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生命ノ在処<イノチノアリカ>
1
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/06(水) 17:16:39 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
――生きることは幸福か、それとも不幸か
死することは不幸か、それとも幸福か――
天国?
地獄?
「何処でも良い。<命>を終えれば解るのだから」――と、少年(少女)は笑った。
◆◇◆◇◆◇
はい、初めましての方が殆どかと思いますが、ご存知の方はこんにちは。つい最近小説板に蔓延り始めたbitter(ビター)です。
只今一作目の途中なのですが、無謀にも二作目を投下してみる事にしました。
一作目同様更新は非常に亀、かつ文章が安定しない恐れがあるので、お時間があれば暇潰し程度に覗いて下されば幸いですノ
では軽くルールのようなものを↓
【壱】 荒らし、チェンメ、アスキーアート等はご遠慮下さい。
【弐】 感想・アドバイスは常時受け付けておりますので、一言でもコメントしてくださると泣いて喜びます。作者が←
【参】 今回の物語は和風ファンタジー的なものです。天使や悪魔、鬼などは登場しませんが、非現実的な設定があります。
【四】 ストーリはほのぼのを中心に、シリアスや恋愛が入っています。あまりにも激しい描写はなるべく避けますが、一応戦闘もありますので苦手な方はご注意下さい。
【伍】 盗作は一切しておりません。万が一何かと酷似している点がありましたら、お手数ですが教えて下さると嬉しいですノ
以上です、あとは最低限のモラルを持参して頂ければ←
それでは次レスから始めますねノ
2
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/06(水) 17:23:10 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
序章 「夢と現(うつつ)と幻と」
――嫌だ、もうこれ以上……。
誰か早く、〝私〟終わらせて――
少女が泣いている。
嫌だ、嫌だと、ただ泣きじゃくっている。
これは見慣れた夢――俺はいつも通り、蹲った小さな背中へ手を伸ばす。
「……またか」
――いつもいつも、決まってここで目が覚める。
薄暗い部屋で目覚めた黒髪黒眼の少年――昌(しょう)は、空を切った右腕を見つめぽつりと呟いた。
ここ最近ずっとこんな調子だ。寝不足からくる欠伸を噛み殺しながら立ち上がり、寝乱れた着物を軽く直して部屋の引き戸に手を掛ける。
まだ夜明けには少し早い――
「よし、またあそこに行くか」
〝あそこ〟とは此処から大分離れた裏山の頂に位置する神社の事であり、昌が心底気に入っている場所だ。
今から行くとなると普通ならば半日は掛かるが、幼少時からずば抜けた体力を持つ昌にそれは当て嵌まらない。
暇さえあれば山を登り、五時間程で山頂に辿り着いては其処から日の出を拝むのが昌の楽しみだった。
今日もまたそれは変わらず、息切れさえせずに登り着いた場所で昇陽の時を待つ。
やがて少しずつ顔を覗かせはじめた太陽は美しく、昌の纏う着物と同じ濃紺だった空を白く塗り替えた。
――ああ、やっぱり綺麗だ。
今日もまた、そう呟いていつも通りの一日が始まる
――筈だった。
「おい、其処で何をしている」
柔らかく――そして穏やかに流れていた空気を、鋭い声が貫く。
男にしては高いし、女にしては低い。所謂中性的な声だ。
背後から響いたそれに対し反射的に振り返った昌は、其処に佇む人物を見て言葉を無くした。
投げ掛けられた問いに答える事も忘れ、目を離せずに見入る。
昇ったばかりの朝日を反射し、光を受けた水面のようにきらきらと輝く銀の短髪――凛々しく吊り上がった双眸は透き通った碧(あお)色を湛え、繊細なガラス細工のような睫毛に縁取られていた。
服装はと言えば、袴が濃藍なのを除けば典型的な巫女装束。
少女と称するのが妥当な年頃だろうその身体は細く――今にも折れてしまいそうだ、そんな印象を昌に抱かせた。
それでもすらりと背筋を伸ばした立ち姿は、言い表すなら〝美しい〟の一言で。
こんな姿を目にして見入るなという方が無理だろう――そんな甘い考えを巡らせている昌の目に少女が携える刀が映っている筈もなく、
――ほぼ放心状態で固まっている昌を目掛け、容赦なく白銀の刃が振り下ろされた。
「……すげぇ、こんな美人初めて見た――――、て危なっ!」
辛うじて避けなんとか受身を取った昌だが、直後――刃同様鋭い少女の怒号が飛んだ。
「ふん、自業自得だこの愚者ッ! 此処で何かしていたのか、していなかったのかっ! どちらなのかさっさと答えろ愚者!!」
「――っ、分かった! 分かったからそれ下ろせ!」
何故(なにゆえ)今日、それもついさっき出会った相手に二度も〝愚者(ぐしゃ)〟呼ばわりされなくてはならないのか――そう思わずにはいられなかったが、先程のようにもたもたしていては今度こそ命が散る。
場所は良いとして、意味も分からず死んでいくのは御免だ。
まずは保身の為、昌は再び振り上げられた刀を下ろしてくれるよう訴えた。
実際口を突いて出たのはほぼ叫びのようなものだったが、そこまで回る頭はなかったようで。
「…………愚者、貴様名は?」
長い沈黙の後、響いたのは少女の口から紡がれた新たな問いだった。
――俺が愚者なのは前提なのか? あとお前、絶対名前聞くタイミング間違ってるぞ。
瞬時に浮かんでは消える、少女に対する突っ込み。
「あー……昌(しょう)だよ。此処にはただ、日の出を拝みに来ただけだ」
色々と言いたい事はあったが、折角攻撃の手が緩んだのだから――と早口で名を告げる。
言葉はじめから頭を掻く左手は止めないまま、最後に「他意はない」と付け足した。
〝昌〟と告げた瞬間――少女の切れ長の瞳が僅かに揺らいだように見えたが、きっと気のせいだろう。
「……それは、本当だな?」
「ああ」
「そうか……なら、いい」
――何に対しての許しなのか、それは分からない。
それだけ紡いだ少女は妙に大人しく、先程までの気迫はどこへやら。何処か安堵したような表情で碧い瞳を伏せている。
その様子をただ眺めていた昌は、少女の顔付近に遣っていた視線を下ろし、同時に軽く首を傾げた。
3
:
ひ
:2012/06/06(水) 18:01:47 HOST:sannin29174.nirai.ne.jp
私、いじめの小説を書こうとおもって、・・・・いじめられている人を、たすけたいんです!
4
:
名無しさん
:2012/06/06(水) 18:02:16 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>3
死ねばいいじゃん。
5
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/06(水) 18:07:23 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
見遣った先は少女の手元――しっかりと握られているだろう刀が、カタカタと小さな音を立てて揺れているのだ。
それはつまり、少女の身体自体が振動しているという事。
――しかし、覚えている限りここまでの短い流れで少女が怯えるような要素は全く無い。
「おい、お前何で震えて――」
「私に触れるなッ、!!」
一瞬で、少女に鬼のような気迫が甦った。
不思議に思い伸ばしただけの腕を払われた昌は、訳が分からず少女を見つめる。
「触れるな、触れたら…………」
「……、触れたら?」
実際は掠りもしなかった指先を引っ込め、言葉の先を促す。
――が、少女はそれを拒絶するようにくるりと背を向けてしまった。
「お――」
「何もしていなかったのなら、もう貴様に用は無い。何処へでも去れ……今すぐ去れ!」
今度は〝おい〟と言う事も出来ず、遮られた言葉。
結局何をしたかったのかよく分からないまま、少女の声は表立って〝拒絶〟を示した。
白い袖を翻し、走り出したその姿は瞬く間に小さくなる。
やがて少女は生い茂った草むらに身を投じ、その場には昌一人だけが残された。
やはり言いたい事は色々あったが、最も重要だろう事を口にする。
「まだ名前、聞いてねぇんだけど……」
◆◇◆
「――――なるほど。ていうか昌、あんたそれ本気で言ってる訳じゃないだろう?」
その日の夕方。
慌しく帰ってきたと思えば〝聞いて欲しいことがある〟と詰め寄られ、一部始終を聞かされた昌の姉――珠南(しゅな)は、最後にそう問い掛けた。
それに対し昌は、今まで何を聞いていたんだとばかりに食って掛かる。
「本気に決まってるだろ馬鹿っ! 全部事実だ!」
「馬鹿とは失敬な。そうはいっても……はっきり言って、現実味がないんだよ」
冷静に零された珠南の言い分は最もだ。
いつもの様に日の出を拝んでいたら銀髪の巫女が現れて、何故か物凄い剣幕で刀を向けられて――よく分からないまま、その巫女は何処かへ消えてしまった。
――こんな説明をされれば、珠南でなくとも同じ反応を返すだろう。
理解不能、浮かぶのは精々その四文字だけだ。
しかし、その出来事を身を以って体験した張本人である昌は、諦めきれずに言葉を続けた。
「とにかく俺は確かに見たんだよ、あれは巫女だった! ……と思う」
言っている途中少女の袴の藍色と銀の髪を思い出し、中途半端に締めくくる。
それは、巫女といえば白い着物に緋色の袴、艶やかな漆黒の髪――というこれまでのイメージに引き摺られた結果に他ならない。
そんな昌の様子に、珠南は小さく――だがはっきりと溜息を零した。
「……で、会ったのはその巫女〝モドキ〟だけなのかい?」
「ああ。……他には誰もいなかった」
「そ。まぁそうだろうさ、あの神社は……〝もう何年も人の手が入ってない〟んだからね」
一瞬、流れる沈黙。
「…………姉貴、今何て言った?」
6
:
虎視眈々
:2012/06/07(木) 18:29:34 HOST:i125-203-189-31.s41.a018.ap.plala.or.jp
bitterさん≫
このお話読ませていただきましたが、とても面白いです。
これからもドンドン書いてくださいね!!!
