街の書店でベストセラーを買えないのはなぜか。棚に並ぶことなく出版社に返品される本はなぜ発生するのか。硬直していると言われる本の再販制度が守られているのはなぜか――これらの問題を考えるのに避けて通れないのが、日販とトーハンの2大取次だ。出版不況が止まらないのはなぜか? 本記事ではそれを、流通から考えていく。
[長浜淳之介,Business Media 誠]
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いじゅういん・しずか/1950年山口県生まれ。CMディレクターを経て、'81年短編小説『皐月』でデビュー。'92年『受け月』で直木賞を受賞。現在は同賞の選考委員を務める。近著は『無頼のススメ』(新潮社刊)。本誌上にて『それがどうした 男たちの流儀』連載中
ひがしやま・あきら/1968年台湾生まれ。5歳まで台北で過ごし、9歳の時に日本へ。福岡県在住。'02年『タード・オン・ザ・ラン』で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。'03年同作を改題した『逃亡作法TURD ON THE RUN』でデビュー。『流』で第153回直木賞受賞
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文学史を振り返れば、優れた翻訳は言語を豊かにしてきた。明治日本で西洋語の翻訳が日本語の幅を広げたという話は有名だと思われるが、英語もまた、その表現の最高峰にシェイクスピアと並んで必ずや欽定訳聖書が指摘される。しかも批評家として名高いF. O. マシーセンの、その名もズバリ『翻訳』という論文では、ラテンやギリシャの古典の英訳がシェイクスピアをはじめ当時の英語に影響を与えた「イングリッシュ・ルネサンス」が指摘されている。どんなに近い言語間でもその差がゼロということはあり得ない。それどころか講演では、漢字圏同士、アルファベット圏同士だと、つい引きずられて翻訳が上手くいかないという例も挙げられていた。とすれば翻訳とは、原理的には不可能かもしれないその差を埋めながら、実践的に最大限「等価」にすることだろう。だからこそ1言語の中だけでは起こらない変質が起こり、それはマズい場合には忘れられ、優れた場合には後世に残る豊かさを生む。
Economist
エコノミスト。世界金融危機を予測できなかった人。大抵は普通の数学者で、金融の理解に乏しい。Bernanke, Benを参照。
Bernanke, Ben
ベン・バーナンキ。前FRB議長。住宅バブルの崩壊前にその発生を発見できず、2007年にサブプライムローン問題は「封じ込め」られたと主張した。リーマン・ショック後は、グリーンスパン元FRB議長のスーパーバブルを再び膨らませることに成功。FRB議長を退任後間もなくして、ヘッジファンド大手シタデルに職を得たが、市場に関する洞察力を買われてのことでは恐らくないだろう。Revolving doorを参照。
Revolving door
回転ドア。元政府当局者がウォール街からもうかる仕事を提供され、「くら替え」すること(ルービン元米財務長官はシティグループ、グリーンスパン元FRB議長は米ヘッジファンドのポールソン&カンパニー、バーナンキ前FRB議長はシタデル)。日本では「天下り」として知られる。
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同市教育委員会に問い合わせたところ、卓上型の廉価版を2台設置し、その税別の見積額は276万2900円。ほかにサーバー管理用端末及びそれらの設置費用、システム構築費用が本体よりも高い281万610円(税別見積額)もかかっている。税込みトータルで、およそ600万円である。
「他のほとんどの産業と違って、出版産業は小売や卸売からの無制限の返品を受け付ける。実質的に、あらゆる本は委託で販売されているのだ。(Unlike most other industries, publishing allows unlimited returns from its retail and wholesale customers. In essence, every book sold is on consignment.)」
「出荷された月末から30日以内の支払いを約束するNet 30が、ほとんどの出版社の契約条件となっている。だが書籍では、実際の支払いは90日-120日後にしか実行されない。(Net 30, or payment within thirty days of the end of the month in which a book is shipped, is the norm that most publishers stipulate as their terms. In the book industry, though, most accounts actually pay in 90-120 days.)」 (以上は"Publishing for Profit" by Thomas Woll, 2010 AP通信は同書を「出版産業のバイブル」と称賛したとのこと)
「書籍は1930年代以降、返品可で販売されている。大恐慌のまっただ中、一部の出版社が書店に冒険するインセンティブを与えようと決意したのが始まりだ。われわれは、以来このイノベーションの影響下に置かれたままだ。 (Books have been sold on a returnable basis since the 1930s when, in the depths of the Depression, some of the major publishers decided to offer accounts an incentive to take greater up front risks. We have been living with the aftermath of this innovation ever since.」) 『"The Book Publisher's Handbook" by Eric Kampmann, 2007』
「書籍産業は返品という伝統において少し奇妙な業界だ。書店や取次は、売れなかった本を出版社に戻せば返金を受けられる。この慣習は、米国では19世紀半ばに導入されて以来、1930年代まで断続的に用いられ、サイモンシュスターが1943年、「ワン・ワールド」という本で完全返金保証をしたときに概ね制度化された。(The book industry is somewhat unique in its tradition of returns. Retailers and wholesalers are generally allowed to return unsold books to publishers for credit. )『"Reluctant Capitalist" by Laura J. Miller, 2012』
関連文献で見る限り、この点では英国の出版界も基本的には同じ仕組みを採用している。主に英国の観点から出版界の基本を説いた『" Professional Guide to Publishing" by Gill Davies and Richard Balkwill, 2011』は、こう言う。