」
 崩れ落ちるひなたちゃんを苦笑交じりのちゆちゃんがなだめる。
「カグヤちゃん、お願いはどうする?」
「うーん、そうだなぁ……」
 几帳面に間違った箇所の修正を終えたのどかちゃんに言われて、迷う。
「うぅどうか神様カグヤ様優しいの、優しいので願いしますぅ」
「アハハ……あ、こういうのはどう? 『カグヤっち』呼び……なんて……」
 言ってて自分で恥ずかしくなっちゃった。まるでステージの上で眩いライトに照らされているかのように、顔が熱くなる。
 
 直後、テスト用紙を放り投げたひなたちゃんに抱きつかれた。

「もちろんだよ! 『カグヤっち』」
「じゃあ……私も、カグヤ」
「?」
 ちゆちゃんにも呼び捨てにされて、思わず目を見開く。やっと、みんなと一緒の目線に立てた気がして、目が潤んだ。
「わーごめんカグヤっち、痛かった?」
「ううん、なんだか嬉しくって……」
「じゃあ私も呼び方変えてみようかな? カ、カグ……んー、カグヤん?」
 珍しくおどけるのどかちゃん。三人同時に吹き出して、腹を抱える。しかものどかちゃんはいたって真面目だから、余計に面白くって。
「ちょっとのどかっち! なにカグヤんって?!」
「もぅのどか笑わせないでよー」
「えー、いいと思ったんだけどなぁー」
「アハハハ、カグヤんなんて初めて呼ばれたよ」

203ゾンリー:2021/11/23(火) 22:29:30
 その後も、私の呼び方についてはしゃいでると、教室の人気がなくなってることに気づいた。
「あれ、次移動教室じゃなかったっけ?」
「あわっ、いつの間に」
「よしじゃあ行こ、カグヤん」
「それ採用なの??」
「いやぁ冗談冗談」
  ・
 こっちに来てからもうすぐ一週間をむかえる、金曜日。お母さんの調査の方も順調みたいで、「追加調査だー」って夜遅くまで帰ってこないこともしばしば。
 今日も学校から帰るとスマホにお母さんからのメッセージ。
『すまない、今日も遅くなりそうだ』
 寂しい……って思わないわけじゃ無いけど、私とお母さんの夢のためだもん。そのためなら、この位我慢できる。
「とは言うものの……今日はりりちゃん、お母さんとお出かけだって言ってたよね」
 独り言が狭い部屋に物悲しく響く。気丈に振る舞ってはいても、胸の下あたりが沈んだように重くなった。
『?♪』
 不意の着信音にはっと視線を戻す。リズム良く震えるスマホの画面に表示されていた名前は、ちゆちゃん。
「もしもし」
『あ、カグヤ? ちょっといいかしら』――

 着信から十数分後。夕暮れに染まるアスファルトを駆け抜けて、上がった息が白く寒空に溶けていく。
「ちゆちゃん!」
「カグヤ!」
 出迎えてくれたちゆちゃん。私は、旅館沢泉に来ていた。
「今日はよろしくお願いしますっ」

『ご迷惑じゃなければなんだけど……今からウチに来ない?』
「えっいいの?」
『じつはお客様にお出しする予定の料理が余ってしまって。せっかくだし、温泉も紹介したかったし……どうかしら?』
「行きたい行きたい? 丁度ね、今日お母さん夜遅くなるっていうから困ってたの」
 足をブラブラさせながら、耳にあてたスマホに神経を集中させる。

『それなら……泊まりに来ない?』



 ついさっきの通話を反芻しながら、旅館の裏口を通ってちゆちゃんの部屋に。取り急ぎまとめた着替えを入れたショルダーバッグを一旦置いたところで、お盆を持ったちゆちゃんが戻ってきた。
「ありがとう、助かっちゃった」
「こちらこそ。それに、一度は泊ってほしかったし。まあ……客室じゃないのだけれど」
「ぜんっぜん! わぁ畳懐かしい〜!」
 井草の感覚を味わいながら、住んでいた家の寝室を思い出す。暖房で温められた畳はぽかぽかで、夜なのに日向ぼっこしてるみたい。
「お腹空いたでしょ? ついでにいろいろ貰ってきたから、あったかいうちに食べましょ」
 お盆にかけられた布巾を外すと、まるで旅館で出てきそうな料理の数々。実際旅館なんだけどね。
「おいしそう……!」
「カグヤはいつもどうしてるの? 遅くなるってことは我修院博士お忙しいんでしょう?」
 並ぶ料理はどれもお客さんに出す予定だったものだからか、見てるだけで美味しさが伝わってくるようだった。
「うん。だからいつも隣に住んでる子と一緒に食べてるんだ。その子も親の帰りが遅くてね、りりちゃんっていうんだけ」
「りりちゃん?」
 食い気味に身を乗り出してきたちゆちゃん。その珍しく驚いた表情に圧倒されながらも、「知ってるの?」と聞き返す。興奮したように話そうとする彼女を、空気を読まない私のお腹の音が遮った。
「わーごめんごめん、続けて?」
 顔を真っ赤にして話の続きを催促する私。それにツボったちゆちゃんは、ひとしきり爆笑した後、お櫃からホカホカのご飯をお茶碗に盛り付けてくれた。
「うぅーありがと……いただきます」
 一番気になっていたお刺身を一口。さっくりとした脂身と、ねっとりとした甘みのある赤身がコクのある醤油と最高にマッチして、無意識にご飯へ手か伸びる。続いて、茄子の天ぷら! サクッと小気味い音を立てた途端に感じるみずみずしさ。岩塩が優しいお茄子の甘さを引き立てて、これまた最高。
「すごい……こんなにおいしいの初めて!」
「ふふっ、よかった」
「そうだ、話のつづき! ちゆちゃんってりりちゃんと知り合いだったの?」
 一旦お箸を止めて続きを催促。ちゆちゃんは温かい緑茶を啜ると、「少し前の出来事なんだけどね」と前置きしてことの顛末を話してくれた。

「そんなことがあったんだね……」
「ヒーリングガーデンに帰る前までは、私もペギタンを連れて時々行ってたんだけど……最近行けていなかったから」
「うん、ちゃんと学校のことも話してくれるし、今日だって、お母さんとお出かけするんだ?って楽しそうだったから、大丈夫だと思うよ」
 安堵したような表情のちゆちゃん。私は最後のお味噌汁を飲み干して、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。


204ゾンリー:2021/11/23(火) 22:30:03
「おぉ〜広い!」
 温泉特有の蒸気にあてられながら、裸足で平たい石畳の上を歩く。夜風が洗った後の身体に直撃して、私たちは足早に岩で囲まれた湯船に向かった。
「「あったか〜い」」
 トロトロのお湯に四肢を揺蕩わせて、力を抜く。家のお風呂とは違う非日常感も、このリラクゼーション効果の前ではまるで無力で、私は岩に背中を預け、大きく息を吐いた。
「気持ちいぃ……毎日こんなお風呂入ってるの?」
「流石に家のお風呂と旅館の温泉は別よ。使ってるお湯は一緒だけどね」
 髪を下ろしたちゆちゃんと肩を触れ合わせながら、話題は東京の温泉施設について。
「向こうは、あんまり温泉旅館って無いわよね?」
「うん。温泉はあるけど、ホテルとか旅館になってるところはあんまり無いかな……スーパー銭湯とかって聞いたことない?」
「確かに! 旅館よりはそっちのイメージが大きいわね」
「でしょ! あーあ、近所にもこんな旅館できればいいのに」
 掬い上げたお湯を満点の星空に透かしてみる。手から零れ落ちる光が優しくて、私はもう一度お湯を顔に流した。