でもあまり無理はせず頑張ってください。
7
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/07(木) 19:36:24 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>虎視眈々さん
はじめまして。コメント有難う御座います!
面白いと言って頂けて、とても嬉しいです^^
はい、なるべく頑張って更新しますね。お暇がありましたら、是非またお越し下さいね+ノ
8
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/07(木) 21:13:46 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
「……は? だからあの神社にもう人は居な――」
「そんな訳があるか!」
「ちょっと昌――」
「鳥居も神社の建物自体も、まだ立派だった……」
毎回よく観察している訳ではない為色合いまでは思い出せないが、手入れが行き届いていない――なんて様子は微塵も感じられなかった。
そう、実際巫女が存在していても違和感などなかったのだから。
怪訝そうな表情で話す姉の言葉を尽く遮り、昌は目にした事実を訴え続けた。
しかし珠南の顔に納得の色は浮かばず、逆に疑心や困惑が見え隠れするばかり――
やがて珠南は昌によく似た――鴉(からす)のような黒髪を揺らし、軽く首を傾けた。
「それが本当なら再建されたのかもしれないね。でも昌、あんたその娘(こ)と会ったのは今日が初めてだって言ってたろ」
「? あぁ、言ったけど。それがどうかしたか?」
今度は昌が首を傾げ、珠南に言葉の先を求める。
「仮に今までの話が本当で、あんたの言う巫女があの神社に居たとして――何で〝今まで気がつかなかったんだ〟」
――毎日のようにあの場所に行っていたあんたなら、簡単に気付けた筈だろう?
そう言って傾けた首の角度を深くした珠南に、昌は何も言い返せなかった。
正論だったのだ。
幾ら昇る朝日に見惚れていたとしても、確かに存在する他者の気配に気が付けないなど有り得るのだろうか――否、有り得ない。
現にあの少女は、気配を隠すどころか凄まじいまでの〝存在〟を主張していたじゃないか。
そこまで考えると居てもたってもいられず、腰を落ち着けていた場所から勢いよく立ち上がる。
昌はそのまま出入り口の方向へ駆け、何処へ行くんだと言いたげな姉を振り返った。
「確かめて来る!」
引き戸を開けて外に出ればもう周囲の音は耳に入らず、昌はただ走った。
自身の目が正しい事を願って、あの少女が幻ではない事を願って――
「……よく、…………見えねえな」
神社に辿り着いた頃にはすっかり日が暮れ、丁度早朝とは正反対の景色が其処にはあった。
月明かりだけが照らす社殿は殆ど闇に隠され、その状態はおろか――大まかな色さえ満足に確認出来ない。
――これは無駄足だったかもしれない。
薄っすらそんな考えが頭を過(よ)ぎるが、今更引き返す気にもなれず、昌は神社の入口――鳥居へと足を進めた。
やはり夜という事があってか、明るい陽光が注いでいる時間帯とはまるで違う雰囲気だ。
やがて目の前に迫った鳥居の柱に触れ、指先を滑らせた。
が――ここである違和感を覚え、昌は瞳を瞬かせた。
おかしいな、朝見た時そんな様子はなかったのに――――
「ぼろぼろだ……」
ざらりと伝わる感触は、滑らかな塗装ではない――木の手触り。
余程鮮やかなのか暗闇の中でも赤い鳥居だと分かったが、その赤色は所々剥がれ明らかに老朽化していた。
当然の如く、境内に人の気配はない。――全て、珠南が昌に聞かせた通りだった。
じゃあ、今朝俺が見た光景は一体何だったんだ。
立派な建物を構えた神社も巫女も、此処には居ない。
――嗚呼、本当に無駄足だったらしい。
そこで、昌の意識は途切れた。
◆◇◆
「――い、――――」
――何だ、誰かの声?
「――おい、――きろ」
五月蝿いな、ていうか何言ってるか全然聞こえな――
「いい加減起きろ貴様ぁあああ!!」
「どわああぁああああ――ッ!?」
突如、鼓膜を貫いた怒号。
その凄まじい声量に、昌の意識は一気に覚醒した。
重たい瞼を開き直すと目に入ったのは、既に夜の闇など一片も残らない青空。
雲が掛かっている為白っぽくも見えるが、朝がきているという事は間違いなかった。
どうやら鳥居の柱を背に眠っていたらしい。
「あー……朝か。……、背中痛ぇ…………」
盛大な欠伸を零しつつ、言葉そのままに背中をさする昌。
その無防備な後頭部に、容赦ない一撃が飛んだ。
「漸く起きたか。私がわざわざ目を覚まさせてやったのだ、感謝しろ愚か者」
9
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/09(土) 11:15:44 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
「い、だっ! いきなり何しやが―――あれ、お前……」
ゴスッと鈍い音を立てた後頭部を押さえ振り返った昌は、その先に佇む人物にぽかん、と口を開けた。
もはや、何故柱があるのに背後から拳が飛んできたのか――なんていう疑問は脳内から消滅している。
最も、その理由は〝既に柱から離れていた〟という至極簡単なものなのだが。
――未だ頭に寝ぼけが残る昌が気付く様子は無い。
ふらりと立ち上がったまま停止している昌を見かね、その眼前に立つ人影は大きく息を吸い込んだ。
そして、
「起 き ろ と 言 っ て い る ! ! 」
と渾身の声量で怒号を繰り返した。
当然、それに対し黙っている事など出来る筈もなく――耐えられずに耳を塞ぎ、飛び退くように真横へ移動した昌へ冷やかな双眸が向けられる。
それは昌にとって紛れもなく――見覚えのある碧い瞳だった。
「……お前、昨日も此処に居たよな?」
確信するなり零れたのは、本当に聞きたい事とは若干ずれた問い。
しかし――それも昌にとって知りたい事であるのには変わりなく、言い直そうとはせずに返答を待った。
「それがどうした」
少しの間を空けてそう返した少女が、意図が理解出来ない――と言わんばかりに首を傾げ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「……いや、お前此処の巫女だよな?」
「まぁそんなものだ」
「此処に居たんだよな?」
「当然だ。昨日会っただろう」
「…………」
質問攻めの末、疑問が増えるばかりの答えに昌は黙り込んだ。
その後すかさず沈黙を破り、少女の声が響く。
「……おい、貴様一体何を言いたい? 今、眼前に居る私が〝幻〟だとでも思っているのか?」
思っていないと言えば嘘になる。
だけど少女は確かに此処に居て、でも昨夜は――
「ああああ分からねえ……ッ!!」
考えれば考えるほど深みに嵌っていく。
そんな感覚になり、昌は大きく振った頭を両腕で掻き乱した。
跳ね癖の強い黒髪が揺れ――大きく開いた口からは疑問府で満ちた叫びが響く。
