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生命ノ在処<イノチノアリカ>
9
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/09(土) 11:15:44 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
「い、だっ! いきなり何しやが―――あれ、お前……」
ゴスッと鈍い音を立てた後頭部を押さえ振り返った昌は、その先に佇む人物にぽかん、と口を開けた。
もはや、何故柱があるのに背後から拳が飛んできたのか――なんていう疑問は脳内から消滅している。
最も、その理由は〝既に柱から離れていた〟という至極簡単なものなのだが。
――未だ頭に寝ぼけが残る昌が気付く様子は無い。
ふらりと立ち上がったまま停止している昌を見かね、その眼前に立つ人影は大きく息を吸い込んだ。
そして、
「起 き ろ と 言 っ て い る ! ! 」
と渾身の声量で怒号を繰り返した。
当然、それに対し黙っている事など出来る筈もなく――耐えられずに耳を塞ぎ、飛び退くように真横へ移動した昌へ冷やかな双眸が向けられる。
それは昌にとって紛れもなく――見覚えのある碧い瞳だった。
「……お前、昨日も此処に居たよな?」
確信するなり零れたのは、本当に聞きたい事とは若干ずれた問い。
しかし――それも昌にとって知りたい事であるのには変わりなく、言い直そうとはせずに返答を待った。
「それがどうした」
少しの間を空けてそう返した少女が、意図が理解出来ない――と言わんばかりに首を傾げ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「……いや、お前此処の巫女だよな?」
「まぁそんなものだ」
「此処に居たんだよな?」
「当然だ。昨日会っただろう」
「…………」
質問攻めの末、疑問が増えるばかりの答えに昌は黙り込んだ。
その後すかさず沈黙を破り、少女の声が響く。
「……おい、貴様一体何を言いたい? 今、眼前に居る私が〝幻〟だとでも思っているのか?」
思っていないと言えば嘘になる。
だけど少女は確かに此処に居て、でも昨夜は――
「ああああ分からねえ……ッ!!」
考えれば考えるほど深みに嵌っていく。
そんな感覚になり、昌は大きく振った頭を両腕で掻き乱した。
跳ね癖の強い黒髪が揺れ――大きく開いた口からは疑問府で満ちた叫びが響く。
「……私に言わせてみれば、貴様の行動全てが理解不能なのだがな…………」
呆れ気味にそう呟いた少女の声は、混乱状態の昌には届かない。
場の空気に合わない朝方の爽やかな風が、二人の間を吹き抜けた。
それから数秒の沈黙が流れ――
「帰る」
もう付き合いきれないと判断しそう発した少女が、〝青い〟鳥居を抜けて境内へ歩き出した。
軽く意識を飛ばしていた昌はその足音に漸く我に返り、慌てて少女の背を追う。
「待て待てッ、まだ帰られちゃ困る! ……いや、別に困らないか? っああもうどっちでもいいが、せめて名乗ってから帰れ。俺はちゃんと名乗ったろ?」
何やら自問自答付きでぶっきらぼうに問われ、振り返った少女の瞳に一瞬ぽかん、とした色が浮かぶ。
要するに、〝何を問われているのか分からない〟――そんな表情を浮かべたのだ。
そして少女は一言、
「……必要か?」
と、仏頂面に戻って問い返した。
「必要だから聞いてんだよ、普通初対面同士なら自己紹介ぐらいするだろ。それに――俺だけが名乗りっ放しなのは不公平だ」
「…………変わった男だな」
「俺は別に普通だ、変わってんのはお前だよ」
「…………」
自己紹介(そんなこと)をして一体何の意味があるのだ――これは正論だ、とばかりに詰め寄ってくる昌を余所に、少女はただぽつりとそう零した。
無視する事も出来た筈だが、反応してしまった以上何も言わずに立ち去るのは後味が悪い。
少女に向けられる黒の双眸は、恐らく彼女が名乗るまで逸らされる事はないだろう。
凝視される感覚に耐え切れなかったのか、少女は視線を昌から外し完全に背を向けてから答えた。
「――――織(おり)だ」
女子(おなご)にしては低いが、凛と透き通った声が昌の耳に届く。
それだけ告げると、少女――織は今度こそ社殿へ歩き出した。
――瞬間、強い冷風が吹き抜ける。
「っ……!」
思わず瞳を閉じ、身構える昌。
数秒後――その双眸が再び境内へ向けられる頃には、織の姿は消えていた。
まるで最初から誰も居なかったかのように、その他の景色だけが悠然と保たれている。
「本当、よく分からねえな……」
増えるばかりの疑問にそう呟くが、それを発した張本人である昌の顔には、先程までのような〝混乱〟は浮かんでいない。
寧ろ、謎ばかりの人物――場所に対する〝好奇心〟で溢れていた。
織――男勝りで強気な彼女とは、きっとこれからも顔を合わせるだろう。
いや、見当たらなければ捜し出してみせる。
――そんな確信めいた思いを胸に、昌は山道を下った。
今日もまた、新しい一日が始まる――――。
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