「それじゃあ、電気消すわね」
「うん」
 ちゆちゃんが紐を引っ張るタイプの電気を消して、目を開けてるのに視界が真っ暗に染まる。それも暫くすると慣れてきて、ちゆちゃんのシルエットくらいなら判別できるようになった。
「……ありがと。今日は誘ってくれて」
「どうしたの? そんな改まって」
 寝返りをうつ私。お日様の匂いに包まれたお布団が、小さく擦れる音を立てた。
「私、こっちに来てから何かしてもらってばかりだなーって」
「そんなこと無いわよ」
「ううん。そして、私は何もお返しできてない……」
 小さな自嘲にも似たため息が、音もなく漏れ出す。
「……私は、カグヤが嬉しそうだったら、楽しそうだったらそれで十分なんだけどな」
「ちゆちゃん……」
「さ、もう寝ましょ? 朝は六時に起きてランニングの予定なんだけど……」
 ちゆちゃんからの提案。私はその小さな無力感のせいなのか、勢いで「私も行きたい!」と即答した。
「それじゃ決まりね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
 その朝、ランニングで悲鳴を上げたのは言うまでもない……かな。
 それから数日後の放課後、土曜日じゃないけど、今日は午前授業(半ドン)の日。
「ひーなたちゃん」
「お、カグヤっちー」
 平光アニマルクリニック前に集まった二人。ちゆちゃんものどかちゃんも日直の仕事が残ってて、後から合流。
「いっよーしそれじゃあ〜、ゆめぽーとに出発!」
「おーっ!」
 ひなたちゃんが教えてくれた「裏道」を進んでいけば、目的地まで十数分ほどらしい。かわいい花が咲き乱れるその道を進みながら、私は前を行くひなたちゃんに声をかけた。
「ねぇ」
「んー?」
「ひなたちゃんはさ、何かしてほしいこととか……ない?」
 ちょっとストレート過ぎたかな? と思いつつ、ひなたちゃんの返事を待つ。彼女は少し悩んだ後「特に無いかなー」って両手を伸ばした。
「って、急にどしたの?」
「あー、えっと」
 このままはぐらかしてしまいたい欲求をぐっと抑え、駆け寄って手をつなぐ。
「んーん、なんか、皆にお返ししたいなーって」
「何それめっちゃ偉いじゃん! よし、私も手伝う……てか手伝わせて!」
「もー、それじゃお返しの意味ないよ。でも、ありがと! ひなたちゃんが手伝ってくれるなら百人力! といっても、何すればいいか全く思いつかないんだけど……」
 二人して口を尖らせ、考える、考える、考える……。結局何も思いつかないままゆめぽーとに到着したところで、私たちはひとまず目の前のショッピングを楽しむことにした。
「いよーし、まずはこの店! カグヤっちはさ、どのブランドで買ったりする?」
「私、撮影でもらった物だったり、マネキンそのままだったりするから……実はあんまり詳しくないんだ、あはは」
「うっそマジー?」
「マジマジ。前に東京で買ってもらった服、すっごく可愛くて、ついそればっかり。アレンジとかできるのほんと凄いと思う!」
 そんな話をしながらも、既にひなたちゃんの腕には大量の洋服が。
「ほうほうほう、嬉しいことを言ってくれるねぇ。それじゃあ一皮むけますか!」
 それを言うなら「一肌脱ぐ」じゃないかな……なんてツッコミは手渡された洋服に塞がれて。私は言われるがままに試着室へと向かった。

205ゾンリー:2021/11/23(火) 22:30:35
「おまたせ!」
 勢いよく試着室のドアを開けて、くるっと一回転。まだまだ練習中のポージングを決めて、ひなたちゃんの反応を伺ってみた。
「いい! やっぱカグヤっち最高だよ!」
「ひなたちゃんのファッションセンス、流石だよ。デニムのフレアパンツで大人っぽさと脚を細長く見せていて、フリルの襟付きブラウスで可愛さも表現してる!」
「コメント百点! ……ってこれだああああああああああ! カグヤっちこれだよ!」
「え、どれどれ?」
「これだよこれ、ファッション! モデルやってるんだからファッションショーで決まりっしょ!」
 次々におしゃれな服を私にあてがいながらハイテンションのひなたちゃん。
(ファッションショー……かぁ)
 ずっとお仕事でやってきたけど、思えば誰かのために自分からなんてやったこと無かったな。私の中に、小さな好奇心が生まれた。
「それ、賛成、大賛成!」
「でしょ? じゃあいろいろ買わないとじゃない〜?」
「これは買うしかないねぇ〜」
 うわぁ、私もひなたちゃんもカメラに映せないような、悪の組織みたいな表情しちゃってるよきっと。

「おーい、ひなたちゃーん、カグヤちゃーん」
「おまたせー」


「お〜っ、これはいいタイミングに来ましたなぁ? カグヤ殿」
「そうですなぁひなた殿」

「ど、どうしたの……?」
「この二人、意外と危険だったのかも……」
「「ふふふふふ……」」
 のどかちゃんとちゆちゃんも巻き込んで、一世一代の大ショッピング。言葉の通り端から端まで行ったり来たり、時折あまーいスイーツで休憩をはさみながらも、空が真っ赤に染まるまで私たちは洋服を私の体にあてがっていた。

 もう残された時間は多くない。ファッションショーの準備は急ピッチで進んでいく。……まあ、今日は小テストの勉強会も兼ねてるんだけど。
「じゃあ次の問題、『ありきたりなさまを表す言葉。明治中期まで続いた句合が語源』」
「はい!」
「カグヤちゃん」
「月……月……並み?」
「せいかーい」
「やった!」
「ふふ、今日はこのくらいにしとこっか」
 国語の教科書を勢いよく閉じて、代わりに一冊のルーズリーフを開く。そこにはファッションショー兼お別れパーティの計画がびっしり。
「カグヤちゃん、お料理のほうはどう?」
「うーなんとか! りりちゃん先生様様だよ」
 そう、今回の料理はぜーんぶ私が作るんだ。りりちゃんに頼み込んで、絶賛修行中。
「あ、お母さんとお父さんに許可取れたよ〜。家使ってもいいって」
「ありがと! じゃあ会場はのどかちゃん家で」
「そうだ、お客様からもらった花火あるんだけど、よかったらやらない?」
「いいね、やろうやろう!」――

 準備と学校生活であっという間に時間は過ぎていき、とうとう修了式。
「えー、皆さんご存じの通り、我衆院さんは今日で東京に戻ります。それじゃあ……我衆院から一言お願いします」
「はい」
 これで最後だと木で出来た机をそっと撫でて、席を立つ。でも来週のパーティーがあるから、お別れって感じはあんまりしなくて。
「この中学校で過ごした二週間、絶対に忘れません! これから受験とか大変だと思うけど、体調に気を付けて頑張ってください! 私もまた遊びに来ますっ」
 湧き上がる拍手。円山先生も涙ぐんでるけど……だめだめ、まだ泣くような時じゃない。
「カグヤちゃん、また来週ね〜」
「バイバーイ」
「うん、またね!」
 そう、本番は来週。でも今だけは、この学校との別れを惜しんでもいいよね。

「カグヤっち、こっちは準備OKだよ、どうぞ」
 トランシーバー代わりのスマホ通話越しにざわめきが伝わってくる。
「うん、こっちも大丈夫。どうぞ」
「よしじゃあカグヤっちのタイミングで行っちゃって!」
 通話終了のSEが耳元で鳴って、大きく深呼吸を一つ。みんなと隔てられた扉を開けて、私は勢いよく飛び出した。
「みんなー! 今日は……そして今日まで本当にありがとう! ひなたちゃんプロデュースの特別なファッションショー名付けて『すこやかコレクション』、いっくよー!」
 仲間内の歓声が妙に心地よくて、すぐにモデルの感覚を取り戻していく私。

206ゾンリー:2021/11/23(火) 22:31:36
「まずはこれ、ピンク色のギンガムチェックスカートに白いジャケット。これだけだと結構纏まりがないんだけど、中に着た深緑のシャツが一つにまとめているんだ!」
 控室で早着替えをしている裏で、私がつくったお料理が運ばれる。運んでくれるのは、私のお師匠りりちゃん先生。
「続いて〜、桃色を基調としたお花柄のワンピース! ちょっと子供っぽいかなーとも思ったけど、流石ひなたちゃん、ハットを被れば意外にピッタリでしょ?」
 みんなのお父さんやお母さん、円山先生も思い思いのお酒を手にもって「おぉ〜」と良いリアクション。
「どんどんいくよ、これは前開きの黄色いパーカーにボーダーシャツとデニム生地のショートパンツ。シュシュを使って元気はつらつなポニーテール風!」
「厚底サンダルとシースルースカートの組み合わせ! あえてシンプルなアクセサリーが透明感を引き立ててるんだよね〜」
 その後もくるりくるりとカグヤ七変化。その度にみんなの驚く顔と瞳が私の目の前できらきらと輝きを放っていく。