「……私に言わせてみれば、貴様の行動全てが理解不能なのだがな…………」
呆れ気味にそう呟いた少女の声は、混乱状態の昌には届かない。
場の空気に合わない朝方の爽やかな風が、二人の間を吹き抜けた。
それから数秒の沈黙が流れ――
「帰る」
もう付き合いきれないと判断しそう発した少女が、〝青い〟鳥居を抜けて境内へ歩き出した。
軽く意識を飛ばしていた昌はその足音に漸く我に返り、慌てて少女の背を追う。
「待て待てッ、まだ帰られちゃ困る! ……いや、別に困らないか? っああもうどっちでもいいが、せめて名乗ってから帰れ。俺はちゃんと名乗ったろ?」
何やら自問自答付きでぶっきらぼうに問われ、振り返った少女の瞳に一瞬ぽかん、とした色が浮かぶ。
要するに、〝何を問われているのか分からない〟――そんな表情を浮かべたのだ。
そして少女は一言、
「……必要か?」
と、仏頂面に戻って問い返した。
「必要だから聞いてんだよ、普通初対面同士なら自己紹介ぐらいするだろ。それに――俺だけが名乗りっ放しなのは不公平だ」
「…………変わった男だな」
「俺は別に普通だ、変わってんのはお前だよ」
「…………」
自己紹介(そんなこと)をして一体何の意味があるのだ――これは正論だ、とばかりに詰め寄ってくる昌を余所に、少女はただぽつりとそう零した。
無視する事も出来た筈だが、反応してしまった以上何も言わずに立ち去るのは後味が悪い。
少女に向けられる黒の双眸は、恐らく彼女が名乗るまで逸らされる事はないだろう。
凝視される感覚に耐え切れなかったのか、少女は視線を昌から外し完全に背を向けてから答えた。
「――――織(おり)だ」
女子(おなご)にしては低いが、凛と透き通った声が昌の耳に届く。
それだけ告げると、少女――織は今度こそ社殿へ歩き出した。
――瞬間、強い冷風が吹き抜ける。
「っ……!」
思わず瞳を閉じ、身構える昌。
数秒後――その双眸が再び境内へ向けられる頃には、織の姿は消えていた。
まるで最初から誰も居なかったかのように、その他の景色だけが悠然と保たれている。
「本当、よく分からねえな……」
増えるばかりの疑問にそう呟くが、それを発した張本人である昌の顔には、先程までのような〝混乱〟は浮かんでいない。
寧ろ、謎ばかりの人物――場所に対する〝好奇心〟で溢れていた。
織――男勝りで強気な彼女とは、きっとこれからも顔を合わせるだろう。
いや、見当たらなければ捜し出してみせる。
――そんな確信めいた思いを胸に、昌は山道を下った。
今日もまた、新しい一日が始まる――――。
10
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/09(土) 21:13:40 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
初めまして、になると思われます。竜野翔太です。
コメントさせていただきますね。
タイトルに惹かれ、一気に読ませていただきました。
個人的には織と珠南のキャラに好感が持てます。いや、別に巫女やお姉さんキャラがストライクとかそういうのではなくt((
しかし、謎が深まる一方ですね。
これからも続きに期待しております。
あと、読んでて思ったのですが、個人的には『―――』が多いと思われます。
台詞などが遮られる時はよく使われますが、他にも句点や三点リーダなどを使うことをお勧めいたします。
厚かましく意見させてもらいましたが、個人的に思っただけなので、スルーして下さって構いません。
それでは、失礼致します。
11
:
虎視眈々
:2012/06/09(土) 21:18:49 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
竜野さんと同意見です!!
織さんって神秘的っぽくてなんかかっこいい感じです!!
自分で織さんを想像しただけでもなんか憧れます!
bitterさんにとって織さんはどんな感じのキャラなんですか?
12
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/10(日) 12:06:15 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>竜野さん
初めまして、コメント有難う御座います!
おおう、織に好感を持って頂けるとは…←実はタイトル以上に名付けに時間が
掛かった子なので、そう言って頂けて嬉しいです。
キャラについては、護られる女の子じゃなくて戦える女の子がいいなぁ、と設定した結果です。
最終的に男よりも強そうな子が出来上がりましt((
珠南は案外すんなり名前まで決まった姐御キャラですね←
――(ダッシュ)の多さについては自分でも薄っすら気付いてたんですが、
やっぱり大量発生しすぎですよね;なんとか適度に減らせるよう気をつけたいと思います。
いえいえ、貴重なアドバイスとても有難いです^^ご期待に応えられる様頑張りますねノ
>>虎視さん
再びのお越し有難う御座います^^
あれ、織人気…?←
神秘的だなんて表現をして頂けるなんて、嬉しいですが吃驚でs((
そうですね……織は「磨き抜かれた刀身」のイメージがあります。
とにかく真っ直ぐで鋭くて、多分嘘とかは嫌いな子ですよ^^
13
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/10(日) 22:08:28 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
一章 「太陽の国、月の郷(さと)」
「じゃあ姉貴、行って来るな」
「ああ、いってらっしゃい。しっかり稼いで来るんだよ?」
謎の巫女に会い数日が経過した、桜舞う春の朝。
早朝に出向いた神社から帰った昌は、身支度を整え直して再び家を出た。
深緑の袖を揺らし戸口で手を振る珠南を振り返り、「おう」といつも通りのやり取りを終えてからその場を離れる。
それから数分歩き一つ目の角を曲がった直後、昌の進行方向に人影が飛び出した。
「よ、おはよーさんっ! 今日も眠そうだな、昌」
「……清(しん)、お前は今日も無駄に元気だな」
栗色の猫毛を揺らし、半ば飛び掛るように昌へ走り寄ってきた少年の名は清吾(しんご)。
昌とは幼馴染で、幼少時は二人揃って散々暴れ回った仲だ。
確か〝天照の暴走族〟とかいう大層な渾名(あだな)付きだったな、と薄っすら記憶を辿りつつ、昌はすぐ目の前まで来た清吾へ言葉を返す。
天照(アマテラス)は自分達が暮らしてきたこの国の名、暴走族は単に見たままを表現した結果だろう。
「何だよその反応―、昔はもっと乗ってくれただろー?」
昌自身棒読みになった事は自覚していたが、案の定口を尖らせた清吾が不満げに昌を見た。
髪より少しだけ濃い栗色を湛えた双眸が、じとーっと細められる。
――その目は一体、俺にどういう切り返しを期待してるんだ。
同じように元気よく挨拶を返せば良かったのか? そうなのか?
