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Tohazugatali Book Review

317名無しさん:2015/09/23(水) 20:05:47
>>316

27歳の時に著者の実母ジュディに一目惚れし、彼女を誘惑して「アイスクリーム・ロマン」とマスコミから騒がれた逃避行は、それ自体がとても興味深く面白い。ヴァンがゾディアックであるかどうかに関わりなく、この話だけでも一冊の本になりそうだ。しかし文字数の関係上ここでは割愛する。

ジュディのいない間にヴァンが子供を捨てたことに、驚愕した彼女は彼の下から去り、それがきっかけでヴァンは警察に逮捕されることになる。彼女は成人後、一回り以上年上のロテアという黒人警官と再婚する。黒人差別が公然と行われていた当時、彼は尋常ではない努力で市警の中に蔓延する黒人差別と闘い、異例の出世を遂げていく。市警の花形であり、白人しかなれなかった殺人課の刑事に、黒人で初めて抜擢されたのも彼だ。さらに彼は政界にも進出し、サンフランシスコの黒人社会で名士としての地位を確立する。

父の手掛かりを探す際に著者とジュディは、今は亡きロテアの部下たちを頼る。市警の幹部になっているロテアの部下たちは、最初こそ犯歴を基にヴァンの足跡を追う事を手伝うと約束するが、すぐに態度を一変させる。ヴァンの捜査から手を引けと圧力かけ始めるのだ。

著者は壁にぶつかる。そんな時、偶然テレビで放送されたゾディアク事件のドキュメンタリーを見た著者は衝撃を受ける。警察が作成したゾディアックの似顔絵とロテアの部下が彼に渡してくれた父の写真が瓜二つだったのだ。さらに、ゾディアックの似顔絵を見た息子は「パパそっくりだ」と著者の顔を見つめる。

ロテアの部下たちの圧力、父そっくりのゾディアクの似顔絵。著者ゲーリーはヴァンがゾディアックではないかと疑いを持つ。サンフランシスコの黒人社会で伝説化しているロテアの妻がゾデイアックの前妻だという事はあまりにも不都合な真実ではないのか?ここから、サンフランシスコ市警との熾烈な駆け引きが始まる事になる。

ゾディアックのDNAデータの一部が市警に残されていることを知り、DNA鑑定を申し出る。著者に好意的に接し、再捜査を約束した殺人課の課長が、裏ではゾディアック事件の捜査を打ち切る事を決定し、一切の再捜査を認めていない張本人であったことがわかるなど、捜査は難航を極める。
誰が味方で誰が敵なのか。彼らはなぜヴァンの経歴を隠そうとするのか。謎が謎を呼ぶ。著者は数々の困難にあいながらも、いくつかの決定的な証拠を手にし、本書を通じて世間に問いかける。この事件では政治がらみの隠ぺいがあったのではないかと。

最初は共通点のない個別の物語のように思える、バラバラな物語が終盤にいたる過程でひとつの真実へと収斂していく手法は、まるでミステリー小説を読んでいるようで、ページをめくる手が止まらなくなる。また、養父母の苦悩や家族のあり方、実母との関係の再構築という点を追えば、家族の再生の物語という側面も本書にはある。まさにミステリーと家族の再生を見事に織り交ぜた極上のノンフィクション作品だ。

鰐部 祥平


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