「さあさあ、パーティはこれからだよ、楽しんでいってね!」

 お酒で顔を赤らめたお母さんの慈しむ表情に、私はとびっきりの笑顔ではにかんでみせた。

「いたいた」
 一人ベランダで黄昏ていると、のどかちゃんが乳酸菌飲料の注がれたグラスを両手に持ってこちらの方に。私は差し出された片方のグラスを受け取って、カチンと小さく打ち鳴らした。料理でお腹いっぱいのはずなのに、後を引かない爽やかな甘味が自然と喉の奥へ流れ込んでいく。
「……カグヤちゃん、今日はありがとう」
「ううん、私だけじゃないよ。ちゆちゃんにりりちゃん、ひなたちゃん、そしてのどかちゃん。みんなが居たから、今日のパーティーは成功した」
「でも、その中心になって動いてくれたのは……カグヤちゃん、貴女なんだよ」
 のどかちゃんの優しく包み込むような笑顔が夕日に照らされて、私の胸の中がじんわりと温かくなる。肩の力を抜いた私は、「ありがと」とのどかちゃんの方へ肩を寄せた。
「大人の皆さんは、すっかり出来上がっちゃったみたいだよ」
「ふふっ、お母さん久々のお酒で二日酔いにならないといいけど」
「うちも。でも、そういう機会じゃないと飲まないから」
「「ねー」」
 親ラブな私たちの思いを知ってか知らでか、お母さんとのどかちゃんの両親の楽しそうな会話が遠くで聞こえる。
「……私、みんなに恩返しできたかな?」
 オレンジ色に染まった芝生が、風に吹かれてサワサワとそよぐ。直後、真下からりりちゃんの大きな笑い声が聞こえてきて、私達は顔を見合わせて微笑んだ。
「ふふっ、聞くまでも無いんじゃない?」
「……うんっ」
 いつの間にかグラスの中身は二人とも空になっていて、ベランダからまっすぐ見える海岸線が、ゆっくりと淡い紫色に染まっていく。
「あ、一番星」
「えーどこどこ? あ、あった!」
 
 明るく浮かぶ光の粒。それは今日という特別な一日を祝福してるようで、同時にその終わりを告げているようで。
「いよいよ明日、かぁ……なーんか全然、そんな気しないんだよね」
「私もだよ。でも、同じ空の下で繋がってるから……なんて」
 照れたようにはにかむのどかちゃん。気づけば空は随分と暗さを増していき、部屋から洩れる明かりでようやく、彼女の表情が伺えるくらいの明るさになっていた。
「……なんて、ベタすぎたかな?」
「あ、のどかちゃん、ベタじゃなくて……」
「「月並み!」」
 キレイにハモって、同時に吹き出す。
「アッハハハ! ううん、でもその通りだよね。東京じゃ、こんなきれいな星は見えないかもだけど、同じ空の下にいる。それに、もう二度と会えないわけじゃないし」
「うん! また絶対、東京に行くね。やくそく」
 真っ暗な手元で数回指をぶつけながら、小指で指切りげんまん。
「そうだ、せっかくなら皆で色んな所に旅行行きたいな」
「ふわぁ〜それもいいね! カグヤちゃんだったらどこに行きたい?」
「三重かなぁ? 実はね、シュークリームの生産量が日本一なんだって! のどかちゃんは?」
「えーとじゃあとびっきり飛んで……北海道とか沖縄とか! 一度飛行機乗ってみたいんだぁ」
 まだまだ冷えるベランダで肩を寄せ合いながらそんな話をしていると、階段をトントントントンと上ってくる音が。
「あー二人ともこんなところにいたー!」
「風邪ひいちゃうわよ?」
 音の主は、心配して私たちを捜しに来てくれたちゆちゃんとひなたちゃん。その手には、季節外れの花火セットが握られていた。
「わ、花火だ!」

207ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:06
「ふふ、今ね、みんなで旅行行きたいねーって話してたんだぁ。ちゆちゃんとひなたちゃんは何処に行きたい?」
 一階へと戻りながら、話を広げるのどかちゃん。意外なことに、二人とも即決だったみたいで。
「私は兵庫。温泉の有名どころは抑えておきたいもの」
「はいはいはいはい! 私はねー福岡! だって美味しいものいっぱいあるんでしょ〜、行ってみたいよねぇ」

 旅行の話は尽きないけど、玄関ではみんなが蝋燭と水入りのバケツを用意してお待ちかね。
「カグヤお姉ちゃーん」
「はーい! みんな行こ」
「よっしゃ花火だー!」
 各々好きな色の花火を手に取って、火をつける。鮮やかな閃光とともに、火薬の匂いが鼻孔をくすぐった。
「ねぇ、次はこれやってみない?」
 私が取り出したのは花火の代表格、線香花火。カラフルな「こより」といった風体のそれを、私は三人に手渡した。
「じゃあ誰が一番長く残せるか勝負だ!」
「またー? 二連敗しても知らないわよ?」――

 あの後、案の定二連敗を記したひなたちゃん。楽しい時間ほどあっという間に過ぎて行って、心地よい疲労感とともに迎えた、引っ越し当日。
「カグヤお姉ちゃん……ほんとに行っちゃうんだね」
「うん……ごめんね」
 通いなれたアパートの階段。その裏側で、りりちゃんの頭をそっと撫でる。
「ううん、大丈夫だもん!」
(本当に、強い子だなぁ)
 りりちゃんの目じりに浮かんだ水滴(なみだ)。私はそれを小指で拭って、ポケットから取り出した花のヘアピンを、そっと彼女の前髪に付けた。
「……!」
「よく似合ってるよ」
 スマホの内カメラでりりちゃんを映す。「なんだか自分じゃないみたい」とはしゃぐ姿に、一安心。
「それじゃ、行くね」

「待って!」

 そんな私を呼び止めたのは、りりちゃんでも、りりちゃんのお母さんでもなく……
「のどかちゃん! ちゆちゃんにひなたちゃんも!」
「よかったぁ間に合って」
 三人とも息が荒く、ここまで急いできたことが伺える。
「もー、ひなたが遅刻するから……」
「ほんっとゴメン! 作ってたら夢中になっちゃってさ」
「作る?」
 不思議そうに首を傾げる私に、ひなたちゃんは一冊のノートを差し出した。
「これ、私流のファッションアレンジまとめてみたんだ! 開けてみて」
 ページを開くと、昨日のファッションショーで着たコーディネートの解説が。蛍光ペンでアンダーバーが引かれてて、とってもわかりやすい。
「次は私。これ、よかったら車の中で食べて」
 ちゆちゃんから受け取ったのは、風呂敷に包まれたお弁当箱。中身を聞いたら「開けてからのお楽しみ」ってはぐらかされちゃった。
「私、ちゆちゃんみたいにお料理上手じゃないし、ひなたちゃんみたいにファッションセンスもないから……これ」
 のどかちゃんからは、淡い桃色のお花があしらわれたフォトフレーム。その中を見ると、写真の代わりに手紙が入っていた。
「は、恥ずかしいから車の中で読んでほしいな……」
「……うん。ありがとう」
 感情が高ぶって、うまく言葉が出てこない。本当はもっと、素敵なこと言えたらよかったのに。
「ねぇ、フォトフレームなんだから、みんなで写真撮らない?」
 そう提案した私は、お母さんにカメラを起動したスマホを渡して、皆のもとへ駆け寄る。
「ほら、もっと寄って寄って!」
 おしくらまんじゅう状態に固まった私たち。
 お母さんがスマホを構えると、全員でおそろいの横ピース! 図らずも全員っ被ったそのポーズにひとしきり大笑いして、ようやく踏ん切りがついた私は、大きなリュックを背負い車へと歩き出した。
 
 
 
 
「みんな……またね!」

208ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:39
 来た時よりも多くなった荷物に後部座席を占領されながら、自動車が緩やかな坂を上っていく。ずっと手を振ってくれていた皆もすぐに見えなくなって、カーオーディオから流れ出す懐メロがなんだかやけに胸に響いた。
 ちゆちゃんからもらったお弁当(豪華な天むすだった!)を二人で平らげて、きちんとお手拭きで手を拭いてからフォトフレームの手紙を取り出す。
『カグヤちゃんへ
 一緒に過ごしたこの三週間、良い思い出が多すぎて、いきなり何を書こうか迷っています。
 東京でカグヤちゃんに出会って、色んなことがあって。こうしてまた会えたことが何よりも嬉しかったです。ぎゅうぎゅうのベンチで一緒にお弁当食べたり、めいさんのカフェでプチパーティしたり、小テストの点数で勝負したり、ファッションショー開いてもらったり、ってほんとにキリがないくらい。だから、カグヤちゃんとのお別れは少し……ううん、とても寂しい。
 
 そうだ、このフォトフレーム、自分で作ってみたんだ。ダイヤモンドリリーっていうお花なんだけど、カグヤちゃんの髪の色とそっくりなんだ。花言葉は……自分で調べてみて!
 