向けられる視線に、昌は突っ込みやら問い掛けやらで忙しい思考を巡らせた。
しかし大分幼かった頃とは違い、今は二人共に16歳。
まだ成人の歳には満たないとはいえ、近所の子供とつるんで遊び回る歳、とも言い難いのが現実だ。
そんな自身の考えを貫き、
「昔は、だろ。もうガキっていう歳でもねぇんだ、暴走族は卒業したんだよ」
と、清吾の額を指で弾く。
弾かれた額を押さえ、大袈裟に飛び退いた清吾は暫く不満げな表情を崩さなかったが、数秒経過し昌の気が変わらない事を悟ると、諦めたように息を吐いた。
「あー……、美人なお姉さんとばったり会ったりしねーかなぁ」
だらしなく開いた清吾の口から紡がれたのは、先程までの流れとは関係ないにもほどがあるぼやき。
「……またお前は。そんな都合の良い事有り得るわけ…………、あ」
美人。そう聞いて昌の脳裏を過ぎったのは、織と名乗った巫女の事。
いつものように流そうと試みていた途中――そんなタイミングで思い出してしまった為に、言葉が不自然に切れた上音のような声を漏らしてしまった。
不味い。そう思った時には既に遅く、ザザザッと擬音が聞こえそうな勢いで清吾に詰め寄られる。
「あ!? あって何だよお前! まさか最近美人に会ったとか――」
「い……や、ないないっ! 断じて無い!!」
図星だった。が、肯定すれば〝会わせろ〟と騒ぐのは目に見えている為、昌は出来る限りの否定を示す。
「……本当か?」
向けられる、目一杯疑心に溢れた瞳。
それでも決して言うまいと、昌は内心冷や汗を流しながら数度頷く。
「な い ! こんな事で嘘吐いたって何の得もねえだろッ」
「……んー、それもそっか。そうだよなぁ……」
「ああ。ほら、馬鹿言ってると置いてくぞ」
数秒の思案。昌は最終的に納得したらしい清吾の様子に安堵の息を吐き、適当に話を終わらせて足を進めた。
「馬鹿は余計だ」等と文句を言いつつ、清吾が後に続く。
どうやら先程までの話題は既に頭にないようで、完全に〝馬鹿〟という単語に食いついている。
――単純な奴で良かった。
昌はこの時、16年間の人生で初めて神に感謝した。
14
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/17(日) 11:47:10 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
時は流れ、正午に差し掛かる二時間前。
「っ……何か、妙に人多くないか?」
目的地――城下町に着いてすぐにざわざわと騒ぐ人混みに飲まれ、振り返った清吾がそう問い掛ける。
問われた昌は同時に向けられた栗色の瞳と視線を合わせ、「ああ」と短い返事と共に頷いた。
その僅かな間にも人々が押し寄せ、我先にといった様子で一定の方向へ流れていく。
一体何を目指しているのか、その様はまるで荒波のようだ。
風に乗って微かに聞こえる甲高い泣き声は、恐らくこの状況で親とはぐれた幼子のものだろう。
今日は祭日か何かだっただろうか。
明らかにいつもと異なる町の様子に、昌はふとそう考えたが、特にこれといった行事は思い当たらない。
「なぁ、今日祭りか何かあったか?」
「いんや、何もなかった筈だぜ」
「……だよな」
最初に見せた人混みへの反応からして分かり切ってはいたが、一応問い掛けてみるも清吾から返されたのは予想通りの答え。
いよいよ分からなくなった目の前の状況に二人で顔を見合わせるが、何か浮かぶでもなく揃って首を傾げるだけだった。
取り敢えずこの場に留まっていても仕方がないと踏み出し、人波に流されないよう注意しながら先を急ぐ。
が、
「うわっ!」
ひたすらに人を掻き分けて進んでいる途中、何かに正面から衝突し、二人の口から同時に悲鳴が零れた。
昌は立ち塞がった〝何か〟に当たった鼻を押さえ、その後ろを歩いていた清吾は昌の後頭部に打ち付けた額を擦る。
「痛っ、ててて……何だよもう」
「ヒヒッ、ごめんごめん。でも前方不注意だった君達も悪いンだよ?」
「!?」
痛みに耐えながら小さく呟いた瞬間頭上から響いた声に、昌はびくりと肩を揺らした。
恐る恐る顔を上げ、声の主を見上げる。
「弥麗(ビレイ)さん……、おどかすなよ」
「だから御免ってば。わざわざ迎えに来てあげたっていうのに、つれないねェ」
「……迎え?」
白い長髪を揺らし、若干不満げに紡がれた言葉。
その内容に首を傾げ、昌は目の前の男を見上げた。
紅の双眸で此方を見つめる彼の名は朱 弥麗(シュウ ビレイ)。昌と清吾、二人をまとめて雇用してくれている甘味屋の主人だ。
腰を余裕で過ぎる白髪(はくはつ)に濃紅の瞳、そして独特な物腰という妖しさ満載の容姿と人柄の影響で周囲の人々とは若干距離があるが、店はそれなりに繁盛している。
改めて考えると不思議な事だが、この人の場合気にしたら負けだと大分昔に諦めていた。
此処。天照(アマテラス)大国内で唯一苗字を持つ人物であり、噂では異国からの流れ者らしいが、自宅を兼ねる店の奥にはこの国の歴史や伝説……その他あらゆる情報を綴った資料が溢れていたりと、まさに謎の塊と言える人物だ。
そんな弥麗がわざわざ自分達二人を迎えに来る理由が分からず、改めて見上げた昌の視線が紅の瞳と交わる。
「そ、お迎え。びっくりしたかイ?」
「いや、吃驚は……したけど。何でわざわざ」
「まじビックリしましたよ弥麗さん! いつもはお店で待ってるのに」
弥麗に対する昌の言葉を遮り、結果二人の会話に乱入した清吾がそう言って大きな瞳を瞬かせた。
「嗚呼、そうだねェ。でも今日はホラ……町がこんなに混雑しているだろう? 大事な働き手が迷っちゃ大変だからサ」
弥麗はゆっくりと告げ、やはりヒヒッと妖しげな笑みを零した。
同時に幾つもの指輪が光る指先を少年二人の頭に乗せ、ぽんぽん、と軽く叩くように撫でる。
青年が少年の頭を撫でる――本来微笑ましい光景なのだが、弥麗という男が実行すると奇妙なだけなのは言うまでもない。
「…………」
それを分かっている上でなんとも微妙な表情を浮かべている昌と、感銘を受けたように瞳を輝かせている清吾とを交互に見遣り、弥麗はもう一言続けた。
頭を撫でていた手は改めて伸ばされ、
「さ、行こうカ。着くまでしっかり握ってるんだよ?」
15
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/19(火) 19:49:03 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
◆◇◆
「そういえば、今日は王(おおきみ)がこの城下にいらしてるらしいよ」
少し歩いた先、時間にしておよそ五分。
それまで無言で足を進めていた弥麗が唐突に口を開いた。
「王(おおきみ)が?」
大人しく手を引かれたまま、昌がそう言って顔を上げる。
つられて同じ事をした清吾も、不思議そうな表情を浮かべて弥麗を見遣った。
王(おおきみ)とは、別称〝天子(てんし)〟とも呼ばれる……文字通りこの天照大国の長(おさ)だ。
人当たりが良く穏やかで、比較的親しみやすい人物として知られている。
しかしその反面、顔面は常に黒い薄布で覆われており、〝未だ嘗て、誰一人としてその素顔を見る事は叶っていない〟という、どこか謎に包まれている存在でもあった。
そんな王(おおきみ)が城の外を出歩いているとなれば、町が混雑するのも頷ける。
「あの人が来ててこれなら、案外マシかもな……」
弥麗の左手をしっかり握ったまま周囲を見回し、しみじみと呟く清吾。
昌がそれに同意して頷きかけた時、
「きゃっ」
――とん、と何かが腰辺りにぶつかった。
昌の身長は現在約167センチ(まだまだ伸びる予定)。
その腰にぶつかるという事は、小さな子供だろうか……。
そう思って肩越しに後ろを振り返ると、3、4歳程の少女がその場に尻餅をついていた。
此方にとっては些細なものでも少女にしてみればそれなりの衝撃だったようで、大きな茶色の瞳は薄っすら泪に濡れている。
「おやまァ……」
昌と同じように振り返り、目に入った光景に小さく息を吐く弥麗。
昌は繋いでいた手を離し、それをそのまま少女へ差し伸べた。
「悪いな、怪我無いか?」
「う、ん。……ありがとう、おにいちゃん」
もう片方の手も添えて抱き起こしてやると、少女はそう言って愛らしい笑顔を浮かべた。
それを見ると頬が綻び、昌の口元にも自然と笑顔が浮かぶ。
やがて少し離れた場所にいた母親に連れられ、少女は人混みの中へ消えていった。
ひらひらと何度も振られる小さな手が見えなくなるまで見送った後、
「……で、何で王(おおきみ)が城から下りて来たんだ?」
此処で漸く、昌は一番聞きたかった事を口にした。
王(おおきみ)は、一国を治める長であると同時に政治の要(かなめ)――親しまれているとはいえ、そう簡単に出歩ける立場ではない。
そもそも、祭日でもない日に城を空ける程行動的な人物ではない筈だ。
少なくとも、昌の中ではそんな人物像が創り上げられていた。
おそらくは、清吾も同じだろう。
揃って顔面に疑問府を浮かべっ放しの二人の様子に引き笑いを零し、弥麗はゆるりと口を開いた。
「それなんだけどサ、君達〝月詠(ツクヨ)族〟を知ってるかい?」
「え、と……あの〝不老不死の一族〟っていうやつか?」
「知ってる知ってる、小さい頃母ちゃんに聞かされた気が……」
昌、清吾の順で、口々に〝月詠族〟という存在について知っている事を答える。
それに対し弥麗はにこりと頷いて、
「そうそう、二人とも大当たり。その月詠族の存在がネ……王室(うえ)で騒がれ始めてるらしいンだよ」
一瞬、三人の間に沈黙が流れた。
「……月詠族って、本当に居るのか?」
その沈黙を最初に破ったのは清吾。
いつもの他愛無い会話なら一言二言突っ込みを入れる昌だが、そう出来る要素が見付からず、無言のまま思考を巡らせていた。
そんな昌の左頬を、伸ばされた細い指がつつく。
「ヒヒッ、その顔だと信じてないみたいだねェ……」
――当たり前だろう。
頬をつつく動きを止めない指先は敢えて無視し、昌は心中でそう零した。
16
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/20(水) 21:58:56 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
そもそも月詠族とは、この国に古くから伝えられてきた〝伝説〟……つまり御伽噺(おとぎばなし)と同等の存在でしかないのだ。
そんな不確定なモノの為に王(おおきみ)が動いた――?
