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生命ノ在処<イノチノアリカ>

16bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/06/20(水) 21:58:56 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

そもそも月詠族とは、この国に古くから伝えられてきた〝伝説〟……つまり御伽噺(おとぎばなし)と同等の存在でしかないのだ。
そんな不確定なモノの為に王(おおきみ)が動いた――?
正直〝不老不死の一族〟と伝わっている時点でどうにも胡散臭く、そういった類のものを信じない性質(たち)である昌としては納得し難い理由だった。
しかし、流石に真っ向から否定する事は出来ず、ぐりぐりと好き勝手に動き始めた指を払いつつあくまで冷静に問い掛ける。
「つまりアンタは、王(おおきみ)がその〝伝説〟の為に動いたって言いたいんだな?」
否定される事を願っていた。
しかし、そんな昌の思いとは裏腹に弥麗は愉しげに口を開き、
「勿論」
と一瞬の間も許さず肯定した。
まだ何か言いたげな昌の左手を握り直し、歩調を緩めないまま、今度は清吾にも聞かせるように言葉を続ける。
「我(ワタシ)は嘘を吐かない……まァ、最終的に信じるか否かは好きにおしよ」
「…………遠回しに信じろって言ってないか?」
「ヒヒッ、そんな事はないサ。たった今好きにおしと言ったばかりじゃないか」
可笑しな子だねェ、と笑う弥麗の横顔。
昌はそれを暫くじとーっと見ていたが、やがて諦め前方へ進む事に集中した。
「んー……なんかよく分かんないけど、取り敢えず早く行きましょうよ。甘味甘味!」
「そうだねェ、急ごうか」
「清吾……何度も言ったと思うが、売り物食うんじゃねぇぞ?」
「分かってるってー」
清吾の一言で、一気に能天気な方へ転んだ会話。
直前までの妙に重い空気は綺麗に消え去り、弥麗が営む甘味屋へ辿り着くまで、子供二人とそれを見て笑む大人一人のやり取りは続いた。




◆◇◆




その日の夜。
昌は気の向くままに裏山を訪れていた。
足を進めるたび脳裏を過ぎるのは、昼間城下で交わした弥麗との会話。
国を動かす長ともあろう者が、伝説一つに自ら腰を上げる事など有り得るのだろうか。
仮に真実だったとして、一体何が目的で――?

そんな事を考えながら黙々と歩いていると不意に頭上の影が晴れ、遠目に神社の鳥居が目に入った。
毎朝の日課とは違いちょっとした散歩のつもりだったが、無意識に頂(いただき)まで登りきってしまったらしい。
やはり息切れはしておらず、改めて自身の体力に感心しつつ暗闇に包まれた神社へと距離を詰めた。
そのまま境内へ踏み入ろうとした直後、


「っ!?」
――前触れも無く、獣の咆哮(ほうこう)が鼓膜を突いた。
喉の奥から絞り出したようなそれに思わず浮かせた足を戻し、大きく身を震わせる。
同時に背後を振り返り木々の奥を見渡すが、そこには闇が広がるばかり。
獣は愚か、何かが動く気配すら感じ取れない。
が、たった今響いた咆哮は現実だ。

本当なら今すぐにでも山を下り、帰路に着いた方が良いのだろうが、凍てつくような空気がそれを許さない。
かといってこのまま黙っているのも得策とは思えず、少しずつ足を動かし神社から遠ざかるように移動する。



「伏せろッ!!」


そんな声が鋭く響いたのは、山の頂上へ通じる山道の入口に立った時だった。
反射的に身を屈めた昌の真後ろで、どさり――と鈍い音が響く。

「……無事か?」

前方から掛けられた言葉に顔を上げると、白い袖の一部を紅く染めた織が肩で息をしながら此方を見下ろしていた。


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