 最後になっちゃったけど、体に気を付けて、元気で過ごしてね。カグヤちゃんの行く先が、希望と夢にあふれていますように。
花寺のどかより』


 彼女の声で再生されるその手紙に見つけた、三粒ほどの小さな水シミ。それを優しくなでていると、私の頬をツーっと何かがつたっていく感覚。それが涙だと分かった途端、目頭が熱くなった。
 
(おかしいな? ちゃんと笑顔でお別れできたのに。ちゃんと……またねって言えたのに)
 せっかくもらった手紙に、一つ、二つと新しいシミが増えていく。だんだんと潤んでいく視界に、太陽の光がやけに眩しく突き刺さって。

「……コンビニで、写真プリントアウトしていくとするか」
「うんっ……!」


 三週間ぶりの懐かしい制服に袖を通して、これまた懐かしい通学かばんを手に取る。
「お母さーん、私先行くね〜」
 棚の上に置かれた、「また会う日を楽しみに」の花言葉を冠した花のフォトフレームに入れられた三週間前の写真。私はあの時の感覚を思い出しながら、使い古したローファーに履き替えた。
「行ってきまーす!」
 ドアを開けた途端に、歓迎するような陽光。それを体いっぱいに浴びながら、階段を下っていく。

 高く、どこまでも続く青空と、これからまた始まる青春。それらに想いを馳せながら、私は精一杯の握りこぶしを突き上げて、走り出した。

「生きてる……って感じー!」

 (終)

209ゾンリー:2021/11/23(火) 22:33:18
以上です。ありがとうございました!

210名無しさん:2021/11/30(火) 01:36:19
読んだー!
丁寧な描写でカラフルな世界が広がる、って感じです。
最初から最後まで、一本筋が通っているのが凄いと思いました。
次回作も楽しみにしています!

211makiray:2023/01/10(火) 20:29:03
ご無沙汰しています。
年も改まり、デパプリがラストに向けて盛り上がっている中、昨秋の映画『夢みるお子さまランチ』でキュアエコーを活躍させるお話をお届けします。
タイトルは“Juvenile”
11 スレ、お借りします。

212makiray:2023/01/10(火) 20:31:16
Juvenile (01/11)
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〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「え…?」
「どういうことですか?」
 坂上あゆみはその声に振り向いた。
 ドリーミア。
 子どもたちのための、おいしい料理とエンターテイメントの楽園。おいしーなタウンの近くにオープンした夢の遊園地に、学校の友人とともにやってきたが、その入園ゲートで、聞き覚えのある声を耳にした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「私は小学生です。入れないとはどういうことですか!」
「亜久里ちゃん」
 声を上げているのは円亜久里だった。隣で困惑しているのは、友人の森本エル。
 ちょっと待ってて、と仲間から離れる。あゆみは亜久里に駆け寄った。
「どうしたの」
「あゆみ…」
 一瞬、笑顔になりかけたが、亜久里は視線を入園ゲートのアテンダント ロボットに戻した。
「私を小学生だと認識してくれないのです」
 ロボットを見る。目が合うと、そのロボットは〈ヨウコソ、ドリーミアへ〉と言った。あゆみは「子ども」に分類されたようだった。
「お友達は?」
「エルちゃんは大丈夫でした」
 小さくうなずくエル。
「さぁ、もう一度、確認なさい。最後のチャンスですわ」
 その意味を理解したのか、ロボットはやや時間をかけて亜久里をスキャンした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「もう結構! 世紀の発明家・ケットシーの技術力も大したことありませんわね。
 あゆみ、エルちゃんをお願いします」
「亜久里ちゃん!」
「私は入れませんが、エルちゃんはドリーミアに来るのを楽しみにしていたので」
 あゆみはエルを見た。エルはあゆみを見てはいなかった。
「私は嫌だよ」
「でも」
「亜久里ちゃんと一緒に来たかったんだもん!」
 はっきり言う様子に、あゆみはいくらかのうらやましさを感じた。
「エルちゃん…」
 ふたりは、かすかに目元を潤ませながら、お互いを見ている。あゆみは静かにそこを離れ、友人たちのところに戻った。
「どうしたの?」
「私の友達なんだけど…ロボットが子どもじゃないって言い張ってて、入れないんだって」
「えぇー」
「しっかりしろよ、ケットシー」
「私、心配だから送ってく」
「え、帰っちゃうの?」
「うん…ちょっとほっとけない」
 振り向くあゆみ。亜久里がエルの涙をぬぐっていた。
「…だね」
「ごめんね。また誘って」
「おう。それが大人の務めってもんだな」
「ありがとう。
 あ、それから」
 あゆみは友人たちを見つめた。
「みんなも気をつけて」
「何に?」
 想像もしなかったからか、三人が同じことを言った。
 自分でもなぜそんなことを言ったのかわからない。しかし、かすかな胸騒ぎがした。
「え、っと…いよいよ食べるぞー、っていう時に、やっぱり中学生は大人だ、とか言い出すかもしれないし」
「あー、そうだねー」
「デジタルは信用できんなー」
「じゃ」
 戻る。お互いに涙を拭き終わった亜久里とエルはもう歩き始めていた。
「あゆみ、あなたは別に」
「うん。また来ることにした」

213名無しさん:2023/01/11(水) 00:50:24
>>212
おお、makirayさんのキュアエコーが活躍する映画SS、キター!
これは続きが楽しみです。
「亜久里ならなぁ……」
と思わず頷いてしまうヒドい大人がここに……

214makiray:2023/01/11(水) 20:02:18
Juvenile (02/11)
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 ここはおいしーなタウンだし、何か食べていこう、と言ってみたが、エルはすっかり意気消沈していた。亜久里が拒絶されたことが相当にショックだったらしい。そのまま帰りの電車に乗った。あゆみは何度か、エルの気を紛らわそうと話しかけてみたが、元気のない返事が返ってくるだけだった。亜久里とエルは、黙って手をつないでいた。
 大貝町のエルの自宅まで送り届ける。早すぎる帰宅に母親は驚いていたが、あゆみが「システムエラーで入れなかった」と説明すると、「まったくデジタルはねぇ」と、友人と同じことを言った。
 次は、亜久里を送り届けて、と思っていると、亜久里が口を開いた。
「あゆみ、グレルとエンエンはどうしていますか?」
「家で留守番しているけど」
 友人たちと遊びに出かけるときは連れて行くわけにはいかない。それはいつもの約束ではあるのだが、今回は説得に手間がかかった。ふたりとも「お子様ランチ」には大いに興味があるようだった。
「一緒にドリーミアへ行きませんか?」
「え?」
「確認したいことがあるのです」
 グレルとエンエンのことを聞いたのはなぜか。プリキュアの力が必要になるかもしれない、と考えているからだ。何が、と言われれば困るが、自分も胸騒ぎを感じたのは事実だった。
「実は今日、クローバータワーでイベントがあって、みんなそちらに行っているのです。私はエルちゃんとの約束があって行けなかったのですが」
「ひょっとしてアイちゃんも…」
「はい」
 亜久里の表情が厳しい。つまり、亜久里は今、キュアエースになれない。
「お願いできますか」
「うん」