正直〝不老不死の一族〟と伝わっている時点でどうにも胡散臭く、そういった類のものを信じない性質(たち)である昌としては納得し難い理由だった。
しかし、流石に真っ向から否定する事は出来ず、ぐりぐりと好き勝手に動き始めた指を払いつつあくまで冷静に問い掛ける。
「つまりアンタは、王(おおきみ)がその〝伝説〟の為に動いたって言いたいんだな?」
否定される事を願っていた。
しかし、そんな昌の思いとは裏腹に弥麗は愉しげに口を開き、
「勿論」
と一瞬の間も許さず肯定した。
まだ何か言いたげな昌の左手を握り直し、歩調を緩めないまま、今度は清吾にも聞かせるように言葉を続ける。
「我(ワタシ)は嘘を吐かない……まァ、最終的に信じるか否かは好きにおしよ」
「…………遠回しに信じろって言ってないか?」
「ヒヒッ、そんな事はないサ。たった今好きにおしと言ったばかりじゃないか」
可笑しな子だねェ、と笑う弥麗の横顔。
昌はそれを暫くじとーっと見ていたが、やがて諦め前方へ進む事に集中した。
「んー……なんかよく分かんないけど、取り敢えず早く行きましょうよ。甘味甘味!」
「そうだねェ、急ごうか」
「清吾……何度も言ったと思うが、売り物食うんじゃねぇぞ?」
「分かってるってー」
清吾の一言で、一気に能天気な方へ転んだ会話。
直前までの妙に重い空気は綺麗に消え去り、弥麗が営む甘味屋へ辿り着くまで、子供二人とそれを見て笑む大人一人のやり取りは続いた。
◆◇◆
その日の夜。
昌は気の向くままに裏山を訪れていた。
足を進めるたび脳裏を過ぎるのは、昼間城下で交わした弥麗との会話。
国を動かす長ともあろう者が、伝説一つに自ら腰を上げる事など有り得るのだろうか。
仮に真実だったとして、一体何が目的で――?
そんな事を考えながら黙々と歩いていると不意に頭上の影が晴れ、遠目に神社の鳥居が目に入った。
毎朝の日課とは違いちょっとした散歩のつもりだったが、無意識に頂(いただき)まで登りきってしまったらしい。
やはり息切れはしておらず、改めて自身の体力に感心しつつ暗闇に包まれた神社へと距離を詰めた。
そのまま境内へ踏み入ろうとした直後、
「っ!?」
――前触れも無く、獣の咆哮(ほうこう)が鼓膜を突いた。
喉の奥から絞り出したようなそれに思わず浮かせた足を戻し、大きく身を震わせる。
同時に背後を振り返り木々の奥を見渡すが、そこには闇が広がるばかり。
獣は愚か、何かが動く気配すら感じ取れない。
が、たった今響いた咆哮は現実だ。
本当なら今すぐにでも山を下り、帰路に着いた方が良いのだろうが、凍てつくような空気がそれを許さない。
かといってこのまま黙っているのも得策とは思えず、少しずつ足を動かし神社から遠ざかるように移動する。
「伏せろッ!!」
そんな声が鋭く響いたのは、山の頂上へ通じる山道の入口に立った時だった。
反射的に身を屈めた昌の真後ろで、どさり――と鈍い音が響く。
「……無事か?」
前方から掛けられた言葉に顔を上げると、白い袖の一部を紅く染めた織が肩で息をしながら此方を見下ろしていた。
17
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/06/22(金) 19:56:36 HOST:180-042-153-134.jp.fiberbit.net
初めまして。稀に見る文章力の高さだったのでコメントさせていただきました、森間です。
まず、ミステリアスな雰囲気が文章力にマッチしていて、良かったです。
前例に述べたとおり、文章力も高く、恥ずかしながら自分も学ぶところが多々ありました^^;
また、物語の伏線もタイミングが良く、スラスラ読めてしまいました。
それに加え改善点も少々あったので、挙げさせてもらいますね。
まずは文章の最初にスペースを空けるところですね。これは小説創作の初歩の初歩なので、必ずやっておきましょう。また、小説サイトなどを探し、再度基本が出来ているか、自分で確認してみましょう。
また、序章と一章の区切りですが、これは緊迫した謎が残る場面で区切った方が良いのでは? と思いました。序章は冒頭でも読者を惹くのに大切ですし、次の章からも読んで貰うために冒頭のラストも大切です。
ですので、個人的には
>>8
の昌の意識が途絶えた部分の方が面白く読み進められたかなと思いました。それに、必要以上に冒頭が長いと、少々諄さを感じてしまいます(ライトノベルなどの軽い物は多少の例外に含まれます)。
さらに文章力の高さには驚愕しましたが、目立たせたい部分の文章配分が甘さを感じました。文章力が高い故に、その分文章がごった返す危険性が高いです。物語に直接関係しないシーンはもっと簡潔に纏め、スッキリさせましょう。また、文章の中で意味が被っている文章が続けて書かれていたので、諄くならないよう見直してみては如何でしょうか?
設定に関しては、世界観がまだ謎が多いので、物語の段階を踏んで、もう少し裏付けを用意しましょう。
またストーリーに関して申させて貰いますと、最初に織と出会ったシーンですが、少々矛盾を感じました。
何をしているのか訊くだけであれほどの脅しを用意するでしょうか? 何か問題行動を起こしていると勘違いしてのことなら理解できますが、そこら辺、作者の都合で動いている気がして不自然でした。
それと、「天照の暴走族」の部分は主人公達の過去編としてもう少し出すのを待っても良かったと思います。物語に今の所関係していませんし、その分やはり世界観設定を出した方が良かったと思いました。
色々グダグダと書き綴ってしまいましたが、面白いと思いました。続きに期待しています^^
それでは、アドバイス参考にして頂けたら幸いです。
18
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/23(土) 12:10:03 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>森間 登助さん
初めまして、お越し頂き有難う御座います。
たった今、最初から最後までじっくりと読ませて頂きましたノ
まずはお褒め頂き有難う御座います^^
一応、言葉の使い方を誤らない様意味を調べながらやってはいますが、私の場合
文章を組み立てる事が苦手なので、そう言って頂けると本当に嬉しいです。
章と章の区切り、文章配分については、森間さんのアドバイス通り見直しを徹底して
読者にとって読み進めやすいものに出来るよう、努力していきたいと思います;
織の過剰反応(初対面で抜刀)については、彼女の性格等が関係してくるのでもう少し進んだ後に明かしていきます。
確かに作者の都合的なものが入っていないとは言い切れないのですが、それで納得して頂ければ幸いです^^;
どれも学ぶ事ばかりで、本当に参考になります^^
貴重なご意見、丁寧なアドバイス有難う御座いましたノシ
19
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/26(火) 18:45:49 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
「ああ……っと、織?」
咄嗟に思考がついていかず、立ち上がりながら確認するようにそう紡ぐ。
それを受けた織は怒るでもなく、ただ呆れたように息を吐いた。
はぁ、と響いた小さな音が、夜の空気に溶ける。
「……全く貴様は、何故こんな時間に山をうろついている。死にたいのか?」
もう何度も聞いた、冷めた声色。
しかしその内容は理解出来ず、昌は首を傾げた。
が、否定しようにも織の瞳は真剣そのもので、喉まで出掛かった言葉が奥へ引っ込む。
確かに今は夜で、暗闇で視界が利かない分朝や昼に比べれば大分危険だ。
春も半ばに差し掛かり、動物達も活動を始めて――。
「あ」
そこまで考えて漸く織の言わんとしている事が解り、昌の口から間抜けた音が零れた。
織もまた昌の心情を察し、
「社(やしろ)の傍……私の目が届く場所に居たのが幸いだったな。でなければ、今頃貴様は〝それ〟の牙に掛かってお陀仏だ」
と言って昌を……正確にはその背後を見遣った。
「? 〝それ〟って……」
向けられる視線が自身を通り越している事に気付き、何か居るのかと振り返る昌。
後ずさった足に、草ではない、硬い毛の感触が伝わった。
同時に生温い液体が肌を濡らし、ぞわりと鳥肌が立つ感覚を覚えながら足下を見る。
目を凝らして漸く捉えた〝それ〟は、灰色の毛並みを持つ狼だった。
死んでいるのか気絶しているのか、ぴくりとも動かない。
「命拾い、しただろう?」
すぐ傍でそう言った織に対し、昌はこくこくと頷く。
織は慣れた手つきで刀身を拭い鞘(さや)へ収めると、
「これに懲(こ)りたら、もう二度と夜の山には近付くな。……毎回助けてやるのは骨が折れるし、そう出来る保障もないからな」
と、双眸を据わらせて言い並べた。
その後に、脱力したような昌の言葉が続く。
「……そうしておく。散歩中に死ぬなんて御免だしな」
――散歩。
昌としては何気なく放った一言だったのだが、言い切られた直後織の瞳に明らかな驚愕が浮かんだ。
「散歩? 貴様……散歩していたのか?」
「あぁ、そうだけど……」
思わぬところに食い付かれ、肯定の声が僅かに揺れる。
疑問府で溢れる黒い双眸に構わず、織の言葉は更に続いた。
「……こんな夜更けにか」
「ああ」
「登山とは散歩感覚で行うものなのか?」
「俺にとってはな」
「………………」
一方的な問いに、当然のように返される答え。
その末、織が吐息混じりに口を開く。
「……随分と体力馬鹿なのだな。〝以前は〟あんなにも――」
ぽつりと零し淡々と言い切ろうとした言葉は、
「以前……?」
昌の一言で途切れた。
20
:
ピーチ
:2012/06/28(木) 22:56:03 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
bitterさん>>
コメントするのは初めてだよねー、今一気読みしたよー!!