 母親は仕事で家にいないので、どうしたの、と聞かれることもなかった。あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけてすぐに家を出た。
「久しぶりですわね、グレル、エンエン」
「元気だったか?」
「おかげさまで。フーちゃんもそこにいますわね」
〈フーちゃんはいつもあゆみと一緒〉
 あゆみの襟のエコーキュアデコルが輝いた。
「何があったの?」
 グレルは、どうやらお子様ランチが食べられるわけではなさそうだ、ということに気づいてがっかりしていたが、エンエンは心配そうな声だった。
 電車の中、ほかの客から離れたシートに座ると、亜久里は小さな声で言った。
「実は、ありすが以前から、おいしーなタウンが気になる、と言っていたのです」
「ありすちゃんが?」
「新しい仲間がいる可能性を指摘していました」
「仲間――って」
 その単語を声に出して言うわけにいかず、あゆみは口だけで「プリキュア?」と言った。
「ドリーミアの開園はいいチャンスでした。私はその偵察もかねて向かったのですが…的確過ぎました」
「何が?」
「私が子どもではない、という判定をしたことです」
 もう一度、亜久里を見る。
 円亜久里は、トランプ王国の王女、アンの魂だ。この世界の人間ではない、そして、一度は大人だったことがある。
「レントゲンを撮ったところで、それがわかるわけではありません。
 ですが、この世界のものではない技術、あるいは魔法、魔術のようなものがドリーミアを成立させているとしたら、私という異質な存在を検知――」
 あゆみは亜久里の手を握った。強く。
「ありがとうございます。心配してくれたのですね」
「だって」
「あゆみは大人ですね」
「そんなことない」
「いえ。せっかく友達と一緒に遊びに来たのに、私やエルちゃんのことを心配して一緒にいてくれる。立派なレディです」
「…」
「あなたが友達についてどういう経験をしたかは私も聞いています。その約束をくつがえすのが大変なことだ、ということもわかります」
「私は」
「俺たちもついてるだろ」
「ちょっと、グレル」
 バッグからぬいぐるみがこぼれた、というふりをしてグレルとエンエンが亜久里の膝に乗った。あゆみは慌てて周囲を見回したが、誰かが気付いた様子はなかった。走っている電車の中のことで、ぬいぐるみがしゃべっているところを聞かれてもいないようだった。
「元気出してよ、亜久里ちゃん」
〈フーちゃんも亜久里の友達〉
「ありがとうございます」
「アイちゃんがいなくて寂しいだろうけど、今日は俺が相手してやるからよ」
 いい加減にしなさい、とあゆみはグレルをコツンとやった。亜久里が笑った。

215makiray:2023/01/12(木) 20:23:34
Juvenile (03/11)
----------------
「開かない…」
 あゆみはドリ―ミアの門の大きな扉を何度か動かした。びくともしない。
「ランチタイムが終わった、というわけでもないでしょうに」
「あれ…なんだろう」
「ぬいぐるみでしょうか」
 ゲートのところにいくつもぬいぐるみのようなものが落ちている。売店で売られていたのだろうか。それがなぜゲートに。あんなにたくさん。
「何かが起こっていると考えるべきでしょうね」
「子どもたちは?」
 目を凝らす。ゲートの向こうでアトラクションが動いているのは見える。だが、そこに人が――子どもたちがいるかどうかはを見極めるには遠すぎた。
「変身すれば飛び越えられそうだけど」
 ふたりは高い塀を見上げた。
「それしかないでしょうね」
「お、行くか?」
 グレルはなぜか嬉しそうだった。
「まずは上空から偵察がいいと思います。いきなり入るのは危険です」
「わかった。フーちゃん、グレル、エンエン、お願い」
 あゆみとグレルとエンエンが成す三角形を、エコーキュアデコルからほとばしるフーちゃんの光が満たす。その光がはじけ飛ぶと、あゆみの姿は、長いツインテール、草色の飾りが走る白いドレスの、キュアエコーに変わっていた。
「思いよ届け。
 キュアエコー」
「気をつけて」
 光の力の助けを借りてジャンプ、キュアエコーはドリーミアを一望できる高さにまで飛び上がった。
「?」
 ドリーミアの敷地に赤い点がいくもか浮かぶ。
「エコー、ロボットが!」
 亜久里の声。ゲートの隙間から、入口にいたアテンダント ロボットよりははるかに屈強なロボットたちが見上げているのが見えた。その目が赤く光ったかと思うと、ロボットたちは腕を上げた。
「!」
 その腕が飛んでくる。手は不気味に開閉を繰り返し、キュアエコーを拘束しようと迫ってくる。キュアエコーは身軽にかわしはしたが、数が多かった。よけきれず、手や足、体にぶつかってきた。ついにはバランスを崩し、地上に落下した。
「エコー!」
 亜久里が駆け寄る。グレルが亜久里の腕から飛び降り、キュアエコーの腕をとらえた機械の手をいつもの剣で叩くと、それはパカっと開いて外れた。
「隠れましょう」
 亜久里が駆け出す。キュアエコーがその後を追う。エントランスから遠く離れた岩場の陰に隠れると、ロボットの手はふたりを見失ったようで物音も聞こえなくなった。
「警備ロボットまでいるなんて」
「悪いことをしていると白状したようなものですわ」
 ということは、いきなり戦い、ということになる。自分がどこまで役に立つかは疑問だ、とキュアエコーは思った。
(キュアエコーは戦うプリキュアじゃない。だとしたら)
 中に入って状況を確認する。もし「敵」があの中にいるのなら、その思いを捉えたい。これまでだって、害をなす存在がすべて「敵」なわけではなかった。こちらの「思い」を届けて、あちらの「思い」を受け入れれば、戦わずに解決することはできるかもしれない。
「どうしたの?」
 亜久里が首を振っていた。
「マナたちに連絡が取れないかと思ったのですが、圏外です」
「圏外?」
 道や時間を確認するために何度もスマートホンを見ている。さっきまでは使えたはずだった。
「電波妨害を始めたのでしょう。さすが世紀の発明家、手抜かりはありませんわ。
 ということはやはり、私を排除したのは、子どもかどうかということではなかった、と考えるべきでしょう」
「私は子どもだったんだ」
 キュアエコーは笑ってみせた。
「変身していなかったのですからね。現に、今は攻撃対象となっています」
 亜久里は岩陰からわずかに顔を出した。門のあたりにロボットたちが立っている。
「帰ったかも、とは思ってくれないようですわね」
「亜久里ちゃんは、やっぱり大人だね」
 落ち着いている。
 当然だ。亜久里はトランプ王国の守護神、アン王女なのだから。
「いいえ」
 言下に否定する亜久里。頼りにしている、と続けるつもりだったキュアエコーは言葉を失った。
「今は無力な子どもに過ぎません。足手まといになっています」
「そんなこと」
「私がいなかったら、キュアエコーは中の敵と思いを通わせるためにとっくに突入していたと思います。あなたにはそういうところがあります」
「うん…」
 それがいい結果をもたらし得たかどうかは難しいところですが、と小さな声で言う。

216makiray:2023/01/13(金) 20:10:55
Juvenile (04/11)
----------------
「やっぱり子どもだなぁ…私」
「まっすぐ突き進むことが必要なこともあります」
「亜久里ちゃんに指示してほしいな」
「私など」
「頼りにしてる」
 ふたりは見つめあい、やがて微笑んで拳を合わせた。
「おいおい、仲間外れかよ」
「僕たちもいるんだよ」
「頼りにしろよな」
「うん」
 その上にグレルとエンエンの小さな手が載せられる。デコルも明滅し、フーちゃんの気持ちを伝えてきた。
「それにしても、やはり中に入りたいところですわね」
「うん――亜久里ちゃん!」
 キュアエコーは突然、亜久里を抱き寄せた。その小さい体を放り投げるようにして入れ替わると、ロボットが降り下ろした手を両腕で受け止めた。
「!」
 手首から激痛が走った。だが、引かない。一度、体を下げると、足のパネでロボットを跳ね上げた。
「プリキュア ハートフル・エコー、コルティーナ!」
 両手から広がる光がカーテンのようになり、続々と押し寄せてくるロボットたちを食い止める。
「エコー!」
「逃げて!」
 振り向く亜久里。岩の隙間や切れ目をたどって上に登る道が見えた。
「上に逃げるのは得策ではないのですが、止むをえませんわね」
 グレルとエンエンをカーディガンのポケットに収めるとそれを上り始める。岩を二つよじ登ると振り向いた。
「エコー、早く!」
「やぁっ!」
 光の力ーテンを押しやる。ロボットたちがガラガラと倒れていった。亜久里の後に続く。岩はやがて土の獣道となった。しばらく進むとふたりは止まり、息を整えた。
「追ってこないね」
「あの図体でこの山道は無理でしょう。あるいは、細身のロボットと交代、ということはあるかもしれません」
「そうだね」
 油断はできない、と辺りを見回すキュアエコー。
「腕は大丈夫ですか?」
「うん」
 キュアエコーは赤く腫れた腕に手を当てた。亜久里に見せないように隠しているようにも見えた。
「…」
「地震?」
 思わず体を低くする。長い。
「エコー、あれを!」
 亜久里が指さす。木々の間を透かして、カラフルな色が揺れている。左右だけでなく上下にも。それはまるで暴れているようだった。
「ドリーミアが」
「テーマパークが巨大ロボット…!」
 高い壁はさらに強固になって隙間を埋め、手と足が生えている。それが踏み出すたびに、足元が揺れた。
「…。
 まりちゃん。
 みなちゃん、めいちゃん!」
 キュアエコーが突然、叫ぶ。
「一緒にいらしたお友達ですか」
「あの中に、みんなが!」
 足を進めようとするキュアエコー。まだ揺れる地面がそれを阻んだ。それでも立ち上がり駆け出そうとする。亜久里もバランスを崩しそうになり、ポケットからスマートホンがこぼれた。
「お待ちなさい!」
「だって!」
「落ち着いて。電話番号を覚えていますか」
「電話?」
 何を言っているのかわからない。

217makiray:2023/01/14(土) 20:24:13
Juvenile (05/11)
----------------
 このタイミングで電話とは。堂々巡りしているうちに揺れは収まった。
「電波が戻っています」
 亜久里がスマートホンを見せた。
「あの形態になったことでエネルギーが必要になったとか、そんなところでしょう。であれば、お友達に電話してみる価値はあります」
「でも」
「パニックになって出られない、ということはあるかもしれません。でも、出てくれるかどうか、それが一つの情報になります」
「…うん」
「どなたでも構いません。思い出せますか」
「え、と。0…0」
「深呼吸して。落ち着いて」
 いつも電話帳から名前で呼び出してかけるから、そもそも覚えているのかどうかも怪しい。だが、友人たちの中で、スマホを手に入れるのが最も遅かったのがあゆみで、何度も公衆電話からかけた。思い出せるはずだ。目を閉じ、その時のことを思い出しながら、キュアエコーは 11 桁の番号を言った。
「これで間違いありませんか」
 亜久里が見せた画面の数字を、声に出して読む。キュアエコーはうなずいた。
「かけます。
 もしもし」
 電話があっさりつながったことにはどちらも驚いた。
《えーと、どちら様》
 亜久里の耳に、朗らかな、というよりは楽しそうな声が飛び込んできた。
「円と申します。さきほど、坂上あゆみさんに送っていただいて」
《あー、ケットシーに意地悪された子》
「皆さんにご迷惑をおかけしたので、お電話しました。あゆみ…さんの電話はなんだかバッテリーが切れたようで」
《あ、そうなんだー。わざわざありがとうねー》
 亜久里は、その明るさが理解できないまま、スマホをハンズフリー モードに切り替えた。キュアエコーに目くばせする。
「まりちゃん?」
《あー、あゆみちゃん。無事にお努め果たした?》
「うん。そっち――みんな、どうしてるの?」
《楽しいよー。今はね、スペシャル イベントで気球に乗ってる》
「気球?」
 360 度を見回す。エンエンが、あれじゃない? と指さした。
「どこに向かっているのですか?」
《んー、聞いてないけど、なんか海の方に向かってるね》
 間違いない。あの気球だ。
「楽しそうですわね」
《楽しい! 今度、あなたも一緒に行こうよ》
「是非、お願いしますわ」
 通話を終えると、亜久里とキュアエコーはうなずきあった。理由はわからないが、ドリーミアは巨大ロボットに変形する前に、子どもたちを排除したのだ。
「戦いの邪魔になると思ったのかもしれませんわね。人質にされなくてなによりです」
「ドリーミアを止めよう」
 ドリーミアだった巨大ロボットは地面を踏みしめながらおいしーなタウンに向かっている。キュアエコーと亜久里は、警戒しながら来た道を戻り始めた。今となっては小型と言うことになってしまうロボットたちは見当たらないが、右側はドリーミアが巨大ロボットに変形した影響で崖になっていた。
「掴まりながら行きましょう」
 左側の木やツタを、引っ張って抜けないことを確認してから、しっかりと握って降りる。気は急くが、とても走り下りることができる状態ではなかった。
「…」
 ふたりは同時に立ち止まった。振動を感じる。音はしない。かなり先を行っているドリーミア ロボットの足音だけだ。ほっと息をつく。
「!」
 突然、足元が抜けた。キュアエコーの長いツインテールの先に、遥か地上の土が見える。足元の岩がすべて崩れ落ちた。
「亜久里ちゃん!」
「エコー!」
 背一杯、手を伸ばす。亜久里の小さな手を握った、と思った瞬間、キュアエコーの手に激痛が走った。ロボットの攻撃を受け止めたところだ。歯を食いしばる。だが、力が弱まった一瞬で、亜久里の小さな手はキュアエコーの手を滑りぬけていった。

218makiray:2023/01/16(月) 21:34:24
Juvenile (06/11)
----------------
「亜久里ちゃん!」
 キュアエコーの体も後を追いかけるように落下していく。だが、どれだけ手を伸ばしても、亜久里には手が届かなかった。
「プリキュア ハートフル・エコー、コルティーナ!!」
 光のカーテンがブランケットのように亜久里の体を包む。それがクッションになってくれれば。
 亜久里は、体が暖かなぬくもりで包まれている、と感じた。
 一瞬、転落の恐怖を忘れそうになる。―直線に落下していた体がゆっくりと回転し、仰向けになったとき、光のカーテンの向こうに見えたキュアエコーの姿に亜久里は息をのんだ。
 キュアエコーは目を閉じている。腕や足に力が感じられない。そして胸元の宝石の光が弱い。
「エコー!」
「あいつ…加減を考えろよ」
「エコー、目を覚まして!」
 グレルもエンエンも叫ぶ。だが、声は届かない。キュアエコーも答えない。
「グレル! エンエン!」
「え…?」
「私に力を貸してください」
「どうしたの?」
「キュアエコーの光を分けてもらって、今、私の中に力がみなぎっています。
 後は、妖精の力があれば」
「俺たちに、アイちゃんの代わりをやれって言うのか?」
「疲れていますか」
「そんなことないよ。でも」
「できるのかよ?!」
 わからない。キュアエースは、ほかのプリキュアとは違う。アンの魂である亜久里が、アンの肉体であるアイの力によって変身するのだ。
 それに、グレルとエンエンはキュアエコーの妖精である。だが、初めからキュアエコーの妖精だったのではない。ほかのプリキュアに力を貸すことはできないか。
「お願いします」
「無茶だろう」
「助けたいのです!」
 亜久里が叫んだ。それは悲鳴だった。
「あゆみと!
 あゆみの友達と!
 子どもたちを、助けたいのです!」
「亜久里ちゃん…」
「こんな、なにもできない子どものまま終わるのは嫌です!
 私をプリキュアにしてください! お願い!」
 グレルとエンエンは、カーディガンのポケットから這い出してきた。力強くうなずきあい、手をつなぐ。
 そして、グレルの右手は亜久里の左手に、エンエンの左手は亜久里の右手に。
「!」
 その新たなトライアングルを新たな光が駆け巡る。三人の胸に確信が生まれた。
「行けるぞ」
「変身だ!」
「プリキュア ドレスアップ!」
 いつもとは異なる純白の光をまとう亜久里。まばゆく輝くドレスに、真紅の髪の毛が重なった。
「愛の切り札、
 キュアエース!」
 落ちてくる岩を足掛かりにジャンプする。
「エコー!」
 キュアエースはキュアエコーの体を抱きしめた。息はある。
(よかった…)
 再び、岩の急流を渡り、ドリーミアがあった場所に降り立つ。中央部は大きな沼になっていた。浜にあたる場所に、キュアエースはキュアエコーの体をゆっくりとおろした。
「エコー」
「…。
 あ」
 キュアエースに触れていた短い時間で、力を取り戻したらしい。キュアエコーはすぐに目を覚ました。
「エース!」
「ありがとう。助かりましたわ」
「変身できたの?!」
「はい。
 グレルとエンエンが力を貸してくれました」
 横でグレルとエンエンが胸を張っている。