ビターさんの小説ってミステリアスって感じで面白い!
それに、登場人物の性格とかはっきりしてて分かりやすいよ!
更新待ってるね〜!
21
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/03(火) 21:38:50 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>ピーチさん
反応が遅くなってしまいすみません;コメント有難う御座います^^
面白い、と感じて頂けて嬉しい限りです+
大分スローペースですが頑張って更新していきますねノ
22
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/03(火) 21:45:14 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
二章 散らない花
【一】
明らかに身を固くしている織を見て、昌は首を傾げた。
どうかしたのかと問いかけようとした時、
――ぽつり。
小さな雫がひとつ、鼻先に触れた。
見上げると既に月は無く、暗い中でもはっきりと分かる、厚い雨雲に覆われた空。
ひとつ、また一つと、雨粒の勢いは増していく。
雨か、と呟いた昌の前方で、織が我に返ったように瞳を瞬かせた。
「降り出したか。……もう行け、道が分からなくなるぞ」
再び平静を取り戻した双眸が昌を見据え、逸らされる。
そのまま立ち去ってしまいそうな背を引き止めようと、昌は咄嗟に伸ばした腕で――黒い鞘(さや)を掴んだ。
先の行動の理由を問い質(ただ)そうという訳ではない。
ただ単純に、もう少し話していたいと思ったのだ。
去ろうとした矢先後ろへ引かれ、振り向いた織が眉を寄せる。
「っ、おい何だ。私は行けと言った筈だが」
「待てって。なんだってそう、いっつもさっさと戻るんだよ。急ぎの用でもあるのか?」
「それを訊いたところで何になる」
いいから離せ、と握ったままの刀を引き戻す。
しかし、昌も負けじと力を込めた。
勢いで織の身体が傾き、上目に昌を見上げる形になる。
訝しげに細められた碧色と、視線がかち合った。
「俺が知りたいんだよ。別に深い意味はねぇけど」
たった数分。一言二言会話を交わせば、それで終わり。
それがここ数日間の、織との日常だった。
お陰で毎日のように顔を合わせていても、進展するどころか一定の話題すら見付からない。
決して長くはないとはいえ、共に過ごしていれば相手を知りたいと思うのは当然の事だろう。
それが未解決の謎で満ちている者ならば、尚更。
「――馬鹿者」
ぽつりと、雨音に混じって織の声が響いた。
「そんな事で一々呼び止めるな。私には社(やしろ)を護るという役目がある。少しでも離れれば、早々に戻るのは当然だ」
それに、と更に続ける。
「わざわざ危険な状況下で長話をする必要はない。……どうせ朝になれば、また顔を合わせるだろう」
だから今は、私を追うな。
そう言って織はもう一度刀を引き、無言で放すよう促した。
どうやら、これ以上問答する気はないらしい。
一切の反論を許さない言葉に息を吐き、昌は数秒を要して鞘を解放した。
「はぁ……分かった。明日また会えるんだな?」
「? ああ。何を今更――」
「じゃあ明日な」
今度はちゃんと明るい内に来るから、と口角を上げる昌。
瞬間、織の瞳が面食らったように見開かれる。
軽く手を振りながら去っていく昌を、織は何も言わずに見送った。
――何も言えずに、というのが妥当な表現かもしれない。
……これではまるで、〝友〟のようではないか。
小さく呟き、まだ温もりが残る鞘に指を滑らせた時――
「友では不満か?」
織の銀の睫毛が、ぴくりと揺れた。
23
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/07/04(水) 18:47:41 HOST:180-042-153-134.jp.fiberbit.net
コメント失礼致します、森間です。
織と昌の関係がそろそろ明らかになってきそうですね。
いや、まだか……?
にしても言葉ですれ違いをしているようで、何だか見ている方が少し微笑ましいですね^^
さて、アドバイスとまいりますが、前回のアドバイスをちゃんと理解してくれたのでしょうか……?
行が何連にもなっていないとは言え、改行後の字下げがされていないように見受けられます。
また、改行については多様化しすぎに思えます。こうしてみると少し文章を水増しした印象が見受けられますのでご注意を^^;
例えば
>>22
の本文の六から九行目ですが、
小さな雫がひとつ、鼻先に触れた。
見上げると既に月は無く、暗い中でもはっきりと分かる、厚い雨雲に覆われた空。ひとつ、また一つと、雨粒の勢いは増していく。
雨か、と呟いた昌の前方で、織が我に返ったように瞳を瞬かせた。
と、したほうが良いでしょう。意味が同列している物は見づらい以外の何物でもありません。段落を見きり、改行できるようにしておきましょう。
また、これで改行後の字下げも分かったと思います^^
さて、ここまでは基本です。次はストーリーについて書いていきたいと思います。
まずは主人公についてですが、織が怪我をしている状態で引き留めていますよね? ただ話しをしたいという理由で引き留めるには矛盾しているかなと思いました。
また、引き留めるところでは前文の主人公の性格と矛盾しているかなと思いました。最初の方は常識人な印象でしたが、去ろうとする人物を話したいという理由のみで無理矢理引き留めるとう非常識なことをしているのが性格の不統一を感じました。
さらに世界観設定がないので、狼がいる理由が分かりませんでした。この世界が現代日本ベースなら、現在日本に野生の狼はいないという矛盾が起こります。また、そうでないのなら世界観設定を物語に記述しましょう。
世界観設定の描写のタイミングは、作品の固有名詞、用語が出てきたときに説明すれば良いと思いますのでご参考までに。電撃文庫の「魔法科高校の劣等生」ですが、ライトノベルと言えどその部分の記述がとても参考になるので、もし良ければ本屋で立ち読みしてみて下さい((殴
全体を通して簡単に言いますと、やはり作者の都合で動いている感じが否めないです。
何度も文章を他人の気持ちになって読み返し、矛盾を見つけてあげると良いと思いますよ。
それと、本を読んでみてその作者がどのように自然に関係性を持たせているか見てみると理解が深まると思います。世界観がまるっきり違うなら理由だけ真似しても良いかも入れませんね。
今回もメチャクチャ長くなって申し訳ないですが、分からないところがあれば聞いて下さい^^;
それでは続き、楽しみにしております^^
24
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/04(水) 22:24:27 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>森間 登助さん
またまた時間を割いて下さり有難う御座います。
言葉ですれ違い……確かにそんな感じですね^^
まずは少しずつ歩み寄ってくれたらな、と思っています。
上手くいくかどうかは別問題ですが((
うーん……努力します、としか言いようがないです^^;
世界観については、ある程度しっかりと説明を入れていきたいと思います。
まだまだ未熟な文章で申し訳ないのですが、それでも楽しみにして頂けて嬉しいです^^
それでは、短文ですがこの辺で。
今回も丁寧なアドバイスを有難う御座いました^^
「魔法科高校の劣等生」の方も、機会があれば目を通したいと思いますノ
25
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/07(土) 18:59:22 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
【二】
響いた声を追い、上方を仰ぎ見る。
その先では青年が一人、木の枝に立ち此方を見下ろしていた。器用にも、一枚下駄でその場に留まっている。
夜の目にも鮮やかに映る濃緋(こきひ)の羽織と、銀糸で刺繍された下弦の月。
――そして、目元を覆う黒い包帯。
覚えのある特徴を確認し、織は声の主をしっかりと見据えた。
「どういう意味だ、風月(ふづき)」
言いながら、そもそも何故此処に居るのだ、と目で問う織を前に風月と呼ばれた男はくつくつと笑みを零した。同時に肩までの銀髪が揺れる。
「そのままの意味よ。言いたい事があるなら残らず吐けばよかろう、そなたらしくもない」
「全く以って答えになっていない。納得出来るものを返せ」
見上げる織の双眸が僅かに鋭くなる。
風月は形の良い唇を更に歪ませ、とん、と体重を感じさせない動きで地へ降り立った。
「そう急(せ)くな。ほれ、折角の美しい顔(かんばせ)が歪んでおるぞ」
視線は交わらないが、先の声色から織の表情は簡単に推測出来る。
感覚のみで寄せられた眉間を突いてやると、戯(ざ)れるな、と身を捩る気配。
「……もういい、用件を話せ。まさかそんな戯言を言う為に来た訳ではあるまい」
まだ何か言いたげな表情を残しながらも、織はそう紡いで風月を見た。
身長差ゆえに、やはり見上げる形になるのが微妙に悔しいが、今はそれを言う時ではないと心の底に押し込める。
風月はあぁ、と手を打ち、
「忘れるところであったわ。何を聞いても驚かぬか?」
「何が言いたい」
早く言えと言わんばかりに、織の双眸が据わる。
風月は落ち着いた様子で一呼吸置き、口を開いた。
「……王(おおきみ)が動いたらしい。それも、〝月詠(つくよ)族〟の名を出して城下を出歩いているという話だ」
「…………は?」
光と影、表と裏。それが〝天照(アマテラス)の国民〟と〝月詠族〟の関係を表す、最も簡易な言葉だった。
常に影となり、裏で息を潜めるように生きてきた月の民。
当然の事ながら、今までその存在が表立って注目される機会は無かった。――なのに今、目の前の男は何と言った?
告げられた言葉を理解するのに数秒掛かり、織の口から短い声(おと)が零れる。
直後、
「――ふっ、何だその顔は。驚かぬのではなかったのか?」
風月がからかうように笑った。
言い返す織の表情に苛立ちと羞恥が混ざる。
「う、五月蝿いッ、そういう事は真っ先に言え! それと、別に驚いた訳では……、……目的は分かっているのか」
「まだ詳しくは知らぬが、恐らくは我ら〝月の民〟を捜しておるのだろう」
少なくとも無関係ではないと、淡々と言い切られた言葉に織が眉を顰(ひそ)める。
同時に、とうに塞がっている傷口が疼いた。微かな痕すら残さぬそれは異常な治癒力の表れ――嫌な感覚だ、と心中で吐き捨てる。
「何故そのような事になっている。私達の存在は、単なる〝伝説〟として片付けられている筈だ」
「我がこの山のふもとで、実際に耳にした話だ。それなりの危険は伴うが……真(まこと)か否か見極めるには、直接見(まみ)えるのが最も手っ取り早いであろうな」
目的は推測でしかないが、王(おおきみ)が城下に姿を現した、という国民の囁きはこの耳がしっかり捉えている。
赤黒く滲んだ白袖。そこから漂う微かな血臭を鼻先に、風月は単調に告げた。
「……確かなのだな?」
「ああ。――おい、何処へ行く」
返事を聞くや否や、歩き出した織の背に風月の声が掛かる。
「社(やしろ)に戻る。準備を整えねばならん、貴様も来い」
織の声色に揺らぎは無い。
その意図を察した風月は小さく息を吐き、遠ざかりつつある足音に続いた。
26
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/07/08(日) 18:26:43 HOST:180-042-153-148.jp.fiberbit.net
森間です。突然済みません、念のため訊かせていただきますが、改行後の字下げの意味を分かっておいででしょうか……?
改行後の字下げというのは、文を書く前にスペースを一つ空けておくと言うことでして、物語には全く関係ないのですぐに反映できるというと思っていたのですが……それとも僕が書きにくく書いていてちゃんと目を通していただけなかったのなら謝ります。済みません。
まあ、何はともあれコメントの方もしておきますね^^
新キャラ登場ですか…… これからどうストーリーが展開するのか楽しみですね。
王と月詠族の関係性にも注目と言ったところですね。
では、今回はスッキリ纏まりましたので、今回はこの辺りで。
続きも楽しみにしております^^
27
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/16(月) 09:46:34 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
【三】
「毎度ありー」
翌日。青く晴れ渡った空の下、昌は一人、甘味屋の店番に駆り出されていた。
普段なら店主である弥麗なり、同じ働き手である清吾なりが側に居るのだが、清吾は大幅な遅刻。弥麗に至ってはもう数時間、店の奥へ行ったきり戻って来ない。
特別文句を言う気はないのだが、酷く退屈なのも事実で、本日三度目の大欠伸を噛み殺した。
王(おおきみ)が城下へ下りた日から町の賑わいは増し、その姿を一目見んと、今日も大通りは多くの国民で埋め尽くされている。
――そんなに見たいもんかね。
此方をちらりとも見ずに去っていく人々を眺めながら、昌はぽつりと呟いた。
正直王室(うえ)の人間にこれといった興味は無いし、すすんで会いたいとも思わない。精々遠目に確認出来れば良いか、程度だ。
こうしている間にも眼前の人の波は濃くなる一方で、その動きを目で追おうものなら数秒で酔ってしまいそうだった。そうなる前に視線を外し、息を吐く。
「…………暇だ」
零した言葉に嘘は無い。
こんなにも人で溢れかえった場所に身を置いているのに、今から一時間程前の来店を最後に客足は途絶えていた。
弥麗が戻る気配も無い。
――もういっそのこと寝てしまおうか。そう考え始めた時、
「何だとコラァ!!」
場に満ちる空気を裂くように、男の怒号が響いた。
――――喧嘩か?
「ちょっと通してくれ」
壁のように立ち尽くす人々を掻き分け、前へ進み出る。
そうして昌の視界に入ったのは、此方に背を向けて立つ小柄な人物――恐らくは少女――と、それを睨むように見据える男の姿だった。
男の顔は赤らんでおり、ふらふらと今にも倒れそうな様子から、泥酔している事が見て取れる。それにしてもやけに赤く感じるのは、怒鳴り声を上げるまでに感情が高ぶった所為(せい)だろう。
その後ろでは、老夫婦がなにやらおろおろと首を動かしている。
男は肩で息をし、少女は薄群青の着物を纏う背をぴんと伸ばしたまま……一向に揺らがない。
「おい、そっちから呼び止めておいてだんまりかぁ? どういう教育されてやがる」
暫くして、男が苛立たしげに口を開いた。
――少女は答えない。
直後。怒りが頂点に達した男の拳(こぶし)が、小さな身体を殴らんと振り上げられた。
「っ、危ねえ……!!」
思わず身を乗り出した昌の双眸が、周囲の民衆と同時に見開かれる。
――が、
「酒に酔わされ無銭飲食、気に入らなければ暴力か。本当に、どうしようもない大馬鹿がいたものだな」
響いたのは鈍い騒音でも、悲痛な叫びでもない。
少女は涼しげな声色で言い並べ、驚愕に固まっている男の手首を力一杯捻った。すぐさま上がったのは、痛みにもがく悲鳴。
「…………あいつ」
覚えのある声に、昌が小首を傾げたのとほぼ同時。
「何事です」
幾重もの人混みを左右に裂き、赤髪の人物が顔を出した。
28
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/16(月) 10:20:43 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>森間 登助さん
理解力が乏しく申し訳ありません!;
一応↑ではやってみた……つもりなんですが、何だか此方に書き込むと中途半端な感じになってしまっていて……。
下書きの時点では問題ないのですが、何か他に原因があるのでしょうか?
コメントの方も、有難う御座います^^
新キャラですねー。風月は結構特殊なのでこれから表現に苦労しそうですが、頑張って出して行こうと思いますノシ
29
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/07/17(火) 16:32:41 HOST:180-042-153-135.jp.fiberbit.net
とりあえず、ヘルプ入りましたので緊急回答。
中途半端、というのはつまり、字下げが所々出来ていないというところでしょうか?
僕が見る限りではそうなのですが、改行しているのに字下げがしてない部分があって、正直今までよりも見づらいです。
もしその部分が一文なら、前文の句点に繋げましょう。もしそれが見づらいと感じても、改行してしまっては意味が違う文になってしまうので、一文にした文章を見直して改善することをお薦めします。改行は決して、文が多くなったから次に回すと言う簡単な物ではありませんので。
ちなみに、補足説明として書き加えて差し上げますと、結構このレスで説明を入れる余地があったのにご存じでしょうか?