219makiray:2023/01/17(火) 21:03:18
Juvenile (07/11)
----------------
「すごい…」
「さすがですわね」
 ふたりに向かってほほ笑むキュアエース。
「あれ…でも」
 キュアエコーはゆっくりと立ち上がった。キュアエースも続く。
「いつもと違うような気がする」
「そうですわね」
 キュアエースはドレスの裾をもって軽く振ってみた。
 真っ赤な髪はいつもの通りだが、スカートがブラウンだった。そして白いドレスの縁取りはクリーム色。
「宝石も違う」
「え?」
 キュアエースは水際に駆け寄った。自分の顔を映してみる。
「本当ですわ」
 髪飾りの宝石はひし形、胸元の宝石はハートだったが上下が違う。
「あ」
「?」
「グレルとエンエンの模様だ。額の」
「ということは、このブラウンとクリーム色も」
「そうだよ」
「すごいですわ、グレル、エンエン!」
 キュアエースはいつもと違う装いになっていることを純粋に喜んでいるようだった。むしろ、グレルとエンエンの方が、何がそんなにうれしいんだ、という顔をしていた。
「では、参りましょうか」
 表情を引き締める。巨大ロボットとなったドリーミアはおいしーなタウンに向かっている。止めなければ。
 高いジャンプ。キュアエコーからキュアエースへ、キュアエースからキュアエコーヘバトンのように渡された光の力は、そのたびごとに増幅されていたとでもいうのか、キュアエコーに疲労の色はなかったし、キュアエースにもぎこちなさはなかった。
「もうすぐです」
「うん――えっ」
 突然、ふたりの目の前からドリーミアが消えた。
「…これは」
「気球も」
 海の方に向かっていた気球も姿が見えなくなった。
「みんな」
「エコー、待って」
 キュアエースが言い終わらないうちに、キュアエコーの体は何かにぶつかったように弾き飛ばされた。再びキュアエースに抱きかかえられる。
「大丈夫ですか」
「何…今の」
 キュアエースは足元の石を投げてみた。それは、何の音もたてず、だがキュアエコーと同じように跳ね返された。
「何か…ありますわね」
 ゆっくりと歩いていくふたり。抵抗があった。
 何が見えているわけではない。見回しても、さっきと同じ森が続いているだけだ。だが、進もうとすると押し返そうとする力を感じる。
 グレルはキュアエースの肩に飛び乗ると剣を抜いた。
「気をつけてくださいね」
「心配すんな」
 剣が届くように半歩、前に出るキュアエース。グレルが剣を突き出すと、その先端が消えた。グレルが慌てて剣を引っ込めると、元の長さに戻った。折れたり欠けたりはしていない。
 その剣が消えたポイントにそっと手を当ててみる。やはり何かある。ゆっくりと手を伸ばしてみると、キュアエースの手が見えなくなった。同じように慌てて引く。これも何も起こらなかった。
「空間が歪められているとか、そういうことでしょうね」
「異次元、とか?」
「おそらく。
 ドリーミアはこの向こうにいるのでしょう」
「気球も一緒に」
 うなずくキュアエース。
「行こう」
「お待ちなさい」

220makiray:2023/01/18(水) 21:19:09
Juvenile (08/11)
----------------
「みんな、私の友達も、子どもたちもみんな、この中に閉じ込められている、ってことなんでしょう?」
「わかりません」
「でも、今」
「ドリーミアは、閉じ込められているのかもしれませんが、自分の本拠地に逃げ込んだのかもしれません」
「だったら、今すぐ行かないと」
「さっきも言ったはずです。無闇に突入するのは危険――」
「私は、行く」
 反論しようとするキュアエースを無視してキュアエコーはつづけた。
「ドリーミアが捕まっているとしても、ドリーミアの本拠地だとしても、子どもたちはいるべき場所にいるんじゃない、ということに変わりはない」
「…」
「私はみんなを助けに行く」
 キュアエースはキュアエコーを見ていた。睨んでいるようでもあったが、キュアエコーは譲らなかった。
「わかりました。ご一緒します」
 エンエンがエコーの肩に乗ると、キュアエースとキュアエコーは手を伸ばした。中指の先が見えなくなる。
「私の感触で、証拠があるわけでないのですが」
 キュアエースが言った。
「悪いものではない、という気はします」
「うん」
 それはキュアエコーも感じていた。
「違和感はあります」
「うん」
「例えていうなら、同じ『光の使者』である、ほかのプリキュアと出会った時のような。同じではないけれども、大きく違っているわけでもない、という感じと言えばいいでしょうか」
「それは私にはわからないな」
 キュアエースは空いている右手で、キュアエコーの空いている左手を取った。それは、キュアエコーがどこのチームにも属していないからだ。
「今は、私があなたのパートナーです」
「新ユニットだね」
 エンエンが笑顔で言った。
「エコーとエースだから、『えぇコンビ』でどうだ」
「グレル…」
「この状況でダジャレとは、余裕ですね」
 苦笑するふたり。
「だから、大丈夫です」
「うん。
 行こう」
 一歩。視界から森が消えた。代わりに、様々な色の光が乱舞していた。オーロラの中に入ったらこうだろうか、と思われた。
 だが、体が浮いている感じはない。森の下生えの感触ではないが、しっかりと前に進むことはできる。
 正面から真昼の日差しが差し込んできた
「あそこですね」
「待ってて…みんな」
 ふっと、オーロラが消える。出るときには何の抵抗もなかった。
「え?」
 そこに広がっていたのはまったく予想外の光景だった。
「砂漠?」
「テレビで見たような…」
 一面の砂。それを取り囲む、岩肌の露出した崖。ここは、一体、どこだ。
「いたぞ!」
「気球もいる!」
 その疑間を吹き飛ばす、グレルとエンエンの声。
 キュアエコーとキュアエースの目は、その中間に注がれていた。きらきらと光を反射しながら、ドリーミアに挑むその姿は。
「プリキュア?」
「プリキュアです!」
 四葉の調査網が捉え、ありすが気づいた、新しい仲間。彼女たちがドリーミアと戦っている。