王がチラホラと出回っている(?)描写があるところから、何故集まろうとするのか、何故にそれ程関心を集めているのかを含めて説明が入れられたと思います。
まあ、まだアドバイスを反映させている途中だと思いますので、これ以上言わない方が良いと思いますが、読者が理解していることと、作者が理解していることは違います。ですので、それを共有するためにも説明は必須です。見逃さないよう下書きの時点でよく目を通しておきましょう。
それでは、頑張って下さい。また質問がありましたら何なりと。時間が出来ればすぐさま答えに行きますので(笑)
30
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/07/17(火) 17:39:43 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
>>森間 登助さん
お忙しい中申し訳ないです;
そうですねー……正直私としても、
>>27
は凄く見辛いと思いました。
次の更新までになんとか改善したいと思いますが、結果まだ変な箇所がありましたら、その時は御指摘願います;;
必要な情報提供の方も、苦手なりに努力して文章を組み立てていこうと思います。
至らない点ばかりで頭が上がりませんが、少しでもアドバイスを反映出来るよう頑張りますね^^
答えて下さり、有難う御座いましたノ
31
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/08/01(水) 00:29:51 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
【四】
場に居る全員の視線が、一気にその人物へと集中する。
――直後、
「……、ぐっ!?」
薄群青の袖がはためき、少女が男を引き倒した。
軽やかな動きを見せた細腕とは対照的に、低い呻きが地へ吸収される。
「……この者は」
「酔いに任せ、立ち寄った茶屋で無銭飲食……挙句、暴力行為に及ぼうとした愚か者です。然るべき方法で裁いて頂きたい」
感情の一切を感じさせない機械的な問いに、すかさず少女の返答が響く。
直後。伏していた男が懲りずに立ち上がったが、標的とされた少女の素早い対応により振り上げられた豪腕は見事な空振りを見せ、数秒と経たない内に再び地へ沈んだ。
間近で見ていた老夫婦――臙脂(えんじ)の前掛けを身に付けた茶屋の主人とその妻をはじめ、多くの人々はまだ歳若い少女の振る舞い、技量に目を見張ったが、昌だけは冷静な瞳で赤髪……正確には赤の色素が強い茶髪の人物を眺めていた。
自分はあの人を知っている……否、今は外見に不相応な少女の行動に気を取られているだけで、この場の全員が知る人物だ。
平民とは明らかに異なる、上質の羽織袴。黒地に銀糸の蝶が舞うそれは、ささやかな美しさを演出すると同時に、纏う人物の身分の高さを示していた。
―― 王の、側近。
その双眸が男を、少女を、老夫婦を確認するように見渡し、
「成程、よく分かりました。この男を連れて行きなさい」
「はっ」
低い一声を合図とするように、総じて紺の装束に身を包んだ数人が進み出た。王(おおきみ)に次ぐ第二の権力者……側近直属の部下であり、国内の治安維持を任された〝特警(とっけい)〟と呼ばれる者達だ。
今回対応が遅れたのは、恐らくその殆どが王の脇を固める為に借り出されてしまったからだろう。
その推測が正しいと示すように、更に数十を従えた人物が小走りで此方へ近付いてくるのが見えた。
「灼羅(しゃくら)! 一体何があったのですか、怪我人は……」
灼羅。そう呼ばれた側近よりも幾らか高く、澄んだ声が空気に伝わる。騒ぎを聞き急いで来たのだろう、上下する肩が目に入った。
やはり上等な衣を身に纏い、顔を黒布で覆った姿。ここ数日町に現れ、注目を集めている張本人……王(おおきみ)だ。
衣服が多少分かり難くしているが、目にした者の殆どが〝女性〟と判断するだろう華奢な線。声や口調で判断する事も可能だが、それを踏まえなくとも……王が女人であると断言出来る根本的な理由があった。
それは、この国が代々の〝女王国〟である事。
天照大国は――かつて小国と呼ばれていた事が嘘のように発展を遂げ、広大な領土を誇る一方。唯一〝女人君主制〟を掲げる国としても、その名を広めていた。
ここまでの話は大抵幼少時に親から聞かされる為、子供から大人まで……ついさっき産声を上げた、なんて状況でもない限り、〝全く知らない〟という者は居ない。
「そう……怪我を負った方は居ないのですね。良かった……」
側近から一部始終を聞いた王の声に、心からの安堵が滲む。
へぇ、と昌の口から息が漏れた。
仕草だけでも充分に伝わってくる、柔らかく優しげな物腰。直接目にしたのは今日、この時が初めてだが、ここまで噂通りとは思っていなかった。
「……天子(てんし)様、そろそろお時間が」
この国の長を表すもう一つの呼び名が、側近の口から紡がれる。老夫婦の元へ歩み寄っていた王は、灼羅にもう少しだけ――と返しすぐ側に佇む少女へ向き直った。
「これ以上の被害が出なかったのは貴女のお陰です、有難う。勇敢な子」
きっと布の下では、にこりと柔らかく微笑んでいるのだろう。
それだけ告げると、王は側近と特警を引き連れ元来た道を去っていた。後に残された民衆は徐々にばらつきを見せ、普段通りの賑やかさを取り戻し始める。
――よし、今だ。
人混みの切れ間を抜け、昌が向かった先は未だ動こうとしない少女の元。
薄群青の背中へ歩み寄る途中、声を掛けるより早く振り返った碧眼と目が合った。
「……な、……」
32
:
あんみつ
◆TJ9qoWuqvA
:2012/08/03(金) 11:54:10 HOST:p141213.doubleroute.jp
こんにちは
私もいれて下さい。
ルーナのファンタジー小説と楽しい仲間たち
っていうブログ来てね
33
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/09/09(日) 10:11:35 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
【五】
「よう、奇遇だな」
ばちり。
そんな擬音が聞こえそうな程見事に重なった視線と、織が発した音のような声。それが妙に気まずい雰囲気を作り出すが、昌は構わず片手を上げた。
対する織は一旦半端に開いていた口を閉じ、若干の戸惑いを滲ませながら昌との距離を詰める。
「貴様――」
「大丈夫か?」
「……何?」
問おうとした瞬間逆に問われてしまい、織が小首を傾げる。
「いや、お前さっきまであんな騒ぎの中心に居たんだぜ? 一応女子なんだし、心配するだろ普通」
つい先程まで、この場で怒号を響かせていた酔っ払いの男。
あの類の騒ぎを取り締まる事を業務とする特刑の連中だけならともかく、いの一番に介入したのが王(おおきみ)の側近だった上、王その人までが場に現れたのだ。周囲に集まっていた民衆を含め、昌が知る限り今までで最も大きな騒動だった。
真っ直ぐに注がれる、本気で意味が分からないと訴える視線。
薄く苦笑いを浮かべた昌は〝心配したのだ〟と素直に答えるが、織の表情は和らぐどころか険しくなる一方だった。
二歩分空けた立ち位置から昌の顔を見上げ、
「女子扱いなどしなくて良い。いや、するな」
ふい、と首ごと視線を逸らした。
ちょっとした仕草だが、特徴的な銀の髪が光を反射する様は文句なしに綺麗だ。……そういえば、こんな髪色をした奴は弥麗さんを入れて二人目だな。
昌は薄らとそう考えたが、ふと自分を通り抜けた前方に注がれる複数の視線に気付き、改めて織を見た。見られた本人もそれに気付いたのか、むす、と背けていた顔を再び昌へ向ける。
「……何だ」
訝しげな声。
周囲の目線には気付いていないようで、織はかくり、と小さく首を傾けた。
それによってか更に濃くなった気配に、昌の眉間が浅く寄る。
――そう。今この瞬間、大勢の視線を集めているのはいち早く状況を感じ取った少年ではなく、無防備に首を傾げている少女の方なのだ。
不自然なまでに整った小さな顔、宝石を嵌めこんだような碧色の瞳。そして太陽の下、控えめながらも美しく輝く銀糸。
――どれを取っても精巧に作られた人形のような、完璧な美貌。
騒ぎが収まり少しの時間が経過した今。既に見慣れている昌さえ改めて認識した〝それ〟に、民衆の的が移ったらしい。
当人はといえば、未だ状況を把握出来ていない様子で表情に陰を落としている。
(直接見られてない俺でも痛いぐらいだってのに、本気で気付いてないのかよ……)
昌は完全に蚊帳の外状態の織に心中で息を吐き、空いていた距離を埋めると
「ああもう、お前……変なとこで鈍いんだな」
「? 何の事――」
「いいから、身動き取れなくなる前に行くぞ!」
「っ!?」
数秒後。
多くの民衆の目には、揃って仲良く去っていく――実際は片方が一方的に引っ張られている――少年少女の姿が映った。
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