221makiray:2023/01/19(木) 21:01:18
Juvenile (09/11)
----------------
「何人いるんだ?」
「1…2…3…わかんないよ」
 激しく動いているため数えられない。エンエンは諦めてしまった。
「ペアを組んでいるようですね。四組…?」
「地上にもいるみたいだね」
「プリキュア教科書を書き直さないと」
「何ページ使うつもりだよ」
「参りましょう」
「うん」
 走り出す。
 プリキュアの戦いがはっきり見えるようになってくる。やがて、キュアエコーは足を止めた。キュアエースも止まる。
「どうしたのですか?」
「なんか、戦い方が…」
「私も気になっていました」
 全員で当たっているわけではなく、一組のプリキュアをドリーミアにたどり着かせようとしているように見える。ほかのメンバーはその援護をしている、という様子だ。
「どういうことでしょう」
「思いを届けようとしてるのかな…」
 キュアエースはそう言ったキュアエコーを見た。そして、うなずく。
 何度も見てきた。悪事をなすものがすべて敵とは限らない。この巨大なドリーミアもそうなのではないか。
「であれば、キュアエコーの出番ではありませんか」
「おい、ちょっと」
 グレルが空を指さす。見上げたエンエンが恐怖にひきつった声を上げた。
「空が割れている…!?」
 砂漠に似つかわしい強い日差しで埋め尽くされた真っ青な空に、黒いひびが入っている。そこから崩れ落ちてくるのではないか、とエンエンはキュアエコーの首に縋りついた。
「この空間が壊れ始めているのかもしれませんね」
 誰が、なんのために作った空間なのかはわからない。しかし、百メートル単位の直径を持つあのドリーミアが暴れているのだ。何らかの影響を受けているとしても不思議ではない。そういえば、ドリーミアが足を踏み下ろしたときの振動が強くなっているような気もする。
「支えよう」
「どうやって」
「エースが言ったでしょ。
 この空間は悪いものではない、って」
「ええ」
「もし、この空間が、あそこで戦っているプリキュアが作ったものだとしたら、私たちの『光』が役に立つんじゃないかな」
 キュアエースは黒いひびを見上げた。ひびは少しずつ伸びていっている。
「私たちの『光』で補強しよう、ということですか」
「思いを届けることは、あのプリキュアに任せていいと思う」
「…え?」
 キュアエースは、それ以上を表情に出さないように努めた。
 キュアエコーは「思いを届ける」役割をほかのプリキュア――かどうかはわからないが―――に委ねようとしている。
 いいのか、それを許して。
 所属するチームのないキュアエコーは常に、自分の役割を手探りしている。強い技を持っているわけではないことに引け目を感じている様子もある。
 だが、「届ける」時であれ「受け止める」時であれ、「思い」が重要な役割を持つとき、その中心にはキュアエコーがいた。それを他者に任せることを見過ごすのは正しいことなのか。
 いや。
(プリキュアたる者、いつも前を向いて歩き続けること)
 分別臭く他の仲間を導こうとするキュアエースの役割は、ジコチューとの戦いが終わったとき、同時に終わったはずだ。キュアエコーが次のステップを進もうとしている。キュアエースも続くべきだ。
「事情を知らない私たちが参加してからでは時が過ぎます。その環境を整えるほうが適切かもしれません」
 それが「勘」に頼った判断であることはふたりともわかっていた。あの光がプリキュアのものかどうかはわからない。まして、この空間が悪いものではない、というのも「感触」に過ぎない。
 だが同時に、この判断は間違っていない、という確信もあった。
「彩れ、ラブ・キッス・ルージュ!」
「プリキュア ハートフル・エコー!」
「ショット・コルティーナ!!」
 ふたりの体から伸びた光が天に突き刺さった。青い空が金色に染まっていく。その金色がしみこむように消えた後、ひびは跡形もなく消えていた。
「ひびが消えました!」
 それが合図になったように、先頭の一組がドリーミアの中に消えた。
(思いよ、届け)
 キュアエコーは息を整えると、両手を合わせて祈った。

222makiray:2023/01/20(金) 20:54:39
Juvenile (10/11)
----------------
 フォローの必要がなくなったわけではない。ふたりは妖精たちとともにプリキュアの元へ走った。だが、ペースが上がらない。
 どちらも歯を食いしばっている。キュアエースはやはり本来とは異なる形で変身していることが大きい。キュアエコーには疲労の色が見える。「ハートフル・エコー」を何度、放ったのだったか。
 だが、あと一息の筈だ。
「エコー、ロボットが」
 グレルが指さす。エンエンがつぶやくように言った。
「消えていく…」
「首尾よくいったようですね」
 地上にいるメンバーが慌てている様子がない。キュアエースはほっと息をついた。
「気球…気球は?!」
 キュアエコーは激しく頭を巡らせた。それはまだ空に浮かんでいた。だが。
「下降していませんか?」
 早い。加速がついているようにも見える。
「まりちゃん! みなちゃん! めいちゃん!」
 キュアエコーの息が荒い。回復していないのは明らかだった。
「ここから」
 キュアエースの手を振り払うように手を伸ばす。
「エコー」
「フーちゃん、お願い」
〈うん〉
 ゆっくりと息を吐くと、キュアエコーは右手を気球に向けた。
「お手伝いいたします」
 その左手を取るキュアエース。だが、この空間に入った時と比べて力が弱いような気がした。
「大丈夫。
 だれも傷つけさせはしません」
 キュアエースが左手を上げた。呼吸を合わせる。
「グレル、エンエン。もう一度、お願いします」
「任せろ!」
「僕たちだってプリキュアだもん」
 ふたりの手のひらに光の珠が生まれた。
「プリキュア ハートフル・ショット・コルティーナ!」
 ふたりの前に広がった光のカーテンは、魔法のカーペットのように飛んでいく。それは次第に速度を増して落下していく気球の下に滑り込んだ。
「間に合った」
「…。
 速度が」
 いくらかゆっくりになった、という程度だった。もう地面が近いのに、スピードは十分に落ちていない。
「もう一度――あ」
 キュアエコーとキュアエースは、もう一度「ショット・コルティーナ」を放とうとそれぞれの手に力を込める。その瞬間、ふたりの周囲で光が飛び散った。
「変身が」
 坂上あゆみと円亜久里の姿に戻ってしまっただけなく、ふたりは砂漠に膝をついてしまっていた。立ち上がろうにも力がはいらない。
「みんなを、助けないと」
「変身…ですわ」
 両手で体を支えて立とうとする。だが、厚い砂はそのわずかな力を吸い込んでしまう。
「早く」
「もう一度」

223makiray:2023/01/21(土) 21:11:45
Juvenile (11/11)
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「プリキュア パーティ・アップ!」
 光が空間を満たしたように見えた。「ショット・コルティーナ」よりも明るい光が気球を包み込む。
 止まったように見えた気球はゆっくりと着陸した。
「よかった…」
「大丈夫?」
 大人の男性の声だった。グレルとエンエンはあゆみの背後に隠れた。
「はい」
 やっとの思いで立ち上がったがバランスを崩しそうになる。あゆみを青いドレスの少女が、亜久里をカラフルなドレスの少女が支えた。
「みなさんがプリキュアなんですのね」
「はにゃ! わたしたちの秘密が!」
「どうしてそれを…」
 チャイニーズドレスの少女が飛び上がって驚き、和服を思わせる装束の少女が首をかしげる。
「な、なんだ、おまえ!」
「ふたりは妖精コメ?」
「あなたも妖精?」
 あゆみの足元では、グレルとエンエンが、見たことはないが、全く知らない雰囲気でもない動物たちに目を自黒させている。驚いてるのか、フーちゃんのエコーキュアデコルも不規則に点滅した。
「え、妖精?
 ということは?」
 初めて見る少女たちが顔を見合わせている。
「ふたりもプリキュア!?」
 その声が砂漠の砂に吸い込まれていく。
「あの!」
 沈黙を破るあゆみ。
「ドリーミアに来ていた子供たちを助けないと!」
「そうよ。
 そうだわ」
 男性は手を鳴らすと、両手を組み合わせた。そのまま踊るように振ると、さっき見たオーロラのような光に続いて景色が戻った。砂漠は跡形もなく消えていた。
 ドリーミアも、建物に傷はついているようだが、元の場所に戻っていた。気球も、元あった場所に格納されている。あゆみがほっと息をつき、亜久里がほほ笑んだ。
「あのね、たくさん、お話したいことがあるの」
 ピンクの服を着た少女が言った。
 それはあゆみと亜久里も一緒だった。
 みんなの帰宅を見届けて、このプリキュアたちのことを知って、自分たちのことも知ってもらって、フーちゃんやグレルやエンエンの友達になる妖精たちも紹介してもらって。
 亜久里を家に送り届けて、その前に、エルちゃんと一緒に出かける計画も相談したい。
 まだまだ盛りだくさんの一日になりそうだった。

224makiray:2023/01/21(土) 21:12:50
お騒がせしました〜。

225名無しさん:2023/01/22(日) 00:11:23
>>224
意外な組み合わせ!
でも入り口のシーンでは、確かに彼女なら……でした。
相変わらず一生懸命なあゆみと、グレル、エンエン、フーちゃんとの組み合わせが好きです。
楽しませて頂きました。


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